約 2,079,080 件
https://w.atwiki.jp/gnazo/pages/52.html
パチュリー あだ名:パッチェさん 加入場所:Stage40 基本ステータス:HP60、RP140 打撃 本で叩く。打属性。 リーチがあるわけでもなく、威力があるわけでもなく、連射が効くわけでもない。 射撃 通常射撃は水、冷気属性の放水。敵・壁は共に貫通しない。 微妙に放物線を描くばら撒きで、地形や相手次第で使いにくいことも。 上射撃は風属性の竜巻3WAY。ロックマン2のエアーシューター。 敵・壁を共に貫通する。射程は長めだが有限。 下射撃は熱、炎属性の火炎弾7WAY。時計回りに広がり、壁を貫通する。敵に触れると炸裂。 密着撃ちすると7発同時ヒットで高火力。射程無限。 チャージアタック サマーレッド!大チルの天敵である。溜め時間で弾速が違う。 能力 魔法耐性! 打撃以外の全耐性UP 総評 案の定、足が最も遅い。距離をとって戦うのが得意だが物理に弱い。 ボスの体当たりとか致命的。避けて逃げて離れるか、他のキャラに代わってもらおう。 上空から一方的に攻撃されがちなボス戦でも、撃ち合いの勝負が可能。 三姉妹戦にも適性があり、いろいろ便利。楽にクリアしたい場合の強化対象候補。
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/606.html
パチュリー9 うpろだ259 もう息が出来なかった。 我慢して、自分を叱咤して上げていた顔も、もう上がらない。 力なく垂れてしまった。 どれほど時間が経ったろう。 私の笛のような呼吸音に足音が混ざる。 レミィのものとは違う、重いそれ。 床を踏みしめて、近づく足音。 気持ちが溢れる。 ――嬉しい。 また、涙がこみ上げてきた。 さっきまでの物とは違う。 ぽん。と、私の頭に手が載せられた。 大きな、暖かな、優しい手だった。 「…………○○…っ……!」 「……貴方は……それでいいのね」 レミィが語りかける。 私に向けてではなく、○○に向けて。 彼女にしては、厳しい感情を込めたその言葉。 疑問を持たないでもない。 だけど、今はこの手のぬくもりを確かにしておきたかった。 私は疑問を頭の隅に追いやる。 それはすぐに幸せという名の霧に飲まれて、見えなくなった。 「…………そう。なら、いいわ。好きになさい」 そう言ってレミィは部屋を出て行った。 私は、知らない。 彼女が○○の何を知っているのか。 ○○は彼女に何を言われたのか。 私は知らない。 ただ。 「…パチュリー…………ごめんな…………」 ○○の言葉が。 酷く胸に痛かった。 ↓↓↓ 数年の時が経ち、私と○○の距離は縮まっていた。 有り体に言えば両思いということになる。 それでよかった。 私が望んだこと、それが叶っているのだから。 幸せだ、幸せだ。 「パチュリー? どうした、体調でも悪いか?」 いつしか○○は私を気遣うようになっていた。 それは優しさからきているのだと、思う。 ○○の持つ優しさ。 それが私に、私だけに向いている。 なんて嬉しいことだろう。 なんて誇らしいんだろう。 今でもまだ、彼の優しさに触れるたび、頬がほころぶ。 「ん、大丈夫よ。心配性ね」 「ほっとけ。……ゴホッ」 「ほらほら、私より○○の方が不健康そうじゃない。今日はもう休みなさいよ」 「ああ、もうちょっとだけな」 「ほんとに? 無理してないわよね?」 「大丈夫だって。パチュリーじゃないんだから」 「もう! また人を馬鹿にして!」 「ははは。すぐに終わるから、待ってな。少し散歩しよう」 そう言って、笑いながら去っていく。 その背中に、「うん」と返事をして、私は本に向かった。 最近、本に触っている時間が減ってきている。 本に触るよりは、○○と話している。 本を見るよりは、○○の姿を追っている。 こんなにも、こんなにも私が彼を。 愛すと。 そんなこと思わなかった。 でも、でも。 もっと、もっと。 彼と触れ合いたい。 彼を知りたい。 彼の全てを、私の全てを。 知りたい。 「おーい、パチュリー? 行こうぜ」 「うん」 ドアから○○が顔を覗かせる。 軽く返事をしてから、私は本を閉じた。 さよなら、私はもう貴方達とは別の世界にいるの。 閉じこもって、一人枕を濡らしていた頃とは違うの。 さよなら、私はもっと幸せな世界に行くの。 ○○と一緒に。 ↓↓↓ 「なあ、パチュリー。愛は永遠の物だって信じるか?」 「突然何よ……。まあ、その意見には賛成だけど」 「聞いてみたかっただけさ。気にするな」 紅魔館の庭を一緒に歩く。 大きくて、暖かくて、優しい○○の手を握って。 彼のもう一方の手には、一冊の本があった。 手の平からほんの少しはみ出す位の大きさ。 ○○のいた世界では単行本というらしい。 図書館にも、いくつかそんな形の本を見たことがある。 手にとって、読んだことは無いが。 ○○が読んだことがある、それでいて面白いという本を彼は持っている。 題名は『Lie』 「うそ? 騙したわね……」 「おいおい、何を騙すってんだ。とにかく、読んでみろよ。面白いぜ」 「……真っ白とか、そういうのじゃないわよね」 恐る恐る表紙に手をかける。 軽いタッチの、女子と男子の絵が目に入る。 色のついた絵が4ページほど続き、やっと題名が現れた。 そこで私は単行本を閉じる。 「…ライトノベルって言うんだ」 「ふうん、面白くなさそうね。いかにも陳腐だわ」 「そ、そうか……? で、でもさ、読んでみたら面白いってのもあかるかもしれないぜ?」 「ないわね。つまらない物はどこまでいってもつまらないもの」 目に見えて○○が肩を落とす。 相当気に入っていたらしい。 それを切り捨てられて落ち込んでる――? 少し、罪悪感を感じた私は 「まあ、時間があったら読んであげてもいいわよ」 と、言っておく。 「ま、まじか。サンキュ、パチュリー」 「ちょ、ちょっと、だからって抱き付かないでよ! 恥ずかしい…」 「あはは、パチュリーのほっぺたはぷにぷにしてるなぁ」 「もう! ふざけないで!」 ぱしゃり。 シャッターの音と、閃光がじゃれ合う私たちを包んだ。 光の方を向けば、カメラを構えた鴉天狗。 ニヤニヤと笑っている。 恥ずかしさにたまらず私は弾幕を張る。 それに巻き込まれた○○が悲鳴を上げて逃げ回る。 鴉天狗がそれをまた写真に収める。 きっと、明日の朝刊を飾るに違いない。 「そろそろ弾幕消してくれよ、パチュリー!」 「面白いからもうちょっとだけ、ね」 「こんな所だけかわいこぶるな!」 「失礼だこと。もうちょっと増やそうかしら」 「うわああ、許してくれパチュリー!」 今晩は腕枕でもしてもらおう。 私はそう一人きめて、逃げ惑う○○を眺めた。 ↓↓↓ 夜、私の部屋。 枕元に陣取る本の山を片付けて、○○の入るスペースを確保した。 意外と多いことに私は驚く。いやはや、本の虫とはよく言ったものだ。 私は本を食べて生きているわけではない。 きっと、幸せを食べて生きている。 生きている幸せ。 発作が起きない幸せ。 ――○○がいる幸せ。 きっと、それが幸せ。 「パチュリー、俺風呂入ってくるな」 「え、まだ入ってなかったの?」 「ああ、時間取れなくてな。パチュリーはもう入っただろ?」 「ええ、はいっ――――入ってない!」 「ええ? 俺はともかく何でパチュリーが」 「入ってないの!」 自分でもよくわからなかった。 なんでこんなことを叫んだのか。 勢いに乗った口は、私の意思に反して言葉を発し続ける。 ああもう、恥ずかしい。 なのに止まらない。 「――だから、一緒に入ろう!」 「……………………………………………は!?」 「ああもう! 何回も言わせないで! その……、一緒にお風呂に入ろうって言ってるの!!」 「…………えーと、パチュリーさん? 自分の言ってる意味がお分かりで?」 もうこうなるとやけだ。 私は衣装棚に飛びつくや否や、着替えを手早く纏める。 もちろん、下着も何もかも全て含めて。 魂を抜かれたかのように――本当に抜かれているのかもしれない。さっきから反応が全く無い――突っ立っている○○の手をとり、 冷たい廊下へと駆け出した。 ↓↓↓ 人のいなくなった脱衣所はとても寂しいものだ。 ただ広いだけ。 ただあるだけ。 冷え切った空気はただ肌に突き刺さるだけ。 包み込むような暖かさなど持たない。 「……パチュリー」 それでも、人が入浴という行為に焦がれるのは何故だろう。 それはやはり、入浴という行為は、母親の胎内に似た感覚をもたらすからだと私は思う。 どうしようもない郷愁に駆られるのだ。 だから人は肌を湯に浸す。 入浴とは、二度と戻れない、桃源郷への帰り道なのだ。 「パチュリー」 ただ、その道は何処へも通じていない。 繋がっている所を強いてあげるならば、そのは黄泉の国だ。 二度と戻れない、とは二重の意味を持つことになる。 一方は二度とは戻れない理想郷を。 一方は二度とは戻れない現実世界を指す。 どちらを選ぶかは、入浴をするものが選べるものではない。 「パチュリー!」 一度入ってしまえば、行くか戻るか二者択一。 どちらの道を行くかは決められない。 完全に運任せのロシアンルーレット。 当たるか外れるか。 そんな危険極まりない橋の上を、人は渡るのだ。 「パチュリー!!」 「…………なによ」 「何で俺はお前と一緒に風呂入ってるんだ!?」 「いいじゃない、たまには」 「だからって――」 「はいはい、黙って後ろ向く」 ああ――、私も実は恥ずかしい。 必死に無意味なことを考えて、気持ちを逸らしてきたというのに。 この○○は、それこそ無意味なことをしてくれる。 ああ、本当に! 恥ずかしい! 何で私は○○の背中に触れているのだろう!? タオル越しとはいえ、ひしひしと伝わってくるその肌の温もり。 硬い筋肉の感触。こんなに彼は強い体つきだった。 そして、脈打つ心臓。私の心臓と同じ。 早く、熱く。 一緒に刻むビート。 「……パチュリー」 「なによっ!」 「……………………近づきすぎ。当たってる」 「――――っ!」 脳があわ立つ。 言われてみれば、私の体は○○の背中に当たっている。 密着、というほどではないが、確かに当たっている。 密かに思う。○○に襲われやしないか、と。 まあ、それはそれでいいか。 開き直った私は、そのままの姿勢で○○の背中をタオルでこする。 そういえば、彼の背中を洗っていたのだった。すっかり忘れていた。 そして気付く。 「ねえ、○○? 痩せた?」 「――――どうしてそう思うんだ?」 「何となく……骨ばった感じがするわ。うん、絶対痩せてる」 「…………そうか」 シン。 無言の世界が訪れる。 もうもうと立ち上る湯気さえ、温度を失ってしまったかのようだ。 思わず、手が止まる。 縮こまってしまった○○の背に、問いかけても返事は無い。 ぺたぺたと、何かが這い寄る音が聞こえる。 私と、丸々の世界を壊す何か。 怖い怖い。 怖い! 「○○! ねえ、どうしたの!? ○○!!」 「――ああ、ごめんな」 困ったような声音。 とても、とてもとても、胸に突き刺さる。 その声は消え入るようなか細い声で、彼がどこか遠くに行ってしまったかのような。 そんな感じがした。 怖い。どこかに行ってしまいそうだ。 彼は、何処へ向かおうとしているのだろうか。 少なくとも、理想郷ではない。 なら――。 「――いやっ!!」 悲鳴を上げた。誰が? 私だ。 狂ったように、○○の背中に抱きついていた。 自分がなにをしているのか、分からなかった。 だけど、こうしていないと彼がどこかへ行ってしまいそうで。 それがとてつもなく怖くて。 彼がどこかへ行ってしまったら、私はどうやって生きればいいのだろうか。 一人は嫌だ。一人は怖い。 だから、今腕の中にあるこの温もりを失くしたくない。 「……パチュリー。大丈夫だから、俺はどこにも行かない、大丈夫」 優しく○○が私に声をかける。 それでも、それは。 今にも消えそうな、小さな声だった。 その声が腕をすり抜ける感触がする気がして、私はさらに言葉を紡ぐ。 「○○……怖いよ。どこにも行かないわよね? ずっと私の傍にいてくれるのよね!?」 「ああ、どこにも行かない。ずっとパチュリーの傍にいる」 ゆっくりと○○の身体が私のほうを向く。 見あげた瞳は優しく光っていて、暖かだった。 自分の立場も忘れて、○○に抱きつく。 大きな、暖かで、優しい手が私の頭を撫でる。 あの日のように。 「…………○○…さん? パチュリー様?」 「「~~~~っ!!」」 不意に、声がした。 私と、○○以外の、誰か。 固まりかけた視線を向ければ、タオルで体を覆った門番の姿。 怪訝な視線を私たちに向けている。 再び、頭があわ立つ。 大変な所を見られた。 どうしよう、どうしよう。 どうしようどうしようどうしようどうしよう。 「――――ロイヤルフレアああああああああああ!!」 「待てパチュリー俺が巻き込まれるっ!!」 ↓↓↓ 「ふぅ…………」 肩が重い。 魔道書を自身の手で書き写すことは、持ち主自身の魔力を増幅させる。それを書いた魔術師を理解することにつながるからだ。 それゆえ、多くの魔道書には手写しによるコピーが存在する。 そして今、私はそのコピーを作り出している真っ最中だった。 最近、魔力が落ちてきているような気がしてならない。 何気ない、ふとした瞬間、力がないような錯覚を覚える。 試しにスペルカードを発動させると、きちんと精霊を使役できるのだが……どうしても不安感が拭えない。 まさか、魔法が使えなくなる? そんな不安を掻き消すため、私は魔道書を必死に書き写していた。 「――と、インクが切れちゃったわね…。○○、そこのインク瓶取ってくれない?」 藁半紙を走るペンが、色をなくした。ただ、インクが切れただけ、ただそれだけだ。 インク瓶のそばに居た○○に、声をかける。 「おう」と返事をし、○○はインク瓶を握り締めた。 ――ゴドン。 そしてインク瓶が、机の上に転がる。黒い染みが津波のように机の上を這う。 ○○は驚いたように自分の手の平を見つめている。 その表情は、何かを酷く怖れているように見えた。 かたかたと○○の肩が小さく震えている。なぜ……? 私の視線に気づいた○○が、弱々しく笑みを浮かべる。 「は…はは…………手が滑っちまった…。はは、ははは…」 「ど、どうかしたの? 真っ青よ…?」 「いや、何でもない。ああ、ほら手洗ってくるよ」 そう言って足早に部屋を出ようとする。 真っ青な、人がするような顔色でない、死人のような顔色…………。 ――死人!? 自分の言葉に背筋が凍る。嫌な予感がする、途轍もない嫌な予感が。 机を叩いて立ち上がる。思わず叫んでいた。 「私も付いていく」と。 「来るな」 「だってそんな死にそうな顔して……」 「来るなと言ったっ!!」 叫んで○○が部屋を出て行った。 まさか、○○があんな声を出すなんて、正直怖かった。 力なく椅子に腰を下ろす。天井を見上げて目を閉じる。 わからない、彼の考えていることが。私だってもう、分かってるのに。 その身に何かを患っていること、もう彼が長くないこと。 なのに……。 「そばに居させてくれないのね…………」 そっと、古い引き出しを開けるように、思い出す。 彼がこの紅魔館に居つくようになった時のこと。 この図書館に彼が居つくようになったときのこと。 私が――彼を好きになった瞬間。 『じゃあ――ここにいる?』 『え? 俺……何も出来ないから…』 『話し相手にでもなってくれればいいわ』 ↓↓↓ 本棚の影からまろび出てきたのは、一人の男だった。 その姿は、知っている。レミィが食料だと言って、何処からか仕入れてきたものだ。 それが何故ここに、とは思った。けれど、憔悴しきった彼の様子には、小動物のような可愛さがあった。 哀れみを感じた、と言えば、それはそれで間違ってはいないのだけれど。 「あ…あんたは……人間か…………?」 「魔女が含まれるならね。……どう、紅茶でも飲んでいかない?」 「……………………」 「焼き菓子もあるわよ。と、言うより、貴方は淑女のティータイムを邪魔して詫びの一つも入れないのかしら」 おずおずと、男は椅子に腰を下ろした。 私は手を叩いて、リトルを呼ぶ。本棚の向こうから間の抜けた声が返ると、間も無くリトルが姿を見せた。 その姿に、男が驚く。そして、リトルがくすくすと笑った。 何せ悪魔なのだ、人間の怖がる姿を見て喜ぶのも仕方あるまい。 「彼に紅茶を。あと、何かお菓子を持ってきて」 「承知しました」 恭しくリトルが飛び去る。普段はそんな事しないくせに、この色魔が。 男のほうに目をやると、椅子の上で小さく縮こまったままになっていた。 「そんなに怖がらなくてもいいのに。彼女はそんなに悪い子じゃないわ」 「…………だって、」 「種族が違うのだもの、怖いのは仕方がないと思うわ。でも、だからって、無下に拒絶することは無いと思うのだけど」 「――…………」 また、本棚の向こうからリトルが現れた。手には、香り立つ紅茶。 男の前にコトリとおいて、一歩下がる。 「どうぞ、召し上がれ」 男がリトルの方を窺いながら、ティーカップに口をつける。 その目が、驚くように少し開かれる。 「美味しい……」 「…恐悦至極に存じ上げます」 「そういえば、名前聞いてなかったわね。貴方、名前は?」 「……○○…です。貴女は…?」 「パチュリー、パチュリー・ノーレッジ。パチェって呼んでも構わないわよ。あと、この子はリトル」 リトルが腰を折る。今まで、見たことも無いような丁寧さだ。この色魔め。 男――○○がそれに応じて、頭を下げた。 ああ――。 私は思う。 この人間は羨ましい。私にないものをきっと持っている。 私がなくしたものを、きっとまだ持っている。 コクコクと、紅い茶を飲み下す様を見て思う。 ああ――、なんて人間は愛おしい存在なのだろう。 だから、私は彼を近くに欲しがった。 もしかすると、私は彼が欲しかったのではなく、彼の持つ何かが欲しかったのかもしれない。 何れにせよ、途中から彼を本当に欲しがっていたことは間違いないのだけれど。 「○○、無理させてたのかしら。私が、貴方に甘えて、貴方に無理をさせてたのかしら」 きっと、彼なら「そんなことはないさ」って言ってくれるだろう。 彼は、優しいのだ。本当に、本当の意味で、優しい。 それ故に、きっと、いろいろと背負い込みすぎた。 レミィはこのことを分かっていたのだろうか。彼の命に限りがあること。 いや、それ自体は誰でも分かるだろう。私でも、リトルにも、レミィでさえ、いつかその命の灯が消える。 そんなこと分かっている。分かっているけれど……。 流れる涙を止めることはできない。 「今まで助けてもらった分、甘えさせてくれた分、返すわ」 貴方の命は私が助ける。 そう心に決めて、ベッドに眠る○○の唇にキスをした。 ↓↓↓ 「パチェ」 「…○○? 何やってるの、身体が冷えるわ。ほら、早く入って」 自室にいると、時折○○が訊ねてくることがある。 私と彼は、もう一緒の場所で寝起きしていない。 図書館は彼の身体に悪い。そう言って、出て行くように仕向けたのは私自身だ。 寂しくは無い、いつ何時でも彼を感じていられるからだ。 こうやって、彼のために薬の研究をしている時だって。 「○○、調子はどう?」 「こうやってここにいることが答えにならないか?」 「…………そうね」 彼がこうやって私のところに来たのはもう半年ぶり、いやそれ以上だ。 段々と、彼が床にいる時間は長くなっている。 初めの頃は一日おきに私のところに来ていた。 それが一週間ごとになり、一月ごとになり、二ヶ月ごとになり……。 次は何時来れるのだろうか、それが気になる。それとも――。 「まさか、ね」頭を振って、嫌な考えを振り払う。 「パチェ、今日の薬はあるのか?」 「ええ……ちょっと待って」 紫色の液体を、ベッドに座る○○に差し出す。 ○○はそれを「パチェ色だな」といって飲み下した。 頬が赤くなるのが分かる。○○を振り向くと、確信犯的な笑みを浮かべてこちらを見ていた。おのれ、○○。 それにしても、私は何て無力なのだろう。 図書館の主だ、大賢者だと言われても、こうして目の前にいる愛しい人さえ救えないのだから笑ってしまう。 苦笑する私の頭に、手が置かれた。誰の、とも言う必要などない。 こんなに大きな、暖かな、優しい手は○○以外の誰が持っているというのか。 「パチェ、俺を気遣ってくれるのは嬉しいけどな。お前が身体壊してちゃ笑い話にもならないぜ?」 「○○は…………私に何か要求しようとか思わないの?」 「こうやって薬貰ってるじゃないか」 「そうじゃなくて。もっと、こうして欲しいとか、ないの? 私、貴方に甘えてばかりで…………」 「よしよし、そんなに悲しそうな声出すな」 ○○が私の頭を撫でる。 手の平から伝わる暖かさが、心に染み入って、これから先を思わせて。 涙が出る。 ○○の手を胸に抱いた。泣いてはいけないと、頭では分かっているのに、どうしても涙が止まらなかった。 出来ることなら「死なないで」と叫びたかった。 大きな声でそう言えたら、そう泣けたら、どれだけ楽になるのだろう。 でも、それは許されない。○○が泣かないのだから。 助けると、言った私が泣いてどうする。そう自分を叱咤した。 「なあ、パチェ? やっぱり、俺もお前に甘えていいか?」 「う…うん! うんうん!」 「じゃあさ、今日一緒にねないか?」 …………はいい!? ねるって、ねるって……! ○○を見あげると、照れくさそうに笑って、後ろ頭をかいている。 「○○……ねるって…。そのベッドで?」 「ああ、一々図書館まで戻るのか?」 「二人きりで?」 「もちろん。それとも、大人数の方が趣味なのか?」 「え……あ……う……うう…………むきゅうぅ……………………」 「あ、おい、パチェ!?」 視界の端で○○が手を伸ばしている。 けれど、それよりの早く私の身体は床に倒れこんでいた。 これからきっと私と○○は、一時の甘い夢を見る。 ――つかの間の。そして、最後の。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ268 「ふぅ…………」 肩が重い。 魔道書を自身の手で書き写すことは、持ち主自身の魔力を増幅させる。それを書いた魔術師を理解することにつながるからだ。 それゆえ、多くの魔道書には手写しによるコピーが存在する。 そして今、私はそのコピーを作り出している真っ最中だった。 最近、魔力が落ちてきているような気がしてならない。 何気ない、ふとした瞬間、力がないような錯覚を覚える。 試しにスペルカードを発動させると、きちんと精霊を使役できるのだが……どうしても不安感が拭えない。 まさか、魔法が使えなくなる? そんな不安を掻き消すため、私は魔道書を必死に書き写していた。 「――と、インクが切れちゃったわね…。○○、そこのインク瓶取ってくれない?」 藁半紙を走るペンが、色をなくした。ただ、インクが切れただけ、ただそれだけだ。 インク瓶のそばに居た○○に、声をかける。 「おう」と返事をし、○○はインク瓶を握り締めた。 ――ゴドン。 そしてインク瓶が、机の上に転がる。黒い染みが津波のように机の上を這う。 ○○は驚いたように自分の手の平を見つめている。 その表情は、何かを酷く怖れているように見えた。 かたかたと○○の肩が小さく震えている。なぜ……? 私の視線に気づいた○○が、弱々しく笑みを浮かべる。 「は…はは…………手が滑っちまった…。はは、ははは…」 「ど、どうかしたの? 真っ青よ…?」 「いや、何でもない。ああ、ほら手洗ってくるよ」 そう言って足早に部屋を出ようとする。 真っ青な、人がするような顔色でない、死人のような顔色…………。 ――死人!? 自分の言葉に背筋が凍る。嫌な予感がする、途轍もない嫌な予感が。 机を叩いて立ち上がる。思わず叫んでいた。 「私も付いていく」と。 「来るな」 「だってそんな死にそうな顔して……」 「来るなと言ったっ!!」 叫んで○○が部屋を出て行った。 まさか、○○があんな声を出すなんて、正直怖かった。 力なく椅子に腰を下ろす。天井を見上げて目を閉じる。 わからない、彼の考えていることが。私だってもう、分かってるのに。 その身に何かを患っていること、もう彼が長くないこと。 なのに……。 「そばに居させてくれないのね…………」 そっと、古い引き出しを開けるように、思い出す。 彼がこの紅魔館に居つくようになった時のこと。 この図書館に彼が居つくようになったときのこと。 私が――彼を好きになった瞬間。 『じゃあ――ここにいる?』 『え? 俺……何も出来ないから…』 『話し相手にでもなってくれればいいわ』 ↓↓↓ 本棚の影からまろび出てきたのは、一人の男だった。 その姿は、知っている。レミィが食料だと言って、何処からか仕入れてきたものだ。 それが何故ここに、とは思った。けれど、憔悴しきった彼の様子には、小動物のような可愛さがあった。 哀れみを感じた、と言えば、それはそれで間違ってはいないのだけれど。 「あ…あんたは……人間か…………?」 「魔女が含まれるならね。……どう、紅茶でも飲んでいかない?」 「……………………」 「焼き菓子もあるわよ。と、言うより、貴方は淑女のティータイムを邪魔して詫びの一つも入れないのかしら」 おずおずと、男は椅子に腰を下ろした。 私は手を叩いて、リトルを呼ぶ。本棚の向こうから間の抜けた声が返ると、間も無くリトルが姿を見せた。 その姿に、男が驚く。そして、リトルがくすくすと笑った。 何せ悪魔なのだ、人間の怖がる姿を見て喜ぶのも仕方あるまい。 「彼に紅茶を。あと、何かお菓子を持ってきて」 「承知しました」 恭しくリトルが飛び去る。普段はそんな事しないくせに、この色魔が。 男のほうに目をやると、椅子の上で小さく縮こまったままになっていた。 「そんなに怖がらなくてもいいのに。彼女はそんなに悪い子じゃないわ」 「…………だって、」 「種族が違うのだもの、怖いのは仕方がないと思うわ。でも、だからって、無下に拒絶することは無いと思うのだけど」 「――…………」 また、本棚の向こうからリトルが現れた。手には、香り立つ紅茶。 男の前にコトリとおいて、一歩下がる。 「どうぞ、召し上がれ」 男がリトルの方を窺いながら、ティーカップに口をつける。 その目が、驚くように少し開かれる。 「美味しい……」 「…恐悦至極に存じ上げます」 「そういえば、名前聞いてなかったわね。貴方、名前は?」 「……○○…です。貴女は…?」 「パチュリー、パチュリー・ノーレッジ。パチェって呼んでも構わないわよ。あと、この子はリトル」 リトルが腰を折る。今まで、見たことも無いような丁寧さだ。この色魔め。 男――○○がそれに応じて、頭を下げた。 ああ――。 私は思う。 この人間は羨ましい。私にないものをきっと持っている。 私がなくしたものを、きっとまだ持っている。 コクコクと、紅い茶を飲み下す様を見て思う。 ああ――、なんて人間は愛おしい存在なのだろう。 だから、私は彼を近くに欲しがった。 もしかすると、私は彼が欲しかったのではなく、彼の持つ何かが欲しかったのかもしれない。 何れにせよ、途中から彼を本当に欲しがっていたことは間違いないのだけれど。 「○○、無理させてたのかしら。私が、貴方に甘えて、貴方に無理をさせてたのかしら」 きっと、彼なら「そんなことはないさ」って言ってくれるだろう。 彼は、優しいのだ。本当に、本当の意味で、優しい。 それ故に、きっと、いろいろと背負い込みすぎた。 レミィはこのことを分かっていたのだろうか。彼の命に限りがあること。 いや、それ自体は誰でも分かるだろう。私でも、リトルにも、レミィでさえ、いつかその命の灯が消える。 そんなこと分かっている。分かっているけれど……。 流れる涙を止めることはできない。 「今まで助けてもらった分、甘えさせてくれた分、返すわ」 貴方の命は私が助ける。 そう心に決めて、ベッドに眠る○○の唇にキスをした。 ↓↓↓ 「パチェ」 「…○○? 何やってるの、身体が冷えるわ。ほら、早く入って」 自室にいると、時折○○が訊ねてくることがある。 私と彼は、もう一緒の場所で寝起きしていない。 図書館は彼の身体に悪い。そう言って、出て行くように仕向けたのは私自身だ。 寂しくは無い、いつ何時でも彼を感じていられるからだ。 こうやって、彼のために薬の研究をしている時だって。 「○○、調子はどう?」 「こうやってここにいることが答えにならないか?」 「…………そうね」 彼がこうやって私のところに来たのはもう半年ぶり、いやそれ以上だ。 段々と、彼が床にいる時間は長くなっている。 初めの頃は一日おきに私のところに来ていた。 それが一週間ごとになり、一月ごとになり、二ヶ月ごとになり……。 次は何時来れるのだろうか、それが気になる。それとも――。 「まさか、ね」頭を振って、嫌な考えを振り払う。 「パチェ、今日の薬はあるのか?」 「ええ……ちょっと待って」 紫色の液体を、ベッドに座る○○に差し出す。 ○○はそれを「パチェ色だな」といって飲み下した。 頬が赤くなるのが分かる。○○を振り向くと、確信犯的な笑みを浮かべてこちらを見ていた。おのれ、○○。 それにしても、私は何て無力なのだろう。 図書館の主だ、大賢者だと言われても、こうして目の前にいる愛しい人さえ救えないのだから笑ってしまう。 苦笑する私の頭に、手が置かれた。誰の、とも言う必要などない。 こんなに大きな、暖かな、優しい手は○○以外の誰が持っているというのか。 「パチェ、俺を気遣ってくれるのは嬉しいけどな。お前が身体壊してちゃ笑い話にもならないぜ?」 「○○は…………私に何か要求しようとか思わないの?」 「こうやって薬貰ってるじゃないか」 「そうじゃなくて。もっと、こうして欲しいとか、ないの? 私、貴方に甘えてばかりで…………」 「よしよし、そんなに悲しそうな声出すな」 ○○が私の頭を撫でる。 手の平から伝わる暖かさが、心に染み入って、これから先を思わせて。 涙が出る。 ○○の手を胸に抱いた。泣いてはいけないと、頭では分かっているのに、どうしても涙が止まらなかった。 出来ることなら「死なないで」と叫びたかった。 大きな声でそう言えたら、そう泣けたら、どれだけ楽になるのだろう。 でも、それは許されない。○○が泣かないのだから。 助けると、言った私が泣いてどうする。そう自分を叱咤した。 「なあ、パチェ? やっぱり、俺もお前に甘えていいか?」 「う…うん! うんうん!」 「じゃあさ、今日一緒にねないか?」 …………はいい!? ねるって、ねるって……! ○○を見あげると、照れくさそうに笑って、後ろ頭をかいている。 「○○……ねるって…。そのベッドで?」 「ああ、一々図書館まで戻るのか?」 「二人きりで?」 「もちろん。それとも、大人数の方が趣味なのか?」 「え……あ……う……うう…………むきゅうぅ……………………」 「あ、おい、パチェ!?」 視界の端で○○が手を伸ばしている。 けれど、それよりの早く私の身体は床に倒れこんでいた。 これからきっと私と○○は、一時の甘い夢を見る。 ――つかの間の。そして、最後の。 ↓↓↓ 「……ねえ、どうやったらそんなになるのかしら」 「そんなって……生きてきた年月が違いますから…」 「私と対して違わないくせに……!」 恥ずかしげに頬をかく、リトルを睨みつける。 その肢体が羨ましい、タオルの向こうの膨らみが羨ましい! 何で私はこんなにも……ここがないのか。断崖絶壁だ、日本海か!? …………よし、今ぺったんことか幼児体形とか言った奴、前に出なさい。賢者の石で灰にしてくれる。 「まあ、あまりに強い魔力は成長を阻害するって言いますね」 「そうなの? そんなの聞いたことないんだけど」 「ええ、図書館の蔵書の中にありました。確か…… 『身に余る魔力はいずれ術者に死をもたらす。 それは魔力とはそもそもが人の持てるものではないこと、 そして人にとって毒であることに他ならないからだ。 まして、魔力を持つ人間が成長することはまず考えられない。 魔力を行使するには若き意志、瑞々しい肉体が必要となるからだ。 つまり、魔力を持つものはヒトとしての輪廻をはずれ、長き世を傍観するものとなる。 しかし、例えばの話だ。ここに強大な魔力、しかしヒトの世に干渉できるものがいたとしよう。 それはもう、ヒトではなく正真正銘の化物であるといえよう。 何故か、それは私が書き記せるものではない。 何故なら、私はこの身に魔力を持つものであるが、化物では無いからだ』 だったと思います」 「よくそんな長い文章暗誦出来るわね…」 得意げなリトルを半ば呆れるような視線でねめつける。 要するに、彼女が言いたいことは、 『魔法使いなら成長しなくて当然』 だろう。 ……慰めになるわけない。 「まあまあ、セックスアピールは人それぞれですから」 「ちょっと待って。私そんなことするって言ってないわ」 「じゃあ何でこんな時間にお風呂入ってるんですか?」 「それは――……薬品臭い身体で○○と寝るわけにはいかないし……」 やっとのことで、言葉を紡ぎだす。 リトルの胸から視線を離せば、湯気に満ち満ちた浴場が見える。 私とリトル以外の姿はなく、閑散としている。 この状況、○○と混浴したあの夜を思い出す。また門番は来るのだろうか。 先刻、不覚にも、あまりの興奮に気を失ってしまった私は、気がつけば○○の腕の中にいた。 薬品臭い身体のままことに及ぶのはあまりに恥ずかしい、そう言って私はリトルと共に逃げ出した訳だ。 ……何か勘違いをしているような気がしないでもない。 「んー、でも何で○○さんはそんな際どいことを言い出したんでしょうね?」 「私に聞かないでよ……」 「そうですね、どうせすぐ忘れちゃいますし」 「え……忘れる…?」 「ええ、きれいさっぱり。やっぱり、○○さんとパチュリー様じゃ寿命が全然違いますもの。 ○○さんと過ごした時間なんて、一瞬ですよ。長いスパンで見れば」 「私は……忘れない、○○のこと絶対忘れない」 「無理無理、無理ですって。大体パチュリー様、どうやって私を使い魔にしたか覚えていませんよね?」 「……………………」 「ほらぁ! 絶対忘れますって、間違いなく。ま、そのほうが楽なんですけどね」 「私、先に上がりますね」 そう言ってリトルは軽い足取りで浴場を後にした。 残された私は裸で突っ立ったまま、足元を見つめ続ける。 いつか……○○を、○○と過ごした日々を忘れる……? そんなこと、そんな恐ろしいこと、絶対ありえない。 だって私は、彼と出会った日のことを、彼の笑顔を、彼の仕草を、癖をいくらでも思い出せる。 でも、だからってこれから先、百年経ってもオボエテル? 私の中、猜疑心が語りかけてくる。 お前は、そんな事を言って、絶対に忘れてしまうだろう。 いつもいつも、自分を過信して失敗するくせに。 そうだ、今だってそうだ。自分には永琳には無い技術がある。 そう過信して、○○を診察させなかったのは誰だ? 永琳に診せさえすれば、天才の彼女だ、○○を治してくれたに違いない。 そういったレミリアを無視したのはだれだ? レミィは、私を、私と○○を思って言ってくれたのに! 「やめて……!」 ああ、なんて嫌な奴なんだ、私は。 友を思う友を、無下に、傲慢に下した。 そのせいで○○は……死ぬ! ああ、なんて可哀想なやつだ、私は! 「違う違う違うっ!」 耳を塞いだ。頭を抱えた。 冷たい床に倒れ臥した。もういっそ、このまま喘息の発作でも起こればいいのに……。 耳なんて聞こえなければいい、言葉なんて発せなくていい。 何も考えたくない。 ソウスレバワスレラレル。 「パチェ?」 ○○が死ぬなんて真実。 ↓↓↓ 「落ち着いたか?」 「うん……ありがとう、○○」 本当、この男は何て都合よく現れるのだろう。 私が寂しい時、都合よく現れては抱きしめてくれた。 私がイラついている時、焦ることは無い、ゆっくりやろうぜと、励ましてくれた。 本を持って行かれた時、一緒に取り返しに行こうと、肩を叩いてくれた。 いつも優しく、時には辛く。影のように私の傍にいて、ほのかに微笑んで。 彼を――忘れたくない。 「○○…………お願いがあるの」 「ん、いきなりどうした?」 「…抱いて」 「あ? いきなりどうしたよ」 ○○は驚いた声を上げる。それは仕方ないと思う、私だってそんな事言われたら驚くほかない。 でも、私は何かに突き動かされるように○○に言っていた。 抱く。それ即ち彼氏と彼女、そんなものを飛び越えて、男と女の関係で、ということだ。 その行為は、死ぬまで私の身体に疵として残る。 それでいい、私はそれが欲しい。彼を忘れないために、欲しい。 「ねえ、抱いて」 「パチェ、冗談にしてもつまらないぜ?」 「冗談なんかじゃないわ。…お願い」 ○○の言葉を無視して、パジャマのボタンを外してゆく。 少しずつ肌蹴てゆく服と、露出していく肌。冷たい空気が素肌に触れる。 かじかんだように動かない指で、一つ一つボタンを外していく。 その手に、大きな手が重ねられた。大きな、暖かな、優しい手。 「パチェ、俺はそんなつもりで……」 「違う、違うの、○○は悪くない。私は、あなたを忘れたくなくて、こうするの」 「パチェ……」 「……○○…どうして?」 どうしてそんな目で見るの!? 私は何も悪いことしてないじゃない、何が悪いっていうの!? 彼氏と彼女なら当然でしょ!? 男と女なら当然でしょ!? 何で、止めるのよ! 何で邪魔するの! 私は貴方がほしいの、全部知りたいの! なのになんで貴方は私に知らせてくれないの!? 「パチェ!」 「っ!」 首が曲がるかと思った。 あまりにも強い、あまりにも優しい衝撃だった。 気がつけば私の頬は真っ赤に腫れていた。呆然とそこに手をやる。 口の中は血の味がする。生理的反射で、涙が頬を伝った。 ○○に頬を張られたと気付くまで、時間がかかった。 「ごめん、パチュリー。俺、やっぱ一人で寝るな。 あと、もう薬はいらないから。俺ももう長くないし。 だから、きちんと睡眠は取れよ。……じゃあな」 「待っ……!」 ○○が去ってゆく。ドアの向こうへ、私の手の届かない所。 その先にあるのは暗い闇だけなのに。そんな暗夜航路を行くと、一人で行くと○○は言う。 こうも言った。『私は必要ない』そう言った。 それ見たことか! もう一人の私がせせら笑う。 お前は必要ないと、笑う。さあ、寝てしまえ、忘れてしまえと、囁く。 私は貴方の身体が欲しかったわけじゃない。 貴方の心が欲しかったのに、どうしてこんなことになってしまうのだろう。 「おやすみ、パチュリー」 ドアは閉じる、閉じる。きっと、二度と開かないだろう。 私はただ、それを見つめるだけだった、何も出来ず、ただ見つめるだけだった。 何も考えられない、考えがまとまらない。 呆けたように、ドアを見つめ続けた。それが開くことを願って。 だけどそんな都合のいいことはもうない、あるはずもない。 ――彼は死ぬのだから。 ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/613.html
パチュリー16 新ろだ2-205 「暑すぎるだろう……」 図書館で机に突っ伏している○○は、 季節は梅雨入りしているはずなのに、燦々と照らされているであろう外の様子を思いながら、そう一人愚痴をこぼした。 「人間は大変そうねぇ、私は魔法でなんとかなっているけれども」 そう、本から顔を上げないままに言うのはこの図書館の主、パチュリー・ノーレッジである。 「こちとら普通の人間だからねぇ……そんな便利な特殊能力なんてあるはずもないから、必死で手を扇ぐぐらいしか出来ないのよ」 「不便なものね……あ、本で扇いだら燃やすから」 そうナチュラルに脅してくる彼女を横目に、再度比較的ひんやりとしている机へと顔を横にする。 例年のこととはいえ……暑い。 むしろ熱い。 毎度のことながらこの季節は苦手だなぁ…… 「確かに今年はそれなりに暑いようね、レミィも『また霧でも出そうかしら……』とか言ってたわね。 巫女に串刺しにされるわよ? って言ったら大人しくなったけども」 ――でも意外と巫女も喜んで此処に入り浸るかもしれないわね。 そう言ってクスリと笑う彼女を見て今日は何故か機嫌が良いなぁなどと胡乱な頭で考えていた。 基本彼女は本を読んでいる時は静かにしている。 本の世界に没頭しているのだろう。 だから自分も邪魔をせず、静かに本を読んでいることが多い。 図書館の全体からすれば、読める本は多くはないのだが、それでも十分な量がある。 元々、本を読むことは好きではあったので、だからこそ自分は此処に通いつめているというのが一つの理由だ。 ――もう一つの理由は彼女、パチュリーのことが好きだからというのもあるのだが―― 彼がこの図書館に来る様になってから結構な時間が経った。 まぁ私からしたらそれ程でもないのだが、人間である彼からしたらそれなりの時間だろう。 初めは、物好きな人間もいるものだ……程度に思っていたのだが、彼は私と同じくかなりの読書愛好家らしく 本を読んでいる間は無駄な詮索も問いかけもせず、ゆったりとした時間を過ごすことが出来ている。 そういったことをすることが出来る人物というのはこの紅魔館では他に居なく、だからだろうか……彼に図書館へ通うことを許可したのは。 そんな彼も、今日のこの暑さにはだいぶ参ってしまっているらしく、珍しく本を読む手を止めて机に突っ伏している。 それが少し面白くて、本を読みながら彼へと横目で語りかける。 私は、それ程人付き合いというか会話をすることが得意ではない。 レミィとかだったら気心が知れている分気軽に話せるのだが基本的には自分の中で完結してしまうのだ。 しかし不思議と彼とだと気楽に話せている自分が居ることに気付く。 同じ趣味を持つ者通し、気が合うのだろう。 ……恐らくは。 そんなことを考えながらそろそろ紅茶にしようかしら、と思い本を整理しているであろう小悪魔を呼びつけた。 そうして小悪魔にパチュリーが紅茶の用意を頼み、しばし待っていると小悪魔が戻ってきて三人でのお茶会となる。 「しかし、○○さんもかなりの量の本を読んでいますよねー。 ここには滅多に人間の方が来ないっていうのもありますが 最近は賑やかで私も嬉しいです」 「人里の方ではやっぱり本を読む機会っていうのがあまりないからね、新聞とか阿求さんが書く本くらいだから…… ここで沢山の本を読めるっていうのはかなり助かってるよ」 「たまに来る人間といったら魔理沙ぐらいだったものね……持って行かないで静かに読んでいるだけ○○はだいぶマシよ」 「普通のことなんだけれどもね……」 そう言って苦笑する。 図書館では静かに、本は持って行かない。 普通のことのはずなんだけれどもそれで認められるとは…… そう誰かさんを思って苦笑する。 「でもさすがに今日の暑さはだいぶ参っちゃってるよ、さすがに室内だと結構蒸すしね」 「あー……確かに。 換気の方はちょっと問題ですね。 湿気は本にも悪いですしまた改善しなきゃなぁ……」 「その辺りは貴女に任せるわよ、よろしくね小悪魔」 うぇ~~~…… そんな風に涙目になる小悪魔に、二人して笑いながら紅茶の香りと味を楽しんだ。 「でも本当、○○さんが来てからここもだいぶ暖かな感じになったと思いますよ?」 そんな風に小悪魔が悪戯を思いついた様な顔付きで○○に言う。 ……少しだけ嫌な予感が頭を掠めた。 「そうかな? でも自分はここに来て本を読ませてもらっているだけだからね。 他に特に何をしているというわけでもないし」 「いえいえ、そんなことはありませんよ。 私も○○さんが来る様になってからだいぶ楽しいですし……」 ――パチュリー様もそうですよね? そんなことを言われて一瞬顔が熱くなる。 それを表情へと出さずに、努めて冷静に返す。 ……後で仕事量倍にしてやろうかしら? そんなことを考えながら。 「私は特には変わってないけれどもね。 いつも通りに本を読んでいるだけよ」 そっけなく出来ただろうか……? そんな風に思う。 「あはは、パチュリーの邪魔になっていなければ幸いなんだけれどもね」 そんな風に笑う○○にちくり、と胸が疼く。 そう、彼は本を読みに此処に来ているのだ。 決して……私に会うためではない。 そう思って。 悟られてはならない――魔女である私が、ただの人間に恋焦がれているなどということは。 そうして、お茶会も終わり再度読書へと戻ることになったのだが、しばらくすると○○が人里へと戻ることとなった。 「今日もありがとうございました、またお邪魔させていただきますね」 「構わないわ。 この図書館には貴方では読みきれない程に本はあるのだから。 飽きない限りはまたいらっしゃいな」 そう挨拶を交わし、図書館を後にする。 外へ出ると燦々と輝く太陽が憂鬱な気分にさせてくれるが、また図書館へ来れることを心待ちにし、人里へと戻った。 「パチュリー様も、外へ出る様にしたら如何でしょうか? たまには良い気分転換になると思いますよ?」 そう小悪魔に問いかけられる。 「外へ出る時間がもったいないし、わざわざ本を取りに戻るのも手間でしょう。 ……そういうことが言いたいわけではないのね?」 何が言いたいのかは判ってはいるが、あえて問いかける。 「そうですねぇ……私から言えることは特にはないのですが……」 ――我慢は身体に毒ですよ? そう言って笑いながら逃げるように図書館の奥へと消える小悪魔に苦笑して、再度本の世界へと意識を戻す。 ……そうして、独り言を呟く。 「魔女と人間の恋愛模様……この世界では異端扱いされることはないだろうとはいえ、夢物語ね」 そう呟き、本を読む。 「二人とも端から見てるとわかりやすいんだけどなぁ……まぁ時間が経てば解決するでしょう」 そう思いながら、小悪魔は笑う。 引っ込み思案で消極的な主と、同じくらいに消極的な彼を思いながら。 イチャ絵板 2008/12/23 「ん……」 背中のパチェから小声が漏れる。どうやら目を覚ましたらしい。 「あ……」 降ろしてくれと言うように体を捩る。 そっと降ろして、そして振り返る。 「○○……大変だったでしょ、ごめんね。」 「せっかく誘いに応じてくれたんだからな……。これくらい大したこと無い。」 「そう……」 呟いて空を仰ぐ。 「……空凄いね。」 「そうだな。」 「風、気持ちいいね。」 「そうだな。」 「二人っきりだね。」 「ああ。」 はにかみながら目を閉じるパチェ。 そっと、その肩を抱いて唇を寄せて…… Megalith 2011/08/18 「暑いわね…」 紅魔館、大図書館。換気をしているものの暑さは全く和らがない。 …というか、地下図書館がこんなに暑いって異常じゃないか? 「っとに暑いな…。湿度も高いし、本にカビ生えるんじゃない?」 熱でふやけた脳で初等魔術入門書を流し見ながら、半分本気で冗談を飛ばす。 残念ながら、本の内容はほとんど入ってこない。 「それは困るわね…。…それと、汗ばんだ手で本に触らないで頂戴」 汗ばんだ手で本を読んでるのはお互い様だと思う。 「じゃあ貸禁解いてくれよ…。魔法使いの森とか、涼しくて日の当たらないところで読むからさー」 "魔法使いの森"という単語に、彼女がピクリと反応する。 「…それは本気で言っているのかしら?そんなところに持って行ったら白黒に見つかって持って行かれちゃうじゃない。 それにここの蔵書は全部禁帯出よ」 だるげな声にやや怒気が混じっている。あぁ、つい先日も何やら白黒の子と弾幕してたっけ。 あの子を連想させるような言葉は避けた方が賢明かもしれない。 「水符とかで涼しく出来ないんすか…ほら、水&木符とか」 取り敢えず話題変更。 ジト目で睨まれる分には寧ろご褒美だが、もし八つ当たりされると「Wもやしの弱い方」なんて呼ばれてる俺は一瞬で消し炭になりかねない。 魔術の勉強してるとはいえ、ただの人間だしな。 指先から小さな炎を出したりする程度でも必死なレベルで、白黒には到底及ばない。 「残念ながら無理ね…。館内全体を薄く広くカバーする程度の出力と言っても、それを維持してたら私がもたないわ」 うし、気は逸らせた。じゃなくて、 そう言われてみると確かに燃費は悪そうだ。ただでさえ体の弱いパチュリーには過労働かな…。 今もフヨフヨ浮いてるけど、浮くのは慣れたら意外と簡単なんだろう。 なんて思いながら、いつもより更に血色が悪くなっている顔を眺める。 青白い肌にじっとりと汗が滲んでいてセクシー…いや、無いな…。 逆三角形に開いた口、眉間に皺、ここまではいつものパチュリーと大差ないが、暑さの所為か若干目が虚ろだ。それにちょっとフラフラしている。 流石にスペルカードを使用してでも冷やした方がいいんじゃないだろうか。 「…何やっぱもやしじゃ無理か、みたいな顔してるのよ」 「いや、暑さで倒れるのも水符"マジカル☆冷房"の疲労で倒れるのも同じじゃね?という顔。 このままでも倒れそうだよ?」 「誰が、このもやし折れそうよ…」 「言ってない言ってない。 寧ろ俺の方がもやしってか最近微妙に日焼けして腕がポッキーだよ。この時期の半そでは危険だね。 パチュリーは運動不足で腹筋無くなりすぎて、お腹の辺りが胃下垂でぽちゃりーだから俺の方がよっぽどもやしだヨ!」 「…殺ス…」 ん、今気づいたけどこれちょっと本気でやばくね? 俺じゃなくてパチュリー。目の焦点が合ってない。と思った刹那パチュリーの姿が揺らぐ。 「ちょあっ!?危なっ!」 手にしていた本を放り出して駆ける。 4mくらいの高さとは言え無抵抗に落下したら流石に…っ! ガシッ! かっこよくお姫様抱っこ!間に合った! …と安堵すると同時に、ペキゴキッという不吉な効果音。 そして数瞬後に襲ってくる激痛と、吐き気。 落下の衝撃は殺せたようだが、そのまま脱力してパチュリーを床に寝かせる。 腕に力が入らないので寝かせるというよりも落とすような勢いになってしまったが、垂直落下するよりは大分マシだろう。 ちゃんと足から下ろせただけ上出来だと思っておこう。 …うん、左腕骨折、右肩脱臼ってところかな…。もやしな自分が恨めしいぜ…。 あ、涙出てきた。 さて、痛みで意識が飛びそうだが、最後に一仕事しなければ…。 このまま意識失ったら某鴉天狗の新聞に「Wもやし、熱中症にて心中」等と書かれかねない。 「だれかああああああああああ!?たああああすけてええええええええええええええええええ!?」 あらん限りの力で声を上げた後、視界が暗転した。 気が付くと、救護室のベッドで横になっていた。 「パチュリー様、おはようございます。体調は如何ですか?」 ベッドの横には子悪魔の姿。その奥には両腕を三角巾で釣った彼がベッドに腰掛けていた。 少し記憶が曖昧だ。 確か、暑さで意識が朦朧としてそれから…その後を予想してみる。 「…私が落ちそうになって、それを貴方がキャッチ。その衝撃で腕を損傷した?」 「あはは…ご名答。」 彼が苦笑する。 「…全く、もやしの癖に無理するんだから…」 ―でも、ありがと。 心の中で付け足す。 口に出したわけではないのに何故か気恥ずかしくなって顔が熱い。 何よ、これ…。 「ところで、腕が折れる程私は重たかったのかしら?」 よく判らない感情を追い出すように、話題を変えてやる。 「んや、俺の骨が重力加速度に負けただけだと思うよ…ほら俺ポッキーだし…。 若干お腹が気になってるからって大丈夫だよ。それ、脂肪じゃなくて内臓だからサ」 さっきの感情を慰謝料付きで返せっ! 「誰のお腹がゴォフッ!ゲホッゲホ!」 「パチュリー様!大丈夫ですか!?あまりパチュリー様を興奮させないでください!」 慌てて小悪魔が背中を擦ってくれる。全くこの男の辞書にデリカシーという言葉はないのかしら。 もし落丁してるのならばいつか返品してやらないと…。 「いや、いっつもローブだし、気にしてるのかと…」 「ハァ、ハァ…別に、お腹は出てないわよ…。何なら触ってみる?」 「「えっ」」 彼と小悪魔の声がハモる。当然だ、何言い出してるんだと我ながらに思う。 少し興奮しすぎたかしら…。 でも、一度発した言葉は撤回できないしそのまま反応をうかがってみる。 …暫しの沈黙。 そして彼が何かを決意したような表情で言った。 「…じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」 あぁ、いつもの変態(彼)だ。 少しぎこちない動作でこちらのベッドに腰をかけ…、 「って、何で後ろからなのよ」 「正面からだと流石に恥ずかしいんだよ…」 どうやら、口でセクハラ発言する癖にいざ許可してみたら逆に奥手になるタイプのようだ。 …さすさす。 さす……。 ぐ、ぐに。 ぐいぃぃ。 「…思ってたほど…ぽちゃりーじゃない…」 「ちょ…触っていいとは言ったけど何掴もうとしてるのよ。ていうか何その残念そうな声。 後ぽちゃりー言うな」 「…」 「…何、急に黙ってるのよ…」 実は本当にぽっちゃり専なのだろうか。表情を伺えないのが煩わしい。不安がよぎる。 と、 「ギュー」 「ひぁっ!?」 いきなり抱き寄せられた。 「ゴメン…可愛いくテ思ワズ…」 表情は判らないけど、尻すぼみになっている彼の口調から察して恐らく耳まで真っ赤になってるのが予想できた。 「…なによ、こっちまで恥ずかしくなるじゃない…」 「ぁー、折角だからもう少し、くっつかせて」 「…しょうがないわね…。お礼も兼ねてさっき読んでた本、読み終わるまでだったら許可してあげる。 あ、途中で暑くなってきたらそこでストップかけるかもしれないわね」 「クンカクンカ」 「!? 何匂い嗅いでるのよ変態!…多分汗臭いわよ…」 「シャンプーや石鹸の匂いを嗅ぎたい訳じゃない。パチュリーの匂いを嗅ぎたいんだ。全く問題ない。 寧ろ…いや、何でもない」 何を言おうとしたのか何となく察しは付いた。 口に出してたら流石に私も賢者の石を使わざるを得なかったわ。よく我慢したわね変態もやし。 「………。 はぁ…子悪魔、初等魔術教唆バイブルっていう本、取ってきてくれない?」 「はい、判りました探してきますね。 …この二人、かなりのバカップルになりそうです…」 私こと子悪魔は、思わず白い目で二人を見てしまいました。 それに魔術教唆バイブルって…何だかんだ言って魔術を教える気はあるんですね。 きっと本人に聞いたら、「教えることも知識の確認になる」って反論するでしょうけど。 パチュリー様、私と言うものがありながら…ムキーッ! とはなりませんが、余りイチャイチャの頻度が増すとこちらも色々と、種族としての業を抑えるのが大変になりそうです。 その時はお二人に協力して貰いましょう。 「あ、わき腹のお肉はぷにぷにしてる。鍛えにくいもんねここ」 「…っ!」 もやしな声が響き渡りって降りますが、今日も紅魔館は平和です。 パチュリー分補充 蕪雑な文だなぁ…精進しなければ… ある日のもやし達(Megalith 2011/10/27) ――紅魔館は今日も平和だ。 基本的にここの住人はお嬢が動かない限り大人しいので、事件の起こりようも無いのだが…。 殊にこの場所、紅魔館地下図書館に於いてはページを手繰る音くらいしか聞こえない。 その音さえ圧倒的な面積と、聳え立つ本棚の林に遮られ意識しないと聞こえない程度だ。 さて、今日も今日とて俺とパチュリーは地下図書館で穏やかな時を過ごしていた。 パチュリーは外界から流れてきたという薄っぺらい本のページを無表情に手繰っている。 一体どこから仕入れてきたのか、近くには似たような形状の本が大量に詰まれていた。 一方の俺はというと、学んだ錬金術の知識をノートにまとめていた。 骨折事件の折に魔術を教えてもらうという流れにはなっていたのだが、俺の魔力に難があることが発覚し紆余曲折の末に錬金術を学んでいくことにしよう、という方向性に定まったのだ。 パチュリー曰く、魔力が無いというのは若干異なり、正確には全ての属性に対して致命的なまでに相性が悪い。ということらしい。 属性を乗せずに魔法を使うということも一応は可能(例:ノンディレクショナルレーザー)だが、属性変換による効率化を行えない為頗る燃費が悪く、ごく普通の人間である俺が扱うには荷が重いらしい。 それでも魔力があるだけ、多少はマシなのかもしれない。 だが、相性が悪いということはこちらが属性魔法を受ける時、常人以上にダメージを貰う羽目になるということでもある。 この話を聞いて魔法攻撃に弱い上に敏捷が少ないグラスランナーとお嬢に揶揄された時は軽く泣きそうになった。 もし俺がキャラクターポイント制で作られているならば、この特長だけで軽く20ポイントは貰えるだろう。 加えて俺は虚弱体質のマイナス特徴も持っている。そう考えるとかなりのCPを得ているはずなのだが…一体どこにポイントを裂いているのだろうか。 …やっぱ容姿端麗と博学、後は…。 「変態、もやし、ヘタレ、フェミニスト、ロリコン、後は自意識過剰辺りかしら…あら、全部不利な特徴ね」 「人の心を読まんでください…」 「口に出てたわよ。 真面目に答えると背景幻想入りで130点くらい使ってるんじゃない?」 「…然もありなん。基本CP80点、不利な特徴で合計150点くらいになって、幻想入りで130点消費か…。 残り20点の行方が気になるところだ」 …さて、錬金術自体はパチュリーや魔法使いの森に店を構える雑貨屋の主にも教えて貰うこともできたのだが、基本的には独学で行うことにしている。 初めはパチュリーに教えてもらったのだが、如何せん喘息持ちの彼女が長時間喋り続けるというのは相当な負担になるらしい。しまいには声が掠れ初めてしまってそれ以降は遠慮している。 後者はというと、外界の道具について延々解説させられるというよく判らない展開に陥り軽くトラウマになってしまった。 いくら外界の日用品といっても、道具そのものの仕組みなんて答えられないってばよ…。 何とか初心者用の本を見積もってもらったり、ある程度の知識くらいは教授して頂いたが…とにかくしんどかった…。 正直もう行きたくない。 「ふぅ…」 今までに得た知識とアイデア、錬金レシピなんかを纏めたノートを一旦閉じ、近くにストックしておいた錬金術関連の書籍から一冊抜き出してからパチュリーの後ろに座る。 本を固定したままノートを執るという行為は、背表紙に深刻なダメージを与えるから止めるように、と言われていたので書くときは書く、読むときは読むと作業を分けているのだ。 「………なんで態々そこに座るのよ」 「ん?」 どうやら、両足でパチュリーを挟み込むような格好で座ったのが気になったらしい。 正直こちらも突っ込み待ちだったのだが。 「肌寒いし人肌恋しい季節なのですよ」 彼女ははぁ、と溜息を吐くと「まぁ、いつものことね…」と呟いて再び読書を再開してしまった。 こういうちょっとしたボディコミュニケーションには慣れてきてしまったのだろうか、最近反応が薄くて寂しい限りである。 とは言え、本を読んでいる最中だと真面に相手をして貰えないだろうし今は自分の作業を進めることにするか…。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 二時間後、ようやく一段落がついたので休憩に入ることにした。 如何に初等とは言え学術書に変わりはないので独学だとワンセクション進むだけでも結構手間がかかるものだ。 元々勉強できたわけでもないしな…。 目の前のパチュリーに目を向けると彼女の方はあの本の山を読破してしまいそうな様子だった。一冊一冊が薄い所為で読むペースがやたらと早い。 2時間も保っているのは単にその量が尋常では無かったからだろう。 …ていうかこれ、同人誌だよなぁ。 気に入ったものがあったのか、既読書のスペースとは別に分けておいてあるものもある。 幸いなことに18禁のものはないようだが…、いや、寧ろそっちの方がいい反応が見れそうだな。 今度こっそりと混ぜておこう。 等と考えているうちに次の本へと手を伸ばすパチュリー。 彼女は読書の邪魔をされるとちょっと不機嫌になってしまうので、何かを仕掛けるのならば今この一瞬を置いて他にはないだろう。 …タイミングを逃したところで5分も掛からずに読み終わるんだろうけど…。 兎角、即断即決、0コンマ数秒で行動に移すことにした。 後ろから抱きかかえるように腹部へと手を回し、そのままころん、と後方へと倒れこむ。 「ぴゃ!?」 不意打ちを食らったパチュリーが小さく悲鳴を上げてコロンと転がる。俺の腹の上にパチュリーが乗っかっている姿勢だ。 「ちょぉっ!? 何よいきなり!?」 「休憩がてら地獄のゆりかごでもしようかと」 「意味が分からないわ。あぁぁ、揺れないでー。これ地味に怖い!」 「意味などない! 一度この体勢に入ってしまえば後は成すが儘というこの技の恐ろしさ、とくと味わうがよい!」 「むきゃ~」 数分程じゃれあっただろうか。俺たちは体力が切れてそのまま図書館の床に仰向けで倒れていた。 「…流石に、疲れた…」 先の技は意外にも体力の消耗が激しい。腹筋も背筋も、二の腕や脹脛の筋肉もかなり酷使するのだ。 …俺の体力が無いだけという突っ込みは無しということで。 「…疲れるなら、やらなければ、いいのに…」 パチュリーが切れ切れに呟く。 因みに体勢は地獄のゆりかごをしていた時と変わらない。つまり仰向けになった俺の上に仰向けのパチュリーが乗っている状態だ。 バランスが悪いと言っていた割にその場所から動かないのは動く元気すらないからだろう。 「貴方はいつも突飛過ぎるわ…」 少しして体力が少し回復したのか、体を起こしてそのまま床に座り込んだ彼女が言う。 一人で寝転がってるのは少々、いや結構寂しいので俺も体を起こすことにする。 「んしょっと。まぁ、気になる娘にはちょっかい掛けたくなるものなんだよ」 「――っ! ………子供じゃないんだから」 あさっての方へと顔を背けるパチュリー。頬がほんのりと紅潮している。 おぉ、これは…! 「かかかか可愛い反応しやがってぇっ!」 カサカサと近づいてハグをする。 そうか、これが、萌えという感情か。 「…今の動き相当キモかったわよ…」 拒否こそしなかったものの、かなりげんなりとした様子。 確かに、今の動きを俯瞰視点から想像したら相当気持ち悪いな…。 バ○オハザー○の○ッカー並かもしれない。 「で、やっぱり後ろに行くのね」 「ん? おぉ、ほんとだ」 気が付くと俺はパチュリーの後ろに回り込んで後ろからハグをしていた。 そういえば、彼女にくっつく時は大抵後ろからだなぁ。 大抵、というか、ほぼ毎回、というか、毎回。 「んー、こっちのが落ち着くっぽいなぁ。髪の毛もふもふ」 「ひぁ…ちょっ、息がくすぐったい…」 「パチュリーちっちゃいなぁ」 「貴方だって中国より15㎝は小さいでしょう」 「…割とコンプレックスなんで僕の身長のことは言わんでください…」 なんて、二人でイチャイチャバカップルごっこしていると、 「邪魔するぜー………邪魔したぜー」 不定期にやって来ては本を持っていく白黒が現れた。 「霧雨さん、折角のイチャイチャタイムを邪魔しないでください…」 「別にイチャイチャしてた訳じゃないと思うけど…」 「………十分すぎる程イチャついてたと思うが私は何も見ていないぜ。 こっちの用事を済ませたらすぐ帰るから気にしないで続けてていいぜー」 と言って、魔理沙は床にストックされていた本を物色し始めた。 「ぁー、その辺りに出てるのは現在進行形で使ってる本だからまた今度にしてくれないか?」 「今度も何も、ここの本はいつも通り全部禁帯出よ」 「だろうな、それじゃあいつも通り力づくで借りていくことにするぜ」 と、懐から小型八卦炉を取り出す魔理沙。 「望むところよ。今日は…色々あって疲れてるけど…調子自体はいいわ」 パチュリーもスペルカードを取り出し、応戦する姿勢を見せる。 「弾幕かー…いつも通り俺にできることは何もないな…」 自慢じゃないが俺は弾幕を出すことも、空を飛ぶこともできない。 だからいつでも安全圏に移動できるように準備しておくことにした。 「後ろにハンデが居るからって手加減はなしだ、ぜ!」 言うや否や大量の、まさしく弾幕を放つ魔理沙。 幸いなことに今のは牽制だったようで、動かずとも被弾することはなかった。決して反応出来なかった訳ではない。 チチチチ…と大量のかすり点が加算されていく。 …ところでハンデって俺のことか? 事実だから仕方ないと言えば仕方ないのだが、他人に言われるとちょっと虚しい。 早いとこ実践レベルの錬金術でもできればなぁ…。自衛くらいは出来るようにならないと。 というかよくよく考えたら俺が存在することでパチュリーが不利になることは余りないような気もする。 …まぁいいや、さっさと避難してしまおう…。 「生憎だけど、本が賭かってるからハンデはあげられないわ」 「…あのあのパチュリーさん? こっちに手が向いてますよ…?」 パチュリーの左手には既にチャージ完了とばかりに魔力の塊 ――色からしておそらく水属性だろう―― が渦巻いていた。 「貴方弾幕ルール設定してたわよね。足手まといになる前にぴちゅってて頂戴」 「いやそれ酷くね? "ごっこ"とは言ってもぴちゅったら結構痛いというかせめて無属性でお願―」 ぴちゅーん! ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ―― その夜、魔理沙との弾幕戦を終えて疲れ果てた私は寝室に戻ってきた。 今日は無駄に体力を消費しすぎた。完全にオーバーワークだ。 さっきはシャワールームで寝掛けてしまって溺死しそうになるし…。 「………?」 何か違和感を感じる。 暫く周辺を見まわして…あぁ。 いつもはメイドたちがきっちりベッドメイクをしている筈なのに、妙にシーツが崩れている。 オマケによく見ると中央が人型に盛り上がっていたりする。 …全く、昼間ぴちゅってから姿を見ないと思ったら…。 「………」 無言で本棚に刺さっていた大技林2011とコミケカタログ、ついでに美術図鑑を落としてやる。 「あ゛、あだ!ぐぁっ…!」 次いで布団を捲り上げる。 「…何をしてるのかしら?」 「…本は、大切、に…」 「何をしているのかしら?」 「………お、お布団を温めておりました」 人が愛用している枕に顔を埋めて小さく呟く彼。 彼じゃなければ間違いなく私刑に処していただろう。 「100歩譲ってそういうことにして、どうして私の寝室に貴方がいるのかしら」 「いやー、ぴちゅってから暇だったもので…」 「態々ピッキングまでして侵入したと」 「ぁーいやそれは…口で説明するのが面倒だから取り合えず俺をぴちゅってくれないか」 「………M?」 「いや別にそういう訳ではな―」 彼の弁明が終わるのを待たずにノーマル弾を打ち出す。 やる気の無い弾が、やる気の無い速度で、やる気の無いヘロヘロとした軌道を描く。 相当疲れてるなぁ、私。 ぴちゅーん! 誰が制定したのか判らないが、弾幕ごっこでは一定の被弾をした後、自宅の設定ポイントないしは最寄の復活ポイントに強制移動させられる。 妹様がコンティニュー云々言っていたのもこのシステムに則ってのことだ。スペルカードにしてもごっこ遊びを飾るエッセンスに過ぎなかったりする。 まぁ、妹様に限ってはそのルール自体を破壊してしまうことが出来るから半ば隔離されていたわけだが…。 被弾した瞬間彼の姿が掻き消え…、 仰向けの状態でベッドに再出現した。 「…とまぁ、こういう訳なのですよ」 鳩尾の部分を擦りながら彼は言う。 そういえば属性耐性がマイナス入ってるから常人以上に痛みを感じるんだっけ。 「…って、何でそこを登録してるのよ。…というか何時登録したのよ…」 「秘密。ところで俺が言うのもあれだけど、すごく疲れてる?」 「…うん、もう寝るわ…」 何が秘密か、とか、半分以上お前の所為だろうとか、色々突っ込みたかったがもう体力の限界が迫っている。 ベッドが視界に入ってから意識が切り替わってしまったらしく、瞼が重くて仕方がない。体が横になりたがっている。 彼の隣の空いているスペースで横になり、そそくさと毛布の中へ潜り込む。 あぁ、確かにこの時期布団が温まっているのは良いものだ。 Ⅱの字と言えばいいのだろうか、二人で並んで寝転がる。彼は仰向けで、私はうつ伏せ。 シングルサイズのベッドである為多少狭いが、彼も私も小柄なので寝るスペースは十分にある。問題はないだろう。 兎に角、今は余り難しいことを考えたくない。 「おや…あれ?」 困惑した声。隣を見ると彼が眉間にしわを寄せていた。多分、「んー、どうしよっかなぁ」程度のレベルで考え込んでいるのだろう。 「枕、返して」 「あぁ、はい」 取り敢えず愛用の枕を奪取。やはり慣れ親しんだ枕がないと眠れない。 ボフッと顔を埋める。疲労がすうっと和らぐ感覚。それと反比例して睡魔が雪崩のように押し寄せて意識を埋め尽くしていく。 「………他人の匂いがする枕って落ち着かあいわ…。 あ、もう電気消すけろ部屋に戻ぅ?」 ダメだ、呂律が回らない。 「まるで一緒に寝ていいかのような口ぶりだけど」 「…別に、何もしあければ…」 「…それは…生殺し…」 「嫌なら自分の部屋に戻―」 「お邪魔させて頂きます!」 ………。 3秒ほどの沈黙。 「…何故そこで沈黙するのか」 「………電気消すわよ」 パチリと魔力灯を落とすと、補助灯の明るさのみが残る。 手元で調整できるように配置しておいて本当に良かった。今更起き上がるのは相当キツイ。 「それじゃあ、おあふみなはい」 「うぃ、お休み…あ、そうだ」 薄暗くなったベッドで彼が言う。 「…?」 「おやすみのチュー」 …無言で睨みつける。あぁ、瞼を開くのがこんなにも重労働だったなんて思いもしなかった。 「パチュリーさん半分寝てるね…何か女の子がしちゃいけない表情になってるよ…。せめてハグさせてください」 「…いつもしてるでしょ…」 「うん」 ぎゅっと寄り添ってくる彼。 布団が温まってなければ湯たんぽ替わりになったのだろうけど、残念ながらちょっと暑い。 瞼を閉じると体の感覚が遠のいていく。 「パチュリー、暑い?」 「…ん…だいじょぶ…」 ちら、と少しだけ目を開けると彼と目があった。意外と近い。 彼がつ、と視線を外す。 「…ヘタレ…」 「…視線合わせるの苦手なんだよ…」 「………」 「…ん、寝ちゃった?…おやすみ…」 彼が目を閉じたのを薄目で確認してから、不意打ちで軽く唇を重ねる。 僅か1秒にも満たない控えめなキス。 「―っ!?」 「…偶には…こっちから…仕返し…」 隣で悶々としている彼を尻目に、私の意識は夢の中へと落ちていった。 (………おやすみのチューとは果して本当に"おやすみする前のキス"なのだろうか。 いや、語感からすれば"おやすみしている間のキス"と捕らえたほうが自然ではないだろうか? ならばパチュリーは今それを許可してくれた訳でいやいやだからと言ってもし起こしてしまったら悪い。 しかしこの状況は非常に拙いな。どのくらい拙いかと言うとこの前お嬢に飲まされた自分の血が入った紅茶以上に不味い。 煩悩と闘って悟りを開くとかマジ無理ゲー。煩悩のレベル108くらいあるだろ。 ブッダさんマジ仏。俺とか外道ヤクザより弱いし魔王マーラ様の誘惑に勝てる気がしねぇ………) ボクは必死に情欲と戦って、結局寝付けませんでした…。 翌朝、パチュリーが人の顔を見るなりすごい勢いで枕に頭突きをしていました まる。 文法など知らぬ! 語彙など無い! それでも、俺の頭の中で書けと囁く奴がいるんだ! それにしても○○がどんどんキモくなっていくなぁ。 この○○で書くときはこのタイトルで統一したく思います。
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/609.html
パチュリー12 10スレ目 107 紅魔館の大図書館に住む魔女、パチュリー・ノーレッジ 彼女の仕事に最近、幻想郷の出版物の検閲が追加された。 何故かって? 本人が言うには蔵書に閻魔帳が欲しかったから、だそうな。 そんなわけで紅魔館には一足早く新聞が届く。 「そうか、明日は快晴なのか……。」 隣で楽しそうに閻魔帳をめくるパチェに話を振る。 「せっかくいい天気なんだし、たまには外に出かけてみないか?」 「…………?」 そんなに変な物でも見るようなジト目で見なくてもいいじゃないか。 「晴天は外出の誘引にはならないわ。レミィやフランのような特殊体質なら 雨の日は外に出たくないという意味で曇りを避けるかも知れないけれど、 寧ろ私は肌や髪が荒れるから曇天の方が外出日和ね。」 そういえば前にそんな事言ってた気もするな。 「そうか……解った。図書館だと何時も小悪魔が居るしたまには二人で、と思ったんだが。」 そう言って新聞を戻そうと立ち上がったら、 「あ……。」 袖を掴まれた。 「やっぱり行く。晴れの日はハレの日だから外出日和だ、って本に書いてあったし。」 あっさり前言を翻すとは魔女失格じゃないのか? 「肌や髪が荒れるんじゃなかったのか?」 「いい、魔法で何とかする。」 まあ、本人がそう言っているんだから大丈夫なのだろう。 何はともあれ明日が楽しみだ。 翌朝、予報通り突き抜けるような快晴。 「パチュリー様、無理をなさっては……」 「くどいわ。使い魔なら使い魔らしく主に従いなさい。」 珍しく二人が口論をしている? 「おはよう。」 「あ……おはよう、○○。」 この様子は……昨晩全く寝てないのか? 「○○さんからも言って下さい。こんな状態で外出なんて無茶です。」 小悪魔の言ってる事は正しい気もするが。 「規定値以上の陽光を遮る魔法もかけたし、大丈夫よ。さあ、早く…………」 「パチュリー様! 」 相当無理してたんだろうな……さて、どうしたものか。 「パチュリー様は夜を徹して魔道書の執筆をなさっていて…」 「ん、どんな内容? 」 「耐火、耐水、耐衝撃、耐魔法、耐巫術、耐人形操術……の結界を張る魔法です。」 そりゃまた豪勢な。 「せっかくだし、行くか。」 「パチュリー様はどうするんですか。」 「背負っていく。後、その魔道書も……」 「これをもって行かれるのですか? 」 怪訝そうな顔で小悪魔が取り出した本は優に10000ページはありそうな…… 「圧縮してる時間が無いからと一気に書き上げられてました。」 これを持って行くのはちょっと、辛いかもな。 「私が持って行きます。大丈夫、お邪魔はしませんから。」 そんなわけで、今パチェを背負って山登り(丘登り?)をしている。 規則的な寝息を立てて丸くなってるパチェは以外にも暖かいし、柔らかい。 空は今も変わらず快晴。天高く馬肥ゆる秋、だね。 ふっ、と息を吐いて丘の頂を仰ぎ見る。 小悪魔の話では丘の上に魔道書と飲み物、そしてお弁当が置いてあるそうだ。 道中にも飲み物を置いてもらうべきだったかと少し考えるが、 やはり楽しみは頂上まで取っておくべきだろう。 「ん……」 背中のパチェから小声が漏れる。どうやら目を覚ましたらしい。 「あ……」 降ろしてくれと言うように体を捩る。 そっと降ろして、そして振り返る。 「○○……大変だったでしょ、ごめんね。」 「せっかく誘っいに応じてくれたんだからな……。これくらい大したこと無い。」 「そう……」 呟いて空を仰ぐ。 「……空凄いね。」 「そうだな。」 「風、気持ちいいね。」 「そうだな。」 「二人っきりだね。」 「ああ。」 はにかみながら目を閉じるパチェ。 そっと、その肩を抱いて唇を寄せて…… ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 204 「おいパチュリー、この本借りるぞ」 「ええ・・・」 紅魔館の図書館、俺は主に魔法関連の本をあさっていた パチュリーは紅茶をちびちびと飲みながら本を読んでいる 俺の分の紅茶はとうに冷めていた、冷めても飲めればいいしな 「ねぇ○○・・・」 「ん?どうした?」 本を読みながら目を合わせずに、パチュリーが話しかけてきた 図書館でパチュリーから話しかけてくるのは非常に、珍しい 「明日なんだけど・・・何か予定はあるかしら?」 「明日?・・・・・・悪い、アリスと実験する約束が・・・」 「そ、そう・・・アリスによろしく伝えといてね」 「ああ・・・何かあったか?」 彼女がなぜか、悲しそうに見えたから 「いいえ、気にしないで」 それから会話はなく、俺は借りた本をもって家路を歩いた ~翌日~ 「・・・ちょっと!」 「うぇ!?あ、ああ悪い」 俺は約束通りアリスと実験をしている 「全然集中できてないじゃない!怪我するわよ!」 そうなのだ、前々集中できていない、なぜか寂しそうな彼女の顔が、頭をよぎるのだ 「・・・今日は終わりにしましょう」 「え?いや・・・まだ昼前だぜ?」 「実験は後回しに出来るけどね、ヒトの心は後回しには出来ないのよ」 「え?あ、ああ?」 「何か大切な事があるんじゃないの?今しなきゃいけない事があるんじゃないの?」 「アリス・・・ありがとな!」 それじゃあ、と手を振って彼は走っていってしまった 彼が持って来た実験道具やら本やら、いろんな物を忘れていった 「・・・はぁ、何でいつもこうなんだろう・・・ねぇ上海?」 「パァァァチュゥゥゥウリィィィィィイ!!!げふげふ」 むせながら図書館へ、重いドアを開け放ち、彼女のもとへ 「○○!?え?え?」 「ようパチュリー、待たせたな」 驚き戸惑っているパチュリー、そりゃあそうだ 「え?今日はアリスの」 「今日は切り上げてきた、パチュリーが・・・気になったから」 「あ・・・」 赤くなって俯くパチュリー、まるで少女のように、初心な感じで・・・少女パチュリー略してパチュ子 「それで・・・なんか用が有ったんだろ?ほれほれ、遠慮せずに言ってみろ」 すこし、間をおいて、彼女は言った 「あ、貴方と一緒にいたいな、と思っただけだから・・・きにしない「パチュリー!」 俺はか細い両肩を掴んで、彼女をこちらに振り向かせた 「な、なに?」 「・・・そういうことを言うと・・・勘違いしちまうぜ?・・・勘違いしていいなら、目閉じて」 半分冗談ぐらいで言ったつもりなんだが、パチュリーはゆっくりと目を閉じた、ちょっと上向いて、唇を・・・ 「あー・・・うん、えっと・・・」 とりあえずキスはまだ早い、キスは結婚してからだ、うん とりあえず優しく抱きしめた、やっぱりすごく、細い 「・・・でも抱き心地いいな」 癖になりそうだ 「・・・き、キス、は?」 「んーまた今度な、まぁゆっくり、な?」 ゆっくりゆっくり歩いていけばいい、走る必要は無いのだから そーして最後にキッスでしめるのさー そうだな、帰り際にキスしようか、驚く彼女が目に浮かぶようだ 何かワクワクしてきたぞ! ~終~ ─────────────────────────────────────────────────────────── 11スレ目 463 パ「この本を読んでほしいのよ」 俺「え?俺にですか?」 パ「そう」 渡されたのは一冊の絵本。 俺「…では後で読んでおきます」 パ「違うわ、いま私に読んでほしいのよ」 俺「え?」 パ「いやなの?」 俺「と、とんでもないです!」 パ「お願いね」 パチュリー様の顔からはなにも窺えない、とりあえず椅子に座り本を開く。 俺「では…」 パ「それでは見えないわ」 そう言うとパチュリー様は俺の身体と本のあいだに割り込むように ももの上にちょこんと腰を掛けた。 俺「ち、近いです…」 パ「読んで」 俺「…はい。むかしむかし、あるところのオーロラの先にたくさんの雪だるまが」 逆らえない雰囲気に押され、絵本を読み進める。 俺「さようならなの…だッ!?」 突然パチュリー様が背中に腕を回し、服をきゅっと掴んだ。 そして俺の胸に顔をうずめるようにゆっくりと抱きついた。 俺「あああ、あの…」 パ「…」 俺「…」 パ「…どきどきしているのね」 俺「…はい」 パ「…そう」 下目に少しだけ嬉しそうな顔が見えた。 そのとき遠くから足音が近づいて来るのが聞こえ凍りつく。 俺「パチュリー様!だ、誰か来ましたよ!?離れてください!」 パ「…」 小「パチュリー様ぁ~、なにかお飲みモノッ…!?」 俺「…は、はは」 小「…」 パ「…」 微動だにしないパチュリー様、しがみついたまま… 小悪魔さんは無言でふらふらと立ち去って行く、完全に目が死んでいた。 俺「見られましたね…」 パ「それより」 俺「はい?」 パ「『様』はやめてほしいわ」 俺「そういうわけには」 パ「パチェと」 俺「レミリア様に怒られてしまいます…」 パ「早く」 俺「…パ、パチェ」 パ「聞こえないわ」 俺「パチェ」 パ「そう」 俺「…」 パ「…」 また力強くきゅっと抱きつかれる。 俺「…あ、本の続き読みますね」 パ「いいわ」 俺「そ、そうですか?」 パ「まだ、どきどきしているのね」 俺「うっ、ひきょうですよ…」 パ「そうね」 俺「…」 パ「…なら、あなたも確かめてみて」 俺「え!?」 パ「早く」 俺「…」 パ「早く」 俺「は、はい」 ' , ', ! \ \ ' , _,,.. -‐''"´ ̄`"'' ト、.,_. ,,--,┐ \ ヽ / \ \\ r-、 ァ'´ _ト、.,__ノ ノ `ヽ,ヘ, // / ! < ∠______ ノヾ、rァ' __,ゝ‐i"`y'__]`''ー、' / ` t,// / ! / / \\ `'(__!r-‐i__」-‐'"´,i `''ー、」ー-ヘ、イ'"´.! ||||| / \ (___ \ r‐ァ'´]-‐' '/ ! ハ /!ィ' i `''ー'、/ゝ | ||||| ;t'、 ミ _______ `' 、 ヽ7´ ! !/!メ、!」 レ-rァ''iT7 iヽ」`i´! !!!」 ノ ! i / '´ i´ヽ. | .! ! !-rァ'T '、,_,ノ !__トr┘i 'r'、`'´ ;' \ 、,_____ (`ヽ;、 `ヽr、. └‐'`ゞ、ハ. '、_ノ ⊂⊃ ! ';./ ;'ゝ.,二二7i < ,.-`ヽ i_,!`ヽ、 /| !⊃ r‐-、 /! ! ヽ._」 / ! / ー┼- `ー‐ァ (´__,ノ! | `7! .i'>,、.,__'--‐',..イ! i ̄´ノ! | / ー┼- 'ーri´ヽ_/7 〈 V7「ヽ7i ̄´'ノ ! '.、 ' 、 '、 ;' \ r-iー、 --─ ! | // r-、,ゝ、!__j '; トー'i i ', `ヽ.、' / \ `ー' ' '、ゝ'ン___,,...->ア`ー-'、 ,' i | i i | ヽ. ヽソ`''ー--‐' / --─ァ ヽヽ  ̄ く ./___」_';/ ! | ! ! ! i ,ゝ-‐''ンヽ. く / rソ´`ヽ、`'ァー-‐' ,.イ/ ,' ,' ! ', く_」`7´ハ 〉 '、___ _r'ー--‐''"´ / ;' i i ,ハ ヽ !_/ヽ!__L/ く i // -イ /! ;'/ ム \ \. ├‐ rン_,,.. - / / ;' !レ'´ i `ヽ. < r-iー、 `ト、 ! 〈 i ;' / ,ハ ヽ. 'r、 / `ー' ' ノ.ノ __ ノ i V / / /! '., _r'ヘ / l 7 l 7 i_| V / ハ./ ;' i i '、 }><{ ン´/!/ \ |/ .|/ ヽヽ ∧ / ;' i ', ヽ、 i r'"ン / / o o パ「ひとつ約束してほしいわ」 俺「はい」 パ「毎日わたしに会いに来なさい」 俺「はい」 パ「それとずっと私のそばにいなさい」 俺「はい」 パ「毎日好きだと言いなさい」 俺「はい」 パ「それと絶対に私に逆らってはダメよ」 俺「…はい」 パ「あとは…えーと」 俺「あの、全然一つじゃないんですけど…」 パ「ふふ、そうね」 彼女はとても満足そうに笑った。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 400 「パチュリー様?大丈夫ですか?」 ひゅうひゅうという音、顔色も悪い 「・・・発作が出ておられるようですね・・・白湯をお持ちします」 「だい、じょうぶ・・・すぐ治まるから」 とても大丈夫そうには見えない とりあえず埃の多い図書館よりも部屋の方がよかろう そう判断した俺はとりあえずパチュリー様を移動させる事に 「・・・失礼しますよ」 「えっ!?ちょ、ちょっと」 「大人しくしていてください、発作が悪化します」 「・・・」 俺はパチュリー様を抱えて(そこはもちろんお姫様抱っこで)パチュリー様の部屋へ向かった 「ベットに横になって・・・膝を立てて腹式呼吸を・・・そうです、すぐに白湯をお持ちしますので」 「あり、がと・・・永琳から貰った薬があ、るからすぐにおちつくか、ら」 棚から小瓶を取り出し小さな薄いオレンジ色の錠剤を取り出す しょうがないので白湯を取りに厨房まで行くことにした 「・・・まぁこれぐらいでいいだろ、あんまり熱くてもかなわんからな」 熱いポットとカップをお盆に載せて・・・後は何もなかったかな? 「また発作?」 「あ、メイド長」 はろーと軽く手を振られる、もう夜なんだが・・・ 「この季節になるとどうしても辛いみたいね・・・まぁ辛さはわかりようがないけど」 「・・・とても辛いと思いますよ、あのパチュリー様が弱気になるほどですから」 「へぇ・・・引き止めて悪かったわね、それじゃあ」 コツコツと足音が遠ざかっていった メイド長も心配してるんだな、わざわざこんなところまで 「パチュリー様?」 「○○、ありがと・・・だいぶ良いわ」 「そのようですね・・・今日は早めにお休みください、ここで油断すると悪化しますよ」 顔色もさっきと比べればまぁ良い、呼吸も今は落ち着いている 「・・・ねぇ○○、一緒に寝ましょう?」 「なななな、何をおっしゃてるんですか!?わ、私も一応男ですので・・・」 「○○は喘息の発作で苦しんでいる私相手に欲情できるような人じゃ無いでしょ?それぐらいは知ってるわ」 「いや、しかし・・・」 「夜中に発作が出たらどうするの?アナタの部屋までとてもじゃ無いけど行けないわ、大声も出せないでしょね」 「・・・」 「お願い、あなたがいると安心できるの・・・お願い○○」 「わ、わかりました・・・喜んで」 「ふふ・・・ありがと」 辛そうだが、とてもいい笑顔に見えた 結局ベット脇に毛布に包まって寝た、同じベットで寝るというパチュリー様の提案を却下して そしてその夜、発作が悪化したパチュリー様を抱えて永遠亭まで走ったのだが・・・それはまた別の話 end ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 438 本を読んでいたパチュリーが唐突に口を開いた。 「何かくれなきゃ悪戯するぞー」 「……」 「……」 唖然、とはこういう事を言うのだろう。 俺と小悪魔はかける言葉が見付からない。 黙り込む俺達に、パチュリーは真っ赤な顔で抗議する。 「何か言う事は無いの? 恥ずかしいじゃない」 なんか可愛い……。 パチュリーってこんな事もするんだ。 しかし、いくら今日がハロウィンで素で魔女だからってこれはどうなんだろう? 「可愛いな」 「可愛いですね」 「むしろ悪戯されたいな」 「されたいですね」 言ってにやつく俺と小悪魔に、パチュリーは更に顔を赤くして 「馬鹿! ○○と小悪魔なんてもう知らない!」 そう言って再び本に視線を戻した。 今日も図書館は平和だ。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 12スレ目 356 うpろだ818 あなたとみる世界はとてもうつくしくて、あたたかくて、しろくて、とうといのだ。(そう、それはまるで、あなたのように。) 「おっしゃっ出来たぞー!パチェ、ちょ、来い!!」 「・・・はーい(声おおきいわねぇ)」 「遅せぇーぞ!早く来い!パチェ、はやく!」 「わかってるわよ、今行くからっ!」 きゃんきゃんと子犬のように(あんなに大きいのに、子犬。雪にはしゃいでいる、可愛らしい犬ね)大声を上げ続けている○○に叫び返したら、彼の動きが一瞬止まった。 が、すぐまたぶんぶんと腕を振り回しだす。 …こんな寒いのに、元気なこと。 久しぶりの外は冬景色で、私はただ歩くだけで凍て付くような冷たい風に変わる外気に震えながら、首までずり落ちていたマフラーを引っ張って鼻先まで上げた。 まだ少し距離が遠くてきちんと表情は見えないけど、たぶん彼はにこにこ笑ってるんだろうと思う。 真っ黒のロングコートには、ところどころ雪がくっついている。 キラキラと光を放ちながら、さらさらと溶け出すそれは、私が前に○○にあげたマフラーくらいに真っ白だった。 編み物なんて知識はあってもした事はなかったから全然上手に出来なくて、自分で見ても歪だったから、つけなくてもいいと言ったのに。 つけないどころか、洗濯しないの?って聞いても絶対にマフラーを手放さない彼の姿をふと思い出して、少し苦笑した。 苦笑と言っても苦しいから笑ったわけじゃなくて、幸福だから漏れた笑い。 私は自分の笑った顔がそんなに気に入ってなかったけれど、この時の顔だけはなかなかいいんじゃないかと自惚れている。 だって、○○もこんな顔でよく笑っているのだ。 (幸福そうな、幸福そうな。私よりも、もっと綺麗で、純粋で、あたたかいけれど) 「なに、どうしたの」 「見せたいものがある」 「見せたいもの?」 「おう!」 ぜってぇ驚くぞ!!○○がけたけたと大声で笑う。 色白の頬は赤く染まっていて、真っ白な景色に柔らかく色をつける。 夏の激しさが嘘だったように、優しく降りそそぐ太陽の光を浴びた黒髪は、輝きを失うことなく揺れていた。 伸ばされた手は厚い手袋に包まれていて私の一番好きな手のひらとは少し違う様子だったけど、握ってしまえばいつもと変わりが無い。 大きくて、心地の良い温度。 絡めた指先は○○の手袋と私の手袋とに阻まれてごわごわしていたけど、いつもより強い力が加わっていたので悪くない、と思った。 葉を落とした茶色い木の枝に乗っかる冷たそうな塊。 歩くたびに響く、かき氷にスプーンを突っ込んだときみたいな、ざくざくという音を聞きながら、ふたり並んで歩く。 ○○は上機嫌に鼻歌を歌っていて、私はそれを黙って聞いた。 聞いたことないから、たぶん外の世界の歌だと思う。 今真面目に聞いて、覚えて。後で歌って驚かせてやろう。 そう思って内心ほくそ笑んでいたら、○○が唐突に「あ」と言った。 「どうかしたの?」 「あのな、・・・パチェ」 「何、○ま る、って最後まで言い切る前に、抱きしめられて押し倒された。(ええええええええ!?) ぼふんって音がして、雪が私たちの周りをもう一度舞った。 空を見上げたら青くて眩しくて、視界の端に貴方が見えた。 髪の毛を通り越して頭皮とか首周りとか、きちんと皮膚の部分に触れた雪は、私の体温で少しずつ溶けて水になる。 長いスカートから出ていた足の下の雪は直接当たって、冷たかった。 まだ熱を持っているのは、○○に握られたままの指先だけ。 倒れる前に微かに見えた、雪上に引かれた下手なラインは、確かに相合傘のかたちで。 (見せたかったものは、これか)(ああどうしよう、なんて、なんて。) 「なにするのよ○○」 「相合傘、作ったんだ。線引いて」 「だから?」 「俺とパチェがその上に乗ったら、完成するだろ。これ」 ぎゅうと手を握る力がもっと強くなる。 上半身だけ起こしてみたら、相合傘の形の上の私と○○。 どこの漫画よ、と思わず笑ってしまいそうな光景だけど、とろけそうな顔で微笑んでいる、○○の優しい視線に笑うことも出来なくなる。 うそ、こんなに嬉しいなんて。 どきどきと早く動きだす私の心臓は、私と同じくらい愚かだ。そして恋をしている。 頭にハートの形のついた、同じ傘の下にいる彼に。 服はじわりと水を吸ってきていたけど、もう気にならなかった。 「すげーだろ」 「うん すごい」 「驚いた?」 「ええ とっても」 「・・・ほんとにそう思ってんの?」 思ってるわよ。本当かよ。思ってるって。いやでもパチェ、 まだ何か言おうとする○○のマフラーを掴んで引っ張って、そのまま頬にキスをしたら、彼の頬は私の唇が冷たかったせいでない(と思うのは自惚れじゃない?)赤に染まる。 もうコートにくっついているどころか、乗っかってしまっている雪を掃ってやりながら、私は笑った。 そうそれは貴方と同じ幸福そうなあの笑顔。 赤い頬のまま笑いあう私たちは、つめたくてあたたかい雪の中で、本当に相合傘の一部になってしまったよう。 「パチェ」 「なに、○○」 「俺たちもうこれで永遠だと思わない?」 「相合傘に守られてるから?」 「・・・パチェがこんなに傍にいるから」 どこの漫画よ、笑う前に騒ぎ出す私の心臓をさらに騒がせるのは、頬だけにじゃない貴方のくちづけ。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 12スレ目 643 うpろだ863 ――それじゃ、また。 そう言って彼は帰っていった。あとに残されたのは静けさが支配する本の寝所。 気のせいか彼がいなくなったことで温度が少しだけ下がったような気がする。 だから、だろうか。 私は読んでいた本から顔をあげ、席を立った。そして、さっきまで彼が使っていた椅子に意味もなく座ってみる。 ……あったかい。 あ、やっぱりダメだ。頬がにやけてしまうのが押さえられない。こんなところ誰かに見られでもしたら余裕で死ねる。死因はきっと喘息の発作。 ほんとうに、私はいつからこんなになってしまったのだろう。魔女である私が、たかだか人間ひとりの事でこんなにも心を揺さぶられるなんて。 彼こと○○との出会いに特筆すべきことは何も無い。 命を救われたとか、殺されかかったとか。そんなことは一切無い、ごくごくありふれた出会いだった。 ……まああれを“ありふれた”で片付けてしまう自分の思考にすこしばかり危機感を覚えるのだけれど。 ○○は魔理沙に連れられてやってきた。例によって例のごとく魔道書を強奪しにこの図書館に来たときに。 魔理沙は「私はここらで一番大きい図書館を紹介しにきただけだぜ」と言っていたが結局何冊か持って帰ったのだから同じことだ。 もってかないでって言ってるのに、もう。 と、それで○○のことだけど。 魔理沙曰く、○○は“外”の人間らしい。服装からしてなんとなくそんな気はしていたのでさほど驚くことではなかったが、自分の目で外の人間を見たのはこれが初めてだったので少しだけ興味は湧いた。 彼は幻想郷に迷い込んだものの、こちらの世界が気に入ったらしくこっちで永住することに決めてしまったらしい。 ○○自身のことは魔理沙も詳しくは知らないそうだが、その事で話をしにいった先の霊夢も「まあ、それならそれでいいんじゃない」とあっさりOKを出してしまい、今では神社近くの里で暮らしているらしい。 こうしてめでたく幻想郷の住人と化した○○だが、しばらくして魔理沙に「どっか図書館とかないのか? 最近暇なんだ」と漏らしたらしい。 ……あとはもう想像に難くない。 実験の手伝いとその期間の食事の世話という対価を要求した魔理沙が、○○をこのヴワル魔法図書館につれてきたというわけだ。 本を折らない曲げない汚さない破らないもとの場所にちゃんと戻す貸し出し禁止。 以上のことを守るならば好きに読んで構わないと私は許可を出した。その時○○は「それは普通じゃないのか?」と言っていた。 ……○○、それを守れない輩が約一名いるのよ。具体的にはあなたをここに連れてきた張本人が。 それを言うと彼は苦笑していた。 それから○○はここに通うようになった。 とはいえ里での仕事もあるのだろう、毎日という訳ではなかったがそれなりによく通ってきていたと思う。 門番とレミィには話を通しておいたので問題ないのはわかっていたが、紅魔館まではどうやってきていたのだろうと思って以前気まぐれに聞いてみると魔理沙がいるときは魔理沙に頼んでつれてきてもらっていたらしい。 もちろん対価は要求されたそうで。魔理沙がどうしても都合が付かない時は霊夢に護符もらって走って駆け抜けているとのことだった。 ともあれ。 ○○はここにいる間は無駄に話かけてもこなかったし、ほとんど無言のまま本をひたすら読み漁っていたので悪い印象は抱かなかった。 本の扱いも丁寧だし、彼がここに来るようになってから最初は小悪魔以外の誰かがいるというのは違和感があったけどそれもすぐに消えて言った。 ――だから、私の中での○○の在り方が大きく変わったのはそんなある日のこと。 その日は何故か○○は魔道書とにらめっこしていた。 いつもとは違い、隣にいた小悪魔に何度も質問しつつ眉間に皺をよせながら少しずつ読み進めていた。 そんな○○と小悪魔の様子がたまたま目端に入って、少しだけ私も興味をそそられて覗いてみたんだった。 本そのものはなんのことはない、初心者向けの魔道書だった。理論も簡単なものしかのっていない。 きっとそれすら読めないのだから○○は魔道の才能はないのだろうなあと思い、けどそれでも必死になんとか理解しようとしている○○を見て興が乗ってその本に載っている指先に小さな灯りを燈す魔法を目の前でやってみせた。 ……その時浮かべた○○の表情を私はいまでも忘れられない。 ○○はそれを、まるで子供のように目を輝かせてみていた。 人間からすればどうということのない事なのかもしれない。些事なのだろう。でも、それでも。 永き時を生きてきた者からして見れば彼の浮かべた表情は胸をつくような、締め付けつけるようなものだったのだ。 少なくとも私はそう感じていた。 その後、彼は当然のように私に教えを請い、私もそれを承諾した。そういえば小悪魔がやけに驚いていたっけ。 普段の私をよく知っているのだからその反応も当然といえた。……だって他ならない私自身が承諾してしまったことに驚いていたんだから。 そして私は○○に魔法を、とりあえずあの指先に灯りを燈す魔法を教えることになったのだが。 なんというか。教え子として○○はどうみても落第だった。 はっきり言うと才能の「さ」の字もなければ、資質の「し」の字も無い有様だった。 それでも引き受けたからにはこのままでは魔女の名が廃る。 様々な手を尽くして、もうこれ以上どうしようも無いというところまでやって、二年という歳月を消費してようやく――彼は灯りを燈す程度の魔法を使えるようになったのだった。 あの時の妙な達成感は思わず小悪魔と手を取り合うぐらいに大きいものだった。 そんな私の側に○○が寄ってきた。まだ魔法を使えたという興奮が冷め遣らないのだろう目にはあの時の輝きが宿っていた。 そして私と目をあわせるなり、本当に嬉しそうな声で○○は言った。 『ありがとう。パチュリー』 ……――ああ、私のバカ。 ○○に魔法の才能がないなんてどうして思ったんだろう。 そんなわけないじゃない。だって彼はずっと前から魔法を使っていたんだから。 私がそれに気付かなかっただけ。そして気付かぬまま彼の魔法にかかってしまっていただけなのに。 この胸に宿る熱が、鼓動が、ふとしたときに○○を追うようになっていた視線が、その証。 自覚してしまえばもう止められない。人間と妖怪という避けて通れない壁もあるけれど、今はとりあえず保留にしよう。 だって。私、パチュリー・ノーレッジは 間違いなく、○○に恋してるのだから。 「はあ……」 ○○の遺した熱を感じながら私はまた彼のことを考えてしまっていたようだ。 最近はいつもこうだ。おかげで○○がいるときも、いないときも読書に身が入らない。 ○○のことを考えるだけで胸が熱くなる。 ○○のことを思うだけで胸が痛む。 ○○のことを見つめるだけで胸が張り裂けそうになる。 ほんとうに、重症だ。でも、それが別にいやじゃないと感じてるのだから困ったものだと思う。 ふと視線をやると、その先にあった暦はもうすぐ如月を指そうとしていた。 ……そういえば。○○が毎年外の世界では如月の月になると――。 「小悪魔、いる?」 「はい? どうかなさいましたかパチュリー様」 「探してほしい本があるの。外の行事について詳しく載っている本を持ってきてちょうだい」 「はい。その行事について名前とかわかりますか? わかればそれだけみつけやすくなりますけど」 「そうね……確か『バレンタインデー』だったかしら?」 私がこんな風に、貴方無しではいられなくなってしまったのは全部○○の所為。 だからちゃんと責任をとって? ――貴方がかけた、恋の魔法の。 ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/gtaisen/pages/38.html
キャラ名 HP 攻撃 防御 知力 射程 速度 特技 パワーゲージ スペルカード パチュリー 450 60 75 90 5 1 治癒 術式 バラマキ 5 消極的にやっつけるには スペル効果 一定時間、自パーティが移動不可能になり、攻撃力・射程・攻撃速度が上昇する。さらに、範囲内全ての敵、または拠点を攻撃する。 スペル詳細 攻撃力+70 効果時間:15c固定 拠点攻撃力ダウン 編集Ver:1.2.6 考察 特技とスペルカードが非常に噛みあったキャラ。 400というHPと速度1とに加え55の攻撃とこれでもかと採用をためらう要素で塗り固められた彼女。 しかし知力は90あり、特技も3つあるというところには価値がある。 そのスペックの扱いにくさ故かスペルはとても強力である。 移動こそ出来なくなるものの、攻撃に射程更には攻撃速度まで上がり、射程内の敵部隊すべてに攻撃する。敵部隊がいなければ射程内の拠点を殴る。 複数部隊を攻撃する強さは確かなもので、単純に攻撃回数が増えてると頭の中で変換すればその強さが分かりやすい。 しかしまとめて相手してやるぜ!と一人で敵の中央で使っても守備が上がるわけでは無いので本人のスペックもあってすぐ撤退してしまう。周りのサポートをしっかり意識しよう。 効果時間は15c固定で一見短めに見えるが攻撃速度が上がっているため意外とそうでもない。しかしこっそり拠点攻撃力は下がってしまうので相手を倒すスペルとしての運用が一番良さそうだ。 スペル自体は強力なのだが、スペックがどうしても足を引っ張るので普段の運用が試される一枚。
https://w.atwiki.jp/sagastar/pages/101.html
パチュリー 肩書き 種族 閃き コマンダー行動 陣形 得意術 盗み適性 魔女 妖怪・人外 玄武 玄武 パワーレイズ 玄武 6 LP 腕力 器用さ 素早さ 体力 魔力 意志力 魅力 6 8 19 19 9 25 20 18 HP 蒼龍LV 朱鳥LV 白虎LV 玄武LV 太陽LV 月LV 増幅LV 180 10 10 10 20+ 10+ 10 2 武器1(杖限定) 武器2 武器3 武器4 防具1 防具2 防具3 防具4 ルーンの杖 - - - 賢者の石 湖水のローブ シルティーク - 技1 技2 技3 技4 術1 術2 術3 術4 スペルカード - - - - 生命の水 サンダーボール - - サイレントセレナ HP成長 SP成長 WP成長 斬成長 打成長 突成長 射成長 体術成長 0 0 4 - - - - - 増幅成長 蒼龍成長 朱鳥成長 白虎成長 玄武成長 太陽成長 月成長 消費軽減 0 3 2 3 4 4 2 玄武 賢者の石の効果は全術同時使用可能&隠し術複数使用可能。 ただし、クイックタイムと龍神降臨は併用できない。二つセットした場合は龍神降臨が優先される。 浮遊効果もあるので、妖精と同様に特定の技でクリティカルを受けてしまう点には注意。 初期術ポイントの算出方法のせいで最初からWPが滅茶苦茶高く、その後も順調に伸び続けて簡単にカンストする。 一方、武器レベルが存在しないのでSPは0からほとんど伸びず、LP・腕力・体力は全て一桁で、 HPがパーティ外成長しない。まさにもやしである。 コマンダーモードのバブルブローしか消費0の基本術を使えないので、玄武以外を育てるときはお酒を用意してあげよう。
https://w.atwiki.jp/genmahgati/pages/40.html
パチュリー 魔王カットイン ストック 2 ゲージ速度 遅い チャージ牌 九萬 発動タイミング 自摸時 発動した局の間、字牌のツモ率が極端に下がる。 主な使用タイミング 字牌を引きたくないとき。数牌中心の手の時。 あまり 書く事無いです。 実際どの程度の確率で字牌をツモらなくなるのか?というのが分からないので。 字牌をツモらない事による有効牌(数牌)をツモる期待値の上昇 『字牌を一切ツモらない』と仮定した時の、イーシャンテンからテンパイする期待値の上昇。 両面・両面・余剰牌の16枚受けピンフイーシャンテンの手(0巡目、16枚生き、良形変化は見ない、自分の手に字牌は無いと仮定) 能力を使わない場合→1巡あたりのテンパイ確率13% 平均テンパイ7.8巡 能力を使う場合→1巡あたりのテンパイ確率17% 平均テンパイ5.9巡 両面・両面対子・トイツの20枚受け完全イーシャンテンの手(0巡目、20枚生き、自分の手に字牌は無いと仮定) 能力を使わない場合→1巡あたりのテンパイ確率16% 平均テンパイ巡目6.3巡 能力を使う場合→1巡あたりのテンパイ確率21% 平均テンパイ巡目4.8巡 受けが狭くなるほど相対的に効果が高くなる。 けど確実に字牌ツモらない訳じゃないからなぁ・・書いてみたけど微妙。
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/601.html
パチュリー4 ─────────────────────────────────────────────────────────── 488 紅葉の季節が過ぎれば、雪が降ってくる。 チルノが元気に大暴れしそうな天候だったけど、私の所まで被害がくることもなさそうだし、 その時は先に咲夜が何とかしそうだから、放っておいた。 紅魔館に行く度に、弾幕ごっこなんてしてたら身が持たない…… って程じゃないけど、やっぱり私はのんびりするのが性に合ってる。 「……うん。やっぱり部屋は快適な方がいいわよね」 紅魔館から帰って来た私は、冷えて来た外気を追い払うべく、押し入れの中の秘密兵器を取り出した。 ……まぁ、彼女がこのためにわざわざ足を運ぶなんて、私も思わなかったけどね。 「寒いぜ寒いぜ、寒くて死にそうだぜっ!」 「ちょ、ちょっと師匠!早過ぎますってば!!」 猛吹雪の上空を飛んでいく影2つ。 俺は師匠に連れられて、博麗神社に向かっていた。 「森羅結界展開しながら寒がるって、どれだけ寒がりなんですかっ! しかも展開しながら、何て速度出してるんですか!!」 辺りはまさにホワイトアウト。 叫んでるのは、少し離され気味だからだ。 ここで逸れたら、遭難は必死だろう。 師匠は解ってそうだが、自分が今どの辺りを飛んでるのか、まるきり見当がつかない。 「あーもーお前に合わせて飛んでたら凍死するっ!」 急に減速する師匠。 離されるばかりだった距離が一気に縮まる。 そして、むきゅー……と、首根っこを掴まれた。 「いだだだだだっ!」 「一気に行くぜっ! 彗星『ブレイジングスター』!!」 「師匠師匠絞まってます!」 「しっかり掴まれてないと振り落とすぜっ!」 「あ~寒かった……って、どうした霊夢。寒い顔だな」 「どうしたじゃないわよ。このままだと、あなたの弟子が白玉楼に逝きかねないわよ?」 「あ~……うん。きっと首掴まれて運ばれるのが趣味なんだ。離せばきっと、妹紅みたいにリザレクション……」 「しませんってば!!って……着いたんですか?」 寒さと加速と窒息でブラックアウトした意識を取り戻した俺が見たのは、 雪がしんしんと降り積もる、博麗神社の境内だった。 「……本当に復活したわね」 「このくらいタフじゃなきゃ、私の弟子は務まらないぜ」 「寒さに弱い師匠が言うことじゃないでしょうに。 少しは霊夢さんを……って、寒くないんですか?」 出迎えてくれた霊夢さんの服装は、いつもと変わらない独特の巫女装束。 秋くらいから思ってたけど、やっぱり肩とか寒そうな感じが。 「そりゃ寒いわよ。魔理沙ほどじゃないけどね」 暖気を集めて展開する森羅結界なしで、こう言える人間は彼女くらいだろう。 「ほらほら、入った入った。もう先客来てるんだから」 「先客?」 「会えば解るわよ。あ、あなたはちょっと待って。みかん持ってほしいから」 勝手知ったる人の家、とばかりに師匠はずいずいと、 俺は霊夢さんの後に従い、神社の奥へ。 彼女はお茶の用意一式を、俺はみかん箱を抱えて廊下を歩く。 『ちょっ、魔理沙、くすぐったいじゃない!』 『仕方ないだろ寒かったんだから。おー……あったかいな。じんわり来るぜ』 『ひゃぅっ!足くっつけないでよぉ……』 聞こえて来たのは、師匠と……物凄く聞き覚えのある声。 「……いやいや霊夢さん。嵌めたんですか? 師匠とグルなんですか? そもそもいつから知ってたんですか!?」 「嵌めてもいないしグルでもないし…これくらい、あなた見てれば解るわよ。……好きなんでしょ?」 「そ、それは……」 こうも真っ直ぐ言われてしまえば、もう何も言い返せなかった。 「きっと、魔理沙も気付いてると思うわよ?」 「幻想郷にはプライバシーも何もないんですか……」 「ああ、それならまだ大丈夫よ。新聞にでも載らなきゃ、私達以外には知られないと思うし」 新聞――は、あれしかないよな。 間違いなく、文さんが作ってる新聞だ。 幻想郷に来たばかりの頃、色々聞かれて記事にされたっけ。 ……記事にされたから、多くの人と知り合えた。確かにそれは事実だ。 だけど、こんなコト記事にされたら、幻想郷の全員にからかわれかねない…っ! 「ま、早く春が来るといいわね。幻想郷にも、あなたにも」 霊夢さんが襖を開ける。 「お待たせ。お茶とみかん持って来たわよ」 「おお、待ってたぜ霊夢」 「えっ……?」 彼女は、驚いた表情でそこにいた。 紅魔館の図書館の主、パチュリーさんだ。 「ま、魔理沙っ!」 「ちょっ!おいおい、何処に…」 「いいからお願いっ!!」 思いがけない人物の登場に、私は衝動的にコタツから魔理沙を引っ張り出し、廊下に連れ出していた。 すれ違いざま、彼が何か言ったような気がしたけど、必死な私には聞こえなかった。 「ぜーはーぜーはー……」 「おいおいパチュリー、急な運動は身体に障るぜ?」 「解ってるわ…でも、何で彼がいるのよ?」 図書館によく来ては、魔導書を借りていく常連の彼。 『紹介するぜ。私の一番弟子だ』 魔理沙から紹介されたのが、初めての出会いだった。 勉強熱心なのか、魔理沙の教え方に問題があったのか、彼はよく図書館に来てくれた。 ……師に似て大量に借りていく割に、師に似ずしっかり返してくれるのは、まあ助かったけど。 まあ、その、新しい知識を得たときの輝いてる眼とか、 簡単な魔術を必死になって行使している様子とか、本の整理を手伝ってくれる優しさとか……。 ……好きに、なってしまったのかもしれない。 だから、コタツの研究も兼ねて魔理沙に相談するために、神社まで頑張って来たのに……っ! 「何でって、遭難されても困るしな。首根っこ掴んで連れて来た。 最近うちは雪崩が酷くてな。生き埋めになったらまず助からない」 「雪崩って……」 「私の蒐集物だ。私が留守にしてるとあいつが整理してくれるんだが、生き埋めになられると私が困るんでな。 パチュリーも会いたいだろうと思ったから、無理矢理連れて来た」 雪崩の話は魔理沙のせいでしょ……最後、何て言った? 「わ、私が…?」 「バレバレだぜ。図書館に行くと、明らかに応対が違い過ぎだからな。小悪魔にも、様子が変だって相談されたし」 小悪魔にまで? そんなに、変だっただろうか。 ……まあ、終わったことは置いておくにしても。 「来るなら来るで、まえもって言ってよ……」 そうすれば、私だって可愛い服とか探したり…。 「――ああ、なるほどなるほど。フランも結構、いい名前をつけるじゃないか」 魔理沙は一人で納得していた。 ……妹様? あまり穏やかじゃない気がするわね。 「で、どうする……って、答えさせるまでもないな。 このまま帰るとか言い出したら、私が力ずくで引っ張ってく」 「帰ったりはしないけど……その、恥ずかしくて…」 今思い返せば、相当変な形で部屋を飛び出してしまった。 どんな顔で戻ればいいんだろ……。 「普通にしてればいいぜ。きっと霊夢がフォローしてくれるだろ」 「……魔理沙は?」 「いざとなったら、あいつの脳天にマジックミサイル撃ち込む。 さ、早く戻ろうぜ。じゃないと、あいつの頭に風穴が空きかねない」 師匠とパチュリーさんは、数分して戻ってきた。 『どうかした?』と聞いたのは霊夢さん。 それに答えたのは師匠で『秘密を詮索すると、消し炭になるぜ』とのこと。 物騒な。とは思ったけど、これもいつものこと。 パチュリーさんは終始無言だった。 ……師匠自ら、何かあったって言ってるようなものだし。詮索はしないけど。 魔理沙達が、何やら話している。 たまに私に話が振られるけど、緊張していたからか、曖昧な返事しか出来なかった。 それもこれも、私の隣に彼がいることが原因。 席を決めたのはただの流れだったけど、彼の正面じゃなかっただけよかったのかも。 正面だったら……きっと私は顔を上げることも出来なかったと思う。 だからせめて、この緊張を紛らわすために、彼が注いでくれるお茶を飲むしかなかった。 「それじゃ、魔理沙の弟子って言うよりは」 「家政夫、ですかね……修行はちゃんとつけてもらってますけど」 「咲夜には及ばなそうだが、優秀なメシスタントだぜ。 私の家に来ればこいつがご馳走するぜ。パチュリーも一度どうだ?」 「うん……」 俺達はコタツでだべっていた。 主に話すのは、師匠と霊夢さん。 時折、俺にも話が振られるけど、そう困る話じゃない限りは普通に答えられた。 ただ、終始パチュリーさんの元気がなかったのが、気掛かりと言えば気掛かりだった。 気付くと、彼女の茶飲みの中身が半分くらいに減っていることがあるので、近くの俺が注いでおいた。 「頃合いかしらね。そろそろお開きにしましょうか」 「えー」 楽しい時間は終わり、外は結構暗くなっていた。 師匠が不満の声を漏らしていたけど、それで続行する霊夢さんじゃない。 「それじゃあ私も……」 名残惜しそうにコタツから出たパチュリーさんは、立ち上がろうとして……固まった。 「……パチュリーさん?」 「変ね…精霊の気配が…」 彼女は小声で何か呟きながら、魔力を練る。 だが、それが術になることはなかった。 「魔法が……使えない?」 信じられない、といった表情で漏らした言葉。 聞いた自分自身も、信じられなかった。 師匠の説明によると、師匠とパチュリーさんの魔法の系統は、根本的に違うらしい。 俺が学んでいる師匠の魔術は、自分の魔力を直接的に力へ変換する魔法。 対してパチュリーさんの魔法は、精霊に魔力を与え、それに見合う効果を得る精霊魔法。 精霊とのコンタクトが出来なければ、彼女の魔法は成立しない……。 「素直にならないからだな」 「魔理沙だって迷ってれば、飛べなくもなるでしょ。 パチュリーもそうじゃない?」 原因を的確に突く、2人の言葉。 問題点を明確にするのは、問題解決の第一歩だけど……。 彼の前で、何てこと言い出すのよ……っ! 私の気持ちを見抜いたのか無視したのか、魔理沙は更にとんでもないことを言い出した。 「よし、今日は特別サービスだ。私の弟子を貸してやる」 「え、俺?」 「普段、本借りてるからな。今日だけパチュリーに貸してやるぜ。 今日の修行だ。パチュリーを紅魔館まで無事に送り届けて来い」 ねえ、魔理沙。 それは……応援してくれてるの? 「術式展開スペルセット・領域編集エディット・森羅結界構築フィールドセット……」 呪文を唱え、自分の周囲に森羅結界を展開していく。 ただでさえ寒い上に、身体の弱いパチュリーさんを乗せて飛ぶから、結界は必須だろう。 いつもとは勝手が違い、2人分の範囲が必要になるが、何とか展開出来た。 「お、やれば出来るじゃないか」 「修行は真面目にやりますよ。……正直な話、修行とは思えないんですが」 「いやいや。この上なく正当で真っ当な修行だぜ。少なくとも、私の流儀ではな」 俺の気持ちに気付いてる師匠なら……いや、師匠だからこそ、こうして俺を焚きつけたんじゃないか。 そう考えても、否定する材料が見つからない辺り、この人はいい性格をしてると思う。 「パチュリーさん、準備出来ました。いつでもいけますよ」 「うん……お願い。あ、あったかいのね…」 パチュリーさんは、まだ元気がない。 余程ショックだったんだろうか。いつもの彼女とは様子が違い過ぎる。 「……リクエストはありますか?」 「パチュリー、そこはお姫様だっk」 「魔理沙っ!」「師匠っ!」 あーもー、どうしてこの人はこんな状況で茶化すかな……。 「あ、忘れてたわ。はいこれ」 俺達の怒声に入れ替わるように、霊夢さんが何か手渡してくれた。 「霊夢さん……これ、何のつもりですか?」 「お守りよ。見て解るでしょ?」 「全力で遠慮させて頂きます」(キッパリ) さすがに……口に出しては言えないので、全力で突き返した。 「術式展開スペルセット・飛翔天駆エアウィング…!」 結局無難な所で、彼女をおぶって飛ぶことにした。 「吹雪で帰って来れなくなったら、紅魔館に止めて貰えよー!!」 「送り狼になっちゃ駄目よー!」 ……背後、というか眼下から、聞き捨てならない声がしたけど、敢えて黙殺することにした。 上空は相変わらずの視界不良。 山の季節は変わりやすいって言うなら、そろそろ晴れてほしいんだけど……。 「湖の方に降りれるかしら……私が来た時は、ここみたいに酷くはなかったわ。 山は地形のせいで風が乱れやすいの。湖上なら、風は安定しているはずよ」 「湖ですか……確か、向こうですよね」 「ええ、そうよ。霊夢より方向感覚は優れてるみたいね」 湖は紅魔館の近くにあるし、岸沿いに飛べば、必ず着けるだろう。 程なくして、見慣れた湖の風景が視界に広がって来た。 「………」 「………」 互いに、無言。 集中しなきゃいけないから、静かなのは歓迎だけど やっぱり身体が密着してるし、吐息とかが凄く聞こえる距離な訳で。 ……紅魔館まで、飛べるだろうか。色々な意味で。 「聞いても……いい?」 首に回された腕に、力が込められた……と思うのは、気のせいだろうか。 「何を、ですか?」 「魔理沙のこと…どう思ってるの?」 「さしずめ、恋の迷路って感じか」 博麗神社の奥で、魔理沙はみかんを口にほうり込みながら呟いた。 「フランがどうしたのよ?」 「いやいや霊夢。揃いも揃って、恋の迷路に迷い込んだってトコじゃないか、あの2人」 互いに想いを募らせているにも関わらず、言い出せるだけの勇気を持てず、不安になって迷い続ける。 同じ場所を行ったり来たり。 悩んで迷って考えて、ぐるぐる回って同じ場所。 それを例えて、恋の迷路。 「ああ、そういうことね。どちらかと言えばパチュリーの方が迷ってそうだけど」 「そうだな……でも、心のバランスが取れなくなるくらいの大恋愛ってことだぜ。 何せ、魔法が使えなくなるくらいの不安定っぷりだ」 「まあ……でも、いいんじゃない?私達が見てる分にはほほえましいし」 「迷路をぶっ壊す、きっかけがあればいいんだろうけどな。 だけどな霊夢。だからといって、安産祈願のお守りは気が早過ぎないか?」 「あら、いいじゃないの。それとも、中に入れてたスペルカードの話? 心配するに越したことはないし、扱えるだけの技量は見せてもらったし。 魔理沙が弟子に取るだけの素質はあったってことね」 「だったら、普通に渡せばいいじゃないか」 「面倒だったから、お守りの中に入れて一緒に渡したのよ。結局返されちゃったけどね。 それより魔理沙……いつ帰るつもり?」 「寒いから泊めてくれ。……間違えた。寒いから泊まる。このコタツごと帰れるなら話は別だが」 「はいはい。仕方ないわね」 ――ま。頑張って迷路からお姫様を連れ出してやれよ。 この恋の魔法使い、霧雨魔理沙の弟子なんだ。 それすら出来なきゃ、いっそ破門にでもして、図書館に押し込むのもいいかもな。 彼の一番近くにいるのは、やっぱり魔理沙。 彼を拾ったのも、魔法を教えたのも、一緒に住んでいるのも彼女。 だから、彼が好きになっててもおかしくないと思う。 「師匠は師匠ですよ。 強引で、人の迷惑考えてなさそうですけど、少なくとも間違ったことはしないって思います。 ……あ、でも本の借りっ放しは謝ります。いつもすみません、隙を見て持って行きますから」 「べ、別にあなたが謝らなくても……魔理沙が勝手なだけよ」 ちょっと安心した。 彼の答えにもだけど、魔理沙がちゃんと信じられてるのも。 あんな性格だけど、やっぱりちゃんとした魔法の師匠なのね。 「じゃあ、霊夢は?」 人だけじゃなく、妖怪からも鬼からも好かれる霊夢。 誰からも好かれるから、もちろん彼も……? 「う~ん…面倒見のいい姉さんみたいな感じ、ですね。 ほら、師匠がアレなんで……家事は霊夢さんに習ったこともありますし。 ただ、森のキノコの調理法は教えて貰えませんでしたけど」 「仕方ないわよ。魔法の森のキノコの種類、相当あるんだから。 毒キノコだけは、食べないように気をつけた方がいいわ」 「……はい。3回くらい当たったんで、身に染みてます」 た、食べたの? 死ななかっただけ……運がよかったのね。 ……うん。やっぱり聞きたい。 恐いけど、私は聞かなきゃいけない。 本を読み掛けで開いたまま、次のページをめくらないのに似てる。多分。 ずっとこの気持ちを閉じ込めたままなのは、やっぱり切ないから。 「じゃ、じゃあその……私のことは?」 あたいは湖の上を飛んでた。 なぜって、冬だから。 レティが帰ってくるから、迎えに行こうとしてた。 冬に帰って来て、冬の終わりに行っちゃうけど、 どこから帰って来てどこに行っちゃうのか。 あたいは一度も教えてもらってない。 だけど、今日はこんなに雪が降ってるから、きっとレティは帰ってくる。 「……あれ?」 湖に、他に誰かいる。 えーっとあれは……そうだ、外から来た人間だ。 あたいと弾幕ごっこをしても弱い奴。また懲りずに勝負しに来たのかな。 あたいは正面に回り込むと、いつもみたいに声を張り上げた。 「また来たのね魔理沙2号っ! 今日も笑えなくなるくらい凍らせて……」 え――素通りされた!? 「無視するなぁっ!!」 咄嗟にあたいは、散弾を撃ち込んでいた。 そこから先は、本当に夢中だったから、あんまり覚えていない。 「俺は…その……っ!?」 彼女の問いに答えようとした瞬間、覚えのある感覚に襲われた。 ――狙われた!? 彼女の腕を掴むと、一気に詠唱を始める。 「補助術式展開サポートスペルセット・飛翔強化エアブースト!」 「え!?」 術式に魔力を無理矢理追加し、急激に速度を上げて一気にその場を離れる。 それでも、放たれた氷弾を全て避けることは出来ず、何発かは結界で弾くしかなかった。 「今のは…?」 「後ろから撃たれました。パチュリーさん、平気ですか?」 「ええ。驚いたけど、私は大丈夫よ。 私じゃ、相手はよく見えないけど……」 目が悪いんだろうか。 でもどのみち、弾幕ごっこでは相手の姿を見れても、自分にとっては大してプラスじゃない。 大事なのは、弾幕を避け続けること。当たらないことだ。 「このまま紅魔館まで逃げ切ります。構いませんね?」 「……そうね。応戦してあなたが負けたら、寒い中を歩かなきゃいけないし。 弾幕の経験はあるの?」 「張るのは苦手、避けるの専門です。たまにチルノと喧嘩する程度ですけどね」 「ちょっと、それじゃないも同然じゃ……」 「文句は後で聞きます。ちょっと失礼しますよ」 速度を調節して、互いの身体を入れ換え、正面から抱きしめるような体勢にする。 「……っ!?」 「後ろに相手が居るのに、パチュリーさんを盾にする真似はしたくないんです。 出来れば顎引いて、あまり喋らないで下さい。舌噛みますから」 出来る限り避けるつもりだけど、自分の技術じゃ不安しかない。 結界だって、毎回弾けるとは限らない。 貫通したら……まあ、弾避けの盾にくらいはなれるかな。 ……まあ、決して邪心がないかと聞かれれば、それはなくもないけど。 あまり甘いこと考えてると、すぐ落とされる。集中集中。 前に本で読んだ術式を思い返し、組み立て、魔力を込めて法に変える。 「補助術式展開サポートスペルセット・感覚強化インスピレーション!」 意識が澄んで、認識出来る世界が広がっていく。 さっきまでは見えなかった紅魔館も、死角にあるはずの弾幕も、全部自分の世界にある。 初めての割には上手く行った……けど、逃げ切れなきゃ意味がない。 でも、今の自分なら…っ! 「で。実際の所、魔理沙としてはどうなのよ?」 「まあ、私以上霊夢以下って所だな。まだこの煮付けの味付けの加減が……」 「料理の腕の話じゃないわよ。彼の師匠なんでしょ」 「ああ、弾幕な。とりあえず基礎中の基礎の、飛行方法と森羅結界だけは教えてあるぜ。 もう少ししたら、スペルカードの使い方を教えるつもりだったんだが……」 「一度実際に使わせた方が、面倒がなくて楽なのに」 「おいおい、私のスペルカードなんて使わせたら、たちまちガス欠で気絶するぜ」 「マスタースパークはともかく、私の封魔陣くらいなら大丈夫でしょ。 ……あ、そういえばさっきお守りに入れてたの、夢想封印だったわね」 「突っ返したあいつの方が正解だったかもな。 ただあいつ、図書館から本借りて来て勉強してるからな。 何種類かの魔法なら、もう扱えるみたいだ。 隠してるようだが、私の眼はごまかせないぜ」 「師弟揃って勉強熱心なのね……。 あーあ、私の代わりに異変の解決とかしてくれないかなぁ……」 「怠けるな怠けるな。 あの閻魔に今度は『あなたは少しのんびりし過ぎる』なんて言われるぞ。あ、おかわりくれ」 「はいはい、召し上がれ。……うん、42点かな」 「味付けがか?」 「魔理沙の物真似がね」 「氷符『アイシクルフォール』!!」 おかしかった。今日は何もかもおかしかった。 当てたはずなのに、当たってない。 逃げ場がないはずなのに、逃げられてる。 あいつがこんなに避けられるはずない。 あたいのアイシクルフォールも、嘘みたいに避けられる。 正面が弱いってレティに言われたアイシクルフォールだって、頑張ってあたいも撃ってるから、弱点なんてもうないはず。 ――なのに、当たらない。 いつもは互いに撃ちあってばかりだったけど、今日はあいつは撃って来ない。 知らなかった。あいつがこんなにすばしっこいなんて。 きっとあたいに勝つために、特訓したに違いない。 アイシクルフォールは何回も使ったから、もう見抜かれたんだ。 でも、こっちはまだ見せてないから――― 「凍符『パーフェクトフリーズ』!!」 ――これで凍らせるっ! その弾幕は、覚えのある癖があった。 直前の魔力の集束からして、スペルカードの類だろうか。 規則正しい弾幕は、パターンを掴めば避けるのは簡単になる。 ただ、緻密な飛行制御が出来ない自分が、そう避けるのは難しい訳で。 「領域変更エディット――!」 パチュリーさんの周囲だけは結界を固定し、予想される着弾点のみに領域を限定して、結界を再構築する。 避けられる弾は避け、避けられない弾は、絶えず結界の範囲を変更・構築し、ピンポイントで受け止め弾く。 今までで、直撃はゼロ。 このまま行けば、何とか紅魔館まで……。 「2枚目、来るわよ!」 「はいっ!」 後方に高密の魔力。次の瞬間には、大量のばらまき弾が迫っていた。 速度と密度はさっきの比じゃない。全く別のタイプのスペルカードだ。 それでも弾道は直線的で単純だし、隙間は意外と多―――っ!? 「なっ……!」 真横を通り過ぎようとしていた弾が、一瞬のうちにその動きを変え、背後へ流れていった。 慌てて眼前に意識を向けると、先程避けたはずの弾が、こちらへ迫っていた。 弾幕が……逆流した? 違う、止まったのか! 正面には弾のカーテン。 後ろからは、第二波が放たれている。 前後からの挟撃弾幕……! 結界を全力展開して突破……駄目だ、この密度を立て続けに受けたら破られる。 気合い避けとピンポイント結界……これもこの数じゃ捌き切れない。 でも、この弾幕を避けられれば、相手だって突っ込んで、無事じゃ済まないはず。 それなら無理をしてでも、まとめて避ければっ! 「術式展開スペルセット……重力加速グラビティブースト!」 ガクンと、一気に高度が下がる。 通常の飛行制御じゃ行えない、急激な軌道変更。 猛烈な速度で近付く湖面。ここで止まれば、おそらく狙い撃ち。 また前後から挟まれて、詰まれて終わり。 急上昇するような魔法は……なくはないけど、魔力が相当キツくなる。 「術式並行展開パラレルスペルセット――」 魔力がキツくなるのが同じなら、ここで何とかする方がいい。 「慣性置換モーメントスライド・方向転換ターンベクトル!」 落下の勢いを全て湖の水に置き換え、それでも逃がし切れない勢いを、方向を変えて前へ飛ぶ力に変える。 背後からは、空高く水柱が立っていた。 あれで沈んだと勘違いしてくれればいいんだけど。 とりあえずは、時間稼ぎくらいにはなるだろう。 「あ、あなた…何て無茶を……!」 「やっぱ、バレてましたか?」 「同時魔法は高等技術よ。 ……扱えても、術者の負担は相当なものになるわ」 彼女の言う通りだ。 魔力の使い過ぎなんだろうけど、あまりスピードは出せそうにない。 それに……もう自分の分の結界は張れそうにないから、背中とかが凄く寒い。 「あなたは魔理沙とは違って、魔力が多い訳じゃないわ。 魔理沙の無茶を真似しようだなんて、思わない方がいいわよ」 「必要がなきゃ、無茶なんてしませんってば。極力控えますけど、それじゃ駄目ですか?」 「控えるって言葉は、するってことと同意よ。……言っても聞かないのは、魔理沙に似たのかしら」 「師匠ほどじゃないと思いますけど……。さっきの相手、撒けましたか?」 弾幕が展開されている気配はないものの、追って来られてたら困る。 もう魔力の余裕はないし、感覚強化インスピレーションも掛け直せない。 離れた相手の魔力感知があまり出来ないから、自分より彼女の方が目になるだろう。 「……追って来てる様子はないわね。少なくとも、私が解る範囲でだけど」 「なら、十分ですね。……文句、言ってもいいですよ」 やむを得ない弾幕ごっこだったにせよ、庇うために抱きしめたのは……色々責められても仕方ない。 むしろ、少しでも邪心があった分、責められた方が後ろめたい思いもしなくて済む。 「別に文句だなんて……そもそも私が魔法を使えれば、撃退も出来たし…。 無茶して守ってくれたんだから、文句よりも礼を言うわ。ありがとう」 「……嫌じゃなかったんですか?」 「仕方ないことを怒ったら、それこそ仕方がないじゃないの。それに…その、暖かいし…」 意外だった。 てっきりいつものジト目で文句言われるか、最悪フォレストブレイズで燃やされるかくらいは考えてたけど。 「お咎めなし、ですか…」 「咎めてほしいなら、相応の権利は行使するわよ?」 「……お仕置きとかなら勘弁してください。 飛べなくなりそうですから」 流石にしないだろうけど、一応は念を押しておく。 今なら単発の狙い弾で落ちる自信がある。それほど魔力が残ってない。 そりゃ、魔法が使えない彼女が、弾幕張るとかまでは出来ないだろうけど。 「そんなことしないわよ。じゃあ、1つだけいいかしら?」 「……弾幕と無茶な用件意外なら、何でもどうぞ」 「自分は無茶するくせに…まあいいわ。その、さっきの答え……聞かせてくれる?」 私は知らないことがあると、本で調べる。今まではそれで通用していた。 知識の名を持つ私でも、恋に関しては無知だった。だから、今まで通り調べた。 でも、本に載ってはいたけど、表現が抽象的で、よく解らなかった。 だから、魔理沙に相談してみようと思った。 マスタースパークは恋符。先入観を持つのはいけないけど、多分関係があるのかも。 妹様の恋の迷路も、関係があるかもしれないけど……禁忌に触れずに済むなら、それに越したことはないし。 そう思って、魔理沙と待ち合わせたのが今日。 ……それなのに、まだ準備不足なのに、私は聞いてしまっている。 以前の鬼騒ぎの時も、あらかじめ用意してから行動に移していたのに……私らしくない。 頭では、こんなに解っているのに。 「その……」 「……っ」 不安が酷くて、いつもの自分を保つのに精一杯のくせに。 ――拒絶されたら、泣き出してしまうかもしれない。 それくらい好きなのに、自分から伝えられない。なんて臆病なんだろう……。 「俺は、魔法使いとしても人としても、まだまだ未熟者です。 スペルカードも扱えないし、自分の分も解らずに背伸びして、無茶をやるひよっこです。 ……でも、それでもいつか、一人前の魔法使いとして、パチュリーさんの力になりたいんです」 「……どうして?」 「勝手かもしれませんけど、好きだから…です」 それが、望んでいた答えでも、私はどうしていいのか解らなかった。 「わ…私は……っ」 気持ちを伝えたいのに。私も応えたいのに。 力になりたいって、好きだって言ってもらえて、嬉しいのに。 どうして…言葉が出てこないの? 出てくるのは涙だけ。 彼に見せまいと、私は彼の胸元に顔を押し付けた。 「……勝手なこと言って、すみません」 謝らないで。そんなこと言わないで。 心で彼への謝罪を呟きながら、私は彼の温もりの中に沈み込んでいた。 「パチュリーさん……」 時折しゃくりあげるように泣いていた彼女は、今は泣き疲れて眠ってしまっている。 レミリアさんに吸われるか、粉々にされるか。咲夜さんには斬られるか。小悪魔さんなら……どうするだろ。 女の子を泣かせた罪は重いと言われるけど、伝えるだけ伝えたから、後悔はしていない。 そろそろ、紅魔館に着くはずだけど……。 「あ、パチュリーさ……えぇぇぇっっ!?」 「め、美鈴さんっ!パチュリーさん寝てますから静かに!」 「だっ、だってその格好……」 「事情はちゃんと話しますから、落ち着いてください。お願いします」 意外と紅魔館に近付いていたらしく、あっさり美鈴さんに見つかってしまった。 激しく誤解……なのかどうかはさて置いておいて、相当取り乱してたけど、湖でのいきさつを話したら落ち着いてくれた。 ……泣かれたくだりは省略したけど。 うん。話して解ってくれる人って、幻想郷ではやっぱり貴重だな。 そして今、俺は小悪魔さんに連れられて、図書館内を歩いている。 仕事中の美鈴さんに代わり、パチュリーさんを自室まで連れていくということで、館内に入れてもらったのだ。 ちなみに、色々周囲の目が気になるので、パチュリーさんは背負い直した。 ……後で、美鈴さんにはコッペパンでも持って行こう。 「熟睡なさってますね……」 「風邪ひかれたら困りますし、ずっと森羅結界張ってたんですよ。外は相当寒かったんで」 「そうなんですか?私はずっとここに居ましたから…。あ、お部屋はこちらになります」 案内された彼女の部屋は、よく片付けられていて、少し寂しく見えた。 栞を挟まれた読みかけの本が数冊置いてある意外は、本棚がやや多いくらい。 ……師匠の部屋とは、まるで正反対。本人の前では言えないけど。 壁際にあるベッドに、彼女を降ろ 「んっ……」 「ぐぇっ」 ……そうとして、チョークスリーパーを決められた。 いや、まあ。離してくれなかっただけなんだけど。 「あの……顔色、悪いですよ?」 「ギブアップしますから助けてもらえるとすごーく助かります」 「あ、そうですね」 きっと、小悪魔さんも悪気はないんだろうなぁ……。 幻想郷の人の会話は何かズレてるけど、それがこっちの普通なのかもしれない。 小悪魔さんに手伝ってもらって、パチュリーさんをベッドに寝かせたのは、それからしばらく後のこと。 起きてるんじゃないか、とも思ったけど、やっぱり彼女は眠っていた。 ただ……その寝顔は、あまり安らかじゃない。 不安そうな、悪夢でも見てうなされているのかもしれない、そんな寝顔。 「顔色、まだ悪いですよ。 薬でも、お持ちしましょうか…?」 「……え?」 「だ・か・ら、顔色悪いですよ。ほら、鏡見てください」 少し怒ったように、強引に手鏡を渡された。 見慣れた自分の顔……だけど、少し疲れてるだろうか。 「典型的な、魔力を使い過ぎた際の症状ですよ。 パチュリー様が心配なのは私もですが……ご自分の心配もなさってください。薬、持ってきますね」 これが、魔力を使い過ぎた影響だろうか。 師匠のスパルタ修行の後で、ボロボロになった時よりは幾分マシだけど……。 ……試してみるか。 「術式展開スペルセット……」 魔力を集めて、簡単な魔法を組み立てる。 前はともかく、今はもう失敗することがないはずの初歩の初歩。 なのに……。 「――術式取消スペルキャンセルっ!」 不意に襲う目眩と頭痛。 身体に力が入らず、床に膝を着いてしまう。 「は、はは……やっぱ、無茶はするもんじゃないですね……」 「そうね……その調子じゃ、帰るのは無理そうね」 ぽん、と、頭に乗せられる手。それだけで、頭痛が嘘みたいに引いてくれた。 「すみません、起こしてしまいましたね」 「何やってるのよ……もう。 魔力は分けてあげたけど、まともに魔法が使えるのは…そうね、半日以上休んでからね」 今から半日……となると、明日の朝くらい。そうでなくても、夜間飛行は師匠に止められてて、やったことがない。 話によると、人を襲う妖怪は夜によく出てくるとか。 「今日は泊まっていくといいわ。 レミィと咲夜には言っておくから、どこか空いてる部屋を使わせてもらって」 「……いいんですか?」 「魔理沙も言ってたじゃない。帰れなかったら泊まってこい、って。 無茶させてまで帰すようなことはしないわよ」 さっきまでの、泣き疲れていた彼女とはまるで別人だった。 いつも、図書館で本を読んでいる時の、いつも会う時の彼女。 ぬるま湯のような、友人としての仲でも、好きなことには変わりはない。 ……言ってしまった以上、そんな関係も壊れてしまうと思っていた。 でも、彼女はこうして接してくれている。それが嬉しかった。 「じゃあ、ありがたく泊まらせてもらいます。 ……片付いた部屋なら、埋まる心配もないでしょうし」 「どんな部屋で寝てるのよ……」 「師匠が色々な物持ってくるから、俺の部屋まで占拠されてるんですよ」 彼女が望まないなら、自分はきっと、現状で満足すればいいんだろう。 彼女は……本当に、いい人だから。 「お待たせしました。お薬を……あら、パチュリー様。起きてらしたんですか」 「ええ。……相変わらず、魔法は使えないけどね。 彼、今日泊まっていくから、咲夜に言ってどこか空いてる部屋を使わせてあげて」 「はい、かしこまりました。 咲夜さんに聞いてきますから、飲んでおいてくださいね」 小悪魔さんは、俺に錠剤の入った瓶を渡すと、また出ていってしまった。 ずしりと重く、牛乳瓶の1.5倍はありそうな瓶に、色とりどりの錠剤が詰まった薬瓶……。 「……何錠飲めばいいんですか?」 「妖精は半分。人間なら1瓶。それ意外なら3倍ね」 「……冗談ですよね?」 「もちろんよ」 楽しい時間はあっという間に過ぎ、彼は咲夜に連れていかれてしまった。 「はぁ…」 本を読む気にもなれず、読んだ所で頭に入らず、かといって眠ろうと努力してはみるものの、半端に寝たためか寝付けなかった。 そんなこんなで、天井を見つめたりしながら、寝返りをうってみても、眠気は訪れない。 普段、寝るのを惜しんで本を読んでるんだから、こんな時くらい素直に眠れてもいいじゃない。 静かな夜。こうもすることがないと、また彼の事を考えてしま……。 ……いけないいけない。 考え過ぎると、堂々巡りを起こしてしまう。 彼の気持ちは聞くことが出来た。 私の気持ちははっきりしてる。 問題なのは、私がそれを伝えられないこと。 結論はもう出ているのに、解決策だけが見つからない。 ――あんなことがあったから、いつものように話すことはもう出来ないんじゃないか…って考えてた。 そうでなくても、少しぎくしゃくした関係になってしまう…くらいは予想してた。 でも、彼は普段と変わらず私に接してくれたから、私も冗談を交えて接することが出来た。 そんな彼の優しさが、とても嬉しかった。 「……あ」 本当に、気付けば彼のことばかり考えてる。 「恋の病……ねぇ」 ちょっとだけ、本に書いてあったことが理解できるような気がした。 「そうそう。パチェを見てると、本当にそんな感じね」 突然の声。 振り向くと、ドアの所にレミィが立っていた。 「言っておくけど、ノックもしたし、ちゃんと呼んだわよ。 明かりが着いてるから、起きてるとは思ったけど、ね」 「そ、そう……」 こんなに静かな夜なのに、聞こえなかったの…? はぁ……重症かも。 「ふふ。恋をすると難聴になるのかしら?」 「きっと音速が遅くなるのよ」 「なるほどね。 春が集まった冥界は音速が遅いらしいから、パチェもそういうことね」 笑顔のまま、レミィはこっちに歩いてくる。 からかいにでも来たのだろうか。 「それとレミィ。正しくは『恋は盲目』よ」 「あら。じゃあ夜雀の歌でも聞いて鳥目にでもなる? ……そういえば、鳥目で春っぽい霊夢は、恋でもしてるのかしら」 鳥目に関しては、本人は否定してるけどね。 ――って。そうじゃなくて、色々まずい。こういう時のレミィは、絶対に何かある。 伊達に付き合いが長い訳じゃないから、それくらい解ってる。 「何か用があって来たんじゃないの?」 「なくても来るけどね。 聞いたわよパチェ。私が寝てる間に、人間の男を連れ込んだんですって?」 え……連れ込んだ? 「おぶられたり抱き合ったり……とか、色々聞いてるわよ。パチェもスミに置けないわね」 「ああああのねレミィそれは誤解で成り行き上仕方なかったというか偶然そうなったわけで私達はまだそんな仲じゃゴホゴホっ!」 突然の胸の苦しみに私は身体を折った。いつもの喘息だ。 「ほらほら落ち着いてパチェ。誤解があるなら、ゆっくり教えて頂戴」 ふと思う。この苦しみのうち、一体どれくらいが、彼に関する苦しみなんだろう。 彼と一緒に居られたことが、 好きだって、力になりたいって言ってもらえたことが嬉しいのに。 離れていて、会えないのが寂しいのに。 想いを募らせることは切なくて。 なのに、伝えられないのが……苦しくて、辛い。 「……落ち着いた?」 「うん…」 身体が落ち着いてから、私はレミィに今日の出来事を全部話していた。 レミィの激しい誤解を解く、というのもあったけど……ただ、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。 「……その時言っちゃえば、楽だったんじゃない?」 「だって、言葉が出なくて…うぅ」 レミィにつつかれた所が、私の痛い所。 嬉しかったけど、口には出せなかった私の気持ち。 「でも、言うチャンスは沢山あったはずよね。どうして――」 言わなかったの?と尋ねられて、答えに詰まった。 泣いてたから言えなかった……だったら、紅魔館に戻ってからなら言えたはず。 拒絶されるのが恐かったから……前はそうだったけど、今はもうそんな心配はないはず。 言えなかった理由は、きっとそんなのじゃない。 きっと私が意識していない、そんな理由。 「……ごめん、はっきり言えない」 「じゃあ、今から彼の部屋に夜這いでもかけてきたら?」 ―――――っ!? さらりと、とんでもないことを言われた気がする。 私がその言葉の意味を理解するまでに、どれくらいかかったかは解らなかった。 「ななななななにを言い出すのよ―――!?」 「あら、言葉が違ったかしら? 確か、パチェが持ってた厚い本に、『言い寄る』って意味の言葉だって……」 求婚するって意味もあるんだけど……その、うぅ…。 「まあ冗談は別にして、まずは理由をはっきりさせましょうか。私がこれから質問するから、ちゃんと答えてね」 「う、うん」 私ひとりで考えてても、一向に答えが見付からない。 だから、レミィの質問が糸口になる可能性は、十分にある……と思う。 「じゃあまず、彼のことは好き?」 「うん……」 そうじゃなきゃ、こんなに悩んだり苦しんだりしない。 「彼のこと、信じてる?」 「魔理沙よりは、まぁ…」 「……パチェも言うわね」 未熟な所はあるけど、持ち出さないでほしい本は借りて行かないし。 無茶はするけど、守ってくれたし。 「じゃあもし、私が彼の血を欲しがったらどうすr」 「絶対止めるっ!」 反射的に、私は叫んでいた。 レミィも驚いていたけど、私も驚いた。 私がこんな大声を出せるなんて、知らなかった。 「ご、ごめんレミィ。でも、やっぱり……取られたくないから」 「ふふっ。魔理沙に言ってる『持ってかないでー』くらいじゃ、私は止められないわよ? でも、パチェにとって、それくらい大事な人だってことね」 「……うん」 でも、本当にレミィが彼の血を欲しがったら……? 外の世界には献血っていう、血が足りない人に血を分ける制度があるらしいし。 彼がそんな風に考えてOKして、レミィが彼の首筋に噛み付いて……。 ……日と水のスペルカード、増やそうかしら。 「でもまぁ、咲夜のを吸い過ぎたら、彼も少し味見してみようかしらね」 ……やっぱり、増やして合成しなきゃ。 確か外の世界の本に、参考になりそうな物が載っていたはず……。 「じゃあ次の質問。彼と一緒にいると楽しい?」 「楽しいし嬉しいけど……安心する、かな。逆に、いないと寂しくて…」 本当なら、ずっとずっと側にいたいのに…どうして? こんなに想っているのに、言い出せない自分。 私を押しとどめているのは……何? レミィは、さっきまでの意地悪な笑顔で、そんな私を眺めてる。 これは私の感じたことだけど、と断ってから彼女は口を開いた。 「今の関係が嬉しかったから、今まではそれでよかった。 そして、好きになってしまったから、伝えたい。 ここまではよかったけど、伝えたらどうしても今までの関係から変わってしまう。 彼もパチェが好きなんだと解って、失恋の心配はなくなった。 だけど、まだパチェは躊躇してる。それは、どうしてかしら?」 レミィの言ってることは、大筋で正しい……と思う。 大事なのは、その先。 私が気持ちを打ち明けられない理由。 それは―――? 「私が思うに、パチェが知らない『恋人』という関係。 それを恐れてるんじゃない?」 「……え?」 「パチェは本で調べたり、前もって準備をしてから行動するわよね。 知っていることが前提だからそういうことが出来るけど、逆に知らないことや本で学べないことだったらどうかしら?」 本で学べなかったこと。 ……あの鬼騒動の時は、次の宴会まで時間がなくて、調べることが出来なかった。 仮に時間があったとしても、蔵書の中に鬼に関する書物があったかは疑問だけど。 ただ、結果的には原因も突き止められたし、豆をぶつける魔法の作成も出来た。 じゃあ、今回は? 本で調べることは出来たけど、私があまりそれを理解出来ていなかった。 少なくとも、彼に拒絶されるという、最悪の事態はないことは解ってる。 ……でも、その先が解らない。だから私は動けない? 「経験も知識のうち、ということよ。……まあ、こういう答えは自分で出すしかないから、私が正しいとは言わないわ」 「でも…参考にはなるわ。ありがと、レミィ」 「私は運命を操れるけど、運命を啓くのはその中で生きる者達よ。パチェの辿る運命に、よい月があることを祈ってるわ」 目の前のレミィの姿が、一瞬で大量の蝙蝠に形を変えて飛び去る。 ……私は、私が思ってる以上に、色々な人から応援されているのかもしれない。 だから私はきっと、その応援に、彼の想いに、応えなきゃいけない。まだ朝までは時間がある。 例え、一晩かかってでも……気持ちの整理、つけなきゃね。 目覚めると、朝だった。 幻想郷に来てから、こんな静かに朝を迎えるのは初めてかもしれない。 師匠に叩き起こされたり、実験の爆風で吹っ飛ばされたり、そんな朝ばっかりだったし……。 屋敷は静まり返っている。 レミリアさんは吸血鬼だから、紅魔館は夜の方が活気があるのかもしれない。 静かに眠れたおかげか、魔力はかなり戻っている。 師匠の所までくらいなら、普通に飛べそうだ。 いきなりいなくなるのも失礼だし……帰る前に、パチュリーさんにお礼くらい言っていこう。 昨日小悪魔さんに案内されたときは、道順を暗記する自信はなかったけど、何とか図書館まで辿り着くことが出来た。 ……まあ、たまには勘に頼るのもいいってことで。 図書館内に人影はない。 パチュリーさんは部屋に居るのかもしれないけど……まだ寝てるかな。 勝手に部屋に入るのも悪いし、起きて来るまで、魔導書でも読ませてもらおうっと。 『いいかパチュリー。あいつに対して有効なのは、ずばり《押し》だ。 勇気を持って押し切れば、きっとあいつもイチコロだぜ』 『あれ……魔理沙?何の話?』 『まぁ簡単に言うと、押しても駄目なら 押 し 倒 せ っ !』 「……?」 気が付くと、朝だった。 ……日が出てから少し経ってるくらいね。結構眠っていたのかも。 夢の中で、魔理沙がまたとんでもないことを言っていた気がする。 レミィといい、魔理沙といい、こういう……その、きわどい言い方は止めてほしいんだけど。 ――彼、起きてるかな。 もう、知らないことなんて恐くなんてないから。 きっと言えれば、胸の切ない痛みも消えるはずだから。 ベッドから出て、ドアを開け放つ。 ……うん、小悪魔か咲夜を捕まえて、彼がいる部屋へ――。 意気込んで、踏み出した私の書斎には……彼がいた。 本棚の近く、いつも座ってる席で、真剣な眼差しで本を読んでいる。 声をかけづらいくらい集中したその横顔に、不意にドキっとした。 他者を寄せ付けないような、強い集中力が生み出す雰囲気。 それは、心理的な結界とも呼べるものなのかもしれない。 どれくらいそうしていたか解らないくらいの時間の後、彼は大きく息を吐くと、その集中を解いた。 「あ……パチュリーさん、おはようございます」 「お、おはよう。昨日はよく眠れたかしら?」 「ええもう、魔力も大分戻りました。本当にありがとうございます」 う……やっぱり彼の前だと、いつもの自分を装ってしまう。 言おうって、伝えようって決めたのに、決心が鈍ってしまいそう。 「別に、お礼なんて……」 恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。 恥ずかしがらず、迷わず言えた彼に比べれば、私は……。 「そんな、いいですってば。 これから帰りますんで、小悪魔さんや咲夜さん達に宜しく伝えて頂けますか?」 か、帰っちゃうの? 「ええ、解ったわ。それと……」 動揺する心を抑えるのも大変……だけど、今日を逃す訳にはいかない。 決めた覚悟は、いつ揺らぐか解らない。 それに、彼は(主に魔理沙が持ってった)本を返しにくるだろうけど、いつ来るかなんて解らない。 それまで……この切ない気持ちのまま過ごすのは、きっと耐えられない。 だから―― 「門まで見送るわ。それくらいはいいわよね?」 ――有無なんて言わるつもりは、最初からなかった。 「あ、バチュリー様……と……えーと…魔理沙2号さん」 「……お勤めご苦労様です、中国さん」 目には目を。歯には歯を。あだ名にはあだ名を。 チルノにつけられたあだ名で呼ばれるのは嫌なので、美鈴さんの痛い所で返す。 特に、師匠の2号……て意味に聞こえる辺りが特に。 「うぅ…昨日は名前で呼んでくれたじゃな「じゃあちゃんと俺も名前で呼んで下さい」……ごめんなさい」 ……名前、やっぱり忘れてるな。 でも、俺だってあまり名前で呼ばれてないけど、美鈴さんみたいにはならない。 前に何かあったんだろうか。 「……雑用係に降格かしらね」 「そ、そんなぁ~……」 パチュリーさんの一言で、面白いように反応する美鈴さん。 ……もしかして、玩具にされてるのか? 「それはそうと美鈴。私から貴女に、最重要任務を与えるわ。……これが出来なきゃ、本当に雑用係ね」 「えぇっ!?は、はい……」 「指示は単純だから1度しか言わないわ。15分、ここ以外の場所で休憩してきなさい」 それが最重要任務? そう思ったのは美鈴さんもだろう。 ただ、何かに気付いたのか、突然 「了解しましたっ♪この紅 美鈴、その任務受けさせて頂きますっ!」 とのたまい、素敵な笑顔で走り去って行ってしまった。 ……休憩が貰えて嬉しかった、ってことにしておこう。うん。 美鈴に暇を出し、門の辺りには彼と私の二人っきり。 湖から吹いてくる風は冷たいけど、彼がまた森羅結界を張ってくれた。 昨日の今日で無理はさせたくなかったけど、私は彼の優しさに甘えてしまった。 えーと……結界の範囲を狭めれば、彼の負担もきっと軽くなるはずよね? 「え……!?」 無防備な彼の背中に抱き着いて、身体を密着させる。 「結界だけより、この方がいいのよ」 触れることで感じられる彼の体温。やっぱり、結界より暖かい。 ……言い訳だって、解ってる。恋は……理屈じゃないから。 ――ただ、こうしたかっただけなんだから。 「昨日の返事……言えなくて、ごめんなさい」 「そんな、俺は……」 結界の境界が、揺らいでいるのが解る。 動揺したり、心が不安定になれば、魔法だって不安定になるし、私みたいに使えなくもなる。 ……彼は私の気持ちを知らないはずだから、彼の不安は、相当なものだったんだろう。 それでも、私以上の不安の中で、紅魔館まで飛んで来て、今もこうして結界を維持している。 確かに彼は、魔法は未熟で無茶ばかりする半人前かもしれないけど、気持ちに関しては私以上に強い。 そんな所にも、私は惹かれていたのかもしれない。 「パチェ、って呼んでもいいわよ。レミィだって……ずっとそう呼んでるんだから」 「……いいんですか?」 「それと敬語も使わないで、普通にしてていいわ」 顔全体が熱い。心臓は早鐘を鳴らして、鼓動は際限なく高まっていく。 切ない気持ちが血液に乗って身体中に回って、また涙が出てしまいそうになる。 ……でも、ここで止める訳にはいかないから。不器用な言葉だって、くしゃくしゃな表情だって構わない。 ――マスタースパークがなぜ恋符なのか、解った気がする。 自分の弱さや臆病な所も全部隠さずに、真っ直ぐに想いを伝える……そんな所が、マスタースパークに、魔理沙自身に似ている。 確かに私は魔理沙じゃないし、マスタースパークも撃てない。 けど、それでも……っ! 「私だって…好きだから……っ」 それからしばらく、私の時間感覚はおかしかった。 ……咲夜に時間を止められたのか、単に私が解らなかったのか。 気付けば、彼の背中に抱き着いていたはずが、彼に抱きすくめられていた。 「よかった……」 「……余計な心配、させたわね」 「余計なんかじゃないですよ。 そりゃ、覚悟はしてましたけど……」 えーと……確かに、さっき言ったわよね。 「だから敬語なんて、使わなくていいのに……」 「すぐには無理ですって。パチェ、これから慣れる……じゃ、駄目ですか?」 あ、名前……。 「嬉しいけど、それだけじゃ駄目よ」 「レミリアさんと同じように呼ぶのも、結構恥ずかしいんですけど……。時間、もらえませんか?」 「……そうね。少し、かがんでもらえるなら」 こういう言い方は、卑怯かもしれない。私のわがままでしかないし。 それでも私は、かがんだ彼の首に手を回し、おもいっきり背伸びして----。 ごすっっ!! 「むきゅぅ……」 「ぱ、パチュリーさん…平気ですか?」 突然、零距離からのヘットバット。 帽子も落としてしまい、紫の髪が風に揺れる。 俺は師匠の修業で痛いのは慣れてるけど、仕掛けた彼女の方が痛そうだ。 ……あ、呼び方間違えてた。 「そ、その、私……ごめん。本に書いてあることくらいしか知らないし、初めてだから……」 顔を真っ赤にして、目元に涙を浮かべながら謝るパチュリーさん。 彼女がしようとしたのは、やっぱり……。 「気にしてませんって。それより、よければ……目、閉じてもらえますか?」 「う、うん……ありがと」 恥ずかしながら頷いた彼女は、俺に身を任せて目を閉じる。 そして俺達は、冬の高い空の下、唇を重ねた。 ……ただ、後日話を聞いた所では、何人かが覗き見していたらしいけど。 「あの、咲夜さん。もう30分近く経ってますけど……」 「私の時計では、まだ14分と48秒よ。お嬢様が中庭から戻って来るまではね」 「うぅ。出て行けないのは解りますけど……サボってるみたいで、ちょっと罪悪感が」 「臨時の休憩よ。そう思いなさい。出て行ったら、雑用係に降格だからね」 「はい……。あ、そうでした。咲夜さん、彼の名前……何でしたっけ?」 「春……じゃなくて、朝ですよー」 「……霊夢、随分と変わったな」 「何言ってるの。寝言は寝てから言うものよ」 魔理沙が目覚めると、いるはずのない妖精がそこにいた。 春を伝えて、消えていく妖精、リリーホワイト。 その彼女が何故ここに?という疑問はもっともなのだが、 「じゃ、2人とも待ってなさい。朝御飯作るから」 その話は、朝食が終わるまで持ち越された。 「で、リリーが何でここに?」 「えっと……春なんですか?」 「まだ冬だぜ。早く春が来てほしいんだけどな」 魔理沙の言葉は本心からのもの。 寒い冬は、彼女と一番相性が悪い季節だ。 「……あ、そっか。確かに春かもしれないわね」 「なるほど。霊夢の頭がか」 何かに思い当たった霊夢に、魔理沙の口は言葉をこぼしてしまった。 それを彼女は、すぐ後悔することになるのだが。 「魔理沙。夢想封印とエクスターミネーション、どっちがいい?」 「……スマン」 笑顔ながらも霊夢の凄む口調に、習慣的に魔理沙は頭を下げた。 知らぬは間のリリーのみ。 「冬なのに、春なんですか?」 その、リリーとしては当然の質問に、霊夢はさも当然のごとく応える。 「そうそう。冬だけど春よ。あなたがいるのがその証拠だもん」 「私が…証拠ですか?」 自分を指し、首を傾げるリリー。そんな彼女に、霊夢は断言する。 「あなたが伝えてくれたからね。そのうち、その冬の中の春を見せてあげるわよ。 さておき……結局、紅魔館にお泊りみたいね。レミリアに吸われてなきゃいいけど……」 「あいつが吸われそうになったら、パチュリーが『持ってかないでー』って言いそうだな」 レミリアの服の裾に掴まり、引きずられながらも粘るパチュリーと、レミリアに押されて困惑する自分の弟子。 魔理沙は、そんな3人の光景を思い浮かべて苦笑した。 「えっと、春をですか?」 「春を持ってくのは幽々子だけで十分よ…って、あなたは会ってないわよね」 「集めたのは妖夢だけどな」 話が脱線しても、誰も戻そうとしない。春が2人もいれば、伝染もするだろう。 そんな彼女達をもっと脱線させたのは、外からの声だった。 「ごうがーい、号外でーす!」 「まだ寒いのに、あいつもご苦労だな」 呑気に呟く魔理沙。それとは対照的に、霊夢はやれやれと言わんばかりに立ち上がった。 「お、一部貰ってくるのか?」 「境内にばらまかれると、掃除が大変なのよ。適当に貰って、他に行くように言ってくるわ」 それだけ言うと、彼女は冬の青空の下へと飛んでいった。 ほどなくして、うっすらと聞こえてくる弾幕音。 それもしばらく経って止み、霊夢は新聞片手に戻って来た。 「言って駄目なら実力行使、か?」 「魔理沙が言うことじゃないでしょうに。はい、新聞読む?冥界なんかより音速は早そうよ」 差し出された新聞に、魔理沙は目を落とし……。 「……音速が早過ぎるな」 とだけ呟いた。 「春ですよ~……暖かい春ですよ~…くぅ」 「……コタツは春じゃないわよ?」 「新聞紙でもかぶせてやるか? 少しは春度が増すぜ」 《七曜の魔女、熱愛発覚!?》 記録的な大雪の昨日、紅魔館の魔女パチュリー・ノーレッジさんの熱愛が発覚しました。 お相手は、以前当新聞でも取り上げた、外界からの迷い人○○氏(現在霧雨亭在住) 情報提供者の目撃証言によると、博麗神社へと出掛けていたパチュリーさんが、彼に抱きしめられながら飛行していたとのこと。 また、彼は紅魔館へパチュリーさんを送り届け、そのまま一夜を明かした、との情報も寄せられています。 フィルム切れという致命的なミスを犯してしまいましたが、私も翌日の紅魔館前、お二人のキスシーンを一部始終拝見させて頂きました。 お二人の仲はこれで確実だと思われます。 しかし、気になる関連事件が一つ。 昨日湖の上を二人が飛んでいた所、チルノちゃんが二人にいきなり弾幕を仕掛けたそうです。 (3面、チルノちゃん観察日記に弾幕詳細) 実力にこそ差はありますが、彼とチルノちゃんは弾幕のライバル関係と言ってもいいかもしれません。 ここから先は私の推測ですが、真っ向から正々堂々勝負を挑むタイプのチルノちゃんが、不意打ちを仕掛けるとは私にはどうしても思えません。 ですが、お二人の熱々ぶりに嫉妬したチルノちゃんが、その感情に任せて弾幕を仕掛けた……とするなら、全てが繋がります。 また、この三角関係の事実に対して、パチュリーさんの友人にして彼の家主(兼師匠)の霧雨魔理沙さんが、 果たしてどのように状況を掻き回すのかも注目です。 今年は雪が多く、寒い冬になりましたが、どうやらこれからは熱い冬になりそうですね。 文々。新聞は、この恋に関する様々な情報提供をお待ちしています。 情報提供は私、射命丸までお気軽にどうぞ。 ――それから、数年後 「……出来た」 工房で、炉から出した品を見て、ようやく俺は一息つけた。 良品を作ろうとすれば、材料も良い物を選ばなければならないし、手法も難解になる。 ましてや、人生最高となる品を作ろうとすれば、通常の仕事とは一線を画す難易度になる。 何度も何度も失敗し、その果てに辿り着いたその境地……。 ……う、眠気が。 「……やば。少し休憩…」 パチェには、何度も無理するなって言われてたのに。 この癖は、死んでも直りそうになさそうだ……。 数年前から、俺は師匠の家を出て一人暮らしをしている。 卒業なのか破門なのか、はっきりしないままだけど、師匠との縁は色々な意味で切れてない。 修業の結果、技術だけは師匠に追い付けるようになったものの、肝心の魔力量は今も相変わらず。 そのため、今は紅魔館の近くの廃屋を改装して、魔導具職人として生活している。 職人と言っても、ほとんどが独学なので、お世辞にも腕が良いとは言えないだろう。 それでも、パチェの応援と協力もあって、何とか暮らしている。それが本当に、心強い。 ……ん。少し寝過ぎたかも。 眠気で霞む思考に喝を入れ、少ない荷物をまとめて外出の準備を始める。 緊急時と、スペルカード用を兼ねた携帯魔力炉。 パチェから貰った、補助用の魔導書。 仕事用の道具一式。 そして、さっき完成したばかりの最高傑作……。 忘れ物は多分ない。 フランと遊ばされるなら、戦闘用の魔導具一式くらいは持たなきゃいけないだろうけど……あいにく、全品修理中。 まだ日は出てるし、そんなに強い妖怪も出ないから、紅魔館に行くくらいなら十分だろう。 外は相変わらずの銀世界。視界こそ良好だけど、北風は切り裂かれるような錯覚すら覚える冷たさ。 森羅結界を展開して、俺は冬空へと飛び立った。 「だーかーらーブレイジングスターなんて使ったら壊れるって、前に言ったじゃないですか」 「仕方ないだろ、私も背に腹は変えられなかったんだ。ついでだし、今度は壊れないように直してくれ」 ……パチェの図書館で俺は、師匠のホウキを直している。 話を聞く限りだと、美鈴さんを突破する時にブレイジングスターを使い、その反動でホウキを壊したそうな。 背に腹は変えられないって……いつまで経っても寒がりなんだから。 「ちゃんと許可貰えば、そんな強引な方法使わないで済むんですよ。 それに、俺がいなかったら、どうやって直すつもりだったんですか?」 「お前が来なかったら、本を読みながら自力で直してたぜ。 ……ちょっとパチュリーと話してくるぜ。ホウキの修理は頼んだ」 「気を遣う必要はないんですが……」 パチェは、『作業の邪魔になると悪いから…』と言って、自室に篭っている。 止める暇もなく、師匠も部屋へ行ってしまった。 別に、傍で見ていても支障はないんだけど……。 まあいいか。まずは師匠のホウキを直さなきゃ。 ……今回の報酬、何にしようかな。 「パチュリー。気を遣う必要はないって言ってたぞ?」 「いいの。私がそうしたいだけだから」 変わったな、と魔理沙は思う。 以前なら読書最優先のパチュリーが、席を外すなんてしなかっただろう。 本人はいいと言っているのに、敢えてそうする辺り、互いが互いの事を考えているのだろうか。 魔理沙は、本を読むパチュリーの横顔に目を向ける。 真剣な眼差しの中に、幸せそうな暖かみがあった。 彼が居るからか、本の内容によるものなのか。 「なーに読んでるんだ?」 「――っ!!」 魔理沙が肩越しに覗き込もうとした所、パチュリーは凄まじい勢いで本を隠した。 「……え?」 ただ、一瞬遅かった。魔理沙には、解ってしまったのだ。 「魔理沙……見た?」 「お、おう。私が見間違ってなけりゃ…」 魔理沙の沈黙で、その本がどんなものか理解されたと、パチュリーは悟った。 「あ~…何と言うか、お前も運動してたんだな」 「へ、変な言い回しはいいから。まだ確信が持てないんだけど…」 「そう思う根拠はある、ってことか」 その魔理沙の言葉で、ピタリとパチュリーは固まった。何か言おうと口をぱくぱくさせるが、言葉にはならない。 そんなパチュリーを前に、魔理沙は意地悪く笑う。 「あれから何年も経ってるからな。驚いたけど、不思議じゃないぜ?」 「そ、そうよね。本当は、霊夢に聞くべきなんじゃないかって思うんだけど……」 一度目を閉じ、息を吐いて、再び目を見開くパチュリー。 「――魔理沙。私にちょっとだけ、力を貸してほしいの」 「いいぜ。弟子の不始末だしな」 「強度を上げた分、少し使い勝手が悪くなってるかもしれませんけど」 「そうか?私が全力で使って壊れないなら、それで十分だぜ」 「……相当、使い勝手を悪くしなきゃいけませんね」 直したばかりのホウキに乗り、師匠はふわりふわりとホバリングしている。 強度は上げたつもりでも、壊れない保証はない。 元は、修業時代に俺が自分用に作ったホウキで、それを何度も改造してるから、やっぱり限界がある。 「分解して、一から新しく作り直しましょうか?」 「いや、お前が初めて作ったホウキだ。こんなレアアイテム、滅多にないぜ。ま、お前自身はパチュリーに取られちまったけどな」 「ま、魔理沙……私、そんなつもりじゃ」 「解ってるって、冗談だ。私の弟子を、頼んだぜ」 隣で座ってるパチェは、テーブルの下で、見えないようにしっかりと俺の手を握ってくれた。 その気持ちに応えるように、俺も握り返す。彼女は無言で、師匠に頷いた。 「帰られるんですか?」 「ああ。あんまり邪魔するのも悪いしな」 ……はい? 今、師匠何て言った? 邪魔するのも悪い……って。 「変なキノコでも食べたんですか?」 「私は普通の魔法使いだぜ。お邪魔虫になる気は、これっぽっちもないんだ。パチュリー、頑張れよ」 「……ええ。魔理沙、ありがとう」 ドアから出ようとして、師匠は振り向いた。 その表情こそ笑顔だったものの、どこか……怪しい。 「そうそう。今のお前にピッタリな言葉を思い出したぜ」 「な、何よ……」 柄にもなく、横でうろたえるパチェ。 知識なら師匠以上にあるだろうし、論理じゃ揺らがないと思うけど……。 ――師匠も、隠し玉か何か持ってるのか? 「『案ずるがより、産むが易し』だぜ。意味は解るよな?」 「ま、魔理沙っ!!」 「じゃあな2人共。秋を楽しみにしてるぜっ」 それこそ茹ダコの様にパチェを赤面させて、師匠は凄まじい速度で飛び去ってしまった。 ……まあ、あのくらいならホウキも壊れないだろ。 それはさておき。 「何か困ったことでもあった?」 「え、な、何でよ」 「師匠が言ってたし……パチェがそんなになるの、余程のことでしょ」 幻想郷の人々の会話は、たまに意味が解らなくなることがある。 それでも、少々言い回しが妙なだけで、深い話をしていることに変わりはない。……多分。 「……その、さっき魔理沙と話してたことなんだけど…気持ちの整理が出来たら話すわ。 いつかは、話さなきゃいけないことだから」 「ん……そっか。いつか話してくれるなら、それでいいよ」 ゆったりと、時間が流れていく。 静かな図書館は、時間が止まってしまったかのような錯覚すら覚えてしまう。 冷えた図書館の空気の中で、彼女と握りあった手が暖かい。 ――よし。 「あのさ、パチェ……渡したい物が、あるんだ」 「ふふ。それは…左胸のポケットの中に入ってる物かしら?」 「え!?」 意を決して言い出したにも関わらず、予想外の切り返しに素っ頓狂な声をあげてしまった。 それがおかしかったのか、俺の裏をかいたからか、パチェはくすくすと笑っている。 「五行のどの属性にも当て嵌まらないのに、どの属性でも助けられる物質ね。そこまで珍しい物なら、見えなくても解るわ。 ……多分、魔理沙も気付いてたわよ?」 「師匠も…?」 ああ――有り得る。 蒐集癖のある師匠は、レアアイテムに対する感性が尋常じゃないんだ。 「私へのプレゼントだと思って、取り上げなかったのかしらね」 「師匠と言えど、大人しく渡す気はないよ」 正面から力ずくで来られたら、流石に敵わないけど。 「それ、もしかして……賢者の石…?」 「いや、俺が作れたら愚者の石でしょ」 名前は聞いたことがあるけど、流石にそう易々と作れる代物じゃないだろうし。 「そんなに、自分を卑下することないわよ。創ることに関しては、私より向いてるかも」 うーん……まあ、楽しめるってことは、向いてるのかな。 パチェのおかげで、緊張も和らいだし……うん。 「あのさ、目……閉じてくれるかな」 「どうして?」 「笑われたお返し。絶対にびっくりさせるから」 「ふふっ。それじゃあ、期待させてもらうわね」 パチェは静かに目を閉じる。 寝顔のような、そんな穏やかな表情が、とても愛しい。 ――きっと、彼女と過ごす幸せが当たり前に変わる日が来て、 その笑顔さえ見慣れた日々が訪れても―― 俺はそんな日常を守って、一緒に歩いて行きたい。 だから―― 彼からの、初めてのプレゼント。 特に意識しなくても、その事実だけで、表情が緩んでしまう。 気持ちの浮つきは、抑えようとしてもどうにもならない。 態度に出てしまってるかもしれないけど、やっぱり嬉しい。 握っていた手が持ち上げられる。 指にそっと触れる、微かな感触。思わず私は目を開いた。 彼の言った通り、驚くしかなかった。 私の指に、透き通るように微かに輝く、淡い光。 「え…これ、指輪…!?」 「普通の材料じゃ、どうしても属性の相克で、パチェの魔法の妨げになるからね」 特に装飾もなく、宝石類もない、私の名前が彫られただけの指輪。 魔力を精霊に分け与え、代わりに効果を得る精霊魔法。 その妨げにならない材料は―― 「考えたわね。まさか魔力を物質化するなんて」 ――その根源に当たる、魔力そのもの。 「師匠くらいの魔力があれば、時間もかからなかったんだけど……」 物質化に、どれだけの魔力を要するかは、私は解らない。 きっと彼は、相当長い時間魔力を注ぎ込んで、この指輪を作ったと思う。 それに、私への想いも……っていうのは、ちょっと照れ臭いけど。 ただ、その、嵌めた指が……。 「その、言いたいこと…あるのよね?」 「……指輪を贈って言うことなんて、パチェだって想像つくでしょ」 「でも、解ってても聞きたいのよ。きっと、一生忘れられない言葉だから」 ちゃんと、解ってる。私は魔女で、彼は人間。 私達は、生きる時間の差があり過ぎる。 例えどれだけ多くの幸せを、彼がくれたとしても----いつか、彼が弔われてしまう時、私は幸せのしっぺ返しを受けるのだろう。 それでも、その限られた時間の中で、私達と歩いてくれるなら、その幸福を胸に、生きていくことだってきっと出来る。 共に居られなくなった後でも、歩き続けられる強さをあなたがくれるから。 私は――好きになったことを、後悔したくはないから。 「月並みなことしか言えないけどさ、俺は……パチェと一緒にいたいから。 えっと、その……パチェ、愛してる。俺と…結婚してくれないか?」 ぅ……やっぱり、正面から言われると恥ずかしい。 それでも、私の気持ちは固まってるから、もうあの時みたいに泣いたりしない。 きっと私の顔は赤く染まっていて、嬉しくて言葉も出ないけど、それでも、私が伝えられる精一杯の返事を。 ぎゅっと彼の手を握り返し、頷く。 次の瞬間には、彼に抱かれていた。 いつも変わらない、私だけの――彼の温もり。 「ありがとう……」 「パチェも、受けてくれてありがとな。 俺………師匠には何て言われるか解らないけど、パチェより先に白玉楼になんて、絶対行かないからな」 「どういう、こと…?」 だって、私は魔女なのに。それでも……私よりも生きると言うの? 「人であることにこだわらなければ、手段は結構あると思うんだけどね。蓬莱の薬だけは御免だけど」 永遠亭の妖怪兎や、吸血鬼となった人間、仙人と呼ばれる人々。 彼が話してくれた様々な可能性。それらは、人であることを捨ててでも、私と一緒に歩く術だった。 人でなくなるのは構わないの? そう聞くと、彼は迷わずこう答えた。 「人間でなくなってでも、ずっとパチェを幸せにし続けたいんだ。俺にとっては、そっちの方が大切だから」 うぅ、もう……本当に…。 「馬鹿なんだから…」 「バカで結構。どーせ魔導具のない俺は、チルノと同レベルだよ」 「そうね……確かに、そうかもしれないわね」 彼は人の身で生きて、人の身で死んでいく。 その固定概念に捕われて、私は覚悟を決めていた。 でも彼は、そんな概念を無視して、とっくに私と生きる道を見つけていた。 何が正しいのかは、後にならないと解らない。 だけど、彼の答えが間違っていたとしても、私は……。 「……じゃあ、そんなあなたに、宿題でも出そうかしら」 「うわ……この年になって、宿題出されるとは思わなかったな。注文の間違いじゃないか?」 別に間違いじゃない…と思う。 作ってほしいのは同じだから。 「別に何でもいいわよ。宿題でも注文でもお願いでも。今度は…あなたの指輪、作らなきゃいけないでしょ?」 「……あ」 外の世界の本で、読んだことがある。 夫婦の…絆の証、結婚指輪。 ――何故か、彼は固まっていた。もしかして……。 「忘れてたの?」 「…プロポーズすることでいっぱいいっぱいだったから、そりゃもうすっかり」 「……まあ。そんな状況なら、私だって緊張するから責めないけど。あまり、時間かけないでね?」 本音を言えば、私にくれたのと同じ物がいいけど、それじゃ時間がかかるし……。 「時間かけないでって…どうして?」 「実は―――」 彼の耳元で、そっと囁く言葉。 それは、驚かされた分のお返し。 彼にも原因があるんだし、それくらい……いいわよね? 「――本当?」 彼女からの思いがけない言葉に、思わず問い返した。 あまりにいきなり…って訳じゃないけど、これがとっておきの冗談とかなら、きっと師匠辺りの入れ知恵としか思えない。 もしそうなら、なまじリアリティがある分、タチが悪いんだけど……。 「さっき魔理沙にも診てもらったけど、可能性は高いわよ。……心辺り、あるわよね?」 「ま、まあ。どちらかというと、心辺りがあり過ぎr……ごめん」 久しぶりにジト目で睨まれた。やっぱり本当だ。 「そういうことだから。その、あまり時間かけると、式とか挙げられないし」 「あ、ああ。前と違ってノウハウはあるから、そんなに時間は掛けずに済むと思うよ」 パチェの言わんとすることはよく解る。向こうでも、そういう話はよくあったし……。 あまり負担にならないように、早目にしないとな。 「あなたさえよければ、私も……手伝っていい?」 これまた思いがけない、彼女からの提案。 そりゃ、パチェ程の魔力なら、俺一人と比べて相当早く作れるだろうけど……。 「……いいの?」 「あなたの想いの証が、この指輪なら――私の想いの証を、私が作ったっていいわよね?」 そう言って、パチェは笑って左手の指輪を見せる。 一緒に過ごす時間が多くなってから、彼女はよく笑うようになったと思う。 ……それに比例して、レミリアさんに睨まれたり、血を要求されることが多くなった気がしないでもないけど。 師匠いわく、初めて会った時とは比べられないくらい明るくなったとか。 ――俺は、そんな彼女の笑顔と、この日常を守って生きていく。 この身が何に変わってしまっても、 師匠達が、俺達を置いて白玉楼へ行ってしまっても、 俺はパチェの側で一緒に生きて、一緒に幸せになる。 道は永遠じゃなく、とても長いものだけど、いつかは終わる有限の道。 だから、過ごす時間を大切に、一瞬一瞬を輝きのあるものにしていこう。 「ああ――もちろんっ!」 それは、自分のために。 それは、彼女のために。 そして、まだ見ぬ未来の自分達のために。 いつか、歩いた道を振り返った時、その道を誇れるように。 「パチェ……みんなで、幸せになろうな」 「ええ、そうね……」 カシャアっ!! 「「え」」 声が、ハモった。 突然の閃光と、向こうではあまり聞かなくなったシャッターの音。 聞こえた声の方を見渡せば、本棚の間から突き出たレンズ。 間違いない、あれは……。 「文さん……覗き見とは、いい趣味ですね」 「いえ。覗き見じゃなくて、潜入取材ですよ? お蔭様で、いい写真が撮れました♪」 撮影したことで満足したのか、ひょっこりと顔を出す文さん。 正直、かなり殺気を込めて言ったにも関わらず、普通に流されて返される辺り、俺との実力差が知れるだろう。 俺の腕からするりと抜け出したパチェは、両手いっぱいのスペルカードを構えて、文さんと対峙する。 「本当に……うちの猫は、ザルばっかりねぇ…」 「美鈴さんのことですか?今日はお休みのようでしたけど」 多分……師匠のブレイジングスターを喰らったまま、ダウンしてるんじゃないだろうか。 「……まあいいわ。前はともかく、今回は侵入者だし。毎回記事にされてるし。 とっておきの魔法、見せてあげるわ!」 ちらりと、こちらに目で合図。 (行くわよ。援護してくれる?) (もちろん。俺も全力で援護するよ) 「ふふっ。じゃあ是非とも、幻想郷初の夫婦弾幕を撮らせて頂きますね♪」 あ、笑われた。 それを皮切りに、一気に魔力を開放し、何枚ものスペルカードを同時発動させるパチェ。 彼女に追従するように、手持ちの魔力炉を開放し、術の負担を肩代わりする。 代われるのは……3枚分。今更ながら、パチェの能力の高さに気付かされる。 並行して、自分もスペルカードを数枚取り出し、時間差を加えて連続発動させる。 そんな状況下でも、喜々としてカメラを構え、迫り来る弾幕を撮影する文さん。 フラッシュが焚かれ、シャッターが切られる度に、地獄の釜をひっくり返したかのような凶悪密度の弾幕が掻き消されていく。 それでも、弾幕は終わらない。流れ続ける濁流のように、絶えず俺達が展開し続ける。 ひとまず、俺達の魔力が尽きるか、文さんが被弾する頃までは。 ……結局その後咲夜さんが来るまで、疲労困憊の俺達はしっかりと文さんにインタビューされてしまい――― 《あの熱愛カップルが遂にゴールイン!?》 先日、パチュリー・ノーレッジさんと○○氏の熱愛記事を書いてから早○年。 周囲でやきもきしていた方も、行け行け押せ押せと煽っていた方もお待たせ致しました。 この度、お二人が結婚することが私の密着取材で判明しました! しかしながら、紅魔館への潜入取材だったので、完全な取材に出来ないまま逃げなければならなかったのが、心残りと言えば心残りでした。 挙式は後日、博麗神社で行われる見通しで、巫女の霊夢さんの話では『お賽銭○千円で、誰でも歓迎するわ』とのことです。 また、幻想郷の宴会好きな方々もこの期に集まり、当日は晩春の再現と言えるような大宴会になる見通しです。 参加なさる際は、お賽銭と宴会用の料理(もしくはお酒)を持参することをお勧めします。 ここで私からの注意事項ですが、新婦のパチュリーさんにお酒は飲ませないで下さい。 理由は……まぁ、言うまでもないので省略しますが、どうやら3ヵ月だそうです。 理由が解らない方は、当日の式の中で報告があると思いますので、それまで待ってて下さいね。 どうやら幻想郷には、安全もプライバシーもないみたいだ。 魔法はあっても、向こうのような便利さも、快適さもあまりない。 ――それでも、ここには幸せがある。 それは、自分で選んだ、自分が生きる道。彼女と歩む、未来への道。 幸福があるという意味なら、幻想郷はまさに楽園ということだろうか。 少なからず波乱があるにしても、俺の幸福は確かにここにある。 他の誰でもない、彼女の側に。 ・後書きのようなもの 人を愛するなら人のままで。蓬莱人を愛するのなら共に蓬莱人となるか、それとも呪縛から解き放たれるのか。 じゃあ妖怪や魔女を愛するのなら、添い遂げようと願うのなら、どのような答えを見つけるべきなのか。 ……こう書くと硬いですが、要はパチェと一緒に生きるためにはどうするか。それを考えた結果がこれです。 てゐだって長生きして妖怪化したのなら、人間が妖怪になってもいいじゃないですか。(それを仙人と呼ぶのかもしれませんが) 後書きはいつも長くなりがちなので、組み込めなかったネタだけ最後に晒して締めますね。 ・お蔵入りネタ1 「はい。あなた用の指輪、完成したわよ。 日&月符『ロイヤルダイヤモンドリング』」 「いやそれ嵌めれないから」 文花帖のスペカはものすごくタイムリーだったんですよ……。 ・お蔵入りネタ2 「ふふっ。パチュリー様のお子様……♪」 「……小悪魔。その本、読ませてくれないかしら?」 パチェよりも喜んで、たまひよとか眺めてる小悪魔とか。 ・お蔵入りネタ3 「レミィ、今すぐ彼から離れて。さもないと――」 「安心してパチェ。私もちょっと喉が渇いただけなのy」 「……そう、残念ね。 日&水符『ランドリーサイクロン -Full Auto-』!!」 ゴウンゴウンゴウン……。 「せ、洗濯機!?」 「しっかり水洗いして乾燥までするわよ」 本編で伏線張ってたのに回収できなかったからここで。 以上です。乱文失礼しました。
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/610.html
パチュリー13 12スレ目 853 うpろだ896 1月5日 新しい研究テーマを立ち上げることにした。 基礎理論は既に構築しているので、そう苦労せずに結実を見ることが可能だろう。 今日は朝から妙にメイドたちが浮き足立っていた。 もともと騒がしい連中なのに、更に落ち着きがないとなったら、大変な目障りだ。 小悪魔によると、昨晩保護した行き倒れの人間の男が、中々の男前だとの事。 実にどうでもいい理由だった。 小悪魔がニヤニヤしながら「気になりますか? 気になりますか?」とやかましかったので、アグニシャインで燃やしておいた。 1月7日 小悪魔に伴われて、人間の男が図書館にやってきた。 先日助けた行き倒れだとの事。 メイドたちが騒ぐほどの美形ではないように思う。 何か挨拶をしてきたが、面倒なので適当に目礼を返しておいた。 そのまま放っておいたらおもむろに禁書を開こうとしだしたので、慌てて止めに入った。 普通の図書館と魔法図書館の区別がついていないらしい。 結局そのまま図書館を案内することになってしまった。 別に面白くもおかしくもなく済んだが、終始おとなしくしていてくれたのはありがたかった。あまり喋るほうではないらしい。 ただ、魔法についての話をするたびに、一々驚いていたのが印象的だった。 彼が帰った後、小悪魔がニヤニヤしながら「いやあお疲れ様でした」などと言い出したので、あんたの仕事でしょうとエメラルドメガリスで潰しておいた。 1月8日 昨日の男がまたやってきた。 帰らなくていいのかと思ったが、小悪魔によると外界からの迷い人であるとの事。 魔法についての知識がない理由に納得する。 帰る方法が見つかるまでここにいることにしたらしい。 紅魔館は普通の人間が生きていくには少々厳しい環境であるように思うが、一体何が気に入ったのか。 まあ別に私には関係のないことだ。 図書館の使用許可を求められたので、騒がないこと、私の邪魔をしないこと、勝手に本を持っていかないことなどを条件に許可した。 それはわざわざ言うほどのことなんですかと不思議そうな顔をされた。悲しい。 彼は本を持ってきて、読んで、帰っていった。 去り際にまた来ますね、と言ってきたので、そう、と適当に返しておいた。 私としては、私の邪魔にさえならなければ、いてもいなくてもどうでもいい。 小悪魔がニヤニヤしながら、「恋の予感ですか?」とよくわからないことを言ってきたので、プリンセスウンディネで頭を冷やしておいた。 2月13日 今日は特筆すべきことはなかった。研究も引き続き順調に推移している。 無理をして一点挙げるとするなら、○○の姿を今日は見なかったことだろうか。 このところは毎日来ていたように思うが、あまり注意していなかったので本当にそうだったかはよく分からない。 聞いてもいないのに小悪魔が、彼が風邪を引いたらしいということをしつこく言ってきた。私にどうしろと言うのか。 それを問うと、ニヤニヤしながら「またまたあ。わかってるくせに」と意味不明なことを言ってきたので、マーキュリポイズンで沈没してもらった。 2月14日 今日は朝から妙なことを言われ通しだった。 まず起き抜けに顔を合わせるなり小悪魔が「部屋は二階の掃除用具入れの隣ですよ」と言い出した。誰の部屋だ。 朝食の席に行こうとすると廊下で門番と出くわし「酷い風邪だそうで。このたびは大変でしたねえ」と慰められた。なぜ私が大変なのか。 席に着いたら着いたでレミィが「そういえば、あいつの容態はどうだ?」と聞いてきた。私が知るわけがない。 挙句の果てに咲夜が「薬膳を作ったのですが。持っていっていただけますか?」などと言って怪しげなスープを押し付けてきた。自分で持って行けと思った。 妙な臭いに辟易しながら持っていくと、○○はベッドで眠っていた。確かに風邪のようで、高潮した頬や湿っぽい吐息がその症状を伝えていた。 ベッド脇に土鍋を置くと、その音に反応して、一瞬だけ薄目を開けたように見えたが、消耗しているのか、すぐにまた眠りに落ちていった。 看病など柄でもないのですぐに立ち去ろうと思ったが、せめて床に散乱しているシャツくらいは椅子にでも掛けておいてやろうかと手に取ると、 「おう、風邪引いたんだって? 調子はどうだ?」と言いながら扉を蹴破るようにして魔理沙が入ってきた。 しかし魔理沙はシャツを持つ私を見ると急に頬を赤らめ「あー、すまん。これを渡しに来ただけだから。義理だから全然心配しなくていいぜ」と 早口で言いながら、私に小さい箱を押し付けるやいなや「じゃあお前から渡しておいてくれよ。まあなんだ、邪魔したな」と、 困惑する私を尻目に去っていった。 意味が分からないので箱を開けると、「義理 Marisa.K」と白文字で大書されたチョコレートが入っていた。 そういえば、これまでは女所帯なので大して気に留めることもなかったが、今日は確かそういう風習がある日だった。 もっとも、男がいたとしても気には留めなかったと思うが。 それも土鍋の横において部屋を出る。なんだかよく分からないが、まだ朝だというのに異様に疲れた。 図書館に戻ると、小悪魔がニヤニヤしながら「看病イベントですね! これでフラグが立ちましたよ」とこれまた意味不明なことを言ってきたので、 ジンジャガストで薙ぎ倒しておいた。 2月16日 驚愕の事実が判明した。 どうも周囲からは、私と○○が両想いの仲だと思われているらしい。 通りで先日は皆から妙なことを言われると思った。 実際には、私と○○は会話することすらあまり無いのだが、確かに図書館の外から見ると、私に会いに足しげく通いつめているように見えるかもしれない。 良い悪いという以前に困惑せざるを得ない事態だ。実験にも身が入らない。 考えていると、間の悪いことに当の本人がやってきた。もう大丈夫なんですか、という小悪魔の質問に、ええおかげさまで、などと呑気に答えている。 こちらの身にもなってほしいものだ。 ○○がこちらを向いて、パチュリーさん一昨日の朝に来てくれましたよね、と言ってきた。あいまいにうなずくと、きっとあのスープが効いたんです、 ありがとうございますと頭を下げた。 あれは私じゃなくて咲夜が作ったものだと言おうと思ったが、小悪魔がさえぎるように「いやーそうなんですよー、パチュリー様ったら慣れない料理を 一生懸命、○○さんのためにですね」とよどみなく嘘を並べ立てた。○○はそれを聞き、よりいっそう感謝の念を深めたようだった。非常に困る。 彼はまた帰り際に改めて礼を言い、お返しには期待しておいてくださいね、と笑顔を残して去っていった。 小悪魔に目線で非難を送ると、悪びれずにニヤニヤしながら「だって本当に両想いになったほうが面白いじゃないですか」とうそぶくので、 セントエルモピラーで爆破しておいた。 2月28日 どうにも先日以来、○○が来ると調子がおかしくなって困る。 それもこれも、あの両想いだとか何とかいう噂のせいだろう。 何度か否定してみても、誰もが「またまた照れちゃって」という顔をする。まったく信じてくれないのはどういうことだろうか。 小悪魔によると、○○と私は「静かで本好き」という共通点があるため、きわめて「お似合い」であるのだそうだ。意味が分からない。 その○○は今日もテーブルの隅でページをめくっていたが、こんな状況ではその様子が気になって何度も目を向けてしまう。 一度は○○がそれに気づいて目が合ってしまい、慌てて視線をそらしたほどだ。まるでこれでは本当に恋仲のようではないかと、我ながら呆れてしまう。 そういえば○○はこの噂を知っているのだろうか。知っているのだとしたら、それについてどう思っているのだろうか。以前なら気にも留めなかっただろう 些細なことが、なぜか今はとても気になった。 あと小悪魔がニヤニヤしながら「いやあ青春っていいですねえ」と言ってきたので、エレメンタルハーベスターで削っておいた。 3月13日 本を読んでいる○○の元に狐の式神が訪れた。 そろそろ春、隙間妖怪が目覚める時期なので、それにあわせて外界に帰る算段をつけたいとの由。 ようやくと言うべきか、これで私の精神にも平穏が訪れるというわけだ。 しかしあろうことか、○○は狐に、帰るつもりはありませんと言った。 私の心臓はなぜか跳ね上がり、狐も当然驚いたが、私を見ると急ににやつきだし、何かを納得した様子で帰っていった。 そしてまた図書館は静かな状態に戻ったが、私はどうしても気になったので、なぜ帰らないのかと尋ねた。 ○○は驚いたように顔を上げたが、すぐに満面の笑みを浮かべると、僕がここに通うようになって初めてじゃないですか、パチュリーさんのほうから 話しかけてくれたの、などと言い出した。 私はそれを聞くと急に○○を見ていられなくなって、馬鹿じゃないの、と小声で言い、本に視線を落とした。 そのページに何が書かれていたのかは、あまり覚えていない。 後で小悪魔がニヤニヤしながら「あーあパチュリー様ばっかりいいですねー。私もときめきたいですー」と言い出したので、ノエキアンデリュージュで 押し流しておいた。 3月14日 そういえば結局昨日はなぜ帰らないのか聞いていなかったということに気づき、改めて今日聞いてみた。 ○○は悩んでいるようなそぶりを見せたあと、もともと帰るところなんてなかったんです、と少し寂しそうに笑った。 それを聞いて初めて、そういえば私は○○のことを何も知らないということに気づいた。知っていることといえばせいぜい名前くらいだった。 それに気づくと、私は急に○○へ質問がしたくなった。 外界では何をしていたのか。どんな本を読むのか。好きな食べ物は。そのような、まったくどうでもいい疑問は尽きることなく湧き続け、その答えを 得るたびに、私のどこかにある空白が埋まっていくように感じられた。 今日は随分と喋った気がする。今まで○○と喋った分、その数倍を今日一日で喋っただろう。 その間、本は脇に置かれたままだったが、ありえないことに、それはあまり気にならなかった。 最後に、○○は「先月のお礼です」と言って袋包みのクッキーを置いて帰っていった。 おそらく手作りだろうそれを前に私がぼんやりしていると、小悪魔がニヤニヤしながら「いらないんですかー。私が食べちゃいますよー」と 言ってきたので、ラーヴァクロムレクで撃ち抜いておいた。 3月25日 いつになく真剣な目つきの○○がやってきて、何かと思ったら愛の告白をされた。 正直○○本人よりも、「ついにやった!」という顔の小悪魔のほうが強く印象に残っている。 返事は少し待ってほしい旨を告げると、○○は分かりましたと言って、本は読まずに帰っていった。 ○○のいないテーブルは、少し広く感じた。 なんで即断即決じゃないんですかー、と不満そうな小悪魔は無視し、私は考えた。 ○○とは誰か――紅魔館の前で行き倒れていた外の人間。毎日のように図書館へ来る。 私はそれが嫌か――嫌ではない。 では、それは好ましいことか――今はそのように思える。 愛の告白を受けて、どのように感じたか――嬉しかった。 つまり……おそらく、私は○○のことが好きだ。 本当は、こんな問答を行うまでもなく、自分の答えはわかっていた。 ただ、それを認めてしまうのは、少し怖かったのだろう。 何しろ、知識以外の物事に自らをゆだねたことは、いまだかつて全くなかったのだから。 きっと、私には自分から踏み出す一歩が必要なのだと思う。 そう決心して腰を上げると、小悪魔がニヤニヤしながら「行きますか? 行っちゃいますか?」とやたら楽しげに言うので、サイレントセレナで 少し黙らせておいた。 3月26日 小悪魔がニヤニヤしながら「ゆうべはおたのしみでしたね」と言ってきたので、ロイヤルフレアで蒸発させておいた。 6月30日 6月の花嫁は幸せになるという俗説がある。それになぞらえたのかどうかは知らないが、とにかく今日、私と○○の結婚式が執り行われた。 わずか半年前、過去に戻って「お前は来年の6月に結婚する」と言ったら信じるだろうか。とても信じまい。実に隔世の感があった。 ただ隣にいる、慣れない礼服に辟易した様子の○○の存在が、これは夢ではないということを告げていた。 控え室で○○が、言ってなかったけど、ここにお世話になることに決めた理由は、パチュリーに一目ぼれしたからなんだよね、とぽつりと言った。 私はそれに、今更そんなことを言われても困ると思った。これから本番だというのに、恥ずかしくて新婦が新郎の顔を見れないというのでは式にならないから。 結婚式の様子については、多く語ることもない。館のメイドたちやそれなりに多くの人妖が私たちを祝福し、私たちはその祝福を受けた。 式は西洋の作法にのっとって行われた。もちろん神父などというものを呼ぶはずもないが、代わりに紅魔館のエントランスに設けられた高台にレミィが立ち 「おいお前、パチュリー・ノーレッジを妻とし、病める時も健やかなる時も、生涯愛することをこの私に誓え」とものすごく偉そうなことを言っていた。 ○○は私の目を見て笑みを浮かべると、レミィに向かい、誓います、と言った。 その言葉だけで、私は幸せになれた。 ことはそう単純ではない。そもそも寿命も異なるし、今後どうしていくのかということも不透明だ。 ただそれでも、その言葉を聴けただけで、今の私は、これはきっと間違いではなかった、と思えた。 次いでレミィが私にも問いかけた。私もまた、レミィに誓った。 ありきたりな言葉だけれど、きっとその誓いが、二人で生きていくということなのだろうと思う。 そのあと、小悪魔が泣きながら米粒を投げてきたので、花束を叩きつけておいた。 9月30日 今日で結婚から3ヶ月経ったことに気づいたが、生活が何か変わったかというと、実のところそれほど変わったようには思えない。 私は相変わらず図書館で本を読んでいるし、○○もまた、館の仕事をこなしては図書館へとやってくる。 今日、唯一つ違ったのは、○○と二人本を読んでいると、小悪魔が知らない男を連れてきたことだった。 聞けば、彼もまた、○○と同じように外界から来た行き倒れだという。 彼は○○と違ってよく喋り、また屈託なく笑ったが、馬が合ったのか三人で歓談していた。 やがて部屋を案内すると言って男二人は出て行ったが、小悪魔がなんとなく落ち着かない様子で、そわそわと立ったり座ったり、ちらちらと 扉に目線を送ったりしていた。 私はピンと来るところがあり、ニヤニヤと笑みを浮かべながら小悪魔に言った。「恋の予感かしら?」 反撃はなく、ただ小悪魔は酷く赤面した。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 12スレ目 887 退行したぱっちぇさん。 「ねぇねぇ○○」 「どうしたのパチュリー」 「あのね、お本読んで~」 「あ・・ぁ良いよ、ささ、ベッドに行こうね」 「○○~」 「なあに?」 「お本てね、食べられるの?」 「美味しくないよ」 「じゃあ食べない」 「うん」 「・・・でした、おしまい」 「ありがと~○○~」 「今日のお話は面白かった?」 「ん・・・わかんない、でも」 「でも?」 「○○が読んでくれたから、面白かった気がする~」 「そうかい、それはよかった・・・ ところでパチュリー」 「?」 「ぎゅってしたいのは良いが腰に抱き着くとポジション的に」 「そ、そ、そ、そそそそそこまでですぅ!」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 12スレ目 970 うpろだ925 「うう……」 口から言葉が漏れると同時に無意識で本を開く手が止まった。 集中して読んでたはずなのに、思わず呻いてしまうようなこの匂い。 いや、匂いそのものはまったくもって問題ない。 甘くていい匂いだ。 ……だから問題なのはその量。甘い匂いがこれはありえんだろうというくらいに充満している。それも紅魔館中に。 そもそもこのヴワル図書館にまで届くような匂いってどういうことだ。 しかし本来このことにお怒りになられるはずであろうパチュリーはというと、今回はこの匂いを生産する側。 お嬢様、妹様、中gもとい美鈴さん、咲夜さんも同様だ。 加えて紅魔館で働くメイドの数を考えれば……いややっぱありえない。どう考えてもおかしい。 一体どれだけの数の『チョコレート』がこの紅魔館にあるというのだろう。 想像することすらもはや不可能っていうか想像したくない。 流石は悪魔の館というべきなのか。なにか間違ってる気がするけど。 ――今日の日付は2月14日。つまるところ完全無欠にバレンタインデーだった。 「つってもなあ」 一体なんで幻想郷に外の世界の行事なバレンタインデーがあるのかとかはこの際おいとく。 しかしこっちであるからといっても俺にはさほど関係が無い。 確かにこっちに来て女の子の友人がやたら増えたが、まあ義理チョコ一個くらいもらえれば御の字と思ってるし。 本命? ははは、ばかだなあ。そんなの天地がひっくり返ってチルノが⑨じゃなくなるくらいありえない。 もう期待すらできなくなった俺の外での経験に涙がでそうだ。 く、くやしくなんかない! ……でもパチュリーが生産する側ときいたからちょっとだけ期待もしてたりもする。 どっか矛盾してるけどしょうがないよね、だって男の子だもん。 本を片手にニヤニヤしながらそんな事を考えていると、扉を開ける音が俺の意識を妄想から引き上げた。 目を向ければそこにはパチュリーと小悪魔の姿。 ……と同時に、館に充満していたであろう甘いをとおりこして甘ったるいチョコレートの匂いが襲ってきた。 「あががががが」 「○○? どうしたの」 「あ、いやなんでもない」 「? ……そう。じゃあ小悪魔、準備して」 「はいー」 平素状態そのままに、そう言って奥に飛んでいく小悪魔。 つかなぜこの強烈な匂いに気付かないんだ皆。感覚が一時的に麻痺してんじゃと思わざるを得ない。 救いといえば、パチュリーが後ろ手に持っているものからの匂いはここまで強烈ではないこと。 「…………」 「…………」 そして小悪魔が準備している間。 その間ずっと身体をソワソワしさせているパチュリーから断続的に俺に視線が飛んできていた。 視線が合うとそらされ、だけど恐る恐る戻して、しかしまた合うとそらす。 普段では絶対にお目にかかれないパチュリーの姿に俺はもう狂喜乱舞しそうです。キャッフー。 これはいいんですよね、期待してもいいんですよね!? 少なくとも義理はもらえるはず! しかしそんなことはおくびにも出さず平静を装う俺。 そして気付いたときにはすでにお茶会セットは準備完了しており、俺とパチュリーは向かい合うように席についていた。 とりあえず、目の前の適温に温められた紅茶を手に取り一口飲む。 ……嗅覚の影響をうけたのか、なんだか甘い。 「あの、これ……」 お互いに紅茶を飲んでいたがやがてパチュリーの方がカップをおいた。 陶器がかち合う音と同時に、すっと俺の方に小さな包装された箱が差し出される。 「あ、これチョコ?」 「ええ。……今日は、そういう日なんでしょ? 貴方は整理とか手伝ってもらってるし、本の扱いも丁寧だし、もってかないし……」 言葉を探しながら色々と理由付けしようとするあたり、らしいといえばらしい。 可愛いなあと思ったがどこぞのギャルゲー主人公のように口にだしたりはしないぜ。 「食べてみても?」 「……うん」 顔がニヤケるのを必死で抑え込みながら、包装を丁寧に剥がしていく。 この包装もところどころ曲がってたりしていたが手作り感がまた非常にグッドです。 箱を開けてみると中に入っていたのは一個のチョコレート。 ……しかしですねパチュリーさん。ハート型ってのは、こう、気恥ずかしいです。はい。 向こうもそうなのか俺が箱を開けた瞬間に俯いてしまった。耳まで真っ赤にして。 とりあえずこのハートのチョコを真っ二つに割ってしまうというバッドエンドフラグを回避すべく、端っこを少しだけ割る。 そして口の中に放り込んだ。 ……。 …………。 ………………。 「どう……?」 無言でいた俺に不安を抱いたのだろう。 恐る恐るといった感じで聞いてきたパチュリーに、俺は新たに割ったチョコの欠片をパチュリーの口の中に突っ込むことでその返答とした。 「んむ!?」 最初は一体なにを! と眉がつりあがっていたが咀嚼するにつれてだんだん眉がさがっていく。 俺の言わんとしていたことがわかったのだと思う。 そうして、こくりと喉を小さく鳴らした後 「ニガイ」 言ってから紅茶に手をつけた。 それを確認してから、俺もまた紅茶に手をつける。 チョコそのものの出来は全然問題ない。むしろかなり良いと言っていい。 しかし如何せん、苦すぎた。ビターというよりはド・ビター。つまり凄く苦い。 まあ、この甘ったるい空気の中なので俺には普通のビターより少し苦いくらいにしか感じなかったのだが。 同じものを食べたパチュリーの感想は違っていたようで。 「ごめんなさい……」 ひどく申し訳なさそうに言ってきた。 ついでにちょっと涙目。 俺の冷静な部分は「涙目のパチュリー。なんてレア……!」とか思ってたりもするが大部分では大慌てだ。 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!? その時。 8割がたパニックになりかけな俺の目に飛び込んできたのはティーセット一式。 ――これだっ! そのひらめきのままに、新たに注ぎなおされた紅茶に多めの砂糖とミルクを入れる。 パチュリーの紅茶にもおなじことをして例のチョコを割り、二欠片つくって片方をパチュリーのソーサーに置く。 そして俺の奇行に向けられるじと目はとりあえず無視してチョコを再び口に放り込んだ。 「あ……」 小さな声が聞こえたような気もしたけどそれも無視。 口の中で砕かれたチョコが熱でゆっくりと溶け、苦味が広がっていくところにさっき作った甘めのミルクティーを含む。 すると二つの味がちょうどいいかんじに混ざり合っていって―― 「ん。うまい」 素直な感想が口から出た。 俺がそう言うと、確かめるようにパチュリーもおなじようにしてチョコを食べる。 するとこちらも少しだけ驚いた顔で 「……おいしい」 と言った。 まあやった事といえば、苦ければ甘いので打ち消せいいというそれだけの事なのだけれど。 今回の場合はそこにミルクが加わったことで、砂糖の尖った甘さがマイルドになったのだ。 チョコの出来はいいんだし。口当たりの良さは抜群だった。 ともあれ、僅かな変化ではあるがパチュリーも笑顔を浮かべてくれているみたいだしよかったよかった。 涙目なパチュリーも可愛かったけれど。 やっぱり……その、好きな人には笑っていて欲しいし、そっちの方が断然イイ。 改めてそう思いながら俺は手に持っていたカップを静かに置いた。 「チョコ、ありがとな」 「どういたしまして」 はにかみながらも笑顔を向けてくれたパチュリーに、思わず赤面しながらそれを誤魔化すためにまたチョコを一欠片口に入れる。 口の中に広がる苦味を感じながら思った。 ――まあ、こんなバレンタインも悪くないかな。 ……後日、図書館中に染み付いたチョコの匂いにパチュリーが遅れて激怒した。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 13スレ目 216 「―ゴホッ、ゴホッ」 「……やれやれ、またか」 ここ何日か、パチュリーが俺をつけ回してる。 いわゆるストーカー、なのだが…… 「また発作だな?ほら、背中さすってやるから」 「ゴホッ……あ、ありがとう……」 「なあ、もうやめたら?俺は絶対浮気なんかしないし、 何よりパチュリーにはストーカー向いてないって」 「……だって、貴方を他の誰かに取られたらと思うと、私……」 体力がなく、動き回るのになれていないのに 外をついてくるもんだから、 発作を起こしたり日射病で倒れたり。 何度介抱したことか。 「せめて、小悪魔に代わってもらうとか……」 「……あの子が一番心配なのよ、ゲホッ、ゴホッ……」 こりゃ図書館に住み込むしかないかな、などという俺の思いをよそに、 今日もパチュリーはついて来るのだった。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 13スレ目 221 「……エヘヘ……○○とこんな感じでこう」 「なあ、パチュリー、なに読んでるんだ?」 「ちょ、見ちゃ駄目!……ハァハァ」 「寂しいなあ……。?……鼻血!おい、マジでなに読んでたんだよ!」 「証拠を……隠滅しなきゃ……」 「そんなことより早く安静に!ただでさ「大丈夫。ちょっとくらっと来ただけ……あれ?」 「どうした」 「本がない……」 「大事なものだったのか?よし、探してきてやる!」 「あ、ちょっ」 「ここにありますよー!!!!!」(小悪魔) 『放課後の淫魔な図書館』 「え?なにそ「そ、そこまでよッ!!!」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 13スレ目 239 じー…… パチェ「…………(読書中)」 むにっ パチェ「……………何?」 いやなんでも パチェ「…そう……(読書再開)」 むにむに パチェ「…………」 愛してるぞ 「……そう」 パチェ可愛いよパチェ ─────────────────────────────────────────────────────────── 13スレ目 255 ふと思った 身長180オーバーの俺からしたら、幻想郷の女の子はみんなちっちゃいのだ 勿論想像だが、イメージ的に長身なのは師匠やこまっちゃんぐらいなものだと思う そこでその体格差を最大限に活かし、パチュリーを膝の上に座らせたい 椅子の上に座った俺の膝の上に、パチュリーが腰掛けるのだ 「これ1冊しかないから・・・」とかわざわざ言って俺の上に腰掛けてくるパチュリー 座ったはいいものの慣れない据わり心地にもぞもぞするお尻から伝わるバイブレーション 視線を下げればすぐそこにある絹糸のような紫の髪とそこから漂うフレグランス じっと見ている視線に気づいて「何よぅ」と見上げてくる不機嫌そうな瞳 それを塞ぐようにぎゅっと抱き締めて、半ば強引にその唇を・・・ …どうしてパチュリーは現実にはいないんだ ヤらしいこととかしなくていいから、一日中腕に抱いて過ごしていたいよぅ ─────────────────────────────────────────────────────────── 13スレ目 335 図書館にて―― パ「また来てたの?」 ○「ああ、ここには面白い本がたくさんあるからね。ほとんど読めないけど」 パ「そう。はい、コーヒー」 ○「お、ありがと」 パ「…………ぼそっ(日符『ロイヤルフレア』)」 ゴボゴボゴボッ ○「うあっちぃ!?」 コトッ パ「えー?」 ○「ふーっふーっ、あー熱かった。てかなんで急に熱くなったんだ?」 パ「なんでこぼさなかったの?」 ○「本のある場所で飲物をこぼすようなことはしないって。それよりいたずらしたのパチュリーだろ」 パ「ここにある本は飲物くらいかけられても問題ないしズボンにこぼしたコーヒーを拭きながら だんだんとアレな雰囲気になって○○とそこまでよ! なことしたかったのに」 ○「それが目的か」 パ「えーと、積極的に○○とアバンチュールする方法は……」 ○「おーい、そこは消極的にだろー」 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1304 ものすごい轟音と共に現れた普通の魔法使い 「パチェ~。今日も借りに来たぜ~っと。○○じゃないか」 パチェはやれやれ。といった目つきで魔理沙を眺める。 が、特に動く気は無いらしい。いつもの事。といった感じで。 「魔理沙。パチュリーの…というか紅魔館の苦労も考えような」 「いやいや○○。これは私の道だ。邪魔はさせん」 そう言って魔理沙は俺の頭を撫でる 「邪魔をする気は無いがなぁ。パチェの苦労を考えたら、一声掛けといたほうがいいな、と」 「○○。魔理沙は基本的には何を言っても無駄よ。何かを言って帰るようなら苦労はしない」 その言葉に魔理沙が食いつく 「また私を馬鹿みたいに言いやがって」 「違うの?」 「私は馬鹿じゃないぜ。図書館に寄って本を借りる勤勉な魔法使いだ。なぁ○○?」 あながち間違えでは無いが、借りるってとこがどうもパチェには気に食わないらしい。 「借りる借りるって、いつ返すのよ。そろそろ取り立てに行くわよ?」 「別にいいぜ?返却する義務はいつも課せられてないからな。お前が捕まるだけだ」 「何よそれ。勝手に取って行ってる貴女が言えるセリフなの?」 ピリピリした空気が流れる。そして俺空気。 「な…なぁパチェ。少し落ち着け。魔理沙も。な?」 「それもそうだな。○○に落ち着けと言われて、落ち着かなかったら良いことが起きない」 「いつも落ち着かないで事を悪いほうに進めてるのは貴女だけどね」 「なんだと」 更にピリピリとした空気が流れる。なんだ?今日はパチェの機嫌が悪いのか? 「パチェ。落ち着けって。なんか今日変だぞ?」 「…○○。魔理沙の事を追い返しておいて。私はちょっと自分の部屋に行くから」 「俺に任されても…」 「いいから」 「…はいはい」 これはさっさと魔理沙を帰してパチェと話す必要がありそうだな… 「なぁ魔理沙。今日は勉強もいいが休む日にしないか?いつも勉強詰めじゃあ疲れるだろ」 なんとなく変な空気と分かった魔理沙は今日は食い下がる 「…あぁ。分かった。今日は勉強と趣味を慎む日にするぜ。じゃあな」 そう言って素直に帰る魔理沙。小悪魔はドアの修理に早速取り掛かっている 「小悪魔?」 「なんでしょうか」 そう言ってこっちを見る 「パチェ、今日機嫌悪かったみたいだけど…なんか知ってる?」 「いいえ。なんででしょう?魔理沙さんが来るまでは、いつもどおりの用に見えましたが」 「だよなー。まぁちょっとパチェのところに行ってくるわ。いつもすまないが修理頼んだ」 「はいはい。パチュリー様の部屋に行ってもお話だけにしてくださいよ」 「なんだそのジョークは」 俺は苦笑いし、ドアの修理を小悪魔に任せてパチェの部屋に向かう。 「どうしたんだろう…」 本当に何なのか分からないままパチェの部屋の前に止まる。 そして一呼吸置いてノックする。 「誰?」 「○○だけど」 「…いいわよ」 そう言われ俺は部屋に入る。 パチェはベットに寝転がっている。その横に腰を掛ける 「で、何よ?」 「いや、今日どうしたのかな。って」 「別に何でも無いわ」 「そういうときに限って絶対なんかあるんだよな」 そう俺が言うとパチェが黙る 「どうしたんだよ。言ってくれなきゃわかんないぞ?」 「あんまり言いたくない…というか、ちょっと考えれば分かるわよ…」 そう言われ、俺はパチェの機嫌が悪くなったと思われる行動が、何かあったか考える 今日は図書館に来て、そろそろ図書館を仕舞おうかなー。 って思ってるときに魔理沙が来て、俺が注意して、魔理沙がさり気なく反論しながら俺の頭を撫でて 俺が微妙に突っ込みを入れた後パチェが怒って… …そういうことか、パチェ。可愛いやつめ 俺はパチェの頭を撫でる 「あぁもう可愛いなぁパチェは。俺が魔理沙に撫でられたくらいで怒って」 パチェは顔を赤くして枕に頭を埋める。やはり図星か。 「だって…私の大好きな○○が魔理沙に撫でられたら…」 「ちょっとしたことでヤキモチを焼くのが、お前のまた可愛いところなんだなぁ。パチェ。好きだぜ」 そう言うとパチェはのっそりと起き上がり、俺に抱きいて、ベットに一緒に倒れる 「今日はなんか凄い積極的だな」 俺は笑いながら言う 「だって久しぶりに○○が好きって言ってくれたんだもん。私も大好きよ。○○」 パチェも笑顔で返す そんな甘甘ムードの中ベットで二人が寝転がっている 俺がパチェの顔を見つめると目を横に反らす そこで顔を徐々に近づけて… コンコン 二人ともビクリと体が動く ガチャリ 「小悪魔です。パチュリー様。ドアの修理が終わりました…っと」 俺が小悪魔の顔を反射的に見ると、この世のものと思えないほどニヤニヤしている 「へぇー…へぇー。お取り込み中でしたか。へぇー。」 いやらしく笑いながら小悪魔は言う。 「では、失礼致します。パチュリー様」 パチェは口をパクパクさせ、目は泳いでいる。 小悪魔が帰ろうとするが、後ろからでもニヤニヤオーラが出てるのが分かる。 そりゃ、あんなシーンを見せたらな。 ガチャリ。とドアを閉め、小悪魔が出て行った 「…はぁ。見つかっちゃったな」 小悪魔にばれたらちょっかいを掛けられる。と常々言わていたが、まさかこんな所を見られるとは。 「でも、まぁ見つかっちゃったんだから、これからは堂々と図書館でもイチャイチャできるわね。しないけど」 「ま、そうだな。見つかったんだからしょうがないな」 俺とパチェは楽しげに笑う。 「○○。さっきやろうとしてたことは、結局無しになったの?」 パチェは目を閉じて言う 「いやいや。そんな分けないだろ」 そう言ってキスを交わす 「もうせっかくだしこのまま寝ちゃう?」 「う~ん。まぁそうだな。時間も時間だし」 魔理沙が趣味を働く時間は大抵真夜中だ。 「じゃあ髪縛ってるのはずしてくるからちょっと待ってて」 「あ、俺はずすよ」 そう言ってパチェを後ろに向かせてそれをはずす 「はい。とれたよ」 「有難う」 「相変わらず、髪。凄い綺麗だな」 「○○に撫でてもらえるように髪を綺麗にしてるから…」 「そんなことをしなくても、パチェは可愛いさ。俺もお前にもっと好かれるように、格好良くならなきゃな」 「大丈夫よ。○○は、世界で一番私の好きな人だし、世界で一番格好良いから」 二人とも、ウフフ。と遠慮がちに笑う 俺はパチェの髪を撫でながら眠りに付く。 朝起きて、腕が痺れててもまぁ良いか。それは幸せな痺れだと分かっているから。 ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/trail-blazer/pages/18.html
/ `ー、_ 〈 ヾ 、 `⌒\ _ヽ____ ノ | \ r‐く f´ ̄ > >‐―ト、二´_ノ / | ∨ く_´/⌒V-―vく⌒ヽ、 { /⌒V \ ヘr、___x'´ └、___| i l ! / l l l `7 ヽ. く \ 名前 :パチュリー・ノーレッジ | l l | _」__/ | ;イ ナ ァ | Tーハ \ \ ジョブ:錬金術師 "⌒ヽ、ハ|/xく /' x.マ"rリ| | !. \ ヽ、 l ハヘリ ゞ''| l | /lフ´ヽ. | レベル: 2 ./ / ハ' '''' | l ,/ | ソ 戦力 : 12 / / ;> 、`’,. ィ_,,| / |/ ! ./ / ノ^ヘ r'⌒./ /、 | スキル: / / にフト、フ / / l∨ | 【博識】 いろいろ知っている. 〈 ト、 レ/レ'/ /‐r. 〉 ! 【魔法Lv1】 基礎的なマナ管理、魔法生物の精製、 ヽ /〈. /// / -、 Tソ | マナの探知、攻防魔法などが使える。 V ‐く //、{ / | i 【火符「アグニシャイン」】 く/ 「ノ| 〉′/ >rイ , 「 フr''"| ! ≪大魔法≫儀式ターン、フィールド上のFOEをファイヤボルトで攻撃 /77 { 7 く/ ヘ_〉 V⌒ヽ| | 使用マナ*20戦力のダメージを与える。 r‐「^/// / / / /| | | /7 |.///l / / / ,' | | | 感情: .//7./// ! { ,′ i / | | | やる夫に忠誠3 ///'///にフトく ' rく. | | | 約束: .///,〈〈〈_/ トノ く_/ ト、ゝ | | l 直接戦闘に参加しない \\.\\l ! | | ハ. ', ! \√にfV ハ / / '、 | く_/^フ′ }/ ,′ ヽ ; | `^/ / | | V |