約 2,287,842 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3316.html
事件は、梅雨まっさかりの放課後に起こった。 梅雨ってのはなんでこうムシムシするのかね、とハルヒに愚痴をこぼしたら、 「ムシムシするから梅雨なのよ。」と帰ってきた。そりゃそうか。 どう考えても不快指数80以上はあるだろうという中での地獄の授業を終え、 ようやくクーラーの効いた家に帰れる……わけもなく、扇風機も無い部室へと行くことになる。 「キョン!早く部室に行くわよ!」 俺を急かすハルヒ。なんだ?いつもは部室まではバラバラに行くのに。 「悪いがハルヒ、今日は掃除当番なんだ。先に行っててくれ。」 「そうなの?じゃあ待ってるわ。」 ……はい?今なんと言った?ハルヒが俺を……待つ? 「何よその顔。待ってあげるって言ってるの。」 「なんの狙いだハルヒ。言っとくが待たせても罰金は払わないぞ?」 「払わせるわけないじゃないの!純粋に待ってあげるって言ってるの!」 ……一体どうしちまったんだ?普段待つことが大嫌いで、1分でも待たせたら即罰金のハルヒが…… まあ、これ以上口答えしても逆に不機嫌になるだろうし、待つと言っているんだから、素直に待たせておこう。 「終わったぞ。」 「やっと終わったの?遅いわね。」 自ら待っておいてそれかい。俺は先に行ってくれと言ったんだぞ。 「つべこべ言わない。行くわよ。」 「へいへい。」 そして俺達は部室の前にやってきた。ドアを開けようとするが、鍵がかかっている。 「おかしいわね。鍵はかけてなかったはずだけど。」 「じゃあ、中で朝比奈さんが着替えてるんじゃないか?」 「そうなのかしら。みくるちゃーん、いるのー?」 ハルヒが呼びかける。しかし中からは……返事が無い。 「しょうがないわね。確か職員室にもう一個鍵があったはずよ。取りに行きましょ。」 「おい、まだ朝比奈さんが着替えてる途中かも知れないぞ?」 「あたしの呼びかけを無視するなんていい度胸よ!だったらこっちも無視して入っちゃうの!」 メチャクチャなハルヒ理論だ。だがこのままでは中に入れるはずも無い。 ハルヒに引っ張られながら、俺は職員室の中に入った。 「ほら見てよ。普段は2つあるのに、今日は1個しかないわ。」 本当だ。普段ならいつも使っている鍵とスペアキーの二つがあるはずだ。 しかし今ここにはスペアキーしか無い。やはり誰かが鍵を持っているワケだ。 スペアキーを手にして、職員室を出た時、俺達はある人物と鉢合わせをした。 「あれえ?涼宮さんにキョン君、何してるんですかぁ?」 朝比奈さんだ。……ん?てことはあの部室の中に、朝比奈さんはいなかった? 「あれ?みくるちゃん、部室の中に居たんじゃないの?」 「いいえ。ちょっとHRが遅れて、今から部室に行くところだったんですよぉ。」 「部室に鍵がかかってたんで、てっきり中で着替えてたのかと思って。」 「放課後鍵を閉めて、そのままだったんじゃないですかぁ? 鍵は別の誰かが持ちっぱなしとか。」 そうか。よくよく考えればそっちのが自然な考えだな。なんで俺は中に朝比奈さんがいると思ったのだろう。 「まあとにかく、部室に行きましょ!」 ハルヒが急かす。そうだな、話なら部室でも出来るからな。 「ほらキョン、さっさと開けなさいよ。」 「分かった分かった。」 ハルヒに言われて、俺はスペアキ-で部室のドアを開けた。 しかしそこには驚くべき光景があった。 「な、なんだあれ!!」 「パソコンが!!」 団長様の机にあったパソコンが、床に落ちている! 画面も割れてしまって、もう使い物にならないのではないかというくらい大破している! 「キョン、みくるちゃん、これ!」 ハルヒが床を指差した。そこには、部室の鍵が落ちている。 ん?おかしいぞ。なんでこれがここにあるんだ。 ここに鍵があってドアに鍵が閉まっていたのなら、中に人がいなければおかしいはずだ。 「だ、誰がこんなことを~?」 「部室には鍵がかかってて、その鍵は中にあった…… ということはこの部屋は、密室だったということになるわ。」 ん?ハルヒの腕章がいつの間にか変わっている。……名探偵!? 「密室トリックなんて小ざかしい真似するじゃないの! いいわ!こんなことした犯人を、絶対見つけてやるんだから!」 はりきりだすハルヒ。今度の被害者は人じゃなくパソコンだからな。 ハルヒも気がね無く探偵役が出来るってことか。 ……ん?俺はその時、真後ろに居た人物に気がついた。 「長門!来てたのか。」 「そう。」 「有希!あんたが遅れるなんて珍しいわね!どうしたの?」 「……コンピ研の手伝いをしていた。」 なるほどな。長門もそれなりに学校生活を謳歌しているようで何よりだ。 とここで俺はここに来ていないもう一人の存在に気付いた。あのニヤケ面だ。 もうとっくに掃除も終わっている時間。 長門のように何か用事があるわけでもなく、もしあってもよっぽどのことじゃない限りSOS団より優先させるとは思えない。 ならば何故ここにいない? 「キョン!ちょっと聞いてるの!?」 ハルヒが怒鳴った。すまん、まったく聞いて無かった。なんだって? 「もう!こっち来なさいって言ってるの!」 ハルヒが俺を引っ張り、窓際に連れてくる。 「窓はね、開いてたのよ。逃げようと思えばここから逃げられるワケ。」 「3階からか?無理があるだろ。」 「でもほら!下を見て!」 ハルヒに促され窓から顔を出し下を覗く。よくよく見ると地面に何か落ちている。あれは…… 「ロープよ!どう見ても不自然でしょ?きっと犯人は、あれを利用したのよ!」 「だがハルヒ。真下は人通りの多い場所だ。昼休みだってあそこで昼飯食うヤツらで溢れかえってる。 そんな中ロープで降りたりしたら、どう考えても一目につくだろうが。」 「下に逃げたとは限らないわ。」 下に逃げたとは限らない?……なるほどそういう事か。あいつの考えてることが分かった。 「おや、これはどういうことでしょうか。」 とここでようやくニヤケ面の登場だ。随分と遅かったな、古泉。 どうやら俺は長門だけじゃなく古泉の表情分析も出来るようになっちまったらしく、 その俺から見ると、その顔はいくぶん疲労の色が強い。 その顔を見て俺の中で何かが繋がった。始めから感じてた違和感の正体、そしてこの事件の真相が。 「古泉君!遅いじゃない!」 「申し訳ありません、少々クラスメイトに掴まっていたもので…… しかし、この惨状は一体……」 「誰かがパソコンを壊したのよ。でも大丈夫よ。もうこの事件の真相は私の手の中にあるわ。」 自信満々に言うハルヒ。そして、高らかに宣言する。 「早速だけど、これからあたしの名推理を披露するわ!」 解決編に続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1697.html
それはとある日曜日の朝のこと ハルヒに用事があるとのことで町内不思議探索は中止となり 布団に包まって気が済むまで寝ようとしていると携帯が鳴った ハルヒか?と思ってディスプレイを除いてみたが電話番号が表示されるだけで名前がない つまり電話帳に登録していない奴から電話がかかってきたと言うわけだな すでに5秒ぐらい着メロが鳴り続けているからワン切りでも無さそうだ これ以上鳴らして相手に迷惑をかける訳にもいかんだろう、間違いだったらその旨を伝えればいいだけだしな 「あ、もしもしキョンさんですか」 通話ボタンを押すと女の声が聞こえてきた 俺のあだ名を知ってると言うことは少なくとも間違い電話ではないと言うことだな もしこれで間違いだったらそのキョンとあだ名を付けられたやつに同情しよう 「え~っと失礼ですがどちら様で?」 「あ、ごめんなさい私は吉村美代子です」 思い出した、妹とは同級生だがとても同じとは思えないほどに大人びた容姿をしている娘だ 通称 ミヨキチ 、最後に合ったのはかなり前だ忘れてても仕方ないだろう 「あぁ君か、久しぶりだね、確か去年の3月の終わり以来か」 去年の3月の終わり俺とミヨキチは映画を見に行った、詳しくはSOS団の発行した部誌を見てくれ 「はい、お久しぶりです。」 「それにしても俺の携帯番号なんてよく解ったね」 「あ、はい妹さんから聞いたんです」 なるほどね、だがミヨキチぐらいなら教えてもかまわんがあまりいろいろな人に教えるなよ妹よ 「それで今お暇でしょうか?」 「あぁちょうど予定が無くなったんでね暇を持て余していたところだ」 「もし宜しければ今日1日私に付き合っていただけませんか?」 「あぁ別にかまわないよ、また映画かい?」 「はい、迷惑でしょうか?」 「意や別にかまわないよ、最近映画を見ていなかったしたまに見るのもいいだろう」 「よかった、ではよろしくお願いしますね」 それから彼女は前回と同じようにこちらの予定を気にしながら待ち合わせの場所と時間を提案した 今回は普通の駅前の映画館で問題ないらしい 「急な電話すみませんでした」 「いやいや別にかまわんよ」 低姿勢なのは変わらないな、まぁ変わる必要もないが それから軽く準備をして念のため待ち合わせ時間の1時間前には家を出る とりあえずこの時間なら途中何らかのトラブルがあっても大丈夫だろう 「あれ~キョン君どっか行くの~?」 家を出ようとしたら妹が声をかけてきた 「あぁミヨキチに映画に付き合ってくれないかって言われてな」 「そっか~がんばってね~」 何を頑張れと言うのだ妹よ、それに古泉みたいににやけるな気味が悪い それにしてもこいつの事だから「あたしも行く」とか言いかねないと思ったのだが 言われなくて安心したよ、もし行く事になったら代金は俺持ちになるだろうからな そして自転車を漕ぐ事30分待ち合わせ場所近くの駐輪場に到着 前に自転車を撤去されたことがあったからな、路上駐車はやめることにした そして待ち合わせの場所に歩いていくとミヨキチはすでに到着していた まだ30分も前だというのにいるとはなどうやら俺は待ち合わせに相手より先に着くってことに縁が薄いらしい 「早いねもう来てたのか」 「いえ今来たところです」 とてもじゃないが妹と同級生には見えないな、下手すると朝比奈さんよりも大人に見える 「それじゃちょっと早いが映画館の方に移行か」 「あ、はい」 「今日はなんて映画を見るんだい?」 「あ、×××××ってのが見たいと思ってるんです」 その映画の名前を聞いてちょっと違和感を感じた 何も変な映画だとかそういうのじゃない、普通の映画だ ただ問題なのは普通の映画だからだ、前回のようにPG-12などの規制がかかってるわけでもない このぐらいの年なら普通に見たいと思っておかしくない映画だ、これだと俺をわざわざ誘う必要もない まぁ彼女には彼女なりの理由があるのだろう、詮索はここまでにしていた方がいいな そのあと券を買う際に代金はどちらが払うかと言うことになった 俺が2人分払うと言ったのだが結局はそれぞれ自分の分を自分で払うことになった 全く、別に遠慮する必要はないんだがな しかし久々に映画を見るのもいいものだな、最後に見た映画が文化祭のSOS団の映画だからなお更だ SOS団でもこのぐらいの映画が作れればと思ったが監督が監督だ、まず無理だろうな 映画を見終わって外に出ると空が暗くなりかけていた 本人はいいと言っていたがさすがに一人で返すわけにも行かないので家まで送っていくことにした 送っていくことにしたのはいいのだがなぜかミヨキチはさっきから無言だ チラッと横を見ているとどうやら俯いている、俺なんか悪いことしたか? しばらく歩いていくと見覚えのある人物に出会った 「お、ハルヒじゃないか」 「ん?キョンじゃないの何して…そちらの方は?」 「あぁ妹の同級生のミヨキチだ、今映画を見てきたところだ」 「あらそう、よかったわね。私お使いがあるからもう行くね」 なんだ?ハルヒの奴機嫌が悪そうだったな、何かあったんだろうか 「あのキョンさん今の人は…?」 「あぁ俺が入ってるSOS団っていう団の団長だ」 そういうとミヨキチは何かを考えるそぶりを見せた後 「あの、キョンさん今の方に伝言をお願いできますか?」 「あぁ別にかまわないが知り合いだったのか?」 「いえ、そういう訳ではありませんが『負けません』と伝えてもらえますか?」 「解った伝えておこう」 「それでは私の家はすぐそこですので、今日は本当に有難うございました」 そういうとミヨキチは小走りで自分の家のほうに走っていった 「負けません」か…あいつらなんかの勝負でもしてるのか? 俺には伝言の意味がよく解らなかったが俺に対する伝言じゃないんだ別に問題ないだろう 気が付くと太陽はもう殆ど沈んでおり俺は自転車を家の方向に向けてペダルに力を入れた
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3609.html
ハルヒ「キョン! あれ見て!!」 キョン「おい、こんなところで走るな!」 ズザザザザザザーーーーー! 古泉「派手にやりましたね」 みくる「あわわわ、顔からですぅ~」 長門「ユニーク」 ハルヒ「いったぁい……」 キョン「こんな砂地で走ったらそりゃ滑って転ぶだろ……って、お前、その顔!!!!」 ハルヒ「顔痛い……って、え?あ、あたしの顔から血が……きゃあああああああ!!!」 キョン「落ち着け、単なる擦り傷だ!!!!」 長門「ユニークww」 古泉・みくる「「長門さん……?」」 ハルヒが顔に怪我しちゃった保守 ハルヒ「ううぅっ、あたしの顔が……あたしの美貌が……(涙目)」 キョン「まったく、ほらハンカチ。歩けるか? 保健室行くぞ」 ハルヒ「何よバカキョン……あたしが転ぶ前に支えなさいよ」 キョン「無茶言うなよ(やれやれ、さすがにショックか? いつもの勢いがないな)」 古泉「ここは彼に任せましょう」 みくる「はわわ、涼宮さん大丈夫でしょうか~」 長門「涼宮ハルヒの転倒……w」 古・み「「長門さん……?」」 保健室に移動したキョンとハルヒ キョン「すみませ~ん……あれ、誰もいないな」 ハルヒ「先生留守なの? しょうがないわね、キョン、あんたが手当しなさい!」 キョン「やれやれ、言われなくてもやってやるよ。自分の顔じゃやりにくいだろうが。 ほら、もっと顔を上げて傷を良く見せてみろよ」 ハルヒ「ちょ、ちょっと!!何顔に触ってんのよエロキョン!!(顎に手を添えるなんて反則よ!///)」 キョン「何言ってんだ、ちゃんと支えないと消毒しにくいだろうが」 ハルヒ「///(顔が近い!!!)」 そのころまだ外にいる3人 長門「涼宮ハルヒの顔面に損傷。そして次は……」 みくる「ひぃい!!?? な、長門さん!?」 古泉「(逃げた方が良さそうですね)」 ハルヒが顔に怪我しちゃった保守 ハルヒ「(ダメ、耐えられないわよ!!!)」 キョン「おい、ハルヒふざけんな! 何で顔背けるんだ!」 ハルヒ「だ、だって……///(恥ずかしいじゃないの……)」 キョン「ほら、ちゃんと消毒しないと痕が残ったら可愛い顔がもったいないだろ」 ハルヒ「え……? キョン、ちょっと何言ってんのよ!!///」 キョン「え? ……あ。(しまった、つい本音が!)」 ハルヒ「……」 キョン「……」 ハルヒ「サッサとしなさいよ……///」 キョン「分かったから動くなよ///」 ハルヒ「///(だから顔が近いってば!!!!)」 そして1行目に戻る 窓から覗いている3人 古泉「何をやっているんでしょうね」←逃げてなかったのかお前は みくる「何かいい雰囲気ですね~」 長門「……バカップルウゼェ」 古・み「……」 ハルヒが顔に怪我しちゃった保守 ハルヒ「痛い! もっと優しくやりなさいよ!」 キョン「しょうがねぇだろ。俺だって一生懸命やってるんだ」 ハルヒ「痛い痛い痛い~~~!!!」 キョン「おい、暴れるな!!!!」 ハルヒ「まだ終わらないの!?」 キョン「もうすぐ終わる。どうでもいいが何でずっと目を瞑っているんだ?」 ハルヒ「う、うるさい!///(だってこんな近くに顔が……)」 キョン「(うっ 赤面して目を瞑って見上げるのは反則だ!!!)///」 キョン「ほ、ほら終わりだ///」 ハルヒ「……あ、ありがと///」 ガチャ 古泉「おや、治療も終わったようですね」 みくる「涼宮さん、大丈夫ですか~」 長門「……会話がエロい」 古泉「いえ、それにしては彼が冷静過ぎます」 キョン「真面目に突っ込むな!!! てか長門????」 ハルヒが顔に怪我しちゃった保守 古泉「困ったことが起きました」 キョン「何だ?」 古泉「この保守の作者が、何も考えずに僕たちを絡めたおかげで先が続かなくなりました」 みくる「私たち、話の流れに関係ないですもんね……」 長門「無理があると判断できる」 ハルヒ「じゃあどうなるのよ! こんな中途半端で終わらせるなんて許されないわよ!!」 キョン「中途半端って何だ? ただお前が顔面怪我して俺が消毒しただけだろうが。落ちも何もねぇ」 ハルヒ「な、何よ! キョンのバカ!!!」 キョン「何を怒ってるんだ?」 古泉「あなたって人は……」 みくる「キョンくん……」 長門「……鈍感ワロス」 古泉「ところで、続かなくなった要因の1つに、おもしろ半分に長門さんを黒っぽくしたからというのがあるようです」 長門「……この保守作者の情報連結解除開始」 全員「ええええええ!!??」 (情報連結が解除されました。続きを読むには長門に再構成を依頼してください) 古泉「(き、気を取り直して)もう時間ですし、今日の所は帰りましょう」 ハルヒ「そうね。何か気分壊れちゃったし」 キョン「おい、俺が言ったら『あんたが仕切るな!』って怒るくせに……」 ハルヒ「あんたは雑用! 古泉くんは副団長なんだから当たり前でしょ!」 キョン「やれやれ……」 ハルヒ「キョン! あたしを家まで送りなさい!」 キョン「は? 何で俺が?」 ハルヒ「あたしは怪我人なんだからそれくらいの気遣い当たり前でしょ!」 キョン「別にたいした怪我じゃないだろ!」 ハルヒ「うっさい! 団長命令!!」 キョン「やれやれ、わかったよ」 古泉「じゃ、お願いしますね」 みくる「また明日~」 長門「……上手く私たちを追っ払おうという意図が見え見え」 古・み「「え??」」 長門「この保守作者の情報連 「もうその手は使えないんじゃないですか?」 長門「……」 キョン「ほら、帰るぞ。早くしろ」 ハルヒ「あんたが仕切るな!」 キョン「……やっぱりな」 ハルヒ「何よそれ?」 キョン「3行目」 ハルヒ「う」 落ちなしスマン 養護教諭は薬品棚に隠れていた保守 帰り道 キョン「何で俺が送ってるんだ?」 ハルヒ「今更何言ってんのよ! 第一あんたのせいでしょうが!」 キョン「は? お前が勝手に転んだんだろ。何で俺のせいなんだよ」 ハルヒ「あんたは雑用なんだから団長が危ないと思ったら身を挺してかばわなきゃダメなの!」 キョン「おいおい、俺は超能力者でも何でもないぜ。無理に決まってるだろ」 ハルヒ「何よ! 最初から諦める気? それでもSOS団の団員その1なの!?」 キョン「無理な物は無理だ。俺は俺にできる範囲でしか……(ハルヒを守ってやれない)」 ハルヒ「範囲でしか、何よ」 キョン「いや、まあできることしかできないってことだ(やばい、また訳のわからんことを言いそうになった)」 ハルヒ「情けない」 キョン「俺のせいってのは納得行かないが、送る位はやってやるよ。その顔で1人で帰るのが嫌なんだろ? ま、俺にできる範囲ってのはその程度だろ」 ハルヒ「う……(何で分かったのよ!)。そんなんだからいつまで経っても雑用から抜け出せないのよ」 キョン「はいはい、悪うございました(何でそんな嬉しそうに言うのかね)」 古泉「乙女心に疎い彼が、送って欲しい理由に良く思い当たりましたね。」 みくる「妹さんがいるからじゃないですか~? うふ、でも送って欲しい理由は他にもありますよね」 古泉「なるほど、恋愛以外ならある程度分かる、と。肝心な所は鈍いままですが……」 長門「……無理矢理出さなくてもいい」 古泉「まあまあ長門さん、出番があるのはいいことです」 みくる「あ、自転車乗って行っちゃいました」 キョンとハルヒの帰宅を尾行中保守 キョン「ほら、着いたぞ。また明日な」 ハルヒ「う、うん……」 キョン「何だよ? 何か言いたいことあるのか?」 ハルヒ「あ、明日も迎えに来なさい!!」 キョン「おい、俺を何時に起こす気だ。朝弱いんだぞ」 ハルヒ「う、うるさいわね! 十分あんたにできる範囲でしょ!! ……こんな顔で1人で歩きたくないんだから……」 キョン「……(しまった)。やれやれ、わかった。起きれたら来てやるよ」 ハルヒ「ダメ。遅刻したら罰金、来なかったら死刑!!!」 キョン「死刑は嫌だが、正直、起きる自信がない」 ハルヒ「そんなんだからいつも罰金から逃れられないのよ。仕方ないわね、朝起こしてあげるわよ!」 キョン「へ?」 ハルヒ「モーニングコールかけてやるって言ってんのよ! 団長自らよ? 感謝しなさい!!」 キョン「やれやれ……(そんな笑顔で言われたら断れないよな)」 ハルヒ「じゃ、また明日!!」 キョン「あんな怪我があってもなくても、ハルヒの笑顔は変わらないんだよな……」 キョン「て、俺何言ってんだ」 キョン「(そういや消毒してるときのハルヒ、何か雰囲気違って可愛……いや、何だ?)」 キョン「……はぁ(考えるのはやめた方がいいな)」 古泉「ハァハァ……おやおや、1人だと案外素直なんですね」 みくる「ぜぇぜぇはぁはぁ……く、苦しい……。長門さんは平気そうですね」 長門「この程度の移動速度で息が乱れる方が問題」 古泉「ここまで走るのはちょっと骨でしたね。……帰りますか」 長門「私たちは何しに来たのコラw」 自転車を走って追っかけた3人保守 翌朝 携帯が鳴っている キョン『……もしもし?』 ハルヒ『おっきろ~~~!!!!!!!』 キョン『起きてるから電話に出ている』 ハルヒ『何よ、つまんない。1回じゃ起きないと思ったのに』 キョン『何回電話するつもりだったんだよ』 ハルヒ『どうでもいいわ、そんなこと。それより7時半にうちの前! 遅刻は罰金だからね!!』 キョン『わかってるよ』 キョン「6時か。支度は終わってるんだよな。出るか。……眠い……」 ハルヒ「もう支度は終わってるけど、さすがに来ないわよね……」 30分後 ハルヒ宅玄関前 ハルヒ「何でもう来てるのよ!?」 キョン「罰金は嫌だからな」 ハルヒ「今からじゃ早すぎるわよね……」 キョン「部室で時間潰せばいいだろ」 2人とも実は楽しみで眠れなかったらしい保守 早朝の文芸部室にて ハルヒ「う~~~~~~~~~ん」 キョン「何鏡見てうなってるんだ。何か呼び出す儀式か?」 ハルヒ「バカ! んな訳ないでしょ! ……やっぱりひどい顔だな、と思ってるだけよ」 キョン「そんなことないと思うが」 ハルヒ「だってこの傷目立つわよ。バカキョンには女心が分からないのよね」 キョン「(そんな落ち込んだ顔するなよ) ……悪かったな」 ハルヒ「分かればいいのよ。……はぁ」 キョン「大げさに溜息をつくなよ」 ハルヒ「だって痕が残ったらどうしよう」 キョン「擦り傷だし、残りはしないだろ」 ハルヒ「……残ったら怪我とその発言の責任取ってもらうわよ」 キョン「やれやれ、どんな罰ゲームをさせる気だ?」 ハルヒ「……鈍感」 キョン「何だって? 聞こえなかったんだが」 ハルヒ「いいわよ、もう」 キョン「何を怒ってるんだ(今日はまだあの笑顔を見てないぞ)」 やべぇ、突っ込み3人組がいないと糖度が上がるw 傷のあるなしより笑顔が重要だと思っているキョン保守 教室にて 阪中「す、涼宮さん、その顔どうしたのね~~~!!」 ハルヒ「あ、これはその、キョンが……」 キョン「俺は何もしてない!」 阪中「キョンくん!!?? キョンくん非道いのね、女の子の顔に傷を付けるなんて!!!!」 キョン「だから誤解だ! あれはハルヒが勝手に……いてっ!」 ハルヒ「余計なこと言ってんじゃないわよ! あんたが悪いんでしょ!」 キョン「殴るな! 俺は何もしとらん!」 ハルヒ「何もしてないから悪いんでしょうが! 団長を守るのも団員の役目だって言ったでしょ!」 キョン「だから俺のできる範囲でしかお前を守ってやれないって言ってるだろうが!!!」 ハルヒ「できなくてもやれ!!!」 阪中「それって『俺の守れる限り守ってやる』ってことなのね~。素敵なのね」 ハルヒ「えっ ちょっと、何言ってんのよ!!!///」 キョン「阪中、何を言っているんだ。こいつが無理難題を言うからできる範囲が限られているってだけだ」 阪中「照れなくてもいいのね。恋人を守ってやるなんて、憧れるのね~」 ハル・キョン「「恋人じゃないっ!!!!!!」」 谷口「お前ら、昨日一緒に帰ってたよな。しかも自転車2人乗りで」 ハルヒ「だからちが~~う!! あれは怪我の責任取らせただけで……」 谷口「はいはい、もういいよお前ら」 ハルヒ「谷口殺す!!!!!!!」 谷口「WAWAWA~~~ グホッ ゲホッ」 キョン「谷口……骨くらいは拾ってやるぞ。やれやれ」 クラスメイト「(あいつらまたやってるよ……)」 とっくの昔にクラス公認だったハルキョン+やられキャラ谷口保守 放課後 キョン「やれやれ、今日はひどい目にあったな……」←谷口よりマシw ハルヒ「あたしのせいって言いたいわけ?」 キョン「違うのか?」 ハルヒ「違うわよ! あんたが変なこと言うから悪いんでしょ!!」 キョン「何だよ、変なことって」 ハルヒ「だ、だからそれは……!そ、その『できる範囲でしか守ってやれない』とか……///」 キョン「う……(確かに余計なことを言ったな畜生)。お前が無理言うからだろ」 ハルヒ「もう! とにかくあんたが悪いの!! 全部責任取って貰うんだから!!」 キョン「罰ゲームも罰金ももう勘弁してくれよ……」 ハルヒ「そんなんじゃないわよバカ!!!!」 パタン。本の閉じる音。 古泉「僕らはお邪魔でしょうから帰りましょうか」 みくる「えっ? あっ そうですね~」 長門「……ヤッテラレルカ、ケッ」 キョン「え? 何だよお前ら(特に長門!!!)」 ハルヒ「まだ終わる時間じゃないわよ?」 みくる「着替えるから出てけ~~~~~!!!!!!」 ハルヒ「みくるちゃんご乱心!!??」 キョン「ああ、朝比奈さんまで!!!(ここは異世界か?世界改変か??)」 結局前日からあてられっぱなしの3人保守 部室に残された2人 キョン「結局何だったんだろうな……あの3人は(後で古泉にでも確認するか)」 ハルヒ「知らないわよっ。……あんなみくるちゃん初めてみたし……」 キョン「長門もおかしかったような……」 ハルヒ「有希は気のせいってことにしないと怖い気がする。何でかしらないけど」 キョン「そうだな、気のせいだよな」 ハルヒ「気のせい、気のせい」 ハルヒ「はぁ……早く治らないかな……」 キョン「ハルヒ」 ハルヒ「何よ、あらたまって」 キョン「いや、その今朝の話というか……顔の怪我の話だけどな」 ハルヒ「何よ。やっぱりひどい顔とか言いたいの?」 キョン「アホ。んなわけないだろ。……だから、その、あんまり気にすんな」 ハルヒ「バカキョン! 今朝の話聞いてないわけ!!??」 キョン「ぐっ ネクタイを締め上げるな苦しい!! そうじゃなくてだな、怪我をしていようとしていまいと、痕が残ろうと残るまいと、ハルヒはハルヒだろ」 ハルヒ「意味わかんないんだけど」 キョン「だから、その、傷よりもそんな顔……ていうか表情しているハルヒの方が……なんていうか……」 ハルヒ「はっきり言いなさいよ! イライラするわね」 キョン「だから! 怪我があってもなくても、笑ってるハルヒの方がいいんだよ!」 ハルヒ「えっ///」 キョン「怪我が気になるのは分かるが、それでハルヒの良さが変わる訳じゃない。だからあんまり気にするな。 (あー畜生。俺は何を言っているんだろうね)」 ハルヒ「う……うん///。あ、そうだ! 怪我が治るまでは毎日送り迎えだからね!!」 キョン「覚悟はしてましたよ、団長殿 (言ったそばから笑顔が見れたのはいいが、起きられるか……やれやれ)」 実は長門によって3人に覗かれているハルキョン保守 キョン自宅にて古泉と電話中 古泉『今日はお疲れ様でした』 キョン『何の話だ』 古泉『涼宮さんですよ。彼女は顔の傷でショックを受けていた。 貴方の言葉がなければ、いずれは閉鎖空間が発生していたでしょう』 キョン『ショックはわかるが、俺がハルヒに言った言葉を何故お前が知っている』 古泉『正直に言いましょう。見ていました』 キョン『どうやって』 古泉『長門さんですよ。彼女は部室を常に監視しています。異空間がせめぎ合っていますからね』 キョン『なるほど……。で、お前も覗いたわけか』 古泉『失礼ながら今回は。朝比奈さんも一緒でしたが』 キョン『悪趣味だぞ』 古泉『分かっております。いつもそんなことをやっている訳じゃありませんよ』 キョン『ところで、長門や朝比奈さんがおかしかった気がするんだが』 古泉『気のせい……と言いたいところですが、貴方のせいですよ。正確にはあなたたち、ですか』 キョン『どういう意味だ』 古泉『見ていてイライラする、と申しておきましょうか』 キョン『わけがわからん』 古泉『これで分からなければお手上げですね。僕が「やれやれ」と言いたいくらいです』 キョン『人のセリフを取るな』 古泉『まあ、いずれ分かるでしょう。今日のところはこの辺で』 キョン「……やれやれ。明日も早いな。寝よう」 後を付けたりするくせにホントにいつもやってないのか?保守 一週間と数日後 ハルヒの自室 ハルヒ「治っちゃったな……」 ハルヒ「思ったより早かったわね……」 ハルヒ「もう、送り迎えはなしね……」 ハルヒ「……キョン……」 ハルヒ自宅前 キョン「よう」 ハルヒ「キョン、もういいわ」 キョン「何が?」 ハルヒ「送迎。もう怪我も治ったし」 キョン「それは良かったな。痕も残りそうにないな」 ハルヒ「うん……」 キョン「ま、今日のところはせっかく来たんだ。ほら、後ろ乗れ」 ハルヒ「ありがと」 キョン「元気ないな」 ハルヒ「そ、そんなことないわよ」 キョン「怪我も治ったのにな。何かあったのか?」 ハルヒ「何もないわよ」 キョン「……そうか。じゃ、行くからつかまってろよ」 何となくダウナーな雰囲気保守 再び早朝の部室 キョン「ハルヒ、やっぱりお前おかしいぞ」 ハルヒ「うっさいわね。何でもないって言ってるでしょ!」 キョン「まあ、言いたくないこともあるだろうが、言えることなら吐き出した方が楽になるぞ」 ハルヒ「だから何でもないの! (もう送り迎えがなくなって寂しいなんて言える訳ないじゃない)」 キョン「……そうか。ところでハルヒ。送迎の話だがな」 ハルヒ「……何よ(人の痛いところついてくるんじゃないわよ!)」 キョン「お前はもういいと言ったけど、続けていいか?」 ハルヒ「え? どうして? 面倒じゃないの?」 キョン「お前は俺が面倒だと分かっててやらせたのかよ」 ハルヒ「せっ責任は責任でしょ!」 キョン「おい、だから怪我は俺のせいじゃ……まあいい。送迎も面倒ではないとは言い切れんがな」 ハルヒ「じゃあどうして……」 キョン「せっかく早起きの習慣がついたんだ。今更戻るのもなんかもったいない。帰りはついでだ」 ハルヒ「そ、そう。あんたがそう言うならしょうがないわね。いいわよ」 キョン「そうか、悪いな」 ハルヒ「別に謝ることじゃないでしょ! 仕方ないからあんたは一生あたしの送り迎えしてなさい!」 キョン「一生!!?? おいまて、俺は一生お前の雑用かよ!!!」 ハルヒ「あったりまえでしょ!!」 キョン「やれやれ、元気出たからいいとするか……」 キョン「(いつの間にか2人で過ごす時間が楽しいなんて思っちまってるんだからな。やれやれ)」 ハルヒ「(理由は気に入らないけど……でもどうしよう、嬉しいかも)」 長門@監視中「いい加減素直になりやがれこのヤロウ」 みくる@長門製監視モニタを借りている「ふわぁ~ 涼宮さん、プロポーズです~」 古泉@みくる同様「彼は本当に分かってないのか、ポーズなのか……悩むところですね」 実は最後のモノローグすら素直じゃないキョン保守 1ヶ月後くらいの早朝の部室 ハルヒ「ねえキョン」 キョン「何だ?」 ハルヒ「……その、いつも……あ、ありがと」 キョン「どうした!? 急に! 熱でもあるのか!?」 ハルヒ「バカ! 違うわよ! 何よ、せっかく人が素直に……」 キョン「いや、悪かった。ハルヒに礼を言われるとは思わなかったんでな」 ハルヒ「あたしだってお礼くらい言えるわよっ! バカにしてんの!?」 キョン「だから悪かったって。まあ、俺が好きでやってることだからな。礼には及ばん」 ハルヒ「それもそうね。ま、あたしを送迎できるんだから感謝して貰ってもいいくらいよね」 キョン「おいおい。ま、それくらいの方がお前らしいか」 ハルヒ「て、話をはぐらかすんじゃない!」 キョン「は!? お前訳分からんぞ」 ハルヒ「その、まあ、あたしも感謝はしてるんだから……お礼でも……」 キョン「礼ならさっき言って貰ったぞ」 ハルヒ「そうじゃなくて……目を閉じなさい」 キョン「へ?」 ハルヒ「いいから!」 キョン「わかったよ」 キョン「……っ///」 ハルヒ「……///」 キョン「……今何をした!///」 ハルヒ「うっさい! お礼よ、お礼!///」 さて、ハルヒはキョンに何をしたんでしょうね?保守 ちょっとの間があった キョン「団長様にここまでしていただけるほどのことをした覚えはないんだが」 ハルヒ「何よっ バカにしてんの!?」 キョン「いや、そうじゃないんだが……」 ハルヒ「朝弱いって言ってるあんたが早朝から来てくれるんだし、あたしも楽だし……」 キョン「いや、だからそうじゃなくてだな」 ハルヒ「何よっ」 キョン「あー……。その、何だな。……お礼じゃないほうが嬉しいんだが」 ハルヒ「え? どういう意味??」 キョン「……っ/// 妄言だ、忘れてくれ」 ハルヒ「は? あんた団長に『忘れてくれ』なんて通じると思ってんの!!??」 キョン「……はい、思ってません(長門には通じたんだがな)」 ハルヒ「じゃあ説明しなさい」 キョン「……俺、実はポニーテール萌えなんだ」 ハルヒ「えっ」 キョン「いつだったかのお前のポニーテールはそりゃもう反則的なまでに似合ってたぞ」 ハルヒ「えっ それって……んっ……」 ハルヒ「……んっ…はぁっ……ちょっとあんた……///」 キョン「……まあ、つまりそういうことだ///」 ハルヒ「わけわかんないわよ///」 セリフあってるか?保守 ハルヒ「……まあいいわ。あんたSOS団団長にここまでしたんだから覚悟は出来てるでしょうね」 キョン「(嫌な予感)何の覚悟だ!?」 ハルヒ「あんたは一生SOS団の団員その1にして雑用係にしてあたしの下僕よ!!!」 キョン「ちょっと待て! 団員と雑用はこの際甘んじるがお前の下僕ってのは認められん!」 ハルヒ「うっさい! このあたしに…あ、あんなことして、許されると思ってるの!」 キョン「先にしたのはお前だろうが!!!」 ハルヒ「うっさい! あたしはいいのよ、団長だから!」 キョン「断じて認めん! 断固抗議する!!!」 ハルヒ「却下!!!」 古泉@覗き「ここまで来て素直になれないとは……お二人とも重傷ですね」 みくる@覗き「はわわわ~ 何でそこで喧嘩しちゃうんですか~~」 長門@覗き「……ここまで来て『好き』も言えない。予測不能」 キョン「……ちょっと待て」 ハルヒ「何?」 キョン「何か見られてる気がしないか?」 ハルヒ「誰もいないわよ……でも変ね、そんな気が……」 キョン「(あいつら、まさかまた見てるんじゃないだろうな!?)」 古・み・長「「「ばっち見てま~すwww」」」 キョン「……やれやれ」 ハルヒが顔に怪我しちゃった保守 おしまい。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3922.html
二 章 まあメランコリーはさておき、ハルヒの突拍子もない思いつきにどうしたものか考えあぐねていた。営利目的になれば高校や大学の同好会とは違う。金はからむし、顧客と出資者への責任も生じる。それに社員全員の生活もかかっている。社会的責任、ってやつだ。ハルヒの思いつきだけで会社がやっていける世の中なら、経営コンサルタントなんていらないだろう。なんというかこう、ハルヒも満足する、社員も顧客も満足する、すべてがうまくいく方法はないものか。 長門から晩飯を作ると電話があったので、俺は帰りにマンションに寄ることにした。俺も今回ばかりはうまく切り抜ける案がないので、長門の知恵を借りることにした。 「ハルヒを満足させられるだけの仕事で、四人を養っていくだけのネタがあればいいんだが」 「……事業内容を二つに分ければいい」 「とういと?」 「基本収入を得る事業、実験的な投資事業」 なるほどな。前者が仕事、後者が遊びってわけか。 「後者のタイムマシン云々はハルヒに好きにやらせるとして、前者の基本収入を得る事業だが、なにかいい方法はないか」 「……低コストでなら、ソフトウェアを売るのがいい」 「お前ならさくっと作れるだろうが、学生をやりながらはきついだろ」 「……大丈夫。時間の切り分けをうまく調整する」 「ハルヒのお守りのためにあんまり長門の手間をかけさせたくないんだがな」 「……いい。必要とされるのは、いいこと」 長門の顔に少しだけ微笑が浮かんだ。そう言ってくれるのは嬉しいんだが。 「じゃあ、俺も勉強して手伝うよ。ハルヒと古泉にも手伝わせるから」 とはいっても、ハルヒに今からプログラム言語を勉強しろと俺が言えるかどうか。 「それで、どんなソフトウェアを売るんだ?」 長門はごそごそと薄型ノートパソコンを出してきた。 「……アイデアはある」 長門テクノロジーから生まれた製品のアイデアはいくつかあった。すぐにでも実用化できそうなのは『自律思考型業務支援仮想人格』とか言うらしい。 「どういうもんなんだそれ?」 「……通俗的な用語を使用すれば、人工知能」 長門がとあるプログラムを起動すると、黄色いリボンをした3Dの人形っぽいキャラクタが画面に飛び跳ねた。 『ゆきりんおかえりぃ、元気ぃ?』 「ゆきりんってお前のことか」 「……そ、そう。たまにそう呼ばれる」 『その人だぁれ?ふふっ、もしかしてカレシぃ?』 このキャラクタ、知ってる誰かに非常によく似てるんだが。 「……この子は元はウィルスだった。北高のコンピ研に所属していた頃、コンピュータから抽出して育てた」 「ウィルスって、大丈夫なのか」 「……問題ない。増殖する機能は切ってある」 長門が言うには、この“涼宮ハルヒシミュレータ”は元々ハルヒの情報を栄養源とする人工知能の一種らしい。 「こいつ、自分で考えて喋るのか」 「……プログラムに考えるという機能はない。状況を示す情報に応じて反応しているだけ」 「どうやってこっちの様子が分かるんだ?」 「マイクとカメラからの情報を内部で解析している」 俺はCCDカメラに向かって話し掛けた。 「おいハルヒ、ちょっと見ないうちに小さくなったな」 『うるちゃいわね!でかいだけが能じゃないわょ』 この三頭身だか四頭身だかのミニハルヒはかわいい。パッケージ化しておまけにフィギュアをつけたら売れるぞ。 「……同じコアロジックを利用し、業務支援ソフトを作る」 長門が考えているのは、会社全体の情報から経営分析し、スケジュールとか文書管理などの仕事で必要な手間をすべてやってくれるマルチなプログラムらしい。簡単にいえば社員全員にAI秘書をつけて業務管理する、らしいが。 「これを店頭で売るのか」 「……店頭小売パッケージにはできない。ライセンス数で売る。グリッドコンピューティングの一種」 難しい名前が出てきたが、要は複数のパソコン上で連携して動くソフトウェアらしい。二十台以上のパソコンがある事業所なんかで稼動可能。だから個人用途では売れない。 「ほかにも、セキュリティ機能をオプションで付ける」 そっちのほうが人気出そうだな。近頃の管理職はセキュリティソフトが好きだから。とりあえず食うために、それをメインに事業をはじめてみるか。 翌日、今度は俺がハルヒを呼び出した。 「ということでだな、まず安定収入を得ることが先決だと思う」 「しょうがないわ。お金なんか目的じゃないんだけど、食っていけるだけの余裕がないと困るものね」 「まあ長門が作ったデモを見てくれ」 ノートパソコンの画面に冴子先生より美人なお姉さんが現れた。さすがにハルヒの格好をしたキャラクタなんか見せたら猛烈に怒り出すだろう。 『おはようございます、涼宮さん。三十分後にミーティングです。出席者は社長、事業部長、課長、担当者です。議題は四点、プリントアウトしている資料に目を通しておいてください。新着のメールは二十件。そのうち、一時間以内に返信が必要なものは四件です』 「なんか、仕事に管理されてるって感じね」 「無駄がなくていいじゃないか」 「無駄がないのはいいんだけど。なんか足りないのよね」 曖昧だな。なんかって何だ。俺も考え込んだ。 「萌えよ萌え!いわゆるひとつの萌え要素」 なにを言い出すかと思ったらまたそれか。 「この秘書、もっと若くしてメイド服着せて、眼鏡っ子にしたらどうかしら。きっと仕事もはかどるわ」 たまにスケジュールミスとか打ち合わせバッティングしそうな秘書だな。 「性格も選べるといいわねぇ。ツンデレとかお嬢様とか。女性向けにイケメン秘書も。ジョークなんか飛ばしてくれると和むわ」 「お前、別のゲームと勘違いしてんじゃないのか」 「ソフトウェアなんて所詮は道具よ。だったら、かわいかったりかっこいいほうがいいに決まってるじゃない」 朝比奈さんみたいな秘書だったら、まあ、一理あるな。 「もうちょっとキャラクタ性が欲しいのよね」 機能に関しちゃなにもなしかよ。 「……分かった」 長門はちょっとがっかりしたようだった。まあそうしょげるな、ハルヒは何も分かってない。いっそのことミニハルヒで売りに出すか、本人の営業付きで。 数日後、バージョンアップした秘書が現れた。 『ハーイ古泉くんげんきぃ?昨日はよく眠れた?もしかして彼女と一晩中ウフフだったのかしら。あら、眉間に皺なんか寄せちゃって、冗談よん』 画面には“メールを読む・今日の予定を聞く・昨日の彼女の話をする”の選択肢が現れた。業務が三択かよ、分かりやすすぎる。 「いい感じですね」 「俺もいいと思う。音声認識させたらキーボードもマウスもいらなさそうだな」 男は単純だ。 「古泉くんみたいなキャラはいないの?」 「……設定すれば、可能」 「じゃあキャラクタをオプションで売りましょう。渋めの中年が好きな人もいるし」 表向きは秘書ソフトなんだが、バックで超高度な人工知能とデータベースが動いてることには興味なさげだった。まあ顧客ってのはそういうもんだろうけどな。 「それでだな、これを主力商品にするのはいいんだが、長門ひとりに開発を任せるのは負担が大きすぎる。だから俺らも勉強して、せめてセールスエンジニアくらいの仕事はこなせるようになりたい」 「僕も多少なら手伝えますよ。専攻ではありませんが、情報工学も取っていましたから」 「プログラム書けるか?」 「ええ。たしなみ程度なら」 そうだったのか。思わぬ伏兵だな。 「ハルヒ、お前も勉強しろ」 「分かったわ。しのぎよね」 「長門、お前は大学院を優先させてくれていいから。無理なスケジュールで働くことはないからな」 ハルヒが趣味で作る会社のために長門の時間を潰させたくない。 「……分かった」 長門に気を使ってそうは言ったが、こいつがいないと会社が回らないかもしれない。思いのほか長門も、ハルヒとつるんでなにかはじめられることを喜んでいるようで、溜息をついているのは俺だけとなった。まあ、しばらくは付き合ってみるか。せめてハルヒが飽きるまでは。潰れたらそんときまた考えればいい。 残るは資金だが。これが最も重要な課題で、しかも難題だ。ハルヒの会社に投資してくれるような酔狂なやつは、たぶんこの世界にはひとりもいない。 「古泉、お前の機関の財政状態はどうなんだ?」 「最近は締め付けが厳しいですね。経費清算もやたら書類ばっかり書かされます」 どこぞもそうだよな。このご時世、金が余ってるなんてやつがいたらお目にかかりたいもんだ。 「機関ってどういう金で動いてるんだ?」 「世界を守るという、我々の目的に同調してくださる御仁が数名いらっしゃいまして。その方々のご支援によっています」 「その、御仁への見返りは?」 「いちおういくつかの会社法人を抱えていますから、その利益を少しでも還元していますね。多丸氏はそのへんの財務を担当しています」 なるほど。どの世界でもしのぎが必要なわけだ。 「出資者はどれくらいいるんだ?」 「片手で数えるくらいです。前にも言ったかもしれませんが、鶴屋さんはその御仁のご息女です」 そういえばそんなことを聞いた覚えがある。鶴屋さんか……。 「もしかして、鶴屋さんに出資を依頼しようとお考えですか」 「分からんが、ダメモトで当たってみる価値はあるな」 「では僕は顔を出さないことにしましょう。機関は鶴屋家には直接的には関わらないというルールがあるので」 「そうか。じゃあ俺は週末にでもハルヒを連れて鶴屋さんに会ってくる」 「なんであたしが鶴ちゃんにお金を借りないといけないのよ」 「金が天から降ってくるとでも思ってるのか」 「銀行に借りればいいじゃないの」 「銀行は借りる必要がないことを証明してはじめて融資してくれるんだよ」 「は?」 「つまりな、銀行は支払能力があることを認定しないと貸してくれないんだ。俺たちには担保物件になりそうなものもないだろ」 ハルヒが実家を抵当に入れると言い出さないかハラハラした。 「妙なことになってるのね金融って。しょうがないわ。ただし、」 「ただし、なんだ」 「タイムマシン開発がうちの主力事業だということははっきりさせておくわよ」 いくら鶴屋さんが物好きでも、それを言い終わらないうちに断られるぞ。 「わははっ。さすがはハルにゃんだねっ。で、タイムマシンはいつ完成するんだい?」 だから言うなっていったのに。鶴屋さんに会うのは卒業式以来か。相変わらずあっけらかんとしていた。大学を出てから親父さんが経営する会社をいくつか任されているらしい。 「ええと、そっちは研究事業ということにして、ソフトウェア開発を主体に考えているんです」 「ほ~う。キョンくんそっちに詳しいんだ?」 「詳しいのは長門のほうでして、あいつが開発担当になる予定です。俺たちはもっぱら営業ですね」 俺は年度ごとの事業展開と収支の見込みをまとめた事業計画書(外様向け)を見せた。 「な~るほど。出資してもいいけど、ひとつだけ条件があるんだけどねっ」 「なんでしょうか」 「タイムマシンができたら、あたしを乗っけて江戸時代に連れてっておくれよ」 「そりゃもちろん」 まかり間違って完成するようなことがあったらですが。江戸時代って、まさか山に埋まっていたアレを調べに行くんじゃ。 「いやぁ、うちにはいろいろと謎の言い伝えがあるんっさ。それを調べに行きたいね」 これだけのお屋敷を数百年も維持している一族だ、いくつものミステリーが眠っているに違いない。 「それで、一億くらいあればいいかい?」 「……は?」 俺もハルヒも、目が点になった。 鶴屋さんが言うには、会社経営じゃ一億なんてあっという間に消えてしまうものなのらしい。 「消えていくお金をどれだけ回収できるか。そこが社長の手腕よ、あはははっ」 なるほど、肝に銘じておきます。というかハルヒ、しばらく鶴屋さんのところで修行させてもらえ。 とはいえまだ収入の見通しも立っていないので、初年度分の人件費と設備費を借りるだけにしておいた。資本金が一千万を超えないほうが税金が安いらしいからな。それに、ハルヒに大金を持たせたらえらいことになりそうだし。 俺たちは三回くらい畳に頭をこすりつけて礼を述べ、鶴屋さんちを後にした。 「キョン、早速事務所を借りに行くわよ。まずは足場を作らないとね」 そんな、ビルの建設現場みたいに。 翌日、俺は古泉と長門を呼び出して開業資金が調達できたことを伝えた。 「さすがは鶴屋さんです。本当の投資家というのは、あのような方のことを言うんですね」 ただ無謀なだけかもしれんが。 「社屋はやっぱり駅に近いほうがいいわよねぇ」 「僕の知り合いに不動産を扱っている人がいましてね。彼ならいい物件を知っているかもしれません」 知り合いって機関の連中か。古泉にこっそり尋ねてみた。 「ええまあ。不動産も営んでいますから」 「ゆりかごから棺桶まで何でも揃いそうだな、お前の機関」 「ええ、墓石もあります。お安くしておきます」 いや、冗談だから。 古泉の案内で空き事務所を見に行った。さして古くはない雑居ビルの四階だった。これが北口駅から徒歩三分という、絶好のロケーションにあった。偶然じゃないだろこれ。 「明るくて広いし、いい物件ですね」 「ここにしましょう!ドリームも近いし。集合場所にも近いわ」 この歳になって市内不思議パトロールはいいかげんやめてもらいたいもんだが。 月曜日、俺は今の職場に辞表を出した。友達と会社を作ることになったのでと言うと、上司が呆然と俺を見た。自分がクビになったら雇ってくれと涙ながらに頼まれたが、まだ俺自身が食っていけるかすらも分からないので考えておきますとだけ答えておいた。残りの一ヶ月は引継ぎだけだ。少し気分がいい。 ハルヒは欠勤プラス有給消化でさっさとやめてしまっていた。通常は一ヶ月の余裕を見て辞表を出すもんなんだが、とても待てなかったらしい。 「キョン、次の土曜日に事務所開きをするわよ。SOS団のハッピを作ってくれるところ、探しといて」 事務所開きって……まるで涼宮組じゃないか。家紋入りの提灯も必要か。 忙しい人ばかりにもかかわらず、週末にはいろんな知り合いが集まってくれた。出資者の鶴屋さん、機関の森さんに新川さん、多丸兄弟。喜緑さんも差し入れを持ってきてくれた。他にもハルヒの大学時代の友達やら、俺の前の会社の知り合いやらで賑わった。ちなみに今年高校三年になる妹もいた。 まだ長テーブルとパイプ椅子しかないがらんとしたフロアで、団員四人と鶴屋さんがSOS団オリジナルハッピを着て酒樽のフタを割った。ハルヒは上戸だった。酒は一生飲まないとか言ってなかったか、おい。 宴が終わる頃、ハルヒがぼそりと言った。 「みくるちゃんがいたら……巫女衣装で出てもらったのにね」 それから一ヵ月後。俺は元の職場を無事退社し、今日が株式会社SOS団の初出社だ。昨日、やっと登記が済んだ。ハルヒは待てずにひとりで出社している。これまた殊勝なことに、机やらパーテーションやら内装やら、肉体労働を全部自分でやったらしい。 出社第一日目となる今日、朝メシを食いながら新聞を開いて、目が飛び出るくらいに仰天した。覚えていると思う、十年前に俺とハルヒが東中のグラウンドに描いた謎の地上絵を。全面広告にアレが出ていたのだ。絵文字がでかでかと載っているだけで、何の宣伝ともどこの会社とも書いていない。でかい絵文字の下にちょこっとホームページのURLが書かれてあった。こ……このURL、SOS団のじゃないか。妙な焦燥感が俺を包んだ。なにかまずいことが起るとき、この感じに襲われる。これは緊急召集だ。 俺は携帯を取り上げた。 「古泉、今朝の新聞見たか」 「ええ、見ました。涼宮さんが広告を出したんですね」 「そんなのん気なこと言ってていいのか。これの意味知ってるよな」 「ええ知ってます。載せるならSOS団のエンブレムでもよかった気がしますが。会社登記が済んだのでその記念でしょう」 「記念って。URLが書いてあるってことは集客するためだろう」 「涼宮さんがウェブに長門さんの秘書システムの紹介を載せたみたいですよ」 「全然聞いてないぞ。いったいいつだ」 「三日くらい前だったかと」 全国紙の全面広告だ、それでも十分すぎるくらいに宣伝効果はある。これでもし問い合わせが殺到したら。 「古泉、急ぎ出社してくれ。緊急事態だ」 俺は食いかけたメシもそのままに玄関へ走った。 「キョンくん、ご飯くらいちゃんと食べて行かないとだめよ」 妹が呼びかける声がしたが、そんなことを気にかけてる場合じゃない。俺は自転車を飛ばした。車なんかに乗ってる余裕はなかった。道々、長門に電話して事情を伝え大至急出社するよう頼んだ。順風満帆で起業できたと思ったら、いきなりこの暴風雨か。 「やっほー!早いじゃないのキョン」 やっほーじゃないよまったく。初日から飛ばしてくれるぜ。 「今朝の広告、お前の仕業か」 「そうよ~。なかなか派手な初広告でしょ」 「新聞広告って締め切りは最低でも一ヶ月前だろう。どうやって頼んだんだ」 「さあ。ちょうどキャンセルが入ったらしいからタイミングよかったんじゃないの」 そのタイミングとやらはきっとお前自身が作り出したんだな。ハルヒが鼻歌を歌いながら、近所で買い漁ったらしい新聞の広告ページを壁に貼り付けていた。 「全国紙で全面広告って、お前掲載にいくら払ったんだ?」 「三千万くらい、かな」 さ……さんぜんま……。眩暈がした。俺たちの給料の何年分なんだ。うちの資本金を軽く超えてんじゃないかよ。 俺は時計を見た。まだ八時半だな。 「ハルヒ、あのな、全国紙ってことは軽く八百万人が見てるってことなんだ。仮にそのうちの一パーセントが興味を持って問い合わせてきたらどうなると思う?」 「電話が鳴るわね」 鳴るだけじゃないよまったく。 「殺到だ殺到!下手すりゃ一週間くらい電話対応に追われるぞ。電話だけじゃない、メールもパンクする」 「いいことじゃないの。こっちで客を選べるんだから」 分かってない、お前はなにも分かってない。俺は頭を抱えた。 「遅くなりました。おはようございます」古泉が顔を出した。 「……出社した」続けて長門も現れた。 初出社がこんなでなけりゃ、長門のフォーマルスーツ姿をじっくり眺めて心安らぐ余裕もあったのだろうが、それどころではなかった。 「お前ら、全員電話の前に座れ。今日一日電話対応だ。長門、事業内容と製品概要を軽くまとめて人数分プリントアウトしてくれ」 「……了解した」 長門にも意味が分かったようだ。手早く作業に取り掛かった。 「俺は燃料を調達してくる」 近所のコンビニに走った。食えなかった朝飯の分と、栄養ドリンク、のど飴、人数分のおにぎり、その他カロリーメイトなどなどを調達した。 俺は時計を見た。もうすぐ九時を回る。そして今日が、SOS団のいちばん長い日の始まりである。 「お電話ありがとうございます、株式会社SOS団です!」 「どうもお世話になっております、SOS団です」 「……SOS団の、電話」 九時十分ごろから五つあった電話が一斉に鳴り始めた。新聞とホームページを見た客からの問い合わせに、事業内容とかろうじてひとつだけある製品の説明を繰り返し繰り返し伝えた。終業時間が来る頃には全員ノドが枯れていた。 長門にはメール対応も頼んだ。形態素解析とかなんとかいうプログラム技術で、メールの本文を分析し内容に応じて自動返答する仕組みを作り、さくさくと処理していた。余談だが、ホームページのアクセスカウンタが桁が足りなくてとうとう壊れたらしい。かつてのハルヒ自作のSOS団エンブレムを上回る集客効果だ。 電話は六時を過ぎても鳴り止まない。しょうがないので就業時刻を終えたメッセージを入れた留守電に切り替えた。 当然ながらこの日、休み時間は一切なかった。午後七時、全員がぐったりと椅子によりかかっていた。ある者は机に突っ伏していた。メーカーのサポートセンターってきっとこんな感じなんだろうなぁとかぼんやりと妄想していた。 「ハルヒ……明日もこんな感じだぞきっと」 「悪かったわよ……」 「……緊急会議を提案する」長門がぼそりと言った。 ふだんから無口な長門に電話対応をさせたのは、ちょっとかわいそうだったが。イライラした客から上司を出せと何度も言われたらしい。 「会議?なにか議題あるのか」 「……受注数が予定で二十件を超えた。外注したほうがいい」 なるほど。長門は電話対応しながらまめに営業してたのか。 「二十件の注文が取れたの?すごいじゃない」 ハルヒが突然元気を取り戻した。 「……まだ、営業担当を訪問させる約束を取り付けただけ」 「それでもすごいわ、二階級特進して昇進よ!」 やれやれ、二階級特進が好きだな。ハルヒが腕章を取り出して副社長と書き込んだ。そのストックまだあったんだ。 「……拝命する」 長門は両手で腕章を受け取った。気のせいかもしれんが、嬉しそうだな。 「長門さん、昇進おめでとうございます」 古泉が拍手した。俺もしょうがなしに拍手した。そういえばハルヒと知り合ってからずっと、俺だけが腕章をもらってない気がする。いや別にいいんだが。 「外注っていっても、やってくれそうなところがあればいいが」 「……心当たりは、ある」 長門がスクと立ち上がった。 「って、これから行くのか?」 「……そう。来て」 いくらアウトソースといっても、アポくらいしていったほうがいいんじゃないだろうか。この時間だし。 ぞろぞろと三人で長門の後をついていった。エレベータに乗ったが、長門は三階のボタンを押した。 「このビルか?」 「……そう」 偶然にしちゃえらく近くにあったもんだな。俺たちの部屋があるちょうど真下に、IT関係っぽいカタカナの名前の会社があった。規模はそれほどでかくなさそうだが。 俺はドアの前でインターホンを押した。 「すいません、営業担当の方、いらっしゃいますか」 「どちらさまでしょうか?」 「上の階に事務所を構えている株式会社SOS団と申しますが」 そこでインターホンの向こうから咳き込む声が聞こえた。 「な、なんですって!?」 「突然で申し訳ありません。お仕事をお願いできないかとご相談に上がった次第なんですが」 「ちょ、ちょっとお待ちを」なぜか慌てている。 ドアが開いてわらわらと人が出てきた。 「な、なんでキミタチがこんなところにいるんだ!」 誰かと思えば。見覚えがあるどころか、忘れもしない。朝比奈さんとの強制セクハラ写真を撮られた挙句、パソコン一式、いやそれ以外にノートパソコンまで取られたあのコンピ研部長氏だった。あのときの部員が全員いる。 「あら、あんた。コンピ研の部長じゃないの。お隣さんだったのね」 「部長じゃないよ!社長だよ社長」 「奇遇ね。あたしも社長なのよねぇ」 これはどう考えても奇遇じゃないだろ。俺はちらりと長門を見た。長門は我関せずの顔を決め込んでいた。 数年ぶりのご対面がこんなだったが、いちおう客として応接に通してくれた。 「で、なにしに来たのキミたち」 「新聞広告出したら注文が殺到しちゃってさあ。うちの仕事手伝ってよ。報酬はそうね、あんたんとこが三でうちが七でどう?」 まるでありがたく仕事をくれてやる態度だな。俺たちがやったのは電話対応だけじゃないか。ぼったくりにもほどがある。 「残念だけど、僕たちもう廃業するんでね」 「えっ、そうなんですか」 俺は驚いた。この人なら技術も経営ノウハウも十分ありそうなのに。 「この業界って仕事の取り合いでなかなか難しいよ。最近は人件費が安い海外の企業に流れることが多いし」 生半可な気持ちではじめた俺らとはえらい違いだ。うちもうかうかしてはいられない、明日はわが身かもしれん。 「一年前に意気揚々とはじめた会社だったのに、残ったのは債務の山だけ。このパソコンも全部抵当なんだ」 部長氏は愛する機材をなでなでしながら大きくため息をついた。 「じゃあ、あたしがあんたたちを買い取るわ。企業買収って一度やってみたかったのよねぇ」 「おいハルヒ、そんな金どこにあるんだ」 「なんとかなるわよ。うちの実家を担保にしてもいいわ」 お前の親父さんが汗水たらして二十年間ローンを払いつづけてる一戸建てをか。いくら一人娘とはいえそれは酷なんじゃ。 部長氏を見ると難しい顔をして呆然としていた。これが沈みかかった船への救助なのか、あるいは地獄の日々がはじまる予兆なのか考えているようだった。 「もう、好きにしてくれ……」 「じゃあ、あんたにはシステム開発部部長の肩書きをあげるわね」 「なんでもいいよもう」 「担当副社長は有希だから、この子に任せるわ。あんたたち、有希のこと好きでしょ」 「ええっ、ほんとかい?」 「有希、こいつらの面倒みてくれるわよね?」 「……たまになら」 部長氏は願ったり叶ったりといった感じで手を打って喜んだ。まあ、コンピュータが分かる者同士、長門とならうまくやっていけるだろう。 部長氏の会社は看板が変わっただけで、今日付けでうちのシステム開発部に吸収合併された。株式会社SOS団はメンツも増え九人になった。いよいよ大所帯だな。 部長氏の負債だが、出資者の鶴屋さんに頼むほかなく、結局全額引き受けてもらうことになった。実家を担保にしなくてよかったな、ハルヒ。まあこれだけ受注が来てるんだ、全部掃けたら保守費も取れてうまい具合に回るだろう。副社長の長門は三階と四階のフロアを往復する毎日だった。大学院の授業もあるだろうにご苦労だ。俺も営業に回れるだけの知識を得るべく、しばらくは長門に教えてもらいながら勉強の日々だ。 文中の“涼宮ハルヒシミュレータ”は◆eHA9wZFEww氏による作です「涼宮ハルヒの常駐」 3章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6138.html
エピローグ 週末土曜日。一週間ぶりの市内探索ツアーである。 五分前に集合場所に着くと、既に四人が待っていた。今日も俺が罰金なのか・・・そんなに俺におごらせるのが嬉しいのかと言わんばかりに、ハルヒは笑顔であった。いや、それ以上の笑顔ともとれる。昨日お前の食卓にワライタケでも出てきたっていうのか。 「早く喫茶店に行くわよ」 はいはい、分かってますよ。ハルヒに促されるように喫茶店に入り、指定席になってしまっている席へむかうところだった。誰かそこに一人座っている。今日は違うテーブルになるのかなどと思っていると、ハルヒはすでに一人座っているテーブルへ向かった。 今回の騒動にて、一番の驚きがそこに待っていた。世界がハルヒの仕業で分裂したことなどどうでもよくなる出来事だった。現に俺だけじゃない。古泉はいつもの笑顔を忘れて口をあんぐり開けている。その顔写メにとっておきたかったな。朝比奈さんは自分で見るのも恥ずかしいくらいのコスチュームを、ハルヒのカバンから出された時みたいになっている。長門、その顔は念願の宇宙人ヒーローにでも会えたってのか。 「みんな、早く座りなさいよ。紹介するわ。今日から我がSOS団に入団することになりました」 おいおい嘘だろハルヒ。よりによって・・・そんなハルヒは俺たちに紹介してくれたのであった。 「佐々木さんよ。キョン、あんたは元同級生なんだから早く座ってみんなにも説明してあげなさい」 いったいぜんたい、何をいえばいいってんだ。 「みなさん何度かお会いしていますね。改めまして、はじめまして。佐々木と申します。今後とも長い付き合いになると思いますので、どうぞよろしく」 佐々木よ。何でそんな平然としているんだ。しかも優越感にひたっているような顔もしやがって。 「佐々木さんは週末の活動が中心となるわ。だって学校が違うからあたしたちの部室に毎日来てもらうのも悪いしね。このまえ会って話したんだけど、この人なかなか面白い考えをしているわ。あたしのいうことにきちんと筋道ってのをたてて反論してくれる。キョン、あんたとは違うのよ。で、SOS団の活動内容を話してみたわけ。そしたら興味深く聞いてくれたのよ。そこで入団希望者向けに作っていた筆記試験を彼女に解いてもらったわけ。そしたら百点満点中百点!それ以上あげちゃってもいいくらいだったわよ。佐々木さんはすごい発想の持ち主だわ。あたしが求めていた人がまさか学校外にいたとはね」 ハルヒによる、怒涛たる入団経歴を説明された後、またしても取り残された俺たち四人は口を開けていた。それを無視するかのように佐々木は自己紹介した。 「彼女もなかなか魅力的な人だね。それに部員である人たちも彼女から聞く限り興味深かったよ。涼宮さんは暇な時でいいって言ってくれているけど、できるだけ週末は参加することにした。なにしろ僕はこんな面白そうなことめったに体験できそうにないしね。出会いというものは大切にするものだ。一期一会を無駄にする必要はないと思っている。なによりキョン、君も同じ事を言ってたじゃないか。息抜きついでに丁度いい。彼女もそれを認めてくれた。みんなも早く座ってくれないか」 冗談はスパッツだけにしてくれよ。俺と古泉は二人に聞こえないように話し始めた。 「・・・これはどういうことだ、古泉」 「・・・あなたが知らないのにどうして僕が知りえるんですか?」 ハルヒが去年の自己紹介の時にした言葉を思い出していた。 『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上』 ああ、そうだった。ハルヒが望んでいる異世界人ってのがまだだったな。むこうの世界でハルヒは異世界人としての佐々木と出会った。しかしながらこいつは毎度のことながらそんなこと覚えているわけない。 「・・・異世界人ってわけか」 「・・・どうやらそういうことになりますね」 かくして、ハルヒは異世界人に出会うことなくして、その本性は異世界人である佐々木をSOS団に入部させてしまったようだ。こんなこと、どうすれば起こるんだ? 「くっくっ、君たちはどうやら女性を待たせていることに気づいていない。まあ僕自身もこんなことになるとは思わなかったが。今この状況を楽しんでいるんだ。さっきも言ったようにこれからもよろしく頼むよ」 そんなことを言ったって佐々木よ。俺はまだなにがなんやら理解できていないんだ。 「・・・まったく君は相変わらずだね。涼宮さんが怒るのも納得できる。この状況を説明できるものとして、君の言葉を使わせていただこう」 そういって佐々木は、首をかしげ手を額に当てた。 「やれやれ、だよ」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/500.html
キーンコーンカーンコーン ふぅ──やっと授業が終わった。 朝から何も喋って無い私をよそに、教師というのはベラベラと喋る。 あたしはそんな教師を退屈な相手の対象だとしか見ていなかった。 ───この時までは。 私は起立、礼。が終わったその直後にキョンの席のイスを引っ張った。 普段のキョンならあたしの机に頭をぶつけるぐらいの仕草はするはずだった。 …するはずだった、はずだった…。 なんで?どうしてそうも、いつもと…違うの? 私がイスを引っ張った直後、キョンは席から立ち、どこかへ行ってしまった。 他の生徒を見る限り、ぐるりと輪になるようにグループを作っており ──まるで私だけが孤立してるかのように見えた。いや、客観的に見ればそう…なのだ。 古泉「おやおや、ここはキョン君いじめスレですか。私の肉棒が唸りますね。」 そして孤立した今、あの時の退屈は私に話しかけてきた。 『もう、転校しちゃったら?』『何のために居るの?』『友達・・・・ダレ?」 いや…なんで?あのうっさいバカがいないだけでなんで…? 私は黒板を見つめなおすと、まだ書き写して無い部分をノートにとった。 ──いや、孤独なのが怖くて取る「フリ」をしていた。 それを察したかの様に、男子グループの内の一人が黒板を消しに行く。 ──ああ、いいわよ。もう、そことってあるしね…… 無意味に自分の両手を見つめると、涙が少しずつ沸いてきた。 『あたし…なにやってんの?別に悲しくない。こんなの中学の時と同じ。』 なのにこんなに悲しいのは──キョンという話し相手が──遠ざかってしまったから? …ああ、もうバカ!一生懸命書いたノートが涙でくしゃくしゃ! ホントに取り直さなきゃ…ダメじゃない…黒板……消えてるのに… 古泉「ハハッ、よくあることです。」 ──宮さんですよね?涼宮さん。 上から聞こえる声に私はハッと顔を上げる。 そこには女子グループの内の1人 いかにもやんちゃそうな女子生徒が私の名前を呼んでいた。 ハルヒ「な、なによ?」 このクラスには男子グループがあれば女子グループもある。 ──その女子グループのうちの1人が話しかけてくるなんて。 …相当面白いネタでも持ってきたのかしら? 私は自分の顔から少量ながらにも涙が溢れている事も気にせず その女子生徒を眺め返した。 女子生徒「これ、ハンカチ…」 ──えっ? …そうだ、あたしだって普通の女子生徒だ。 急にあたしの中の何かがサッパリと冷めたように抜けていく。 そういえば、言ってたな。キョン。 「お前は自己中すぎる。」 「付き合いきれん。」 「またそれかぁ・・・」 だけど… 『普通にしてれば可愛い』って── 古泉「なんか臭いぞ」 私はキョンの言葉を頭に描き返すと ふとハンカチを差し出している女子生徒の方を見ると。ようやく自分でも悟った。 ──私だって普通の女子高生…じゃない。 身を持って本当の退屈を知ったからだろうか、目の前にあるソレはとても輝いて見えた。 私の一番望んでいないもの、平凡。それが、今ばかりは輝いて見えた。 私は涙顔を見られた恥ずかしさもあってか、少し強気な顔になる。 ──話かけるなら、もっと早くにきなさいよ! 恐らく心はそう叫んでいた。 そして不本意ながらも、その平凡というなの橋に足をかけようとする。 ハルヒ「あ、ありがと。いやー最近涙腺ゆるんじゃってねぇ。 もしかして風邪かな?いや、これは花粉症かぁー!」 クラス全員が、一帯となったかのように静まり返る。 そして、ハンカチを差し出した女子生徒の声だけが冷たくこだまする。 ───ないね。やっぱり。 古泉「ハハッ、あとがこわそーだっと。」 静まりかえったと同時、いや、その後を追うように ハンカチを持ってきた女子生徒が声を漏らす。 ───ツマンナイ。 その声がクラスに響き渡ると、一つの女子グループから苦笑が聞こえた。 …ああ、そういうことか。一人を囮にして私を観察しにきたんだ…。 ……いい魅せ物でしょ?でも、アンタもタダの人間なのよ。 あたしを楽しませる事の出来ないニンゲン。 だから?あたしがアナタを楽しませてみろと? …ふざけんじゃないわよ! 急にあたしの中にあった怒りが爆発する。 それは反射的に行動にも現れ、ハンカチを差し出した女子生徒の手をパン!となぎ払う。 クラスには険悪なムードが立ち込める。 あたし…退屈……ははっ、あの教師と同じ……退屈。 『──転校って意外と悪くないんだぞ。ハルヒ。』 ……キョンの声だった。 古泉「続きを読むにはふんもっふ!ふんもっふ!」 キョンがクラスへ帰ってくると、先ほどの雰囲気が嘘のように、皆明るくなっていた。 谷口「よう、キョン!どこ行ってたんだよ!」 国木田「やっぱりキョンがいないとダメだねぇ。」 なに…この…偽善者共……! あたしの精神はもう限界だった。 なんで…キョン……コイツだけ…! あたしはキョンに嫉妬していた。 団長のあたしがダメでなんでコイツだけ…! しかしそんな事も、よくよく考えてみれば納得せざるをえなかった。 ───そっか、キョンは違うんだよね。あたしと。 この瞬間、どこかに壁ができたような気がする。 SOS団という薄い仕切り、そんなもの見掛け倒しにすぎなかった。 一方私に設けられたのはクラスという大きな壁。全員が団結して造った壁。 ──面白いじゃないのよ!逆にやりがいがでる! …こんな壁……あたし一人で… 気づけないわけが無い、あたし一人、強がってるんだ。 この空間で、一人だけで… 古泉「ハハッ、これが本当の閉鎖空間ですか?」 教師「えー本日を持ちまして、涼宮ハルヒさんは転校することになりました。」 …どいつもこいつもニヤケ面。 教師がいなかったら拳の1発や2発かましてるところよ。 ──そんな学校生活も、もう終わり。 唯一出来た思い出が楽しくなかったのが心残りかな? 教師の岡部がサラリと奇麗事を並べると、生徒の間からは拍手の音が聞こえた。 どうせ、万歳の拍手だろう。あたしを惜しむ者なんて一人もいない。 あたしの前の席にいるキョンが遠く見える。 …キョンは、どういう意味で拍手してるんだろう…? だけどもう、どっちでもいい、アンタともサヨナラよ。 ……少しだけ楽しかった。ありがとうね。 あたしはもう次の生活を思い描いていた。次こそ普通に生きれますように…。 そんな精神状態の中、ある音があたしの耳を刺激する。 ガラッ! キョン「どうしたんだハルヒ、お前らしくないぞ。」 ──えっ? ……キョン? 古泉「見て下さい、この体。機関のお偉い方さんからも好評なんですよ。」 ──嘘。キョンはあたしの席の前で拍手を送っている。 ただ、転校しようとしているあたしを、無関心な表情で…。 長門「…精神を攻撃する情報思念体。解ってしまえば、怖くない。」 突然現れた長門が教師である岡部に飛び掛る。 ──そんな光景に驚いている暇もなく、キョンがあたしの手を引っ張る。 キョン「いくぞ、こっちだ!」 その時のキョンの手は暖かかった。間違いない。本物だ。 あたしはふと顔に笑みを戻すと、そのまま倒れてしまった。 キョン「───おーい、ハルヒぃー。」 ん……ん? 気づけばあたしはキョンに抱きかかえられていた。 ──夢?だったの? キョン「お前相当悪い夢見てたんだな、ソファーから落ちるなんて普通はありえんぞ。」 普通の部室。普通の光景。普通の…キョン……。 ハルヒ「あ……あっ、そう! あたしたまにはだってこーいう事あるわよ!」 ──嬉しかった。夢でよかった。 そう思うと同時に、また眠気が誘ってくる。 ハルヒ「あたし、もっかい…寝る。 キョンも……。」 あたしは喉まで出かけた言葉を噛み殺した。 だけど、あの、手を引っ張ってくれた時のキョンは本当に頼もしかった。 ──そのうち、副団長も考えてやらなくはないわ。団長があたしでよかったわね、キョン。 古泉「さてさて…涼宮さんはまた眠ってしまいましたが…。」 長門「いい。……彼女に何らかの支障を出さない事、これが私達の役目。」 キョン「しっかしまぁ、やっぱり頼りになるよな、長門は。」 長門「………」 ───ハルヒ、お前は戦った。自分の精神に負けず、がんばった。 だから今は眠っていろ、SOS団の団長が倒れるなんて団員の俺達には、願ってもいない事だからな…。 ……お前が閉鎖空間にいる間、いろんな計画立ててたんだぞ。 お前が起きたら、どれから実行してやろう……っとと、それを決めるのは団長のお前だったな。はははは……。 Fin これを読んでくれた古泉萌えの皆さんありがとう 古泉「次週もマッガーレ!」 2話
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5776.html
キョン「おい、持ってきたぞ」 ハルヒ「遅いわよ!どうせタラタラ歩いてきたんでしょう!」 キョン「この重量を持ってダッシュできるとでも思ってか」 古泉「ふぅ、腰が痛いです」 ハルヒ「二人とも情けないわね。まぁいいわ!さっそく組み立てよ!」 キョン「頑張ってくれ」 ハルヒ「なにいってんの、あんたがやるのよ」 キョン「…お前こそなに言ってんだ。俺と古泉はもうクタクタなんだ」 古泉「さすがに今すぐというわけには…」 ハルヒ「これだけ部品があるんだから、今すぐにでもやらないと 完成するの夜になっちゃうじゃないの!」 みくる「すみません遅れま…ひゃ、なんですかコレ!」 ハルヒ「アンテナよ!」 キョン「正確にはその部品です」 みくる「こんなにたくさん…いったいどうしたんですか?」 ハルヒ「有希が見つけてきたのよ。 へんな宗教団体の建物の跡地から」 長門「……」ペラッ キョン「(長門のことだから何かしらの意味があってのことなんだろうが…)」 古泉「(いったい何なんでしょうか、コレ…)」 長門「(…何なんだろうコレ)」ペラッ ハルヒ「で、今からさっそく組み立てようってトコ」 キョン「頼むから少し休ませてくれよ」 ハルヒ「やっぱり屋上の上かしらね、 あ、でも屋根の方が教師たちに見つかりにくいかしら」 キョン「話を聞け、頼むから」 キョン「よいしょ、っと。 この部品で最後だ」 ハルヒ「もう陽が傾いてるじゃないの!」 キョン「仕方ないだろう、この量だ」 古泉「組み立ては明日にした方がよさそうですね」 みくる「今からじゃ夜までかかりそうですもんね」 ハルヒ「さ、さっそく組み立てましょ!」 キョン「…あのな、話をだな」 ハルヒ「何事も勢いが大事なの!思い立ったが吉日よ!」 キョン「お前はいいとしてもだがな、 朝比奈さんや長門を夜遅くまで残すのは良くないだろ」 ハルヒ「…む」 古泉「…すみませんバイトが入ったので失礼します」 キョン「(すまん、古泉)」 ハルヒ「わかったわよ!みくるちゃんと有希は帰っていいわ! ただしキョン、テメーは駄目だ!」 キョン「…わかりましたよーっと」 ハルヒ「それでいいのよ(あれ、いつのまにか2人きりってことになってね? これチャンスじゃね?え、しかも夜の学校+星の見える屋上とか ふいんきバッチコイじゃね?マジパネェくね?あれ?)」 長門「……私は平気。アンテナも気になる」 ハルヒ「黙れ小僧ッ!」 キョン長門みくる「!?」 ハルヒ「夜道は危ないから気を付けて帰りなさい!」 キョン「(…気のせいか?)」 ハルヒ「……まだできないの?」 キョン「急かすな、足場が悪いんだから」 ハルヒ「少しは急ごうとしなさいよ!もう真っ暗よ!」 キョン「だからこそ慎重にやってるんじゃないか」 ハルヒ「……もうっ!」プイッ キョン「おい、どこにいくんだ」 ハルヒ「屋上探険!」 キョン「はぁ…気を付けろよ」 ハルヒ「…キョン、頑張ってくれてるな…。 ぶつくさいいながら、なんだかんだて付き合ってくれてるわよね…。 今日だって、帰ったっていいのにこんな時間まで…」 ハルヒ「……っ!何、考えてるのよっ! やつがそんなっ…」 キョン「あー寒い」 ハルヒ「暗いなぁ… …この街の光一つ一つに人がいて、生活があって、人生があって… …楽しんだり、苦しんだり、泣いたり、笑ったり… こんなにたくさんの人たちが、それぞれ生きていて、死んで… 世界は続いたとしても、その人の命はそこで途切れて… こんな世界に、意味なんてあるのかな…? こんな気持ちに、人を…す…っ………に、なることに、 意味なんて……」 意味などない。 この世界は繰り返す。 ただそれだけだ。 もはや無意味であることも無意味だ。 空であって、空で、ない。 ハルヒ「…え?」 キョン「おーいハルヒ。もうすぐ完成だぞー」 ハルヒ「あっ……うん……… おっ、遅いのよ!」 キョン「うっし、この部品で最後だ」ガチッ バチィッ! キョン「うおっ!眩しっ!」ズルッ キョン「しまった…!」 ハルヒ「キョン! どうしようどうしよう、受け止めなきゃ…!」 ドン。 ハルヒ「あれっ?」 キョン「痛いじゃないか」 ハルヒ「えっ、あっごめん…」 キョン「早くどいてくれ、じゃないと間に合わない」 ハルヒ「そうね」 キョン「見ろハルヒ、看板が見えてきた」 ハルヒ「私、ドキドキしてきた!」 キョン「ほら、小人がプラカードを持って案内しているぞ」 (^q^)「我がwwwwwwサーカス団をwwwwww是非wwwwwww ご覧wwwwww下さいwwwwwwwwワニ女もwwwww お見せwwwwwwwwしましょうwwwwwwww」(^p^) ハルヒ「小人はみんな同じ顔をしているのね」 キョン「人生楽しそうだな」 ハルヒ「はやくいきましょう」 キョン「入場料はいくらだ」 ハルヒ「あんたのおごりね」 キョン「――――か。意外と安いな」 ハルヒ「え、いくらだって?」 キョン「だから、――――」 ハルヒ「うーん、まぁいいわ」 キョン「ほら、早く入るぞ」 ハルヒ「あ、待って」 キョン「どうした、早く」 ハルヒ「ちょっ…待っ……て」タッタッタッ キョン「先に行くぞ」 ハルヒ「待ってってば…… ん……暗幕が邪魔…で……追い付けない……」タッタッタッ ハルヒ「待ってってば」バサッ 「ようこそいらっしゃいました我がサーカス団へ! 今宵もどっきり不思議をどっさり持ってきたよ! こいつを見逃しちゃ、残りの人生後悔しかない!それこそ生きてる意味がない! どうぞ最後までご覧あそばせ!」 ワアァァァァッ!! ハルヒ「キョン……どこにいったのかしら」 「おい、もう始まるだろうが!うろうろ立ってないで早く座れ!見えねえじゃねえか!」 ハルヒ「すみません…」 ハルヒ「このサーカスは自由席しかないのね」 キョン「そう、早い者勝ちなんだ。遅れたやつに誰も席なんて譲ってくれないし、 譲ったって席をなくすだけで褒められなんかしないんだ」 ハルヒ「ふーん」 「さぁさぁみなさんお待ちかね! まずはワニ女の解体ショーだよ!」 キョン「あ、朝比奈さんだ」 ハルヒ「本当。舞台用の衣装、似合ってるわね」 「今からこの巨乳なワニ女を箱の中に入れて、このチェーンソーでバラバラにしてしまいます! 皆さん、これからはまばたき禁止ですよ!」 キョン「ほう」 ハルヒ「みくるちゃん大丈夫かしら」 「それでは、さぁ刮目!」 ギュイイィィィィッ、ギィィィィィィンッ バリバリバリバリバリバリビチビチビチゴリゴリゴリゴリバリバリバリバリギューーン ガーバリバリバリバリギリギリギリギリギリキューン 「はいっ!」 ワァァァァァッ ハルヒ「あれっ」 キョン「これで終わりか」 ハルヒ「手品かと思ったら、違うのね」 「お客様の前で失礼、私、マスクを着けさせていただきます。 というのも、次にお見せするショーは少々危険でして。 続いては世にも珍しい、人に寄生するキノコの苗床にされてしまった少女、キノコ人間をご紹介―――」 キョン「なんだこれ、見世物小屋か?」 ハルヒ「サーカスって感じじゃないわね」 ハルヒ「あ、あれ有希だ」 「さぁ、続いては奇跡の業をお見せいたしましょう!」 …………ざわ………ざわ…………ざわ…………ざわ………ざわ…ざわ……… キョン「なんだあのじいさん」 ハルヒ「中国のテレビ用の仙人みたい」 「何を隠そう、これは我々が捕まえた件なのです! 今日の今日まで猿ぐつわをつけ、予言をさせないようにしてきたのです! 今、たった今、その猿ぐつわを外します! さぁ、件の予言に耳を傾けて下さい!」 件「――――。」 キョン「………。」 ハルヒ「………。」 件「――焼け焦げる臭いをたどって歩くとそれはオーブンに並べられた胎児が溢れんばかりの脳味噌を滴らせて その上に吊るされた母親の母乳と血と髪の毛によって風味付けをされていて涙がないのは 渇れたからではなくすでに絶命しているからでへその緒は首に絡まった。子供の父親たちは 各々の首を切り落としそれを使って互いを慰めあっていたまだ勃起したままだったが塗り 込められた糞と尿はその辺にありふれていて、臭いよりも味が強烈で散歩していた犬は珍味 ありがたくいただく柔らかいところは大抵腐り落ちてまた腐りはじめ。 瓶詰めの単眼児がゴミクズ自我を持っていない証明に必死になれるのはうらやましくて きらきらした眼を象みたいな鼻が眉間に瞳は二つなのにね楽しい。本日お集まりいただいた ぐちゃぐちゃ諸々はたとえば煙草屋のばばあが肺癌で死んだ。真っ黒だからまるで まずそう重油みたいな血を発電に使えたらいいくらい吐いて悉く破裂しそうな膿を針で指す けど電柱にぶら下がったそれには届かないなぜなら美しすぎるから。武器は戦車じゃなくて 言葉ごめんなさいあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてる あいしてるあいしてるあいしてるごめんなさいごめんなさいごめんなさいでも戦車も 素敵押し潰されたいし押し花みたいなのを作りたい子どもを記念に。殴りかかった右手は 頭蓋骨と一緒に砕けて釘が刺さったから一緒に二、三人首が回って笑ってるお腹の なかみはないからむこうがわに咲いた人がよくみえたよ筋肉が遺憾なく美しいよ皮膚は いっかしょにまとめられて処分が楽だし間違ったところがよくわかる、脳みそがない人が たくさんいるけどみんなわかるよ幸せなら手を叩こうと顎がないのに言うんだ。子供の子供は かわいそうだね親の親が不甲斐ないばかりに頑なに堅くなった脳は言葉さえ産み出さない 誰も救えない戯れ言を垂れ流す口は穿たれたら代わりに血ががががががががががががががががが」 キョン「詩人だなぁ」 ハルヒ「あ、血を吐き出したわ」 件「がががががががががががががががががががががががががががががががががかががが かがががががががが学がないからでなく才能がないからだわかれそのくらいわかるだろうと ソドムの街のひゃくにじゅうにちも知らないのか悪徳しかないそれはそれは美しかった いってもきかないから愛してやまないのにね仕方ないとニガヨモギをおとそうそうしよう そのせいでほとんどのみずは苦くなるが知らん、どうせイナゴだらけで何も残らないんだ ラッパの号令を待つのちつかれたと パーーン キョン「あ、頭が」 ハルヒ「破裂したわね」 キョン「でも口から血はずっと出てるぞ」 ハルヒ「すごいすごい、噴水みたい」 …………ざわ………ざわ…ざわ…………ざわ…………ざわ……ざわ………… 「えー、失礼いたしました、少々お待ちください」 キョン「大変そうだな」 ハルヒ「血がまだ止まらないみたいね」 キョン「団員が押しても引いても動かないし、どうなってるんだ?」 ハルヒ「ちょっと、血の量多すぎない?床一面に……」 件「ひ、ひとつがいだけゆるしてや、る、あとはだめだ、と、のたまう」 ぐっ キョン「あ」 ハルヒ「あ」 どばっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ ハルヒ「すごい、津波みたい」 キョン「あ、こっちにも来た」 ハルヒ「ていうか、流され…」 ざざーん ハルヒ「わ、キョン!助けて」 ざざざざざーん キョン「無理だ、俺も流されてるんだぞ」 ざざざざざーんざばぁぁぁん ハルヒ「がぼぼぼぼぼぼぼぼ」ぶくぶくぶく ざざーん ハルヒ「うーん」 ハルヒ「……ここは、川原?」 ハルヒ「キョンは……?どこ?」 ハルヒ「………………しょうがないわ、一人でもいかなきゃ」 ハルヒ「じっとしててもはじまらないものね」 ハルヒ「…………」てくてくてくて ハルヒ「川原の道沿いに、ずっと赤い花が咲いてる」てくてくてくて ハルヒ「………気持ち悪い」てくてくてくて てくてくてくて てくてくてくて てくてくてくて てくてくてくて てくてくてくて てくてくてくて ハルヒ「…どこまで歩けばいいのかしら」てくてくてくて ハルヒ「あ、あれは」 古泉「痛い!痛い!」 すばらしい日本の戦争「………」バシィッ!バシィッ! 古泉「やめてください!もう、血が!痛い!痛い!」 すばらしい日本の戦争「…………グスン」バシィッ!バシィッ! 古泉「痛い!痛い!…ぐえっ」 すばらしい日本の戦争「…………グス、ううっ…」バシィッ!バシィッ!ドカッ!ゴキン! ハルヒ「豚がいじめられてるわ」 ハルヒ「ちょっとあなた、なんで豚をいじめているの?」 すばらしい日本の戦争「……グスン、いじめてるんじゃ…………ないんだ………」バシィッ!ボグゥッ! ハルヒ「でもこんなにボロボロになるまで殴って、 いじめじゃなかったらなんなのよ」 すばらしい日本の戦争「…………罰を………与えてるんだ………」ガッ!ガッ! 古泉「ヒィン!痛い!」 ハルヒ「罰を?いったい何の罰?」 すばらしい日本の戦争「…………生きること………生きることは、罪だから……グスン…」バシィッ!バシィッ! すばらしい日本の戦争「………しかも……… ………豚に生まれるなんて………」バシィッ!バシィッ!バシィッ!バシィッ! 古泉「痛い……、ッ……」 ハルヒ「へーそうなんだー。確かに豚は薄汚いしね」 すばらしい日本の戦争「………ううっ………グスン……」ボグゥッ!ドガッ!ガギッ! 古泉「………痛い、よぉ……」 ハルヒ「ねぇ、私もてつだっていい?」 古泉「……!涼宮さん………」 すばらしい日本の戦争「………駄目だよ……、汚れちゃうから………グスン」バシィッ!ボグゥッ! ハルヒ「ヘーキよ、ヘーキ!汚れなんて気にしないわ」 すばらしい日本の戦争「……で、でも……これは、僕の仕事だから………」ガギッ!ゲシッ! すばらしい日本の戦争「………とられたら……困る………グスッ」バキン!ボグゥッ! ハルヒ「しーらない」フアッ! すばらしい日本の戦争「やめてくれわかってくれないと困る」ギロリ ハルヒ「ッ!」 ハルヒ「……っ、そうだ!キョンを探さなきゃ!じゃあね!」 すばらしい日本の戦争「………ごめんよ、わかってもらわないと困るんだ…… ………グスン」バシィッ!ボグゥ! 古泉「痛い…うぅぅぅ……」 ハルヒ「気持ち悪いなぁ………豚!」 ハルヒ「………………」てくてくてくて ハルヒ「…やっぱり、あの豚もらえばよかった」てくてくてくて キョン「あれに乗っていけば楽だったろうし、 いざとなったら食材にもなるしな」てくてくてくて ハルヒ「ね。なんで私がいじめるのは駄目で あいつがいじめるのは仕事だから、って許されるのよ!」 キョン「まぁ、そんなに怒るなって」 ハルヒ「そういえば、この道どこまで続くのかしら。 ずいぶん進んだのに、景色が全然変わらないわ」 キョン「仕方ないさ。 俺たちなんて、車の中でカラカラ回るネズミみたいなもんさ」 ハルヒ「…横にそれたらどうなるのかしら」 キョン「ん?」 ハルヒ「ほら、河原のあっち側はどうなってるのかしら? あっちには赤い花は咲いてないし、気持ちも晴れると思うの!」 キョン「おいハルヒ」 ハルヒ「ねぇキョン、いきましょう!」 キョン「ハルヒ」 キョン「お前がなんと言おうと、俺はこっちの道を逝く」 ハルヒ「え?」 キョン「お前も見ただろう? 生きることとは、苦しみだ。 生きることとは、罪を重ねることだ。 生きることとは、無に帰ることだ。 無から生まれた俺たちは、いつか無に帰る。 現世には、なにも残らない。 泡沫のごとく生まれ、川の流れに従うように生き、泡沫のように消える。 ただそれだけのことだ。 それが、何度も、何度も、気が狂うようなほど、何度も繰り返される、それが生きることだ」 ハルヒ「キョン?」 キョン「俺は、この果てしない流れから、巡りめぐる輪の中から飛び出す。 そう決めたんだ。じゃあなハルヒ」 ハルヒ「いやだ、私はキョンと一緒にいきたい! 生きたいよ!」 キョン「…手を離してくれ」 ハルヒ「嫌よ!絶対に連れていく!来なさい!」ぐいっ! キョン「……わかってくれ、ハルヒ」 ハルヒ「さぁ、さっさとこの川を渡りましょう! きっと向こう側でみんな待ってるわ!」ザバザバザバッ キョン「わかってくれ、頼む」ザバザバザバ ハルヒ「団長命令よ!生きましょう!」ザバザバザバ キョン「あぁ、ハルヒ」 すばらしい日本の戦争「わかってくれないとこまるんだ」 ハルヒ「!」びくっ ハルヒ「あっ…」ずるっ バシャン キョン「じゃあな、ハルヒ」 ハルヒ「やだ……がぼっ……溺れっ………」ぶくぶくぶく ハルヒ「キョン!」 みくる「あっ!」 長門「……意識が」 古泉「い、今先生を呼んできます!」 ハルヒ「……ここは、……私は、……キョンは?」 みくる「えっと……その……」 長門「ここは病院。あなたは学校の屋根から落ちてここに運ばれた。それが昨晩」 ハルヒ「あ……あぁ………、キョンは……?……私がちゃんと、受け止めて……」 みくる「…………」 長門「…………彼は」 みくる「涼宮さんの、下敷になって……」 ハルヒ「…………」 ハルヒ「………から」 みくる「え?」 ハルヒ「釈迦はイイ人だったから、キョンを生きる苦しみから救ってくれたのよ!」 長門「……!」 ハルヒ「そりゃそうよね!生きるのって苦しみでしかないもの! 生きていたって、しかたがないもの!」 みくる「す、涼宮さん!」 古泉「…先生、早く!」 医者「いったいどうしたんだ!意識が戻ったと聞いたが」 みくる「わからないんです、いきなり……」 ハルヒ「キョン、やっとわかったわ! 生きることは苦しみね、本当に! だってせっかく生きているのに、あんたがいないんだもの! 私が生き残る代わりにあんたが死んだなんて、苦しみでしかないわ!」 長門「……落ち着いて」 医者「おい、患者が暴れだした!何人か連れてこい! あとCTの準備を、速くしてくれ!」 ハルヒ「あぁ、キョン、私死ねない! 私あんたのせいで、私死ねなくなったじゃない! あんたの罪を背負って生きなきゃならないじゃない! 苦しんで、後悔しながら生き続けなけりゃいけないじゃないのよぉ!」 古泉「涼宮さんっ!いったいどうしたんです!」 長門「………うっ」 みくる「ど、どうしたんですかぁ?」 長門「………今、涼宮ハルヒは異常な電波情報を受信している」 古泉「どこからです!?」 みくる「異常って……どんな………?」 長門「……………死」 長門「…………死体、……………おびただしい量の、…………死体のイメージ…………」 古泉「……え?」 みくる「どういう…?」 長門「………………電波は、学校、屋上から出ている………」カクン 古泉「なっ、長門さん!」 長門「……首から下を横取りされた胎児は自分達の体が鍋でとろけてゆく様を棚の上に 一列に並んでみているけれど寂しくないのはそこには兄弟もたくさんいたからだって人 類は皆兄弟そりゃ背骨だけでも逆に背骨がなくったってみんな仲間さ死んじまえばみん な同じ鍋の中でじっくりじっくりじっくりじわじわ窓の外から恨めしそうに髪の毛たち が見ているだって体は土だらけで洗ってもらってないし虫食いだらけだから鍋には入れ ないんだかわいそうにかわいそうに石灰のせいで体がボロ雑巾のようだね」ガタガタガタガタ みくる「ひぃ!」 医者「おい、その子は大丈夫か!?」 古泉「くっ……あのアンテナか…」 古泉「……もしもし新川さん、緊急です! 北高校の屋上にあるアンテナを通信不能に、………破壊してください! ……えぇ、全部で構いません!一刻も早くお願いします!」 みくる「だ、大丈夫なんですかぁ?」 古泉「……他に手はないでしょう」 長門「……この期に及んでもニヤニヤと僕を笑うので眼窩をステアするとエスカルゴみた いに出てくる出てくるさっき押し込んだ眼球とそのとき砕けた骨と大脳新皮質人差し指で くるくるかきまぜてみるよきっと植物がよく育つ」 森『古泉!今北高校に到着した!すぐに対象の破壊に移るわ!』 古泉「ありがとうございます!」 森『……発破で構わないわよね』 古泉「お任せします」 みくる「ば、爆弾ですか?」 森『設置作業終わり、起爆する!』 森『3!』 森『2!』 森『1!』 森『発破!』 『ボコン』 ハルヒ「きゃうんっ!」びくんっ 古泉「え?」 長門「かはっ…」びくんっ みくる「ひゃっ!」 医者「心拍数低下!やばいぞ!おい!」 看護師「なんでこんなにいきなり……!」 古泉「………なんてことに……」 森『…古泉!どうしたの!答えなさい!古泉!』 すばらしい日本の戦争「………ぐすん…………ぐすん……」バキッ!バシィッ! ハルヒ「痛いぃぃぃッ……」 すばらしい日本の戦争「……うぅっ……ぐすん」ボグォ!バキッ! ハルヒ「……もぉ……やめて………」 すばらしい日本の戦争「………言ったじゃないか…… い、生きることは………罪だって……」バシィッ!バシィッ! ハルヒ「……私…もぅ………死んだじゃないの………」 すばらしい日本の戦争「生きることは死ぬこと死ぬことは生きることどちらもかわらない どちらも罪なんだわかれわかってもらえないと困る」バキッ!バキッ!ゴキッ!グシャ! グシャ!グチャ!グチャ!グチャ! ハルヒ「痛い痛いいたぁぁいぃぃぃっ!本当に痛いのぉぉぉぉ!」 すばらしい日本の戦争「……ううっ…………うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」バキッ!ガンッ!ガンッガンガンガンガンガンガンガンガン! ハルヒ「…………にぇぼぉっ……ぅ……ぁあ…ぁあ」 すばらしい日本の戦争「あぁぁぁ! 何故、何故こんなにも悲しくならなければならないのだろうかぁ!! 誰も彼も、ほんの一秒でも長く生きようと思えばそれだけ罪も増える! それを嘆いて身を投げてもまたそれは罪!断罪されて然るべき!」ガンガンガンガンガン ガンボグッガンガンガンガンッ! すばらしい日本の戦争「ああぁぁぁぁ悲しいのは何故かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………あ?」スカッ スカッ すばらしい日本の戦争「…………………?」 すばらしい日本の戦争「………グスッ……またあいつ………こ、子どもに………甘い……」 ハルヒ「………痛く、ない?助かった?」 ハルヒ「背負われてる……キョン……?じゃないわね、あなた、誰? 助けてくれて、ありがとう」 地蔵「なあたは、本来ここに来るべきではなかった」 ハルヒ「えっ?」 地蔵「あなたには道が二つある」 ハルヒ「…………」 地蔵「このまま、数多なる魂の流の中に戻り、浄化を待つか」 地蔵「現世にて、彼の人を弔い、悼み、生きるか」 ハルヒ「……………どういうこと?」 地蔵「あなたにはチャンスが与えられた。 時々人はそれを試練だとか言うがね」 ハルヒ「………私に……どうして?」 地蔵「あなたは、特別なのだよ。きっと、たくさんの人に愛されている」 ハルヒ「……………わからない」 地蔵「選びなさい」 ハルヒ「…わからないわ! 生きるのも辛い、死ぬのも苦しい、 いったい、どうすればいいのよ!………ううっ……」 地蔵「選びなさい」 ハルヒ「……………うぅ……ひぐっ……」 地蔵「皆を救いたい」 ハルヒ「……?」 地蔵「それが、お釈迦様の願い でも、浮き世でそれは叶わない。 生きることは、罪であり、苦しみに満ちているから」 ハルヒ「…………グスッ」 地蔵「…でも、あなたは知っているはず。 生きることは、決して苦しみだけではない、と。 いつか消えてしまう儚いものだからこそ、愛しく感じることを」 ハルヒ「………!」 地蔵「人間は醜く、不格好。器用で不器用な存在。 でも、それが全てではない。時々、まばゆいほどに美しい」 地蔵「それは、いつか死んでしまう存在だから。 生きているから」 ハルヒ「あぁ……あぁ…!」 地蔵「さぁ、選びなさい。 ゴールは同じだとしても、ひとつとして同じ道程などないのだよ」 ハルヒ「…………私は……私は……!」 ハルヒ「……生きていたい」 ハルヒ「何度でも、生まれ変わりたい!」 ハルヒ「生きることが辛くても……きっと……愛する人のことを思えば……!」 ハルヒ「地蔵「そうかい、では頑張って生きるがいいだろう」」 ハルヒ「ハルヒ「えぇ、ありがとう!本当に、ありがとう」」 古泉「……あれからずっとこの調子ですか」 みくる「……いったい、どうして…………ぐすっ」 古泉「……彼を…」 古泉「……鍵をなくしてしまったら、もう、どうにもならないんでしょうか」 みくる「……………(この期に及んでうまいことを言おうと)………」 ハルヒ「ハルヒ「あ、キョン!…ようやく巡り会えたわね……、 私、もう一度あなんに会ったら言おうと思ってたことがあったの………」」 すばらしい日本の戦争「………………おわり………グスッ、 ………おわりは………繰り返すこと………」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4870.html
時は進んで翌日、土曜日の午前。 俺は今、いつもの不思議探索の際の集合場所である北口駅前で、ハルヒが訪れるのを待っている。 とまあ昨日の今日なので、もしやハルヒを待つ俺の心境は伝説の木の下で待ち合わせている女子のそれと同じなのではないかと思う者もいるかも知れない。 なので説明しておくが、俺は別に告白をするためにここにいるんじゃない。 俺がここでハルヒを待っているのはもちろんこれから不思議探索を行うからであり、そして自分に課せられた責務を果たすためだ。そう。俺は遂にポエムを完成させることが出来たので、それをハルヒに渡さなければならないというわけだ。これの完成までの経緯は、今から昨日のその後を話す予定なので、そこで説明しようと思う。 だから現時点で普段と違うことといえば、俺が待ち合わせに一番乗りしているくらいだろう。 と……ハルヒを含めSOS団のメンバーはまだやってきそうにないので、ここで昨日のあれからを振り返ってみることにしよう。 あの後、俺と古泉と長門は学校へと戻り、小さい方の朝比奈さんは『機関』と未来側との諸々の調整のために元々学校を休んでいたので、そのまま自らの仕事を全うするため公園にて別れることとなった。 そして俺達学校組は、放課後の文芸部室で大人の朝比奈さんと朝比奈みゆきを交えて異世界問題の解決策を講じていたのだが、ここを俺の言葉のみで語るのは少々難儀しそうなので、少しばかり回想して時を遡ってみることにする。 あれは授業が終わってすぐ、掃除当番のハルヒを除いた俺達が文芸部室へと集まったとき、そこには大人の朝比奈さんとみゆきが待っていて………… 「本題に入る前にお聞きしたいのですが」 古泉は朝比奈さん(大)に真面目含有率八十パーセントの微笑を向けると、 「……正直、今日のあなたと『機関』の動きには驚かされてばかりでしたよ。僕の関知せぬところでのTPDDの製造、そしてあなた方未来人との協力体制。組織内でこれほどの重大かつ主要な出来事が僕の与り知らぬ場所で展開されていたなど、機関で僕が占める立場からすればとても信じられません。これはどういうことなのですか?」 返事をちょうだいするように手の平を差し出す古泉。その手を一瞥もせずに大人の朝比奈さんは、 「それを語るのには時間が足りないけれど、そう遠くないうちに彼……藤原くんが、古泉くんの疑問を解消してくれるはずです。だからごめんなさい、それまで待っててね」 その返答に古泉はスッと手を引っ込めると、 「ええ、そうすることにしましょう。これは機関の人間に問いただせばある程度は判明し得えることだ。ですが、あなたの口から是非聞いておきたいこともあります。それは未来側から現代の僕達に、あの次元理論をもたらしたことについてね」 「……古泉、そういった理論に対する質問は後でいいんじゃないか」 特に俺がいない場所で行うことをオススメするぜ。っと古泉はほのかな笑いを作り、「そういうことではありません」と言った後で少し難渋な顔を浮かべると、 「……未来の次元理論では、次元とは性質の足し算によって形成されるものであるとされ、それらは『流れ』という概念によって説明されていましたね。これは確かに、次元の要素が『広がり』という概念によって捉えられ、『縦×横×高さ』……つまりXとYとZの掛け算によって立方体という三次元が形作られるという現在の理論と違っているように思われます。ですが、僕には未来の次元理論に対し疑い問う程の能力は備わっていません。僕が疑問を抱いているのは、未来から現代にその理論がもたらされた、というそのままの事柄についてです」 「その論法で行くと、未来から指示を受けることだってまずいんじゃないか?」 「いいえ、それとも違います。未来側から指示を受ける場合、こちらからは未来を予察できない様に考えられていますから。ですが……次元理論は違う。公理を分出することが出来、その真偽を明らかにしてしまう次元理論とは……いわば人類にとって善悪を知る樹そのものであり、それから知識をもぎ取ることは、まさに禁断の知恵の果実に手をかける行為に等しいと言えるでしょう。……我々にとって未来の次元理論は、知るに時期尚早なのではないでしょうか」 そう言い切るとピッと前髪を弾き、 「そして世界人仮説。次元に関する理論を、人間に関わるものへと置換して考察されているこの理論は実に興味深い。世界人仮説は、矛盾の存在するこの世界を上手く表していますから」 どういうことかと聞けば、 「まず人間の進化において、その身体の進化は原始生命から延々と受け継がれてきたアナログな流れだといえます。ですが、人間の精神……人の心においてはそうではありません。個人の人格、例えるなら僕の思想は、この世界上で新たに組み上げられた全く新しいものです。なので身体の進化とは違い、その過程で発生する人の心の繋がりは、0から1という現象が続くデジタルな流れだと考えることが出来ます」 「それがどうしたんだ?」 「このように人間の『心』には、偽とされる連続体仮説が当てはまるということですよ。そして世界人仮説が矛盾を認めた理論だというのは、まさに世界人仮説が提唱する新概念を表す言葉なのです」 と、古泉は右手の指を一本ずつ開きながら、 「例えば四則計算において、足し算のみならば何も問題は発生しません。1に2を足しても3ですし、2に1を足しても同じく3という答えです。ですが……引き算となるとそうともいかない。何故ならば、1から1、もしくは1から2を引いてしまった場合には自然数では答えを表現し得ませんからね。なので人は、そこで生まれた0やマイナスなどの新しい概念を記号で表すようにしたのです。掛け算と割り算にも同様の流れがあり、このように人間は、算数や数学が展開されていくにつれ様々な概念を発見してきました。そして次元理論とSTC理論によって生まれた世界人仮説は、矛盾を認めるという概念を論じていますね。……いえ、これは『互いを認め合う概念』と言い表したほうが適切でしょう。ですがそれは哲学的見地から表されている世界人仮説の姿で、数学的には……今まで人類にとって不変の法則であった、『イコール』の概念に切り込んだ理論だと言えるのではないかと僕は考えます。これは絶対的な神の摂理である『イコール』で結ぶことの出来ないもの同士が『矛盾』として否定されずに、『認め合う』という人間的な概念によって結びついているという物理法則に対する新たな考察になる。そうであるからこそ、世界には矛盾というものが存在出来るのかもしれませんね」 ……互いを認め合う、ね。なんだか長門と同じようなことを言ってるような気がするな。 「ええ。だって世界人仮説は……長門さんが構築した理論だから」 「は?」 大人の朝比奈さんから飛び出した言葉に疑問符を飛ばしていると、 「……次元理論の姿は『箱』で、STC理論の姿は『紙』だとするなら、世界人仮説の姿は何だと思います?」 「……只の勘なんですが、そりゃあ『人』なんじゃないですか?」 「あたりです」 と朝比奈さん(大)は微笑み、俺達に視線を配ると、 「世界人仮説は、全ての理論を統合した理論なの。世界の全てのモノが混ぜ合わされば、純粋な溶媒と溶質という二つのモノが生まれます。それらを一つの存在として考え、溶媒を『体』、溶質を『心』と置換して生み出される『人』の姿こそが……世界人仮説を総括する姿。それでね、世界人仮説の中での有形の次元理論は、無矛盾な物理法則からなる『人の体』。そして……無形のSTC理論は、時には矛盾を起こしてしまう『人の心』なの。次元理論とSTC理論は本来、お互いを矛盾として否定しあってしまうもの。だけど、それらがお互いを認め合うことによって、初めてわたし達の世界は作られていくんです。そして、そうやって異なる存在が繋がりあうことで『進化』という現象が形作られていく……と、世界人仮説では論じられています」 話を聞いて、沈黙する古泉。俺はそんな古泉を視界にいれながら、 「……よくわからないんですが、その理論を長門が構築したってのはどういうことなんですか?」 それは、と、大人の朝比奈さんが話し出そうとしたときだった。 「……この世界の歴史を成立させるためには、朝比奈みくるの時代まで情報創造能力を維持していかなければならないから」 「………?」 長門が横から言葉を出してきた。長門は続けて、 「また、歴史を知る者による世界の調整も不可欠。だから……誰かが情報創造能力の寄り代となり、この世界を見続けていくことが必要となる。それを実行する際、最も適切と思われるのは……わたし。そして、これから人と共に歩むわたしがその理論を構築していくのだろう」 「――なるほど。世界人仮説……解析するまでもなく、それは長門さんが構築した理論だったというわけですか。そして長門さんは、これから世界の維持と調整を担っていくことになる。となると、僕の機関の成すべきことは……。そして、未来人が僕達にあんな理論をもたらしたのは……つまり……」 何やら呟いている古泉はそれっきり思考の海にダイブしてしまったようで、あいつからこれ以上の質問は出ないようだった。 それはともかく……俺には、一つ気になったことがある。 先程の会話から察するに、長門は朝比奈さんの未来まで長い時間を過ごしていくってことだよな。それは長門が自分らしく――思念体に属したまま――ありのままを生きる道を選んだということによるのだろうが、それでも相当辛いことなんじゃなかろうか。感情を持つ……長門にとって。 そして俺は、中学生のハルヒの言葉を思い出す。 何でも叶っちまう能力ってのは、実はそれを持つ者の自由を奪ってしまうものなんだ。そして長門は、それに程近い能力を自覚的に持ってしまっている。だから…………、 「――長門、」 俺は大人の朝比奈さんから貰った金属棒を長門に差し出すと、 「これ、良くは知らないんだが……花言葉をこの金属棒に書き込むと、お前の能力を制御する髪飾りになるらしい。だからSOS団で不思議探検なんかをするときくらいは……その髪飾りをつけてさ、肩の荷を降ろして遊んだっていいんじゃないか?」 まさに気休め程度にしかならないが、俺が持っているよりは意味があることだろう。……これでいいんですよね? 朝比奈さん(大)。 長門はマジマジと金属棒を見つめ、交互に朝比奈みゆきを見やると、 「……取り扱いは、わたしに任せてもらっていい?」 いいとも。ぶん投げられたら流石にショックだが、それはもうもう長門のモノだからな。 そして俺は朝比奈さん(大)に視線を移し、 「ところで、異世界の問題はどうするんですか? 長門が何か知ってるって聞きましたが、長門、お前何か知ってるか?」 長門は目をパチクリさせると、 「……異世界の状態を打開するヒントは、喜緑江美里と涼宮ハルヒ、そしてわたしの小説の一ページ目によって既に示されている。それらを複合的に読み取って私達が成すべきことは、記憶を取り戻す『鍵』を異世界へと持ち込み、あちら側のわたし達に自ら問題の解決を促すこと」 言いながら長門は俺に前回の機関紙を渡し、俺がそれに目をやると、切り取られていた長門の小説がすっかり元通りになっているのが確認された。長門の小説を読んでいる俺に長門は、 「その小説の二ページと三ページは、わたしが世界を改変した後で生じたエラーデータを不完全ながら解析し、その結果を書き綴ったもの。そのデータの正体は、今回の出来事によって……もう一人のわたしの記憶だったことがわかった。そして一ページ目は、あの世界でのわたしが書いた小説の一部をサルベージしている。尚、これもあの世界のわたしがもう一人のわたしの影響を受けて作成されたものと思われる」 俺の頭の中で七人の長門が騒ぎ立て始めていると、 「つまり二ページ目と三ページ目は彼の小説を見ていた長門さんの記憶であり、一ページ目は、その長門さんから今の僕達に向けられたメッセージだったというわけですか。つまり異世界の問題を解決するためには、完成型TPDDによって閉鎖された異世界へと渡れるようになった朝比奈みゆきさんに『鍵』を送り届けてもらい、まずはあちらの長門さんの記憶を取り戻すことが必要ということですね」 ……よう分からんが、古泉の解説によってやるべきことは判明したみたいだな。 「ええ、流石にあなたも気付いたのではないですか? これから、あなたがやるべきことにね」 スマイル古泉に対し俺は全てを納得した顔を向け、確認するまでもないだろうが、俺の出した答えを伝えることにした。 「ああ。どうやら俺は『いばら姫』の話になぞって、閉ざされちまった異世界を開放するためにあっちに行かなきゃならんらしいな。だから俺が鍵なんだろ?」 ………………。 静寂が広がった。 「ん? どうしたんだみんな? 驚いた顔なんかして」 古泉も朝比奈さん(大)も、長門でさえも目を丸くして信じられないといった表情を浮かべている。 俺はなにか間違ったこと言ってしまったのかなと不安になっていると、 「そうではない」 間違っていたようだ。否定句を飛ばした長門の横から古泉が、 「……一つお尋ねします。あなたが涼宮さんと共に過ごしてきた時間には、実は普遍的なピュアラブコメディの側面があったことにお気づきですか?」 「何言ってる。それはお前が、俺達に内緒で密かにそんなのを繰り広げてたっていう話か? 世界存続のかかった野球大会だったり無限ループの夏休みが、一体どんな見方をしたらラブコメになるってんだ」 「説明しましょう」 古泉はどこか若干嬉しそうに、 「時系列的に順序立ててお話すれば、涼宮さんは、野球大会ではあなたの活躍を見たいと思い、あなたを四番にしましたね。そしてエンドレスエイトの無限ループはあなたの家で遊んだ後に開放されていて、それはつまり、涼宮さんはあなたの家で遊びたかったということを示しています。……そして前回の機関誌では過去のあなたの恋愛話を知りたいと願っており、つまりこれまでの涼宮さんの行動には……恋する少女特有の、複雑な心境が反映されていたのですよ。しかも涼宮さんの望みは、時を経るにつれて順調にあなたへと近づいてきている。そうやって考えてみたうえで、今回の異世界の創出では何を望んだのだと思いますか?」 …………沈黙する俺に、古泉はハッキリとした声調で、 「ズバリ、自分に対するあなたの『気持ち』を知りたかったのです。そして異世界は、これを涼宮さんが知ろうとした結果、情報創造能力のパラドックスに陥ってしまったがために生まれてしまったのだと考えられます」 「……それは佐々木も言っていたような気がするが、そのパラドックスというのはなんなんだ?」 「簡単なことですよ。告白する際、それを行う側としては、嘘偽りのないちゃんとした相手の本音を聞きたいものであると同時に、自分を拒否されたくはないとも願っている。いえ、むしろ受け入れてもらいたいという方向への考えが強いでしょうね。そこで自分が、己の願望が叶ってしまう能力を持っていたとしたらどうです? その者は、好きな人の本音を聞きたいがノーという返事は聞きたくないという願いによって、結果的に相手の本当の気持ちを知り得なくなってしまいます。好きな人と心から結ばれるためには、惚れ薬を飲ませて返事を貰うようなことでは自分が納得出来ませんからね」 「……つまり、ハルヒは俺の、あいつに対する気持ちを知りたいってことなのか?」 「恐らくはね。そしてそれこそが、今回の涼宮さんの願いだったというわけです」 今になってようやく僕も気付きましたよ、と自らを揶揄するように言って古泉は言葉を終えた。 そして……俺は考える。 「じゃあ、俺のやるべきことは……」 「あなたの気持ちを、涼宮ハルヒに伝えること。そしてその方法は、喜緑江美里が生徒会側からこちらに行動を促したことによって、涼宮ハルヒ自身が既に提示している。これを達成すればこちらの問題も解消され、異世界の問題を解消する『鍵』にもなり得る」 「…………」 ――どうやら俺は、幸せの青い鳥の居場所に気付いていなかったみたいだな。 答えはいつも、俺の胸の中にあったんだ。 「……これで全部繋がった気がするよ。ハルヒが俺達に自分の詩を書かせようとしていたこと、そして、これまでの一連の流れがな」 そうさ。俺は自分に課せられたポエムを完成させなけりゃならないんだ。 それは、他の奴らにやらされることじゃない。 俺が自主的に、そう望んでやることだ。 ハルヒはずっと待っていて、待たせていたのは俺であり、今だってあいつは俺を待っているんだ。 だから俺は、俺にとってハルヒってやつはどんな存在なのかってのをそろそろ伝えなきゃならない。だってさ………、 これ以上ハルヒを待たせちまったら、どんな罰ゲームが俺を待っているかわからないだろ? 「……そうか。じゃあ長門、今日は二人そろって遅くまで居残り決定だな」 やっと見えてきた目標に向かって頑張ろうと長門に求めると、 「わたしはしない」 と言われた。目が点になった。 「わたしの分はもう完成しているから。でも、あなたが付き合ってくれというのなら拒否はしない」 その台詞は別の機会に言って欲しいね。お前からそう言われて喜ばないやつなんかいやしないぜ。 「あ、先輩ひどいっ。早速浮気してちゃダメですよっ? 涼宮先輩に言っちゃいますからねっ」 ひどく恐ろしいことを朝比奈みゆきが言っている。すると古泉が、 「ふふ、まだ厳密には浮気だと決まったわけではありません。それに、例え彼の意思がなんであろうと涼宮さんは納得してくれるでしょう。彼女は強いようにみえて脆くもありますが、全てを認め受け入れることの出来る聡明さを備えている人ですから」 とか言いながら、あなたの答えは既に分かっていますよといった顔で俺を見てくる古泉。 「……長門。良かったら、お前の完成した詩を見せてくれないか?」 俺は古泉に対してなんの反応も出来なかったため、古泉の視線を無視することにして長門へと話しかけた。 そして俺は長門から渡された一枚の用紙に目を向ける。 ついぞ完成した長門の詩の内容は、これまたなんとも独創的で俺の理解が及ぶものではなかったのだが、それは以前の長門の小説を締めくくっているように感じられた。 ……あと、一つ言い忘れていたことがある。 これは俺が先程元通りになった機関誌を読んでいたときに気付いたのだが、長門の小説のページからは無題という文字が消え、三枚それぞれに、極短い単語ながらもちゃんと題が記されていた。ページ順にどう書いてあったのかを言えば、それは――――。 『雪、無音、窓辺にて。』 そして今回の長門の詩の題名は……。 何となく、長門が自分の意思で己の歩む道を決めたことの大きさと決心を物語っているような気がした――。 「…………」 と、回想はここまでで十分だろう。 そんなこんなで昨日、俺は自宅に帰ってからも夜遅くまでポエム制作に身を乗り出し、やっとの思いでポエムの完成にこぎつけたってわけさ。 ちなみに、俺は完成したポエムを読み返していない。 それはポエムが書きあがったのと同時に封筒に入れて机の中に仕舞い込んだためであり、なぜそんなことをしたのかといえば、これは深夜のラブレター作成理論に由来する。 恋という題目で俺が書いたポエムは、その、なんだ。はっきり言ってしまえば……今までの生活で、俺がハルヒのことをどう思っていたのかってな内容になってるんだ。 そんな恥ずかしいものを朝の俺が見てしまえばそれは世界の終わりを見るようなもので、顔を真っ赤にした俺が「さよなら世界!」と言いながら紙を破棄し、世界との運命を共にする方を選んでしまう恐れがあったからな。 ……あと、これは言わなくても良いことかもしれないが、俺のポエムは妹が持っていたパステルカラーの便箋に書かれており、封筒もそれにあわせた若干可愛らしいものとなっている。 どうしてそれを選んだのかといえば……まあ、なんとなくとしか言いようがないのだが。 「……あら、キョン。早いじゃない。珍しいこともあるもんだわ」 ――ハルヒがやってきた。 「……ああ、前に一回あったくらいだっけ。俺が一番乗りだったのは」 「たしか、あんたが妙なことを言いだしたときよね。有希やみくるちゃんが……」 「俺が何か言ったのか? まるっきり思い出せないんだが」 鮮明に、かつ明確に覚えている。 あのとき俺はハルヒにみんなの正体を語っていたんだ。 今思うとなんて迂闊だったんだろうと恐ろしい思いでいっぱいになるね。 「まあいいわ」 とハルヒは周囲を見回し、 「他のメンバーは? いつもこの時間には全員揃ってるはずだけど。なにか知ってる?」 「いや、俺も知らん。一体どうしたんだろうな」 と、これは本当だ。俺はいつもより早めに着いた方ではあるが、あいつらの姿は欠片も見かけなかった。何処かで待ち伏せしてるわけでもなさそうだ。 「ま。集合時間までにはもうちょっと余裕があるし、そのうちやってくるでしょ」 それより……、とハルヒは眉間にしわを作って、 「あんた、ちゃんと詩は書いてきたんでしょうね? 昨日の宣誓がちゃんと果たされているか、あたしが早速確認したげる。ほら、早く提出しなさいよね」 「そう急かすなよ。ちゃんと書いてきてるからさ。これでいいか?」 ほい、と俺は封筒を差し出す。ハルヒはそれを見ると、 「ふうん? やけに可愛らしいわね。レターセット? どうしたのよこれ?」 「妹から貰ったんだ。コピー用紙を持ち歩くのもなんだと思ってな。別にいいだろ?」 「いいけど、なんだかこれって……」 ――やっぱりなんでもない。と何やらはぐらかすハルヒ。 そして俺の手から手紙をひったくるのと変わらぬくらいに封筒を開き、中に収納されていた便箋に注視する。 「…………」 俺の書いたポエムを読むハルヒはどこまでも無表情だった。 やがて顔を上げると、 「……んー、見た目もそうだけど、中身もやっぱりラブレターっぽいわね」 「なんでだ?」 「だってそうじゃない。これが告白以外の何になるのか、逆にあたしが聞きたいくらいだわ」 ポエムの内容が……と言いながらハルヒは視線を手元の便箋に落とし、 「……あなたとの日常を振り返ってみたら、ようやく、あなたのことが好きだっていう自分の気持ちに気付きましたなんて……」 「……確か、宛名のないラブレターには何の意味もないんじゃなかったか?」 からかうような口調で答える俺に、ハルヒは納得出来ない自分を納得させるように、 「……そうね。まるで夜更けに書いたやつみたいに言葉を羅列しただけの支離滅裂な出来だけど、これはこれで恋のポエムって感じなのかな。でも……」 ハルヒは片手に便箋と封筒を持ち、ポエムの書かれている文面を俺に突きつけて、 「……これ、誰に言ってるの?」 「誰とはなんだ」 「う……」 ハルヒは少し怯んだ様子を見せた。 ――まあ、ハルヒが言いたいことはよく分かる。前回のミヨキチの小説と同様にこれは俺の実体験を元にしているであろうから、このポエムの登場人物にもモデルがいるのではないか? ということだろう。実際、それは間違いじゃないしな。だから、俺は………。 「ハルヒ?」 「な、なによ……」 「お前が手に持ってる封筒なんだが、ちゃんと見てみたらどうだ?」 「………?」 ――こういうときは、意外と相手の言葉の意味に気付かないものだ。 ハルヒは全くの受身で俺の言葉に従い、手に持っていた封筒をヒラリと裏返す。 そしてそこに書かれている文字に視線を落とし、しばらくそのまま押し黙っていた。 さて。 俺がそこに書いたのは、恐らくハルヒ自身が一番見慣れているものだ。 ハルヒは今、封筒の裏側に書かれているそれを見ながらどんなことを思っているのだろうね。 ――宛名の欄に記されている、自分の名前をさ。 「……キョン?」 「なんだ?」 ハルヒは視線をそのままに、小さく俺へと話掛けてきた。 ……そして、今まで自分が抱えていた不安を一気に押し出すかのように、ハルヒは語り出した。 「……あたしね、今まで、自分の存在っていうのはとてもちっぽけなものだって感じてた。自分が沢山の人間の中の一人に過ぎないんだっていうのを実感したとき、自分の世界がいかに普通かってことに気付いたあたしは、逆に世の中にはあたしの想像もつかないような面白い出来事を体験してるような特別な人がいるんじゃないかって考えたわ。……だからあたしは、宇宙人や未来人や超能力者なんかと友達になりたいってずっと思ってた」 ここで顔を上げ、俺をその大きな瞳で捉えると、 「けどね、SOS団のみんなと出会ってから、その考えは変わったの。実は最近、もしかしてあたしには特別な能力があるんじゃないかって思うようなことがあったんだけど、でも……それはあたしが望んでたことだったはずなのに、なんだか嬉しくなくて、むしろ不安になった。なんでそんな気持ちになったんだろうって考えたら、意外と早く答えは見つかったわ。あたしが特別な存在になる、それってね、今までの普通だったあたしを否定しちゃうことになるのよ。特別な存在なんかを求めることだって、今まで好きだった友達を否定しているのとなにも変わらない。――まあ、つまり何が言いたいのかって言えばね……」 ここまでを話し終えたハルヒからは憂鬱な感情が消え、そして、俺の目が眩んでしまいそうな程の微笑みをこちらに向けて――――、 「あたし……SOS団のみんなと、キョン。あなたに出会えて良かった」 ふんわりと作られた笑顔の端には一粒の涙が零れ出し、それはまるで、灰色の雲に覆われた空の後に訪れる晴々とした太陽のように眩しく、輝いていた。 ……俺がしばらく見とれるばかりであったとき、ハルヒは手で自分の目元を一回だけ拭うと、 「ちょっとキョン! ぼーっとしてるヒマなんてないんだからねっ! ほら、早く探しに行かなくちゃ!」 今まで以上に元気な声で言い放つと、ハルヒは踵を返してそそくさと歩き出してしまった。 「ちょっと待ってくれ」 この言葉でハルヒは進むのを止め、俺はその場に立ったまま、 「それって、宇宙人や未来人や……超能力者をか?」 手を伸ばしたまま質問する俺に、ハルヒは何を言ってるのよといった表情を浮かべ、そして今までよりもためらいのない百ワットの得意顔を作り――心地の良い意気を込めて、こう言い放った。 「有希とみくるちゃんと、古泉くんに決まってるじゃない!」 エピローグ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4688.html
「ねぇ、キョン。あんたポケモン持ってないの?」 近頃は最新型パソコンと睨めっこバトルをくり広げている団長様が、やおら話題をふってきた。まだまだ嵐の前のナンとやらを堪能していたい俺は、何をやらかすか分からんハルヒの目論見をできるだけけしかけないように答えた。 「あんな面倒なものは小四で卒業した」 「私、昨日ゲーム機ごと買ったんだけど……あんたもやらない?」 何故たった一言返しただけでここまで話が進むんだ?…まぁ、ゲームごときで深刻に考えるのもどうかしてるが、ハルヒはここ最近ネットばかりしているからなぁ 「昔は誰でもやったことあるわよね、どぉ?みんなで対戦とかやりたくない?」 「ふぇ~ゲームですかぁ…」 ゲームにまで手を出したら、今流行りのフリーター万歳人間になってしまうのではないか…仕方ない。ハルヒにこんな話をしても無駄だと思うが、たまには世界の平穏の為に働いてみるか 「…ハルヒぃ……こんな話を…知ってるかぁ?」 「な、何よ変なしゃべり方して」 「ポケモンシリーズの初代主人公は死んでいるらしい。」 「!!」 思った以上にリアクションがでかいな。気を悪くするなよ、お前の将来の為だ。 「し、知ってるわよ。金銀で話かけても『………』ってヤツでしょ?そんなんで死んでるって決め付けるなっ!!」 「マサラタウンの母親に聞くと、何か月も音信不通らしい。それに、ゴースト系のポケモンばかり出てくるしな」 「………。」 「これ以外にもポケモンには不気味な噂が沢山あるんだぞ?」 それでもやりたいか?…と言うのはまだ速いか。とりあえず、この意外と怖がりちゃんには精神的に死んでもらおう 「GBA版の伝説ポケモンで、レジアイス、レジスチル、レジロックっているだろ。」 「あれ、第二次世界大戦で死んだ障害者の権化らしい」 「ちょっと!!今日のあんたおかしいわよ、酷いじゃないッ!!」 「ホウエン地方って、九州がモデルだろ?」 レジアイスは長崎 レジスチルは宮崎 レジロックは大分 どれも原爆があった場所だ …朝比奈さん、泣かないで下さいよ。ハルヒの怪しい力でみんなにとばっちりがいかないように頑張ってるんだから 「ふぇ…」 ちなみに今呻きをあげたのは朝比奈さんではなく、団長様である 「奴らの祠にある文字は、病気の人用の『点字』だしな」 「…もう、止めた方がいい」 今から、森の洋館について話そうかと話を繋げようとする前に長門が教えてくれた。ハルヒが泣いてる。 「ふぇ…ふぇ…クスン」 萌えた。 「こんのバッカキョーンッ!!!買ったばかりなのにー!!もうできないじゃないのぉ……」 「ロトムってポケモンが―――」 「いやぁぁぁぁぁぁッ!!!」 古泉はニヤけているが、いいのか?閉鎖空間が発生しそうだか? 「おや、貴方はそんなつもりであんな話をしたのですか?」 「…スマン、まさか泣くとは思わなかった」 ハルヒは腰を抜かしたらしく、長門におぶってもらいながら坂を降る。怖がりすぎだ 「ゆきぃ…トイレ」 「ハルヒ、後ろにピカチュウが――」 「いやぁぁぁぁぁぁッ!!!」 失禁するなよ? ただでさえ、下校中の北高生に見られてるんだから。それにしてもお前がそんなに怖い話が苦手だなんて知らなかったよ 「今日の彼は a bully。私も苛められたい……」モミモミ 「ちょっと、有希。お尻揉まないでよーオシッコ出るぅ」 …ほら、貴方の後ろにもピカチュウが――
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1035.html
一体、何がどうなっているのか。 この状況下を理解できている奴がいるならとっとと俺の前に来てくれ。すぐには殴らないから安心しろ。 洗いざらい聞き出してからやるけどな。理解できるのは首謀者以外ありえないからな。 『一度しか言わないので、聞き逃さないようにしてください』 そう体育館内に聞き覚えのない声が響き渡る。 まず、状況を説明しよう。俺たちは今体育館にいる。外は薄暗く、窓から注がれる月明かりしか体育館内を照らすものがないが、 それで体育館内の壁に立て掛けられている時計の時間がかろうじて確認できた。1時だそうだ。午後ではなく午前の。 体育館内には北高生徒が多数いた。皆不安そうな表情を見せつつも、パニックを起こすまでには至っていない。 何でそうなる可能性を指摘しているのかと言えば、俺たちがどうしてこんな夜中に体育館にいるのかがさっぱりわからないからだ。 俺は確かベッドに潜り込んで寝たはずだ。次の瞬間、気が付いたら体育館の中と来ている。 夢遊病でも制服まで着込んでこんな遠くまでくるなんてありえないし、大体これだけの大人数が突然夢遊病に かかって同じ場所に集結するなんて絶対にあり得ないと断言できる。ならば、これは何者かがしくんだ陰謀と見るべきだろうな。 それも、普通の人間の仕業ではなく、いつぞやの雪山で起きた建物に俺たちを閉じこめてレベルの連中が仕掛けたのだろう。 俺もここまで冷静な思考ができるようになっていたとはうれしいよ。 『ルールは簡単です。今から3日間、あなた達が生き残れば何もかも元通りになります。しかし、全員死んでしまった場合、 この状況が現実になってしまいます。ようは一人でも生き残れば、例えその他の人が死んでもそれはなかったことになり、 一人も残れなかった場合は全員死んだままになると言うことです。あと助けを求めようとしても無駄です。 現在、この空間にはこの施設内以外には人間は一人も存在していません。電話も通じません』 一方的すぎる上に訳がわからん。どうしてこんなことになってしまったのか。前日を思い出してみるか。 ◇◇◇◇ 季節は春。3学期も半ばにさしかかり、残すイベントは球技大会ぐらいになっていた。 俺たちはいつも通りにSOS団が占領下においている部室に集まって何気ない日常を送っていた。 放課後になって、朝比奈さんのお茶をすすりつつ、古泉とボードゲームに興じる。 ワンパターンと言ってしまえばそれまでだが、平穏であることを否定する必要もない。 「おい、ハルヒ」 相変わらず激弱な古泉をオセロで一蹴したタイミングで、俺はあることを思い出してハルヒを呼んだ。 退屈そうにネットをカチカチやっていたハルヒは、 「なーに?」 「今度、球技大会があるだろ? おまえも参加しろよな」 「いやよ、めんどくさい」 とまあつれない返事を返されてしまった。ちなみにこうやって参加を促しているのは、 別にスーパーユーティリティプレイヤー・ハルヒを参加させてクラスに貢献!なんて考えているわけではなく、 クラスメイトの阪中からハルヒを誘ってほしいと言われたからである。 最初は戦力としてほしいから言っているんだろうと思ったが、もじもじしている阪中を見ていると どうも別の理由があるらしい。ま、いちいち他人のことに口を出してもしょうがないし、 阪中自身が言いづらいから俺のところに頼みに来ているのだろうから、快く引き受けておいたがね。 「おまえな……たまにはクラス行事に参加しろよ。いつまでも腫れ物扱い状態で良いのか?」 「べっつに構わないわよ。気にしないし。大体、球技大会ってバレーボールじゃない。そんなありきたりのものに 参加したっておもしろくもないじゃん。南アルプスでビッグフット狩り競争!ってのなら、喜んで参加するわよ」 「そんな行事に参加するのはお前くらいだ。おまけに球技大会ですらねえよ」 俺のツッコミも無視して、良いこと思いついたという感じにあごをなでるハルヒ。 このままだと春休みにはアルプスに連れて行かれかねないな。 「あー、でも一般客も見に来たりするんだっけ? それなら、クラスじゃなくてSOS団としてなら参加して良いわよ。 いいアピールにもなるしね。ユニフォームのデザインはまっかせなさい!」 「勝手に変な方向に話を進めるな!」 俺の脳裏に、開会式にSOS団が殴り込みを掛ける映像が再生される。それも全員がハルヒサナダムシ風ユニフォームを着込んで いや、朝比奈さんだけは別か。何を着せられるのやら。ハルヒなら本気でやりかねないから冗談にもならん。 「やれやれ……」 難しいとは思っていたが、こうも脈がないとハルヒ参加は無理みたいだな。阪中には明日謝っておこう。 で、その後は古泉とのボードゲームを再開。夕方になって全員で帰宅モードへ移行。何気ないいつもの一日だった。 ただ、少し気になったのは部室内にいる間、少し様子のおかしかった長門だ。何かを問いかけられた訳でもないのに どうも数センチだけ頭を傾ける仕草を頻発していたのが少し気になっていたので、 「……長門。どうかしたのか?」 帰り道でハルヒに気づかれないように聞いてみる。長門はしばらく黙っていたが、 「情報統合思念体とのアクセスが不安定になっている。原因不明。私自身のエラーなのか、外部からの妨害なのかも不明」 「また、やっかいごとか?」 「回答できない。情報があまりに不足している。帰宅次第、調査を続行する」 「そうか」 俺は嫌な予感を覚えていた。特に長門自身のエラーということについて、つい敏感に反応してしまう。 あの別世界構築騒動の再来になりかねないからだ。 と、長門が俺に視線を向け続けていることに気が付く。そして、俺の不安を察知したのか、 「大丈夫。前回と同じ事にはならない。私がさせない」 きっぱりと言い切った言葉に俺はそれ以上不安を覚えることはなかった。 で、その後は夕飯を食って、部屋で適当にごろごろして、ベッドに潜り込んだ…… ◇◇◇◇ 『校舎と校庭の方にはたくさんの武器が置いてあります。自由に使って構いません。あと、本日午前6時までは何も起こりません。 では、がんばってください』 そこまで言うと、声が止まった。生徒達のひそひそ声がかすかに聞こえるようになる。 昨日のことを思い出してみたが、おかしかったのは長門の様子ぐらいだ。確かに、雪山でも長門の異常とともに、 あの洋館に押し込められたっけか。今回も同じと言うことなのか? 「やあ、あなたも来ていましたか」 考え事をしていたため、目の前のスマイル野郎の急速接近に気が付かなかったことが悔やまれる。 古泉の鼻息が頬にあたっちまったぜ、気色悪い。 俺は微妙な距離を取りつつ、 「ああ、本意どころか、夜中の学校に迷い込んだ憶えもないがな。お前も同じか?」 「ええ、気が付いたらここにいたという状態です。してやられましたね。油断していたわけではありませんが」 そう肩をすくめる古泉だ。ニヤケスマイルはいつも通りだが。 「キョン!」 「キョンくん~!」 「やっほー!」 と、今度は背後から聞いたことのある声が3連発だ。最初のがハルヒで次に朝比奈さん、最後は鶴屋さんだな。 振り返らなくてもわかるね。で、その中には長門もいると。 「全くなんなのよ、これ! 誰かのいたずらにしては大げさすぎない? 人がせっかく暖かい布団でぬくぬくしていたのにさ!」 そうまくし立て始めるハルヒ。こいつにとっては燃えるシチュエーションのはずだが、 寝ていたところをたたき起こされた気分のようで、すこぶる荒れているみたいだな。 「こ、これなんなんですかぁ~。どうしてあたし、学校の体育館にいるんですかぁ?」 涙目でおろおろするばかりの朝比奈さん。これはこれで……ってそんなことを考えている場合じゃない。 俺は即座にこの状況を唯一理解できそうな長門の元へ行く。 相変わらずの無表情状態だったが、少し曇った印象を受けるのは闇夜の所為ではないだろう。 「おい、長門。これは昨日言っていた異常の続きって奴か?」 「…………」 俺の問いかけに長門は答えなかった。もう一度同じ事を聞こうとして、彼女の肩をつかむと、 「情報統合思念体にアクセスができない」 長門はぽつりと言った。あの親玉にアクセスができない? となると、ますます雪山と同じ状況じゃないか。 「ちょっとちょっとキョン! 何こそこそやっているのよ! まさか有希をいじめているんじゃないでしょうね!」 人聞きの悪いことを言いながら俺に詰め寄るハルヒ。こんな状況でいじめる余裕がある奴がいるなら会ってみたいけどな。 そこに、古泉が割って入り、 「まあまあ。けんかをしている場合ではないでしょう。それにこれ以上、体育館にいても仕方ありません。 とりあえず、外に出てみませんか? どうやら、これをしくんだ者からのプレゼントもあるようですし」 「そうね」 ハルヒは素直に古泉の提案を受け入れ、体育館の出入り口に向かう。 「ひょっとしたら、辺り一面砂漠になっていたりして! なんだかワクワクしてきたわ!」 もうハルヒはこの状況を受け入れつつあるらしい。らしいといえばらしいが。 ふと気がつくと、今までひそひそ話をする程度だった他の生徒たちも俺たちについてくるように、 体育館の出入り口に向かって歩き始めていた。一様に不安そうな表情を浮かべているものの、 特に錯乱するような奴はいない。なんだ? おかしくないか? どうして誰も泣いたりわめいたりしない? 「気づいたようですね」 またニヤケ男が急接近だ。しかも、耳元に。吐息が当たって気色悪いんだよ! 「何がだ」 「他の生徒の様子ですよ。まるで落ち着いている。ちょっと動揺しているように見えますが、 表面上だけです。訓練された人間でもこうはいかないでしょう」 「そのようだな。でも、ひょっとしたらみんな肝が据わっているだけかもしれないぞ」 「それはありえません。あなたが初めて涼宮さんに絡んだことに出くわした時を思い出してみればわかるはずです。 しかも、ざっと見回す限り1学年のみの生徒がいるようですが、それでも数百名のうち一人も錯乱しないわけがありません」 「何が言いたい?」 「まだ結論を出すには早いですが、何らかの人格調整を受けたか、あるいは――」 古泉は強調するようにワンテンポおいて、 「姿形だけ同じで、中身は全然別物かもしれませんね」 そこまで言い終えた瞬間、俺たちは体育館から外に出た。 ◇◇◇◇ 「なに……これ」 呆然とハルヒがつぶやく。俺も同じだ。驚きを通り越してあきれてくるぞ、これは。 体育館から出てまず気がついたのは、武器の山だ。体育館の周りに所狭しと銃器が山積みになっていた。 俺は思わずそれを一つとり、 「M16A2か。状態も良さそうだ」 そう知りもしないはずなのにつぶやく。さらに安全装置などを調べている間に、俺ははっとして気がつく。 「なあ古泉。俺はいつからミリタリーマニアになったんだ?」 「さて、僕もあなたのそんな一面を今までみた覚えはありませんが」 古泉も同じようにM16A2を手慣れた感じに、チェックしている。当然だ。俺は映画以外では鉄砲なんて みたこともないし、ましてや撃ったこともない。さわったことすらない。しかし、なんだこの手慣れた感触は。 使い方、撃ち方、整備の仕方までどんどん頭の中に浮かんでくるぞ。どうなっているんだ一体! 「みてください。弾丸の詰まったマガジンも山積みです。どこかと戦争になっても一年は戦えそうですよ」 しばらく古泉は表情も変えずに古泉は武器の山を眺め回していたが、やがてそばにいた長門となにやら話し始めた。 「キョンあれ見てアレ!」 ハルヒが興奮気味に指したのは、校庭だ。そこには10門の火砲――120mm迫撃砲と、 一機のヘリコプター――UH-1が置かれている。って、やっぱりすらすら知りもしない知識が沸いて出てきやがる。 「なによこれ、いつから北高は軍事基地になったわけ?」 なぜか不満そうなハルヒ。あまりこっちのほうは好みではないのか? そんな中、朝比奈さんは不思議そうに無造作に並べれられている迫撃砲の砲弾を突っついている。 「うわ~、何ですかこれ? 初めて見ましたぁ~」 「こらみくる、さわると危ないよっ! 爆発するかもしれないんだかさっ!」 「ば、バクハツですかぁ!?」 びっくりして縮こまる朝比奈さんとおもしろそうにマガジンの山をつっついている鶴屋さん。まあ、鶴屋さんがいれば 大丈夫だろ。 「おい、これって俺たちに戦えってことじゃないのか?」 突然、聞き覚えのない声が飛んできた。さらに、 「さっき、体育館で聞いたじゃない。3日間生き残ればいいって。きっと敵が襲ってくるのよ!」 「おいおい、俺は殺されたくねえぞ」 「そうよそうよ! 徹底抗戦あるのみだわ!」 突然俺たち以外――SOS団に関わりのない生徒たちが盛り上がり始めた。そして、次々とM16A2を手に取り、 構えたり、チェックをはじめやがった。何なんだ、何だってんだ。どうして、誰も疑問に思ったり拒否反応を示したりしない? おまけに俺と同じように知っているかのように扱っている。 さらに、狂った状況が続く。 「でも、ばらばらに戦っていちゃだめだ! 指揮官がいるな!」 「そうね!」 「誰か適任はいないのか?」 「そうだ! 涼宮さんなら!」 とんでもないことを言い出す奴がいたもんだ。よりによってハルヒだと? 一体どんな奴がそんなばかげたことを言い出したんだと声の方に振り返ると、そこには文化祭でドラムをたたいていた ENOZのメンバーの一人がいた。 当のハルヒはきょとんとして、 「あ、あたし?」 そう自分を指さす。さすがのハルヒでも状況が理解できていないらしい。 「そうだよ! 涼宮ならきっと俺たちを導いてくれる!」 「お願い涼宮さん! 指揮官になって!」 「俺も頼む! おまえになら命を預けられる!」 『ハルヒ! ハルヒ!』 「ちょ、ちょっと待っててば!」 と、最初こそしどろもどろだったが、やがて始まったハルヒコールにだんだん気分がよくなってきたらしい。 だんだん得意げな顔つきになってきたぞ。 「ふ、ふふふふふふふふ」 ついには自信に満ちあふれた笑い声まで発し始めやがった。 「わかったわ! そこまで頼られちゃ仕方がないわね! このSOS団団長涼宮ハルヒが指揮官としてあんたたち全員を 守ってあげるわ! このあたしが指揮する以上、どーんと命を預けてもらっていいわよ! アーハッハッハッハ!」 そうやって生徒たちの中心で拳を振り上げるハルヒ。あまりの展開に頭痛がしてきたぞ。 額を抑えていると、長門と密談を終えたらしい古泉がまた俺に急接近してきて、 「大丈夫ですか?」 「ああ、今ひどい茶番を見た」 微妙な距離を保ちつつ答える。古泉はやや困ったように表情を変え、 「それには果てしなく同意しますね。しかし、この強引すぎる茶番劇でしくんだ者の大体目的が理解できました」 「頭痛が治まったら聞いてやる……ん?」 ふと俺の目に二人の生徒がこの茶番劇な流れに逆行するようにこっそりと移動しているのが入ってきた。いや、正確に言うと、 一人が逃げるように移動し、もう一人がそれを追いかけているみたいだ。まあ、思いっきり見覚えのある奴なんだが。 「まずいよ、勝手に逃げ出しちゃ」 「馬鹿言え! こんなばかげた催しに参加してたまるか! おまけに総大将が涼宮だと? 冗談じゃねえよ!」 「でも、なんだかおもしろそうだよ? すごいものがいっぱいあるし」 学校の塀を必死に上ろうとするが、どうしてもうまくいかない谷口。そして、それをやる気なく止めようとする国木田。 何というか、この意味不明空間に閉じこめられてから、初めて正常と思える人間にであったな。 「おい、何やってんだ谷口。それに国木田も」 そんな二人に向かって声をかけると、谷口の野郎がまるで鬼でも見るような目で、 「く、くるなキョン! いや、別におまえに恨みはないが、セットで涼宮がついてくるかもしれないからな! 今は見逃してくれ! 頼む! 明日弁当をおごってやるから!」 もう谷口は今にも泣き出しそうだ。まさに普通の反応。安心するどころか癒されるね。まさかアホの谷口に 癒しを求める日がこようとは。 「まあ、落ち着け。いや、落ち着かないほうがおかしいけどな」 「どっちだよ」 すねた表情で谷口が抗議する。俺ははいはいと手を振りながら、 「とにかく、逃げだってどうにもならんだろ。ここがどこなのかもわからんしな。それにさっきの超不親切放送を信じるんなら、 3日間学校に閉じこもっていれば、何もかも元通りとのことだ。それなら学校のどっかに隠れていた方がマシだろ」 「僕もそう思うよ。別に殺されると決まった訳じゃないし」 国木田がうなずいて俺に同意する。しかし、谷口は聞く耳も持たず、またロッククライミングを再開して、 「うるせえ! そんなの信用できるか! とにかく俺は逃げる! 誰も知らないところで隠れて3日間逃げ切ってやるからな!」 わめきながら谷口はようやく塀を乗り越えようとした瞬間―― 「うわわわわわっ!」 情けない悲鳴を上げて、背中から落下する。 咳き込む谷口の背中をさする国木田を背に、俺もとりあえず塀を上ってみる。一応何があるのか確認しておきたいからな。 「……なんてこった」 塀を乗り越えた俺の目に広がったのは、絶望的に広がった暗闇だ。夜だからではない。学校の塀が断崖絶壁になり、 それよりも向こう側には何もなかった。崖のそこは暗く何も見えない。まさに底なしだ。落ちたらどうなるのか。 試してみたい気もするがやめておこう。 「畜生……なんてこんな目に……」 すっかり逃げる気も失せた谷口は、肩を落として地面に座り込んでいた。一方の国木田はいつものまま。 マイペースな奴だ。 俺はとりあえずハルヒの元に戻ることにした。谷口ももう逃げようとはしないだろうし、あとは国木田にでも任しておけばいい。 しかし、体育館入り口に戻った俺はさらに驚愕する羽目になった。 「ほらほらー! 時間がないんだからちゃっちゃと運びなさぁい! そこ! それ落としたら爆発するかもしれないから、 慎重に扱ってね! さあビシバシ行くわよ!」 校庭のど真ん中にたったハルヒが、メガホン片手に生徒たちを動かしていた。そこら中に散らばっている銃器や砲弾を 学校の校舎内や体育館に運び込ませさているらしい。実際、野ざらしだとどんなはずみで暴発するかわからんから、 ハルヒの判断は間違ってはいないが、すっかり指揮官なりきり状態にはいささか不安を覚える俺だった。 ◇◇◇◇ 「さて! じゃあ、SOS団ミーティングを始めるわよ!」 ハルヒの威勢のいい声が部室内に広がる。最初のとまどいもどこにやら、完全にいつものペースに戻っているようだ。 おまけに総大将とかかれた腕章まで着けている。すっかりその気になっているみたいだな。 全生徒総出での片づけがようやく終了して、現在午前4時の部室内にいるのは、 SOS団のメンバー+鶴屋さんの総勢6名である。 総大将ハルヒはどうやらSOS団関係者を中心としてこの事態を乗り切るつもりらしい。 「とにかく、このよくわかんない状況をとっとと終わらす必要があるわね! さっき体育館でなんて言っていたっけ? 古泉君」 「3日間一人でも生き残れば、その間にあったことすべてが無効となって、元の世界に戻ることができる。 しかし、全員死んでしまった場合はこの3日間の間に起こったことがすべて事実になる。ということのようでした。 あと、午前六時――あと一時間後までは何も起きないとも言っていましたね。それに我々以外の人間は存在せず、 助けを求めようとしても無駄だとも」 さわやかに答える古泉。ハルヒは満足げにうなずき、 「そう! それよ! さすが古泉君ね!」 なにが、さすが古泉なのかわからんが、そんなことはどうでもいい。 「おい、ハルヒ。ちゃんと状況を理解しているのか? 体育館で一方的に言われた内容だと、これから俺たちは 命をねらわれるということになるんだぞ。いつもの不思議探検ツアー気分でやっているんじゃないだろうな?」 「わかっているわよ、そんなこと」 当然だとハルヒ。さらに続ける。 「まあ、いつもならこんな訳のわからない超常現象に遭遇してワクワクしているかもしれないけど、 はっきりいってシチュエーションが気にくわないわ。仕掛けてきたのが宇宙人なのか未来人なのか異世界人なのか 知らないけどこんな不愉快な接触をしてくるなんてナンセンスすぎ! 説教の一つでもしてやらないと!」 これでハルヒが望んだからこんなけったいなことに巻き込まれたというのはなしだな。 ますます雪山の一件と同じになってきた。 ハルヒは仕切り直しというようにわざとらしく咳き込んで、 「まず、これからどうするかよね。有希、何か良い意見ある?」 何で真っ先に長門に聞くんだ。確かに一番適任かもしれないけどな。 話を振られた長門は、数センチ頭を傾ける動作をしたまま無言だった。 ハルヒはそれをわからないというポーズと受け取ったようで 「そっか、有希に聞いても仕方ないわね。じゃあ、古泉君は?」 今度は古泉に話を振るが、それに割り込むように鶴屋さんが大きく手を挙げ、 「はーい! やっぱさ、ここは偵察所を兼ねた前線基地を作ったほうがいいと思うねっ! 話を聞く限りだともうすぐこの学校は何かにおそわれるってことだけど、いきなり本拠地である学校への 襲撃を許したらまずいと思うんだっ! だから、少しでも敵を学校から引き離すためにさっ!」 「すばらしいわ、鶴屋さん! それ採用よ!」 はい、あっさりと終了。何気に息がぴったりな二人だな。しかも、鶴屋さん。 そんなことをすぐに思いつけるなんて、いくら名家の人とはいえこういった戦闘的な経験はあったりしませんよね? 話を振られようとしていた古泉も珍しく苦笑いを浮かべつつ、 「僕も賛成です。このままじっとしているだけでは、敵に叩かれるだけでしょうね」 俺はちらっと長門の方を見るが、相変わらずの無表情だった。とりあえず、口を開かないと言うことは 同意しているととっておくことにしよう。 俺も特に異論もないので、鶴屋さん案に同意する。 「なら決まりね! じゃあ、早速作戦を立てましょ」 そう言ってハルヒが机に広げたのは学校周辺の地図である。ただし、北高のすぐ左側を縦に黒いライン、また同じように 北高の敷地の南側に沿うようにも同じようにラインが引かれている。さっき谷口が腰を抜かした断崖絶壁を 表しているラインであり、屋上から確認したところ、北高より西側と南側はまるで何かに切り取られたように なくなっていた。よって、敵が襲ってくるなら北高よりも北西となる。 さて、こんな地理関係でどこに前線基地をつくればいいのかと考えてみる。というよりも敵がどこから襲ってくるのか 予測しなければ、前線基地の意味もないのでそっちが先決だな。 「北高の北側は住宅街です。見通しがききづらいので、民家を陰に接近されやすいでしょう。東側は森がありますが 幸い校庭に面しているため、即刻学校にとりつかれることはありません。校庭に侵入を確認した時点で 迎撃することが可能かと」 「なら北側しかないわね。でも、どこにするのがいいのかしら」 古泉の意見を取り入れつつ、ハルヒは北高の北側一帯を指でなぞる。そんな中、ちらちらとハルヒが目をやっているのは、 北山公園だ。そこそこ広範囲な森で隠れるならうってつけの場所だろう。 「そうなると、ここが最適じゃない?」 ハルヒが赤いサインペンで丸をつけたのは、北側に東西に延びるようにたてられているサンハイツと呼ばれる建物だ。 良い感じに北高をカバーする防壁のように立ち並んでいる。 「問題ないと思うよっ! ここなら建物沿いに学校へ移動してきてもすぐに発見できるんじゃないかなっ。学校からも すごく近いし、移動も簡単だと思うよっ!」 鶴屋さんが賛同するんで、俺も適当に賛同しておく。こういった頭を使うものは俺なんかよりもハルヒたちに任せておけばいい。 「ちょっとキョン! さっきから他人の意見ばっかりにハイハイしたがってないで、自分の意見を言ったら!?」 いつも人の意見を聞かないくせに、こんな時ばかり聞かないでくれ。どのみち、ハルヒや鶴屋さん以上の意見なんて 全く思いつかないんだからな。 「……まあ、いいわ。じゃあ、これで前線基地は決まりね! 次はお待ちかねのみんなの役割を発表するわよ!」 何がお待ちかねだ。一番胃が痛くなるやつじゃねえか。こいつが決めた物は大抵ろくな配分になっていないからな。 とくに俺と朝比奈さんは。 ハルヒは満面の笑みを浮かべて、懐から一枚のメモを取り出して机に広げた。 ● 総指揮官 涼宮ハルヒ(もちろん、すべての作戦を統括する一番偉い人!) ● 副指揮官 長門有希 (戦況を判断して的確に指示を出すSOS団のブレーン) ● 小隊長 古泉君 (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人) ● 小隊長 鶴屋さん (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人) ● 小隊長 キョン (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人) 以上、これがメモかかれていたことである。総指揮官、副指揮官ときて次に小隊長かよ。階級差が飛びすぎだろ。 それになんか俺が前線で戦う人にされているし。 不満そうにしている俺に気がついたのか、ハルヒはしかめっ面で、 「何よ。 なんか不満でもあるわけ? いっとくけど、総指揮官であるあたしの命令は絶対よ! ハートマン軍曹より 厳しいからそのつもりで!」 放送禁止用語を連発するハルヒを想像してしまって吹き出しそうになるが、あわてて飲み込む。 「完全に数えた訳じゃないけど、体育館にいたのは一学年全員ぐらいはいたわ。となるとざっと数えて270人がいるわけ。 幸いみんな協力的だから、戦力として数えられるわけよ。で、そのうち5割を戦闘員として、キョンたちが指揮して、 残りは補給とか片づけとかの役割に回すわ」 続けるハルヒに少し安堵感を覚えた。さすがにSOS団VSコンピ研の対決の時のように突撃馬鹿になるつもりはないようだ。 ところでだ、メモ最後にかかれているのはいったい何だ? 「あのぅ……わたしは一体何をするんでしょうかぁ? 癒し系担当とかかかれているんですけどぉ……」 おそるおそる手を挙げて質問する朝比奈さん。メモには、 ● 癒し系担当 みくるちゃん (みんなを癒す係) とだけかかれている。確かにこれだけでは一体何をするのかさっぱりわからないな。 「それにみなさんは戦闘服なのに、なんでなんでわたしだけはナース服なんですかぁ?」 朝比奈さんの発言で思い出した。言い忘れていたが、今朝比奈さん以外の面々はみんなウッドスタイルな迷彩服を着込んでいる。 おまけに実弾入りの小銃のマガジンやら必要な物をすべて身につけ、肩には銃器を抱えていた。 これはとある教室に押し込まれていたものだったが、ハルヒ曰く、せっかくあるんだから使わないと損、と言って 男女問わず生徒たちに身につけるように指示を出した。むろん、俺たちSOS団+1も例外ではない。 おかげで全身が重くてたまらん。だが、それにすら慣れという感覚を感じてしまっている。 で、そんな中、朝比奈さんだけがナース服という状態だから、端から見るとコスプレ軍団が密談をしているようにしか見えんだろ。 「みくるちゃんは、その格好で歩いているだけでいいわ。それだけでみんな癒されるはずよ。 それに戦闘中に歩き回られても邪魔なだけだし」 ハルヒ、それは違うぞ。朝比奈さんはそんなけったいな衣装を着込まなくても十分癒しを提供してくれるんだ。 見てくれを気にしすぎるおまえには一生わからんだろうがな。 「じゃ、これで役割分担は終わり。さっそく実行に移しましょう」 「おい! これだけで終わりかよ!」 思わずハルヒに抗議の声を上げる。たとえばだ、俺が小隊長にされているが、分隊はどうするのかとか、 各装備はどうするのかとか―― 「そんなことは分隊長であるあんたが決めなさいよ。古泉くんと鶴屋さんも。あ、学校内の態勢とかはあたしと有希で決めるわ」 細かいところはやっぱり適当だな、おい。まあいいか、ハルヒにどうこういじられるよりかは、 俺が直接やった方が自由がききそうだ。やったこともない知識が頭の中にすり込まれているせいか、 どうすればいいかは大体わかるしな。 「さて……」 ハルヒは忘れ物はないかとしばらく考えていたが、 「ちょっと顔を洗ってくる」 そういって早足で部室から出て行った。いつもよりも落ち着きのない足取りからガラにもなく緊張しているのか? と、鶴屋さんと朝比奈さんもハルヒに続くように、 「あっ、あたしも行くよっ!」 「わたしも行きます~」 そう言って部室から出て行った。ただし、鶴屋さんは俺にウインクをして。どうやら気を遣ってくれたらしい。 まあ、せっかくのご厚意だ。今のうちに聞いておけることは聞いておこうか。 「おい古泉。もう頭痛も治まったから、さっきの続きを言っても良いぞ。ただしハルヒたちが戻るまでだから手短に頼む」 古泉は待ってましたといつもの解説口調で説明を始める。 「この閉鎖空間に近いような空間――わかりやすく疑似閉鎖空間と呼びましょう。これはあきらかに涼宮さんが作り出した物では ありません。現に神人も現れず、また僕の能力も使えるようになっていない。となれば、別の何者かがこの空間を作り出し、 我々をそこに押し込んだと推測できます」 「それは俺でも予想ができたな。雪山の時と一緒だろ」 「ええ、その通りです。あと、疑似閉鎖空間を作った者の目的ですが、おそらく涼宮さんを追い込んだ状況に 陥らせて彼女の能力を使った何らかのアクションが起きることを期待しているのかと」 「何を期待しているんだ?」 古泉は首を振りながら、 「残念ながらそこまでは推測できません。情報が不足しすぎていますしね。しかし、涼宮さんに強烈な負荷をかけて 彼女の精神状態を乱すことが目的なのか確実です」 「それにしては、状況が甘すぎるんじゃないか? 不親切とはいえ状況説明をしたあげく、わざわざ武器まで渡している。 おまけに学校の生徒をハルヒの言うことを聞くようにして、俺たちにも軍人並みの知識と経験もすり込んでいるしな。 いっそ、生徒全員、あるいはSOS団メンバーだけで殺し合いをするようにすれば、さすがのハルヒでも おかしくなるだろうよ。そんなのはまっぴらごめんだがね」 「それでは、涼宮ハルヒがこの状況そのものを否定する可能性がある」 そこで割り込むように口を開いたのは長門だった。そういや、体育館以来声を聞いていなかったな。 「長門さんの言うとおりです。それでは涼宮さんは疑似閉鎖空間そのものを破壊してしまうでしょうね。 彼女の能力を持ってすれば簡単な話です。それをさけるためには、一定レベルで涼宮さんがこの疑似閉鎖空間の状況、 つまりこの仕組まれた展開を受け入れなければなりません。先ほどの茶番劇も涼宮さんに対して、 今この学校内にいる全生徒が自分を信頼してくれているという暗示をかけたようなものでしょう。 涼宮さんの性格からあそこまで持ち上げられると乗ってくるでしょうし、何よりも不満があるとはいえ、 彼女にとっては今まで味わえなかった奇怪なシチュエーションです。今のところ、この状況そのものを 否定するような要素は存在しません。完全に仕組んだ者の思惑通りに進んでいると思います。今のところ、はですが」 なるほどな。確かにあいつが興奮気味なのは見てりゃわかる。しかし、それが敵と言える奴らの思惑なら 腹立たしいことこの上ない。 と、俺は学校から逃げだそうとしていた谷口――とおまけで国木田――を思い出し、 「だが、妙なこともあるぞ。確かにここにいる大半の生徒たちはハルヒに従うように人格を調整されているみたいだが、 俺たちSOS団のメンバーや鶴屋さんはどうなる? 確かに軍事知識と経験は頭の中にねじ込まれているみたいだが、 ハルヒに盲目に従うようにはなっていないぞ。谷口に至ってはハルヒが総大将になったとたん、 学校から逃走しようとしたぐらいだ」 「その通り。SOS団や涼宮さんに関わりの強い人間は、人格調整的なものまでは受けていないようですね。 しかし、これからもわかることがあります。涼宮さんに従うようにされている生徒たちは、はっきりと言ってしまえば、 捨て駒のようなものであり、使いたいときに使える道具とされている。あ、とはいっても本当にロボットのように なっているかと言えばそうではありません。9組の何人かと話をしてみましたが、性格的なものは普段のままでした。 あくまでもベースは個人の人格を踏襲しつつ、涼宮さんと関わる際にその指示に必ず従うよう 何らかの暗示のようなものをかけているのかもしれません。 本題は涼宮さんに近い人間を通じて彼女に負荷をかけるということです。 しかし、僕たちがあまりにいつもと違う言動を行えばリアリティを損ない、 涼宮さんが姿形は同じな別人であると認識しかねません。それでは負荷も半減するというものです」 つまり、普段のままの俺たちがどうこうなることで、ハルヒに衝撃を与えようとしているって訳か。 俺を殺してハルヒの反応を見るとかいっていた朝倉の仕業じゃないかと疑いたくなるぜ。 「ん? となるとハルヒ自身には何も操作が行われていないってことか? にしちゃ、武器の扱いも 手慣れているように見えたが」 「涼宮さんは文武両道、しかも何でもそつなくこなせる非常に優れた方です。そのくらいできても不思議ではありません。 あるいは、涼宮さん自身がそう望んだからかもしれませんが。どちらにしろ、今までの推測から涼宮さんの能力には 制限がかけられていないと考えられます。僕や長門さんとは違ってね」 古泉は困りましたねと言わんばかりに肩をすくめる。そういや、長門は昨日から異常を察知していたようだが…… 「古泉はともかく長門もそうなのか?」 「現在のところ、情報統合思念体にはまったくアクセスできない。また、わたしの情報操作能力も完全に封鎖され、 今ではあなたと大して変わらない」 ここぞと言うときにはどうしても長門に頼ってしまうのが悪い癖だと思っているが、 今回は頼ることすらできないと言うことか。しかし、それでも普段と同じ無表情を貫いているのは、 ただ緊張や不安という感情を持ち合わせていないためか、それとも見せないようにしているか。 以前みたいに脱出のためのヒントも期待できないだろう。どうすりゃいいんだ。 「我々からこの状況を同行できる状態ではありません。今は仕組んだ者の思惑に乗るしかないでしょう。今はね」 古泉の言うとおり、どうにかする手段どころか手がかりすらない。腹立たしいが、今はこのバカみたいな展開を 乗り切ることを考えるか。 ふと、長門がじっと俺を見たまま動かないことに気がつく。表情もそぶりもいつものままだが、 俺は何かの感情を込めたオーラのようなものがこっちに向けられていることをひしひしと感じる。 「取り返しのつかない失態。すまないと思っている」 長門は慣れない単語を口に出そうとしているためか、口調がぎこちなかった。だが、 「今のわたしにはあなたを守ることができない」 彼女の意志だけはこれ以上ないと言うほどに伝わった。 ◇◇◇◇ 『あー。テストテスト』 時刻は午前5時半。場所は校庭、俺たちは朝礼台の上でトランジスターメガホンのマイクテストを行う 総大将涼宮ハルヒに向かって、現在朝礼のように全生徒が整列して並んでいる。あと30分ほどで何かが始まるということだ。 ちなみに、並び順はハルヒから向かって右側に戦闘部隊――つまり俺や古泉、鶴屋さんがいる。生徒たちはハルヒだけじゃなく、 どうやらSOS団に深い関わりを持つ人間の言うことには素直に従うように調整されているらしい。さくさくと 1-5組を中心に30人をかき集めて小隊の編成をくみ上げて、こうやって整列している。なんだかんだで谷口と国木田も 俺の小隊に入った。他の二人も同様に編成を終えている。細かい編成内容を説明するのは勘弁してくれ。 無理やり詰め込まれた知識を披露するようなもんで、大変腹立たしいからノーコメントとさせてもらうぞ。 向かって左側にはそれ以外の生徒だ。長門はこっちのグループに入っている。で、なぜか朝比奈さんだけはハルヒのいる 朝礼台の上と来たもんだ。衆目の目前に景気づけにとんでもないことをやらされそうになったら一目散に飛び出すつもりである。 『えー、皆さん!』 準備が整ったのか、ハルヒがトランジスターメガホン片手にしゃべり始めた。 『はっきり言ってなんかよくわかんない状況だけど、あたしについてくれば大丈夫! どっどーんとついてきなさぁい!』 あまりの言いように俺は肩を落としてしまった。もう少し言うことがあるだろうに。誰も見捨てないとか、 みんなで乗り越えようとか。ハルヒらしいといえばそれまでなんだが。 『んで、とりあえず作戦なんだけど、北高の北側に前線基地を作ります。そこの担当は鶴屋さんね! よろしく!」 突然の指名に一瞬きょとんとする鶴屋さんだったが、やがていつもの笑顔に戻り、 「へっ? あたし? りょーかいっ!」 おい、そんなことは初めて聞かされたぞ。前もって言っておけよな。そして、鶴屋さん。それを少しも動じずに 受け入れられるあなたは大物すぎます。 『他の人たちは適当に学校周辺を見張って。特に校庭側に注意すること! 今のところは以上!』 適当すぎる。今からでも遅くない。とっつかまえて再考させるべきではないだろうか。 「すがすがしいほどに簡潔でわかりやすいじゃないですか」 相変わらずのイエスマンぶりを発揮する古泉。もはやつっこみも反論する気にもならん。 『じゃあ、最後に癒し担当のみくるちゃんに、激励の言葉をお願いするわ!』 そう言ってトランジスターメガホンを手渡された朝比奈さんはただおろおろするばかり。 しばらく、ハルヒと言葉を交わしていたが、結局いつものように観念したのか、朝礼台の前に立った。 『ええーと、あのーですね……』 「みくるちゃん! そんな覇気のない声じゃ激励になんないでしょ!」 メガホンなしでもハルヒの声が聞こえてきた。朝比奈さんが不憫すぎる。今すぐにでも助けに行くべきか? しかし、俺が考えている間に朝比奈さんは決意したようで、 『みっみなさーん! がんばってくださーい! 一緒にかえりまひょー!』 その声に全生徒が一斉に腕を上げておー!と答える。ちなみに、男子生徒はやたらと張り切って手を挙げているのに対して、 女子生徒はいまいちやる気なく手を挙げているのは俺の偏見にすぎないのだろうか? ハルヒはとっとと役割を終えた朝比奈さんからトランジスターメガホンを奪い取り、 『よーし! じゃあ、張り切って作戦開始!』 黄色い叫び声が飛んだと当時に、並んでいた生徒たちの整列が解け、それぞれの持ち場に移動を開始した。 やれやれ、これからが本当の地獄だろうな。 と、俺の小隊の連中がぞろぞろと周囲に集まり始めていた。どうやら、俺の指示を待っているらしい。 そんなとき、学校から出て行こうとする鶴屋さんの姿が目に入る。俺は彼女の元に駆け寄り、 「すいません鶴屋さん、ハルヒの奴が勝手なことばかり言って。本来なら俺か古泉が行くべきなんでしょうけど」 「んー? いいよっ、別にさっ! 言い出しっぺはあたしだからちょうどいいよっ!」 変わらずハイテンションだな。ハルヒといい勝負かもしれん。 「じゃっ、あたしは行くよっ! みくるによろしくって言っておいてっ! じゃあ、またねーっ!」 まくし立てるように言ってから鶴屋さんは学校から小隊を引き連れて出て行った。無事を祈ります、鶴屋さん。 「キョンくーん!」 続いて一歩遅れて俺の元にやって来たのは朝比奈さんだ。ああ、そんな息を切らせて走ってこなくても。 呼んでくだされば、たとえ地球の裏からでも馳せ参じますから。 朝比奈さんは呼吸を整えるようにいったんふーっと息を吐き出すと、 「つ、鶴屋さんはもう言っちゃいましたか?」 「ええ、たった今。朝比奈さんによろしくって言っていましたよ」 何か伝えたいことでもあったのだろうか。残念そうな表情を見せる朝比奈さんだった。 「しかし、すごい人ですね。こんな状況だってのに全くいつものペースを乱していないんですから。 俺もあの度胸を少しだけ譲ってほしいかも」 「そんなことないです!」 俺の言葉を即刻否定されてしまった。見れば、普段とは違ったまじめな顔をした朝比奈さんがいる。 「そんなことはありません。鶴屋さんはこの事態を深刻に受け止めているんです。だって……」 朝比奈さんは強調するようにワンテンポをいてから、 「だって、鶴屋さん、ここに来てから一度も笑っていないんです。いつもは少しでも楽しいことがあればすぐに……」 言われてからはっと気がついたね。確かに口調とハイテンションぶりは変わっていなかったが、 一度も笑っていない。いつもあんなに心底楽しそうに笑う人なのに。 「すみません。俺がうかつでした。そうですよね、あの人なりにやっぱり考えることも当然あるでしょうし」 「いいいいえ、別にキョンくんを責めた訳じゃないんですよっ。ただ、鶴屋さんも真剣になっていると わかってほしかっただけなんです」 「それはもう、心の底から理解していますよ」 とまあ、なんだかんだで良い感じになっていた俺たちな訳だが、それをぶちこわす奴が登場だ。 「あ、朝比奈さん! どうも! 谷口でっす!」 おーおー、鼻の下をのばしきった下心丸出しのアホが登場だ。せっかく良い感じだったってのに。 「谷口さんですね。覚えています。映画撮影と文化祭の時はどうも」 丁寧にお辞儀をする朝比奈さんだが、そんな奴にかしこまる必要はありませんよ。顔にスケベと書かれているし。 そこで谷口は突然襟を正し始め、少し不安げな表情になる。そして、ねらい澄ましたような口調で、 「朝比奈さん。実は俺、怖くてたまらないんです。こんな世界に押し込まれてこの先どうなるかもわからない。 だから、せめてあなたの胸で抱擁させていただければ、この不安も少しは解消されて――ぶっ!」 「小隊長命令だ。とっとと朝比奈さんから離れろ」 堂々とセクハラしますよ宣言をしやがった谷口の襟をつかんで、俺のエンジェルから引きはがす。 一瞬息が詰まったのか、谷口は咳き込みながら、 「キョン! なにしやがる!?」 「うるせえ。小隊長命令が聞けないなら、キルゴア中佐命令まで格上げしてサーフィンさせるぞ。当然銃弾が飛び交う中でだ」 「職権乱用だ! 大体、サーフィンってどこでやるんだよ!」 なんてしつこく抗議の声を上げているが完全無視だ。幸い国木田が仲裁に入って、アホをなだめているので、 「ささ、朝比奈さん、ここには野獣がいますから戻った方が良いです」 「あ、はい……」 そう言って彼女は内股走りで去っていった。やれやれ、下劣な侵略を阻止したってことで俺の任務は終了にしてくれんかね。 谷口はまだ何か言って見るみたいだが、完全に無視。で、次にやることはっと…… 「……何をすれば良いんだ?」 俺はハルヒが引っ張り回している120mm迫撃砲を見ながら考え込んでしまった。 ◇◇◇◇ とりあえず、俺は東側からの襲撃に備えて校庭を警備していた。むろん、自分の小隊を引き連れて。 現在午前7時半――日数の期限があるからこういった方が良いか。1日目午前7時半である。 今のところ、全く異常はない。無事にサンハイツに陣を張った鶴屋さんの方にもそれらしいものはないらしい。 と、通信機を持たせているクラスメイトの阪中が、 「涼宮さんから連絡なのね」 そう言って無線機を差し出してきた。すぐ近くにいるのに、わざわざ無線で連絡しなくても。 俺はそれを受け取って――とハルヒと話すのは一時停止だ。 「阪中、すまないがこないだの球技大会の話なんだが……」 「……球技大会?」 何のことかわからないと首をかしげる阪中。覚えていないのか。いや、それともこの阪中は そんな記憶すら存在していないのか。ま、どっちでもいいか。 「いや、何でもない」 そう言って無線機を取る。 『あーあーあー、キョン聞こえる?』 「なんだハルヒ。こっちは特に異常はないぞ」 『オーケーオーケー。平穏無事が一番だわ。前線基地構築に敵もびびったのかしらね! このまま、何もしてこなければ良いんだけど』 相変わらずのポジティブ思考だ。そうなってくれることに越したことはないが。 だが、これを仕掛けた奴もそんなに甘くはない。突然、どこからともなくパーンパーンと 乾いた発砲音が耳に飛び込んできた。やがて、すさまじい連続発射音が鳴り響き始める。 「おい、キョン! なんだなんだ!」 至極冷静な小隊の中で、さっそくあわて始めたのは谷口だ。これが普通の反応なんだろうけどな。 「ハルヒ! 何が起こっている!?」 『鶴屋さんの方に攻撃があったのよ! 今わかっているのはそれだけ! 詳しくわかったらまた連絡するから、 そっちも警戒を怠らないで! オーバー!』 そこで無線終了。ちっ、早速戦闘かよ。鶴屋さんは無事なんだろうか? 俺は校庭の東側に対して警戒を強めるように支持をする。ほとんどの生徒は素直に従うが、 谷口だけはびびっておろおろするばかり。M60なんてデカ物を構えているのは、恐怖心の裏返しなのかもな。 激しい銃声音が響いたのは5分程度だろうか。やがて、それも収まり、辺り一帯に静寂が訪れる。 結局、学校東側からの攻撃もなかったな。 また、阪中が俺に無線機を差し出してきた。ハルヒからの連絡らしい。 『鶴屋さんの方は終わったみたいよ。けが人もなくあっさり撃退したんだって! さっすが、鶴屋さんよね。 SOS団名誉顧問なだけあるわ!』 SOS団は関係ないだろうが、あの人ならこのくらいは平然とやってのけそうだ。 『で、そのまま北山公園の方に逃げていったんだってさ。大体、20人ぐらいが襲ってきたらしいけど』 「20人? なら攻撃してきたのは人間なのか?」 『うーん、それがいまいちはっきりしないのよね。鶴屋さん曰く、人の形を何かが銃やらロケット砲やら抱えてきて 襲ってきたんだってさ。形は人間らしいけど、全身真っ黒でまるでシェルエットみたいな連中らしいわよ。 何人か倒したらしいけど、銃弾が命中すると昔のゲームみたいに飛び散ってなくなっちゃんだって』 なるほどね。ゲームだと思っていたが、本当にゲームの敵みたいな奴が襲ってくるのか。 じゃあ、俺が撃たれても大して痛くないのかもしれないな。それは助かる。 「これからどうするんだ?」 『ん、とりあえず、現状維持で。このまま、3日間学校を守りきるわよ!』 そこで通信終了。すぐさま、阪中に鶴屋さんに連絡を取るように指示する。 『やっほーっ! キョンくん、なんか用かいっ?』 いつもと同じ調子なお陰でほっとするよ。 「鶴屋さん、なんか大変だったみたいだけど大丈夫ですか?」 『へーきへーき! もうみんなそろってぴんぴんしているよっ!』 「そうですか……それはよかった――」 と、そこで鶴屋さんの声のトーンが少し変わるのに気がついた。いや、しゃべってはいないんだが、 息づかいというかなんというか…… 『んーと、おろろっ? なんだあれ――』 いやな予感が走る。なんだ…… 『――伏せてっ!』 無線機から飛び出したのは、今まで聞いたことのないような鶴屋さんの声だった。 恐ろしく緊迫し、驚いているのが表情を見なくても簡単にわかる。 次の瞬間、北高校舎の西側3階で大爆発が起こった。衝撃と音で全身がふるえ、鼓膜が破れるぐらいに 圧迫される。 「みんな伏せろ! とっとと伏せるんだ!」 俺は小隊の仲間をすべて地面に伏せさせた。とはいっても、見通しがよく物陰のない校庭では どのくらい効果があるのかわからないが、呆然と立っているよりも安全なはずだ。 そんな中、阪中は愚直に俺のそばにつき、無線で連絡が取れるような状態にしていた。 本来の彼女ではないのだろうが、こう忠実なのは今ではかえってありがたい。 「鶴屋さん! 何が起きているんですか!?』 『北高に向けて何かが飛んでいっているっさ! まだまだそっちに行くよ! ハルにゃんと連絡を取りたいから、 いったん通信終了っ!』 無線が終了して、阪中に無線機を返す。冗談じゃねえ、敵はミサイルかロケット弾か何かを 北高に向けて撃ってきているってのか!? 反則だろ! 反撃のしようがねえじゃねえか! さらに続けざまに2発が校舎側に直撃し、さらに一発が俺たちの目前に広がる校庭の東側に落ちた。 轟音で地面全体が振動している。 そんな中、器用に匍匐前進で谷口が近づいてきて、 「おいキョン! このまま、ここにいたらやべえぞ!」 「言われんでもわかっているさ!」 やばいのは重々承知だ。しかし、校舎側にも激しい攻撃――また3発が校舎に直撃した――が加えられている。 あっちに逃げても状況が変わらない上、人口密度が増えてかえって危険だ。なら、いっそのこと、 北高敷地外に出るか? いや、あわてふためいて逃げ出したところを敵に襲撃されたらひとたまりもない。 案外、学校周辺に敵が潜んでいて、俺たちが北高から飛び出すのを待っているかもな。校庭に塹壕でも 掘っておくんだったぜ。 どうするべきかつらつら考えていていたが、ふと気がつく。さっきの校舎に直撃した3発以降、 北高に何も攻撃が加えられていない。収まったのか? 俺は全員に伏せるように指示し――ついでに東側から敵が襲ってきたら遠慮なく撃てとも―― 俺自身は校舎に小走りに向かった。 ◇◇◇◇ 学校は凄惨な状況だった。学校の外壁には穴が開き、衝撃で校舎の窓ガラスがかなり割れてしまっている。 負傷者も出たようで、担がれて運ばれていく生徒もちらほらと見かけた。 と、状況確認のためか走り回っていたハルヒが俺に気がつき、 「キョン! よかった無事だったんだ!」 「ああ、おかげさまでな。俺の部隊も全員無事だ。負傷者もない。しかし、こっちは手ひどくやられたな」 「うん……。幸い、重傷者はでていないけど、窓ガラスの破片で数人が怪我をしたわ。今、みくるちゃんが手当してる」 朝比奈さんが看病? 当然膝枕の上だろうな? なんだか無性に負傷してきたくなったぞ。 「なに鼻の下のばしているのよ、このスケベ」 じと目で下心を見破るハルヒ。こういうことだけはほんとに鋭い奴だ。 「で、これからどうするんだ? このままだと、またさっきの奴が飛んでくるぞ」 「わかっているわよそんなこと」 ハルヒはあごの手を当て考え始めた。と、すぐそばを負傷した生徒が抱えられていった。 顔面に傷を負ったのか、激しい出血が迷彩服に垂れかかり、別の色に染め上げつつあった。 「状況は一変したわ。作戦の練り直しが必要だと思う」 ハルヒが取った行動は、SOS団メンバーを集めてミーティングを開くことだった。 さすがのこいつでも一人では決めかねるらしい。独断で何でも決められるのよりは何十倍もマシだが。 のんきに部室に戻るわけにも行かず、昇降口前での緊急会議だ。 ただし、鶴屋さんだけは前線基地から動けないので、無線越しである。 さらに朝比奈さんは負傷者の救護で手一杯らしく不参加。手当を求める『男子生徒』の長蛇の列を捌いているとのこと。 絶対に負傷していない奴も混じっているだろ、それは。 「最初に前線基地が攻撃されたかと思えば、今度は遠距離からの攻撃ですか。敵もいろいろと考えているようですね」 感心するように古泉はうなずいているが、そんな場合じゃないだろ。 さっきは十発程度で終わってくれたが、次はこれ以上かもしれない。校舎の被害は大きいが、 本当に幸いだったのは、砲弾やらなんやらが置かれているところに直撃しなかったことだ。 万一、誘爆なんていう事態になれば、どれだけの犠牲者が出たかわからん。 さすがのハルヒもまいってしまっているのか、いつものような覇気が50%カット状態だ。 真剣に考えてくれるのはありがたいけどな。 「このままじゃまずいわね。何とか反攻作戦を練らないとね。 有希、さっきのミサイルみたいな奴がどこから撃たれたか、わかった?」 「この建物の北東に位置している北山公園の南部。屋上で周辺を監視していた人間から確認した。 ただし、具体的な場所までは不明。範囲が広いため、砲撃による反撃を行っても効果は薄い。 かりに砲撃で向こうと撃ち合っても勝てる可能性はきわめて低い」 的確な答えを出す長門だ。宇宙人パワーを失っても、長門本人の能力は失われていないらしい。頼りになるぜ。 「なるほどね。鶴屋さん、さっきそっちを襲った連中も北山公園に逃げ込んだのよね?」 『そうにょろよっ! でも、公園の北側に逃げていったように見えたっさ!』 ん? 鶴屋さんの言うことが本当なら、前線基地を襲った連中が学校へロケット弾やらミサイルでの 攻撃をした訳じゃないってことか? 「でも、簡単よ! 敵は北山公園にあり! だったら、こっちから出向いて北山公園全部を制圧すればいいだけのことよ! そうすれば、さっきの奴もなくなるしね!」 ここに来て突撃バカぶりを発揮するハルヒと来たか。しかし、間違ってはいないな。 どのみち発射地点を制圧するなり、さっきの攻撃手段をつぶすなりしないかぎり、一方的に攻撃を受け続けるだけになる。 「罠の可能性もありますね」 唐突にそう指摘したのは古泉だ。 「鶴屋さん部隊への攻撃は非常に小規模のものでした。そして、あっさりと撤退しています。 その次に北高へのロケット弾攻撃ですが、これも十発程度で終わっています。 本気で攻撃するのならば、もっと大量に撃ち込んでくるでしょう。あきらかに北山公園に我々を呼び込もうとしています」 「最初の襲撃に関してはそうかもしれないが、ロケット弾攻撃に関しては弾が尽きただけかもしれないぞ」 俺がそう反論する。ハルヒもうーんと同意のそぶりを見せた。ただ、古泉は、 「確かにその可能性はゼロではありません。しかし、これだけ有効な攻撃手段であるものを 序盤で使い切ってしまうのは、明らかに不自然と言えます。切り札を使い切ってしまったのですから。 無論、あれ以上の効果的な攻撃手段を保有していて、今回のロケット弾攻撃は挨拶程度のものという可能性もありますが」 どっちなんだ。はっきりと答えろよな。 「僕が言いたいのは、誘い込むための罠という可能性があるということです。北山公園に攻め込むことを決定する前に、 考慮していても損をすることはありません」 確かに古泉の指摘する可能性は十分にある。しかし、ここにいてもどうにもならんのも確かだ。 そうなると、ハルヒが導き出す結論は一つしかない。 「確かに古泉くんのいうことには一理あるわ。でも、このままだと攻撃を受け続けるだけだし、 そんなのおもしろくないじゃない。相手がびびっているのか知らないけど、遠く離れたところからこそこそ攻撃してくるなら、 こっちからぶっつぶしに行くだけよ!」 ほらな。ハルヒの性格を考えれば、じっとしているわけがない。古泉もひょうひょうといつものスマイルで、 「涼宮さんがそう決定なさるのなら、僕もそれに従いますよ。上官の命令は絶対ですから」 そうイエスマンへと転じた。ただ、こいつの指摘も無駄ではなかったらしい。 「でも、少しでも罠っぽい状況だとわかったら、即座に撤退するわ。その後は別の方法を考えましょ」 ◇◇◇◇ 次の議題は北山公園攻略作戦だ。この公園は南北に2キロ程度広がる森林のようなものになっていて、 南北の中間地点のやや南側には緑化植物園があり、公園入口っぽくなっている。 「やはり、突入ポイントはこの植物園でしょう。部隊の輸送には北高敷地内にあるトラックを使うことになるので、 車両で入れる場所が理想的です。当然、敵も同じことを考えているでしょうから、植物園奪取には激戦が予想されますね」 淡々と古泉のプランを聞いているSOS団-朝比奈さん+鶴屋さん。わざわざ敵が陣取っているような場所に 正面からつっこむのか。ハルヒが好みそうな作戦だな。 「悪くないわね。植物園を取ってしまえばこっちのもんだわ! あとはロケット弾の発射拠点を制圧して完了ってわけね! さっすが古泉くん! 副団長なだけあるわ!」 ハルヒの賞賛を一心に浴びて、古泉は光栄ですと答える。やれやれ、本当に突撃になりそうだ。 「で、誰の小隊が北山公園での掃討作戦に従事するんだ?」 「あんたと鶴屋さんよ」 とんでもないことをいけしゃあしゃあと言いやがる。古泉の野郎はどうするんだよ? 「古泉くんはいざって時のために前線基地で後方待機してもらうわ。あんたたちがやばくなったら、 すぐに駆けつけられるようにね。あと、伏兵とかが学校に奇襲を仕掛けてきた場合はすぐに戻ってもらうから」 どうしてそうなったのか聞かせてもらおうか。 「わかんないの? まず、あんたには鶴屋さんたちを襲った連中を追撃するために北山公園北部に向かってもらうわよ。 初めて遭遇した鶴屋さんがあっさりと追い払ったんだから、あんたでも大丈夫でしょ。鶴屋さんは一度だけとはいえ、 敵と戦っているわ。敵について知っているのと知らないんじゃ大違いよ。だから、南部のロケット弾発射地点に 向かってもらうわ。おそらくそこの守りが一番堅いと思うし。学校からトラックで向かうから、 途中で古泉くんと入れ替わってもらうわね。いい、鶴屋さん?」 『りょーかいりょーかいっ! 任せちゃってほしいなっ!』 「古泉くんはあんたよりも運動神経も思考能力も遙かに上よ。状況に応じて臨機応変に対応する必要のある場所にいるのが 最適だわ。あと、有希は学校に残って砲撃での支援をお願い。こっちから指示した地点に遠慮なく撃ち込んで。 古泉くん、有希、いいわね?」 「もちろん異存はありません」 「問題ない」 あっさりと同意する二人だが、ん、ちょっとまて。 「それなら植物園には誰が陣取るんだよ。まさか、空っぽにするつもりじゃないだろうな?」 「そこにはあたし自らが行くわ。あとで、適当な人員を集めるから」 ハルヒ総大将自らがお出ましか。だが、指揮官がそんな銃弾が飛び交う場所にいて良いわけがない。 「あのなハルヒ。以前にも言ったが、総大将がずけずけと前線に出るモンじゃないぞ。 おまえがやられちまったら、生徒たちを誰が――」 「異論は許さないわよ」 俺の声を遮ったハルヒの言葉は、今まで聞いたことのないような鋭さだった。ただ、怒りやいらだちからくるものではない。 強烈な決意がにじみ出るようなものだ。わかったよ。おまえがそういいなら好きにしろ。 しかし、俺の中にあるこのもやもや感は何だ? ◇◇◇◇ さて、作戦も決まったことなのでいよいよ決行だ。ハルヒ小隊の編成が終わり次第、出撃と言うことになる。 俺たちは校門に並べられた輸送トラックの前でそれを待っている。 「正直に言ってしまえば、少々不安ですね」 突然、こんなことを言い出したのは古泉だ。おいおい、出撃直前に不安になるようなことを言い出すなよ。 「涼宮さんがあなたが敵と確実に一戦交えるような場所に送り込むとは思っていませんでした。 てっきり学校に残して後方支援をさせたり、最悪でも僕のポジションが与えられるものだと。 涼宮さんと一緒に植物園にいるならまだ納得ができますが、あなた一人をそんな場所に行かせるとはね」 「はっきりと言え。時間もないことだしな」 「涼宮さんが現状をきちんと認識しているかどうか、ひょっとしたらあのコンピュータ研とのゲーム勝負程度として 考えているのではないか、そう思っているんですよ。あなたを危険な場所に向かうように指示したと言うことは、 あなたが死んでしまうかもしれないということを考えていない証拠です。信頼といってしまえば、それまででしょうけど、 今はそんな状況ではありません。鶴屋さんが敵を撃ったときに、まるでゲームキャラクターが消えるかのようになったと 言っていましたね。あれで僕たちもそうなのかもしれないと思いましたが、先ほどのロケット弾攻撃で 負傷した生徒を見るとどうも違うようです。確実に僕たちに『死』が訪れるかもしれません」 「確かにな。そんなに甘くないことは、俺も理解しているつもりだ」 ハルヒが今の状況をどう考えているのか。それはハルヒ自身にしかわからないことだろう。 だが、一つだけ言えることはある。 「俺がいえるのは、どんな状況であろうともハルヒは、誰かが死ぬことなんて望んでいない。 SOS団のメンバーならなおさらさ。万一、誰かが傷けられたら、ハルヒはやった奴をたこ殴りにするだろうよ」 「それはわかります。しかし――」 俺は古泉の反論を遮って、 「さっきのおまえの言い方だと、まるでハルヒは鶴屋さんならどうなっても良いってことになっちまう。 だが、断言できるがハルヒはそんなことなんて思ってもいないだろうよ。古泉も別にかばいたくて、 一歩下がった場所に配置したんじゃない。ただそれが適切だと考えたのさ」 ――俺はいったん話を区切って、話すことを整理する―― 「ハルヒはハルヒなりに考えたんだろ。どうすれば、このくそったれな状況を乗り切られるかを。 で、結論は戦い抜いて乗り切る。そのためには、一番信頼のできるSOS団の人間をフル活用する。 どうでもいいとか、たいしたことじゃないとなんて理由で俺たちを前線に持って行こうとしているんじゃない。 それが乗り切るためにはもっとも適切だと判断したんだろうな」 ガラにもなく古泉調の演説をしちまったが、古泉は痛く感銘したのかぱちぱちと手を叩きながら、 「すばらしいです。そこまで涼宮さんの思考をトレースできるなんて。どうです? これからは 機関への報告書作成をしてみませんか? 僕よりも適切なものが書けると思いますよ」 「全身全霊を持って断る」 そんな疲れるものなんてこっちから願い下げだ。 「おっまたせ~!」 と、ここで30人ばかしを引き連れたハルヒ総大将が登場――と思ったら、いつもつけている腕章が『中佐』になっている。 いきなり降格かよ。 「バカね! 前線に出るんだからそれなりに適切な階級があるってモンでしょ。大将とかってなんだかデスクの上に ふんぞり返って命令しているようなイメージがあるし。中佐なら、映画とかなんかでも前線でドンパチやっているじゃん」 ……まあ、それは別にかまわんけどな。 ハルヒが編成した連中はみんなクラスもバラバラ性別もバラバラだった。 大方、その辺りを歩いていた奴を捕まえてきたんだろう。にしては、結構時間を食っていたみたいだが。 「あー、ラジカセと音楽を探していたのよ。景気づけにワルキューレの騎行でも流しながらつっこめば、 敵も混乱するんじゃないかって。でも、ラジカセはあったんだけど、肝心の音楽の方がね」 ヘリで突入する訳じゃないんだから、別に必要ないだろ。心理作戦が通じるような相手でもなさそうだし。 ふと、気がつくと朝比奈さんと長門も校門前にやってきていた。おお、朝比奈さんに見送っていただけるとは光栄ですよ。 「古泉くん……どうか気をつけてね」 朝比奈さんのありがたいお言葉に古泉はいつものスマイルだけ返していた。まったく価値のわからない奴である。 「キョンくんも気をつけてね。無事に帰ってきてくださいね」 「ええ、がんばってきます」 と、そこに長門が割り込むように、俺をじっと見つめ始める。表情は相変わらずだったが、漂うオーラみたいなものは はっきりと感じ取れた。 「心配すんな、長門。なるようになるさ。支援よろしくな」 長門は俺の言葉にこくりとうなずく。やっぱり、親玉とのつながりをたたれて不安になっているのだろうか。 ややいつもと違う雰囲気を醸し出している。 「こらキョン!」 せっかくこれから戦地に向かう兵士が見送りをさせられる気分を味わっていたのに、それをぶっ壊したのはハルヒだ。 「なにやってんのよ! まさか、有希やみくるちゃんに『帰ってきたら~』とか言ったんじゃないでしょうね! それはばりばり死亡フラグなのよ! いい? あんたはあたしの下でビシバシ働いてもらうんだからね! 勝手に死んだりしたら絶対に許さないんだから!」 言っていることがよくわからん。もっとわかりやすく説明してくれ。 「要約すると、とっととトラックに乗りなさい! 出撃するわよ!」 やれやれ、なんてわがままな中佐殿だ。 まあ、出征前モードはここで終了だ。俺は大型トラックに自分の小隊を乗せるように指示し、 俺もそれに飛び乗る。いよいよか。しかし、ちっとも緊張しない上に、慣れた感覚に頭が満たされるのは、 相当俺の頭の中をいじくられていることの証拠だろう。当然、戦地に向かうってのに、 まるで何も反応を示さない俺の小隊もだ。おびえた表情を浮かべる谷口をのぞいてだけどな。 「よーし、出撃! 一気に北山公園に突入するわよ!」 ハルヒの威勢の良い声とともに、北山公園に向けトラックが発進した―― ◇◇◇◇ この時、俺はハルヒは状況を理解していて、これからどんなことが起きるのかもわかっていると思っていた。 だが、それは間違い――いや、正確にはハルヒは理解していたのかもしれない。間違っていたのは、 俺自身の認識だったんだ。ハルヒがどう思っているか勘ぐる資格なんてないほどにな。 ~~その2へ~~