約 2,288,101 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1601.html
おいおい、何なんだこれは…………… やれやれ、非常識な事に慣れたとは言えこれはパニックになるぞ。 俺は額に手をやり、ため息をついた。 朝、今日は妹のうるさい攻撃が無いなと思い。 やっとあいつも大人しくなったかと思って体を起こすと、毎朝見慣れている俺の部屋ではなかった。 かといって閉鎖空間っぽい雰囲気の学校に飛ばされたわけでもなく、 時間を越えたわけでもないし、別世界に行ったわけでもなさそうだった。 上の3つはまぁ、俺の希望的観測であるだけな訳だが。 目の前には見る限り生活感のない殺風景な部屋、俺が知る限りでは長門の部屋以外には考えられなかった。 なんで俺がこう皮肉臭く言っているのかというのであれば、体がどうもその部屋の主の姿になっているようだったからだ。 そう、俺は長門になってしまったらしい。 俺が長門になっているなら、俺はどうなっている。 そう思った俺は、学校に登校することにした。 どうやら長門は制服のまま寝ていたようで、着替える手間がかからなくてありがたかった。 学校に着いた俺はすぐさま、俺がいるはずの自分のクラスへ足を向けた。 教室をのぞくと、その席は空席のままだった。 教室で話しているやつを捕まえて、聞いてみたが 「まだ来ていない」との事だ。 ついでにハルヒも来ていないかと聞いたが、同様の返事が返ってきた。 とりあえず、この状況を打破したい俺は教室から背を向け。 その足をいけ好かない笑顔の超能力者のいるクラスへ向けた。 1年9組に足を運んだ俺は、古泉がいるかと教室の入り口側に立っていたやつに聞いた。 「あー、古泉君?いるよ、ちょっと待っててね」 そういうとそいつは、古泉くーん女の子が呼んでるよーと叫びながら 古泉の場所へ向かっていった。 目の前に来た人物は、いつものへつら笑いをせず無表情のままであった。 それをみて俺はこの非常識な現象をあと3回見るのであろうなと盛大にため息をついた。 「お前は長門か」 「……………」 しばし沈黙の後、ある意味もう見ることのできないであろう 無表情の古泉はこくんと頷きこう言った。 「…………そう」 「とりあえず、昼に部室に行こう ほかのやつらもどうなっているかわからないしな」 「……………」 古泉の姿をした長門は、もう一度頷きおそらく古泉の席であろう場所へ戻っていった。 それを見届けた俺も長門の教室へ行き、教えてもらった席へ座り一通り授業を受けた。 幸か不幸か、普段から無口な長門の振りをしたまま授業を受けるのはそう難しくなかった。 授業の合間の休憩時間にもクラスメートから話しかけられる事は皆無だ。 休憩時間中に自分のクラスに行きたい衝動に駆られたが。 時間が短いこの時間ではやれる事も少ないので、昼休みまで俺はじっと我慢をした。 4時間目のチャイムが鳴り終わったあと、席を立ってすぐさま部室へと足を向けた。 長門ととりあえず話をするためだ。 まぁ他のメンツにも異常が起こっているなら、部室へ来るだろうと思ったのもあるわけだが。 部室を開けようとドアノブに手を触れようとした時こちらに向かって走ってくる人物がいた。 朝比奈さんだが、何かが違う。 「有希~~~~~!大変よ大変!!」 大変と言いつつもその目はキラキラと輝いている、この顔をする人物を知っている。 「あたし、みくるちゃんになっちゃったみたい!! もしかして、有希も違う誰かになったりしているの!?」 息を弾ませながら、こちらを見る。 たしかに、朝比奈さんはこんなハイテンションにならないからな。 こんな朝比奈さんを見るのも、おもしろいがそれではダメだ。 俺の朝比奈さんはおっとりしてて、ちょっとドジで、ほんわかとした笑顔を振りまいてくれる朝比奈さんじゃないといかん。 ハルヒ……………、お前は朝比奈さんになったんだな。 「って、キョン~~~~~!?」 朝比奈さんの姿で絶叫した声は、外で歩いている人物がビックリするほどの大きなものだった。 「なんでこうなっちゃったのかしらね!!」 「キョンと私と有希が入れ替わったって事は、古泉君とみくるちゃんも変わったかもしれないわね!」 「そうだ!みくるちゃんの格好だし、コスプレしてみようかしら!」 etc、etc……… 弾丸のように朝比奈さんの声で、俺の耳に入ってくる。 長門は姿が変わっても、部屋の隅で本を読んでいる。 古泉の姿でやられるのは、不気味とも思えた。 やれやれとため息をついていると、ガチャと扉が開いた。 入ってきたのは妙におどおどしてなみだ目のハルヒと、いけ好かない笑顔をしている俺だった。 「ふぇぇ………、一体どうなっているんでしょう」 泣きそうなハルヒ、いや朝比奈さんか。 一生で見られるか見られないか判らないような珍しい光景を今日一日で一生分見たような気がしてきた。 「いやはや、これは5人が入れ替わってしまったみたいですね」 俺の姿をした、古泉は笑顔を崩さずにそう言った。 どうでもいいが、俺の顔でそんな顔をすると気持ち悪いからやめてくれ。 「おやおや、と言われてましても困りましたね」 「そんな事どうでもいいじゃない!! いまはどうやって元に戻るのかが大事よ! みくるちゃんの体もいいけど、やっぱ自分の体が一番だしね!」 と会話しているところに、ハルヒが大きな声でみんなを制す。 「おい、これは一体どういうことなんだ」 俺は小声で古泉に話しかける。 「さぁ、僕にはわかりかねますが。 おそらく何か外因的な要素の所為で入れ替わってしまったんだと思います」 俺はその外因的な何かが何なのかと聞いているんだが。 「詳しい事はわかりません、涼宮さんが願ってしまってこうなったのかもしれませんし。 精神を入れかえてしまって、涼宮さんの能力を無効化してしまおうと情報思念体の急進派が行ったことかもしれません」 俺は本を読んでいる、長門の方に体を向けた。 「お前はこの現象はどうなのか説明できるか?」 「……原因不明。 情報思念体とコンタクトも取れない」 じゃあ俺が取れるってか? 「おそらくそれも不可能………。 長門有希としての個体能力は、一般人並になっている。 そのため情報思念体としての能力は使えない」 「なるほど、長門さんの精神を別の固体に入れることで能力を封印させているわけですね」 古泉がそれに返答をする。 長門なら何とかしてくれると思っていたんだが、この分だと古泉の超能力にも朝比奈さんの力も使えないんだろう。 その事実に俺は愕然とした。 「何こそこそ話してんの!! とりあえず、ここでグダグダやっていても仕方ないし放課後にもう一回集合しましょ!! じゃあ授業終わったら、みんなここに集合ね!」 わくわくした様子のハルヒがそう言って、みんな部室を後にした。 とりあえず午後の授業を受けて、今後のことを相談するんだそうだ。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1829.html
今日は土曜日、一日中寝ていても怒られないわ明日も休みだわ最良の一日。 昼まで爆睡していたかったな。 何故過去形なのか知りたい方がおらっしゃるでしょう。 今俺はハルヒの命令でサッカーの試合に出ているのです。 元はハルヒだけが呼ばれていたらしいが一人が嫌なのか 例のごとく団長から招集がかかり、我がSOS団全員が参加することになってしまった。 ついでに地元サッカーチームなので途中参加はOKらしい、 ハルヒ「今日は絶対に勝つわよ!勝たなきゃ死刑だからね!」 キョン「別にいいだろ、俺はさっさと帰りたい訳だが・・・・」 ハルヒ「馬鹿言ってるんじゃないの!助っ人なんだから勝たなきゃ意味ないでしょ!」 野球の例があったので手っ取り早く長門に超能力を使ってもらい 俺達はアッサリ勝利することができた。 試合も終わったが俺は帰ることができなかった。 何故かって?それは・・・・・・ ハルヒ「肉やけたよ!」 というわけで俺達は勝利祝いとして地元サッカーチームの皆さんと バーベキュー大会に参加させてもらった。 たまにはこんなことがあってもいいよな。 ジダン「楽しんでますか?」 キョン「ジダンさん!」 ジダン「監督でいいですよ、皆さんもそう呼んでいますから」 ジダン「どうです?美味いですか?」 キョン「ええ、」 ジダン「ハルヒちゃんは、なんとなく奇跡を起こしてくれそうな気がするんです。」 監督、あながち間違ってないぜ ジダン「そこで時々チームに助っ人として参加してもらってるんですよ」 ジダン「実は彼女、ストーカーにあっているみたいなんです。」 キョン「えっ!?」 ジダン「皆さんには内緒にしておいたみたいなんですが、」 ハルヒにストーカーか・・・、物好きな奴がいるもんだな そういやハルヒだとすぐに俺達に助けみたいなのをだしそうなもんだが・・・ ジダン「彼女も女性ですよ、そんなこと言えるはずがないでしょう」 よかったなハルヒ、女扱いしてくれる人がいて ジダン「私はこのあいだ彼女がストーカーに追われて隠れて泣いているとこを見つけました。 その時彼女はずっと『・・・キョン・・・助けて・・・』って言ってましたよwww」 さっき食った肉が吐きそうになった。 まっさかハルヒがそんなことをいうはずがねーよ・・・な? ジダン「キョン君、ハルヒちゃんを守ってあげて下さいねwww」 監督、残念ながら俺はハルヒなんかに興味はない、・・・・多分 しかしハルヒの脅える姿、見てみたい気もするな・・・ 様々な謎?を残してバーベキュー大会は終了、SOS団も解散、 楽しいと言えば楽しかったし、どうせ家でだらけてたはずだし、 まぁたまにはいいかな、貴重な話も聞けたし、 不思議と俺の気分は晴れやかだった。 月曜日、珍しくハルヒが休んだ 火曜日、またハルヒが休んだ 水曜日、またハルヒが休んだ 木曜日、以下同文 国木田「涼宮さん、どうしたんだろう」 谷口「キョン、お前何か知らないのか?」 キョン「まったく、」 流石に一週間近く休まれるとこっちが調子狂う。 ハルヒの家は知らないし行ったら行ったで何か誤解されそうな気がするし、 長門にでも聞いてみるか・・・・・・ 放課後、部室に行くといつもどうりの長門と少し焦った感じの古泉がいた。 古泉「キョン君、大変です。ここ一週間、閉鎖空間が発生し続けています。」 キョン「ふーん」 古泉「他人事みたいですね、まぁいいです。 なにか原因を知りませんか?」 キョン「俺が知るわけないだろ、」 そういや、監督がなんか話てたっけな・・・・ ストーカー・・・・・・ あ、ストーカーね。大変だなぁ。 と言っている場合ではない。 古泉「なるほど、では早くストーカー事件をを解決しないと 僕達も大変なんですよ」。 いわれなくてもわかっている。 しかしどうしたものかね・・・、携帯も繋がらないし 金曜日、学校に一人のいい男がやってきた。 雷電「そこの君、涼宮ハルヒさんを知らないかい?」 なんだこいつ、なんかイライラする これは嫌悪感ってやつかな、 教えたらなにか嫌なことがおこりそうな・・・・ キョン「いません。」 雷電「本当に?」 キョン「本当に」 何か隠しているんじゃないかって目で見られているが事実なんだから仕方ない。 雷電「んっふっふ じゃあまた伺いますよ」 なんだったんだあいつ・・・・・・ 来週の月曜日、やっぱりハルヒは・・・・・・いた。 流石に一週間休んでいたせいか、理由でも聞いているのだろう。 女子が集まっていた。 ハルヒ「別に何ともないわよ、ただの風邪よ」 とてもそうは見えなかったな、 心配させたくないのか説明するのが面倒くさいのか。多分後者だな。 放課後、部室にやってきた俺とハルヒ キョン「ハルヒ、いったい何があったんだ、教えてくれないか?」 ハルヒ「あんたには関係ないわよ!ほっといてちょうだい!」 キョン「ほっとけるかよ!俺はお前が心配なんだよ! 俺じゃ嫌なのか!俺には助けてほしくないのか!?」 ハルヒ「キョン・・・・・・」 ハルヒ「私、誰かにつけられてるの・・・・ 毎日毎日・・・もう・・・・いや・・・」 キョン「ハルヒ・・・・・・」 俺は始めてハルヒの泣き顔を見た こんなハルヒは見たくない。俺が、ハルヒを守る、ハルヒの笑顔を取り戻すんだ・・・ 下校時間、俺はハルヒが見えるギリギリの位置から監視することにした。 ハルヒはそばにいてほしいと言っていたが、 犯人を捕まえるために離れて行くことにする。 急にハルヒの様子がおかしくなる。 もしかして・・・・・・ あの服装・・・北高のサッカー部の奴か? 肌も黒い・・・だいぶしぼれたか・・・? 犯人の目星をつけていると、突然ストーカーが走り出した! ハルヒは路地裏に逃げた、馬鹿!その方向は追い詰められるのに! 5分ぐらい走ってから、泣いているハルヒを発見した。 いつもの姿からは想像できない顔だ。 キョン「ハルヒ・・・・・・」 俺は何を思ったのだろうか、 ハルヒを抱きしめた。 キョン「ハルヒ・・・・・・ごめん!」 ハルヒ「う・・・うわぁ・・・嫌!嫌!いやあああああああああ!」 えっ?ハルヒ、どうした?俺はただハルヒを・・・ 急にハルヒは嘔吐しはじめた、なんだ、俺、何か・・・・・・ ハルヒ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 そう言った後、ハルヒは気を失ってしまった・・・ 気を取り戻したハルヒに聞いてみると、 ストーカーに抱きつかれたトラウマからきた行動らしい。 そしてハルヒはハンカチを渡してくれた、 俺のでも、ハルヒのでもない、犯人のものだ、 一応長門に確認してもらうと、俺の、目星をつけている人物といろいろなことが一致した。 最初から長門に聞いておけば良かったな・・・・・・ そうそう、犯人の名前は 三 都 主 ア レ サ ン ド ロ 俺はハルヒを救う。簡単に。永遠に サントスを抹殺する。 そのためには方法がいくらでもあるそれこそ無限 の手段がある皮肉にもハルヒを救うため手段のほ とんどに資本を必要とするがあの男を抹殺する方 法のほとんどにまったくと言っていいほどの資本 はかからない最低限の投下資本であの男は抹殺さ れるのだ最低限の資本と釣り合う程度それがあの 男の命の重さの程度だったのだ凶器は金属バット でも拾ってあの男の家を襲う推定所要時間は25 分刺し違えるつもりなら秒にしてわずか1500 秒以内に遂行できるのだあの男がいかに生かされ ているかがわかる俺が決意してわずか1500秒 でこの世から追放されてしまう程度の存在なのだ 消えろ消えてしまえ そして死んでしまえッ! ハルヒの心を引き裂いたように 貴様の心臓を引き裂いてやるッ! 償えその血をもってッ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお と、ノリで言ってみたものの、バットで殺害した後は、どうしよう 長門に頼もう。 あとは山中にでも埋めて終わり。 これで、すべてが終わる! サントスは毎日トレーニングのため近くの山までランニングをしていると情報を得た。 好都合だ。まるで自分を殺してもらう為にランニングをしているようだ。 当日、俺と長門は山中で待ち伏せすることにした。 今は一月と寒い。長門も心なしか震えているように見えた。 長門「・・・・・・来た」 見間違いなんてあってはならない。 よく見ろ、あれは・・・・・・ サントスだ! 犯人を見つけた、 真っ先に体当たり。 体勢を崩したサントスを 俺は・・・・・・ 脳内の全不要情報を廃棄 目の前の男の殺害を最優先 執行、執行、執行 ハルヒを傷付けた。 逃がすものか。 そもそも貴様はどこから湧いてきたんだ? 貴様こそが異端間違い世界の支障 貴様は俺が抹消する。 終われ、終われ、 死に絶えろ!!! 死体の処理は長門に協力してもらった。 サントスの足跡、血痕、俺達に繋がる汗、指紋、凶器、 死体は深い穴の中にいれた。 これで、終わった。 終わったぞクソッタレ!! もう夜だ・・・・・・ 後はすべてなかったかのように、帰るだけか、 そうだ、帰りに喫茶店にでも行くか・・・・・・ 古泉「月の綺麗な夜だねキョンタン!」 クソッ、やっと帰ろうと思ったときに邪魔がッ! 古泉「長門さんと夜にどこに行っていたんですか?まさかラブh」 キョン「それはお前もだろ」 古泉「それはそうですね、そうだ、送って帰りますよ、もちろん長門さんも」 すると例のように見たことある黒いタクシーがやって来た。 家まで結構あるし、何かあるような気がするが、乗せてもらうとするか・・・・・・ 古泉は長門を先に下ろし、 今は古泉とタクシーの運転手の3人となった。 移動中、古泉がやたらとひっついてきやがる、 邪魔だ 古泉「何言ってるのキョンターン、せっかく二人っきりになれたのにぃ」 運転手がいるだろ 古泉「あの人はいてもいないようなもんだし~」 まぁそうだったな 古泉「ところでキョンたん~」 「死体、上手に埋められた・・・?」 なんで どうして こいつ どうする 殺してしまうか!? 古泉「ボケもツッコミも無いのかい?」 キョン「・・・・・・は?」 古泉「悲しいよキョンタン、いつもならそこでツッコミが入るのに・・・・・・」 冗談だったのか・・・・・・? クソ 最後の最後で・・・ なんという不運 キョン「すまんな古泉、送ってもらって」 古泉「僕とあなたは今夜、出会わなかった。」 は? 古泉「僕とあなたは今夜、出会わなかった。」 キョン「それでいいなら・・・そういうことでいいが・・・」 古泉「そうだよね、あなたにとってもその方がいいでしょう」 キョン「どうして、そう思うんだ?」 古泉「いちいちうるさいな、それくらい自分で考えられないのか?」 生かしておくべきではなかった・・・・・・ でも、遅い・・・・・ 手遅れだ・・・・ 事故にあえ、死ね、死んでしまえ 安心しろ、あいつは死ぬ、 あいつにふさわしい、無惨な最後を・・・ 公園で会ったいい男に、うしろから掘られてそのまま腸まで突き刺さって、死ね せっかくかっこよく決めたのに、死に方がギャグじゃねーか、 ハハハハ・・・・・・ ハハハ・・・・・・ ハハ・・・・・・ 朝? もう、3時か・・・・・・ 3時!? 流石にやばすぎるぞ。 いつもは妹が起こしに・・・ そういや修学旅行だっけ まぁいいや、休んだほうがいいだろうが・・・・・・ ハルヒ・・・・・・ 行くか・・・・・・ みんな・・・部活してる・・・ サッカー部・・・・・ 三都主・・・・・・ その時、俺は信じられないものを見た。 嘘だ、嘘だ、嘘だ なんで、サントスが生きているんだ? 俺は真っ先に部室に向かった。 キョン「長門!どうしたんだ!サントスが!」 長門「・・・・・・」 ハルヒ「・・・・・・」 あ・・・・・・、ハル・・・ヒ ハルヒ「サントスが・・・・・・どうかしたの・・・?」 キョン「いや・・・なんでも・・・ない」 俺は長門を何故か開放されている屋上へ連れだした。 キョン「長門!どういうことだ!なんでサントスが生きているんだ!?」 長門「わからない。予測不可能な事が起きた。」 まさか・・・・ キョン「俺は・・・ちゃんとサントスを・・・・殺したよな?」 長門「確認している。あなたは確かに執行した。」 じゃあ、何故・・・・・・? 放課後、ハルヒを家に送った後 俺は長門と共にサントスを埋めた場所に向かった。 キョン「ここだよな?」 長門「間違いない」 流石に土を掘るのは男の仕事だ。 ついでに前も掘るのは自分でした。 間違いない、この感触・・・・・・ キョン「長門、暗くなってきたから、明かりをつけてくれ」 光がさした。そして、招かざる客も発見した。 スネーク「待たせたなキョン、月の綺麗な夜だ」 キョン「ソリッド・スネーク!」 スネーク「雷電、ここなのか?」 雷電「ああ、ここだ」 なんでここに奴らが? なんの用だよ! スネーク「気にしなくていい、ダンボールだとでも思えばいい」 キョン「気にするな!?」 スネーク「ああ、こんな時間に、真剣に作業してるんだ 邪魔する必要はないからな」 キョン「遠慮します。」 帰ろうとしたところ、雷電と名乗る奴に俺は腕を捕まれ、 水溜まりに叩き付けられた。 雷電「続けるんだ。」クソッ!なんで俺がこんな目に・・・・・・ おかしい、土が固くなってきた。 こんな深く掘ったのかも怪しい。 スネーク「どうやらスタミナ切れらしいな、雷電」 俺はまた放り投げられ、雷電が掘り始めた。 雷電「スネーク、ちょっと見てくれ」 スネーク「どうした?」 雷電「排水管だ、そしてもう手応えがない。 これより深いってことはないだろう」 スネーク「掘り返す場所を間違えた、とか?」 雷電「いや、最初は掘り返す感触だった。」スネーク「なんだそりゃ、無駄足ということか?」 そういえばサントスは生きているんだった。 死体が出てこないのも普通・・・・・・か? 俺は何事もなかったかのように帰る二人を、 ただ、座ったまま眺めていた。 もう、手段などどうでもいい どうせ狂った世界なんだ 俺は処分したはずのバットを手にとった。 行こう、奴の、サッカー部に・・・・・・ なにか音がする。 風呂か・・・・・・ 北高には風呂があったのか 気になる。開けてみよう。 やはり狂った世界だった。 熱湯の風呂には、何故か彼女がいた。 キョン「ハルヒ!!!!!!!!!!!!!!!!」 ハルヒ「キョ・・・・・・ン!?どうし・・・・・て?」 キョン「そんなことより、すぐ冷やしてやるからな!」 俺はハルヒを熱湯から出して、部室にあった氷をもってきた。勃起している暇などない。 ハルヒ「キョン、ありがと」 キョン「それより、なんでサッカー部になんかいたんだ?」 ハルヒ「サントスに、連れて来られて・・・・」 あの野郎!殺してやる!必ず! ハルヒ「それよりキョン・・・いつまでこんな格好にしておく気?」 キョン「あ、悪い」 ハルヒ「もぅ・・・ SOS団の部室に行きましょう。コスプレ衣装で我慢するわ」 よくよく考えるとこれはセクロスフラグなんじゃね?と思った。 それだけ 幸いサッカー部から文芸部まで誰一人と会わなかった。 バスタオルの女ってだけでヤバいのに、 一緒に歩いているとなんかしたのかと誤解されるからな。 部室を開ける俺、中にはこれまた信じられない光景が映った。 長門が・・・頭から血を出して・・・死んでいる ハルヒ「嫌あああああああああユキイイイイイィィィィィィィ!!!!!」 まただ!なんで!なんでなんだよ! ハルヒ「・・・・・・ヒッ!」 急にハルヒが脅えた声をだす。 隠しておいたバットがさらけてしまった ハルヒ「ひ・・・人殺し!」 キョン「違う!俺じゃない!話を聞いてくれ!」 ハルヒ「誰が信じるのよ!あんたが!あんたがっ! もしかして・・・古泉くんもあなたが・・・・・・?」 キョン「古泉が・・・・・どうかしたのか?」 ハルヒ「公園で死んでいたのよ!肛門からバットを突き刺された変死で!」 えっ?それって・・・俺が望んだ死に方と・・・同じ? 古泉が・・・死んだ? しかも俺が望んだ死に方で? もしかして、スネークと雷電も? 説明しておくとあの時二人が帰った後、 俺は二人の死を望んだ。 スネークは変な二足歩行兵器に踏まれて死ねばいい。 雷電はウホッ大佐に掘られて死ねばいい。 と・・・・・・ ハルヒ「来ないで!人殺し!」 回想に浸っている場合じゃない。 ハルヒは立ち尽くす俺を突き飛ばし、屋上に逃げていった。 屋上についた。 ハルヒは隅の方でうずくまっている ハルヒ「来ないで!来ないで!」 キョン「違う!俺は、古泉も長門も!殺してなんかいない!」 ハルヒ「じゃあ!そのバットは何なのよ!」キョン「・・・・・・っこれは・・・・・・」 ハルヒ「ほら!キョンは殺人鬼じゃないの! どうしてよ! いままで一緒に、私と・・・・・・」 キョン「ハルヒ・・・・・・ 俺には、わからない、 でも、これだけは・・・・・・ 長門と古泉を殺したのは俺じゃない!」 ハルヒ「どうやって信じればいいの!? そのバットも、納得のいく説明ができるの!?」 キョン「バットが、怖いのか?なら、捨てるから・・・・・・」 俺はバットを屋上から投げ捨てた。 下に人がいたかもしれないが、知らん。 キョン「ハルヒ、もう怖くないだろ・・・? 話を聞いてくれるか?」 ハルヒは立ち上がり、 ゆっくりと・・・俺の方に向かってくる。 ハルヒ「ううん、キョンは悪くないの・・・・・・ 悪いのは、全部私・・・・・・ 私が、退屈しないことが起きてって望んだから・・・・・・」 忘れていたが、ハルヒにはそんな能力があったな、 もしかして、この事件の原因は・・・・・・ キョン「ハルヒ・・・・・・」 ハルヒ「キョン・・・・・・」 キョン「ハルヒ、実は俺、ポニーテール萌えなんだ」 ハルヒ「何!突然!?」 キョン「いつぞやのお前のポニーテールは、反則なほどに似合っていたぞ」 ハルヒ「何!?ちょっと!」 忘れたくなるような出来事を、俺はまったく違う状況でおこなっている。 まさか二回もハルヒとキスをするとは思わなかった。 ハルヒは何も言わずに、俺の目の前にいただろう。 世界が、変わっていく やはりここは閉鎖空間だったのか・・・・・・ これで・・・この狂った世界とオサラバだ・・・ フト気付いたが、何処からが閉鎖空間だったのだろう。 いろいろと思考を凝らしている内に・・・俺は・・・・・・・・・・・・ 気付くと、タクシーの中にいた。 見回すと、死んだはずの長門と古泉、 まったく、何があったかさっぱりわからん 古泉「ようやくおめざめですか? どうでした?3度目の閉鎖空間旅行は?」 キョン「お前・・・、知ってたんならもっと早く教えろよ」 古泉「教えに行ったのですよ、 でも侵入した瞬間、謎のいい男に掘られてしまいまして・・・・・ すぐに脱出したわけです。」 キョン「じゃあ、長門は・・・・・・」 長門「今回の空間は、私にも潜入できた。 でも、侵入した瞬間、すぐに意識が途切れてしまった。」 と、いうことは、閉鎖空間で見た長門は、本物の長門だったのか? キョン「ったく・・・・ ハルヒも厄介なことしてくれるぜ」 溜息と苦笑が同時にでた。 なにせ今回はハルヒの裸を見たし、いいことにしておこう。 そういやハルヒの身体って結構いい身体してたな・・・・・・ くだらないことを考えていると、古泉がいつもの笑顔で、くだらないギャグを言いやがった。 「ハルヒって・・・・・・誰ですか・・・・・・?」 ハハハ、何言ってやがる。 ハルヒだよ、涼宮ハルヒ。 この事件の原因の閉鎖空間を発生させて お前が神と崇めている奴じゃないか 古泉「今回の原因はあなたじゃないですか 時空改変能力をもっているのもあなたですよ」 what?は?え?何? キョン「長門、古泉のギャグに笑ってやれよ」 長門「冗談ではない。古泉一樹が話していることは、すべて事実」 本当か長門?それじゃあ涼宮ハルヒは・・・・・・ 長門「存在しない。あなたが造り出した、空想の人間」 ああ、なんだそうか、 じゃあ、涼宮ハルヒと過ごした、いままでは・・・・・・夢と同じってことか・・・・・・ うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ 「!! キョン君!どうしたんですか!キョン君!」 もう・・・どうでもいい・・・ 「長門さん!何かキョン君の意識を戻す方法は?」 俺には世界を変える能力があるんだよな・・・・・・ なら・・・新しい世界で・・・・ ハルヒと・・・一緒に・・・・・・ 「危ない。世界を新しく想像しようとしている。」 「そんな!また変えられたら、もう!」 「大丈夫、私がなんとかする。」 長門・・・・やめてくれ 俺は・・・・この世界には未練はない・・・・ 新しい・・・世界で・・・・・ 俺の世界を変える能力は消えた。 俺は、生きる気力を無くした。 もう、どうなってもいい。 あの世には、ハルヒみたいな奴がいるといいな 「駄目よ!死ぬなんて言ったら!」 この声は・・・・ハル・・・・・・ 古泉「僕です。さぁキョンタン!アナルギアをしましょう!」 今の俺には世界を変える能力はなくなったんだよな でも、ここでお前の存在を消してみるよ 俺 如 キ ニ 祟 リ 殺 サ レ ル ナ ヨ ? ひぐらしのなかないハルヒ 祟犯し編 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2847.html
ハルヒに昼休みに部室に来るように言われた。 その日、俺は授業中に熟睡していたせいで部室に出遅れてしまった。 俺が着いた時部室には俺以外のSOS団のメンツが揃っていた。 どうやらハルヒは手作りプリンを振舞っていたようだが、俺の分は無かった。 俺の分は寝坊の罰としてハルヒ自身に食われてしまったようだ。 そりゃないだろ。 「あんたが遅れてきたのが悪いのよ」 「・・・そうかい。」 ハルヒから漂うプリンの甘い匂いが俺の落胆を重いものにした 「今更何言っても無駄なんだからね」 「ならあえて言わせてもらおう。すごく食べたかった」 「悪あがきはみっともないわよ」 「今更なのはわかっているが・・・でも俺、実はプリン大好きだからさ・・」 悪あがき上等さ。わざと悲しそうな声と表情で言う俺。 本当にわざとなのかねと疑いたくなるほど完璧な声色だね。 対してハルヒは 「ふっ・・ ばっかじゃないの?」 お前、今一瞬目逸らさなかったか? 次の日の放課後 「先に部室行ってて」 用事があるらしいハルヒにそう言われ俺は部室に向かった。 部室に着く。不思議なことに誰もいない。おまけに誰も来る気配が無い ふと冷蔵庫を覗くと、とてもわかりやすいところにプリンが一つ 丁寧にスプーンまで置いてある。 食べてみる。とても甘くて美味しい 俺は夢中で、でもしっかり味わうようにプリンを貪った。 食べ終わった時に図ったようなタイミングでハルヒが部室に飛び込んできた 後で気づいた事だが後ろに他の3人もいたようだ。 俺が何か言う前に、必死に怒った顔を取り繕ってハルヒは高らかに言った 「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 「あ・・・ハルヒ。冷蔵庫にあったから食べさせてもらったぞ。旨かったぜ・・ものすごくな。」 「・・キョン?」 「罰金でも罰ゲームでもなんでもするさ。だからもう一回作ってくれないか。今度は・・」 「ちょっとキョン!」 「え?」 「ほら!遅刻するわよ!」 その瞬間、布団ごとひっくり返され俺はやっと現実に戻ってきた。 目の前にはハルヒがいる。エプロン姿が今日もよく似合っている そして俺は無様にもパジャマ姿で寝っころがっている・・・のはいいとして。 これは夢だったのか・・・。 懐かしい夢を見た。 あれは高2の出来事だったな。忘れかけていた日の思い出だ。 過去の出来事がそのままトレースされ夢で再現されるなんてなかなか無いんじゃないだろうか。 それにしてもかなり鮮明に思い出させてくれたもんだ。 あの頃の俺たちはまだお互い全然素直じゃなくて・・・ 「何ニヤけてんのよ。朝ごはんもうできてるからさっさと食べなさいよ。時間わかってるの?」 「え、うわっ もうこんな時間か!?」 薄々感付くだろうが俺はハルヒと結婚して共に生活している。 大半の人が妄想する理想の結婚生活をなぞったような幸せを俺はハルヒと共にしている。 ここまでくるのには本当に苦労した。が、まぁここでは割愛させて頂こう ちなみにハルヒの能力は健在で、古泉は相変わらず機関に所属しているし、朝比奈さんは未来へ帰ったものの、いわゆる仕事場が過去なのでしばしばこの時代に戻ってきてくれる。 長門も同様健在であり、SOS団は今でもたまに活動しており、年に数回同窓会のような感じに集まっている。 俺の苦労は今でも耐えない。むしろ今のほうが違う意味で苦労している。 高校のときは学校でハルヒその他相手に苦労していた。今では家でハルヒ相手に相変わらず振り回されている。 あの頃よりは少しマシになったが、俺を引っ張ろうとする力はまだまだ馬にも負けないくらいだろう。 まぁハルヒ相手の苦労は苦労でなく、一種の楽しみでもあるんだがな。 そして会社でもいろいろ苦労は耐えない。実はこっちの苦労の方が今現在は重い。 特に昇進試験なるものが迫っている今は更に体力と精神力を削られていたりもする。 「じゃあ、行ってくる。」 急いでハルヒお手製の朝食を食べ終えた俺は、靴をトントンと鳴らしながらドアノブに手を掛ける。 「行ってらっしゃい」 なぁハルヒ、信じられるか。 あんなに意地っ張りだったお前が、プリン1つ渡すことさえあんなに遠まわりするお前が、俺のために早起きしてご飯作って玄関まで送り迎えして・・・。 まぁそれを指摘したらお前は「何勘違いしてるの結局最後に火の粉が飛んでくるのはあたしなの」とか言ってごまかすんだろうな。多分。 だから俺は心の中でいつも呟いている。 『いつもありがとう。愛してるよ、ハルヒ』 俺はその日、普通に会社に行き、普通に帰宅した。 いつもと変わらない平日。毎日違うのにどこかテンプレートな日々。わかるだろう? テンプレートな日々。わかるだろう? しかしこの日から俺の生活の一部は変動することとなる。 次の日、再びそれはやってきた。 「ねぇキョン。あたし、もしかしたら願望を実現する能力があるのかも」 俺は最近のハルヒの様子がほんの些細だが妙なことを気に掛けていた。 まぁアイツの事だからどうせSOS団のサプライズな企画を練って俺を困らせようとしているに違いない。 そう思っていたのだが、ここ数日はそうでもないかもしれんと疑っていた。 たまーにだがハルヒはどこか遠くを見たり、険しい顔をしてボーっとしたりと俺はなにかの前兆を見定めてやや落ち着かなくなる。 そんなことをうっすらと考えながら休み時間になったわけだが、さておまえはいま何と言った? 「だから、あたしってひょっとしたら世の中を思い通りに動かせるかもって」 「アホ。そんなわけあるか」 そう言いながら当然俺は内心少し動揺していた。だってそうだろ? そうなんだから。 「あのなぁハルヒ、もしそうだったらおまえはとっくに、・・・宇宙人や未来人や超能力者と遊びまわってるだろうに。大体何でいきなりそんなことを言い出すんだ」 自分で言っていて違和感があるが、そんな様子を一切出さないように俺なりにがんばったつもりだが、ハルヒはそんな俺を見て一瞬顔を少ししかませた。 「・・・初詣に行ったとき、おみくじ引いたでしょ?あの時よ」 「ああ、あれか」 SOS団で初詣に行ったときに俺達はハルヒにひっぱられておみくじを引いた。 今年の命運だの大げさなことを言いいながらハルヒは真っ先におみくじ自販機に100円を投入してあっさりと大吉を当ててしまった。 どうでもいいが最近のおみくじは自販機なんだな。 朝比奈さんや長門や古泉はそれぞれそれなりの結果だったが、俺はというとハルヒと同じで大吉を当ててしまった。 古泉の白い歯付きのアイコンタクトを無視して偶然だと思いこんでいたのだが、そうではないらしい。 ハルヒのことだ。俺の今年の分の運を使ってしまえとでも思ったのだろう。 しかし今はそんなことを考えている場合ではない。 「おまえは物事を都合よく考えるタイプだからな、どう考えても偶然だろ」 「残念ね。もしそんな能力があったらあんたの望みも叶えてあげようと思ったのに。 もちろんSOS団の名が全銀河に知れ渡って世界の中心はあたしだということを世界中が認める正義の世の中になった後だけど」 どんな世の中だ。正義の意味をどこで教わったんだ。 ハルヒの誇大妄想を聞くうちに休み時間は終わった 。こいつの願望は宇宙人や未来人や超能力者や異世界人に会うとか地球を逆回転だとかフィクション現実化とか本当にそんなのばっかりだ。 勉強ができるなら少しは現実的な願望を持ってもいいだろう。 と、前まで思っていたが、最近になってからは俺はそうは思わなくなっていた。 あの夏の時点で気づかなかったことが悔やまれる。SOS団の目的はそれこそ宇宙人や(略)を探して共に遊ぶことだが、それは最初だけだ。不思議探索も今は名前だけだ。 訳は少し違うが古泉の言葉を借りると、これはわかってしまうのだから仕方が無い。 だから、今ハルヒが望んでいることは非現実的な出来事の襲来ではないと思っている。 俺はそう信じている。 放課後になり、俺の脚はプログラム通りに無駄なく部室へと進んでいった。 ハルヒは用があるから俺より先にどこかへ行ってしまった。 部室の前で俺はノックする。返事無し。何も考えずにドアを開けた。 中にいたのはハルヒ1人で、長門や朝比奈さんや古泉はまだ来ていなかった。 ハルヒはパソコンでいつもの如くサーフィンをしていた 「ん、おまえだけか。どこかに用があるんじゃなかったのか」 「別にないわよ。むしろ用があるとしたら、キョン。あんたによ」 なんとなく嫌な予感がしたが、ハルヒの表情は俺の予想とは違い少し虚ろになった。 ・・・が、すぐに顔を上げて尋問よろしく俺に詰めかかってきた。 「いつごろだったかは忘れたわ。でもSOS団を中心とした活動を振り返るとあたしの思い通りに世の中が変わってるとしか思えない出来事が沢山あるように思えるのよ・・・。 いえ、実際そうなんだわ。キョン、あんたなにか知ってるでしょ!?」 いきなりなんだこれは。勘がいいのは分かっていたがまさかこっち方面にまで及ぶとは。 ハルヒの言うことはまさに大当たり。どうする?休み時間のように大人しくそんなわけあるかと流し口調にするか・・・いやもうそれも危ない。 そうかもな、ととりあえず冗談話として肯定するか?・・・いや本気でそう取ったらと考えるともっと恐ろしい。 こうした脳内葛藤の結果、やっぱり冗談話のように軽くスルーしようと結論が出るまでの時間は1秒に満たなかったがハルヒとの心理戦はハルヒの勝利に終わってしまった。 「あのなぁ・・・」 「ふふっ、やっぱりね。」 「ん?」 「今のはデマカセよデマカセッ!自分の思ったとおりに世の中変えられるわけないじゃない。 なのにキョンったら必死にいろいろ考えちゃって、休み時間にも思ったけど、やっぱりあんたあたしに何か隠し事してるでしょ。」 こいつ、やりやがった。 そうしてハルヒは真に迫る奇妙な笑顔で俺を脅迫し始めた。 そんな大当たりのデマカセありかよ。ハルヒが知りたかったのは願望云々ではなく質問に対する俺の反応だったとは。 古泉とのゲームでポーカーフェイスを鍛えた俺でも筋書きは普通の男子高校生だ。動揺するなと言うほうが無理だろ? 「なによ。黙り込んじゃって、益々怪しいわね。まさか・・・」 そんなことを考えてる場合ではない。ハルヒがすぐそこまで迫っていた。(精神的に) まさかの後は考えるのも恐ろしいがその時既に俺の口は勝手に動いていた。 「・・・そうさ、流石だなハルヒ。もう隠せないな。確かに俺は重大な隠し事がある。」 「ふぅん。やっぱりね。言ってみなさいよ」 不適な笑みで俺に問いただしてくるハルヒ。 そうやってお前はいつも俺から余裕を奪っていくんだよな。いろんな意味で。 だからよっぽど大事な隠し事じゃないとどうしてもすぐにばれちまうんだよな。 「でもな、人に言えない隠し事や悩み事を持つなんて誰にでもあることだろ?だから言えないな」 「何それ?ここまで焦らしておいて吐かない気?」 心配するな。どうせばれるんだから。 俺が最近になってやっと自覚した、悔しくて認めたくないけど、確かなこの想いをな。 「まぁそのうちわかるさ。お前にもな」 「何よその笑み!なんか腹立つわね、雑用のくせに鼻伸ばしちゃって。」 どうやら俺は笑っていたらしいぞ。 「あんたがそんな変な笑い方するなんて、こっちまでニヤニヤしちゃうわよ。」 お前だって徐々に変な笑みが浮いてきてるぞ。 「あーもうしょうがないわね。近いうち絶対に吐かせてやるんだから。」 どうやら俺は何らかの衝動を抑えているらしいぞ。 「こんな横暴な団長さんなのに、どうしてこんなに楽しいのかね。このSOS団とやらは」 少し経って呟いてみた。 こいつには毎度毎度驚かせられっぱなしだが、今回は久しぶりに度肝を抜かれた気がする。 「当然よ!あたしには願望を実現するチカラがあるんだからっ!」 ・・・・2回目だな。 気が付いたら俺はやっぱりベッドに寝転んでいた。 自分のプロフィールを確認しよう。 俺はハルヒと結婚して、会社で働いていて、四捨五入したら歳は30で。 うん、、よし。無意味だとは思うが分析してみよう。 これまた懐かしい日の夢だったな・・。 本当に自分の能力を知っていたかのような団長のお言葉が心地よく響く。 起きた時に自分が大層驚いてる実感が湧いてたのは夢の臨場感が普通じゃなかったからだろう。 随分これまた鮮明に蘇ってきたものだ。 俺の深層意識は昔と今を比べたがってるのか? いやそんなことはないね。今は今で昔は昔さ。 卵を焼く音が聞こえる。 もうそろそろ起きないとハルヒが起こしに来ちまうな。 夢の余韻に浸りながら、俺は寝室を後にした。 夕日が俺たちを綺麗に照らして、なんでもない会話が妙にドラマチックに聞こえる帰り道。 俺はハルヒと2人で坂道を下っている。 SOS団の次のイベントの企画に俺が参加することはなかなか珍しいのでちょっと新鮮な気分だ。 いつも古泉とかとひっそり俺を驚かす企画をしてるくせにさ。 言葉で表現しにくい感情が腹の辺りで蠢いている。 ほんの些細な事なのに、ハルヒと秘密を共有できたことが嬉しい。それだけなのに。 ただそれだけなのに な。 会話の内容は何故かあまり覚えていないが、すごく楽しかったことは覚えている。 何よりハルヒが何かを企んでいる笑顔を俺が占領できるのが嬉しかった。 この瞬間をを誰にも渡したくない。これからもこうやってハルヒを独り占めしたい。 と、一瞬でも思ってしまった俺。いやもうわかってるんだろ俺。 もう我慢できないんだろ? 気づいたらハルヒの家が見えてきていた。 どうやら俺はいつもの分かれ道を無視してハルヒの家の方角に来ていたらしい。 やれやれ・・何でこんなに時間が経つのが早いんだろうね。 「キョン?聞いてるの?」 「ん?あぁ・・いや・・・」 「もう、ちょっと目離すとすぐこれなんだから」 「なぁ・・ハルヒ。」 「何よ」 「俺の悩みを聞いてくれ」 自分で言うのもアレだが切り出し方が良いとは言えない。言葉はやっぱり重要だな。 ハルヒは俺の顔を見て、何?とでも言いたげに顔をしかめてきた。 なかなか切り出せない。でももう伝えたくてしょうがない。 口が半開きになったまま停止する。やっぱり怖い。だってハルヒなんだぜ? 葛藤は無言の時間となってハルヒに不安を与えていく気がして、それは嫌だと思った瞬間口が開いた。 「俺さ・・実はお前に惚れてるんだが。」 ・・・言えた。 もう少しだ。あともう一言・・・ 「もうどうしようもなく好きだ。好きなんだよ。ハルヒ!」 ベタな少女漫画でさえもっとマシな告白をするだろうと思った。 ハルヒは固まっている。 俺は次に来る言葉を予想せざるを得なかった。 いつぞやの谷口の言葉がフラッシュバックする。普通の人間には興味が無い。 急に後悔の念に襲われた俺は逃げ出したくなる衝動に駆られる。 俺がこうやってごちゃごちゃ考えている間はハルヒにとって数秒だったらしい。 こいつはやっぱり俺の予想斜め上をいった。 「ふふっ・・ 知ってたわよ」 ハルヒはクスクスと笑い始めた。 なんだって・・・ 「もうそろそろかなって思ってたりもしたのよ。あんたの考えなんてお見通し。」 今度は俺が固まる番だった 「そ。あんたの考えてる事なんて見てればわかるわよ。何でだか分かる?」 最後の一言を聴いた瞬間心臓が急にバクバクと暴走を始めた。 「キョン。あんたが好きだからよ。あたしも!」 「ハルヒ・・・!」 聴いた瞬間、これは間違いなく脊髄反射だろう。ハルヒを抱きしめた いきなり抱きしめられるのは予想外だったのか、ハルヒは驚いた様子だったが、やがて俺の背に手を回してぎゅっと抱き返してくれた。 柔らかい。ハルヒの髪から漂ういい香りも含めて急に全てが愛おしくなり、俺は更に力を込める。 この気持ちを伝えたくて口を開いたが、何故か素直に「ありがとう、ずっと一緒にいような」というような言葉が出て来なかった。 喉で言葉を彷徨わせているうちに、先にハルヒがぼそっと呟いた。 「言うのが遅いのよ。バカ。」 「実は最初にお前の自己紹介を聞いたときから言おうと思ってた。」 「ウソ。気づいたのだってわりと最近になってからなんじゃない」 「ほんとにお前はどうしてお見通しなんだよ」 「だから言ったでしょ?何度も言わせないの」 「わかってるさ。ハルヒ」 ハルヒの腕にもグっと力が入った。 ここでやっと思い出した。そういえばここはハルヒの家すぐ近くの道路だ。 いくら日が暮れた住宅街とはいえ、第3者が微かに視界に入っては消えていく様子を見るのも・・・ やっぱりちょっとマズイよな。 体制を改めてハルヒと向かい合う。いつもと変わらない距離なのに、凄く近くにハルヒを感じる。 俺は左胸をトントンと叩いた。 「俺のココを奪った責任、取ってくれよな」 「それ、あたしのセリフ。」 「お前でもこんなくっさいセリフ言うのか」 「うるさいわね。キョンあんた顔真っ赤。」 「む・・ハルヒこそ。耳まで赤いぞ。」 「そんなわけないじゃないっ!」 「ほら今赤くなった。」 以下略。 いつもじゃ考えられないやりとりだな。 でももう今日は遅い。ふと時計を見たら結構な時間になっていた。 「なんだか、別れが寂しいな」 「明日、また会えるじゃない。」 「ああ、明日朝迎えに行くからな。」 「ん、ありがとっ」 ここでハルヒはいつもの溢れんばかりの笑顔を見せてくれた。 これで俺に感情のコントロールをしろと言うほうが無理なもんだ。 ハルヒの頬に手を添える。 暫し無言で見つめあい、俺はハルヒの唇を塞いだ。 ここは部屋。俺の部屋。 首をひねればそこはベッドで俺は床に直接寝転がっている自分を発見した。 なんつー夢見ちまったんだフロイト先生も爆笑だぜ。 ・・・とかやっている場合ではない。 キスして現実に戻ってきたとはいえ、あの時とは何もかもが違う。 自分の頬を触ってみる。熱い。今鏡を見たら間違いなく赤面した間抜け面が映るだろう。 ああ、今じゃ絶対出来ない恥ずかしい告白をしたんだったな・・・俺は。 夢なのはいいんだが、やっぱり妙にリアルなのは少し困る。 起きた時の布団を抱きしめて顔を埋めてる格好はハルヒに見せられんからな。 さて、3日目である。 3日連続でハルヒとの懐かしい思い出が夢で再現された。もう偶然とは思えない。 偶然じゃない=ほとんどハルヒの仕業 が方程式だが、今回もハルヒの仕業だとすると、それはハルヒがなんらかの理由があって俺に毎晩夢を見せているということになる。 でも俺が言うのも変かもしれないがハルヒは別に今の生活に不満を持ってそうにも無い様子なんだよな。今の生活は関係ないか。 やっぱりハルヒの考えていることはわからない。 直接聞くか? いやもう少し様子見か? ・・・やっぱりもう1日様子見しよう。 今日で終わるかもしれないからな。 涼宮ハルヒの糖影 承へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4702.html
涼宮ハルヒのOCGⅠ いつもの通り、SOS団は平凡な日常を送っていた。ハルヒはパソコンの前でマウスをせわしなく動かしながら何事かやっていて、長門は黙々と読書、朝比奈さんは最近買ってきた茶の葉についての本を読んでいる。というか朝比奈さん、そんなに一生懸命お茶について勉強しなくてもいいですよ。 ちなみに俺と古泉はいつもの通りゲーム・・・といっても最近はカードゲームだ。小学生の時に流行った○戯王ってやつでな、オセロやチェスにもいい加減飽きたのでここ2週間ぐらいはこれをやってるというわけだ。 「では、手札から緊急テレポートを発動します。デッキからクレボンスを特殊召喚して、フィールドの星3モンスターとシンクロ、マジカルアンドロイドを特殊召喚します。」 おっと、そうはさせるか。特殊召喚時に奈落の落とし穴を発動するぞ。何かチェーンはあるか、古泉。 「残念ながらありません。カードを一枚伏せてターンエンドです。」 そうか、なら俺のターンだな。えー墓地には風属性が2体、闇が3体・・・と、いけるな。墓地の風闇を除外して手札からダーク・シムルグを特殊召喚、んで手札からハーピィクイーンを通常召喚、魔法カード死者蘇生を発動、対象は古泉の墓地のクレボンス。6シンクロで召喚するのは・・・氷結界の龍、ブリューナク。手札を一枚コストにしてその伏せカードをバウンスだ。チェーンするか? 「いえ、残念ながらできませんね」 ならバトルフェイズ、ブリューナクとダルシムで攻撃だ、全部通れば俺の勝ちだが、どうだ? 「僕の負けです。いやはやあなたは強いですね。これで7連敗です。」 いやどうみてもお前が弱すぎるんだろ、古泉。というか構築が悪い。いくら自分が超能力者だからってサイキック族ばっかいれればいいってものでもないぞ。パイプ椅子によりかかりながら大きく伸びをしたとき、ふいに長門と目があった。読書は終わったのだろうか。珍しいこともあるものだ。どうした?長門。 「どういったゲームをしているのか気になった」 長門が気になるなんて珍しいな。コンピューター研との勝負の時もそんな雰囲気をまとってたっけか。ルール教えてやるからやってみるか? 「そうする」 長門に説明している(といっても30秒ほどだが)と、いきなりハルヒが声をかけてきた。どうやらこいつにも長門が何かに興味を持つことは珍しいと感じたらしい。 「有希が興味持つなんて珍しいわねえ・・・。ねえキョン、古泉君。あたしにもルール教えなさいよ」 今俺は長門に教えてるんだ。古泉、任せるぞ。 「承知しました。では涼宮さん、ご説明しましょう。まずこの山札をデッキといいまして・・・・」 まあハルヒも行動は常軌を逸しているが勉強はできるし頭もいい、10分ほどで大体把握したようだ。長門?俺が説明して1分ほどで終わったよ。俺がわざわざ説明する必要あったのかね。 ハルヒと長門がデュエルをしてる様子を(デッキは俺と古泉のを貸してやった)朝比奈さんのお茶を飲みながら眺めていた俺と古泉だったが、どうやら長門だけでなくハルヒも○戯王にはハマったらしい。結局今日は朝比奈さんに時間を言われるまで誰も帰ろうとしなかったな。 「あ~あ、もっといろんなカードないのかしら?古泉君、○ナミの知り合いっていたりしない?」 学校からの帰り道、ハルヒが不満そうな顔をしながら言った。ちなみに今日古泉の(構築目的不明の)デッキを使っていたのはハルヒだ。 「残念ながらすぐには思い当たりませんね。今日帰宅したら調べてみます」 さすがに機関といえどもカードゲーム会社の伝手はなかったようだ。まあそりゃそうだわな、高校生にもなった俺たちが今更カードゲームをやるなんて誰も思わんだろう。 「あたしも今日帰って少し調べてみようかしら」 しかし本当に珍しいな、ハルヒが突発的に何かに興味を持つのは珍しいことではないが、大抵は一日かそこらで終わるものだ。この調子だと明日も放課後はデュエルになるかもな。 翌日、掃除当番+岡部の呼び出しでかなり遅めに部室に行った俺は驚愕した。部屋の片隅には山のようにダンボールが積み上げられ、机の上には大量のカード、そして奥ではハルヒと長門がせわしなくデュエルを続けている。 「いくわよ有希!剣闘獣ラクエルとベストロウリィをデッキに戻して、剣闘獣ガイザレスを特殊召喚! フィールド上のライラとガロスを破壊するわ!何かチェーンある?」 「ない」 「じゃあガイザレスでダイレクトアタック!」 おいおいなんだこの異様な光景は。朝比奈さん、いったい何がどうなったんですか? 「えーっと、昨日古泉君の機関に、カードを大量に売りたいって人から電話があったらしくて・・・」 それでここにあるのは全部そのカード、というわけですか。まあ新品じゃないから傷ありのものが多いがそれでも一枚数千円するような代物もある。 「長門さんが情報操作で作ったカードも半分くらいはいってるみたいです」 長門、それはどう考えても情報操作の無駄使いだぞ。 「私のターン、メインフェイズに手札から大寒波を発動。チェーンは?」 「ないわ」 「そう。墓地のライトロードはライラ・ライコウ・ルミナス・ガロスの4種類、手札より裁きの龍を特殊召喚。効果発動、1000ポイントのライフを払い、このカードを除く全てのカードを破壊する。」 ハルヒも長門も昨日ルールを覚えたやつとはとても思えないほど、デッキ構築もプレイングも向上している。いったいどうやったら一日でこんなに上手くなるんだ? 「二人とも、昨日は遅くまで調べてたらしいですよ」 朝比奈さんがお茶を淹れながら言った。やれやれ、そんなに面白かったのかね昨日のデュエルは。 「おっと、あなたもいらしていましたか。」 部室のドアをあけながら片手にダンボールを抱えた古泉が入ってきた。朝比奈さんから聞いた話だが、あれは本当なのか? 「ええ、我々の方でも想定外でしてね。機関の方で把握できなかった動きとなると、やはり涼宮さんの能力、ということになるんでしょうね。」 なにがやはり涼宮さんの能力、だ。というか機関はこんなにカードを買って財政的に大丈夫なのか。 「去年の孤島での費用の二十分の一です。安いものですよ」 古泉はニヤニヤしながら言った。ダンボールの中身はデッキケースとデュエルフィールドだったらしい。 「どうです?あなたもデッキ構築しますか?」 ああ。悪いがやらせてもらうぜ。ハルヒの能力が俺にプラスに作用することなんて滅多になさそうなんでな。 「あ、キョン君。デッキ組んだら私とやりましょうね?」 え、朝比奈さん。未来でもこんなことやってるんですか?というかデュエルできるんですか? 「この時間軸の何倍も流行ってますよ。それ以上は・・・禁則事項です」 朝比奈さんの言うとおり未来でも○戯王が流行ってるとしたらどんな風にやってるんだろうか。まさかバイクに乗って・・・・そんなわけないか。 「死者転生を発動。手札を一枚捨てて墓地から裁きの龍を回収。召喚条件を満たしているので特殊召喚。起動効果、コストを払って全体除去を・・・」 「甘いわ有希!効果発動したときに罠発動!剣闘獣の戦車」 「・・うかつ」 ハルヒと長門は相変わらず白熱している。まあ、たまにはこういうのも悪くないかもな。よし、朝比奈さんやりましょうか 「はあい。」 END
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5164.html
「涼宮ハルヒの歓喜~サンタが町にやって来た~」の続編です。 12月25日。今日が本当のクリスマスだ。 しかし、町は気の早いもので華やかな装飾は剥がされ始め、 次は正月へと向けて彩りを変えている。 学校も明日から冬休みに入る為、終業式という事で学校に来たのだが、 「う~…」 どうやら俺はサンタのトナカイ探しやらパーティーの後の一件で 雪の降る真冬に外をウロウロ歩き回ったせいで 少し風邪を引いてしまったらしい。 しんどい…咳が止まらない…休めば良かったかも。 しかし、熱っぽいのはそれだけが理由ではないだろう。 クリスマスが終わったというのに俺は未だに浮かれ気分が抜けない。 昨日の夜は結局、眠れずじまいだった。 一晩中、落ち着かなくてモソモソと動いていた。 とうとうやっちまった…俺はとうとうやっちまったのだ…あのハルヒに… いきなりあんな事やるなんてあの時の俺はどうかしちまってたのか!? いきなりハルヒに抱きついて、今でも思い出すと 恥ずかしくて顔が真っ赤になりそうな台詞吐いて、 手を繋いで…やばい、また熱が出てきた。 その後、結局ハルヒを家に送り届けるまでの道で 2人共、照れと恥ずかしさでお互いまともに顔を見る事も 言葉を交わす事さえも出来なかった。 別れ際の「おやすみ」が精一杯だった。 俺はどんな顔してりゃ良いんだ? ハルヒはどんな顔して後ろの席に座るのだろうか? 緊張してきた…やっぱり今日は学校休めば良かったかも。 昨日の夜は全っ然、眠れなかったわ…。 どんな顔して学校行けば良いのよ? 普通に「おはよう」とか言って席に着けば良いかしら? でも、それだと何にもなかったみたいに受け流す冷たい嫌な女だわ… かと言って今更、可愛い子ぶりっ子なんて出来ないし!したくもないし! あぁ!!もう!!こんなの中学までで散々慣れてたはずなのに! なんでキョン如きにこの私がここまで悩まなされきゃいけないのよ! 雑用係のくせにいきなり団長様を抱き締めてくるとか反則よ! キャラ崩壊の危機だわ! とりあえず、今日は早めに学校行って絶対、キョンより先に席に着かなきゃ。 やっぱり何事も最初が肝心なのよ! イニシアチブは常に私が握っておかないと! 「あいつ…なんでもう教室にいるのよ!!」 早いわ!早過ぎるわよ!だってまだ7時半前よ! 全校生徒のほとんどがまだ来てないし、絶対に私が一番乗りだと思ってたのに! 教室に二人っきりなんて余っ計に気まずい空間じゃないのよ! 仕方が無いわ、とりあえず時間稼ぎに部室棟に…あっ…… 突然、教室の扉が開き、キョンと目が合った。目の前に立っている。 「おぅ…」 2人共、突然の事に驚いて固まっていたかと思うと咄嗟に視線を逸らした。 「あの、その、何だ……」 「……な、何よ?」 黙ってないで何か言いなさいよ! 「い、いや…お、おはよう…」 「おはよう…」 「…ちょっとトイレに行ってくる!」 キョンは廊下に出てトイレの方へと歩いて行った。 びっくりしたぁ~…何でいきなり出てくんのよ!?バカキョン!! びっくりしたぁ~…何で突然目の前に現れるんだよ!?ハルヒ!! でも、これで予想外とはいえ何とか挨拶は出来た。 これで少しは落ち着いて行ける!(はず…) 教室に戻るとハルヒはこちらに背を向けて窓の外の遠くの方を眺めている。 配置から考えるに俺の方から声を掛けないと行けない状況のようだ。 くそっ、やられた…せっかく朝に弱い俺が頑張って早くから学校に来て ポジションを先取してたのにトイレに行ったせいで攻守交代だ…。 席に座って待っているとキョンが戻ってきた。 やっぱりまだ恥ずかしくて顔を見る事が出来ない。 わざとらしいかなと思いつつ、頬杖をつきながら 窓の外の空から降ってくる雪を見ていた。 「今日は早いんだな」 あんたのせいよ! 「ま、まぁね…終業式だし、一年の最後くらいはきっちり締めたいじゃない!? あんたこそ、早いわね!」 「あぁ、そうだな…」 なんて可愛くない返事しか出来ないのよ!私! 2人しかいない朝の静かな教室に気まずい沈黙が流れる…… 突然、キョンが咳き込んだ。 「あんた、風邪引いてんの?」 「あぁ、ちょっとな」 「うつさないでよね、別に今日くらい家で寝ときなさいよ! どうなっても知らないわよ!」 違うわよ!私の馬鹿!そんな言い方無いでしょうが! 「いや、今日だけは何があってもちゃんと学校来たかったから」 え? 「いや、その…あの…昨日のあれ、な……」 そこまで言ってキョンは顔を逸らし、会話が途切れた。 「まさか、あんた、あんな事しといて冗談でしたとか言うつもり!?」 そんなのマジ、許さないわよ…。 「いや!違う!あれだ…それは何というか…逆だ…」 「逆?」 「昨日のあれな…あれ、本気だから。 それだけはメールや電話じゃなくて今日、ちゃんと直接会って言いたかったんだ。 そうしないとお前に怒られそうだからな」 「あ、ありがと…」 と、言うハルヒの俯きながら見せた、はにかんだ笑顔はすこぶる可愛く 熱に浮かれた頭と理性は吹っ飛びそうだった。 「なぁ、ハルヒ…」 「な、何?」 ハルヒは顔を上げ見開いた目をこちらへ向けている。 「今日、終業式出るか?」 「え?」 「いや、通知表も貰ったし、今日やる事って終業式くらいだろ? 学校サボって抜け出さないか?」 ハルヒが俺を無理矢理連れ出す事は何回もあったが、 俺からハルヒを引っ張り出すのは初めてのような気がする。 「サボってどうすんのよ?」 「なんか今日はハルヒと2人だけでいたい気分なんだ」 昨日の夜から何度もシミュレーションしてきたとは言え、 実際、口に出すと我ながらなんてキザな台詞だ… 「私は別に良いけど…でも、あんた風邪引いてるんでしょ!? こんな寒いのに外に出るなんて無茶したら…」 そういうハルヒの手と鞄を俺は有無を言わさず取り上げ、歩き出した。 「ちょっとキョン!どこ行くのよ!?」 そんなの決めちゃいない。 「今日は…デ、デートだ!!」 やっぱり今日の俺は相当、熱がある。暴走気味だ。 俺達は2人で何回、この坂道を行き来したのであろう? まだ生徒の数も片手で数えられるほどにしかいない坂道は雪で凍っていた。 足を滑らせないよう一歩ずつ踏みしめながら歩く。 ハルヒと2人で歩くなんて散々慣れていた事なのに今日はいつもと違う。 俺が前を歩き、ハルヒの手を引いている。 心臓が脈打ち、ただ一緒に歩いているだけで素直に嬉しい。 坂を下った所でハルヒが足を止めた。 「キョン!これからどうするのよ!?」 確かにここまで来ちまったが、さて、どうしよっかな? 「まだ何も決めてないが…」 そういうとハルヒは溜息をついて呆れたような顔をしている。 「あんた、本当に計画性のかけらも無いわね!」 お前にだけは言われたくない! ハルヒは鞄から昨日、俺があげた手袋を取り出し、はめていた。 「ほら!あんた、風邪引いてるんでしょうが!」 と、ハルヒは俺の鞄を無理矢理あさり、 昨日ハルヒから貰ったマフラーを取り出して俺の首を思いっきり締めてきた。 「く、苦しい、息が出来ないって!」 「いい気味よ!キョン如きが私に命令するなんて100万年早いの!だから罰よ!」 と、言うハルヒは俺に太陽のような笑顔を向けていた。 2人でこの道を横に並んで歩いていこう。 どっちが前でも後でもなく、2人並んで手を繋ぎ。 横を向けばあなたの顔が見える場所。 ここは他の誰にも譲りたくない指定席。 あなたの目が、鼻が、耳が、頬が、髪の毛が誰より近く見える場所――― ただ、雪の中を2人で手を繋いで歩いていた。 どこへ行くか、とか何をどうするかなんて目的がある訳じゃない。 ただ、俺はハルヒと一緒にいたかっただけ。誰にも邪魔されずに。 「ねぇ、キョン」 ハルヒはボーッとした顔で訊ねてきた。 「ん?なんだ?」 「あんたバスって乗った事ある?」 なんだそりゃ? 「そりゃあるに決まってんだろ」 「じゃあ、あのバスってどこまで行くか知ってる?」 ハルヒが指差す先には停留所に白いバスが止まっていた。 「さぁ?マニアじゃないから知らんな」 「じゃあ、乗ってみましょう!どこに向かうか探検よ!」 そんなハルヒの子供じみた思いつきはいつもの事だから驚きはしない。 むしろ、外は寒いからバスで移動するっていうのは悪い手じゃないな。 バスに乗ると朝にも関わらず誰も乗っていなかった。 人が集まる場所とは反対方向に走っているからだろう。 「空いてるな」 どこに座るかと考える間もなく、ハルヒは一番奥へとズンズン進んで行く。 「やっぱりバスは一番奥の席に限るわね!」 と、やたら嬉しそうな笑顔をしてドカッと座り込んだ。 「まぁ、奥は席が広いからな」 「あと、乗ってる人間全部が見渡せるのが良いのよね! この世の支配者~!って感じで!」 いや、それは意味が分からん…。 バスはゆっくりと音を立て雪の中を走り始めた。 揺れる度に隣に座るハルヒの細い肩がぶつかる。 バスが静かに動きを緩めて止まった。 停留所で誰かを乗せるようだ。 「さぁ、どんな面白い人が乗ってくるかしら?」 別に普通の利用客だと思うがな。 バスに乗ってきたのは老夫婦だった。ゆっくりと歩を進めている。 二人とも身体のどこかが悪いのだろうか? お互いがお互いを支え合うよう、補い合うようにこちらへと歩いてくる。 おじいさんの方が俺達に話し掛けてきた。 「おや?珍しい。この時間に人が乗ってるとはの」 「こちらどうぞ」 ハルヒは立ち上がって席を譲ろうとした。 「ありがとう。どう?一緒に座りましょうよ」 おばあさんは柔和な笑顔で俺達に促してきた。 「うちのばあさん、一番後ろの席が好きでな。 広いから夫婦で座っても誰か他の人とも一緒に座れるからって。 それが好きなんじゃよ」 俺達は席を詰め、おじいさんは優しく笑いながらおばあさんをそっと座らせた。 バスは再び、ゆっくりと走り始めた。 「君らのその制服、北高じゃろ?」 おじいさんは俺達に視線を向けている。 「はい」 礼儀正しいハルヒは久し振りに見た気がする。 おばあさんが笑いかけてきた。 「と言う事は終業式をサボって2人でデートね?」 「これ、ばあさん!」 見事にバレた…色々言われたら面倒だな。と考えた俺を見透かしたようだ。 「ふふ…大丈夫よ。私達も高校生の時にお互い授業や式を抜け出ししたものよ、 昔は見つかると大変だったけど」 おばあさんは昔を懐かしむように笑っている。 「このバスに乗っておるという事は港に行くんじゃな?」 港? 「終点じゃよ。最近は港にデートへ行くのが増えておるらしいからの。 よくある、そこで結ばれたら一生結ばれるだなんだの言う話じゃよ」 「私達の頃は何もなかったから2人でいるのに都合が良くて 港へ行ってたけど、時代は変わってるのね」 2人は笑っている。 「あそこで初めて結ばれた2人っちゅうのは恐らく儂らの事じゃよ」 「またその話ですか、おじいさん。いつも言ってるんですよ、この人」 恐らく、その噂や伝説を広めたのがこの2人なんだろう。 まぁ、生き証人が目の前にいる訳で嘘はついてないから文句も言えないが。 「喧嘩もいっぱいしたし、一生結ばれるなんてそんな可愛いものじゃないけど それはそれで悪くはない、楽しいものよ」 2人の幸せそうな笑顔を見ていると納得せざるを得ない。 「じゃあ、儂らはここで。席を譲ってくれてありがとう」 おじいさんは俺に意味ありげな視線を投げ掛けてきた。なんだ? 2人はバスを降りて行った。 「ああいう夫婦って良いよな…」 俺は何気なくぽつりと思った事を口に出しただけだったのだが… 「なっ、何言ってんのよ!?バッカじゃないの!?」 何故かハルヒは真っ赤になって怒り出した。 「でも、まぁ面白そうね!キョン!港に行きましょう!」 おいおい、まさかあんな伝説を信じた訳じゃないだろな? 「そういう伝説は見過ごせないわ!何かあるかもしれないじゃない! 不思議探索よ!ねっ!」 まぁ、時間を潰すには最適か、俺が引っ張り出した事もあるしな。 ハルヒがこんなにご機嫌になるなら断る理由も無い。 メールが来た。ハルヒと2人同時に終業式をサボったから また谷口あたりがからかいのメールでも寄越したんだろう。 無視だ、無視。 バスは静かに終点へ滑り込んで行った。 終業式も終わり、部室に足を運んでみると長門有紀の姿しか見えなかった。 「おや?長門さんだけですか?皆さんはどうされました?」 「朝比菜みくるは先程来室し、すぐに立ち去って行った。あとの2人は不明」 そうですか…彼と昨日サンタクロースに貰ったゲームをやりたいと 思っていたのですが、いないのでは仕方がありませんね。 「では、僕もここでしばらく時間でも潰しましょう」 港に着いて歩いてみると綺麗に舗装はされてあるが平日と言う事もあり、 誰も人がいないようだった。 きっと夜景が綺麗になる時間に人が集まって来るのだろう。 時折吹く強い潮風がハルヒの髪を巻き上げる。 「うぅ~…寒いわね!!」 何に対して怒ってるんだ? 雪が海に散りばめられる宝石のように落ちては消えていく。 「まぁ、景色としてはなかなかのものね!とりあえず合格にしといたげるわ!」 またハルヒは訳の分からない事を言っている。 寒さのせいで鼻水が出てきた…。 「汚いわね!!ほら、これ使いなさいよ!!」 ハルヒは鞄の中からポケットティッシュを出してきた。 「ありがと、これ貰って良いか?」 「好きにしなさい!!」 さっきから笑ったり怒ったり忙しい奴だ。 そういうハルヒを見てるのは面白いんだけどな。 「何、ニヤニヤしてんのよ!?気持ち悪いわね!!」 「ん~?いや、コロコロと表情が変わるから面白い奴だなぁ~と思って」 俺は今、意地悪な笑い顔になってるに違いない。 「う、うるさいわね!!」 ハハ…今度は真っ赤になって照れてる。本当に面白い、そして… 「…可愛いな」 お、今度は驚いて目を見開いている。 「バ、バ、バッカじゃないの!?あんた何!? さっきから私の事、馬鹿にしてんの!?あんまり調子に乗ってると…」 ―――!!! ハルヒのよく動く唇を塞いだ。 町の喧噪は消え、静かに降る雪も動きを止めた。 風の音だけが遠くで聴こえる。 時間が止まったかのようだった。 「……ちょっと調子に乗り過ぎたからまた罰金かな?」 「本当に調子に乗り過ぎよ…馬鹿…」 ハルヒは俺の手を握り締めたまま俯いている。 「もうちょっと雰囲気とかタイミングってもんがあるでしょうが… 本当にデリカシー無いわね、バカキョン…」 「ハハ…すまん。あと俺、風邪引いてるのすっかり忘れてた…ハルヒにうつるかもな」 ハルヒが抱きついてきた。 「もし風邪引いたら責任取りなさいよね…」 「そうだな、分かった。」 この笑顔をずっと守っていこう…俺はそう誓って 昨日よりも、もっと強くハルヒを抱き締めた。 「あと、ハルヒ……」 「……何よ?」 「お前の唇って柔らかくて暖かいな」 鞄で思いっきり殴られた。 新しく手に入れたボードゲームの説明書を読みながらゲームの研究をしていた。 彼にはかなり大きく負け越してしまってますからどうにかして 勝ちを積み重ねていかないと卒業までに逆転するのは難しそうです。 彼は僕の予想ではきっと人類史上、類い稀なるゲームの達人、 恐らく天才なのではないかと考えています。 まぁ、彼以外とはあまりゲームをやる事はないのですが…。 そういう意味では彼も涼宮さんに選ばれた特異なる人間の一人なのでしょうか? そんな事を考えていると携帯が鳴った。どうやらメールが来たようです。 機関から?閉鎖空間発生?彼らはどこへ行ったのでしょうか? また彼は凉宮さんに何かしでかしたのでしょうか? 「長門さん」 長門有紀は何かを察知しているのか、もうすでに僕の方へ視線を向けていた。 「もし彼らが来たら伝えておいて下さい。急なバイトが入ってしまいました、と」 「…了解した」 ハルヒは照れているのか俺の顔を全く見てくれない。 と言う俺も心臓が破裂しそうなのだが…。 気が付いたらお昼を過ぎていた。どおりで腹が減る訳だ。 どこかで昼飯でもと思ったが、終業式も終わってる時間だろうし、 途中で何か買って部室で食べようと言う事になった。 学校へ戻る為、バスが来るのを待つ停留所は寒い。 缶コーヒーを買って2人で手を暖め合った。 バスに乗るとハルヒはまた一番奥の席へとズンズン進んで行った。 よっぽど一番奥の席が好きなんだな…。 この時間帯は乗客もまばらで俺達の他には数人しか乗っていない。 ハルヒは俺の手の上に細く長い指を絡ませている。 車内は暖房が効いていて暖かい。 エンジンの心地良いリズムと揺れも相まってハルヒは眠気が襲ってきたのであろう。 俺の肩に頭を乗っけて眠りこけている。 子供のような寝顔だ。 かくいう俺も少し眠くなってきた…。 俺も少し居眠りしようかと考えた、その矢先だった。 大きな音と衝撃と共に目の前が雪化粧に包まれたように真っ白になった――― 大きな音と衝撃で目を覚ますとどっちが上か下か分からくなっていた。 キョンが私に覆い被さってきている。 「ちょっとキョン!いくら何でも調子に乗り過ぎよ! バスの中で私の寝込みを襲うなんて変態にもほどがあるわよ、エロキョン!」 キョンの体を突き飛ばそうとした。しかし、キョンからの返事はなかった。 「キョン……キョン?」 私の肩にキョンの腕がただ力なくぶらりと垂れ下がっていた。 ふと手に暖かい感触が残る。 血だった。 キョンが頭から血を流していた。 「嘘…いや…」 私はキョンにしがみついていた。 「嘘でしょ…冗談でしょ…やめてよ、キョン…ねぇ、キョン…」 自然と涙が込み上げてきた。人前でなんか泣いた事ないのに…。 「キョン!!!キョン!!!いやぁぁああ!!!!!!!!!!!」 私はありったけの大声で彼に向かって叫んだ――― 長門さんからのメールを見てズキンと胸に何かが刺さるような感触がして重くなった。 私が病院に向かうと彼らの家族、そして彼らのクラスメイトの何人かがいた。 キョン君の妹さんはキョン君の名前を呼びながら泣いている。 その中に長門さんと鶴家さんが静かに立っていた。 「みくる…」 鶴家さんは目を赤く腫らしていた。 事の詳細を訊ねると雪道でスリップした大型トレーラーが 彼らの乗っていたバスに突っ込み、バスが横転してしまったらしい。 その時にキョン君は頭をぶつけ、意識が無く現在、手術中だと言う事だ。 凉宮さんは精密検査を受けているらしい。 凉宮さんはキョン君が咄嗟に体を投げ出し、覆い被さったお陰で ほとんど無傷だったようだ。 精密検査を終えて出てきた凉宮さんはずっと 泣きながらキョン君の名前を叫んでいた。 凉宮さんの叫びが責められているようで胸に強く深く突き刺さる。 キョン君の手術は長引いた末に終わったようだ。 まだ意識は戻らず予断を許さない状態で集中治療室にいる。 私は…私には… 「ねぇ、キョンは…キョンはどうなったの?ねぇ、教えて!!」 私はひたすらに病院の廊下でそればかり叫んでいた。 それ以外に何も関心は無かった。 手術は終わったとは聞いた。でも、その後は誰も何も言わない。 キョンのご両親と医者がこちらへと歩いてきた。 お母さんの方が声を掛けてきた。 「あなたがハルヒさん?」 「はい、彼に……一目だけでも良いので彼に会わせて下さい!!」 キョンのご両親は医者の方へちらりと視線をやり、医者が頷いた。 「あなたも事故にあったのにこんな事頼むのもあれなんだけど 行ってあげてくれないかしら?」 キョンは眠っていた。 顔に傷も無いせいだろう、本当に眠っているようにしか見えなかった。 私は彼の手をそっと握った。 きっと私が無傷だったのはキョンが体を張って守ってくれたからだろう。 「ありがとう、キョン」 涙が溢れてきた――― その時だった。私の手をキョンの手がそっと包んできた。 キョンの目が静かに開く。 「キョン…キョン!!」 状況が掴めてないのかキョンは虚ろな目をしている。 「キョン!!」 こちらに視線を向けてきた。 「ハルヒ……」 私の涙がキョンの手に落ちた。 「ハルヒ、無事だったんだな……」 「…馬鹿。なんでこんな時まであんたは…人の心配する前に自分の心配しなさいよね」 私は無理して笑った。 「だ、団長命令よ…早く元気になりなさい… SOS団の活動はまだまだいっぱいあるんだから… それに…これからは…一緒に…2人で…」 私は声を出そうと思ったが、涙に遮られた。 「ハルヒ…」 「…何よ?」 「実は昨日の夜の…ドキドキであまり寝てないんだ……」 「…うん」 「だから、ちょっと寝かせくれないか…」 「…うん」 「…そんなに泣くなよ、笑ってるハルヒの方が俺は好きだぞ」 「…うん」 「おやすみ……ハルヒ…」 「おやすみ……キョン…」 2人は柔らかく、暖かく、そっと唇を重ねた……。 それは永遠よりも遥かに長い長い…一瞬の出来事だった―――― 私は…私には…止められなかった…。 分かっていても止める事は出来ないし、 止めてはいけない事だとも十分、承知していた…。 覚悟はしていた。でも…我慢出来ず、最後に一目だけでも会いたくて キョン君にメールをした…返事は来なかった…後悔だけが残る…。 自分の無力さに…そして皆で過ごした日々に…。 あれから三日後。 キョン君の葬儀を終えた私と長門さんは彼女の、凉宮さんの元へと向かった。 小泉君はあれ以来、姿を見せていない。 凉宮さんはキョン君の死が受け入れられず、まだ病院にいる。 治療室から運び出される時も彼の手を離すまいとしがみついていた。 凉宮さんの病室の前まで辿り着いたものの、なんと声を掛けようかなどと 入るのを躊躇っていると、声を掛けられた。 彼にいつもの笑顔はなく、暗く沈んだ顔をしている。 「小泉君……」 「先程、彼に会いに行ってきました。何というか…まだ実感が湧きませんね…」 「…私もです、小泉君はもう大丈夫なんですか…」 彼は寂しそうに首を横に振った。 「もはや世界は僕らの手の届かない状態になりつつあります。 大きく改変される事になるかもしれません。 機関の人間も様子を見守るしか出来なくなってしまいました…」 彼は彼なりにここ数日、大変だったのだろう。 キョン君や凉宮さんの事に思いを馳せつつ…。 「先程、彼のご両親からこれを預かってきました」 と、小泉君は封筒を取り出した。 「凉宮さんへの預かり物です。彼のノートに挟んであったようです」 僕ら3人で病室に入ると凉宮さんは重く暗く沈み、 ベッドの脇にある椅子に座って空を虚ろな目で眺めていた。 どうやら僕らの声は届かないらしい。 「これは彼から凉宮さんにあてた手紙のようです。ここに置いておきます」 窓際に封筒を置いて僕らは立ち去った。 凉宮さんに掛ける言葉も思い付かなかったからだ…。 凉宮さんの病室の前のベンチに座ると朝比菜みくるが静かに泣き出した。 「朝比菜さんは…」 誰もいない暗い病院の廊下に僕らの声が響き渡る。 「…この事実についてご存知だったんですか?」 朝比菜みくるは何も答えずにただ黙って頷いた。 「そうですか…だからクリスマスにサンタクロースが空を飛んでいる姿を 皆で見ようと提案なさったんですね…」 「…せめてこんな形になるとは言え、最後に皆で想い出を残したかったんです。 …私はこの出来事を見届ける為だけにこの時代に送られたと言っても 過言ではありません。それほど今回の事は未来においても重大な事なんです」 「…彼を助ける事は出来なかったんですか?」 言葉に出して酷い事を聞いてしまったと後悔した…。 助けられるものなら助けていただろう。その時、長門有紀が口を開いた。 「…これは彼の寿命。どういう形であれ、今年12月25日時点での彼の死は 確定していた。変更する事は不可能。例え、それは凉宮ハルヒの力をもってしても。 それはあなた達が一番よく理解しているはず」 これは長門有紀なりの僕らへの慰めの言葉なのだろう…。 「はい…今回の事は…未来では……き、規定……」 「朝比菜さん…」 僕は首を横に振り、彼女の言葉を遮った。 「少なくとも、僕らSOS団の人間にとって…… 彼の死は……決して、規定事項なんかじゃありません。決して……」 「……そう」 長門有紀は静かに頷いた。 12.24 ハルヒへ いきなり柄にも無く、手紙を書いてみようと思う。 何故なら、興奮して眠れないからだ! お前はどうなんだろうか?ハルヒ。 全く気にもせずに涎垂らしたアホ面で眠っているのだろうか? しかし自分自身でも不思議なんだ。 正直、お前に初めて出会った時は見た目はまぁ、悪くはないが、 頭の中身がぶっ飛んだおかしな女だとしか思っていなかった! 髪型も短くする前は時々、変だったしな。 それが新しく部活作るから手伝えってネクタイ引っ張られて階段の踊り場に 連れて行かれた時はカツアゲでもされてるような気分だった。 しかもSOS団なんて世の中の不思議を探す為とかいう妙な目的の元、 珍奇な集団を作って、俺は巻き込まれた感たっぷり。 でも、今は楽しい! 長門や朝比菜さん(まぁ、仕方が無いから小泉も入れといてやろう)、そしてハルヒ。 団長のお前がいてこそのSOS団だ。 お前がいるから楽しいし、面白いから俺もついつい部室に足を運んじまう。 最初は朝比菜さんと一緒にバニーガールの衣装で SOS団の勧誘ビラ配りしたり、(まぁ、あれはあれで悪くはなかったが…) コンピュータ研から無理矢理パソコン取り上げたり、 何の知識も無い俺にHPを立ち上げろと命令してきたり、 なんて無茶苦茶な奴なんだと呆れてばかりいた。 でも、考えたらハルヒと一緒にいる時はいつも笑える楽しい事ばかりだ。 皆で不思議探索をするのもなかなか見つからないが悪くはないし、 七夕に一緒に短冊作ったり 夏休みに孤島に合宿行ったり(夏休みは結局、ほとんどSOS団の皆で遊んでたし) 学園祭の為にSOS団の皆で映画作ったり(大喧嘩もしたが…) クリスマスには何故か鍋パーティーが恒例になったり、 雪山で遭難なんて事もあったな。 サンタが空を飛ぶなんていう不思議な事にもようやく巡り会えたし、 お前と過ごしているうちに俺のハルヒへの想いも少しずつ変わってきたんだろうな。 次は初詣か?俺の願い事はもう決まってるが教えないぞ。 人に教えたら願いが叶わないからな。 とにかく、これからももっと楽しいイベントが盛りだくさんだな! で、結局、俺は一体、ハルヒに何が伝えたいのかと言うとだな、 いきなり結論だが、昨日の夜、お前を抱き締めて言った事。 あれは本気だ。結構、緊張したがな。 そういや、ハルヒからのちゃんとした返事は貰ってないが、 何となく流れ的にOKだったのかな、と勝手に解釈しとくぞ。 だから、次のバレンタインチョコは義理じゃなくて本命でくれよな。 それともう一つ、ハルヒに頼み事があるんだ。 俺達、来年は受験生だろ? ハルヒがどこの大学に進むのか知らないけど、 きっと今の俺じゃ手も届かないような所だと思う。 だから頼む。俺に勉強を教えてくれ。 俺も頑張って1年でどうにかしてお前の成績に追いつくから。 だからハルヒ、一緒に同じ大学に行こう! そしてな、大学でまた俺達で新しいサークルを作ろう! その名も『SOS団』!!!! 悪くないアイデアだろ?問題は俺の成績なんだがな…。 これからまだまだたくさん楽しい事、笑える面白い事があるだろうし、 喧嘩をする事もきっとあるかもしれん。 だけど、これからもずっと宜しくな、ハルヒ!! SOS団・団員その一、兼雑用係のキョンより SOS団・団長様、そして世界で一番大切な恋人、ハルヒへ p.s.不思議探索の時の遅刻罰金制だけどな。 あれ、俺、一回も遅刻した事ないぞ。 皆、来るのが早過ぎるだけだ。あれだけは考え直してみてくれ。 枯れたと思っていた涙が溢れ出してきた…。 彼の深く、優しい想いが胸の中に流れ込んでくるようだった。 私も昨日の夜、眠れずに考えていた。 初詣のお願い事を…バレンタインにキョンにあげるチョコレートを…。 SOS団の皆でお花見行って…七夕には笹の葉飾って… 夏休みには合宿行って…海で泳いで… 学園祭では出し物やって… クリスマスには鍋パーティーやってプレゼント交換して… まだまだやりたい事がいっぱいあった…… なんでもっとあなたに優しく出来なかったのか… なんでもっとあなたの前で素直になれなかったのか… 後悔と寂しさの涙ばかりが頬を伝っていく…。 なんでもっとあなたと過ごす時間をかけがえの無いものだと大切に出来なかったのか… なんで…… ごめんね、キョン……そして、ありがとう、キョン…… 溢れる想いはもう言葉にならなくなった…… ただ、あなたと、もっと…ずっと…ずっと一緒にいたかった―――― The End 涼宮ハルヒの嫉妬へ続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5373.html
部室まで戻ったところで橘京子に、ここに超空間が発生していますと説明された。俺がそうかと適当に答えると橘京子は意外そうな顔をしたが、やがて黙ってドアノブに手をかけた。 感触を確かめるように少し回してから、後ろの俺を振り返る。 「では、少しの間目をつむっていて下さい。超空間に入ります」 俺が指示されたとおり目を閉じると、橘京子が俺の手を握った。ほのかな体温が伝わってくる。 その手に引かれて俺は一歩を踏み出した。痛くもかゆくもない。普通にドアを開ける効果音がして、そのまま部室に入っただけに思えたが――。 「これはこれは」 古泉の声で俺は目を開けた。握っていたはずの橘京子の手がいつの間にかなくなっていた。 俺が視線を自分の手から上昇させていくと、そこはただの部室でなかった。ああ、とか何とか声を洩らしたね。見たことのある光景だったからだ。 部屋の中のすべてが、クリーム色に染まっていたのだった。 どこもかしこも、窓の外さえも薄らぼんやりとしたクリーム色オンリーで、雲も太陽も青空も何一つ見えない。薄黄色の霧でもかかってるみたいだ。空気中の窒素に着色でもしたような錯覚を受ける。目眩がするほど懐かしい雰囲気がして、優しい空間だ。これは佐々木の閉鎖空間だと言われれば俺は何も迷いもなく信じ込んでしまうだろう。そのくらい、春に喫茶店で見た閉鎖空間と似ていた。 俺はそこにいる人間を見る。 いつものように足を組んでいる微笑みくん状態の古泉がパイプ椅子に座って俺を見ている。わずかに驚きの感情が含まれていなくもない。 「キョンくん……」 そして制服バージョンの朝比奈さん。口に手を当てて、ひどくびっくりなさった顔をしていらっしゃる。そうか、この二人もここにいたのか。そりゃ、オマケ以上に嬉しいサプライズだな。 そして――。 俺はそこにいるそいつの姿を頭から足までじっくりと見た。 「長門」 俺は吐息を洩らすようにその名を口にした。 窓辺の小さな人影。文庫本を手にしている万能宇宙人の女子。眼鏡をかけているわけでもなく、俺を見て驚いているわけでもなく、ましてやモップのような髪の毛を持ったバケモノでもない。それは、俺を一番安心させてくれる長門だった。 「何と言うべきか……。久しぶり、だな」 思えば先週の木曜以来会っていないから実に五日ぶりである。たった五日かもしれないが、俺には宇宙誕生くらい昔のことに思えるね。 「そう」 この耳に残らない機械的な声も懐かしいものである。長門は短く答えてから俺を凝視すると、また口を動かした。 「よかった」 よく意味の解らないようなことを言ってから黙り込む。古泉が横で愉快そうにしているのは気に食わんが、やっぱり本物の長門だ。 「長門、いきなりですまないが教えてくれ。いったい何が起こってるんだ。それにここはどこだ。いや、何なんだと訊くべきだな」 「ここは超空間」 長門はいたって簡潔に答え、 「この世界に存在する異時空間から情報を取り出して調合した。わたしたちは存在が消されているから肉体の維持は不可能だけれど、意識だけは別物。朝比奈みくる、古泉一樹も概念体としてこの空間に召喚した」 あー。 俺は朝比奈さんと古泉を見比べてどちらにしようかなを行い、古泉を選択して、 「古泉、解説してくれ。得意分野だろ」 長門の説明だけではさすがに解る気がしない。学問に長けた人間なら違うかもしれないが、あいにく俺の頭の成績は底辺あたりをさまよっているのでね。 古泉は、 「僕も長門さんから聞いた限りなのでうまく説明できるかどうか自信がありませんが」 と前置きし、 「まず大本から説明しなければならないでしょうね。なぜ僕たち宇宙人や未来人や超能力者がこの世界からいなくなってしまったのか。先週の土曜日、あなたと議論した問題ですよ。覚えていらっしゃいますか?」 どうやって忘れればいいんだろう。一字一句まで指定しなければ覚えてるぞ。 「上等です。どうやら、あの時僕がお話しした仮説は正しかったようですよ。もちろんあなたもとっくに感づいておられるでしょうが、周防九曜の仕業であるという仮説がね。おそらく何かの実験ではないかと僕は思っています。僕たちを世界から追放するために、ずいぶんと面倒なことをしていますから」 何だそりゃ。 「周防九曜は、涼宮さんの意識に侵入したんですよ。まったく畏れ多いことです」 意識に侵入する? えーっと、意味が解らん。何やらやばそうな雰囲気だけなら察することができたが。 今度は長門が言葉をつないだ。 「彼女は涼宮ハルヒの意識に多大な情報を送り込んで、彼女の脳回線を一時的にショートさせることに成功した。そのショートの瞬間に彼女の意識に潜り込み、とある絶対的なキーワードを涼宮ハルヒの無意識に埋め込んだ。わたしたちの不注意。周防九曜の存在を感知できなくなっていたから涼宮ハルヒに対する攻撃の防御が遅れた。結果として、涼宮ハルヒの無意識に書き込まれた絶対的キーワードは現在、彼女の持つ情報改変能力によって実行されている」 キーワード? 「周防九曜と称された存在が涼宮ハルヒの脳に直接埋め込んだもののこと。絶対的で、涼宮ハルヒは自意識によっても無意識によってもそのキーワードに逆らうことができない」 「それが先週の木曜日の夜でしたかね?」 古泉が訊いた。 「そう。正確には金曜日の、深夜一時十二分十八秒」 そういう役に立たなさそうな知識はいいからそのキーワードってのを教えてくれ。もしかすると、そのキーワードが今回のこれに関係があるんじゃないのだろうか。 「直接ですよ。原因そのものです」 「なに?」 「わたしや朝比奈みくる、古泉一樹が元の時空間から消去されたのはそのキーワードによる涼宮ハルヒの情報改変によるもの」 長門は俺の表情を観察するようにじっくり見て、無感動な声で言った。 「『抹消』。それが周防九曜が涼宮ハルヒに書き込んだキーワード」 抹消。 消してしまうこと。 確かそんな意味だったように記憶している。辞書を引いた覚えはないが、たぶんそんな意味だ。 キーワード。ハルヒの情報改変能力によって実行されている。抹消。 なぜか消えた長門、朝比奈さん、古泉。ハルヒの変態パワー。周防九曜によって書き込まれたキーワード『抹消』 俺は思わずああと声を漏らした。 頭の中にあったパーツとモヤモヤの数々がジグソーパズルのようにきれいに埋まっていくのを感じる。あるべきものはあるべき場所へ。不謹慎だが感服モノだね。 「要するに、周防九曜が涼宮さんの力を利用しているわけですね」 古泉が言った。 「涼宮さんの頭の中に入り込んで『抹消』という絶対的キーワードを与え、宇宙人や未来人、超能力者を次々と消すように仕向けたのです。存在を消すとは雲の上のような話ですけどね。恐ろしいことに涼宮さんの能力を持ってすれば可能になるんです」 「待てよ。それでハルヒは自分が催眠術的に操られていることに気づいてないのか? ずいぶんと派手なことをしてるのに」 「無意識的に、ですからね。そのキーワードが書き込まれたのは涼宮さんの無意識です。また同じく、存在の抹消が実行されるのも涼宮さんが無意識のうちになんですよ。……が、しかしです」 古泉はなんだか爽やかそうな苦笑を浮かべ、 「僕の知る限りですが、一つだけ表だったことがありました。先週の金曜日を覚えていますね。長門さんが消えた一日目です」 一日目というと、朝比奈さんとあちこち歩き回って川沿いのベンチやら長門のマンションに行ったりした日だ。成果はまったく得られなかったが。古泉はあの日、学校を休んでいた。 「あの日、大規模な閉鎖空間が発生したせいで僕は学校を休むのを余儀なくされました。あんなことは今までありえなかった。なぜこんなにも巨大な閉鎖空間が出現したのか謎でしたが、ようやく解りました。涼宮さんの精神が、周防九曜という異物の侵入に無意識のうちに抵抗したんでしょう。閉鎖空間もまた、涼宮さんの無意識を反映していますからね。ただし、閉鎖空間の発生はあれ一度きりでしたけど」 そう言われれば筋の通った理屈だと思うが、あのハルヒが九曜相手とはいえど敗北を喫するとはな。甚だ信じがたい話だ。 「それは僕も驚きましたよ。もしかすると周防九曜の力は涼宮さんの力を越えているのではないかとね。恐ろしい妄想ですが」 そんなことがありえるかよ。 「ありえるんですよ。周防九曜の力が絶大というよりは、涼宮さんの力が弱まっているという意味で、ですけど。最近はどんどん彼女の持つ情報改変能力が失われています。何が彼女をそうさせているのかは不明ですが」 「それは、彼女の欲望が満たされているということ」 不意に長門が言った。機械的な声だった。 「もともと涼宮ハルヒの情報改変能力は彼女が望むような形で使われている。それが宇宙人や未来人、超能力者の存在の意味。ただし彼女は最近、そういう望みのために情報改変能力を使っていない。わたしたちの力が薄れていることがその証拠」 古泉が微笑を消して俺に向いた。やけに真剣な眼差しだった。 「楽しみの対象が変化しているんです。宇宙人という謎的存在から、彼女は今、そういう存在である僕たちと遊ぶことのほうに楽しみを感じています。どうも、非日常は消えゆくものらしい」 ね、とわけの解らん同意を求めてくるが、それはいったい何だ。覚悟しとけという意味なのかね。 俺は不快な気分になって話を変えた。 「で、どうすればいいんだ。あっちの世界で、俺は何をすればいい。どうしたらお前らが戻ってくる?」 「わたしには解らない」 答えたのは長門だった。 「あなたの思うようにすればいい。その結果を、わたしたちは受け止める」 それで黙り込む。妙に突き放された気分になって残る二人を見てみると、朝比奈さんは物憂げな表情をしており、古泉はニヤニヤ笑いに戻っている。というか、さっきから朝比奈さんがまったく発言していないのだがどうかしたのだろうか。 俺が古泉を睨むと古泉は意味もなく肩をすくめた。 「あなたにお任せします。それしかないでしょう。僕たちは何もできないのですから」 「お前はこの空間から外には出られないのか?」 「言ったでしょう。僕たちは涼宮さんによって存在を消去されたんです。つまり、本来なら存在していないはずなんですよ。肉体も精神もね。元の世界に僕たちの痕跡がないのもそのせいです。最初から存在していなければ、それに関する事柄は生まれ得ませんから」 「じゃあお前は何なんだよ。お前は少なくともここにいて、俺と会話してるだろ。これは幽霊か何かか?」 「そんなものです」 マジかよ。 「長門さんの支配者さんが、僕たちを精神概念体としてこの空間にとどめてくれたんですよ。簡単に言えば魂だけみたいな状態ですね。感覚としては閉鎖空間で《神人》と戦っている姿の感覚に近いです」 それは古泉とその他もろもろの超能力者にしか解らんたとえだな。俺は赤玉にはなりたくないし、なる予定もない。 「じゃあ一般人の俺に魂が見えるこの空間は何なんだよ。何だっけ長門、実体のない概念だけの場所だったっけ?」 「そう。ここはわたしが緊急に地球上に作成した超空間。朝比奈みくる、古泉一樹の……避難所、のようなもの。安心していい。他に地球上で削除されたすべての存在は、情報統合思念体が情報を凍結して広域宇宙帯に保存してある」 他の未来人とか超能力者たちか。 「そう」 しかし、何でまたこの三人だけが地球上のSOS団部室にいるんだろうな。他の奴らはみんな宇宙空間でお休み中だってのに。 訊くと、長門はしばしの間、形而上学を幼稚園児に解るように教えろと命令されたような雰囲気をかもしだしていたが、 「そうしたほうがいいように思った」 確かかどうか解らない答えが出てしまったように言った。 さらに一ミリほど首をかしげると、 「よく解らない」 まあいいさ。 俺だって長門や朝比奈さんや古泉が近くにいてくれたほうが嬉しいしな。そんな妙な感情めいた何かを感じられればいいのだ。長門が人間に近づきつつあるのも、ハルヒのおかげ、またはせいなのかもしれない。いいか悪いかは別として。 「あの、キョンくん……」 沈黙の帳が降りようとしていたところで俺の耳が実にいじらしい声を察知した。朝比奈さんだった。今までずっと黙っていたのだ。朝比奈さんはうつむいていて、少しだけのぞく顔は、何か思い詰めたような表情をしている。どうしたんだろう。 「もし橘さんが消されちゃったらどうします?」 「はい?」 「もし橘さんが消されちゃったら、キョンくんはもうここに来れないじゃないですか。それじゃダメなんです」 まるで橘京子が消えるのを哀願しているような表情だ。そりゃまあ、そういうリスクはありますけどね。 朝比奈さんはまた下を向いて、こんなことしていいのかわからないけど、とか、大変なことになっちゃうけど、などもぞもぞと口ごもっていたが、やがて顔を上げた。 「TPDDを、空間移動デバイスにしてキョンくんにあげます」 真摯な顔だった。もしかすると初めて見た表情かもしれない。 TPDDをあげる? 俺に? 空間移動デバイスってのは何だ。 「長門さん、TPDDの性質を変えて空間移動デバイスにすることは可能ですよね?」 「できなくはない。本質的なプログラムは同じだから」 朝比奈さんの問いに長門が冷静に答える。何だ、空間移動デバイスって。説明してくれと古泉を見ても真面目な顔をしているだけで、どうやら教えてくれそうにはない。 「キョンくん、あたしたちが持っているTPDDというのは時間移動の手段だっていうのは知ってますよね。今いる時間平面を踏み台にしてジャンプして、過去にさかのぼったり未来に行ったりできるんです。そのジャンプする手段がTPDDなの」 朝比奈さんが必死に説明してくれる。禁則の塊なのではと思ったが、未来と繋がってない今や、禁則事項は全面解除されているという先週の木曜日の朝比奈さんの言葉を思い出した。 「実を言うとね、時間移動も空間移動も本質的には同じ理論の上で成り立ってるの。両方とも絶対的な概念ではなく相対的な概念だから。STC理論は言語を用いないから詳しくは言っても理解できないと思うけど、そういうものなんです」 「ほう、ではこの空間とこの空間の時間も元の時空間の平面のようなものからずれた位置にあるということなんですか?」 古泉、お前の気持ちは解るが黙ってろ。後でゆっくり聞かせてもらえ。後でな。 「それで、朝比奈さん。TPDDがどう関係してくるんですか?」 「はい。さっき言ったように、時間移動と空間移動が同じ理論の上で成り立っている以上、それを移動する手段も同一性があるということになってくるんです。つまり、TPDDを変形させればこの空間に出たり入ったりすることができる概念的なデバイスのようなものを作ることができるんです。だからあたしの持ってるTPDDを使って、そういう概念を長門さんに作ってもらおうと……」 朝比奈さんの思い詰めたような表情も解るね。 相当な葛藤があったに違いない。俺が未来人の諸事情を察するのもアレだが、TPDDがなければ未来に戻れないのだ。そしてそもそも未来と接続が絶たれている今や、TPDDを失った朝比奈さんは、未来人としての力をまったく持っていないことになる。TPDDの使用にはたくさんの人の許可が必要、と朝比奈さんは言っていた。それだけ重要なものを俺のためにくれるというのだ。本気ならば受け取らないわけにはいかないが、それでも困惑する。 「いいんですか?」 俺は問うた。 「そんなことをしたら大変なことになるでしょう。ただじゃ済みませんよ」 しかし朝比奈さんは首を横に振る。 「いいんです。時間移動できないのでは、TPDDは大した意味を持ちませんから」 それでも俺が何と言っていいものか考えていると、朝比奈さんは柔和に微笑んだ。 「言ったでしょ? 今のあたしは、未来とは独立した存在です。自分が思うこと、したいことをやります。責任を取るのは未来の自分であって今のあたしではありませんから。未来なんて関係ないんですよ?」 * 結局、朝比奈さんのTPDDは長門の言うところの超空間移動プログラムとなって俺が持つことになった。TPDDの亜種らしいが俺には理解できん。とりあえず、元の世界とこの部室の空間とを移動する手段だということを知ってればいい。 「何か実体のある物質を。できれば金属類が好ましい」 先ほど朝比奈さんの頭付近から何かをかすめ取るように手を動かしていた長門が、俺に向けて言った。小さな手のひらが俺に差し出されている。 「金属って、何に使うんだ?」 「超空間移動プログラムを書き込む。あなたの頭脳に概念を埋め込むわけにはいかないから」 長門は続けて、 「変形させても構わないもの」 さてそんな金属類に持ち合わせがあっただろうか。一円玉なら五枚ほど出せるが。 「それでいい」 俺がサイフから出した一円玉を長門の手に握らせてやると、長門は一円玉の上にすっと指を這わせた。 と、一円玉が無惨にもぐにゃりと変形して渦巻き状になった。三年前に長門のマンションで見たあの技だ。分子の結合情報がどうたら、とかってやつだろう。俺がその様子に目をとられていると、あっという間に渦巻きは形をなすようになり、一円玉ではない別の物になった。注射器でも短針銃でもないが。 「鍵……か?」 「そう」 手渡してもらったそれはずいぶんと軽かった。アルミ製だからか。ところでこいつはどこのドアを開けるためにあるんだ? 「この部室の扉。超空間移動プログラムが書き込まれているから、元の世界で扉の鍵穴に入れればこちらの空間に来れる」 それはまたやたらに希少価値の高い鍵だな。ママチャリの鍵と間違わないように工夫しておく必要があるだろう。 俺は長門、朝比奈さん、古泉に目を向けて、 「ありがとよ長門、それと朝比奈さん。俺にはちょっと手に余るアイテムな気もしますが……。そういや、この空間が九曜に潰される恐れはないのか?」 「ない。彼女には解析不能だし理解も不能なコードを設定したから」 橘京子も言ってたっけな。解析に時間がかかったって。 「あと古泉、長門から聞いてるかもしれんが元の世界にはお前の偽者がいるんだ。もちろん長門や朝比奈さんの偽者もだが」 あえて九曜とは言わず偽者とだけ言っておいた。 「知ってますよ。長門さんに教えてもらいましたから。とりあえず僕たちを置換したような存在らしいですが、真意は測りかねますね。なにしろ総括しているのが周防九曜ですから」 「ああ。お前はボードゲームの腕でも磨いてろ。どうもあっちの偽古泉はゲームが強いらしくてな、オセロは今のところ俺が全敗だそうだぜ」 「それはそれは、僕も精進しなければならないでしょう」 朝比奈さんについては……まあこの朝比奈さんのほうが可愛らしいし性格もいいだろうが。色気があるのも悪いことではないが、ちょっと恥じらってるくらいのほうが見栄えがするんですよ。いや俺の好みだけどさ。 「じゃあな。次にいつ来るのか知らないが、世界が元通りになるまでは絶対そこにいろよ」 三人に向かってそう言ってから俺は扉に手をかけた。やっぱりこっちのほうがいいね。世界が違おうが、大切なのはそこにいる役者だ。SOS団の正しい五人じゃなけりゃ、俺はすぐさま退団してやる。 * 橘京子は元の世界に戻ったときにはいなかった。そういえばなぜあいつが他の超能力者と一緒に消されていなかったか謎だが、そんなことは後でいくらでも考えればいい。 放課後、正直部室に足を運びたくなかった。九曜に対する畏怖の念があるのだ。かといってこのまま帰っても、あからさまに敵意があって警戒していると取られるかも知れないし、そもそも九曜にそんな地球上の概念で成り立っている敵意とか警戒とかいうものが通じるかどうかも知らんのだが、はてどうしたものか。 扉の前でいっそのことさっきもらった鍵を鍵穴に差し込んでやろうかなどと逡巡していると、ハルヒと鶴屋さんが揃ってやってきた。とりあえず思考中断。なんで鶴屋さんがいるんだろう。 「合宿のための買い出しに行くのよ」 そういえば昨日そのように宣言していたな。 「どうせだから鶴屋さんも一緒にと思ってね。合宿には鶴屋さんも行くわけだから」 「いやあ今日はすることもないし、ウチにいてもヒマなだけだしねっ。せっかくだからハルにゃんたちの買い物に付き合うっさ」 「と、いうわけよ」 ハルヒは極上の笑顔であり、俺に反論の余地はない。さすがに俺も九曜どもを連れて買い物に行かなければならないと言われると困るが。 「ほらキョン、なに立ち止まってるのよ。ちゃっちゃとドア開けなさい」 「……ああ」 無意識のうちに長門がくれた鍵に触れていた右手をポケットから出して、ドアノブを回した。いざとなりゃハルヒと一緒だ。大丈夫だろ。 「お待たせえー!」 ハルヒが大声を出して入っていく。鶴屋さんが俺を見て、一瞬怪訝な顔をしたようにも見えた。仕方がないので俺も続いて部室に入る。見ると、やはり長門のところに座っているのは九曜であり、朝比奈さんと古泉には奇妙な違和感がある。吐き気がするね。ハルヒは何を屈託もなく有希だとかみくるちゃんだとか言ってやがるんだ。ふざけやがって。 ハルヒに離れろと言いたくても言えない俺を見てか、偽古泉のヤツが俺を見てあざわらった。お前はどこの悪キャラだ。 「お帰りになったんじゃないんですか?」 俺は自分の顔が引きつるのを感じながら、 「ちょっと用があったんだよ。それだけだ」 「そうでしょうね。あなたの鞄はまだここにありますから」 ひょいと俺の鞄をつまみ上げてよこしてくる。それだけで通学鞄がひどく汚染された気がした。偽古泉は卑しく笑っている。こいつは解っててやっているのだ。 「じゃあ今度こそ帰るんですか?」 「別に」 俺は吐き捨てるように言って、壁に立てかけてあった新しいパイプ椅子を広げて腰を降ろす。 「キョンくん、お茶ですよ」 偽朝比奈さんがお茶を持ってきたので反射的に礼を言って口をつけようとしていたが、ギリギリで思いとどまった。中に青酸カリでも入ってたらたまったもんじゃない。ハルヒの手前湯飲みごと投げるのはどうかと思ったので、なるべく自然な動作で湯飲みを机に置く。無論飲む気はゼロだ。 「飲まないんですか?」 また偽古泉が笑ってやがる。やめてくれ。発狂しちまいそうだ。 俺はテーブルに突っ伏した。目眩がしてくる。パラレルワールドにただ一人取り残されちまったらきっとこんな思いなんだろう。異常なまでの違和感。 ハルヒが何か言っている。買い物がどうとかいった、ごく平凡な話だ。何も知らずに天下を取れるんだから、いいよなこいつは。それが幸福か不幸かどうかは知らないが、一日くらい代わってみたい気はするね。 俺は伏せた腕と机のわずかな隙間から周防九曜の姿を捉えて、たまらず立ち上がった。我慢できん。 「どきやがれ」 窓辺の特等席で、長門の本を広げているのは長門であって長門ではない。少なくとも俺にとってはこいつは危険因子以外の何者でもないのだ。 そよと風が吹いてサラサラという音がした。七夕の短冊が揺れている。そこに書いてあるのは団員の願いだが、それは断じて団員の願いなどではない。これがここにあるのは、“こいつら”がここにいるからだ。こんなもん、片っ端から破り捨ててやりたい。 「――――」 九曜は無言で俺を見つめている。本気で長門に成り変わろうとでもしてるのか。いい演技力だ。しかし俺は騙されん。 「そこはお前の席じゃねえ。長門の席だ」 九曜は真っ黒な瞳を俺に固定して動かさない。まるで言語を持たない機械に怒っているような感じだ。確信した。こいつは長門にはなれないね。ほら、どけって言ってんだろ。 「……ちょっと、キョン?」 ハルヒが重たげな視線を俺に投げてきた。悪いなハルヒ、ちょっと黙っててくれ。 「周防九曜、それがお前の名前だ。何でこんなことをした。目的は何――」 「あれれっ、キョンくんすごい汗じゃんっ」 俺の声は鶴屋さんに遮られた。ふとして額に触れてみる。初夏の暑さのせいではなく、俺の手にはべっとりと冷たい汗がついていた。 「具合が悪いんじゃないのかな? 夏カゼはタチが悪いのさ。今日は早く帰ったほうがいいんじゃいかいっ?」 俺は鶴屋さんを見る。厳しい表情をしていた。顔は笑っているが目に強い輝きがある。何かを察して配慮してくれてるのはありがたいのだが今の俺はそのまますごすごと引き下がるわけにはいかんのだ。こんな間違ったSOS団のまま記憶が完全にインプットされちまうようなことだけは許される事態ではない。 「大丈夫ですよ。カゼなら後で薬を飲みますし」 ぐぎぎ。 俺の腕の関節が立てた音だ。痛え。 何てこった。鶴屋さんが誰にも見えないように隠して俺の右腕をつかんでいる。ちょっと、それ以上やると骨が折れますけど。 「キョンくん、何があったのかは知らないけど今日は帰んな。そのほうがいいよっ。もし話があるなら聞いてあげるからっさ」 なんということだ。直感か? 鶴屋さんは本当に何も知らない人間なのかと疑いたくなるくらいだ。いや、というか常人でも解るんだろうな。九曜の持つ異常性とかが。 「何キョン、あんた風邪引いてたの? ふーん、バカはカゼ引かないんじゃなかったっけ?」 「ああ、どうもカゼらしい。ついでに言っとくが、そんな大昔の言い回しを張り合いに出すもんじゃないぜ。現に谷口だってカゼで休んだだろ。……あいや、あれはアホだったか」 などと言っている場合ではない。仕方がないが鶴屋さんの指示に従うしかないようだ。鶴屋さんが知ってるのか知らないのか、知ってたとしてどこまで知っているのか多少気にはなるが、今気にしていても仕方ない。どっちにしろ九曜側について俺たちを翻弄するような役目でないことは確かだ。 「キョンくん、下駄箱んとこまで送ってってあげるよっ」 鶴屋さんはそう言いながら俺の返事も聞かずに部室の外へと出ていく。断るまでもないか。 九曜と古泉、朝比奈さんは特にリアクションすることもなくただこっちを見てるばかりで、俺がいようがいまいがどうでもいいらしい。ハルヒは鶴屋さんと一緒に部室から出ていく俺を見て口をアヒルにしていたが、 「明日は来なさいよね!」 今日のところはこれで勘弁してやる的口調で俺を見送った。俺は迷った末に、とうとうハルヒに向けて言ってしまった。 「SOS団を忘れるなよ。ただの人間じゃない奴らの集まりってのが定義だぞ」 ハルヒは、はあ? とか言った。当然か。 部室棟の廊下を歩き階段に差し掛かったあたりで、俺はどうしても耐えきれなくなって訊いてみた。鶴屋さんはずっと黙っていたが、それは訊かれたら答えるという鶴屋式の構え方なんだろう。 「鶴屋さん、あなたいったいどこまで知ってるんですか?」 案の定鶴屋さんはおかしそうに首をかしげ、 「その質問は前にも受けたねー。いつだったっけ、二月ぐらいだったかな?」 朝比奈さん(みちる)を頼んだときでしょう。ずいぶんお世話になりましたから覚えてますよ。 「うん。でもね、あたしの答えはあんときと変わらないさっ。あれから別に誰かから教えてもらったとかいうこともないしね。なーんとなーく違うのかなーってのがはっきりしてきただけだよっ。今は、もしかしたらあたしの他にも気づいてる人がいたりいなかったりすんのかなーて思うけどね」 それはそら恐ろしい話だ。間違ってもハルヒに気づかれるわけにはいかん。 「でもねえキョンくん、やっぱり一人だけ浮いてるのはあたしじゃなくても何かあるなーって気づくと思うのさっ」 「誰のことっすかね。ハルヒか、それとも俺ですか?」 これではSOS団に裏があるのを認めたも同然だなとか思いながら訊く。鶴屋さんはなぜかたははと笑って、 「有希っこさ」 と言った。 ああ長門ね。そりゃ読書好きで無感動無口ときてるわけだから性格的には浮いてるのかもしれんが、あいつだって感情が薄いだけで表に出ないだけなんだと思うけどな……。 そこらへんまで考えたところで俺は鶴屋さんの言っている有希っこってのが長門のことではないと気づいた。ここでの長門というのは九曜のことだった。 「なんかね、あたしはコトの内側には入るつもりないんだけど、あの子見てるとときどきフラッと吸い寄せられそうになるんだよね。影響力が強いってか、そんな雰囲気があるのさ。あの子だけはみくるやハルにゃんや古泉くんやキョンくんとは違ってんだっ。はあー、不思議なんだなぁ」 鶴屋さんは感慨深げにため息を吐いてから俺に目を向け、 「キョンくんは何か知ってるのかい? 有希っこのことや、他の人のことも」 「さあ、どうでしょうね。知ってたとしても教えるわけにはいきませんけど」 「まあいいよっ」 もし厳しく言及されてたら答えていただろうかと思う俺をよそに、鶴屋さんは軽快に笑った。 「どっちにしろあたしが入れる輪じゃないしねっ。なーんもわからないけど、それだけは解るのさっ。あたしはたまに合宿なんか一緒に行かせてもらうだけで楽しいんだ! その奥に、何か深い設定があってもなくてもね!」 本気なのか冗談なのか俺には見当もつかない。それ以上は真相を口走ってしまうような気がして、言葉がつなげられなかった。 まもなく俺と鶴屋さんは下駄箱に到着した。その頃には話題も当たり障りないものとなっているわけだが、その話に身が入っているかと言えば否定せざるを得ない。 「じゃあね、キョンくんっ。もし帰り道で誰かさんに襲われる危険性があるんなら、あたしがガードマンになったげようか?」 その可能性は捨てきれなくもないが、そこまでしてもらうのは後ろめたい。 「大丈夫だと思いますよ。とにかく、今日は早く家に帰って寝てます。……それで、鶴屋さんはあいつらの買い物に付き合うんですか?」 「うん。何だろうとヒマなのは変わりないしね。ここで待ってることにするさっ」 気をつけてとかいう類の言葉をかけるべきだったのかもしれないが、さすがにそれははばかられ、代わりに「ハルヒによろしく言っといてください」と言った。鶴屋さんは俺の真意を読みとるようにじっくりと顔を眺めていたが、それもわずかな間のことで、けろりと笑って伝えとくよと返した。 俺はそのまま校門を出た。帰路だ。 * 家に帰るなり、俺は疲れを隠すことなくベッドに倒れ込んだ。勉強机の上には数学等の教科書が雑多に散らばっているが、とても手を出す気はしないね。こんな状況下で勉強しようと考えつくのは相当に頭がオシャカになってる人間だけだ。いや、勉強で現実逃避というのも珍しいがアリと言えばアリだけどな。俺はまだ現実を見つめるさ。もっともこれが現実だったらの話だが。 むしろこうやって意味のないことを考えていることすら現実逃避なのではなかろうか。九曜に対抗策がないというか何をしていいのやらさっぱりなのは事実だが、それはさておきどうにかなる努力を俺はしてきたのか? 橘京子、ハルヒ、九曜。異空間の部室にいた三人と、そこでもらった鍵。 パーツはある。しかしそれをどう組み合わせればいいのか解らないのだ。肝心なところが抜け落ちている。何か、キッカケのようなものがあれば、あるいは……。パーツを組み合わせて結果を出せる、何か。 クソ、また「何か」か。 結局具体的なことは何一つとして出てきやがらない。何があればこうなって、その結果こうなるという予測すら立たないのだ。橘京子やその組織に九曜に対抗できるだけの力があるとは思えないし、そもそも古泉と一緒に消えてなかっただけ僥倖と取らなければならないだろう。他に残された可能性としては佐々木とハルヒだが、佐々木にこんな厄介ごとを背負わせる気は毛頭ないし、背負わせたところでどう変わるものでもない。あいつはハルヒみたいな破滅的パワーを持っているわけではないからな。 しかし、そのハルヒならどうにかなるかもしれん。長門や喜緑さんのような情報統合思念体製のインターフェースがいない今、九曜のようなヤツに対抗できるのはハルヒだけだ。お得意の、情報改変能力ってやつでな。しかしハルヒはジョーカーだ。めくってみたところでどうにかなる保証はどこにもないし、もしかしたらジョーカーと思わせてトーフだったりするのかもしれん。だからやっぱり、ハルヒにしても他の可能性にしても大丈夫だという確信がない。 最後に頼れるのは、と思った。 最後に頼れるのはSOS団そのものである。それしかない。 ハルヒが本当のSOS団を覚えてくれていれば、もしかするかもしれないのだ。あの九曜がいるような団が偽物だと解れば、ハルヒは全力で反抗するに違いない。とんでもない力を使って、だ。 そのためにはハルヒに未知のものへの興味があることが必要不可欠なのだ。ただのお遊びサークルのSOS団なら、ハルヒが取り戻そうとはしない。今の偽物でも代役が務まって、充分だからだ。そうではなく、もしハルヒに宇宙人やその他もろもろへの未練があるのならば、ハルヒが団員としてかき集めてしまった長門たちをもう一度集合させるはずだ。ハルヒが一年の四月に集めたのは九曜ではなく、長門だったのだから。九曜では役不足である。 そうなることを願うしかない。 ハルヒがSOS団を覚えていて、かつ謎の存在に未練が残っていること。 はっきり言って可能性は低い。最近のハルヒの様子を見れば、あいつには合宿で仲間と遊ぶことしか眼中にないのが解る。それでも俺は信じるしかないのだ。まったく、いつもは長門たちが早くまともなプロフィールに戻ることを望んでいるというのに、何で今回に限って正反対のことを考えているんだろうね。 まもなく妹がシャミセンと共にふらりとやってきて晩飯の完成を告げた。どうもメシが味気なかったような気がするのは、本当に味付けが薄いからなのだろうか。どっちでもいいが。 その日、見事なまでに誰からも電話はなかった。佐々木からも橘京子からも、偽古泉からもな。こっちから電話するのも何だか面倒に思われて、風呂に入った後はベッドに伸びるばかりだった。何をやってんだ、俺は。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1927.html
最終章 その後、朝比奈さんとハルヒには妹のお守りを頼み俺はその間に校庭の隅に穴を掘り、朝比奈さん(大)と長門の遺体を埋めた、古泉の遺体は見つからなかった。 恐らく閉鎖空間の消滅とともに消滅してしまったのだろう。 それから五日間、俺とハルヒと朝比奈さんは学校にも行かずに家に引きこもっていた。 長門の必殺技のおかげで世界は大混乱していた。北向きに放たれた衝撃波は一瞬にして中国、韓国、北朝鮮、モンゴル、ロシアとその方向にある大体の国を新地に戻してしまっていた。 当然学校も休みである。日本に土地的に被害はなかったのだが経済は混乱中であった。しかし働かずに飯は食えないのでほとんどの店は大体四日後には通常通り営業していた。 六日目、布団の中で蹲っていたら携帯がなった。朝比奈さんであった。 「あのぅー、実は未来から指令が来ていたんです。七日前に。今気づいたんですけど。 実はそれによると 『今、これをみているときにはとても悲しいことがあったはずです。 ですがあなたはそれを乗り越えなければなりません。例え未来の自分の死を見てしまったとしても、親しい友人が亡くなったとしても。 あなたは強い子です。だからかならず乗り越えられます。 本当につらいと思いますが、私からの最後の指令です。 あの日から一週間たったらキョン君を呼び出してこれからあなたがすべきことを全て教えてもらって下さい。 彼は全て知っています。 それがすんだらすぐに未来に帰って下さい。 あなたはこれから一週間前のあの日のために剣術を習ってもらいます。 こんなことを言うのもなんですががんばって下さい。』 って事なんですけど。どういう事なんでしょうか。」 おそらくは七夕や消失騒動のときや一週間後の朝比奈さんが来たときのことだろう。 「わかりました、今から会えますか?ハルヒも一緒に。」 それからハルヒにも電話をかけ。喫茶店「夢」で会うことになった。 「元気そうだな、ハルヒ。朝比奈さんも。」 「どう見たら元気そうに見えるのよ。馬鹿ね。」明らかに元気のなさそうなハルヒ。 会釈する朝比奈さん。 世間話をする余裕などなくすぐに本題に入った。 七夕のとき俺を導いてくれたこと、 ハルヒがいなくなったとき助けてくれたこと、手紙で指示を出してくれたことなど全て包み隠さずに教えてあげた。 ハルヒは完全に非現実的な話や裏話を聞いて少し元気になったようだった。 「わかりました。いままで本当にありがとうございました。私は未来に帰ります。」 そして何ながらハルヒと抱擁を交わす。 そして瞬きした瞬間に、消えた。 自分が死ぬ運命を知っていて、友達の未来のために活動し、友達の未来のために命を捨てる。 なんて強い人だったんだろう。 ハルヒは俺に背を向けわなわなと肩を震わせていた。 泣いているのだと思うと思わず抱きしめたくなった。 が俺のそんな感情すぐにかき消される事となった。 いきなり振り向いたハルヒはこう言った。 「キョン、SOS団は何をする活動だったか覚えてる?」 「確か…『宇宙人や未来人や超能力者を探しがしだて遊ぶ。』だったか?」 「そう、正解。でも本当はその目的は果たされていた。そうよね。」 「そうだな。」 「じゃあSOS団って何の略省だったか覚えてる?」 「『世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団』だろ?」 「じゃあ私が有希やみくるちゃんや古泉君や世界中のみんなのために今何をしようと考えているかわかるわね?」 「いーや、わからん。」これは嘘だった。大体のことは予想できる。 「まあいいわ。あんたは私に黙ってついてくればいいのよ。」 そういうとハルヒはいつぞやのように俺の手を引っ張り走り出した。 俺はこの瞬間思った。 サンタクロースなんてもんは信じてなかったが今は信じられるような気がする。 なぜなら宇宙人がいて未来人がいて超能力者がいた。それならサンタが存在してもおかしくない。 もしかしたらハルヒは俺にとってのサンタクロースなのかもしれない。 極端に強引なサンタだが。 これから何をするかって?決まってるだろ? この団長様と世界を大いに盛り上げるのさ。 THE END
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2205.html
百物語というものをご存知だろうか。 一人ずつ怪談を話し蝋燭を消していき、100話目が終わった後に何かが…!!というあれである。 俺は今まさになぜか部室でハルヒと愉快な仲間たちとともにそれをしているわけだが、何故そのような状態 に至ったのかを説明するには今から数時間ほど遡らなければならない。 ______ 夏休み真っ盛りのその日、俺はそろそろ沈もうかという太陽の暑さを呪いながらニュースを見ていた。 東北の某都市ではいまごろ七夕祭りをするのだなあ、などといつかのことを思い出しながら今まさに瞼の 重量MAXに至らんとしたその時、携帯が盛大にダースベーダーの曲を奏でた。 ハルヒだ。 市販されているどのカフェイン飲料よりも効く恐怖の音色によって冴えた頭で出ようか出まいか一瞬迷った後、 恐る恐る携帯を手にした。 「あ、もしもし?キョン今暇?」 恐ろしく不躾な第一声、間違いなくハルヒである。 いーや、今まさに夏休みの課題に取り組もうと今年一番のやる気を出していたところだぜ。 マシンガンに対し襖の盾を構える様に、ささやかな抵抗を試みる。 「ちょうどいいわ、そんなのやめて駅前に集合!」 何が調度いいのだろう、などと問うのは風呂上りに鏡の前でポーズをとるよりも時間の無駄というもんだ。 相手はハルヒなのだから。 駅前に着くと、時をかける美少女こと朝比奈さんが小さく手を振って俺を迎えてくれた。 「あ、キョン君、こんばんは…!」 純白のワンピースに可愛らしいポーチ、なんという麗しのお姿、もしかしてあなた未来人じゃなくて 天使か何かなんじゃないですか? 「私突然呼ばれて…キョン君は何するか聞いていますか?」 あいつが突然じゃないことなんてないんですよ、朝比奈さん。 ついでに言うとあいつの頭の中に何か計画があるのかも怪しいもんだ。 「ヤッホー!」 話題の主が何故か胡散臭い笑顔と鉄仮面を引き連れてやってきた。 「いやあ、涼宮さんと長門さんと電車で一緒になったもので。」 お前には聞いてないけどな。夏休みの、しかもこんな暗くなるような時間から何しようってんだ、ハルヒ。 「うんうん、みんな行動が迅速でとても良いことだわ。SOS団の未来も明るいってものよ!」 聴いてないな。 「失礼ね、ちゃんと聴いてるわよ。これからみんなで百物語をやります!」 帰っていいか。 「夏といえば怖い話。怖い話といえば百物語。百物語といえば学校よ。そういうわけで今から部室に行って 納涼百物語大会を行います。」 朝比奈さんは既に怯える準備万端、古泉はいつもどおりのインチキ笑顔、長門は幽霊のように冷たい無表情でハルヒを見つめていた。 意外と長門は読書で得たネタがあるかもしれないなと考えそうになったが、つっこみ担当の脳内俺がそれを遮った。 ちょっと待て、こんな時間に学校に忍び込んだのが見付かれば、バニーガールの時よろしくまた何を言われるか… 「大丈夫、ちゃんと昼間のうちに部室の窓の鍵は開けておいたわ。窓から縄梯子を垂らして、蝋燭も用意しておいたから完璧よ。」 どこからそんなもんを調達…じゃない、つっこむべきはそこじゃない。 何が大丈夫なんだ、ハルヒ。こいつの思考がわかる奴がいたら「機関」とか言う変態組織から表彰されるかもな。 俺だったら、たとえ古泉に土下座されてもいらないが。 「いいんじゃないですか。怪談、僕は嫌いじゃありませんよ。幽霊というものにも少し興味があります。」 少しは躊躇しろ、このニヤケヅラ。 「ふぇ…幽霊…出るんですか、百物語ってなんなんですか…。」 今にも泣きそうな朝比奈さん。大丈夫です、あなたのことは俺が命に代えても守ります。 いつかのクラスメイトによる俺殺害未遂に比べれば幽霊なぞ。 「……」 メンバー中最も幽霊に近い存在のような気がする宇宙人製有機ヒューマノイドインターフェースは、 なにやら不気味な表紙の本を読むのに忙しいようだ。何読んでるんだ? 「……これ」 えーと、いながわじゅん…… !? やる気か、長門。 はあ、何も起きないでくれよ。もしものときは頼むぜ、長門。 ハルヒの場合、幽霊どころかヤマタノオロチを召喚するなんてことは十分あり得るからな…。 というわけで、俺たちは夜の学校に忍び込み、百物語に挑戦しているわけだ。 しかし、5人で100話、一人20話の割り当てだ。正直、俺はそんなに話すネタを持っていない。 どこかで聞いたような、しょうもないネタを披露するといった具合だ。 ある種のオカルトマニアのハルヒと、今まで読んだ本を積み上げると富士山すら凌駕するであろう長門は、 順番が来ると躊躇なく話し始める。長門の話はどちらかというと、都市伝説のような気がするのは、この際目を瞑ろう。 古泉は少し考えた後に無難な怪談を語っている。こいつのことだ、即興で考えた嘘話だろう。 朝比奈さんはというと、専ら悲鳴あげ係である。話せるネタもないようで、ハルヒか長門が代わりに話している。 何なんだこの2人は。 さて、そろそろ納涼百物語大会(命名:ハルヒ)も佳境である。 最後の100話目を俺が話そうとしたところ、ハルヒに権利を奪われた。 曰く、イベントのおいしい所は団長の物なんだそうだ。 俺にとってはおいしいかどころか、不味い役回りだったので有難い。蓼食う虫もびっくりだぜ。 「それじゃあ、最後の怪談、いくわよ。 皆、この1年5組の教室に実しやかに囁かれる噂を知ってるかしら。あの教室はね、いわくつきの教室なの。 あたし達が入学するよりもずっと前、一人の男子生徒の遺体が発見されたの、胸にコンバットナイフを突き刺されて。 特に恨みを買うようにも見えない、ごく普通の男子生徒だったらしいわ。その子が殺される前日、 ラブレターを貰ったと言って浮かれてたという証言もあって、事件との関連性を疑われたけど、遺留品からそんな手紙は見付からず、 結局犯人は分からずじまい。以来、あの教室に一人でいると何か悪いことが起こるらしいわ…。」 ……結末以外はなにやらどこかで聞いたことのあるような話である。こいつ実は全部知ってるんじゃないだろうな。 長門、あまりこっちを見るな。こういう状況でのお前の眼差しはナイフなんかよりよっぽど怖い。 朝比奈さんはもう完全にギブアップ、古泉は相変わらずニコニコしている。 俺と朝比奈さんの青ざめる様子に気付いたのか、ハルヒは満足げな顔で言った。 「あははは、うっそ。今のは完全なあたしの作り話。こうも良い反応をしてくれるとは思わなかったわ。 持つべきものはキョンとみくるちゃんよねえ。」 こいつ実は読心術もマスターしてるんじゃないだろうか。 「じゃあ、消すわよ。」 そういって最後の蝋燭を吹き消した。 …暗闇 朝比奈さんの「ふえぇぇ」という舌足らずな悲鳴が聞こえたかと思った次の瞬間、蛍光灯が瞬き始めた。 誰が点けたんだ。そう思って部室の入り口に目を向ける。俺にとって、ハルヒとは別の意味で生涯忘れないであろう顔がそこにあった。 ……朝倉涼子? 何なんだ?訳がわからない。なんで復活してるんだ?一人を除いて目を丸くして入り口を凝視している。 驚く朝比奈さんも実に愛らしい、写真に撮って起きたい気分だが、今はそれどころではない。 どうでもいいが少しは驚けよ、長門。 「あんた…カナダは?」 ハルヒが訳のわからない質問をしている。 「何のこと?あなた達こんな時間に学校で何してるの?」 それはこっちの台詞だ。何しに出てきた。学校の警備員のバイトでも始めたのか、働き者だな。 瞬間、長門が何か呟いた。よく聞こえなかったが、例の「呪文」って奴だ。同時に明かりが消え、再び点いたときには入り口には誰もいなくなっていた。 なんだ?何をしたんだ、長門? 「何…今の?」 ハルヒが驚き半分、興味半分の器用な顔で声をあげる。あれはいったい何なのか、それは俺が知りたい。 朝比奈さんはもはや放心状態、古泉は胡散臭い笑顔に戻っている。 長門は勿論表情を変えていないが、一言 「……幻覚」 とだけ言った。いくらハルヒをごまかすためとはいえ、それはないだろ長門。 「幻覚…?みんなも見たでしょ?」 「…見ていない」 長門が無茶な否定を始めたが、他にどうしようもないので俺も続いて首を横に振った。 「ん~、おっかしいなあ。確かにそこに朝倉涼子が……まあいいわ。考えてもわかんないし。今日はそれなりに面白かったし。 終わりにしましょ。」 こんなフェルマーの最終定理の証明よりも意味のわからない説明で納得してくれるんですか、ハルヒさん。 お前が、大雑把な奴で良かったよ。 帰りの道中、俺は長門へ説明を求めた。さすがの俺もあれでは納得がいかない。古泉も興味があるようで、 話に勝手にまざってきた。あっちでハルヒの話し相手でもしてろよ。 「残念ながら、涼宮さんは朝比奈さんと話すのに忙しいようですのでね。」 見ると、ハルヒが朝比奈さんへまだ怪談を語っている。もう、いつでも失神する準備万端な朝比奈さんは 半分ハルヒに引っ張られて歩いている。すみません…朝比奈さん。 「…ノイズ」 長門がいきなり蚊の鳴くような声で説明を始めた。 例によってさっぱり意味がわからなかったが、古泉によるとこういうことらしい。 長門は朝倉涼子の情報連結を解除したが、それは朝倉涼子のデフォルトの状態を消去したのであって、 朝倉涼子が長門のあずかり知らない所で得た経験値までは対象となっていなかったらしい。 つまり、1年5組委員長としての朝倉涼子の情報はいまだ学校を彷徨っていて、ハルヒの願いに呼応して現れ、 今さっき長門が、消去したというわけだ。 なあ、それって所謂幽霊じゃないか? 「…そう、通俗的な用語を使用するならば、そういうことになる。」 …笑えない、何故か笑っている古泉の顔をひっぱたきたい気分だぜ。 「遠慮しておきましょう。僕にそういう趣味はありませんから。あ、そうそう、もう電車もないでしょうから帰りのタクシー代は 僕が出しますよ。面白いものを見せてもらったお礼です。」 なにやら、どこかで見たことのあるタクシーを呼び止めて古泉は言った。 「さすが副団長ね。キョンにも見習って欲しいわ。」 真夜中なのにこいつの元気は底なしだな…。朝比奈さんはハルヒを自分の家に招待しようと必至に懇願している。 一人で寝るのが怖いんだろう。俺を誘ってくれれば、インチキパワーを発揮した長門の如きすばやい動きで挙手をして、 二つ返事で引き受けるというのに。 さて、俺も今日はもう眠い。少しばかり癪だが、古泉の好意に甘えてとっとと家に帰って寝よう…電気を点けて。 END
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2653.html
「キョン、キョン! しっかりして! 谷口も怪我しているじゃない!? 大丈夫なの?」 「俺は大丈夫だ。谷口の方がまずい。早く連れて行かないと」 「ならあの人たちのところへ連れて行って!」 ハルヒが指さした方――丘の麓を見ると、ヘリが数機着陸してそこからわらわらと兵士たちが降りていた。 さすがに手際がよくて助かるよ。 俺は何とか谷口の手を肩にかけさせ、ゆっくりと丘の下に向かって歩き出す。俺の足も相当酷くなってきていたが、 古泉が支えてくれるおかげで何とか歩くことができた。 「キョンよぉ……終わったんだよな……全部……あの子に逢えるんだよな……」 「ああ、そうだ谷口。全部終わったぞ。これでお前にとっては完膚無きまでハッピーエンドだ」 意識が朦朧としているのか、はっきりしない口調で話す谷口を、俺は必死に励ました。 もうちょっとだ。がんばれよ谷口。 ほどなくして、丘の下までたどり着く、そこでは兵士たちが俺たちをじっと取り囲むように見つめていた。 その視線からは敵意なのかなんなのか読み取れない。 思わず俺は朝比奈さんに背負われているハルヒの手を握った。 「キョン?」 そんな俺にハルヒは不思議そうな視線を向けてくる。 機関の流した偽情報のおかげで、ここにいる全員がハルヒを憎んでいるかも知れない。ひょっとしたら、怒りにまかせて 襲ってきたりするかも知れん。だが――例えそうなろうとも、俺はハルヒを守ってやる。朝比奈さんも長門も古泉も谷口もだ。 そんな微妙な空気の中、俺たちはその中を突き進む。来るなら来やがれ。ただじゃやられねえぞ。 その時、誰かが唐突に叫んだ。 ――女神様のご帰還だ! それに呼応するように、辺り一面から歓声が爆発した。周りにいる人間という人間が、全員拍手なりジャンプなりして、 俺たちに祝福を投げつけてくる。まるでサヨナラホームランを打った選手に対する歓声のように。 「ど、どうなってんだ、これ……!?」 あまりの状況に俺は目を白黒させていたが、ハルヒは何の疑問も持たずに、周りの人間たちに手を振っていた。 すぐに、俺たちの元に担架を持った兵士たちが現れ、谷口をそこに乗せる。そして、すぐに応急処置を始めた。 展開について行けていなかった俺に対し、古泉はぽんと肩に手を置くと、 「涼宮さんはあなたの言葉を信じたんですよ。2年間、他の人の人間の言う事なんて全く耳を傾けなかった涼宮さんが、 あなたのたった一つの嘘を心の底から信じたんです」 ……なんてこったい。それでこんな風にハルヒを歓迎するような世界ができあがってしまっていたって事か。 しかし、悪いことだとは思わないね。さっきも言ったが、ハルヒの働きぶりを見れば、これの方が正しいんだよ。 「その通りです。僕も困難な仕事をせずにすんでほっとしていますよ」 そういつものインチキスマイルを浮かべている。 やれやれ。これでようやく終わりか。 ◇◇◇◇ 谷口を乗せたヘリが飛び立つ。あいつの怪我の具合は緊急は擁するが、今すぐ命の危機というレベルまでは いっていなかったようだ。俺はそれを聞いたときにほっと胸をなで下ろした。全く大げさなんだよ、あいつは。 次々と国連軍の増援が到着し、閉鎖空間のあった場所に向けて進撃していた。まだあの化け物どもが どこかに残っているかも知れないから掃討作戦の実施中だ。あとはプロの方々に任せておこう。 当然、森さんたちの救出も要請している。 ふと、朝比奈さん(長門モード)がそらをじっと眺めていることに気が付いた。 「何やってんだ?」 「…………」 俺の問いかけに、長門は答えようとせずしばらく沈黙を続けた。 どのくらい経っただろうか。すっと視線を俺の方に向けると、 「涼宮ハルヒが自らの能力に対して、ある程度の自覚を有した件についての検討が始まった」 「……お前の親玉たちか」 「そう、その意味を危険視する勢力が情報統合思念体の中でも大きくなりつつある。強制措置を執るように求める動きもある」 長門の言葉はいつもの通り平坦で無感情だった。しかし、俺にははっきりとその感情が読み取れた。 明らかに怒りに震えている。 俺はぽんと朝比奈さん(長門モード)の肩に手を置くと、 「で、長門はどうするんだ? 連中の言うままに従うか?」 「情報統合思念体の判断を確認し、わたしの望まない決定だった場合は拒絶する。わたしの意思はここにいること。 わたしたちを破壊しようとするものがいれば、それが誰であろうと――情報統合思念体の意思だとしても阻止する」 ――長門は俺を深く見つめて、 「誰の好きにもさせない」 「……そうかい」 よく言ってくれたよ、長門。お前もSOS団には必要なんだからな。 俺はそう思いながら、長門の背中を数回叩いてやる。 と、辺りにざわめきが起こった。振り返ってみれば、丘の頂上から4人の人間がこっちに向かって降りてくる。 確認するまでもない。森さんたちだ! ここで古泉が森さんたちめがけて走り出す。俺も足を引きずりながらその後を追った。 「無事だったんですね……! よかった!」 歓喜の笑みを浮かべる古泉に、森さんは特有のにこやかな笑みを浮かべ、 「ええ、おかげさまで。でも怪我が酷いから、すぐに手当を」 「わかりました」 古泉は手近にいた兵士たちを呼び、担架を持ってこさせる。森さんは見事なまでに無傷だったが、 新川さんは軽傷、多丸兄弟はかなり辛そうだ。谷口と同じくとっとと病院に運ばないとまずいな。 すぐに負傷した機関の人たちを担架に乗せて、応急処置が始まる。話を聞く限りではこっちも命に別状はなさそうだ。 よかった。これで国木田を入れても全員無事に帰還できたって事だ。完全無欠なまでにハッピーエンドだ。 ふと、唯一無傷だった森さんが手を高く掲げて立っている。俺はその意味がわからなかったが、古泉はなるほどと理解したらしく 古泉も手を挙げて二人でハイタッチをした。成功の祝いのつもりなのだろう。きれいで心地いい音が辺りに広がる。 あの二人、いいコンビになりそうだな。 「あの、キョンくん」 可愛らしい声が聞こえたんで、軍隊的敬礼ばりに拘束180度回転してみると、そこには麗しき朝比奈さんのお姿が。 ちょっとおどおどした感じであるところをみると、朝比奈さん(通常)のようだ。 全くこのお姿を見るだけで全身泥だらけだというのに、まっさらに清められていくような気分だよ。 「その……ですね……」 何が非常に言いづらそうな感じを続ける朝比奈さんだったが、やがて少し目に涙を浮かべつつ、 俺にあるものを突き出してくる。 ……おいおい朝比奈さん(大)。いくらなんでも空気が読めてなさ過ぎだろ。 俺の目の前に突き出されたのは、何度かみかけたことのあるファンシーな封筒だった。 あの朝比奈さん(大)から送られてくる未来からの指令書。このタイミングで送ってくるなんて何を考えているんだ? ただ、目の前にいる朝比奈さん(小)もこれには不満そうだった。ただ、組織上、従わざるを得ないのだろう。 即座に俺はそれを手に取ると、ひらひらと振って見せて、 「朝比奈さん」 「はっはいっ!」 「燃やしていいですか?」 「はっはい! ――ええ!?」 思わず了承してしまったようだが、朝比奈さん(小)はすぐに撤回した。ま、そりゃそうか。 古泉のように現代レベルの組織的関係ならあっさりと破れるのかも知れないが、朝比奈さん(小)ぐらい未来だと、 脳内に変なチップを埋め込んで、外部から操るなんていうマネすらできそうだからな。 「そそそそそそそれはだめですぅ! あ――いえ、別に未来からの指令を優先とかじゃないんですよ? でもでも、えーとぉぉぉぉ」 あたふた。おろおろ。うーん、朝比奈さん(小)はやっぱり可愛すぎる。本気で抱きしめて差し上げたい。 まあ、そんなことはさておきだ。 「そう言えば、この封筒の中身に何かが書いてあった場合は、強制的にそう動くようにされるんですよね?」 「ええ、そうです……だから、一度開けたら従うしか……」 朝比奈さん(小)の言葉に、俺はその封筒を懐にしまうと、 「じゃ、開けないでおきましょうか。今は、ですけどね。俺ももうくたくたですから。一眠りしたあとでもいいじゃないですか」 「えっ――ええと、そうですねぇ……たぶん、それでいいんじゃないかとぉ」 朝比奈さん(小)はしばらく首をかしげていたが、まあどのみち俺は開けるつもりは全くないけどな。 それに俺の勝手な憶測かも知れないが、この封筒の中には大したことは書いていないんじゃないかと思う。 きっとハズレとか書かれているに違いない。朝比奈さん(大)が伝えたいことは、手紙の内容じゃなくて手紙の存在さ。 わざわざ朝比奈さん(大)が以前に送ってきたものと同じものを使用しているしな。言いたいことは手に取るようにわかる。 ――わたしは無事ですってね。 ◇◇◇◇ 「よっ、ハルヒ」 「何よ」 ちょっと不満げなハルヒの返答。用意されたパイプ椅子に座って、しきりに自分の足をさすっている。 「あーもー、うっとうしいわね、この足! 2年ぐらい使わなかったぐらいで動かなくなるなんて根性が足りないんだわ」 無茶を言うな無茶を。というか、ハルヒが足が動くと思っていたらとっくに動いているんだろうから、 きっと自分の中で2年も使わなければこうなるという考えが固定されてしまっているんだろうな。 「で、さっきまでのサインと握手攻めはもういいのか?」 「さあ? えらい人に散らされたから、したくてもできないんじゃないの?」 ハルヒはそうあっけらかんと言った。 ついさっきまで救世の女神様、涼宮ハルヒ団長殿に謁見+握手+サインを求める兵士たちで大行列ができていた。 まあ、見た目と能力だけならパーフェクトな奴だからな。直接接触しない限りは、ファンは増殖の一途だろう。 しかし、堅物そうな上官の出現により、クモを散らすように解散させられてしまった。軍隊ってのは規律第一だからな。 仕方がないだろう。 ……しかし、その上官がこっそりハルヒのサインをもらっていたことは、絶対に口外してはならない機密事項だ。 うかつに口にしたら射殺されかねない勢いで睨みつけられたからな。娘にプレゼントするらしい。 「ちゃんとSOS団のアピールをしておいたわよ! サインももちろんSOS! ヘルメットとか、迷彩服の後ろに でかでかと書いておいたから、宣伝効果は抜群よね、きっと!」 おいちょっと待て。どこの世界に、『SOS』と書かれた装備を持って作戦に参加している兵士がいるんだ? みんなそろってヘルプミーなんてどこの漫才集団だよ。 しかし、そんなハルヒを見て、俺は安堵を覚える。2年もずっと離れていたし、その間ハルヒも色々あっただろうが、 こいつのポジティブ傍若無人ぶりは全く変わっていないからだ。よっぽど、頑固な性格をしているんだろうな。 「……何よその目! あたしの顔に何か付いているわけ?」 「いーや、相変わらず可愛くない顔してるなと思っただけさ」 そんな俺の反応に、ハルヒはアヒルと猫を合わせたような顔つきで、シャーとこちらを威嚇してくる。 と、古泉がヘリの前に立ってこちらに向かって手を振り、 「みなさん。これ以上ここにいても仕方がないので、手近の基地に移動することになりました。乗ってください」 そう呼びかけている。 「だとよ。行くか」 「そうね。じゃあ――」 そう言いながらハルヒは自力で立って歩こうとし始めた。 「おい無茶するなよ」 「何いってんのよ。こういうリハビリは普段からの心がけが重要なのよ。あとは気合いと根性で――うひゃあ!」 案の定、足をもつれさせて倒れそうになるハルヒを、俺は襟首をキャッチして救出してやる。 いきなり一人で歩けるわけないだろうが。焦る気持ちはわかるが、まあ落ち着いていこうぜ。 「むー」 ハルヒは不満たらたらに口をとがらせているが、何だかんだで俺の肩に手を回してくる。 もうちょっと素直にならないと、周りの男が逃げていく一方だぞ。 「そんな軟弱な男なんて必要ないわ。我がSOS団では活発で行動力のある男子を求めているの。 キョンももっとしっかりしなさいよ。そんなんじゃ、栄えあるSOS団の一員はつとまらないわ。 これからどんどんグレードアップしていく予定なんだからね!」 「へいへい。でも、少しは休ませてくれよな」 「団長として特別に1日だけ休暇を上げるわ。でも、それもただごろごろしているだけじゃダメよ。 あたしが明日以降、みっちり充実した休日の取り方を指導してあげるからね」 「いや、その前にお前はリハビリが先だろ」 「そんなの車いすでも何でも使えばできるじゃない」 やれやれなんつーポジティブぶりだ。ここまでくると、あきれるどころか尊敬してくる、全く。 そんな話を続けながら、歩き続ける。ヘリの前では古泉に加え朝比奈さん(長門入り)がすでに待っていた。 「なあハルヒ」 「なに?」 「……これからもSOS団をよろしく頼むぜ」 俺の言葉にハルヒは、びしっと空に向けて指さすと、 「あったりまえじゃない! SOS団の活動は永遠に不滅なんだからね!」 ~~完~~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2498.html
俺の日常はきっと赤の他人から見れば、まあ大変ねとか、苦労なさっているんですねとか 言われてしまうようなきわめて非日常的な状態にあるんだろうが、俺にとってはこれが楽しくて仕方がない ごくごく普通の日常であると断言できる。 宇宙人・未来人・超能力者。こんなのが得体の知れない情報爆発女を中心に闊歩している世界に 俺のようなきわめて一般的平凡スペック人間がコバンザメのようにくっついて歩いている光景は、 確かに不釣り合いと言えばその通りである。が、いったんそんな現実を受け入れてしまえば、 細かいことはもうどうでもよくなり、どうやってこの微妙に非日常を満喫するか考える毎日だ。 てなわけで、本日もハルヒ発案による不思議探索パトロール中である。 相変わらず、ハルヒの望むような変なものが見つかるわけでもなく、ほとんどSOS団という謎の集団による 食べ歩き・散策・名所巡り状態になっているが。 「にしてもだ。ハルヒが本当に変なものに遭遇を望んでいるなら、とっくに見つかっていそうだけどな」 俺は朝比奈さんをうらやましくも抱き寄せほおずりしながら歩くハルヒを尻目に言う。 それにすぐ横を歩いていた古泉は苦笑しながら、 「涼宮さんにとってそういった奇怪なものを見つけることよりも、我々と一緒に遊ぶことの方が楽しいのでしょう。 そうでなければあなたの言うとおり、今頃町中がエイリアンやUMAで溢れかえっていますよ」 確かのその通りだろうな。実際に俺もそんな物騒な連中が現れずに、こうやって遊び歩いている方が遙かに楽しい。 ハルヒ自身も未知との遭遇がなくても、現状の不思議探索パトロールで満足しきっているんだろうな。 と、古泉は珍しく胡散臭さのない屈託のない笑顔で、 「このままこの日常が続けば良いですね。僕のアルバイトもいっそのこと無くなってしまった方がいいですし」 そんなことをしみじみとつぶやく。 お前達の言うようにハルヒが世界を平然と作り替えられる能力を持った神的存在って言うなら、 この平穏な日常は永遠に続くだろうよ。ハルヒがそう望み続ける間はな…… ……この時まで俺はそう確信していた。 ◇◇◇◇ 「ちょっと公園で一休みしましょう」 そうハルヒの一声で俺たちは公園のベンチに座る。ところでハルヒさん。いくら何でもずっと朝比奈さんに抱きついたままなのは どうかと思うぞ。全くうらやまし――じゃない、少しは朝比奈さんの迷惑を考えろよな。 「いいじゃん。今日は思ったよりも寒かったからカイロが必要なのよ。う~ん、さっすがみくるちゃんは暖かいわね」 「ふえ~」 ハルヒの傍若無人の振る舞いに朝比奈さんは困り切った顔を浮かべているんだが、 ついついそんな彼女にもこうエンジェル的優美かつ華麗さを感じ取って見とれてしまう俺も相当罪深い。 アーメン。俺の男としての性を許してくれたまへ。 一方の長門は相変わらずの無表情ぶりでベンチの上にちょこんと座っている。すっかり謎の超生命体印の宇宙人というよりも 文芸部部長兼SOS団最大の功労者という肩書きが似合うようになった。そんな彼女も今日もいつも通り無表情・無口で 無害なオーラを延々と見せているところから別に変なことが背後やら水面下とかでうごめいてはいなさそうだな。 ふと、ここでハルヒと目が合ってしまった。なんてこった。俺としたことが飛んだミスを。 「ちょっとキョン。のどが乾いたからみんなにジュースを買ってきなさい。あ、当然あんたのおごりでね」 「何で俺が」 横暴極まりない俺への指令に、俺は抗議の声を上げるが、ハルヒは朝比奈さんを抱きしめたまま、 「今日も遅刻したじゃん。罰金よ罰金! ほらほらぶつくさ言わないでとっとと買ってきなさい! あ、あたしは暖かい紅茶でね♪」 満面の笑み100%を浮かべているところを見ると、全く今日もいつもの傍若無人ぶり全開だな。 いつもどおりってのも安心できると言えばそうなんだが。 俺は長門と古泉、それに朝比奈さんの要望を聞くと、近くの自販機を探し始めた。 ちなみに俺の癒しの朝比奈さんは、ごめんなさいとぺこぺこしていたが、そんなに謝る必要なんてありませんよ。 あなたがアルプスの天然水が飲みたいというなら、今すぐ新幹線に飛び乗っていくことなんておやすいご用ですぜ。 しばらくきょろきょろと見回していた俺だったが、やがて公園に乗ってはしる道路の向こう側に 自販機が並んでいるのが目に入った。俺は横断歩道の信号が青になったことを確認し、小銭を数えながらそこを渡り始める。 ――キョンっ!? 後頭部に突然ハルヒの声がぶつけられる。そのあまりに突飛な声に何事だと俺は右回り180度ターンで振り返っている途中で 気がついた。俺の鼻先30センチのところにばかでかい巨大トラックがいることに。 当然ながら空中に突如出現したわけでもなく、猛スピードで信号を無視して俺に突っ込んできている。 鈍い衝撃が俺の鼻に直撃した以降、俺は何も感じなくなった―― ◇◇◇◇ ――キョンっ――キョンっ――お願い――目を開けて―― ハルヒの声だ。何だやかましい。言われなくてもすぐに起きてやるよ…… 俺はすぐにまぶたを開こうとして気がついた。どれだけ強く力を込めて目を見開こうとしても まるでそれを拒否するかのように、強くまぶたが閉じられている。目の上の筋肉辺りは動いているようだったが、 肝心のまぶたは力を込めると逆にしまりが強まる。くっそ――どうなってやがる…… ――キョンくん……どうして……こんなことに―― 次に聞こえてきたのは朝比奈さんの声だ。耳に届く美しい言葉に俺は再度目に力を入れるが、やはり開かない。 ずっと続く闇の中、朝比奈さんのすすり声だけが俺の脳内に響く。ここで気がついたが、俺の手足も俺の意志に反して 全く動かなかった。まるで全身に釘を打ち込まれたかのように身体が硬直し、直接的な痛みよりも 動くはずの俺の身体が動かないというもどかしさに、俺は強烈ないらだちを憶えた。 しばらくして朝比奈さんのすすり泣きも聞こえてこなくなった。そのままどれだけの時間が過ぎたころだろうか。 いい加減、自分の身体が動かないことにあきらめつつあったころ、今度は言い争いが聞こえてきた。 はっきりと言葉の末尾が聞こえないが、片方が古泉の声であることはすぐにわかった。聞いたことのない男の声と 激しくやり合っているみたいだ。おい古泉、そんな声を出すなんてお前らしくないぞ。どうした? しばらく意味不明な怒声のキャッチボールが続いていたが、やがてバンという大きな音とともにそれが止まった、 ――何――やってんのよ――病人の前なのよ!? 出て行って! 出て行ってよ!―― ハルヒの声だ。すまん、ハルヒ。助かったよ。これが続いていたら俺の耳がくさっちまいそうだ。 ん? 今ハルヒはとんでもないことを言わなかったか? なんだったっけ……ま、いいか。ちょっと眠くなった。寝よう…… ――やあ、キョン―― ……ん、誰だよ。人が寝ているってのに…… ――久しぶりに顔を合わせたかと思えば、こんなことになってしまうとは、ついていないと言えば良いんだろうかね? ……うっさいな、俺は眠いんだよ。寝かしてくれ…… ――僕は君が起きているつもりで話すよ。いまさらだけどね。少しでもその意味を理解できているなら―― 俺はここで眠りに落ちた…… 一体どのくらい経ったんだろうか。眠っては起きてまた眠っての繰り返しの日々。いい加減飽きてきたんだが、 起きても指一本動かせず、目すら開かないのでどうしようもない現実だ。聞こえてくるのは耳を通してではなく 頭蓋骨を伝わってくるようなぼやけた声だけ。最初はそれを聞き取ろうと努力したんだが、どうやら俺がどうこうしても 無駄なようだ。はっきり聞こえてくるときとそうでないときの違いは、俺の意志や努力とは関係なかった。 そして、久しぶりにはっきりと聞こえた声。 ――ゴメン、キョン。全部あたしの責任よ。あたしがあの時あんたを使いっ走りにしなければよかった。 ――あたしが悪いの――――――――――――ごめんなさいっ――――本当にごめんなさい――だから目を開けて――お願い―― そんな悲しそうな声を出すなよ、ハルヒ。お前のせいじゃないに決まっているだろ? 自分をあんまり責めるなよ。 らしくなさすぎるほうが帰って俺を不安にさせるんだからさ。大体、あんなことはいつもどこかで起きているんだから―― あれ? なんだっけ? 俺、なんかとんでもない目にでも遭ったのか? なんだっけ…… それから果てしない時間が過ぎたような気がする。 もうはっきりした声も聞こえなくなり、雑音のような声らしきものが俺の脳内に拡散していく毎日。 飽きたなんて言う感覚すら通り越して、意識が麻痺しているんじゃないかと思いたくなるほどの無感状態になっていた。 寝て起きて寝て起きて寝て起きて寝て起きて――もう考えることすらうっとおしくなってきている。 ――あきらめないで。 長門の声だ。すごく久しぶりに聞いた。ちょっとうれしくなる。すまないがちょっと俺の目を開ける手伝いをしてくれないか? ――今、わたしは何もできない。 そりゃまた白状だな。SOS団の仲間だろ? ――あなたと意識レベルでの言語的会話をすることが、わたしにできる唯一できること。 なら、せっかくだ。話でも聞かせてくれ。そうだな。おとぎ話でもいいぞ。いい加減、退屈で感覚が麻痺しているんだ。 ――残念ながらわたしにはあなたの身体構造の再起動を促せるような言語刺激を持ち合わせていない。 そうか。それなら仕方がないな。そろそろ眠たくなってきたから、寝るよ。 そうだ、また退屈になったら話してくれないか? ――もうこのインタフェースであなたと会うことは二度と無いかもしれない。でも聞いて。 なんだ? ――このままでは涼宮ハルヒはこの惑星にすむ知的生命体全てからの憎しみをぶつけられる。 ――そして、世界は消滅する。 は? なんだそりゃ。そんなことがあってたまるか。 ハルヒはな、確かに行動が突飛だったりわがままだったりするが、何だかんだで常識的な奴なんだよ。 人を本気で傷つけたりとかなんてしないしな。見た目で判断するんじゃねえよ。 誰も彼もが誤解しているってなら俺が教えてやる。ハルヒって奴が本当はどんな奴って事をな…… そう思った瞬間、今までの目の拘束状態が嘘だったかのように消える。 そして、俺はゆっくりと目を開いた…… ~~その1へ~~