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『ハルヒの想い』 放課後 いつも通りSOS団部員は部室へ向かった ハルヒ「よし!みんな集まったわね!会議を始めるわ」 当然この日が会議の日など決まっていない ハルヒ「いい?明日は休日なんだから町に行くわよ!」 キョン「なにしに行くんだ?」 予想はついてるが聞いてみる ハルヒ「決まってんでしょうが、明日は思いっきり遊ぶのよ」 え・・・ 宇宙人や未来人探索ではないのか? キョン「宇宙人や・・・」 ここで口を止めた 余計なこと言わない方がいいな。 古泉は俺を見ている。 いつみても憎いほど笑ってやがる 朝比奈さんは少し残念そうな顔をしていた 未来から来たから起きる事はわかってるのか? 長門は読書。 ハルヒ「・・・・とにかく明日は絶対遅刻しないように 特にキョンっ!あんたはいつも遅刻するんだから気をつけなさいよ」 …時間は遅れてないんだがな ハルヒの解散と言う声と共に俺たちは帰宅した。 翌日 やはり俺が一番最後だった。 俺以外超人揃いだから俺が最後になることは覚悟済みである。 ハルヒ「遅い!罰金!」 キョン「はいはい、飯奢るよ」 レストランに行き今回は集団で出歩く事に決めた。 ハルヒ「こうやって一同で行くのも悪くないわね」 そうやってハルヒが先頭を仕切っていた 俺は尋ねてみた キョン「なぁハルヒ、どこまで行くんだ?」 ハルヒ「そんなことどうでもいいでしょ!あんた達はあたしについてくればいいのよ」 まぁ大体こんな事答えるのは予想出来てた。 ハルヒ「着いたわ!」 ここは・・・遊園地・・みたいだな 古泉はニヤニヤしている。 今日ばかりは楽しめそうだな キョン「ここも一同で行くのか?」 ハルヒ「当然でしょ?一々そんなこと聞かなくてもわかるでしょう。まったく 機転が利かないわね」 その後ジェットコースターに乗ることにした。 朝比奈さんは可愛らしく首を横に振っていたが 当然ハルヒは無視。 古泉は得意げに「僕も好きなんですよ」とか言ってやがる 俺は好きでも苦手でもなかったのでどうでもよかった。 長門はボンヤリしている。 ハルヒ「古泉君!キョン!みくるちゃんと有希!さっさと来なさーい」 周りの客の目を気にしてないみたいだ。 朝比奈さんは嫌々乗らされたが、それはそれで可愛いな。 古泉は楽しみな顔で乗り込んだ。 長門は何を考えてるか全くわからないな。 コースターが上昇・・・・・そして落下! すごい迫力であんまり覚えてないが カーブの際に古泉が「マッガーレ」と言ったのは覚えている。 朝比奈さんは気絶したみたいだ。 長門は朝比奈さんが目覚めるまで付いていると言っていた。 俺と古泉とハルヒは三人でお化け屋敷に行った。 中は真っ暗だ。 お化けが出てくる光のみで道を探っていた 意外にも俺の袖をハルヒがつかんでいる キョン「なんだお前こうゆうの怖いのか?」 俺は笑ってしまった ハルヒ「・・・・バカ」 古泉は俺を睨んだかと思うと笑っていた 古泉がはぐれた。 二人きり・・・・ かと思ったら古泉は俺の真後ろを歩いていた事に気づいた。 俺は古泉を見ていた 古泉「なんです?まさかあなたも怖いのですか?」 キョン「んなことねぇよ」 と言うと古泉は口元で笑った。 無事屋敷が終わり戻ったベンチでは長門と朝比奈さんが待っていてくれていた。 ハルヒはため息をついて俺の袖を話して走っていった。 ハルヒ「おーいみくるちゃん!有希!」 朝比奈「どうでした?」 おろおろ聞いていた ハルヒ「う~んまぁまぁだったわ」 朝比奈「そうですか」 後にいくつか乗り物に乗り帰宅することにした。 ハルヒ「よし!十分遊んだわね!そろそろ帰るわよ!」 俺が帰り支度していると ハルヒ「キョン!遅い!モタモタしていないでさっさと帰るわよ!」 見てみるとたしかに俺だけ遅れていた。 キョン「悪い、悪い。」 ハルヒ「ったくもう」 と俺がハルヒの方に走った瞬間突然めまいが起き、 その場で倒れた。 …………ここは・・・・?・・・・ 目が覚めると古泉が居た。 古泉「おや?・・・起きたようですね」 キョン「・・・・・ここはどこだ?」 古泉「ここは病院ですよ。あなたは昨日倒れ、今日まで寝てました」 キョン「・・・・・そうか」 古泉が何かに気づいたようにわざとらしく「おや?」とつぶやき 「僕はこれで失礼します」と言い病室を出た。 横に誰か立っている キョン「誰だ?」 暗くてあまりわからなかったが 影を良く見たら一瞬で分かった ハルヒだ。 ハルヒ「やっと起きたようね!バカ!団員が団長に心配させるなんて 許されると思ってんの?」 キョン「ハハ・・・悪い悪い。」 俺は気づいた。 あのハルヒが涙目になっている事に。 ハルヒ「バカ・・・・本当に心配したんだから・・・・」 キョン「・・・・ありがとな・・・・」 俺は心から思った ハルヒ「・・・・・ねぇ、キョン・・グス」 キョン「何だ?」 ハルヒ「心配させたんだからお願い一つ聞いてよ・・・グス」 まず泣くの止めてくれ と思ったが お願いとはなんだ・・・? キョン「お願いとはなんだ?それともう泣くな」 ハルヒは涙を拭くと俺にこういった ハルヒ「今日あんたが居ない一日を体験してわかったの」 なにが分かったんだろう ハルヒ「あたしは・・・・あんたが居なくちゃ駄目なんだって事を・・・」 俺は黙って聞いていた ハルヒ「あたしはあんたの事を・・・・好き」 俺は時が止まったように感じた キョン「・・・・・それは本当か?」 無言でハルヒがうなずく 自然と俺も涙を流していた。 キョン「・・・ハルヒ・・・・俺も愛してるぞ・・」 ハルヒは再び涙を流していた 俺は黙ってキスしてやった。 fin
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710 名無しさん@秘密の花園 2007/11/10(土) 00 19 39 ID GYkJOveZ いつも妹(ノーマルでは弟)のように思っていて 「この子は(有希は)か弱いから、私が守ってあげなくちゃ」 とか言って可愛がっていた相手からある日突然押し倒されて・・・・ なんてシチュエーションはザラにある。 711 名無しさん@秘密の花園 2007/11/11(日) 00 47 21 ID WML6t6cg 710 なんだそのもの凄く妄想させるシチュエーションは! 712 名無しさん@秘密の花園 2007/11/11(日) 04 04 10 ID rQgdwuvb まぁ有希ハルを妄想する時に必ず通るシチュエーションだよな。 ハルヒの有希に対する溺愛ぶりは、まるで妹に対するそれだよ。 何も知らないハルヒは、自分より長門の方がか弱いんだと思い込み、だから守ってあげなきゃという使命感に燃えている。 でもいざ押し倒されてみると、圧倒的な力差と超宇宙的テクニックの前に為す術も無く、急に小動物化してしまう。 で、事が終わってから言い訳の様に ハルヒ「あたしが本気で抵抗したりしたら有希を怪我させてしまうかもでしょ!べ、べつに(ry」 有希「そう・・・」 713 名無しさん@秘密の花園 2007/11/11(日) 15 01 41 ID /XRDiFqt 「えっ?何?ちょっと有希やめなさいよ!」 「やめない」 「そんなことダメだってば!」 「でも身体は正直」 「そ、そんなことないんだから」 「ある」 「んあっ!」 722 名無しさん@秘密の花園 2007/11/12(月) 18 25 34 ID EeiKyVvu 百合も大好きなんだが、 同性異性問わずモテてモテてモテまくりで、 SOS団全員から花束でも贈られてて、 「えっ………!?(///」ってなってる超々愛されまくり 逆ハー総受けハルヒが好きなんだが そんな異端は俺一人で十分だ! ちくしょう仲間なんていらねぇぞ! さあ、みんなで今日も百合の話をしようぜ! 725 名無しさん@秘密の花園 2007/11/18(日) 19 25 28 ID n2BUGsMc 「これ」 「お花?私にくれるの?」 「そう」 「うん。ありがとう有希、団員として良い心掛けだわ」 「団員としてではない。長門有希個人として…」 「わっ!?ちょっと有希?」 「…」 ↓ 713
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朝起きて登校し、途中で友達と会って喋りながら教室に入りいつも通り授業を終える。 健全な普通男子高校生はほとんどこんな日常だろう、もし違うとしても彼女と居るとか部活とかの+αが付くだけだ。 だが、俺の日常はそんなのじゃねえ 涼宮ハルヒ率いるSOS団に入っちまったせいで 俺の日常は+αどころか+zぐらいあるんじゃないのか?+zこれの読み方はしらないが。 俺の日常は意味の分らない同好会未満の変な集団活動をよぎなくされたり、 へんな空間に閉じ込められたり、俺以外が替わってる世界に来ていたりと+zどころじゃすまないような経験をしてきたんだが、 今回はありえないほどに普通で逆にそれが怪しい。 ん?待てよ、俺までハルヒのような考えになってるじゃねえか。とにかく俺は初めはこんな感じだった でも誰だって思うさ、あのハルヒがクラスのみんなと普通に接しているんだからな 「おはよう」 俺は信じられない光景を見た、あのハルヒがクラスのおそらく名前も知らない男子に笑顔で挨拶してる。 もしかしてまた閉鎖空間に迷い込んだのか?だったら発端は誰だ?いや、俺はここまで来るのになんの変化も感じられなかった。 って事はだ。 ただハルヒの性格が変わっただけ・・・・・か。 本当に閉鎖空間でハルヒの性格が変わったのだとしたら入学、いや中学の初めからハルヒはあの性格だろう 確認するために俺は国木田に聞いてみた 「なあ国木田、なんか涼宮変わったな」 「そうだね、さっき僕にも挨拶してきたよ。キョンと付き合っていくうちにまともになったんじゃない?」 国木田は俺の予想と違う答えを出した。 どうやらここは閉鎖空間でもなんでもない俺が今まで暮らしてきた世界のようだ、 ただ昨日のハルヒと今日のハルヒがまったく違うってことだけだな ようやくあいつもこの世界に慣れてきたかと考えハルヒに話しかけた 「何考えてやがる」 「どうゆう意味よ?」 いつもの勢いだ、なんだ?本当に変わったか?さっき見たときとはずいぶん違うな、 もしかしたら俺にだけ厳しいのか?さて俺はハルヒにいくつ疑問符を当てたかな?まったく分らない女だ。 いや?この場合おれか? 「やけに皆に優しいじゃねえか」 「だから何だっての?私が同級生と接するのがそんなに嫌?」 やっぱりいつものハルヒじゃねえか、逆にいつもよりきついぐらいだ 「別に」 だがお前が皆と話してるところを見るとなんか変な気持ちになる・・・風邪か? 「ふん」 なんでだろうな、俺に対する態度がいつもより倍きついぞ? 「今日SOS団はなにするんだ?」 この質問は俺自身わかってたかもしれない、SOS団なんて同好会未満の集団はいつも通りなにもせず過ごすだろう。 「そうだ、私今日SOS団には行けないわ、皆で何かやってて」 「今日陸上部に出ようと思ってるの、悪い?」 OK、どうやらハルヒは壊れちまったようだ。関わらないでおこう。 結局いつものように授業を終えて昼休みに入ったんだが、あのハルヒが教室から出て行っていないのだ。 なんと女子グループの中心で笑ってやがる。なんだ?もしかして朝倉が中に入ったのか?だったら気をつけないとな。しかもさっきから俺のほうチラチラ見てやがるし。 谷「なんか涼宮も不気味なぐらいまともになったよな?猫かぶってるんじゃないか?」 確かにあいつは猫かぶってるときがある。すぐに戻るけどさ。 国「でも皆、涼宮さんとこ行って話してるよね」 谷「大方、いつもとのギャップに引かれてるんだろ俺は近寄りたくないね、また振られ・・ゲフンゲフン・・・いやなんでもない」 キョン「おい谷口、チャック開いてるぞ」 谷「え?ああ開いてたか」ギギギギ そのまま昼休みが終わり、放課後になって部室に行く。 ノックして入ったが長門しかいない・・・・そうかハルヒは陸上とか言ってたな・・・ 「ハルヒがなにか変なんだが、世界が変わってるとか無いか?」 「無い、涼宮ハルヒの精神やこの世界が改変された形跡は無い」 そうか、何も無いか・・・じゃああいつもSOS団に来る時間がへるのかな・・・気付くと長門は俺のことをジーっと見ている。俺の顔になにか付いてるか? 「あなたは涼宮ハルヒに会えないとさびしい?」 くっ長門、痛いとこ突いてきやがる。たしかに俺はハルヒがいないと寂しいかも知れない。 それはもちろんSOS団団長としての意味も有り、もう一つは・・・・・・・・口にしたくは無いが、俺はハルヒが好きだってことだ 「さびしいな、あいつにあえないとつらい」 って俺は長門に何話してるんだ、 「あなたは涼宮ハルヒに明確な好意をいだいている」 ああそうだなわかってる、お前と話してるうちに気付いた。 長門は話し終えるといつも通り本に向き直った。 「そうだよな・・・悪い俺帰る」 気まずくなったから俺は帰ろうとしたところに長門の声がかかってきた。 「あなたは涼宮ハルヒに会いに行ったほうがいい」 長門は俺が望んでたことを口にした、そうしたいけど、ハルヒに迷惑じゃないのか? 「それは行ってみないとわからない・・・・私には涼宮ハルヒは自分が変化したことにあなたがなにか反応を起こすか実験してるように見える」 俺の反応?まったく悪趣味だな、何考えてやがる 「わかった、行ってくるよ」 ハルヒになんで来るのよ!!と怒鳴られたらスタコラサッサと帰るぜ。 俺がグラウンドに行ったときに陸上部は学校から出てランニング中だったのだろう、居なかった。 はりきって来たのにやる気を削がれたな。長門なら知ってただろうけど、なんで教えてくれなかった? そのまま俺はグラウンドのそばで待っとくことにした。 30分ぐらいしたころか?ハルヒは帰ってきた。どうやらこれで部活は終わりのようだな。ハルヒは俺が待ってることにに気付いた。 「あ!キョン、待ってたの?」 ハルヒはいつもの笑顔に戻ってた。いたずらが成功した子供のような笑顔で 「なら、一緒に帰りましょ」 やれやれ、だけど妙に優しいのより俺はこっちのハルヒが好きだ。一緒に坂道を下りながら決意した。 この後告白しよう―――――― 終わり
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今俺は病院のベッドの上で点滴を受けている。 何のことはない。 ちょっとしたストレス性のなんとかかんとかで、胃の一部が溶けただけだ。 何が原因かと言えば、まぁ、色々原因は思い当たりすぎて何とも言えない。 クラスでの俺の扱いが、色々な事件の末に妙な風になっていること。 隠していた秘蔵AVの配置がズレていたこと。 妹に、知らなくて良い余計な予備知識が増えていたこと。 後は、来年に控えた大学進学に関してが少々重荷だったことくらいだろうか。 そんなこんなで、ともかく今俺は病室で安静にしたいわけだ。 「おい、ハルヒ」 「なによ」 「俺は今から横になって、ゆーっくり休みたいんだ」 「あらそう」 「だから、いいかげん俺のベッドの横でくつろぐのは止めてくれ。胃に悪い」 だが、この女……涼宮ハルヒはそんな俺を一向に構う様子もなく、 来て早々「倒れた団員を気遣うのは団長の務めよ!」と言ったきり、横に居座り続けて、 お見舞いの品を勝手に食ったり、俺が休んでいた間のSOS団での事件を勝手に報告していたりする。 看病というのか病人をオモチャにしにきたのか、ハッキリ言って区別はできない。 「なによ。せっかく人がお見舞いしに来ているんだから、もっと丁寧に扱いなさいよ。 だいたいちょっとしたストレスで胃に穴が空くなんて、軟弱過ぎるの! そんなんじゃあ現代社会で生きてけないわよ!」 ベッドの横の椅子でふんぞり返るハルヒ。 こいつの小言を聞いていると、冗談抜きで胃がキリキリと痛む。 なまじ頭だけは良いから、妙に重々しいことを言ってきて精神衛生上よろしくない。 「これからは、社会に出ても恥ずかしくないくらいSOS団総出でビッシビシしごいてあげるわ! 覚悟して……」 「やめろ」 思わず、吐き捨てるような口調になる。 「………誰のせいでこうなったと思ってるんだ……」 「なによ。あたしのせいだって言うの?」 「あ………その、いや…………」 これは、明らかに俺の失言だった。 無論この胃潰瘍はハルヒのせいではない。 あいつらとの活動に、俺が負荷を感じたことがないと言えば嘘になるが、 まさか胃に穴が空くようなレベルじゃあない。 「そんなことは全然、まったくない……が…………」 俺の言葉は尻すぼみになった。 ハルヒが下から睨め付けるように俺を見ていたからだ。 ある意味、ヘビに睨まれたカエルの気分……というのがこの心境を表すのに適している。 「あたし、帰る」 「ちょ、ハルヒ! 待て! 待ってててて痛てててて………ッ」 急にかかったストレスで、俺の胃は悲鳴を上げた。 ハルヒはそんな俺を振り返ることもなく、椅子を蹴って立ち上がると、 一目散に病室から出て行ってしまった。 無論、胃痛で動けない俺は、その後ろ姿を見送ることしかできなかったわけだ。 思えば、これがあのドタバタした1日の伏線になっていたわけなのだな。 後々から考えてみれば。 ◆◆間◆◆ あれから一週間ほどして、俺は学校に復帰した。 胃に空いた穴もほとんど回復し、長門、朝比奈さん、古泉のお見舞いのお陰もあって、フィジカルもメンタルも絶好調となったからだ。 しかし問題は一つ。 あれ以来、俺は涼宮ハルヒとは会っていないし、一秒たりとも会話をしていない。 「よ、よう」 「………………」 復学早々朝一番の挨拶にも、ハルヒは反応してこなかった。 「まだ怒ってるのか?」 「………………」 返事をしないのも予想の内だ。 今までのハルヒの行動を念頭に置いて考えると、一度キッチリ頭を下げておけば、 どんなにつむじの曲がったハルヒでも、帰りにSOS団の部室に行く頃には機嫌を直してくれると予想はついている。 俺は席に着くと、早速机に手を突いてハルヒの顔を真っ直ぐに見た。 「すまなかった。あの件については俺も」 「いいの。謝らないで」 「悪……ん?」 言葉を途中で切られて、俺はかなり怪訝な顔をしていたと思う。 「な、なんだって?」 「謝らなくていいの。気にしないで」 この時の俺はかなり動転した顔をしていたと思う。 あの涼宮ハルヒともあろう者が、相手に謝罪もさせずに物事を許したことがあったか? いやない(反語)。 「一体どんな風の吹き回しだ。俺はちゃんとこうやって謝罪を」 「いいのよ。それより聞いてくれるかしら?」 涼宮ハルヒが大人しい。声を荒げたり茶化したりすることなく、 むしろ冷静に俺に語りかけてくる。あまりに……そう、あまりに不気味だ。 以前どこかで巻き起こった猛烈な勢いの台風が、町を丸々ぶっ潰しておきながら俺の家だけを無事に残しておく時くらいに有り得ない状況である。 視線を時折外に向かわせたり、教室に戻したりと挙動不審気味なのが尚更におかしさを煽る。 「な、なんだよ」 「………何でも言うこと聞いてあげる」 「は?」 「あたしが、何でも言うこと聞いてあげる」 何の冗談だ、と笑い飛ばそうとした。 笑い飛ばそうとしたのだが、ハルヒの目は本気だった。 茶化すには余りにも真っ直ぐにこっちを見ていたのだ。 「…………ど、どういうことだ?」 「ッ!」 ガタン! と椅子を蹴って立ち上がると、ハルヒはドタバタと駆けながら教室を出て行ってしまった。 「おい、待てハルヒ!」 俺が声を上げたことで、教室中の視線が俺に向いた。 俺は気まずい思いをしながら、視線から逃れるように席に戻るしかなかった。 「何でも言うことを聞くだと………どういうことだ?」 ◆◆間◆◆ ハルヒはその後、1限から5限までの授業を丸々ボイコットした。 鞄を机に置きっぱなしだったから部室にでもいるのかと思ったが、 ガチャッ 「…………」 「なんだ。長門しかいないのか」 放課後部室に入ってみれば、居るのは定位置で読書にふける長門の姿だけだった。 ハルヒどころか、我らがメイドの天使様であらせられる朝比奈さんも、どうでもいいが古泉もいない。 「どうやら、ハルヒは完全にフケちまったみたいだな。何か知らないか?」 「知らない」 「そうか」 長門の回答は簡潔だった。恐らく全く心当たりがないのだろう。 それなら仕方がない、とばかりに俺はオセロを引っ張り出して一人オセロで暇を潰すことにする。 ハルヒが部室にないとなれば、これ以上探そうにも探しようがない。 となれば、いつも通り部室にいてハルヒが来るのを待った方が得策というわけだ。 そして、暇を潰すにも、よっぽどのことがなければ長門の読書を邪魔しないという暗黙の了解がある。 お茶も、朝比奈さんが来てから淹れて貰った方が美味しい気がするしな。 取り敢えず、まずは白と黒の駒を盤の上に並べて、さっそくオセロを……。 「……伝えることがある」 「うぉ!?」 俺はびっくりして手に持っていた駒を取り落とした。 いつの間にか、読書を止めた長門が右隣に立っていたのだ。 しかも顔の位置が近いぞ。 「なんだ。驚かしてまで伝える内容なのか」 「そう」 「どんな内容なんだ」 「あなたの言うことを、なんでも聞く」 「………なんだと?」 「あなたの言うことを、なんでも聞く」 聞き覚えのあるセリフだ。 「長門、それはハルヒに何か吹き込まれたんだな」 「肯定する。涼宮ハルヒが一限開始前に通達してきた」 「『俺の言うことを何でも聞くように』……てか?」 「そう」 ハァ、と思わず溜息が漏れた。 長門を巻き込んで、あいつは一体なにがしたいんだ。 あいつの思いつきは毎度毎度突拍子もないが、今回も突拍子がなさすぎてわけがわからん。 「気にせんでもいいぞ。どうせハルヒの戯れ言だ」 「そうはいかない」 「ん?……そうなのか?」 「そう」 長門が更に一歩前に出てきた。 互いの顔が数センチという近さで、これはちょっと近すぎる。 思わず目を逸らしてしまう。 「な、なんだ。そんなの本気にする必要はないんだぞ。だいたいいつもの気まぐれじゃないか。 てきとうにやって話を流しちまえばいいんだよ。そんなにいちいち真面目くさってやってたら大変だ」 そこまで一気に喋って、チラ、と長門の方へ視線を一瞬戻したが、 長門の顔は依然として超至近距離にある。 「だいたいだな、俺が言うことを何でも聞くって言ったら……例えば、俺がココでキスをしろなんて言ったら……」 「キスを実行する」 俺が視線を戻した時、既に、長門との距離はほとんどゼロだった。 ふっ、とお互いの息がかかり、そのまま長門のくちびるに俺のくちびるが触れ……そして、すぐに離れた。 「終了する」 ほんの1秒未満だったが……これは、確実に………その………。 「な、長門?」 「問題ない。わたしは命令を実行しただけ」 長門はいつもの定位置まで戻ると、鞄に本を仕舞い、それを持ってドアの所まで行った。 「長門……もう、帰るのか?」 「…………………」 長門は答えず、そのままドアを開けて廊下の方へ出て行ってしまった。 終始無言のままの長門だったが、その無表情には微かに別の表情があった。 長門の表情を見分けるのには、俺にも一家言ある。 あれは………確かに、少しだけ、長門の顔は赤かった。 ドタン バタバタバタバタッ 遠くで誰かが階段から落ちたらしい音が聞こえる。 程なく、我らが天使朝比奈さんがやった来たが、彼女によると、 「いきなり長門さんが階段から滑り落ちてきて、びっくりしちゃいました……。 あんなに慌てた長門さんを見るのは初めてですよ。 顔だけはずっと冷静な顔だったのが、ちょっと面白かった……なんて言ったら失礼ですけど」 だそうである。 ハルヒのヤツ、長門に無駄にエラーを蓄積させるとは、まったくけしからんヤツである。 本当にそう思う。 キスできてラッキーとか、そんなことは全く思わないわけではないが、ともかくけしからんヤツである。 ◆◆間◆◆ 朝比奈さんが来て、つつがなく着替え終わった後、 俺は、定番のメイド服に身を包んだ天使の淹れたお茶を美味しく頂戴していた。 今日のお茶はナントカカントカというお茶で、あつ〜い温度で作る渋〜いヤツなのだそうだが、 俺には彼女が淹れてくれるというだけで全てが甘露なので、ともかくおいしく頂戴するわけだ。 「いや〜、まいどまいどすみません」 「いいんですよ。これもオシゴトですから」 別段、必ずSOS団に従事しなくてはならないわけでもないのに、それに全力を注ぐ彼女のなんと健気なことか! 俺は感涙を禁じ得ず、ついでにお茶をもう一杯所望してしまうのである。 「そう言えば、またハルヒが妙なことを思いついたらしいですね。 朝比奈さんは何か聞いていませんか?」 「あ、朝ホームルームが終わった後で聞きました。 その……キョンくんの言うことを、必ず聞くようにって言われてます」 やっぱりか。 「いったいどんなつもりなんでしょうね。 さっきも長門が……その……よくわからないことを言っていて、びっくりしましたよ」 先程のことを思い出し、俺が渋い顔をしていた時、 バァン! と勢い良くドアが開いた。 「やほー! みんなげんきにょろ?」 ドアから飛び込んで来た、このハルヒ並のハイテンションなお嬢さんは、何を隠そう鶴屋さんだ。 SOS団の準団員にして常識派の筆頭。そして古泉の組織のパトロンの家系のお嬢様という、 肩書きでも中身でもテンションでも、全てにハイの付く朝比奈さんの同級生だ。 「どうしたんです? 朝比奈さんならそこに……」 「いやいや。今日はみくるに用事じゃなくて、キョンくんの方に用事があるかなっ」 「お、俺ですか?」 鶴屋さんと言えば朝比奈さん。 そういう図式が頭の中でできていた俺には、それだけで十分不審な空気を感じ取ってしまう。 「いったい、どんな御用です?」 「今日は、キョンくんの言うことをなんでもきいちゃうよっ。ハルにゃんとの約束だからねっ」 ビンゴだ。 「またそれですか。どんなことでも、って言われても困りますよ」 「どうしてかなっ?」 「俺だって心身ともに正常な青少年です。そういう所を配慮していただかないと……」 話半ばで、俺の手は鶴屋さんにガシッと掴まれた。 「つ、鶴屋さん?」 「つまり、キョンくんがしたいのはこういうことにょろ〜?」 鶴屋さんが手を引っ張り、そのまま朝比奈さんの……その、胸部に俺の手を押し当てた。 「ふぇ、ふぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」 「ちょ、つ、つ、鶴屋さんこれは!?」 「ふっふっふっ……めがっさ柔らかいにょろ?」 三人の声が交錯する。 その間、俺の右腕は……その……たっぷりとした重量を手の平に感じていた。 柔らかさはマシュマロ、固さはゴム鞠、そんな二律背反が混在した感触だ。 コンピ研の部長が以前この状況になったことがあったが、これは確かに万死に値する価値がある。 「やや、やめてください鶴屋さん!」 俺はそう叫んだ。さすがの俺もずっとそうしているわけにはいかない。 鶴屋さんの手を振り払い、天使のバストから無理矢理手の平を引き剥がす。 「何のつもりですか! いくらハルヒからの命令だって言っても、これはひどすぎます! 朝比奈さんだって、ほら、何か言ってやってくださいよ!」 俺が憤慨しながら声を上げると、 「でも……涼宮さんの命令だから……」 「しかたないかなっ。これはこれで面白いしね!」 と頬を赤らめたり、ケラケラと笑っていたりする。 ダメだ。真意が読めん。 「今、キョンくんがして欲しいというなら、あたしで良ければキッスくらいしてあげるよん?」 「待って下さい。俺はキスをして欲しいとも身体を触りたいとも思っていません」 「おりょ。キョンくんはお堅いな〜」 「お堅いお堅くないじゃないんです。変だと思いませんか? そんな命令?」 思わず二人に対して声を張り上げてしまう。 この時ばかりは、俺もちょっとばかり腹が立っていたのだ。 「それは……涼宮さんがキョンくんのことを思って、のことですよ」 「どういうことですか、朝比奈さん?」 「だって、キョンくんが倒れたのはストレス性の胃潰瘍だったという話で、 涼宮さんも、それでとっても悩んでいたみたいでしたし……」 「あの時のハルにゃんは、長いこと悩んでいたからね〜。それでみんなで人肌脱ごう、ということになったのさっ」 つまり、これは俺にストレスが溜まらないように……という対処ということなのか。 逆に気をつかってストレスが溜まっている気がしてならないがな。 「だ、か、ら。遠慮しちゃダメにょろ〜。 あたしので良ければ、今ならめがっさ格安で! ちょっとだけ体験させてあげてもいいかなっ」 鶴屋さんが俺の手を取って、そっと胸元に押しつけてきた。 朝比奈さんとは違って、こう、良く締まった身体の上に乗ったソレのアレな感触がジンワリと伝わってくる。 「だ……」 「だ? 何にょろ?」 「ダメです!!」 俺は乱暴に手を振り払った。 「あららら、嫌われちゃったかな?」 「そういうんじゃありません! 俺は……その……」 上級生二人が、俺の次の言葉を微笑をしながら待っている。 「す、すみません! ちょっと失礼します!」 顔を真っ赤にした俺は、全力で駆け出してぶち当たるようにドアを開けると、 廊下を駆け抜け、裏庭の方へと走り込んで行った。 ◆◆間◆◆ 「はぁ………はぁ………」 普段しない運動をしたものだから、肺がぜいぜい言っている。 ちょうど良いところに裏庭用のイスとテーブルが設置してあったので、そこにどっかりと腰を据えた。 なんだ。この状況はいったいどこのエロゲーだ。 いや、俺自身全くエロゲーをやったことがないわけではないので、思い当たるタイトルはいくつかあるが。 「まったく……ハルヒのヤツも変なことばっかり、考えやがって……」 「いや、いいんじゃないですかね。あながち間違った策でもないと思いますよ」 独り言のつもりだったのだが、背後から返答があった。 「どうです。そこのコーヒーですが一杯飲みませんか?」 紙コップを二つ持ってきたのは、いつものうさんくさい笑顔を貼り付けた古泉だった。 俺は無言でカップを受け取って、一口グイと煽る。 「部室では大変だったみたいですね」 「……見てたのか」 「いいえ。しかし、あなたの声は裏庭にも聞こえましたからね。大体予想はつきます」 冷たいコーヒーをもう一口あおり、火照った身体をクールダウンさせていく。 「ハルヒの思いつきも、ここまでくるとちょっとばかり迷惑だな。 さっきお前は間違った策じゃないとか言っていたが、本当にそう思うのか?」 「思いますね」 「何故だ」 「そうですね……簡単な話ですよ」 両手を方の高さに上げて「やれやれ」のジェスチャーをした古泉が話を続ける。 「あなたは今回、潜在的に受けていたストレスによって胃潰瘍になったわけです。 それを完全な形で回復させるには、あなたが何に潜在的ストレスを感じていたのかを特定し、 それが二度とあなたにストレスとならないようにしなければなりません。 専門家でもない我々は、怪しいと思われる可能性を、一つ一つ潰していかねばならないわけですよ」 「………なるほど」 一応、筋は通っているように思える。 「で、その対策の一つが『何でも言うことを聞く』なわけか」 「そうです。あなたは基本的に涼宮さんに行動を制約されていますからね。 一度、あらゆる制約からあなたを開放してみよう、というのが今の涼宮さんの考えだと思われます」 ふむと唸って俺はコーヒーをもう一口飲んだ。 「古泉。お前はハルヒに何か言われたのか?」 「えぇ。『決してあなたには逆らわないように』と申し使っていますよ」 「やっぱりか。まぁ、お前なら特に気兼ねもないからその点は安心だな」 「そうでもありませんよ?」 その時、俺は古泉の目が、普段のニヤけた目とは違う形をしていたのを見ていた。 何か……アマゾンや熱帯雨林の特集をやる動物番組で見たことのある、エサを目の前にした肉食動物の様な目をしている。 「ど、どういうことだ古泉」 「あなたが僕に対して、無意識下でストレスを感じていないとは言えません。 それを確かめるだけです」 明かにおかしな雰囲気を感じ、俺は即座に立ち上がろうとしたが……立てない。 何故か足に力が入らない……なんだこれは? 「古泉……いったいこれは……」 「組織の方から支給された物でして。依存性はありませんし副作用もありません。 ちょっとの間身体に力が入らなくなるだけです」 古泉が一口も口を付けなかったカップを置いて、俺の目前に移動してくる。 「可能性は全て潰しておかねばなりません。 例えば、あなたがわたしに性的な興奮を潜在的に感じていたという可能性も。 これは致し方ないことなのですよ。涼宮さんのため、と思って少々ガマンして頂きましょう」 あのニヤニヤした顔が俺の、目と鼻の先にある。 ヤツの鼻息が俺の顔にかかってきてこそばゆい。 待て。それは明らかに近すぎる距離じゃあないか。 「まさか……古泉、お前まさか………」 「大丈夫。優しくするから身を任せてください、キョンたん」 キモイ! あの古泉がキョンたんなどと言ってくる、この状況が気持ち悪い! それに何だ、何故俺のネクタイをゆるめてシャツの中に手を入れてくるんだ。 やめろそこは違う断じてそんな所にストレスは感じていないズボンの中に手を入れるなちょアッー! 「アナルだけは! アナルだけは!」 思わずそう言って俺は泣いた。 童貞だけど処女じゃない。 そんなアンビバレンツなキャラクターをこれから一生背負っていく自信は、俺にはない。 「やめろ……やめてくれ……」 「そんなに嫌がると燃えちゃいますね。可愛いですよキョンたん」 「ひぃぃぃぃ………誰か………誰か!」 その瞬間、ゲ泉の手がパッと俺から離れた。 俺の可哀想な菊の花も、侵攻から開放されてやっと通常運行になる。 「しくじりましたね。完全に人払いはしたと思いましたが……そちらが干渉してくるとは予想外です」 ゲイは裏庭に植えられた木の下を見つめていた。 そこにいたのは、現生徒会書記であり旧SOS団依頼人だった喜緑さんだ。 両手を後に組んで、一人静かにこちらを見つめていた。 いつの間に現れたんだ! 「なんのつもりですか? 穏健派のTFEI端末が独断で動くとは初めて知りましたよ」 「涼宮ハルヒに急激な変化を起こされては困るの。あなたの趣味で涼宮ハルヒを暴走させて欲しくないだけよ」 そのまま、喜緑さんが何事か……長門の『呪文』のような物を唱えると、 急に俺の萎えていた手足に力が戻ってきた。 手も……もちろん足も動く! 「う、うわぁあぁぁぁぁーーーーーーーーッ!」 「キョ、キョンたん! ぐッ!?」 俺がゲイ野郎を突き飛ばしてその場を飛び退くと、ゲイはそのまま後にぶっ倒れて尻餅をついた。 俺は後も見ずに裏庭からの脱出にかかる。 「これはしてやられました」 「あなたは尻をやるつもりだったのでしょう?」 「つまり、これはそういう意味合いにおいてはあいこ、ということでしょうかね。 僕とあなたはお尻あい、と」 「そうなりますね」 「フフフフ……」 「うふふふ……」 バカのような会話を背後に聞きながら、俺はその場を駆け去っていった。 ◆◆間◆◆ 「はっ………はぁ………はぁ…………」 俺は息も絶え絶えになりながら、商店街を歩いていた。 寒い冬の最中であるのに、商店街まで一気に駆けていた俺の身体は異常な熱を持っている。 今ならきっと頭の上に湯気が見えるぞ。 なにせ、学校から商店街までほぼノンストップで駆けてきたんだからな。 「はぁ……はぁ……………はぁーーーーーーーーーーー……」 大きく溜息。 ハルヒは俺のストレスを開放する、などと言っていたが、開放されてるのは他のヤツばかりじゃないか? 俺自身が解放されている気がちっともしない。 「これは……早急に手を打つ必要があるな。直に発生源を叩く必要があるぞ」 呑気に相手の気が変わるのを待っているわけにはいかない。 普段SOS団の活動で使う喫茶店を前に、俺は携帯電話を取り出した。 ◆◆間◆◆ 「なによ」 「なにじゃない。俺が呼び出した理由くらい、もうわかってるだろ?」 俺は携帯電話でハルヒを呼び出した。 最初はゴネていたハルヒだったが、俺が「言うことを必ず聞くんだろ?」と言った途端、 即座に「わかったわよ」と言ってココまでやって来た。 そして現在、SOS団御用達の喫茶店で、テーブルを挟んでこうして俺とハルヒが向かい合っているわけだ。 「理由って?」 「みんなに言って回ったんだろ。『俺の言うことを何でも聞くように』ってな」 「そうだけど、それがなによ?」 くちびるをアヒルの口みたいに尖らせて、ハルヒは不満げな声を上げる。 「あんたの体調が悪いって言うから、ストレスにならないようにやったことよ。 あたし悪くないもん」 「別にお前が悪いとは言ってない。ただ、そのせいで周りが色々騒がしくてかなわん」 「あたしにどうしろって言うのよ」 「簡単だ。即刻前言撤回すればいい。そうすりゃ丸く収まる」 「嫌よ」 フン、と鼻を鳴らすと、ハルヒは窓の外に目線を投げて言葉を吐き出した。 「絶対嫌」 「………おい、ハルヒ」 「嫌だったら嫌。絶対ヤダ!」 「俺の言うこと聞くんだろ?」 自分で作り出した矛盾にはまったハルヒは、苦り切った顔をして窓の外を見ていた。 恐らく、古泉は今頃組織のバイトが急増して大変なんだろうな。 「ハルヒ。これは俺の命令だ。みんなに言った言葉を撤回するんだ」 「………………」 ハルヒはだんまりを決め込んでいる。 「その代わりだな……」 「………聞こえない! 全然聞こえないわ!」 いきなりそう言うと、ハルヒはガタンとテーブルを蹴る勢いで立ち上がった。 一口も口を付けられていなかったコーヒーがひっくり返り、テーブルに黒いシミが広がっていく。 この騒動に、周囲の目線も一気にコチラを向く。 「待て、落ち着けハルヒ」 「いいわよもう! あたし帰る!」 怒鳴るようにそう言うと、ハルヒは早足にその場を去っていった。 周囲の視線や、こぼれたコーヒーのこともあって俺が一瞬躊躇していると、 ガッシャァーーーーz________ン!! と、隣の席に四輪駆動のごっつい車が突っ込んできた。 「な………」 細かく砕けた窓ガラスが飛び散って、俺の背後を掠めていった。 喫茶店内も悲鳴やわめき声に包まれる。 「ハルヒ……!?」 慌てて入り口の方を見たが、ハルヒは持ち前の駿足でもって駆け去った後のようだった。 まるでタイミングを見計らったような事故っぷりじゃあないか? 俺は呆然とするレジ係を急かして会計を済ませ、急いで外に駆け出す。 ガシャン ギャー ドスンッ ドカ ハルヒを行方は捜すまでもなかった。 まるで道しるべでも作ったかのように、道なりに事故が多発している所がある。 なんだ……あいつはついに世界の崩壊でも願ったのか? その時、ポケットに入っていた携帯電話が鳴った。 「もしもし、キョンたんですか? 古泉です」 「切るぞ」 「冗談ですよ。それより、涼宮さんの状況がかなり悪いことを理解しているか心配で電話したんです」 「黙れゲ泉。貴様の声を聞くと耳が腐る」 「やはり理解されてなかったようですね。今、その辺りで事故が起こっているはずです」 「そうだが、そうだったとしても貴様は黙して語るな」 「その理由は、おわかりですか?」 「ハルヒが世界の崩壊でも願ったのか? それより他のヤツに代われ。貴様は死ね」 「あの……いいかげん、僕も泣きますよ?」 ゲイの声が軽く泣きそうになっていた。 「よし、死ね。それで事故とハルヒが願ったことと、どういう関係がある」 「……………………」 「言え、さもないと貴様がゲイだと学校中に言いふらして回るぞ」 「涼宮さんは『死にたい』と思ったんですよ。あなたのためにやったことが裏目に出て、更に怒られてしまった。 穴があったら入りたい。恥ずかしい。死んでしまいたいと思った……その結果が、今巻き起こっている事故の嵐です」 「つまり……それに巻き込まれて死んでしまいたい、ってことか」 「あなたなら上手くまとめてくれると思ったんですがね。どうやらそうもいかなかったようで」 「切るぞ。時間がない」 「ところで、今これを教えて上げたわけですから僕の……」 通話を切った。 「余計なこと考えやがって……」 俺は事故の起こった通りを急いで駆けていった。 途中、電柱の後で「死にたい……」とベソベソ泣く茶髪のゲイがいたような気がするが、恐らく気のせいだったのだろう。 ◆◆間◆◆ 転倒、転落、衝突、居眠り運転、うっかり、よそ見、物を落としたり、放り投げたり、火を付けたり、 その他考えられる限りの事故を起こした商店街を駆け抜け、 俺はついに商店街を抜けて住宅街に入ってしまった。 住宅街でも、犬が吠えて駆け抜け、自転車が電信柱に突っ込み、猫がひっくり返り、通り一面阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈していた。 俺は息を切らして足を止め、ここで一つの事実に気が付くわけだ。 「お……追いつかない……」 持久走、短距離走、障害物走でもトップを誇る涼宮ハルヒの駿足に、運動不足の俺が追いつくわけがない。 いつ事故に巻き込まれてケガをするかもわからないこの状況で、ウサギとカメの昔話を実践している場合じゃないんだ。 この状態になったハルヒが居眠りをしてくれるとも限らないし、居眠りの代わりが事故だったら尚更実践できるわけがない。 「ドラ○もんみたいな扱いで悪いが……ここは一つ長門に……」 そう思った時、見計らったようなタイミングで携帯電話が鳴った。 「も、もしもし?」 「涼宮ハルヒの追跡経路をナビゲートする」 長門だった。 「長門か!? どうしてこんなタイミング良く……」 「急がないと間に合わないから」 「そうだな。今はどうこう言っている場合じゃねぇ。じゃないとハルヒが事故にあっちまうからな」 「それだけとも言えない」 「? どういうことだ?」 「見つければわかる」 「で、どうやってハルヒを見つけるんだ」 「あなたと涼宮ハルヒの体内に位置探知用のナノマシンは注入済み。ナビゲートは簡単」 い、いつの間にそんな物を仕込んだんだ。 今日は手首を噛まれた思い出もないぞ。 「あなたには部室で」 部室……あの時のキスはそう言う意味があったのか! 流石長門だ。この時の事を想定して既に手を打ってあるとは。 でも、それならいつもみたいに手首を噛むだけでも良かったんじゃないか? 「進路方向、次の角を左」 無視か。今はそんなことを言っている場合でもないしな。 俺は即座に駆け出して左に曲がった。 ◆◆間◆◆ 「ハルヒ!」 驚いたことに、ハルヒは商店街から住宅街へ出ると、そのまま住宅街をグルリと回って再び商店街へ戻ってきていたらしい。 長門の説明では何だかんだの心理作用がナントカカントカの回帰を起こしたらしいのだが、 ともかく、俺は長門のナビゲートによって、再び商店街へ戻ってきたハルヒの進路方向へ先回りしていた。 「っ!!」 「こら、逃げるんじゃない!」 商店街中程の店の軒下に隠れていた俺は、商店街の大通りに駆け込んできたハルヒの前に奇襲的に登場し、 抱きつくようにして無理矢理ハルヒの足を止めさせた。 聞いたところによると、ハルヒはスピードを微塵も落とさずに走り続けていたらしい。 遠くから声をかけようものなら、あの駿足であっという間に遠くへ逃げられてしまう。 というわけで、俺は商店街の入り口にあった本屋(自転車が突っ込んで片づけで忙しそうだった)で立ち読みをするフリをしていたわけだ。 「放して! 放しなさいよ!」 「放してたまるか! 絶対に放さないからな!」 この寒い中、お互い汗を撒き散らしながら取っ組み合う。 こっちだって命懸けだ。 あいつが呼び寄せていたものが、やっと見えてきたわけだからな。 /´〉,、 | ̄|rヘ l、 ̄ ̄了〈_ノ _/ (^ーヵ L__」L/ ∧ /~7 /) 二コ ,| r三 _」 r--、 (/ /二~|/_/∠/ /__」 _,,,ニコ〈 〈〉 / ̄ 」 /^ヽ、 /〉 ´ (__,,,-ー ~~ ̄ ャー-、フ /´く// `ー-、__,| タンクローリーだ。 『危険物注意』の看板のひっついたガソリン満タンのタンクローリーが、商店街の向こう側に見える。 どうやら妄想は一人事故にあって痛い思いをするというレベルを越えて、周囲を巻き込んで盛大に散るというレベルになったらしい。 こいつをネガティブに暴走させ続けると、どっかの国が打ち落とした人工衛星の破片さえ呼び込みかねんぞ。 「命令だ! 俺の話を聞け! まずはそれからだ!」 「嫌だったんでしょ? だったら命令なんて聞かない! 聞いてやらない!」 ちくしょう、こいつ完全にヘソ曲げてやがる。 しかも本気で暴れるから、いつ振りほどかれるかわかったもんじゃない。 今逃げられたら、後に迫ったタンクローリーにペシャンコにされた上に大爆発だ! 「ハルヒ……いいか、命令だ!」 「嫌よッ!」 「ハルヒ、俺にキスをしろ!」 「いや……何?」 ハルヒがやっと暴れるのを止めて、俺の目を見た。 「お前が俺にキスするんだ」 「な、なんでそんなこと……」 「他の誰も俺の命令を聞かなくてもいい。お前だけに聞いて欲しい」 俺の目線は、ハルヒを真っ直ぐに見ていた……わけではなかった。 実のところはその先に見えるタンクローリーを見ていた。 タンクローリーは、既に、ハルヒの背後百メートルを切った所にあったのだ。 「キョ……バ、バカ! 何言ってんのよ!」 「ハルヒ」 俺はそれだけ言うと、ハルヒの胴に回していた手を解いて、手を顔に添えた。 「バカ……バカキョン………」 タンクローリーはグングンとその距離を縮めていた。 もうハルヒの背後五十メートルの所にあった。 追記すると、ハルヒの目は潤んでいたと思うような気がする。 「お前がするんだぞハルヒ。命令なんだからな」 「………わかったから、目を瞑ってなさいよ」 「丁寧に言ってくれ」 「目を瞑って。おねがい」 タンクローリーはすぐそばに迫っていた気がする。 だが、その後どこでタンクローリーが止まったかまではわからない。 それから数分、俺は目を瞑りっぱなしだったからだ。 ---- 「キョンさ。あたし今日掃除当番だから、先に部室行っててくれる? 後で行くから」 「おう、わかった。掃除サボんなよ」 「サボらないわよ。あんたも活動サボらないでよね」 「おいおい、他に言うことがあるだろ?」 「……楽しみにしているんだからね」 俺はそう言って、ニヤニヤしながら教室を出た。 今のハルヒの一言に、教室中の人間が仰天していたようだ。 谷口は目も口も全開で仰天していたし、あの国木田でさえも目を剥いていたんだからその衝撃の具合もわかるってもんだ。 「きょ、キョンくん?」 「朝比奈さんじゃないですか。どうしたんですか、こんな所で?」 教室を出た所で、ドアの脇に立っていた朝比奈さんに気が付いた。 二年生であり、全校生徒の憧れの的でマドンナで天使の朝比奈さんがこんな所にいるのは、確かに不思議と言えば不思議だ。 「うん………あの……キョンくんを待っていたんだけど……」 うん。明日俺の下駄箱にカミソリ入りの呪いの手紙が入っていてもおかしくないセリフだ。 今の俺には微塵も怖くない所だがな。 「あの……これって、本当にキョンくんと涼宮さん?」 そう言って見せられたのは、携帯電話の画面だった。 画面には、タンクローリーの乗り入れられた商店街を背景に、抱き合ってキスしている俺とハルヒの姿が写っている。 「どうしたんですか、これ?」 「あのね、これが学校中にメールで出回っているらしいの。その……『涼宮ハルヒ熱愛発覚!!』って」 「なーんだ、そんなことですか」 俺はアッハッハと笑い飛ばした。 朝比奈さんも、それにつられてエヘヘと笑う。 「そうですよね。怪文章の類ですよね、こんなの」 「いえいえ。ただの事実だから笑ったまでですよ。 な、ハルヒ? 俺達ラブラブだよな?」 朝比奈さんと廊下の生徒達、そしてクラス中が再び仰天するのを感じながら俺は堂々と胸を張った。 「そ、そうだけど、それがなによ……」 「もっと他に言うことがあるだろ?」 「ら……ラブラブよ! あたしはキョンが大好きッ! これでいいでしょ、もうっ!」 ふふ、と俺は笑って肩をすくめた。 「何の問題もありませんよ、本当」
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姉妹編『長門の湯』『鶴屋の湯』『一樹の湯』『みくるの湯』もあります。 ====== 『ハルヒの湯』 「何よ、ホントに当たり入っているの? 全部はずればっかりじゃないでしょうね!」 商店街の福引のガラポンのハンドルを無意味に力いっぱい握り締めたハルヒは、苦笑いをするしかない係りのおっちゃんに文句を垂れている。 「大丈夫だよ、お嬢ちゃん。まだ、特賞も一等賞も出てないから、安心しな」 「ふん、ホントかしら」 そのとき、コロンと出た玉は、また白、つまり今度もはずれだった。 「ほらーー」 「ほい、またティッシュ。あと一回だよ」 ハルヒ連れられた俺たちSOS団の面々は、映画の撮影でお世話になった商店街の大売出し協賛の福引コーナーに来ている。どこで手に入れたのかはあえて聞かないようにしているが、ハルヒは十枚もの福引券を持って、ガラポンに戦いを臨み、そして九連敗中だった。 特賞は五十インチの薄型テレビ、一等は温泉・カニツアーのペア宿泊券が当たるらしいが、今のところは末等のティッシュの山を築くのみだった。 「もういいわ、最後の一回、あんた引きなさい」 「お、俺?」 いきなり俺を指名するなよ。どうせ俺が引いたところではずれしか出ないだろう。 「いやだよ、お前が最後までやれよ」 「なによ、栄えあるトリの権利をあんたに譲ってあげようって言ってるんだから、謹んで受けなさい」 ここで最後に俺がはずれを引いても、ハルヒがはずれを引いても、結局俺の責任にされて、いつもの茶店で奢らされそうな気配がぷんぷん漂っている。ふん、それなら素直にはずれを引いてやるぜ、ティッシュ、山分けしろよな。 俺は、無造作にハンドルを掴むと、これまた無造作にぐるりとまわして、ポトリと転がり出てきた玉の色を確認した。 赤――。 一瞬の静寂がその場を包んだ後、おっちゃんは手に持った鐘を派手に打ち鳴らして叫んだ。 「いっ、一等賞―――」 賞品となった温泉地は結構有名なところだった。 こじんまりした町の真ん中を流れる小さな川の両岸に、古風な温泉旅館が軒を連ねている。何軒かは改築されて、今風のホテルになっているものもあるが、お おむね古の佇まいを残しており、川のほとりの柳並木の遊歩道と、所々にかけられている石造りの橋とあいまって、町全体から古風な温泉街の雰囲気と温泉饅頭 を蒸している湯気が漂っている。 俺が当てたペア宿泊の権利なんだから是非朝比奈さんと二人で、なんて思いが通じることは当然なかった。だからといって、俺とハルヒがペアで行ける訳でもない。 ハルヒは残り三人分の参加に関する諸々の交渉については古泉に一任し、古泉もその要求を否定することはなかった。いつもすみませんね、機関のみなさん。 そんなわけで、SOS団は五人揃って、この風情あふれる温泉街のカニ料理旅館に来ているわけだ。 ひとまず宿にチェックインした後、俺たちは浴衣と丹前に着替えて外湯めぐりスタンプラリーに出発ことになった。 「七つある外湯を全部回ってスタンプを集めると記念品がもらえるの。みんな、夕食前の腹ごなしにがんばって回るわよ!」 朝比奈さんの手を引っ張って先頭を行くハルヒに続いて、俺たちは湯けむり溢れる温泉街を歩いていた。街の中では、俺達と同じように外湯巡りを楽しんでいるらしい浴衣姿の温泉客が夕暮れ間近の川沿いの散策を楽しんでいる。 「どうせ、男女で一緒には回れないから、ここからは自由行動よ。じゃあね、キョン」 少し先で振り返ったハルヒは、朝比奈さんの手をとったまま、右手の建物の中に消えていった。そのあとを無言の宇宙人は振り返ることないまま続いていった。 当然のように、男チームと女チームに分かれて行動することになるわけで、結局、俺は古泉と行動を共にするだけだ。くそ面白くもない。 「やれやれ」 「おや、今日はもう『やれやれ』が登場しましたね」 「ふん」 「我々はもう少しむこうの外湯から攻めることにしましょうか」 「どうでもいいよ」 「つれないですね。温泉はお嫌いですか?」 隣の古泉はやや大げさに驚くような仕草を見せながら、 「僕は好きですよ。この典型的な温泉地の雰囲気、いいじゃないですか。気楽に楽しみましょう」 「うん、まぁ、それはそうだな」 温泉は好きだぜ、もちろんだ。これがお前と二人ではなくて、朝比奈さんと一緒であれば俺のテンションはウナギ上りなんだがな。何が悲しくて野郎二人だけで、温泉のはしごをしないといけないんだよ。 とりあえず、古泉の言うようにこの街の雰囲気は堪能させてもらおうか。 そうして三つめの外湯までは古泉と一緒に回ったのだが、ぶっちゃけ古泉と男二人ではモチベーションは下がる一方なので、より気楽に単独行動しようぜ、ということで話がまとまった。 「では、僕はあっちの外湯に行ってみます。また、後ほど」 「おう、またな」 古泉と分かれた俺が次の外湯を目指して遊歩道を歩いていると、横の通りから飛び出してきた浴衣の固まりとぶつかりそうになった。 「ちょ、ちょっとー、ぼんやり歩いているから誰かと思ったらキョンじゃない。もう、危ないじゃないのよ!」 ハルヒだった。どこに行っても鉄砲玉な女だ。 「飛び出してきたのはそっちだぜ。一時停止違反だ」 俺はハルヒの衝突を物理的にも言葉的にも交わしながら、 「ん、どうした、お前一人なのか? 朝比奈さんや長門はどうした?」 えっ、という感じで不意を突かれたハルヒは、体勢を立て直すと、 「みくるちゃん、温泉に興奮しちゃってのぼせ気味になったから、有希が旅館まで連れて行ってくれたわ。有希も本が読みたいらしいしね。湯船の中では読めないから」 そう言ってハルヒは俺のことをジロリと見上げて言葉を続けた。 「そう言うあんたも一人? 古泉くんはどうしたの」 「いつまでも男二人でつるんでいてもつまらんからな、別行動にしたんだ」 「あ、そ」 そっけなく返事したハルヒは、浴衣の帯あたりに両手を当てて、 「幾つ回ったの? コンプリートした?」 俺は手に持ったスタンプラリーの用紙に目を落とすと、 「いや、まだだ、あと四つだ」 「なによー、まだ三つしか回ってないの? あたしはあと二つよ」 なるほど、その勢いで温泉をはしごしたら、朝比奈さんものぼせるはずだな。 「でも、みくるちゃんじゃないけど、さすがにちょっと疲れたわね」 そりゃそうだろうさ。 「ねぇ、キョン、冷たい飲み物買って来てよ。あたしはあそこで待ってるからさ」 ハルヒが指差す先は、温泉街を貫いて流れるせせらぎに架けられた橋の上に設置されたベンチだった。 まぁ、確かに俺も、温泉で火照った体を冷やす飲み物が欲しいと持っていたところだ。仕方ないがついでに何か買ってやるか。 「わかったよ」 「ノンシュガーのすっきり系でお願いね」 「へいへい」 とりあえずゼロカロリーの炭酸飲料を二本買って指定された橋の上に戻ってみると、読書中の長門の様にちょこんとベンチに腰を下ろしたハルヒは、右手で軽く髪をかき上げながら、風に揺れている柳の枝葉を見つめていた。 立て続けに五つの温泉に入ったおかげで、少ししっとりした髪にわずかに桜色に染まった頬、浴衣のすそに覗く白い素足の草履姿も――、 ううむ、いい感じに絵になっている。 趣の有る風景をバックにして、ただじっと座っているハルヒは、やっぱりかなりのレベルの美人であることは確かだな。性格的なことさえ考慮する必要さえなければ……。 そんなハルヒの姿に一瞬見とれた後、俺はハルヒの隣に腰を下ろした。 「ほれ、買ってきたぞ」 「うん、ありがと」 プシュっとプルタブを起こし、乾杯、と缶をコツンと合わせて、よく冷えたコーラの喉越しを味わった。 うまい! 「ぷふぁー、おいしいわねー」 俺と同じ感想を口にしているハルヒは、さらに、 「やっぱ、こういう時はビールがおすすめなのかもね」 なんてことまで言ってるし。確かにその点においても同感だけどな。 ごくごくっと缶の半分ほどを一気に空けて、ほっと一息をつくことができた。隣のハルヒも大きく息を吐くと、手に持った缶をぼんやり見つめている。 「どうした、やっぱり疲れたのか? 温泉に入って疲れているのは本末転倒だな。だいたい入浴するだけでも体力は結構消耗するらしいから」 「うん、そうね。さすがに五つも連続で入ると、ね」 朝比奈さんは三つ目で脱落したらしい。長門ならまったく平気のはずだが、今回は朝比奈さんにかこつけてうまく逃げたようだ。こういうのも自律進化の一つなのだろうかね。 「スタンプラリーなら、晩飯食ってからでも間に合うだろ。今、あわてて全部回る必要はないと思うぜ」 「そうするわ。古泉くんにもとりあえず中断って連絡入れておいてね」 「わかったよ」 「でも、おかげでいい感じにお腹も減ってきたし、次はカニのフルコース巡りね」 振り返ったハルヒは、力強く肯いた。 残りのコーラを飲み干す頃には、西の空を染める赤がさらに色濃くなっていった。ゆっくり流れる風も、わずかに冷たさを増したようだ。 俺は、うーん、と夕焼け空に向かって両手を突き上げて背筋を伸ばしながら、搾り出すように率直な感想を口にした。 「やっぱ、温泉はいいよな。毎日じゃなくてもいいが、週に一回ぐらいは、のんびりと温泉にはいれるような生活をしてみたいもんだ」 伸ばしていた両手をだらんと下ろして、隣のハルヒに視線を向けると、ハルヒは少しあきれたような表情で俺のことを見つめていた。が、すぐにその大きな瞳の中に怪しげな輝きが煌き始めたのがわかった。 しまった、俺は妙なトリガを引いてしまったのか? 「そうね、帰ったら温泉を掘るわよ」 「な、なんだって?」 「学校に温泉を掘るの。だいたいあの周りは名水で有名な土地柄だし、そもそも日本中どこでも掘れば温泉は出るはずだしね。そうすれば毎日でも温泉に入れるわ!」 今にも浴衣の袖を捲り上げて襷をかけて、スコップを持って走っていきそうな勢いでベンチから立ち上がったハルヒは、空いた口がふさがらないまま座っているだけの俺を見下ろすと、 「なにアホ面してんのよ。早速、古泉くんに頼んで、ボーリング道具を手配できないか探してもらうわよ」 「待て待て待て待て!」 そんなことを古泉に話したら、本当に温泉採掘用のボーリング道具を積んだトラックで、新川さんと森さんが学校にやってくるに違いない。 「バカな事はするなって。勝手に学校に温泉なんか掘るやつがあるか」 「いいじゃない、それぐらい。別に減るもんじゃないし」 減るんだよ、俺の神経が……。 「さ、行くわよ!」 「おいおい、だからちょっと待てって。別に今ここで動かなくても……、まずは夕食のカニを堪能してだな……」 ハルヒは俺の腕を引っつかむと馬鹿力で柳並木の遊歩道をずんずん進んでいく。 俺は、どうやってハルヒを止めようかと思案しながら、それでも少しぐらいは学校に温泉が出ることも期待しつつ、ぽつぽつと街灯に明かりが燈りだした温泉街を引きづられるように駆けて行くしかなかった。 遠くない将来、あの文芸部室が『ハルヒの湯』としてオープンする日が来るのかもしれない。 Fin.
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「二人のハルヒ ハルヒの気持ち」 さて、キョン君に代わって、未来の涼宮ハルヒである私が語るわ! 北高校に教師を勤めて間もない頃。 家を買ったので、生活するのに必要な物を買って帰った。 自宅の途中に公園に入って通る事になる。 そこで、一人の少女が俯いたまま座り込んでだ。 よく見ると、この時代の涼宮ハルヒだった。 私は、気になって声かけてみた。 「何をしてるの、ハルヒちゃん」 その彼女は吃驚して顔上げた。 いつ見ても、可愛いわね…。 だから、モテたんだな…私って。 「え、あ…あなたは、確か…キョンの従姉の…鈴見ハルカさん…ですよね」 そういえば、そうだった。 私が勝手に決めた設定だったわね。 「で、こんな所にいて、どうしたの」 ハルヒちゃんは、まだ俯いた。 「それは、その…えっと…」 ははーん、さてはキョン君の事ね。 この頃の私って、ウブだったっけ。 「もしかして、キョン君の事で悩んでたりして?」 ハルヒちゃんの肩を少し動いてたのは見えた。 …図星なのね。 私は、買い物で缶ジュースを思い出し、袋の中から取り出した。 「はい、喉渇いたでしょ、飲んでいいよ」 「あ…ありがとう」 私は、ジュースを受け取ったのを見てハルヒちゃんの隣に座った。 それにしても、こんなに落ち込むような事あったかしら…。 色々思い出しても答え見つからないわね…数年前の出来事だったからね。 「で、どうしてキョン君の事で悩んでるの」 いきなりの質問で、ハルヒちゃんがかなり動揺してた。 「それは!その…」 「大丈夫よ、キョン君には言わないから言っていいよ」 ハルヒちゃんは、ゆっくりと顔上げた。 「あたし、前に夢見てたの…周りに巨人が出た夢を…」 あー、あれね。 思い出したわ、最後は確か…。 「あたしの側にキョンがいたの、それで巨人が出た途端…キョンがあたしを連れて 逃げたわ。あたしはあの世界がいいと思ったの…でも、キョンは「俺達がいた世界がいい」 と…。その後、キョンは私の肩を捕まって言ったの「俺、実は…ポニーテール萌えなんだ」と…。 それを言った後…その…えっと、キ…キスしたの…」 あぁ、そうだった…アレがファーストキスだったわね。 「それなら、いいじゃないの」 「ダメよ!アレは夢だったんだから、実際どう思ってるのが怖いのよ!」 と、ハルヒちゃんが叫んだ。 ちょっと、こんな所で叫んだら近所に迷惑でしょ…。 「キョンは、分かってないのよ!あたしの気持ちを…」 ハルヒちゃんは、まだ落ち込んだ。 古泉君、悪いわね…仕事入っちゃって…。 キョン君は鈍感だから、分かってないのも無理も無いわね。 「…うっ…ひっく…キョンなんか…ひっく…あたしの気持ちをぉ…」 あらら、ハルヒちゃんが泣いちゃったよ。 でも、私は知ってる…いつか告白されるのを…。 「ねぇ、ハルヒちゃん…聞いてくれる?」 ハルヒちゃんは、泣きながら頷いた。 「私はね、昔…そうね、高校時代だったわね…。 私は、入学式当日にある男の子に出会ったの。 その人はキョン君に似てるぐらい優しい男だったのよ。 アレから何ヶ月経ったかな、部活に入ったんだけど…その人も同じ部活に入ったのよ。 偶然としか言いようが無いよね、その後、部活の仲間と一緒に楽しく活動したわ。 で、数ヵ月後…私は夢見たの、静かな世界で私とその男の子だけ残った夢を。 その男の人は何したと思う?」 「…キス?」 あら、分かったわね。 「そうキスしたの、した途端、目覚めたのよ。 夢なのか現実なのか分からなかったわ、それでもあの人の側にいたいとね。 私は、あの人は実際どう思ってるのが怖かったけど。 告白されるまで、頑張って、彼の側に居ようと必死に必死にやって来たわ。」 「あの、その人とはどう…なったの」 いつの間に、泣くのを止んだみたい。 「ん、ちゃんと告白されたわ。アレから何年経ったかな…その人とは無事に結婚したのよ。」 「そうなの…」 ハルヒちゃんが、いつものハルヒちゃんになった。 「あたし、待った方がいいの?」 「うん、待ったらいいよ…だから、頑張りなさい」 私は、ハルヒちゃんの頭を撫でてやった。 「うん、頑張るよ!」 この調子で頑張ってくれたら、告白されるのは私は分かってるから安心していいよ。 「あら、ハルヒ…こんな所にいたのね」 ん、今のは…。 「お母さん」 え、お母さん!? 「あ、こんにちわ…と言っても、こんばんわですね」 私は、呆然してたが慌てて。 「えっと、こんばんわ!」 社会のルールとして、お辞儀した。 「あ、お母さん!この人は新人の先生で、あたしのクラスの担任の先生よ」 私は、まだ慌てて自己紹介した。 「あ、えっと、私は最近、北高校に就職しました。えー…す…鈴見ハルカです!」 危ない危ない、『涼宮ハルヒです』と言ったら終わりになる所だった。 「はい、分かりました…あぁ、この子をよろしくお願いします、この子は無邪気でね……」 喋り続けるお母さんを姿を見ると、涙が出そう。 だけど、我慢しないと…会いたがった人が目の前にいるとは思わなかった。 思い出す…あの日を…。 とある病院で…。 『お母さん!お母さん!』 『ハルヒ…ゴメンね、私はもう…』 弱くなったお母さん。 『いやよ!このままで別れるなんで…』 『…ハルヒ、あなたを育てて…本当に良かったわ』 震える母の手をゆっくりと挙げた。 私は溜まらず母の手を掴んだ。 『ハルヒ、これからも生きてね…私の…大切な娘…うっ!』 『お母さん!』 『ありがとね…さよ…なら…』 掴んでいた母の手は静かに崩れる。 そして、心電図はピーと言う音がずっと鳴る。 『うっ…ひっく…おかあぁさーーーーーん…』 あの日はずっと泣いた。私はお母さんの事を愛してた。お父さんも…。 「…では、もう遅いので、これで」 私は、ずっと考えてたから、全て話を聞けなかった。 「あ、はい!} お母さんはお辞儀したのを見て、私も慌ててお辞儀した。 慌てるのは、これで3回目だっけ。 「えぇ、これからも、よろしくお願いします」 まだお辞儀する私。 そろそろお辞儀する癖はやめようかしら。 「ハルカさん、ありがと!明日から頑張るよ」 「頑張りなさいよ」 私は、ハルヒちゃんとお母さんが去るまで見守った。 言えなかった言葉…今なら、言える。 「ありがとう、お母さん」 私は、誰も居なくなった公園を後にして、自宅へ歩きながら夜空を見上げ思った。 あなたは、昔とは変わらないわね…。 必死に、私を楽しくしたり、私を守ってくれたんだよね。 だから、そういうあなたが好きよ。 あなたの事を愛してるわ。 私は深呼吸してから叫んだ。 「そうでしょーーーー!」 夜空に、一つの流れ星が流れた。 翌日、学校の廊下で歩いてると後ろから何やら騒いでる。 私は、何かなと思って振り向いた。 「バカキョン!いい事思い付いたわ!」 「だーかーらー、ネクタイを引っ張るなって!破れるから」 「つべこべ言わなーいっ!ほらほら、早く!」 やっぱりね、いつものハルヒちゃんとキョン君を見ると安心出来るね。 少しでも、からかっちゃおうかな。 っと、その前に…キョン君ゴメンね、あなたの代わりに私がやるわね。 私は、少し溜息してから。 「やれやれ…」 完
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涼宮ハルヒSOS団、兼文芸部部室。会社の社長席のように配置された団長席であぐらを掻いていたハルヒはうなっていた。右手にはシャーペン、その下には紙が敷かれている。紙に書くのは今後の活動予定表みたいなもの。何を書くべきか思考をめぐらせ、トントントンとペン先でしきりに紙をつついていた。 「団長は活動内容とか資金繰りとか具体的な方針とか、考えることが多いのよ!」 一体、誰に話しかけているのか…おそらくは自分自身。それに対して返事をする者はいない。部屋の隅にはいつものように本の活字を目で追う長門。それと、今からメイド服に着替えようとハンガーラックに手を掛けるみくるがいた。 「こういう時は近くの問題から片付けましょ。今週の土日の活動について」 ハルヒはシャーペンを叩くようにパチンと置いた。 「ねぇ二人とも何したい?!」 さっきまでのはハルヒの壮大な独り言。で、今度は意見を求めている。 「え?…え、えーと」 「有希は?」 「…ない」 それを聞いてジトッとした目つきになるハルヒ。腕組みをして背もたれにもたれかかった。 「す、涼宮さん、そう焦っても出てきませんよ。とりあえずお茶でも淹れますね」 みくるはメイド衣装を引き出すと、着替えを急ぐためにセーラー服を脱いだ。 「あー、それ!」と、突然ハルヒはみくるを指差す。 「へ?」 「それそれ、その下着!新しいの買ったの?」 両方合わせてVの字にフリルの付いたブラジャー。確かに最近買ったもので、学校にしてくるのは始めてかもしれない…。と、いうか何故ハルヒがそんなことまでチェックしているのか。 「可愛い、可愛いわ!よく見せてっ」 いかにも良いもの見つけた!というように、笑顔を浮かべてみくるに歩み寄るハルヒ。一方みくるはおずおずと後退しながら嫌な予感を感じていた。 「うんうん、よく似合ってる。バストラインが綺麗だから下着も映えるわね」 しばらく鑑賞するように眺めると、ハルヒは両手で双の胸をすっぽり手のひらに収めた。 「ひゃぁあ!涼宮さんっ」 「だって、近くで見ると触りたくなるのよ。それより、この重量感とやわらかい感触!素晴らしいわ」 揉むように胸をフニフニと上下させるハルヒ。実に楽しそうにしている。 「有希ー!今日は特別サービス!有希にも触らせてあげるっ」 ハルヒはするりと背後に回り、みくるの腰に腕をまわして後ろからガッシリと抱き締める。 もはや逃げられない。長門は本から顔を上げてこちらを見ている。 「ひっ、やっ、長門さんまでっ!なんでですかぁー」 「暴れても無駄よ、みくるちゃん観念しなさい。ほらほら有希!早く!」 長門は机に本を置き、静かに歩み寄った。押さえつけられた涙目のみくるを見てから、笑顔のハルヒの顔を見る。「はい、いいわよっ」とハルヒの声。長門は片手を出すとゆっくり指でみくるの胸を撫でてゆく。その動きは胸の頂のところで止まった。「…ひっ」と短い悲鳴をあげるみくる。 「…なんか、あたしより有希のほうがエロティックね。意外な才能というか」 ハルヒは満足したのか、みくるをパッと離した。みくるはへなへなと座り込む。 颯爽と団長席に戻ったハルヒはシャーペンを握り、再び予定事項を書く紙に向かった。カリカリとペンを走らせる音が響く。 「喜びなさい!次のみくるちゃん主演の新作映画の趣向が決まったわ」 長門とみくるは同時にハルヒのほうへ顔を向けた。 「百合よ、百合!ガールズラブ。普通の恋愛モノじゃつまらないわ。みくるちゃんと有希でなら大丈夫よねっ。早速あたしは脚本に取り掛かるわ!」 一度走り出したら止まらないハルヒ団長は、どこまでも突き進む。パソコンからワープロソフトを起動させると、忙しくキーをたたき始めた。
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夏休みも中盤にさしかかり、あまりの高温のためにシャミセンもとろけるようにぐったりする日でも SOS団というのは休業することはないらしく、汗で水浴びでもしたかのようにびしょびしょになって部室に向かっていた。 部室のドアの前に立ち、ドアをノックする。 ……… 反応がない。まだ誰も来てないのだろうか。 恐る恐るドアを開けると、古泉や朝比奈さん、それどころか長門の姿すら見あたらず、居たのは団長机に 突っ伏したハルヒだけだった。 どうやらハルヒは熟睡してるらしく、幸せそうな顔をしていた。しかも、陽の光を浴びているせいか、妙にその幸せ度も アップしているように見えて、この時ばかりはサインペンを持って現れるはずのいたずら心は姿を現さなかった。 「我らが団長様はお昼寝の時間ですか。」 やれやれとため息をつきつつつも、ハルヒの寝顔をよく見るために長門の指定位置に腰を下ろす。 こうしてみると、ハルヒの寝顔はますます幸せそうに見える。こんな顔をしている時は大抵美味い物を 食っているときか、突拍子もないことを思いついて俺に雑用を押しつけているときくらいのものだ。 「キョン…」 …どうやら後者のようだ。 耐えろハルヒの中の俺よ。そう思いつつ合掌する。 …が、次の瞬間、俺はとんでもない言葉を聞いた…気がする 「…キョン……大好きだよ……」 「……………なんだって?」 いまなんつった?大好き?こいつの中の俺はどんなほれ薬を使ったんだ? 「……キョン……」 なぜか顔が熱くなる。落ち着け。これはただの夢だ。ハルヒの夢の中の話だ。現実の俺は関係ない。 関係ないんだ。どんなに口が滑ってもハルヒがこんなことをストレートに言うわけがないだろ。 落ち着け、落ち着け、落ち着け………… と、そんな風に自分を落ち着けていると、ハルヒの幸せ顔はいつしか消え、次第に悲しみに変換されていった。 「……キョン…待って……」 ん?ハルヒの中の俺はついに逃げたのか? 「待ってよ……置いてかないで……」 徐々に顔つきが変わっていき、幸せ度は0になっている。 「キョン…」 こいつの中の俺は何をしている。何をそんなにハルヒに心配掛けてるんだ? 「…そんな……嘘でしょ……?」 自分のことのはずなのに、ドラマの一途なヒロインの告白を、まるで紙切れを 扱うかのようにかわす男を見ているとき並にハルヒの中の自分に対して腹が立っている。 「待って…キョン…」 徐々に声が大きくなる。 「…キョン…待ちなさい…」 ハルヒの閉じられた瞼の間からきらりと光る物がこぼれてくる。 「…ねぇ…待ってったら……」 寝言までもがふるえている。もうだめだ。耐えられん。俺はハルヒを起こそうと立ち上がろうとしたときだった。 「……キョン!」 ハルヒの突き飛ばした椅子の衝撃で俺までもひっくり返りそうになる。 「夢……か…」 ハルヒはまだ俺が居ることに気づいてないらしく、ぽろぽろと涙をこぼし続けていた。 「キョンは…こんなこと…しないよね…」 「するわけ無いだろ。」 そう言ってハルヒにハンカチを差し出す。ハルヒは少し驚いたものの、何も言わずにハンカチを受け取り、握りしめた。 「…ねぇ、キョン」 「なんだ?」 「ちょっと…泣いていいかな?」 「…ああ。泣いてしまえ。この際だから今までの分も全て出してしまえ。」 それから数十分の間、ハルヒは大声を上げて泣いた。俺はただハルヒを優しく抱いて、頭をなでてやるだけだった。 この日のハルヒはやたらと涙もろく、俺がちょっと慰めてやっただけでまたぼろぼろと泣き出したりなんだりで、 目の周りの腫れが引いて人前に出れる頃にはもうあたりは真っ赤に染まっていた。 「そういえばあんた、いつからいたの?」 詳しくは覚えてないが、ちょうど昼頃だろうか。まだ幸せ度MAXだった頃か。 「あたし、笑ってた?」 そりぁもう言い笑顔だったぞ。 「そう…」 二人の間に沈黙が流れる。沈黙に耐えきれずに最初に口を開いたのはハルヒだった。 「…あたしね、夢見てたの。」 どんな夢だ? 「最初はみんなで町の散策してて、すごく楽しかった。新しくできたファミレスでお昼を食べたり、 ゲーセンのUFOキャッチャーであんたに人形取ってもらったりしてた。」 それがあの幸せ100%の時か。 「でも、次の日かな…みんなあたしの周りから消えていった。みくるちゃんも、古泉君も、有希も…」 俺も…か 「……キョンは…あたしの前からいなくなったりはしないよね?」 「…ああ。」 「ほんとに?明日になって突然いなくなったりしないよね?」 「そんなに心配なら、おまじないでも掛けてやろうか?」 「おまじないって何よ。大体、あたしは…」 俺は何かを言おうとしたハルヒの唇を塞いだ。そのおまじないは、ハルヒに掛けると同時に自分にも かかってしまう諸刃の刃だった。 「…さて、帰るとするか。ついでだから、いつもの喫茶店にいくか?」 「そ、そうね。そうしましょ。ただし、あんたの奢りだからね。」 「へいへい。」 真っ赤に焼けた太陽の光で確認は出来なかったが、頬が赤く染まっているであろうハルヒはいつもより愛おしく見えた。 「キョン」 「なんだ?」 「大好きだよ。」 -fin-
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キョン 気のせいか、妙に本格的だな。 ハルヒ じゃあ、いくわよ。古泉君、スモークと照明お願い。 古泉 おまかせください、閣下。 ハルヒ さあ、よみがえれ、アイアン・ライター! キョン って長門かよ! 長門 調査結果を報告する。許可を。 キョン あ、ああ。やっちまえ。 長門 現在、日本国で流通するうち、発行部数が上位32000作品のあらすじについて分析を行い、よく読まれる物語に要求される傾向を抽出した。 キョン おう。すごいな。 長門 ストーリーに求められる得性の共通因子を、25文字以内の現代日本語で述べると次の通りとなる。すなわち「予想を裏切りつつも、期待を満たすストーリー」。 キョン なんだって?もう一度、言ってくれ。 長門 予想を裏切りつつも、期待を満たすストーリー。 キョン わかるような気もするが、もう少し長くていいから、説明してくれ。 長門 予想どおりすぎると読者は退屈する。この先どうなるかわからないからこそ、読者は続きを読もうとする。 キョン なるほど。 長門 しかしあまりに外れると、読者はついていけなくなる。オリジナリティを求めて新奇さに走るあまり、読者に反発された例は多い。人気の出たストーリーは、大筋では読者がすでに知っている定番どおりのものが多い。 キョン 裏切りつつ、裏切らないという訳か。バランスが難しいな。 長門 もっとも多い形態は、結末は定番だが、設定や結末に至るプロセスに工夫を施したもの。たとえば読者に「どうせハッピーエンドだろうが、この設定(あるいはこんな展開)でどうやってハッピーエンドにこぎつこけるのか」と思わせて読者を引きつける。 キョン なるほどな。 長門 がんばって。 キョン お、おう。 ハルヒ じゃあ、次へ行くわよ。第二の鉄人よ、出てこいや! キョン って、鶴屋さん。 鶴屋 あたしの担当はキャラクターづくりと描写のイロハにょろよ。まあ、どろ船に乗ったつもりで、安心するっさ。 キョン とても気が抜けません。 鶴屋 描写はめがっさ大事にょろよ。この話みたいに、セリフばかりで描写がないと、読者が作品世界に入って行けないっさ。 キョン そんなもんですか。 鶴屋 マンガや映画は絵や映像があるにょろ。そのシーンにぴったりの映像を撮るために、ある監督は「あの太陽をのけろ」と言ったっさ。 キョン そんな無茶な。 鶴屋 無茶しても撮りたい絵を撮るのが監督にょろよ。同じ台本、同じセリフ、同じストーリーでも、どんな絵かで全然ちがうものになるからねえ。小説には言葉しかないから、どんな風に描写するかは、マンガや映画でどんな絵で表現するかと同じくらい大切なんだよ、うん。 キョン なんか難しそうですね。 鶴屋 セリフは書けるけど、描写が苦手という人は少なくないっさ。そこで!今日は特別に鶴屋流描写の極意を授けるにょろよ。これさえあれば、描写で困らないこと、間違いなし! キョン それはすごい。 鶴屋 モデルを見つけて、その子のことを常に頭に思い描くにょろ。セリフは心に残りやすいから、むしろその子のしぐさや立ち振るまい、その子がいつもいる場所などなど、具体的に思いだすっさ! そのためには普段からよく観察するのが一番! だからモデルにするのは身近な人がいいかもねえ。普段、見過ごしているものを見るってことだね、キョン君。見ていないものは書けない、ボクシングにラッキーパンチはないということにょろよ! キョン はあ。 鶴屋 じゃあ、キョン君、がんばるにょろ〜。 キョン あ、はい、がんばります。 ハルヒ 泣いても笑っても次が最後よ。第三の鉄人よ、出でませい! みくる は、は、ふぁい! キョン 最後は朝比奈さんですか。 みくる わ、わたしは、せ、セリフについて教えますっ! ハルヒ みくるちゃん、かみかみよ。古泉君、スモークで見えないから、カンペはもっと近くに。 古泉 はい、閣下。 キョン あー、朝比奈さん、無理せずに、犬にかまれたとでも思って、そこそこに頑張ってください。 みくる はいっ、一生懸命がんばりますので、応援してくださいっ! 谷口 エム・アイ・ケー・ユー・アール・ユー、み・く・る!! キョン 谷口、こんなところで何やってんだ? 谷口 にぎやかしだ。俺は俺で満ち足りてるから、気にするな。 キョン そうか。 みくる セリフはとっても大事ですっ! キョン おわっ。 みくる どんなに思ってくれていても、きちんと言葉にして欲しいんですっ!! キョン あの、小説の話ですよね? みくる そうですっ!間違いありませんっ! キョン そうですか。 みくる 普段なら絶対に言わないようなセリフも、お話の中ではゆるされるのです! 谷口 エル・オー・ヴィ・イー、ラブリー、み・く・る!! みくる キョン君、あの、がんばってください。気持ちは必ず伝わりますっ! キョン はあ。とにかく、がんばってみます。 ハルヒ というわけで豪華講師陣によるレクチャーはここまでよ! キョン ある意味豪華という気もするが、いつものメンバーとも言えるぞ。 ハルヒ さて、あとは実践あるのみね。 と言ってハルヒは、ズンという効果音とともに、俺の視界をふさぐように前に立った。 ハルヒ 今日のレクチャーは、ほとんどあんたのために開いてあげたようなもんなんだからね。さあ、キョン、前回のリベンジよ! 全校生徒に砂という砂を吐かせて、校庭を砂丘に変えるような恋愛小説を書きなさい! キョン 無理だ。 ハルヒ こら、キョン! どこ見てんのよ!? キョン なぜ俺の前に立ちふさがる? ハルヒ 鶴屋さんが身近な人物を観察しろって言ったでしょ! 古泉 さすが涼宮さんですね。彼がどれだけ顔の向きを変えても、すぐさまそれに反応しておられる。 長門 シュートコースをふさぐ熟達したディフェンダーの動き。 みくる 涼宮さん、ガンバです! 鶴屋 おやおや、今日はブラックみくるがオチじゃないのかい? 谷口 お、俺には何も期待するなあ!「ていうか、お前らさっさと結婚しろぉ!!」じゃ駄目? 長門 駄目。
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