約 2,288,009 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5687.html
月曜の朝はいつにも増してうだるい朝だった。俺は基本的に冬より夏のほうが好みの人間だが、こんなじめじめした日本の夏となると、どちらが好きか十秒程度考え直す可能性も否定できないくらいに微妙である。途中で出くわした谷口や国木田とともにハイキングコースを登頂したが、校門に辿り着く頃にはシャツが既に汗ばんでいた。ハルヒの判断は懸命である。長門がいない上にこの暑さでは、映画撮影などやってられん。 二年の教室に入って自分の席に着くと、後ろでスタンバっていたハルヒが肩を叩いてきた。 「ねえキョン、夏休みにやらなきゃいけないことって何だと思う?」 「ああ、そういや、もうそんな季節だな。俺にとってはどーでもいいことだけどよ」 「何よそれ」 「失言だ。忘れてくれ。それで何だって?」 俺は教室内を見回しながら訊いた。今日もとりあえず危険人物はいないが、このままいったら夏休み中の俺はブルー一色に染まること間違いなしだ。 「夏休みにやらなきゃいけないことよ。時間は刻一刻と過ぎていくんだから、常に次のことを考えてないと生きていけないわ」 「次のことまで考える余裕があるなんてうらやましいね。そんなもん、夏休みが来たときに考えればいい」 ハルヒは俺の意見を無視して一人で目を輝かせ、 「とにかく合宿は不可欠よね。てか、決まっちゃったし。そしてプールと花火大会とバイトと……」 「あと宿題な」 「何よそれ、夏だってのにシケてるわねえ」 そんなこともない。永遠に終わらない夏とどっちがいいかって言われたら俺は迷わず宿題を選択するぜ。 「やっぱ夏よ、夏! 高校に入るまでこんなに夏休みを待ち遠しく思ったことなんてないわ」 「へえ。高校の夏休みってのはそんなに面白いもんだったか?」 ハルヒは俺の問いに自然に――本当にごく自然に――答えた。 「SOS団で騒げるんだもん。楽しいに決まってるじゃん!」 俺は一瞬言葉を失って、妙な空白があった後にああそうだよなと相槌を打った。俺の笑顔は引きつっていたことだろう。 古泉の言っていたことはそんなに的外れではないのかもしれなかった。 楽しさの対象が宇宙人でも未来人でも超能力者でもないことを、ハルヒは自ら断言したのだ。悪いことじゃない。俺の目の前でハルヒが屈託なく笑ってやがるのも一年前にはありえなかった光景だと思えば、ハルヒの状態は確実によくなりつつあるということになる。 そこで俺ははたと考え込む。 しかしそれは、いったい誰にとってなんだろうか。ハルヒの精神が落ち着いてきていい状態だというが、それは誰にとっていいんだ? 俺にとってか。それともバイトが減る『機関』にとってなのか。 ハルヒがどこにでもいるフツーの女子高生になっちまうことを俺は本当に望んでいるか? 俺だけではない。朝比奈さんも古泉も、本当にそう望んでいるのだろうか。もし個人個人の持つ雑多な事情から解放されたとしたら、その答えは変わるかもしれん。少なくとも古泉はそう言っていた。 SOS団という謎の団体に俺は何かを感じていたのだった。もちろんそのSOS団は休日に遊ぶ仲間の集まりなんかではない。宇宙人の長門と未来人の朝比奈さんと超能力者の古泉と、ハルヒと、そして俺がいる団体こそがSOS団なのだ。いつの間にヒマな高校生の集まりに成り下がっちまったんだ。 そう思ってから、俺はまた頭をかきむしった。たった今、俺は、成り下がるという言葉を無意識に用いて、休日に遊ぶ仲間の集まりという意味でのSOS団を否定してしまっていたのだった。肩書きはどうあれ朝比奈さんと長門と古泉がいればいいという、そのきれい事のような考えだけでは割り切れないような感情が俺の奥底に、確かにあった。 ハルヒは何の迷いもない顔をしている。ただ、その銀河群が入っていそうな瞳の輝きが少し薄れているだけだ。惜しみなく部室専用スマイルをふりかけるハルヒを、俺はただぼんやり眺めていた。 * ハルヒの一年時のメランコリーをリアルな感じで悟りつつある俺は、結局昼休みまで動く気力が出なかった。 一年前の春、何で宇宙人に固執するんだと訊いた俺に、そっちのほうが面白いじゃないのと当然のように答えたハルヒはどこへ行っちまったのか。窓の外を眺めているとなぜか思考が巡りに巡ってしまうようなので、俺はシャーペンをつかんで黒板に焦点を合わせ、授業を受けるべくしていた。 昼休み、俺が後ろを振り向くとハルヒはすでにおらず、おそらく学食か購買へ行ったものと思われる。 俺もそろそろ部室に行かねばならんだろうと思っていると、谷口と国木田が近づいてきた。 国木田は俺の顔をまじまじ見て、 「キョンさあ、最近疲れてるのかなあ」 唐突な指摘の質問に俺は多少びっくりしながら、 「そうかもしれんな。ハルヒといれば誰だってこうなるぜ」 もっとも昨日今日の疲れはハルヒパワーが全開であるための疲れではないというのは胸の内に収めておく。むしろハルヒが騒ぎ立ててくれていたら俺の疲れも多少は癒されていたというか、俺の心のわだかまりも忘れることができたのかもしれん。 谷口が俺の頭をポンポンと叩いてきた。 「まったく、うらやましい野郎だ。たとえ相手が涼宮だとしても、女と一緒にいて遊び疲れたってのは贅沢の極みをいく悩みだぜ。ああくそ、俺、もういっそのこと涼宮でもいいから狙っちまおうかなあ。おめーら、まだ付き合ってねえんだろ?」 何を血迷ってるんだ。他の女なら俺が紹介できる限りでしてやるから、ハルヒだけはやめておけ。あの狂気にやられて、生活を狂わされちまった実例がお前の目の前にいるんだよ。ハルヒは常人が相手にできるような奴ではない。奴と同じくらい狂ってる人間か、あるいは釈迦並の寛大さを持ち合わせた奴じゃないと無理だ。 「いいや、そんなことはない。あいつだって一応は女だ。ひっくり返せばけっこう常識的な人間だぜ。これはなあキョン、涼宮と五年間も一緒のクラスでいる俺の境地に達したから解ることなんだ。あいつは、けっこうまともな人間だ」 まともな人間ね。谷口の言葉すら煩わしく感じた。そんなことは俺だって知ってるんだよ。 そりゃよかったなと適当に返事をして、俺は弁当箱を持って立ち上がった。 「あれキョン、教室で食べないのかい?」 「部室で食うよ。悪いな」 とにかく今はハルヒのことで頭を悩ませている場合ではない。いや、そういうと何か変わりつつあるハルヒに後ろめたいのだが、俺の頭のデキは誰もが知るとおりである。そんなたくさんのことに気を回していたらパンクしちまう。 チープでありきたりな描写で申し訳ないのだが、俺にはこの時すでに予感があった。 窓の外の世界が、二年五組の風景が、ハルヒが、もっと言うと俺の目に入るすべてのものが妙な嘘っぽさを纏っていた。平べったい風景となって不協和音を奏でていた。嵐の前の静けさというアレである。 そしてまた、その静けさは嵐によって吹き飛ばされるのである。空虚な時間は現実のどんな出来事によってでも、軽く夢世界のものになり得る。 俺は弁当を持って部室に向かった。心臓が知らぬ間に激しく鼓動していた。理由は解らん。 長門のクラスをのぞいてみたが、やはりというか、長門の姿は発見できなかった。 最初は歩いていたのがやがて早足になり、小走りになったところで部室に到着した。部室棟二階コンピ研の横、木製の扉。 そこで、地獄を見た。 * 俺は愕然とした。発する言葉もない。口をあんぐりと開けて首を回し、最後には頭を抱えて床に崩れ落ちた。 予感は当たった。当たってしまった。 ハルヒの精神が変わりつつあるという俺の憂鬱の発生源は瞬く間に消え去って、代わりに暗い未来予知が的中してしまった予言者のような沈黙が俺の心を支配した。 俺に否はないと断言できるが、それでどうしたという話である。現実は淡々と、ただし深く突き刺さる。 部室から、朝比奈さんのコスプレ一式がハンガーラックごと消え失せていた。 誰かが動かしたのだろうか。まとめてクリーニングに出したとしてもハンガーラックまでなくなることはないだろうし、俺はそんなのが楽観論にすぎないことを知っている。もしそのクリーニング説が本当だったのだとしたら、俺はそのクリーニングに出した奴をすぐさま訴えてやろう。精神衛生上よろしくないにも程があるぜ。 何をするともなしにゆらゆらと部屋の中を徘徊する。 ハードカバーがどっさり入っていたはずの本棚はがら空きである。遠い昔の記憶のような錯覚を受ける先週の金曜日、長門がいたときにやった七夕の竹だけはいまだに部室の窓にもたれかかっているが、長門と、そして朝比奈さんの願い事が書かれた短冊だけはなくなっていた。朝比奈さんが長門と同様の現象に見まわれたという証拠だった。 さらに、横の棚には急須がない。ポットだけはあるものの、よく見ると棚に乗っているのは茶葉ではなくてインスタントコーヒーである。普段は誰が淹れているのか知らんが、朝比奈製のお茶よりもおいしいようなことはないだろうね。ハルヒでも俺でも古泉でも、朝比奈さんのスキルはそう簡単に獲得できるものではない……。古泉? ハッとして振り向いた。そこには古泉が持ち込んだ古典的ボードゲームの数々が―― あった。 俺は深く息を吐いた。消えた長門の例からすると、そいつにまつわる物体がなくなっていると本人も消えているらしいから、古泉がこよなく愛するボードゲームがあるということは、古泉はまだ消えていない可能性が高い。 カチャリ。 突如、ドアノブを回す音がして部室の扉が開いた。 「やあどうも」 軽快を気取るような声をして入ってきたそいつには、いつものハンサムスマイルに少し苦笑が混じっている。すべてを知り合った仲間に自らの失態を告げるときのような、自嘲めいた微笑みである。 「よほどあなたに連絡を取ろうかと思っていましたよ。もうその必要もないでしょうが。さて、お気づきですか?」 ああ。嫌なことにたった今気づいてしまったところだ。 「ええ、そうです。とうとう二人だけになってしまいました」 その言葉はどう解釈すればいいんだろうかね。場合によっては殴るぜ。 「冗談です」 古泉は肩をすくめるお決まりのポーズを取り、団長机に置かれているデスクトップパソコンに歩み寄った。 俺は古泉にうさんくさい視線を投げかけながら、 「何が起こってるんだ。朝比奈さんもいなくなっちまったのか?」 「ええ、どうやらね。それに朝比奈さんだけではないようです。僕の組織が監視していた何人かの未来人が、今朝を持って一度にいなくなりました。ついでに橘京子の組織からも連絡を受けました。藤原という未来人もいなくなったらしいですよ。情報統合思念体製のインターフェースが消えたときとまったく同じ状態です」 しかしそこは未来人だから、未来に帰ったとかそういうことはないのかな。 「あなたは朝比奈さんから何を聞いたんでしょうか。時間平面がねじ曲がっていてTPDDの使用は不可能、と朝比奈さんは言っていたように思いますが。未来にも過去にも逃げることはできません。朝比奈さんも、まず間違いなく誰かに消されたんですよ。おそらく、周防九曜にね」 そんくらい俺も解ってる。 「じゃあ仮に犯人を九曜だとしても、あいつはいったい何を企んでるんだ。宇宙人を消し、未来人を消してさ。世界征服か?」 古泉はデスクトップパソコンを操作して立ち上げてから俺に目を戻すと、さあどうでしょうと首を傾げた。 「周防九曜が犯人であるということに異論はありませんが、目的がそんな単純なものだとは信じがたいですね。そうだったら、長門さんが以前やったように世界改変を行えばいいだけの話です。重ねて言いますけど、今回のこれは世界改変ではありませんよ。元の世界から宇宙人や未来人を引き抜いただけです」 じゃあ何のためにやったんだ。目的もなしに行動するような奴は少ないぜ。あいや、九曜ならその少ないの中に入るかもしれんが。 「目的は僕には解りませんね。涼宮さんに近づこうとしているのか、SOS団を崩壊させようとしているのか、あるいは邪魔者を排除してから何かをするつもりなのか。どちらにしろ、どうせ僕たちには対抗策などありません。長門さんや朝比奈さんを活殺自在にできるような存在にはね」 「お前にしては珍しく悲観的な意見だな」 「そうでしょうか。これも一種の作戦だと思いますけど。僕だったら無駄な対抗策を打って時間稼ぎをするよりも、残されたヒントを使って謎を解き明かし、新たな可能性を模索するほうを選択しますよ」 そう言って古泉がワイシャツのポケットから取り出したのは紛れもない喜緑メッセージである。生徒会議事録の最終ページで見つけたその文章には何かのパスワードが書かれているが、それはとうとう答えが解らなかったんじゃないのか? 土曜日に貸してやったのに解らないって言ってきやがったじゃねえか。 「そんなことはありません。この世にはね、深く考えてみれば解ける問題と絶対に解けない問題があるんですよ。たとえば宇宙の真理を一般人に答えろと言ってもまず無理でしょうが、この地球上で証明されている簡単な計算なら一般人でも……」 いいから解答が出たのか出ないのか答えやがれ。お前と話していると無駄な思考能力ばっかりついていって、肝心の答えが見つからないような気がしてならん。 「申し訳ありません。答えというか予測ですが、たぶん正しいというものなら出ましたよ。もちろん、このパスワードの在処がね。」 古泉が黙ってデスクトップパソコンを指さしているので、俺は近づいてのぞき込んでみた。 画面の真ん中にキテレツなマークがあって、ページにはメールアドレスとカウンタだけが取り付けられている。モニタが嫌々表示しているように見えるそれは、SOS団のサイトページだった。 「これか?」 と俺。 「そうです。ここのページは過去にも疑似情報操作のようなものを受けていますからね、もしやと思っていましたが、当たってしまいましたよ。長門さんが消される直前か消された後か、どちらにしろ仕掛けを作りやすかったんでしょう。ほら、カーソルをここに当てると」 古泉はカーソルをハルヒ作のSOS団エンブレムに乗せた。すると矢印のカーソルが手の形のカーソルに変わる。なんと、いつの間にかクリックできるようになっていた。ハルヒが俺にやらせずにこんな芸当ができるとは思いがたいし俺はこんな仕様にはしていないし、第三者の仕業で間違いない。 クリックすると案の定パスワード入力ページが現れた。password? と書かれているだけの、質素なページ。 「とまあ、この画面までは昨日までに『機関』のメンバーで考えて判明していたんですが。ただしこのパスワードというのがどうにも解らなくてね。このコピーには『password・すべての始まりを記せ』と書いてあるもので、ビッグバンやら宇宙やら、そのままこの文を入力してみたりもしたんですが、どれもダメでした。ちょっとこれは僕にはお手上げですね」 よくここまで辿り着いたもんだと感心していたが、それを聞いて呆れ返ったね。 すべての始まり? そんなもんは最初っから解っている。 それはビッグバンなんかじゃない。宇宙意識があったことでも、未来から人間がやってきたことでも、赤玉に変身する超能力者が現れたことでもない。少なくとも、俺にとってはな。 喜緑さんのこのメッセージは他の誰に宛てられたものではないのだ。生徒会長でも長門でも朝比奈さんでも古泉でもなく、そしてハルヒにでもない。俺が見つけたのだから、おそらく、俺が読むことを想定して書かれたものだ。 そうとなったら答えは一つである。すべての始まりは、こいつと出会ってからさ。 俺は古泉をどかしてキーボードに手を伸ばすと、その名前をタイプした。 つまり、『涼宮ハルヒ』と。 エンターキーを押すと、ロックが解除されたというメッセージが流れて別のページにジャンプした。 「ほう、さすがですねえ。なるほどあなたにとっての始まりは涼宮さんですか。なるほど、周防九曜や他の宇宙意識には抽象的で理解できない質問と解答です」 古泉がほざいているが、無視して液晶を食い入るように見つめる。ロードの時間がもどかしい。マウスを指でカチカチ叩く。とっととしろ。 出た。 『橘京子を連れてこの場所へ。わたしはここにいる』 それだけだった。ページのほとんどが白で埋め尽くされており、その真ん中あたりにかのような文字が活字体で羅列されていた。何だこれは。 わたしはここにいる。 ハルヒ(実際には俺)が四年前、東中のグラウンドにラインカーで白線引いて書いたアレだ。どっかの宇宙に宛てた奇妙な絵文字の意味がこれだったらしい。 俺は長く息を吐いた。間違いない。このメッセージは長門が作成したものだ。わたしはここにいる、と書かれていると教えてくれたのは他ならぬ長門だったのだ。 しかし、どういうことだ。 わたしはここにいる。 そして、橘京子。古泉とは異なる力を持つ超能力者。今回は共闘宣言をしてきたが、信用しきれない部分もある。そいつを連れてこの部室に来いと言うのか。意味が解らん。 もう少しヒントが欲しかった。そうでなけりゃ、パスワードなんかいちいちかける必要もなかろうに。スクロールしてみたが隠し文字はなかった。 「これだけですか?」 俺に訊くな。 「しかし、これだけでも取るべき行動の情報は得られましたね。長門さんらしいと言うべきか、最低限でも必要なことだけは明記してくれています。二文目はオマケのようなものですよ」 「橘京子をここに連れてくるってか」 あまり気分のいいことではなかった。当然気乗りもしないし、疑心暗鬼にさえ陥るかもしれない。 なにしろ、橘京子はついこの間まで敵対していたのだ。古泉の組織とは平行線で交わることはないなどと抜かしてやがったが、今になって急に考えを変えてきた。 しかし、さすがにほいほい信用できるものではないね。SOS団の命運がかかっているのだから、ついこの間までの敵を味方としてアジトに連れ込むのはどうかと思うぜ。 「あなたはそう言いますけど」 古泉が反論した。 「昔の立場関係というのは現在になってみればまったくどうでもいいことなんですよ。大切なのは現状です。特にこの場合はね。橘京子が味方になってくれる。客観事実だけを受け止めるのなら歓迎すべきことじゃないですか」 「確かにそうだけどな。けど俺が言いたいのはそこんとこじゃないんだ。土曜日に橘京子と会って話して、SOS団側につくって言われた。そんでもって今日はこのメッセージを見つけたんだ。橘京子を連れてこいってな。まるであいつが味方なのが前提みたいに書かれてるじゃないか」 「なるほど。それで」 言わなくても解るだろう。都合がよすぎるんだ。 古泉は数秒だけ首を捻っていたが、やがて微笑に戻るとどうでしょうねと言った。 「都合がいいのはあなたの仰るとおりですが、それはあくまで都合という観点で見たらの話です。あなたは、その都合というのは低確率が連続する問題だと信じているようですが、そうでなかったらどうでしょう。確率など関係なく、誰かの手によってそうなるように仕組まれていたとしたら」 「何が言いたい」 「これは僕の予想に過ぎませんが、橘京子の一派は何かをつかんでいると思うんですよ。もちろん彼女のつかんでいる情報はこちらには回ってきませんし、それはあくまで敵対組織同士だからです。ただ、彼女はそれをつかんだ上で合理的に行動している。SOS団に味方するというのも何か意味があるからです。おそらく、彼女はこのメッセージがなくとも、真相を知っていたんですよ。この事件を解決するためには自分の存在が必要不可欠だとね。たぶん土曜日、あなたと会って話す前から」 俺は土曜日の橘京子を思い出していた。 そういえば奴は佐々木に謝罪していたな。俺たちと会うために時間とルートを調整させてもらっていた、とか。さらにあの日の目的は俺たちに共闘を宣言することにあったといっても過言ではないだろう。 それもすべてを見越しての行動だったのか。ということは、あいつは長門がどんな目に遭っているかの詳細を知っていたということなのか。土曜日の時点で。 「いえ、これはあくまでも僕の推測に過ぎませんから。あまり深く考えないで下さいよ」 「そりゃいいが、どっちにしろやることは決まったな。橘京子に連絡を取るんだ」 「それが……」 古泉は困ったような顔になった。 「できないんですよ」 「…………何っ?」 できない。橘京子と連絡を取れないってのか。おいおい、どういうこった。 「彼女たちの組織に実体はありません。ですから正確に言えば組織ですらないんですけどね。いつも、ばらばらなんですよ。僕たちの『機関』に情報を提供してくれる場合でも匿名性のある手段しか使いませんからね。もちろん、自慢ではありませんが僕や『機関』は彼女の携帯電話の番号は知りませんし、どこに住んでいるかも知りません」 そんな……。じゃあ、あいつをメッセージ通りここに連れてくることなんか不可能じゃないか。 俺が顔面蒼白なのに比べ、古泉はずいぶんと落ち着き払っていた。おかしいくらいに。 「ですから、彼女たちからやって来るのを待つだけです。彼女は長門さんが作ったと思われるこのメッセージは知らないでしょうが、もっと核心に近いことをつかんでいるはずです。おそらく、土曜日にあなたの前に現れたように、何か必要があったらここにも現れるでしょう。自分が僕たちにとって必要不可欠の存在であるということも見通しているでしょうから。ただし、それがいつかは解りません。ですから、僕たちはひたすら待つわけです」 何をお前、そんなすがすがしい顔してやがる。いつかも解らねえ救助を待ってたら、大抵はのたれ死ぬぜ。そんなのは、白骨死体となって発見されたあまたの冒険者が証明してくれてるだろうが。それでもいいのかよ。俺は嫌だね。 「ふふ。どうしてだろう、不思議と怖くはないんですね。こういうスリルに憧れていたのかもしれません。――あなたは『二年間の休暇』を知っていますよね」 「いきなり何を言い出しやがる」 「本のタイトルですよ。『十五少年漂流記』とも呼ばれますが」 「それがどうかしたか?」 「分析してみると、僕の感情はあれに近いものなのかもしれないと思いましてね。彼らが辿り着いたのは孤島ですから、まっとうな手段では脱出不可能です。最終的には外部の人間に発見されて助けられるわけですが、僕のおかれた状況もちょうどそんな感じだと思ったんですよ。推察を巡らして手を尽くし、自分の力ではどうしようもないと悟ったとき、僕は、以前は、絶望するに違いないと思っていました。しかし意外でしたね。違いました。全然そんなことはない。むしろ気が晴れましたよ」 気でも狂ってるんじゃないかと言いかけてその言葉を呑み込んだ。マジで気が狂ってるんだろう。俺か古泉か、どっちかがな。 古泉はしばらく部室の窓の外を眺めていたが、やがて振り返ると真面目な表情に戻っていた。 「長門さんが突然消えて、その原因がはっきりしないまま朝比奈さんまで同様の現象に見まわれてしまったらしい。いや、宇宙人と未来人が、と言ったほうがいいでしょうね。そこまでいったら次に何がくるか、あなたなら解りますよね」 「超能力者か」 「あるいは、あなたです」 古泉のいつになく刺々しい声が冷酷に響いた。俺が目を逸らすと、古泉は真面目な話ですよと言った。 「土曜日にお話しした僕の最後の仮説――覚えてますね。僕たちは何者かに消されるのを待つ身なのかもしれない。それが、もしかすると真相なのかもしれません。時間の差はあっても、僕もあなたもやがては消されます」 古泉の複雑そうな横顔を、俺はぼーっと眺めていた。 超能力者が消えるなら橘京子も一緒に消されちまうんじゃないかと言おうかと思ったがやめた。そんな仮説に意味はないし、そういう仮定をする必要もない。古泉の言うとおり、橘京子が現れるのをただ待っているしかないのだ。先方が事情を承知しているなら、後は奴の慈悲深さに期待するだけである。しかしきっと、いるかも解らん神様よりはアテにできるだろうよ。いや微妙なところか。 「じゃあ」 俺がしばらくだんまりをやっていると、古泉がドアに向かって歩き出した。ドアノブに手をかける。 俺は咄嗟に口を開いた。 「古泉、てめえ明日もここにいろよ。消え失せたりするなよ」 一瞬古泉の手が静止したが、それでも特に答えることなく扉を開けて出ていった。その背中を見送って、しばらくSOS団サイトを表示しているパソコンを眺めていた。やがてチャイムが鳴ったので帰ろうかと思ったところで、弁当を食っていないのに気づいた。 * 「遅かったじゃないの。あんた昼休み中何やってたのよ」 授業開始直前にスライディングセーフを果たした俺は、特に何もすることなくそのまま五時限目六時限目をやり過ごした。もう少ししたら授業も夏休み前モードに切り替わって楽になるのだが、今のところは追い込み漁的な授業が続いていてちっとも心が安まらん。俺の場合、課外活動とその他の時間が一番疲れるのだから、授業中は睡眠学習を許可するよう教師も取りはからうべきである。 疲れという概念を本気で知らなさそうなのはハルヒくらいであって、俺の苦労も知らないハルヒの問いに、俺はだれた声で部室とだけ答えた。 「お前は何やってたんだ、昼休み中」 何となく訊いてみる。 「学食から帰ってきたら、ずっと窓の外眺めてたわ。気分で」 「何考えてたんだ。明日の天気か?」 「合宿のことよ。何して遊ぼっかなーと思って」 明日の天気と答えられても困るが、合宿のことと答えられても俺はなんだかため息を吐きたい気分だった。UFO召喚の儀式について、と答えられたら反応が違っていたかもしれない俺を一瞬思って、何を血迷っているのだと頭を振った。 「話は変わるけどさ」 俺はそう切り出し、 「去年の文化祭のときの映画撮影を覚えているよな。朝比奈さ……じゃない、どんな映画だったか言ってみてくれないか?」 「映画撮影?」 俺の予想が正しければ、ハルヒは間違ってもみくるちゃん主演の、とは言い出さないはずである。古泉の仮説通りなら、朝比奈さんはもとからこの世界にいなかったことになっているのだ。いないはずの人物が映画の主演をできるわけがない。というか、朝比奈さんがいなかったらハルヒは映画撮影なぞをやる気はなかったかもしれん。 やはり、ハルヒはいぶかしげな顔をした。 「何よそれ。そんなのはやった覚えがないわね。あ、でも面白そうじゃない。映画撮影かあ。なあにキョン、今年の文化祭か何かで映画を発表でもするつもりなの?」 「別に」 適当に受け流す。 どうやら古泉の仮説は正しかったらしい。朝比奈さんは長門と同じように消えちまっているという証明である。 俺は質問を変えた。 「じゃあ、SOS団の団員は最初っから三人だけだったかな。俺とお前と古泉。違うか?」 「何なのよ、キョン。そんな当たり前なことを訊いて。机の角に頭をぶつけて記憶喪失にでもなってるんじゃないの? あるいは頭がおかしくなってるのかしら」 ああ、その可能性は今回はまったく考慮してなかった。しかし古泉たちも記憶が俺と同じなのだから、黙殺でいいと思うね。 「なあハルヒ。俺さあ、金曜日の朝もこんなことを訊いてなかったっけ? あの時は長門有希って女子のことについてだった気がするが」 「どうだったかしらね。そうねえ……言われてみればそういう気がしないでもないけど……ところでキョンあんたいったい何なのよ。言いたいことがあるならはっきり言いなさい。遠回しな訊き方されるとすっごく気持ち悪いんだから」 一瞬、いっそのことすべてを率直にゲロってしまおうかと考えてから放棄し、ため息とともに何でもないと常套句を吐いて前に向き直った。 不意に、恐ろしいまでの虚無感が押し寄せてきた。感覚はそろそろ麻痺しちまっているが、時々、思い出し笑い並の唐突さでやってくるこれは吐き気を伴うまでになっている。 ホームルームが終わったら朝比奈さんと仲のいいはずだった鶴屋さんのところに行ってみようかとも思ったが、面倒になってやめた。 ホームルーム中、俺は机に伏せて微動だにしなかった。 * この日の放課後は特に何もなかった。 もっとも、長門や朝比奈さんがいなくなる以上に何かあってもらっては困るのだが。 この日は本当に、朝比奈さんがいないと部室で腹に入るものがとたんにまずくなることを実感したね。物理的にも、精神的にも。インスタントコーヒーだってたまにはいいだろうが、朝比奈さんのいないこのSOS団では、コーヒーは欲しかったら自分で淹れろという規律が存在しているようであり、自分で淹れたコーヒーを自分で飲んだところで味も素っ気もない。 無論そう感じるのは俺のコーヒースキルが劣っているからということにとどまらず、部室にいる人員にも問題があった。やっぱりこの部屋にいるのがハルヒと男二人だけってのは寂しいものなのだ。長門の読書姿でも、朝比奈さんのお茶汲み姿でも、それがSOS団の象徴になっていたということを改めて思い知らされた。 結局この日は喪失感が大きすぎて何もやる気がしなかった。古泉がヤケ気味に囲碁対戦を申し入れてきやがったが、今日ばかりは断らせてもらうぜ。 そんなこんなで、ハルヒはパソコンに向かっていたり雑誌を読んでいたりで、古泉は完全に持て余して詰め将棋状態、俺はパイプ椅子で半分以上茫然自失としているという、ある種異常とも言える本日の部活動は、うだうだの暑さが引いてきた頃に校内に響きわたったチャイムをもって終了した。 そうとなればもうこの部室にいるわけにもいかず、やがてして俺らは大量の生徒とともに校門から吐き出されることになった。俺はハルヒの後をセンサーで感知して動くロボットみたいに追い続ける。三人で、今の俺にとってはくそどうでもいいようなことを会話しながら、いつもの駅前に着くと、そこでまた明日と言って二人と別れた。 古泉もハルヒも、やがて街の雑踏の一部と化す。 * 家に戻った俺は、それでもまだ茫然としていた。ショックが大きすぎたのだろうか。 そんなのは言うまでもなく当たり前である。ただでさえ長門と朝比奈さんが消えてしまったショックはひどいのに、さらにこれ以上誰かを失う可能性が示唆されているというのだ。古泉はそう言っていたし、それは俺も納得せざるを得ない。明日仮に古泉が消えていたとしても、それはもはや、俺にとって驚愕すべき事態ではなくなっているのだ。 ではそうならないために俺は何ができるか。それはただ、待つことである。橘京子が助けに来るのを待つだけである。今日、それを自覚されられてしまった。 正直言って、俺は参っていた。 だだっ広い暗闇の中に置き去りにされて、それでも俺はそこから一つの希望を見いだした。その糸をたどっていって、ようやくはっきりした光明が差したのだ。SOS団のウェブページに現れた文章がそれである。橘京子を連れてこい。 それが俺たちの力では不可能だと悟ってしまった。橘京子の連絡先も所在も一切不明なのだ。どうしようもない。ただ俺たちは、橘京子が早く現れてくれることに運命を託したのだ。橘京子がライオンで俺たちは狙われたシマウマといったところか。別に橘京子が俺を殺そうと思っているわけではないだろうし立場関係的には間違っているだろうが、それでも活殺自在という根本において大差はない。手を下すのが自分か別の誰かかという違いがあるだけである。 だがシマウマというのは決して気分のいいものではない。俺は人間であるが故に知性というものに持ち合わせがあり、いいんだか悪いんだか知らないが、無抵抗に殺されるような真似はできるだけ回避するようにできちまっている。 そこで俺は思いついた。人智の発想さ。 誰か、橘京子の連絡先を知っていそうな奴はいないか、と。 思いついたね。そんときはおおいに笑みがこぼれた。 俺はそんなことを夕食を食べながら、風呂につかりながらずっと考え倒していた。おかげで、食事中はひたすら黙し続けて体調を心配されたり、風呂から出たときは全身がゆでダコのように真っ赤になっちまった。 風呂上がりですぐさまコードレスフォンを手にして自室にこもった。妹がふとどきにも俺の部屋でシャミセンと戯れてやがったがエサで釣って追い出してやった。たやすいもんだ。 電話は何回かコールした後、繋がった。 『もしもし』 「もしもし。ああ、俺だ」 とか言ってからナントカ詐欺を思い出したが、相手には無事に伝わったようだった。 『ああ、キョンか。こんな時間に、しかも僕に電話してくるとは珍しいね。何か急な用件でもあるのかな』 「まあな」 物わかりがよくて助かる。 俺が電話をかけたのは土曜日に再開を果たした人物の一人――つまり佐々木だった。 当然である。橘京子と俺の共通の知り合いで、しかも俺が絶対的な信用をおける奴など佐々木をおいて他にいないのだ。 「佐々木、お前にも用件の心当たりはあるだろ」 佐々木はしばし考えるふうな沈黙をおいて、 『そうだな、未来人が突如として消え去ってしまったことについて、かい? 橘さんから聞かされたよ。いやあ驚いたね。みんながみんなこういうののジャンルはファンタジーだと言うが、僕にしてみればホラー以外の何者でもない』 「ああそうだ。そのことについてだ。お前に訊きたいことがあってな」 『ほう、何だい。僕はそんな重要情報は持っていないと思うけどね』 それでも佐々木は好態度を示してくれるので俺は話しやすかった。こういうのがコミュニケーションスキルにおいて佐々木と他の連中との違いなんだろうね。 とはいえ、いくら佐々木でもパスワードの内容とか詳しいことまで喋るわけにはいかなかった。そこらへんは適当にごまかして、いろいろ手を尽くした末という表現に変換し、長門のものらしいメッセージを発見したこと、それによると長門を救うには橘京子が必要不可欠であるらしいことを話した。そして肝心の橘京子の連絡先を俺たちの誰もが知らないという、一見コメディである。 「ということでだ佐々木。率直に訊くがお前、橘京子の連絡先を知らないか?」 『それが用件というわけかい』 「その通りだ。知ってたら教えてくれ、頼む」 『いや、知らないんだ。お役に立てなくて申し訳ないが』 ちくしょう。 頼みの綱がまた一本切れた。残ったのはもはや、ただの恐怖でしかない。 「橘京子から教えられてないってのか」 『まあそういうことになるだろう』 「電話番号とかそういうのじゃなくていい。住所とか地名とか、名前でもいい。何か知らないのか?」 『申し訳ないが』 佐々木は同じ言葉を繰り返し、俺が黙り込んでいると電話の向こうで少し笑った。 『驚いたことに、僕から橘さんに連絡したことは一度もないんだ。さすがは橘さんと言うべきかな。味方にも連絡先を教えずに警戒するとは周到だよ』 暗い心のまま佐々木の言葉を聞いていたら何だか呆れてきた。 「お前は、そんな奴を信用してつるんでたのか。自分の連絡先も教えないようなヤツを」 『それはしょうがないことだ。誰にも、これは譲れないというものはあるからね。人はみんな、そういうことを承知した上で他人と付き合っている。承知できないか、承知できる範囲が狭い人間はどうしても他人と距離が開いてしまう。だから僕は橘さんのそういう考え方をできるだけ理解しようと努めているんだ。仲間としてね。キョン、たぶんそれはキミにも言えることなんじゃないかな』 俺は半分頭を素通りする情報を捉えようと電話機を握り直した。 「俺があの超能力者と一緒にされるのはあまり気分がいいもんじゃねえな」 『キョンが橘さんだと言っているわけではない。キミは橘さんの立場にも僕の立場にもなりうるだろうね。SOS団という団体の中で』 だったら俺は間違いなく佐々木よりのスタンスである。三者三様の理屈と考えを噛み砕いた上で俺の考えというものを構築していかねばならんのだから大変極まりない。さらに俺にはハルヒの理屈と考えまでもがのしかかるのだ。もちろんあいつにはあいつなりの理屈があってその上で理論ができているのだから、黙殺するわけにはいかない。 『だからさ、キョン。SOS団の人員と同じように橘さんにも事情がある。もちろん僕や僕の仲間の未来人、周防九曜さんにもね。個人の理屈や考えという観点から考えるのなら、彼女が連絡先を教えてくれないというのに許せないという感情を抱くのは彼女がかわいそうだ』 しかしそうは言ってもな、佐々木。事実は事実だし義務というものもある。俺にとって橘京子は信用をおけない存在で、SOS団のメンツは仲間なのだ。 『言っておくが、キミにとって橘さんは敵だろうが僕にとっては仲間だ。それに僕からすればキミたちの団体のメンバーは信用のおけない存在かもしれない。キョン、常に条件は対等なんだ』 俺がどう反論を試みようかと思っていると、佐々木は急に声を詰まらせた。次に発せられた声が涙声のように聞こえたのは、さすがに俺の耳がおかしいのだと思う。 『橘さんを信じてやって欲しい。これは橘さんの仲間であって、キミが信用してくれている僕からの願いだ。だからキミは今日、僕に電話をかけたんだろう。……頼むよ、彼女はきっとすぐに現れる。だから彼女を責めないでくれ』 「しかし……じゃあ、お前は完全に橘京子を信用してるんだな。すぐに現れると言い切れるんだな?」 『それは少々語弊があるけどもね。ここで人生論を持ち出すほど僕はえらい人間じゃないが、しかし僕には僕の人生があって、僕は仲間についていくことしかできない人間だ。彼女の思っていることを全部見通せる気はしない。だけれど、僕にはそう信じる義務があるのだと思うよ』 俺は嘆息した。これで俺は佐々木を信用する気になった。橘京子を頼る決心ができちまった。 それからしばらく、佐々木と人生論について語り合った後電話を切った。何となく、これから先も佐々木には到底かないそうにない気がしたね。あいつはとんでもない人間だ。 ついでに古泉にも電話してやろうかと思ったが、突如津波が押し寄せるように睡魔がやって来たのでやめた。携帯電話をしまってから部屋の電気を消すと、部屋には静寂がおとずれた。俺はだるい暑さに抱かれて暗い天井を見ながら、さっきの電話のことをしきりに考えていた。 人の事情を承知できる範囲が狭い奴は、どうしても他人と距離が開いちまう。 橘京子と連絡を取るのが不可能だと思い知った後しばらくして熱が冷めたら、その言葉だけがまだ、いやに熱を持ち続けていると気づいた。ハルヒのことが真っ先に頭に浮かぶのはどうしてだろうね。ハルヒにももちろん事情はあるのだ。あいつにはあいつなりの考えがあるし、それは常に変化している。一年前と同じことを考えているわけもない。どこぞのペットの猫よりも気まぐれに、妙な情にほだされることもある。それがいっそう俺をいらだたせるのだ。 考えるべきは消えてしまった長門と朝比奈さんの謎についてであるべきが、なぜかそのことに頭が取られているうちに眠りに落ちた。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5414.html
翌日。 何を期待するわけでもなく無意味に靴箱の奥を覗いてみたりしながら教室に辿り着くと、ハルヒがほおづえをついて窓のほうを向いていた。いつものことだと思って俺はようとだけ声をかけ、ハルヒの前の席に腰を落ち着ける。それでもまるで反応がなかった。 とことん解らんヤツだ。昨日まで七夕だ夏合宿だと騒いでたというのに、明けてみれば省エネモードになってやがる。最近は機嫌がよすぎたから個人的に調整でもしてるのかね。ああ、それとも何だ、憂鬱症候群がぶり返しでもしたのか? 「…………」 ううむ、気味悪いほど無言である。顔の表情一つ動かさない。 デフォルトで無口じゃない奴が唐突に無口になったりすると周りにいる人間が困るんだよな。ハルヒの場合は躁鬱病的にやたらテンションが高いときと低いときがあるわけだが、それにしたってハルヒ、お前との沈黙は長門の沈黙ほど心地よいものではないな。 「…………」 「何か、あったのか?」 依然動きなし。カラクリ仕掛けの人形みたいに視線を窓の外の空に固定したまままったく動かない。窓ガラスが映すハルヒの目は魂が抜けていた。 「喋れよ」 「……うるさい」 この始末である。俺はさすがにこのまま前を向く気にはなれずに、 「昨日までの元気はどうしちまったんだ。合宿でみんなと遊びまくるとか言ってうるさかったのに」 一瞬、ハルヒの目が大きく見開かれたような気がした。取り調べでまずい証拠を提示された容疑者のような表情だ。 「昨日、何かあったんだな? 九曜――長門たちと」 「退部するって」 は? ハルヒは一言だけ呟いて後はひたすら黙った。ちょっとしてから俺の顔を睨んで机に伏せようとしたが、何を思ったのかやめて、またガラスの外の世界を眺めた。凛として威厳に満ちあふれた生意気な顔である。 俺は状況が読み込めなくなって、数回ほどハルヒの言葉を頭の中で繰り返した。 退部するって。 いや、何が。昨日九曜たちと何があったのか。退部するって。退部? 退部って何だ。部活を抜けるというアレか。それ以降、退部したヤツは部活に来ないっていうアレだ。 部活? そんなもんは決まってる。SOS団だ。それを退部するって。なに? 俺の頭には大量のクエスチョンマークが飛び交い、予想外すぎる出来事に少なからず戸惑っていた。そして俺の目の前で空を見つめ続けるハルヒ。なんだ、なんなんだ。 「やめるってさ。三人とも、SOS団をね」 「はあ!?」 教室中に響きわたるような声で叫んでいた。セミまでもが鳴きやんだように感じた。 頭がふっとんだ状態になって、まるで紙に染み込む赤色インクのように、時間が経つにつれじわじわと浸透してくる現実味。SOS団をやめる。九曜と偽古泉、偽朝比奈さんが。口あんぐりでハルヒの顔を見返した。やつは強気な顔で、ただほおづえをついて唇を結んでいた。 どう言葉を発していいものやらさっぱりだ。まだホワイトモードから立ち直れない俺の頭に、言うべき言葉の代わりに妄想が走馬燈のごとく浮かび上がった。 部室にいるのは俺とハルヒだけで、長門も朝比奈さんも古泉もいない。もちろんパソコンは二台だけだし、大量の本もない。朝比奈さんがいないのだからコスプレ一式もなく、ボードゲームもない。ただ、去年の四月にハルヒが持ち込んだ雑多なものばかりが妙に寂しさを演出している文芸部室――。 そこでは、俺はハルヒと一対一で口論しあうだけの存在であり、だったら野球大会なぞに出られるわけもなく、映画撮影だってできないし、まさかとは思うが合宿も二人だけだ。空虚という言葉がこれほどまでにしっくりくる例が他にあるだろうか。 そんなバカな…………。 俺は妄想を振り払った。 「冗談だろ?」 ハルヒは怖いくらい冷たい表情を変えず、姿勢もまったく変えない。俺の問いかけに答える気はないらしい。 待て待て。なんなんだこれは。あの三人が部活をやめるらしい。昨日までずっと何かの変化があったから、その続きのつもりなのか。長門が消えて朝比奈さんが消えて、古泉が消えるのと入れ替わるようにして周防九曜、ダミーの朝比奈さんと古泉がSOS団に侵入してきた。そして今日になったら侵入してきた三人が部活をやめると言っている。 いったいどこへ向かうんだ。 俺とハルヒを二人にして何が楽しい。そんなことをして何の意味がある。SOS団は五人でないとダメなんだ。 「何でそんなことをしやがった……」 「知らない」 ハルヒは口もとをぴくつかせ、同時に肩も震わせていた。俺もさすがにそれ以上何か言えるわけでもなく、また得られる情報もないだろうとおとなしく前を向こうとした。 その時、前を向く寸前、俺の視線がハルヒからはずれる寸前、俺は見てしまった。毅とした表情のハルヒが、最後の一瞬だけ、この世のあらゆる戸惑いと哀しみを背負ったような表情をしたのだ。眉がよって、目は曇り、唇はギュッと結んだままで。俺はそれを見たとき、何だかわけの解らない激しい感情を覚えた。 こともあろうか、ハルヒを巻き込みやがった! タブーをこともなげに使ったのだ。世界改変が起こるからとか情報爆発が起こるからとか、うん、まあそれもあるだろうが、何て言うべきか……とにかくハルヒをこの事態の渦中にぶち込んではならなかったのだ。それも、部活をやめるという超直結型で。最悪級だ。根底を覆すような真似をしてくれた。退部する? ほざくんじゃねえ。今さら切れる縁じゃないんだ。事実俺は退部なんてことは頭にもなかった。想定外にも程がある。 「おはようっ」 憎らしいほど快活な声をして担任岡部が入ってきた。 ハルヒにつられて空を見れば、雲一つない快晴だった。もうどこかに行っちまった梅雨前線が戻ってきて仕事してくれればいいのに、憎らしいほどカラッとして暖かい陽気だった。嫌になる。青天の霹靂でも起こればいいのだ。 * 退部する――。 ハルヒの憂鬱が空気感染するものだったのか知らないが、はたして俺は三時限目が終わるまで自分の机を動けずにいた。ハルヒはよくも集中力が長続きするもんだ、アヘン中毒者のような目をして延々と空模様を眺めるばかりである。残念ながら雨が降り出すようなことはなさそうだ。 どうしていいものやら、俺はショック症状の最中にいた。 真相を知らないハルヒのショックは察するだけでも痛いが、俺とてまさかこんなことになってみようとは想像もしていなかった。頭はさっきから謎な妄想を繰り広げるばかりで、もはやまともに稼働しなくなっている。 おかげで授業はさっぱり聞けやしない。右から入って左に抜けるだけならまだしも今日は右に入る前に完全にシャットアウトされており、その代わりに頭の中で壊れたフィルムがずっと同じ部分を繰り返すがごとく退部という熟語が渦巻くのはどうにかして欲しい。 古泉を徹底的に言及してやろう。 俺が古泉に言い寄ることを思いついたのは、休み時間、後ろのハルヒと仲良く仏頂面で地蔵になっている最中のことだった。偽物でも奴ならば説明好きに違いないのだろう。 もはや躊躇う必要などない。俺は教室を出て廊下に繰り出した。もういい。納得できるまで説明させてやる。 「やあ」 そう決心したはいいが、俺は早速出鼻をくじかれた思いになった。ギョッとしてそいつの顔を見る。 「風邪は大丈夫なんですか?」 まるで俺が出てくるのを待ちかまえていたかのように、そこには古泉一樹の含み笑いの顔があった。いや、事実待ちかまえていたのだ。九曜の手下ならそのくらいはする。 「どうだろうね。最近はもっぱら精神病にかかってるように思えてならねえよ」 「そうでしょう。まだ精神を病んでいなかったとしたら、そちらのほうが異常です」 「何で急にSOS団を抜けるなんて言い出しやがった。昨日の今日だろ」 「そうですか? それほど急でもないと思ってたんですけどね。あなたも御存知の通り、我々は先日から涼宮ハルヒの情報改変能力を利用して、我々が涼宮ハルヒを観測する上で障壁となりうる存在を次々と削除してきました。順調に行くかと思われましたが、思わぬ事態になってね。涼宮ハルヒにあなたを消すようにし向けてもなぜかあなただけは抹消されなかったんです。それどころか我々の支配に対する涼宮ハルヒの反発力がどんどん強くなってきはじめまして、このままではせっかく削除した存在が復活してしまうようなことになりかねませんでした。そこで仕方なく、九曜さんや僕、朝比奈さんが一時的にこの世界に潜入したわけです。退部という形で、涼宮ハルヒの記憶から元の世界の三人を完全に切り離すためにね」 俺は絶句しながら、ああなるほどとか頭の隅で思った。 ハルヒの記憶には消えてもなお、まだ長門や朝比奈さんや古泉の輪郭が残っていたのだろう。さらに外部から圧力がかかってるとなれば、そこは黙っているハルヒではない。無意識状態でもかなりのタチの悪さだ。結果、ハルヒは抹消しちまった三人を取り戻そうと九曜の頭脳支配に反発する。しかし九曜サイドとしては、あの三人がいてはハルヒの観測をする上でどうしても邪魔になるのだった。どうにかしてハルヒの頭にこびりついている三人を取り除かなければならない。どうすればいいか。もともとハルヒとあの三人でつながりがあるのは部活だけである。だったら、その部活をやめてしまえばハルヒとのつながりはなくなり、ハルヒも未練だけで長門たちを呼び戻そうとはしないだろう。 と、そんなところか。 しかしそんな話をよくも俺に向かって堂々と言えたもんだな。 いや、違うね。どうせこいつだって九曜の手下だ。感情とかいう高等な概念は持ち合わせてないんだろうよ。俺にこんなことを隠しもせずに話して、俺がどんな思いになるのかもまったく予測できないのだ。九曜は確かに脅威だが、月並みの感情を持ってないところが穴だったな。 おかげで俺は決心がついちまった。 絶対、ハルヒに正しい長門、朝比奈さん、古泉のことを忘れさせたりするもんか。そんくらいの努力なら俺だってできるんだ。 「おい古泉、お前、残念だったな。やっぱり長門のほうが高性能のアンドロイドらしいぜ」 偽古泉は何を言っているのかさっぱり理解できない、といった感じの表情をして俺を見ている。この際だ、病人を見るような目でも何でもしやがれってんだ。この一年で長門が獲得した感情ってのはな、ずいぶん貴重なものだったらしいぞ。この古泉を見てたら、それがはっきりと解った。 * 始業のチャイムで俺と偽古泉は別れた。もう二度と会うこともないだろう。あんなヤツ、俺が会いたくない。部活をやめるということが、俺はともかくとしてハルヒにどんな影響を与えるかだけは理解しておくべきだったのだ。こういうことを俺がうまく表現できる自信はないが、ようするにあいつもまた人間だってことさ。もちろん感情だってある。あいつらとは違うんだ。 * 昼休み、俺に机を寄せたがる谷口と国木田をスルーして俺は部室へと向かった。弁当を持って行くべきかどうかと思い悩んだが、そんなに悠長にやってる場合でもないだろうから教室に置いてきた。昼飯ぐらいいくらでも我慢してやる。 部室への道のりで偽朝比奈さんやコンビを組む鶴屋さんとすれ違ったりすることもなく、俺は順調に部室に到達した。このまま開ければ誰もいないか、あるいは九曜がいたり、もしかするとハルヒが何かやってるのかもしれんが、俺はあえて通常空間の中を確認することなくポケットから鍵を取り出した。思わぬもんを見ちまうと、心証が悪くなる以上に動揺するだろうからな。これ以上疲れるのはうんざりだ。 TPDDを原材料とした鍵を扉の鍵穴に突っ込んで回すと、どこかでカチャリとかいう音が聞こえたような気がした。回して開く。 「おっと、早速戻ってきたんですか? 何か忘れ物ですか?」 クリーム色の空間、物理的に物音一つしないこの部屋に入った俺を出迎えたのは、ハンサムスマイルの古泉だった。頭が痛い。見かけ上、こいつはさっきの偽古泉とまったく同じだからな。 「いや、こっちはもう一日くらい経ってるんだが。昼休みにちょっと来させてもらってるんだ」 「何と、本当ですか……。驚きですね、こちらではあなたが鍵を手にして出ていってから一分弱ほどしか経ってませんよ?」 古泉は心底意外そうな顔をしており、ちょっと視線をずらせば朝比奈さんもまた口に手を当てて驚いてらっしゃる。存在自体がデタラメな空間なだけにそういうディテールに凝った質問は黙殺することにする。俺は部室の奥でパイプ椅子に座っている万能宇宙人に目をやった。どうせこいつが何かしたに違いない。主観時間と客観時間にずれを生じさせたとか、やり方ならいくらでもあるだろう。 「それどころじゃないんだ。大変なことになった」 俺は一日にあったことを包み隠さず三人に話した。 偽者が現れてSOS団をやめる、とか言ってきたこと、その理由について偽古泉から聞いたこと等々。 長門は黙々と、朝比奈さんは場面場面で表情を曇らせたりしながら、古泉はちょうどいいタイミングで相槌を打ちながら俺の話を聞いていた。そんでもって俺はここに来たのだと言うと、口をつぐんで三人の顔を眺めた。 「涼宮さんは……。キョンくん、涼宮さんの様子はどうでしたか?」 珍しくも沈黙を破ったのは朝比奈さんだった。 「そうですね。やっぱ普通じゃなかったです。俺が振り返るといっつも窓の外ばっか見てるんですよ、あいつ。授業中も」 さすがに言葉を切った。くだらん感傷だけど、ハルヒのためにね。 「ちょっと、まずいかも……。これは、禁則になるんですけど、SOS団が解散したり涼宮さんとあたしたちの間に大きなわだかまりができるのはどんな未来にとってもいいことにはならないんです。あたし、映画撮影のときに涼宮さんとキョンくんがケンカしたときに何か言ってたでしょう?」 「ああ、そういやケンカはダメですとかって言ってた覚えがありますね」 あれはそういうことだったのか。俺がもしSOS団をやめると、未来にどう反映されるかはいまいち解らんが。 「僕も同感ですよ」 古泉が首を突っ込んだ。 「僕の立場から、というわけでなくとも、涼宮さんに直接手を出すのはある意味タブーです。しかも、SOS団から抜けるなどということをするなんて論外ですよ」 「ハルヒの精神に手を出すと面倒なことが起こるからか?」 古泉は意外そうな表情を作ってを俺に向け、 「ほう、あなたはそうお考えなんですか? 僕に言わせれば、そのこともありますけど、もっと純粋な部分もあると思いますけどね。それでも解らないようなら、僕はあなたに対する尊敬を失いますよ。これは僕の専門外ですが、あなたにとっては専門分野ですよ」 ふん。 お前に言われるまでもない。あのあまりにも虚しい様子のハルヒを見てれば、俺じゃなくたってそんな気持ちになるね。正直俺は退部されたってことよりもハルヒがあの状態だってことのほうがよっぽどショックなんだ。 「それを聞いて安心しました。僕がわざわざ忠言するまでもないでしょう。これからどうするかは、すべてあなたにお任せします。あなたなら、おそらく僕たちの誰よりも涼宮さんを解っているでしょうからね」 古泉は長門と朝比奈さんに目を向けた。そうでしょう、とでも言うかのように。 「キョンくんなら大丈夫です。あたしは結局あんまり役に立てなかったかもしれないけど、キョンくんはその鍵を持っているでしょう?」 長門もついと焦点を俺に持ってきて、 「わたしも、ここで待ってるから」 何だか示唆的なことを言って読書の海へと戻っていった。 * 「ふぅー……」 ハルヒがようやく言葉を発した。と思ったらため息だった。それで俺は、ハルヒは今の今までため息すら一度も吐いていなかったのだと気づいた。 そろそろ夕日が空に浮かぶ頃合いだ。掃除当番がせっせと働いているときからハルヒは窓の外を見っぱなしで、掃除当番が引き上げた後もその調子だったため、疲れるだろうと思って俺は購買で飲み物を買ってきてやった。さながらマネージャーのように俺がブラックコーヒーを差し出すとハルヒは黙ってそいつを手にした。現在、ブラックコーヒーを飲み終わったハルヒは、まだ空き缶を手でいじりながら窓から外を眺めている。そんなに面白い世界でも広がっているんだろうかね。窓の外にはよ。 俺のどこか深いところでいい加減ふっきれちまえと自分に向かって呼びかけているのが解る。だが俺はあえてその感情を押し殺した。これは俺に対する試練ではないからだ。俺の心なんてのは決まっている。問題は、ハルヒがSOS団という団体をどう考えているかだった。 あの偽古泉は俺にわざわざ説明してくれたのだ。ハルヒの無意識が勝手に暴走して長門や朝比奈さん、古泉を抹消した。そしてその力が俺に向けられようというときになって、ハルヒの無意識がとうとう九曜の頭脳操作に反抗したのだ。反抗の力はどんどん強まり、ついには抹消されたはずの長門たちをも復活させようという勢いになっている。 そこでの退団宣言。 俺は、ここがハルヒを変える大きな分岐点だと思っている。もしあいつが本当にSOS団に――お遊びサークルではない、宇宙人、未来人、超能力者がいる団体という意味でのSOS団に――未練を感じているのだとしたら、本物の長門たちは復活するし、ハルヒが俺に向かってそういう仕草をするに決まっている。しかしもし、SOS団をただのお遊びサークルだと捉えていたとすればSOS団は復活しない。どんな葛藤があってもハルヒは最終的に、まあ仕方ないで済ませてしまう。あいつの人格なら別のお遊びサークルを作ることなんて簡単だからだ。代用がきく。ただしそれはSOS団とは違って、謎的存在は一切含まれない代用品だ。 それで納得するなら謎的存在はハルヒにとってはもう必要ないということになる。近頃のハルヒを見ていると、どっちになるかは正直かなり微妙だった。 「キョン、あんたも部活をやめるの?」 「俺は続けるさ。もしお前と二人だけになっても、たぶん卒業までな」 俺は即答した。もしハルヒからこういう質問がきても、絶対にこう答えようと決めていた。 俺の気持ちはすでに固まっている。これはもう最低限のプライドと意地の塊なのだ。 「別にあたしに気を遣わなくてもいいわよ」 そんなつもりではないと言おうとしたらハルヒが続けた。 「……こんなこと、言わせないでよね」 言うかどうか迷ってから言ってしまって後悔したような顔をしている。それからムッとした顔になると、ブラックコーヒーの空き缶を窓の外に放り投げた。 缶だけが窓の外の世界に、放物線を描いて飛んでいった。 「とりあえず、合宿は取り消しね。このままじゃ行っても意味ないから。ああ、鶴屋さんにも伝えとかないと……」 行っても意味がない? そうじゃない。違うのだ。なぜなら退団したのは偽物の長門たちだからだ。本物はちゃんといて、合宿にも付き合ってやるつもりなのだ。 俺は猛烈にそう進言したかったが、言ってやるわけにはいかない。合宿が取り消されるかどうか、ひいてはSOS団がなくなるかどうかを決めるのはハルヒの心なのだ。お遊びサークルで済ませてしまうか否か。 「帰るっ!」 ハルヒが吐き捨てるように言って席を立った。鞄を持って、入り口に向かってずんずん進む。小さくなる後ろ姿。 俺は絶望した。 もはやSOS団は消えるしかない。ハルヒの好奇心は薄れ、謎的存在は不必要なものになってしまったのだ。 これからどうしようか……。 どうしようもなく途方に暮れていた俺は、次の瞬間、自分の曇った窓ガラスのようになってしまった眼を大きく見開いた。思いも寄らぬ光景が目に飛び込んできたからだ。 俺はその光景に目をとられ、釘付けになった。 そこには、絶対にさせてはならない、見てはならないものがあった。 ハルヒの黒目がゆらゆらと揺れて、そこから生み出される宝石のような、真珠よりもルビーよりも貴重なたった一滴の何かが流れ出ていた。 このときの俺はさぞかしアホな面をしていただろうな。 俺の中の何かが音を立てて崩れていった。それとともに俺はようやく悟った。ハルヒの言葉にならない言葉が俺には伝わった。 こうなったらどうするかも、実は既に決めてあった。 「ハルヒ、来い!」 俺は意を決してハルヒの手を取った。顔も見ずに走り出すと、ハルヒは抵抗せずについてきた。向かう場所はただ一つ、SOS団の部室だ。教室を飛び出して廊下を抜ける。 いつだったか、こんなことがあったな。あれはハルヒに言わせれば夢世界の出来事だが、今は違うぜ。ハルヒが否定しようがしまいが、これは現実だ。そして俺は、ハルヒにこれが現実だと解らせてやる必要があるのだ。周防九曜とその手下どもこそが、ただの夢に過ぎなかったのだと。 なぜなら、ハルヒがそう望んだからだ。 通い慣れた部室棟にはあっという間に到着した。二階に続く階段を上り、コンピ研を通り過ぎてその横の文芸部室もといSOS団部室の前で走っていた足を止める。 「ちょっと、キョン?」 ハルヒが何か言っているが、今は無視するしかない。何か言うのはこの中の光景を見てからにしてくれよ。 もちろん、普段の放課後のようにそのまま扉を開けたら、そこにいるのは偽朝比奈さん、偽古泉、そして周防九曜である。あいつらなら、今頃SOS団を抜け出せて不安定要素がなくなっていい気分になってるだろう。奴らを見たら即刻束にして七回斬り捨ててやりたい気分だが、今行かねばならないのはあいつらのところではない。本当のSOS団のところだ。 ポケットから鍵を出すのすらももどかしい。朝比奈さんのTPDDを使って作られた、超空間移動プログラムが書き込まれているという鍵。それを木製の古ぼけた扉の鍵穴に差し込み、回した。 カチッ。 解錠された。 俺は後ろで立ち尽くしているハルヒの手を取ると、うつむいているハルヒを見て言った。 「ハルヒ、すべてを思い出せ。あるいは気付きやがれ。SOS団はお前がそう望んだからできた団体だったんだ。今もお前はそう望んでいる。だってのに、途中退団なんかできるわけねえだろうが」 ハルヒが顔を上げる。妙な驚きにまみれたような、初めて見る気抜けした表情だ。 「よく見ろよ。これが本当のSOS団だ」 扉を開けて、中に足を踏み入れる。俺とハルヒは暖かいクリーム色に包まれた。 そこには――、 「やあ、これはこれは涼宮さん。どうでしょう、僕を覚えてくれてますかね。もし忘れてしまっていたとしても、僕は卒業までお付き合いするつもりですよ」 「あっ、あの、涼宮さん……。あたし、あんまりお役に立てないけど、がんばるのであと一年よろしくお願いしますっ」 「わたしは、これからもここで本を読み続けるから」 精神概念体の、長門、朝比奈さん、古泉がいた。 それぞれいつもの定位置に。ああ、そうさ。これが紛れもないSOS団だ。背景がクリーム色だろうと、三人の実体がなかろうとそんなことは関係ない。ハルヒ、これが真実なんだよ。宇宙人と未来人と超能力者だ。 「おい」 俺もまた、半分口を開けて呆然としている憎らしいくらい整ったその顔に言ってやる。 「俺らはまだ人間やってる。機械とはけっこう違ってるんだぜ」 「そんな……」 ハルヒは口から呟きを漏らし、それから油ぎれロボットのような動きで首を回して部室内を眺めた。 混乱してもいい。夢だと思っても構わん。 でもこれは、お前が選んだんだ。だからお前の深層意識は、絶対にこれがどういうことかを理解しているはずだ。ここはお遊びサークルではない。このヘンテコな空間がそれを物語っている。 ハルヒの目が、一人の団員のもとで止まった。 小柄なセーラー服姿の、読書好きの団員。そいつだけが偽者と本物の姿が違っていて、偽物は周防九曜が成り変わっていた。ハルヒはこいつが誰かを知らないはずだった。 「――有希」 そう言ったのはハルヒだった。 どこかで轟音がしてくる。頭の中なのか、それともこの校舎が突貫工事でも始めたのか。だったら避難をしなければならない。 そんなことを意識外で思った次の瞬間、俺は猛烈な吐き気を覚えた。大地震でも起きたのか、激しい揺れが起きた。無重力下でぶんぶん振り回されているような感覚である。揺れは収まることなく俺らをかき混ぜ、やがては風景が消失してまばゆい光が射し、俺は目を開けていられなくなった。いかん。網膜が焼かれたかもしれん。上と下が入れ替わる。光速のようなスピードで、これは上がっているのか、それとも落ちているのか? それすらも解らん。ハルヒはどこに行った。俺はどこに向かっているんだ。反転しながら吹っ飛ばされる。どこへ。四年前の七夕か。朝倉涼子と脇腹の激痛を思い出す。今度は周防九曜か。ふざけるな。あいつなら宇宙の果てに飛ばしちまえばいい。そして戻ってこい、宇宙人の長門。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4004.html
久しぶりに早く目が覚めた俺はせっかくだから温泉にでも入ろうかと部屋を出て廊下を歩いていたら、そこには朝から忙しそうな女将さんがせっせと仕事をしていた キョン「おはようございます」 女将「あらおはよう。昨日はよく眠れました?」 キョン「ええ、おかげ様で。今から温泉でも入りに行こうかと」 女将「あの天然混浴温泉?一人でお入りになられるのかしら?」 キョン「皆まだ眠っていますし、無理に起こすのも悪いですからね」 女将「そう…じゃあ一緒に入りませんこと?」 キョン「え?いや、それは流石にまずいでしょう」 女将「そんなことないわ。背中流して欲しいもの。まだ朝の四時、誰もいないから大丈夫ですわよ」 キョン「な、何がどう大丈夫なんです」 女将「まだ私だって25よ?たまには殿方と二人っきりで温泉につかりたいわ」 この少し大人びた女性の香り…ま、まずい。そろそろ理性が利かなそうだ… 女将「ねえ…いいでしょう?(だきっ)」 だ、だだだだ抱きつかれたら俺はもう・・・げ、限界だ!! キョン「お、おかみさああああああああん」 女将「いいわよ、きて…」 『こんな廊下のど真ん中で一体何をしてるのかしらキョン?』 全世界が、停止したかのように思われた ハルヒ「このエロキョンバカキョンスケベキョン変態キョン変人キョン!!」 キョン「と、隣の部屋まで響くだろう?少し落ち着いてくれ、な?」 この怒鳴り声は間違いなく隣の部屋で宿泊している方に迷惑をお掛けしている事だろう なんせ朝から今現在、正午までずっと続いているのだからな ハルヒ「もうアンタなんか知らないわ!!」 と、言い残し部屋を飛び出して行くハルヒ なんかつい前日にもこんな事があったようなデジャビュを感じるのは気のせいか? しかしこのデジャビュが正しければ、あいつはあそこに居るだろう 古泉「おや、どこか行かれるのですか?」 今頃起床したこのイケメン面はどうやら何一つ事態を把握していないらしい キョン「ああ、ちょいとお茶屋にな」 古泉「お茶屋ですか。僕も是非一緒に行きたいですね」 長門「いっくんが行くなら私も…」 =お茶屋=~朝比奈亭~ ハルヒ「グスン…うう…」 みくる「元気出してくださぁい…涼宮さん」 ハルヒ「あんな浮気ばっかりする奴・・・・もう知らない・・・」 みくる「あ、あの涼宮さん!」 ハルヒ「くすん・・・なによみくるちゃん」 みくる「き、昨日の涼宮さんかっこよかったです!」 ハルヒ「昨日…?くすん・・・ああ、あれのことね」 みくる「町の警護をしてる武士の人とかみんな捕まっちゃって…もう町のみんなもダメかと思ってたんですけど…でも涼宮さんのおかげで今のこの町がこうしてあります!本当に感謝してるんです!」 ハルヒ「みくるちゃん…」 みくる「キョン君のことだってきっと何かの誤解です。このよもぎ団子は御馳走しちゃいますから食べて元気出して下さい(にこっ)」 ハルヒ「うん…(もぐもぐ)」 みくる(そのお団子はちょっと特別なんですよ。ふふふ) キョン「ハルヒの奴…機嫌直ってれば良いんだがなあ」 古泉「大丈夫でしょう。とりあえず謝るべきだとは思いますがね」 キョン「仕方ない。謝って何か奢ってやるとしよう」 長門「あれがそのお茶屋?」 キョン「そうだ。お茶や団子の味も絶品かつ、天使のような…」 長門「ねえ」 キョン「なんだ?」 長門「あそこ…」 古泉「おや?涼宮ですね。もう一人の方は?かなり可憐な御方ですが・・・」 ハルヒ「いいじゃないの!もう少し揉ませなさいよ~」 みくる「だっだめですぅ!らっらめですぅううう」 キョン「やれやれ・・・機嫌は直ってそうだな」 ハルヒ「そういうことなのね・・・はあ、わかったわ。今回だけは特別に許してあげる。でも次やったら死刑だからね!」 キョン「肝に銘じておくよ」 古泉「さて、仲直りも御済みになられたところで…お茶でも飲んで行きますか」 キョン「そうだな。三色団子を二本」 古泉「では僕は桜餅を」 長門「…いっくんと同じ物」 ハルヒ「アタシはわらびもち20個!もちろんキョンの奢りで」 代金の勘定も終了し、俺の財布がすっかり軽くなった四時頃 俺達はそろそろお茶屋を出て宿屋に戻ろうかなど話していたところだった キョン「じゃあ戻るか」 みくる「…ふみぃ」 キョン「あ、どうも美味しいお茶と話し相手ありがとうございました」 みくる「…え?あ、い、いいんですぅ。私も楽しめましたし」 キョン「そうですか。それじゃあお仕事頑張ってください」 みくる「あ、あのっキョンくん!」 キョン「なんでしょう?朝比奈さん」 みくるちゃんと呼ぶのは多少抵抗があるので名字で呼ばせて貰う事にしている そこ、根性無しとか言うな みくる「わ、わたしを…」 キョン「はい?」 みくる「わ、わたしを・・・・貴方達の旅に連れてってくれませんか!?」 みくる「わたしの父はとても徳の高い羅漢でした…町の人たちにも好かれて、戦いも強く弟子の方々にも尊敬されていました。でも私は…ただのお茶屋の店員でしかなくて…この前も皆さんが闘っているのに私は只じっとしている事しか出来ませんでした」 キョン「仕方ありませんよ。それに朝比奈さんを戦いになんて赴かせたくありませんから」 みくる「そんなんじゃダメなの!・・・私の父は仏に仕える身でもこの町を外敵から守り殿様の為に仕えていたんです。皆さんが戦っている姿を見て私思ったんです!わたしだって皆さんと一緒に旅をして何時かこの町を一人で守れるぐらい強くなりたいんです!!!」 キョン「しかし朝比奈さんは…」 ハルヒ「みくるちゃん。行くわよ」 キョン「!・・・おいハルヒ」 ハルヒ「ここまで固い決意なのに、アンタがそれを止める権利があるの?」 キョン「う…」 古泉「良いじゃありませんか。彼女は本気のようですし」 長門「私は…構わない」 みくる「みなさん・・・」 キョン「じゃあ朝比奈さん、これだけは約束してください。何があっても絶対に無茶はしないと………守れますか?」 みくる「はい!」 キョン「わかりました。一緒に行きましょう朝比奈さん」 みくる「はいっ!皆さんこれからよろしくお願いしますっ!!」 古泉「出発は明日の朝ですか?」 キョン「ああ、この町には随分すぎる程世話になったしな。」 ハルヒ「ちょっと!みくるちゃんがこの町に別れを惜しむ時間くらい与えてあげなさいよ!」 みくる「いいんです。もうこの町とは何年も付き合ってきましたから」 ハルヒ「みくるちゃん…」 キョン「北条様とやらも合戦から帰ってきたみたいだから町が荒らされる心配も無いし、何時までもグズグズしていたら余計に別れが苦しくなる。早めに出た方がいい」 古泉「その意見には同感です。長くなれば成るほど、辛くなる。別れとはそう言うものです」 ハルヒ「それはそうだけど…」 長門「大丈夫。彼女は貴方が思っているほど弱くはない」 ハルヒ「有希…そうね。ありがと」 長門「いい…」 古泉「そういえば朝比奈さん、貴方の父親は徳の高い羅漢僧だと御聞きしましたが…」 みくる「そうですよぉ。それがどうかしたんですか??」 古泉「と、言う事は貴方も少なからず父の教えを受けている…違いますか?」 みくる「あ、はい。父がまだ生きてる頃に色々と習いました。筋が良いって誉められたんですよ」 キョン「ってことは朝比奈さんは治療術を使えるんですか?」 ハルヒ「アンタ知らないの?この子は医者も顔負けの治療師よ!」 キョン「なんとっ!?」 ハルヒ「アタシが何も知らずにこの子を仲間にしたと思った訳?」 キョン「いや、そんなことは無いが…なるほどね。そういう訳か」 長門「…具体的にどんな治療術を行える?」 みくる「えーとぉ。傷の基本治療は父の教えで結構強力なものが使えますぅ。あと解毒術なんかも得意ですよぉ」 キョン「頼もしいですよ朝比奈さん」 古泉「そこまでとは…素晴らしいですね」 長門「…頼りにしている」 みくる「あ、ありがとうございますぅ(てれてれ)」 古泉「その雷凰丸という男は雷に属する系統の術を使うと貴方は言われましたよね?」 キョン「ああ、それがどうした?」 古泉「それは単なる雷の術では無いと思われます」 キョン「どういう事だ」 長門「雷の術は非常に習得が難しい」 古泉「長門さんの言う通り、雷の系統に属する技はその術を使用する本人ですらが器ごと破壊されてしまう程、強力な術です。目に見えるレベルの稲妻を身に纏い、貴方達を翻弄する等、そんな事は一介の忍術に於いて無謀の極みなのです」 ハルヒ「そうなの?でもアイツは…」 古泉「貴方達の話を聞く限りこれはあくまで僕の推測ですが、その雷凰丸なる輩は 【雷神の力を直接的に行使出来る者】と思われます。」 キョン「雷神の力だと!?」 古泉「貴方達さえ圧倒する大変な実力者…恐らく間違いないでしょう」 ハルヒ「でもどうするの?そんな怪物が信長の下にいるなんて…」 古泉「勝算が無いとは言い切れませんよ?あの時は貴方達二人でしたが、今は五人です。」 キョン「そうだな…」 ハルヒ「雷神の力だか何だか知らないけど今度は負けないんだから!」 みくる「そ、そうですっ!」 =山道(越前城下町付近)= 国木田「任務に失敗しちゃったね。雷凰丸様になんて言おうかな」 朝倉「なんて言っても怒られそうで怖いわ・・・」 国木田「落ち込まないで朝倉さん。僕が付いてるから」 朝倉「貴方なんて付いてても結局怒られるんだから怖いじゃないの…ぐすん」 国木田「泣かないでよ。ほら、キスしてあげるからさ」 朝倉「うん、それ無理♪」 国木田「じょ、冗談だよ。目が怖いよ朝倉さん」 朝倉「はぁ…なんて言い訳すれば許して貰えるのかしら」 涼宮ハルヒの忍劇5
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3311.html
ハルヒが雨を降らせた2時間目の後も、奇妙な出来事は続いた。 何故かチョークが虹色になったり、校庭に突然小規模な竜巻が出現したり、何も無いとこで谷口がコケたり。 その度にクラスメイトが驚いたり笑ったりしていたが、ハルヒだけはただ静かに笑っているだけだった。 そして俺の疑念は、確信へと変わっていく。 ハルヒは完全に、自分の能力を自覚してやがる。 昼休み、俺はいつも一緒に飯を食う谷口と国木田に断りを入れた後、部室へとダッシュした。 こんな状況で頼れるのは、やっぱアイツだからな。 息をきらせながらドアを開けると、やはり居た。寡黙な宇宙人、長門有希。 しかし今日は長門だけでは無かった。古泉もいる。 その古泉はいつものニヤケ面を封印して、シリアスな顔つきで居た。 これだけでも、ただごとじゃないと理解できる。 「古泉、お前も来てたのか。」 「ええ。その様子を見るとあなたも既に気付いているでしょう。 はっきり申し上げます。緊急事態です。」 「……涼宮ハルヒが自分の能力を自覚した。」 やはりか…… 「恐らくトリガーは、彼女自身の能力によるもの。」 「ハルヒの能力?」 「ええ。恐らく涼宮さんは、僕達が隠し事をしていることを前々から感付いていたのでしょう。」 マジでか………まあ前々から勘は鋭いヤツだったからな。 「そして彼女は願ってしまった。『全てを知りたい』とね。 その瞬間能力によって、彼女は自らの能力を自覚した。」 「それだけではない。恐らく彼女は情報統合思念体のことも、古泉一樹が所属している機関のことも、 朝比奈みくるが未来人であることも全て理解している。」 おいおい、本当に『全て』じゃねぇか。 俺でさえ理解するのに数日かかったというのに、あいつは一晩でそれを全部受けとめたのか。 「昨日の深夜、大規模な閉鎖空間が発生しました。 当然と言えるでしょう。突然大量の情報が彼女の脳に降りそそいだ。 涼宮さんで無くてもパニックになるはずです。 あまりも膨大な閉鎖空間で我々も苦戦を強いられました。ですが、その閉鎖空間は突然自然消滅したのです。 きっと彼女は、閉鎖空間も自由にコントロールできるようになったのでしょう。」 「能力を自覚した今、涼宮ハルヒに出来ないことは何一つ無い。」 そうだ。今のハルヒに不可能という文字は無い。なんだって出来る。 さっきの雨程度で済むなら問題無いが、もっと大きな願いを叶えようとしたら? 街中に宇宙人を光臨させるとか、動物園に不思議生物を入れるとか、メチャクチャな世界を望んだら? ハルヒに限ってそんなことはしないと思うが、その気になれば一国を滅ぼすことすら出来てしまう。 ……まったく、ほんとにとんでもねぇ能力だ。自覚したとあっては、尚更だ。 「だ、だがハルヒはあれでも常識的な部分はある。 孤島の時にも言ったが、不思議のために人が死ぬことを望むようなヤツじゃないはずだ。」 「ええ。僕もそう信じていますよ。しかし、彼女の願いが今のイタズラ程度で収まるとも考えにくい。 そのうち、僕等に関わる大きな願いをしてしまうでしょう。例えば……」 古泉が例を挙げようとしたその時だった。 部室のドアが控えめに開かれ、入ってきたのは朝比奈さん。 だがいつものエンジェルスマイルは影を潜め、暗くうつむいている。 「朝比奈さん?どうかしたんですか?」 俺が声をかけると、彼女の目に涙がたまっていく。 「ふぇぇ、キョンく~ん……」 そして朝比奈さんは、俺の胸に飛び込んで泣き始める。あ、朝比奈さん!? 「ど、どうしたんですか朝比奈さん!」 「未来が……未来が消えちゃったんですぅ!」 なんだって……未来が!? 「どういうことですか朝比奈さん。説明していただけますか? 「はい……」 彼女は涙をぬぐい、口を開いた。 「未来との通信が一切出来なくなったんです。時間移動もしようとしたけど出来ませんでした。 未来が完全に書き換わっちゃったんです。だから私が元々居た世界はもう存在しません。 お父さんもお母さんも……ふぇぇぇ……」 朝比奈さんはまた泣き出して座りこんでしまった。 これも、ハルヒの仕業か……おいハルヒ。これはシャレの限度を超えているぞ。 お前は間接的に、だが確実に、朝比奈さんの世界を滅ぼしたんだ。 「あら、みんな集まって何してるの?楽しそうね。」 その声にハッとして顔をあげると、そこにはハルヒが居た。 「お前にはこれが楽しそうに見えるのか?」 「ええ、とっても。」 俺は怒りをこめた返事をした。だがハルヒは、静かな笑みを崩すことは無い。 「あたしも、混ぜてよ。」 続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/22.html
『情緒クラッシャー』 「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 「食ってねぇ」 「言い逃れなんてしても無駄よ!机の上に空の容器が…」 蹴り飛ばされる机。身をすくませるハルヒ。 「食ってねぇ」 「…わかった。食べてないのね」 「あぁ。食ってない」 「…そう」 「謝れよ」 「え…」 「謝るんだよ。俺に。当然のことだろう?勝手な憶測で人を疑ったんだから」 「………」 床に手を付き頭を下げるハルヒ。 「…疑ってごめんなさい」 「…それから?」 「え?」 「さっきのは疑ったことについての謝罪だろ?二度も同じことを言わせたことについての謝罪がないじゃないか」 「…二度も同じことを言わせてごめんなさい」 「いいよ。気にしてないから。俺そういう細かいことを引きずる方じゃないんだ。ただ次からは注意してくれよな。俺はお前のことが大好きだからさ。 もう殴ったりしたくないんだよ。顔面がかぼちゃみたいになってたり、足引きずったりしてるハルヒを見るのはホント辛いんだよ。 なぁ?分かるよなハルヒ?」 「…うん」 「『うん』?」 「は、はい!」 「いい返事だ、ハルヒ。 分かったらさっさとパンツを下ろせよ。あと今週の分な」 「ひぃふぅみぃ…足りてないぞ」 「あの…そのことなんだけど…もうこれ以上…家からお金持ってくるのは…」 ゴッ 「俺は足りてないって言ったんだよ」 「………」 「当たり前だろ。家の金を取るなんて親御さんに悪いじゃないか。だからそれ以外の方法を取ってるんだろ」 「…キョン…お願い…私…限界なの…」 「あ?」 「もうキョン以外とするのイヤ…イヤなの…お願い…もう…」 「…そうか。お前は死ねって言うんだな、俺に。借金があって大変な俺に。そりゃそうだよな。好きでもない男とするのなんて誰だってイヤだよな。 俺だってイヤだよ、大好きなお前を他の奴に抱かせるのなんて。愛してるからな。ハルヒのこと。分かった。死ぬよ、死ねばいいんだろ。死ねばお前も満ぞ…」 「嘘!嘘だから!もっと…もっと私稼ぐから…我慢して…もっといっぱい…!!だからお願い…冗談でも死ぬとかそんな…!」 「そう言ってくれると信じてたよハルヒ。次の分は今日の足りてない分とペナルティー合わせて…4万追加でいいや。お前も少しは寝ないと体もたないだろ?」 「…ありがとう」 「いいって。さ。尻上げろよ。今日はあんまり時間が無いんだ。帰りに長門の家に寄らないといけないんだ。あんまり待たせると可愛そうだからな。あれでアイツさびしがりなところあるんだぜ。あー…きもちぃー♪」 「キョン…私、キョンの彼女なのよね?あ…ん…私達…付き合ってるの…よね?」 「当たり前だろ。あ、今日安全日だっけ?違った?まぁいいか。とにかく出すからなー。 あ、後、次からは焼きプリンで頼むな。今日のはあんまり好きじゃないんだわ」 「う…うぅ…」 「愛してるぜーハルヒー」 ガチャ… ハ「いやっほ~キョ…」 キ「ハルヒ、うるさいぞ、長門は今読書中なんだ、静かにしてあげなさい」 ハ「ごめんなさい…キョン、有希…今日はもう帰るね」 キ「………」 長「………」 バタン 長「………(ハルヒの奴、キョンに注意されて帰ってやんのwwwwwざまぁwwwwww)」 『右から左へ』 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 キョン「次の休みどこ行きます?」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン!?」 みくる「そうですねぇ。あ。そろそろ紅葉がキレイな季節じゃないですか?」 ハルヒ「あたしのプリン食べたでしょ!?」 古泉「なるほど。紅葉狩りというわけですね。確かに今が一番いい時期かもしれません」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?キョン!?」 長門「こうよう…」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 キョン「お。長門、紅葉を知らないのか」 ハルヒ「ちょっと!ちょっと!キョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 長門「………」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしの、あたしのプリン食べたでしょ!?」 みくる「えっとぉ…冬が近付くと一部の植物がぁ…」 ハルヒ「ちょっと!あたしのプリン食べたでしょ!?」 古泉「朝比奈さん、百聞は一見に如かず。理屈よりも、連れて行って差し上げれば一目瞭然ですよ」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン、プリン食べたでしょ!?」 キョン「決まりだな。正直ボーリングだ、カラオケだって金も続かなくなってたとこだし、ちょうどいいぜ」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?食べたでしょ!?」 みくる「私、お弁当作りますねぇ」 ハルヒ「ちょっとキョン!キョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 キョン「ありがたいなぁ!さ。今日はそろそろ帰りましょうか」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン!あたしのプリン食べたで…」 バタン ハルヒ「ちょっとキョン! 咽喉が渇いたから『ドンッ!』っ!?」 キョン「何だって?」 ハルヒ「な、何するのよ! 吃驚するじゃ『ドンッ!』ひっ!?」 キョン「だから何だって?」 ハルヒ「や、やめて『ドォンッ!』よぉっ!?」 キョン「聞こえねーよ。何が言いたいんだよ、ったく」 ハルヒ「つ、机『ドン!』っひ、ぃ、『ドン!』蹴らない『ドォン!』で、よぉ……」 キョン「あー? 聞こえねーっつーの」 ハルヒ「……うぅ」 ナッパ「白菜うめぇwwww」 あたしは今いじめにあっている。 でも、そんなの中学からのことだった。 みんな馬鹿だからそうなんだって思ってた。 でも、高校に来ていじめはエスカレートしていった。 移動教室から帰ってくると机には「気違い死ね」の文字が書かれていた。 それだけじゃなくて、鞄にも「キモイ死ね」の文字。 ご丁寧にも油性のマジックで書くものだから落ちない。 水で洗っても洗っても落ちない。 部室に行く時は手で隠しながら入った。 ばれたら嫌だったから。 汚れた机を雑巾で拭くと、周りでクスクスと蔑む声が響いた。 でも、あたしのが頭もいいし、顔だっていい。 運動神経だっていいし、こんなやつら一撃で倒せる自信がある。 でも、それはできなかった。 過去に余りに腹を立てて男子を殴ってしまったことがあった。 もちろんあたしは勝った。 でも、次の日集団で来てあたしをリンチした。 ブラジャーを取られて排水溝へと投げ捨てられた。 それがどんどんエスカレートしていった。 止まる事はない延々と続けられる嫌がらせ。 耐えられなくなってあたしはキョンに相談した。 キョンは親身になって聞いてくれた。 あまりの嬉しさに、今までの孤立感、屈辱、羞恥、全てが涙に変わっていた。 その時、あたしはキョンに身体を許してしまった。 次の日、キョンは殺人的な言葉を口にしていた。 「あいつ抱いてやったよ。くせぇしきたねぇし、顔だけだな。ヤリマンだなありゃ」 取り巻きは爆笑。 あたしは人間不信に陥っていった。 誰に相談すればいいんだろう? 悪いのはあたし? あたしは一度だけ自殺を試みました。 紐で首を縛って、力いっぱい引っ張りました。 でも、死ねませんでした。 生きていることに気付いた時、あたしの目からとめどなく涙が溢れました。 今でもあたしは馬鹿な人の卑劣ないじめに耐えています。 悪いのはあたし? 馬鹿キョン馬鹿キョン! と。何度も俺の頭を叩くハルヒの手首を握って制止し、 「止めろ!」ドスの聞いた声と共に、と睨みつけた。 「いい加減にしろ! ったく、毎度毎度。俺はお前の奴隷じゃないんだぞ!」 「何よ! 何か文句あるっていうの。キョンの癖に!」 怖じもへったくれもなく睨み返してきやがる。 その目が、口の聞き方が、傲慢な態度が、全部が癪に触る。 「あんたは黙って私のいう事を聞いていれば良いの!」 「だから! 俺はお前の奴隷じゃないっつーの!」 「はん! 何よ! 文句あるの! 無いわよね! あんたは奴隷よ、奴隷!」 「――っ!」 目の前が真っ赤になった。血が上るどころか、瞬間沸騰した。 何度かこういう事はあったが、桁が違う。止める奴も居ない。 衝動は思考を陵駕する。本気で握りしめた拳は、力の限り振り切られた。 「っ!?」 イスを巻き込み、机にぶつかり、吹き飛ぶハルヒの体。 顎を殴られたうえに、頭を机にでもぶつけたのだろう。 「う、あ、あぁ……っ」 顔を両手で覆い、気持悪い呻き声を上げながら、ジタバタと床の上で跳ねる。 「……もう一回言ってみろ」 髪の毛をつかみ引き摺って、無理矢理に身体を起こす。 痛い痛い痛い……! と喚き散らす。唾を飛ばし、口の端から血を垂らし、喚く。 「な、に……」 すんのよ、とでも言いたかったのだろうか。 言葉が続く前に、顔面を机に思い切り打ちつけてやった。 「おい、聞こえないぞ。しゃきっとしろよ」 髪の毛を引っ張って顔を起こし、耳元で呟いた。 ハルヒはぼろぼろと涙をこぼしながら、鼻血を垂らしている。 俺の顔を見て「ひっ」と顔を痙攣させた。あぁ、どうやら俺が恐いらしい。 「ほらほら。もう一回言ってみろよ? 俺はお前の何だって?」 恐がらせないように、とびきりの笑顔でワンモアトライ。 「ごめ……ん、なさ……い」 ガン! 「……ご、め……な、」 ガン! 「や……め、」 ガンガンガン!!! 「……」 パクパクと口を引き攣らせている。 どうやら「ゆるして」と言っているらしい。 俺はずい分可愛くなってしまったハルヒの顔に唾を吐き、部室を出た。 ハルヒ「みんな聞いて、大ニュースよ大ニュース!!」 !...あれ?あんただれ?」 美代子「引っ越し・引っ越し・ さっさと引っ越し、シバくぞ!」 鶴屋さん「繰ーりー出せー鉄拳~♪」 みくる「ふぇ~」 長門「無理です…」 ハルヒ「ハブられた…」 キョン「あははー」 ハ「やっほーみんな」 キ「お前誰だ?」 ハ「はぁ?何言ってんのアンタ?私はハルヒよ!」 キ「お前こそ頭大丈夫か?はるひはそこに居るだろう」 は「え?呼びましたか?」 ハ「え?」 ハ「……」 ハ「ちょっちょっちょっちょっと!まってアンタ私の派生キャラじゃない!なに私の団長椅子に座ってんのよ!」 は「え?えぇ?あ、あのー」 み「どこの誰か知りませんがはるひちゃんをいじめないでくれませんか?」 キ「つーか派生キャラ?何を言っているんだこいつ?そうかキチガイだ……よし古泉コイツを職員室に連れてくぞ」 古「わかりました」 ハ「ちょっと!話なさいあんた達私が」バタン み「……よしハルヒちゃん今日はめいどさんの服着てみようか?」 は「え?またですか?」 長「…スク水巫女服もある」 は「あ、じゃあめいどさんの服をください」 み「はーいじゃあそっちでお着替えしてくださいね~」 長「スク水巫女服……」 ハルヒ「すごいことを発見したわ!」 キョン「なんだイキナリ」 ハルヒ「谷口のWAWAWAについてよ!」 キョン「ああ、アレについてね。何だ言ってみ、聞くだけ聞いてやる」 ハルヒ「いい?谷口のWAWAWA…パソコンで入力してみてよ、キーボードに注意して!」 キョン「なんでだよ」 ハルヒ「いいから!」 キョン「まったく…、w・a・w・a・w・aっと…ん?…こ、これは!?」 ハルヒ「そう!つまり谷口は突 徒 子 公 太 郎 だ っ た の よ !」 キョン「なんだそんなことかよ…」 ハルヒ「(´・ω・`)」 キョン「…ヌプ」 古泉「ひゃっ!?キョ、キョンたんのえっちぃ!」 キョン「…ドピュ」 古泉「いや~///」 長門「ヴァギナー!!!」 キョン「ちょ、直球だな小娘…」 古泉「…わ?」 長門「ノン ノン ノン 『ヴァ』」 キョン「クチュ…」 長門「ヴァギナー!!!」 古泉「ゃぁ~///」 ハルヒ「ちょっとぉ、ちょっとちょっと!なんで有希は良くて私は無視するのよぉ!?」 キョン「………」 古泉「………」 ハルヒ「なんとかいいなs 長門「ヴァギナー!!!」 ハルヒ「ちょ/// 有希うるさっ 指指すなぁ!///」 古泉「か~え~る~の~う~た~が~」 キョン「か~え~る~の~う~た~が~」 長門「き~こ~え~て~く~る~よ~」 ハルヒ「き~こ~え~て~く~る~よ~」 古泉「………」 キョン「………」 長門「………」 ハルヒ「な、なんなのよあんた達最近!!も、もう知らないんだからっ! ウワァァン。゚(つд`゚)゚。」 バタン 古泉「………」 キョン「………」 長門「……グワッ」 古泉「グワッ」 キョン「ゲロゲロゲロゲロッ」 長門「グワッ」 古泉「グワッ」 キョン「グワッ」 ハルヒ(なんなのよちくしょー!) ハルヒ「あれ?…そういえば最近みくるちゃん見ないわね…」 古泉「………プッ」 長門「………プリッ」 キョン「ひゃ~いw」 ハルヒ「な、何よ、あんた達何か知ってるの?」 古泉「or2=3 プッw」 ハルヒ「腐っ! なによ!い、言いたいことがあるならっ、て本当に臭い!!」 長門「ケアル」 キョン「長門はケアルを唱えた。でもみくるんはアンデッドだった…」 ハルヒ「な……そ、それどういう意味?」 古泉「裏切りに」 キョン「死を」 長門「巨乳に」 キョン「制裁を」 ハルヒ「ちょっと、ちょっとちょっと!あんた達みくるちゃんに何をしたのよ!?」 みくる「あの…私ならずっとここにいるんでしゅけど…」 ハルヒ「答えなさいよキョン!」 みくる「またでしゅか?また無視でしゅか?いい加減にしないと泣きましゅよ?」 ハルヒ「なんで無視するのよ!!」 みくる「せ~の、」 ハルヒ・みくる「ウワァァン。゚(つд`゚)゚。」 キョン「あ~る~日♪」 古泉「あ~る~日♪」 キョン「森の中♪」 古泉「も、もも森さんの膣内…ハァハァ」 キョン「ハルヒに♪」 古泉「電波を」 キョン「出会った♪」 古泉「受信した♪」 キョン「はぁ…」 長門「まぁそうクヨクヨすんなよ。そのうち良いことあるって、なっ?」 キョン「長門…ありがとう…俺頑張るよ!」 古泉「しょ、しょんなことより僕の替え歌どうでしゅたか?」 キョン「イェーイ!イツキたんサイコーwww」 長門「なんか涙出てきた…GJ!」 ハルヒ「………」 シンジ「泣いてるの?」 ハルヒ「な、泣いてなんかないわよ!」 キョン「わいわい」 古泉「がやがや」 長門「きゃっきゃっ」 ハルヒ「ねぇ!みんな今度の連休ぅ……」 キョン「………」 古泉「………」 長門「………」 ハルヒ「あ…ううん、なんでもない…」 キョン「わいわい」 古泉「がやがや」 長門「ざわざわ…」 ハルヒ「………グス」 獅子丸「ハルヒちゃん泣いてるの?」 ハルヒ「な、泣いてなんかっ、て誰よあんた!?」 長門「部室の蛍光灯を白熱灯にしてみた」 キョン「いいんじゃないか。部屋の雰囲気が落ち着いた気がするよ」 古泉「なんか…眠いよ…(つω-`)ゴシゴシ」 キョン「ハハハwまったく、イツキは子供だなぁw」 長門「子守り歌歌ってあげるね」 古泉「う…ん……zzZ」 長門「あら…必要なかったみたい」 キョン「そうみたいだn ハルヒ「歌なら私に任せて!!!」 キョン「!」 長門「!」 古泉「うわっ!なになに!?」 キョン「……チッ」 長門「……ちっ」 ハルヒ(あぁ…伝わる、ただの舌打ちなのに色んな感情が伝わってくるわっ! 主に『空気読めよ電波』みたいな刺々しい負の感情が……!!嬉しい、キョンが今だけは私を無視しないでいてくれてる!) 長門「涼宮アヒルの憂鬱」 ハルヒ「ガアガア、って誰がアヒルじゃい!」ビシィ キョン「おーッと、団長様のノリツッコミだッーーー!サイコーだぜウチの団長はよォッーーー!」 古泉「団長!団長!」 みくる「団長!団長!」 鶴屋さん「団長!団長!」 コンピ研部長「団長!団長!」 コンピ研ズ「団長!団長!」 長門「団長!団長!団長!!団長!!」 一同「団長!!!団長!!!たすけて団長ォーーー!!!!」 ♪~~♪~~♪~~♪~~←あの曲 ハルヒ「わ私が悪かったです!謝りますからどうか、テンションをお鎮め下さいィ~~」バッサバッサ 不思議探索当日。 ハルヒ「キョン遅いわよ罰金ね!」 ハルヒ「じゃあいくわよ、古泉君、有希!」 ハルヒ「午前は大した成果が無かったわね…午後こそ何か見つけること!」 ハルヒ「…今日も何も収穫無し、ね。じゃあ解散、また学校でね」 ハルヒ「………全員にボイコットされたからって一人芝居は寂しかったかな………」 「ハルヒ、好きだ。付き合ってくれ」 「ええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」 「なんだその驚きようは、失礼な」 「何言ってんのよ、あのね、あたしはね、あの、その、そう! つまり団内恋愛は禁止なのよ! わかった? わからなくてもだめー」 「ふふふ、そう言ってくれると思ったぜハルヒよ」 「? ?? ??? なに? なんなの??」 「というわけだ、谷口。俺の勝ちだな」 「ちぃっ、俺の告白も断らなかった涼宮がよりによってキョンの告白を断るとはな……しかたない、麻雀のツケはチャラにしてやる」 「古泉ばっかり相手にしてるとゲームの腕が落ちるんだよなー、ハルヒ、こんどはゲーム付き合ってくれよ」 「まさか、あんたたちあたしがキョンの告白を受け入れるかどうかで賭けしてたんじゃないでしょうね」 「おいキョン、ちょっとヤバイ雰囲気じゃねーか?」 「そうだな、逃げるぞ!」 「待ちなさいこのアホバカども~!!」 「あたしはただ、キョンに告白されたいなって思ってただけだったのにぃ……ぐすん」 長門「SOS団の団長は私。文句ある人は?」 ハルヒ「(´∀`)∩はいぃ~~」 キョン達「異議無し」 ハルヒ「(;´∀`)何でぇ~~?」 長門「新団長をよろしく」 キョン達「団長!団長!よろしく団長!」 ハルヒ「(;´∀`)さみしぃ~~」 キョン「あああああああ!!クッソ涼宮がっ!!ウッゼェェエエエんだよヴォケナスがあぁぁぁあ!!!!」 キョン「死ねっ!!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇええ!!!」 ハルヒ「(ヒッ!やだ、また犯されちゃう……でも、)」ビクビクッ ハルヒ「ちょっと…みんな、私を無視しないでよ……」 ハルヒ「……無視っていうか全員にボイコットされたんだけどね……部活……」 ハルヒ「ちょっと…キョン、私を無視しないでよ……」 キョン「………( ゚ ж ゚;)プルプルプル」 ハルヒ「キョン……どうして私を無視するのよぉ!」 キョン「………(((((; ゚ ж ゚ )))))ガタガタガタブガクルブルブル」 授業中にクラス一のブスの顔に髭が生えてるのを発見した時の俺のリアクション。 はるひ「みんな~次は何して遊ぶ?」 キョン「じゃあおままごとなんかどうだ?」 はるひ「いいよ~じゃあキョンくんが旦那さんで私が奥さん、いつきくんが子供でみくるちゃんはペットのポチ、有希ちゃんはタマだよ~」 古泉「なるほど、父との禁断の関係に溺れる息子の役ですね」 みくる「私はご主人様の忠実なメス犬です♪」 長門「了解、アパートの隣に済む旦那を狙う泥棒猫の役と認識」 幼子の前で何を言い出すんだこいつら はるひ「ちがうよ~へんな設定を付け足さないでよぉ」 ほら見たことか、わけが分からず泣いちゃったじゃないか 古泉「すみません軽いジョークですよ」 みくる「ごめんねはるひちゃん」 長門「謝罪する」 キョン「どうするはるひ?」 はるひ「えへへへじゃあ良いよ!みんなであそぼ」 古泉「(やはりこちらのはるひさんに着いて正解ですね)」 長門「(能力が同じならば観察しやすい方をとる)」 みくる「(しかしあちらのハルヒさんはどうします?)」 古泉「(最近能力自体が弱まっているのが観測されてるので、消滅は近いでしょう)」 長門「(ほっておくのが得策)」 みくる「(ですね)」 ハルヒ「何のつもりよ!!!早くここから出しなさいよ!!」 キョン「フン」 10日後 ハルヒ「いやぁぁぁ・・・・・はやくお家へ返してよぉぉぉ」 キョン「フヒヒヒヒ」 古泉「おい 俺にもやらせろよ」 みくる「あ、ずるい あたしが先!」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4822.html
そして公園へと戻った俺は、別れ際の朝比奈さんの言葉を思い出して切ない気持ちを抱いていた。 ……いつかまた会えるといいな。あさく――、 「あ、先輩おかえりなさいっ。朝倉って人はどうでした? フフ、ちゃんとガツンとかましてきましたよね? 先輩を傷つけるような悪い人は……って、」 俺が唖然とした表情を貼り付けているのを見た朝比奈みゆきはポカンと、 「どうしたんですか? 呆けた顔しちゃってますよ?」 ……涙が出そうになった。 なぜ今まで気がつかなかったのか。そうだよ。この声と、この髪の色は――。 「――いや、朝倉は悪い奴なんかじゃなかったよ。とても人思いの奴で、良い奴だった。……ホントに、ありがとうな」 「ほえ?」キョトンとした後、「フフ、おかしな先輩。なんでわたしにお礼なんて言うんですか?」 「あ、いや、すまない。……なんとなく、な」 「んー、今度は謝るなんて、やっぱりおかしな先輩っ」 カラカラと笑う朝比奈みゆき。いや――お前は、朝倉だったんだな。 俺が輪廻転生という仏教思想を何ともなしに感じていると、 「こんにちは涼宮さん。古泉一樹です、よろしく」 「……あなたが超能力者なの? よろしくね」 古泉とハルヒが挨拶を交わしていた。幼いハルヒは俺をチラリと見ると、 「ふうん? 古泉くんって言ったっけ。あなたも中々カッコいいじゃない」 ハンサム仮面がハンサムだってことは否定できないが、惚れるなよ。 「なによ? もしかしてやきもち焼いてるの?」 「焼くか」 とは言いつつも、思えばこのハルヒが古泉に一目惚れする可能性も十分あったんじゃないかという考えが浮上してきた俺は、何となく複雑な心境になってしまった。 なぜそんな気持ちになったのかを考えようとして即中止したところで、 「……どうやら、万事上手いこと進んだようですね」 古泉が小声で囁いてきた。俺は、 「ああ、てゆーか古泉。お前は一体何をやってたんだ?」 「僕は……そうですね、説明の前に、一つ話をしてもよろしいでしょうか?」 余計な話が増えるのはご免だがな。と言うと古泉は笑って、 「人の人生を時間平面の連続という観点で捉えれば、それはまるで自分の物語が書かれていく一冊の小説みたいだとは思いませんか? そして僕は、長門さんにあなたの小説を覗いてきてもらったのです。僕の行動を端的に言い表すならばそういうことですね。もしかしたらこのことが、長門さんが読書家である理由となったのかも知れません」 俺の小説? 自叙伝を書くと言ってたのはお前だし、俺は日記を書くこともしちゃいなかったが。 という疑問が生じたが、まあ、何はともあれ結果は出たんだ。よく話は掴めないがまあいいだろ。考えるのも面倒だしな。 「それなら僕も助かりますが」 俺は微笑を湛えた古泉から周囲へと意識を移行させる。すると、 「あれ? 長門おねえちゃんは? まだ帰ってきてないんですか?」 キョロキョロと周囲を見渡す朝比奈みゆき。朝比奈さん(大)は、 「……長門さんも、そろそろ帰ってくるはずよ。安心してね」 ……すると牡丹雪のような淡い光の結晶が、一縷の光とともに複数舞い降りてきたかのような幻想的な模様が映し出され始めた。 そして収束した光が一気に放出されたようなまばゆい光の後、そこには、長門の姿が――。 「……て、眼鏡付きなのか?」 意表をつかれた俺に古泉が、 「……すみませんが、少々目をつむって頂いてもよろしいですか?」 いきなり妙なことを言いだした。よもや先程のドラマティックな光景に刺激されて、誰彼構わず口付けでもしたくなったのではあるまいな。そういや、前にもこんなことを言われた覚えがある。まあ、そのときはハルヒの精神の中へと飛び込む準備のためだったのだが。 「そう怖い顔をなさらずに。キスなどしませんよ。雪山での遭難の際、僕の部屋に入ってきたあなたの行動にかなり背筋を冷やした経験もありますので、僕にそちらの気はナッシングです」 「あたりまえだ」 と言いながら俺は古泉の言葉に従った。理由を聞く暇があったら、その時間を目をつむることにまわした方が効率的だからな。唇を狙っているわけでもなかったし、それくらいの要求なら何も言わずに受けてやるとも。 すると古泉は俺の頭にちょんと触れ、それはまるで俺の精神を引き抜いた際のような所作だったが、 「いえ、虫が止まっていたのでね。振り払っただけですよ」 まるで嘯くようなスマイルを浮かべて古泉が説明し、俺は古泉を横目に再度長門の方へと視線を移した。 そして長門はゆっくり眼鏡を外すと、 「……長門おねえちゃんおかえりなさいっ」 もはや突進としか言いようのないスピードで飛び込んできた朝比奈みゆきの抱擁を受けた。 「おかえりなさいっ」 朝比奈みゆきは二度歓迎の言葉をかけると長門の顔を覗き込み、 「良かった。この時代の長門おねえちゃんの雰囲気だ。フフ、うれしいです」 長門はニッコリと笑う少女の顔を見つめ、そして、雪解けのようにやわらかな笑みを浮かべて――ゆっくりと、帰還の挨拶をみんなへと向けた。 「……ただいま」 ……この笑顔を見るために、どれほど遠回りをしただろうか。 だけど、得たモノだって多いんだ。その中でも……この世界での長門の笑顔はとびっきりだろうな。 ――おかえり、長門。 そして、みんなが俺と同じような言葉をかけている中、 「長門さん、おかえりなさい。……良かった。帰ってきてくれて」 この朝比奈さん(小)の言葉に長門は顕著な反応を示し、朝比奈さんを自分のもとへと呼び寄せた。 そして己の右手を差し出すと、 「あなたに施された処理を解除する。掴んで」 「あ……そうでしたね。いけない、すっかり忘れちゃってました」 長門は朝比奈さんから差し出された手を引き寄せると、長門流のプログラム注入法である噛みつき行為にでた。まったく、これが健全だと思える日が来るとはね。なんせ喜緑さん流がちょいと衝撃的過ぎだったからな。 そう思いつつ喜緑さんの緩やかな笑顔を見ていると、 「忘れ物ならば、長門さんにもあるはずですよ。どうぞこれを」 古泉はやおら長門に近づくと、そういえば俺が古泉に渡していた長門の小説をすっと手渡した。 長門はそれを受け取ると文章に目を配り、ひとときの間をあけるといつもの無表情が映る顔を上げ、片腕でそれを胸元へと運んだ。その動作は長門が本を抱える際のものと一緒だったが、俺が先程のはまた意味合いが違うと感じたのは気のせいではないだろう。間違っても、もう捨てたりなんかするんじゃないぞ。 ――と、今までずっと長門が抱えていた問題も、これにて一応の終幕を迎えたことになるだろう。 長門の物語といえば、あいつの小説にはまだ意味的に残されたページがある。 そう、三枚からなる小説の第一ページ目だ。そこに登場する幽霊少女……前は朝比奈さんのように感じたが、今では――これも何となくだが――朝比奈みゆきのような気がする。そして他の二枚の内容は古泉曰く今回の出来事に繋がっていて、また、朝比奈さんの小説にさえも今回との関わりを感じたので、このページが無意味なものであろうはずがない。一体なんの意味があるのだろうか。 それに、異世界の問題だってある。これの解決の糸口も長門が握っているのだが……。 朝比奈みゆきからじゃれつかれている長門の姿を見ていると、せめて、今だけは……誰も口を挟もうなんて考えやしないのさ。 ふと、俺は隣に顔を向けてみる。 そこには長門を見つめるハルヒがいて、その表情からはどこか羨ましそうな感情が見受けられた。 そんなハルヒの姿を見た俺もまた、再度長門へと視線を固定する。そして――――、 「……なあ、ハルヒ」 「なに?」 「もし、自分の夢が何でも叶っちまう能力があるとしたら……お前はそれを欲しいって思ったりするか?」 ハルヒは顔をこちらに向けて俺と目を合わせた後、また正面を向くと、 「そんなの、誰かがくれるとしてもいらないわ」 またもやハルヒらしくないことをハルヒは言いだした。 「それは反骨精神からきてるのか? どんな願いも叶う力なんて、古今より世界中が欲しがってる代物じゃないか。フリーマーケットで大量に他人の要らんものを買い込むようなお前を知ってる俺としちゃあ驚きだ」 ハルヒはふんと鼻を鳴らすと、 「そんなんじゃないわよ。……だったら、あんたはどうなの? 欲しい?」 「いらねえな」 「なんで?」 なんで……と言われても、それは俺に必要のないものだし、そんなもんが俺に付加されちまったら俺じゃなくなっちまう。だからいらないのさ。 ふうん、とハルヒは呟き、あたしはね、と自分の理由を語り出した。 「さっきの出来事もそうだけどね、こんな人いなくなっちゃえばいいって思うようなことがあっても、その人を消すことは間違ってるってあたしは理解してる。だけど、そんな能力をもったあたしがそう思っちゃえばその人は消えちゃうのよ。だって、消えないでほしいっていうのはあたしにとって嘘でしかないんだもん。つまり何が言いたいのかって言えばね、あたしは人が自分を好きでいるためには、自分に嘘をつくのも大切なことなんだって思うの。だから、嘘がつけなくなるようなそんな能力なんていらないってわけ」 「……へえ」 「なによ?」 自分から聞いといて興味なさそうじゃないとハルヒに言われてしまったが、俺はハルヒの言葉に素直に感嘆していたのだ。 ……そして、一つ気になったことがある。 灰色の、憂鬱な空。――閉鎖空間。 ハルヒがそんな無人の世界を作っちまうのは……その能力で、誰かを消してしまわないようにするためなのだろうか。 「……やっぱり、お前はハルヒなんだな」 ハルヒはお手を求められたときの野良犬くらい何言ってんだといった表情を浮かべているが、これは褒めてるんだぜ。他の奴がこの台詞を言うときは決まってハルヒの素行に辟易してるときだが、俺のこの台詞には、やっぱりハルヒって奴は誰よりも常識的で、人のことを考えることが出来るやつなんだなって意味がこもっている。 それに、自分に嘘をつくってのも大事だって言ってくれるとさ……俺も、今までの自分を肯定できる気がするよ。 俺とハルヒがそんなやり取りを交わしていると、 「もう少しゆっくりしていたいけれど……規定事項はまだ終わりではありません。涼宮さんも元の時間平面に帰らなければなりませんし、それに、キョンくんたちとはあとでまた文芸部室で話すことだってありありますから」 そして朝比奈さん(大)は面をハルヒへと向けると、 「……そろそろお別れの時間です。そして涼宮さんが元の時空に回帰する際、ここでの記憶を行動以前のものに戻さなければなりません。……ですが、涼宮さんが今回体験したことは世界の歴史として残ります。そして、それは少なからずこれからのあなたの未来に影響を及ぼしてしまうの。それは、中学生の涼宮さんに辛い体験をさせてしまうことでもあります。だけど――」 「……みんなが待っててくれるんでしょ?」 ハルヒは申しわけなさそうに言葉を繋げる朝比奈さん(大)を遮り、 「高校生になったら、あたしがみんなを集めてSOS団を作るんだって聞いたもん。あなたたちにまた会えるのなら、あたしは何だって我慢出来る。朝倉って人との約束だってあるし、どんなことがあってもへっちゃらよ」 ……ごめんなさい、と言う大人の朝比奈さんに「それより、聞きたいことがあるんだけど」とハルヒは尋ね、「もしかして……あたしには、どんな願いでも叶える力があるの?」 不安げな少女に対し、教師風お姉さんはどうぞ安心してくださいと言わんばかりの笑顔を作り、 「今の涼宮さんにその力は生まれていません。その力は、あなたが元の時空で普通に過ごすようになって発生しますから」 「そうなんだ。……よかった」 よかったというのはどういった意味だろうか? と俺が疑問に思ったのと同時に、 「あなたに渡しておくものがある」 長門がいつの間にか俺の傍に立っていて、何か俺に渡すと言ってきた。なんだろう。 「涼宮ハルヒの状態を修正するプログラム。あちらの時空間であなたが涼宮ハルヒに使用し、それによって涼宮ハルヒの世界への復帰を図る」 すると長門の手に握られていたメガネがぐにゃりと変形し、別のモノへと変化した。それがどんな物体なのかを伝えるのに詳しい描写は必要ない。 「……針か?」 あえていうなら一般的なまち針程度の長さと細さの針だ。長門はそれを俺の手のひらにスッと落とし、 「先端にプログラムを塗布してある。今回は射出装置を必要としないと判断したため、この姿で創出した」 「…………」 なんというか……まあ、出来すぎている感も否めないな。 「眠り姫……ね」 俺はそう呟き、長門特製針は制服の衿下に刺して携帯することにした。 そんな俺の行動を確認した朝比奈さん(大)は、 「では、これからみゆきと一緒に過去の公園へと向かって下さい。みゆきちゃん、またお願いするね」 朝比奈みゆきの元気な返事の声が上がり、俺とハルヒは活発な少女の後に続く。 「ちょっと待って下さい」 ――と、急に声を出したのは古泉だ。古泉は歩き出した俺たちを呼び止めると、 「すみません。実は、今でなければ言えないことがありましてね。……涼宮さん。不躾なお願いかもしれませんが、あなたの能力で僕の願いを一つ叶えていただきたい。その僕の夢は、今この期を逃してしまえば実現することなどありえないのです」 「え……?」 古泉のイキナリな頼み事に、中学生のハルヒは微量の困惑を覗かせた。 「古泉? 何言ってんだ。お前らしくもない」 謙譲礼節の塊のような奴がえらく独善的な理由で主張している。ハルヒに願い事を叶えて貰おうなんざ、俺は自分でも驚く程考えやしなかったというのに。 呆れた表情を隠さない俺に古泉はイタズラな笑みを向け、 「むしろ、これは僕らしさを得るための願い事なのですよ。……では涼宮さん。どうか、これから話す僕の願いをお聞き届け下さい」 そう言うと、古泉はまるで主君から仕事を仰せつかった時の執事のように片手を胸元に吊り下げて頭を垂れ……粛々と言葉を連ねていった。 「――もし、あなたの心が憂鬱に染まり、あなたの世界が閉じられるようなことが起こってしまったとき……僕、そして僕と志を等しくする者たちにそれを打ち砕く力を与え、そこからあなたを救い出す騎士の役割をお与えください。……それがあなたに望む、僕の願いです」 ハルヒはキョトンと、 「……正義のヒーローってところ? よく分かんないけど……わかった。頑張ってみる」 という話が掴めない場合の常套句で古泉に返事をしていたが……何となく、俺には古泉の行動の意味が掴めていた。 古泉の超能力集団。それに属する人たちはみんな、子供の頃の古泉と同じ夢を持っていたのだ。 そしてこの古泉の言葉によってハルヒがそれを叶え、そして生まれたのが……『機関』というところだろう。 「……お前がナイトなら、ルークは長門、ビショップは朝比奈さん、ポーンは俺ってところだな」 何人分もの雑用を下っ端として受ける俺はまさにポーンだ。 「ふふ。そういうことになるでしょうね。ですが、クイーンの傍に座すのはあなたの役目ですよ」 古泉は俺のワニ目から逃れるようにハルヒへと向き返し、 「お引止めして申しわけありませんでした。それでは、三年後にまた会えるのを楽しみにしています。……お元気で」 こちらこそ、とハルヒは古泉の差し出した手を握り、そしてその二人の握手を最後に、俺とハルヒは朝比奈みゆきの運転するカメ型TPDDに乗って時の止まった公園へと向かったのだった。 「ところでさ、あんたには何か願い事ないの? 聞くだけならしてあげてもいいけど」 公園に着いてすぐハルヒがこう言ってきたので、俺は「庭付き一戸建てが欲しい」などとは言わず、 「そうだな。俺が子供の頃には宇宙人や未来人や超能力者と遊びたいって思ってたんだが……今はお前に、俺たちとまた会える日がくるまで待ってて欲しいって望む位しかないな。だから、それをお願いするよ」 夢がないとハルヒに言われてしまったが、俺にはそれで十分過ぎる程なのだ。 「まあいいけど」とハルヒは「じゃあ……今度はあたしの願いを聞いてもらう番よね」とか言い出した。別に構やしないのだが、俺がハルヒの願いを聞いたところで、何にも…………。 「ん、そうだな。是非聞かせてくれ」 そういえば、それが異世界の問題の答えに繋がるかもしれないんだった。これを聞かないわけにはいかないだろう。 するとハルヒは、不意に、どういった顔をしたらいいのか分からないときに作る仏頂面を浮かべ、 「――あたしね、やっぱり今日の出来事って夢だったんだって思うの。そしてあたしは今から目覚めることになるんだけど……白雪姫や眠り姫が起きるためにはさ、必要なことがあるじゃない? だから……」 ボッという音が聞こえた気がする。明らかにハルヒは顔を真っ赤にして、うつむき加減にボソボソと、 「……キス」 と言ったがちょっと待て。ここでそうなると、俺は元の時間に戻ってからも強制的にそれをやらされるハメになっちまうんだ。俺はその強制的というのが好かん。っていうか、突然何を言い出してるんだよお前は。……マジなのか? と、眼前のハルヒは慌てふためくという言葉をあらん限り体現しながら、 「――ち、違うわよっ! お別れするときの単なる欧米的挨拶よ! それに、あたしを思いっきり抱き締めてきたあんたにも責任あるんだからね!」 「な、」 ……見に覚えがないわけではない。思い返せば、朝倉からハルヒを守るときに無我夢中でそんな行為に及んじまったような気がする。 いや待て。だからってキスはないだろう。それはハルヒの言う無茶とはまた別系統の無茶だ。そういうのを言い合う関係がなんだか知ってるか? 教えてやる。爽やかカップルだ。 「あのな、俺は帰ったらまたお前と顔を合わすんだぞ。もしかして、俺を混乱させるのが目的なのか?」 ぐ、っとハルヒは言いよどむと、 「だって……また会える保障なんてないじゃない……。それに、あたしに能力が生まれちゃったら……キョンを……」 「俺を、なんだ?」 「う……。何でもないわよっ、馬鹿キョン!」 それっきり、ハルヒは開き直ったようにプイとそっぽを向いてしまった。 それをどうにかしようにも俺にはハルヒの言っていることが殆ど理解出来ないので、対処の方法など見つかりやしない。何処かにハルヒの言動に潜む謎を解き明かしてくれるやつが居ないか探さないとな。もちろん無償で。 だが。 目の前でぶすくれているハルヒが、この公園で最初に見つけた時とは明らかに違うというのは俺の目から見ても明らかだ。 どう違うのか、というより……このハルヒこそ、俺の知っているハルヒなんだよな。 「……ハルヒ」 俺の呼びかけに、ハルヒは不機嫌そうに横目で俺を見る。 「お前は静かにしてるより、そうやってる方が可愛らしいぞ」 「へ?」 俺はハルヒへと歩み寄り、目の前の、いつぞやの閉鎖空間のときよりも小柄な肩に手を掛ける。状況が飲み込めていないハルヒは、自分の肩に置かれた手、そして目前の俺の顔という順番で視線を移動させ、何かを言いたいが声にすることが叶わないといった様子で俺を見つめる。俺はそんなハルヒに、 「そろそろお別れだ。今日は色々とすまなかったな、なにぶん急な呼び出しだったし、お前を危険な目にだってあわせちまった。けど安心してくれ。俺たちはまた絶対に会える。なんなら、今からその約束をしたっていいくらいだ。……だからハルヒ。少しだけ目をつむってくれないか」 「あ……」 恐る恐る俺の話を聞いていたハルヒは、俺の瞳を見つめると体中の力を抜き、緩やかにその目を閉じた。 俺はそれを確認すると、制服に忍ばせておいた針を無音で取り出し、 「……すまないな。眠り姫は閉ざされた城の中で目覚めるんだ。お前には、高校に入ってすぐそのときがやってくる。そして俺はかならずそこに行くから――それが約束だ。……またな、ハルヒ」 そして俺は長門特製針をハルヒの手の甲につけ、見た目的にも眠り姫となった少女を公園のベンチへと寝かせた。俺はその幼い顔に七夕での出来事を想起しながら……みんなの待つ、俺の世界へと帰還した。 「どうです? お別れのキス位は済ませてきたのではないですか?」 帰還した直後、早速古泉の奴が何か言ってきた。なんのことかなあ。 「……もしやとは思いますが」 「するか。ハルヒだって言っても妹とたいして変わりゃしない年頃だし、それは違うだろ」 と言いながらも自分から古泉に意味ありげな反応をしてしまった手前、先程のハルヒとのやり取りをおおよそで説明してやった。すると古泉は健やかな笑顔を浮かべ、 「なるほど。つまり、あなたは涼宮さんに魔法をかけてしまったと」 「かけてない」 「いえ、身も蓋もない言い方であれば後催眠暗示のことです。以前閉鎖空間が世界と取り変わろうとした際、あなたは物語におけるお姫様の逸話になぞらえてそれを回避しましたね。しかし、何故その行為が突破口になり得たのか。それは先程のあなたが中学生の涼宮さんと約束をしたからで、それがあったからこそ王子のキスによって世界が開かれたのですよ」 「…………」 古泉の話を聞き、俺は谷口の話を思い出す。 あのハルヒは俺と再会する約束をしたが、世界が動き出したとき、ハルヒは約束した相手を忘れている。つまり、俺を知らないのだ。 だからあいつは誰かと会う約束をしているような気がしてもその相手が誰だかわからず、そのため、やってくる男たちを断らなかったのではないだろうか。この予測にもとづくならば、東中の眠り姫伝説もあながち間違いではなかったということになる。そして……、 「古泉。俺たちの世界のハルヒなんだが……本当に、宇宙人や未来人や超能力者の存在を知らないままで良いと思うか? なんてったって、それはハルヒの願いに違いないんだ。俺たちの都合でそれを叶えないってのは……ちょっと考えることだと思ったんだが、な」 俺は冗談など飛ばしていないにも関わらず古泉は何故か可笑しそうに、 「それは違いますよ。それらの存在と出会いたいというのはあなたの願望であり、涼宮さんが探していたのは、実は別の者たちだったのですから」 「どういうことだ?」 「中学生の涼宮さんが七夕の日に願ったことですが、あれは妙だとは思いませんか? あの願いを織姫や彦星に伝えたとして、涼宮さんは何を得るつもりだったのでしょう。それ以前に、願い事としても成立していません」 「……そう言われれば、不思議だな」 そして古泉は人差し指を空へ立てると、 「涼宮さんの願い。それは早く迎えに来て欲しいということであり、その相手とは、織姫や彦星、ましてや宇宙人でも未来人でも超能力者でもなく……王子であるあなたであり、長門さん、朝比奈みくるさん、そして僕だったのです。ですから、涼宮さんの願いは既に叶っているのですよ」 「ん……」 そうなると、中学でのハルヒの行動にも合点がいく気がする。 つまりあいつは俺たちと再開する日まで待っていられず、俺たちをずっと探し求めていたのだ。 そして見つからない相手、また会おうと約束した俺たちに対し……ハルヒはあの七夕の日、メッセージを送った。 『――私は、ここにいる』 「……じゃあ、ハルヒが中学時代、不思議を探して一人になっちまうのは……」 「ええ、僕たちのせいでしょうね。だから我々は責任を取らなければならない。僕たちとの出会いによって、彼女に望まぬ力を与えてしまったこと。そして、涼宮さんに孤独な時期を過ごさせてしまったことにね。そのためにやることは、いまさら言うまでもないでしょう」 「そうだな。……ところで古泉。俺さ、それにあたってSOS団の名前を変えようかと思うんだ」 「名称を……ですか?」 それはいかに、と聞く古泉に俺は言ってやった。 「――世界を大いに盛り上げる、涼宮ハルヒのための団。ってのはどうだ?」 実に結構かと、と古泉は笑顔を振りまきながら俺に同意し、あとは何かに満足したような面を浮かべていた。そんな目で俺を見るんじゃない、と言おうかと思ったが、俺はそれに気付かない振りをすることにした。 ――ここで思うことがある。 俺とハルヒとの出会いは、実のところ北校に入る前から始まっていたのだ。 ボーイミーツガールの物語。俺にとってそれは公園での憂鬱なハルヒとの出会いから始まり、先程の約束がアンドグッバイの部分にあたる。……そして、北校でアゲインを迎えるってわけさ。 そう。 こうして俺たちは出会っちまった。 しみじみと思う。この出会いは………… ――運命だと信じたい、と。 第十四章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3427.html
第二十ニ章 ハルヒ ビジネスジェット「Tsuruya」号は、滑走路に滑り込んだ。 機体が制止すると共に、お馴染みの黒塗りハイヤーが側にやってきた。 「とうちゃ~~く!さあ、客室の皆さんは、とっとと降りるにょろよ!」 通常の旅客機ならば1時間半は優に掛かる行程を、僅か50分でかっとんで来た「Tsuruya」号の搭乗口に立ちながら、客室乗務員姿の鶴屋さんは俺たちを促す。俺たちはぞろぞろと昇降口から滑走路に降り立ち、黒塗りハイヤーに向かった。だが、その前に。 俺は、昇降口に立ちこちらを見送っている鶴屋さんのところに駆け寄った。 「鶴屋さん?」 「何かなっ?」 「今回はご協力ありがとうございました。このご恩は一生忘れませんから」 「……良いってことさ。こんな事しか、あたしは出来ないからねっ!そんな事改めて言われると照れるっさ!キョン君もこれから頑張ってねっ!あ、それから」 鶴屋さんは、とびっきりの悪戯を思いついた子供のような笑顔でウィンクしながら、こう言った。 「ハルにゃんをよろしくねっ!もう離しちゃだめだぞっ!」 黒塗りハイヤーは俺と古泉、長門を乗せたまま高速道路を滑るように走っていく。運転手は新川さんだ。 以前俺が3日間入院していた『機関』御用達の病院が目的地だ。そこに、ハルヒはいる。あの時、駅で倒れ昏睡状態になったハルヒは、一旦ホテルに運び込まれたものの意識が戻らず、現在は件の病院に入院しているのだという。ハルヒの両親も、入院した当初は昼夜通して看病していたとの事だが、全く覚醒の兆しがない事から、最近では日中のみ、母親のみの付き添いになったと、古泉が説明してくれた。 「ということは、今行くとハルヒのお母さんに会う事にならないか?」 「そうですね。ではこうしましょう。緊急検査のためということで、涼宮さんを別の病棟に移し、そこであなたと涼宮さんを引き合わせる様に手配します」 「そっか。だが、俺がハルヒに出来る事なんて限られてるぞ。しかもアイツは意識がないんだろ?」 「大丈夫です。涼宮さんはあなたをずっと待っているのですから、必ず何らかの反応があります」 いつものスマイルで俺にそう断言した後、古泉はぽつりと呟いた。 「……悔しいですがね」 その言葉を忘れようとするように携帯を取りだし、いずこかへ電話する。多分、病院への手配だろうな。 高速から見える風景が、段々と馴染み深いものに変わってきたとき、ハイヤーは高速を降り一般道に入った。窓から見える風景が、懐かしい。あの引っ越しからもう1年経ったのか。ぱっと見は全く変化がないようにも見えるこの町だが、自分の記憶と違う部分もあちこちにある。僅か一年とはいえ、変わっていることを実感した。そんな俺の個人的な感慨を無視したように、ハイヤーは病院の裏口に滑り込んだ。 「こちらです」 先導する古泉の後を歩く俺と長門。既にハルヒは特別病棟の個室から検査室に移動しているとの事だった。 俺たちは一般入院患者や見舞客の目を避けるように、検査室とやらのある病棟に向かった。 「現在、涼宮さんの状態に変化はありません。身体、脳波共に異常ありません。ただ、未だに目を覚まされておりません。『閉鎖空間』も現状維持のままのようです」 「……現在、涼宮ハルヒに特別な異常は認められない。肉体的には全く正常。精神的な乱れも特に無い」 古泉の報告を長門が補強してくれた。分かった。あとは俺が何とかするしかないんだな。 「……そう」 「期待してます……ああ、こちらですね」 古泉が『第3検査室』と書かれたプレートが下がったドアを開けると、そこにはベッドに横たわるハルヒが居た。若干痩せた感じはするが、まるで眠っているかのようなハルヒの顔。しかし、その腕には点滴用のチューブが刺さり、長期間意識が戻らないという古泉の話を裏付けていた。 「……ハルヒ」 思わず俺は、目の前に横たわっている少女の名前を呼んだ。反応は、無い。 「ハルヒ、俺だ」 ベッドの脇の簡易なパイプイスに座り、ハルヒの手を取る。その手は冷たかった。 「戻ってきたぞ」 ハルヒの手が、以前よりも小さく細く感じる。 「そろそろ起きろ」 トレードマークのカチューシャは付けておらず、ベッドの脇に掛けられている。 「遅刻するぞ」 綺麗な寝顔。あの時見たロングヘアは短く切りそろえられ、見慣れたショートカットになっていた。 「今回の罰金はお前だからな」 そんな俺の行動を見ていた古泉と長門だったが、しばらくすると俺とハルヒから視線を外した。 「僕たちは、席を外します。後はあなたにお任せします」 「……頑張って」 そう言って退室する古泉と長門に、俺は目線で感謝の合図を送った。 まるで眠り姫のように微動だにしないベッドの上の少女。一年前にコイツに告白したときも、寝顔を見ながら色々考えていたっけ。少女の寝顔は、その時と同じで綺麗だ。ただ、目を覚まさないことを除けば。 いつの間にか、そんな少女に俺は語りかけていた。 なあ、ハルヒ。お前、いつまで寝てるんだよ?腕からチューブ生やしてさ…… しかも医者が異常なしって言ってるんだぞ?端から見てればギャグだぜ、これ。 そろそろ目を覚ましてくれないか?俺、お前に謝らなければいけない事が一杯あるんだよ。 古泉とお前のことを誤解してたこと。お前と同じ大学行けなかったこと。パーティをすっぽかしたこと。 それから、それから…… 俺の言葉にも全く反応を示さないハルヒの手を握り、いつの間にか俺は泣いていた。 何が『神の鍵』だ。俺は、今こうやって目の前に横たわっているハルヒに、何にも出来ないじゃないか。 ちくしょう、ちくしょう…… どのくらい経ったのか。泣き疲れた俺は、涙を拭きながら改めてハルヒを見た。ハルヒは俺が入ってきた時と全く変わらない。華奢なその身を俺の前に横たえている。 ただ、一つだけ違いがあった。ハルヒが……泣いている?閉じられた両目から、涙が流れていたのだ。 反応してくれた! 俺はハルヒの頬に手をやり、耳元で呟いた。 「ハルヒ。俺はここだ。お前の側にいるから、早く起きろ。起きて、いつもの笑顔を見せてくれよ」 ぴくり、とハルヒの体が反応した。 未だ瞑ったままのハルヒの両目からは止めどなく涙が溢れ、その端正な口から譫言のような言葉が漏れた。 「……キョ……カキョン……んと…に……」 ハルヒ!気付いたのか??ハルヒ??俺は必死になってハルヒの耳元でハルヒを呼び続けた。だがハルヒは譫言を繰り返すだけで、一向に目を開けようとはしない。 「ハルヒ!ハルヒ!」 いくら耳元で叫んでも、目を覚まさない。ハルヒの口からは、意味の成さない譫言が流れるばかり。 「どうかしましたか?」 「……」 おそらく部屋の外で待機していたであろう古泉と長門が慌てた様子で入ってきた。ぶつぶつと譫言を繰り返し涙を流し続けるハルヒを見て、古泉は「担当医を呼んできます!」と廊下に走り出ていった。 「……涼宮ハルヒの体内反応の活性化を確認。体温上昇中」 まるで計測機器のように、正確に現状を報告する長門。 だが俺は、そんな彼らの行動など気にも留めず、ひたすらハルヒの耳元でハルヒを呼び続けていた。 『白雪姫って、知ってます?』 『Sleeping Beauty』 突然、頭の中にこの言葉がひらめいた。もう2年半以上前、初めてコイツの作った『閉鎖空間』に二人きりで閉じこめられたときに、脱出のヒントとなった言葉。朝比奈さん(大)と長門のヒント。 これか。これしかないか。 「……宮さん…反応を……っちです……」 開け放たれたドアから、古泉が医者を伴って近づいてくるのが分かる。俺のすぐ脇には長門がいる。 だが、かまうものか。 俺は、譫言を繰り返すハルヒの口を強引に自分の口で塞いだ。 ハルヒ、戻ってきてくれ……その想いと共に。 第二十三章 スイートルームへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/746.html
少女達の放課後 A Jewel Snow (ハルヒVer) ダーク・サイド 繋ぎとめる想い 涼宮ハルヒの演技 涼宮ハルヒと生徒会 HOME…SWEET HOME 神様とサンタクロース Ibelieve... ゆずれない 『大ッキライ』の真意 あたしのものよっ!(微鬱・BadEnd注意) ハルヒが消失 キョウノムラ(微グロ・BadEnd注意) シスターパニック! 酔いどれクリスマス 【涼宮ハルヒの選択】 内なるハルヒの応援 赤い絲 束の間の休息(×ローゼンメイデン) ブレイクスルー倦怠期 涼宮ハルヒの相談 お悩みハルヒ 絡まった糸、繋がっている想い 恋は盲目(捉え方によっては微鬱End注意) 涼宮ハルヒの回想 小春日和 春の宴、幸せな日々 春の息吹 おうちへかえろう あなたのメイドさん Day of February ハルヒと長門の呼称 Drunk Angel ふたり バランス感覚 Swing,Swing,Sing a Song! クラス会 従順なハルヒ~君と僕の間~ B級ドラマ~涼宮ハルヒの別れ~ ハルヒがニート略してハルヒニート 涼宮ハルヒの本心 涼宮ハルヒのDEATH NOTE 思い込みと勘違い 束の間の休息・二日目 束の間の休息・三日目 涼宮ハルヒの追想 涼宮ハルヒの自覚 永遠を誓うまで 涼宮ハルヒの夢現 Love Memory 友達以上。恋人未満 恋人以上……? 涼宮ハルヒの補習 涼宮ハルヒの感染 雨がすべてを 涼宮ハルヒの天気予報 キョンに扇子を貰った日 涼宮ハルヒの幽霊 隠喩と悪夢と……(注意:微グロ) Close Ties(クロース・タイズ) の少し後で セカンド・キス DEAR. 涼宮ハルヒの独白 寝苦しさ 涼宮ハルヒの忘却 涼宮ハルヒの決心 ティアマト(ハルヒ×銀河英雄伝説) 式日アフターグロウ 微睡の試練 涼宮ハルヒの大騒動シリーズ young 神の末路(微グロ注意) 涼宮ハルヒの奇妙な憂鬱 夕日の落ちる場所 涼宮ハルヒの抹消 トラウマ演劇 涼宮ハルヒは夜しか泳げない ハルヒ「釈迦はイイ人だったから!」 (グロ ナンセンス) ハルヒとボカロオリジナル曲の歌詞をあわせてみた 涼宮ハルヒの共学目次 word of thanks 赤色エピローグ 夏の日より 朝比奈さんの妊娠 疑惑のファーストキス 機関の推測(微エロ注意) 涼宮ハルヒの切望―side H― 憂鬱な金曜日 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/843.html
昨日、俺のクラスは、月に1回の席替えをした。 そして、俺は窓際一番前という最悪なポジションを獲得してしまったわけだが、 じゃあ、ハルヒはその後ろか?と問うものもいるだろう。 しかし今回、ハルヒは俺と同じ列ではあるが、すぐ後ろではなく、窓際の一番後ろという前と変わらないポジションにいた。 ことの起こりは昨日のことだ。 母親は朝っぱらから親父とケンカしたらしく、親父が会社に行った後は俺にまでやつあたりしてきた。 しかも、俺はその日も妹にダイブをされたせいで腹が痛かったわけだ。ったく、朝から怒るなよ。 朝食はやけに焦げ臭かった。 しかも、朝のテレビ番組でやってた星座占いで俺の星座は12位。 そして極めつけの母親の言葉 「あんたも高校生なんだから彼女の一人ぐらい作りなさい!」 なんじゃそりゃ!俺だってできるもんならほしいさ。 気にしていることを言うな! その日の朝は、「いってきます」とも言わずに学校に向かった。 さらに学校につくと谷口が昨日のナンパは成功した!とか言ってきやがった。 そのときに谷口のチャックが開いてなかったのが、むしょうに腹立たしい。 さらにはチンプンカンプンな数学の授業で俺が指名され、素直に「分かりません」と言うと、「ちゃんと授業聞いてたのか?」とぬかしてきやがる。 さらには後ろの女も「何であれぐらいの問題も分からないの?」とか言ってきた。 体育の授業では5キロマラソンの途中に靴はぬげるし、 英語の授業では日本語訳しろと言われて、言ってみたら全く違っていてクラスの連中に笑われて、 朝ご飯同様、弁当もいつもよりまずくて(これは気もちの問題かもしれないが) 弁当食べ終わった後にトイレに行くと、清掃中。 とにかく、散々な一日だったんだ。 こんだけあってイライラしない人間なんていないだろ? でも、それだけなら俺もあんなとちったことはしなかったかもしれない。 まあ、そりゃそうだ。この時点ではとちるきっかけがなかったからな。 で、ことの起こりは5時間目と6時間目の休憩時間に起こった。 その途中、俺は背中に鋭い痛みを感じたわけだ。 こりゃあ、いつものシャーペンをつついてくる感触だな。 「今度のみくるちゃんのコスプレなんだけどすっかり忘れてたわ。今度はスッチーよ!最近そういうドラマが多いしね。で、今回はあんたが衣装料だしてちょうだい」 「何で俺なんだよ?」 「あたしは今お金ないの。それにいっつもみくるちゃんのコスプレ衣装はあたしが買ってるのよ?ああいうのは団員から徴収するものよ。今まであたしが出してあげてたことに感謝してほしいぐらいだわ」 そして、俺はその言葉にブチ切れてしまったわけだ。 「そんなことはどうでもいい!だいたいオレは別に朝比奈さんにスッチーのコスプレをしてほしいとも思ってないし、だいたい朝比奈さんにも迷惑だろ! それよりもだ、だいたいSOS団が発足してから罰金罰金、俺が悪くなくても俺の奢り。今までお前のせいでなくなった金はいくらだろうね?5桁は軽くこすね。あやうけりゃ6桁をこしてるかもしれん。 だいたいお前は朝比奈さんをおもちゃにして楽しんでるかもしれねーが、俺はSOS団のメンバーに昼食奢ってもなんも楽しくないんだ。それに、不思議なんて見つかるわけねーのに不思議探索で大事な大事な休日をつぶされるわ。 今になって思うが、ゴールデンウィーク明けにお前に話しかけるんじゃなかったよ。はっきりいってお前のその態度にはうんざりだ!」 クラスの連中は俺達を終始、唖然と見ていたように思われる。 今考えたらよくハルヒは何も言わずにその言葉を聞いてたなと思うよ。 俺はそのときのことをこれまでにないほど後悔している。 そして、そう思うのに先ほどの文句を喋り終えてから1分もかからなかった。 せいぜい、10秒ほどだろう。 俺はそのときにはもうしまった!と思ったが、言ってしまえば後の祭りである。 その間、教室は沈黙していたはずだ。それとも回りの声が聞こえないほど俺自身、後悔していたのかもしれん。 で、その沈黙を破ったのはハルヒだった。 ハルヒはいきなり机からノートを取り出し、最後のほうのページを破り、そこに『退団宣告』と、大きく書いて、俺に渡した。 「じゃあもうSOS団に来るな!バカキョン!」 すまん古泉、きっと今頃、神人はあばれほうだいなはずだ。 で、俺は何とか謝ろうとしたんだが、授業始まりの鐘が鳴り、岡部の「みんな席につけー」という言葉で俺は謝るタイミングをなくしてしまった。 で、6時間目の授業はLHR。 その時に、月に1回の席替えをして今の座席となったわけだ。 その後、この気もちを朝比奈さんのメイド服姿で癒してもらおうと部室に行こうとしたのだが、後ろでハルヒに襟をつかまれ、 俺を下駄箱の前まで運んだ後、「もう来るなって言ったでしょ」とかこれ以上にないぐらいの恐ろしい笑みで言った。 いやぁ、あれは怖かった。 俺は今日、ハルヒが学校を休んでるというわけでもないのに、ハルヒに会わずに午前中の授業を終えた。 「おいキョン、そろそろ涼宮と仲直りしてやったらどうだ?」 「僕もそうしたほうがいいと思うよ。仲が悪いキョンと涼宮さんって何か違和感があるしね。」 いや、俺もな、そうしようとは思うんだが、むこうがそのチャンスを与えてくれなさそうなんだよ。 「まあ、涼宮は頑固だからな。たとえキョンが謝ったとしても許してくれるかは疑わしいな」 「でも、やっぱり謝っておいたほうがいいよ」 それよりお前ら二人、特に国木田。なぜ俺が悪いのを決め付けて話す。 後悔してる自分が言うのもなんだが、少しはハルヒも悪いだろうが。 「まあ、かく言う俺は、お前があの変人好きハルヒとずっと続くとは思ってなかったけどな」 「そんなこと言ったらキョンがかわいそうだよ。僕はキョンのこと応援してるよ。」 おいおい、まるで俺とハルヒが付き合ってたみたいな言い方しないでくれ。 で、俺はできるだけササッと弁当を食べ終え、 先ほど、古泉から『また中庭に』というメールを受け取ったのでその場所に向かった。 「僕が話したいことは分かっていますか?」 俺が古泉のもとについたとたん、古泉はまるで分かってますよね?というような笑みを浮かべて俺に問いかけた。 まあ、予想はつくさ。 「昨日はホント、部室の中にいるだけできまずかったですよ」 「あれ?昨日お前、部活に行ってたのか。おれはてっきり神人倒しで忙しいかと思ったんだが」 「閉鎖空間は発生したんですけどね。規模が小さかったので他の仲間だけでたりて、機関には涼宮さんの観測をつづけてくれと頼まれたので、そのまま部室にとどまっていました。涼宮さんの様子では規模が小さいようには思えなかったんですけどね。 もしかしたら、涼宮さんは見た目よりも怒ってないのかもしれません・・ …それより、どうやら昨日、席替えをしてあなたのすぐ後ろの席が涼宮さんにならなかったそうじゃないですか」 「ああ」 「これは結構、重要な問題ですよ」 んな大げさな 「まあ、涼宮さんの力が衰えていて、そのような結果になったと考えると話は早いですし、そうだと、こちらとしても嬉しいのですが、確かに衰えてるとは思うのですが、そこまで衰えてるようには思えませんしね。 それと、ここからは僕の予想ですが、涼宮さんは、あなた自身から近づいてきてほしいと思っているのではないでしょうか?」 「俺はハルヒの近くになりたいと念じて近くの席になるような力は持ち合わせていないぞ」 「いいえ、そうじゃなくて、普通に近づいたらいいんです。席が離れてるのにわざわざ休み時間に話しかけてくれる、とかね。とにかく、涼宮さんに謝ってみてください」 「あいつが謝らせてくれる時間を作らせてくれると思えなないのだがな~」 「そんなことはないと思いますよ。まあ、時と場合によるでしょうけどね」 「それに、何度も何度もしつこくて余計嫌われないか?」 「それはあなたの謝り方にもよるでしょう。それにしても、やはりあなたも涼宮さんに嫌われたくないんですね」 「そういうわけじゃねーよ」 「まあ、こちらもできるだけあなたに謝りやすい環境を作って差し上げることにしましょう。できたら今日中に仲直りしてくれたらこちらとしてもありがたいのですが」 まあ、そうは言うものの、その後にハルヒに謝ろうと近くによっても、俺に気づくとすぐにどこかに行ってしまう始末である。 しかたない、明後日の日曜日になんとか謝るか。 古泉が言っていた謝りやすい環境とはこうだ。 明後日は俺ぬきでいつもの不思議探索パトロールをやるらしく、うまくやってハルヒを公園まで連れて行き、そこで俺とばったり会って俺が謝るという設定。 もちろん、明後日は2:2で別れると予想され、ハルヒは誰とペアを組むか分からない。そのため、長門と朝比奈さんにもこのことを伝えておくとのことだ。 で、公園への誘導方法は「最近、公園で幽霊を見たという人がいるらしくて」とハルヒに言うつもりらしい。 とりあえず、朝比奈さんがハルヒとペアにならないことを祈ろう。 嘘がつけなさそうな人だからな。 で、その日曜日になったわけだ。 俺はなぜか、普段の不思議探索の日よりも早い時間から公園にいる。 とりあえず、ハルヒが来るまで誰とペアになったんだろう?ということを考えておこう。 古泉とペアになったらどうだ? 「じゃあ、あたし達は駅の北を探すから、有希とみくるちゃんは南お願いね!」 で、古泉が、 「そうそう涼宮さん。こないだ知人に聞いたのですが、そこの公園で幽霊らしきものを目撃した人がいるらしいです。」 で、ハルヒは目を輝かせて、 「それホント!そりゃあ行くしかないわね!」 ということで順調にいきそうだが、その場合長門たちがどうなるか気になるな。 まあ、こっそりついてくるっていうのが一番ありえそうか。 じゃあ、長門とペアになったらどうだ? 「じゃあ、あたし達は駅の北を探すから、古泉君とみくるちゃんは南お願いね!」 で、長門が、 「こっち」 と言ってそれ以外何も言わずに連れてきそうだな。 ハルヒは長門には従いそうだから。 だが、その場合、古泉が朝比奈さんとペアだからな。それが腹立たしい。 じゃあ、朝比奈さんとペアになったら? 「じゃあ、あたし達は駅の北を探すから、古泉君と有希は南お願いね!」 で、朝比奈さんが、 「あ、あの・・・こ、公園に・・・えっとキョ・・・じゃなくて、ゆ・・・」 「あぁ、もう何が言いたいの?いいからさっさと行くわよ。そうね、今日は新しい衣装を買ってあげる」 「ひょえー」 ……やっぱり朝比奈さんじゃダメそうだな。 で、30分ほど待っただろうか? 結局、俺の元にきたのは4人全員だった。 ハルヒは俺に気づいたとたん、後ろの3人を睨みつけているようだった。 ハルヒの顔は見えんが、古泉と朝比奈さんは苦笑している。 長門は、いつもどおり無表情だけどな。今回ばかりは何も読み取れん。 まあいい、とりあえず古泉に言われたとおりに実行しよう。 「俺はパトロールに呼ばれてないぞ」 「あんたはもうSOS団じゃないでしょ」 とりあえず俺は、古泉の言われたとおり一息おいてから、 「こないだは悪かった」と、謝っておく。 「その日は、いろいろ不運続きでな、ついつい八つ当たりしてしまった。とにかく、言葉が自分の意図とは関係なく出ちまって。中には自分でも信じられないことを言っていた。 もし、あの時谷口に『あんな変な部活さっさとやめろ』みたいなことを言われたら、お前に言ったことと全く逆のことで、谷口を怒鳴っていたと思う」 ハルヒは何も言ってこない。少しは何か言ってくると思ったんだがな、だがこのほうがいい。 「本当にあの時は不運続きだった。まあどんなことがあったかは話せば長くなるから言わないが、その時の俺で一番の不運はやっぱり、お前に退部宣告をさせられたことだ。そのときに起こったいろんな不運がどうでもよくなってしまうほどな。嫌なら毎日行ってなかったさ。 だからさ、お願いがある。もう一度、SOS団に入らせてくれないか?」 終始沈黙が起こった。 どんだけ続いただろうな。って言っても、1分もかかってなかったと思うが。 その沈黙を破ったのはまたもやハルヒだった。 「罰金」 普段より小さい声でハルヒはそう言った。 一応、はっきりと聞こえたが「なんだって?」と聞いてみる。 「罰金よ罰金!あたしにあんなこと言ってタダですむと思ったら大間違いよ!そうね、フランス料理のフルコースをSOS団全員分で済ませてあげるわ。いい?あたしは別に許したわけじゃないわよ!あんたがいなくてもSOS団はやっていけるしね。 ただ、こっちの3人がキョンがいなくちゃ嫌なようだから、あんたをSOS団に再入団させてあげる!でも、今度あんなことをあたしに言ってみなさい。その時は死刑だから!」 何でだろうな?怒ってるのにどこか嬉しそうだ。 後ろの3人も。 それにしても、今回は急激に俺の財布が軽くなりそうだ。いや、札がコインに変わるだろうから重くなるか。 だがまあいい、今回ばかりは諭吉様も笑ってらっしゃるようだしな。 次の日、俺は教室の後ろのドアから入って、「はよ!」とハルヒに声をかけてから自分の席に向かった。 ところで、何で今日はポニーテールなんだろうな? でも、席はやっぱり離れ離れ・・・か。 まあ、たった1ヶ月だ。その分授業に集中できそうだからいいじゃないか、俺。 で、今日は珍しく岡部は鐘が鳴る2、3分ほど前に教室にやってきた。 腕時計を見る。教室の時計を見る。腕時計を見る。もう一度教室の時計を見る。ああ、早く来ちまったーと後悔してる。 一番前の席もなかなか面白いじゃないか。 で、岡部が腕時計の針を動かしていると、その岡部に何か話しかけてる生徒がいた。 何話してるんだろうね~? ハンドボールのやり方を教えてほしい。とかか? まさか進路のことじゃないだろう。さすがにまだ早すぎる。 とか考えてると、岡部がこっちを見ていることが分かった。 おいおい、まさか俺に対する文句を言ってたんじゃないだろうな? ハルヒじゃなくて何で俺なんだ? と思っていると、岡部が今度は近づいてきた。 何言われるんだ俺? 「なあキョン」 先生もその名で呼ぶんですか・・・ 「こいつと席変わってやってくれないかな?」 ………え? どうやらその生徒は最近目が悪くなってきたらしく、後ろのほうの席じゃあ黒板の字が見えにくいということだ。 で、なぜ先週言わなかったかと言うと、先週は目を細めてなんとか見ていたというのだが、やはりそれじゃあ疲れるということで、岡部に相談したらしい。 ちなみに、その目が悪くなった生徒がどこの席だったかは、ご察しのとおりだと思うぞ。 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4872.html
刃はあばら骨を潜り抜けるように深々と刺さった。 「ああ、やっと終った。じゃあね」 行なった行為とは裏腹に朝倉はその見た目通りの幼い仕草で手を振ると、『情報連結解除』と呟き、崩れ始めた。 わずかに唇を曲げたその顔には達成感すら浮かばせている。 ふざけるな! 俺のそんな叫びはか弱く喉を震わせて、血の塊とともに吐き出された。 胸や腹の筋肉が勝手に痙攣を始めて、立っていることさえもままならなくなった俺は、その場にぺたりと座り込んだ。 消える前に一発ぶん殴ってやろう。 そんな思いだけで無理矢理に顔を上げた視線の先にはすでに朝倉涼子の姿はなかった。さらさらと朝倉の残滓だけが、ゆっくり風に流されていく。 宇宙人って奴はどうしてこうも自分勝手なのかね。 「キョン、今のなに!? キョン!」 一部始終を呆然と見ていたハルヒは思い出したように、俺の肩を掴んで振った。 やめろ。痛いだろうが。 やはり、口からは声の代わりに鮮血が溢れる。 「キョン! キョン!」 「涼宮さん、やめて下さい! 動かしてはいけません!」 古泉のにハルヒは素直に従ったが、それでも俺の肩を握る手は離さなかった。 「今から胸のナイフを抜きます。涼宮さんと朝比奈さんは出ていって下さい」 「嫌よ! あたしも手伝うわ」 ハルヒはその提案を拒否してから手に力を込めた。 「出ていって下さい!」 いつもイエスマンだった古泉が叫んだ。 それでもハルヒは出て行こうとはしなかったが、 「一刻の猶予もないんです! 出ていって下さい!」 古泉の怒号のような叫びにとうとう屈し、どこでもドアから外へと出ていった。 古泉がゆっくりとドアを閉じる。 しばらくして再びドアが開かれてから一番に駆け込んできたのはハルヒだった。 自分で自分を抓ったのか、涙のスジを浮かべた頬は腫れていてどこかむくれっ面のように見える。 「キョン! キョン!」 ハルヒの沈痛な叫びが、ぼんやりとした俺の頭の中に響く。 「できるだけの処置はしましたが……もう、長くは……」 と、古泉が目に涙を浮かべて呟くように言うと、 「ドラえもん! お願い、何とかしてキョンを助けて!」 ハルヒはドラえもんに詰め寄った。 「無理だよ……人の生死には関われない」 聞いたこともないような苦しげな声だった。 「嘘よ!」 「人の生死に関わるような道具はプロテクトがかかる。だから……ごめん」 「そんな……」 ドラえもんの言葉にハルヒはへたへたと座り込む。 「キョン君! キョン君!」 青ざめた表情の朝比奈さんが俺にすがりつくように叫んだ。 長門とドラえもんだけは、迫りくるその時への心構えをするように立ち尽くしている。 「……ハルヒ」 俺の口から自分の名前が出たのを聞いてハルヒは立ち上がった。 「何? キョン、苦しいの?」 俺は朦朧とする意識の中で、少しの逡巡をしてから、 「ハルヒ……こんな時だけど……いや、こんな時だから言いたい……」 と呟くと、ハルヒは俺の手を包むようにどこまでも優しく掴んだ。 「俺……お前のこと……」 弱々しい俺の言葉を聞き取ろうとハルヒの顔が間近に迫り、涙がいくスジも頬へと滴り落ちた。 「好きだった」 「……バカ」 ハルヒはこの一年間の中で一番複雑な表情を浮かべてそう呟いた。 ふとハルヒに握られた手から力が抜ける。 「キョン!? ねえ、キョン起きて! ねえ、ねえ!」 「キョン君!? キョン君!」 壮絶な二人の叫びが部室に木霊して、世界が浮き上るような感覚に囚われる。 「始まりました」 古泉がそう呟くと、ハルヒが俺の上に倒れ伏せた。 泣き疲れたようなハルヒのあどけない寝顔が俺に罪悪感を喚起させる。 しかし、今の俺たちにはやらねばならんことがある。 俺は立ち上がってハルヒを抱えると、どこでもドアへと歩みよった。 ――――― ドアを閉じた古泉の表情は先ほどとうってかわったように明るかった。 酸欠状態ではっきりしない頭で古泉の急変の理由を考えたがちっとも要領を得ない。 「ちょっと痛いですが、我慢して下さい」 そう言うなり古泉は無造作に地面に刺さった杭を抜くかの如く、俺の胸に刺さったナイフを抜いた。 悲鳴とともに吐血した俺に布のようなものが被せられると、嘘のように痛みが引いていった。 「もう大丈夫ですか?」 「たぶん」 誰もいない空間からドラえもんの声がして、風呂敷が宙を踊った。 「もう隠れなくて大丈夫ですよ」 それを受けて、瞬いた間に石ころ帽子を手に持ったドラえもんが姿を現した。 タイム風呂敷か、と呟いても血が込み上げてくることはなかった。どうやら、傷の方は回復したらしい。 「あなたが朝倉涼子に刺されたときはどうしようかと思いましたよ」 そう言って肩をすくめた古泉の面はいつものニヤけた面だった。 何を企んでるんだ。 そうでもなければ、こいつがイエスマンの仮面を脱ぎ捨ててまでハルヒを遠ざける理由はない。 「あまり長くては怪しまれますから、手短に話します」 ああ、そうしろ。ただし、つまらん理由だったらぶん殴るぞ。危うく死にかけたんだしな。 「肺に穴が開いただけですから、後数十分はもったと思いますが」 じゃあ、どれだけもつかお前の身体で試してやろうか。 「冗談はさておき、本題に入ります。さっきあなたが刺された時、この“鏡面世界”が揺らいだのが分かりましたか?」 刺されている最中にそんなことに気付く奴がいるのか。 「それはそうでしょうね。しかし、その揺らぎは大したものではありませんでした」 なぜだか分かりますか、とでも言いたげだが知るわけがねえだろ。 「この作戦の発案者とは思えない発言ですね。作戦の根幹を思い出して下さい。これは涼宮さんの夢という設定の元に行われている舞台なんですよ。ですから、それをいまだ疑っていない涼宮さんも貴方が死ぬとは思っていません」 ハルヒはまだこれが夢だと信じてたのか。 「ええ。しかし、それを崩す方法があります。それは」 と古泉はわざとのように一拍空けてから、 「あなたの死です」 ちょっと待て。俺の死ってどういうことだ。 「いえ、死んだフリで結構です」 だから、なぜ死んだフリをしなければならん。 「あなたの死により、涼宮さんはこの“鏡面世界”の夢から早く目覚めたいと願うでしょう。そうすれば必ずこの世界は揺らぎ、崩壊を始めるはずです」 俺はまったく話が掴めず、腹が立ってきた。 「崩壊させてどうなる」 「ドラえもん君の帰る道が開かれます」 つまり、俺がくたばったフリをすることでハルヒがこんな夢なら覚めちまえ、と思えばドラえもんが帰れるってことか。 「そういうことです」 古泉はにやりと笑ってから、 「ここで一つ演出家としての提案なんですが」 そう言って俺の耳元で囁いた。 ――――― 古泉の提案が成功したらしく、地震のような揺れが続く。 突然立ち上がった死人をほうけたように見つめる朝比奈さんはドラえもんに任せた。 俺は古泉によって眠らされたハルヒを抱えたまま、自宅を思い浮かべてからどこでもドアを開いた。 しかし、その向こう側には俺の部屋ではなく文芸部兼SOS団の部室の延長だった。 どうしてだ? 「この空間の座標は非常に不安定」 理由は知ったこっちゃないが、どこでもドアが使えなくなるのは予想外だ。 「タケコプターでいくしかありませんね」 どうやら迷っている暇はないようだ。断続的な地震の中でグラウンドが陥没していく。 頭にタケコプターを乗っけた俺はハルヒを抱えて飛び立った。 建物が次々と飲み込まれていく中で、俺の自宅は奇跡的に無事だった。 屋根が一部半壊しているのはハルヒの破壊活動のせいだろう。 窓を叩き割ってから侵入を果たした俺たちは、ひきっ放しにされていたお座敷釣り堀から元の世界へと戻った。 「長門さん、次元の歪みはありますか?」 長門はこくんとうなづいて、俺の机の引き出しを指示した。 あの不思議空間か。 俺は開け放った引き出しにドラえもんを押し込むと、 「後は分かるか?」 「大丈夫。動いてるよ」 タイムマシーンがゆっくりと進みだした。 「いつか、また会おう」 「断る。二度と会わん」 ドラえもんは妙な笑い声をあげて真っ暗な空間へと吸い込まれていった。 引き出しを一度閉めてからまた開くと、そこにはいつしか使われなくなった文房具たちがひしめくただの引き出しになっていた。 それを見て俺は机に背を預けるように座り込んだ。 流石に今日はいろいろありすぎた。 ドラえもんが現れるわ、ハルヒと朝比奈さんは巨大化するわ、過去の長門には蹴られるわ、朝倉には殺されかけるわ…………あっ。 俺は気付くとポケットにあったものを取り出していた。 それは白い布性の袋。そう、スペアポケットだ。 俺はそれを投げ捨ててから、ハルヒを見やった。 俺のベッドで完全に寝ているにも関わらず、その閉じられた目からは止めどなく涙が流れている。 SOS団の目的は、未来人や宇宙人、超能力者を探し出して一緒に遊ぶことだ。 ただし、どうやらそこには一つ付け足さなければいけない単語があるようだ。 “SOS団のみんなで”と。 「キョン君電話ー」 子機と夜行性にも関わらず朝から起こされ不機嫌そうなシャミセンを抱えた妹が扉を開いた。 窓の外でちゅんちゅんと鳥が命がけの縄張り争いを敢行している。時刻は六時半。 あれから朝比奈さんに理由を説明してから、眠るハルヒをスペアポケットに唯一入っていたどこでもドアで家まで送り届け、解散したのが五時を回っていた。 そこから血まみれの服を処分し、一息ついて朝風呂に入ったところだ。 危うく風呂場で眠りかけていたのだから感謝すべきか、こんな時間に電話してきたことを非難すべきか悩むところだが、昨日から一睡もしていない頭では判断つきかねるので俺は電話に出た。 『…………』 「長門か?」 『そう』 当ててしまった。成長というべきなんだろうか。 しかし、長門とは一番最後に別れた。どこでもドアを調べたいとか言って持って帰っていったはずだがなんかあったのだろうか。 『そう。できればすぐに私の家に来て』 長門からの電話も初めてだし、呼び出されたのも初めてだ。 あの長門が呼び出すってことは余程不味いことが起きたに違いない。 俺は分かった、とだけ言ってから電話を切った。 身体を拭いてから、服を身に着けて家から出ようとした刹那、今度は携帯が鳴った。 『もしもし。キョン君、あたしです』 「朝比奈さんですか」 この人には未来が助かったには助かったが嘘をついてしまった。その気まずさから次の言葉が中々出ない。 『昨日のことならちょっとびっくりしましたけど、気にしてませんよ』 「はぁ……それじゃなにかあったんですか?」 朝比奈さんは一呼吸置いてから、 「ええっと、指令が二枚きました」 助けて貰ったそうそう指令とは恐れいる図太さだ。 「……それで、一枚目を空けたらキョン君と人気のない場所で二枚目を開けよと、書いてあったんです。キョン君、今からお暇ですか?」 長門のところに呼び出されているんですが。 「えっ?長門さんがですか?……じゃあ、あたし長門さんの家の下で待ってますから終わったら来て下さい」 電話が切られてから、俺は自転車を漕ぎだした。 その道すがら指令をあれこれ考えたのだが、結論の出ないまま長門のマンションについた。 インターフォンを押すと、 『入って』 とだけ呟かれた。 言われるがままに長門の部屋に入る。 今度は、過去の長門も大量のネズミもいませんようにと願ったのは通じたようで、ぽつんとたたずむ玄関にたたずむ長門が出迎えてくれた。 「何があったんだ?」 「これ」 長門はそう言うと、俺の手に金属の玉を二つ繋げたようなものを渡した。 これは、どこでもドアのノブじゃないか。 「そう」 「どういうことだ?」 「分解中に内包されていた次元短縮装置が崩壊した」 壊れたってことか。 そう呟いた俺は登校が楽になるとか、偶然を装って朝比奈さんの禁則事項的光景を見るとかそんなことを嘆く言葉よりも早く、 「大丈夫なのか?」 と尋ねていた。 長門はこくんとうなづいてから、 「ごめんなさい」 と言ったような気がする。 それ以上何も話すことがなくなり、どこでもドアと引き換えに宇宙人の謝罪とそのノブを得た俺は長門宅を後にした。その足で近くにある公園によると、すでに到着していた朝比奈さんが手を振っているのが見えた。 隣りのベンチに腰掛けてから、朝比奈さんはおもむろに茶封筒を取り出して神妙な面持ちで封を切った。 ふぁさりとルーズリーフに幾何学的な模様が一行書いてあるのみの指令書を見た朝比奈さんの顔が真っ赤に染まった。翻訳コンニャクの効果がいまだ残っていた俺にもその内容を伺い知ることができた。 「キョ、キョン君!」 そう叫んだ朝比奈さんの声は裏返っていた。 「はあ。指令書にはなんて?」 分かってはいるが目の錯覚という可能性も捨て切れずに張本人に尋ねてみた。 「め、目をつむって下さい」 ぶっ倒れそうな朝比奈さんの言動から察するに俺の予想は的中したようだ。 俺は期待感から胸だけでなく鼻の穴まで広げないように細心の注意を払ってから目をつむった。 ゆっくりと朝比奈さんの顔が近寄ってきて、なんとも言いがたい香りが立ち込めた。例えるなら、日光を沢山吸い込んだふかふかのクッションのような……… ちゅっと小鳥が雛に餌をやるように、わずかに唇と唇が触れた。 「し、指令は終ったからあ、あたしはこれで……」 “あなたの横にいる男にキスせよ”という指令を完遂した朝比奈さんはカクカクとロボットのような歩き方をして去っていった。 刺されもしたがこれはこれで役得かもしれん。 俺は恐らく薄気味悪い笑顔を浮かべながらむにむにと自分の唇を撫でまわしていると、またもや俺の携帯電話が鳴りやがった。 名前だけ見て古泉だったら切ると心に決めて、表示された名前を見た。 涼宮ハルヒ。 出た場合と出ない場合を想定してから、俺は電話に出た。 『キョン! 大丈夫?』 「なにがだ?」 『あんた刺され……えっ? えっ?』 ガサゴソと衣擦れする音が響いてから、 『な、なんでもないわ』 起きてから俺の姿が見つからず電話してから、夢だったと気付いたってところか。 「なんだ夢でも見たのか?」 『違うわよ! えっと、そう。今日、十時からミーティングするわ! 遅れたら罰金だからね』 切電音が虚しく響く。 俺は藪をつついて水爆が出てきたような気分を味わってから時計を見やった。 時刻は八時に迫ろうかというところだ。 自宅に帰り着いた俺は何をすべきなんだろうか。 今から行くのはバカというものだし、寝ると確実に日中は起きる自身がない。 そう思いながらベッドに座り込むと、ポケットの中身に気付いた。 そう言えばドアがなんか緩い。これ、合うのかな。 工具箱を持ってきてネジを緩ませてから、それをノブのあった場所にあててみた。 ぴったりと合致した。 二三のネジで固定してから具合を確かめると緩みもなくハマる。 それをつけるのに俺が不器用なせいもあって出発するのに丁度よい時刻になっていた。 俺はどこでもドアと化した扉を開くと、頼んでもないのに不思議が舞い込んでくる世界へと飛び出した。 俺の部屋だけは普通の空間であってくれ、と願いながら。 おわり