約 2,287,742 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4611.html
言うやいなやテーブルの真ん中に、俺達の目線程の高さでホログラムの正六面体(つまり正確な立方体)が現れた。 大きさは大体谷口の頭位で、『辺』が仄赤い光の『線』によって、『面』は薄いブルーで色付けされていた。 藤原はそれを一瞥もせずに、 「これは縦、横、高さによる三次元の姿だが、現在の世界は、まずこのような次元体系によっては作られていない」 「どういうこった」 「それを今から説明すると言っている」 ペン先を正六面体に向けて 「……次元というものがどのように変貌したのかを、今から九曜の作り出した立方体を用いて説明する。形というのは理論の塊だ。この正六面体の変化は、何が、どうなって、どうなったかを一瞬で表していく。しっかり見ておいて欲しい」 すると正六面体からは赤い『線』が消え、次に『面』が全部下方へと落下し、中に入っていた『光』が拡散した。そして『面』が一枚浮き上がり、立ち上がった姿で停止し、 「これが現在の世界を形成している理論の元となる概念だ」 「つまり、今は二次元だけしか存在しないってのか?」 「いや、これは二次元じゃない。単位で表すなら一になる」 「だって面じゃないのか。一次元は線だろう」 「これは面とは違うんだ」 「じゃあ何だってんだ」 「正方形だ」 ああ、なるほどね。屁理屈じゃねえか。 「屁理屈なんかじゃない。が、理屈でもない」 藤原はつぶさにテーブル上の正方形を指しながら、 「これは言わば『紙』のようなものだ。現在の世界は次元ではなく、これを基にした理論によって作られている」 「まさか、それこそが時間平面なのでしょうか? そして、この世界はそれが連なることによってつくられていると」 「当たらずとも遠からず、ってところか。これはまだ時間平面ではなく、その素体となる『平方時間体』だ。これを連続させることによって、僕たちの世界の姿が浮かび上がってくる」 テーブル上の『正方形』が一枚二枚と並んで数を増やし、何百枚にもなったところで全てがピッタリとくっつき、立方体を作り出した。 「これが現在の世界の体系だ。これは一見すると三次元に見えるが、この姿は『平方時間体』の連続によって作り出されている、いわば紙が束ねられて出来ている『本』のようなものだ。僕たちはこれを平方時間連続理論……称して〈STC理論〉と呼んでいる。そして、この理論の元となる平方時間体は次元とは異なる全く新しい概念の形だ。そのため、STC理論は言葉だけでは理解が困難なんだ」 ――なんかこの話、どっかで聞いたような気がするな……? 「そして『紙』に情報を与え、それを連続させることで現在の世界は作られている。これが時間平面理論であり、つまりこの世界はアニメーションのようなものだという話だよ。そして、アニメで主人公がトランプを引く場面があるとしよう。この場合、どんなカードを引き当てようとも、カードを引くまでの動作は変わらない。主人公がどのカードを引いたかというのが分岐点だ。この連続した情報のことをSTCデータ……この場合は、スクエアタイムチャプターデータの略称で呼んでいる」 STC理論に、STCデータ…………。 ――そうだ。四年前、二度目の時間遡行での七夕。あの時、長門が変えちまった世界について大人の朝比奈さんから説明を受けた時に出たワードだ。そのうち解る……それは、今だったのか。それに、 「なあ長門。お前は、世界がこんな姿になっちまってるってのを知ってたんじゃないか? 何で教えてくれなかったんだよ」 話しかける俺に長門はなにやら訴える眼差しで、 「……情報統合思念体には次元の変容は認識出来なかった。何故なら、時間や空間の概念が殆ど意味を成さない情報統合思念体にとって元々次元構造は不可知の領域であり、知る必要もなかったから。しかし思念体は現在の時間連続体である世界は偽であると理解し、物理法則は公理的集合論によって形成されていると判断していた。それは涼宮ハルヒの情報操作能力が矛盾した理論であったために既存の物理法則が崩壊し、公理を成さなくなったものが発生したため。しかし、無矛盾な公理的集合論の中にいる我々はその矛盾を証明する術を持たず、また思念体の性質上、数学以外の数学を用いての説明も出来なかった」 「つまり?」 「事情により知らなかった」 大変分かり易くてよろしい。だが、何で長門たちも解らなかったようなことを藤原は知っているんだ? 「TPDDの基礎理論の違いだよ」 藤原は俺と朝比奈さんを交互に見やり、 「……STC理論によって成立する時間平面理論を基にした時間平面破壊装置とは違い、時量子理論という理論によって僕たちのTPDDは駆動していたからだ。ちなみにこの二つのTPDDの基礎理論は、同じ人物から生まれている」 「つまり、ハカセ君か」 「ああ。川に投げられた亀を見た少年は、水面に広がる波紋を見てSTC理論を、そして、流れる川を泳ぐ亀の姿によって時量子理論を生みだしていたんだ。が、そんなことはどうだっていい。今から話す上での重要なポイントは、世界人仮説によって判明した現在の矛盾の正体……時空改変能力と情報創造能力、そして時空の断裂と『朝比奈みくる』の正体だ」 俺にとって亀の話は中々の衝撃的な出来事だが、 「確かに、それについて話を聞いた方が良さそうだな。時空の断裂以外が全く意味不明だ。時空改変能力と情報創造能力は別物だってのか? それに……」 俺は困惑の表情を浮かべっぱなしの朝比奈さんを見て、 「……朝比奈さんが、何だってんだ」 「まず、先程の次元体系が壊れた理由だが、あれを壊したのは誰だと思う」 相変わらず間髪入れずに話し出す藤原に、 「……涼宮さんでしょうね。そして、もしやそれが起こったのは……四年前では?」 古泉が割り入ってくる。よし、後はまかせたぞ。藤原は古泉に頷くと、 「そう。簡単に言えば、四年前に涼宮ハルヒは時空間を固定してしまったんだ。時間と空間を、断続的な平面へとね。この能力こそが時空改変能力であり、佐々木も持っていた能力だ。そして時空の『面』が『平方時間体』となって世界を作り出した。が、このままでは世界は成立しない。九曜が作っている『平方時間体』を見てくれ」 またもや正方形が現れ、 「これは僕たちの世界を構成していた『次元』ではない。しかし、STC理論で成立している現在も、以前と変わらない世界を維持している。それは、今まで世界を構成していた要素がなんらかの形で今も存在しているからなんだ。それがなんだか分かるか? 朝比奈みくる?」 「えう……その……」 怯む朝比奈さんをよそに、古泉が、 「……かつて世界を維持していた法則は、時の流れを操り世界を思うがままにし、情報や質量を生み出す一つの『力』に統合された。つまり、これこそが情報創造能力の正体なのですね? そしてその力は涼宮さんに付加され、彼女が時空を歪ませている原因となった。時空改変能力と情報創造能力が別のものであるというのは、つまりそういうこと……。なるほど、創造する力とは別の力が時空の隙間に発生する閉鎖空間を作りだしているから、情報創造能力を持たない佐々木さんにも閉鎖空間が発生していたのですか」 「そうだ。そして、時空の断裂は簡単だ。世界が次元によるものとSTC理論によるものとに分断され、過去と未来で時空が変わってしまったために、二つの間に非可逆的過程が発生してしまったんだ。一つ付け加えるなら、僕たちのTPDDが現在使用不可であるように、時間平面破壊装置は次元の中では成り立たない」 「そりゃ何でなんだ? 別に時間平面を破壊しないだけじゃないのか?」 「時間平面破壊装置が動作しないのは、単純にエネルギーの問題だ」 「えっ? エネルギーですか? TPDDにその概念はなかったと思いますけど……」 藤原はハァと溜息をつき、朝比奈さんを「うう」っと動揺させやがってこのやろう。 「僕たちのTPDDのエネルギー理論は永劫機関による無限のエネルギーが元で、時間平面破壊装置のエネルギー源は、情報創造能力によって生み出される無限のエネルギーだよ。次元にはその力が存在しないため、時間平面破壊装置は起動しないんだ」 ……待て、そりゃおかしいぞ。 「じゃあ朝比奈さんたちのTPDDは、能力が発現する以前にはどうやって動いてたんだ?」 「えと、そのぅ……わたしは実際に過去に行って任務を行っていたわけではないので……よくわかりません」 いやー藤原に言ってみたんですけどね。正直、朝比奈さんは良く分かってなさそうだったし。 それに、藤原は朝比奈さんについてさっき言い含んでいたよな? やっぱり、朝比奈さんには何かあるんだろうか。 「朝比奈みくる側の未来人は、過去になど行っちゃいないさ」 とんでもないことを言い出した。 「それより、まだ話しておくべきものがある。何故、僕たちは未来から時間平面破壊装置を使って現代まで来れたか分かるか? それは、僕たちの時間平面にも情報創造能力が存在しているからだ」 「……まさか、何百年もハルヒは生きてるのか?」 「それはない。情報創造能力は、涼宮ハルヒとは別の人物に移って存続しているということだが、それが誰なのかは不明だ。……これは相当危険な状況でもある」 何故だ、とは言わんがな。勝手に喋り出すだろうしさ。 という俺の予測どおりに、 「もし能力が勝手に消滅してしまえば、下手すると世界が崩壊する可能性がある。それにもし崩壊しなかったとして、能力発現以降と以前の世界が完全に分断されてしまうのは確かなんだ。こうなってしまっては、僕たちが過去に行けず、調整しなければならない歴史に干渉できなくなってしまう。だから、涼宮ハルヒの能力によって世界を調整した上で、能力を消す。つまり次元体系を元に戻さなければならないんだ」 「ああ、そうかい。大体今までの経緯は分かった。お前の話であと残ってるのは……」 ――ここでキョドキョドしている朝比奈さんについてだ。 「僕の未来はちゃんとした物理法則に基づいて成立している。おかしいのは、STC理論が影響していて、不明の情報想像能力が存在するという点だけだ。これは全ての未来の次元自体が変容しているからしょうがない。そしてこちらの未来の場合、次元理論に戻ったとしても不都合は生じない。が、朝比奈みくるの未来は違う。物質に依存しない世界など物理法則的に有り得ない。それは、エネルギーが無限であるから成立するんだ。つまりこれは……」 目を若干細めながら朝比奈さんを見つめ、 「――僕たちが正しい未来人の姿で、朝比奈みくるは《涼宮ハルヒが夢に見た虚像の未来人》だということだ。そうだろう? 朝比奈みくる。キミの未来はまだ理論的に色々不十分すぎる。だからは簡単な情報操作すら出来やしない。人型端末の情報操作能力は高次の理論であり、僕たちはそれに足る理論を持っているから、初歩的な情報操作なら造作もない。そして無意識概念集積体については解析が進んでいるため、それが作り出す位相空間にも干渉出来る。わかるか? キミは本来なら存在するはずのない未来人で、キミの規定事項は世界を崩壊させないようにしているだけの行動だ。キミの上層部は未来人の本質を理解しているから、例え自分たちが消える結果になろうとも僕たちに協力している……はずだったが、心の底は違ったのかも知れないな」 「そ、そんな……わたし……わたしは―――?」 蒼白しながら茫然自失とする朝比奈さん。俺だって気持ちは分かる。突然知らされるには衝撃的過ぎる内容だ。だがな…… 「……だからなんだってんだ」 「…………?」「……ふぇ?」 一驚したように俺へと視線を向ける未来人二人に対し、 「それこそ、意味のないクダラン話だ。そりゃ、ただ家族の中で一人の里親が違っているだけのようなもんだろう。確かに正直ショックではある……でもそれだけじゃねえか。俺たちがこれからやることは何にも変わらん。あんたらの未来に縛られない、自分たちの未来を作っていくことにはな。それに、俺たちは仲間なんだ。たとえ誰にどんな事情があろうが、全部受け入れてやるさ」 俺の言葉を受けた藤原はお手上げだといわんばかりのポーズを取り、 「……はっ。僕が言っているのは、その一人が家族を捨てて、自分の故郷に帰る道を選ぶかも知れないということだよ」 「…………わたしは、みんなと――」 哀しそうな目で訴えてくる朝比奈さんに見つめられながら、俺は、この朝比奈さんならきっとSOS団と共に歩む道を選ぶであろうと感じた。 少なくとも……大きい方ではなく、この朝比奈さんは。 「ふん……まあいい。とりあえず、僕が今回君たちに情報を渡したのは規定事項だ。それでなければ、わざわざここまで赴いてこんな席に着きはしない。が、佐々木。キミには言っておきたいことがある」 「なんだい?」 微笑みかけながら応答する佐々木に、藤原は予想だにしない言葉をかけた。 「……今回の騒動についてはすまないと思っている。悪かった。僕個人としては、キミには同情すら覚えるよ」 「それは何故かな? 同情されるいわれはないと思うがね」 あくまで明朗に答える佐々木に、 「……よく屈託もなくそんな言葉を吐けるな。キミは、涼宮ハルヒに彼を奪われたようなものじゃないか」 佐々木は目をつぶってふるふると否定の動作をし、 「それは違うと思う。臆病なだけだったゆえの僕の責任を、彼女になすりつけようとはてんで思わないね。それに、むしろ涼宮さんは僕を助けてくれたんだと思っているよ」 「何故だ?」と藤原は言い、俺たちもそう思いながら佐々木に注視していると、佐々木はにこやかに、 「涼宮さんには、自分の願望を叶える力があると言っていたね。そしてきっと彼女は、僕と同じ悩みを抱いていて、それを解決したいと思っていたはずだ。そのおかげで、僕はその同じ悩みを解決出来たんだと思う。こんな出来事でも体験しなければ、僕はずっと自分の悩みにすら気付かなかっただろうからね。肝心の彼女がまだ悩みの中にいるのが、むしろ心苦しく思うよ。キョン。涼宮さんを救えるのは、キミだけだ」 ……そうか。わからんが、もちろん助けるとも。 しかし、それは俺だけじゃないぜ。長門も古泉も朝比奈さんも、みんなでハルヒを守ってく。それに佐々木、まだ閉鎖空間でのお前との話も済んじゃいないしな。俺は列席した皆に提言するように、 「……もうここらで解散にしないか? 大体みんな話は終わったよな。古泉、俺と佐々木は二人で話しておきたいことがあるから、先に朝比奈さんと長門を連れて帰っててくれ」 「ええ。では参りましょうか。橘さんと周防さんもご一緒に」 スタスタと古泉に連れられて女性四人は席を去っていく。朝比奈さんは俺に深々とお辞儀をして、パタパタと駆けていった。……なんだかその集団、まるで古泉に騙された女性たちがこれからイカガワシイ場所へ連れて行かれているみたいだぞ。 とか思っていると、未だに残っている余計なヤツが、 「ふん。もうこれで僕とキミが会うことはないだろう。僕の規定事項はこれで終わった。あとは、君たちの規定事項に従うことにする。僕は、君たちが正しい未来を導くように祈りでもしておくよ」 じゃあ餞別がわりに一つ聞いておこうかと俺は、 「藤原。物質的なTPDDってのは、つまり俺たちが思い描くような分かり易いタイムマシンなんだろ? 一体そりゃあどんな形をしてるんだ? ひょっとして、アダムスキー型とか、ハマキ型だったり」 「キミの名前は……キョン太郎だったな。キミは浦島太郎でも読んでおくといい。あの御伽噺は時間遡行の話だ」 ここには三本毛お化けの親戚じみた名前のヤツはいないはずだが、もしこれが俺に言われた言葉であれば、俺は藤原と相撲を取らなきゃならん。……つまり、張り手くらわすぞコノヤロウ。 俺が藤原にビンタでもしてやろうかと考えていたとき、 「……そうだな、一つ教えといてやる。キミは鶴屋家の山である金属棒を拾ったはずだ。あれは僕たちのTPDDの中枢を成す部品でね。精神感応型独立回路制御装置という語感のもので、これは周防九曜などの人型端末を制御する際の髪飾りの材料になる物でもある。この金属棒の情報構成にはわずかな空白があるため、そこに情報を入力することで、人型端末を制御する媒体へと変化させるんだ。入力する情報は『花』の名前に圧縮され、花言葉の意味が金属棒には付加される」 ここまで言うと藤原は肩をすくめ、 「まあ、あれは自意識を持つ端末に付けた所で効果は期待できない。能力は制限されるが、自分で髪飾りを取ってしまえるからな」 背を向けて歩き出した藤原は、そう言いつつ手を振りながら店を去っていった。 ……思えば、アイツの話は俺たちの助けになるような内容が多かった気がする。 それに漠然とではあるが、長門や朝比奈さん、古泉たちが俺とのファーストコンタクトの時に語っていた、ハルヒについての見解がある意味で全員正しかった感じだ。しかし…… なんだ? 何か、妙に引っかかるものがある。藤原の話を良く理解しているわけではないのだが、それでも、俺の頭の中で組み合わさらないものがある。とても重要な―――― 「……解らんものを考えたってしょうがないな。なにかあるのなら、そのうち向こうからやってくるだろ」 そう自分に言い聞かせながら、何故か…… 俺には、眼鏡を掛けた長門の顔が思い浮かんでいた。 第四章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/557.html
第1章 ―春休み、終盤 結局俺たちは例の変り者のメッカ、長門のマンションの前の公園で花見をしている …はずだったのだが、俺の部屋にSOS団の面々が集まっているのはなぜだ? よし、こういうときはいつものように回想モード、ON 「我がSOS団は春休み、花見をするわよ!」 ハルヒの高らかな宣言を聞き、俺は少し安心した 春といえばハルヒの中では花見らしい もっと別のものが出てきたらどうしようかと思った ま、原因はさっきの古泉が付き合う付き合わないとか言っていたせいだろう 春は恋の季節と歌った歌があったからな 「お花見…ですか?」 ハルヒの言葉に北高のアイドルにして俺のエンジェル、そしてSOS団専属メイドの朝比奈さんが反応した 「そ、お花見。言っとくけどアルコールは厳禁だからね!!」 アルコール厳禁を宣言するだけなのに何がそんなに楽しいのか、ハルヒの笑顔は夜空に栄える隅田川の打ち上げ花火のようにまばゆい光を放っていた 「わぁ…あたしお花見って初めてで…すごく楽しみ」 対抗意識を燃やしたわけではないだろうが、それに負けじと朝比奈さんの笑顔も春の花畑を優雅に舞う蝶が羽休めのためにチューリップに静かにとまったかのような清楚な微笑みだった 「このメンバーでお花見とは、楽しくなりそうで僕も楽しみです。」 ハルヒに従順なイエスマン、古泉も相変わらず微笑をうかべたまま反対しようとはしない もちろん長門はというと寡黙なその視線を分厚い文庫本に注いでるだけだ と、いうわけでSOS団お花見計画は満場一致で開催が決定された しかし、春休みに楽しい予定が入ったからといって時間の流れというのはその時間を頭出ししてくれたりはしない 目の前に立ちはだかるでっかい問題をどうにかするのが先だった そう、すべての学生の不倶戴天の敵 ―もうわかるだろう、奴の名は学年末テストだ どうにかしようとは思っていても結局至極当然のように放課後になると俺はここ、文芸部の部室にいるわけで、それは鳥が空を飛ぶように、魚が水の中を泳ぐように足が部室をめざすのだから仕方ない このままだと俺がリアルにハルヒの力によってではなく、俺の力不足によって1年生をループすることになるのですべてのプライドを捨て、部室でネットサーフィンしてばかりの我らが団長様に教えを請うことになった ハルヒはこんなのもわからないのといった表情で、それでいて勉強しているというのにどこか楽しそうで、それでも親切丁寧に俺に勉強を教えてくれた しかも、教えるのがやたらうまい 俺のバカ頭で、見ただけで頭が痛くなりそうな数式を頭を痛めつつだが、なんとか解けるまでにしてくれた なるほど、だからあの眼鏡の少年は将来タイムマシンに準ずるものを開発してしまえるのか だから画家にはならないでくれ もう二度と俺のモンタージュを書かないように、と思ったのは余談だ なんやかんやで学年末テストでは学年でとまではいかないがクラスで5本の指に入るくらいの点数を叩きだすことができた 担任の岡部もびっくり仰天だっただろう ハルヒ様様だ テストが終わればあとは春休みを待つばかりで俺はwktk…じゃなかった、期待して到来を待った 春休みまでの数日で俺が古泉にボードゲームでかなり勝ち越したことも付け加えておこう ―そして 春休み初日 天気予報で今年の桜開花予想を聞いたハルヒは終業式の日のうちに本日の集合を決めていた その場で話し合えばいいのにハルヒはいちいちみんなで集まりたいらしい その点に関しては俺も異論はないが なので俺がめずらしく一念発起し、たまには俺以外の―そうだな、古泉辺りが理想だが、 他の団員に喫茶店代を出させてやろうと思っても俺含むすべての団員がハルヒの願いによって操られるためいつでも最後に到着するのは俺だ なぜハルヒが俺におごらせたいのかは謎だが というわけで結局いつもの喫茶店に俺たちはいるわけだが1ついつもと違うことといえば長門が2つの合宿以外で見せなかった制服ではない私服姿でいることだ 淡い水色のワンピース その寒涼系のコーディネートはひどく似合っていて何かあるのかと勘ぐった俺の思考を一瞬止めた しかし、勘ぐったのは束の間、長門から特に特別な表情は読み取れなかったため特異な理由があるわけではなく、 ただたんに長門が‘そうしたかったから’このワンピースを着ていると悟った俺は「よく似合っている」の一言で片付けることにした ハルヒはというと春というより夏に近い格好で、ノースリーブシャツにキュロットといった服装 愛しのマイエンジェル、朝比奈さんはタートルネックにスリットの入ったロングスカートとこれまた何ともそそる格好をなされていた 蛇足だが古泉はワイシャツにジーパン、そのうえにスプリングコートを羽織っていた それが道行く女性の視線を集めたのはいうまでもない 「今年の開花予想は4月3日だって。例年より早いらしいけど、地球温暖化の影響によって東京の桜はかなり早く咲くらしいの。 それを考えると騒ぐ程のことではないってテレビでいってたわ」 温暖化云々と地球環境問題のことを聞くと危惧するべきだろうが、俺は正直、ホッとしていた 学校が始まってからの開花だったらどうしようかと考えていたからだ これもハルヒの力によるものかもしれないのだが 「と、いうわけでキョン、場所取りお願いね、ちゃんと前の晩から徹夜するのよ」 さらりととんでもないことをぬかしたハルヒは穏やかな笑顔で俺を見つめた 仕方なく反論を用意した 「確かに場所取りは重要だがいくらなんでも一人で徹夜はひどいだろう、せめて…」 せめて古泉も道連れにと言い掛けたところでハルヒが口を開いた 「誰も一人で行けなんていってないでしょ?大丈夫」 そのあと、ハルヒは南極に白くまが、北極にペンギンが住み、地球の自転、公転が逆になっても耳を疑うようなことを言った 「あたしもいくわよ」 と、いうわけで何度かの市内探索パトロールを経て、4月2日夜、ハルヒに呼び出された俺は変り者のメッカの例の公園でハルヒとともにブルーシートを広げ、場所を確保している さすが変り者のメッカというべきか他にも数ヶ所で場所取りの人材が場所を確保している ちなみにハルヒが場所取りを立候補したのは「あんただけに今年の1番桜を見せるわけにはいかない、むしろあたしが見るべきよ」というものだった 次の日の昼頃に他の連中が来てドンチャン騒ぎをしたのだがハルヒが「やっぱり花見は満開のときがいいわね」と言ったため本日4月5日にもう一度花見が割り当てられたのだったが ―雨 一言で片付く事象で花見は中止 なぜかSOS団は俺の家に集まっているといった状況になっている 回想モード、終わり 第2章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1880.html
どうしたんだろう。舌がなんだか縮こまっちゃって、うまく話せない。 「ね、ねえキョン。その、つまんない疑問なんだけど、さ」 「うん?」 こちらを見るキョンの様子がおかしい。明らかに心配そうだ。そんなに今のあたしはひどい表情をしているのか。 「こないだ、なんとなく深夜映画を見てたのよ。それがまた陳腐でチープなB級とC級の相の子っぽい、つまんない代物だったんだけど」 「ふむ、そりゃまた中途半端につまらなそーな映画だな。しかしハルヒ、あまり夜更かしが過ぎるとお肌に悪いぞ」 「うっさい、話を混ぜっ返すなっ! …でね、その映画ってのが、途中で主人公をかばってヒロインが死んじゃうのよ。でもって墓前に復讐を誓った主人公が敵の本陣に乗り込んで、クライマックスになるわけなんだけど」 べたりと汗のにじんだ手の平を握りこんで、あたしはキョンに訊ねかけた。 「もしも。もしもよキョン、あんたが言った通り映画の主人公がトラブルを乗り越えて行くべき存在なら…ヒロインが死んじゃったのって、それって主人公のせいなのかしら…?」 あたしがその質問をした途端、キョンは「あ」と小さく声を上げた。苦虫を噛み潰したような表情になって、それから、ゆっくり口を開いた。 「おい、ハルヒ。分かってるとは思うが、さっき俺が言ったのは『物語を客観的に見ればそういう考え方も出来る』って程度の話だぞ」 うん、そうよね。それは分かってる。 「脚本家やらプロデューサーやらの都合じゃヒロインが死ぬ必然性はあったかもしれないが、それは当然、主人公の意思とは無関係だ」 それも分かってる。けど。 「だいたい、自分が活躍するためにヒロインが死ぬ事を望むヒーローなんか居るかよ。もし居たとして、そいつはヒーローなんかじゃない。 だからその、何というか。要するに、俺はお前を責めるつもりであんな発言をしたわけじゃないってこった。単純にお前にトラブルを乗り越えてく覚悟があるかどうか確かめたかったっつーか、なんとなく意地悪な質問をしてみたかっただけというか。 大体ここまで人を巻き込んどいて、いまさら遠慮とかされても逆にだな」 「分かってるわよそんな事ッ! だけど…」 そう、分かってる。分かってるのよ。キョンの言い分は全て理にかなってる。こんなに声を荒げてるあたしの方が、きっとおかしいんだ。 でも。それでも! 「でもやっぱり、主人公が英雄的活躍を求めた結果として、ヒロインが死んじゃった事には変わりないじゃない!? あたしは、そんなのは嫌…。あたしのせいでキョンが居なくなるなんて、絶対に我慢ならない事なのよ!」 ああ、言ってしまった。直後に、あたしはそう思った。 それは言いたくなかったこと。認めたくなかったこと。でも言わずにはいられなかったこと。 「――北高に入って、あたしの日常はずいぶん変わったわ。毎日がとても楽しくなった。中学の頃なんかとは段違いに。 あたしはそれを、自分が頑張ったおかげだと思ってた。SOS団を作って、不思議を追い求めて。前に向かってひたすら走ってるから、だから毎日楽しいんだと思ってた。 昨日まで、ついさっきまで、そう思ってたのよ! でも、違った。本当はそうじゃなかった…」 「何が違うんだ? お前が日常を変えようと努力してたって事なら、俺が証人台に立ってやってもいいぞ? その努力の方向性が正しかったかどうかは別問題として」 この湿った雰囲気を変えようとでもしてるのだろうか、軽口っぽくそう言うキョンを、あたしは鋭く睨みつけた。 「だから、それよ! 気付いちゃったのよ、あたしは、その事に!」 「意味が分からん。いったい何に気付いたっていうんだ?」 「あんたが、あたしの背中を見ていてくれるから! だからあたしは走り続けていられるんだって事によ!」 気が付くと、あたしは深くうつむいていた。今の表情を、キョンの奴には見られたくなかったのかもしれない。 「中学の頃だって、あたしは走ってたのよ。日常を変え得る不思議を捜し求めてね。でもあたしはずっと一人で…息切れとか起こしたって、それに気付いてくれる奴は誰も居なかった…」 「…………」 「あの頃と今と、何が違うのか。 今のあたしが前だけ向いて、心地よく走り続けられるのは、それはあたしの後ろで、あたしの背中を見続けてくれる奴が居て…。もしもあたしが転んだとしても、すぐにそいつが駆け寄ってきてくれるっていう安心感の後ろ盾があるからだ――って…気付いちゃったのよ…」 喋っている間に、いつの間にか立ち上がったキョンが、すぐ前に立っていた。あたしはうつむいたままだからその表情は分からないけど、腕の動きから察するに多分、さっきぶつけた後頭部をさすっているんだろう。 「ありがたいお言葉なんだが、お前にそう殊勝な事を言われると、驚きを通り越して寒気がするんだよなあ。 ともかくハルヒよ、別にそれは俺だけの話じゃないだろ。朝比奈さんや長門や古泉、その他もろもろの人がお前を支えてくれてる。俺なんかパシリ役くらいしか務まってないぞ」 「そうよ! あんたはみくるちゃんみたいな萌えキャラでもないし、有希ほど頼りになんないし、古泉くんほどスマートでもないわ! せいぜい部室の隅に居ても構わないってくらいの存在よ!」 「やれやれ、俺はお部屋の消臭剤か」 なんで、あたしはこんなにイラついてるんだろう。どうしていちいちキョンの言葉に反応してしまうんだろう。 あたしの不愉快さは、それはもしかして…不安の裏返しなの? 「そう、あんたは特に取り柄があるわけでもない、ただ単に手近な所に居ただけの奴だったのに! そのはずなのに! でもあの春の日に、あたしの髪型の変化に気が付いたのはあんたで…その後もあたしの事を一番気に掛けてくれるのはあんたで…。 いつの間にかあたしは、あんたに見られる事を意識するようになってた…。あたしがこうしたらあんたはどんな反応するだろうって、それが一番の楽しみになってた。 あんたが変えちゃったのよ、あたしを! もうあの頃のあたしには戻れないのよ! それなのに、あんたがあんな事を言うから…」 ああ、失敗。失敗だ。 うつむいてしまったのは大失敗だった。確かに表情を見られはしないけど、にじみ出てくる涙をこらえられないんじゃ、意味がない。 「あんたが…人間なんて明日どうなってるか分からないとか言うから…。だからあたしは、こんなに不安になってるんじゃない!」 あんまり悔しくって、あたしは涙に濡れた顔を上げ、再びキョンの奴を睨み据えていた。 つい先程聞いた有希のセリフが、また胸の奥でこだまする。 『彼の言っていたのはある面での、真理』 『価値観は主に相対性によって生ずる。最初から何も無かった状態に比して、あるはずだったものをなくしてしまった時の喪失感は、絶大』 今なら、その意味が分かる。 あたしにとってあるはずのもの、そこに居てくれなければ困るもの。それは、キョンだったんだ――。 「もし…もしもあんたを失っちゃったら、きっとあたしは今のあたしのままじゃいられない…。何度も何度も後ろを振り返って、おちおち前にも進めなくなる…。 そんなの嫌! そんなのはあたしじゃない! だから、あたしは!」 こんな事を言ったら、キョンはきっとあたしの事を軽蔑するだろう。そう思いながらも、でも一度ほとばしった罪の告白は、途中で止められるものではなかった。 「あんたをここへ、ラブホへ誘ったのは、なんとか励まして元気付けたかったからっていうのは本当。 でもあたしにはあたしなりの思惑があって…。あんたが目の前に居て、あんたに触れる事が出来る内に、あんたとしておきたかった…。 あんたがあたしと一緒に居たって証拠を、心と身体に刻み込んでおきたかったのよ! 悪い!?」 はあ。 言っちゃったなあ…あたしのみっともない本音を。 キョンの奴も、さすがに愛想が尽きただろう。いつも偉そうぶってるあたしがこんな、ただの利己主義で動いてるような人間だと知ったら。 キョンの反応が恐くて、あたしはギュッと固く目を瞑って、肩を震わせる。そんなあたしの耳に、キョンの呆れたような声が届いた。 「やれやれ。男冥利に尽きるお言葉ではあるんだが、願わくばもう少し可愛げのある言い方をしてくれないもんかね」 「………は?」 「いや、訂正しとこう。可愛げのあるハルヒってのは、やっぱりどうも薄気味悪い。少し横暴なくらいがお似合いだな」 「な、なんですってぇ!?」 あたしの本気を茶化すような、あまりといえばあまりの雑言に、あたしは思わず目を剥いて、キョンの胸倉を掴み上げてしまう。 すると、キョンの奴は悪びれもせずにあたしの目を見つめ返し、子供をあやすようにポンポンとあたしの頭を叩きながら、こうささやいた。 「なあ、ハルヒ。ひとつ訊くぞ?」 「…何よ」 「お前は、俺に消えていなくなってほしいのか?」 「なっ、このバカ! 今までなに聞いてたのよ、その逆でしょ!? あたしは、あんたと…」 「だったら、つまんないこと心配すんな」 え、と顔を上げたあたしに、キョンは驚くほどキッパリと言い切ったの。 「お前が望んでる限り、俺は、ずっとお前の傍にいるはずだから」 ――まったく。 まったくもう、なんでこいつは。 普段は優柔不断の唐変木ののらくら野郎のくせに、こういう時だけは断言できたりするのだろうか。 不覚にも、ぐっと来てしまったじゃないか。 不覚、不覚! 涼宮ハルヒ一生の不覚! 気付けばあたしはキョンの胸にすがりついて、ボロボロに泣き崩れていた。さっき流した悔し涙や、不安と寂しさで流した涙とは全然違う、それは頬がヤケドしそうなくらい、熱い、熱い涙だった。 次のページへ
https://w.atwiki.jp/meteor089/pages/15.html
涼宮ハルヒの憂鬱 涼宮ハルヒの憂鬱 ハルヒ×キョン作品 涼宮ハルヒの憂鬱 その他CP作品 涼宮ハルヒの憂鬱 ストーリー作品 涼宮ハルヒの憂鬱 日常系ほのぼの作品 涼宮ハルヒの憂鬱 カオス・ギャグ作品 涼宮ハルヒの憂鬱(個人サイトSS) 戻る
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2895.html
(※ これは谷口探偵の事件簿の続きです) 古泉は店内をくまなく見回しつつ、カウンター席の椅子に足を組んで腰かけた。 俺はキザったらしいその仕草を横目で眺めつつ、古泉がここに現れた真意を推し量っていた。もしかしてこの国木田店ごと消失事件には、『機関』がからんでいるのか? 「不満げな顔ですね」 俺の脳内の混乱を見透かしているように、古泉はカウンターに肘をついて微笑んだ。 おい古泉。これはお前ら『機関』の仕業なのか? お前と国木田とが知り合いだったことは意外だったが。それはともかく、お前は分かってるんだろ。なぜ国木田が店ごと消えてしまったのか。 「『機関』の仕業ではありませんよ。ご心配なく。それと、僕は当事者ではありませんので詳しい事情までは分かりませんが、理由なら知っています」 教えてくれ。どうなっているんだ、これは。ワケが分からない。 古泉は足を崩し、笑顔のまま俺の顔を覗き込んできた。 「あなたは、いつだったか僕に言いましたよね。余計なことは知りたくない、立ち入った事情を聞いてしまったら面倒事に巻き込まれかねないと」 愉悦を感じているような表情で「知りたいんですか?」と言うと、古泉は再び足を組みなおして背筋を伸ばした。 やっぱりこれは『機関』関係の出来事だったのか。 「我々が直接関わっているわけではありませんよ。『機関』はあくまでも、当事者の関係者、という立場なだけです」 知りたいか知りたくないかと問われれば、その答えはとっくに出ている。あの日、涼宮ハルヒや古泉一樹と初めて出遭った時からずっと。俺は知りたいと思っていたんだ。何故こうも都合の良い偶然が起こるのか。 たとえば手品には必ずタネがあると知りつつも、観客はその仕掛けが理解できないから、まるでマジシャンが魔法を使っているかのように見える。魔法は不可思議で理解不能なものだ。理解できないものの原理を知りたいと思うのは人間の持つ当然の欲求だろ。 海で台風に巻き込まれた時、更にその欲求は強くなっていた。 大型台風に巻き込まれたのも高潮に呑まれたのも不幸な偶然だったね。まいったまいった。で納得できるほど俺のおつむは腐っていない。残念ながら魑や魅や魍や魎なんてものを信じるほどアニミズム信者でもないから、あの高潮が妖怪海坊主の仕業だなんて信じているわけでもない。 俺は余計なことを知って面倒に巻き込まれるのが嫌だったから、敢えて理性でそれを拒否していたのだ。探偵はいかに厄介事に巻き込まれないよう逃げおおせるかが腕の見せ所だしな。怪しい事には、興味本位で首をつっこんだりしないものなのさ。 だが今は違う。 国木田とはもう、10年近いつきあいだ。一番の親友ともいえるあいつが、突如として消えてしまった。探偵なんて肩書きでどうこう語るつもりはない。これは完全プライベートの問題だ。探偵という前提なしなら、俺の言うべきことは最初から決まっている。 教えてくれ、古泉。国木田に、何があったのか。 さて、と呟いて古泉はしばらく考え込むように構え、やがて俺を諭すように話し始めた。 「谷口さん。あなたは、運命というものを信じますか?」 運命? 唐突だな。どういう意味合いの運命だ? 「文字通りですよ。この世の森羅万象は、すべからく決まったシナリオ通りに時間軸上をトレースするように動いている、という意味です。あなたと僕がここで話をしているのも、あなたが明日のこの時間に何をしているのかも、すでに定まっている。運命論的に言えば、そうなりますね。偶然というものはこの世に存在せず、必然だけで宇宙は出来上がっているということです」 バカバカしい。俺は無神論者なんだ。宗教の話ならお断りだぜ。運命? 今の時代、そんなこと言うのは頭の煮えくり返ったバカップルだけで十分だ。 「宗教的な意味で言ったのではないのですが。まあいいでしょう。あなたのおっしゃる通りですよ。この世に運命なんていうものは存在しません。蓋然だの運命だのというものは、過去の事象を説明する上で都合がよいから使われているだけの言葉です。この世に存在する全てのものは、偶然が積み重なって出来上がっているのです」 おい、ちょっと待ってくれ。なんだか話が妙に方向に向かっていないか? 俺は国木田がどうしていなくなったのかを訊いているんだ。お前の形而上の屁理屈を尋ねているんじゃないんだぜ? 「おや、これは失礼しました。では前置きはとばして、単刀直入に結論だけ申し上げましょう」 国木田さんは、未来からきた未来人です。と言って古泉は笑顔で足を組み替えた。 一瞬、言葉につまった。未来人? はて? もしかして、筑波の未来市のことを言っているのか? 「あなたもドラえもんは知ってますよね。国民的な漫画ですから。あの作品に出てくるドラえもんは、22世紀からやってきたネコ型ロボット、という設定でしたっけ?」 ですよねって。まさかお前、国木田が未来の世界からやって来たヒューチャー人間だって言いたいのか? んな馬鹿な! 「馬鹿な? あなたは僕が、あなたをからかうために与太話をしていると、そう言いたいわけですか? ユーモアは大切だと思いますが、僕も冗談を言って良い時と悪い時の区別はつけられるつもりですよ」 そういうわけじゃないが。いきなり未来人とかドラちゃんとか言われても……。ねえ? 「あなたの気持ちはよく分かりますよ。突然、未来から過去の世界である現代へ人間がタイムトリップしてきたなんて言われても、常識人なら疑ってかかるのが当然です。僕があなたの立場だったとしても、同じことを言っていたでしょうね。しかしあなたは既に腹をくくっているはずです。そういう思惑があって、僕の話を訊く気になったのではないんですか?」 まあ、な……。既に俺は自分の理解を超えた出来事に巻き込まれ、それらの裏事実を知るために古泉に教えを乞うたんだ。 「僕の話を信じる信じないは、話を全部聞いた後で判断しても遅くはないんじゃないですか?」 悪かったよ。もうお前の話の腰を折ったりしない。最後まで話してくれ。 「分かりました。それでは、再開しましょう。国木田さんは未来から現代へ時間を遡ってきた未来人だと話しましたが、まずはその目的から話しましょうか。彼が未来からこの時代へやってきた目的は3つあります。一つは……ええと、あの人の名前はなんていいましたっけ。ニックネームはキョン、でしたか? 彼の動向の観察。二つ目は涼宮ハルヒの観察。そして三つ目は、朝比奈みくるの監視です」 俺が約25年間培っていた常識の範疇を大きく超える設定話が、古泉の口から次々とこぼれ出る。漫画か小説の話でもしてるんじゃないかと錯覚しそうになるが、これは100%純正の真実なんだ。たぶん。確証はないが。 ところで古泉。一つだけ訊きたいことがあるんだが、いいか? 素朴な細かい疑問だ。お前の口ぶりからするに、国木田はその3名の行動を見守るために未来からやってきたんだろうが、キョンとハルヒに対しては「観察」で、朝比奈さんに対しては「監視」なのか? 「そうです。監視です」 「話をここで一番最初に戻しましょう。運命は存在するかどうか、の話の続きです。あなたも僕も、この世に運命などというものは存在せず、世界の行く末は定まっていないという認識で一致しましたね」 もしかして、国木田が未来人であるということを前提に運命論から話を始めていたのか? 「すいません、回りくどい説明で。とにかくこの世に定まった唯一の未来なんていうものはなく、未来というものは無限に変化する可能性があるということをまず伝えたかったものですから」 まあいいや。続きをたのむ。 「何度も言いますが、未来は何通りにも派生するものです。たとえばあなたが昨日、ここに財布を忘れなかったら。僕が気まぐれにここへ足を運ばなかったら。あなたや僕がここを訪れる時間がずれていても、あなたと僕がこうして出遭うことはなかった。こんな話をすることもなかった。つまり、そういう小さい偶然がいくつも積み重なって、今という現在が形成されているわけです」 シュレーディンガーの猫的な話で行くと、たとえば宝くじを買った場合に起こりうる未来としては、 宝くじを買う → ① 当選していた→金融機関へ引き出しに行く→当選金GET! → ② 外れていた→「やっぱ当たるわけねえか」と呟いて券をゴミ箱へ捨てる という感じか? 「そうですね。未来というのは、そこに到るまでのファクターによって千差万別に変容するのです。つまり何が言いたいかと言いますと、国木田さんが未来からやって来たといっても、彼がいた未来とは、今のこの世界と直結した、確定したものではないということです。なぜなら、未来というのは起こりうる些細な要因の一つ一つによって簡単に変化してしまうものだから」 ちょっと待て。国木田が未来から過去へきていたんだとしたら、俺たちが存在している今の時間と国木田のいた未来の世界の時間は今のところつながってるってことだろ。もしそのつながりが外れたら、どうなるんだ? 国木田のいた未来は消えてなくなってしまうのか? 「分かりません。僕はこの時代に生まれ育った人間で、時間の原理のことは未来人から小手先程度に聞きかじった知識しか持ち合わせていないものですから。ただ、未来自体が消滅することもあるし、何事もなく存続する場合もあるようですね」 何故だ? 未来ってのは過去があって初めて成立するものだろ。過去とのつながりが絶たれたら…… 「未来には無限の可能性があると言いましたよね。未来は唯一絶対のものではない。あらゆる可能性が、並行世界という形で派生していくのです。同じく、我々が存在するこの世界にも、無限のパラレルワールドが存在するのです。ですから、我々の存在する時間との関わりが途切れたからと言って、未来世界が消滅するわけじゃないんですよ。それも場合によりけり、ですが」 ちょっと待ってくれ。頭が混乱してきた。小難しい話が続くからな…… 「では、少し話を戻しましょうか。あなたの質問です。国木田さんが朝比奈さんを監視するためにこの時代に来ていたという件ですが、率直に返答しますと、朝比奈さんも国木田さんと同じく未来からきた未来人だからです」 少なからず俺は動揺した。朝比奈さんが、未来人? 「ややこしい話ですが、それも彼女は、国木田さんとは異なる未来からきた未来人です。いわば、国木田さんと朝比奈さんは互いに並行世界の住人同士、ということになりますね」 ははは、と古泉は控えめに笑った。え、どういうこと? 「国木田さんが生まれた世界。朝比奈さんが生まれた世界。両方の世界は交わることのない並行世界なのですが、この我々の時代において共通する重要な事項があります。それは、キョンというニックネームの彼と、涼宮ハルヒが結婚するということです」 はあ? なんだそりゃ? いきなり話がSFXから身近などうでもいいようなものに飛んだな。男と女が結婚することなんて、今も昔もこれからも普遍的にありえることで特筆することじゃないと思うんだが。 「そうです。彼と涼宮さんの入籍については何の問題もありません。世界中どこにでも一般的な事柄です。重要なのは、その後です。2人の間に一人の男の子が生まれます。その男性は大人になって博士号を修得するのですが、その男性によって、時間移動の原理が発見されるのです。されるというか、僕もそれは聞いた話ですから、あくまで伝聞であることを念頭においてくださいね」 なるほどね。それで国木田や朝比奈さんのタイムトリップが可能になってくるというわけか。 キョンとハルヒの子どもがねえ。ずいぶんとスケールの大きな話じゃないか。 キョンとハルヒ……? じゃあ朝比奈さんは? キョンがつきあってるのは、ハルヒじゃなくて朝比奈さんだぜ? キョンは近い未来、朝比奈さんと別れるってことか? 「そこが問題なのです。国木田さんによれば、国木田さんのいた未来世界では、この時代に朝比奈みくるという人物が存在したという記録はないそうなのです。つまり国木田さん側の未来にとって、朝比奈みくるはイレギュラーということですね」 嫌な予感がよぎる。胸騒ぎを感じながら、キョンは朝比奈みくるのアパートの階段を駆け下りていた。 朝比奈みくるがいない。 携帯に電話しても、つながらないどころか「おかけになった番号は、現在使われておりません」とアナウンスが返ってくるだけだ。彼女の番号は携帯電話に登録しているし、記憶もしているから間違えてナンバーすることはありえない。メールを送っても返信はない。朝比奈みくるとつきあい始めてもう5年経つが、今までこんなことは一度もなかったことだ。家に行っても、朝比奈みくるは不在だった。 いや、居住者がいる証明の氏名プレート自体が無くなっていた。 つまり、答えは一つ。朝比奈みくるは、何も言わずキョンの前からひっそり消えてしまったということだ。 今まで隣に居て当然だった存在が、忽然と消えてしまったという事実にたとえようのない不安を感じ、キョンは流れる汗もぬぐわず、あてもなく走り続けていた。 「朝比奈さん、朝比奈さん! 朝比奈さん!」 もうつきあい始めて5年も経ってるいのに、恋人の名前を未だに敬称で呼んでいることが急に滑稽に思えてきた。 彼女の名前を呼びながら街路樹の並木通りを走り過ぎ、公園の噴水前でキョンは足をとめて荒い息を整えた。身体の動きを止めると、途端に心の内側の不安がそれをとがめるように湧き上がってくる。携帯を取り出して確認してみても、依然メールの返信はない。 心当たりのある場所は片っ端から回ってみた。しかしどこにも彼女はいない。 「どこに行っちまったんだよ……」 首を流れる汗を腕ではらい、これ以上行くべき場所が思い浮かばず、自分がどうすれば良いもかも分からず、キョンは蛇口の水で顔を洗った。熱をもった頭を冷水が流れ落ちるが、いい案はまったく思い浮かばない。 電話をしてもメールを送っても知り合いの家へ行ってみても、彼女はいない。執る行動がことごとく空振りに終わるたび、キョンの中の不安が身体中に電流を流すようにしびれを伴って肥大化する。 「どこにいるんだ、朝比奈さん。俺は、どうすれば……」 頭の水を振り払い、蛇口の水を止めて悄然と頭を上げると、目の前に見覚えのある女性が立っていた。 「ひさしぶりね。キョン」 「ハルヒじゃないか。どうしたんだ、こんなところで。今日は古泉は一緒じゃないのか。いや、そんなことはどうでもいい。朝比奈さんを見かけなかったか?」 薄い色合いのワンピースを着た涼宮ハルヒは、訝しげな表情でキョンの前まで歩み寄ってきた。「みくるちゃん? 見なかったけど、どうしたの?」と言ってキョンの湿った前髪をなでつけた。 「いや、なんでもない。知らないならいいんだ。邪魔したな。それじゃ俺、急ぐから」 ハルヒの肩に手を置き、その横を通り過ぎたキョンの腕をハルヒがつかむ。 「ちょっと待って。あの、私……その、あんたに言いたいことがあるのよ」 はっきりとしない口調の涼宮ハルヒにいつもと違った様子を感じ取り、キョンは不思議そうな顔つきで振り返った。 「あんたと私が初めて会ったのって、4年前のことよね。私が山の斜面から落っこちて、それを見つけたあんたが私を助けてくれた」 「そうだったっけか。……そうか。もう4年経つんだな。早いもんだ」 足にむず痒い痛みを感じながら、キョンは4年前のことを思い出していた。土まみれのファーストコンタクトだったのに、あの頃から涼宮ハルヒは傲慢な態度だったと記憶している。傲慢ではあったが、それでもハルヒなりに他人に対して気は遣っていたであろうことはキョンにもなんとなく分かっていた。他人に対して上手に自分を出すことに慣れていない子だったんだろう、と朝比奈みくると話していたこともある。 「で、言いたいことって何だ?」 なぜか怒ったようにそっぽ向いてぶつぶつ言っている涼宮ハルヒを眺めながら、キョンは彼女が何をもじもじしているのか考えていた。 「それは、あれよ。えと……その………」 涼宮ハルヒの登場からしばらく麻痺していたキョンの心の中の不安と焦燥感が、また少しづつ頭をもたげてきた。 「悪いハルヒ。俺、今急いでるんだった。また今度な」 申し訳なさそうに手を合わせ、キョンが涼宮ハルヒに背を向けた。まだ疲れの残る足で走り出そうした時、キョンの腕を再びハルヒがつかんだ。 さっきとは違い、はっきりと意思のこもった強い力でつかまれ、キョンは驚いて足をとめる。 「あの日から、ずっと好きだったの!」 肩越しに振り返ったキョンを、真剣な目つきの涼宮ハルヒが見上げていた。 「私ね、ずっと探してたんだよ。4年間」 ふるえる声で顔をうつ伏せ、涼宮ハルヒはキョンの腕を放し、肩を縮める。キョンには小さかったハルヒの身体が、更に一回り小さくなったように見えた。 「だから、あの日、あんたと4年ぶりに会えた時は、すごく嬉しかった。また会えたと思った。海で会った時もそう。走り回りたいくらい嬉しかったけど、なんでかな。足がふるえてたから。意地を張って立ってるだけで精一杯だったの」 まとまらない思考で、キョンはまたゆっくり振り返る。 「今日もね。道端でたまたまあんたが走ってるのを見かけて、走って追いかけてきたの」 両手を胸の前で組み、涼宮ハルヒは一歩踏み出して顔をあげた。叱られた猫のようにおどおどとした目だ、とキョンは思った。 「あなたにはみくるちゃんがいることは知ってる。だけど、ごめん。伝えたかったの。私があんたを……好きだったこと。うまく言葉にできないけど……それを、分かってもらいたかったから……」 キョンの耳に、先日古泉から聞いた話が蘇る。あれは、キョンが夏祭りの日に負傷を負い、入院することになった時のことだ。 見舞いに来た古泉とキョンが病室に2人きりになる時間があった。古泉は世間話でもするかのように、ぽつぽつと涼宮ハルヒのことを話していた。 ───彼女は、涼宮さんは、非常に寂しがり屋なのですよ。 ───孤独と言った方がいいかもしれません。彼女には親しい友人というものがいなかったし、唯一の肉親であった両親とも死別してしまった。 ───彼女には、理解者がいないのです。 ───だから涼宮さんは、他人に自分の存在を認識してもらうことに強い執着を持っています。 ───僕も彼女の理解者となれるよう努力してきたつもりでしたが。いやはや。彼女は、僕のように理解者になろうとしかしない人間には、あまり興味を示してもらえませんでした。 ───ですから、僕としてはあなたに期待したいと思っているのです。 あの時は古泉が何を言っているのか理解できなかったが、今は分かる気がする。 「俺も好きだよ。ハルヒのことは。お前となら、いい友達になれると思う」 心の中でキョンは頭を抱えていた。こういうとき、一体どんなことを言っていいのか分からない。俺に何を分かれって言うんだ、古泉? 俺にはなにも分からないぜ。 「違うの。私は、友情とかじゃなくて……迷惑な話かもしれないけど、恋愛感情としてあなたが好きなの」 かぶりをふりながら、涼宮ハルヒがキョンの腕に手をあてる。 「私、家事とか得意なのよ。料理もけっこう評判いいし、掃除も上手ってみんな言ってくれるわ」 キョンの体に、ハルヒが身を寄せる。 「勉強もけっこう得意なの。コツがあるのよね。あれは。私、負けず嫌いだから、スポーツもなんだってできるわ。音楽も好きね。友達に、ギターを習ったこともあるの」 ハルヒはキョンの胸に顔をうづめていた。沈黙したまま、キョンはその様子を見守る。ハルヒの頭も、小柄な身体も、わずかにふるえる肩も、よく見える。こんなに近いんだから。 「ねえ。私あなたのためなら、何だってできるよ。キョンのこと、何でも理解してあげる。一緒にいて楽しいって思える女になるから。だから」 ───私のことも理解して。 「………ごめん」 キョンは目を閉じてハルヒから身を離した。罪悪感がつのるが、そのまま目を開けずにハルヒに背を向ける。 「……どうして? 私、ぜったい、あなたに好きになってもらえる女になれるのに。自信あるのに……なんで? やっぱり、みくるちゃんの方がいいの?」 「いいとか、悪いとかの問題じゃない。俺は、ただ、朝比奈さんが好きなだけだ」 それだけ言うと、キョンは逃げるように駆け出した。本当に逃げてるのかもな。と少し心の底で自嘲気味に笑った。 ───彼女には、理解者がいないのです。 ───ですから、僕としてはあなたに期待したいと思っているのです。 俺に期待するお前が間違ってるぜ、古泉。恋愛って、同情でするもんじゃないだろ? 背後でハルヒの声が聞こえた気がした。いや、実際聞こえたのだろう。しかし、それはキョンの頭までは届かなかった。 ───朝比奈さん。 「朝比奈みくるは、未来を変えるために、朝比奈みくる側の未来世界がこの時代に送り込んできたエージェントなのです」 机に肘を立てたまま、古泉は体勢をかえた。カウンターに両肘を乗せ、考え込むように肩を落とす。 「朝比奈みくるの未来世界では、朝比奈みくるに彼を篭絡させ、涼宮ハルヒとの間に関係をもたせないようにしているのです。それが、朝比奈みくるがこの時代にいる理由です」 わずかに沈黙の時間が流れる。そこで俺の脳内に、ちょっとした疑問が浮上した。 国木田の未来でも朝比奈さんの未来でも、そこに辿りつくためには、キョンとハルヒの子どもがタイムトリップの原理を発明することが前提なんじゃなかったのか? 朝比奈さんとキョンが結婚してハルヒと縁がなかったら、そのタイムトリップとやらも発明されなくなって、未来世界の存在自体が危うくなるんじゃないか? 俺にはそれがよく分からないんだが。 「その通りです。彼と涼宮ハルヒの間に、時間移動の提唱者となる男性が生まれなければ、おそらく未来は変わってしまうでしょう。最悪の場合、国木田さんの未来世界も朝比奈さんの未来世界も、共に消滅しかねない」 何故だ? 何故、朝比奈さん側の未来世界は、自分たちの消滅の危険を冒してまでそんな訳の分からないことをするんだ。 「未来の消滅。それが、朝比奈みくるの未来世界の狙いだからですよ」 「国木田さんの未来世界は、聞いた話ではこの時代とさほど変わらない世界だそうです。変わらないと言っても、比較して多くの違いはありますが、人類が文明社会を営んでいく上での差に、さほど違いはないという意味です」 しかし、朝比奈さんたちの世界は違う。と古泉は苦々しげに呟いた。 「話として聞いただけでも、ぞっとしましたね。恵まれた時代に生きる我々の視点からの感想ですが、およそまともな世界とは言い難い。生物が生きていくこと自体に困難を伴うような、非常に厳しい世界です。イメージとしては、武装島田倉庫というSF小説の世界でしょうか。いや、違うかな」 なんだっていい。つまり、朝比奈さんサイドの未来人たちは、破滅した自分たちの世界をリセットするためにキョンとハルヒの仲を裂こうとしてるってことか? 「要するにそういうことです。僕も詳しい事情まで知りえていないのですが、乱暴な言い方をすれば、時間移動システムが出来て、良い方向に進んだ未来世界が国木田さんたちの世界。逆に悪い方向に進んだ未来世界が、朝比奈さんたちの世界ということです」 俺は言葉を失っていた。正直言って古泉の言うことを丸ごと信じる気にはなれないが、それでも信じる気持ちになっている部分も少なからずあることに違いはない。 涼宮ハルヒの起こしたと思われる偶然。国木田の理解不能な失踪。それらを解決するには、半信半疑だとしても古泉の言葉を聞くしかないからだ。 思えば、国木田と朝比奈さんとは学生時代からの同期だったが、2人がそんな経歴を持っていたなんてまったく気づかなかった。まあ気づけと言う方が無理だが。少なくとも、2人がそんな関係だなんていう素振りは一切なかったように思う。国木田も朝比奈さんも違和感なくクラスメイトとしてつきあっていたからな。 「朝比奈さんは、それでも穏健派ですからね。敵対しているというわけでもない国木田さんと険悪になることもないと思っていたのでしょう。それは国木田さんにしても同じことですが」 そう言われてみれば、よく思い返すと2人は仲が良さそうな割には一定の距離をおいてつきあっていたように思える。俺の思いすごしか? 「見事、朝比奈みくるはその任務を達成した。彼のハートを捉え、相思相愛の恋人同士の座を射止めたわけですから。傍から見ていても分かるでしょう。あの人は朝比奈みくるに首ったけですよ」 そうだな。もう痛くて見ていられないようなことも多々あるし。 「だがここで予定外のことが起こってしまった。朝比奈みくるも本気で彼のことを好きになってしまったのです。情が移ったのでしょう。本来なら涼宮ハルヒとのつながりを消した段階で彼女の任務は終了し未来へ帰還する予定だったけれど、そのため彼女はこの時代に居残ることになった。彼女側の未来世界的にもあの人と朝比奈みくるが結ばれることは願ったりかなったりのことですから、彼女をこの時代に残すことに同意した」 その、未来世界か? 未来がそこまで過去の現代に干渉しても、国木田は何もしなかったのか? 「国木田さんは聡明な方ですから。分かっていたのでしょう。朝比奈さんが本気で彼に惹かれてしまった段階で、朝比奈さんは任務を放棄するはずだ、と」 何故だ? キョンと朝比奈さんが両思いならなんの問題もなく2人は結ばれるんじゃないのか? そうなったら、国木田の未来世界も危なくなるじゃないか。 「先にも言いました通り、僕は彼らがここにいる理由は知っていても内情までは知らないのです。朝比奈さんが何を思ったのかは分かりません。しかし、彼女はさんざん思い悩んだ末、国木田さんの予想通り自分のいた未来へ帰る意思を固めたようです」 ……朝比奈さんが、帰る? 自分のいた未来世界へ? 「そうです。だから、国木田さんも自分のいた世界へ帰還したのです」 俺はやおら取り出した携帯で、朝比奈さんに連絡を試みた。しかし携帯の登録データをたどっても、携帯を通して返ってくる電子音は、当該番号が使用されていないという旨の事務連絡だけだ。 朝比奈さんと連絡が取れない。デジャブに襲われる。今朝、国木田に連絡がつかなかった時に感じた違和感が背筋に忍び寄る。 「朝比奈さんは、彼の、キョンさんのことを想って未来へ帰ることを決めたのでしょう。彼が涼宮ハルヒとのつながりを完全に失ったなら、朝比奈みくるはその未来世界とともに消滅する可能性が高い。もしも最愛の人を突然失ったら、彼はどうなるでしょう? 朝比奈みくるはそれを考え、苦慮の末、まだ取り返しのつくうちに自分が身を引こうと決意した。全ては彼のためです。一途な女性じゃないですね。まあこれはあくまで僕の想像ですが」 朝比奈さんはどこにいるんだ? まだこの世界に残っているのか? 彼女はいつ未来へ帰るつもりなんだ? 「分かりません。僕もそこまでは。まだこの時代に残っているかもしれないし、もしかすると、すでに……」 俺は席を蹴って立ち上がった。行かないと。朝比奈さんに会いに。国木田との別れに立ち会えず、その上、朝比奈さんともこのまま挨拶もせずに会えなくなるなんて。 カウンターの上の財布を強引につかみ、俺は店の出口へ走った。ドアを開けると、外はいつの間にか雨模様だった。くそ、こんな時に限って雨かよ。今朝の天気予報じゃ今日は一日快晴だなんて言ってたくせに。やっぱ予報はあてにならないな。 「どこに行くんですか?」 決まってるだろ。朝比奈さんを探すんだ。もう会えないかもしれないけど、このままじっとしていられるわけがない。 仕方ない人ですね、と言って古泉も席から立ち上がった。 「僕からあなたに伝えたかったことの8割は伝えられましたが、最後に一つ忠告を聞いてください」 なんだ。俺は駆け込み乗車なみに急いでるんだぜ。話は手短にな。 「朝比奈さんが未来に帰るにあたり、その後任というか、代わりのエージェントがこの時代にやってきました。その人はすでにあなたとも接触していると思うのですが、記憶にありませんか? 髪の長い、鶴屋という女性です。僕はまだお会いしたことがないのですが」 またしても知った名前が登場したことで、俺の頭に夏祭りで出遭った髪の長い元気な姉さんの姿が浮かび上がる。 「彼女は朝比奈みくるのように穏やかな人物ではないと聞きます。目的を果たすためなら、なりふりを構わないとか。必要とあれば、危害を加えてくる可能性もあるでしょう。気をつけてください」 忠告ありがとうよ。覚えておくよ。悪そうな人には見えなかったけどな。 彼女にはまた、会えそうな気がするからな。それに、いろいろ訊きたいこともあるし。金魚の発育状態とかな。 「朝比奈みくるを監視するために国木田さんが現れたように、鶴屋という人物に対するため朝倉涼子という未来人がこの時代に来ていると聞いているのですが。果たして抑止力となってくれるのかどうかも怪しいところですし」 ……おい、今お前、なんて言った? 「なんと言った、とは?」 その、鶴屋さんを監視するためにやってきたとかいう未来人の名前だよ。誰って言った? 「朝倉涼子、のことですか?」 俺は嘆息をついた。ああ。なんてこったい。 地面をうつ水滴が目に見えるほど、大粒の雨が静かに降り続いていた。 涼宮ハルヒは公園のベンチに座ったまま、呆けたように肩を落としていた。雨にぬれた髪は頬に張り付き、肌にはりついたワンピースの裾からは幾筋も水が間断なく流れ落ち続ける。 無機質な表情のまま、涼宮ハルヒは無言で、ベンチに深く腰を下ろしていた。 「どうしたの、お嬢さん? 雨にぬれたままじゃ、風邪ひくよ?」 そんなハルヒの様子を見かけた通りかかりの通行人が、さしていた傘をハルヒの上にかざす。 「何かあったのかい? 落ち込んでいるようだけど。う~ん。そうだ。そんなところに座ってないで、うちに来なよ」 傘を持つ女性が抱き起こすように、ハルヒの肩に手をやる。わずかにその感触に反応したハルヒは、うつろな瞳で立ち上がる。 「私は鶴屋って言うんだ。キミは?」 小さく口の中で何事かをつぶやいたハルヒに微笑みかけ、髪の長い未来人は水溜りの並木通りを歩き始めた。 ~つづく~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2886.html
●序 あたしはいつだって退屈していた。 クソみたいな学校と家の往復、腐って潰れて、枯れたような乾いた生活。繰り返す現実。 SOS団も(自分で作っといて何だけど)最近微妙。パターン化される日常に何を見る? どっちにせよ終わってる、そう気づいたら走っていた。どこに向かう? 知ったこっちゃない。 あたしの脳内広辞苑を全力で捲ったけど、「逃亡」って言葉しか見当たらなかった。 うん、じゃあそれで。ああ、そうそう。あんたも来るのよ? ねえキョン。 涼宮ハルヒの逃亡 ●第一部 時間ってのはどうしたって非情なもんで、黙ってても進んでても同じだけ経つ――それならできる限り遠くへ行こう。 それがハルヒの弁だった。俺はあくびが出た。 「真面目に聞きなさい! いい? 不思議なことを見つけるまでどこにも帰らない!」 どこへも? 家にも、学校にもか。親御さんが心配するんじゃなかろうか。大体、それを何で俺にわざわざ伝えるんだ。 今ハルヒは俺の家にいる。日曜の午後、吸い込まれるような眠気が俺を誘っていた。よし寝るぞと決意した瞬間にハルヒは俺の部屋のドアをぶち破っていた。 「わかってないわね、あんたも行くのよ! じゃなきゃわざわざ来たりしないわ!」 俺も? おい、俺は退屈してないぞ。たった今だって、お前みたいな不思議な思考の仕組みをした奴に出会っている。調査終了ではなかろうか―― 「いいから聞きなさい! あんたはSOS団結成のきっかけなのよ? いわば創立メンバーじゃない。そんなあんたが来なくて誰が行くっていうのよ?」 現実的ではなかった。おそらくあてのない旅に出る、といった感じなのだろう。だが旅費もなければ足もない。加えて俺には意欲がない。 お前が一人で行けば良いだろう。頼むから俺に面倒を持ち込むのは勘弁してくれ。俺が今欲しいのは睡眠時間であって、厄介事じゃないんだ。おやすみ。 「寝るな! 大体今は夏休みよ? 行くところもないでしょ? じゃあ来なさい!」 確かに、今年は旅行の予定もない。家の都合で帰省もしない。つまり暇だ。だが、暇というのは必ずしも退屈とは結びつかない。 「そういうわけで無理だ、ハルヒ。大体計画もないだろう?」 「計画ならちゃんと考えてあるわよ! 見なさいこれを!」 取り出したるはA4サイズのノートだった。表紙にはやたら大きく、乱暴な筆致で「逃亡計画」と書かれていた……逃亡? 「そう、逃亡。日ごろのしがらみや、退屈で平凡で飽き飽きするありふれたつまらない日常からの逃亡! ゴールはあたしが満足したらね」 お前の日常はよっぽど終わってるんだな。ところで、お前が満足しない限り終わらないというのはどうか。 「でも、ちゃんと計画はしてあるわ。まずヒッチハイクをします」 一行目から無計画さが漂ってるぞ! ヒッチハイクなんて今時、しかも日本じゃ無理だ。 「うるさい!成功するの! それで、どっか適当なところで下ろしてもらいます。そして不思議を探します」 はぁ……考えが突飛すぎるなぁ。それで? 「終わりよ。悪い?」 お前なあ。そもそも……いや、何も言うまい。言ったら負けだ。 というか、詳しい計画について反論したら計画そのものは認めてる形になるからな。 「だめだ。危ない。無計画だし、帰ってこれるのかもわからん。金もない」 「あんたは本当に何もわかっちゃいないわね……世の中お金じゃないのよ」 「あって困ることはないだろ」 「なくて困ることもないわ」 それはある! この前もコンビニで……いや、それはいい。古傷が痛む。 「まあ、どうしても必要ならクレジットカードがあるから」 「何!? お前……金持ちか?」 「親はね。あたしはそうでもないけど。でもまあ、カード持たせるぐらいだから割とそうかもね」 「……」 ふとドアが開き、母さんが入ってきた。 「あら、いらっしゃい涼宮さん」 「どうもお邪魔してます、おば様」 気色悪いぞ。普通にしろ……ぐわぁっ!? ハルヒの肘が俺の腹をえぐった。く……重いの持ってやがる……! 「実はおば様、今度キョン君と旅行に行くんです。宜しいでしょうか……?」 「あらあら、いいわね。ぜひ連れてってやって。この子ったら、家でごろごろしてばっかりでねぇ……」 「ありがとうございます、おば様。明日から出発するのですが、キョン君に用意をさせてくださいね」 「ちょ、ちょっと待て……ぐふうっ」 もう一発。鳩尾はよせ……! 「あら、急なのね。わかった、用意させるわ。ほらあんた、ぼさっとしてないで」 「ちょっと母さん……」 「では私これで失礼いたしますわ、御機嫌よう」 「待てハルヒ……!」 「ほら何やってるの、バッグ出しなさいバッグ」 母さん! ちくしょう、親公認で俺はあいつの気まぐれにつきあわにゃいかんのか! ああ神様助けて――おっと、神様はあいつだったか。くそ、八方塞りだ! 俺は満足に祈ることすらできないのか? 俺の夏を返せ!
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4926.html
※オリジナルキャラ・ある意味BAD END注意 これは世の中を安全に生き抜く方法を教える……、 1人の女子高生の物語である。 部室 ハルヒ「ねぇ、キョン」 キョン「んー?」 ハルヒ「――……やっぱりいいわ。」 キョン「えー?なんだよー。」 ハルヒがもじもじしている。 ハルヒ「だって~はずかしいんだも~ん。」 キョン「気になるじゃんかよ――。教えてくれよ――。」 ハルヒ「しょうがないわね~~。も~~。じゃあ言うよ~~。」 キョン「うんうん!」 ハルヒ「え~と、実は~、この学校は~、…」 するとハルヒは、急に真面目な顔になり、 おそろしいことを言った。 ハルヒ「あと3分で爆発する!!」 キョン「…」 キョンは何が何なのかわからない様子。 突然、学校が大きく揺れた。 ゴゴゴゴゴ キョン「!?」 ビーッビーッ 地震のように、大きく揺れる中、警報音がとどろき、 『爆発まであと3分! 爆発まであと3分!!』 キョン「うわああああああぁぁぁ!?」 キョン「ちょ…、ちょっと…!!ホントに爆発するのか!?」 キョン「なっ…、何でこんなことになったんだよ!!」 キョンはハルヒに問いただす。 すると彼女は、 こう言った。 ハルヒ「ひまつぶしにコンピ研の部室入り口の近くにある、 自爆スイッチを押したから」 キョン「物騒なモン学校にとりつけてんじゃねーよっっ!!」 ハルヒ「というわけで今回は私が! 学校が爆発しそうなときの逃げ方を教えてあげるわ!!」 キョン(…なんか、初めてだなこーゆー展開……) キョン「と…とにかく細かい事はいいから…、 さっさと逃げようぜ!!」 キョンは走り出したが、 ハルヒ「待ちなさ―――――いっ!!!」 ドロップキックを食わされた。 キョン「おひょ―――――っ!!!!」 ハルヒ「あんたそんなカンタンににげちまったら…、 380万円もして自爆スイッチを買って設置した意味が ないじゃないの!!」 キョン「高ぇな自爆スイッチ!!」 ハルヒ「いい? 爆発まであと3分…、 まあ1分あれば脱出は可能…。 …とゆーことは…、 あと2分は遊んでいいということよ―――っ!!」 キョン(余裕だ――――――っっ!!) ハルヒ「そうと決まったら、ババ抜きでもして 遊びましょう!! 新入部員の高橋君も連れてきたから!!」 高橋「あっ、どうも」 キョン「こんなときにオリジナルキャラ 登場させてんじゃねーよっ!!」 キョン「もうっ!!早く逃げるぞ!!」 するとハルヒは、窓の方に指をさして 言った。 ハルヒ「逃げるならあの窓が近道よ!!」 ハルヒはキョンの体をひょいっと持ち上げて、 キョン「ちょっ、…ちょっとハルヒ!!」 ハルヒ「えいっ!!」 その窓のほうに投げた。 キョン「うわっ!!」 キョンの体は窓枠にスポッと入った。 キョン「…、」 ぐっぐっと手を壁に押し上げても、窓から抜け出せない。 キョン「抜けねえぇぇぇぇ――――――っっ!!!」 ハルヒ「だっ、…大丈夫――っ!?」 キョン「うわ――――っ、ハルヒ、早く抜いてくれ―!!」 『爆発まであと1分。爆発まであと1分。』 ハルヒは一生懸命、顔をこわばらせながら、 キョンの体を引っ張っている。 ハルヒ「ぐううう~…。」 そんな姿を見てキョンは キョン「も…もういいよ!!ハルヒだけでも逃げて!!」 ハルヒ「ふざけないで!!ここでキョンを見捨てるくらいなら、 死んだほうがマシよ――――っっ!!」 キョン「ハ…、ハルヒ」 キョンの目から一筋の雫がたれた。 ハルヒ「く、…くそぉ…っ、ふぎぎぎぃっ!!」 ハルヒ「うおおおお、おあああああっ!!」 ハルヒ「無理。」 キョン「………」 キョン「!?」 キョン「まてー!!クソ団長―っ!!アホ―ッ!!」 ハルヒ「うっさいバーカ!!あたし一人だけ助かるんだもんね。ぐはははは!!」 『爆発まで30秒前!』 ハルヒ「ふっ……30秒もあれば楽勝で逃げられるわね。」 『29、28、27、26、25、24、23………ゼロ!!!!』 ドカーーーーーーーーン!!!!!!!! ハルヒ「ありゃーーーーーっっ!?!?」 グラウンドにはキョンとハルヒの2人の遺体があった。 そこにザッザッと誰かが歩いている。 それは高橋だった。 2人を見て高橋、持ってるマイクを片手にこう言った。 高橋「これぞ必殺!!!!!!『タイムワープ』!!!!!!!!」 糸冬 元ネタ『家が大爆発じゃっ!』
https://w.atwiki.jp/haruhi_dictionary/pages/44.html
基本情報表紙 タイトル色 その他 目次 裏表紙のあらすじ 出版社からのあらすじ 内容 あらすじ「涼宮ハルヒの退屈」 「笹の葉ラプソディ」 「ミステリックサイン」 「孤島症候群」 挿絵口絵 挿絵 登場人物 刊行順 基本情報 涼宮ハルヒシリーズ第3巻。短編作品。2004年1月1日初版発行。 表紙 通常カバー…長門有希 期間限定パノラマカバー…藤原、長門有希 タイトル色 通常カバー…黄色 期間限定パノラマカバー…黄色 その他 本編…298ページ 形式…短編集 目次 プロローグ…P.5 涼宮ハルヒの退屈…P.7 笹の葉ラプソディ…P.74 ミステリックサイン…P.133 孤島症候群…P.182 あとがき…P.304 裏表紙のあらすじ ハルヒと出会ってから俺は、すっかり忘れたと言葉だが、あいつの辞書にはいまだに"退屈”という文字が光り輝いているようだ。 その証拠に俺たちSOS団はハルヒの号令のもと、草野球チームを結成し、七夕祭りに一喜一憂、失踪者の捜索に熱中したかと思えば、 わざわざ孤島に出向いて殺人事件に巻き込まれてみたりして。まったく、どれだけ暴れればあいつの気が済むのか想像したくもないね……。 非日常系学園ストーリー、天下御免の第3巻!! 出版社からのあらすじ 涼宮ハルヒの「退屈」の一言で、野球チームを結成し、七夕祭りに盛り上がり、行方不明者捜索に駆り出され…… ついに殺人事件に巻き込まれた俺には、退屈なんて言い出すヒマも無いさ――。大人気シリーズ第3弾登場!! 内容 短中編集。この巻に収録されている「笹の葉ラプソディ」は、第4巻『消失』においては重要なストーリーである。 なお、この巻に収録されている話は全てアニメ化された。 あらすじ 「涼宮ハルヒの退屈」 + ... 本のタイトルにもなっているストーリー。 いつも通り、ハルヒは部室に入ってくるが、チラシを持っている。 いきなりSOS団で野球大会に出ると言い出した。なぜ、そんなことを言い出したのか。そう、単にハルヒは退屈であった。 だが、点数は見るからにSOS団の方は負けていた。休憩中、古泉はキョンに話しかける…… 「笹の葉ラプソディ」 + ... 七夕の日、突如みくるにお願い事をされたキョン。聞けば一緒に行って欲しいところがあるという。 キョンは断ることなく承諾するが、行きたい場所を聞いた途端、驚愕する。みくるが行ってほしいと行ったところとは…… 「ミステリックサイン」 + ... SOS団のHPを賑やかにしようと自作のエンブレムを書いたハルヒ。しかし後日HPがおかしなことになっていた。 そこへやってきた来訪者・喜緑江美里は、相談があってSOS団にやって来る。 「彼氏が行方不明なので探して欲しい」 その彼氏とは……お隣のコンピュータ研究部の部長であった。 ハルヒ達は部長の家を訪ねるが、誰も出てこない。そこでハルヒは勝手に乱入する。 だが、長門と古泉は、その場所から嫌な気配を感じ取る…… 「孤島症候群」 + ... 古泉の手配で夏合宿に行くことになったSOS団。 行き先は古泉の遠い親戚、多丸裕氏が所有する無人島の別荘。 無人島、という言葉に興味津々のハルヒ、いっそ事件でも起きてくれたらミステリーみたいで面白いと考えているようだが、 そう簡単に事件が起きるわけもなく平和な合宿を過ごしていた。 しかし天気は突然嵐になり、船も出せず完全に孤立した孤島。さらに別荘にて事件が発生した。事件の真相とは…… 挿絵 口絵 涼宮ハルヒ、朝比奈みくる(涼宮ハルヒの退屈) 朝比奈みくる、朝比奈さん(大)(笹の葉ラプソディ) SOS団、新川、森園生、多丸圭一(孤島症候群) 朝比奈みくる 挿絵 「プロローグ」 挿絵なし 「涼宮ハルヒの退屈」 P.23…朝比奈みくる P.37…涼宮ハルヒ P.47…長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹 P.69…涼宮ハルヒ、キョン、相手チーム 「笹の葉ラプソディ」 P.89…涼宮ハルヒ P.104…涼宮ハルヒ(中学時代) P.121…キョン、長門有希、朝比奈みくる 「ミステリックサイン」 P.135…涼宮ハルヒ、キョン P.147…涼宮ハルヒ、喜緑江美里 P.165…キョン、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹、カマドウマ P.181…長門有希 「孤島症候群」 P.249…涼宮ハルヒ、朝比奈みくる P.277…涼宮ハルヒ 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん 朝比奈さん(大) 谷口 国木田 コンピュータ研究部部長 喜緑江美里 キョンの妹 新川 森園生 多丸圭一 多丸裕 刊行順 <第2巻『涼宮ハルヒの溜息』|第4巻『涼宮ハルヒの消失』>
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2540.html
翌日。 例によって体よく休日のみ体感できる究極の怠惰を満喫していた俺だったが、予想通り夕方になって「NO NAME」なる人物から電話がかかってきた。 何も知らず、いきなり「NO NAME」という人物から電話がかかってきたら俺は恐怖しちまうだろうな。 なんせ、そんな名前で電話番号を登録している知り合いは一切いないのだから。 『・・・話は聞いていると思う。7時15分に、長門有希が住んでいるマンションの入り口に来てくれ。以上だ』 誰だったのか、なんで長門の家の前だったのかとかはまあいい。ということでとにかく自転車をころがして急行した俺だったが、指定時間より幾分早く到着してしまった。 ま、既に古泉と長門は居たので良かったが。オフクロに外で食べる、とか言っちまった所為で腹が減った・・・ 「同じく。準備すらしていない」 「僕もです。ことが済んだらどこかに食べに行きましょう。奢りますよ」 ありがたいね副団長。 「ともかく、あと5分程度時間があります。電車でも見て時間を潰しますか?」 生憎俺は電車を見て時間を潰すような技を会得していない。 そういや長門、私服なんだな。 「?休日だし」 ・・・そうだよな。まぁ、私服というか部屋着のようで、某有名メーカー製のジャージの上下を着ていた。中々似合ってるぞ。 「・・・ありがと」 ぽっ、と頬に朱を入れる長門。何かが俺のハートを貫き通さんとしていたが、俺は必死にそれを跳ね除ける。 ・・・しかし、萌えますね。 「・・・僕には萌」 「黙れ」 「やれやれ」 「確かに良い男なのかもしれん。だがな、俺にそんなことをアピールされても困る」 「アピールはしてませんよ。主張はしていますが」 同じことだろうが。 ともかく黙れ。 「・・・」 ジャージの長門はそのビー球みたいに澄んだ目を、駅に繋がる道のほうへ向けている。 「何か来るのか?」 「・・・というより、来た」 ・・・ああ、来たな。 笑顔が似合うロングヘアの天使だ。 まだかなり距離があると言うのに、こちらに気がついた鶴屋さんはぶんぶんと千切れんばかりの勢いで手を振りながら全速力で走ってくる。 なにやら紙袋を持って。 「やっほー!キョン君、ゆきんこ、古泉君!!元気してたかい?」 あなたに会ったらどんな病人だって一瞬にして元気になっちまいますよ。 俺たちの前にくるなり、ぴょん、と飛び跳ねた鶴屋さんは 「ほっほー。それはあたしを口説いてるのかいっ?ははぁ、君もなかなかやるなぁ!」 ぽりぽりと頭をかきながら大笑いする。 ハルヒもこういう風な性格だったら完璧だったんだけどなぁ。 「それよりっ!これ、なんかしらないんだけど、君達に持っていけって言われたからもって来たよっ!」 なんだか知らないけれど・・・って、あなた爆弾だったらどうするんですか。 「大丈夫!金属探知機かけてあるから!」 ・・・そうですか。 「なら、安心です。僕が受け取りましょう」 ほいさっ、と鶴屋さんは古泉に紙袋を渡し 「じゃ、あたしは用事があるから帰るにょろ!まったね~!」 そういい残して鶴屋さんはもと来た道をステップまじりの競歩という妙な歩き方で帰っていった。 ある意味ハルヒ以上に騒がしい人だよな。あの人。 魅力的だぜ。 「・・・」 「それより、この紙袋ですが・・・」 と長門の三点リーダーを押しのけるように、古泉が紙袋を掲げる。 「結構重いです」 神戸風●堂の紙袋だな。ゴーフルでも入ってるのか? 「入っていたら入っていたで嬉しいんですが、それはないでしょうね。 だな。あの人のことだ。 例の謎の棒だったりしたら、それはそれで面白いんだが、重さ的にそれはないだろうな。 「・・・さ、ファミレスかどこかにいきましょうか?詮索は後回しです。お腹がすきました」 「そうだな。近くのサイゼリ●か何処かで良いだろうが・・・」 「うちにくる?」 俺の背後の小さい陰がぼそりとつぶやいた。 「いいのか、二人で押しかけて」 「昨日のカレーがまだ残っている。早く処分したい」 春だからそんなに日持ちもしないし、と付け加えた。 「どうします?僕は大賛成ですが」 「ああ、俺も大賛成だ」 そして俺は再び長門家にお邪魔することとなる・・・ 「クリスマスに訪れたきりだったのですが、この変わりようは・・・すごいですね」 と通されたリビングで、辺りを見回しつつアイスコーヒーを飲みながらつぶやいた古泉。ちょっとしたスペクタクルですね、とでも言うかと思ったが、そこまで達していなかったか? 「まぁ、ある程度は予想していましたしね」 グラスのしずくを指でなぞりとりつつ、古泉は 「正直、あれほど長門さんが変容してしまうとは思っていませんでした。人格ごと変わってしまったといっても過言ではありませんよ」 「嫌か?」 「いえいえ、僕は以前より意思疎通がしやすくなった上、社交的になった今の長門さんのほうがいいかな、と思っています。ただ、・・・この長門さんがずっとこのままである、 という保障は何処にも無いという事を、一応頭の片隅にでもおいといた方が良いかもしれません」 とスマイル古泉。 どういうこったいそれは。 無意味ニヤケに若干皮肉の色を滲ませて 「人は変容の動物です。いつ何時どう変化するかは判りませんよ?」 「それは宇宙人にも適用できると思うのか?」 「・・・さあ。ただ、僕はですね―――」 「ごめん!野菜が無い!サラダは出せないけどいい?」 ビクッと俺とスマイル青年の肩が揺れた。 ・・・大丈夫だ。例によって台所の影からだ。まあ、ハルヒなんかよりよっぽど神様らしい彼女には聞こえていたかも知れんが。 「別にいいよな?古泉」 「ええ。むしろ僕は温野菜派でして」 とよくわからんことをほざきやがったがまあ良い。 「別にいいぞ!こっちはお邪魔してる身だ、お前の思う通りにやってくれ!」 「わかった!」 と長門は台所の影から返答した。 「・・・まあ、何れ。今はまだ早すぎます。何をするにしても。ひとまず目の前の懸案事項を片付けましょう」 一応同調しておくかな。 「あれ?昨日と味が違わないか?長門」 「おやおや、昨日もお邪魔していたんですか。貴方も隅に置けませんねぇ」 黙れホモ。 「昨日、ちょっと煮込みすぎて濃くなってしまった。水とカレー粉とガラムマサラと若干のおからを足した。そしたら・・・味が変化した上昨日と同じ量になってしまった」 ドジッ子ながもん。いや、それくらいのヘマは誰だってしそうだ。 「そう?」 「だと思いますよ。・・・しかし、美味しいですね。長門さんのカレーは」 「そう。ありがとう。今度はスープカリーに挑戦してみようと思う」 ・・・お前、もしかして毎晩カレーとかいわないよな? 「それはない。ちゃんとハヤシライスやビーフシチューも作る」 似たようなもんだろ。肉じゃがは作れるとか言ってたが、それも極論をいうとビーフシチューの延長線上のものだ。 「・・・!私の料理のレパートリーが少ないと?」 むすっとする長門。目を見る限り本気で怒ってはいないな。 「・・・わかった。こんど来た時に、あなたが『ユキ様、一生付き従わせていただきます!』と土下座するような料理を作る」 おいおい・・・古泉は笑うな。 「長門さんの手料理フルコースっていうのも食べてみたいですね」 「・・・がんばる」 なんだか長門の雰囲気が一瞬、新妻のそれになったのを俺は見逃さなかった。 良いお嫁さんになるぜ。こいつは。 俺が保障してやる。 ・・・それにしても長門、食べるの早いな。 「・・・」 何か俺はいけないことを言ってしまったのか。 長門が睨んで来た。 「・・・冗談だよ」 「・・・そう」 こいつにも何かメンタリティというものがあるんだろうか。 「・・・だって私、女の子だもん」 ぼそっとつぶやいた。 そうだよな。 「・・・それより。そろそろ本題に入ろうと思う。キョン、さっきの紙袋かして」 早食い女王長門は、まだカレーを食ってる途中の俺がよこした重めの紙袋を受け取り、中身を取り出・・・ 「どうした長門」 「・・・」 長門、顔が赤いぞ。 「・・・これ」 と長門が引っ張り上げた、紙袋の中身。うん?ハルヒと書かれた透明なビニールぶk・・・ ・・・ ・・・ ・・・・・・ 三点リーダーが支配する世界に、リビングは瞬時に変化した。 「・・・こ・・・こ・・・れは・・・」 「・・・下着」 見りゃ判る。女モノの下着だ。ご丁寧にブラジャーとパンツがセットになって入ってやがる。 おまけに、数セット入っていやがる。 「・・・まだある」 赤面長門はさらに紙袋からビニール袋を取り出す。また下着のセットだ。袋には「みくる」と書かれてある。 赤面しつつもそれらを引っ張り出した長門はまだ紙袋を覗き込んでいた。 まだ何か入ってるのか? 「・・・手紙が底に貼り付けてある」 べりっ、と音を立てて破き、開く。 「・・・『ハルヒと書かれたビニール袋には、涼宮ハルヒの下着(使用済み)が、 みくると書かれたビニール袋には、朝比奈みくるの下着(使用済み)が入っています。 キーワードは『匂い」です。 これをどうにかすることで涼門みるひは分裂、元の二人に戻ります。 下着自体は大きな声でいえないような方法を使用して調達しました。 他言無用です。ご健闘をお祈りします』・・・・・・・・・・・・・・」 おいおい破くな長門! 「・・・皆大きい」 「何が」 「・・・胸」 そんぐらい情報操作とやらで大きくすれば良いだろう。 「・・・自身の身体情報にかかわる操作は、認められていない・・・グスッ」 泣くな、泣くな長門。 「おっぱいのおっきいやちっさいで人は判断されないぞ!落ち着け! おっぱいで人を判断するのは良くないことですよ~って言うじゃないか!」 「・・・でも、貴方は巨乳好き」 そういうわけじゃない!って古泉までなんで落ち込むんだ! 「・・・って言うのは冗談」 ・・・ガクッ、と首を思い切りもたげた俺。 っていうかあんまり冗談に見えないような顔だけどな。実際なんか目から出てるし。 「・・・目から汁」 そうかい。 「ともかく、何故これが我々に渡されたんでしょうね?」 とホ泉、違った古泉。 キーワードは匂い、って何だ? 「嗅いでみる?」 「俺は警察犬でも麻薬探知犬でも災害救助犬でもまさお君でもない」 「・・・ひとまず、嗅いでみて」 ・・・長門、お前これの匂いを俺が嗅ぐってのがどういう行為か、判るよな? はたから見れば変態だぞ? いやはたから見なくても変態だぞ? 「あなたがえっちなのは今に始まったことじゃない」 ・・・はぁ。 判ってる。俺はエッチ魔人だよ。 思いっきり嗅いでやる。過呼吸になるまで吸い込んでやるぞ。 というわけで俺は自分の頬をぱんと叩いて己を奮い立たせ、まずは「みくる」と書かれたビニール袋の攻略から着手することにした。 「・・・」 という長門の熱くてなんか痛い視線を一身に浴びつつ、袋を開いて・・・ おっと、これはなんだ。これ・・・ほのかな香水の匂いか? 俺は意を決し、その下着の詰め込まれたビニール袋の中に頭を突っ込む。 ・・・ ・・・・・・俺・・・あれ?・・・ここ・・・天国・・・ ・・・ハローこちらテンゴク・・・あれ・・・意識が・・・ ・・・ハッ! 「キョン・・・変態・・・最低」 長門にこんなことを言われる日が来るとはね。 でもな、お前が嗅げって言ったんじゃないか。 「・・・もう一つ」 ほれみろ。また嗅ぐのか俺が。 「・・・あなた意外に適任者は居ない」 「古泉は?」 「・・・彼はあなたのようなノンケではない」 ・・・。 まあいい。 そもそも嗅ぐという行為にどういう意味合いがあるのかは不明だが、ひとまず「ハルヒ」と書かれた袋の攻略を開始することにした。 先ほどよりさらに熱く鋭く痛くなった長門光線を浴びつつ、袋を開いて・・・?はて。何も匂って来ないな。 これは顔を突っ込むべきか突っ込まざるべきか・・・ まあ長門がやれといってるんだ、やるべきだろう。 ハルヒ、怒るなよ? 俺はハルヒの下着の山に顔をうずめた。 ・・・? これは・・・かすかな石鹸の匂いと、あとなんだろう・・・甘い匂い? あいつは香水なんかつけてないから、これは・・・肌の匂いだろうか。 ・・・なるほど。これは女の子の匂いだ。 うん、多分そうだろう。 しかしまあ、なんと心地よい・・・あのハルヒからは想像できない匂いだな。 正直このまま埋もれてしまいたかったが、長門光線が殺人光線に変わりつつあることを俺の背中が察知し、ほぼ反射的に俺は起き上がった。 「・・・」 長門の視線が痛い。っていうかいつの間にお前俺の隣に居るんだ。 「・・・今」 ・・・そうですか。 って長門さん、何をされているんですか。いきなりジャージを脱ぎだして・・・インナーのシャツをたくし上げ、 ブラがあらわになり、長門は俺の顔をそれに押し付・・・ 「・・・長門?」 「・・・貴方は二人の匂いを嗅いだ。だから、私の匂いも嗅がないとおかしい」 なにがおかしいんだ。 「・・・色々」 「やれやれ、あなたも隅に置けませんね」 ああ、俺も今実感したぜ。 長門の匂い。石鹸の匂いと、なにやら甘酸っぱい匂い。そして他の二人のと違うのは、体温があるという事。 長門、ありがとう。俺今最高に幸せだ。 「・・・えっち」 ああ、おれはえっちだとも。変態だとも。それでいいんだ。ありのままの自分をさらけ出すことこそ、この成熟された人間同士の社会の到達点なんだ。 「・・・何を言っている」 俺の眼前1センチのところにある長門の朱に染まった肌とブラジャー。・・・Aカップか? お、フロントホック。外して良い? ・・・直後、俺の後頭部を打撃が見舞い、景色は暗転する・・・ ―――キョン―――キョン? ―――――キョン キョン―― 「このまま寝ていると僕が後ろの穴をいただきますよ」 「ア●ルだけは!ア●ルだけはぁっ!!!・・・って」 ・・・ここはどこだ? うん、布団・・・いやこれは長門の家のコタツ布団だ。 ということは俺は長門の家に居るらしい。 「・・・長門?」 心配そうな顔で長門が俺の顔を覗き込んでくる。 ・・・ああそうか、俺は気を失ってたのか。 「・・・どれくらい失神してた?」 「5分程度。・・・ごめんなさい。まさか気を失ってしまうとは」 「何、お前の肌のぬくもりと良い匂いで気を失ったようなもんだよ」 とか言ってみると、長門はみるみる肌を赤く染め、ついでに俺から視線をそらし、俯き加減の顔とともに視線をクッションにうずめた。 可愛いなぁもう。 「・・・それより」 クッションに顔を埋めながら長門は 「・・・ひとまず私はこう考える」 「何をだ?」 「・・・彼女が下着をよこした理由」 まあ俺がもっと幸せになるように、ってよこしたわけじゃあるまいしな。 「これを彼女に見せるか匂いを嗅がせることで、元に戻る可能性がある」 「どういうことだ?」 長門は未だに頬を朱に染めながら 「人間の感覚器官は5つ・・・”カン”も含めるなら6つだけど・・・存在する。けれど、一番負う所が大きいのは、主に視覚と嗅覚。 特に嗅覚については、他の動物ほど優れていないとは言っても無意識に匂いを追い求めることが出来る。だから・・・」 「どうするんだ?」 長門は一瞬考え込んだようなそぶりを見せる。 「・・・みるひの鼻先に二人のパンツでも突きつけるのが望ましい」 ・・・仮に分離したとしても後が怖そうだ。 「やってみる?」 「やるしかねぇだろう」 他に手段が見つからないんだしな。 「さて、僕はそろそろ帰ります。涼宮さんがいないので閉鎖空間も発生しませんし、 今日も良く寝れそうです。あ、長門さん、カレーご馳走様でした。美味しかったです。それじゃあ」 と言ってガチホモ古泉は出て行った。精々英気を養っておいてくれ。 お前に突撃させるかもしれないしな。 というわけで例によってまた俺と長門がこの空間に残されたわけだが・・・ それはそうと長門。 「何?」 まだ赤いな。 「そ・・・そんなこと」 そんなことあるぞ。 「まあそれよりだ。休み明けみるひの眼前にパンツを突きつけることになるんだろうが、勝算はあるか? 正直昨日みたいに『よくわからん謎の力』で押さえつけられそうな気もするんだが」 「大丈夫。昨日のは準備が足りなかった。ビジュアルステルスフィールドを使用して接近し、突きつける予定。 いざとなったら周囲の時間を凍結する。だから大丈夫、安心して」 まるで子供をあやすような表情で俺に語りかけてきた。 まぁ長門がそういうんだから大丈夫なんだろう。 「・・・でもな、失敗してもまた腰は抜かすなよ?」 「・・・ああ、あれは、その・・・」 急にもじもじし出す。俺もそろそろ長門の弄り方が判ってきたぜ。 「そういやお前って何か積極的だよな」 「そ、そう?」 「いきなり脱ぎ出して胸に俺の頭押し付けるなんて、多分ハルヒでもしないぜ?」 「あ、あ、あ、そ・・・その・・・わ・・・忘れて?」 「嫌だと言ったら?」 「・・・『君がッ!泣くまでッ!殴るのをッ!止めないッ!』」 わかった、わかったから。 長門に殴られたんじゃ死んじまう。 「・・・冗談」 ふふっと長門は笑い、俺の胸に頭を埋めてきた。 長門らしくない、不確かで、しかしながら心地よい余韻を持たせた言葉を紡ぎながら。 「・・・私は、一線を越えてしまうことは出来ない。だけど、あなたとこうしてじゃれ合う事は出来る。・・・だから、お願い。 今の私を受け入れて。あくまで二人目、三人目・・・としての」 「・・・としての?」 一瞬間を置いて長門ははっとして俺の胸から顔を上げ、さらに顔を赤らめ、 首を飛ばさんばかりにぶんぶんと首を横に振り、 俺の目を見てさらに顔を赤らめ・・・ 朝比奈さんみたいだな。 「落ち着け、長門」 俺自身も長門のスタンスは良く判っているつもりだ。 観測者としての長門。俺同様ハルヒの添え物としての団員にして、決してハルヒより前に出てはならない”存在”。 だが、鈍感な俺もうすうす感じている。 こいつは俺に、一種の恋愛感・・・いや、長門に限ってそれはない・・・か? まあ仮にそうだったとしても、第一俺に長門に対する恋愛感情はないし、それにハルヒ・・・ いやいや、何であんな迷惑の顕在化みたいな女が出てくるんだ。やばいぞ俺。 ともかくだ。 これだけは言えるぜ。 「長門、今のお前すんごい可愛かったぞ」 長門は鼻血を噴出してぶっ倒れた。 前 次
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5826.html
俺はドアを開けた。 「ハルヒ…やっぱりここにいたか。」 「 」 思った通りだった。旧校舎の、俺たちの部室に、SOS団の部室に、こいつはいた。 「 」 窓のそばに立ち、外を眺める少女。 「…ハルヒ。」 呼びかけるが、こちらを振り向く気配はない。 「おい、ハル」 「何しに来た?」 …… 明らかな拒絶。 …覚悟はしてたさ。ハルヒが、覚醒を起こしてぶっ倒れちまった時点でなぁ。言わずもがな、こいつは… 俺の知ってる涼宮ハルヒではない。窓から立ち退き、振り向いたその顔は…無機質な表情そのもの。 記憶喪失にでも遭い、俺が誰だかわからない…そんな虚無感を覚えた。 「お前は…ハルヒじゃないな。」 「 」 『最初の宇宙は無限宇宙だった。この無限宇宙には初めは創造主である神しかいなかった。 始まりもなく終わりもなく、時も空間もなく、形も生命もなかった。このような全くの無の宇宙に 神は初めて有限を生み出した。神が自らを具現化した有限…我々はその存在を 各地の神話や伝説に照らし合わせ、【ソツクナング】と呼んでいる。』 長門の言葉を思い出す。 「これまで何度も世界を破壊し、そのたびに創造してきた張本人…そうだよな?神様…いや、」 …… 「ソツクナングと、そう呼んだ方がいいのか?」 「 」 …… 「 ソツクナング か 懐かしい名前 そうだとして、あなたはどうするつもり?」 「決まってんだろ…この世界の崩壊を…!第四世界の崩壊を今すぐ止めてくれ!!」 「できない相談だとわかっていて わざわざそれを口に?」 淡々とした 冷酷な口調。 …時計を眺める。 23時56分 時間がない…!こいつを説得してる時間など…もはやない…っ! 「…力づくでもお前を止める。」 …… 「まったく、呆れる 力でしか物事を解決できない それが人間 」 ッ!! 「お前に言われたかねえよ!!これからまさに【力】でもって世界を滅ぼそうとする… お前みたいな【邪神】にはな!!もはや神ですらねえ!!」 「 今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない なぜなら、私自身 ここにはいないのだから 」 「何をワケわかんねえことを…ッ!」 …… 『あたしはあくまで神の化身でしかないの。確かに人間の身に投じてはいるけど、 だからといって本来の神が消えてしまったわけじゃない。本当の神はあたしとは別に 宇宙のどこかで存在してるわよ。で、その存在が地球規模の天変地異を引き起こしてるわけ。』 ハルヒが昔言っていた。 …こいつの言うとおりだ。神はここには…いない。 「ハルヒは…」 「 ?」 「ハルヒは…元のハルヒはどこに行った!!?」 そうだ…あいつは言っていたんだ…! 『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている… それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。 そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。 人間である以上、最低限の理性はもつもの。…当然の帰結よ。』 『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』 「あいつはな…見たくなんかねえんだよッ!!この世界の人間が死ぬ様なんてな…、 お前の…その体の本来の持ち主である涼宮ハルヒはなぁ!!!」 「だから何?」 「あいつ自身そんなことは微塵も思っちゃいねえ…だから、言うぜ。今すぐ…今すぐ ハルヒの人格を呼び戻せ!!お前が今やろうとしてる暴挙に…あいつはきっと反対する!!」 「 ?呼び戻す必要性が感じられない 」 「そんなこともわかんねえのかよ!!?ハルヒは…元はと言えば涼宮ハルヒは お前の分身のような存在だったはずだ…俺が言いてえのは!!!仮にも分身だと言える そいつの声を… 一方的に封殺しちまってもいいのかって、俺は聞いてんだよッ!!!!」 「この人間のことなど知ったことではない」 躊躇うことなくこいつは言い放った。冷たかった。 『本来の神はとても考えが物質的で無機的で…そして冷酷。』 「そうかよ…じゃあ、この質問にだけは答えろよ…!!ハルヒをどこにやった!!?」 「別にどこにも ただ言えるのは 彼女がこの体に意識を宿すことは二度とないってこと 」 …… 今…何と言った? 「てめぇ…!!今の…冗談じゃ済まさねえぞ!!?」 「第三世界崩壊直後、私に牙をむき 本来担うはずの神としての業務を悉く放棄してきたこの人間を、 私は許さない 存在意義を絶ったこの人間を、私は許さない この人間の本来の人格には 消えてもらう」 「……ッ!」 俺はある種の恐怖を覚えた こいつは自分以外の存在を 単なる道具としか思っちゃいない …時計を見る。 23時58分を過ぎている… 時間が…ない!!! …ここまで真剣なのは俺の人生の中で…おそらく最初で最後だろう。思考回路が焼き切れるのではないか… そのくらい俺は真剣だった。真剣に考えていた。どうすれば世界が助かるかを。どうすれば…!? とりあえず落ち着く必要がある。さっきこいつが…ソツクナングが言っていたことを思い出せ… 『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』 つまり、俺が今この場で側にある椅子を持ち上げ…ハルヒ(の姿をしたソツクナング)の頭めがけ、 殴りつけたとする。その場合、ハルヒは気絶、ないしは死に陥る。だが、そうしたところで… この世界の崩壊は止まらない。 …まあ、万一にもそれはありえん話だがな…。いくら意識が神に乗っ取られてようと、 この体が涼宮ハルヒ本人のものであることは…疑いようのない事実…!!気絶ならまだいい! 誤って殺したりでもしたら…ッ!一体どうすんだ!!?そんなことをしたらハルヒは永久に帰ってこない… そんなリスクを犯すはずがない…!! どちらにせよ事態の好転は望めない。 じゃあどうすんだ!? …てっとり早いのは、宇宙のどっかに存在する神に対し…直接干渉してやること。 …… 一人間である俺が どうやって?? …時計を見る --------------------------------------23時59分 ダメだ。俺は…このまま何もせずに終わるのか!?もう世界は…どうにもならねえのか!? みんな…ゴメン… …… 『…キョン君、僕は信じてますよ。必ず世界を救ってくれる…とね。』 『キョン君…!!どうか…無事帰ってきてくださいね!涼宮さんと一緒に!!』 『何があっても決してあきらめないで。あなたならきっとできる。』 !! 俺は…みんなと約束した。できるできないの問題じゃない!!やらなきゃいけない…!! 俺は…最後まで絶対あきらめない!!…落ち着け、落ち着いてもう一度冷静になって考えてみろ…ッ! …そもそもである。 『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』 この言葉がどことなくひっかかるのは …俺の気のせいか? ハルヒの覚醒、即ちハルヒがハルヒでなくなったとき。それこそが世界崩壊へのカウントダウンだった。 裏を返せば、昨日ハルヒが倒れるまでの間、そのカウントダウンとやらは起きなかったということになる。 世界崩壊は誰の意志?誰の仕業?言うまでもなく、今目の前でハルヒを操っている神そのものだ。 つまり、神はハルヒの覚醒無しでは世界崩壊は成し得なかったはず。 …覚醒とは何だ?ハルヒはどうなった? 【前時代の記憶を取り戻す。】 これは俺のみにならず、長門や古泉たちとの共通認識でもあった。 だが…今のハルヒは違う。記憶が戻ったとか、そういう次元の問題ではない。 目の前のこのハルヒには【ハルヒ】としての意識がそもそも存在していない。自我が存在していない。 それもそのはず…神がそうするよう仕組んだからである。言わば、神の操り人形といったところか。 …俺たちの覚醒認識が間違っていたのか?だが、長門・古泉が主張していたあたり、安易にそうとも思えない。 1つ仮説を立ててみる。仮に、俺たちの認識は正しかったとする。 そうである場合、今のこの現状はどう説明すればいい? …思いつく答えは1つ。それは、記憶が戻った直後、神の介入により意識を絶たれたというもの。 第四世界崩壊のためには涼宮ハルヒの意識を奪い、神の監視下、コントロール下に置く必要があった。 …要約すればこういうことだろうか。 しかし、なぜそんなことをする必要が?正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…? 「後 数秒で地球は公転周期上、完全にフォトンベルトに突入する これで第四世界も終わり 」 …数秒だと!?すぐさま腕時計を確認し…!?もう10秒もない…!! ッ!!! くそッ!!後もう少しで…後もう少しで何かわかりそうだったってのに!!! 9 …ッ!!俺はあきらめない…!!あきらめたら…何より朝比奈さんの死はどうなる!? 俺に言葉を託して死んだ朝比奈さんはどうなる!?これじゃ単なる無駄死にじゃないか!!! 8 『たぶ…ん、この世界は…守られる…第五…世界ももう…すぐ消滅…みん…ないなくな…る』 7 朝比奈さんは…あのとき何を根拠にこんなことを言っていたんだ…!?? あのとき…彼女は何を思ってこれを口にした?? 6 …俺は、あのとき覚悟を見せつけたじゃないか 5 【この朝比奈さんが…自分のいた世界を守るのに命懸けなのなら。俺だってそうだろう…!? 状況的には全く同じはずだろう!?俺は自分のいるこの世界を、人々を、家族を、友人を、 …ハルヒを!守りたい…!!!】 4 朝比奈さんが俺の覚悟を垣間見たのだとしたら…彼女は俺に一体何を期待した? 世界の人々?家族?友人?いや…違う 3 『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』 2 彼女の最期の言葉が それを物語っていた 1 「 」 「 」 「!?」 「…何を し 計画 計画 が あ 、あああ !? ああああああああああああああああ!!!!!!」 12月2日0時0分 第四世界滅亡 その筋書きが破綻してしまったせいか -----------神は発狂し始めた …… 俺は今 一体何をしたのだろうか …反射だ 小学校、あるいは中学の理科の授業にて、こんな言葉を聞いた覚えはないだろうか? 特定の刺激に対して意識とは無関係に引き起こされる反応……生物学的反射の一般定義だ。 熱いヤカンに指が触れ、熱い!と感じた時には、すでに指は手元へと引っこんでいた。 わかりやすい反射の一例としては、例えばこういうものがある。 …厳密に言えば、今のは反射ではないのかもしれない。まあ、この際それはどうでもいい。 …… 机にもたれかかり、必死に倒れまいとするハルヒ。だが、それも時間の問題のように見えた。 それもそのはず…麻酔を叩きこまれて平然としてられる人間など、いるはずがない。 俺は涼宮ハルヒめがけ 麻酔銃をぶっ放していた 「意識 意識がぁ っ!」 ついに立っていられなくなったのか。床に塞ぎ込み、頭を抱えるハルヒ。 …麻酔銃?なぜ俺は、この局面でこれを使用したのか? …… …なるほど、 【正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…?】 この問いに対する答えを、俺は知らぬ間に見つけてしまっていたらしい。…逆を考えてみればいい。 記憶を取り戻したということは、即ちその瞬間において、ハルヒが神と意識を共有することを意味する。 『だってあたしは神の分身だもの。つまり、神が考えてることが同時に今あたしが考えていること。』 本人の言葉通り、ハルヒはこれから神がしようとしていることを…瞬時に把握する。 神がこれからすることとは…言わずもがな、俺たちが生きるこの世界の破壊である。 …それを知ったハルヒはどうするだろうか? 『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている… それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。 そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。』 『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』 極めつけは…第一、第二、第三、第四と史実に準え、次々に世界が滅んでいく様を… 見せつけられた一昨日の夢の中で…!消えゆく夢の中で、かすかに聞こえてきた、ハルヒの言葉…! 『嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!』 もはや自明であろう。ハルヒが…決してこの状況を望んではいない、ということは。 話は次の段階へと進む。 望む望まないは別とし、ハルヒの中に何かしらの強固な意志が生まれた場合… 結果として【何】が起きる?…これが最も重要である。神はそれを恐れてる。 だからこそ、神は涼宮ハルヒの自由意思を阻害すべく、彼女を自らの監視下に置く必要があった。 以前、俺はハルヒに『神をやめて一人の少女、普通の人間として生きたいと思ったことはないのか?』 と提案したことがある。しかし、ハルヒはすぐには首を縦には振らなかった。その理由というのが 『化身である以上、これからもずっと神の意志に束縛されて生きていくのは自明で…。』 という思い込みにあった。自身が好きなように生きることを放棄した、ある種の諦観とも言うべきか。 その後の俺の説得により、ハルヒは立ち直った。これまでのステレオタイプから抜け出した。 結果、ハルヒは転生という手段に打って出る。代行者としての自分を捨て、来たる第四世界で 1人の人間として----------、自身の意志で生きていくために。 『やっぱり物事ってのはやってみるに越したことはないと思ったわ…あたしの潜在能力って案外凄かったみたい。』 …試みは見事に成功した。画期的とも言える瞬間だった。 つまり 涼 宮 ハ ル ヒ の 力 の み が 神 に 干 渉 で き る 唯 一 の 手 段 俺が言いたかったのはこの一点である。 ならば、ハルヒが記憶を取り戻した状態で、万が一にも神に対する強い反駁精神を発動させでもしたら 一体どうなるか?察しの通り、神は自らの計画に支障をきたすことを…覚悟せねばならぬ事態へと発展する。 仮にハルヒのそれが潜在的なものであったとしても、第四世界の崩壊にあたって全くのイレギュラー因子が 無いとは…言い切れない。神からすれば…これほど不気味な存在もいないだろう…? 言うことを聞いてくれない自身の分身など、脅威以外の何物でもないからだ。 言うのは二度目だが、ただの凡人である俺のような一人間には 宇宙のどこかに在する神に対し、どうこうしてやることなど…できるはずもない。 だが…ハルヒには…!涼宮ハルヒにはそれができる!! …… 『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』 朝比奈さん…ありがとう。貴方が最期に言い残してくれた言葉のおかげで…、 俺は救われました。あの言葉の意味が…ようやくわかりましたよ。 …そうとわかれば話は早い。俺がやるべきこと…それは ハルヒが【ハルヒ】として自我を確立してられる環境を作ってやること…!! その一言に尽きる。残念ながら、現在目の前にて立ち塞がるハルヒは…ハルヒであって【ハルヒ】ではない。 神の息がかかった彼女を、一体どうすれば正常な状態に戻してやれるのか!?最大の難問だった。 『今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない 』 こいつの言っていることは一理ある。 例えば、俺がハルヒに対し…素手や足で殴る蹴るなどし軽傷を負わせたとする。しかしそうしたところで… それはあくまで、言葉通り軽い傷でしかない。そんな程度の低いアクションを加えたところで ハルヒが神の監視下から逃れるとは…とても思えない。依然、意識は神に管轄されたままだろう…。 かと言って、重傷を負わせれば良いという問題でもない。それこそ暴論である…。 頭を殴りつけたり等して、万一ハルヒに永久に意識が戻らなかったらどうするつもりだ…!? 仮に戻ったところで、そんな重体な体で…どこに神に対し、憤る余裕があるというのか!?? 痛みが先行してそれどころではないのは…言うまでもないはずだ。 では、どうすればいいのか?神に憑依された表層意識を払拭するには… どうすればいいのか??単に、何か強い衝撃でも与え意識を失わせればいいのか?? …もちろん、暴力手段をもって身体に重傷を負わせる手法は…論外である。 …… 『麻酔銃…ですからね。人を殺すための道具ではないんですよ。そう言えば、わかりますよね?』 俺は賭けに出ることにした。 麻 酔 を も っ て 意 識 を 絶 つ 意識が揺らぐ一瞬の隙こそ、ハルヒが現状復帰できる最初にして最後の機会。俺はそう確信した。 …ああ、自分でもわかってるさ。これは賭けってレベルじゃねえ。 めちゃくちゃだ…大博打だ…それ以外に言いようがない。 …… あまりに不安要素が大きいのもわかってる。まず根本的な問題として麻酔ごときに、果たして神に隙が 生まれるのかどうか…?仮に生まれたとして、一瞬という僅かな時間でハルヒは意識を取り戻せるのか…?? 麻酔自体の効力もいまいちわからない。軽傷と同じ部類の衝撃性ならほとんど意味を成さない。 かと言って重傷すぎても困る。深い即効性の昏睡だと、いずれにしろハルヒは戻ってこれない。 だが、今はこれしか頼れる方法がなかった。何かもっと、他に確実性のある方法はないのか!? と、何度も何度も思案した。こんな危険な橋、誰が好き好んで渡るものか…ッ!! しかし…考えに考え抜いた挙句、どうしてもこれ以外には思い浮かばなかった。 だから…敢えて俺は信じたい。これが現状における最良の手段だったと。 俺は涼宮ハルヒめがけ、引き金をひいたんだ。 …そして、先ほどの冒頭に戻る。 「ぁあ くっ っ!」 今にも意識を失いそうな少女がいた。 …… 時刻は0時1分 窓から外を眺める。…さっきと何ら変わったところはない。 まだ油断はできない。だが、一つだけ言えることがある。それは 12月2日0時0分世界崩壊 回避した 12月2日0時0分世界崩壊 確かに…回避した…!!少なくとも、この時間帯における世界崩壊は免れた…!! これはつまり、神への干渉に成功したということ。もっと言えば、神に反駁すべく ハルヒの自我が表層意識に現れ始めたという証拠。 …俺の博打も捨てたもんじゃなかったらしい。 …… 古泉がくれたこの麻酔銃。結果として、俺は朝比奈さんは救えなかった。 だからこそ失敗は許されなかった…!!ハルヒだけは…なんとしても助けたかったから!! 「…、キョン…ッ」 …!? 急にハルヒの声色が変わった。…まさか 「ハルヒ…ハルヒなのか!!?」 すぐさま俺はハルヒの元へと近寄る。 「ふふっ…まさか、あんたが銃…それも麻酔銃なんてものを使うなんてね…、驚いちゃった。」 「ハルヒ!!お前…大丈夫か!?」 「…、大丈夫なわけないでしょ…!誰のせいで今体が…痺れてると思ってんの…!?」 そうだったな…すまん、ハルヒ。 「別に…落ち込まなくていいわよ。それしか…良い方法がなかっ…たんだろうし…。」 所々ハルヒの言葉が途切れているのがわかる。…これも麻酔のせいか。 「よく…戻ってこれたな…。」 「…え?」 「麻酔によるショックで神が動揺したのはほんの一瞬だったはず…その短時間で よく意識を取り戻せたなと言ってるんだ…。俺が麻酔という手段に訴えたことに お前が驚いてるように、俺も…お前の素早い復帰には心底驚いてるとこなんだ。」 「…別にそんなにおかしなことでもないわ。ただ、一瞬の隙さえあればあたしはよかった。 隙さえあれば、すぐにでも神と…取って代わるつもりだった…!」 「…??どういうことだ?お前…意識がなかったんじゃ…?」 「…それは違うわ。意識はあった。ただ…意識があっても、感情や仕草を表層に出すことが… できなかった。これほど歯痒い思いもなかった…!言わば、神に抑えつけられた状態ね… こればかりはあたしではどうすることも…できなかった。…操り人形のまま12月2日を迎えようとした時には… 正直もうダメだと思った…だから、必死に心の中で叫んでた…! 【キョン!!何ボサっとしてんの!?さっさとあたしを助けなさい!!】…ってね。」 「…まさか、お前があのときそんなことを思ってたとはな。俺は、その期待に応えることはできたか?」 「結果的にはね…さすがに、麻酔を使ってくるとは……思わなかったけど。」 「…そりゃそうだよな。」 「でも、おかげであたしは助かった…あんたの予想外の行動に、神は酷く動揺した…その隙をついて あたしは…神に、一気に反転攻勢をかけた…!それもあって神は…世界崩壊を、中断せざるをえなくなった…。」 …… 今更ながら驚く。 俺があのとき…世界を救うことで、頭を試行錯誤したり躍起になっていた中で…こいつはこいつで、 世界を救うことで必死だったんだ…!!確かに、そうでもなければ…麻酔をかけた直後に世界崩壊を 止めさせることなど、普通に考えればできるはずもない…ハルヒのとっさの反応があってこその芸当か。 …ハルヒには感謝せねばならない。 「…それで、全て思い出したのか?」 「…ええ、おかげ様でね…。あたしが神の代行者として日々奔走していたってことも…、 そして、第三世界の終わりで…あんたと出会ってたってこともね…。」 「…そうか。」 「まさか、またこうしてあんたと出会うときが来るなんてね… もっとも、あんたは第三世界でのことなんて…覚えてないでしょうけど…。」 「いや、しっかりと覚えてるぜハルヒ。」 「…どうして?転生した人間が前世の記憶を取り戻すなんてこと、あるわけ…」 「夢を見たんだよ…昨日な。船上でお前と…いろいろと話してた夢をな。お前は気付いてないのかもしれんが、 無意識の内に力を使って俺に過去の記憶を覗かせた…古泉や長門はそう分析してたぜ。俺もそう思ってる。」 「…変な話ね…だって、あんたってあたしと同じく転生してきたんだから…厳密に言えば異世界人的扱い… になるのよね?なら…そんなキョンにあたしが干渉することなんて…本来ならできるはずが…。」 …!! 確かに…ハルヒの言うとおりじゃないか??…じゃぁ、あの夢は一体?? 「…ふふっ、もしかしたら…あの世界のあんたが、それを知らせたのかもね…。」 「お…俺が!?そんなことが可能なのか??」 「…確かなとこはよくわかんないけどね…でもね、あたしはそう思うの。だって…そうでしょう? あんたの記憶は…キョンにしかわからないもの。キョンしか知らないんだもの…。」 …… 【お前】が…見せてくれたのか?世界の危機を察して…わざわざ俺に知らせに来てくれたってのか…? …夢から覚めた後、俺の問いかけに対し、長門・古泉は『ハルヒに異変はない。』と言っていた。 あれは…本当だったってわけか?俺の代わりにハルヒを守ってやれって、そういうことだったのか? 【お前】も姿が見えないってだけで…俺たちと一緒に、必死に戦ってくれてたのか…?実際のところはわからない。 …… 「…あたしね、ずっとキョンに会いたかった…だから…っ!もっと話したいけど 残念だけど、そうもいかないみたい…この世界を…なんとかしなくちゃ…ね。」 「俺も…また会えて嬉しい。過去の俺も、再会できてさぞかし喜んでると思う。 俺だって話したいのは山々…だが、まずはこの危機を乗り切らなくちゃな。」 そう、まだ終わっていない。 12月2日0時0分世界滅亡 確かにこれは回避した。だからといって、第四世界崩壊という筋書き自体が消えてしまったわけではない。 この回避はおそらく一時的なもの…12月2日0時0分という定刻が先延ばしされたにすぎない。 …当然だろう。地球崩壊を企む張本人が宇宙のどこかで、いまだその遂行に励んでいるのだから。 極論を言えば、あと数分で再び世界が消滅の危機にさらされる可能性だってある。 「…ハルヒ。次に地球がフォトンベルトに入る時間帯は…いつかわかるか??」 「…後、20分もしないうちに突入よ…。」 「20分だと!?」 どうやら、俺がさっき言ったことは極論ではなかったらしい。 「畜生…!一体どうすれば」 「キョン…あたしちょっと…やばい…かも」 「…ハルヒ!?どうした!?」 「麻酔が…まわって…きたみたい」 「ッ!!」 麻酔銃を使った代償が…ここにきて現れ始めた。そうなることは覚悟していたが…っ! 「ハルヒ!!お前の…お前のその願望実現の能力で…!その麻酔を取り除けないか…!?」 「…残念だけど…、それはできない…。」 「どうしてだ!?」 「確かに…、麻酔を強く拒否すれば…能力は発動…するでしょうね…でも、今はそんな些細なことに力を 削ぎたくはないわ…キョンも…わかってるんでしょ…?神に対抗できる唯一の手段が…あたしだけって…ことに」 「…!」 「それでも…万全な状態でも、あたしは神の力には遠く及ばない…はず。ましてや…神を倒すともなれば…」 「!?神を…倒すのか!?」 「だって、そうでしょう!!?じゃなきゃぁ、さっきと同じ…。 一時的に防いだところで、世界が危機に見舞われていることには…変わりないわッ!! なら、その根源である神そのものが消滅しない限り…世界は神の魔の手からは、永遠に逃れられない…!! だから…少しでも、少しでも力を温存しとかなくちゃならない…!そうじゃなきゃ、世界は…!!」 …… 俺から言うことは何もない… ハルヒの覚悟は本物だ…! 「…それで頑張ったとしてだな…!後どれくらいもちそうなんだ!?」 「わからない……、もって5分…ってとこかしら…、」 5分 …… 5分 胸に突き刺さる このわずかな時間の中で…ハルヒは神を倒さなくちゃならない。 止めるならまだしも…神を倒す!?神の存在そのものを…消す!?そんなこと… そんなことが本当にできるのか…!?そんなことが、本当に可能なのかっ!!? 「あたしは…神の消滅を強く願う…っ。強く願って…それを実現させる…! それが…あたしの能力だったものね…。あたしが…あたしがやらなくちゃ…っ」 俺は…何をやってるんだ…? 確かに、状況は絶望的だろう。だが…それでも尚あきらめず、神に立ち向かおうとしてる 当の本人を前に俺は… 一体何をやってる…?何を勝手に…沈んでる…? …最低だ。俺は。 …… 『だけどね、あくまであたしの体は人間。だから力的には 本体である神を超えることなんて絶対に不可能なの…当たり前だけど。』 『……』 『転生はできそうなの。でも完全には…いかないみたい、残念だけどね。 今あたしがもってる人間らしからぬ能力も…おそらく一部は受け継がれることになると思う。 それどころか神の操作で、今以上により強大になっている恐れだってある。』 『……』 『だから』 『言わんとしていることはわかるさ、そこまで俺も鈍くない。それでもし 何か悪いことが起こったって…そんときはその世界の俺がきっとハルヒを助けに来るはずだ… だからさ、お前は安心して転生に専念してりゃいいんだよ。』 『キョン…ありがとう。』 突然のフラッシュバック …… そうだ…俺はあのとき、昔ハルヒに言ったじゃねえか…!?助けてやるって!!!! あの世界の俺は…確かにそう言ったじゃねえか!!!? 「ハルヒ…!」 「…!?キョン…!?」 俺は…。座り込んでいるハルヒの手を…力強く握ってやった。 「ハルヒ、お前は…決して一人で戦ってるわけじゃない…!」 「…?」 「ハルヒ…実はな、さっきの麻酔銃は…古泉がくれたもんだったんだよ。」 「…古泉君が。」 「それとな…俺が今こうやって生きてるのも…長門と朝比奈さんのおかげなんだ。」 「…有希…みくるちゃん…。」 「みんなの力があって…今ここに俺とハルヒがいる。どうか…、それを忘れないでくれ!!」 「…!!」 「みんなここにいる…古泉、長門、朝比奈さん…みんな頑張ってる!!当たり前だろう!? SOS団は…いつも一緒だったじゃねえか!!それは…それは、団長だったお前が何より… 誰よりもそれを知っているはずだ!!!」 「キョン…っ」 「残念ながら一人間にすぎない俺には…こうやってお前の手を握っておくことくらいしか…できない。 …けどな、それで少しでもお前の気持ちが安らぐのなら…! 【SOS団みんながお前についてる。】、その証を少しでも感じ、不安が拭えてくれるのなら…! 俺も、お前の横で…必死に、必死に祈り続けてやる!!決してお前を一人にはさせねえ!!!!」 「キョン……ッ!!!」 …… 「そうね…あたしには…みんながいる…!!古泉君、有希、みくるちゃん…そしてキョン…!」 …… 「あたしね…正直言うと、半ばあきらめてたの…神なんかに勝てるわけない…ってね… でも…、あたしはキョンから勇気をもらった…!それだけで…それだけであたしは頑張れる…!! だから…あたしが意識を失わないよう…!強く、強く…!手を、握りしめていてね…。キョン…っ。」 「…ああ、もちろんだ。」 一体どれだけの時間が経過しただろう。 「キョン…」 「…何だ?」 「神の声が…聞こえなくなっ…たよ…」 「…俺はな、お前にならできると思ってた。」 「一体…、どれくらい…、時間…経った…かな?」 「…ちょうど5分ってとこだな。」 いまだにその5分というのが信じられん 俺には無限もの時間が去ってくような、そういう感覚に囚われていたんだ 「あたし…頑張っ…た…よね?」 「ああ、お前は十分に頑張ったさ…、よくここまで耐えたと思う。」 「…神の…声が…聞こえない…」 「…やったな…ハルヒ…ッ!!」 「声が…聞こえ…ない…」 神の化身である涼宮ハルヒには神の声が聞こえる 神が何を考えているかがわかる その声が----------------------------聞こえなくなった …… つまり、神は消滅した はっきり言おう。信じられない。わずか数分で…ハルヒは神を凌駕した。本当に凌駕してしまった。 予防線を張っておく あくまで可能性でしかない。神が本当に消えたかどうかなんて、一体誰がどうやって確認できる?? …… それでも俺は…ハルヒに対し、素直におめでとうと言いたかった。 死力を尽くした本人に…俺は誠意をもって労いの言葉をかけてやりたい。 「ハルヒ!おめで…」 …? 「ハル…ヒ?」 …いつからだろうか?ハルヒの体が…光っていた。 「ははっ…力を…使い果たしちゃった…みたい。」 …… デジャヴだった。この光景を…俺はどこかで見た。…そう、第三世界終焉時の夜。 海岸でハルヒと出会ったとき。あのときも彼女は…確か光り輝いていたんだ。 「転生のときと同じ…最後の灯火ってやつ?能力が無くなっちゃうときって、いつもこうなるのよ。 あのときもあたしは神に抗い、力を使い果たしたんだっけ…今のこの状況と全く同じね。」 …ハルヒのしゃべり方に、俺はどことなく違和感を覚えた。 「ハルヒ…お前、麻酔は…?」 「……」 …… 「状況は転生したときと全く同じ。つまり、これからあたしの記憶は永遠に失われる… だから、せめて最期くらいはあんたと、万全の状態で接しておきたかった…。 そう強く思ってたら…いつのまにか麻酔はとれてた。…そういうとこかしら。」 今、何と言った? 「ちょっと待て…記憶が失われるって…?どういうことだ!?」 「慌てないで。ただ、三日前のあたしに戻る…それだけの話よ。」 …… 「神に纏わる記憶が総じて消されるってことか…?」 「そういうことね。おそらく、明日にでもなれば…神だの第四世界だのそういうことを一切知らない、 ちょうど三日前の状態のあたしがいる…と思うわ。ただ、その明日が来ればの話だけど…。 本当に神が消えていれば…ね。」 「……」 ハルヒもハルヒで自覚していたらしい。神が消えたというのは…あくまで可能性でしかないということを。 …… 「…いずれにしろ、もう【お前】とは会えないってことか…?」 「ええ…残念だけど。でも、あたしはそれでいいと思う… 普通の、一人の少女として生きるのであれば、こんな記憶…邪魔以外の何物でもないもの。」 このハルヒとは二度と会えない …会えない …… なんだ?この喉につっかかる妙な感覚は…? …… 俺は…こいつに 何か言わなくちゃいけないことがあるんじゃなかったか…? ------------------------------------------------------------------------------ あれ…どうして俺は泣いてるんだ?確証はないが…遠い未来再びハルヒと会えるかもしれないじゃないか。 ああ、わかってはいるさ。会えるのは【未来の俺】であって今の俺じゃない。問題は会えるかどうかじゃない。 今の俺が…ハルヒに『この思い』を伝えられなかったこと…それが悔やんでも悔やみきれない。 そうか、だから俺は泣いているのか。ようやく理解した。 …… 「ハルヒ……ハル…ヒ………」 いくら叫んだってもう伝わりはしない。聞こえもしない。見ることも、触れることもできない。 …… 遠い未来の俺よ… 一つ頼みごとを聞いてはくれねえか。 もしお前がハルヒと出会うようなときが来れば… そんときは俺の代わりに『この思い』 ハルヒに伝えてはくれねえかな? 俺は第四世界の出発点とも言えるこの時代で精一杯生き抜いて…そして寿命を終える。 だから…遠い未来の俺よ、お前もお前でその時代を全うして生きろよな。 ハルヒと一緒に。 ------------------------------------------------------------------------------ そうだったよな?あのときの俺… 「ハルヒ…。お前に、伝えなくちゃいけないことがある。」 「…キョン?」 「今から言うことはな、あの世界の俺がお前に…言いそびれたことだよ…。」 「…?」 「でもな、それと同時に…それは、今の俺が思ってることでもある。…じゃあ、言うぞ。」 「俺は…お前のことが ……、大好きだ。」 「!!」 …… 「……」 「……、」 「……」 「……、、」 …ハルヒ? …… おい、どうしたハル …… 泣い…てる…? …… 「…まさか、最後の最後で、あんたの口からそんなこと言葉…聞くなんてね…。」 「……」 「最期にその言葉を聞けたあたしは…とても、幸せな【人間】だと思った…!」 「ハルヒ…。」 「キョン…覚えてる?第三世界での別れ際に…あたしが言ったことを。あのときも、あたしは幸せだと言った…、 でも…違うの…っ!あのときの『幸せ』とは…違う…!!本当に…嬉しいの…っ!」 …… 『【神の代行者】としての最期に、あなたのような人間に出会えてあたしは幸せだったわ…!』 …… 「ははっ…あたし、何泣いてんだろう…?また、ハルヒはキョンに会えるっていうのにね…」 「……」 「キョン…今の言葉、ハルヒにも…ちゃんと言いなさいよ…? あたしと…約束しなさい…!これは…団長命令……よ……、」 …そう言い残し、ハルヒは泣き崩れた。 「…団長命令に逆らう部員が 一体どこにいるってんだよ…?」 俺はハルヒを…強く、強く、抱きしめてやった。この華奢な体を…壊してしまうくらいに強く。 …不思議なことに、ハルヒは痛いとは言わなかった。…変な話だ。こんなにも強く抱きしめてるってのに…! 「キョン…あたしはあんたのことが…好きだった!大好きだった…!!」 「…そう言ってもらえて、あのときの俺も…さぞかし嬉しいだろうよ。」 「何…カッコつけてんのよ…?あんただって…嬉しいくせに…っ」 「…当たり前だろ。」 「……」 ずっとこうしていたい。俺とハルヒの間に…距離はなかった。 「…あたしね。」 ハルヒが口を開く。それは…独白ともいえる内容だった。 「…地球が誕生してから、やがて人類が生まれた…その人類を統括するための仲介者として あたしは生まれた…。やがて、人々はあたしを神と見なし、敬うようになった…。神は平和を望んだ、 だからあたしも平和を望んだ…けれど、それも長くは続かなかった…人間たちは互いを謗り合い、傷付け、 憎み…やがて戦争が起こった。神は怒った…結果、世界は滅ぼされた。けれど、そのときはまだあたしは 何も感じなかった…感情がなかったのね。けれど、しだいに人間や動物との交流が進んでいくうちに… そういう神の行いを、あたしは暴挙だと捉えるようになった。でも…それでもあたしは自分からは 動こうとはしなかった…神の仰せのままに従うのが、あたしの宿命だったから…、天命だったから…、 運命だったから…、そう強く あたしは信じていた…」 …… 「あんたがいなかったら…あたしって、一体どうなってたのかしら? いまだに神の代行とやらに追われ…日々奔走してたりしてね。」 「…そりゃなんとも、難儀な話だな。」 「あたしね、あんたと会えて本当によかったと思ってる。 だって、あんたがいなきゃ…今のあたしはいなかったんだもんね…。」 …… 「…時間…ね、」 「ついに…きたのか…。」 「ええ…あと1分もしないうちに、あたしの記憶は消されるわ。 神としての記憶も、滅んだ世界の記憶も、そして…昨日今日あった出来事も含めて全部…ね。」 「そうか…寂しくなるな。」 「何バカなこと言ってんのよ。ちゃんとハルヒは健在よ!」 「そんくらいわかってるぜ。」 「なら、紛らわしいこと言わないの。」 「……」 「な、何よ?」 「ハルヒ…」 …… 「今まで…ホント大変な人生だったろう…?よく、ここまで頑張ったな…。」 「……」 「でも、それも今日で終わりだ。次の朝からはお前は…今度こそ、本当の意味で 普通の人間としての生活を送れるようになる。その人生を…これまで苦労した分、どうか楽しんで生きてくれよ。」 「…もちろん、それはあんたがするのよね?」 「…?俺が…お前を楽しませるってことか…?」 「そゆこと。」 「まったく…お前には敵わんな。」 「当然よ!あたしを誰だと思ってんの!?」 「…団長様だろ。で、俺は雑用係りの平団員というわけだ。」 「わかってるのなら、それでいいわ!」 「どうか、ハルヒをよろしくね…っ」 直感で察した。たぶんこれが…このハルヒの最期の言葉なんだろうと。 …ハルヒは目を閉じたまま、顔をこちらに向けている。 彼女が何を言わんとしてるのか…俺にはすぐわかった。 「ハルヒ…また会おうな。」 そう言って俺はハルヒと…静かに口づけを交わした。 …… その瞬間だったろうか。辺りの光景が目まぐるしく変わりだした。 以前、ハルヒと二人 閉鎖空間に閉じ込められた時も…こんな感じだっただろうか。 閉鎖空間から出た後、俺たちはどうなってるだろう 世界は?天災は?神は? …… いつもと変わらない日常風景が広がる世界 凄惨かつ荒廃した光景が広がる世界 …俺たちが元の世界に戻った直後に目にする景色は、果たしてどちらか 前者であることを信じたい …俺は 意識を失った