約 2,288,098 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5960.html
涼宮ハルヒの切望Ⅵ 「うそ……」 あたしは茫然自失と呟いていた。 宇宙人の有希なら何とかできるんじゃないかと思ってた…… だって、前に有希は『自分はこの銀河を統括する情報統合思念体に作られた存在』って言ってたんだから…… 太陽系って言わなかったからもっと広い宇宙を統括しているなら、あたしには理解不能の宇宙人的パワーがあるだろう、と考えたから…… 「『異世界』とは『宇宙空間』も含めての世界を指す……この世界でさえ、この惑星の人類の理解能力をはるかに超える広さがあるのが『宇宙』……むろん、それはわたしも例外ではなく、この惑星が存在する銀河であれば対処可能でも、この銀河の向こうにどれだけの銀河があるのかは見当もつかない……そしてこれが『この世界』……こういう世界がどれだけあるかはわたしにも不明……つまり……わたしにも彼がどの異なる世界に移動したのかを特定するのは不可能……」 あたしの耳は有希が珍しく悔恨に声を震わせているにも関わらずほとんど聞き取れていなかった。 ぴろりろぴろりろ 妙に軽やかな電子音が届く。 「失礼、どうやら僕のようです」 古泉くんが先ほどまでの危機感を募らせた表情から、どこか絶望の表情に変化してこの部屋を出たような気もしたけどそんなこと気にする余裕もない。 ――ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい―― あたしは一年の入学式の日、クラスに向かってそう宣言した。 あの時はただ漠然とそういう存在に会いたいと思っていたけど…… 宇宙人、未来人、超能力者は『この世界』で存在するのかもしれないけど…… そう言えば、あの時、あの世界で出会ったあの人も言っていた…… ――再会できる可能性は皆無に等しいんだから異世界に生きる私のことなんて覚える必要はないわよ―― あの言葉は異世界の広大さを如実に端的に的確に表した言葉だったんだ…… なのにあたしは…… 「ひ、ひあ! 嘘!? そんな!」 みくるちゃんが何か悲鳴を上げている。 でもいったい何が起こったかなんてどうでもよかった。 あたしの心と頭はたった一つの絶望的な答えに占められていたから…… ……もう……キョンには会えない…… 世界が崩れていくような錯覚すら起こす。 すべての色彩を失い、歪んでさえ、ひび割れてさえ見えるんだから…… …… …… …… それでもいいかな……キョンがいない世界なら…… 壊れちゃってもいいかな…… 「たった一つだけ対処方法がある」 何か決然たる意思のこもった声が聞こえた気もした。 でももうどうだっていい…… 「涼宮ハルヒ! 絶望するのはまだ早い!」 ――!! さすがに意識が覚醒した。 なぜならこんな語気を強めた声を彼女から聞いたのは初めてだったから。 「有希……」 あたしは、まだどこか虚ろな瞳だったろうけどその声の主に視線を移す。 「な、長門さん……?」 みくるちゃんが半べそかいたまま、それでもさっきまでの焦りの表情が沈静化していた。 「朝比奈みくる」 「は、はい」 今度はみくるんちゃんに呼びかける有希。 「今すぐ未来と回線を開いてTPDDの使用許可を」 「え……?」 「心配ない。必ず許可される」 「は、はい……!」 有希の、まだ決然たる口調の促しにみくるちゃんが即了承。 しばしの沈黙があって、 「で、出ました! TPDDの使用許可! それで長門さん! あたしはどの時間平面に飛べば……! って、そうですね! キョンくんが消えてしまった日の時間ですね!」 そうよ! それならキョンが消失する前にこっちに連れてくればいいんだから! よく考え付いたわね! 有希! 「違う。過去に移動するのではなく、わたしが――我々が必要とするのはあなたが持つTPDDの『時空間を超える力』」 って、あら? 「涼宮ハルヒ」 有希が再びあたしを呼ぶ。それも見たこともない真剣な瞳で。 「わたしはひとつあなたに誤解を与えた。陳謝する。最初からこう言えばよかった。これを思いつかなかったのはわたしのミス」 謝罪なんていらないわよ! どういうことよ! 有希が続ける。 「わたしという個体単体では彼を見つけ出すのは不可能。しかし、涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、古泉一樹、そしてわたしが協力体制を敷けば不可能ではない――」 文芸部室は衝撃の沈黙に支配された。 刹那のような永遠の沈黙。 それを打ち破ったのは、やっぱり有希。あたしの瞳をまっすぐに見つめながら、 「わたしたちはもう一つ、あなたに隠蔽していた事実がある」 隠蔽? わたしたちってことはもしかしてキョンは知ってるってこと? 「そう。それは古泉一樹について」 古泉くん? 「彼には通常、この惑星の有機生命体を構成する六感を超えた能力が存在する。端的に言うならばESP」 ESP!? それってもしかして……! 「そう。古泉一樹には超能力がある。その能力は特定の異空間に侵入できること」 有希の説明にあたしは絶句した。 あたしが望んだすべてがもうすぐ傍にあったなんて……しかもそれも一年以上前から……それに気付かなかったなんて…… そう言えばキョンが以前、そういう風に教えてくれたような気がしないでも…… でもまあそれはいいわ! 古泉くんに異空間に入り込める力があるならいろんな異世界に行ってもらってキョンを探して来れるじゃない! 「ううん。それ無理」 あれ? なんか有希の口調が今までの有希じゃないような…… 「先ほども言ったが古泉一樹が入る込めるのは特定の異空間のみで、さらに言うなら、あなたが『キョン』と呼ぶ彼がどの異世界に居るのかが特定できないから」 気のせいか。 だって続けた有希の言葉は、今は強い意志を感じるけど、それでも口調はいつもと変わんないし。 「じゃ、じゃあどうやってキョンの場所を?」 「それを今から説明する」 あたしの問いかけに有希が呟くと同時に古泉くんが戻ってきた。 あたしたちは文芸部室のちょっとした模様替えをした。 と言ってもまあ、そんな大したことじゃないけど、まず、いつもキョンと古泉くんがボードゲームに興じている会議用机を廊下に出したの。 ふうん。あの机がないだけでこの部屋、結構広く感じるものね。 それともう一つはあたしの団長机のパソコンを窓側ではなくて廊下側に向けること。でも机の位置は変えなかった。 んで、ついでに言うなら、あたしが考案した芸術的価値が高そうなエンブレムがあるってのにレイアウトがあまりにショボイのでアクセスする人がほとんどいないキョンが作ったSOS団のホームページのトップをこちらに向けている。 どういう意味があるんだろう? 「次はわたしたちの立ち位置」 有希が指示を出す。もちろん、あたしも含めてそれに従った。 団長のあたしを差し置いて、なんて言うつもりはないわよ。だって、有希はあたしたちの知らない何かを知っている。んで、それは有希にしかできないことなんだから、しゃしゃり出るつもりなんてないわ。 「涼宮ハルヒは私の正面に立つ。朝比奈みくると古泉一樹はわたしから90度ずれて展開し、涼宮ハルヒとわたしの中間地点からの我々と同じ距離を取って」 「ここですか?」「ふ、ふえ? 合ってます?」 古泉くんが真剣な表情のまま、でも声には多少の余裕が出てきたみたい。 みくるちゃんにも少しだけいつもの雰囲気が出てきたわね。 「多少の誤差は許容範囲。概ねその位置でいい」 有希が言う。 とどのつまりあたしたちは4人で十字を切って正方形を作っている。 そう言えば、有希はさっき、あたしも含めて協力って言ってたけど、あたしは何をすればいいんだろう? などという疑問があたしに浮かんだんだけど、問いかける前に有希が続ける。 あたしの瞳をまっすぐ見つめて、 「あなたは彼のことだけを考えてほしい。あなたの思考が彼に届くことによって彼の今いる世界とこの世界に一筋の道ができる。それを利用して古泉一樹の異空間に侵入する能力、朝比奈みくるの時空間を超える能力を私の情報操作で連結し、我々の中心に力を集中させて彼をここに帰還させる」 ――!! そ、そんなことが可能なの!? 「理論上は可能。ただし――」 ただし? 「絶対という保証はなく、また成功するという保証もできない。ただ単に可能性は0ではないというもの」 ……つまり0.の後に限りなく0が続いて最後が1って可能性なのね…… でもまあいいわ。 だからどうだっていうのよ。諦めるよりは数百倍マシなんだから。諦めてしまえば0になるけど諦めないなら0じゃないんだから後者に賭けるまでよ。 「それを聞いて安心した。この国のことわざにもある『乙女の祈りは天に通ず』、それを信じてあなたは彼に思いを届けるんだという気持ちを持ち続けてほしい」 ん? あたしの目の錯覚かな? 今、一瞬、有希が小さく微笑んだような…… と言うか、『乙女の祈りは天に通ず』ってのはことわざじゃなくて某ライトノベル作家が好んで使うような慣用句みたいなものじゃなかったかしら? え? それは誰かって? そうね、確か角川スニーカー文庫でも何作か出していると思うけど、谷○流先生じゃないことだけは確かよ。もっとも出身の県は同じみたいだけど。 って、今はそんなどうでもいいことは置いといて。 「では始める」 有希が瞳を伏せて、何やら早口で言っているしね。 と同時に、 「ひあ!?」「これはこれは」 みくるちゃんの狼狽悲鳴と古泉くんの興味深げな声が届く。 まあ仕方ないわね。 なんせ、有希、みくるちゃん、古泉くんから光のようなものがいきなり立ち上ったんだから。 って、あたしはここから祈ればいいのかな? などと思いつつ、手を胸の前で合わせて、 キョン…… あたしは、ありったけの思いを込めて、そして是が非でもあいつに声を届けたい気持ちを込めて心の中で呟き、 ――!! 見ればあたしたちの中心に光の靄がかかってきてるし! 「それが異世界への扉。あとはこの光の靄が次元断層を突破できるかどうか」 有希が切羽詰まった声ではあったが、どこか期待を込めて説明してくれる。 古泉くんとみくるちゃんもまた、光に包まれたまま、その光の靄を凝視している。 キョン―― あたしは悲壮感漂う表情で、何度となくあいつに呼びかけ続けた―― 涼宮ハルヒの切望Ⅶ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅵ―side K―
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2337.html
今日も部室とうへと足を運ぶ。 ここに足を運ぶことが日課になってしまった自分がちょっと忌々しい。 「うひゃあ…あ…や、やめてくださぁ~い……」 「みくるちゃん!はやく着替えるのよ!!!」 あの馬鹿…またやってやがる 今日という今日は止めなくては。 バタンッ 「ハルヒ!またやってるのか!いい加減にしろ!!!朝比奈さんが嫌がってるだろう!」 「み…見ないでくださ~い…」 「何よキョン!あんたは雑用係なんだから団長に反抗する権利はないわよ!!!」 朝比奈さんすいません、バシっと言わせてください。 このままではあなたはずっとハルヒの言うとおりにさせられますよ。 「何言ってるんだ!団長なら少しは団員の気持ちも考えろ!朝比奈さんがかわいそうだろ!!!」 「うるさいわよ!団長の言うことはちゃんと聞くのが団員なの!!!団長への反抗は許されないわ!!!」 「朝比奈さんの気持ちも少しは考えろって言ってるんだ!!!仮にも上級生だぞ!朝比奈さんはお前のおもちゃじゃない!!!」 「何言ってるのよ!!!みくるちゃんは私のおもちゃよ!!!」 このとき生まれて初めて、「頭に血がのぼる」というのがわかった気がする。 目の前が真っ赤になった。 このクソ女、何が団長だ、ふざけんな。 「このやろ……!!!」 俺の手を誰かがきつく握ってやがる。 誰だよこの野郎。手を離せ馬鹿。この女は殴られなきゃわかんねんだよ。 振り返ると、そこには俺の握った拳を押さえている古泉がいた。 俺は無意識のうちにハルヒを殴ろうとしていた。 「少し落ち着いてください。あなたらしくないですよ。」 ハルヒは少し驚いたような表情で俺を見ていた。 朝比奈さんは半泣きしながらも、今のこの状況に驚きを隠しきれない。 「ちょっときてください。」 古泉は少し強い力で俺の腕を引っ張って部室とうから出て行った。 「今の行動はあなたらしくないですよ。一体どうしたのですか。」 俺もやっと少しずつ冷静になってきた。 「もしもあの時あなたが涼宮さんを殴っていたら、SOS団は崩壊していましたよ。そしたら涼宮さんも機嫌が不安定になる。そうするとまたあの例の閉鎖空間を生み出してしまうというわけです。少し冷静に考えてください。」 「すまなかった…反省するよ…」 「また涼宮さんと仲を取り戻してくださいよ。あの空間の拡大を抑えるためにも。」 「ああ…わかったよ…」 バタン ドアが激しく開いた。 「今日はもう帰るわ!!!」 そのままハルヒはズカズカと帰っていった。 朝比奈さんは元の制服姿に戻っていた。 次の日 俺が教室へ入ると、ハルヒは俺と目を合わせようとしないでずっと窓の外を見ていた。 俺もなんとなく顔を合わせにくい。 俺はそのままハルヒの前の席に座った。 無言 とにかく気まずかった。 授業が始まっても、俺もハルヒも話をすることはなかった。 いつもならたえず後ろからペンでつつかれて、今日の部活は何をしようかとかをハルヒのほうから話かけてくるのだが、ハルヒはずっと窓の外を見たまま目を合わせようとしない。 そんな気まずい雰囲気の中、とうとう4時限目が終わり、昼休みとなった。 そこで俺は勇気をふりしぼり、学食へ行こうとするハルヒに話しかけた。 「ハ……ハルヒ」 「な、なによ」 ハルヒは少し慌てたような表情を見せた。俺と目を合わせようとしない。 そんなハルヒを見ていると、俺も少し顔が熱くなってくる。 「そ…その…なんだ…き…昨日は悪かった。謝る。ゴメン」 「わ…私のほうも少しやりすぎちゃったわ。あんたの言ってることは正しかったわよ。ごめんなさい。」 ハルヒに謝られたのは初めてだ。 そんな少し申しわけなさそうなハルヒの表情はけっこう可愛かった。 「その…俺、今日弁当持ってきてないんだ。今から学食行くんだったら、一緒に食べないか?」 「うん!そうしましょう!」 最高の100万ワットくらいありそうな笑顔だった。 考えてみると、もしあそこで古泉が止めてくれなかったら、ということを想像するとゾッとする。 今回は古泉にも感謝しないとな。ありがとよ、古泉。 END
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4086.html
「気配は4つ。1つがこちらに向かっている。あなたは隠れて。」 「残り3つはハルヒの方に行ったのか!? 古泉はともかく朝比奈さんとハルヒが戦える訳ないだろ!?」 「あちらに向かっている気配は2つだけ。大丈夫、 ――彼女は強い。」 ―― 「ハハッ、久々だな『雁ヶ音』!」 「何、みくるちゃん知り合い?いい歳して人形抱いてるわよ…ヤバいんじゃないの?」 「…『狩人』、ですか。人形遊びとパンジーの花壇を漁る事が趣味の危険な徒です。 涼宮さんは危ないのでここを動かないで下さい。」 「それは危険ね…末期だわ。」 「パンジーはいい…、醜い物を全て覆い隠してくれる。人間も、トーチも、そしてフレイムヘイズもな。 お前も俺の巨大パンジーに呑まれて消えていくがいい!!」 「――どうやらあなたも、私のお茶が飲みたい様ですね。」 ―― 「おや、これはこれは。えー…いや、…お久しぶりですね。 えぇと…あー、うん…、お久しぶりです本当に…」 「橘ですよ!何で忘れてるんですか!?あんまりです!!」 「すみません、悪意は無いんです。いや余りにも印象が薄かったもので。」 「おぉう…悪意が無い方が余程タチが悪いのです…、いやそんな事はどうでもいい! 今日こそ決着を着けさせてもらうのです!!」 「ほう…、灰色の世界で戦いに明け暮れて来た僕と、 セピア色の空間で淡い恋の妄想に耽っているだけのあなた。まさか勝てるとお思いですか?」 「ななななぜそれを!?…い、いやそんな事してません!! もう許せない!あなたを倒して、あのミステスは私達が手に入れるのです!!」 ―― フレイムヘイズがどうとかは置いといて… 「・・、・・・・・、・・、・、・・、・・・・。」 「――――、―――、―、――、―、――――、―。」 何この超絶バトル…。 「…っ。」 「――っ―。」 「長門、大丈夫か!?」 「…大丈夫、私は胸が無いのではない。成長期なだけ。」 「――私の頭―――毛筆――ではない――。」 「なに高速で女特有の陰湿な喧嘩してんだお前らァッ!!」 ―― 全く、どこに行ってしまったんだあの3人は。 それに何なんだろうここは。涼宮さんの閉鎖空間は灰色と聞いていたけど。 …まあ彼女なら何でもアリ、か? 「もしかして…あれが神人というやつかな?」 ―― あの巨人、前学校で見た…何で?あれは夢だったんじゃないの? 「キョン…!」 ―― 「神人…!」 あの厨2病サイキッカーは気付いてやがんのか!? まさか自分の仕事まで忘れちまってるんじゃないだろうな…!! 「ハルヒ…!!」 携帯のメモリーから000番を呼び出す。 ――通話中。 「…くそっ、こんな時に誰と話してやがんだあいつは!!」 一年前。嬉々としてアレに近づいていったハルヒの姿が頭をよぎった。 俺に何が出来るとも思えんが。…放ってはおけないか。 「長門、ハルヒがアレに近寄らんとも限らん。念のためハルヒを探してくる。 お前も早いとこそいつとの口喧嘩は切り上げて手伝いに来てくれ。」 「分かった。」 ―― 何で?何でアイツ街を壊してんの?人だっていっぱいいるのに。 何でみんな動いてないの?何なのよここ。 あたしは何であのデカブツに親近感を覚えていたんだろう?夢だからはっきりとは覚えてないけど…。 またビルを壊した…有希とキョンはどこ? 携帯のメモリーから000番を呼び出す。 ――通話中。 「…何でこんな時に話し中なのよあのバカキョンッ!!」 もしアレに有希が巻き込まれたら…もし、キョンが巻き込まれたら…。 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。見つけなきゃ、絶対に。絶対。 くそっ…なんであんな遠くにいんの!!どんだけ走らせりゃ気が済むのよ!! 不気味な光を放つその巨人。遠近感が狂う。どれだけ走っても近づいている気がしない。 足が重い……足が…。 息が上がる……体が、 ――熱い。 …………? 「なに…これ…?」 ―― 派手に壊してんなおい…。 「ハルヒーッ!!いんのかー!?」 この空間を覆い尽くす濁った赤色。 なんというか…本能的な危険を感じる。 有害な動植物が持つ警戒色、あれに似たものを。 一向に見つからないハルヒ。 履歴を出し何十回目か分からないリダイヤルを実行しようとしたその時――。 視界の端、遥か上空で封絶の色とは明らかに違う輝く赤色が目に入った。 「やっと来たか古泉。早いとこ片付け…、」 ………? 何か違う…アイツの赤玉はレーザーポインタみたいな色じゃなかったか? あれは赤というより…、 ――紅蓮? ズシャアァァァァァッ!! 派手な音と共に、頭頂部から正中線を通って股下へ。 一瞬にしてあの巨体が真っ二つに裂かれ崩れ落ちていく。 地面に降り立つ細身のシルエット。 炎髪灼眼、炎の翼。そして、 ――見慣れた黄色いカチューシャ。 その手に持つのは何とまぁ、 こいつ…、角材で神人ぶった斬りやがった…。 ―― 「なるほど。その調律というのを僕に手伝って欲しい、と。」 「はい、あなたが最適の様なので。大丈夫、危険はありません。」 「へえ、紅世の徒にフレイムヘイズ、そしてトーチ。大体の話は理解したよ。 …で、何をしている国木田。」 「いえ僕は、『儀装の駆り手』カムシン。これは『不抜の尖嶺』ベヘ…」 「分かったもういい。…はぁ、君もか。」 「手伝って頂けますか?」 「そんな事をしなくても元には戻るよ。 その前に、少し彼女に説教をしてこなければならないな…、僕は行くよ国木田。」 「いえ僕は『儀装の駆り…」 「――国木田。」 「……はい…。」 ―― 「目、充血してんぞ。」 「寝不足よ。」 「髪も真っ赤じゃねーか。」 「穏やかな心と大いなる怒りのせいね。週4でこんな感じだわ。」 大して疑問は持ってないんだな…いい加減な奴…。 まぁそっちの方が助かるか。 「朝比奈さんと古泉はどうした?」 「向こうでアホな事やってたわ。引っぱたいてでも正気に戻してやんないと。有希は?」 「あいつも同じだ。俺がやめさせてくる。」 「そう、分かった。じゃあ駅前集合ね。」 「……ハルヒ、」 「なに?」 「助かった。ありがとな。」 「う…うるさいうるさいうるさいっ!!」 ―― 「橘さん。」 「佐々木さん!?危ないので下がっていて下さい。必ずこいつを倒し」 ――バチンッ 「きゃうっ!!……あ…、え…??」 「君は以前言ったね、不安定な涼宮さんより安定している僕に力を移すべきだと。 それがこれは何だ?紅世の徒?好き勝手やって世界のバランスを崩す存在だそうだが。 この「ごっこ」がどんな影響を与えるのかは知らないが、言う事とやる事が逆だろう。 そろそろ正気に戻るんだ。君の仕事は僕の観察だろう?」 「あ…あれ…私何してたんだっけ…?」 「君もだ、古泉一樹。」 「え…?」 「君の仕事は涼宮さんのストレスを取り除く事だろう。 神人が出たというのにそっちのけで何をしてるんだ?」 「いえ、僕の仕事は紅…」 「僕に『地』を出させるな。」 「…はっ、はい……。」 「「(怖い…。)」」 ―― 「バカな…俺の花達が枯れて…!?」 「夏の昼間、花に水をやろうとして怒られた記憶はありませんか? 高い気温に温められた水が花を弱らせてしまうからです。 今のはそれと同じ。あなたの花壇にポットのお茶をかけました。」 「なんという奴だ…それでも女かお前!!花を愛する心は無いのか!?」 「それとこれとは話が別……あれ、涼宮さん?――きゃあぁ!?」 「……?」 「なんですか…?何で私水かけられたんですかぁ…?」 「そろそろ正気に戻りなさいみくるちゃん。犬耳透明スクール水着で町中歩かせるわよ?」 「…ふぇ!?」 「アンタもよ、パンジー男。」 「何…?」 「これ以上みくるちゃんにちょっかい出してみなさい。――摺り潰して再生紙工場に持ち込んでやるから。」 「…あ…、くっ……。」 「「(怖い…。)」」 ―― まだやってるよこの二人…。 「――、―、――――。」 「…、………、…………、…。」 「長門、切り上げろって言ったじゃないか…あんまり言う事聞かないようだと、 ――文芸部室にブックオフの出張買取呼んじまうぞ?」 (――ピクッ) 「お前もだ、周防なんとか。」 「――?」 「雪山の時のがお前かは知らないがな、長門やSOS団の連中に何かしてみろ。 長門のとは比較にならない程切れ味の鋭い言葉のナイフを食らわせてやる。生きるのが嫌になるかもな。」 「――!?」 「「(……――危険…―。)」」 ―― 駅周辺 「やあ、3人共。無事だったようだね。」 「はい…すいません…。」 「…悪かった…あまり記憶に無いが…。」 「――、――。」 「空間が元に戻っていくね。彼女も満足したみたいだし、結果良ければなんとやら、だ。 僕たちも帰ろうか。」 ―― 「どこかなぁ~、私の『贄殿遮那』~♪」 「ナイフの次は日本刀ですか…。刃物好きもそれくらいにして下さい。」 「いいじゃない、趣味があるって素敵な事よ。」 「女子高生らしい趣味を持ってください。それに残念ですが、 もう涼宮さん満足しちゃったみたいですよ。」 「そんな……。」 ―― SOS団が駅前に集合した直後、赤黒かった空間が正常に戻り始めた。 あんだけ大活躍すりゃそりゃ満足するだろうよ。 自分のストレスを自分で倒せるなんてたいしたもんじゃないか。古泉の為にも定期的に炎髪灼眼化して欲しいもんだ。 今回の事もハルヒの中では以前の学校の時のように夢オチで処理される事だろう。 ……される、よな…。 いや、しろ、ハルヒ……… ―――――― ――― ―。 数日後 「お、まだ長門一人か。」 「そう、古泉一樹は休み。」 ん?長門がハードカバーを読んでない。…嫌な予感がする。 「な、長門、今日は何読んでんだ…?」 「…読む?」 「いいのか?…じゃあ借りようかな。SF物か?」 「広義では、ミステリー。」 「…そうか、ミステリーなら割と好きだな。なんてタイトルなんだ?」 「ひぐらしのなく頃に。」 「それだけはやめてーーーーーーーーーーーーっ!!!」 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/511.html
キーンコーンカーンコーン ふぅ──やっと授業が終わった。 朝から何も喋って無い私をよそに、教師というのはベラベラと喋る。 あたしはそんな教師を退屈な相手の対象だとしか見ていなかった。 ───この時までは。 私は起立、礼。が終わったその直後にキョンの席のイスを引っ張った。 普段のキョンならあたしの机に頭をぶつけるぐらいの仕草はするはずだった。 …するはずだった、はずだった…。 なんで?どうしてそうも、いつもと…違うの? 私がイスを引っ張った直後、キョンは席から立ち、どこかへ行ってしまった。 他の生徒を見る限り、ぐるりと輪になるようにグループを作っており ──まるで私だけが孤立してるかのように見えた。いや、客観的に見ればそう…なのだ。 古泉「おやおや、ここはキョン君いじめスレですか。私の肉棒が唸りますね。」 そして孤立した今、あの時の退屈は私に話しかけてきた。 『もう、転校しちゃったら?』『何のために居るの?』『友達・・・・ダレ?」 いや…なんで?あのうっさいバカがいないだけでなんで…? 私は黒板を見つめなおすと、まだ書き写して無い部分をノートにとった。 ──いや、孤独なのが怖くて取る「フリ」をしていた。 それを察したかの様に、男子グループの内の一人が黒板を消しに行く。 ──ああ、いいわよ。もう、そことってあるしね…… 無意味に自分の両手を見つめると、涙が少しずつ沸いてきた。 『あたし…なにやってんの?別に悲しくない。こんなの中学の時と同じ。』 なのにこんなに悲しいのは──キョンという話し相手が──遠ざかってしまったから? …ああ、もうバカ!一生懸命書いたノートが涙でくしゃくしゃ! ホントに取り直さなきゃ…ダメじゃない…黒板……消えてるのに… 古泉「ハハッ、よくあることです。」 ──宮さんですよね?涼宮さん。 上から聞こえる声に私はハッと顔を上げる。 そこには女子グループの内の1人 いかにもやんちゃそうな女子生徒が私の名前を呼んでいた。 ハルヒ「な、なによ?」 このクラスには男子グループがあれば女子グループもある。 ──その女子グループのうちの1人が話しかけてくるなんて。 …相当面白いネタでも持ってきたのかしら? 私は自分の顔から少量ながらにも涙が溢れている事も気にせず その女子生徒を眺め返した。 女子生徒「これ、ハンカチ…」 ──えっ? …そうだ、あたしだって普通の女子生徒だ。 急にあたしの中の何かがサッパリと冷めたように抜けていく。 そういえば、言ってたな。キョン。 「お前は自己中すぎる。」 「付き合いきれん。」 「またそれかぁ・・・」 だけど… 『普通にしてれば可愛い』って── 古泉「なんか臭いぞ」 私はキョンの言葉を頭に描き返すと ふとハンカチを差し出している女子生徒の方を見ると。ようやく自分でも悟った。 ──私だって普通の女子高生…じゃない。 身を持って本当の退屈を知ったからだろうか、目の前にあるソレはとても輝いて見えた。 私の一番望んでいないもの、平凡。それが、今ばかりは輝いて見えた。 私は涙顔を見られた恥ずかしさもあってか、少し強気な顔になる。 ──話かけるなら、もっと早くにきなさいよ! 恐らく心はそう叫んでいた。 そして不本意ながらも、その平凡というなの橋に足をかけようとする。 ハルヒ「あ、ありがと。いやー最近涙腺ゆるんじゃってねぇ。 もしかして風邪かな?いや、これは花粉症かぁー!」 クラス全員が、一帯となったかのように静まり返る。 そして、ハンカチを差し出した女子生徒の声だけが冷たくこだまする。 ───ないね。やっぱり。 古泉「ハハッ、あとがこわそーだっと。」 静まりかえったと同時、いや、その後を追うように ハンカチを持ってきた女子生徒が声を漏らす。 ───ツマンナイ。 その声がクラスに響き渡ると、一つの女子グループから苦笑が聞こえた。 …ああ、そういうことか。一人を囮にして私を観察しにきたんだ…。 ……いい魅せ物でしょ?でも、アンタもタダの人間なのよ。 あたしを楽しませる事の出来ないニンゲン。 だから?あたしがアナタを楽しませてみろと? …ふざけんじゃないわよ! 急にあたしの中にあった怒りが爆発する。 それは反射的に行動にも現れ、ハンカチを差し出した女子生徒の手をパン!となぎ払う。 クラスには険悪なムードが立ち込める。 あたし…退屈……ははっ、あの教師と同じ……退屈。 『──転校って意外と悪くないんだぞ。ハルヒ。』 ……キョンの声だった。 古泉「続きを読むにはふんもっふ!ふんもっふ!」 キョンがクラスへ帰ってくると、先ほどの雰囲気が嘘のように、皆明るくなっていた。 谷口「よう、キョン!どこ行ってたんだよ!」 国木田「やっぱりキョンがいないとダメだねぇ。」 なに…この…偽善者共……! あたしの精神はもう限界だった。 なんで…キョン……コイツだけ…! あたしはキョンに嫉妬していた。 団長のあたしがダメでなんでコイツだけ…! しかしそんな事も、よくよく考えてみれば納得せざるをえなかった。 ───そっか、キョンは違うんだよね。あたしと。 この瞬間、どこかに壁ができたような気がする。 SOS団という薄い仕切り、そんなもの見掛け倒しにすぎなかった。 一方私に設けられたのはクラスという大きな壁。全員が団結して造った壁。 ──面白いじゃないのよ!逆にやりがいがでる! …こんな壁……あたし一人で… 気づけないわけが無い、あたし一人、強がってるんだ。 この空間で、一人だけで… 古泉「ハハッ、これが本当の閉鎖空間ですか?」 教師「えー本日を持ちまして、涼宮ハルヒさんは転校することになりました。」 …どいつもこいつもニヤケ面。 教師がいなかったら拳の1発や2発かましてるところよ。 ──そんな学校生活も、もう終わり。 唯一出来た思い出が楽しくなかったのが心残りかな? 教師の岡部がサラリと奇麗事を並べると、生徒の間からは拍手の音が聞こえた。 どうせ、万歳の拍手だろう。あたしを惜しむ者なんて一人もいない。 あたしの前の席にいるキョンが遠く見える。 …キョンは、どういう意味で拍手してるんだろう…? だけどもう、どっちでもいい、アンタともサヨナラよ。 ……少しだけ楽しかった。ありがとうね。 あたしはもう次の生活を思い描いていた。次こそ普通に生きれますように…。 そんな精神状態の中、ある音があたしの耳を刺激する。 ガラッ! キョン「どうしたんだハルヒ、お前らしくないぞ。」 ──えっ? ……キョン? 古泉「見て下さい、この体。機関のお偉い方さんからも好評なんですよ。」 ──嘘。キョンはあたしの席の前で拍手を送っている。 ただ、転校しようとしているあたしを、無関心な表情で…。 長門「…精神を攻撃する情報思念体。解ってしまえば、怖くない。」 突然現れた長門が教師である岡部に飛び掛る。 ──そんな光景に驚いている暇もなく、キョンがあたしの手を引っ張る。 キョン「いくぞ、こっちだ!」 その時のキョンの手は暖かかった。間違いない。本物だ。 あたしはふと顔に笑みを戻すと、そのまま倒れてしまった。 キョン「───おーい、ハルヒぃー。」 ん……ん? 気づけばあたしはキョンに抱きかかえられていた。 ──夢?だったの? キョン「お前相当悪い夢見てたんだな、ソファーから落ちるなんて普通はありえんぞ。」 普通の部室。普通の光景。普通の…キョン……。 ハルヒ「あ……あっ、そう! あたしたまにはだってこーいう事あるわよ!」 ──嬉しかった。夢でよかった。 そう思うと同時に、また眠気が誘ってくる。 ハルヒ「あたし、もっかい…寝る。 キョンも……。」 あたしは喉まで出かけた言葉を噛み殺した。 だけど、あの、手を引っ張ってくれた時のキョンは本当に頼もしかった。 ──そのうち、副団長も考えてやらなくはないわ。団長があたしでよかったわね、キョン。 古泉「さてさて…涼宮さんはまた眠ってしまいましたが…。」 長門「いい。……彼女に何らかの支障を出さない事、これが私達の役目。」 キョン「しっかしまぁ、やっぱり頼りになるよな、長門は。」 長門「………」 ───ハルヒ、お前は戦った。自分の精神に負けず、がんばった。 だから今は眠っていろ、SOS団の団長が倒れるなんて団員の俺達には、願ってもいない事だからな…。 ……お前が閉鎖空間にいる間、いろんな計画立ててたんだぞ。 お前が起きたら、どれから実行してやろう……っとと、それを決めるのは団長のお前だったな。はははは……。 Fin これを読んでくれた古泉萌えの皆さんありがとう 古泉「次週もマッガーレ!」 2話
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3622.html
涼宮ハルヒのVOC プロローグ なんてことない1日だった。 長門の読書姿も。 朝比奈さんのメイド服とお茶も。 古泉の憎たらしい笑顔も。 しかしなんてことない1日も奴によってなんてことなく破壊されるのである。 分かるよな? 「みんなおまたせ―ーーーっ!!」 ハルヒの奴勢いよくドアを蹴破ってきやがった。 その手には紙袋が提げられていた。 「あ、こんにちはぁ」と朝比奈さん。 「こんにちは」にこやかに古泉。 「・・・・」これは無視しているわけじゃないぞ?ちゃんと会釈しているからな。 「よぉ」と無難な言葉をかける俺。 ハルヒはドアを乱暴に閉め、団長の机のパソコンを起動し始めた。 いつもなら「みくるちゃん!お茶!」という流れに行き着くのだが、今日は真剣にパソコンとにらめっこをしている。 ハルヒの持っている紙袋も気になったので声をかけてみる。 「なぁ、ハルヒ。その紙袋はなんだ?」 すると、ハルヒは喜色満面の笑みで 「聞いて驚きなさい!」全員がハルヒに耳を傾ける。 「初音ミクよ!!」 こうしてまた俺、いや、人類の迷惑が始まった。
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/306.html
ハルヒ先輩5から 「ちょっと待て、ハルヒ。なんだ、その格好は?」 「あんたの高校の体操着(女子用)よ」 「なんで、おまえがそんなものを着てる?」 「加えて言うなら、あたしの母校でもあるわ」 「それは知ってる。尋ねてるのは理由だ」 「どこかの誰かさんみたいに、卒業後、使用済みの制服その他を売り捌いたりしてないの、あたしは」 「思い出は心に、衣類はタンスにしまっておけよ」 「普段はしまってあるわよ」 「今日もしまっておけよ」 「そうはいかないわ。今日はいつもと違うもの」 「何が違うんだ?」 「あんたの誕生日でしょ」 「それって、まさか……」 「そ。『プレゼントはあたし』ってやつよ」 「まてまて。それは一旦置いておくことにしよう。だが、なんで、よりにもよって体操着なんだ?」 「あんたの、その反応がすべてを物語っていると思うけど」 「あう」 「どうしても、あたしの口から聞きたいっていうなら、聞かせて上げるわ」 「うわ、待て。やっぱ、いい」 「もう遅い。あんたのスケベな心臓は、今ロック・インしたわ」 「おれを殺す気か?」 「せめて気持ちよく昇天させてあげるわ。ひとーつ、あんた、まずブルマ萌えね」 「ぎゃふん!」 「ふたーつ、そして、体操服のすきまからのぞく、おへそ萌え」 「ぎゃふん、ぎゃふん!」 「みーつ、元々あたしがあんたに気付いたのは、そのエロい視線で体操着姿のあたしを視姦してた時だったわね」 「きゅうううん」 「あ、死んじゃった」 「……言い直せ。視姦じゃない。見とれてただけだ」 「あたしが、つかつか近づいて行って、他の一年坊主たちが、蜘蛛の子散らすように逃げ去ったのに、あんただけは、じっとあたしを見てた、目もそらさずに」 「おまえに凝視されて、視線を外せる奴なんかいるもんか」 「2〜3メーターの距離ならともかく、20センチ近くになっても」 「ヘビににらまれたカエル状態だったんだ」 「あたしの唇が、あんたの口をふさいでも」 「どうせ見納めなら、死ぬ間際まで、焼き付けとこうと思ったんだ!」 「あたしゃ、メデューサか?」 「ほんとに腰が抜けて立てなかったんだ」 「別のところは、立ってたけどね」 「わー、わー、全年齢対応!」 「正直、あんなに至近で見つめ返されたのは、あたしも初めてだったわ」 「見たこともないような、どえらい美人が、マクロレンズでなきゃ撮れない近さにいるのなんて、俺だって初めてだった」 「ま、というわけで、出会いのシーンを演出してみました」 「いや、ものすごくやばいぞ、ハルヒ」 「去年まで普通に着てたもの着て、何がやばいのよ?」 「確かに物理的にはそうなんだが、今は本来着るはずのないものを着てるってだけで、社会的にというか心理的に、ものすごくイケないことをしてる感じがする。これがコスプレの真の威力か? というか、おまえだって狙って着てるんだろ?」 「まあね」 「だいたい、その体操着、ちょっと小さくなってないか?」 「胸の分だけね」 「そ、育ってるの?」 「そ、育てたんでしょ、あんたが……」 「は、反則だぞ、ハルヒ。今までオラオラ・モードだったくせに、急に顔真っ赤にしてうつむくなんて」 「確かに今、真芯をとらえた感覚があったわ」 「ま、まじに心臓が痛い」 「といいながら、うれしがってるでしょ?」 「さっきまでなら、部分的にイエスだったが……今はピンク色に白濁した脳みそに生理機能が付いて来れない」 「わかりやすく言いなさい。妄想がエロすぎて、心臓が持たないんでしょ?」 「そ、そのとおりだ。こんな企画なら予告してくれ。体操抜きで寒中水泳するようなもんだぞ」 「任せなさい。この夏、ライフセーバーの資格を取ったから、人工呼吸も心臓マッサージもお手の物よ」 「また、そんな、無駄スキルを……」 「わかってるわよ、あんた専用だからね。どんないい男が溺れてても見殺しにするから、妬かないように」 「だから無駄スキルだと……」 「それにしても、体操着だけで、こんなに引っ張るとは思わなかったわ。まだオードブル(前菜)に過ぎないわよ、キョン」 「いや、マジやばいから、一旦『わっふる』を入れてくれ」 「いいけど、『わっふる あけ』したら、もっと飛ばすわよ!!」 わっふる、わっふる、わっふる 「キョン、誘惑を免れる道はただひとつしかないわ。誘惑に負けてしまうことよ。byオスカー・ワイルド」 「格言に見えて、それ自体が誘惑になってる!」 「少しは落ち着いた?」 「こうやって背を向けてれば、なんとかしのげ……るか!? おまえの腕が、もうおれの首の前まで来てる!」 「二人でいるのに、離れてるなんて、おかしいでしょ?」 「いや、人間は『人の間』と書くのであって、時と場合に応じた距離というものが……っておい!」 「なによ?」 「この感触は……なに?」 「わかってるでしょ?」 「わかってるとも。だ、だが背中にのしかかるな」 「別にいいじゃないの」 「普通の状態ならかまわんが……、こりゃいくらなんでも反則だ。おまえ、体操着の下に『着けてない』だろ!」 「さすが、エロキョン。背中に目があるかのごとし」 「目がなくてもわかるわ! この、なんというか、ぷにっとも、ぼよおんっとも、表現がつかない感触が、他の何だって言うんだ!?」 「キョン、鼓動が敵襲を知らせる早鐘のようね」 「くっ……のわあ! 押し付けたまま『の』の字を書くな」 「ふっ、なかなか手強いわね」 「いや、もう籠絡されてる、陥落してるぞ。むきゅう」 「あら。じゃあ、いただきます」 「そんな、カマキリの雌みたいな……って、いきなり剥くな!」 「つまらない。少しは抵抗しなさい!」 「いいのか、ハルヒ?」 「え?」 「自分にとっての体操着のまばゆさに、なかなか気付けなかったが……」 「やっと気付いたのね、ニブキョン」 「ああ。これ以降は、エロキョンでいかせてもらうぞ」 おれは、すでに体操着の上からでも、はっきりとわかるまでに固くなったハルヒの胸の先端をこするように、二本の指で撫でた。むろん二つの胸、両方をだ。 「あ…あん。いきなり、それ?」 「こんなに立たしてたら、当然だろ」 「あんたの背中にこすりつけたら、こうなったの!」 「エロハルヒ。そんなので感じてたら、もたないぞ」 「言ってくれるじゃないの」 「ああ、言ってやる。だけど、もう言うだけじゃない」 おれは再び、指での攻撃を再開した。今度は両乳首を倒すようにふにふにと柔らかく押す。ハルヒはコレに弱いのだ。 「ああ……ああん、こ、こら、キョン!」 それから人差し指と中指の間に挟むようにして、左右リズムを変えて震わせる。 「あんた、さっきから、そこ……ばっかり。……だ、だめ!」 「ハルヒが教えたんだぞ、これ。ほんと、気持ちよくなることにどん欲だよな」 「あ、あ、わ、わるい? ああん!」 「ちっとも悪くない。ハルヒに教えてもらったこと、全部返すからな」 右胸への指の攻撃をつづけたまま、おれはハルヒの左胸に体操着越しにキスをする。そのまま固くした舌で跳ね上げ、こすり上げる。一度口を離し、今度は強く吸い上げてやる。 「服の上からなんて! へ、へんたい! でも、気持ちいいよお」 「そうか。じゃあ、ずっと体操着の上から、してやろうか?」 「フェチキョン。もう限界。脱がせて、ちゃんとして」 「なんだって?」 聞き返しながら、手と舌の責めは休まない。 「はっきり言わないとわからないぞ」 「ああ……ああん。じ、じらす気ね? わかったわよ。言って上げる。あんたの大好きな体操着をはぎ取って、直に舐めて!」 ハルヒ先輩7へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1071.html
さて、静かな時間が進んだのは、翌日の朝までだ。どうやら嵐の前の静けさって奴だったらしい。 日が昇るぐらいの時刻、前線基地の北1キロの辺りを警戒中だった小隊が数十両に上る車両に乗った敵が 南下してきていたのを発見したのだ。ハルヒと一緒にいた俺は小隊を引き連れて迎撃に向かったのだが…… 「おいドク――じゃなくて衛生兵! 負傷者だ来てくれ!」 俺は道の真ん中で鼻血を垂らしている生徒を抱えて叫ぶ。 だが、民家の路地で敵と撃ち合っていた彼には声は届かない。幸い、近くにいた別の生徒が俺の呼びかけに気がつき、 衛生兵の生徒をこっちによこさせる。 どこを撃たれたんだ!と叫ぶ彼に、俺は、 「足だ! それでもつれた拍子に頭から転んだ! 意識もなさそうだ!」 彼はわかったと言い、処置を始めようとするが、なにぶん道のど真ん中だ。そんなことを敵が許してくれるわけがない。 近くの民家の二階からシェルエット野郎がひょっこり姿を現すと、俺たちめがけて乱射を始める。 足下のアスファルトに数発が命中して道路の破片が飛び散り、俺の身体に振りかかった。 「邪魔すんな!」 俺はそいつめがけて撃ち返すと、あっさりと民家の中に引っ込んでしまう。 北山公園じゃ乱射して絶対に隠れたりしなかったくせに、ここに来てチョコマカと動くんじゃねえよ。 何はともあれ今の内に俺たちは負傷者を抱えて道路脇まで運ぶ。しかし、ここでも悠長に治療なんてやっていたら、 そこら中から銃撃を加えられるだろう。何せ、俺たちの周りに立ち並ぶ民家のどこに敵が潜んでいるのかわからないのだ。 とにかく、学校に負傷した生徒を戻すしかない。 俺は無線を持った生徒を呼びつけ、 「おいハルヒ! 負傷者だ! 数人つけてそっちに送り返すから、学校へ運んでくれ!」 『わかった! でも、さっき負傷者を満載したトラックを学校に返したばかりだから、ちょっと時間がかかるわよ!』 身近にいた二人の生徒に負傷者を担ぐように指示し、ハルヒのいる前線基地へ走らせた。 仕方がない。それでもこんなところにおいておく訳にはいかないんだからな。 負傷者を送り出した後、今度は2軒先の民家の塀の上から銃撃を受けるが、国木田が見事な腕前でそいつに弾丸を命中させる。 今じゃ、俺の小隊じゃこいつが最強の位置にいるからな。頼りにしているぞ。 と、国木田が俺の方に振り返り、 「キョン。3人減ったから結構パワーが落ちるよ。どうする?」 ここは前線基地から数百メートル北に位置する、住宅の密集地帯だ。ここを通り抜けられるともう前線基地の目の前に出る。 敵の侵攻を事前に察知した俺たちは、この住宅地帯で防御線を築こうとしていたんだが、 敵の動きが昨日とはまるで違うために苦戦続きだ。突撃バカみたいだったのが嘘のようで、 あっちの路地陰から銃撃を受けたと思えば、民家の屋根から手榴弾を投げつけたりしやがる。 しかも、ちょっと攻撃したらとっとと民家の海の中に消えてしまうのだ。 浴びせられる銃弾の量は昨日よりも遙かに少ないが、これは精神的にかなりきつい。 おまけに民家から民家へ器用にすり抜けていっているらしく、ハルヒのいる前線基地へも攻撃が加えられている。 もはや俺の防御線の意味がなくなりつつあった。 俺は国木田の指摘に、しばらく頭の脳細胞の血流を加速させて、 「どのみち、ここで防御していても犠牲が増えるばかりだな。大体ハルヒの方も攻撃を受けているんじゃ、 ここにいる意味が全くない。防御線を下げてハルヒたちの方に戻るぞ」 「賛成。その方が良いと思うよ」 国木田もいつものマイペース口調で賛成する。 俺の小隊はじりじりと南側――前線基地へ移動させ始めるが、 「敵車両だよ!」 国木田の叫び声とともに、路地から一両の軽トラックが現れる。普段その辺りを走っているようなタイプだが、 後ろの荷台には12.7mm機関銃搭載という凶悪な代物だ。そこにシェルエット野郎が3人乗り、 一人が12.7mm機関銃の火を噴かせ、他の二人はそれを援護するようにAKを撃ちまくる。 「撃ち返せ!」 俺たちは一斉に民家の塀の陰に飛び込み、車両めがけて一斉に射撃を始めた。 12.7mmの銃弾が塀に直撃するたびに、コンクリートの破片が飛び散る。 こいつが人間の肌に直撃したらどうなるのか。怪我なんて言うレベルじゃねえぞ。もはや人体破裂といった方が良い。 もう3度それを目撃する羽目になったが、絶対に慣れることはないと断言する。 しばらく銃撃戦が続くが、一人の生徒が撃ちまくっていた5.56mm機関銃MINIMIが12,7mm機関銃を乱射していた シェルエットマンに直撃。一番の脅威が消滅したと言うことで、俺たちは前に出て残り二人も射殺した。 だが、肝心の軽トラックはとっとと逃げ出した。あれだけ銃弾を撃ち込んでぼろぼろだってのにまだ動けるとは。 さすがは日本製とでも言っておこう。 敵が去ったのを確認すると、俺たちはまた前線基地へ向けて移動を開始した。 ◇◇◇◇ 「キョン! こっちよこっち!」 前線基地前にたどり着くと、ハルヒが手を振っているのが目に入る。しかし、隣接している住宅地帯には すでに敵が潜んでいるらしく、うかつに飛び出せば狙い撃ちされかねない状態だ。 案の定、俺たちの真上に位置する民家の窓から敵が飛び出してきて―― 「やばい!」 てっきりいつものようにAKで銃撃してくるかと思いきや、シェルエット野郎の手にはRPG7が握られていた。 真上からあれを撃ち込まれれば、ひとたまりもない! 俺は無我夢中でM16を撃ちまくる。放った銃弾がどこかに当たったのか、発射寸前に手元が狂い 俺たちとはあさっての方向の民家の壁に直撃した。だが、やはりぶっ放した野郎はとっとと民家の中に引っ込んでしまう。 「キョン! 後ろから敵車両2! 近づいてくるよ!」 国木田の声で振り返ると、また武装軽トラックが背後から接近中だ。もちろん、12.7mm機関銃の銃口が向けられている。 ここからじゃ、狙い撃ちにされる! ――その瞬間、バタバタという轟音とともに、俺たちの頭上に一機のヘリコプターが出現した。 「ようやく来たか!」 俺の歓喜の声と同時に、UH-1からミニガンの攻撃が始まる。まず、俺たちに接近中だった車両2つが吹き飛び、 今度は住宅地帯の屋根に向かって撃ちまくった。俺たちの頭上を飛ぶたびに、ミニガンの薬莢が雨あられと降りかかり、 指先に当たったときは思わず「アチイ!」と叫んでしまう。 しばらく掃射が続いたが、やがてそれも収まり前線基地の上空あたりでホバリングを始める。 と、無線機を持った生徒から無線を渡された。古泉からの連絡らしい。 『やあ、どうも。敵は大体つぶしましたから、今の内に移動してください』 「恩に着るぜ。助かった」 古泉は今小隊の指揮官からはずれて、UH-1のパイロットなんてやっていたりする。何でも本人曰く、 (何の訓練も免許もなくヘリの操縦ができるんですよ? せっかくだから操縦してみたいと思いませんか?) と、いつものさわやか顔でUH-1に乗り込んだ。とはいっても、学校の校庭に置かれていたものは輸送用らしく、 武装が一切ついていなかったので、学校のどこからか持ってきたミニガンを両脇キャビンに装着してあり、 それをヘリに乗った生徒が撃ちまくっている。なんだかんだで器用な野郎だ。 まあ、今の状況を仕組んだ奴から頭の中にねじ込まれた知識だろうが。 しかし、あの学校は4次元ポケットか何かか? 昨日はカレーと米が出てきて長門カレーができたが、今度はミニガンかよ。 「よし、敵の攻撃が収まっている内に戻るぞ」 俺たちは一気に前線基地の建物内までに戻る。そこにハルヒが駆け寄ってきて、 「キョン、向こうの様子はどうだった?」 「ああ、すっかり民家に敵が入りこんじまっているな。あっちこっちで敵が飛び出してくるんで まるでモグラ叩きだ。キリがねぇ」 「こっちもさっきから同じ状態よ。正面の民家から敵が出ては引っ込んでの繰り返し。むっかつくわ! もっと潔く突撃してきなさいよ!」 「俺に言われても困る」 そんなやりとりをしている間に、またガガガガとAKの銃声音が鳴り響き始めた、 だが、てっきり前線基地に向けた銃撃と思いきや、こっちには一発も飛んできていない。 代わりに前線基地上空を旋回していたUH-1があわてたように高度を上げ始める。 どうやら、ヘリが攻撃を受けているようだ。 ハルヒは無線機を通信兵から受け取ると、 「古泉くん! 大丈夫!?」 『ええなんとか。あまり高度は下げない方が良いですね。ちょっと驚きました』 「無理しないで。有希の砲撃が使えない以上、古泉くんのヘリが頼みなんだから」 『わかりました』 言い忘れていたが、現在長門の砲撃は自粛中だ。敵車両部隊の南下を確認した時点で、 それを阻止すべくありったけの砲弾を南下ルートの道路に撃ち込んだんだが、 調子に乗ってやりすぎたため、砲弾の残りが見えつつあるようになってしまったからだ。 こいつに関してはハルヒの指示とはいえ、俺も砲弾が無限にあると勘違いしていたことを反省すべきだろう。 しかし、ミニガンとカレーが出てくるなら、砲弾も一時間ごとに2倍に分裂するとかサービスしてくれりゃいいのに。 と、古泉との通信を終えたハルヒが俺のヘルメットをぽかぽか叩きつつ、 「なにぼさっとしているのよ、キョン! 敵がどっかに隠れているんだから、怪しいものに向かってとにかく撃ちまくるのよ!」 「それをやったから砲弾が尽きかけているんだろうが!」 そんなことをしている間に、前線基地正面の民家の窓からまた影野郎が出現だ。 しかも、狭い窓から3人が身を乗り出し、全員RPG7を構えて一斉発射だ。 「RPG! 隠れて!」 ハルヒの声が飛ぶと同時に、俺たちは物陰に隠れる、一発は前線基地前の道路に、2発はそれぞれ建物の壁に直撃する。 「みんな無事!? 怪我はない!?」 ハルヒの確認の声に、建物内の生徒たちが一斉に返事をする。どうやら、けが人はいないようだ。 俺がほっと無でをなで下ろしていると、またもやハルヒからの鉄拳パンチがヘルメットを揺るがし、 「だーかーらー! ぼさっとしていないでさっき出てきた奴に反撃しなさいよ!」 「さっきの仲間にかける優しさの1割で良いから、俺にもかけてくれよ」 ひどい扱いだぞ、まったく。 とはいっても腐っている場合ではない。第2射を撃とうと、同じ窓から出てきた敵めがけて撃ちまくる。 何とか、一発ぐらい当たったらしくいつものように敵がはじけ飛んで消滅した。主を失ったRPG7は、 そのまま窓から地面に落ちる。 「よくやったわキョン! ナイスショット! 学校に帰ったらみくるちゃんを――違う違う! ビールをおごってあげるわ!」 「未成年者に酒を勧めるなよ!」 こんなやりとりをしていると、つい俺の頬がゆるんでしまうのがわかる。 なんだかんだでハルヒの威勢の良い声が今はとても気持ちよく感じているからだ。 「また来た!」 今度は路地から2人の敵がそこら中に向けてAKを乱射し始める。それに対して、ハルヒは持っていたM14を構え、 2発発射。当然のようにシェルエット野郎2人に命中して飛散させる。大した奴だ。 「このくらいできないと指揮官は務まらないわ! 当然よ当然!」 得意げに笑うハルヒ。昨日ほど落ち込んではいないようだな。 ちなみに、ハルヒが持っているのは他の生徒が持っているM16A2ではなく、 どこからか引っ張り出してきたM14――しかも狙撃用にカスタマイズされたものだとか。 昨日北山公園に行ったときはM16A2だったが、途中でMINIMIに持ち替えて乱射していたらしい。 ところがこれがさっぱり敵に命中しないものだから、今では一発一発確実に命中させる方に転向している。 「下手な鉄砲も数撃ては当たる!なんて言うけどさ、あれって絶対に嘘よね。 昨日、あれだけ撃ちまくっても全然命中しなかったし。きっと弾を売っている商人が流したデマよ。 そういう連中にとってはいっぱい撃ってくれた方がどんどん売れて大もうけって寸法よ、きっと!」 根本的にお前の使い方が間違っているんだよ。とまあ指摘してやりたかったが、胸の内にしまう。 何でかというと、今度は前線基地前の民家の屋根上に10人くらいの敵が出現して、 こっちに銃撃を始めやがったからだ。 こっちも負けずに一斉射撃で反撃を開始するが、上からと下からでは差があるのは当然だ。 敵を一人やるまでにこっちは二人は負傷するという不利な状態だ。 「だったら、さらに上から撃てばいいのよ! 古泉くん! やっちゃってちょうだい!」 『了解しました』 ハルヒ指令の指示通り、古泉ヘリのミニガン掃射が始まる。もう敵どころか民家の屋根ごと吹き飛ばしている威力を見ると、 頼もしいような恐ろしいような。 「敵車両がまた来たよ、キョン! 三両も!」 「しつけぇな!」 東側を見ていた国木田から声の声に、俺は思わず出る愚痴を吐き捨てながら敵の迎撃に向かう。 先頭に一両で背後に2両が併走していた。当然どれも12.7mm機関銃付きだ。 とにかく、先頭の車両の連中をつぶそうと銃を構えるが、突然、背後の車両に乗っていた数人が RPG7を手に立ち上がった。前の車両はおとりかよ! やられた! だが、向こうが発射する前に敵の先頭車両が吹っ飛ぶ。さらに、後続の一両も同じように爆発で破壊され、 残った一両だけはRPG7を発射することなく、路地に逃げ込んでいった。 「へへん、やったわ! 作戦通りね!」 ハルヒは笑顔を浮かべながら、周りの生徒たちに向けて親指を立てる。 どうやらこっちも迎撃のために携行型のロケット弾あたりをあらかじめ用意していたらしい。 放たれたのは俺たちの隣の建物らしいので、具体的はわからないが。 やがて、さっき逃げ出した最後の一両も古泉ヘリがとどめを刺す。この時点で敵からの攻撃は完全に収まっていた。 「……収まったのか?」 「さあ、どうかな……?」 さっきから出ては引っ込んでの繰り返しだからな、俺とハルヒもすっかり疑心暗鬼になっちまっている。 そのまま、1時間が過ぎたが結局なにも起きず。その間、神経張りつめっぱなしで銃を構えていたもんだから、 いい加減疲れたのかハルヒが座り込んで、 「ちょっと一休みするわ。あ、キョンはそのまま見張ってなさい」 鬼軍曹かお前は。そのうち、後ろから撃たれるぞ。 「あとで交代してあげるから。もうちょっとがんばりなさい。SOS団の一員でしょ」 「……SOS団であるかどうかは全く関係ないんだが」 結局、しぶしぶと俺は前方の民家に向けて警戒を続ける。しかし、敵は何でいきなり攻撃をやめたんだ? このまま、延々と攻撃を続ければ俺たちもどんどん消耗していくだけなんだが。 「バッカバカバカね。こんなのゲリラ戦の基本じゃん。いつ攻撃を受けるかわからないあたしたちは こうやってぴりぴりしていなきゃならないけど、向こうは数人こっちを見張っているだけで、 他はのんびり休息中ってわけよ。きっとホーチミンもそう教えていたに違いないわ」 わかるようなわからんような……そもそも常識はずれな連中だから、休息も必要ないだろうしな。 『涼宮さん、僕の方はどうしましょうか?』 無線で語りかけてきたのは古泉だ。そういや、さっきから延々と前線基地上空を飛んだままだったな。 ハルヒはしばらく考えてから、 「とりあえず、学校に戻って。ただし、すぐに飛べるようにしておいてね」 『了解しました』 そう言ってUH-1が学校に帰還する。一瞬、帰ったとたんに攻撃されるんじゃないかと緊張が走ったが、 敵は動こうとはしなかった。 ◇◇◇◇ それから数時間状況は動かず、俺たちは神経を張りつめながらひたすら警戒するだけの時間が続いた。 もう正午をすぎようとしている。そういや、このあり得ない世界に放り込まれてからようやく1日半か。 一年ぐらいいるようなくらいの疲労感だが。 この一応平穏な時間の間に、前線基地の南側に北高からトラック輸送部隊が来て弾薬やら食料を置いていった。 死者や負傷者と入れ替える予備兵も到着する。 ハルヒはせっせと指示を出していたが、戦死した生徒や重傷者を乗せて帰って行くトラックを見送ると、 おもむろにメモを取り出してなにやら書き込み始めた。 「……なにやってんだ?」 「…………」 俺の問いかけにも反応せずハルヒは一目散にボールペンを走らせ続ける。それも普段にないような真剣な目つきでだ。 ちらっとのぞいた限りでは名前が延々と列挙されていた。これってまさか…… 「……ふう」 ハルヒは全部書き終えたのか、パタムとメモ帳を閉じた。 そこでようやくハルヒをのぞき込むように見ていた俺に気がついたのか、 「なっなによ! なんか用!?」 あからさまにびびったような声で抗議する。気がついたら俺とハルヒの顔の距離が30センチ未満だった。 俺もあわてて、ハルヒとの距離を取ると、 「いや……なにやってんだと聞いていたんだが」 さっきと同じことを聞く。するとハルヒはメモ帳をぴらぴらさせながら、 「死亡した生徒と負傷した生徒の名前を書いていたのよ。指揮官たるものそう言うのは逐一把握しておくもんでしょ? って、なによその意外そうな目つきは!」 「何にも言ってねえだろうが」 変な疑いをかけるなよ。俺はただ単にハルヒがしっかりしているんだなと感心しただけであってだな―― と、ハルヒは俺の抗議を無視して目をそらすと、 「でも、そんな精神論だけの話じゃないわ。昨日と併せて、死者はすでに70人を越えているし、 負傷者も50人に達したのよ。しかも、ほとんど戦えるような状態じゃない生徒ばかり。 やっと1日半だけど、すでに生徒の半数近くが戦闘不能になっているじゃ、この先どうすればいいのか……」 そうあからさまに不安げな表情を浮かべた。ハルヒの言うとおり、確かに人員不足は否めない。 前線基地には常に50~80人は詰めているので、相対的に北高の守備隊や長門の砲撃隊、 さらに朝比奈さんの輸送や医療のチームがどんどん削減されている状態だ。 後方支援を削って前線を守っているんだからほとんど共食いに等しい。 大体、敵とこっちじゃ条件があまりにも偏りすぎているってんだ。相手は戦車や爆撃機を使ってこないとはいえ、 シェルエット野郎は無限に出現してくるし、武装トラックもどこからともなく現れやがる。 あまりにフェアじゃねえ。一方的すぎる。もてあそばれている気分だ。 だがハルヒは首を振りながら、 「敵があたしたちの要望なんて聞いてくれる訳がないじゃない。あたしがうまくやっていないだけの話よ。 もっときちんとみんなを守っていれば……」 そう肩を落とすハルヒ。俺は何とか励ます言葉を考えるが、どうしてもいい励ましが思いつかない。 こんな俺に果てしなく憂鬱だ。 「あーやめやめ! お腹がすいているからこんな暗いことばっかり考えるんだわ。ご飯食べてくる!」 ハルヒは2・3回頭を振ってから、先ほど届いたばかりの缶詰の山をあさりだした。 まあ、確かに腹が減ってはなんとやらだしな。俺も食うか。 と、このタイミングで古泉からの連絡だ。 「何の用だ?」 『やあどうも。そちらはどうですか?』 「今飯を食おうとして、寸止めを食らったせいで大変不機嫌な気分だ」 古泉は無線機越しに苦笑しながら、 『それは失礼しました。なら後にしましょうか?』 俺はちらりと缶詰にがっつくハルヒを確認してから、 「いや、せっかくだから今の内に話せることは話しておこうか。またいつ敵が襲ってくるかわからんしな」 俺は飯を食うのはあきらめてハルヒの見えない位置に移動する。 「とりあえず、散々お前の援護には助けられたからな、礼を言っておくぞ」 『これはどうも。あなたから感謝の言葉をいただけるとは光栄ですね。今までの奉仕が実ったというものです』 気色悪い表現を使うな。 『しかし、ミニガンの威力はすごいですね。辺り一面を吹き飛ばす威力にはやっているこっちがぞっとしますよ。 しかし、実際に撃っている人は気分爽快らしく、フゥハハハーハァーとか笑いながらやっていますが』 「……その勢いで俺たちまで撃たないように注意しておいてくれ」 そんな笑い方をされると動くものすべてに撃ちまくるようになっちまいそうだ。 古泉は俺の言葉をジョークと受け取ったのか、苦笑しながら、 『それはさておき、そちらの状況はどうですか?』 「めっきり敵の攻撃が収まっているな。ただ大方その辺りの民家には敵が潜んでいそうだ。 こっちから仕掛けたりしたら返り討ちに遭うだろうよ。癪だが、今はここで粘るしかない」 『賢明な判断だと思います。今は現状維持に努めた方が良いでしょう。何せ敵はこっちが消耗するのを狙っているようですから』 ――ハルヒが缶詰を生徒たちに配っているのが目に入る―― 「学校の方はどうなんだ? いつ攻撃を仕掛けられてもおかしくない状況だが」 『北高への攻撃はまだないと思いますよ。少なくともあなたたち――涼宮さんが学校への籠城を指示するまではですが』 「そうか? 俺たちの消耗を狙うなら、学校を攻撃して武器弾薬を使えなくした方が効果があると思うんだが」 『お忘れですか? これを仕組んだ者は涼宮さんにできるだけの苦痛を与えることです。 通常の軍事作戦なら当然学校制圧を目指すでしょう。しかし、今学校を制圧されれば僕たちは降伏する以外の道はありません。 それでは意味がないんです。涼宮さんをほどほどに絶望させつつも、世界を改変するまでには絶望させない。 じりじりと追いつめていっているんです』 「……俺たちをこんなところに放り込んだ奴は相当陰険な野郎って事だな」 俺はいらつくながら頭をかく。 『全く同感です。しかし、学校制圧は当然この後のイベントとして考えているでしょうね。 ただ、今は前線基地で涼宮さんの精神の消耗に務めるはずです』 「イベントなんて言葉使うなよ。まるでこの戦争がただの催しみたいに聞こえるじゃねえか」 『戦争? あなたはこれが戦争だと思っているんですか?』 俺は珍しく語気を詰め読める古泉に少し驚いた。そのまま続ける。 『これは戦争なんて言える代物ではありません。戦争にはそれなりの理由があります。 民族とか資源とか国益とか、ある時は意地やプライドなどもあります。 しかし、それを実行するには大変な労力が必要な上、多くの人々の支持が必要です。 でも、今我々がいる世界はどれも当てはまりません。戦う理由もないというのに、 無理矢理知識とやる気を頭の中にねじ込まれ戦わされている。さらにその目的が一人の少女に精神的苦痛を与えるためだけ。 こんなものは戦争なんて呼べません。頭のおかしい者が仕組んだゲームにすぎないと思っています。 だからこそ、僕は腹立たしい。こんなばかげたゲームのためにこれだけ多くの人命を費やしているんですから。 成り行きで転校してきたとはいえ、9組にはそれなりに親しい人もいました。 ですが、その大半がすでに戦死しているんです。堪えるなんて言うものではありません』 口調だけ聞いても古泉のテンションがあがっていることがはっきりとわかった。あの全く表情を変えない古泉が。 一体、無線の向こう側ではどんな顔をしているんだろう。ふと、そんな考えが頭を過ぎる。 しばらく、古泉は黙りこくってしまうが、やがて大きくため息をつき、 『……すみません。こんな事を言うつもりではありませんでした。僕自身も相当追いつめられているようですね。 それが敵の狙いだというのに』 「構わねえよ。むしろ本音が聞けてほっとしているくらいだ。言葉は違ったが俺もお前と同じ考えさ」 古泉がこれだけ感情をあらわにするなんてことは今までに一度もなかった。 古泉の言うとおり、敵の狙いはそこにあるのだろう。だからこそ、たまにはガス抜きも必要だ。 俺は話題を変えて、 「で、長門からは何か進展があったとかいう話はないのか?」 『長門さんは喜緑さんとずっと学校の教室でこもりっきりです。僕らには想像を絶するような作業を行っているのかと』 そうか。長門はまだ突破口を見つけられていない。ならしばらくはこれが続くと見て良いだろう。 「そろそろ戻るぞ。あまり長話をしているとハルヒにどやされるからな」 『わかりました。では涼宮さんをよろしくお願いします。彼女も相当堪えているはずですから』 そう言い残して無線を閉じた。 ◇◇◇◇ 「何やってたのよ。せっかくのご飯がなくなっちゃうわよ」 まだがつがつ缶詰の肉を食いあさっているハルヒ。なんつー食欲だ。どんな胃袋しているんだ? 「食べられるときに食べておかないとね。ほらキョンも食べなさい。食欲がないなんて許さないわよ。 無理にでもカロリーを蓄えておかないと後が厳しくなるんだからね」 ハルヒから放り投げられた缶詰を受け取ると、俺もそれを食い始めた。 冷たくて大した味もしないのにやたらと旨く感じる。 ハルヒは細目で俺の方をにらみつけ、 「で、誰と連絡していたのよ。有希? みくるちゃん?」 「古泉だよ。というか何であいつを選択肢からはずすんだ」 「へー古泉くんとね……へーえー」 なんだその疑惑の目つきは。言っておくが俺から連絡した訳じゃない。それに俺はれっきとしたノーマルだぞ。 朝比奈さんを見てほんわか気分になれるほどにな。 「はいはい、わかったわよ。早く食べちゃいなさい」 しかめっ面なハルヒだが、そんな事で言われるとお袋を思い出すからやめてくれ。 で、そのまましばらくむしゃむしゃと食べていた俺たちだが、ふとハルヒが手を止める。 「ん……どうした?」 俺の問いかけにも答えずにハルヒはじっと怖い目つきで―― 次の瞬間、横に置いてあったM14をつかむと、前線基地前方の民家に向かって構える。 俺もあわててそれに続いてM16を取ったときにはすでにハルヒは発砲していた。 ようやく銃を構え終えたときには、シェルエット野郎がはじけ、手にしていたRPG7が地面に落ちる光景だった。 何で気がついたんだ? 「野生のカンってヤツよ! でも違うわ! あれじゃない! あと、古泉くんにヘリで援護してもらうように言って!」 訳のわからんことをわめくハルヒ。だが、同時に前方の民家の窓という窓から敵が飛び出して、 AKの乱射をはじめた。戦闘再開だ! まったく! 俺はひたすら窓めがけて撃ちまくったが、ハルヒはじっと構えたまま発砲しない。一体何を待っているんだ? と思ったら、民家の木製の壁を突き破って一台の武装トラックが出現した。さらにハルヒが待ってましたと M14で狙撃するが…… 「ミスっちゃった!」 素っ頓狂な声を上げる。ハルヒの放った銃弾は、フロントガラスをぶち破り武装トラックに乗っていた運転手と 荷台に載っていたAKをもったシェルエット野郎一人をつぶしたが、肝心の12.7mm機関銃の射手は撃ち漏らしたからだ。 壁からド派手に登場したトラックは今までとちょっと違った。器用にトラックの荷台の両脇に 鉄板のようなものが張り巡らせサイドからの銃撃を受けないようにされていた。 前後から攻撃するしかないが、後ろは論外、なら前面ならってそりゃ12,7mmの銃口を向けられているって事だろうが! ハルヒのミスったっていうのは、12.7mm射手を一番最初に仕留められなかったことを言っているのだろう。 ものすごい勢いで乱射され、こっちは建物の陰に隠れて身動きすらとれねえ。 こんなんじゃ、そのうち誰かに当たるぞ……と思った瞬間、移動しようとしていた生徒の脇腹を直撃――いや貫通した。 肉がさけるいやな音とともに、生徒の背後に血しぶきがぶちまけられる。くそ、この調子じゃ古泉が来る前に死者多数だ。 ハルヒは必死に地面にはいつくばりながら、撃たれた生徒に近づき、 「暴れないで! 傷口が広がるからじっとしてなさい! 衛生兵! 早く来て!」 何が起きたのかわからない状態になっている負傷した生徒を必死になだめる。 ちくしょう、このままじゃただ的にされるだけじゃねえか! ハルヒはやっていた衛生兵に負傷者を任せると俺の元に戻ってきて、 「このままじゃらちがあかないわ! とにかく、向こうの弾に当たらないように、牽制するの! あの車両のヤツの弾切れが狙い時だわ! あたしがきっちりと仕留めるから援護して!」 「わかった! てか、さっき使ったロケット弾みたいな奴はないのかよ! あれで吹っ飛ばした方が早いだろ! ないのか!?」 「さっきので打ち止めよ! みくるちゃんたちに探させているけどまだ見つからないって!」 「肝心なときに役にたたねえ4次元ポケット学校だな。わかった援護する!」 俺はハルヒとの意識あわせを終えると、近くにいた国木田を呼びつけ、 「あの野郎が弾切れを起こさせるように、牽制するぞ! 援護してくれ!」 「了解! 任せて!」 俺と国木田は交互に物陰から出ては、武装トラックに向けて発砲した。最初は狙い撃ってやろうかと思ったが、 目があったとたんに射殺されるシーンが脳裏に過ぎったので、とにかく何でも良いから乱射しまくった。 数分間この撃ち合いが続いたが、ようやく向こうが弾切れだ。給弾をはじめようとしたタイミングで、 ハルヒが身を乗り出して狙撃しようとしたが―― 「うへっ!?」 ハルヒの素っ頓狂な声が上がる。俺もあげた。当然だ。突然あり得ない動きで荷台左側の鉄板がぐるっと回って、 12.7mmの射手を覆い隠したからだ。おいレフリー! 今のはどう見ても反則だろ! 「あたしが出て仕留める!」 俺が考えるよりも早くハルヒがM14を片手に飛び出した。おいバカやめろハルヒ!と口に出す暇もない。 ハルヒは鉄板がなくなった左側から回り込み、数発発射して12.7mmの射手を仕留めた。 早く戻ってこい――げ! 「ハルヒ! 東側からRPGだ! 伏せろ!」 いつのまにやら発射されていたRPGがハルヒめがけて飛んできた。ハルヒは飛び込むように地面に伏せる。 その瞬間、ハルヒのすぐ手前の地面にRPGが直撃。衝撃でハルヒの身体が俺たちの方に転がってきた。 俺は全身から血の気が引く音をはっきりと聞いてしまう。 「ハルヒっ!」 もう頭よりも身体が先に動いた、銃弾が飛び交っているのにも構わず、俺は路上に飛び出して 倒れて動かないハルヒを物陰に引きずり込もうとする。だが、敵もそれを阻止すべく、路地の陰、民家の屋根や窓から 俺たちに向け銃撃を開始する。しかし、ようやく到着した古泉のUH-1がミニガンの掃射を開始し、 何とか被弾せずにハルヒを物陰に引きずり込んだ。 「おおい! ハルヒ! しっかりしろよ! 目を開けろ!」 俺は自分でもわかるほどに泣き出しそうな声でハルヒに呼びかける。すると、ハルヒは突然ぱっちりと目を開けて、 「あーびっくりした!」 驚きの声を上げた。俺は安堵のあまり全身の力が抜け、 「よかった……無事なんだな。心配させやがって!」 「なに!? さっきから頭の中で除夜の鐘がぐわんぐわん鳴り響いて全然聞こえないんだけど! もっとはっきり大声で言いなさいよ! 聞こえないじゃない!」 至近距離で爆音を浴びたせいだろうか、どうやら耳がおかしくなっているらしい。 俺はまた銃を握ると、 「そんだけ元気があれば十分だって言ったんだよ!」 「やっと聞こえてきた――ってあったりまえでしょ!」 怒鳴り返すハルヒを見る限り、全然無事だなこりゃ。 俺たちは国木田のいた位置まで戻り、また敵に向けて応戦を再開した。しかし、俺たちのちまちました援護なんかより、 古泉のミニガンの方が手っ取り早い。あっという間に民家を破壊しつくして敵を黙らせる。 「よっし、何とか押さえられそうね! 古泉くん様々だわ! これが終わったらSOS団団長代理にまで昇格させようっと」 こんな時までSOS団のことを考えてられるとは大した精神力だ。いや、ひょっとしたら今のハルヒにとって この非常識世界で唯一現実とつなぎあわせを求めているのがSOS団なのかもしれないが。 だが、そんな俺たちの安心感も、前線基地とされるサンハイツの最西端の建物が吹っ飛ばされたと同時に消滅する。 かつてない大爆発で、大地震が起こったんじゃないかと思うほどに地面と建物を揺るがした。 「な、なによなになに!?」 驚きのあまり路上に飛び出しそうになるハルヒを俺が止める。しかし、何だってんだ今の爆発は! 今までの比じゃねえぞ! 古泉のUH-1が状況を確認しに西側に移動する。しばらくして無線連絡が入り、 『まずいですね。原因はわかりませんが西側が木っ端みじんです。かなりの負傷者も出ています。早く救出を』 手短に古泉からの報告を終える。俺はハルヒの元に駆け寄り、 「ハルヒ。とりあえず、俺が西側に行って防御に入る。何人か借りていくぞ、いいな?」 「…………」 ハルヒはしばらく口をへの字にしたまま黙って俺をにらみつけていたが、やがてそっぽを向いて、 「……わ、わかったわよ。でも無理はしないでよ! いいわね!」 ハルヒの許可が下りたので、周辺にいた生徒9名+国木田を集める。 「よし、今から西側に移動するぞ。前線基地の裏側を通ってな」 「了解」 国木田と他生徒の同意の下、俺たちは西側へ移動を開始した。 ◇◇◇◇ 『気をつけてください。北側に広がる空き地には敵が多数潜んでいるようです』 「よし、すまんが空き地の敵を掃討してくれ。それが終わり次第、負傷者の救出に入る」 『わかりました。任せてください』 俺たちは今前線基地の西側にいる。ただし、正面――北側には敵方数潜んでいるので、 前線基地の裏である南側で待機中だ。 最西端の建物は木っ端みじんといっても良いほどに崩れていた。辺りにはここを守っていた生徒の破片――そうだ、 人間の破片ががれきに混じって散らばっている。あまりの凄惨さに吐き気を催しそうになった。 ドルルルルルと耳につく発射音なのか回転音なのかわからない騒音が辺りに響きはじめる。 古泉のミニガンが炸裂をはじめたようだ。 「よし、俺たちも表側に出るぞ」 俺の合図とともに、粉砕されたがれきを乗り越えつつ建物の残骸に身を潜める。 ハルヒのいた前線基地の中間付近とは違い、西側の正面には民家はなく空き地が広がっている。 起伏がそこそこあるために、その陰に敵が潜んでいるようだが、現在古泉がそれを掃討中だ。 起伏に隠れても真上からではいくら隠れても無駄だからな。 俺が残骸の陰から外をのぞこうとしたとき――目に入ったのは、空き地と民家の壁にぴたりと隠れるようにいた 武装トラックだ! しかも、こっちが来るのを待ちかまえていたように12.7mm機関銃を向けていやがる! とっさに頭を引いたとたん、ドドドと12.7mmの乱射が始まった。民家の残骸をさらに細かく粉砕していく。 さらに間髪入れずにRPG7が発射され、残っていた壁の一部が吹っ飛ばされた。 幸いそこには味方の生徒はいなかったが。 「手榴弾だ! 国木田頼む!」 「任せて!」 国木田が思いっきり腕を振って武装トラックに手榴弾を投げつけ、俺もそれに合わせる。 距離が遠いため武装トラックまでは届かなかったが、近距離での爆発にとまどったのか、 一瞬12.7mmの銃口があさっての方に向いた。 「撃て撃て!」 俺の指示で、一斉射撃による反撃開始だ。M16やら5.56mm機関銃MINIMIが一斉に火を噴き、 武装トラックを穴だらけにする。しかし、肝心の12.7mmの射手には当たらずまた銃口がこっちに向けられようとした瞬間、 トラックごと粉砕された。古泉ヘリのミニガンが炸裂したのだ。 『すみません。死角になっていたので気がつきませんでした』 「頼むぜ。お前だけが頼りなんだからな」 古泉に無線で釘を刺すと、俺たちはそこら中に転がっている負傷者の救助を始めた。 しかし、あれだけミニガンで掃射したってのに、まだ空き地からちょろちょろと銃撃してくる奴がいやがるおかげで、 容易には行かない。 「国木田! あとそこの4人! 物陰に隠れながら、俺たちを援護しろ! 敵が見えたら遠慮なく撃ち返せ! 他は負傷者を救助するんだ!」 俺たち救助チームは路上にかけだして、負傷者の回収を開始する。しかし、人間としての原型をとどめている方が 少ない状態だ。しかし、それでも虫の息ながらまだ生存している生徒も何人かいた。 俺はそいつらを担ぎ上げて、民家の残骸の陰に引き込む。 そんな調子で息のある生徒を5人ほど救出できた――いや、まだ戦場のど真ん中だから救出という表現はおかしいか。 古泉ヘリがまたミニガンで掃射を開始した。見ると、空き地の向こう側から数十人の敵が接近しつつある。 それを迎え撃っているようだが…… 「キョンあれ見て!」 国木田が俺の肩を叩き、近くの民家の屋根の上を指さす。そこには3人のシェルエット野郎が UH-1に向けてRPGを構えるとしていた。あれでヘリを攻撃する気か!? しかも古泉のヘリはそいつらにちょうど背を向けるような状態になっていて気がついてねえ! 俺は奴らに向けて銃撃を加えるように指示する一方、古泉に無線をつなぐ。 「おい古泉! 東側の民家の上でお前を狙っている奴がいるぞ!」 『む。それはまずいですね……』 こっちから必死に撃ちまくって阻止しようとするものの、距離が遠いために当たりそうにもない。 もう弾頭を空に向けて今にも発射しそうだ。どうする? 古泉に逃げろと言うか? いや、もう間に合わない…… 「古泉! そこから90度左に旋回してミニガンで吹っ飛ばせ!」 『……そうしましょうか!』 古泉はくるっと機体を90度旋回させる。ちょうどミニガンの目の前に敵があわれる形になり、 一気に掃射を開始する。即座にシェルエット野郎3人を吹っ飛ばしたが、時すでに遅し。 三発のRPGが古泉ヘリに向かって発射された――が、奇跡的にといっても良いだろう。 かろうじて機体を外れてどこかに飛んでいった。 「ぎりぎりかよ……あれを連発されるとまずいんじゃないか?」 『ええ、これでは掃射を行うにも高度をあげる必要がありますね。当然、命中率も下がるので、 無駄弾が増えそうですよ』 古泉はそう言い終えると、UH-1の高度をぐっと上げていった。それで勢いづいたのか、 敵がまた空き地にどんどん入り込んで来やがった。 しばらく、空き地側の敵と俺たちで銃撃戦が続いたが、突然背後でまた大爆発の轟音が鳴り響く。 って、何で背後から聞こえてるんだ!? まさか、また北高へのロケット弾とかでの直接攻撃か!? 俺は無線で学校に連絡を取ろうとするが、向こうはパニックに出もなっているのか、誰も応答しようとしない。 迫る敵に反撃しつつ必死に呼びかけを続けたが、やがて無線機から聞き覚えのある声が流れてきた。 『聞こえる?』 「長門か!? 何かあったのか!?」 『……学校と前線基地をつないでいた橋が爆破された。現在、そっちとは断絶状態』 俺は長門からの報告に絶句する。北高と前線基地の間には一本の小さな川が流れている。 歩いてわたるにはどうって事ないものだが、荷物を持って移動するには一苦労するだろうし、 溝のような構造になっているため、トラックでわたるのは不可能だ。それを唯一つないでいた橋が爆破された。つまり―― 『こちらから物資などの補給を送るのはほぼ無理になった。このままではそちらの弾薬が尽きるのを待つだけ』 「…………」 途方に暮れてしまう。他にルートはないのか? 光陽園学院前に川を渡る橋はあるが、 敵もわざわざ橋を爆破したぐらいだ。そっちからも通れないように何らかの手を打っているだろう。 どうすりゃいい? どうすりゃ―― 『何とかしたい』 そう言い放ったのは長門だ。いつもなら、頼もしい言葉に聞こえるが今の状況じゃ…… 『何とかする。約束する』 長門はそれだけ言い残すと無線を終了させた。ちっ、何だかわからんが、今は長門に期待するしかないのか!? また空き地側からの銃撃が活発になる。俺も反撃に加わって近づく敵を片っ端から銃撃した。 だが、無駄弾は撃てない。何しろ今手持ちの弾がなくなれば、もう何もできなくなってしまうからだ。 敵が増えてきたタイミングで、古泉ヘリからの掃射が始まる。空から学校に戻れるUH-1ならいくら撃っても 補給に戻れるからな。ガンガン撃ち込んでくれ! 古泉ヘリの掃射の間、俺は周りの生徒に発砲を控えるように指示する。とにかく節約だ。 さっきまで遠慮なく撃ちまくっていたのが懐かしいぜ。 この間に国木田が近づいてきて、 「キョン。このままだといずれはやられるのが保証済みだよ」 「わかっているが……だからとって負傷者を見捨てるわけにもいかねえだろ」 俺はちらりと振り返ると、あの大爆発で虫の息にされた生徒たちの方を見る。 呼吸を続けているところを見るとまだまだ生きながらえるはずだ。何としても助けてやりたい。 だがどうする? どうすればいい? 「とにかく徹底抗戦。後は何かが起きるのを待つ。それで良いんじゃない?」 いつものマイペース口調で国木田が言う。全くのんきな奴だ。だが、それしかないか。 ◇◇◇◇ 最西端の防御に入ってから1時間。俺たちはえんえんと北側の空き地から接近してくる敵を撃ち続けた。 その間、何も起きていない。長門からの連絡もない。たまに古泉ヘリが掃射で支援してくれるだけだ。 この間に生徒二人が射殺されていた。残りは9人。だんだん厳しくなりつつある。 「くそ、いつまでこれを続けてりゃいいだよ……」 「指揮官が弱音を吐くと周りに伝染するよ」 国木田はこんな状況でも自分のペースを崩さずに敵めがけて撃ち続けている。 だが、時間が過ぎたことによって一つの問題も発生していた。 『ちょっと悪い知らせです』 古泉から深刻な報告が来やがった。大体想像はつくが。 『ミニガンの残弾が10%を切りました。もう少ししたら学校に補給に戻らなければなりません』 今の状態では古泉の支援がなくなると言うことは、しゃれにならん。 俺は周りの生徒たちに残弾の報告をさせると、マガジン一つ分だけとか、今装填している分だけなんて返ってきているほどだ。 ヘリが去ったとたんに敵は一斉攻撃を仕掛けてくるだろうし、俺たちにそれを迎撃するだけの弾もない。 しかし、このまま上空を飛ばしているだけでは全く意味がないのだ。 『選択肢は二つあります。このまま支援を続けて、なくなり次第学校に補給に戻る。 これはタイミング次第では最悪な展開になるかもしれません。 逆に今の内に敵を徹底的にたたいてから補給に行き、すぐにこっちに戻るという方法もありますが……』 「補給に戻ったとして、何分で俺たちの支援に復帰できる?」 俺の問いかけに、古泉はしばし思案して、 『20分……いや、15分で戻ってみせます』 15分か。なら耐えられるかもしれないな。その後は、またそのときに考えればいい。 「よし、古泉。今あるだけの弾を敵にぶち込んでくれ。終わり次第、即刻補給して戻ってこい。 その間は何とか耐えてみせるさ」 『わかりました。健闘を祈ります』 古泉のUH-1が高度をやや下げ一気にミニガン掃射を開始する。俺たちは近づいてくる敵以外には 発砲を控え終わるのをじっと待った。 やがてミニガンを撃ち尽くした古泉ヘリは、学校側へ方向転換し、 『終わりです。すぐ戻りますので、その間はお願いします』 そう言い残して学校に戻った。俺は生徒全員を見回し、 「よし、古泉が戻るまで何としてでもここを守りきるぞ! 残弾には気をつけろよ!」 檄を飛ばしてまた――その瞬間、俺の右手にいた二人の生徒が崩れ落ちる。射殺されたのだ。 ヘリがいなくなったとたんに二人!? しかも、衛生兵と通信兵だ。よりによって……! 同時にこちら側に浴びせられる銃弾の量が突然増大した。民家の残骸の陰から空き地の様子をうかがうと、 まるでさっきのヘリからの掃射がなかったかのようにシェルエット野郎がこちらに向けて移動してきていた。 一番近い敵はすでに前線基地建物前の路上のすぐそばまで来ている。もうここから10メートルもない距離だ。 いつの間にここまで来やがったんだ!? 俺は必死に敵を追い払おうと撃ちまくったが、すぐに弾切れを起こしてしまう。 あわてて懐から新しいマガジンを取り出し銃に装填する――これが俺の最後の命綱だ。 かなり至近距離での撃ち合いになったおかげで、こっちは物陰から敵の様子をうかがうことすら 難しくなってきた。 ふっと、俺の目線に中を浮く黒い物体が目に入る。柄のついたそれは、俺から少し離れた残骸の陰で 敵と撃ち合っていた4人の生徒たちの足下に落ちた――手榴弾だ! バァンと破裂音が響き、彼らが吹っ飛ぶ。ぼろぞうきんのようにされた彼らは力なくよろけ、地面に倒れ込んだ。 俺は唖然として腕時計で時刻を確認する。まだ古泉が補給に戻ってきてから1分半しか立っていない。 そのわずかな時間で6人がやられた。残りは俺と国木田と後一人――残りの生徒も今銃弾が頭に命中してやられちまった。 ついに俺と国木田の二人だけだ。 国木田はすぐに手榴弾で倒れた生徒たちを救助しようと――と思ったら、息も絶え絶えの彼らを放って、 マガジンやら銃を回収し始めた。俺は反発心と納得が両方とも頭に埋まり、複雑な気分になる。 「ひどいことをしているように見えるかもしれないけど、今は生き残る方が重要だよ。 そのためには使えるものは徹底的に使わないとね」 いつもより少し真剣なまなざしを向ける国木田。そうだな、今俺たちが死んだら、負傷者生徒たちも死ぬことになるんだ。 善意だとか道徳心だとかは乗り切った後で考えればいい。 俺は国木田からマガジンを受け取り銃撃戦を続行する。国木田の的確な射撃のおかげか、 敵が路上を越えることだけは阻止続けた。 ふと、もう1時間は過ぎたんじゃないかと腕時計で時刻を確認すると、まだ古泉が戻ってから8分しか経っていない。 こんな時ばっかり時間が遅くなりやがって! 国木田がマガジンを交換しつつ叫ぶ。 「キョン! これで最後だよ!」 これが国木田の最期の言葉だった。ガガガガとAKが炸裂する音が響いたとたん国木田の身体が崩れ落ちる。 弾丸が顔面に命中したのだ。 「国木田っ!くそっ!」 俺は声をかけるものの、額を撃ち抜かれた国木田はぴくりとも動かない。完全に即死状態だった。 路上を越えようとしていたシェルエット野郎2人を撃ち殺し、すでに息絶えている通信兵から無線を取り出す。 「……ハルヒ聞こえるか?」 『どうしたの!? 何かあった!?』 ――また接近してきた敵を撃ち殺し―― 「国木田がやられた。もう残っているのは俺一人だ」 『……うそ』 唖然とした声を上げるハルヒ。 「何とかできるところまでは粘るつもりだ。もうすぐ古泉が戻ってくるだろうしな。それまではなんとか――」 『キョン!』 せっぱ詰まった声を上げるハルヒ。 『いい!? これは絶対命令よ。拒否なんて許さない。今すぐに川を渡って学校に戻りなさい。 そこをこれ以上守る必要なんてないわ。あの川なら徒歩でも何とか越えられる! だから戻りなさい! そこで出た犠牲の責任は全部あたしが背負うから! だから逃げて! お願い!』 「できるわけねえだろうが、そんなことっ!」 思わず怒鳴りつけてしまう。俺は額を抑えて――また敵がやってきたので撃ち返して追い払う―― 「ここには俺が行くって言ったんだ。それで仲間がついてきてくれた。なのに、その仲間がみんな死んでいるってのに、 俺だけおめおめと逃げ出すなんて絶対に拒否するぞ! 絶対にここから動かないからな!」 『キョン……キョン……!』 ハルヒは悲痛な声で俺のあだ名を呼び続けるだけ。見れば、数十人にふくれあがったシェルエット野郎が次々に こちらに突撃を始めていた。 「ハルヒ。俺からの頼みだ、聞いてくれ」 俺は息を吸い込んでありったけの思いを込めて言う。 「死ぬな。絶対にだ!」 そして、ハルヒからの返答も聞かずに俺は無線機を投げ捨て、路上を越えて突撃してきたシェルエット野郎数人に向けて 乱射する。不意を食らったのか、あっさりと命中していつものようにはじけ飛んだ。だが、続々と後続が接近してくる。 俺はとにかく無我夢中に撃ち続けた。弾が尽きればマガジンを交換し、それもなくなれば別の生徒が持っていた M16に持ち代える。路上を越えてくる敵は、昨日の北山公園の時と同じく突撃バカみたいにつっこんでくるだけだった。 残骸の破片が銃弾を受けて飛び散り、俺の頬を傷つけたがもはや痛みすら感じている暇もなかった。 乱戦の中、自分自身をほめてやりたくなるぐらいに粘っているが、弾は減る一方だ。 ついに今握っているM16が最後となる。これを撃ち尽くせば、俺も終わりだ。手を挙げて降伏しても、 助けてくれそうな敵でもないしな。 また一発また一発と撃ち、敵を打ち倒す。それがついに最後の一発となった瞬間―― 「うっ!?」 最後の一発は発射されなかった。数え間違えていたらしい。敵を真正面にしながら残弾ゼロ。 もう敵はAKをこちらに向けて構えている…… ……終わりか。また学校の部室でハルヒやSOS団の連中と会えれば良いんだが…… 呆然と放心状態に陥りかけていた俺を現実に引き戻したのは、突然目の前に現れたトラックだ。 北高と前線基地に物資を輸送していた大型のトラック。だが――橋が爆破されたって言うのに、 どうしてここにいる? 荷台には武装した生徒たちが乗り込み、空き地から突撃してきていたシェルエット野郎に向けて一斉射撃を始めていた。 同時に上空に古泉ヘリが舞い戻りミニガンの掃射を開始する。 「……助かった……のか?」 「ええもちろん」 呆然とつぶやく俺に言葉を返したのは、トラックの運転席に座っていた喜緑さんだった。昨日見たときとは違い、 セーラー服ではなく、迷彩服に身を包んでいる。 「遅れてすみません。なかなか手こずりました」 「えと……あの、どうやってここに?」 死んだと思ったが、突然現世に復帰したもんだからどうも違和感が抜けない俺。言葉遣いもたどたどしくなっているのが、 自分でもよくわかった。 喜緑さんはいつものにこやかな笑顔を浮かべつつ、 「橋は修復しました。長門さんの努力のたまものです」 「長門が……ってまさか情報ナントカができるようになったのか!?」 俺は歓喜の声を上げそうになるが、残念ながら喜緑さんは否定するように首を振り、 「それはまだです。3つほどの突破口を見つけましたが、そのうち一つを犠牲にして、 橋の修復を行いました。貴重な手段なので、安易に使うのはどうかと思いましたけど、 長門さんにとってあなたを救出できるようにすることが最優先だったようですね」 そうにこやかに喜緑さん。長門……本当に何とかしちまいやがった。すごすぎるよ。 「さて、ここは学校からの予備人員で守ります。今の内に遺体と負傷者をトラックに乗せてください。 それとあなたも。総指揮官からの絶対命令のようですので」 さっきからトラック据え付けの無線機からキーキー聞こえてくるのはハルヒの声か。 どうやら俺に学校に帰れ!と叫んでいるらしい。 ふと、トラックの荷台に載っていた生徒たちの射撃が収まる。空き地方面を見てみると、 敵が後退していくのが見えた。なんだ? どうしてこのタイミングで逃げ出す? 「おそらく予期せぬ情報改変に敵が混乱しているのでしょう」 にこやかに喜緑さんが解説してくれる。何はともあれ、今がチャンスだろう。とっとと負傷者を回収しなけりゃな。 ◇◇◇◇ 「本当に戻るんですか? 命令違反ですが」 負傷者と遺体を載せたトラックが北高へ向けて戻っていく。喜緑さんは最後にそう言っていたが、 俺はハルヒの方に戻ると言って、学校への帰還を拒否した。なあに、命令違反なら今までも散々やっているいまさらだ。 大体、ハルヒも長門も古泉もたぶん朝比奈さんもみんな必死なのに、俺だけ学校に引っ込んでいられるわけもない。 で、ハルヒのところまで戻ると予想通りの反応を見せてくれた。 「あーんーたーはー! 一体どれだけ命令違反を犯せば気が済むわけ!? 逃げろって言っているのに拒否するわ、 学校の守備に行けって言ったらこっちに戻ってくるし! 総大将の命令をなんだと思っているのよ!」 とまあものすごい剣幕で胸ぐらをつかみあげられた。一体どんな腕力をしているんだこいつは。 俺はあたふたと説明しようとするが、胸ぐらをつかみあげられてまともに口がきけるわけもなく、 ただ口をぱくぱくされるぐらいしかできない。ハルヒはひたすらガミガミ怒鳴っていたが、 やがて言いたいことも尽きたのか、俺から手を離し、 「……とにかく! 今後はあたしの命令に従うこと良いわね! 仕方ないから、ここにいてもいいけどさ。 これからはあたしのサポートをしてもらうわよ。どんなときでもあたしのそばにいなさい! 絶対絶対命令だからね!」 そう言ってぷんぷんしながら去っていった――ってどこに行くんだあいつは。 しかし、よくもまあ乗り切ったものだと自分で自分に感心する。普段の俺なら絶対に精神的におかしくなっていただろうが、 これも仕組んだ奴が頭をいじくったせいということにしておこう。だが。 俺はふとハルヒの背中を見る。長門と古泉の予測ではハルヒは何の人格調整も受けていないと言っていた。 なら、あいつは普段の精神状態のままこの地獄のような世界で指揮官なんて言う役割を演じている。 その両肩にかかっている重圧や責任感はどれだけのものなのだろうか。 そして、ハルヒは一体どんな思いでそれを背負っているのだろう。俺はハルヒの背中を見ながらそんなことを思った。 ~~その6へ~~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/221.html
あらすじ ハルヒは機関からの使いの古泉一樹の そのもくろみを打ち砕くべく 閉鎖空間へと乗り込む! ハルヒ「ここからは修羅場よ、キョン!」 キョン「ちょ…ちょっと待て、なんか自然に俺も行くような空気になってない?」 ハルヒ「心配しないで、行く前にちょっと準備したいだけよ。ちょっとそれに付き合ってもらうだけ」 キョン「そ、そう?よかった」ホッ ハルヒ「相手が相手だからそれなりの用意をしていかないと、あたしは平気だけどキョンが危ないもんね」 ハルヒ「じゃあ、行くわよ」 キョン「(あれーなんかおかしくなかった今の―――――!?)」ガビーン 今日はクリスマスという事でSOS団でプレゼント交換することになりました ハルヒ「よーし、じゃあさっそく始めるわよ」 ハルヒ「誰がどのプレゼントを引くかは運しだい!フフフ…」 みくる「ド…ドキドキしますね!」 キョン「俺のショボイから引いた奴ゴメンな!」 ハルヒ「あたしは正直…古泉君のだけは引きたくないと思ってる。それはホントにあたしの今の正直な気持ちよ…」 キョン「………」 みくる「………」 長門「………」 古泉「なにまじめな顔で告白してんのーーーーー!?」 古泉「僕のプレゼントすごいですよ!?絶対みんなうらやましがると思うよ! 正直僕自分で欲しいくらいですもん!アハハ……」 ハルヒ「………」 キョン「………」 みくる「………」 長門「………」 古泉「あれ…なに?ちょっとなにみんなで変な空気出してるんですか!?」 ハルヒ「まあ…ウジウジしたって仕方ないわ…。どんなの引いても恨みっこなしよ!」 オウ!! 結局、古泉は自分で自分のプレゼントを引きました。 アニメ第7回 ミステリックサインにてカマドウマと対峙したキョンたち!しかし、古泉はなぜかマムシに噛まれ帰らぬ人になってしまった! キョン「よーしじゃあコンピ研の部長を助け出すか」 みくる「長門さんホントに一人でいいんですか?」 長門「うん全然平気」 キョン「じゃあ、古泉の分までバリバリ敵を倒そうぜ!」 長門「うん…最初からそのつもり」 みくる「(よかった…みんなもうこの5分たらずの間に古泉君を失った悲しみを乗り越えたようですね…)」 みくる「よーしみなさん!!亡き古泉君の為に…!!倒しまくりましょう!!」 俺たちの戦いは始まったばかりだ びち~ん! タケシ君「いでっ」 タケシ君「うわあーーん!あのお姉さんにデコピンされたぁーーーー!!」 子供B「何すんだよお姉さん!先生に言うぞ!!」 みくる「私の前でヘラヘラしてるからですよ。先生に言いたきゃ勝手にドウゾ。 そもそも私が君に何かしたって証拠があるんですかぁ?ンフフフ…」 タケシ君「ヘ…ヘラヘラってここ公園じゃん!」 子供C「タケシ君がやられたって言ってるのが証拠だよ!」 みくる「ハァーッハッハッ!そんなの大人の世界じゃ通用しないんですよ!」 痛ッ…!さっきのデコピンで骨が…!(ズキンズキン) 子供たち「き…汚ねえ…大人は汚ねーよ!」 ガマンだ…絶対にばれる訳にはいかない!これが大人の強さじゃい!(ズキンズキン) 今日俺は長門の料理の練習台として長門宅に来ている。 もちろんハルヒもおもしろがってついて来ている。くっそーにやにやしやがって。。 どうやら料理が出来たようだ。ハルヒが蓋を載せたお皿を持ってくる。。 ハルヒ「はい、どうぞ」カパッ キョン「お…ケーキ。モンブランか…?」 よかった。それなりにおいしそうじゃないか…。 ハルヒ「フフ…まあ食べてみなさい」 長門「………」ジーッ キッチンの向こうから長門も覗いている。もう逃げる事もできないか…。 まあ、見た目も悪くないし、これならそう不味くもないだろう。それでは頂くとするか。 キョン「どれどれ…」ぱくっ 長門「………」ジーッ キョン「むっ!?」 こ…これは!?ただのモンブランかと思ったら生地の中に何かのクリームが…マロンじゃないぞ! この食感…そして鼻の奥に突き抜けるこのスパイス臭は…カレーだ―――!! ケーキとカレーの見事な融合。 なぜだ…なぜこんなにも涙があふれるんだァーーー! キョン「まじいからだよ!!」ブホォ!! ゴワシャア ハルヒ「ヒィィィィ!!」 長門「!?」 キョン「噛めば噛むほどくそまじぃよ!!なんでもっとまともな料理作らないのーー!?」 長門「ヒィィィ!私の…私のカレーがぁぁ!!」 キョン「ケーキですらねぇのかよ!!」 ハルヒ「キョンそれは何のまねをしているの?」 キョン「これか?さぁーてなんだろねー知らないねーふふっ」 ハルヒ「(ああっいいわいいわ面白そうだわ。私もやってみたいわ)」 キョン「ふ~楽しかったキョンガリレイ」 ハルヒ「(ファ~~キョンガリレイ興味深い~~)」 ハルヒ「ね…ねえキョン【キョン】「断る」 ハルヒ「…………。ふふふっ、もちろんタダとは言わないわこれでどう?」ペロン キョン「?……!?そ、それは…」 ハルヒ「そうあんたが大好きなマジカル少女ユッキーの舞台チケットよ」 キョン「あ…あぁああぁ…」 ハルヒ「どう?もしキョンがそのキョンガリレイをあたしにくれれば…」 キョン「やるーーーーー!!!」キュピーン ハルヒ「え?いいの?じゃあこれ…」 キョン「ああ、そいじゃこれも。ありがとうハルヒー!ヒャッホォ~イ!マジカルユッキーキター!!」 ピューッ ハルヒ「あっ、キョン!………。」 ごめんね、キョン…。そのチケットの期限実は今日までなのよ…。 30分後 ハルヒ「ふ~堪能したわ。あれ?みくるちゃんキョンは?」 みくる「あ、涼宮さん…それがどうしても投げ出せない用事が出来たとかで帰っちゃいました」 ハルヒ「………ぁ」 みくる「あ?」 ハルヒ「あほ~~~~!!!!」 それは上ヶ原パイレーツと試合をする5分前の出来事だった。 ハルヒ「ほんと~~~に行かないのね、アンタたち?いいの?知らないわよ。 すっごい珍しいクワガタ捕れちゃうわよ。後で言っても触らせてあげないんだから」 古泉「え…えと」 キョン「俺たちはいいよ…」 ハルヒ「マトトぶっちゃって!!後でホエづらかくんじゃないわよっ!!」 バターン! キョン・古泉「………」 古泉「ううう…しまった…意地はらないで僕も行けばよかった…(ふるふるふる)」 キョン「行きたかったのか?どうせ何も捕れずにすぐ戻ってくるさ。 こんな都会にクワガタなんていないんだから…」 ガチャ ハルヒ「ただいま――!」 古泉「早っ!!」 キョン「ほらな」 ハルヒ「フゥ~~~~ッ」 キョン「朝倉ーーーーーーっ!!」 ハルヒ「捕れちゃった…すごいの捕れちゃった…ウフフフh」 古泉「ええ~~マジでスゴイ!!なにそのクワガタ…そんなん初めて見た!!」 キョン「……??」 ハルヒ「ちょっとぉ~あんま見ないでよ。あたしのヒトクワガタ」 古泉「ヒトクワガタ!!ス…スゴイ!!マジでスゴイ珍種なんだそれ!」 何やってるんだこいつらは…朝倉も…うわっ今目があったぞ。 キョン「いやあの…それクワガタじゃないと思うぞ…」 ハルヒ「ハハハは、よしなさいよキョン。負け惜しみは止しなさいよキョンく~ん」 朝倉「あ…あのー」 キョン・ハルヒ・古泉「!!」 朝倉「コレ苦しいんだけど、もう出てもいいかな?」 キョン・ハルヒ・古泉「………」 ハルヒ・古泉「クワガタがしゃべったーーー!!」 ヒトクワガタってしゃべるんだーーーー!!? キョン・朝倉「………」 相撲大会に出場し順調に勝ち進む長門、しかし、決勝の相手はおそらく史上最強のホモ・古泉一樹だ!どうする長門!? 古泉「喰らえ!テドドン!!」 対戦相手「うわぁ~~~~!!」 キョン「あんなのとまともにやったら壊れるな長門…」 ハルヒ「ええ…でも都合のいいことに彼と当たるのは決勝だから、負けても準優勝よ」 キョン「なんだ?そりゃ都合がいい。じゃあ決勝は棄権するか」 長門「大丈夫、私は負けない」 キョン「え!?いやいや止せって長門!ホントにめちゃくちゃにされるぞ!」 ハルヒ「そうよ有希!無理して体壊してもなんにもならないわよ」 長門でも私やりたい… キョン「ははーん、さてはお前賞品目当てだな?よせよ!何が欲しいか知らんが命より大事なもんはないぞ!」 長門「そんなんじゃない!私試してみたい。心を持たないインターフェイスの私がどこまでやれるのかを…!」 キョン「いや…だから準決勝までだよ。そんなもんだって人生」 長門「!!?」 新川「ハァーハッハッ!その通りだよお嬢ちゃん!うちの古泉は向かってくる相手には容赦できないタチなんでね。 怪我しないうちに棄権した方が身の為ですぞ。」 長門「ムッ(カチーン)。…やってみなくちゃわからない」 新川「おやおあや、ホラにいちゃんお前からもよーく言い聞かせてやんな」 キョン「あ~~?」ギロリ 新川「え!?」ビクン キョン「そんなもんやってみなきゃわかんねえだろ…」ゴゴゴゴゴ… 新川「えっ!?」 キョン「てめぇ誰に向かってクチきいてんだコラ!?」 新川「いや…」 キョン「他人のくせに長門の悪口言ってんじゃねえよ! なんならここで代理戦争しとくか?お?」ベロリ ハルヒ「きょ、キョンさぁーーん!!」 ハルヒ「すす、すいませんこの人ちょっとアレだから…」 新川「は…はあ」 キョン「えーい離せハルヒ!そいつのひげぶっこ抜いてかわりにまじっくで…」 ハルヒ「い…いいから行くわよキョン!!」 みくる「ふぇぇ~、失礼しましたぁ~~~」 新川「………。(ビ…ビックリしたぁ~~~~。なんでしょうあれ、殺し屋?)」ドキドキドキドキ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/892.html
涼宮ハルヒの追憶 chapter.4 ――age 16 昨晩は長門のことが気になってほとんど眠れなかった。 自分の無力感から来る情けなさと、それを認める自分に腹を立てた。 眠りについたのは午前五時を過ぎていた。 「キョン君! 起きて朝だよ!」 それでも朝はやってきて、最近かまってやれていない妹が日課のように起こしに来る。 睡眠時間は全く足りず、妹に抵抗する力すらでない。 妹よ、これをいつまで続けるつもりなんだ? 高校生にもなってやってきたら俺はどう対応すればいいんだ? だらだらと学校に向かう。 アホの谷口はこういうときに役立つのだ。 シリアスではない、ハルヒに言わせれば世界で一番くだらないものを 延々と述べるだけの単純な会話。 ほぼ徹夜明けの身体に対する強烈な日差しは殺人罪を適応したいぐらいだったが、 昨日の出来事を夢だと思わせないためにはこのぐらいでちょうどいいのかもしれない。 それより俺は懸案事項を抱えていた。 どうハルヒには説明すればいいんだ? 昨日のことはハルヒに説明できることではない。 長門が消えたなんていったら、この世界を保てるものなのか? ぐるぐると思考をめぐらせても答えは出ず、 結局何もいわないのが上策だろうと結論付けた。 教室でのハルヒはいつもと変わらなかった。 むすっとした表情をキープし、授業をただ聞き流す。 俺は授業のほとんどを睡眠に費やした。 身体は疲れていたし、なにより懸案事項を考えたくないという現実逃避でもある。 この後部室で長門に関する会議が行われると思うと、帰りたくもなった。 ダルダルな授業を終え、放課後に部室に向かう。 さて、ハルヒにはなんて言おうか。 部室に着く。 すでに朝比奈さんと古泉が待機していた。 「こんにちは」 古泉は笑顔で挨拶をした。 「こんにちわぁ」 これは朝比奈さん。やっと朝比奈さんの笑顔で癒されることができた。 昨日は気が動転していて、朝比奈さんの天使スマイルを無視していたからな。 俺が椅子に座ると、 「では、涼宮さんが来るまで少しお話でもしましょうか」 「なんだ」 「長門さんのことです。私達が解散した後、あなたは昨日長門さんにあった。 そして長門さんの家に行った。あっていますね?」 「なぜそのことを知ってる」 「『機関』からの情報です。昨日僕は閉鎖空間にいましたし、ストーキングは不可能です。 しかし問題はそこではありません。 あなたがあの部屋を出た後、『機関』のものが進入を試み、中をのぞくと、 誰もいませんでした。長門さんは消えたのでしょうか?」 「消えたと思う」 「長門さんは消えちゃったんですかぁ?」 朝比奈さんが悲しい顔をして俺を見つめている。 ドアを開ける音が聞こえ、俺達は話を中断する。 「なんだもうみんな揃っているのね」 ハルヒはゆっくりと歩き、団長椅子に座った。 「それじゃあ、始めましょ」 ハルヒは俺と古泉と朝比奈さんをじっと見た。 それから俺達は十分ぐらい黙ったままだった。 ハルヒが足を揺らしているのを俺は見つめていた。 耐えられなくなったのか、ハルヒは突然叫びだした。 「何か有希に関する情報はないの? 役に立たないわねあんたたち! 特にキョン! あんた有希と仲良かったんじゃないの?」 「そこまで仲よかねーよ」 「本当かしら? いっつも有希のことばっか見てたくせに」 「そんなに見てねーよ。お前はなんでそんなにイライラしてるんだ?」 「イライラなんてしてないわよ! あんたがねえ、有希のことを大事にしてるみたいだったから言ったのよ。 でも、あんたに教えなかったってことは あっちはそれほど思ってなかったってことよね?」 ハルヒは意地悪な目で俺を卑下するように見つめた。 「なにをいってるんだお前は。だいた……」 バンッという音と共に隣に座っていた朝比奈さんが突然立ち上がった。 「いい加減にしてくだしゃい! わたしもこんな部活やめてやや、りましゅ! もう、涼宮さんには付き合いきれません! 涼宮さんなんかだいっきらいです!」 「み、みくるちゃん? どうしたの急に?」 「どうもしません! わたしは今日限りでSOS団をや、やめてやりましゅ! もうわたしに関わらないで下さい!」 そういうと朝比奈さんはものすごい勢いで部室を出て行った。 「へ、どうしたのみくるちゃん? なんで?」 ハルヒは呆然と朝比奈さんが去っていったドアを見つめている。 「だいっきらいだとよ。お前に愛想つかして出て行っちまったな。これであと三人か」 「どうして? 何かあたしした?」 「今までの積み重ねじゃないのか?」 俺はハルヒにイライラしていたので、冷たく言い放った。 ハルヒは投げ捨ててあった鞄を拾って、部室から飛び出してしまった。 「どうしたんです? あなたらしくもない。 もう少し冷静にお願いしますよ。 こちらの立場も考えて行動してくれないと困ります」 古泉は明らかに不快そうに言った。 「お前の立場なんか知るか。 お前はハルヒにへつらって、閉鎖空間で神人でも倒してればいいのさ」 ガッ! 古泉は俺に近づいたかと思うと、右手で本気で殴りつけてきた。 俺は壁にぶつかり、座り込んでしまった。 古泉の顔は初めてみる怒りで満たされていた。 「いい加減にしてください! あなたの軽率な行動がどれだけの人に迷惑をかけていると思っているんですか!」 「なんだよいきなり! お前らのことなんか気にしてられるかよ!」 ガッ! 古泉は俺の胸倉を掴みまた殴りつけた。右フックは顔面をとらえた。 「立て! こんなんじゃ足りない! お前は知らないかもしれないがなあ! ……」 古泉はそれ以上を言おうとはしなかった。 古泉は掴んでいた手を離し、 「すみません。でも、軽率な行動だけは控えてください。 今日は僕も帰ります。失礼します」 そう言うと、部室から足早に出て行った。 「くそ痛てえよ。なんだっていうんだ」 口内から出血していた。訳が分からない。 古泉も朝比奈さんも、それにハルヒも。 いったいみんなどうしたんだ? 俺が悪いのか? その日俺は、痛む口を押さえながら家路についた。 家に着くと、妹は出血をしている俺を見て心配していたが、 俺はとにかく自室にこもり、一人になりたかった。 「なんなんだ? なんで俺は古泉に殴られた。 それに朝比奈さんの行動も不自然だったし、 ハルヒにいたっては意味不明だ」 ベッドに横になりながら、今日のことを振り返った。 「俺はどうすればいいんだ? 謝ればいいのか? 馬鹿らしい。そんなことできるか」 古泉殴られたところがまだ痛む。 平和主義者の俺は今まで人に殴られたことなんてなかった。 人と本気のけんかなんかしたことないし、 そういうことはなるべく避けるようにしてきていた。 「くそっ! 頼みの長門は消えちまった。 SOS団も壊滅状態。俺がなんかしたのか? 俺が悪いのか? いや、俺は何も悪くないはずだ」 ベッドで横になっていたせいで少しうとうとしていた。 突然の電話に驚き、そして画面を見る。 「朝比奈さんか。こんな時間になんだ?」 電話にでるか一瞬迷ったが、 朝比奈さんからの電話はでないと世界がなくなる可能性もあるからな。 「はい」 「あ、キョン君。あの、今から話したいことがあるのだけれど」 やっぱり、何か問題でも起きたのか? 電話越しの愛らしい声はいつになく真剣だった。 「あのベンチに来てください」 「いつですか?」 「今すぐです! 早く来てください。お願いします」 分かりました、という前に電話は切れた。 行くしかないだろ。 俺は帰ってきて制服のままだったが、着替えることもせず家を出て、 ママチャリにまたがり、あのベンチに向かった。 最近自転車をこいでばかりだ。しかも全速力で。 息を切らしてあのベンチへ。 世界崩壊の危機じゃなければいいんだがな。 「すみません。間に合いましたか?」 ベンチには朝比奈さんがうつむきながら座っていた。 外はもう真っ暗で、街灯だけが辺りを照らしていた。 「ごめんなさい、急がせちゃって。大丈夫、間に合ってます」 「よかった。横に座っていいですか?」 「どうぞ」 朝比奈さんは少し驚いた様子だ。まだ、うつむいたままだ。 俺は横に座ると朝比奈さんの横顔を見つめた。 綺麗な顔立ち、俺を満たしてくれる。 なんでこんなに丁寧に作られているのだろう。 朝比奈さんを見るのをやめて、街灯を見た。 黄色い光を放つ街灯の周りを蛾が四匹ほど飛び回っていた。 そして、考えた。 俺は朝比奈さんに聞いておかなければならないことがある。 なんで今日あんなことを言ったんだ? 「あの(あの)、朝比奈さん(キョン君)」 こういう時に限って人っていうのは重なるものである。 「朝比奈さんからどうぞ」 「いえ、キョン君から」 しばしの沈黙。俺から話すことに決めた。 「分かりました。聞きたいことは一つです。 なんで今日あんなことをいったのですか?」 「それは……」 「今まではハルヒの機嫌をとることでSOS団は成り立ってきた。 でも、朝比奈さんは突然ハルヒを突き放すようなことをいって出て行った。 もしかして、これも規定事項とはいいませんよね?」 「今回は未来からの要請がありました。涼宮さんから離れなさいって。 そして離れるにはなるべくきついことを言わないといけなかったんです。 涼宮さんはとても強い人ですが、とても打たれ弱いんです。 ましてやわたしみたいにいつも可愛がっていた人に嫌われるのはとても悲しいことでしょう?」 朝比奈さんは泣き笑いみたいな顔で俺を見つめた。 「悲しいことですよね」 「そう。できればしたくなかったんです。 わたしは涼宮さんが大好きだし、SOS団のみんなも大好きなんです」 朝比奈さんはうつむいて、声を震わせながら言った。 「みんなと一緒にいられなくなっちゃいました。 ああ、なんでこんなに突然だったんだろう。 まだやりたいことはたくさんあるのに。 でも、いつかは別れる時が来るの」 「いつかは別れる時が来る」 俺は朝比奈さんの言葉を復唱した。 「分かってたんです。こんな風に悲しくなるっていうのは。 でも、SOS団での楽しい日々のおかげでそんなことは忘れてました。 最初にこの時代に来た時、誰とも仲良くならないつもりでいたんです。 だって、絶対別れが来るって決まってるんですよ? だけど、SOS団や鶴屋さんとはいつの間にか仲良くなっていました。不思議な人たちです」 「鶴屋さんは誰だろうと友達になれそうな人ですからね」 「そうですね」 「ところで、朝比奈さんが聞きたかったことってなんですか?」 「あ、はい」 朝比奈さんは両手を重ねていじりながら、ぽつぽつと言った。 「わたし自身のことなんです」 「朝比奈さんのことですか」 俺がそういうと朝比奈さんは俺を真っすぐに見た。 その顔には涙が伝っていた。 「わたし、すごく悔しいんです」 「悔しい?」 「だって、他のSOS団のみんなはちゃんと頑張ってるんです。 わたしだけ、なにもできないんです。 わたしはお茶を煎れてあげるぐらいしかできない。 涼宮さんの言うことを聞いて、衣装を着るぐらいしかできない わたしは未来に動かされているだけで、何もできない。 だから、せめてみんなを癒してあげるくらいしたかったの」 朝比奈さんは一呼吸置いて続けた。 「なんで、こんなことキョン君に言っちゃうんだろう? わたしはこの悔しさを持って帰るつもりだったのに」 「持って帰る? 朝比奈さん、未来に帰っちゃうんですか?」 俺はすでに分かっていた。 ハルヒの能力がなくなれば、朝比奈さんはこの世界にはいられなくなる。 「そうです。キョン君にお別れを言いに来ました」 「やっぱり、朝比奈さんもいなくなるんですね」 「やっぱりって、あ、そうか長門さんから聞いているんですね」 「そうです。長門はハルヒの能力が収束しているって言ってました」 「そうですか」 「どうして長門も朝比奈さんも、もうちょっと前に言ってくれないんだ。 そうしたらみんなでお別れパーティーの一つだってできたかもしれない」 俺はどうしても朝比奈さんを直視することはできなかった。 「すみません。禁則事項です」 それに、と朝比奈さんは続けた。 「今ここにいるのも本当は禁則事項なんです わたしが予測不能の行動に出るといけないから。 でも、わたしはキョン君に伝えてから帰りたいです」 「伝えてから?」 「本当は言っちゃいけないことなんです。 最重要の禁則事項なんです。 でも、言わないと。私はもう帰らなきゃならないから。えっと」 朝比奈さんはそこまで言うと、突然頭を抱え、じたばたし始めた。 「あ、ダメ! そんな止めて! もうだめなの?」 朝比奈さんが何を言おうとしてるかは分かった。 それはハルヒにとってはおそらく最悪の禁則事項だろうと思われた。 でも、今は横から抱きついて、首に手を回している朝比奈さんの体温を感じていたかった。 ぎこちないその行動を抱きしめ返すことはできなかった。 「キョン君。わたし、ねえキョン君、…キョン君!」 朝比奈さんが耳元でささやく。 俺は興奮していたが、朝比奈さんの言葉を冷静に聞いた。 「ごめんなさい。俺は答えられそうにありません」 「ご、ごめんなさい」 朝比奈さんは俺から離れると、 「ごめんなさい。あっちを向いてもらえますか?」 俺は朝比奈さんが指差したほうを見る。 朝比奈さんとは反対側のほうだ。 向かいないと朝比奈さんに迷惑がかかるだろ。 「時間です。ごめんなさい。ありがとう」 振り返ると、朝比奈さんはいなかった。 俺は立ち上がり、ポケットに便箋が入っていることに気付いた。 俺は破らないように丁寧に開けた。 ――キョン君、わたしはあなたが好きです。 でも、忘れてください。 ごめんなさい。なにもしてあげられなくて。 ごめんなさい。やくただずで。 ありがとう、キョン君。 また、会えるといいですね。 PS.文章短くてごめんなさい。 好きです。―― それは手紙という形をとる。 口に出せないもどかしさ。朝比奈さんの気持ちが少しだけ伝わった気がした。 「朝比奈さん、あなたは俺のアイドルです」 ごめんなさい。また会えるよな? 街灯の明かりだけが残された惨めな俺を優しく照らしてくれた。 俺はその場で一時間ほど呆然と立ち尽くしていた。 一時間というのは家に帰ってから分かったことなのだが。 自分の部屋のベッドに寝転ぶと、俺はようやく事の重大さに気付いた。 長門が消え、朝比奈さんも未来へと帰った。 「次は? 古泉か? だが、古泉はこの世界の人間だ。消えることはない。 もしかして? いやそんなことはないだろ」 自問自答を繰り返しても、古泉に対する答えは最悪のものとなった。 今日の古泉はいつもとは違った。 柔和な笑顔は消え、鬼気迫る表情で俺を殴った。 おそらく古泉もハルヒの能力が消えることによって、 何かしらの被害を被っているに違いない。 「俺はどうなるんだ? ハルヒの能力がなくなることで俺も困ることがあるのか? そもそも俺は関係ないだろ。 ただ、あのSOS団のメンバーで集まれないだけだ」 長門に会いたい。それに、朝比奈さんにも。 会ってまた馬鹿なことがしたいんだ。 俺はその日、やるせない気持ちで眠りについた。 次の日、ハルヒは学校に来ていた。 昨日のことが何もなかったかのように平然と授業を受けていた。 俺はなんだかやる気も出なくて、いつものように授業を寝て過ごした。 帰り際、ハルヒが、 「キョン一緒に帰るわよ、話したいことがあるの」 というので、仕方なく俺はハルヒと帰ることに決めた。 俺はなるべく一人でいたかったのだがな。 で、帰り道。 ハルヒはうつむいたまま俺の前を歩いていて何も話す気配はない。 そのまま、ずっと黙ったままだった。 踏み切りに着くとハルヒは立ち止まり、振り返った。 そして俺をゆっくりと見つめた。 「ねえキョン。あたしおかしいかな?」 「どうした気でも狂ったのか? もとから狂ってる気もするが」 「違うの。あたしはいつだって自分のことを正しいって思ってるわ。 むしろ他の人のがおかしいぐらいよ。 楽しいことを探して、楽しいことをする。すごくまっとうじゃない。 でも私がいってるのは違うの」 ハルヒは続けた。 「前からおかしいとは思ってた。 例えば去年の映画撮影。本当に桜が咲くと思う? 季節は正反対なのよ? その時あたしは『桜が咲いたら絵になるな』と思っていたの。 他にもたくさんあるわ。 雪山でのあの白昼夢だってそうだし、あんなの白昼夢だけで済ませると思う? 実際に体験してしまってるのに、それはないわよね。 でもね、あたしはなにも言わなかった。 言ったら、楽しいことが逃げていってしまう気がしたから。 このまま知らないふりをし続けて、SOS団のみんなで楽しくやっていきたかったの。 でも、それももう終わり。 有希もいなくなっちゃたし、みくるちゃんも出て行っちゃった。 あたし何か悪いことしたのかな? ただあたしは素直に楽しいことだけをやっていきたかっただけなのよ」 俺は押し黙ったまま立ち尽くしていた。 ハルヒは気付いているのか? 気付いたらどうなる? 今すぐ世界が消えてなくなるなんてことはないよな? 「キョン、答えて。 あたしには何かしらの不思議な力があると思うの。 それだけじゃない。有希だって、みくるちゃんだってどこか変。 それぐらいあたしでもすぐに気付くわ。 気付くべきイベントはたくさんあったもの。 これで気付かないほうが変だわ。 そして今回のことで確信したの。ああ、あたしは正しかったんだって。 キョンは何か知ってるんじゃない?」 俺は呆然としてしまっていた。 どうしようもない。ハルヒは気付いてる。 仕方がない。仕方がない。どうしようもないじゃないか。 答えるべきなのか? 答えてそれで? 世界は? 「もういい。帰る」 結局俺はなにも言うことができなかった。 ハルヒは寂しそうな顔をして、立ち尽くす俺を見つめていた。 「キョンはやっぱりキョンね」 それだけを言ってハルヒは走って帰ってしまった。 ごめん、ハルヒ。何も言えなくて。 怖かったんだ。 古泉は言った、ハルヒが自らの能力を認識した時、予測できないことが起きる。 俺はどうすればよかったんだ? 俺は決定的な答えを持ち合わせてなどいなかった。 ただ、ハルヒの一人語りを聞き続けただけだった。 傍観者でいたはずが、当事者に代わっていた。 でも、力なき当事者だ。 何にも抗うことができず、将棋の駒のようにただ動かされるだけだ。 それが、一般人ってものじゃないのか? 知らない間に動かされて、利用されて、捨てられる。 俺はそんな普通の人なんだよ。 悪いか? 俺は悪いのか? 誰か代わってやるよ、こんな役。 朝比奈さんは泣いた。 自分は何もできないと。自分はただ動かされているだけで、何もできない。 だから、せめてみんなを癒してあげるくらいしたかったんだって。 それがわたしの役割だったんだって。 くそっ! 俺は何をすればいい。俺の役割はなんだ。 俺はどうすれば。 また、あの日のSOS団に戻すことができる? chapter.4 おわり。 chapter.5
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2031.html
ハルヒのおかげかそうでないのか、俺は無事進級できたわけだ いや、ハルヒがやけにうれしそうに俺に勉強を教えてくれたおかげなのかもな 三月のホワイトデーという難関も無事に突破し、春休みの半分以上はSOS団活動で 終わった。 新学期、幸か不幸か俺はまたハルヒと同じクラスになり、席も相変わらずだ まあ他の面子にはあまり変わりが無く、俺も少しほっとしたわけだ 俺たちは今二年生なわけで当然、新入生も入ってきた 俺は新入生を見て、俺もあんな初々しかったのかな、などと感慨にふけり でも実際は一年しか経っていないわけで、新入生とあまり変わっていないのだと思う ハルヒは新入生の調査で忙しいらしく、新学期が始まって一週間はまともに部室には来なかった またとんでも属性の人を連れてこないのか若干ひやひやしてたが そんなことはなく結局ハルヒは誰も連れてくることはなかった もし仮にハルヒがまた変なやつを連れてきても、俺は甘んじてそれを受け入れるがな そしてSOS団のメンバーに変わりはなく、この五人で活動している 活動と言っても、特に何もしてないのだが 今は五月、一年生が学校に慣れてきて少々うるさい時期である 俺はそんなことは気にせず、いつもどおりの生活を送っていた ちょっと刺激が足りない気がするが、ナイフを持った女子に追い掛け回されたり でかい虫に追いかけられたり、そんなことはもう勘弁してもらいたいからな 今に、ハルヒがまたドアを破るように開け厄介ごとを持って来るさ 今の俺にはそれくらいがちょうどいいのさ しかしここ最近ハルヒの様子がおかしい おかしいと言っても何がおかしいのかよくわからない 授業中は俺を突いてくるし、休み時間になると教室からいなくなる 行動自体はなんら普段と変わりないのだが、おかしい そのことに気づいてから一週間が経ち、俺は少し心配していた 他の団員は気づいてないのだろうかと思い、あまり気が進まんが古泉あたりに聞いてみよう 「なあ古泉」 「なんですか」 「ここ最近ハルヒの様子がおかしくないか?」 「おかしいとは、どのようにおかしいんですか?」 「いやうまく説明できないんだが、なんとなくな」 「また何か良からぬ企画を練ってるんじゃないですか?」 「まあそういうことならいいんだが、なんか違う気がするんだよ」 「しかし僕から見た限りいつもの涼宮さんに見受けられましたけど」 「俺の勘違いならそれでいいんだ」 「あなたにしては珍しく涼宮さんの心配ですか?ですが機関からも何も報告は来てませんし 特に何もないと思いますよ」 「そうか」 俺の勘違いなのか?だがまだ疑念は拭えない 手っ取り早く長門に聞くとするか、あいつならずばり答えてくれるだろうし 「長門」 「なに」 「ここ最近ハルヒの様子がおかしくないか?」 「……質問の意図が理解しかねる」 「だからなんていうか、最近どことなくいつもと違くないか?」 「涼宮ハルヒからは異常は感知していない」 「そうか」 長門がこう言うんだからそうだとは思うんだが 多分同じ答えが返ってくるだろうけど、朝比奈さんにも聞いてみるか 「朝比奈さん」 「なんでしょう」 「最近ハルヒを見てて、なにか様子がおかしいと感じませんでしたか?」 「え?特に何もおかしいところはなかったと思いますよ。涼宮さんと何かあったんですか?」 「あ、いえ何もないですよ。俺の勘違いでしょう」 「ふふっ変なキョン君」 期待はしてなかったが同じ答えが返ってきたか 三人とも何も感じないのか?俺にはなんか無理に明るく振舞ってるように見えるんだが 直接聞いてみるか 次の日 掃除を終わらせた俺はいつものように部室に行った 珍しいこともあるもんだ、部室にはハルヒしかいなかった 「あれ?ハルヒだけか」 「あたしだけじゃ不都合があるって言うの?」 「いやむしろ好都合だ」 「へ?」 「いや、それより他の連中はどうしたんだ」 「え?ああ有希はコンピ研に行って、みくるちゃんは進路相談、古泉君はなんか急にバイトとか言って帰ってわ。みんな怠けすぎよ、SOS団を第一に考えるべきだわ」 今更、SOS団が最優先事項になったのは初耳だがあえてつっこまないでおこう 「そうか」 「そうよ。そこんところ今度みんなに教えないとだめね」 「ああ、そうしてくれ」 「……あんた、今日はやけに素直じゃない頭でも打ったの?」 「どこも打ってないし、どこもおかしくなってない」 「そう。変な日もあるわね」 と言いパソコンをいじり始めた 「じゃあ帰ろうぜ。みんな時間かかるみたいだしさ」 「あんたまでサボろうとしてるわけ、そんなの認めるわけないじゃない」 「頼むよ。今日だけ、な?」 両手を合わせ頼んでみる 「…仕方ないわね。今日だけよ、そのかわり帰りに何かおごりなさいよ」 「はいはい」 ハルヒは部室のドアに張り紙をして、俺たちは帰ることになったのだが どう切り出せばいいんだ?『悩みでもあるのか?』こんな直接聞くのもおかしいよな でも聞かないでイライラするより聞いたほうがいいだろう 帰り道 坂を下りながら 「なあハルヒ」 「なによ」 「最近悩み事でもあるのか?」 いきなり立ち止まりやがった、またゆっくりと歩き出し 「何でそんなふうに思ったの?」 「なんとなくだが、ここ最近ハルヒと接してて違和感を覚えてな、いつも通りと言われればそうなんだが、なんか引っかかってな」 「……」 この三点リーダはハルヒのだ。俺はさらに続ける 「なんか、無理に元気出して振舞ってるように見えたんだ。いや俺の勘違いならそれでいいんだ」 「……」 否定も肯定もないハルヒを見るのは初めてだが、やっぱりなにかあるんじゃねーか 「悩みがあるなら話してみろよ。話ならいくらでも聞いてやるぞ」 「……」 「無理に聞こうなんて思ってない、ハルヒが話したくないならそれでいい。男の俺に話しづらい事なら朝比奈さんや長門にでも話してみろよ」 「……」 「俺はいつでも話し聞いてやるから、俺に話して解決するかわかんねーけど、誰かに話したら少しでも気が楽になる事だってあるんだ」 「……」 「あんまり一人で抱え込むんじゃねーぞ。らしくないハルヒを見てるのはつらいんだ」 「……」 その後、俺たちは一言もしゃべらないまま坂を下りた 坂がおわった所でハルヒがようやく話してきた 「いつ気づいたの?」 「一週間か十日ぐらい前かな」 「そう」 「あたしこっちだから」 「あれ?奢らなくていいのか」 「今日は帰るわ」 「そうか」 「じゃあね」 そう言って歩いて帰っていった そのときのハルヒの後姿はとても小さく見えた そのまますっきりしないまま家に着き夕飯を食べ、俺にまとわりついてくる妹をスルーし、部屋に着いた なんだか落ち着かん。何なんだこの感じは? しかしこれ以上考えてもどうにもならん。話したくなったら話してくれるさ そう思い、いつもより早くベッドに入った 明日は土曜日、不思議探索があるしな 深夜、俺もようやく眠りに入った頃に、電話があった 誰なんだこんな夜中に 着信 涼宮ハルヒ いつもならあまり驚かない電話なんだが、昨日あんなこと言っちまったし 眠い目をこすりながらなるべく平静を装いながら電話に出た 「もしもし」 「起きてた?」 寝てたに決まってんじゃねーか何時だと思ってんだ、なんて言えるはずもなく 「ああ、なんとなく寝付けなくてな。どうしたんだ?こんな時間に」 「うん。その今日の帰りのことなんだけど」 「なんだそのことか、やっぱりなんか悩んでるのか?」 「そのことなんだけど、明日キョンの家に行っていい?」 おかしすぎる、こんなふうに言われるなんて数えるほどしかないぞ。いや、なかったか 「俺はかまわんが明日は不思議探索じゃなかったか?」 「そうだったんだけど明日は中止にするわ。ほかのみんなにはあたしから連絡しとくから」 「そっか」 「じゃあおやすみ」 「ああ」 話が終わり、携帯で時間を見てみた。2時15分 ハルヒはこんな時間まで起きてて、電話してきたのか そういや何時に来るか聞いてなかったな、こんな時間まで起きてたんだ朝来ることはないだろう 話の内容が気になるがさすがに眠い、もう一眠りするか 翌朝 朝起きる気はこれっぽちもなかったが、いつも通り妹に起こされてしまった 「キョン君おきて、ハルにゃんが来てるよ」 「なに?今何時だ」 「8時だよ」 いくらなんでも早すぎんだろ 「ハルヒは今どこにいるんだ?」 「居間で待ってもらってるよ。早く起きてきてね」 なんだって?これはマズイ。色々とヤバイ。何がマズイかよくわからんが 俺は急いで服を着替えて、寝癖を直さないまま居間に向かった 幸運なことにそこには親の姿はなく、とてもほっとした 動揺を悟られぬように 「よう、ハルヒ」 「おはよう」 食卓テーブルに座りながら、お茶を飲んでるハルヒがいた 妹はニコニコしながら俺とハルヒを交互に見ている、何が面白いんだおまえは 「来るの早かったな」 「ごめんね。早く起きちゃったから」 初めて聞いたぞそんなセリフ、まさかここはもうすでに違う世界とか ちょっと前の俺ならそんなことも疑うが、昨日のハルヒの様子からしてそうではないだろう 「いや、いいんだ」 こう言うのが精一杯である 「それより他のみんなにはもう連絡したのか?」 「もうしたわ。7時くらいに」 よく起きてたな、まあみんなは不思議探索あると思ってんだし起きてるか それよりここにハルヒをおいとくわけにもいかんな 「ハルヒ、俺の部屋に行っててくれないか」 「わかったわ。じゃあ先に行ってるね」 「ああ」 ハルヒについていこうとする妹を捕まえ、今日は俺の部屋に入るなと何度も言い聞かせていた 「むぅ~わかったよ。キョン君のイジワル」 何とでも言ってくれ 俺は手早く寝癖を直し、パンを食べ、部屋に戻った ノックしたほうがいいよな 「どうぞ」 床に正座で座り、窓の外を見ているハルヒがいた。何を見てるんだ? 「おそかったわね」 「そうか?」 「そうよ」 ハルヒの向かいに座り、テーブルの上に手を置き 「で、どうしたんだ?」 「昨日あんた言ってくれたでしょ?悩みがあるなら聞いてくれるって。本当は話す気なんかなかった。あんたに話してもどうしようもないことだから。でも、もうちょっと疲れたみたい、あんたに頼るなんて。」 「……」 「昨日の帰りに何も言わなかったのは、ビックリしたからなの。何で気づいたの?どこでばれたの?そう思って何も言えなかった。でも嬉しかったの。こういう時だからこそいつも通り明るく振舞おうとしてた。実際いつも通りにしてたと思うわ。でもキョンは気付いてくれた。それが嬉しかったの」 「……」 「だから話そうと思って来たの、あんたは今から言うことを黙って聞いてほしい。聞くだけでいい解決してほしいなんて思わないから」 「わかった。遠慮なく言ってくれ」 「うちの親、離婚しそうなの」 ……それは悩むよな。そうか。 「二週間ぐらい前からなんかギクシャクしてたの。夫婦喧嘩なら今まで何回も見てきたけど今回はなんか違ったわ。その何日か後に家に帰ったら怒鳴り声が聞こえたの」 「お母さんがよく怒鳴ってるのは聞くけど、今回は二人そろってデカイ声出して喧嘩してた『おまえは何もわかってない』『あんたこそ何考えてるのかしら』そんなことを言ってたわいつもなら親父がすぐ謝るんだけど、今回それはなかったわ」 「夜になったらまた喧嘩しだすし、あたしも止めるんだけど、うまくいかなくて」 「喧嘩の原因を二人に聞いても、『母さんに聞いてくれ』『お父さんに聞いたら』なんて事しか言わないの。訳わかんないわよ」 「それで一昨日、お母さんが独り言みたいに『離婚しようかしら』なんて言うのよ。今までそんな事聞いた事ないからひどく悩んだの。ここ最近まともに寝てないし。昨日も」 「……そうか」 なんて言ってやればいいかわからない。今に仲直りするさ、こんな無責任な事言えんし また俺はこんな事しか言えないのか。情けない 「そうよ」 おもむろにハルヒは立ち上がり、俺の横に座って俺の肩をつかみながら 「どうすればいいの?」 そう言って俺の肩を前後にゆすり始めた 涙を流しながら 「ねえ、教えてよ。どうすればいいのよ。教えなさいよ」 俺は下を向いて俯くことしか出来なかった 「どうっうぅすればっいいっの?」 ハルヒは俺の肩から手を離し、俺の胸で泣き始めた。ハルヒの手は俺の背中に回され俺の背中に爪を立ててしがみついている 「うっうっうっ」 声をあまり上げずに苦しみながら泣いているハルヒを見て、俺もとても苦しかった ハルヒにロックされてない右手でハルヒの頭をそっと撫ぜてやる これくらいしか出来なくてごめんな 何十分そうしていただろうか、背中にまわされた手の力が弱くなってる事に気がついた 泣き声も出していない。ハルヒの手をそっと離し顔を見てみる 寝てる 涙のあとがくっきりついた顔で寝てる。とても安心した顔で 寝てないって言ってたもんな。出来るだけ衝撃を与えないようにしてハルヒを抱き上げて俺のベットに寝させた ハルヒを抱き上げてみてとても軽い事に気付いた。やっぱ女の子なんだよな ハルヒは体を丸め、こちらを向きながら寝ている これ以上ハルヒの寝顔を盗み見する趣味はないので、俺は自分の部屋を出て居間に向かった 連絡しときたい相手もいたしな。トイレに入り携帯を見てみる 着信あり 12件 やはりな。その内1件は朝比奈さん、残りは古泉 気持ちはわかるんだがちょっとかけすぎじゃないか 俺は着信履歴の三分の一以上を占めてる古泉の名を見て、気分が悪くなった でも、かけてやるか 便器に座ったまま、古泉に電話した 「お待ちしてました」 おい、ワンコールで出るなよ。 「おまえに待たれてもうれしくないな」 「まあそう言わないでくださいよ。今朝、涼宮さんから電話がありまして、いきなり今日は中止だから、と言われまして。いつもならただの気まぐれだろうと思うんですけど、どこか様子がおかしかったものですから。あなたに連絡してみたんですけど」 「出なかった、か」 「そこで機関に連絡して、涼宮さんの事について色々調べさせてもらいました」 「あまりいい趣味とは言えんな」 「申し訳ございません。何分、あまりいい事態が起こってるとは思えなかったものですから。今涼宮さんはそちらにいらっしゃるんですよね?」 「俺の部屋で寝てる」 「そうですか」 「おまえはどこまで知ってるんだ?」 「ええ、涼宮さんのご両親の仲が最近あまりよくないことしかわかりませんでした」 「そうか。それで今大変なのか?閉鎖空間だかは」 「いえ、閉鎖空間は発生してませんよ」 「なんだと?」 あんなに不安げにしてたのにどうしてだ? 「あなたがこちらの心配をしてくれるのはうれしいですが、やはり何かあったんですか?」 「いや大丈夫だ。ハルヒが起きたら家まで送っていくよ」 「わかりました。少々心配したんですけどあなたがご一緒してるなら大丈夫そうですね。何かありましたら連絡ください」 「ああ」 「それとあんなに電話して申し訳ありませんでした。それではまた」 とは言ったものの、どうするべきか 古泉はあまり状況把握が出来てないみたいだし、あいつらしくない 朝比奈さんには今日あった事を伏せて電話しておいた。俺に話してくれたんだ、あまりベラベラしゃべるのはよくないよな 時計を見ると、もう4時を過ぎていた そろそろ起きてるかな、そう思い部屋に戻った まだ寝てるか、俺はベットによしかかり何か言ってやれることはないのか、必死に考えていた でも他人が夫婦仲に入って、何か言うのもなあ 「はぁ」 何も思い浮かばん。これ以上考えても駄目だな 俺はいつも通り振舞うしかないな。ハルヒに余計な心配かけたくないし それしかないな 色々と考えていたが『ガバッ』と音が聞こえるような勢いでハルヒが起きた 「ようやくお目覚めか」 ハルヒは俺を一瞥し周りをきょろきょろ見て 「あれ?あたし寝ちゃったの?」 「ああ、起こすのもかわいそうなくらいぐっすりな」 「そっか」 急に顔を真っ赤にして、俺から視線をはずした 「今何時?」 「8時ちょい過ぎだ」 「なんですって?……あたし何時間寝てたの?」 「8、9時間ぐらいじゃなのか?」 「そ、そんなに寝てたの?」 「ああ」 それから俺の方に向き直り、何かを決意したのか話し始めた 「今日は話を聞いてくれてありがとう」 なんと?聞いたことないぞそんな言葉 「あんたの言った通りね、全部話したらスッキリしたわ。もう涙が出ない位泣いたし」 「さっきはあんたに話しを聞いてくれるだけでいい、なんて言っといてあんなことしてごめ「そういえば他のみんなも心配してたぞ、いきなり不思議探索が中止になったから」 ハルヒが何を言おうとしてるかわかったから、わざと割り込ませた これが今俺に出来ることさ、これ以上ハルヒの口からそんなこと言わせたくないからな 「……そっか」 「他のみんなには何も言ってないから心配すんな」 「うん」 それからしばらくの沈黙が続いた 「あーなんか久々に寝た気がするわ。スッキリしたらお腹へってきちゃった、今日何も食べてない もの。そろそろ家に帰るわ」 「そうか。じゃあ送ってくよ」 「いいわよ、そんなことしなくて。一人で帰れるわ」 「駄目だ」 「何が駄目なのよ、でもどうしてもって言うなら許可するわ」 「じゃあどうしてもだ」 「仕方ないわね、じゃあお願いするわ」 少し元気が出たみたいだな それから家を出て、自転車で二人乗りしてハルヒの家へ向かった 最初の方、後ろに乗っているハルヒはどこも掴まないで黙って後ろに乗っていた 途中から俺の腰に手を回し、頭を背中に預けて、黙って乗っていた 俺はひたすらペダルを漕ぎ続けた 俺とハルヒは自転車に乗ってから、一言も話さなかった 30分ほど走っただろうか、ようやくハルヒが口を開いた 「この辺でいいわ。止めて」 「ああ」 「じゃあね」 そう言って走って帰っていった 帰り道、ハルヒは後ろに乗っていないのに足が重く、家まで1時間かかった 少し疲れたかな 家についてベットに倒れこむようにして横になり、テレビをつけた もう12時か、そろそろ寝るか そう思い寝ようとしたら、また電話があった ハルヒからだった 「キョン、ちょっと聞いてよ」 随分うれしそうな声だな、いい事でもあったのか 「なんだ?何があったんだ」 「さっき家に着いたら、二人して抱き合ってるのよ。意味わかんないわよ」 「それでね、仲直りしたの?って聞いたのよ。そしたら二人して『喧嘩なんかしてたっけ』なんて言うのよ」 「こんなに悩んだあたしがバカみたいじゃない。でね、どうしても喧嘩の理由が知りたいからしつこく聞いてみたの。そしたら、あたしの進路のことで揉めてたみたいなの」 「進路?」 「そうよ。大学に行かせるだの、なんだのって揉めてたみたいなんだけど、あたしの好きにさせる事で決着がついたみたい。あたしそれを聞いてイライラを通り越して、あきれたわ」 「でも今後こんなことはごめんだから、二人に正座させて今まで説教してたわけ」 俺はハルヒが親に説教してる姿を想像して笑ってしまった。いや親は見たことないけど 「何笑ってんのよ。笑い事じゃないのよ」 「ああ、すまん。それよりおまえは親にまで説教するのか?」 「当たり前じゃない。そんなことに親も子供も関係ないわ」 「おまえらしいな。でもよかったじゃないか、仲直りしてくれて」 「そうね、安心したわ。それより明日、あんた暇?」 「おまえが俺の予定をきくなんて珍しいこともあったもんだな」 「そんなことはどうでもいいじゃない、どっちなのよ。暇なの?」 「暇だが」 「それならもっと素直にはじめから言いなさいよ」 「おまえにだけは、言われたくないね。それで明日なんかあるのか?」 「明日の昼12時にいつもの待ち合わせ場所に来て。じゃあおやすみ」 切りやがった、俺はまだハイもイイエも言っていない気がするのだが しかし今日は何も文句はないね、良かったじゃないか いつも通りのハルヒに戻って 俺は心底安心していた 「はぁよかった」 次の日 いつもより遅く起き、適当に身支度を済ませ家を出た 15分前には着くだろう、俺にとってはいつもより早めだ なんとなく早く出たんだ、そこに深い意味などない 到着 そこにはハルヒしかいなかった、まあ予想はしていたが 「遅い、でも今日は罰金は無し」 「というか遅刻はしてないんだがな」 「いいからここに座んなさい」 そう言ってハルヒが座ってるベンチに座った 「今日は何なんだ?」 「昨日の話しに決まってんじゃない」 「もうあの話は終わったんじゃないのか?」 「詳しいことは全然話してないわ」 それからハルヒは昨日の出来事を話し始めた ハルヒは怒りながら笑い、笑いながら怒り、などととても器用なことをしながら話していた 俺は適当に相槌を打っているだけで話は頭に入ってこなかった とても安心していた、良かった元に戻って、今日はいつもよりさらに元気じゃないか だが、ここで一生の不覚をしでかしてしまった ハルヒは話を急にやめ、俺の顔を覗き込むようにして 「何で泣いてんの?」 「へ?」 驚いたことに俺の目からは涙が出ていたのである 「どうしたの?だいじょうぶ?」 「あ、ああ大丈夫だ」 目を軽くこすりながら、何で泣いてんだ俺、と思っていた 「どっか痛いの?」 「いやそういうんじゃない」 「でも、もう大丈夫なんだよね?」 「ああ」 少し話が途切れ、俺は恥ずかしいことを口にしていた 「たぶんな、たぶん安心したんだ。今日のハルヒを見て安心したんだ」 「え?」 「いつもの元気なハルヒが見れて、安心したんだ」 「そう、なの?」 「ああ、たぶんな」 「俺は昨日おまえに何も言ってやれなかった。おまえが苦しんでるのに気の利いたこと何も言えなかった。本当情けねーよ。昨日はごめんな」 「あんたバカじゃないの?」 「は?」 「あたしがあんたに話してどれだけ元気が出たと思ってんのよ。もしあんたに話してないで一人で抱え込んでたら、なんて考えるだけでぞっとするわ。あんたは黙って話しを聞いてくれた、真剣に、いつもなら変につっこむけど、そんなことなかったでしょ?」 「ああ」 「だからあたしに謝らないで。わかった?」 「わかった」 「よろしい」 「キョンにこの事、相談しなくてもこの問題は解決したと思うの。でもね今はあんたに話してよかったと思ってるの」 「どうしてだ?」 「わかんないの?」 「わからんからきくんだろうが」 「はぁ本当にあんたってあれよね」 「あれってなんだ?」 「教えるわけ無いでしょ」 そう言って勢いよく立ち上がり 「でも、あたし、とても大切なことに気付いたから、今回は辛かったけど、良かったわ」 「何に気付いたって?」 「だーかーら、教えるわけ無いでしょ」 俺の手を取り走り始めた。俺の好きな笑顔で やれやれ ハルヒが気付いた事は結局わからなかったが 今回、俺が気付いた事とハルヒが気付いたことが、同じであると 俺はそう願いたい