約 2,288,019 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2289.html
それはある晴れた日のことだった。 部室に行ってみると、まるで特撮番組の怪獣のようにわめきまくるハルヒも、 いつもオドオドとしていて守ってあげたくなる小動物系の朝比奈さんも、 樹海の奥にひっそりと生えている花のような気配の長門もおらず、年中スマイルのバーゲンセールをしている「アイツ」しかいなかった。 「やぁどうも。僕が来た時には誰もいなかったのですが…いやぁ、手持ちぶさたでしょうがなかったのです。どうです?一勝負。」 と言ってトランプの入った、いかにも安っぽい四角い箱を持ち出してきた。 いいだろう。完膚無きまでに叩きのめしてやるから光栄に思え。 「ははっお手柔らかにお願いします。」 ふん。そういう事はトランプの神様にでも言うんだな。お前の大好きな神様とやらに。 こうして俺たちはポーカーを始めた。あんな不思議なことが起こるとも知らずに。 ハ「よぉ~し!これで写真集が出せるくらいの写真が集まったわ!」 み「ふぇ~…やっぱりあきらめてなかったんですねぇ…」 長「………」 ハ「有希もレフ板ありがとね!ホントは古泉くんに任せようと思ってたんだけどなかなか来ないし、それにいつまでも待ってるとキョンが来てうるさいし!」 今、SOS団三人娘は校内を歩いている。ちなみに格好はハルヒと長門は制服、みくるはメイド服である。(天の声) ハ「まったく…キョンときたらいっつも「朝比奈さんがかわいそう」だの何だの言って邪魔するんだから!」 そうぼやきながら後ろに長門とみくるを率いて歩いている。(天の(ry そして階段にさしかかろうとした時、 ハ「どう思う!?っと!うわっ!?」 勢いよく振り向いて聞いた瞬間、ハルヒは足を踏み外してしまった。(天(ry み「涼宮さんっ!?」 長「……っ!」 とっさに手を伸ばす二人。だが結局支え切れず、三人は階段をもみくちゃになりながら転げ落ちてしまった。 ?「いたたたた…」 ?「ふえぇ~痛いですぅ~」 ?「……不覚。」 どうやら三人ともたいしたケガもなく、無事だったらしい。でもあれれ~?(C.V.高山みなみ)何か違和感が。 ?「あれ!?あたしがいる!」 ?「ふぇ~!?わたしの胸が小さk…きゅぅ(気絶)」 ?「………」 そこには、まるで特撮番組の怪獣のようにわめきまくるみくると、 いつもオドオドとしていて守ってあげたくなる小動物系の長門と、 樹海の奥にひっそりと生えている花のような気配のハルヒがいた。 ハ→み「これは人格入れかえってヤツね!」 みくる?が大声で強気にしゃべっている。心なしか態度もデカい。 み→長「あの~…それってどういう…?」 長門?はいつもと違ってもじもじしている。そしていつもより饒舌である。 ハ→み「ほら!マンガとかでよくあるでしょ!頭ぶつけたり、強い衝撃で人格が入れ替わっちゃうってやつ。きっとそれよ!あーゆーのはマンガだけかと思ってたけど…実際に起こるのねぇ~」 み→長「へぇ~…そんなのが…(あの~長門さん?ですよね?)」 そう言って長門?はハルヒ?に話しかけた。 長→ハ「(……そう。だが外見は涼宮ハルヒ。)」 ハルヒ?は無表情で口数が少ない。ものすごいギャップである。 み→長「(あの…これはどういう…?」 長→ハ「(涼宮ハルヒが望んだ。彼女が階段を落ちるわずかな間に「こうなれば面白いのに」と望んだ結果。でも問題ない。一時的なもの。)」 み→長「(そうですか…とりあえず一安心ですね…)」 どうやらそんな感じの大変なことになってしまったようです。 ハルヒinみくる。みくるin長門。長門inハルヒ。わかりにくいことこの上ない。 そしてみくる?が声高に叫んだ。 ハ→み「おもしろいわ!みくるちゃん、有希!よね?今日はこのまま過ごしましょう!どうせ一時的なものだから楽しまなきゃ損だわ!こんな体験なかなか出来ないしね!キョン達を驚かせてやるのよ!わかったわね!?」 み→長「確かに…そうかもしれませんね!実は私もちょっとワクワクしてたり…」 長→ハ「……ユニーク。」 どうやらみんなあまりショックではないようだ。それにしてもこの三人娘ノリノリである。 ハ→み「そうと決まれば部室に行くわよ!…ところでみくるちゃん。あんたやっぱり胸デカいわねぇ。重くて肩が疲れそうよ。」 み→長「そうなんですよぉ…あ、でも今は私すごい楽なんでs…ひぃっ!」 長→ハ「……………………………………………………………………………………………」 無表情なハルヒ?の目が鋭く光っていた。 フラッシュだ。残念だったな。 古「ワンペアです。いやぁお強いですね。」 お前が弱いだけだろ。俺は普通だ。休み時間に谷口や国木田とやってる時の戦績は三人ともあんまり変わらないからな。 古「少なくとも僕はうらやましく思いますよ…おや、どうやら姫君たちのお帰りのようですよ。」 ふん。そんなキザな言い回しを考えるくらいなら俺に勝つ方法でも考えるんだな。 そう言いながら朝比奈さんで目の保養をと考えてドアの方を見た。すると朝比奈さん、長門、ハルヒの順で部室に入ってきたSOS団三人娘を見て、俺はふと違和感を覚えた。いやそれが何なのかはわからんけど。 み?「あっ!お茶を入れ…ますね~♪」 はぁ。どうも。やっぱり何かおかしい。こう…なんか快活というかなんというか。まさかハルヒが何かしたのではあるまいな? そう思ってハルヒの方を見た。 ハ?「……………?」 なんか怖い。無表情でここまでテンションの低いハルヒなんて初めて見た。七夕やバレンタインデーの時の比じゃない。 おい、どうしたハルヒ?元気ないじゃないか。 ハ?「別に。あんた…には関係ないこと…よ。」 なんだこれは。マジでおかしい。熱でもあるのか?そう思って偉大なる団長様のおでこに自分のを当てようとした瞬間、 ガシャーン! ん?なんだ今の音は。後ろを振り向くと朝比奈さんが湯飲みを割ってしまっていた。 大丈夫ですか!?お怪我などは!? み?「私は何ともないですよぉ~♪」 こちらもやはり変だ。どう見ても朝比奈さんには似つかわしくない怒りマークが顔に出ている。 これは一体どういうことか。その謎を唯一知っていそうなSOS団の有機製アンドロイドの方を見てみると、こっちもどうしたことか。本を広げてはいるがチラチラとこちらの様子をうかがっている。 いつものような頼りがいのある所は感じられず、変わりにビクビクとしていてなんともかわいらしいオーラが出ている。思わず顔がニヤける。なんかこう守ってあげたk ガッシャーン! またか!?本当に大丈夫なんですか?朝比奈さん。疲れてるなら、俺も名残惜しいがお帰りになられては? み?「ホントに大丈夫ですからぁ~♪」 声は笑っているが顔からはある種の迫力がにじんでいた。 なんか今日の朝比奈さんはこう…ハキハキしてらっしゃいますね。はは… ヤバイ。なんかヤバイ。なんだか情緒不安定になりそうだ。一縷の希望を賭け、超能力者の方を見てみると、なんとも形容しがたい微妙な表情をしていた。ダメだ。役に立ちそうもない。 どうしたことだコレは。俺が何かしたのか?いや授業中のハルヒはいつも通りだったし、放課後になってからはさっき会ったばかりだ。俺は何もしていない。たぶん。 そして。もういっぱいいっぱいだったのだろう。俺は何を血迷ったか、ハルヒの肩に手を置き、顔を近づけた。 そう、あの閉鎖空間の時のようにキスをすれば戻ると考えたのだ。他のSOS団メンバーもいるがそんな事を気にする暇もないほどテンパっていた。そしてキスまであと1cm… ?「こんのバカキョン!!なにしようとしてんのよ!!」 うわぁ!悪かったハルヒ!!…ってアレ?目の前のハルヒは目を閉じてじっとしている。ってことは今の声は?と考えるのもつかの間、急にスゴイ力で引っ張られた。 その先にはものすごく怖い顔をした朝比奈さんが。 あの~朝比奈さん?一体どうされたのでs み?「みくるちゃんじゃない!あたしよ!まだわかんないの!?」 え?でもだって…え? み?「みくるちゃんがあたしで、あたしが有希で、有希がみくるちゃんなの!!」 意味がわからん。でもこの口調、態度、唯我独尊な性格はまさしく… まさか…ハルヒなのか? み?「だからそう言ってるでしょ!!もう!!」 その後、三人から事情を説明され、俺と古泉はやっと納得した。こんな時でもスマイルを崩さないこいつは心底すごいと思う。 ちなみにハルヒ(朝比奈さんの外見をした)はなぜか怒ってとっとと帰ってしまった。 朝比奈さん(長門の外見をした)はひたすらもじもじして俺に謝っていた。なんだか俺が悪いことをしたように思えてくるから不思議だね。 あと、残念そうな顔をしていた長門(ハルヒの外見をした)がなんとも印象的だった。 それにしてもなんでハルヒはあんなに怒っていたんだろう。キスだって自分がされる訳じゃないのに。まぁ体はハルヒだが。 古「本気で言っているんですか?」 古泉が聞いてくる。ちなみに今は不本意ながら一緒に生徒玄関に向けて校内を歩いているところだ。まったくもって不本意だ。 本気かだと?ふん。わかったよ、明日ハルヒに謝ればいいんだろ? 古「わかっているじゃないですか。安心しましたよ。今度はちゃんと本人にキスを…」 などと階段を下りながらバカなことを言ってくる。 あーうるさい!まったくお前は…っと!ぅおあ!? 古「危ない!!」 俺はつい「足下がお留守だぜ!」になってしまい階段を転げ落ちてしまった。俺を支えようとした古泉と一緒に。 ?「っつう…大丈夫でしたか?」 ああ、なんとかお前のおかげでな。一応礼は言っておくぞ 。あれ?古泉?どこだ? ?「目の前にいますけど?驚きですね。」 いや目の前には鏡しか…だってその証拠の俺の顔がある。ほら、俺が右手を挙げると鏡に映った俺も… あれ?目の前の俺は右手を挙げるかわりに手鏡を差し出してきた。 その手鏡の中には………ニヤケハンサムな顔が映っていた。 お い ま さ か 終わり
https://w.atwiki.jp/sosclannad9676/pages/36.html
6月の放課後、ハルヒは「野球大会に出る」と言いだし、第九回市内アマチュア野球大会参加募集のお知らせと書かれた紙を持ってくる。 SOS団のメンバーは5人だったから後4人のメンバーを集める必要があった。 結局集まった4人も数合わせのメンバーで、谷口、国木田、鶴屋さん、キョンの妹だった。 草野球大会当日、上ヶ原パイレーツとの対戦でハルヒはメンバーの打順と守備をアミダクジで決める。(ただしハルヒは1番ピッチャー) 以下打順、および守備。 1番 ピッチャー ハルヒ 2番 ライト 朝比奈みくる 3番 センター 長門有希 4番 セカンド キョン 5番 レフト 妹 6番 キャッチャー古泉 7番 ファースト 国木田 8番 サード 鶴屋さん 9番 ショート 谷口 古泉いわく、ハルヒが望んだから4番にキョンがなったらしいが、全く4番としての力が震えず、たちまちに点差は開いていき、ハルヒの機嫌も不機嫌に。 10点差でコールド終了なのだが、7-0まで点差が開いたところで、閉鎖空間が発生する。 このままではまずいと悟った古泉は長門にある頼みごとをし、バットをホーミングモードにする。 たちまち点差は逆転し、9-11までになったとこでチェンジ。 その後、ピッチャーをハルヒからキョンに、キャッチャーを古泉から長門に変更し、長門の呪文により、究極の魔球で試合終了。 チームSOS団は見事勝利した。 その後、閉鎖空間に行かなければならない古泉が減るので、続行不可に。SOS団は辞退する。 尚、この時使っていたバットをキョンが上ヶ原パイレーツにいくらかで譲った。 おまけ ホーミングバットの行方
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3905.html
超能力者。 涼宮ハルヒによって、閉鎖空間と神人を倒すための力を与えられた存在。機関と呼ばれるハルヒの情報爆発以降に発足した組織に属し、 その意向、つまり世界の安定に協力している。 三つほど前の世界では、その目的は変わらず「世界の安定」だったが、情報統合思念体が排除行動に出たため、 手段を「ハルヒの安定」から「ハルヒとその影響下にある人間の排除」へと変化させ、ついにはそのために核爆弾を炸裂させた。 でリセット。 未来人。 涼宮ハルヒによって、時間遡行能力を与えられた存在。組織名やそれが一体いつの時代のものなのかは不明。 目的は自分たちの未来への道筋を作り続ける涼宮ハルヒの保全。そのためには別の未来を生み出しかねない存在は かたっぱしから抹消している。 それが原因で二つほど前の世界では、ハルヒの観察を命じられた朝比奈みくるという愛らしいエージェントがその役割を 押しつけられ、結果目も当てられない惨劇が次々と演じられていった。 んで、その過程でハルヒの能力自覚がばれて情報統合思念体の排除行動が始まったためリセット。 宇宙人。 唯一、ハルヒが関わらない形で存在している。その名称は情報統合思念体。基本的な目的を自律進化の可能性を秘める 涼宮ハルヒの観測にする一方、能力を自覚してしまった場合は地球ごと抹消することにしているようだ。 その監視には対有機生命体コンタクト用インターフェースと呼ばれる人造人間を送り込み、近い距離からのハルヒの観測を行っている。 前回の世界では、そのインターフェースの一人、長門有希と俺が文芸部活動に没頭した結果、彼女が一人の少女になろうと その任務を放棄し人間になる決断の末、情報統合思念体をハルヒの力を使って抹殺しようと試みたため、 長門は初期化されてしまった。同時に長門は俺との文芸活動の過程で、ハルヒの力の自覚を知っていながら隠していたため、 初期化の際にその情報が情報統合思念体にも渡り、排除行動が開始された。 それでリセット。 これが今まで俺とハルヒが歩いてきた軌跡だ。 はっきり言って全部バッドエンド。まあ、ハッピーエンドならリセットなんて起きず、平穏無事な世界が続き 今頃俺は自分の世界に帰ってSOS団の活動に没頭しているだろうが。 しかし、その過程で得られたものは無駄なものは無かった。情報統合思念体と超能力者と未来人の微妙な関係が 世界の安定に大きく貢献している事実が得られたんだからな。ただ、おまけとして、俺の世界が絶妙なバランスで 成り立っているのかという事実も突きつけられた。そこにあって当然だと思っていたから。まさか、同じにならずとも 安定させるだけでこれだけの苦労をさせられるとは、初めてこの世界のハルヒに引っ張り込まれたときに考えもしなかった。 さて。 材料は全てそろった。まだ唯一にして最大の懸案事項は残っているが、この際仕方がない。次にやることは一つ。 宇宙人・未来人・超能力者が存在している世界を作ることだ。 ◇◇◇◇ 俺はもう4回目になる北高入学式の早朝ハイキングコースを歩いていた。俺の世界の正式・正統な入学式を含めれば もう五回目か。一体俺は何度入学すれば気が済むのだと愚痴りたくなりつつも、それ自体は俺も同意しているんだから グダグダ抜かすなと心の中の天使だか悪魔だかの声が聞こえてくる。 そして、平穏無事に終わった入学式後、教室での自己紹介タイムまで到達した。 俺は背後の席にハルヒがむすーっとした表情で座っているのを確認しつつ、自分の席に座った。 と、ここでハルヒがごんと椅子の底を軽く蹴ってくる。全くなんだ。いきなり事前の打ち合わせを無視した行動を してほしくないんだが。 「……何か?」 俺がゆっくりと振り返ると、やっぱり不機嫌顔で腕を組んだハルヒがこっちを睨みつけてきている。 その視線を見ると大体は言いたいことはわかったが、はっきり言ってただの意味のない文句だけみたいだから 相手しないようにしよう。だからこそ、ハルヒも口を開こうとしないんだろうし。 この宇宙人・未来人・超能力者のいる世界を作ったときに、ハルヒとこういう取り決めで行動することにしていた。 まずハルヒは中学時代――自分の力を自覚した直後からこの世界には行ってもらい、俺は北高入学式からにする。 これに関しては校庭落書きの一件を意識した上での俺の要望だ。同じになるとは限らないが、ひょっとしたら 眠りこけた朝比奈さん(小)を連れた俺が現れるかも知れないからな。念には念をってことだ。 ただし、その間に起こること――例えば、学校の校庭に落書きするハルヒとか、実はその時重なるように 俺は三人存在(中学生の俺・七夕のときの俺・冬のあの日の俺)していたりとか、俺の世界で起きたことについては ハルヒにまったく教えていない。前回の世界で思い知らされたように俺の世界とまったく同じにするのは不可能だし、 予定を決めてハルヒに動いてもらうと返って不自然さが増すだけだからな。中学時代どうするかはハルヒに一任することにした。 ちなみにふと俺の方からその時に聞いてみた今更な疑問だったが、前回までのように中学時代をすっ飛ばしたら その間のハルヒはどういう立場になっているんだ?と聞いてみると、 『ダミーみたいなものを置いておくのよ。後はこっちから操作して、時間軸を早回しして問題が起きないか確認。 で予定時間になったらあたし自身と入れ替えるわけ』 外部から操れる人形がおけるなら、今までだってわざわざ作った世界に入らずにダミーとやらをこの時間平面の狭間から 操っているだけで良かったんじゃないかと突っ込んでみたところ、 『外から見ているだけだと臨機応変に対応できないし、なんていうか自分の目で見ているのとは大きく異なるわ。 それにあんまり不自然に操っていると情報統合思念体に勘づかれる可能性もあるから。だから、その手を使うのは 大した問題が起きないってわかってときだけよ。幸い中学時代は平穏だってわかっているからこの手が使えるんだけどね』 頭半分で理解しておくにとどめた。難しいレベルに突っ込むと頭がパンクするからな。 話を戻して。 俺が高校からだったのは、ハルヒ曰く脳天気なあんたを三年間も日常生活を歩ませたら何をしでかすかわからんとか 言うからである。まあ、三年も非現実的な世界から遠ざかっていたら、入学後の驚異の世界への突入に拒否反応を 示しかねないから正しい判断だろう。どうせ何の宇宙人とかの属性を持っていない俺なら、ダミーとやらで十分だからな。 で、俺の入学後も俺とハルヒは目立つように接触しない。これも取り決めの一つだ。なぜかというと前回の世界で 長門が俺に注目したのは入学当初から、変人ハルヒが俺とだけ気兼ねなく接触していたからと言っていたである。 確かに何の接点もなかった二人がぺらぺらとしゃべっていたらおかしいと言える。そんなわけで、GWが終わるくらいまで 二人とも大人しくしておこうと決めている。 ……多分、その大人しくしておくというのの不満が積もっているんだろう。さっきの蹴りはそれを意味しているんだと推測する。 ほどなくして、教室に担任の岡部が入ってきた。快活な口調で自己紹介などを生徒たちにさせ始める。 もちろん俺はこの時に朝倉がいることを見逃していない。前回の世界でずたぼろになりながらハルヒが消滅させたのに、 やっぱり復活しているんだな。前の世界の存在をリセットして情報統合思念体にもそんな世界はなかったと 誤認させているんだから仕方がないんだが。 やがて俺の順番になり、適当な挨拶をすませた。 そして、その後ろにいるハルヒへと順番が回る。 その時のハルヒの自己紹介はとても懐かしい気分にさせられるものだった。 「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人・未来人・超能力者がいたら あたしのところに来なさい。以上」 ――すでにいる異世界人(俺)は抜けていたが。 ◇◇◇◇ 入学式から数日後の放課後、俺とハルヒは人目を避けて非常階段の踊り場で落ち合っていた。一度だけは情報収集+意識あわせで 話し合うというのも事前取り決めの一つだった。 「で、自己紹介はあんな感じで良かったわけ?」 「ああ、あれでお前が変なものに興味津々ってのがアピールできただろうから」 しかめっ面のままのハルヒに、俺はそう答える。 さてこの状態で長くいるのはまずいからさっさと意識合わせするか。 「で、この三年間変わったことはあったか?」 「真っ先に思いつくのは、中一のときにあんたとみくるちゃんが来たわよ。あたしの校庭落書きに付き合ってくれたわ」 「……お前、アレやったのか」 俺は呆れ顔になる。教えてもいないのに、団長ハルヒと同じことをやるとはやっぱり基本的人格は同じってことか。 ハルヒは肩をすくめつつ、 「何よ、思い当たる節でもあるわけ? まあそれはいいけど、ちょっと暇だったからなんとなくね」 そうなるとこのまま行けば、七夕のときのTPDD~長門の部屋で三年間朝比奈さんと添い寝があるってことか。 ん、ならひょっとして…… 「一応そのときの状況を確認しておきたいんだが、俺と朝比奈さんは手伝っただけなのか?」 「みくるちゃんはすやすや眠っていたわよ。あんたなんかやったんじゃないでしょうね?」 何もしてねえよ。まあ、朝比奈さん(大)からはチュウぐらいならOKと言われていたが、自制したぞ。 いやそんなことはどうでもいい。 「ってことは、手伝ったのは俺だけか。その後に何か言っていなかったか? 世界を大いに盛り上げるジョン・スミスをよろしくとか」 俺の指摘にハルヒは記憶の糸を穿り返すようにあごに手を当てて思案顔になるが、 「そんなことは言っていなかったわよ。ただ手伝って、完成したらあたしはとっとと家に帰っちゃったし。 大体、ジョン・スミスって何よ。あんたにそんな風に名乗られた覚えはないわ」 ハルヒの返答に俺ははっと気がつかされる。そりゃこのハルヒと俺はとっくに顔見知りなわけで、さらに朝比奈さん(小)が 眠っている間だったことも考えると、わざわざ偽名をハルヒに名乗る必要はない。俺の世界では一種の切り札みたいな名前だが、 この世界ではハルヒが力を自覚している時点でまったく意味を成さないのだ。そういうわけで、その名はハルヒに対して 今後も使われることはないだろう。この時点でもう俺の世界とは大きく異なっているな。しかし、二度目の接触、 よろしく!に変わるものがまったくなかったのに、俺は疑問を覚える。どうなっているんだ? あの冬の日の事件は 今後も起きないことになっているのか、それともあったがその必要がないから何もしなかっただけなのか。 ううむ、この時点では判断のしようがない。 ただ冬の事件がなかったことについてはもう一つ確信を得るような状況があった。少し前に部活動について調査したところ 長門は文芸部には入っていなさそうだからな。そうなると、俺は三年前長門に文芸部室で待っていてくれと 言わなかったことになる。 「…………」 とりあえず、そのことについては保留だ。この世界で唯一の問題は長門の暴走を情報統合思念体がどう対応するのかだからな。 成功してハッピーエンドになるかどうかはそれ次第な以上、時期が来るのを待つしかない。長門が暴走せずに穏便に 一人の少女になってくれるのが一番ありがたいから、そうなるように努力すべきだろうが。 「他にはなんかなかったのか?」 「何にもなかったわよ。あまりになさ過ぎてずっとイライラしっぱなしだったわ。ただ待っているだけっていうのはつらいものよ。 おかげでかなり閉鎖空間で大暴れしちゃったから、古泉くんも結構苦労したでしょうね」 ハルヒのあっけらかんとした発言に、俺はお気の毒にと古泉へと手を合わせておいてやる。 まとめると、変わったことは校庭落書きだけか。そうなると、特別な対応は発生せず予定通りに動けばいい。 GW終了後にSOS団――名称は何でもいいから、宇宙人・未来人・超能力者が集う団体の設立ってことになる。 おっとそういえば未来人と超能力者はきちんといるんだろうな? 「昼休みにみくるちゃんは確認したし、三年間機関らしい連中があたしの周囲を見張っていたから問題ないわ。 同時に前回の世界みたいな小規模組織の乱立も起きていないからね。機関か未来人のどっちかが大半のものを つぶしてくれたみたい。おかげでこっちは大助かりだわ」 ハルヒの言葉に、俺はほっと安堵で胸をなでおろす。これで役者は全員そろったって訳だ。あとは俺たち次第になる。 「大体事態は把握できた。じゃあ、後はGWまで大人しくしていようぜ。そっから行動開始だ」 「ちょっと待って」 俺はとっとと解散しようとしたが、すんでのところでハルヒに足を止められる。見れば、少し迷いながらもようやく決意したと 言った表情のハルヒの視線がこちらに向けられていた。 「あんたの世界であった冬の一件について教えて。それだけはやっぱり事前に知っておきたいから」 その要求に俺は顔を困惑で顰める。この世界に入る前、俺の方から同様にハルヒへ教えておこうと思ったんだが、 それを拒否したのはハルヒだぞ。どういう心変わりだ? ハルヒは肩をすくめつつ、 「あの時はまだ有希の消滅が受け入れられていなかったから正直そんな話を聞きたくなかったのよ。でも、三年間じっと考える 余裕ができてやっぱり聞いておこうと思い直したわ。条件が同じなら、この世界でも同じことが起きるかもしれないしね」 俺はやれやれと思いつつも冬のあの日のことについて教えてやることにする。 朝起きてみたらまったく異なる世界に改変されていたこと。 そこではハルヒと古泉は別の学校にいて、長門はごくごく普通な文芸少女になっていたこと。 結局長門の緊急脱出プログラムで脱出できたこと。 そして、その世界を改変した犯人は長門だったということ。 全部話すといつまでたっても終わらないのでかいつまんで説明してやった。 ハルヒはその話を聞いて、少し憂鬱そうに顔をうつむかせ、 「そっか……有希がそんなことをしたんだ」 「……当時俺は長門に何でもかんでも頼りっぱなしだったからな。そんな状態に追い込んだ責任は俺にもあると思っている」 だが、現在における最大の問題はどうして情報統合思念体がそれを許したのかがわからない。前回の世界の長門と 何の差があるというのだろう。奴らにとってはインターフェースが暴走しハルヒの力を消して自らを抹殺したという点は まったく変わらないはずなのだ。ひょっとしたら、何だかんだで長門は緊急脱出プログラムを用意していたし、 時間という考え方が俺たちとは全く異なることから考えて、結局元通りになるとわかっていたから…… いや――さっきも言ったがやめておこう。今考えてもどうにもならん。俺にできるのは長門に負荷をかけることなく、 普通の少女になってもらう努力をするだけだ。 この話を最後に俺たちは解散した。ハルヒはあと一ヶ月か……とまたも憂鬱そうな表情を浮かべていた。 一方で俺はどうでもいいことを思っていた。 せっかくだから中学時代にハルヒに髪を伸ばしてもらって置けばよかったと。それならまた曜日で変わる髪形が 見れたかもしれなかったのに。 ◇◇◇◇ 入学式から一ヶ月特に変わったこともなく過ぎてGW明けとなった。 さて、休みがてらそこそこにしゃべれるぐらいの関係になったことをアピールしていた俺とハルヒは、 ここから本格的な行動開始となるわけだが、授業終了後ハルヒは一目散にさてどうしたものかと考える俺のネクタイを 引っ張って走り出す。動くならせめて前準備をしてからだな…… 「そんな悠長なことを言ってられないわ! この日のために三年も待ったのよ!」 そんなことを言いながら、まずは6組へ突入。帰ろうとしていた長門をとっ捕まえて自分についてこいと一方的に告げる。 ただ長門自身も拒絶することはなく、 「わかった」 そう了承し、今度は二年の教室へ全力疾走するハルヒの後ろをついてきた。やれやれ、なんと言う猛進振りだ。 そして、二年二組に入ると部活動へ行こうとしていた朝比奈さんの腕をつかみ、 「はーい、確保!」 「ふえ? ――うひゃあああああ!」 ハルヒはもう朝比奈さんの意思も聞かずに抱きかかえて走り出した。おい、今度はどこに行くつもりだ。 まだ古泉は転校してきていないぞ。長門と朝比奈さんをそばに置いたがために、古泉は転校を余儀なくされたわけだけどな。 「あ、ちょっとみくるをどうするつもりだいっ!?」 その様子を見ていた鶴屋さんは、あわててとめにかかるが、持ち前の機敏さでハルヒはするりとよけて、 「キョンっ! あたしたちは文芸部室に行くから、鶴屋さんに事情を説明しておいて! あとよろしく!」 そう言って朝比奈さんを拉致して立ち去って行っちまった。ちょこちょことその後ろを長門がついていっている。 やれやれ、本当に鉄砲玉みたいな野郎だ。三年間溜まりに溜まった我慢を今爆裂させているんだろう。 さてこのままだと鶴屋さんに通報されかねないからフォローしておかないとな。 「お騒がせしてすいません。とりあえず、朝比奈さんに危害は――ええとそこまでひどいことはしませんのでご安心ください。 ただちょっとお友達にと」 「ふーん、キミとさっきの女の子は誰なのさっ?」 珍しく疑惑の視線を見せる鶴屋さん。まあ朝比奈さんの保護者みたいな存在だから、心配なのだろう。 「一年のものです。さっき朝比奈さんを強奪して言ったのが涼宮ハルヒ。うちのクラスの名物暴走女ですよ。 朝比奈さんを見かけてどうやら一目ぼれしてしまったみたいで。もう一人は長門有希。となりのクラスの人であって5分も たっていませんが」 思わず自分の説明で苦笑いしてしまう俺。無茶苦茶な状況すぎるだろ。 案の定、鶴屋さんも訳がわからないという疑問符を浮かべていたが、やがてぽんと手をたたき、 「ああっ、あれが涼宮ハルヒって人なんだねっ! ちょっと忘れていたけど思い出したよっ! そっか、みくるが気に入ったかっ!」 のわはっはっはと大声で笑い出し、突然自己完結してしまった鶴屋さん。何でそんなにあっさり…… ってそりゃそうか。鶴屋さんは遠巻きながら機関の関係者であり、ハルヒのことについても何らかの情報がわかっているはず。 俺の世界ではそう言ったことを断言はしなかったが、匂わせる発言はあったからな。ハルヒが特別な存在というぐらいは 知っていてもおかしくはないだろう。 ここで鶴屋さんは俺の肩をパンパンとたたき、 「よっし、わかったよ。深い事情は聞かないからみくるをキミに任せるっ! でも、あの子は弱い子だからあまりいじめちゃ だめにょろよっ」 「ええ、それはもちろん。ハルヒの魔の手からできるだけ守りますんで」 鶴屋さんが物分りのいい人で本当に助かった。これでこの場は落ち着いたはずだな。 俺はがんばれと手を振る鶴屋さんに一礼すると、文芸部室へと向かった。 「……遅かったか」 文芸部室に入った後の俺の第一声。見れば、相当もみくちゃにされたのだろう。床にひざを抱えて しくしくとすすり泣いて座り込んでしまっている朝比奈さんの姿が。全くハルヒの奴は加減というものを知らんからな。 一方のハルヒはかばんから何かを取り出そうとごそごそとやっている。まさかバニーガールではあるまいな? さすがに初日にアレをやると、朝比奈さんがパニックを起こすから全力で止めさせてもらうぞ。 拉致されたもう一人の長門は、文芸部に置かれている本棚をじーっと見つめていた。どうやら何か感じるものがあるらしい。 せっかくだから、俺は前の世界で最初に読ませてやったあのSF小説を取り出すと、 「読んでみるか? 結構面白いと思うぞ」 「…………」 長門はめがね越しの視線でその表紙を見つめていたが、やがてそれを受け取るとぺらぺらとページをめくって 内容を読み始めた。よし、これで読書狂長門できあがりっと。 ここでハルヒはようやくかばんから取り出したものを俺たちに配り始める。内容は文芸部への入部届けだ。 ハルヒが勝手に書いたのか、後は自分の名前をサインすれば言いだけの状態になっていた。 「はーい注目。これからここにいる全員はいったん文芸部に入部してもらうわ」 「おいちょっと待て。文芸部に入ってどうするんだよ?」 俺の突っ込みにハルヒはちっちっちと指を振って、 「文芸部は仮の姿。一応部室を占拠しておくにはそれなりの理由が要るからね」 偽装入部かよ。なんてことを考えやがるんだ。長門が文芸部入りしていない以上、ここを使うにはこの手しかないのは事実だろうけど。 「ほらほらとっとと入部届けにサインしなさいよ。あとみくるちゃんはいつまで泣いてんのよ。そんなのじゃ、 渡る世間は鬼ばかりの世界は生きていけないわよ」 鬼はお前だろうが。まあいい、これ以上続けても仕方ないからとっととサインしてしまおう。 どういうわけだか――いや予想通りかもしれないが、長門はもうサインを終えて、SF小説の続きを読んでいるからな。 ここでようやく朝比奈さんはローン30年が残っている家が地震で倒壊したのを目撃したサラリーマンのように 肩を落としたまま立ち上がり、 「で、でも、あたし書道部で……」 「じゃあ、そこちゃっちゃとやめちゃって。我が部の活動の邪魔だから」 一応抵抗を試みたのだろうが、ハルヒは全く取り付く島もない。 朝比奈さんはどうしようとおろおろをしばらく続けていたが、やがて長門がサインした入部届けを見て、 「……そっかぁ。わかりました。こっちの部に入部します……」 その声は可哀想になるぐらい悲愴なものであった。しかし、やっぱり長門の存在が気になるようだな。 ふと、朝比奈さんはまたまた困ったという顔を浮かべて、 「でもでも、あたし文芸部って何をするところなのかよく知らなくて」 「さっきもいったでしょ。文芸部は仮の姿だって」 「?」 ハルヒの言っていることの意味がわからないらしい朝比奈さんは、頭の上にはてなマークを浮かべるような 愛らしい疑問を顔に浮かべた。 ここでハルヒは高らかに宣言する。 「我が部の本当の名前――それはSOS団よ!」 世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。 それを聞いたとたん、朝比奈さんを取り巻く空気が固まった。しかし長門は無視してSF小説に没頭している。 一方で俺は呆れ顔だ。 おいハルヒ。その名前でいいのかよ。事前の打ち合わせで、なにその安直なネーミングセンスはとか言っていただろ。 なんだかんだで実は気に入っているんじゃないのか? 朝比奈さんは何かを聞こうとして顔をいったん上げるものの、すぐにあきらめたような表情に変化してうつむいた。 だんだんハルヒっていう奴の性格がわかってきたんだろうな。長門はどうでもいいと完全に無視だが。 そんなわけで、俺の世界のときと同じように、ここにSOS団がついに誕生したのである。 いやはや、ここにたどり着くまで長かったから少々感慨深いものがあるな。 ただ……ハルヒが力を自覚し、長門・朝比奈さん、そしてもうすぐやってくるであろう古泉の正体を知っている限り、 その活動内容には若干異なるところが出てくるだろうけど。 ふと、俺は長門と朝比奈さんを交互に見渡す。 朝比奈さんは自分の任務に耐えられなくなり自殺を試みた。 長門は俺とハルヒとともに居たいがために、情報統合思念体を抹殺しようとして初期化されてしまった。 こうしていつもどおりの二人を見るとうれしいが、一度見てしまった惨劇と悲しみは早々心から消えるものではない。 俺の中では少々複雑な感情が入り混じっていた。やれやれ、トラウマになっているようだな。 ◇◇◇◇ SOS団結成から数日間、俺はその活動初期の悪事を抑えるべく奮闘していた。まずはコンピ研パソコン強奪。 あれをやると後腐れが残るからな。もっともハルヒはハルヒでも別のハルヒなんだからやらないんじゃないかと 淡い期待をしてみたが、言い出したときにはパソコンショップで強奪対象を精査するという事前準備までして 突撃準備OKの状態だったりしたもんだから、俺は即刻その計画を阻止した。やっぱり根本は同じ奴だよ、全く。 ただこれを阻止すると、のちにコンピ研とのゲーム対決がなくなって、長門がパソコンに興味を抱かなくなる可能性が 頭に引っかかったが、ただパソコンを使わせるのならそんな因縁めいた舞台なんて用意する必要はない。そのうちどうにかするさ。 ちなみにハルヒにはもうすぐ古泉がやってくるから、そっちに言えば用意してくれるさと言い聞かせておいた。 あと、バニーガールでのビラ配りだがこれはハルヒの方からやるとは言い出さなかった。まあ、すでに宇宙人・未来人を 確保し、もうすぐ超能力者までやってくるSOS団がこれ以上この世の不思議を募集する必要なんてない。俺の世界との違いを考えると こうなるのは必然と言えよう。ただし、ハルヒの朝比奈さんに対するコスプレ癖はそのままのようで、 事あるごとにバニーガールやメイドに変身させていた。パソコン強奪を取りやめにしてくれたのと引き換えに これは容認しておいたが。それにこれがないとなんつーかSOS団らしくないというか…… で、ようやく最後の一人古泉の到着だ。 「ヘイお待ち! 本日一年九組に転校してきた即戦力をつれてきたわよ!」 その日の放課後メイド姿の朝比奈さんとオセロに興じていた文芸部室に威勢のよい声とともに飛び込んできたのはハルヒだ。 その手に引きつられてきたのは、あの胡散臭いインチキスマイルを浮かべているあいつだ。 「古泉一樹です……どうもよろしく」 そう言って近づいた俺に握手を求めてきたため、俺もそれに答える。 ……その瞬間、超能力者オンリーの世界の出来事、特に機関の暴走のシーンが脳裏によぎり俺の顔が少しゆがんだのを 自分でもわかってしまった。やっぱりトラウマになりかけているな、やれやれ。 「どうかしましたか?」 「い、いやなんでもない。よろしく」 俺は平静を取り繕って、不思議そうな顔を浮かべている古泉に挨拶を返す。思えば、こいつは一番最初に 構築した世界だったため会うのは相当久しぶりだ。 ハルヒは手でSOS団の部員をそれぞれ指差して言って、 「それが有希。そっちのかわいいのがみくるちゃん。で、今握手したのがキョン。みんな団員よ。で、あなたが4番目の団員。 そして、あたしがその頂点にいる団長涼宮ハルヒ! よろしく!」 「ああなるほど」 古泉は部室内の団員を一通りまるで観察するかのように見回すと、そううなづいた。宇宙人と未来人の存在を確認できたということか。 しかし、異世界人(俺)までいるとはわかるまい。何か出し抜いてやった気分だっぜ。 「入るのはいいんですが、一体何をするクラブなんでしょうか? 申し訳ないんですが、いまいちピンとこないので」 この古泉の問いかけに、ハルヒはにやりと笑みを浮かべると、 「いいわ。教えてあげる」 そう言って大きく息を吸うと、部室どころか旧館全体に響くでかい声で宣言した。 「ここにいる全員友達になって遊んで遊びまくることよ!」 ハルヒの宣言に空気が死んだ。 まあ無理もない。突然、宇宙人・未来人・超能力者をピンポイントに集めたかと思えば、一緒に遊び倒しましょうってんだからな。 そんなハルヒに古泉はスマイルを絶やしていないし、朝比奈さんはおろおろするばかり、長門は話を聞いているのかいないのか ひたすら読書中である。 俺の世界のハルヒは、宇宙人みたいなものを探すことを目的としているが、それはすぐ近くにそんな奴らがいることを 知らないからそう言っているのであって、このハルヒはそれを知っている以上探す必要などない。 とはいっても、SOS団団長――ああ、今両方とも同じになったか。俺の世界のSOS団も不思議なことを探すとか言って おきながら実際にはそれとはあまり関係のないお遊びサークルと化しているからな。活動内容自体に大差はないといえる。 「SOS団の旗揚げよ! いえーい、これからみんなでがんばっていきまっしょー!」 ついに全員そろったことに喜びを爆発させているのか、ハルヒの声はどこまで明るく透き通っていた。 さてと、ここからが本番だな。この先、平穏無事にことが進んでくれることを祈るばかりだ。 ◇◇◇◇ それから数日間は俺の世界と同じようにカミングアウトラッシュとなった。 まず長門が本に仕込んだ栞のメッセージで俺を呼び出し、宇宙人であることを告白。 週末のハルヒ主催の出歩きツアーで朝比奈さんが未来人であることを告白。 その週明け、俺の方から古泉へ接触し超能力者であることを聞かされる。同時に機関とその役割についてもだ。 それと同時に始まったSOS団活動だったが、ハルヒはこれでもかというぐらいに団員たちを引っ張りまわした。 ある時は読書狂の長門に答えるかのように古本屋めぐりで変わったものがないか捜し歩いた。 次に朝比奈さんのコスプレ衣装を選ぶとか言ってデパートで衣装の選び大会。どこからそんなに金をがめてきたのか。 さらに古泉用にとボードゲーム大会を休日の部室で開き、ハルヒ先生による攻略法講座までやった。それでも古泉は弱いままだったが。 ――ただ、俺はこのハルヒに少しだけ違和感を感じ取っていた。それが何なのか言葉には出来なかったが。 ◇◇◇◇ そんな状態が続いたある日、下校時刻になった俺たちはいつもの長い坂を下っていた。ハルヒは朝比奈さんに何かを熱心に語り、 長門はやっぱり読書したまま歩いている。最後尾には俺と古泉が歩いていたが、 「さすが涼宮さんですね。この十日程度でこれだけのパワーを見せ付けてくるとは思いませんでしたよ」 「最近のハルヒのはしゃぎっぷりについてか?」 「そうです。まるで僕たちと一緒にいるのが楽しくてたまらないという感じですね。最初はまさか未来人や宇宙人を集結させて 一体何をするつもりなんだろうかと思っていましたが、このような遊びで満喫しているだけのようなので一安心です」 そうにこやかな笑みを浮かべる古泉。 ま、それがハルヒがSOS団を作った理由だからな。当然といえば当然のことだ。 ふとここで俺はこいつの役割について思い出し、 「そういや、最近お前の仕事のほうはどうなんだ? やっぱり頻発していたりするのか?」 「いえ、涼宮さんも十分に楽しんでいるようでして、全くストレスを感じていないようです。そのためか、閉鎖空間・神人も 全くご無沙汰な状態ですよ。僕も落ち着いて日常的学校生活を楽しめています」 古泉の話にほっと安堵する俺。最近のハルヒの行動は少々違和感を感じていたからな。実はストレスを溜め込みまくっていて、 あの灰色世界で暴れているんじゃないかと不安になっていたが、ただの取り越し苦労で済みそうだ。もっとも、このハルヒは 意識して意図的に閉鎖空間を作っているんだから、たとえストレスを溜め込んでいてもそれを発生していないだけかもしれんが、 あいつの性格を考えるとその可能性も低いと思われる。 古泉は続ける。 「中学時代の涼宮さんとは雲泥の差ですよ。あの時は毎日ストレスを抱えていて、ことあるごとに閉鎖空間で暴れていましたからね。 SOS団設立後では本人の表情もまるで違うのは、入学当初から一緒だったあなたも感じていることなのではないですか?」 「まっ、確かにあいつが元気になったのだけは鈍い俺でもわかるよ。今の学校生活を心底楽しんでいるんだろうな」 事実を知っている俺からしてみると、思わず突っ込みたくなる衝動に駆られてしまうが、ここは堪えて適当に流しておく。 演技を続けるって言うのもつらいもんだ。そういや、俺の世界では古泉がその不満について愚痴を言っていたが、よくわかるよ。 戻ったらご苦労さんの一言ぐらいかけておこう。ああ、ついでに生徒会長にもな。 ふと、ここで古泉は前を歩くハルヒを見つめながら、 「ですが、少々疑問があるのも事実です。SOS団結成前後では涼宮さんの心情は全く異なっている。なぜなんでしょうか。 まるで僕たちが集まるのを待っていて、中学生時代はそれをストレスに感じていたのでは、と疑いたくなるほどですよ」 俺は一瞬ぎくりと心臓の鼓動が跳ね上がった。まさにその通りだった。ひょっとして機関――古泉はその可能性を疑っているのか? しかし、古泉が続けた言葉が少々意味合いが異なっていた。 「つまりですね。涼宮さんは入学式の自己紹介で――これは機関からの情報で僕は実際に聞いたわけではありませんが、 宇宙人・未来人・超能力者を探していたじゃないですか。この場合、長門さん・朝比奈さん・僕が上手い具合に当てはまるわけです。 そして、僕たちがそろったのと同時に涼宮さんのストレスは一気に解消された。つまり、涼宮さんは目的を達成したと認識している 可能性があるということです」 そうきたか。だが、それでも矛盾があるだろ。 「そうなるとハルヒはお前らが普通の人間じゃないと認識していることになっちまうじゃねえか。だが、SOS団設立の時でも ハルヒにそんなそぶりなんてまったくなかったぞ。大体、せっかくそういった連中を集めたって言うのに、やっていることは 普通のお遊びサークル状態だ。何のために宇宙人みたいな連中を集めたのかさっぱりわからん。それにお前らがそれを ハルヒに察知されるようなことをしていたわけでもない」 「涼宮さんは無意識下でそれを望んだんですよ。だからこそ、僕たちが集められた。これはこないだも話しましたよね。 さらにその無意識下での認識でありながら、涼宮さんは現状に満足してしまった。そう考えられませんか? 事実、SOS団の活動であなたも言った通り、宇宙人・未来人・超能力者に関わることは何一つとして言っていませんから」 無意識下ねぇ……実際には無意識どころか待ちに待った連中がついにやってきたんだから、そんなことはないと言える。 しかし、それを言うわけにもいかないから、 「難しく考えすぎじゃないか? 俺には単にハルヒが遊ぶことに夢中になって、そんなことはどうでもよくなったと思っているんだが」 そう別の方向に誘導しておく。あまり深く突き詰められて、真実にぶつかっても困るだけだからな。 古泉は苦笑しつつ、 「確かにその可能性はあります。僕のは個人的な推測に過ぎませんので。しかし、今の涼宮さんは幸せだというのは 確実にいえることですね。以前の灰色の砂嵐だった精神状態からは完全に脱していますよ」 「それについては異論はねえよ……中学生時代のハルヒはよく知らんが、この一ヶ月でもその変化ははっきりとわかっているさ」 ここで俺たち二人の会話が途切れる。前を歩くハルヒはまだ朝比奈さんに対して得意げに語っていた。 日が傾き、空をカラスの集団が飛んでいく。 俺はふと思いつき、 「なあ古泉。一つ聞いておきたい」 「何でしょう?」 「今の立場に満足しているか?」 「十分に満足していますね。涼宮さんの精神状態は安定し、閉鎖空間の発生頻度もほとんど――」 「そうじゃなくて」 俺は古泉の言葉を手で静止してから、 「お前自身はどうなのか聞きたいんだ。ハルヒにここ最近引っ張りまわされているだろ? それはお前にとって、 面白いのかつまらないのかってことだ」 その質問に、古泉は顎に手を当ててしばらく思案を始めた。そして、やがてゆったりと口を開き始める。 「難しい質問ですね。僕としましては、楽しいとかそんな感情よりもどうしても涼宮さんが安定してくれてうれしいという 考えに至ってしまいます。これもずっと機関で彼女を見続けたことが原因でしょう。僕はSOS団の前に、機関の一員なんです」 「そうか……」 俺の世界の古泉とは真逆のことを言われて、俺は少々気分が重くなった。やっぱり今俺の目の前にいるのは、 ただの超能力者・古泉なんだな。SOS団を作ってからまだそんなに経っていないから無理もないんだが、 こう直接言われるとやはりショックを受けてしまう。 そんな俺を見ていた古泉はここで、ですがと話を続け始め、 「確かに今はそんな感情しか生まれてきません。でもたまに思うんですね。機関の一員とか超能力者とかそんな属性を 投げ捨ててみたら自分はどんな気分になるんだろうと。ひょっとしたら、純粋にとても楽しい学校生活を歩めるかもしれない……」 そうしみじみと言った。 そうか。古泉もそういう感情はあるんだな。それを確認できただけでもほっとするよ。 「この際だから言っておくが、俺は現状が楽しくてたまらない。ハルヒはわがままで横暴だが、あいつのやることには どこか興奮させられる部分があるからな。だから――この生活を失いたくない。絶対にだ」 「…………」 俺の言葉を古泉はただいつものスマイルのまま見ていた。おっと、ついでだから言っておくか。 「お前の話を聞く限りだと、どうもこのSOS団をぶち壊しかねない思想の連中がいるみたいだったな。 そいつらの好きにはさせないでくれ。俺は現状を守り抜きたい」 「肝に銘じておきましょう」 古泉の返答からは、それが機関の人間としてのものなのか、SOS団としてのものなのか判断は出来なかった。 ◇◇◇◇ SOS団設立からしばらく経った後、俺は朝倉に襲われた。シチュエーションは俺の世界のときと全く同じで 放課後に教室に呼び出し→ナイフで襲われるという形だった。 この件については事前に予測が出来ていたため、ハルヒと対処について相談していた。なにせ、この世界の現状の推移は 俺の世界とは似通っているとはいえ、根本的にSOS団の活動内容など異なる点も多い。長門の救援が間に合わなかったり あっさりと俺が殺されてしまう可能性も否定することなど出来ない。ただ、それを考えると朝倉が暴走しない可能性だって 十分にあるわけだが、前回の世界といい俺の世界といいそれは低いんじゃないかと思いたくなる上、 殺される恐れがあるなら用心するに越したことはないはずだ。 そんなわけで事前に長門たちの隙を見計らって昼休みにハルヒと相談していたんだが、 ……… …… … 「ふーん、なるほどね。もうすぐに朝倉があんたを殺しに来るっていう可能性があるわけか」 「そうだ。で、当時は長門に助けられたわけだが、ここでも同じになるとは限らない。そこで事前になんかいい手がないか 相談したいんだ」 いつもの非常階段踊り場の壁に寄りかかり思案顔になるハルヒ。 正直なところ、ハルヒに相談したところでどうにかできるのかという疑問もある。こないだのハルヒVS朝倉では、 戦うというより一方的に蹂躙されまくっただけで、最後にサヨナラ逆転満塁ホームランが飛び出して勝利しただけだ。 しかし、だからといって事前に長門に相談するわけにも行かず、古泉にそれとなく話したところであの朝倉と対等に 戦えるだけの力を持っているとは思えない。ああ、朝比奈さんは論外な。実力云々の前にそんな危険なことにあの人を関わらせたくない。 とはいえ、命の危機が迫っているかもしれないのにただ黙っているのは何かこうむずむずしてきて嫌だ。 ハルヒはしばらく黙ったまま考えていたが、 「でもさ、有希ってそういうこと事前に察知できるだけの情報操作能力を持っているような気がするんだけど。 あいつら、あたしたちの言う時間の流れとは異なる概念を持っているみたいだしね。そうなら朝倉に襲われても 必ず助けに来るんじゃないの? 文芸部活動でおかしくなるほどに負荷をかけているとも思えないから」 ハルヒの指摘に俺は腕を組んで考える――と同時に思い出した。そういえば、長門は冬のあの事件を起こすまでは 未来の自分と同期ができるとか言っていたっけ。ん? そう考えると、長門は三年前の七夕の時に未来の自分と同期を 取っていたわけだから、自分が暴走することも知っていたし、そうなると当然朝倉が暴走することも事前に知っていたことになる。 ならあのぎりぎりの救出タイミングはわざと狙っていたのか、長門さん? わざわざかっこよさを演出する必要なんて 長門には全くないからきっと別の理由があるんだと考えておこう。 俺はそれを認識してそれなりの安心感を覚えると、 「ああ、そういや長門はそういうことも可能だって言っていたな。なら大丈夫か」 「そうよ。どのみちインターフェースの動向に関しては連中の内部で処理させたほうがいいわ。あたしが動くとばれる可能性が 飛躍的に高くなるしね。有希なら何とかできるでしょ」 … …… ……… とまあそんな結論至っていたため、安心は出来なかったが特に対応策はとらずに、そのまま朝倉に襲われることになった。 やれやれ、襲われるのをわかっていながらホイホイとそれを受け入れるってのも酷な話だぜ。 結局のところ、途中で長門が助けに来てくれたおかげで俺は無事生還。朝倉も無事消滅させることに成功した。 順調に言ってくれて何よりだ。長門が痛めつけられるのを見るのは辛かったけどな。 ついでに、やっぱり教室に入ってきた谷口を追い出しつつ、長門にメガネをはずして置くように促しておいた。 前回の世界だと結局最後までメガネ姿だったが、やっぱり俺はメガネ属性ないし。 朝倉襲撃に関しては全く同じ展開だったのに対して、その次に会った朝比奈さん(大)との遭遇はなかった。 これに関しては最初は動揺し、何かとんでもない間違いをどこかでしたんじゃないかと不安になった。 なぜなら朝比奈さん(大)がいない=朝比奈さん(小)が未来人オンリーの世界のときのように今後自殺という 悪夢の惨劇が待っているかもしれないからだ。 しかし、当時の状況をしばらく考えてから当然であるという結論に至る。あの時朝比奈さん(大)は白雪姫という キーワードを俺に伝えるためにやってきたようだった。もちろんその意味は、ハルヒによる世界改変の時の対処法についてだろう。 思い出すと耳から火を吹きそうになるから、あまり脳内再生したくないが。 ん? ちょっと待て。ということは朝比奈さん(大)はアレをしろと事前に俺に言っていたわけか? さらに言えば、 あの閉鎖空間で長門がsleeping beautity とか告げてきたが、それもアレをしろということなのか? 二人そろってなんてことを求めやがるんだ、全く。 まあ、そんなことはどうでもいい。それは俺の世界ですでに起こった話であって、この世界では同様の事態は発生しないと 断言できる。なぜかといわれれば、そんなことを力を自覚しているハルヒがするはずがないからだ。やるならリセットだろうしな。 そういう意味で朝比奈さん(大)は俺にヒントを告げる必要が発生しなくなり、その姿をあらわさないということになる。 あのナイスバディを超えたダイナマイトが見れないのは少々残念ではあるが、今後は嫌でも顔を合わせる必要が出てくるだろうから、 それまでの楽しみに取っておくかね。 ◇◇◇◇ そこから夏休み直前まで話を進めよう。何でかというと特に変わったことも無かったからだ。 まず、ハルヒによる世界改変は無し。何度も言っているがこれは当たり前の話だ。 SOS団活動で目立ったものといえば、野球大会に参加に参加したぐらいか。結局一回戦で辞退したのも変わらない。 まあ優勝したらしたで面倒事になるだけだし、ハルヒは辞退すると言ったらムスーとしていたが、まあそれなりに楽しんだようだった。 カマドウマ大発生はいつ起きるのやらとハラハラしていたが、考えたらここのSOS団はHPを持っていないんだから 起きるわけがなかった。 おっと、七夕の話があったな。あれについては、やったことは同じだったが、ハルヒの態度が違うのは当然としても、 そこでようやく出会えた朝比奈さん(大)がちょっと意味深なことを言っていた。 ……… …… … 俺と朝比奈さんが三年前の七夕に戻り、夜の公園のベンチでそのまま朝比奈さん(小)が眠らされた時に、彼女はやって来た。 女教師みたいな服で、年齢は20歳前後、ゴージャスがダイナマイトになったあの朝比奈さん(大)である。微妙に空いた胸元に どうしても視線が行ってしまうのは男の性だ、許してくれ神よ。 「キョンくん……久しぶり」 朝比奈さん(大)は(小)を放って俺の手をつかんできた。本当に久しぶりの再開のようで、その表情は懐かしさを発揮している。 このタイミングで久しぶりとか言われると何だか妙な気分だ。思わず俺は困惑して後頭部を掻いてしまう。 「どうかしたの?」 俺が面食らうかと予想していたのだろうか、不思議そうな視線を向けてくる。いかん、これでは不審に思われるな。 えーと当時はどうやって答えたんだっけ? そう必死に記憶の糸をたぐりつつ、 「あの……朝比奈さんのお姉さんですか?」 「あ、うふ、わたしはわたし。朝比奈みくる本人です。そこで今寝息を立てているわたしよりもずっと未来から来た わたしというところですね」 そうにっこりと笑みを浮かべて説明する。だが、すぐにまた感激の表情に切り替えるとぎゅっと俺の手を握り占め、 「……会いたかった」 その言葉に、俺もちょっと懐かしさを憶える。考えてみれば、こっちの世界に旅立ってからかなり経つが朝比奈さん(大)に 遭遇したのは初めてだった。握られた手から暖かい体温が伝わって来るに連れて、その実感が増してくる。 俺は朝比奈さん(大)が前屈みでこっちを見ているため、どうしても上から胸元を除いているような状態になっているになり、 こそこそと視線を外しつつ、 「えっと、なるほど。わかりました。つまり朝比奈さん+何歳かってことですね」 とりあえずとっとと納得しておこう。こういう状態をあまり長引かせるとボロを出す確率が高くなるだけだからな。 しかし、そんな俺の態度を朝比奈さん(大)は納得していないと判断したのか、頬をふくらませると、 「信じてないでしょ? それに女性を歳で判断するのは失礼です」 「ああいえいえ、信じています。確実に。実際に今俺は三年前に戻るなんていうSF体験をしたばかりですからね。 ちょっと変なことが起きてももうあっさり飲み込める自信がありますよ」 俺はあわてて手を振りつつ答える。 朝比奈さん(大)はホントに?と疑いの視線を俺の目に合わせてくるが、同時にこっちの視線が時たま胸元へ向かっていることに 気が付いたらしい、顔を赤らめつつあわてて前屈みのポーズを解除して直立状態に戻った。 このまま話を止めていても仕方がないので、 「で、その朝比奈さんが何の用なんですか? わざわざ三年前に来て、さらに高校生の朝比奈さんを眠らせるなんて 状況がよくわからないんですけど」 「この子の役目は一旦終了です。再開はもうちょっとしてからね。そして、あなたを導くのはわたしの役目になります」 東中へ行けってことかと考えると、朝比奈さんは俺の思考を後追いするかのように、向かい先――東中へ行くように言った。 全く予言者か心の透視能力を持った気分だよ。 ここで朝比奈さん(大)は一歩離れると、 「時間です。これでわたしの役目も終わり。後はあなたに任せます」 この後に、冬のあの時の俺と落ち合うんだな――いや、ちょっと待てよ? それなら、この世界でも長門のエラーによる事件は 起きるっていうことになる。そして、それを越えられたからこそ、この朝比奈さん(大)(小)が存在しているわけだ。 俺は思わず笑い声を上げてしまいそうになったが、あわてて喉から逆の胃袋の方向へと流し込んだ。何でこんなことに 気が付かなかったんだ。 朝比奈さん(小)がいる時点で、この世界は情報統合思念体による排除行動は発生しない。 朝比奈さん(大)がいる時点で、あの思い出したくもない惨劇も起こらない。 つまり未来人絡みの問題は全て解決したということになる。平穏かどうかはわからないが、世界は存在し続ける。 この事実に、俺はまるで勝利気分になった。当然だろ? あれだけ右往左往・七転八倒を続けてようやくここまでたどり着いたんだから。 よし帰ったらハルヒに報告してやろう。俺の役目も終わったも同然だしな。 だが。 次に朝比奈さん(大)の口から出た言葉は、そんな俺の気分をあっさりと覆すものだった。 「別れる前にキョンくんに言っておきたいことがあります」 「……何ですか?」 少し真剣気味な朝比奈さん(大)の言葉に、俺の気分が若干削がれる。 しばらく考える素振りをしてから、彼女は続けて、 「これから先、キョンくんたちは二つの大きな分岐点にぶつかります。詳細については禁則事項になってしまうので言えません。 その他の既定事項についてはわたしたちがどうにか出来る問題だけど、その二つだけはあなたと――涼宮さんにしか解決できないのものなの」 「……二つ?」 その言葉に、俺は真っ先に冬のあの日の事件が思いつくが、もう一つは何だ? 俺の世界でも朝比奈さん(大)でも対処不能で 俺とハルヒだけができるというのは、ハルヒによる世界改変ぐらいしか思いつかないが、それはとっくに時間的に通過済み& ハルヒがそんなことをするわけがないという結論に至っている。 そうなると、この世界特有の問題がこの先に起きるって訳か。全く9回表に満塁ホームランで逆転したのに、9回裏のツーアウトから 土壇場でまた追いつかれた気分だぜ。 朝比奈さん(大)は真剣なまなざしのまま続ける。 「その二つを超えた先にある未来からわたしとそこで眠っているわたしはやって来ているんです。 でも過去は非常に不安定なものであって、脇道にそれないようにわたしたちのような人間が動いています。だけどその二つだけは こちらではどうしようもありません。自分の力を自覚していない涼宮さんは頼れないので、あとはキョンくんだけなんです」 朝比奈さん(大)にも結局ハルヒについてはばれていないのか。いやそれよりもだ。 「よくわからないんですが、俺が失敗したら朝比奈さんの未来へつながらなくなるっていうことですか? それだと、どうして 今ここに朝比奈さんたちが存在しているのか――ああええと、何か矛盾してる気がしてくるんですけど」 「それについては禁則事項というよりも、わたしたちが用いるSTC理論をあなたに教えるのは不可能だから言えません。 概念も立脚もこの時代に生まれた人に教えるのは無理なんです。あ、決してキョンくんの頭が悪いということではないんですよ? この時間平面状で、その話を理解できる人なんて誰一人としていないってことなの」 朝比奈さん(大)の説明を聞く度に、俺の好奇心が揺さぶられてくるがどうせ聞いたってわからないだろうから、 深く尋ねるのは止めておこう。考えるのに夢中になって俺の正体がばれるようなボロを出したらとんでもないことになるからな。 俺は話を打ち切ることを決めると、朝比奈さん(小)をオンブし、 「とりあえずその辺りは深く突っ込まない方が良さそうなんで、今の役割を果たすことにします。でも、その二つの問題っていう ヒントぐらいはもらえませんか? できれば事前準備ぐらいしておきたいんですけど」 「ごめんなさい。全て禁則事項なんです。それほどまでに難しくてデリケートなものだから。ただ一つだけ言えるのは、 それが起こればあなたはすぐにわかるはずです」 朝比奈さん(大)が申し訳なさそうに頭を下げた。やれやれ、ヒントゼロか。今の時点で当てたら一気に無条件で 甲子園優勝の旗が貰える難易度だな。だが、起こればすぐにわかる――つまり、気を抜いたらあっさりと 見逃すようなものではないということだ。それだけでもありがたい情報かな。 「じゃあ、キョンくんまたね。次逢えることを願っています」 またもや意味深な言葉と共に、朝比奈さん(大)は公園の暗がりへと消えていった。二つの問題が解決されたなら、 やっぱりこの後俺と落ち合うことになるんだろうか。その辺りの茂みを探してみたくなる衝動に駆られるが、 そんなことをしたらいろいろぶちこわしになるかも知れないんで止めておこう。 さてと。 俺は軽いんだろうけど、肉体労働に慣れていない俺には重く感じる朝比奈さん(小)を背負いつつ、東中へと向かった。 ここからはちょっとした余談になる。 俺は東中の門前でそこを乗り越えようとしている子供っぽい人影を発見し、 「おい」 そう声をかけてやった。そいつはすぐに反応して、何よとこっちを睨みつけてきたが、 「……なんだキョンじゃないの。何やってんのよ、みくるちゃんなんて背負って」 「朝比奈さん――というより未来人からの指示だよ。俺の世界でも同じだ。どうせこれから校庭に落書きするんだろ? そのお手伝いをしろってさ」 俺は溜息混じりで答える。 電灯で照らされたハルヒはまだ小柄で、朝比奈さんには劣るもののパーフェクトなボディは未成熟だった。 唯一、俺の世界の七夕と違うのはハルヒの髪が短いってことぐらいか。活動的な性格のこいつから考えれば、 短くするのが当たり前な気もするが、この違いは何なんだろうね? どうでもいい話だろうけど。 そんなことを考えている間に、中学生ハルヒは俺の背中で眠っている朝比奈さんのほっぺを突っつきながら、 「あんた、みくるちゃんが眠っている間に何かしなかったでしょうね?」 「してねーよ。てか今から三年後にも同じことを聞かれたぞ」 ハルヒはジト目で俺の否定に、疑惑の視線をぶつけてくる。しまった、朝比奈さん(大)にチュウぐらいならというのを 確認し損ねたな。やるかどうかはさておき聞けることは聞いておけば良かった。 ここでハルヒはまあいいわと言ってポケットから東中の門の鍵をプラプラさせて、 「じゃあせっかくだからあんたに手伝ってもらうわよ。一人だと結構大変だからね」 「ちょっとそこ曲がっているわよ! 本当に方向音痴ね」 「方向音痴は意味が違うんじゃないのか?」 俺はハルヒのキリキリ声を背後に、線引きをひたすら走らせていた。全く何を考えたら、家でゴロゴロするのより、 こんな犯罪まがいの行為をしたくなるのやら。俺なら絶対に前者を選ぶね。 ほどなくして、石灰を白巨大ミミズが暴走した後のような地上絵が完成する。ん、俺の知っているものとかなり異なるものだが、 何か意味でもあるのか? 「一応意味なら込めてあるわよ。人に言うことじゃないし、わからないように暗号化しているけど」 「おいおい、これ仮にも織姫と彦星へのメッセージだろ? 暗号化なんかしたらわからんだろ」 「良いのよ。そのくらい神様なんだからきっと解除するなんて朝飯前よ」 ハルヒは校庭に描かれた不気味な模様を満足そうに眺める。こんな時だけ都合の良い理論を引っ張り出すなよ。 しばらく俺もそれを眺めていたが、ふと時間の経過に気が付き、 「そろそろ朝比奈さんが目を覚ます頃合いだ。解散しておこうぜ」 「わかったわ。あたしも目的が果たせたからとっとと帰る」 俺は再び朝比奈さんを担ぎ、ハルヒはすたすたと人に散々作業させた割に礼の一つも言わずに校門へと向かっていった。 が、途中で急に振り返ったかと思うと、 「ねえ、三年後みんなちゃんとそろったの?」 距離が離れてしまったため、月明かりだけではある日の表情はわからなかったが、その口調はやや不安げなものに感じた。 俺はできるだけ明るい声で、 「ああ大丈夫だ。お前は喜びを爆発させて、毎日楽しんでいるよ。三年後を楽しみにしておけ」 それにハルヒはほっと肩を落とした。そして、すっと空を見上げぽつりと言う。 「三年か……長いなぁ」 … …… ……… そんなこんなで目を覚ました朝比奈さんと共に長門のマンションへと行き、そこで三年間の時間凍結で現代に戻ってきた。 その辺りは俺の世界と変わりなく進んでいった。 帰った後、ハルヒにはこれから二つばかしでかい問題が待ちかまえていることを告げておいた。当の本人は、 情報が少なすぎるからそれが起こるのを待つしかないと言い、静観する構えを見せていた。 そして、期末テスト明けの部室。 ハルヒが意気揚々と夏休みに何をするか離している間、俺はぼーっと考える。 朝比奈さん(大)が言っていた二つの大きな分岐点。一体何なんだろう。未来に多大な影響を与える上に、 未来人が全く手の出せないこと。一つは冬のあの日の可能性が高い。しかしもう一つは? 俺はこの時それがもう目前に迫っていることなんて考えもしなかった。 ◇◇◇◇ 夏休みが直前に迫り、学校も短縮営業になった部室では、相も変わらずSOS団の面々が生まれた川に戻ってくる サーモンのごとく集まっていた。現在は夏休みのSOS団予定作成ミーティング中である。 ハルヒはホワイトボードを団長席の前に置き、延々と『夏休みにやろうと思うこと一覧』を書いている。 しかし、その量がまた凄いこと。これじゃ、夏休みの全部がつぶれてもおかしくないぞ。お盆は避暑と里帰りを兼ねて 田舎に戻るんだからキツキツなスケジュールは勘弁してくれ。 ――だが、以前から少しずつ感じていたハルヒに対する違和感がここに来て、さらに拡大してきている。何だ? 俺は一体何に気が付いているんだ? 全く自分の心の内が読めないってのも嫌なもんだ。 一通り書き終えたハルヒは、ぱんぱんとホワイトボードを叩き、 「さて、夏休みと言ってもSOS団に休みなんて無いわ。どうせキョンみたいなぐーたらタイプはガンガンに効かせた クーラー部屋でさして興味のない甲子園の生中継を判官贔屓で負けている方を何となく応援するなんていう 無駄極まりない過ごし方をするに決まっているんだから。でも、そんなのは却下よ却下! 充実して二度と忘れないくらいの 夏休みにするんだからね!」 全く元気満々な奴だ。しかし、俺を使った例が適切すぎるぞ。確かに受験勉強とかしていなかった夏休みの過ごし方は ずっとそんな感じだったからな。人の生活を密かに除いたりしていないだろうな? 俺はすっと古泉に視線だけを向けて、 「お前たち――機関とやらは何かたくらんでいないのか? ハルヒの退屈を紛らわせるぐらいに、孤島への旅行パックぐらい 持ってきそうだと思っていたんだが」 俺の世界だと古泉の方からハルヒに進言していたわけだが、今のハルヒの様子から見てどうもそんな雰囲気じゃない。 やっぱりこの辺りで際は出ているか。 が。 「全く……たまにあなたと話していると、本当にあなたが涼宮さんに関わらない純正のESPをもっているのかと 疑いたくなりますね」 げ。 心の中で舌打ちした俺だったが、古泉はそれに気が付くわけもなく、 「あなたの言うとおり、涼宮さんの好みそうな孤島への旅行がついさっきまとまったところだったんですよ。 ただし、涼宮さんは涼宮さんなりに予定を考えてきているみたいでしたから、それとかち合わなければ言うつもりでした」 そう言いつつじーっと俺の方に好奇心を込めた気色悪い視線を向けてくる古泉。 いかんいかん。危うくこんなどうでも良い場所でヘマをやらかすところだった 俺は首筋にたまった汗を乾かそうと、襟首をぱたぱたとさせながら、 「いんや、孤島で事件なんてハルヒが望みそうなところだったからな。ただの推測だ。それに本当にそんなパワーを持っているなら 今頃宝くじや競馬で大もうけして学校なんぞとっくに辞めている」 「それもそうですね」 俺の言葉に、古泉は疑惑からインチキスマイルへと表情を変化させた。さらにハルヒがこっちを指差し、 「こらそこ! なに会議中におしゃべりしているのよ! そんな不真面目な態度を取っていると旅行中は永遠荷物持ちの刑にするわよ!」 「これは失礼しました」 古泉は大仰に頭を下げる。一方の俺はあごに手を乗せたまま、やっぱり何か引っかかるハルヒの態度に困惑していた。 ええい、もどかしい。 ハルヒは腕を回しながら、山登り・海水浴などの大イベントを手で叩きながら、 「こういうのはね、最初が肝心なのよ! つまり夏休みの初日! これがうまくいくかどうかで、全休日が上手く過ごせるか 決まると言っていいほどだわ。そんなわけで、当然強烈なものを一発目に持ってくるのが当然ってわけ。 そうね……海水浴なんてどう、古泉くん!」 「大変よろしいかと」 「何かやる気なさげねぇ……じゃあ、みくるちゃん! 山登りなんてどう? 今の時期は暑いけど、高いところは 眺めも良いし涼しくて良いわよ。みくるちゃんは汗でいろいろ大変でしょ?」 「ふえ? ええっと……確かに汗の処理は大変ですけど、その……ちょっときつそうで……あ、でもいいですよ。 涼宮さんがそこに行くならついて行きます」 「ああもう……そういうこと言っているんじゃないのよ。んじゃ、有希! 読書ばっかりして身体中に文字列がしみこんでいるんじゃない? 温泉に行ってそれを一旦排出するってのもいいわよ。どう?」 「わたしは構わない」 「かー! もー!」 ハルヒは心底いらだったように頭頂部の髪の毛を掻きむしる。何をそんなにかりかりしてんだ。それになんで俺には聞かないんだよ。 俺の突っ込みも無視して、ハルヒはまた次々と案を俺以外の団員たちに出していく。 しかし、元々ハルヒのそばにいるのが仕事みたいな連中だ。ハルヒがそこに行くと言えば、どこだって付いていく。 決して反論や代案を出したりはせずにな。こればっかりは俺の世界でもまだまだ改善されていない部分だ。 だが……ハルヒの行動に対する違和感が俺の中でさらに増大していった。このレベルになってくるとさすがの鈍い俺でも 気がつき始めた。理由は知らんが、ハルヒは焦っている。夏休みが終わるなら時間がないと焦る気持ちもわかるが、 まだ始まってもいない夏休みの予定表作りになんでだ? エスカレートし続ける痛々しさにさすがに見かねた俺は、 「おいハルヒ」 「それならハイキングって言うのはどう!? その辺りでいい場所があるのよ」 「おい」 「あ、宝探しならみんなワクワクしない? 鶴屋さんの家は昔からあるみたいだし、古びた蔵とかあされば宝の地図ぐらい――」 「おいハルヒ。ちょっと落ち着けよ」 俺は自分の席を立ち上がり、ハルヒの肩を叩いて暴走状態を止めにかかる。直にハルヒに触れて初めて気が付いたが、 全身にかなりの汗を掻いていた。顔にも無数の汗の粒が浮き、ハルヒ特有のオーバーリアクションで頭を揺さぶったせいか、 まるで風呂上がりで髪の毛を放置した状態みたいだ。一体どうしたってんだ。 ハルヒは俺を無視して、また何か言おうとして――すぐに口をつぐんだ。そして、しばらく沈黙を保った後、 少しだけうつむいて団員たちから視線を外すと、 「……ごめん、何かちょっとテンパってた」 そうぽつりと言うと、顔を洗ってくると言って部室から出て行ってしまった。本当にどうしたんだ一体。 古泉が少々心配そうに、 「どうしたのでしょうか? 最近もちょくちょく感じていましたが、涼宮さんの様子がおかしいですね。 特に夏休みが近づくほどにその度合いが強まっているように思えます」 「何だ、閉鎖空間も乱発状態だったりするのか?」 「いえそれはないんですが……何なんでしょう」 ハルヒの精神分析担当の古泉もお手上げか。ん、何かまたちょっと引っかかったぞ。ええい、どうして俺の頭は 断片ばっかりキャッチするんだ。粉砕した野球ボールの破片を取っても意味無いぞ。 「涼宮さん、確かにちょっとおかしいですね……あのあの、あたし何かまずいこととかしちゃったんでしょうか?」 オロオロし始める朝比奈さん。……何だか少しわかってきた気がする。 「…………」 長門は読書こそ止めていたが、無言のまま俺の方を見つめていた。なんとなーく理由が…… ………… ………… ああ、そうか。そういうことか。良く気が付いたぞ、俺。 俺は団員全員を順次見回していくと、 「ちょっと聞きたい。みんなハルヒが言っている夏休み初日にどこかに行くのに反対か? ハルヒは今いないから正直に答えてくれ」 「涼宮さんが行くという場所へはどこにでも」 「あたしも涼宮さんと一緒に」 「そう指示されるのなら」 古泉・朝比奈さん・長門の順に答えが返ってきた。全くハルヒがいらだつ気持ちもわかるぜ。 「そうじゃなくてだ。みんなの意思――つまり宇宙・未来・超能力とかそんなの関係なしにハルヒと一緒に 夏休みを過ごしたいのかと聞いているんだよ。組織とかそんなのはこの際無視して答えてくれないか?」 俺の呼びかけに、朝比奈さんと古泉がお互いを見つめ、長門はじっと俺を見たままだ。 やがて、朝比奈さんが手を挙げて、 「あたし、それでも構いません。ただ運動は苦手なので、山登りとか体力を使うのはちょっと……」 次に古泉。 「僕としましては、自分のプランを用意したこともありますので、それを推したいですね。おっと組織の都合とかではなく、 これには僕の仲間も加わる予定なのでそれなりに楽しめるはずです」 最後に長門。 「読書が出来るのなら」 そうだよ。それでいいんだ。 俺は手を置いて、 「だったらハルヒにそう言ってやれ。それだけであいつの違和感は消えるはずだ。ただあいつはみんなと一緒に遊びたいだけなんだ。 ハルヒをそんな特別扱いした目で見ないで、普通のSOS団の団長として見て欲しい」 ハルヒはただみんなを楽しませることに必死なんだ。でも、肝心の団員がハルヒの顔色をうかがっているばかりで、 本当に楽しんでくれているのかわからない。ひょっとしたら無理やり付き合わせているだけなんじゃないか。 恐らくハルヒはそんな疑念があるのだろう。やれやれ、一方的にこっちを引っ張り回すウチの団長様とは大違いなデリケートぶりだ。 まあ、ここの団長ハルヒは何度も喪失感を味わって、二度と失いたくないという気持ちが強いせいで、そんな状態になっているんだろうが。 事実、俺も一度失って以降SOS団に対する執着みたいなものは大きく変化したしな。 俺の主張に、古泉が感心したような笑みを浮かべて、 「なるほど。確かにその通りです。わかりました。涼宮さんが戻り次第、僕の方から孤島への旅行を提案してみます。 SOS団は一人で作られるものではありませんでしたね」 「あ、あたしもそれで良いです。そっちの方がいいです」 「異論はない」 朝比奈さんと長門も同意した。 ほどなくして、顔を濡らしたハルヒが戻ってくる。俺はそそくさと自分の席に戻る。 代わりに古泉が立ち上がり、 「涼宮さん、言うのが遅れて申し訳ありません。実は僕の友人からちょっとした誘いがありまして――」 古泉の孤島招待に、ハルヒが全力で頷いて100Wどころか核爆発の熱球のような笑顔でOKしたのは言うまででもない。 ああ、あとついでに古泉をSOS団副団長に任命したことについてもな。 その日の放課後、どういう訳だか長門・朝比奈さん・古泉は用事があるからと言って別々に帰宅して、 俺とハルヒだけで下校することになった。 「孤島よ孤島! 古泉くんから持ってきてくれるなんて思ってなかったわ! ようやくSOS団も一丸となりつつあるわね! あー、もう待ちきれないわ! 早く出発日にならないかしら!」 古泉からの提案がそんなに嬉しかったのか、帰りになってもまだハルヒのテンションは爆発モードのままだ。 このハルヒにはあの必死さが全くなく、違和感なんてみじんも感じない。ようやく元に戻ったようだな。 「古泉からの意見がそんなに嬉しかったのか?」 「もっちろんよ! だってみんな今までただあたしの言うことに付いてきていただけなのよ? 初めて自分から意思を 示してくれたんだから嬉しいに決まっているじゃない! なんていうか、初めて意思疎通が成り立ったって言うか……」 ――ここでハルヒは少し声のトーンを落として―― 「SOS団を作ってからずっと不安だった。みんなそれぞれの目的だけで一緒にいてくれるんじゃないかとか、 実は嫌々ついてきているんじゃないかって。でも、今日初めて意思を示してくれて、そうじゃないってわかった。 夏休みでばらばらになって、二学期になったら疎遠になっていたっていうのが一番怖かったのよ」 ハルヒには少々悪いが、古泉の孤島はひょっとしたらその組織絡みの可能性があるから何とも言えないんだけどな。 これについては言わないでおこう。それにハルヒに意見を言ったという点が重要っていうのもあるし。 夕焼けに染まったハルヒは少しうつむき、 「あたしはもう絶対にみんなを離したくない。絶対にこの世界を成功させてみせる。組織のためにとかそんなんじゃなくて 純粋にみんなで遊んで楽しめるようになりたい。そうすれば――きっと何もかもがうまくいく気がするから……」 そうだな。きっとみんなで楽しく過ごせる世界が作れるさ、きっと。今までそのために沢山のものを犠牲にしてきたんだ。 にしても、本当に団員を思いやっているんだな。今の内に爪のアカをほじらせてくれないか? 元の世界に戻ったら、 ウチの団長様の茶に混ぜておくから。 だが、ここでハルヒはうつむいたまま立ち止まると、 「ただ――」 そう何かを言いかけた――が、すぐに頭を振って、 「ううん、なんでもない」 そう言ってまた歩き出した。 ……まだ何か不安があるんだろうか? ~涼宮ハルヒの軌跡 SOS団(後編)へ~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1085.html
第四章 これが、ハルヒの夢。 俺の目の前には、360°不毛の大地が広がっている。 上には、全てを焼き尽くすような太陽。あいつの夢にしては、何と殺風景なのだろうか。 そういえば、長門は、「夢の中は、涼宮ハルヒの思念を反映し易い状況である。」とか言ってたな。 つまり、ここではハルヒの願い事は、ほぼ全て叶うという事だ。 この灼熱の空間もあいつが生み出したのか?閉鎖空間よりタチが悪い。 神人は出ないだろうが、長門とは違う、ハルヒの想像通りの宇宙人が出てもおかしくはないな。 ウダウダ考えても仕方ないので、俺は歩き出す。とりあえず、ハルヒを探さねば……… だが、何処へ行けば良いのか分からない。目的のハルヒの位置も分からなければ、入口も出口も無い。 周りは全て同じような光景。 あてもなく、しばらく歩く。 「暑い、暑すぎる。」 独り言が勝手に出てくる俺は末期なのだろう。ほら、蜃気楼で周りが歪んで見える。 おや、そろそろ、お迎えが来たようだ。上から天使が降ってくる。 テ●ドンもびっくりのもの凄いスピードで。 ………降ってくる? 「どいてどいてー!!」 そんな事言われても、避けれる訳が無い。 「ぎゃっ!!」 痛ってーなこの野郎。 「ひっ!?キョン?」 やっと会えた。 「よぉ、ハルヒ。」 「ち、近づくなー!!」 ハルヒはふらふらと逃げ出す。 「待てよ!!」 俺は力を振り絞って、ハルヒにタックルをする。 「う゛うぅぅぅ。」 ハルヒは地面に顔をぶつけたようで、かなり痛がってた。 「悪い。大丈夫か?」 「大丈夫な訳無いでしょ!!バカキョン!!」 逃げ出すお前が悪い。 「だって、それは…」 それは何だ? 「あたしがあんたを殺そうとしたから。」 バツが悪そうに、ハルヒはポツリと漏らす。 「ごめん。」 「全く持ってお前らしくない言葉だな。」 「本当にごめん。」 「ごめんは禁止だ。」 「何であたしがあんたに従わないといけないのよ。」 申し訳ないと思うなら黙ってて欲しい。 「分かったわよ!!ところで、ここ何処?あたしがどうしてこんな場所にいるの?」 「夢だよ。夢。」 まさか、長門が俺とハルヒの脳内をリンクした事を俺が説明出来る訳ない。 「ふーん。だったら現実世界は大変なのね。夢が覚めたら、殺人未遂で豚箱入りか………全て失っちゃった。」 「大丈夫だ。多分、俺もお前も無事だ。」 「でも、明日からあんたに会うの辛いわ。」 「俺は何にも思っちゃいないよ。」 「嘘よ。嘘でしょ!!」 激しい口調でハルヒは続けて言う。 「また、あたしに殺されかけたらどうするの? もう、嫌だよ………こんな辛いの。」 ハルヒの瞳は潤んでいた。泣いているのだろうか。 「な、泣いてない!!」 指摘した途端、上着の袖で顔を拭う。やっぱり、泣いているな? 「煩い!!」 分かった。分かったから落ち着け。 「じゃあ、腕貸せ。」 ハルヒは俺の腕を勝手に使い、枕にしやがった。 「少し、休む。」 下が凸凹な地面なだけに、少し痛い。 「少し、落ち着いてきたかな。」 それは、よう御座いました。 「少し冷静になって考えたの。」 「何を?」 「何にせよ、これ以上キョンに迷惑を掛けたくないの。」 今まで、数々の悪行を重ねた奴が何を言う。 「だからさ………」 「あぁ。」 「あたし、死ぬわ。」 「は!?」 その時の俺は相当マヌケ面だったらしい。 ハルヒは急に吹き出した。 あくまで、表面上。目は笑っていない。なんか腹が立った。 おい、ハルヒ。 「ん?何、キョ…」 ハルヒが言葉を詰まらせたのは、俺がこいつの胸倉を掴んだからだ。 「何言っているのか分かっているのか?」 「……当たり前よ。」 「それで誰が喜ぶ?」 「………」 「お前が死んじまったら、何にもなんねぇだろ!!」 「で、でも……」 「俺達には、お前が必要なんだ。」 そうだろう?朝比奈さんや長門、阪中や谷口と国木田のアホコンビとか、鶴屋さんに森さんや新川さん。 その中に古泉も入れてやっても良い。 みんながお前を必要としてるんだ。 そして……… 「今現在、俺はお前が心から愛おしい。」 俺はハルヒを抱いた。力強く、精一杯抱いた。 ハルヒの顔は、見えない。いや、見れなかった。恥ずかし過ぎる。こんなこと。 「やっと、あたしの気持ちに気付いてくれたのね。」 「……カマかけやがったな?」 「バレたか。でも、こうしてあんたを急かさないと、いつまで経っても中途半端なままよ。どうせ夢だし。」 恥ずかしい。 「嬉しい。本当に。」 ハルヒの手が俺の首にかかる。 「ねぇ気付いてた?あたし、あんたに沢山アプローチかけてたの。」 「知らないな。」 「………バカ。」 ハルヒは少し膨れた。その顔も可愛いぞ。 「変な褒め言葉ね。」 変で悪いな。 「あたしね…」 何だ? 「キョンが好き、でも、あんたはいつも振り向いてくれなかった。」 そんなつもりは無かったのだが。 「恋心が憎悪に変わっちゃったのよ。だから、あんなことした。多分。 苦しかったわ。毎日が地獄だった。やっぱり、恋の病は重い精神病ね。」 これがハルヒなりの解釈なのだろう。 こいつは、呪いのナイフの事なんか覚えていないのだ。 それはあくまで、表面上だけだが。 「夢なら覚めないで欲しいな。」 「大丈夫、俺が覚えてるさ。」 「本当?」 「本当だ。お前が願うなら、何でも出来る。」 「信じるからね。」 …………!? 「ハルヒ。」 「ん、何?」 「疲れたろ。」 「まあね、精神的にボロボロって感じよ。」 「お前はよく頑張ったよ。 幾日も悪魔の囁きに耐え、自分の感情をよく抑えられたもんだ。」 「でも、結局負けちゃった。」 「十分さ。だがこれで、お前の重荷も晴れた。だから、今は少し休め。」 「あんたは?」 「俺か?俺はまだ役目があるみたいだ。」 「……大変なのね。」 これが大変で済むのなら、まだ楽な方だ。 「少しだけ、行ってくる。」 「待って!!」 何だ?急にハルヒが呼び止める。 「もし、あんたがこの夢を覚えてたら、あたしに言って欲しい言葉があるの。」 プロポーズの言葉か? あまり、恥ずかしいのは言いたくないぞ。 「似たような物よ。」 そう言いながら、ハルヒは俺に、 ある『愛言葉』を耳打ちをして、送り出した。 「行ってらっしゃい!!」 「ああ、またな。」 「あんたが無事で帰って来るって、ずっと信じるから。」 しばらく歩く。 さて、この位離れれば良いか。 なあ、朝倉さん。 「よく気付いたわね。わたしがいる事に。」 「よく考えれば、出来過ぎた話だよ。」 ハルヒの創造力が、ここまで忠実に具現化する事は、今までに無かった。 ましてや、人々を殺人に巻き込んだなんておかしすぎる。 考えられるのは一つ。 俺の存在を危険視した者がハルヒを洗脳し、殺害を企てた。 それが、お前ら情報統合思念体の急進派だった。 朝倉は表情ひとつ変えずに微笑んでいる。 「そこまで、思索出来のは上出来ね。 だけど、あなたはまだ、この話の真実を知らないみたい。」 真実? 「そう、真実。」 知りたい。ちょっと怖いけど。 「それが、あなたにとって、破滅的な答えだとしても?」 そんなに俺に都合の悪い答えなのか? 「………あら?あと40分位でこの夢が消えちゃうわよ。」 何だと!?長門は? 「ここ」 「僕もいますよ。」 「長門!!どういう事だ?」 「僕はスルーですか。」 「朝倉涼子から、あなたを助ける為、古泉一樹と来た。 だから、涼宮ハルヒを抑える役が居なくなっただけ。」 「キョン君。どういう事か解ったわね。」 「知らん。」 「とりあえず、あなただけは逃げて下さい。」 「掴まって。」 古泉、お前は? 「一人で戦います。」 大丈夫なのか? 「勿論、長門さんがあなたを送ってここに帰って来るまでです。 安心して下さい。それ位は持ちこたえますよ。 ここは涼宮さんの夢。閉鎖空間に似て非なる物です。」 「させない。」 一瞬で周りが宇宙空間の様に変わった。 「わたしの情報制御下に入ったわ。つまり、わたしを倒さないと、逃げれないよ。」 「…まずいですね。僕の力が出せません。」 「わたしがやる。あなたは彼を守って。」 「分かりました。」 俺は? 「黙ってて。」 冷徹な表情でそう言い捨て、長門は宙に浮いた。 朝倉も一緒に浮く。 「さぁ、始めましょう。」 朝倉が言い終わる前に、長門の手から、紫色の放射物が無数に出てきた。 朝倉も掌から青いビームのようなものが沢山出た。 2つは打ち消し合う。 同時に両者が接近し、肉弾戦を繰り広げる。 長門の手刀が朝倉の脇腹に入り、朝倉の裏拳が長門の顔面にヒットする。 怯んだ長門に、朝倉は容赦なく追い討ちをかけ、最後に腹部に決まった蹴りで、吹っ飛ぶ。 「長門!!」 「…………大丈夫。」 長門は何か唱え、朝倉の横の空間が歪む。 歪みの中から、コンクリートの塊みたいな物が、朝倉を殴打する。 「チッ」 また長門は何かを唱えた。 すると、空間が歪む。 気付くとそこは、見慣れた場所だった。 「ここは?」 駅前。 ただし、空は灰色だった。 「閉鎖空間に極力似せた空間を造った。これであなたの力も出せる。」 「感謝しますよ。長門さん。」 古泉は赤い玉を掌に浮かべた。 「いけますよ。いつもの倍の力が出せそうです。」 古泉は赤い玉に変わり、朝倉に近づいた。 「………危ない。」 古泉の周りが爆発した。 「ふぅ…間一髪でしたよ。」 古泉はバリアに包まれていた。多分、長門のおかげだろう。 「流石に2対1は辛いわね。少々本気を出そうかな。 緊急コード230………アクセス……涼宮ハルヒ………ダウンロード開始」 「今のうちに!!」 長門と古泉は突撃を仕掛ける。 大きな赤い玉と紫色の光線が朝倉を襲う。 朝倉は赤い玉を避け、紫色の光線を足蹴でかき消した。 赤い玉は急旋回し、再び朝倉を襲う。 「ダウンロード完了。」 瞬時に古泉が吹き飛ばされる。 「グッ!!」 何があった? 「………解りません。」 「わたしは涼宮さんのデータを盗ったのよ。」 じゃあ、お前は世界を改変することも出来たりするのか? 「そこまでは収集出来なかった。メモリ不足ってやつよ。だけど、あなた達に勝つ能力を身に付けたわ。」 何を言っている。お前は、ハルヒより強いだろ?あいつから学ぶ必要性はあるのか? 「勝負を決める要素は、スピード・感・経験の三つ。 だけど、わたしはこの三つが……特に、感と経験が不足してるの。 わたし達インターフェースは、元々戦闘目的で作られた訳ではなく、あくまで監視目的。 スピードはあるけども、戦闘の経験なんて、プログラミングされていないの。 だから、わたしは涼宮さんから感と経験、つまり瞬発的な情報判断能力を貰ったの。」 「明らかに朝倉涼子は強くなった。わたしだけでは彼女には勝てない。」 マジか!? 「長門さん。僕の能力を使って下さい。 神人狩りで涼宮さんの行動パターンは、大体掴めます。」 その手があったか。 「分かった。」 「へぇ、それは厄介ね。一応、抵抗しようかな?」 「40.17秒程かかる。それまで持ちこたえて。緊急コード801startrun………」 長門は、素早く呪文を唱える。 「分かりました。」 「10秒かからないで倒せるわね。」 「ハッタリは、よしていただきたいものですね。」 「ハッタリかどうか、直ぐに分かるわ。」 そう言った瞬間、朝倉は消えた。 「どこへッ!?」 「後ろよ。」 !!! 「次はあなたの番」 「はやく……に……げて……下……さい」 「計画の為、ここで死んでもらうわ。」 朝倉は地面に手をつける。 すると、コンクリートの地面は豆腐のように削り取られる。 朝倉が削り取った塊は、だんだんと形を変える。 「見覚えあるでしょ?」 アーミーナイフをちらつかせ、朝倉はニヤリと笑う。 忘れる訳がない。それで俺は幾度と殺されかけたからな。 「それは、良かったわ。でも、サヨナラね。」 朝倉は、ナイフを投げた。 「ひぃっ!!」 なんとマヌケな声だろうか。谷口に聞かれたら、バカにされる。 そういや谷口、今どうしてるかな? 実際、そんな事考える余裕なんぞなかった。 尻餅をつき、なんとかナイフをかわす。 しかし朝倉は、俺の頭上で、拳を振り落とそうとしている。 「死になs……!?」 朝倉が吹っ飛んだ。 「ハア……ハア…………まだだッ!!」 古泉!? 「まだ生きてたの?先に殺しましょうか。」 朝倉の手が、槍の様になる。 「やめろ!!!」 俺は、朝倉に殴りかかるが、 「邪魔よ。」 朝倉の蹴りで、俺は近くの木に叩きつけられる。 背中と胸が凄く痛い。なんて様だ。カッコ悪いな……俺。 「その腕、邪魔ね。」 朝倉の槍になった手が伸びる。 「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」 「あはっ♪」 俺の位置からはよく見えないが、多分朝倉は、古泉の肩に槍を突き刺した。 古泉の耳をつんざく悲痛な叫び声。 思わず、目を背ける。 呼吸が荒くなる。 脈拍も早い。 苦しい。 恐い。 「次は長門さんね。」 「遅くなった。ごめんなさい。」 「さぁ、早くわたしを倒さないと、彼が死ぬわよ?」 「知ってる。」 2人は、激突した。俺も目で追うのに精一杯だ。 「お久しぶりです。」 「え?」 えらく上品なお嬢様がそこにいた。 第五章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/517.html
無限の命を刻んだ永遠の時間 宇宙に無数に存在する惑星 その中の一つに過ぎないこの星に生まれた命 何億と生きる人間の中の一つの私 なんのためにこの星に生まれたのか なんのためにこうして生きているのか 誰もその答えを知らない ふと怖くなり顔を上げる 放課後の部室 誰もいない静寂 無数に存在する命 しかし私を知っているのはそのわずか 怖くなる 孤独? 恐怖? 心が痛い とても苦しい 私は、サミシイ まるで自分が世界に取り残されたような感覚 誰一人私を必要としていない ―――――ヤダ! なんで誰もいないの? キョン?有希?みくるちゃん?古泉くん? 部室のドアに手をかける しかしそれは開かない ドアは開かない なんで? ここから出して! ここから出たいの! 助けて! 私はここよ? 誰か! キョン! ―――――カタン ふと心がざわめく 私一人だったはずの部屋に気配が生まれた 誰? キョン? 私はその気配の方へ振り返―――― ―――――られない 体が動かない ヤダ 何これ何コレなにコレナニコレ 背後から近づく気配 汗が溢れる ドアノブを握ったまま手は動かない 振り返ろうにも首は動かない 少しずつ気配は大きくなる 背後の影は徐々に近づく 声は――――出せない 目を――――つむれない! そして その影はすぐ後ろに立つ 身体の背後から手が伸びた 伸びた手は私の手に触れる ――――怖がらないで あなた誰? 心で呟く ――――私はあなた あなたは私? 再び呟く ――――あなたの中のもう一人のあなた ――――本当は弱くもろいあなたの心 ――――気づいていたんでしょ? 囁く声 私は答えない ――――本当は、誰かに甘えたい 私の願い? 誰かに甘えたい 一人はもうイヤ でも、そんなのそんなの無理 私はわがまま 私は自分勝手 私はきっと嫌われている ――――あなたが拒絶しているだけ ―私が? ―――そう ―私は、そんなこと ―――ない、と言い切れる? ―私、私 ―――本当はわかっていた ―本当はずっと前から ――あいつに 「―――ハルヒ」 急に目が覚める 夢? 目を見開く 目の前にあいつがいた 心配そうに私を見ていた 「ハルヒ、大丈夫か?」 え? ふと目が冷たくなる 私は泣いていた 「ハルヒ?」 何よ? 「大丈夫か?」 決まってんじゃない 「本当か?」 くどいわね 「そうか」 部室を見渡す そこにはキョンしかいなかった そして、外はすでに暗かった 待っててくれたの? 「ああ」 なんで? 「俺の勝手だろ?」 私は言葉を切る 静寂が二人を包む 部室はまるで時が止まったようだった そして、私は再び口を開く ―――がとう 「え?」 困惑するあいつ 「なんだって?」 二度は言わない 私は無言で席を立つ 荷物を持ち 部室のドアノブに手をかける 「ハルヒ」 背後から声がかかる 私は固まる そして無言で続きを待った 「明日からもまた、がんばろうな」 震える肩をおさめる あいつに振り返る そして今度ははっきりと口にする ありがとう 涼宮ハルヒの短編‐完‐
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/572.html
涼宮ハルヒの情熱 プロローグ 涼宮ハルヒの情熱 第1章 涼宮ハルヒの情熱 第2章 涼宮ハルヒの情熱 第3章 涼宮ハルヒの情熱 第4章 涼宮ハルヒの情熱 エピローグ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1608.html
(この話は長編・涼宮ハルヒの恋慕、閑話休題の続編です) 優曇華の花というのをご存じだろうか。 芭蕉の花やクサカゲロウ類の卵のことではなく、インドの伝説上の花のことだ。正式な 名称は……確か、優曇波羅華──うどんはらげ──だったかな。 三千年に一度花開き、そのときには如来菩薩や金輪明王など、転輪聖王が現れると言わ れている花。霊瑞、希有の例え。分かりやすく言えば「滅多に起こらない吉兆」として使 われている。 優曇華の花は「希有」なこと。そして、「滅多に起こらない吉兆」だ。 何でオレがそのポイントを強調して、こんな話を長々としているのかと言えば、希有の 文字に注目してもらいたいからに他ならない。 希有はひっくり返せば有希となる。 ああ、そうだな。長門の名前になるわけだ。 三千年に一度、あるかないかという「いいこと」が逆になれば、それはつまり、三千年 に一度あるかないかという「悪いこと」。 ここまで話せばおわかり頂けると思うが……長門が滅多にやらないことをすれば、悪い ことが起こるんじゃないのか、とオレは思ってしまったわけだ。 事実その通りなのだから、オレのくだらない言葉遊びもバカにできない。 それに気づいたのは、女同士のケンカに巻き込まれて世界崩壊を食い止めたりすること もなく、部室には全員が集まり、オレは古泉が持参したカルカソンヌを延々とプレイし続 けていたある日のこと。 頭を使うことに疲れたオレが、朝比奈さんの淹れてくれたお茶に手を伸ばしたとき、ふ と視界の片隅に長門の姿が目に入った。 この寡黙属性付随の読書好き美少女型アンドロイド(オプションの眼鏡は破損済み)は、 新書程度の厚さなら1時間程度、ハードカバーで文字がびっしり書き込まれている本でも 3時間あれば読破することをオレは知っている。 にもかかわらず、ここ最近は同じ本ばかりを読んでいた。どこの国の言葉かわからない 原本を読んでいるっぽいが、長門が言語を理解するのに苦しむとも思えない。ロンゴロン ゴ文字だろうと解読できるはずだ。 もしかすると、その本の内容が気に入って何度も読み返しているのかとも思ったが、そ れもなさそうだ。 ページをめくる速度が遅い。 まるでメトロノームのように規則正しく一定速度でページをめくっているのだが、その 間隔がいつもより遅い気がする。 そして、最初は気のせいだと思っていたんだが、誰もいないのに誰かに見られている気 配を、オレはここ最近感じていた。本を読むスピードが落ちている長門のことを考えると… …どうもオレは自分でも気づかずに、長門が読書を放棄してまで睨まなければならない ことをしてしまったようだ。 まいったね。 これこそまさに優曇華の花が咲くというものじゃないか。いや、逆だから優曇華の花が 散るということになるのか? どっちにしろ、長門が読書を放棄してまで他人を注視する など、滅多にないことだろう。滅多にないといえば、ちょっと前に額にキスもされたっけ。 その睨む対象になっているオレと言えば、長門がそんなことをする理由に思い当たる節 が山のようにありすぎて、考えるのも億劫になる。ことある事に長門の手を借りて、そり ゃ長門にしてみれば「いい加減にしてくれ」と思うかもしれない。 けれど極端に口数の少なく、言語での情報伝達には慣れていないあいつは、文句の1つ でも言いたいのに言えず、睨むしかできないのかもしれない。 なんだか知らんが、とにかく帰りに長門に謝っておこう。そう思っていたんだが……。 「ねぇ、有希。今日はあたしと一緒に帰りましょ」 何故に邪魔をするんだハルヒ。空気読めよハルヒ。おまえがアクションを起こすタイミ ングは、オレにとってはいつもバッドタイミングだぞ? 「何よ、あんたも一緒に帰りたいの? でも、だ~め。女同士の大事な話があるんだから。 後ろから着いてきたりしたら、16連射でスイカみたいなその頭をたたき割るからね!」 おまえはどこのゲーム名人かと問いつめたくなるが、まぁいいさ。長門がオレを睨んで くる理由もわからんし、理由もわからず頭を下げるの誠意がこもってない気がする。 今晩、その最たる理由を思い出して、明日謝ればいいさ。 だからハルヒ、おまえは空気を読めと何度オレに思わせれば気が済むんだ? 「なによその顔。いつも谷口や国木田とばかりじゃ、むさ苦しいと思って言ってあげてる んだからね。それを無下に断るなんて、あんたも偉くなったもんねぇ?」 弁当を食う前に長門のところに行って謝ろうと思っていた矢先のことだ、昼休みを告げ る鐘の音とともに、背後から団長さま直々に昼食のお誘いがあったわけだ。 「おまえ、いつも学食じゃないのか?」 「たまには気分転換よ。どんな美味しいものでも、毎日食べてたら飽きちゃうじゃない」 そりゃそうだろうが、そんなこと言うと学食のおばちゃんが悲しむぞ? オレは知ってるんだ。北高にハルヒが入学して、唯一喜んでいる人が学食のおばちゃん だってことを。ハルヒが入学してから、食材が余らなくなってるらしいからな。 「そんなとってつけたような話はどうでもいいから、とっとと行くわよ!」 結局、断ることも出来ず、谷口と国木田の憐れむような視線に見送られて、オレは首根 っこを引っつかまれて中庭まで連行されてしまった。 ここで何故、中庭なのか甚だ疑問に思うところだ。部室に行けば、朝比奈さんがいなく てもお茶くらい飲めるだろうに。 「何言ってるの、こんなに天気がいいのよ? 教室の中でちまちま食べるより、よっぽど 健全よ。下北半島までピクニックに行きたい気分だわ」 そんなところまで行ったら、おまえは恐山に行きそうだからオレは謹んで辞退しよう。 それにしても、今日のハルヒは妙だ。テンションが高い低いとか言う以前に、ここまで オレに絡んでくるのは滅多なことじゃない。 そりゃSOS団の(胸を張れる肩書きじゃないが)雑用係たるオレ。団長さまからのお 達しが多いのも事実だが、ぶっちゃけると使いっ走りの類がほとんどだ。……改めて思う と、ひどい扱いだな……。 ともかく、ハルヒがオレとこうやって2人で行動することは、意外と思われるが稀なこ となのだ。いつもはSOS団のメンバーが誰かしら最低もう1人はついてくるし、命令を 出しもこいつは1人で勝手に突っ走る。 かくいうオレはオレで、ハルヒが巻き起こす厄介事から少しでも離れるために、あるい は古泉や長門に任せるくらいなら自分がやったほうがいいと思って、くだらない命令でも 受諾して1人で寒空の下、ストーブを取りに行ったりしているわけだ。 それが、オレとハルヒの丁度いい距離なんだと思っている。 遠からず、近からず。 こいつと一緒に行動するなら、絶妙な距離感を保ち続けることがコツかもな。 「ね、あんたのお弁当って誰が作ってるの?」 ぼんやりそんなことを考えていると、ハルヒは自分の弁当に手をつける前にそんなこと を聞いてきた。 「誰って、お袋しかいないだろ」 「前々から思ってたけど、けっこう美味しそうね。ちょっと頂戴」 「そりゃ別に構わんが」 オレはてっきりおかずの話だと思って弁当箱を差しだしたんだが、ハルヒは丸ごと奪い 取りやがった。オレに何も食うなと言うのか、おまえは。 「じゃあ、あたしのお弁当あげるわよ。それならいいでしょ」 オレの弁当の代わりに差しだされたハルヒ弁当は、豪快におかずが詰め込まれた幕の内 弁当みたいな代物だった。味は申し分ない。いや、かなり美味い。ハルヒの料理の腕前は 某クリスマスの鍋パーティで実証済みだが、ハルヒ母も料理が上手なんだな。 「何言ってんの? それ、あたしが自分で作ったの。あたしの手作りなんだから、感激に むせび泣いて食べなさいよ」 ああ、そうなのか。それなら、この豪快な味付けも納得だよ。だがおまえは、オレが嗚 咽を漏らして弁当を食う姿が見たいのか? そういえば、この中庭から文芸部の部室の窓が見えるな。いつも昼休みに部室にいる長 門だ、今もいるのかもしれん。いつも窓際に座って本を読んでいるから、もしいるなら一 目でわかると思うんだが……。 「ちょっとキョン、どこ見てんのよ」 ハルヒの怒声で、ふと我に返った。最近、ボーッとすることが多くなってる気がする。 マヌケ面と言われても仕方がないかもしれん。 「いや、別に」 「ふん、そんなにゆ……」 言いかけて口を閉ざし、息を吐く。 「部室が気になるの?」 なんでオレが部室を気にしなけりゃならんのだ。部室棟がフランク・ロイド・ライトの 作品だってなら話は別だが、十把一絡げの建築物に興味はないぞ。 「……あんたさ、気づいてる?」 「なにが?」 「有希があんたのこと……」 もしやハルヒ、長門がオレのこと睨んでるのに気づいてたのか? 長門や朝比奈さん、 古泉の正体には気づかないくせに、妙なところで鋭いヤツだからな……気づかれていても おかしくはないか。 「ハルヒも気づいてたのか」 「そりゃあたしは団長だからね。団員のことならなんでもお見通しよ」 それはまた、頼もしいな。そういえば、昨日の帰りに急に長門と一緒に帰るとか言い出 したのも、そのことが原因なのか? 「ま、鈍感なあんたでも、さすがに気づくのね」 「いつもと明らかに違うからな」 「それで、あんたどうするつもり?」 「どう……って」 ハルヒが珍しく気を遣ってくれているようだが、よく考えれば、これはオレと長門の問 題だ。ハルヒは関係ないだろ。 目の前にいるどっかの誰かと違って、自分に非があれば素直に頭を下げるオレだ。 けれど、だからといって関係ないヤツにまで、自分が頭を下げることを吹聴するほど、 プライドの低い男でもないぞ。 「別にいいだろ、後で長門と話をしてくるつもりではいるんだ。邪魔しないでくれ」 「よかないわよ!」 「なんで?」 即座にツッコミ返されるとは思っていなかったのか、ハルヒが珍しく口ごもる。 「そ、そりゃあたしは団長だもの。団員同士の……その……そういうことは、ほっとけないの!」 そういうのは単なる野次馬根性だと思うんだが、わざわざ教えてやるのもアレだな。理 由は不明だが、今のハルヒが醸し出す雰囲気的に殴られそうだ。 「わかったよ、おまえや朝比奈さん、古泉に迷惑かけるようなことはしない。だからとり あえず、長門と2人で話をしてくるよ。ちゃんと丸く収めてくるさ」 「丸く収めるってあんた……」 おいおい、なんでオレが丸く収めるって言ってるのに、怒ってるような悲しんでるよう な微妙な顔をするんだ。そんなにオレは信用ないのか? 「……もういいわよ! このっ……バカキョンっ!!」 何故にオレが罵倒されねばならんのか皆目見当もつかないが、叫ぶや否や、ハルヒは1 人勝手にどこかへ行ってしまった。 なんなんだろうね、あれは? 昼休みが終わった5限目、いつもは昼食後の惰眠を貪っているハルヒの姿はなかった。 何のつもりか知らないが、あいつが授業をサボるとは……また、ロクでもないことを企ん でいるんじゃないかと勘ぐってしまう。 厄介なことが起こる前に食い止めておくか……と考えた6限目前の休み時間、教室に思 わぬヤツがいつも通りの無言で現れた。 「ど、どうしたんだ長門?」 こいつが1人で、しかもオレの教室までやってくるとは珍しい。部室でも睨まれている ことも考えると、妙に腰が引けてしまう。 などと、そんなオレの気持ちを知ってか知らずか、長門はたった一言「きて」と言って、 同意を得ずに教室から引きずり出した。おまけに連行された場所は部室だ。単なる休み時 間なんて、10分しかないのに部室棟まで引っ張って行くとは、どういう了見だ? 「涼宮ハルヒのこと」 ああ、ハルヒ? あいつだったらどっかに行っちまったぞ。あいつに用があるなら、オ レを呼び出しても居場所なんて見当もつかないんだがな。 「それと、あたしのこと」 ……まて、その言い回しはどっかで聞いたことがあるぞ。 あれは……そうそう、長門のマンションで自分の正体を明かしたときの言い回しそのま まだ。その後、延々と自分の親玉について語ってくれたな。詳しい内容は、残念ながら覚 えてないが。 どちらにしろ、そのときのことと今のこの状況が妙に重なる。既視感を感じるほどに。 長門はオレをジッと見つめながら、ただ一言だけを呟いた。 「涼宮ハルヒは嫉妬している」 6限目開始を告げる鐘の音が、遠雷のように聞こえた。 オレがその言葉の意味を理解するのを待っているかのように、長門はオレの様子を探る ように見守っている。もっとも、いくら待ってもらったところでオレがちゃんと理解でき るはずもない。 ハルヒが嫉妬してるんだぞ? 誰に? 何で? そもそもあいつが嫉妬するような繊細な心を持っているとは、想像もできない。嫉妬す る暇があったら、何かしらの行動を起こすタイプじゃないのか? 「涼宮ハルヒは、あなたがわたしに1人の異性として恋慕の情を抱いていると思いこんで いる。彼女が嫉妬している対象は、わたし」 「ちょっと待て。待ってくれ。なんでそういう話になってるんだ? なんでハルヒはそん な風に思ったんだ?」 「決定的なのは今日の昼食時」 長門の話によれば、ハルヒが今日、わざわざ自分で弁当を作ってまでオレと昼飯を一緒 にしたのは、オレが長門のことをどう思っているのか聞き出すためだ、とのこと。 とは言うが、どう思い返してもハルヒがオレにそんなことを聞いてきた覚えが……あ れ? いやいや、ちょっと待てよ……。 もしかして、あの会話がそうだったのか? オレが長門に睨まれて、そのことをハルヒ も気づいてて……って、あれはもしや、ちゃんと会話が成立していたように思えて、実は ズレてたのか? 「そう」 ……どこかに自動小銃でも落ちてないか? 今すぐこの頭をぶち抜きたいんだが……。 「あなたは今すぐ涼宮ハルヒの誤解を解くべき」 長門はきっぱりそう言い切って、口をつぐんだ。 確かにそういう理由なら、さっさとハルヒの誤解を解いておいたほうがいい。何しろあ いつは、冬にオレと長門に何かあったと思うや否や、ちょこっと言葉を交わしただけで既 成事実にまで発展させるようなヤツだ。このままじゃ、オレと長門の間に子供までいる、 という話になりかねない。 しかし……ふと思う。 何かが引っかかるんだよな。冬の雪山でハルヒがオレと長門を疑ったときと、今の状況 では、何か据わりが悪い。スッキリしないというか、ハッキリしないというか……。 「……ああ、そうか」 切っ掛けだ。長門の話も、ハルヒの嫉妬も、あまりにも唐突すぎる。どうしてそうなっ たのかが語られていない。主語がない会話をしている気分だ。 「長門、昨日おまえ、ハルヒと2人で帰ったよな? そのとき、何を話したんだ?」 「…………別に」 なんだよ、その間は? 即時即答するおまえらしくないじゃないか。 「本当か?」 肯定も否定もせず、長門は黙ってオレを見つめていた。その表情からは、このオレをも ってしても感情を読み取れない。まるで初めて会ったときのような能面っぷりだ。 「まぁ、ハルヒとちょっと話をしてくる。あいつがどこにいるか、」 「忘れて」 オレの言葉を遮ってまで、何を「忘れて」だって? 「今の話」 「なんだよ急に。どうしたんだ?」 「……気にしなくていい」 その一言を残して、長門はオレに背を向けて部室から出て行った。 もしかして……あいつ、本当に何か怒ってるんじゃないのか? ハルヒの嫉妬の話といい、長門の豹変振りといい、はっきり言ってオレの許容範囲を遙 かにオーバーしている。何がどうなっているの考えるために、そもそも授業なんか受ける 気分にもなれず、6限目はサボって部室であれこれ考えていた。 いったいどこで、こんな状況になったんだ? 何が切っ掛けでハルヒは嫉妬し、長門は 豹変したんだ? 切っ掛けがわからなければ手の出しようがないじゃないか。 「おや、あなただけですか」 ノックもせずにドアを開けて、古泉がやってきた。朝比奈さんが着替えをしていたらど うするつもりだったんだ、おまえは。 「いえ、朝比奈さんから言伝を授かっておりまして。今日は鶴屋さんにお茶の席に誘われ ているのでこちらには来られない、と。涼宮さんと長門さんもまだですか?」 「2人は……どうかな、今日は来ないんじゃないか?」 「それはまた、珍しいこともありますね」 ……そうだな、こいつに話をするのは癪だが、オレ1人では結論が出そうにない話だし、 頼れる長門が問題の対象だしな。1人であれこれ考えるより、こいつの意見を聞くのも悪 くない……か? 「なぁ、古泉」 「なんでしょう?」 「実は長門のことなんだが……」 「ああ……ようやくですか」 「ようやくって、何のことだ?」 「え? ……ああ、なるほど」 おいおい、何を1人で勝手に納得してるんだ。分かるように説明してくれ。というか、 その呆れたような笑みはいったいなんだ? 「いえ、あなたは相変わらずだと思いまして。どうです、最近は頭を使うゲームばかりで したからね、別なゲームでもしませんか?」 「そういう気分じゃない」 「まぁ、そう言わずに。そうですね、ババ抜きでもしますか」 おいおい、2人でババ抜きなんて、あまりにも寂しすぎやしないか? つーか、人の同 意を得ずにカードを配るなよ。 「さ、どうぞ」 ……わかったよ、相手すればいいんだろ。 こいつのゲーム狂いはもう病気のレベルだな。それに付き合うオレもオレだが……カー ドの山に手を伸ばし、組になっているカードをさっさと捨ててみれば、手元に残ったのは わずか10枚。古泉の先攻で始まった。 「ところで」 黙々とゲームを進めている中、不意に古泉が口を開いた。 「長門さんが、どうしてあそこまで無感動、無感情を貫いているか、考えたことはありますか?」 「いや、そういうもんなんだろうとしか思っていないが。何か理由でもあるのか?」 「僕の憶測でよければ、思い当たる節がありますね」 もったいぶらずに話をすることができないのかね、こいつは。 「彼女が情報統合思念体の穏健派だから、ではないでしょうか」 意味がわからん。 「朝倉涼子のことを……聞くまでもなく、覚えていると思いますが」 忘れられるなら、いい方法を教えてくれ。 「彼女は情報統合思念体の強硬派に属していました。つまり、自分たちの手でアクション を起こして涼宮さんの変化を見る派閥です。一方、穏健派の考えは、ただ涼宮さんを観察 し続け、極力手を出さないようにすることです。しかし、ただ『観る』というのは、これ が難しいものですよ。観察対象に情が移れば、正確な観測はできない」 「そういうもんかね?」 「僕とあなたの関係に例えてみましょう。今こうしてカードゲームに興じていますが…… 仮に、僕があなたに熱烈な愛の告白をしたとしましょう。あなたはどうしますか?」 「全速力で逃げ出すね」 「そうですね。いやあ、喜んで受け入れると言われなくて助かりました」 蹴りと拳のどっちを選ぶか、その選択肢くらいは与えてやる。可及的速やかに選べ。 「冗談ですよ。ともかく、感情のせいで現状に変化が訪れてしまうわけです。穏健派はそ れすらもよしとせず、自分たちの介入なく涼宮さんの変化を観測したかったのでしょう。 だから……」 「長門がハルヒに肩入れしないために感情を排除した……ってか? けれどあいつは」 「そうですね、初期のころに比べて大きく変化しました。少なからず、感情があるからで す。喜怒哀楽なくして、社会の中で他者とコミュニケーションを取ることは不可能ですか らね。彼女が人間とコミュニケーションを取るためのインターフェースなら、感情は少な からず必要です。ですから、長門さんには必要最小限の感情があったのでは、と思います。 そして、それを育てたのはあなたですよ」 「……オレが?」 「そうですよ」 オレが長門に何をしたっていうんだ? むしろオレの方がいろいろ助けられているじゃ ないか。それは古泉にだってわかっているはずだ。 「長門さんは、自分の口で正体を明かしているのはあなただけですね」 「そう……かな? そうだな、おまえが聞いてないなら、朝比奈さんも聞いてないんじゃないかな」 「僕は聞いていません。では何故、あなただけなのでしょうか?」 「あいつが言うには、オレはハルヒにとっての鍵だから、とか言っていた。だからじゃないのか?」 「それだけではないと思います」 「何故?」 「彼女はありのままの涼宮さんを観測する役目だからです。涼宮さんに変革を与えるかも しれないあなたを、涼宮さんから遠ざけたいと長門さんが、あるいは穏健派の情報統合思 念体が考えてもおかしくはないでしょう。普通に考えてください。突然、自分が宇宙人に 作られたアンドロイドだ、などと告白したんですよ? 普通は距離を置くものじゃないで しょうか。しかもその後に朝倉涼子に命を狙われて、生命の危機にさえ遭っている」 あ~……確かに。改めて言われると、オレは普通の高校生らしからぬ出来事に遭遇して いるにもかかわらず、平然としすぎてる気もするな……。 「あなたは今日に至るまで、何も変わらずに長門さんと接しています。そこでこう思うわ けです。何故、あの人はここにいるのだろう。普通に接してくれるのだろう……と」 自説を饒舌に語る古泉を、オレは黙って見つめた。反論するにも、いい言葉が思い浮かばない。 「疑問というのは、自己の目覚めですよ。胡蝶の夢です。そこから長門さんは、個人的に あなたに興味を持つようになった。そして……ここまで言えば、如何にあなたでもおわか りになるでしょう。ご理解して頂けましたか?」 理解はしたさ。けれど、どうせ憶測だ。それが正しいというわけじゃないだろ。 「そうですね、憶測です。憶測ついでに、もうひとつ」 「なんだ?」 「長門さんは、自らの行動で変化が起こることはできません。第三者の後押しが必要です」 きっぱり断言したな。その根拠はなんだ? 「思い返してください。これまで僕たちが遭遇した事件で、長門さんが自ら進んでアクシ ョンを起こしたことがありますか?」 「……カマドウマ事件は?」 「あれは、正確には喜緑さんが持ち込んだものです。当時は彼女がインターフェースと判 明していなかったため、あなたも「長門さんが仕組んだことか?」と思ったのでしょうが、 もしかすると喜緑さんの発案で、長門さんは協力しただけかもしれません」 「コンピ研との勝負は?」 「最終的に長門さんをけしかけたのは、あなたじゃないですか」 「じゃあ、12月18日の出来事はどうだ」 「あれはエラーが積み重なって起こった、いわば不慮の事故です。その証拠に、長門さん は現状回帰をあなたに託していたのでしょう?」 ことごとく反論されたな。言われてみれば、長門が自分の意志で行動を起こしたことは 何も思い浮かばない。いつもオレが面倒を持ち込んでいたんだな。 「長門さんは自分からアクションを起こすことはない。ですから、彼女が何かを起こそう としているならば……それはこちらから手を差し伸べるべきです。いい加減、気づいてあ げたら如何です?」 古泉は、手元に残っていた2枚のカードを表にして並べた。 ジョーカーとハートのクイーン。オレの手元にはスペードのクイーンが残っている。 「これでも、僕はあなたに感謝しているんですよ。ですから、今回ばかりはゆっくり休ん でいただきたいとも思っています。ですが、あなたはすべてを丸投げにして傍観できる人 ではないことも分かっています。どちらを選びますか?」 2枚のカードをコツコツ叩く古泉は、いつになく真剣な目をオレに向けていた。この野 郎、オレを試すなんざ100年早い。 「決まってるだろ。おまえにゲームで負けるつもりはないんだ」 「手抜きをされては困ります。部室の戸締まりは、僕がしておきましょう」 嫌味なくらいの笑みを浮かべる古泉へ、オレはテーブルの上にスペードのクイーンを叩 きつけて部室から飛び出した。 あてがあったわけじゃない。ただ、どこへ行けばいいのかは、なんとなく分かっていた。 平日の、それも閉館間際の図書館。職員以外に人の姿はなく、ただ1人だけ、置物のよ うに髪の毛1本動かさず、ただページをめくる指だけを規則正しく動かして椅子に座り、 本を読んでいる少女の姿があった。 オレは黙って長門の横に腰を下ろした。長門は、そんなオレに気づかないかのようにた だ、黙々と本を読み続けている。 「長門」 「……なに?」 たっぷり時間を空けて、長門は返事をしてくれた。それでも、オレを見ようとはしなかったが。 「なんつーか……悪かった」 「あなたは何も悪くない」 「……そうか」 「そう」 パタン、と本を閉じ、図書館の奥に消える。オレはその姿を黙って見つめて、戻ってく るのを待った。 本の壁の間から姿を現した長門は、そのままオレの横を通り過ぎて外へ向かう。オレも 黙ってその後に続いた。 どこへ向かうというわけでもなく、オレたちは自然といつもの公園に来ていた。長門に してみれば、ここからすぐに自分のマンションへ戻るつもりだったのかもしれない。 「少し、いいか?」 長門の歩みが止まる。振り返りこそしなかったが、立ち止まったということは、それが 了承の合図なのだろう。手を伸ばせば届きそうなくらい近くにある小さな背中に向かって、 オレは口を開いた。 これは、オレから言わなければならないことだと思う。古泉に長々と説教されてようや く気づくとは、オレもよくよく鈍感だと思うさ。 「前に……ハルヒと朝比奈さんがケンカした時があったじゃないか。あのとき、大人の朝 比奈さんが言ってたことなんだがな、恋愛感情には2種類あるそうだ」 朝比奈さん(大)曰く、『愛』というのは家族や友人に向ける広い思いで、『好き』と いうのは1人に向ける一途な想い、ということだ。オレも正確に理解しているわけではな い。けれど今なら、朝比奈さん(大)が言いたかったことがわかる気がする。 「そういう意味で言えば……そうだな、オレはおまえを愛してるというより……好きと言 ったほうがいいのかもしれない」 長門は、かろうじて振り返ったと言えるか言えないかという程度に顔を横向けた。 目は見えない。表情もわからない。ただ黙って立っている。 「でも……な、それとも違うような気がするんだ。オレはお前に側に居て欲しいと思って いる。離れたくないとも思っている。そりゃ、それは朝比奈さんや古泉に対しても同じだ が、もっとそれ以上の……なんて言うのかな、それは好きとか嫌いとかで語れるもんじゃ ない想い……かな」 ああ、くそ。今ほど自分のボキャブラリーの無さを嘆くべきだ。胸の奥ではハッキリし ているのに、それを相手に伝えるべき適切な言葉が思い浮かばない。伝えたい気持ちを伝 えられないのが、これほど苦しいと思ったのは初めてだ。 「だから……」 「いい」 どう言えばいいのか分からず、ただ闇雲に言葉を重ねるのを制するように、長門の冷た い両の手がオレの頬に添えられる。 「言語での情報伝達に齟齬が発生するのは仕方がないこと。でも……あなたの言葉はわた しに力を与えてくれる」 「長門……」 「わたしは、あなたと出会う切っ掛けを与えてくれた涼宮ハルヒに感謝をしている。そし て、あなたに出会えたことが嬉しく、芽生えた気持ちを誇りに思う」 オレを見つめる長門の漆黒の瞳が、微かに揺れる。 そして、夜風にかき消されてしまいそうな小さな声でただ一言だけ──。 「わたしは、あなたが好き」 小さくとも、オレの耳に届いたのは揺るぎない凛とした声。 「それが、わたしが『私』として存在していることを証明する言葉。それが叶わぬ思いで あることはわかっている。あなたが切に思う人が誰かもわかっている」 口を閉ざし、長門は少し迷うような素振りを見せた。たぶん、言いたいことを言葉に出 来なかったさっきのオレの姿も、今の長門と同じだったのかもしれない。 「でも……それでも構わない。あなたは、わたしが側にいることを許してくれた。わたし がいつまで自律活動を続けていられるか、それはわからない。それでも、最後が訪れるそ の時まで、わたしはあなたの側にいたいと思う」 長門の瞳から、ただ一滴だけ涙がこぼれる。長門が初めて見せる、感情の吐露。 嗚咽するわけでも、号泣するわけでもない。長門らしいその涙を……オレは止めること も、ぬぐってやることもできない。 「ありがとう」 その言葉を長門から聞いたのは、これで2度目だ。けれど、前のときの平坦な声ではな く、その声はどこか力強いものを感じた。 ス……ッと、オレの頬を包んでいた長門の手が離れ、背を向けて歩き出す。抱きしめた い衝動に駆られたが、それはやっちゃいけないことだ。 ただ、これだけはいいだろう。この言葉だけは、言わなければならない。それがオレと長 門の絆であり、長門が望む平穏な日常なんだと思う。 「長門、また……明日、部室でな」 気の抜けた思いで自転車を止めていた駅前まで1人歩いていると、見知った黄色いカチ ューシャ頭が、アヒル口で所在なげに立っていた。 なんだろうな。なんなんだろうな。どんな気分の時でも、こいつの顔を見るとホッとす るのは、いろいろな意味で末期かもしれないな。 「こんなとこで何やってんだ? ナンパ待ちか?」 「んなわけないでしょ。ほら、これ」 ハルヒは投げ捨てるようにオレの鞄を放り投げてきた。そういや学校に忘れっぱなしだったな。 「わざわざ悪いな」 「別に。みくるちゃんに頼まれたから仕方なくよ」 朝比奈さんに……? ああ……古泉め、すべて思惑通りってわけか。何が「朝比奈さん から言伝を授かってます」だ。裏でコソコソされるのは気に入らないが……今回ばかりは 大目に見てやろう。 「で、どうなの?」 唐突だな。 「どう、とは?」 「有希と会ってたんでしょ? いいわよ別に。有希もあんたのこと好きとか言ってたし」 なんでそんなことをこいつは知ってるんだ? 「なんか最近、有希がずっとあんたのこと気にしてるみたいだったからさ、昨日、一緒に 帰って問いただしたのよ」 なんとも団員思いな団長さまだ。わざわざ気に掛けていたとはね。 それにしても、古泉やハルヒが気づくほどの熱烈な視線を、長門はオレに送っていたっ てことか? それに気づかなかったオレは……マジで首をくくるべきかもしれん。 「あたしだって鬼じゃないわ。SOS団は原則恋愛禁止だけど、」 「ああ、フッた」 「でも有希となら……は?」 おいおい、近年希にみるマヌケ面だな。ケータイのカメラで取ってSOS団のホームペ ージにアップしといてやろうか。 「フッたというか、オレと長門が釣り合うわけないだろ。オレにはもったいない」 「あ~……そう、そうなんだ……」 なんだよ、その曖昧な反応は。もっとこう、怒るか喜ぶか、ハッキリした態度を見せてくれ。 「でもまぁ、安心しろ。だからと言って、オレと長門の関係が気まずくなったわけじゃない。 明日からも長門は、部室で静かに本を読んでるだろうさ」 「あ、当たり前でしょ! あんた、自分で言ったんだからね。丸く収めるって。これで有 希がSOS団から抜けるとか言い出してみなさい、あたしがあらゆる手段を使ってあんた と有希をくっつけてやるんだから!」 「なんだそりゃ?」 「なっ、なんだっていいでしょ! それよりも、雑用係のくせに散々あたしを振り回した 挙げ句に有希をフッて、そのままで済むと思ってるんじゃないでしょうね!?」 何を言い出すんだおまえは。勘弁してくれよ。こう見えても、オレはオレでちょっとへ こんでるんだぞ? そこへさらに追い打ちをかけるというのか。 「うっさい! きっついのぶちかましてあげるから、目ぇ閉じなさい」 「……また今度にしないか?」 「あたしの言うことが聞けないっての!?」 ヤバイ。今のハルヒはヤバイ。やると言ったらとことん殺る目だ。 仕方なく、オレは目を閉じる。目を閉じたもんだから、ハルヒが何をしようとしている のか、さっぱり分からない。 ネクタイを掴まれて、グッと引っ張られた。前のめりになって思わず目を開けそうにな ったその瞬間。 オレの唇に、暖かく柔らかいものが一瞬だけ触れてすぐに離れた。 「……は?」 驚いて目を開くと、目の前にはハルヒの顔。ほんのり頬を朱に染めているのは……気の せいだな。そういうことにしておこう。 「……どーよ、目が覚めたでしょ?」 「あー……ビンタより強烈だな」 「と、当然よ! 今まで誰にもしたことない、とっておきなんだからね!」 そうかい、そりゃ光栄だな。閉鎖空間でのことはノーカウントか……って、あれはハル ヒの中じゃ夢の出来事になってるんだったな。 「なぁ、ハルヒ。オレやっぱり、」 「えっ? 何、何なの?」 おいぃ……だから空気読めって。そこで急に顔を輝かせるなよ。そんな急かさないでく れ。まだ何も言ってないじゃないか。 「あ~……明日、な。また明日。じゃあな」 「ちょっ」 首を絞めるな。背中に乗っかってくるな。 「ちょっと、このバカキョン! また明日って、何それ? 意味わかんないわよ! この まますんなり帰れると思ってんじゃないでしょうね!? 言いたいことはちゃんと言わなき ゃダメって、あんたも言ってたでしょ!」 ええい、うるさい。それはおまえの夢の中の話だろ? オレは知らん。何も知らんぞ。 空気を読めないおまえが悪いんだ。 もう二度と、オレの方から「好きだ」なんて言ってやるもんか。 〆
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5453.html
年が明けて初詣やらなんやらでドタバタしていたが、もとの生活ペースに戻ろうとしているこの日 俺は親戚からのお年玉でPSPを買った。色は黒で最新型のアレ ソフトはモンスターハンターってやつかな よく分からないが「大人気」と書いてあったし一様糞ゲーでは無いだろう そういえば北校に持っていってよいのだろうか?北校はPSPの持込でいいような感じだし まぁ岡部らに見つからないようにすればいいか 始業式 新年早々一番ブルーな行事 こーちょーの話をだらだら聞かされるしな 楽しみと言えばあの元気な少女に会えることだろうな などと思いながら北校へハイキングコースを上っていた。 「よう キョン あけおめだな」谷口だここは返事しておくか「ああ谷口 あけおめ」 「そういえば俺ナンパ成功したぜ!まぁお前は涼宮が居るけどな」 ムカつく野郎だ。でもどうせ一週間程度で別れる運命さ谷口よ 「そうですかい・・・」 「じゃあ俺 自慢してくるから先行ってるぞ~」 教室に着くとハルヒが居た。 「ようハルヒ あけおめ~」 するとハルヒは睨んできた。 「キョン! 団長様に向かってその態度は何よ!」 年越し一回目のコイツの言葉はそれかよ・・・やれやれ 「へいへい あけましておめでとうございまーすっ」 「よろしい」 疲れる奴だな その後俺は席に着きPSPを取り出し電源を入れた。 「キョン!あんたもそれ買ったの?」 HIT!・・・・え?あんた・・・も? じゃあハルヒも 「ハルヒお前もPSP買ったのか?」 「そうよ!」 まぁ今話題のゲーム機だしな・・・ 「で ソフトは?」 と俺が言っている間にハルヒはカバンに手を入れてPSPを取り出した。色は白だ 「モンハンよ」 じゃあ通信できるな・・・ 「俺もモンハンだぞ」 「ええ?嘘!じゃあ部活の時通信しましょ! でもハルヒはHRが最大じゃあないのか? _________________________________________________________________________ 一時完 この後書いてくれたら嬉しいな モンハンを知っていたら だいたいのストーリー ハルヒがモンハンが気に入りSOS団を閉鎖空間に閉じ込める その閉鎖空間はモンハンと同じ世界だった。 朝比奈がいる未来はMH6などが大人気でモンハンを知っている ちょっと書かせてもらった。 さて、そんな心配は杞憂だったようだ。 授業も終わり、我らがSOS団部室へ向かい、通信を開始した俺達だったが。 「ちょっとキョン!なにやってるのよ! って、あ~~!!」 これで三回死んじまったな・・・。 画面にはクエスト失敗を告げる文字が悲しく映っている。 第一、俺もハルヒも買ったばかりの初心者だったというのに アレは無理があったんじゃないか? 数分前、俺が集会所へ行くとハルヒが既にクエストを受注していたようだった。 えーと、なになに《☆☆☆ 砂に潜む巨大蟹!》 って、☆3かよ!二人とも初心者なんだから、こういうのは一番最初からだな・・・。 「何いってんのよ!こういうのは強いのを倒すからこそ面白いんじゃないの!それにあたしとキョン、二人いるんだからそうそう負けるはずがないわ!」 というハルヒのお言葉により、狩猟へ向かったわけだが・・・。 「もう!なんで死んじゃうのよ! もっとしっかりしないさいよね!」 お前だって一回死んだだろうが。それに、お前の攻撃方法はなんなんだ?あれ。 殆ど溜め切りしか使ってなかったじゃないか。 「うるさいわね!武器といえば威力なのよ威力! あんたみたいな非力な武器は使ってられないわ!」 そう、ハルヒはどんな状況でも溜め切りを使おうとしていたのだ。 おかげで何回も吹っ飛ばされていた。 結局ほとんど攻撃していたのは俺だけだったじゃないか。 まぁ、村長からもらったお金しかなくビンを買えなかったので、非力だったことは否めないが・・・。 ちなみにもうお分かりかとは思うが、俺は弓、ハルヒは大剣だった。 「とにかく!もう一回いくわよっ!」 おいおい、せめてランクを落とすとか、そういう考えはないのか?こいつには。 せめてクエストは変えようぜ?マフモフで砂漠へ行くのはどう考えても無理がある。 なんてことを考えつつハルヒに進言しようとしていると 「おや、二人とも早いですね。 それは何をしているのですか?」 「あら、古泉くん。 モンハンよモンハン!もしかして古泉くんも持ってたりしない!?」 「いえ、残念ながら。結構有名ですから知ってはいますけどね。涼宮さんがしているのは意外でしたが。」 「そう・・・まぁいいわ!ほらキョン!早くきなさい!」 やれやれ・・・結局同じのに挑戦か・・・。 「まぁ、いいじゃないですか。中々優秀な防具が作れますよ、ダイミョウサザミは。」 って、古泉。お前持ってないんじゃなかったのか?それに、なんで小声なんだ。しかも顔が近いぞ。 「おっと、失礼。いや、僕も持っているのですけどね。 あなた達が始めたばかりのようでしたので。明日新しく買ったふりをして持ってこようかと思っていたのですよ。」 なんでわざわざそんなことを・・・。即戦力が入ったほうがハルヒだって喜ぶだろうに。 「涼宮さんはそんなに簡単な勝利は望んでいませんよ。苦労し、試行錯誤して勝つ。その達成感こそが喜びになるのです。」 なんだかよくわからんが・・・。ということは明日からはお前も参加できるのか。 「はい、そういうことになりますね。 どうぞよろしくおねがいします。」 なんだかこのまま行くとSOS団全員でやることになりそうだな・・・。 朝比奈さんがモンハン・・・駄目だ、想像できん。 長門はものすごい技量を発揮しそうだが・・・。 「おっと、始まりますよ。」 ああ、そうだな。やるとするか。 結局、その後三回ほど挑戦したが一度も勝てなかった。 しかし、古泉が言っていたことは本当らしいな。 負け続けて悔しそうにしてはいたものの、閉鎖空間は一度も発生しなかったようだ。 この日、朝比奈さんは普通にお茶をいれてくれていたが、なんだかそわそわしていたようだった。 そしてなにより一大事なのが 「今日は用事がある。」 とだけ言い残して長門が来たとたんに帰っていったのだ。 しかし長門のあのときの顔はこう・・・若干疲労しつつも諦めたような顔だった。 そんなことを思っていたので、部活が終わって早々、俺は長門に電話をかけてみようと・・・ 思ったのだが向こうからかかってきた。 これは宇宙的事件の始まりか・・・と少しばかり緊張して通話ボタンを押すと 「今から26分後、大規模な世界改変が行われる。 情報統合思念体は総力を尽くして対処したが、涼宮ハルヒの勢いはとめられなかった。」 どういうことだ?というか、そんな悠長にしてていいのか? 「今回の世界改変は至って特殊。大きな改変には違いないが、涼宮ハルヒの興味が強くなりすぎたため行われる。よって、その興味が失せていけば次第に解決されると思われる。」 そのとき、俺はピーンときたね。 ハルヒがそこまで興味を持ったもの、そんなもの一つしかない。 だとすれば、俺たちは今からその世界へ放り込まれるわけで。 俺は不安というよりは若干の楽しみを感じていた。 だってそうだろう?男なら一度はファンタジーの世界へといってみたいと思うもんさ。 長門、状況は理解できた。 「そう」 ところで、お前モンスターハンターは知っているか? 「知らない」 だろうな。いいか、モンハンというのはハルヒが興味をもったゲームソフトだ。 「ゲームソフト?」 ああ、コンピ研の時やったものがあるだろう?あれがゲームだ。 そして今から俺たちはその世界へといくんだと思う。 まさか俺が長門に説明する日がくるとはね・・・。 ってことはあれか、色々準備しなきゃいけないのか。砥石とか。 「理解した。ただ、一つ問題がある。」 なんだ? 「今の話を情報統合思念体に報告したところ、一つわかったことがある。」 結論? 「そう、そのモンスターハンターというゲームの内容にそって改変されるとしたら、私の情報制御能力は消滅する。」 それはまた・・・しかし、なんでだ? 「私の能力はそのゲームでいうところのチート行為に値する。」 なるほど。・・・ってことはあれか。長門の力は今回は期待できない、と。 「そうなる。ただ、私自身の能力は低下しない。」 そうか。 なら、大丈夫じゃないか。あれだけの運動神経の持ち主だ。 「そう。」 まぁ、ハルヒが飽きるまでモンハンの世界になるってだけだろ? 今までなら驚きだが、もう余裕を持って対処できるね。 これから数週間、中々に面白い日々が待ってそうだ。 「・・・今から、改変が始まる。」 そうか。よし、どんとこい。 「50秒前」 「20秒」 「3.2.1.」 俺の意識は暗転した。 雪山? というか、すごく寒いぞ・・・。 そうか、改変されたのか・・・。 でもなんで雪山なんだ・・・? いや、ちょっと待てよ・・・。 ゲーム開始時の雪山なんてイベントは決まってるだろ・・・。 いやいやいや、まずい。非常にまずい。 まぁ、主人公は助かってたんだ。俺も助かる・・・よな? なるほど、主人公。気持ちがよくわかったぜ。 いきなり頭上が暗くなった・・・。 なんつーか・・・でけえなあ、ティガレックス。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3216.html
「あなたもいっその事、この状況を楽しんでみては?」 断る。俺は気が狂おうとも冷静でいるべきキャラなんだよ。 「キョン君~!これどうやって止めるんですか~?ひえぇ~~~」 ハンドルを離さないと止まりませんよ。それがコーヒーカップというものでしょう。 「こんな古い・・・いえ、珍しいアトラクションは初めて体験するもので・・・とめてぇ~~~」 む・・・?あいつら・・・ハルヒに長門、何回目だよそのジェットコースター。 「キョン!このジェットコースターは素晴らしいわ。なんたって何度乗っても飽きないんだもの!」 あぁ、どうしてこうも俺からは日常がはるか彼方へ遠ざかっていくのか・・・やれやれ。 ここがどこかって?見りゃ分かる、遊園地だ。 遊園地でハメを外すのがそんなに恥ずかしいかって?そんな訳あるはずがないだろう。 俺だって、ここが普通の遊園地ならそりゃある程度箍(たが)を外して遊びまくるさ。 しかし残念なことにここの遊園地は“普通”などではない。 この遊園地は──ハルヒの夢の世界なのだ。 古泉が言うにはここ最近のハルヒの退屈度の進行が原因なんだとさ。 その退屈をどうにかするってのが課題じゃなかったのか。と聞けば 「えぇ、仰るとおりです。 ただ今まで退屈による不満で発生する閉鎖空間で判断してたんですが・・・ここ最近は全く発生していなかったんですよ。 言い訳に聞こえるかもしれませんが・・・その不満をこういった形で発散させるということは、何か涼宮さんに変化が起こりつつあるのかもしれません。」 不満が原因でたまたま見てしまったこの面白おかしい(俺には面白くもなんともないが)夢を現実にすりかえようとしている最中なのだと。 哀れ世界。俺が世界なら確実にビッグバン起こして怒りをぶつけてるところだ。 もちろんそのまま放っておくわけにはいかない。 が。もうすでに現実世界とほぼ融合しているために、ハルヒに向かって「これは夢だ!」なんて無理やり理解させてしまえば現実世界もろとも完全崩壊の恐れ。 もう今更なんだが・・・本当なんでもありだな、ハルヒ。 解決策はといえばハルヒに自力で夢だと気づいてもらうこと。 そんなこと超簡単だろう?と思うだろう? 考えても見てくれ。俺たちが夢を見ているとき、その状態で今起こっていることは夢なんだ!と気づけたことが何回あった? つまりはそういうことである。 それに、覚めた後にはありえない夢だったと気づけても、夢を見ている最中には可笑しいなんてこれっぽっちも思わないだろう? そう。だからこそハルヒは乗るたびにコースの変わるそのジェットコースターに一つも疑問を持っていない。 ちなみに朝になるまで待てば自然に起きるだろう、なんて解決策は真っ先に断たれたぜ? さっきも言ったが、もう現実とごっちゃになりかけ。現実の時間概念は今のハルヒには作用しない。(長門談) どうにかハルヒに自力で夢だと気づいてもらう必要がある。 運が悪ければこの世界はこの遊園地の敷地内だけになり、5人は一生をここで終えなければならなくなるのだ。 だからな、みんな。遊ぶのもいいがもう少し真剣に考えてくれないだろうか。 時間がかかればかかるほどこの世界の侵食は進み、元に戻れるかは困難になるって言ったのはお前だぞ、長門。 ・・・その長門はハルヒと33回目のジェットコースターを楽しんでいるが。 「いや~、参りましたね。」 あのな古泉。笑顔でゴーカートをさんざ楽しんできて「参った」なんて、普通の人間なら言わないぜ。 「フフ。でもこんな経験、多分二度とできないと思いますよ?」 無人のカートが勝負相手になってくれるゴーカートなんざ、二度も三度も楽しみたくはないね。 朝比奈さんは・・・今度はメリーゴーラウンドか。白馬にお姫様のように座る姿が美しい。 ハルヒ、どうせ創るならなら売店も組み込んで創ってほしかったぜ。ここにカメラが無いのが非常に惜しい。 まぁカメラが存在しようと現実世界には持ち帰れないだろうという答えに3秒で到達したので諦めるが。 しかしよく逃げないもんだな。あれ。 「メリーゴーラウンドって文献でしか見たこと無いんですけど、本物の馬なんて使ってるんですね~。私、びっくりしました~。」 ・・・どうしよう。本当のメリーゴーラウンドがどんなものなのか教えた方がよろしくないか? アトラクションは全自動。俺たち5人以外誰もいない。ついでに出口も存在しない。 もはや牢獄と言ったほうがいいだろう、これは。 なんて考えながらジェットコースターに目をやると、それはもう何回転すればゴールに着くのか分からないような渦の塊になっていた。 多分そろそろジェットコースターに飽きるだろう。 さぁて、どうやってハルヒに夢と気づいてもらうか。 古泉と2人、バイキング形式で従業員のいないレストランフロアに入り、栄養を取りつつ頭を働かせる。 無人ゴーカートを見ても、タイヤのついたコーヒーカップを見ても、実物仕様のメリーゴーラウンドを見ても、 変幻自在のコースを持つジェットコースターを見ても何も疑問に思わないんだぜ? どうすればいいんだよ。 「逆に考えればいいんですよ。この世界は涼宮さんの退屈による不満で創られた世界。 ならば楽しませればいいのですよ。」 誰が? 「勿論──あなたですよ。」 気が滅入る。ハルヒと2人で本物の殺人鬼が出てきそうなお化け屋敷に行ったり、 宇宙まで届いてそうなクレイジータワーに乗ったり、高速回転中の観覧車に乗らなければならんのか? その前にショック死すると思うぜ、俺。 「それもそうですね。あなたが死んでしまっては元も子もない。」 笑顔で物騒なことを言うな。 「失礼。ですが・・・少しばかり危機が迫っているのかもしれません。周りを見てください。」 いつのまにか夕日が差していることに気づく。 「説明していただこうか?」 笑顔のまま溜息をついた後、こんなことを喋りだす古泉。 「このまま夜になれば、恐らくあちらのホテルに泊まることとなるのでしょう。」 指差す方を見てみると、敷地の中央に聳え立つ豪華なホテルがそこにあった。 「夢の世界で眠りにつく。ということはです。」 普通の人間ならば寝て夢を見て、起きれば現実世界。だが・・・ 「次に目を覚ました時、完全にこの世界は固定されてしまうことでしょう。」 ・・・どうすればいい? 隣に置いてあったリーフレットの束からチケットを取り出す古泉。 「ふぅ、やはりありましたね。」 それは一体何なんだ。何故お前は既に知っているかのようにそれを手に取ったんだ? 「これはちょっとした賭けでしたよ。いえ、むしろ涼宮さんの賭けと思った方がよろしいかと。 今は僕が探し当てましたが、これは僕がいなくても必ずあなたの元に現れたはずです。」 さぁ、とそれ以上何も言わずチケットを俺の手に押し込む古泉。 ───── ────────── ─────────────── やれやれ。ようやく現実世界に戻ってこれたわけだが。 ああいった面白おかしな世界もまぁ全く楽しくなかったと言えば嘘になるが・・・ あれから数日。今日は何度目になるのか忘れたがいまだ皆勤賞のSOS団不思議探索の日だ。 あれから結局どうなったかって?古泉も聞いてきたが特に何もないのだ。 あの後、手にしたチケットを見てみるとそこにはディナー招待券と書かれていた。 ハルヒと食事をしてご機嫌を取れってことか。しかしどうやって誘うべきか・・・ とベンチに座って考えていたら不意に後ろに現れたハルヒに奪い取られてしまったのだ。 一部始終を語るとすれば・・・次の通りだ。 「何のチケットと睨めっこしてるのよ。一人で楽しもうなんて、そうはいかないんだから! なになに・・・?・・・ディナー券?」 あぁ、一緒にどうかと思ったんだが。 「ふーん・・・まぁ、行ってあげてもいいわよ?このままじゃ券も勿体無いしね。 でも、他の3人はどうするの?食事。」 夢の中では少しは気を回せる性格なんだな、お前。・・・それはともかく。 「古泉たちなら別のチケットで他のレストランで食事中だ、今頃は。」 こんな誤魔化しかたでバレやしないかとは思ったが、流石夢世界ハルヒ。些細なことは疑問にはならない頭のようだ。 ・・・もしかしたら分かっているもののあえて気づかないフリをしてるのかもしれんが。 着いたレストランはそれは豪華なレストランだった。 やはり人は誰もいなかったが。 チケットに書かれていた席には既に料理が並べられている。 「演出かしら?斬新だわ。」 と一人納得してしまうハルヒ。 今さっき出来たばかりの料理のようで、全く冷めていないようだ。 さぁ料理を食べようとさっさと席に着くハルヒと俺。 何故そんなことを言ってしまったのか?と自問すれば、このままでは何も進展しないぞと思ったんだろうな、俺は。 ハルヒに現実に戻ってもらうために、こんなことを口にしてしまったのだ。 「なぁ、ハルヒ。今日だけじゃなく、いつかまた2人で遊びに来たいな。 最近出来た海辺のテーマパークとか結構評判いいらしいぜ?・・・どうだろうか?」 次の瞬間、俺はまたもベッドの中にいた。 夢だったのかといえば確かに夢だった。 時間は・・・明日にはなっていなかった。紛れも無く今日の明朝であり、登校前のバタバタしなくてはならない時間までまだ3時間程余裕がある。 携帯を確認してみると3件、すなわち、古泉、長門、朝比奈さんから1件ずつ着信が入っていた。 おかしな事を言っていると自覚するが、その着信によってあれが夢だったと確信できたのだ。 「まぁ、何があったのかは知りませんが、とにかくあなたには感謝しっぱなしです。今回もありがとうございました。」 よせよ。俺はただハルヒと飯を食っただけだ。・・・いや、食うことは出来なかったが。 あぁ、しまったな・・・あの料理食べてからにすりゃ良かったな。勿体無いことをしたもんだ。 「ところで今日の活動は涼宮さんから聞いていますか?」 いいや?どうせ今日もいつもの通り、なんのプランも無いまま街をうろつくだけだろう? 「そうでしたか。いえ、それなら涼宮さんから直接聞いたほうが良さそうです。丁度・・・ほら、やってきましたよ。」 何のことだろうか。相変わらずハルヒはこの団員1号の俺には連絡をよこさないことが多い。 「あら、珍しいわねキョン。今日も遅刻してくるのかと思ったのに。」 ここ5連続で俺の奢りだったからな。たまには早く来ておいて誰かに奢ってもらうのがいいだろう。 ・・・それよりも。 「今日は何をするんだ?俺以外全員知っているようだが何も聞いていないぞ、俺は。」 「あれ?言ってなかったかしら。手頃な場所にいるからまた伝えるの忘れちゃってたわ。まぁ、たまにはこんなこともあるでしょう。」 いや、いっつもだろう。 「そんなことよりこれよ!ほら、みんな1枚ずつ取って取って!」 なになに・・・?シーサイドテーマパーク・・・? 遊園地のチケット・・・か。なるほどね。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3479.html
4.窮地 ハルヒが倒れてから6日が経った。 長門によると、決戦は明日の13時前後らしい。 「13時5分の前後10分間」 これが長門の予測だった。長門には本当に頭が上がらないな。 これが終わったら図書館&古本屋ツアーだ。ハルヒに文句は言わせん。 明日にはハルヒに会える。 俺はそう思っていた。 世の中上手く行かないもんだ。 いや、俺がこいつらの存在を忘れていたのが悪いのかもな。 今、俺の目の前で、朝比奈さん(みちる)誘拐犯、橘京子が微笑んでいる。 「ああ、早く病院行かなきゃならんな」 とりあえず何も見なかったことにしよう。 「んもうっ、待ってくださいよ!」 何か言ってるな。聞こえん。 「涼宮さんのことですよ!」 「……ハルヒだと?」 佐々木じゃないのか。 「ふぅ、やっと止まってくれた」 足を止めて橘を見る。正直、関わりたくはない相手だ。 ハルヒは大丈夫だ、明日には目覚めるさ。 そう思っても、こいつがハルヒの名前を口に出すと反応せざるを得ない。 信用は絶対にできないが。 「で、ハルヒがどうした。サッサと言え」 「あなたは涼宮さんが明日目覚めると思ってるんでしょう」 何でこいつがそんなことを知ってるか、何て今更どうでもいい。 『機関』と同じような組織だ。調べる伝手なんかいくらでもあるんだろう。 しかし、何で今更俺にそんなことを言ってくるんだ? ハルヒがこのまま情報生命素子とやらに乗っ取られるのは、こいつらにとっても不都合なはずだ。 こいつらに俺たちを邪魔する理由は思い当たらない。 まだ邪魔しに来たと決まったわけではないが。 「それがどうした。お前には関係ない」 「そんな言い方酷い。……まあ、それはいいですけど。 それより、涼宮さんは明日になっても目覚めない、と言ったらどうしますか?」 何を言っているんだこいつは。ハルヒが明日目覚めない? 長門は明日、ハルヒの情報生命素子を消去すると言い切った。 こいつと長門、俺がどちらを信じるかなんてことは言うまでもない。 「あ、信じてないでしょう。無理もないか。今は伝えるだけでいいです。 明日、涼宮さんは目覚めません。手遅れになる前に手を打たないと」 「お前が未来人だとは思わなかった」 まともに相手してやる気はない。だが、こんな予言めいたことを言う理由は気になる。 「まさか。未来人ならこんなはっきり明日のことは言わないはず」 それは確かにそうだ。未来のことをはっきり言うのは禁則事項らいしからな。 「まあ、簡単に気が変わるとは思ってなかったけど……」 簡単でも複雑でも、俺がお前らに協力することはねぇよ。 「いつまでそう言っていられるかしら? まあいいわ、またすぐに会うことになるんだから」 そう言うと、笑顔のままひらひらと手を振って去っていった。 何しに来たんだ? 俺を不安に陥れようとしたなら大失敗だぜ。 しばらく悩んだ俺は、古泉の携帯に電話してみた。 あいつらの行動とその目的を機関が把握しているか確認したくなったからだ。 電話が通じるところにいない可能性が高い。 だが、予想に反して携帯は通じた。 『もしもし』 ……俺は思わず携帯を離してまじまじと見てしまった。 かけ間違えたか? 出たのは女性だった。 『もしもし? 大丈夫です、これは古泉の携帯で間違いありません』 受話器から聞こえてくる声で俺は冷静になった。 驚かせてくれたな、古泉め。 「その声は森さんですか?」 電話越しでも聞き覚えのある声は、完璧なメイドにして怒らせると恐ろしい機関のエージェント、森さんだった。 『はい、お久しぶりです。古泉が閉鎖空間にいるときと就寝時、機関の人間の内 あなた方がご存じの人間がこの携帯を預かることになっています』 なるほど。いつでも連絡が取れるようにという機関の配慮だろう。 「ああ、すみません、びっくりしてしまって。それで、用件なんですが……」 『橘京子があなたと接触したことですね』 ……やれやれ、さすがにわかっていたのか。俺は尾行でもされているのか? 『結果的には尾行になりますが、目的はあなたの安全です。今は緊急事態ですから』 森さんはあっさり認めた。 『それに、橘京子の方にももちろん監視がついています。 今回あなたと接触しようとしていることも掴んでいました』 本当にやれやれだ。そこまでわかっていたなら教えておいてくれてもいいだろうが。 機関も未来人同様、秘密主義をモットーとしているのか? 「で、あいつは何で俺のところに来たんですか? ハルヒが目覚めないなんて戯言をほざいていましたが」 『……そんなことを言っていたようですね』 ん? この言い方だと今の俺たちの会話で初めて知ったようだが? 知らなかったのかよ おい! これが古泉相手なら嫌味の2つや3つ言ってやりたくなるが、相手は森さんなので素直に聞く。 「把握されてなかったんですか」 『申し訳ございません。我々としましても何とか把握したいとは思っていたのですが、 不自然な邪魔ばかり入りまして』 不自然な邪魔? 『ええ、おそらくは人外の、と言っていいと思います』 人外ってことは…… 「宇宙的な力で邪魔されたと言うことですか」 あっちにも長門たちとは別の宇宙人がいたからな。 『証拠があるわけではありませんが、そのように推測しております』 そりゃ、普通の人間が太刀打ちはできないよな。 『橘京子の発言について、こちらもこれから検討に入ります。 周防九曜は監視をすり抜けて活動しています。何かあるかもしれません。 事実だとすると時間がなさ過ぎます。急がないと』 周防の活動、と聞いて寒気が走った。橘の警告。まさか何かたくらんでやがるのか。 だが、俺は長門を信じる。古泉がらみで今回は機関も信じてやってもいい。 絶対に、何とかなる。 病院に着くと、ハルヒの母親がいた。 初日に会って以来、俺は初めてあった。 ほとんど午前中に来ているらしい。 1日中ついていると言い張ったらしいが、病院の方でなだめたと聞いた。 長門が1日ついていることは隠しているらしい。 「あなたがキョンくんでしょ」 いきなり言われて戸惑った。 「あ、はい、そうですが……」 「いつも娘がお世話になってるみたいね。ありがとう」 「えっ いえ、そんなことは……」 一体ハルヒは家で俺のことをどういう風に話しているんだろう。 「こんなにお友達が心配しているの1週間も起きないなんて……」 ハルヒ母は、悲しげな目をハルヒに向けて言った。 特に異常はないが何故か目覚めない、そう聞かされているはずだ。 原因がわからないのでますます不安になるだろう。 「中学のときだったら、お見舞いに来てくれる友達なんていなかったと思うの」 ハルヒを見つめながら独り言のようにハルヒ母は続ける。 「それが今はずっとついてくれているお友達がこんなにいるものね。この子は幸せ物だわ。 ──あんまりお友達に心配かけてないで、早く起きなさい、ハルヒ」 言いながら涙目のハルヒ母を見て、俺は何も言えなかった。 本当のことを知らされないってのも辛い物だよな。 ハルヒ、お袋さんも心配してるぜ。頑張ってくれ。 そのとき、ドアがバタンと大きな音を立てて開いた。 おいここは病院だぞ。こんなドアの開け方をする奴はハルヒ1人で十分だ。 「きょ、キョンくん!! た、たた大変です!!!!」 「朝比奈さん!?」 朝比奈さんがこんなドアの開け方をするなんて珍しい、というかありえねえ。 何かあったのは顔を見れば一目瞭然だ。これ以上ないくらい焦っている。 「な、長門さんが、長門さんが……!!!」 大きな目からボロボロ涙をこぼし始めた朝比奈さんは、それ以上説明できなくなってしまった。 「落ち着いてください、長門がどうしたんですか?」 聞いても既に号泣してしまっている朝比奈さんは何も説明してくれない。 「長門はどこにいるんですか? とりあえず案内してください」 そう言うと朝比奈さんは泣きながらうなずいて病室の外に出て行ったので、俺もついていくことにした。 「お騒がせしてすみません、失礼します」 ハルヒ母に頭を下げると、病室を後にした。 ここまで来て、長門に何があった!? 「すみません、落ち着いたらでいいから説明してくれると嬉しいんですが」 泣きじゃくりながら俺を案内する朝比奈さんに聞いてみた。 無理っぽいけどな。 俺の中の不安がだんだん形になってくる。 『明日、涼宮さんは目覚めません』 橘の言葉がよみがえってきた。くそっ あいつらが何かしやがったんじゃないだろうな。 「うっ ぐすっ……す、涼宮さんのお母さんが、みえたんです、だから席を外して……」 泣きじゃくりながら何とか説明をし始めたところで、ハルヒの病室とは少し離れた部屋に着いた。 ドアを開けると、ベッドに長門が寝ていた。休憩しているのか? いや、そんなわけはない。だったら朝比奈さんが泣き出すわけがない。 「そ、そしたら……ぐすっ……突然、長門さんが……た、倒れて」 状況は把握した。だが、長門が倒れる? 過去に長門が倒れたのときには必ず関わってる奴がいやがった。 雪山のとき。そして今年の春。 「畜生、あいつか……」 情報統合思念体が「天蓋領域」と名付けたやつ。 いまいち、というか全然何考えてるかわからない存在だ。 長門の親玉にすらわからないんだ、俺になんかわかるはずもない。 あいつらにも、長門がいないとハルヒを助けられないことくらいはわかってると思うが。 だったら何故? 「わ、わたし、何もできなくて……ぐすっ 長門さんが、大変なのに……」 朝比奈さんが泣いている。 泣かないでください、俺も同じです。 何もできねぇよ、畜生! 何とかしないと……どうする? 焦って思考がまとまらない。 長門──情報統合思念体によるインターフェース。 二度と会いたくないが、朝倉がいたらこの際代わりに頼りたいくらいだ。 朝倉? そうか! 俺は携帯を取り出して古泉に電話をかけた。 『もしもし』 今度は古泉が出た。 「古泉か。長門が倒れた」 時間があまりない。単刀直入に話す。 『ええ、聞いています。僕も今そちらに向かっているところです』 「原因は天蓋領域か」 『おそらく。周防九曜の動きが全くつかめていません。何かしたのではないかと』 やはりな。 「そこでだな、今気がついたんだが、喜緑さんに連絡を取れないかと思ったんだが」 この際喜緑さんじゃなてく、他のインターフェースでもいい。 機関は複数のTFEIとコンタクトを取っている、と言っていた。 長門以外の宇宙人でも、長門と同じことができるはずだ。 「情報統合思念体の派閥が違っても、ハルヒの今の状態が面白くないのは同じなはずだ。 情報生命素子とやらを何とかするのに異論はないはずだろ」 俺は古泉に言った。 『それに気付くとはさすがですね』 嫌味かよ。 『いえいえ、純粋に賞賛の言葉ですよ。ですが、残念ながら無理です』 「無理? 何でだよっ!」 電話越しに突っかかる。目の前にいたら襟首を掴んでいるところだ。 『今朝から、機関が把握しているTFEIと連絡が取れなくなりました。 原因は長門さんと同じと思われます』 「なんだって?」 つまり情報統合思念体製インターフェースは、すべて活動停止に追いやられているってことか。 『そういうことです。長門さんは、最後まで動いていました。 状況はわかっているようでしたし、注意する、と言ってくださっていたのですが……』 なんてこった。長門は気がついていたのか。 気がついて、何とかしようと努力してダメだった。 まるで1年前のあのときのように。 また何も言わずに1人で抱えてたのかよ、長門! 『あなたには言うなと言われていましたが、状況が状況ですので。それでは、後ほど』 電話が切れた。 ちょっとショックだった。俺に隠したかったのか? 「違いますよぉ」 いつの間にか泣きやんでいた朝比奈さんが、まだ涙の浮かぶ目で俺を見て言った。 「長門さんは今のキョンくんに、涼宮さんだけを心配していて欲しかったんです」 そんなこと言われたって、この状態で長門を心配するなっていうほうが無理だ。 「長門さんはキョンくんに余計な心配かけたくなかっただけなんです」 言いたいことはわからないでもない。 それでも、やはりショックは抜けなかった。 そりゃ、俺は何もできないが、少しは頼って欲しかったよ、長門。 「すみません、少し頭冷やしてきます」 なんと言っていいかわからず、俺は部屋から逃げ出した。 外に出ると、古泉が到着したところだった。 「どうしたんです? わざわざ出迎えてくれるとは」 俺を見つけると、古泉が声をかけてきた。 「そんなわけないだろ。頭冷やしに出てきただけだ」 「あなたがショックを受けているのはわかりますよ」 古泉が真顔で言った。 「僕だってそうですから」 お前も? 少なくともお前は長門から話を聞いていただろうが。 「いえ、ただ一言『注意する』とだけ。具体的に何が起こっているかは何も聞いていません」 そうか。やはり1人で何とかしようとしていたのか。 「しかし、今回は正真正銘の緊急事態です。 長門さんはこちらの唯一のカードにして切り札だった。それを奪われたわけですからね」 その通りだ。長門がいなきゃ、ハルヒは助からない。 意識が戻っても、既に中身は違う人間だ。実際、どういう人間になるのかもわからない。 そんなことは絶対に避けなければ駄目だ。 「俺たちはどうすりゃいい?」 古泉に聞いた。こいつなら、何かいい案を出してくれるかもしれない。 だが、古泉は首を横に振った。 「機関の上の方は恐慌状態ですよ。こちらは何の手も打てないのですから」 そりゃそうだろう。機関と言っても、所詮はただの人間の集まりだ。 「でも、少なくとも僕たちは諦めるわけにはいきません」 いつになく真剣な目で古泉は俺を見つめた。 この『僕たち』というのはSOS団のことだ。 「そうだな、諦めるわけにはいかねぇよな」 ──俺たちだけは、な。 5.選択へ