約 2,287,813 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2584.html
「・・・ごめん。心拍数および血圧が異常な上昇をみせた。大丈夫。問題ない」 本当かよ。 ともかく、俺はやりすぎちまったようだ。 まさか長門をからかうと鼻血を出してぶっ倒れちまうなんて、親御さんの情報統合思念体とかいうやつすら知るまい。 「悪かったな、長門」 「いい。・・・いつか、必ず・・・」 何か言いかけた長門は唐突に口を塞ぐ。 「今はとにかく、眼前の懸案事項を片付けるべき」 Sing in Silence 涼宮ハルヒの融合7 ――――――そして月曜日。 作戦決行日がやってきた。 例の下着類は長門が紙袋に入れて持ってきてくれる手はずになっていたので、俺は特に準備するものも無く登校・・・したんだが、心の準備くらいはしておくべきだったね。 凄く反省してる。 なんてったって、俺の後ろの席に「涼奈みるひ」の席が無かったからな。 おまけに朝比奈さんが居たであろう3年生のクラスにも居らず、挙句の果てにこの学校にそんな生徒は創立から現在に至るまで居たことは無いらしい。 しかしながら。 SOS団はこのみるひという生徒が北高に居ない世界にも存在している。 何故か。 それは。 「ごめんなさい!遅れました~。教職員会議が長引いちゃって・・・。さぁ、始めましょう。ミーティングを」 涼奈みるひなる女性はこの学校の生徒でもなく、ましてや卒業生でもなかった。 ・・・彼女は、この学校の教員だったのだ。 どうやら彼女はこのSOS団顧問にして、団長と言う位置づけらしい。 まさかこの絶世の美人が女教師だなんて先週は思わなかったぜ。 「・・・やれやれ」 「あーっ!キョンほら、そんな風に人生を達観しちゃってるから、薄幸そうなオーラが出ちゃうのよ。しゃきっとなさい!」 この世界でのSOS団の存在理由。 宇宙人と未来人と超能力者を集めて遊ぶでもなく はたまた世の中の不思議を探すでもなく 『薄幸そうな生徒を集めて、皆で遊ぶ』 ただ、それだけらしい。 俺、薄幸そうに見えたのか。 長門や古泉ならともかく。 「さて、ただ今より S生徒達がより明るい生活を送るため Oオリジナリティー豊かなイベントを提供する S涼奈みるひの 団 月曜日定例ミーティングを開始します!」 パチパチパチパチ・・・と拍手か賛辞でも送っておくべきなのか? おい古泉、この期に及んで無意味スマイルは辞めるべきだ。 長門も無感動を装うな! 「キョン?どうしたの?」 やばい。目立ちすぎちまった。 「・・・ふふふ、どうしたの?有希が気になるのかなぁ?」 そりゃ気になる。あんたが考えているであろうものとは別な意味でな。 長門、顔を赤らめるな! 「ふふっ。健全な恋愛というものも学園生活には必須なのよ?隠すこと無いわ、ほら、古泉君、キョンと席を替わってあげて。 キョンが有希の隣に行きたがっているようだから」 「それはいいアイディアです。どうぞ」 古泉、お前はこれ以上事態をややこしくしたいのか。 「大丈夫です。これしきのことで事態は悪化しませんよ」 何を小声で言いやがるんだお前は。 「さ、キョン座りなさい」 仕方ない。まあ長門が嫌なわけではないが。 「じゃあ長門、失礼する」 「・・・どうぞ」 「ああんもう有希ったら、凄く可愛いですよ!!」 まぁ、みるひが絶叫してしまうのもわかる。 確かに赤く俯き加減にある長門は非っ常に可愛い。 妖精だな。これは。 「ささっお二人、手を握りなさい」 っておい! そういや抱きついたり、胸に顔押し付けたことはあっても、手握ったことは無いよな。 なんだか無駄にどきどきしちまう。 ・・・それ以前にだ。 そもそもなんでおれは長門と仲良く手を握りっこしなきゃならないんだ? いや、改めて言うが長門が嫌とかじゃないんだけどさ。 こっ恥ずかしいよな。長期間彼女なし人間の男が美少女と手を握るなんて、そう機会は無いだろうし。 「・・・嫌?」 「握った方が良いか?」 「・・・握ってくれるのなら」 そして俺は、長門がおもむろに差し出してきた右手をぎゅっと握った。 「やーん!もう、二人ったらラブラブねっ!!」 お前がつなげって言ったんだろうが。 『聞こえる?』 ・・・長門? 『そう。貴方の神経に直接作用させることでこの会話を構築している。しゃべらなくて言い。・・・一種の念話だと思って』 ・・・了解。 念話まで使えるとはな。恐れ入った。 『ひとまず怪しまれないように涼奈みるひの方を見ておいて』 ああ、そうする。 『・・・貴方の記憶中枢の一部を精査・・・えっち』 って勝手に人の記憶を覗くな!! 『冗談。タイミングを見計らう』 下着はどうするんだ? 『私の足もとの紙袋に入っている』 無いぞ?紙袋なんて。 『既にビジュアルステルスシールドを一部展開させている』 なるほど。不可視状態か。 『そう。タイミングを見計らってステルスモードを解除するから、貴方は中から下着を掴んで涼奈みるひにぶつけて。パイの要領で』 「ちょっとキョン、聞いてるんですか!?」 ・・・おおっと。完全に聞いてなかったぜ。 「んもう!」 みるひは団長席にふんぞりかえりながらぶーと口を膨らませて怒った様なそぶりを見せる。 『どんな内容だったか言ってみなさい!』とか言われるのかと思い内心ビクビクしていると 「ごめんなさい、ちょっと今日は時間が無いの。古泉君か長門さんに聞いておいて下さい。人の話はちゃんと聞かないと駄目ですよ?キョン」 はいはい、判っておりますよ・・・おい、帰っちまうのか? 「じゃあ今日はこれで解散です!戸締りよろしくお願いします!」 長門どうすんだ!?行っちまうぞ? 『強硬手段に出る。私が直接ぶつける』 「強行って・・・おい!」 俺が止める暇は無かった。長門はみるひが一瞬窓のほうを向いた隙に紙袋のビジュアルステルスを解除し、それを思いきり空中高く飛ばして中身をぶちまけ、 重力制御か何かを用いて一度飛び上がった自分の手のひらに収束させ、バレーのサーブでもするようにこちらを向いたみるひの顔に向かってぶっ飛ばした。 ・・・そりゃないぜ、長門。 古泉はぽかーん。 俺もぽかーん。 下着塊を食らったみるひはもっとぽかーんだろうな。 「・・・っふわっ!!何この下着!ペッ!顔から剥がれない!?」 まだ長門の重力制御だか慣性制御だかが効いている様だ。あれじゃ匂いを嗅がずには要られまいな。 「・・・ふあっ、取れた・・・有希?・・・これをやったのは有希なんですね?・・・あなた・・・一体」 「・・・あれ?」 と長門。 ・・・匂い、嗅げてないのか? 「・・・あなた・・・説明してもらいましょうか」 つかつかと絶句する長門の元に歩み寄るみるひ。これはやばい。何故効かない!? 怒気満面の顔だ。 ドイツのナマハゲより怖い。 「有希・・・歯、食いしばりなさい」 おっと!制裁という名の体罰という名の制裁が来るのか!平手打ちか!? ・・・グーかよ。痛いぞそれは。 みるひはかなり力をこめ、長門を三回殴り、 「・・・あなたがこんなことをするなんて、思いもしませんでした」 と悲しげな表情で言い放った。 「・・・色々と理由があります」 「言いなさい。一体どんな理由なのか」 「・・・言えません」 ・・・再び長門を殴りやがった。1発、2発・・・って古泉! 「ちょっと・・・やりすぎです!」 古泉と俺は長門を殴り続けるみるひの腕を掴んで止めようとする。 それでもみるひは俺たちを払いのけ、蹲る長門へ容赦の無い打撃を見舞い続け・・・その、まるで何かの格闘ゲームのコンボを見ているような速さだった・・・ 十数秒後肩で息をしつつも拳のプレゼントを中止し、 「・・・今日は忙しいの。明日までに精々笑える言い訳でも考えて置いてください」 そう吐き捨てるように言って壊れんばかりの勢いで部室のドアを開け、出て行った。 ・・・これは。 もうヤバイを通り越している。 どこのレスラーだこいつは。 俺は恐怖に足をすくめながらも、ぶっ飛ばされた長門に駆け寄る。大丈夫なのか? 「長門、大丈夫・・・!ってお前!?」 「ちょっと、長門さん大丈夫ですか・・・あれ?」 拳の圧力で以って1メートルばかりすっ飛ばされた長門だったが、 むくっ、と何事も無かったかのように起き上がった。 そういやこいつ万能宇宙人なんだっけな。 「・・・頬をちょっと切っただけ」 「大丈夫か?」 「わりと」 そうかい。見た感じかすり傷程度だが・・・ 痛いんなら無理するなよ? 「大丈夫。舐めておけば直る」 口からそんな遠いところを舐めるわけにもいくまい。 それに、女の子にとって顔は命の次に大切なもんなんだろ? 「・・・そうでもない」 そうかい。 「でも絆創膏ぐらい張らせてくれ」 俺はポケットから絆創膏を取り出して長門の頬に張る。 ・・・妹から貰った奴なのでかなりファンシーなガラだがそれで勘弁してくれ。 「ありがと」 どことなく居心地悪そうな表情を浮かべ 「うかつ。キョン、貴方にやらせるべきだった。ごめんなさい」 謝られてもね。 「俺がやっていてもあんな風にボコボコにされてただけかもしれんぞ?」 そういうと長門は首を横に振り 「違う。貴方がやっていた場合、結果は変わっていた。・・・と思う。ただ、私が先ほどした風にやってもだめ」 やってもだめ、というか俺には重力制御は出来ない。 「・・・そういうことではない」 「つまり、何かが足りないってことなんだろ?」 「・・・おおむねそう」 長門、なんだか拗ねてる様な雰囲気だな。 「どうした長門」 「・・・なんでもない」 なんでもないこと無いだろう。 「・・・帰る」 「おい長門!?」 「・・・放っておいてくれると有難い」 長門、様子おかしいぞ、って待ってくれ! 俺の制止を振り切って、荷物を持った長門は勢い良く部室を飛び出していった。 あいつでもメランコリー状態に突入することってあるんだな。珍しい。 「仕方ありませんよ」 「そう・・・かもしれんな」 長門、明日までには回復してくれよ? そう思いつつ、俺と古泉は団長席の周囲にぶちまけられた下着類の回収作業をはじめたのであった・・・匂いで誰の持ち物か判別しながらな。 やばいぜ俺たち。 そして火曜日。 今日こそは決着をつけるべく、万全の体制で学校に来・・・たものの、今日はもろもろの事情で半ドン、昼までだ。 なんかいろんな意味でやる気がそがれたな。 ・・・とは言ってられんのが現状。 とにかく今日までにあの二人を分離させないと、長門いわく 「・・・これ以上私の身が持たない」 らしいし、古泉いわく 「僕の仕事、無くなっちゃいますから」 らしい。 おい古泉、お前の場合は仕事がなくなったほうが良いんじゃないか? 「それはまあ、そうですね」 相変わらず裏で何考えてんのか判らん仮面の笑みを浮かべやがる古泉。 「まぁ、僕は機関の構成員である以前にSOS団副団長です。本来あるべきSOS団をとりもどすことが僕の使命です」 同調しておこうかな。一応。 前回のように無計画ではいかんということで、長門立案実行俺、支援古泉なプランが作成された。 まず、長門と俺がみるひが部室に来る前に入る。俺は長門が作ったビジュアルステルスシールドで身を隠し、長門はみるひが来るまで待つ。 みるひが来ると、長門はビジュアルステルスシールドで隠れる俺からは死角になる位置に立つ。確実に長門はみるひにどやし付けられる筈なので、 長門は殴られようが蹴られようがひたすらそれを耐え忍ぶ。 そして、ころあいを見計らい俺が背後から飛び込み、みるひに二人の下着の匂いを嗅がせる。 そういう寸法だ。 ちなみに、古泉は長門謹製の昏倒棒(触れただけでも失神してしまう凶悪な棒切れ)を持って、俺が失敗した場合部室に突入し、みるひを失神させる手はずになっている。 ・・・大丈夫なのか?こんなんで。 「・・・恐らく」 「まぁ、こんなものでしょう」 そうかもしれんな。 「それより長門、また殴られることになりそうだが、大丈夫か?」 「・・・大丈夫」 まだメランコリー長門さんだった。 そんなに殴られるのが嫌なら、別な作戦にしようぜ。 「・・・そういうわけではない」 「じゃあどういうわけさ」 マリアナ海溝の奥底より暗い色を浮かべておられるな。 「・・・なんでもない」 「なんでもないことないだろう」 ああ、ちょっとしつこいな俺。 と俺自身がそう思った瞬間・・・ 「なんでもないったらなんでもない!!詮索しないで!」 長門の声が部室前の廊下の空気を文字通り切り裂いた。 その声はエアーカッターより鋭く、鉄工所のプレスより高圧で、バンシーの泣き声より物悲しい。 俺は猛烈な寒気に襲われた。 長門が怒っている。眼孔に涙を湛えながら。 俺がしつこ過ぎたから?それとも長門の心のデリケートな部分に触れてしまったからか? ともかく、これだけは言える。俺が悪かった。 「悪かった、長門。すまん」 「・・・・・・」 プイ、と俺から視線を外す。 相当怒ってるな。 俺は長門の怒気に押され、それ以上声すら出なかったが、古泉が 「ひとまず目の前の懸案を解決するのが先です。作戦を開始しましょう」 と言ってくれたおかげで、凍りついた場の空気が若干動いたような気がした。 「・・・・・・」 あさっての方向にあるコンクリート壁をぶち破らんばかりの眼光でにらむ長門。こりゃあしばらく俺とは口聞いてくれそうに無いな。 さて。 機嫌激悪の長門に影響されて、俺の気持ちも若干沈む中作戦が決行された。 ・・・わけなんだが、待てど暮らせどみるひがやってくる気配が無い。 いつまでもたちんぼしているのに疲れた不機嫌ユッキーは、定位置にパイプ椅子を持っていって読書を開始してしまった。 俺の方をちらちらと睨みながらな。 頼むからそんなに怒らないでくれ。ハルヒや朝比奈さんならともかく、お前にそんな態度をとられるのは慣れてないんだよ。 という心の叫びが長門に通じる筈はなく、俺は魂が出んばかりの深い溜息を吐いた。 にしても暇だ。長門・・・は話し相手にはならんな。 仕方が無いので長門のこしらえたビジュアルステルスシールドの影響圏から出たり入ったりして遊んでいたが、 長門から投げかけられる視線があまりにも痛冷たいので、若干趣向を変え、ステルスシールドから首だけ出して 「生首ー」とかやって長門を驚かそうと思ったら がちゃ 古い部室のドアをガタピシ言わせながら 奴が来た。 「ひゃあああああああああ!!??」 そりゃな。首だけ浮いてたら誰だって驚くわ。 「キョキョ・・・キョ・・・有希!!」 部室に入るなりびっくりして腰を抜かし床にへたり込んだみるひは、長門に助けを求める・・・が、何故か長門まで腰砕けになっているようで、俺を凝視したまま微動だにしない。 どうしろって言うんだよ! ・・・って今がチャンスなんだよな。 俺は咄嗟に足元にある下着入り紙袋から下着群を鷲づかみにしてステルスシールドから飛び出し、 「往生せいやあああああ!!!!!」 と半ば自分を勇気付けるために怒声を発しながら突っ走り、みるひの顔に下着を文字通り突き刺すようにして押し付けた。 むにゅっ 奇妙な手ごたえがあった。 なんだこの昔理科の実験で作った巨大スライムの中にこぶしを埋めたような感覚は。 「あ・・・?」 下着を持ってみるひの顔を襲った右手を見てみる。 顔、貫通しとるがな。 「うわあああああぁぁぁあ!!!?」 これなんてB級ホラー?非現実的すぎてある意味怖いです。 まぁ貫通したとは言っても、こんにゃくか寒天で出来た人形を思い切りついたような感じなので、頭の中身はおろか血すら出てないが。 「大丈夫。作戦は成功した」 と後ろで長門が言うものの、正直これはいろんな意味でヤバイと思うぞ。 「早く手を顔から抜いて」 ああ、突っ込んだままだったんだな。 ぬちゅっという嫌な音を立てて拳を引き抜くと――― みるひは太陽10個分以上の光に包まれ――――うおっまぶしっ――――そして 光は収束し、二つの物体がみるひが今まで居た空間に現れた。 ほかでもない。例の涼宮ハルヒと朝比奈みくるである。 さっきの長門以上の怒気をともなってな。 「・・・キ・・・キョン?」 「・・・キョン・・・君?」 多分この二人は、自分がどういう状況に置かれているのか判っていない。 俺はふたりの下着を、律儀に上下セットで持っている。 俺から見れば、これは二人を取り戻すのに必要不可欠なものであり、今彼女達にしたことは必要不可欠かつ不可避な行動である。 対して、彼女側から見れば、俺は単に二人の下着を持って、それを眼前に押し付けている変態さんに過ぎない。 わなわなと怒りに肩と腕を震わせているのが見て取れた。 ・・・やれやれだぜ。 「「最ッッ低ッッ!!!!!」」 俺は殴られ、目潰しされた。グーとチョキで。 痛いよ。全然痛いよ。 俺を含めたSOS団に再び平和が訪れた。 ただ、暫くハルヒは口を利いてくれなかったし朝比奈さんは長門が弁明に入ってくれるまで俺を明らかに避けていたし、長門は長門で微妙にメランコリーだった。 出番のなかった古泉も若干ダウナーなオーラが出てたりする。 「涼宮さんが分離した、ってことはまた例のアルバイトが始まるってことですしね。正直僕も憂鬱だったりします」 あれ。こいつ「僕の仕事、なくなっちゃいますから」とか言ってなかったっけか。 ガチホモの云う事はいまいち一貫性が無いな。 「ははぁ、そうかもしれませんね」 と負け戦の将棋盤を見つつ、ダウナーオーラをまといながらもいつもの無意味スマイルを浮かべた。 「キョン君、どうぞ」 麗しの朝比奈さんがお茶を入れてくれる。今までこれは日常的かつ当たり前のことで、団史にわざわざ刻むまでも無いような出来事なのだが、 あの一件を経験してからというもの俺は今まで以上に朝比奈さんのお茶を味わって飲むようになった。 六甲の美味しい水だろうが水道水だろうが雨水だろうが、朝比奈さんの入れるお茶は甘露、いや俺にとっちゃソーマや仙丹みたいな霊薬ですよ。 これが無いと何も始まらんね。 「エロキョン!何ニヤニヤしてんのよ!」 おっと、あまりにお茶が美味くてニヤニヤしちまったか。 ―――あの一件以来俺をエロキョンと呼ぶようになりやがった我らが団長様だが、幸いなことに自分が長門や朝比奈さんと合体してしまったことは全く覚えていないような素振りだった。助かったぜ。 ・・・覚えていないなら、だ。授業中に聞こえた声はハルヒの無意識下に存在する”何か”が発したものなのか、それとも現行のハルヒの人格とは別のものが発したものなのだろうか。今となっては到底判らんが。 そして、長門。 明瞭なる感情を獲得し、ついでに”個”というものも獲得したように感じた長門だが、みるひにボコボコにされる前とは打って変わり口数少なげに窓際で本を読んでいる。 何でそんなにナーバスなのか訊きたかったが、また怒られそうな気もしたので何も訊かないでいる。 まぁ、そのうちまた戻るだろう。あんなに明確に怒気をはらんで怒るようになった、というだけでもめっけもんだ。 夏を向かえ、いっそうのエネルギーを加えつつある陽に映る、長門とハルヒと朝比奈さんと古泉、そして俺。 あたりまえの、日常的な、しかしながら貴重なこの空間、そして時間。 「なべて世は事もなし――――」 窓際にたたずむ小さな影が、誰に告げるともなく呟いた。その語尾に心地よいながらも、不思議な余韻を残しながら。 涼宮ハルヒの融合 オワリ 前 目次
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5118.html
文字サイズ小でうまく表示されると思います 涼宮ハルヒの誰時 お前は、俺をその名前で呼ぶな。 半眼で睨む俺を、朝倉は少し怒った顔で見つめていた。 「長門さんだったら、貴方をキョン君って呼んでも怒らないの?」 なんでここで長門の名前が出るんだ?それに第一、 長門は俺をその名前で呼んだ事はない。 突き放すように答える俺に、朝倉は目を丸くしている。 「え? そうなの?」 ああ、俺の覚えている限りはないな。 俺の言葉に、何故か朝倉は笑顔を浮かべる。 「そっかぁ、そうなんだ。へ~」 なんだよ。 何が気に入ったのかわからないが、不機嫌になったはずの朝倉は急に楽しそうにしている。 振り払われた手で、今度は俺の服を掴む朝倉は何か企んだ様な笑顔……つまりいつものハルヒの様な笑顔を浮かべた。 「怒らないでね?嘘をついてたわけじゃないんだけど、実は今の私には宇宙人的な能力はあるの」 な! 俺の言葉を朝倉の手が遮る。 「ストップ、最後まで聞いてよ?宇宙人的な能力はあるけど、それはスペック上での話。今の私を例えるならガソリンの無い車だと思ってもらえれば わかりやすいかな?涼宮さんによって再構成された私は本当に普通の高校生になったのではなくて、涼宮さんの意識の中にある普通の高校生としてしか 行動できない制約があったのよ。まあ同じ事だけどね。でも、涼宮さんが居ない今その枷はない。だけど統合思念体の存在も涼宮さんによって 無くなってしまったから、やっぱり今はただの高校生でしかないけどね」 小さく舌を出す朝倉に、俺はため息をつく。 わざわざそれを俺に言うって事は、他に何かあるんじゃないのか? でなきゃ言う必要もない事だろうに。 「正解。このまま普通の高校生として貴方と暮すのもいいかな?って思ってたけど。どうやら私にはまだやる事が残ってたみたい」 やる事? 俺を殺すとか言い出すんじゃないだろうな。 楽しそうな顔で朝倉は首を横に振る。 「ないしょ。それよりも貴方に聞きたい事があるの」 聞きたい事? 「そう。貴方は涼宮さんや長門さん、他の人達も含めて取り戻したいのよね?」 そうだ。 「結論だけ言うとね、長門さんから何か預かってたりしない?私が力を取り戻せれば、少なくとも貴方の望みを叶えるチャンスを作ってあげるくらいは できるはずよ」 何かってなんだよ。 「それはわからないわ。そうね、別に長門さんからじゃなくても何かこう、不思議な物とか持ってない?貴方にとってはただ不思議な物だとしても、 私にとっては力を使う為の鍵になる可能性はあるの」 長門や古泉、朝比奈さんから何か預かってないかだって?急いで考える中に浮かんで来るものといえば……そうだな。 長門から借りた本。ああ、駄目だあれは今朝本棚を見た時には無くなってたんだっけ。 朝比奈さんの私物……部室にあった衣装も何もかも無くなってたから思いつかないな。 古泉は駄目だ。あいつから何か受け取った覚えなんてない。 「よ~く考えてね。貴方の記憶を直接読み取れば早いんだけど、正直それだけの力も残ってないのよ」 そんな事されてたまるか。 ハルヒはどうだ?何かあいつが残した物はないのか……。 あいつの家がどこにあるのかなんて知らないし、今となっては調べようもない。部室は文芸部だった頃に戻ってしまってたよな。 教室は? 駄目だ、机も無くなってたんだった。 腕を組んで雑然とした部屋を歩き回る俺の脳裏に、何かが浮かび上がる。 なんだ、今のは? あれは……えっと、夏より前だった様な気がするぞ。 必死に記憶を辿っていく中で俺が辿り着いた答え、は。 カーテンの閉められた暗い部屋の中、モニターの小さな光が俺と朝倉の顔を照らす。 深夜の北高に忍び込んだ俺と朝倉は、元SOS団の部室……の隣、コンピ研に来ていた。 立ち上がったばかりの部長氏のパソコンのカリカリという小さな音と、俺の不器用なタイプ音だけが深夜の部室に響く。 「これがそうなの?確かにこれは涼宮さんの痕跡と言えなくはないけど……。残念、これはハズレよ」 モニターに映っているのはSOS団のウェブサイトだ。 いや、見せたいのはこれじゃない。 これを見せるだけなら別に深夜の校舎に不法侵入する必要はないんだ、ネット環境さえあればいい。 俺は手慣れた操作でキーボードを操作してURLを変更し、今日入力したばかりのパスワードを再び入力する。 切り替わる画面。 画面に編集機能と各種登録項目が表示され、俺はその中の一つ「画像登録」を選択した。 コンピ研の部長氏が閉鎖空間の様な物に閉じ込められた事件の原因となった、ハルヒの描いたあの画像。 長門が画像をいじってくれたおかげであの時は助かったんだったな。 無料レンタルウェブサーバーに登録済みの画像一覧には、長門改編によるZOZ団のシンボルマークがあった。そして、 「……ビンゴ」 朝倉が食い入るようにモニターを見つめている。 そこには確かに残っていたのだ、俺が最初に画像をTOP画面に張り付ける時、念の為名前を変えて保存しておいたハルヒの描いたあのSOS団の シンボルマークが。 いけそうか? 俺の質問に朝倉は嬉しそうに頷く。 「今の私でもこの画像から力を引き出すのは簡単よ。凄いじゃない、流石涼宮さんが選んだ人ね」 俺はパソコンデスクの席を朝倉に明け渡した。 ……なあ朝倉。 「なあに?」 俺に返事をしながらも朝倉は意味不明なコードをパソコンに打ち込み続けている。 知ってたら教えてくれ、ハルヒが俺を選んだのか?それとも、俺がハルヒを選んだのか? 不思議そうな顔で朝倉が俺を見つめる。 「それって何か違うの?」 そりゃあ違うだろ? なんていうか……俺はハルヒが神様みたいな存在だって聞いてたんだが、ここ数日色んな人から話を聞いている間にそうじゃないかもって思えて来たんだ。 「……そうね、貴方が涼宮さんに選ばれた理由は私にも統合思念体にもわからなかった。あの子が貴方を好きになった理由もね。でもね?女の子にとって 好きな男の子はみんな神様なの。自分が思う理想の存在であって欲しい、それこそ神様みたいな……。なんて、男の子は好きな女の子にそんな幻想を抱いたりは しないかな?」 どうだろうな。少なくとも俺の知っている神様って奴は、横暴で我儘で見てて落ち着く暇がないような奴だったが。 「あら、貴方がそんな女の子を望んでいた可能性はない?」 何故だろう、俺はそこで朝倉に何も言い返せなかった。 朝倉は朝倉で答えを聞くまでもないとでも言いたげに微笑み、沈黙させられた俺を無視してキーをタイプしていく。 「いい、この世界の涼宮さんは確かにもう存在しないわ。でも、完全に消えてしまった訳じゃないの」 場所は変わり、俺達は元SOS団の部室、現文芸部の部室の中に来ていた。 朝倉は窓際の長門がいつも居た場所に、俺はいつものパイプ椅子にそれぞれ座っている。 「今、涼宮さんは誰も居ない世界を作って一人で居るの。自分の思考も閉ざし、何も考えないまま一人で、ね。それを助けられるのは、この世界に多分 貴方しかいない。貴方が涼宮ハルヒの思考を取り戻せたら、私はこの世界に彼女を呼び戻してあげる。それからの作戦はこんな感じよ」 そう言って話し始めた朝倉の作戦って奴は無茶苦茶という言葉を体現するかのような内容だった。 言うなればお茶漬けを食べたいからまず粘土質の土を手に入れて、しかも空腹が始まる前に素材と食器を一式準備する……って所だろうか。 すまん、上手く言語化できそうにない。意志の疎通に齟齬が発生しそうだから忘れてくれ。 でもまあ、これだけで朝倉の作戦を理解できた奴がいたら素直に尊敬するぜ、古泉に代わって俺が一般人ではないってお墨付きをくれてやる。 「作戦は以上、質問はある?」 なあ朝倉。 「なあに?」 今更聞いても仕方のない事かもしれない、でも聞かないわけにはいかないよな。 何でお前は俺に協力してくれるんだ? 「何よ今更。でもまあ気持はわかるから教えてあげるね。私が貴方を手助けするのは、あくまで個人的な理由よ」 個人的な理由? 「そう、貴方に全く関係のない事ではないけれどね。今からする事は、貴方を殺そうとした事の罪滅ぼしだとでも考えていてほしいな?」 そう言って微笑んだ朝倉の姿が一瞬歪み、次の瞬間そこに居たのは。 朝倉より髪は短く、小柄で無表情な見覚えのある元文芸部の宇宙人。 なが……朝倉か。 「そう」 俺の言葉に朝倉は頷く。その声は聞きなれた宇宙人の声にしか聞こえなかった。 声まで長門そっくりなんだな 「でしょ?」 無表情だったその顔に、突然愛想がいい笑顔が浮かんだ瞬間確信した。中身はやっぱり朝倉だ。 「それじゃあ、今から貴方を涼宮さんの居る世界に送るわ。準備はいい?」 準備はいいが朝倉、眼鏡は外した方がいい。 「何それ、貴方の趣味?」 それもあるが、今の長門は眼鏡をしていないんだ。 「あ、そうなんだ。……これでいいわね。さ、目を閉じて。それと、私を呼ぶときはちゃんと長門って呼んでね?」 朝倉……長門の言葉が途切れるのに合わせたかのように俺の視界は前触れもなくブラックアウトし、体重を支えていたはずの床の感覚もなくなる。 それでいて落下するわけでもなく自分がどの向きを向いているのかもわからない時間を数秒体験したあと――最初に俺が感じたのは静かな風の音だった。 気がついた時、俺はやけに暗い場所に居た。 そこはどこまでも広がっているような果ての見えない暗い草原で、暗い空と草原以外は何も見えない。 ここはどこなのか? なんて考えても意味はないんだろうな。 現状を確認しようにも、俺の意識は確かにそこにあるというのに俺の体はそこにない、まるで夢の中の出来事みたいな感じだ。 見えている物にも、体が無いのに確かに感じる風にも何もかもに現実感が感じられない、何故だかわからないが俺はここに長く居てはいけない気がした。 「正解、あんまりこの世界に長居をすると普通の人間は精神が先に崩壊して廃人になってしまうから気をつけてね?」 朝倉、どこにいるんだ? 俺の思考に割り込むように聞こえてきた朝倉の声だったが、その姿はどこにも見えない。 「残念だけどその世界に私は行く事はできないの、涼宮さんが無意識で拒んでるからね。というよりも、貴方だけが許可されてるって言った方が正しいのかな」 じゃあハルヒはどこに居るんだ? 「涼宮さんは貴方の目の前に居るわよ。でも貴方がそれを見ようと思わなければ見えない、感じてみて?涼宮さんの事」 感じろったってどうすればいいんだ……。 いくら周りを見回しても、草原には何も無いようにしか俺には見えない。 「そこに居るって信じなければ見つけられないの、気づいてあげて?涼宮さんはずっと以前から貴方を待っていた。そのサインを貴方も知ってるはず」 俺が知っている……何のことだ? とにかく今は朝倉の言う通りにするしかないな。 ハルヒの事を考えて最初に思い出されたのは、入学式で俺の後ろで不機嫌な顔をしていたハルヒだった。 次に浮かんできたのは急に長かった髪の毛を切って登校してきたハルヒ。 ホームルーム前の時間を何気ない会話で、いつもつまらなそうだったハルヒ。 部活を作り出してから、急に笑顔が増えたハルヒ……。 次々と思いだされるハルヒの顔の中、俺は違和感を感じた。 親しくなって表情を増やしていく記憶の中のハルヒ中に、そこだけ急に不機嫌なハルヒがいる。 そのハルヒは何故か幼く、俺へ向ける視線には不信感が浮かんでいる。 あれは……あのハルヒは! 「私はここにいる」 どこからか、ハルヒの声が聞こえた気がした。 まるでその声に呼び寄せられるように、目の前にハルヒの姿が現れる。 何故か少し幼い感じのそのハルヒは北高校の制服ではなく私服を着ていて、じっと夜空を見上げていた。 つられて視線を上に向けると、そこには眩いほどの星空が広がっている。 「……誰か居るの?」 幼いハルヒが突然俺の方に顔を向ける。 姿は見えてないんじゃなかったのか? 俺は朝倉に聞いてみたつもりだったのだが。 「何、今の声。誰か居るの?出てきなさいよ」 そう言ってハルヒは辺りに誰か居ないか探し始めた。 どうやら俺の声は聞こえるが、姿は見えないらしいな。 いくら待っても朝倉は何も言ってこない。後は俺がなんとかするしかないか。 ハルヒ、お前なんでこんな所に居るんだ。 「え……何で私の名前を?もしかして宇宙人?」 少し違うが、まあそんな様な者だ。 俺の言葉に幼いハルヒの顔が急に笑顔になる。 「じゃあ未来人?それとも超能力者とか?まあなんだっていいわ、私に会いに来たのよね?そうなんでしょ?」 そうだ。「私はここに居る」ってお前のメッセージを見て俺はここに来たんだ。 「宇宙人語が読めるの?凄い、やっぱり居たんだ!」 俺にはお前が宇宙人語を書ける事の方が驚きだよ。ところで、お前はどうして俺に会いたかったんだ? 何か理由があったんだろ。 俺の言葉に、急にハルヒの笑顔が消えて悲しそうな表情が浮かぶ。 そのままじっと待っていると、ハルヒはゆっくりと呟きはじめた。 「とんでもない事をしちゃったのよ。あたしが信じてあげられなかったから大事な友達が消えちゃったのよ。全部、あたしのせいなの。 だから、本当に宇宙人が居るなら会ってみたかったの」 なるほどね。で、満足かい? 「そうね、もっと早く貴方に会えればこんな事にならなかったのに」 気が済んだならみんなの所へ戻ればいい。多分、お前が望めばそうなるはずだぞ? 「無理よ。……もうみんなには会えないし会えたとして誰にも許してなんてもらえない。勝手に巻き込んでおいて突き放して、しかも自分が好きな人だけ 独占したいから心から信じてあげられないなんて……本当、自分でも嫌になる」 そうかい。 「……なによ、そんな適当に。……どうせ他人事だもんね」 なあ、ハルヒ。 「何」 俺はな。お前を探して今も走り回ってる奴を一人知ってる。お前も知ってる奴だぞ。 「え?」 俺の知る限りそいつは不器用で特に取り柄もないただの高校生で、残念ながらお前が望んでる様な宇宙人でも未来人でも超能力者でもなく不思議とは縁遠い ただの一般人だ。でもな? ただお前に会いたいってだけで今も必死に探しまわってる。 「嘘……そんなの嘘よ、キョ……あいつはいつもあたしに振り回されて迷惑そうな顔してたもん!」 迷惑なだけだったら一緒になんか居ないさ。嘘なら嘘だと思ってもいい、それにまあお前が会いたくないと思えばそれっきりだろうさ。 でもな、例えお前が会いたくなくてもそいつは絶対にお前を見つけるまであきらめないぞ。例えお前に嫌われても、だ。 俺はお前にまだ言ってない事がいっぱいあるんだからな。 「え?」 ハルヒの目が大きく開かれる。 本当にそいつが好きなら告白でもなんでもすればいいさ、そいつもまんざらでもないかもしれないしな。 これからどうするかって答えはお前の胸にしかない、ここで一人残るって選択肢もあるかもしれない。でも俺はお前に戻ってきて欲しいんだ。 「駄目、これ以上は貴方がもたないわ。ごめんね?」 どこからか聞こえてきた朝倉の声と同時に俺の視界が少しずつ上昇していくのがわかる。 ええい、ハルヒを置いていけるかよ! 体なんてないが俺は必死にハルヒに向かって手を伸ばそうともがく。 その時俺の意識がある周囲が急に明るく光出し、真下に居たハルヒの体を明るく照らした。 戻ってこいよハルヒ、SOS団は不滅なんだろ? 光の中でハルヒが笑顔を浮かべて手を伸ばしてくる、実態が無かったはずの俺の手はその手を確かに掴んだ。 ハルヒ。……おいハルヒ! 机の上でつっぷしたまま眠り続ける団長さんの頭を、俺はわざと乱暴に揺らした。 そこにはあの俺好みなポニーテルは揺れていなかったんだが……。こうしてみると普段のこの髪形も可愛いもんだな。 窓の外は夕闇が近づいてきていて、部室の中は少し肌寒い。 数秒後、 「ふぇ……キョ、キョン?」 寝ぼけた声を出すハルヒの横を、長門がのんびりと通り過ぎていった。 その姿を見たハルヒは何も言えず目を見開いて固まってしまったが、長門はそれに気づかないふりをしたまま本棚へと歩いて行く。 いいぞ。ナイス演技だ朝倉。 長門の後姿を見つめながら心の中で俺は小さくガッツポーズをする。第一段階はクリアって所だな。 「え……有希? 消えちゃったんじゃ……」 消える? ……ハルヒ。お前、寝ぼけてるのか? 「え?え?」 混乱して俺と長門を交互に見比べているハルヒを無視して、長門は持っていた本を本棚へと戻して出口へと歩いて行った。 さあ、間違えるなよ? コンティニューはもう使ってしまったんだ。 長門、明日は9時に駅前だからな。休日だから間違って学校に来るなよ? ドアを開けた所で俺がそう呼びかけると、長門は振り向いて小さくうなずいて部室を出て行った。 扉が閉まる音と同時にハルヒが立ち上がる。 「明日が休日って……待って、ねえキョン。今日は何日で何曜日?」 今日か? ポケットから取り出した携帯に表示されているのは、金曜の文字と4日前の日付だ。 俺がやってる事は後で朝比奈さんに怒られる事なのかもしれないが、まあそれでもいいさ。 あの可愛らしい天使様にまた会えるんならそれくらいどうってことない。 顔いっぱいにクエスチョンマークを浮かべたハルヒを見ながら、俺は顔がにやけるのを止められなかった。 それは作戦が上手くいっているからってだけじゃない、またハルヒに会え……いや、やっぱり作戦が上手くいってるからだな。 まだ寝ぼけてるのか? ……まあいいか、なあハルヒ。実はお前に秘密にしてたんだが。 「な、なによ改まって。言ってみなさいよ聞いてあげるから」 まだどこか普段より大人しい雰囲気を残したハルヒだが、きっとこれには食いつく。そうでなければゲームオーバーだ。 俺はハルヒの両肩にそっと手をおいて、じっとハルヒの目を見つめた。 「ちょ……え、何? ……キョン?」 ハルヒの瞳の中で俺が大きくなり、そっとその瞼が閉じられようとしたその時。 実はな、朝倉がこっそりカナダから帰ってきてるらしい。 俺はそう呟いた。 ――刹那。 「なんですって!」 急に目を見開いたハルヒの手がすぐそばにあった俺のネクタイに伸び、途端に酸欠に襲われだした俺が笑顔だったのは何故だろうね? まだだ、まだ俺の出番は終わってない。 揺さぶられるまま俺は朝倉の台本通りのセリフを続ける。 しかも朝倉は、あのマンションの同じ部屋にまた住んでるらしいんだ。なのに北高には出てこない、何か変だと思わないか? 「キョン!そんな面白そうな情報を見つけたのに黙ってるなんて厳罰ものよ!」 言う事は物騒だが、ハルヒの言葉は楽しみで満ちていた。 おそらくこいつの頭の中では、誰も考え付かない様な展開が回りまわってるんだろうよ。 黙ってて悪かったよ、俺も古泉から聞いた時は信じてなかったんだが駅で偶然見ちまったんだ。間違いなく朝倉だったよ。 ――いい?涼宮さんが戻って来るまでに私は世界を4日前の状態に再構成しておくわ。そして私は、長門さんの姿で涼宮さんの前に現れる。貴方は涼宮さんを 誘導して「私と同じ方法」でみんなを復活させてあげてね。そうなるように私もフォローするから彼女の中の認識を変えて欲しいの。この意味、わかる?―― さて、世界を元に戻す魔法の言葉をハルヒに言わせないとな。 お前が寝てる間に明日はみんなで一緒に朝倉に会いに行こうって決めたんだが、それでよかったか? 俺の言葉にハルヒの顔が笑顔に綻ぶ。 「当たり前じゃない!SOS団創立時の謎がついに解き明かされるのね!あ~もう今から行きたい所だけどみんな帰っちゃったの?」 お前が起きないからだ。明日全員が集まれるように今日は早めに解散したんだよ。 「あんたにしては気がきいた行動ね。駅前に9時よね?い~い?絶対にきなさいよ!来なきゃ死刑だからね!」 「結局、この世界の朝比奈さんは何も知らないままだった様ですね」 その口調からすると、お前は全部覚えてるみたいだな。 家に戻った俺を待ち構えていたのは、営業スマイルを取り戻した超能力者だった。 いつもは小憎らしいその顔も、正直今は嬉しくて仕方がない。 「超能力者、ですから。……冗談です、協力者から全て聞いたんですよ。正直今でも信じられない程に驚いています。正に驚天動地ですね。 まさか数年先に起きると思っていた破滅が数日後に迫っていて、しかもただの人間にすぎない貴方が見事解決してしまうなんて。流石は涼宮さんが選んだ」 おい! お前今なんていった? 聞き逃せない単語を耳にして、俺は思わず古泉に詰め寄った。 「え、貴方が解決するとは驚いたと」 その前だ! 「貴方はただの人間に過ぎない」 そう、そこだ。俺はただの人間なんだな? 営業スマイルに不審げな表情を混ぜながら古泉は確かに頷いた。 「何をいまさら、以前も言いましたが貴方は普通の人間です。保証します」 ……この顔は嘘をついてるって感じじゃないな。って事はあの時の言葉はいったい……だめだわからん。何もかも無かった事になってるって事なのか? まあいいか。消去法で全部解明できるほど世の中簡単だったら、試験なんて余裕だよな。 夕食を終えて部屋に戻った時、まるで俺が部屋に戻るのを待っていたかのように携帯が鳴り始めた。 ディスプレイに映っている着信相手は……。 「ありがとう」 携帯越しに聞こえるその静かな声に、自然と笑みが浮かぶのを感じる。 それは間違いなく長門の声だった。 お前も全部覚えてるみたいだな。 「覚えている」 今回の事はあまりにも意味不明で、俺が完全に理解するには何年会っても足りないだろうな。だけどひとつだけ聞いておきたい事がある。 長門、やっぱりハルヒは明日SOS団を解散してしまうのか?みんなが消えてしまうのは避けられないのか? しばらくの沈黙の後。 「SOS団は解散されるかもしれない」 そっか。 やっぱり、これで全てが元通りってわけにはいかないか。 「ただ、現時点の涼宮ハルヒの力では時空改編や広範囲の情報操作は行えない」 なんだそりゃ? 「原因はわかっているが上手く言語化できない」 「ねえ誰からなの? あ、もしかしてキョン君? 代わって代わって!」 携帯電話越しに、何故か聞き覚えのある声が聞こえてきた。 「大丈夫すぐに代わるから、そんなにすねないでよ? ……もしもし、キョン君?」 長門に代わって聞こえてきたその愛想のいい声は、何故か朝倉だった。 なんでお前が長門の部屋に居るんだ。 「現状の確認と明日の打ち合わせよ。私が長門さんのそばにいると心配?なんなら遊びに来てもいいわよ」 辞退させてもらう。 その組み合わせは長門の世界で十分に体験してきたからな。 「残念。長門さんが代わって欲しそうだから簡単に伝えるね?」 ああ。 しかし長門が電話を代わって欲しそうにしているってのはどうも想像できないな。 「私が見てきた中でも今の涼宮さんの力はとても小さな物なの。今回みたいな大規模な情報の改竄ができたなんて信じられないくらいにね。だから何か起きても 私と長門さんでフォローしてあげるからキョン君は心配しなくていいよ。あ、ごめん。私はキョン君って呼んじゃいけないんだったよね?」 いや、好きに呼んでくれていいさ。 俺だってお前にはそれなりに恩は感じているつもりだ。 「長門さんが凄い睨んでるからもう代わるね? ……はい、そんなに怒らないでよ? ごめんごめん」 長門が……睨むだと?駄目だ、やっぱり想像できない。 数十秒後。 「……もしもし」 聞こえてきた長門の声が、携帯越しのせいかいつもより僅かに低い気がした。 長門か、大体の話はわかった。 「そう」 何故だろう、呟くだけのその返事がやけに冷たく感じる。 長門。朝倉が居たら話しにくい事もあるだろうし、今度遊びに行ってもいいか? 再び数十秒の沈黙の後。 「待ってる」 そう聞こえてきた長門の声は、携帯越しのせいかいつもより暖かい気がした。 長門との電話が終わった後、朝比奈さんに今回の事を伝えるべきかどうか迷ったが、結局俺は電話しない事にした。 これ以上、あの人に悩みごとを増やすようなまねはしたくない。 ただでさえハルヒに一番振り回されてるんだから、楽をさせてあげられれる所はそうさせてあげないとな。 と、思っていたのだが。 うおわ! 「きゃ! ごめんなさい?」 深夜の部屋の中、眠っていた俺の腹部に突然何かが降ってきた。 目を覚ました俺が見たものを、罰の悪そうな顔で見つめる眼差しと、口に触れるひんやりと冷たいその手の感触。 そして僅かに香る覚えのある大人の女性の匂い。 「……急に押しかけてごめんなさい。どうしてもすぐに貴方に会いたかったんだけど、中々チャンスが無くって」 驚く俺の目の前に居たのは、照れ笑いを浮かべる朝比奈さん(大)だった。 いや、だからといって深夜に男の部屋へ忍び込むのはどうかと……ってそれはとりあえずいいとして。何かあったんですか? 「はい。キョン君にお礼をしに来ました」 お礼? 「ええ」 って事は、貴女は今回の事を覚えているんですか? 俺は朝比奈さんに今回の事を話すつもりはないんだが、どうやって知る事になるんだろう?やっぱり禁則事項だよな、これ。 「私の存在が一度は消えてしまい。そしてキョン君のおかげで元に戻れた事も全部覚えています」 とは言っても、全部朝倉のおかげで俺は何もしてないんですけどね。 「そんな事ありません、私や長門さんや古泉君が今この世界に居られるのは間違いなく貴方のおかげなんです。誰もそれを覚えていなくても、 私が覚えていますから」 真剣な顔で近寄って来る朝比奈さんから逃れようにも、ベットの上で体を起しただけの俺はすぐに壁際に追い込まれた。 あの、その。そう言ってもらえるのは嬉しいんですが、そんなに近寄られると色々大変なんです。 部屋が薄暗くてよかったぜ、色々な意味で。 「あ、ご、ごめんなさい。それで、今回の事であなたに何かお礼がしたいんです。上官の許可も出ているので、あまり時間はありませんが 時間の流れに大きく関わらない事ならある程度の事はしてあげられます」 あの、その言葉をどう取ればいいんでしょうか? これが夢だと言われたらすぐに納得してしまいそうな展開に、俺は無意味に喉が渇いていた。 前にも気付かれないなら頬にキスしてもいいとか言っちゃってる人だからなぁ、二人っきりの時に貴女にそんな事を言われると妄想が止まらないんですが…… あ、そうだ。 こんなタイミングじゃなければ一生はぐらかされそうな質問があったじゃないか。 じゃあ、朝比奈さんお願いです。 「はい、何でしょう」 貴女の本当の年齢を教えてください。 俺の言葉に、朝比奈さんは見ていて微笑ましくなるほどに動揺していた。 それって、そんなに秘密にしなきゃいけない事なんですか? 「えー! ……うう。ぜ、絶対、絶対に内緒ですよ?」 そう言って、当たり前だが部屋には俺と朝比奈さんしか居ないのに彼女は俺の耳元に口を寄せて来た。 ……ってぇ! あなたそんな短期間でそんなお姿になってしまうんですか?! 翌日の朝、俺は昨日ハルヒに伝えた時間に丁度間に合う様に家を出た。 それはつまり、 「遅い! 罰金!」 こうなるよな。まあ予定調和ってやつだ。 大声で宣言するハルヒはいつもの全力スマイルで、隣に立つ朝比奈さんは困った笑顔。 古泉は古泉で営業スマイルだし、無表情に見える長門にも楽しそうな気配を感じ取れなくもない気がしなくもない。 どこまでもいつものSOS団、そしてどこまでもいつもの休日の光景。 ハルヒ、やっぱりお前に泣き顔は似合わないぜ。 そこにはもう、泣きながら叫んでいたハルヒの姿はなかった。 「キョン、あんた人の顔を見て何にやついてるのよ」 別に。いつも通りだから、じゃ駄目か? 「何よそれ? ああもうキョンにかまってたんじゃ時間がもったいないし罰金は後でいいわ、さあみんな準備はいい? 今から朝倉涼子を捕獲しに行くわよ!」 結局、俺が神様みたいな存在なのかハルヒが神様みたいな存在なのかはわからないままだ。 だがまあそれでもいいさ、俺達のどちらかが神様みたいな存在だったら、もう一人はそれを見守ってればいい。 そうすれば、いつまでも一緒に居られるだろ? な、ハルヒ。 涼宮ハルヒの誰時 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2691.html
何かおもしろそうな事はないかと思っていつものように校内を探索していると、キョンがそわそわした様子で周りを気にしながら校舎裏の方へ向かっているのを見かけた。 なにやってるのかしら。柄にも無くコソコソしちゃって。でも面白そうね。 ちょっと追いかけてみましょう! 探偵のまねごとをしているような気分でわくわくしながら尾行していると、キョンは早足で体育倉庫の横を抜けて南庭へ入って行った。 怪しいわね。キョンのくせに、団長である私に隠し事なんて100万年早いわ。 校舎の陰にかくれるように歩いていくキョンを、私は体育倉庫の壁に背をつけて窺っていた。 キョンと待ち合わせをしていたのか、ケヤキの木の陰にいた人物が怯えたふうに現れた時、私は正直いってかなり動揺したわ。 なんで、キョンとみくるちゃんがこんなところでコソコソ密会してるの? 話があるのなら部室ですればいいのに。 周囲をはばかる2人の態度や校舎裏の待ち合わせという、ある意味ベタな状況の連想させるイメージが脳裏によぎり、私の動悸がはげしくなる。 まさか……。そんな、ありえないわよね。2人に限って。 でも、考えてみれば思い当たるふしはあるわ。キョンは普段から、見るからにみくるちゃんにゾッコンいかれてるようだったし、みくるちゃんも、何か困ったことがあった時に助けてくれるのはいつもキョンだったわけで。 お互いが想いあってても、まったく不思議はないわね。 え、ウソ? マジで? 私が見てるとも知らず、キョンとみくるちゃんはケヤキの下で向かい合って話をしている。 距離があるから何を喋っているのかは分からないけれど、みくるちゃんがうつむいてモジモジしてるのは分かるわ。 秘密の密会。互いに好意を抱く男女が2人。甘い空気。 話が聞こえなくても、9割方なんの会話をしてるのかは想像できる。私だってそんなに鈍くはないつもりだもの。 でも私は、残りの1割の確率を信じていた。きっと何か急いで伝えなければならない用件ができたけど周囲の人に聞かれてはマズイ内容だから、メールで誰もいない校舎裏に相手を呼びだしたんだわ。きっと。 そうよ。2人はただの極秘の事務連絡をしてるだけに違いないわ。まったく。団長である私に黙って勝手な行動とって。 そう信じたかった。 理由はどうあれ他人のプライバシーを覗き見してるんだから良心は咎めるけれど、なんだろう、この気持ち。 さびしさと焦燥感とイライラと後ろめたさをまぜ合わせた、しびれるような感覚で足が震える。 そしてとうとう居ても立ってもいられなくなり私は、みくるちゃんが涙目でキョンに抱きついたのを見て駆けだした。 いやだ。もう。こんなところに居たくない。 文芸部の部室にも行かず教室に鞄をとりにも戻らず、私は学校を飛び出した。 学校を飛び出した私は、その足で飛行機に飛び乗った。とにかく遠くへ逃げたかった。距離が遠のいたからって問題が解決するわけじゃないけど、少しでも遠くへ逃げたかった。 フライトの前からずっと泣いていた私を不審がるスチュワーデスの声を全て無視し、私はいつしか疲れて眠りこけていた。 ショックだった。何がショックだったって、今まであまり意識したことはなかったのに、予想以上に自分がキョンに惹かれていたことが明確に分かり、衝撃を受けていた。 でもそれも昨日まで。今日から私は、このインドの地で生まれ変わるの。今までの自分をガンジス川の流れに投げ捨て、生まれ変わるの。昔のことは全て忘れるわ。 悠久の歴史あるこのガンジスのほとりで、涼宮ハルヒは再誕するのよ。 インドに来てしばらくは無気力に暮らしていたけど、いくら物価が安いからっていつまでも遊んでは暮らせないわ。それに退屈だしね。 すぐに私は職を手にした。インドといえばカレーでしょ。 料理は元々得意な分野だったけど、インドで本格的にカレーの修行をしてみて分かったことがあるわ。それは、私がカレー職人に向いているってこと。自分でもビックリしたわ。 インドに来て1年で、たちまち私はインドのカレー業界に新星現るといわれるまでに成長してた。 私の働く店では、連日長蛇の列が軒先に並んでいる。もちろん、みんな私のカレー目当ての客ばかり。これはもうインドカレーの頂点を極めたと言っても過言ではないわね。 これ以上インドでカレーについて学ぶことが無くなった私は、ビザの期限を延長することなく日本に帰国した。 日本か。なにもかもが懐かしいわ。 思えば1年前、私はキョンとみくるちゃんが校舎裏で抱き合っているのを目撃してしまい、過去を捨てるためインドに渡ったんだったわ。 今更復学するつもりも毛頭なかったから、私はインドでならした腕とノウハウをもってカレー専門店に就職したわ。学歴なんてなくたって、私にはインドのカレー業界新人No.1の実績があったからね。 ハルヒ「有希!?」 長門「………ひさしぶり」 ハルヒ「あなた、ここで働いてたの?」 長門「………そう。正確には、アルバイト」 ハルヒ「偶然ね。有希と会うのも、1年ぶりかしら。元気にやってる?」 長門「………まあまあ」 ハルヒ「そう。それはよかったわ。日本に帰ってきたばかりで不安もあったけど、有希と一緒なら百人力よ。よろしくね!」 長門「………よろしく」 長門「………お客さん。いらっしゃいませ」 ハルヒ「いらっしゃ……げっ!」 ハルヒ「キョ、キョン…! それと古泉くん。よりによってあの2人が客なんて…」 長門「………私は洗い物がある。接客はまかせる。水を持って行って」 ハルヒ「わ、私が!? う……どうしよう。顔、合わせづらいわね…」 1年前のあの日、キョンのことはもうキッパリ潔く忘れたつもりだったけど、さすがに面と向かって会って話をするのは気が引けるわ。 でもこれは仕事なんだし、客が昔好きだった人だから接客したくないなんて言えないわね。 仕方ない。変装していくしかないわね。髪を三角巾でまとめてメガネをかけて、口の両頬にティッシュを詰めて輪郭をごまかせば私が涼宮ハルヒだとはバレないはず。 「いらっしゃいませ」控えめにそう言って水をキョンと古泉くんのテーブルに置いたけれど、2人は真剣な顔で話をしてて私には気づかなかったみたい。 キョン「まったく。もう1年だぜ。あいつがいなくなって。無事なら連絡のひとつでもよこせってんだ」 古泉「八方手を尽くして探してみましたが、見つかりませんからね。もしかしたら、もう日本国内にはいないのかも知れませんよ」 キョン「そんな馬鹿な。いくらあいつの行動力が群をぬいていると言っても、理由も伝言もなしに突発的に外国へ行くわけないだろ」 古泉「本当に。どこへ行かれてしまったんでしょうね。我らが団長様は」 キョン「ハルヒが俺たちに居場所を知られたくないと願っているから、依然長門にも所在地は割り出せないらしいし。お前んところも無理なんだろ?」 古泉「ええ。いかに機関の情報網が優れていようと、神の意思には逆らえません」 ひょっとして2人とも、私のことを話してるの…? なんか、うれしいな。今でも私のことを気にかけててくれたなんて。 でもごめん。今はまだ、2人の前に顔を出す心の準備ができてないから。そうだ。後で有希に私のことを秘密にしておくよう口止めしとかないと。 カレー専門店で有希と一緒に働き始めて1週間が過ぎた。第二の故郷であるインドも好きだけど、やっぱり生まれ育った日本はいいわね。 そろそろ日本の暮らしにも慣れはじめてきた、というより勘をとりもどしてきた私は、今日も清々しい気分で店へ出勤し、タイムカードを押した。 キョン「ハルヒ!」 ハルヒ「キョ、キョン!? なんでここに……?」 長門「………」 ハルヒ「有希……あなたまさか、私のことキョンに喋ったの!? 私がここで働いてるってことは内緒にしといてって、約束したのに!」 キョン「長門には俺がずっと頼んでたんだ。お前を見かけたら、どんな小さな情報でもいいから教えてくれって」 ハルヒ「うそ……嘘よ! 有希が、私を裏切ったっていうの!?」 長門「………」 古泉「それは違いますよ、涼宮さん。長門さんもこの1週間悩んでいたんです。ですが、やはりこうした方がいいと判断されたから、僕たちにあなたのことを教えてくれたのです。あなたにとっても僕らにとっても、これが最良の ハルヒ「信じてたのに……SOS団の中でも、有希だけは私の味方だって思ってたのに……」 キョン「それはどういう意味……おいハルヒ、待て!」 ハルヒ「帰ってくるんじゃないかった! またこんな思いをするくらいなら、一生インドでカレーを作ってたらよかったのに!」 ハルヒ「もう誰も信じられない。他人なんて信じない!」 みんなの制止をふりきって、私は店を飛び出した。 1年前のあの日の再現だった。信じていた人に裏切られて、傷ついて、逃げ出す。 信じてたっていっても私が一方的にそう思い込んでただけで、みんなは私のことなんてどうとも思ってなかったんだろうな。抱き合っていたキョンとみくるちゃんも、キョンの味方をする古泉くんも、私との約束を破った有希も。 分かってる。誰も悪くなんてないんだって。私が勝手に、そうあってほしいと願うSOS団員像のイメージを、みんなに投影していただけだから。 そう悟ったから私は、もう誰にも期待しない。誰も信じない。 もう二度と、私の期待を反故にされて傷つきたくないから。 キョンたちの前から逃げ出して2週間。私は手持ちのお金でチェーンソーを買い、山にこもっていた。 県道からはずれて1時間近くうっそうとした山道を登った小さな集落が新しい私の居場所だった。ここでの暮らしは楽でいい。 そこでの仕事は、杉の木にチェーンソーの刃を入れ、斧で裂け目を砕いて倒す。そして倒木をみんなで運んで日当をもらう。いわゆる木こりをしながら生計を立てていた。 ここでは木を切る時以外に他人と接点をもつことはない。仕事以外のことで誰にも期待しなくていい。だから傷つくこともない。 なにも考えなくていい。 ~涼宮ハルヒの逃避行・その②へつづく~
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/44.html
「そういえば有希の誕生日っていつなの?」 いつものように集まった喫茶店の席で、思い出したような顔でハルヒが聞いた。 長門は手元の分厚い本から目線を上げ、不思議そうな表情で団員それぞれの顔を見たあと、 ハルヒを見つめて固まってしまった。 「どうしたんだ?突然」 「やっぱり団長たるもの団員の誕生日くらいは祝ってあげないとね」 ハルヒは有難がれとばかりに胸を張っている。 俺の誕生日は知らんくせに。 「で、いつなの?過ぎてからではお祝いのしようもないからね」 続けられた質問に、長門はきょとんとした無表情のまま俺のほうに顔を向ける。 「どうすれば」と言わんばかりに。 そう言われてみると、長門の誕生日はいつになるのだろう。 厳密に言えば3年前の情報フレアとやらの日なんだろうが、それじゃこいつは3歳ということになってしまうしな。 まぁ誕生日なんて調べてわかるもんでもないだろう。 適当に決めちまえばいいさ。 ながとだから7月10日とかね。 産まれた日がいつかなんてハルヒも気にしやしないさ。 そんな風に考えながら笑顔を向けてやると、長門はわかったとばかりに数ミリだけうなずいて、ハルヒに向かって 「今日」 と告げた。 おいおい、お前の誕生日が何月何日でも誰も迷惑しないが、今日ってのはないだろ。 突然すぎるぞ。 しかし、言ってしまってはもう遅い。 ハルヒはテーブルに勢いよく手をついて立ち上がると、 「何で言わなかったのよ!?有希?」 店内に響き渡る声でツバを飛ばしながら叫んだ。 朝比奈さんまで 「そうですよー」 なんて言って困った顔をしている。 あなたは気付いてください。 それは長門が今設定した誕生日ですよ。 古泉は古泉で、 「プレゼントを用意していませんね」 などと肩をすくめて微笑んだ。 お前は芝居がかりすぎだ。 「そうよ!プレゼント!準備してないじゃない!」 ハルヒは立ったまま続け、 「有希、今欲しいものある?」 テーブル越しに、こればっかりは優しい口調で問いかけた。 「今日は有希の誕生パーティに変更するわ!さぁ、なんでも好きなものを言っていいのよ」 長門はやっぱり無表情のまま…それでも考えるような仕草をわずかに見せて、 「遠慮することないのよ」 と微笑みかけるハルヒの胸のあたりに視線を止めた。 「え?何?」 俺も興味があった。 ハルヒを見つめる長門が、何を欲しいと言い出すのか。 真っ黒な瞳が少しだけ動き、「いいのか?」と問うようにハルヒの顔を見上げて、 「洋服」 「…服?」 長門が見ていたのはハルヒの体ではなく、着ている布のほうだった。 「いいわ!有希、思いっきり可愛いの選んであげる!」 ハルヒは、先ほど驚いたときと同じ様に机を叩いて立ち上がり 長門の好みを問いただし始めたが、長門の視線はハルヒの胸あたりに固定されたまま動かない。 何かを言いそびれたように、俺には見えた。 「涼宮さん」 長門の表情を読もうとしている俺の向かい側に座っていた古泉が口をはさむ。 皆の顔が自分のほうに向くまでゆっくりと間をつくってから 「僕が思うに、長門さんは今涼宮さんが来ているそのカーディガンが欲しいのではないでしょうか。違いますか?」 微笑みたっぷりで妙なことを言いやがった。 確かに、長門の視線はそこに止まっていると言えなくもないが… 「そうなのか?長門」 重金属みたいな瞳がゆっくりとこちらを向いた。 「そう」 わずかに顎を引く。 「許されるなら」 そう言ってその瞳は、俺から視線をはずしてハルヒを見上げた。 その時俺は真っ白い能面みたいな無表情の中に、 小動物が抱いてくれと懇願するときの様な、そんな雰囲気を感じとった。 「そりゃいいけど…。お古でいいの?サイズもちょっと大きいかもよ」 若干照れながらハルヒは着ていたカーディガンを脱ぎ、顔の横で示すように広げた。 長門はそれを肩から先だけ動かして受けとると、確かめるように胸に抱き締めた。 「あなたが着ていたという事実が大切」 横で朝比奈さんが顔を真っ赤にして口元を押さえている。 俺も少し赤くなっていたかも知れないが…。 誰より赤面していたのは、他でもない、ハルヒだった。 次の週末、いつもの駅前には珍しく私服の長門がいた。 少し大きめの白いカーディガンの袖口から、生地よりもっと白い指先だけが見えている。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5097.html
年が明けて初詣やらなんやらでドタバタしていたが、もとの生活ペースに戻ろうとしているこの日 俺は親戚からのお年玉でPSPを買った。色は黒で最新型のアレ ソフトはモンスターハンターってやつかな よく分からないが「大人気」と書いてあったし一様糞ゲーでは無いだろう そういえば北校に持っていってよいのだろうか?北校はPSPの持込でいいような感じだし まぁ岡部らに見つからないようにすればいいか 始業式 新年早々一番ブルーな行事 こーちょーの話をだらだら聞かされるしな 楽しみと言えばあの元気な少女に会えることだろうな などと思いながら北校へハイキングコースを上っていた。 「よう キョン あけおめだな」谷口だここは返事しておくか「ああ谷口 あけおめ」 「そういえば俺ナンパ成功したぜ!まぁお前は涼宮が居るけどな」 ムカつく野郎だ。でもどうせ一週間程度で別れる運命さ谷口よ 「そうですかい・・・」 「じゃあ俺 自慢してくるから先行ってるぞ~」 教室に着くとハルヒが居た。 「ようハルヒ あけおめ~」 するとハルヒは睨んできた。 「キョン! 団長様に向かってその態度は何よ!」 年越し一回目のコイツの言葉はそれかよ・・・やれやれ 「へいへい あけましておめでとうございまーすっ」 「よろしい」 疲れる奴だな その後俺は席に着きPSPを取り出し電源を入れた。 「キョン!あんたもそれ買ったの?」 HIT!・・・・え?あんた・・・も? じゃあハルヒも 「ハルヒお前もPSP買ったのか?」 「そうよ!」 まぁ今話題のゲーム機だしな・・・ 「で ソフトは?」 と俺が言っている間にハルヒはカバンに手を入れてPSPを取り出した。色は白だ 「モンハンよ」 じゃあ通信できるな・・・ 「俺もモンハンだぞ」 「ええ?嘘!じゃあ部活の時通信しましょ! でもハルヒはHRが最大じゃあないのか? _________________________________________________________________________ 一時完 この後書いてくれたら嬉しいな モンハンを知っていたら だいたいのストーリー ハルヒがモンハンが気に入りSOS団を閉鎖空間に閉じ込める その閉鎖空間はモンハンと同じ世界だった。 朝比奈がいる未来はMH6などが大人気でモンハンを知っている ---- ---- ちょっと書かせてもらった。 さて、そんな心配は杞憂だったようだ。 授業も終わり、我らがSOS団部室へ向かい、通信を開始した俺達だったが。 「ちょっとキョン!なにやってるのよ! って、あ~~!!」 これで三回死んじまったな・・・。 画面にはクエスト失敗を告げる文字が悲しく映っている。 第一、俺もハルヒも買ったばかりの初心者だったというのに アレは無理があったんじゃないか? 数分前、俺が集会所へ行くとハルヒが既にクエストを受注していたようだった。 えーと、なになに《☆☆☆ 砂に潜む巨大蟹!》 って、☆3かよ!二人とも初心者なんだから、こういうのは一番最初からだな・・・。 「何いってんのよ!こういうのは強いのを倒すからこそ面白いんじゃないの!それにあたしとキョン、二人いるんだからそうそう負けるはずがないわ!」 というハルヒのお言葉により、狩猟へ向かったわけだが・・・。 「もう!なんで死んじゃうのよ! もっとしっかりしないさいよね!」 お前だって一回死んだだろうが。それに、お前の攻撃方法はなんなんだ?あれ。 殆ど溜め切りしか使ってなかったじゃないか。 「うるさいわね!武器といえば威力なのよ威力! あんたみたいな非力な武器は使ってられないわ!」 そう、ハルヒはどんな状況でも溜め切りを使おうとしていたのだ。 おかげで何回も吹っ飛ばされていた。 結局ほとんど攻撃していたのは俺だけだったじゃないか。 まぁ、村長からもらったお金しかなくビンを買えなかったので、非力だったことは否めないが・・・。 ちなみにもうお分かりかとは思うが、俺は弓、ハルヒは大剣だった。 「とにかく!もう一回いくわよっ!」 おいおい、せめてランクを落とすとか、そういう考えはないのか?こいつには。 せめてクエストは変えようぜ?マフモフで砂漠へ行くのはどう考えても無理がある。 なんてことを考えつつハルヒに進言しようとしていると 「おや、二人とも早いですね。 それは何をしているのですか?」 「あら、古泉くん。 モンハンよモンハン!もしかして古泉くんも持ってたりしない!?」 「いえ、残念ながら。結構有名ですから知ってはいますけどね。涼宮さんがしているのは意外でしたが。」 「そう・・・まぁいいわ!ほらキョン!早くきなさい!」 やれやれ・・・結局同じのに挑戦か・・・。 「まぁ、いいじゃないですか。中々優秀な防具が作れますよ、ダイミョウサザミは。」 って、古泉。お前持ってないんじゃなかったのか?それに、なんで小声なんだ。しかも顔が近いぞ。 「おっと、失礼。いや、僕も持っているのですけどね。 あなた達が始めたばかりのようでしたので。明日新しく買ったふりをして持ってこようかと思っていたのですよ。」 なんでわざわざそんなことを・・・。即戦力が入ったほうがハルヒだって喜ぶだろうに。 「涼宮さんはそんなに簡単な勝利は望んでいませんよ。苦労し、試行錯誤して勝つ。その達成感こそが喜びになるのです。」 なんだかよくわからんが・・・。ということは明日からはお前も参加できるのか。 「はい、そういうことになりますね。 どうぞよろしくおねがいします。」 なんだかこのまま行くとSOS団全員でやることになりそうだな・・・。 朝比奈さんがモンハン・・・駄目だ、想像できん。 長門はものすごい技量を発揮しそうだが・・・。 「おっと、始まりますよ。」 ああ、そうだな。やるとするか。 結局、その後三回ほど挑戦したが一度も勝てなかった。 しかし、古泉が言っていたことは本当らしいな。 負け続けて悔しそうにしてはいたものの、閉鎖空間は一度も発生しなかったようだ。 この日、朝比奈さんは普通にお茶をいれてくれていたが、なんだかそわそわしていたようだった。 そしてなにより一大事なのが 「今日は用事がある。」 とだけ言い残して長門が来たとたんに帰っていったのだ。 しかし長門のあのときの顔はこう・・・若干疲労しつつも諦めたような顔だった。 そんなことを思っていたので、部活が終わって早々、俺は長門に電話をかけてみようと・・・ 思ったのだが向こうからかかってきた。 これは宇宙的事件の始まりか・・・と少しばかり緊張して通話ボタンを押すと 「今から26分後、大規模な世界改変が行われる。 情報統合思念体は総力を尽くして対処したが、涼宮ハルヒの勢いはとめられなかった。」 どういうことだ?というか、そんな悠長にしてていいのか? 「今回の世界改変は至って特殊。大きな改変には違いないが、涼宮ハルヒの興味が強くなりすぎたため行われる。よって、その興味が失せていけば次第に解決されると思われる。」 そのとき、俺はピーンときたね。 ハルヒがそこまで興味を持ったもの、そんなもの一つしかない。 だとすれば、俺たちは今からその世界へ放り込まれるわけで。 俺は不安というよりは若干の楽しみを感じていた。 だってそうだろう?男なら一度はファンタジーの世界へといってみたいと思うもんさ。 長門、状況は理解できた。 「そう」 ところで、お前モンスターハンターは知っているか? 「知らない」 だろうな。いいか、モンハンというのはハルヒが興味をもったゲームソフトだ。 「ゲームソフト?」 ああ、コンピ研の時やったものがあるだろう?あれがゲームだ。 そして今から俺たちはその世界へといくんだと思う。 まさか俺が長門に説明する日がくるとはね・・・。 ってことはあれか、色々準備しなきゃいけないのか。砥石とか。 「理解した。ただ、一つ問題がある。」 なんだ? 「今の話を情報統合思念体に報告したところ、一つわかったことがある。」 結論? 「そう、そのモンスターハンターというゲームの内容にそって改変されるとしたら、私の情報制御能力は消滅する。」 それはまた・・・しかし、なんでだ? 「私の能力はそのゲームでいうところのチート行為に値する。」 なるほど。・・・ってことはあれか。長門の力は今回は期待できない、と。 「そうなる。ただ、私自身の能力は低下しない。」 そうか。 なら、大丈夫じゃないか。あれだけの運動神経の持ち主だ。 「そう。」 まぁ、ハルヒが飽きるまでモンハンの世界になるってだけだろ? 今までなら驚きだが、もう余裕を持って対処できるね。 これから数週間、中々に面白い日々が待ってそうだ。 「・・・今から、改変が始まる。」 そうか。よし、どんとこい。 「50秒前」 「20秒」 「3.2.1.」 俺の意識は暗転した。 ・・・雪山? というか、すごく寒いぞ・・・。 そうか、改変されたのか・・・。 でもなんで雪山なんだ・・・? いや、ちょっと待てよ・・・。 ゲーム開始時の雪山なんてイベントは決まってるだろ・・・。 いやいやいや、まずい。非常にまずい。 まぁ、主人公は助かってたんだ。俺も助かる・・・よな? なるほど、主人公。気持ちがよくわかったぜ。 いきなり頭上が暗くなった・・・。 なんつーか・・・でけえなあ、ティガレックス。 ----
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1684.html
今、俺達SOS団の面子は全員俺の部屋にいる。 ハルヒ「ちょっとキョン!?あんたマジでTVゲーム機を64とスーファミしか持ってないわけ!?」 キョン「しょーがねえだろ。金ねえし」 ハルヒ「ゲームキューブ…ましてやプレステすらないなんて…あんたセンスなさすぎ、ってかダサいわよ!!」 こいつは今の俺の金がないという言葉を聞かなかったのか キョン「お前にいっつも奢られてるせいで金がないんだ。それ以上でもそれ以下でもない」 ハルヒ「あんた私のせいにするつもり!?責任転嫁もいいとこね。あんたが早く来ればいいだけのことなのに」 それができねえから苦労してんだよハルヒさん ハルヒ「まあいいわ、64で我慢してあげる。カセットはどこにあるの?」 キョン「そこのタンスの中にある」 それを聞くと、早速ハルヒはプレイするカセットを探し始めた。 そんな中、古泉はいつものニヤニヤ顔で、朝比奈さんはいつもの微笑ましい笑顔で、長門はいつもの無表情で 俺とハルヒのやり取りを見守っていた。なぜこんな状況になっているかは昨日の放課後に遡ることになる。 その日は金曜であった。俺と古泉が部室で平和にオセロをしていて、朝比奈さんがお茶を入れてて、 長門が本を読んでいて、そこに勢い良くドアを蹴飛ばして入ってくるハルヒ。いつも通りの光景である。 ハルヒ「土曜の不思議探索どうしよっか?!?」 古泉「涼宮さん、そのことなんですが、明日土曜は雨のようですよ。」 ハルヒ「え?そうなの?それは困ったわね」 正直に言おう。ここで俺はひそかに不思議探索が中止になることを祈っていた。 そりゃそうだ、月~金と学校があって土日は休むための日である。この休むはずである日に毎週俺は 労働しているわけだ。である故に、せめて雨の日くらいは家でゆっくり休みたいと思ったしだいである。 しかし、ここでハルヒは俺の期待を180度裏切る発言をするのだ ハルヒ「じゃあキョンの家に行きましょう!」 はあ??なんじゃそりゃ。休むも何もあったもんじゃない。だが、ここでハルヒに反対しても無意味だということを 俺は今までの経験で学習している。だからもはや悪あがきする気も起きない…潔くあきらめるってのは気持ちいいな。 仕方ねえ、明日も今まで同様、お前に俺の1日を捧げてやるよハルヒ そんなわけで今に至る。もちろん休日であるからみんな私服である。長門は相変わらず制服であるが。 土曜の午後、外では雨がしきりに降っている。 ハルヒ「みんな、このゲームやってみない!?」 ハルヒが手にしているのは64でオナジミの大乱闘スマッシュブラザーズである。 キョン「それはいいが、何でスマブラなんだ?」 ハルヒ「こういうみんなでバトルするゲームって盛り上がるじゃない?それにスマブラって任天堂ゲームのキャラが 勢ぞろいでしょ?一つ一つのシリーズのゲームやるより、全部のシリーズのキャラが集合って何かお得じゃない! それに私このゲーム持ってるし」 そうかそうか。ハルヒらしい考えだ、特に否定はしない。だが問題は… キョン「朝比奈さん、スマブラをやったことありますか?」 そう、問題は今までスマブラをやった経験があるかどうかなのである。初心者同士ならともかく、 ハルヒが参加するとなると未経験者は悲惨なことになるのは安易に想像できるであろう。だからといってハルヒは ハンデを受け入れるような柔和な性格でもないことを俺は知っている。長門は機械マスターであるからいいとして 問題は古泉と朝比奈さん…特に朝比奈さんは未来人である。スマブラの存在を知っているかどうか怪しい。 いや、90%を超える確率で知らないと思うが。しかし朝比奈さんは驚くべき言葉を口にした。 みくる「(小声で)ええっと…実は未来においてもスマブラは流行ってるんです」 何ですと?! みくる「(小声で)もう何本もシリーズが出てます…私の世界ではゲームの代表格的存在です。」 聞いたか任天堂社員!?お前らは数10年後の未来までも安泰だそうだ、よかったな。 キョン「(小声で)それは驚きです…しかしそんなことしゃべっていいんですか?いわゆる禁則事項ってやつでは?」 みくる「(小声で)そうですね。でも、後でこのゲームをやって私がやれたとき、キョン君は未来である程度これが 知られているということに必然的に気付くでしょう?だから黙っておく必要もないと思ったの」 キョン「(小声で)なるほど、確かにそうですね。って朝比奈さんこれやったことあるんですか!? 未来では何本かシリーズ出てるらしいですが、これは1ですよ?」 みくる「(小声で)昔のゲームも未来では新しい機械を使って…あ、これ以上は禁則事項です、すみません」 少なくとも、未来では昔のから最新までのゲームをできるような環境にあるってことか。なんとも面白そうだ。 キョン「(小声で)しかし、朝比奈さんがTVゲームをやったことがあるとは驚きです」 みくる「(小声で)ふふふ、私も子供なんだからするときだってありますよ♪」 なんだかんだで朝比奈さんは大丈夫のようだな。しかし凄い事実を知ったな…スマブラ凄いぜ。さて、次は古泉だ。 キョン「古泉、お前はやったことあるのか?」 古泉「ええ、ここに来る前は学校の友達とよくスマブラをして遊んだものです。」 キョン「お前もゲームをしてたのか。ちょっと驚きだな」 古泉「(小声で)僕だって涼宮さんに力を与えられて超能力者になるまではごく普通の学生でしたからね、当然でしょう。 といっても、今でもたまにすることはあります」 なるほどね。これで全員がスマブラをできる条件を満たしていることは確認できた。 キョン「しかしだなハルヒ、64は4人でしかできないから一人抜けないといけなくなるぞ」 ハルヒ「確かにそうね、どうしようかしら」 長門「私が抜ける」 今まで黙っていた長門が突然口を開いた。 キョン「い、いいのか長門?」 長門「いい」 そう言うと長門は本を取り出して読み始めた……確かに、機械にめちゃくちゃ強い長門のことだから やったら長門が1位になるのは間違いなさそうだ、故に長門はハルヒを気遣ってるのかもしれないな。 ハルヒ「よ~し!じゃあやるわよ!有希、後であんたにもやらせてあげるからね!」 こうして俺、古泉、朝比奈さん、そしてハルヒの4人の大乱闘が始まったのである。 設定は3分の時間制バトルということになった。どうやらハルヒは短期戦がお好みのようである。 ハルヒ「さあ、一気にあんたたちを片付けるわよ!!」 本当に片付けそうだから怖い。ってかこいつはやったことがあるらしいが、一体どれくらい強いのであろうか。 気になるところである。古泉は…たぶん弱いな、根拠は今までのあらゆるゲームにおけるこいつの連敗記録である。 朝比奈さんは…うーむ、予測がつかないな。一見あまり強そうには見えないが、 もしかしたらダークホースになる可能性も…いや、いくらなんでもそれはないか。 使うキャラは次のようになった。 ハルヒ(1P)=ドンキーコング、キョン(2P)=ルイージ、朝比奈さん(3P)=ネス、古泉(4P)=フォックス ハルヒはドンキーできたのか。パワー系で一気に片付けるってか、なるほどハルヒらしい。古泉は…まあ妥当だな。 そして俺が一番驚いたのは朝比奈さんだ。何?ネスだって!?大抵の人は彼女の使うキャラはプリンやピカチュウと 思い浮かべるはず。まあネスも子供だから彼女らしいと言えばそうかもしれないが…ファルコンとかよりはマシか。 だが問題はネスは上級者向けのキャラということである。いや、そうでもないのか? まあ何が言いたいかというと、油断はできないということである。…ハルヒは言わずもがなであるが。 え?自分?ルイージだが何か文句あるか?確かに、スマブラにおいてルイージを使うやつなんてのは あんま耳にしない。しかし自分は使いやすいんだから他人にどうこう言われる筋合いはない。 頼むぜ緑のヒゲオヤジ、お前にかかってるぞ。 試合が始まった。場所はフォックスの本拠地セクターZである。 さて、まずは様子を見るとしようか…というわけにもいかない。 ドンキーハルヒが始まって早々ルイージに突撃してきたのである!! ハルヒ「キョン!あんたは私の最初のえじきよ!光栄に思いなさい!!」 思わねーよ!ネス朝比奈はそんなハルヒを恐れたのか右端に逃げたようである。 フォックス古泉はというと、Bボタン連打でブラスターショットをピュンピュン俺とハルヒにぶつけてくる!卑怯だぞ古泉。 古泉「いつも僕はゲームであなたに連敗でしたからね。今こそその雪辱をはらすときです」 何が雪辱だ。Bボタン連打してるだけじゃねーかこの卑怯者。 そんな俺はドンキーハルヒの先制にやられ、後ろに投げられる。起き上がってハルヒに立ち向かうが、ドンキーハルヒの ↓+Bのハンドスラップで中へ浮かされてしまう!!そこに追い討ちをかけるかのように空中+前+Aのハンマーナックル がルイージに直撃する。何だこれは、ハルヒめちゃくちゃ強いじゃねーか!!!?これはやばい、頑張れヒゲオヤジ! ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン! これは世に言うウザいというやつである。呆れたことに古泉は10秒以上もブラスターショットを 戦ってる俺達に撃ちつづけているのである。特にハルヒの被害は甚大である。 体の大きいドンキーハルヒはルイージよりも攻撃に当たりやすいからだ。 ハルヒ「チッ」 ハルヒは古泉を睨んでいる。その様子に爽やかスマイルの古泉は気付いていないようだ。 古泉よ、俺に復讐したい気持ちもわかるがそのへんにしとけ、お前の明日はないぞ。 ってそういえばネス朝比奈は何してるんだ?見ると、右端でタルを壊していた。なるほどアイテム調達か。 って今は目の前の敵に集中しなければ。ルイージは悲惨なことにドンキーハルヒの↑+Aの連続攻撃に苦しんでいた。 このまま%がたまって↑+A+スマッシュのドンキー必殺のジャンボプレスを食らえば 間違いなくヒゲオヤジは星になっちまう!!!! ピュン! ドンキー「うっ」 お!身動きの取れない俺であったが、フォックス古泉のブラスターショットによりドンキーハルヒの動きが一瞬止まった! 礼を言うぜ古泉!! ハルヒ「…」 古泉を睨むハルヒ。古泉、お前の明日はもうオシマイだ。そして動きが止まったその一瞬を俺は逃さなかった。 ルイージ「Yahoo!!」 空中左斜め上からドンキーに↓+Bでルイージサイクロンをかます!ドンキーは右斜めに吹っ飛んだ。 フォックス古泉の方向である。 ハルヒ「キョン、あんた命拾いしたわね」 そう言うと、ハルヒは攻撃対象を変えた。言わずもがな、フォックス古泉である。俺はおとなしくそれを観戦するとするよ。 ドンキーハルヒの空中+後ろ+Aのゴリラキックがフォックス古泉に炸裂する。 フォックス「うーッファイヤー!!」 負けずに↑+Bのファイヤーフォックスで抵抗する古泉。 アホかこいつは フォックス「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」キラーン 思ったとおり、ハルヒの↑+Aの連続コンボを食らい続け とどめは↑+A+スマッシュでフォックス古泉は星になった。 さらば古泉フォーエバー♪ ファイヤーフォックスとブラスターショットを食らい続けたせいかドンキーハルヒの%がかなりたまっている。 ハルヒを仕留めるには今しかない!ドンキーに向かってダッシュするヒゲオヤジ。よし、これでハルヒを PKボム!! !? ネス「Wow!!!!!!!!」 ルイージ「あひゃひゃひゃひゃひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」キラーン あ、ありのまま起ったことを話すぜ…ハルヒを倒そうとしたらいつのまにか俺は星になっていた。 何を言ってるのか理解できねーと思うが俺にも理解できなかった。何か、恐ろしい片鱗を味わったぜ… …つまりだ、先ほどタルを壊してスターロッドをゲットしたネス朝比奈が俺とハルヒと古泉の戦いの様子を見ていて 俺達の%がたまったところで突然俺達の目の前(右)に姿を現し↑+BのPKサンダーをつかってきたのである。 大胆すぎます朝比奈さん。一体何があなたをここまで変えたというのですか!? みくる「ゴメンねキョン君♪」 というわけで俺とハルヒはそのエジキに…ではなかった。なんとハルヒはそれを避けていた! やはりこいつ、かなりの上級者である。ってやばい、朝比奈さん逃げてええええぇぇぇぇぇぇぇ ハルヒ「いい度胸ね?みくるちゃん?私をフッ飛ばそうとするなんて♪」 ハルヒのキレ具合に急に顔が真っ青になる朝比奈さん。いかにも、私調子に乗りすぎちゃいましたって顔をしてる。 みくる「!」 ネス朝比奈は危険を感じ取ったのか、反射的に手に持っていたスターロッドをドンキーハルヒに投げつけた! しかし避けられてしまった!朝比奈さんの運命はいかに!? 蘇ったフォックス古泉は左端にあったタルを壊していた。続いて蘇った俺、ことルイージはそんな古泉へと突撃した。 そりゃそうだ、今無理にハルヒVS朝比奈さんの戦いに突っ込めばそれこそ自殺行為であろう。であるからして 対象は必然的に古泉となる。まあ俺がこいつと戦ってみたかってのもあるが。 すると突然フォックス古泉は上半身と下半身を激しく振りだしたではないか 新手のアピールのつもりか。見てるこっちは不快だぞ 古泉「ふふふ、ハンマーには勝てませんよね。痛めつけてあげます」 やめろ古泉。ただでさえ今、お前のキャラが腰を激しく振ってんだ。言動がSっぽく聞こえる そして逃げるヒゲオヤジ。くそ!もしサムスを使ってたらハンマーにも対処できたというのに ヒゲオヤジでは何も対処することができない!!今は逃げ回るしか… お、レイガン発見 一方、ネス朝比奈は案の定ドンキーハルヒに右端でボコボコにされていた。 後ろ投げ、ダイレクトスルーの連続攻撃である。これは痛い、痛すぎる。 ハルヒ「どう?みくるちゃん?これがハルヒ流ドンキー奥義よ!!」 みくる「ぴええぇぇぇぇぇん」 ゴリラにぶちのめされる少年…あまりよろしくない光景である。しかしネス朝比奈にも反撃の糸口ができた。 受身をとりドンキーハルヒのつかみを回避することに成功した。そして奇跡的に空からモンスターボールが 降ってきたではないか!ネス朝比奈はそれを手に取りボールを開く。 もしこれがイワークやカビゴンなら彼女の逆転は可能だ。さあ何が出てくるか ラッキー「ラッキー!!!!!!」 おお、なんとラッキーが現れたではないか。 ハルヒ「そうはさせないわ!!!!!!!!!」 これはラッキーだった…………ドンキーハルヒに。 やつはラッキーが生んだ卵を取ろうとするネス朝比奈に↑+Bの回転スピンで妨害し全ての卵を強奪したのだ。 そしてその卵からモンスターボールが再び現れ、ドンキーハルヒはそれを投げた。 バン!バン!バン!バン! その頃、ヒゲオヤジはレイガンで発狂したハンマーフォックス古泉を撃ちまくってた。古泉は手も足もでない。 完全に立場は逆転した。よし、このままフォックス古泉を左端までもっていけば… フォックス「うぉう!」 ルイージ「Oh!」 ネス「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」キラーン い き な り 蜂 が と ん で き た つまりである、先ほどドンキーハルヒが出したモンスターボールからスピアーが現れたのである。 この影響でヒゲオヤジとキツネは上空へと叩きあがられ、%がたまっていたネス朝比奈は星になった。 幸いなことにまだ俺は星になるほどは吹っ飛ばなかった。まだあんま%がたまってなかったからな。 古泉も然りだ。さて、またレイガンでやつを ビュン! ルイージ「Oh!」 ビュン! ルイージ「Ah!」 !? ヒゲオヤジは左端へ吹っ飛ばされ死亡した おいアーウィン、俺に何か恨みでもあるのか? やれやれ、スピアーの次はアーウィンか。古泉との戦いに夢中で右背後にアーウィンが接近してたなんて 全然気付かなかった。俺も運が悪い フォックス「ううん…ううん…ううん…」 おいおい今度は何だ?フォックス古泉が顔を真っ赤にして両手で頭を抱えてるぞ? さっきの激しい腰振りといいお前は一体何がしたいんだ古泉 ええっと、何事かというとフォックスはさっきのアーウィンのビーム攻撃にシールドでガードをしたが故に シールドクラッシュを起こしてしまったというわけだ。 動けないフォックス古泉。よし、蘇った俺がとどめを…と思ったらそうはいかなかった。 なんといつのまにか蘇ったネス朝比奈がフォックスの前に立っているではないか。 古泉「あ、朝比奈さん一体何を…?」 みくる「ごめんね古泉君♪」 なんと、あの朝比奈さんがスマッシュバットでフォックス古泉をフッ飛ばしたではないか!!!!もちろんやつは死亡した …………なんかSな朝比奈さんが怖くなってきた。ってかさっきからとばしすぎじゃないっすか朝比奈さん!? みくる「私は面白いです♪」 おお、極上満点な笑顔!それが見られればSだろうがMだろうが俺は気にしませんとも、ええ。 古泉「チッ」 あ、朝比奈さんを睨んでやがる……そんなに悔しかったのか。復讐心丸だしの顔じゃねーか。 さて、未だにハルヒは1回も死んでいない。ということは逆に言えばやつはかなりの%がたまっているのである。 今度こそやつを仕留める!うむ、まるで織田信長になった気分だ。ってことはドンキーハルヒは今川義元か。 もっとも、この信長はすでに2回死んでるが。潔く先陣をきって今川を仕留めんとせんヒゲオヤジこと織田信長 …ん?待てよ、ルイージはどっちかっつうとヒゲナマズの石田光成に例えたほうがいいのか? とかあまりにもくだらんことを考えていた俺にスキが生じたのであろうか、 ルイージはドンキーにつかまれ、背中にのせられる。ドンキーは俺を抱えたまま移動する。 キョン「おいハルヒ!ル イージをどこへ連れていくつもりだ!?」 ハルヒ「わかってるくせにッ」 ハルヒがニヤリと返答する。 ルイージはドンキーと道連れに奈落の底へと落ちていったのであった……つまりルイージ&ドンキー死亡 なぜハルヒがこんな道連れ行為をとったか俺にはわかる。ドンキーの%が高かったことから、いつかは 吹っ飛ばされると考えていたんだろうな。そこで%を0にするためにいっそのこと道連れを図ったというわけか。 なるほどね。 その頃、左端ではネス朝比奈が蘇ったフォックス古泉の報復を受けていた…………… 古泉「…」 と思ったのだが、逆であった。なんとフォックスがネス朝比奈の↑+Aのトス連続攻撃で血祭り状態だったのである!! ここで二つわかったことがある。一つは、いくら古泉が復讐心に燃えようが本気になろうが、 所詮ゲームでは誰にも勝てないほどやつは弱いってことがな。まあ落ちこむなよ古泉。お前のその闘志は認めてやるよ 二つ目は言わずもがな、朝比奈さんはやはりSだ。Mなのは相手がハルヒのときだけだというのか……orz みくる「何か言いました?♪」 キョン「いえ、何でもありません♪」 そんなやられっぱなしのフォックス古泉が、ネス朝比奈の空中+Aの空中キックで こちらヒゲオヤジの方向へ飛ばされてきた 古泉「…」 古泉「僕に秘策があります。僕はまた今から朝比奈さんに報復しますんでどうか僕に攻撃しないでください」 キョン「古泉、お前 必 死 だなw」 ルイージ「Wahoo!」↑+A+スマッシュ バシ フォックス「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」キラーン 古泉「………もうやだ…」 だが、休息は訪れず ハルヒ「さあ、私にひれ伏すのよ!!!」 げえ、ハルヒ!こいつスターとって無敵になってやがる。そ、そうか、さっきの朝比奈さんVS古泉の戦いに絡んでこない と思ったら、俺と道連れに死んだ後、右端でアイテムを物色してたのか。く、これ以上死ぬわけにはいかねえ まともに勝負しても勝てないだろうから俺は逃げる! うむ、見事に逃げることに成功した。その代わり、ネス朝比奈がドンキーハルヒにまたしてもボコられたが。 すまん朝比奈さん、見捨てたりして。だけどこれはゲームだし、別にいいよな? 案の定、ネスは無敵状態のドンキーにぶっ飛ばされ星になった。 と同時に3分たって、喜怒哀楽まみれたドロドロの試合は幕を閉じた………疲れた 結果はこうだ↓ 1位ドンキーハルヒ=2(倒した回数3、落下数1) 2位ネス朝比奈=0(倒した回数2、落下数2) 3位キョンルイージ=-2(倒した回数1、落下数3) 4位フォックス古泉=-3(倒した回数0、落下数3) ハルヒ「どう!これが私の偉大なる力よ!」 みくる「ふう…ハードな試合でした。でも楽しかったですよ♪」 古泉「チッ」 たったの3分ではあるが随分長かった感じがする。もう一度言うが、疲れた。 ってか何みんな本気になってんだよ。ハルヒはともかくとして、何で古泉や朝比奈さんまで本気になってんだよ!? …そういう俺も本気だったかもしれないが。おかしい、スマブラってこんなに体力使うゲームだったか? 違う!この面子だからだ! ピンポーン ハルヒ「ん?誰かしら?」 キョン「ちょっと行ってくるわ」 一体誰だ? こんな大雨の中来るなんて変人以外の何者でもないぞ? ガチャ 谷口「うぃーっす!DODODO、土曜日~だから遊びにきたぜ!」 国木田「あれ?靴がたくさんあるね。SOS団のみんなも来てるのかな?」 鶴屋「こんにちは~にょろ!休日にまで君に会えて嬉しいよお姉さんは!うんうん!」 今後、スマブラにおける地獄絵がますます加速するであろうことを察知し 俺は目の前が真っ暗になった…… Fin(第2試合へ続く…かもしれない)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3480.html
涼宮ハルヒの感染 プロローグ? 涼宮ハルヒの感染 1.落下物? 涼宮ハルヒの感染 2.レトロウイルス? 涼宮ハルヒの感染 3.役割 涼宮ハルヒの感染 4.窮地 涼宮ハルヒの感染 5.選択 涼宮ハルヒの感染 6.《神人》 涼宮ハルヒの感染 7.回帰 涼宮ハルヒの感染 エピローグ
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/62.html
710 名無しさん@秘密の花園 2007/11/10(土) 00 19 39 ID GYkJOveZ いつも妹(ノーマルでは弟)のように思っていて 「この子は(有希は)か弱いから、私が守ってあげなくちゃ」 とか言って可愛がっていた相手からある日突然押し倒されて・・・・ なんてシチュエーションはザラにある。 711 名無しさん@秘密の花園 2007/11/11(日) 00 47 21 ID WML6t6cg 710 なんだそのもの凄く妄想させるシチュエーションは! 712 名無しさん@秘密の花園 2007/11/11(日) 04 04 10 ID rQgdwuvb まぁ有希ハルを妄想する時に必ず通るシチュエーションだよな。 ハルヒの有希に対する溺愛ぶりは、まるで妹に対するそれだよ。 何も知らないハルヒは、自分より長門の方がか弱いんだと思い込み、だから守ってあげなきゃという使命感に燃えている。 でもいざ押し倒されてみると、圧倒的な力差と超宇宙的テクニックの前に為す術も無く、急に小動物化してしまう。 で、事が終わってから言い訳の様に ハルヒ「あたしが本気で抵抗したりしたら有希を怪我させてしまうかもでしょ!べ、べつに(ry」 有希「そう・・・」 713 名無しさん@秘密の花園 2007/11/11(日) 15 01 41 ID /XRDiFqt 「えっ?何?ちょっと有希やめなさいよ!」 「やめない」 「そんなことダメだってば!」 「でも身体は正直」 「そ、そんなことないんだから」 「ある」 「んあっ!」 722 名無しさん@秘密の花園 2007/11/12(月) 18 25 34 ID EeiKyVvu 百合も大好きなんだが、 同性異性問わずモテてモテてモテまくりで、 SOS団全員から花束でも贈られてて、 「えっ………!?(///」ってなってる超々愛されまくり 逆ハー総受けハルヒが好きなんだが そんな異端は俺一人で十分だ! ちくしょう仲間なんていらねぇぞ! さあ、みんなで今日も百合の話をしようぜ! 725 名無しさん@秘密の花園 2007/11/18(日) 19 25 28 ID n2BUGsMc 「これ」 「お花?私にくれるの?」 「そう」 「うん。ありがとう有希、団員として良い心掛けだわ」 「団員としてではない。長門有希個人として…」 「わっ!?ちょっと有希?」 「…」 ↓ 713
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1529.html
【読まれる前に】 この作品は一つのタイトルの中に、 一話完結のお話がいくつもあるような形式です。 それぞれのお話に繋がりはコレといってありません 淡々とした日常の中の寂しさみたいなものを 少しでも感じていただければ幸いです。 涼宮ハルヒの夏(00) 涼宮ハルヒと夏 雨がひさしを激しく叩く音が聞こえる。 俺は今、ハルヒと雨宿りしてるわけだが 夏に突然の通り雨なんて珍しくもなんともない。 しかしコイツと一緒ってのがひっかかるんだよな、 これもお前が望んだことなのか、ハルヒ。 「やまないわね。」 「ただの夕立だ。スグにやむだろうさ。」 「・・・だといいけど」 「・・・・・・」 しばらく沈黙が続いた。 雨は幾分小降りになってきたみたいだな 沈黙を破ったのはハルヒだ。 「キョン、あんたアスファルトの匂いって分かる?」 アスファルトの匂い? 雨上がり独特のあの匂いのことだろうか。 「・・・まぁ分からないでもないな。突然どうしたんだ?」 「別にどうしたってほどのことでもないけど、なんていうのかしら・・・ そう、夏の匂いよ。あの匂いをかぐと、『今年も夏が来た』って思うのよ。」 「・・・ふむ。 で?」 「それだけ。」 「なんだよそりゃ。」 ふと、気が付くと雨はいつの間にかあがっていた。 「雨、あがったわね。良かった」 遠くで陽炎がゆらめいているのが見える さっきまでの大雨がウソのような、雲ひとつないピーカン空。 俺の隣を歩くハルヒはなんだか上機嫌だ。 アスファルトに染み込んだ雨はやがて蒸発し、雲になる。 なんだか夏の匂いがした, ・・・気がする。 涼宮ハルヒの夏(01) 長門と夢 「なぁ長門、お前も夢って見るのか?」 「・・・なに?とつぜん。」 「いや、ちょっと気になってな。」 「・・・・・・」 「これもまた唐突なんだがな、 この世界や、ハルヒや古泉達、そしてお前の存在すらも 実は誰かの夢ってことはないか。」 「・・・・・・」 「実はこれは全部俺の夢で、本当はどこか違う世界に本当の俺が居る。 この現実はその俺が見ている夢じゃない、といいきれるか?」 「どっちが夢か、あなたには分かるの? もしその夢からあなたが目覚めたとしても、あなたの目覚めたところが現実なのか さっきまで見ていたものが夢なのかあなたには分かるの?」 「・・・わからないな。たぶん。」 「それに夢だけとは限らない、実はこの世界は何者かによって作られた仮想現実。 あなたも私もただのAIなのかもしれない。 それとも、本当のプレイヤーが別の世界にいるのかもしれない。 人はこの世界を三次元と定義しているが、それは人の勝手な定義であって実は二次元なのかもしれない。 この世界が0と1で作られている可能性だって否定できない。」 「・・・・・・」 「重要なのは何故生きるのかではなく、どのようにして生きるのか。」 「ニーチェか。」 「・・・はくしき。」 「そりゃどうも。」 ガッ!バタン!!「おっまたせー!!ってあれ?キョンと有稀、2人で何話してたの?」 「なんでもない、とりとめのない話さ。」 ・・・コクリ 涼宮ハルヒの夏(02) 朝比奈みくると蛍 「キョンくん、」 「どうしたんです、朝比奈さん。」 「実は、ききたいことがあって…」 なんだろうか、またハルヒのことか?アイツは、また何か 朝比奈さんを困らせるようなことでもしたのだろうか。 こんなことを考えていたせいで俺は、 危うく質問を聞き逃すところだった。 「蛍って何処に行けば見られるんでしょうか・・・?」 「蛍、ですか。」 蛍ってのは6月の終わりごろから 7月にかけて見られるものだろう。今はもう8月も半分終わったぐらいだから、 「朝比奈さん、残念ながら今の季節、蛍はもう見れませんよ。」 「ふぇ・・・そんな~・・・」 そう言うと今にも泣き出しそうになる朝比奈さん 「そんなに蛍が見たかったんですか?」 「・・・キョンくん、未来、つまり私が来た次元では、 蛍はもう、映像や写真でしか見ることができない生き物なの。 だから、この時間平面上にいる間にどうしても見ておきたくて・・・」 「そうだったんですか。」 なるほど、蛍はもう間もなくこの地上から消えてしまうわけだ。 蛍も、もう後何年かで見納めか。そう思うとなんだか寂しいな。 「朝比奈さん、来年は見にいきましょう。SOS団のみんなと一緒に。」 「来年ですかぁ、楽しみにしてたのになぁ・・・」 「一年なんてすぐに過ぎますよ。 もう少ししたら秋が来て、あっというまにクリスマスと大晦日が来ます。 そしたらもう春はすぐそこで、その春を追い越せば また、すぐ夏に会えますよ。その時見に行きましょう。」 今思い返すと、古泉も真っ青になりそうなクサイ言い回しをした気がする。 俺の言ったことを聞いても、 朝比奈さんはまだ少し悲しそうな顔をしていたが 何がおかしかったのか突然、ふふっと笑うと、 「そうですね。」と呟いた。 涼宮ハルヒの夏(03) 長門と海 「長門は泳がないのか?」 コクリとうなずく長門。 「私はあまり好きじゃない。あなたは?」 「俺は、海は嫌いじゃないが、泳ぐより、眺めてるほうが好きだからな。」 「そう」 そういうと長門はサッと立ち上がり 「泳ぐ」 とだけ告げて、波打ち際まで歩いていった。 やれやれ・・・相変わらず挙動が読めない。 そういえば、長門が海で本格的に泳ぐのは今回が初めてだろうか 孤島の時も本読んでばっかだったもんな。 ちゃぷ・・・ 「冷たい」 「冷たいですか?長門さん。」 コクリ・・・ 「冷たいのは最初だけですよ、慣れると水の中のほうが暖かく感じます。 まぁ僕は冷たい海のほうが好きなんですがね・・・。」 「・・・・・・」 「長門さん、たまに、こんな風に思うことはありませんか 『実はこの世界は現実ではなく、ただの夢なんじゃないか?』とね。 そして、考えてるうちに気づくんですよ。 そもそもどちらが現実でどちらが夢なのか、明確に判断することはできない、 ということにね。」 「・・・・・・」 「そんな時に海に入ると、『冷たい、ああ、いま生きているのは僕なんだな』と、 現実を再確認することができるんです、僕はね。 勿論、これはとても不確かなことです。実際にはなんの解決にもなっていない。 ただ僕はこれで安心できるんですよ、この世界が夢じゃなかった、とね。」 ちゃぷ・・・ 「長門さん・・・?」 急に影が出来たと思ったら、 長門が俺を見下ろしていた。 そして、ちょこんと俺の隣に腰を下ろす。 「なんだ、結局泳がなかったのか?」 「・・・私も眺めているほうが好き。」 「そうかい。」 涼宮ハルヒの夏(04) 古泉と針鼠 「珍しいな。長門もまだなのか、古泉」 「そうみたいですね。でも、まぁ たまには僕達2人だけ というのもいいではありませんか。」 よかねえよ。 「普段できないような話もできますし。」 コイツがこういうこと言うと疑っちまうのはなんでだろうな。 ホモだけは勘弁してくれよ古泉。 「中学生の時、ですか・・・ 言っておきますが、僕は力が発揮できる場所を限定された超能力者です。 だから、中学生の時だって今と変わらない、いたって普通の学生生活を送っていましたよ むしろ今のほうが変わった体験をしているんじゃないんじゃないでしょうか。 涼宮さんのこともありますし。あなたのほうはどうなんです?」 「俺か、俺の中学生生活も・・・まぁ似たようなもんだったな。 地元の小学校から、そのまま公立の中学校に上がって、 普通に友達と遊んだり、ちょっと背伸びして街中まで服買いに行ったり、夏には泳いで花火して。」 「中学生らしいですね」古泉は微笑みながらそう言った。 「・・・まぁそんな普通の中学生らしいことをして3年間過ごしてきたわけだ。」 「しかし、あなたのことですからそんな日常が少々退屈だったのではないですか?」 俺は思わず「なんでだよ、それを言うならハルヒだろう」 そう言いかけて、やっぱり止めた。 「そうかもな。確かに俺は変わるようで変わらない日常に、少し退屈してたかもしれない。」 いや楽しかったといえば楽しかったんだぜ? ずっとこのまま気楽な生活が続かないかなー、とか考えなかったわけでもないしな。 「人間ってのは矛盾した生き物でな、古泉。 このままの生活がずっと続けばいい、って思ってても 心のどこかでは変化を望んでるもんなのさ。」 「人間の心の矛盾、ですか。あなたの口からその言葉を聞くことになるとはね・・・」 クックと笑う古泉。なにが可笑しいんだ 「いえ、決してバカにしているわけではありませんよ。あなたの言うことはよく分かります。 ただ、あなたも分かっているなら、そろそろトゲを落としてはどうですか? ハリネズミたちのジレンマにとらわれたままでは、心に生傷が絶えませんよ。」 「・・・なんのこっちゃ。」 やれやれ、まだこないのかねハルヒの奴は。 涼宮ハルヒの夏(05) そして夏の終わり 「もう九月か・・・夏が逃げてくな・・・」 (少し離れたところで) 「ねぇキョン、今日の谷口はえらく感傷的だね」 「そーか国木田、あいつはいつもあんなもんじゃないか? ・・・・まぁ、八月も終わりだしな、 ああいう気分になるのも分からないでもないが。」 「夏が逃げる、ね」 「日差しの割りに風がある、涼しいな、今日は。」 「なんだか今日はキョンも感傷的だね。夏の終わりは人をセンチにさせるのかな?」 「人間なんて誰も似たようなもんさ。 だれだって適当に優しく、適当に嫌味で。適当に怒りっぽく、適当に涙もろい。 そして、」 「そして適当にセンチメンタルなんだね。」 「そういうことさ。 ・・・夏が逃げる、か」 「・・・」 「もうすぐ秋ね。読書に食欲、有稀にはいい季節じゃない?」 「・・・・・・」 「いい風が吹いてるわね・・・」 「・・・秋を語るには時期尚早。まだ夏は残っている」 「何か言った?」 「なにも。」 「そう。」 「そう」 〆
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1039.html
さて、静かな時間が進んだのは、翌日の朝までだ。どうやら嵐の前の静けさって奴だったらしい。 日が昇るぐらいの時刻、前線基地の北1キロの辺りを警戒中だった小隊が数十両に上る車両に乗った敵が 南下してきていたのを発見したのだ。ハルヒと一緒にいた俺は小隊を引き連れて迎撃に向かったのだが…… 「おいドク――じゃなくて衛生兵! 負傷者だ来てくれ!」 俺は道の真ん中で鼻血を垂らしている生徒を抱えて叫ぶ。 だが、民家の路地で敵と撃ち合っていた彼には声は届かない。幸い、近くにいた別の生徒が俺の呼びかけに気がつき、 衛生兵の生徒をこっちによこさせる。 どこを撃たれたんだ!と叫ぶ彼に、俺は、 「足だ! それでもつれた拍子に頭から転んだ! 意識もなさそうだ!」 彼はわかったと言い、処置を始めようとするが、なにぶん道のど真ん中だ。そんなことを敵が許してくれるわけがない。 近くの民家の二階からシェルエット野郎がひょっこり姿を現すと、俺たちめがけて乱射を始める。 足下のアスファルトに数発が命中して道路の破片が飛び散り、俺の身体に振りかかった。 「邪魔すんな!」 俺はそいつめがけて撃ち返すと、あっさりと民家の中に引っ込んでしまう。 北山公園じゃ乱射して絶対に隠れたりしなかったくせに、ここに来てチョコマカと動くんじゃねえよ。 何はともあれ今の内に俺たちは負傷者を抱えて道路脇まで運ぶ。しかし、ここでも悠長に治療なんてやっていたら、 そこら中から銃撃を加えられるだろう。何せ、俺たちの周りに立ち並ぶ民家のどこに敵が潜んでいるのかわからないのだ。 とにかく、学校に負傷した生徒を戻すしかない。 俺は無線を持った生徒を呼びつけ、 「おいハルヒ! 負傷者だ! 数人つけてそっちに送り返すから、学校へ運んでくれ!」 『わかった! でも、さっき負傷者を満載したトラックを学校に返したばかりだから、ちょっと時間がかかるわよ!』 身近にいた二人の生徒に負傷者を担ぐように指示し、ハルヒのいる前線基地へ走らせた。 仕方がない。それでもこんなところにおいておく訳にはいかないんだからな。 負傷者を送り出した後、今度は2軒先の民家の塀の上から銃撃を受けるが、国木田が見事な腕前でそいつに弾丸を命中させる。 今じゃ、俺の小隊じゃこいつが最強の位置にいるからな。頼りにしているぞ。 と、国木田が俺の方に振り返り、 「キョン。3人減ったから結構パワーが落ちるよ。どうする?」 ここは前線基地から数百メートル北に位置する、住宅の密集地帯だ。ここを通り抜けられるともう前線基地の目の前に出る。 敵の侵攻を事前に察知した俺たちは、この住宅地帯で防御線を築こうとしていたんだが、 敵の動きが昨日とはまるで違うために苦戦続きだ。突撃バカみたいだったのが嘘のようで、 あっちの路地陰から銃撃を受けたと思えば、民家の屋根から手榴弾を投げつけたりしやがる。 しかも、ちょっと攻撃したらとっとと民家の海の中に消えてしまうのだ。 浴びせられる銃弾の量は昨日よりも遙かに少ないが、これは精神的にかなりきつい。 おまけに民家から民家へ器用にすり抜けていっているらしく、ハルヒのいる前線基地へも攻撃が加えられている。 もはや俺の防御線の意味がなくなりつつあった。 俺は国木田の指摘に、しばらく頭の脳細胞の血流を加速させて、 「どのみち、ここで防御していても犠牲が増えるばかりだな。大体ハルヒの方も攻撃を受けているんじゃ、 ここにいる意味が全くない。防御線を下げてハルヒたちの方に戻るぞ」 「賛成。その方が良いと思うよ」 国木田もいつものマイペース口調で賛成する。 俺の小隊はじりじりと南側――前線基地へ移動させ始めるが、 「敵車両だよ!」 国木田の叫び声とともに、路地から一両の軽トラックが現れる。普段その辺りを走っているようなタイプだが、 後ろの荷台には12.7mm機関銃搭載という凶悪な代物だ。そこにシェルエット野郎が3人乗り、 一人が12.7mm機関銃の火を噴かせ、他の二人はそれを援護するようにAKを撃ちまくる。 「撃ち返せ!」 俺たちは一斉に民家の塀の陰に飛び込み、車両めがけて一斉に射撃を始めた。 12.7mmの銃弾が塀に直撃するたびに、コンクリートの破片が飛び散る。 こいつが人間の肌に直撃したらどうなるのか。怪我なんて言うレベルじゃねえぞ。もはや人体破裂といった方が良い。 もう3度それを目撃する羽目になったが、絶対に慣れることはないと断言する。 しばらく銃撃戦が続くが、一人の生徒が撃ちまくっていた5.56mm機関銃MINIMIが12,7mm機関銃を乱射していた シェルエットマンに直撃。一番の脅威が消滅したと言うことで、俺たちは前に出て残り二人も射殺した。 だが、肝心の軽トラックはとっとと逃げ出した。あれだけ銃弾を撃ち込んでぼろぼろだってのにまだ動けるとは。 さすがは日本製とでも言っておこう。 敵が去ったのを確認すると、俺たちはまた前線基地へ向けて移動を開始した。 ◇◇◇◇ 「キョン! こっちよこっち!」 前線基地前にたどり着くと、ハルヒが手を振っているのが目に入る。しかし、隣接している住宅地帯には すでに敵が潜んでいるらしく、うかつに飛び出せば狙い撃ちされかねない状態だ。 案の定、俺たちの真上に位置する民家の窓から敵が飛び出してきて―― 「やばい!」 てっきりいつものようにAKで銃撃してくるかと思いきや、シェルエット野郎の手にはRPG7が握られていた。 真上からあれを撃ち込まれれば、ひとたまりもない! 俺は無我夢中でM16を撃ちまくる。放った銃弾がどこかに当たったのか、発射寸前に手元が狂い 俺たちとはあさっての方向の民家の壁に直撃した。だが、やはりぶっ放した野郎はとっとと民家の中に引っ込んでしまう。 「キョン! 後ろから敵車両2! 近づいてくるよ!」 国木田の声で振り返ると、また武装軽トラックが背後から接近中だ。もちろん、12.7mm機関銃の銃口が向けられている。 ここからじゃ、狙い撃ちにされる! ――その瞬間、バタバタという轟音とともに、俺たちの頭上に一機のヘリコプターが出現した。 「ようやく来たか!」 俺の歓喜の声と同時に、UH-1からミニガンの攻撃が始まる。まず、俺たちに接近中だった車両2つが吹き飛び、 今度は住宅地帯の屋根に向かって撃ちまくった。俺たちの頭上を飛ぶたびに、ミニガンの薬莢が雨あられと降りかかり、 指先に当たったときは思わず「アチイ!」と叫んでしまう。 しばらく掃射が続いたが、やがてそれも収まり前線基地の上空あたりでホバリングを始める。 と、無線機を持った生徒から無線を渡された。古泉からの連絡らしい。 『やあ、どうも。敵は大体つぶしましたから、今の内に移動してください』 「恩に着るぜ。助かった」 古泉は今小隊の指揮官からはずれて、UH-1のパイロットなんてやっていたりする。何でも本人曰く、 (何の訓練も免許もなくヘリの操縦ができるんですよ? せっかくだから操縦してみたいと思いませんか?) と、いつものさわやか顔でUH-1に乗り込んだ。とはいっても、学校の校庭に置かれていたものは輸送用らしく、 武装が一切ついていなかったので、学校のどこからか持ってきたミニガンを両脇キャビンに装着してあり、 それをヘリに乗った生徒が撃ちまくっている。なんだかんだで器用な野郎だ。 まあ、今の状況を仕組んだ奴から頭の中にねじ込まれた知識だろうが。 しかし、あの学校は4次元ポケットか何かか? 昨日はカレーと米が出てきて長門カレーができたが、今度はミニガンかよ。 「よし、敵の攻撃が収まっている内に戻るぞ」 俺たちは一気に前線基地の建物内までに戻る。そこにハルヒが駆け寄ってきて、 「キョン、向こうの様子はどうだった?」 「ああ、すっかり民家に敵が入りこんじまっているな。あっちこっちで敵が飛び出してくるんで まるでモグラ叩きだ。キリがねぇ」 「こっちもさっきから同じ状態よ。正面の民家から敵が出ては引っ込んでの繰り返し。むっかつくわ! もっと潔く突撃してきなさいよ!」 「俺に言われても困る」 そんなやりとりをしている間に、またガガガガとAKの銃声音が鳴り響き始めた、 だが、てっきり前線基地に向けた銃撃と思いきや、こっちには一発も飛んできていない。 代わりに前線基地上空を旋回していたUH-1があわてたように高度を上げ始める。 どうやら、ヘリが攻撃を受けているようだ。 ハルヒは無線機を通信兵から受け取ると、 「古泉くん! 大丈夫!?」 『ええなんとか。あまり高度は下げない方が良いですね。ちょっと驚きました』 「無理しないで。有希の砲撃が使えない以上、古泉くんのヘリが頼みなんだから」 『わかりました』 言い忘れていたが、現在長門の砲撃は自粛中だ。敵車両部隊の南下を確認した時点で、 それを阻止すべくありったけの砲弾を南下ルートの道路に撃ち込んだんだが、 調子に乗ってやりすぎたため、砲弾の残りが見えつつあるようになってしまったからだ。 こいつに関してはハルヒの指示とはいえ、俺も砲弾が無限にあると勘違いしていたことを反省すべきだろう。 しかし、ミニガンとカレーが出てくるなら、砲弾も一時間ごとに2倍に分裂するとかサービスしてくれりゃいいのに。 と、古泉との通信を終えたハルヒが俺のヘルメットをぽかぽか叩きつつ、 「なにぼさっとしているのよ、キョン! 敵がどっかに隠れているんだから、怪しいものに向かってとにかく撃ちまくるのよ!」 「それをやったから砲弾が尽きかけているんだろうが!」 そんなことをしている間に、前線基地正面の民家の窓からまた影野郎が出現だ。 しかも、狭い窓から3人が身を乗り出し、全員RPG7を構えて一斉発射だ。 「RPG! 隠れて!」 ハルヒの声が飛ぶと同時に、俺たちは物陰に隠れる、一発は前線基地前の道路に、2発はそれぞれ建物の壁に直撃する。 「みんな無事!? 怪我はない!?」 ハルヒの確認の声に、建物内の生徒たちが一斉に返事をする。どうやら、けが人はいないようだ。 俺がほっと無でをなで下ろしていると、またもやハルヒからの鉄拳パンチがヘルメットを揺るがし、 「だーかーらー! ぼさっとしていないでさっき出てきた奴に反撃しなさいよ!」 「さっきの仲間にかける優しさの1割で良いから、俺にもかけてくれよ」 ひどい扱いだぞ、まったく。 とはいっても腐っている場合ではない。第2射を撃とうと、同じ窓から出てきた敵めがけて撃ちまくる。 何とか、一発ぐらい当たったらしくいつものように敵がはじけ飛んで消滅した。主を失ったRPG7は、 そのまま窓から地面に落ちる。 「よくやったわキョン! ナイスショット! 学校に帰ったらみくるちゃんを――違う違う! ビールをおごってあげるわ!」 「未成年者に酒を勧めるなよ!」 こんなやりとりをしていると、つい俺の頬がゆるんでしまうのがわかる。 なんだかんだでハルヒの威勢の良い声が今はとても気持ちよく感じているからだ。 「また来た!」 今度は路地から2人の敵がそこら中に向けてAKを乱射し始める。それに対して、ハルヒは持っていたM14を構え、 2発発射。当然のようにシェルエット野郎2人に命中して飛散させる。大した奴だ。 「このくらいできないと指揮官は務まらないわ! 当然よ当然!」 得意げに笑うハルヒ。昨日ほど落ち込んではいないようだな。 ちなみに、ハルヒが持っているのは他の生徒が持っているM16A2ではなく、 どこからか引っ張り出してきたM14――しかも狙撃用にカスタマイズされたものだとか。 昨日北山公園に行ったときはM16A2だったが、途中でMINIMIに持ち替えて乱射していたらしい。 ところがこれがさっぱり敵に命中しないものだから、今では一発一発確実に命中させる方に転向している。 「下手な鉄砲も数撃ては当たる!なんて言うけどさ、あれって絶対に嘘よね。 昨日、あれだけ撃ちまくっても全然命中しなかったし。きっと弾を売っている商人が流したデマよ。 そういう連中にとってはいっぱい撃ってくれた方がどんどん売れて大もうけって寸法よ、きっと!」 根本的にお前の使い方が間違っているんだよ。とまあ指摘してやりたかったが、胸の内にしまう。 何でかというと、今度は前線基地前の民家の屋根上に10人くらいの敵が出現して、 こっちに銃撃を始めやがったからだ。 こっちも負けずに一斉射撃で反撃を開始するが、上からと下からでは差があるのは当然だ。 敵を一人やるまでにこっちは二人は負傷するという不利な状態だ。 「だったら、さらに上から撃てばいいのよ! 古泉くん! やっちゃってちょうだい!」 『了解しました』 ハルヒ指令の指示通り、古泉ヘリのミニガン掃射が始まる。もう敵どころか民家の屋根ごと吹き飛ばしている威力を見ると、 頼もしいような恐ろしいような。 「敵車両がまた来たよ、キョン! 三両も!」 「しつけぇな!」 東側を見ていた国木田から声の声に、俺は思わず出る愚痴を吐き捨てながら敵の迎撃に向かう。 先頭に一両で背後に2両が併走していた。当然どれも12.7mm機関銃付きだ。 とにかく、先頭の車両の連中をつぶそうと銃を構えるが、突然、背後の車両に乗っていた数人が RPG7を手に立ち上がった。前の車両はおとりかよ! やられた! だが、向こうが発射する前に敵の先頭車両が吹っ飛ぶ。さらに、後続の一両も同じように爆発で破壊され、 残った一両だけはRPG7を発射することなく、路地に逃げ込んでいった。 「へへん、やったわ! 作戦通りね!」 ハルヒは笑顔を浮かべながら、周りの生徒たちに向けて親指を立てる。 どうやらこっちも迎撃のために携行型のロケット弾あたりをあらかじめ用意していたらしい。 放たれたのは俺たちの隣の建物らしいので、具体的はわからないが。 やがて、さっき逃げ出した最後の一両も古泉ヘリがとどめを刺す。この時点で敵からの攻撃は完全に収まっていた。 「……収まったのか?」 「さあ、どうかな……?」 さっきから出ては引っ込んでの繰り返しだからな、俺とハルヒもすっかり疑心暗鬼になっちまっている。 そのまま、1時間が過ぎたが結局なにも起きず。その間、神経張りつめっぱなしで銃を構えていたもんだから、 いい加減疲れたのかハルヒが座り込んで、 「ちょっと一休みするわ。あ、キョンはそのまま見張ってなさい」 鬼軍曹かお前は。そのうち、後ろから撃たれるぞ。 「あとで交代してあげるから。もうちょっとがんばりなさい。SOS団の一員でしょ」 「……SOS団であるかどうかは全く関係ないんだが」 結局、しぶしぶと俺は前方の民家に向けて警戒を続ける。しかし、敵は何でいきなり攻撃をやめたんだ? このまま、延々と攻撃を続ければ俺たちもどんどん消耗していくだけなんだが。 「バッカバカバカね。こんなのゲリラ戦の基本じゃん。いつ攻撃を受けるかわからないあたしたちは こうやってぴりぴりしていなきゃならないけど、向こうは数人こっちを見張っているだけで、 他はのんびり休息中ってわけよ。きっとホーチミンもそう教えていたに違いないわ」 わかるようなわからんような……そもそも常識はずれな連中だから、休息も必要ないだろうしな。 『涼宮さん、僕の方はどうしましょうか?』 無線で語りかけてきたのは古泉だ。そういや、さっきから延々と前線基地上空を飛んだままだったな。 ハルヒはしばらく考えてから、 「とりあえず、学校に戻って。ただし、すぐに飛べるようにしておいてね」 『了解しました』 そう言ってUH-1が学校に帰還する。一瞬、帰ったとたんに攻撃されるんじゃないかと緊張が走ったが、 敵は動こうとはしなかった。 ◇◇◇◇ それから数時間状況は動かず、俺たちは神経を張りつめながらひたすら警戒するだけの時間が続いた。 もう正午をすぎようとしている。そういや、このあり得ない世界に放り込まれてからようやく1日半か。 一年ぐらいいるようなくらいの疲労感だが。 この一応平穏な時間の間に、前線基地の南側に北高からトラック輸送部隊が来て弾薬やら食料を置いていった。 死者や負傷者と入れ替える予備兵も到着する。 ハルヒはせっせと指示を出していたが、戦死した生徒や重傷者を乗せて帰って行くトラックを見送ると、 おもむろにメモを取り出してなにやら書き込み始めた。 「……なにやってんだ?」 「…………」 俺の問いかけにも反応せずハルヒは一目散にボールペンを走らせ続ける。それも普段にないような真剣な目つきでだ。 ちらっとのぞいた限りでは名前が延々と列挙されていた。これってまさか…… 「……ふう」 ハルヒは全部書き終えたのか、パタムとメモ帳を閉じた。 そこでようやくハルヒをのぞき込むように見ていた俺に気がついたのか、 「なっなによ! なんか用!?」 あからさまにびびったような声で抗議する。気がついたら俺とハルヒの顔の距離が30センチ未満だった。 俺もあわてて、ハルヒとの距離を取ると、 「いや……なにやってんだと聞いていたんだが」 さっきと同じことを聞く。するとハルヒはメモ帳をぴらぴらさせながら、 「死亡した生徒と負傷した生徒の名前を書いていたのよ。指揮官たるものそう言うのは逐一把握しておくもんでしょ? って、なによその意外そうな目つきは!」 「何にも言ってねえだろうが」 変な疑いをかけるなよ。俺はただ単にハルヒがしっかりしているんだなと感心しただけであってだな―― と、ハルヒは俺の抗議を無視して目をそらすと、 「でも、そんな精神論だけの話じゃないわ。昨日と併せて、死者はすでに70人を越えているし、 負傷者も50人に達したのよ。しかも、ほとんど戦えるような状態じゃない生徒ばかり。 やっと1日半だけど、すでに生徒の半数近くが戦闘不能になっているじゃ、この先どうすればいいのか……」 そうあからさまに不安げな表情を浮かべた。ハルヒの言うとおり、確かに人員不足は否めない。 前線基地には常に50~80人は詰めているので、相対的に北高の守備隊や長門の砲撃隊、 さらに朝比奈さんの輸送や医療のチームがどんどん削減されている状態だ。 後方支援を削って前線を守っているんだからほとんど共食いに等しい。 大体、敵とこっちじゃ条件があまりにも偏りすぎているってんだ。相手は戦車や爆撃機を使ってこないとはいえ、 シェルエット野郎は無限に出現してくるし、武装トラックもどこからともなく現れやがる。 あまりにフェアじゃねえ。一方的すぎる。もてあそばれている気分だ。 だがハルヒは首を振りながら、 「敵があたしたちの要望なんて聞いてくれる訳がないじゃない。あたしがうまくやっていないだけの話よ。 もっときちんとみんなを守っていれば……」 そう肩を落とすハルヒ。俺は何とか励ます言葉を考えるが、どうしてもいい励ましが思いつかない。 こんな俺に果てしなく憂鬱だ。 「あーやめやめ! お腹がすいているからこんな暗いことばっかり考えるんだわ。ご飯食べてくる!」 ハルヒは2・3回頭を振ってから、先ほど届いたばかりの缶詰の山をあさりだした。 まあ、確かに腹が減ってはなんとやらだしな。俺も食うか。 と、このタイミングで古泉からの連絡だ。 「何の用だ?」 『やあどうも。そちらはどうですか?』 「今飯を食おうとして、寸止めを食らったせいで大変不機嫌な気分だ」 古泉は無線機越しに苦笑しながら、 『それは失礼しました。なら後にしましょうか?』 俺はちらりと缶詰にがっつくハルヒを確認してから、 「いや、せっかくだから今の内に話せることは話しておこうか。またいつ敵が襲ってくるかわからんしな」 俺は飯を食うのはあきらめてハルヒの見えない位置に移動する。 「とりあえず、散々お前の援護には助けられたからな、礼を言っておくぞ」 『これはどうも。あなたから感謝の言葉をいただけるとは光栄ですね。今までの奉仕が実ったというものです』 気色悪い表現を使うな。 『しかし、ミニガンの威力はすごいですね。辺り一面を吹き飛ばす威力にはやっているこっちがぞっとしますよ。 しかし、実際に撃っている人は気分爽快らしく、フゥハハハーハァーとか笑いながらやっていますが』 「……その勢いで俺たちまで撃たないように注意しておいてくれ」 そんな笑い方をされると動くものすべてに撃ちまくるようになっちまいそうだ。 古泉は俺の言葉をジョークと受け取ったのか、苦笑しながら、 『それはさておき、そちらの状況はどうですか?』 「めっきり敵の攻撃が収まっているな。ただ大方その辺りの民家には敵が潜んでいそうだ。 こっちから仕掛けたりしたら返り討ちに遭うだろうよ。癪だが、今はここで粘るしかない」 『賢明な判断だと思います。今は現状維持に努めた方が良いでしょう。何せ敵はこっちが消耗するのを狙っているようですから』 ――ハルヒが缶詰を生徒たちに配っているのが目に入る―― 「学校の方はどうなんだ? いつ攻撃を仕掛けられてもおかしくない状況だが」 『北高への攻撃はまだないと思いますよ。少なくともあなたたち――涼宮さんが学校への籠城を指示するまではですが』 「そうか? 俺たちの消耗を狙うなら、学校を攻撃して武器弾薬を使えなくした方が効果があると思うんだが」 『お忘れですか? これを仕組んだ者は涼宮さんにできるだけの苦痛を与えることです。 通常の軍事作戦なら当然学校制圧を目指すでしょう。しかし、今学校を制圧されれば僕たちは降伏する以外の道はありません。 それでは意味がないんです。涼宮さんをほどほどに絶望させつつも、世界を改変するまでには絶望させない。 じりじりと追いつめていっているんです』 「……俺たちをこんなところに放り込んだ奴は相当陰険な野郎って事だな」 俺はいらつくながら頭をかく。 『全く同感です。しかし、学校制圧は当然この後のイベントとして考えているでしょうね。 ただ、今は前線基地で涼宮さんの精神の消耗に務めるはずです』 「イベントなんて言葉使うなよ。まるでこの戦争がただの催しみたいに聞こえるじゃねえか」 『戦争? あなたはこれが戦争だと思っているんですか?』 俺は珍しく語気を詰め読める古泉に少し驚いた。そのまま続ける。 『これは戦争なんて言える代物ではありません。戦争にはそれなりの理由があります。 民族とか資源とか国益とか、ある時は意地やプライドなどもあります。 しかし、それを実行するには大変な労力が必要な上、多くの人々の支持が必要です。 でも、今我々がいる世界はどれも当てはまりません。戦う理由もないというのに、 無理矢理知識とやる気を頭の中にねじ込まれ戦わされている。さらにその目的が一人の少女に精神的苦痛を与えるためだけ。 こんなものは戦争なんて呼べません。頭のおかしい者が仕組んだゲームにすぎないと思っています。 だからこそ、僕は腹立たしい。こんなばかげたゲームのためにこれだけ多くの人命を費やしているんですから。 成り行きで転校してきたとはいえ、9組にはそれなりに親しい人もいました。 ですが、その大半がすでに戦死しているんです。堪えるなんて言うものではありません』 口調だけ聞いても古泉のテンションがあがっていることがはっきりとわかった。あの全く表情を変えない古泉が。 一体、無線の向こう側ではどんな顔をしているんだろう。ふと、そんな考えが頭を過ぎる。 しばらく、古泉は黙りこくってしまうが、やがて大きくため息をつき、 『……すみません。こんな事を言うつもりではありませんでした。僕自身も相当追いつめられているようですね。 それが敵の狙いだというのに』 「構わねえよ。むしろ本音が聞けてほっとしているくらいだ。言葉は違ったが俺もお前と同じ考えさ」 古泉がこれだけ感情をあらわにするなんてことは今までに一度もなかった。 古泉の言うとおり、敵の狙いはそこにあるのだろう。だからこそ、たまにはガス抜きも必要だ。 俺は話題を変えて、 「で、長門からは何か進展があったとかいう話はないのか?」 『長門さんは喜緑さんとずっと学校の教室でこもりっきりです。僕らには想像を絶するような作業を行っているのかと』 そうか。長門はまだ突破口を見つけられていない。ならしばらくはこれが続くと見て良いだろう。 「そろそろ戻るぞ。あまり長話をしているとハルヒにどやされるからな」 『わかりました。では涼宮さんをよろしくお願いします。彼女も相当堪えているはずですから』 そう言い残して無線を閉じた。 ◇◇◇◇ 「何やってたのよ。せっかくのご飯がなくなっちゃうわよ」 まだがつがつ缶詰の肉を食いあさっているハルヒ。なんつー食欲だ。どんな胃袋しているんだ? 「食べられるときに食べておかないとね。ほらキョンも食べなさい。食欲がないなんて許さないわよ。 無理にでもカロリーを蓄えておかないと後が厳しくなるんだからね」 ハルヒから放り投げられた缶詰を受け取ると、俺もそれを食い始めた。 冷たくて大した味もしないのにやたらと旨く感じる。 ハルヒは細目で俺の方をにらみつけ、 「で、誰と連絡していたのよ。有希? みくるちゃん?」 「古泉だよ。というか何であいつを選択肢からはずすんだ」 「へー古泉くんとね……へーえー」 なんだその疑惑の目つきは。言っておくが俺から連絡した訳じゃない。それに俺はれっきとしたノーマルだぞ。 朝比奈さんを見てほんわか気分になれるほどにな。 「はいはい、わかったわよ。早く食べちゃいなさい」 しかめっ面なハルヒだが、そんな事で言われるとお袋を思い出すからやめてくれ。 で、そのまましばらくむしゃむしゃと食べていた俺たちだが、ふとハルヒが手を止める。 「ん……どうした?」 俺の問いかけにも答えずにハルヒはじっと怖い目つきで―― 次の瞬間、横に置いてあったM14をつかむと、前線基地前方の民家に向かって構える。 俺もあわててそれに続いてM16を取ったときにはすでにハルヒは発砲していた。 ようやく銃を構え終えたときには、シェルエット野郎がはじけ、手にしていたRPG7が地面に落ちる光景だった。 何で気がついたんだ? 「野生のカンってヤツよ! でも違うわ! あれじゃない! あと、古泉くんにヘリで援護してもらうように言って!」 訳のわからんことをわめくハルヒ。だが、同時に前方の民家の窓という窓から敵が飛び出して、 AKの乱射をはじめた。戦闘再開だ! まったく! 俺はひたすら窓めがけて撃ちまくったが、ハルヒはじっと構えたまま発砲しない。一体何を待っているんだ? と思ったら、民家の木製の壁を突き破って一台の武装トラックが出現した。さらにハルヒが待ってましたと M14で狙撃するが…… 「ミスっちゃった!」 素っ頓狂な声を上げる。ハルヒの放った銃弾は、フロントガラスをぶち破り武装トラックに乗っていた運転手と 荷台に載っていたAKをもったシェルエット野郎一人をつぶしたが、肝心の12.7mm機関銃の射手は撃ち漏らしたからだ。 壁からド派手に登場したトラックは今までとちょっと違った。器用にトラックの荷台の両脇に 鉄板のようなものが張り巡らせサイドからの銃撃を受けないようにされていた。 前後から攻撃するしかないが、後ろは論外、なら前面ならってそりゃ12,7mmの銃口を向けられているって事だろうが! ハルヒのミスったっていうのは、12.7mm射手を一番最初に仕留められなかったことを言っているのだろう。 ものすごい勢いで乱射され、こっちは建物の陰に隠れて身動きすらとれねえ。 こんなんじゃ、そのうち誰かに当たるぞ……と思った瞬間、移動しようとしていた生徒の脇腹を直撃――いや貫通した。 肉がさけるいやな音とともに、生徒の背後に血しぶきがぶちまけられる。くそ、この調子じゃ古泉が来る前に死者多数だ。 ハルヒは必死に地面にはいつくばりながら、撃たれた生徒に近づき、 「暴れないで! 傷口が広がるからじっとしてなさい! 衛生兵! 早く来て!」 何が起きたのかわからない状態になっている負傷した生徒を必死になだめる。 ちくしょう、このままじゃただ的にされるだけじゃねえか! ハルヒはやっていた衛生兵に負傷者を任せると俺の元に戻ってきて、 「このままじゃらちがあかないわ! とにかく、向こうの弾に当たらないように、牽制するの! あの車両のヤツの弾切れが狙い時だわ! あたしがきっちりと仕留めるから援護して!」 「わかった! てか、さっき使ったロケット弾みたいな奴はないのかよ! あれで吹っ飛ばした方が早いだろ! ないのか!?」 「さっきので打ち止めよ! みくるちゃんたちに探させているけどまだ見つからないって!」 「肝心なときに役にたたねえ4次元ポケット学校だな。わかった援護する!」 俺はハルヒとの意識あわせを終えると、近くにいた国木田を呼びつけ、 「あの野郎が弾切れを起こさせるように、牽制するぞ! 援護してくれ!」 「了解! 任せて!」 俺と国木田は交互に物陰から出ては、武装トラックに向けて発砲した。最初は狙い撃ってやろうかと思ったが、 目があったとたんに射殺されるシーンが脳裏に過ぎったので、とにかく何でも良いから乱射しまくった。 数分間この撃ち合いが続いたが、ようやく向こうが弾切れだ。給弾をはじめようとしたタイミングで、 ハルヒが身を乗り出して狙撃しようとしたが―― 「うへっ!?」 ハルヒの素っ頓狂な声が上がる。俺もあげた。当然だ。突然あり得ない動きで荷台左側の鉄板がぐるっと回って、 12.7mmの射手を覆い隠したからだ。おいレフリー! 今のはどう見ても反則だろ! 「あたしが出て仕留める!」 俺が考えるよりも早くハルヒがM14を片手に飛び出した。おいバカやめろハルヒ!と口に出す暇もない。 ハルヒは鉄板がなくなった左側から回り込み、数発発射して12.7mmの射手を仕留めた。 早く戻ってこい――げ! 「ハルヒ! 東側からRPGだ! 伏せろ!」 いつのまにやら発射されていたRPGがハルヒめがけて飛んできた。ハルヒは飛び込むように地面に伏せる。 その瞬間、ハルヒのすぐ手前の地面にRPGが直撃。衝撃でハルヒの身体が俺たちの方に転がってきた。 俺は全身から血の気が引く音をはっきりと聞いてしまう。 「ハルヒっ!」 もう頭よりも身体が先に動いた、銃弾が飛び交っているのにも構わず、俺は路上に飛び出して 倒れて動かないハルヒを物陰に引きずり込もうとする。だが、敵もそれを阻止すべく、路地の陰、民家の屋根や窓から 俺たちに向け銃撃を開始する。しかし、ようやく到着した古泉のUH-1がミニガンの掃射を開始し、 何とか被弾せずにハルヒを物陰に引きずり込んだ。 「おおい! ハルヒ! しっかりしろよ! 目を開けろ!」 俺は自分でもわかるほどに泣き出しそうな声でハルヒに呼びかける。すると、ハルヒは突然ぱっちりと目を開けて、 「あーびっくりした!」 驚きの声を上げた。俺は安堵のあまり全身の力が抜け、 「よかった……無事なんだな。心配させやがって!」 「なに!? さっきから頭の中で除夜の鐘がぐわんぐわん鳴り響いて全然聞こえないんだけど! もっとはっきり大声で言いなさいよ! 聞こえないじゃない!」 至近距離で爆音を浴びたせいだろうか、どうやら耳がおかしくなっているらしい。 俺はまた銃を握ると、 「そんだけ元気があれば十分だって言ったんだよ!」 「やっと聞こえてきた――ってあったりまえでしょ!」 怒鳴り返すハルヒを見る限り、全然無事だなこりゃ。 俺たちは国木田のいた位置まで戻り、また敵に向けて応戦を再開した。しかし、俺たちのちまちました援護なんかより、 古泉のミニガンの方が手っ取り早い。あっという間に民家を破壊しつくして敵を黙らせる。 「よっし、何とか押さえられそうね! 古泉くん様々だわ! これが終わったらSOS団団長代理にまで昇格させようっと」 こんな時までSOS団のことを考えてられるとは大した精神力だ。いや、ひょっとしたら今のハルヒにとって この非常識世界で唯一現実とつなぎあわせを求めているのがSOS団なのかもしれないが。 だが、そんな俺たちの安心感も、前線基地とされるサンハイツの最西端の建物が吹っ飛ばされたと同時に消滅する。 かつてない大爆発で、大地震が起こったんじゃないかと思うほどに地面と建物を揺るがした。 「な、なによなになに!?」 驚きのあまり路上に飛び出しそうになるハルヒを俺が止める。しかし、何だってんだ今の爆発は! 今までの比じゃねえぞ! 古泉のUH-1が状況を確認しに西側に移動する。しばらくして無線連絡が入り、 『まずいですね。原因はわかりませんが西側が木っ端みじんです。かなりの負傷者も出ています。早く救出を』 手短に古泉からの報告を終える。俺はハルヒの元に駆け寄り、 「ハルヒ。とりあえず、俺が西側に行って防御に入る。何人か借りていくぞ、いいな?」 「…………」 ハルヒはしばらく口をへの字にしたまま黙って俺をにらみつけていたが、やがてそっぽを向いて、 「……わ、わかったわよ。でも無理はしないでよ! いいわね!」 ハルヒの許可が下りたので、周辺にいた生徒9名+国木田を集める。 「よし、今から西側に移動するぞ。前線基地の裏側を通ってな」 「了解」 国木田と他生徒の同意の下、俺たちは西側へ移動を開始した。 ◇◇◇◇ 『気をつけてください。北側に広がる空き地には敵が多数潜んでいるようです』 「よし、すまんが空き地の敵を掃討してくれ。それが終わり次第、負傷者の救出に入る」 『わかりました。任せてください』 俺たちは今前線基地の西側にいる。ただし、正面――北側には敵方数潜んでいるので、 前線基地の裏である南側で待機中だ。 最西端の建物は木っ端みじんといっても良いほどに崩れていた。辺りにはここを守っていた生徒の破片――そうだ、 人間の破片ががれきに混じって散らばっている。あまりの凄惨さに吐き気を催しそうになった。 ドルルルルルと耳につく発射音なのか回転音なのかわからない騒音が辺りに響きはじめる。 古泉のミニガンが炸裂をはじめたようだ。 「よし、俺たちも表側に出るぞ」 俺の合図とともに、粉砕されたがれきを乗り越えつつ建物の残骸に身を潜める。 ハルヒのいた前線基地の中間付近とは違い、西側の正面には民家はなく空き地が広がっている。 起伏がそこそこあるために、その陰に敵が潜んでいるようだが、現在古泉がそれを掃討中だ。 起伏に隠れても真上からではいくら隠れても無駄だからな。 俺が残骸の陰から外をのぞこうとしたとき――目に入ったのは、空き地と民家の壁にぴたりと隠れるようにいた 武装トラックだ! しかも、こっちが来るのを待ちかまえていたように12.7mm機関銃を向けていやがる! とっさに頭を引いたとたん、ドドドと12.7mmの乱射が始まった。民家の残骸をさらに細かく粉砕していく。 さらに間髪入れずにRPG7が発射され、残っていた壁の一部が吹っ飛ばされた。 幸いそこには味方の生徒はいなかったが。 「手榴弾だ! 国木田頼む!」 「任せて!」 国木田が思いっきり腕を振って武装トラックに手榴弾を投げつけ、俺もそれに合わせる。 距離が遠いため武装トラックまでは届かなかったが、近距離での爆発にとまどったのか、 一瞬12.7mmの銃口があさっての方に向いた。 「撃て撃て!」 俺の指示で、一斉射撃による反撃開始だ。M16やら5.56mm機関銃MINIMIが一斉に火を噴き、 武装トラックを穴だらけにする。しかし、肝心の12.7mmの射手には当たらずまた銃口がこっちに向けられようとした瞬間、 トラックごと粉砕された。古泉ヘリのミニガンが炸裂したのだ。 『すみません。死角になっていたので気がつきませんでした』 「頼むぜ。お前だけが頼りなんだからな」 古泉に無線で釘を刺すと、俺たちはそこら中に転がっている負傷者の救助を始めた。 しかし、あれだけミニガンで掃射したってのに、まだ空き地からちょろちょろと銃撃してくる奴がいやがるおかげで、 容易には行かない。 「国木田! あとそこの4人! 物陰に隠れながら、俺たちを援護しろ! 敵が見えたら遠慮なく撃ち返せ! 他は負傷者を救助するんだ!」 俺たち救助チームは路上にかけだして、負傷者の回収を開始する。しかし、人間としての原型をとどめている方が 少ない状態だ。しかし、それでも虫の息ながらまだ生存している生徒も何人かいた。 俺はそいつらを担ぎ上げて、民家の残骸の陰に引き込む。 そんな調子で息のある生徒を5人ほど救出できた――いや、まだ戦場のど真ん中だから救出という表現はおかしいか。 古泉ヘリがまたミニガンで掃射を開始した。見ると、空き地の向こう側から数十人の敵が接近しつつある。 それを迎え撃っているようだが…… 「キョンあれ見て!」 国木田が俺の肩を叩き、近くの民家の屋根の上を指さす。そこには3人のシェルエット野郎が UH-1に向けてRPGを構えるとしていた。あれでヘリを攻撃する気か!? しかも古泉のヘリはそいつらにちょうど背を向けるような状態になっていて気がついてねえ! 俺は奴らに向けて銃撃を加えるように指示する一方、古泉に無線をつなぐ。 「おい古泉! 東側の民家の上でお前を狙っている奴がいるぞ!」 『む。それはまずいですね……』 こっちから必死に撃ちまくって阻止しようとするものの、距離が遠いために当たりそうにもない。 もう弾頭を空に向けて今にも発射しそうだ。どうする? 古泉に逃げろと言うか? いや、もう間に合わない…… 「古泉! そこから90度左に旋回してミニガンで吹っ飛ばせ!」 『……そうしましょうか!』 古泉はくるっと機体を90度旋回させる。ちょうどミニガンの目の前に敵があわれる形になり、 一気に掃射を開始する。即座にシェルエット野郎3人を吹っ飛ばしたが、時すでに遅し。 三発のRPGが古泉ヘリに向かって発射された――が、奇跡的にといっても良いだろう。 かろうじて機体を外れてどこかに飛んでいった。 「ぎりぎりかよ……あれを連発されるとまずいんじゃないか?」 『ええ、これでは掃射を行うにも高度をあげる必要がありますね。当然、命中率も下がるので、 無駄弾が増えそうですよ』 古泉はそう言い終えると、UH-1の高度をぐっと上げていった。それで勢いづいたのか、 敵がまた空き地にどんどん入り込んで来やがった。 しばらく、空き地側の敵と俺たちで銃撃戦が続いたが、突然背後でまた大爆発の轟音が鳴り響く。 って、何で背後から聞こえてるんだ!? まさか、また北高へのロケット弾とかでの直接攻撃か!? 俺は無線で学校に連絡を取ろうとするが、向こうはパニックに出もなっているのか、誰も応答しようとしない。 迫る敵に反撃しつつ必死に呼びかけを続けたが、やがて無線機から聞き覚えのある声が流れてきた。 『聞こえる?』 「長門か!? 何かあったのか!?」 『……学校と前線基地をつないでいた橋が爆破された。現在、そっちとは断絶状態』 俺は長門からの報告に絶句する。北高と前線基地の間には一本の小さな川が流れている。 歩いてわたるにはどうって事ないものだが、荷物を持って移動するには一苦労するだろうし、 溝のような構造になっているため、トラックでわたるのは不可能だ。それを唯一つないでいた橋が爆破された。つまり―― 『こちらから物資などの補給を送るのはほぼ無理になった。このままではそちらの弾薬が尽きるのを待つだけ』 「…………」 途方に暮れてしまう。他にルートはないのか? 光陽園学院前に川を渡る橋はあるが、 敵もわざわざ橋を爆破したぐらいだ。そっちからも通れないように何らかの手を打っているだろう。 どうすりゃいい? どうすりゃ―― 『何とかしたい』 そう言い放ったのは長門だ。いつもなら、頼もしい言葉に聞こえるが今の状況じゃ…… 『何とかする。約束する』 長門はそれだけ言い残すと無線を終了させた。ちっ、何だかわからんが、今は長門に期待するしかないのか!? また空き地側からの銃撃が活発になる。俺も反撃に加わって近づく敵を片っ端から銃撃した。 だが、無駄弾は撃てない。何しろ今手持ちの弾がなくなれば、もう何もできなくなってしまうからだ。 敵が増えてきたタイミングで、古泉ヘリからの掃射が始まる。空から学校に戻れるUH-1ならいくら撃っても 補給に戻れるからな。ガンガン撃ち込んでくれ! 古泉ヘリの掃射の間、俺は周りの生徒に発砲を控えるように指示する。とにかく節約だ。 さっきまで遠慮なく撃ちまくっていたのが懐かしいぜ。 この間に国木田が近づいてきて、 「キョン。このままだといずれはやられるのが保証済みだよ」 「わかっているが……だからとって負傷者を見捨てるわけにもいかねえだろ」 俺はちらりと振り返ると、あの大爆発で虫の息にされた生徒たちの方を見る。 呼吸を続けているところを見るとまだまだ生きながらえるはずだ。何としても助けてやりたい。 だがどうする? どうすればいい? 「とにかく徹底抗戦。後は何かが起きるのを待つ。それで良いんじゃない?」 いつものマイペース口調で国木田が言う。全くのんきな奴だ。だが、それしかないか。 ◇◇◇◇ 最西端の防御に入ってから1時間。俺たちはえんえんと北側の空き地から接近してくる敵を撃ち続けた。 その間、何も起きていない。長門からの連絡もない。たまに古泉ヘリが掃射で支援してくれるだけだ。 この間に生徒二人が射殺されていた。残りは9人。だんだん厳しくなりつつある。 「くそ、いつまでこれを続けてりゃいいだよ……」 「指揮官が弱音を吐くと周りに伝染するよ」 国木田はこんな状況でも自分のペースを崩さずに敵めがけて撃ち続けている。 だが、時間が過ぎたことによって一つの問題も発生していた。 『ちょっと悪い知らせです』 古泉から深刻な報告が来やがった。大体想像はつくが。 『ミニガンの残弾が10%を切りました。もう少ししたら学校に補給に戻らなければなりません』 今の状態では古泉の支援がなくなると言うことは、しゃれにならん。 俺は周りの生徒たちに残弾の報告をさせると、マガジン一つ分だけとか、今装填している分だけなんて返ってきているほどだ。 ヘリが去ったとたんに敵は一斉攻撃を仕掛けてくるだろうし、俺たちにそれを迎撃するだけの弾もない。 しかし、このまま上空を飛ばしているだけでは全く意味がないのだ。 『選択肢は二つあります。このまま支援を続けて、なくなり次第学校に補給に戻る。 これはタイミング次第では最悪な展開になるかもしれません。 逆に今の内に敵を徹底的にたたいてから補給に行き、すぐにこっちに戻るという方法もありますが……』 「補給に戻ったとして、何分で俺たちの支援に復帰できる?」 俺の問いかけに、古泉はしばし思案して、 『20分……いや、15分で戻ってみせます』 15分か。なら耐えられるかもしれないな。その後は、またそのときに考えればいい。 「よし、古泉。今あるだけの弾を敵にぶち込んでくれ。終わり次第、即刻補給して戻ってこい。 その間は何とか耐えてみせるさ」 『わかりました。健闘を祈ります』 古泉のUH-1が高度をやや下げ一気にミニガン掃射を開始する。俺たちは近づいてくる敵以外には 発砲を控え終わるのをじっと待った。 やがてミニガンを撃ち尽くした古泉ヘリは、学校側へ方向転換し、 『終わりです。すぐ戻りますので、その間はお願いします』 そう言い残して学校に戻った。俺は生徒全員を見回し、 「よし、古泉が戻るまで何としてでもここを守りきるぞ! 残弾には気をつけろよ!」 檄を飛ばしてまた――その瞬間、俺の右手にいた二人の生徒が崩れ落ちる。射殺されたのだ。 ヘリがいなくなったとたんに二人!? しかも、衛生兵と通信兵だ。よりによって……! 同時にこちら側に浴びせられる銃弾の量が突然増大した。民家の残骸の陰から空き地の様子をうかがうと、 まるでさっきのヘリからの掃射がなかったかのようにシェルエット野郎がこちらに向けて移動してきていた。 一番近い敵はすでに前線基地建物前の路上のすぐそばまで来ている。もうここから10メートルもない距離だ。 いつの間にここまで来やがったんだ!? 俺は必死に敵を追い払おうと撃ちまくったが、すぐに弾切れを起こしてしまう。 あわてて懐から新しいマガジンを取り出し銃に装填する――これが俺の最後の命綱だ。 かなり至近距離での撃ち合いになったおかげで、こっちは物陰から敵の様子をうかがうことすら 難しくなってきた。 ふっと、俺の目線に中を浮く黒い物体が目に入る。柄のついたそれは、俺から少し離れた残骸の陰で 敵と撃ち合っていた4人の生徒たちの足下に落ちた――手榴弾だ! バァンと破裂音が響き、彼らが吹っ飛ぶ。ぼろぞうきんのようにされた彼らは力なくよろけ、地面に倒れ込んだ。 俺は唖然として腕時計で時刻を確認する。まだ古泉が補給に戻ってきてから1分半しか立っていない。 そのわずかな時間で6人がやられた。残りは俺と国木田と後一人――残りの生徒も今銃弾が頭に命中してやられちまった。 ついに俺と国木田の二人だけだ。 国木田はすぐに手榴弾で倒れた生徒たちを救助しようと――と思ったら、息も絶え絶えの彼らを放って、 マガジンやら銃を回収し始めた。俺は反発心と納得が両方とも頭に埋まり、複雑な気分になる。 「ひどいことをしているように見えるかもしれないけど、今は生き残る方が重要だよ。 そのためには使えるものは徹底的に使わないとね」 いつもより少し真剣なまなざしを向ける国木田。そうだな、今俺たちが死んだら、負傷者生徒たちも死ぬことになるんだ。 善意だとか道徳心だとかは乗り切った後で考えればいい。 俺は国木田からマガジンを受け取り銃撃戦を続行する。国木田の的確な射撃のおかげか、 敵が路上を越えることだけは阻止続けた。 ふと、もう1時間は過ぎたんじゃないかと腕時計で時刻を確認すると、まだ古泉が戻ってから8分しか経っていない。 こんな時ばっかり時間が遅くなりやがって! 国木田がマガジンを交換しつつ叫ぶ。 「キョン! これで最後だよ!」 これが国木田の最期の言葉だった。ガガガガとAKが炸裂する音が響いたとたん国木田の身体が崩れ落ちる。 弾丸が顔面に命中したのだ。 「国木田っ!くそっ!」 俺は声をかけるものの、額を撃ち抜かれた国木田はぴくりとも動かない。完全に即死状態だった。 路上を越えようとしていたシェルエット野郎2人を撃ち殺し、すでに息絶えている通信兵から無線を取り出す。 「……ハルヒ聞こえるか?」 『どうしたの!? 何かあった!?』 ――また接近してきた敵を撃ち殺し―― 「国木田がやられた。もう残っているのは俺一人だ」 『……うそ』 唖然とした声を上げるハルヒ。 「何とかできるところまでは粘るつもりだ。もうすぐ古泉が戻ってくるだろうしな。それまではなんとか――」 『キョン!』 せっぱ詰まった声を上げるハルヒ。 『いい!? これは絶対命令よ。拒否なんて許さない。今すぐに川を渡って学校に戻りなさい。 そこをこれ以上守る必要なんてないわ。あの川なら徒歩でも何とか越えられる! だから戻りなさい! そこで出た犠牲の責任は全部あたしが背負うから! だから逃げて! お願い!』 「できるわけねえだろうが、そんなことっ!」 思わず怒鳴りつけてしまう。俺は額を抑えて――また敵がやってきたので撃ち返して追い払う―― 「ここには俺が行くって言ったんだ。それで仲間がついてきてくれた。なのに、その仲間がみんな死んでいるってのに、 俺だけおめおめと逃げ出すなんて絶対に拒否するぞ! 絶対にここから動かないからな!」 『キョン……キョン……!』 ハルヒは悲痛な声で俺のあだ名を呼び続けるだけ。見れば、数十人にふくれあがったシェルエット野郎が次々に こちらに突撃を始めていた。 「ハルヒ。俺からの頼みだ、聞いてくれ」 俺は息を吸い込んでありったけの思いを込めて言う。 「死ぬな。絶対にだ!」 そして、ハルヒからの返答も聞かずに俺は無線機を投げ捨て、路上を越えて突撃してきたシェルエット野郎数人に向けて 乱射する。不意を食らったのか、あっさりと命中していつものようにはじけ飛んだ。だが、続々と後続が接近してくる。 俺はとにかく無我夢中に撃ち続けた。弾が尽きればマガジンを交換し、それもなくなれば別の生徒が持っていた M16に持ち代える。路上を越えてくる敵は、昨日の北山公園の時と同じく突撃バカみたいにつっこんでくるだけだった。 残骸の破片が銃弾を受けて飛び散り、俺の頬を傷つけたがもはや痛みすら感じている暇もなかった。 乱戦の中、自分自身をほめてやりたくなるぐらいに粘っているが、弾は減る一方だ。 ついに今握っているM16が最後となる。これを撃ち尽くせば、俺も終わりだ。手を挙げて降伏しても、 助けてくれそうな敵でもないしな。 また一発また一発と撃ち、敵を打ち倒す。それがついに最後の一発となった瞬間―― 「うっ!?」 最後の一発は発射されなかった。数え間違えていたらしい。敵を真正面にしながら残弾ゼロ。 もう敵はAKをこちらに向けて構えている…… ……終わりか。また学校の部室でハルヒやSOS団の連中と会えれば良いんだが…… 呆然と放心状態に陥りかけていた俺を現実に引き戻したのは、突然目の前に現れたトラックだ。 北高と前線基地に物資を輸送していた大型のトラック。だが――橋が爆破されたって言うのに、 どうしてここにいる? 荷台には武装した生徒たちが乗り込み、空き地から突撃してきていたシェルエット野郎に向けて一斉射撃を始めていた。 同時に上空に古泉ヘリが舞い戻りミニガンの掃射を開始する。 「……助かった……のか?」 「ええもちろん」 呆然とつぶやく俺に言葉を返したのは、トラックの運転席に座っていた喜緑さんだった。昨日見たときとは違い、 セーラー服ではなく、迷彩服に身を包んでいる。 「遅れてすみません。なかなか手こずりました」 「えと……あの、どうやってここに?」 死んだと思ったが、突然現世に復帰したもんだからどうも違和感が抜けない俺。言葉遣いもたどたどしくなっているのが、 自分でもよくわかった。 喜緑さんはいつものにこやかな笑顔を浮かべつつ、 「橋は修復しました。長門さんの努力のたまものです」 「長門が……ってまさか情報ナントカができるようになったのか!?」 俺は歓喜の声を上げそうになるが、残念ながら喜緑さんは否定するように首を振り、 「それはまだです。3つほどの突破口を見つけましたが、そのうち一つを犠牲にして、 橋の修復を行いました。貴重な手段なので、安易に使うのはどうかと思いましたけど、 長門さんにとってあなたを救出できるようにすることが最優先だったようですね」 そうにこやかに喜緑さん。長門……本当に何とかしちまいやがった。すごすぎるよ。 「さて、ここは学校からの予備人員で守ります。今の内に遺体と負傷者をトラックに乗せてください。 それとあなたも。総指揮官からの絶対命令のようですので」 さっきからトラック据え付けの無線機からキーキー聞こえてくるのはハルヒの声か。 どうやら俺に学校に帰れ!と叫んでいるらしい。 ふと、トラックの荷台に載っていた生徒たちの射撃が収まる。空き地方面を見てみると、 敵が後退していくのが見えた。なんだ? どうしてこのタイミングで逃げ出す? 「おそらく予期せぬ情報改変に敵が混乱しているのでしょう」 にこやかに喜緑さんが解説してくれる。何はともあれ、今がチャンスだろう。とっとと負傷者を回収しなけりゃな。 ◇◇◇◇ 「本当に戻るんですか? 命令違反ですが」 負傷者と遺体を載せたトラックが北高へ向けて戻っていく。喜緑さんは最後にそう言っていたが、 俺はハルヒの方に戻ると言って、学校への帰還を拒否した。なあに、命令違反なら今までも散々やっているいまさらだ。 大体、ハルヒも長門も古泉もたぶん朝比奈さんもみんな必死なのに、俺だけ学校に引っ込んでいられるわけもない。 で、ハルヒのところまで戻ると予想通りの反応を見せてくれた。 「あーんーたーはー! 一体どれだけ命令違反を犯せば気が済むわけ!? 逃げろって言っているのに拒否するわ、 学校の守備に行けって言ったらこっちに戻ってくるし! 総大将の命令をなんだと思っているのよ!」 とまあものすごい剣幕で胸ぐらをつかみあげられた。一体どんな腕力をしているんだこいつは。 俺はあたふたと説明しようとするが、胸ぐらをつかみあげられてまともに口がきけるわけもなく、 ただ口をぱくぱくされるぐらいしかできない。ハルヒはひたすらガミガミ怒鳴っていたが、 やがて言いたいことも尽きたのか、俺から手を離し、 「……とにかく! 今後はあたしの命令に従うこと良いわね! 仕方ないから、ここにいてもいいけどさ。 これからはあたしのサポートをしてもらうわよ。どんなときでもあたしのそばにいなさい! 絶対絶対命令だからね!」 そう言ってぷんぷんしながら去っていった――ってどこに行くんだあいつは。 しかし、よくもまあ乗り切ったものだと自分で自分に感心する。普段の俺なら絶対に精神的におかしくなっていただろうが、 これも仕組んだ奴が頭をいじくったせいということにしておこう。だが。 俺はふとハルヒの背中を見る。長門と古泉の予測ではハルヒは何の人格調整も受けていないと言っていた。 なら、あいつは普段の精神状態のままこの地獄のような世界で指揮官なんて言う役割を演じている。 その両肩にかかっている重圧や責任感はどれだけのものなのだろうか。 そして、ハルヒは一体どんな思いでそれを背負っているのだろう。俺はハルヒの背中を見ながらそんなことを思った。 ~~その6へ~~