約 886,208 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/557.html
ハルヒは死んだ。何もかも大切な物が無くなった… あれから、俺は大人になった… あの日の記憶忘れやしない… 「閃光のハルヒ」 ――25年前 俺は、今、高校3年である。 SOS団設立してから2年後か? 今は、春…暖かい空気で眠気を誘う日が続く… そして、俺は今いるのは… 「皆!おっまたせーっ!」 相変わらず声がデカい困った団長…涼宮ハルヒが来た。 みくる「お帰りなさい、涼宮さん」 俺の気持ちを癒してくれる、我らアイドル…朝比奈みくる ん?何で卒業したのにいるんか?って? あー、それはな…放課後だけ遊びに来るんだよ…大学から近いらしい。 俺は、部屋の隅っこへ向く… 「……」 そこに座ってるのは、長門有希…相変わらず無感情で本を読むのが好きみたいだな… 「キョンさん、あなたの番ですよ」 「ん、おぉ…そうか」 先ほど声掛けられた主は、古泉一樹…ハンサムでカッコいいと言う理由で女子達の間で人気らしい…気に入らん! そんな、相変わらず活動してるか… まさか、あの日が来るとは思わなかった… 「…ゲホッ…ゲホッ…ゴホン…」 咳をしてたのは、ハルヒだった。 「大丈夫か?ハルヒ?」 「う、うん…おっかしぃーなぁ…今日まで咳する事は無かったんだけどね」 「そうか…ま、気を付けろ…最近、インフルエンザやら流行ってるみたいからな」 「うん…気を付ける」 あの時、俺は気付いてやれなかった… 俺は、激しく後悔してる… 帰り道… 「キョン」 「ん?何だ?ハルヒ」 「明日、デー…!…ゲホッゲホッ!…ゴホッゴホン!」 「お、おぃ…ハルヒ!大丈夫か?」 「う、うん…だいじ…ゲホッ…ゴホン!」 と、ハルヒの口から出たのは… 血だった… 「!?ハルヒ!」 「だ…大丈夫よ!」 俺から見ても、大丈夫じゃない… 「ハルヒ…」 「大丈夫だから…」 あの時、強制に病院へ連れとけばよかった… 一週間後、ハルヒは元気に活動していたが… 「さぁ、皆!ミー…!ゲホッ、ゲホッ…ゴホン!」 「ハ、ハルヒ!」 「だ…大丈夫よ…平気だ…か…ら…」 と、ハルヒはその場で倒れた… 「ハルヒ!」 俺は、ハルヒがスローで倒れているように見えた… 「涼宮さん!」 「…!長門さん!救急車を!」 「うん」 「ハルヒ!ハルヒ!ハルヒ…ハルヒーーーーっ!」 俺は、いつの間にかにハルヒの事を呼んでた… ピーポー、ピーポー、ピーポー… ―病院 「…キョンさん…覚悟はいいですか?」 「あぁ…何だ…」 「…重い病気ですよ…えぇ、死ぬ可能性もある病気…」 「!?…え?」 「キョン君…その病気は…」 「癌」 と長門が答えた… 癌!?癌だと!?そんな…ハルヒは今まで元気してたのに!?そんな! 「…仕方ない事ですよ…」 「あぁ…ぁ…ぁ…うわあぁぁぁぁぁぁぁ…」 俺は、虚しくも叫んでた… ハルヒ…前から知ってたんだろ?…何で…何でなんだよ… ハルヒの病室 「…ハルヒ…」 俺は、ハルヒの寝顔をずっと見てた… 「……」 可愛い寝顔だ… 「ハルヒ…お前は、どうしたいんだ?」 「……」 「俺とデートしたかったんだろ?」 と、言ってても…ハルヒは返事しない…息を吸ってる音が少し聞こえるだけだった… 「ハルヒ…ハ…ル…ヒ…うっ、ううっ…」 俺、泣いてるのか?辛いのか?何故だ…こんな思いは… 「…あぁ、俺は…ハルヒの事が好きだったんだな…好きだったんだな…」 次の日の朝 俺は、病室で寝てた。 あぁ、俺…泣いて、このまま寝たっけ… 「おは…よう、キョ…ン」 今のは、ハルヒの声だった。 「ハルヒ!起きたのか!?」 「う…ん、昨日は…ゴ…メンね…」 「いいんだ!そんな事はいいんだよ…」 「キョン…」 「ん?」 「泣いて…たの?」 「…あぁ」 俺は、無理矢理に笑顔を作った… そして、毎日… SOS団員や妹…クラスメイト達も見舞い来てくれた。 色々、喋り…笑い…そういう生活を過ごして行った… あの日が訪れるまでに… 一ヵ月後… 「じゃ、俺…帰るわ」 「待って…」 と、ハルヒに呼び止められた。 「何だ?」 「あたしの事…どう思ってるの?」 「ハルヒ…」 弱弱しくなったハルヒ…見てるだけで辛い… そんなハルヒを守りたい… 「…俺は、今までハルヒが居ない学校生活して来た…俺は、学校生活してて、やっと分かった。 ハルヒがいないと、俺はダメなんだよ…元気なハルヒを見たい、見たくでも見れない…俺は、寂しかった! 家で泣く日が多かった、ハルヒのいない学校生活を送るなんで嫌なんだよ!俺は、ハルヒの事好きなんだよ、好きなんだよ!」 俺は、まだ泣いた…情けなかった。 その時、ハルヒは、自分の手で、ゆっくりと俺の手と重なった。 「!?」 ハルヒ… 「あたしも、寂しかったよ…先生から聞いたよ…癌だってね?」 「…あ…」 俺は、言おうと思ったけど…息苦しくで言えなかった。 「あたしは、あの時…凄く泣いたよ…」 「ハ、ハルヒ…」 「あたしは、キョンが好きなのに、もう会えないなんで嫌だった…」 「……」 「それでも、キョンの側に居たい気持ちあったのよ…」 「…俺も!俺も、ハルヒの側に居たかった!」 「あたしは死ぬのが怖い…それでも仕方ない事…だ…よね?」 ハルヒは、泣いてる…俺も泣いてる 「…キョン、キスしてくれる?」 「あ、あぁ…するよ…」 と、ハルヒの唇と重なってキスした…暖かいキスだった… そして…その時が訪れた… 「!?ゲホッゲホッ!ゲホッゴホンッ!」 「!?ハ、ハルヒ!」 「血が出た…あたし、死ぬのね…」 「ハルヒ!今、先生に呼んだからな!手、握ってるから安心しろ!」 「あたし…疲れたよ…ありがとう…キョン…」 「ハルヒ!」 「好きだよ…さ…よう…な…ら…」 ハルヒは、ゆっくりと目閉じた… 「ハルヒ!ハルヒ!」 ハルヒの手は力無くなり、落ちた… 「ハ、ハルヒ…ハルヒーー……」 その時、ハルヒは死んだ… ハルヒといた生活は幕閉じた… そして、葬式が行われた みくる「涼宮さん!涼宮さぁん!…うぅっ…」 長門「……」 古泉「涼宮さん、天国で会いましょう…」 SOS団もクラスメイトも参加してた…皆、泣いてるのは物凄く辛い事だった… 「キョン君ですか?」 「あ、はい」 「ハルヒの母です…あの子を最後まで見守ってありがとうございます…うっ…」 「キョン君、ありがとう…父親である私が…最後までに…うっ…ううっ…」 「御父さん、御母さん、ハルヒは幸せな子です…ですから、ハルヒを悲しませないように頑張って生きてください…」 「あ、ありがとうございます…」 「それから、ハルヒの部屋はどこです?」 俺は、ハルヒの部屋へ行って見た。 「…何だ、シンプルな部屋だな…」 本棚、机、時計、ベッド…色々あるな… 「ん?」 机の上に1冊のノートとビデオが置いてあった。 「これは…ビデオと…日記だ…」 ○月○日 明日は、バレンタインデーだ! 張り切ってキョンに渡そう! あたしの作ったチョコは美味いよ! ○月○日 今日は、楽しいデートだったよ。 色々トラブルあったけど、本当に楽しかったよ! ○月○日 明日は、あたしの誕生日 キョンはその事気付いてるかな? プレゼントが楽しみだな! 俺は、読みながら思い出してしまった…楽しかった事…悲しかった事… 色々あった… 「あぁ…ハルヒ…ハルヒ…」 次へ次へ読む事に手が震えて来た。 そして… 手は止まった。 「!…これは…」 ○月○日 あたしは、病院へ行った… そして、先生から、こう告げた… 「あなたは、重い病気持ってます」と… あたしは、世界が止まったような気がした。 それは、癌だった。 あたしは混乱したよ… あたし死ぬのかな?死にたくないよ…まだ生きる命あるよ! お願い!癌を治して!そうじゃないと、皆に会えなくなる!キョンに会えなくなる! 嫌だよ…あたしは、死にたくないよ… その事を、皆に言ったらどうなるのかな…怖いよ… だから、あたしは黙っとく事にしたの… 静かに死んで、皆に悲しませないように死ぬ事にしよう… 今まで、ありがとう そして、さようなら…皆…キョン… ハルヒ…そんな事思ってたのか… 「…っ!」 すまない…ハルヒ、本当にすまない…すまない! 俺は、泣いた後の疲労感が溜まり 家に着いた… 「……」 俺は、一本のビデオをずっと見てた。 「…今、何時だ?」 と、確認すると…既に0時になってた。 「…見るか」 ビデオを持ってリビングへ行った。 暗闇の中でテレビを付けてビデオを再生した… そして、画面に写された映像… その中に、一人の少女がいた… それが、涼宮ハルヒだった。 ハルヒ!…これは、生前の頃の映像だった。 「こら!バカキョン!今、見てるのは、あたしが死んだ後かな? 元気の無いあんたは見たくも無いわ!あたしが死んでも、キョンはキョンらしく 生きなさいよ! あたしは、死ぬのは怖いけど…仕方ないよね…あたしは、元々、気が弱かったの… それでも、めけずに生きてくれたのは…あんたのお陰よ!」 そりゃ、そうだな…ハルヒを支えたのは、この俺なのだからな… 「…キョン、あたしは今から…告白するわ…あたしは、あんたの事が好きよ!世界で一番好きなのよ! だから、毎日…あんたと会えるのを楽しみに通ってたんだから!それでも、気付かないあんたは… かなりの鈍感ねぇ…ま、それは仕方ないと思うわ!…愛してるよ!キョン!」 ハルヒ…ありがとう… 「…あたしが、死んでも…あたしの事忘れないでね!忘れたら死刑よ! …キョン…今までありがとう、あたしは嬉しかったよ…そして、さようなら…あたしの愛した人…」 ここで、砂嵐に変わって、終わった… 「ハルヒ…俺も、忘れない!何があろうと忘れない!忘れないからな!ハルヒっ!」 時間はもう戻らない…ただ前に進むだけ… …あれから、25年後… 俺は、43歳になった… 古泉は、15年前に俺の知らない女と結婚し、幸せな生活を送っていた。 朝比奈さんは、24年前に…未来へ帰った。もう会えないだろう… 長門は…22年前に俺と結婚し、俺の妻となり…子供も出来た… 俺は、今…重い病気を持ってた… それは、ハルヒと同じ病気だった。 もう、しばらくは持たないだろう… 側に居る、美しい女性…姿は昔とは少し変わらない… それは、長門だった。 俺は、有希に言ってみた。 「…有希、お前は今、幸せか?」 「うん…」 「俺も幸せだ…でもな、俺の命は長く持たない…」 「…うん」 「泣くな…有希…今まで、一緒に歩いて来たんだろ?」 「…嫌だ、あなたと別れるのは辛い…」 「…あぁ、俺もだ…長門、俺が死んだら…ハルヒの側に置いてくれないか?」 「…分かった」 長門…今までありがとな… 「…じゃあ、俺は眠るよ…じゃあな…な…がと…」 「…あなたは、天で無事に、ハルヒに会えますように…」 その時、俺は死んだ… 【*****(本名) 二×××年○月○日死去 原因 胃癌】 …暗い… …ここは、どこだろうか… 周りは、闇に染まってる。 俺は、闇の向こうへ歩いてみた… 闇の向こうから光が溢れて来た… 段々と光は大きくなり、光に包まれた… 「…ここは…」 周りを見ると、あの懐かしき北高校である。 俺は、身に着けてる物を確認した。 「…これは、北高校の制服…」 ふと、隣にあるガラスを見てみると… 「あれ?高校時代の俺じゃねぇか…」 取りあえず、あの懐かしきSOS団室へ向かった。 懐かしい木の香り、風景などを楽しみながら歩いてると… SOS団室に着いた。 そして、俺は、扉を開けた… 「久しぶりね」 扉の向こうにいたのは…俺が今まで会いたかった、愛しい女性…涼宮ハルヒだった。 俺は、動揺してしまい、言葉を探してた。 「キョン、25年ぶりに…やっと会えたね…」 「あ、あぁ…」 「25年間、寂しく過ごしてたよ?」 「…スマン」 と俺は、謝った。 「あははは、いいのいいの!あんたが最後まで生きてくれたし、あたしの事忘れてなかったみたいね」 「あぁ…」 「キョン、改めて言うわ…あたし、あなたの事が好きです! 」 「…ふっ、俺もだよ…ハルヒ!」 「ぶっ、あはははは…真面目に言うなんでおかしいわね!」 「ぶ、ふははははは…確かに、確かにそうだよな!」 俺たちは、やっと笑った…お互いに笑った。 「…ねぇ、キョン」 「ん?」 「久しぶりに、キスして…」 「分かったよ…」 と言って、キスした… ハルヒ、いつまでも一緒にいるからな… キョン、やっと会えて本当に良かったわ… 次、転生した時は…ハルヒとキョンみたいな子が生まれるだろう… そして、会えた時は…まだSOS団やるのだろう… 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/530.html
『ハルヒの想い』 放課後 いつも通りSOS団部員は部室へ向かった ハルヒ「よし!みんな集まったわね!会議を始めるわ」 当然この日が会議の日など決まっていない ハルヒ「いい?明日は休日なんだから町に行くわよ!」 キョン「なにしに行くんだ?」 予想はついてるが聞いてみる ハルヒ「決まってんでしょうが、明日は思いっきり遊ぶのよ」 え・・・ 宇宙人や未来人探索ではないのか? キョン「宇宙人や・・・」 ここで口を止めた 余計なこと言わない方がいいな。 古泉は俺を見ている。 いつみても憎いほど笑ってやがる 朝比奈さんは少し残念そうな顔をしていた 未来から来たから起きる事はわかってるのか? 長門は読書。 ハルヒ「・・・・とにかく明日は絶対遅刻しないように 特にキョンっ!あんたはいつも遅刻するんだから気をつけなさいよ」 …時間は遅れてないんだがな ハルヒの解散と言う声と共に俺たちは帰宅した。 翌日 やはり俺が一番最後だった。 俺以外超人揃いだから俺が最後になることは覚悟済みである。 ハルヒ「遅い!罰金!」 キョン「はいはい、飯奢るよ」 レストランに行き今回は集団で出歩く事に決めた。 ハルヒ「こうやって一同で行くのも悪くないわね」 そうやってハルヒが先頭を仕切っていた 俺は尋ねてみた キョン「なぁハルヒ、どこまで行くんだ?」 ハルヒ「そんなことどうでもいいでしょ!あんた達はあたしについてくればいいのよ」 まぁ大体こんな事答えるのは予想出来てた。 ハルヒ「着いたわ!」 ここは・・・遊園地・・みたいだな 古泉はニヤニヤしている。 今日ばかりは楽しめそうだな キョン「ここも一同で行くのか?」 ハルヒ「当然でしょ?一々そんなこと聞かなくてもわかるでしょう。まったく 機転が利かないわね」 その後ジェットコースターに乗ることにした。 朝比奈さんは可愛らしく首を横に振っていたが 当然ハルヒは無視。 古泉は得意げに「僕も好きなんですよ」とか言ってやがる 俺は好きでも苦手でもなかったのでどうでもよかった。 長門はボンヤリしている。 ハルヒ「古泉君!キョン!みくるちゃんと有希!さっさと来なさーい」 周りの客の目を気にしてないみたいだ。 朝比奈さんは嫌々乗らされたが、それはそれで可愛いな。 古泉は楽しみな顔で乗り込んだ。 長門は何を考えてるか全くわからないな。 コースターが上昇・・・・・そして落下! すごい迫力であんまり覚えてないが カーブの際に古泉が「マッガーレ」と言ったのは覚えている。 朝比奈さんは気絶したみたいだ。 長門は朝比奈さんが目覚めるまで付いていると言っていた。 俺と古泉とハルヒは三人でお化け屋敷に行った。 中は真っ暗だ。 お化けが出てくる光のみで道を探っていた 意外にも俺の袖をハルヒがつかんでいる キョン「なんだお前こうゆうの怖いのか?」 俺は笑ってしまった ハルヒ「・・・・バカ」 古泉は俺を睨んだかと思うと笑っていた 古泉がはぐれた。 二人きり・・・・ かと思ったら古泉は俺の真後ろを歩いていた事に気づいた。 俺は古泉を見ていた 古泉「なんです?まさかあなたも怖いのですか?」 キョン「んなことねぇよ」 と言うと古泉は口元で笑った。 無事屋敷が終わり戻ったベンチでは長門と朝比奈さんが待っていてくれていた。 ハルヒはため息をついて俺の袖を話して走っていった。 ハルヒ「おーいみくるちゃん!有希!」 朝比奈「どうでした?」 おろおろ聞いていた ハルヒ「う~んまぁまぁだったわ」 朝比奈「そうですか」 後にいくつか乗り物に乗り帰宅することにした。 ハルヒ「よし!十分遊んだわね!そろそろ帰るわよ!」 俺が帰り支度していると ハルヒ「キョン!遅い!モタモタしていないでさっさと帰るわよ!」 見てみるとたしかに俺だけ遅れていた。 キョン「悪い、悪い。」 ハルヒ「ったくもう」 と俺がハルヒの方に走った瞬間突然めまいが起き、 その場で倒れた。 …………ここは・・・・?・・・・ 目が覚めると古泉が居た。 古泉「おや?・・・起きたようですね」 キョン「・・・・・ここはどこだ?」 古泉「ここは病院ですよ。あなたは昨日倒れ、今日まで寝てました」 キョン「・・・・・そうか」 古泉が何かに気づいたようにわざとらしく「おや?」とつぶやき 「僕はこれで失礼します」と言い病室を出た。 横に誰か立っている キョン「誰だ?」 暗くてあまりわからなかったが 影を良く見たら一瞬で分かった ハルヒだ。 ハルヒ「やっと起きたようね!バカ!団員が団長に心配させるなんて 許されると思ってんの?」 キョン「ハハ・・・悪い悪い。」 俺は気づいた。 あのハルヒが涙目になっている事に。 ハルヒ「バカ・・・・本当に心配したんだから・・・・」 キョン「・・・・ありがとな・・・・」 俺は心から思った ハルヒ「・・・・・ねぇ、キョン・・グス」 キョン「何だ?」 ハルヒ「心配させたんだからお願い一つ聞いてよ・・・グス」 まず泣くの止めてくれ と思ったが お願いとはなんだ・・・? キョン「お願いとはなんだ?それともう泣くな」 ハルヒは涙を拭くと俺にこういった ハルヒ「今日あんたが居ない一日を体験してわかったの」 なにが分かったんだろう ハルヒ「あたしは・・・・あんたが居なくちゃ駄目なんだって事を・・・」 俺は黙って聞いていた ハルヒ「あたしはあんたの事を・・・・好き」 俺は時が止まったように感じた キョン「・・・・・それは本当か?」 無言でハルヒがうなずく 自然と俺も涙を流していた。 キョン「・・・ハルヒ・・・・俺も愛してるぞ・・」 ハルヒは再び涙を流していた 俺は黙ってキスしてやった。 fin
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5356.html
11月も後半に突入し、日に日に冬らしさが増えてくる。 最近は部活から帰る時点ですでに真っ暗だ。 「今日は転校生が来たぞー」 岡部は教室に入ってくるなり、そう言った。 教室がざわつく。 お前らは小学生か?と突っ込みつつ俺も少しそわそわする。 「すっごい綺麗な女の子だと良いなー」 谷口、だとしたらお前には振り向かないぞ。 「入ってくれ。」 岡部の掛け声と共に、男子が入ってきた。 男子のため息と、女子の囁きが聞こえる。 入ってきた奴は古泉ほどではないものの、なかなかのイケメンだった。 「よし、じゃあ自己紹介をしてくれ。」 「こんにちは、春日清(きよ)です。」 春日とか言う男は澄んだ、綺麗な声で自己紹介を始める。 「趣味は本を読むこと、特にSFが大好きです。宇宙人、未来人、超能力者などに興味があります。」 …え? その時、ハルヒがガバッと立ち上がった。 「ねぇ、春日君。だったらSOS団に入団しない?」 「涼宮、勧誘は後で良い。んーとじゃぁ春日、うるさい奴だが、涼宮の隣に座ってくれ。」 「よろしく、春日君。」 後ろを振り向くと、ハルヒが春日に挨拶をしている。 「こちらこそ。よろしくお願いします。涼宮さんといいましたっけ?」 「そうよ、涼宮ハルヒ。SOS団の団長よ。」 俺はこいつらの会話を聞きながら、何でこんな微妙な時期に転校してきたのか、疑問に思っていた。まるで朝倉の時のようだ。嫌な記憶がよみがえる。 …後で部室に行けばあいつらが教えてくれるだろう。 授業中、春日とハルヒはずっと超能力者、未来人や宇宙人がいるかどうかについて話し合っていた。ったく、春日は転校生なんだからそんなにしょっぱなから先生に悪印象を与えてどうするんだよ? 途中休みになると、ハルヒは春日に俺を紹介した。 「こいつはキョン、SOS団の雑用係。」 あぁ、雑用係とわざわざつけられたのが気に食わないがよろしく。 「キョン君か、よろしく。」 キョンで良い、なんかくすぐったいからな。俺も春日でいいか? 「どうぞ、むしろ僕もその方が気が楽だよ。」 「さぁ、春日君!校舎の案内するからついてらっしゃい!」 そう言い走り始めるハルヒの後を、春日は微笑を浮かべてついていった。 さてと、俺は部室に行くか。 「来ると思っていましたよ。」 なら話は早い、春日、あいつは誰だ? 「彼は涼宮さんが生み出したものですよ。」 何のためにだ?話が合う友達が欲しかったのか? 「いえ、違います。」 じゃぁ何だよ。 「こればかりはあなた自身で気付いてください。一つ、私からヒントのような質問です。あなたは彼と涼宮さんが仲良くしているのを見て、何か感じますか?」 あいつらが仲良くしてるのを見て…なんとなくハルヒを取られた気がしてイライラする。しかし、何故ハルヒを取られた気がするのかも、それでイライラするのかもわからん。 「素直じゃないですね…」 「さらに鈍感。」 うぉ!長門、居たのか。 「居た、最初から。」 そ、そうか… 「おや、そろそろ次の授業ですね。では、私は行きます。」 じゃぁな。 「あなたは?」 もう少し後で行くよ。 そう言ったが、あまり授業に出る気は無かった。 あの二人が仲良くしてるせいでうるさくて、どうせ集中なんか出来ないしな。 「キョーーーーーン!」 ったく、何だよ。 あれ?ハルヒ? 「あんたなんで授業サボってたの?」 あ、いや、何でもない、ただ単にだ。 「そう。」 いつの間にか周りを見回すと、俺以外全員が揃っている。 「さて、今日は新団員を紹介するわよ!」 って、春日?!お前入るのか?! 「うん、楽しそうだしね。」 お前、本当に自分の意思か?ハルヒに強制させられていないか? 「えーと、キョンは放って置いて紹介よ!これが春日君、私たちの同じ1年生よ。今日転校してきて、未来人、宇宙人、超能力者とかに興味があるみたい。ってことで今日から団員だから、皆も自己紹介してね。じゃ、みくるちゃん。」 「あぁ、え?私からですかぁ?えぇと、朝比奈みくると言います。唯一の2年生です。一般的にはお茶汲みをやっています。よろしくおねがいします。」 「美しい方ですね、よろしくお願いします。」 「あ、ありがとうございます。」 「じゃぁ、次は有希!」 「長門有希、趣味は読書。よろしく。」 「私たちはもう自己紹介したから、最後は古泉君!」 「こんにちは、あなたの噂は彼や涼宮さんから聞いています。私は古泉一樹で、SOS団の副団長を務めさせて頂いています。」 「みなさん、よろしくお願いします。」 「新団員も入ってきたことだし、みんな気合入れてね!」 そこから一週間、春日は毎日部室に来て、俺達と打ち解けていった。 しかし、俺のイライラは溜まる一方だった。 何故か、春日と一緒にいるときにハルヒが笑顔になるのを見ていると嫌になる。 クソッ、俺が閉鎖空間発生させたいぐらいだぜ… だが、この気持ちがなんなのかが分からない。 今は金曜日の放課後で、今部室には長門、朝比奈さんと俺しか居ない。 「あのー…キョン君、どうしたんですか?最近イライラしているようですが。」 あぁ、朝比奈さん。気にしないで下さい。 「どうしたんですか?私の力になれることなら…」 そこで、俺は一部始終を話してみた。 朝比奈さんは俺の話を何も言わずに聞き、静かに頷くと 「キョン君は涼宮さんのことが好きだから、春日君に嫉妬してるんですよ。」 えーと…俺がハルヒを好き?春日に嫉妬? 確かに、もしかしたらこの感情は好き、それにこのイライラは嫉妬なのかもしれない。 だとしたらつじつまは合う。 そう…ですね。そうかもしれません。 「キョン君、気付いてよかったですね。じゃぁ、涼宮さんにアタックしてみてください。」 え、でもあいつは春日が… 「ここからは僕が説明しましょう。」 ん?古泉? 「今少しドアの外で聞いてしまいました。春日君は涼宮さんが、あなたに嫉妬をさせるために作り出したものです。」 相変わらずハルヒってすごいな… 「そこじゃないですよ、つまり嫉妬をして欲しいということは」 ということは? 「あなたはここまで来ても鈍感なんですか…?」 …何だ? 朝比奈さんまでそんな軽蔑した目で見ないで下さい…。 長門、お前もだ。 「ならいいです、明日は不思議探索があります。多分何かが起こるので、ちゃんと心の準備を。」 何が起こるんだ?何のための心の準備だ? 「「「…」」」 「よし、みんないるわね!明日は土曜日だから不思議探索をするわ!午前は団長の私用があるから、いつもの場所に1時集合ね!春日君は初めてだから、説明するわね。」 そういうとハルヒは不思議探索について説明を始めたが、ほとんど俺の耳には入っていなかった。 「キョン!遅いわよ!初めての春日君でもあんたより早いわよ!」 おい、春日、お前何故時間より早く来る事を知っている? 「いえ、ただ単に集合時間より早めにくるべきかな、と思ったので。」 …こいつとハルヒを取り合って勝てる自信がない。 「じゃぁいつもの喫茶店に移動!」 おいおい、神様はどんなにひどいんだよ。 午後のペアは 俺と古泉 長門と朝比奈さん ハルヒと春日だった。 俺の怒りのマグマが心の中でブクブクいっている。 「やったー春日君と同じね!私がこの町の良いところ教えてあげるわ!」 ……… 「ありがとう、涼宮さん。」 ……… 何だよ何だよ、ケッ、両方とも微笑みやがってさぁ。 「大丈夫?性格に悪化が見られる。」 あぁ、長門。気にするな。 「じゃぁ出発!春日君、早く行きましょう!」 ハルヒが春日の手を引っ張る。 一瞬怒りで脳味噌が吹っ飛んでいくかと思った。 いつも春日が来る前はハルヒにやられていたが、端から見るとこんなにもカップルに見えるのか…。 「私たちも行きましょうか。」 るせぇな、どこに行くんだよ。 「あなたの好きなところで良いですよ。」 じゃぁ、あいつらをつけるぞ。 「いつからストーカーになったんですか?」 モラルとかルールとか、正直そんなものは今どうでも良い。 俺は、ハルヒを春日に何があっても絶対に取られたくない。 …ここまで俺がハルヒを好きだとは思わなかったぜ。 「気付いて良かったじゃないですか。しかし、男の嫉妬は醜いですよ?」 放っとけ。 ハルヒと春日は、仲良く喋りながらいろいろな場所を回っていった。 大したことはしていないが、俺にしたら二人が傍にいるだけで嫌になる。 そして暗くなり始め、そろそろ集合場所に戻るかと思っていると、春日が何かを言い出した。 俺達の位置からは何を言っているのかは聞こえない。 ハルヒはその言葉に頷き、春日の後をついていった。 「どうぞ。」 古泉が俺にケータイを少し小さくしたような機械を手渡す。 これは何だ? 「長門さんがさっき仕掛けておいた盗聴器の受信機です。」 そういえばさっき長門とハルヒ達がすれ違ったような… 何故仕掛けたのかが気になるが、まぁここは感謝してせっかくだから使おう。 俺今完全なる犯罪者だな… 『ねぇ、春日君、こっちに何があるの?』 『まぁまぁ、僕についてきて下さい。』 二人はテクテクと人気のないほうに歩いていく。 俺達はコソコソとその後をつけて行く。 すると、春日はハルヒを人気のない公園に連れ込んだ。 「これは、もしかして、彼は涼宮さんに告白する気では…」 なぁんだぁってぇぇぇ?! 春日がハルヒに好意があるのは知っていたが、さすがにこんなに早く告白するとは思わなかった。 やばい、ハルヒは中学時代、どんな男に告白されても、その場でふったことは無いらしい。 つまり、春日がハルヒに告白したとしたら、どんなに短時間だとしてもあの二人は恋人関係になるわけである。 しかも、ハルヒもあまり春日を嫌っていないようだ。 ということは本気で付き合いだすかもしれないという事か?! 『どうしたのよ、春日君。こんなところに連れ込んで。』 『俺…ハルヒのことが好きだ!付き合ってくれ!』 『え…』 俺が飛び出そうとすると、古泉に抑えられた。 「後少し待ってください。」 『え、そんな、春日君?』 『僕は本気です。』 『ちょ、春日君、キャッ!』 するとその時、春日がハルヒをベンチに押し倒したのだ。 一瞬、古泉の腕の力が抜けた。 俺はそのまま、ハルヒと春日の前に出て行く。 おい、春日、何やってるんだよ? 春日がこっちを振り向く。 「キョ、キョン?」 「何って、涼宮さんに告白してるんだよ。」 「違うの、キョン、これは…」 そのことじゃない、何故お前はすでにハルヒを襲おうとしてるんだ? 「涼宮さんは告白は断らない主義だそうなのでね。」 だからと言ってお前何故服を脱がそうとしてるんだよ… 俺は黙々と春日に近付き、 ドスッと春日を殴った。 「キョン?!」 「何するんだ!」 女を襲ってる奴を殴って何が悪い? 「別に僕が涼宮さんに何をしようと僕の勝手だろう?」 違う。 俺はな、ハルヒが好きなんだ。 「…え?キョン?!」 最初お前が転校してきた時、俺は自分がハルヒを好きだとは思っていなかった。 だが、お前らが仲良くしているうちに俺は自分がハルヒを好きだって気が付いたんだ。 「キョン…」 「そんなこと言ったって…僕だって涼宮さんのことが好きなんだよ?」 あぁ、だろうな。でも俺だって好きなんだよ。 おいハルヒ、お前は俺と春日、どっちを選ぶんだ? 「…キョン、ごめんね。」 え…。 「春日君もごめん。」 どっちも振るのか? 「うぅん、キョンにはやきもち妬かせてごめんね?後、春日君、気持ちに答えられなくて、ごめん。」 「涼宮さんは、キョンを選ぶのかい?」 「ごめんね、春日君。春日君はすっごく優しいし、頼りにもなるし、趣味も合う。頼りにならなくて、気も利かなくて、ヘタレなキョンとは大違い。だけど…何故か分からないけど…私はキョンが好きなの。ごめんね。」 すると、ハルヒがいきなり倒れた。 お、おい?!ハルヒ?! 「大丈夫、安心して。私がやったこと。」 長門?! 「キョン、君と争えて良かったよ。」 春日の影が薄くなっていく。 おいおい、どうなってるんだよ? 「春日君は涼宮さんがあなたにやきもちを妬かせる為に作ったもの。あなたがやきもちを妬き、告白した今、用はない。」 「だから、彼は消えるんですよ。」 …春日、お前、意外と良い奴だったな。 「君もだよ、キョン。じゃぁ」 「「またいつか、どこかで」」 「キョーン、一緒に帰ろ♪」 ということで、あの日の告白以来、俺とハルヒは付き合うことになった。 春日のことを長門に聞いてみると、一言 「情報操作は得意。」 と言われてしまった。 つまり、多分みんなの記憶から消したんだろうな。 だが、俺は春日のことを忘れるつもりはない。 もしかしたら、あいつとは、良い友達になれたかもな。 しかし、ハルヒが今、俺の隣で笑っているのは春日のおかげだ。 「何考えてるの?」 いや、別に。お前のこと考えてたんだ。 と適当にごまかす。 「もう、キョンったら」 そういうハルヒの顔は、うっすらと紅色に染まっていた。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5968.html
姉妹編『長門の湯』『鶴屋の湯』『一樹の湯』『みくるの湯』もあります。 ====== 『ハルヒの湯』 「何よ、ホントに当たり入っているの? 全部はずればっかりじゃないでしょうね!」 商店街の福引のガラポンのハンドルを無意味に力いっぱい握り締めたハルヒは、苦笑いをするしかない係りのおっちゃんに文句を垂れている。 「大丈夫だよ、お嬢ちゃん。まだ、特賞も一等賞も出てないから、安心しな」 「ふん、ホントかしら」 そのとき、コロンと出た玉は、また白、つまり今度もはずれだった。 「ほらーー」 「ほい、またティッシュ。あと一回だよ」 ハルヒ連れられた俺たちSOS団の面々は、映画の撮影でお世話になった商店街の大売出し協賛の福引コーナーに来ている。どこで手に入れたのかはあえて聞かないようにしているが、ハルヒは十枚もの福引券を持って、ガラポンに戦いを臨み、そして九連敗中だった。 特賞は五十インチの薄型テレビ、一等は温泉・カニツアーのペア宿泊券が当たるらしいが、今のところは末等のティッシュの山を築くのみだった。 「もういいわ、最後の一回、あんた引きなさい」 「お、俺?」 いきなり俺を指名するなよ。どうせ俺が引いたところではずれしか出ないだろう。 「いやだよ、お前が最後までやれよ」 「なによ、栄えあるトリの権利をあんたに譲ってあげようって言ってるんだから、謹んで受けなさい」 ここで最後に俺がはずれを引いても、ハルヒがはずれを引いても、結局俺の責任にされて、いつもの茶店で奢らされそうな気配がぷんぷん漂っている。ふん、それなら素直にはずれを引いてやるぜ、ティッシュ、山分けしろよな。 俺は、無造作にハンドルを掴むと、これまた無造作にぐるりとまわして、ポトリと転がり出てきた玉の色を確認した。 赤――。 一瞬の静寂がその場を包んだ後、おっちゃんは手に持った鐘を派手に打ち鳴らして叫んだ。 「いっ、一等賞―――」 賞品となった温泉地は結構有名なところだった。 こじんまりした町の真ん中を流れる小さな川の両岸に、古風な温泉旅館が軒を連ねている。何軒かは改築されて、今風のホテルになっているものもあるが、お おむね古の佇まいを残しており、川のほとりの柳並木の遊歩道と、所々にかけられている石造りの橋とあいまって、町全体から古風な温泉街の雰囲気と温泉饅頭 を蒸している湯気が漂っている。 俺が当てたペア宿泊の権利なんだから是非朝比奈さんと二人で、なんて思いが通じることは当然なかった。だからといって、俺とハルヒがペアで行ける訳でもない。 ハルヒは残り三人分の参加に関する諸々の交渉については古泉に一任し、古泉もその要求を否定することはなかった。いつもすみませんね、機関のみなさん。 そんなわけで、SOS団は五人揃って、この風情あふれる温泉街のカニ料理旅館に来ているわけだ。 ひとまず宿にチェックインした後、俺たちは浴衣と丹前に着替えて外湯めぐりスタンプラリーに出発ことになった。 「七つある外湯を全部回ってスタンプを集めると記念品がもらえるの。みんな、夕食前の腹ごなしにがんばって回るわよ!」 朝比奈さんの手を引っ張って先頭を行くハルヒに続いて、俺たちは湯けむり溢れる温泉街を歩いていた。街の中では、俺達と同じように外湯巡りを楽しんでいるらしい浴衣姿の温泉客が夕暮れ間近の川沿いの散策を楽しんでいる。 「どうせ、男女で一緒には回れないから、ここからは自由行動よ。じゃあね、キョン」 少し先で振り返ったハルヒは、朝比奈さんの手をとったまま、右手の建物の中に消えていった。そのあとを無言の宇宙人は振り返ることないまま続いていった。 当然のように、男チームと女チームに分かれて行動することになるわけで、結局、俺は古泉と行動を共にするだけだ。くそ面白くもない。 「やれやれ」 「おや、今日はもう『やれやれ』が登場しましたね」 「ふん」 「我々はもう少しむこうの外湯から攻めることにしましょうか」 「どうでもいいよ」 「つれないですね。温泉はお嫌いですか?」 隣の古泉はやや大げさに驚くような仕草を見せながら、 「僕は好きですよ。この典型的な温泉地の雰囲気、いいじゃないですか。気楽に楽しみましょう」 「うん、まぁ、それはそうだな」 温泉は好きだぜ、もちろんだ。これがお前と二人ではなくて、朝比奈さんと一緒であれば俺のテンションはウナギ上りなんだがな。何が悲しくて野郎二人だけで、温泉のはしごをしないといけないんだよ。 とりあえず、古泉の言うようにこの街の雰囲気は堪能させてもらおうか。 そうして三つめの外湯までは古泉と一緒に回ったのだが、ぶっちゃけ古泉と男二人ではモチベーションは下がる一方なので、より気楽に単独行動しようぜ、ということで話がまとまった。 「では、僕はあっちの外湯に行ってみます。また、後ほど」 「おう、またな」 古泉と分かれた俺が次の外湯を目指して遊歩道を歩いていると、横の通りから飛び出してきた浴衣の固まりとぶつかりそうになった。 「ちょ、ちょっとー、ぼんやり歩いているから誰かと思ったらキョンじゃない。もう、危ないじゃないのよ!」 ハルヒだった。どこに行っても鉄砲玉な女だ。 「飛び出してきたのはそっちだぜ。一時停止違反だ」 俺はハルヒの衝突を物理的にも言葉的にも交わしながら、 「ん、どうした、お前一人なのか? 朝比奈さんや長門はどうした?」 えっ、という感じで不意を突かれたハルヒは、体勢を立て直すと、 「みくるちゃん、温泉に興奮しちゃってのぼせ気味になったから、有希が旅館まで連れて行ってくれたわ。有希も本が読みたいらしいしね。湯船の中では読めないから」 そう言ってハルヒは俺のことをジロリと見上げて言葉を続けた。 「そう言うあんたも一人? 古泉くんはどうしたの」 「いつまでも男二人でつるんでいてもつまらんからな、別行動にしたんだ」 「あ、そ」 そっけなく返事したハルヒは、浴衣の帯あたりに両手を当てて、 「幾つ回ったの? コンプリートした?」 俺は手に持ったスタンプラリーの用紙に目を落とすと、 「いや、まだだ、あと四つだ」 「なによー、まだ三つしか回ってないの? あたしはあと二つよ」 なるほど、その勢いで温泉をはしごしたら、朝比奈さんものぼせるはずだな。 「でも、みくるちゃんじゃないけど、さすがにちょっと疲れたわね」 そりゃそうだろうさ。 「ねぇ、キョン、冷たい飲み物買って来てよ。あたしはあそこで待ってるからさ」 ハルヒが指差す先は、温泉街を貫いて流れるせせらぎに架けられた橋の上に設置されたベンチだった。 まぁ、確かに俺も、温泉で火照った体を冷やす飲み物が欲しいと持っていたところだ。仕方ないがついでに何か買ってやるか。 「わかったよ」 「ノンシュガーのすっきり系でお願いね」 「へいへい」 とりあえずゼロカロリーの炭酸飲料を二本買って指定された橋の上に戻ってみると、読書中の長門の様にちょこんとベンチに腰を下ろしたハルヒは、右手で軽く髪をかき上げながら、風に揺れている柳の枝葉を見つめていた。 立て続けに五つの温泉に入ったおかげで、少ししっとりした髪にわずかに桜色に染まった頬、浴衣のすそに覗く白い素足の草履姿も――、 ううむ、いい感じに絵になっている。 趣の有る風景をバックにして、ただじっと座っているハルヒは、やっぱりかなりのレベルの美人であることは確かだな。性格的なことさえ考慮する必要さえなければ……。 そんなハルヒの姿に一瞬見とれた後、俺はハルヒの隣に腰を下ろした。 「ほれ、買ってきたぞ」 「うん、ありがと」 プシュっとプルタブを起こし、乾杯、と缶をコツンと合わせて、よく冷えたコーラの喉越しを味わった。 うまい! 「ぷふぁー、おいしいわねー」 俺と同じ感想を口にしているハルヒは、さらに、 「やっぱ、こういう時はビールがおすすめなのかもね」 なんてことまで言ってるし。確かにその点においても同感だけどな。 ごくごくっと缶の半分ほどを一気に空けて、ほっと一息をつくことができた。隣のハルヒも大きく息を吐くと、手に持った缶をぼんやり見つめている。 「どうした、やっぱり疲れたのか? 温泉に入って疲れているのは本末転倒だな。だいたい入浴するだけでも体力は結構消耗するらしいから」 「うん、そうね。さすがに五つも連続で入ると、ね」 朝比奈さんは三つ目で脱落したらしい。長門ならまったく平気のはずだが、今回は朝比奈さんにかこつけてうまく逃げたようだ。こういうのも自律進化の一つなのだろうかね。 「スタンプラリーなら、晩飯食ってからでも間に合うだろ。今、あわてて全部回る必要はないと思うぜ」 「そうするわ。古泉くんにもとりあえず中断って連絡入れておいてね」 「わかったよ」 「でも、おかげでいい感じにお腹も減ってきたし、次はカニのフルコース巡りね」 振り返ったハルヒは、力強く肯いた。 残りのコーラを飲み干す頃には、西の空を染める赤がさらに色濃くなっていった。ゆっくり流れる風も、わずかに冷たさを増したようだ。 俺は、うーん、と夕焼け空に向かって両手を突き上げて背筋を伸ばしながら、搾り出すように率直な感想を口にした。 「やっぱ、温泉はいいよな。毎日じゃなくてもいいが、週に一回ぐらいは、のんびりと温泉にはいれるような生活をしてみたいもんだ」 伸ばしていた両手をだらんと下ろして、隣のハルヒに視線を向けると、ハルヒは少しあきれたような表情で俺のことを見つめていた。が、すぐにその大きな瞳の中に怪しげな輝きが煌き始めたのがわかった。 しまった、俺は妙なトリガを引いてしまったのか? 「そうね、帰ったら温泉を掘るわよ」 「な、なんだって?」 「学校に温泉を掘るの。だいたいあの周りは名水で有名な土地柄だし、そもそも日本中どこでも掘れば温泉は出るはずだしね。そうすれば毎日でも温泉に入れるわ!」 今にも浴衣の袖を捲り上げて襷をかけて、スコップを持って走っていきそうな勢いでベンチから立ち上がったハルヒは、空いた口がふさがらないまま座っているだけの俺を見下ろすと、 「なにアホ面してんのよ。早速、古泉くんに頼んで、ボーリング道具を手配できないか探してもらうわよ」 「待て待て待て待て!」 そんなことを古泉に話したら、本当に温泉採掘用のボーリング道具を積んだトラックで、新川さんと森さんが学校にやってくるに違いない。 「バカな事はするなって。勝手に学校に温泉なんか掘るやつがあるか」 「いいじゃない、それぐらい。別に減るもんじゃないし」 減るんだよ、俺の神経が……。 「さ、行くわよ!」 「おいおい、だからちょっと待てって。別に今ここで動かなくても……、まずは夕食のカニを堪能してだな……」 ハルヒは俺の腕を引っつかむと馬鹿力で柳並木の遊歩道をずんずん進んでいく。 俺は、どうやってハルヒを止めようかと思案しながら、それでも少しぐらいは学校に温泉が出ることも期待しつつ、ぽつぽつと街灯に明かりが燈りだした温泉街を引きづられるように駆けて行くしかなかった。 遠くない将来、あの文芸部室が『ハルヒの湯』としてオープンする日が来るのかもしれない。 Fin.
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/570.html
夏休みも中盤にさしかかり、あまりの高温のためにシャミセンもとろけるようにぐったりする日でも SOS団というのは休業することはないらしく、汗で水浴びでもしたかのようにびしょびしょになって部室に向かっていた。 部室のドアの前に立ち、ドアをノックする。 ……… 反応がない。まだ誰も来てないのだろうか。 恐る恐るドアを開けると、古泉や朝比奈さん、それどころか長門の姿すら見あたらず、居たのは団長机に 突っ伏したハルヒだけだった。 どうやらハルヒは熟睡してるらしく、幸せそうな顔をしていた。しかも、陽の光を浴びているせいか、妙にその幸せ度も アップしているように見えて、この時ばかりはサインペンを持って現れるはずのいたずら心は姿を現さなかった。 「我らが団長様はお昼寝の時間ですか。」 やれやれとため息をつきつつつも、ハルヒの寝顔をよく見るために長門の指定位置に腰を下ろす。 こうしてみると、ハルヒの寝顔はますます幸せそうに見える。こんな顔をしている時は大抵美味い物を 食っているときか、突拍子もないことを思いついて俺に雑用を押しつけているときくらいのものだ。 「キョン…」 …どうやら後者のようだ。 耐えろハルヒの中の俺よ。そう思いつつ合掌する。 …が、次の瞬間、俺はとんでもない言葉を聞いた…気がする 「…キョン……大好きだよ……」 「……………なんだって?」 いまなんつった?大好き?こいつの中の俺はどんなほれ薬を使ったんだ? 「……キョン……」 なぜか顔が熱くなる。落ち着け。これはただの夢だ。ハルヒの夢の中の話だ。現実の俺は関係ない。 関係ないんだ。どんなに口が滑ってもハルヒがこんなことをストレートに言うわけがないだろ。 落ち着け、落ち着け、落ち着け………… と、そんな風に自分を落ち着けていると、ハルヒの幸せ顔はいつしか消え、次第に悲しみに変換されていった。 「……キョン…待って……」 ん?ハルヒの中の俺はついに逃げたのか? 「待ってよ……置いてかないで……」 徐々に顔つきが変わっていき、幸せ度は0になっている。 「キョン…」 こいつの中の俺は何をしている。何をそんなにハルヒに心配掛けてるんだ? 「…そんな……嘘でしょ……?」 自分のことのはずなのに、ドラマの一途なヒロインの告白を、まるで紙切れを 扱うかのようにかわす男を見ているとき並にハルヒの中の自分に対して腹が立っている。 「待って…キョン…」 徐々に声が大きくなる。 「…キョン…待ちなさい…」 ハルヒの閉じられた瞼の間からきらりと光る物がこぼれてくる。 「…ねぇ…待ってったら……」 寝言までもがふるえている。もうだめだ。耐えられん。俺はハルヒを起こそうと立ち上がろうとしたときだった。 「……キョン!」 ハルヒの突き飛ばした椅子の衝撃で俺までもひっくり返りそうになる。 「夢……か…」 ハルヒはまだ俺が居ることに気づいてないらしく、ぽろぽろと涙をこぼし続けていた。 「キョンは…こんなこと…しないよね…」 「するわけ無いだろ。」 そう言ってハルヒにハンカチを差し出す。ハルヒは少し驚いたものの、何も言わずにハンカチを受け取り、握りしめた。 「…ねぇ、キョン」 「なんだ?」 「ちょっと…泣いていいかな?」 「…ああ。泣いてしまえ。この際だから今までの分も全て出してしまえ。」 それから数十分の間、ハルヒは大声を上げて泣いた。俺はただハルヒを優しく抱いて、頭をなでてやるだけだった。 この日のハルヒはやたらと涙もろく、俺がちょっと慰めてやっただけでまたぼろぼろと泣き出したりなんだりで、 目の周りの腫れが引いて人前に出れる頃にはもうあたりは真っ赤に染まっていた。 「そういえばあんた、いつからいたの?」 詳しくは覚えてないが、ちょうど昼頃だろうか。まだ幸せ度MAXだった頃か。 「あたし、笑ってた?」 そりぁもう言い笑顔だったぞ。 「そう…」 二人の間に沈黙が流れる。沈黙に耐えきれずに最初に口を開いたのはハルヒだった。 「…あたしね、夢見てたの。」 どんな夢だ? 「最初はみんなで町の散策してて、すごく楽しかった。新しくできたファミレスでお昼を食べたり、 ゲーセンのUFOキャッチャーであんたに人形取ってもらったりしてた。」 それがあの幸せ100%の時か。 「でも、次の日かな…みんなあたしの周りから消えていった。みくるちゃんも、古泉君も、有希も…」 俺も…か 「……キョンは…あたしの前からいなくなったりはしないよね?」 「…ああ。」 「ほんとに?明日になって突然いなくなったりしないよね?」 「そんなに心配なら、おまじないでも掛けてやろうか?」 「おまじないって何よ。大体、あたしは…」 俺は何かを言おうとしたハルヒの唇を塞いだ。そのおまじないは、ハルヒに掛けると同時に自分にも かかってしまう諸刃の刃だった。 「…さて、帰るとするか。ついでだから、いつもの喫茶店にいくか?」 「そ、そうね。そうしましょ。ただし、あんたの奢りだからね。」 「へいへい。」 真っ赤に焼けた太陽の光で確認は出来なかったが、頬が赤く染まっているであろうハルヒはいつもより愛おしく見えた。 「キョン」 「なんだ?」 「大好きだよ。」 -fin-
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/63.html
母さん どうしたの!ハル、その格好? ハルヒ 知らないおっさんに捕まりそうになって、気持ち悪いから、頭突きして逃げてきたわ。あと、おっさんの車のナンバー、覚えてるわ! 母さん まあ、大変。ケガはない?どこか痛いところは? ハルヒ ない。おでこが少し痛いけど。 母さん どれどれ、ええ、大丈夫みたいね。無事でよかったわ。でも、どうして頭突きにしたの? ハルヒ 最初ぼかぼか殴ってやったんだけど、そんな小さな手じゃきかないな、って言われたんで、もっと重くて大きなもの、と思ってアタマを思いついたの。 母さん まあ、そうなの。……んー、ハル、まだ元気あるかしら? ハルヒ もちろん、あるわ! 母さん じゃ、ちょっと『特訓』しましょう。お庭にいらっしゃい。母さん、そのおじさんの車のナンバー、警察に電話しとくから。 ハルヒ ね、ね、『特訓』って何するの? 悪いおっさんの倒し方? それでうちのオヤジも倒せる? 母さん というか、その前段階をね。はい、母さんが腕を出すから、手首のところをぎゅっと捕まえて。そう両手でね、放しちゃ駄目よ。 ハルヒ うん! 母さん ……でも、ほら、こうすると簡単にはずれちゃうの。 ハルヒ えっ!母さん、今どうやったの? 何をやったの? 母さん もう一回やりましょう。はい、手首を捕まえて。放しちゃ駄目よ。力いっぱいにね。 ハルヒ うん! 母さん ……はい、はずれました♪ ハルヒ うー、母さん、なんかズルしてない? 母さん ズルしてないわ。ハルにもできるわよ。やってみる? ハルヒ うん、やる! 母さん じゃあ、母さんがハルの手首を捕まえるわ。外してみて。 ハルヒ ……う、動かない。 母さん んー、そうね。ハルはどうしたいの? ハルヒ さっき母さんがやってたみたいに、こう手をパーにして、ひじを曲げると、外れるんでしょ? 母さん そうね。そうすると手首を握っている相手も無理な角度になるわね。でも、相手が力の強い人だったら、どうする? ハルヒ うー。 母さん 母さんが、やってたの、よおく思い出してみて。 ハルヒ うーん……あ、こう……で、こうだ! 母さん はい、外れた。上手よ、ハル。 ハルヒ 母さん、も一回、もう一回やらせて。 母さん はいはい。……さあ、外してみて。 ハルヒ こうで、こうして、で、こうだ! 外れた! 母さん わかった? どうやったの? ハルヒ 手首つかまれて動けないから、あたしの方が半歩前に出たの! そしたら、ひじを曲げることができるわ! 母さん その通り。よく自分で気付いたね、えらいわ、ハル。 ハルヒ えへへ。 母さん 相手に捕まえられたり押さえられたりして動けなくなったら、まだ動かせるところをつかうの。体の向きを変えるとかもいいわね。足は腕より何倍も強いから。じゃあ、今のが分かったら、次のもできるかしら? 母さんが後ろからハルに抱き付くわ。腕もいっしょに上から押さえつけてるから、両腕は動かせないわね。さて、動かせるのは? ハルヒ うーんと、頭と足! 母さん そうね。じゃあ、まずは足を使ってみて。 ハルヒ んー、母さんの足、踏んづけてもいいの? 母さん 痛いかしら。でも、それは良い案ね。採用しましょう。他には? ハルヒ うーんと、うーんと。 母さん じゃあ、ヒント。片足だけを使ってみて。 ハルヒ 片足? 後ろはさっき踏みつけるのにつかったから、前だ。あ、あれ。 母さん そう、片足を前に踏み出すの。足の力は腕より強いと言ったでしょ? 力の弱い人だと、それだけで体を捕まえてる腕がほどけるわ。ほどけなくても、隙間が空くかも。そしたら、くるっとターンできるでしょ。ターンするときは、自分の肘の位置を意識してね。肘をあてて、うんと腰を落とすの。足の位置は変えずに、体当たりするイメージね。うん、うまい、うまい。 母さん 今度は母さんの片手でハルの右手をひっぱるわね。 ハルヒ う……ひきずられちゃう。 母さん もう一回やりましょう。引っ張られたら腰を少し落としてみて。 ハルヒ あっ、ずっと耐えられる。 母さん 綱引きでも使う手ね。上半身が持って行かれた後だと駄目よ。 ハルヒ うん。 母さん で、ハルが簡単に引っ張って来れないとわかると、相手はもっと強い力で引くわね。 ハルヒ うん。 母さん どうしたらいいかわかる? ハルヒ んー。 母さん こうするの。 ハルヒ わっ。 母さん ごめんね、大丈夫? ハルヒ いったーい。びっくりしたわ。 母さん おもいっきり引っ張ってる時に、急に相手が力を抜くと反応できないでしょ? ハルヒ そうね。あ、そうか! 母さん わかったみたいね? ハルヒ つまり「反対」をやればいいのね? 相手がひっぱってる時は、相手と同じように引っ張るんじゃなくて、反対に引っ張らない、力を抜く・・・押してもいい? 母さん ええ、押す場合もあるわ。でも、ハルはもっと大事なことが分かったみたいね。 ハルヒ うん、そうかも! 母さん 今みたいな技は、それはもうたくさんあるけど、基本はみんな同じ。今、ハルが言ったことね。それから、こんな風な技は、ハルよりずっと大きな力の強い相手に効果があるわ。もちろん、うまくやれば、だけどね。 ハルヒ そうなの? 母さん だって、相手の力を、こちらの好きなように利用するんだもの。ちょっと難しい? ハルヒ うーん。 母さん ハルはいま「反対」と言ったわね。「反対」が効果があるのは、それまでと全然違った動きだから、相手が反応できないのよね? ハルヒ うん。 母さん だから、最初は「反対の反対」をやるの。相手を押して倒す場合には、最初は引っ張る。相手を引っ張って倒すときは、最初は押す。 ハルヒ うん。 母さん ちょっとやってみる? ハルヒ うん! オヤジ おまえら、こんな暗くなるまで、何やってんだ? 母さん おかえりなさい。おとうさん。 ハルヒ あ、オヤジ、おかえり。 オヤジ ハルヒ、「おとうさん」って言えよ。 ハルヒ やだ。恥ずかしいもん。 オヤジ オヤジの方が恥ずかしいぞ。まあ、いいや。冷えてきたぞ、中に入らないか? ハルヒ そのまえに、ちょっと腕をとって引っ張ってみて。 オヤジ はあ?俺を投げようってのか? ハルヒ うん。 オヤジ うん、じゃないだろ。あっさり手のうち明かしてどうするんだ? ハルヒ じゃ、ううん。 オヤジ やれやれ。……ほら、これでいいのか? ハルヒ ん! オヤジ っひょい、と。 ハルヒ バカオヤジ! なんで投げられる前に飛ぶのよ? オヤジ 正確には投げられた方向に飛んでるんだけどな。……親の威信だ ハルヒ やっぱりオヤジは、いじわるオヤジよ!もう、中入る! オヤジ ……なんだってんだ? 母さん 今日、ちょっと怖いおじさんに捕まえられそうになって、頭突きして逃げてたって。 オヤジ おいおい。 母さん それで、トラウマにならないように、ちょっと体さばきの練習をしてたの。 オヤジ どこのどいつだ、そのバカは? 母さん ハルが車のナンバー覚えていたので警察に電話しました。 オヤジ こうしちゃおれん。そのナンバー教えてくれ。先回りして、焼き入れてくる。 母さん 忘れました。 オヤジ 母さんが一度覚えたことを忘れるわけがないだろう。 母さん どうやって車のナンバーだけで、相手を特定するの? オヤジ 造作もない。@@のふりをして陸運局に電話をすればいいんだ。名前と住所が分かれば、あとはどうとでも。 母さん やっぱり、忘れました。お父さん、ハルのことだと見境いがないから。 オヤジ 娘を持つ父親として、当然の感情だぞ。 母さん 感情は当然でも、行動がちょっと。 母さん ……ということがあってね。まだハルが小学校2、3年生だったと思うわ。お父さん、行き場のない感情を、ハルを鍛えることに振り向けちゃったのね。それで、殴る蹴るの得意な娘に育ってしまって。 キョン はあ。 母さん わたしが教えたのは古風で地味な技ばっかりだけれど、お父さんと一緒で無駄に大技が好きで……。お父さんは相手を大技に持ちこむ悪知恵があるけれど、ハルは変にまっすぐというか、ちょっと心配ね。 ハルヒ ちょっと母さん、キョンに何を話してるのよ!? オヤジ そうだそうだ。母さんばかりキョンと話してずるいぞ。 ハルヒ そういう話をしてるんじゃない! オヤジ だそうだ。だが、母さんの『古風』なやつの中にも危ない技がたくさんあるんだぞ。 ハルヒ そういう話をしてるんでもない!
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1873.html
桜が年に一度の晴れ姿を披露し始め、幾度も過ごしてきたこの季節がまたやってきた。 オレは大学3回生となり、時期的にそろそろ就職のことを考えなければならないが まだまだ学生気分に浸っていたい、そんな心境で日々を過ごしていた。 この季節になると、数年前のあの日のことを必ず思い出す。・・・オレが ハルヒと出会った日のことだ。 高校に入学早々、自己紹介で突拍子もないことを言ってのけたアイツは SOS団なる謎の団体を結成し、オレや他の団員を巻き込んで高校3年間 よくもまあここまでやれるもんだと関心するぐらい、精力的に動き回っていた。 …もっとも、その大半はオレを始めとした団員たちや、他の北高生の 平穏な高校生活をむやみにかき乱していただけなのだが、今思い返してみれば オレもその実行犯の一人だということにイヤでも気付かされる。 ともかく、そんな波乱な3年間を過ごしたオレであったが、物語はいつしか幕を閉じる。 終わりのこない宴が存在しないように、オレの高校生活も終わりを告げる日がやってきた わけだ。 オレは必死の受験勉強をしたおかげで、なんとか地元の有名私学に入ることができた。 もっとも、第一志望だった地元国立大学に合格することはできなかったが。 長門も家から近いという理由で同じとこを受験し、当然のごとく合格した。 成績優秀のハルヒはやはりというか案の定というか、あっさりその国立に合格した。 …アイツはオレたちと一緒の大学に行きたかったようだが、まさかオレが国立に 落ちるとは思わなかったらしい。どうやらオレの能力を過信しすぎていたようだ。 古泉はというと、都内の大学に進学した。転校前の地元だそうだ。 アイツがなぜハルヒと離れてしまったのかというと、実は高校3年間の間に、 いつのまにかハルヒの力が失われていたからだ。 ハルヒの監視という目的がなくなった機関は解散し、古泉は普通の学生に戻った。 長門はまだやることが残っているらしくまだオレたちの側に残っているのだが、 使命を終えた朝比奈さんは未来へと帰ってしまった。ハルヒには、長期の海外留学と説明したようだ。 こうして、SOS団の面々は計らずも離れ離れとなってしまった。 今日は久々に谷口、国木田と会う日だ。 オレたちは高校を卒業してもちょくちょく会っては現状を報告しあっている・・・というのは 建前で、基本的にみんな暇を持て余しているのだ。 国木田はハルヒと同じ国立大学に進学した。こいつもそれなりに優秀だったから 不思議ではない。谷口はというと、一浪した末になんとか近隣都市の大学に入ることが できたようだ。 待ち合わせの場所でしばし待つこと15分、ほぼ同じタイミングで二人はやってきた。 谷口「よーキョン、相変わらずヒマそうだな」 国木田「僕らも同じようなもんだけどね」 キョン「まあ、お互い相変わらずだな」 いつもの店に入ると、谷口とオレはビールを、国木田はカクテルドリンクを注文した。 コイツはアルコールに弱いので、いつも甘ったるいものばかり飲んでいる。 しかし、それが未だに童顔の国木田には気持ち悪いほど似合っているのだ。 昔一度だけコイツの顔がカワイイなどと思ってしまったことがあるのだが、 年上の強引なお姉さんたちに食べられたりしていないか、少し心配である。 国木田「ねえ谷口、この前言ってた子とは結局どうなったの?」 谷口「あーダメダメ、全然性格合わなくてさぁ。結局2ヶ月で終わった・・・」 谷口にはなぜかよく彼女ができるのだが、例外なく短期間で破局してしまう。 まあ、すべてはコイツの自己申告なので実体は不明であるが。 キョン「またフラレたのか・・・お前の人間性にはなにか根本的に問題があるようだな」 谷口「誰もフラレたなんて言ってねえよ。性格が合わなかったんだ」 キョン「その言い訳はもう3回目になるぞ」 谷口「うるせぇ!オレのことはいい。お前こそどうなんだよ?いい加減涼宮のことは 忘れたらどうだ?」 国木田「そうだね。キョンは少し引きずりすぎだと思う」 キョン「ハァ・・・何度も言ってるだろ?アイツには元々恋愛感情なんて抱いちゃ いなかったっての。そろそろ理解してくれよ」 国木田「ふーん・・・そういえば涼宮さん、また新しい彼氏できてたみたいだけど?」 キョン「・・・知ったこっちゃねえよ」 ハルヒは大学に入学すると、はじめのうちはSOS団的なサークルを結成して 高校の頃と同じようなことをしていたらしいが、さすがに大学生ともなると 誰もハルヒについてこなかったらしい。・・・まあ、高校のときだってオレたち以外は アイツについていけなかったんだろうが。 高校を卒業すると、朝比奈さんを除いた元SOS団のメンバーは極端に会う機会が 少なくなった。オレは長門と同じ大学なのでしょっちゅう顔を合わせているが、 ハルヒは少し離れた国立であり、古泉にいたっては都内の大学のため、 全員が集まる機会といえば年に1、2回しかなかった。 国木田「涼宮さん、いつも不機嫌そうな顔してるよ?高校のころはあんなに楽しそう だったのに・・・キョンもたまには一緒に遊んであげなよ」 キョン「・・・まあ時間があればそうするよ」 国木田「さっき暇だって言ってたくせに・・・」 キョン「新しい彼氏ができて、アイツだっていろいろ忙しいだろ?」 それに、もうハルヒにつきあって不思議探しをするような歳でもあるまい。 アイツだっていつまでも子供みたいなことをやってる訳にいかないんだ。 つまりは、そろそろ大人になるべきなんだよ。 たしかにハルヒの力が消えて、みんなが離れ離れになってしまったことは悲しい。 正直言うと、オレはいまだにSOS団のことを夢に見る。あのころの楽しかった思い出の 数々をな。これは断言できるが、高校時代のオレは今の20倍充実した毎日を過ごしていた。 夢から覚めると、オレはいつも深いため息をついてしまう。 まれに泣いてしまうときだってあるんだ。できることなら、オレはあのころに戻って またみんなと不思議探しに興じてみたい。 だが、そんなことは不可能なんだ。 夢を追いかけるのはほどほどにして、普通の生活を考えてみてもいい年頃だ。 なによりオレたちの目と鼻の先には社会という荒波が待ち構えている。 そこに飛び込んでいくには、SOS団団長の肩書きではなにかと不都合が多いだろう。 などと考えていたら、はやくも酒の回った谷口が絡んできやがった。 谷口「心にもないことを言うんじゃねえ。いいか?お前はな、涼宮と付き合うべきだったんだよ」 …やれやれ。今日もコイツの愚痴につきあわねばならんようだ。 谷口「お前たち・・・いや、お前と一緒にいるときの涼宮は本当に楽しそうだった。 中学時代、3年間のほとんどを仏頂面で過ごしてたアイツがだ。アイツの6年間を 見てきたオレが言うんだ。それは間違いない」 キョン「・・・」 谷口「なぜだかわかるか?・・・涼宮はお前のことが好きだったんだよ。 それもベタ惚れだった。好きな男と一緒にいられるなら、退屈な学校生活だって 毎日が楽しいイベントになるだろうよ。お前は涼宮の気持ちに気付いてなかったのか?」 キョン「・・・まあな」 本当のことをいうと、アイツの気持ちにはうすうす気づいてはいた。 しかしオレは次の段階に進むことをためらった。いつまでもSOS団の輪の中に いたかったんだ。しかし朝比奈さんがいなくなり、ハルヒや古泉と離れて しばらくしてからようやく気づいた。・・・始まりがあれば、必ず終わりは来るってことにだ。 SOS団はオレたちの卒業と共に終わってしまったんだ。 そのことに気付いたときにはもう手遅れだった。ハルヒは寂しさを紛らわすためか 大学で彼氏を作り、なんとかキャンパスライフに適応しようとしていた。 つまりオレより先に次の段階に進んだってわけだ。・・・お相手の違いはあるが。 かくいうオレは大学に入って2年あまりが過ぎたっていうのに、いまだに 足を踏み出せないでいた。 だからこんなふうに、谷口や国木田としょっちゅう顔を合わせては 高校時代の話に花を咲かせてたってわけだ。 谷口「いいかぁ、キョン!まだ遅くはねぇ。すぐに涼宮んとこ行って強引に キスのひとつでもしてこい!それから、アイツとの時間を取り戻すんだ」 だめだ。そろそろ下ネタタイムの始まりだ。オレは谷口から目を離し、 国木田に顔を向けた。なにやら携帯を熱心にいじっている。 どうやら彼女とメール中らしい。・・・一度国木田と一緒にいるところを見かけたことがあるが、 かなりかわい子だった。大学の後輩らしい。谷口とオレが無理矢理聞き出したところによると、 いまだに一線は越えられないみたいである。ま、コイツらしいっちゃらしいんだが。 オレの視線にきづいたのか、国木田はおもむろに顔を上げた。 国木田「ん?ああ、ゴメンゴメン。谷口が暴走し始めたみたいだね」 キョン「お前はどうなんだ?彼女とはうまくやってるのか?」 国木田「もちろんだよ。そうそう、この前さぁ・・・」 墓穴を掘ってしまったようだ。国木田は彼女とのノロケを語り始めた。 谷口は谷口でアンダーグラウンドな演説を繰り広げては、定期的にオレに同意を求めてくる。 ……オレは聖徳太子じゃないんだ。二人同時にしゃべらないでくれ。 まあ、どうせ記憶するに値しない内容だということは間違いない。 オレは二人に気付かれないように大きくため息をついた。 ハルヒサイド ハルヒの通う国立大学は都市の中心部からやや離れた場所にあった。 最寄り駅は急行すら止まらないという立地条件の悪さである。 学生たちは大学の計画性のなさと鉄道会社の方針を呪いながらも、 律儀に時間をかけて大学まで通っていた。 ハルヒ「谷川!あんた今日時間ある?」 谷川「唐突にどうしたんだ?今日は夕方からバイトだって言わなかったか?」 ハルヒ「聞いてないわよそんなこと。それよりちょっと話があるんだけど」 谷川「相変わらず人の話を聞かないヤツだな・・・バイト終わってからにしてくれよ」 ハルヒ「しかたないわね・・・」 谷川と呼ばれた男は、どうやらハルヒの新しい彼氏らしい。 それなりに整った顔立ちをしているが、特にこれといった特徴のない男である。 それから数時間後、 谷川「よ、待ったか?」 ハルヒ「遅いわよ!今日もアンタのおごりだからねッ!」 谷川「おいおいカンベンしてくれよ・・・バイトだったんだから仕方ないだろ」 ハルヒ「だーめ!付き合う前に言ったでしょ?待ち合わせに遅れたらおごりだって」 谷川「・・・・・」 男はハルヒの横暴に不満のようである。だが言い争う気力までは持ち合わせていないようだ。 ハルヒたちはなじみのイタメシ屋に入っていった。 谷川「で、話ってなんだ?」 ハルヒ「この前言ったでしょ?大学の裏山にUFOが着陸したって話! あれね、また目撃者が現れたらしいわよ!」 谷川「おいおい、またオカルト話かよ・・・」 ハルヒ「相変わらず反応悪いわねえ。まあいいわ。私ね、目撃者に直接話を聞いたのよ。 そしたらなんと!UFOから宇宙人が出てきたらしいわよ!」 男はうんざりした口調で適当にあいづちを打っていた。どうやらオカルト話には 心底興味がないらしい。 ハルヒの一方的な話は小一時間ほど続き、それが終わると二人は店を出た。 夜は更け、そろそろ終電を気にしなければならない時間となっていた。 しかし二人は駅に向かうどころか、反対方向に向かっていた。 いつのまにか男はハルヒの肩に手を回している。 しばらくして薄明かりを放つ建物群が見え、二人はその中のひとつに消えていった。 谷川「ハルヒ・・・」 男はハルヒの唇を強引にふさぎ、彼女の胸のあたりを乱暴にまさぐり始めた。 ハルヒ「ン・・・あッ・・うん・・・」 しばらく悶えていたハルヒは息苦しくなったのか、男の唇から逃れるように顔を離した。 ハルヒは肩で浅い息を繰り返しながら、男の顔を少しばかり睨んでいる。 ハルヒ「・・ハァ・・ハァ・・・・強引なのはキライって言ったでしょ」 谷川「悪いな。これでも手加減したつもりだぜ?」 そういうと男はハルヒをベッドに押し倒した。 ハルヒ「もう!言ってるそばから!」 谷川「そう怒るなって」 そういうと再びハルヒの口をふさぎ、なれた手つきで服を脱がしにかかる。 男は上着を剥ぎとり、シャツをめくりあげてブラのホックをはずした。 形のいいハルヒの乳房が露わになる。 ハルヒ「ンン・・!・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」 谷川「いつ見てもキレイな胸だな」 男はそういうと、ハルヒの乳房に顔をうずめた。 男は十分に乳房の柔らかさを堪能し、乳首を口に含んで舌の上で転がし始めた。 器用なことに、同時にハルヒのシャツを脱がしにかかる。 ハルヒ「あッ・・・ぅあ・・・」 男になすがままにされているハルヒは、どこか心ここにあらずといった様子だった。 ハルヒの上半身を剥き終わった男はすばやくシャツを脱ぎ、彼女のスカートに手をかけた。 ハルヒは体をよじって少し抵抗するそぶりをみせる。男はハルヒを抱き寄せ、再び口をふさいで 露わとなった乳房を揉みしだいた。 除々にハルヒの抵抗は弱まっていき、やがて完全に男のなすがままとなった。 スカートを脱がし、同時にズボンを脱ぎ捨てた男は、しばらくハルヒの口をふさぎながら 胸の感触を楽しんでいたが、やがてお腹のあたりを なでさするようになり、その手は除々に下へと向かっていった。 男はハルヒのパンツにそっと手を差し入れ、彼女の林泉にふれた。 そこはすでに熱く熟しており、十分に湿りを帯びていた。 男の口腔はハルヒの口から乳房へと目標を変え、その柔らかさをゆっくり味わいながら 右手は彼女の秘部をゆっくりと、ときに強くさすっている。 ハルヒ「ン・・・あんッ!・・・・・だめ・・」 男(そろそろ頃合いか・・・) 男は両手でハルヒを覆う最後の布きれに手をあて、さっと引き下ろした。 自らも生まれたままの姿になると、再びハルヒの林泉に手をあてがう。 男「・・・いいか」 ハルヒ「ちょ、ちょっと待って!・・・アンタ、ゴムはちゃんとつけたでしょうね・・・?」 男「今日は安全日のはずだろ?たまには」 ハルヒ「つけないと殺すわよ。いいからはやくして」 男(チッ・・・やれやれ) 男はしぶしぶハルヒの言葉に従うと、彼女のそこに自分自身ををあてがい、 そのまま一気に腰を押し付けた。 ハルヒ「あッ!」 ハルヒが短く声を発したが、男はかまわず腰を動かして彼女の中の感触を楽しんでいる。 男(これはこれでいい具合だが、一度でいいからナマで味わいたいもんだ) 男が腰を動かすたびにハルヒは喘ぎ声を漏らしている。 最初は大きく動いていた男の腰は、だんだんと小さく小刻みに動きはじめる。 谷川「くぅっ・・・そろそろイクぞ」 ハルヒ「あ・・・ちゃんと外でイッてよ」 谷川「ああ・・・うぁッ・・っく・・・」 男は素早く自分自身を彼女の中から出し、短く声を発すると同時にハルヒに覆いかぶさり、 そしてしばらく動かなかった。二人とも肩で浅い息を繰り返している。 しばらくすると、ハルヒが小さく泣き声を上げはじめた。 声を押し殺してはいるが、それでも細い泣き声が少しずつ漏れ出しているような泣き声であった。 男は特に驚く様子はなく、ベッドに腰をかけると上着からタバコを取り出し、火をつけた。 谷川(またこれだよ・・・一体なにが悲しいんだ・・・?いい加減うんざりだ・・・) 行為が終わったあとは、彼女は例外なく声を押し殺しながら泣きだすのだ。 最初は彼女を傷つけてしまったのではないかと心配し、必死でなぐさめてもいたが だんだん慣れてくるようになると彼女を心配する心は失せていった。 一度声を荒げて泣くのをやめるよう脅したが聞き入れられず、 今はもうあきらめているようだ。 谷川(ふーッ・・・態度は横暴だわ話すことは電波なことばかりだわ、 そろそろコイツには付き合いきれねえな・・・) 男は枕に顔をうずめるハルヒを横目に見ながら、ゆっくりと煙を吐き出した。 谷川「・・・とまあこんな調子だ」 ツレA「もう限界じゃね?」 谷川「そうなんだが、一度でいいからナマでやっときたいんだ。アイツ性格はアレだが、 体はメチャメチャおいしいんだぜ?」 ツレB「おいおい、ノロケはカンベンしてくれよ」 谷川「バカいうな。あんなの好きになる男がいるわけねえだろ? アイツと付き合い出してからのオレの苦労知ってるだろうが」 ツレA「ぶはははは!そりゃいつも聞かされてるからな」 ツレB「そもそもなんで付き合ったんだよ?」 谷川「だからいったろ?アイツの体すっげーいいんだって」 ツレB「それは同感だ。服の上から見てもあのプロポーションにはそそられる」 ツレA「でもナマじゃさせてくんないんだろ?・・・お前って危ない橋渡るの好きだからなあ」 谷川「あの感触味わったら誰だって戻れなくなるって・・・なあ、なんかいい方法ないか?」 ツレB「そうだな・・・こんなのはどうだ?」 そういうとツレBはバッグからなにかを取り出し、男の顔の前に出した。 谷川「なんだこれ・・・錠剤・・・か?おい、これヤバいもんじゃないだろうな?」 ツレB「・・・人聞きの悪いことを言うな。ただの睡眠薬だ」 谷川「なんでお前が持ってるんだ?」 ツレB「精神科に通院してるツレからたまに譲ってもらうんだよ。これを粉末上にしてだな・・・ 落としたい女の酒にそっと入れれば、後は寝るのを待つだけさ。 いやぁ、睡眠薬ってヤツは実にアルコールとよく合うんだ。たとえ少量でも 相乗効果ってヤツでな。朝までグッスリだよ」 谷川「お前そんなことしてたのか・・・少し危ないヤツだとは思ってたが、 いよいよ縄がかかる日も近いな」 ツレB「お、そんなこと言うのか?じゃあこれは見なかったことに」 谷川「おおおっと!誰もいらないなんて言ってねえぞ。オレたち友達だろ?」 ツレB「だってお前、縄はかけられたくないんだろ?」 谷川「彼女をちょこっと眠らせるだけだ。なにも問題ない」 ツレB「しかたねえな・・・今日は特別、友達価格でひとつぶ二千円にしようか」 谷川「ちょ、金とる気かよ!」 ツレB「当たり前だ。仕入れ価格だってあるんだぞ」 谷川「・・・まあいい。ひとつくれ」 ツレB「まいどありぃ!」 ツレA「オレ聞かなかったことにしよ・・・」 次の日の夜、男はハルヒを近くの飲み屋に誘った。 なんの変哲もない、普通のチェーン系の店である。 ハルヒ「なによ、突然呼び出したりして」 谷川「いやぁ、急にお前と会いたくなったんだ」 ハルヒ「うさんくさいわね。なんか企んでるんでしょ」 谷川「おいおい、彼女に会いたいっていうのに理由なんてないだろ?」 ハルヒ「大学でしょっちゅう一緒にいるじゃないの!・・・まあいいわ」 ハルヒは再びUFO目撃談について語り始めた。男は彼女の機嫌を損ねないように 熱心に話を聞くふりをしながら、薬を盛る機会をうかがっていた。 ハルヒ「・・・でね。そのとき、六甲山山頂の牧場にUFOが」 谷川「ふんふん、それで?」 ハルヒ「ふうっ、ちょっと疲れたわね」 ハルヒはそう言うと席を立った。どうやらトイレに行ったようである。 谷川(チャンス到来!!) 男はハルヒのカクテルグラスに粉末にした睡眠薬を入れ、よくかき混ぜた。 ハルヒ「お待たせッ!えーと、話の続きは・・・」 男は薬の効果に気が気ではなく、話の内容などもはや全く聞いていなかった。 ハルヒは話の途中で薬入りのグラスを空け、追加のカクテルを注文した。 男(よし!第一段階は成功だ) ハルヒはさらに話を続けたが、そのうちにだんだんロレツが回らなくなり、 ついには話をやめてテーブルに手をついた。 ハルヒ「あれ・・・おかしいわね・・・今日は・・・そんなに・・・眠く・・・ない・・のに・・」 谷川「おい、大丈夫か?・・・だいぶ疲れてるみたいだな。そろそろ家に帰ったほうがいいぞ」 ハルヒ「そうね・・・そうするわ・・・・」 男は会計を済ませ、ハルヒを抱えながら店を出た。 彼女の肩を支えながら歩いていたが、その方向は駅とは正反対のほうへ進んでいた。 谷川「まさかこんなにうまくいくとは・・・」 ホテルに着くとハルヒをベッドに寝かせ、タバコに火をつけた。 谷川「今日は安全日だよな。・・・コイツの周期はトコトン規則正しく 動いてるからな。性格はねじ曲がってるクセにホント関心するよ。 ・・・ま、これでいよいよオレの念願が果たせるってわけだ」 焦っていたせいか男は半分あたりでタバコの火をもみ消し、ハルヒに近づいていった。 谷川「お休みのところを失礼するよ、子猫ちゃん」 男は素早くハルヒの着衣を脱がした。 谷川「寝てる人間の服を脱がすのは結構難儀なモンだな・・・」 ハルヒは男に剥かれ、生まれたままの姿を晒した。 男は自らも服を脱ぎ捨て、ベッドに横たわる彼女を抱きしめた。 ハルヒ「うん・・・キョン・・・」 谷川(まただ。こいつの寝言はこれで何回目だ?キョン・・・ってなんだ? まさか人の名前・・・じゃないよな。そんなヤツいるわけねえもんな・・・ まあいいか。コイツの寝言を聞くのもこれで最後だ) ハルヒの秘部に手を触れた男は大胆に動かし始める。 小刻みに動かすと彼女は小さく声を上げ、少し奥まで手をのばすと 短く声を上げた。 谷川「そろそろ頃合いだな・・・」 男は自分自身を彼女の秘部にあてがい、ゆっくりとすべり入れた。 谷川「くっ!!これは・・・きく・・・いい・・・」 薄いゴムを隔てた感触とはくらべものにならない快感が男を襲った。 快楽に酔いしれた男は自然と腰の動きが早くなった。 谷川(最高だ・・・コイツの性格さえよければ・・・もったいねえな・・くっ!) 腰の動きに合わせてハルヒも小さく声を上げる。 除々に間隔が短くなっていき、快楽に溺れた男はすぐに果てた。 谷川「うっ!くっぅぅぅうう・・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・・」 どうやら男は、ハルヒとつながったまま果ててしまったようだ。 しばらく肩で息をしていた男は、しばらくしてから再び腰を動かしはじめた。 谷川(こんないいモノを一回で終えてしまうことはない) それから男は再び彼女の中で果て、しばらく休んではまた腰をふって果てるという動作を 力の続く限りくり返した。 やがて男は力尽き、深い眠りに落ちた。 谷川(・・・ン) 数時間経ってから男は目を覚ました。 谷川(あれから何時間経った・・・?) 目を覚ました男はタバコに火をつけた。 谷川(中出しした後始末はつけとかなきゃな・・・アイツに殺されかねん) ハルヒはいまだに目を覚まさないようだった。男は彼女の膣内から精液をふきとり、 一応の痕跡を消した。 外はすっかり明るくなり、普段の朝の喧噪をかもしだしていた。 谷川(今日は朝からゼミがあるからな。そろそろ学校にむかわないと) 男はシャワーを浴びて服を着た。それからまたタバコに火をつけ、吸い終わると 一万円札を一枚テーブルに置き、部屋を後にした。 それからしばらくしてハルヒは目を覚ました。 ハルヒ「・・・うぅ・・ここ、どこなのよ・・・」 ハルヒは携帯のランプが点滅していることに気付くと、すぐにメールを確認した。 ハルヒ「・・・アイツが連れ込んだってわけね。しかも一人で先に帰るなんて・・・」 しばらく携帯を見つめていたハルヒは、やがて顔を枕に埋めて嗚咽をもらしはじめた。 ハルヒ「うう・・・ヒッグ・・・グス・・・ホント・・なにやってんだろ・・・私・・ キョン・・・キョン・・・私・・どうしたらいいのよ・・・」 ハルヒの嗚咽は徐々に大きくなっていき、やがて声を上げて泣きはじめた。 キョンサイド 新学期が始まって2週間ほど経過し、長かった春休みの余韻も除々におさまりかけていた。 午前の授業が終わり、昼休みになるとオレは大学生協の食堂へと向かった。 大学図書館の前を通りかかると中から長門が出てくるのが見えた。 キョン「よっ、相変わらず勉強熱心だな」 長門「私の学部は3回生になっても語学が必修。だから予習していた」 キョン「それはお疲れだったな・・・お前の予習は、一般学生の 試験勉強並みのボリュームに相当するからな」 今の長門は昔に比べてかなり能力が制限されているらしい。通常時はほとんど 一般人と変わらないようだ。とはいえ頭の出来は相変わらずのようだが。 長門「他文化の言語でコミュニケーションをとるためには、 情報伝達に齟齬が発生しない程度に熟知している必要がある」 ネイティブスピーカーになりたいのかお前は?まあ長門が専攻する文化歴史学という ヤツは、対象となる国の言語にある程度精通する必要があるらしい。 ただし、研究者レベルの話ではあるが。 ちなみにオレは法学部だ。・・・今笑ったヤツ、腕立て伏せ50回な。 長門「今から食堂?」 キョン「ああ。お前はどうする?」 長門「・・・一緒に行く」 オレと長門は並んで歩き出した。 長門は高校のころと比べてよく話すようになった。それにいろんな表情も見せるように なっていた。まあ、あくまで本人比の話だから、回りからみればおとなしいというか どこか浮世離れした印象があるらしいが。しかし長門は長門なりに人とのコミュニケーションを 学んだのだろう。大学になって同姓の友達が何人かできたようだ。 いわゆるおとなしいグループってやつだが、なにがあっても動じない彼女は 回りから頼られることが多く、それなりにリーダーシップを発揮しているようだ。 昔を思い返せば、今の長門を見るとほほえましく思う。 …あのときからまるで成長していないオレとはえらい違いだな。 長門とたわいのない話をしているうちに食堂に着いた。 オレたちは席を確保し、それぞれ定食と大盛りカレーを運んできた。 キョン「次の日曜日ヒマなんだ。どっか出かけないか?」 オレの提案に長門は黙ってうなずく。・・・断っておくが、オレたちは別に付き合っている わけではない。 普段バイトをしていない長門は休日になるとたいてい大学の図書館か、そうでなければ自宅に 籠もっている。昔は週末になればSOS団で不思議探しに興じていたわけだが、今はもうやっていない。 思えばあれは長門にとっていい外出の機会だったのだろう。大学に入ってからは あまり外で活動することがないようだ。 というわけで、いい若者が年がら年中屋内で活字を眺め続けるのもいかがなものかと思い、 このオレが機会を見つけては彼女を課外活動に連れ出しているってわけだ。 キョン「どこか行きたいとこあるか?」 長門「・・・二条城」 えらく渋い選択だが、長門が行きたいっていう所ならどこでもかまわない。 オレは即座に同意した。 キョン「ついでに映画でも見ようぜ。今見たいのがあるんだ」 長門「どんな映画?」 彼女は少し微笑みながら聞き返した。 キョン「えっとな・・・ん?」 混雑した食堂の中には見知った顔が何組かいるようだ。 そいつらはオレたちを見つけると、いつもニヤケ顔をしながら意味ありげな視線を送ってくる。 ヤツらは清く正しく交際中の男女をからかっているつもりらしい。・・・やれやれだ。 オレは長門との関係を何度か簡単に説明してやったのだが、ヤツらはどうやら理解できなかったようだ。 最近の大学生の知能低下を嘆きつつ、オレは軽くため息をついた。 そんなオレの様子に長門は首をかしげ、不思議そうな顔で見つめていた。 ハルヒサイド あれから2週間あまりが過ぎた。ハルヒはその間ずっと憂鬱な気分で過ごしていた。 酔いつぶれた自分をホテルに連れ込み、あげくの果てにそのまま放置して帰った彼氏に ずっと憤りを感じていたのだ。 ハルヒは大学生になってから何人かの男と付き合った。しかし彼らはハルヒの内面ではなく、 彼女の体に惹かれただけであった。 ハルヒが彼らと過ごした時間はあまり充実したものとはいえなかった。 誰もがハルヒと真剣に向き合うことはなく、彼女はそれに気づきながらも 寂しさを紛らわすためか、求めに応じて体のつながりを許していた。 一方、ハルヒとの念願を果たした男はその後彼女と距離を置くようになった。 どうやら後腐れなく別れようと企んでいるらしい。 そんな男に用があったのか、その日ハルヒは昼休みに彼を捕まえた。 ハルヒ「・・・久しぶりね」 谷川「あ、ああ。この前は悪かったな。朝からゼミがあったんだ」 ハルヒ「そのことで話があるの」 谷川(・・・まさかバレたんじゃないだろうな) 男がこわごわハルヒの表情を盗み見ると、彼女は心配事でもあるのか、不安げな表情をしていた。 それから自信なさげに口を開いた。 ハルヒ「あれからね・・・・・こないのよ」 谷川「ん、なんのことだ?」 ハルヒ「だからこないの!・・・わかるでしょ?」 ハルヒの突然の言葉に男はかなり動揺した。 谷川(ちょ、ちょっと待て・・・あのときは間違いなく安全日のはずだ。 ・・・そんなはずはない。ただ遅れてるだけだ、動揺するな) 男は内心の動揺を悟られないように平静を装った。 谷川「しっ!声がでかいぞ。・・・ただ遅れてるだけなんじゃないのか?」 ハルヒ「今までこんなこと一回だってなかったのよ!・・・あんたまさかあのとき」 谷川「バカをいうな。お前がそれをいやがるってことはよくわかってるんだ。 ・・・それより、ちゃんと確かめたのか?」 ハルヒ「・・・まだよ」 谷川「じゃあすぐに検査薬買ってこい」 ハルヒ「・・・・・」 ハルヒはしばらく男をにらんでいた。ハルヒの視線から目をそらしていた男は、 2週間前の彼女の寝言をふと思い出して彼女にたずねた。 谷川「おい、キョンってなんのことだ」 ハルヒ「!?・・・知らないわよ」 思いがけない問いに動揺したハルヒは男から視線をそらし、後ろを向いてその場を走り去った。 谷川「やれやれ、最悪の場合も考えておいたほうがいいな」 ハルヒはその足で薬局に向かい検査薬を購入した。その結果は・・・陽性だった。 彼女はその場で男に電話をかけた。 ハルヒ「・・・・・今から時間ある?」 谷川「悪い、これから夜までバイトだ」 ハルヒ「大事な話なの。なんとか時間空けてよ」 谷川「今日はどうしても休めないんだ。・・・バイトが終わってから聞くよ。 北口駅前の広場で待っててくれ」 そういうと男は一方的に電話を切った。 ハルヒ「あ、ねえ!ちょっと!・・・」 ハルヒは電話を持ったまま腕を垂れ、その場でうなだれた。 ハルヒ「なんてことよ・・・私、どうしたらいいの・・・」 男のバイトが終わるまでハルヒは待ち合わせ場所のベンチに座っていた。 男が指定したのは、かつてSOS団で不思議探索を行ったときや、その他のイベントの際に 集合場所として使っていた広場である。 ハルヒにとってはイヤというほど見慣れた場所だった。 待ち合わせの時間にはまだ4時間ほど早かった。 彼女はなにをするでもなく、ただぼんやりと高校時代の楽しかった日々をくりかえし 思い返していた。 今となってはもう戻ることのできない、あの充実した日々のことを。 不意に涙がこぼれそうになったが、彼女は持ち前の気丈さでなんとか耐えた。 やがて時間となり男が現れた。 谷川「待たせたな。・・・結果は?」 ハルヒ「陽性・・・みたい」 ハルヒが重い口を開くと、男は大きなため息をついた。 谷川「まだ妊娠と決まったわけじゃない。近いうちに病院へ行って ちゃんとした検査を受けろ」 男は、厄介なことをしてくれたとでも言いたげな様子である。 ハルヒ「・・・あんた、なんでそんなに落ち着いてられるのよ。私が妊娠したかも しれないってのに。私のこと心配じゃないの?」 谷川「心配してるさ。でもオレがここで慌てふためいたところで 事態が変わるわけじゃないだろ」 男は淡々とした口調で言った。 谷川「それはそうとな・・・」 ハルヒ「なによ?」 谷川「キョンって男、お前が高校のときの彼氏なんだって?」 突然キョンの名前を出されたハルヒはまた動揺した。 谷川「ヘンな名前のヤツだな。まさか本名じゃないだろ?」 ハルヒ「関係ないでしょ!なんであんたがそんなこと知ってんのよ!」 谷川「元北高のヤツならみんな知ってるみたいぜ?北高出身のツレに聞いたよ。 とっても仲がよかったみたいだな。今でもたまに会ったりしてるのか?」 男の言い草に驚いたハルヒだが、なんとか動揺を押し隠しながら口を開いた。 ハルヒ「・・・なにが言いたいの?」 谷川「お前が妊娠してるとしてもな、その、原因が気になるんだ。 その男はどうなんだ?最近してたのか?」 ハルヒは男の冷淡な物の言いかたに再び驚かされた。 ハルヒ「あんた・・・私がそんなことするとでも」 谷川「お前のな、キョンって寝言はよく聞かされてたんだよ」 ひときわ大きい声で言い放った男の言葉にハルヒは絶句した。 谷川「それにお前、意味もなく泣き出したりするよな。もしかしてそいつのことを 考えてたんじゃないのか?」 男の言葉にハルヒは返す言葉がなかった。自分が今だにキョンのことを忘れられずにいるということを 男から指摘されて動揺したからだ。そんなことは彼女自身自覚してはいなかった。特に寝言の話は初耳である。 ハルヒの沈黙を肯定と受け取ったのか、男はさらに言葉を重ねた。 谷川「お前に限ってそういうことはないと信じてたんだけどな・・・残念だよ」 ハルヒ「勝手なこと言わないで!・・・私あんたと付き合ってからは、ずっとあんただけよ」 谷川「どうだかな・・・これもいい機会だ。いい加減お前には付き合いきれないと思ってたんだ。 そろそろ終わりにしよう。オカルト話の続きはそのキョンってヤツとしてくれよ」 ハルヒ「いきなりなに言い出すのよ・・・まさか逃げる気なの?」 谷川「人聞きの悪いこと言わないでくれ。性格の合わないお前とはもう付き合えないって言いたいだけだ。 妊娠は・・・ま、たしかにオレが原因の可能性もある。その始末はつけるさ。」 先ほどよりもさらに冷淡な物言いだった。ハルヒは男の表情を見てわずかに寒気を感じた。 谷川「病院へ行くんだ。もし妊娠が本当だったら、オレも中絶の費用を負担する」 ひとつの命を消してしまおうというのに、それがさも当然であるかのように男は言った。 ハルヒ「あんた・・・・」 ハルヒの声は震えていた。どちらかといえば人情家の彼女にとって男の冷酷さはこたえた。 谷川「今日はもう帰るよ。手遅れにならないうちにはやく病院行けよ。 結果がわかったらすぐに連絡してくれ」 ハルヒ「・・・・・」 そう言うと男は足早に去っていった。 ハルヒは悔しさのあまり体を震わせながら涙をこぼしていた。 もはや彼女の気丈さをもってしても、あふれる涙を止めることはできなかった。 キョンサイド 5月の連休を数日後にひかえたある日、オレは図書館の前で長門が出てくるのを待っていた。 時計の針は12時を指そうとしているところだ。 空は晴れ渡り、道ゆく学生たちは早くも連休に心を馳せているのか、妙に浮かれているようだ。 しばらくすると入り口から長門が出てきた。 彼女はオレに気づくと早足に駆け寄ってきた。 長門「待っててくれてたの?」 キョン「勉強の邪魔しちゃ悪いと思ってな。一緒に昼飯どうだ?」 彼女は黙ってうなずいた。とりとめない会話をしながら二人で食堂まで歩く。 食堂の中は当然のごとく混雑していたが、いつものように二人分の席を確保できた。 キョン「もうすぐ連休だな」 長門「・・・なにか予定ある?」 キョン「連休は毎年親戚の家に行くことになってるんだ」 長門「・・・そう」 少し残念そうな顔でうつむく長門。 キョン「・・・前半だけな。あとはヒマなんだ。よかったらまたどっか行かないか?」 そう言うと、長門は顔を上げてうなずいた。その表情は微笑をたたえている。 オレは長門の笑顔を見るとなぜかうれしくなってしまう。 長門の顔を眺めていると、彼女は少し不思議そうな顔をして見つめ返してきた。 二人の視線が一瞬ぶつかり合い、オレは照れながら視線を外した。 長門「・・・また京都に行きたい」 キョン「お前ホント好きなんだな。今度はどのあたりだ?」 オレが質問すると、長門はカバンからパンフレットのような冊子を取り出して 説明をはじめた。 長門「まずはここ。1000年前に建てられたこの建物は・・・」 長門がめずらしく雄弁に語る姿を見つめながらオレはゆっくりと食後のお茶をすすった。 …断っておくが、これはあくまで課外活動の一環である。 連休中ずっと図書館にこもりきりじゃ味気ないだろうしな。たまの屋外での経験も長門の勉強にとって 必要に違いない。書を捨てよ、町に出ようってとこだな。 それから数日が過ぎ、オレは親戚の家で貴重な連休の前半を費消した。 それが終わると、いよいよ長門との課外活動の日となった。 今日の天候は快晴、これほど課外活動にふさわしい日はないだろう。 待ち合わせ時間の30分前に北口駅前広場に着くと、すでに時計台の下に長門の姿があった。 彼女はオレに気づくと微笑みながら手を上げ、こっちに歩いてきた。 今日の長門は白いブラウスにスカート、青いカーディガンを羽織っている。 見た目の華やかさよりも素朴なさわやかさを重視したファッションは実に長門らしい。 手を振りながら微笑むその姿は、まるで町に現れた春の妖精のようだ。 キョン「待ったか?」 オレがそう言うと長門はわずかに首を振った。 それにしても、今日の長門はいつにましてキレイだな・・・。 透き通るような白い肌、うす紅に色づいた唇、そして まぶたにはわずかにアイシャドーを入れているようだ。 …不覚にもしばし見とれてしまった。突っ立ったままボーっとしているオレに 長門は声をかけた。 長門「・・・いこ」 キョン「あ、ああ。すまん」 オレは長門と並んで駅まで歩き始めた。 本日の予定は午前と午後の二段構成である。 午前中は市内で長門ご推薦の寺院を巡り、午後から嵐山のハイキングコースへ向かうことになっている。 混雑する電車に乗り、オレたちは一路京都へと向かった。 午前中は長門の案内により、バスを乗り継いで寺院を巡った。 長門が選んだスポットはあまり有名ではないらしく、GWとはいえ混雑はしていなかった。 まあ移動手段の混雑は避けられなかったが。 長門曰く、それらは歴史的価値のあるものばかりだったらしい。 しかし今日のオレは、さなぎからかえったばかりの春の妖精に目が釘付けだったため 隠れた歴史的遺物の価値を認識することはできなかった。 オレは気がつくと長門を見つめており、彼女はそんなオレの視線に笑みを返してくれた。 11時半を過ぎたあたりであまり混んでいない喫茶店に目をつけ、軽い昼食を済ませた。 その後もしばらく店内で休み、午後からの英気を養った。 それからオレたちは、嵐山のハイキングコースへ向かう電車に乗った。 キョン「さすがにちょっと冷えるな・・・長門、寒くないか?」 長門「へいき」 電車内を見渡すと家族連れや老人が多く、オレたちみたいなカップルは少数派のようだ。 …あくまで課外活動の本分は忘れていないぞ。 オレは窓から外を眺める長門の横顔を見つめていた。 今日の彼女は儚げというかおぼろげというか、なにやら引き込まれそうな美しさである。 長門「・・・どうしたの?」 しまった。長門に気づかれたようだ。 キョン「ん、いや、なんでもない」 長門「今日のあなたはずっと私を見てる」 長門に指摘されてドキリとした。彼女はまるでお返しだといわんばかりに、 じっとオレの顔を見つめてくる。 適当にごまかそうかと思ったが、説得力のある理由が思いつかない。 しかたない。オレは素直に本心を白状することにした。 キョン「その・・・なんだ、今日のお前は・・・いつもよりキレイだなって思ってさ」 長門「・・・ホント?」 キョン「ああ。お前が化粧をしている姿を見るのは初めてだからな。それにその服 よく似合ってるぞ」 上手い言葉が浮かばなかったが、オレは素直に本心を言った。こういうときに気の利いたセリフが パッとひねりだせるヤツがうらやましい。 そんなオレの葛藤をよそに、長門はなにやらうつむいている。少し顔が赤いのは気のせいか? 長門「その・・ありがとう。化粧には以前から興味を持っていた。 ・・・この服は友達が選んでくれた」 キョン「そうか。友達って、図書館でよく一緒にいるコたちだろ?一緒に出かけたりするのか?」 長門「たまに」 キョン「長門・・・お前変わったよな」 長門「統合情報思念体とのアクセスは以前に比べて格段に減った。今の私は一般人とほとんど同じ」 キョン「そういう意味じゃないんだ・・・なんというか、昔の長門もよかったが、 今の長門はもっといい」 長門「よくわからない」 キョン「スマン。うまく言語化できない・・・ってヤツだ」 オレは昔長門に言われた言葉を、口調もそのまま真似して返してやった。 長門「・・・真似しないで」 そういうと長門は少しふくれっつらをした・・・ように見えた。 こんな表情もできるようになったんだな。そんな長門を見て、オレは声を殺して笑った。 彼女は顔をプイと横に向け、再び外の景色へと視線を移している。 オレは長門の魅力に引き込まれるように、再び彼女を見つめていた。 駅に着くとさっそくハイキングコースを歩きはじめた。 山腹にあるロープウェイから展望台まで上がることができる。 展望台からは市内を一望でき、それはそれはすばらしい景観らしい。 オレは長門の手を引きながらハイキングコースを歩き続けた。 …女性をエスコートするのは男の役目だからな。うん。 ロープウェイで展望台まで上がると、目の前には壮大なパノラマが広がっていた。 あたりには歓声を上げている観光客もいる。 キョン「これはいい眺めだな。ホント来てよかったよ。 ホラ、あの辺からここまで上がってきたんだぜ」 そういうとオレは、ふもとの駅のあたりを指さした。 キョン「あのへんは午前中に回ったトコだな。あそこからバスに乗って あっちの方に・・・」 長門はオレの指さす方向をじっと眺めていた。いかんいかん、年甲斐もなく はしゃいでしまったようだ。 長門「キョン・・・くん」 不意に長門が口を開いた。彼女が二人称以外の呼び方でオレを呼ぶのはめずらしい。 キョン「ん、どうした?」 長門のほうへ振り向くと、目の前まで長門の顔が近づいてきた。これは・・・ 彼女は背を伸ばすようにして、オレと唇を重ねてきた。 柑橘系のいい匂いがオレの鼻腔をくすぐる。わずかに香水をつけているようだ。 数秒の間が流れ、彼女は唇を離した。一体何が起きたのか、オレの低スペックな頭は まだ把握しきれていない。 キョン「・・・・・長門?」 長門「驚いた?」 少しはにかみながら長門が言った。 長門「これも以前から興味のあったことのひとつ。驚かせてごめん」 そういうと彼女はオレから背を向け、天然のパノラマ景観に目をやった。 …今やオレの心拍数は限界近くまで上がっていた。まさか長門がオレに キスをするなんて・・・ キスされた瞬間から、頭がずっと長門の名前を連呼している。今は彼女のことしか考えられないようだ。 オレは自らを落ち着かせるため、昔のことを思い返していた。 初めて長門と合ったときは、ロクに会話も成立しない彼女のことはあまり印象に残らなかった。 マンションに呼ばれて延々と電波話をされたときには正直頭がどうかしていると思った。 しかしその後長門の正体がわかってからは、何度か命を助けられたり、日常のように起こっていた トラブルの解決に毎回尽力してくれたりと感謝してもしきれないぐらいの恩を受けた。 頼ってばかりではだめだと思いつつも、最終的にはいつも長門を頼りにしていた。 冷静で表情を変えることはなく、部室にいても寡黙でずっと本を読んでいた長門。 そんな長門は大学生になってから大きく変わった。 自ら友達を作り、笑顔を見せるようになった。たわいのない会話もなんとかできるようになり、 自分の意見をはっきりと言えるようになった。 それから、化粧をして、おしゃれをするようになった。とてもキレイになった・・・ 今ならわかる。今日オレがずっと長門に感じていたのは、きっと恋心に違いない。 高校を卒業してからずっとくすぶり続けていたオレには今の長門がとてもまぶしく見える。 …オレもそろそろ次のステップへ足を踏み出してもいい頃かな。 長門となら、こんなオレでも踏み出せるのかな・・・ 気づいたときには、オレは長門の手を強く握っていた。 彼女は驚いて振り返る。オレは振り向いた長門の両肩を引き寄せ、 強引に唇を重ねていた。 柑橘系の香りと、髪から香るシャンプーの匂いがまじりあってオレの鼻腔をくすぐる。 長門の唇は甘く、小さく、そしてとても柔らかかった。 オレは長門の肩に置いた手を背に回し、ゆっくりと彼女を抱きしめた。 オレの抱擁に答えてくれたのか、長門もその細い腕をオレの背に回した。 永遠とも思える十数秒が過ぎてから、オレは唇を離して長門を見た。 彼女の白い頬は桜色に染まり、息を止めていたせいか少し肩を上下させていた。 上目づかいでオレの視線を受けている長門の表情がオレの動悸をさらに早める。 …ああ、今すぐ長門が欲しい。彼女のすべてを愛したい。 回りの観光客はそんなオレたちの様子をうかがっているようだった。 ロコツに視線を送ってくる者はいなかったが、 多くの人が視界の端でオレと長門のことをとらえているらしい。 彼らの好奇心が痛いほど伝わってくる。 これはしまった。オレは恥ずかしさのあまり、長門の手を掴んで足早にそこを後にした。 長門はうつむきながらオレの少し後ろを歩いている。 …彼女は今どんな顔をしているのだろうか。オレたちは黙って歩き続けた。 キョン「驚いたか?」 しばらくしてオレのほうから沈黙を破った。 長門は黙ったままコクコクと首を縦に振っている。 キョン「さっきのお返しだ」 長門「・・・もうッ」 長門は満面の笑みでオレを見上げてきた。・・・そうだ。オレはこの笑顔が大好きなんだ。 いつまでもこの顔を見ていたい。 ふと空を見上げると、太陽はややその角度を下げはじめていた。まわりには登山よりも 下山する人の流れのほうが大きくなってきたようだ。 キョン「そろそろ帰るか」 長門「・・・(コク)」 キョン「また来ような」 長門「・・・(コク)」 キョン「今日は楽しかったな」 長門「・・・とっても」 オレは長門の手を握り、二人仲良く並んで帰途についた。 ハルヒサイド あれからハルヒは大学を休みがちになった。 家でボーっとしているか、近くをただブラブラと歩き回ってヒマをつぶしていた。 男からは毎日のように着信が入ったが彼女はそれを無視していた。 男はハルヒのことが心配なのではなく、ただ検査の結果が知りたいだけだろう。 GWを数日後に控えたある日、彼女はこっそりと産婦人科に行った。 検査を受けた結果、妊娠約一ヶ月であることが判明した。 ハルヒはあまり驚かなかった。彼女は今自分に起きている事態を どこか他人事のように感じていたのだ。 男が言うとおり、このまま中絶することになるのだろうか。 その夜、ハルヒは夢を見た。 夢の中で小さな子供が二人出てきた。キョンの妹よりもずっと幼い子だった。 二人は泣いていた。二人が泣くとなぜかハルヒも悲しくなるので、 彼女は二人をなぐさめてやった。 二人をよく見ると女の子と男の子だった。顔はよく見えなかったが、 雰囲気からするとどうやら兄弟のようだ。 それからハルヒは二人と一緒に遊んだ。彼女は久しぶりに充実感を味わった。 まるでSOS団の活動をしているときみたいだった。 しばらくするとまた二人は泣き始めた。ハルヒがどれだけなぐさめても泣き止まなかった。 困った彼女は二人に泣いている理由をたずねた。 二人は泣き声を上げながら途切れ途切れに話すのでよく聞き取れなかったが、 どうやら「消えたくない」と言っているようだった。 その言葉を聞いてハルヒはとても悲しくなった。涙がどんどんあふれ出した。 彼女は涙を止めることができなかったので、二人を抱きしめながら一緒に泣いた。 そこでハルヒは夢から覚めた。まだ朝にはなっていないようで、窓の外は暗かった。 不意に頬の上をなにか流れ落ちる感触があった。ハルヒが頬をさわってみると濡れていた。 枕をさわってみるとそこも濡れていた。ハルヒはまた悲しさがこみ上げてきて、 枕に顔をうずめて泣いた。 それから、またいつのまにか眠ってしまったらしく、目が覚めると昼すぎになっていた。 彼女はもう泣いてはいなかった。かわりにひとつの決意ができていた。 顔を洗って頭を覚醒させると、ハルヒは男に電話をかけた。 谷川「もしもし・・・どうした?検査の結果はどうなんだ?」 ハルヒ「・・・妊娠一ヶ月だって」 谷川「やっぱりそうか・・・連休前ってのが不幸中の幸いだったかもしれんな。 お前、連休中に中絶手術を」 ハルヒ「しないわ」 谷川「え?・・・なんだって?」 ハルヒ「私、中絶はしない」 谷川「お、お前・・・気がヘンにでもなったのか!?今から学校に」 男がなにか言いかけていたようだが、ハルヒはかまわず電話を切った。 谷川(クソ!切りやがった・・・やっかいなことになっちまったな。 手遅れにならないうちに早いとこ中絶させないと・・・) ハルヒはその晩、両親に妊娠した事実を告げた。それから中絶したくないということも告げた。 当然ながら両親は大反対だった。世間一般的には、大学在学中に妊娠して どこの馬とも知れない男の子供を産むなどあってはならないことだ。 両親が反対するのももっともだといえる。 しかしハルヒは納得しなかった。自分の体に宿った小さな命を そんな理由だけで消してしまうのは忍びなかった。 両親は何度もハルヒを説得したが、彼女はその言葉を聞き入れることはなかった。 ハルヒの父親は怒鳴り、母親はなだめながら粘り強く説得したが、 彼女が考えを改めることはなかった。 ハルヒは子供を産んだところで男とヨリを戻せるなんて考えてはいなかったし、 そんなことを望んでもいなかった。また、子供を認知させることで 扶養費を出させようというつもりもなかった。 彼女は出産の後、大学をやめて働きながら子供を育てるつもりでいた。 ハルヒは産婦人科に足しげく通い、出産に向けて現段階で注意することや その心構えを教わったりしていた。 彼女はすぐに産婦人科の院長と仲良くなり、事細かにアドバイスをしてもらった。 両親や男が反対している以上、医者としては立場的に出産を止めるよう 忠告しなければならなかったが、院長は彼女の熱意に打たれてしまい はやくも説得をあきらめていた。 それからひっきりなしに男から連絡が入るようになり、ハルヒは仕方なく 連休中のある日の夕方に男と待ち合わせた。場所はいつもの所だった。 谷川「待たせたな。どっかすいてるトコにでも」 ハルヒ「ここでいいわ。何の用よ?」 谷川「お前・・・わかってるだろ?妊娠のことだ」 ハルヒ「なんでアンタが口挟むのよ。私が妊娠したのは アンタが原因とは限らないんでしょ?」 谷川「・・・すまん、実はあのときオレ、避妊しなかったんだ。 あの日は安全日だったろ?だから大丈夫だと思って」 ハルヒ「そんなことだろうと思ってたわ。最低なヤツね。とっとと 私の前から消えてちょうだい」 谷川「そうはいかないんだ。・・・もうしばらくすれば中絶もできなくなる。 そうなればオレは責任をとることができなくなってしまう」 ハルヒ「アンタに責任をとってもらおうなんて思ってないわ。この子は私だけで育てるの」 谷川「バカなことを言うな。一人で育てられるわけがないだろう。大学はどうするんだ?」 ハルヒ「・・・やめるわ。特に未練もないし」 谷川「ハルヒ・・・わかってくれ。お前は一人で育てられる気でいるが、そううまくいくはずがないんだ。 お前が子供を産めば、オレにだって法的な責任が課せられる」 ハルヒ「・・・どこまでも勝手なヤツね。もう顔を見せないでちょうだい」 そう言うとハルヒは足早にその場を去った。 男はハルヒを説得する言葉がみつからず、立ちつくしていた。 ハルヒ「なんか言うだけ言ったらせいせいしたわ。なんであんなヤツと付き合ったり したんだろ?私ってホントバカね」 彼女は家に向かって歩きだした。連休中とはいえ時間帯のせいか、駅周辺には 人通りが少なかった。 曲がり角のところで、急に出てきた人影とぶつかりそうになった。 ハルヒはさっと身をかわし、人影を振り返った。 「あ、すいません・・・ってハルヒ!ハルヒじゃないか」 その人影はキョンだった。となりには長門も立っている。 二人は手をつなぎ、仲良く並んで歩いていたようだった。 ハルヒ「あ、ああキョン。それに有希も・・・ひさしぶりじゃない!」 キョン「元気してたか?最近は全然会ってなかったから気になってたんだ」 ハルヒ「う、うん・・・」 そういうとハルヒはうつむいてしまった。 ハルヒ(キョンと有希が二人で仲良く歩いてるなんて・・・まさか二人は付き合ってるの? ・・・やだ、私嫉妬してる。せっかく二人が楽しそうにしてるんだから、私も笑わなきゃ) ハルヒは顔を上げて笑おうとしたが、なぜか笑顔が作れなかった。 何度やっても顔がひきつってしまう。 そんな彼女の様子に不審を抱いたのか、キョンが声をかけた。 キョン「おい、急に黙ったりしてどうしたんだ?具合でも悪いのか?」 ハルヒ「・・・んでもない」 キョン「なんだって?」 ハルヒ「なんでもないったら!」 そう叫ぶとハルヒは一目散に駆け出した。 走りに走って川沿いの公園までくると、しばらく息をいれてからベンチに腰掛けた。 ハルヒ(ヘンに思われただろな・・・ひさしぶりに会ったってのにいきなり逃げ出したりして) 夕方の公園は人通りもまばらであった。ハルヒはひざに手を置いてじっと川辺を見ている。 ハルヒ(私服の有希、すごくかわいかったな。あの二人いつの間にあんなに仲良くなってたのかしら。 ・・・本当にお似合いのカップルって感じだったわ。ちゃんと付き合ってるのかな? キョンがいい加減なことしてるんだったらただじゃおかないわよ) 夕日ははるか西の空に沈み、あたりは薄暗くなっていた。それに合わせてか、 ハルヒの気分もだんだんと沈んでくる。 ハルヒ(もし、もし私がキョンと同じ大学だったら・・・今頃キョンと並んで歩いてたのは 私だったのかな・・・キョン、いつも文句ばっかり言ってたけど、付き合いだしたら もっとやさしくしてくれたのかな・・・) ハルヒは疲れていた。数日前に妊娠が発覚してからずっと気を張り続けていたのだ。 彼女は自分に宿った新しい命を守るため、ひとりで戦い続けていた。 おなかの子を守るという意味では、彼女の味方となる人物はほとんどいなかったといえる。 いくら気丈なハルヒとはいえ、そんな状態に長時間耐えられるほど強くはなかった。 今日たまたまキョンと長門が仲良く歩いているところに出くわしたことで、 張り続けていた緊張の糸はプツリと切れてしまった。 ハルヒ(なんだか・・・もうどうでもよくなってきちゃった・・・) ハルヒは両足をかかえ、頭をひざにつけて嗚咽をもらしはじめた。 キョンサイド 京都での課外活動を終えたオレたちは混雑する電車に乗り、地元へと帰ってきた。 課外活動はたぶん今日でおしまいだ。次からはその名称と趣旨が変わっていることだろう。 オレが長門の顔を見ると、長門もオレの顔を見上げて笑顔で応えてくれる。 この笑顔をもっと見ていたい。今のオレの願いはそれだけだ。 キョン「今日の活動ははこのへんで終わりだな・・・ なんだかもったいない気もするけど」 長門「・・・おなかすいてない?」 長門がオレを見上げて聞いてきた。 キョン「そういや昼飯あんまり食べてなかったな。腹が減っておなかと背中がくっつきそうだよ」 オレの冗談に長門は微笑を返してくれた。 長門「・・・私の家に来る?」 それを聞いてオレの心臓が大きく波打った。長門に聞こえるのではないかというぐらい大きな音を 叩き出している。・・・いかんいかん、落ち着けオレ。やましいことを考えるんじゃない。 長門「一緒に夕飯食べよ?」 キョン「あ、ああ。いくいく、絶対行くよ。楽しみだなあ!」 オレがわざとらしく大きな声で言い、内心の動揺をかき消した。 そんなオレを長門は不思議そうな顔で見つめる。 まずい、動揺が悟られてしまう・・・オレは長門の手を引いて歩きはじめた。 こういうときは誤魔化すに限る。 しかし動揺していたせいか、曲がり角のところで人が飛び出してくるのに気づかなかった。 「あ、すいません」 ぶつかりそうになり反射的に謝るオレ。どうやら向こうがオレをよけてくれたらしい。 その人影に目をやると、なんとそこにはハルヒが立っていた。 キョン「ハルヒ!ハルヒじゃないか」 ハルヒ「あ、ああキョン。それに有希も・・・ひさしぶりじゃない!」 ハルヒと会うのは本当にひさしぶりだ。その面影は高校の頃とまったく変わっちゃいない。 キョン「元気してたか?最近は全然会ってなかったから気になってたんだ」 ハルヒ「う、うん・・・」 なぜかハルヒはうつむいてしまった。・・・今日はなんか元気がないみたいだな。 しばらくハルヒはうつむいたまま動かなかった。 キョン「おい、急に黙ったりしてどうしたんだ?具合でも悪いのか?」 ハルヒ「・・・んでもない」 キョン「なんだって?」 ハルヒ「なんでもないったら!」 そう叫ぶとハルヒは一目散に駆け出した。一体どうしたんだ!? オレはハルヒを追いかけようとしたが、ふと長門のことが頭をよぎり、断念した。 …ハルヒの俊足に追いつけるはずもないしな。 長門「落ち込んでいるようだった」 キョン「そう見えたのか?たしかにちょっと元気なさそうだったが・・・」 あれだけの俊足を披露したぐらいだから体調が悪いってわけでもなさそうだ。 キョン「ムシの居所が悪かったんだろ。なんだか怒ってたみたいだしな。後で電話してみるよ」 そういうとオレたちは再び歩き始めた。北口駅から長門のマンションまで 少し歩かなければいけない。 マンションにつくころには日はすっかり沈んでしまっていた。 それから長門の部屋に入って一息ついた。なんたって今日はイベントが目白押しだったからな。 長門がいれてくれたお茶を飲み、しばらく二人でくつろいでいた。 長門「・・・そろそろごはん作るね」 キョン「オレも手伝うよ」 長門「いい。ここで待ってて」 そういうと長門はキッチンに向かった。 オレはやることがなかったので、居間の隅っこに置いてあるテレビの電源を入れた。 長門が大学に入ってから買ったテレビらしい。あまり使うことがないのか、 リモコンは新品同様にキレイだった。 オレはテレビをつけると、Uターンラッシュだの休み中に起きた事故だのという ニュースの数々をボーっとしながら聞き流していた。 台所からは長門が小刻みに包丁を使う音が聞こえてくる。 …なんだかこういうの悪くないな。もしオレたちが結婚したら 毎日こんな感じかな?一緒にメシ食って風呂入って、その後は・・・ いかんいかん!なぜかさっきから考えがやましい方向へいってしまう。 オレは両手でほほをはたき、妄想を頭から追い出した。 そのときオレの携帯に電話がかかってきた。 相手は・・・国木田のようだ。 国木田「もしもし、キョン?」 キョン「ああ、ひさしぶりだな。なんか用か?」 国木田「ちょっと気になることがあってね・・・ キョンに言おうかどうか迷ってたんだけど」 キョン「どうしたんだ?」 国木田「最近涼宮さんが大学に来なくなってたんだ。4月の半ばぐらいからだったと思う。 普段は授業をサボるような人じゃないからずっと気になってたんだよ」 キョン「それ本当か?」 国木田「うん」 体調不良というわけじゃなさそうだな。オレと長門は さっきハルヒが全力疾走する場面を見ている。 あのハルヒに限って登校拒否ということもないだろうし。 国木田「実はね・・・彼女、どうやら妊娠してるみたいなんだ」 オレは耳を疑った。ハルヒが妊娠した?ウソだろ? キョン「・・・あまり笑えない冗談だな。連休でヒマなのはわかるが もうちょっとマシなこと考えろよ」 国木田「ウソじゃないよ。涼宮さんと仲のいい子がそう言ってたし、 それにさっき涼宮さんが駅前で彼氏と言い争ってたトコを みたっていう友達が電話くれたんだ。中絶するとかしないとかで ケンカしてたみたいだよ」 さっきハルヒが駅前にいたのはそういうことだったか・・・? キョン「・・・もっと詳しく話してくれ」 国木田「僕が知ってるのはこのくらいだよ。彼女から直接聞いたほうがいいんじゃないの? 彼氏とはなんだかうまくいってないみたいだし、キョンが力になってあげなよ」 キョン「わかった。そうする」 国木田「それじゃあね」 そう言うと国木田から電話を切った。 長門「・・・どうしたの?」 キッチンのほうを見ると長門が心配そうにオレを見つめている。 キョン「ん、なんでもない・・・全然たいしたことじゃないんだ」 口ではそういいながら、頭はハルヒのことで一杯だった。 あのハルヒが妊娠?なぜ?相手は誰?中絶って一体どういうことなんだ? オレはここでなにをしているんだ・・・? オレはしばらく呆然と立ち尽くしていたらしい。長門がますます心配そうな顔で オレを覗き込んでくる。 長門「ホントのこと教えて・・・一体なにがあったの?」 長門の言葉で我に返ったオレは、彼女にハルヒが妊娠したということを告げた。 そのことでハルヒが苦しんでいるということも付け加えて。 長門「子供を身ごもるということは祝福すべきこと。どうして苦しまなければいけないの?」 長門は不思議そうな顔で聞いてくる。 こういうことについては長門も疎いみたいだな。 キョン「・・・祝福されない妊娠だってあるんだよ。親に望まれずに子供が生まれるなんて そうめずらしいことじゃない」 長門「父親・・・彼女の相手はなにをしているの?」 キョン「どうやら出産することに反対らしい。・・・ハルヒは産みたがっているらしいが。 男に反対されてどうやら一人で苦しんでいるみたいなんだ」 …ハルヒが他の男の子供を欲しがるなんて、正直そんな話は聞きたくなかった。 長門「子供を守るのは父親の役目なのに、なぜ出産に反対するの?」 なぜかオレは、今の長門の言葉にカッとなってしまった。 キョン「・・・そんなことまでオレが知るかよ!」 オレは無意識に声を荒げていた。気づいたときには、 長門がややおびえた表情でオレをみつめていた。 長門「・・・ごめんなさい」 長門は暗い表情でうつむいていた。しまった!オレは彼女になんてことを・・・ キョン「スマン、ちょっと混乱しちまって・・・お前に当たるつもりじゃなかったんだ」 長門「・・・いい」 キョン「すまない・・・突然のことでちょっと驚いただけなんだ。 あのハルヒが妊娠だなんて、考えもしなかった」 しばらくの間重い沈黙が訪れた。再びオレの頭が混乱に包まれる。 …高校三年間、ハルヒのそばにはいつもオレがいて、それが当たり前になっていた。 オレは心のどこかで、まだハルヒのそばに戻れると思っていたのかもしれない。 ハルヒの妊娠の話を聞いてショックを受けているのは、その望みが永遠に断たれてしまったからなのか? オレは今の今までずっとハルヒに未練を持ち続けたっていうのか? …いいやそんなはずはない。オレは認めないぞ。オレにはもう長門がいる。 ハルヒのことはもう断ち切ったはずだ。 オレが混乱しているのは、考えもしなかったハルヒの妊娠という事実に 少し肝を抜かれただけなんだ。ただそれだけのことだ。 この重い沈黙を破ったのは長門の言葉だった。 長門「・・・様子を見に行かなくていいの?」 キョン「えっ・・・?」 長門「さっき彼女と会ったとき、すごく落ち込んでいるようだった。 ・・・今、涼宮ハルヒは一人で苦しんでいる・・・でしょ・・・?」 長門はやや顔を背けながら淡々と語った。オレからその表情をうかがうことはできない。 キョン「・・・いまさらオレの出る幕じゃないさ」 長門「・・・このままでいいの?」 キョン「ああ。こういうことは他人が口出しすることじゃない」 オレはまるで自分に納得させるかのようにつぶやいた。 キョン「・・・それより長門、飯はまだかな? 腹が減って死にそうなんだ。やっぱりオレも手伝うよ」 オレはやや強引に長門の背中を押し、二人でキッチンに向かった。 すでに料理はほとんど完成していたらしく、キッチンにはやたらいい匂いが漂っている。 メニューの内容は、 ポークカツレツ コーンポタージュ 大根サラダ 冷製トマトパスタ となかなか豪勢なものだった。これだけのご馳走を作る材料を家にそろえていたということは、 近々お客さんでも来る予定があったのだろうか。 オレは長門を手伝い、手早く配膳を終えた。 キョン「いただきます」 今日はさんざん歩き回って相当エネルギーを消費してしまっている。 目の前のご馳走でその補給ができるなんてオレは幸せ者だ。 キョン「・・・うん、うまい!長門がこんなに料理上手だなんて知らなかったよ。 これはうますぎだな。いつ覚えたんだ?」 長門「・・・レシピの本を読んだり、友達に教えてもらったりした」 キョン「そうか、お前の友達も料理上手なんだな。・・・しかし、今日の締めくくりに こんなうまい飯が食えるなんて思わなかったよ」 長門はあまり食欲がないのか、ほとんど料理に手をつけずにいた。 オレの真向かいに座っている彼女は食事を始めてからずっとうつむき加減で、どこか暗い表情をしていた。 …さっきまでの笑顔はどこにいってしまったんだ? キョン「長門・・・どうしたんだ?ほとんど食べてないじゃないか。お腹すいてないのか?」 長門「・・・やめて」 彼女はボソリとつぶやいた。 キョン「へ?」 長門「・・・もうやめて」 うつむいたまま長門は言う。一体どうしたんだ? キョン「なんのことを言ってるんだ?」 長門「・・・楽しくもないのに無理して笑顔を作るのはやめて」 キョン「な、なにを言ってるんだ。楽しくないわけないだろ?現に今だって」 長門「・・・うそ」 長門はおもむろに顔を上げた。なぜか目元がきらりと光っている。 長門「さっきまでのあなたはもっと自然な笑顔だった。そんな作り笑いをしてなかった」 キョン「お、おい・・・それは違うぞ」 長門「違わないッ!」 長門は大きな声で言い放った。・・・オレは自分の耳を疑った。 長門がこんな風に叫ぶなんてはじめてのことだ。 長門「じゃあなんで私は全然楽しくないの?なんで私は笑えないの?」 再び目を伏せながら長門は言った。 長門「・・・せっかくあなたと一緒にいられるのに」 キョン「長門・・・オレ、そんなつもりじゃ・・・」 長門「あなたは今、だれのことを考えてるの?あなたが今したいことはなに?」 キョン「・・・長門」 長門は顔を上げてまくしたてる。彼女の目はうっすら涙をためていた。 長門・・・なんて悲しそうな顔をするんだ。長門の泣き顔なんてはじめて見た。 オレが長門をこんな顔にさせてしまったのか・・・? 長門「なんでもっと素直になれないの?私、あなたの作り笑いなんて見たくない」 そう言うと長門は寝室へと走っていってしまった。 …心が痛い。罪悪感が容赦なくオレを責めたてる。 長門が泣いているのはオレが素直になれないから?長門がオレに言いたかったのは・・・ やはりハルヒのことか。さっき国木田から電話がかかってきて、 それからずっとハルヒのことが気になっていた。ハルヒが今どこでなにをしているのか 気になってしかたがない。アイツが今大変な状態だったなんて全然知らなかったんだ。 駅前で会ったときにちゃんと話せばよかった。 実は長門の作ってくれたご馳走だって、ハルヒが気になるあまり ろくすっぽあじわっちゃいなかった。 …そりゃ長門だって怒るよな。せっかく作ってくれたのに、悪いことしたよな・・・ オレは寝室のドアの前に立っていた。今すぐ長門にあやまりたいが、開けることがためらわれたからだ。 …オレはなんてあやまったらいいんだろう。 ドアの前でオレが迷っていると、しばらくしてゆっくりとドアが開けられた。 寝室から長門がうつむき加減で出てくる。 キョン「長門・・・さっきはすまなかった。・・・本当はさっきからずっと ハルヒのことが気になってしかたなかったんだ・・・」 長門はもう泣いてなかったが、オレからやや目を反らしながら口を開いた。 長門「行ってきて。彼女を慰めてあげて」 キョン「長門・・・オレ・・・」 長門「これ・・・持っていって」 そういうと長門はある物をオレの手に握らせた。 これは・・・鍵?それにこのメモ書きは? 長門「・・・この部屋のスペアキー。そのメモは玄関のオートロックの暗証番号。 ・・・あなたに持っててほしい」 キョン「長門・・・それって・・・・」 長門「その・・終わったら・・・戻ってきて。夕飯、一緒に食べたいから」 今度はオレをまっすぐ見つめていった。彼女の顔に少しだけ笑顔が戻ったようだ。 長門の笑顔を見ると、つられてオレも微笑んでしまう。 キョン「・・・ああ、ちゃんと戻ってくるよ。まだほとんどメインディッシュに 手をつけてないしな」 オレの言葉に長門はゆっくりとうなずいた。やはり長門には笑顔が一番よく似合っている。 長門「・・・気をつけて」 それからオレは長門のマンションを出て、夜の町に飛び出した。 ハルヒに電話をしてみたが一向に出る気配はない。 アイツ、もう家に帰ったのかな?さっきの様子だと まだその辺をブラついてるのかもしれないな。 気がつくとオレは走っていた。駅前広場まで行き、ハルヒがいないことを確認する。 オレは高校時代の記憶を総動員してアイツが行きそうな場所を考えた。 まてよ、ハルヒが走っていった方向・・・もしかして川沿いの公園か? あそこならSOS団の不思議探索で何度も足を運んだ場所だ。 ハルヒがいる可能性も高いと思われる。 オレは全力疾走で公園まで向かった。 現地に着くと、ゆっくりと歩きながら十分に息を入れた。 …昼の山登りの疲れがだいぶ残っているようだ。だがそんなこともいってられない。 公園は川沿いに細長く続いており、端から端まで行って戻ってくるだけで早くても20分はかかってしまう。 しかし川沿いを上流に向かってしばらく歩いていると、わりとあっさり見つかった。 川沿いのベンチに体育座りをして、ひざに頭をつけている。 ハルヒ・・・泣いてるのか・・・? かすかにハルヒの嗚咽が聞こえてくる。 オレは声をかけることを一瞬だけためらったが、覚悟を決め直してベンチまで近寄った。 キョン「・・・ハルヒ」 ハルヒ「・・ふぇ・・・・!?」 ベンチの目と鼻の先まで近づいてからハルヒに声をかけた。 彼女はオレの突然の登場に驚き、とっさに逃げようとする。 オレは素早くハルヒの前に回り、なんとかその場に押しとどめた。 キョン「もう逃げないでくれよ。お前の全速力には追いつけそうもない。 ・・・お前のことが気になってな。さっきから探してたんだ」 ハルヒ「・・・・・」 キョン「となり、座っていいか?」 ハルヒの沈黙を肯定と受けとったオレは、彼女の横に腰をおろした。 キョン「お前が今、大変なんだってことは国木田から聞いたよ」 そう言うとハルヒはビクッとしてオレに視線を向けたが、すぐに目を反らした。 キョン「それを聞いてさ・・・オレ、いてもたってもいられなくなったんだ。 お前が一人で苦しんでいたなんてな。・・・なあハルヒ、 よかったらオレに話してくれないか?」 ハルヒ「・・・・・・」 ハルヒは何も言わない。これが昔のハルヒなら確実に「うるさい」とか 「あんたには関係ないでしょ」などと悪態をついてたはずだ。 キョン「・・・お前が落ち込んでいるところを見るのは久しぶりだな。 高校のときのお前はときどき今みたいに憂鬱になってたもんだ。 いつもハイテンションなお前が急に沈んでしまうもんだから、オレはよく心配してたんだぜ」 ハルヒ「キョン・・・私・・・」 ハルヒの顔を見ると、泣き疲れて真っ赤になった目がまた涙で濡れている。 彼女はしきりに目をこすっていたが涙は止まらず、次第に嗚咽をもらしはじめた。 ハルヒは嗚咽交じりの声で、妊娠を疑いはじめた半月前くらいからの事情をぽつぽつと語り始めた。 ハルヒは口数こそ少なかったが、今に至るまでの彼女の憤りや苦しみが痛いほど伝わってきた。 コイツのことだ・・・ずっと一人で苦しんできたんだろう。 肝心の男はハルヒを見捨て、親の支援も期待できない、そんな状況でコイツはずっと頑張っていたんだ。 なぜオレはハルヒのそばにいてやれなかった? 大学が別だから?SOS団がなくなったから?・・・オレは今までなにをやっていたんだ。 どうしようもないやるせなさがオレの心を覆った。 ハルヒ「グスッ・・・ヒグッ・・・キョン・・・私・・もう疲れちゃった・・・・」 ハルヒは嗚咽を抑えながらそう言った。 …オレがそばについてたら、ハルヒがこんなつらい思いをすることはなかった。 うぬぼれかもしれんが心からそう思う。オレ以外にハルヒを許容できる男なんて そうそういないんだ。 ハルヒ「苦しかった・・・怖かった・・・誰も助けてくれなかった・・・」 キョン「ハルヒ・・・辛かっただろうな。本当に苦しかっただろうな。きっとお前のことだから、 ずっと一人で頑張ってきたんだろう?」 ハルヒ「キョン・・・うあぁああッ!キョン!キョン!」 ハルヒはオレの肩に顔をあて、大きな泣き声を上げはじめた。 オレはハルヒの背中を軽く叩いてやる。 …オレが・・・オレが、ずっとそばにいてやれば・・・・・ いつのまにかオレも一緒に泣いていた。どうしようもない後悔が心の中にあふれかえっていた。 オレはハルヒの嗚咽が聞こえなくなるまで、彼女の肩を抱き続けた。 それからどれくらい経っただろうか。永遠に続くと思われたハルヒの嗚咽も 次第にトーンが下がっていき、やがてあたりは静かになった。 川のせせらぎがかすかに聞こえてくる。回りにはオレたち以外に人の気配はない。 もし誰かがそばを通りかかったなら、たぶんオレたちは夜の公園で仲良く肩寄せ合うカップルに見えたことだろう。 ハルヒ「キョン・・・ありがと。アンタのおかげでちょっとだけ元気出てきたわ。 もう大丈夫だから」 ハルヒは不意に立ち上がり、オレに振り返ってそう言った。 キョン「ハルヒ・・・無理をするなよ。つらいときは誰かに助けてもらえばいいんだ。 今後お前がつらくなったときは今日みたいにオレがまっさきに駆けつけてやる。長門だっている。 ・・・きっと古泉や朝比奈さんだって、お前が本当にピンチのときは駆けつけてくれるさ」 ハルヒ「ん、ありがとう。ホントにうれしいよ・・・でも大丈夫」 キョン「大丈夫なもんか・・・お前のことだから、誰がなんと言おうと中絶はしないんだろ? お前はたとえすべてを敵に回そうとも、お腹の子を守る気でいるんだろ?」 ハルヒ「・・・うん」 キョン「だったら、お前の味方ができるのはオレたちしかいないじゃないか。 ・・・今こそ離れ離れになっちまったけど、SOS団はずっと運命共同体だったじゃねえか!」 オレがそう言うと、ハルヒは黙って後ろを向いた。 ハルヒ「・・・有希はどうしたの?」 キョン「ハルヒ!話はまだ」 ハルヒ「あんたたち、つきあってるんでしょ?」 ハルヒは川を眺めたままそう言った。彼女の問いに、なぜかオレは即答できなかった。 オレたちはもう付き合っていることになるのだろうか。 たしかに今日はキスをしたし、長門の家にも上がった。ここに来る前には部屋の合い鍵だって渡された。 国木田からの電話がなければ、ここでハルヒに会わなければ、 間違いなく今日を境にオレたちは付き合っていたに違いない。でも今は・・・ ハルヒ「いい?私は妊娠してるのよ?その私をアンタが助けてくれるってことは どういうことかわかってんの?」 急に振り向いてハルヒは言った。 ハルヒ「有希と付き合っている以上、中途半端なことはこの私が許さないわ。 ・・・それに私だって、一人の力で出産できるなんて思ってないわよ。 ウチの両親は今こそ大反対してるけど、最後にはきっとわかってくれるわ」 キョン「ハルヒ・・・」 ハルヒ「私のワガママだってことは十分わかってる。こんなことは社会的に許されないってこともね。 でも、私もう決めたの。・・・ただ、私が決めたことでアンタたちを巻き込みたくはないわ」 そこまで言うと、ハルヒは少しだけうつむいた。 いつのまにか風は止み、ぽつりぽつりと雨粒が降りはじめていた。 ハルヒ「アンタたち、お似合いのカップルだったわ。まさか有希が あんなにかわいくなってたなんてね・・・あの子、素直でいい子じゃない。 ・・・大事にしてあげてね。あの子を悲しませたりなんかしたら絶対許さないわよ」 キョン「・・・ハルヒ、オレは」 ハルヒ「私はねッ!」 ハルヒはオレの言葉をさえぎるように言った。 ハルヒ「私、ホントのこと言うと、ずっとアンタのことが好きだった」 キョン「・・・・・」 ハルヒ「高校を卒業して、アンタと離れ離れになって、ずっと寂しかった・・・ でも私、素直になれなかった。アンタに好きだって言えなかった」 キョン「ハルヒ・・・」 ハルヒ「チャンスなんていくらでもあったのにね・・・大学では他の男からたびたび告白されたわ。 最初に私が告白を受けたときはほんの軽い気持ちだった・・・もしかしたら、 それを聞いたアンタが嫉妬してくれるかなって思ってね。アンタの気を引こうとしてたの」 キョン「・・・・・」 ハルヒ「わかってる。アンタのこと責めてるわけじゃないのよ。あのとき 素直になれなかった私が悪いの」 …除々に雨脚は強くなってきた。オレたちは雨ざらしのまま、しばらく沈黙が続いた。 雨が川面に落ちる音が無数に響き渡る。 わかっている。オレがハルヒを責められるわけがない。・・・こいつは寂しかったんだ。 みんなと離れ離れになって、新しい環境で親しい人はいなくて、立ち上げたサークルだって 誰もついてこなかった。ハルヒは決して口にしないだろうが、ものすごく心細かったに違いない。 そんなときに、寂しさを紛らわそうとして彼氏を作ったこいつを誰が責められるんだ? 重い沈黙を破るようにオレは口を開いた。 キョン「オレは・・・オレだってお前のことが」 ハルヒ「言わないで!」 ハルヒは再びオレの言葉をさえぎった。 ハルヒ「遅いよ・・・もう私、他の男の子供を身篭ってるのよ。 アンタだって、こんな私・・・イヤ・・でしょ・・・」 キョン「ハルヒ・・・オレ・・・」 ハルヒ「・・・私たち・・きっと縁がなかったのよ」 今や雨は本降りとなっていた。・・・まるでオレたちの心の中を映しているようだ。 なぜか言葉が喉の奥に引っかかって出てこない。 一体どうしたっていうんだ?ハルヒの言葉をこのまま認めちまうのか? はやくなにか言えよ。なにか言わなきゃ・・・ ハルヒ「私、ここでちょっと頭冷やしてから帰るわ。先に帰ってちょうだい」 キョン「・・・・・」 ハルヒ「早く行って!」 …オレは結局ハルヒに何も言うことができず、そのままベンチを後にした。 心がカラッポになったようで、何も考えられなかった。 それからどこをどう歩いたのか覚えていない。時間の感覚などはとっくに 失っていた。・・・心が切り刻まれるように痛い。 これならいっそボコボコに殴られたほうがずっといい。 オレが流す涙はそのまま雨に洗い流されたが、いっそオレの体ごと どこか遠くまで流してほしかった。 気づけば、長門が傘を差してオレの前に立っていた。悲しそうな表情で オレのことを見つめていた。 …またオレが、長門をこんな表情にさせちまったのか。 長門は黙ってオレに傘を差しかけてくれた。 キョン「長門、オレはまた後悔することになりそうだ・・・この2年間、ずっと後悔し通しだった。 本当に素直じゃなかったのはアイツじゃなくてオレなんだ。オレはずっと自分にウソをつき続けていた。 それがこの後に及んで、またウソをつこうとしてるんだ・・・」 長門を見て少しホッとしたのか、体中から力が抜けた。 足が震え、そのままオレはひざをついてしまった。 キョン「なあ長門・・・オレ、わからないんだ」 長門「・・・・・」 キョン「オレは・・・オレは今・・自分がなにをしたいのかすらわかんないんだよ!」 …オレは長門に抱きかかえられて泣いていた。 ひざをついたまま長門にしがみつくオレを、彼女は強く抱きしめてくれた。 どうやらそこは長門のマンションのすぐ近くだったらしい。 長門はオレを抱えるようにして部屋まで導いてくれた。 オレ自身はあまり意識していなかったが、長時間雨ざらしになっていたせいか ずいぶんと体が冷えているようだ。 長門はすでに風呂を用意してくれていた。オレは彼女に言われるまま、 湯船で体を温めていた。 …頭どころか心までがからっぽになってしまったようだ。 今はなにも考えられないしなにも感じない。 もしかしたら心の防衛機能が作動してるのかもしれないな。 これ以上負担がかかれば、かなりの確率でぶっ壊れてしまいそうだ。 オレはだいぶ長い時間入浴していたみたいだ。風呂から出ると、頭がのぼせて ややふらついてしまった。 長門「大丈夫・・・!?」 長門が駆け寄ってきてくれた。心配そうにオレを見上げている。 まさか風呂の前で待っていたわけではないだろうが、絶妙なタイミングだ。 キョン「ああ、問題ない。・・・できれば冷たい飲み物がほしい」 長門はコクリとうなずくと、少し恥ずかしそうにオレから目を反らして言った。 長門「タオルはこれを使って。あなたの服は洗わせてもらった。今乾かしてるの」 キョン「ああ・・・手間をかける」 長門「もうしばらく待っててね」 オレは体の水気をふきとり、バスタオルを腰に巻くとキッチンに向かった。 テーブルの上には長門が用意してくれたドリンクが置いてあったので、ありがたく頂くことにする。 オレはイスに座り、深いため息をついた。 目の前には長門が作ってくれたご馳走の皿がある。まだほとんど手をつけられていないそれらには きちんとラップがかけられていた。 長門・・・おなかすいてるだろうな。オレは一体なにをやっているんだろう。 長門を傷つけて、ハルヒを傷つけて、今は自分の心までもナイフで切り刻んでいる。 オレがはじめから素直になっていれば、誰も苦しむことはなかった。 …いかん。また心が痛み出した。頭をからっぽにするんだ。 そうすれば痛みを感じることもない。 オレはしばらくの間イスに座ったまま目を閉じていた。 どれくらい時間が経っただろう・・・時間間隔が麻痺している今のオレにはわからない。 突然後ろから、なにか柔らかいものがオレの肩に触れた。 それは熱を帯びていて、その感触は除々にオレの胸のあたりまで伸びてくる。 目を開けて振り返ると、長門の顔がすぐそばにあった。 彼女の湿った髪からはシャンプーの香りが漂ってくる。 露わにしたその肩は透きとおるように白い。自然と鼓動が早くなっていく。 …長門はバスタオルを一枚まとっただけの姿だった。 オレは頭をフル回転させて現状の把握に努めた。 長門がオレを後ろから抱きしめているのか?胸のあたりに感じている柔らかい感触は・・・ 長門の腕か。髪が湿っているようだが、いつの間に風呂に入ってたんだ? 彼女の吐息がオレの首筋にかかる。 オレの鼓動は除々に回転を上げ、まもなくレッドゾーンに到達する。 キョン「長門・・・」 長門「だめ。なにも考えないで」 オレはまるでかなしばりにかかったように動けなかった。 長門「素直になるのはきっと難しいことじゃない・・・勇気を振り絞って、 一歩だけ前にふみだせばいいの」 キョン「・・・・・・」 長門「それはとても勇気のいること。・・・踏み出せば自分が傷つくことになるかもしれないから。 でも傷つくことを恐れて何もしなければ、後でもっと後悔することになる」 …それは誰のことを言っているんだ?オレのことか?ハルヒか?それとも・・・ 長門「今はなにも考えてはダメ。頭をカラッポにして・・・」 そういうと長門はオレの前に回った。彼女の顔が除々に近づいてくる。 オレは何かを言おうとしたが、長門の唇がオレの口をふさいだ。 彼女はオレの背中に手を回し、上体にもたれかかってきた。 長門の小ぶりな胸はオレの胸板で押しつぶされ、バスタオルを一枚はさんで 十分にそのやわらかさが伝わってきた。 オレの頭の中は真っ白になり、いつのまにか強く長門を抱きしめていた。 オレの舌がやや強引に長門の唇をこじあけ、彼女の舌とからませる。 その口内は柔らかくて甘く、そして熱かった。 長門から石鹸とシャンプーの入り混じったとてもいい匂いがして、オレの鼓動は今や 激流へと変わっていた。 オレたちはしばらく口内の感触に身をゆだねていたが、少し息苦しくなって やがて口を離した。 長門とオレはお互い背中に手を回したまましばらく見つめあい、オレは再び彼女を抱きしめた。 もはやなにも考えられない。考える必要もない。 今はただ精一杯長門を愛すればいいだけだ。後のことはそんときに考えりゃいい。 オレは長門を抱きかかえて寝室に入った。 長門をベッドに横たえてバスタオルを剥ぐと、彼女の白い肌が目に飛び込んでくる。 オレは長門の乳房に触れ、そのやわらかさを確認するように揉みしだいた。 長門の肌は珠のような輝きをもち、薄暗い部屋の中でもその白さはひときわ際立っている。 オレは片手で乳房をもてあそびながら、もう片方の乳房にキスをした。 それからそのきれいな乳首を口に含み、ゆっくりと、ときに強く刺激しはじめる。 長門「・・あッ・・・」 長門は口を手で押さえながらオレの愛撫に耐えているが、押さえきれずに声を漏らしてしまう。 しばらく乳首への刺激を続けた後、オレは乳房から口を離した。 長門「・・はぁ・・・はぁ・・・」 長門は少し荒く息をついている。彼女の息がおさまるのをまって、オレは彼女の口をふさいだ。 オレの舌が長門の口腔を刺激し、快感を与える。そのまま長門の背に手を回して強く抱きしめた。 形のいい乳房はオレの胸板で音もなく押しつぶされる。 ここまで密着すると彼女の鼓動がダイレクトに伝わってくる。オレの鼓動と合わせると、 まるで世界全体が揺れているように感じた。 オレは長門から口を離して、彼女のふとももに手を触れはじめる。 オレが触れた瞬間長門はビクっとなり、オレを強く抱きしめた。 ふとももに触れた手は除々に上を目指し、やがて彼女のそこにたどり着いた。 そこはすでに熱く熟していた。オレは大胆に指で触れる。 …あったかくてやわらかい。そこはオレのすべてを包み込んでくれるような、 そんな包容力を感じさせた。 長門は刺激に耐えられなくなったのか、オレの背中に回した手に力を入れて声を上げた。 キョン「・・・いいよな」 オレの言葉に長門はだまってうなずく。 オレは手早く避妊具をつけ、両手で長門の足を開いた。彼女のそこに自分自身をあてがい、 ゆっくりと中に沈める。 長門「んッ!」 その瞬間、長門は苦痛に顔を歪めた。 キョン「痛いか?」 長門「・・平気・・・続けて・・」 長門の言葉に従い、オレはゆっくりと腰を動かす。 彼女の中の感触はうすいゴムを隔てても確かに伝わってくる。 わずかでも動かすたびに快楽の波が押し寄せてくる。 オレ自身をやさしく包み込んでくれる長門の中は、まるで母なる海であった。 長門「・・・んッ!・・・ハァ・・・ハァ・・・」 キョン「長門・・・」 長門「・・・いいの・・・あなたの・・・好きなようにして・・・」 そう言うと長門は腕に力を入れた。彼女の爪がややオレの背中に食い込む。 オレは少しずつ腰の動きを早めた。 長門「んッ・・・あッ・・・」 長門は腰が動くたびに短い声を上げる。 オレは押し寄せる快楽の渦にたえきれず、長門に包まれたまま果ててしまった。 オレたちはひとつになったまま、しばらく肩を上下させていた。 長門は今、オレの腕に頭を預けている。 オレに背を向ける格好で横になっているので、オレから彼女の表情をうかがうことはできない。 オレは、長門になんといって声をかけたらいいのかわからなかった。 二人が沈黙したまま時間が流れていく。 長門「・・・私ね」 沈黙を破ったのは長門の方からだった。 長門「・・・私・・・あなたとこうなりたい・・・ってずっと思ってた」 キョン「・・・・・」 長門「ずっとあなたのことが好きだった。・・・でも言えなかった。 言えば今の関係すら壊れそうな気がして」 キョン「・・・・・」 長門「今の大学だって、あなたを追いかけて入ったの。 ・・・私、ずっとあなたのそばにいたかったから」 オレはずっと知らなかった。まさか長門がそんなにもオレのことを想っていてくれたなんて・・・ 長門「私、勇気が出せなかった。・・・涼宮ハルヒの能力が消えてから、 私は統合情報思念体から切り離されてひとりの人間になった。慣れるまで時間はかかったけど、 除々にいろんな感情が表現できるようになった。私はとてもうれしかった」 キョン「そうだったのか・・・」 長門「でも、そのせいでいろんなつらいこと、悲しいことも知ってしまった。 私は一人でいるのが怖くなって、友達を作ろうとした。もし拒絶されたらと思うと怖かったけど、 私は勇気を出して一歩を踏み出した」 長門・・・オレは全然知らなかった。長門のこと、ちっともわかっちゃいなかった。 長門「でも、あなたとの関係は以前のままだった。私は次の段階に進みたかったのに、 その一歩が踏み出せなかった。勇気がなかった」 …オレやハルヒと同じだ。長門もオレたちみたいに、相手から拒絶され、自分が傷つくのが怖くて、 ずっと同じ場所で足を踏みとどめていたんだ。 長門「・・・でも私、やっと勇気を出すことができた」 キョン「長門・・・オレは・・・」 長門「いい。私がこうしたかっただけなの。・・・私、はじめからわかってた」 キョン「・・・・・」 長門「・・・あなたの心には、いつだって彼女がいた。私の入り込む隙間なんてなかった」 キョン「・・・すまん」 長門「私後悔してない。・・・こんな私でも一歩を踏み出すことができたんだもの。 自分の気持ちを隠したままあなたとの関係を維持し続けるよりずっといい」 わずかに長門の声はふるえていた。その表情は、オレからうかがい知ることはできない。 長門「ごめんね・・・最後にひとつだけ、私の願いを聞いて」 そう言うと長門はゆっくり振り向いた。彼女の目から涙がとめどなくあふれていた。 長門はオレの胸に顔をつけて言った。 長門「今だけでいいの・・・今だけでも、私と一緒にいて・・・」 長門はそこまで言うと、声を殺して泣き始めた。オレは彼女の肩に手をあててやさしく抱きしめる。 長門の細い肩はよわよわしくふるえていた。 キョン「長門・・・すまない・・・」 いつしかオレも涙を流していた。二人とも泣きながら、お互いを強く抱き締めあっていた。 翌朝目を覚ますと、窓の外はまだ薄暗かった。 長門はまだオレの横にいる。彼女は泣きつかれたのか、目のまわりを真っ赤にして眠っていた。 ふと枕元にひとつのオルゴールが置いてあることに気づく。なにげなくネジを回してみると、 なにやら聞き覚えのあるなつかしい曲が流れ出した。 …これは高校1年のときの学園祭ライブで、ハルヒと長門が最後に演奏した曲だな。 あのときの曲は、オレもMDにコピーしてもらって何度か聞いたので覚えている。 …明るい曲調のわりに悲しい歌詞で、あまり好きになれなかった曲だ。 曲に合わせて頭の中でその歌詞が浮かんでくる。 そのメロディを聞いていると決意が鈍りそうになるので、オレはオルゴールを止めた。 …長門には大事なことを教えてもらった。ほんの少し勇気を出せば、 傷つくことを恐れなければ、足を踏み出すのは難しいことじゃない。 オレやハルヒや長門はそれができずに2年間も苦しみ続けてきた。 オレはもう迷わない。傷つくことだって恐れない。 長門・・・もう京都には行けなくなっちまったな・・・ オレはベッドを降りると、うつぶせで眠っている長門に肩まで布団をかけてやった。 それから長門が洗ってくれた服を着た。 キッチンのテーブルの上には昨日のご馳走がそのままの状態でおかれている。 オレはポケットをさぐり、テーブルの上に合い鍵と暗証番号の書かれた紙をおいた。 紙は雨のせいでインクがにじんでしまっていた。 …鍵は結局一度も使わず終いだった。夕飯の続きも二度と訪れることはなくなってしまった。 オレは後ろ髪を引かれる思いを振り切って部屋を出た。外は除々に明るくなっている。 いつまでも落ち込んではいられない。オレにはやるべきことがあるんだ。 家に帰ると、ベッドに横になって今後のことを考えた。 ハルヒが出産するのは10ヶ月ほど先だが、それまで彼女が一人でやっていけるとも思えない。 最悪、オレしかハルヒの味方はいないかもしれないんだ。 もしかしたら大学をやめることになるかもしれんな。 父さんや母さん、きっと怒るだろうな・・・ オレはいつのまにか眠ってしまい、起きたら昼すぎになっていた。 顔を洗って目を覚ますと、確認しなければならないことがあったのでオレは国木田に電話をかけた。 そして翌日、GWは昨日で終わりを告げ、世間は日常に戻っていた。 オレは今ハルヒの大学に来て、谷川という男を凝視している。 こいつこそがハルヒを苦しめた元凶の男だ。このまま黙って見逃すわけにはいかない。 なにもとって喰おうってわけじゃないが、一言ハルヒにわびを入れさせないと気がすまない。 昨日国木田に電話して、ハルヒの元彼氏についての情報を聞き出している。 国木田はしぶっていたが、オレの執念深い追及に折れていやいやながらも詳しく教えてくれた。 人数の多い学部だったので、オレは違和感なく潜り込むことができた。 昼の授業が終わるとヤツは大学の近くの飲み屋に入り、先に来ていたツレと合流した。 オレはあやしまれないように近くの席に座った。 ヤツはハルヒのことなど何事もなかったかのように談笑していた。 …なんでコイツは笑っていられるんだ?ハルヒがあれだけ苦しんでいるのを見ながら、 コイツはなんとも思わないのか? オレの心にドス黒い怒りがわきあがる。ヤツは今、オレの手の届く範囲に刃物がおいてないことを 感謝すべきだろう。 ツレB「・・・ところでお前、涼宮のことはどうなったんだ?」 突然ハルヒの名前が聞こえてきて、オレは意識を耳に集中させた。 谷川「だめだ。産むって言い張るだけでオレの言うことなんてちっとも聞きやしない。 ・・・どこまでも厄介なヤツだ」 ヤツの言い草にオレは、怒りのあまり反射的に席を立ちそうになったがなんとか踏みとどまった。 ツレA「ほっときゃいいんじゃね?お前に迷惑はかけないって言ってるんだろ?」 谷川「バカ言え。産まれたらおしまいだ。お前は知らないだろうが、 血縁上の父親には扶養義務っていうのがあってだな・・・」 オレの頭に親族法の講義で聞いた内容がよみがえったが、怒りのせいですぐにかき消えた。 ツレB「それじゃどうすんだ?」 谷川「なんとしても中絶させるさ。なんとしてもな・・・」 ツレA「まさかお前、またヤバいこと考えてるんじゃないだろうな?」 谷川「・・・どうしても言うこと聞かないときはやむを得んな」 ヤロウ・・・! 怒りのあまりオレの手が震えだした。コイツだけは絶対に許せん・・・ オレが席を立とうとしたそのときだった。 ツレA「無茶するな。ヘタすりゃ本当に警察行きだぞお前」 谷川「無茶でもなんでもするさ。なんたってオレの一生の問題だからな」 男の発言を聞いて、オレの頭の中でなにかがブチっと切れる音がはっきりと聞こえた。 怒りも限度がすぎると逆に頭が冴えてくるもんだ。 オレはコップを手に取って席を立つと、男の前まで歩いていった。 男たちは怪訝そうな目でオレを見上げている。オレは黙ったまま コップの中身を男の頭にぶちまけてやった。これで少しは頭が冷えただろう。 谷川「な・・・なにすんだこのヤロウ!」 男はオレに掴みかかってきた。 オレは男の手を振り払い、努めて冷静に言った。 キョン「お前に話がある。ちょっとつきあってくれ」 そう言うとオレはカウンターに札を一枚おき、店から出た。 男は頭に血がのぼったままのようだ。勇み足でオレの後からついてくる。 他の2人は、怪訝そうな顔をしながらもしぶしぶついてきた。 ひとけのない路地まで歩いてくると、男はなにも言わずにオレの頬を殴り飛ばした。 足がよろけて倒れたオレに対して、男は執拗にケリを入れてくる。 谷川「オレになんか恨みでもあるのか!ああッ!」 オレは男の足をつかみ、そのまま立ち上がると足払いをかけた。 男はバランスを失い、その場で盛大に倒れる。 キョン「お前に頼みがあるんだ」 谷川「・・・はぁ?」 キョン「ハルヒ・・・涼宮のことだがな。そっとしておいてくれないか?」 谷川「はぁ?なに言ってんだお前・・・」 男はわけがわからないといった顔をしていたが、なにやら思い当たることがあったようだ。 にやけた顔でオレのことを見て言った。 谷川「そうか。お前がキョンってヤツか。涼宮の高校のときの彼氏だって?ふーん?」 男はオレを鼻で笑い、言葉を続けた。 谷川「アイツのことが忘れられずにつきまとってるって感じだな。 まあ、オレたちはもう別れたんだ。後はお前が好きにすればいいさ。 ・・・しかし、つくづく物好きなヤツだな。3年間もアイツに振り回されて まだあきないのか?アイツの一体どこがいいんだ?」 キョン「そんなことはどうでもいい。オレはハルヒをそっとしておいてくれって言ってるんだ」 男は大きく息を吐いて言った。 谷川「お前も知ってるだろうが、アイツはオレの子を孕んでんだよ。それだけはなんとしても おろしてもらわないとな。お前からもアイツに言ってやってくれよ」 薄ら笑いを浮かべながら男は言う。男の言葉や仕草を認識するたびに、 オレの心の中にどす黒いモノが広がっていく。 キョン「もう一回だけ言うぞ。ハルヒをそっとしておいてくれないか?」 谷川「・・・お前にもわかりやすく言ってやるが、アイツがオレの子を産めば オレは子供が成人するまでずっとめんどうを見なきゃいけないんだ。 お前だって他の男が孕ませた子なんて厄介だと思ってるんだろ? お前がアイツを見捨てて頼る相手がいなくなりゃ、 最後はオレに責任をとらせるだろうからな。今のうちになんとかしなきゃいけないんだよ」 …そろそろ限界だ。これ以上ためこんでしまえば自分がなにをし出すかわからない。 だが、最後に確認だけはしておこう。 キョン「オレの言うことは聞いてもらえないってわけか」 谷川「そうだ」 男がそう言った瞬間、オレは男の顔面を右拳で思いっきり殴打した。 男はもんどりうって2mほど後ろに倒れた。 拳に激痛が走る。あたり場所が悪くて骨にヒビでも入ったのかもしれない。 殴られた男はもっと痛いだろう。だがそれはしかたない。 この男は正真正銘のクズだ。人の痛みなんてなんとも思っちゃいない。 口で言ったってハルヒの苦しみを理解することなんて不可能だろう。 だから、ハルヒの苦しみの何分の1でもいい。この男に理解させる必要がある。 離れた場所から見ていた男のツレ二人はあわててこっちに走ってきた。 一人は倒れた男をのぞきこんでおり、もう一人はオレを止めにかかる。 ツレA「お前っ、事情は知らねえがやりすぎ・・」 キョン「・・・どけ」 オレが目の前に立ちふさがる男のツレを凝視して言うと、そいつは腰が抜けたのか 地面にへたりこんでしまった。オレは今、どんな顔をしているのだろうか。 …まあいい。 オレは倒れている男を引きずり起こし、男の潰れた鼻頭に頭突きをブチ込んだ。 再び男は派手に倒れる。 …不意に頭部に激痛が走った。意識がもうろうとして、立っていられなくなる。 どうやら男のもう片方のツレが、どこかから調達した角材でオレの頭を強打したらしい。 ひざをついたオレに、再びそいつは打ちかかってきた。 オレは気力をふりしぼってそいつに体当たりを仕掛けた。 オレの思いがけない反撃により、そいつは角材を落として倒れる。 オレは角材を拾い、そいつに向き直った。 ツレB「ま、待ってくれ。オレは関係ないからな」 オレの顔色をうかがいながらそいつはゆっくりと後ずさり、 やがて全速力でその場から逃げ出した。 オレは角材を捨てると、顔を押さえて倒れている男を再び引きずり起こした。 谷川「もう・・やめてくれ・・・」 男の懇願に貸す耳は持っていない。 キョン「お前はどうあってもハルヒに中絶させるんだろ?なあ?だったらお前は人殺しだ。 オレはそれを防ぐためにお前を殺すんだから、これは立派な正当防衛だよな?」 刑法典を根底から無視した発言だが、今はどうだっていい。 谷川「た、助けてくれ・・・オレが悪かった・・・」 キョン「殺されたくないか?・・・ならこうしようか」 そう言うとオレは男の右腕を取り、脇固めの体勢に極めてから 思いっきり力を込めてヒジを関節と逆方向に曲げてやった。 …にぶい音がしたと同時に、あたりに男の絶叫が響いた。 男はヒジを押さえながら地面をのたうちまわっている。 キョン「腕が使えなくなれば物騒なこともできないもんな」 言いながら折れた腕を蹴飛ばすと、男はまた絶叫を上げた。 次は男の左腕に狙いをつける。 ツレA「・・やめ・・・もうカンベンしてやってくれ・・・」 キョン「そうだ。忘れてた」 オレは地面でのたうちまわる男を再三引きずり起こした。 キョン「ちゃんと去勢しとかなきゃいけなかったんだ。もう二度とイタズラできないようにな」 オレは男を抱えたまま右ヒザを後ろに下げた。このままヒザで男の股間を蹴り上げるつもりである。 ツレA「そのへんでカンベンしてやってくれッ!もう十分だッ!頼む、この通りだ!」 谷川「もう・・・ゆる・・して・・・」 そいつはオレから男を引き剥がすと、地面に頭をこすりつけた。 男も同様に地面に頭をつけている。 キョン「・・・ハルヒに詫びを入れて、二度と近づくな」 男とツレは大きくうなずいて、足を引きずりながら逃げていった。 その後姿を見送ると、急激に心のもやが晴れていく気がした。 あんなヤツにハルヒは・・・ちくしょう! なぜかむしょうに悔しくなり、オレは右拳を壁に叩きつけた。 目には涙がにじんでくる。叩きつけた拳は今になってひどく痛み出した。 …ハルヒに会いたい。 川沿いの公園に行けば、きっと会える気がする。 オレは痛む体を奮い立たせてゆっくりと歩きはじめた。 その足で電車に乗り、公園の最寄りの駅まで向かう。 他の乗客が怪訝な顔でオレに視線を送ってきた。 どうやら頭から血がたれてきたようだ。角材で殴られた箇所がひどく痛む。 だがそんなことはまったく気にならなかった。今は一秒でも早くアイツに会いたい。 駅を出て、一昨日のベンチまで走って行くと・・・いた。 ハルヒはベンチに腰かけ、川面をじっと見つめていた。 もしかして昨日もここに来ていたのだろうか? キョン「よう。平日の昼間からこんなとこでなにしてるんだ?」 オレが後ろから声をかけると、ハルヒは驚いてふりむいた。 ハルヒ「キョン?・・・どうしたのよその格好!?」 キョン「なんでもない。さっき派手に転んでしまったんだ」 ハルヒ「もしかしてさっきの電話・・・あんたまさか・・・」 あの男はあれからハルヒに詫びの電話でも入れたのだろうか。 ハルヒ「アンタ谷川に会ったんでしょ?なんで余計なことすんのよ! アンタには関係ないでしょ!・・・なんで」 男のことはオレに知られたくなかったのか、ハルヒは猛然とつっかかってきた。 とっさに返す言葉が見つからなかったので、オレは黙ってハルヒの横に腰をおろした。 ハルヒもそれ以上は追及ぜず、黙ったままハンカチでオレの血をぬぐってくれた 平日のせいか周りは人影がまばらだった。傾きかけた太陽が川面に映えて美しい。 頭の痛みは少しずつやわらいでいった。 キョン「・・・あの男、お前に未練があったみたいなんでな。あきらめてもらうよう 説得したんだ」 本当のことは言うわけにはいかないので、オレはあたりさわりのないように言った。 一応ウソはついてない・・・と思う。 ハルヒ「なんで・・・余計なこと・・・」 キョン「・・・そうだな、お前の言うとおりだ。余計なことをしてすまなかった。 オレのせいで事態をややこしくしてしまったみたいだな。・・・その責任は取るさ」 ハルヒ「えっ・・・」 ハルヒは目を見開いてオレを見上げた。 キョン「この2年間、オレはお前を忘れたことはなかった。でもオレは 自分の気持ちに素直になれなくて、ずっと苦しんできた。お前に拒絶されることが怖かった」 ハルヒ「ウソ・・・だって・・・有希は・・・」 キョン「・・・もういいんだ。オレが素直になれなかったせいでアイツをひどく傷つけてしまったけど、 アイツはそんなオレに大事なことを教えてくれた。ほんの少しだけ勇気を持てば、 あとは迷わず踏み出せばいい。それはそんなに難しいことじゃない・・・ってな」 涙腺が弱くなっているのか、すでにハルヒの両目には涙が光っていた。 彼女の声はふるえている。 ハルヒ「・・・でも・・私のお腹には・・・」 キョン「今日からオレの子だ」 オレがそう言うと、ハルヒは大粒の涙を流しはじめた。 彼女はそれをぬぐおうともしなかった。 ハルヒ「ホントに?・・・ホントにいいの?・・・ホントに」 キョン「名前はオレが決めるからな」 ハルヒは泣きながら何度もうなずいた。オレは彼女の肩をやさしく抱いてなぐさめた。 日が傾き、完全に沈んだ後もまだハルヒは泣き続けていた。 それからしばらくオレは大学に行けなかった。 いわゆるケジメってやつをつけるのに時間がかかったせいだ。 本来ならばあの男がつけるはずのことだが、もはやそれはどうでもいい。 オレが自ら望んでしたことだしな。 父さんはなにも言わなかった。 ただ一言だけ、大学はちゃんと卒業しろ、と言ってくれた。 母さんははじめこそ反対していたが、父さんがなにも言わないので 最終的に折れてくれたようだ。 ハルヒの両親にあいさつに行ったときは、はっきりいって気まずかった。 事情が事情だけに、向こうも相当気まずいようだった。 ただ、とりあえずはハルヒの出産を認めてくれたようで、 彼女は大学を休学して出産に専念することとなった。 これでひとまずは一安心といいたい所だが、本当に大変なのはこれからだろう。 翌週の月曜日、オレは一週間ぶりに大学へ行った。 オレが休んでいる間に行われた就職説明会の資料を受け取ったり、 休んでいる間の講義ノートを学部の友達に写させてもらったりした。 たかだか一週間のプランクとはいえ、すべての講義をフォローするのはなかなか骨が折れる。 午前中はほとんどその作業に時間を費やしていた。 気がつくと12時を回っており、腹の鳴る音にせかされて食堂へと向かった。 中は相変わらずの混雑だ。ふと遠くの一角に目をやると、長門とその友達が仲良く談笑している姿が見えた。 …そうだよな。いつまでも落ち込んでなんかいられないよな。 食堂で昼飯を食うつもりだったが、少し気が変わった。オレはパンとドリンクを買って 図書館横のベンチへと向かった。 今日もいい天気だ。オレは説明会の資料に目を通しながらパンをほおばった。 しばらくひざの上の資料に目を通していると、誰かが目の前にきたようだ。 その人物を見上げると・・・そこには長門が立っていた。 驚くことに彼女は眼鏡をかけていた。長門が眼鏡をかけてる姿を見るのは 実に数年ぶりのことである。 長門「・・・お久しぶり」 キョン「ああ。・・・眼鏡、どうしたんだ?イメチェンでもしたのか?」 長門「まあ、そんなとこ」 長門は微笑みながら言った。その笑顔を見てオレは少し安心した。 長門「似合う?」 キョン「ああ、よく似合ってる」 そう言ってから、オレは一言付け足した。 キョン「・・・だけど、やっぱりかけないほうが可愛いと思うぞ」 オレがそう言うと、長門は満面に笑みを浮かべて答えた。 長門「かけたほうが可愛いっていう人だっているわ」 長門の言葉に、オレはあっけにとられてしまった。 彼女はオレの顔をニコニコしながら見つめている。 …はは、なんだか一本とられたみたいだな。 長門は本当に変わった。オレは長門を深く傷つけてしまったけれど、 そんなオレにさえ彼女は最高の笑顔を見せてくれる。 …もしかしたら、長門の心の傷は一生癒えないのかもしれない。 しかし、つらいことの後には必ずいいことが訪れるはずであり、 人はそれを励みにして生きていくことができる。 人の一生はその連続であり、つらいことを経験した数だけ強くなっていける。 その数だけ人の痛みがわかるようになる。 こういう人の心の動きは、人知の及ばない宇宙生命体が 何百万年もの時間をかけて観察したところで決して理解できないだろう。 長門「・・・お願いがあるの」 キョン「お前の頼みならなんだって聞いてやるぞ」 長門「私、涼宮ハルヒに会いたい。会って聞きたいことがあるの」 キョン「その言葉を聞いたらアイツ喜ぶと思うぞ。・・・何が聞きたいんだ?」 長門は少し照れながら言った。 長門「その、出産について・・・いろいろ教えてほしい」 彼女はそれに小声で付け加えた。 長門「私も・・・いつか子供を産んでみたいから」 長門が恥じらいながら言うのを見て、不覚にも鼓動が早くなってしまった。 …それから、ほんの少しだけ後悔した。 エピローグ …目覚ましの大音量で強制的に起こされた。寝ぼけまなこで時間を確認すると、 まだ6時20分である。誰がこの時間にセットしたんだ?まったく、今日は土曜だってのに・・・ オレは目覚ましをぶっ叩いて止めると、そのまま枕に顔をうずめた。 今日は休みなんだ。最低でも10時すぎまではゆっくり寝るぞ・・・ 再びオレが眠りに落ちかけていると、突然背中にするどい痛みを感じた。 キョン「ぐぼぁッ!」 「パパ!休みだからっていつまでも寝てちゃダメじゃないッ!」 キョン「お前・・・エルボーはやめろって言っただろ・・・殺す気か!」 そのままオレの背中に乗っかって体を揺らし続けているのは・・・娘のハルカだった。 ハルカ「ちゃんと目覚まし仕掛けといたでしょ?これで起きないパパが悪いのよ」 キョン「お前はたまの休日ぐらいお父さんを労わろうって気はないのか?」 ハルカはオレから布団を引き剥がして言った。 ハルカ「もうごはんできてるから早く降りてこいってママが言ってるの。 40秒以内だからねッ!」 そう言うとハルカは駆け足で下に降りていった。 ふー、やれやれ。一体誰に似たんだか・・・ オレは顔を洗ってキッチンに向かうと、すでに朝食の準備は整っていたようだ。 8人がけの大テーブルの上に4人分の朝食が湯気を上げていた。 キョン「おはよう。今朝はお前たちだけか?」 「アイツら、とことん朝弱いからねえ・・・」 オレの問いに答えたのはハルカの双子の弟、ハルキだった。 16年前のあのとき、ハルヒが苦心して守り抜いたお腹の子はなんと双子だったのだ。 双子は二人ともハルヒに似て、とてもりりしい顔立ちをしている。 というか、ほとんどハルヒの生き写しといっていいぐらいであった。 特にハルカに至っては高校時代のハルヒそのままだった。 ハルヒと違うのは、頭につけたカチューシャとリボンの色ぐらいのものである。 あのときの苦労を思うとオレは今でも涙がにじんでくる。 ハルヒ「他の子たちはちっとも起きてこないの。しかたないから私たちだけで 先に食べちゃいましょ」 …朝に弱いのはどうやらオレの血筋らしいな。 ハルヒはすでに30代も後半にさしかかっているというのに、いまだその美貌は失われていない。 20代でも通用するかもしれん。・・・決してオレのひいき目じゃないぞ。 長く伸ばした髪は後ろでくくってポニーテールにしている。お互いもういい歳なのだが、 オレのたっての願いでいまだにこの髪型を維持してもらっているというわけだ。 あと5年は続けてもらう予定だ。 キョン「今日もまた不思議探索をやるのか?」 ハルカ「そうよ!最近は除々に団員が増えてきたからね。 探索地域も初期の頃に比べてかなり拡大したわ!」 ハルカはごはんをかきこみながら言った。 ハルキ「・・・姉さん、そろそろ僕は文芸部の活動に専念したいんだけど」 その言葉にハルカは目を光らせ、弟の頭にすばやくヘッドロックを極めた。 ハルカ「なに言ってんの!アンタは由緒あるSOS団の団員第5号なのよ! そのことを誇りに思えばこそ、やめるなんてこの私が許さないわよ!」 ハルキは必死で姉の腕にタップしているが、どうやらハルカの辞書に ギブアップという言葉はないらしい。 …ハルキが団員5号ってことは、オレはいまだにSOS団の団員ってことになるな。 記念すべき団員1号だ。 ハルヒは結局大学には戻らず、出産後は育児に専念した。 才能あふれるハルヒのことだから、どんな道に進んでもある程度の成功は約束されていたはずだ。 オレは幾度となく大学への復帰をほのめかしたが、そのたびにハルヒは首を横に振った。 …正直なところ、オレとしてはハルヒが家にいてくれるほうがうれしかったのではあるが。 ハルヒはその持て余した時間のほとんどを子供たちの英才教育につぎ込んだ。 おかげで子供たちはそれぞれ独自の才能を開花させつつある。 特にハルカに至ってはハルヒの思想を濃厚に受け継いでいた。もしかしたらハルヒはひそかに 伝承法を編み出しており、自分の娘に人格をそっくりそのままコピーしたのではないかと疑いたくなるぐらいである。 ハルカは中学で優秀な成績を修めながらも、進学先はオレとハルヒの母校である北高を選んだ。 ハルキも同様に優秀な成績を修めていたが、姉に強制的に進路を決められて 同じ道に進むこととなった。 彼は中学生にして直木賞の選考に残るほどの作品を書く大型ルーキーであるが、 最近の執筆活動はどうやらハルカの妨害によりかんばしくないようだ。 ハルキが高校で入部した文芸部は、あわれハルカの陰謀により十数年ぶりに復活したSOS団の根城となってしまった。 彼はかつての長門の位置で本を読みつつ、2代目団長にツッコミを入れるという離れ技を披露しているようだ。 オレと長門の役を一人でこなすとは、我が息子ながら見上げたものである。 ハルヒ「今、団員はどれぐらいいるの?」 ハルカ「聞いて驚いてよママ!一週間前に入団した転校生を合わせて、 なんと総勢45人になったわ!」 ハルヒ「へぇ~、大したもんね!この子はきっと私を超える団長になるわ!ね、キョン?」 キョン「まったくだ」 嫁さんからいまだに高校時代のあだ名で呼ばれていることはさておき、新生SOS団は なぜかおそるべき大所帯となっていた。 ハルカの人間離れした魅力とハルキの人当たりのよさがどうやら人を惹きつけるらしい。 さすがに宇宙人その他もろもろはいないと思うが、断言はできない。 というわけで、SOS団の二代目団長はかつてのハルヒ以上の台風の目となり、 北高及びその周辺地域を暴れまわっているというわけだ。 そんな姉の様子を見て、ハルキは気づかれないようこっそりとため息をついた。 …息子よ。お前の気持ちは痛いほどわかるぞ。かつてはオレがその立場にいたんだ。 むしろ双子なだけに、お前たちはオレとハルヒ以上に運命共同体なのかもな。 いつかハルカに一生を共にしてもいいっていう男が現れるまでは お前がパートナーを務め続けることになるんだろう。 ハルカ「それでね。団員も増えてきたことだし、今日はSOS団初代団長と 栄誉ある団員1号にご足労願いたいの!みんなきっと喜ぶと思うわ!」 …なんだって? ハルヒ「そうねえ・・・今日は特に予定もないし、いいわッ!初代団長であるこの私が、 若い団員たちにありがた~い話を披露してあげる!いいわよねキョン?」 キョン「お、お前・・・本気で言ってるのか?」 ハルヒ「もちろんじゃない!私たちの意思を受け継いだSOS団よ。一度お目にかかりたいと 思ってたの。アンタだってそうでしょ?」 …そうだった。コイツはいつだって本気なんだ。前言を撤回しよう。 オレはいまだに昔と変わらない立場にいるようだ。 オレはハルキと目を合わせると、同時に深いため息をついた。 くそ、なんだか急に目が覚めてきた。こうなりゃヤケだ。 今日はとことん新生SOS団につきあってやろうじゃないか。 不思議探しをするのも十数年ぶりだ。もしかしたら、あのときにはなかった不思議が 新たに発生してるかもしれんしな。 窓からは明るい日差しが差し込んできて、絶好の探索日和である。 しかし初代と二代目がそろってしまえば、なにやらとてつもないモノを 発見してしまいそうな予感がして、少し不安でもある。 願わくば、後処理が比較的楽な不思議が見つかりますように。 -fin-
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/534.html
朝起きて登校し、途中で友達と会って喋りながら教室に入りいつも通り授業を終える。 健全な普通男子高校生はほとんどこんな日常だろう、もし違うとしても彼女と居るとか部活とかの+αが付くだけだ。 だが、俺の日常はそんなのじゃねえ 涼宮ハルヒ率いるSOS団に入っちまったせいで 俺の日常は+αどころか+zぐらいあるんじゃないのか?+zこれの読み方はしらないが。 俺の日常は意味の分らない同好会未満の変な集団活動をよぎなくされたり、 へんな空間に閉じ込められたり、俺以外が替わってる世界に来ていたりと+zどころじゃすまないような経験をしてきたんだが、 今回はありえないほどに普通で逆にそれが怪しい。 ん?待てよ、俺までハルヒのような考えになってるじゃねえか。とにかく俺は初めはこんな感じだった でも誰だって思うさ、あのハルヒがクラスのみんなと普通に接しているんだからな 「おはよう」 俺は信じられない光景を見た、あのハルヒがクラスのおそらく名前も知らない男子に笑顔で挨拶してる。 もしかしてまた閉鎖空間に迷い込んだのか?だったら発端は誰だ?いや、俺はここまで来るのになんの変化も感じられなかった。 って事はだ。 ただハルヒの性格が変わっただけ・・・・・か。 本当に閉鎖空間でハルヒの性格が変わったのだとしたら入学、いや中学の初めからハルヒはあの性格だろう 確認するために俺は国木田に聞いてみた 「なあ国木田、なんか涼宮変わったな」 「そうだね、さっき僕にも挨拶してきたよ。キョンと付き合っていくうちにまともになったんじゃない?」 国木田は俺の予想と違う答えを出した。 どうやらここは閉鎖空間でもなんでもない俺が今まで暮らしてきた世界のようだ、 ただ昨日のハルヒと今日のハルヒがまったく違うってことだけだな ようやくあいつもこの世界に慣れてきたかと考えハルヒに話しかけた 「何考えてやがる」 「どうゆう意味よ?」 いつもの勢いだ、なんだ?本当に変わったか?さっき見たときとはずいぶん違うな、 もしかしたら俺にだけ厳しいのか?さて俺はハルヒにいくつ疑問符を当てたかな?まったく分らない女だ。 いや?この場合おれか? 「やけに皆に優しいじゃねえか」 「だから何だっての?私が同級生と接するのがそんなに嫌?」 やっぱりいつものハルヒじゃねえか、逆にいつもよりきついぐらいだ 「別に」 だがお前が皆と話してるところを見るとなんか変な気持ちになる・・・風邪か? 「ふん」 なんでだろうな、俺に対する態度がいつもより倍きついぞ? 「今日SOS団はなにするんだ?」 この質問は俺自身わかってたかもしれない、SOS団なんて同好会未満の集団はいつも通りなにもせず過ごすだろう。 「そうだ、私今日SOS団には行けないわ、皆で何かやってて」 「今日陸上部に出ようと思ってるの、悪い?」 OK、どうやらハルヒは壊れちまったようだ。関わらないでおこう。 結局いつものように授業を終えて昼休みに入ったんだが、あのハルヒが教室から出て行っていないのだ。 なんと女子グループの中心で笑ってやがる。なんだ?もしかして朝倉が中に入ったのか?だったら気をつけないとな。しかもさっきから俺のほうチラチラ見てやがるし。 谷「なんか涼宮も不気味なぐらいまともになったよな?猫かぶってるんじゃないか?」 確かにあいつは猫かぶってるときがある。すぐに戻るけどさ。 国「でも皆、涼宮さんとこ行って話してるよね」 谷「大方、いつもとのギャップに引かれてるんだろ俺は近寄りたくないね、また振られ・・ゲフンゲフン・・・いやなんでもない」 キョン「おい谷口、チャック開いてるぞ」 谷「え?ああ開いてたか」ギギギギ そのまま昼休みが終わり、放課後になって部室に行く。 ノックして入ったが長門しかいない・・・・そうかハルヒは陸上とか言ってたな・・・ 「ハルヒがなにか変なんだが、世界が変わってるとか無いか?」 「無い、涼宮ハルヒの精神やこの世界が改変された形跡は無い」 そうか、何も無いか・・・じゃああいつもSOS団に来る時間がへるのかな・・・気付くと長門は俺のことをジーっと見ている。俺の顔になにか付いてるか? 「あなたは涼宮ハルヒに会えないとさびしい?」 くっ長門、痛いとこ突いてきやがる。たしかに俺はハルヒがいないと寂しいかも知れない。 それはもちろんSOS団団長としての意味も有り、もう一つは・・・・・・・・口にしたくは無いが、俺はハルヒが好きだってことだ 「さびしいな、あいつにあえないとつらい」 って俺は長門に何話してるんだ、 「あなたは涼宮ハルヒに明確な好意をいだいている」 ああそうだなわかってる、お前と話してるうちに気付いた。 長門は話し終えるといつも通り本に向き直った。 「そうだよな・・・悪い俺帰る」 気まずくなったから俺は帰ろうとしたところに長門の声がかかってきた。 「あなたは涼宮ハルヒに会いに行ったほうがいい」 長門は俺が望んでたことを口にした、そうしたいけど、ハルヒに迷惑じゃないのか? 「それは行ってみないとわからない・・・・私には涼宮ハルヒは自分が変化したことにあなたがなにか反応を起こすか実験してるように見える」 俺の反応?まったく悪趣味だな、何考えてやがる 「わかった、行ってくるよ」 ハルヒになんで来るのよ!!と怒鳴られたらスタコラサッサと帰るぜ。 俺がグラウンドに行ったときに陸上部は学校から出てランニング中だったのだろう、居なかった。 はりきって来たのにやる気を削がれたな。長門なら知ってただろうけど、なんで教えてくれなかった? そのまま俺はグラウンドのそばで待っとくことにした。 30分ぐらいしたころか?ハルヒは帰ってきた。どうやらこれで部活は終わりのようだな。ハルヒは俺が待ってることにに気付いた。 「あ!キョン、待ってたの?」 ハルヒはいつもの笑顔に戻ってた。いたずらが成功した子供のような笑顔で 「なら、一緒に帰りましょ」 やれやれ、だけど妙に優しいのより俺はこっちのハルヒが好きだ。一緒に坂道を下りながら決意した。 この後告白しよう―――――― 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/294.html
ハルヒ先輩2から 「ふんふん。この成績だと、内部進学は楽勝ね。ようやく同じ学校に通えるわね!」 「敷地は今も同じだし、校舎だって5分の距離だけどな」 「大違いよ! 今はみんなも見慣れた風景になってるらしいけど、高等部の中庭であんたとお弁当食べ出した時の、周囲の目ときたら!」 「気にしてたのか? というか、気付いてたんだ?」 「当たり前でしょ!」 「じゃなんで、膝の上に俺を乗っけて食べるなんてことしたんだ? 俺も結構嫌がっただろ?」 「あたしがそうしたかったからよ! 決まってんでしょ!」 「聞いた俺が悪かった」 「あとオーディエンスがいると、余計燃えるわね」 「周囲を挑発するのは、少し自重してくれ」 「あれくらいしないとね、ライバルを黙らせるには至らないの」 「ら、ライバル?」 「あんたは鈍いし天然入ってるから気付きもしてないんでしょうけど、あんたって地味にもてんのよ! 何度、体育館の裏に呼び出されたことか」 「大学生がそんなとこ呼び出されるなよ。というか、危ないから行くなよ」 「虎穴に入らずんば虎児を得ずよ、キョン。ピンチに逃げを打つようじゃ、恋をする資格はないわ!」 「意気込みは分かるが、その故事成語の使い方は違うと思う」 「別れてくれだの、年増だの、ショタ・コンだの、あたしとキョンじゃ釣り合わないだの、キョン君を弄ばないでだの、実はキョンと深い仲だの、おなかの中に二人の子供がいるだの、まあ、散々なこと言われたわ。全員、泣かせてやったけどね!」 「ど、どうやって?」 「のろけて」 「……」 ハルヒ先輩4
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2115.html
今俺は病院のベッドの上で点滴を受けている。 何のことはない。 ちょっとしたストレス性のなんとかかんとかで、胃の一部が溶けただけだ。 何が原因かと言えば、まぁ、色々原因は思い当たりすぎて何とも言えない。 クラスでの俺の扱いが、色々な事件の末に妙な風になっていること。 隠していた秘蔵AVの配置がズレていたこと。 妹に、知らなくて良い余計な予備知識が増えていたこと。 後は、来年に控えた大学進学に関してが少々重荷だったことくらいだろうか。 そんなこんなで、ともかく今俺は病室で安静にしたいわけだ。 「おい、ハルヒ」 「なによ」 「俺は今から横になって、ゆーっくり休みたいんだ」 「あらそう」 「だから、いいかげん俺のベッドの横でくつろぐのは止めてくれ。胃に悪い」 だが、この女……涼宮ハルヒはそんな俺を一向に構う様子もなく、 来て早々「倒れた団員を気遣うのは団長の務めよ!」と言ったきり、横に居座り続けて、 お見舞いの品を勝手に食ったり、俺が休んでいた間のSOS団での事件を勝手に報告していたりする。 看病というのか病人をオモチャにしにきたのか、ハッキリ言って区別はできない。 「なによ。せっかく人がお見舞いしに来ているんだから、もっと丁寧に扱いなさいよ。 だいたいちょっとしたストレスで胃に穴が空くなんて、軟弱過ぎるの! そんなんじゃあ現代社会で生きてけないわよ!」 ベッドの横の椅子でふんぞり返るハルヒ。 こいつの小言を聞いていると、冗談抜きで胃がキリキリと痛む。 なまじ頭だけは良いから、妙に重々しいことを言ってきて精神衛生上よろしくない。 「これからは、社会に出ても恥ずかしくないくらいSOS団総出でビッシビシしごいてあげるわ! 覚悟して……」 「やめろ」 思わず、吐き捨てるような口調になる。 「………誰のせいでこうなったと思ってるんだ……」 「なによ。あたしのせいだって言うの?」 「あ………その、いや…………」 これは、明らかに俺の失言だった。 無論この胃潰瘍はハルヒのせいではない。 あいつらとの活動に、俺が負荷を感じたことがないと言えば嘘になるが、 まさか胃に穴が空くようなレベルじゃあない。 「そんなことは全然、まったくない……が…………」 俺の言葉は尻すぼみになった。 ハルヒが下から睨め付けるように俺を見ていたからだ。 ある意味、ヘビに睨まれたカエルの気分……というのがこの心境を表すのに適している。 「あたし、帰る」 「ちょ、ハルヒ! 待て! 待ってててて痛てててて………ッ」 急にかかったストレスで、俺の胃は悲鳴を上げた。 ハルヒはそんな俺を振り返ることもなく、椅子を蹴って立ち上がると、 一目散に病室から出て行ってしまった。 無論、胃痛で動けない俺は、その後ろ姿を見送ることしかできなかったわけだ。 思えば、これがあのドタバタした1日の伏線になっていたわけなのだな。 後々から考えてみれば。 ◆◆間◆◆ あれから一週間ほどして、俺は学校に復帰した。 胃に空いた穴もほとんど回復し、長門、朝比奈さん、古泉のお見舞いのお陰もあって、フィジカルもメンタルも絶好調となったからだ。 しかし問題は一つ。 あれ以来、俺は涼宮ハルヒとは会っていないし、一秒たりとも会話をしていない。 「よ、よう」 「………………」 復学早々朝一番の挨拶にも、ハルヒは反応してこなかった。 「まだ怒ってるのか?」 「………………」 返事をしないのも予想の内だ。 今までのハルヒの行動を念頭に置いて考えると、一度キッチリ頭を下げておけば、 どんなにつむじの曲がったハルヒでも、帰りにSOS団の部室に行く頃には機嫌を直してくれると予想はついている。 俺は席に着くと、早速机に手を突いてハルヒの顔を真っ直ぐに見た。 「すまなかった。あの件については俺も」 「いいの。謝らないで」 「悪……ん?」 言葉を途中で切られて、俺はかなり怪訝な顔をしていたと思う。 「な、なんだって?」 「謝らなくていいの。気にしないで」 この時の俺はかなり動転した顔をしていたと思う。 あの涼宮ハルヒともあろう者が、相手に謝罪もさせずに物事を許したことがあったか? いやない(反語)。 「一体どんな風の吹き回しだ。俺はちゃんとこうやって謝罪を」 「いいのよ。それより聞いてくれるかしら?」 涼宮ハルヒが大人しい。声を荒げたり茶化したりすることなく、 むしろ冷静に俺に語りかけてくる。あまりに……そう、あまりに不気味だ。 以前どこかで巻き起こった猛烈な勢いの台風が、町を丸々ぶっ潰しておきながら俺の家だけを無事に残しておく時くらいに有り得ない状況である。 視線を時折外に向かわせたり、教室に戻したりと挙動不審気味なのが尚更におかしさを煽る。 「な、なんだよ」 「………何でも言うこと聞いてあげる」 「は?」 「あたしが、何でも言うこと聞いてあげる」 何の冗談だ、と笑い飛ばそうとした。 笑い飛ばそうとしたのだが、ハルヒの目は本気だった。 茶化すには余りにも真っ直ぐにこっちを見ていたのだ。 「…………ど、どういうことだ?」 「ッ!」 ガタン! と椅子を蹴って立ち上がると、ハルヒはドタバタと駆けながら教室を出て行ってしまった。 「おい、待てハルヒ!」 俺が声を上げたことで、教室中の視線が俺に向いた。 俺は気まずい思いをしながら、視線から逃れるように席に戻るしかなかった。 「何でも言うことを聞くだと………どういうことだ?」 ◆◆間◆◆ ハルヒはその後、1限から5限までの授業を丸々ボイコットした。 鞄を机に置きっぱなしだったから部室にでもいるのかと思ったが、 ガチャッ 「…………」 「なんだ。長門しかいないのか」 放課後部室に入ってみれば、居るのは定位置で読書にふける長門の姿だけだった。 ハルヒどころか、我らがメイドの天使様であらせられる朝比奈さんも、どうでもいいが古泉もいない。 「どうやら、ハルヒは完全にフケちまったみたいだな。何か知らないか?」 「知らない」 「そうか」 長門の回答は簡潔だった。恐らく全く心当たりがないのだろう。 それなら仕方がない、とばかりに俺はオセロを引っ張り出して一人オセロで暇を潰すことにする。 ハルヒが部室にないとなれば、これ以上探そうにも探しようがない。 となれば、いつも通り部室にいてハルヒが来るのを待った方が得策というわけだ。 そして、暇を潰すにも、よっぽどのことがなければ長門の読書を邪魔しないという暗黙の了解がある。 お茶も、朝比奈さんが来てから淹れて貰った方が美味しい気がするしな。 取り敢えず、まずは白と黒の駒を盤の上に並べて、さっそくオセロを……。 「……伝えることがある」 「うぉ!?」 俺はびっくりして手に持っていた駒を取り落とした。 いつの間にか、読書を止めた長門が右隣に立っていたのだ。 しかも顔の位置が近いぞ。 「なんだ。驚かしてまで伝える内容なのか」 「そう」 「どんな内容なんだ」 「あなたの言うことを、なんでも聞く」 「………なんだと?」 「あなたの言うことを、なんでも聞く」 聞き覚えのあるセリフだ。 「長門、それはハルヒに何か吹き込まれたんだな」 「肯定する。涼宮ハルヒが一限開始前に通達してきた」 「『俺の言うことを何でも聞くように』……てか?」 「そう」 ハァ、と思わず溜息が漏れた。 長門を巻き込んで、あいつは一体なにがしたいんだ。 あいつの思いつきは毎度毎度突拍子もないが、今回も突拍子がなさすぎてわけがわからん。 「気にせんでもいいぞ。どうせハルヒの戯れ言だ」 「そうはいかない」 「ん?……そうなのか?」 「そう」 長門が更に一歩前に出てきた。 互いの顔が数センチという近さで、これはちょっと近すぎる。 思わず目を逸らしてしまう。 「な、なんだ。そんなの本気にする必要はないんだぞ。だいたいいつもの気まぐれじゃないか。 てきとうにやって話を流しちまえばいいんだよ。そんなにいちいち真面目くさってやってたら大変だ」 そこまで一気に喋って、チラ、と長門の方へ視線を一瞬戻したが、 長門の顔は依然として超至近距離にある。 「だいたいだな、俺が言うことを何でも聞くって言ったら……例えば、俺がココでキスをしろなんて言ったら……」 「キスを実行する」 俺が視線を戻した時、既に、長門との距離はほとんどゼロだった。 ふっ、とお互いの息がかかり、そのまま長門のくちびるに俺のくちびるが触れ……そして、すぐに離れた。 「終了する」 ほんの1秒未満だったが……これは、確実に………その………。 「な、長門?」 「問題ない。わたしは命令を実行しただけ」 長門はいつもの定位置まで戻ると、鞄に本を仕舞い、それを持ってドアの所まで行った。 「長門……もう、帰るのか?」 「…………………」 長門は答えず、そのままドアを開けて廊下の方へ出て行ってしまった。 終始無言のままの長門だったが、その無表情には微かに別の表情があった。 長門の表情を見分けるのには、俺にも一家言ある。 あれは………確かに、少しだけ、長門の顔は赤かった。 ドタン バタバタバタバタッ 遠くで誰かが階段から落ちたらしい音が聞こえる。 程なく、我らが天使朝比奈さんがやった来たが、彼女によると、 「いきなり長門さんが階段から滑り落ちてきて、びっくりしちゃいました……。 あんなに慌てた長門さんを見るのは初めてですよ。 顔だけはずっと冷静な顔だったのが、ちょっと面白かった……なんて言ったら失礼ですけど」 だそうである。 ハルヒのヤツ、長門に無駄にエラーを蓄積させるとは、まったくけしからんヤツである。 本当にそう思う。 キスできてラッキーとか、そんなことは全く思わないわけではないが、ともかくけしからんヤツである。 ◆◆間◆◆ 朝比奈さんが来て、つつがなく着替え終わった後、 俺は、定番のメイド服に身を包んだ天使の淹れたお茶を美味しく頂戴していた。 今日のお茶はナントカカントカというお茶で、あつ〜い温度で作る渋〜いヤツなのだそうだが、 俺には彼女が淹れてくれるというだけで全てが甘露なので、ともかくおいしく頂戴するわけだ。 「いや〜、まいどまいどすみません」 「いいんですよ。これもオシゴトですから」 別段、必ずSOS団に従事しなくてはならないわけでもないのに、それに全力を注ぐ彼女のなんと健気なことか! 俺は感涙を禁じ得ず、ついでにお茶をもう一杯所望してしまうのである。 「そう言えば、またハルヒが妙なことを思いついたらしいですね。 朝比奈さんは何か聞いていませんか?」 「あ、朝ホームルームが終わった後で聞きました。 その……キョンくんの言うことを、必ず聞くようにって言われてます」 やっぱりか。 「いったいどんなつもりなんでしょうね。 さっきも長門が……その……よくわからないことを言っていて、びっくりしましたよ」 先程のことを思い出し、俺が渋い顔をしていた時、 バァン! と勢い良くドアが開いた。 「やほー! みんなげんきにょろ?」 ドアから飛び込んで来た、このハルヒ並のハイテンションなお嬢さんは、何を隠そう鶴屋さんだ。 SOS団の準団員にして常識派の筆頭。そして古泉の組織のパトロンの家系のお嬢様という、 肩書きでも中身でもテンションでも、全てにハイの付く朝比奈さんの同級生だ。 「どうしたんです? 朝比奈さんならそこに……」 「いやいや。今日はみくるに用事じゃなくて、キョンくんの方に用事があるかなっ」 「お、俺ですか?」 鶴屋さんと言えば朝比奈さん。 そういう図式が頭の中でできていた俺には、それだけで十分不審な空気を感じ取ってしまう。 「いったい、どんな御用です?」 「今日は、キョンくんの言うことをなんでもきいちゃうよっ。ハルにゃんとの約束だからねっ」 ビンゴだ。 「またそれですか。どんなことでも、って言われても困りますよ」 「どうしてかなっ?」 「俺だって心身ともに正常な青少年です。そういう所を配慮していただかないと……」 話半ばで、俺の手は鶴屋さんにガシッと掴まれた。 「つ、鶴屋さん?」 「つまり、キョンくんがしたいのはこういうことにょろ〜?」 鶴屋さんが手を引っ張り、そのまま朝比奈さんの……その、胸部に俺の手を押し当てた。 「ふぇ、ふぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」 「ちょ、つ、つ、鶴屋さんこれは!?」 「ふっふっふっ……めがっさ柔らかいにょろ?」 三人の声が交錯する。 その間、俺の右腕は……その……たっぷりとした重量を手の平に感じていた。 柔らかさはマシュマロ、固さはゴム鞠、そんな二律背反が混在した感触だ。 コンピ研の部長が以前この状況になったことがあったが、これは確かに万死に値する価値がある。 「やや、やめてください鶴屋さん!」 俺はそう叫んだ。さすがの俺もずっとそうしているわけにはいかない。 鶴屋さんの手を振り払い、天使のバストから無理矢理手の平を引き剥がす。 「何のつもりですか! いくらハルヒからの命令だって言っても、これはひどすぎます! 朝比奈さんだって、ほら、何か言ってやってくださいよ!」 俺が憤慨しながら声を上げると、 「でも……涼宮さんの命令だから……」 「しかたないかなっ。これはこれで面白いしね!」 と頬を赤らめたり、ケラケラと笑っていたりする。 ダメだ。真意が読めん。 「今、キョンくんがして欲しいというなら、あたしで良ければキッスくらいしてあげるよん?」 「待って下さい。俺はキスをして欲しいとも身体を触りたいとも思っていません」 「おりょ。キョンくんはお堅いな〜」 「お堅いお堅くないじゃないんです。変だと思いませんか? そんな命令?」 思わず二人に対して声を張り上げてしまう。 この時ばかりは、俺もちょっとばかり腹が立っていたのだ。 「それは……涼宮さんがキョンくんのことを思って、のことですよ」 「どういうことですか、朝比奈さん?」 「だって、キョンくんが倒れたのはストレス性の胃潰瘍だったという話で、 涼宮さんも、それでとっても悩んでいたみたいでしたし……」 「あの時のハルにゃんは、長いこと悩んでいたからね〜。それでみんなで人肌脱ごう、ということになったのさっ」 つまり、これは俺にストレスが溜まらないように……という対処ということなのか。 逆に気をつかってストレスが溜まっている気がしてならないがな。 「だ、か、ら。遠慮しちゃダメにょろ〜。 あたしので良ければ、今ならめがっさ格安で! ちょっとだけ体験させてあげてもいいかなっ」 鶴屋さんが俺の手を取って、そっと胸元に押しつけてきた。 朝比奈さんとは違って、こう、良く締まった身体の上に乗ったソレのアレな感触がジンワリと伝わってくる。 「だ……」 「だ? 何にょろ?」 「ダメです!!」 俺は乱暴に手を振り払った。 「あららら、嫌われちゃったかな?」 「そういうんじゃありません! 俺は……その……」 上級生二人が、俺の次の言葉を微笑をしながら待っている。 「す、すみません! ちょっと失礼します!」 顔を真っ赤にした俺は、全力で駆け出してぶち当たるようにドアを開けると、 廊下を駆け抜け、裏庭の方へと走り込んで行った。 ◆◆間◆◆ 「はぁ………はぁ………」 普段しない運動をしたものだから、肺がぜいぜい言っている。 ちょうど良いところに裏庭用のイスとテーブルが設置してあったので、そこにどっかりと腰を据えた。 なんだ。この状況はいったいどこのエロゲーだ。 いや、俺自身全くエロゲーをやったことがないわけではないので、思い当たるタイトルはいくつかあるが。 「まったく……ハルヒのヤツも変なことばっかり、考えやがって……」 「いや、いいんじゃないですかね。あながち間違った策でもないと思いますよ」 独り言のつもりだったのだが、背後から返答があった。 「どうです。そこのコーヒーですが一杯飲みませんか?」 紙コップを二つ持ってきたのは、いつものうさんくさい笑顔を貼り付けた古泉だった。 俺は無言でカップを受け取って、一口グイと煽る。 「部室では大変だったみたいですね」 「……見てたのか」 「いいえ。しかし、あなたの声は裏庭にも聞こえましたからね。大体予想はつきます」 冷たいコーヒーをもう一口あおり、火照った身体をクールダウンさせていく。 「ハルヒの思いつきも、ここまでくるとちょっとばかり迷惑だな。 さっきお前は間違った策じゃないとか言っていたが、本当にそう思うのか?」 「思いますね」 「何故だ」 「そうですね……簡単な話ですよ」 両手を方の高さに上げて「やれやれ」のジェスチャーをした古泉が話を続ける。 「あなたは今回、潜在的に受けていたストレスによって胃潰瘍になったわけです。 それを完全な形で回復させるには、あなたが何に潜在的ストレスを感じていたのかを特定し、 それが二度とあなたにストレスとならないようにしなければなりません。 専門家でもない我々は、怪しいと思われる可能性を、一つ一つ潰していかねばならないわけですよ」 「………なるほど」 一応、筋は通っているように思える。 「で、その対策の一つが『何でも言うことを聞く』なわけか」 「そうです。あなたは基本的に涼宮さんに行動を制約されていますからね。 一度、あらゆる制約からあなたを開放してみよう、というのが今の涼宮さんの考えだと思われます」 ふむと唸って俺はコーヒーをもう一口飲んだ。 「古泉。お前はハルヒに何か言われたのか?」 「えぇ。『決してあなたには逆らわないように』と申し使っていますよ」 「やっぱりか。まぁ、お前なら特に気兼ねもないからその点は安心だな」 「そうでもありませんよ?」 その時、俺は古泉の目が、普段のニヤけた目とは違う形をしていたのを見ていた。 何か……アマゾンや熱帯雨林の特集をやる動物番組で見たことのある、エサを目の前にした肉食動物の様な目をしている。 「ど、どういうことだ古泉」 「あなたが僕に対して、無意識下でストレスを感じていないとは言えません。 それを確かめるだけです」 明かにおかしな雰囲気を感じ、俺は即座に立ち上がろうとしたが……立てない。 何故か足に力が入らない……なんだこれは? 「古泉……いったいこれは……」 「組織の方から支給された物でして。依存性はありませんし副作用もありません。 ちょっとの間身体に力が入らなくなるだけです」 古泉が一口も口を付けなかったカップを置いて、俺の目前に移動してくる。 「可能性は全て潰しておかねばなりません。 例えば、あなたがわたしに性的な興奮を潜在的に感じていたという可能性も。 これは致し方ないことなのですよ。涼宮さんのため、と思って少々ガマンして頂きましょう」 あのニヤニヤした顔が俺の、目と鼻の先にある。 ヤツの鼻息が俺の顔にかかってきてこそばゆい。 待て。それは明らかに近すぎる距離じゃあないか。 「まさか……古泉、お前まさか………」 「大丈夫。優しくするから身を任せてください、キョンたん」 キモイ! あの古泉がキョンたんなどと言ってくる、この状況が気持ち悪い! それに何だ、何故俺のネクタイをゆるめてシャツの中に手を入れてくるんだ。 やめろそこは違う断じてそんな所にストレスは感じていないズボンの中に手を入れるなちょアッー! 「アナルだけは! アナルだけは!」 思わずそう言って俺は泣いた。 童貞だけど処女じゃない。 そんなアンビバレンツなキャラクターをこれから一生背負っていく自信は、俺にはない。 「やめろ……やめてくれ……」 「そんなに嫌がると燃えちゃいますね。可愛いですよキョンたん」 「ひぃぃぃぃ………誰か………誰か!」 その瞬間、ゲ泉の手がパッと俺から離れた。 俺の可哀想な菊の花も、侵攻から開放されてやっと通常運行になる。 「しくじりましたね。完全に人払いはしたと思いましたが……そちらが干渉してくるとは予想外です」 ゲイは裏庭に植えられた木の下を見つめていた。 そこにいたのは、現生徒会書記であり旧SOS団依頼人だった喜緑さんだ。 両手を後に組んで、一人静かにこちらを見つめていた。 いつの間に現れたんだ! 「なんのつもりですか? 穏健派のTFEI端末が独断で動くとは初めて知りましたよ」 「涼宮ハルヒに急激な変化を起こされては困るの。あなたの趣味で涼宮ハルヒを暴走させて欲しくないだけよ」 そのまま、喜緑さんが何事か……長門の『呪文』のような物を唱えると、 急に俺の萎えていた手足に力が戻ってきた。 手も……もちろん足も動く! 「う、うわぁあぁぁぁぁーーーーーーーーッ!」 「キョ、キョンたん! ぐッ!?」 俺がゲイ野郎を突き飛ばしてその場を飛び退くと、ゲイはそのまま後にぶっ倒れて尻餅をついた。 俺は後も見ずに裏庭からの脱出にかかる。 「これはしてやられました」 「あなたは尻をやるつもりだったのでしょう?」 「つまり、これはそういう意味合いにおいてはあいこ、ということでしょうかね。 僕とあなたはお尻あい、と」 「そうなりますね」 「フフフフ……」 「うふふふ……」 バカのような会話を背後に聞きながら、俺はその場を駆け去っていった。 ◆◆間◆◆ 「はっ………はぁ………はぁ…………」 俺は息も絶え絶えになりながら、商店街を歩いていた。 寒い冬の最中であるのに、商店街まで一気に駆けていた俺の身体は異常な熱を持っている。 今ならきっと頭の上に湯気が見えるぞ。 なにせ、学校から商店街までほぼノンストップで駆けてきたんだからな。 「はぁ……はぁ……………はぁーーーーーーーーーーー……」 大きく溜息。 ハルヒは俺のストレスを開放する、などと言っていたが、開放されてるのは他のヤツばかりじゃないか? 俺自身が解放されている気がちっともしない。 「これは……早急に手を打つ必要があるな。直に発生源を叩く必要があるぞ」 呑気に相手の気が変わるのを待っているわけにはいかない。 普段SOS団の活動で使う喫茶店を前に、俺は携帯電話を取り出した。 ◆◆間◆◆ 「なによ」 「なにじゃない。俺が呼び出した理由くらい、もうわかってるだろ?」 俺は携帯電話でハルヒを呼び出した。 最初はゴネていたハルヒだったが、俺が「言うことを必ず聞くんだろ?」と言った途端、 即座に「わかったわよ」と言ってココまでやって来た。 そして現在、SOS団御用達の喫茶店で、テーブルを挟んでこうして俺とハルヒが向かい合っているわけだ。 「理由って?」 「みんなに言って回ったんだろ。『俺の言うことを何でも聞くように』ってな」 「そうだけど、それがなによ?」 くちびるをアヒルの口みたいに尖らせて、ハルヒは不満げな声を上げる。 「あんたの体調が悪いって言うから、ストレスにならないようにやったことよ。 あたし悪くないもん」 「別にお前が悪いとは言ってない。ただ、そのせいで周りが色々騒がしくてかなわん」 「あたしにどうしろって言うのよ」 「簡単だ。即刻前言撤回すればいい。そうすりゃ丸く収まる」 「嫌よ」 フン、と鼻を鳴らすと、ハルヒは窓の外に目線を投げて言葉を吐き出した。 「絶対嫌」 「………おい、ハルヒ」 「嫌だったら嫌。絶対ヤダ!」 「俺の言うこと聞くんだろ?」 自分で作り出した矛盾にはまったハルヒは、苦り切った顔をして窓の外を見ていた。 恐らく、古泉は今頃組織のバイトが急増して大変なんだろうな。 「ハルヒ。これは俺の命令だ。みんなに言った言葉を撤回するんだ」 「………………」 ハルヒはだんまりを決め込んでいる。 「その代わりだな……」 「………聞こえない! 全然聞こえないわ!」 いきなりそう言うと、ハルヒはガタンとテーブルを蹴る勢いで立ち上がった。 一口も口を付けられていなかったコーヒーがひっくり返り、テーブルに黒いシミが広がっていく。 この騒動に、周囲の目線も一気にコチラを向く。 「待て、落ち着けハルヒ」 「いいわよもう! あたし帰る!」 怒鳴るようにそう言うと、ハルヒは早足にその場を去っていった。 周囲の視線や、こぼれたコーヒーのこともあって俺が一瞬躊躇していると、 ガッシャァーーーーz________ン!! と、隣の席に四輪駆動のごっつい車が突っ込んできた。 「な………」 細かく砕けた窓ガラスが飛び散って、俺の背後を掠めていった。 喫茶店内も悲鳴やわめき声に包まれる。 「ハルヒ……!?」 慌てて入り口の方を見たが、ハルヒは持ち前の駿足でもって駆け去った後のようだった。 まるでタイミングを見計らったような事故っぷりじゃあないか? 俺は呆然とするレジ係を急かして会計を済ませ、急いで外に駆け出す。 ガシャン ギャー ドスンッ ドカ ハルヒを行方は捜すまでもなかった。 まるで道しるべでも作ったかのように、道なりに事故が多発している所がある。 なんだ……あいつはついに世界の崩壊でも願ったのか? その時、ポケットに入っていた携帯電話が鳴った。 「もしもし、キョンたんですか? 古泉です」 「切るぞ」 「冗談ですよ。それより、涼宮さんの状況がかなり悪いことを理解しているか心配で電話したんです」 「黙れゲ泉。貴様の声を聞くと耳が腐る」 「やはり理解されてなかったようですね。今、その辺りで事故が起こっているはずです」 「そうだが、そうだったとしても貴様は黙して語るな」 「その理由は、おわかりですか?」 「ハルヒが世界の崩壊でも願ったのか? それより他のヤツに代われ。貴様は死ね」 「あの……いいかげん、僕も泣きますよ?」 ゲイの声が軽く泣きそうになっていた。 「よし、死ね。それで事故とハルヒが願ったことと、どういう関係がある」 「……………………」 「言え、さもないと貴様がゲイだと学校中に言いふらして回るぞ」 「涼宮さんは『死にたい』と思ったんですよ。あなたのためにやったことが裏目に出て、更に怒られてしまった。 穴があったら入りたい。恥ずかしい。死んでしまいたいと思った……その結果が、今巻き起こっている事故の嵐です」 「つまり……それに巻き込まれて死んでしまいたい、ってことか」 「あなたなら上手くまとめてくれると思ったんですがね。どうやらそうもいかなかったようで」 「切るぞ。時間がない」 「ところで、今これを教えて上げたわけですから僕の……」 通話を切った。 「余計なこと考えやがって……」 俺は事故の起こった通りを急いで駆けていった。 途中、電柱の後で「死にたい……」とベソベソ泣く茶髪のゲイがいたような気がするが、恐らく気のせいだったのだろう。 ◆◆間◆◆ 転倒、転落、衝突、居眠り運転、うっかり、よそ見、物を落としたり、放り投げたり、火を付けたり、 その他考えられる限りの事故を起こした商店街を駆け抜け、 俺はついに商店街を抜けて住宅街に入ってしまった。 住宅街でも、犬が吠えて駆け抜け、自転車が電信柱に突っ込み、猫がひっくり返り、通り一面阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈していた。 俺は息を切らして足を止め、ここで一つの事実に気が付くわけだ。 「お……追いつかない……」 持久走、短距離走、障害物走でもトップを誇る涼宮ハルヒの駿足に、運動不足の俺が追いつくわけがない。 いつ事故に巻き込まれてケガをするかもわからないこの状況で、ウサギとカメの昔話を実践している場合じゃないんだ。 この状態になったハルヒが居眠りをしてくれるとも限らないし、居眠りの代わりが事故だったら尚更実践できるわけがない。 「ドラ○もんみたいな扱いで悪いが……ここは一つ長門に……」 そう思った時、見計らったようなタイミングで携帯電話が鳴った。 「も、もしもし?」 「涼宮ハルヒの追跡経路をナビゲートする」 長門だった。 「長門か!? どうしてこんなタイミング良く……」 「急がないと間に合わないから」 「そうだな。今はどうこう言っている場合じゃねぇ。じゃないとハルヒが事故にあっちまうからな」 「それだけとも言えない」 「? どういうことだ?」 「見つければわかる」 「で、どうやってハルヒを見つけるんだ」 「あなたと涼宮ハルヒの体内に位置探知用のナノマシンは注入済み。ナビゲートは簡単」 い、いつの間にそんな物を仕込んだんだ。 今日は手首を噛まれた思い出もないぞ。 「あなたには部室で」 部室……あの時のキスはそう言う意味があったのか! 流石長門だ。この時の事を想定して既に手を打ってあるとは。 でも、それならいつもみたいに手首を噛むだけでも良かったんじゃないか? 「進路方向、次の角を左」 無視か。今はそんなことを言っている場合でもないしな。 俺は即座に駆け出して左に曲がった。 ◆◆間◆◆ 「ハルヒ!」 驚いたことに、ハルヒは商店街から住宅街へ出ると、そのまま住宅街をグルリと回って再び商店街へ戻ってきていたらしい。 長門の説明では何だかんだの心理作用がナントカカントカの回帰を起こしたらしいのだが、 ともかく、俺は長門のナビゲートによって、再び商店街へ戻ってきたハルヒの進路方向へ先回りしていた。 「っ!!」 「こら、逃げるんじゃない!」 商店街中程の店の軒下に隠れていた俺は、商店街の大通りに駆け込んできたハルヒの前に奇襲的に登場し、 抱きつくようにして無理矢理ハルヒの足を止めさせた。 聞いたところによると、ハルヒはスピードを微塵も落とさずに走り続けていたらしい。 遠くから声をかけようものなら、あの駿足であっという間に遠くへ逃げられてしまう。 というわけで、俺は商店街の入り口にあった本屋(自転車が突っ込んで片づけで忙しそうだった)で立ち読みをするフリをしていたわけだ。 「放して! 放しなさいよ!」 「放してたまるか! 絶対に放さないからな!」 この寒い中、お互い汗を撒き散らしながら取っ組み合う。 こっちだって命懸けだ。 あいつが呼び寄せていたものが、やっと見えてきたわけだからな。 /´〉,、 | ̄|rヘ l、 ̄ ̄了〈_ノ _/ (^ーヵ L__」L/ ∧ /~7 /) 二コ ,| r三 _」 r--、 (/ /二~|/_/∠/ /__」 _,,,ニコ〈 〈〉 / ̄ 」 /^ヽ、 /〉 ´ (__,,,-ー ~~ ̄ ャー-、フ /´く// `ー-、__,| タンクローリーだ。 『危険物注意』の看板のひっついたガソリン満タンのタンクローリーが、商店街の向こう側に見える。 どうやら妄想は一人事故にあって痛い思いをするというレベルを越えて、周囲を巻き込んで盛大に散るというレベルになったらしい。 こいつをネガティブに暴走させ続けると、どっかの国が打ち落とした人工衛星の破片さえ呼び込みかねんぞ。 「命令だ! 俺の話を聞け! まずはそれからだ!」 「嫌だったんでしょ? だったら命令なんて聞かない! 聞いてやらない!」 ちくしょう、こいつ完全にヘソ曲げてやがる。 しかも本気で暴れるから、いつ振りほどかれるかわかったもんじゃない。 今逃げられたら、後に迫ったタンクローリーにペシャンコにされた上に大爆発だ! 「ハルヒ……いいか、命令だ!」 「嫌よッ!」 「ハルヒ、俺にキスをしろ!」 「いや……何?」 ハルヒがやっと暴れるのを止めて、俺の目を見た。 「お前が俺にキスするんだ」 「な、なんでそんなこと……」 「他の誰も俺の命令を聞かなくてもいい。お前だけに聞いて欲しい」 俺の目線は、ハルヒを真っ直ぐに見ていた……わけではなかった。 実のところはその先に見えるタンクローリーを見ていた。 タンクローリーは、既に、ハルヒの背後百メートルを切った所にあったのだ。 「キョ……バ、バカ! 何言ってんのよ!」 「ハルヒ」 俺はそれだけ言うと、ハルヒの胴に回していた手を解いて、手を顔に添えた。 「バカ……バカキョン………」 タンクローリーはグングンとその距離を縮めていた。 もうハルヒの背後五十メートルの所にあった。 追記すると、ハルヒの目は潤んでいたと思うような気がする。 「お前がするんだぞハルヒ。命令なんだからな」 「………わかったから、目を瞑ってなさいよ」 「丁寧に言ってくれ」 「目を瞑って。おねがい」 タンクローリーはすぐそばに迫っていた気がする。 だが、その後どこでタンクローリーが止まったかまではわからない。 それから数分、俺は目を瞑りっぱなしだったからだ。 ---- 「キョンさ。あたし今日掃除当番だから、先に部室行っててくれる? 後で行くから」 「おう、わかった。掃除サボんなよ」 「サボらないわよ。あんたも活動サボらないでよね」 「おいおい、他に言うことがあるだろ?」 「……楽しみにしているんだからね」 俺はそう言って、ニヤニヤしながら教室を出た。 今のハルヒの一言に、教室中の人間が仰天していたようだ。 谷口は目も口も全開で仰天していたし、あの国木田でさえも目を剥いていたんだからその衝撃の具合もわかるってもんだ。 「きょ、キョンくん?」 「朝比奈さんじゃないですか。どうしたんですか、こんな所で?」 教室を出た所で、ドアの脇に立っていた朝比奈さんに気が付いた。 二年生であり、全校生徒の憧れの的でマドンナで天使の朝比奈さんがこんな所にいるのは、確かに不思議と言えば不思議だ。 「うん………あの……キョンくんを待っていたんだけど……」 うん。明日俺の下駄箱にカミソリ入りの呪いの手紙が入っていてもおかしくないセリフだ。 今の俺には微塵も怖くない所だがな。 「あの……これって、本当にキョンくんと涼宮さん?」 そう言って見せられたのは、携帯電話の画面だった。 画面には、タンクローリーの乗り入れられた商店街を背景に、抱き合ってキスしている俺とハルヒの姿が写っている。 「どうしたんですか、これ?」 「あのね、これが学校中にメールで出回っているらしいの。その……『涼宮ハルヒ熱愛発覚!!』って」 「なーんだ、そんなことですか」 俺はアッハッハと笑い飛ばした。 朝比奈さんも、それにつられてエヘヘと笑う。 「そうですよね。怪文章の類ですよね、こんなの」 「いえいえ。ただの事実だから笑ったまでですよ。 な、ハルヒ? 俺達ラブラブだよな?」 朝比奈さんと廊下の生徒達、そしてクラス中が再び仰天するのを感じながら俺は堂々と胸を張った。 「そ、そうだけど、それがなによ……」 「もっと他に言うことがあるだろ?」 「ら……ラブラブよ! あたしはキョンが大好きッ! これでいいでしょ、もうっ!」 ふふ、と俺は笑って肩をすくめた。 「何の問題もありませんよ、本当」