約 2,288,010 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1961.html
【キャラ設定】 涼宮春日:涼宮ハルヒ これがデビュー作なのでかなり立場が弱く、性格も弱弱しい。 特技:裁縫、料理 尊敬する女優:長門有希 長門有希:長門有希 結構有名な女優で面倒見がいい。ドラマの名前と本名が同じ 特技:暗算、世話 尊敬する女優:綾波玲子 朝日未来:朝比奈みくる 大物女優だが仕事はほとんどグラビア。後輩いじめが激しい 特技:誘惑、フェラ 尊敬する女優:いない 鶴屋和子:鶴屋さん こちらは歌手+女優+タレントの超大物で未来も頭が上がらない 特技:カラオケ、一気飲み 尊敬する女優:流アスカ 緑川江美里:喜緑江美里 未来と同じ大物女優でライバルも未来。結構世話焼きらしい 特技:空手、素股 尊敬する女優:翠星恭子 横倉良子:朝倉涼子 春日の次に新人だがドラマは3本目。長門と仲がいいらしい 特技:手品、スポーツ全般 尊敬する女優:長門有希 小野妹子:キョン妹 天才子役。はっきりものを言うので未来といい勝負。春日を尊敬している。 特技:バトン、縄跳び 尊敬する女優:涼宮春日 阪中文恵:阪中 普通の女優。売れ具合は平凡で自分もそんなもんだろうと思っている 特技:射的、金魚すくい 尊敬する女優:洞木光子 山田花子:朝比奈さん(大) 未来と似ているためにスカウトされた人。春日と仲がいい 特技:裁縫←天才的 尊敬する女優:朝日未来 森レイカ:森園生 美人ピン女芸人。今回初めてドラマに挑戦、ファンもいるので結構有名 特技:一発芸、ものまね 尊敬する芸人:赤城律子 新川源一郎:新川執事 超大物俳優で時代劇からポップなドラマに挑戦。楽屋では神様らしい 特技:剣道、作法 尊敬する俳優:(故)冬月源一 堤下吉安:多丸圭一 エヴァにも出演していた俳優で今でも現役バリバリ。 特技:大工仕事、運転 尊敬する俳優:新川源一郎 田丸祐:多丸祐 二枚目俳優で、歌手でもデビューしている。結構ひ弱 特技:英語、短距離走 尊敬する俳優:六分儀原堂 【禁則事項】:キョン ここでも本名は禁句らしい。ドラマと違い、実際は几帳面な性格 特技:掃除、心理学 尊敬する俳優:碇信二 林原一樹:古泉一樹 ハンサムのくせにオタクの2ちゃんねらー。皆に呆れられている 特技:煽り、タイピング 尊敬する俳優:ジン・サクラダ・JUM 谷口健太:谷口 大物俳優だがサバサバしていて嫌味もない、リアルな鶴屋さん 特技:ダンス、ボクシング 尊敬する俳優:有馬総一郎 国木田和利:国木田 こちらも大物俳優で谷口と仲がいい。趣味は骨董品集めらしい 特技:きき温泉、歴史 尊敬する俳優:工藤新一 影野隼人:コンピ研部長 名脇役でいつになっても脇役らしい。夢はレギュラー番組をもつこと 特技:速読、ツッコミ 尊敬する俳優:脇役俳優全て 大鷹凌:生徒会長 俳優業は短いが、幅広いドラマに出演している実力者。 特技:長距離走、柔道 尊敬する俳優:新川源一郎 シンドウカオル:パンジー(仮) 美少年で演技もうまいが嫌味でキョンをよくいじめる。ナルシスト 特技:自画自賛、美術 尊敬する俳優:いない 猫丸:シャミセン よく訓練されている天才猫でテレビに出たことも多々ある。 特技:爪とぎ、ジャンプ 尊敬する猫:ドラえもん 熊田岩男:カマドウマの中身 重い着グルミなどでは多々呼ばれる力一本の裏方。あだ名は熊さん 特技:力仕事、パンチ 尊敬する俳優:筋肉マン 「涼宮ハルヒの舞台裏」~かわいい顔して高飛車編~ 監督「収録終わりです。おつかれ」 一同「お疲れ様でした!」 ~楽屋にて~ みくる「・・・あなた今日何回リテイクされたの!」 ハルヒ「あの・・・すいません・・・7回です・・・」 みくる「大女優の私が直々にあなたのいじられキャラになっているのよ!」 ハルヒ「すいません・・・・・・」 みくる「・・・まったく!今度失敗したらタダじゃおかないわ!」 ハルヒ「ごめんなさい・・・・・・シクシク・・・」 みくる「ふん・・・部屋掃除しといてよね」 ハルヒ(辞めようかな・・・この仕事) 涼宮ハルヒの舞台裏」~面倒見のいい先輩編~ 監督「収録終わりです。おつかれ」 一同「お疲れ様でした!」 ~楽屋にて~ 長門「春日ちゃん!元気ないけどなんかあったの?」 ハルヒ「・・・・・・昨日未来さんに怒られて・・・」 長門「そうなの・・・あなたも主人公だから大変よね」 ハルヒ「私・・・辞めたいとも思ってます・・・シクシク」 長門「それは駄目よ!」 ハルヒ「な・・・なんで・・・ですかぁ・・・?」 長門「この仕事ではドロドロしたこともよくあること・・・私も昔はそうだった・・・ でも逃げちゃ駄目よ!我慢すればきっと幸せだから!」 ハルヒ「本当ですかぁ?」 長門「うん・・・あなたはこれがデビューでしょ?リテイクなんて当たり前よ でも・・私はあなたの演技はすごく好きだわ」 ハルヒ「・・・うっ・・・うわあああああん!・・・長門さぁん・・・」 長門「よしよし・・・一緒に頑張りましょ」 「涼宮ハルヒの舞台裏」~脇役は結構有名人~ 監督「収録終わりです。おつかれ」 一同「お疲れ様でした!」 ~楽屋にて~ キョン「お疲れ様でした!」 谷口「おう!おつかれ」 キョン「すいません・・・俺なんかが主役で・・・大物俳優の谷口さんが脇役で・・・」 谷口「そんなこと気にするな!気にするな!」 キョン「そうですか?」 谷口「おう!俺は主役やりすぎて逆に脇役に飢えているからな!」 キョン「ありがとうございます!」 谷口「お前も俺のこと下の名前で呼んでいいんだぞ!」 キョン「そ・・・そんな!大物俳優の谷口さんを下の名前なんて・・・」 谷口「そんなこと気にするなって!どうだ?この後いくか?」 キョン「ぜ・・・ぜひ、ご一緒させて下さい!」 谷口「今日は俺の奢りだぜ」 キョン「そ・・・そんな!俺が出します」 谷口「大丈夫だって!俺に任せろ」 キョン(谷口さん・・・本当にいい人だな・・・) 「涼宮ハルヒの舞台裏」~鶴屋さんは空気が読めない編~ 監督「収録終わりです。おつかれ」 一同「お疲れ様でした!」 ~楽屋にて~ ハルヒ「なんか今日は疲れたな・・・」 長門「私なんてアクションシーンがあったから・・・」 みくる「ああもう!今日は早く家に帰りたいわ!」 鶴屋「お疲れぇ!今日はカラオケ行くわよ!」 一同「・・・・・・・・・」 ハルヒ「ちょっと今日は・・・」 鶴屋「なんでなんで!?行こうよカラオケ」 長門「すいません・・・用事があるので・・・」 鶴屋「しょうがないわね・・・未来!一緒にカラオケ行こう!」 みくる「あ・・・あの私は・・・・・・ご一緒させていただきます」 鶴屋「それじゃあ行くわよ!朝まで歌うわよ!!」 みくる(くそっ!あの先輩!空気嫁ってんだアホ) ハルヒ「鶴屋さん・・・あんがい最強?」 「涼宮ハルヒの舞台裏」~古泉オタク編~ 監督「収録終わりです。おつかれ」 一同「お疲れ様でした!」 ~楽屋にて~ キョン「お疲れ一樹!」 古泉「乙カレー!うはwwwテラツカレタwww」 キョン「う・・・うん・・・疲れたな・・・今日は・・・」 古泉「オマエモナー」 キョン「ああ・・・俺も疲れているよ・・・」 古泉「ショボーンって感じすかwww」 キョン「ああ・・・少し憂鬱だな・・・・・・」 古泉「ギガワロスwww憂鬱とwwwダジャレすか?www」 キョン「・・・ダジャレじゃないよ・・・はは・・・」 古泉「そうすかwwwうはwww自爆wwwテラハヅカシスww」 キョン(喋りにくい・・・VIP語?) 「涼宮ハルヒの舞台裏」~キョンとハルヒは似たもの同士~ 監督「収録終わりです。おつかれ」 一同「お疲れ様でした!」 ~廊下にて~ キョン「お疲れ様」 ハルヒ「あ・・・お疲れ様です。キョン君・・・」 キョン「君もリアルでキョン君って呼ぶのか・・・?」 ハルヒ「す・・・すいません!呼びなおしますから!」 キョン「あ・・・いいよ。どうせ禁則かかるから・・・」 ハルヒ「そうなんですか・・・」 キョン「それよりどう?職場の雰囲気」 ハルヒ「それが・・・未来さんがちょっと怖くて・・・」 キョン「そうなんだ・・・大変だね」 ハルヒ「で・・・でも長門さんが励ましてくれるんです」 キョン「そうなんだ・・・こっちは谷口さんが気さくなんだ」 ハルヒ「いいなぁ・・・男性の方は雰囲気もよさそうですね」 キョン「古泉が少し意味分からないんだけどね・・・」 ハルヒ「私は女性のほうに江美里さんが来るらしくて・・・」 キョン「そうなんだ・・・大女優だからね江美里さん」 ハルヒ「ちょっと心配です・・・」 キョン「大丈夫だよ!俺も応援してるから」 ハルヒ「ありがとう・・・」 谷口(若い子はいいなぁ・・・初々しいぜ!) 「涼宮ハルヒの舞台裏」~年下は強し~ 監督「収録終わりです。おつかれ」 一同「お疲れ様でした」 ~楽屋にて~ みくる「ちょっと!妹!リテイクなにされてんのよ!」 妹「あれはキョンとかいうヘタレだから私じゃないわ」 みくる「キョンの失敗もあんたと同じよ!」 妹「五月蝿いわ!春日さん以下の存在のくせして」 みくる「なによ!あんなペーペーの新人なんて目じゃないわ」 妹「はっ!巨乳と童顔しかないあんたより春日さんのほうがマシだわ」 みくる「五月蝿い!あんたは子供だから色気がないのよ!」 妹「色気なんてそのうち出るわよ!あんたはもう少しでおばさんだから!」 みくる「五月蝿いのよ!あんたはクマさんパンツでしょどうせ」 妹「なに?私の下着に興味があるの?このヘンタイ!」 みくる「なっ・・・なんですって!あんたの演技なんてクズよ!」 妹「巨乳とったらなにも残らないあんたに言われたくはないわね」 みくる「あんたは何もないから取るものがないわね」 妹「五月蝿いよ!私にはこのスレンダーなボディだあるんだから」 みくる「でている場所が下なんだから意味がないわねぇクスクス」 妹「あんたは下も二の腕も出ているからヤバイわよ!」 みくる「出てないわよ!あんたはカミブッ・・・」 妹「あらーこの程度で下噛むなんて、あんた女優辞めたら?」 みくる(あんちきしょぉぉぉぉ!) ハルヒ「うわぁ・・・強いだなぁ妹子ちゃんって」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4083.html
涼宮ハルヒの霍乱? -1 - 事の始まりとは、えてして奇妙なもので、もう二月も終わろうというのにいきなり天気予報に雪マークが溢れかえったりするものだから、一向に梅も咲かねば鶯もとんと見かけぬありさま、巷ではマスクをした善男善女が一向によくならぬ景気を嘆き右往左往している中、我がSOS団にも風邪の魔の手が忍び寄ったのか、はたまた、ハルヒの強制コスプレが災いしたのか、お茶です、とトレイを運ぶ朝比奈さんが、可愛いくしゃみをしたのが、そうと言えばそうであるかのもしれない。 おや、朝比奈さん、風邪ですか?そんな寒そうな衣装はさっさと着替えて、暖かくして早く帰ってはどうですかと、俺が尤も至極な事を話しかけていると何が気に障ったのかハルヒはとんでもない事を言い始めた。 「風邪なんてものは気合よ、気合!かかると思うからかかるんだって」 おいおい、そりゃあ無いだろう。それにインフルエンザだって流行ってるんだから、無理させないほうが良いと思うぞ。一回くしゃみをしただけで、朝比奈さんが目をうるうるさせちゃでるじゃないか。 「インフルエンザは、かかったやつがフラフラ出歩いてばら撒いてあるくからいけないんじゃない。 気合が足らなくてインフルエンザにかかったら、 未練たらしくウロウロせずに責任とってじとっと家で大人しくする。 出歩いたり、見舞に来させたりとか甘ったれたこと考えるなんて獄門貼り付け・・・・くちょん。」 おい、まさかハルヒも風邪か? 翌日、その、まさかという出来事がおこった。ハルヒがインフルエンザで欠席したのである。 - 2 - 部室でチリチリと音のする電気ストーブに当たりながらぼんやりと窓の外に目をやる。静かだ、世界中の喧騒がいきなりお暇を頂いて一斉休業にでも入ったのかと訝るほどに静かだ。一体全体どうしたってここは真剣に悩むべきなのかも知れないってことは一切考えずに、ハルヒにゃ悪いが、たまにはこんな風に静かなのも有りかもしれん、なぞと思いつつ、ひたすら来ない次の一手を待っていると古泉の携帯がなった。 「すみません、残念ですがこの続きはまた、バイトです」 そういって、立ち上がりながら、危険を感じのけぞる俺の耳元に、 「どうも、いつもと様子か違う様です。少々上のほうはパニックになっていまして。」 と囁いてそそくさと帰っていった。 「あのぉ、やっぱりお見舞い行かなくて良いんでしょうか?」 朝比奈さん、ハルヒが事もあろうに流行に乗り遅れたら沽券にかかわるとばかりに突然インフルエンザで寝込んでしまったんですから仕方ないですよ。うつるから面会謝絶だってメールが来たでしょう。あいつの事ですから、二三日病人を堪能したらケロッとしてまた出てきますから。この週末はゆっくり休めということじゃないですか。 なあ、長門もそう思うだろ? 「そう?」 何気に疑問形? 「情報収集が必要。私は帰る。」 そう言うと読んでいた本を閉じ、長門もすすっと帰ってしまった。おい、何か問題が起きているのか? そぞろ俺たちも解散にするべきではあるまいかと朝比奈さんに声をかけようとしたら、バタンと大きな音をたてて部室の扉が開き、鶴屋さんが入ってきた。 「お、やっぱりハルにゃんお休みなんだねえ、お、キョン君もお帰りかい?」 ええ、お先に失礼します。この人ばっかりは静かになってはいなかったと、気おされるように思わず部室から出てきてしまった。朝比奈さんと並んで下校ができるかと思ったんだがな。半分未練を引きずりながら、いつもより三割増しに静かな道をたどって漸く家へと帰りついた。本当に静かだよな。 - 3 - 「おーい、キョン君。こっちこっち。 お姉さんをまたせるなんて、君も随分偉くなったにょろ。」 待たせたって、そんな。鶴屋さんからメールをもらって、真っ直ぐ走ってきたんですが。この先輩の時間感覚はどうもハルヒの向こうを張れそうなぐらい、そこはかとなくぶっちゃけているに違いない。 「実はみくるっちが、ハルにゃんの事で落ち込んでてね。何かお見舞いを届けたいって言うから、キョン君、付き合ってやってくれないか。 そろそろ駅前の喫茶店に着いてるはずだからっさ。 で、あたしは用が出来たから代わりに頼まれたって言っておいておくれよ。 代わりを頼むと言うより、お姉さんからの、ちょっとしてプッシュっさ。 はい、これは軍資金。返す心配しなくていいし、みくるちゃんには内緒だからね。 それより、デートなんだからみくるを寂しくさせちゃ駄目にょろよ。 あ、お姉さんのお土産はスモークチーズで良いからね。」 一方的にまくし立てて、小さな封筒を俺に押し付けるとサッサと帰ってしまった。 唖然としながら封筒の中を確認すると、俺のおよそ一ヶ月の小遣い相当額が入っている、 - 4 - 店に駆けつけると朝比奈さんは薄いピンクのコートを着たまま、奥の方の二人用のテーブルで、紅茶を前に俯いていた。すみません、と声を掛けて向かい合わせの席に着く。 「あ、キョン君。どうしたんですか? でも、良かった。相談したい事があったんです。」 鶴屋さんから代理を頼まれた事を告げると、朝比奈さんは目をうるうるし始めた。え、なんか、状況的に俺が公衆の面前で美少女を一方的に泣かせている悪者になってるみたいなんですが。 「あの、ちょっと前から、連絡がとれなくなってしまったんです。涼宮さんの事もあるし、 私、自分が消えてしまいそうな気分で、不安で。 それで、とってもキョン君に会いたかったんです。」 それって未来、えっ、手、手を握っていただけるのは嬉しいのですが、お店の人も見てますし、あの・・・ うろたえる俺の手を引き寄せて、その上に突っ伏して声を押さえて泣きはじめてしまった。手の甲に落ちた涙が、袖口にすっと流れてきた。マジ泣きですか? ひとしきり泣き終えると、ちょっと直してきます、御免なさいとハンカチとバッグを握って立ち上がって化粧室へいってしまった。 周囲からの一様な冷たい視線を感じながら、ようやくやって来たウエイトレスさんにコーヒーを頼むと、 「伝言です」 と、そっとメモを渡された、え、喜緑さん。どうして此処に? メモには綺麗な明朝体で『不確定要素が多すぎる、軽軽な言動は危険』と意味不明な事が記してある。長門・・・なのか? - 5 - 戻ってきてしきりに誤る朝比奈さんを制して、レジを済ませて外にむかう。 「いつも奢ってもらってるから、今日は良いんです。私が払いますから。」 いや、良いんです、俺に支払いをさせてください。お願いします。鶴屋さんの顔が浮かび、思わずお願いしてしまった。 歩き出した俺の横にくると腕をとって背伸びをするように耳元へ朝比奈さんが話すところによると、やはり、今朝から断続的に未来との連絡がとれなくなってきたらしい。そして、部室を出る頃がらはまったく返事が無くなってしまったとの事。 どうしたんでしょうね、やっぱりハルヒなんでしょうか、そんなに怖がらなくっても、そうか、やっぱり未来に帰れなくなっては大変ですからねと答えながら歩く日暮れの商店街は、二月の末だからか、やけにひっそりとしているのですが、何ですか、コートをの上からも腕に感じるその柔らかいものは? 気づいたとたん全身の感覚が腕に集中して、空気を求めて水面に浮かぶ金魚のように口がパクパクしてくる、もう、耐えられません。 「涼宮さん、あんなメールくれたけど、やっぱり病気は辛いと思います。 ・・・ そうなんです、だから、やっぱりお見舞いに行かなくっちゃいけないんです。 お見舞い、何がいいでしょう?」 気もそぞろに、そうですね、やっぱり無難にお花と果物とかが良いんじゃないでしょうかなぞと、当たり障りのなさそうな答えをしていると。 「やっぱりそうですよね、でも、キョン君にそう言ってもらうと助かります。 キョン君って、特別な人ですから。 時間移動も、キョン君から頼まれたことは信じられないほどの速さで許可されちゃうし、 ひょっとしたら、私が帰ってしまってからもキョン君とだけは繋がっていられるのかもしれないって考えちゃう事あるんですよ。」 もちろん、もう一人のゴージャス版の朝比奈さん(大)にはしっかりお世話になってきたわけであるから全面的にイエスではあるけれども、今横でホワンとしている当の朝比奈さん(小)にこれを伝える事ははきっと禁則事項であるに違いないはっきり答えるわけにもいかず、仕方なく、そうだと良いですねと答えたわけである。ほかの答えが思い浮かばないくらい至極穏当な答えだろ? -6 - 花屋に入ると、朝比奈さんは凄くうれしそうに花をえらび、いかにも朝比奈さんらしいファンシーな色合いの花を店員さんと相談しながら選んでいる。花篭のアレンジが出来るのを待つ間に、ホワイトデーも近いことなので、それとなく聞いてみることにした。 「朝比奈さんなら、お見舞いとか、プレゼントはどんなものがいいですか?」 「私の事を思って選んでくれたものなら、どんなものでも嬉しいとおもいますよ。」 花屋を出るとウインドウを見ながら歩みをすすめる。この花柄のカップなんか、朝比奈さんに似合いそうですね。 「わあ、可愛い。私が好きそうなものちゃんと見てくれてるんですね。 嬉しいな、でも、陶器のカップって、割れちゃったら寂しいですよね。 好きな人からもらったものが壊れちゃったら悲しいですものね。」 じゃ、身に着けるアクセサリーなんかがいいのか? でも、俺、そんなの守備範囲外だし。って、鶴屋さんの言葉が潜在意識にまるで働いているかのようにデートみたいな展開になってるんですが、良いのですか朝比奈さん? 「風邪にはビタミンCが良いそうです。」 とどこぞの健康雑誌か情報番組を鵜呑みにしたような朝比奈さんのお言葉に従って、 リンゴとキウイとポンカンを山ほど買いこむとハルヒのところへ向かうことにした。 - 7 - 玄関先で花と果物を渡したが、ハルヒは案の定「うつすから絶対会わない!」と布団をかぶってひっこんでいるらしい。 お大事にと伝言を頼んでハルヒの家を後にした。 「今日は本当にありがとうございました、キョン君に来てもらって助かりました。」 そう言ったあと、別れ際に一瞬なにか言いよどんだようだったが、 「じゃ、また。学校で。」 そう、手を振って朝比奈さんは帰って言った。 帰りながらハルヒに、早く元気になって出てこいよ、お前がいないと世界が寂しくなっちまったようでいけないとメールを入れておく。 「もちろん、速攻で治して復活する バカキョンの癖に寂しがるんじゃないの 人間素直が大事だから、今日の事はありがとうって言っておくわ リンゴ、美味しかった」 思いのほか直ぐに返事が来た。メールを待ってたのか? いつの間にかすこし大きくなった街のざわめきの中、駅の露天で目に止まった銀のアクセサリー、ホワイトデーのプレゼント、これでも良いのかな? 見れば値段も手ごろそうなので、銀のリンゴ、薄いピンクの水晶の玉、雪の結晶のデザインのペンダント三本を選び、それぞれ包んでもらい家路に着いた。 - 8 - その後、続けざまにメールが来た。 朝比奈さんからは、 「さっき、連絡が復活しました。なんだか分からないんですけど、 それに、キョン君にお礼を言うようにって、キョン君なにかしてくれたんですか?」 古泉からは、 「先ほど、異常閉鎖空間が消失ました。危機は回避されたようです。 一時は心配しましたが、結果的に適切な行動でした。 上層部からも感謝の言葉を伝える様にとの事です。」 なんだか随分感謝される日だが、俺、何かしたのか? 「yuki> 貴方が涼宮ハルヒにメールを送った後 時間線の捩れと情報空間の漏遺が回復し 世界の改変が回避された。」 何故メールの事を? そういえば、情報収集とか言っていたが、メールの盗聴までやっていたのか? しかし俺のメールが何か関係したのか? まさかあんなことで機嫌が直ったとか、まさかそんな単純なものでもあるまいに、理由がさっぱり分からん、だれか説明してくれ。 ともあれこうやって、俺の知らぬ間に世界の危機は回避された、らしい。 - 涼宮ハルヒの霍乱? 完 - (タイトルがカブッテルので微修正スマソ)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2750.html
「何であんたはメールの返事出すのに4時間もかかるの?信じらんない。」 「だから、晩飯食べた後に寝ることなんてお前もあるだろう」 「はぁ?電話の音もわからないくらいの超熟睡をソファーでできるの。あんたは」 「着信34件はもはや悪質の域だぞ。出る気も失せるのはわかってくれ」 「わからないわよ!あんたあたしがテストでいつもより悪い点とって落ち込んでるの知ってたでしょう!?」 「知らん。俺から見りゃ十分すぎる成績じゃないか。むしろもっと点数寄こせ」 「何よその言い方!あたしの貴重な時間を割いてキョンの勉強見てあげたのにあんた平均点にも到達してなかったじゃない。 やったとこと同じ問題が出たってのに、そっちこそ悪質よ。名誉毀損!!」 「俺は見てくれなんて頼んでない。お前が理由つけて俺の家に押しかけただけだろうが」 「何それ!最ッ低!!」 こんなやりとりがずっと続いた。 朝、HR前の時間。ハルヒとのたわいもない話をする時間が、 または恋人としての少し甘酸っぱいやりとりをする時間だったのが、些細なきっかけでこんな状態になってしまった。 俺はこんなやりとりをしたくない。でも、このときの俺はどうやら言葉を返すのに全力を尽くしていたらしい。 言葉でハルヒに勝とうなんて思っても無駄なのにな。 この頃になるとクラスメイトは俺たちが付き合っていることなど常識になっていた。 が、やっぱりこんな状態だと、気にかける目を向けてくる奴が結構いる。 谷口を見てみろ。古泉のニヤケ面と俺のやれやれをくっつけたような顔になってやがる。 それを伝えようとしても、伝える相手は一切こっちを見ようとしない。 担任が入ってきたおかげでひとまず救われたが、俺たちはもちろんのこと、クラス全体がしんみりした空気になってしまった。 そもそも俺たちがこういう関係になったのは半年以上も前だが、この関係はバレバレだった。 教室でいちゃついたり、付き合っていると言ったことは一度も無いのに不思議なもんだ。 休み時間も昼休みも、ハルヒは教室にいなかった。当然だろう。 早いものでもうすぐ6限が終わる。こんな状態で部室に行けるわけが無い。 冷静になって考え直してみると、やっぱり俺が謝らなきゃいけないんだろうな。 どっちが悪いとかそういう問題じゃない。こういう時は男が先に謝るものだからな。 それに善意で俺の勉強を見てくれているハルヒに対してあれは言いすぎだ。 とにかくはやくハルヒと話がしたかった。 頼む。頼むから部室で待っててくれよ。ハルヒ。 待っててくれと思うのは俺が掃除当番だからであり、掃除中は気が気じゃなかった。 そんな俺に寄ってくる影がひとつ。やっぱり谷口か。 「ようよう。この後は結局どうすんだ?」 「習慣通り団活に出るさ。何度も言うがお前は心配してくれなくてもいい。」 「涼宮と別れることになったらそのときは付き合ってやるぜ?」 「誤解されるような言い方はやめろ。それに俺はハルヒと別れたりはしない。」 「だろうな。明日までには教室の空気を軽くしろよな。ったくお前らはよー・・」 谷口の適当な愚痴を聞きながら掃除を終わらせ、俺は部室に向かった。 足が重い。 筋肉のつかない筋トレをしている気分だ。 そうしてやっと旧館に足を踏み入れて少し歩いたところで、俺は天使に出会った。 いやいやいつ見ても本当に天使のようなお方だ。 「朝比奈さん。」 朝比奈さんは水を汲みに行く途中のようで、メイド服を着てヤカンを手にしている。 俺の姿を見るやいな早足でこっちに向かってきた。どうやら俺に言いたいことがあるらしい。 なるほど。ハルヒからの伝言か・・・と思ったらそうではないらしい。 「わたしがあなたにどうしても言いたかったんです。」 なるほど。ヤカンは部室を出る口実ということですね。 「あなたと涼宮さんの事で・・・。」 「ああ、やっぱり今日は部室に行かない方がいいということですか。」 「違うの。その逆。涼宮さんすっかり落ち込んじゃって、どうしたらいいかずっとわたしと相談してたの。 だからあなたに安心してほしくて・・。あ、もちろんこの話は内緒ですよ。」 聞けばハルヒは最初は俺の愚痴を言っていたらしいが徐々に不安を口にしたらしい。 朝比奈さんの話に俺は頷くしかなかった。 ハルヒの奴・・・ 教室ではそんな様子は全然無かったのにな。 俺の前で沈んだ表情を見せないのは意地か。まぁ俺も他人のこと言えないんだけどな・・ 朝比奈さんの話によると長門と古泉は一緒に図書室で待機しているらしい。 「キョン君。がんばって。」 そんなに大袈裟な事なのかね。これ。 コンコン 部室のドアをとりあえずノックしてみる。返事は無い。 恐る恐るドアを開ける。いつもの席にハルヒがいた。 パソコンが見事に顔を隠してくれている。 俺はドアを閉め、意味は無いと思うが鍵も閉めた。 とりあえず口を開こうかと思った。 「キョン。ちょっとこっち来なさい」 が、ハルヒのこの一言によって拒まれる。何を言おうというのだ。 被害妄想が頭を駆け抜けたが、ハルヒはパソコンの画面に興味を示してるようだった。 よく見たらハルヒの奴はいつもと同じ表情 ・・に見えるが少し無理してやがる。 長門の表情すら読める俺が気づかないとでも思ったのか。 こいつはほんとにもう・・・ 「これ見て。なかなか面白そうだと思わない?今度の土曜日にどう?SOS団で!」 面白いぜ。ハルヒ。お前のその人間臭さというかなんというかそんなものがな。 俺がパソコンの画面をあまり見てないことなんてお前はわかってるんだろう。 そうやってハルヒがしゃべって、俺がうなづいているだけで5分経過。 そろそろ言おうとしたことを言わせてもらおうか。 画面を指差すハルヒの手を握る。 ハルヒはほんのわずかビクっとしてこっちに不可解な視線を送って、「何?」と呟いた。 その表情から不安を感じ取る。表情は素直なんだな。不覚にも可愛いと思ってしまうじゃないか。 「あー・・。朝は ごめん な。」 改めて考えると色々と恥ずかしい。顔よ頼むから赤くならないでくれ。 「・・・」 「あんなことを言うつもりは全然無かったんだ。」 「・・・」 「勉強だってハルヒに見てもらうの、いつも楽しみにしてるから。」 「・・・」 「俺いつも自分のことばっかりで・・だから・・・。」 「フフッ・・アハハハッ」 ハルヒは急に笑い始めた。おかげで赤面がさらに赤面した。 そしてなんともいえない安堵感も広がった。 もしかしてこう言い出すのをわかっていたとか・・・もうどうでもいいか。 「アンタにそんな真面目な顔は似合わないわよ!」 もう結果オーライだ。 ハルヒがまた俺の前でこうやって笑ってくれるだけで良い。そういうことだ。 いつぞやの時よりは溜息が少なくなりそうだ。 少ししたら空気を察した古泉長門朝比奈さんが入ってきた。 朝比奈さんはウィンクをしてくれた。ありがたいのですがまさか聞いてないですよね。 古泉のニヤケ顔が素に見えるのも気のせいですよね。 活動終了後、俺はハルヒと帰り道を共にする。 「ハルヒ」 「何よ」 「俺の勉強、また近いうち見に来てくれないか。」 「言われるまでもないわよ。あたしが見ないで誰があんたの面倒見るのよ」 「じゃあ来週の土曜日、でどうだ。 ・・・泊まりで。」 「い・・・えっ!?でもあんたの」 「家族が旅行なんだ。寂しいから、な。」 やっぱりちょっと厳しいかな、と思ったが返事はすぐに返ってきた。 「もうほんとにしょうがないわね。一晩かけてじっくり教え込んでやるわ。特に数学!わかった!?」 「ああ。」 細かい予定を話し合っているうちにもうハルヒの家に着いてしまった。 遠回りすればよかったな。どうせ同じか。 「じゃあねキョン。明日寝坊すんじゃないわよっ。」 「待ってくれハルヒ。」 「今度は何?」 「キスしたい」 「はっ?・・・ んっ!?」 ダメだな俺。相手の返事ぐらい待った方がいいぞ。 ハルヒは逃げやしないんだからそんなに必死に味合わなくてもいいじゃないか。 俺は数秒で済ませておくことにした。やっぱり恥ずかしいしな。うん。 「・・ったく・・・キョン・・・」 「何だ。」 ネクタイを掴まれた。 「あの・・今日は・・あたしも・・・悪かった・・わよ。」 「なんて言った?」 実は聞こえてたけどわざと聞いてみた。 「はん。その手には乗らないわよ。」 「だめだったか・・・ってぅおっ!?」 ネクタイを引っ張られ、そのまま俺はまた目をつぶる羽目になる。 珍しいな。ハルヒがあんな謝り方するなんて。 珍しいな、ハルヒからのキスなんて。 もっしかして本当はずっと言おうとしてたんじゃないか? 最後の最後まで我慢してたんだろう。ほんとに頑なな団長さんだな。 俺たちはしばらくお互いを貪るのに夢中になった。 多分最長記録だろう。 俺がそうなるようにしたんだからな。 後にハルヒは呟いた 「舌入れるんじゃないわよエロキョン。」 ・・・さて。 朝日が漏れる部屋に寝っころがってる俺は天井に向かって悩ましげな視線を送る。 4日目だな。もう慣れた頃合だ。 時間が随分飛んだな。1~3日目は少なくとも半年以内にまとめられるが、今日はいきなり半年以上も飛んだ。 考えても意味は無いが、もしハルヒが俺との思い出を見せているのなら、昨日の夢の日と今日夢の日との間に何も無かったのはおかしい。 ハルヒと気持ちを確認してから、この喧嘩をする日までだって沢山の思い出がある。 デートと呼ばれる事だって何度もしたし、ハルヒの手作り弁当だって食った。初めて手を繋いだ日だってわりと覚えている。 キス・・・だって少ないが何回かした。この喧嘩した日まで軽いのだけしか・・ってなんか自分で恥ずかしくなってきたぞ。 次に見るとしたらそうだな。もしかしたら、あの泊りがけの勉強会かもしれない。 って何考えてるんだ俺は。ハルヒがもしかしたら俺に何かして欲しいのかもしれんのだぞ。 ちょっと早いがダイニングに向かう。 ハルヒも起きたばかりのようだった。 「あら?あんた早いわね。丁度いいわ、たまにはご飯作りなさいよ。」 「ああ。」 どうしても夢の中のハルヒと重ねて見てしまう。 そういえば最近あの頃みたいにデートとかしてないな。 俺は仕事で忙しいし、その事に対してハルヒは「しょうがないでしょ。さっさと昇進しなさい」と、素で言う。 これは間違いない。あと空いた日があっても、運悪くハルヒが体調を崩したりしてたな。 朝飯の準備をしながら、俺はとりあえずハルヒに少し聞いてみようと決めた。 「キョン。これちょっと油っぽいわよ」 「そうか?」 「ったくあんたは料理上手くならないわね。」 「悪かったな。それとお前のが上手すぎるんだ。」 「そう。誉めても何も出ないわよ」 素っ気無い態度だな。ハルヒらしいといえばそうなんだが・・・。 なんというか・・・もっともっと笑って会話がしたいものだ。 そんなわけでそろそろ本題に入るか。 「ハルヒ」 「何?」 「どうだ?今度の日曜、出かけないか。」 「あんた、昇進試験が近いんでしょう?そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないの。」 痛いところを突かれた。時間を止めて言うことを整理できればいいんだがな。 まっすぐに俺の目を見て心配そうに言っているからにはハルヒは面倒くさいわけでは無さそうだ。 これは本音だろう。 「でも、たまにはお前とゆっくり過ごしたい。お前だって・・」 「あのね、あんたは変なところで優しすぎるのよ。 試験が終わって仕事がちょっと落ち着いたら散歩でも旅行でも行けばいいの。それに・・・。」 「どうした?」 「・・ちょっと気分悪い。最近風邪気味なのよ。」 風邪気味だって? 声も枯れてない、鼻水も咳も出てない、だるそうにも見えない。 慌てておでこをくっつけてみる。 ・・・熱も無い。 でもハルヒが言うからにはそうなのだろうな。 「・・だから最近体調がおかしいって言ったでしょ。」 「そうか・・・俺にできることは何かあったら・・」 「それはそうとあんた時間そろそろやばいんじゃない」 「うぉ!?いけねっ」 時間の野郎、いつのまに進んでやがった。 これじゃハルヒと満足に会話もできない。 でも少ないが収穫はあった。 ハルヒが「今週末は○○に行くわよ!」と引っ張っていかないのは俺の仕事事情を心配してるから。 そしてハルヒの体調がおかしいということだ。今まで普通に見えたのになんてこったい。 明日にでも古泉に電話しよう。ちょっとは解決に役立つかもしれん。 俺が鞄を持って玄関を飛び出す。 ハルヒはしっかり玄関で「いってらっしゃい」と言ってくれた。 素っ気無いと思いきや、ちゃんと出迎えてくれるところがハルヒらしいかもな。 俺はその夜早く眠りについた。 早めに寝ておいたほうが良いと判断したからな。 「ほら、ここ違う!」 「そこは暗算でやっちゃだめ!」 「まさかこの公式忘れたんじゃないわよね」 ハルヒのスパルタ教育は留まるところを知らない。 土曜日。夜。家族は旅行。一応彼女と2人きり。 ・・・見事な337拍子だな。 こんな用意されたようなシチュエーション二度とないだろう。 ・・・・そんなことを一瞬でも考えたら負けかもしれん。 ってほどハルヒは密度の濃い家庭教師に徹していた。 早めに晩飯を済ませて俺の部屋に閉じこもり、もう4時間が経過していた。 休憩や雑談を挟みながらも効率よく勉強を勧めていく様には俺も感心せざるを得ない。 今日のためにいろいろスケジュールを考えていたとしか思えない。実際そうなのだろうな。 最後の問題が解けたときはもう時計の針は日付変更線を越えていた。 「先風呂入るから」と言ってハルヒは部屋から出て行き、俺は一息つく。 ハルヒの使っていた教科書やら問題集やらをそっと覗いてみると、案の定線やメモやらがびっしりと書き込まれており、俺のためと思われる書き込みもある。ほんとに忙しい団長さんだ。 こら。ニヤケ顔になってるぞ。今日だけでもしっかりしなきゃな。 俺が風呂から上がって部屋に戻ると、ハルヒは俺のベッドで眠りこけていた。 布団は用意すると言った筈だがそういや準備してなかったな。 それ以前に寝る直前にまとめ問題やるって言ってたのに。教師が先にばててどうする。 ・・・なんてな。ご丁寧に目の下にうっすらとクマなんかつくっちまってさ。 もし俺のために徹夜してできた・・とかだったら・・・、いや考えちゃだめだな・・・。 ハルヒの今日のスケジュールはほぼ完璧だった。 俺の今日のスケジュールは俺自身でさえ未知数なのにな。 ベッドに腰掛ける。 こんな時間だと俺でも眠い。まとめ問題は朝にでもやればいいだろう。 ハルヒに視線がいく。風呂上りの女の匂い、乾ききっていない髪、いつもの活発さとのギャップ、独占感、無防備に上下する肩・・・ハルヒの全てが俺を誘ってるようにしか見えない。・・・だめだな俺。 とりあえず起こしたほうが良さそうだ。 「ハルヒ、起きろ。ハルヒ、おいハルヒ」 「・・・ん・・・。キョン?」 こいつは低血圧なのか。スローな動きで起き上がり半分しか空いてない目を向けてくるハルヒ。 なんかもう反則どころの騒ぎではない。とにかく俺は隣に座るよう促す。 「もう寝るのか」 「・・・・どっちでもいい」 「眠いのか」 「うーん・・なんか思ったよりも疲れてただけよ。」 「徹夜で俺の為に予定表組んでたんだよな」 「・・・それが何」 「ありがとう」 「珍しいわね。あんたが素直に感謝するなんて」 「当然だろう。好きなんだから」 「・・・・キョン・・・」 ハルヒの手を握り、愛しむように撫ぜる。 引き寄せられる勢いでキス。そしてキス。 見つめあい、ハルヒが優しく微笑んだところで俺はハルヒを押し倒した。 「やっ・・!」 ハルヒは驚いた顔で見つめてくる。・・・当然だろうな。 徐々に不安の色も見えてきて、俺は動揺する。 「ハルヒ・・・その・・・いい、か?」 「・・・」 ハルヒは不安げな表情のまま黙り込んでしまった。 普通に考えればいきなりは無理に決まってる。急に罪悪感が湧く。 「すまん・・・すまない・・・あー・・」 「・・さい。」 「・・・へっ?」 「優しく、しなさい。」 「ハルヒ!?」 ハルヒは目を逸らして唇をキュッと結んだ。そしてちらりとこちらを見て。顔をちょっと赤くした。 心臓が壊れたように暴走を始める。俺はもう何も考えられなくなったようだ。 当たり前というべきか、谷口から借りたAVと現実は大きく違った。 ハルヒは目をつぶってずっと黙り込んでいた。 たまに目を開けて俺を見ては、荒くなった息を整えようとしていた。 俺が「声我慢しなくていいぞ」「力抜けよ」と声をかけても生返事だ。 俺自身、興奮しきって夢中だったせいで鮮明には覚えてない。 結構長い時間前戯をしていたが、結局ハルヒはずっと堪えるような表情だったと思う。 でも徐々に俺の努力が実ってきたようで、気が付いた時には眉間のシワも消えていた。 むしろ今度はこっちが堪える番になってきた。ので、俺は声をかけた。 「ハルヒ、その・・大丈夫か。」 「・・・ん」 「嫌だったらやめようか」 何故か俺はハルヒがここでどう否定するかを楽しみにしていた。 ハルヒは首を横に振る。もうそれだけで俺は衝動に支配されそうになる。 ハルヒは相変わらずだんまりなので「じゃあいくぞ」とでも声をかけようか迷ってる時に、ハルヒが口を開いた。 「・・キョン」 「どうした?」 ここでハルヒはいつも俺に見せるような不適な笑みを見せた。 俺が驚いている間もなく、ハルヒははっきりと言った 「ほら、早くきなさいよ。」 痛みを堪える表情が、喘ぎを堪える表情になる。 シーツを掴んでいた手が、俺の背に回される。 甘い息の中に、すがるように俺を呼ぶ声が聞こえるようになる。 全てが俺を刺激し、自我のコントロールを不能にした。 そのときはっきりと覚えていたのは、俺が壊れたようにハルヒの名前と愛の言葉を叫んでいたこと。 そして終わった直後の短い会話だけだった。 「・・・キョン」 「ん?」 「愛してる」 そしてハルヒは更に耳元で、俺の名前を呟いた。 こいつが一度も呼んだことのなかった、俺の本当の名前を。 5日目、予想通り。 布団の中での俺の下半身はどえらいことになっていた。俗に言う夢精である。 なんとなくだが、今日もリアルな夢を見るとしたら内容はあの夜しかないとわかったからな。 とにかく見つかる前に処理しよう。 どうせなら夢の続きとして次の朝まで見ていたかった。 今でもよく覚えている、あそこまで俺に甘えてきたハルヒは当時新鮮すぎたからな。 といっても大したことはない。朝、カーテンの間から差し込む光で目が覚めた俺たちは笑いあい、キスを繰り返し、気持ちを素直に口にする。 布団から出ようとする俺の腕をひっぱって「もうちょっと・・・」と恥ずかしそうに言うハルヒは可愛いってレベルじゃなかった。 その後の会話で知ったことだが、ハルヒは俺がやろうとしていたことを知っていたらしい。 なんでも、前日に空にしたゴミ箱に唯一あった薬局のレシートを見てすぐにピンと来たらしい。 驚いたり不安になったりしたのは、俺が強引だったから・・・って俺はそんなつもり無かったんだけどな。 更に補足をしておくと、ハルヒがだんまりなのはこの最初だけで、次からは実にハルヒらしい反応を味あわせてくれた。俺もそれに応えようといつも必死だったな。 たまには思いっきりいじってやりたくなるが、なかなかそうはいかないみたいで、むしろハルヒが攻勢になって俺をヒーヒー言わせる時もあったぐらいだ。 いかん。そろそろ現実に帰らねば。 夜、仕事が終わった後俺は古泉に電話した 「古泉です」 「よお。久しぶりだな」 「珍しいですね。あなたから僕に連絡をよこすなんて。」 「そうでもねえよ。」 適当に挨拶をして、俺は早速本題に向かうことにした。 説明はそう長くはかからなかった。 ここ数日、高校の時のハルヒとの思い出が夢として出てくること。その夢がはっきりしていること。 ハルヒがもしかしたらイライラしてるかもしれないこと。 「で、だ。ハルヒの調子はそっちから見たらどうなのかなと思ってな。」 「そうですか。残念ながらあなたの期待には沿えません。その話には正直驚かされました。 何度でも言いますが涼宮さんはあなたと共に生活を始めてから本気でイライラすることはほとんど無くなりましたからね。 安定したとは言い切れませんが、今もです。」 「そうか。」 正直こういう結果じゃないかと薄々思っていたのであまり驚かなかった。 でももしちょっとでも異変がおきたらすぐに知らせろよ。 「もちろんです。しかし僕が思うに、普通に考えてあなた自身で解決するのが望ましいかと。」 「やっぱりな」 結局古泉に電話してもあまり解明が進んだとはいえなかった。 まぁ深刻な事態ではなさそうで安心した。そのときは嫌でも巻き添えを食うからな。 自分で言うのもあれだが、ハルヒのことを一番解ってるのは俺だ。俺しかいないんだ。 もしハルヒが俺に何かを求めたい、または求められたいのなら俺は全力で応えたい。 努力するさ。全力で努力するから。 だから・・・その間ぐらいは 懐かしい夢ぐらい見てもいいよな。ハルヒ。 俺は今、ハルヒの部屋の前にいる。 扉をノックするのが怖いが、それじゃお先は真っ暗だ。 なので、ノックする。返事は無い。 「勝手に入らせてもらうぞ。」 俺は恐る恐るハルヒの部屋に入った。入り口で立ちすくむ。 ハルヒは机に座っていた。出てけ、とも来るな、とも何も言わなかった。 後ろ向きなので表情はわからない。 ハルヒとはもう何度も喧嘩になった。 言い合いみたいなものは毎週のようにやっている。 大抵俺がやれやれとでも言いながらハルヒに譲ってしまうのだが、俺が引かなきゃハルヒは滅多に引かない。その結果がこれだ。 ハルヒは俺を罵倒し、部屋に閉じこもって3時間。 俺も大層怒りに震えていたが、ようやく頭が冷えた。俺から干渉するのは不服だがこれがルールというものなのかね。 悪い方が謝るなんて誰が決めた。問題は和解できるかどうかなんだよ・・・な。俺たちは。 俺たちが同棲を始めてまだ半年。 別々の大学に通っているせいで色々と食い違ったりして大変だがなんとか乗り切ってきた。 が、お互いにいろいろと溜め込んでいたらしい。 ハルヒは食事を作るので、俺が突然「悪い!今日飲み会行くから晩飯いいや」 とメールを送ったりすると大層ご立腹になされた。当たり前だよな。 しかしそれはハルヒも一緒で、同じことを何度も言い聞かせたこともあったっけ。 ストレスと似たようなものだろうか。気づかないうちにいつの間にか溜まって、気がついたら暴発してしまう。 付き合い始めて高校卒業まではハルヒと一緒にいてストレスなんざ溜まる余地も無かったが・・・ 同棲を始めてからは、何かと不憫が続いてしまったようだ。 今日だって、きっかけはTVのチャンネル争いから始まり、どうして根拠のない浮気話にまでなるのか。 でもこれをすらりと乗り越えるのが俺たちなんだよな。 さて、ハルヒの背中に向かって俺は言葉をつむぎ始めた。 何を言ってるかは自分にもいまいちわからない。 なんせ今は夜中の2時である。生理的にきつい。 気づいたら土下座なんかしている。時計は3時を越していた。 俺は何を言っているんだ。声が枯れてるような気がするがどうでもいい。 ハルヒの声が聞こえた、気がした。 床しか見えなかった俺の視線にハルヒの足が入ってきた。顔を上げようとした俺だが、頭を手で押さえられた。 「何でいつもこうなのよ。」 ハルヒの呆れた声が届いた。まったく何でいつもこうなんだろうな。 「いつもいつも、何であんたが謝るのよ。」 床とハルヒの膝しか見えないぞ。 「ほとんど悪いのはあたしなのに」 どうでもいいだろそんなこと。 「明日あんたの好きなものでも作ってごめんって言うつもりだったのに。」 それは是非実行してくれ。 「何であんたは全部背負い込むお人よしなのよ。」 声、震えてないか。 「もうしゃべらないで!」 「うぇっ!?」 頭を上げようとした俺をハルヒは膝に押さえつけた。いや・・・いろんな意味でやばいぜこれは。 それでも上を向こうとする俺にハルヒは目隠ししやがった。 「だーめ・・・。」 別にどんな顔してても俺はどうも思わんぞ。 と言いたいがここは言わない方がいいだろうな。 それでも今のハルヒがどんな顔をしてるか見たかったな。 しかしよくよく考えてみろ。 膝に頭を押さえつけられ、そのまま仰向けになる。要は膝枕だな。 目隠しをされる。会話が終わる。そして今はもう夜中の3時過ぎだ。 それで気持ちが落ち着いたらどうなるか。サルでも分かるな。 俺はそのまま見事に眠りこけてしまったわけだ。 ・・・寝足りないな。 チュンチュン聞こえるのは鳥の鳴き声だろう。ってことは今は早朝か。 この匂いはハルヒの部屋・・・そうか、俺は深夜にハルヒの部屋に押しかけたんだったな。 なんだかあたたかい。そういえば体に毛布がかかっている。ハルヒの奴・・・ 目を開けようと思えば開けられるだろう。顔を隠すものは何も無い。 でもそれは無理ってもんだ。頭や髪の毛を撫ぜられているんだからな。 手を撫でられたり、耳元をいじられたり、首に触れられたり・・・本当にハルヒなのか? うふふ・・っと軽い笑い声が聞こえた。畜生・・・かわいいじゃないか。 でもちょっとだるいんだ。床に寝てるようじゃ疲れは取れないからな。 だからもう少し・・・。もう少しだけ寝かせてくれよ。 もう少しお前の温かさに触れていたいから・・・ ・・・・やっぱり寝足りない。 素直に起きて布団に入ればよかったかな。 すーすー寝息が聞こえる。目を開けてみようか。 やっぱりハルヒは寝ていた。 俺の体の位置がずれていたのはハルヒが壁にもたれられるようにしたのだろう。 時間を見たらもうすぐ昼じゃないか。大学を思いっきりサボってしまったわけだな俺たち。 ちょっと惜しいがむくりと起き上がってみる。 普通部屋の壁にもたれかかって寝れるか?電車で寝たほうが疲れが取れるんじゃないかと思うな。 だから俺は俗に言うお姫様だっこでハルヒをベッドまで運ぶことにした。 ハルヒを寝かしつけてるうちに、俺は無性にさっきのお返しがしたくなった。 恐れ多いがハルヒのベッドに忍び込み、髪の毛をなでてみた。ついでに色々いじくってみる。 なんて柔らかいんだろう。なんて思ってるうちにハルヒがもぞっと動いた。 うーん と唸るハルヒ。目をつぶったまま「キョン・・んー・・」とか言うな。可愛すぎるから。 とりあえず俺は「今日は土曜日だからゆっくり寝ろ」と繰り返し呟いておいた。 しばらくしてハルヒは再び寝息を立て始めた。俺ももう眠くてたまらんな。心地よすぎる。 腕をハルヒに回して俺も寝ることにした。 昼過ぎにハルヒに叩き起こされ罵られまくったが別に後悔はしていない。 ・・・チュンチュン聞こえるのは鳥の鳴き声だろう。ってことは今は朝か。 この匂いは俺の部屋・・・そうか、俺はリアリティのある夢から現実に帰ってきたんだな。 ってな。もうそろそろ数字が曖昧になってきたが、今日で6日目だろう。 まさか同棲してる時の出来事が来るとは思わなかった。 進路騒ぎ、高校卒業、同棲開始、大学入学・・・いろいろあったはずなのに1年ぐらいは飛んだぞ。 これまでから察するに、もう高校にいた頃が夢に出てくることはないだろう。年月順だからな。 これでいくつか推測できることがあるが、はっきりしているのはこの夢現象はいつか終わるということだ。 寂しいのか怖いのかほっとするのか・・・変な気分だが、そのときまでに真実がわかるといいな。 今日は日曜日だ。俺の会社は休みなのでれっきとした休日だった。 俺は勉強と資料探しを兼ねて図書館に行くことにした。 丁度話をしておきたい相手もいるしな。 「長門」 やっぱりいた。椅子に座ってこれまた御堅い本を読んでいる。 古泉がダメでも長門ならわかることがあるかもしれない。そういうわけだ。 「よう、元気にしてたか」 コクン、と長門は頷き、古泉よろしく適当に挨拶した後俺は早速説明を始めた。 話が終わると長門は得意の単語説明を始めた。 「あなたに夢を見せているのは涼宮ハルヒ」 なんと。いきなり核心を突いてきた。 「やっぱりそうか。理由はわかるか?」 「不明」 「・・はは、そうだよな。」 その後も俺はいろいろと質問攻めにしたが、結果はあまり芳しくなかった。 それでも、わけのわからん宇宙人や未来人じゃなくて、ハルヒがこの現象を起こしているとわかっただけでも俺は良かった。 俺は最後に気になっていた質問をした。 「ハルヒがここのところ体調を崩している時があるんだ。原因がわからなくてな」 「・・・」 「本人は風邪って言ってるんだが」 「・・・」 「もしかしたらここ数日の夢と関係あるんじゃないかと思ってな。」 「・・・わからない」 俺が意外に思っているともう一言付け加えられた。 「夢とは関係ない。」 俺は少したわいもない話をした後、長門に礼を言って図書館を出た。 なるほど。古泉が言ってたことにも納得するな。こりゃお手上げになりそうだ。しないがな。 しかしハルヒの仮風邪とハルヒの夢現象が関係ないとは驚いた。 ということはハルヒは本当にたまに気分が悪くなると考えざるを得ない。 これじゃますますわからん。せめて夢にヒントが出てくればいいのに。 いや、本当はあるはずなんだ。間違いなくハルヒが見せてるんだからな。 今日も早めに寝ることにしよう。 さっさと寝て、また夢を見たいんだ。 少しでもヒントをつかみたいからな。 それ以前に、俺は毎晩ハルヒと過ごした日を夢で見るこの奇妙な習慣。 それが楽しみになっているんだからな。 涼宮ハルヒの糖影 転へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1078.html
第2話 ~ヒーローと目撃~ はっ!!今の夢は…一体?……あれは…ハルヒか?どこかの学校の校庭にいたのは分かったが一体何処の…… 「あぁ~!!キョンくん何でもう起きてるの?」 「ん、ああ。ちょっとな。」 俺は今朝の夢のことが気になってずっとぼーっとして歩いていた。 何だったんだろうな?あの夢は。ハルヒが出てきたような気がするが… 教室に着くとドアを開けた途端太陽のような笑顔のハルヒが俺に突撃してきた。 「キョン!!今すぐ一緒に来なさい!さぁ行くわよ!!!」 「おぉわっ!!ちょっと待て、授業はどうすんだ。」 「そんなもんサボるに決まってるでしょ!」 そう言ってハルヒはいつかのように俺のネクタイを引っ張って無理矢理俺を部室まで引っ張っていった。 ドカン 「ヤッホー!キョン一丁お待ちぃ。」 お待ちって誰が待ってるってんだ…って何でお前ら… そこにはSOS団全員+鶴屋さんが揃っていた。 「それでは皆さん!これよりSOS団七夕緊急ミーティングを開始します!!」 「おいおいそんなもん放課後にやればいいだろ、 何で今授業をサボってまでやる必要があるんだ?」 「必要な事なの!!大体、あんたはどうせ授業何ていつも寝てるんだから関係無いでしょ。」 ま、まあ確かに殆どの授業で寝てるのは確かだが… 「それでは今日の議題は、七夕についてです。」 「で、七夕がどうしたんだ。」 「はいそれじゃあキョン、七夕と言ったら何?」 そりゃあ天の川とか、短冊とかだろ。 「確かにその通りね。じゃあその短冊を掛ける物は?」 そんなん笹に決まってるだろうが。 「そうよ!短冊は笹に付けるものよ。それは万国共通の事だわ。 そんでもって幾ら織り姫と彦星でも全ての人の願いを叶えてあげる事は不可能だわ。」 だからそれが一体どうしたって言うんだ。 「そこで笹よ!!やっぱり彦星もどうせなら 良い笹に掛かってるお願いの方が叶えてあげたくなるもんじゃない? いえ、そうに決まってるわ。」 ……相変わらずこいつの理論は訳が解らん。朝比奈さん、そんな貴重な事を聞いたみたいな顔する必要無いんですよ。 全部デマなんですから。それとも未来には七夕が無いのか? 「と、言う訳で、今日はSOS団プレゼン!!笹取り大会を開催します!!」 あー何だ、ツッコミたいとこは色々あるが 「おいハル「意見のある人は挙手をして発言しなさい!!」 ったく、コイツはそんなに俺にしゃべらさせたくないのか? 「は~い。」 「はい!鶴屋さん!!」 俺が挙げる前に鶴屋さんが挙げてしまった。 「笹取り大会って具体的に何をするんだい?」 確かにそれは気になるな 「そうね…じゃあ2人1組に分けて、それぞれ笹をとって来て一番良い笹をとって来たペアの勝ちってのはどう!」 じゃあって、今考えたのかよ! 「ちなみにペアはくじ引きで決めるわよ。それじゃあ有希から順番に行くわよ!はいっ…」 今回はいつもの爪楊枝に3色の印を付けていた。 しっかしハルヒもまた面倒なことを思い付いたもんだ。 まあしかし、今日の俺は余程ついているらしい。 「…青……」「緑だ。」「青ですね。」「赤にょろっ!!」「ぁ、緑です。」「赤だわ!!。」 今の会話で分かってもらえたかどうかいささか不安だが、 そう俺はなんと俺の天使様、つまり朝比奈さんとペアになったのである。 当の朝比奈さんはと言うと、自分の楊枝の先を少し赤くなりながら見ていたが、 暫くして俺の方を見て、はにかみながら会釈をしてくださった。いや~、心がどんな宝石よりも綺麗になる気がするね。 …ん?いつもだったらここで我がまま団長様がアヒル口で文句の1つや2つ言ってくるのに、何も言ってこないなんて珍しいな。 「それじゃあ皆!時間が無いから早く行くわよ。」 「行くって何処に行くんだ?」 「鶴屋山よ。」 何でも「この前ハルにゃん達が宝探しした山にさ、竹の密生地帯があるからそこを使うにょろ!」だそうだ。 んでもって俺達は今バスに乗っている。俺は朝比奈さんと鶴屋さんと一緒に座ってるハルヒから距離を取り、 古泉と長門に昨日休んだ理由を聞いてみた。 「近頃情報統合思念体は涼宮ハルヒという個体を2体観測した。しかし、涼宮ハルヒの近辺での情報改変は観測されていない。その真相を調査するため休んだ。」 何だと!?ハルヒが2人ってどういう事だ? 「詳しくは解っていない、涼宮ハルヒの能力が人格化し、涼宮ハルヒ本人から離別し行動している。」 え~とつまり、ハルヒの能力に人格が出来てそれはハルヒ本人とは別の意思を持っているって言うことか? 「その通りです。そしてその別の人格が涼宮さん本人とは別の肉体をもち、別の行動をしているようです。」 なる程、じゃあ元のハルヒは能力を失ってるのか? 「はい。しかし今そこにいらっしゃる涼宮さんが能力を持っていない訳ではありません。 なぜなら、彼女、つまり能力を持った涼宮さん、ここでは、そうですね…涼宮さん(能)とでも呼びましょうか。 彼女が現れるのは、涼宮さんが夜中に眠っている間だけだからです 。それ以外の時間は涼宮さん(普)の中で眠っているようです。」 何でそんな事になってんだ? 「それはまだわかっていません。しかし「3年前の七夕が関係している。」 今の今まで空気のように振る舞っていた長門が突然割り込んできた。 独りで歩いてて寂しくなったのか? 割り込まれた古泉はやれやれといったように肩をすくめてみせた。ちっ、様になってやがる 「彼女が出現したのは4年前の七夕のジョン・スミスが深く関わっていると思われる。気をつけて。」 「どう気を付けろというんだ。」 「それは………」 長門は急に俺から目を逸らし、明後日のほうを見ながら 「あなたに託す。」 はぁ、誤魔化したって無駄だぞ長門、要は分からないんだろ。 「やれやれ。」 しかしそんなごまかしたりする長門も珍しくて、なんだか可愛かった。 「さぁ、着いたにょろ!」 そして今俺達は鶴屋山の裏側の中腹くらいにいる。 「こっから山の麓近くまでずっと竹藪になってるっさ!!気にった竹を見つけたら好きに採ると良いよ!!」 採るったって、一体何で採るんです?まさか素手なんて事は…「あっ、そっかそっかぁちょろんと待っててね。」 そう言って鶴屋さんは、山の上の方に向かって歩きだした。ちょろんとっていうのはまた30分程なのだろうか? しかし俺の懸念も空振りに終わり鶴屋さんは2分程で戻って来た。のだが… 「皆さん、お久しぶりでございます。」 何故かその隣に新川さんが居た。何故だ?意味が分からん。 俺がよほど怪訝な顔をしていたのだろう、古泉が突然解説しだした。 「新川さんには良い笹の審査員をして貰います。僭越ながら僕が先ほど呼ばせていただきました。かまいませんか?涼宮さん。」 「ええ、構わないわよ。確かに審査員無しじゃ誰が一番か決められないわね」 じゃあお前はどうやって勝負を決めるつもりだったんだよ。 「ありがとうございます。それでは新川さん。」 「かしこまりました。」 そう言って新川さんは何処から出したのか、 ちょっと大きめの鉈を3つそれぞれ俺と古泉とハルヒに渡した。そして 「それで竹を切って下さい。」 といって、もう1つ鉈を取り出し、 「この様にしてください…」 と言った。そしてふーっと息を吐いたかと思うと、突然カッと目を見開いて 「SUNEEEEEEEEEEEEEEKU!!!!」 と叫びながら鉈を一振りした。 一瞬だった。そして気付くと、新品のトイレットペーパー並みの太さの竹が真っ二つになっていた。スネークって一体…? ハルヒは目を爛々と輝かせ 「スッゴいわねぇ!!どうやったらそんな事が出来んの?」 と嬉しそうに言っていた。 鶴屋さんは爆笑していたし、長門と古泉はいつも通りだった。しかし朝比奈さんはよほど新川さんの顔が恐かったのか、殆ど半泣き状態だった。因みに俺は声一つ出せなかった。 「じゃあみんな!!1時間後にまた此処に竹を持って集合ね。さあ、行きましょう鶴屋さん!!」 「ラジャーっさ!!」 そう言ってハルヒと鶴屋さんはものすごい速度で竹藪に消えてった。 「それでは長門さん、僕達も行きましょうか。」 「………」 長門は3ミクロン程頷いて古泉と歩いていった。 さて、俺達もそろそろいこうかね。 「さ、行きましょうか、朝比奈さん」 「…あ、はい。」 そうして俺達も竹探しに向かった。 しばらく歩いてからのことだった、突然朝比奈さんが俺の方に向き直り、潤んだ上目遣いで俺を見て 「キョ、キョンくん!あ…ぁあの、昨日はごめんなさい。せっかくキョンくんが遊びに来てくれたのに…本当にごめんね。」 と言いながら、頭を腰より下まで下げて謝った。 「そんな謝らなくて良いんですよ。俺は気にしてませんから。」 俺は出来るだけ朝比奈さんをなだめるようにいった。 「でもぉ、自分から呼んでおいて部屋に入れた途端に寝ちゃうなんて、わたし…最低です。」 そういえば朝比奈さん(小)は朝比奈さん(大)に眠らされた事は知らないんだもんな。 そりゃあ朝比奈さん(小)本人にしてみれば、突然寝ちまったようにしか思えないよな。 しかしまずいな、朝比奈さんはもう顔を上げては居るが、今にも泣きそうな顔をしている。 朝比奈さん(大)のことをいうわけにもいかないし……しょーがない。 「じゃあこうしましょう朝比奈さん。今度また改めて俺を家に招待して下さい。それでどうですか?」 「ぇ、で、でも…キョンくんはそんな事で良いの?」 「ええ勿論ですよ。その代わり、その日は朝からお邪魔させてもらいますよ。それでおあいこです。良いすよね?」 俺はこれ以上朝比奈さんに文句を言わせないように言った。 「あ、じゃあ…そんな事で良かったら、今度の日曜にでも、また遊びに来て下さい。」 勿論かまいませんよ。来週の日曜ですね。たとえハルヒの奴が何を言おうが、遊びに行きましょう。 「うふ、ありがとう。キョンくん」 朝比奈さんはもう涙目では無く、とてもこの世のものとは思えない天使のような笑顔で俺を見つめて言った。俺も朝比奈さんを見つめ返した。 ガサガサッ 「ひえっ!!」 突然俺達の横にある茂みから音がして朝比奈さんは俺に抱きついてきた。あ~、このまま天に召されても悔いはないね。 「にょろにょろーん!!」 茂みの中からは鶴屋さんが出てきた。あれ?ハルヒが居ないようだが… 「おーいキョンくん。みっくるぅ!!ハルにゃん見なかったかい?はぐれちゃったんだよ~。」 ハルヒですか?見てませんが… 勿論かまいませんよ。来週の日曜ですね。たとえハルヒの奴が何を言おうが、遊びに行きましょう。 「うふ、ありがとう。キョンくん」 朝比奈さんはもう涙目では無く、とてもこの世のものとは思えない天使のような笑顔で俺を見つめて言った。俺も朝比奈さんを見つめ返した。しかしそんな良い空気の時に…… ガサガサッ 「ひえっ!!」 突然俺達の横にある茂みから音がして朝比奈さんは俺に抱きついてきた。あ~、このまま天に召されても悔いはないね。 「にょろにょろーん!!」 茂みの中からは鶴屋さんが出てきた。あれ?ハルヒが居ないようだが… 「おーいキョンくん。みっくるぅ!!ハルにゃん見なかったかい?はぐれちゃったんだよ~。」 ハルヒですか?見てませんが… 「そおかぁい。そんじゃスモーk「持ってません。」 「にょろーん。まあそんな事より…お熱いねぇお二人さん。はっはっはぁぁ!!」 「ひょ!!だ、だ、だだめです。また同じ穴の二の舞ですぅ」 朝比奈さんはよくわからない事を言って俺からパッと離れ、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。あぁ俺の至福の時が… 鶴屋さんさんは気付いたら消えていた。 5分後朝比奈さんはまだそっぽを向いていた。これじゃ笹が取れないまま帰ってハルヒにどやされちまうな。 「朝比奈さん、そろそろ行きましょう。時間がきちゃいますよ。」 「うぅ。」 顔を真っ赤にして唸りながら振り返り俺の方へ寄ってきた。 その時 「朝比奈さん!危ない!!」 「ふぇ?」 朝比奈さんは小さな崖から足を滑らせバランスを崩していた。 俺はとっさに朝比奈さんを抱き止めたが、結局2人して落ちてしまった。 こうなったら朝比奈さんへのダメージを出来るだけ減らすしかない! そう思った俺は自分の体を下にして朝比奈さんを包み込むように抱き締めた。 「ひょえぇ~~~~~!!!!」 恐怖のあまり朝比奈さんはとんでもない音量の叫び声を上げていた。 崖は10メートル以上もあったが、幸い地面に落ちる直前に一度木に引っ掛かってクッションになったため、大した怪我はしなかった。 しかしこれは暫く動けそうに無さそうだ。 それに俺は今仰向けに倒れており、朝比奈さんは俺の上にうつ伏せに倒れていた。 そう、俺達は今抱き合っているような構図になっている。 いや~何で今日はこんなについているんだろうね? 「ふぁ!!ぁ、ぁ、ごめんなさい!!」 と朝比奈さんは言ってガバッと体を起こした。 あぁ朝比奈さんそれでも今度は馬乗り状態になって別の所がものすごく気持ち、いやっな、なんでも無い!!只の妄言だ。 「ああ、朝比奈さん、大丈夫ですか?怪我は有りませんか?」 俺は朝比奈さんに手を差し向けながら言った。 「ぁ、はい。勿論大丈夫です。」 それは良かった。怪我をしてまで守った甲斐が有ったというものだ。 それから朝比奈さんは俺の差し向けた手を両の手で包み込むようにして取って、 「キョンくんが…守ってくれましたから。……すっごくかっこ良かったですよ。ありがとう」 と言って朝比奈さんは真っ赤になった。きっと俺の顔も真っ赤だろう。 「キョンくんはわたしのヒーローですね。いっつもわたしを助けてくれて、励ましてくれるし。それに今だって、ね?」 朝比奈さんは既に赤くなっている顔を更に真っ赤にして、やっぱりまだぎこちないウィンクをした。 余りの可愛いさに俺は朝比奈さんをどおしようもないほど愛おしく思い、 思わず朝比奈さんの手を引き、また俺の胸の上に倒して、抱き締めてしまっていた。 いかんな。いつもは抑えられるのにな… 「ふ、ふぇ?キョンくん?」 「すいません朝比奈さん。暫くこのままで居させていて下さい。」 「ぁ……はい。」//// そして朝比奈さんは俺の胸に顔をうずめて気持ちよさそうな声をあげた。 俺はそんな朝比奈さんの頭を撫でながら抱き締めていた。 最高だ~。死ねる!!今ならラオウのポーズで死ねる。 しかしキョン達はこの時自分たちを見撃して去っていった存在に気付いていなかった。 そう、鶴屋さんとはぐれたハルヒの存在に。ハルヒが自分たちを見ていた事に。 ハルヒは鶴屋さんを探している時にキョン達が崖から落ちたのを見て、崖の下に大慌てで降りてきたのだが、キョンとみくるが抱き合って居るのを見て走って逃げていったのだ。 ハルヒは普段なら確実にキョンを怒るのに、気付いたら逃げ出していた自分に困惑していた。 「…キョンと……みくるちゃんが?……そんな…なんで?………嘘でしょ?」 誰も気付きはしなかったがハルヒは独り涙を流していた。 涼宮ハルヒの方舟 第2話 ~ヒーロー・目撃~ おわり 第3話へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5665.html
引き続き、市内パトロール後半戦である。 「どこに行きましょうかね」 俺と朝比奈さんはファーストフードを出た後、どこへともなく歩を進めている。はたから見ればじらしい男女カップルのはずであり、まさか夢世界の存在を探してさまよい歩いているとはそれこそ夢にも思わないだろう。 「そうですねえ。お買い物は午前中に古泉くんとしちゃいましたしねえ」 古泉で思い出した。 「そういえば古泉は何か言ってましたかね。あいつに昨日生徒会室で見つけたメッセージのコピーを渡したんですけど」 「いろいろ訊かれましたよ。昨日の学校の様子とか、未来がどうなっているかについても。未来のほうは解りませんとしか答えられなかったけど。まだねじれが元に戻る気配がまったくなくて先が見渡せないんです」 そりゃ、長門が戻ってこない限り時空間のねじれも収まることはないだろう。というより、戻ってもらっては困る。それはようするに長門がいない未来が俺たちの未来だと決定されちまったってことだからな。分岐の選択を誤ってはならん。 「パスワードのことは何か言ってましたか? 何か解ったとか」 「うん。どこかのパソコンやデータにかかってるロックをはずすためのものだろうって言ってましたけど」 そんくらいは俺でも見当がつく。 「他に何か言ってなかったんですか? 具体的にどこのロックを解除するとか、どんな意味を持ってるのか、とか」 「ううん。それ以上は解りません、って古泉くんは言ってました。……でも、もしかしたら本当は解ってるのかもしれませんね」 「あー。……えーと、どういう意味ですか?」 朝比奈さんの口からこぼれた一言に付け入ってみると、朝比奈さんはうつむき加減になった。 「あたしたち、というよりは未来人と超能力者っていう区切りで言ったほうがいいと思うんだけど、この二つの勢力は完全な同盟関係にあるわけじゃないんです。今もお互いの動きを見張ってて、ふとしたことから関係が激化することもありえるって感じ。だから、たとえTPDDが使えなくて未来とコンタクト不可能な状態のあたしでも、古泉くんの組織が不用意にそんな貴重な情報を渡してくれるとは思えないんです。あ、もちろん古泉くんに悪気はないんですよ。ただ、どうしてもそうなっちゃってるだけで」 俺はいつだったか、朝比奈さんと古泉がお互いの考えを信用するなと言ってきたことを思い出していた。映画撮影のときだっただろうか。朝比奈さんや古泉が言っているのは、あくまで一つの考え方を言っているいるだけだとお互い非難し合っていた。 あれからずいぶんと経ったものだが、未来人と超能力者はいまだに信用しきれる関係までにはいたっていないらしい。 「それじゃ、古泉は朝比奈さんに何も教えてくれなかったんですか? ちょっとしたことでも」 「そうなんだけど……でもキョンくん、誤解しないで下さいね。古泉くんが本当に何も解らないこともありえるから」 さあどうだろうね。あの説明好き古泉なら、正答でなくとも可能性のある考えぐらいは提示してくれそうだが。 皮肉なものだ。 目を伏せている朝比奈さんを見たらよけいそんな思いに駆られた。 朝比奈さんが、未来人という立場からではなく独立した存在として俺たちを助けたいと決意してくれているのに、古泉の組織はそれを信用してくれない。朝比奈さんはあくまで未来人の一端であるという考え方を捨てないのだ。よって、朝比奈さんは行動を起こしたくても起こせない状況にある。 古泉を非難しなければならないだろう。 そうでなければ、未来に影響されることなく自分の思うように行動したいと言ってくれた朝比奈さんがあまりにも報われん。愛らしいからとかそういう感情を抜きにしても、こんな哀しそうな表情をしている朝比奈さんを放っておけるやつはいないぜ。 「あれ、もしかしてキョンかい? これは、なんと珍しいこともあるものだね」 俺は不意に背後から投げられたひょうきんな声によって現実回帰を果たした。 「ひゃっ……」 横で驚いたような声を出して俺の腕にしがみついてくる朝比奈さんを感じながら振り向くと、そこには見覚えのある顔が三つ。 「お前ら――」 ヒントを出すと、男一人で女二人だ。 「同じ市内に住んでいるのだからさほど珍しくはないかもしれないが、こうしてかつての同級生と街中で再会するという偶然は何ともロマンチックなものだとは思わないかい? それとも、キミにとっての僕というのはかつての同級生扱いしてくれるうちには入らないのかな」 こういう喋り方をするのは、俺の知り合いには古泉以外ではあと一人くらいしかいない。 ただの昔の同級生だったはずが、今年の春になって妙な連中を引き連れ、ご丁寧に自分のプロフィールまで書き換えて俺の前に再登場したやつである。神様アンド九曜騒動以来ご無沙汰かと思っていたら、こんなときにひょっこりと現れてくれた。 そしてその横に伴われているのは微笑を浮かべる女とふてくされたようなツラをする男であり、嫌なことに両方とも顔見知りである。男のほうはいつでも不機嫌オーラ全開のために第一印象も最悪に近いものだが、女のほうは気だてもよさそうだし顔とスタイルだけ見ればもう少し惹かれるものがあったかもしれんな。どっちにしろ俺はそうではない出会い方をしちまったもんだから、この誘拐女に魅力を感じるとか感じないとかいう予測がシロウトのトランプ占い以上に何の役にも立たないことは知れているのだが。 わざわざ引っ張る必要もないか。答えを言っちまおう。 そこには、ハルヒ的パワーを持つ佐々木、朝比奈さん誘拐犯の橘京子、いけ好かない未来人野郎の藤原が、三者三様の表情をして立っていたのだった。 * 「ごめんね佐々木さん、この人に会うように少しだけ時間と歩くルートを調整させてもらってたんです。偶然ではないの」 驚くべきことに、最初に橘京子の口から発せられたのは俺に対するものではなく佐々木に対する謝罪の言葉だった。 俺は不快感を隠すことなく橘京子に向かって、 「何の用だ」 「ふふ。用があることは確かなんですけどね。そうだな……あの川沿いの公園に行きましょうか。お互い訊きたいことはいろいろあるでしょうけど、お話しするのはそこで腰を落ち着けてからにしましょう」 いいですよね、というふうに佐々木と未来人(男)に目を向ける。佐々木は無言でうなずき、未来人野郎はふんと鼻を鳴らした。最後に俺と朝比奈さんに目をやる。 俺は朝比奈さんに確認を取って首肯させてから、 「こちとらハルヒと集まって街探索の途中なんだ。変に時間を使うようなこととか、そういうのはなしにしてくれ」 「大丈夫です。せいぜい事実確認とこちらの方針をお伝えする程度ですから。時間をそんなにいただくつもりはありません」 そう言うなり橘京子は先頭切って歩き出し、佐々木も藤原も後に続いたため俺たちも歩き出すほかなかった。 約一名、つまり周防九曜の姿が相手方に見えないのは仕様だろうと片づけることにした。 おかげでより確信が強まったね。誰か――それも九曜か、あるいはそれにかなり近い存在がどこかで采配を振っているに違いない。そうでなければ九曜がこの場にいない理由がないのだ。そして、そいつは間違いなく長門を消した張本人だ。そいつは長門の敵、ひいてはSOS団の敵である。 何となく頼りなかったので、いったんは古泉も呼ぼうかと思っていた。しかし考えればあいつは運がいいのか悪いのかハルヒと二人で不思議探索中であり、古泉を呼んだつもりがオプションとしてハルヒまでついてこられては文字通り話にならないので俺は一度出しかけた携帯を上着ポケットにしまいなおした。 「キョンくん、この人たちって」 俺とともに隊列の最後尾を構成する朝比奈さんが小声で不安げに尋ねてくる。 「ええ、春の時の連中です。約一名姿が見えませんけど」 「大丈夫かなあ……」 朝比奈さんが呟きともとれるほど小さな声で呟いた。俺は反応するべきかしばし考えてから、 「大丈夫だと思いますよ。相手も九曜がいないらしいですし、何の話もなしにいきなり危害を加えてくることはないでしょう。それに、いざとなったらこっちには古泉もハルヒもいるんですからね。何のことはない、あいつらを頼ればいいんです」 朝比奈さんははっとしたような感じで顔を上げ哀愁とも怒りともつかぬ微妙な表情をしていたが、やがて「そうですね」と言って顔を伏せてしまった。あれ、何か悪いことを言っただろうか、俺。 * 休日であるために公園内の人口密度はそれなりに高かったが、いるのはせいぜい何も知らないガキとそれを引き連れる親だけであり、スパイやエージェントはおろか普通の高校生の姿もなかった。当然と言えば当然か。 超能力者と未来人と一般人という取り合わせの俺たちは、なるべく人気のない公園の隅に寄り集まった。周りはほのぼのした雰囲気だが、俺たちの間に流れる空気はそんなに柔らかいものではない。 「えっと、どう切り出していいか解らないんだけど」 口火を切った橘京子はそう前置きし、 「とりあえず謝っておきます。ごめんなさい。二月の誘拐未遂といい春とといい、いろいろ迷惑をかけました。怒りたい気持ちは解るけど少し我慢してくれませんか? 今のあたしに敵意はありませんから。けど、そちらの未来人さん、もしあたしたちといて気分が悪いようなら席をはずしてもらってもいいですよ」 誘拐女の目線が朝比奈さんを捉えると朝比奈さんはびくっとした感じで俺の腕にすがってきた。しかし動くつもりはないらしく、そのままの姿勢で固まっている。 橘京子はそれを見てこほんとわざとらしく咳払いした。 「涼宮ハルヒさんを監視している宇宙人、つまり長門有希さんのような存在ですね。彼女たちや他の宇宙人さんが、二日前の金曜日からこの世界にいなくなっているのは気づいてるよね?」 そうでなかったら橘京子と話す義務など皆無である。プライベートで会おうと言われたら二秒だけ考えてから断るね。 「そうですね。じゃあプライベートの誘いは控えるようにします。ふふ、ちょっと残念かしら」 どうでもいい。俺に色目使ったって、せいぜい喫茶店代くらいしか出てこないぜ。 「ごめんなさい。では話を戻しますが、実は最近いなくなってしまったのは、あなたがたが情報統合思念体と呼んでいる存在のインターフェースだけではなかったの。見たら何となく解るかもしれないけど、こちらでも九曜さんがいなくなってるのです。どのくらい経つかしら、先週の休日に集まったときはもういなかったわよね?」 「そうだね。彼女のことだから超能力的な力を使って透明人間になっているだけかもしれないが、少なくとも僕の目はここ一週間彼女を捉えてないよ」 佐々木の反応に、藤原も面倒くさそうに首肯した。 「単純に休日の集まりに参加してないだけとか、そういうことはないのか?」 「それはないな、キョン」 俺の説を佐々木はあっさりと否定し、 「彼女はね、なんだかんだ言って休日に僕たちが集まるときには必ず来るのさ。僕たちを観察しているつもりなのか知らないが、何も喋らないからよけいに興味を惹かれるんだ。稀に来ないのは藤原さんぐらいなものさ」 「僕には毎度毎度律儀に集まるほうの気が知れないね。僕は無意味に動くようなことはしないんだ」 佐々木は苦笑して肩をすくめた。 まあ、そうか。実は俺もそうじゃないかと思ってたんだが、ただ聞いてみただけさ。 なるほど長門から聞いたエピソードそのままである。一週間ほど前に周防九曜が地球から出ていって、そのために天蓋領域の位置も特定できなくなっているという。日数的にも橘京子が言ったことと長門が教えてくれたことは一致している。 俺は驚く代わりに疑問をぶつけた。 「それが、長門たちが消えたことに関係してるって言うんだな?」 橘京子は言いにくそうにして、 「あまり考えたくはないですけど、その通りだと思います。偶然にしては都合がよすぎるもの。九曜さんが消えた後にすぐ長門さんたちが消えていますし、彼女たちが敵対関係にあることを考えても何か関係がある可能性は高いです」 「関係とかそんなんじゃなくて、単純に九曜が長門の目の届かないところから攻撃しようとしたとかいうことなんじゃないのか?」 俺は古泉に話してやった論説を橘京子たちにもう一度説明してやった。 九曜が突然姿を消したのは長門たちの目をくらますためであり、敵に自分たちがどこにいるかを解らなくさせておいてから不意打ちをしかけるためだった。事実、長門は天蓋領域の位置特定ができていないと言っていたしな。そんでもってその作戦は見事に成功し、敵の居場所が解らなくて防御できなかった長門たちは消し去られてしまったのだ。古泉によると九曜には肝心の存在を消す力はないらしいが、面倒な話になりそうなのでここでは披露しなかった。 橘京子と佐々木は興味深そうに、藤原はつまらなさそうに、朝比奈さんは驚きを交えながら俺の話を聞いていた。 「と、いうのが俺の推理だ」 俺が言葉を切ると、真っ先に佐々木が反応した。 「いやあ、すごいなキョン。キミにこんなにも事実を鋭く捉える力があったとはね。それだけの材料が集まっていたとはいえ、なかなかできるものじゃないよ。たぶんいい線を行っているんじゃないのかな?」 「あたしもそう思います」 橘京子が続く。 「最初はもしかしたら二人とも宇宙にある強大な力に消し去られてしまったんじゃないかと思っていたんですけど、確かに不意打ちという解釈ができますね。そう言われてみるとそんな気がしてきます」 お世辞だか本気で言っているのか知らんが、そんなのは時間の無駄だからいい。藤原が俺の話を聞く気がなさそうなのも無視だ。 「それで、お前らはどうするつもりなんだ。仮に俺の言った推理――九曜が長門やSOS団を攻撃しようとしているってのが正しいとしたら、お前らの組織はどう動くつもりなんだ。お前も九曜の仲間だから、やっぱり加勢してSOS団を攻撃するつもりなのか?」 「冗談じゃない」 ひねくれた声を出したのは橘京子ではなく藤原だった。この未来人野郎は眉間に皺を寄せて俺を睨みながら、 「これはあの広域帯宇宙存在の手前勝手な行動だ。独断もいいところさ。時空間をさんざんねじまげたあげく、僕の未来にまで手を出してやがる。規定事項も変数乱数の状態だし、TPDDによる時間移動もあらゆる時間修正も不可能。たぶんあんたの未来もそうだろう?」 藤原は朝比奈さんに目をやった。 「えっ、は、そうです。TPDDは使えないし、分岐が時間平面上に大量発生してて未来が確定されてません」 「もしかしたら意図してやってるのかも知れないが、わざわざ僕の邪魔までしてくれた。この時間平面上の時空間をこじらせるのならともかく、僕の未来まで改変するような奴を手助けするつもりはないね」 俺には少なからずザマミロという感情が芽生えていたが、藤原は卑屈に笑って続けた。 「ただし、それがなかったら僕の判断は違っていたかもしれない。ある意味では、これは目障りな組織どもを一掃するチャンスさ。あの宇宙人が消えれば涼宮の力はほぼ無防備に晒されることになる。九曜の連中をどうにかして総攻撃をかければ、僕の未来がその力を抽出することも、それを使って何かをすることも可能になるわけだ。あいにく、その未来が封じられてしまった今はどうしようもないが」 とんでもない妄想語りだ。 ハルヒの力を手に入れられるだと? ふざけるな。あいつは無機質の物体ではなく有機移動物体だし、その頭ん中と行動力にかけては常識をはるかに超越している。だからまともな手段でハルヒに近づこうったってハルヒは大規模な閉鎖空間でも作って知らせてくれるだろうし、力尽くでってんならSOS団サイドが黙ってないぜ。藤原には到底無理な話だ。九曜なら、あるいはできるかもしれんが。 ん? 待てよ。何だこの感覚は。 ハルヒの力を手に入れて、それを使って何かをすることができる。ハルヒの情報改変能力。強大な力。九曜ならば……? ダメだ。解らん。 一回押し寄せた波が退いていくように、一瞬だけ俺の頭に現れた感覚もすうっと醒めていった。 はたして、俺たちの間には沈黙が訪れた。周りのガキと晴天の空の雲だけが動き続ける、嘘っぽいほどのどかで暖かい風景。 俺が考え疲れて、気晴らしに缶コーヒーでも買ってこようかと自販機に向かって踏み出そうとしたとき、 「あたしたちのこれからの動きについてなんだけど」 橘京子が沈黙を破った。仕方ないので俺も橘京子に向き直る。 「実は、あたしたちの組織も混乱しているのです。古泉さんのところもそうだと思うけど、こんな事態は想定外です。九曜さんが独断を強行するなんて考えてもみませんでした。それに、たぶん未来人さんにも予測は不可能だったんじゃないかしら。彼らの言う、規定事項じゃない、ってことでいいのかな?」 「そうなんですか朝比奈さん」 朝比奈さんはうつむいたまま、 「そうです。今みたいに未来がたくさんできちゃってるってことは、規定外のことが起こったってことなんです。あたしが知らされてないんじゃなくて本質的に予測不能のことだと思います」 「未来からすればこれはノイズみたいなものさ。九曜がやったのか九曜の上の立場の奴がやったのか、どっちにしろ余計なチャチャを入れてくれたもんだ」 藤原の声が付け足した。 「未来人にも解らない突発的なものなんですね。うん、ノイズって言うのが正しいかもしれないわ。誰にも予測ができなかったのだから相当無理やりな行動です。はっきり言うと、あたしの組織はこの事態を歓迎していません。誰にどんな影響を及ぼすのか、その結果世界がどうなるのかまったく解らないもの。下手をしたら涼宮ハルヒさんも佐々木さんも、それを取り巻く人間もすべてこれを招いた人――九曜さんの可能性が高いけど――の手中に収まってしまいます。それだけは回避しないといけません」 しかし、回避するったってどうするつもりなんだ。九曜じゃなくても長門の類の宇宙人を一夜にして地球上から抹消できるような奴なら、橘京子の一派や『機関』だけでは太刀打ちできそうにない。ハルヒの不思議パワーを使えばどうにかなるかもしれんが操縦しようとしたところで暴発するのが関の山だな。それに、悪いが未来と接続を絶たれた状態では未来人がそれほどの役に立ってくれるとは思いがたい。って、一番何もできない俺が言うのもアレだが。 俺が何か他の可能性を模索していると、この超能力娘が古泉見習いのような微笑を称えてさらりととんでもないことを口にした。 「場合によっては、あたしやあたしの組織はあなた方に加勢します」 笑ってやろうかと思ったが冗談ではない雰囲気なので放棄して、次に俺は耳を疑い、耳も安泰らしいと解ると俺はいよいよ絶句した。 橘京子の組織がSOS団の味方になる? ありえん。 SOS団には古泉もいるんだ。こいつの一派は古泉の組織とはどこまで行っても平行線で対立してるんじゃなかったのか。決して交わることはない、と古泉は言っていた。 まさかとは思うが、そんな大組織がコロッと寝返りでもしたのか。だったらやめといたほうがいい。俺はとてもじゃないが昨日の敵を信用する気にはなれん。昨日の敵は往々にして今日もまた敵なのだ。いきなり友になったりするもんじゃない。眉唾モノの極みである。 「そう言われるとは解ってましたけどね」 橘京子は微笑のまま表情を固定して眉一つ動かさない。 「でも言ってみるしかなかったんです。あたしだって間接的に古泉さんのところと手を組むのはあまり嬉しいことではありません。けれど、共通の敵となりうる存在が現れたからそれに対処するために仕方なくです。でも、嬉しいことじゃないけどそんなに悪いことでもないと思うな。あなたはあたしたちの力を借りるのをよく思ってないみたいだけど、これはあなたたちだけでどうにかなる問題ではありませんよ?」 「何だそりゃ。まるで何が起こってるのか知ってるみたいな口振りじゃねえか」 「ふふ。いろいろ調査させてもらってますから。でもあなたたちだけで対処できる問題じゃないってのは本当よ。想像してみて。古泉さんの組織やここにいる朝比奈みくるさん、あなたが全力を注いだとして、九曜さんやそれに類似する宇宙人にかなうと思いますか?」 思わんね。残念なことに。戦国時代の馬に乗った将軍が何十人いたところで、現代の戦車一台に太刀打ちできないのと同じ理屈だ。情報改変なんて技を使いこなすような九曜に勝てるとは思わん。 しかしな、こちらには涼宮ハルヒと名付けられた最終破滅兵器があることを忘れてもらっちゃ困るぜ。九曜よりももっとタチの悪い爆弾だ。 「忘れてたわけじゃないんだけどね。これは古泉さんも同意見だと思いますけど、外部からの圧迫から逃れるために涼宮ハルヒさんの力を使うのは危険極まりないことなのですよ。彼女の持つ力はあくまで最終手段、八方ふさがりで地球の人間の力だけではどうしようもならなくなったときにのみ、相当のリスクを背負って使わないといけません。あたしたちで何かできるのならそれをしないといけないのです。それがあたしの場合はあなた方と手を結ぶことだったという、ただそれだけです」 どうでもいいが、ハルヒのことをまるで無機質の核兵器みたいに言うのはやめてもらいたい。あながち間違いでもないのがさらにイラつくわけだが、そんなふうに言われると俺の心証が悪くなるのでね。 俺は超能力娘から聞き役に従事しているひねくれ野郎へと視点を移動させた。 「お前はどうなんだ。仲間の超能力者がこんなことを言ってるが、お前も同意見でSOS団に味方するつもりなのか?」 「さあね」 藤原は今度こそ嫌気がさしたように鼻を鳴らすと、すっくと立ち上がった。 「帰らせてもらう。どちらにしろあの宇宙意識が抜けた以上、僕にとっての仲間などというのは何の意味も持たない概念でしかない。ついでに言うと、僕はこの件に関わるつもりはないから安心するといい。面倒事には巻き込まれたくないのでね。そのうちどこかの未来と通信経路が復旧するまで大人しく待っていることにするよ。せいぜい愛しの宇宙人探しをがんばるといいだろう」 後ろから奇襲を仕掛けたくなるような口調で言ってのけ、藤原はこちらを振り返ることなくさっさと公園から出ていった。俺が少なからず疑念のようなものを抱いてその後ろ姿を見送っていると、 「彼は放っておきましょう」 橘京子が珍しくも醒めた声で言った。 「無理に首をつっこませる必要はありません。事態が悪化するのはお互い嫌ですからね」 そのお互いってのはお前と誰を指して言ってるんだ。 「さあ、誰でもいいんじゃないかしら。……あっ、と。そろそろ時間が厳しくなってきましたね。佐々木さん、休日に時間をとらせてしまってごめんなさい」 「いや、僕は構わないよ。実に面白い会話だったからね。むしろ、たいしている意味もないのにこんなところに誘ってくれたお礼を述べたいくらいだ」 俺にとってはずいぶん気分の悪い会話だったのだが。 そんな俺の様子を察したのか、佐々木は困り顔になって言った。 「すまないねキョン、僕はキミに悪意を持っているわけじゃないんだ。逆に憧れはする。一般人の傍観者の立場から入って今まで、キミはどんな葛藤を背負って生きてきたのだろうか、とね。僕のような無理やり与えられた当事者の立場ではないってところが重要なんだ」 「…………」 俺は答えなかった。というよりか、答えたくなかったのかもしれん。理由なら訊くな。何となくだ。 「ますます気分を悪くさせてしまったかな。重ねて申し訳ない。申し訳ないついでに忠告しておくと、そろそろ駅前に帰ったほうがいいんじゃないだろうか。涼宮さんが怒ったところはずいぶん怖そうだからね」 「ああ」 俺は腕時計に目をやった。もう約束の四時が差し迫っている。俺は帰るキッカケを得たなと思って立ち上がると、 「じゃ、俺たちも帰らせてもらうぜ。ほら朝比奈さん行きましょう。少し急がないとやばいですね」 「あ、は、はい」 ぼうっとしていた朝比奈さんは俺の声で我に返ったようになり、佐々木と橘京子に向かってちょこんと頭を下げると俺の後についてきた。 「じゃあな、佐々木。あとそっちの超能力者、妙なことだけはするなよ」 俺は釘を刺すと、それとなく朝比奈さんの手を引いて小走りに川沿いの公園を出た。 * 指定された駅前に戻ると、二分待ったと言ってしかめ面をするハルヒ、そしてその横でどっかのホストクラブから間引いてきたような顔をして立っている古泉がいた。 夏が近づき、それに比例して日も長くなっているために外はまだ真っ昼間の様相を呈していたが、他に行くところもないので今日はこれにて解散ということになった。 「明日も九時に駅前集合だからね!」 というのがハルヒから俺に向けられた唯一の言葉であり、あとは朝比奈さんに近づいて栗色の髪をいじったりしている。いつものことさ。今日はその横に伴われて黙々と歩く少女が足りていないだけだ。 「あなたからお借りしたパスワードのことについてですが」 俺がそんな女子部員二人を見るともなしに眺めていると、俺の隣を歩く男がささやいてきた。古泉は困り笑顔になって、 「すみません、解りかねます。まったくわけが解りません。どこのロックを解除するためにあるのか、そもそもすべての始まりとは何なのか、いろいろ考えてみましたが全然ダメですね」 俺はそんな言葉を吐く古泉に軽薄な目線を寄せ、 「何か可能性のある考えとか仮説は?」 「いえ、そんなものを立てようにも皆目見当がつかないんです。ただ、どこかのロックを解除するためのものだとしか」 ちっ。 と、俺は内心舌打ちした。昼間に朝比奈さんが解らないそうですと言ってきたのは本当に解らなかったのか。考えも仮説もなし。何だ、せっかく古泉に考えるチャンスをくれてやろうと思ったのにな。いや、俺がここで残念がっても仕方ないのだが。 「参りましたね。おそらく僕が考えていても到底解りそうにありませんから、今日にでも『機関』のメンバーに助力を頼むこととします。ご安心下さい、僕が信頼を置いている確かな人物にしか見せませんから。ですから、このコピーはそれまでお借りしていてもよろしいですよね?」 「別に構わん」 しかし、ということは昼間のは朝比奈さんの思い違いだったのか。超能力者はそんなに未来人を避けているわけではなく、朝比奈さんが被害妄想を抱いていたということなのか? いや、もしかすると今回のは偶然だったのかもしれん。もし古泉が午前の時点で解答を得ていたとして、その答えを朝比奈さんに教えるという保証はないのだ。とするとやはり超能力者と未来人の間にあるわだかまりはもう解消されていると考えるのは早計か、ううむ。 「何か懸案があるようですね」 どきりとするようなことを言いやがる。勘が鋭いというか、まさかお前には人の心を読む能力でもあるんじゃないのか。 「ありませんよ。時々あったらいいなとは思いますが、やはりないほうが楽しいに決まってますね」 相変わらず微笑みを崩さない古泉に、俺は仕方なく朝比奈さんと話したことをうち明けた。 ようするに、超能力者と未来人はお互いを信用して助け合うほどの間柄ではないのではないか、と。重要な情報は相手には握られたくないのではないか、と。俺はついでに昼に朝比奈さんが唱えていた超能力者と未来人に関する説も話してやった。 古泉は俺の話を興味深そうに聞いていたが、俺が一種の居心地の悪さを感じて言葉を切ると見事なまでに苦笑した。何だよお前は。 「それは考えすぎですよ。確かに我々超能力者と未来人との間には乗り越えられない壁もありますが、一方で共通理解が可能な部分も非常に多いです。それに、以前あなたにお話ししたように、朝比奈さんは護ってあげるべき愛らしい上級生ですからね。これは本心ですよ。あと誤解されないために釈明しておきますが、僕はパスワードについては本当に何も解りませんでした。先ほどあなたにお話しした通りです。それに朝比奈さんがそんなことを考えているなど思ってもみませんでした。まだまだ精進が足りませんね」 古泉の様子に嘘をついている素振りは一切ない。もっとも、ここまで来てまだ嘘をついているようだったら俺は心底古泉を見損なわなければならないのだが、よかったな。 「つうことは、去年の映画撮影のときからお前の組織や朝比奈さん派の未来人は多少なり考えを変えたってことか?」 「どうしてです?」 「いやお前、映画撮影のときに朝比奈さんの言っていることを否定しやがるようなことを言ってたからな。朝比奈さんもまたお前を信じるなって言ってきたが」 古泉はわざとらしく驚いたような顔をして、 「よく覚えてらっしゃるんですね。忘れかけていました。その通りです。我々の『機関』と未来人は今やお互いに歩み寄って、間にある溝を少しでも減らそうと努力しあっている状態にあるんですよ。それの発端というのが面白いことに、このSOS団に僕と朝比奈さんという超能力者と未来人がちょうど居合わせたからなんです。そのおかげでずいぶんと変わりましたよ。朝比奈さんも長門さんもあなたも、そしておそらく僕もね。一年前とは比較のしようがありません」 そんなことは言うまでもない。 朝比奈さんは昔も今も変わらず可愛らしいし、長門にいたってはちっぽけな感情のかけらのようなものを獲得することに成功している。俺はともかくとして古泉だって何か変わっているはずなのだ。こいつはただそれを表に出さないだけでな。 それはいいがお前、肝心の誰かを忘れてないか? 「やはり気づきましたか。わざとですよ。彼女、涼宮さんについては深くお話しようかと思いましてね。SOS団の中で一番変わったのが彼女ではないでしょうか」 変わった変わったうるさい奴だ。終わる前からそういうことは言うべきでないし、ましてや順位づけするなんてもってのほかだ。ハルヒと朝比奈さんと長門に失礼である。 「夏休みのことなんですがね」 古泉はそう言い出した。 「このまま順調に行けば、もうすぐ夏休みがやって来ますね。無論長門さんのいない今が順調に行っているなどと不謹慎なことを言うつもりはありませんが、彼女が見つかろうが見つからなかろうが夏休みはやって来ますから。それで、今日の不思議探索で涼宮さんが合宿のことを話題にあげたものですから、僕は提案してみたんです。せっかくだから今回も殺人劇のようなものを用意いたしましょうか、とね」 余計なことを言うな。 「安心して下さい、あなたが望むとおり彼女の返答は否定形でしたよ。つまり、殺人劇はいらないと言われたわけです。合宿中はSOS団のメンバーや鶴屋さん、あなたの妹さんと一緒に遊び倒すから劇も推理ゲームも今回はいらない、とね。驚きです」 「何がだ」 「涼宮さんが合宿の期間中だけでもファンタジーの世界から手を引こうとしていることに、ですよ。あなたも御存知の通り、彼女は三年前――もう四年前ですね――からずっと宇宙人や未来人、超能力者と邂逅を望んできました。あなたは詳しくは知らないでしょうが、それはもう、ずいぶんといろいろなものを犠牲にしてまで彼女はそういったものを追い続けてきたんですよ。だから僕がここにいる。しかし、今回彼女はそれを夏合宿の間は封印するという心意気でいるんです。考えてもみて下さい、なんだかんだ言って涼宮さんはどんなことでも謎的存在と絡めたがっていたでしょう? 本当は興味が薄れていたのかもしれませんが、表向きだけでも、彼女は今まで不思議を探索するということにしていたんです。それが今回はどうでしょうか。驚くべきことに、彼女は仲間と遊び倒すと言っているのです。つまり、今回の合宿の目的は不思議探しではありません。仲間と友好を深めることなんです。どうです、こんなことは初めてでしょう?」 「そんなことはないだろ」 俺は反論した。 ハルヒの行動の裏付けに全部謎探しが入っていると思ったら大間違いだ。ハルヒが今日不思議探しなんて称してやってるのは周りの人間から見ればただのヒマな高校生が遊び回っているようにしか見えないだろうし、事実そうである。今日の午前中に俺とハルヒはデパートに行ったが、あれは不思議を探すためなんかじゃないと今なら断言できるね。不思議を探すことなんかじゃなく、SOS団のメンバーとぶらぶらすることに意味があるんだ。そんなことは、俺たちの前で悩み事など一つもないような顔して朝比奈さんをいじってるあいつの顔を見ればすぐに解る。 そこらへんで、俺は形容しがたいムズ痒い感覚に襲われて黙りこくった。 古泉はその様子を見て軽く笑い、 「あなたも解っているのか解っていないのか、僕からすれば謎のような人間ですよ。ええ、そうです。どのくらい前からかは知りませんが、彼女は本気で宇宙人やその他の存在と巡り会いたいとは思わないようになってきているんですよ。しかし彼女はそれを決して肯定しようとはしなかった。その葛藤も、時として閉鎖空間になって現れるわけです。あくまで市内の不思議探しの目的は不思議探しのままですし、涼宮さんには何をするにあたっても不思議というのが大前提でした。しかしそれを今回、彼女はあっさりとくつがえしたんですよ。自分の意識にある、仲間と一緒に遊びたいという思いに対して肯定的になったんです。そして逆に、不思議との邂逅ということはだんだんと価値を失っている」 別に悪いことじゃないだろうよ。ハルヒがそんな妙なことに気を取られないよう、まっとうな女子高生として生きてもらうのがお前らの目標じゃなかったのか。あいつがただの何の変哲もない人間になることを、お前らの組織は願ったんだろ。 「あなたはそれで割り切れるのですか」 古泉が俺に真面目な顔を向けた。古泉にしては強引ではっきりした切り口に、俺は少し動揺した。 「このまま、勢いを失ったろうそくの火がぽっと消えてしまうように、彼女が不思議を探さなくなったりしたら。もしそうなったとしたら、彼女が望まない以上、僕や僕の仲間は涼宮さんに与えられた能力を失うでしょうね。《神人》ともお別れです。確かに、それがいいことなのは解っているんです。彼女の精神は安定して、彼女の周りにいるあなたのような人間も静かに過ごすことができますから。しかしね、もしそうなったときに、そんな表面の理性だけでは割り切れない、何とも言えない虚脱感がこみ上げてくるのを僕はリアルに想像できるんです」 そんな未来予知が何の役に立つのか知らないが、俺もたぶんそうなるだろうことは容易に想像できた。あえて口には出さないが。 そんなん、非日常の世界に未練が残らないほうがおかしいのだ。よほど恐ろしい世界であるのなら別として、俺はSOS団での日常をそれなりにエンジョイしているつもりだし、これからもそうするつもりだ。 まあ、これから何が起こるのかは考えたくもないけどな。 しかし何が起ころうと、それを俺の死ぬ直前になればあああれは楽しい思い出だったなあと思い返す自信はある。というより、そうなるように今の俺は努力しなければならんのだ。 「同感です」 古泉が同調した。 「こんな終わり方は嫌だと思いながらも断ち切られることほど屈辱的なことも数少ないですからね。それが嫌だったら、今から後悔しないための努力をしなければならないでしょうね」 そこで会話はとぎれ、俺と古泉はしばらくハルヒと朝比奈さんを観察する作業に徹した。 俺がああこいつも変わったもんだなとか意識外で思っていると、再度古泉が口を開いた。 少し現実的な話につなげますが、と前置きして、 「たとえば今の状況です。見えざる何者か、もう周防九曜と断定してしまってもいいと思いますが、その力によって僕の能力が奪われたり、ポジションを追われたりするのは耐え難いことですよ。少なくとも、僕にとってはね。季節フォルダの話ではありませんが、僕はこのSOS団そのものやその活動にそれなりの愛着を抱いているんです。自分の精神を分析するのはあまり好きではないのですが、おそらくここまで来たらという思いが強いのでしょう。察するに朝比奈さんや長門さんも同じですよ」 外部の力に屈する気がないのは俺も同じである。何より、SOS団には心強い人材がたくさんついてくれている。ハルヒ、朝比奈さん(小)……は微妙だが、他にも古泉、鶴屋さん、『機関』のメンバー、そして共闘宣言をしてきた橘京子。これだけ人材が集まれば周防九曜にも対抗しうる力があるだろう。 俺が橘京子について訊くと、古泉は簡単に答えた。 「橘京子が味方すると言ってきたことについては、既に上から連絡をもらっています。そんなに危惧すべきことでもないでしょう。周防九曜の攻撃の標的がSOS団だけにとどまらないことから、動機も読みやすいですしね。裏はありませんよ」 なぜ解る。奴は朝比奈さん誘拐犯だぞ。 「その事実にばかりにやたら固執するのもいかがなものかと思いますが」 軽い冗談だ。気にするな。 「じゃあ未来人はどうなんだ。あの藤原とかいう、朝比奈さんとは別の未来から来た奴だ。あいつは橘京子とは違う考えのようで、俺たちに加勢するつもりはないらしいぜ」 「それは彼の任務外だからです」 古泉はあっさり答えを出した。 「本来、過去の争いに未来人が手を出す必要はありませんからね。まあ、彼の任務はその余計な手を出して過去を自分の未来にとって都合のいいように変えてしまうことなのですが。しかし今回の場合は彼に命令を出す未来自体がねじれてしまっていますから。未来が無数に存在するために、どれが規定の未来か解らなくなってしまっているわけですね。どれが自分の正しい未来なのか解らないのですから、したがって彼は未来からのいかなる命令に従う必要もないわけです。一種の開き直りでしょうかね。放っておいて、現れた未来をそのまま受け入れるつもりなんでしょう」 そういえば長門も以前同じようなことを言っていた覚えがある。自分は観測者の位置でしかないから、ここの人間を助けるために手出しはしない、と。どうせ昔の話さ。 だがしかし、そう言われると朝比奈さんがこの状況を自分の未来に束縛されることがなくなって自由に行動できるようになったと捉えるのは素晴らしいことのように思えてくる。わざわざ自分で行動を起こす必要などないのに、朝比奈さんはSOS団の、過去の人間のために動く覚悟でいるわけだ。そう考えるとこっちが申し訳ないくらいに思えてくる。 「それが、SOS団に所属している未来人と、そうでない未来人の違いでしょうね。僕はそう考えます」 古泉は達観したような口調でそう言い、晴れ晴れしたような顔で言った。 「SOS団にいれば誰しも変わってしまうものなんでしょう。下地がどんな人間だったとしてもね」 * 次の日曜日である。 どうせ今日も俺が奢りになることは最初から決まり切っているのでハルヒを怒らせるくらい遅刻してやってもよかったのだが、こんな時に限って早く起きてしまう自分が恨めしい。妹は二日間連続で自分で起きた俺が病気にでもなってるんじゃないかと疑いをかける目で見てくるが、そんなもんは無視だ。シャミセンだってたまには運動するような素振りを見せるのと同じで、俺もたまにはそんなことがあるさ。 結論から言うと、この日は本当に何にもなかった。あると言えば長門が消えた時点からあるのでそこの解釈は微妙だが、少なくとも再び佐々木連中と鉢合わせしたり、朝倉が蘇ってナイフを振りかざしたり、九曜が突如として俺の目の前に現れることもなかった。その代わり、長門が現れることもなかったが。 古泉の論説はどうやら真実味を増してきたようだった。 今日のハルヒは不思議探しという言葉を忘れてしまったかのように、朝比奈さん以下二名を引き連れて延々とウインドウショッピングに従事していた。朝比奈さんは買い物どころではないような心なしか青い顔をしていたように見えたが、その心情は理解できないこともない。 また、古泉が途中で、 「涼宮さんは今、不思議探しではなくSOS団の団員といることを楽しんでいるのですよ」 などと知ったような口を叩いてきたが、それは面倒なので流しておいた。そんなことはいちいち口に出して確認するもんじゃない。知らぬ間に、嫌でも自然に精神の中に植え付けられるものなのさ。 昼食は適当に探した中華料理店で食った。ハルヒにおいしいからと言われるがままに注文したら、やたら赤い食い物が出てきやがり、夏も近いために運動もしていないのに大汗をかくはめになったが、それも含めて昨日や一昨日よりは羽を伸ばせた一日だった。 もっとも、そんなもんを伸ばしている暇はない。進展がない場合、それは往々にして水面下で事態が進行しており、気付いたときには手遅れになっていたりする。ガンにしたって、末期で発見されるよりは水面下で進行している状態で見つかったほうが手がほどこせるし助かる可能性も高いだろう。それと同じだ。 そう解っていたのに。 俺も朝比奈さんも古泉も、油断することこそが最大の危険だと解っていながら、この日ばかりは何もすることがなかった。朝比奈さんは未来が封印されているし、古泉も閉鎖空間がなければ業務はない。俺にしたって、向こうからアクションがなければ俺から動くことはできない。誰かに文句をつけられたとして、そんな謂われはないと言い返す自信はある。 しかし、この時ばかりは何か少しでもできることをしておくべきだったと悔やまれてならんのだ。何もできなくても、せめて心持ちをしっかりしておくぐらいのことはしておくべきだったのだ。 明けた月曜日、事態は急転した。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/6000.html
涼宮ハルヒの遡及Ⅱ …… …… …… ああ、なんだ集合時間より一時間は早く着いたぞ。 いつもは二十分近くかかる駅前までだが、空から一直線に来ればこんなに早いんだな。なんせ五分とかからなかった。 と言うかアクリルさんの飛ぶスピードが速いんだろう。 などと諦観している俺がいる。 「ふうん。あの時計で短針が九、長針が十二になるまでにハルヒって子が来るのね」 「ええまあ……」 「とりあえず待ちましょう」 「それはいいんですけど、『さくら』さん……」 「何?」 「俺たち、注目を集めてるんですが……」 そう。うんざりしている俺とあくまであっけらかんとしているアクリルさんの周りには得体の知れないものを見る目をした人だかりができているのである。 「何で?」 「……ここはさくらさんが本来住む世界じゃありませんからね……『魔法』は認知されていないんです……」 「あ、そう言えばそうだったわね。でも安心して。それじゃ――」 ん? 何だ? アクリルさん、左手を開いて翳しているし……って! その手から強烈な光が発せられる! うぉい! ただでさえパニック寸前の雰囲気満々なざわめきが沸き起こっているのに追い打ちかけますか!? 「心配いらないわよ。この魔法はメモリーリウィンド、簡単に言えば記憶を除去する魔法……じゃないか、記憶を巻き戻す魔法、の方が適切かな?」 アクリルさんが説明を終えると同時に光が止む。 刹那、人だかりは、「あれ? 何してたんだっけ?」「わたしは……」と呟きながら、まるで何事もなかったかのように四散していった。 って、これは……? 「んまあ、さすがに人の記憶を操作する、なんて真似はそうそうできるもんじゃないからね。一応、そういう魔法がないわけでもないけどそれは催眠術や傀儡術に近いものがあって『覚める』と何の意味もなさないのよ。だから今のは記憶を前の記憶まで戻す魔法だったの。とりあえず、あたしたちが現れた時間前まで、ね」 な、なるほど……あれ? でも、同じ光を見ていた俺はどうして記憶がなくならなかったんです? 「ふふっ。今の人たちはあたしだけを見たのかしら?」 あ、そうですね。俺も見てますよね。 「そういうこと。記憶巻き戻し対象はあくまで『あたしとキョンくんを見た人』。なら、キョンくんが影響を受けないのは当然でしょ」 相変わらず魔法ってのは凄い力だ。できることとできないことがあるのは仕方ないとしても通常、普通の人が持つ能力からすれば格段にできることが多いんだからな。 はてさて、そんなちょっとした異常事態も文字通り、何事もなかったことにしたアクリルさんと俺は、ただただ待ちぼうけである。 そりゃまあ仕方ないことで集合時間よりも一時間早く着けば当然の成り行きとしか言いようがない。 「ん~~~まだ二十分はあるわね」 背伸びしながらアクリルさんが呟いております。 ううむ……やっぱ背伸びをするとさらにその豊満な丸みを帯びたものが強調されますな…… しかも山吹色のノースリーブシャツの脇からなかなか素晴らしい光景が垣間見えて目のやり場に困りますがな。うぉ? ひょっとしてノーブラってやつか? あ、臍も見えている。なるほど、胸が大きいと下に生地が収まり切らないってことか。 ヘアカラーが黒になっているとまったく違う印象を受けるもんだ。と言うか、あのヘアカラーが異質過ぎるんだろう。 などとアクリルさんは全く気付かないのだが、劣情に浸っていた俺の至福のひとときを吹き飛ばす音響が響いたのはこの時だった。 着信、古泉一樹。 ん? 何だ? どうした? 「もしもし?」 『おはようございます。古泉です』 お前はどこぞのニュースキャスターか? 『いえ、まずは挨拶を、と思ったものですから。それよりもお聞きしたいことがあります』 何だ? 『あなたの隣におられる方はどちら様ですか? 確認したところ、朝比奈さんも長門さんもご存知ない方ですし、佐々木さんでもありませんよね?』 ん? ああ、この人は……って、お前らもう来てるのか? 集合時間までまだ二十分はあるぞ? いつもこんなに早いのか? 『そんなことはどうでもいいです。それよりもあなたの隣の人の方が問題です』 は? 何でだ? 『……涼宮さんももうこちらにいらっしゃってるのですが……』 古泉の声はなんとも触らぬ神に祟りなしっぽい口調だな。 あーてことは…… 俺はこめかみにでっかい困った汗を浮かべて、 ううむ……確かに背後からなんだか無言のプレッシャーに等しいどす黒いオーラを感じているような気がする…… 「えっとだな古泉……ハルヒにこう言ってくれないか……?」 『僕の声が届くと思えないのですが?』 まるっきり暗君の弑逆を決意した冷徹な奸臣のような声だぞ、おい。 『で?』 「分かった分かった。じゃあハルヒに替ってくれ。俺から話す」 『……分かりました』 古泉の返事を聞いて待つことしばし。 『……ふーん……あんたなんかでもナンパが成功するのね……』 第一声が思いっきり嵐の前の静けさなのですが? 五分後に雷付き暴風雨が来るのが解っていながら家に居ればいいのに血迷って雨具を持たずに外出した三分後の心境とはこのことだ。 しかしまあ今回は後ろめたくなる理由はどこにもない。あるはずがない。 って、今回“は”って何だ。俺は一度たりともそんな後ろめたいことをした覚えはない、はずだ。 「あー勘違いするなハルヒ。別にこの人はナンパした人じゃない。それよりも早くこっちに来いよ。この人はお前にも会いたいって言ってるんだ」 『あたしは別に会いたいと思わないわ』 だから違うって。何、勘違いしてやがる。 って、待て待てツッコミを入れるのは後にしておかないと、向こうがぶつ切りするかもしれないんだ。その前に用件を伝えないと。 つーわけで俺は捲し立てるように言った。 「違うって。この人は蒼葉さんの友達だ」 『――!!』 受話器の向こうかでもはっきり分かった。ハルヒの奴、驚嘆に絶句しやがったな。 「そう言えば、あの時はお互いによく顔は見えなかったっけ」 「うん。それに今日は髪の色も違ってたから本当に分からなかったんです」 アクリルさんの涼やかな笑顔の感想にハルヒがはしゃぐ笑顔で相槌をうっている。 場所はいつもの喫茶店、ではなく、駅前にあるカラオケボックスの一室。 なぜこんな場所に居るかと言うと、ハルヒが異世界人とじっくり話をしたい、と言うのが一番の理由だからだ。宇宙人、未来人、超能力者に関して言えば、んなもん、部室でできるし、部室にはよほどのことがない限り、俺たち以外はいない訳だから他人の目を気にする必要はどこにもない。 しかし、異世界人であるアクリルさんはそうはいかないんだ。学校に行く、という手もないこともないがそれではここから到着までの時間が馬鹿にならん。 となれば少しでも早くハルヒの望みを叶えてやろうと思えば、周囲に気遣いのいらない俺たち以外は誰も来ない防音設備の整った場所が必要となる。 それがこのカラオケボックスってことさ。 「あと蒼葉さんとはゆっくり話す機会はありませんでしたし、今回のチャンスは逃すわけにはいきません」 ううむ。ハルヒの丁寧語というものはなんとも新鮮でかつ、どことなく違和感が溢れまくっている。 まあ仕方ないよな。普段のこいつは遠慮という言葉からは一番遠いところに居る奴だ。生徒会長は勿論、軽音楽部の諸先輩方々にさえ無遠慮な言葉遣いなんだからな。 だいたい、先輩の朝比奈さんに対して『みくるちゃん』なんて言ってる時点で常識に照らし合わせて論外としか言いようがない。 「ん~~~別にそんな大したことでもないと思うんだけど……」 「そんなことないです! だって異世界ですよ異世界! あたしたちはどうやったって今現在は異世界に行く手段がないし、来てもらわない限り会えないんですから! それに今回はさくらさんは時間制限がありそうなトラブルでこっちに来たわけじゃないんでしょ? だったら、ゆっくり話したいんです!」 ふむ。異世界に行く手段がない、という常識をわきまえていることはどこかホッとするぞ。 「分かったわ。別に時間制限がないわけでもないけど慌てるほどでもないし。で、あたしに異世界……というか、あたしが住んでる世界の何を聞きたいの?」 アクリルさんが降参を表現した笑みを浮かべてハルヒの提案を受けて入れている。 「ありがとうございます! それじゃ――」 300W増しの輝く笑顔でハルヒは取材を始めた。 涼宮ハルヒの遡及Ⅲ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1059.html
第七章 俺たちは30分ほどで学校に着いた。 そしてやっぱり神人が暴れていて校舎もめちゃくちゃだったし、校庭には神人に投げ飛ばされたと見られる校舎の残骸が投げ捨てられていてこの世の風景とは思えないようだった。 ハルヒはもうどうしていいのかわからないようにこう言った。 「ねえ、キョン。いったい学校に来てどうするつもりなの?」 「わからん。とりあえず校庭のど真ん中に行こうと思う。」 ど真ん中とはお察しの通り俺とハルヒが昔キスをした場所だ。 そこに着けば恐らく何らかのアクションが起きるはずなのだ、そうでなければあの未来人や朝比奈さんが止めるはずである。 俺はハルヒを半分無理やりど真ん中に連れて行った。 そのとき、ポケットに入っていた金属棒が金色に柱のように光りだし、ハルヒと俺を光の中に入れた。何がどうなってるんだ。 俺は慌ててポケットから金属棒を取り出した。 これでハルヒが普通の人間に戻ったのか? もちろんそんなわけは無く、その金属棒にひびが入った。 ピキピキ…割れていく。 中から茶色い棒が出てきた。 俺の嫌な予感は的中し、金属棒の中からポッ○ーが… やはりそうか。 ポッ○ーゲームか、それでキスしろってのか。 ハルヒは察したのか俺からポッ○ーを奪い取り口に加えて目を閉じた。 俺も目をつむりポッ○ーをくわえたそのとき、前のときのような光が世界を包み俺たちを元の世界に返した。 たまたまグラウンドはどの部活も使用してはいなかった。 あれ?朝比奈さんやら古泉やら長門やらはどこに行ったんだ? 閉鎖空間に閉じ込められたのか?だとしたら神人が全部消滅するまで空間は消滅しないはずである。 だとしたら朝比奈さんたちはどうなる。 いやハルヒの能力が消えたのだから閉鎖空間も消滅したのか?古泉は何も言ってはいなかった。 その時、後ろで俺を呼ぶ声がした。 「キョン君!」 朝比奈さんである。あの未来人と(小)方もいる、気絶したまま(大)にかつがれてるが…。 「朝比奈さんたち、どうしてここに?」 「古泉君に言われたんです。学校に向かってくださいと。これも規定事項ですし。」 「そうですか。」 この時ハルヒがあることに気付いた。 「有希は?」 そうだ長門は?朝倉と交戦中のはずのやつはどこに言ったんだ。 その問いには朝比奈さんが答えた。 「長門さんはあと1分ほどでここに現れるはずです。朝倉さんって人を倒して。」 よかった。 じゃあ古泉はどうなったんだ。 まさかあのとんでも空間に閉じ込められたままなのか? 長門がやってきた、古泉の事を聞いてみる。 「古泉一樹は閉鎖空間に残り、自爆して全て倒すつもり。」 自爆?自爆ってあれか?ボーンってなって死んじまうあれか? 「そう。」 古泉はどうなるんだ。 「死ぬ。」 どうにかならないのか。 「ならない。そうしなければ世界が滅ぶ。古泉一樹は世界を守るために死を選んだ。」 くそっ、俺の許可なしで死にやがって。 ハルヒは悲しい顔で「私のせいよ、私が転校生が来て欲しいなんて思ったから。だから古泉君は…」 落ち着けハルヒ。お前は何も悪くないし古泉のことは悲しいが今はこの状況を何とかすることが先決だ。俺たちを助けてくれた古泉のためにもな。 長門。朝倉はどうなった。 長門はいつぞやのカマドウマのとき同様、校門を指を刺した。 「すぐそこ。すぐ倒す。もう余裕は無いはず。」 その直後、校門から高速で何かが走ってきた。勿論。朝倉である。 朝倉は長門めがけて突っ込んできた。 不謹慎かもしれんがターゲットが長門でよかった。 ターゲットが俺なら一瞬でことは終わっていたからな。 長門は校庭のど真ん中で戦闘をおっぱじめた。 轟音が鳴り響く。 轟音で朝比奈さんが目を覚ました。 「ふえ?ここどこですか?あれ?この人私にそっくり。誰なんですか?そっちの男の人も。古泉君はどこいったんですか?」 なんというか、どっから説明していいのか。 とりあえずここで目を覚ますのは朝比奈さん(大)にとって来てい事項なんだろうか。朝比奈さん(大)に目配せしてみる。 朝比奈さん(大)が頷いた。 俺はいまいち状況を理解できていない朝比奈さんに説明した。 「この人は今の朝比奈さんよりも未来から来た朝比奈さんです。恐らく今まで朝比奈さんに命令を出してたのもこの人です。」 「え?そんな、まさか。」やっぱりと言うかなんと言うか、やはり混乱した。一応孤島のときのこともあるので古泉のことは伏せておいた。 朝比奈さん(大)が口を開く「そうです、私は未来のあなたです、いろいろな指令をいつも出していたのも私です。それからキョン君、この騒動が終わったらこの子にこの子がするべきことを全て教えてあげてください。」 「え?わかりました。」どういう意味だろう。七夕のときや一週間後の朝比奈さんが来たときの手紙のことを教えてあげればいいのだろうか。 長門が交戦中にも関わらずこっちを向いて叫んだ。「ダメッ!!」 すると「確かに頼みましたよ。」といって朝比奈さんの後ろで盾になるように大の字になった。 その瞬間である。鉄砲か何か、もしかしたら光線銃のようなものかも知れない。 一線。 俺の盾となってくれた朝比奈さんは倒れた。飛んできたであろう方向からは何も見えない。 血まみれになって倒れた朝比奈さん(大)を支えてあげる。「これも規定事項ですから…」 そう言って朝比奈さんは目を閉じた。 俺はハルヒに叫んだ。「朝比奈さんに見せるな!!!」 ハルヒは急いで朝比奈さんに抱きつき視界をふさぐ。 だが何もかも遅い。朝比奈さんは泣きじゃくり倒れこんでしまった。 ここで突っ立って傍観していた未来の俺が地団駄を踏み口を開いた。 「まさか!クソっ!それで未来を守ったのか。クソっ!」 そうか。朝比奈さんが朝比奈さん(大)を認識することで現在と未来がつながったのか。 それなら俺と未来人の時でも同じことが言えるのだが恐らくハルヒが生み出した不安定な未来なので朝比奈さんが朝比奈さん(大)を認識することで上書きされたのか。 恐らくこの未来人の規定ではここで朝比奈さんが死に、朝比奈さん(大)の存在に矛盾を出すためだったのであろう。 と言うことは未来人戦はこちらの勝利である。大きな犠牲を払ったが。 とち狂ったように未来人が言った。「もうお前ら全員殺してやる。」 おいおい未来の俺よ。なに言ってやがんだ。 その時、突然空が無数の点により暗くなった。 なんだありゃ。いろいろありすぎてわけがわからん。 第八章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/832.html
まだまだ寒さが残っているがもう菜の花が芽吹く季節になった。 1年程前に結成されたSOS団は右往左往ありながらも無事に続いている。 最近思うのだが何かがおかしい気がする。何がおかしいのか、と聞かれると 俺も困るのだが変なもんは変としか言いようがない。 宇宙人や未来人、超能力者が普通に出入りしているだけで十分変なのだが まぁ、それは置いておこう。そんなこといいだしたらキリがないしな。 こんなことを考えてたのも一瞬でもはや生活習慣の一部になりつつある SOS団のアジト、文芸部室へと足をはこんでいた。 ノックをすると可愛らしい声で返事が返ってきた「あっ、はぁい」 今日も似合い過ぎのメイド服を着た朝比奈さんはにこやかに微笑んで 音を立てているヤカンへと駆け寄っていった。 俺は部室を見まわした。 いつものさわやかな微笑みをうかべた古泉とこれまたいつもの無表情で ハードカバーを読みふけっている長門がいた。 「どうも。涼宮さんは一緒じゃないんですか?」 古泉はチェス盤とコマを用意しながら言った。1回も勝ったことないのに こいつもよくあきないな。 あいつは掃除当番だと言い俺は既に指定席になりつつあるパイプイスに 腰をおろした。 そんないつもの日常に俺は安心しきっていた。 まさかこんなことになるなんてな・・・。 俺は朝比奈さんの煎れてくれたお茶に今世紀最大の幸せを感じつつ 進級テストについて考えていると「どうしましたか?」 古泉が声をかけてきた。 「ちょっと将来のことを考えて暗澹たる気分にひたってたんだよ」 「いやぁ、あなたがそんな顔をしているのが珍しくて恋でもしてる んじゃないかと思いましてね」 それはない。絶対にない。 古泉のクスクス笑いを無視しつつあいつ遅いなぁなんて考えていた。 あいつと言うのはわれらが団長、涼宮ハルヒのことだ。 「涼宮さん遅いですねぇ・・・。」 俺と同じことを考えていたのは俺の天使朝比奈さんだ。 どっからみても中学生か小学生の高学年にしか見えないのだが 実は俺より年上らしい。 まぁ、実年齢は禁則事項♪らしいので本当のところは 知らないが・・・。朝比奈さんが何歳かなんて問題は置いておこう。 最近感じていた違和感も忘れ退屈な日常を過ごしていた。 ただ、今日は何かがおかしかった。 何故なのだろう。ハルヒが部室にこなかった。 次の日俺が心臓破りの坂(命名俺)をのぼっていると後からやかましい 男が歌いながら近寄ってきた。 「WAWAWA忘れ物~っとキョン今日もしけた顔してんなぁ」 お前ほどじゃないよと言いつつ俺は冷たい手に息を吹きかけた。 「それより谷口チャックが開いてるがそれはファッションか?」 「なっ、ありがとな。このままだと変態扱いされるとこだったぜ」 元から変態だろ。 「お前程じゃないぜなんせキョンなんてあだ名で呼ばれるなんて 俺は死んでも無理だ」 うるさい。俺も好きで呼ばれてるわけじゃないんだぞ。 なんて無駄なやりとりをしている間に学校についた。 教室にはいると俺の後ろの席には誰もいなかった。 いつもは俺より早く来ているんだがな・・・。 まぁ心配するだけ無駄だな。前にも遅かったことあったしな。 だが、ハルヒはこなかった。担任の岡部に聞いても連絡はきてない としか言わない。 ハルヒのことが気がかりで授業なんて聞いていられない。 理科の教師が谷口にチョークを投げつけて「おい!谷口!チャック を開けるな!」と言ってたのも聞き流す。 そして4時限目の終了を告げるチャイムが鳴るやいなや俺は部室棟へ 向かった。もしかしたらハルヒはここに泊まってるんじゃないだろうな なぁんてありえもしない事を考えながら、文芸室の扉をノックした。 「だっだれ!?」・・・ハルヒの声だ 「俺だ。それより教室にもこないでここで何してる」 ガチャガチャ・・・鍵閉めてやがる。 「キョン?何かよう?用がないなら帰ってよね」 「いや用があるわけじゃないんだがちょっと心配になってな」 「えっ・・・」 そこでハルヒは鍵を開けて顔を出してきた。 目が赤く少し腫れている。何かあったのか? とたずねると。 「ちょっと親父と喧嘩しちゃってさぁ・・・それで家出してきたの!」 やれやれ。それはいつだ? 「昨日の夜よ?」「ってことは何か?お前は昨日の夜からここにいたのか?」 「そうよ」そこで俺は言葉を失ったね。 ハルヒは笑っている顔を作っているのだが下手っぴすぎる。 笑顔の目の端の方、涙が滲んでいる。 残念ながら俺はそんな顔をしている女性にかける言葉は知らないから お前にかけてやる言葉はないぞ?古泉あたりならかまってくれるかも しれんが。 そのまま沈黙を保っているとハルヒが 「しばらく授業にはでないわ。あと、SOS団は休m」 「ちょっとまった。」 俺はハルヒの言葉を聞き終える前に言った。 「理由はわからんが、とりあえず親父さんも反省してるはずだし 心配もしてるはずだ。だから帰ってやれよ」 「なっ・・・」 何故だかハルヒは悲しそうな表情を作って 「・・・やだ」 泣きながら拗ねている子供のように言った。 やだって・・・。 「キョンの家いってもいい?」 俺が何を言おうか迷っているとハルヒが何を血迷ったか 俺の家に行きたいなんて言っていた。 「あぁ、家に帰るのは夜でもいいが親御さんにあんまり心配 かけんなよ」 「遊びにじゃなくて・・・しばらく泊めなさいよ」 今にも泣き出しそうにしてるハルヒに俺はダメだ・・・とは言えなかった。 それから俺は、他のSOS団メンバーに今日は部室にこなくてもいいと 伝えて俺は魔の坂(命名俺)をハルヒと2人で下っていった。 その間に会話はなかった。沈黙。 そのまま沈黙を保ちつつ家に帰ると妹が 「ハルにゃん!どうしたのぉ?キョン君ハルにゃん泣かしたの? うわぁ~。わ~るいんだわ~るいんだ」 そんな幼稚なことを言っていたがとりあえず無視しておいた。 そして事情をおふくろに説明すると 「ハルヒちゃんなら大歓迎よ。いつまででも泊まっていきなさい。」 「はい!ありがとうございます」おいおい・・・。本当に 何年間も泊まったらどうするんだ?まぁ、困るのは俺だけのようだが。 俺は妹+おふくろの行末を案じつつハルヒと一緒に俺の部屋に向かった。 その間ハルヒは小さく「ごめんね・・・」と呟いたのだが 聞こえない振りをしておく。人間できてるなぁ俺って。 部屋につくなりハルヒの元気は再活動をはじめやがった。 「ねぇキョン!今日の晩御飯は?あと、お風呂にも入りたいんだけど!」 やれやれ、と何度も封印しようと思った語を口にする。 こんな状況でもハルヒは元気な方がいいな。うん。 「風呂は沸いてるから好きにつかえ。晩飯は寿司の出前とるそうだ」 「わかったわ!じゃぁご飯食べてすぐお風呂つかわせてもらうね」 好きにしろ。 俺は3人分くらいの寿司を皿にのせて自室へと運んだ。 さすがのハルヒでも他人の家族の中にはいっていくのは抵抗があるかも 知れないと俺は考えたからだ。 部屋に入ると「遅い!」何て我がままなお客さんだ。 ほらよ。皿を渡して居間に戻ろうとすると 「ぇ?一緒に食べないの・・・」 「戻ろうと思ったが腹が減って動けねぇ。こっちで食べてくかな」 我ながらこれはひどい。 ハルヒは安堵したように吐息をもらした。 「いただきま~す!」 「いただきますっと」 ハルヒは大きく口を開けて寿司を放り込んだ。 うぉ。何故かハルヒが泣きながらバタバタと暴れだした。どうしたんだこいつ? 「キョンお茶!はやくっ!」 どうやら山葵が鼻にきただけらしい。 「バカキョン!遅いわよ!」 持ってきた緑茶を1瞬で飲み干してあろうことか俺の分まで飲みやがった。 それから30分もしないで寿司は空になりハルヒは風呂へ。俺は妹の宿題をやらされていた。 こんなの小学校でならったっけ?俺は習ってないぞ? と独り言をもらしつつ最終ページにある答えを解答欄に書き写した。 そんな作業を5教科分終わらせた頃に妹が俺を呼びに来た。 「ハルにゃんお風呂にいるんだけどぉキョン君呼んできてぇって言ってるの。 あっ、宿題終わったんだぁ。ありがとね」テヘっと舌を出してシャミセンをどこかに つれていった。さらばシャミセン。 しかし風呂で用があるって・・・なんだ?背中あらえとか頭洗えとかだったら 速攻で拒否してやる。理由?俺だって健全な高校生だからだ。 風呂場についた。うちの風呂は曇りガラスのドアなので中は見えることはないが それでも少し変な妄想をしてしまう。あぁくそ。あいてはハルヒだぞ? そんなことを考えつつ俺はドアをノック。 「・・・キョン?」少しこもって聞こえるのは風呂場に声が反射しているのだろう。 「ああ、んで何だ?用ってのは?」 「・・・がないの」ん?なんだって? 「着替えがないの!急に家を飛び出してきたんだもん・・・」 「俺か妹の服でよければ貸すが・・・妹のは無理そうだな」 「まぁ、仕方ないわ。あんたので我慢する」 俺はとりあえず自室に戻りTシャツとハーフパンツを手に取ったが そこで気がついた。下着がないな・・・。残念ながら俺はそういう趣味は ないから女物の下着なんて持ってないんだ。ほっ、本当だぞ? そんな事を考えながらもう一度風呂場へ。 「なぁ。Tシャツとハーフパンツは持ってきたんだが下着はどうするんだ?」 「あっ、考えてなかった・・・。」 やっぱりな。 その後の会話は思い出したくない。 俺が必死にチャリを漕いでいる理由と相違ない。 「キョン・・・下着だけでいいから買ってきなさいよ!」 「何で俺が?」 「だって裸で外出たらつかまっちゃうでしょ」 それはそうだが・・・。それでも俺が女性物の下着を買いに行くのは忍びない。 妹にいかせろと言ったらハルヒは 「妹ちゃんはキャラ物とか買ってきそうで危険そうだもん」 それにコンビニでいいからさとハルヒは付け足し制服のポケットから1000円札を 俺に渡した。「風邪ひいちゃうから速攻で買ってきてね。3秒以内で!」 おいおい3秒って・・・。それでも風邪なんかひかれたら目覚めが悪いので 俺はチャリを漕ぎ続けている。立ち漕ぎダッシュだ。 コンビニの前で急ドリフト。キレイに停めてコンビニへと入っていく。 織物が置いてあるコーナーの横に女性物の下着が売っていた。 色とか大きさは知らないので一番端にあった白いのを手に取った。 そしてレジへ・・・。今までにないドキドキと緊張感。やれやれ。 これは何プレイだ。店員は「738円です」と平坦な声で言ってくれた。 店員は40代くらいのおばさんだ。若い人だったらきつかったな。 ハルヒに渡された1000円札を店員に渡しておつりを貰うまでの時間が かなり長く感じた。まぁ、実際数秒しかたってないんだがな。 それから走ってチャリに向かい、急いでチャリを漕いだ。 行きよりも早いと思われるスピードで家に着いた。 息は切れ切れだ。だが待ってもいられないのでハルヒの待つ風呂場へ。 バスタオルを巻いたハルヒが立っていた。 「遅いわよキョン!すっごい寒かった!」 やれやれ。俺の超マッハダッシュ(命名俺)でも遅いというなら どんな速度ならお前の速いに該当するんだ? 「・・・って」「ん?」「・・・・てけ」 「ああ?」「服きるからでてけ~!」 ハルヒがそう叫んだときこう・・・バスタオルが ハラリっていうかフワっていうかそんな感じにハルヒの体 から剥がれ落ちた。目の前にはハルヒが生まれたままの姿で・・・。 お互いに違う理由で沈黙した。っていうか俺は気を失っていた。 「・・・ッン?・・・キョン?」 ハルヒの声が聞こえる。だが一度寝た俺はそう簡単には起きないぞ? 「このバカキョンっ!団長様の命令に逆らう気?死刑よ死刑。絞首刑!」 目が半開きの状態で真上を見るとハルヒが涙目で俺を殴り起こしていた姿 が目に入った。 サイズが合わなくてブカブカのTシャツ(俺の)とハーフパンツ(これも俺の) を着ているハルヒ・・・下から見ると色々と丸見えだぞ? 「あぁ・・・。なんか見てはいけない物を見てしまった気が・・・」 そう言うとハルヒが顔を真っ赤にして俺の襟を掴んできた。 「記憶から抹消しなさい!宇宙人と契約して!アブダクショーンって呼ぶのよ」 やれやれ。無茶言うなよな。もしアブダクションで長門や朝倉なんかが来たらどうすんだ 長門はいいが朝倉にはトラウマがある。しかももう立ち直れないくらいのな。 ハルヒはそのあともギャーギャーと騒ぎ立てていたが、心配して妹が来たあたりで 「まぁいいわ。不可抗力だったし」わかってんならこんなことするなよな。 やれやれ。まぁこれで大きな問題は解決だ。 「お風呂入ったから何か眠い・・・」 子供の用に両手で目をこするハルヒはすごくかわい・・・何考えてるんだ俺 相手はハルヒだぞ?(本日2回目) 「ああ。じゃぁ妹の部屋にでも布団ひいてやる。」 「何言ってるのよぉ・・・あんたのベット使わせて貰うわぁ・・・」 もう寝そうだ。まだ9時だぞ?俺の妹でさえまだ寝てない・・・ ってこいつ今何ていった?俺のベットで寝るって・・・俺はどこで寝ればいいんだ? 「下に布団ひけばぁ・・・。それとも一緒にねるぅ?」 眠気に負けて投げやりだ。 「んじゃぁ下に布団ひかせてもらうな」「うぅん・・・」 ハルヒは覚束ない足取りで俺の部屋へと向かった。 俺もその後ろを追って自室へとむかった。 部屋に入るやいなやハルヒは俺の枕へ顔を埋めた。使ってもいいが 涎はつけるなよと言い残し俺はさっさと布団をしいた。 まだ眠くなる時間でもなかったので長門から借りていた 【宇宙の原生物】とかタイトルのハードカーバーを広げた。 ハルヒが電気をつけるなとかうるさいのでスタンドライトを使って文字をたどった。 そうして何時間たったんだろうな。本に熱中してしまうと時間の経過が わからなくなる。1人の少女が上から降ってきた。 ここで言う少女は紛れもなくハルヒの事で上と言うのはベットのことだ。 結構派手に落ちたのだが俺がクッション代わりになったらしい。 どうりで腹が今までにないくらい痛いわけだ。 「おい、ハルヒ。起きろーおーい・・・だめか」 そのまま読書を続ける気にもなれずハルヒを起こそうとした。 声をかけても反応が無いので体をゆすってみた。 すると寝ていて力の入っていない体は俺の真横に・・・。 我ながらこれは失敗だったな。俺の顔面とわずか15cmくらいの所に ハルヒの顔が!?理性のタガが外れそうになったが相手はハルヒ相手はハルヒ と呟いてどうにか自分を押さえ込んだ。 とりあえず現状をどうにかしないとな・・・。 と、考えている時にハルヒの目から涙が溢れていた。 「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 家族の夢でもみているのだろ。 泣いているハルヒをこのままほおって置くのも何なので体の動くまま 起こさないように弱い力で抱きしめてやった。 明日俺の体が五体不満足になっていても知ったことか。何故かおれはこうしなきゃ いけない気がした。気のせいかも知れないが。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/732.html
「あのね、涼宮さんに聞きたいことがあるのね」 「何?」 放課後の教室で、文芸部室に向かおうとしていた俺とハルヒに話しかけてきたのは阪中だ。もちろん返事をしたのはハルヒだ。俺はこんなにそっけない返事はしない、だろう。 「キョンくんにも聞いてほしいのね。相談何だけど…」 阪中の話によると、阪中は面識のあまりない隣のクラスの男子生徒から告白されたらしい。しかし阪中はその男子生徒の事を良く思ってなく断りたいのだが、どう断ったら良いのかわからない。 そこで、中学時代に数々の男をフッてきたハルヒに聞いてみようと考えたらしい。俺は完全にオマケだ。 「でね、明日の放課後にもう一度気持ちを伝えるから、そのときに返事を聞かせてくれって言われたのね」 「そんなの興味ない、の一言で終わりじゃない! 何でそんな簡単なこと言えないのかしら」 「おいおいハルヒ、阪中は普通の女子生徒だぞ? もう少し阪中らしい断り方考えたらどうなんだ?」 「何よ、あたしが普通じゃないみたいな言い方はやめてくれる? それにあたしに相談してきたって事はあたしの流儀を聞きにきたって事よ! あたしのやりかたを言って文句あるの?」 「そうか。それはお前が正しい。だけどそれを押し付けるのはやめろ」 「喧嘩しないでほしいのね」 坂中の言葉で言い争いをやめた俺たちは真剣に協議をし始めた。 ハルヒの席を囲むように座っている。ハルヒと俺はいつもの席で阪中はハルヒの隣にイスを引き寄せて座っている。人が少なくなったので段々と声が大きくなってくる。 「じゃあキョン連れてって『コイツ私の彼氏なの~彼氏いるからむりなのね~』とか言わせて見ようかしら。」 「断じて断る。もっと普通なのはないのか?」 恋愛経験に乏しい俺にはアドバイスができるはずが無く、ハルヒの言った案を通すか通さないか役人的な仕事に専念していた。 ハルヒは非常に非現実的なアイディアばかりだすので俺は却下をくりかえした。阪中は自分の事なのに困った感じはなく、むしろ楽しげだった。 俺は今さらだが阪中は何故ハルヒに相談したんだろうと考えた。坂中の話しぶり、と言うか聞きぶりはハルヒに相談している形を取ってハルヒの過去の恋愛の体験談を聞きだしている感じだった。 不穏なことが起きなければいいのだが、と考えたが阪中なら平気だろうとスルーした。 そういえばルソーの一件以来阪中はハルヒに懐いてる。俺としてはハルヒが学校に溶け込んでる証拠のような気がして少し嬉しく思ってたりもする。 そんな事もあって俺はハルヒのためにも真剣に考えてやろうと思っていた。 「あーもう! 何で却下するのよ!」 「もう少し阪中の事を考えてやれ」 「これ以上はムリよ!!」 「じゃあ涼宮さんが言ってたようにキョンくん連れて行って恋人って言って見ようかななのね」 「こいつの言った意見ではそれが一番マトモなようだが、それは今後に関わるぞ?」 そう、俺の事を恋人と言い切ってしまえば翌日から男子生徒から始まり、少なくともこのクラスと隣のクラスの大半に知られてしまうだろう。 しかも、相手の男子生徒の事を考えると『あれは告白を断るため』とは言えない。 「わたしはいいのね。キョンくんがよければ」 俺が今後の事を考えていると、 「やっぱりキョンくんはわたしじゃ嫌なのね」 とか言われたので咄嗟に、 「嫌じゃあないし噂になるのはこいつのせいで不覚にもなれてしまっているんだ。」 何て口走ってしまう俺はどれだけお調子者なんだろう。ハルヒに助けを求める視線を出すとハルヒは少し不機嫌そうな表情で言った。 「噂になるのは恋愛禁止を掲げているSOS団としては困る事態だわ! 故に却下ね!!」 「じゃあどうするのね」 阪中は困ったように言った。でも俺には多少楽しそうに見える。これだけ考えた挙句振り出しなのだから俺もハルヒもどうしようもなくなっている。 「なぁ、理由なんて言わないで『ごめんなさい』とかだけじゃあダメなのか?何か聞かれても『ごめんなさい』で通ると思うぞ?」 恋愛経験ない俺が口出すのもどうかと思ったが素人の意見も取り入れた方がいいかも知れないと思った俺はそういった。 以外にもこれはシンプルでいいと言う事になってその方針で話を進めていた。ハルヒも阪中も良く考えれば簡単なことなのに思いつかなかったのはきっと2人が生まれつき変わった人間だからだろう。 「じゃあキョンくんと涼宮さんにちょっと実演してほしいのね」 まあ俺はそんな事を言われるとは思わなかったんで驚愕の表情をしていたと思うね。ハルヒほどじゃあないが。 ハルヒは顔を真っ赤にして口をパクパクしている。お前は金魚か? 「いいわ、やりましょう!」 何を言っているハルヒ! ここにはすでに阪中とハルヒしか居ないとはいえ恥ずかしすぎる! 「あたしはフラれるのは嫌いだからあんたフラれる役ね!」 こうなったらハルヒはとまらない。ムダに逆らうと後が恐いし実演が困難になる。覚悟を決めるしかない。 「しょうがない。じゃあ言うぞ?」と俺は恥ずかしいので視線を落とす。 「ハルヒ、好きだ。付き合って欲しい」 ああ、何でこんなに恥ずかしいんだろう。思ったより全然恥ずかしかったな。それより返事はまだなのか? 視線を上げてハルヒを見ると顔を真っ赤にしている。俺は余計に恥ずかしくなってきた。 「涼宮さん、返事しないとダメなのね。返事が聞きたいのね」 ハルヒはハッと我に返って、 「いいわ! 付き合いましょう!」 とか言いやがった。俺が断らなければダメだろ、と言うと咄嗟にでちゃったなんて言い訳してる。 「涼宮さんにキョンくんをフるのはムリそうなのね。ウソでもフれないのね」 「そんなことないわよ! 中学時代にふった事ないから咄嗟に……」 やめろハルヒ! ごまかしてると思われるぞ、と言おうとしたが言えなかった。阪中の言葉に遮られたからだ。 「じゃあ今度は涼宮さんがキョンくんに告白してみてほしいのね」 ハルヒは俺の顔を見て、少し考えてから言った。 「いいわ! よく聞きなさいキョン! あたしはアンタが好きよ! 付き合いなさい!!」 俺はハルヒの勢いに少し焦って思わず、『廊下に響くぞ、他の人に聞かれたらどうする!』と思って廊下の方に目をやると、廊下側に座っている阪中という女の子の期待に満ちた表情で我に返った。 とりあえず任務を完了しなければ、と一呼吸置いた。そしてやはり視線を落として言った。 「すまんがハルヒ、俺はお前とは付き合えない」 「何でよ!」 「すまん…」 「団長命令よ!!」 「すまん…」 「あたしの事嫌いなの?」 俺は一瞬狼狽した。ハルヒの声が少し悲しそうで、演技には思えなく視線をあげた。そこには悲しい顔をしたハルヒがいた。だけど、阪中に目をやると未だに期待に満ちた表情をしていたのでハルヒは気にしないことにした。 「嫌いじゃあない。だけど、すまん。」 「じゃあ、なんでよ…」 ハルヒの声は消え入りそうだった。見ればほんのり涙目だ。ハルヒの表情は呆然としている。なんだか演技とはいえ、心が痛んだ。 「もういいだろう阪中。こんな感じでいいのか? というよりはこんな感じでいいんじゃないか?」 「ありがとうなのね。でも、涼宮さんの悲しそうな顔を見てたら何だか断れる自信なくなったのね。だから明日の朝手紙で断る事にするのね」 たしかに阪中の期待の表情が無ければ俺は断り切れなかっただろう。それほどハルヒの悲しそうな表情は切なげで、守ってやりたくなってしまった。 未だに呆然としているハルヒに目をやった。俺は、もう演技は終わったんだぞ、と言った。 「涼宮さんはキョンくんに演技でもそんなこと言われて、割り切ってるハズなのにショックだったのね。だから反対の事を言ってあげれば元にもどるのね」 そういい残して阪中はさっさと帰ってしまった。俺は、最初から手紙にすればいいのにとか、こんな状態のハルヒをおいて返るなんて、とかいろいろ阪中の批判を思い浮かべたが阪中は本当に困ってたんだろうという結論に着いた。 きっと阪中は手紙じゃあ失礼だと思ったのだろう。そして、今のハルヒには阪中はいないほうがいいと判断したんだろう。そう思うことにする それからハルヒは呆然として、俺はハルヒを置いていくわけにもいかずにハルヒの前の席に座ったまま過ごした。 そうしてハルヒが回復するまで待とうと思ったが、夕日が落ちてきた頃にはとりあえず家まで送ってやろうと決心した。 「ハルヒ、かえるぞ」 コクリとうなずき立ち上がるが、動こうとしない。俺はいつもと立場が逆だとは思いながらもハルヒの手を取って引っ張った。 俺はハルヒに何て言えばいいんだろうとか、そういえば今日のSOS団はどうなってるんだろうとか考えながらハルヒの家の近くまで送った。長門並みの無言が続いた。 ハルヒの家の近くまで来て、こんな状態でハルヒを家に帰していいのか考えた。頭の中で阪中のセリフが蘇る。 『涼宮さんはキョンくんに演技でもそんなこと言われて割り切ってるハズなのにショックだったのね。だから反対の事を言ってあげれば元にもどるのね』 どうしたらいいのか分からなかったのでとりあえずハルヒの家の近くの公園に連れて行く。ベンチに座らせ、俺も隣に座る。とりあえずあれは演技であることを強調しようと思う。うまく言えるかな。 「ハルヒ、そろそろちゃんと目を覚ませ!」 ハルヒは多少意識が回復したように見えた。今度はハルヒは悲しそうな表情を浮かべている。俺を見て、視線を落として、もう一度俺を見てから消えるような声で言った。 「キョンはわたしが嫌いなの?」 俺は戸惑った。そんな事を言われるとは想像もしていなかった。あれは演技だから気にするな、と言おうとしていたのに言えなかった。 いや、会話の流れを考えるなら十分普通のセリフだし、言わなければならないのだが何故か口にできない。 「ハルヒ、俺がハルヒの事の事を嫌いなわけがないじゃないか。いつも一緒にいて、そんな事もわからないのか?」 「でも、好きじゃないんでしょ? あたしはキョンにとってはその他大勢。あの球場の5万人の観衆と一緒。同じ場所にいるけど深く関わることはない。」 小学生の時の話か。どうしようか迷ってあることを決心した。告白だ。 「ハルヒ、一度しか言わないから良く聞け。俺はお前の事が好きなんだ。さっきの演技とは違って今度は俺の本心だ。」 「ウソよ!」 ハルヒは急に叫んだ。 「だってあたしはあんたに好きって言われたときは演技だってわかってても断れなかった。そのときに気付いた。あたしはアンタが好きって。 でもあんたはアッサリあたしをふったじゃない。気付いたのよ。キョンはあたしの事を好きではないって。本当に好きだったら言えないハズだって。」 返す言葉もない。古泉なら何て言うだろう。いや、変な言葉でも俺は自分の言葉で言わなければいけないんだろうなと考えた。 「もう一度だけ言うぞ? 俺はハルヒが好きなんだ。」 と言ってからさらに続けた。 「俺も心が痛んださ。でも、演技だってわかってたから堪えることができた。きっと俺はハルヒの事を好きだと自覚していた分だけ心の準備ができていたんだろう。 でも、それでも心が痛んだ。ハルヒの気持ちも痛いほどわかる。ハルヒが俺の事をどれだけ好きかも伝わった。… …だからハルヒ、お前がそれだけ好きになった人の言う事を信じてくれないか?」 ハルヒは無言でこっちを見た。でも何故だかさっきまでの焦燥感や不安感はなかった。気がつけばハルヒは俺の手を握っている。 「ありがと。キョンのいう事だから信じる。」 「そうかい。」 俺はやっとの事でぎこちない微笑みをハルヒに向けた。そっとハルヒの両頬に手のひらを当て、ハルヒの顔に近づいて目をつぶり、キスをした。 ゆっくりと、甘いキスをしながら両手をハルヒの背中において抱きしめた。 そしてゆっくりとハルヒを放してから見たハルヒの顔は学校帰りの顔とは違って嬉しそうな表情をしていた。その中には安堵の表情も読み取れた。 「帰ろう。ハルヒと過ごす時間はいっぱいあるんだからゆっくり楽しんでいこう。」 そういってハルヒを家の前まで送っていった。 翌日の朝になって阪中の事を思い出しうまくやったか気にもなったが俺にはハルヒの方が気になったので阪中には悪いが気にしない事にした。 そして、教室でハルヒを確認して軽い挨拶をして、じゃあ、あらためて今日からよろしく伝えた。 俺とハルヒの関係は誰にも言わない事にした。 しかし言わなくても誰もが気付いている。 そして、交際を始めてからもハルヒと俺はいつでもどこでも変わらない事に気付いた俺は、谷口とかの言う俺とハルヒの関係は昔から付き合っているようなものなんだなと気付いた。 俺はあれから毎日部活の後にハルヒを送っていき、あの公園で話して、最後にキスをして帰るという日課が追加された。 そのことに幸せを感じながら日々を送っていく。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2984.html
●序 あたしはいつだって退屈していた。 クソみたいな学校と家の往復、腐って潰れて、枯れたような乾いた生活。繰り返す現実。 SOS団も(自分で作っといて何だけど)最近微妙。パターン化される日常に何を見る? どっちにせよ終わってる、そう気づいたら走っていた。どこに向かう? 知ったこっちゃない。 あたしの脳内広辞苑を全力で捲ったけど、「逃亡」って言葉しか見当たらなかった。 うん、じゃあそれで。ああ、そうそう。あんたも来るのよ? ねえキョン。 涼宮ハルヒの逃亡 ●第一部 時間ってのはどうしたって非情なもんで、黙ってても進んでても同じだけ経つ――それならできる限り遠くへ行こう。 それがハルヒの弁だった。俺はあくびが出た。 「真面目に聞きなさい! いい? 不思議なことを見つけるまでどこにも帰らない!」 どこへも? 家にも、学校にもか。親御さんが心配するんじゃなかろうか。大体、それを何で俺にわざわざ伝えるんだ。 今ハルヒは俺の家にいる。日曜の午後、吸い込まれるような眠気が俺を誘っていた。よし寝るぞと決意した瞬間にハルヒは俺の部屋のドアをぶち破っていた。 「わかってないわね、あんたも行くのよ! じゃなきゃわざわざ来たりしないわ!」 俺も? おい、俺は退屈してないぞ。たった今だって、お前みたいな不思議な思考の仕組みをした奴に出会っている。調査終了ではなかろうか―― 「いいから聞きなさい! あんたはSOS団結成のきっかけなのよ? いわば創立メンバーじゃない。そんなあんたが来なくて誰が行くっていうのよ?」 現実的ではなかった。おそらくあてのない旅に出る、といった感じなのだろう。だが旅費もなければ足もない。加えて俺には意欲がない。 お前が一人で行けば良いだろう。頼むから俺に面倒を持ち込むのは勘弁してくれ。俺が今欲しいのは睡眠時間であって、厄介事じゃないんだ。おやすみ。 「寝るな! 大体今は夏休みよ? 行くところもないでしょ? じゃあ来なさい!」 確かに、今年は旅行の予定もない。家の都合で帰省もしない。つまり暇だ。だが、暇というのは必ずしも退屈とは結びつかない。 「そういうわけで無理だ、ハルヒ。大体計画もないだろう?」 「計画ならちゃんと考えてあるわよ! 見なさいこれを!」 取り出したるはA4サイズのノートだった。表紙にはやたら大きく、乱暴な筆致で「逃亡計画」と書かれていた……逃亡? 「そう、逃亡。日ごろのしがらみや、退屈で平凡で飽き飽きするありふれたつまらない日常からの逃亡! ゴールはあたしが満足したらね」 お前の日常はよっぽど終わってるんだな。ところで、お前が満足しない限り終わらないというのはどうか。 「でも、ちゃんと計画はしてあるわ。まずヒッチハイクをします」 一行目から無計画さが漂ってるぞ! ヒッチハイクなんて今時、しかも日本じゃ無理だ。 「うるさい!成功するの! それで、どっか適当なところで下ろしてもらいます。そして不思議を探します」 はぁ……考えが突飛すぎるなぁ。それで? 「終わりよ。悪い?」 お前なあ。そもそも……いや、何も言うまい。言ったら負けだ。 というか、詳しい計画について反論したら計画そのものは認めてる形になるからな。 「だめだ。危ない。無計画だし、帰ってこれるのかもわからん。金もない」 「あんたは本当に何もわかっちゃいないわね……世の中お金じゃないのよ」 「あって困ることはないだろ」 「なくて困ることもないわ」 それはある! この前もコンビニで……いや、それはいい。古傷が痛む。 「まあ、どうしても必要ならクレジットカードがあるから」 「何!? お前……金持ちか?」 「親はね。あたしはそうでもないけど。でもまあ、カード持たせるぐらいだから割とそうかもね」 「……」 ふとドアが開き、母さんが入ってきた。 「あら、いらっしゃい涼宮さん」 「どうもお邪魔してます、おば様」 気色悪いぞ。普通にしろ……ぐわぁっ!? ハルヒの肘が俺の腹をえぐった。く……重いの持ってやがる……! 「実はおば様、今度キョン君と旅行に行くんです。宜しいでしょうか……?」 「あらあら、いいわね。ぜひ連れてってやって。この子ったら、家でごろごろしてばっかりでねぇ……」 「ありがとうございます、おば様。明日から出発するのですが、キョン君に用意をさせてくださいね」 「ちょ、ちょっと待て……ぐふうっ」 もう一発。鳩尾はよせ……! 「あら、急なのね。わかった、用意させるわ。ほらあんた、ぼさっとしてないで」 「ちょっと母さん……」 「では私これで失礼いたしますわ、御機嫌よう」 「待てハルヒ……!」 「ほら何やってるの、バッグ出しなさいバッグ」 母さん! ちくしょう、親公認で俺はあいつの気まぐれにつきあわにゃいかんのか! ああ神様助けて――おっと、神様はあいつだったか。くそ、八方塞りだ! 俺は満足に祈ることすらできないのか? 俺の夏を返せ!