約 2,288,044 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3079.html
キョンの病欠からの続きです …部室の様子からもっと物が溢れ返ってる部屋を想像したんだが…。 初めて入ったハルヒの部屋はあまり女の子らしさがしないシンプルな内装だった。それでも微かに感じられるその独特の香りは、ここが疑いようもなく女の子の部屋なのだと俺に認識させてくれた。 「よう、調子はどうだ?」 「……だいぶ良くなったけど…最悪よ」 …どっちだよ。 ハルヒは少し不機嫌な表情でベッドに横になっていて、いつもの覇気が感じられなかった。いつぞやもそう思ったが、弱っているハルヒというのはなかなか新鮮だな。 「ほら、コンビニので申し訳ないが、見舞いの品のプリンだ。風邪にはプリンなんだろ?」 サイドテーブルに見舞いの品を置くと、ハルヒはそれと俺の顔を交互に見つめて訝しげにこんなことを言ってきた。 「……あんた、本当にキョン?中身は宇宙人じゃないでしょうね?あたしの知ってるキョンはこんなに気が利かないわよ?」 弱っていても失礼な奴だな、お前は。俺にだってこの程度の気遣いは出来る。 「…ま、昨日は世話になったからな」 実際、熱にうなされ苦しんでる時にハルヒの存在にどれだけ救われたことか。あと、その風邪を移したのはほぼ間違いなく俺だろうしな。 そう思うと俺は何かせずにはいられない気持ちになってしまい、その素直な感謝の気持ちが俺に自分らしくない台詞を口に出させていた。 「何かして欲しいことあるか?宇宙人を連れてこいとかいう難題以外なら、今日は素直に言うことを聞いてやろう」 俺がそう言うとハルヒは黙ってしまった。時計の秒針の音だけがカチカチと部屋に流れる。 そろそろ沈黙が痛くなってきて、俺が自分の台詞を後悔し始めた頃、ハルヒは絞り出すように少し震えた声でお願いを口にした。 「…………手」 「ん?」 「……昨日みたいに手を握りなさい」 「ああ…」 差し出された右手に俺も右手を重ねる。……素面でやると結構恥ずかしいもんだな。 ハルヒの熱が伝わったのだろうか?俺の顔も熱くなってきた。きっとハルヒの手が熱いからだ。うん、そういうことにしておいてくれ。 「……あと、頭撫でなさい」 ……そんなことを命令口調で言っても威厳はないぞ? 「……早くしなさいよ」 恐る恐る手を伸ばし髪に触ると、ハルヒは一度ビクッと強張ったが、その後はおとなしく髪を撫でられていた。 そうしてさわさわと撫で続けていると、ハルヒはくすぐったそうに目を細めていたが、少し無理をして起きていたのか、1分もしない内に眠りの世界へと落ちていった。 どのくらいそうしていただろうか?目の前のハルヒからはスゥスゥと規則正しい寝息が聞こえてくる。 黙っている時のハルヒは反則的なまでに可愛く、それがまたあどけない寝顔なのだから、じぃっと見ていると妙な気分になってくる。 いかんいかんと頭を振りながらも、俺はどうしてもハルヒの寝顔から目を離せずにいた。 今までこんなに穏やかに、じっくりと、しかも本人の目の前でハルヒについて考えたことはなかった。 だからだろうか?その事実に気が付いてしまい、そして驚くほどすんなりとそれを受け入れることが出来たのは。 俺はなんだかんだでハルヒのことを憎からず思って…いや、むしろ積極的な好意を持っている。 「……そうか、俺はハルヒのこと好きだったんだな」 それを言葉にして口に出してみると、急に落ち着かなくなり恥ずかしさが込み上げてきて、俺はハルヒが起きる前に帰ってしまうことにした。 椅子から立ち上がり鞄を手に取ろうとした時、俺はハルヒの額に浮かんでいる汗の存在に気が付いた。 …クソ、気になっちまった。 ハルヒの穏やかな寝顔に似合わないその汗がどうしても許せず、気が付くと俺は枕元のタオルを手に取っていた。 ハルヒの額の汗を丁寧に拭うと、シミひとつない白い肌が露になる。純粋に綺麗だな…と思っていると、ハルヒは不意に俺の名前を呟いた。 「……ん…キョン…」 「…………」 チュッ …………待て、俺は今何をした? 俺の唇に残るほのかな温もりは間違いなくハルヒのそれであり、ハルヒの額に残る微かな赤みは間違いなく俺が付けたそれだった。 要するにキスだ。キス?額にとはいえ俺がハルヒにキスをしたのか? ぶわっと今度は俺の額に汗が浮かんでいくのを感じる。ハルヒの寝息が聞こえなくなるほど心臓の音は大きくなっていった。 俺の頭に窓から逃げようという意味不明な選択肢が浮かんだ瞬間、ハルヒは静かに目を覚ました。 「……ん」 ゆっくりと、ハルヒの目が開いた。 ヤバイ、怒鳴られる。いや、むしろ殺される。 上がりっぱなしの心臓の回転数は今にも限界値を突破しそうだった。 宇宙人でも未来人でも超能力者でもいい、自業自得なことも分かってる、それでもお願いだ。時間を1分前に戻してくれ! 「……あ…今少し眠ってた?」 …気が付いてないのか? 「…え?あ、そうだな、10分くらいかな?」 …気付かれなかったことにほっとした反面で、少し残念に感じるこれはどういった感情なのだろうか? こちらの動揺をよそにハルヒは俺をじっと見つめ、なにげない一言で止めを刺した。 「今日はありがと、キョン」 「…ッ…」 その素直な感謝の言葉が胸に刺さり、心臓が止まりそうなほどの罪悪感が俺を責める。こんな気持ちになるのなら、いっそのこと気付かれて公開処刑されたほうがまだマシだ。 脳内裁判にて裁判長・長門が俺に有罪を言い渡したところで、目の前に予期せぬ逃げ道が現れた。 「…ふゎ…まだ眠いからもう少し眠るわ」 「あ、あぁ、眠いなら寝たほうがいいぞ、うん。なんせ風邪だからなっ」 自分でも不自然だと思える早口に俺の動揺は更に深刻なものになっていき、それがとんでもなく卑怯な行為だと理解しつつも、俺には真実を語らずに逃げ帰るしか、自らを落ち着かせる術はなかった。 「じゃ、じゃあ、俺は帰るな!また明日っ」 バタン! 転がるようにハルヒの家から出ていくと、外は既に暗くなり空には綺麗な月が浮かんでいる。 ふとハルヒの部屋を見上げると、まだ眠ると言ったはずのハルヒがこちらを見下ろしていた。 何か言っているような気がしたが聞き取れるはずもなく、俺は明日からどんな顔でハルヒに会えばいいんだろう?と思いつつ、逃げるように家路に着いたのだった。 「……どうせなら口にしなさいよ、馬鹿キョン」 End
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2871.html
涼宮ハルヒの悲調 ●第一部 何をしていたか思い出すのに、しばらく時間を要した。 やがて目を開けるのを忘れていたことに気づく。 カーテン越しの世界から、濁った光が溶け出している。 そういえばずっと雨だなあ、と口に出すと、ベッドで寝息を立てる朝比奈さんが何か呟いた。 ――何をしているんだろう。思い出したはずなのに、また忘れている。 SOS団が一週間前に解散した。理由は一つ。ハルヒが死んだ、それだけだ。 この事態を飲み込むのは、酒に弱い俺が飲み慣れない日本酒をゲロするよりも早かったが、それで爽快、というわけにはいかなかった。 うすぼんやりとした哀しみはここの所続く雨みたいに降りしきる。 積もることはない。薄い涙の膜が脳みそを綺麗にコーティングしてるみたいだ。 うすぼんやりのままだ。たぶんずっと、おそらくだが。 死んだ次の日、俺たちは――旧・SOS団員は――部室に集まった。 あいつのつけていたコロンの匂いがした。あいつの座った椅子があった。あいつの描きかけの下手糞な絵が。あいつのバニー服が。 誰も何も言わなかった。風が吹いて、カーテンが揺れた。古泉が口を開いた。 「彼女が……涼宮さんが亡くなったことによる影響は……ありません。彼女は死ぬ直前、自らの能力を最大限に利用し――書き換えていたのです」 「……どういうことだ?」 「この世界がこのまま続く、ということですよ。あえて言うなら、僕は普通の人間に戻りました。朝比奈さんはこれからの未来を抹消されていて……いや、どう説明すべきでしょうか? つまり……」 「あたしは、未来人ではなくなった……ってことです。本部とも連絡は取れなくなってました」 「そういうことです。彼女の”本部”も、僕の”機関”も、いずれは自然消滅するでしょう」 結局そのお偉方が何をしていたのか、俺は知ることもできんわけか。それはいいが、じゃあ長門はどうなるんだ? まさか―― 「ええ、そのまさかです。彼女は人間になりました。ありえないことですが……創造主がそう望んだんですから」 改めてハルヒの恐ろしさに気づいた。古泉曰くの「神いわゆるゴッド」とはこういうやつなのだ。 強情で意地っ張りで負けず嫌い。ギリシャ神話に加えて欲しいぐらいだ。 しかし、そう望んだ……とは。 「彼女は……この世界が続くことを願ったのです」 「……」 血液がものすごく遅く流れているのがわかる。俺は力を失って、団長の椅子に座り込んだ。 ありがとよ、ハルヒ……? でもな、意味がねえ。お前の力とやらはまるっきり役立たずだ。 お前がいないんじゃさ。 翌日にSOS団は解散した。 誰も止める者もいなかったし、止めようとも思わなかった。 全校朝会などが開かれて、ハルヒの死は大変に痛ましい出来事だと力説する校長。泣く女子。 俺は曖昧に顔を歪めてみたりもした。それだけだった。 本当に悲しいと涙が出ないらしい。 いつか堰が切れる日が、怖くて仕方がない。 ある雨の日、朝比奈さんは俺を呼び出した。 「もう、あたし、キョン君と仲良くしてもいいみたいなの……だ、だから……」 「朝比奈さん……」 俺たちは急速に近づいた。全校生徒が羨む美女だ。俺は幸せ者だっただろう。 だが。いつだって、ハルヒの顔は脳裏にちらついていた。 彼女と薄暗い部屋でセックスに耽っていても、ハルヒは俺の心の片隅に、確実にいた。 盲目的に俺は彼女を欲した。呼び名も「朝比奈さん」から「みくる」に変わり、彼女も俺を名前で呼ぶ。 ただただ、お互いがお互いを求めていた。何度も何度も交わり、全てを忘れた。 ――そうか。忘れたかったのか。 気づいても俺は求め続けた。 俺は長門とも関係を持った。長門は朝比奈さんと違い奥手だったが、それでも一緒にいるだけで落ち着けた。 放課後、「文芸部」になった部室。オレンジが眩しい部屋の中でキスをした。長門の唇は震えていた。 ふと部屋の隅に置かれたダンボールが目に入る。「団長」と書かれた腕章。 それは長すぎる、短すぎる時間。俺は長門に意識を戻した。 忘れたフリをした、という嘘。 長門の、時折漏らす噛み殺したような喘ぎ声だけが耳に入っていたはずなのに……確かに聞いていた。 「バカキョン!」 「! ……?」 「……どうかした?」 「い、いや……何でもない」 俺は貪欲に長門を欲した。暗がりでも長門の肌は白く透き通っていた。 忘れたいだけ、という真実。動かない。 雨の音は絶え間なく鼓膜を揺らしている。それは紛れもない悲調。 俺は、やはりハルヒの影を忘れることはできない。 ハルヒとは何の関係もなかった。ただ一度キスを……それも夢の中で。 でも、それでも、俺は唇の感触を忘れられない。驚いた顔も。髪の匂いも。温もりも。 その全てが愛おしかった。告白するが、俺はあの一度きりのキスのとき、どうしようもなくハルヒが愛しかった。 ずっとこうしていたいと思ったし、世界がどうなろうと関係なかった。 ただ俺とハルヒがいた。 ●第二部 11月になった。ハルヒが死んでからもう5ヶ月だ。 死んですぐの時には、「なあに、すぐに忘れられるさ」と思っていた。でも違った。俺は未だにハルヒの影を引き摺って生きている。 2ヶ月ほど経って俺は学校になかなか行かなくなった。いや、学校だけじゃない。家にもいたくなくなった。朝比奈さんも長門も一人暮らしだし、俺が望めばいくらでも寝床を提供してくれたので、しまいには家にも帰らなくなった。 やがて、俺は学校を辞めた。俺だけじゃない。朝比奈さんも、長門も、連れ立ってやめてしまった。 俺が二人と関係を持っていることをお互いに知ったときも、怒ったり嘆いたりしなかった。俺と朝比奈さんと長門は同棲を始めた。 そしてひたすら求め合い、堕ちてゆくのみだった。朽ち果てた精神が音もなく崩れた。俺達は生きて死んでいるも同然だった。 忘れたフリをして生き延びた。時間だけ過ぎて俺達を照らした。 ――ハルヒ、俺を笑うか? 季節は、もうすぐ冬になる。 初めて雪が降った日だ。古泉から連絡があった。 「お久しぶりです。元気でしたか?」 「……ああ。お前も元気そうだな」 「ええ、おかげさまで」 「そうか……で?」 「はい?」 「何か用があるんだろ?」 「……ええ。実は、部室を整理していたら……MDを見つけました」 「MD……?」 「ええ。涼宮さんの残したものです」 胸の辺りがぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。眩暈がして、俺は座り込んだ。 そうか。あいつはいたんだ、確かに。他人の口からハルヒの名を聞くのは久々だった。 「大丈夫ですか?」 「……ああ。そのMDというのは」 「ええ、それが……あなたに宛てたメッセージです」 メッセージだと……? あいつが? 俺に? 何だって言うんだ……? 「何だっていうのかは知りません。僕も聞いていませんから。ただ、『キョンへ』と、そう書かれています」 「……」 俺は古泉に送ってもらうよう頼み、電話を切った。 その場に座り込んで、タバコを燻らしたけれど、落ち着くことはない。 ふとやわらかい感触が背中に重なった。 「どうしたの……?」 風呂上りの朝比奈さんが俺の首に抱きつく。嗅ぎ慣れた石鹸の香りがした。 彼女の吐息が耳にかかって、そうしてまた俺は眠たくなる。 「有希は……?」 「今買い物に行ってるわ……今日もカレーだって」 「俺は好きだな、あいつのカレー」 「ふふ、あたしも」 彼女が俺のうなじに舌を這わせているときも、ハルヒのMDの件は俺の脳みそにこびりついて取れやしない。 思い出すと涙が出そうで、俺は朝比奈さんの胸に顔をうずめた。 そのMDはすぐに届いた。 今は二人とも出かけている。俺一人だ。今、聞くしかない。 「このMDは、涼宮さんが病床に伏せている時に録音されたものです。最後に学校に来たときに部室に隠していかれたものと思われます」 古泉はそう言った。あいつは病気の体をおして部室に来て、そしてこのMDを―― 場面が想像できて、俺は気分が重くなった。俺のためにハルヒが。 ふと、「ああ、悲しいんだな」と気づいた。 俺はMDデッキの再生ボタンに手をかけた。 ゆっくりと、当時には掠れてしまっていたハルヒの、それでもどこか優しい、あの声が流れ出した。 ●第三部 ハルヒの声が止み、MDプレイヤーは耳につく機械的な音で止まった。 俺は涙をぬぐうことをすっかり忘れていて、頬がうすら涼しくも感じるほどだった。 灰色に腫れてむくんだ空から数多の雨粒が落ち、窓に当たって騒いでいる。 その音だけが充満して息苦しい部屋で、俺はさめざめと泣いた。 次の日も雨だったが、かまわず俺はハルヒの墓参りに向かった。 なかなか大きい墓だった。墓標には「涼宮ハルヒ」の文字が燦然と輝いてやがる。 立派なもんだ。金持ちだったからな、あいつは。 俺はお前に渡すものがある。笑わずに受け取ってくれ。頼む。 俺は、昨夜一晩かけて捻り出した思いを綴った手紙を墓前に添え、その場を後にした。 生活は変わっていった。俺も朝比奈さんも長門もいつしか勉強を始め、三人そろって同じ大学に入学した。 やはりみんな、このままの生活を続けるのはいけないと感じていたのだろう。 大学生活も俺たちは存分に楽しんだ。が、恋愛だけはしなかった。 卒業後、それぞれが別の仕事についたが、帰る家は同じだ。いつも長門の作る料理の匂いは俺たちを待っている。 俺は小説家になり、朝比奈さんはモデルになった。長門は専業主婦だ。 なかなかお似合いだろ? 朝比奈さんなんか写真集まで出して、タレント、女優もやってやがる。 俺はといえば小説家だ。何本か書店に並んでるぜ。新進気鋭の売れっ子だよ。 長門は料理の腕をめきめき上げて、家事全般をこなせるいい嫁になった。 だが、俺たちは俺たちの中ですごしていった。結婚するわけじゃない。俺たちはおそらく一生このままだと思う。 このままでいいと思った。そう願った。 せっかく願ってやってんだから、ハルヒ、お前俺たちの願いをかなえてくれ。お前なら簡単だろう? だからさ、頼んだぜ? なあ神様。 ●Per sempre 暗くもなく、明るくもない。 窓を隔てた灰色から漏れる光が、この部屋の唯一の光源だ。 俺はそっと瞼を閉じる。瞳に映る黒、黒、黒。 いや――そうか。瞳の裏には、いつだってその笑顔があった。 忘れたことはない。この50年のうちに起こった幾多の出来事、そのいつだって俺は目を瞑り、その笑顔を思い出していた。 忘れたことはない。共にすごした二人が先に逝ってしまったときも。 忘れたことはない。俺一人、明かりのない部屋の中で静かに聴く雨音……いつだってその笑顔は俺の中にいた。 MDデッキを持ち出す。お前も、よくがんばってくれた。再生ボタンに手をかけ、目を瞑る。 やがて声が流れ出し、俺は深い哀感に駆られるだけ―― 「キョン、聴いてるかしら? 聴いてなかったらぶん殴るわよ! ……聴いてるわね? あたしはたぶん……たぶんそのときには死んでると思うわ。ま、まあ、生きてたら物凄い恥ずかしいけどね! そのときは知らないフリをしてね? しなさいよ絶対! それからキョン以外の人が聴いてたら……今すぐ止めなさい! 団長命令よ! ……ごほん。ええと……そう……キョン。キョンには、伝えなきゃならないことがあるわ。 ううん……あたし……ね、キョンのことが……好きだった。たまらなく好きだったの。今更だけどさ。 あんたが一緒にSOS団を作ってくれたとき、あたしすごい嬉しかった。 まあ、強引にあんたを連れ込んだってのもあるけどね。そこは気にしなくていいわ。 あんたと過ごす一日一日が、あたしは……げほげほっ……ごほっ……ごめん。あたしは……ああもう、何をしゃべったらいいのかしらね? あたし……キョンと出会えて良かった。キョンだけじゃない、有希やみくるちゃんや古泉君とかと出会えて良かった。 でもね、キョン、あたしはやっぱりキョンが一番好きだった。気づいてた? ずっと好きだったの。どうしようもないくらいに。 でも……断られたらどうしようって……あたし、こう見えて臆病なんだ……あ、今笑ったでしょ! 笑うな! ……だから、今言うわ。キョン……愛してる。あ……ごめんね、こんな形で。あたし、メールとか電話で告白する人嫌いなんだけど、まあMDで告白する人はいないだろうから大目に見なさい! ……ごめんね、キョン……死にたくないよ……あたし、まだキョンと一緒にいたい。たくさん遊びたかったし、遊ばなくてもいいからずっとキョンと一緒にいたかった。 この際だから言うけど……あたし、前にキョンと校庭で、その……キスする夢を見たことがあるの。ば、馬鹿にしないでよね! ……嬉しかったんだから。 あの朝、キョンがあたしの髪型を『似合ってるぞ』って言ってくれた時、あたし泣きそうだった。嬉しくて仕方なかったの。 あたし……だめ……涙が止まらないよ……好き……キョン…… ……ぐす………………すん…………………… ……でもね、あたし、幸せ者だわ……キョンが好きなままで死ねる。 幸せ者のままで死ねるから、幸せ者だわ…………ごほっげほっ………… …………キョン、もうさよならだわ……キョン、あたしのこと忘れないでいてくれる? 10年経って20年経って、お爺さんになっても。ずっとあたしを覚えていてね……。 キョン、大好き。じゃあね……」 耳に障る機械音でMDは静かに、止まった。 さよなら。忘れない。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5844.html
涼宮ハルヒの遭遇Ⅴ 俺たちは為す術なくただ巨人たちの破壊活動を見つめるしかできなかった。 あの巨人の破壊活動は、この世界を拡張している―― 古泉はそう言っていた。 拡張していき、やがてはポニーハルヒの世界と入れ替わる。 で、その後はどうなるってんだ? 俺と長門はその世界で生きていくのか? いや、もしかしたらその新世界では俺と長門は今の俺たちじゃなくなってポニーハルヒの望む俺と長門になるのかもしれん。 新世界には当然、ハルヒ、俺、長門、古泉、朝比奈さんはもちろん、谷口や国木田、鶴屋さんに阪中、消えちまった朝倉だっているだろう。 しかしそれは俺たちの知るそいつらじゃないんだ。 ましてや俺と長門は記憶を書き換えられてしまう可能性がある。 「どうする?」 「……」 問いかけてきたのは俺の隣に佇む長門だ。もっとも俺は三点リーダ沈黙しかできないがな。 ちなみにポニーハルヒはというと俺たちのやや前で、肩越しに覗く表情はどこか羨望の眼差しで青白い巨人たちに視線を向けているんだ。 どうやら何となくポニーハルヒには分かっているようだ。 あの巨人たちの破壊活動の先に何が待っているのかを。 そう言えばハルヒも以前言っていたな。 ――この世界だっていつまでも闇に包まれているわけじゃない。明日になったら太陽だって昇るわよ。あたしには解るの―― 今更ながらそれを思い出す。 ふっ、そうかそうかこれが三つ目の選択肢じゃないか。 俺と長門は本人なんだけど別人になって新しい世界で生きる―― 「って、そんなこと認められるわけがないだろう!」 「キョ、キョンくん……!?」 いきなり声を荒げた俺に、仰天して振り返るポニーハルヒ。 「あー悪い。ちょっと考え事してたら思わず」 「そ、そう?」 取り繕った苦笑を浮かべる俺だが、ポニーハルヒの戸惑いにも似たびっくり眼はまだ崩れていない。 つっても俺が何を考えていたかを言うわけにはいかんがな。 「ねえキョンくん、部長」 「ん?」 しばしの沈黙の後、今度はポニーハルヒがどこか楽しげな笑顔を浮かべて少しターンしながら俺たちに問いかけてきた。 「ここって不思議な世界だね」 まあな。 「こんな世界、マンガとか小説とかテレビの中だけだと思ってたんだけど」 それを言ったらパラレルワールドもそうなんじゃないかと思えないこともないぞ。 「そうなんだけどさ。でもね、あたしの住む世界と、キョンくんや部長の住む世界にはそこまで変ったところはなかったじゃない。何て言うのかな? 物理法則を揺るがすところもファンタジックなところもなくて単なる間違い探し程度の差しか」 言われてみればそうかもな。確かに性格的な違い以外はそこまで変わったことはなかった。 「楽しい?」 「ちょっと」 長門の無感動の問いに、なんだか感慨深げに答えるポニーハルヒ。 「だって、あたしは物語を創るのが好きだから。だからこういうファンタジーには憧れちゃう」 ポニーハルヒはなんとなくちょっと自嘲した照れている表情を浮かべている。その背後ではあの巨人どもが破壊活動に勤しんでいるわけだからなんだか俺の目にはポニーハルヒと巨人たちで別世界にいるような錯覚を受けるぞ。 しかしなんたってポニーハルヒはこんな話を? ……って、解りきったことじゃないか……俺と長門の『ポニーハルヒの知っている俺と長門化』の一環だ。 自分のことを俺たちに植え付けておいて記憶を書き換えようってことだ。 もっともポニーハルヒにそんな自覚はないだろうけどな。単なるこの世界の自分の感想を言っているに過ぎないつもりでしかない。自分のことを話すのもその延長線上のものだ。 だから無碍に打ち切るわけにもいかんぜ。なんたってこのハルヒの機嫌を損ねる――じゃないな、言い方を変えて精神状態を不安にさせるような真似を仕出かせばそれこそ俺たちはどうなるか分かったもんじゃない。 まだ自我が失われていない以上、そうならないような最善策を取らなきゃならん。 「てことは何だ? UFOやファンタジーの世界、悪の組織と戦う超能力者や辛く苦しい今を変えるために未来から来訪者が現れるとかそういった話も作るのか?」 俺はどこか苦笑を浮かべて聞いてみた。 「うん。あたしは、端的にたとえるけど、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいるといいなって思っているから。でも現実はそうじゃない。だから物語の中にあたしの気持ちを込めて創るの。でも最近はちょっと日常的な話が増えてきたかも。 ただ、それはキョンくんのおかげ。あ、ちょっとごめんだけど、あたしの住む世界のキョンくんよ」 気にしなくていいぜ。別に俺は何もしちゃいない。 「でも向こうの世界で、今作っていたお話は久しぶりにファンタジックなものだったの。その途中でいきなり……」 ん? ちょっと待て。ひょっとして君は俺たちの世界に来てしまう前にそういう話を作っていたのか? 「あ……うん、今作っているお話ってパラレルワールドもので違う世界同士の主人公とヒロインの恋愛ものっぽいものを……」 ポニーハルヒはちょっと照れて恥ずかしそうな笑顔を見せているのだが……そう言えば、以前、俺だけしか知らない世界の内気な文芸部員も俺にパソコンの中身を見せるのを躊躇ったし、逐一、後ろから監視していたな。自分の作った小説を見られるのが恥ずかしくて。 あれと同じってわけか。 あっそうか。 どうりでこのハルヒが俺たちの世界に来ることはできても帰ることができなかったはずだ。 ったく、一生懸命なのは悪いことではないが、あんまりのめり込み過ぎるなよ。 つまり、ポニーハルヒは自分の作る物語の主人公だかヒロインだかに成りきって書いていたんだ。そりゃハルヒの能力を考えたら空想の世界であったとしても本気で『在る』と想像してしまったら別世界に飛ばされちまうだろうぜ。しかもパラレルワールドなわけだからたまたま俺たちの世界に来てしまったんだ。 もし、向こうのその場に俺と長門がいたならさぞかし驚いたことだろうよ。なんたって、目の前でいきなりポニーハルヒが消えたはずだからな。 んで、途中ってことはまだ主人公かヒロインを元の世界に戻す方法を考えていないってことだ。ほどほどにしとかないと大変だぞ。 「涼宮ハルヒに聞きたいことがある」 長門? 「何ですか?」 「あなたはこの世界をどう思う? また元の世界に戻りたいと思わないのか?」 どういうことだ? なぜ長門がこんな質問を? 「う、うん……できるなら元の世界に戻りたい……でも、この世界も悪くないんじゃないかと思えないこともなくて……」 「この世界にあなたの知る私と彼はいない。本当にそれでもいい?」 「長門お前!」 さすがに俺が非難めいた声を上げるのは当然ってもんだ。 なぜなら長門だってポニーハルヒの精神状態を不安定にさせる真似なんざできるわけがない。 にも関わらず今の言い方は何だ? 「そ、それは……」 ポニーハルヒがとたんに表情を曇らせる。 まずい……絶対にやばい…… 「ん?」 が、俺はこの世界の別の変化に気がついた。 何と言うか……音が消えたんだ。 ふと辺りを見回せば青白い巨人たちが動きを止めている。破壊活動を休止しているんだ。 それがなんだか俺の目にはなんとなく巨人たちが破壊活動を躊躇っているように見える。 まさか――! 長門が狙ったのはこれか! 確かに巨人どもが破壊活動を停止すれば世界の拡大を止められる。新世界創造を引き延ばすことができる。もっとも文字通り時間稼ぎでしかないがな。 「で、でも元の世界に戻れそうにないし……キョンくんや部長に会えないくらいなら別世界に行ってしまったって……」 「それは嘘。あなたの本心ではない」 「ぶ、部長……?」 「なぜなら、もしあなたの言っていることが正しいとするなら私と彼もここにはいない」 あ――! 「あなたが望むのは我々ではないはず。だからあなたは元の世界に戻りたいと思っている」 そうか――長門が何を言いたいのかが解ったぞ―― 「それは我々も同じ。我々も我々の住む世界に帰還したいと望んでいる」 長門の本音を聞いたのは久しぶりな気がするな。あの『また図書館に』を彷彿とさせる言い回しだ。 そして俺は俺のすべきことを今、理解できた。 そうさ。長門はポニーハルヒに本心を自覚させて、そして俺たちの気持ちを言ってくれたんだ。 だったらここからは俺の出番だ。 そしてそれは俺でなければならないんだ。なぜなら、去年の五月、この世界から帰還を果たしたのは俺だ。俺でなければハルヒに教えられないことがあるんだ。 三つあった選択肢。 結局のところ、答えは去年と同じだ。もっとも能力を自覚させる必要はないがな。 俺は静かにポニーハルヒへと近寄り、その肩に優しく手を乗せる。 「キョンくん……?」 俺を見上げるポニーハルヒの瞳は不安でいっぱいだ。 ううん……こんな瞳を見せられてはキスはおろか、こうやって肩に手を乗せることですら悪いことをしている気分になってくる。 「なあハルヒ」 それでも俺は毅然と切り出した。 「長門の言う通りで、君は本当にこの世界に行ってしまっていいのか?」 「え……?」 「確かにこの世界だって朝が来れば日は昇る。いつもの日常が始まることだろう。しかしだな。それは君の知る世界ではないし、俺たちだって君の知る俺たちじゃない」 ポニーハルヒは黙って聞いてる。というより、なんとなく怯えが声を発せられなくしているように見えなくもない。 「本心から望むんだよ!」 俺は声を大にして言った。一瞬、ポニーハルヒがびくっとなったがその罪悪感を抑え込んで続ける。 「君が本当に望む俺を! 俺たちがここにいるのは君が望んだからなんだ! 元の世界に戻れないかもしれないと考えた君がせめて別人だけど本人でもある俺たちを連れて行こうと考えたから俺たちはここにいるんだ!」 「そんな……そんな夢物語があるわけないじゃない! だからあたしは……!」 「だったら試してみてくれよ。それで本当に『俺』が現れないなら、俺と長門は喜んで君についていく。この世界で暮らしたって構わない。記憶を書き換えられたっていいさ。だから試してみてくれ」 「キョ、キョンくん……」 俺は真摯な瞳でポニーハルヒを見つめる。しかしまだポニーハルヒの表情は半信半疑だ。 「考えてもみろよ。こいつは夢の中と同じなんだ。さっき、自分で言ったじゃないか。『宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいるといいなって思っているけど現実はそうじゃない』ってよ。 てことは今、現在、俺たちが直面していることだって現実じゃない夢の中ってことになるじゃないか。現に俺も長門も君の知っている俺たちじゃなかったんだから。夢の中なら何でも叶うんだぜ。本気で願えばな」 「う、うん……」 ポニーハルヒがどこか泣きそうな表情のまま俯くのを見てとれて、俺はようやく彼女の肩を離した。 ひょっとしたら結構力が入っていたかもしれないな。 痛かったらすまん。 「ううん。いいの……この痛さはキョンくんの本気の証……だからあたしも信じる……これが夢なんかじゃなくて現実だとしても……」 再び見上げてくれたポニーハルヒの表情には笑顔が戻っていた。 そして即座に俺たちに踵を返して校舎の方を眺める。 もしかしたら目を伏せて祈祷しているのかもしれんが俺に確かめる術はない。 なぜなら、もう俺と長門はポニーハルヒの傍に行ってはならなくなったからだ。俺と長門はポニーハルヒも俺たちも元の世界に戻れるように願った。それは言いかえればポニーハルヒとの決別を伝えたことでもあるんだ。 だから近寄る資格はない。そして彼女ももう振り返ることはないだろう。 というわけで彼女の傍に行くことを、彼女の表情を見ることを許されるのは―― ふと気が付けば、 そこには見慣れた古ぼけた自室の天井が見えた―― ~エピローグ~~~ 「ねえキョン、あの子、帰っちゃったのかな?」 「かもな」 ハルヒが窓の外を眺めながら物憂げにつぶやき、俺は団長席に座ってパソコンをいじくりながらやや曖昧に相槌をうっていた。 場所は月曜、放課後の文芸部室。 もちろん、長門はいつも通り窓際でハードカバーを読みふけているし、朝比奈さんも古泉もいる。 ただ今日は珍しく古泉のボードゲームの相手を務めているのは俺じゃなくて朝比奈さんだ。 もっとも、三人とも俺たちの会話に耳を立てているけどな。 「仕方ないだろ。パラレルワールドの出入口なんてそうそう見つかるものじゃない。仮に見つけたとしても開きっ放しとは限らん。だったら見つけてすぐ向こうの世界に行ってしまうのは自明の理だ。俺たちに挨拶なしだからって彼女のことを悪く思うのは良くないぜ」 「分かってるわよ。そもそもあの子はあたしなんだから、あの子の考えていることくらい、あんたよりも解るんだから」 「そうかい」 俺は苦笑を浮かべて返しつつ、不意に勝手に無意識に指が左クリック。 別にそこにmikuruフォルダがあったわけじゃないんだがな。かと言って画面に何かが表示されるわけでもない。右クリックなら意味のないボックスが表示されるが。 それにしても、こう元気のないハルヒでは、なんとなくこっちも調子が出ない。 てことで、俺はハルヒに元気を取り戻そうと話を変えるためのネタふりをやったわけだが、なんとも学習能力のない自分が嫌になる。 映画撮影のときに死ぬほど後悔したじゃないか、おい。 もうちょっと言い方ってものがあんだろ? このときの俺。 などと、後から自分に突っ込みを入れまくったことをやってしまったのだ。 「そう言えばハルヒ。さっき古泉に聞いたんだが、機関誌を作るんだってな」 その言葉を聞いた途端、物憂げだったハルヒの瞳に輝きが戻ってくる。 マズった……こいつ、忘れてやがったんだ…… 「そうよ! キョン! あの子のことがあったんで完全に後回しにしてしまってたんだけど、先週の金曜に決めたんだったわ! んじゃあちょっとどいて!」 とと。 言うや否や、ハルヒは団長席に座っていた俺を押しのけて机の上に何やらノートの切れ端を四枚準備する。 「こらキョン! こっち覗いちゃダメだからね! 今、各自、書いてもらうテーマのクジを作るんだから!」 ハルヒの爛々とした好戦的な笑顔に撃退されてすごすご引き下がる俺。 って、あ。 無意識にいつもの場所に座ろうとしたところ、そこには先約がいたんだったな。 「んあ!」 「あーすみません! 朝比奈さん!」 意図せず朝比奈さんのお膝の上に腰かけてしまった俺の重みを感じた朝比奈さんが何やら甘い悲鳴をあげておられます。 むろん、ハルヒがそれを見咎めないはずがない。 「何やってんのキョン! セクハラは重罪なのよ! とびっきりの罰を――!」 一足飛びに一瞬で俺に突っかかってきたハルヒなのだが越えてしまった場所がまずかった。 がしゃん しーん。 何かの絶望的な軽い破壊音に文芸部室が沈黙に支配される。 もうお分かりだよな。 団長席にあったパソコンのモニターが机から落ちたんだ。 「あ~~~~~! キョン! なんてことを!」 って、それは俺の所為じゃねえだろ!? お前が横から回ればいいものを机を飛び越そうとするからそうなったんじゃないか! 「うるさい! あんたがみくるちゃんにセクハラかまさなきゃこんなことにならなかったのよ! 責任とってあんたはこの小説を書くこと! 決定だからね! それとあんたのノートパソコンはしばらくあたしが使うから! あんたはそっちのワープロ使いないなさい!」 思いっきり怒りの表情で俺に一枚のくじを突き付けるハルヒ。 つか、ちょっと待て。ひょっとしてお前、俺にこのテーマの小説を書かせるためにわざとモニターを壊したんじゃないだろうな? などとツッコミを入れたくなるテーマがそこには書かれていた。 ん? 何が書かれていたかだと? んなもん禁則事項だ! 人に言えるわけがない! かと言って一度、これと決めたらハルヒが覆すわけもなく、俺の拒否権は発動されないまま、しぶしぶ俺は古ぼけたワープロを開いてスイッチオン。 できればこのワープロが壊れていることを願いつつ作動するかどうか確かめたわけなのだが―― 「ん?」 そこに映し出された画面には文章が既に浮かんでいた。 まあ確かにワープロはパソコンと違って電源を付ければ前の画面が残っているものなのだが…… 「どうしたの?」 「いやな、前の文芸部員のものだと思うんだが小説っぽいものが浮かんできてな……」 いぶかしく声をかけて来て俺の隣から画面を覗き込むハルヒに、やはりいぶかしげに答える俺。 ふと気がつけば俺の後ろから古泉、長門、朝比奈さんがワープロの画面を覗き込んでいる。 「随分長いお話ですね」 「でもどこかで見たような……」 「既視感」 古泉と朝比奈さんと長門もまたいぶかしげな声をあげていた。 まあ確かに長い。あと、いったい誰が書いたものかは分からんが…… 「って、ちょっと待て!」「何これ!?」 クライマックスのところで俺とハルヒの驚嘆の声が重なり、 「これはこれは」「ふわぁ」「ユニーク」 なんとなく面白がっている俺たち以外のSOS団の声が届く。 んで、エピローグ後、その末文にはこう書かれていた。 『キョンくん、そっちのあたし、長門部長、そして古泉さん、朝比奈さん、今回は本当にお世話になりました。 これはほんのささやかなお礼です。SOS団の皆さんとそっちの世界のキョンくんとあたしを見ていて思いつきましたのでみなさんを元にしたキャラクターを登場させてお話を作りました。突貫工事なので誤字脱字、ストーリー構成には目を瞑ってください。 あ、でもこれじゃお礼になっているかどうか分かんないですね。 ただ、なにやらそっちのあたしが機関誌を作るって言ってたのでこのお話を、できればあたしかキョンくんが作ったことにしてもらえませんか? だって、あたしのことを夢にしてほしくありませんし、あたしも皆さんとの出会いを夢にしたくありませんから。 またいつか、皆さんと再会できる日が来ることを。 今度はこっちの世界のキョンくん、長門部長、古泉さん、朝比奈さんも一緒に連れていけたらな、と思ってます。 涼宮ハルヒ』 俺は即座に長門に視線を向ける。 ポニーハルヒは土曜と日曜の境に帰ったと思っていたんだが、これが書けるとすれば昨日しかないわけで、元の世界と向こうの世界の出入口を繋げたままにできる奴がいるとすればそれは長門しかいない。それも二人がかりなわけだからどうとでもなるのは自明の理だ。 もっとも閉じてしまえば扉も消えていかに長門と言えどどうにもできないだろうが、留めておくなら話は別なのだろう。 んで、その長門は俺が視線を向けた途端、珍しく俺から視線を逸らしてやがった。 「どうされたんです? 目を逸らしたということは何かこのお話に思い当たることでも?」 黙れ古泉。俺が長門に視線を移したことをハルヒに悟られないようフォローしてくれたことには感謝するが、思いっきりニヤニヤしながらではその感謝の意も地平線の彼方に吹っ飛ぶってもんだ。 「でも本当によく出来てますね。あたしたちもよく表現されてますし、この主人公さんとヒロインさんもキョンくんと涼宮さんそっくりです」 「み、みくるちゃん! 何言ってんのよ! あたしとキョンがこんなこと! というかこれが現実的にあるわけないじゃない!」 そんなハルヒの狼狽風言い繕いを聞きながら、俺は古泉から視線を逸らし続けていた。 何? どんな話が書かれていたかだと? 知ってどうする? んなもん、特筆すべきことじゃない! 「彼女は世界が違う故、知らなかったと思われる。しかし、あの涼宮ハルヒが残していったSSは、『涼宮ハルヒの憂鬱』そのものだったのである」 って、ながとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 涼宮ハルヒの遭遇(完)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1843.html
涼宮ハルヒの日記 今日は、日曜日。 どうせみんな暇だろうと思って電話してみたけど古泉君は、 『すみません、今日はどうしても外せないようじがありましてそれではまた明日学校で、では失礼します』 なんというか古泉君らしい丁寧な口調で電話をきった。 で、みくるちゃんは『あっ、涼宮さんどうしたんですか?』と言ったので今日いつもの所にこれるか聞いたら『今日は、…ごめんなさいお買い物に行くから…ごめんなさい今日は行けません・・・』 みくるちゃんらしい言い方で電話をきった。明日学校でバニーの服を着せて門の所に立たせてやる「SOS団をよろしく~」とでも言わせながらあたしも一緒に 有希にかけたら『・・・・・・・・・』無言だし今日いつもの所にこれるか聞いたら『今日は無理』理由を聞いたら『今日は、お買い物』といって無言になった『そう、じゃ明日学校で会いましょ』そういって電話をきった 残るのは 『あっキョン今からいつものとここれる?』 『これるっていったいなにをする気だ?』 『いいからこれるの?これないの?』 『行けるかどうかと言われれば行けるが・・・』 『そ、じゃ2時に集合ね、遅れたら罰金だんねっ!』 『はいはい』 キョンは、予定も無く空いていた、そうと決まればさっそく着替えてしたくしていつもの所にいかなきゃ。 なんたって今日は、今日は、 キョンとデートなんだもん! 会ったらなにから話そう…いっそのこと告白でもしてしまおうか。 いや、SOS団の今後のことや夏休みのことでも話そうか。 なんだろう、話したいことがいっぱいありすぎてわかんないや とりあえず今日は、キョンとデートなんだし時間もある。 いそがないとキョンが先に着いてるかもしれない そう考えながらいつもの『所』に急いだ。 キョンの日記 さて今の状況から説明せにゃならんことに代わりないので説明するが、 えーただいまハルヒとデート中である。 集合場所に着くなり 「今日の予定変更」 「おいまて予定変更っていったいなにをするつもりだ?」 「なにって・・・・デ・・デー・・・」 「言いたいことがあるなら頭の中で整理してからいえ」 「じゃあ一回しか言わないからよく聞きなさいよ」 なぜかハルヒは大きく深呼吸してから三文字の単語を発した。 「だからデ・・・デートしようってぃって・・・」 「最後何言ったかよく聞こえなかったがなんていった?」 「だからデートしようって・・・いってんでしょ!」 一瞬、いやかなりの時間がたったか、今ハルヒはなんて言った?デート?あのハルヒがか? 「恋愛感情なんて一種の精神病の一種なのよあんなもんに時間を費やす理由を教えて欲しいもんだわ」 なーんていっていたハルヒがデート?ホワイ?なぜ? 「何よ・・・もしかして嫌?」 「いーやべつにかまわんが」 「じゃあきまりねっ!」 ハルヒは、100ワットはありそうなとびきりの笑顔を俺にむけ何処にいくかをいつもの溜まり場である北口前の近くにある喫茶店、とわ言っても毎回財布が軽くなっていくのが悲しい。 「遊園地?水族館?それとも…」 「おまえは何処にいきたいんだ?」 「遊園地!」 そうしていそいそ電車に乗りちょうど眠たくなってくる30分間を何とかのりきり隣町、とわ言っても乗り換えを二回もして2、30分ばかし歩いていかにゃならんとーい所にあるでっかい遊園地だ(隣町じゃなくて他県にある遊園地だ、クソなんで市内に造らなかったんだいまいましー) 「ほら、キョン早く早く!」 「待てよっ!」 券を買って中に入るととんでもない数の人がうごめいていた。 「これだけ混んでると進みにくいわね…」 ふと後を見てみると「最後尾」とかかれたプレカードを掲げている人をよく見ると 古泉がそこにいた。 「あっ古泉君じゃない?こーいずーみくーん」 「おや、どうなされたんですか?涼宮さんそれと…」 そのにやけた顔をこっちに向けるな。 「それより古泉君何してんの?」 「バイトですよ」 「バイト?」 胡散臭い事ぬかすな何かある絶対に何かある。 「ふーんじゃバイトがんばってね」 ハルヒが歩きだしたので着いて行こうとしたら 「涼宮さんと何かあったんですか?」 「どうもこうもいきなり呼び出されたかと思ったらこの通りだ」 「デート・・・ですかまぁ涼宮さんらしい誘い方じゃないですか」 「どこがだ」 「つまり涼宮さんはあなたとデートをしたっかたとよめますね、ですがそのままデートの誘いをする訳にもいかないと思ったんでしょうあなたが今日誘われた理由わなんですか?」 「いきなりこれるかどうかを問われたが」 「涼宮さんもあなたに断られるのが怖かったんでしょうだからいけるかどうかだけを聞いてきたそして希望通りの回答が帰ってきた…まあこんなとこでしょう」 「すなおにデートならデートっいえばokしていただろうに俺だって反対ばっかしてるワケじゃないってのによ」 「そこに乙女心が作用したんでしょう」 「こらっーキョン早く行くわよ!」 「それでわどうぞデートの続きをおたのしみください」 「そのまえに一つきいておく、今回は『機関』とやらは関係ないんだな?」 「ええまったくかんけいないですよ」 「じゃバイトせいぜいがんばれじゃな」 「・・・・こちら古泉ターゲットがそちらにいきました」 『了解。引き続きターゲットの動きに注意せよ』 「はい、わかりました、」 「キョン!早くしなさい!観覧車はすぐに混んじゃうだからね!」 「もう混んでるぞ」 「え…もうっキョンご早く来ないから混んじゃったじゃない!」 「古泉と話ていた時間は五分もかかってないぞ」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3571.html
さて、今現在俺はとある病院のベッドに寝ている。 左腕と左足はガッチリとギプスで固められており、当たり前だが全く動かせない。ある意味左半身不随である。 と、ここまで表現すればもう俺が左腕と左足の骨を折ってしまったということは理解していただけるだろう。 とりあえずここまでの経緯を簡単に説明することにする。 事の始まりはハルヒが階段で足を滑らせたことだった。 ハルヒより数段下にいた俺はハルヒの悲鳴に驚いて後ろを見た瞬間に足をすくわれ、 そしてハルヒもろとも下の階まで転がり落ち、気付けば腕と足がポッキリと逝っていたというわけさ。 そりゃまあ、怒りの感情も少しは湧き出てきたが、あのハルヒに泣いて謝られたら誰だって許さざるを得ないだろう。 ただ、ハルヒも右足を折ってしまい、同じ病院に入院している。いや、同じ病院と言うと範囲が広すぎるだろうか。 「ねぇキョン、暇なんだけど、なんかおもしろいことない?」 何故か同じ”病室”の隣りのベッドにいるわけだからな。 ~キョンとハルヒの入院生活~ 不定期保守連載始まるよー\(^o^)/ *** 「ところでさ、あたしたちが一緒の病室にいるのっておかしくない?」 そう言われてみるとそうだよな。 「男女を同じ病室に入れておくなんて普通じゃ考えられないわ。この病院PTAに目つけられるわよ」 PTAはどうか知らんが普通じゃないってのには同意見だ。とりあえずナースコールでもして抗議するか。 「えっ・・・・・・ちょっちょっと待って!」 どうした?お前だって俺なんかと一緒の部屋に入ってるのは嫌だろ。 「えっと、あのー、うーんとわざわざナースコールしてまで部屋分けなくてもなーって」 じゃあ次に誰か来たら言うか。 「いやいいの!別にこのままでいいから!キョンも言うのめんどくさいでしょ」 別にめんどくさくは・・・・・・ 「だーかーら!このままでいいって言ってんの!」 結局ハルヒのよくわからない意見に強引に賛同させられることとなった。やれやれ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「きつね」「ねこ」「古泉」「人の名前もいいの?みくる」「ルーマニア」 さてハルヒが暇だ暇だとうるさいので定番のしりとりをやっているわけである。 「アジア」「アイス」「ス?・・・・・・ス・・・す・・・」 スは悩む所じゃないだろ。スイカでも酢昆布でもなんでもあるだろうに。 「す・・・・・・す・・・・・・すき・・・・・・」 あ、悪い、聞こえなかった。 「・・・・・・スキー!スキーって言ったの!」 急に大声を出されて驚いた。ハルヒ、聞き取れなかったのは悪かったが、何もそんなに怒らなくても。 「いいから早く次!」 あー、この場合キなのかイなのかどっちなんだ? 「あーもう!バカキョン!飽きた!寝る!」 いや、まだ夕方の5時なんですけど・・・・・・ キョンとハルヒの入院生活保守 *** 本当に5時から寝てしまったハルヒは案の定夜中に眠れないとか言い始めた。 そして結局またしりとりをやっているのである。もう就寝時間は過ぎてるし寝たいんだが・・・・・・ 「タンス」「スイカ」「傘」「酒」 「け」か・・・・・・うーんなんだろうな。眠いから頭がちゃんと働いていないな。 「・・・・・・そうだなハルヒ、『結婚しよう』でどうだ。」 「え?ちょっちょっとキョン、いきなりなに言うのよ!」 「本気だぞ?」 「・・・・・・」 「ほらしりとりの続きだ。『う』からな。」 「・・・・・・『うん』・・・・・・」 「『ん』が付いたぞ。俺の勝ちだ。言ったもん勝ちってとこだな」 「・・・・・・負けたわよ。キョンの優しさにね」 ・・・・・・毛糸。ほら『と』だハルヒ。・・・・・・ハルヒ? 見ると、さっきまで眠れん暇だと騒いでいた団長様がすやすやと寝息を立てているではないか。 しかもどんな夢を見ているのか知らんが、ニヤニヤと笑いつつ涙を流して寝るという曲芸を披露している。 まったく、わがままなお姫様だこと。 おやすみ、ハルヒ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** さっきからハルヒのベッドから聞こえてくるカチャカチャという音は、さっき古泉が持ってきた ルービックキューブの音である。確かに暇つぶしには丁度いいだろう。他人に迷惑をかけないしな。 たまには褒めてやろうじゃないか。グッジョブ古泉。 ・・・・・・まさか1時間やって1面もできないとは思わなかったが。 こりゃ相当イライラしてるな。古泉も計算外だっただろう。・・・・・・閉鎖空間が発生してないといいが。 しょうがない。実はルービックキューブを40秒で6面完成させられる俺が助け舟を出してやろう。 どうやら1面のうち8つは揃っているようだ。こうなりゃ後は簡単だな。 ハルヒ、まずはその右の面を奥に回すんだ。 「・・・・・・」 お、回した。今日はやけに素直だな。じゃあ次は前後の真ん中の奴を右に回す。 で、さっきどかした奴をそこに入れて、あとは戻せば 「できたー!!!!! キョン、ありがと!」 今一瞬ドキッとしたのはハルヒの反応が思ったのと違ったからだぞ。 間違ってもその100Wの笑顔にときめいたわけじゃないからな。 「・・・・・・ねえ、キョンってもしかしてこれ得意?」 ああ、実は得意なんだなこれが。 「・・・・・・だったらもっと早く教えてくれたっていいじゃない・・・・・・」 すまんな。また詰まったら言ってくれよ。 「今日はこれはもういいわ。なんかおもしろいことない?」 やれやれ、結局俺が話し相手になるのか。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 次の日、どうにか片手でルービックキューブができないだろうかと思っていると谷口がやってきた。 来なくていいのに。 「お前せっかく人が心配して来てやったというのにそれはないだろ」 冗談だ冗談。 しばらく3人で適当に世間話をした後、谷口は俺に耳打ちしてきた。 「ところでお前アッチのほうはどうなってる?」 アッチ? 「そろそろ溜まってきた頃じゃねえか?」 溜まる?ああストレスか。 別に溜まってはいない。ハルヒが相手してくれるしな。 「・・・・・・お前、今何と言った?」 いやだからハルヒが相手してくれてるから問題ない、と。 「お前らいつの間にそこまで・・・・・・しかも病院で・・・・・・ナントカ病棟みたいな名前のゲームのやりすぎじゃねえのか?」 何のことだ。 「ちょっと涼宮にも話聞くわ・・・・・・」 と、谷口は向こうのベッドに近づいた。なにやらボソボソと話しているのが聞こえる。 「はあ!?アンタバカじゃないの!?」 「あっちょっと痛い痛いちょっやめルービックキューブは痛いってやめろって角は危ないって」 ガンガンという音が生々しい。 「ちょっとバカキョン!谷口に何喋ったのよ!」 そもそも俺はたいしたことは話していない。谷口はどんな勘違いをしたんだ? ハルヒは顔真っ赤だしさ。 谷口がこぶだらけになって帰ったあと、俺はトマトのように真っ赤になって怒っているハルヒを眺めつつ、 無残にもバラバラになってしまったルービックキューブをどうやって修復しようかと考えていた。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「どうもこんにちは。元気にしてるかな」 今日はなんかどっかで見たような気がする男がノートパソコンを抱えて来た。 「アンタ誰だっけ?どっかで見たことあるんだけど」 「コンピ研の新部長になった者でして」 ああ、どうりで見たことあるわけだ。なんだかんだで関わりはあったからな。 「で、コンピ研があたしたちに何の用?」 「そ、そんな怒らないでくれよ。暇してるって言うからこれを持ってきてあげたんだ」 そう言うと、新部長殿は持っていたノートパソコンを一台ずつベッドの横の棚に置いた。 「長門さん直々に頼まれちゃこっちも断れなくて。あとこの病院無線LAN付いてるらしいね、珍しい」 「有希が?ふーん・・・・・・まあ、アンタもSOS団コンピ研支部のメンバーなんだからね。 これからも団長に気を遣うようにね」 こらハルヒ、また先輩に向かってそんな態度で・・・・・・いやなんかもう本当すいません。 「いや、いいんだよ。もう慣れたからね。でも本当に素直じゃないね、君の彼女」 場の空気が凍った。 「なななななんであたしがキョンなんかの彼女なのよ!!!」 「えってっきりそうだとばかり」 「この!オタク!オタク!」 「いやオタクは否定しないけど、痛っ痛いなんだこれ!?」 それはバラバラになったルービックキューブです。片付けるのは俺です。 「こここここはひとまずたいさーん」 最後まですいません。今度謝らせます。 ハルヒもそんな顔真っ赤にして怒らなくてもいいじゃないか。 「・・・・・・バカキョン」 何がだ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 今日は俺とハルヒが入院してから最初の土曜日である。自分がこんな状況にあるにも関わらず当たり前のように SOS団を招集するハルヒはどういう思考をしているのであろうか。たまにはメンバーを休ませるなり 自分も休んだりすればいいものを。 まあいいか。古泉と話したいこともあったしな。 「んーなにこれ?ウォーリーを探さないで?」 「あのキャラを探すゲームですか?やってみましょうよ」 とりあえず女子3人組をパソコンで遊ばせてる間に古泉とこっそり話すことにした。 「この状況では電話でも込み入ったことは話せませんしね。メールも危険ですし」 そうだな。さて本題だが、気になることが一つある。 「なんでしょう」 ハルヒの骨折は例の能力で治ったりしないのか? 「ああ、そのことですか。きっと彼女が望めばすぐにでも治ると思いますよ」 じゃあ何で治ってないんだ、おかしいだろう。 「理由は至極簡単なものですよ。つまり彼女はそれを望んでいないのです」 ・・・・・・もうハルヒの思考について考えるのをやめていいか?まったくついて行けん。 「いい加減にあなたにもわかっていただきたいものですね。ちなみに僕や機関のほとんどのメンバーの予想は あなたが退院すると同時に彼女も退院するというものですが、どうでしょう?」 いやどうでしょうと言われても。どこにその根拠があるのかわからん。 「まったく、あなたらs「っひゃああああああああああ!!!!!!」 突然のハルヒの悲鳴に驚きつつ女子3人組の方を見てみると、相当動揺している様子のハルヒと、 普段と変わらずポーカーフェイスの長門と、・・・・・・そんなハルヒを見て微笑んでいる朝比奈さんがいた。 「・・・・・・な、なによこれ・・・・・・」 「涼宮さんって思ったより怖がりなんですね。ふふふ」 ・・・・・・何があったんだろうか。 キョンとハルヒの入院生活保守with若干黒いみくる 「・・・・・・わたしだけセリフがなかったのでここで言う。『ウォーリーを探さないで』を見るのは危険。気をつけて」 *** 「ほら、これもおもしろそうですよー。見ましょうよー」 「いや、あのねみくるちゃん、そういうのはもういいから、ね?ギャーとか、ね?」 「じゃあ・・・・・・あ、この『信じようと、信じまいと―』っていうの面白そうですね」 「ねえ、なんかそれ怪しくない?ねえってば」 珍しくハルヒが朝比奈さんに主導権を握られている。なんだろう、日頃の復讐だろうか。 「これはちょっと・・・・・・反応に困りますね」 閉鎖空間が出なきゃいいがな。 朝比奈ミクルの復讐~Episode00はかなりの時間続き、その結果ここには相当やつれたハルヒがいる。 結局閉鎖空間が出てしまったらしい。・・・・・・今回は俺は関係ないよな? ちなみに正気に戻った朝比奈さんは謝ってそそくさと帰っていった。まあハルヒにもたまにはいい薬だろ。 その日の夜中のことである。 「ねえキョン、怖い話してあげよっか」 んー?もう俺は眠いんだが。まあ話したければ勝手に話せ。 その後ハルヒは朝比奈さんに無理矢理読ませられたと思われる数々の話を俺に聞かせた。 「どう、怖いでしょ?」 話し手が声震わせてどうする。あと俺はそういうのには耐性あるからまず効かないな。じゃ、俺は寝るぞ。 「えっ・・・・・・」 それともなんだ。まさか怖くて寝れないとかそんなんじゃないだろ? 「・・・・・・っ!そっそんなわけないでしょバカキョン!あたしも寝るから!別に構わなくてもいいからね!」 図星だったようだ。 キョンとハルヒの入院生活保守with若干黒いみくる 「・・・・・・『信じようと、信じまいと―』は怖い話が苦手な人には推奨しない。気をつけて」 *** 「すーすー」 そんなわかりやすい狸寝入りしなくても。ハルヒ、怖いなら別に無理しなくてもいいんだぞ? 返事が無い。ハルヒー、ハルヒさーん、ハールヒさーん、ハルハルー。 「・・・・・・」 ・・・・・・逃げろ!ベッドの下に刃物を持った男が! 「ふぇっ!?きゃっ!!」 飛び起きた反動でハルヒはベッドから落ちてしまった。やはりあの話も読んでたか。てかやりすぎたか。 「・・・・・・誰もいないじゃないのバカキョン・・・・・・いや嘘だってのはわかってた、わかってたのよ」 ハルヒは起き上がると俺をキッと睨んだ。いや暗いから見えないんだけどこうなんというか眼光を感じるんだ。 こりゃ相当怒ってるだろう。ハルヒを怒らせると後が怖いからな・・・・・・謝っておこうか。 ハルヒ、なんというかその、スマン。 「いい」 そんな無愛想な返事しないで・・・・・・えーとハルヒさん?あなたのベッドはこっちじゃなくてあっちですよ? 「べ、別にいいじゃない、あんたは黙って寝てりゃいいのよ」 そう言うとハルヒは俺のベッドに潜りこんできた。そのため俺は反射的にハルヒの分のスペースを空けるように 左に寄ってしまった。なんとまあ流されやすいことだろう。 狭いベッドに完全に二人が乗っかった状態になると、ハルヒは向こうの方を向いてしまった。本当にハルヒの行動は よくわからんが、今俺の右手をハルヒが左手でしっかりと握っているため、もう逃げられないということだけはわかる。 俺のベッドに入ってからすぐに、ハルヒは狸寝入りではない寝息を立て始めた。 逆にこの状況だと俺が寝るに寝られないわけだが・・・・・・やれやれ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 結局一睡もできなかった。 急に寝返り打って顔が近いとか寝息が顔にかかるとか抱きついてくるとか寝息がかかるとか顔が近いとかかかるとか とにかくそんな状況に置かれて冷静に寝られるほど俺は人間(男?)ができていなかったということだ。 さて朝6時。そろそろハルヒを戻さないと看護士さんが来ていろいろアレなことになるから起こそう、うん。 ハールーヒー起きろー。 「・・・・・・うん・・・・・・うーん・・・あ、おはよ」 やあおはよう。すがすがしい朝だね。俺は睡眠不足で倒れそうだよ。 「ねえねえ、んー」 何だそれは。 「おはようのキス」 夢の相手が誰かは知らんが目を覚ませ。 俺はいつかの消失騒動の時のようにハルヒの頬をつねってやった。 「むぐ・・・・・・う・・・・・・え!? きゃっ!」 ようやく起きたか。ハルヒは一度ベッドから落ちそうになったがなんとか立て直した。 「えーっと・・・・・・えー・・・あー・・・・・・なんで・・・・・・キョンの・・・・・・?」 混乱してるようだ。いや昨日お前から入ってきたんだろうが。 「嘘!?・・・・・・あー・・・・・・あー!」 思い出したか。あとそれからな、夢の中でもおはようのキスはないだろ。 「え!?え!?あたしなんか言ってた!?」 そりゃあもうな、どんな夢かは知らんが現実では俺にねだってたぞ。 「うああああああああバカバカあたしのバカ」 ハルヒは顔を真っ赤にして騒ぎながら自分のベッドに飛び込んでいった。片足折ってるのになんという機動力だろう。 とりあえず何とかハルヒを引き離すことには成功したから俺は一眠りしよう。おやすみ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** そして昼の12時頃俺は起きた。 「あ、キョン起きた?ところで何でそんなに寝てるの?」 いやお前が昨日俺のベッドに入ってきたからだよ。 「・・・・・・ふふーん、あたしがそばにいるからドキドキしちゃって眠れなかったんだ?」 認めたくはないがそういうことになるんじゃなかろうか。 「結構ウブなのね」 うるせーやい。てかお前も話してて顔赤くなってるじゃねえか。 「べ、別に赤くなってなんかないわよ!」 おはようのキス。 「うああああああああ」 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「ところでキョンってこの前のテストどんなだったっけ?」 急に俺の古傷を掘り返すようなこと言うな。特に話すことはない。 「戦わなきゃ現実と」 ・・・・・・わかったよ。8教科で*72点だ。(本人の名誉のため一部を伏せています) 「・・・・・・あんたどこの大学入るつもりなのよ・・・・・・しかもこの大切な時期なのに学校休んでるし」 休んでるのはお前が原因だろうが。 「・・・・・・ごめん・・・」 しまった、と思った時にはもう遅く、この病室内にはなんとも居心地の悪い空気が充満していた。 なんとかこの状況を打破する画期的な一言を考えようとするも、慣れてないからか全く思いつかない。 こんなとき古泉がいれば何とかしてくれるんだよな。初めてあいつを頼りたいと思ったよ。 しかし先に口を開いたのはハルヒだった。 「・・・・・・じゃあさ、きっとあたしの方が早く退院するから、そのあと毎日来てキョンに勉強教えてあげる」 え? いやいいよ、大変だろ? 「成績上げないととどこの大学にも入れないで落ちぶれちゃうわ。だからあたしが伸ばしてあげる。決まりね!」 聞いてないようだ。しかし空気は戻ったのでまあいいか。古泉がハルヒと俺の退院は同時とか言ってたしな。 次の日にはハルヒの右足は完治し、その日のうちにハルヒは退院した。なんてこったい。 キョンとハルヒの入院生活保守(ハルヒの入院は終わり) *** 今日はハルヒが学校に行ったのだろう。古泉からすぐに電話が掛かってきた。 『何かあったんですか? 機関はまるで大騒ぎですよ』 いや、一応心当たりはあるんだが・・・・・・ 『教えてください。授業が始まるまでに』 えーと、一昨日ハルヒが俺が成績悪いから退院したら勉強教えてあげるとか言ってたんだ。 『なるほど。ありがとうございます。全て納得しました』 え?納得できたのか? 『やはりあなたはわかっていないようですね。すいません時間がないので。ではまた』 切れた。・・・・・・なんだってんだもう。 キョンの入院生活保守 *** その日の夕方ハルヒは律儀にもやってきた。来なくていいのに・・・・・・とは言わないが。 「毎日来るって言ったでしょ」 そこまで俺の成績悪いことが気に入らないか? 「気に入らないっていうか・・・・・・あんたの将来を考えてあげてるのよ」 将来って、例えば? 「だから・・・・・・成績悪いとろくな大学入れないでしょ? そしたらまともな会社に就職できないじゃない? そしたら稼ぎが少なくなってあたしが――あたしじゃない、あんたの将来の嫁さんが大変じゃない」 嫁?まさか俺に嫁ぎたいなんて思ってる奴いないだろうよ。 「・・・・・・きっといるわよ、あんたを好きになる人」 そうかい、じゃあ現れるまで気長に待つとしますか。 「・・・・・・バカキョン」 はいはいバカですよー平均点*4点ですよー。 「そういうのじゃなくてね・・・・・・」 バカキョンの入院生活とハルヒのお見舞い保守 *** 「どうせあんたは忘れてるだろうから1年の内容から復習ね」 へいへい。・・・・・・えーと、シン60度「サイン」サイン60度が・・・・・・えー・・・・・・ 「・・・・・・わかんないの?」 はい。 「お母様、ハルヒは課せられた使命を遂げることができません、お許しくださいませ」 なんかほんとごめん。 その後のハルヒのスパルタ指導により俺はなんとか三角比を思い出した。 「むしろこれで*4点も取れてたことが凄いわよ」 取れてないぞ。現代文で稼いでたから数学はIIとB合わせて2*点だったな。 「・・・・・・あたしが養うしかないのかなぁ・・・・・・」 バカキョン(学力的な意味で)の入院生活とハルヒの熱血指導保守 *** さらに2時間にも及ぶマンツーマン(男女間でもこれでいいのか?)レッスンにより、何とか中学卒業レベルの 数学を思い出すことができた。これだけ頭使ったのは受験シーズン以来だぜ。 ・・・・・・ってハルヒ、何やってるんだ。 「ギプスに落書きしてんの。定番でしょ」 見ると、よくわからん絵やらSOS団エンブレムやら「私はバカです」やら「平均点*4点」やら書いてある。やめろ。 「足の裏にも書いてあげる。見えないでしょ?」 見えないな。てかやめろ。 「よしっと。じゃ、あたし帰るからね。明日も来るから覚悟しときなさい!」 完全に聞く耳持たずモードに突入した団長様は嵐が過ぎ去るかのように去っていった。やれやれ。 なぜかその後谷口が来た。来なくていいのに。 「その性格何とかしろよお前」 悪い。昔からなんだ。 「とにかく俺はお前らがあれだけ一緒にいたのに少しも進展してなかったのが気になって・・・・・・」 谷口はさっきハルヒが何かを描いたであろう足の裏を見て固まった。 「・・・・・・なんだよしっかり進んでるじゃねえか。あー心配して損したぜ。お前ももう少し鈍感じゃなければな」 何の話だ。お前よりは鈍感じゃないだろう。 「いや、確実にお前の方が鈍感だ。神に誓ってな。俺は気付いてるがお前は気付いてないのが立派な証拠だ」 そう言うとその絵を携帯で撮って帰っていった。あ、病院なのに携帯オフにしてないじゃんあいつ。 ・・・・・・気付く気付かないって、一体何の話だ? そのあと看護士さんにもやたらニコニコされるし、ハルヒは一体何を描いたんだろう。 キョンの入院生活とハルヒの見舞いwith谷口保守 *** 「おはよう、キョンの様子どうだった?」 「どうだったも何も、これ見てくれよ。きっと涼宮が描いたんだ」 「・・・・・・確実に進展してるんじゃない?これ」 「そう思うだろ?でもキョンの野郎が鈍すぎて結局何も進んでないんだよな」 「涼宮さんもかわいそうだね」 「なーに、そのうち涼宮が折れるさ」 「そしたらくっつくね」 「ああああああああうぜええええええええええええ」 「落ち着きなよ谷口にもいつか春は来るよ正直同意見だけど」 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守~谷口と国木田編~ *** 「ハルヒちゃん、今日もキョンくんのお見舞い?」 「あ、はい、あのバカキョンに勉強教えてやらないといけなくて」 「女の勘だけど、きっとあの子にはハッキリ言ってあげないとわかってくれないと思うのよ。 遠まわしに言っても伝わらないというか」 「え?」 「こんなにかわいいんだからもっと自信を持って言っちゃいなさい。はい、ファイト!」 「あっ、えっ?は、はい」 ハルヒは病室に入ってくるなり、足の裏の絵?を黒く塗りつぶし始めた。 「そうよねー、看護婦さんは普通に見れるわよねー、不覚だったわ」 何かぶつぶつ言っている。確かに見てたぞ。そのあと俺の顔を見てニコニコしてたが。あと今は看護士な。 なぜか学校でハルヒにボコボコにされる谷口、という情景が浮かんできたので谷口のことは言わないでおこう。 それくらい人を労わる気持ちは俺にもあるのさ。前回も俺の勘違い?のせいでボコボコだったしな。 「自信を持って・・・・・・自信・・・・・・」 まだ何か言っている。気色悪いぞ。 「キョン」 と思っていた矢先、ハルヒは意を決したように俺の方を向いた。 何だ。 「んー・・・・・・うー・・・・・・」 だんだん顔が赤くなってきた。熱でもあるのだろうか。 「ああダメ!言えない!言えないって!」 何が言えないのかは知らんがそこはもうお前のベッドじゃないんだから暴れるのはよしなさい。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「じゃあ今日は古典ね。予習してた?」 全然。 「ペナルティで一発ビンタね」 聞いてないぞ。 ハルヒが腕を振り上げたので俺は思わず目を閉じた。 叩かれると思ったがいつまで経っても打撃がこない。目を開けてみると顔の横数cmのところで手が止まっている。 「・・・・・・手が動かない」 はい? 「叩けない」 ・・・・・・お前らしくないぞ?コンピ研の部長にドロップキック食らわしたお前はどこ行った? 「っ・・・・・・もういいわ!古典古典!」 何だったんだ。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「そうね、この小テストで高得点出したらご褒美あげるとかしたらあんたもやる気出るかしらね」 出るかもな。 「えーと・・・・・・じゃあ8割以上であたしがほっぺにキ、キスしてあげるとか!」 じゃあそれで頼む。 「えっ!?ちょっと・・・・・・いいの?じゃなくて、突っ込みなさいよ!」 あいにく今は突っ込む気力が無い。というか自分の冗談で自分で照れるな。 「いやだってまさか肯定されるなんて・・・・・・」 それにどうせ8割なんて取れるわけないんだから変わらん。 「・・・・・・じゃあ3割以下で罰ゲームでキス・・・・・・」 うん、まあそれならほぼ確実だろうが・・・・・・なんかお前にメリットあるか? 「・・・いやだから突っ込みなさいよ・・・・・・」 だから照れるなら言うなって。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「涼宮!キョンが大変だ!」 「えっ!?本当!?」 「今電話が掛かってきて・・・・・・容態が急変してちゅうちゅ、集中治療室に運び込まれたって」 「・・・・・・あたし行ってくる!」 「え?あ、ちょっと」 「どうしよう国木田、涼宮の奴冗談本気にして授業ほっぽらかして行っちゃったぜ」 「流石に言って良い冗談と悪い冗談があると思うよ。噛んでたし」 「キョンにメールしとかないとな・・・・・・」 キョンの入院生活とハルヒの見舞いと谷口氏ね保守 *** ん?谷口からメールだ。 『今から行く奴に「全部冗談だった」と伝えてくれ(^o^)/~~ 後は頼んだm(_ _)m 俺の命はお前に懸かっている(^ー゚)b』 顔文字がうざい。 「キョン!!!・・・・・・え?え?」 うわビックリした。ってハルヒ、授業はどうしたんだ。 「え・・・・・・だって容態が・・・集中治療室・・・・・・って谷口が・・・」 ああ、そういうことか。とりあえずこのメールを見てくれ。顔文字うざいが。 「・・・・・・冗談・・・・・・はあぁ」 するとハルヒは俺のベッドに力が抜けたようにもたれてしまった。 「わざわざこの寒い中この格好のまま走ってきたのに・・・・・・授業もサボっちゃったし」 そりゃご苦労さんだったな。でも俺を心配してくれてたってことだろ?ありがとうな。 「・・・・・・でも逆に嘘で良かったわ。本当にキョンが死にかけてたら大変だし」 そうそう、お前はそういう前向きな考えが似合ってるぞ。ところで授業はいいのか? 「・・・もう学校に帰るわ。あたしが大学行けなくなったら本末転倒だしね。谷口もボコボコにしてやらないと」 あ、ごめん谷口。お前の命守れそうにないや。自業自得だけど。 「・・・・・・キョンは急にいなくなったりしないわよね」 帰り際にこんなことをを訊いてきた。 まあ、そう簡単にぽっくり逝ったりはしないだろうよ。俺みたいな幸の薄い人間は長生きするものさ。 「・・・・・・そうよね、ありがと。また学校が終わったら来るわ」 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「こぉんのバカ!!!」 「うおわっ!!」 「あんたのせいで授業サボっちゃったじゃないの!!」 「いやだっていくらキョンが重体でも授業を抜けるのはないだろうよ」 榊「いや、あの状況は行くだろ」 阪中「行くのね」 由良「行きますよね」 山根「行くだろ・・・・・・常識的に考えて」 ~中略~ 岡部「あれは行かない方がおかしい」 「29対1で谷口の負けだね」 「というわけで責任持ってボコボコになりなさい」 「アッー!」 自業自得谷口保守 *** さて、と。今日は物理だったか?少しは予習しておかないと。 ・・・・・・点数が悪かったときのハルヒのこれ以上ないくらいの悲しそうな顔を見たくないしな。 なぜ俺のためにそんな悲しむのかはわからんが。 「キョン!ちゃんと予習して・・・・・・してる・・・・・・?」 なんだそのUFOを見るような目は。俺が勉強してるのがそんなに珍しいか。 「も、もちろんいいことよ。やる気出してくれたみたいでうれしいわ!じゃ、小テストね」 「予習しても結局これなのね」 お許しください団長様。 「こんなんでT大行けると思ってるの?」 いや行けませ・・・・・・T大?T大と言ったか?俺にそんな大学行けるわけが・・・・・・ 「あたしが行くんだからあんたも行くのよ!そうじゃなきゃSOS団がバラバラになっちゃうじゃない!」 お前T大行く気だったのか。いやそれでも俺は無理だし朝比奈さんは・・・・・・ 「あら、みくるちゃんもT大行くのよ。鶴屋さんと一緒に」 マジですか。 「マジよ」 そういや最近来ないことが多かったような・・・・・・長門はまあいいとしてやはり古泉も? 「そうよ」 あれ?もしかしてSOS団って勤勉クラブ? キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** そういや明日には腕のギプス取れるってさ。 「ほんと!?良かったじゃない!」 この調子で行けばもうじき退院できるだろ。 「・・・・・・ごめんねキョン、あたしのせいで・・・・・・」 だからそれはもう十分謝ってもらったからいいって。それよりも俺は元気なハルヒが見たい。 「え?」 おっと、要らないことまで口走ってしまった。気にするな、お前はいつでも十分輝いてるからそれでいい。 「え?え?」 あれ?何で俺こんなことを? 今日のテンションはなんかおかしいな。何だろう、T大のショックか? 「わかったわ!これからもずっと責任持って輝いてあげるから感謝しなさい!」 まあ、ハルヒの機嫌がいいみたいだし何でもいいか。 キョンの入院生活もそろそろ終わり保守(ぶっちゃけ骨折がどのくらいで治るのかわからない) *** 「・・・・・・」 久々にハルヒはルービックキューブを回している。とは言っても完成させるためではなく、ひたすら崩すためだ。 俺の両手が自由になったから実力を見せろ、ということらしい。 いくらやっても大して違いは無いのに、ハルヒはこれでもかと言うくらい崩している。まあ、満足するまでやればいいさ。 「・・・・・・もういいかしらね」 はいはいっと。 「5分でできたら褒めてあげるわ」 そりゃまた結構な余裕があるな。はいスタート。 はい完成。今日は調子良かった。 「はやっ! 32秒って・・・・・・」 世界レベルだと10秒台とかザラだぞ。 「1面に苦労してたあたしって一体・・・・・・」 それより褒めてくれないのか? 「え?あー、うん、えーっとね・・・・・・」 どうやら5分でできるわけがないと思っていたらしく、褒め言葉を賢明に探しているようだ。 「・・・・・・うーん、惚れそうになった?・・・・・・違う違う違う!」 勝手に一人突っ込みを始めた。ルービックキューブで惚れられてもねえ。 「ま、まああんたにしては上出来じゃない!?」 そんなもんだろうと思ったよ。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「・・・・・・へっくし!・・・・・・うー」 おいどうした?風邪か? 「昨日のアレで体冷しちゃって・・・・・・スカートがこんな短いのが悪いのよ」 最近寒いもんな。しかし女子は大変だよな、こんな寒いのにスカート穿かなくちゃいけないし。 「女は辛いのよ。というわけで布団を貸しなさい。足が冷えてるの」 嫌だ。俺だって寒い。 「じゃあこ、こっちから行くわよ」 そう言うとハルヒはいつかのように勝手にベッドに潜りこんできた。またか・・・・・・ その瞬間である。 「キョンくーん、おみまいだよー!あっハルにゃん!」 「あ」 あ。 「い、妹ちゃん!これはね?違うの、だからね?寒かっただけなのよ!わかる?寒くてね」 「あたしもはいるー!」 言うまでも無く俺は妹のボディプレスを食らった。 現在俺のベッドは3人がひしめくというなんとも定員オーバーな状況にある。 実際妹だけで良かった。親も来てたら何言われるかわからないしな。 「ねえハルにゃんはリンゴのかわむけるー?」 「もちろんよ。女ならできなくちゃダメよ」 「やってやってー」 ハルヒの皮むきは相当上手かった。きっといい嫁さんになれるよ。 「なんとなく素直に喜べないのよね」 なんでだよ。 キョンの入院生活とハルヒと妹の見舞い保守 *** そんなこんなありつつもようやく足のギプスを外して退院できる日がやってきた。 それにしてもあの電動ノコギリは怖いな。いつかテレビで新型のカッターが開発されたとか見たが・・・・・・ 足の裏の絵の解読を試みるもしっかりと塗りつぶされていて無理だった。永遠の謎となったか。 「キョン!退院おめでと!」 お、迎えにきてくれたのか。ありがとな。 「さ、行くわよ」 どこにだ。 「学校よ、学校。今日もSOS団の活動はあるのよ!」 まさかこの病み上がりの身体であの坂を登れと? 「いいから文句言わずについてきなさい!」 やれやれ。 キョンの退院とハルヒのお迎え保守 *** 入院で衰えた足で坂を登るのは流石に堪えたが、なんとか部室まで這ってたどり着いた。 「はい、入りなさい!」 勧められるがままに俺はドアを開けた。そこで俺が見たものとは! 「「「「「退院おめでとー!!」」」」」 華やかに装飾された部室と団員三人、名誉顧問になぜか俺の妹、そしてクラッカー。 これは・・・・・・? 「はい!主役も来たことだし、『ハルにゃんキョンくん退院記念”ラブラブ”パーティー』を始めるよっ!」 「えっ!?ちょっと鶴屋さん、あたしラブラブなんて入れてないわよ!?」 「いーのいーの気にしない!ちょっとの遊び心は必要にょろよ?」 どうやら俺たちのためにパーティーを開いてくれたらしい。なんて皆優しいんだろう。 手書きの看板を良く見るとパーティーの前に赤ペンで小さくラブラブと書いてある。きっと鶴屋さんだろうな。 キョンとハルヒの退院パーティー保守 *** 「じゃあ僭越ながらあたしが乾杯の音頭を取らせていただくにょろ! ハルにゃんキョンくん、お見舞いにいけなくてホントごめんね!受験近くてちょっと忙しくてさー」 なんてったってT大ですもんね。 「ありゃ?知ってたのかい?そうなんだよねえ。しかもみくるもだよ?イメージと違うよね! おっと話がずれちゃったにょろ。ま、あたしが行けなくても毎日二人でお楽しみだったみたいだったからねー。 で、どこまで行っちゃったのかな?」 「つ、鶴屋さん、あたしとキョンは別になにも・・・・・・」 「おんやー?そいつはもったいないねえ。若い男女が一つの部屋にしかもベッドまで用意されてたってのに。 おっとまた脱線。まあとにかく、ハルにゃんとキョンくんの全快を祝いまして、かんぱーい!!」 「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」 おいどうしたハルヒ、酒も入ってないのに真っ赤だぞ。 「う、うるさい!気にしなくていいのよ!」 キョンとハルヒの退院パーティー保守 *** 「涼宮さん、ちょっといいですか?」 「なに?みくるちゃん」 「素直に好きと 言えない君も 勇気を出して Hey Attack」 「・・・・・・それ・・・・・・」 「これ、涼宮さんが書いた詞じゃないですか」 「そうだけど・・・・・・」 「勇気を出してアタックすればきっとキョンくんだって振り向いてくれますよ!ファイトです!」 「・・・・・・ありがとうみくるちゃん。あたし頑張る」 パーティーの片隅での出来事保守 *** そんなこんなで(今日使うの二回目か?)パーティーもお開きの時間となった。 受験生もいるしハルヒにしては早めの時間設定だったな。 「みんなお疲れ!今日はありがとう。後片付けはあたしがするからみんな帰っていいわ」 「いや、僕も手伝いますよ?」 「あたしも手伝います」 「わたしも」 「勉強なんて1日サボっても変わんないにょろよ」 ちなみに妹は寝た。いや、流石にお前だけってのは・・・・・・ 「何言ってるの?キョンもやるに決まってるじゃない。雑用係が休んでどうするのよ」 結局そういうことですか。まあ皆も手伝ってくれるみたいだし・・・・・・ 「それならば、僕は帰らせていただきますね」 「あたしも帰ります。あ、妹さんはあたしが送ってあげますね」 「帰る」 「そういうことなら帰らせてもらうよっ!」 あれ?さっきと話が違ってません?そういうことならって・・・・・・ キョンとハルヒのパーティー後保守 *** やっぱりあの量を二人で片付けるのは辛いものがあった。 「でもこういうのって 仕事したっ! って感じにならない?」 まあな、たまにはこういうのもいいかもしれんな。 って雨降ってるじゃねえか。傘持ってきてないぞ? 「あたしのが一本あるからそれでいいじゃない」 あのときみたいにか? 「うん・・・・・・ダメ?」 いやいいけどさ。お前はいいのか? 「べっ別に相合傘はカップルがやるものとかそんなんはどうでもいいのよ!意識するから恥ずかしいの!」 なんか話が飛躍したな。 キョンとハルヒのパーティー後保守 *** やることも終わったので俺たちは帰ることにした。 そして適当に雑談をしつつ部室棟の階段を下りた、その時だった。 「きゃっ!」 俺の隣りでハルヒはまたも足を滑らせた。このままいつぞやの悪夢が繰り返されるのだろうか。 結果として繰り返しはしなかった。なぜかって? 俺がハルヒをしっかりと抱きかかえていたからさ。 「キョン・・・・・・あ、ありがと・・・・・・」 お前にもうケガなんてさせねえよ。 と、上の気障なセリフを喋ったのは誰だ。俺か。俺なのか。またこの前みたいなテンションなのか俺は。 しょうがない、このテンションのまま最後までいっちまえ。 「え?ちょ、ちょっとキョン!な、なにするのよ!」 何って背中と膝裏を支えて抱きかかえてるだけだぜ?世間的にはお姫様抱っこと言うらしいが。 降ろしてほしいか? 「・・・・・・別にこのままでもいいけど・・・・・・」 ダイヤモンドは大事に運ばないとな。 「・・・・・・」 ありゃ、流石に今のはクサすぎたか? 「・・・・・・前から言おうと思ってた大事な話があるんだけどいい?」 ああ、いいぞ。聞いてやろうじゃないか。 そう返すとハルヒは俺の首に腕を回してきた。 「あたしね、ずっとキョンのことが・・・・・・」 二人は階段から落ちたが、そのおかげで―― 新たな階段を一段上ることができたのかもしれない。 キョンとハルヒの入院生活保守 fin
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/519.html
放課後の教室。 谷口が慌てた様子で話し掛けてきた。 「キョ、キョン…ちょっと耳貸せ…!」 なんだコイツはいきなり。 俺は壷でも売りつけられるのか。 「……い、今、涼宮を出せってヤツが来て…」 俺の耳に近寄ると小声で谷口はそう言った。 何故、俺にその話をする。 俺はハルヒ宛の伝言板じゃないぞ。 「…本人に言え、直接」 「い、いや…それが…」 谷口が指差した方向を見やる。 …そこには明らかにガラの悪そうな二人組が居た。 ……あんな奴等、北高に居たんだな。 谷口が躊躇したのも分かる。 …ハルヒと会わせた日には、間違いなく問題が起こりそうだ。 俺がどうしたものかと迷っていると後ろからハルヒが声を掛けてきた。 「あんた達、なにヒソヒソと人の名前呼んでるのよ?」 「す…涼宮…!」 どうでもいいがビビりすぎだぞ、谷口。 「何? あたしに用事があったんじゃないの?」 「いや…そ、それが…」 谷口が二人組を見る。 「……ははーん…そういうコト」 それだけでハルヒにはどういう事か分かったらしい。 …妙に慣れてるなコイツ。 「いいわ、あたしを出せっていうんでしょ?」 それだけ言い残すとハルヒは教室を出て、二人組の方へ歩いていった。 …やれやれ。何か問題があるとマズイからな。 …一応、見といてやるか。 ハルヒと二人組が何やら話している。 …いや、ハルヒはほとんど口を開いていないか。 二人組の内の、特にガラの悪そうなヤツが一方的に喋っている感じだ。 ハルヒは黙って聞いている。 その内、話していた男がハルヒの肩に手をかけた。 …ずいぶんと積極的なヤツだな。 何か因縁事でもあるのかと思ったが、どうやらそっちの話では無いらしい。 ハルヒが男の手を払う。 かと思えば、ハルヒが何かをまくし立て始めた。 あれは十中八九、悪口だな。 その口がはっきり「バカ」と動いているのが見えた。 …可哀想に。あれだけ至近距離でマシンガン罵倒されたら立ち直れないかも知れん。 ガラの悪い男はぷるぷると震えている。 …よっぽどショックな事を言われたんだな。分かる、分かるぞ、その気持ち。 ハルヒは興味を無くしたのか、こちらを向き、教室に戻ろうとする。 「てめぇ! 待てよ涼宮ッ!」 そのハルヒの手を、震えていた男が捕まえた。 「なんなのよ、あんたっ!」 ハルヒが叫び、もがくも、男は完全にアタマに血が上っているようだ。 ハルヒの腕に男の爪が食い込んでいるのが見えた。 …いくら何でもやりすぎだ。 ……やれやれ。またか。また俺も巻き込まれるのか。 …まぁ、見た目にもあまりよろしく無いしな。 それに放って置けば、ハルヒがどんな逆襲に出るか分からん。 ……俺はハルヒを助けるんじゃないぞ? …男の方を心配してやってるんだ。 そう考え、俺が教室を出ようとしたその時、事件は起きた。 ハルヒが男の手に噛み付いた。 「痛ってぇッ! このクソ女ッ!」 男が痛みにハルヒを離す。 「ナメてんじゃねぇよ、てめぇッ!」 男が再びハルヒを捕まえようと手を伸ばした時、ハルヒが素早く体を屈めた。 男の手はハルヒの頭上を通過し、目標を失った男はバランスを崩す。 男がハルヒに覆いかぶさりそうになったかと思うと、ハルヒが凄まじいスピードで体を捻った。 ハルヒの上履きがキュッと小気味いい音を立てる。 そうして。 ハルヒは、男のアゴ目掛けて、伸び上がるようにその脚を振り抜いた。 「がふっ!」 蹴られた男が派手に吹き飛ぶ。 …後ろ回し蹴り。 ……あまり見れるもんじゃないな。 特に学校では。 「…あ。マズイ」 男が吹き飛ばされたその先、そこには窓ガラスがあった。 ガッシャーンッ!!! 男の背中が勢いよくぶつかったかと思うと、ガラスが派手な音を立てて砕け散った。 …おいおい。 ここは三年B組じゃないぞ。 「…また派手にやったな」 「あたしのせいじゃないわ。そこの男が勝手に吹き飛んだのよ」 俺がハルヒに話しかけた時、すでに彼女は涼しい顔をして、制服の乱れを直していた。 気付けばもう一人の男は逃げてしまったらしく、姿形も見えない。 ずいぶん薄情なお友達をお持ちだな。 吹き飛ばされた男を見れば、完全に伸びている。 その顔にはくっきりと靴跡が浮かんでいた。 ……ハルヒ、恐ろしい子…! 「…どうするんだこれ?」 「知らないわよ。ソイツが勝手に転んだコトにしとけばいいんじゃない?」 いくら何でも無理があるだろ。 「何をやっとるか貴様らーっ!!」 音を聞きつけたのか生活指導の木戸が飛んできた。 …マズイな。木戸は生徒を頭ごなしに叱り付けるので有名だ。 「なんだこれはっ!」 木戸は割れた窓、辺りに飛び散ったガラス、伸びたガラの悪い男を見るとそう叫んだ。 「やったのは貴様かッ!?」 木戸が俺の首根っこを掴む。 …コイツは本当に人の話を聞く気が無いな。 「ぐっ…いや…俺は…」 「…先生。違うわ。やったのはあたしよ」 俺が答えに窮しているとハルヒが木戸に進言した。 「何ぃ…? キサマか涼宮ッ! ちょっと生徒指導室まで来いッ!」 「…えぇ」 ハルヒは伸びた男を一瞥すると、大人しく木戸に付いて行く。 俺はその背中を見ながら、何だか胸がモヤモヤしていた。 ………なにか違う。 …ハルヒは…まぁ悪くないとは言えないが、ハルヒだけが悪者って訳でもないだろう。 …かと言って、木戸に何かを言った所で、変わりそうにない。 ………今思えば、俺もアタマに血が上っていたのかも知れない。 気付けば廊下の隅に置かれた消火器を手に取り、手近な窓ガラスに叩き付けていた。 ガッシャーンッ!!! 先程に負けず劣らずデカい音が校舎に響き渡り、窓ガラスは粉々に砕ける。 …手が痺れた。 「き、き、貴様ッ! 何を考えとるかッ!!!」 「…キョ…キョン…?」 派手な音に、木戸とハルヒが振り返り、俺を見ていた。 木戸は血管が浮くほどプルプルと震え、怒り心頭といったご様子だ。 ハルヒはと言えば、口が開くほどに驚いている。 「…いえ、そこに1メートルクラスの馬鹿デカい蚊が居たもんで」 「バ…馬鹿もんッ! お前も生徒指導室に来いッ!!!!」 そうして。 生徒指導室でたっぷりと絞られた後、俺とハルヒに下された判決は停学3日という、とてもありがたいものだった。 「…なんであんなコトしたのよ?」 生徒指導室から開放され、帰ろうとしていると、ハルヒが俺に聞いて来た。 「…別に。お前だけが悪いって訳でも無かったからな」 「…それとあんたがやったコトと、何の関係があるワケ?」 「…何の関係も無いな」 「………ぷっ…くっくっ……あははっ! あんた馬鹿じゃないのっ?」 ハルヒが笑い出したかと思うと、俺にそう言った。 …言うな。俺もそう思ってるんだ。 「ま、いいけどね。あたしも一人で停学なんて、つまんなかったし。いい道連れが出来たわ」 「…お前が何を考えているのか知らんが、俺はバイトだぞ」 「…バイト? あんた、バイトなんてしてたっけ?」 「ガラス代だ」 過失ならともかく、俺がやったのは間違いなく故意だ。 しっかりと学園からガラス代を請求されるだろう。 それを親に払わせるのは忍びない。 「…ふーん…そっか。バイトか。いいわね! 面白そう、あたしも一緒にやるっ!」 「…本気か?」 「あったりまえじゃない! 停学っていったって謹慎ってワケじゃないんだしっ!」 …普通、停学と謹慎はイコールだぞ。 …ま、いいけどな。 そうして俺とハルヒは何のバイトをするか相談しながら家路につきましたとさ。 めでた……くねぇな。ねぇよ。 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2658.html
古泉が病室を出て行き、部屋の中には俺とハルヒの二人っきりとなった。 ……何だ、この沈黙は? なぜだか全くわからないが微妙な空気が流れる。 おそらくまだ1、2分程度しか経っていないだろうが、10分くらい経った気がする。 やばいぜ、ちょっと緊張してきた。何か喋らないと。 『涼宮ハルヒの交流』 ―最終章― 沈黙を破るため、とりあえずの言葉を口にする。 「すまなかったな。迷惑かけて」 「別にいいわ。けどいきなりだったから心配したわよ。……もちろん団長としてよ」 「なんでもいいさ。ありがとよ」 再び二人とも言葉に詰まる。 「……あんた、ホントにだいじょうぶなの?」 「どういう意味だ?」 「だってこないだ倒れてからまだ半年も経ってないのよ。何が原因なのかは知らないけどちょっと異常よ。 ひょっとして、あたしが無茶させすぎちゃったりしてるからなの?」 確かに、普通はそんなにしょっちゅう意識不明にはならないよな。 けど今回の原因はハルヒだなんて言えねぇし。 どうでもいいが無茶させてる自覚があるならもっと優しく扱ってくれ。 「だいじょうぶさ。もうピンピンしてる。別に体に問題があるわけでもない」 「そう……、ならいいけど」 ハルヒに元気がないな。そんなに心配してくれてたってのか? それともここも実は異世界で、これは違うハルヒだったりするのか?いやいや、そんな馬鹿な。 ……ん?そうだな、そういえば言わなきゃいけないことがあったな。 「ハルヒ、昨日はすまなかったな」 ハルヒは不思議そうな顔で目を向ける。 「だから、別にいいって言ったでしょ」 「……ああ、いや、そのことじゃない。昨日の昼のことだ」 「ああ、……あれね」 途端に不機嫌な顔になる。やっぱかなり怒ってんのか。 「つい、つまらないことでムキになっちまったな。すまん。 けどな、お前からはつまらないことかもしれないけど、俺にとっては結構大事なことだったんだ」 「………」 あのハルヒと同じように黙ったままだ。 「別にSOS団として不思議を探すのは構わん。宇宙人、未来人、超能力者を探すのも構わん。 お前が手伝って欲しいってんならできる限りのことはやってやりたい。できる限りはな。 けど、な。……そいつらを見つけたら、俺は用済みになるのか?」 「そんなことは言ってないでしょ!」 「言ってはないかもしれんが、ひょっとしたらそうなんじゃないかって思ってしまったんだ。 そうしたら、きっと怖くなっちまったんだろうな」 「そんなことあるわけないでしょ。あんたあたしが信じられないの?」 「そうだったのかもしれない。いや、信じられなかったのは俺自身なのかもしれない。 そんなやつらがいる中で、いつまでもお前の側にいられるような資格がないと思ったのかもしれないな」 「そんなことないわ。だってキョンは、……キョンはあたしにとって……。あたしはキョンが……」 「でも、もうそんなことはどうでもよくなった」 ハルヒは驚いて悲しそうな顔になった。心なしか、涙が浮かんでいるようにも見える。 「まさか……もうやめるって言うの?なんでよ!?」 ああ、そういう風に捉えますか。というか言い方がまずかった気はしないでもないな。すまん。 「いや、すまん。そういう意味じゃない。俺はこれからもSOS団の一人としてやっていくつもりだ。 俺が言いたいのは、そのなんていうか……簡単に言うと自信が付いたってこと、か?」 「何言ってるのあんた。全然意味わかんないわよ」 だろうな。俺もよくわからん。どうやって話を進めたらいいやら。 「昨日言っただろ。普通じゃない人間なんて見つかりこないって。あれは本当のことだ。 けど、それはそういうやつらがいないって意味じゃない。こっちからは見つけられないって意味だ。 だっていきなり『お前は宇宙人か?』って聞かれて、はいそうです、って、本物だとしても答えるわけないだろ?」 「じゃあどうしろっていうのよ!」 「別に何もしなくていいと思うぞ。強いて言うなら、そういうやつらが現れるのを願い続けることだな。 そうすれば、お前の周りにいるそいつらは、時がくれば自分からそのことをお前に告げてくれるさ」 「あのねぇ、あたしには気長に待ってる暇はないのよ。時っていつよ?こないならこっちから探すしか――」 俺はハルヒの小さな肩に手をやり、ほんの少しだけこちらに引き寄せる。 「その時ってのは今だ」 「あんた何言ってんの?」 「あのな、ハルヒ。実は俺、異世界人なんだ」 「は?」 さすがに目が点になってるな。そりゃそうか。 「俺は異世界人なんだ」 「ちょっと、あんた。本気で言ってんの?んなわけないでしょ」 「本気だ。俺は異世界人なんだ。まぁそりゃあ普通の人間には簡単には信じられないかもしれないだろうがな。 それにしてもせっかく待ちに待った異世界人が現れたってのに、信じないなんてもったいない話だよな」 「わ、わかったわ。仕方ないから信じてあげるわよ」 なんて簡単に挑発にかかるんだ。こいつは。 「だからな……」 「だから何よ」 ハルヒの肩に置いていた手に、ギュッと力を込める。 やべぇ、めちゃくちゃ緊張してきた。 「俺は普通の人間じゃない異世界人だから、俺と付き合ってくれないか?」 ああ、ついに言っちまった。 「は!?あ、あんたちょっとまじで言ってるの?」 「ああ、俺は大まじだ。お前言ってただろ?普通の人間じゃないやつがいたら付き合うって。ありゃ嘘か?」 「嘘なんかつかないわよ。けど……、まぁあんたが異世界人だってんならしょうがないわね。 わかったわ。そこまで言うなら付き合ってあげるわよ」 意外とすんなりいったな。『あんたが異世界人だっていう証拠は?』とか言われたらどうしようかと思ってたが。 証拠なんてないしな。行き方も知らない。まぁハルヒは実は自分で知っているわけだが。 俺が本物かどうかなんてたいした問題じゃないってことなのか? まぁなんでもいいさ。 「一つ聞いてもいい?」 「なんだ?質問にもよるぞ」 「あんたの言う異世界ってどんな世界?」 どんな世界、か。どう言えばいいものか。ここと変わんねぇんだよなぁ。 「基本的にはこことほとんど同じだな。よくいうパラレルワールドってやつか?人もほとんど同じだ」 「ふーん、てことはあたしとかもいるわけ?」 「ああ、いるぜ。ちゃんとSOS団もある」 「じゃあ、何が違うの?全く一緒ってわけじゃないんでしょ」 そうだな?何が違うんだ?あまり違和感がなかったからな。 「なんだろうな。人の性格とかに微妙に違和感があるくらいか?」 「例えば?」 例えば、か。何かあったかな。 「あ、長門の料理がうまかった。昼の弁当もうまかったし」 ハルヒの目付きが変わる。 「へえー、有希に弁当とか作ってもらってたんだぁ」 いや、まて、それはだな。いろいろあって、とりあえず落ち着け。な。 「……まぁいいわ。そっちのあたしはどんな感じ?」 どんなって言われてもなぁ。確かにちょっと違ってはいたが。力のこともあるし。 「……お前をさらに強気にした感じだ」 としか言いようがない。 「なるほどね。まぁいいわ」 「というかお前案外簡単に信じるんだな」 「嘘なの?」 「いや、そういう意味じゃないが」 「ならいいじゃない。あんたが本当って言ってるならそれでいいのよ。何か問題あるの?」 「いや、ちょっと話がうまく行き過ぎてて。ハルヒ、本当に俺でいいのか?」 「あたしがいいって言ってんだからそれでいいのよ。何?取り消したいの?」 「そんなわけあるか!俺はお前のことが、……本当に好きなんだから」 空いているもう片方の手もハルヒの肩に置く。 「ならさっさと好きって言いなさいよね。全く。こっちだって不安なんだから」 「そうだな、すまん。……ハルヒ、好きだ」 「あたしもよ。……キョン」 両の手に少し力を入れて引き寄せると、それに従いハルヒも近づいてくる。 ……あと20cm。 俺が顔を近付けるとハルヒも顔を近付ける。 ……あと10cm。 残りわずかのところでハルヒが目を瞑る。 ……あと5cm。 顔を少し傾け、目を閉じているハルヒの唇に俺の唇をそっと重ね―― コンコン! バッ!! ドアがノックされる音に慌ててハルヒの体を引き離す。 「入りますよ」 そういって古泉が入ってくる。そういえばジュースを買いに行ってたんだっけ? というか手ぶらじゃねぇか。どういうことだ?その満面の笑みは何だ? 「いえいえ、なんでもありませんよ。」 古泉の後ろには隠れるようにしている二人の姿が見える。 お見舞いのフルーツセットと、それとは別にお見舞いの品の袋を持った朝比奈さんとなぜか大量の本を持った長門の姿が。 「長門、それに朝比奈さんも。来てくれたんですね」 「……来ていた」 「キョ、キョンくん、具合はどうですかぁ?」 ん?なんか様子が変だ。朝比奈さんに至っては顔が真っ赤だし。 ってハルヒも顔が真っ赤になってるな。しかも口を開けたまんま固まっている。どういうことだ? 「古泉、何かあったか?ジュースはどうした?」 「ああ、そういえば飲み物を買いに出たのでしたね。うっかりしてました」 「は?じゃあお前はジュースも買わずに今までどこ……って、お前まさか!?」 「いやあ、この部屋を出たところで偶然このお二方と会いましてね。中に入ろうかとも思いましたが……ねえ?」 と、長門の方に振る。 「……いいところだった」 嘘だろ?まさかこいつら全部聞いてたんじゃ。 「……古泉、どこからだ?」 「そうですね。『すまなかったな。迷惑かけて』からですね。最初の方でしょうか?」 最初の方っていうか一番最初だぜこのヤロー。 ……そこから全部聞かれてたってことなのか?そんな馬鹿な。ぐあっ、死にてえ。 思わず頭を抱える。ハルヒはまだ固まっている。 「キョンくん、気を落とさないでください。だいじょうぶですよぉ。カッコ良かったですぅ」 いえ、朝比奈さん。それ全くフォローになってませんから。 「まぁいいじゃないですか。一件落着ですよ」 くそっ、こいつに言われると腹立つな。 どうでもいいけどお前間違いなく開けるタイミング狙ってただろ。 「さて、なんのことでしょう?」 くそっ、いまいましい。 ハルヒいい加減正気に戻れ。 「わ、わかってるわよ。うっさい」 まぁいいさ。これでこの一件は無事に終わったってわけだ。やっぱりこういう世界が一番だな。 あんな悪夢のような時間は出来ればもう過ごしたくないものだ。 俺はここでこのSOS団のみんなと俺は楽しく過ごしていくさ。 だからそっちのSOS団もそっちで楽しくやってくれ。そっちの俺たちも仲良くな。頑張れよ、『俺』。 「とりあえず元気そうで良かったですぅ」 「安心した」 二人からちゃんとしたお見舞いの言葉をもらっていると、 「やっぱりキョンを雑用係にして酷使し過ぎたのがまずかったのかしらね」 だから自覚あるならやめろっての。 ハルヒは朝比奈さんが持ってきた俺へのお見舞いのメロンを食べ終えて言った。 ってお前、そのメロン全部食ったのかよ。それ俺のだろ? 「そうかもしれませんね」 古泉、お前思ってないだろ。とりあえずその手に持ったバナナの束を置け。 「だからキョンには新しい役職を与えて、雑用はみんなで分担することにするわね」 そう言ってハルヒはどこからともなく腕章とペンを取り出した。 って、どこから出したんだよ。ってかなんでそんな物持ってんだよ。 キュキュっとペンを走らせ、それを俺に突きつける。 「これでどう?嬉しいわよね」 渡された腕章には大きな字でこう書かれていた。 『団長付き人』 やれやれ、これからも大変そうだな。 今日からは俺も異世界人、これでSOS団の一員として新しくスタートってわけだ。 確かに向こうに行ってた時間は悪夢のような時間だったかもしれない。 けど、こうなってみると、この結果になったのは間違いなく異世界のおかげと言えるだろう。 異世界でのSOS団の出会い、ハルヒとの出会いがなければ俺はハルヒに告白なんてできなかったたろう。 ハルヒ。ひょっとしてこれもお前の望んだとおりの結果なのか? 異世界との交流を通して、俺に答えを出すことを望んだのか? まぁなんでもいいさ。 お前も望んでくれるなら、俺はいつまでもハルヒの隣にいたいと思う。 「ああ、ありがたく頂くよ。これからもよろしくな」 さて、これからはどんな新しいものとの交流が待っていることやら。 今から楽しみだぜ。 「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 「いや、それ朝比奈さんが俺のお見舞いに持ってきたやつだから。しかも俺は食ってないぞ」 周りを見渡す。長門が食べていた。 長門はハルヒの方を向いて僅かだけ微笑みを感じさせる顔で言う。 「プリンくらいはあなたから貰ってもいいはず」 ◇◇◇◇◇ 最終章後編へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/554.html
ねぇ、キョン。 ねぇ、キョン、返事をして? ねぇ、キョン・・・。 聞いて、あたしの話を聞いて。 キョン! ねぇ、キョン。 あなたはあたしを裏切らないよね? ハルヒの声がした。 ハルヒが俺の名前を呼んでいる。 どうしたんだハルヒ? 目を開けて起き上がると、そこは色も音も無いただ真っ黒な空間に俺は居た。 見渡すほどの広さも感じられない。ただ黒一色の空間。 足元もフワフワとして、まるで星一つ無い宇宙空間に放り出されたようだ。 俺は確かベッドで眠っていたはずだ。それがどうしてこんな場所に居るんだ? まさか例の閉鎖空間とやらに呼ばれてしまったのだろうか。 なら、ハルヒもこの場所に居るはずだ。どこにいるんだ、ハルヒ。 「ハルヒ!」 ハルヒの名前を呼ぶ。だが返事は無い。 ハルヒの声がして、この妙な空間・・・閉鎖空間だと思ったが違うのか? なら、例の急進派か? 「ハルヒ!おい、返事をしてくれ!ハルヒ!」 もう一度ハルヒを呼ぶ。・・・やはり、返事は無い。 キョン! キョン! キョン! どうして返事をしてくれないの? ・・・・。 ・・・・。 ・・・。 キ ョ ン ! ! 『・・・ョ・・・ン・・・・・キョ・・・・!・・・・ョ・・・』 微かに、だが確かにハルヒの声が聞こえた。やっぱりハルヒはここにいるのか? 「ハルヒーーーっ!!ハルヒ!!どこだ、おーい!!」 大声を出してハルヒの名前を呼ぶ。だが一向に返事は無い。 ・・・どうなっているんだ?ハルヒじゃないなら長門、古泉の誰でも良い。返事をしてくれ。 『 キ ョ ン ! ! 』 突然、この空間全体が揺れるほど大きい声で俺の名前が叫ばれた。 実際、 ず ず ず ず ず ず どっ どっ どっ と辺りが激しくゆれ出した。 ゆれ出した空間の一部が、ぐにゃりと歪む。 それはだんだんと色が付き、ますます歪みを増してゆく。 ぐにゃ その歪みは、だんだんと、ある人間の顔を模してゆく。 「・・・ハルヒ・・・・・・・!?」 空間に浮かんだ歪みは、ハルヒの顔になった。 その顔は笑って、俺を見下ろしている。 呆然とそれを見上げていると、また空間の一部から腕が二本飛び出して俺の体を無理矢理掴んだ。 つ か ま え た ぁ ! 大 好 き よ 、 キ ョ ン ! おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/6030.html
Ⅲ 寂しい灯りが照らす下、朝比奈さんと俺はお互いベンチに座っていた。何か話した方がいいかと思うのだが、朝比奈さんから呼び出されたのに俺が関係ない話をグダグダ話すのもいかがなものかと思い、今の膠着状態に至るわけだ。制服姿のままの朝比奈さんは、膝の上に乗せた自分の手の甲を眺めたまま動かない。そんな深刻そうにされると、一体どんな話が飛び込んでくるのかと俺は不安倍増になる。これがもし俺と朝比奈さんが向かい合っていたのなら、伝説の木の下ならぬいつものベンチ横で告白されるのではないかと思わず妄想を繰り広げてしまうのだが、今現在の事情が事情だけにそれはないな。さて、何が朝比奈さんの口から飛び出してくるか。鬼か?蛇か? 「キョン君は‥‥」 ようやく、ハムスターが精一杯に振り絞って出たかのような言葉は、何やらいやぁな予感しかさせなかった。結果的に、今すぐ告白しろみたいな話になるんじゃないか?この出だしは。 「今の涼宮さんをどう思いますか‥‥?」 「今のハルヒですか‥‥」 ……なんと答えればいいのやら。少し、いやかなり変わった気がするが、口では具体的にどう変わったのか言えないこともあり、これは言えそうにない。しかしいつも通りだと思いますよ、なんて本心と真逆なことをあの朝比奈さんの目の前で言うわけにもいかん。こうして呼んでくれたからには、ちゃんと理由があってのことだからに違いないからな。例え話の終結点が告白しろでも、嘘はいけない。嘘はいけないと、ふしだらな俺でも小学生の時に習ったことを覚えている。 「朝比奈さんはどう思いますか?」 しかし結局俺は、会話では禁じ手に値する質問を質問で返すという暴挙に出た。すまん、朝比奈さん。ハルヒが変わったのではなく、俺がハルヒを見る目が変わったかもしれないという点を無視したかったのさ。だって認めたくないだろ? 「‥‥私は古泉君の話を聞きました」 そう朝比奈さんは一呼吸おいて、小鹿のような瞳に決意を露に浮かべてから俺の目を直視して言葉を顔面にぶつけてきた。 「わたし、古泉君の言葉が間違っているような気がするんです」 俺は思わず目を見開いたね。ということは、告白云々は関係ないということだからだ。 「古泉くんの話はとても的を得ているし、話にもズレがないことは分かっているんです。でもわたしは、それでも本当のことはそうではないと思います」 「というと‥‥?」 「今の涼宮さん自身が、読書大会を開く前の涼宮さんと何か違う気がするんです‥‥‥」 なんと! 朝比奈さんも同じことを考えていたとは。しかもわざわざここに呼び出してまで言うからには、何か根拠があると思っても良いんですね、朝比奈さん。 しかし朝比奈さんは、わたしは話ベタだし、どうしてそう思うのか具体的には言えないのだけれどと前置きを重ねて言葉を区切っていた。変に思うかもしれない、とまで言っていたが、貴方のことを変だと思ったのは自分が未来人ですと告白された時以来はありませんよ。 「ただ涼宮さんが部室でしばらく寝て起きた時、ちょっとした時空震を感じました。おそらく長門さんも気付いたと思います」 「古泉は気が付かなかったのでしょうか?」 「‥‥そこ、なんです。キョンくんはどう思いますか? 気が付いたかと思いますか?」 たしか夏休み、ハルヒの勝手な行動で俺らは野球に参加させられるはめになった。その時クジで俺が4番に選ばれたんだが、野球経験も乏しく相手が相手ということもありエースのような活躍が出来なかったことにハルヒは理不尽な苛立ちを溜め、閉鎖空間を発生させた。あの時専門分野である古泉は除いても、朝比奈さんと長門は2人とも気づいたようだったな。長門はなんでも出来そうだが、朝比奈さんは未来人であるのだからそういったものには感知できないものかと勝手に思考していたが、そうではないようだ。ということは、朝比奈さんの専門分野である時空の揺れを古泉が感知出来てもまぁ不思議ではない。 無論俺にはさっぱり分からない。 「わたしは、具体的にはないにしろ、古泉くんも何か感じ取ったかなと思いました。なので、ここからする話は古泉くんが感知したということを前提に話していきますね」 「古泉くんは、あの日涼宮さんに何か異変があったと察知した。でも、貴方には涼宮さんにこ、告白をするように言っていますよね?」 「ええ」 「わたし思うんです。古泉くんがそう貴方に迫るのは涼宮さん自身がそう望んでいるからじゃないかな、って」 「‥‥え」 つまり朝比奈さんが言うには、古泉が俺にああ言うのは古泉自身の意思ではないということになる。またしてもハルヒの能力。いよいよ神らしくなってきたなハルヒ。 「あの噂‥‥わたしが誰かから聞いたわけじゃありません。朝起きて目が覚めた時にはもう、ああそうなんだって勝手に思ってたんです。鶴屋さんもキョンくんと涼宮さんのこと話していました。一緒に話してて、鶴屋さんに 「みくるも気づいてたのかい?」 と聞かれて、その時に初めて疑問に思いました。そういえば、なんでキョンくんと涼宮さんは一緒に帰ってるんだろう‥‥って」 なんということだ。噂を植え付ける? 洗脳の間違いじゃないか。事情を知ってる朝比奈さんでさえ記憶を曖昧にしてしまうとは、ハルヒの能力もさなぎから成虫になるみたいに羽化してるということか。 「わたし、長門さんが本を閉じて着替えのために貴方たちが一旦外へ出た時ようやく気付いたんです。2人で読書を進めるために残ってるんだったって‥‥」 朝比奈さんはうるんだ瞳をこちらに向け、まさにこのことを言いたかったのだと言わんばかりに声を上げた。 「キョンくんを今日呼び出すつもりになったのは、あの部室で思い起こしたんです。それまで、わたしもキョンくんが涼宮さんに告白するように勧めるつもりでした。でも、それはわたしの意思じゃなかったの。 どうしてかは分からない。告白するようにキョンくんに言うことがわたしの意思じゃないと証明は出来ないけれど、でも信じて。わたしは涼宮さんが、能」 「ちぃーすキョン‥‥‥って、うおっ!?」 ええい、どうしてこのタイミングでお前は出てくるんだ。朝比奈さんが何を言わんとしてるのが、やっとその一言で分かりそうだったのによ。 「あさ、あさ、朝比奈先輩じゃないですかあ! おいキョン。お前新月の夜にマジで気をつけとけよ。じゃないと」 「あっキョンくん‥‥この話はまた今度にしましょ」 「えっ!」 そう言うと朝比奈さんはスクッと立ち上がり、小走りで夜の闇に溶けていった。まだ一番大事なこと聞いてないですよ! 「朝比奈先輩、送りますよ!」 と谷口が追いかけていきそうになったが、こいつがついて行ったら間違いなくストーカーになる。だから俺は無理矢理谷口を止め、もう二度と邪魔するなと釘を打っておいた。 しかし朝比奈さんもあんな中途半端なところで帰らなくてもいいのに。 ‥‥‥。 しかし気になることばかりが残った。結局朝比奈さんは何が言いたかったんだろうか。 古泉はハルヒの方に何らかの異常が発生したのを感知した。それで奴はどう考えたんだ。ハルヒが今までと違う変化があるかを機関の力頼りに調べてみたが、何も発見出来ず、強いて言うならば閉鎖空間の規模が大きくなってきていること。そこでこれまでの読書の経緯を考慮し、ハルヒは俺の告白を待っていると解釈した。 じゃあハルヒを中心に起きた時空震はなんだ。古泉は考えた。ハルヒが夢か何かを見て、俺のことが好きになったスイッチだったのではないかと。 そして朝比奈さんはこう言う。古泉はハルヒの異変をキャッチした。変だな変だなと思いながらも何の変化は分からずじまい。そして、その時偶然か意図的なのかは分からないがハルヒが古泉を通じて、俺がハルヒに告白するよう仕向けることを願った。 古泉はハルヒがまさか自分に能力を使ってるとは思わず、自分の推理を考えてハルヒが告白を待っているという結論に達する。そして俺に迫る。ハルヒの異変のことを疑問に思いながらも‥‥‥。 つまりどっちの解釈でも、ハルヒは告白を待ってるということにならないかこれ。 考えれば考えるほど俺の頭の中は混乱状態に陥って行き、結局その日は明日当てられるかもしれない英語のリーダーの問題も解かずに眠ることを選択した。これ以上人間の持つ素晴らしき能力、思考というものを続けると、俺の頭は銃弾が直撃したタイヤよろしくパンクしそうだ。朝比奈さんの言わんことをまだ最後まで聞いたわけじゃないこともあってか、無心になることは無理そうだった。がそこは強引になんとかするしかない。 ……だが眠れない。 「はぁ‥‥」 なんで俺がこんな目にあうのだろうかね? 地球滅亡まであと6日。 ゲームならこんな感じにテロップが現れるかもしれない朝、俺は妹が来てシャミの歌を歌いながら起こすのに応じ、素直に一発で起きた。もちろん快眠故の起床ではない。眠れなかったのだ。 親が作ったトーストをゴムかなんだかを食ってるような感じを嫌とういうほど口の中で味わったあと俺は学校へゆっくりとした歩調で向かった。ハルヒの顔をまともに見れるような気がしない。 どんよりとした雰囲気を半径50㎝に漂わせながらのろりのろりと坂を上っていると、後ろから聞きなれた声音が後ろから聞こえてきた。なんだ、お前か。 「なんだとはなんだキョン。お前最近なんか見る度にやつれててるよな。また涼宮に振り回されてるのか?」 「いろいろとな。それより谷口、昨日はよく邪魔をしてくれたな」 「邪魔ぁ? 俺はお前と涼宮とのことで邪魔したことはないぞ」 涼宮との間は、か。確かに。でもな、 「せっかく朝比奈さんと話してたのに何も妨害することないだろう。友達なら黙って見ておくまでに留めておいて、その後は静かにいさぎよく立ち去るもんじゃないか?」 はぁ、とあからさまに溜息を吐いてやったところ、谷口の反応は俺の予想の斜め上をいくようなものだった。 「何言ってんだ? お前と朝比奈さんなんて昨日見てないぞ」 俺はあまりの谷口の素の反応に思わず目を丸くしたが、それは一体どういうことだ。 「それよりキョン。お前朝比奈さんと何だって? 話してたって? 2人きりで。おいキョン。マジで新月の夜に気を付けとけよ。俺はともかく朝比奈さんのファンでなおかつ上級生の人達からはとんでもな‥‥‥」 「待て谷口。お前は昨日夕方、公園にあるベンチ前通ったろ?」 しかし谷口はいよいよ俺を憐れむを見るような目で見て 「そうかキョン。お前もとうとう涼宮の毒牙にかかっちまったか。あいつの毒はハブをも上回るからな、まぁヘンテコな団を作った時にはもう既に毒は体内に回っていたんだと思うが‥‥‥。涼宮のように好き勝手やるのもアレだが、俺にクローン説をもちかけるなんてもっとアレだぞ」 谷口はいぶかしむような目でこちらを見ているが、もちろん俺がクローン説を本気でテスト平均点以下仲間に説こうとしているのではないのは明白だ。そして谷口のこの顔を見る限り、本当に俺と朝比奈さんが話していたのを知らないようだ。 ‥‥もう、本当に何が起こってるんだ。俺の寝不足が精神にまで影響を及ぼし始めたとか言わないでくれよ、頼むから。 ともかく、何かいやぁな予感しかしない。谷口にクローン説が当てはまらないならば、未来から谷口が来てわざわざ俺と朝比奈さんの秘密のカンバセーションを邪魔しに来たか、あるいは俺にも想像出来ない異常事態が発生しているかということだ。ハルヒのハルヒによるハルヒの身勝手さのための地球滅亡の前兆として、現れてはいけない時間軸が4次元と共に生まれてしまったか、谷口の記憶を半強制的にいじったか、あるいは谷口がボケたかかもしれない。俺としては谷口がボケているという可能性を是非推薦したい。というよりそうであって欲しい。 しかし念のために朝比奈さんの確認も取っておかなければ。昨日の話のクライマックスもまだ耳に入れてないこともあるから、俺は今長門よりも朝比奈さんに会いたかった。ハルヒになんとか不審に思われないよういつも通りの自分を全力で演じ、放課後になるや否や俺は文芸部室に駆け込んだ。 だがこういう日に限って誰もいなかったりする。癖になっているノックを2回して、返事がない時点で脱力感が襲ってきたがまあ仕方ないだろう。少し急ぎ過ぎたようだ。 俺の直感では真っ先に長門が来て、その後続いて朝比奈さん、3位にニヤケハンサム面の古泉、ラストにハルヒ。 しかし俺の期待を見事裏切るか如く、次に文芸部室のドアを開けたのは古泉だった。古泉の微笑もいつもに比べてどことなくぎこちなく、よく見れば目の下にはクマがある。 「それはお互い様と言ったところでしょう。貴方もいろいろと悩みを抱えておられているようですね。もし良かったら、僕がその悩みの相談に乗りましょうか?」 さも俺が何に悩んでいるのか知らないといった雰囲気でそう聞いてきやがる。原因はお前があんなことを言い出すからなんだがな。 「貴方も朝目覚めたら世界中が閉鎖空間に飲み込まれていたら嫌だろうと思ったので、僕なりの配慮と受け取ってください。本当はそのようなことを貴方に言うのは心苦しかったのです。閉鎖空間については、僕たちの専門ですからね」 地球が滅亡してたら起きるなんてこと出来ねーよ。少なくとも何の悔やみも迷いも生じずに消えていたさ。 古泉はいつもの微笑をフフと自然に作り上げたあと、ニヤケスマイルを崩してまるで近所のお兄さんがガキに向けるような朗らかな笑みを作った。 「でも、良かった」 「貴方がもし今回の涼宮さんの件について、それこそクマも作りもせずに軽率に行動をしていたらそれこそ僕は疑問視してしまうところです。世界がかかっているとはいえ、この問題については1週間ギリギリまで悩んでもらっても僕は構いません。少なくとも、僕が苦労してる分と同等ぐらいまでの苦労は‥‥‥してもらった方がいいかと」 結局自分も苦労してるんだから俺も苦労しろってことかよ。まあ喜べ。俺は巣の入り口が角砂糖で塞がれたアリぐらい苦しんでいるぞ。 「というより、いつの間にか話の流れが告白するみたいになってるがな、俺はそんなことする気サラサラないぞ」 「目の下にクマがある人が言うことではないですね。1週間後、また貴方とはさみ将棋が出来ることを期待しておきます」 古泉がそこまで言うと、ハルヒ達がまるでタイミングを見計らったか如く扉を勢いよく開けた。まさか聞いてなかっただろうな。 「さあ、今日もガンガン活動するわよ!! みくるちゃんお茶ね」 朝比奈さんの着替えのため俺らは一旦部屋から出て、メイド服に早々と衣装チェンジをした朝比奈さんのお茶を渋い音を立てながら各々の行動に戻った。 古泉は1人詰め将棋、俺は無論読書だ。 朝比奈さんになんとか話を聞こうと隙をあれこれと伺ってみるものの、どういうわけだかハルヒが相手チームのキャプテンをマークするバスケット選手並みのディフェンスを朝比奈さんに張り巡らしているような気がしたので声をかけることが出来なかった。仕方ない。今日の夜に電話をして話を聞いておこう。ついでに谷口のことについても。 まぁ、それも‥‥ 「さあキョン、残り4冊よ!」 「では、お先に失礼します」 「‥‥‥」 「あ‥‥キョン君、頑張ってね」 ‥‥この俺とハルヒオンリーな空間を1時間耐えきれたらの話だがな。耐えるって何を? 何だろうね。 睡眠不足プラスアルファ神経を約半日張り詰めていたこともあってか、6冊目の哲学書の表紙が嫌に重く感じる。タイトルから察するに、人間の言葉の意味についてボヤボヤと語り継がれているようだ。 「‥‥ねえ」 俺の頭がボヤボヤとして来始めた頃、不意にハルヒが声をかけてきた。なんだ。 「最近、アンタ何かあったの?」 何かってなんだ。 「何かよ!」 そう訳も分からず叫ばれても困る。しかしハルヒは俺の目をまっすぐ見つめ、俺が一体何を考えているのかを見通そうとしているようだった。ということは勿論、俺もハルヒの顔を見つめていることになり、ハルヒの瞳に反射して映る俺の間の抜けた顔はハルヒが何故こんなことを言い出したのかを思惑しているものだった。 その原因は分からないが、どうやら怒っているのではないらしい。ハルヒは俺から顔を背け、自分の目の前にある本へと強引に視線を変えた。机の上には長門が好みそうなハードカバーのSFが置いてあったが、おそらく今のハルヒの目には何も写っていないだろう。 「今日だってそうよ。徹夜でもしたみたいなクマがあるのに無理に元気出してるし、あたしが後ろからシャーペンでつっついても気づかないし、それに‥‥‥」 ハルヒがハルヒらしからぬことを言い出したので俺はこの上なく戸惑っていた。いや、マジで混乱していた。一体何故こんなことに。 ハルヒが一瞬空気を置いてから、またこちらに視線を翻し俺に向かってツバがかかる勢いでこう言った。 「なんであたしにそんなに気を使ってるのよ!!!」 ‥‥へ?Ⅲ と思わず呟いてしまうところだった。気を使っているだと。俺が? ハルヒに? 「あたしに対する態度がなんかよそよそしいわよ! あんた何か隠してるでしょ!?」 ハルヒはそう言い、俺のうろたえた表情を見るなり我が意を得たと確信したらしく、対ハブ戦で主導権を握ったマングースの如くニヤリと笑った。パイプ椅子から立ち上がるなり俺の胸ぐらをひっ掴み、「言いなさい」と下僕にカツアゲする姿は女王陛下そのものと言ってもいい。なんてめんどくさいことになってしまったんだ。 俺がハルヒに気を使ってるなんて天地がひっくり返って人間が空に落ちるような事態が発生したとしても常識的に考えてありえないだろ。俺はハルヒに気など使っていない。 ‥‥‥ってのは嘘ぴょんで、 正直に言うならば確かに神経を張り詰めさせている。そりゃそうだ。俺がハルヒに告白しないと地球が滅ぶ。まさに天地がひっくり返る状況の真っ只中にいるというのに気を使わん奴がいるというのか。いるなら手を上げてくれ。最優秀脳天気賞を俺が直々にくれてやるよ。別に嬉しくないだろうがな。 「ハ、ハルヒ。とりあえず手をどけてくれ」 苦しくなってきた、と言うより先にハルヒは「駄目よ」と返事した。目が爛々と輝いていやがる。さっきまでの物鬱げな表情はどこいった。NASAのロケットと共に宇宙の彼方へと消えたか? 「あんたが何を隠しているのか言うまでも絶対離さないわ」 ハルヒに隠し事だと。Oh no! 隠し事しかないぞ。 俺はどうにかして状況を打開しようと立ち上がってみたが、首は苦しいままだった。この脚本を書いたの誰だ。もし俺が主人公ならここで死んじまうぜ。何故なら選択肢が告白するか、今ここで現世に別れを告げるかの2つに1つしかないからな。 だがそんなシナリオに従うほど俺はまだ自分の運命に悲観していない。運命よ、そこをどけ。俺が通る。 「あー‥‥あー、実はだなハルヒ」 「いっとくけど、あたしに誤魔化しは通用しないわよ」 通用しないわよと言われて、はいそうですかと本当のことをベラベラ喋るわけにはいかないことぐらい俺にでも分かる。ここは俺の天性のアドリブ能力でなんとか場をしのぐしかない。 と思案していた矢先だ。 「分かってるわよ‥‥みくるちゃんのことでしょ!?」 「は?」 何故ここで朝比奈さんが出てくる。 「最近妙に仲良いわねと思ってたのよ。そして昨日確信したわ。あんたが公園でみくるちゃんと密会してるの見たんだから!」 なんと! あの場にまさかハルヒがいただと!? しかも密会なんて誤解されるような表現を使いやがって。俺たちは何もいかがわしいことしてないぞ。 「というよりなんでお前が公園に‥‥」 「誰だって別れた後に小走りでどこか向かっていたら気になるでしょ!?」 別に気にならん。俺なら急いで家に帰ったんだなとしか思わないぞ。 というよりも尾行されていたとは。我ながら迂闊だったか。 「ハルヒ。尾行なんてあまり好ましくない行動だぞ。そんなことやっていいのは本物の探偵かドラマの警察だけだ。一般人がやってしまうとストーカーに‥‥」 「そうやって話を逸らそうなんてことさせないわよ! あんたとみくるちゃんがあんなとこで一体何を話してたのか言いなさい!!」 尾行したという話をし始めたのはお前なんだがな、ハルヒ。 しかしなんとか話を騙し騙し変更しようと思ったのがバレたみたいだ。これは思いの他厄介なことになった。 「そう‥‥何も言わないのね。いいわ、言ってあげる。あんたみくるちゃんを恋愛対象として見てるでしょ!?」 ハルヒの表情はひくひくと痙攣しながらも無理矢理笑顔を浮かべており、こういうときどういう顔をしていいか分からないようだった。にしても俺が朝比奈さんを恋人対象として見るねえ‥‥。確かに朝比奈さんは小柄で可憐かつ庇護欲をそそるような素晴らしい体型と性格の持ち主で、その上禁則事項まみれではあるが未来から来たというオプション付き。そりゃ付き合えたら俺の学園生活もそこら辺に生えてる名も知らない雑草からバラ色のそれへと移り変わるだろうが、しかしなぁ‥‥。 そんなことを脳が酸素不足になりながらも考えていると、ふっと窒息感が和らいだ。ハルヒが力を抜いたらしく、顔を俯かせながらも手だけは俺の胸ぐらを弱々しく掴んでいた。 「‥‥そうよね」 静かにそう、確かに呟いた。 「女のあたしも思うわ‥‥みくるちゃんは可愛いってね。彼女に出来るものならしてみたいわ」 「俺もそう思うぞ」と言えるような状況ではなかった。さっきまであんなに勢いがあったハルヒが急にしおれてしまい、このなんとも言えぬまるで恋する乙女のような情緒不安定さがハルヒにもあったということは、とても筆舌しつくしがたい困惑を俺の中で渦を巻かせている。 「‥‥なあハルヒ。仮にそうだとしよう。だとしてもなんで俺がハルヒに気を使わなくちゃならないんだ?」 「やっぱりみくるちゃんが好きなのね‥‥」 「仮の話だ」 「だって‥‥あんた忘れたの? 団内の恋愛は禁止じゃない」 知らなかった。そうだったか? 「そうよ‥‥」 ハルヒは俺から手を離し、相変わらず俯いたまま重い足取りで窓へと歩みよった。外から室内へと夕暮れの光が差し込んでいたが、ハルヒの窓の向こうを見る様はまるで雨を眺めているかのようだ。そして窓に反射して見えるハルヒの顔は切なさが垣間見えた。 「いいわよ、別に。特別に許可してあげる。他の誰が何と言おうとあたしが許してあげるわ‥‥」 ‥‥と、ハルヒは言ったきりこちらに振り返りもせず黙ったまま景色を眺めていた。おい、こんな展開になるなんて誰も考えちゃいなかったぞ。何故二言三言の会話の間に俺が朝比奈さんを好きということになっている。そりゃまあ好きに違いないが、そう、俗に言うラブではなくライクというやつだ。それに例えラブでもお前が認めたところで朝比奈さんが認めないだろうよ。なんつったて未来人だしな。まあ他にも要因はあるが。 「一体お前が何の勘違いをしてるかは分からないが、俺は別に朝比奈さんにそういった感情を持ち合わせてないぞ」 「嘘よ。あんたいつもみくるちゃんからお茶貰う時デレデレするじゃない」 あんな校内一と言っていいほど可愛い人からお茶貰ってニヤけない奴はいないだろうよ。 「それに! 現に昨日もあってたじゃない! あれは何よ!!」 まるで浮気現場を目撃した新妻との会話みたいになっているのは気のせいか? 「ごちゃごちゃ言わずにその理由を言いなさいよ!!」 「あれはだな‥‥そう。朝比奈さんから相談を受けたんだよ。最近ハルヒの元気が無いような気がする、とか言ってたぞ。俺はそんなことないと否定しといたが、朝比奈さんは自分の出したお茶がまずいんじゃないかと杞憂しておられた。だから色々と話してたわけだ」 「なんであんたに相談するのよ!? 有希や古泉君がいるじゃない!!」 ハルヒはずかずかとこちらに歩を進め、俺は思わず後退りしているうちにいつの間にか背が壁と触れ合っていた。こいつも怒ったような表情したり捨てられたら子犬のような寂しげな表情したりと忙しい奴だ。ガムを噛んだ息でも嗅いで「いいじゃない!」と言って笑ってればいいものを。 「長門は‥‥えー、ほら、あいつ文芸部に所属してるぐらい本が好きだろ? 部室内でもひたすら本読んでるし、あんまり他のことに関心を向けてない‥‥かもしれない! って朝比奈さんは思ったのかもな」 「有希はそんな薄情な子じゃないわよ!」 分かってるさ。多分長門が一番皆の状態を把握してる。 「古泉は単純に‥‥家が遠かったんじゃないか?」 「‥‥‥‥」 けれどこれだと、それだったら3人が一緒に帰ってる時に話せば良かったじゃない! と突っ込まれたら終わりだ。言ってから気づいたが、トゥーレイト。 「要は、ハルヒ本人に知られなきゃ誰でも良かったのさ。朝比奈さんは陰ながらハルヒに元気を出してもらおうと頑張ってたというわけだ」 「そうだったのね‥‥全く。みくるちゃんったら、そんなこと気にしてたのかしら! 団長本人に聞かなかった罰よ。今度お返しに新しい衣装着せるんだから‥‥」 しかしハルヒが肝心なところで単純なのは助かった。それにしても朝比奈さんに新しい衣装か。そろそろ冬になるんだし、サンタの衣装にして欲しい。朝比奈さんがサンタコスチュームを身に纏えば、本物サンタクロースでさえ恐れ多いことだ。有無を言わず退散するだろう。ただしプレゼントは置いていってくれよな。 そうやって、漸く俺が一難去った喜びを朝比奈サンタを想像して噛み締めていると、ハルヒが第二の核爆弾を追加直撃をさせてきた。 「じゃあ、あんたは何であたしに気を使うの?」 しまった、っという言葉を寸でのところで飲み込んだのは我ながら勲章ものだ。誰でもいいから俺に賞をくれ。 「ねえ、なんでよ‥‥?」 だが賞は誰からも授かることはなかった。俺の耳に届いた言葉は授与式の司会者の声ではなく、不安そうなハルヒの声。 まるで、自分が俺に何か気に障るようなことをしたか気にかけるような、そんな声音だった。 「あの、そのだな‥‥‥」 ‥‥ここで少し考えてみてほしい。放課後、それも下校間際の時間帯だ。部活や居残りさせられていた生徒達はようやく帰宅時間かと安堵やら残念な思いをしながら長い長い坂道を下る頃であろう時間。そんな学校には誰もいない時間帯。強いて言うなら残っているのがほとんど教師しかいないような時に、ただでさえ人気のない旧館の2階でそれなりに‥‥というよりも黙っていさえいれば朝比奈さんと双璧をなすほど容姿を持つ、お偉く気の強い団長様が1人の一般男子生徒を壁へ追い詰め、こんな不安そうな触れたらその繊細なガラス細工が壊れるような表情をしていてだ。君は何も感じないか? 夕暮れの明かりも消えかけて、残るはそろそろ取り替えた方が無難な電灯の心許ない明かりがあるだけで、状況だけで言うならばこれほどドキドキする場面はそうそうないような事態で何も思わない奴がいるのか? だとしたら、そいつは鈍感ってレベルじゃねーぞ。 まるで今までのハルヒとの会話はこの時のためにあったんじゃなかろうか。今がそうなのか。今が言うべき時か? これほど、誰かがお膳立てでもしたんじゃないかと疑うようなベストコンディションはもう残り6日間の内には必ずといっていいほど無いだろう。 今、逃したらもう言うチャンスがきっとない。地球が滅ぶか滅ばないかは今まさにこの瞬間にかかっている。俺の手のひらの中にある。 ゴクリ、と唾を飲む。 言うしかない。いいか、俺。逃げはなしだ。ここで「俺はお前に気なんか使ってないぞ」なんてのは御法度だぞ、OK? 地球がどうにかなるかならないかの瀬戸際なんだ。地球が太陽系の惑星から消えるなんて嫌だろ、どっかの星みたいに。さあ言え。言えったら。 言え!! 「‥‥‥‥」 「‥‥キョン?」 問いに答えない俺を見て、ハルヒは首を傾げながら俺の顔を覗きこんだ。可愛い仕草も出来るんだな、ハルヒ。 ってのはどうでもいい。俺は骨の髄までチキンらしい。しかしこの際チキンでも構わない。俺の中である疑問が生まれたのだ。俺は今、猛烈に自分自身が告白するようにせがんでいる。何故だ? 地球が滅びるからか? でもそれって本当か? 本当に地球のためを思って告白云々を考えていたのか? 我ながら自分の思想さえコントロール出来ないのかと世間の人から罵詈雑言が飛んできそうだが、まさにそうかもしれない。 つまりだ。 俺の思想さえもをハルヒが操っていたとしたら、どうする? わけ分からんことを言うな。まさにその通りだ。そんな哲学書みたいな思想、俺なら5秒で飽きる。しかし今回ばかりは匙を投げっぱなしというわけにはいかない。そうだ。 『古泉君の考えは、涼宮さんの意志によるもの‥‥』 『涼宮さんは能‥‥』 朝比奈さんの言葉が途切れ途切れに思い出される。ハルヒが能力を使い、他人の思考さえも我が手の物に出来るかもしれないという可能性があるのだ。今切に告白したがっているのは俺の意志ではなく、ハルヒがそう命じているから‥‥‥? ‥‥‥あほらし。哲学書を読み過ぎたか。 俺の意志にしろハルヒが告白されたがっているにしろ、どちらにせよ閉鎖空間を抑えるための方法はただ一つ。言うしかないのだ。 言った後の結果が怖いとか、今までの関係が良いとかそういう深層心理から生み出された逃げだろ。その点については安心しろ。ハルヒは告白されて断った試しがないらしい。もしかしたら5分後に振られたという最高記録を抜かして5秒で振られるという最新記録を生み出すかもしれないが、何はともあれ言わなきゃ始まらない。 ‥‥‥言うぞ。どうせならカッコ良く言えよ。 「ハルヒ」 「‥‥何よ?」 人生経験上、女性と付き合った試しがない。強いて言うならば妹の友達と映画を見に行ったが、あれは別だ。ともかく、告白の時に一体どんな前振りをすればいいか分からない。古泉ならそういうのがホイホイと出てくるだろうが、生憎今だけはあいつには頼りたくない。というより誰にも知られたくない。 俺はハルヒがまるで逃げないようにするがために肩を掴み、じっとハルヒの視線を捉えた。ハルヒも今が一体どういう空気なのか読んだ‥‥かは知らんが、何も言わず俺の眼を見つめ返す。5月の俺すげーな。よくあの唇にキスしたもんだ。 ‥‥‥他の言葉はいらない。なんで気を使ってるのか聞かれて告白するというデタラメな順序もこの際無視だ。胸が高鳴ってくる。意志では抑えれそうにない。だが、たったその一言で、この不可解な動きをする鼓動も地球も処方箋いらずで助かるというのなら、‥‥‥ 「ハルヒ、」 もう一度呼んだ。 返事はない。構わん。 「」 気のせいだろうか。声が聞こえた。もちろん俺のではないし、ハルヒのうろたえた声でもなかった。 ふと隣を見るといつの間にかドアが開いており、まるで最初からそこにいたと言わんばかりにそいつは立ったままこちらを見ていた。 見覚えのある瞳だ。無機質と無感動を貫いた闇色に染まる確かな水晶体。 「長門‥‥‥」 そう、そこには長門がいた。 「忘れ物をした」 言い訳を言うかのようにそう付け加えると、長門は足音もなしに定位置へと進んでいった。いつも長門が座っているパイプ椅子の上には分厚いハードカバーの本が置いてある。さっきまでそんなものあったか? 長門がもう一度こちらを見つめ、今し方の光景が何を意味するか観察兼分析しているように見えた。まあ長門なら最初から分かっていそうだが。 それでも人間ってのは不思議なもので、そんなに見つめられるとつい条件反射でお互い体を離し距離を置く。恥ずかしくてあまりハルヒの方が見れないが、ちらっとだけ見ると肩のところにシワが寄っていた。どうやら相当強く掴んでいたようだ。 「下校時刻」 そうポツリと呟くと、俺たちの視線を促すよう長門は時計を見つめた。 「あ‥‥ああ。そうだな‥‥‥」 ‥‥‥‥何故、邪魔をしたんだ長門。 これまでの経験から分かる。長門は意味のないことなどしない。確かに、夏の合宿で部屋に入る入らないの際に意味なし問答を繰り広げたさ。だがあれは長門なりのジョークともとれないことはない。 じゃあ、聞くが。今回は何故だ。なんで長門は邪魔をした。地球が消えるか消えないか、俺が死ぬような思いで悩んできてようやく決心が出た答えを何故×にした。何故なんだ。教えてくれ長門。 「そ、そうよ!! もう下校時刻じゃない!? キョン、有希。帰るわよ!!」 ハルヒはそう言い、自分の鞄をひっ掴むとまるで俺から離れるように先に部室を出た。その行動は何故だか分からないが意味もなく俺を傷つけた。 そんな感傷に浸るか浸らないかの刹那だ。長門が瞬間的に俺のブレザーポケットの中に何かを突っ込ませた。一瞬だけ見えたが、あれはしおり‥‥? 「ほら、有希もキョンも。早く帰るわよ!!」 ハルヒがひょこっと顔を覗かせ、俺たちにそう呼びかける。長門は何も答えず部室を出て行き、俺は長門の背を追いながらもポケットの中の物の感覚を弄っていた。 意味があるんだな、長門。信じてるぜ。 俺も鞄を背負った後、明かりを消して部屋の外へと足を進めた。 →涼宮ハルヒの分身 Ⅳへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3648.html
「みくるちゃ~ん、また大きくなったんじゃないの~?」 「ふ、ふぇ~!やめてくださぁ~い!」 あたしはみくるちゃんの背後にまわって、胸をつかんだ。 う~んいつ触っても最高の触りごこちね!ちょっとうらやましいわ。 「こらやめろハルヒ。嫌がってるじゃないか。」 そんなあたし達のやり取りを見て、キョンは目を背けながらあたしに注意する。 その向かいに座ってる古泉君は苦笑い。有希は目も向けずに読書。 いたっていつも通りの光景。不思議なことなんて何1つ無い。 だけどあたしはそれでもいいと思ってる。今では不思議なことよりも、SOS団のみんなと過ごすことが1番楽しい。 だけど団長がそんなこと言ったらみんなに示しがつかないから、不思議は探しつづけるけどね! パタン。 有希が本を閉じた。時計を見るともう6時前。もうすぐ学校が閉まっちゃう。 あたし達は荷物をまとめて、帰る支度をする。 何よりも楽しみな時間である団活の時間が終わる。途中まではみんなと一緒に帰るけど、それぞれが別々の道へと別れていく。 「じゃあなハルヒ。また明日。」 そして最後にキョンと別れて、あたしは一人になる。 1日で1番楽しい時間は終わりを告げて、ここからは1日で1番嫌いな時間が始まる。 またあの家に帰らなきゃいけないんだ……そう思うとさっきまでウキウキしていた心が一気に沈んでいく。 家についた。玄関の明かりは……消えている。 ドアを開ける。部屋の中は真っ暗。 「ただいま……」 帰りのあいさつをしてみる。だけど帰ってくる声は、無い。 ああ、今日もか……分かってはいたけど、やっぱり気分は沈んじゃう。 家には誰もいない。お父さんもお母さんも、あたしを出迎えてはくれない。 別に死別してるわけでも別居してるわけでもないけど、二人とも仕事で帰ってくるのは日付を超えてからがほとんどだ。 休日も仕事に出掛けてるみたいだし、朝も起きた時にはもう仕事に行ってる。 あたしはほとんど親と会話することがない。こんな生活が、もう3年近く続いてる。 テーブルの上には、500円玉が置いてあった。今日も、これで夕飯を済ませろということらしい。 これが普通の家なら、机の上にあるのは親が作ったおいしそうな夕飯なんだろうな。 だけどあたしのところにあるのは、無機質な硬貨1枚。 ……まあ、もう慣れっこだけどね。あたしはもう1度家を出た。コンビニのお弁当でも買おう…… コンビニでお弁当を買った後、もうすっかり寒くなった夜道を、あたしは一人で歩いていた。 寒いのは身体だけじゃないのかもしれないけど。 ……やだなあ。なんでこんなにネガティブになっちゃうんだろう。 元気いっぱいで、何事にもポジティブ。それがSOS団でのあたしなのに、キャラ違うわよ。 こんな姿団員には見せられな…… 「あ、あれは……」 前方に見覚えのある人影が見えた。……キョンだ! キョンもこっちに気付いたらしい。あたしの方に向かってくる。 「よお、ハルヒ、また会ったな。」 理由は無かった。悪いことをしてるわけでも無かった。 それでもあたしは、気付いたらその場から逃げ出していた。 「お、おい!待てよ!」 キョンが追い掛けてくる。やだ、来ないでよ。 あたしは元気いっぱいでいつも強気の団長でなくちゃならないの。こんな弱い姿、あんたには見せられない。 いやキョンだけじゃない、みくるちゃんにも有希にも古泉君にも、こんな姿見せちゃダメなの! でも限界だった。いくらあたしが運動神経いいからと言っても女。キョンは男。 先にバテたのはあたしの方で、キョンに追い付かれてしまった。 「な、なんでキョン、追いかけてくるのよ……」 「そりゃこっちのセリフだ、なんで逃げるんだよ……」 「理由なんてないわよ、ただ……なんとなくよ。」 「おいおい、なんとなくで逃げるほど俺はお前に嫌われてるのか?」 違う。そんなこと無い。でもあたしはなんて言い訳すればいいのか分からずに黙ってしまった。 そしてキョンがトドメの一言を言った。 「別にやましいことしてたワケでもないだろ。それ弁当だろ?普通じゃないか。」 もうダメだ。あたしの抑えこんでたネガティブな感情が……爆発した。 「そうよ!悪いの!?あたしの家にはお父さんもお母さんもいないのよ! アンタの家ではおいしい夕飯が食べれるんでしょうけど、あたしはコンビニ弁当よ!! そんな姿を見られたく無かったから逃げたのよ!みじめでしょ!?笑いなさいよ!!」 だけどキョンは笑うことは無かった。真剣な顔で、あたしを見てくれていた。 「……とりあえず、落ちついて話をしよう。あそこの公園でいいか?」 ~~~~~ そしてあたしのキョンは夜の公園のベンチに二人で座っていた。 周りから見ればカップルに見えるかもしれない。だけど今は、そういう気分にはなれなかった。 あたしは、ゆっくりと話し始めた……。 「お父さんもお母さんも生きてるし、別居はしてないわ。だけど、ずっと仕事で家にいないの。」 「忙しいのか。」 「きっとね。だけど昔はそうじゃなかったわ。お母さんは専業主婦だったし、お父さんも休日は一緒に出かけてくれたわ。 優しかったし、厳しかった。あたしは昔からやんちゃだったからね、悪いことしたら、厳しく叱られたりもした。 だけど中1の夏頃から、急に変わったのよ。」 「変わったって、どういうことだ?」 「悪いことをしても叱らなくなった。何をしてもただ笑うだけで、何も咎めたりはしなくなったわ。 それだけじゃないの。なんだかいつもあたしのご機嫌を伺うようになって、ヘラヘラ笑うようになった。 あたしはそれが気に食わなくてね、悪いことをどんどん繰り返したの。犯罪スレスレのこともやったわ。 だけどそれでも怒ってくれなかったわ!」 「……」 「それでバチが当たったのね。今度は父さんも母さんも家に帰らなくなった。 父さんは仕事の量をふやして、母さんも忙しい仕事を始めた。 それからはずっとこんな生活よ。笑っちゃうでしょ。」 「……なんで黙ってたんだ。俺達に相談してくれれば……」 「相談してなんになるのよ!これはあたしの家族の問題なの!アンタには関係ないわ!」 「そうかもしれないが、何か力になれたかもしれないじゃないか!」 「アンタに何が出来るってのよ!!」 怒鳴り終えた後ではっとする。キョンは何も悪くないのに、ただ心配してくれただけなのに。 それなのに、どうしてあたしはこうやって…… 「俺にも出来ることはあるさ。」 え?出来ること? 「俺に少し考えがある。今は言えないが、お前の両親を元通りにすることが出来るかもしれない。」 「バカ、何言ってるのよ、会ったことも無いくせに……」 「俺を、信じてくれないか?」 そう言ってあたしをまっすぐと見つめるキョンの顔は真剣そのもので。 ただあたしを慰めるためのウソでは無いということが伝わってきた。 何をするのか分からないけど……だけど。 「……そんなに言うなら、信じてあげてもいいわよ。期待はしないけどね。」 お願いキョン。お父さんとお母さんを、元に戻して。 ~~~~ 公園での会話が終了した後、俺はハルヒと別れた。 正直なところこれ以上ハルヒに寂しい思いをさせたくは無かったから、ハルヒの家に行くなり逆に俺の家にハルヒを呼ぶなりも出来たのだが、俺にはやることがあった。 「ハルヒ、もう少しだけ、我慢しててくれ……」 俺はポケットから携帯を取りだし、電話をかけた。こういう時にかける相手は決まっている。あの超能力者だ。 『もしもし、珍しいですね、あなたから電話をかけてくるとは。』 「そうだな。それでいきなりで悪いんだが……今時間は大丈夫か?」 『ええ、大丈夫ですが……何か?』 「ハルヒのことについて話がある。今からいつもの公園に来てくれないか。」 『……了解しました。すぐに向かいます。』 その電話から10分後、古泉がやってきた。その表情はいつものスマイルだが、少し固い。 俺は古泉に先程ハルヒが話した内容をそのまま伝えた。伝え終えた時には、スマイルすら消えていた。 「まさか、涼宮さんにそのような事情があったとは……」 「機関は、把握していなかったのか?」 「申し訳ありません。流石に機関と言えど、家族の中まで監視するということは不可能でして。 学校内の様子を僕が見ることが限界なのです。」 「ハルヒの話を聞いて分かった。急によそよそしくなって、ご機嫌を伺うようになったと言う。それも中1の夏からだ。 ……ハルヒの両親は、ハルヒの能力について知っているんだな?」 「ええ。伝えさせて頂きました。しかし今の話を聞く限り、伝えたのはどうやら失敗だったようですね。」 「ハルヒの親と話すことは可能か?出来るだけ早くアイツを救ってやりたい。」 「そうですね……古典的な方法なら1つありますが。」 ~~~~~~ というワケで、俺と古泉はハルヒの家の前で待ち伏せをしている。 あ、もちろん家の前で堂々と立ってはいないぞ。ハルヒにバレたら元も子も無い。 近くに車を泊めて、その中で張り込みをしている。刑事ドラマでよくやってることだ。確かに古典的だな。 その車は「機関」のもので、運転手は新川さんだ。つまり新川さんもこの場にいるということになる。 「しかし彼女にそのような事情があったとは、見抜けなかったのは僕等機関としては恥ずべきことです。」 「涼宮さんはこの状況を誰にも知られたくないと望んだのでは無いでしょうか。だから今まで誰も気付けなかった。」 「そう言えばハルヒも言っていたな。『こんな姿見られたく無かった。』ってな。 ……ん?だとすると何故俺は知ることが出来たんだ?」 「それもまた、涼宮さんが望んだからですよ。あなたになら話してもいい、話を聞いてほしい、ってね。 もちろんこれは無意識下のことであり、本人は気付いてはいなかったようですが。」 「だが古泉、だったら最初からこんな事態起きなかったんじゃないか? 起きたとしても、ハルヒの能力があれば自然解決するはずだぞ?」 「これは私含め機関の中で有力な仮説があるのですが……」 新川さんが口を開いた。仮説?なんだそれは。 「涼宮殿の力は、親しい人間であればあるほど影響力が弱まるのではないかという説です。 私程度では涼宮殿の力によりいくらでも改変されてしまうでしょう。それも知らずのうちに。 しかしあなた方は、改変されたとしてもその事実に気付くことが出来る。これは大きな違いです。 更に親しい、血縁関係にあるご両親には、涼宮殿の能力も干渉することが出来ないと考えられます。」 「涼宮さんは人の心に土足で踏み込んで改変するような方ではありませんしね、その想いは親しい人ほど強いのでしょう。」 ……バカだな。ビームなんかを出すよりも、こういうことに力を使えよ。 不器用な能力だ。今だからこそ思う、こんな能力を持ったとしても、決して幸せでは無い。 そう、そして今回のケースもまた、ハルヒの能力が…… とその時だった。二人の男女がこちらに向かって歩いてきた。 片方はメガネをかけた優しそうな男性、もう片方は見ただけで分かる。ハルヒにそっくりな女性だ。 「あれは、ハルヒの両親だな。」 「ええ、私とは面識があります。私が行きましょう。」 新川さんは車から出て、ハルヒの両親の前に立った。 「あなたは確か……」 「ご無沙汰しております。『機関』の新川で御座います。」 「何か御用でしょうか?」 「はい、すず……ハルヒ殿のことで少々お話が。」 それを聞いて一気に顔が強張る二人。しかし抵抗することは無く新川さんに連れられ、車に入った。 元々が大きな車だから大人5人が入っても余裕はある。 助手席に移った古泉が後ろを向き自己紹介をする。 「始めまして。僕は古泉一樹と申します。涼宮さんの友人であり、機関の一員でもあります。 そしてこちらの彼は○○君、涼宮さんからはキョンと呼ばれております。」 「どうも、始めまして。」 古泉についでに紹介されてしまったので、俺も合わせて会釈をする。 しかし、こんなときに言うのも難だがキョンのくだりは必要なのか疑問である。 車の中で話す内容では無いということで、近くの喫茶店に場所を移した。 どう考えてもカップルや親子連れには見えない集団であり、若干浮いているが仕方が無い。 「さて、では単刀直入に伺います。」 古泉が話を切り出した。 「涼宮さんから話を伺いました。あなた方はずっと、仕事ばかりで家に帰っていないようですね?」 「……はい。」 答えたのは父親だった。とても人が良さそうな人で、悪意があってやったんじゃないということは一目でわかる。 申し訳なさそうな顔をしながら、彼は続けた。 「忙しかったから、と言い訳する気はありません。私達は怖かったのです。あの子のことが。」 「怖かったとは……能力のことですか?」 「はい。今から4年前の夏でしょうか。あなた方機関に呼び出され、あの子に特別な能力があると告げられました。 願望を実現し、時には世界まで変える能力。そして機嫌次第では閉鎖空間を生み出し世界を滅ぼすということ。 元々あの子はやんちゃで、よく叱っていました。しかしこれからはそのことが世界を崩壊させてしまうかもしれない。 ずっとかわいい子供だと思って育ててきたのに、急に世界を滅ぼすことも出来る能力を持っていると聞かされた途端、まるであの子が怪物のように思えてきて……」 「ふざけるな!!」 俺は声を荒げていた。言葉遣いに失礼があるのは分かってる。だが黙ってられるか。 「ハルヒは怪物なんかじゃない!確かにトンデモない能力は持ってる! だけどアイツは普通の人間なんだ!確かに破天荒な性格だけど、根は優しくていいヤツなんだ、それを……」 「落ちついてください!」 俺を抑えつける古泉。それと同時に、母親が泣き出した。 「だけどどうすることも出来なかったんです!機嫌が悪くならないようにしていたら、あの子はもっと暴れ出して…… だけど叱ることなんて出来ない!もう私達は逃げるしか無かったんです!」 「本当にそうですかな?」 今までずっと黙っていた新川さんが口を開いた。 「ハルヒ殿は本当は、叱ってほしかったのでは無いでしょうか。」 「叱ってほしかった……?」 「ええ。聞くところによるとハルヒ殿は、急に親の態度がよそよそしくなり、寂しかったと言っていたようですぞ。」 「……俺が直接あいつの口から聞きました。だから叱ってもらおうとしてもっとはちゃめちゃなことをするようになったって……」 「だけどそれでもし、閉鎖空間が発生したら……」 「心配しないでください。」 古泉は微笑ながらそう言った。コイツの1番得意な顔だ。 「その時は、僕達がなんとかします。我々「機関」は、そのためにいるのですから。」 「それに、アイツはもう叱られたぐらいで世界を滅ぼそうとする空間を生み出すようなヤツじゃありません。俺が保証します! だから、自分を偽って接しようとしないでください。あいつが望んでるのはご機嫌取りなんかじゃない。 悪いことをしたら本気で叱ってくれる、自然なままの親の姿なんです。」 「……わかりました。」 終始うつむいていた父親は顔をあげた。 「あの子と真正面から、向き合ってみたいと思います。以前のように厳しく叱ることもあるでしょう。 だけどもう、あの子から逃げません。約束します。」 その顔からは、先程までのオドオドとした様子は見られなかった。 大きな決意をした、父親としての顔だった。 ~~~~~ 翌日、俺はいつものキツいハイキングコースを登っていた。 昨日は夜も遅かったということもあり、あの後自然解散となった。 ハルヒの両親はそのまま家へ、そして俺は新川さんの車で自宅まで送って頂いた。 俺の親に「こんな時間まで何をしていたの!」と大目玉を食らったが、反省はしていない。 そして、今回のことについて古泉がこう言ってきた。 「今回の落ち度は我々機関にあります。どうか彼らを憎まないでください。 突然自分の子供に膨大な能力があると知らされれば、あのようになってしまうのも仕方ありません。 親と言えど一人の人間ですから。もし僕自身が同じ境遇に立たされても、今回のようにならないとは言い切れません、 言い訳になりますが当時の機関はまだ出来たてで、思慮に欠ける部分があったようです。 ですから、憎むとするならば我々機関の方を憎んでください。」 確かに、あの時は俺も感情が激高して怒鳴ってしまったが、 両親にしてみたって突然トンデモな境遇に立たされればああなってしまうのも仕方ないかもしれない。 だがそれでも俺は機関を憎むようなことはしないぜ。 確かに思うところが無いと言えばウソになるが、機関のおかげでこの世界があるのもまた事実だからな。 それよりも大事なのはこれからだ。本当にあの両親はハルヒと真正面から向き合ってくれるのだろうか。 と様々な思考を繰り広げているうちに、教室についたようだ。 「よお。」 いつものようにハルヒに声をかけ、自分の席に座ろうとした。だがいきなり、 「うおっ!」 首ねっこを掴まれて引っ張られた。おい、むち打ちになったらどうする! 「キョン!来週の不思議探索は中止だから!」 遅刻も許さない探索を自ら中止?どういう風の吹きまわしだ。 それになにやら、そのことがとても嬉しそうである。 「なんだ、何か用事でも出来たのか?」 「うん!父さんと母さんと一緒に旅行に行くことになったのよ! それで父さんも母さんも仕事を減らして、家に居る時間を増やすって!」 その言葉を聞いて俺は心底ほっとした。だからだろうな、なんというか反射的に 「良かったな、ハルヒ。」 そう言いながら、ハルヒの頭のなでていた。 真っ赤になってびっくりした顔を浮かべるハルヒ。だけどその後、にっこりと笑って 「ありがとう、キョン。」 ハルヒにしては珍しい、素直なお礼の言葉だった。 その笑顔はとても穏やかで、俺を安心させてくれるには充分なものだった。 また辛いことがあったら俺に相談しろよな。「強くて元気な団長様」だって、心休める時は必要だぜ? HRが終わった後の休み時間に、この朝のやり取りを見ていた谷口その他大勢から盛大なからかいを受けたのはまた別の話である。 やれやれ。 終わり