約 886,169 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3246.html
5日間熱心に勉学に励んだ後に訪れる束の間の休息。そんな貴重な休日に我々SOS団がどこにいるのかというと── ハルヒが福引で一発で引き当てた温泉旅館に来ている。 開催初日に引き当ててしまったことにより、客引き要素が70%減となってしまったその抽選会はもう悲惨だとしか言いようがなかったが。古泉に言わせれば 「涼宮さんがそう願ったんでしょうね」 とのことで、まぁそれについては初っ端から特賞を引き当てる確率と、 また都合よく5名様のご招待と書かれているその券を見て考えるとと妥当な推測ではある。 普通ならこんなものは家族で行くものだろうと思うのだが、ハルヒは家族に対しては長門が当てたもの (長門が一人暮らしとの説明も踏まえた上で)と言って誤魔化したらしい。 全く、そんな人生に1度、当たるかどうかも分からないような宝くじに匹敵する旅行券を、わざわざ団員で使おうとは。なんて独り言を漏らしたら、 「・・・・・・鈍感」 と後ろから雪融け水のように冷たな長門の声が耳に入った。 さて、旅館やホテルに着くと予想外に子供心というか、とにかく何かが湧き上がってきてウキウキしてくるのは何故だろう。 「探検しに行こう」と言ったのがハルヒではなく俺の口から発せられたものだから他3名は冷蔵庫にあったプリンが食べてみると実は卵豆腐だった、 なんてような顔になっている。まぁ、確かに俺も言い終わった後で多少しまった!とは思ったが。 「あたしが言う台詞でしょうが!キョンはヒラなんだから──」とそれはもう予想していたハルヒの言葉を軽くいなしながら他3名の意見を聞いた。 朝比奈さんはハルヒの機嫌を損ねないような言葉を選ぼうとしどろもどろで、長門はいつもの通り分厚い本を開いて物語の世界へ。 「僕達は・・・遠慮しておきます、2人で行った方が大勢で行くよりも隅々まで探検できるかと」 棄権なんてこのハルヒが認めるはずが無いだろうと思った瞬間 「じゃあいいわ、キョンと2人で行ってくるから、みんなは体を休めてなさい」・・・なんですと? ハルヒ、お前新幹線の中でなにか変なもの食べたんじゃないか、というかお前が一番疲れてるんじゃないかと聞こうとしたがもうすでに握られた手は そのへんの運動部よりも凄い力で引っ張られていき、こうして旅館探索が始まったのだった。 探索、とは言うものの。商店街が用意したような旅館、流石にそれほど広くもなく。地下の遊戯施設に立ち入っては「温泉浸かったら後でみんなで遊びに来ましょう」だとか、 開いてないレストランの前まで来ては「ここ、朝はバイキング形式で食べられるレストランなんだって」とか、つまり極一般的な会話に終わる探検だったわけで。 下見、という言葉の方がしっくりくるなと思うと同時に我が口から「探検しよう」なんて子供のような言葉が出てしまったことを再度後悔していた。 ふと握られたままだった手を見ながら、こんな風にハルヒと2人一緒だったあの日を思い出す。 当時こそ俺はその出来事を考えるたびに、手の届く範囲に拳銃がありさえすれば!なんて思っていたが。 今ではそんなことを考えていた頭の中の自分に鉛玉を撃ち込んでやりたいね。 俺は意外にもハルヒと共にいる時間を楽しいと思えるような性格を手に入れたらしい。と言えば遠まわしだろうか? 流石に俺でも自分の事を一端の健全な男子高校生だと思っているし、女子に全く興味が無いなんて今時の僧侶でも言わない事を、俺が言うわけが無い。 それがこの手を取っているハルヒなのかはまた別として。・・・だがまぁ、一緒にいて楽しい以上俺はハルヒを嫌いではないと自覚している。 「そういえばハルヒ・・・お前1年前と大分変わったよな」・・・1年前は毎日「退屈」、「暇」の言葉を製造し続ける特注機械だったのにな。 「なんか馬鹿にしてる?」っと、心を読まれかねないから少し控えておかないとな。 とはいえ、今でも毎週1回は「退屈」もしくは「暇」と呟きはするのだが。しかし古泉は「今年は例年に比べて本当に閉鎖空間が発生しなくて済んでますよ」と言っていた。 確か最後に発生したのはこの間のゴキブリ騒動の時だったとも言っていたな・・・ このゴキブリ騒動については家庭科の担任教師が入院の為2週間ほど学校を休んでいて・・・ で、それに伴って調理実習室の部屋が2週間閉鎖され、その後「調理実習室から異臭がする」との噂が囁かれはじめてから どういうわけか「調理実習室を調べて対処して欲しい」という話が悩み相談窓口から入ってきたんだよな。それも生徒会から。 生徒会長曰く、「こんな訳の分からない部を黙認させているのだから、たまにはそれに応じた働きも見せてみろ」だとさ。 便利屋じゃあるまいし。とは言うものの「対処してくれればSOS団の正式な承認を前向きに検討する」とのことなので 俺なりにハルヒを説得してさっさとこんな厄介事を片付けようと息巻いていたのだが。 調理実習室前に着くや、漏れ出てくる異臭。マスクを用意していて正解だったと他団員を見回し・・・ 涙を薄っすら浮かべている朝比奈さんに渡し、流石のパーフェクト宇宙人も若干眉を顰めているが・・・長門にも渡し 「ちょっと用事が・・・という訳にはいかないんでしょうね」当たり前だ、古泉。こいつにも渡し 口数が一瞬で0になって少々顔を引きつらせている我らが団長様にもマスクを渡し。 士気が下がりきってしまう前にさっさと開錠してドアを開け──そこから人間の女子2名の記憶は無いようだ。 惨状と言うべきか。2人が床に衝突するのを避ける為に両手が塞がった俺の目の前に表れた光景。 コンセントが外れ、ドアは半開きの冷蔵庫から飛び回る蝿。外からの空気が入ったことによって蜘蛛の子を散らしたように逃げていったがそれでも十数匹は目視できるゴキブリの集団。 長門がいなければこの惨状はあと数週間は惨状のままだったかもしれない。 高速言語を放つと同時にこの閉鎖(されていた)空間にいたゴキブリ、蝿、異臭、異臭元と思われる腐った食材etc・・・は亜空の彼方に消えていったらしい。 「・・・・・・任務遂行完了」マスク姿の長門がそういい終わると同時に鳴り響く古泉の携帯。 「申し訳ございません。・・・久々のバイトのようです・・・」 さて話を戻そう。 確かに四六時中一緒にいて、こいつの機嫌が手に取るように分かるようになった多大な能力を得てしまった俺が見ても、ハルヒは性格が丸くなったと言える。 が、しかしSOS団の活動意義が発足当時から不変であることも分かっているし、それならば何故ハルヒは閉鎖空間を発生させないような性格を得たのか不思議でならない。 「なぁ、毎日楽しいか?」ふと、答えを聞けば全ての疑問が解決される質問をハルヒに聞いてみた。 「あんたはどうなの?キョン」と返されたのは想定外だった。俺か?俺が毎日楽しいかどうかだって? 「・・・まぁ、楽しいと言えば楽しい、かな?」 「じゃあ、そんなもんなんじゃない?」うーむ。ハルヒらしからぬ答えだ。てっきりここで“退屈で暇でどうしようもないことくらいわかるでしょー! そんな質問をする前にあんたが楽しみを提供するよう頑張るのが有意義よー!”なんて罵倒されて、それに対して俺はそれでこそハルヒだと一人感慨にふける展開を考えていたのに。 そんな話を入浴中に古泉に話してみた。こいつならば涼宮の言わんとしていることを俺に分かりやすく教えてくれることだろう。 「それは・・・その通りの意味ですよ」・・・前言撤回。こいつに話したところで俺の脳は疑問を解決することはできなかった。 「フフ、失礼。しかし今まで常に自分の意見を押し通してきた彼女が、あなたに答えを任せた。それがヒントですかね・・・?」 ヒントなんざ言うくらいならとっとと正解を教えろってもんだ。俺はクイズバラエティーで分かりそうも無い難題を吹っかけられて反応を笑われる芸人じゃあない。 なんて言おうとしたがそれはハルヒによって阻まれた。 「お前!ハルヒ!なんで男湯覗いてんだ!」 「おや、体を洗った後で良かったですね、僕達」そういう問題じゃないだろ。 「ふふん、あんたがこっちを覗かないように監視してるのよっ!」俺は紳士だ、見るわけ無いだろうが。 どーだか、とからかうハルヒを俺もついからかいたくなって自分の胸を指差し 「見えてるぞ。」うそっ、という声と同時に崩れる椅子の音。 「あぁ、嘘だ。」 数秒してから返ってくるハルヒの怒声。久々にハルヒの口から「バカキョン」の言葉を聞いた気がするな。 部屋に着くなり用意されていた豪勢な夕食。ガイドブックや旅番組で見るようなまさにそれと全く同じ光景が目の前に広がっていた。 一番乗りで座布団に座ったのは意外にも長門。おそらく初めて見るんだろうな。生まれてまだ・・・4年しか経ってないんだから当然か。 急かすように他メンバーをじっ、と見つめ、全員が座るまでに要した時間は数秒。 ちなみに、長机を2人と3人で挟むように座布団が敷かれ、3人の方に長門、古泉、朝比奈さんの順で座ってしまったので必然的にもう片方には俺とハルヒが並んで座ることに。 長門は火をつけられた小鍋をまじまじと見続けている。分かるぞ、小学生のときの修学旅行で同じ気持ちを味わったもんだ。 ハルヒのいただきますの号令で料理を堪能・・・相変わらず長門の箸は速いな・・・なんて上の空になっていたら。 「ほら、ご飯粒ついてる」・・・まるで長門以外の時間が停止したようだった・・・漫画さながら、俺の頬に付いていたご飯を手に取り食べてしまったのだから。 「フフ。まるで夫婦のようですね」との古泉の声にハッと向こうに顔をやるハルヒ、耳が真っ赤だ。俺も顔が熱い・・・ さっさと食べて遊戯室行くわよ、と話をそらし、急いで飯をかっ込むハルヒ。・・・と俺。結局料理の味を楽しめなかった・・・ 温泉に浸かって腹ごしらえもして。もう快適な睡眠の安全装置は解除されいつでも引き金を引ける状態である。 適度な運動なんてしたらもう完璧に睡魔と書かれた銃弾は俺の頭を貫くね。 「馬鹿なことを言ってないで、次あんたの番よ!」と言うことで、古泉からラケットを受け取り俺なりに奮闘してみたのだが。 こいつはスポーツの神様が背後霊じゃないのかと思える試合だったな。なんで去年の孤島のときよりさらに強いんだよ・・・ ともあれ、何周かすると流石に全員に睡魔と書かれた銃弾は行き渡ったようで、最下位だった俺の奢りのコーヒー牛乳を振舞いつつ、部屋に戻ることとなった。 さて、人間という生き物は不思議なものであり、眠るという目的が別の事象によってなしくずしになる、なんてことはごくありふれた光景である。 この場合の事象とはトランプのことであり、いくつものメチャクチャなローカルルールが絡み合ってしまったそれはもはや大富豪と言えないゲームだったが。 罰ゲームに酒がハルヒの口から提案されたが、流石に高校生だけで来てるのに酒を飲んだ後の領収書を見られたら学校に通報されるかもしれない、 という説得の末これまたお決まりの奢りジュース。もちろんお決まりで俺の奢り・・・ どういう経緯で全員が睡眠という2文字に負けたのかは定かではない。遊びながらそのまま寝られるように放射状に布団を敷きなおしていたから、最後に電気を消した人間でないと知りようがない。 と、考えているのはつまり自分が起きているからである。変なジュースを罰ゲームで飲まされたからだな・・・キュウリ味のサイダーだっけな、うっ、思い出しただけで吐きそうだ。 暗闇にだんだん目が慣れてくると隣の布団が空になっていたのに気づいた。ハルヒだ。 トイレに行ってるのだろうか?という考えはそのまま5分過ぎたところで否定された。外に出て涼んでいるのかもしれない、が、ひょっとしたら。そう考えると既に俺は部屋を出ていた。 何故ハルヒがいないとこうも落ち着かないのだろうか。・・・そういえば世界が改変されていた時も。 まだ20年すら生きていない俺がこんなに1人の女子で心が不安になるのか?生意気すぎるにも程がないか。いや──俺は俺を誤魔化している・・・のか。 ぴたりと足が止まった。 「俺は、ハルヒのことが──好きなのかな」 がたたんとなにかに躓く音。振り返るとハルヒがソファーに尻餅を付いていて、弱々しい非常灯に照らされたその顔はかすかに赤くなっていた。・・・まさか。 「い、今の聞いてたり・・・?」 無言で頷くハルヒ。 「聞かなかったことにしてくれたりは・・・?」 無言で首を振るハルヒ。 ああ、俺の人生はここで終わったな。明日になれば団員全員に、月曜日になれば学校の笑い話のレパートリーに1話追加されるわけだ。 「あ、あたしも・・・同じ」 やれやれ。こういう話で笑われるのは男だけと相場が決まっているな。古泉あたりの端正な顔立ちの奴なら逆に七不思議に追加されそうだがな。 こんな普通さしか取り得の無い男子学生なら普通という項目が異常という項目に書き換えられて別のファイルに入れられるだけだ。 「あたしも・・・好き」 ・・・え?何?今幻聴が聞こえたような・・・ 「あんたのことが大好きって言ってんで・・・モガモガ」 幻聴じゃなかった・・・いや、危なかった。こんな大声を他の宿泊客に聞かれたら即追い出される。・・・しかし。 「これ夢か?」 スッ、と手が伸びて頬を抓る。古典的だが、確かに現実のようである。 「夢じゃない?」 コクコクと頷くハルヒ。ここでいまだに口を塞いだままであったことに気づく。 「おわっ、す、すまん・・・」 「まったく、部下が団長の口を塞ぐなんて、団員にあるまじき行為よ!」・・・まことに仰るとおりでございます。 「塞ぐならこっちでしょうが!」 ・・・俺の唇は、ハルヒの唇で塞がれた。 次に意識を取り戻したのは布団の中だった。あれは夢だったのだろうか。 時計に目をやるとまだ6時半で、みんな熟睡しているようだ。もちろんハルヒも。 ・・・閉鎖空間?いや、あの時俺の隣(ハルヒと逆)には古泉がいたのは確か・・・って、古泉はそれの専門家だからこれじゃ決め手にならん。 しかしその疑問はすぐに解決された。なぜなら、ハルヒの手と俺の手が握られていたことに気づいたからだ。 ・・・その手を離そうとしたがやめておいた。 ハルヒに夢で終わらせたく無かったから。 なぁ、あの時お前はいつから起きていたんだ? 「フフ。やはり気づいていましたか。」 古泉によると今回の件も特殊だというらしい。 神人が存在しない閉鎖空間だったとか、極めて感知するのが難しい空間だったとか、初めから近くにいたことで偶然入り込むことが出来たようだとか 言っていたが、閉鎖空間内での光景がフラッシュバックして大半は頭に入っていなかった。 「あの閉鎖空間の発生で何か世界に困ったことは?」 「起きていないですね。あ、困ったことではないのですがただ一つだけ変化が。」・・・何だ? 「あなたと涼宮さんの絆がより深いものへと変化したようです。」 そのまた次の週。不思議探索の日にまたも俺とハルヒ以外欠席となった。古泉の根回しだろうか。 ハルヒは特に非難することもなく、俺の奢りの缶コーヒーを飲みながら歩いている。 「あ、そうそう。商店街の福引券がまた1回分集まったのよね」と、いつのまにか丁度福引所の前に着いていた。 開幕と同時に特賞を失った福引と言うものはまるで全く弾まないバスケットボールのようである。 弾まないバスケットボールで観客を沸かす試合が出来ないことは商店街の方が一番よく分かっている。 そう、つまり特例として特賞をもう1本入れて客引きを図っていたのである。・・・が、ハルヒが来てしまったものだから大変。 流石に彼らの頭にも一般的な確率論が入っているはずだろうからそんな事態が起きることはまず予想しないであろう。 しかしそれでも“もしかしたら”が同じ比率で彼らの頭を蝕んでいるようであり、またそれが顔色を悪くさせる要因のであることが俺にも分かってしまった。 ここは俺が助けの手を差し伸べてやらなければなるまい。とまたも自分を誤魔化しつつハルヒに耳打ちする。 「3等の映画鑑賞券が当たったら丁度2人で行けるな」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1682.html
8月ももう後半だというのにこの暑さは一向に収まる気配が無い。 そんな中でも俺達SOS団はクーラーも無い文芸部室に律儀にも全員集まっていた。 何でも今日は重大な会議があるとか。 ハルヒ「み、みんなよく集まったわね。さ、古泉くん説明して。」 ん?何か今日は様子がおかしいな。 古泉「僕の親戚の富豪が田舎に大きな屋敷を持っているんですが、そこに出るらしいのですよ。 幽霊がね。そこでこれはSOS団の活動にも嵌るのではないかと思って屋敷探索を提案したんです。」 ハルヒ「そういうことなのよ。でも、みんなが恐いっていうならこの探索は中止にしてもいいわよ。 それに夏休みもまだ残ってるし、みんなにも予定があるんじゃない?」 キョン「俺は別に平気だが」 長門「平気」 朝比奈さんは恐がって行くのを躊躇するかと思われたが意外にも乗り気であった。 みくる「屋敷で肝試しですか?孤島でやったのよりも楽しそうですね。」 未来には肝試しという習慣は滅びているのか?朝比奈さんはやけに夏のイベントに積極的だ。 それに超科学を普段から目にしている未来人の彼女には幽霊などちっとも恐くはないのだろう。 ハルヒ「みくるちゃんにキョン、強がらなくていいのよ?ここで逃げたって誰も責めはしないわ。 もちろん私は行きたいけど、一人でも欠席者が出たら、全員での思い出が作れないからね。 きっぱり中止するわ。」 キョン「俺は平気だって。」 どうせ今回のこれも古泉とその機関が用意したサプライズパーティーだろ。 それに朝比奈さんが非常に興味津々だし、俺も屋敷探索に賛成しておく。 ハルヒ「そ、そう。ならいいのよ。それじゃ各自準備しておいてね。」 その日の帰り道、俺は古泉に今回の提案について問いただした。 キョン「今回も機関が関わってるのか?」 古泉「いえ、今回は機関は全く関係がありません。本当に出るらしいんですよ。 その僕の親戚というのが、普段は冗談を言いそうもない堅物なお方なのですが、幽霊を見たなどと 騒ぎ出してしまいましてね。とても嘘をついているようには見えないのです。 もしかしたら非現実的な何かがあの屋敷にいるのかもしれません。」 宇宙人や未来人や超能力者が現に俺の周りにいるのだから、本物の幽霊がいたとしても たしかに不思議ではないな。俺は途端に恐くなった。 古泉と別れたあと、長門に相談してみた。 キョン「なあ長門、さっきの古泉の話聞いてただろ?あいつの言ってることは本当なのか? 本当は機関も関与してるパーティーなんじゃないのか?」 長門「古泉一樹は嘘は言っていないと思われる。」 ヤバイ・・・恐い! 行くのが嫌になってきた。 だが朝比奈さんは行くのを楽しみにしてるようだし、ここでやっぱり行くのやめたなんて言ってみろ。 朝比奈さんに根性無しだと思われるではないか! 行くしかないのか・・・ 探索当日、電車を乗り継いで屋敷に向かった。 古泉や朝比奈さんは楽しそうにしていたが俺はとてもそんな気分にはなれない。 やっぱり本当に幽霊やらゾンビやらが居るかもしれないとなると恐怖を抑えきれない。 古泉「僕も少々恐怖はありますがね、涼宮さんなら何とかしてくれるだろうと思っているんです。 だからこそこの提案を持ち出したのですよ。何も無ければそれはそれで安心ですし。」 と俺に耳打ちをした。 ハルヒだが、何だかコイツも元気が無いように見えるのは気のせいか? 顔は笑っているが、何だか無理に表情を造っているような感じだ。 泳げないのに泳げると嘘をついて友達にプールに誘われてしまい、プールに着いて水に入る前の 小学生みたいな表情だ。わかりにくい表現でスマン。 そうこうしてるうちに屋敷に着き、いかにも頑固そうなオジサンが門の前に居た。 オジサン「キミ達が一樹の紹介でやってきた霊媒師か! 早く除霊を頼む! 金ならいくらでも出すから!」 どうやらこのオジサンは屋敷の中で生活することができず、ずっとホテルで生活していたようだ。 何かだんだんマジっぽい状況になってきた。寒気がしてきた。恐い。 古泉「任せてください。ですがこの屋敷相当大きいですね。オジサンにも道案内のために 一緒に入ってほしいのですが。大丈夫です。彼らの傍にいれば平気ですよ。」 そう言ってオジサンを先頭に立てて俺達は屋敷に入った。 こういう状況がこの中で一番好きそうなあの女、涼宮ハルヒは、 オジサン・古泉・朝比奈さん・長門、という順番で入っていった列の長門のすぐ後ろに 着いて歩き始めた。意外だな。てっきり前に着いて俺達を先導するのかと思いきや。 ハルヒ「キョ、キョン。ああアンタは私の後ろね!早く来なさいよ!」 まさかコイツは・・・ 俺達は屋敷内をくまなく捜索したがとくに怪しい物はなく、幽霊やゾンビといったものにも遭遇しなかった。 そもそも幽霊って目に見えるのか?という疑問はさておき、この屋敷にはとくに何も無さそうだ。強いて言えば蚊が多いな。 オジサンが幽霊だと騒いでいたのも、窓から入る風の音が呻き声に聴こえたとか、 その程度の勘違いだろうという結論を下した。 やっぱ幽霊なんているわけないよな。 ハルヒ「なーによ、幽霊の奴、私たちにビビってどこかに隠れてるんじゃないの?出て来なさいよ!」 ハルヒにいつもの元気が戻った。まあお前の気持ちはわからないでもない。俺も恐かったしな。 キョン「俺は最初から幽霊なんているわけないって思ってたがな。でもこんなでかい屋敷で 本格的な肝試しも悪くないな。」 オジサン「ふん、バカバカしい。やはり霊能力特番みたいな下らない番組など見るんじゃなかったわ! キミ達もこんなことに付き合わせて悪かったね。少ないけどこれで美味しい物でも食べなさい。 ワシはちょっとトイレに行く。・・・一樹、まだ少し恐いからついてきてくれるか?」 そう言ってオジサンは古泉を連れてトイレへ行った。情けないジイサンだ。 ハルヒ「でも少し拍子抜けよね。幽霊をとっ捕まえてSOS団の団員にしてあげようと思ってたのに。」 キョン「いいなそれ。そいつが雑用係になってくれたら俺も少しは楽になるってもんだ。」 ギャアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーー!! トイレの方から叫び声が聞こえた。俺とハルヒ、朝比奈さんに長門は急いでトイレに向かった。 トイレの前には古泉がいて、しきりにドアをノックしてオジサンを呼んでいた。 古泉「どうしたんですか!チャックに皮を挟んだのですか?あ、みなさんドアを破るのを 手伝ってください! オジサンがチャックに皮を挟めたようなので!」 ドアを蹴破るとそこには青白い顔で倒れているオジサンの姿があった。 オジサン「赤い着物の女が・・・赤い着物の女が・・・」 俺達は倒れているオジサンを布団まで運んで寝かした。それでも寝言を言い続けている。 オジサン「赤い着物の女が・・・・こっちに来る・・・・」 キョン「これはあれだ。昔泣かした女の幻覚でも見たんだろ。」 古泉「オジサンは女に泣かされても泣かしたことはありません。」 キョン「じゃあ何だ?これは赤い着物を着た女の仕業だとでも?」 古泉「わかりません。ただ得体の知れない何かがいるのは確かでしょうね。」 みくる「やっぱり幽霊ですか・・・?」 キョン「そんなわけないっすよ。どうせオジサンはチャックに皮を挟んだショックで倒れただけですよ。」 キョン「俺は幽霊なんて非科学的なものは断じて信じない。アホらし。付き合いきれねえよ。 みんな帰ろうぜ。」 そう言って俺は立ち上がった。 古泉「・・・何ですかこれ?」 長門「・・・・・・」 俺は右手で長門の手を掴み、左手で古泉の手を掴んで屋敷を立ち去ろうとしていた。 キョン「い、いや、お前らが恐がってると思って気を使って手を繋いでやったんだ!」 長門「手が汗ばんでる・・・」 古泉は俺の気遣いを振り払い、いきなり嘘を叫んだ。 古泉「 あ っ! 赤 い 着 物 の 女 が そ こ に ! ! 」 ガッターン!ガサガサ・・・ 俺はすぐさま押入れに飛び込んで隠れた! みくる「何やってるんですかキョンくん?」 キョン「いやあの カブト虫がいた気がしたので捕まえようと・・・」 みくる「キョンくん、もしかして幽霊が・・・・」 キョン「ビビってないですって!ホントです!」 古泉が人をバカにしたようなニヤケ面をしながら肩をすくめていた。 古泉「意外と臆病なんですね。女性陣は平然としていらっしゃるのに貴方ときたら・・・。 涼宮さん、どう思いま・・・・」 ガタ! ガタガタ! 置き物のでかい壷の中に一生懸命隠れようとしているハルヒの姿があった。 古泉「涼宮さん・・・一体何を・・・?」 ハルヒ「いやあの エデンへの入り口が・・・」 古泉・朝比奈さん・長門の無言の冷たい視線が俺とハルヒに向けられる。 キョン「何だその目は! 待て待て! 違うんだ! ハルヒはそうかもしれんが俺は違うぞ!」 ハルヒ「ちょっ、ビビってるのはアンタでしょ! 私はあれよ。胎内回帰願望があるだけよ!」 古泉「ハイハイ。わかりました わかりました」 長門「エデンでも胎内でもどこへでも行けよ」 急に古泉・朝比奈さん・長門が沈黙をし、目を見開いて俺達の後方を凝視した。 その目が次第に恐怖を感じているときの目に変わっていった。 キョン「何だオイ。驚かそうたって無駄だぞ。同じ手は食わん。」 それでも三人は固まって俺達の後ろを凝視している。顔が真っ青だぞ。 ハルヒ「ちょっと・・・しつこいわよ。」 古泉「ウワ―――――――ッッ!!」 みくる「キャ―――――――ッッ!!」 長門「!!!!!!!!!!!!!!」 三人は悲鳴を上げながら大急ぎで走って逃げた。 キョン「ったく、手の込んだイタズラしやがって。朝比奈さんまで・・・」 ハルヒ「バカね。こんなくらいで驚くわけないじゃない。」 二人が振り向くとそこには赤い着物を着た女が逆さまになってこちらを凝視していた。 キョン・ハルヒ「・・・・こ、こんばんは~・・・・・・・・」 ギャアアアアアアアアアアアアア―――――――ッ!! 場面は走って逃げている古泉達に移る 長門「見ちゃった・・・本当にいた・・・」 みくる「キョンく~ん! 涼宮さ~ん!」 古泉「二人のことは忘れましょう!もうダメだ!」 古泉がふと振り向くと、キョンとハルヒが走って来ていた。 みくる「あ、何とか切り抜けてきたようですね。」 古泉「いや待ってください。 しょってる! 着物女をしょってますよ!」 みくる「イヤ―――――――ッ!」 古泉「こっち来るなァァァ!」 走って古泉達に追いつこうとしているキョンとハルヒは・・・ ハルヒ「ちょっと! みんな何で逃げるのよ! コラー! みくるちゃんに古泉君に有希! 待ちなさーい!」 キョン「なあハルヒ、やけに背中の半分が重いんだが、お前はどうだ?」 ハルヒ「そういえば重い・・・キョン、ちょっと確認してくれない?」 キョン「うるせーな自分で確認しろよ。」 ハルヒ「じゃあこうしましょう。せーので同時に振り向いて確認ね。」 キョン「お前も絶対見ろよ?裏切るなよ?」 せーの! 恐ろしい顔した女が俺とハルヒの背中に乗っかっていた。 どおりでハルヒから離れて走ることができなかったわけだ。 ギャアアアアアアアアアアアア―――――――――ッ! ギャアアアアアアアアアアアア――――――――ッ! ・・・・・・・・・・・ 古泉達は外にある物置の倉庫に隠れていた。そこでキョンとハルヒの悲鳴を聞いていた。 みくる「悲鳴が・・・」 古泉「今度こそやられたのでしょう・・・」 長門「しめた。これでヒロインの座は私のもの」 古泉・みくる「言ってる場合か!」 みくる「何でこんなことに・・・」 古泉「実は以前に彼(キョン)を亡き者にするために外法で妖魔を呼び出そうとしたことがあるんです。 あの化け物はもしかしたらそのときの・・・」 みくる「何てことしてるんですか!貴方のせいでキョンくんと涼宮さんは~!」 古泉「ちょ、ここせまいんですから暴れないでくださ・・・」 古泉がふと戸の隙間を見ると、そこから自分達を覗き見ている女の顔が・・・ 古泉「ぎゃあああ―――――――! 出、出、出すぺらァど――――!」 古泉は女に向かって急に土下座を始めた。 古泉「スミマセン!とりあえずスミマセン! マジ スミマッセン! ほら見て!マッガーレ!マッガーレ!」 古泉はみくると長門の頭を掴み、地面に叩きつけて無理矢理に土下座をさせた! 古泉「テメーらも謝れバカヤロー! 心から頭下げればどんな人にも心通じんだよバカヤロー!」 ハルヒとキョンは池の近くにある草むらに隠れて着物女をやり過ごしていたようだ。 その着物女が古泉達の元に行っていることを知らず、また古泉があんなことになっていることも知らずに 二人は怯えながら隠れていた。 ハルヒ「ね、ねえキョン。よーく考えたらあの女って幽霊でもオバケでも何でもない、ただの人間じゃない?あんたビビりすぎよ。」 キョン「そういやそうだな。足もあったし口が裂けてたわけでもないし、ちょっと顔が恐いだけの女の人だったような。ビビってんじゃねーよハルヒ」 ハルヒ「そ、そうよ!古泉君達があの人を見ていきなり驚いて逃げるもんだから、てっきりオバケかと思ったけど」 キョン「よく考えたらオバケのわけないよなw古泉も臆病なヘタレ野朗だな。次会ったらただじゃおかねー」 ハルヒ「あの女もとっちめてやるわ。まあ私は逃げてる間もアンタと違ってあの女にメンチ切ってたけど」 キョン「俺なんてずっと奴をつねってた」 ハルヒ「小さいのよアンタは。私なんて・・・」 ガ サ ッ ! ! ドボン! ドボン! 急な物音にキョンとハルヒはビビッて池に飛び込んだ。 その物音の正体がただのカエルの仕業だったことに気づいて安堵した。 ハルヒ「さ、さーて、水も浴びてスッキリしたことだし、そろそろ反撃といくわ」 キョン「む、無理すんなよ声が震えてるぞ。女と古泉は俺が仕留める。ヘタレは帰れ」 ハルヒ「ビビッてんのはアンタでしょ?ホントは股間が濡れてるから池に飛び込んだんじゃないの?」 キョン「俺達がここで争ってもしょうがねー。俺達を驚かして楽しんでるあの女に説教の一つでもしてやるぞ。」 そう言って俺達は歩き出し、古泉達とその女を発見した。着物女に一生懸命土下座していた。 古泉「あのホント、靴の裏も舐めますんで、勘弁してくださいよ!」 何しとんじゃアイツ・・・ 古泉は朝比奈さんと長門の頭を地面にめり込ませながら土下座をしまくっていた。 しかし俺達が駆けつけると女はすぐにどこかへ逃げて消えた。それでも古泉は気づかずに土下座を続けていた。 キョン「古泉・・・」 古泉「うわああ!すいませ・・・。ああ、貴方でしたか。これは彼女を油断させてから取り押さえようという僕の作戦 でしてね。朝比奈さんと長門さんにも協力してもらおうと思って土下座をさせたんですよ。」 俺とハルヒの無言の冷たい視線が古泉を攻める。 古泉「信じていないようですね。まあ次に彼女が出てきたら僕に任せてください。 すぐに片付けますから。 赤い着物を来たお方、出て来なさい!この僕が引導を」 赤い着物の女「なんだァァァ!やれるもんならやってみろォォォォ!」 古泉「ヒィィィィィ―! 出たァァァ!」 ハルヒ「ダ―――ッ!もうヤバイもうヤダ!」 キョン「ハルヒに古泉、よく見ろ。彼女は幽霊でもゾンビでもない。普通の人間だ。」 ハルヒと古泉は恐る恐る彼女を凝視した。人間であると確認するやいなや、彼女を強引に取り押さえた。 ハルヒ「もう逃げられないわよ!観念なさい!」 古泉はクールな顔でカッコつけて彼女を護身術みたいなすごい技で取り押さえた。 コイツら急に強気になったなw ハルヒ「さあ白状しなさい!何で貴方はこの屋敷にいるの?」 女「本当にすいませんでした。彼(屋敷の主)に中出しされたせいで子供が出来ちゃったんです。 私は彼と一緒にこの子を育てたかったのに彼は生涯一人で生きると言って認めてくれなかったんです。 そこで私はオバケのふりをしてこの屋敷に潜伏し、彼を驚かしていたの。 彼が一人でいるのが恐くなれば私と結婚してくれるかと思って」 阿呆だなこの女。でもお腹には子供がいるのか・・・。 古泉「そういうことだったのですか。オジサンもスミに置けませんね」 みくる「何だか気の毒ですね・・・。」 オジサン「知るか知るか!あの夜はワシは酷く酔っていたのだ。どんなゴリラでもいいから 一発やりたい気分だったんじゃ!でなきゃ誰がこんな女と。こんな女のためにびた一文たりとも 金を使う気はない!出てけー!」 ハルヒ「・・・・・・・・・」 ガタン! ガタガタ! バリーン! 何だ今の音? 俺達はその音がした方向へ向かった。 棚に置いてあった重く高価そうな壷が落ちて割れていて、額に入って飾られた絵も落ちていた。 古泉「地震も無かったのに妙ですね・・・。野良猫がこんな重い壷を動かせるとは思いませんし・・・。」 オジサン「棚にも特に変化がない・・・不思議だ・・・」 ハルヒ「もしかしてこの屋敷、まだ何かいるんじゃ・・・」 オジサン「そ、そんな・・・。おい女、これもお前の仕業か!?」 女「私は本当に知りませんよ・・・?」 たしかに妙だ・・・ オジサン「一体何だというんだ! 誰がやった!」 古泉「我々は彼女も含めてたしかに全員揃っていました。そしてこの壷はそう簡単に倒れるような物ではありません。」 ハルヒ「得体の知れない何かがこの屋敷にいるってこと?」 オジサン「ヒィィィッ!そんな!」 不穏な空気が辺りを包む中、ハルヒが口を開いた。 ハルヒ「ねえオジサン、この屋敷、何か霊的なものが潜んでそうでオジサン一人じゃ恐いでしょ?ずっとホテルに住むわけにはいかないし、 新しい家を建ててもこういう霊ってついてくるものよ。この際だから彼女と一緒に住んじゃえば? そうすれば恐怖も和らぐだろうし、それに賑やかな家庭には霊やオバケは現れないものよ。」 オジサン「・・・そうじゃな。おいお前さん、良ければワシと一緒に住まないか? さっきはゴリラなんて言ってすまなかったな。ワシ、照れ屋なんじゃ。」 こうして二人は一緒に住むことになったらしい。 これはハルヒが望んだことなのだろう。 彼女を不憫に思ったハルヒが、またあの奇妙なデタラメパワーを使って壷を割り、オジサンを恐がらせることでオジサンを素直にさせた。 俺はそう思いたい。 ―翌日― 恐怖の幽霊探索ツアーを終え、翌日の月曜の放課後、いつもの如く文芸部室に俺、ハルヒ、古泉、長門が集まっていた。朝比奈さんはまだHRが終わってないらしい。 ハルヒ「幽霊に会えなかったのは残念ね。とっ捕まえてSOS団のパシリにしてやろうと思ったのに。」 ビビってたくせによく言うぜ。 古泉「所詮は霊や妖怪と言ったものは、人が恐怖を感じるもの・・・例えば腐敗した死体や夜の暗闇、災害などを大袈裟に捉えたものらしいですからね。 また、言うことを聞かない子供に恐怖を与えて言うことを聞かせようとするためにオバケなる存在を考えたとか。」 もうお前が何言っても笑えるよw ハルヒ「でもあの女の人、幸せになれるといいわね。」 古泉「オジサンはああ見えて出来たお方です。少し照れ屋なだけなのですよ。大丈夫、あの二人ならいい家庭を築けますよ。」 まあ実際に幽霊やゾンビと言ったものに出くわさなくてよかった。そんなものがいるわけはないが、この団長様の前ではどんな常識も無効化されちまうからな。 それにしてもあのハルヒにも弱点があったとはなw オバケが恐いなんて可愛らしいところも・・・ ガチャ・・・・ ガッターン! バリーン! みくる「あ、あ、あ、すみませ~ん。普通に開けたはずなのに、いきなり外れちゃいました・・・。」 度重なるハルヒの乱暴なドアの開け方のせいで寿命が早まったドアは、朝比奈さんがドアを開けたそのときに外れて倒れた。 それはもう物凄い大きい音で倒れて壊れた。 みくる「・・・み、みなさん、何をしているんですか?・・・」 俺、ハルヒ、古泉の三人はビビッて机の下に隠れていた。 キョン・ハルヒ・古泉「いやあの コンタクト落としちゃって」 長門「ヘタレが三人」 ところであのオジサンの屋敷はもう大丈夫なのだろうか? 二人の仲のことじゃなくて、おそらくハルヒが生み出したであろう霊的な現象は収まったのだろうか。 まあ幸せな家庭には霊やオバケは現れないとかハルヒ自身が言ってたし、 オジサン達が仲良くやっていればもう何も起きんだろう。 屋敷にて 女「アナタ、最近帰りが遅いけど一体どこで何してるの?」 オジサン「黙れ黙れ。ワシがどこで何をしようとワシの勝手だ。お前はただ家事だけをやっていれば・・」 バリーン! オジサン「ヒィィィィィィッ!」 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4865.html
涼宮ハルヒの逆転 太陽が元気に輝いてるにも関わらず、今日は気温が低い。そう冬だからである。 放課後相変わらず文芸部室で遊びもとい団活動している五人。 俺は古泉と朝比奈さんでじじ抜きをし、長門は本を読んでいる・・・あれは人体解剖の本か?でハルヒはネットで動画を見ているようで、さっきから高い女性ボイスがうるさい。 古泉がビリという当たり前と化した結果でじじ抜きを終了したとき、団長様が騒ぎはじめた。 ハルヒ「キョン!あんたこの女の子好きでしょ!」 ちょっと来なさい、とばかりに魔手を招いてきた。仕方なく立ち上がりハルヒの見ている動画を見に行った。 動画にはやけにうるさい女と涙目なか弱い男が映っていた。どうやら前者のことを言ってるようだ。 ハルヒ「主人公のことを思い心を鬼にする女の子。あんたにはこういう子のがお似合いよ!」 いーや朝比奈さんのような可憐な女子が好きだ。ておい古泉、なに笑ってんだ? キョン「俺は可愛くて大人しい同級生と付き合いたい」 みくる「ロマンティストですねぇキョンくん」 いやですね朝比奈さん?さりげなく「人に夢と書いて」ということを言わないでくださいよ。 朝比奈さんの嘲笑を一身に受けながらハルヒの方に目をやると ハルヒが俺を見たまま目を見開いて硬直していた。 キョン「ハルヒ?」 ハルヒ「・・・そうだったの」 なにゆえ落ち込む? そのとき本を閉じる音が聞こえた。 ハルヒ「まあいいわ。とりあえず解散!」 一気にテンション戻しやがった。 帰り道、鈍感ですねと古泉に言われた。俺がなにをした! これから起こる事件は俺が悪かったのだろう。だがなあ宇宙人に未来人に超能力者、俺にだって選ぶ権利があっても・・・まあ俺は自分の意志で決めたから良いのだが。 次の日いつもどおり妹にたたき起こされた。いつもどおりだらだらと飯を食べた。いつもどおり登校直前に教科書の類いをバックに積めた。 つまり俺は学生としてはダメ人間なわけだ。 そしていつもどおり玄関のドアを開けると、いつもどおりではない光景を見た。 なんとハルヒが俺の目の前にいる。 キョン「どうしたんだ?荷物持ちならお断りだぞ」 ハルヒ「えと・・・おはようございます」 俺にカミナリが走った。なんでハルヒが手もじもじさせて、一般人のセリフを言ってんだ!? ハルヒ「あっ荷物持ってもらえるのでしたらその・・」 微妙に図々しい所は変わらないな。だがこんな弱気な美少女の頼みとあれば キョン「わかった。カバンよこせ」 ハルヒ「あっありがとうございます」 顔赤くしないでくれ、理性がはじけ飛びそうだ。てか本当に同一人物なのか? カバンを受け取りつつ聞いてみた。 キョン「名前は?」 ハルヒ「えっ?涼宮ハルヒです。でも以前から知って」 キョン「部活は?」 ハルヒ「SOS団の団長ですけど?」 キョン「バスト・ヒップ・ウエストは?」 ハルヒ「えっとたしか・・てちょっとキョンくん!」 最後の解答以外で判断するとたしかにあの暴君らしい。あとで古泉に聞くか。 てなわけで俺とハルヒは登校した。 ハルヒと黙ったまま肩並べて歩くのは初めてだな。たまにハルヒが俺を見ては地面を見ていた。急に頭をなでてやりたくなったが、我慢して歩いた。 授業中ハルヒは寝ずに起きていて、6教科の教師全てを驚かせた。ハルヒが本当に優等生に見えたひと時である。 昼休み、俺はハルヒからの誘いで昼食を共にした。だが弁当をもらえるわけではなく、ただ机をくっつけて黙って各々の弁当を食べるだけだったが。たびたびハルヒがハンカチを取り出してこちらを見ては戻してたが、どうしたんだろうね。 放課後俺は急いで部室へ向かった。ハルヒは英語教師に質問してから行く、という。今日は英語の授業がなかったな。英語教師がハルヒの変わりぶりに驚愕することは間違いない。 この一連の変化を解決すべく部室の扉を開けると、いきなり誰かに抱きつかれた。確認すると、小柄な体の無口少女が 長門「キョンくん今日は早いね~!」 なにがあった? キョン「長門。これは一体全体どうなってんだ?」 長門「もうキョンくん!私のことは『ゆきっち』でいいよ!」 「消失」以来久しぶりに見た長門の笑顔に一瞬ときめいたが、長門を落ち着かせて事情を聞くことにした。 長門「ブーゆきっちでいいのに。なんか『ハルっち』が性格を改変したの」 キョン「おまえとハルヒをか?」 長門「私は変わってないよ~!ハルっちと『牛乳腹黒ロリ女』を変えたっぽい」 色んなところにツッコミしたいのだがまあいい。 長門「この改変について特に問題はないよ、て情報統合思念体が決定しちゃった。だからこのままキョンくんと遊ぶ~!」 こら抱きつくな、いやしてください、いーややっぱりだめだ! 「キョンから離れろ長門ーー!!!」 甘い誘惑に踊らされてる俺の背後から聞いた覚えのある声が叫んだ。振り向くとそこには・・朝比奈さん? 朝比奈「てめぇ二人っきりだからって何してもいいわけじゃなねぇぞ!」 長門「ふーんだ。陰険腹黒娘に言われたくないもんね~」 朝比奈「だから離れろって言ってんだろ長門!だいたいてめぇに陰険なんて言われたくねぇよ!」 俺は二人の口論に口を出せずただ呆然としていた。怒ってる朝比奈さんもかわいいです、てレベルじゃない。 長門「なんで私に美人局常習犯って言われたくないのよ?」 朝比奈「セリフ変わってんだろ!あんな本読んでるてめぇに言われたくはない!!」 そう言って指さした先を見てみると、椅子の上に一冊の本があった。なになにタイトルは「海外拷問画像集R20」?そんな本があったんだ。 驚いている俺の視界が急に暗くなった。 長門「見ちゃだめ!恥ずかしいよ~」 朝比奈「抱きつくな~!!!」 長門が俺の目を手で覆ったようだ。朝比奈さんが長門につかみかかったらしく、長門が俺から離れて朝比奈さんとケンカし始めた。 ハルヒ「どうしたんでしょう?」 いつのまにか俺のとなりでハルヒがあたふたしていた。本来の朝比奈さんポジションにハルヒが着くのか。 古泉「どうやら面白いことになってるそうですね」 おまえもいたのか。それより、女子のケンカを面白いとな? 古泉「たまには良いものです。今回の件は大きな改変ですが、あまり重要視する必要のない問題です」 むしろ楽しいです、と嫌みではなさそうな笑みを浮かべていた。 ハルヒ「あの二人を止めた方が」 古泉「涼宮さんがそういうのであれば止めましょう」 そう言うなり古泉が白兵戦中の朝比奈さんと長門の間に入った。 古泉「二人とも落ちつゲフグハァ!」 みくる「邪魔すんなガチホモ!」 長門「いっちゃんも敵なんだよね~」 あーあ左右から顔を殴られるなんてデフォなことして。 古泉は両頬を真っ赤に腫らして戻ってきた、なんか濡れ衣だとか言ってる。古泉の犠牲を無駄にせぬため、今度は俺が止めに入った。簡単に乱闘が終了した。 古泉「さて今回の件についてですが、先程言ったとおり重大な問題ではありません」 キョン「根拠はなんだ?」 古泉「解決方法がわかってます」 ほう、では教えてもらおうか。 古泉「ですがこの状況も面白いのでしばらく放置します、機関の許可もありますし」 キョン「なんか釈然としないが、いつでも改変を戻せるんだな?」 古泉「まあ戻すのはあなたですがね」 なに笑ってんだてめぇ。 ようやく部室に平穏が訪れたので、スマイル仮面とチェスをしよう。 だがその平穏の名前は「つかの間の休息」だった。 以下音声でお楽しみください。 みくる「はいキョンくんお茶!」 キョン「ども。いやーいつもながらおいしいです」 みくる「いっいつもやってんだからお世辞なんていらない!」 長門「なになにダークマターがツンデレ~?キョンくんはゆきっちのものなの!」 みくる「あー!?だいたいダークマターの意味ちげぇだろバカ!」 長門「あんたはまだプライベートに謎が多すぎる生命体だからいいのよ。特に深夜ね、クスクス」 みくる「こ ろ す」 ハルヒ「おっお願いですからその」 みくる「なんだ団長やろうってのか?」 長門「ハルっちは危ないから逃げて」 ハルヒ「暴力はダメです~!」 みくる「今日こそ決着つけるぞ長門!」 長門「ふーんあたしの宇宙的パワーに勝てるのかしら」 ハルヒ「えっ?宇宙?」 キョン「まて朝比奈さんに長門!おまえらそれは」 ハルヒ「今のはどういうことなんでしょうゆきっち!?」 長門「げっゆきっちピンチ」 みくる「ほんとあんたバカね」 ハルヒ「宇宙的パワーってどんな感じですか!?やってみてください!」 オンリー音声タイム終了。なるほど不思議の話になると積極的になるあたり、たしかにハルヒである。 長門「たったとえばこんなの、えい!」 そう言って長門はポッケからトランプを取り出すと、子供でもできる手品をした。 ハルヒ「わぁすごーい!」 ハルヒがよろこんでる。純心っていいな。その直後にどこが宇宙的パワーなんですか、とハルヒに言われて長門は愛想笑いでごまかした。 ハルヒ「ゆきっちは面白い人ですね」 長門「そうかな~。それより今思ったんだけど、ハルっちはさ~」 ハルヒ「えーと?そんなに見つめないで・・・」 長門「やっぱりかわいい~!大人しいときなんて興奮しちゃーう!」 ハルヒ「かっ顔が近いですゆきっち!ぃひゃぁっ!」 長門「この強調し過ぎない胸なんて特にイイ!私なんてこんなひんぬーなのに!」 ハルヒ「ひぃああくすぐってぃ」 長門「聞こえなーい!」 二人ともそのままでいろよ、今カメラにおさぶがあぁぁ! みくる「なーにやらしい目で見てんのよキョンくん!そんなに私は魅力的じゃねーの!?」 キョン「いきなり腰に飛びげ」 みくる「そーう、じゃ今から私しか見れないように調教してやるわ」 いつのまにか朝比奈さんの右手にはムチがあった。あっ右手を振り上げイタッ! キョン「朝比奈さん!いたいじゃギャッ!」 みくる「いいわよーもっとイイ声でさえずってキョンくん。テイッ!」 朝比奈さんは何度も俺にムチを打ってくる。こらーそこのかしまし娘たち!怯えてないで止めてくれ。 このままMに目覚めてしまおうか、そう思い始めたとき聞き捨てならぬ言葉をハルヒから聞いた。 ハルヒ「キっキョンくんはこういう女性がお好きなんですか?」 うおおおなんとしてでも否定をしゲフッ! みくる「そうよね~キョンくん?ハイ!」 キョン「アッ―――」 遂には亀甲縛りされ、口にゾウキンを詰められた。えーとハルヒさん?なにもそこまで青冷めなくても? ハルヒ「そうだったんですか・・・」 長門「泣かないでハルっち、ね?」 ハルヒ「ゆきっち~!」 ハルヒが長門に泣きついた。長門は照れながらハルヒを抱きしめて頭をなでている。だから誤解だってば! 声を出せないのでひたすら顔を横に振ったが、気づかないようだ。 あれ古泉はどこいった?そう思った直後 長門「じゃあ今日はカイサーン!」 もうそんな時間か、じゃなくて誰か助けて。ておいみんな帰るんじゃねぇ!扉を閉めるなぁ! さて置いてかれてからしばらくすると、古泉が戻ってきた。閉鎖空間からの帰りか? 古泉「なにがあったか察しは着きます。とりあえず解放しましょう」 閉鎖空間は発生してません、と言われた。 古泉「涼宮さんは今怒ってるのではなく落ち込んでいます。今までのデータを参考にしますと、落ち込んでいる時には閉鎖空間は発生しません」 ようやく俺の拘束が解除された。 キョン「じゃあなんでおまえは消えたんだ?」 古泉「だって朝比奈さんが怖いんですもの」 テヘッとか言うな気持ち悪い。 それよりだ、この改変された性格ってのはあくまで「作られた」性格なんだよな? 古泉「正確にはある基準を基に性格を逆転させています。」 例えば涼宮さんは普段ゴウマもとい気が強い女性ですが、今回はとても庇護欲をそそる女性になってます。 古泉「ただ思考までは改変してないようで、『不思議』にはとても興味が注がれてましたね?」 キョン「おまえはいつから消えてたんだ?」 古泉「朝比奈さんがあなたにムチを振るい始めた時からです」 キョン「罰として明日の昼食代を払え」 いやです、と言われたが解答を聞く気はない。 さっきの話によると、改変された人の性格は変わるが考えることまでは変わらないらしい。つまり朝比奈さんは……。 俺が下校中朝比奈さんへの認識をひたすら上書きし続けた。 古泉「・・・すので、帰りましたらお願いしますね」 どうやらなにか話してたらしい、俺は改ざん作業で聞いてなかった。ああ、と答えておいた。 家に帰って夕飯食べて風呂浴びてテレビ見て歯磨きしてベッドに入った。そこ、勉強が欠けてるとか言わない。 今日一日のことを思い出す。古泉の言葉を借りると、庇護欲をそそるほどかわいいハルヒ。ちょっぴりサディスティックな朝比奈さん。少々毒舌だが人なつっこい長門。案外悪くはなかったし、むしろ楽しかった。 あれが本来の性格でないのはわかっている。ゆえにどちらが良いかと聞かれたら間違いなく俺は 元の性格のかしまし娘たちをとる。 体のあちこちが痛い俺は早めに寝ることにした。 痛みで目が覚めた。妹が起こしにきたのかと思っていた俺は恐怖を感じた。俺は上半身裸でパジャマのズボンを着ていた。寒いな。 ハルヒ「ほらほら勉強の時間よ!」 ハルヒがスクール水着を着て、朝比奈さんのより丈夫そうなムチを使い慣れた手で俺に振るってきたのだ。 俺は逃げようとしたが、足が動かない。いてぇ。 両足が縄で縛られ、手も後ろ手に縛られていたのだ。 急に腰に重みを感じ、うつぶせにされた。ハルヒが馬乗りになったのだ。 ハルヒ「さあさあ良い声でさえずりなさいキョン!あたしたちの愛を確かめるように!!」 そう言うとハルヒは俺に首輪をはめ、首輪に繋がれた鎖を思いっきり上に引っ張りやがった。 キョン「グァァッ!」 ハルヒ「もっと!上手にできたら天国と地獄を同時に感じさせてあげるわ!アハハハハハ!!」 暴れたくても、馬乗りされて思うように動けず息も詰まっていた。 しばらくその体勢でいると、いきなり足に衝撃が走った。 キョン「ウワアアアァァァァ!!!」 ハルヒ「そうよその調子よ!ムチなしで鳴けたら完璧よ!!」 そう言うとハルヒはうつぶせの俺に重なるように抱きついてきた。 ハルヒ「温かいでしょう。これはあたしの愛よ、キョン」 休憩よ、と言い俺から離れると、ハルヒは不気味に明るいこの部屋の隅でくつろぎ始めた。 もはや話す気にもなれないので縄をちぎろうと懸命に抗っていると声が聞こえた。 「大丈夫ですか?」 誰だ?そしてどこにいる? 古泉「ここです」 耳元で聞こえていることに気づいた俺が声の方向に振り向くと、今にも消えそうな小さな光る玉がいた。 古泉「声を出さずに聞いてください。ここは特殊な閉鎖空間です」 閉鎖空間は本来神人が暴れるところですが、ここは神人が存在しない代わりに神がいます。 古泉「これは昔あなたと涼宮さんが行かれた閉鎖空間と似ています」 ですが涼宮さんは世界を放棄したわけではありません。よって我々の世界が終焉を迎えることはありません。 キョン「長い。要約しろ」 古泉「失礼。原因はあなたが涼宮さんに性格改変を望ませたことです。一昨日は大人しい性格に、昨日は『あの』朝比奈さんのような性格にね。」 すくなくとも今は日付が1日進んでるんだな、とか悠長なことを考えた。 古泉「この事件の解決法と閉鎖空間からの脱出方法はおそらく同じです。先程も言いましたが、あなたが涼宮さんを恋愛対象として認めたことを彼女に伝えればいいのです」 キョン「できるかそんなこと!!」 古泉「静かにしてください、あくまでフリです」 ハルヒ「どーしたのキョン?天国地獄のお時間よ~!」 しまった。おまえなにを口に入れるつもりだ。モガッ! ハルヒ「猿グツワ装備完了!鳴けなくなるのが嫌だけどしかたないわよね?」 そんな笑顔で言われても返答できねぇよ。 ハルヒはまた俺に馬乗りになった。なにやらカチッカチッという音が聞こえはじめた。なにをしてんだおまえは。 ハルヒ「あたしからの熱い愛のプレゼントをあげるわ!」 そう言うと、俺の脇に温かいものがアツッ!まさか ハルヒ「どう、ロウソクは熱いでしょう?あたしの愛なんだから当然よ!」 ライターでロウソクに火をつけたのか。このままでは俺の身がもたない。気持ちを伝えたくても口は塞がれている。 そのまま何十分経ったのだろう、実際は数十秒だろうが。 ハルヒ「なんでナいてんのよキョン?」 ナく?鳴けないぞ、てああ泣いてんのか俺。恥ずかしいね。 ハルヒは猿グツワを外すと、俺を仰向けにして悲しそうな顔で尋ねてきた。相変わらず馬乗りだが。 ハルヒ「答えてよ。なんで泣いてんのよ?あたしの愛が嫌い?」 俺は最後のチャンスである、と直感した。覚悟を決めて言う。 キョン「俺は今のおまえが嫌いだ!」 古泉「えっ」 ハルヒが顔面蒼白になってるが気にしない。ついでにどこかから「えっ」なんて音は聞こえなかったことにしておく。 キョン「俺はかわいげがあって人思いの女性が好きだ。だがな、今のおまえにはかわいげどころか邪気すら感じるぜ」 ハルヒ「あっあたしのこと・・・キライなの・・・」 キョン「ああ」 首輪の鎖を引っ張られ、ハルヒの顔の近くに顔を持ってかれた。ハルヒの顔に一筋の涙が見えた。 ハルヒ「なんでよ!あんたの好みの女になったのに!!」 キョン「じゃあ聞くが」 俺がいつ言った? そういうなりハルヒは顔をくしゃくしゃにして泣き出した。表現がどうであれ、こいつは本当に俺のことを好きなんだな。 これじゃ相思相愛じゃないか。 キョン「ハルヒ、おまえはなにか勘違いしてるぜ」 ハルヒ「何をよ!あたしは勝手にあんたのことを・・・」 キョン「泣くな。俺が言いたいのはな」 今まで通りのハルヒが良い、ということだ。 ハルヒ「ふぇ?えっえっえっ??」 キョン「性格なんて変える必要はない。少しワガママだけど可愛いげはあるし、なんだかんだで俺や長門や朝比奈さん、おまけに古泉のことも思って行動してたじゃないか」 ハルヒ「あっ・・・うん」 キョン「つまりなにが言いたいかっていうと、俺はえっとあのその・・ハルヒを・・」 ハルヒ「なっなによ、最後まで言ってよ・・」 ロウソクを押し付けられたわけでもないのに顔が熱い。ハルヒも顔を紅潮させていた。 キョン「い、言わなきゃだめか?」 ハルヒ「そうよ!こういうのは男からこきゃふゃくれ」 キョン「なに噛んでんだよ、笑わせないでくれ」 ハルヒ「うっうるさい!じゃあ少しじっとしてなさい!」 ああ、ハルヒの顔がだんだん近づいて ハルヒ「ん・・・」 目の前には目を閉じたハルヒの顔。互いの息が混じり合う。ハルヒの唇は甘く熱い。腕を縛られたままなのが残念だ。 ― 突如浮遊感に襲われた。直後俺はベッドに入ってることに気づいた。俺の部屋だな。服装も戻ってる。時計を見るとまだ6時30分である、じゃあお休み キョン「もうそんな時間かよ!!」 俺が驚きで体を起こすのと同時に、妹が部屋に入ってきた。悪いな妹、今日の俺は早起きだぜ。 朝飯を食べてる間も甘い感触を忘れることはなかった。 朝飯を食べ終えた俺が部屋で教科書をバックに積めていると、電話がかかっきた。 古泉「おかげさまで彼女たちの性格が戻りました」 キョン「それは良かったな」 古泉「序盤で一瞬頭がおかしくなったかと思いましたが、ややこしいことを言わないでもらいたいです。ヒヤヒヤしましたよ、冬だけに」 キョン「うるせーな、ハルヒのことを考えて言ったんだ」 古泉「まあさすがにあんな甘いひと時を直視してはいませんがね、フフ」 あれを見られたのか!?て当たり前か、こいつは閉鎖空間にいたしな。だがな、他人に見られるのは恥ずかしいだろ。 キョン「コイズミクン、あとで昼飯をおごれ」 古泉「冗談ですよ。まあ今回は手っ取り早い方法をとってもらいましたが、今後はより安全策をとるよう機関で検討します」 キョン「古泉、なにか勘違いしてるぞ」 古泉「えっ?」 俺がハルヒのことを好きなのは事実だ。ただお互いに素直じゃなかった、それだけだ。 古泉「そうですか。では僕からはこうしか言えません。おめでとうございますキョンくん、そして涼宮さん」 キョン「今だけは嫌みを感じなかったぜ。ありがとう古泉!」 古泉「ただ残念ですが」 なんだ?前言撤回していいか? 古泉「涼宮さんからすれば、あの閉鎖空間での出来事を『夢』と思ってるかもしれません。だからといって現実だと伝えてはいけませんよ?」 ああ、そんなことか。 キョン「古泉。正直なところ確証はないが、あれが夢だと思われたとしてもだ」 もう一度正式に告白すれば、ハルヒは了承するぜ。 古泉「フフッ涼宮さんは力によって女性団員三人の性格を逆転しました。そして純粋な愛情であなたの気持ちを友達から恋人へ逆転させた、というところですね」 キョン「なに難しいことを」 古泉「僕は二人の恋が成就することを祈ります」 キョン「ありがとう」 俺が玄関のドアを開けると、目の前にハルヒがいた。 キョン「おー今日もか」 ハルヒ「うっうるさいわね!遅刻しないか心配に・・・じゃなくてその・・」 キョン「ありがとよ。ほれ学校行くぞ」 ハルヒ「・・・うん」 あのしおらしいハルヒを思い出した。ハルヒは顔を少々赤く染めて俯いていた。 登校中俺たちは黙って歩いていた。不思議とくそ寒い気温なのに温もりを感じた。 学校の正門辺りでハルヒが口を開いた。 ハルヒ「なっなんか今日最こ、最悪の夢を見たのよ」 笑みがこぼれてるぞ、とは言わず俺は同じように笑って言った。 キョン「奇遇だな、俺もさ。もしかしたら同じ夢かもな」 ハルヒ「・・・そうかもね!」 授業中はいつもの睡眠ハルヒに戻っていた。おいおい寝言で俺を呼ぶな、恥ずかしいだろ。英語教師が睡眠ハルヒを見て落胆してたことは内緒にしておこう。 昼休み、俺はハルヒを文芸部室に連れて行った。部室に入ると誰もいなかったが、イスにぶ厚い本が一冊置いてあった。なるほどね、ありがとう長門。 真っ赤に頬を染めたハルヒはなんだか落ち着かない様子だった。さて人生の出発点を定めよう。 「ハルヒ、聞いてくれ。俺はハルヒのことが好きだ」 幸せを手に入れた二人。私はあなたたちを祝福しよう。 幸せ。「幸せ」とはどのようなもの? これの後日談「神の末路」へ続く。 ―――――end――――――
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/147.html
涼宮ハルヒ!!(長門有希ちゃんの消失第3話) スタッフ 脚本:待田堂子 絵コンテ:島津裕行 演出:羽多野浩平 作画監督:古澤貴文 作画監督補佐:松本文男、鵜飼一幸、今西亨 原作収録巻 第2巻(p5~P60)Epiloge8 涼宮ハルヒ(P1~3除く) Epiloge9 不法侵入 Epiloge10 ガールズトーク(P61~P64除く) BD/DVD収録巻 第2巻収録予定 概要 サブタイトルの元ネタは「Epiloge8の涼宮ハルヒ」より 原作の第8話から第10話をアニメ化。 ただし、ハルヒから別れたシーンより、漫画から追加シーンとして部室の片付けや、その帰り道の買い物での朝倉と長門のハルヒなどについての会話、廣田神社とみられる神社への和服姿での初詣など追加シーンがある また原作のカラーページに相当する(1-3ページ)分や、Episode10の最後は次回のネタフリなためカットされたのかもしれない。 今回古泉初登場なのは原作通り。 体育教師の森園生は出番が1,2話で原作にある出番をカットされたものの、今回の原作にある出番でようやく登場。森園生役の声優は、涼宮ハルヒちゃんの憂鬱や涼宮ハルヒちゃんの麻雀まで演じていた声優の大前茜が引退したため、小見川千明が継いで担当している。 なお、小見川千明は長門有希ちゃんの消失と共通の音響監督が担当したネギま!での大前茜の役も引き継いでいる。 パロディ等(涼宮ハルヒちゃんの憂鬱や涼宮ハルヒの憂鬱絡みも含む) 部室にXmasの文字(涼宮ハルヒの消失では外から鏡文字、長門有希ちゃんの消失では中からだと鏡文字とで逆) 今回も第2話に引き続き、『涼宮ハルヒの憂鬱第1期シリーズで使われた「おいおい」』のアレンジバージョンが使われている。(憂鬱I、憂鬱II、射手座の日、サムデイインザレイン)さらに第3話では、第1期シリーズで使われた「やれやれおいおい」のアレンジバージョンが使われている。(憂鬱II、退屈、ミステリックサイン、孤島前編) 放送版とBD/DVD版との違い キャスト・スタッフ(詳細) キャスト 長門有希:茅原実里 キョン:杉田智和 涼宮ハルヒ:平野綾 朝倉涼子:桑谷夏子 朝比奈みくる:後藤邑子 鶴屋さん:松岡由貴 古泉一樹:小野大輔 森園生:小見川千明 女性店員;幸田夢波 野球部キャプテン:金光宣明 野球部員A:西山宏太郎 野球部員B:駒田航 スタッフ 脚本:待田堂子 絵コンテ:島津裕行 演出:羽多野浩平 作画監督:古澤貴文 作画監督補佐:松本文男、鵜飼一幸、今西亨 ゲスト衣装デザイン:今西亨 動画検査:堤章江、Fan Ru Jun 美術設定補佐:上津康義 美術監督補佐:石田喬子 色指定検査:琴吹名人 特殊効果:小森靖彦 スプリクト制作:志村豪 2Dグラフィックス:野崎崇志 CGディレクター:畑山勇太 CGデザイナー:渡辺雄斗 CGプロデューサー:青谷崇司 マネジメントCGプロデューサー:畑秀明 CG制作進行:加藤彩乃 制作デスク:海上千晶 設定制作:松井明穂 制作進行:石田里志 制作協力:A.C.G.T 協力:フォントワークス 原画 安藤正浩 今井恵 小倉恭平 佐藤晴香 横山悦子 Heo Gi Dong Kim Ye Jin 古澤貴文 星山企画Jang Chan Ho Hwang In Beom 第二原画 足利真美恵 齋藤和広 佐伯路子 陣内美帆 田中立子 堤章江 橋本久美 C2C スタジオアド 星山企画Heo Jae Hye 動画 杉田真理 中島順 常州卡佳劫漫有限公司Cao Xiang Hu Dan Huang Bing Zhi Luo Dan Yang Ke Hu He Wang Wang Chao Chen Xia スタジオ九魔 仕上げ 常州卡佳劫漫有限公司Tamaru Masahiko Zhang Li Xin Chen Juan Xu Yan Hon Oh Young Ran スタジオ九魔 背景 ムクオスタジオ井上慎太郎 真喜屋実義 中根崇仁 一瀬あかね 村田裕斗 大門友花里 中村沙和子 SAKO 撮影 T2スタジオ佐藤陽一郎 長谷川大介 渡部達也 ダン シャオ フイ (ポストプロダクションなどは省略) 放送日程 東京MXテレビ:2015年4月17日25時40分-26時10分 BS11:2015年4月18日27時00分-27時30分 AT-X:2015年4月18日22時30分-23時00分 チバテレビ:2015年4月20日24時00分-24時30分 tvk:2015年4月20日24時00分-24時30分 テレ玉:2015年4月20日24時30分-25時00分 サンテレビ:2015年4月20日24時30分-25時00分 TVQ九州放送:2015年4月20日26時35分-27時05分 信越放送:2015年4月21日25時56分-26時26分(特番のため1分押し) 岐阜放送;2015年4月22日24時00分-24時30分 三重テレビ放送:2015年4月23日25時20分-25時50分 dアニメストア:2015年4月23日12時00分-1週間配信 RAKUTEN SHOWTIME:2015年4月24日12時00分-1週間配信 アニメパス:2015年4月30日12時00分-1週間配信 ニコニコ動画:2015年5月7日12時00分-12時30分 BD/DVDチャプター 使用サントラ 0 00~0 23 SE? 0 24~1 53 OP 1 54~1 56 SE 1 57~4 13 『やれやれおいおいアレンジ』 4 14~4 36 SE 4 37~5 54 『?』 5 55~7 16 SE 7 17~9 13 『?』 9 14~9 45 SE 9 46~11 49 『亡き少女の為のパヴァーヌ』(モーリス・ルブラン) 11 50~12 41 SE 12 42~15 15 『?』 15 16~16 21 SE 16 22~18 11 『?』 18 12~19 08 SE 19 09~21 05 『おいおい、アレンジ』 21 06~21 45 SE 21 46~22 34 『?』 22 35~24 04 ED 24 05~24 10 次回予告(SEなし) 一覧 話数 サブタイトル 第1話 大切な人 第2話 もろびとこぞりて 第3話 涼宮ハルヒ!! 第4話 Be my Valentine
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/44.html
「そういえば有希の誕生日っていつなの?」 いつものように集まった喫茶店の席で、思い出したような顔でハルヒが聞いた。 長門は手元の分厚い本から目線を上げ、不思議そうな表情で団員それぞれの顔を見たあと、 ハルヒを見つめて固まってしまった。 「どうしたんだ?突然」 「やっぱり団長たるもの団員の誕生日くらいは祝ってあげないとね」 ハルヒは有難がれとばかりに胸を張っている。 俺の誕生日は知らんくせに。 「で、いつなの?過ぎてからではお祝いのしようもないからね」 続けられた質問に、長門はきょとんとした無表情のまま俺のほうに顔を向ける。 「どうすれば」と言わんばかりに。 そう言われてみると、長門の誕生日はいつになるのだろう。 厳密に言えば3年前の情報フレアとやらの日なんだろうが、それじゃこいつは3歳ということになってしまうしな。 まぁ誕生日なんて調べてわかるもんでもないだろう。 適当に決めちまえばいいさ。 ながとだから7月10日とかね。 産まれた日がいつかなんてハルヒも気にしやしないさ。 そんな風に考えながら笑顔を向けてやると、長門はわかったとばかりに数ミリだけうなずいて、ハルヒに向かって 「今日」 と告げた。 おいおい、お前の誕生日が何月何日でも誰も迷惑しないが、今日ってのはないだろ。 突然すぎるぞ。 しかし、言ってしまってはもう遅い。 ハルヒはテーブルに勢いよく手をついて立ち上がると、 「何で言わなかったのよ!?有希?」 店内に響き渡る声でツバを飛ばしながら叫んだ。 朝比奈さんまで 「そうですよー」 なんて言って困った顔をしている。 あなたは気付いてください。 それは長門が今設定した誕生日ですよ。 古泉は古泉で、 「プレゼントを用意していませんね」 などと肩をすくめて微笑んだ。 お前は芝居がかりすぎだ。 「そうよ!プレゼント!準備してないじゃない!」 ハルヒは立ったまま続け、 「有希、今欲しいものある?」 テーブル越しに、こればっかりは優しい口調で問いかけた。 「今日は有希の誕生パーティに変更するわ!さぁ、なんでも好きなものを言っていいのよ」 長門はやっぱり無表情のまま…それでも考えるような仕草をわずかに見せて、 「遠慮することないのよ」 と微笑みかけるハルヒの胸のあたりに視線を止めた。 「え?何?」 俺も興味があった。 ハルヒを見つめる長門が、何を欲しいと言い出すのか。 真っ黒な瞳が少しだけ動き、「いいのか?」と問うようにハルヒの顔を見上げて、 「洋服」 「…服?」 長門が見ていたのはハルヒの体ではなく、着ている布のほうだった。 「いいわ!有希、思いっきり可愛いの選んであげる!」 ハルヒは、先ほど驚いたときと同じ様に机を叩いて立ち上がり 長門の好みを問いただし始めたが、長門の視線はハルヒの胸あたりに固定されたまま動かない。 何かを言いそびれたように、俺には見えた。 「涼宮さん」 長門の表情を読もうとしている俺の向かい側に座っていた古泉が口をはさむ。 皆の顔が自分のほうに向くまでゆっくりと間をつくってから 「僕が思うに、長門さんは今涼宮さんが来ているそのカーディガンが欲しいのではないでしょうか。違いますか?」 微笑みたっぷりで妙なことを言いやがった。 確かに、長門の視線はそこに止まっていると言えなくもないが… 「そうなのか?長門」 重金属みたいな瞳がゆっくりとこちらを向いた。 「そう」 わずかに顎を引く。 「許されるなら」 そう言ってその瞳は、俺から視線をはずしてハルヒを見上げた。 その時俺は真っ白い能面みたいな無表情の中に、 小動物が抱いてくれと懇願するときの様な、そんな雰囲気を感じとった。 「そりゃいいけど…。お古でいいの?サイズもちょっと大きいかもよ」 若干照れながらハルヒは着ていたカーディガンを脱ぎ、顔の横で示すように広げた。 長門はそれを肩から先だけ動かして受けとると、確かめるように胸に抱き締めた。 「あなたが着ていたという事実が大切」 横で朝比奈さんが顔を真っ赤にして口元を押さえている。 俺も少し赤くなっていたかも知れないが…。 誰より赤面していたのは、他でもない、ハルヒだった。 次の週末、いつもの駅前には珍しく私服の長門がいた。 少し大きめの白いカーディガンの袖口から、生地よりもっと白い指先だけが見えている。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6540.html
11 36 キョン「はぁ、なんでこんなに遅く帰らなきゃいけねんだよ。」 俺はハルヒに付き合わさせられて遅く帰っていたときだった。 もぞもぞと動いていた物があった。 それを見てみると視界が暗くなった。俺が覚えている事はこれくらいしか無い。 7月6日 午後4 00 SOS団部室 ガチャ ハルヒ「みんないる~て、有希と古泉くんだけ~、みくるちゃんは。」 古泉「朝日奈さんなら少し遅れてくると、そういえばキョンさんは。」 ハルヒ「キョンだったら今日は休みよ。」 ハルヒ「なんか暇だから今日は帰るわ、古泉くんと有希も早く帰りなさいよ。」 古泉「そうですかではお言葉に甘えて帰らしてもらいます、では。」 続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/638.html
涼宮ハルヒの誤解 第一章 涼宮ハルヒの誤解 第二章 涼宮ハルヒの誤解 終章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/848.html
ここは文芸部部室こと我らがSOS団の溜まり場だ 朝比奈さんは今日もあられもない姿で奉仕活動に励み、長門は窓際の特等席で人を殺せそうな厚さのハードカバーを読んでいる。 俺はというと古泉と最近お気に入りのMTGを楽しんでいた――ちなみに俺のデッキは緑単の煙突主軸のコントロール、古泉は青単のリシャーダの海賊を主軸にしたコントロールだ――ここ最近は特に目立った動きもなく静かな毎日を送っていた。 ……少なくとも表面上は。だがな。 何故こんな言い回しをするかって?正直に言おう。オレ達は疲れていたんだ。ハルヒの我が侭に振り回される毎日に。 そりゃ最初のうちは楽しかったさ。宇宙人、未来人、超能力者と一緒になって事件を解決する。そんな夢物語のような日常になんだかんだ言いながらも俺は胸を踊らせたりもした。 だって、そうだろ?宇宙人と友達になれるだけでもすごいのに未来人や超能力者までもが現実に目の前に現れて俺を非現実な世界に連れていってくれるのだ。まさに子供の頃の夢を一辺に叶えたようなものだ。 これをつまらないと言う奴はよほど覚めた奴か本当の意味での大人くらいなものだろう。 そして俺は本当の意味での大人ではなかった。だからなんだかんだと文句を言いながらも心の底から楽しむことができたのだ。 では何故冒頭で否定的とも取れる意見述べたか?理由は単純、ハルヒの我が侭がオレ達のキャパシティを大きく上回ったことにある。 例えば閉鎖空間。SOS団を結成してからというものその発生回数は減ったもののその規模が通常のそれより遥かに大きくなったのだそうだ。 しかもその原因のほとんどが俺にあるというから責任を感じずにはいられないね。 そして俺に最も精神的苦痛を負わせた事件がある。それはこんな内容だった。 それは些細なことで始まったケンカだった。あの時は俺が折れるべきだったのだ。 悪いのはハルヒだからハルヒが謝るべき。 なんてつまらない意地を張らずにハルヒに土下座をして許しを請うべきだった。 しかしあの時の俺は強気だったしバカだった。 あろうことか俺はハルヒにお前が長門や朝比奈さんを少しは見習って女らしさというもをうんたらかんたらと説教を始めてしまった。 それがいけなかった。 前々から俺と長門の関係を怪しんでいたハルヒは激昂し、「なんでそこで有希が出てくるのよ!!」と怒鳴ると怒って帰ってしまったのである。 朝比奈さんはおろおろと怯え、長門は無表情だがどこか責めるような目線を送ってきた。 そしてこの件について一番の被害者になるであろう古泉はいつもの0円スマイルではなくまっこと珍しいことに真顔だった。 真顔の古泉が怖くて仕方なかった俺は古泉に平謝りしその日は解散となった。 明日ハルヒに謝ろう。そうすればまたいつも通りのSOS団が帰ってくるさ。俺はそんなことを考えていた。 だから翌日昼休みに消耗しきった古泉に呼び出されたことに少なからずも俺は動揺していた。古泉のあんな顔を見るのは始めてだった 「昨夜閉鎖空間が発生しました」 「そうだろうなあ…いや本当にお前には迷惑をかけた。すまんこの通りだ許しくれ!」 古泉は気にしてないと言わんばかりに微笑し淡々と話しを続けた。 「僕よりも涼宮さんに謝ってあげてください。なんせ昨夜の閉鎖空間の規模は今までの比ではなく我々《機関》だけでは対処できずに長門さんの勢力に協力してもらいやっとのことで鎮めることができたのですから」 古泉は淡々と話す――本当にすまん 「そして我々《機関》の中から始めての犠牲者もでました。あなたもご存知の新川さんが森さんをかばいが殉職しました。その森さんも背骨を折られ車椅子生活を余儀なくされました」 俺は絶句した。そりゃ人はいつか死ぬのだ。その事実は受け止めなければならない。 しかしこんなかたちで知人の不幸を知らされるとは夢にも思っていなかったからである。 真夏だというのに小刻みに震え、冗談だよなと言う俺を見て古泉は首を左右に振り否定。 また微笑し淡々と話し始める――なんでそんなにあっけらかんとしているんだよ…いっそのこと罵利雑言を浴びせ思いっきり殴ってくれ… 「僕は、僕達は別に貴方を責めているわけではありません。貴方はただ巻き込まれただけの一般人ですからね。ですが貴方の軽率な行動が簡単に僕達の命を刈り取ってしまう…この事実を忘れないでください。 では、後ほど」 そういって古泉は教室に戻っていった。 俺はというと食堂で昼食をとっていたハルヒに詰め寄り恥じも外聞も捨て泣きながら土下座した。 この時ばかりは周りの視線が気にならなかった。それくらい俺は焦っていたんだ。 とまあ、こんなことがありしばらく俺は古泉よろしくハルヒのイエスマンに成り下がっていたのだがこれにもちょっとしたエピソードがある。 なんでもかんでもはいはい肯定する俺にハルヒが不満を持ったのである。本当に難儀なあ、奴だこいつは… 古泉曰く俺は否定的立場を取りつつも最後にはハルヒを受け入れる性格でないといけないらしい。つまり新川事変(朝比奈さん命名)以前の俺だな。 新川事変以来ハルヒにビビっていた俺には無茶な注文だったがまた下手に刺激して閉鎖空間を発生されても困るので努めて俺は昔の俺を演じることにした。 おかげで自分を欺く術に異様にたけてしまった。全く嬉しくないネガティブな特技である。 ついでなので俺の肉体に最も苦痛を与えたエピソードもお話ししよう。 その日はいつものように文芸部部室で暇を持て余していた俺は古泉指導のもと演技力に磨きをかけていた。 そこに無遠慮なまでにバッスィィィィィン!!とドアを蹴破り現れたのは我らが団長涼宮ハルヒその人である。 ハルヒは何か悪巧みを思いついた時に見せる向日葵の様な笑顔――俺にはラフレシアの様な笑顔に見えたのは秘密だ――で開口一番 「アメフト大会に出るわよ!」 と、宣った。せめてビーチフットにしていただきたかったぜ。 大会はいつなんだ?という問いに満面の笑みで 「明後日よ!!」 と答えるハルヒ。まったくこいつは…… 「無理だ。アメフトのルールは野球とは違って複雑だぜ?」最初は否定的立場にいながら―― 「大丈夫よ!図書室でルールブック借りてきたしいざとなったらあんたの友達の中川くんに助っ人になってもらえばいいわ!!」 俺はハルヒの持ってきたルールブックにいちべつし、軽いため息を吐くと 「“中河”だ。わかった…中河には俺から連絡しておくさ」 ――最終的にハルヒの我が侭を受け入れる。どうだ?完璧な演技だろ?アハハハハっ、よし、今日も古泉にレキソタンわけてもらおう。 以外と効くんだ。アレ。 中河にアポを取り、快く承諾してくれた中河に感謝しつつ決戦当日である。 ちなみにハルヒが借りてきたルールブックとはアイシールド●1である。 いっそ事故かなんかで死んでくんないかなあ、あいつ。 試合内容は散々たるものだった。 相手チームが原因不明の腹痛を訴え棄権したり交通事故で棄権したり実家が燃えて人数が足りないチームと戦い、とうとう決勝戦である。 彼らには悪いがこちとら世界の命運がかかっている。多少の犠牲はつきものと割り切って試合に挑もと思う。 ここでとりあえず我がチームの選手とポジションを紹介する。 まずはラインの谷口、国木田、コンピ研部長、ランの俺とハルヒ、クォーターバックの長門、なんでも屋の古泉、その他雑用の鶴屋さん、朝比奈さんに妹 そしてリードバッグ(ボール持った奴を守るポジションらしい)の経験者中河だ。 これで優勝を狙ってるんだから正気の沙汰じゃない。本当に志しなかばで散っていった方々のご冥福を祈る。 いい加減まともに試合が出来ていないことにハルヒがイライラしてきたのでこの試合は小細工無しの真っ向勝負だ。 オレ達は経験者中河の指示にしたがい順調に点差を広げられていった。 ちなみに中河の提出した作戦は「いのちをだいじに」だ。 さすがの中河もまさか女子供と混じってアメフトをするとは夢にも思わなかったのであろう。 いろんな意味でアップアップだ。 そんな時に限って古泉の携帯が鳴り、長門は空を睨み、朝比奈さんは耳を澄ましてやがる。あぁ、忌々しい…
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/594.html
涼宮ハルヒの仮入部~ハンドボール部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~アイドル研究部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~グリークラブ編~ 涼宮ハルヒの仮入部~新体操部編~ 涼宮ハルヒの仮入部番外~かなり後の後日談~ 涼宮ハルヒの仮入部~コーラス部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~バレーボール部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~空手部編~ 涼宮ハルヒの仮入部番外~孤島症候群その後~ 涼宮ハルヒの仮入部~ソフトボール部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~野球部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~女子レスリング部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~手芸部編~ 涼宮ハルヒの仮入部番外~帰宅部の連中~ 涼宮ハルヒの仮入部~将棋同好会編~ 涼宮ハルヒの仮入部~茶道部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~テニス部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~軽音楽部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~美術部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~吹奏楽部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~剣道部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~水泳部編~ 涼宮ハルヒの仮入部~文芸部編~ 涼宮ハルヒの仮入部おまけ
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/19.html
「そういえば有希の誕生日っていつなの?」 いつものように集まった喫茶店の席で、思い出したような顔でハルヒが聞いた。 長門は手元の分厚い本から目線を上げ、不思議そうな表情で団員それぞれの顔を見たあと、 ハルヒを見つめて固まってしまった。 「どうしたんだ?突然」 「やっぱり団長たるもの団員の誕生日くらいは祝ってあげないとね」 ハルヒは有難がれとばかりに胸を張っている。 俺の誕生日は知らんくせに。 「で、いつなの?過ぎてからではお祝いのしようもないからね」 続けられた質問に、長門はきょとんとした無表情のまま俺のほうに顔を向ける。 「どうすれば」と言わんばかりに。 そう言われてみると、長門の誕生日はいつになるのだろう。 厳密に言えば3年前の情報フレアとやらの日なんだろうが、それじゃこいつは3歳ということになってしまうしな。 まぁ誕生日なんて調べてわかるもんでもないだろう。 適当に決めちまえばいいさ。 ながとだから7月10日とかね。 産まれた日がいつかなんてハルヒも気にしやしないさ。 そんな風に考えながら笑顔を向けてやると、長門はわかったとばかりに数ミリだけうなずいて、ハルヒに向かって 「今日」 と告げた。 おいおい、お前の誕生日が何月何日でも誰も迷惑しないが、今日ってのはないだろ。 突然すぎるぞ。 しかし、言ってしまってはもう遅い。 ハルヒはテーブルに勢いよく手をついて立ち上がると、 「何で言わなかったのよ!?有希?」 店内に響き渡る声でツバを飛ばしながら叫んだ。 朝比奈さんまで 「そうですよー」 なんて言って困った顔をしている。 あなたは気付いてください。 それは長門が今設定した誕生日ですよ。 古泉は古泉で、 「プレゼントを用意していませんね」 などと肩をすくめて微笑んだ。 お前は芝居がかりすぎだ。 「そうよ!プレゼント!準備してないじゃない!」 ハルヒは立ったまま続け、 「有希、今欲しいものある?」 テーブル越しに、こればっかりは優しい口調で問いかけた。 「今日は有希の誕生パーティに変更するわ!さぁ、なんでも好きなものを言っていいのよ」 長門はやっぱり無表情のまま…それでも考えるような仕草をわずかに見せて、 「遠慮することないのよ」 と微笑みかけるハルヒの胸のあたりに視線を止めた。 「え?何?」 俺も興味があった。 ハルヒを見つめる長門が、何を欲しいと言い出すのか。 真っ黒な瞳が少しだけ動き、「いいのか?」と問うようにハルヒの顔を見上げて、 「洋服」 「…服?」 長門が見ていたのはハルヒの体ではなく、着ている布のほうだった。 「いいわ!有希、思いっきり可愛いの選んであげる!」 ハルヒは、先ほど驚いたときと同じ様に机を叩いて立ち上がり 長門の好みを問いただし始めたが、長門の視線はハルヒの胸あたりに固定されたまま動かない。 何かを言いそびれたように、俺には見えた。 「涼宮さん」 長門の表情を読もうとしている俺の向かい側に座っていた古泉が口をはさむ。 皆の顔が自分のほうに向くまでゆっくりと間をつくってから 「僕が思うに、長門さんは今涼宮さんが来ているそのカーディガンが欲しいのではないでしょうか。違いますか?」 微笑みたっぷりで妙なことを言いやがった。 確かに、長門の視線はそこに止まっていると言えなくもないが… 「そうなのか?長門」 重金属みたいな瞳がゆっくりとこちらを向いた。 「そう」 わずかに顎を引く。 「許されるなら」 そう言ってその瞳は、俺から視線をはずしてハルヒを見上げた。 その時俺は真っ白い能面みたいな無表情の中に、 小動物が抱いてくれと懇願するときの様な、そんな雰囲気を感じとった。 「そりゃいいけど…。お古でいいの?サイズもちょっと大きいかもよ」 若干照れながらハルヒは着ていたカーディガンを脱ぎ、顔の横で示すように広げた。 長門はそれを肩から先だけ動かして受けとると、確かめるように胸に抱き締めた。 「あなたが着ていたという事実が大切」 横で朝比奈さんが顔を真っ赤にして口元を押さえている。 俺も少し赤くなっていたかも知れないが…。 誰より赤面していたのは、他でもない、ハルヒだった。 次の週末、いつもの駅前には珍しく私服の長門がいた。 少し大きめの白いカーディガンの袖口から、生地よりもっと白い指先だけが見えている。