約 2,287,763 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1034.html
涼宮ハルヒの戦場 その1 涼宮ハルヒの戦場 その2 涼宮ハルヒの戦場 その3 涼宮ハルヒの戦場 その4 涼宮ハルヒの戦場 その5 涼宮ハルヒの戦場 その6 涼宮ハルヒの戦場 エピローグ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1967.html
第一話『古泉一樹の事件』 私達は気絶した彼を引きずりながら 森の外に見える村に向かって歩いていた さっきの彼の行動からか会話がまったくない 人はこれを空気が重いというらしい 実際は空気の質量は変わらないのでそんなことは無い しかし、人間にはそういう風に感じてしまうらしい 説明を長々としていると原作十冊分になると計算結果が出たのでこれ以上はやめておく 「あれ?俺は…?」 後ろで彼が気が付いたらしい 彼を立たせてやる 「俺は一体何をしてたんだ?」 「いわゆる暴走という状態に陥っていた」 「暴走?俺が?本当なのか?」 「長門さんが言っているのは本当よ、斬撃を飛ばして触手ツリー(第一章最後の敵)を倒した後、あなたは明らかにおかしかったわ」 おそらく彼の記憶領域には保存されてないのだろう 私が一通り説明する 「あなたは、予期せぬ自分の能力の開放に混乱した。 混乱によって理性が壊れ、欲望を抑制する機能が無くなった脳は本能で動くようになった あなたの本能は少し特殊で、攻撃することを快感としていた そこで私が、あなたの欲望の源である攻撃手段、すなわち剣を奪い、あなたの正常化を計った 作戦は成功。攻撃する術を失ったあなたは機能を一時停止しその場に倒れた」 「それで現在に至るってわけか…ちょっとショックだな…」 「あなたのせいではない、もし剣を持つことが無かったら今回のようなことは起こらなかった」 「そうか…ありがとよ、長門」 「そう…」 「今の気分はどう?あれだけ暴れていたんだから体が痛いとかないの?」 幽霊である涼宮ハルヒが聞く 余談ではあるが幽霊には痛覚はない、あるのは聴覚と視覚と嗅覚くらい 彼女が人の体を操ればまた話は別になるが 「なんか全身の筋肉痛と倦怠感があるな…誰か俺を運んでくれないか?」 「それ無理♪」 「即答かよ」 「後もう少し歩けば村よ、もうしばらく辛抱しなさい」 「わかったよ、ハルヒ。すぐに宿でも見つけてゆっくりするか」 私達はまた歩き出した 森を抜け、村の入り口まで来た私達は一人の少女を見つけた 「キョンくん!?」 「みくるちゃん!!」 隣で涼宮ハルヒが叫んでいるが、彼女には聞こえてないし、見えてない 「朝比奈さん!どうしたんですか。こんな所で!」 「ふぇぇ…キョンくん、会いたかったよぉ~」 そう言うなり朝比奈みくるは彼に抱きついた 涼宮ハルヒの精神が不安定になっている ほぼ同時に私の内部でエラーの発生を確認した 私が機能停止したエラーとは別物で一時的な物なので無視をする しかしこのエラーの発生は頻発している 特に最近は一日に最低一回は発生している 前の世界に戻ったらエラーの解析を進めておくことにする エラーの話は保留しておく 涼宮ハルヒの表情から不機嫌だということが私にもわかる ~~~~~~~~~~~~~~~~~ キョン視点 えーとこれは喜んでいい状況なのだろうか それとも自分の心配をした方がいいのか 朝比奈さんは俺に抱きついている あの、胸当たっていますが… 「ぐすっ…うぅ…」 よほど恐ろしかったのだろう。朝比奈さんは俺の胸の中で泣いていた 正直言おう、こんな場面を俺は待っていた!! しかしこの状況喜べない! なぜなら後ろにハルヒがいるからだ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという効果音がはっきり聞こえるほど 後ろのハルヒが怒っているのがわかる まてハルヒ、俺が悪いんじゃない すべては朝比奈さんを泣かせたこの変な世界が悪いんだ! しかしそんな言い訳聞いて許してくれるはずがない 後ろで神人が拳を振り上げた音を聞いて俺はこう言った 「いってきます…」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 再び長門視点 彼は涼宮ハルヒによって殴られ気絶した 「いってきます…」と言っていたが 状況から逝って来ますという漢字をつかうのが適切だろう 「ふぇぇぇ!?何があったんですか!?」 状況把握できてない彼女がおろおろしていた 再び気絶したキョン おろおろする朝比奈みくる ゴゴゴという効果音付の涼宮ハルヒ ガクガクしている朝倉涼子 ユニーク 「彼を棺桶に入れて教会まで運ぶ。手伝って」 「それなんてドラ○エですかぁ?朝倉さんも止めてくださいよぅ!」 「気絶なんだから棺桶に入れる必要はないんじゃ…私が言えるセリフではないけどね…(過去の過ちの事)」 「ふん、こんなやつここで埋葬すればいいのよ!」 それはやりすぎである そういえば朝比奈みくるに涼宮ハルヒを見えるようにしないと そう思っていると朝倉涼子が近づいてきた 「さっきから朝比奈さんを見ていたけど今涼宮さんを見せるのはまずいんじゃない? 彼女に見せたら失神しちゃうわよ」 確かにそのとおりだ 朝比奈みくるの見てないところで涼宮ハルヒにも言っとく必要がある とりあえず村に入ることにする もちろん彼は引きずっていく 村に入った私達は宿を探していた 「安いよ安いよ、今なら新鮮なちゅるやさん1/1人形が150円だ!」 「百発百中!フューチャの占いの館はこの路地裏!」 「最新ゲーム機勢ぞろい!GAMESHOPマシナ本日開店!」 村だというのに見事な賑わい振りである ちなみにこの世界の裏で操っている誰かのネーミングセンスについては触れないでおく 歩いているとINN(宿)とかかれた看板を見つけた 私達はそのドアをノックし、中に入った 古泉一樹がそこにいた 「おや、奇遇ですね。まさかここで会えるとは」 「知り合いですか?」 宿の主人らしき女性が古泉一樹に話しかけていた 「ええ、そうです。ずっと探していた人たちですよ」 「なるほど、だからここに毎日きてたんですね」 おそらく、古泉一樹は私達が宿に泊まることを予想して毎日来ていたのだろう 「しかし、まだ探している人が後一人居る筈なのですが…、代わりの人がいますね」 鶴屋さんのことだろう 「私が紹介する。こちらが朝倉涼子、こちらが古泉一樹。」 「初めまして」 「初めまして、いろいろあってキョン達の道案内していたの。後一人の場所はまではわかってないけど」 「そうなのですか、ところで肝心の彼が気絶していますが…」 「あとで説明する。いまあなたが家にしている場所に案内してほしい」 「わかりました。私の家は豪華ですよ」 「わぁ~楽しみですぅ」 「私も興味あるわね。どんな家に住んでいるのかしら?」 しつこいようだが、朝比奈みくると古泉一樹には涼宮ハルヒの声は聞こえていない 「あの朝倉さんって、この世界ではどこに住んでいるんですか?」 朝比奈みくるが古泉一樹の家に向かう途中、こう言い出した 「大きな城の城下町に住んでいたんだけど、今はわけあって住んでないわ。」 「そうなんですか、私はこの世界に来てから住む場所も寝る場所も作れなくって…」 彼女の人見知りな性格を考えれば当然であろう 「私は涼宮ハルヒ(偽)に指名手配されている。そこで彼の家を隠れ家にしていた時もあった」 「あれ?あ、そうか気絶してたんだ。運んでくれてありがとな。長門」 彼が気が付いたらしい 「別にいい。」 「そうか。」 ~~~~~~~~ キョン視点 長門の状況説明によって現状を理解した俺は 「おや、やっと気付きましたか」 古泉がここにいる理由も理解した 「色々とお聞きしたいことがあるのですが…」 「今ここで話すのは非常に不味い。後にしてくれ」 ハルヒのこと話しても驚くか笑うだけだろう そして古泉の家の前まで来た 「おおっ!!」 その言葉しか出なかったね 昔の洋館とでも言うだろうか 違うのは新築同様にピカピカということ その立派な家が目の前に建っている 「もう気付いているでしょうが、執事もメイドもいます。 もちろん、執事は新川、メイドは森さんです。 同居人として多丸兄弟もいますよ」 ここは孤島じゃねぇぞ 古泉、お前絵に描いたような金持ちじゃねぇか 逃亡生活している俺たちの身にもなってみろよ なんていろいろ考えているうちに古泉が洋館の扉を開けた 「おかえりなさいませ」 そういったのは森さんだ。 「森さん、この人たちが探していた人です。」 「初めまして」 森さんは前にも会ったが、多分覚えてないんだろう 仕方ないちゃ仕方ないが 「古泉さんがいつの間にか友達を作っていたなんて驚きました。」 こいつと知り合ってもう八ヶ月以上なんですがね 「とりあえず、皆さん疲れているでしょうから、部屋に案内します」 古泉に案内してくれたが 部屋数が半端ないな、一人一部屋とっても余るじゃないか 「今日はここを使ってください。トイレはこの廊下の先を右にありますし 内線も繋がっているので何かあったら新川さんか森さんを呼んでください もちろん各部屋鍵がかかりますよ」 「古泉くんはどの部屋にいるんですかぁ?」 「この廊下を左に曲がってくださいすぐに扉があるのでノックしてください。必ず返事します」 「空腹になったらどうしたらいいのかしら?」 朝倉も腹は減るんだな、いやインターフェースも食べるくらいだから当たり前か 「食堂で食べ物を用意します。後一時間後、七時位に来てください」 「凄く豪華ね。古泉くんの家って」 うおっ! いつの間に後ろにいたハルヒ!! 「どうかしましたか?」 「いや、なんでもない」 古泉はハルヒのことみえてないからな 「さて話があるので少し食堂に行きましょうか」 食堂に移動した俺たちはこの世界の現状について確認を始めた 「さて、僕たちは一昨日、四日前かも知れませんが この世界に飛ばされました。ここまでに間違いありませんね?」 「間違いない、一昨日城の牢屋で気が付いたからな。」 「私のデータベースでもこの世界が構築されたのは一昨日になっている」 「私も同じです。周りには知らない人しかいなくて怖かったですよぅ」 「私はこの世界が構築されてから作られた存在だから詳しくはわからないけど、 キョンくんの存在を確認したのは一昨日で間違いないわ」 「一昨日の時点で未来や情報統合思念対と連絡取れましたか?」 「現在も含めこの世界が構築されてから一度も情報統合思念体にアクセス出来てない。」 「わたしも同じです。一度も未来には連絡できていません。本当に普通の人間になってしまいましたぁ…ぐすっ」 朝比奈さん、気持ちはよく分かります。誰でも故郷と連絡が取れなくなったら不安なりますから 「この世界には未来や情報統合思念体、機関は存在しません 世界が改変されたため消されてしまったのでしょう 仮に、外部に存在したとしても、この世界にとっては無に等しいです この世界は外部から切り離された世界なのです 今回涼宮さんが起こした行動は情報爆発や時空振動に値する物です。 仮に存在して影響を及ぼすことが出来るなら、未来に、情報統合思念体にせよ、 何らかのアクションを起こしているでしょう」 古泉の長ったらしい解説を黙って聞いていたが、 「それじゃあ、朝比奈さんの故郷や、長門の生みの親は消えたって言うのかよ!?」 「やめて!古泉くんは何も悪くないわ!」 いつの間にか熱くなっていたらしい、当たってもしょうがない相手に当たってしまった ハルヒになだめられた俺はイスに座りなおした 「こうなった以上、仕方ありません。私の仲間と呼べるものもほとんどバラバラになってしまいましたから」 古泉には機関という仲間とも言える存在がいた ところが今はどうだ?一応一つ屋根の下に住んでいるが 前みたいな仲間意識を持ったやつはこの家に住んでいないじゃないか こいつだって寂しい思いしてるんだ 「スマン、熱くなってしまったようだ。」 「いいえ、熱くなって当然です。むしろこの状況下で落ち着いてられる僕自身に自ら怒りを感じています」 一瞬の沈黙 古泉がまた話を切り出した 「朝倉さんは、今この中で一番涼宮さんに近い存在です。何か知っていることがあるなら教えていただきたいのですが…」「今は涼宮さんと関わりは薄いけど、彼女の部下だったのは間違いないわ 彼女の部下のメンバー全員まで私は把握できてないけど、 彼女の知っているメンバーが多いみたい。実際何人か知っている人がいたわ 部下の中にはいくつか階級があって、エリートクラスなどがあるの メンバー総数は数百人、一般兵士は何万といるはずよ」 「では、この中で二つの記憶、つまり、この世界の記憶と前の世界の記憶両方持っている方は?」 「俺は持ってないな。前の世界の記憶だけだ」 「私も同じ。この世界の歴史は、本を読んで初めて知った」 「私もです。いきなり知らない世界に飛ばされてはじめはパニックになってしまいましたぁ。」 「私はキョンくんの存在を確認してから、前の世界の記憶を手にいれたの。はじめは混乱したけどね」 「僕もこの世界と前の世界の二つの記憶を持っています。弓の達人ということもね。 僕の場合、人と接する場面が多いため、矛盾が生じないように作られた記憶を刷り込まれたんでしょう。 朝倉さんの場合はよく分かりませんが、おそらく誰かがそうなるように仕向けたんでしょう。 そうでなければ朝倉さんはこの席にいなかったでしょう。」 「じゃあ俺たち以外に誰かが干渉しているって事か?情報統合思念体や未来は消えてしまったんじゃないのかよ」 「そのとおりですが、現段階で誰が干渉しているかは分かっていません。」 「敵対する存在か?それとも協力する存在か?」 「それも不明です。なぜ朝倉さんの記憶を取り戻すようなことをしたのか、謎ですから」 「長門は何か、わからないのか?」 長門に頼ってしまう癖何とかしないとな 「分からない、今の私は情報収集能力が普通の人間と同じのため」 「つまり、どうゆうことだ?」 「人並みにしか情報が集められない。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、全部があなたとほぼ同じ。」 「つまり、情報操作(制限付)を出来る事以外は普通の人間ということか?」 「そう」 なんてこった、通りで異常事態にもかかわらず喋る頻度が少ないと思ったんだ 今回は長門に頼りすぎるのはやめて置こう 「おや、長々と話していたみたいですね。もう七時です。」 壁にかかっている時計を見たら六時五十七分を指していた もうそんなにたつのか。 俺たちはその後ゆっくり食事を取り、 八時頃それぞれの個室に入って鍵を閉めた おそらく皆疲れていたんだろう 隣の部屋から何も聞こえてこない。 俺は速めにベッドに横になり色々考えながらいつの間にか深い眠りについていた ~~~~~~~ 長門視点 コンコン 古泉一樹の部屋のドアをノックする 「どうしましたか?長門さん?」 「涼宮ハルヒについて話がある。少し時間がほしい。」 「ええ、いいですよ。」 中略 「長門さん、大体事情がわかりましたが…いくらなんでも突然すぎます」 「あなたには事実を伝えておく必要があると判断した。」 「涼宮さんが幽霊だったとは…これがあなたじゃなかったら、冗談としか聞こえませんよ。」 「今のあなたは涼宮ハルヒが見えるようになっているはず。横にいるのが見える?」 「ええ、見えますよ。ふわふわ浮いている涼宮さんがね」 「やっと話せるようになったわね。久しぶり古泉くん。」 「お久しぶりです。さっきの話し合いは全部聞いていたんですね?」 「そうよ、前の世界で何があったのかもね。」 「今日はもう遅いですから朝倉さんの隣の部屋を使ってください。 幽霊だから鍵は必要ありませんね?」 「ええ必要ないわ、寝る必要も無いけどしばらく休んでる。じゃあまた明日」 「おやすみなさい」 普段使わない言葉を使ってみた。古泉一樹は少々戸惑ったようだが、 「おやすみなさい」 と笑顔で返してくれた ~~~~~~~ キョン視点 AM6:37 俺は起床した。この世界に来てからやけに早起きしている気がする 俺は風呂場の横にある洗面台に向かった 顔を洗い、さっぱりした俺は部屋に戻ることにした。 眠い、そして頭が痛い。もう少し寝るか。 廊下の奥に朝比奈さんがいるのを見つけた 「どうしたんですか?朝比奈さん?」 「あの、古泉くんが部屋から出てきてないの…」 「まだ寝てるんじゃないのか?」 「いえ、森さんに聞いたらもうそろそろ起きて食堂に来るはずだといわれて見に来たんです。」 俺はためしにノックしてみた 起きているなら返事をするはずだ。 返事が無い… ドアノブに手を当てるとかちゃっと開いてしまった 「誰もいない…?」 「どこ行っちゃったんでしょう?」 「食事時までには戻ってくるでしょう。食堂で待ってましょう」 のんきに考えすぎかもな 「はい」 食堂に行くとハルヒと長門と森さんと多丸さん兄弟が居た。 「古泉さんは起きていましたか?」 「部屋には居なかったですね、それよりも新川さんと朝倉さんは?」 「新川は朝ご飯を作っています。朝倉さんはまだ来ていませんね」 「彼女は朝からナイフを買いに行ってる。七時頃には戻ってくると思われる」 長門の言う通り七時ごろに朝倉は食堂に来た。 「ナイフ良いの無かったわ。研ぎ石見つけたからご飯の後に磨いてみる」 朝倉はそんなことをいいながら席に座った。 「おかしいですね、もう来てもおかしくないのですが」 森さんがそういったので時計を見てみる。七時十二分を指していた 嫌な予感がする。 新川さんのせっかくの食事が冷めてしまうという予感だ、それ以上でもそれ以下でもない 「皆さん、古泉くんの部屋に行って見ましょう。何かあったのかもしれません」 皆と一緒に食堂をでて屋敷の一番端の古泉の部屋まで来た やっぱり中には誰も居ない。 「屋敷の中を捜してくれ!なんだかとてもいやな予感がする!」 森さんと多丸兄弟は二階を探し始めた 俺たちは一階をくまなく探し始めた 捜索から十分後、一階の倉庫前に来ていた 「ここしかないですね…」 鍵がかかっている。それも中から。 本来ここはクローゼット兼試着室だったそうだ 今は物が乱雑に置かれているだけの部屋になっていると森さんが教えてくれた。 屋敷の中に居る場所と言えばここしかいない 「ドアを破るしかないみたいだな… すみませんが三人とも手伝ってくれませんか?」 「いいとも。せーのでいくぞ、準備はいいな?」 『せーの!』 どん! 大きな音共にドアが開く そこで見たものは 「古泉っ!?」 「血・・・?イヤアアアアアア!!」 後ろで朝比奈さんが叫んでいた。 古泉が頭から血を流して倒れていた。 第二話『壊れた信頼』 「古泉っ!?」 「血・・・?イヤアアアアアア!!」 後ろで朝比奈さんが叫んでいた。 古泉が頭から血を流して倒れていた。 それからはもう大騒ぎだった。 森「新川!医者の手配を!」 新川「了解!」 みくる「どうしてっ・・・どうしてっ・・・」 朝倉「警察も呼んで!!明らかに事件だわ!」 キョン「古泉!?おい生きてるよな!?」 多丸祐「この屋敷の防犯システムは最新式なのに!まさかこの中に犯人が!?」 ハルヒ「古泉くんはまだ死んでないわ!応急措置を急いで!」 長門「応急処置を実行、止血をする、清潔な布を持ってきて」 セリフの横に名前をつけたのは俺が解説する暇もなくいろいろとしゃべりだしたからだ たぶんこの後もセリフの前に名前をつけるだろう。誰が何をしゃべってるか重要だからな この後もいろいろあったが省略しておく。長々話すのは俺の性に合わない バタバタが、古泉は一命を取り留めた ただ問題が発生した 古泉が意識を取り戻さない 「冗談かよ」と最初は思ったが医者に言われたら信じるしかない しばらく入院と言うことになっている。 戦闘なんかには参加できないだろうな それで俺たちは古泉屋敷の食堂に集まっている 昨日と同じ席、ただ古泉の席には誰も座っていない 長門「事件について少し整理する。 この事件は、古泉一樹が何者かに鈍器で殴られ、倉庫で発見された」 朝倉「倉庫が犯行現場という可能性は?」 朝倉はいつも冷静だな 長門「限りなく低い、あの場所自体ほこりで足跡がつく位積もっていたのに、誰の足跡もついていなかった。」 流石長門、細かい所まで観察している 長門「おそらく、犯人は古泉一樹の部屋で殴り、倉庫に運んだと思われる」 キョン「待った、俺と朝比奈さんがあいつの部屋を見に行った時血なんてどこにもついてなかったぞ」 長門「おそらく犯人は血をふき取ったと思われる。床がフローリングならふき取るのは簡単」 古泉発見を遅らせるためか、やられたぜ 森「この屋敷にはあの倉庫を除いて、最新式の鍵を使用しています。鍵を持っていなければ入ることは出来ないはずです。」 つまり、屋敷内部の犯行って可能性が高いわけか そして犯人と古泉が知り合いの可能性が高い そうじゃなきゃあいつが部屋の鍵を開けるはずが無い キョン「犯行推定時刻は?俺が六時四十分頃に見に行った時はすでに居なかったぞ」 みくる「古泉くんが殴られてからそんな時間は経っていないと思います。そうでなかったら古泉くんは今ごろ・・・」 まだ涙目の朝比奈さんが考えを述べた 多分彼女には一生物のトラウマだろう。実際、俺もあの現場が目に焼き付いて離れない 長門「彼がまだ生きていることも含めて犯行時間は六時半前後。屋敷内部の人間なら誰でも犯行可能」 キョン「つまり容疑者は、俺、長門、朝比奈さん、朝倉、多丸圭一さん、多丸祐さん、新川執事、森さんの八人と言うことか?」 自分で言うのもなんだが俺も容疑者で間違いない。間違いなく疑われている ハルヒ?あいつは幽霊だから無理だ。スタンドで撲殺は出来てもあの倉庫に古泉を運ぶことは出来ん 長門「おそらく犯人は単独犯、この屋敷は廊下狭いため二人以上で行動していると目立つ」 足音も結構響くからな。犯人にとって協力者は邪魔でしかないだろう そういえば、あの部屋は鍵がかかっていたな キョン「倉庫には鍵がかかっていたよな?あそこには他に出口が無いし 外から中の鍵はかけられないぞ?多分犯人は見つかりにくくするために鍵をかけたんだろうが」 長門「それが一番の謎。これから調べる必要がある」 朝倉「ここで話をしても、何も進まないわ。まだショックを抑えられてない人もいるみたいだし 一回部屋に戻りましょ?」 それぞれが部屋に戻っていった所を見送った俺は最後に食堂を出た。 長門「話がある、部屋に来て」 うぉ!って・・・なんかこれデジャブ? ちょっと大げさすぎるリアクションをスルーし、長門は部屋に入っていった 長門の部屋に入る 長門が奥でイスに座っていた キョン「用事は何だ?お前は俺が必要な時しか呼ばんからな」 長門「今回事件にかかわっている人物について少し補足しておきたい」 キョン「よりによってなんで俺を呼んだ?適役なら他にも居るだろ」 長門「いや、あなたが一番犯人の可能性が低く、洞察力が鋭いから一番の適役」 長門が俺を初めて頼ってきた そこまで逸材か、俺? 長門「この屋敷に居る人物の中で私、あなた、朝比奈みくる以外の人物について 情報が少ないため、彼らが何をするか分からない ある程度人格について分かっているなら行動パターンがつかめるがそれが出来ない 彼らは孤島でも会っているが、その時の彼らは演技をしていたため、行動パターンがまったくの未知 朝倉涼子についても同じ事が言える」 キョン「つまり、長門にはこの事件の犯人がまったくわからないと言うことだな?」 長門「そう。色々な情報を集めておく必要があるが、 この屋敷内部に妨害電波を発生してる物があるため、思ったように集められない」 キョン「前に気絶してたあれか。長門がインターフェイスって知ってるやつだな。それよりも長門は平気なのか?」 長門「ある程度波長の解析が出来たため、前のように体の制御を失うことはない」 キョン「そうか」 長門「妨害電波を発生する装置は携帯電話ほどの大きさで ほとんどの場合隠されているため今の私には探査不可」 「きゃあああああああああ!!」 あの声は朝比奈さん!? 何が遭った!? 三部屋隣の朝比奈さんの部屋に急行する 急いでドアを開けた俺。 後ろでバタバタとはしってくる音。 どうやら屋敷に居る全員が駆けつけたらしい そして朝比奈さんを探す。 割れた急須が部屋にちらばっている 部屋の端っこでうずくまっている朝比奈さんを発見。 キョン「どうしたんですか?」 みくる「ぼーっとしてたらうっかりお湯をこぼしてしまって・・・」 圭一「イインダヨ!」 祐「グリーンダヨ!」 新川「疑惑度30%OFF!!」 真性のアホだこいつら。 長門「右手を氷水につけることを推奨する」 みくる「ひゃ、ひゃい!」 長門に話し掛けられて、発音が変な返事をした朝比奈さんは キッチンの方に消えていった。氷はあそこにしかないからな 何もなくてよかった 古泉の事件のあとだからな 朝比奈さんが犯人に襲われたのかと思った 多分他の人たちもだろうが 急須が割れたのは森さんと新川さんが処理してくれることになり、 他の人たちは部屋に戻っていった。 そういえば古泉の部屋は誰も居ないんだよな 一回調べてみるか がちゃ やはり開いた あれから誰もこの部屋に来てないんだろう。 部屋を色々と見ていたが一部分の床がピカピカに光っていた。 おそらく犯人が血をふきとった後だろう 長門の推理どおりだ ん?これは・・・砥石?なんでここにあるんだ? もしかして・・・ 砥石を裏返すと血がついていた これって・・・ 思考の停止(正しくはフル回転)をした俺は 青い髪のクラスメイトの顔が思い浮かんだ・・・ 「ナイフ良いの無かったわ。研石見つけたからご飯の後に磨いてみる」 俺は砥石を置き、皆を呼び、 また部屋に戻ってきた キョン「皆さんを呼んだのは他でもありません。凶器と呼ばれるものを発見しました」 圭一「何だね、その凶器というのは?」 キョン「これです。」 そういうと床に転がっている砥石を拾い上げる そんなに重くなく片手で持てる 朝倉「私の砥石!?」 キョン「朝倉、長門と祐さんと一緒に部屋に行って砥石を探してきてほしい」 朝倉「わ、分かったわっ!」 バタバタと部屋を出て行く三人 みくる「もしかしてキョンくん朝倉さんを・・・?」 キョン「いや、犯人がわざとおいたと考えるのが普通だ。 これじゃ朝倉さんが犯人ですといってるような物だからな」 本当に犯人じゃないとは言い切れないが 新川「血の付き方から見てこれが凶器で間違いなさそうですね。」 圭一「ますます、わけがわからなくなってきた。犯人は何が目的だ?」 森「おそらくこの屋敷を混乱に落としいれるためですね。犯人がみつかりにくくなりますから」 キョン「その通り。そして犯人はここで犯行に及び砥石を捨て、倉庫まで運んだそう考えるのが打倒だろ」 息を枯らした朝倉が戻ってきた 朝倉「ない・・・ないわ!・・・私の砥石が部屋には無かったわ・・・!」 キョン「朝倉、砥石はどこに置いていた?」 朝倉「部屋の机の上よ・・・でも私が帰ってきてすぐに食堂に向かったから犯行時間と矛盾するのよ!」 キョン「いいところに気が付いた。六時半の時点で屋敷内部にあるはずのない砥石が犯行に使われた。 おかしいと思いませんか?」 みくる「キョンくん、田村●和みたい・・・」 キョン「そんなことはどうでもいいんです。で、話の続きですが、おそらく犯人は朝倉さんが砥石を買うと知っていた人物 この村に良いナイフが無いことを知ってる人物、 砥石の売ってる場所を知ってる人物となると犯人がしぼられませんか?」 森「つまり昨日この村に来た四人は省かれますね」 祐「俺たちの中の誰かが犯人!?」 圭一「そうなりますね。」 新川「古泉に、恨みがあった人物と考えれば私達でしょうな」 長門「彼の言うことは矛盾していない。よって彼がこれから事件に付いて調べることを推奨する」 みくる「賛成です」 朝倉「賛成だわ。洞察力するどいもんね」 森「賛成します。将来探偵にでもなってみてはいかがですか?」 キョン「進路の一つにでも入れておきますよ」 祐「子供が探偵!?俺は反対だ」 圭一「そういうな、彼思った以上に有能だ、任せて構わないだろう」 新川「ここまで賛成が多いなら私が言う必要もありません」 どうやら俺が探偵と言うことで決まったようだ 忙しくなるな。やれやれ キョン「森さん、鍵をかしてくれませんか?屋敷の中を動き回るにはあったほうが便利ですし」 森「わかりました。これが合鍵です」 鍵束を渡してくれた 倉庫行ってみるか。あの場所に犯人の手がかりを残しているかも知れんし キョン「長門、ついてきてくれ。お前なら何かわかりそうだしな」 長門「分かった」 他の人たちを部屋に戻し俺たちは倉庫へ行く キィィィ ドアがきしむ音を聞きながら目の前に広がる光景を確認した 床にまだ残っている血痕。これからの人生何度事件のこと思い出すだろうね? また俺と長門は部屋の確認をし始めた。 密室にしたトリックを暴かなきゃならんからな 俺はふとドアの鍵を見る かなり老朽化していて所々錆びている あれ?そういえば壊れてないな?鍵かけた状態でドアを開けたら鍵が壊れると思うんだが 長門「この木の棒は何?」 振り返ると長門が大きな木の角材を持っていた 長門の1.5倍ほどか? こんな形をしている?(<??????> 俺はなんとなくひらめいた ドアを閉め壁と壁にクロスするように立てかける ちょうどドアをふさぐように木が立てかかった 下に固定するように金具があることから間違いないだろう これがドアを開かなくしてた物だ 想像しにくいと思うのでAAをかいてみた(この場合書くか描くかどっちだ? ┌─────────┐ │ .| │┏ . | │ \\ . | │ ̄ \\───┐ ...| │ \\ │. | │ │ \\ │ ...| │ │○ \\. | │ │ \\ ..| │ │ │.┛ | └─────────┘ 長門「上の棚と角材の端と壁に急激に冷えた後がある」 ドアの左には棚が設置してある AAの都合上それまでかけなかったが変わりにドアの左上の線をそれだと思ってくれ それにしても急激に冷えた後? 氷くらいしか思い浮かばんな。 でも濡れてないし・・・ 長門「多分ドライアイスだと思われる。この部屋の二酸化炭素の割合が他の部屋と比べて少し高い」 なるほど、流石長門 頭の回転が速い つまりドライアイスで棒を押さえ 溶ける前に部屋を出れば 後は何もしなくてもドライアイスがとけ 棒が倒れドアが開かなくなる 密室の完成だ。 賢いな、俺も犯人も 一通り考えがまとまった俺は 犯人が誰なのか考えながら部屋に戻ることにした 後ろで長門がドアを閉める音がしたのが気になって振り向くと ハルヒ「あんた、有希の事しか見てないんじゃないの?」 キョン「うぉ!なんだ、浮遊物体Aか」 浮遊物体A「何よ、それ!まるで私が単なる物みたいじゃない!! 第一Aって事はBもCもいなきゃおかしいじゃない!!」 キョン「お前、名前が浮遊物体Aになってるぞ」 浮遊物体A「何よこれ!?責任者でてこーい!!」 作者「責任者ですがなにか?」 浮遊物体A「待ってたわ、私の拳受けなさい!オラオラオラオラオラ!!」 作者「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」 付き合いきれん・・・ 気分を変えて食堂に向かうことにした もうすぐ十二時だ 腹が減った。考えすぎたのか頭が痛い 頭痛薬も貰うか あ、タ○フルだけは勘弁な 食堂につくと SOS団メンバー以外集まっていた 森さんに一つ質問した キョン「森さんは今日の朝、新川さんと料理を作っていたんですよね?」 森「ええ、彼のアシスタントをしてました。一人では大変ですから」 キョン「祐さん、圭一さん、六時半頃何してましたか?」 圭一「自分の部屋で仕事してたよ。締め切りが迫った仕事があったからね」 祐「私は寝てたよ君が食堂に来る直前までね」 だめだ、これといっていい情報がない。 犯人はだれだ? 犯人のした行動はわかった。 しかしそれは誰でも出来る行為だ やろうと思えば俺でもやれる。 しかし俺はやっていない なぜ、古泉を殺したのか? これも謎だ。犯人の目的がつかめない 外部犯の可能性は? 無理だ、この屋敷の人は絶対に無理と口をそろえていっている なぜ犯人は倉庫に運んだ? わからない 結局俺にこの事件を解決するのは不可能なのか? 誰かこの迷路の出口を教えてくれ 朝比奈「大丈夫?なんかキョンくん疲れてるみたい・・・」 朝比奈さんが食堂に来ていたみたいだ気付かないほど考えていたのか キョン「朝比奈さん、大丈夫ですよ。右手は大丈夫ですか?」 痛々しい右手を見る 朝比奈「ええ、すぐ冷やしたから平気」 長門「古泉一樹の様子をみてきた。記憶喪失になっている 混乱を招くから今は見舞いに行かない方がいい 左後頭部の怪我は心配ないと医者が言っていた」 俺の中で点と点が繋がった すぐに俺は全否定した しかし否定すればするほど犯人は一人に確定していく これが現実か・・・残酷だな・・・ さて、どこかで覗き見している誰かさんに挑戦だ。 この事件の犯人は誰か? 見事当てたらジュース一本おごってやるよ 第三話、解決そして崩壊 犯人が分かった俺は激しく悩んでいた どうするべきだ? 全員が集まったらすぐ言うべきか? それとも犯人のを自供を誘うべきか? みくる「キョンくん・・・ほんとに大丈夫ですか?」 俺は非常に悩んでいた 隣で誰かが話しているのにもかかわらず 何も聞こえていなかった どうするべきだ?どうするべきだ?どうするべきだ? 同じ言葉が何度も繰り返される ダメだ、犯人がわかった以上長引かせるわけには行かない おそらく全員疑念が尽きてないだろうだからな 今この食堂には全員いる、喋るなら今だ しかし、犯人を指摘した所で犯人がすぐに認めてくれるはずがない やはり犯人を罠に嵌めたほうがいい 行動しよう、そうするしかない キョン「みなさん、今思ったんですがあの時鍵かかってましたっけ?」 森「鍵がかかってなかったらあの部屋は簡単に開くはずですが?」 祐「何当たり前なこと言ってるんだ?鍵かかっていたから体当たりまでしてあけたんだぞ?」 みくる「わざわざ、私が確認したじゃないですかぁ?キョンくん疲れてないですか?」 キョン「みなさん、とんでもない思い込みをしている。 あの部屋の鍵はかかってなかったんです ただあの部屋に開かないように押さえ棒がしてありましたが」 長門以外の全員が驚く 圭一「じゃあ、犯人はどうやってその押さえ棒を使ったんだ? 外側にいたら棒など使えないだろうが」 キョン「押さえ棒にさらに押さえ棒がしてあったんですよ」 朝倉「何を言ってるの?」 キョン「正確にいえば消えてなくなる棒ですが、 冷えていて常温で形が無くなるものです」 祐「氷か?確かにそれならしばらく放置したらドアが開かなくなるが」 みくる「でも、あの場所は濡れていませんでしたよ?溶けたら水に濡れちゃいます」 キョン「確かにあの場は濡れていませんでした なぜならあの現場にはドライアイスが使われたようです しかし現場を一瞬だけしか見てない人がどれだけその時の状況を正確に覚えていられるでしょうね?」 みくる「!!」 全員が一斉に朝比奈さんの方を向く 発見当時彼女は古泉を見た瞬間 顔に手を当てそのまま泣いていた その後も森さんに連れられてやっと自分の部屋に入ったほどだ 当然彼女が正確に現場を覚えているはずがない しかも泣いているのだ 濡れているかどうかなんて判断が出来るはずがない そう、朝比奈みくるは現場が濡れていない事を知っていたのだ 朝倉「朝比奈さんあなたもしかして・・・」 キョン「あなたが犯人です、朝比奈みくるさん。」 みくる「!!・・・でもそれだけじゃ疑う理由にならないんじゃないですか?」 キョン「もちろん、誘ったのはちゃんとした理由があります。 それも含めてあなたがした行動の推理を聞いてください。」 俺は一通り周りを見渡す ほとんどの人が驚いているようだ。当たり前である キョン「朝早く起きた朝比奈さんはまず、ドライアイスを倉庫に運んで食堂に向かいました そこで森さんと会い、古泉くんを呼んでくるといって部屋を後にした。 もちろんアリバイ作りのためです。時刻はたぶん六時二十五分頃だろうと思います」 森「確かに六時半前には朝比奈さんは食堂に来てましたね。」 キョン「そして古泉の後頭部をあらかじめ用意した砥石で殴って倉庫まで運んだ。その後ドライアイスで倉庫が密室状態になります」 圭一「それは誰でもできるのでは?」 キョン「ええ、そうです。ただ朝比奈さんはここで一つミスを犯しています。 ドライアイスに直接触れてしまったんですよ、おそらく右手でね。」 朝倉「それって・・・」 みくる「!!」 キョン「そう、あなた今右手に凍傷おこしていますね? おそらく事件後の火傷騒ぎもそれを誤魔化すため。 そして、氷水で冷やしてくると見せかけて朝倉の砥石を盗み出したんだ。 長門、古泉一樹が殴られた所は?」 長門「左後頭部」 キョン「もし右手で殴ったなら右後頭部に殴られた後があるはず なのに左後頭部、これは犯人が左手で殴ったことを示しています そして、今ここで朝比奈さんの部屋を調べれば盗んだ砥石があるはずです。」 長門・朝倉・森「調べてくるわ!!」 三分後・・・ 朝倉「あったわ、間違いなく私の砥石よ。自分の名前が書いてあるし」 キョン「言い逃れできますか?朝比奈みくるさん」 みくる「素晴らしい、戦闘能力だけでなく知能も高いとは!」 なんだ?急にふいんき(なぜか変換できん)がかわったぞ みくつ?「ますます、涼宮ハルヒ様の部下にふさわしいことが分かった。」 ここで無理にでも連れ去るべきだな。」 キョン「お前・・・別人だな!?」 おそらく朝比奈もどきが喋っているハルヒとは偽者の方だ 新川「今までに数々の修羅場をくぐってきたがここまで危機感を感じたことはいまだかつてない・・・!!」 森「何?何をする気なの・・・?」 圭一「さらに存在感薄くなってしまうではないか。」 祐「それはもともとじゃないか?」 どうでもいい会話をしているやつらはほっといて こちらは戦闘準備を始めている みくる?「遅い!」 うぉ、まだ鎧着終わってないって ひょい あれ、朝比奈さんっておれを持ち上げるほど頑丈な体の作りしてましたっけ? 長門「対象の有機結合の解除を申請。」 朝比奈「無駄よ、私のほうが情報操作の能力が高いわ。」 長門「キャンセルされた・・・?」 朝倉「これだとうかつに攻撃できないじゃない」 浮遊物体A「結局名前直してもらってないし・・・(前話参照)」 えーと今朝比奈?さんに捕まってる俺がなんとかした方がいいよな・・・ 俺はブランと垂れ下がっていた自分の左手を顔めがけて殴りかかった。 ぱしっ! みくる?「無駄よ。能力開放をしてないあなたが私に抵抗することはできないわ。」 むかつく野郎だ。おそらく村の入り口で会ったときから演技してたんだろう まんまと騙されていたわけだ。 じゃあ偽ハルヒにココの場所が知れているって事だろう くそ、また俺は何もできないのか! 長門「対象の―――能力の―――開放を―――実施―――」 朝倉「なに・・・?長門さんの雰囲気が変わった・・・?」 キョン「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 獣のような雄たけびが部屋中に響く それが俺自身の声と認識するのに数秒かかった みくる「まさかっ!」 朝倉「暴走・・・?」 浮遊物体A「なんかどこかで似たような状況を見たような気がするわ。」 作者「いろいろとネタ引っ張ってきてますから。」 浮遊物体A「お前は自重しろ!」 作者「サーセンwwwww」 えーとだな・・・ 朝比奈さんが泣くまでやめてくれないような連続パンチを続けている俺だが・・・ 俺はココまでやろうとは思わん おそらく本能の暴走とかそういうやつだな 今回もまた大暴れするのか あれ?でもなんで意識がはっきりとあるんだ? ???「よう、キョン」 誰だ?誰が話し掛けているんだ? キョン裏「俺はお前だ、理性のキョン。もちろん他の人間に声が聞こえてるとはおもわんがな」 じゃあお前は本能のキョンとでもいうのか キョン裏「その通りだ。まあ俺自身が出てくることはほとんど無いんだがな」 何しに来た。 キョン裏「何しにって、お前=俺を守るためだが?それ以上に何がある?」 ああ、そうか本能は自分を守るのが最優先だったな。どこかで聞いたことがあるぜ キョン裏「さて、偽みくるはどうするんだ?場合によっては殺そうとも思ってるんだが」 待て、殺す?why?そこまでする必要があるか? キョン裏「流石にまずいか?まあその辺の判断はお前に任せるがな。」 しばらくの沈黙 こうしてる間にも朝比奈?さんへの打撃音はやまない キョン裏「殺すのも拘束するのもお前の自由だ。煮るなり焼くなり好きにしろ。 ただお前がまた窮地に立つような行動をした場合、俺が判断する。」 そういってもう一人の俺はどこかに消えた それと同時に体が殴るのをやめた みくる?「うぅ・・・」 どうする?朝比奈?さんの体すでにボロボロだ。 キョン「長門・・・縄貸してくれ」 長門「―――わかった―――」 場に重い空気が流れる・・・ 長門「―――圭一――祐―――新川―――森―――四人の―――記憶の一部を削除―――及び改変―――」 俺は縄で偽朝比奈さんを縛っていた。 とりあえず両手は後ろで拘束しきつく縛った。 みくる?「不覚だわ、目標の目の前で失敗するなんてね。 でもただでは終わらないわ。」 ボン! 煙幕!? 「けほけほ」 いたるところで咳き込む声がする その煙幕が晴れてきたら キョン「いない・・・!!?」 長門「うかつ―――煙幕と同時に―――テレポートされた―――」 朝倉「おわったの・・・?」 新川「高校生が・・・・信じられませんな」 森「一瞬の出来事でしたね・・・」 祐「朝比奈さんがナイフを持っているのが見えたと思ったら、次の瞬間には朝比奈さんを取り押さえるなんて」 圭一「へたなアクション映画よりも迫力がありますな・・・」 長門・・・GJ 第四話事後処理 キョン「逃がしちまった・・・」 森「逃げられたものは仕方ありません。それよりも色々と片付けなければ。」 ユーレイハルハル「誰か(作者の暴走を)止めて!!」 長門「君がくれた勇気は―――億(ry」 新川「新しいダンボールでも買おうかな」 祐「実は俺ポニーテル萌だったんだ」 圭一「嘘だ!!」 朝倉「いろんな意味でガクガクブルブル・・・」 あえて言おう、カオスであると 元ネタ分かるやつ何人いるんだろうね? 人の事言えないが そんなどうでもいい文章稼ぎに俺はイライラしていた もうちょっとテンポ良く進めよ 古泉一樹が退院した !? いくらなんでも話が進みすぎだ!! 医者「信じられん、数時間前まで生死の境を彷徨っていたと言うのに!!」 よく退院を許可しましたね。 やぶ医者「すまんね、ベットが足らないんだよ。」 説得力無いな 古泉「いやぁ、一時はどうなる事かと思いましたよ。」 キョン「平気なのか?」 古泉「えぇ、長門さんの情報操作で直してもらいました」 長門「妨害電波発生装置の―――破壊に成功―――不可能だった事の一部が可能になった―――」 キョン「雰囲気かわったな?どうした?」 長門「心配ない―――私はいたって正常―――」 圭一「今日の晩御飯は何かな?かな?」 祐「おまえ、キャラ変わったな。」 新川「過度なギャグは命に関わるぞ。」 森「チョココロネってどうやって食べる?」 古泉「今はそれを話してる場合ではないでしょう。」 長門「話が進まない―――強行手段に入る ikuyotagan=dogegahcdogsUJmCCPnat=dog」 長門が例の高速早口をつかった。 さて何が起こるやら・・・ 古泉「そろそろ、鶴屋さんの捜索に向かいたいのですが・・・」 いっている事はまともなんだが顔が近すぎる せめて息が当たらない位置を保ってくれ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 地震!? 朝倉「痛ッ!」 朝倉!? 圭一「カナカナカナ・・・」 ひぐらし!? ピタ 変な効果音とともに地震が終わった 古泉「いやぁ~驚きましたね。もしかして本当に怪物でもいるんでしょうか?」 キョン「何だその怪物とやらは?」 小泉「この屋敷には元々吸血鬼が住んでいて、当時は地下室へ続く階段があったそうです その地下室には吸血鬼の妹が『あまりに危険すぎる』という理由で封印されていたそうです もちろん、そんなのは伝説にしかすぎず嘘だと思いますが、 この屋敷の外壁が真っ赤なのは吸血鬼に襲われた人間の血なのかも知れませんね 余談ですが、この屋敷には元々門があったらしくそこにはかわいそうな門番がいたとかいなかったとか。」 キョン「吸血鬼の妹ねぇ・・・仮に本当だったらとしたらこの屋敷は化け物やしきだな」 古泉「そういえば、森さんはいつも、変なところから現れて行動も早かったりしますね」 キョン「化け物の能力引き継いでいるじゃないか?例えば時を操る能力を持っているとか」 古泉「ありえますね」 とりあえず、屋敷の中は事件とさっきの地震のせいで散らかっていたので 掃除するためにしばらく屋敷をでてと森さんと新川さんに言われた 俺は長門とハルヒをつれて村の近くにある森近くまできたのだが・・・ 一人の老人が墓石の前に立っていた なんとなく興味を引かれたので見に行ってみると墓石には名前が書かれていなかった 老人「おや、見かけないかおだねぇ。旅人かい?」 キョン「ええ、ところでこの墓は誰の墓なんですか?」 老人「この墓はね、ある旅人の少女の墓なのさ 村の入り口で倒れているのが発見されてね。どうやらモンスターに襲われたらしいんじゃよ 持ってる食料もなく、やっと見つけた村の前で力尽きてしまったらしいのぅ。 そういえば不思議と長くて黒い髪だけは綺麗だったのぅ」 そんな話を聞いてると隣にいる長門の様子が少し変な事に気が付いた。 黒い瞳をこちらに向ける キョン「どうした?長門」 長門「この墓に妙な感覚を抱いた―――」 なんだかいやな予感がするのは俺だけか? 一応手を合わせすぐその場から離れる事にした 村に戻ってきたが時報を知らせるスピーカーから変なノイズが聞こえてきた スピーカー「ザッザッザッ ザッーーー ザッザッザッ ダンッ」 頭がキーーンとして痛い!! ハルヒ「痛いわよ、この音!!」 長門「不協和音がひどい―――、これは―――」 住人A「やめて!!音がひどいから!!」 住人B「買い物できないじゃない!!まともに!!」 住人C「落ち着かない!これじゃ!」 おまえら倒置法でしゃべるな!わかりずらいから! ボー―ン!! な、スピーカーが爆発して壊れた!? 振り返るとそこには戦車の軍団がいた 戦車兵「これよりこの村は革命軍の占領下にはいる!!」 何だこの展開!? メガホンを持った戦車兵の隣の戦車から出てきたのは・・・ 「やあ、ひさしぶりだねっ!!」 「鶴屋さん!?」 美しい緑の髪の所持者、鶴屋さんがそこにいた 第三章へ続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4697.html
「久しぶりにオセロでもやらないか?古泉」 古泉君がきちんと整列した真っ白い歯を輝かせ、微笑む。 「長門、この前貸してくれたあの本、思いの他面白くてさ。昨日の夜もつい遅くまで読み耽ってたぜ」 有希が膝の上に置かれた本を黙読することを中断し、ゆっくりと顔をあげる。 「いやあ、朝比奈さんの淹れたお茶は何時飲んでもおいしいなあ」 みくるちゃんがお盆を抱え、少し頬を赤らめた。 いつもと何ら変わりの無い放課後だった。 今日もこうして時間は過ぎ、日が暮れる頃にハードカバーの閉じる音がした。 下校の合図。これもごく日常的な習慣。 次々と席を立ち、帰り支度をした後に、 「それでは、皆さんお気をつけて」 まずは古泉君が、 「……また明日」 その次に有希が文芸部室を後にする。これもごく日常的な帰宅の流れだ。 「それじゃあ…着替えるから」 そしてみくるちゃんが、 「待っててくださいね、キョン君」 とはにかむ。 いつもと何ら変わりの無い放課後だった。 鮮明に刻まれた記憶。身体と車が接触する瞬間。 それはすれ違い様に肩と肩をぶつけることとまるで変わらない、ほんの一瞬の出来事。 その一瞬の間にあたしは、「嗚呼、スローモーションになんてならないじゃない」、そんなことを辛うじて考えていたような気がする。 命の終わりなど本当に呆気ない。 そうして、あたしは死んだ。今から丁度一ヶ月前の出来事だ。 けれどあの時、事故に遭ったのはあたしだけではなかった。 キョン。 一緒に事故に遭ったキョンは奇跡的に無傷だった。 あたしは死に、そしてアイツは生きている。 あたしという存在を無かったことにして。 ――涼宮ハルヒの忘却―― あたしは毎日、キョンが「あたしの存在など無かったかのように」過ごすのを傍観している。 事故の日から今日まで、誰一人あたしのことについて触れることは無かった。 不自然に置かれている団長席、教室の机。それについてすらも誰も疑念を抱かない。 忘れてしまっているのだ。キョンは勿論、みくるちゃんも有希も古泉君も、谷口も国木田も鶴屋さんも、終いには家族でさえもあたしのことを忘れている。 あたしの部屋はあたしが使用していたそのままで残っているにも関わらず、家には遺影も位牌も置かれていない。葬式だって行われた様子は無い。 あたしの生きた痕跡が残る中で、『存在が無かった』と自然に振舞っている姿は苦笑してしまうほどに不自然極まりなかった。 最初は何かの冗談だと思った。 元々あたしは死んでなんていなくて、皆があたしを忘れたフリをしているのだと。 でも事実あたしは死んでいた。何かに触れることは勿論地に足をつけることもできないし、誰に話しかけたところでそれが聴こえることは無い。 あたしはあの時事故で死んだ、それは紛れもない事実だ。 そして、あたしという存在が無かったとされているこの世界…これも事実、現実の出来事なのだ。 「……朝比奈さん、あの……」 「何?キョン君」 「あの、えっと手、繋いでもいいですか?」 「えっ、あ……えっと、どうぞ……」 「……」 「……」 「……」 「……キョン君?」 「はっ、はい?」 「ふふ……みくるでいいって、何度も言ってるじゃない」 「あ」 「それにその敬語もやめてよね」 「はい……じゃない、……わかったよ、みくる」 あたしは、手を繋いで下校する二人のすぐ後ろをつけていた。 距離にして5センチも無いだろう。時折歩くペースが乱れ身体が重なることもあるが、二人が気付くことは無い。あたしの身体はもう物理的接触を行えない。 あたしはただひたすらキョンの顔だけを見ていた。この男の頬が赤いのは夕日に照らされているせいなのか。 それとも。 『ねえキョン』 キョンは答えない。 「あさひ……みくる、明日って暇か?」 『何してんのよ』 キョンは答えない。 「そうか、よかった。どこか行かないか?」 『何忘れてんのよ』 キョンは答えない。 「映画か……そうだな、見たいものでもあるか?」 『アンタ、言ってたじゃない』 キョンは答えない。 「じゃあそれにしよう。……俺?俺は何だっていいんだ、みくると一緒なら」 『……キョン』 キョンは答えない。 「それじゃ、また明日な……」 無言で見つめあう二人。それを無言で傍観するあたし。 キョンとみくるの唇が重なると同時に、あたしの唇から自然と言葉が零れていく。 『アンタはあたしを裏切ったのよ』 軽く触れるようなキスを繰り返す二人。深くお互いを求め合う二人。 抱き合う二人。見つめ合う二人。幸せそうに微笑む二人。 次第に胸の奥底からふつふつと湧き上がる感情。 憎悪。 『……許さない』 あたしはキョンを憎んでいる。 あたしを忘れたキョンを憎んでいる。 あの言葉を忘れたキョンを憎んでいる。 ―――地獄の果てまで着いていくぜ、ハルヒ。 アンタだけが生きて幸せになるなんて、そんなの絶対に許さない。 ◇ ◇ ◇ 純愛映画デート。いかにもみくるちゃんが憧そうな王道プランだが、そんな反吐がでるようなベタな事をこの男が好むはずが無かった。 にも関わらずキョンは終始ニヤニヤと楽しそうにしていて、あたしは反吐が出そうだった。 実にくだらない。 使い古された展開ばかりのB級映画に金を払うなんて。 その程度の物で感動してしまうような安い女の涙を拭ってやるなんて。 あたしはこの間抜け面をぶん殴ってやりたい気持ちで一杯だった。 無論、それが可能なら今にも実行していたことだろう。 立ち寄った喫茶店でロイヤルミルクティーと鼻水を啜る女に、キョンはハンカチを差し出した。 「いい加減泣き止んでくれよ、みくる……」 「ふええっ、ぐすっぐすっ……ごめんなさぁああい……」 キョンは目の前のみくるちゃんを気遣いつつも、周囲に視線を配っては居心地悪そうに背筋を丸めていた。 店内の客の視線を一斉に浴びてしまうのも無理は無い。傍から見れば別れ話をしていると思うのが自然だ。 ようやくそれに気付いたみくるは、絞れる程に涙を含んだキョンのハンカチで目を懸命に擦る。 「おいおい、目が腫れるぞ」キョンは腕を伸ばしてみくるの手を掴んだ。 「うん…ぐすっ、もう平気…ごめんねキョン君…」 「謝るなって」 キョンは呆れたような声で盛大に溜め息を漏らしたが、行動とは裏腹に、愛おしそうに、大切そうにみくるちゃんを見つめていた。 嘲笑わずには居られない。 馬鹿馬鹿しいことこの上なかった。この男はみくるちゃんを愛してなんかいないし、大切に思っているわけでもないのに。 ただこの可憐でか弱い、男性の理想を具現化したような彼女を気遣う行為が気持ちいいだけ。守ってあげることで気分を良くしているだけ。 要は、自分に酔っているのだ。 自己満足。何て醜いのだろう。 この最低男。 「なあみくる……俺の家に寄って行かないか?今日は、その……親も妹も居ないし」 極めつけがこれだ。 ――この、最低男。 「えっ……キョン君の、家……?」 その言葉の意味を理解したみくるちゃんは顔を真っ赤にし俯いた。しかし拒否することはしない。それは肯定の合図だった。 「いい……のか?」 「うん……」 「そ、そうか……じゃあ……えっと……い、行こうか!」 喜びを隠せないのか、それとも照れているのか。キョンは慌しく席を立つと伝票を取った。 「あ、キョン君、私払います!」 「いいんだよ、俺に払わせてくれ」 「でも私、映画代もキョン君に払ってもらっちゃったし……」 申し訳なさそうにするみくるちゃんの頭を優しく撫でたキョンは、 「……癖なんだよな」 不思議そうに首を傾げながらそう言った。 何が癖よ。この馬鹿。 堪えきれなかった喘ぎ声と、二人分の荒い呼吸が湿った部屋に充満していた。 経験など微塵も無い。AVの類を見たことも、夜中に両親の真っ最中を目撃したことだってない。 そんなあたしが衝撃を受けるには、初めて同士のつたない行為でも充分すぎるほどだった。 苦痛に顔を歪めつつも、時々悦びの声をあげ上の男にしがみついていて。 欲望に思考を乗っ取られ、機械のように腰を振って女を打って。 なんて醜い行為なのだろうと思った。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。 それでもあたしは耳を塞ぐことも目を瞑ることもしなかった。 そうして一部始終を見届けてやったあたしは、行為を終えて余韻に浸る二人に吐き捨てた。 『……不潔よ』 「みくる」 「なあに?」 「幸せか?」 「……うん」 「そうか、よかった」 キョンはみくるちゃんの白く細い肩に優しく手を添えると、ゆっくり自分の胸に引き寄せた。 みくるちゃんは満足そうな吐息を漏らし、キョンの胸に耳を当て瞳を閉じている。 淀んだ空気の中、不意にキョンが呟いた。 「俺たち……何もおかしいことなんてしてないよな?」 酷く擦れた言葉だった。 「何……突然言い出すの?」 みくるちゃんは身体を起こそうとしているが、キョンの腕は彼女を離そうとしない。 そのままでキョンは続ける。 「これで……このままで居ていいんだよな?幸せに浸っている俺たち、何もおかしくなんてないんだよな?」 「どうしてそんなこと聞くの?」 みくるちゃんの声が不安に染まった。あたしも先程まで考えていたことなど忘れ、キョンの次の言葉を待つ。 「みくるは何もおかしいと思わないんだな?」 「えっ、うん……どうして?何がおかしいと思うの?」 「……いや……そうか、そうなんだよな」 キョンはみくるちゃんから離れると、気だるそうに上体を起こした。 「じゃあ、何でもないんだよな。きっと……」 「キョン君……?」 隣に居るみくるちゃんのことなど忘れてしまっているのか。キョンは独り言のようにポツリ、ポツリと呟く。 「これでいいんだよな?…………なぁ……」 宙を見つめるキョンに、あたしは届かぬ問いを投げかける。 『誰に話しかけてんのよ、アンタ』 キョンの瞳は、虚ろだった。 ◇ ◇ ◇ 翌日の文芸部室。 空席…つまりあたしの定位置だった団長席に腰掛けながら、いつも通りの放課後を眺めていた。 昨日のキョンの言葉で、あたしは確信した。 キョンはこの不自然さに気付き始めている。 この世界は不自然で、忘れている何か、見逃している何かがある。その何かがわからぬ自分に苛立ち、そして怯えているのだ。 ―――それが実に愉快だった。 昨日から笑いが止まらない。止められない。間抜け面が溜め息をつく度噴出しそうになるくらいだ。 全てを思い出した時、キョンの前に姿を現すことができるだろうか。……いや、この際出来なくったていい。 ただこの男がどん底に落ちてくれればいいのだ。 この男が絶望に襲われ、苦痛に顔を歪め泣き叫ぶ姿を見たいがために、今あたしはここに居る。 あたしを忘れ、無かったことにしたこの男に制裁を。 それだけがあたしの望みなのだ。 「なあ古泉」 「はい、何でしょう」 「何か違和感とか感じてないか?ここ最近」 「違和感……ですか?特に感じませんが、それはどういった違和感なのですか?」 「いや……それならそれでいいんだが、長門は?」 「……特に、何も」 「そうか。そうだよな……」 そう、それでいい。 キョン以外の人間があたしを思い出すことだけはあってはならない。 一番最初に思い出すのはキョン、アンタでなければならないのよ。 誰かに告げられた事実ではなく、アンタが自分の頭で思い出して一人苦悩するの。 それが最高のシナリオ。 下校時刻になる。 「それでは、皆さんお気をつけて」 「……また明日」 有希と古泉君が部室を後にし、文芸部室にはキョンとみくるちゃんの二人が残った。 二人っきり――といってもあたしが居るのだが――の空間で少し語らった後、「あ、もうこんな時間」とみくるちゃんが慌しく立ち上がる。 「それじゃキョン君、着替えるから外で待っててね」 「ああ」 返事をしつつも、キョンは立ち上がらない。 「えと、キョン君?」 キョンは答えずに、ポカンと口を開けた彼女を凝視している。 みくるちゃんは何かに気付いたかのようにハッとし、戸惑いながら、 「あの……昨日の今日で言うのもなんだけど……えっと、やっぱり学校だし、着替えくらいは……あの」 「……あ、いや、そういうつもりじゃないんだ、すまん……」 キョンはポリポリと頭を掻きながら立ち上がるが、やはりそこを動こうとはしない。みくるちゃんを見つめたまま立ち尽くしている。 「キョン君、やっぱり昨日から変よ……?」 「何があったの?」と心配そうに尋ねられると、キョンは意を決したかのように真面目な顔をし、 「…みくる、一つ聞いていいか?」 「えっ?」 「そのメイド服は……―――自分で用意したのか?」 あたしは、自然と口端が吊りあがるのを感じた。 「……ほえ?こ、この服のこと?」 みくるちゃんはスカートを摘み上げ自身が纏うメイド服を凝視した。 「……あれ……どうだったっけ……?えと」 「なあ、その服、自分で着たいと思ったのか?」 「えっと……ううん、そうじゃなかったような……あれ……?」 みくるちゃんは心底不思議そうに首を傾げた。 対して私は笑っていた。そう、そうよ。アンタは思い出さなくていい。 「みくるは、そのメイド服を毎日着るよう誰かに義務付けられた……なあ、違うか?」 キョンはみくるちゃんの両肩を押さえつける。 「おかしいだろ?俺やみくるだけじゃない、皆そのことを忘れてるんだ。なあ、これっておかしいと思わないか?」 「やっ……ちょっ、と」 「頼むから思い出してくれよ、みくる」 「わっ、ふっ、やめっ」 キョンはみくるちゃんの身体を激しく揺さぶりながら続ける。 「何のために毎日メイド服なんて着てるんだ?誰に言われて着るようになったんだ?なあ!」 「痛っ、痛いよ、キョン君っ……」 「なんで誰もおかしいと思わないんだ!なんで俺は思い出すことができないんだ!!俺は……俺は一体何を忘れてるんだ!?なあ、教えてくれよみくる!」 一層大きな声で怒鳴りつけると、キョンは我に返ったかのようにみくるちゃんから離れた。 「ひっ……ぐすっ……うっ……う、うっ……」 「あ……す、すまん、すまない……」 身体を震わせすすり泣くみくるちゃんにもう一度手を伸ばすも、それは弱弱しく払いのけられる。 みくるちゃんは先程の言葉とは裏腹に、泣きながらメイド装束を脱ぎ始めた。慌しく着替え終えると、乱暴に鞄を取り小走りで文芸部室を飛び出していった。 キョンはその背中を見届けた後、悪態を吐きながらパイプ椅子を思い切り蹴りつけた。 椅子と椅子が激突する音と、キョンの怒鳴り声が文芸部室に響き渡る。 『…キョン…』 その様子を傍観していたあたしは、無意識に間抜けなあだ名を呟いていた。 その声が聞こえたかのように、あたしの居る方に視線を向けるキョン。そのまま凄まじい形相でこちらに近づいてくる。 「何なんだよ!ここには誰が座っていたんだ!……俺は何で思い出せねえんだよっ!!」 キョンが机に拳を叩きつける。渇いた音と共に机が軋む。 「畜生!」 きっと10センチも無いだろう。その先に、キョンの顔があった。 こうして至近距離に居ても、キョンがあたしと目を合わすことは決して無い。 キョンが見ているのはあたしでは無く、この席に座っていた『誰か』なのだ。 こんなに近くに居るのに、キョンの荒い息はあたしにかからない。 こんなに近くに居るのに、キョンはあたしに気付かない。 こんなに近くに居るのに、キョンはあたしを思い出さない。 『……あたしはここに居るわ!キョン!!』 キョンは答えず、俯き、歯を食いしばるだけだった。 キョンが苦しんでいる姿。あたしは何よりもそれを望んでいたはず。 それなのに、どうしてかすごく気分が悪かった。 ◇ ◇ ◇ キョンが帰路についた後も、あたしは文芸部室に残った。 キョンが苦しみ、取り乱した姿が目に焼き付いて離れない。 今まで間抜けで能天気なアイツばかり見てきたのだから、アイツのあんな様子を見て動揺するのも無理は無い。 しかしあたしはこうなることを望んでいたはずだ。 今のあたしの心境は矛盾している。 どうして願いが叶ったにも関わらず、こんなにも不愉快なのだろう。 ならば、あたしはどうしたかったのだろうか。 『笑っちゃうわね。あたしは恨んでいるのよ、アイツを』 『アイツは地獄の果てまで着いて行くって誓ったのよ』 『それなのにアイツはあたしを忘れてみくるちゃんと……』 『許せるはずないじゃない』 『あんな奴苦しんで当然なのよ』 『アイツだけ幸せになるなんて……そんなの……』 あたしはアイツへの憎しみを確認するかのように独り言を呟いた。 それでもあたしの心が晴れることは無い。むしろ逆効果だった。 『あたしは…』 あたしはどうしたかったのだろう。どうなってほしかったのだろう。 何故? 今となっては思い出すこともできない。 あたしが何を望み、どうしてここに居るのか。 あたしは…何かを忘れている? そんな時だった。 もうとっくに下校時刻を過ぎた今、文芸部室のドアを開かれたのだ。 『キョン!?』 ドアを開いたのは他ならぬキョンだった。 キョンはひどく疲れていたようだった。げっそりとした顔に、腫れた赤い目。よろよろとパイプ椅子に腰をかけると、宙を見つめ呟いた。 「……思い出せないんだ……」 うわ言のように繰り返される言葉。 「忘れてしまったんだ……大切な、何かを」 『……どうして、思い出せないの?』 あたしはこの男の独り言に、無意識に返事をしていた。何となく、キョンが返答を求めていたような気がしたからだ。 当然返事は無い。キョンはそれから目を閉じたまま動かなかった。 再び訪れる沈黙。あたしはキョンの胸中を伺えず、諦めて部室の外へと視線を移した。 怪しく浮かぶ月には雲がかかり、この不自然な世界に灰色の光を降らしていた。 灰色の世界。二人きりの学校。 思い出されるのは、おかしな夢、交わしたキス―――…… ああ、 なんだ、そうか。 そうだったんだ。 『キョン……』 あたしはキョンの方へと向き直った。目を閉じている彼の頬を涙が伝っている。 キョンの頬へと手を伸ばし、それを拭おうとした。 触れられない。 もうキョンに触れることすらできない。 死んでしまったあたしには、キョンを哀しませることしかできないのだ。 『……忘れていたのは、あたしの方ね』 キョンがあたしを忘れたのは、他でもないあたしの願いだった。 彼を哀しませないためにあたしが望んでやったこと。 涼宮ハルヒという存在をを無かったことにしたのは、涼宮ハルヒ自身だったのだ。 どうしてこんな大事なことを忘れていたんだろう。 全てはキョンが好きだったから。 あたしは一番大切な気持ちを忘れてしまっていたのだ。 『……キョン』 もう触れられぬとわかっていても、あたしは何度も彼の頬を拭った。 『思い出さなくていい……もう苦しまなくていいのよ』 拭えぬ涙は止め処なく流れ続けていた。 それでもキョンは心なしか、頬を撫でられ擽ったそうにしているように見える。 キョンの体温が温度を持たぬこの手に伝わってくるような気さえしていた。 『好きよ、キョン』 もう涙すら流せないこの身体。 もう触れることすらできないこの身体。 もうキョンを哀しませることしかできない、あたしの存在。 『あたし……行くわ』 これで最後と、あたしはキョンの頬に手を添えるようにした。 そしてそっと唇を近づける。 灰色で、二人っきりの世界。 アンタはキスをして夢から覚める。 そして次に目を開けた時、アンタは完全にあたしを忘れる。 今度は痕跡も無くあたしは消えるわ。 だからもう苦しまなくていいのよ。 ごめんねキョン。 アンタは生きて……幸せになって。 好きよ。 好きよ。 大好きよ。 誰よりも愛してるわ。 だからあたしを忘れなさい。 あたしはアンタを忘れない。 アンタを好きなこの気持ちを二度と忘れない。 「……ハルヒ」 最後に、キョンのうわ言が聞こえたような気がした。 「勘違いしないでよ。あたしはアンタを彼氏にするつもりは無いわ!」 「な、なんだと?」 「その代わり、団員その1は永久名誉雑用係に昇進です!」 「……はあ?ハルヒお前、何言って……」 「だからアンタはずっと、一生、死ぬまであたしの傍に居なくちゃならないの。仕事だって今までの何倍も増えるわよっ!覚悟しなさい!」 「…………」 「……ちょっとキョン、聞いてるの?」 「ああ。地獄の果てまで着いていくぜ、ハルヒ」 終
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5818.html
しばらくして食事を食べ終える古泉と朝比奈さん。再び話は再開する。 「さて、長門さんはようやく【過去】の話を終えたわけですが…ということは、 今度は何を話すか…大体予想はつくでしょう。洞察力の鋭いあなたならね。」 別に鋭くはないがな。 「お前が【過去】って言葉を強調したことから察すると、今度は【今】についてでも語ろうってか?」 「ご名答です、さすがですね。これから話すことは事態の核心に迫る代物です。 少し気を引き締めて聞いてもらえると嬉しいです。」 まあ、もとからそのつもりだ。 「いきなりですが、【フォトンベルト】という言葉をご存じですか?」 「本当にいきなりだな…ああ、聞いたことはあるぞ。よくテレビの怪奇特番だので、 最近おもしろおかしく扱われてる題材だろ?」 「その通りです。ではフォトンベルトについて、あなたはどこまで知っていますか?」 「んなこと言われてもな…聞いたことがあるってだけで全然詳しくはないぞ。 確か地球を滅ぼす類のものだったような記憶が。」 「それを知っていれば十分です。おそらく今から話す内容も、あなたなら差し支えなく理解することができるでしょう。」 「ならいいんだけどな。で、いい加減フォトンベルトとやらがハルヒとどう関係があるのか話してくれないか。」 「では、まずフォトンベルトの定義についてあなたに説明したいと思う。」 再び長門先生の出番だな、よろしく頼むぞ長門。 「フォトンベルトとは、銀河系にあるとされている高エネルギーフォトン、即ち光子のドーナツ状の帯。」 いきなり高度な説明がきたな。 「要は光子の集合体ってことか?」 「その認識で問題ない。話を続けるが、太陽系はアルシオーネを中心に約26000年周期で銀河を回っており、 その際、11000年毎に2000年かけてそのフォトンベルトを通過するとされている。」 「すまん長門…アルシオーネとは何だ?」 「プレアデス星団の中心的な星の呼称。」 「また質問してすまんが…プレアデス星団とは??」 「銀河系に属する新しい星団のこと。地球からおよそ10光年の距離にある。」 なるほど、わかりはしたが…なんとも掴みどころがない感じで 正直イメージし難い。 宇宙に関する知識があまりない俺には必然事項か。 「何やら苦しんでいる様子ですね。」 そりゃそうだろ古泉… 一端の高校生が大学で習うような 天文学的単語を聞かされているんだ。無理もないとは思うがな。 「できる限りわかりやすく説明するのであれば、初秋の夕暮れ時…東の空にて見られる青白い星の集団、 それがプレアデス星団です。我が国ではスバルと呼ばれ古くから親しまれています。 あなたも、この名前くらいはどこかで聞いたことがあるのでは?」 そう言われればなんとなくわかる気はする。 いや、やっぱりわからん。 「…長門よ、フォトンベルトについてもう少し詳しく説明してくれないか? ハルヒと関係があるない以前に俺があまりに無知すぎて、そもそも判断ができん。」 「了解した。では、まず【フォトン】について細かく説明したい。フォトンとは光エネルギーのことで、 粒子であると同時に電磁波としての性質を持っており、日本語では光子と訳されている。」 つまりは光エネルギーってことか。 「ところで、酸素や水素などの元素は原子から出来ていることはご存じ?」 「…いくらなんでもそれくらいはわかるぜ。授業でも習ったしな。」 「これらの原子の中心に陽子と中性子からできた原子核があり、その周りを電子が回っている。 この電子とその反粒子である陽電子が衝突すると双方とも消滅し、2個または3個のフォトンが生まれることが 知られている。地球上にはこうして生成されたフォトンの他に、太陽から飛来したフォトンが存在している。 太陽内部の核融合反応によっても生成された厖大な量のフォトンは地球に向かって放射され、 その一部は地球大気の吸収や散乱などを受けながら、粒子の状態で地表に達している。」 すまん長門、後半ほとんど聞いてなかった…この場合、この聞くという動詞には 英語ならばcanがついているところだろう。聞いていないのだから、即ちcan tだ! 「つまりこういうことだろ?さっきお前が言ってた10光年離れたプレ…プレなんとか」 「プレアデス星団。」 「そう、それそれ。そこに今言ったフォトンとやらが密集してる、それがフォトンベルトってことなんだろ?」 「そう。」 何だ、案外フォトンベルトって簡単じゃねえか。難しく構える必要もなかったな! …こういうときハルヒがいてくれれば俺に厳しいツッコミをしてくれたものを…。 『何得意げにアホ面してんのよこのバカキョン!?ただわかった気になってるだけじゃないの?』との侮蔑に対し、 『調子のってすみませんっした。』と、面白くもないコントを繰り広げていたであろうことは安易に想像できる。 今となってはノリツッコミで悲しいだけだが。とりあえずだ、フォトンベルトをイメージとしてだけでも 捉えられるようになったのだから、俺にとってはそれでもう十分だろう。俺にとっては。 「ただ、地球のそれとは桁違いの量のフォトンが充満している。」 え?地球にもフォトンとかいうのはあったのか?あ、もしかしてさっきの話にあったのか…聞いてなかった。 それより今話すべきは… 「ええっと…そんな桁違いのフォトンが集まってるフォトンベルトってのはあれか?危険な存在ってことなのか?」 「少なくとも、人類にとってみれば、あまり好ましいものではないと言える。」 俺が以前テレビ特番で見たように、フォトンベルトが地球滅亡と結び付けられていた理由も 今ようやくわかったぜ。そんな複雑な事情があったとは。 …ん?待てよ。 「だがな、長門。少なくとも俺が見た番組内では、否定派が肯定派を圧していたぞ。否定派からすれば フォトンベルトの危険性とかいうのは… 一部の疑似科学信仰者やオカルティストが存在と影響を主張するだけで 科学的根拠はないとか何とか。現にそう言っていた科学者もいたようだし…このへんはどうなんだ長門?」 「確かに、フォトンベルトというのは物理法則的にはありえない。なぜなら、そもそもフォトンは光子であり フォトンの帯が形成されることは基本ない。それに加え、太陽系は銀河系中心に対して約2億2600万年周期で 公転しており、プレアデス星団を中心に回るということは考えられない。実際に26000年周期で太陽系が 銀河系を公転したとすると光速度を超えてしまい、即ち特殊相対性理論に反するのは必至。 仮にプレアデス星団を中心に回っているとすると、そこには銀河系を遥かに上回る質量がなければならない。 フォトンベルト説では地球がプレアデス星団の周りを回っている説と、わずか26000年で銀河を回るという二説が それぞれ矛盾する、にもかかわらず併記されていることが多い。よって、フォトンベルト説が 暴論だと捉えられても無理はない。」 なるほど、全くわからん。 とりあえず…だ。フォトンベルトとやらが存在しえない産物であろうことだけは何となくわかった。 「フォトンベルトが存在するかどうか怪しいものなんだとしたら、なぜお前や古泉は執拗にフォトンベルトについて 俺に詳しく説明してくれていたんだ?おまけにだ、お前さっき『人類にとってみればあまり、好ましいものではない』 とか言ってなかったか。それを言うからには何か根拠があってのことだよな?一体どういうことなんだ?」 「涼宮ハルヒの能力が関与すれば、強引にでもそれらの物理法則を捻じ曲げることは可能。」 ??なぜそこでハルヒがでてくる?? 「涼宮ハルヒが、無意識であっても再び世界が滅ぶことを望めば… 存在不確定のフォトンベルトを実在するものとして、物理法則を無視して作り上げることは可能。 なれば、フォトンベルトが人類にとって最悪の方向へ向かうのは必然。」 なんてむちゃくちゃな…科学万能説終了のお知らせ。そうか、そういやハルヒには 願望を実現させる能力があったんだっけか…それなら可能っていう話もわかる。だが 「何をバカなことを言うんだ。ハルヒが世界を滅ぼす?あいつがそんなことを 思ってるとでもいうのか?いくら常人離れしたやつとは言え、そんなこと望むはずがないだろう??」 「あなたがそう言いたくなる気持ちもわかります。しかし、あなたにはついさっき長門さんが 話してくれたばかりなんですがね。涼宮さんが過去に何度も世界を滅ぼしたことがある、ということを。」 ッ! …なぜ俺はあのとき、こんな当たり前の質問を思いつかなかったんだろうかと思う。話の複雑さゆえに 思考がよく働いていなかったせいなのか?…何にせよ、今なら俺はこの質問を投げかけられる。 「そもそもだな…ハルヒはどうして世界を滅ぼしたりなんかしたんだ?」 根本的な疑問である。事の根幹を成す疑問である。これが解消されなければ… とてもではないが、俺は平然としていられることはできなくなるだろう。 「神だから…としか言いようがないのではないですか?」 …ハルヒが神みたいな存在だってことは認めてやる。長門の一連の話を聞いても、 尚それに抗うような野暮な人間では俺はないんでね。だがな…神であったとしてもだ、 それは全然理由になってないんじゃないか古泉?神だから滅ぼすだと?一体どういう理屈だ。 「本質的な理由はもはや本人以外には知りようがないでしょうね。ですから、憶測を挟む余地が あるのだとしたら、もはや我々には『神だから』という稚拙な理由でしか返答できないんですよ。」 だから、その『神だから』の意味がわからないんだが… 「涼宮さんが地球を滅ぼした時、世界はいつもどういう状況でしたか? 長門さんの説明を思い出してみてください。」 「…人間が私利私欲に走った挙句、戦争を起こしたんだよな。覚えてるぜ。」 「その通りです。ならば、世界の統治者とも言える神が…そのような世界を望んで維持させようとは思いますか?」 「…だから滅ぼしたってのか。」 「神という存在の捉え方にもよりますがね。争いが無く人々が幸せに暮らせる世界… 恒久平和が続く完璧な世界を創りあげたかった…のではないか。僕はそう考えています。」 …確かに、ハルヒがそういった類の理想郷を構築せんと邁進していたであろう事実は 長門の説明からみてとれる。その瞬間だったか、俺の中に新たなる疑問が生まれる。 「…ハルヒは第一、第二、そして第三世界時においては自分が神だっていう自覚はあったわけだよな? まあ、もともとが神の分身だったらしいから当たり前っちゃ当たり前なんだが。それでだ、なぜ今のハルヒには その自覚がない?そして、なぜ神という自覚がないにもかかわらず、フォトンベルトに干渉できる?」 「涼宮さんになぜその自覚がないのか…それについては返答しかねます。しかし、涼宮さんが 徐々に神としての意識を取り戻し…そして、それが何らかの経路で深層心理に働きかけていたとしたならば… 無意識にでも能力は発動し得ます。無意識にでも。それは、あなたが一番よくご存じのはずです。」 「ああ…確かに、あいつはそんな芸当が成せるやつだよな。それなら、いつからあいつにそんな自覚症状が 現れ始めた?いつ、そしてどういった契機でそうなったのか…それについては何か知ってるか?」 「涼宮ハルヒに異変が生じたのは昨日の…およそ午後6時15分あたり。」 なんだと??その時間帯って確か 「そう。涼宮ハルヒの意識が途切れ、失神した時間帯とほぼ同時刻。ならば、その時間帯にて 涼宮ハルヒに対し外部から何らかの干渉があったのは確実。肉体的打撃の痕跡がなかったことから、 重度の精神的ショックにより意識を奪われたと考えるのが妥当。」 「原因は??なぜそんなことに??」 「あの時間帯にて、私は微量ながら通常の自然条件においては発生し得ないほどの異常波数を伴う波動を 観測した。気になるのは、それが赤外線・可視光線・紫外線・X線・γ線等、いずれにも属さない 非地球的電磁波だったこと。これら一連の現象が人為的なものであると仮定するならば、現在の科学技術では 到底成し得ない高度な技術を駆使していることに他ならない。その波動が涼宮ハルヒの脳波に何らかの影響を 及ぼし、結果として『自身は神である』というある種の覚醒を引き起こしたのではないかと私は考えている。」 …… 「そして、これはあなたの先程の質問に対する答えとなるが…涼宮ハルヒの全容を私が知ったのもこのとき。 卒倒時、涼宮ハルヒから膨大ともいえる量の情報拡散を確認、同時に私はその解析にあたった。ただし、 その情報量が私個人のスペックをはるかに凌駕するものであったため、大雑把な客観的事象を除いては、 私は解析を中断せざるをえなかった。即ち、私があなたたちに話した内容というのは非常に断片的なもの。 十分な情報摘出ができず、私は申し訳なく思ってる。」 …いや、むしろ俺はそれに対し感謝せねばならないだろう。断片的だったその情報に関してですら、俺は 理解が追いつかなかったのだから。それ以上の説明をされたところで頭がオーバーヒートしてしまうだけであろう。 「長門さんは、本当によく頑張ってたと思います!」 珍しく声を張り上げる朝比奈さん。一体どうしたのだろう? 「実はあのとき…彼女は」 「古泉一樹、朝比奈みくる。そのことは他言無用と言ったはず。」 「すみません長門さん。しかし、彼には伝えておくべきです。いえ、僕が彼に知っておいてもらいたいのです。」 「そうですよ!またあんなことが起こったらどうするんですか!? キョン君を心配させたくないって気持ちはわかりますけど…それでも!」 何だ何だ??長門に何かあったってのか?! 「実はですね、あのとき僕たちが止めなければ彼女は…ちょうど内部容量を超え フリーズしてしまったパソコンのごとく、二度と機能しない体になっていた可能性があるんですよ…。」 パソコンは電源を落として起動させればまた使えるようになる。しかし長門はどうだ? いくら情報思念統合体とはいえ、体は人間のそれと一緒なはず。そんな彼女がフリーズを起こしてしまったら…?! 「長門!?どうしてそんな無茶なことを!?」 おそらく長門のことだ…無理やりだとわかってても、なるべくなら 情報の取りこぼしは防ぎたかったのだろう。だが…それとこれとは別問題だ。 「以前言ったよな!?無茶はするなって…!何かあったら俺に言えって…!そりゃ、あのとき俺は ハルヒのとこに向かってていなかったし、仮にいたとしても俺のような一般人がその解析とやらを 助けてやることはできんかったろうが…そういう問題じゃねえんだよ!俺も、そして古泉や朝比奈さんもだが… お前の無理するとこは誰も見たくねーんだ!!ここにはいないがハルヒもな。だから…長門、俺に約束してくれ。 二度とこんな真似はしないってな。もしやるようなら…罰金だからな?それがSOS団ってやつだ。」 「…っ。」 罰金という言葉に反応したのか、それまで重かった(ように見えた)長門の顔色が不意に明るくなる。 「…わかった。私も、罰金は払いたくない。」 シャッターチャンスだったかもしれない。そう思わせるような…優しい表情だった。 …で、ふと思ったんだが…。 「もしそれが人為的なもんだったとしたら、犯人は未来人かもしれないってことか?」 「未来技術を応用しているのだとすれば、犯人が未来人であるという可能性は非常に高いと思われる。」 …… 俺は思い出していた…二日前、放課後にて俺の下駄箱に入っていた… 一枚の手紙に書かれていたことを。 『どうか、未来にはお気をつけください。』 ハルヒをこんなことにしやがったヤツは未来人ってことかよ。 あの手紙の意味がようやくわかったぜ…朝比奈さん大には感謝しねーとな。 ふと朝比奈さんのほうを見る俺。 「え、ええっと、キョン君??今の話だと犯人は未来人だとか何とかそういうことらしいですが、 決して私は犯人じゃないですよ?!?どうか信じてください…。」 涙目ながらに懇願する朝比奈さん。どうやらこのかたは何か勘違いをなさっているようだ…。 「誰も朝比奈さんが犯人だなんて思ってませんよ!?」 「…じゃあどうして今私のほうをジロっと見たんですかぁ…?」 う…これはまずい。朝比奈さん大のことを思い浮かべ、朝比奈さん小をついつい見てしまったなどとは 口が裂けても言えない。なぜなら朝比奈さん大のことは本人(小)には話さないようにと…以前彼女と そう約束したからだ。詳しい理由はわからんが…やはり大人となった自分に過去の自分が会ってしまう、 あるいは存在を認知されてしまうというのは、時系列上いろいろと問題が生じてしまうのであろう。 「いえ、この事件には未来が関与してるとか…そういったことが今しがたわかったので、 未来人である朝比奈さんは何かそういう情報を掴んでいないかなあと思って見たってだけの話ですよ。 何か知ってることとかありませんか?最近未来で不穏な動きがあったとか何とか。」 ふう、なんとか上手くごまかせたぞ。 「あ、そういうことだったんですね。…そうですね…不穏な動きですか…。」 「些細なことでもいいんです。何かありませんか?」 「…そういえば最近藤原君たち一派が事あるごとに時間移動していたのがちょっと気になります…。」 …やっぱりそうだったか藤原よ。一連の事件の一部始終がお前の差し金だったんだな。 まあ、朝比奈さん大と直接会って『藤原くん達の勢力には気を付けてください。』 と忠告されていた段階ですでに薄らと気付いてはいたんだが。 「長門よ、今朝比奈さんの言ったこと聞いたよな?ということは、犯人は藤原一派で確定か?」 「そ、そんな、時間移動といっても、もしかしたらそれは私のただの勘違いだったかもしれませんし、 たったそれだけの情報で藤原君たちを犯人扱いしてしまうのは…」 うーむ…朝比奈さん大にそう言われたと本人には言えないからなあ…苦しいところだな。 「もちろんその可能性もある。まだ確定したわけではないが、彼らを警戒するに越したことはない。 その場合、以前彼らと連動していた天涯領域や橘一派に対しても同様の措置をとるべきだと考える。」 長門の言うとおりだな。 「……」 何か言いたげな顔をしている朝比奈さん。一体どうしたんです? 「ええっと…犯人が藤原君たちでしろそうでないにしろ、 いずれにしても 犯人は未来人だっていうのはもう決まってるんですか?」 「可能性は非常に高いですね。」 「だとしたら、私にはなぜこんなことをするのか理解しかねます…。」 「?どういうことですか?」 「考えてもみてください。涼宮さんに神としての自覚を促すということは…つまり、この世界をもう一度 滅ぼしかねない可能性を与えてしまうってことなんですよ?当たり前のことですが、現行世界が消滅してしまえば つまりは未来だって消滅しちゃいます。私たち未来人からすれば帰る場所が無くなっちゃうんですよ。 にもかかわらずそんなマネをするなんて…あんまりこういう言い方はしたくはないんですけど、これじゃ 自殺行為と変わらない気がします…そういう人たちがいるのだとしたら、とても正気の沙汰には思えません…。」 肩を落として悲しげな表情をする朝比奈さん。やめてください、あなたにはそんな表情似合いませんよ…。 それにしたって、朝比奈さんの言い分も至極当然である。一体どういった目的でハルヒにこんなマネをしたのか? 犯人が未来人だったとしたなら、なおさら考えさせられるべき問題だ。 「古泉、理由に関して何か見当はつくか?」 「こればかりは僕にもさっぱり…最大の謎としか…。」 「そうか…長門、お前は何かわからないか?」 「古泉一樹同様、見当の余地もない。何より、現段階では情報が少なすぎる。」 誰にもわからない…か。それならいくら悩んだって仕方あるまい。 …そういえば 「なあ、長門。」 「何?」 「仮にハルヒに神としての意識が復活したとしても、ハルヒがこの世界を好きになれるように… 維持したいと思わせるように俺たちが働きかけることができるようなら、世界は消滅せずに済むんじゃないか? 原理的にはあれだ、いつぞやの閉鎖空間のときみたいにな。」 「…それは非常に厳しいと思われる。」 どうして!?と言いそうになったが改めて考えてみりゃ、ハルヒは過去三度も世界を滅ぼしてしまった 神様なわけで、そういう事例がある限り俺らがいくら説得したところで態度を変えるかどうかは… 常識的に考えたらそれは困難だろう。いや、困難どころか不可能に近いかもしれん。だが 「万が一にでも説得に成功すれば世界は崩壊せずに済む…そういうことだよな? 可能性がゼロじゃない限りは、希望はあるはずだよな?」 しかし、長門から発せられた言葉は…無機質で冷めていた。 「仮に成功したとしても、事態の解決は望めない。」 …… 一瞬『万事休す』という言葉が頭をよぎる。 …ちょっと待ってくれ… 本当にどういう状況なんだ?? 「涼宮ハルヒの能力は、あくまでフォトンベルトによる人類への悪影響を助長しているに過ぎない。」 わけがわからない。 「つまり涼宮ハルヒの能力の有無には関係なしに、 フォトンベルトは人類にとってマイナスベクトルへと推移している可能性がある。」 …え? 「お、おいおい…それじゃあアレか!?ハルヒが望むにしろ望まないにしろ… いずれにしても世界は滅ぶ運命にあると、お前はそう言いたいのか??」 「そういうことになる。」 「待ってくれ!?さっきハルヒの能力無しには地球崩壊の科学的根拠は成立しないって言ってたじゃねえか? それにだ、そもそもフォトンベルトとかいうのが存在するかどうかも疑わしいんだろ?ハルヒが望めば、 お前がさっき言ったように物理法則でも無視してフォトンベルトとやらを作りあげるんだろうが… 裏を返せば、つまり望ませなければ、そんなもんも誕生しないってことだろ?? それなのに、なぜお前はフォトンベルトがあること前提で話を進めているんだ??これじゃ納得できねえ…!」 「きょ、キョン君!落ちついてください!長門さんだって、私たちと気持ちは同じはずなんです!」 …… 朝比奈さんが叫ぶなんて珍しいこともあるもんだ。そのせいか…体から熱がひいていくのがわかる。 しまった…俺は熱くなり過ぎていた。無意識だっただけで、俺は長門に対して どことなくぶっきら棒な言い方になってしまってたんじゃないのか…? 「あ…すみません、出過ぎた真似でした…!長門さんにも…勝手に気持ちを代弁しちゃってごめんなさい…。」 「いい。私もこの世界は安寧であってほしい。それはあなたたちと同じ。」 「朝比奈さん…むしろ言ってくれてありがとうございます。おかげで冷静さを取り戻せました。 それと長門…ゴメンな。お前を問い詰めようとか、そういうつもりはなかったんだ。」 「わかってる。言うなれば、【フォトオンベルト】の定義を曖昧のままにして話していた私のミス。 存在の確証も無しに【フォトンベルト】という語源を安易に会話に使用していたのは相手に誤解を招くには 十分な行為であり、私の不覚といたすところ。従って、次回から私の言う【フォトンベルト】とは、 あくまでそれに類似した何かであって、いわゆる一般的に厳正定義されているフォトンベルトとは 差別化することをあなたに伝えておく。これでいい?」 「つまり長門さん、こういうことですよね。確かに、『いわゆる肯定派が唱えるフォトンベルト』が 存在する確証などどこにもない。しかし、フォトンベルトに近しい何かが太陽系全体に接近しているのは 紛れもない事実であり、いくつもの科学データがそれを証明している。そして、その事実が地球に 害を及ぼしかねない可能性を示唆している。」 「そういうこと。」 古泉がフォローに入ってくれた。なるほど、なんとなくだがわかってきたぞ。つまりフォトンベルトではなく、 近しい別の何かと考えればいいんだな。ただ、その近しい別の何かの具体的呼び名が今はない。 ゆえに、とりあえずは暫定的に【フォトンベルト】という呼び名でこの場は定着させましょうということだ。 …… って、近しいって何ぞや?? 「長門、近しいって何ぞや??」 反射的に心の声がダイレクトに出てしまった。だってその通りなんだから仕方ないじゃないか! そうだろう??ただでさえフォトンベルト自体が意味不明なのに、それに近しいって一体全体何なんだ?!? 「フォトンは先述したように…」 しかし、そんな俺のふざけた口調にもかかわらず長門は黙々と答えてくれている。 何も反応がないってのも…それはそれでちょっと悲しいもんだな…。いや、待て 一瞬だったが、俺は長門の口がにやけたのを見逃さなかった。 「電子と…反電子の物理、的崩壊によって…」 言い方も何かもぞもぞとしておかしい。確信した、長門は間違いなく俺の『何ぞや』に受けている。 なんとも、世の中には変わった笑いのツボをお持ちのかたがいるもんだ。 「長門…そんなに何ぞや?がおかしかったのか?」 「今話してる途中…というか、そんなことはない。」 「無理しなくていいんだぜ?」 「そんなことはない。」 「ホントか?」 「そんなことはない。」 「やっぱ面白かったんだろう?」 「そんなことはない!」 !? 「おやおや、キョン君も人が悪い。まさか女性を辱めて悦に浸る趣味をお持ちとは、思いもしませんでしたよ。 そのせいでしょうか、長門さんも随分とご立腹のようです。」 「そうですよキョン君。せっかく長門さんが一生懸命お話していたのに…そりゃ長門さんでも怒りますよ!」 なんということだ…長門には怒られ、古泉と朝比奈さんはその長門の援護射撃に入ってしまわれた。 さらば俺フォーエバー! 「…とにかく、話を続ける。」 「長門マジすまん、許してちょんまげ。」 「…今の…面白かったから…許す…っ。」 「キョン君、あなたは本当に何を言って…呆れて笑いが込み上げてきたではありませんか。」 「ちょ、キョン君、こんな重要な話の途中に何言って…くっあはは。」 朝比奈さんの言うとおりだよ。何言ってんだよ俺は…??ハルヒがいないからって テンションがおかしくなってるんじゃないのか??いや…こんな重たい話だからこそ 反動で笑いを取りに行ってしまったのかもしれない。何にせよ、こういう空気もたぶん必要…だと思う。 「本当に話を戻す。フォトンは先述したように電子と反電子の物理的崩壊によって生まれた光の粒子だが、 人間が一般的に知る光とは異なり、多次元の振動数を持つ電磁波エネルギー。したがって大量のフォトンに さらされたとき、真っ先に重大な影響を受けることになるのは地球の地磁気や磁気圏…最も深刻な影響は 地球磁場の減少。19世紀初頭以降、その動きが活発化。その減少率が……」 話は続いた。 その後も長門から様々な科学データの提示、説明を受けた。地磁気減少による地球被害はもちろん、その他にも 太陽系惑星が総じて地球と同じ温暖化現象にあるということ、天王星や海王星でポールシフト即ち地軸移動が 起きたということ、土星や金星の明るさが劇的に増しているということ、周期的に沈静化するはずの太陽黒点が 一向に衰えないということなどなど、それはそれは幾多の情報処理に膨大な時間を削られたさ、ああ。 …… ふう… あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ …と発狂したくなるところだったが、俺にも人並みの精神力がある。心の中では叫んでいても、 実際それを口に出したりはしないさ。つまりである、俺は長門や古泉による複雑怪奇&高度な説明を 長時間に渡って聞き続け、すでに俺の脳内は限界に達してしまっているのである。言わずもがな、 思考回路も悲鳴を上げてしまっている。このままではまずい…俺は古泉に渾身の一言をぶつける。 「古泉、休憩をとらないか?」 「奇遇ですね。実は僕もあなたと全く同じことを考えていたところだったんですよ。」 話に夢中だった俺は気付かなかったが…いつのまにか古泉の顔も、俺に負けんと言わんばかりの 疲弊具合ではないか。そして、朝比奈さんも朝比奈さんで同様の様子。 そうか、みんな疲れていたのか。そりゃ無理もないさ。 「食事を食べ終えた後ですし、ここはみんなでデザートでも取りませんか? 甘い糖分は思考を活性化させてくれますし、気分転換も兼ねて一石二鳥というものです。」 良いことを言うじゃないか古泉よ。いい加減何か甘いもんが欲しかったところだ… 疲れを癒すためにも、俺はこの久々のくつろぎ空間を思う存分味わうことにしよう。 注文を聞きにこちらへとやって来る店員…まあ、つまりは森さんなわけだが。 「私はバニラカフェゼリーでお願いします♪」 「そうですね…では僕はチーズケーキを。」 「私は白玉アイスを希望する。」 「俺はチョコレートパフェで。」 「バニラカフェゼリー、チーズケーキ、白玉アイス、チョコレートパフェをそれぞれ一つずつですね。畏まりました。」 颯爽と去っていく森さん。これで数分後には美味しいデザートにありつけるというわけだ…。 「おやおやキョン君、早く食べたそうな感じですね。」 「当たりめーだろ。そういうお前も同じ穴のムジナだ。」 「バレてしまいましたか。腹が減っては戦はできぬとは、よく言ったものです。」 戦じゃなくて話し合いだけどな…まあ、いずれにしろ疲れることこの上ないが。 「私も早く食べたいですうぅ…。」 干からびたかのごとくぐったとしている朝比奈さん。待ち遠しい気持ちは十分わかりますよ。 「長門、お前はいつもながら平静を装ってるわけだが、やっぱりお前もデザートが待ち遠しいか?」 「待ち遠しいか?と聞かれれば、間違いなく今の私は『はい』と答える。」 つまり待ち遠しいんだな。 そんなこんなで、ゾンビのごとくうなされていた俺たちのもとに… 5分後くらいであったろうか、ようやく希望の品が届いたのであった。 「ゆっくり召し上がってくださいね♪」 またまた颯爽と立ち去っていく森さん。言われなくともそうしますとも。 …… 口の中にゆっくりと広がる甘いチョコの味…くうぅぅ!これはたまらん。 状況が状況だっただけに余計に美味しく感じるぞ。 「ああ…幸せです♪」 「さすが新川さん、良い仕事をしてますね。」 朝比奈さんも古泉も甚だしくご満悦の様子だ。 「いつか…。」 ん?何か言ったか長門? 「私もいつか、こういうアイスのような…美味しくて甘いデザートを作れるようになりたい。」 !? … 一瞬びっくりしたぜ。お前がまさか、こんな女の子らしい言葉を口にするなんてな。 お前の料理熱はカレー方面だけかと思い込んでいた俺だったが…どうやら料理全般に興味があるようだな。 一体いつのまに…?いつの日か、お前がデザートを作れる日を心待ちにしてるぜ。 さてさて、二重の意味で甘い時間を堪能していた俺たちであったが、いつまでもデザートに 甘んじているわけにもいくまい。本当は延々とのんびりくつろいでいたいが…ココに来た本当の理由を 忘れちゃいけねえからな。ハルヒの今後がかかってる重要な会議ってことくらい…いくら怠慢な俺でも 常時頭の隅っこには入れておいたさ。そもそも、ファミレスでこんな深刻な話をしていたこと自体、 客観的に考えれば信じられないことこの上ないが…とりあえず、話を再開させるとするぜ。 しんどいが、これもハルヒのためだ。 「で、他に何か俺に話さなきゃならんことはあるか?」 「実はですね、これと言ってあなたに話さねばならないことはもうないのですよ。」 「何、そうなのか?」 「ええ、そうです。実に長きにわたって頭が痛くなるような話を聞いていただいて…本当に今日はお疲れ様でした。」 「…いやいや、お前も説明いろいろご苦労だったぜ。」 「それはどうもです。…そうですね、何か我々に尋ねておきたいことはありますか? その質問に応じて、今日はお開きにしたいと思ってます。みんな疲労困憊のようですしね。」 尋ねたいこと…と言われてもだな、俺が今日どんだけ長門先生にご師事を受けたと思ってんだ… 彼女が一連の説明において、何か取りこぼしているようには全く思えない。ゆえに、俺には 質問すべきことなど何一つ残されてはいないのである。よし、それじゃあ今日はこれでお開きとするか。 …… …? …何か喉につっかかる…はて、一体これは何だろうか。 疲弊しきった頭をフル動員させ、その違和感を探索すべく渾身の力を振り絞る俺。 …… 夢… そうだ、夢のことだ…! 「みんな、ちょっと俺の話を聞いてくれ…。」 俺は話したのだ。そう…昨日、一昨日と…俺が夢の中で一部始終見ていた惨劇を。もちろん、 話したのには理由がある。長門や古泉から今日受けた話と俺が見た夢との間に、随分な数の類似点を 見出したからだ。聞いてるときに感じたデジャヴ感とは、このことだったんだな。 …… 「なるほど…確かにその夢はいろいろと筋が通ってます。例えば地球滅亡の様子においては 火→氷→水と…見事に涼宮さんの第一、第二、第三世界崩壊の末路と被っていますね。 そして水に包まれた後、地球が消滅…正しくは見えなくなった…そうですよね?」 「ああ、そうだ。」 「それも実は説明がつくんですよ。フォトンベルトの作用に照らし合わせればね。」 何、あれはフォトンベルトによるものだったのか?? 「そこのところを詳しく説明したいと思う。実は、地球はフォトンベルトの周辺部にあるヌルゾーン と呼ばれるエリアに突入する際、暗黒の中で星さえ見ることが出来ない状況に置かれる可能性がある。」 「暗黒?まさか地球が見えなくなったのはそのせいか…?で、それは一体どういう原理だ??」 「光子の影響で太陽光が視界から遮られる状況に置かれるから。 光源体が無ければ、人は物を識別することはできなくなる。」 「太陽光が全く当たらなくなるだって?それはあれか?例えばある場所が昼時ならば、 その地球の反対側に位置する場所は夜だとか…そういう当たり前の話じゃないってことか?」 「そう。地球の球体全てが暗闇に包みこまれる…そして、太陽光が当たらなくなった際には 地球全土で寒冷化現象が起こり、瞬く間に地球は極寒の地へと変貌する。」 恐ろしい事態だなそりゃ… 「それだけではない。地球の電磁気フィールドがフォトンエネルギーによって崩壊させられることにより、 あらゆる電気装置が操作不能となる。もちろん、人工的な照明器具類も一切用を足さなくなる。」 「つまり…完全なる暗闇…ってわけか。」 「そういうこと。」 …… 万が一にもそういうことになれば、本当に地球は終わってしまうではないか。 「ちなみに…フォトンベルトに完全に突入するとされる時期はいつ頃かわかるか…?」 「今年2012年の12月23日だと推定される。その場合、翌日24日までに第四世界の崩壊は完了される。」 …… 俺が二日前に見た夢の世界での日付を俺は覚えている… ああ、長門の言うとおりだ、確かに12月23日だったよ…あの忌まわしい日はな…。 …なるほど、今の長門の説明で全てに納得がいった。 冬にもかかわらずの酷暑は地磁気の漸進的低下による環境変化のせい… 有り得ない規模の大地震は地球の磁場が消滅したせい… 助けを呼ぼうにも携帯電話やラジオが全く機能しなかったのは光子による電磁波のせい… ハルヒを見つけた際に辺りが真っ暗になったのは太陽光が遮断されたせい… その直後に急激に冷えだしたのは寒冷化のせい… …… あの夢は…まさか予知夢だったとでもいうのか?じゃあ、まさか本当にあんな出来事が後一カ月ちょいで… いや、ふざけんじゃねえ…!?指をくわえて、家族や友人が死ぬのを待ってろってか? 「そんな未来、俺はぜってぇ認めねえ…。」 「何一人でいきりたってるんですか貴方は。『俺』じゃなくて『俺たち』でしょう?」 「そうですよ。私たちも協力しますから!絶対にそんな未来になんかしちゃいけません…!」 「もちろん、私も協力する。」 「みんな…ありがとう」 本当に良い仲間に恵まれたと思う…俺は。 「…それにしても、どうしたって俺はあんな夢を見ちまったんだ? 予知夢にしたって、俺にはそんなもんを見れる特異体質だの何だのあるわけでもない…。」 「…これは僕の推測ですが。おそらく、あなたに未来を見せたのは涼宮さんの力によるものでは? 一度目、そして二度目の夢にも際して涼宮さんの…助けを求める声が聞こえたらしいじゃないですか。 それが何よりの証拠かと。」 …… つまり、ハルヒは俺に助けを求めていた…? 「無意識ながらも神としての自覚を取り戻しつつあったのなら… キョン君に地球の崩壊を止めてほしかった…からじゃないかな?私にはそう思えます…。」 朝比奈さんの言うとおりなのだとしたら、俺が翌日ハルヒに対して思っていたことは 杞憂でも何でもなかったことになる。俺の読みは間違っていはいなかってことかよ… できればはずれてほしかったがな。まあ、もはやそうも言ってられまい。 「とりあえず俺のことはこれで置いといてだな、これから俺たちは何をすればいいんだ? どうすればハルヒと…そして世界を救える?」 「有効な策が現時点では思いつかない…というのが実状ですね…情けないですが。」 「そうですね…相手が未来人なのなら尚更です。万が一にも追い詰めたとしても、時間移動されてしまうのが オチでしょうし…それに、まずどこにいるのかもわかりません。他の時間平面上に潜んでいて、涼宮さんに 干渉する時にのみこちらの時間軸に顔を現したりするようでしたら、こちらからは何も手が出せません…。」 「つまり…ハルヒの近くに連中が現れるのを待つしかない…と?」 「端的に言えばそうなる。」 「少しばかり悔しいですがね。こればかりはどうしようもありません。」 古泉、長門、朝比奈さんの言うことに倣うのであれば、つまり、今俺たちにはハルヒを見守ってやることしか できねえってことか…納得いかねえが、しかし仕方ないことなのだろう。その代わり、連中が現れた際には 全力をもってハルヒは守るつもりだがな。よしんば、ヤッコさんも袋叩きにできれば言うこと無しだ。 …ああ、わかってるさ、そう簡単に上手く裁ける敵じゃねえってことくらいな。なんせ相手は未来人だ。 でも俺には頼れる仲間がいる…そう思えば少しは気が楽になるってもんだろう…。 そんなこんなで今日はお開きとなった。言うまでもないが、俺は今から家に帰って睡眠をとる必要がある… いくらハルヒを守ると言えど、万全な体調で挑まねばそれこそ意味がない。万一にも思考回路が働かない などという事態に陥れば、それこそ本末転倒であろう。それに、一旦長門たちの話を整理する時間も必要だ。 時計を確認する俺。時刻は…朝の6時10分か。なんと、俺たちはいつのまに こんなにもの長時間を会話に費やしていたというのか?時の経過は早いのだとつくづく実感する。 疲労した体で家に戻った俺は、早速ベッドに横になった。今すぐにでも眠りそうな勢いである… 昼夜逆転してしまったが、一日くらいどうってことないだろう。ハルヒのためだと思えば何ら惜しくはない。 …… 寝る前に俺は夢のことに気づく。そういえば、またしても俺は何かしらの夢を見てしまうのであろうか? 昨日、一昨日と、見た内容が内容なだけに寝るのが恐ろしく感じられるが…しかし、 古泉や朝比奈さんの言っていたように、あれらがハルヒの俺に対する何らかのメッセージなのだとしたら… 俺はそれから目を逸らすわけにはいかないだろう。というか、そんなことは許されない。 …意識が薄れていく。そろそろ眠りに入る頃合い…か。 ま、覚悟はできてるぜ。どんな夢でもかかってこいや。 俺は ゆっくりと目蓋を閉じた
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2945.html
第三章第一話「戦争とは利害の不一致である。そして双方のわがままである」 なんかかっこいい題名になっているが おそらくどこかの誰かさんが壊れたのだろう そういうことは世界の法則が乱れる原因のひとつになるのだが あいにく一般人の俺にはどうにかできるわけでなく 変な文章とともにこの話をはじめなきゃならないことに 俺は少々苛立っていた そんないろいろなことを考えているうちに 広場のスピーカーの立ててあった位置に 鶴屋さんは革命軍とかかれた旗を立てていた でもそんなのかん慧音ぇ!! あれ?なんかおかしいな? 俺にまでどこかの誰かさんの影響でてきたか? 常識代表の俺が壊れたら意味ないぞ? 昨日と今日、理性ぶっ飛んで暴走してたが。 まあそこは長門がカバーしてくれると思うけど。 「嫌い―――嫌い―――Loveing―――誰が誰が―――」 前言撤回、だめだこりゃ 俺は旗立てに夢中になっている鶴屋さんに話し掛けた 「何で鶴屋さんが戦車に乗ってたんですか?」 「にょろ、ちょろんとした理由があってね軍隊の戦車隊の隊長やってるにょろ」 「今の状況ってものすごい状態だとおもいませんか?」 「そうなんだけど、二重の記憶があるからそんなに気になってないにょろ」 ああ、二重記憶パターンね 古泉たちと一緒か まぁなんとなく現在の状況に適応してるようだ 「それにしてもすごいね~、この状況ってハルヒが作ったものって」 え?今何といった? 「あれ?知らなかったにょろか?私は心をよめるんだよ?」 なっなんですとー!? それが本当なら俺たちの関係丸見えってこと? 「そうにょろよ~」 さっきから心読みられまくりで認めざる負えなくなって来た はぁ、とため息ついたあと顔を上げるとSOS団の人たちがいつのまにか集まっていた 今の話を聞いていたらしい 「それが本当なら、私の心読んでみなさいよ。」 「ナイフとキョンくんといろいろとやばいものがあるにょろ」 何ですかそのガーンと効果音がつきそうな顔は!? というかやばいものって何!? 「さえない男の子と***なことを想像してる幽霊もいるね」 ハルヒ、なぜ幽霊なのに鼻血をだす!? 「アーッな想像と究極の肉体と本当は疲れてるけどそんなそぶりを見せてない人がいるにょろ」 古泉、お前そんなところで転ぶようなやつじゃないだろ!? 何があった!? 三人が横でうろたえているが そんなことお構いなしに鶴屋さんは 本を読んで立っている長門の周りをくるくる回る 「いつも難しい事考えているんだね、長門っちは、 でも別の人格がまざってるよにょろよ?」 「問題ない。」 「キョンくんも別の人格があるにょろよ?しかも結構危険な人格だし」 「あー、たぶん問題ないと思います、身の危険を感じないと出てこないと本人言ってましたし」 「ならいいんだけど・・・もうちょっともう一つの人格について考えたほうがいいよ」 そういわれて俺は本能の方について深く考えたこと無かったな・・・ あんなものがまた暴れたら洒落にあらない可能性だってある まあ本能も俺自身なわけだからSOS団員を傷つけるとは思わないが 「アニソーン―――アニソーン―――このホシの無数の塵の一つだと―――」 おい長門、空気読め、最近お前変だぞ せっかく人がシリアスになってたのにも関わらず場の空気を乱してもらっては困る もしかして誰かさんの影響が出てくるのか 「もう我慢出来ない。あいつと決着つけてくる」 「おい、ハルヒ大丈夫なのか?」 「大丈夫よ話をつけてくるだけだから」 え?何、話を勝手にすすめてるの? これから先の話にハルヒがいないと困るんだけど というかこの僕に対等に戦えるとでも? 「来たわよ!」 え、おま ここから先は血が滲んでて読めない おや?つづきがある・・・ 僕は恐ろしいものを見た 自分自身を過信してたのかもしれない まさか、ハルヒから攻撃を受けるとは思ってなかったのだ ハルヒが神人を出した こちらも幽波紋をだし抵抗する 前みたいに互角の戦いと思われたが なぜか今日はパワー負けしてたのだ 少しずつ私は不利になり奥の手を使おうとしたときだった 目の前が真っ暗になったのだ! その直前に見えた赤い瞳が忘れられない・・・ えーとすこし、いいですか? 話をややこしくするな それに第一読者が混乱するだろうが さらに話がぜんぜん進まん 「明日は敵との交戦にょろ。戦いの準備をしておくにょろよ。」 ・・・もう何もいうまい、いつのまにか日が暮れていることも 戦いがあると聞いたSOS団-1+2はそれぞれ武器を準備し そのまま食事をし その後すぐに寝た でも戦車が絡む戦闘って剣とか弓とかナイフとか使えそうにないが。 そんなことグダグダ考えているうちにいつのまにか寝てしまった 一方ハルヒ(偽)と数人の兵士たちは 「キョン達がどこにいるかは分かったわ あとは攻め込んで捕らえるだけだけど・・・」 「革命軍が拠点にしてますね・・・」 「かなりの戦力がいるようです。」 「それに報告によりますとキョンの戦闘能力も意外に高いとのことです 「今回の目標はキョン達の捕獲と革命軍との戦闘の勝利ね、失敗は許されないわよ」 「はい、必ず成功させます」 SOS団の未来を賭けた戦いが始まる 続く・・・ 第三章第二話「そろそろ自分の脳を疑ったほうが良いんじゃないの?」 タイトルが意味深・・・ そんなことは置いといて 朝早起きをした俺は洗面所で歯を磨いてる 食事も済まし、戦闘もあと3時間あとくらいに始まる予定だそうだ 口をゆすぎ歯ブラシを元の位置に戻すと廊下を歩いてくる長門 何かつぶやいているようだ 「―――urigusanirataguohuoyzagurerawomooturietisasowotokonayskuasaknoykukarosoahabotokonurotiat」 何を喋っているのかぜんぜん分からない。こういう場合何か不都合があった場合だ 「どうした?何かあったか?」 「別に―――人間で言う独り言―――」 なんか長門の喋り方にいつまでも違和感を感じているのだがどこがどうおかしいとはっきり指摘も出来ない それにしても何か聞かれたくない独り言だったのだろうか・・・? 「なぁ、長門」 「何―――」 「やっぱり、お前どこかおかしいぞ?ほんとに異常は無いのか?」 「―――」 無言の中にはっきりと違和感を感じた。おそらく長門は何か隠している 俺はそう感じ取った 「なぁ、喋れないことがるのか?」 「違う、うまく言語化できないだけ―――私の中で整理は出来ている。だが喋るには時間が掛かりすぎる―――」 「じゃあ、三時間後の戦いが終わったら、俺があとでゆっくり話を聞いてやる」 「―――galf htaed」 長門の言った謎の言葉 俺に意味を知る術はない だがなんとなくその言葉に悲しいと言う感情が含まれている気がした 結局それ以上は聞き出せず、部屋に戻り戦いの準備を始めた その後鶴屋さんによって作戦会議が開かれた 鶴屋さんからの説明によると 敵の主戦力は電波によって動く人形ロボットだそうだ 小型汎用人型兵器と言うのが分かりやすいだろう。人造人間ではない 人間同様武器を持ち、動きも滑らかで人間とほとんど変わらないそうだ 目的や用途によって大きさや形が変わり、要塞などを守るロボは身長は十メートルを超えるものもあるという。 だが費用削減のため普通は人と同じくらいか若干小さいらしい もちろん操るためには人と電波塔が必要で 修理のための工場や弾薬庫も電波塔の根元に集中してるため、実質敵の拠点だ ちなみに人一人に対して約五体のロボを動かすのが普通で 単純に考えて五倍の戦力が見込める なかには三十体の部隊を動かすばけもんもいるらしい 鶴屋さんの分かりやすい説明をさらに分かりやすくすると 性能は人間とほぼ互角 頭に計算に使うマザーボードと 胴体に動力元 それと装甲もそこまで硬くないらしい ここまでずっと喋ってきたが、俺たちが迷い込んだこの異世界は設定として中世ヨーロッパであることを忘れないでほしい 未来か、ここは 一通り話は終わり 鶴屋さんから武器を支給された さすがに俺たちの武器では無理にもほどがあるらしい まず古泉には弓からドラグノフ狙撃銃へ。何でもSVDとか呼ばれているらしい 朝倉はナイフからAK-47へ。どこかで見たことある銃だな・・・ 鶴屋さんはシングルアクションアーミーを装備した。渋いな 長門に至ってはガバメントとチャフグレネードである。チャフは敵の混乱を招くために使うらしい どこかに潜入できそうな装備である 音が大きくて潜入には向かないだろうが あれ?俺の分は? 「ごめ~ん、用意できなかったにょろ~」 なっなんですとー!? 「ガチャガチャリロードガバメント☆ この銃にこめた弾薬~♪ 狙ってもっと真剣に 発砲!装填!命がけ!」 それにしてもこの長門ノリノリである まあ俺は剣以外武器をまともに触ったことがないから 多分支給されても使えないだろう。 おそらく他のみんなも・・・ 「いやぁいい銃ですね。スコープも覗きやすいし、しっかり手入れされている」 古泉が手馴れた感じで銃を扱ってやがる 「機関の方で少しだけ触ったことがあるんです」 何してんだろうな機関はそんな物騒なもん持って 他のやつもそれぞれの武器を整備してる まぁこいつらは普通にどんな武器渡しても使いこなしそうだ ちなみに俺はさすがに剣だけじゃつらいだろうと、 鶴屋さんが戦車五台を動かす権限を与えてくれた ちなみに戦車もロボになっていて、隊長のいうことを絶対に守り、 音声で命令を聞くようになっている たとえば「三時100メートルの方向に砲撃!!」というとちゃんとその地点を砲撃するようになっている やれやれハイテクにもほどがある 鶴屋さんの情報によると、 ハルヒ(偽)軍は北西20キロの森の中にある電波塔を拠点に こちらに進軍。 戦力として約1000体のロボと約30台の戦車がこちらに向かってきてるらしい 一方こちらは約10人の人間と約50台の戦車である 勝てるのか?これで 「戦術によっていくらでも覆るにょろ!!」 どこからそんな自信が出るんだろうね そして今日始めて暗い顔して人魂浮かべた幽霊が登場するところでこの話は次回に続くのである 幽霊だけに影が薄いってレベルじゃないんだな 第三章三話「unknowは彼女なのか?」 さて戦争の舞台となる平野に来た俺たちは、ずっと向こうに白い点がいくつもあることに気づいた おそらくあれが敵だろう 鶴屋さんからもらった双眼鏡を覗くと 白いロボットが銃を持って隊列を作って待ち構えていた あれと戦うのか 「この距離じゃ砲撃も届かないにょろね。戦闘の準備と状況を確認しておくにょろ」 地図を書いてみた。こんな状況だ 森森森森森森森森森森森森森森森 森平平平平平平平平平平平平平平 森平平ロロロロロロロロロロ平平 森平平ロロロロロロロロロロ平平 森平平ロロロロロロロロロロ平平 森平平平平平平平平平平平平平平 森平平平平平平平平平平平平平平 森平平平平平平平平平平平平平平 森平平平平平平平平平平平平平平 森川川川川川橋橋橋川川川川川川 森平平平平平平平平平平平平平平 森平平平平平平平平平平平平平平 森平平平平平平平平平平平平平平 森平平平平平平平平平平平平平平 森平平平平長キ車車車平平平平平 森平平平平朝古鶴車車平平平平平 地図を見れば分かると思うが橋の付近が激戦区になるだろう 幸いあちらには戦車は無いので こちらの戦車で砲撃しつつ地道に減らしていけば 勝てなくはない 「私の銃の威力見せて上げるにょろ」 「撹乱は得意、任せて――――」 「突撃すればいいでしょ?」 「後方からの援護はお任せください」 「あんたたちに任せておけないわ!どうせ死なないんだし突っ込むわ!!」 誰が何を言ってるのかはおそらく分かるだろう というか居たのか、ハルヒ 「なんだか最近、誰かの陰謀を感じるわね。」 誰かとはいわないが誰かがハルヒのことを遠ざけてるとしか思えんな まあ戦闘の準備は整ったわけで、 前衛はハルヒ、朝倉、俺 後衛は古泉と俺率いる戦車 鶴屋さんと長門は横の森から奇襲をかけるらしい あと敵の数だが90~100位居るのが確認できた 一人あたり15体ぐらい倒せってことか? ちょっときついな 「戦争は変わった、一つの時代が終わり、俺たちの戦争は終わった」 あれ?新川さん、なんで銃なんか持ってるんですか? 「だが、生存確率じゃこっちの方が高いんじゃ―!!」 M63(軽機関銃)持ちながらの特攻はどう見ても死亡フラグだ!! 「仕方ありません。私も行くしかないようですね」 あれ?森さん?どうしたんですか?ボウイナイフ(投げナイフ)なんか持って それに横に居る、やけに露出の高い紅白な巫女と とんがり帽子と箒を持った白黒魔女は誰ですか? BGM「恋色月時計の綺想曲」 何ですか?この音楽!? カオスってレベルじゃないぞ! 「久しぶりの戦いよ!!某艦長も満足するくらいの濃い弾幕を放つわよ!!」 目の前にナイフと針と極太レーザーが展開され30体位消し炭になっていくのが確認できた あれ?よくみると森さんの横の二人、足がない!! 「同じ匂いがするわね・・」 ハルヒがいうとみょんに説得力があるから困る 一方橋の手前で新川さんは装填数の多いことを生かして10体くらいまとめてヘッドショットを食らわしてた あれ?新川さんの背中に張り付いてるのは朝倉か? 朝倉も負けず劣らず敵をヘッドショットしてた というかあの戦い方はすぐ弾がなくなるよな・・・ 援護しに行かなきゃ 「朝倉さんのところに行くつもりですね?援護します」 ドラグノコフを構えた古泉が頼もしい 「西の森の中に多数の伏兵が確認された。私が撹乱する」 そういうと左に走りチャフグレネードを森に投げ込む 爆発音がした後、無数の軽い金属片があたりを漂う 「私も援護するにょろよ!」 鶴屋さんも走っていく 「世界で最も高貴な銃、シングル・アクション・アーミーの威力を見せて上げるにょろ!!」 そういうとおもむろに近くの木に発砲し始めた どこねらって・・・ どどどっどどどどどどどっどどどどどおどどどっど あれ?六発の弾が終わるまでに20回ほど爆発が聞こえたんですが・・・ 長門のほうを見ると銃を構えてないどころかホルダーにしまいっぱなしにしてる 「私には弾の気持ちがわかる。跳弾を操ることなど造作も無いことにょろよ」 何言ってるのー―!? 「道が空きました!いくなら今です!!」 古泉の掛け声で前方を見ると 橋の手前側には見事に敵のロボがいなくなってるのが確認できた 「私のリロードはレボリューションにょろ!!」 という声を横に聞きながら 朝倉と新川さんの援護に向かいに行く 今度リボルバー・ニョロットとでも呼んであげようかな 新川さんの近くに行くまで気づかなかったが いつのまにか橋の向こう側で 激しい弾幕勝負をしている少女(?)三人がいるのが見えた ピチューン あ、被弾した まっいっか、なんか元気そうだし、あと三、四発は耐えてくれそうだ 森にいた伏兵も含め七十体ぐらい破壊されたのを見てたのだが よく考えると俺まったく活躍してないな 「ちっ、弾切れか!」 「こっちもよ!」 目の前の二人がこれ以上戦えないみたいなので代わりに戦うか 「橋の向こうのロボにたいし砲撃!!」 川越しに戦車の砲身がロボに向き砲撃を開始する どぉんと言う音とともに20体くらい吹き飛んだ 耳栓持ってきてよかったわ。砲撃音をまともに聞いたら鼓膜破れる *実際の戦場では銃の発射音で鼓膜をいためます 砲撃のさなか爆風を潜り抜けてきたロボたちが橋を渡ってこちらに突っ込んできた 何発か銃弾が鎧をかすったが 傷一つついてないのをみると 直撃しても平気だと判断し 先頭きって走ってきたロボの頭を切り落とし 銃を奪うと 剣をしまいロボに向けて発砲。 とりあえず橋の上のやつらは排除したところで弾が切れた 「お見事!」 いつのまにか弾の補給を受けていた新川さんから誉めてもらった 一方橋の向こうでは森さんと巫女と魔女が 三角のフォーメーションをつくりまとめて挟み撃ちにしていた 真ん中に居るのはハルヒかあれは? なるほどもう死なないことを利用して あえて弾幕の中で戦って三人が撃ち損ねたロボを確実に倒しているのか 「ゴットノキワミ、アッ――――」 神人が二人出てきて同時に攻撃した あんなことも出来るのか そーなのかー 一瞬何かが俺にとり憑いた気がしたが気にしないでおこう とりあえず橋の向こうは平気そうだ 仮に橋を渡ってきても朝倉と新川さんが対応してくれるだろう さて長門とリボルバーニョロットは? 振り返ると 発砲&高速リロードを繰り返す鶴屋さんと 正確なヘッドショットを決める長門の姿が見えた 敵はというとチャフグレネードがきいたのかまったく統率の無い動きをしていて 格好の的になっていた いいコンビだな。 この戦いはもう勝ったも同然になっていた 「森にいた伏兵の殲滅を完了―――」 長門の無機質な声が無線から聞こえてきた 「平原の制圧がほぼ完了した。残存戦力の殲滅に向かう。」 橋付近で戦ってた新川さんが無線を入れてきた 「待って、新戦力の発生を確認―――橋の向こうの森からかなり大きい熱量を持った物が数体がこちらへ向かっている」 向こう側の森か、鶴屋さんが言ってた戦車か? 森の中から出てきたのは予想も出来ない物だった 「なんだありゃあ!?」 木をなぎ倒しながら進んできた三つの物体に声をあげるほかない 幅4m高さ4mぐらいはあろうかという巨大な戦車が現れたのだ 戦車ってレベルじゃねーぞ!? 「あなたたちにこの三大戦車と戦えるかしら?」 聞き覚えがある声が無線から聞こえてきた 「黄緑さん!?王族護衛隊のあなたがなぜここにいるの!?」 朝倉の驚いた声が割り込んでくる 「答える必要はないわ。あなたたちはこの平原で爆死するんですもの」 「5機の飛行物体を確認―――爆撃機―――」 BOM「爆撃5機の波紋」 次回、 被弾「そして誰もいなくなるのか?」 第三章四話 被弾「そして誰もいなくなるのか?」 「爆撃機ってどういうことだ!」 「そのままの意味―――こちらに対空装備がないことを理由に一気に攻めてきた、他にも大量の熱源がこちらに向かっている」 「別の場所にいた歩兵か、合流されたら厄介だぞ」 「あの戦車の弱点は速度、装甲を分厚くするあまり動きが非常に遅い」 「じゃああれは主砲と機関銃に気をつければいいのか?」 「そう―――、でもこちらの戦車や武装では完全破壊は無理、武装を破壊して無力化するのが最善だと思われる」 なるほどな、戦車砲の直撃を受けないように気をつけなければ 「空は任せて!爆弾なんか落とさせるものですか!」 森さん、紅白巫女さん、黒白魔女さんが空に飛んでった 魔女さんは箒に乗ってるからまだ飛べるのは分かるが(分かりたくないが) 腋を露出してる巫女さんと瀟洒な森さんはどうやって飛んでるのだろうか・・・ 「私も空の援護をします。彼女たちが撃墜されたら空の守りががら空きですから」 今思ったんだがスナイパーライフルで飛行機って落とせるのだろうか・・・ 鶴屋「残った敵兵は任せて!シングルアクションアーミーの威力見せてあげるわ!」 朝倉「戦車無効化に参加させて、あれは私が落とすの!」 長門「チャフを投げ込む、これで撹乱が可能かと」 新川「あの手の兵器は何度も相手にしたことがあります。お任せください」 それぞれが散開し持ち場につく 長門がチャフグレネードを敵戦車付近に投げ込んだ かなりの遠投をしたな長門 チャフが炸裂しあたりに無線を撹乱する金属片が舞う ん?敵戦車の砲身がこちらを向いて・・・ 長門「危ない―――避けて―――」 長門の大きな声につられて思わず俺たちは飛び跳ねていた 大きな音が聞こえ爆風で一瞬ひるんだあと、やっと状況を確認できた 俺たちがいたはずの場所に大きな穴があいていた 長門「チャフが効いていない―――何故?」 無線を使ってあれを動かしているならここまで正確な砲撃を出来るはずが無い ハルヒ「あれに無線を受け取るためのアンテナがないわ!どんなに小さくしようとも、どのロボットにアンテナはあったもの!」 長門「あれは人間が操縦しているかそれに準ずるものが乗っている・・・」 黄緑「ご名答♪さすがインターフェース、情報解析能力はずば抜けているようね」 戦車の一台から黄緑さんが顔を出した 黄緑「残り二台も最新式の人工知能を積んでるからチャフなんかでかく乱しようとするのは無駄よ!」 まじか、あの三台の動きを止めることが出来ると思ったんだが 長門「まずい、一箇所に集まるのは危険すぎる、これからは別行動を推奨する」 すでに鶴屋さんと古泉は別々の場所にいて砲撃を受けるのはないと思われるが 俺と長門がいるこの場はやばい 俺たちも二手に分かれた 新川「一台の機関銃部分を無効化に成功した、主砲の破壊に取り掛かる」 速いな・・・ロケットランチャ―らしきものを担いでいたがそれを使ったのか? 森「あなた達の時間も私のもの・・・ 現代の兵器に勝ち目は、ない」 俺は思わず空を見上げた 爆撃機が一台炎上している。 そこに見える三人の少女 森「いっけー!!」 爆撃機が森林をめがけて墜落した 森「お掃除続行♪」 唖然とした こいつら人間じゃねぇ! 黄緑「くっ、まだ主砲ともう二台残っている!」 一台がスピードを上げてこちらに向かってきた やばい、狙われてる! 力がほしいか? またおまえか、前の章みないと読者には分からんぞ まあいいが、目の前の状況どうにかできんのか? やろうと思えば核搭載型歩行戦車のセンサー破壊できるぞ ほかには銃弾を弾いたり・・・、蛇にプレゼント贈ったり・・・ 俺は戦うための道具じゃないぞ、戦うことでしか自分を表現できないのか? 自分の意志で戦ってきたがなにか? もういい、目の前の戦車だけ任せる ソレからの俺の行動は速かった 機銃の合間をすり抜けたと思ったら その機銃を斬り落とし、 主砲も真っ二つに折った おれも二人いた気がしたが、気のせいだと信じたい 二人目「斬れぬものなどあんまりない!」 二台目が沈黙した 黄緑「バッ化け物・・・」 馬鹿でかい戦車用意したあんたには言われたくないな さーて他のやつらは? メイド森さんと紅白巫女さんと白黒魔女さんはあいかわらず爆撃機相手に ナイフと札と魔法で弾幕ごっこを繰り広げていた どうしてダメージがとおるんだ? 古泉は・・・何だあの紅い槍!? 古泉「紅い館に住んでいた吸血鬼の力をこんなにも月が紅いから見せてあげますよ!」 夕方でもないのに月が紅い!?ていうかこの世界の古泉高優遇だな・・・ 爆撃機を貫く紅い槍はまさに神槍である 森「今日も古泉様は美しい・・・」 森さーん!鼻血鼻血!! 長門は・・・ 長門「昆布だし効いてるよ―――かつおと昆布のあわせ技―――」 うーん・・・すっかり某動画サイトの虜になってるな・・・ チャフで撹乱したり、銃使ったりとあの兎そっくりだ ロボ歩兵に大して抜群の相性を誇るな・・・ 朝倉は・・・ ナイフを取り出し機銃の合間を抜けながら 歩兵を切りつぶす 黄緑「なぜだ!なぜ死なない!?」 朝倉「あいにく地獄が満杯でね・・・」 恐ろしいな、単騎でも戦場を制圧できるぞ 新川さんは・・・ 黄緑「アラカワ!まだだっ!まだ終わっていない!!」 新川「キミドリー!!」 兄弟げんかを繰り広げていそうな二人である 新川「スティンガーをくらえ!」 黄緑「うおまぶしっ!」 鶴屋「戦闘中のリロードがたまらない。銃に命を吹き込んでいるようだ。」 いくら使いなれてるからって正直リボルバーは扱いにくいと思うのだが… 跳弾による複数撃破のおかげでいくらでもリロードできるようだ さすがリボルバーニョロット 間違いなく世渡り上手 ハルヒ「どうも幽霊の性か私の存在感が薄いわね…」 相変わらず歩兵相手にミニ神人をスタンドにオラオラしてるようだ 存在感の薄さは…周りが濃すぎるだけだろう 幽霊特有の影の薄さもあるだろうが 黄緑「切り札投入したつもりだったけど甘かったようね・・・」 黄緑さんが用意した戦車は一台以外被害を受けており 一台は機関銃部分が破壊されほぼ固定砲台と化している もう一台もおれが再起不能にしたところだ 上空に飛んでいる爆撃機も戦闘機に追われるように 巫女さんと魔法使いとメイドさんと吸血鬼とSTGしている 爆弾も落ちてきてはいるが見てから回避が余裕なのであまり気にしていない それだけ上空の守りが厚いということだ 黄緑「だがもう遅い!わが軍最大の戦闘ユニットが到着した!!」 なん・・・だと・・・? 鶴屋「こっちですごい地響きがするにょろー!!」 無線越しにあわてた声が聞こえる 黄緑「わが軍の開発部が(勝手に)開発した巨大カメ型生物兵器バルキャノンよ!」 でけぇ!? なんだあの大きさは! とても力押しで 勝てる相手ではない やつの弱点を考えて戦わないと 確実にこっちがやられる…!! 誰か御乱心よんでこい! 次回第三章第五話「ンンンーーーッ!!」続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4685.html
「ドナルドを探しに行くわよ!」 一週間の学業が全て終了したという、達成感と脱力感に満ち溢れた金曜日の放課後。俺は慣性の法則に基づいて文芸部室へ向かい、小泉の持ってきたチェッカーなるボードゲームでだらだらと時間を潰していた。朝比奈さんの御手から差し出されたホット聖水をありがたく頂きながら、相変わらずゲームに弱いニヤケ面から三回目の勝利を奪い取ろうとした刹那、パソコンの画面とにらめっこを興じていた我らが団長様が唐突に宣言した。ドナルド?誰ですか? 「あー、ハルヒよ。お前が言っているドナルドってのは、夢の国でネズミと戯れてるアヒルのことか?」 ハルヒのトンデモパワーによって瞬間冷凍された部室内で最も早く解凍することに成功した俺は、しぶしぶながらハルヒに質問した。損な役だと分かってながら演じてしまう己が情けないぜ。 「はあ?そのドナルドじゃないわよ。あたしが言ってるのは・・・ほら、こっちのドナルド」 ハルヒは小馬鹿にした口調で答えると、ぐるりとノートパソコンを回して俺たちにも見えるようにした。画面の中では、古泉のそれよりもいっそう胡散臭い笑顔を周囲にばら撒いて、ハンバーガーを食そうとしているピエロ一人。 「正式な名称はドナルド・マクドナルド。日本以外ではロナルド・マクドナルドらしいけどね」 ああ、世界一有名なファーストフードチェーン店のキモいマスコットのことか。そういや何年か前、家族でマクドナルドに寄ったら、店内に置いてあったドナルドのマネキンにビビッた妹が泣き出したことがあったなぁ。今となっては良い思い出だが、こいつはマスコットとして問題があると言わざるを得ない。しかし、この世の不思議を追い求めるハルヒが、何故に不気味なだけで不思議の「ふ」の字も出て来そうにない道化師に興味を持つんだ?こいつのおつむの中はさっぱり理解できん。いや、理解できたら脳外科にお世話にならにゃならんか。 「でね、さっきネットで暇・・・情報収集をしてたら、学校の近くに新しくできたマクドナルドの開店初日にドナルドが目撃されたって情報を見つけたのよ。グローバル化に乗じて勢力を伸ばした超巨大ファーストフード店。その成功の裏には知られたらまずい秘密が絶対あるはずよ。例えば、ハンバーガーの肉に牛肉じゃなくてネズミの肉を使ってるとか、ライバルチェーン店に工作員を送り込んで営業妨害させているとかね。で、悪の多国籍企業の手先があたし達のすぐ近くに来たのよ。臭うと思わない?思うでしょ?これは調査する価値大ありよ!」 「具体的には何をするんだ?」 「ドナルドをとっ捕まえて、マクドナルドがこの街で何をしようとしているか聞き出す。普通の店員に効いても駄目よ。あいつらは下っ端だから情報なんかほとんど与えられていないわ。その点ドナルドはマクドナルドにとってキーパーソンだから重要な情報も持ってるはずよ」 ははは、こやつめ。要するに暇だから適当に不思議そうなものをでっち上げただけなんだろ。まあいい、ツチノコだのスカイフィッシュだの空想上の生き物を探しに行くと宣言して、人里離れた山奥で汗水たらした挙句、遭難して新聞の一面を飾るよりは、空調の効いた文明的空間で少々場違いな道化師と鬼ごっこをやる方がよっぽどましだ。ここまで思考をめぐらせると、舞台の裏方でせっせ暗躍するハルヒを退屈させない隊が存在していたことを思い出した。俺は投票日前日に街頭で演説する衆院議員立候補者よろしくしゃべり続ける団長に相槌を打ちつつ、横にいる超能力者兼ハルヒを退屈させない隊隊員にそっとささやいた。 「おい、これもお前の機関が用意したハルヒを退屈させないためのプランなのか?」 「まさか。いくら我々が涼宮さんの心理分析に長けているといえども、彼女がいつ、どのようなものに興味を持ち、どのサイトにアクセスするかまでは予測するなど不可能です。仮に予測できたとしても、機関なら有名企業のマスコットなどではなく、より周囲に影響の出ない無害なものを用意しますよ」 ハルヒに聞こえないように持論を展開すると、古泉は肩ををすくめてみせた。最近どたばた騒ぎとご無沙汰だったから、ハルヒが何かしでかす前に機関が先手を打ったのかと思ったが、今回は関係が無いのか。 「はい、涼宮さんがドナルドに興味を持ったのは単なる偶然と考えてよろしいかと。何なら機関に連絡してそれなりの対策を講じさせましょうか?」 うっ、やぶ蛇になっちまった。ここでホイホイうなずくと、明日にはドナルドの格好をした新川さんか多丸兄弟に出会いそうだ。それだけは勘弁願いたい。知り合いがあの姿になっているところに遭遇するとトラウマになりそうだ。 考えておきます、そう言って古泉はクラスの女子の大半を一撃で籠絡できそうな微笑を浮かべた。止めろ。俺にそっちの気は無いんだ。やるんだったらどこぞの自動車修理工の前でやれ。 明日の不思議探索はドナルド捕獲大作戦に変更。集合場所も駅前ではなく件のマクドナルドに、とハイテンションなハルヒが一方的に宣言したところで、騒音にめげずに黙々と読書を続けていた長門が本を閉じたので、本日の団活は終了と相成った。 先に言っておこう。俺は運命などという正体不明の現象なんぞこれっぽっちも信じちゃいない。だが、もし運命をつかさどる女神が存在して、古泉の言う偶然をいじくり回して俺達の運命の方向を決定したやつがいるなら、俺はそいつを思い切り殴って・・・やるのはさすがに女神だから気が引けるが、それでも三時間ほど愚痴を言ってやらなきゃ気がすまん。俺たちはその偶然のせいでとんでもない事件に巻き込まれちまったんだ。 「遅い。罰金!」 いつもとは違う場所に集まったのに、俺はいつも通り遅れてしまった。俺が遅れることはもはや歴史上の決定事項と化しているようだ。他のSOS団員におごることもまたしかり。こうして俺の財布は今日も悲鳴を上げるのだった・・・・・・べっ、別に泣いてなんかいないぞ! 「さっきからぶつぶつ気持ち悪いわね。早く中に入るわよ。ドナルドが逃げちゃうじゃない」 俺の心の叫びを軽くあしらったハルヒは、鼻息荒く大股で店内にずかずか踏み込んでいった。喧嘩を売りにきたヤンキーじゃあるまいし。 「ドナルドさんってどんな人なのかなぁ。わくわくしちゃいます」 春の妖精を髣髴させる可憐な足取りで朝比奈さんがハルヒの後ろに続く。ドナルドなる道化師はどうせ客をメタボにしたり、壊れやすいおまけを配るろくでもない奴で、あなたのご想像なさっているようなサーカスの人気者のピエロとは似て非なるものですよ、朝比奈さん。 「むぅ・・・・・・ドナルドはいないようね」 客もまばらな店内には当然ながらドナルドの影も形も無かった。力のやり場に困ったハルヒが何を思ったのか、カウンターに乗り込んで立ちすくむアルバイト店員の胸倉をつかみ 「ドナルドはどこ!?隠しても無駄よ!」と熟練クレーマーのごとく怒鳴り散らす。そんな最悪のシナリオが俺の脳裏をかすめたが、幸いにも店員一同による先制攻撃「いらっしゃいませ~」に促された俺達は、あたふたとジュース等を・・・もちろん俺のおごりで、頼んで奥の座席に引っ込んだ。 「こうなったら店長に直接聞いてみようかしら。誠意をこめて話して、みくるちゃんの色気をちょっと足してたらきっと教えてくれるはずよ」 ハルヒは炭酸飲料がたっぷり入ったLサイズの紙コップを、バキュームカーも恐れおののく吸引力であっという間に空にすると、カウンターと朝比奈さんの胸元を交互に見ながら呟いた。それだけは止めてくれ。お前の誠意をこめて話すは拳で語り合う。朝比奈さんの色気は脅迫だからな。校内ならまだしも、こんな街中でやったら確実に警察沙汰になる。この年で自分の履歴書に前科一犯と書くなんて虚しいことはしたくないぞ。 「ナンパ狂いの谷口じゃあるまいし、SOS団の団長たるこのあたしなら警察を呼ばれないようもっと巧妙に事を運ぶわ。 恐ろしいことをさらりと言ってくれるな。この分だとSOS団が指定暴力団に指定される日も近いかもしれん。 「まっ、ともかく昼食時まで待ちましょう。その頃になったら客引きをするためにドナルドが出てくるわ」 お前がそんなこと言ったら、昼頃にはこの店内にいる人間が全員ドナルドに変身しそうで怖いな。古泉曰く、最近では神的能力も徐々に収まっているらしいが、まだまだ油断はできん。ここはあえて昨日疑問に思ったことをつっこんでみる。 「ドナルドの目撃情報があったのは開店初日だけなんだろ。この店に来ればドナルドに会えるという思考が間違っているんじゃないか?」 「んっ、そんなことないわよ。ドナルドは必ずこの店に姿を現すわ!そうよね有希!」 中東の油田のごとく自信がジャブジャブと沸いてくるハルヒも、さすがに不安に感じたのか無理矢理同意を求めるように長門の顔を見た。だが、長門はハルヒの問いかけに答えも振り向きもしなかった。その視線は席に座ってすぐに読み始めたファウンデーションなるやたらと分厚いSF小説ではなく、窓ガラスを貫通して店の外、道路の向こう側の床屋の前に置いてあるクルクル回るシュールな機械に刺さっていた。知ってるか?このクルクル回るやつってサインポールって名前なんだぜ。なんてやってる場合じゃない。長門の視線はサインポールをさらに貫いて、サインポールの後ろにたたずむ赤白黄色三色の派手な色彩をしたピエロにぶち当たっていた。俺達に向けている笑顔は、顔に施された真っ白なメイクと真紅の唇によってよりいっそうグロテスクなものへと昇華していた。えーっと。こいつは・・・・・・ 「ドナルドよっ!」 ハルヒは風と共に去りぬ。叫び声に驚いた俺がハルヒを探すと、やつは自動ドアをこじ開けるようにして外に出るところだった。目測だが今の席からドアまでのタイムは確実にフローレンス・ジョイナーのそれを上回っていそうだ。 「追いましょう!」 古泉の声に押されて俺も席を飛び出した。店員に奇異の目で見られつつ外に出たとき、すでにドナルドとハルヒの姿はどこにもなかった。 「こっちです!」 何で分かるんだ?お前は超能力者・・・・・・だったな。俺は古泉に導かれるままに街中を右に左に走り続けた。 「さっきのドナルドは機関の息がかかったやつなのか!?」 10分ほど経つと目的地が分からないまま走るのが苦痛になってきたので、前方を走る古泉の背中に質問をぶつけると立ち止まって俺の方を向いた。俺は汗だくで息が上がっているが、腹立たしいことに古泉は顔から笑顔が消えている以外平生と変わりない様子だ。やっぱりこいつも機関でそれなりの訓練を受けてるんだろうな。そのうちボンドカーを乗り回すようになるかもしれん。 「残念ながら機関の用意したドナルド、くじ引きで負けた森さんが扮したものは店の奥で待機しています。ドナルドの正体が森さんだと気づかせ、涼宮さんの興味をドナルドから何故森さんがドナルドの姿をしていたのか、へと移すことが機関の目論見だったのですが先を越されてしまったようです。せっかく偽の身の上話や森さんの両親役も準備していたんですが、このままだと無駄になってしまいそうです」 なんたるダークホース、ドナルド・森。見てみたい気もするが、見たら二度と森さんの顔を直視できなくなる気がする・・・・・・いや、待て待て。ということは、さっきのドナルドは正体不明ってことなのか? 「それは違う」 「のわっ!?」 突然、耳元に季節はずれの寒風が飛び込む。長門、頼むから人の後ろに立ったときは急に話しかけないでくれ。心臓に負荷がかかる。いつの間にか背後に立っていたヒューマノイド・インターフェイスはナノメートル単位でうなずくと、ごく端的にドナルドの正体を説明した。 「先ほど我々が視認したドナルドは涼宮ハルヒの願望によって具現化されたもの」 なるほどな。ハルヒが退屈する→突拍子もないことを思いて実行しようとする→うまくいかない→スーパーハルヒパワーで自己解決。実に理解しやすい公式。オイラーもびっくりだ。しかし、自分で作ったドナルドを自分で追いかけるなんて滑稽な話だな。例えるなら子犬が自分の尻尾を追いかけて遊ぶ、みたいな感じか?いや、あいつの場合子犬じゃなくてゴジラか。周囲に与える被害が大きすぎる。 「涼宮さんの願望によって生み出されたドナルドですが、その存在が地球環境に及ぼす影響はどの程度のものなんですか?」 ハルヒ心理分析の権威である古泉博士がこの世の現象を全て把握していると評判の宇宙人にコンタクトを試みる。 「基本的に無害。先ほどのドナルドも涼宮ハルヒが追跡を開始して三十七秒後に消滅を確認した。これは願望の度合いが比較的低かったからだと推測されるが、詳細な原因は情報統合思念体内で解析中」 「今回の願望は突発的なものであると考えてよいと?」 「否。涼宮ハルヒの心理状態によっては再びドナルドが具現化される可能性がある。また、次のドナルドも無害であるという保証はない。現状維持を望むなら早急に代替物を用意することが得策」 朝起きて顔を洗おうと鏡を見たらドナルドになってた、なんて考えただけでも背筋が寒くなる。SOS団創設したての世界恐慌一週間前のニューヨーク平均株価指数並のテンションだったハルヒならともかく、今のハルヒはそんなアホらしい願望は持たんと思うが、用心と保身にこしたことはない。ここはどうあっても森さんドナルドに一肌脱いでもらうしかないようだ。 「ならば機関の用意したドナルドを涼宮さんの前に出すしかないようですね」 「推奨する」 長門に断言された古泉は困ったようなニヤケ面になってわざとらしくため息をついた。 「やれやれ。仕事中毒と間違われるほど職務に忠実なあの森さんが、しかも厳粛なくじ引きの結果であったのにも関わらず、あそこまで嫌がるなんて初めてのことでしたよ」 それはお気の毒に。じゃあ森さんのアフターケアは任せたぞ、古泉。俺は結果報告だけ聞いてやる。 「あまり任されたくはないんですけどね。なにせ・・・・・・おっと噂をすれば何とやらです」 すぐそこの路地からハルヒがひょっこり現れてこっちに向かってきた。額を汗で光らせ肩で息をしているが、久しぶりに不思議なものを発見することができてよっぽど嬉しかったらしい、気味が悪いほどの笑顔が顔に張り付いてやがる。 「ごめん、ドナルド逃がしちゃった。あいつ見かけによらず足が速いみたい。次に追いかけるときは麻酔銃と上空からの追跡用のヘリコプターが必要だわ」 お前は動物園から逃げ出した猛獣を捕まえる気か。 「麻酔銃は保健所から借りればいいし、ヘリコプターは空港か自衛隊の駐屯地にでも行ってみくるちゃんの・・・・・・あら?みくるちゃんはどこなの?」 「あ」 いかん。俺としたことが、道化師のことで頭がいっぱいになって慈悲深い女神様の存在を失念してしまうとは!慌てふためく俺たちに雪の女神が道を示してくれた。 「朝比奈みくるは五人分のゴミを片付けるためにマクドナルドに残った。現在わたしたちを探して街を歩いていると思われる」 「ちょっと!みくるちゃんが一人で歩いたら迷子になっちゃうわよ!早く探しに行くわよっ!」 カップラーメンを二十回作れる時間が過ぎた頃、ようやく遠征先のイスラム教国から帰還する十字軍兵士を髣髴させるほど疲弊した朝比奈さんと合流することができた。携帯でお互いに連絡を取り合ったものの「えーっと、すっごく大きな建物の前にいます」や 「あっ、地図を見つけました!・・・・・ごめんなさい。漢字が読めないです」等、美声で伝えてくださる朝比奈ナビの信頼性は駅前の怪しい占い師の恋占いより低かった。 「みくるちゃんが疲れてるから、ドナルド捕獲大作戦は明日に延期!」 普段は朝比奈さんを着せ替え人形にして遊んでいるわがまま団長様も、朝比奈さんの憔悴振りに心の片隅に追いやられてた思いやりが復活を果たしたのかありがたい宣言をしてくれた。ほんの少しだけ俺の中のハルヒ株が上がったね。もっとも、これから上がる可能性は皆無だろうが。古泉は何とか言いくるめてマクドナルドへ誘導しようとしていたが、口八丁では一度心を決めたハルヒを動かすことはできなかったようだ。もともと強く自己主張できない立場にいることだし。 解散後、俺は家に戻り特に何かをするでもなく定年後のサラリーマンのようにテレビを眺めたり、適当に妹の相手をしてはゴロゴロ過ごし、明日の出来レースに備えて早々に布団の中にもぐりこんだ。勉強?受験?知ったこっちゃねえや。 レム睡眠とノンレム睡眠の狭間。一日の疲れを癒す極上の羽衣に全身を包まれる至福の時間帯は、無遠慮に侵入してきた着信音とバイブレーションによって見るも無残に蹂躙されてしまった。無視してしまえばよかったのだが、そこは携帯の扱いに慣らされてしまった現代人の悲しい性、脊髄反射的に通話開始のボタンを押してしまった。もし、この電話の主がハルヒだったとしたら無視した場合、次に会うときどんな目に遭わされるか分かったもんじゃない、という深層心理が働いたのかもしれん。 「うー・・・・・・もしもし」 「こんばんは。古泉です」 眠気が反対側の耳から逃げ出す甘ったるい声が鼓膜を優しくなでる。ある意味不機嫌なハルヒの声よりも聞きたくないやつだ。 「機関の仕事に一般市民への安眠妨害があるとは初耳だぞ」 「夜分遅くに申し訳ありません。ですが、少々困った事態になりまして。お手数をおかけしますが、窓の外をご覧になっていただけませんか?」 やけにかしこまった口調がなおさら嫌悪感をそそる。しかも、声の後ろで中国の旧正月のお祭り騒ぎのごとく爆竹が炸裂する音がして何を言っているのか聞き取りにくい。何だ?季節はずれの花火大会でもやってるのか? 「時間がありません。お願いします」 「へいへい」 何だかんだ不平不満を言っても、結局は人に流されちまうんだな、俺って。重たい脚を引きずりながら窓際まで行き、明る過ぎな日本の夜景から睡眠時間を守るために閉められたカーテンを開けた先に待っていたのは、 「・・・・・・ははは、冗談はエイプリルフールだけにしてくれよ」 問、パリは燃えているか? 答、パリではないが俺の街が燃えている。 「気を確かにしてください。緊急事態です。涼宮さんの願望を実現する能力が暴走して大量のドナルドが発生しました」 俺は口を開いたまま古泉の話を右耳から左耳へと流していた。遠方に見える高層ビル群に混じって、真っ赤な炎に照らされた煙が幾筋も立っている。遠くだけじゃない。煙の太さから見てもかなり至近でも火災が発生しているらしい。何よりも恐ろしいのは、これが閉鎖空間とかいう便利空間ではなく、現実の世界で起きているということだ。その証拠に、この壮大で悲壮な光景には時折BGMとして誰かの悲鳴が流れてくるのだ。 「ドナルドたちはマクドナルド以外の飲食店を手当たり次第に襲撃しています。それがウズベキスタン料理店だろうと、潰れかけた立ち食い蕎麦屋だろうと手当たり次第に襲い、ハンバーガーとフライドポテトを駆使して破壊の限りを尽くしています。また、ドナルドは一般市民に対して洗脳を行っています。洗脳されたら最後、理性を失ってマクドナルドに関係することしか考えることができなくなり、ドナルドの手先として利用されてしまいます。これは未確認情報ですが、洗脳を施された人々の中に良い男が混じっていると、遠慮なく掘ってしまうそうですよ。実に羨まし・・・・・・おっと失敬。とにかく、機関があなたの家に迎えの車両を回しています。車が到着するまで家の中に隠れ・・・・・もし・・し・・・・聞こ・・ま・・・・?」 「古泉?どうしたんだ?」 古泉の変態トークは突然ノイズによって中断されてしまった。テレビだったら画面に砂嵐が移るようにしてだ。十秒くらい経って再び言葉がはっきり聞こえるようになったが、聞こえてきた言葉は古泉のものではなかった。 「もしもし。ドナルドです」 口から心臓が飛び出しそうになった。背中を氷の塊が滑っているかのように鳥肌が立ち、心の底まで冷却されたように歯がガチガチ鳴る。 携帯を取り落として、そこで気づいた。我が家の前の道路に赤い携帯を持って立っているドナルドに。そいつは二階の窓にいる俺を見るように顔を上げて、笑った。 「ドナルドは今、男子に夢中なんだ」 日本に生まれたことを心底呪った。ここがアメリカだったらすぐに机の引き出しから護身用の銃を取り出してドナルドに向けてぶっ放してたのに。残念ながら俺の机の引き出しにあるのは、目も当てられないような点数をとった模試の解答用紙だけだ。紙飛行機にして飛ばして運良く目に当てても、狂気の道化師にダメージを与えられるか怪しい。 「ほら、自然に身体が動いちゃうんだ」 泣かなかった俺を褒めてやりたい。ドナルドが俺を殺す、もしくは掘るために歩き出そうとした刹那、視界の端で何かが光った。 「アラァー?」 連続した小規模な爆発音が耳に届いて光の正体が銃を発砲した時に発生した光だと理解する前に、間の抜けた叫びを上げたドナルドは身体が青白い光に変化して、仰向けに倒れながらいつぞや見た神人の崩壊のように細かく分解していき、アスファルトと密着する寸前で消滅した。 呆然とその様を眺めていた俺に状況を飲み込む時間は与えられなかった。その一秒前までドナルドがいた場所に、何度もお世話になった黒塗りのタクシーが心地よいブレーキ音を立てて急停車したのだ。俺はタクシーの中から人が出てくるのを待たずして駆け出した。 「古泉!」 「危機一髪。いや、危機半髪といったところでしょうか。一か八かのP90の長距離射撃が成功していなければどうなっていたか・・・・・・いずれにせよ、到着が遅れてしまい申し訳ありません」 玄関のドアを蹴破る勢いで飛び出した俺を待っていたのは、ポケットやら何やらがごてごてとついた濃紺色の上下一体型ツナギ、ゴーグル付きのヘルメット、果ては妙な形をした銃をかまえている、見慣れた制服姿とは似ても似つかない古泉だった。このままサバゲーの会場に行っても問題なさそうだぜ。だが、そんなことどうでも良い。今のお前は地獄に蜘蛛の糸を垂らしてくれた仏様か、敵に囲まれ孤立した砦に救援に来た騎兵隊に見えるぜ。ありがとうな、古泉。 「何をおっしゃるんですか。あなたが無事であっただけでも十分なのに、お褒めの言葉を頂いただくなど身に余る光栄ですよ」 そう謙遜するなって。一回くらい尻穴を貸してやっても・・・・・・すまん、ただの妄言だ。俺の言ったことは全部忘れてくれ。むしろ忘れろ。だから、そのキラキラ輝く瞳をどこかへやってくれ。反吐が出そうだ。 「うう、残念です」 ついでに涎もふけ、このガチホモ野郎。一瞬でも気を許した俺が馬鹿だった。 はあ。とにかく、今ので正気に戻った。いい加減、変態抜きの状況説明を頼むぞ。 「僕はいつだって本気なのですが・・・・・・分かりました。時間がないのでタクシーに乗りながら説明します。少しの間、ドライブに付き合ってください」 と言って古泉がタクシーの後部ドアを開ける。ああ、もちろん良い・・・・・・ちょっと待て、いかれた道化師がうじゃうじゃ歩き回ってる中に家族を置いてけってことか? 「キョンさんのご家族は我々が責任を持って安全な場所へ送り届けるよ」 あるときは資産家で殺人事件の被害者。またあるときは、機関の敏腕エージェント。しかして今宵の姿は、歴戦の特殊部隊隊員。古泉と同じ格好をした田丸圭一さんがタクシーの中から現れ、俺にウィンクをしてから家に入っていった。続けて田丸裕さんも親指を立てて俺の脇を走り抜ける。まだ返事をしていないのだが、いいや。敵が変態ピエロドナルド・マクドナルドだとはいえ、戦う術をこれっぽっちも知らない凡夫たる俺よりはよっぽど頼りになるだろう。 後顧の憂えがなくなった俺は覚悟を決めて行き先不明、料金不明、生きて帰れる保証すらない黒塗りタクシーに乗り込んだ。 「まずはこの動画を見てください」 俺は運転席の新川さんと助手席の森さんに挨拶をする暇もなく、急発進によるGに耐えなければならなかった。座席から身体を引っぺがすと、古泉がノートパソコンを開いて俺の方へ向けていた。そっち系の動画じゃないだろうな・・・・・・っとなんだこりゃ。 「俗にMADと呼ばれている個人が編集や合成を行った動画です」 問題はそこじゃないだろうが。パソコンの画面ではドナルドを奇妙奇天烈な踊りを踊り、ドナルドの声を繋ぎ合わせて作ったと思われる聞いているだけで頭のネジが外れそうな音楽が流れていた。動画のコメント欄には教祖様だの布教和音だの洗脳だの頭が痛くなる単語がずらりと並んでいる。 「古泉。この動画は確かに馬鹿げているしドナルドもいるが、今のくそったれな状況と何か関係があるのか?」 「動画自体は無害です。内容が特異だったので閲覧者が面白おかしくコメントしているだけなので、実際にこれを見て洗脳されたり、マクドナルド教なるものが存在しているわけではありません。わけではありませんが、あなたはこの世界には唯一常識に束縛されることのない力を持つ少女を知っていますね。涼宮さんは昨日我々と別れて自宅へ帰った後、インターネットを通じてドナルドの情報収集を行っていました。そして、たまたまこの種の動画を発見して閲覧して回っているうちに、信じがたい話ですが、涼宮さんの能力と相乗効果を発揮してしまい、涼宮さんは本当に洗脳されてしまったようなのです」 「アラァー?」 タクシーは減速しないまま、、道路のど真ん中を歩いていたドナルドを跳ね飛ばした。さすがは機関の車だ。衝突のゆれも少ないし、フロントガラスだってひび一つ入ってないぜ・・・・・・じゃないよな。うん。もうね、はっきりいってめまいがするね。我らが団長様はいったいどれだけ世間の皆さまに迷惑をかけりゃ気が済むんだ?姿勢制御装置に致命的な欠陥があるせいでどこへ向かっているかも分からないハルヒロケットは、有害物質を盛大に撒き散らしながら飛翔し、墜落するときは燃料に引火して大爆発を引き起こす。自滅するときくらいは一人で勝手にやって欲しいが、そうは問屋が卸さないらしい。 「涼宮さんを中心に半径三十kmが異空間化しています。一時間前、午前二時に確認されたこの異空間は、涼宮さんのストレス発散の場である閉鎖空間とはまったく別のものであり、現実世界に重なるようにして存在しています。ドナルドの発生数から考えて、この空間の内部では涼宮さんの願望は通常の空間よりも容易に実現してしまう傾向にあるようです。もっとも、洗脳されてしまった涼宮さんの願望はドナルドを無限に発生させることだけのようですけど」 つまり異空間はさながらマクドナルドランドになってるってことか。 「ええ、そのように考えてよろしいでしょう。たちが悪いことに異空間はなおも拡大しつつあり、このまま拡大が停止しなかった場合、確実に世界は異空間に飲み込まれてしまいます。これはちょっとしたピンチですよ。男性にとっては貞操のピンチでもありますね」 古泉は星が綺麗だから散歩にでも出かけましょうか、みたいな危機感の欠片もない口調でさらりと世界がドナルドまみれになって滅亡すると言いやがった。お前の仕事場じゃ日常茶飯事なんだろうが、平々凡々な高校生の俺としては一生の内に一回経験するだけで十分だ。化け物退治の専門家はこんなところで油を売っててもいいのか? 「現在、機関だけでなく出動命令の下った県警と自衛隊、演習から帰還途中で付近を航行していたアメリカ海軍第七艦隊がドナルドの対処に当たっています。対処といっても見つけしだい排除せよと命令されているだけですけど。国連でも多国籍軍の派遣が検討されているそうですよ」 俺が寝ている間に国連まで動いているとは。恐るべし機関。今度から機関の悪口は言わないようにしないとな。古泉のホモ野郎!とでも言ったその日の夜には迎えが来るかもしれん・・・・・・ってもう来てるか。 「機関が動いたというよりは、スポンサーである鶴屋家の働きかけが大きいですね。今度鶴屋さんと会ったときはお礼を言ってください」 「おやっさんが本気になったら最強にょろ。キョンくんも頼みごとがあったら遠慮なくあたしに言うといいっさ!キランッ」 うおっ。聞いてはいけない鶴屋さんの悪魔ボイスが頭の中で再生されちまった。もしかすると俺はハルヒと同じくらいでかい地雷の隣で生活してるのか? 「さあ、どうでしょう。本人から直に聞いてみてはいかがです?とにかく、これらは所詮小手先の対処に過ぎません。ドナルドは神人と違って通常兵器でも撃破が可能なのですが、ゴキブリのごとく無尽蔵に湧き出ているので倒してもきりがないんですよ。正直、我々の手に余る存在です。そこで根本的な治療を施すために鍵が、つまりあなたが呼ばれたというわけなんですよ」 タクシーが横転して炎上しているパトカーの脇を通り過ぎ、一瞬だけ古泉の横顔が紅蓮の炎でライトアップされる。こんなくそったれな状況下でも、こいつは俺がどれだけ努力しても真似できそうにない人畜無害な微笑みを浮かべていやがった。くそっ。俺は言ったはずだぞ、平凡な高校生だと。何をすりゃいいんだ?馬鹿正直に去年の春よろしくあいつとキスでもしろってのか? 「それも手段の一つですよ。涼宮さんの洗脳を解くことができるならどのような方法を使ってもかまいません。ですから世界を。いえ、涼宮さんを救ってください。お願いします」 ここでようやく古泉は微笑の仮面を外して真顔になった。うん、これ無理。こいつの真顔はどうもいかん。まだニヤケ面の方がましだ。いい加減、俺の目を見つめる真剣な瞳がウザくなってきたので俺は目を閉じた。すると、どうしたことだろうか。まぶた裏のスクリーンが日常的なSOS団での光景と、非日常的な事件の数々を上映し始める。通常の三倍速での上映だが、どの場面でも中心にいるのはハルヒハルヒハルヒ・・・・・・はあ、わかってるさ。俺には元から選択権など無いってな。ただ、俺は少しばかり天邪鬼なだけなんだよ。だからそう嬉しそうな顔をするなって。 「決心はつきましたか?」 「断る、と言ったらどうする?」 「そのときはSOS団の副部長である不肖、古泉一樹が微力を尽くさせていただきますよ」 「ふん、団長の尻拭いは雑用係の仕事だ。誰にも譲る気はないね」 あーあ、言っちまった。こりゃ、SOS団が存在し続ける限りハルヒの尻に敷かれそうだ。古泉もやれやれといわんばかりに肩をすくめて首を振る。 「あなたって人は、本当に素直じゃありませんね。いつかその性格が深刻な問題を引き起こしても知りませんよ。もっとも、そこが魅力的なんですが」 「こ・い・ず・み」 森さんが微笑んでいらっしゃった。いつぞやの誘拐犯に向けたような妖絶な笑顔を古泉に向けている。ご好意はありがたいが、自分に向けられていないと分かっていても怖い。めっちゃ怖い。チビったかもしれん。対して古泉は微笑みを平然と受け止めるだけでなく、さらに微笑み返している。つくづくこの業界にだけは足を突っ込みたくないと考えさせられるね。 「仕事と私事の区別をつけろ。心配しないでください。ちゃんと心得ていますよ。さて、話を戻しましょう。肝心の涼宮さんですが、我々超能力者の能力によると学校のグラウンドにいるようです。数え切れないほどのドナルドを引き連れてね」 古泉が言葉を切ると示し合わせたかのようにタクシーが停車する。ドアが開いて吸い出された先は、一年生になりたてホヤホヤに長門の電波話を聞かされるために呼び出された光陽園駅前公園だった。 「何人やられた!?」 「三人掘られました!」 あのときの公園と違いがあるなら、銃を構えたおっさんたちが気狂いピエロどもと交戦の真っ最中でとんでもない会話が聞こえてくるってことと、俺の目の前にローターを回しているでっかいヘリコプターがあることだ。 「学校の周囲はドナルドの密度が濃すぎて戦車にでも乗らないと接近は危険です。自衛隊の戦車が到着すれば良いのですが、あいにく時間が無いので機関のヘリで空から向かいます。実のところ、空も安全ではないのですが」 古泉が空を見上げたので俺もつられて首を上に向けると、ちょうど空飛ぶUFOならぬ空飛ぶドナルドに追いかけられた戦闘機が火を噴いて落ちていくところだった。戦闘機はそのままビルに隠れて見えなくなり、数秒間をおいて轟音が響き渡った。闇夜にはジェットエンジンのものと思われる光点と、赤く輝いて飛行するドナルドが複雑な軌道を描いていた。おいおい、マジかよ・・・・・・ 「ヘリには航空自衛隊のF-15と第七艦隊の空母から発進したF/A-18が護衛につきます。どうぞ大船に乗ったつもりでいてください」 「今のを見て安心できると思うか?もっと数字のでかい戦闘機を護衛につけろ」 「数字が大きくなれば強くなるというわけではないのですよ。そうそう、ヘリには長門さんも同伴してくれるそうです」 「そりゃ安心だ」 長門のチート能力ならこの異変だってささっと解決できるなって、それじゃあ全然だめだぞ。結果としてまたまた長門に負担をかけちまうことにわけだからな。傍観者を決め込んでいたら知らぬ間に世界を改変された身としては、あいつにかかるストレスは極力軽減してやりたいのだが、なかなかどうして思い通りにならないのだろうか。暴走させてつらい思いはさせたくない。かといって長門の力を借りないと世界は滅茶苦茶になりそうだし・・・・・・ええいくそっ!アーメン・インシャラー・ピーナツバター。どうせ下手の考え休むに似たり。もうなるようになりやがれ。この世にはベストの答えなんてないんだよ。肝心なのは開き直りってことだ。 こうして思考を停止した俺は古泉に導かれるままにヘリコプターのドアをくぐったのだった。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4973.html
※ 涼宮ハルヒの鬱憤のアナザーストーリーです 季節はもう秋。 空模様は冬支度を始めるように首を垂れ、 風はキンモクセイの香りと共に鼻をそっとくすぐる。 彼は人との出会いが自分の心の内を乱し、 少しずつ緩んできている事に時の流れを感じている。 夏休みから学園祭まで一気に進んでいた時計の針は 息切れをしたかのように歩を緩めていたが、 周りが熱を冷ましていくのとは相反するように 彼の日常は慌ただしく、動き出していく―――― 夢をつんざく音が聞こえる… 渇いた喉にイライラしながら鬱陶しい音に手を伸ばす。 無意識に一つ溜息が漏れた。 朝も寝起きから閉鎖空間か… ここの所、涼宮ハルヒの精神は安定していたが。 それは最近、暇と鬱憤を紛らわせてくれるイベント続きだったからか? 僕は安穏とした日々が続く事に満足し過ぎているのかもしれない。 何にせよ、発生してしまったものは仕方がない… 発生場所に到着するとスーツ姿の森園生が腕組みをしながら立っていた。 「森さん、今の状況は?」 森の鋭い目線が突き刺さる。 「古泉、遅い…連絡は行ってたでしょう? 朝だからと言って寝惚けている暇があったら もっと迅速に行動出来るよう心掛けなさい」 手厳しい、と言うか怖い。 いつも閉鎖空間に飛び込み神人と相対する度に感じる。 これは涼宮ハルヒの純粋な想いから溢れてくる水のようなもの。 綺麗だけど、切なくて、苦しくて、柔らかくて、暴力的で… これは本当に僕らが力ずくでも抑えるべき代物なのだろうか? 誰にだってある感情、僕自身にもある。 日常はつまらない、下らないと思い、溜息を漏らしては 幸せをまた一つどこかへ落としてくる事が…。 僕らは本当に世界の安定に一役買っているのだろうか、と。 「ご苦労様」 森は笑顔で皆を出迎えた。 「今日のはそれほど大事にならずに済みました。 以前の報告通り涼宮ハルヒは最近、彼の成績等、色々と思う所があるようですから 機関としても何らかの対策を打たないといけないかもしれませんね」 森は首を傾げた。 「そうね。私にも経験あるけれど女の子にはそういう時がままあるものよ」 女の子って歳じゃ… その時の頭の中を見透かしたような森の視線に一旦、思考を停止させた。 「何の大事件も起こらずに安定していてくれないものかしら…」 腕時計を見ると10時を回っている。 「また遅刻か…今日、学校サボろうかな?」 ふと漏れた愚痴にもならないような言葉に森が噛み付いてきた。 「古泉、またあなたは機関の仕事にかこつけてすぐにサボろうとする! もうちょっと機関の人間としての自覚を持ちなさい。 あなたは機関の人間の中では涼宮ハルヒに最も近しい人間。 彼女を監視し、彼女により安定した日常を過ごしてもらうのに 機関にとってあなたの存在が重要な鍵である事は重々、承知しているでしょう? それに機関はあなたに学業まで疎かにしろとは言っていない。 新川に車を用意させたから、時間のある時はちゃんと学校に行きなさい」 また森さんに説教された… 車は朝の街の喧噪の中を学校へ向かって滑り出した。 僕がサボらず学校に行くように森さんの監視付きで。 1年半この学校に通ってきたがSOS団の部室以外では この時間限定で、この人のいない学校までの坂道は結構、気に入っている。 「古泉、今日は夜の9時から定例会議がありますから 涼宮ハルヒの監視後にちゃんとサボらないように顔出しなさいよ」 はい、了解です。僕の作り笑顔はこの人に鍛えられたといっても過言ではない。 キンモクセイの香りが鼻をくすぐる坂道は秋になり涼しく寝そべっている。 昼休み、SOS団の部室に足を運ぶと部屋の中から 廊下まで響く涼宮ハルヒの上機嫌な声が聞こえてきた。 どうやら朝までの不安定な精神は落ち着きを取り戻したようだ。 「ふっふっふっ…ハロウィンよ!!小さい頃、読んだ絵本には 魔人、ドラキュラ、フランケンシュタイン、魔女、黒猫、コウモリ、ゾンビ、 黒魔術なんかが出てきて、事件と謎の匂いがプンプンする話だったわ。 という訳で今週はハロウィン調査を開始するの。 ハロウィンってまずはコスプレから始まるのよね。 だからまずは全員どんなコスプレにするかパソコンで調べないと!!」 なるほど、また新しい『遊び場』を見つけた訳ですか。 そっと部室に入ると何やら話し込んでいるようだった。 「へぇ~、ハロウィンではお菓子を配るのね。 ついでに秋の味覚も集めちゃおうかしら?」 長門有希も珍しく強い興味を示したようですね。 僕も秋の味覚には興味あります。 「ハロウィンパーティーですか、面白いアイデアですね」 彼に話し掛けると驚いたような顔をこちらに向けてきた。 まるでくり抜かれたハロウィンのカボチャのような顔ですよ? 「じゃあ、決定ね。古泉君、みくるちゃんと?あとせっかくのパーティーだから 鶴屋さんにも伝えといてくれる?受験勉強の邪魔でなければって」 思い付いたら即行動、涼宮ハルヒの精神にここまでのエネルギーが 満ち溢れていれば、余程の事が無い限りは大丈夫でしょう。 「わかりました」 「じゃあ行くわよ、キョン」 ケルト民族のハロウィン祭ではひとつの大きな篝(かがり)火から 村の家々に火を分け合う事でお互いを 共通の絆を持つ一つに繋がった輪としている。 SOS団にとってその絆は涼宮ハルヒという 大きな篝火を中心にして出来たものだろう。 時々、全てを燃やし尽くすように暴れるその大きな篝火を鎮める為、 彼は水になりたいと願っている。 ただ、今の彼に出来るのは彼女に向かって欺瞞の笑顔を差し出す事だけ。 いつか素直な気持ちで友として笑い合いたいと願っている―――― 涼宮ハルヒが形式的な連絡網と称して交換した為、 一応、SOS団に関わる面々の連絡先は入手している。 メールは時々、素の人間性が引き出される事があって苦手です…。 まずは森さんに報告ですね。 あと、涼宮ハルヒの為と称して機関に秋の味覚も要求しちゃいましょう。 To:森園生 タイトル:報告 本文:お疲れ様です。古泉一樹です。 涼宮ハルヒの急遽の発案により、 ハロウィンパーティーを開催する事になりました。 彼女の精神は朝とは違い、非常に安定したものと見受けられます。 彼女はお菓子や秋の味覚なども所望している様子です。 機関でも多少、用意して頂けると幸いです。 ふぅ~…機関や森さんへの報告はお決まりの文章で楽なのですが、 次は朝比奈みくるへのメールか…文面が難しいですね…。 朝比奈みくるは僕を含め、機関に対して強い不信感を持ってますからね。 あまり強い刺激を与える事で警戒心を抱かせ、今後の活動に 悪影響を及ぼしたくはありませんね。 文面を少し明るめにしておいた方が宜しいのでしょうか? To:朝比奈みくる タイトル:無題 本文:どうも!!古泉一樹ですアヒャヒャヘ(゚∀゚*)ノヽ(*゚∀゚)ノアヒャヒャ 涼宮さんの発案により今週のSOS団の活動はハロウィン調査を行うそうです。 お菓子と秋の味覚を集めたハロウィンコスプレパーティーも開くそうなので 時間の都合が付くようならば鶴屋さんもお誘い下さいとの事です(m。_。)m では、宜しくお願いしますo( ▽▽ )oキャハハ 頑張って絵文字を使ってみたのですが、 皆さんが僕に対して抱いているイメージより 多少、メールのテンションが高過ぎたでしょうか…? 送信ボタンを押してから少し後悔しています。 おや?もう森さんから返信がありましたね。 From:森園生 タイトル:Re 報告 本文:ハロウィンの件に関しては了解致しました。 速やかに上に掛け合い、準備に入ります。 恐らく何の問題も無く、通過すると思われます。 ただあくまで涼宮ハルヒの監視と精神の安定の為という目的を忘れずに。 あなたは時々、遊び心が過ぎますからね。 色々とバレているのでしょうか?怖いですね…。 そうだ。絵文字の使い方に関して森さんに絵文字を使ってみて 使用法などに問題が無いか、確かめてみる必要がありますね。 森さんからなら的確なアドバイスが得られそうな気がします。 To:森園生 タイトル:Re Re 報告 本文:了解ですO(≧▽≦)O ワーイ♪ お手数お掛け致します!!アリガタビーム!!(ノ・_・)‥‥…━━━━━☆ピーー 機関からの支援の事をハロウィンパーティーの発案者でもある 彼ら2人にも伝えておきますか… そういえば携帯電話に入っている彼のメモリーを見るといつも思うのですが、 彼の本名ってなんでしたっけ?キョンとばかり呼ばれているので ついつい忘れてしまいますね。 涼宮さんと仲良くやっていてくれると良いのですが。 To:Kyon タイトル:無題 本文:今朝まで発生していた閉鎖空間も消えてくれて、 機関も僕もあなたにはいつも感謝しきりです。 お礼といっては何ですが、僕と機関から 今回のハロウィンパーティーに幾分かの差し入れを出します。 涼宮さんの事はあなたにお任せします。 では、頑張って下さいねp|  ̄∀ ̄ |q ファイトッ!! お?森さんは仕事だけでなく、いつもメールを返すのも早いですね。 さすが機関の中枢を担うお方だ。 From:森園生 タイトル:Re Re Re 報告 本文:もう一度言いますが、ちゃんと気を引き締めなさい。 あと、あなたが絵文字を使うのは気持ちが悪いから止めなさい。 森さん…的確なアドバイス、ありがとうございます………。 秋の空というものはどうにもうつろいやすいもので それを人の心に例えたりもしますが、 雨には気持ちもしょげるもの。 夕方になり降り出した雨は雨脚を強め、 街をオレンジ色から灰色に変えていく。 朝比奈みくると鶴屋さんが持ってきたスモークチーズの香り漂う SOS団の部室では3人が三者三様の時間を過ごしています。 朝比奈みくるは妙な沈黙に耐えられなかったのであろう… お茶を2人に差し出しながら話し掛けてきました。 彼らがいない時にこうやって会話を交わすのは慣れないものです。 「涼宮さんとキョンくんのいない部室って静かですね。」 「そうですね。こういう部室も嫌いではありませんが、やはり物足りないですね。 ところで鶴屋さんはどこへ?」 「チーズに合う飲み物が必要とかでどこかへ行ってしまいました。」 「それは危険な香りがしますね。」 その時、大きな足音が聞こえたと思うと勢いを付けて扉が開きました。 「お待った~!!」 鶴屋さんでしたか。 「おっや~、あの2人はまっだ帰ってきてないっかな~?? ま~たどっかでイチャついてんのかね~?」 「鶴屋さん、それ…」 「あぁ、ワインっさ!」 「だ、大丈夫なんですか~?受験前に。」 「めがっさ美味しいにょろ!まっ息抜き♪息抜き♪まずは軽く一杯。」 息抜きの範疇を超えてますね。? 「遅いですね~涼宮さんとキョンくん…」 と、音も立てずに静かに扉が開くと雨でずぶ濡れの彼が1人で立っていました。 非常に嫌な予感がしますね。 「あれ?涼宮さんは?」 「分からん…」 「私は付き合いだけで無理して皆とここにいる訳じゃありません!!」 朝比奈みくるが珍しく、怒りを露にしている。 「ごめんなさい…」 「なんでキョンくん、そんな事言ったんですか!? いい加減、涼宮さんの気持ちに気付いてあげて下さい!! 涼宮さんは私達の為というよりもキョンくんの為に きっとこのハロウィンパーティーをやろうって言ったんですよ!」 涼宮ハルヒはここ最近、部室で色々と計画を練っていたが… ハロウィンパーティーにはやはりそのような意味があったのですね。 「涼宮さん、キョンくんが最近、成績の事とかで悩んでるってずっと気にしてたんです。 だから涼宮さん、部室にいる時に一人でキョンくんの為に解説用のノートや 一緒に期末テストの勉強する為のスケジュール作ったりして、 来週からはスパルタで行くから今週くらいはキョンくんと 何か息抜き出来る事して気持ちを晴らして羽を伸ばしておこうって言ってたんです!」 「あ~ぁ、今回はやっちゃったね~!キョンくん。」 今の鶴屋さんの意見には実に同感です。 事の顛末を簡潔に申し上げますと、 涼宮ハルヒは彼が最近、学業の成績などで悩んでいる事に危惧し、 期末テストで彼の手助けをしようとしていました。 その前に溜まっている彼のストレスをパーッとガス抜きさせる為に SOS団でハロウィンパーティーの企画を立ち上げたのだが、 その事に対し彼は涼宮ハルヒに受験生の朝比奈みくるや鶴屋さんまで こんな下らない事に巻き込んで計画性が無さ過ぎる、自分は帰って勉強がしたい と、涼宮さんに責め立て街中でそのまま喧嘩別れしてきたという… 最近は彼とも打ち解けてきて僕も彼との友人関係を継続したいと 願ってはいますが、今だけは彼の事を『この男』と呼ばせて頂きたい。 この男は時々、とても無神経になるのが癇に障る。 涼宮ハルヒの想いに気が付いていない訳がないとは思うのだが… 涼宮ハルヒを監視し、安定に導く為の鍵としてこの男の存在は欠かせない。 それがここまで鈍感だとさすがにイライラしてくる。 機関で拘束して拷問にでも掛けてやろうかという気さえしてくる。 あぁ~…やはり案の定、機関からの連絡が入ってきた。 「ふぅ~…すみません、どうやら急なバイトが入ってしまったようです。」 この男を睨みつけて恨み節を放った所で何も解決しないのは百も承知なのだが…。 「まぁ正確には涼宮さんらしく、団長の責務として団員の世話まで しっかりやらないといけないから大変だ、とおっしゃってましたが。 あなたの悩みは彼女の悩みでもあるんですよ。」 しれっとまるで分からないという顔をしているのが非常に癪だ…。 さすがに鼻につきますよ、その態度には。 「まだ分からないんですか?彼女からすれば何故、自分に相談してくれないのか? 悩みがあるなら共有してくれないのか?とね。 あなたに涼宮さんをお任せしたのは失敗でしたかね…では、失礼。」 少しばかり感情的になり過ぎたようだ…。 ただこの男に一言でも言わないと気が済まなかったのも事実。 しかし、一日で2回目ともなるとさすがにうんざりだ…。 森さんに一度、連絡を取っておこう。 「もしもし、古泉です」 森さんの携帯からノイズ混じりの声が聞こえる。 「緊急事態なので私が車を回します。話はそこで伺います」 と言われ、一方的に電話は切られた。 坂道を下ると猛スピードで黒塗りの車が目の前に滑り込んできた。 「乗りなさい、古泉」 助手席に乗り込み、事情を説明していると 森さんの表情は見る見る険しくなっていった。 隣にいる僕でさえ、緊張してしまう程だ。 「…という事だそうです」 その話を聞いた森さんは両拳をハンドルに一度、思いっきり叩き付けた。 「あんの鈍感男!!何、考えてんのよ!?」 …も、森さん? 「あれは本当に女心の欠片も理解していないわね!! それとも知っててわざとそんな真似してんの!? ただの度胸が無いヘタレ!?それともゲイか何か!? 少なくとも男の風上にも置けない奴だわ!!」 さすがの僕でもここまで怒り狂っている森さんは見た事がありません… 「大体、何よ!?のらりくらり逃げてばかりで、 涼宮ハルヒにキスするなり、押し倒すなり、さっさとヤっちゃえば良いのよ!!」 いや、さすがにそれは… 「か、彼にも彼の想いというものがありますから。そこまで強制させる訳には…」 森さんの勢いに気圧されて僕が逆になだめる立場になってしまった… 「分かってるわよ、そんな事!!でも、それならそれで真摯な応え方というものが あるでしょうが!?一言、言ってやんないと気が済まないわ!!」 そういえば、ちょっと前に森さん、男と別れたとかで 酒に溺れて愚痴をこぼしながら暴れ回ってたな…女は怖い…。 現場に付くと落雷と豪雨が入り混じった暗闇のような閉鎖空間が ぽっかり口を開けていた。 「これは非常に危険な状態ですね。このような閉鎖空間は初めてです」 冷静さを取り戻した森さんが話し始めた。 「どうやらこれまでのものとは形も歪で性質も全く異なるもののようね。 今、機関の人間を総員配置して解決に当たっています」 「世界が呑み込まれてしまう危険性もありますね。とにかく空間内に入ってみます」 閉鎖空間の入り口に手を伸ばした瞬間、雷に打たれたような衝撃が走り、 弾き飛ばされてしまった…空間内に侵入出来ない…?何故? その時、空間内より機関の仲間である能力者達が投げ出されてきた。 「皆さん、どうなさったのです!?」 能力者達は怪我を負っている。機関の能力者の中でリーダー格の男が語り始めた。 「分からん…閉鎖空間より追い出されてしまった。 空間内に涼宮ハルヒが存在している感覚は掴める。 しかし、どうやら涼宮ハルヒはこの世にある全ての存在を拒絶し始めたようだ。 私達の能力も上手くコントロール出来なくなっている」 「新川!!」 森さんは新川さんを呼び寄せながら僕の肩に手を置いた。 「とにかく彼らの治療は新川に任せましょう。 機関でも最も能力の高い部類に入る古泉の能力を持ってしても 駄目だというのならもう手は一つしかありません」 今は不本意だが、機関の人間が手を打てないとならば やはり涼宮ハルヒに対しては鍵としての彼の力に頼り、協力を仰ぐしかない。 新川さんと怪我をしている他の能力者達は治療に向かい、僕はこの場で待機。 彼を捜し、迎えに行く役は森さん自らが有無を言わさずに自分がやると申し出た。 きっと彼に対して森さんはどうしても『一言』言わないと気が済まないのだろう。 精神的に潰されなければ良いのですが…。 待機と言っても駅前の広場で一人立ち尽くしているだけだから 特にこれと言ってやる事も出来る事もない。 閉鎖空間には相変わらず、拒絶されたままだ。 雨脚が強くなってきた。傘に打たれる水の音が激しさを増していく。 「古泉君…」 ふいに声を掛けられた。振り返るとそこには朝比奈みくると長門有希の姿があった。 「朝比奈さん…長門さん…どうなさったのです?」 傘を差している二人の髪は秋雨に濡れていた。 「キョンくんと古泉君が飛び出していってから私達、 いてもたってもいられなくて…力になる事は出来ないかもしれませんけど、 キョンくんと涼宮さんの事、放っておく訳にもいかないんです」 それでとりあえず彼ら二人が喧嘩別れしたこの駅前の広場にやって来た訳ですか。 「僕も同じ想いです。どうも彼ら二人は素直じゃないと言いますか、 最近は友人として見て見ぬ振りが出来なくなってきました」 これは率直な想いだ。 以前の僕なら現状維持で見過ごすべき所は見過ごしていただろう。 「…そう」 3人、広場で雨に打たれながら無言で彼を待っていた。 結局、僕らはなんだかんだ言いながらも お互いを信頼し合っているのかもしれない。 その時、黒塗りの車が水しぶきを立てながらブレーキを掛けた。 「お待ちしていましたよ。」 涼宮ハルヒという暴走したアクセルに対してブレーキとなれるのはあなただけ。 これでも僕らはあなたのやる時はやるという一本、芯の通った所が好きでもあり、信じてもいます。 「情報統合思念体は混乱している。 現在の涼宮ハルヒは有機生命体の持つ全ての感情を?強い力で衝突させ、爆発を起こしかけている。 本来、情報統合思念体にとって感情とはエラーと認識されるもの。 それが処理出来ないほどの量と質で埋め尽くされている。 情報統合思念体にとって自らの存在を消去し得る 触れる事は危険且つ、不可能な領域として認識した。 だから、あなたに任せる。」 最後の一言こそ、複雑な想いを抱えながらも長門有希の本音なのだろう。 「キョンくん…さっきは怒鳴ったりしてごめんなさい… でも、キョンくんにしか涼宮さんを助ける事は出来ないと思うの。 キョンくんの素直な気持ちをちゃんと伝えて、お願い。」 今回ばかりはのらりくらりと逃げる事は許されませんよ。 きちっと責任を取るつもりで覚悟を決めて下さい。 「では、ここからが閉鎖空間の入り口です。?僕らはこれより先には進めません。 ですが、あなたならきっと大丈夫です。 いえ、あなたにしか出来ません。」 涼宮ハルヒはきっとあなただけは拒絶する事はないはずです。 何故なら、彼女はいつもあなたの傍にいてあなたと共に行動する事が 何よりも好きなのだから。 彼が一人で閉鎖空間に飛び込むのを見送るともうやれる事はない。 やはり全てを拒絶するあの空間も彼だけは受け入れてくれたようだ。 あと僕らに出来るのはただ待つのみ。 僕ら3人と森さんは激しくなった雨に打たれながら雷の音を聞いていた。 「皆さん、お車の中で待機なさってはいかがでしょう?」 森さんが愛くるしい笑顔を僕らに向けた。 あぁ~…僕だけの時にもこれくらいの柔らかい態度で接してくれたなら どれだけ機関の仕事が楽になるだろう… 朝比奈みくるは頑なに車に乗るのを拒否していた。苦い思い出があるからだろう。 まぁ、僕らも車の中で安穏と過ごすつもりは毛頭ない。 「大丈夫ですよ、森さん。僕らはここで待ちます」 「そうですか」 さっきから気になっている事を2人には聞こえないように森さんに訊ねてみた。 「…ところで森さん。彼にはなんとおっしゃったんですか?」 森さんの目が鋭く光った。 「飴と鞭、というところでしょうか。 私は訓練により精神破壊系の拷問テクニックも身に付けているから」 その時の森さんの笑顔ほど僕を凍り付かせ、震え上がらせたものはなかった。 ニッコリと微笑む悪魔のようにただただ怖かった… この人だけには悪戯心の冗談でも逆らわないでおこう。 そう心に誓った。 雷鳴が遠のき、雨脚が弱まったかと思うと街の喧噪が騒がしくなった。 さっきまで分厚い雲に覆われていた空は風と共に流れ、 雲の隙間から眩しい夕陽が顔を出している。 「どうやら彼ら二人は無事、仲直りしてくれたようですね」 今、気が付いたのだが僕はいつもの笑顔を忘れていた。 僕もそれなりに緊張していたのだろうか? 「良かったです~、キョンくんはちゃんと涼宮さんに 素直に想いを伝えたのでしょうか?」 「きっとそうでしょうね。彼は普段は鈍感極まり無い方ですが、 やる時はやる方ですから」 「…そう」 今、彼ら二人がどこにいるのかは分かりませんが、 二人の時間を邪魔するような無粋は止めておきましょう。 「さて、僕ら3人は部室にでも戻りますか?」 「そうですね~♪」 その時、森さんが僕の耳元でそっと囁いた。 「ハロウィンの件は許可がおりましたが、鶴屋家との相互不干渉の取り決めより どちらか一方が、という事になりました」 なるほど、そうですか…。 「では、きっと鶴屋家で準備して頂けると思います。 決まり次第、また連絡を入れます」 「了解致しました。あと、あなたも分かっている事だとは思いますが、 私へ報告のメールをする際、もう決して二度と絵文字は使わないように」 ハハ…そんなに気持ち悪かったのだろうか…? 嵐来りて大暴れ。 上へ下への大騒ぎ。 嵐は去りて一番星。 誓いを立てて笑い顔、 夢か現か幻か。 「ではこれより!SOS団ハロウィンパーティーを始めます!!」 結局、部室では時間が遅いと言う事で急遽、鶴屋家で お菓子と秋の味覚を取り揃えた あまりにも豪華なパーティーを催す事になった。 涼宮ハルヒと鶴屋さんはタッグを組んで朝比奈みくるに セクハラまがいの行為を繰り返している。 長門有希は相変わらず、物凄い食欲だ。 僕自身も涼宮ハルヒに渡されたドラキュラの格好をさせられている。 僕にとってSOS団のメンバーと過ごすこういう時間は かけがえの無い大切な時間となってきている。 機関の命令により、仕方無しに参加していたかつてなら 考えられなかったくらいの心境の変化だと自分でも実感している。 涼宮ハルヒはミニスカートの妖精、鶴屋さんは幽霊、朝比奈みくるは黒猫、 長門有希は魔女、そして彼はカボチャ…。 涼宮ハルヒは一体、このカボチャのコスプレをどこから持ってきたのでしょうか? 「今回もあなたに助けられましたね」 「まぁ、今回は俺が原因でもあるからな。色々すまんかったな、古泉」 「いえ。初めに話を聞いた時は機関で拘束して?拷問にでも掛けようかと思いましたがね」 本気で手配しようかと考えたくらいです…。 「で、涼宮さんとは付き合う事になったんですか?」 おやおや…せっかくの秋の味覚を吹き出してしまうなんて実に勿体ない。 「ば、馬鹿言うなよ!」 「おや?今回もキスしたんじゃないんですか?」 「しとらん!」 全く…なかなか彼ら二人は先に進んでくれませんね。 ここは一つ… 「それは……また森さんが怒りますよ」 脅しをかけておきましょう。 「キョ~ン!」 「なんだ?」 「あんた、美味しそうなもん食べてんじゃないのよ」 「やらんぞ。自分で取れ」 「ケチ!うりゃ!」 「おい、取るなよ」 「だって私、この付け合わせの甘い人参、好きなんだも~ん」 まぁ、でも今回は元の関係に修復出来ただけでも良しとしましょう。 「じゃあ、お世話になりました~!」 「良いって事さ~!今度はクリスマスだね!」 「おやすみなさ~い!」 宴もたけなわ、ですね。 来週からはしばらく期末テストに向けての試験対策。 しっかりやらないとまた森さんや機関の上層部にどやされる…。 「では、僕もこのへんで」 「…同じく」 「わたひもおうひにかえりまひゅ~」 お二人のお邪魔になるでしょうから 泥酔している朝比奈みくると長門有希は僕が送り届けますよ。 「では、涼宮さんを家まで送り届けて下さいね」 二人っきりの時間はチャンスですよ、勇気を振り絞って下さい。 「キョン!」 「はいはい。」 「はい、は一回。」 「はぁ~い。」 彼は一つ決めました。 これからはあの二人を見守っていこう。 自分が入り込めるような隙間は無い。 時には譲れず、手を出す事はあったとしても 友人として接していこう。 冬も間近な秋の夜。 空に浮かぶ星達は遠い遠い所から 優しく光を落としています。 彼は待ち望んでいます。 まだまだ遠い将来にいつか彼らと心を開き、 ただただ笑い合える日を―――― The End
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1595.html
ハルヒ「ねー良いこと聞きたくない?」 なんだ突然、酒の邪魔すんな。どうせいいことって言ってもすずめの涙程度の金が入ったってだけだろうが! ハルヒ「ひ!・・その・・・・ごめんなさい」 わかったらさっさと酒の追加もってこいよ!! ハルヒ「せっかく・・・うぐっ・・・・赤ちゃんが・・・」 キョン「なに??赤ん坊だと!!誰の子だ!だから避妊しろって言ったのによ!!これの何がいい知らせだ!!」 ドゴッ・・・・グガッ ハルヒ「やめてっうっ・えっ・・いたっ・・・痛い、この子だけは・・・あなたの子よ」 キョン「!!!!!!!!てめえ!!そりゃ本当だな!!」 ハルヒ「本当・・・・・本当だから」 キョン「胸糞悪い!・・・・・出てく!」 ったくよ。こんなときは朝比奈のところにでも行くか ガチャ・・・バタン ハルヒ「やっとの・・・・・・子供なのに・・うぐっ・・・えぐっ」 プルルルルルル ガチャ ハルヒ「・・・・もしもし?」 S「ドウモコンニチハ、アナタハ仏壇カイマセンカ?」 ハルヒ「・・・・・・・いいえ」ガチャ みくる「あれ?きてくれたのね」 キョン「邪魔するぞ」 みくる「ふふ、いつも通り冷たいわね」 キョン「ここ座るぞ」 みくる「今日は泊まってくんでしょ?」 キョン「酒」 みくる「え?」 キョン「酒出せ!」 みくる「ふぇ!は、はい」 キョン「まったく安物じゃねえか、こんなので酔えるかよ!!」 みくる「そんなこと言われてもね!こっちだって用意できるわけないでしょ!」 キョン「うっせえ!もういいよ!」 ガチャバタン!! キョン「まったくどいつもこいつも」しかたない居酒屋に行くか、俺は久理ぶりに驚いたな。 居酒屋行く道の途中に長門がいたんだからな。 キョン「よう久しぶりだな、今何してるんだ?」 長門「!・・・・・・久しぶり」 長門は驚いて俺を見つめていた。まあ俺も変わったからな10円はげもあるしひげも剃ってない、だがそれがどうかしたか?? 長門「人は変わる物、それはしかたない」 よく言うぜ、お前はまったく変わってねえじゃねえか。まあこいつは人間じゃなくて・・・・・あのー人間じゃない何かだったはずだ 長門「今は普通の人間」 キョン「お前の親玉はどうした?」 長門「涼宮ハルヒがあなたと結婚した直後に私の力がなくなった、思念体も消えた」 キョン「どうだっていいよ」 長門「あなたに来て欲しい」 キョン「なんのために??」 長門「お酒ならある」 キョン「う・・・・・・わかった、行くよ」 来なかったら殺す、見たいな顔をしてたからな。 前と同じとこ住んでんのか、中も変わってないか、やれやれ そういや仕事とか何してるんだ? 長門「アパレル」 (中略) キョン「今まですまなかったな、今度古泉の所に行って仕事のあてがないか探してくるよ。 なくてもバイトがある。二人でこの子を幸せにしような」 ハルヒ「もちろんよ!」 このときのハルヒの笑顔は太陽のように輝いていたそうです 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/56.html
涼宮ハルヒの陰謀 基礎データ 著:谷川流 口絵・イラスト・表紙:いとうのいぢ 口絵、本文デザイン:中デザイン事務所 初版発行年月日:平成17年(2005年)9月1日 本編422ページ 表紙絵:朝比奈みくる タイトル色:青色 初出:書き下ろし 初出順:第21話 裏表紙のあらすじ紹介 年末から気にしていた懸案イベントも無事こなし、残りわずかな高一生活をのんびりと楽しめるかと思いきや、ハルヒがやけにおとなしいのが気に入らない。こんなときには必ず何かが起こる予感のそのままに、俺の前に現れたのは8日後の未来から来たという朝比奈さんだった。しかも、事情を全く知らない彼女をこの時間に送り出したのは、なんと俺だというのだ。未来の俺よ、いったい何を企んでいるんだ!?大人気シリーズ怒涛の第7弾! 目次 プロローグ・・・Page5 第一章・・・Page58 第二章・・・Page112 第三章・・・Page162 第四章・・・Page224 第五章・・・Page265 第六章・・・Page319 第七章・・・Page265 エピローグ・・・Page401 あとがき・・・Page428 アニメ 全編未アニメ化。 漫画 ツガノガク版(雑誌の発表号などの詳しい情報はツガノ版漫画時系列で) コミックス第12巻に収録第53話『涼宮ハルヒの消失・エピローグ』(原作P7-原作P36、最初からキョンが作中時間の4年前より帰ってくるまで) コミックス第13巻に収録第62話『涼宮ハルヒの陰謀Ⅰ』(原作P38-原作P65)(消失の時空列の古泉の考察から2人の朝比奈さんが部室におり長門が入ってくるところまで) コミックス第14巻に収録第63話『涼宮ハルヒの陰謀Ⅱ』(原作P65-原作P107)(長門がみくるを連れ出すところから長門がキョンとみくるに晩ご飯かお茶がいいかと尋ねるシーンまで) 第64話『涼宮ハルヒの陰謀Ⅲ』(原作P107-原作P135)(長門が晩ご飯つくるところから指令に基づいてキョンたちが置いた缶を蹴って怪我をした男を介抱するシーンまで) 第65話『涼宮ハルヒの陰謀IV』(原作P135-原作P162)(キョンたちが置いた缶を蹴って怪我をした男を介抱するシーンから2回目の朝比奈さん(大)の指示書(石移動)を下駄箱で手に取るまで) 第66話『涼宮ハルヒの陰謀V』(原作P162-原作P207)(朝比奈さん(大)の指示書(石移動)を下駄箱で手に取って読んでいる時から宝探しのSOS団会議でキョンが古泉と鶴屋さんの関係に思考している場面まで) 第67話『涼宮ハルヒの陰謀VI』(原作P207-原作P254)(宝探しのSOS団会議でキョンが古泉と鶴屋さんの関係に思考している場面から古泉とキョンがハルヒの精神状態の考察をしている場面) コミックス第15巻に収録第68話『涼宮ハルヒの陰謀VII』(原作P254-原作P297)(山を下る場面から藤原の講釈を聞き終わる寸前まで) 第69話『涼宮ハルヒの陰謀VIII』(原作P297-原作P335)(藤原の講釈から朝比奈さん(みちる)が誘拐されるまで) 第70話『涼宮ハルヒの陰謀IX』(原作P335-原作P364)(朝比奈さん(みちる)が誘拐される場面から朝比奈さん(みちる)が帰るまで) 第71話『涼宮ハルヒの陰謀X』(原作P365-原作P399)(再度宝探しの約束をしてハルヒと喫茶店で別れる場面から、鶴屋さんに電話を掛けるシーンまで) 第72話『涼宮ハルヒの陰謀XI』(原作P399-原作P427)(鶴屋さんに電話を掛けるシーンから、最後まで) 登場キャラクター(原作のみ登場) キョン 涼宮ハルヒ 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん 朝比奈さん(大) 谷口 国木田 キョンの妹 森園生 新川 多丸圭一 多丸裕 シャミセン ハカセ君 藤原 橘京子 あらすじ 後に繋がる伏線・謎 対立組織の目的 刊行順 ←第6巻『涼宮ハルヒの動揺』↑第7巻『涼宮ハルヒの陰謀』↑第8巻『涼宮ハルヒの憤慨』→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4558.html
そんな感慨を抱きつつ、放課後、文芸部室。 今週の頭に生徒会から突如として課せられた、というかハルヒが課したポエム創作に紛糾していたSOS団員であったが、本日その内の二人の悲鳴は安堵の溜息となって開放された。 一人はもちろんであろう古泉だ。 そして残す一人は長門……ではなく、朝比奈さんである。 それぞれの詩を端的に紹介すると、古泉のはこいつが超能力者になる以前、自分の胸に秘めていた世界に対する本音を夢見がちな視点から書き綴ったもので、つまり少年の頃に密かに抱いていた願望をポエムにしたものだった。 朝比奈さんのはテーマが未来予想なものであるにも関わらずほとんど創世記のような内容で、後半に少しだけ未来の世界像が抽象的に書かれているという感じであった。俺の読解によるところでは、本来人間は諸々の管理や調整を行うために生まれており、未来では自然と人間の調和が実現するといった隠喩が含まれているようにとれた。ためしに朝比奈さんに聞いてみると、 「んっと、これはただのポエムですから♪」 不用意に禁則事項ですと言わないのが、きっとこの一年で成長した所なんだろうね。俺としては、この人には成長して欲しくないような、成長して欲しいような複雑な心境である。 あとこれは余談だが、古泉のポエムを読んでいると俺には短パンでタンクトップというよりはランニングシャツ(もちろん白)で野原を駆け巡る古泉少年の姿が脳裏に浮かんでしょうがない。 何故ならポエムの内容がヒーロー戦隊隊員に志願希望であるとかスクールライフにはシリアスさとピュアラブコメディを求めるとかいったえらい純朴な要望的願望なのだ。 そしてこれらは殆ど叶っているようなものなのでおめでとうと言いたいが、ピュアラブコメディなんぞをやっていたら俺は古泉の後頭部を狙ってウイリアム・テルをしなければならん。 ……そういえば、こいつは昔天体観測が趣味だったとかも言ってたし、筆致もあまり勉強してない子のように乱雑であるので、ひょっとして仮面を脱いだら無邪気で裏表のない明朗快活野郎になるんじゃないだろうか。もしあのツラでそんなコンスティチュエントがあった日にゃあ谷口の立つ瀬はナノメートル単位すらなくなっちまうな。というか、俺含めほぼ男子全員が例にもれず。 しかしまあ、現在の裏がありそうなスマイル古泉のスタイルもこれはこれで小憎らしい。この自称仮の姿は機関とやらの厳しい特訓で培われたものなんだろうか? 勉学も短期間で必死に習得したゆえに、紙相手の問答には優秀だが対人戦になるとてんでダメになるのかも知れんな。 ……などと、俺が取りとめのなさ加減にも程があるといわんばかりの思索をしていると、二人分の原稿の提出を受けて上々気分のエセ編集長が意気揚々と、 「キョン! それに有希っ! 残すはあんたらだけよ! ほら、早く書くのっ」 いやだからポエムなんてのは自主創作であるべきなんだし、詩的センスも恋愛経験も皆無な俺にはどうやったって恋の詩など書きようがないっての。 という文句を目で訴えつつ「ああ」と生返事で答え、 「…………」 無言で読書をしている長門に視線を流した。なぜこいつはポエムを書かずに読書などをしているのかといえば、「詩など書かん」という抵抗の意思を体で表しているわけではなく、読書物が前回の会誌であるため、恐らくは自分の小説を読み返して何かしらのインスピレーションを働かせようとしているのだろう。多分ハルヒもそう思っているから、その行動に待ったをかけないのだろうね。 「……長門の小説、か」 俺は知らぬ間に小さく呟いた。 題名のない、長門の小説。 およそ長門自身が主人公の物語で、物語にしてはオチがついていないような不思議な終わり方をしていた。 だがもっと不可解なのはその内容である。なんの隠喩があるのか、はたまた何の意味もありゃしないのか。長門のことだから意味がないというのは考えにくいのだが、しばしば長門が会誌を開いて読んでいる姿を見る度、なんだか俺は言い知れぬ不安を覚えてしまうのだ。 それは今も一緒で、俺の必然的に養われてきた長門観察眼が確かならば、長門の頭上には閃きを示すビックリマークではなく、 「はてな?」 という言葉と共にクエスチョンマークが浮かんでいるのが見える。 ……長門、適当に思わせぶりだけしといて自分でも何がなんだか分からないなんてのはナシだぜ? それはまあ置いといて、最近の長門は少し気にかかる。単に宇宙人として弱体化しているからだとかいったことではなく、ただ、なんとなく行動が妙なのだ。まるで俺たちに何かを伝えようとしているが叶わないといった感じで。 もしかして周防九曜が言っていた、長門の中の止まった時間ってのに何か関係が……。 ん、そうだった。この話はまだしてなかったな。前の分の回想だけでは消化不良な部分も多々あるので、今からあれに続く話である、後日の喫茶店での佐々木たちと俺たちの会談を思い返してみようと思う。 そこには喜緑さんではなく、病床から復帰した長門が列席している。俺たちは安静にしているよう諭したのだが、長門は今回の事件の際に自分が倒れていたのを申しわけなく思っていたらしく、「今度は私がみんなの側にいる」と言って聞かなかったのだ。 そして話は、みんなが喫茶店に揃い、それぞれ並んで席に着いたときから始めることにしよう。 俺たちとテーブルを挟んで相対した佐々木たちは、佐々木以外、三者三様の沈黙を貫いていた。言葉が出たのはウェイターに飲み物を注文した古泉の台詞程度で、それからしばらく沈黙が続き………… 「キョン、先日はすまなかった。最後の最後で取り乱してしまって。つくづく己の精進不足に気が滅入るところだ。なにかキミに対して非常に身勝手な言葉を漏らしてしまったように思い返されるんだが、本当にキミには平身低頭して詫びるよりない」 沈黙を破って佐々木が発した言葉に不意をつかれた俺は、「んぁ」と言葉にならない声を漏らし、 「……佐々木。それはお前が気にすることじゃない。謝るのもこっちだ。それにさ、そこらへんについてはもう言わなくたって、お互い何を考えてるかはもう解ってるんじゃないか?」 佐々木はくっくっと可笑しそうに笑い、 「そうだねキョン。このまま続けていると、また押し問答になりそうだ。よかろう。理解した。だがね、最後に一つだけ言わせてもらうよ」 と、佐々木は微笑みを崩さぬままSOS団全員をするりと見回し、 「みなさん。今回は私のせいで迷惑を掛けてしまって、ごめんなさい。そして……」 ちらりと俺へ目配せした後、お辞儀をしながら、 「ありがとう」 言い終えて顔を上げた佐々木の表情は心の底から澄み切っているような輝きに満ちていて、そんな佐々木の静やかな笑顔に、俺は自分の胸の内で何かが呼応したような心地を漫然と覚えていた。 そして俺の隣の朝比奈さんはあわてるように、 「わわっ、迷惑なんてそんな……とんでもないです。それに、これは……」 と藤原を見て沈黙した。続いて、通路から見て席の一番奥に据わっている古泉が、 「僕にも佐々木さんから謝辞を賜る資格は到底ありません。僕が所属する機関も、こうなる前にもっと貴女に対して目を向けるべきだったのですから。勝手ですが、これからはそうさせて頂くことにします。ね? 橘さん」 そう如才なく言い放つと、恐縮という言葉をこれでもかと体現しながらうな垂れている橘京子に右手を向けた。 「彼女は事情により、僕たちの機関を手伝って頂くこととなりました。経緯についてはご自分でお話しされますか?」 こくんと首肯する橘京子の挙動には、思わず「大丈夫か?」と気遣ってしまうような愁傷さが溢れている。 「……佐々木さんの閉鎖空間の消滅と一緒に、あたしたちの能力も消失してしまいました。多分、もう佐々木さんの閉鎖空間が発生することはないと思います。なので、あたしたちの組織には、もう存在する理由がありません」 だからって、そんなに落ち込むことはなかろうに。 「あ、いいえ。それで落ち込んでいるんじゃないの。ただ、あたしたちは利己性を否定しながら行動していたのに、むしろ誰のことも考えていなかったという事実に対して申しわけなく思っているのです。あの頃はあれが絶対に良いことだって信じてやまなかったんだけど、終わってみればあたしは佐々木さんを傷つけただけでした。……本当にごめんなさい」 ズズンと背景の暗闇を重くさせる橘京子に俺は少々憐憫の情を抱き、古泉は「続きを」と促した。橘京子は首がそのままポロリといきそうなほど力なく頷き、 「……あたしの組織の一部は、あたしを含めて古泉さんの機関に併合させてもらうことになりました。これからあたしは、佐々木さんの傍にいて心のケアをしていく役目を果たそうと思います」 言葉を終え、再びシュンとする。外様大名というよりは、借りてきた猫ってところのような気がするね。 そんな橘京子の姿を見ていた古泉が佐々木に微笑みかけると、佐々木は応じたように、 「橘さん。お願いだから、そんなに落ち込まないで。それに、そんな形式的な関係はナシにしない? 監視されてるみたいで、逆に心がまいってしまうもの」 「ふぇ……」 橘京子は佐々木へと振り向き、その表情は今にも泣き出しそうである。佐々木は橘京子を見つめてニッコリと、 「だからね、友達。そんな関係として、私からもお願いして良いかな? これからもよろしくね」 「佐々木さん……」 クスンクスンと若干嗚咽をまじえながら、佐々木の言葉を受けた橘京子はすすり泣き出してしまった。背中でもさすってやろうかと思ったが、その仕事は隣にいる佐々木が担った。 ……色々あったが、これで橘京子に関しては一件落着だろう。 残るは、 「…………」 「――――」 もしかしたら長門と無言の会話をしているかもしれない周防九曜と、 「…………」 これまた無言で不機嫌そうに横柄な態度を取っている未来人、藤原だ。 俺が藤原を難渋な目つきで見ていると不意に視線がぶつかり、藤原は特に興味がないといった感じで面を返した。俺はなんとも居心地が悪くなったので、 「……藤原。聞きたいことがある」 「ふん」 鼻で返事をされてしまったが、聞きたい内容の重要度にくらべたらどうでもよく思えたので特に構わず、 「お前は天蓋領域……いや、周防九曜の存在に関して、一体どの程度まで知ってるんだ?」 「無意識概念集積体」 ――うん? と、SOS団の全員が一様に藤原の言葉の前に停止した。それにかまわず藤原は話を続け、 「あれに名称を付けるとしたら、そんなところだ。そちらの喜緑とかいう人形の操り主は……情報統合思念体とか言ったか? それの対極に位置するような存在だろう。情報統合思念体とやらが情報生命の連なりとするなら、あれは無意識の領域から発生した概念の集積物みたいなものなんだ。もっとも、結晶というよりは雲に近い。その性質上、無意識概念集積体の端末には思考するという観念と個別の存在に対する認識が欠如している」 ほう。と、俺と古泉は承知したように頷き、俺よりももっと良く理解しているであろう古泉が藤原に、 「……なるほど。彼女を見ているとそれも納得できます。しかしその物言いによると、あなたの未来には情報統合思念体が存在しないように聞き受けますね。そこはどうなのでしょう? ――それと、彼女たちを人形などと呼ぶのはやめて頂きたいのですが」 ……古泉がそんなことを言うってのは、こいつにはもうSOS団を裏切るかもしれないなんて懸念はないんだろうな。きっと。いや、確信を持って言える。ない。 古泉の質問と要求を受けた藤原は怪訝そうにしながら、 「……この周防九曜のような端末は存在するとだけ言っておこう。あれについて、僕が話せるのもここまでだ」 「ちょっと待ってくれ」 俺は言葉を挟み、 「お前、周防九曜の頭に妙な髪飾りを付けた後で指示を聞かせていたよな? あれはどういうことだ?」 「ふん。禁則事項だ」 「なっ……」 俺が言葉を失っていると、藤原は「ふくく」と笑いを堪えたような声を漏らし、 「……はっ。ふざけてないで、答えてやるとしよう」 ふざけるなこの野郎である。 「あれは無意識概念集積体の端末にこちらの意識を繋ぐ同期型装置だ。あの媒体には、人型端末の外的制御と個体が持つ情報操作能力を制限する働きがある」 「じゃあお前らは、そうやって周防九曜みたいなのを意のままに操って悪さをしてるのか?」 「悪さだって? はっ、笑えない冗談はよしてくれ。怒るしかなくなる。それに、キミは何もわかっちゃいない。端末を制御しているのは自己防衛のためでもあるんだ。それに一つ言っておくが、僕だってああいう風に人型端末を操るのは嫌いだ。まったく気分が悪い。だから任務が終わった今、既に周防九曜は僕たちの制御下には置かれていない」 俺はギョッとして、 「……悪い冗談はよしてくれ。俺がまたあいつに拉致られでもしたら、今度もお前が助けてくれるってのか?」 「こちらの関知するところじゃない。キミを助けるのに、もう理由はないんだ」 ……なんて奴だ。という驚愕をこれ見よがしに藤原に見せつけていると、 「話をちゃんと聞いていたのか? あの髪飾りには能力を抑制する効果があると言ったはずだ。それと同時に操り主からの接続も遮断している。つまり、こちらから干渉しない限りあれが何かをしでかす心配はないんだ。それに人型端末をその状態に置いておくのは、僕たちにとっては至って普通の対応だ」 そう言いながら隣に座っている周防九曜を一瞥し、 「――しかし、この端末はキミに対して関心を持っているみたいだな。まあ危険性はない。安心するといいだろう。せいぜい付きまとわれる程度だ」 待て、そういうのはストーカー被害っていうんだぞ。夜にうなされそうじゃねぇか。不眠症になったらどうしてくれる。 「僕が知るか。勝手にうなされでも、不眠症にでもなってりゃいい」 ……まあ確かに、藤原に訴えたとしてどうにもならない気はしている。だがそれでも、周防九曜本人に言ったところで更にどうしようもないだけだし。まったく、俺はどうすりゃいいんだろうね? 俺がやれやれとばかりに嘆息していると、突然横から、 「それなら、私に任せてください」 最近になって特に聞き慣れた声だった。俺はその声の発信元を視認して、 「……喜緑さん?」 「ご注文の品をお持ち致しました。皆様どうぞごゆっくりお寛ぎ下さいませ」 喜緑さんはホットコーヒーを並べながら、ほんわかした笑顔で俺に微笑みかけて、 「安心して下さいね。私が彼女を見張っておきます。今の九曜さんなら、私にも抑えられるかと思いますので」 いやぁとても頼りになるんですが、喜緑さんに頼るのも男としてはどうなんでしょうね。それでいいのか俺。 「お気になさらずに」 ニッコリと喜緑さん。 まあ、とにかくだ。俺は長門と無限にらめっこ中の周防九曜に目をやりながら、 「藤原。大体なんでこいつは俺にちょっかいを出して……いや、出してないとも言えるかも知れんが、周防九曜は俺の何が気になるってんだ」 藤原はさもつまらない話をするかのように、 「無意識概念集積体は、人間の内の意識でない領域に惹かれやすい。そしてこの端末は、キミのその領域に潜むものに関心があるみたいだな」 「俺の中に、なにか潜んでるってのか?」 「……ふん」 む。それはアホを見る目だぞ。俺を見てくれるな。 「この端末にからすると、時間の流れが遅いもの……ってところだ」 「……もしかして、時間を操る能力みたいなもんがあるってのか?」 まさかな。自分で言ってても、あまりにもバカげてる話だと思うぜ。 それにそんな能力があるならなぜみんな今まで……。 ――いや、待てよ。ひょっとして今まで、みんなは俺の強大すぎる(多分)力をハルヒみたいに自覚させないようにしてたんじゃないか? ……困ったな。これはありえん話じゃないぞ。元より俺はこのSOS団にどうして所属しているのかが不思議な位に不思議さが皆無だ。だが、やっぱり俺にも何か特殊な要素があったってのか? 「……まさか、本当に俺にそんな力が、」 「それはありません」 一つの声にしか聞こえないほど見事に古泉と喜緑さんの言葉が重なった。爽快な程にキッパリと言ってくれるのでむしろ気持ちが良いね。それに第一、俺はこのポジションが気に入ってる。仮に俺に力があったとしても気付きたくはないし、そんなもんはいらん。 カップを置き終えた喜緑さんはペコリと一礼してテーブルを離れ、その後には、くらりとくるような微芳香と少しの静寂とが残された。するとそこから漏れ出すような声で、 「――――今なら、確認……」 もちろん周防九曜である。こいつは変わらず長門を見つめながら、 「あなたの――時は―――止まっている………」 長門が「ひでぶ」などと言い出さないか不安になったが、長門は眉をピクリとさせただけだった。 周防九曜は微動だにせず、 「――綺麗ね……」 ………………。これは全員分の三点リーダ。もう後は笑うしかない程に意味が不明である。当の長門は、 「………?」 ポカンとしたような無表情を俺に向けてきた。長門よ、笑っとけ。 そうこうしている内に、朝比奈さんが「あの、」と、ビクビクしながら藤原をちらちら伺い「ハカセ君……じゃなくって、時間平面理論の少年が……橘さんの組織の車に撥ねられそうになったのは、そちらの未来の規定事項だったんですか……?」 ――そういえばそうだった。モスグリーンのワンボックスカー。ハカセ君は俺があのときとっさに行動しなけりゃ、危うく死んじまうところだったんだ。こればっかりはごめんねじゃ済まされん。この罪は重いぞ。俺だって死にかけてる。 俺は明らかな非難の目を轟々と藤原に向けていたが、「……その、」と、いつの間にやら泣き止んでいた橘京子が心苦しそうに、 「あれは……あたしの組織の中で、未来人を毛嫌いしている派閥が起こしたことなのです。あの少年がいなかったら、未来人は過去に来れないって話を藤原さんから聞いていたから。……正直、現代を生きるあたしたちにとって未来からの干渉は脅威でしかありません。でも、だからってあの子をどうにかしようなんて……」 またもや泣き顔になっていく。こいつは悪くなさそうなので気遣ってやろうと思ったが、 「あんたが気にすることはない」 意外な人物が慰めるような言葉をかけた。そいつは続けざまに、 「キミたちはよくやってくれたよ。僕たちは、それを起こすために少年の情報を渡したんだ。あれは朝比奈みくる側に少年を助けさせるための規定事項でね。あの殺人未遂は、他の未来人から少年を守るために必要だった」 わけの分からない理屈を言い出した。俺はしかめっ面で、 「何言ってんだ。守るってんなら、なんでわざわざ他のヤツに襲わせたりしやがる。それに、そうなるように仕向けておきながら、実はこっちに助けさせるのが目的だったってのはどういった了見だ。他力本願な愉快犯のマッチポンプだってんなら話は別だがな」 若干語気を荒げながらの話を藤原は黙って聞いていたが、話が終わると頬杖をついたまま、 「はん。じゃあキミは、見ず知らずの人間から突然『あんたは狙われているから気をつけろ』なんて言われて、そいつの言葉を本気にするのか? 僕なら、逆にそいつが不審人物に思えてしょうがないね」 俺に向けて手をヒラリと返すと、 「わかるか? 少年にちゃんと周囲を警戒させるのには相応の状況が必要だったんだ。しかも、これは朝比奈みくるの上層部と示し合わせて実行したことだ。文句なら、そちらの未来人に言ってくれ」 「……上の人が、そんな…………」 驚き入って茫然とする朝比奈さん。それは俺も同じだったが、「そうだとしても」と糾問を止めず、 「もしあそこでハカセ君が死んじまってたら、お前らも朝比奈さんも困るどころの騒ぎじゃなかったはずだ。車の運転にも、俺が助けることにも万が一ってのがあるだろう」 そうだ。未来ってのが固定されていないなら、ハカセ君と俺が死んじまう事態だって起こり得たはずだ。それなのに、大人の朝比奈さんは藤原たちと結託して、それを俺たちにやらせたってのか……? ……俺の中に抱きたくもない感情が発生していると、藤原は「そんなヘマはしない」と言いながら、どこか思いつめたように、 「未来の規定事項は、過去の膨大な記述統計学に基づく多変量解析によって実行されているんだ。そして、それによって僕の予定表も作られている。他の未来人の邪魔が入ることはあっても、それによって導き出された答えが間違うなんて考えられない。しかし……」 「しかし、なんだ?」 と俺が求めると、藤原は俺を睥睨しながら、 「キミを周防九曜から助け出さなければならないというのは、僕の予定表には入っていなかった。それは、僕たちの分析に誤りが生じた可能性があるということだ。そうなれば、それによって導き出されていた……佐々木を過去に連れて行き、現在を変えるという目的が達成されなくなってしまう恐れがある。だから僕たちは、例え重大なルール違反を犯すことになろうとも、より確実な方法で目的を達成せざるを得なくなった。涼宮ハルヒの能力によって世界を修正し、そして能力を消してしまえば、僕らは正しい世界で過去に行くことが出来るようになるんでね」 「……つまり、それが前回の事件を起こしたきっかけというわけですね」 藤原の話を聞いていた古泉が納得したように言い放ち、そして納得がいかないといった感じで、 「ですが、あなた方が当初予定していた佐々木さんを過去に連れて行くといった行動も、そもそもが重大なルール違反だったのではないですか? 佐々木さんを通して過去に干渉するにしても、今の佐々木さんを過去に連れて行くこと自体が間接的とは言えないでしょう」 「違反には変わりない。が、それは許容範囲内だ。むしろ結果を考えれば、最初からやっておくべきだった」 そうやって俺に顔を向け、 「……佐々木とキミは、将来もっと親密な関係になる予定なんだ。が、その未来を脅かす存在が発生した。当然、それは涼宮ハルヒ以外にいやしない。本来キミと涼宮は、歴史上では単なるクラスメイトの関係以上にはなり得ないんだ。……しかしキミは涼宮に接触し、しかも時間が進むにつれ、キミたちの距離はどんどん近くなっていっている。それによって、将来の佐々木とキミの関係が失われる可能性が強く示唆されていたんだ。そしてここで、組織から一つの対策が生まれた」 それは何か、と前置きし、 「過去のキミと佐々木との関係性を強めて、未来の二人の関係を守ろうという計画だ。そうすれば、その歴史の過程には涼宮ハルヒが時空の断裂を生み出す瞬間は生じない。つまり、二人の間に涼宮ハルヒが入り込まないように対処すれば、時空の断裂は生まれないということだよ」 「ちょっと待て。俺と佐々木がある程度話すようになったのは中三の頃だ。ハルヒの能力が発現したのはあいつが中一のときだったんだろ? 俺と佐々木の関係が始まる前からハルヒの能力は発現してるじゃないか。それは辻褄があってないんじゃないのか?」 俺が言うと、藤原は微量の困惑を顔に浮かべ、 「……キミの言う通り、キミと涼宮ハルヒが出会ったのは能力発現の後という問題が出てくる。しかし、問題といえるのはいつだって涼宮ハルヒの存在だろう。あの女は時間の歪みの原因……説明としてはそれで十分だ。キミと涼宮ハルヒの関係が時空間に影響を及ぼしたのは間違いない」 まったくわからんが、こいつも正直良くわかってないようだ。まあ……ハルヒはいつもややこしい事態を起こすってことか。 「だが」と俺は、「なんで佐々木を過去に連れて行く必要があるんだ。普通の未来人の間接的な干渉方法じゃダメな理由でもあるのか?」 これを聞いた藤原はジト目で俺を見ながら、 「……キミたちは未来の自分という特殊な存在から話を聞かなければ、自分の気持ちを認めるどころか、気付こうとすらしない。これは確かな分析によって裏付けされた結果だ。……その分析の信用も落ちてしまったが、現にキミは今でも認めていないというのがその証拠だ。そして過去の修正へと踏み切った僕たちは、この喫茶店でキミと会合した後で佐々木に話を持ちかけた。過去の自分に会って、今の自分の気持ちを教えて見ないかとね。その話をしたときも嘘はついちゃいない。ただ、世界が変わることについて否定も肯定もしなかっただけだ」 「道理でだ。あいつが今を変えちまうことをハナっから聞いていたら、絶対に話に乗らなかっただろうからな」 「しかし、彼女はそれを望んだじゃないか。その意味が分かるか? キミへの想いに気付かなかったのを佐々木は後悔してたのさ。そして、キミが今も佐々木に対しての昔の自分の想いに気付かないのは何故だか教えてやる」 む、と俺は押し黙り、 「キミの中の佐々木がいた場所に、現在は涼宮ハルヒがいるからだ。上書きというのは厄介でね、忘却よりも強力に情報を消し去ってしまう。キミが今涼宮に感じている想いは、以前の佐々木に対する想いと同じなんだ」 何言ってんだこいつは。俺は中学の頃、ひょっとして佐々木の目の前に猫じゃらしを垂らしたら飛びつくんじゃねえかとか思わなかったし、実際にやってみたとしてハルヒのように握りつぶしてくるとも思えん。 俺が悩ましい顔をつくっていると、 「まあ、実際は涼宮ハルヒの数値が拡大しているだけで、佐々木の数値が消えたわけじゃない。だから、キミもいつか気付くだろう。それに佐々木が過去の自分に会おうと思ったのも、涼宮がキミの隣にいたせいだ。いや、これはおかげというべきか。僕にとっても佐々木にとっても良い……」 コホン。藤原の話が終わる前に佐々木は大きな咳払いをし、 「……その、なんというか……論議を交わすのは素晴らしいと思うのだが、少々周りを見てみてはくれないか? こんな場所でその話をされてしまうと……うん。ここには、顔を赤く染めなければならない女の子がいるはずだが」 耳まで真っ赤にしている佐々木が珍しくモジモジとした口調で喋っている。佐々木は藤原を見て、 「それにね、その件については、既にカレとは話がついているんだ。そしてキミにはすまないのだが、僕はもう過去に行こうとは思わない。約束を反故にする形となってしまうが、どうか分かって欲しい」 「ああ、構わない。どのみち、キミが行きたいと願ったところでもう叶えることは出来ない。僕たちの行動は規約違反の罰則によって著しく制限されている」 そう言う藤原を俺はしげしげと見ながら、 「……どうだかな。やろうと思えば強引にでもやっちまうんじゃないか?」 「出来やしない。僕のTPDD……時間平面破壊装置は没収されている。それに、僕たちは罰則をきちんと受ける」 「どうだろうね。またルールを破って周防九曜を操って行動を起こすかもしれん」 「……はっ」とふてくされたように、「未来人の中でも僕たちのような組織は、世界の調律のために存在するんだ。それぞれの未来人が強引に過去へと干渉したら、それこそめちゃくちゃだ。そうならないように、未来人同士で規則が設けられている。そして僕たちは嘘などつく真似もしなければ、本来規則を破る行為など絶対にしない。自らの存在の意義に反するからだ」 「佐々木まで巻き込んで、あんな事件を起こしときながらよく言えるもんだ」 藤原は「ぐ」っと言葉をなくし、バツの悪そうに、 「……あの僕の任務はルール違反だったが、何故朝比奈みくる側がキミたちを送り込んできて僕の邪魔をしてきたのか未だに理解できない。彼女たちにとっても、過去に行く方法はあれしかなかったはずなんだ。それに、キミたちだって涼宮の能力が消えたところで困りはしないだろう」 ……確かに、あのときは朝比奈さん(大)には何も聞かされず藤原がいた場所に向かわされたな。それに、俺たちにとって大事なのはキングではなくクイーン……ハルヒの能力じゃなくて、ハルヒ自身なんだし。 が、それがもし消えちまってたら、朝比奈さんは未来に帰っちまうのか? それに、古泉の機関はどうなるんだろうか。ああ、長門は多分残るだろうね。情報統合思念体のそもそもの目的はハルヒの観察だ。だから事件の際、思念体は協力してくれたんだろう。ハルヒに余計な刺激を与えないように。 「それに、」と藤原は悩ましげに「朝比奈みくる側は当初、僕たちが現代を変える計画にも難色を示していた。意味が解らない。あれは正しい歴史を迎える為の数値に調整する計画だ。現在のバカげた世界を正しくした上で、僕たち未来人は凌ぎを削れば良い。それにこのままでは、近いうちに全ての未来にとって危険な分岐点を迎えてしまう。『彼女』は規則が設けられている意味も知らず、ただ規則に盲従するだけの木偶じゃないと思っていたが、違ったようだな」 なんとなく大人の朝比奈さんへの評価は良いらしい。が、 「そりゃ、それでも朝比奈さん側は過去を変える行為に抵抗があったんだろうし、朝比奈さんの行動は今のハルヒに関した規定事項とやらが大半だ。それに、俺たちは今を大切にして、その大きな分岐点とやらに正々堂々と立ち向かってやる。そのためにはSOS団が必要だし、過去を変えて現在を修正するっていう反則はやりたくなかったんだと思うぜ。ハル……SOS団が大事だってのは、団員にとっても同じだ」 俺の古典的な決意表明に藤原は「くだらない」と言いやがり、 「キミたちにとってその組織は大事なのかも知れないが、朝比奈みくるにとっては違う。情報統合思念体とやらの目的は能力が発現した場合の涼宮の観察で、そこの超能力者の目的は彼女の保護だろう。彼らにはキミたちのお遊びが多少は有益かもしれないが、僕たち未来人にとっては茶番でしかない。朝比奈みくるの目的は何だったか覚えているか?」 「そりゃハルヒの…………」 と、俺は口を開けたまま停止してしまい、藤原は朝比奈さんに向かって、 「朝比奈みくる。きみはよもや、手段と目的を間違えていやしないか? キミがSOS団とかいうグループに入っているのはキミが未来人だったからで、それだけでしかない。それとも、キミが彼と仲良くしているのは、彼を過去に連れて行き過去の数値を調整するためなのか? だが、それももう叶わなくなっているはずだ。彼はSOS団とやらに相当浸ってしまっている。例えそれが変容した世界でも、彼は本当の世界よりこちらを選ぶだろう」 ――これには絶句せざるを得なかった。俺はかなりのマヌケ顔で凍っていただろう。 前に古泉も言っていた。朝比奈さんは俺を篭絡させることが目的だと。 それは、俺を過去に連れて行くための……本当の話だったってのか? だが、今は……、 「違います!」 朝比奈さんが渾身の否定句を飛ばし、 「……あたしたちの未来を導くには、現在、SOS団の皆の協力が必要なんです。それに……」 世の男共を瞬間ノックアウトさせるような悲しそうに潤んだ瞳を俺に向け、 「あたしが……あたしとして持っている気持ちとしても、みんなはとっても大事な人たちです」 「朝比奈みくる」 と、藤原は朝比奈さんの宣言に感動を起こす暇も与えずに、 「僕たちがここにいる理由は時空の歪みの元である涼宮の調査だ。そして、それは過去に行く為の手段を模索するためで、過去に行くことこそが目的だ。そして、既に結果は出たじゃないか。たとえ過去を修正して情報統合思念体の端末がそれを妨害しようとしてきたところで、こちらの端末でそれを鎮圧すればいい。つまり、あんたたちが僕を妨害する意味などなかった。むしろ逆効果だ。そのせいで、涼宮ハルヒの能力を消して過去へ行く方法と、佐々木を過去に連れて行き現在を修正する方法も今では不可能になってしまった。ふん、攻めはしないさ。形式的には僕の行動の方が間違っている。……しかし、結果はその限りじゃなかったとだけ言っておこう」 少し落胆したように話す藤原に、 「……一つよろしいでしょうか?」 と古泉が話しかけた。古泉は藤原の返事も待たずに、 「もしその歴史が修正されてしまえば、現在の佐々木さんは存在しないはずです。これはタイムマシンのパラドックスと同じで、居ないはずの佐々木さんをどうして過去に連れて行けるというのでしょうか」 疑問の質問に応じようとする藤原からは哀愁の色が消え、またさっきまでの横柄な態度を取りながら、 「佐々木を過去に連れて行くのは可能だ。この時代の人間に分かりやすく説明するなら、そうだな……テレビゲームというやつが捉えやすい。個別にセーブされたデータは、以前のデータが変わってしまったからといって後のデータに影響を及ぼしたりはしない。すべてそのデータ内で行われることだ。これが時間平面理論の基礎だというのは理解できるな。そして僕たち未来人は、いわばゲームのクリアデータってところだ。そのデータで過去の物語に入り込むから、僕たちはキミたちの知らない情報、アイテムを現代に持ち込むことが出来るというわけだよ」 「待てよ。おかしいじゃないか。だったら、過去を変えたって未来にはなんの影響もないって話になる。お前の行動の理由にはならないはずだぜ」 藤原はやれやれといった感じで、 「言っておくが、未来はまだ確定しているわけじゃない。だからこそ多様な未来人が存在し得るんだ。これはつまり、逆に未来が確定した瞬間が未来人の最期だということになる。【選択された未来の歴史によって他の未来の歴史は上書きされてしまうために、選択されなかった未来は消えるんだ。】このように、分岐点での選択によって未来の決定は成されている。だから僕たちのような未来人は、選択肢を自分の存在する未来に繋げるために動いているってわけだ」 「ほう。それはつまり、『平行世界は存在しない』ということを示しているのでしょうか? そして、過去と未来は関連しているが、時間平面は独立しているために未来は過去に干渉し合えるというという」 「概ねその通りだ」 藤原は何かを理解し始めた古泉に、 「時間平面破壊装置はこの理論に基いている。これはあの少年が構築した理論だが、実際は元々世界に存在していた法則を発見しただけに過ぎない。つまり、人間によって創造されたものなどは存在せず、僕たちの世界には最初から全てが存在しているということだ。……だから涼宮ハルヒの創造能力は、不明なものを明らかにするだけの能力と考えられていた」 「うん? 過去形になってるようだが、それは間違いだったってのか?」 俺の質問に、藤原は悩ましげな顔と低調な声で 「……ああ。大間違いだ。時間平面が独立しているという考えは本来矛盾しているんだよ」 「そんな、時間平面の理論体系は完全に成立しているはずです。その理論が正しいから、時間平面破壊装置が機能しているんじゃ……」 「なっ……」 藤原は朝比奈さんから豆鉄砲を食らったように目を丸くし、その数瞬後にはまくしたてるように、 「はっ。これは驚きだ。信じられないな。成立してしまっているから全ての矛盾が発生しているんじゃないか。それすら知らされてなかったとは、キミはまさに人形だ。そうだな、キミにはお茶運びのからくり人形が適任だ。せいぜい涼宮ハルヒに遊ばれているがいい。ふん、ちっとも笑えやしない」 ……本気でぶん殴ろうかと思った。こいつはインターフェイスを人形と呼ばなくなったと思いきや、朝比奈さんに対しては極めて明確な嫌悪の情をぶつけてきやがる。俺は「ひう」とたじろいだ朝比奈さんの代わりに、 「意味がわかりかねるな。時間平面理論ってのは物理法則なんだろ? それに矛盾があるなら、この世界は崩壊しちまうんじゃないか?」 藤原は眉をしかめて、 「むしろ世界を崩壊させないために矛盾が発生している。本来この三次元の世界は、箱の中に満たされた『光』みたいなものであるべきなんだ。そして、僕らの物質的なTPDDはその時間の性質を応用して機能している。元になる理論体系は、この世界を『面』の集合で捉えた時間平面理論とは違い、『点』の集合で捉えた理論だ。そして、『点』の理論を元にしたTPDDが機能しなくなったのは『点』の理論が崩壊しているからだというのが判明した。世界人仮説という、一つの理論によってね」 「……世界人仮説?」 「世界を『人間』に見立てて考えた理論だ。つまり、『人間』は色んな形から形成され、時の流れによって存在する。人は生まれてから一本の道を歩み、そして体と情報は伝えられていく。人生とは時の流れの連続であり、生まれてから死ぬまでの一本の線なんだ。……そして、この世界人仮説を唱えた者によって、新たな次元の存在が展開されている」 「新しい次元?」と俺。 「それは他人という『異次元』だ。世界人仮説では、進化には『他人』と関連しあうことが必要であり、存在同士が対になることによって進化という現象が促されると考えられている。物質と物質、人と人が惹かれあうのは当然で、他人と関わる行為こそが『進化』するためには必要。世界は、そうやって作られているんだとね」 ……ん? それって、情報統合思念体にとっての自立進化がどうのとかのヒントなんじゃないか? 「……長門。お前、藤原の話聞いてどう思う?」 長門は俺をゆるりと見やると、 「意味が解らない」 本当に解ってなさそうだったので、 「理論的なもんはお前の専門じゃないか。藤原の話が間違ってるのか?」 長門はふるふるとショートヘアを揺らし、 「そうではない。彼の理論は人の言葉によって作られている。つまり、理論形成がとても人間的。彼の主張が正しいのかどうかすら思念体には理解出来ないということ」 「く」 藤原は長門の言葉を聞いて息が詰まったような笑い声を出し、 「――はっ。人間的か。……くくっ、確かにその通りだ。ふくっ、この世界人仮説を作ったヤツはある意味でひどく人間的だ。はっは、それが理論にも漏れ出し……くっ、あんまり笑わせてくれるな……。それに長門、あんたはそうやって静かにしているほうが似合っている。ははっ、不気味でもあるが……くくく」 笑い過多な台詞を吐くな。それに馴れ馴れしい。しかも、笑っている理由がまったく不明である。 「それに、まさかあんたも人型端末だったとは驚きだ。『アレ』は今も大事にしているのか? 僕がちょっと触っただけで……と、これは禁則だ」 もしかしたらセクハラの内容かもしれない話をしている藤原に、 「…………?」 長門は、サイズ的には特大の称号を与えられるクエスチョンマークを頭上に浮かべている。 そんなやり取りをしている間、ずっと思案顔を浮かべていた古泉が、 「世界人仮説によって、どのような時間平面理論の矛盾が指摘されるのですか?」 「現在の次元の構成が変わってしまっているということ、それにより世界の法則が変容してしまっているということだ。現在の次元の姿がどういったものなのか……説明が面倒だな。仕方ない。九曜、キミの手を貸りるとしよう」 藤原が「頼む」と周防九曜に声を掛けると、周防九曜の眠たそうな瞳には生気が灯され、 「―――指定空間座標認識。極局地的光学式理論形態模型、展開――」 第三章