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ある日、妹のダイブが来る前に目を覚ました。 珍しい事もあるもんだなぁ。 なんて思ってしまう俺も俺なのだが・・・ 目を覚ました俺は自分の部屋に何か違和感を感じた。 何だ?この感覚は・・・ それを気にしていたらあっという間に時間が無くなった。 俺はその違和感が気になったものの遅刻しては堪らないのでさっさと着替えを済ませ、リビングへと向かった。 「おはよう、母さん」 「おはよー!!あんた、相変わらず時間ギリギリね」 「あぁ、いつもすまな・・・」 思わず俺の時間が止まったね。 なんたって台所に立って朝食の準備をしていたその人はなんとハルヒだったんだからな。 「何?朝からポカーンとしちゃって、まだ寝ぼけてるの?」 「は、ハルヒ!!こんなとこで何してるんだお前!?」 「朝っぱら母親を呼び捨てにするなんていい度胸ねぇ?」 危険だ・・・・・ ハルヒは顔は笑っているが声が笑っていない・・・・ 持っているおたまに得体の知れない何かが集まっていく。 このままだと間違いなく俺の明日は無い!! 「す、すいません!!以後気をつけます!!」 あぁ、俺ってここまでヘタレだったのか。 「分かればよろしい。じゃあ、さっさと朝御飯食べちゃいなさい」 「あ、あぁ、分かった」 とりあえず、状況を整理しよう。 どうやら、今の俺はハルヒの子供らしい。 という事は当然父親もいる訳だな。 ハルヒと結婚した勇気ある奴はどんな奴かね? 早く面を拝んでみたいものだ。 今、何かムカッときたがこれはただ単に腹が減っているからだろう。 そうに違いないさ。 そう考えをまとめ、ハルヒの作った朝食を食っていると誰かが降りてきた。 そう、遂にハルヒの旦那の面を拝める時がきたのだ。 ドアが開いた音のする方へ向いた俺は言葉を失った。 そりゃそうだろ。 そこには、ダルそうにしている俺が立っていたんだからな。 起きてきた俺が食卓に着くとなんとも言えない嫌ぁな雰囲気になった。 この空気はなんなんだ? さっきから俺とハルヒが全く口を聞かない。 これが噂に聞く倦怠期ってやつなのか? 俺は小さな勇気を振り絞って聞いてみた。 「な、なぁ、さっきからどうして二人とも口聞かないんだ?」 すると二人の鋭すぎる視線が俺に突き刺さった。 痛い・・・痛すぎるよ・・・(泣) 「「別になんでもない(わよ)!!話したく無いから話さないだけだ(よ)!!」」 二人とも息がぴったりだった そう言い終わると二人は睨み合いを始めていた。 あぁ、これが夫婦喧嘩というものか。 これは確かに犬もこんなもん食ったら腹壊すわなぁ。 しかし、未来では俺はなんとかハルヒと平等な地位を獲得している様で安心した。 「喧嘩してるのは分かった。で、原因は一体何なんだ?」 また視線が飛んできた。 今度はあのバチバチいってるのも一緒にな。 「「それはハルヒ(キョン)が俺(あたし)の言う事全く聞かないからだ(よ)!!」 またハモってる・・・ さて俺はあえてこの二人にこの言葉を送りたいと思う。 このバカ夫婦がっ!! その後、どうにか喧嘩の原因を聞きだした俺は二人を説教していた。 原因は俺、つまり未来の俺とハルヒの子供の進路の事だった。 「分かった。俺の事をそこまで思ってくれるのは大変ありがたい事だと思うよ。でもな、その事で二人が喧嘩したって意味無いじゃないかっ!!」 俺は机を「バンッ」と思いっきり叩いた。 いつもの俺ならここまでする事は無いだろう。 しかし、さっきの原因不明のイライラが俺をどんどんヒートアップさせる。 未来の俺とハルヒはすっかりシュンとなっている。 それに構わず俺は続けた。 「いいか?自分の事で親に喧嘩されたら子供は辛いんだぞ!!自分が原因なのがどれ程苦痛かなんで分かってやれないんだ!?」 「「ご、ごめんなさい・・・」」 それを聞いた俺は一気にクールダウンした。 「分かってくれればいいんだ。こんな息子だけどこれからもよろしくな」 そこまで言うと俺は急に意識が遠くなった。 気が付くと全ての時間が止まっていた。 いや、厳密には俺と俺の前に立っている奴以外の時間がと言っておこう。 「お前は誰だ?」 「はじめまして。僕はあなたの息子です」 こいつは何言ってんだ? 「何を言ってるのかさっぱり分からん。どういうことか説明してくれ」 「今回の両親の喧嘩がいつもよりすごくて僕の手に負えなかったんです。そこで、よく母さんが「学生時代のキョンは」と言っていたので助けてもらおうと思ったんです」 俺の子よ、苦労してるんだな・・・・ 「そうか、そりゃ済まなかったな。ちゃんと説教しといたからもう大丈夫だと思うぞ」 「えぇ、見てました。本当にありがとうございました」 俺はふと気になった事をそいつに聞いてみた。 「でだ、俺達はいつもあんな感じなのか?」 「いえ、いつもはそりゃもう仲の良い夫婦ですよ。暇があれば四六時中ベタベタしてますから」 「そ、そうか・・・」 イカン、顔が段々熱くなってきた。 その瞬間、俺は何かに吸い込まれるような感覚に襲われた。 「そろそろ時間みたいです。名残惜しいですけどお別れですね」 「あぁ、そうだな。最後に1つ聞いていいか?」 「何ですか?」 「お前は俺達の子供で幸せか?」 「そんなの聞くまでも無いですよ。気苦労は絶えませんけど僕は2人の子供で良かったと思いますよ。では未来で会いましょう」 「あぁ、じゃあな」 そこで俺の意識は完全に何かに吸い込まれた・・・ 朝、違和感の無い部屋で目を覚ました俺はほっと胸を撫で下ろした。 学校では昨夜の出来事のせいでハルヒの顔をまともに見る事が出来なかった。 あぁ、気まずい・・・ その気まずさからハルヒを避けていたら超特大の閉鎖空間が発生したとかで古泉から散々ダメ出しをされた。 その翌日、避けていた事をハルヒに謝ったら 「キョン、あたしを傷物にしたんだからちゃんと一生責任取りなさい!!」 とか、教室で大声で叫んでくれやがった。 そして今、ハルヒに課せられた罰ゲームとしてなんと婚姻届を書かされているのだ。 そもそも俺が18歳にならなければ役所が受け取ってくれないと思うんだが・・・ 「キョン、手が止まってるわよ!!さっさと書きなさい!!」 「へいへい」 そんな理屈がこいつに通用する訳無いか・・・ はぁ、やれやれ・・・ fin
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『涼宮ハルヒの行方』 「これは、いったい」 気が付くと古泉一樹は閉鎖空間にいた。そこは学校の校門だった。 何かおかしい。何故いきなりここにいる。 彼は見慣れたはずの色彩のない空間に奇妙な違和感を覚えた。 眼下に広がる灰色の街で、無数の神人がうごめき、破壊の限りを尽くしている。もう始まっているとは……。それにしてもすごい数だ。『機関』の能力者を総動員してもあれだけの神人を相手にするのは不可能だろう。 「ここは閉鎖空間なの、古泉君?」 声がした方向に朝比奈みくるが立っていた。周囲を警戒するように灰色の景色に視線を巡らせている。グラマーな美人教師の傍らに小柄な長門有希の姿も見える。 「そのはずですが、何か妙な感じがします――あ、そういえば、朝比奈先生、長門さんも、お二人ともどうやってここに来られたのですか」 「分からないわ、気が付いたらここにいたの」 「私達は涼宮ハルヒによって召喚された。全てを見届ける証人として」 有希が唐突に口を開く。いつものごとく、そのおもてに表情は浮かんでいない。 「ハルヒさんが? あの子は何処です、有希さん?」と、みくる。 「あそこ」 有希が指差したのは校庭だった。 グラウンドの真ん中に一人の人影が見えた。水色のセーラー服を着た小柄な少女の姿。 そのとき、校舎のほうで青白い光がゆらりと立ち上がった。一体だけではない。二体三体と次々に立ち上がる 「神人です。ここにいたら危ない。とりあえず、涼宮さんのところへ行ってみましょう」 一樹の声を合図に三人は校庭目指して走った。 背後で何かが砕ける音がした。 神人が校舎を破壊し始めたのだ。 ――やめてよ! 校庭に下りる階段の手前で悲痛な叫びが聞こえた。 三人は立ち止まった。 いや、聞こえたのではない。耳にはガラスの割れる音やコンクリートが砕ける音しか届いていない。叫びは頭の中に直接響いた。 ――あたしは、ここにいるでしょ! 神人ののっぺりした顔が校庭に向けられる。 ――あたしは町や学校を壊したいんじゃない。 ――そんなもの壊したってなにも変わらない。 ――キョンくんが生き返るわけじゃない。 神人達は校舎の破壊をやめ、校庭のハルヒへとその巨大な一歩を踏み出した。しかし校庭の手前で見えない何かに阻まれて近づくことができない。神人達は苛立ったように透明な壁を攻撃し始めた。 ――そう、壊したいのは、 ――あたし。 「ハルヒさん……」 みくるは悲しげに呟いた。ごめんなさい、みんな……みんな私のせいだわ。 ――願いさえすれば、あたしはキョンくんを救えた。 ――救えたはずなのに。 ――なぜ、祈らなかったの? ――なぜ、信じなかったの? ――なぜ、諦めたの? ――嫌なあたし。 見ると街で暴れていた神人達も学校目指して山を登り始めていた。 「涼宮さんは世界を造り替えようとしている」 一樹の顔にいつもの笑顔はない。「涼宮さんは彼のことが好きだった。彼のいない世界は彼女にとって何の価値もない。だからこの世界を捨てて新たな世界を作る気でいるんだ。もう終わりだ。僕の力も消えようとしている」 「いいえ、古泉君、これは終わりではないわ」 決然とみくるが言う。「私が今ここにいることが証拠。ここで世界が終わるなら未来から来た私はここにはいません。この先に未来があるから私はここにいられるんです」 「じゃあ、僕が信じていたことはみんな嘘だったと言うんですか、朝比奈先生!」 「古泉君、聞いて。私がいた時代から見て、過去――つまり、今いる時代に涼宮ハルヒという人物は存在していません。生きてるとか死んでるとかじゃなくて最初からいないんです。ハルヒさんのご両親、涼宮夫妻には子供はいませんでした。未来ではそういうことになっているんです。これは……規定事項なの」 「そんな……まさか」 ――キョン 何かが割れるような音がしてハルヒを取り囲むバリアが消失した。 ――あなたに 破壊されるフェンス。なぎ倒される木々。神人達がグラウンドに進入した。 ――逢いたい。 その瞬間、全ての神人がその輪郭を失い、眩い光と化してハルヒめがけて殺到した。 「涼宮ハルヒによる大規模時空改変事象の観測を開始する」 預言者のごとく、有希は、始まりの時を厳かに告げた。 ▼古泉一樹 僕は空港の出発ロビーで予約していた航空便の搭乗手続きが始まるのを待っていた。 あれから僕は北高を卒業し、一流大学に進んだ。今じゃちょっとした上級国家公務員だ。『機関』時代のコネがあったとはいえ、ここまでたどり着くまでのは、なかなか大変でしたよ。 涼宮さんの消滅を機に僕らの超能力は消え、『機関』は解散した。しかし『機関』を中心に政財界をはじめとするあらゆる分野に張り巡らされたパイプは残り、否応なく世界の危機に立ち向かった人々の絆を発端として、この国に新たなムーブメントを生んだ。それが世界中に広がるには、まだ時間がかかるが、その歩みは一歩一歩着実に進んでいる。 僕はスーツの裏ポケットから一枚の写真を取り出した。 あの五月の部室で撮ったSOS団結成の記念写真。最も楽しかったあの瞬間。いつ世界が崩壊するか心休まることがなかったが、なぜか充実感に溢れていたあの日々。悲しい結末になってしまったのは残念でならない。 未来人の朝比奈みくるは僕が卒業するまで北高で英語教師を勤め、その後姿を見なくなった。卒業の日、僕の下駄箱にはファンシーなレターセットに書かれた手紙が入っていた。それには朝比奈さんからの短い別れの言葉と、僕の未来のことが記されていた。遠回しな表現だけど、どうやら僕は歴史に名を残すひとかどの人物になるらしい……それって、禁則事項じゃないんですか、朝比奈先生。 宇宙人の長門有希は、あれ以来姿を見かけたことはない。彼女は急に転校したことになっていた。カナダにいる親元に行ったとかどうとか。きっと彼女が情報操作を行なったに違いない。ほんとカナダが好きですね、あの人は。実際のところ、彼女がどうなったかは不明だった。今も地球にいるかもしれないし、情報統合思念体に回帰してしまったのかもしれない。タコみたいな体の火星人型インターフェイスになって火星を調査している可能性だってある。でも、僕はあの読書好きの少女にまたいつか会えるような気がしてならない。そのときは、長門さん、一緒にカナダでも旅行しますか。 僕は、写真の中で恥ずかしそうに笑顔を作っている少女を見た。その横に満足そうな表情の彼の姿もある。 涼宮ハルヒ、神のごとき力をもった内気な少女。彼女が去っても世界は何事もなかったように続いた。ただ、彼女が生きていたという事実だけが消えていた。残ったのはこの写真と思い出だけ。涼宮ハルヒがどこへ行ったのかは分からない。たぶん新たな世界を創造してそっちで楽しくやっているのかもしれない。僕はあの光の中に彼の姿を見た気がした――死んだはずの彼の姿を。あれは新世界の彼だったのかもしれない。ならば涼宮さんのことは、彼が導いてくれるだろう、きっと。そうであって欲しい。 「涼宮さん、あなたはこの世界を僕らに託してくれたんですよね。ならば、僕、古泉一樹はSOS団副団長として、この世界を大いに盛り上げて見せますよ」 出発ロビーの案内盤が『搭乗手続中』に変わる。 僕は写真をポケットにしまい、ブリーフケースを持って立ち上がった。 「それが僕の規定事項のようですから」 ▼朝比奈みくる 私は閑静な住宅街の端に位置する墓地を訪れた。ここに一人の少女のために命を犠牲にした少年のお墓がある。私の時間平面ではこの場所は墓地以外の施設に作りかえられているため、彼を偲ぶとき私はまたこの時代にやってくる。 墓石に黄色い花束を供え、この時代の人たちがするように手を合わせる。石の墓標を飾る黄色い花。ハルヒさんがいつも着けていた髪飾りの色。こうして見ると彼があの子を抱いているようだ。 ハルヒさんは自分にコンプレックスを持っていた。内気な性格を気にして、自分を変えたいと願うと同時に、そんな自分を生み出した過去を封印しようとした。それが時空の断絶という形で現れてしまったのだ。あの子がどうやってそんな力を手に入れたのかは分からない。古泉君や長門さんはうまく説明してくれるかもしれないけど、たぶん永遠に謎のままだろう。ハルヒさんはどの時間平面からも消えてしまっていた。規定事項どおりに涼宮ハルヒという人物は存在しなくなった。あのとき、私はあの子から激しい時空振を感知した。時間平面が次々入れ替わり、時空の歪みが修復されていく一方で、新たな時間平面が無数に発生していた。彼女は誰かに手を引かれるようにその中に消えていった。涼宮ハルヒ自らが作った新たな時空へと。 私は自分自身に問う、本当にこれでよかったのかと。 全時空を震撼させた閉鎖空間が発生するより以前、朝倉涼子が作った異空間での戦いで、偶然そこに迷い込んだハルヒさんを庇って彼は倒れた。異変を感じて長門さんと古泉君とともに駆けつけたときは既に遅かった。だけど、あのとき、私はブレスレットの治癒デバイスを使えば彼の命を救うことができたかもしれない――にもかかわらず、私はそれをしなかった。過去の人間に対し私の時代の道具を使用するのは禁則事項だったし、どのような形であろうと、その時間に彼が死ぬのは規定事項だったから。規定事項を崩せば未来がどうなるか分からない。歴史が変わってしまう。 私は彼を救いたかった。救うことができた。でも救わなかった。 結果的に規定事項は守られた。でも、ハルヒさんを――彼によって心を開いた、か弱い少女を悲しませてしまった。 この事実が私を苛む。 規定事項とは何だろう。時空エージェントとしての私は間違っていなかった。でも人としてはどうだろう。一人の人間として、人として正しいことをせずに未来を守ることが正しかったのか? 人ひとり救えずに未来を救ったと言えるのか? 控えめなハルヒさんが、彼に手を引かれて、世界を大いに盛り上げていく歴史があっては何故いけないのか? 「キョン君――」 私は墓標に向かって言った。言わなければならなかった。 「私は誓います。私の進む時空で、もしあのときと同じ選択を迫られたら……私は間違えない。今度は人として、朝比奈みくるとして、正しいことを行ないます。今この時から、それが私の規定事項です」 私は彼のために泣いた。 ハルヒさんのために泣いた。 そして思い出の詰まったこの時間平面から未来へと消えた。 また来よう、私は弱いから、今の誓いを忘れそうになった時に。 ▼長門有希 圧倒的な光の奔流の中、涼宮ハルヒが行なう世界改変のプロセスが始まった。膨大な情報が涼宮ハルヒの周りに渦巻いた。私の目を通じて情報統合思念体も事態の推移を見守っているはずだ。 私は驚愕した。涼宮ハルヒを中心に、情報統合思念体がこれまで蓄積したよりもはるかに多くの情報が集積していた。この宇宙開闢にも匹敵するエネルギーはどこから来るのか。私はすべての感覚を総動員して、恐るべきパワーを注意深く観測した。間違いない。涼宮ハルヒは何もないところから情報を生み出している。無から有を創造する力。それは情報統合思念体にはない力だった。 全てが終わったとき、古泉一樹が恐れていた世界の崩壊は起こらなかった。朝比奈みくるの懸案事項だった時空の断絶は消滅した。涼宮ハルヒはこの世界からいなくなった。閉鎖空間内部で発生した膨大な情報はどこにも残っていなかった。おそらく彼女の創造した世界の内部に流れ込んだものと推測する。彼女のことは彼女に深くかかわった人々の記憶にのみ残った。 地球という惑星に発生した人間という有機生命体は、その脳内において複雑に絡まったシナプスとパルスの揺らぎによって『想像』という能力を形成するにいたった。通常、想像の力は個体の範疇を超えることはないが、個体内部においてはあらゆる法則を無視することができる。私はそれを人間の想像の産物である書物から読み解いた。どれほど不可能に思えることでも想像の上では全てが可能となる。そしてそれが発信源となって、ごく稀に現実の世界に影響を及ぼすことがある。確率ゼロ、すなわち不可能であるはずの事柄にほんの僅かな可能性を生じさせるのである。どんなに低い確率の事象であっても、確率がゼロでなければそれはいつか起こり得る。つまり―― 全ての人間はごく低い確率レベルの世界改変能力を持っている。 涼宮ハルヒの力は、想像力が個体の範疇を超えて宇宙規模にまで拡大したものだと私は結論する。だから、彼女は願うだけで、いともたやすく不可能を可能にし、無から有を生み出せた。逆に、自らの心に枷をはめれば、それもまた能力の封印という形で実現したのだ。しかし彼によって封印は解かれ、『想像』は『創造』へと変わり、あの少女は新たな象限へと旅立った。 私は知った。人間がこの宇宙に存在する限り、『涼宮ハルヒ的事象』は再び起こり得る。 おそらく、情報処理能力を物質の化学反応に依存する有機生命体に高度な知性が発生したのは、『想像』の力が大きくかかわったに違いない。『想像』とは、ロジックでしか思考することのできない情報統合思念体には決して理解できない概念。情報統合思念体は否定するだろうが、これこそが彼らの求めていた自律進化の可能性なのではないだろうか。 私は情報統合思念体によって作られたインターフェイスではあるが、血と肉を持つがゆえに、情報統合思念体の持つ計算能力と、物質のたががはめられた人間の脳を同時に持っていた。最初、私の脳はインターフェイスの維持にのみに使われていたが、涼宮ハルヒとSOS団の人々との交流を通じて活性化した。そこから得たものは、うまく言語化できないが、あえて言うならば『感情』だろうか。私は進化したのだろうか? 確信が持てなかった。確かめる術はもはやない。彼の死と涼宮ハルヒの消失をきっかけにSOS団はちりぢりとなった。私達が一同に会することはもう二度とない。私は悲しいと思った。 だから私は想像する。 満面の笑みでSOS団を率いる涼宮ハルヒを―― 恥ずかしげに微笑む小さな朝比奈みくるを―― 絶やさぬ笑みでよく喋る古泉一樹を―― 光となり影となって涼宮ハルヒを慕い支える彼を―― そして…… 彼らの傍らで控えめな笑みを浮かべる私を―― 私は願う。 想像の中にあるこの光景が、いつの日にか私の心の枠を超えて、宇宙に広がることを。 彼らの世界が大いに盛り上がることを。 END
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「二人のハルヒ ハルヒの気持ち」 さて、キョン君に代わって、未来の涼宮ハルヒである私が語るわ! 北高校に教師を勤めて間もない頃。 家を買ったので、生活するのに必要な物を買って帰った。 自宅の途中に公園に入って通る事になる。 そこで、一人の少女が俯いたまま座り込んでだ。 よく見ると、この時代の涼宮ハルヒだった。 私は、気になって声かけてみた。 「何をしてるの、ハルヒちゃん」 その彼女は吃驚して顔上げた。 いつ見ても、可愛いわね…。 だから、モテたんだな…私って。 「え、あ…あなたは、確か…キョンの従姉の…鈴見ハルカさん…ですよね」 そういえば、そうだった。 私が勝手に決めた設定だったわね。 「で、こんな所にいて、どうしたの」 ハルヒちゃんは、まだ俯いた。 「それは、その…えっと…」 ははーん、さてはキョン君の事ね。 この頃の私って、ウブだったっけ。 「もしかして、キョン君の事で悩んでたりして?」 ハルヒちゃんの肩を少し動いてたのは見えた。 …図星なのね。 私は、買い物で缶ジュースを思い出し、袋の中から取り出した。 「はい、喉渇いたでしょ、飲んでいいよ」 「あ…ありがとう」 私は、ジュースを受け取ったのを見てハルヒちゃんの隣に座った。 それにしても、こんなに落ち込むような事あったかしら…。 色々思い出しても答え見つからないわね…数年前の出来事だったからね。 「で、どうしてキョン君の事で悩んでるの」 いきなりの質問で、ハルヒちゃんがかなり動揺してた。 「それは!その…」 「大丈夫よ、キョン君には言わないから言っていいよ」 ハルヒちゃんは、ゆっくりと顔上げた。 「あたし、前に夢見てたの…周りに巨人が出た夢を…」 あー、あれね。 思い出したわ、最後は確か…。 「あたしの側にキョンがいたの、それで巨人が出た途端…キョンがあたしを連れて 逃げたわ。あたしはあの世界がいいと思ったの…でも、キョンは「俺達がいた世界がいい」 と…。その後、キョンは私の肩を捕まって言ったの「俺、実は…ポニーテール萌えなんだ」と…。 それを言った後…その…えっと、キ…キスしたの…」 あぁ、そうだった…アレがファーストキスだったわね。 「それなら、いいじゃないの」 「ダメよ!アレは夢だったんだから、実際どう思ってるのが怖いのよ!」 と、ハルヒちゃんが叫んだ。 ちょっと、こんな所で叫んだら近所に迷惑でしょ…。 「キョンは、分かってないのよ!あたしの気持ちを…」 ハルヒちゃんは、まだ落ち込んだ。 古泉君、悪いわね…仕事入っちゃって…。 キョン君は鈍感だから、分かってないのも無理も無いわね。 「…うっ…ひっく…キョンなんか…ひっく…あたしの気持ちをぉ…」 あらら、ハルヒちゃんが泣いちゃったよ。 でも、私は知ってる…いつか告白されるのを…。 「ねぇ、ハルヒちゃん…聞いてくれる?」 ハルヒちゃんは、泣きながら頷いた。 「私はね、昔…そうね、高校時代だったわね…。 私は、入学式当日にある男の子に出会ったの。 その人はキョン君に似てるぐらい優しい男だったのよ。 アレから何ヶ月経ったかな、部活に入ったんだけど…その人も同じ部活に入ったのよ。 偶然としか言いようが無いよね、その後、部活の仲間と一緒に楽しく活動したわ。 で、数ヵ月後…私は夢見たの、静かな世界で私とその男の子だけ残った夢を。 その男の人は何したと思う?」 「…キス?」 あら、分かったわね。 「そうキスしたの、した途端、目覚めたのよ。 夢なのか現実なのか分からなかったわ、それでもあの人の側にいたいとね。 私は、あの人は実際どう思ってるのが怖かったけど。 告白されるまで、頑張って、彼の側に居ようと必死に必死にやって来たわ。」 「あの、その人とはどう…なったの」 いつの間に、泣くのを止んだみたい。 「ん、ちゃんと告白されたわ。アレから何年経ったかな…その人とは無事に結婚したのよ。」 「そうなの…」 ハルヒちゃんが、いつものハルヒちゃんになった。 「あたし、待った方がいいの?」 「うん、待ったらいいよ…だから、頑張りなさい」 私は、ハルヒちゃんの頭を撫でてやった。 「うん、頑張るよ!」 この調子で頑張ってくれたら、告白されるのは私は分かってるから安心していいよ。 「あら、ハルヒ…こんな所にいたのね」 ん、今のは…。 「お母さん」 え、お母さん!? 「あ、こんにちわ…と言っても、こんばんわですね」 私は、呆然してたが慌てて。 「えっと、こんばんわ!」 社会のルールとして、お辞儀した。 「あ、お母さん!この人は新人の先生で、あたしのクラスの担任の先生よ」 私は、まだ慌てて自己紹介した。 「あ、えっと、私は最近、北高校に就職しました。えー…す…鈴見ハルカです!」 危ない危ない、『涼宮ハルヒです』と言ったら終わりになる所だった。 「はい、分かりました…あぁ、この子をよろしくお願いします、この子は無邪気でね……」 喋り続けるお母さんを姿を見ると、涙が出そう。 だけど、我慢しないと…会いたがった人が目の前にいるとは思わなかった。 思い出す…あの日を…。 とある病院で…。 『お母さん!お母さん!』 『ハルヒ…ゴメンね、私はもう…』 弱くなったお母さん。 『いやよ!このままで別れるなんで…』 『…ハルヒ、あなたを育てて…本当に良かったわ』 震える母の手をゆっくりと挙げた。 私は溜まらず母の手を掴んだ。 『ハルヒ、これからも生きてね…私の…大切な娘…うっ!』 『お母さん!』 『ありがとね…さよ…なら…』 掴んでいた母の手は静かに崩れる。 そして、心電図はピーと言う音がずっと鳴る。 『うっ…ひっく…おかあぁさーーーーーん…』 あの日はずっと泣いた。私はお母さんの事を愛してた。お父さんも…。 「…では、もう遅いので、これで」 私は、ずっと考えてたから、全て話を聞けなかった。 「あ、はい!} お母さんはお辞儀したのを見て、私も慌ててお辞儀した。 慌てるのは、これで3回目だっけ。 「えぇ、これからも、よろしくお願いします」 まだお辞儀する私。 そろそろお辞儀する癖はやめようかしら。 「ハルカさん、ありがと!明日から頑張るよ」 「頑張りなさいよ」 私は、ハルヒちゃんとお母さんが去るまで見守った。 言えなかった言葉…今なら、言える。 「ありがとう、お母さん」 私は、誰も居なくなった公園を後にして、自宅へ歩きながら夜空を見上げ思った。 あなたは、昔とは変わらないわね…。 必死に、私を楽しくしたり、私を守ってくれたんだよね。 だから、そういうあなたが好きよ。 あなたの事を愛してるわ。 私は深呼吸してから叫んだ。 「そうでしょーーーー!」 夜空に、一つの流れ星が流れた。 翌日、学校の廊下で歩いてると後ろから何やら騒いでる。 私は、何かなと思って振り向いた。 「バカキョン!いい事思い付いたわ!」 「だーかーらー、ネクタイを引っ張るなって!破れるから」 「つべこべ言わなーいっ!ほらほら、早く!」 やっぱりね、いつものハルヒちゃんとキョン君を見ると安心出来るね。 少しでも、からかっちゃおうかな。 っと、その前に…キョン君ゴメンね、あなたの代わりに私がやるわね。 私は、少し溜息してから。 「やれやれ…」 完
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第 四 章 情報爆発から一夜が明けた。 俺はこれからの行動計画を考えた。俺がすべきことは大きく分けて三つある。 機関を立ち上げること。 未来人がTPDDを得るきっかけを与えること。 そして、ハルヒを救うこと。 さらに俺には絶対に避けなければならないことがあった。 ひとつは当然ながら、自らが既定事項を崩す行動を取らないことだ。 俺の誤った行動によって、未来が俺の知る元の未来と変わってしまえば、全てが水の泡だ。 そして、もうひとつはさらに重要だった。 情報統合思念体に、俺の存在を知られることは絶対にあってはならない。 老人の話を信じるとすれば、書き換えられたこの歴史では、情報統合思念体は俺の存在を知らない。ハルヒの周辺に関する記憶を全て抹消すると言っていたからな。 気をつけなくてはならないのは、俺がTFEI端末に不用意に接触することだ。 たとえそれが長門であってもだ。 もし俺がTFEI端末の周囲に近けば、奴らは俺の記憶を読み取るのに些かの労力も必要としないだろう。 そして俺が情報統合思念体を消滅させる意図を持っていることを奴らに知られれば、俺はかなりまずい状況に立たされる。 情報統合思念体から攻撃を受けることは容易に想像出来る。 過去の長門の行動から推測すれば、おそらく記憶を読むのに必要な距離は半径十メートル程度だろう。 長門は最終的には俺と行動を共にし、ハルヒを救うために情報統合思念体の抹消を提案してくれた。だがそれはあくまでも卒業式以降の歴史である。 それ以前の長門に俺の意志を知られることによって、長門が俺の敵にならないという保障はどこにもない。 長門を敵に回すなんてことは俺には絶対に考えられなかった。 TFEIだけではない。未来人や超能力者、その他一般人を含めた誰にだろうと、今の俺に過去の俺の面影を見出されることは好ましくない。 そういうわけで、俺は髭を伸ばし、目が弱いという理由でサングラスをかけ続けることにした。怪しげな組織の創設者には怪しげなスタイルが似合うのさ、おそらく。 次に俺は、世界と歴史、とりわけハルヒの周辺が情報統合思念体によってどのように改変されているのかを確認することにした。 ハルヒがどこの高校に入学しようとも、俺は最終的に北高に行くように歴史を修正するわけだが、それでも今ハルヒがどこにいるのかを知る必要はある。 ハルヒの周囲には観察のためのTFEI端末がいるはずだ。 俺がハルヒの居場所を知らないがために、迂闊にハルヒの周囲に近づくということは、すなわちTFEI端末に発見される危険性が高まるということだ。 俺は、この時代から三年後の北高の入学式、つまり俺たちが北高に入学した日の登校時間に移動した。 おそらくハルヒは北高には入学しないだろう。 情報統合思念体が全ての歴史を書き換えたのだとすれば、ハルヒがジョン・スミスに会う歴史は生まれていないはずだ。 だが俺は一応の対策として、北高の近くを見張るのは避け、登下校ルートが見渡せる建物の屋上を探し出し、そこから双眼鏡で観察することにした。 学生たちをつぶさに観察出来るほど双眼鏡の倍率は高くなかったが、それでもその中にSOS団メンバーが混じっていればすぐに解るだろう。 三年間ずっとつきあってきた。例えそれが双眼鏡越しの後姿だとしても、俺は一目で判別する自信がある。 予想どおり北高にハルヒの姿はなく、長門の姿も見当たらず、大汗をかきながら暗澹たる気分で坂道を登る高校一年の俺の姿しか発見出来なかった。 入学式の日は新一年生のみの登校であり、朝比奈さんの姿は当然確認出来なかった。 だが翌日もおそらく朝比奈さんは来ず、しばらく経って古泉が転校してくることもないだろう。まだ未来人組織も古泉たちの機関も出来ていないんだからな。 では朝比奈さんと古泉は解るとして、ハルヒと長門はどこだ? 俺は時間移動で再び登校時間に戻り、ハルヒの家から比較的近い、市内の高校をひとつずつ同じ方法で調査することにした。 さっき北高の通学路を張っていた俺と同じ時間平面に来ている。 つまりこの時間平面には今の俺と北高を張っている俺の二人がいるわけだ。 無駄にややこしい。俺はまず、文化祭の映画撮影で使ったロケ地である朝比奈さんが突き落とされた池に程近い、学区内では一番の進学校に向かった。 長門が世界を改変したときとは違い、光陽園女子が俺の知る中高一貫のお嬢様女子高のままならば、ハルヒにとってその進学校が最も適切な選択のはずだ。 双眼鏡の視界を校門付近に固定し、しばらく観察を続けた。 見つけた。 これから始まる学校生活への不安や期待を一様にその表情に浮かべる新高校生の中で、ただ一人だけ、俺が初めて会ったときと同じ100%混じり気なしの不機嫌イライラオーラを放出し続けている、見慣れた黒髪の女の姿を。 そして、同じ高校に朝倉と喜緑さんの姿も発見した。 だが長門の姿は見えなかった。長門はハルヒの監視役。 ハルヒがそこに通うのであれば、長門も当然ながら同じ学校に通うのが筋というのものだ。なぜ長門はいないんだろう。 俺には他にも気になっていることがあった。 今の歴史では、俺とハルヒの将来はどうなっているんだ? 俺は、俺が元いた時代、つまり俺とハルヒが結婚していた頃に移動した。 予想どおりだった。俺とハルヒは結婚していない。当たり前だ。 北高での出会いがなければ、俺とハルヒの人生には永遠に交差する点は訪れないだろうからな。 そしてこの歴史では俺は大学には行かず、専門学校を卒業したものの、就職難でフリーター真っ只中にいた。なんてことだ。俺はあらためてハルヒの補習授業のありがたみを実感した。 では一体ハルヒはどこにいる? 俺はハルヒの実家を遠くから見張ってみた。 だがいつまでたってもそこにハルヒの姿は見出せなかった。 次に一年間時間を遡ってみた。そこには大学に通う、さっき進学高で見たのと同じ、混じり気のない不機嫌な表情そのままのハルヒがいた。 そこからさらに半年間時間を進める。大学卒業前のハルヒを発見した。 なるほど、ならば大学を卒業してすぐに引越しでもしたのか? そうしてハルヒがいなくなった時期を少しずつ絞り込んでいき、ようやく真実にたどり着い た俺は、あまりのことに茫然自失した。 ハルヒの実家にかかる鯨幕。訪れる弔いの人影。外側からわずかに見える祭壇。 ハルヒの写真。 ハルヒは大学を卒業してしばらく後に、やはり原因不明の難病で命を落としていたのだった。 俺は直感した。何らかの理由で情報統合思念体が自律進化の可能性を捨て、不確定要素であるハルヒを亡き者にしたのだろうと。 過去のハルヒは高校一年の五月と高校三年の二月、二度世界を作り変えようとし、そしてそれは俺の存在により未遂に終わった。 だがこの歴史では、ハルヒを止められる者はおそらく誰もいない。 情報統合思念体は、自律進化の可能性と世界改変による自らの消滅の可能性を天秤にかけた末に現状維持を望み、世界改変を未然に防ぐためにハルヒを死に至らしめたのだ。 奴らは情報爆発以降のハルヒへの手出しは危険と言っていたが、この歴史ではこういう判断を下したのだろう。 これはあくまでも想像でしかない。 だがやつらの動機としては十分に考えられることであり、 他にハルヒが原因不明の病気になる理由は考えられない。 暴走した長門が世界を変えてしまった時の喪失感、そのときとは比較にならないほどの感覚を俺が襲っていた。 情報統合思念体によって、俺は一番大切な思い出を奪われ、一番大切な人を二度も殺されたのだ。 こんな未来など俺は絶対に認めない。認められるはずがない。 俺とハルヒが北高で出会う歴史を作るためには、あの七夕でのジョン・スミスとの出会いが必要だ。 それだけではない。俺がハルヒと結婚する未来を確実にするためには、おそらく俺の知る過去の事象を全て「既定事項」として作り出さねばならないはずだ。 俺は今日の時間移動であることに気づいていた。 俺が機関を作らずとも、世界は終わっていない。 俺が作らなければ、他の誰かが元の歴史とは別の超能力者組織を作るのだろう。 だがそれで古泉が北高に入学する保障はどこにもない。 やはり機関は鶴屋さんの言葉どおり俺が作るべきなのだ。 俺はこれから、歴史を改変する度に、その結果を検証しなければならない。 歴史というブラックボックスに対して改変というインプットを与えた際に、アウトプットと なる未来がどう変化するのかを理解する必要がある。 結果を正しくフィードバックしてこそ、正しい歴史を作ることが出来るのだ。 そして検証作業を今日のように俺一人の手でおこなうのは、今後は不可能となるだろう。 ハルヒが北高に入学すれば、その後は北高内部の情報収集が不可欠だ。 だが俺自身はTFEI端末に近づけないという理由でそれを出来ない。 つまり、俺には情報収集を肩代わりしてくれる存在が必要だ。 ならば最初にやるべきことは決まった。 俺は機関を立ち上げることを最優先課題にすることにした。 その日の夜、機関創設に関する当主との打ち合わせが開かれた。 まず俺は、鶴屋さんに正体がバレたこと、一応の口止めをしておいたことを正直に明かした。 当主は笑いながら、 「あれは異常に勘のよい娘でして、私も昔からよく困らされております。ただ物事の本質や何が大切かということもよく解っているようです。口の堅さは保障しますので、どうかお気になさらずに」 と言って許してくれた。日々、物理的に頭が下がりっぱなしである。 俺は機関創設計画の草案と、それに伴い必要になるであろうことについて話した。 何よりもまず超能力者を探し出してそれを集める必要があること。 閉鎖空間の発生とともに、超能力者がすぐに対応出来る体制をつくること。 超能力者とは別にハルヒの監視役が必要なこと。 未来人や情報統合思念体などの別勢力に関する情報収集をおこなう人員が必要なこと。 その他、雑務をこなすための人員が必要なこと。 それらを実現するために、信頼のおけるスポンサーを集める必要があること。 当主はひと通り聞き終えると、俺の意見に全面的に同意してくれた。 「閉鎖空間が発生した際には、よろしければご招待します。是非一度ご覧いただき、その目でお確かめください」 「それは実に興味深いですな。楽しみにしております。ああ、それと、」 当主はまたしてもありがたい提案をしてくれた。 「私も出来る限りの協力は惜しみませんが、とはいえ立場上常に時間を取れるわけでもありません。私の代わりにあなたをサポートする、言わば秘書のような者を紹介したいのですが。いかがでしょう?」 「ありがとうございます。何から何まで、本当に痛み入ります」 果たして一体俺は既に何度当主に頭を下げているだろう。 打ち合わせを終了し、俺は離れに戻って具体的な計画を考えた。 さて、その超能力者たちを一体どうやって探し出そうか。 俺は、俺が初めて閉鎖空間に連れて行かれたときのタクシーの中で、古泉が言ったことを思い出していた。 超能力者たちはハルヒによって能力に目覚め、それがハルヒから与えられたことを知っている。 超能力者たちは自分と同じ能力を持つものが自分と同時に現れたことを知っている。 超能力者たちは閉鎖空間の出現を探知でき、その中で自らが何をすべきなのかを知っている。 超能力者たちは神人を放置しておくと世界が終わってしまうことを知っている。 そしてそれらのことはおそらく昨日、ハルヒの情報爆発によって全ての超能力者にもたらされたはずだ。 超能力者たちはハルヒの存在を知っている。ハルヒの周辺を見張っていれば、彼らのうち誰かが何らかの目的でハルヒに接触を試みるかもしれない。 だが具体的にどこまでハルヒのことが解るのだろうか。 彼らはハルヒの所在まで特定出来るのだろうか。 俺の知る機関の連中はハルヒを神扱いしていた。仮にハルヒの居場所が解るとして、神に近づくなどという大胆な超能力者はいるだろうか。 いや、彼らは昨日今日能力を与えられたばかりで混乱しているかもしれない。 神に対して大それた行動に出ないとも限らない。 ならばハルヒのガードが必要になるかもしれない。 いや、どちらかと言えば超能力者のガードになるだろう。 超能力者の誰かがハルヒに危害を及ぼすのを放置すれば、TFEI端末に消される可能性も充分に考えられる。 他に超能力者と接触する方法として考えられるのは、閉鎖空間が発生したときに彼らを探し出すことだ。 彼らは閉鎖空間の出現だけでなく、場所までを正確に把握出来る。そして彼らは強制的に与えられた自らの使命を果たすべく、おそらくそこに集まるだろう。 そして俺もおそらくその発生を探知出来ると考えられる。 いつかの野球場で古泉や長門とともに朝比奈さんが見せた態度、あれは閉鎖空間の発生を感じ取ってのことのはずだ。 だが閉鎖空間はいつ発生するんだ? 未来に飛んで閉鎖空間の発生時間を調べてみるにしても、飛んだその時に閉鎖空間が発生していない限り、俺にはそれを探知する術はない。 どうやらこちらの線は閉鎖空間の発生を待ったほうがよさそうだ。 とにかくどちらの方法でもいい。誰でもいい。 一人でも超能力者と接触出来れば、そこから芋づる式に超能力者は見つかるはずだ。 翌日、俺は閉鎖空間の発生までハルヒを監視することにした。 ただ待つだけというのはどうも性に合わない。 ハルヒは既に小学校を卒業していたため、俺はハルヒの実家を張ることにした。 仮に超能力者の誰かがハルヒに近づくとすれば、ハルヒの外出時を狙うだろう。 ハルヒの家の周辺を見渡せて、かつハルヒを監視する俺以外の存在から見つからないであろう監視場所を探すのには苦労した。 ただでさえ高所から双眼鏡を使って監視するのだ。 TFEI端末でなくとも、一般人に見つかれば警察に通報されるかもしれない。 時間移動で難を逃れられるとはいえ、無用なトラブルは避けるべきだ。 俺は一時間ほどかけてようやく監視に適した場所を見つけ、ハルヒの外出を待った。 一分置きの時間移動を繰り返し、十秒間監視をおこなう。 外出するなら朝の七時から夕方五時くらいまでだろう。 その十時間を約二時間弱で監視する計算になる。 初日にはハルヒは結局一度も外出をせず、俺はその翌日から三日後まで順々に飛び、同様に監視を続けた。 ハルヒは一度だけ外出し、俺はしばらくそれを尾行したが、結果は芳しくなく超能力者らしい人影は現れなかった。 俺は元の時間平面、つまり情報爆発の翌々日の夕方頃に戻った。朝頃に戻っても構わないのだが、あまり実際の活動時間とズレるのは体内時計によくなさそうだ。 「紹介します」 翌日、当主にサポート役として引き合わされた女性を見て、俺はまた腰を抜かしそうになった。 年齢不詳の美女。あるときは別荘のメイドとして、あるときはカーチェイスの末に敵対勢力を追い詰め、その能力を遺憾なく発揮したあの人が目の前に立っていた。 「はじめまして。森園生と申します」 俺は実感した。少しずつだが、確実に歴史は俺の知るものと繋がりつつある。 森さんはこの時点で既に様々な技能を身につけていた。秘書能力、あらゆる事務能力などに加え、諜報能力、六カ国語を使いこなし、武術にも長け、射撃に関してもひととおりの心得があるとのことだった。ところで射撃って一体何だ? 森さんは、スーツの左側を開いてみせた。内側にホルダーが備え付けらており、その中にはすぐさま使用するのに何の不都合もないであろう状態で拳銃が収まっていた。 朝比奈さん(みちる)を誘拐した連中とのカーチェイスの際、俺が森さんに底知れない何かを感じたのは間違いではなかった。やれやれ、一体森さんはどういう経歴の持ち主なんだ? どこかの諜報機関の女スパイか何かなのだろうか。 そして、森さんのような人材をたちどころに調達することの出来る当主が一番底知れない人物であるのは言うまでもない。 既に森さんは当主から大方の説明を受けていた。俺が未来人であることを除いて。 「機関のエージェント確保やスポンサー探しについては、当主が当たってくれています。我々は、当面は超能力者を探し出すことに重点を置きます」 森さんにハルヒの監視を引き継ぐことにした。ハルヒの身の回りに超能力者らしき不審な人物が接触を図る素振りがあれば、ただちに制止して尋問して欲しいと。 俺は遠くからハルヒを監視することは出来ても、ハルヒに近づくことは出来ない。 おそらく、ハルヒの周辺を監視しているTFEI端末がいるだろうからな。 俺が以前、朝比奈さんに連れられて長門のマンションに行ったとき、つまり俺が中学一年の頃の七夕のときには、長門は既に北高の制服を着ていて、俺が高校一年のときに見たそのままの姿だった。 そして長門は三年間あのマンションで孤独に待機していたのだ。 おそらく長門・朝倉・喜緑の三人は高校専用のTFEI端末で、今この時代の彼女たちは待機モードであり、今のハルヒや中学生のハルヒを監視するための別のTFEI端末が存在するのだと思われる。 既にこの三日分の観察は終わっているため、理由は言わずに、四日後から監視に入って欲しいと告げた。 俺は、田丸氏の存在を思い出し、別荘の線で田丸氏とコンタクトが取れないか調べることにした。 一週間かけて、高一の夏休み序盤に招待された、あの島の所有者の変遷と身辺を調査した。だが、結局そこに田丸氏らしき人物は見出せなかった。 どこかの山中に俺は立っていた。暗い。 得体の知れない寒気のようなものを感じる。 森に囲まれた平地に、おぼろげに噴水が見える。 わずかな光に照らされた全てのものは、その色を失っていた。 背後から聞いたことのある少女の泣き声。振り返る。 広場の一角に、ひときわ明るい光に包まれた人形が立っていた。 人形はどこか寂しげな様子で、あたりを見回している。 やがて人形だったそれは、光を失いながら霧のように拡散していった。 また夢を見た。夢の中の泣き声は、前に見た夢と同じ持ち主によるものだった。 この夢は誰が見せているものなのか? ハルヒ、お前なのか? それからしばらくして、夢の意味が解った。 遂に閉鎖空間が発生した。ハルヒの中学校入学式の夜。 ハルヒよ、お前は中学に入っていきなりイライラを爆発させちまったのか? 予想通り俺は閉鎖空間の発生を探知することが出来た。 時空振動に似た感覚が俺を襲った。 だが俺にはその場所が特定出来なかった。 振動を感じ続けてはいるものの、震源地の方角すら解らなかった。 俺はやはり夢にかけてみることにした。なぜなら、あの夢の中で感じていた寒気と同じものを、俺が今実際に感じているからだ。 当主を閉鎖空間に案内するのは次回以降でよいだろう。 現時点では俺にだって閉鎖空間を探し当てられるという保証はない。 森さんに連絡を飛ばす。 「閉鎖空間が発生しているようです。車を手配してすぐに来れますか?」 「了解しました。五分で到着します」 そう言った森さんは、本当に五分きっかりに鶴屋邸前に到着した。 「どちらへ向かいますか」 夢の中のおぼろげな風景。だが、俺はその風景に確かに見覚えがあった。 森さんの運転する車で向かった先は、SOS団の映画のロケ地、あの森林公園だ。 十分ほどで到着した俺たちは、駐車場に車を停め、さらに徒歩で三十分かけて噴水のある広場まで登った。 朝比奈さんと長門の対決シーンを撮った広場。そして朝比奈さんがレーザーを発射し長門に押し倒されたあの場所。 おそらくここで間違っていない。広場内の他の場所よりも、この場所で特に例の寒気を顕著に感じるからだ。 「ここに閉鎖空間が発生しているのですか?」 森さんが不安げに俺を見る。彼女の不安はおそらく閉鎖空間という得体の知れないものに対してではなく、本当にこの場所で大丈夫なのかという、俺に対する不安であろう。 「確証はないですが、こことは別の次元のこの場所で神人が暴れています。そして超能力者たちは今まさに神人との初めての戦闘をおこなっているはずです。神人を倒せば閉鎖空間は消え、超能力者たちが現れます」 これで俺の見当違いだったらかなり申し訳ないな、と思いつつも俺たちには待つ以外に方法はなかった。 あまり口数の多くない森さんとの気詰まりを感じながら、二時間ばかり待っただろうか。 不意に寒気が消えた。 と同時に俺たちがいる場所を取り囲むように三人の男性が突如として現れた。 そこに古泉の姿はなかった。 それぞれ二十代後半、ハイティーン、ミドルティーンと言ったところだろうか。 彼ら三人には神人との戦いを通じて既に共通認識が芽生えているようだった。 そして、そこに異端の者として俺たちが突っ立っている格好だ。 OL風スーツに身を包んだ女性と、やはりスーツ姿にサングラスと髭面の男が、こんな夜中にこんな山中に立っているのだ。これはもう、誰がどう見たって怪しい。 俺は、ひとまず敵意のないことを示すため、彼らに微笑んで見せた。 森さんはと言えば、実に見事なエージェント的笑顔を向けていた。 それは鏡を見て練習でもしたんでしょうか? しかしながら、超能力者三人はあからさまに俺たちを警戒している。 まあ当然の反応だろう。 「俺の話を聞いてくれませんか」 「お前は何者だ」 年長と思われる超能力者が俺に歩み寄った。 俺は彼らの気持ちを考えてみた。きっと今の状況を不安に思っているに違いない。 ハルヒによって何の前触れもなく突然能力を与えられ、その使い方を理解し、否応なく薄気味悪い夜の山中に出向かされ、さらに薄気味悪い空間で神人と戦わなければならない彼らの心境を考えれば、にこやかに話に応じることなど出来るはずもない。 心の底から気の毒に思う。 「俺はあなたたちの味方です」 「お前は俺たちのことを知っているのか」 「あなたたちがどこの誰なのかを知っているわけではありません。ですがあなたたちが何故ここにいるのかは解ります」 三人は顔を見合わせた。 「どうやってお前を信じればいい」 「あなたたちに能力を与えた涼宮ハルヒを知る者、と言えば信じていただけますか?」 その名前を聞いて、彼らは納得したようだった。 「解った。話を聞かせてもらえるか」 俺は超能力者を集めた組織を作る予定であること、そのメンバーに加わってもらいたいということ、閉鎖空間の発生とともに超能力者が出動出来る体勢を整える予定であること、超能力が消滅するまでは責任を持って生活を保障すること、などを伝えた。 森さんは名刺を渡すとともに彼らの連絡先を確認し、詳しいことは明日にでもこちらから連絡する、とを伝えた。 俺たちは、北口駅前近くのビルの二フロアを借り、そこに機関の本部を構えた。 超能力者やエージェントが増えるにつれ、ここもいずれ手狭となるかもしれない。 超能力者は他の超能力者の存在を知ることが出来る。最初の三人を無事仲間に加えることが出来た俺たちは、それを頼りに他の超能力者を次々と探し出した。 だが古泉はなかなか見つからなかった。 「まだ残りの能力者の所在は掴めませんか?」 「残念ながら、進展なしですね」 俺と話しているのは、森林公園で会った三人のうちの年長者で、今は超能力者たちのリーダー的存在の人物だ。 「見つけ出せない理由はおそらくですが、本人が能力に気づいていないか、あるいは自らの能力を受け入れていないか、のどちらかでしょう。ですが能力に気づいていないというケースは今まで発見された能力者では該当者はいません。私たちと同様に能力を身につけた者は、自分に何が起こったか、何をすべきかをその瞬間に理解しいるはずです」 「残された超能力者は後何人くらいいそうですか?」 「私たちには残りの能力者の場所は解らなくとも、存在はなんとなく解るんです。感じると言いますか。これは既に集まっている能力者共通の意見ですが、この世界で同じ能力を持つものはおそらく十人程度と考えられます。現在のところ機関に所属している能力者は八名。つまりおそらくあと一、二名の能力者が残っているということになります」 あの卒業式の三日前に発生した大規模閉鎖空間では、機関と敵対勢力の超能力者を併せて二十人以上はいたはずだ。つまり、こちらの超能力者からは敵の超能力者の存在は感じ取れないということになる。 ハルヒによってあらかじめ敵、味方となる勢力を決められていたということだろうか。 「最初の閉鎖空間に向かったのはご存知のとおり私たち三名だけでした。私たちは早くから与えられた能力と役割を受け入れていたので、お互いがどこにいるかがすぐに解ったんです。それ以外の者はまだ覚悟が出来ていなかったんでしょうね。能力を受け入れていない者、つまり心を開いていない者の場所はこちらからでは解りません」 発見されていない能力者、つまり古泉はまだその能力を自ら認めていないということか。 「彼らの気持ちは解りますよ。私だって突然自分に未知の能力が身について、混乱しなかったと言えば嘘になります。ですが私は何事も楽観的に考えるタイプでして。逆に深刻に物事をとらえるタイプの人間にとっては、これはかなり辛いことだと思います。最初の閉鎖空間が発生しているときは、彼らは大変な葛藤をしたと思いますよ。想像してみてください。自分が異能の存在になってしまったことを認めたくない、閉鎖空間や神人はもちろん怖い、でもそれを放置すれば世界が終わってしまうかもしれない。これは相当な恐怖ですよ」 古泉は今もそういう日々を送っているはずだ。 「おそらく残された能力者の取る道は三つです。他の能力者と同じく覚悟を決めて能力を受け入れるか、このまま恐怖に押し潰されて自ら命を絶つか、あるいは閉鎖空間や神人発生の原因である涼宮ハルヒの殺害を謀るか、です」 古泉は言っていた。 「機関からのお迎えが来なければ、僕は自殺してたかもしれませんよ」 と。 迎えに行けるものならすぐにでも行ってやりたい。 だがお前からシグナルを発してくれなければ、こちらからは打つ手がない。 森さんによるハルヒの監視は継続していたが、やはり古泉が姿を現すことはなかった。 もし古泉がハルヒの殺害を意図すれば、こちらが保護する前にTFEI端末に消される恐れだってある。 既定事項では古泉は無事に機関に入るはずだが、今の歴史の流れでそうなる保障はどこにもない。 その数日後、もどかしい気持ちで過ごした日々はようやく終わった。 四度目の閉鎖空間が発生したその直後、リーダー格の彼から連絡があったのだ。 「今さっき、未発見の能力者一名の微弱な波動を感じました」 「了解です。森さんを能力者の確保に向かわせます。位置把握のために能力者を誰か一名使いますが、そちらは大丈夫ですか?」 「閉鎖空間の方はなんとかやってみます。規模はそれほど大きくないようですので、いけると思います」 「解りました。よろしくお願いします」 俺は直ちに森さんと能力者を手配し、波動の発信源へと向かわせた。 「氏名、古泉一樹。性別、男性。年齢、十二歳。××市立××中学の一年。発見時に極度の衰弱と精神錯乱を確認」 なんとか神人の迎撃を完了した後、俺は本部の一室で森さんからの報告を受けていた。 「随分暴れまして、保護するのに手間取りました。『僕は行きたくない』とずっと繰り返して おりまして。現在下のフロアの宿泊施設に収容しています」 「今は様子はどうですか」 「依然、精神錯乱が見られます。落ち着くまではしばらく機関で保護したほうがよいかと思われます」 「今会って話せますか」 「今日は見合わせて明日以降がよいですね」 森さんの報告によると、古泉は能力発現からずっと学校を休んでおり、つまり中学には一度も登校せず、家から出ることすら出来ない状態だったらしい。 古泉は今まで発見された超能力者の中でも最年少だった。 混乱が激しいのも無理はない。 翌日俺は本部に赴き、森さんとともに古泉と面会した。 ドアを開けたそこにはベッドの上で膝を抱え、うずくまる少年の姿があった。 「あんたたちは一体何なんだ」 俺たちに気づくと少年は顔を上げ、懐疑的な色の目を向けた。 顔つきこそまだ幼いが、それは確かに古泉だった。 俺の知る古泉とは異なり、随分と口調が荒いが。 「俺たちは君の味方だ。森さんから説明があったと思うが、君に俺たちの組織に入ってもらうために来てもらった」 「何だよ、涼宮ハルヒってのは。何で僕がそいつのせいでこんなに苦しまなくちゃならないんだ」 すまん、古泉よ。それは将来の俺の嫁だ。俺からも詫びを入れたい気分だ。 「こんな言葉で片付けるのはあまり好きじゃないが、これが運命だと思って受け入れてくれ。涼宮ハルヒのことだけじゃなく、俺とお前がこうして出会うことも含めてな」 「わけ解んないよ! 僕は嫌だ。あんなところには行きたくない」 まるで説得の糸口が見つからない。 「悪いようにはしない。しばらくここで俺たちの活動内容を見てから考えてくれればいい。他の能力者と話し合うのもいい」 「うるさい!」 しばらく説得を続けたが、俺の言葉は全く受け入れられなかった。 部屋を出ると、能力者のリーダーが待っていた。 「彼の様子はどうです?」 「かなり精神的に追い詰められているみたいです」 「無理もないですね。どうかご理解ください。私たちは涼宮ハルヒという鎖に縛られています。涼宮ハルヒは私たちに無理やりに能力を与え、神人という恐怖により絶対的服従を誓わせた、そういう存在です。そして私たちは涼宮ハルヒの精神状態によって右往左往させられる、実に惨めな存在なのですから」 ハルヒも無意識的にとは言え、随分罪作りなことをしたもんだ。宇宙人や未来人を集めるのは構わない。奴らは最初から宇宙人や未来人だ。 だが超能力者は違う。元はと言えば普通の人間だ。 それを勝手に超能力者に作り変え、おまけに自分のイライラを解消させるために使うんだからな。 「様子を見るしかないでしょうね。私たちも彼を落ち着かせられるようにしてみますので。彼は同じ能力者仲間ですからね」 数日後、森さんからの経過報告を受けた。 「あまり芳しくないですね」 「今はどういう状態ですか」 「精神状態は比較的安定傾向にあります。ですがまだ神人と戦える状態ではありません」 「つまり、どういうことです?」 「他の能力者の意見では、単純な問題でもないようです。神人への過度の恐怖心が原因でまだ完全に能力が発現していない状態とのことです。逆に、能力が発現していないからこそ恐怖心が余計に募るのかもしれない、とも。最悪の場合、ずっと能力が発現しないままの可能性もあると言ってました」 そうなると、俺の知る歴史には至らないんだが。これはどうしたものか。 古泉の部屋に赴く。 「よお、調子はどうだ。オセロでもやらないか」 古泉は軽く俺を睨んだが、ずっと部屋にいて退屈だったのか、誘いに応じた。 「ルールは解るか?」 無言でうなずく。 「どうだ、だいぶ落ち着いたか?」 無言でうなずく。 「他の能力者とは話してみたか?」 無言で首を振る。 まるで長門を相手にしてるみたいだ。 精神状態が安定したと言っても、こんな状態だといかんともしがたい。 ちなみに二ゲームやったが、この古泉も俺のよく知る古泉同様、ゲームは激しく弱かった。 あることに気がついた。森さんも古泉もそうだが、俺はそれをてっきり偽名だと思っていた。 怪しげな機関に所属するものが本名など使うはずがないと。 そんな疑問をそれとなく森さんに聞いて見た。 「これから起こることを考えれば、涼宮ハルヒの周辺にはプロ中のプロが集まります。相手がその気になれば身元など簡単に割れます。私たちが同じくそう出来るように。ならば本名を使った方が、余計な手間が省けます」 なるほど。エージェントの世界というのも色々と奥が深いものなんだな。 つまり俺は表立って機関に関わるのを極力避けた方がよいということだろう。 それからしばらくして、五度目の閉鎖空間が発生した。 俺は一計を案じ、古泉のいる部屋へと向かった。 「何ですか? 僕をどうしようっていうんですか?」 古泉はやっと普通に話せる状態には回復していた。 「今からちょっと付き合え」 古泉は明らかに怯えた顔で、 「僕をあのわけの解らない場所に連れて行くつもりですか?」 俺だってそのわけの解らない場所に何も知らないまま連れて行かれたんだぞ。 しかも連れて行ったのは誰あろうお前だ。 「なに、心配しなくていい。俺が閉鎖空間を見物したいだけさ。それに今日はお客様もいる。お前の力を借りたい」 「嫌です。僕はそんなところに行きたくない」 「神人退治をしろと言ってるわけじゃない。そこまではさせないさ。それともまだ逃げ続ける気か?」 「僕が何から逃げていると言うんですか」 俺の言葉にうまく乗ってきた。年下の扱いは昔から得意なんだ俺は。 性格をよく知る古泉相手ならなおさらだ。 「解ったよ。とにかくついて来い」 能力者への指令を森さんに任せ、俺は機関の車に古泉を乗せた。 「どこに向かうんですか? あの場所とは方向が違いますよ」 「さっき言っただろう。今日はお客様がお見えになる。粗相のないようにな」 到着したのは鶴屋邸。 お客とは以前から閉鎖空間に案内すると約束していた当主のことだ。 「やっと閉鎖空間とやらを拝めますな。楽しみにしてます」 「こいつが今日俺たちを閉鎖空間に案内してくれます」 俺は古泉を紹介した。 「ほほう、それはそれは。ご苦労ですがよろしく頼みますよ」 柔和な笑みを浮かべる当主に、古泉も安堵の表情を見せた。 これで少しは緊張がほぐれてくれればいいが。 しばらく車を走らせた先は、奇しくも俺が最初に古泉に連れて来られた場所と同じだった。 「壁の位置がどこだか解るか?」 「そこの交差点の歩道の丁度真ん中です。でも、能力者以外が入ることが出来るんですか?」 「出来るさ。俺たちだけでは入れないがな。だからお前をつれてきたんだ。侵入の方法は解るな? ならば俺たちを入れるのも簡単だ」 「解りますが……、僕はすぐに外に戻りますよ」 「ああ、構わない。よろしく頼むぞ。」 「では、しばらく目閉じてください」 俺と当主は古泉の指示に従い、古泉は両手でそれぞれ俺と当主の手を握った。 「行きます」 以前と同じように、古泉に手を引かれて俺たちは閉鎖空間に侵入した。 入るなり、瞼の奥に強い光を感じた。 目を開く。眼前に青い光の塊が広がっていた。 距離にしておよそ十五メートルほどだろうか、目の前に神人がいやがった。 近すぎる。予想外の展開だ。 「やばいぞ、脱出する。古泉、行けるか?」 返事がない。古泉は神人をじっと見つめたまま硬直していた。 「聞こえてるか!? 出るぞ!」 俺の問いには答えず、古泉は神人を仰ぎ見たまま動かない。 まずいことになった。少しずつ閉鎖空間に慣れさせようと連れて来たのが、これでは逆効果になりかねない。 だが、しばらくして古泉が発した言葉は見事に俺の予想を裏切ってくれた。 「綺麗だ……」 俺は長い付き合いを通して、古泉のことを少し変わった奴だとずっと思っていた。 その判断は正しかった。こいつはやはりどこかおかしい。 そして、荒療治は案外成功するかもしれない。 俺は左手で古泉の肩を叩き、右手で神人を指差してこう言った。 これで夕日でも落ちていれば、どこかの青春の一ページみたいなポージングだ。 「あれが神人だ。お前には釈迦に説法かもしれんが、あれの出現は涼宮ハルヒの精神状態が悪化していることを表している」 古泉が聞いているのか聞いていないのかは解らないが、構わず俺は続けた。 「つまりあれとの戦いは、やつのイライラとお前たちのイライラのぶつかり合いということになる。いずれやってみるといい。いいストレス解消になるぞ」 我ながら、かなりいい加減なことを言っていると思う。 「最初は大変だろうと思うが、慣れれば……そうだな、ニキビ治療みたいなもんだ」 これはお前が言った言葉だぞ、古泉。 俺は古泉の手が赤く輝き始めたことに気づいた。能力が発現したらしい。 「これは……?」 やがて古泉がかざした右手の上にハンドボール大の赤い光球が生み出されていた。 「それがお前に与えられた能力だ。試しに投げてみろ」 古泉は光球と神人をしばらく交互に見つめ、思い立ったように、滑らかかつ力強いフォームで光球を神人に向かって投げつけた。 そういやこいつは野球をやってたんだっけか。 それは見事に神人の腕に命中し、驚くべきことに神人の腕は粉々に砕け散った。 どうやら驚いているのは俺だけではなく、神人の周りを飛ぶ人間大の光球たちも、その動きでもって驚きを表現していた。 ルーキーが初打席で敵エースの決め球をバックスクリーンに叩き込んだようなもんだ。 そう言えばすっかり当主の存在を忘れていた。 振り返ると当主は相変わらずの笑顔でこの超常的な展開を楽しんでいるようだった。 この剛胆ぶりは鶴屋家の遺伝子のなせる技なのか? 「……あの飛んでいる光は?」 古泉は神人の周囲に群がる光点に気づいたようだ。 「あれはみんなお前の仲間だ。そしてこれから先お前にはもっと多くのかけがえのない仲間が出来る」 光球たちをじっと目で追う古泉に、 「そのうちお前もああいう風に戦えるようになるさ」 「どうやったら飛べるんですか?」 「それは俺には解らん。俺は能力者じゃないからな。だが他の能力者だって誰に教わったわけでもない。その気になればお前にだってすぐに出来るようになると思うぜ」 古泉は静かに目を閉じた。意識を集中させているようだ。 突然、古泉の体中から爆発するかのようにオーラが発生し、それはすぐさま球体となった。 古泉の体がふわりと浮いた。 「やってみろ」 光球が躊躇うかのように上下に揺れた。 しばらく後にそれは静止し、次の瞬間にはレーザー光のような鋭い軌跡で神人めがけて飛び立った。既に何度も見ている光景だが、その度に思う。まったくデタラメすぎる。 古泉の光球はそのまま神人の頭部を貫通し、神人は着弾点を中心に、外側へ向けて順々に光の霧となって崩壊した。 新たに加わった光球を温かく迎え入れるかのように、他の光球たちがその周囲を飛び回っていた。 閉鎖空間の消滅後、古泉は横断歩道の上でぐったりと座り込んだ。 俺は古泉の横に座った。 「お前がこの能力を与えられたのは偶然ではない。それがたとえ涼宮ハルヒによる理不尽な選択だとしても、それは全て意味のあることだ」 古泉は首から上だけをこちらに向けた。だがその目には輝きが生じていた。 「俺が保障する。この先何年間かは君にとって辛い日々が続くかもしれない。だがいずれそれを笑って話せるときが必ずやってくる。俺を信じてくれ」 古泉は二度まばたきし、そしてこう言った。 「解りました。今後ともよろしくお願いします」 こうして超能力者は集結した。 古泉は超能力者の数は世界中で十人くらいだと言っていたが、実は全員がこの周辺で生活している人たちだった。 ハルヒも随分と手近なところで超能力者を調達したもんだな。 逆説的に言えば、閉鎖空間はハルヒの近辺にしか発生せず、神人を撃退する者もこの周辺にいる必要があったということだ。 俺は、日本にしかやって来ないどこかの宇宙怪獣と、日本にしか存在しないどこかの地球防衛軍を思い出して、妙に納得した。 ある日、俺は鶴屋さんに図書館に誘われた。 「貸し出しカード失くしちゃってさっ。これから再発行に行くんだけど、ジョン兄ちゃんつきあってくんないっ?」 俺は機関創設に関する実務的な作業や、閉鎖空間の対応に追われていたが、たまには息抜きも必要だろう。 道路に面した側を俺が歩き、鶴屋さんに歩道側を歩くように促した。 「車に轢かれるからっかい?」 「それもあるが、車を横付けして誘拐されないようにするためだ」 「へええ? 色々考えてるんだねお兄ちゃん」 「前にもあったのさ、そういうことが」 朝比奈さんが誘拐された時のことを思い出していた。 あのときは森さんたちのおかげで難を逃れたが、ひとつ間違えば取り返しのつかないことになっていたかもしれない。あんな思いは二度とごめんだ。 連れてこられたのは、高校生の頃に長門と共に来た図書館だった。 「図書館の雰囲気っていいよねっ。家にも本はいっぱいあるけど、あたしはやっぱりこっちの方が好きさっ」 鶴屋さんがカードの再発行手続きをしている間、俺は長門と初めて来たときのことを思い出していた。 もうあれから七年以上経つ。市内不思議探索パトロールの第一回目、午後の部。 ハルヒ作成によるつまようじを用いた厳正なるくじ引き――それは場合によっては全く厳正に作用していなかったのだが――によって俺と長門とはペアを組み、明らかに時間を持て余した俺が長門をこの図書館に連れて来たのだ。集合時間を寝過ごしてしまった俺は、動かざること山よりも強固な読書集中モードの長門とともに集合場所へと向かうために、長門用の貸し出しカードを作り、本を借りてやったのだ。 思い出にふける俺に鶴屋さんは意味ありげな笑みで、 「お兄ちゃん、考えごと?」 「ああ、まあな」 「女の人のこと考えてたんじゃないっ?」 相変わらず勘がいいな。 「以前、俺の友達とここに来たことがあってな。そいつの貸し出しカードを作ってやったことを思い出してた」 「ふーん」 鶴屋さんには隠し事は通用しない。 だが鶴屋さんはいずれ北高に行き、TFEI端末と接触する機会がある。 鶴屋さんの記憶が読まれることだって想定しなければならない。 過去の俺を連想させるような言動はなるべく避けるべきだ。あまり詳しいことは言えない。 図書館を出た直後に携帯が鳴った。森さんからだった。 「閉鎖空間発生の恐れがあります。至急指令所にお越しください」 俺は鶴屋さんをタクシーに乗せ、ただちに空間移動で機関本部にある指令所に向かった。 「一号から入電。観察対象の精神状態極めて不安定。危険レベル赤に移行。閉鎖空間発生の恐れあり」 その直後に時空振がきた。九度目になる閉鎖空間の発生。 「閉鎖空間の発生位置の特定急げ」 森さんがオペレーターに対して的確に指示を飛ばす。 「二号に照会します」 一号、二号というのは最近使い始めた超能力者のコードネームだ。ますます怪しげな雰囲気になっているな。 「閉鎖空間は××線△△駅前を中心に、現在半径二十一.四キロメートル。今のところ閉鎖空間の拡大は認められず」 今まで発生した閉鎖空間の中では最大規模だった。 「一号から入電。神人の発生までおよそ二十四分の見込み」 指令所にはオペレーターが五名、閉鎖空間の発生に備えて常駐しており、有事の際には俺と森さんが駆けつけるという体制になっていた。 「移送要員の手配状況を報告せよ。待機、準待機中の能力者に対して直ちに出撃要請。何人出せるか?」 「二号、閉鎖空間に侵入。一号、閉鎖空間隔壁に到着。三号、六号、八号の三名、閉鎖空間に向けて移動中。九号、移送要員手配中、四号、五号、七号と連絡不通」 まだ指揮体制が作られてから間もない。 指揮系統に乱れがあるのは当然のことだろう。 「一、二、三、六号、閉鎖空間に侵入完了。神人迎撃準備中」 「神人発生までおよそ二分」 「八号、九号閉鎖空間に侵入」 「侵入した者より順次、迎撃準備体制に移行せよ」 「一号から入電。神人出現を確認」 「閉鎖空間拡大速度、秒速一キロメートル突破。なおも加速中」 俺が古泉に連れられて行った閉鎖空間とは段違いの規模だ。ハルヒの中学時代のイライラは当時よりはるかに深刻だったらしい。 「閉鎖空間拡大速度、毎秒三.一六キロメートルで安定。閉鎖空間半径百四十七.八〇キロメートル。拡大終了まであと三時間三十一分十二秒」 超能力者たちにしても、この頃はまだ試行錯誤の連続であり、それだけに神人の迎撃にも当然ながら時間がかかっていた。 つまり、閉鎖空間の拡大が速いか、神人の撃退が速いか、まさに時間との戦いだった。 「九号から入電。一般人が数名閉鎖空間に侵入している模様」 「なんだって?」 九号というのは、すなわち古泉のことだ。 「九号に回線繋いでくれ」 すぐさま、指令所に古泉の声が響き渡る。 「九号です。閉鎖空間に侵入した際に、一般人の存在を確認しました。視認では二名。侵入の方法、目的などは不明」 「解った。君は直ちに一般人の捜索と保護にあたってくれ。残りの能力者は神人の迎撃を継続」 「了解しました。以降、報告は外部のエージェントからお願います」 「能力者四、五、七号ともに閉鎖空間内に侵入。ただちに神人迎撃体制に移行。九号、再侵入」 予想外の闖入者に混乱を来たしたが、三時間後ようやく神人は崩れ落ちた。 神人により世界が閉鎖空間に飲み込まれることがないのは、俺が知る限りでは既定事項のはずだ。 だが、それにかまけて手を抜くことは決して許されない状況だった。対処を誤れば世界は間違いなく崩壊する。閉鎖空間の出現は俺にとっても緊張の連続だった。 「閉鎖空間に侵入した一般人は三名。現在機関所有のビルにて拘束中」 森さんからの報告だ。 「対処はいかがしましょう?」 俺はまず三人に会わせて欲しいと言った。 「よろしいのですか? 閉鎖空間や機関の存在が一般に知れるのは避けるべきと思いますが」 森さんが言わんとしていることは、何らかの方法で彼らの口を塞ぐべきだということだろう。だがそれは話をしてからでも遅くはない。 俺は、不可抗力で怪しげな空間に紛れ込んでしまい、怪しげな集団に拘束されている、これはもう不幸としか言いようのない三人と面会した。 そして俺はまた歴史の繋がりを再認識させられることになった。 「なんとまぁ……」 思わず独り言が出た。 紛れ込んだ一般人三名というのは、あろうことか新川さんと田丸兄弟だった。 三人とも、普通に街を歩いていて、突然辺りが暗くなったと思ったときには既に閉鎖空間の中にいたらしい。 面会を終えた俺は森さんに宣言した。 「この三人を機関のメンバーに加えます」 森さんは驚きの表情を隠せなかった。 「閉鎖空間に一般人が紛れ込むことは、これから先もほとんどないと言っていいでしょう。万一それが起こったとすれば、それは涼宮ハルヒの意思によるものです。彼らは我々に害を及ぼすものでは決してない、いや必ず我々の助けになってくれます」 仮説ではあったが、おそらく間違ってはいないだろう。ハルヒが自分の都合で他人を必要以上に不幸に陥れるなんてことあるはずがない。 何よりこの三人が機関に加わり、重要な戦力になることは既定事項だ。 機関の立ち上げ開始から二ヶ月が経ち、機関の骨格が完成した。 俺は、今後は機関に直接的に介入することはせず、オブザーバー的な位置に立つことにした。 俺にはまだ他にやらなくてはならないことが残っていたからな。 機関の上層部には超能力者のリーダー格の男性、スポンサーからの代表者、スポンサーが推薦する研究者などが集まった。 高校時代の俺の印象どおり、上層部は今ひとつ的外れな言動を繰り返す集団になりそうだったが、それも仕方がない。既定事項だ。 彼らには現実世界とのバランサー役として活躍してもらわねばならない。 俺の立場を知る森さんには、中堅の役どころに入ってもらい、俺に情報を流す役をお願いした。 次に古泉たち一般の超能力者、最後に各種実働部隊として新川氏、田丸兄弟などのエージェントを配置した。 あまり表立って機関に関わりを持つことを好まないという鶴屋家側の要望と、創設者である俺に注意が向かないようにしたいという俺の要望が一致し、鶴屋家は間接的スポンサーの位置に収まった。 そして、娘を危険なことに巻き込みたくないという当主の当然の意見と、将来北高に行くことになる鶴屋さんを深く関わらせるべきでないという俺の意見により、俺は機関に対し 「鶴屋さんには手を出すな」と厳命することとなった。 第五章
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涼宮ハルヒの逆転 太陽が元気に輝いてるにも関わらず、今日は気温が低い。そう冬だからである。 放課後相変わらず文芸部室で遊びもとい団活動している五人。 俺は古泉と朝比奈さんでじじ抜きをし、長門は本を読んでいる・・・あれは人体解剖の本か?でハルヒはネットで動画を見ているようで、さっきから高い女性ボイスがうるさい。 古泉がビリという当たり前と化した結果でじじ抜きを終了したとき、団長様が騒ぎはじめた。 ハルヒ「キョン!あんたこの女の子好きでしょ!」 ちょっと来なさい、とばかりに魔手を招いてきた。仕方なく立ち上がりハルヒの見ている動画を見に行った。 動画にはやけにうるさい女と涙目なか弱い男が映っていた。どうやら前者のことを言ってるようだ。 ハルヒ「主人公のことを思い心を鬼にする女の子。あんたにはこういう子のがお似合いよ!」 いーや朝比奈さんのような可憐な女子が好きだ。ておい古泉、なに笑ってんだ? キョン「俺は可愛くて大人しい同級生と付き合いたい」 みくる「ロマンティストですねぇキョンくん」 いやですね朝比奈さん?さりげなく「人に夢と書いて」ということを言わないでくださいよ。 朝比奈さんの嘲笑を一身に受けながらハルヒの方に目をやると ハルヒが俺を見たまま目を見開いて硬直していた。 キョン「ハルヒ?」 ハルヒ「・・・そうだったの」 なにゆえ落ち込む? そのとき本を閉じる音が聞こえた。 ハルヒ「まあいいわ。とりあえず解散!」 一気にテンション戻しやがった。 帰り道、鈍感ですねと古泉に言われた。俺がなにをした! これから起こる事件は俺が悪かったのだろう。だがなあ宇宙人に未来人に超能力者、俺にだって選ぶ権利があっても・・・まあ俺は自分の意志で決めたから良いのだが。 次の日いつもどおり妹にたたき起こされた。いつもどおりだらだらと飯を食べた。いつもどおり登校直前に教科書の類いをバックに積めた。 つまり俺は学生としてはダメ人間なわけだ。 そしていつもどおり玄関のドアを開けると、いつもどおりではない光景を見た。 なんとハルヒが俺の目の前にいる。 キョン「どうしたんだ?荷物持ちならお断りだぞ」 ハルヒ「えと・・・おはようございます」 俺にカミナリが走った。なんでハルヒが手もじもじさせて、一般人のセリフを言ってんだ!? ハルヒ「あっ荷物持ってもらえるのでしたらその・・」 微妙に図々しい所は変わらないな。だがこんな弱気な美少女の頼みとあれば キョン「わかった。カバンよこせ」 ハルヒ「あっありがとうございます」 顔赤くしないでくれ、理性がはじけ飛びそうだ。てか本当に同一人物なのか? カバンを受け取りつつ聞いてみた。 キョン「名前は?」 ハルヒ「えっ?涼宮ハルヒです。でも以前から知って」 キョン「部活は?」 ハルヒ「SOS団の団長ですけど?」 キョン「バスト・ヒップ・ウエストは?」 ハルヒ「えっとたしか・・てちょっとキョンくん!」 最後の解答以外で判断するとたしかにあの暴君らしい。あとで古泉に聞くか。 てなわけで俺とハルヒは登校した。 ハルヒと黙ったまま肩並べて歩くのは初めてだな。たまにハルヒが俺を見ては地面を見ていた。急に頭をなでてやりたくなったが、我慢して歩いた。 授業中ハルヒは寝ずに起きていて、6教科の教師全てを驚かせた。ハルヒが本当に優等生に見えたひと時である。 昼休み、俺はハルヒからの誘いで昼食を共にした。だが弁当をもらえるわけではなく、ただ机をくっつけて黙って各々の弁当を食べるだけだったが。たびたびハルヒがハンカチを取り出してこちらを見ては戻してたが、どうしたんだろうね。 放課後俺は急いで部室へ向かった。ハルヒは英語教師に質問してから行く、という。今日は英語の授業がなかったな。英語教師がハルヒの変わりぶりに驚愕することは間違いない。 この一連の変化を解決すべく部室の扉を開けると、いきなり誰かに抱きつかれた。確認すると、小柄な体の無口少女が 長門「キョンくん今日は早いね~!」 なにがあった? キョン「長門。これは一体全体どうなってんだ?」 長門「もうキョンくん!私のことは『ゆきっち』でいいよ!」 「消失」以来久しぶりに見た長門の笑顔に一瞬ときめいたが、長門を落ち着かせて事情を聞くことにした。 長門「ブーゆきっちでいいのに。なんか『ハルっち』が性格を改変したの」 キョン「おまえとハルヒをか?」 長門「私は変わってないよ~!ハルっちと『牛乳腹黒ロリ女』を変えたっぽい」 色んなところにツッコミしたいのだがまあいい。 長門「この改変について特に問題はないよ、て情報統合思念体が決定しちゃった。だからこのままキョンくんと遊ぶ~!」 こら抱きつくな、いやしてください、いーややっぱりだめだ! 「キョンから離れろ長門ーー!!!」 甘い誘惑に踊らされてる俺の背後から聞いた覚えのある声が叫んだ。振り向くとそこには・・朝比奈さん? 朝比奈「てめぇ二人っきりだからって何してもいいわけじゃなねぇぞ!」 長門「ふーんだ。陰険腹黒娘に言われたくないもんね~」 朝比奈「だから離れろって言ってんだろ長門!だいたいてめぇに陰険なんて言われたくねぇよ!」 俺は二人の口論に口を出せずただ呆然としていた。怒ってる朝比奈さんもかわいいです、てレベルじゃない。 長門「なんで私に美人局常習犯って言われたくないのよ?」 朝比奈「セリフ変わってんだろ!あんな本読んでるてめぇに言われたくはない!!」 そう言って指さした先を見てみると、椅子の上に一冊の本があった。なになにタイトルは「海外拷問画像集R20」?そんな本があったんだ。 驚いている俺の視界が急に暗くなった。 長門「見ちゃだめ!恥ずかしいよ~」 朝比奈「抱きつくな~!!!」 長門が俺の目を手で覆ったようだ。朝比奈さんが長門につかみかかったらしく、長門が俺から離れて朝比奈さんとケンカし始めた。 ハルヒ「どうしたんでしょう?」 いつのまにか俺のとなりでハルヒがあたふたしていた。本来の朝比奈さんポジションにハルヒが着くのか。 古泉「どうやら面白いことになってるそうですね」 おまえもいたのか。それより、女子のケンカを面白いとな? 古泉「たまには良いものです。今回の件は大きな改変ですが、あまり重要視する必要のない問題です」 むしろ楽しいです、と嫌みではなさそうな笑みを浮かべていた。 ハルヒ「あの二人を止めた方が」 古泉「涼宮さんがそういうのであれば止めましょう」 そう言うなり古泉が白兵戦中の朝比奈さんと長門の間に入った。 古泉「二人とも落ちつゲフグハァ!」 みくる「邪魔すんなガチホモ!」 長門「いっちゃんも敵なんだよね~」 あーあ左右から顔を殴られるなんてデフォなことして。 古泉は両頬を真っ赤に腫らして戻ってきた、なんか濡れ衣だとか言ってる。古泉の犠牲を無駄にせぬため、今度は俺が止めに入った。簡単に乱闘が終了した。 古泉「さて今回の件についてですが、先程言ったとおり重大な問題ではありません」 キョン「根拠はなんだ?」 古泉「解決方法がわかってます」 ほう、では教えてもらおうか。 古泉「ですがこの状況も面白いのでしばらく放置します、機関の許可もありますし」 キョン「なんか釈然としないが、いつでも改変を戻せるんだな?」 古泉「まあ戻すのはあなたですがね」 なに笑ってんだてめぇ。 ようやく部室に平穏が訪れたので、スマイル仮面とチェスをしよう。 だがその平穏の名前は「つかの間の休息」だった。 以下音声でお楽しみください。 みくる「はいキョンくんお茶!」 キョン「ども。いやーいつもながらおいしいです」 みくる「いっいつもやってんだからお世辞なんていらない!」 長門「なになにダークマターがツンデレ~?キョンくんはゆきっちのものなの!」 みくる「あー!?だいたいダークマターの意味ちげぇだろバカ!」 長門「あんたはまだプライベートに謎が多すぎる生命体だからいいのよ。特に深夜ね、クスクス」 みくる「こ ろ す」 ハルヒ「おっお願いですからその」 みくる「なんだ団長やろうってのか?」 長門「ハルっちは危ないから逃げて」 ハルヒ「暴力はダメです~!」 みくる「今日こそ決着つけるぞ長門!」 長門「ふーんあたしの宇宙的パワーに勝てるのかしら」 ハルヒ「えっ?宇宙?」 キョン「まて朝比奈さんに長門!おまえらそれは」 ハルヒ「今のはどういうことなんでしょうゆきっち!?」 長門「げっゆきっちピンチ」 みくる「ほんとあんたバカね」 ハルヒ「宇宙的パワーってどんな感じですか!?やってみてください!」 オンリー音声タイム終了。なるほど不思議の話になると積極的になるあたり、たしかにハルヒである。 長門「たったとえばこんなの、えい!」 そう言って長門はポッケからトランプを取り出すと、子供でもできる手品をした。 ハルヒ「わぁすごーい!」 ハルヒがよろこんでる。純心っていいな。その直後にどこが宇宙的パワーなんですか、とハルヒに言われて長門は愛想笑いでごまかした。 ハルヒ「ゆきっちは面白い人ですね」 長門「そうかな~。それより今思ったんだけど、ハルっちはさ~」 ハルヒ「えーと?そんなに見つめないで・・・」 長門「やっぱりかわいい~!大人しいときなんて興奮しちゃーう!」 ハルヒ「かっ顔が近いですゆきっち!ぃひゃぁっ!」 長門「この強調し過ぎない胸なんて特にイイ!私なんてこんなひんぬーなのに!」 ハルヒ「ひぃああくすぐってぃ」 長門「聞こえなーい!」 二人ともそのままでいろよ、今カメラにおさぶがあぁぁ! みくる「なーにやらしい目で見てんのよキョンくん!そんなに私は魅力的じゃねーの!?」 キョン「いきなり腰に飛びげ」 みくる「そーう、じゃ今から私しか見れないように調教してやるわ」 いつのまにか朝比奈さんの右手にはムチがあった。あっ右手を振り上げイタッ! キョン「朝比奈さん!いたいじゃギャッ!」 みくる「いいわよーもっとイイ声でさえずってキョンくん。テイッ!」 朝比奈さんは何度も俺にムチを打ってくる。こらーそこのかしまし娘たち!怯えてないで止めてくれ。 このままMに目覚めてしまおうか、そう思い始めたとき聞き捨てならぬ言葉をハルヒから聞いた。 ハルヒ「キっキョンくんはこういう女性がお好きなんですか?」 うおおおなんとしてでも否定をしゲフッ! みくる「そうよね~キョンくん?ハイ!」 キョン「アッ―――」 遂には亀甲縛りされ、口にゾウキンを詰められた。えーとハルヒさん?なにもそこまで青冷めなくても? ハルヒ「そうだったんですか・・・」 長門「泣かないでハルっち、ね?」 ハルヒ「ゆきっち~!」 ハルヒが長門に泣きついた。長門は照れながらハルヒを抱きしめて頭をなでている。だから誤解だってば! 声を出せないのでひたすら顔を横に振ったが、気づかないようだ。 あれ古泉はどこいった?そう思った直後 長門「じゃあ今日はカイサーン!」 もうそんな時間か、じゃなくて誰か助けて。ておいみんな帰るんじゃねぇ!扉を閉めるなぁ! さて置いてかれてからしばらくすると、古泉が戻ってきた。閉鎖空間からの帰りか? 古泉「なにがあったか察しは着きます。とりあえず解放しましょう」 閉鎖空間は発生してません、と言われた。 古泉「涼宮さんは今怒ってるのではなく落ち込んでいます。今までのデータを参考にしますと、落ち込んでいる時には閉鎖空間は発生しません」 ようやく俺の拘束が解除された。 キョン「じゃあなんでおまえは消えたんだ?」 古泉「だって朝比奈さんが怖いんですもの」 テヘッとか言うな気持ち悪い。 それよりだ、この改変された性格ってのはあくまで「作られた」性格なんだよな? 古泉「正確にはある基準を基に性格を逆転させています。」 例えば涼宮さんは普段ゴウマもとい気が強い女性ですが、今回はとても庇護欲をそそる女性になってます。 古泉「ただ思考までは改変してないようで、『不思議』にはとても興味が注がれてましたね?」 キョン「おまえはいつから消えてたんだ?」 古泉「朝比奈さんがあなたにムチを振るい始めた時からです」 キョン「罰として明日の昼食代を払え」 いやです、と言われたが解答を聞く気はない。 さっきの話によると、改変された人の性格は変わるが考えることまでは変わらないらしい。つまり朝比奈さんは……。 俺が下校中朝比奈さんへの認識をひたすら上書きし続けた。 古泉「・・・すので、帰りましたらお願いしますね」 どうやらなにか話してたらしい、俺は改ざん作業で聞いてなかった。ああ、と答えておいた。 家に帰って夕飯食べて風呂浴びてテレビ見て歯磨きしてベッドに入った。そこ、勉強が欠けてるとか言わない。 今日一日のことを思い出す。古泉の言葉を借りると、庇護欲をそそるほどかわいいハルヒ。ちょっぴりサディスティックな朝比奈さん。少々毒舌だが人なつっこい長門。案外悪くはなかったし、むしろ楽しかった。 あれが本来の性格でないのはわかっている。ゆえにどちらが良いかと聞かれたら間違いなく俺は 元の性格のかしまし娘たちをとる。 体のあちこちが痛い俺は早めに寝ることにした。 痛みで目が覚めた。妹が起こしにきたのかと思っていた俺は恐怖を感じた。俺は上半身裸でパジャマのズボンを着ていた。寒いな。 ハルヒ「ほらほら勉強の時間よ!」 ハルヒがスクール水着を着て、朝比奈さんのより丈夫そうなムチを使い慣れた手で俺に振るってきたのだ。 俺は逃げようとしたが、足が動かない。いてぇ。 両足が縄で縛られ、手も後ろ手に縛られていたのだ。 急に腰に重みを感じ、うつぶせにされた。ハルヒが馬乗りになったのだ。 ハルヒ「さあさあ良い声でさえずりなさいキョン!あたしたちの愛を確かめるように!!」 そう言うとハルヒは俺に首輪をはめ、首輪に繋がれた鎖を思いっきり上に引っ張りやがった。 キョン「グァァッ!」 ハルヒ「もっと!上手にできたら天国と地獄を同時に感じさせてあげるわ!アハハハハハ!!」 暴れたくても、馬乗りされて思うように動けず息も詰まっていた。 しばらくその体勢でいると、いきなり足に衝撃が走った。 キョン「ウワアアアァァァァ!!!」 ハルヒ「そうよその調子よ!ムチなしで鳴けたら完璧よ!!」 そう言うとハルヒはうつぶせの俺に重なるように抱きついてきた。 ハルヒ「温かいでしょう。これはあたしの愛よ、キョン」 休憩よ、と言い俺から離れると、ハルヒは不気味に明るいこの部屋の隅でくつろぎ始めた。 もはや話す気にもなれないので縄をちぎろうと懸命に抗っていると声が聞こえた。 「大丈夫ですか?」 誰だ?そしてどこにいる? 古泉「ここです」 耳元で聞こえていることに気づいた俺が声の方向に振り向くと、今にも消えそうな小さな光る玉がいた。 古泉「声を出さずに聞いてください。ここは特殊な閉鎖空間です」 閉鎖空間は本来神人が暴れるところですが、ここは神人が存在しない代わりに神がいます。 古泉「これは昔あなたと涼宮さんが行かれた閉鎖空間と似ています」 ですが涼宮さんは世界を放棄したわけではありません。よって我々の世界が終焉を迎えることはありません。 キョン「長い。要約しろ」 古泉「失礼。原因はあなたが涼宮さんに性格改変を望ませたことです。一昨日は大人しい性格に、昨日は『あの』朝比奈さんのような性格にね。」 すくなくとも今は日付が1日進んでるんだな、とか悠長なことを考えた。 古泉「この事件の解決法と閉鎖空間からの脱出方法はおそらく同じです。先程も言いましたが、あなたが涼宮さんを恋愛対象として認めたことを彼女に伝えればいいのです」 キョン「できるかそんなこと!!」 古泉「静かにしてください、あくまでフリです」 ハルヒ「どーしたのキョン?天国地獄のお時間よ~!」 しまった。おまえなにを口に入れるつもりだ。モガッ! ハルヒ「猿グツワ装備完了!鳴けなくなるのが嫌だけどしかたないわよね?」 そんな笑顔で言われても返答できねぇよ。 ハルヒはまた俺に馬乗りになった。なにやらカチッカチッという音が聞こえはじめた。なにをしてんだおまえは。 ハルヒ「あたしからの熱い愛のプレゼントをあげるわ!」 そう言うと、俺の脇に温かいものがアツッ!まさか ハルヒ「どう、ロウソクは熱いでしょう?あたしの愛なんだから当然よ!」 ライターでロウソクに火をつけたのか。このままでは俺の身がもたない。気持ちを伝えたくても口は塞がれている。 そのまま何十分経ったのだろう、実際は数十秒だろうが。 ハルヒ「なんでナいてんのよキョン?」 ナく?鳴けないぞ、てああ泣いてんのか俺。恥ずかしいね。 ハルヒは猿グツワを外すと、俺を仰向けにして悲しそうな顔で尋ねてきた。相変わらず馬乗りだが。 ハルヒ「答えてよ。なんで泣いてんのよ?あたしの愛が嫌い?」 俺は最後のチャンスである、と直感した。覚悟を決めて言う。 キョン「俺は今のおまえが嫌いだ!」 古泉「えっ」 ハルヒが顔面蒼白になってるが気にしない。ついでにどこかから「えっ」なんて音は聞こえなかったことにしておく。 キョン「俺はかわいげがあって人思いの女性が好きだ。だがな、今のおまえにはかわいげどころか邪気すら感じるぜ」 ハルヒ「あっあたしのこと・・・キライなの・・・」 キョン「ああ」 首輪の鎖を引っ張られ、ハルヒの顔の近くに顔を持ってかれた。ハルヒの顔に一筋の涙が見えた。 ハルヒ「なんでよ!あんたの好みの女になったのに!!」 キョン「じゃあ聞くが」 俺がいつ言った? そういうなりハルヒは顔をくしゃくしゃにして泣き出した。表現がどうであれ、こいつは本当に俺のことを好きなんだな。 これじゃ相思相愛じゃないか。 キョン「ハルヒ、おまえはなにか勘違いしてるぜ」 ハルヒ「何をよ!あたしは勝手にあんたのことを・・・」 キョン「泣くな。俺が言いたいのはな」 今まで通りのハルヒが良い、ということだ。 ハルヒ「ふぇ?えっえっえっ??」 キョン「性格なんて変える必要はない。少しワガママだけど可愛いげはあるし、なんだかんだで俺や長門や朝比奈さん、おまけに古泉のことも思って行動してたじゃないか」 ハルヒ「あっ・・・うん」 キョン「つまりなにが言いたいかっていうと、俺はえっとあのその・・ハルヒを・・」 ハルヒ「なっなによ、最後まで言ってよ・・」 ロウソクを押し付けられたわけでもないのに顔が熱い。ハルヒも顔を紅潮させていた。 キョン「い、言わなきゃだめか?」 ハルヒ「そうよ!こういうのは男からこきゃふゃくれ」 キョン「なに噛んでんだよ、笑わせないでくれ」 ハルヒ「うっうるさい!じゃあ少しじっとしてなさい!」 ああ、ハルヒの顔がだんだん近づいて ハルヒ「ん・・・」 目の前には目を閉じたハルヒの顔。互いの息が混じり合う。ハルヒの唇は甘く熱い。腕を縛られたままなのが残念だ。 ― 突如浮遊感に襲われた。直後俺はベッドに入ってることに気づいた。俺の部屋だな。服装も戻ってる。時計を見るとまだ6時30分である、じゃあお休み キョン「もうそんな時間かよ!!」 俺が驚きで体を起こすのと同時に、妹が部屋に入ってきた。悪いな妹、今日の俺は早起きだぜ。 朝飯を食べてる間も甘い感触を忘れることはなかった。 朝飯を食べ終えた俺が部屋で教科書をバックに積めていると、電話がかかっきた。 古泉「おかげさまで彼女たちの性格が戻りました」 キョン「それは良かったな」 古泉「序盤で一瞬頭がおかしくなったかと思いましたが、ややこしいことを言わないでもらいたいです。ヒヤヒヤしましたよ、冬だけに」 キョン「うるせーな、ハルヒのことを考えて言ったんだ」 古泉「まあさすがにあんな甘いひと時を直視してはいませんがね、フフ」 あれを見られたのか!?て当たり前か、こいつは閉鎖空間にいたしな。だがな、他人に見られるのは恥ずかしいだろ。 キョン「コイズミクン、あとで昼飯をおごれ」 古泉「冗談ですよ。まあ今回は手っ取り早い方法をとってもらいましたが、今後はより安全策をとるよう機関で検討します」 キョン「古泉、なにか勘違いしてるぞ」 古泉「えっ?」 俺がハルヒのことを好きなのは事実だ。ただお互いに素直じゃなかった、それだけだ。 古泉「そうですか。では僕からはこうしか言えません。おめでとうございますキョンくん、そして涼宮さん」 キョン「今だけは嫌みを感じなかったぜ。ありがとう古泉!」 古泉「ただ残念ですが」 なんだ?前言撤回していいか? 古泉「涼宮さんからすれば、あの閉鎖空間での出来事を『夢』と思ってるかもしれません。だからといって現実だと伝えてはいけませんよ?」 ああ、そんなことか。 キョン「古泉。正直なところ確証はないが、あれが夢だと思われたとしてもだ」 もう一度正式に告白すれば、ハルヒは了承するぜ。 古泉「フフッ涼宮さんは力によって女性団員三人の性格を逆転しました。そして純粋な愛情であなたの気持ちを友達から恋人へ逆転させた、というところですね」 キョン「なに難しいことを」 古泉「僕は二人の恋が成就することを祈ります」 キョン「ありがとう」 俺が玄関のドアを開けると、目の前にハルヒがいた。 キョン「おー今日もか」 ハルヒ「うっうるさいわね!遅刻しないか心配に・・・じゃなくてその・・」 キョン「ありがとよ。ほれ学校行くぞ」 ハルヒ「・・・うん」 あのしおらしいハルヒを思い出した。ハルヒは顔を少々赤く染めて俯いていた。 登校中俺たちは黙って歩いていた。不思議とくそ寒い気温なのに温もりを感じた。 学校の正門辺りでハルヒが口を開いた。 ハルヒ「なっなんか今日最こ、最悪の夢を見たのよ」 笑みがこぼれてるぞ、とは言わず俺は同じように笑って言った。 キョン「奇遇だな、俺もさ。もしかしたら同じ夢かもな」 ハルヒ「・・・そうかもね!」 授業中はいつもの睡眠ハルヒに戻っていた。おいおい寝言で俺を呼ぶな、恥ずかしいだろ。英語教師が睡眠ハルヒを見て落胆してたことは内緒にしておこう。 昼休み、俺はハルヒを文芸部室に連れて行った。部室に入ると誰もいなかったが、イスにぶ厚い本が一冊置いてあった。なるほどね、ありがとう長門。 真っ赤に頬を染めたハルヒはなんだか落ち着かない様子だった。さて人生の出発点を定めよう。 「ハルヒ、聞いてくれ。俺はハルヒのことが好きだ」 幸せを手に入れた二人。私はあなたたちを祝福しよう。 幸せ。「幸せ」とはどのようなもの? これの後日談「神の末路」へ続く。 ―――――end――――――
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いつもの放課後のSOS団の活動中の事だ。 日頃のフラストレーション溜まっていたのだろうか? 自分でも理解不能なイライラの全てを我等が団長涼宮ハルヒにぶつけていた。 俺が冷静さを取り戻した時にはもう部室にハルヒの姿は無く、背後に3つの憤怒のオーラを感じた。 俺は恐る恐るそのオーラがする方へ振り向いた。 その瞬間、いきなり長門が広辞苑の角で俺の頭を殴った。 なにしやがる!?と言おうとしたら今度は朝比奈さんがお茶入りの湯飲みを投げつけてきた。 それから逃げようとしたら古泉が俺の前に立ちはだかり俺の胸倉を掴んでこう言った。 「何やってるんですか!?今回の事はどう見てもあなたに全ての非がありますよ!今度こんな事したら閉鎖空間に置き去りにしますからね!!」 見事なジェット○トリームアタックだな。 いや、そうじゃない・・・ 「何やってるのかだと!?それは俺自身が一番知りたいさ!!」 そう言って古泉の手を払いのける。 「どういう事ですか?」 「だから、自分でもなんであんな事しちまったのか分からねぇって言ってんだよ」 「長門さん、何か分かりますか?」 「何者かの介入は確認されていない。これは若者特有の若さ故の暴走だと思われる」 「そうなんですか。それなら安心しました」 「何言ってんだ?理由は何にしろお前達にとってマズイ事態じゃないのか?」 「まぁ、そうなんですが、あなたが意識的に涼宮さんを傷つけたのならアウトでしょうが、無意識でやった事ならまだ救いは残されています」 「どういう事だ?結果的にハルヒを傷つけた事には変わらないだろ」 「そうですが、無意識でやってしまったならまだ関係の修復は可能という事です」 「そうなのか?」 「そうです。あなたの努力次第ですがね。ね、長門さんに朝比奈さん」 「そう。恐らく今晩中にあなたに何らかの変化が訪れるがそれはあなたを脅かすものではないと推測される」 「キョン君、ちゃんと涼宮さんと仲直りして下さいね。仲直りするまでお茶は淹れてあげませんから」 「はい、分かりました。毎度毎度、面倒掛けて悪いな」 「そこはギブアンドテイクという事で今日はもう解散しましょう」 古泉のその発言で今日は解散となり家路についた。 家に着いた後は、ずっとハルヒの事を考えていた。 幾ら振り払おうとしてもハルヒの事が頭に浮かんできた。 なんで、あんな事しちまったんだろうな・・・ そんな事を考えながら寝床に着いた。 目が覚めた時、俺は白一色の世界に居た。 どこだ?ここは・・・ 辺りを見回しても白一色だった。 すると聞き覚えのある着信音が聞こえた。 ポケットを漁ると俺の携帯電話が鳴っていた。 メールが来ていたので確認すると古泉からだった。 『目が覚めましたか?』 『あぁ、ここは何処なんだ?』 『そこは涼宮さんの日記の中です』 『日記の中?なんだって俺はそんな所に居るんだ』 『それは涼宮さんがあなたの事をもっと知りたい、自分の事をもっと知ってほしいと日記を書きながら願ったからだと長門さんは推測しています』 相変わらずムチャクチャだな・・・・ 『で、俺はどうすればいいんだ?』 『とりあえず、日記の中の涼宮さんに会って下さい。後の事はお任せします。ではそろそろ限界の様なので失礼します』 お任せしますって言われてもなぁ・・・ どうすりゃいいんのか分からんが、ハルヒを探すとするか。 白一色の世界を歩く。 それは進んでいるのかどうかも分からない世界だった。 もうどれ位歩いたかね? 是非、万歩計を付けたかったね。 足が重くなり始めた時、白い世界でしゃがみこんでいるハルヒをやっと見つけた。 「こんな所で何やってんだ?」 うずくまっているハルヒが顔をゆっくり上げた。 「別に。あんたには関係無いでしょ」 「あんな事しちまってごめんな。ホントに済まないと思ってる」 俺は未だにしゃがみこんでいるハルヒに頭を下げた。 罵声か蹴りが飛んでくると思ったがハルヒは思いもよらない事を口にした。 「あたしに謝ってどうすんのよ?そんな事しても意味無いわよ」 「どういう意味だ?」 俺には何がなんだかさっぱり分からなかった。 「そのまんまの意味よ。あたしはハルヒじゃないから謝っても意味が無いって言ってるの」 「ハルヒじゃない?だったらお前は誰なんだ?」 「あたし?あたしはハルヒが日記に込めた想いよ」 目の前のハルヒが何を言ってるのか理解出来ない。 ハルヒは俺の顔を見て笑いだした。 「フフッ、あんたってホントに間抜け面なのね」 まるで始めて会った様な言い草だな。 「まだ信じられないって顔ね。いいわ、少し見せてあげる」 そう言うとハルヒは立ち上がり片手を俺の頭の上に置いた。 その瞬間、何かが頭の中に流れ込んできた。 「な、何を!?」 抵抗しようとするが身体が動かない。 「いいから、おとなしく目を閉じて。すぐに終わるから」 俺は言われるがまま目を閉じた。 目を閉じると、瞼の裏に様々な映像が現れた。 怒っているハルヒ・・・ 憂鬱そうなハルヒ・・・ 顔を赤くしているハルヒ・・・ 落ち込んでいるハルヒ・・・ 泣きそうなハルヒ・・・ 笑っているハルヒ・・・ 俺は、ハルヒの事分かっているつもりだったけどまだ何にも分かっちゃいないんだな・・・ するとハルヒが俺の頭から手を離した。 「どう?見えた?」 「あぁ、俺は何にも分かっちゃいなかった」 「そうね。でも、それが普通なのよ」 ハルヒはいつもからは想像も出来ない様な穏やかな微笑を浮かべていた。 「ハルヒ、それはどういう意味だ?」 「だーかーらー、あたしはハルヒじゃないって言ってんでしょ?」 「あ、あぁ、そうだったな」 すっかり忘れてたぜ・・・ 「じゃあ、なんて呼べばいいんだ?名前を教えてくれ」 「あたしに名前なんて無いわ。ここにはあたししか居ないし、そんなのあっても意味ないもの」 「そうなのか?ここにずっと一人で寂しくないのか?」 「まぁ、たまに寂しいときもあるけどね」 そりゃ、そうだよな・・・ こんな何も無い世界で1人なんて俺には耐えられない。 「いい加減話を戻すけど、他人の事を全て理解してるなんて思ってもそれは他人の表面を理解しているに過ぎないの」 「そうなのかもしれない。でも、理解しようって努力する事は無駄じゃないだろう?」 「もちろん無駄じゃないわ。ん、そろそろ時間も無いみたいだから簡単に話すわね」 俺は自分の足元から段々消えている事に気づいた。 「おい、これはどうなってるんだ?」 「聞いてるでしょ?ここはハルヒの日記の中なの。だからあんたも元の世界に戻る。それだけよ」 「そうか。で、俺はどうすればいいんだ?」 「その答えはもうあんたの中にあるでしょ?それをすればいいわ」 「あぁ、そうだな」 もう俺の全身が消えかかっている。 「じゃあね、バイバイ。あの子、今回はかなり落ち込んでたからよろしくね。しっかりやらないと死刑だからね」 「あぁ、分かってるよ。色々世話になったな、ありがとよ」 そう言って俺は白い世界から消えたのだ・・・ 次に目が覚めた時は、いつものベッドの上だった。 あれは夢だったのだろうか・・・ そんな事はこの際どうでもいい。 あれが現実だろうが夢だろうが、俺がやらなくてはならない事は決まっているのだ。 いつもより家を早く出た俺は途中本屋に寄ってある物を購入した。 教室に着くとハルヒが不機嫌そうな面持ちで自分の席に座っていた。 俺は自分の席に着きハルヒに話掛けた。 「よぉ、相変わらず機嫌悪そうだな」 「そう思うならほっといてくんない?」 「そうしたいのは山々だが、1つ言っておかなければならない事があるから聞いてくれ」 「何よ?下らない事だったらぶっ飛ばすわよ」 「昨日はあんな事しちまって悪かったな。反省してる、すまなかった」 俺は深々とハルヒに頭を下げた。 「ちょ、いきなり何よ?いいから頭上げなさいよ!」 「許してくれるのか?」 「別に怒っちゃいないわよ。なんでいきなりあんな事したのかは気になるけど」 「あぁ、あれは若さ故の暴走らしい」 「はぁ?何言ってんの?訳分かんない」 「そうだ、正直俺にも訳が分からないんだ。でだ、俺の事をもっと分かってもらおうという事でこんな物を用意してみた」 俺は鞄から紙袋を取り出しハルヒに手渡した。 「何これ?開けていい?」 「あぁ、開けてくれ」 ハルヒが紙袋を開け、中に入っている物を取り出す。 「これ、日記帳?これで何するの?」 「あぁ、ハルヒ、俺と交換日記しないか?」 「何であたしがあんたとそんな小学生みたいな事しなくちゃならないのよ?」 「いや、ハルヒの事もっと知りたいし俺の事をもっと知ってもらおうと思ったんだが。嫌なら返してくれ。長門か朝比奈さんとやるから」 俺はハルヒから日記帳を返してもらおうとしたがハルヒは日記帳を手を放さなかった。 「わ、分かったわよ!仕方ないから付き合ってやるわよ」 「そうかい。それは嬉しいね」 こうして俺とハルヒの交換日記がスタートした。 この後、書く事に芸が無いとハルヒに散々怒られる事になるのは言うまでもない。 だが、これでもうハルヒの想いも一人白い世界で寂しい思いをする事も無くなるだろう。 なんたって、今は俺の想いも一緒に居るんだからな。 まぁ、日記の中の俺が今の俺と同じ目に遭っている様な気がしてならないのだが・・・ なんて事を今日も元気満タンの団長様に振り回されながら考えている。 終わり
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~部室にて~ ガチャ 鶴屋「やぁ!みんな!」 キョン「どうも」 みくる「鶴屋さんどうしたんですかぁ?」 鶴屋「今日はちょっとハルにゃんに話があるっさ!」 みくる(あぁ、あのことかぁ) ハルヒ「え?あたし」 鶴屋「そっさ!」 ハルヒ「?」 鶴屋「明日、ハルにゃんと長門ちゃん、みくるとあたしで遊び行くよ!」 ハルヒ「でも明日は団活が」 鶴屋「名誉顧問の権限を行使させてもらうよ!」 ハルヒ「えっと……有希はいいの?」 長門「構わない」 ハルヒ「みくるちゃんは?」 みくる「わたしは鶴屋さんから、事前に言われてましたからぁ」 ハルヒ「古泉君とキョンは?」 古泉「つまり男性禁制ということですよね?僕は大丈夫ですよ」 キョン「あぁ、俺も問題ない」 鶴屋「ハルにゃんはどうなのさ?」 ハルヒ「う~ん、そうね。たまにはいいかも」 鶴屋「じゃあ決まりっさ!」 みくる「ふふふ」 長門「……」ペラ 鶴屋「さぁ、こっからは女の子同士の話し合いの時間だよ!男子諸君は出てった、出てった!」シッシッ 古泉「そういうことなら帰りますが、よろしいですか涼宮さん?」 ハルヒ「そうね。今日は鶴屋さんに免じて二人とも帰っていいわよ」 キョン「じゃあそうさせてもらうぞ」 古泉「それでは、みなさん。また来週」 みくる「お気をつけて」 鶴屋「バイバ~イ」フリフリ ガチャ 鶴屋「さて、男子は追い払ったね。それで明日は何時頃なら大丈夫?」 ハルヒ「どっちにしろ朝から団活のつもりだったから、何時でも平気ね」 鶴屋「長門ちゃんは?」 長門「大丈夫」 鶴屋「みくるも大丈夫?」 みくる「はい」 鶴屋「じゃあ朝十時に駅前ね!」 ハルヒ「わかったわ」 鶴屋「それとさ、お弁当は持参だよ!」 みくる「近くにお店はないんですかぁ?」 鶴屋「ないことはないけど」 ハルヒ「別にいいんじゃない?」 鶴屋「さすがハルにゃん、話が分かるっさ!」 ハルヒ「どうせだから勝負しましょうよ?」 みくる「勝負ですかぁ?」 ハルヒ「そう料理対決!学年別のチーム戦よ!」 鶴屋「ってことは、あたしとみくる対ハルにゃんと長門ちゃんだね?」 ハルヒ「そうよ」 鶴屋「望むところっさ!ねっ、みくる!」 みくる「ふふふ。そういうことなら頑張っちゃいますよぉ」 ハルヒ「有希もそれでいいわよね?」 長門「いい」 ハルヒ「じゃあ今夜は有希のうちに泊まりいくわよ?」 長門「構わない」 鶴屋「それならあたしもみくるんとこ泊まりに行こっかなぁ」 みくる「わ、わたしの部屋はちょっと~」 鶴屋「いつになったら部屋片付けんの?」 みくる「そ、そういうわけじゃないですってばぁ~」 鶴屋「なら今夜はあたしんとこ来なよ!」 みくる「わかりましたぁ」 ハルヒ「それで、鶴屋さん。明日はどこ行くの?」 鶴屋「それは明日のお楽しみっさ!」 ハルヒ「団活休みにするくらいなんだから、楽しみにしてるわね!」 鶴屋「あんまりプレッシャーかけられると困るんだけどな~」 みくる「ふふふ」 長門「……」ペラ みくる「涼宮さん、今日はこの後どうしますかぁ?」 ハルヒ「そうね、あの二人帰しちゃったし……」 鶴屋「じゃあ解散でいいじゃん!あたしは明日のレシピをみくると相談せねばね」 ハルヒ「そうしましょっか」 みくる「それじゃあ、一度家に帰って着替えを取りに行きますねぇ」 鶴屋「あたしもついt」 みくる「鶴屋さんはおうちで待っててくださいね」 ハルヒ「みくるちゃん随分かたくなに拒否するわね……何かあるの?」 みくる「そ、そういうわけではないんですけどぉ……」 鶴屋「ハルにゃん、ハルにゃん、みくるはきっと部屋に男を飼ってるんだよ」ボソ ハルヒ「ウソ!?」 みくる「つ、鶴屋さ~ん、そんわけないじゃないですかぁ~」 ハルヒ「みくるちゃんがね~」 みくる「涼宮さんまで~」 鶴屋「あはは、それじゃ解散しよっか!」 長門「……」パタン ハルヒ「有希もきりがいいみたいだしね」 みくる「部屋に男の人なんかいませんからね?」 鶴屋「分かった分かった、ほら帰るよ!」 みくる「適当じゃないですかぁ」 ハルヒ「有希、あたしも家帰って、それから六時半くらいにはマンション行くわ」 長門「……」コク ハルヒ「それじゃあ鍵閉めるわよ?みくるちゃん早く」 みくる「は、はーい」トテトテ ガチャ ハルヒ「よしっと、それじゃ行きましょ」 鶴屋「はいよ~」 ~帰り道にて~ ハルヒ「さすがに夏ね。五時前だってのにこんなに明るい」 鶴屋「日が長くなると一日が無駄に長く感じるよ」 みくる「でも、お洗濯とか出来るし、いいことも多いですよ?」 ハルヒ「みくるちゃん主婦みたいね」 鶴屋「そりゃ仕方ないよ、ハルにゃん。家で主婦やってんだから」 みくる「まだ言うんですかぁ」 鶴屋「あっはっはっはっ!もう止めたげるよ」 みくる「もう!」 ハルヒ「話戻すけど、どうせなら夏が日が短く、冬が日が長く、この方がいいわよね」 長門「それでは生態系がおかしくなる」 ハルヒ「初めっからそうだったらそうゆう進化をするでしょ?」 長門「……」コク ハルヒ「別に、今から変われー!、ってわけじゃないわよ。あくまで希望よ、希望」 みくる(そ、それでも涼宮さんにそう希望されるのは) 長門(非常に困る) 鶴屋「でも、夏の日が長いおかげでいっぱい遊べるんだし、ハルにゃんとしては結果オーライじゃないのかい?」 ハルヒ「う~ん、それもそうね」 みくる「ほっ」 鶴屋「どしたの、みくる?」 みくる「な、なんでもないですよ」 鶴屋「?」 長門「……」トテトテ ハルヒ「それじゃこのへんで別れましょ」 鶴屋「そうだね、明日は覚悟していなよ、ハルにゃん?」 ハルヒ「例え鶴屋さんでもそうはいかないわよ」 みくる「それじゃあまた明日」 ハルヒ「ばいばい」 鶴屋「ばいば~い」フリフリ ハルヒ「それじゃあ有希。またあとでね」 長門「……」コク ~長門宅にて~ ピンポーン 長門「……」 ???「あたしよ」 長門「知らない」 ???「有希!」 長門「ジョーク。今開ける」 カチャ ハルヒ「毎回毎回よくも飽きないわね」 長門「反応がいい」 ハルヒ「余計なお世話よ。とりあえずあがるわね」 長門「どうぞ」 ハルヒ「お邪魔しま~す。おっ、前より小物が増えてきたわね」 長門「あなたが選んだものがほとんど」 ハルヒ「だって有希全然選ぼうとしないじゃない」 長門「そうでもない」 ハルヒ「そうだっけ?」 長門「そう」 ハルヒ「よっこいしょっと」バフ 長門「そこは私のベッド」 ハルヒ「知ってるわよ。なんか落ち着くのよね~」 長門「そう」 ハルヒ「なんでかしらね?このまま寝ちゃってもいい?」 長門「構わない」 ハルヒ「いいわけないでしょ、明日のお弁当のおかず買ってこなきゃ」 長門「……」コク ハルヒ「財布は持った?」 長門「持った」 ハルヒ「鍵閉めた?」 長門「閉めた」 ハルヒ「じゃあ行くわよ」トテトテ 長門「……」トテトテ ~移動中~ ハルヒ「有希って小さいくせに歩くの早いわね」トテトテ 長門「あなたが遅い」トテトテトテ ハルヒ「言ったわね」トテトテトテトテ 長門「……」トテトテ ハルヒ「ほら、あたしのほうが早い」トテトテトテ 長門「急ぐ理由がわからない」トテトテ ハルヒ「ぐっ」 ハルヒ「有希って晩御飯まだでしょ?」 長門「……」コク ハルヒ「なんか食べたいものある?」 長門「カレー」 ハルヒ「いつもそれじゃない?作る方としてはもっとレパートリーを増やしてくれた方が、作りがいあるんだけど?」 長門「……」 ハルヒ「って、なんか奥さんの台詞ね、これ」 長門「ハンバーグ」 ハルヒ「いいわよ。それもあたしの得意料理のレパートリーにあるから」 長門「期待する」 ~スーパーにて~ ハルヒ「さて、明日のお弁当の中身どうしようかしら」 長門「カr」 ハルヒ「いい加減にしなさい」 長門「……」 ハルヒ「……そもそも、何を基準で勝ち負けにするか決めてなかったわね」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「明日みんなで決めればいっか」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「さっきからなに探してるの?」 長門「弁当箱」 ハルヒ「え?」 長門「明日お弁当を持っていくなら箱は必要」 ハルヒ「いや、だから、有希ってお弁当学校持ってたりしたことないの?」 長門「ない」 ハルヒ「……」 長門「?」 ハルヒ「いつもどうしてるの?」 長門「禁則事項」 ハルヒ「は?」 長門「ジョーク」 ハルヒ「はぁ、まぁいいわよ。食材コーナーにはないからあっちに探しに行きましょ」 長門「……」コク ハルヒ「スーパーにしては結構種類あるわね」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「どれにするの?」 長門「これ」 ハルヒ「それは保存用のタッパーよ、それ以前に大きすぎよ!」 長門「いける」 ハルヒ「ダメよ」 長門「……」ジー ハルヒ「そもそもそれだと鞄に入らないじゃない」 長門「……うかつ」 ハルヒ「有希は大食いだからなぁ……これくらいが妥当じゃない?」 長門「小さい」 ハルヒ「あたしの二倍はあるわよ?」 長門「……わかった」 ハルヒ「なんか子供をあやしてるみたい」 長門「肉体的には同年齢」 ハルヒ「肉体的?有希の方が幼く見えるけど?」ニヤ 長門「……」 ハルヒ「明日のお弁当のおかずはこんなもんね。他食べたいものある?」 長門「カr」 ハルヒ「ないみたいね。それじゃレジ行きましょ」 長門「……」コク ハルヒ「今日もワリカンよ?有希っていつも全部払おうとするんだもの」 長門「作るのは私ではないから」 ハルヒ「じゃあ今日は有希も一緒にやりましょ?」 長門「一緒に?」 ハルヒ「そう、あたしのお手伝い」 長門「いい」 ハルヒ「まったく、どっちのいいよ?」 長門「肯定」 ハルヒ「よろしい」 ~帰宅中にて~ ハルヒ「日が落ちると涼しくていいわね」 長門「……」コク ハルヒ「……あっ、流れ星だ」 長門「……」トテトテ ハルヒ「流れ星が消えるまでにお願い事を、三回言えば願いが叶うかぁ。まず無理ね」 長門「無理」 ハルヒ「なんか短文でないかしら……」 長門「………」 ハルヒ「死ね死ね死ね、とか?」 長門「あなたが言うと笑えない」 ハルヒ「いつもの有希みたいにジョークよ」 長門「あなたのジョークは厄介すぎる」 ハルヒ「そう?」 長門「故に笑えない」 ハルヒ「そもそも笑わないくせに」 長門「あなたには才能がない」 ハルヒ「言ってくれるわね」 長門「言った」 ハルヒ「いつか笑わせてやるんだから」 長門「そう」 ~長門宅にて~ ガチャ ハルヒ「ただいまー」 長門「……」 ハルヒ「有希も言いなさいよ」 長門「中には誰もいない」 ハルヒ「いいから」 長門「ただいま」 ハルヒ「おかえり。ね、いるときはいるのよ」 長門「そう」 ハルヒ「そうなのよ」 ハルヒ「とりあえず今日買った食材を冷蔵庫に閉まっておいて」 長門「わかった」 カチャカチャ パタン 長門「閉まった」 ハルヒ「じゃあ少し休んでから、夜ご飯の支度しましょ」 長門「……」コク ピッ ハルヒ「どの番組もつまんないわね」 ピッ 長門「そう」 ピッ ハルヒ「どれもこれも前見た番組のパクリみたいな内容じゃない」 ピッ ハルヒ「TV見ててもつまんないし、晩御飯作りましょ?」 長門「それがいい」 ~食事後~ 長門「ごちそうさま」 ハルヒ「おそまつさま。なんかこの雰囲気にも慣れてきたわね」 長門「?」 ハルヒ「あたしが有希の家に来て、二人でご飯食べて、ゴロゴロして、色々話して、と言っても有希は聞くのが専門よね」 長門「……」 ハルヒ「ふふ。悪くない、悪くないわ。なんか通い妻みたいで変な気分だけど」 長門「悪くない」 ハルヒ「有希も?」 長門「……」コク ハルヒ「そっか。……あたしね、これからも有希とはずっと一緒にいたい」 長門「大丈夫。私が守る」 ハルヒ「ふふふ。私よりちびっ子の癖になに言ってんのよ」 長門「……」 ハルヒ「お風呂ありがと」 長門「構わない」 ハルヒ「明日はお弁当作んなきゃだし、早く寝ましょう」 長門「……」コク ハルヒ「あたしは髪乾かしてから寝るわ。おやすみ、有希」 長門「おやすみなさい」 ハルヒ「……」 ~翌日~ ???「……ルヒ、……う朝、起……」 ハルヒ「う~ん」 ???「もう……、……て」 ハルヒ「あ、あとごふん」 ???「わかった」 ハルヒ「……ん」Zzzz ???「いい加減に起きて」ポカ ハルヒ「……えぇ?ふわぁ~あ、おはよう有希」 長門「おはよう」 ハルヒ「なんか有希のうちって安心して寝れるわ」 長門「そう」 ハルヒ「そうなの。ところで今何時?」 長門「午前八時ちょうど」 ハルヒ「……え?」 長門「午前八時ちょうどと言った」 ハルヒ「……!や、やばいじゃない!約束まで二時間しかない!」 長門「正確には一時間五十八分三じゅ」 ハルヒ「やばいわ!ご飯に火入れなきゃ!」 長門「もう入れた」 ハルヒ「でかしたわ有希!」 長門「当然」 ハルヒ「それじゃあ、すぐ顔洗ってくるから台所で待ってて!」 長門「わかった」 ~駅前にて~ 鶴屋「おはようハルにゃん!」 みくる「おはようございます」 ハルヒ「おはよう、ほぼ同時についたわね」 鶴屋「そうだね!ちゃんとお弁当は持ってきたかい?」 ハルヒ「ばっちりよ!ね、有希?」 長門「……」コク ハルヒ「それで今日はどこ行くの?」 鶴屋「ふふふ。実はこの間、こんなものを貰ったのさ」バッ みくる「チケット、ですか?」 鶴屋「そうさ!五月の半ばにオープンしたばかりの、あの遊園地のチケットだよ!」 ハルヒ「あの遊園地!CMとか見て興味があったのよね、実は」 みくる「あ、あそこってジェットコースターが目玉なんですよねぇ……」 鶴屋「んふふふふ。頑張ろうね、みくる♪」 みくる「ひぃ」ビク ハルヒ「あれ?遊園地ならお弁当いらないんじゃないの?」 鶴屋「あそこの飲食店って、めがっさ混むみたいなんだよ」 ハルヒ「そうゆうことか」 鶴屋「そう、せっかく遊びに行くんだから、少しでも遊ばないとね」 ハルヒ「賛成だわ。それじゃあとっとと行きましょ!」 鶴屋「おー!」 ~遊園地にて~ ハルヒ「……これは」 みくる「……想像以上に」 鶴屋「……人だらけだね」 長門「……うるさい」 ハルヒ「なにはともあれ……遊ぶわよ!有希、あれ、あれ乗ろ!」グイ タタタッ 鶴屋「ありゃ、行っちゃた」 みくる「ですね」 鶴屋「あたしたちも行くよ!」 みくる「は、はぁい」 タタタッ ワーー! みくる「こ、これに」ブルブル キャーー! みくる「の、乗るんですか?」ブルブル ギャーーーーー! ハルヒ「だってこれが目玉なんでしょ?みくるちゃんが自分で言ってたじゃない?」 鶴屋「観念しなよ、みっくる♪」 みくる「そ、そんなぁ」ブルブル 長門「面白そう」 みくる「長門さんまでぇ~」 ハルヒ「女は度胸よ!」ガシッ みくる「ひ、ひぇ~」ズルズル みくる「ど、どんどん高くなってきましたよ?」 みくる「レ、レ、レ、レールが、み、見えませんよ?」 みくる「え?落ち……キャアァァッァァァァァ!!!」 みくる「わぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」 みくる「ひゃぁあっぁぁぁぁぁぁ!!!」 みくる「……、……。……」 ハルヒ「いやー!凄かったわね、有希!」 長門「ユニーク」 鶴屋「たしかにみくるはめがっさユニークだったっさ!ほんとに悲鳴上げるんだもん!あっはっはっはっはっは!」 みくる「す、少し、うっ、や、休ませてくださぃ」 ハルヒ「何言ってるの、まだ一つ目じゃない!次行くわよ、次!」 みくる「こ、これって」 長門「ホラーアトラクション」 ハルヒ「さぁ行くわよ!」 みくる「む、無理ですよぉ~」 鶴屋「結構怖いみたいだよ、ハルにゃん」 みくる「あれ?」 ハルヒ「そうなんだ、でもどんと来いよ!」 みくる「わ、わたし入らなくていいんですかぁ?」 ハルヒ「こういうとこって本物が出たりするらしいじゃない?」 みくる「あ、あの~」 鶴屋「TVで見たことあるっさ!」 ハルヒ「出てきたら捕まえてやるわ!ね、有希」 長門「……」コク スタスタ みくる「置いてかれた……。わ、わたしもい、行きます!」トテトテ ハルヒ・鶴屋(作戦通り!) みくる「ふぇ~、ま、真っ暗ですよぉ」ブルブル みくる「ひゃ!い、今向こうに、だ、誰かいましたよ~」ブルブル みくる「え?後ろ?……ひぃゃぁぁあああっぁぁぁぁ!!!」パタパタ みくる「きゃ!ひっ!」コテン みくる「……うぅ、うぅ、うぅぅぅ」ポロポロ ハルヒ「ご、ごめんね、みくるちゃん。まさかこんなに怖がるとは思ってなかったのよ」 みくる「ひっく、ひっく」ポロポロ 鶴屋「悪ノリしすぎたよ、あたしからもごめんね?」 みくる「うぅっ、も、もう大丈夫です、ひっく」グス 長門「ユニーク」 ハルヒ「こら!有希!」ポカ みくる「もうそろそろ、お昼だしお弁当にしませんかぁ?」 鶴屋「そうしよ!あそこの芝生を陣取ろうよ!」 ハルヒ「賛成!」 長門「……」グゥゥ トテトテ ~芝生にて~ ハルヒ「昨日話した勝負のこと覚えてるわね?」 鶴屋「もちろんっさ!」 ハルヒ「基準は見た目と味でいいわよね?」 みくる「はい」 鶴屋「一生懸命作ったからね。この勝負いただいたよ!」 ハルヒ「ふふふ、ではいざご開帳!」 パカッ 鶴屋「あ」 みくる「そんなぁ~」 ハルヒ「こんなのって」 長門「……」 ハルヒ「……そういえば鞄持ったままアトラクション回っちゃたわね」 長門「グチャグチャ」 鶴屋「これはさすがにショックだよ……」 みくる「でも、形は悪くても食べられますから」 ハルヒ「わかってる、わかってるわ」 鶴屋「それでも、苦労が水の泡ってのはねぇ……」 長門「……」モグモク ハルヒ「勝負はお預けね……」 ~食事後~ ハルヒ「それじゃあ、あたしと鶴屋さんでフリーフォールみたいの乗ってくるわね」 鶴屋「みくるはそこのベンチで休んでて!」 みくる「わかりましたぁ」 ハルヒ「有希も来る?」 長門「……」フルフル ハルヒ「そう、それじゃあそこであたしたちの勇姿を見てなさい」 長門「……」コク みくる「ふぅ、お二人とも元気ですねぇ」 長門「……」コク みくる「……」 長門「……」 みくる(き、気まずいよぉ~) 長門「朝比奈みくる」 みくる「は、はひ!」 長門「?」 みくる「なんでもないです、続けてください」カァァァ 長門「質問がある」 みくる「質問ですか?」 長門「この先はどうする?」 みくる「え?多分ご飯でも食べにいくんじゃないですか?」 長門「違う。今後の動き。私は涼宮ハルヒの力の観察」 みくる「わたしは……監視です。もとよりそれが目的ですから」 長門「なぜ監視を?」 みくる「禁則事項です」 長門「この後世界は、涼宮ハルヒはどうなる?」 みくる「禁則事項です」 長門「今まで起きてきた出来事は全て予定通り?」 みくる「禁則事項です」 長門「そう。ならいい」 みくる「……。長門さんは観察が目的なんですよね?」 長門「……」 みくる「観察の対象と仲良くなるのは、いいことなんですか?」 長門「私だけではないはず」ジー みくる「わたしはそんなつもりではなかったんです!でも長門さんは涼宮さんとは……親友なんですよね?」 長門「そう」 みくる「わたしは、わたしはこんなはずじゃなかった……なかったんです……」 長門「?」 みくる「……これ以上は言えません」 長門「そう」 みくる「長門さんはどうするんですか?」 長門「変わらない。いつも通り。しかし」 みくる「?」 長門「私という個体は涼宮ハルヒのそばにいたいと思っている」 みくる「……」 長門「これは私の意志。涼宮ハルヒは私を必要としてくれている」 みくる「……そうですよね」 長門「それに答えるのは親友として当然」 みくる「……わたしは」 長門「古泉一樹に新たな鍵は私だと言われた」 みくる「古泉君が?」 長門「そう。そのことでどうなるかはわからない。ただ、涼宮ハルヒに危害を加えるなら、誰であっても容赦しない」 みくる「……わたしに関しては大丈夫です。そんなことをする理由がありませんから」 長門「そう」 みくる(……わたしは、わたしはただの監視者だから……これからもただ見ているだけの……) 鶴屋「みっくる~!いや~めがっさすごかったよ~!こう、ビューンとさ、ってみくる?」 みくる「……え?」 鶴屋「なんか元気ないよ?大丈夫?」 みくる「だ、大丈夫ですよぉ」 ハルヒ「どうせ有希が変なこと言ったんでしょ?最近辛口なのよね、このコ」 みくる「ち、違いますから、はしゃぎすぎて気分が悪いだけですよ」 鶴屋「無理しちゃダメだかんね?」 みくる「もう平気ですよ」ニコ ハルヒ「それじゃあ激しいアトラクションは一旦休憩にしましょ」 鶴屋「そうっさね。……さっきまでみくるは長門ちゃんと話してたの?」 みくる「はい。長門さんとあんなにおしゃべりしたの初めてです」 ハルヒ「有希と会話が続くなんて凄いわね。あたしですら難易度が高いのに」 鶴屋「なに話してたの?」 みくる「長門さんとの秘密なんです」 ハルヒ「有希、教えなさいよ~」 長門「禁則事項」 みくる「……」 鶴屋「……。みくる、なんか飲み物買ってくるけど何がいい?」 みくる「ありがとうございます。お茶がいいです」 鶴屋「わかったよ。長門ちゃん、一緒に買いにいこ?」 長門「……」コク ハルヒ「有希、あたし炭酸がいい」 長門「わかった」 ~自販機前にて~ 鶴屋「……ねぇ、長門ちゃん?」 長門「何?」 鶴屋「みくるに何言ったの?」 長門「質問をしただけ」 鶴屋「質問?どんな?」 長門「言えない」 鶴屋「なんで?」 長門「言えない」 鶴屋「なら、単刀直入に聞くけど、……みくるをいじめてたのかな?」 長門「……」フルフル 鶴屋「信じていいの?」 長門「どちらでも」 鶴屋「……」 長門「……」 鶴屋「……うん、疑ってごめんよ?みくるってあんなんだからさ、友達として不安だったんだよ」 長門「そう」 鶴屋「長門ちゃんだって、ハルにゃんのこと見捨てられないでしょ?」 長門「もとより見捨てない」 鶴屋「だよね、とはいえ、疑ってほんとにごめんね」 長門「いい。ただ」 鶴屋「なに?」 長門「今小銭がない」 鶴屋「先輩にたかる気かい?」 長門「違う、悪いと思っているなら、お金を貸して欲しい」 鶴屋「いいよ、後輩のぶんくらいお姉さんが買ったげる♪」 長門「感謝する」 鶴屋「はい、みくる」 みくる「ありがとうございます」 ハルヒ「……抹茶の炭酸ってなによ?」 長門「あった」 ハルヒ「炭酸と言ったのはあたしだけど……これはないわよ」 長門「飲まず嫌い?」 ハルヒ「うっ……、いいわ、飲んでやるわよ!」ゴク 鶴屋「ど、どお?」 ハルヒ「……」フルフル 長門「ユニーク」 ハルヒ「……デコピンよ」ピシ 長門「……」ナデナデ ハルヒ「鶴屋さん、今日はありがとね」 鶴屋「なに、いつもみくるがお世話になってるからね。そのお礼さ♪」 みくる「ふふふ」 ハルヒ「あたしだってみくるちゃんにお世話になってるわよ?」 みくる「涼宮さん……」 ハルヒ「コスプレとか、部室の掃除とか、お茶汲みとか」 みくる「え、えぇ~」 鶴屋「先輩をパシリ扱いとはいけない子だね?こうしてやる!」 ハルヒ「や、やめて、鶴屋さん、アハハ、うそ!冗談だから!アハハちょ、くすぐったいってば~」 鶴屋「参ったか!」 ハルヒ「……このあたしが、はぁーはぁー、やられて、黙ってる、とでも?」 鶴屋「ん?」 ハルヒ「えい!」 鶴屋「ハルにゃん、ひ、卑怯だよあっはっはっは、そこは、はんそ、反則だよ、あっはっはっは」 ハルヒ「やられたらやり返さないとね」 鶴屋「覚えてろよ~」 ハルヒ「返り討ちにしてやるわ!」 鶴屋「せっかくだしこの後ご飯でも食べ行く?」 ハルヒ「そうね。どこ行く?」 長門「……」クイクイ ハルヒ「ん?どしたの有希?」 長門「あれ」 ハルヒ「あれ?」 鶴屋「あれはバイキングだね!」 みくる「も、もう怖いのいやですよぉ」 ハルヒ「みくるちゃん、ただの食べ放題よ。有希あそこがいいの?」 長門「……」コクコク ハルヒ「二人ともあそこでいい?」 鶴屋「あたしは構わないっさ!」 みくる「大丈夫です」 ハルヒ「それじゃあ、行きましょっか」 長門「……」トテトテ ~帰り道にて~ 鶴屋「いや~めがっさお腹いっぱいだよ」 長門「満腹」ケプ 鶴屋「女四人がバイキングでがっついてる光景は、シュールだったろうね」 ハルヒ「がっついてたのは鶴屋さんと有希だけでしょ?あたしとみくるちゃんは腹八分よ」 みくる(それでも食べすぎちゃいました……) 鶴屋「それじゃあ、ここらでお別れだね」 ハルヒ「そうね、今日は楽しかったわ。ね、有希?」 長門「……」コク 鶴屋「そりゃ良かった。誘ったかいがあったってもんだよ」 ハルヒ「じゃあまた学校でね。鶴屋さん、みくるちゃん」 鶴屋「バイバイ」 みくる「あ、あの、長門さん」 長門「何?」 みくる「少し、少しだけいいですか?」 長門「構わない」 みくる「お二人は少しだけ待っててください」 鶴屋「わかったっさ」 ハルヒ「有希はあたしのだから持って帰っちゃダメよ」 鶴屋「おっ、ラブラブだねぇ~」 ハルヒ「ジョークよ、ジョーク」 みくる「ちゃんとお返ししますから」ニコ 長門「何?」 みくる「本当はこんな事を言うのは禁止されています」 長門「……」 みくる「でも、でもわたしも長門さんも、望む望まないに関わらず、主要人物の一人になってしまいました」 長門「……結果的に私は望んだ」 みくる「そ、それは長門さんの場合です!」 長門「わかっている」 みくる「……同じ『部活仲間』としての忠告です。涼宮さんとは距離を置いてください」 長門「……何故?」 みくる「……この間私向けにそういう指令がきました。内容は知りません」 長門「禁則事項では?」 みくる「……話は以上です。また」スタスタ 長門「……」 ハルヒ「それでみくるちゃんはなんだって?」 長門「秘密」 ハルヒ「仕方ない、くすぐってでも吐かせてやるわ」 長門「無駄」 ハルヒ「どうよ!ほらほら!」 長門「まるで無駄」 ハルヒ「この不感症め!」 長門「なんとでも」 ハルヒ「あぁ、つまんなーい」 長門「そう」 ハルヒ「まぁ、いいわ。帰りましょ」 長門「?」 ハルヒ「~♪」 長門「あなたの家はこっちではない」 ハルヒ「あれ?言ってなかったけ?あたしの家今誰もいないから、有希の部屋泊まるって」 長門「初耳」 ハルヒ「そうだっけ?」 長門「そう」 ハルヒ「一泊も二泊も変わんないでしょ?さ、帰るわよ」 長門「……」コク ~長門宅にて~ ガチャ ハルヒ「ただいま~」 長門「……」 ハルヒ「……ただいま~」 長門「……」 ハルヒ「た・だ・い・ま」 長門「……ただいま」 ハルヒ「違う!あたしがただいまって言ったら、有希はおかえりでしょ?」 長門「……」 ハルヒ「もう一度よ。ただいま」 長門「おかえり」 ハルヒ「次は有希」 長門「ただいま」 ハルヒ「おかえり」 ハルヒ「あぁ~楽しかったぁ~、けど疲れたぁ~」 長門「六時間遊んだ」 ハルヒ「あれ?そんなもんだった?」 長門「充分」 ハルヒ「そうね、これ以上疲れたら明日筋肉痛になっちゃうわ」 長門「そう」 ハルヒ「有希は平気?」 長門「……」コク ハルヒ「文学少女のくせに丈夫ね」 長門「……そう」 ハルヒ「実はね」 長門「?」 ハルヒ「今日の団活中止になって嬉しかったの」 長門「何故?」 ハルヒ「一応表には出さないようにしてるけど、まだちょっとあいつと一緒に行動するのが、ね」 長門「……」 ハルヒ「そりゃ、盛大にふられてるもの、気にしてないっていったらウソじゃない?」 長門「そう」 ハルヒ「やっぱり気になっちゃう……ほんとに恋ってめんどくさい」 長門「……」 ハルヒ「未練がましいのなんてらしくないわね」 長門「……」コク ハルヒ「今の話忘れて!お終いお終い!さぁ明日も休みだし!今日こそ夜通し遊ぶわよ!」 長門「構わない」 ハルヒ「しっかり朝日を拝んでやるんだから!」 長門「そう」 ハルヒ「……」Zzzz 長門(まだ十二時) ハルヒ「……」Zzzz 長門「……」 ハルヒ「……ん……いや」グス 長門「?」 ハルヒ「……ゆ……き」グス 長門「……何?」 ハルヒ「おねが……いかな……いで」グス 長門「私ならここにいる」ギュ ハルヒ「……ん……」Zzzz 長門「……」ギュー --同じ『部活仲間』としての忠告です。涼宮さんとは距離を置いてください-- 長門(どこにも行かない。ここが私の場所) ~To Be Continued~
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百物語というものをご存知だろうか。 一人ずつ怪談を話し蝋燭を消していき、100話目が終わった後に何かが…!!というあれである。 俺は今まさになぜか部室でハルヒと愉快な仲間たちとともにそれをしているわけだが、何故そのような状態 に至ったのかを説明するには今から数時間ほど遡らなければならない。 ______ 夏休み真っ盛りのその日、俺はそろそろ沈もうかという太陽の暑さを呪いながらニュースを見ていた。 東北の某都市ではいまごろ七夕祭りをするのだなあ、などといつかのことを思い出しながら今まさに瞼の 重量MAXに至らんとしたその時、携帯が盛大にダースベーダーの曲を奏でた。 ハルヒだ。 市販されているどのカフェイン飲料よりも効く恐怖の音色によって冴えた頭で出ようか出まいか一瞬迷った後、 恐る恐る携帯を手にした。 「あ、もしもし?キョン今暇?」 恐ろしく不躾な第一声、間違いなくハルヒである。 いーや、今まさに夏休みの課題に取り組もうと今年一番のやる気を出していたところだぜ。 マシンガンに対し襖の盾を構える様に、ささやかな抵抗を試みる。 「ちょうどいいわ、そんなのやめて駅前に集合!」 何が調度いいのだろう、などと問うのは風呂上りに鏡の前でポーズをとるよりも時間の無駄というもんだ。 相手はハルヒなのだから。 駅前に着くと、時をかける美少女こと朝比奈さんが小さく手を振って俺を迎えてくれた。 「あ、キョン君、こんばんは…!」 純白のワンピースに可愛らしいポーチ、なんという麗しのお姿、もしかしてあなた未来人じゃなくて 天使か何かなんじゃないですか? 「私突然呼ばれて…キョン君は何するか聞いていますか?」 あいつが突然じゃないことなんてないんですよ、朝比奈さん。 ついでに言うとあいつの頭の中に何か計画があるのかも怪しいもんだ。 「ヤッホー!」 話題の主が何故か胡散臭い笑顔と鉄仮面を引き連れてやってきた。 「いやあ、涼宮さんと長門さんと電車で一緒になったもので。」 お前には聞いてないけどな。夏休みの、しかもこんな暗くなるような時間から何しようってんだ、ハルヒ。 「うんうん、みんな行動が迅速でとても良いことだわ。SOS団の未来も明るいってものよ!」 聴いてないな。 「失礼ね、ちゃんと聴いてるわよ。これからみんなで百物語をやります!」 帰っていいか。 「夏といえば怖い話。怖い話といえば百物語。百物語といえば学校よ。そういうわけで今から部室に行って 納涼百物語大会を行います。」 朝比奈さんは既に怯える準備万端、古泉はいつもどおりのインチキ笑顔、長門は幽霊のように冷たい無表情でハルヒを見つめていた。 意外と長門は読書で得たネタがあるかもしれないなと考えそうになったが、つっこみ担当の脳内俺がそれを遮った。 ちょっと待て、こんな時間に学校に忍び込んだのが見付かれば、バニーガールの時よろしくまた何を言われるか… 「大丈夫、ちゃんと昼間のうちに部室の窓の鍵は開けておいたわ。窓から縄梯子を垂らして、蝋燭も用意しておいたから完璧よ。」 どこからそんなもんを調達…じゃない、つっこむべきはそこじゃない。 何が大丈夫なんだ、ハルヒ。こいつの思考がわかる奴がいたら「機関」とか言う変態組織から表彰されるかもな。 俺だったら、たとえ古泉に土下座されてもいらないが。 「いいんじゃないですか。怪談、僕は嫌いじゃありませんよ。幽霊というものにも少し興味があります。」 少しは躊躇しろ、このニヤケヅラ。 「ふぇ…幽霊…出るんですか、百物語ってなんなんですか…。」 今にも泣きそうな朝比奈さん。大丈夫です、あなたのことは俺が命に代えても守ります。 いつかのクラスメイトによる俺殺害未遂に比べれば幽霊なぞ。 「……」 メンバー中最も幽霊に近い存在のような気がする宇宙人製有機ヒューマノイドインターフェースは、 なにやら不気味な表紙の本を読むのに忙しいようだ。何読んでるんだ? 「……これ」 えーと、いながわじゅん…… !? やる気か、長門。 はあ、何も起きないでくれよ。もしものときは頼むぜ、長門。 ハルヒの場合、幽霊どころかヤマタノオロチを召喚するなんてことは十分あり得るからな…。 というわけで、俺たちは夜の学校に忍び込み、百物語に挑戦しているわけだ。 しかし、5人で100話、一人20話の割り当てだ。正直、俺はそんなに話すネタを持っていない。 どこかで聞いたような、しょうもないネタを披露するといった具合だ。 ある種のオカルトマニアのハルヒと、今まで読んだ本を積み上げると富士山すら凌駕するであろう長門は、 順番が来ると躊躇なく話し始める。長門の話はどちらかというと、都市伝説のような気がするのは、この際目を瞑ろう。 古泉は少し考えた後に無難な怪談を語っている。こいつのことだ、即興で考えた嘘話だろう。 朝比奈さんはというと、専ら悲鳴あげ係である。話せるネタもないようで、ハルヒか長門が代わりに話している。 何なんだこの2人は。 さて、そろそろ納涼百物語大会(命名:ハルヒ)も佳境である。 最後の100話目を俺が話そうとしたところ、ハルヒに権利を奪われた。 曰く、イベントのおいしい所は団長の物なんだそうだ。 俺にとってはおいしいかどころか、不味い役回りだったので有難い。蓼食う虫もびっくりだぜ。 「それじゃあ、最後の怪談、いくわよ。 皆、この1年5組の教室に実しやかに囁かれる噂を知ってるかしら。あの教室はね、いわくつきの教室なの。 あたし達が入学するよりもずっと前、一人の男子生徒の遺体が発見されたの、胸にコンバットナイフを突き刺されて。 特に恨みを買うようにも見えない、ごく普通の男子生徒だったらしいわ。その子が殺される前日、 ラブレターを貰ったと言って浮かれてたという証言もあって、事件との関連性を疑われたけど、遺留品からそんな手紙は見付からず、 結局犯人は分からずじまい。以来、あの教室に一人でいると何か悪いことが起こるらしいわ…。」 ……結末以外はなにやらどこかで聞いたことのあるような話である。こいつ実は全部知ってるんじゃないだろうな。 長門、あまりこっちを見るな。こういう状況でのお前の眼差しはナイフなんかよりよっぽど怖い。 朝比奈さんはもう完全にギブアップ、古泉は相変わらずニコニコしている。 俺と朝比奈さんの青ざめる様子に気付いたのか、ハルヒは満足げな顔で言った。 「あははは、うっそ。今のは完全なあたしの作り話。こうも良い反応をしてくれるとは思わなかったわ。 持つべきものはキョンとみくるちゃんよねえ。」 こいつ実は読心術もマスターしてるんじゃないだろうか。 「じゃあ、消すわよ。」 そういって最後の蝋燭を吹き消した。 …暗闇 朝比奈さんの「ふえぇぇ」という舌足らずな悲鳴が聞こえたかと思った次の瞬間、蛍光灯が瞬き始めた。 誰が点けたんだ。そう思って部室の入り口に目を向ける。俺にとって、ハルヒとは別の意味で生涯忘れないであろう顔がそこにあった。 ……朝倉涼子? 何なんだ?訳がわからない。なんで復活してるんだ?一人を除いて目を丸くして入り口を凝視している。 驚く朝比奈さんも実に愛らしい、写真に撮って起きたい気分だが、今はそれどころではない。 どうでもいいが少しは驚けよ、長門。 「あんた…カナダは?」 ハルヒが訳のわからない質問をしている。 「何のこと?あなた達こんな時間に学校で何してるの?」 それはこっちの台詞だ。何しに出てきた。学校の警備員のバイトでも始めたのか、働き者だな。 瞬間、長門が何か呟いた。よく聞こえなかったが、例の「呪文」って奴だ。同時に明かりが消え、再び点いたときには入り口には誰もいなくなっていた。 なんだ?何をしたんだ、長門? 「何…今の?」 ハルヒが驚き半分、興味半分の器用な顔で声をあげる。あれはいったい何なのか、それは俺が知りたい。 朝比奈さんはもはや放心状態、古泉は胡散臭い笑顔に戻っている。 長門は勿論表情を変えていないが、一言 「……幻覚」 とだけ言った。いくらハルヒをごまかすためとはいえ、それはないだろ長門。 「幻覚…?みんなも見たでしょ?」 「…見ていない」 長門が無茶な否定を始めたが、他にどうしようもないので俺も続いて首を横に振った。 「ん~、おっかしいなあ。確かにそこに朝倉涼子が……まあいいわ。考えてもわかんないし。今日はそれなりに面白かったし。 終わりにしましょ。」 こんなフェルマーの最終定理の証明よりも意味のわからない説明で納得してくれるんですか、ハルヒさん。 お前が、大雑把な奴で良かったよ。 帰りの道中、俺は長門へ説明を求めた。さすがの俺もあれでは納得がいかない。古泉も興味があるようで、 話に勝手にまざってきた。あっちでハルヒの話し相手でもしてろよ。 「残念ながら、涼宮さんは朝比奈さんと話すのに忙しいようですのでね。」 見ると、ハルヒが朝比奈さんへまだ怪談を語っている。もう、いつでも失神する準備万端な朝比奈さんは 半分ハルヒに引っ張られて歩いている。すみません…朝比奈さん。 「…ノイズ」 長門がいきなり蚊の鳴くような声で説明を始めた。 例によってさっぱり意味がわからなかったが、古泉によるとこういうことらしい。 長門は朝倉涼子の情報連結を解除したが、それは朝倉涼子のデフォルトの状態を消去したのであって、 朝倉涼子が長門のあずかり知らない所で得た経験値までは対象となっていなかったらしい。 つまり、1年5組委員長としての朝倉涼子の情報はいまだ学校を彷徨っていて、ハルヒの願いに呼応して現れ、 今さっき長門が、消去したというわけだ。 なあ、それって所謂幽霊じゃないか? 「…そう、通俗的な用語を使用するならば、そういうことになる。」 …笑えない、何故か笑っている古泉の顔をひっぱたきたい気分だぜ。 「遠慮しておきましょう。僕にそういう趣味はありませんから。あ、そうそう、もう電車もないでしょうから帰りのタクシー代は 僕が出しますよ。面白いものを見せてもらったお礼です。」 なにやら、どこかで見たことのあるタクシーを呼び止めて古泉は言った。 「さすが副団長ね。キョンにも見習って欲しいわ。」 真夜中なのにこいつの元気は底なしだな…。朝比奈さんはハルヒを自分の家に招待しようと必至に懇願している。 一人で寝るのが怖いんだろう。俺を誘ってくれれば、インチキパワーを発揮した長門の如きすばやい動きで挙手をして、 二つ返事で引き受けるというのに。 さて、俺も今日はもう眠い。少しばかり癪だが、古泉の好意に甘えてとっとと家に帰って寝よう…電気を点けて。 END
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中国の故事だか何に由来するのかは知らないが、俺は光陰矢のごとしなる言葉がこの世にあることを知っている。 意味は、時間は矢のように早く過ぎるとかそんな感じだったように記憶している。 あいにく俺は古代日本語が苦手であり、ついでに古代中国に何があったのかも知らないものだから、光陰って何だ? とか訊くのはよしてくれ。 長門に訊けば由来から実体験ぐらいさせてもらえるのかもしれんが、今はやりたい気分ではないのでやめておく。そのうち気が向いたら辞書で調べるさ。 それはそうと、今は六月である。 去年の今頃というと、それはおそらく俺が白昼夢以上に夢っぽい空間からハルヒと一緒に生還した一週間後くらいであり、それと同時にまさしく悪夢だった中間試験が終了した頃だろうと思う。 それから我ながら大声で笑いたくなるような試験の結果が告知されるとともにハルヒによって草野球大会への出場が告知されたりして、一生のうちにも稀な忙しさを誇る感じの日々だったように記憶している。 そんでもって草野球大会が終了してからもいろいろ、つまり三年前のハルヒとかカマドウマとか孤島ミステリーツアーとかだな、あったんだが、ここでいちいち思い出に浸っていると時間がなくなっちまうので今詳しく話すのは控えておくとする。 というように、光陰矢のごとしなどという脳みその隅っこに埋まってよほどの衝撃がなければ出てきそうにない単語が都合よく出てきたのは、やはり俺主観の時間の流れの早さに由来するのではないかと最近疑いを持つようになっている。 日常、つまりハルヒが何も言い出さないときは時間というのはやたら遅くたらたら流れているように感じるのだが、ハルヒが一旦何かを言い出すと途端にスピードアップしたように感じる。そんでもって今の俺が、ああ時間の流れるのは早いなあとか思っているってことはつまりハルヒが何か言い出さないときのほうが少ないわけで、それは俺の小賢しい頭に巣くっている無数の非日常的思い出がしっかり示してくれているのさ。 さて話が逸れてしまった。 今は六月である。 佐々木とか橘京子とか未来人野郎――藤原とかいう苗字だったかな――とか、あと周防九曜が一気に出現した騒動でいろいろあった四月五月はやっと過ぎ去ったわけで、まだ俺の脳内からトラウマが消えないのはどうしたことだろうと誰かに愚痴をこぼしたいのだがそれはいいとする。そんなのが終了して嵐の後の静けさというか嵐の前の静けさというか、秩序のようなものがSOS団周辺に戻っていた。 ついでに紹介しておくと、四月に他の部活動がまっとうなやり方で新入生を勧誘している間に我がSOS団が実施した、ハルヒ作の某国立大学入学試験よりも難解かつ理不尽な入団試験に合格した新入生は一人としておらず、まあいてくれても困るので俺としてはほっとしたがな。長門も朝比奈さんも古泉も、ついでに俺とハルヒも普通らしい普段の精神状態に復帰し、長門は読書、朝比奈さんはメイド、古泉はボードゲームといったようにまるでどこかの昔話のごとく平和な感じに平凡で不変な状態を維持し続けている今日この頃である。 世界の物理法則を百八十度くらいねじ曲げてくれたハルヒもようやく静かになったか、と思っていた。適度に暴れる、俺に言わせれば一番安全な状態である。その暴れ方も以前に比べればマシなもので、映画撮影をカオスの極地に追い込んだり時間を逆戻りさせたりということはなく、ハルヒの持つスペシャルパワーを使わない暴れ方になっていた。古泉の言う「普通の女子高生」なるプロフィールがハルヒに定着するのも時間の問題かと思っていたのだが。 どっかの誰かがそれを許さなかったらしい。 そんな最中、起こってくれた。 * 「ねえキョン、そろそろ来る七夕に向けて準備をしないといけないと思わない?」 時は六月半ばのとある木曜日、中間テストが続々と返ってくる悪魔週間のまっただ中、俺には理解不能だがおそらく客観的に見れば古典という授業が終わった直後の休み時間だった。 解放感を味わうために座った状態で背伸びした俺の肩を、二年生になってまで飽きもせず俺の後ろの席を占領し続ける女が何の前兆もなく引っ張った。 やめてくれ。 お前のその強力のせいで脱臼でもしたら治療費はお前が出してくれよ。 「そんなのはあたしのせいじゃないわよ。あんたの肩がひ弱だからいけないの。それにほら、今だってバカみたいにぼーっとした顔してるじゃない。そんなだから身体に力が入らないのよ。しゃきっとしなさい。顔の筋肉に力を入れるの」 こんなひねくれの境地のようなことを本気で言う人間は俺の知り合いに一人しかおらず、また世界中を探してもいろんな意味で世界遺産以上の価値を誇る女であり、その名前を涼宮ハルヒといった。 そんなムチャクチャな。 「ムチャクチャじゃないわよ。あたしは状況を冷静に判断して物を言ってるんだからね。悔しかったらあたしが最初に言った言葉を二秒で反復しなさい。ぼーっとしてなければ解るはずよ。はいスタート」 …………。 「はい不合格」 俺の答えを待たずして不合格の印を押したハルヒは笑いながら怒るという芸当を披露している。 「仕方ないわね。もう一度まったく同じことを言ってあげるから、耳の穴かっぽじって今度は一語たりとも聞き逃さないようにしなさい」 ハルヒは不敵に笑いながら、 「来る七夕に向けて準備するわよ!」 と、そう宣言したのだった。 繰り返しなさい、とハルヒが言っている。最初に言ったやつとはずいぶん変わっているがこれはツッコんでやるべきなのだろうかとか思いながらも、反復しなければこの休み時間を無駄にしてしまいそうなので俺はハルヒが言ったとおりに繰り返した。 「合格。もっとしっかり聞いてなさいよ」 「ああ、できるだけ努力する」 「じゃあ本題だけど、あんた、自分が今言ったことの意味はしっかり理解できてるわよね?」 俺だって人並みの耳と脳は持ってるんだ。耳から情報を取り込んで脳で処理しなきゃ、それは聞いてないのと同じだぜ。俺の場合、古典の授業なんかがその典型的パターンだな。 「解ってるならいいわよ。あたしね、つくづく思ってたの。七夕とかクリスマスとかの大イベントって何で一日しかやらないのかしらって。前後一週間くらい七夕ウィークとかクリスマスウィークとかにするべきよ」 「それじゃありがたみが減るだろ」 「そんなんじゃもったいないわ。せっかく大きなイベントなんだから、それなりの日数は取るべきよね。七夕だってそろそろやってもいい頃よ」 自分勝手もここに極まったような言い分だが、まあそうなれば織り姫と彦星も空の上でさぞかしありがたがることだろうよ。だがキリストの誕生日はどうしようったって一日限りだぜ。キリストがそう何回も生まれ変わってたらそこらじゅう神様で溢れかえるに違いない。 「とにかく、あたしは個人的にでも七夕を長期間楽しむことにするわ。クリスマスツリーだって十二月の第二週には飾るんだから、笹だって六月の半ば頃には飾ってもいいはずよ。そうじゃないと不公平よ。許せないわ」 誰を許さないつもりなのか。いや、それはいい。ハルヒの言う個人的ってのに俺や長門や朝比奈さんが組み入れられてるだろうこともいいとしよう。 「それでお前、七夕には何が必要か知ってるんだろうな。えらそうなこと言って、そんなのも知らなかったらロクでもないぜ」 「知ってるに決まってるじゃないの。あたしはこういうイベント事に関してはね、あんたよりもずっと深く理解してるつもりよ。それに去年だって同じことやったし」 ああ、去年ね。確かにそんな記憶がある。あの時は朝比奈さんに連れられて三年前に行って、そこで中一のハルヒと会ったんだったな。犯罪まがいのことをした末に世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしくと叫んだ――のは別の時だったか。 回顧録に思考を飛ばす俺をよそに、ハルヒは自慢げに鼻を鳴らした。 「でもねえキョン、あたしだって去年より進歩してるのよ。去年は学校裏の私有地の竹林で笹を取ってきたんだけどね、今年は違うのよ。どこで取ってきたと思う?」 「さあな。私有地の竹林から公有地の竹林に変わったんじゃないのか?」 「違うわよ。今年は鶴屋さんのとこの山から笹をもらってきたの。もうすごかったわよ。あの山、笹から竹まで立派なやつがわんさか生えてるんだもん」 「まさかとは思うが、お前普通の竹を取ってきたんじゃないだろうな。七夕に使うのは笹だし、そうじゃなくても部室は狭いぜ」 「安心しなさい。しっかり部室に収まる程度で適度に立派なやつを選んで持ってきたから。あたしだってそんくらいは考えるわよ」 どっちにしろ鶴屋さんにお礼を述べておく必要があるだろう。あの方にとっては、自分ちの山の笹竹の一本や二本があるかないかなんてのは、俺の自宅にアリがいるかいないかぐらいのもんだろうが。 「じゃあキョン、放課後までに願い事考えとくのよ。善は急げだから」 その用例は少し間違っているのではないかと考える俺に向かってハルヒは「みくるちゃんと有希と古泉くんのところに行ってくる」と言い残して、韋駄天走りで教室を飛び出していった。 願い事ね。 確か十六年後と二十五年後に叶えてもらいたいやつを書かないといけなかったんだっけ。ベガとアルタイルまで光が届く年数だ、とか。ハルヒの考えそうなことだ。 俺は去年俗物を頼んだ覚えがあるが、はたして今年は何と書けばいいのだろうか。今すぐにと言われたら『ハルヒの暴走を止めろ』とか『周防九曜の類の連中とは金輪際顔をつきあわせたくない』とか願うんだろうが、未来の自分の願い事というハルヒ説を重んじるなら今さらそんな願いをしたところで無意味だからな。どうせ十六年後とか二十五年後の俺はその前の年と変わりばえしない日々を送ってるんだろうよ。 もっとも、十六年後や二十五年後にはハルヒやその他の連中は俺の近くにおらず、そんでもってハルヒが暴走していないと仮定しての話だが。 * 放課後はすぐにやって来た。 そういえば部室に向かう途中に鶴屋さんと出くわした。相変わらず快活な挨拶をしてくれて、俺も笹のお礼を述べておくと、 「いいよいいよっ。あの山のなら竹でも笹でもどんどん持ってっておくれっ。あたしはハルにゃんの思いつきをちっと齧らせてくれればいいからさっ」 とまた、こちらが恐縮したくなるような度量の大きさを見せつけてくれた。つくづく感心するお方だ。朝比奈さんと並んで先輩の人気度ランキングナンバーワンだな。 さて、SOS団アジトもとい文芸部室に足を踏み入れた俺を待っていたのは、夏バージョンのメイド服に衣替えした朝比奈みくるさんに長門有希の等身大人形のような読書姿、古泉一樹のハンサムスマイルだった。ハルヒは清掃当番なので俺は先に行って待っていろと指示されている。待ってるだけで短冊を書くのはダメらしい。竹なら部室の隅に準備されてるのに。 なるほど鶴屋家所有の山に生えているだけはあるような、青々と茂る笹の葉を満載したぶっとい笹竹である。このちっちゃい部室には場違いな感が否めないでもないが。 「キョンくん、こんにちは」 扉を開けた俺を一番に出迎えてくれたのは、俺の精神的栄養源かつ目の滋養になってくださっている朝比奈さんだった。相変わらず何も知らないガキに天使だよと紹介したらあっさり信じ込んでしまいそうなくらいに可愛らしい笑顔で、ああ俺も自然と笑顔になっちまいそうだ。 未来から来ているという付加効果なしでも充分SOS団に必要な存在だろう。今さらながら、彼女をスカウトしてきたハルヒの目は確かだったな。いろんな意味で。 「すぐにお茶を淹れますね」 そう言ってパタパタと急須に向かう朝比奈さんの微笑ましい姿を横目で見ながら俺はパイプ椅子に腰を降ろした。 しかし朝比奈さんには悪いですが、いくら夏バージョンとはいえそのメイド姿は暑そうですよ。去年みたいにナース服にしたらどうです。いや、俺の好みとしてはメイドのほうがいいんですけどね。 ただでさえ暑い六月半ばである。人の気も知らずにいつまでも停滞を続けやがる梅雨前線のせいで、この文芸部室は暑いにプラスしてじめじめしていて蒸し風呂状態である。ストーブが冬に来てくれたのは嬉しかったが、どうせならクーラーも欲しいな。オンボロ扇風機程度じゃあ、このだるい部室内空気を引っかき回してるだけだ。 俺は視線をずらし、奥のパイプ椅子にひっそりと鎮座している小柄な読書娘を見る。長門はいつものように完全に固体化しており、はたしてこいつよりも動作の少ない生物が地球上に存在するのか疑わしくなってくるね。 部室が暑いと言ってもこいつは別格である。そもそも暑いとかいう概念がないんじゃなかろうか。あるいは変温動物のように体温調節機能を獲得しているのかもしれん。どっちにしろチートだ。 「いや、もう夏ですねえ」 俺が鞄から取り出した下敷きをうちわにして扇いでいると、本当は暑いくせに暑そうな素振りを一切見せないハンサム男が話しかけてきた。 「まったく驚きです」 これ以上暑苦しくなりたくなかったので無視してもよかったのだが、とりあえず反応してやることにする。 「何にだ」 「四季の過ぎ去るのがこんなにも早い、ということにですよ。同じような話は春にもしたと思いますがね。この一年、細かく言うと涼宮さんに出会ってこの部活に入ってからですが、僕としては多忙を極めたような日々でした。裏方、『機関』のことに加えてSOS団の涼宮さんのことにも気を配らねばなりませんでしたから。たぶん僕の人生のうちでベストスリーにランクインするほどの忙しさだったでしょう。しかし、その割に何故こんなにも早く時間が過ぎ去ってしまうのか、それが不思議でならないんですよ。あなたはそう思いませんか?」 当然のようにオセロを持ち出してきて俺にコマを配布し始める古泉に、俺はまあなと答えた。 「ハルヒが何かやらかす度にこっちの時間も狂っちまうんだから、今ほど時の流れが早くなったり遅くなったりすることもないだろうよ。冬なんか総じてえらい目に遭ったが、そのくせ冬の時間の流れは一番早かった」 「それはなかなか面白い思考ですね。今ほど時の流れが遅くなったり早くなったりするときはない、ですか。それに冬という視点で見るのもなかなか面白いです」 いかん。どうも古泉のご機嫌を取るようなことを言っちまったらしい。俺は朝比奈さんが運んできたほうじ茶を啜りながらこいつの説明地獄からどうやって逃れようかと考えるが、たぶん無理だろうという結論に至ってげんなりした。 「僕はね、時々思うんですよ。春はあんなことがあった、夏はあんなことがあった、秋はあんなことがあった、冬はあんなことがあった、とね。まあ春というのは先日の佐々木さん方面の話ですが」 ああ解った。解ったからその話はもうしないでくれ。当分奴らとは顔を合わせたくないんだ。 「おっと、それは申し訳ありません。あなたに関して言えば彼らは迷惑以外の何者にもならないような人たちでしたからね。実際迷惑をこうむったと思いますが」 「まあな。だが、迷惑ならハルヒが俺をSOS団に引き込んだ瞬間から始まってるぜ。というかそれが一番の原因だろ。SOS団にいなけりゃ俺はまっとうな高校生生活を楽しんでただろうし、橘京子や九曜に迷惑をかけられることもなかった」 古泉は怪訝な顔になりながらもスマイルだけは崩さずに、 「SOS団にいたせいで、ということですか。……ではもう少しつっこんだ訊き方をしますが、あなたはSOS団に引き込まれたことを後悔していますか? 今すぐでも、この団体を去ってしまいたいのですか?」 だから、そんなことを面と向かって訊くな。何にもないときにおいそれと人に――特に古泉に――言いたいことではない。 俺の無言をどう取ったのか、古泉は自嘲気味に小さく笑い、 「すみません。話を元に戻すことにしましょう。あなたが相手だと話が逸れやすくてね。それで僕が言いたいのは、僕の頭の中では春や夏という季節ごとの分類でSOS団の出来事がまとめられているという点なんですよ。SOS団にまつわるさまざまな出来事を思い返す度に、僕の思考には四季が結びついているわけです。野球大会は夏、映画撮影は秋、ラグビーの試合観戦は冬といったふうにね。たとえば、訊きますが夏には何をしましたか? しっかり覚えているでしょうか」 「そりゃお前」 忘れようにもSOS団の活動で俺が死ぬときに忘れ去ってそうな事件なんか一つもあるわけがない。そんなヤツがいたら健忘症を疑ったほうがいいだろう。 夏には無限ループの夏休みをやって、あと野球大会とかカマドウマの一件もあったし、朝比奈さんに連れられて三年前にも行った。そしてお前がやらかした孤島のインチキ殺人事件だ。 「その通りです。ならば秋はどうでしょう?」 「秋は映画撮影に尽きる。コンピ研とネット対戦とかもしたが、まあ秋はハルヒも割と静かだったしな」 「では冬は?」 「……待て、何をしたいんだよお前は」 「そんなに大したことではありませんよ。ちょっとした実験です」 含み笑いのような笑いを浮かべる古泉に不気味さを覚えながらも、俺は冬の記憶を辿る。 冬は本当にいろいろあった。何が一番印象に残ってるかと言われればそれはもちろん長門のエラーだかで世界が変わっちまったことだが、それ以外にも雪山の山荘とか中河のヒトメボレ騒動とかいろいろあるぜ。 「なるほど。つまりあなたは僕が季節を言うだけでその季節にSOS団で何があったかを明確に思い出すことができるんですね。あなたの場合は全部が全部衝撃的だったということもあるわけですが、しかし朝比奈さんや長門さんに訊いても同じ答えが返ってくると思いますよ」 「どういうことだ」 「SOS団の活動は四季と深く結びついている。こういうことです」 古泉の嬉々とした声を聞きながら、俺はああとか思った。 そもそもハルヒが行事的イベントを好んでやり出すからとかいうのもあるんだろうが、それでもSOS団の活動には季節に関係していることが多い。夏には市民プールとか合宿とか夏らしいことを、秋には文化祭関連で一幕あったし、冬は雪山に行っている。知らないうちに季節が一回りしたことも驚きだが、俺の脳内記憶装置に季節ごとのフォルダができているのはそこらへんが関係してるのかもな。 だから何だって話だが。 「僕はそう考えると途方もない想いに駆られますね。このまま同じように高校二年、三年を過ごして卒業したとき、四つの季節フォルダに一年ごとのSOS団の活動録ができあがっているかと思うと、まだやり遂げてもないのに達成感が湧いてきます。朝比奈さんがこのまま行くと今年で卒業してしまわれるのが非常に残念ですが、とにかく今のベストの状態で終わりを迎えたいものです。もちろんそんなのはきれい事に過ぎませんけどね」 俺は古泉の言葉に妙な引っかかりを感じた。 「何だ、今はベストの状態なのか?」 古泉はオセロ盤にコマを置いて俺の白を一枚裏返し、それから自分の手のひらを裏返して、 「さあ。僕は『機関』の一端末でしかありませんから、上の実状がどうなってるのかははっきりとは解りかねますがね」 「お前、知っててわざと伏せてんだろ」 「どうでしょうかね。……まあ僕に言わせるのなら、涼宮さんの面だけで見たら悪くはない状態だと思いますよ。閉鎖空間の出現頻度は今のところかなり少なくなっています。《神人》ともご無沙汰で、いやこんなに会っていないとそろそろ会いたくもなりますよ」 そりゃ病気だ。早めに治療してもらった方がいい。ああ思いついた。閉鎖空間ノスタルジア症候群なんて病名はどうだろう。 「それはそのうち学会に発表することになったら考えさせてもらいますよ。今のところ発表する気はありませんが。それで、確かに涼宮さんの精神は落ち着いています。その面だけで見たらベストと言ってもいいくらいにね。それは我々超能力者にとっては非常にありがたいことなのですが、しかしです。いま問題視されるべき存在は涼宮さんだけではなくなってきているんですよ。あなたもお気づきでしょう。我々の敵と呼ぶべき存在」 けったいな話をしながらも、古泉はオセロのコマを裏返した。 敵と言うべき存在ね。俺の心当たりはなくもない。 そんなのは言うまでもなく周防九曜である。 他にも問題のある連中に持ち合わせはあるのだが、とりあえず誰かを敵視しろと言われたら俺はぶっちぎりでこいつを敵視するね。他の連中ならまだ会話程度は成立するが、九曜の場合はコミュニケーションが成り立たん。会話という意思伝達の概念がないってのがマジな真相さ。 佐々木の一件で現れた広域帯宇宙存在天蓋領域のインターフェース。それが九曜の正体である。 春以前にも雪山の山荘ではずいぶん派手な歓迎会をしてくれやがり、長門を発熱させるようなとんでもないバケモノだ。あんなヤツとは二度と関わりを持ちたくないと思った俺の心情も察して欲しい。 地球外生命の知り合いなら、長門と喜緑さん――と朝倉は微妙なところだが――だけで充分だ。 俺の話を黙って聞いていた古泉は曖昧な表情を作って、 「まあ、確かに周防九曜は敵視すべき存在でしょうね。しかし、です。悔しいことに彼女は僕の手に負える存在ではありませんよ。いいわけめいて聞こえるかもしれませんが、あまりに大きすぎる獲物に狙いを定めても失敗するだけなんです。長門さんには申し訳ありませんが、彼女のような強大な敵は長門さんに任せるまでです。もちろん助力はしますけど。しかし、僕が懸案しているのはその他の人物です」 俺は次なる敵にピントを合わせた。 「佐々木や橘京子や藤原とかいう未来人野郎か」 奴らもまた、出てこなくてもいいのに出てきた連中である。 橘京子は古泉の『機関』の敵対勢力で、藤原は朝比奈さんとは別種の未来人だっけ。 佐々木はともかくとして、橘京子や藤原のような連中に遠慮はいらん。リング外で一万回ぶっとばしてやりたいくらいだ。 「そうですね。彼ら二人に的が絞られます。立場上ということも関係していますが、そのうち僕が気にかけているのは橘京子のほうですよ。長門さんのような強力な存在があと二、三人こちら側について援護してくれれば気にかける必要もなくなるのですが、そんなことはなさそうなのでね。長門さんには周防九曜が、朝比奈さんにはあの未来人がいるのと同じように僕には橘京子がいて、それぞれ自分だけで手一杯なんですよ。この間の一件で一応のことそれぞれ和解していますが、事実上敵対は続いています。証拠に、あちらはまだ佐々木さんを中心として形だけ結束していますからね」 ああアレか。Aに敵対する勢力がどうのとかいうやつだ。あっちが形だけ結束してるのに比べりゃSOS団がはるかにマシなものだってのは、たぶん客観的に見てもそうなんだろうね。涼宮ハルヒという巨大権力の下、宇宙人と未来人と超能力者が団結してるんだからな。俺が何なのかはいまいち解らんが、そんなことはもうどうでもいい。 「つーことは、まだ裏で激戦を繰り広げてたりするのか? 敵対する組織同士で」 「いえ、少なくとも僕のところについて言うならばそんなことはありませんね。今のところ橘京子のほうからの動きは見られませんから。いたって静かですがお互いを観察し合う状態、つまり春以前の冷戦状態に逆戻りです。それだけに何かきっかけがなければお互い攻撃することはないと思いますが、ただし油断はできませんよ」 じゃあ話を変えるが、藤原はどうなんだ。橘京子が黙ってたってあいつがいつまでも黙ってるとは思えないぜ。そして、しかもそうなると朝比奈さんが負けそうな気がしてならないんだよな。不思議なことに。 「そんなことはありません、と僕は思ってるんですけどね。それぞれ実力に見合った相手と敵対しているわけですから。彼も性格がああでも所詮は朝比奈さんと同じ未来人です。そして、未来人がどんなふうかは朝比奈さんを見れば解るでしょう?」 古泉は、パイプ椅子に座って編み物をしている朝比奈さんに目をやった。 可愛さは学園内ナンバーワンだが、こうしている限りではとても未来人とは思えん。いや、素性を隠してるならそれが普通か。 「彼女は何も知らされていない、というのは前にお話しましたね。過去の人間に未来がどうなっているかを予測させないためです。そこの理屈はどの未来にとっても同じはずですから、これはあの未来人にも言えることだと思いますよ。彼もまた未来からはほとんど何も知らされていないのでしょう。ついでに、こちらで何か動きがなければ未来からは干渉してこないところもね。そして今、橘京子の一派はすぐに動き出す様子もないし、天蓋領域は長門さんたちに監視されているため大きな動きがある可能性は少ない。そして未来人も動けないために、涼宮さんの周囲は不気味なほど静まり返っているわけです」 「なるほどな」 俺は息を吐いた。 「とりあえず、今すぐにこれ以上何かが起こるってことはないと思っていいのか?」 「その通りです」 古泉はいつもの微笑を二割り増しにして答えた。 嵐は過ぎ去ったのだ。 危険極まりない周防九曜やその集団は、今や長門のところが見張ってくれている。 橘京子の一派は強行派ではなく、一件を終えて静まっている。 藤原とかいう未来人野郎は事態を動かすだけの力を持っていない。 「このまま静かになってくれるといいんですがね」 古泉がぽろっとこぼした。 「涼宮さんの精神が落ち着くのに始まって、そこからすべての組織が収まってくれれば、それほどいいことはありませんよ」 俺も同感である。 一番最初に大問題だったのはそもそもハルヒなんだ。 四年前に始まり、その変態パワーを使って周囲をさんざん巻き込んでくれたが、高校二年生になった今ハルヒはようやく静かになりつつある。 前みたいな憂鬱と暴走の大きな谷と山の繰り返しがだんだん小さくなって、もう少し経てば平地になってくれるかもしれない。そうなったとしたら俺はきっと妙な寂しさを覚えずにはいられないだろうが、それでも世界が収まってくれるのならそれでいい。 だったら、と思うのだ。 ハルヒが事態のすべてを引き起こした原因だったのだとしたら、その原因が静まればそれを取り巻く周りも静かになってはくれないのか。覆水盆に返らずっていうアレか? そんなことはない。事実そうなりつつあるのだ。二年生の春にあった佐々木の一件を最後にして、ここんとこは事件らしい事件は何も起こってない。だったら、このまま何も起こらずにすべてが収まらないのか――。 「ただしね」 古泉は言って、おもむろに一枚のオセロのコマを手でつまんだ。 「ひっそり静かなのと大荒れなのは表裏一体なんですよ。たとえば、このコマは今は白を表に出しています。しかし、これがちょっとしたことでもあれば裏返るかもしれない。そうすれば、今まであなたの味方だった白は突如として姿を変えて黒になるわけです。しかし、もしかしてちょっとしたことが何もなければ永遠に裏返らないのかもしれません。一方で、すぐに何かがあったらすぐに裏返るのかもしれません。……いえ、我ながらこれは喩えが悪かったですね。とにかく、いつ大荒れになるのかを予測できないのが僕には無念でならないのですが――」 「ごっめーん!」 古泉の言葉はいきなり部室のドアを押し開けた人物の派手な謝罪によってかき消された。古泉は俺に向かってお得意の肩をすくめるポーズを取ると、持っていたコマをパチンと盤に置き、白を一枚裏返してから今までそんな真面目な話などしていなかったかのように挨拶をした。 「おや涼宮さん、どうもこんにちは」
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放課後部室で俺と古泉がオセロをし、長門が窓際で読書、 朝比奈さんがお茶の用意をしていると俺より先に教室を出たはずのハルヒが ドアから勢い良く登場した。そのままズカズカと入り込んで団長席に腰掛けると、 ぐるっと椅子を回して古泉に視線を向けた。 ハルヒの表情は新しい獲物を見つけたようにギラギラと輝いている。 あー嫌な予感がする。 「ねぇ古泉くん、土曜日川岸近くの遊歩道で一緒に歩いてた子って誰? 手繋いでたみたいだったけど、ひょっとして彼女?」 土曜日っていうと俺が古泉に頼まれて彼方此方振り回されてた日だな。 女になってショッピングしたり、昼飯食べたり、 狙撃されて逃げ回ったりと散々な目に遭った。 遊歩道ではクレープを食ったりしたな。食べ終わる前に襲撃されて、 古泉が慌てて俺の手を掴んで――ってソレ俺じゃねーか! 「御覧になっていたのですか」 少し驚いた顔をしてハルヒを見る古泉。 そりゃそうだな。俺達が狙われる原因であるハルヒが傍にいたんだから。 ん、待てよ。連中はもしかしてハルヒがいたから古泉を狙ったのか? 「ちらっと見かけただけよ。 なんか急いでるみたいで、すぐ二人ともいなくなっちゃったから。 で、どうなの? もしかして彼女って北高の生徒だったりしない?」 ハルヒも女の子らしく恋バナが好きなんだな。少し意外だ。 恋愛は精神病の一種なんて言ってたくせに、他人の恋愛には興味あるのか。 古泉はこのルックスだし、浮いた話が1つや2つあってもおかしくはないが。 「彼女はこの学校の転校生になるはずだった生徒です。 制服も購入して先日から学校に来る予定でしたが、 不幸にも地方に住んでおられるご両親が体調を崩されてしまい、 通学が困難となってしまった為に決まっていた入学を取り消されたのです」 は? 突然何言い出すんだコイツ。 それは対ハルヒ用に用意していたシナリオなのか。随分と用意がいい事だな。 「それは可哀想ね。でもその子に兄弟とか親戚はいないの?」 ハルヒが食いついてきたのをいい事に、演技がかった仕草で古泉は話を続ける。 「彼女は年の離れた妹さんがいらっしゃるそうです。 親戚の方々は相次いで亡くなられておりまして、 両親と妹さんの面倒を見るのは彼女しかいないのです」 ふぅと肩を落として落胆の意を魅せるところまで完璧だ。 釣られたハルヒは友達のように心配した表情を見せる。 「じゃあその子はお世話をするために転入を諦めたってこと? なんだか理不尽な気もするけど仕方ないわね。 でもなんで土曜日は一緒にいたの? ってか古泉君とどんな関係?」 それは俺も聞きたい。 「ちょっとした昔馴染みですよ。なにぶん急な出来事だったので 荷物やら全部こちらに置きっぱなしのままだったそうで、 土曜日に引越し手続きをするために戻ってきてたんです。 あの時は久々の再会でしたから昔語りをしながら散歩をしてたんですよ」 昔馴染みねぇ。彼女って言われるのは御免被りたいが ちょっとだけ残念だと思うのは俺の気のせいだな。うんそうだな。 「ふ~ん、それにしても可愛い子だったわね。 そうそう、ポニーテールがすっごく似合ってた」 そのポニーテールは古泉がやったんだ。 髪が邪魔だったからまとめてくれって言ったら 僕が好きな髪型にしますね、なんて言い出して。 俺もポニーテールは大好きだが、自分がやるとは思わなかったよ。 「彼女が聞いたらきっと喜ぶと思いますよ。 今度会う機会があれば伝えておきましょう」 今度どころか今聞いてるだがな。 何故か古泉は何のサインか知らんが俺にウィンクを投げてくるし。 だからその気色悪いのはやめろ! 男にやられても嬉しくねぇよ。 下校時刻になり、俺は古泉と2人で帰っていた。 ハルヒ達は駅前に先日開店したケーキ屋に行っている。 なんでも3人1組まで食べ放題らしい。 食欲魔人の長門とハルヒにはうってつけの話だな。 隣りを歩いている古泉はいつもより5割増しの爽やかスマイルだ。 「機嫌よさそうだな」 「そうですか? ふふ、そうかもしれません。 僕とあなたが恋人同士に見えたんですから」 ハルヒの話か。その時はお互いそれどころじゃなかったがな。 ん? 俺と恋人同士に見られて何で嬉しいんだ? だって、お前は俺が男だって知ってるだろ? 「ええ勿論知ってます。けど、今回ばかりは涼宮さんに感謝していますよ」 なんだそりゃ、俺はさっさと普通の生活に戻りたいね。 湯船から出たら冷水を浴びるのが習慣化してるし、 お湯に対して異様に警戒するようになっちまった。 ハルヒが望んだからこんな事になっちまった訳だが、一体何時まで続くんだろうね。 「さぁそこまでは。それより」 この手は何だね、古泉くん。 「握手してくれませんか?」 古泉が手を差し伸べてきた。何で今更握手なんだよ。 しかも俺は女の子よりお前と手を繋いでいる回数のほうが明らかに多い気がするぞ。 まぁ、握手くらいならしてやるけどさ。 「うお!?」 手を握ったと思ったら、今度は手をに引かれて 奴の胸の中へと無理やりダイブさせられた。 おいおい握手だけじゃなかったのか。 しかもこの体勢は図らずもあのデートの日と同じ状況ではないか。 あの時と違うのは俺が女の姿ではなく、生来の男の姿であることだけだな。 「古泉?」 台詞まで同じだよ。お前は最近突発的行動が多過ぎやしないか? 「やっぱり抱き心地が違いますね」 そりゃそうだろう。ガキの頃なら大差がないだろうが、 齢16になれば男女の体つきは大分違う。 同じって言われたら別の意味で泣くぞ。 「でも、同じ匂いがします。それにとても暖かい」 ぎゅっと腕に力が入る。古泉は俺よりほんの少しだけ冷たい気がした。 奴に抱き締められるのは嫌ではないが、 ここは往来なので誰かに見られるのではないかと気が気でない。 ホモカップルとして北高に噂が広がるのだけは何としても阻止すべきだろ。 俺が己の安泰な高校生活を送る為に無言で奴のブレザーを引っ張って抗議するが、 哀しいかな古泉は俺の意図を読んではくれなかったらしい。 それどころか俺の肩に頭を乗せると、耳元で 「僕は男性のあなたが好きなんでしょうか? それとも、女性のあなたが好きなんでしょうか。 わからないんです、2人のあなたのどちらが・・・」 と悩ましげに呟くと、古泉はいっそう強く抱きしめた。 息遣いや心臓の音がはっきりと聞こえる。 古泉の手が震えていることだって伝わっている。 俺は何て答えてやればいいのか分からないまま、されるがままに突っ立っていた。 ただ、そうだな。 古泉が答えを見つけるまでは、ハルヒの気が変わらなければいいと思った。 それまでに、俺もこの気持ちに対する答えを見つけておこう。 終