約 2,288,044 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6537.html
涼宮ハルヒの遡及 どうもご無沙汰してます。 『涼宮ハルヒの異界』、『涼宮ハルヒの切望―side K―』、『涼宮ハルヒの切望―side H―』の作者です。今回はこのシリーズの完結編をお送りさせて頂きます。 『戸惑・完成ゲーム』、『DQ6』、『YU-NO』、『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱01』等のネタが含まれていますが、どこか分かったてもスルーよろしくです。分からなかった方はニコ動かようつべで探ると分かるかも。 このたびは、賛否両論のオリジナルキャラクターが登場する、当シリーズを、最後までお付き合いくださり、心より感謝申し上げます。 では、どうぞ。 涼宮ハルヒの遡及Ⅰ 涼宮ハルヒの遡及Ⅱ 涼宮ハルヒの遡及Ⅲ 涼宮ハルヒの遡及Ⅳ 涼宮ハルヒの遡及Ⅴ 涼宮ハルヒの遡及Ⅵ 涼宮ハルヒの遡及Ⅶ 涼宮ハルヒの遡及Ⅷ 涼宮ハルヒの遡及Ⅸ 涼宮ハルヒの遡及Ⅹ 涼宮ハルヒの遡及ⅩⅠ 涼宮ハルヒの遡及ⅩⅡ 涼宮ハルヒの遡及ⅩⅢ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5451.html
その2 俺とハルヒの前に姿を現したのは佐々木だった ニッコリ微笑みながら、静かに歩いてきた おい佐々木 お前がこの閉鎖空間を作り出したのか? 「僕は閉鎖空間とは呼ばないがね。君がそう呼びたいのなら否定するつもりはない」 お前が作った閉鎖空間の中にどうやって自分が入れるんだ? 「はっはっはっ キョン、君は何でも自分を中心に考えてはだめだよ 僕もあれからいろいろ話を聞いて、それなりに勉強したんだ 君たちの事も、僕の事も、そして橘さんや藤原さん、周防さんの事もな 僕と涼宮さんがあそこから飛ばされたのにもきっと理由があると思う 涼宮さんをあの中に入れない方がいいのなら、それができるのはおそらく僕だけだろうからね」 俺は無意識にハルヒをかばうように立っていたが、俺の腕のすり抜けてハルヒがわめいた 「ちょっとあんた、これはいったい何よ? あんたの仕業だって言うの?」 「涼宮さん、私はあなたに何も恨みはないの でもね、あなたのただ一つの欠点は自分が何も分かってないという事なのよ キョンや他の人たちに守られているだけでは何も生み出せない 何も作り出せない ただ破壊するだけの空間なんて私には理解できない」 「何を言ってんのよあんた いいからあたしとキョンを有希の所に連れていきなさい、今すぐに!」 「そう願うならご自分で行けば?できるものならね」 「ちょっとキョン!説明しなさい!」 だから俺に話を振るなよハルヒ えーっとこんな時、古泉ならどう説明するだろう いや長門でもいいか ダメだ長門の話は電波話にしか聞こえないし朝比奈さんなら・・・禁則事項か 「じゃあ僕から説明しようか?キョン 涼宮さん、あなたは自分の力について何も理解していない 自覚していない所でさまざまな現象を発生させる」 「はぁ???」 「あなたはとても面白い人。才能もあるし、きれいだし でもね、あなたにその力は荷が重すぎる。だから私に白羽の矢が立った」 おい佐々木 それ以上言うな 「だってキョン その通りじゃないか だから君や仲間たちがひどい目に会ってきたんだろ 君だってそう思っているはずだ 涼宮さんが普通の女の子に戻ってくれたらって それで僕が選ばれたんだ 僕も正直迷惑を隠せない気持ちだけど、涼宮さんを見ているとやっぱりそう思うね」 佐々木、もう黙れ ハルヒにそれ以上わけの分からん事を吹き込むんじゃねえ 「涼宮さんには荷が重すぎるから その重い荷物を全て僕たちが引き受けようとしてるんだ 君にとっても悪い取引じゃないと思うのだが」 荷が重い?迷惑だ? いったい誰がそんな事を言ってるんだよ 誰もそんな事は一言も言ってねえぞ いい加減な事を言うんじゃねえよ ハルヒは俺たちのリーダーだ SOS団の団長だ そして俺たちは仲間なんだよ かけがえのない仲間なんだ 俺たちの仲間に傷一つつけてみろ 俺はお前を絶対に許さないぞ 「ほう、キョンがかい 君も変わったものだな ずっと平凡に人生を送りたいって 中学の頃からそうぼやいていたのに ただの思いつきで君たちを引っ張り回す変人が 君にとっての大事な仲間なのかい?」 佐々木 お前は何も知らない 高校に入ってからの俺を知らない SOS団で楽しく遊んでいる俺を知らない そしてお前は ハルヒの事を何も知っていない もうそれ以上言うな 俺がお前をブン殴らないうちに さっさと俺とハルヒを長門の部屋に送り込め 「それは僕にはできない相談だね マンションをシールドしているのは僕の力じゃない 行きたかったら自力で行く事だね そこまでは僕も止めはしないよ」 「キョン、何なのよこの女は 全然意味分からないわ さっきからいったい何言ってんのよあんたたち 私がバカだって言いたいの?」 ハルヒよく聞け お前の力で長門を助けに行こう お前ならそれができる 俺とお前を長門の所まで連れて行ってくれ 頼むハルヒ 「?????」 「ふふふ はたしてあなたにそれができるかしらね 破壊しかできないあなたに 人を助ける事ができるのかしら」 黙れ佐々木、あと5分だけ黙ってろ おいハルヒ この1年で何かに気付いたことはないのか? 「1年で?」 ああ SOS団を作ってからいろんな事があっただろ お前の知らない所で起こったことが多かったけどな お前にも薄々気付いた事ぐらいあるだろ 「え・・・?」 お前は長門が普通の女子だと思っているのか? 古泉はただの転校生だと思ってるのか? 朝比奈さんは・・・ちょっと分かりづらいけど、お前にだって何か気付いたことがあるだろ? 「キョン・・・」 思い出せハルヒ 俺たちの事だ SOS団全員で作ってきた歴史だ 楽しい事や、不思議な事がいっぱいあっただろ それは偶然起こった事だと思うのか? 宇宙人や未来人、超能力者が本当はいないと思ってるのか? 「・・・・・・」 ハルヒの瞳が不思議な輝きを放ってくる ここか? ここでいいのか古泉? 今ここで使ってもいいのか? 「キョン」 何だハルヒ? 「1つだけ教えて」 ああいいとも 「あんたの本当の名前は何?」 名前? 「そう、キョンの他にもあるでしょう? あんたの名前が」 あああるともハルヒ 俺の名前がもう一つな お前が中学生の時に聞いたはずの名前がな 「ある・・・のね・・・やっぱり」 ああそうだよ あの時に名乗った名前だ 「キョン・・・」 もうどうにでもなれと思った このくそったれな状況を脱するために 今ここで使うしかないと思った 言うぞ ついに ハルヒ 俺の名前は・・・・・・ ついにその時が来たのか 俺の持っている切り札 世界がとんでもなくややこしい事態になってしまった時のために 俺がずっと隠してきた切り札をついに使う時が来たのか 分断されているSOS団を救うために 今ここで使ってもいいよな古泉よ ハルヒ 俺の名前はな 「あんたの名前は」 一緒に言うぞ 「いいわよ」 グオオオオオオオオオオと激しい地鳴りが響いた 巻き起こった突風に俺とハルヒは吹き飛ばされそうになるが 必死で足を踏ん張って立った ハルヒの目を見つめたまま、ハルヒも俺を見つめたままで 俺は禁断の6文字を言おうとした 「・・・・・・」 「・・・・・・」 あれ? 何だ? 声が・・・ 出ない・・・・・・ 振り向くと佐々木はまだ立っていた 俺とハルヒのパントマイムを楽しそうに眺めていた すさまじい旋風は収まろうとしない あああとしか声が出ない俺もハルヒも、その風のうなりに飲み込まれそうになっていた 佐々木 声を出なくしちまいやがったのか? 「それは分からない さっき言った通りだよ もう少し時間を稼ぎたい だからこうやっている」 ハルヒ 何とかしてくれ もう分かってるだろ 声に出さなくても 俺の正体を 中学1年の時に東中の校庭にあの奇妙キテレツな地上絵を描いた時の事を あの時にお前を手伝った哀れな高校生を 「・・・・・・」 ハルヒも懸命に口をパクパクさせているが もちろん声は出ていない 俺の顔に恐怖が走る 今まで一度も見た事がなかったハルヒの表情 自己中心で傍若無人な爆弾女 このいつ発火するかも分からないとんでもない時限爆弾が なぜか自己消火しようとしていた ハルヒは今 明らかにおびえた表情をしている 今にも泣き出しそうになり 俺のシャツの袖を掴んでいる こんなハルヒは初めてだ あまりの急速な展開と自分の無力さにおびえているのか 鶴屋さんと森さんにかけられた言葉が再び蘇る ハルヒはこう見えても神経の細い女なんだ ハルヒはいつもみんなに気を使っているんだ この女を知る人間が聞いたら腹を抱えて笑うようなセリフだが 今目の前にいるハルヒは明らかにその通りだった どうするんだよ俺 考えろ、考えろ どうすればハルヒに思い出させることができるのか いやもうとっくに思い出してるはずだ 後は何をすればいい? 何をすればハルヒが怒れる獅子に変身できるんだ? ええい もうこうなればあれしかないのか? 1年前にハルヒに巻き込まれた閉鎖空間を思い出した 大人の朝比奈さんに言われた言葉 パソコンのか細い糸で長門に教わった言葉 もう一度あれをやればいいのか? 「キョン 君はそれでいいのか?」 後ろから佐々木の声が聞こえる 「君はそれで満足するのか? そんな目的のためだけに 自分を犠牲にするつもりなのか?」 犠牲? 犠牲だって? 俺は佐々木を振り返った 面白そうに眺める佐々木の目を 穴が開けとばかりに睨みつけた 佐々木は動じる事もなく話し続けた 「彼女のお守りをして これからもずっと振り回されて 危険が迫るたびにそうするのか? それじゃ君の気持はどうなるんだ? 一生そんな事を続けるつもりなのか?」 佐々木 やっぱりお前は何も分かっちゃいない 俺の事を何も理解していない 自分を犠牲にしてハルヒの面倒をみるって? バカ言ってんじゃねーよ お前は確かに頭のいいヤツだよ よく考えてると思うよ ハルヒの行動パターンも俺の事も よく研究したもんだよ けどな佐々木 お前が1つだけ見落とした事があるぞ 俺も成長してるって事だよ この1年で大きく変わったよ俺は 俺が変わったことはたくさんあるけどな その1つがこれだ 俺はいやいややってるんじゃない 自分がしたいからするんだよ 俺はハルヒと キスしたいからするんだ 口をパクパクさせてもがくハルヒにそっと顔を近づけた ギョッとした目で俺を見上げていたハルヒは 俺の行動を理解したのか そっと目を閉じた 俺は 自分の意志で ハルヒにキスをした 時間が止まった 吹きすさぶ風の音も聞こえなくなった 佐々木が何かを叫んでいたが その声すら耳に入らなくなった ハルヒの体から力が抜け そして・・・・・・ (同じ時間に、別の次元で) 新しい登場人物を見て 古泉と朝比奈さんは腰を抜かしそうに驚いていた 「ごめんなさーい こんなに早く来るつもりはなかったんですけどー あちらの皆さんがちょっとお急ぎだったみたいなんで そろそろ始めさせていただきまーす」 「あなたは・・・・・・?」 「はい先輩、その節はどうも」 「あわわわわ・・・」 「先輩にもお茶をご馳走になって、ありがとうございます 本当はちゃんとSOS団に入って たくさん冒険したかったんですけど・・・」 「ちょっとあんた、こないだの新入生じゃないの」 「はい!涼宮先輩! だけどちょっと待ってて下さいね、場所を変えますから」 その北高の新入生はニッコリ笑って 手にした小さな金属の棒を振った 幾何学模様の入った細い棒がキラリと輝き ハルヒと佐々木の姿がポンと消えた 「何をしたんですか?」 「ご心配なく、後でまた来られると思います でもまだ主役の登場には早いので 先にみんなで行くことにします」 「あなたはいったい?」 古泉の質問には答えず、新入生は再びオーパーツを振った 今度は空間がグニャリとねじれ、全員の姿が消えた 「く・・・・・・・」 ズキズキするこめかみをさすりながら古泉が起き上がった そして周囲の景色を見てギョッとした 周りは一面の宇宙空間で、真っ黒な地面がはるか先まで広がっていた 星空以外に何のディテールも見分けられない ただの真っ黒な平面だった そこには全員がいるようだった ピクリとも動かない長門の側には朝比奈さんが横たわり 少し距離を置いて橘京子、藤原、そして周防九曜がいた 全員が気を失っているのか、黒い地面に突っ伏していた 立っているのはただ1人、まだ名前も覚えていない新入生1人だった 素早く意識を取り戻した古泉が詰問した 「まずはあなたの事を聞かせてもらいましょうか」 「ふふふ先輩、さすがですね こんな時にも理性的です」 「質問に答えて下さい」 「ここは皆さんの地球とは別の世界です そしてご覧の通り、何もありません」 「別の惑星という事ですか?」 「別という表現がふさわしいのかは分かりません でも地球から宇宙船に乗ってもたどり着けない場所です」 古泉は長門をチラリと見た 長門ならもう少し詳しく解析してくれるかもしれないが 長門はまだ気を失ったままだった 「銀河系の1惑星ではないと?」 「たぶんそうです。どう説明したらいいのか分かりませんけど」 「まさか、異世界だとか」 「言葉の意味ではそれが一番近いですね とにかく、普通の手段では行き来する事はできません」 「僕たちをここに引き込んだ理由は?」 「それは皆さんが目を覚まされてからご説明します」 「長門さんと朝比奈さんの様子を見ても構いませんか?」 「もちろんです、早く起こしてあげて下さい」 古泉は素早く移動して朝比奈さんを揺り起こした 朝比奈さんはすぐに目を覚まし、置かれている状況を見て予想通りの悲鳴を上げた 「ひゃぁぁぁこっこここここどこなんですかぁーっ?」 「落ち着いて下さい朝比奈さん、僕にもまだ分かりません とにかく落ち着きましょう」 「ふわぁぁぁ」 「長門さんはどうですか?」 長門はずっと変わらない姿勢で眠っている 布団はもうなかったが、几帳面に制服姿だった その格好のままで寝ていたのか さすがに靴は履いていないが、靴下はちゃんと履いていた 古泉が揺り動かしても全く動かない その体はまだ熱く、呼吸も浅く小さかった 「長門さん・・・さっきと変わりませんね」 ようやく落ち着き始めた朝比奈さんがつぶやく 「涼宮さんもいなくなってしまいましたし、これは厄介です」 その頃には敵の集団も目を覚ましており、頭を振りながら起き上ってきた 周防九曜は起き上がるなり長門にひたと視線を向けている 何か呪詛でもしているように、人差し指を小さく振っている 古泉がさりげなく長門をかばうように立ち、新入生に目を向けた 「1人を除いて全員目を覚ましました」 「はい、それでは説明させていただきます ここは地球がある銀河系とはまた別の空間にある世界です 詳しい事は分かりません 異次元とか異世界とか、たぶんそういう世界だと思います そしてここは私の生まれた世界です」 「あなたの世界?」 「はいそうです ここには私1人しかいません そしてご覧の通り、ここは死に絶えた世界です 原因は分かりませんが、植物も生えず、何の生命もない世界です 生命どころか、それを誕生させるエネルギーすらない世界なのです 私はここで1人で生まれ、1人で暮らしてきました」 「ちょっと待って下さい 生命のない世界でどうしてあなたが生まれたんですか?」 「それは私にも分かりません ただ、生命をはぐくむエネルギーが枯渇したのは たぶんそんなに昔ではないと思うんです 私は最後の生き残りなんじゃないのかなって」 「それと僕たちが集められた事との関係は?」 「もう少し聞いて下さいね 私が生まれた時に、側にこの棒が転がっていたんです」 「そのオーパーツですか?」 「オーパーツって言うんですかこれ? 名前なんかつけたことなかったんですけど 一人ぼっちで生まれた私にこの棒がいろいろ教えてくれました 成長するのに必要なエネルギーも与えてくれました そして、別の世界には豊富なエネルギーがあるという事も教わりました 皆さんに集まってもらったのは、そのエネルギーを分けてもらいたいからなのです」 「分かりませんね」 「でしょうね先輩 だって私にも何も分かってないんですから この棒に指示されて 私は別世界への旅に出かけました そうするより他に方法はなかったのです ここにいつまでいても一人ぼっちだし そして長い旅の後に、あの地球に到達したんです」 「どうして地球に?」 「それも分かりません この棒の指示通りに進んでいくと地球に着いたのです ただ・・・地球に着くとこの棒は消えていて 私は何も覚えていませんでした 何の記憶もないままに、私はただこの棒を探しました この棒を探す事だけが記憶に残っていたのです」 「北高に入ったのはそれを見つけてから?それとも記憶が戻ったから?」 「棒を見つけたのはつい最近です 北高の近くにあることが分かったので、私は北高に入学しました いろいろ情報を操作するのは大変でしたけど、何とか合格して、腰を据えて探そうと思ったのです そしてSOS団の事を知りました とっても面白いグループだって聞いて、しかも部員を募集するって言うから さっそく入部希望しました 今さらこんなこと言うのも変ですけど、本当に入部したかったんです だけど・・・そちらの皆さんが動くのが早すぎて、遊んでられる状況じゃなくなってきたんで、それで申し訳ないんですけど、大きなお屋敷に忍び込んでこの棒を取り戻し、あのマンションに行ったってわけです」 「あっ・・・あのっ・・・キョンくんと離れちゃったのもあなたの操作ですか?」 「キョン先輩って、あの面白い方ですよね うふふふ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなくって キョン先輩の事は私は知りません ここにおられないんであれって思ったんですけど」 「そろそろいいでしょう、ここに連れてきた目的を教えて下さい」 「それはそこの先輩次第です」 新入生が声をかけた瞬間、周防九曜がビクリと動いた 「・・・・・・ここは・・・楽しい空間・・・・・・心が・・・躍る・・・」 周防九曜はそうつぶやいて、長門に歩み寄った 「待って下さい、長門さんは意識不明です 彼女を回復する方法はありませんか?」 「・・・・・・あなたの・・・瞳も・・・きれいね・・・・・・」 周防九曜の指先がぼんやり光り、1本の光の矢が長門に向かって走った 古泉が素早く回り込んでその矢を叩き落とした 「ん・・・これは?」 古泉の体が赤く輝き始め、閉鎖空間にいるような球体に変化した 「ふえぇぇぇー、古泉くぅーん」 「ここでは僕の力が有効に使えるようですね」 赤い光球と化した古泉は、地面からフワリと浮かび上がった 「それでは説明になっていませんね周防さん 挨拶もなしでいきなり攻撃ですか?」 「・・・・・・ここで戦えば・・・この世界は生まれ変わる」 「それはどういう意味なのでしょうか?」 「ごめんなさい古泉先輩 つまり皆さんにここで戦ってもらい、そこで生じる膨大な生命エネルギーを少し分けていただきたいのです もちろんそれによって皆さんの戦いに影響はないと思います 私は余剰エネルギーをいただくだけですから」 「つまり、ここで僕たちを意味なく戦わせて生体エネルギーを放射させ、それをそのオーパーツが吸収してこの世界を再生するとでも?」 「ごめんなさい、私にちゃんと説明できる知識はないんです ただ、佐々木さんのチームが皆さんと戦うという話を聞いたので、それならぜひここを使って下さいと申し上げただけなんです」 「それでははっきり申し上げましょう 我々SOS団は戦いなど望みません こんな事をしても無駄です」 一瞬殺意を盛り上げた古泉だったが、すぐに冷静になり元の姿に戻った 「ケンカはダメですぅ!危ないですぅ それに・・・それに・・・涼宮さんもキョンくんもいないし 長門さんがこんな状況では戦えません」 「朝比奈さんのおっしゃる通りです 我々には戦う意志も戦力もありません あなたには申し訳ないのですが、こんな事を受けるわけにはいきませんね」 「・・・・・・うるさい・・・・・・口が多すぎる・・・」 周防九曜が再び攻撃を仕掛けた 人差し指から数本の小さな矢が飛び出し、長門に命中する寸前に古泉が叩き落とした 「待って下さい、戦うつもりはありません」 「こここ古泉くん、もはや話しても無駄、かもしれませんね」 「朝比奈さん?」 「古泉くんは長門さんを守って下さい 私も・・・・・・戦いますっ」 朝比奈さんの声に反応して、今まで黙っていた2人も前に出てきた 「ふっ、やっと俺の出番か」 そう言ったのは藤原だった 「わ、わ、わ、あんまり近づかないでくださぁい!」 「あんたにどれほどの事ができるのか、見せてもらうとするか」 「朝比奈さん!」 「おっと、あなたの相手はここにもいるのよ」 「橘京子・・・」 「キョンくんだけを別行動させたのは私たちの作戦よ 今ごろ彼は私たちの組織に捕らえられてるわ」 「何ですって?」 「涼宮さんは佐々木さんが抑えているはず まあ抑えるほどの事もないでしょうけどね 長門さんは周防さんが封印しているし、さあどう戦うつもりかしら?」 「ですから僕は戦いませ・・・」 橘京子の全身がぼんやり青く輝き始め、いくつかの光点に分かれて宙に浮いた 古泉も赤い光球に変わり、橘京子とにらみ合った 「ほら、早く攻撃してみろ」 「うわっ、こ、こ、こ、来ないで下さーい!」 「朝比奈さん!」 「・・・・・・・べらべらしゃべる男は・・・美しくない」 周防九曜の攻撃が古泉に集中し、危うくかわしたその横から小さく分裂した橘京子の光球が襲いかかる 藤原はめんどくさそうに朝比奈さんの目の前に立ちはだかっている おびえる朝比奈さんの姿がチカチカと点滅し、やがて空間から消滅した 「朝比奈さん!」 朝比奈さんはしばらく消えていたが、すぐにまた姿を現した 「あれ?」 「どうしましたか?」 「禁則が・・・・・・消えました」 「と言うと?」 「TPDDの使用制限が消えちゃいましたぁ・・・」 「それは、ここが異世界だからでしょう 未来からの干渉がなくなったのではないですか?それと、TPDDはまだ使えますか?」 「はい・・・ちゃんとスイッチは入っています」 「それはよかった。朝比奈さん、あなたのその力で僕たちを守って下さい」 「わ、わ、わ、分かりましたぁっ!」 朝比奈さんはこめかみに指を当てて、小声でボソボソとつぶやいた 周防九曜の攻撃が動かない長門を襲ってくる 古泉が急いで防御するが間に合わない 小さな数本の光の矢が長門に命中する寸前、長門の姿がパッと消え、数秒後にまた姿を現した 光の矢はその間に空間を空しく貫いただけだ 「こここ、これでいいんですか?」 「さすがは朝比奈さんです、素晴らしい作戦です」 「・・・・・・それは何?・・・・・・認められない・・・・・・」 周防九曜は今度は朝比奈さんに向けて矢を放つ 朝比奈さんの姿がパッと消えて、少し離れた場所にまた姿を現した 「すごい・・・TPDDにこんな使い方ができるなんて・・・」 「・・・・・・・気に入らない・・・・・・それは・・・美しくない・・・・・・」 周防九曜は狂ったように矢を発射させ続けた そのたびに古泉が防御に飛び回り、朝比奈さんは姿を消し続けた 「ふっ、面白くなってきたな」 藤原がやおら腰を上げると、手のひらを朝比奈さんに向けた 姿を消そうとしていた朝比奈さんがグラリとバランスを崩し、その胸に数本の矢が突き刺さろうとする その寸前に危うく古泉が飛び込んできた 「大丈夫ですか朝比奈さん?」 「ふえぇぇぇ、大丈夫ですぅ でもこれをずっと続けるんですか?」 「続けるしかないでしょう 長門さんが目覚めるまで、そして・・・・・・」 (またキョンの世界) 硬直するハルヒの唇に俺はキスをした ハルヒの体がぐったりと弛緩し、そしてガタガタと震え出した おいハルヒ 大丈夫か?どうしたんだ? 「ョン・・・・・・」 えっ? 「ジョン・・・・・・」 ああ 「ジョン・スミス」 ああ あれ? 声が出るぞ おいハルヒ!しっかりしろ! 「ジョン・・・・・・あんただったのね」 ああそうだ 俺がジョン・スミスだ 「やっと会えたんだ・・・ やっぱりあんただったのね」 気付いてたのか? 「ううん、何となくそんな気がしてただけ そうだったらいいのになって」 悪かったな こんなに報告が遅くなっちまって 「いいの・・・嬉しいから」 いいかハルヒ、よく聞け 俺は確かにジョン・スミスだ あの時東中に行って校庭にあの絵を描くのを手伝った それから背負ってたのは朝比奈さんだ 朝比奈さんが俺を3、いや4年前に連れてってくれたんだ 「みくるちゃんが?」 そうだ 朝比奈さんは未来から来た TPDDっていう装置を使って時間を自由に行き来できる ついでに言うとあの後『世界を救うためのどうたらこうたら』と言ったのも俺だ 「マジで?」 ああ まだあるぞ 実はあの時ちょっとした手違いがあって未来に帰れなくなった その時に俺たちを助けてくれたのが長門だ 「有希が?」 そうだ 長門の魔法みたいな力で3年間時間を止めてもらって 俺と朝比奈さんは現代に帰って来れたんだ 長門の不思議な力はお前も覚えがあるんじゃないか? あいつは宇宙人が作った俺たちとのコンタクト用インターフェイスだ 「コンタクト用?」 ああ ちょっと説明すると長くなるけどな この銀河系の真ん中で俺たちの事をずっと見ているような存在だ それから去年、お前と一緒に不思議な空間に閉じ込められた事があっただろ あの時に出てきた青い怪人だけどな あれが暴れ出すとこの世界がとんでもない事になっちまうから、退治するって言うか、あれを消すための組織がある 超能力者集団って言うのか、そのメンバーが古泉だ 「・・・・・・」 つまりだ 宇宙人も未来人も超能力者もみんなお前の側にいるってことだよ いつでもお前の側にいて、いつでも一緒に遊んでたじゃないか 呆然としていたハルヒの目がギラギラと輝いて来る もう少しだ 頑張れ俺! 俺はまたあいつらと一緒に遊びたいぞ 全員俺たちの大事な仲間だ だけどなハルヒ、俺が一番心配なのは お前の事だ お前がみんなの事を心配し過ぎてフラフラになってる所なんか見たくないんだよ お前はSOS団の団長だ いつも何でも好きな事をやればいい 後は俺たちがいくらでも後始末してやるから 「キョン・・・」 長門の事も古泉も朝比奈さんももちろん心配だけどな 今俺が見たいのは、お前の元気な姿なんだよ 俺が大好きな 涼宮ハルヒの突拍子もない姿なんだよ 頼む!ハルヒ! 長門を助けてくれ 朝比奈さんも古泉も 今ごろお前がいなくて不安なんだぞ さあ、早く行ってみんなを助けてやろうぜ 「キョン・・・」 目をらんらんと輝かせたハルヒの全身から不思議なオーラが広がりだし たちまちのうちに佐々木が作ったベージュの空間を吹き払った 「行くわよキョン」 ああいつでもいいぞハルヒ 「有希を助けにね!」 (同じ時間、別の世界で) 「古泉くぅーん・・・ちょっと厳しいですぅ」 「朝比奈さん、もう少し頑張りましょう! きっと涼宮さんが助けに来てくれるはずです」 「うぇーん、涼宮さーん・・・」 朝比奈さんは藤原の妨害を乗り越えながら古泉と長門を次々に時間移動で防御し、古泉は襲い来る周防九曜の矢から長門をガードしている そのすきをついて橘京子はひたすらゲリラ攻撃を続け、古泉一人では防げなくなってきていた 朝比奈さんが泣きながらハルヒの名を呼んだ瞬間に、長門の前にまばゆく白い光が輝いた 「あいやーっ!」 朝比奈さんが叫んで長門のもとに駆け寄ろうとしてつまずいて転んでしまうが その白い光の中から現れた人影を見て、朝比奈さんも古泉も驚きに目を丸くした 「うふっ、お久しぶり」 その人物は登場するが早いか、襲ってきた周防九曜の矢を握りつぶし、逆に周防めがけて撃ち返した 「あなたは・・・・・・」 「長門さんが危険だって聞いたから助けに来たの ごめんね遅くなっちゃって」 「朝倉さん・・・・・・」 「覚えててくれたのね、嬉しい!」 「・・・・・・お前は・・・・・・美しくない・・・・・・」 「あら、ご挨拶ね。せっかく1年ぶりに登場したっていうのに」 光の中から現れた朝倉涼子は、次々と襲い来る光の矢を素手で握りつぶしながら 分裂して攻撃してくる橘京子の赤い光をまるでハエでも叩いているかのように楽々と落としている 「朝倉さん、情報統合思念体に戻ったのではなかったのですか?」 「そうよ、向こうにいるのよ でも今のこの私はまたそれとは別の存在 私をここに呼んでくれたのはね、涼宮さんよ」 「涼宮さん?」 「そう、彼女ももうすぐここに来るわ もちろんキョンくんも一緒にね」 「本当ですか?」 「もう少しよ、今ごろはここへの抜け道を探しているはず。だからそれまで頑張るのよ」 「はい!」 古泉は久しぶりの笑顔を見せた かなりやつれた表情だが 朝倉涼子の登場と、ハルヒがもうそこまで来ているという情報に新たな力を得たように 朝比奈さんを助けて明るく輝き出した その光景を少し離れた所から見ている女子高生がいた 北高の制服を着た新入部員は、手に持ったオーパーツが輝きを増すのを嬉々として見つめていた 「うふふふふ やっぱりすごいエネルギーですね 地球を選んで正解だったかな? こんなにたくさんの異人種の戦いが見られるなんて」 (またもやキョンの世界) ついに覚醒した涼宮ハルヒ そのハルヒの目にもう涙はない キッとまっすぐ佐々木を睨みつけて 「もういいでしょうこれで 私は有希の所に行くから あんたも来るんでしょ? それとも何よ 部下を放っとくのがそっちのやり方なの?」 「いいえ。そうじゃないわ。私はあくまで時間稼ぎだから あなたがついに目覚めた以上は私もあちらに合流します では後ほど」 おい佐々木! 向こうでいったい何が起こってるんだよ 「それは自分の目で確かめてね」 チッ 佐々木のやつ、どうなっちまってるんだ まさかあいつらに言いくるめられて 本気で神様になろうなんて思ってるんじゃないだろうな ん?という事は 本気で戦うつもりなのか? 「ちょっとキョン」 あ?何だ 「これからどうやったらいいのよ?」 へ? 「あんたがジョン・スミスであたしに何かの力があるんでしょ? じゃあそれをどう使ったらいいのよ?」 ああそれか 何でもいいんだよ お前が心で思うだけでたいがいの事はかなうからな 映画撮った時の事を思い出せ 朝比奈さんの目からビームが飛び出したり、秋に桜が咲いたり あんまり思い出したくない過去だけどな、全部お前の力でやった事だ 「本当なの?」 ああそうですよ それがお前の力だ 「くっ・・・ 何でそれをもっと早く教えてくれなかったのよ!バカキョン! そんな楽しい事があるのなら、もっとやりたい事がいっぱいあったのに!」 だからお前には教えなかったんだよ お前が自覚して何か始めてしまったら、お釈迦様でもびっくりってもんだからな 「しないわよそんな事!ちゃんと地球の平和を祈ってるわよ!」 まあとにかく終わってから好きなだけ祈ってくれ まずは長門を助けるのが先だ とにかく長門の部屋に入るぞ 「だって、有希のマンションは消えてるじゃないの」 だからそれをお前が何とかするんだよ 「どうするって言うのよバカキョン!」 知らん。お前が考えろ そのバリヤーの向こうに長門の部屋があると思って押してみろ もしかしたらバリヤーがビリッと破れて そこには長門の寝室が 「あったわよキョン!早く入んなさい!」 って本当に押したんかい!マジかよこいつ ハルヒが両手をバリヤーにかけてメリメリと引き裂いたら そこに開いた空間から見慣れた長門の部屋につながっていた おいハルヒ 長門の部屋は7階のはずだぞ なんでこの1階から行けるんだよ 「あんたがそうしろって言ったからじゃないの!」 目を逆三角形に釣り上げるハルヒに引っ張られ、俺は開いた隙間から長門の部屋に侵入した ハルヒはズカズカと居間を通り抜け、和室の扉を開いた 「いないわよキョン!」 部屋の中央に布団が一組敷かれていたが長門の姿はない もちろん古泉と朝比奈さんもいない そして侵入してきた佐々木の仲間たちもいなかった 「どこに行ったのかしらね?」 さあどこだろう 次にハルヒに何をさせればいいのか 俺はもう一度居間に戻ってみた 北高の通学カバンがいくつか置かれていた おそらくハルヒ達のだろう あれ?そう言えば俺のカバンはどこに置いたっけか? きっと鶴屋さんの家に忘れてきたに違いない 「ちょっとキョン!」 ハルヒに呼ばれて部屋に入ると、ハルヒは1枚の大きな額の前に立っていた 「あんたこんなの見覚えある?」 その額には奇妙な絵が飾られていた 黒い画用紙の真ん中に、グラデーション模様のアメーバのような絵が1枚入っている 長門にこんな趣味があったのか? 「おっかしいわねー、さっき来た時はこんなのなかったような気がする」 おい 本当かハルヒ? 「はっきり覚えてないんだけど こんな気持ち悪い絵があったら絶対記憶してるはずよ」 という事はおいハルヒ 「何よ?」 いつぞやの事件を思い出せ 「事件?」 そうだ 去年の暮れの事件だ 雪山で遭難した時のあのお屋敷だ 「あっ!」 あれと同じだ もしかしたらこれは、長門が作ってくれた入口かもしれない あいつらがいるどこかにつながってるのかもしれないぞ 「そうね!思い出したわ!あのクイズみたいなのね」 そうだ どっかに方程式か何かのヒントが書いてないか? 2人でその額の周りを調べてみたが メッセージのようなものはなかった 長門の布団もひっくり返してみて、何か手紙でも出て来ないかと思ったのだが やはり何も出て来ない 和室を探索しているハルヒを置いて、俺は居間に戻った 何冊か置いてある本をパラパラとめくってみて栞などを探しているうちに ハルヒが大声を上げた 「キョン!キョン!あったわよ!」 急いで和室に戻ると、ハルヒは額の周囲を指差していた 「これよこれ!」 何だこれ? 黒い画用紙のような額の周囲の金属の縁には、小さな数字が無数に並んでいた 0から9までの数字がデタラメに書いてある 虫眼鏡が欲しくなるぐらいの細かい文字だった この数字の羅列に何か意味があるのか長門? しかしお前のヒントはいつもこんなのばっかりだよな オイラーの定理だとか何だとか 俺が数学苦手なのを分かってての事なのか? それとももしかするとこれもまた長門流のジョークなのか 細かい数字を読んでるだけで頭が痛くなってくる 「これはキョン用の問題ね」 何だよハルヒ お前まで俺をいじめるのかよ 「有希に感謝しなさいキョン!簡単な問題にしてくれてありがとうってね」 どこが簡単なんだよお前 俺にはまだ問題の意味すら理解できてないのに 「アホキョン!小学校で習ったでしょ! ゆとり教育でもこれぐらいは習ってるはずよ!」 俺はハルヒに首根っこを捕まえられて額の数字を口に出して読んだ 額には小さな菱形の模様が付けてあり、その一つ一つに数字が書いてある 286208998628034825342117067931415926535897932384626 43383279502884197169399375105820974944592307816406 数字はどんどん続いている 何だこれは ハルヒはニッコリ笑って俺を見ている 「この数字に見覚えあるでしょ?」 何かの乱数表か? 2つか3つ置きに飛ばして読んだらメッセージが浮かび上がるとか 「違うわよ!もっとちゃんと読みなさい!」 ハルヒ、もうダメだ こんな細かい数字をじっと見ていると眠くなってくる お前と算数クイズやってる場合じゃないんだから 「もう!バカねまったくあんたは あと10秒だけ時間をあげるから考えなさい」 うるさいハルヒ こんな数字で人間の一生が決まるわけないんだから 「有希の命がかかってるでしょう!」 それでも分からんものは分からん 俺は何とかの定理などはさっぱり理解できん それともこんなにたくさん数字が並んでいるのは円周率か何かか? 「ピンポーン!大正解っ!」 えっ 本当に正解なのか? 「そうよ、こんなの5秒で気付きなさいよキョンのくせに」 くせには余計だ それでこの円周率がどうしたっていうんだよ 「円周率の最初の数字は?」 3.14だから3だろ 「そう!普通数字はどっちから書く?」 どっからって左上からか? 「そういう事! この額の数字はバラバラだけど この314の所を左上に置き直すと・・・・・・」 ハルヒが額を回転させ、円周率の最初の314が左上に来るようにセットすると ブルンと音がして黒い画用紙が震えた 「ほらねキョン 頭は生きてるうちに使わないと毛が抜けちゃうのよ」 画用紙と思っていた黒い絵は、向きを変えた途端にプルプルと震え出し、まるで羊羹かコーヒーゼリーのような表面に変わっていた 「さあ行くわよキョン!」 ちょい待ちハルヒ! 行くってどこに行くんだ? 「決まってるじゃないの、ここに飛び込むのよ」 ちょ、ちょっと待て 確かにこの感じじゃ向こうに何かがありそうだけど 一応調べてみてからの方がいいんじゃないのか? 「そんな暇があるわけないでしょう! あんたがモタモタしてる間に有希に何かあったらどうすんのよっ! あたしは行くからね あんたは動物実験でも人体実験でも何でもやってから来なさい」 ハルヒは少し後ろに下がり、距離を計って助走しようとしている 待てハルヒさん 分かったよ俺も行きますから プルプルと震える額はかなり大きく、二人同時でも入れそうだった 俺とハルヒは部屋の反対側まで移動し、呼吸を合わせて助走した そして頭から飛び込んだ 「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」 [[リンク名 涼宮ハルヒの共学 3]] その3に続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1606.html
その日、ちょっと遅れて部室へ向かっていたオレは、ありえないものと廊下で遭遇した。 そりゃ未来人、宇宙人、超能力者と毎日顔をつきあわせてダベってるオレだ。そうそう のことでは「ありえない」なんて言葉は使わないようにしている。 そんなオレが、あえて「ありえない」と強調して言うんだ。 正直なところ、奥から走ってくるその姿は他人の空似かと思った。けれど、オレがあの 人を見間違えるわけがない。 顔を伏せ、手を口元にあてながら逃げるように走るその人は、紛れもなく朝比奈さんだ。 なのに、オレのことにも気づかずに、横を通り抜けてそのままどこかへ行ってしまった。 ありゃどう見ても泣いている。しかも、精神的にかなりのダメージを負った泣き方だ。 その姿に、オレは追いかけることも忘れてただ見つめるしかできなかった。 そりゃそうさ。あまりの出来事に呆然としてたんだ。が、よく考えれば由々しき事態じ ゃないか? あの朝比奈さんがマジ泣きしてたんだぞ。いったい誰の仕業──。 いや。 いやいや、ちょっと待て。よく考えろオレ。冷静になるんだ。 まず、ここはどこだ? そう、部室棟だ。なら、部室棟には何がある? SOS団のア ジトだ。そしてSOS団のメンバーが泣かされて、そのままに放置する薄情者が団員の中 にいるか? ノーだ。団員に手を出すヤツはハルヒがただじゃおかない。 にもかかわらず、そのまま放置ってことは……朝比奈さんが泣いている理由はひとつし かないな。 オレは全速力で部室へ向かった。今日はノックする必要なんてない。朝比奈さんは、さ っき泣きながらどっかに行っちまったんだからな。 「おいこらハルヒ!」 自分でもけっこう乱暴にドアを開けたと、あとあとになって思う。そのくらい、オレは 頭にキてたんだろう。 部室内には、ハルヒしかいなかった。長門も古泉もいない。2人は朝比奈さんを捜しに いったのか、それとも最初から来ていなかったのかわからないが、少なくとも部室内にい るのはハルヒだけで、そのハルヒは定位置に座って外を眺めていた。 「何よ、うるさいわね。静かにドアも開けられないの?」 それをおまえが言うか。まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。 このテンションの低いハルヒを見れば、一目瞭然だ。朝比奈さんを泣かしたのは、コイ ツで間違いない。 「ハルヒ、おまえ今度はいったい何をやらかしたんだ!?」 「なんの話よ」 「さっき、そこで朝比奈さんとすれ違った。マジ泣きしてたぞ」 「……あっそう」 そう……っておい、それだけか? 朝比奈さんもSOS団の大切な団員だろ? それを 泣かせて、「あっそう」の一言でおまえは済ませるのか!? カッとなったオレは、いまだに外に顔を向けたままこちらを見ようとしないハルヒに近 付き、強引にこちらを向かせた。事と次第によっては、殴ろうかと思ってたくらいだ。 けれど、なすがままにこちらを向いたハルヒの顔を見て、オレは息を呑んだ。 目は真っ赤に充血し、頬には乾いたばかりの涙のあとがある。それをオレに見られてど う思ったのかは分からんが、睨むその表情はすぐに険しいものになった。 「何よ……もう、何なのよ! 何も知らないくせに騒がないでよ! ああ、そうね。キョ ンはみくるちゃんのこと大好きだもんね。だったら、さっさとみくるちゃんのとこ行けば いいでしょ!」 叫ぶや否や、ハルヒの平手が飛んできた。あまりにも突然すぎて思わず避けちまったん だが、それがまた、ハルヒの癇に障ったようだ。 「何で避けるのよ! あんたなんて、素直に殴られてりゃいいのよ!」 むちゃくちゃ言うなよ。なんで八つ当たりで殴られなきゃならんのだ。そんなに殴りた ければ、フィットネスクラブに行ってサンドバッグでも殴っくりゃいいじゃないか。 などとはとても言えず、朝比奈さんの泣き顔で頭に登った血が、ハルヒの泣き顔で一気 に下がった。いくらオレでも、こんなハルヒを見れば一概に『おまえが悪い』とは言えな いさ。 「何かわからんが、オレも悪かった。まずはケンカの原因を話してみろ。事と次第によっ ちゃ、力になってやらんこともない」 「……ない……」 なんだって? 「あんたに言う必要ない、って言ったのよ! いいからほっといてよ!」 オレを突き飛ばし、自分の鞄を引っつかむとハルヒは部室から飛び出して行った。 今日は本当に、ありえないことが次々と起こる。女同士のケンカに首を突っ込むとロク なことにならなさそうだが……でもまぁ、仲が良ければケンカのひとつもするだろうさ。 これはもう、傍観しとくのが賢い選択だろう。 傍観できれば、だけどな。 その日、結局部室に古泉は現れなかった。古泉だけじゃない、長門の姿も見ることはで きなかった。といっても、オレが部室に残っていた時間はハルヒが帰ってから1時間くら いだけどな。 なんか今日は調子が狂う一日だったが、たまにはこんな日もあるだろうさ。部室で朝比 奈さんの淹れてくれたお茶が飲めなかったのは残念極まりないが、ハルヒと朝比奈さんの ケンカも明日には──まぁ、度合いにもよるだろうが──仲直りしててくれりゃ有り難い。 そう思って下駄箱を開けると……ウサギのシールで封をされたピンクの封筒が入ってい た。周囲を見渡し、誰もいないことを確認してから、手紙を手に取る。 改めて周囲を確認し、本当に誰もいないことを再確認してから開封。中にはたった一言 『公園のベンチに来てください』と書いてある手紙が入っていた。 差出人の名前は、みくる、と書いてある。 こうやって下駄箱に手紙を入れられていると未来的な雰囲気が漂い、いやぁ~な予感が するが、オレが朝比奈さんの呼び出しを断る理由なんざ1ミクロンもありはしない。 もはや口癖になっているいつものセリフが喉もとまで出かかったが、グッと飲み込んで オレは学校を後にした。 朝比奈さんの呼び出しに、オレの足取りはいつもの3倍は軽やかに……って感じにはな らなかった。 さすがにハルヒと朝比奈さんのケンカ後だし、待っているのが朝比奈さん(大)かもし れないって思いもミックスされれば、足取りは重くなるというものだ。 そんなオレの沈んだ気分を持ち上げてくれたたのは、いつも部室でお茶を淹れてくれて いる朝比奈さんがベンチに腰掛けていた、ということだろう。 まぁ、軽くなったのは一瞬だけだ。どうにも嫌な予感がする。これまでの経験がちゃん と血となり肉となっているのか、はたまたオレの第六感もそこそこ鍛えられているのか、 嫌な予感だけはよくあたるんだ。 「こんなところで何やってるんですか、朝比奈さん」 「え……? あ、え、キョンくん?」 別に他意はなかったが、さも偶然を装ったフリをして声をかけてみると、朝比奈さんは 驚いた素振りを見せた。 ……決定、あの手紙は朝比奈さん(大)からの手紙だ。 「隣、いいですか?」 「え……っと」 何か言いたそうな顔をしているが、オレは返事を待たずに隣に腰を下ろした。 手紙の主が朝比奈さん(大)だろうと朝比奈さん(小)だろうと、どっちでもいいんだ。 今ここに、ハルヒとケンカをして泣いていた朝比奈さんがいただけで、来た甲斐があった ってもんさ。 流れる川の水面をどれほど眺め続けただろう。 オレから何か話しかければよかったのかもしれないが、あいにく気の利いたセリフは何 も思い浮かばない。 ハルヒとのケンカなんて気にするな、と言ったところで、それは当人同士の問題だ。外 から何か言われても、下手すればよけい意固地にさせる結果になるかもしれない。 「……キョンくん」 オレからは何も言うべきことがないと悟って黙っていると、日が暮れて、街灯に灯りが 灯り始めた時間になって、ようやく朝比奈さんは沈黙を破った。 「来てくれて、ありがとう……」 「偶然ですよ」 かなり作為的な偶然だな、と考えて苦笑が漏れる。素直に「捜しに来ました」とでも言 った方がよかったのか、それともこれでよかったのか、ガキのオレにゃよくわからん。 ただ、こうなったら朝比奈さんが何か喋ってくれるまで、とことん付き合うつもりでは いるんだ。オレにはそのくらいしか出来そうにないからな。 「あたし……ね」 ぽつりぽつりと、吐息を漏らすように言葉を紡ぐ。何を言うべきか迷っているような、 何を言えばいいのか考えているような、一言の間がかなり空いているが、オレが黙って朝 比奈さんが話す言葉を理解しようと耳を傾けた。 そして、朝比奈さんが次に漏らした一言には、我が耳を疑ったね。 「あたし……未来に帰ることにしちゃいました」 その言葉の意味を、しっかり頭の中で理解するのにどれほどの時間を要したろう。 当然だ。そんなことを急に言われても、すぐに理解できるわけもなければ、納得もでき やしない。 そりゃ、朝比奈さんは未来人だ。いつかは本来の時間軸に戻る日が来るんじゃないかと は思っていた。でもそれがこんな急に、しかもこの日に訪れるなんて、理解しろという方 が無理ってもんだ。 「それは……何故ですか?」 口の中が乾く。頭がぐらぐらする。それでもオレは、張り付く唇を無理矢理こじ開けて 納得のできる答えを求めた。 「何でって……ほら、あたし、全然ダメでしょ。みんなの役に立たないし、大変な時にだ っておろおろするばかりだし……自信なくしちゃった」 本当になんで……この人はこんな時にまで……。 儚げに笑う今の朝比奈さんを見れば、オレじゃなくったって苛立ちの感情しかわいてこ ないさ。 そんな言い訳じみた理由が聞きたいんじゃない。どうしてここにきて、オレにそんなウ ソを吐くんだ。悔しいし、情けない。これまで一緒にハルヒや長門、古泉たちと行動を共 にしきたんだぞ。その中で朝比奈さんの存在は、はずすことなんてできやしない。いない ほうが不自然じゃないか。 なのにどうして、その関係を崩すような事を言うこんな時にまで、ウソでごまかそうと するんだ!? 「ハルヒとのケンカが理由ですか?」 まだウソを並べ立てる朝比奈さんの言葉を遮るように、オレは我知らずキツイ口調で問 い質すように聞いていた。 「え……っと……」 「朝比奈さんがハルヒとケンカしたのは知ってます。朝比奈さん、泣いてたじゃないです か。未来に帰るって……それが理由ですか? ウソやごまかしはやめてください。本当の ことを話してください」 「それは……」 朝比奈さんは、言葉ではなく首を縦に振ることで、オレの問いかけを肯定した。 「だったら、そんなのハルヒに謝らせればいいんです。朝比奈さんが未来に帰る理由にな んてならないじゃないですか」 「違う……違うの、キョンくん。そうじゃないの。涼宮さんとのケンカは、きっかけでし かないの。それに、あれはあたしが悪いの」 そう言う朝比奈さんは、両手で顔を覆っていた。こぼれる言葉は嗚咽とともに溢れ、オ レは……情けないことに、ただ見ているしかできなかった。 「あたし……あたし、涼宮さんに知られてしまったの。ずっと隠しておかなければならな かった禁則事項を涼宮さんに知られて……。だ、だから……もう、もうあたしは……この 時間平面には……」 嗚咽が号泣に変わり、朝比奈さんの目元からは大粒の涙がこぼれていた。彼女をここま で狼狽させる、ハルヒに知られてはいけない禁則事項ってなんだ? それは……自分が未 来人だということなのか? 「ううん、それよりも、もっと……重要なこと」 自分が未来人であることがバレるより、もっと重要なこと? そんな秘密なんて、オレ には想像もつかない。 「キョンくん、覚えてますか?」 朝比奈さんは、涸れることのない涙を双眸に湛えて、オレをまっすぐ見つめていた。あ ふれ出した涙がボロボロこぼれるのも気にせず、ただただオレを見つめていた。 「はじめて2人でこの道を歩いたときのこと」 忘れるわけがいない。ハルヒに無理矢理集められたオレたちが、今じゃ定例になってい る市内パトロールの第1回目を行った日のことだ。 そのとき、オレは朝比奈さんがから未来人であることを告げられたんだ。 「そうじゃなくて、あの日、あたしは初めて男の人と2人っきりで一緒に歩いたんだ…… って話ましたよね?」 「え? ああ、そうでしたね」 あのときは甚だしく意外に思ったものだが、朝比奈さんが未来人であるというのであれ ば、この時間の人間と仲むつまじくしているのは……確かに切ないものがある。 「もう、最後だから言っちゃいます。あたし、あたしね……ホントはあのときから……」 目を閉じて、朝比奈さんの顔が近付いてくる。無意識に朝比奈さんの両肩に手を置いた オレは、朝比奈さんの行為を決して拒んでいるわけではなく、力を入れず、ただ添えてい るだけだ。 朝比奈さんは、そのままオレに体重を預けるように顔を近づけ、かくいうオレは反射的 に目をつむり、そして──。 あれ? 「……すぅ……」 …………寝てる…………。 ってことはつまり。 「朝比奈さん、そこにいるんですね?」 がさごそと、その常緑樹が時間移動時の出現ポイントだとでも言いたげに、以前と同じ 場所からオレをこの場所に呼び出した当の本人が。ようやく現れた。 「ごめんね、キョンくん」 見る人すべてを魅了するその笑顔は今はなく、陰りを落とした表情で朝比奈さん(大) がオレの前に立っている。 「口だけの謝罪なら、もういいです。ほかの懸案事項についても、今は何も問いつめたり しません。ですが、この状況だけははっきりと説明してください」 正直に言うと、今のオレはけっこう頭に来てるんだ。自分で言うのも何だが、オレは意 外と懐の広い人間だと思っている。人道からはずれるようなことでもなけりゃ、常識はず れなことだって笑って済ます器量くらいはあるだろうさ。 でもな、朝比奈さん(小)が未来に帰るとか、そういう冗談はシャレで済ませられる話 じゃないんだ。それだけオレは全員のことを大切にしている、と思ってもらいたい。 だから、ハルヒと朝比奈さんのケンカが仮に仕組まれたものだとしたら、それを仕組ん だヤツは誰だろうと許せない。 それがたとえ、未来の朝比奈さんであったとしてもだ。 「違うの、キョンくん」 朝比奈さん(大)は珍しく取り乱し、今にも泣きそうに顔をさらに曇らせていた。そん な表情を見ると、本当に朝比奈さん(小)と同一人物なんだな、と感じてしまう。 「あたしと涼宮さんのケンカは、本当に起こるべくして起きたことなの。あのときのあた しは本当に混乱していて……だから『未来に帰る』なんて言い出しちゃって。思い出した 今でも恥ずかしくなるわ。本当にごめんなさい」 深々と頭を下げる朝比奈さん(大)のセリフに、オレは違和感を覚えた。 今、なんて言ったんだ? 未来に帰るなんて「言い出しちゃって」……だって? それは つまり、裏を返せば帰らないってことじゃないのか? 「うん。まだ帰りません……けど、それはキョンくん次第」 それはどういう……? 「キョンくん、『好き』って気持ちと『愛してる』って気持ちの違い、わかる?」 頭に疑問符を浮かべていると、朝比奈さん(大)はさらに混乱させるようなことを聞い てきた。 「あたしの感覚でゴメンだけど、『愛してる』っていうのは広い意味であって、『好き』 っていうのは一途な感じなのよね。ほら、『家族愛』とか『人類愛』とかは普通に使うけ ど、でも『家族好き』とか『人類好き』って何かニュアンス的に違うような気がしない?」 なんとなく言わんとしていることは分からなくもないが、オレが正しく理解できている かどうかと問われれば、首をかしげるしかない。何が言いたいんだ? 「キョンくん、今、好きな人がいるでしょ?」 な、何を言い出すんだ突然!? 「その相手が誰とは言わないけれど、その人に対する思いが『好き』って感情で、妹さん や友だちを大切に思う気持ちが『愛』なんだと、あたしは思うの」 それは……そう言われれば、より具体的に分かる……ようが気がするが、その話が今の この状況で話すべきことなんだろうか? そんなオレの混乱を見て取ったのか、ふぅっ、とため息をついて朝比奈さん(大)は言 葉を続けた。 「あたし、好きな人がいたの」 どこか照れくさそうに、けれど何かを吹っ切ったような微笑みを浮かべていた。 「その人は、あたしが淹れるお茶をいつも美味しそうに飲んでくれて、あたしが困ってい るときは必ず助けてくれて……その人のことを、あたしは本当に大好きだったの」 それは……。 「でも、あたしの気持ちにその人が気づいてもいけないし、ほかの人が気づいてもいけな いの。だって、未来人のあたしは本来この時間にいない人間だもの。その人が結ばれるべ き相手との未来を、未来人のあたしが奪ってしまうことになるもの。だから……過去にお いて、あたしは誰かを好きになることも、好かれることもできない。何よりも優先させる べき重大な禁則事項なの。でも、バレちゃったけどね」 こつん、と自分の頭を叩いて、朝比奈さん(大)は照れくさそうに舌を見せた。 「それが、ハルヒとのケンカの原因ですか」 朝比奈さん(大)は、こくんと頷いた。 「切っ掛けは些細なことだったの。でも、そのときのあたしもまだ子供で、どうしても許 せなくて……何を言ったのかよく覚えてないけど、わんわん泣いちゃったなぁ。でも、涼 宮さんも泣いてたでしょう? あたし、涼宮さんを泣かせたんですよ。凄いでしょ」 そりゃあもう、ハルヒを泣かせることができるなんて、もしかするとあなただけかもし れないですよ。 「今も、涼宮さんは泣いてるんです。本当はあたしが謝らなければならないことなんだけ ど、でも涼宮さんのことだから会ってくれない。それに、涼宮さんが待っているのはあた しじゃないと思う」 朝比奈さん(大)は、戸惑いの瞳でオレを見つめていた。突き放すような意志と、引き 留めようとする意志が葛藤している瞳……と見えるのは、オレの気のせいだろうか。 「キョンくん、涼宮さんのところに行ってあげて……」 躊躇っているオレの背中を後押しするように、朝比奈さん(大)は絞り出すようにそう 言った。 「あたしなら、大丈夫。今日のことの記憶は長門さんに頼んで凍結してもらうし、涼宮さ んの居場所は古泉くんが知ってるから……だから」 「朝比奈さん、ひとつだけ答えてください」 今のこの気持ちのままじゃ、オレはハルヒのところになって行けやしない。行ったとこ ろで、何もできはしないだろう。 朝比奈さん(大)がその話をしてくれたということは、朝比奈さん(小)にとっては現 在進行形の想いであっても、朝比奈さん(大)にとっては過去の思いなんだ。だから、禁 則事項にならずに、オレに話してくれた。 それはわかっている。わかっているが、ただひとつ、本当に些細なことでいいんだ。 踏ん切りをつけさせてくれなければ、オレはどこにも行けないし、朝比奈さん(大)だ って、この時間に現れた意味がない。 だから、オレは聞くんだ。 「朝比奈さん、今、幸せですか?」 その問いかけが意外だったのか、朝比奈さん(大)は一瞬目を見張って驚いた表情を見 せたが、すぐに極上の──それこそ、世の祝福を一身に浴びたような女神のような微笑み を浮かべて、「当たり前じゃないですか」と──。 その左手の薬指に輝くリングを見せて、そう言ってくれた。 朝比奈さん(大)から古泉は学校にいると言われて駆けつけたオレを待っていたのは、 古泉だけではなく、長門も一緒だった。 2人の表情に驚きがないのは、オレが来ることを予めわかっていたってことか。 「思ったよりも早くて助かりました」 爽やかな笑みを浮かべて、古泉がいけしゃあしゃあと、本当に感謝しているのかどうな のか問いつめたくなることを言いやがる。 「ハルヒは?」 「おわかりかと思いますが」 持って回った言い方をするなよ、こんな時まで。 「閉鎖空間の中ってわけか」 「理解が早くて助かります。ですが、ただの閉鎖空間ではありません。以前……そう、あ なたと涼宮さんが2人で閉じこめられた閉鎖空間と同じもの……いえ、下手をすればそれ 以上の場所ですね」 それは……よく分からんが、実はけっこう危険な状態じゃないのか? それこそ世界が 終わる寸前だとオレは思うんだが、古泉の態度を見ているととてもそうとは思えない。 「いえいえ、とんでもない。『機関』の人員が総出でかかっても対処しきれない異常事態 です。ただ、今回に限っては長門さんも協力してくださったおかげで、今もまだ保ってい る、ということです」 長門が『機関』のやることに協力とは……それはまた、珍しいことと思うべきか、それ ほどまでの緊急事態と把握すべきか、迷うとこだな。 「古泉一樹が所属する組織への協力ではない」 違うのか? じゃあいったい何で……? 「ただ、時間を返しただけ」 時間を返すって……なんの話だ? 「涼宮ハルヒはあなたや古泉一樹、朝比奈みくると出会う時間を、あなたはわたしが『私』 という存在であることに気づく時間を与えてくれた。それを返しただけ」 ジ……ッと、吸い込まれるような漆黒の瞳でオレを見つめた長門は、その無貌に何を思 っているのかオレが把握する前に、ついっと顔を背けて校門へ向かって歩き出した。 「お、おい長門」 オレは何を言いたかったのかな、思わず長門を呼び止めていた。 「あー……ありがとな」 「……いい」 ほんのわずかな間だけ歩みを止めて、長門はそう言うと長い坂道を降りて行く。 「では参りましょうか」 去っていく長門の後ろ姿を惜しみつつ、オレは古泉とともに校内に足を踏み入れた。 「今は異常事態……って、おまえは言ったよな?」 古泉曰く、校内すべてが閉鎖空間になっているわけではないらしい。校内の、ごく一部 がそうなっており、範囲の狭い閉鎖空間はこれまで出来たことがない、という。 それもそうだ。《神人》が暴れるのは、いわばハルヒのストレス解消であり、逆に言え ば《神人》が暴れられなければ、ハルヒのストレスは解消されない、ということになる。 「そうです。もはや一刻の猶予もありません」 「それにしては、余裕がありそうに見えるんだがな」 「それはそうですよ」 なんなんだ、その根拠のない自信の表れは。 「根拠がない、とはとんでもありません。ただ、確かにあなたが言うように楽観視はして いますが。何故かわかりますか?」 そういう持って回った言い方は、時と場合を考えて使ってくれないもんかね。今のオレ には心の余裕があまりないんだ。 「それは失礼を。理由は簡単です。ここにあなたがいるからですよ」 「なんでそれで楽観視できるんだよ」 「あなたを残して、涼宮さんが世界を改変するわけがないからです」 自信満々だな。そんなのは根拠にすらならないじゃないか。 「僕はこれでもSOS団の副団長ですから。団長のことはもちろん、団員のことも把握し ているつもりです。そうでなければ、しがない中間管理職はつとまりませんからね」 それはまた……頼もしいことを言ってくれる副団長さまじゃないか。 「こちらです」 古泉がオレを連れてきたのは、1年5組の教室だった。オレはてっきり文芸部の部室だ と思っていたんだが、ここだってのは意外だ。 「僕にとっては、なるほどと納得できる場所ではあるんですが」 「そうか?」 「ここは、あなたと涼宮さんが初めて出会った場所でしょう?」 古泉はオレの手を取る。閉鎖空間に入るためには仕方がないとはいえ、男に手を握られ るのは気持ちの良いもんじゃないね。 「予め断っておきますが、僕に……というか、『機関』の人員を総動員してできることは、 あなたを涼宮さんのいる閉鎖空間へお連れすることだけです。そして、中では涼宮さんの 記憶すら曖昧な状況になっているでしょう。覚えていることは、強い思いだけ……といっ たところでしょうか。世界が変わろうとしているのだから、当然ですね」 「それで?」 おまえが真面目な顔つきになっているのは、この際、スルーしてやろう。だがな、話を するなら手を繋ぎっぱなしじゃなくてもいいんじゃないのか? 「一般的な視点で状況を説明すれば、『世界の運命はあなたに託された』ということです。 けれど……そうですね、僕がこんなことを言うのは意外かと思われますが、こればかりは 本心なので、信じていただきたいのですが」 「だから、なんだよ?」 「まだ、あなたにゲームで勝っていません。あなたに黒星を付けるのが、高校生活の目標 なんですよ。ですから、是非とも戻ってきていただきたいのです。……涼宮さんと一緒に」 オレにゲームで勝つだって? そんなこと、本気で考えているとは驚きだ。 「おまえに土を付けられることなんて、想像できないけどな。でもまぁ、ゲームには明日 もつきあってやるさ」 その答えに満足したのか、古泉はいつものようなニヤケ顔を見せた。 「約束ですよ」 古泉に導かれて入った教室の中は、机が整然と並ぶ見慣れた景色だった。違うところと 言えば、教室内に誰もいないことだろうか。……いや、1人だけ、そこにいる。 窓際の最後尾、机を枕にして顔を伏せている黄色いカチューシャの女。 悪いが古泉、時間がないとおまえは言っていたが、オレには関係ないね。オレはただ、 ハルヒに言いたいことを言いにここへ来ただけだ。世界がどうとか、そういうのは二の次 なんだよ。 「よう、ハルヒ」 登校したいつものように自分の席に腰を下ろして、顔を伏せているハルヒにオレは声を かけた。そんなハルヒはチラッとだけオレに目を向けるや否や、再び顔を伏せる。 「何よアンタ、馴れ馴れしいわね」 不機嫌この上ない口調で、とりつく島もない。テンションがローギアに入っているのか、 いつぞや長門が改変した世界のハルヒのように、蹴りが飛んで来ないのは有り難いね。 「オレが誰か、わかるか?」 「知らないわよ」 高校入学当時とも、ちょっと違うらしい。言葉のキャッチボールをちゃんとしてくれて、 オレは嬉しいぞ。 「ジョン・スミスのことは覚えているか?」 「はぁ? あんた何いってんの?」 なるほどな、古泉。こいつは確かに重症だ。異常事態の緊急事態だ。それをオレ1人に 投げちまうとは、おまえはマジでひどい野郎だぜ。 「ま、いいさ。それよりもな、オレの知り合いが言ってたことなんだが、人間、言いたい ことを溜め込むのは精神衛生上よくないことらしいぞ」 「だから何?」 「へこんでるヤツを見ると、話を聞いてやりたくなるんだ」 「……変なヤツ」 おまえに変なヤツ呼ばわりされるのは甚だ心外だが、まぁ、今のオレは自分でもいつも と違う気がするさ。それもこれも、ハルヒの調子がいつもと違うからだ、ということにし ておこう。 「あたしさ」 しばらく顔を伏せたままの後頭部を眺めていると、ようやくハルヒが口を開いた。 「友だちと、ケンカしたのよ。泣かせちゃったし、もう許してくれないかも……って思っ たら、あたしも泣きたくなったわ」 ホントは泣いてただろ、とは口が裂けても言えず──。 「ケンカの原因はなんだったんだ?」 何も見えない窓の外に視線を固定したままのハルヒに問いかけてオレが黙ると、しばら く経ってからようやく話してくれた。相手を知らないから、気も弛んでいたんだろう。普 段のハルヒなら、到底言いそうにない話だ。 「あたしさ、今まで散々男に言い寄られたけど、自分から誰かを好きになることって、あ んまなかったのよね。初恋だって中学入ってからだし、その人とはもう会えそうにないか ら諦めたんだけど、高校になってまた好きな人ができて。それで……」 「それで、ケンカした友だちとおまえの好きな人が被ってたのか」 図星を指されて、ハルヒはようやく顔を上げた。まるでエスパーを見るような目だが、 やめてくれよ。ケンカの原因を聞いてそんな話をされれば、そうじゃないかと見当くらい つくだろ。 「ふーん、あんたボケた顔してるけど、意外と鋭いのね」 ボケた顔は余計だ。 「でもまっ、あんたの言うとおりよ」 再び顔を伏せるハルヒ。まるで独り言のように言葉を続ける。 「やっぱり恋なんてするんじゃなかったわ。恋愛感情なんて、やっぱ精神病よ。一時の気 の迷いで友だち無くすなんてさ、あたし、バカみたいじゃない……」 やれやれ……。ああもう、本当に何度でも言ってやる。 やれやれ、だ。 こいつは今になってもまだそんなことを言ってるのか。 「だったら、なんで自分の好きなヤツを友だちに譲らなかったんだ?」 ハルヒの肩が、ぴくっと震える。 「友だちが大事で、恋愛感情なんて精神病の一種って言うなら、おまえが身を引けば丸く 収まったんじゃないのか?」 「それは……そうかもだけどさ」 「おまえの理屈じゃ、そうなんだろ?」 「…………」 オレなんかに言いくるめられるとはな、いつもめちゃくちゃな理論武装をしているハル ヒさんらしくないぜ。 「おまえばっかりに話させるのも悪いな。気分転換にオレが小耳に挟んだ話でも聞くか?」 「……聞きたくない」 「まぁ、そういうなって。オレが聞いた話ではな、学校中の男子が憧れる美人な先輩の話 なんだ」 うるさい、とか、黙れ、とか言われないってことは、ハルヒにとって聞くつもりはある ってことだろう。中断されるまで、オレの「聞いた」恋愛体験ってのを話してやるさ。 「その先輩ってのが、校内でもトップクラスの美少女だったわけだ。狙う野郎共は星の数 ほどいたわけだが、誰とも付き合わなかった。どうやら両親が遠い国にいて、でも先輩自 身はここに残りたかったみたいでな。それで親に出された条件ってのが『誰かを好きにな るのはいいけれど、その気持ちを相手にはもちろん、ほかの人にも知られてはいけない』 ってことだったらしい」 いったん区切り、オレはハルヒを見る。まだ顔を伏せたまま、ぴくりともしやがらねぇ。 寝てるんじゃないだろうな? 「先輩は、だから誰も好きになろうとはしなかった。でもな、やっぱ人間、自分の気持ち にウソは吐けないらしくてさ。好きな人ができたそうだ。最初はその気持ちをずっと隠そ うと思っていたらしいが、ちょっとした切っ掛けで、やっぱり告白しようと思ったらしい。 返事が良くても悪くても、もう会えなくなるかもしれないのに、自分の気持ちを相手に伝 えたそうだ」 「……それで、その人どうなったの?」 「結果から言えば、告白した相手には他に好きな子がいたそうで、フラれちまった」 「ふーん……振ったのって、あんた? んなわけないか」 「……聞いた話って、最初に言っただろ。でもオレは思うわけだ。その先輩は、今のおま えより百倍マシなんじゃないかってな」 机を枕にして顔を伏せているハルヒは、その姿勢のまま視線だけをオレにぶつけていた。 「あんた、あたしにケンカ売ってるわけ?」 「そんなつもりはない。ただ、こんなところで腐ってるおまえと、結果はダメだったが行 動することができたその先輩と、客観的に見てどっちがマシかって話さ」 そう言うと、喧嘩腰だったハルヒの瞳からみるみる力が抜けていく。 そうさ、ハルヒだって分かってるはずなんだ。わざわざオレが言うまでもない。ただ、 ようやくできた友だちを失いかけて、どうすればいいのか分からないだけなんだ。中学時 代は周りから距離を置かれて1人だったから、ようやく得た友だちを失いかけて、どうし ていいか分からず、ただ怖がってる。 人を好きになるって気持ちも同じだ。自分から好きになったのはいいけれど、告白して フラれたらどうしようとか考えている。ほかの人に取られるのはイヤだけど、自分からは 怖くて行動できない。 はぁ……まったく、情けねぇぞ涼宮ハルヒ。そんなの、まったくおまえらしくないじゃ ないか。後先考えずに突っ走るおまえはどこにいったんだ!? 「ハルヒ、こんなところに引っ込んでないで、言いたいことを言うべき相手に言ってきた らどうだ? あれこれ考えるなよ。おまえは勝手に1人で突っ走って、まわりをおろおろ させるくらいの勢いで丁度良いんだ」 「……なによ……なによ、もう! 何も知らないクセに、なんでもかんでも知った風なこ と言わないでよ!」 座っていた椅子をひっくり返すような勢いで立ち上がったハルヒは、ボロボロ泣きなが らオレを糾弾した。だから、そうじゃないんだ。 「相手が何もわからないからこそ、わかるように言いたいことを言ってこい、ってオレは 言ってるんだよ。そりゃそうだ、人間、相手に自分の気持ちを伝えるには言葉か文字しか ないんだ。どんなに想っていても、念じるだけで通じるわけがないだろ」 そうだな、それはオレにも言えることだ。ハルヒだけに何もかもぶちまけさせるのは、 確かに不公平ってもんだ。おまえがまだ躊躇ってるなら、オレが先に言ってやるさ。 「オレはな、ハルヒ。なんだかんだ言って、おまえに付き合ってバカ騒ぎする毎日が気に 入ってるんだよ。たまには『いい加減にしろ』ってツッコミたくもなるが、そういう毎日 がずっと続けばいいとさえ思ってる。そうだな、おまえさえよけりゃ、一生付き合ってや ってもかまわないんだ」 ピシッ、と何かがひび割れる音が聞こえた。 「ただ……それはおまえ次第だ。おまえがオレを必要だと思ってくれて、そしてオレが納 得できる答えを言えたらっていう条件付きだ。言えるか?」 一度聞こえてきたガラスが割れるような音は、あちこちから聞こえてきた。 「あ……たしは……」 絞り出すように、ハルヒが声を出す。耳を澄ませば聞き取れないような声は、まわりの 音にかき消されそうだが、オレは一言もその声を聞き逃すまいと耳を傾けた。 「ずっとみんなにいてほしい……。有希や古泉くんも……みくるちゃんだって、謝って一 緒にいたい……。それに……」 涙で真っ赤になった目を、ハルヒはまっすぐオレに向けていた。 「キョン……あたし、あんただけは絶対に離したくない! ずっと側にいてほしい! あ たしは……あたしは、あんたのことが──」 そのとき、世界が割れた。 初めて古泉に連れられて行った閉鎖空間の最後と同じだ。静寂に包まれた世界に音と色 が戻り、世界は日常の当たり前の風景を取り戻す。 耳をつんざくような轟音で、けっきょく肝心なセリフは聞けず仕舞いか。まぁ、その言 葉はあんな場所で聞くもんじゃないな。できることなら、この世界で聞きたいもんだ。 ……望みは薄そうだが……。 オレはちらりと時計を見る。 もう6時か。外が薄明るいってことは、午前6時か? まったく、唯我独尊な団長さま に振り回されて徹夜かよ。そのくせ、本人は寝てるときたもんだ。 理不尽だ。理不尽極まりない。このやり場のない怒りをどうしてくれよう。 ふむ。 ここは学校の教室だ。そして目の前には寝てるハルヒ。となると、やることはひとつし かない。えーっと油性ペンはどこにあったかな……。 「……ぅあ?」 ちっ、起きたか。 「……あれ……あれ? ここ……教室?」 「よぅ、ハルヒ」 寝ぼけているのか、状況が把握できてないのか、きょろきょろしているハルヒに、オレ はいつものように声をかけた。 「えっ、キョン?」 その顔は、みるみる真っ赤になっていく。茹ダコだってここまで赤くはならないだろう って勢いだ。 「なっ、なんでここにキョンがいるの!? ってか、なんであたし、教室に!?」 「何言ってんだ、おまえがこんな朝っぱらから学校に来いって言ったんじゃないか。オレ の睡眠時間を返せ」 「あたしが……あんたを?」 「ああ。……なんだよ、寝惚けてんのか?」 「寝惚けてって……あれ、夢だったのかな……?」 ま、そういうことにしておこう。オレにとっちゃこの上なくリアリティのない現実だが、 ハルヒにとっては『夢オチでした』ってことにしといたほうが、世のため人のため、ひい てはオレのためかもしれん。 「あたし、あんたを呼び出したの?」 ハルヒが怪訝そうな顔つきで聞いてくる。そういう話の振りにした手前、違うとはとて も言えやしない。 「んー、何の用だったのかしらね? ま、どーせたいした話じゃないわよ」 そりゃそうだろうな。オレのデマカセなんだ。 なんてことを言うわけにもいかず、オレは大袈裟にため息を吐いてみせた。 「話がないなら、オレは寝るぞ。おまえのせいで睡眠時間が削られたんだ。ホームルーム のときに起こしてくれ」 「なんであたしが、あんたの目覚まし代わりになんなきゃならないのよ!」 憤まんやるかたないという表情を浮かべるハルヒを無視して、オレは机の上に突っ伏し た。今になって眠気が襲ってきてやがる。武田軍の騎馬隊もかくやという勢いだ。 「ちょっとキョン、聞いてんの!?」 えーい、うるさい。頼むから少し寝かせてくれ。背中を教科書の角で殴らないでくれ。 「……ったく、しょうがないわね」 教科書がダメなら椅子を使って、ってのがハルヒの思考パターンだが、幸いにしてそれ はなかった。 どれほどの時間、沈黙が続いただろうか。オレの意識が眠りの縁に落ちる直前のころに なって、またハルヒの声が聞こえた。 「キョン、寝ちゃった?」 まだ寝ちゃいなかったが、よく考えればハルヒがオレを放置したまま、おとなしくして るわけがない。睡眠時間ゼロで今日一日を乗り越えなければならないことを覚悟して顔を 上げようか、などと考えていると、鈴の音のような小さな呟きが聞こえた。 「……あたし、やっぱりあんたのことが……好き……かも……って、あたしは何を言って るのよっ!」 ……やれやれ、オレが寝てると思って油断するなよ。おまえはオレに起きてほしいのか 寝ていてほしいのか、どっちなんだ? ここでオレが顔を上げたらどうなるか、なんてことがチラリと脳裏を過ぎった。もっと も、それは地雷原に飛び込むのと同義であるような気がするのでやめておくべきだな。 そもそもハルヒよ、そんなセリフは是非ともオレの目を見て言ってもらいたいもんだ。 そんな日が来るかどうかなんて分からないが……今は、そうだな。 ハルヒが『独り言』で自己嫌悪に陥って喚くという、世にも珍しい声を子守歌に、心地 よい微睡みをわずかな時間でも堪能することにしよう。 〆
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/809.html
もうとっくに梅雨が過ぎてもいい時期にもかかわらず いつまでもずうずうしく居座り続ける梅雨前線のせいでムシムシジメジメしている今日この頃 期末試験も終わり我が高校における高校生活最大のビックイベント「修学旅行」の季節がやってきた 「ついにやってきたわ修学旅行が!行き先はハワイかしら?それともロンドン?もしかしてイタリアとか!?」 俺はというと今日も今日とてこのなにか修学旅行を勘違いしている団長様に振り回される日々 「んなわけねーだろだいたいなんでうちみたいなしょぼい高校が修学旅行で海外なんて行けるんだ} 「涼宮さん先ほど僕たちの学年全員を集めて修学旅行の説明があったのをご存知ありませんでしたか?」 どうしてこの蒸し暑いのにこの爽やか男はここまで爽やかでいられるのか やつの爽やかさの源はなんなのであろうか1980円以内ならばぜひとも買い求めてみたいものだ 「説明?あーなんかそんなもんあったわねでも特におもしろそうな話はなかったわ」 ちがう面白そうな話も何もこの団長様は頭の中は100パーセント以上 むしろ他人の脳みそに侵略してまでも修学旅行をいかに楽しむかという考えで満たしていただけだ 「で、古泉君修学旅行の先は結局どこなわけ?」 「北海道ですよ」 「北海道ですよ」 そうわが高校の修学旅行の行き先は北海道なわけである ちなみに朝比奈さんは学年が違うため今回の修学旅行にはもちろん参加できないがそれが非常に残念である 「北海道ねぇ~まぁこの際行き先なんてどうでもいいわ。それよりも私たちSOS団の名前をどれだけ北海道の広大な土地中に知らしめるかよ!」 またまた修学旅行も俺にとっては大変なものになりそうである 「そうねぇ~北海道といえば何かしら?ちょっとキョンなんかないの?」 あいかわらずむちゃな振りをしてくる団長様だ もしもこの団長様がバラエティー番組の司会なんてしたものなら芸人たちはつぶれてしまうだろうに 「そりゃ北海道といえば、ラーメンとか新鮮な魚介類とかじゃないのか?」 「あんた食べることしか考えてないわけ?やっぱキョンなんかに聞いたのが間違っていたわ。古泉君はどう?」 「僕の場合も基本的にキョン君と一緒なんですがそうですねぇ。しいて言えば熊とかですかね」 「それよ古泉君!キョン北海道で熊を退治してらっしゃい!」 こんな調子で修学旅行の前日となってしまった 結局のところハルヒは何を考えているのか明かすことはなかった まぁいつものことか なんだかんだいってもやはり修学旅行は楽しみである 情けないことにあまり寝れずにあさを迎えるハメになってしまった 寝不足の重いまぶたをこすりながらも期待に胸躍らせながら空港へ 「平和に3日間過ごしたい」 これが俺の本音であるがもちろんその件に関してはまったく期待はしていない 「逃げずにまってなさいよ!修学旅行!」 朝からわけのわからぬことを叫んでいる団長様を空港にて発見 俺がもし修学旅行という物体ならばできるものならハルヒから逃げてみたいものだ 「キョン眠そうねぇ?もしかして修学旅行だからってワクワクして眠れなかったとか?」 朝からなかなか痛いポイントをつかれる にしてもなんでこいつはこんなにいつも元気なんだろうな まぁ今に始まったことでもないしな そこで俺はあることに気がついた 「ハルヒよなんなんだその荷物の量は?」 「秘密よひ!み!つ!」 ますます先が思いやられる 「とりあえず荷物が多いの」 そんなことは見ればわかる 「だがら荷物が多いって言ってるでしょ」 はいはい俺が持てばいいんだろ鞄を これまた情けないことに下僕体質というかなんというかすっかりハルヒに振り回されることになれてしまったのか 「ねぇキョン?実際に飛行機が墜落したらジェットコースターみたいで楽しそうじゃない?」 あまりにも不謹慎すぎる発言だ!しかもこいつの例の能力でそれが具現化してしまったらどうしてくれるんだ! 「おはようございます涼宮さん。キョン君も朝からご苦労様です」 眠気眼にこの笑顔はまぶしいな相変わらず 「そろそろ搭乗時間ですので移動をしたほうがいいかと」 古泉の後をついて行き飛行機の中へ ハルヒよ墜落したいなんて思ってないだろうな! なんとか飛行機も落ちることなく俺の命も落とすことなく空港に無事ついた 「SOS団もついに北海道進出よ!」 飛行機から降りても元気な団長さんであった その後バスに乗り込み北海道をぐるぐるとまわった その際にハルヒにいろんなことをさせられたのは今思い出してもおぞましいことばかりなのであえて伏せておきたい 乗馬体験中に俺の乗っている馬の尻をハルヒが叩いたりなんて悲惨なもんだった俺は決してジョッキーではない なんとか一日目の日程を消化しホテルへ向かうバスの中 朝からあれだけパワフルだった団長様はというと今俺のよこでかわいく寝息をたてて寝ていらっしゃる こうしてみていると抱きしめたくなるほどかわいいな・・・いかんいかん俺は何を考えているんだ相手はあのハルヒだぞ!? ハルヒの意外な一面を見て何か違和感のようなものを感じつつもバスはホテルに到着した あのときの違和感がじつはあんな感情につながったとはな 「おいハルヒ着いたぞ起きろ」 「んぅ~なによもう朝?」 「ホテルに着いたんだよ」 寝ぼけた団長様もなかなかかわいいなっておい何考えてるんだ俺! そんな突っ込みを入れつつもハルヒをつれてホテルへ 「じゃあこの後8時から入浴でその後~」 教師の長ぁ~い説明が終わりとりあえず今は自由時間だ どの修学旅行でも思うがなんでしおりに書いてあることをわざわざ教師たちは読み上げるんだろうな 自由時間こそ修学旅行最大の楽しみでもあるというのに 朝からずっと行動をともにしてきたハルヒだが当然泊まる部屋は別である 俺の部屋はというと国木田と谷口の3人部屋である 女子の部屋のある階とはだいぶ離れているがまぁ当然であろう 部屋についてすこし落ち着いて一瞬いやな予感がしたと思ったらケータイが光りだした もちろん相手は「涼宮ハルヒ」 「ちょっとキョン今すぐきて!5秒以内!やっぱ3秒とりあえず早く着なさい!」 相変わらずのお呼び出しだが今回はなんかいつもと違ってあせっていたように思えたがまぁろくなことではないだろうと思いつつハルヒの部屋へ 「ゴキブリよゴキブリ!早く退治して!」 おいまてハルヒよなんでゴキブリが出たら俺を呼ぶんだ 第一北海道ってゴキブリいないはずじゃないのか 「で、どこに逃げたんだそのゴキブリは?」 「あっちのほうよ」 にしてもハルヒがゴキブリ嫌いだとは意外だったな そんなことを考えつつゴキブリを探すとあることに気がつく なんとハルヒが若干涙目で俺の腕にしがみついてる! バスの中であんなこと考えてたせいか結構これはダメージでかい しかも見慣れぬ部屋着姿だ 「きっとカーテンの裏よ」 そこで俺はカーテンをめくってみることに するとそこにはゴキブリではなくただ一枚オセロが黒いほうを上にして落ちているだけであった 「一体これはどういうことだハルヒ?」 「ごっ、ごめん。本当にゴキブリだと思って・・・。」 どうやら今回はハルヒが仕組んだわけではなく本当にゴキブリだと思ったようだ にしてもハルヒがこんなに素直なんて本当に怖かったんだろうな。 「いいよ俺もゴキブリは苦手だし実際に本物じゃなくて安心している。それにしてもなんでお前の部屋は誰もいないんだ?」 「先にお風呂に行ったのよ。あたしも行こうと思ってスーツケースをあけてたらゴキブリに気づいて」 それにしてもこいつに女子の友達なんかいたか? 「ねぇキョン!お詫びにジュースおごってあげるから少し外散歩しない?」 「こんな時間に抜け出すのか?先生たちにばれたら大変だぞ?」 「このあたしの誘いを断る気?そんなのばれなきゃいいのよ」 もういつものハルヒに戻っていた 俺も実際特にすることもないのでハルヒの言うとおり窓から外へ抜け出した 「いいわねぇ~北海道の夜って涼しくて」 ホテルの外は少し車の走っている程度の道が有るくらいだったが 車のヘッドライトの明かりに映されるハルヒの姿はとても輝いて見えた。本当にキレイだった 「なっ、何見てんのよ?」 ハルヒに見とれていたことをハルヒに気づかれてしまった 「いや、特になんでもない」 とっさにごまかしてみたがムリであろう 「怪しいわねぇ~・・」 ハルヒに見つめられていた次の瞬間ハルヒは俺のポケットから財布を抜き取り走り出した 「お、おい!」 「返してほしければ追いついてごらんなさい!」 まるでいたずらをした子供のようにハルヒは笑っていた って最初はそんな余裕をかましていたがハルヒの足は速かった 普通こんなとき全力疾走しても追いつけない速さで走るか? 「ハァハァ。 ちょ、まってくれ 」 「情けないわね~」 ハルヒの油断した瞬間に俺は財布に手を伸ばした するとハルヒはバランスを崩してしまい転倒 俺も引っ張られるように転んでしまった 俺はハルヒを守ろうとしたんだ。これは本当だぞ そう、ハルヒを守ろうとして右手でハルヒの頭を抱え込むようにして俺はハルヒの上に倒れこんだ まぁつまり抱きしめているような状態だ 「イテテテテ・・・。」 「イッタ~ちょっとキョ・・」 すぐにハルヒを離したが助けようとしたのは事実であるが結果としてハルヒに抱きついてしまった 蹴りでも喰らうと覚悟をした 覚悟をして目をつぶったが何もこない おそるおそる目を開いてみると ハルヒが頬を赤らめて座っているだけであった 「ご、gおあ、ごめん。そそんな下心とかはなかったんだぞ」 俺のいいわけもハルヒの耳には通っていないようだった 「ハルヒ?」 声をかけてようやくハルヒは気がついた 「なっなにしてくれたのよ」 その顔は怒っているというよりもむしろ照れているように俺には見えた 俺は立ち上がりハルヒに手を差し伸べた ハルヒは俺の手をとるが下を向いたままであった 「ねぇキョン?」 「なんだ?」 「あたしあの丘の方へ行ってみたい。」 ハルヒに手を引かれるまま俺たちはその丘のほうへ ふもとに看板があったがどうやらこの上には公園があるらしい 「暗いから足元気をつけろよ」 「大丈夫、こうやってキョンに掴まってるから」 なんとかケータイの明かりを足元に集め俺たちは公園を目指して歩いていった ふもとから見るのと違って実際に上ってみるとなかなかの距離があった その間俺とハルヒはさっきのことがあってかほとんど口を聞くことが出来なかった その空気を乗り越え山道を乗り越え俺たちはようやく頂上の公園にたどり着いた そこから見える景色は言葉では言い表せないほど美しかった 光り輝く街もさることながらやはり 「海 山 空」 北海道の自然の景色に勝るものはないだろうと思った 「きれー」 「あぁそうだな」 俺たちは景色に見入ってしまっていた 俺の左側に立っていたハルヒがだんだんと俺のほうへ近づいてくるのを感じた 「ねぇキョン。」 「なんだ?」 「私たちが出会ってからもうだいぶ経つね。」 「あぁそうだな。」 「最初ね、キョンに会ったときはまたつまらない男だなと思ってたんだ」 「俺も似たようなもんだ。最初にハルヒに会ったときはなんなんだこいつは?と思ったからな」 「でもね、今ならそんな最初に思ったことを取り消してもいいわ」 今ハルヒはなんと言った?もしかしてこのシュチュエーションでこの流れ。もしかしてもしかするのか!? そんな俺の自意識過剰もはなはだしいよな だがあのバスでハルヒの寝顔を見てからというもの俺の中で芽生えた感情はやはりハルヒに対する恋心だったのか? やけにドキドキする 「あぁ」 特に何もハルヒに言い返すことが出来なかった「あぁ」ってなんだよ「あぁ」って! 「それでねキョン・・」 ハルヒがまた一歩近づいてくる 俺の胸の高鳴りはピークをゆうに超えている ドキ・ドキ・ドキ ハルヒが近づいてくる ハルヒの匂いが感じ取れる 次の瞬間俺は目を閉じた そしてハルヒは・・・ パシャ! ?パシャ!って あろうことかハルヒは俺のキス顔をケータイで撮影していた! 死にたい!死ぬほど恥ずかしい!いっそ俺を殺してくれ 小悪魔のような笑顔でハルヒが微笑む 「べーッ!」 「ちょ、ハルヒ!」 「私の唇とキスなんてできると思ったの?」 死にたい死にたいお願いだ誰か俺を閉鎖空間に閉じ込めてくれ 俺はハルヒに対して怒る気力もなかった 「そ、そんな・・」 俺はうなだれたそれは恥ずかしさから来るのだろうかそれとも一方的な片思いに落胆したのだろうか 「ちょ、ちょっと最後まで人の話はききなさいよ勝手にうなだれてないで」 ハルヒが何か言っていたが聞こえなった 「あたしは別にキョンが嫌いとかそんなんじゃないのよ!」 ????????? 「ただ、」 またしても赤くなり下を向くハルヒ 「ただ?」 「ただ、お互いの気持ちも伝えてないのにっておもって・・・」 ハルヒよハルヒ本当にその言葉を信じてもいいのか?俺はもう次にさっきのようなことがあっても立ち直れるほどHPは残っていない 「ちょっとキョンきいてる?」 「あぁ」 「じゃあ言うからね。あたしはキョンが好き。キョンがいなければ毎日今のように楽しい生活なんてできてないと思ってる 今のあたしはきっとキョンなしではいられないと思うの。だからこんな女だけれども一緒にいてほしい。」 下を向きもっと赤くなるハルヒ かわいいかわいすぎえる!今すぐに抱きしめたい! 「お、俺もハルヒ、お前が好きだ。なんだかんだでハルヒに振り回されたりもしたが今はやっぱりハルヒといるのが一番楽しい 俺の気持ちも一緒だ。俺もハルヒと一緒にいたい」 そうして俺はハルヒを抱きしめた そして俺は少し屈み、ハルヒは背伸びをし唇を重ねた その光景を北海道の美しい光景が見守っていてくれた 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1578.html
キョン「ただいまー」 ハルヒ「足りたでしょ?」 キョン「あぁ。すき焼き肉1パック498だった。」 ハルヒ「広告に書いてあったでしょ?ちゃんと見なさいよね?」 キョン「いっちょ前に主婦じゃねぇか…ハルヒ。」 ハルヒ「ふふん♪」 キョン「なぁハルヒ、久しぶりに朝比奈さんたちも招待しないか?」 ハルヒ「いいわね~っ!じゃお肉足りないからもっかい買って来て~。はい1000円。」 キョン「…………」 俺はハルヒに渡された1000円を握り締め、近くのスーパーへいわゆるおつかいに来ている。 しかし二度目のご来店となるとさすがに恥ずかしいな。 俺は先程と同じ段取りでカゴにすき焼き肉を二つ放り込む。 「さて、」 お会計を済まそうとさっさとレジへ進もうとしたその時、何やら見たことのある二人がカートお押しながら仲良く並んでショッピングを楽しんでいた。 古泉とみくるさん夫妻だ。 全く…そのままジャスコかなんかのCMに出ればいいってくらいの美男美女だ。 どうせ後で呼ぶのもあれだしな、今声をかけておこう。 買い物カゴを持ったまま不審者の様に古泉たちの後を追い、声をかけた 「おい古泉。」 「なんでs…」 恐る恐る振り向いた二人の顔が俺を見た途端にいつものニヤケハンサム面と天使の微笑みに変わった。 「キョンくん!!」 声をかけた古泉よりも真っ先に返ってきたのはみくるさんのエンジェルボイスだった。 「おやおや、奇遇ですね。ハルヒさんはどうしました?」 「いや、ハルヒに頼まれた使いなんだ。」 このニヤケハンサム面を拝むのも何年ぶりだろう。 いやしかしまさかこいつが俺の中の永遠のアイドル(旧)朝比奈さんをモノにするとはっ!! こいつめっ…!こいつめっ…! などと考えてる場合じゃないな…。 早いとこ伝えておこう。 俺が事の説明を話しているとみくるさんは目を輝かせて 「いいですね~♪」 と言って古泉に同意を求める様な仕草をした。 「では僕たちも材料を買いましょうか。」 快く古泉は頷いた。 「肉はもうこれで十分だからな。あとは適当に野菜とかで良いんじゃないか?」 「そうですか。では、ビールとおつまみを見に行きましょうか。」 「だな。」 「じゃあ私はお野菜見てきますね♪」 そしてみくるさんは頭の上に「♪」でも出てきそうなくらいの足取りで青果コーナーへと向かった。 さすがにビールとおつまみ代を古泉…いやみくるさんに出さす訳にはいかないな。 少々痛いが乏しい俺のポケットマネーで賄うとしよう。 古泉と飲むのも成人して以来か… 酒やつまみを適当にカゴに放り込みながら古泉に話しかけた。 「なぁ古泉…」 「何ですか?」 「お前、成人式以来長門に会ったか?」 「いいえ。しかし毎年年賀状は送ってくれますし、さほど心配もしてなかったのですが…。」 そう、長門は毎年あのパソコンでうった様な文字で年賀状を送っては来るものの…それ以外に長門と連絡を取ることが無かった。 しかし年に一度の生存確認で大概俺とハルヒは安心していた。 何てったってあの長門だ。 今になっては「元」宇宙人だが。 今から約7年前、高校を卒業して1年たち、卒業後もしばらくは行われていたSOS団の活動も治まって、俺とハルヒは社会に程々に順応していた。 ハルヒくらいの頭なら大学へ行ってもおかしくないが… ある日突然「キョンっ、一緒に暮らすわよっ!」な~んて言われた日にゃ俺もびっくりしたね~。 なんせあの不思議大好き野郎と暮らすんだからそりゃもう高校時代より疲れる生活が待っていること請合いなので俺も断ったんだがな…。 俺の安月給じゃ生活できんぞってな。 ところがあのハルヒは、「あたしも出すわよ、生活費くらい。」 最初自分の耳を疑ったがその後にまた俺の心の朝日新聞の一面を飾る様な一言がハルヒの口から言い放たれた。 「好きなのよ…あんたのことっ!!」 なんて強引な告白の仕方があるだろうか? それからと言うものハルヒは気が強い普通な女の子となってしまったのである。 その時の古泉曰く、徐々にハルヒの世界を変える力は失われていっているらしかった。 「そうなれば僕の能力も無くなり、朝比奈さんや長門さんたちそれぞれの役目も終わります。」 両手を拡げそう言った後、俺は気付いた。 ハルヒを見守る必要が無いなら古泉を除いた二人はどうなるんだ? 古泉は元は普通の人間、まぁ朝比奈さんもそうだが、そうなると朝比奈さんは未来に帰り、長門は消えてしまうんじゃ… 「鋭いですね…」 ニヤケた面が真顔になった。 古泉と意見が合ったりするのは年に数えるくらいだが… 珍しい事もあるもんだな。 「おや、僕はただハードな青春を共にした仲間と離れたくないだけですよ。」 「あとどれくらいで無くなるんだ…?」 「保って2日といったところでしょうか?」 「行くか…!急いだ方がいいだろう?」 「わかりました。」 「僕は朝比奈さんに話をつけてきます。長門さんを頼みました…!」 「わかった!!」 急いで走って着いたあのマンション… 卒業した後も長門宅には行ってたからな、自宅はここで間いない! 急いでベルをならした。 ……………………… 出ない!?まさか…! 「長門!」 珍しく長門がエントランスから直接鍵を開けにきた。 少し目が潤んだ様に見えるのは気のせいか。 そしてゆっくりとエントランスのドアが開けられた。 「長門っ!話がある!!」 「………(コクン)」 「あのな、長門…」 「私もあなた達に話があったところ。」 「涼宮ハルヒの能力があと26時間42分8秒で失われる。だからお別れを言おうとした。」 「その事なんだがなぁ長門、俺はそうはさせないぞ…。」 「……。」 「いつだったか俺言ったよな?お前がもし情報なんとかに消される様なことがあったらハルヒに全部話して何としてでも見つけ出すって!」 「以前は私のバグが原因。でも今は任務が終わった。だから情報統合思念体は」 「長門っ!!」 俺が叫んだせいで長門が少し驚いた顔をした。 くそっ写メ撮っとくんだったぜ… 「結局はその親玉に消されるんだろ?そんなの俺は認めないぞ!!」 熱くなり過ぎたか、俺は長門の腕をつかんでいた。 その時、長門の頬をわずかな水分が滴った。 「だからな、長門。今からハルヒに全部話そうと思うんだ…。」 「…そう。」 俺は長門の腕を掴んだままハルヒの待つ自宅へと走った。 そしてマンションの前に着くと先に古泉と朝比奈さんが居た。 あとから聞いた話しによると、朝比奈さんは判りやすく荷物をまとめて準備していたという。 なるほど、この時すでに……っ!!! 「キョンくん、……ぅぇっありがとう~…!!グスン…。」 古泉の隣りの朝比奈さんの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。 「では、行きましょうか。」 「おう。」 「ハルヒ!」 「なっ…何!?みんな揃って…!?」 いやぁ~あの時のハルヒの顔も見物だったね。 なんせみんな血相変えて走り込んで来たんだからな。 「いいですか涼宮さん、これから僕らが話す事は全て事実です。」 それから小一時間今まであった出来事を洗いざらい吐いてやった。 長門が宇宙人、朝比奈さんが未来人、古泉が超能力者でお前はとんでもない力を持っているという話。3人の役割、そして役目を終えた長門や朝比奈さんがいなくなると言う事を。 「有希を消しちゃうなんて許しがたいことだわっ。それにみくるちゃんも!団長の許可無しに未来へ帰っちゃうなんて駄目じゃない?!」 ハルヒの言葉を聞いた朝比奈さんはさらに涙の量を増やし 「涼宮さぁ~ん……」 声を荒げて泣き出した。 そしてハルヒから 「で、有希やみくるちゃんはほんとにそれでいいのね?」 と確認されると長門と朝比奈さんは頷いた。 やっぱり団長は頼りになるなと実感させられたときであった。 「有希、その能力はどうやって使うの??」 「心の中で、今まであなたが思っていた通りの私達を想像すればいい。私も協力する。」 そう言ってハルヒと長門は目を瞑り、念じ始めた。 しばらく瞑想していたハルヒと長門に割って入る様で悪いが俺は万能宇宙人である長門に最後の疑問を聞いてみた。 「すまんが長門、この後の歴史はどうなるんだ?」 「情報の操作は得意。今はそれも含め涼宮ハルヒに協力している。」 「そうか。そうだったな。」 「そう。」 それからややあって、長門は一言だけ俺に告げた。 「終わった。」 その場にいる全員の肩の荷が降り、朝比奈さん達はペタンと腰を下ろし、また泣き出した。 ハルヒは笑顔で俺に言った。 「こんな面白いこと黙ってたなんて信じられないわ!!今夜はみんなでキョンに説教よ!!」 その後俺とハルヒが住むマンションで「すき焼きを大いにた盛り上げるための涼宮ハルヒのキョンを説教する会」が行われた。 ハルヒが消えちまった後の鍋もうまかったがあの時のすき焼きも申し分ないくらいうまかったな。 前置きが長くなったがその後普通の女の子になった長門を成人式の日以来見ていない。 出るか不安だったが長門の携帯に何年ぶりかに電話をかけてみる。 ……………… 「…もしもし。」 「長門か?」 「…。」 恐らく受話器の向こうで頷いたのだろう。 「久しぶりだな。」 「…。」 あの、長門さん?受話器の向こうの頷きは俺には見えないから少しはしゃべってくれよな。 「…わかった。」 「変わらないな。」 「…そう。」 「今日俺んちにみんなを呼んでまたすき焼きでもしようと思うんだが。」 「くるか?」 「……行く。」 「そうか。ならもう古泉と朝比…みくるさんは来てるからな、待ってるぞ。」 「わかった。」 そう言って長門は電話を切った。 長門の家からここまでは電車で一駅、さほど来るのに時間はかからないだろう。 ハルヒとみくるさんも仲良くすき焼きの準備を…… 「みくるちゃぁん!折角だから裸にエプロンやってみない!?」 「ふぇ~~!!」 ハルヒ!人妻バージョンのみくるさんも見てみたいのは山々だが夫の前だ!!自重せい! おい、古泉、ニヤけてないでお前もなんか言え! 「変わらないのはあなたもハルヒさんも一緒ですね。」 とチラシのモデルから雑誌のファッションモデルに進化したスマイルで俺に言った。 しかたないな…。 「やめろ!ハルヒ!!一昔流行ったしゃぶしゃぶじゃ無いんだぞ!」 懐かしいな…まさか今になってこのやりとりをするとは。 「しゃぶしゃぶ?今はすき焼きを作ってるのよ??」 「わかってる!これ以上言わせるな!!」 古泉夫妻がそれをみて笑っていた。 古泉、後で覚えておけ。 「それは恐ろしいですね。」 こいついつの間にビール一本空けやがったっ! 「一樹くんは酔ったら手強いですよ?」 みくるさん、それはどう手強いんですか? 「ふふ♪禁則事項です♪」 人妻最高!……っ!? 「キョン?何鼻の穴膨らましてんの!?」 油断した…ハルヒを止めていた途中だった… ―ピンポーン― するとチャイムが鳴った。 きっと長門だろう。 インターホンのモニターを覗き込む。 ……………誰だ? モニターの向こうには髪は肩まであり、 背は高くないもののスラッとしてて清楚な感じの女性が立っていた。 「なぁハルヒ、知り合いか?」 「有希じゃないの―??」 準備していたハルヒはエプロンで手を拭き、いそいそとモニターに目を向けた。 「すいませんどなたですか―?」 「…長門有希………………です。」 『ぇえ―っ?!!!!』 一同は驚きの声をあげ、俺を挟み込むかの様にモニターを我先にと覗いた。 みくるさん、肉の塊が…そして古泉、顔近いぞ。 「今開けるわね!!」 鍵を開け、進化した長門をリビングに招待する。 しかしこうも変わっちまうとちょっと畏まってしまうな。 「変わったな、長門。」 「そう?」 「背も少し高くなったんじゃないか?」 「あれから…少し伸びた…わ。」 伸びた…わ って…。 少し無理してるな、ここでは普通の長門でいいんだぞ? 「そう。」 「人ってのはこうも変わっちゃうもんなのね―。」 ハルヒは長門を珍しいものを見る様な目で長門を見つめる。 無理も無いがな…。 あの時は制服しか着てなかったし、今はan〇nにでも乗ってそうなくらいの美人だ。 「あれから何か変わった事はあったか?」 「特には。強いて言えば制服が入らなくなった。」 今のは長門なりのジョークだろう。古泉も相当ウケている。 「フフフ………ケラケラケラwwwwww」 ウケすぎだろ!いかん、こいつ完全に逝っちまってる。 「しかし突然そんなに変わられるとさすがの俺も驚いたな。」 「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイズに基本的な身体の成長は無かった。 あの時の情報改竄によりあなた達と同じ有機生命体になったことにより、今までの反動が訪れた。」 「よくわからんが人間になって遅れた分一気に成長したってことか?」 「そう。」 久々に長門の顔を見たが前の幼かった長門とは一転、ハルヒやみくるさんが居なければ確実に心魅かれていただろうね。 「ところで長門…前みたいに金に自由は利かないだろう?仕事とかしてるのか?」 元宇宙人に超現実的な質問をしてみる。 古泉は元機関とやらの誼で何かの研究をしているらしい。 かという俺はハルヒの紹介で夫婦揃ってA〇ショップの店員だ。 携帯ショップの何が悪い! 言っとくがハルヒのユニフォームの似合いようははんそk…話が脱線したな。 「ファッションデザイナー。」 !? 「有希―!すごいじゃない!?」 「長門さん昔から多才でしたもんね~♪」 「マッガーレ」 「こら古泉!スプーンを力ずくで曲げるな!! しかし長門、専門学校とか行ってたっけ?」 今日日学生のバイト代で行ける学校なんてどっかのお笑い芸人養成所くらいだ。 「親玉から仕送りみたいなのがあったのか?」 「定期的に。その一部を蓄えていた。」 「そんなとこまでしっかりしてたんだな。」 そんな話をしながらビールをちびちびやっていた。 すると長門はハルヒ達のいるキッチンへと向かって行き 「手伝う。」 と一言言い、下準備を始めた。 あの時からようやく人並みの生活をできる様になったのか。 そういや表情に乏しく、この俺の眼力でようやく変化したのが伺えたあの長門だが、今は誰が見ても分かるだろう。 楽しそうだった。 笑いながら作業する美女3人を見ていると心から幸せだと思うね、うん。 「はたしていつまで続きますかね、永遠にこの状態だといいのですが…。」 いきなりマジに戻るな!空気読め!顔を近付けるな!酒臭い!! 「……。今我々はその長門さんの元親玉、情報統合思念体について研究しています。みくるさんにも手伝ってもらってね。」 「何?!完全に情報を操作したわけじゃ無かったのか?!しかもみくるさんまでそのいかがわしい仕事を…」 「えぇ。いくら前の長門さんでも何億年前の情報から操作するのは無理だったと思われます。」 「で、何かまずい事でもあったか?」 「もしあなたが大事にしていた息子をさらわれて、もうあなたのもとに戻らないと分かった時、あなたならどうします?」 「一生さらった奴をゆるさねぇな。」 「そうです。」 まさか…………。 情報なんとかがそんな子供思いのお父さんだったとはな。 「ということは、結果長門は情報思念体から千切られて無理やり人間にされちまったようなもんか…。」 「本人の意思もありましたし、無理やりという表現は正しくないですが。まぁそんなところです。」 そうだな、俺が長門の親ならあんな可愛い娘をさらった奴に制裁をくわえる。 「しかし今のところ、何の動きもありません。安心してもいいでしょう。」 「そうかい。ま、長門の親以上に怖いのがうちのハルヒなわけだが。」 なんだがまた俺だけ2Gくらいの圧力がかかったくらい体が重くなった。 飲み直すぞ、古泉。 「はいw」 「できたわっ♪」 そうこうしてるうちにすき焼きが出来上がったみたいだな。 ん~いい匂いだ。 さっきのことは一旦忘れて、今日はみんなの再会を祝してSOS団すき焼きパーティーだ。 そうだ、今度また不思議探ししないか? 駅前とかじゃなくどっかの温泉とかな…。 ん、うまい!!! 涼宮ハルヒのすき焼 ―完―
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3499.html
涼宮ハルヒの軌跡 プロローグ 涼宮ハルヒの軌跡 機関の決断(前編) 涼宮ハルヒの軌跡 機関の決断(後編) 涼宮ハルヒの軌跡 未来人たちの執着(前編) 涼宮ハルヒの軌跡 未来人たちの執着(中編) 涼宮ハルヒの軌跡 未来人たちの執着(後編) 涼宮ハルヒの軌跡 情報統合思念体からの独立(前編) 涼宮ハルヒの軌跡 情報統合思念体からの独立(中編) 涼宮ハルヒの軌跡 情報統合思念体からの独立(後編) 涼宮ハルヒの軌跡 SOS団(前編) 涼宮ハルヒの軌跡 SOS団(後編) 涼宮ハルヒの軌跡 エピローグ -----下記のものは別の方がご厚意により作ってくれたものです----- 涼宮ハルヒの軌跡 動画(PC版) ※Divxコーデック必須
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/18.html
ハルヒ「宇宙人っていると思う?」 キョン「禁則事項です」 ハルヒ「・・・・・・」 キョン「すまん、言ってみたかったんだ」 ハルヒ「・・・・・」 キョン「長門にはコスプレさせないのか?」 ハルヒ「あら、みたいの?じゃあ選んで」 キョン「あ、いや別にそこまで見たいわけじゃないんだ」 ハルヒ「そう・・・・・」 ハルヒ「ねえキョン! 今度の日曜日卓球のダブr」 キョン「断る」 ハルヒ「今から連sy」 キョン「断る」 ハルヒ「な、何よ……もういい! あんたなんかに頼んだ私がバカだったわ。みくr」 みくる「断る」 ハルヒ「k」 古泉「断る」 ハルヒ「…………」 長門「…………」 ハルヒ「…………」 長門「……一緒に出る?」 ハルヒ「断る」 ハルヒ「有希であいうえお作文しまーす!」 ハルヒ「な!夏でもCOOL!」 ハルヒ「が!学校でもCOOL!」 ハルヒ「と!とにかくCOOL!」 ハルヒ「ゆ!融通が利かないけどCOOL」 ハルヒ「き!キョンにはHOT!」 ハルヒ「…何だろう…この空しさ…」 キョン「スレタイ変えたほうが良いんじゃないのか?」 長門「代案の提案を希望する」 キョン「・・・・キョンと愉快な長門達」 長門「・・・・・・」 キョン「スマン聞かなかったことにしてくれ」 長門「・・・・・・長門と801なキョン達」 キョン「・・・・・」 長門「・・・・・ゆずれない」 キョン「・・・・・」 長門「・・・・・」 ハルヒ「ハルヒとy」 キョン「やはり今のままでいいな」 長門「コクリ」 ハルヒ「(´・ω・`)」 小泉「ハルヒさん、あなたにあきれて ほかの人は帰ってしまいましたよ。」 ハルヒ「待ちなさいよ、何にあきれたわけ?」 小泉「・・・その服、どっからどう見ても 裸ですよ。」 ハルヒ「・・・・・!!」 女子A B「きんもぉ」 谷口「キョン、放課後遊びに行こうぜ」 国木田「谷口がゲーセン行こうってきかないんだよ」 ハルヒ「何言ってるの!キョンは今日もSOSだ キョン「おういいぜ」 谷口「おっしゃ!今日こそ勝たせてもらうぜ!!」 国木田「谷口ゲーム弱いのに好きだよねー。」 キョン「まったくだ。今日も賭けのジュースはいただいたも同然だな」 ハルヒ「ちょっとキョン何勝手に話進めてんのよ!ちゃんとあたしの キョン「なんかうるせー幻聴聞こえるから早く行こうぜ」 ハルヒ「………」 ハルヒ「みくるちゃん、お茶入れて」 キョン「あ、俺にもお願いします」 みくる「はぁい」 みくる「どうぞキョン君」 キョン「ありがとうございます」 ハルヒ「あれみくるちゃん、私にh」 みくる「今回はおいしく入れれたんですよ」 キョン「いつも通りおいしいですよ」 ハルヒ「・・・・」 長門「(パタン)」 ハルヒ「あっ、もうこんな時間になったのね。今日の活動終わり!解散!」 キョン「なあハルヒ、ちょっと話があるから部室に残っててくれないか」 ハルヒ「な、なによ、みんなの前じゃ言えないような話?」 キョン「ああ」 ハルヒ「わ、わかったわよ」 … …… ……… キョン「ただいまー」 妹「キョンくんおかえりー」 キョン「腹減ったー」 ハルヒ「遅いなキョン…」 ハルヒ「暇ねえ~、まったくなにかおもしろいことはないのかしら」 キョン「チェックメイトだ」 古泉「おやおや、また僕の負けですか」 ハルヒ「ちょっとあんたたち無視してんじゃないわよ! そうね、暇だからしりとりでもしましょう。 じゃあ私からいくわよ!しりとりで『り』よ!」 キョン「…………」 古泉「…………」 みくる「…………」 長門「…………」 ハルヒ「ちょっと、誰でもいいから答えなさいよ! もういいわ、キョンあんたでいいから答えなさい」 キョン「…りぼん」 ハルヒ「…………ハ、アハハハッ『ん』が付いたわ、キョンの負けね! もう、まったく馬鹿なんだから。 じゃあ、もう一度ね次はもっと長くしなさいよ!」 古泉「キョン君もう一戦やりましょうか。次は負けませんよ」 キョン「いいぞ。何度やっても同じだろうがな」 ハルヒ「ちょっと!」 ハルヒ「続き…」 ハルヒ「なによ……」 ハルヒ「…………」 みくる「あ、みなさんケーキ食べます?」 ハルヒ「え?ケーキなんてあるの?ひとつちょうだい」 みくる「フフフ、涼宮さん面白い」 ハルヒ「え?なんで?」 みくる「だって涼宮さんにあげるケーキある訳ないじゃないですか」 ハルヒ「どうゆういm」 キョン「ひとついただけますか?」 みくる「はい、ただいま」 ハルヒ「・・・・・・」 金曜日の部室 ハルヒ「じゃあ皆、明日9時だからね」 みくる「すいません涼宮さん私用事があるので・・」 ハルヒ「あらそうなの?、じゃあ4人で行きましょ」 キョン「すまんハルヒ、俺も朝比奈さんと用事があるんだ」 ハルヒ「え?ふたりで一緒n」 古泉「すいません、僕も朝比奈さんと彼と一緒に町内不思議探しパトロールしなくては」 ハルヒ「え?だから皆で行けばいいじゃない?・・・・ねえ有希?」 長門「まだわからないの?、一緒に居たくないんだよ!!」 ハルヒ「いつもとキャラ違っ」 キョン「じゃあなハルヒ、明日来んなよ」 ハルヒ「・・・・・・・うぐっ」 ハルヒ「今日の会議についてだけど・・・。」 「プゥッ。(おなら)」 みくる「いやぁぁあ!臭い!」 長門「ッ・・・!」 長門は手をくちに押さえたまま倒れこんだ。 小泉「なんてことだ!!学校中が・・・!」 キョン「長門を病院に!」 小泉「はい!」 みくる「・・・・・」 小泉「だめです!みくるさんも!!」 ハルヒ「うう・・・み、みんな、その・・・」 「ブゥウウウ~・・・」 キョン「お、ごっぷ・・・・・・」 バタッ 小泉「・・キョン君!!!!しっかり・・・くそっ!!」 先生「だめです校長!生徒たちが・・・!!」 小泉「オーアァー!!」 ハルヒ「嘘よ・・・こんなの・・・」 女子A「たすけ・・て・・・ハルヒ・・・さん・・・」 ハルヒ「いや・・・・やぁぁああ!」 キョン「寝言うぜぇんだよ」 小泉「今は16時ですよ。寝る時間ではありません。」 みくる「えいっ」 みくる は窓から突き落とした。 私は・・・・・死んだ・・・・ キョン「はははwwみろよ、鼻血が舌にたれてるぜwwくはははは!!」 小泉「おやおやww写真をとりましょうか、記念ですww」 みくる「最高ですー♪」 一同「豚は 死ね!」 高校に入り折角、SOS団を作ったのに誰も来ない。 結成時に入部させたキョンも有希もみくるちゃんも初日以外姿を見せない。 今日も、私はこの元文芸部の部室で開くはずもない扉を見る日々を過ごさなくてはいけないのだろうか。 ガチャ ハルヒ「っ!キョン!?」 扉を開けて入ってきたのは、数名の教師だった。 ハンドボールバカの岡部もいる。 ハルヒ「ちょっと何の用よ?」 教師A「文芸部の部室を無断で占拠しているという報せをうけた」 教師B「まったく同好会にもなっていないくせに勝手なことをしおって」 岡部「とにかく指導室まで来い。それに、うちのクラスの***
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1051.html
涼宮ハルヒの終焉 プロローグ 涼宮ハルヒの終焉 第一章 涼宮ハルヒの終焉 第二章 涼宮ハルヒの終焉 第三章 涼宮ハルヒの終焉 第四章 涼宮ハルヒの終焉 第五章 涼宮ハルヒの終焉 第六章 涼宮ハルヒの終焉 第七章 涼宮ハルヒの終焉 第八章 涼宮ハルヒの終焉 最終章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2120.html
お悩みハルヒ ~1部・片思い発覚編~ ~2部・決意と告白編~ ~3部・不思議な返答編~ ~最終部・主導権の行方編~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3632.html
涼宮ハルヒのVOC 第二話 ハルヒが「初音ミク」と言うソフトをお披露目した次の日。 俺はいつもどおり妹のボディプレスを食らい、学校で睡眠学習し、そのたびハルヒのケシカス迫撃砲を受け、そして昼の時間がやってきた。 いつものメンバーで食事をする。 「だからなぁ!!俺は二次元のよさに目覚めたんだよ!」こんな馬鹿馬鹿しいことを大声で演説しているのはご存知、谷口である。 「お前らも一回、騙されたと思ってニコ動見てみろって!!三次元に萌えが見出せなくなるぜ!」 高らかに続けたが「遠慮しとくよ。」「遠慮しとこう。」 国木田と俺の満場一致で谷口の案は却下された。 谷口は残念そうに「なんだよ~初音ミクとか最高だぜ!?な?一回見てみろって!」 ・・・・・・今なんと言った? 「・・・ぁあ!? 初音ミクだよ初音ミク!知らんのか?有名なVOCだぞ?」 ああ、知っている・・・・・・などとは言わない。 なぜなら、面倒なことになるからだ。その後も、谷口の適当な萌え話に適当な相槌を打ち、昼が終了した。 ふむ・・・歌ってくれるといっていたな… 俺はその初音ミクとやらがどのような声をしているのか、などと考えているうちに、午後の授業も終了し、団活の時間が始まった。 ハルヒは掃除当番らしく元気な声で「先に行っててっ!」といい、部室とは逆方向に走っていった。 さて、部室前だ。 コンコン とちゃんとノックをしてから入る。 ほぉーら。あの声が、今、俺の耳にはいt・・・ 「どうぞ、入ってください。」 字じゃ分からんかもしれないが、聞こえてきたのはハンサムGUYの声だった。 少々不機嫌な顔でドアを開ける。 やはり、中にいたのは古泉と長門だった。 「朝比奈さんは掃除当番で遅れるそうです。連絡がありました。」 ああ・・・朝比奈さん…なんでこんな奴に連絡を… ますます不機嫌になったのでボードゲームを準備して待っていた古泉を無視してパソコンを起動させる。いつもより立ち上がるのが遅い。 「ギ…ン ォ…ン」 ん?変な音がきこえる?…いや、気のせいか。 「どうやら機嫌を損ねてしまったようですね。」 アーアー! キコエナーイ!! 古泉は肩をすくめ、詰め将棋をしだした。 俺はと言うと静かに本を読んでいる長門の死角にディスプレイを移し(まぁ無駄だろうけど)隠しフォルダを表示させた。 今日お眼にかかることのできなかったmyエンジェルを拝むためさ!! さて……と!? 俺は驚愕した!! 隠したはずの場所にmikuruフォルダがない! まさか!!ハルヒに見つかって消去されたのか!? 「古泉!!」俺はかなり錯乱しながら聞いた。 「何でしょうか?」「最近閉鎖空間はでたか!?」 たのむ!!俺は半ば祈るような気持ちで聞いた。 「どうしたんですか?・・いえ、特に観測されてませんが?」 安心した。「そうか…ならいいんだ。」 それなら誰が・・・? 俺はひらめいた。効果音が出るくらいに。 きっと昨日の初音ミクの準備工程中に間違って消えてしまったに違いない。 そうであったと信じたい。 「おまたーーー!」「お待たせしました。」 朝比奈さんとハルヒの二人がやってきた。 朝比奈さんは「お茶いれますね~」といい、せっせとお湯を沸かし始めた。 ハルヒは俺の前までズカズカと歩き、 「ちょっとキョン!!何パソコン開いていやらしい顔してんのよ!さてはエロサイトね~~?」 断じてそんなことはない!! だがハルヒは案の定俺の話なんぞ聞いてくれるわけがなく 「罰として次の不思議探索はキョンのオゴリッ!覚悟しときなさいよ~~!!」 またか・・・コラ古泉!笑ってんじゃねぇ! 「フフフ…すみません…」 「もう怒った!今日は全勝してやるからな!」といって古泉の向かいの席に移る。 「望むところです」 ハルヒはイヤホンを耳につけパソコンをいじり、朝比奈さんはお茶を作り、長門は読書、そして俺たちはボードゲーム。これもいくつかパターンのある日常のひとつだ。 やっぱり古泉は弱かった。 飛車や角を俺の歩の前において得意げに「どうぞ?」なんていってやがる。まだまだだな。 もうそろそろ団活も終わるかな、という時刻になって、 「できたぁ!!」ハルヒが耳からイヤホンを撒き散らし叫んだ。 「何ができたんだ?」 「聞いて驚きなさい!」ハルヒはパソコンのスピーカーをこっちに向けた。 するとハルヒが文化祭で歌った曲のイントロが流れ出した。 軽音部からコピーしてもらったのか?と思ったが、 「「~~~~♪~~♪」」 聞こえてきたのはまったく別人の声だった。 俺はハルヒに質問してみた。「誰が歌ってくれたんだ?」 「ふっふっふ・・・この!!ミーちゃんよ!!」 ???誰だミーちゃんて? 「初音ミクちゃんよ!! ミクだからミーちゃん!!」 短絡的なネーミングだなぁ・・・だが声は悪くない。とても透き通っている。機械ってこんな事もできるんだな。 「いい声してるな」と言ってみる。 するとハルヒは「当たり前よ!!何せあたしが選んだ初音ミクなんだから!!」 「「・・・アリガトウ」」 ん?誰だ? 「誰かなんか言ったか?」 「言ってないわよ!あんたエロサイトの見過ぎで頭おかしくなったんじゃないの?」と、ハルヒ。それは言いすぎだろ。 「何も聞こえませんでしたが?」と古泉 「なにも。」と長門。お前久しぶりにしゃべったな。 「聞こえませんでしたけどぉ?」これは朝比奈さんだ。 ・・・空耳か 「下らないことに時間つかわないの!じゃあ今日はもう解散!!」 空耳・・・だよな。 俺は家のベッドで自分に言い聞かせて無理矢理納得した。 深夜。部室にて。 「プツン!ジーッ!・・・ゼンショウ全勝・・・ヘイサクウカンヘイサクウカン閉鎖空間・・・スミマセン・・・・オゴル コエ・・声・・・アリガトウ・・・アリガトウ・・・アリガトウアリガトウアリガ!プツン!」 「ギョ ぉ゛ ン゛」