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※この物語はフィクションです。作品には暴力的、残酷的な描写を多く含みます。苦手な方はさけてください。 ラノで読む act.2「サディスティック・ハード・ゴア」 ※ ※ ※ 異様な人物が街にいた。 休日で人通りの多い商店街の人込みを、一人の男がフラフラと危なっかしい足取りで歩いている。だが男のその風態は和やかな街並みの中では明らかに異質であった。 男は灰色の背広に、きちんとネクタイを締めているが、まるで頭から血液のシャワーを浴びたように全身が赤く染まっていた。よく見ると彼の身体のあちこちに肉片のようなものがへばりついている。左手でズタ袋のような布を掴んでおり、右手には柄の長い斧が握られている。金属とアスファルトがこすれる音を響かせ、斧を引きずるようにして街を歩いていた。 しかしそんな彼に街の人間は誰ひとり気を止めてはいない。 誰も彼に視線を向けず、まるでそこに存在していないかのように無視していた。 幽霊。 男は幽霊のように存在感が希薄だった。これほどまでに異彩を放つ姿をしていても、誰も彼の存在を認識することができなかった。 ※ ※ ※ せっかくの休日だと言うのに、けたたましい電話の音で起こされたテディは頭を回転させるために煙草に火をつけた。煙草はやはりラッキーストライクだな、と煙を吐きながら呟きながらベッドからもそもそと起き上がる。 休日前だからってスコッチを飲み過ぎた、テディはズキズキとする頭を抱えながら後悔するが時間は戻らない。まさかいきなり呼び出されるとは夢にも思っていなかったようだ。昼過ぎまで眠り、午後からは家でのんびりと音楽でも聞きながら過ごそうと思っていたのにプランが台無しだ。テディは二日酔いの頭を冷やすために、洗面所で水を被ってから支度を始めた。 テディは青色の瞳を隠すようにサングラスをかけた。そしてお気に入りのピンクのパジャマを脱ぎ棄てて真っ黒なスーツに着替え、同じく黒いネクタイをビシッと締める。それが彼の仕事着だ。黒というのは気持ちが引き締まる、というのがテディの持論である。 仕事そのものは構わないが急な呼び出しのため、髪のセットに時間を割けないのが不満であった。宗教画の天使のようにクルクルとしたブロンドのくせ毛が幼いころからのテディのコンプレックスで、くしをかける時間も無く、テディは急いでアパートを飛び出した。 貯金して買った日本車を走らせ、テディは“事件現場”へと急いだ。 現場は双葉島の第三住宅区域だ。そこには大きくて綺麗な家が多く並んでいる。テディはビバリーヒルズのようにセレブが集まっているようなところだなと思った。だがそんな和やかな雰囲気の中で、たくさんのパトカーが物々しく一つの家の前に集まっている光景はやはり異様だった。 「非番のところありがとうございますセオドア・グレアム捜査官。私はこの現場の指揮を任されている課長の的場《まとば》と言います」 テディが現場の一軒家の前で車を止めると、玄関に立っていた一人の刑事が彼の元へと駆け寄ってきた。テディよりいくつか年上だろうが捜査一課の課長にしてはまだ若い。的場と名乗る刑事は爽やかな笑顔を浮かべてテディに軽く頭を下げた。 「堅苦しいからテディでいいですよ。向こうの仲間はボクのことを、ルーズベルト大統領と同じようにみんなテディという愛称で呼びます」 「そうですか。ではテディ捜査官。さっそくですが現場のほうに来てください」 「わかりました。行きましょう。ボクお仕事大好きですから」 おどけるように大げさに肩をすくめ、テディはキープアウトの黄色いテープをくぐり抜けて家の中へと入って行った。 「ボクはまだ事件の概要をよく知らされていないのですが、資料はありますか?」 「ああ、こちらです。私としても今回の事件は胸を痛めています。なんせ被害者は二人ともまだ十四歳の女の子だったんですから」 テディはプリントアウトされた事件の資料を的場から受け取った。そしてその内容を読み、かすかに眉間にしわを寄せる。 「この部屋です」 的場に誘導され、テディは扉の開けられたリビングに足を踏み入れた。その直後襲ってきた凄まじい死臭に思わず鼻を抑えてしまう。 「オオウ。これは……ヒドイですね……」 家族の団らんの場であるはずのリビングは地獄絵図と化していた。テディは現場のあまりの凄惨さに目を背けたくなるが、自分の役割を果たすためには逃げてはいけない。テディはサングラスの奥の青い瞳で部屋全体を見回した。 部屋は真っ赤に染まっている。まるでバケツに入ったペンキをぶちまけたように、目が痛くなるような強烈な赤が部屋を支配していた。 部屋の中心に二つの死体が転がっている。的場が言うように二人の少女の死体だ。 だがそのうちの一つは少女のものかどうか、判断することが難しい状態になっていた。資料がなければそれを人だったかどうかすらもわからないかもしれない。それほどまでに非現実的で、一種のファンタジィを思わせるような光景になっている。 少女の死体は原型を留めていなかった。 今までにも“異能捜査官”としてテディは色んな事件に携わり、酷い死体をいくつも見てきた。アメリカの凶悪犯罪に比べれば日本はどれだけ平和だろうか、そうテディは今の今まで思ってきた。 だがこれはあまりにもあんまりだ。そう思いながらも、テディは死体の元まで近づいた。 被害者のうちの一人、加賀《かが》怜奈《れいな》の死体は下半身だけしかまともな形が残っていない。腹部の中心から上が存在しないのだ。大きな刃物で切断されたように、傷口からは血と臓物がはみ出ていた。体内に収められているはずの腸が引きずりだされており、まだ死後から時間が経っていないためかテラテラとした十代特有の綺麗なピンク色の光を放っていた。だがなぜかそれは途中でぶつりと切れていて茶色の内容物が周囲に漏れていて悪臭を漂わせている。 テディは部屋中に視線を向ける。切り離された上半身は肉片として部屋中に散らばっていた。ミンチ状態になっており、どれがどこの部位なのかもわからない。だが、明らかに部屋に落ちている肉の質量が|足りていない《・・・・・・》ことだけは一目瞭然だった。 部屋に散らばっている切り刻まれた上半身部分が明らかに少ない。だが腕や頭、胴体などの骨は床に落ちている。その骨は肉が綺麗にそげ落ちていて、一見では鳥か何かの骨に見えるだろう。 一体どういうことなのか、テディはしばし思考した。 今までにもこれと似たケースを何度も見たことがある。これは明らかに屠殺の跡だ。 食人嗜好《カニバリズム》。そう考えれば答えは簡単だろう。肉が足りず、骨だけ残されているということは、犯人がこの場で怜奈を切り刻み、生のまま血肉や臓物を食べた――あるいは持ち去ったかという推測が成り立つ。 テディはアメリカで食人衝動による殺人事件の解決に関わったことがある。日本でもその手の事件は少なからずあるし、人を食べるラルヴァなども多く存在する。 だがこれはそんな単純な話ではないようだった。 テディは隣に転がるもう一人の死体に目を向ける。頭をぱっくりと割られ、目を見開きながら脳髄を垂れ流して死んでいる少女は岡本《おかもと》啓子《けいこ》だ。一目で即死と分かる。だが啓子の身体中にそれ以前に受けたであろう暴行の痕が生々しく残っている。 しかし啓子の死体の異常さを際立たせているのは傷痕などではなく、彼女の無傷なお腹だった。 わずか十三歳の啓子の腹部はまるで妊娠でもしているかのように膨れ上がっていたのだ。極限まで膨れているそれは、針でつつくだけで破裂してしまいそうなほどに大きくなっていた。啓子はむしろ本来は痩せている女の子だったはずだ。なのにどうしたらここまで腹が膨れるのだろうか。 テディは手袋を着用し、啓子の口に指を突っ込み、無理矢理開いた。彼女の口の周りは血で染まっていた。そして、口の中に並んでいる歯も、口内そのものが血で溢れかえっている。歯と歯の間には肉のようなものが挟まっているのが見えた。 「何か、気付きましたか?」 少女たちの惨たらしい死体を悼むような目をし、的場はテディに尋ねた。 「……解剖すればすぐわかるでしょうが、恐らく加賀怜奈の死体を食べたのは岡本啓子だと思います」 それがテディの出した結論だった。だがそれは悪夢のような答えだ。 「やはり、そうですか」 的場もその考えには至っていたようで、大きな溜息と共に頭を抱えた。テディも的場と同じ気分だった。資料によるとこの二人の少女は友達同士だったようだ。この家は啓子の自宅だ。両親が家にいることが少ない彼女はいつも怜奈を自宅に呼び、一緒に遊んでいるようだった。恐らく今日も休日と言うこともあり、啓子は怜奈を呼んだのだろう。 それなのに一体なぜ、怜奈の肉をお腹が破裂寸前になるまで食べなくてはならなかったのか。 その理由を知るためにテディは呼ばれた。 「お願い出来ますか。テディ捜査官」 「ええ。やりますよ。これがボクの仕事ですから」 テディはサングラスを指で押し上げながら、わざと軽い笑顔を作って言った。 そして啓子の死体に再び触れ、“異能”を発動した。 電流のような衝撃が指先から脳にまで伝いテディの頭の中に映像が流れ込んでくる。それは啓子が死の直前に見た恐怖の光景だった。 これがテディの異能“ビジョン・クエスト”である。 通常のサイコメトリーとは違い、応用は利かないが、死の直前の壮絶な感情を読み取ることで断片ではなく鮮明な死の映像が対象の目線で頭の中に再生されていく。 最初に見えたのは既に死亡している怜奈の死体だった。その段階ではまだ首を切られて死んでいるだけで、その他の部位は損傷していない。 血塗れの斧を手に持つ男が視界に映った。その男が怜奈を殺した犯人であることは明白だった。しかしテディは「ガッデム」と心の中で悪態をつく。 男は顔を隠していた。ズタ袋のような白いマスクですっぽりと顔を覆っていたのだ。それはさながら幽霊の頭のようで男の不気味さを醸し出している。これでは顔がわからず、犯人を特定することは難しくなった。 啓子は椅子に縛られているようだった。手だけは自由にされているようで、必死に何か抵抗しようとバタバタと手を動かしている。啓子は怜奈の死体を見て絶叫した。だがその時間帯、近所には人がいなかった。壁に防音対策が施されているせいもあり、啓子の悲鳴が外の誰かに伝わることはなかった。 マスクの男は啓子の叫びに構わずに怜奈の解体を始めた。 男は何度も何度も斧で切り裂いていく。最初に切断したのは右腕だった。まるで薪を割るように思い切り斧を肘に打ちつけて切り離した。男はその怜奈の腕を、啓子の目の前――テーブルの上に置いた。 そして男は自分の口のあたりをトントンと指で叩き、ジェスチャーで啓子に伝えた。何度か行為を繰り返すうちに、啓子も彼の意図することを理解し、愕然とする。 「た、食べろってこと……」 小さいながらも、絶望している啓子の声が聞こえた。マスクの男はこくりと頷く。そして、食べなければ殺すとでも言うように、男は斧を振りかざし、啓子が怜奈の腕を食するのをずっと待っていた。 啓子の視線が一瞬だけ怜奈の死体に移る。怜奈の変わり果てた姿を見て、ただひたすら憐れんだ。しかし啓子の胸の奥から、怜奈に対する悲しみ以外の感情が浮かんできたのだ。こんな風に死にたくない。まだずっと生きていたい。そんな気持ちがテディにも伝わってきた。 ごめん怜奈。ごめん怜奈。ごめん怜奈。 啓子は心の中で何度も呟いた。怜奈だけが啓子の心の支えだった。その怜奈は不条理な死を迎えた。啓子は怜奈の死を無駄にしないように、自分は生き残ってこの目の前の|クソったれ《・・・・・》を警察に突き出してやる。そう自分に言い聞かせる。 啓子は意を決したように怜奈の腕にかぶりついた。口内に血の味が広がり、肉の嫌な感触が歯を浮かせる。死のショックで筋肉が凝縮されてしまっている人間の肉は堅く、とても食べられたものではない。それでも殺されないために啓子は必死で親友の肉を食み始めた。 ビジョン・クエストは死者と同じ視点のため、啓子がどういう表情をしているのかはわからない。だが恐怖で歪み、涙を溢れさせていることは容易に想像できた。強要されて、親友の肉を食べなければならない。これほどまでに人間の尊厳を破壊する行為があるだろうか。 次第に精神が啓子の残留思念と同調し、恐怖や苦悶がテディにも伝わってくる。気が狂いそうだった。それでもテディは必死に精神を集中させてビジョン・クエストを続けた。 腕の肉を必死に口の中に詰め込み、吐き気を抑えながら突っ伏している啓子の目の前に、マスクの男はもう一本の腕を置いた。それだけではなく、顔の肉や肩から脇にかけての肉を和えものとして添えていく。 男は“食べろ”とジェスチャーで強要した。 「嘘……もう許して」 啓子は男に懇願した。男は何を思ったのか、啓子の頭を掴みあげ、テーブルに叩きつけた。酷い音が響き、脳が揺らされたように気持ちが悪くなってしまう。男はそのまま部屋の中を物色し、父親の引き出しから工具箱を持ってきた。 「ひっ……!」 男は工具箱から釘と金槌を取り出し、釘を啓子の手の甲に当てた。ひんやりとした鉄の感触がゾクゾクと伝わってくる。 「お、お願い! やめて!」 啓子が叫んだ瞬間、マスクの男は金槌を容赦なく振り下ろした。啓子の手を、釘が貫通しテーブルに打ちつけられる。啓子は声に鳴らない絶叫を上げ、必死に体を動かした。だが男は啓子の顔面を執拗に殴りつけて抵抗する意思を奪っていく。押し黙った啓子に、男は二本、三本、四本と次々に釘を打ちつけていく。文字通り手をテーブルに釘付けにされた啓子は、もう暴れることは無かった。 それからは、男に無理矢理口の中に怜奈の肉を押し込められていった。男は怜奈の服をたくし上げ、怜奈の死体の胸に肉切り包丁の刃先を置いた。男は怜奈の小さな胸の間からへその辺りのラインにそって包丁で縦に裂いた。 男の手さばきは見事だった。骨を避けて綺麗に肉だけを切り離していき、怜奈のお腹にぽっかりと穴が開いた。その中に男は白い手袋をしているその手を突っ込んだ。そして男は引き裂いた怜奈の腹部から腸を引きずり出した。腸は一体何メートルあるのかわからないくらいに際限なく怜奈の腹からズルズルと出てきた。 まるで太い縄のようなそれを啓子の口の中に押し込んだ。それでも生き延びるために、男が満足するようにそれを食べた。腸の中の糞が口内に広がっていくのが耐えられないほどに気持ち悪い。 途中で嘔吐しても、吐瀉物をまた無理矢理飲みこみさせられた。啓子の胃が限界に近づくと、男はキッチンに置いてあったジューサーを取り出した。 ジューサーの中に、腹部から取り出した残りの内蔵や怜奈の眼球を突っ込み、スイッチを入れた。壊れそうな機械音を鳴らしながらジューサーの肉片は液状になっていく。 男は満足したようにジューサーのスイッチを切り、液状化したそれを律儀にコップに移して啓子に差し出した。 啓子に拒否権は無かった。 黙ってそれを飲み下していく。そのまま食べるよりは楽ではあるが、異様な気持ち悪さで啓子の中にある人として何か大事な物が崩れていきそうだった。 次々と人肉ジュースを飲まされ、啓子の腹は破裂寸前に膨れ上がった。異常な腹痛がするが、吐くことは許されず必死に口を抑えるしかなかった。 やがて男は斧で怜奈の胴体を雑に切り離す。上半身の残りも食べさせようとテーブルの上に置いた。だがもう怜奈は食べられないと思った。口に含んでも食道の辺りまで肉が戻ってきてしまっていて、飲みこめず呼吸にすら障害が及んでいた。 怜奈の死体を半分ほど食べさせた後、男はこの“遊び”に飽きたのか、怜奈の死体を切り刻むことを止めた。そしてしばし考え込むようにソファに座りこむ。 もう終わったのかしら。そんなありもしない希望を啓子は持ってしまった。 その予想を裏切るように、男は斧の柄を握った。 「や、やめてよ……言う通りに、た、食べたじゃないですか……」 啓子は涙を流し、パンパンのお腹を押さえながら男に必死に許しを乞うた。だが、男は啓子の言葉に耳を傾けることも無く、あっさりと斧を振りかぶった。 「――――」 断末魔の悲鳴を上げることすらも間に合わずに、啓子の視界は真っ黒になり途切れてしまった。 「オオ、ジーザス! ファックファックファアアアアアアック!」 ビジョン・クエストから戻ってきたテディは大声を上げながら、床を思い切り何度も何度も殴りつけた。 ああ、畜生。なんだ今のは、あれほどまでに理不尽な行為をこの小さな女の子は受けたのか。テディの心は怒りと悲しみで煮えたぎりそうになっていた。予想していたこととは言え、啓子の受けた映像を見ることは辛かった。子供に対してあんなことを出来る人間がこの世に存在することが信じられない。信じたくない。テディはポケットに入れている十字架を掴み、二人の少女が天国に行けるようにと、神に祈りを捧げた。 「お、落ち着いて下さいテディ捜査官!」 取り乱したテディの身体を的場は押さえつけた。そうしてようやくテディは呼吸を整え、申し訳なさそうな顔で謝る。 「ソーリーミスターマトバ……。もう、大丈夫です……」 ビジョン・クエストから帰って来るといつもこうだ。疑似的にとは言え死の瞬間を体験するため、精神が不安定になる。今回のように小さな女の子の死を前にしても、何もできずに見ているだけしかできないのは耐えられない。 あのマスクの男は何者だ。人間とは思えない所業。彼の行為からは何も感じない。主張も、主義も無くただひたすら残酷な行為を繰り返していただけだ。あの男は遊んでいるだけのように思えた。マスクの男が啓子に強要していたのは子供がするようなおままごとのようだったとテディは考えを巡らせた。 「それでテディ捜査官。何か見えたんですか?」 「イエス。見えましたよ。ペンと紙があれば貸して下さい」 テディがそう言うと、的場は部下に指示を出して用意をさせた。テディは血で汚れていないキッチンのテーブルに紙を置いて絵を描いていった。 白いズタ袋をマスク代わりにした、灰色の背広を着ている長身の男。その男の絵を、記憶を頼りにテディは描き映していく。 「犯人はこの男です」 テディは紙を的場に手渡した。その絵を見て、的場の顔が一瞬で青ざめたのをテディは見逃さなかった。的場は深く目を閉じ、重たい口を開く。 「この絵、本当にこいつが見えたんですか」 的場は信じられないという風にテディに聞いた。テディは特に気分を害することなく「その男が彼女たちを殺しました」と伝えた。すると的場はしばし沈黙したのち、その紙を部下たちに渡した。部下の刑事たちもみな一様に的場と同じような反応を示し、戸惑いながらお互いに目を合わせ、同時に一つの単語を呟いた。 「……“K”?」 刑事たちは黙ってしまった。的場も頭を抱えるようにして壁にもたれかかった。 「どうしたんですかみなさん。“K”とはなんですか。この男のことを知っているんですか?」 「ええ、私たちはこの男を知っています。当時を知らない子供たちは|お化け頭《ゴーストヘッド》などというふざけた呼び名をつけていますがね。まさか十年経った今になって、この男が帰って来るとは思ってもいなかった」 的場は口にするのも嫌だとばかりに言い淀んだが、テディに説明をしなければならないと思ったのか、気持ちを落ち着かせるように腕を組んだ後言葉をつづけた。 「Kとは、そのマスクの男のイニシャルです。本名を口にするのも気分が悪くなる。そいつは十年前まで双葉学園の生徒でした。ですがKはある日、本土の精神病院へとぶち込まれたんですよ。そしてあいつはそこを脱走した」 「……なぜKは精神病院に?」 テディが尋ねると、突然的場の表情が一変した。それは怒りの表情だった。さっきまでの爽やかな雰囲気は微塵も無くなってしまった。 「殺したんですよあいつは! ズタ袋のマスクを被りながら自分のクラスメイト、全員を殺したんです! あいつは最悪の殺人鬼なんですよ!」 さっきまでテディを落ちつかせるために冷静でいた的場が、声を荒げてそう言ったことにテディは驚いた。部下の刑事たちもみな暗い顔をしている。Kとは何なのか、これほどまでに刑事たちの心をかき乱す殺人鬼とは何者だろうか。テディはビジョン・クエストで視たあの男のマスク姿を思い出し、ぞっと体を震わせる。 「いや、すいませんテディ捜査官。私が取り乱していては仕方がないですね」 無理に笑顔を作り、的場はがっくりと項垂れた。そんな的場のフォローをするように、部下の一人がテディの耳元で言った。 「テディ捜査官。的場さんのことを悪く思わないでくださいね。俺たちもKのことは思い出したくないぐらいなんです。なんせ、あいつと俺らは同年代で、同じ双葉学園に通っていたんですから……あいつが精神病院を脱走したと聞いた時は、俺たちみんな愕然としました。あんな奴、精神病院に入れるんじゃなくて早く死刑にすべきだったんだ」 部下の刑事も感情的な言葉を吐いた。そこからテディは刑事たちのKへの憎悪を感じることができた。 「いえ、ボクは気にしていませんから」 テディは双葉区のこの刑事たちが学園の卒業生だということを思い出した。彼らはリアルタイムでその事件に遭遇していたのだろうと、テディは想像した。 「私の妹がKのクラスメイトでしてね……。私はKを捕まえるためにここの刑事の道を選んだんですよ」 俯きながら、独り言のように的場は呟いた。再び顔を上げた時には最初のように爽やかな顔に戻り、平静を取り戻したのかテキパキと部下に指示を出し始めた。 「もしかしたら模倣犯の可能性もあるが、当面はこのマスクの男の正体をKと断定し、捜査を進めていく。C班は至急、区の警備を増やして住人たちに危険を呼び掛けろ。それと醒徒会に連絡を入れて事件に対応できる異能者を探してもらってくれ、風紀委員たちにも街の見回りを強化するように伝えるんだ。だが、あいつを見つけてもくれぐれも深入りするなと言っておけB班は聞きこみ、A班はここに残って私と捜査を続けるんだ」 命令を受けた部下たちは一斉に散り、自分たちの仕事に取り掛かった。 「ミスターマトバ。今回の事件、これからボクも捜査に参加します。何か出来ることがあればなんでも言ってください。子供をこんな風に玩具のように殺す人間に、これ以上日の光を当てさせてはいけません。必ず捕まえてやりましょう」 それはテディの本音だった。こんな鬼畜の所業を行う人間がのうのうとしているなんて許し難いことだ。子供は慈しみ、護るべき存在だ。テディは自分が育てられた孤児院のことを思い出していた。年に一度里帰りをし、そこの子供たちと顔を合わせるたびにテディは子供たちを護るために自分が捜査官になったことを思い出す。 「ありがとうございます。後でテディ捜査官にはKの資料を端末に送りますから、目を通しておいてください。特にあいつが持つ“異能”はとても厄介ですから、よく知っておいた方がいいでしょう」 「ラージャ。お互いに頑張りましょう」 テディが手を差し出すと、的場は力なくもその手を握り返した。 つづく トップに戻る 作品保管庫に戻る
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登場キャラクターがどんな能力を持っているかまとめたページです シェアの参考にどうぞ キャラ名 能力名 簡単な説明 精神攻防 身体強化系 安達 凛 『若返り』 睡眠の度に自身が若返る 2 有馬 雨流 なし 脚部を中心とした全身強化能力 3 市原 和美 なし 約30秒間の間、不死身になる 3 大神 壱子 なし 人狼のポテンシャル解放 2 風間 深赤 光の具足(ロングシャンク) 脚部の強化 4 河越明日羽 魂源力視覚 視覚によって魂源力の存在、生成消耗を知覚する 3 鬼沼 カラス丸 天蜘蛛 魂源力の糸を作り出す 2 鬼沼 雀 人間鉄球 身体強化 2 草壁 藤乃 堅牢 全身が強化されるタイプの身体強化、肉体の頑強さを重点的に強化 3 久留間 走子 なし 全身が強化されるタイプの身体強化 6 小松 ゆうな ジャッキ・アップ 怪力 3 西院 茜燦 『獅子の魂、勇猛なるかな(ライオンハート)』 戦闘時に自動的に発動する超人系能力 2 ショコラーデ・ロコ・ロックベルト なし 不老不死 2 大道寺 天竜 鋼肢(コウシ) 自身の体を硬質化させる - 蛇蝎 兇次郎 未来予測 未来予測 - 滝沢丈 電磁加速 生体電流の増幅と操作 3 竹中 綾里 なし 身体強化 - 龍河 弾 なし 龍への変身 - 立浪 みか なし 「猫」の身体・性能ポテンシャル解放 3 立浪 みき なし 「猫」の身体・性能ポテンシャル解放 3 立浪 みく なし 「猫」の身体・性能ポテンシャル解放 1 田中 敦 筋力増幅(マッスル・ブースター) 筋力の増加 3 伝馬 京介 なし 魂源力の鎧を纏い脚力強化 未設定 堂下 大丞 他者強化 自身以外の生物のステータス強化 - 鳶縞 キリ なし 身体強化 3 二階堂 伊知郎 合体変身 爬虫類と合体する 未設定 二階堂 侍郎 合体変身 鳥類と合体する 未設定 二階堂 叉武郎 合体変身 魚類と合体する 未設定 二階堂 志郎 合体変身 昆虫と合体する 未設定 二階堂 悟郎 合体変身 哺乳類と合体する 未設定 二階堂 睦美 合体変身 両生類と合体する 未設定 二階堂 那菜美 合体変身 植物と合体する 未設定 早瀬 速人 なし 加速能力 - 姫音 離夢 眠り 自己強制睡眠 5 双葉 五月 策士 思考力の向上 1 真崎 春人 癒騎士《ユナイト》 ブレイダーへの変身 1 宮城 慧護 月光 魂源力により武器(刀剣類限定)の性質を強化する 3 三浦 孝和 気操作 魂源力と体力を源にする気を練り、纏わせ素手・器械武術・防御法に使用する 3 結城 宮子 ペインブースト 対象に痛みを与えるのと引き換えに対象の自然治癒力を増幅する 3 四谷 司 見鬼 見えないものを視る能力 3 ラニ なし 全身が強化されるタイプの身体強化 3 渡辺 道程 暗算加速 脳内での計算速度を高める - 超能力系 相島 陸 カットアンドペースト 空間転移 - 逢洲 等華 確定予測 物事の結果を一瞬早く導き出せる - 雨宮真美 タナトス 強制的に自殺させる 10 有葉 千乃 なし あらゆる生き物の精神、思考をコントロールできる 未設定 アルフレド 黒色反応炉(ブラックエンジン) 自身の魂源力の爆発力への変換 7 一番星ヒカル サイコキネシス サイコキネシス 3 一之瀬 勉 リバーサー 強者を服従させる力 1 ヴェイパー・ノック 空間隔離 見えない壁の形成 2 討状 之威 無間の炎熱(ブレイズイグナイト) 銃弾の着弾時に爆発を熾す - エヌR・ルール ザ・フリッカー 分子の分解と再構築 - 戒堂 絆那 黄金吸血樹(ミストルティン) 魂源力侵食 - 笑乃坂 導花 なし 金属の切れ味を強化 - 加賀杜 紫穏 なし 触れている物(生物も含む)の強化 - 風見 悠 空中魂源力波感知 魂源力使用の空中波傍受 4 ギガフレア キス・オブ・ファイア 発火能力 7 鞠備 沙希 『星に願いを』 魂源力のビーム砲。通常では制御不可 1(5) 木戸 祈 共鳴(レゾナンス) 魂源力の強化 4 木戸 叫 共鳴(レゾナンス) 魂源力の強化 4 木根 まね子 左招き 左手で招くことにより人を呼び寄せる 5 木山 仁 「ガナリオン」への変身 なし 3 楠木 巌 なし サイコキネシス 5 久世 空太 光撃(こうげき) 指先から光線を発射する - 熊田みみみ ハッピー・ドロップ 悲しみを飴玉に変えて取り除く - 坂上 撫子 一撃切断 敵を両断する爪を装備する - 桜川夏子 オーバーキルズ 死者を蘇らせ、服従させる 9 笹島輝亥羽 復讐の弾丸(レイジングブリット) 受けたダメージを蓄積し数倍に返す 2 小夜川 嵐子 ラフ・アンド・レディ 異能、ラルヴァの能力などによる特殊な攻撃を物理攻撃に変換する 1 重換 質 質量転嫁〈Mass pressing〉 自分自身の質量を触れたものに押しつける 3 斯波涼一(オフビート) オフビート・スタッカート 掌のみ絶対防御 6 巣鴨伊万里 アウト・フラッグス 死亡フラグ視認、予知 4 スピンドル スピニング・スピンドル 自分の魂源力を物質に浸透させて廻す 4 清廉 唯笑 なし 声を使った簡単な催眠 - 瀬賀 或 医神の瞳(アスクレピオス) 人体構造把握しての超執刀 10 瀬野 葉月 魔女(ウィッチ) 箒に跨ることで空を飛ぶ - 千代 紫 言伝(ことづて) 人語を理解できないラルヴァに言葉を伝えることができる - 豊川 もこ 仙炎招 触れた物の精神力を削り取る『鬼火』を呼び出す 4 天上院 佑斗 パイロキネシスト(発火能力者) 炎を操る - 東堂 蒼魔 同調(シンクロニシティ) 相手に自分と同じ動きをさせる 6 夏目 中也 ペテン 言葉が持つ力を増幅させ、言葉に説得力を持たせる。 - 七転 八起 達磨 不幸な目にあっても回復する - 成宮 金太郎 ザ・ハイロウズ 会った人の総資産と金運を見る - 難波 那美 荒神の手(ゴッドハンド) 対象を握りつぶす異能力 3 錦 龍 なし 空手の技に魂源力を乗せる 2 西野園ノゾミ ウィスパー・ボイス 集団催眠 6 退田 裕穂 なし サイコメトリー 1 博打番長 二つに一つ 確率が0%または100%でない事象の確率を50%にする 5 橋本 恵 念話(テレパシア) 広域に使用可能なテレパシー 6 春奈・C・クラウディウス ザ・ダイアモンド 『対ラルヴァ用イージスシステム』、実態は超広範囲精神感応 8 氷浦 宗麻 なし 自分の半径5メートル以内の物体の動きを止める 未設定 聖 風華 なし 風使い 3 火野 拳児 なし 拳に炎を燈す - 藤森飛鳥&道化師 異能殺し 対魂源力による異能の相殺 7 双葉敏明 栄光と破滅の手(ハンズオブヒーロー) フラグゲット&クラッシュ。ランダム 4 姫川 哀 なし 対ラルヴァ限定の絶対支配 未設定 星崎 真琴 なし テレポート 7 星崎 美沙 なし ヒーリング 6 牧村優子 チェンジ・ザ・ワールド 世界の改変 ? 枕木 歩 電波使い テレパス - 三浦 絵理 なし ヒーリング 3 水分 理緒 なし 水を操作する - 御堂 瞬 なし テレポート 5 皆槻 直 ワールウィンド 自身の体から亜空間への空気の吸引・排出 7 美作 聖 部分加速 一定範囲の無機物の時間を加速する 6 召屋 正行 召喚 あらゆるものを召喚する 未設定 山口・デリンジャー・慧海 魔弾の射手 ラルヴァ殺傷に特化した弾丸を発現させる - レイダーマン レーダー・アイ 危険予知 3 六谷 純子 キャノンボール 超高威力型遠距離物理攻撃 5 八十神九十九 ナンバーズ 視界内の生物の情報を数字で表示 3 椿幻司郎 メモリ・トリッガー 記憶の入出力 3 魔術系 アクリス ナイトメア 『我、命ず』(ジ・オーダ) 本来は精神を束縛する高位魔術 2 伊丹 至子 口寄せ この世ならざる者との交信 - 神楽 二礼 神下ろし 『場』を作って神を召喚する 5 如月 千鶴 なし 氷を扱う魔術師系能力 4 グイード・ヴィルデンブルフ なし 狼に変身する - 暗闇坂 めぐる 狗神様 狗神の召喚と使役 - 柴咲 結衣 柴咲流縛縄術 縄を操り捕縛から絞殺までこなす - 大道寺 功武 沈黙魔術 効果付与よる強度増加 6 高田 春亜 なし 身体に刻まれた文様と踊りを儀式として雷撃を放つ 3 束司 文乃 文章具現化 文章に書かれた事を実際に起こす 3 辻 宗司狼 風魔導師(ウィンドマスター) 風を操る - 覘 弥乃里 位相界の眼〈Ethereal Eye〉 ラルヴァがどこにいるか探知する 8 天道 ユリカ 融合契約 非能力者とマジックアイテムを一体化させる 9 内藤 綾香 符術『縛鎖結界』 符によって相手の行動を制限する結界を作る 5 中島 虎二 『回答は決まった(ファイナルアンサー)』 限定的未来選択、選択肢を間違えない 4 鳴海 麗一 死神化 死神の鎌でのエレメントラルヴァ殺し 6 春部 里衣 猫神様降臨 猫に変身する 未設定 藤神門 御鈴 なし 十二天将を召喚する - 松下 眞理 力場賦与 人間がそれ程苦もない持って行使できる道具に、インスタントまたは恒久的に力を与える 6 松戸 科学 付与魔術 他者の能力をアイテムに付与する 7 瑠杜賀 羽宇 ドールマスター 主であるアラン・スミシーによって稼動している 1(主側は不明) 弥坂 舞 雑踏のサクラ 実体のある幻を生む 未設定 八島 響香 コスプレ コスプレしたキャラの能力再現 2 結城 光太 ストレイト・エピファニー 一定の条件の下で知りたい情報を知る 1 飯綱百 根源堰止忍術 鋼を撃ち込み、異能を停止凍結させる 未設定 超科学系 安達 久 なし 永劫機ロスヴァイセの召喚と操作 5 おやっさん なし バイクに関してのみ常識外の設計&カスタムを行う 6 唐橋 悠斗 匂いつき(スティンカー) ラルヴァ避けorラルヴァ寄せ 1 国守鉄蔵 金剛不壊 魂源力を用いて具現化した日本鎧一式を着装する 7 小石川 青空 透明工房 透明な多脚戦車の維持運用 5 カシーシュ=ニヴィン 電子駆逐艦MDH 電子戦特化のミニチュア艦船を操作 2 工 克巳 鋼鉄の毒蛇(スチール・ヴァイパー) オリジナルメカ毒蛇(ヴァイパー)の製作運用 3 造間改 アセンブラー 「天啓」を受け作っていったパーツから最終的に一つの機械を作り出す 3 周防 キョウジ なし 永劫機メタトロンの召喚と操作 2 時坂 祥吾 なし 永劫機メフィストフェレスの召喚と操作 5 与田 光一 なし 異能者・ラルヴァの魂源力使用メカニズムの解明 5 四方山 智佳 情報集約〈Intelligent Node〉 専用端末でどんな情報でも調べる 4 無能力者・未覚醒者 拍手 敬 なし 発勁 1 菅 誠司 なし 不明。魂源力はそれなりにある 3 未見 寛太 なし 発動した場合「どんなことでも夢オチにする」 未設定 アダムス なし 正真正銘の無能力者 2
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ラノで読む 怪物記 おばけにゃ学校も試験も何にもない ――ゲゲゲの鬼太郎 それは日常と言って差し支えない時間だった。 ある日の昼下がり、私はレポート執筆の休憩にリビングで日本茶を啜っていた。隣では八雲が少し欲張りに日本茶とジュースの両方をテーブルに置いて、のり煎餅をぽりぽりとかじりながらTVを見ている。 TV画面に流れるCMは国内最大の某魔法の王国のものだ。クリスマスの楽曲をバックに個性的なキャラクター達がライトアップされた山車に乗ってパレードしている。 『東京ディズニーランド・クリスマスファンタジー☆』 懐かしい。随分と昔の、物心ついて間もない頃の話だが家族で行ったはずだ。おぼろげだが兄と揃ってホログラムのお化け屋敷を随分と怖がっていた覚えがある。姉が私を絶叫マシンに乗せようとして係員に止められていたのも記憶にある。本当に懐かしい。恐ろしい、姉が。 それにしても、もうクリスマスになるのか。月日の過ぎるのは早いものだ。あれからそれほど経過してないように感じるのは気のせいだろうか。 そんな感想をぼんやり考えていると、トントン、というノックの音が我が家の玄関から聞こえてきた。 どうでもいいことだがドアをノックする客は初めてかもしれない。 ドアの向こうにいたのは、久留間戦隊のメンバーの一人で夏の兎狩りでも一緒だった伊緒君だった。 「こんにちは学者さん! すごく困ってます! 【幽霊事件】です! 幽霊が出たから助けてください!」 伊緒君は小柄な体の身振り手振りの自己主張と「!」の乱発で用件を伝えてきた。 私は「幽霊は少し時期外れだな」と思いつつ返答した。 「うちはゴーストスイーパーじゃないんだが」 「知ってます! でもラルヴァの学者さんです! だから何とかしてください!」 幽霊は人じゃない→ラルヴァは人外の総称→幽霊はラルヴァの三段論法である。 まぁ、幽霊が人じゃないかどうかは判断の分かれるところだが。 「いまいち話がわからないので詳細を聞きたいんだが、上がっていくかね?」 「はい! あ、おやつ時なので何か出してください! 飲み物は牛乳で!」 ……この子は奔放な性格が少し助手に似てるな。 将来心配だ。 十分後、伊緒君が牛乳と煎餅を平らげたところでようやく話を聞くことが出来た。 「要するに旧教育施設に幽霊が出た、と?」 「はい! 出たんです!」 旧教育施設。それは双葉学園、いやこの学園都市が建設され始めて間もないころに建てられた施設である。 学問を中心とした校舎ではなく双葉学園に通う学生――異能力者の訓練を専門とした教育施設であり、既に廃棄された施設だ。 同様の施設は学園都市の地下から山中に至るまで無数にある。だが、その旧教育施設は1999年からの大量出生直後、入学する異能力者の試算が正確でなかった2000年始め頃に突貫で建築されたものであった。そのため今は御役御免となり使われなくなった代物だ。 「たしか新しい施設を建てるために取り壊されると聞いていたが……」 この学園都市は東京湾上の埋立地。土地は有限であり、新たに何かを建設しようとすれば不要な建物を潰してその上に建てる必要がある。 「ボクたちがアルバイトで取り壊してました!」 「なるほど」 学園都市では技術を要さない土木作業は稀に異能力者の学生に回ってくることがある。 何分、異能やラルヴァなど一般社会にばれたらまずいもので溢れ返っているので建設会社をホイホイと学園都市に入れるわけにはいかない。 学園都市には建設部や大工部といった学園都市内の建築業代行機関も存在するが彼ら彼女らの人数は限られている。 そのため、単に『壊す』『運ぶ』といった作業は一般の身体強化系や超能力者、超科学のロボット使いに回ってくることがある。【家袋】の一件のように異能力者の力をもってすれば大抵の建築物はバラバラにできるし、その方が安く済むというのもあるだろう。 「その作業中に幽霊が出てきたのかね?」 「はい! それはもうおどろおどろしかったり可憐だったりエイリアンだったりスーパーロボットだったりバリエーション凄まじい幽霊だったみたいです!」 「待て。ちょっと、待て」 途中からおかしい。明らかにおかしい。 「エイリアンとスーパーロボットは幽霊じゃないだろう」 「でも半透明でスゥッと消えてしまったそうです! だから幽霊だって言ってました! きっと施設の事故で亡くなった生徒とか学園都市を建設するときに潰したお墓や神社やUFOやロボット秘密基地の祟りです!」 生徒はともかく、UFOや秘密基地は祟るのだろうか。 そもそもこの学園都市は海上の埋立地だからそういった土地のあれこれとは無縁に思える。まぁ、知らず知らずのうちに海神やら旧支配者やらの祠を埋めてましたくらいはありそうな世の中だが。 「見鬼や霊能の生徒は尋ねてみたかね?」 「はい! でも入っていった見鬼の人は『気配はありそうだけど姿は見当たらない』って言ってました!」 「……ふむ」 微妙なところだが……行ってみるか。ひょっとしたら珍しいケースの幽霊かもしれない。 「わかった。なら現場を見に行こう」 「ありがとうございます! さっそく行きましょう! 案内します!」 そう言って伊緒君はリビングと繋がる玄関から先に外へと出て行った。……まぁ、案内されなくても場所は知っているのだが。 「八雲、少し出かけてくるから留守番をしていてくれ。夕飯までには帰ってこれるだろうがもし遅くなったら大車輪かピザハットの出前でも取ってほしい。お金はいつもの場所に置いてある」 「わかった。いっしょにおるすばんしてる」 第十話 【幽霊】 ・・・・・・ 状況の整理。 本日の午後一時過ぎ、旧訓練施設の解体作業を請け負っていた学生一同は旧施設第二訓練場の解体に着手した。 彼らは手始めに自分たちで施設内の調査を行ったらしい。もちろん事前調査は学園側で済ませているのだが念のためだ。もしも近所の子供でも入り込んでいたら大事になりかねない。それはなくても猫の多いこの学園都市のこと、内部で猫が巣を作っている可能性も大いにあった。 そうした理由で彼らは内部に入って調査をしたのだがそこには予想外の存在《モノ》がいた。 幽霊。日常でも簡単に見受けられる言葉、そしてこの学園都市では実在も珍しくはない存在だ。 しかし彼らが遭遇したのは幽霊にしては多種多様の……と言うよりは何でもかんでもと言った方がしっくりくるモノであったらしい。人型、獣型、ロボット型、エイリアン型。訳も区別もまるでわからぬほどの幽霊の群れ。むしろ本当に幽霊であるかも疑わしいほどであったという。 しかし遭遇した生徒の投げた物品や振るった手足はそれらが存在しないかのようにすり抜け、それら自身も存在していなかったように消えうせたという証言がそれらが幽霊である証左となった。 かくして現場は騒然とし、見鬼の異能力者に協力を要請するも詳細はわからず、混乱は増し、作業従事者の一人であった伊緒君が割合独断で私を呼んできた、という顛末になったらしい。 伊緒君から聞いたそれらの情報を脳内でここまで咀嚼するうちに(伊緒君の証言は量こそ多いものの要領は得ないものがほとんどだった)、私の運転する車は旧訓練施設に到着した。 旧教育施設は思ったよりも自宅マンションに近く、その気になれば歩いてでも一時間せずに往復できそうな距離にあった。 施設の周りには十数人の生徒が見受けられ、その何人かの傍らには二、三台の重機紛いの何かが鎮座している。 一方でそれと同数ほどの生徒や重機モドキは施設のほぼ反対側に取り付き、壊し、破片をトラックへと運んでいる。解体されている建物は壁のコンクリートや木材が剥がされて鉄骨が剥き出しになっていた。 「作業は進んでいるらしいな」 「あっちは幽霊が出なかった棟です! ボクらの担当場所でだけ幽霊が出ました!」 なるほど。 「現場の第二訓練場は?」 「あの体育館みたいな建物です! あれが幽霊の出た場所です! 幽霊屋敷です!」 彼女が指した建物の外観は確かに体育館に似ている。だから幽霊屋敷という呼び方がミスマッチのしようすらないほど似合っていなかった。 「ふむ」 しかし旧施設の第二特殊訓練場か……前にも聞いた覚えがある。うろ覚えだが那美君からだったはずだ。 たしかあの建物は……ああ、なるほど。 「これは……現場に入る前にあらかた解けてしまった、のか?」 「え?」 「まあ、いいか」 いま私が考えている通りだとは思うが確証を得るためにはやはり現場に入った方がいいだろう。 「では入ってみよう」 「はい! あ、見鬼の人とか呼びますか?」 「恐らく手を煩わせるまでもないだろう。これはそういう事件だ」 事件と言えるかは判断の割れるところだが。 伊緒君が現場の責任者に話を通し、渋々ながらも許可をもらい、我々は施設の中へと足を踏み入れた。 第二特殊訓練場へは隣接した施設の二階から渡り廊下で進入する必要があったのでまずは隣の福祉棟を通ることとなった。 福祉棟は医療施設や休憩室などが集まっており、訓練による負傷の治療や合間の休息に使われていたらしい。当然だが今となっては使用者は皆無で、掲示板に張られた十年近く前の日付が書かれた催し物の告知ポスターが放置されてからの年月の経過を物語っている。 ここは第二特殊訓練場だけでなく、現在解体中の第一特殊訓練場とも隣接しており、施設の地図と衛星写真では両端が丸いTの字に 「ここって上から見ると男の人のチ○コみたいですね!」 「…………」 女の子が堂々とそれを言うのは如何なものか。しかも語気強めで。 「じゃあ右の金○を目指して進みましょう!」 ……決して悪い子ではなさそうだが自宅でのことといい発言内容に難あり。 変な形でテンションを落としながら歩いていると、廊下や天井の端々からピシリ、ピシリという音が聞こえてきた。 「こ、これは! 噂の怪奇現象ラップON!」 「その発音だとまるでサランラップをかけていそうだが」 それにこの音は隣で工事をしている影響で怪奇現象とは無関係だろう。 しかしよくわかっていないらしい伊緒君はどこか怯えている様子だ。 「うぅ! やっぱり幽霊は苦手です! 殴れませんボコれませんプチッできません! 何より死んでるから殺せません!」 ……怯えている、か? 「まぁ、死んでるから殺せない……とも限らんがね。別に幽霊は死んで幽霊になったものだけではない」 「? どういう意味ですか?」 「では簡単に説明しよう」 私は歩きながら話すネタとして幽霊についての解説をすることにした。 「幽霊と呼ばれているものは大まかに分けて四種類ある。一つ目は生まれたときから幽霊だったラルヴァだ」 「それすごく矛盾してません!?」 「かもしれない。ただラルヴァにはそうとしか言いようのないラルヴァはそれなりにいる。どちらかと言えば【オバケ】に当たる。おばけのホーリーやゴーストバスターズのスライマーあたりがいい例かもしれない」 「なんですかそれ?」 …………ああ、うん。ジェネレーションギャップして当たり前のネタだったよ。 「まぁそれは置いておくとして二つ目は人間が死んだ後に霊魂と魂源力のみの存在になることで生まれる幽霊、一番わかりやすい意味での幽霊だ」 「四谷怪談ですね!」 「四谷怪談に限らんがね。これは出自が出自なのでラルヴァと言うかは難しい」 ラルヴァ学会でも意見が割れていたはずだ。 「三つ目は人間や動物の死骸を用いて生み出されたあれこれだ。二つ目の幽霊と違い自然発生でなく人為的な……ネクロマンシーや僵尸術、フランケンシュタイン作成法によるものだ」 「それ幽霊っぽくないですね!」 「実体はあるし魂も入っていたりいなかったりで、不謹慎な言い方をすればホラー映画ではなくパニックムービーの域だから余計にらしくない、っと……」 そう言えばマシンモンスターやメルカバもこれに当たるのか。本当に不謹慎だ。 「それで四つ目は?」 「四つ目は……まぁ後で言わせてもらう。恐らく今回の件は四つ目だろうからな」 解説している間に渡り廊下も渡り終え、私と伊緒君は第二特殊訓練場に足を踏み入れた。 第二特殊訓練場の中はうっすらと埃が積もっているものの老朽化などはまだあまり見られない。建設されてから二十年も経っていないのだから当たり前といえば当たり前だが、見た目は今でも十二分に使用に足る印象だ。 入り口横の施設内地図を見ると中心に厚い壁を挟んで二つの大部屋があり、その周囲に通路や関係した部屋が配置されているようだ。 どうやらここにある二つの扉の先を通ってそれぞれの大部屋にいけるらしい。 「幽霊は大部屋で?」 「そうです! 右と左のどっちに出たのかは聞いたけど忘れちゃいました!」 忘れるな。 「仕方ない。手分けして両方とも調べよう」 「え? 学者さん雑魚なのに一人で大丈夫ですか!?」 「……まぁ、大丈夫だろう」 エレメンタル幽霊相手なら君だって手も足も出ないだろうに。いや、手足は出ても箸にも棒にもかからないのか。 そんなやりとりをして私と伊緒君は右と左それぞれの大部屋へと向かった。 大部屋へと通じる通路は隣の福祉棟と大差なかった。強いて言えばここには掲示板などないし告知ポスターも貼っていない。代わりに埃だらけの壁にいくつもの小さな手形がくっきりと見て取れる。おまけに床にはちらほらと黒い髪の毛が落ちていた。 ……はて、もしかするとこれはかなり怖いんじゃないか? 「いや、今回の件の真相に怖い要素などないはずだ。ないはずだ」 私は自分の推測の確かさを信じて浮かびかけた「怖い」という感情を抑え込んだ。しかしまだ少し抑え込みが足りない。こういうときはどうすれば……そうだ。 「歌おう」 怖いときは(まだ怖くなどないが)歌えばいいと子供のころ誰かに聞いた気がする。 という訳で歌う。選曲は陽気な曲だ。 「あったまてっかてーか」 お? 「さーえてぴっかぴーか」 これはいい。一気に気分が楽になってきた。こうすれば良かったのか 「そーれがどーしーた」 「ぼくドラえもん!」 ぎゃあああ!? バァン!と勢いよく開かれた扉と思わぬ合いの手に私は心底仰天した。 扉から登場したのは……。 「……………………何だ伊緒君か。君の担当は左側の部屋のはずだが」 「こんな場所で急にドラえもんの歌が聞こえてきたら気になって飛んできますって!」 ……危ない。本当に危ない。危うく悲鳴が口から飛び出すところだった。さすがにそれは少しみっともない。 「でも25にもなって怖いからドラえもんの歌を熱唱とかみっともないですね学者さん!」 やはりこの子は自由に酷い。そして穴があったら入りたい。 いや、違うんだ。普段はこんなに恐怖心は抱かない。ラルヴァの巣窟に放り込まれてももっと落ち着いている自信と落ち着いていた記憶がある。 今回のこの場所の雰囲気はいつもと系統が違うと言うか幼いころのトラウマを刺激されると言うか……。 などという脳内言い訳を並べているうちに伊緒君はひょいひょいと先へ進んでいく。 「ボクの行った方は通路にこんな手形や髪の毛はありませんでしたし、こっちが当たりですね!」 だそうだ。 なるほど、それならこちらが事件のあった場所だろう。 そしてきっとこの手形や髪の毛はここを調査しに入った作業従事者のものだ。明らかに小さな子供のものだが異能力者ならばおかしくはない。そうであってくれ。私の推測と心身のバランスのために。 通路を進んだ先の扉を開けると、そこはまるで体育館のような広い空間だった。この施設の外観は体育館に近かったが中身も同様であったらしい。 しかし床の材質は一目見ただけでも木やリノリウムとは異なった。どこか透明感があり、屈んで手で触れてみると硬質ながらも微かに柔らかい感触が返ってきた。 壁には窓がなく完全に密閉され、見上げれば天井には何がしかの機械が設置されている。なるほど、そういったところを見るとここはやはり体育館ではなく訓練場、もしくは実験場、あるいは……。 と、そこまで頭の中で考えを巡らせてようやく窓のないこの部屋に機械が設置されているのが分かる程度には明かりがついていることを理解した。廃墟とされながらも電気は変わらず通っているらしい。 となると、私がここを訪れて最初に打ち立てた推測の確度はぐんと上がった。 「さて、推測が当たっているか試してみるか」 私は伊緒君に先んじて大部屋の中央へと歩き出す。 室内を歩く私を察知して――あるいは私に反応して――薄暗闇に某かの幻像が浮かび上がった。 幻像はおどろおどろしい化物であり、エイリアンであり、ロボットであった。 多種多様というよりは雑多に、統一性も無く、幽霊と呼ばれた幻像はそこに立っていた。 しかしその幻像は……。 「やはりこれは」 「キャーーーーーーッ!」 一拍遅れて、幻像が何であるかに気づいた伊緒君が絶叫を上げる。 ――それと同時に私は気づいた。 彼女の絶叫が先ほど私の上げかけた驚愕恐怖の絶叫ではなく……絶叫マシンに乗ったときのそれだということに。 振り返れば既に彼女は両手を振り上げて跳躍している。 跳躍の着地点は幻像の群れの真っ只中であり、私の眼前だ。 私が慌てて後方に駆け出すのと、彼女が着地代わりに両手を振り下ろしたのは同時であり ――次の瞬間には大部屋の床は完全に粉砕されていた。 ・・・・・・ かつて【家袋】の事件の折に久留間君に質問したことがある。 その事件で私は彼女の率いる久留間戦隊のメンバー、藤乃君の尋常ならざる防御力を目にし、気になって聞いてみたのだ。「他のメンバーも同様に何かに特化しているのかね」、と。 そこでメンバーの能力について色々と聞いたのだが、その中でも伊緒君について久留間君はこう語っていた。 「伊緒ですか? メンバーの中でも一番幼いですけど、単純な腕力なら戦隊でもピカイチですね。私と藤乃はこの屋敷のラルヴァを解体するのに十分くらいかかっちゃいましたけど、伊緒なら三分でやれます。車を叩けば百メートルくらい飛んだ後で爆発しますね。アラレちゃんみたいだと思いません?」 ・・・・・・ 笑う久留間君に「それは腕力ではなく破壊力だ」とつっこんだのを思い出したところで私の回想は終了し、私は目を覚ましていた。 どうやら少し気絶していたらしい。 「学者さーん! 生きてますかー! 意識ありますかー!」 「……そういうことを確認しなければならない事態だったのが分かる程度には」 自分の意思と関係なく寝転がった姿勢になっていた私は寝転がったまま視線を巡らせる。しかし、先刻はうっすらと見えていたはずの室内の様子が暗闇ですっかりわからなくなっている。どうやら崩れた際に光源をなくしたようだ。 「学者さーん! どこにいますかー! ぐりぐりぐりぐり!」 「痛い痛い痛い痛い、伊緒君踏んでる、私を思いきり踏んでる」 「あ! すみません! 暗いからわかりませんでした!」 本当か? 「兎に角、こう暗くては確認のしようもない。伊緒君、壁のどこかを壊してくれ。それで外の光が入ってくるはずだ」 「はい! てやぁ~~~~……イタッ!?」 伊緒君の悲鳴と、ガラガラという壁の崩れる音が響く。外光が室内に差し込み、視界が回復する。伊緒君は額を押さえていた。どうやらパンチか何かで穴を開けようとしたが暗闇で距離を誤って顔面をぶつけたらしい。……顔面でも壁を崩せているのが恐ろしいところである。 次いで私は自身と周囲の様子を確かめる。幸いなことに床は崩れてもそう深くは落ちていなかったようだ。そうでなければ重傷を負うか生き埋めになっていただろう。いや、それでも下半身が埋まっていた。幸い砕かれて小さくなった床の破片ばかりで重くも痛くもないが……頭の横に突き立っている尖った残骸を見てぞっとする。 「…………次からは周囲の人間にも気をくばってくれ」 「学者さんがあの程度も自力じゃどうにもできないへっぽこ人間なの都合よく忘れてました!」 「突然床が吹っ飛んだら一般人の99%はどうにもできないと思うのだが……」 私は伊緒君に引き起こされて小生き埋めから抜け出た。 「それで学者さん!」 「なにかね?」 「これ、何ですか!」 伊緒君は一面に広がる残骸をざっと指差した。 先刻も少し触れたようにそれらは床の破片だ。よくわからない材質で出来た不思議な質感の破片である。 しかしそれは床の表面だけの話だ。 床の内側、カバーとなっていた表面の内側には機械が並べられていたらしい。砕けているものが多いのでよくわからなくなっていた。しかし日の光で崩れる前よりも明るくなった室内で天井を見上げれば、天井に設置されていた機械がその残骸と似た形をしているのがわかった。 「……やはりな」 こうして確認するまでは本《・》物《・》の可能性もあったが、結局は私の推測どおりだったらしい。 「伊緒君、これが何か……そしてここが何だったのか。両方の答えがこれだ」 私は床に落ちていた残骸の中で比較的分かりやすく、かつ私が持てる程度に小さいものを選んで伊緒君に渡した。 「これって……カメラ?」 彼女の言うとおり、それはカメラのレンズ部分によく似ている。しかし、ある意味では真逆だ。なぜならそれは写すものではなく映すものだからである。 「プロジェクターだよ。昔の超科学技術で作られた立体プロジェクターだ。色々なものを映せる。幽霊も、だ」 「……へ?」 さすがに二十年近くも前の代物だし画像も荒かったな。目撃者が本物と間違えたのは、この双葉学園の生徒だから、といったところか。 「あの、結局どういうことですか!?」 「要するに、ここは幽霊屋敷ではなく……遊園地のお化け屋敷だ」 ・・・・・・ 私が那美君から聞いていたこの施設の概要は以下のようなものだった。 この双葉区、学園都市、そして双葉学園が設立されたころ、この街を設立した異能力者や日本政府は様々な苦悩を抱えていた。苦悩の多くは今回の件に関係ないが、一つ大いに関係がある苦悩があった。 それは、『子供たちをどう訓練すればいいかわからない』ということである。 二十世紀末に起きた異能力者の爆発的な増加により生まれた多くの幼い異能力者の受け入れ先であり、異能の制御とラルヴァとの戦い方を教える双葉学園にとってこの苦悩は不可避であった。 増加以前の日本にも異能力者の組織と訓練のノウハウはあったが、それらのノウハウはあまりにも多様であった新しい異能力者に対応し切れなかったのだ。 超能力、身体強化、魔術、超科学の四系統。さらには個人個人であまりにも異なる資質。古くからの訓練方法では多様すぎる生徒を持て余したのである。例えると野球やサッカーのコーチしかいなかったのにアメフトやセパタクローの選手を教えることになったようなものだ。 ゆえに設立者達はまず『どんな異能でも幅広く対応できそうな訓練施設』を目標に施設の設計と建築を行うことにした。先のスポーツの例えに繋げて例えると、技術ではなく基礎トレーニングに該当する施設の建設だ。 その一つが第二訓練場であり、施設のテーマは『ラルヴァと戦う心構えを身につける』である。 訓練をつんでラルヴァの討伐や撃退を行うよりも前に、予めラルヴァと戦えるだけの精神力を身につけさせるため第二訓練場は当時最新の立体ホログラフィを使って本物さながらのラルヴァを相手に訓練をつませようとした、のだが……。 設計者の目論見は失敗に終わった。 その理由は当時を知る那美君曰く、 「立体3Dだったのはすごいし、ちょっと感動した。だけど、触れもしないし画像荒いし半透明だし明らかに偽物だとわかってるもの相手に緊張感の欠片もない訓練して精神力が身につくわけないでしょ? きっとまだお化け屋敷に入ったほうが訓練になったんじゃない?」 とのことらしい。 それから後、与田技研の訓練ロボットの導入もあり、第二訓練場は使われることもなくなって閉鎖された。 今回の事件は閉鎖されて使われなくなった施設を解体する際に施設の詳細を教えていなかった学校側の不手際と、何らかの偶然によって施設の電源が入ってしまったことが原因だ。 幽霊などいなかったが、幽霊に見えるものがそこにあった。 目撃者の学生達が幽霊だと誤解したのは本物を知っているゆえに、である。一般人と違って本物の幽霊がいるのは周知の事実である彼らにしてみれば、それらしいものは幽霊に見えやすい。しかして正体は幽霊ではない。 幽霊の正体見たり枯れ尾花 それが幽霊と呼ばれるものの、四つ目である。 ・・・・・・ 事件が解決し、自宅に帰るころには夕飯の支度ができる時間を過ぎていた。 「ただいま」 「おかえりなさい」 「今日は何かあったか?」 「シズクとあそんでた」 「シズク?」 「おともだち」 「……そうか、それはよかったな」 いつの間にか八雲にも個人的な友人が出来たらしい。それを嬉しく思うのは親心のようなものだろうか。 リビングを見れば、二人分のコントローラが刺さったゲーム機と対戦ゲームの画面が見える。 シズクという友達の姿は見えないからもう帰ってしまったらしい。 「っと、八雲、遊び終わったならちゃんと電源を切っておかないと駄目だぞ」 「うん、わかってる。あそびおわったらでんげんをきる。…………あ」 リビングに戻ろうとした八雲はふと何かを思い出したように立ち止まった。 「でんげん、きりわすれてた」 「? だから今から」 「ゲームじゃなくて、えっと……どこだっけ? うん、うん、きゅうきょういくしせつのだいにくんれんじょう、でんげんきりわすれてた」 ……何だって? 「シズクとあそんでて、あそこのスイッチいれたけど、けしわすれてた」 「…………なるほど」 閉鎖されていた施設の電源が入るなど妙な偶然もあったものだと思ったが、そうか八雲があそこの電源を入れたのか。考えてみればあそこはこのマンションから歩いていける距離だ。 つまり昨日以前か今日の午前中のうちに八雲が中に入って電源を入れてしまい、それが原因で今日の昼に事件が起きた、と。通路の手形や落ちていた髪の毛も八雲のものか。 「けしてこなきゃ」 「どの道もう取り壊しているからな……」 というか、伊緒君が壊したからな、床ごと。 「今回は済んだことだが次からは気をつけるんだ。それと、あまり人気のない建物に入ってもいけない」 「気をつける。シズクもごめんなさいって」 ? 「え? ……うん、わかった。言う。えっとね、シズクがあそこで暮らしてたんだけど、住むばしょがなくなっちゃったからどこかあめかぜをしのげるいいばしょはありませんか、って」 「…………待て、八雲。ちょっと、待て」 ――心なしか部屋の気温が下がった気配がする。 心臓が早鐘を打つ。 第二訓練場の廊下に一人立っていたときよりも早く、強く、耳に音となって聞こえるほどに。 それでも、私は尋ねなければならなかった。 「そのシズクって子は……どこにいるんだ?」 「ハイジの後ろ」 怪物記 第十話 了
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怪物記 第一話【死出蛍】 兄ちゃん、蛍はなんで死んでしまうん? ――節子 F1という競技はそれより下位のF3などとは大きな違いがある。出場選手やスタッフのレベルの差もそうだが、マシンレギュレーションの違いだ。F3カーのエンジンの排気量は2000ccだがF1カーに搭載されるエンジンの排気量は2400ccだ。だからF1カーとF3カーがレースすればまず間違いなくF1カーが勝つ。いささか回りくどくなったが、私が言いたいのは性能差は埋められないということだ。要するに、 「君達……もう少し、加減して、歩く気は、ないか……?」 双葉学園都市の生徒と比べればF3カーはおろか原付程度の私の体力はもはや限界だった。現に彼女らと20メートルは距離が開いている。 「学者さん、いくらなんでも体力なさすぎですよ」 「こんなジャングルの中を30kmも歩けば普通は疲れ果てる……」 私の体力はあくまで人並みだ。もっとも、人並みはずれた面々から見れば貧弱もいいところだろうが。 「何にしろこのペースで歩き続けるのはもう無理だ……。ペースを緩めるか休憩するかしないことにはもう歩けん」 「でも早く問題のラルヴァ見つけないと夜になっちゃいますよ?」 「ラルヴァ……か」 人類はラルヴァと呼ばれる生物と戦っている。 もっとも、彼らは生物というくくりには収まらない。彼らは獣のようであり、怨霊のようであり……人のようである。 彼らとの戦いは世界の『裏側』でずっと昔から続いている。それこそ人類が文明をもったころから続いているらしい。世界各地の伝説や伝承の類――雪女やミノタウロスなどは当時のラルヴァのことを綴ったものだとも今では考えられている。それらの伝説や伝承の中、そして世界の『裏側』にしかいなかったラルヴァの有り様は二十年前から大きく様変わりした。 まるで器の中から水が溢れ出すようにラルヴァは『表側』に現れ始めたのだ。今の世界にはラルヴァが溢れている。しかしこの国でそのことを知る人間の数は決して多くはない。大多数の国民は情報統制に遮られ、ラルヴァの存在を知らない。知っているのは遥か過去からラルヴァと戦い続けていた人間――『裏側』の異能力者と、彼らと接触をもつ『表側』の政府。そして、彼らに育てられる異能力者の少年少女――双葉学園都市の学生たちだ。 彼らは学問やラルヴァに対抗する術を学ぶ学生であると同時に、『表側』の世界を襲うラルヴァと戦う戦士でもある。日本の各地でラルヴァが出現した際には現場に急行し、ラルヴァを討伐する使命を帯びている。 だが、彼らに同行する私は双葉学園の学生ではない。『裏側』の異能力者でもない。ラルヴァを研究する一人の科学者だ。双葉学園の学生たちがラルヴァの起こす事件を解決するために現場に出向くとき、研究のために同行する。 そう、今回のように……だ。 「……休憩がてらに今回の事件を再確認してもいいか?」 「既に休憩は決定事項なんですか……。しょうがないですね。みんなー! ちょっと休憩するよー!」 彼女の号令で今回のラルヴァ討伐パーティの面々が思い思いの姿勢で休憩する。仲間と雑談するのもいれば木に背中を預けて寝ているのもいる。……中には「何でこの程度で休憩するんだ」と非難がましい目で私を見ているのもいるが。 「それで今回の事件の確認でしたっけ?」 「ああ。私が事件のあらましを覚えている限り話す。それに修正や追加があったら言ってくれ」 「はい、わかりました」 事件の分類は【変死事件】。ラルヴァが起こしたとされる事件では一番件数が多い事例だ。 最初の被害者はここで働いていた女性従業員。一週間前から姿が見えない。以後の事件の被害者と同様に死亡したと推定されている。 第二の被害者はここの男性従業員。六日前の終業時間になっても姿が見えず、翌朝ミイラになってるのが発見された。外傷はない。 第三の被害者は第二の被害者の変死事件を調べていた警察官。捜査に当たっていた警官全員がミイラになって発見された。発見時刻はやはり朝。警官たちが拳銃を発砲した形跡はあったが弾丸は全て土や木に埋まって発見された。 かくしてこの変死事件はラルヴァによるものという見方が強まり、刑事事件から双葉学園預かりのラルヴァ事件となった。 「しかし半日かけての捜索も成果なし、か」 「はい。でもこの事件は早く解決しないといけません」 「なにせ現場が“こんなところ”だからな」 私は周囲の鬱蒼としたジャングルを見回した。しかしここは日本であるし屋久島でもない、普通こんなジャングルはない。さらに言ってしまえばこのジャングルは本物のジャングルじゃない。ここは 「ラルヴァもなんでまた遊園地のアトラクションなんかに出現したんだか」 ここはN県にある地方遊園地の中だ。人口のジャングルはこの遊園地のアトラクションの一つであり、実際には直径1km程度とそう大した広さではない。 しかし件のラルヴァは姿を見せず、おかげで延々と歩き回って結局30kmも歩く羽目になった。 「今日は変死事件の調査ってことで警察筋から閉園にできてますけど、そう何日もは無理ですよ。 ここは普通の遊園地で営業者も従業員も誰一人ラルヴァのことは知らないんですから」 そんなわけでこの事件はスピード解決が求められている。今ここにいるのは私を含めて六人だが、数十人の学生が遊園地中を手分けして捜索している。私はラルヴァが隠れるならここだろうと踏んでこのグループに同行したが、ラルヴァは姿を見せない。 「それにしても、こんなに見つからないなんて……ホントにラルヴァがいるんでしょうか?」 「いるさ。それだけは疑いようがないし、どんなタイプのラルヴァがこの事件を起こしたのかも既に想像がついた」 「え?」 「ラルヴァのカテゴリーはエレメント。特性は生気吸収。行動時間は夜間限定だな」 「銃弾が全て土木の中から発見されたということは『発砲はしたが当たらなかった』ということ。 この時点でラルヴァのカテゴリーは物理攻撃をすり抜けるエレメントか、高速移動で回避するタイプかに絞れる。 次に被害者が全て外傷もなくミイラ化していたのは生気吸収によるものと推測できる。 そういった生気吸収はカテゴリーエレメントの十八番であるし、ビーストやデミヒューマンが同じことをしようとすれば被害者は大なり小なり外傷を負う。 連中は生気を吸収するタイプでも噛みつきか握首を行うからな。よってカテゴリーはエレメントに特定。 また被害者が全て朝になってから発見されたというのも大きい。 恐らく、夜間の発見者は発見した被害者と同様に生気を吸われて殺されている。 つまり第三の被害者である警官たちは夜間も事件の捜索をしていたために、殺しつくされた。 しかし朝の発見者は殺されていない。このことから対象の活動時間は夜間限定であると断定できる。 それらの総合的な結論が『ラルヴァのカテゴリーはエレメント。特性は生気吸収。行動時間は夜間限定』だ」 「…………」 推論を述べ終えたとき、彼女や彼女のパーティメンバーはポカンとした顔で私を見ていることに気づいた。……どこか間違えただろうか。まぁ、外傷なしで生気吸収する新種のデミヒューマンという線もないではなかったが……。 「さすが探偵さんですね、びっくりしました」 「いや待て。私は探偵じゃないぞ、学者だ」 しかしながらシャーロック・ホームズの趣味は化学実験という設定なので両者は案外近いのかもしれないが。 「あら? でも夜に活動するラルヴァってわかっていたなら何も昼間に動き回らなくても良かったんじゃないですか?」 「科学者というのは仮に九割の確度で正しいと思っていても、後の一割を確かにするために実験を重ねるものだからな。 昼間に歩き回って何も出てこなかったおかげで夜間限定のラルヴァだと断定できた」 そう、ようやく断定できた。 「さあ、そういうわけで、だ。夜間まで待つとしようじゃないか。正直なところこれ以上歩くと肝心の夜に歩けなくなる」 私の足腰は座ったまま立てないほど限界だった。 果たして夜中になってラルヴァは出現した。 「ほたる……?」 木の中から一円玉程度の青白く光る球体がふわふわと浮かび上がってきた。たしかに、何も知らずに見れば蛍に見える。 「【死出蛍】か……予想外だな」 「しでぼたる、ですか」 「カテゴリーエレメント、下級Cノ5だ」 ラルヴァはその強さや知能によってカテゴリからさらに細かく分類される。下級Cノ5は『現代兵器が通用し』『単細胞生物レベルの知能で』『自然災害レベルで存在するだけで人を殺す 』だ。 「下級でCで5? それっておかしくないですか」 「そうだな。普通5という等級は圧倒的な力をもったラルヴァに与えられるものだ。 しかし死出蛍はその例外に当たる。極めて弱いが、存在するだけで人を殺す。 こいつらは近づくだけで人の生気を吸収するからな。まぁ、普通は触られても軽度の栄養失調程度で済む」 死出蛍はラルヴァの等級付けの隙間に存在するラルヴァだ。これといった意思もなく現代科学で対処可能だが、いるだけで人に危険が及ぶ。稀に死ぬ。感染しないインフルエンザのようなものだ。 「そもそも対処法さえ知ってれば何も怖くないラルヴァだ。まぁ、拳銃は効かないが」 私は持ち込んだ懐中電灯を点けて対処法を実演して見せた。懐中電灯の光で、死出蛍の青白い光を包み込む。すると、 「あ!」 懐中電灯の光が過ぎ去ったとき、死出蛍は消滅していた。 「死出蛍は自分よりも大きく強い光に包み込まれると消滅する。懐中電灯を持っていれば子供にだって倒せるラルヴァだ」 数多いるラルヴァの中でも最弱のラルヴァといっても過言ではない。その脆弱さ、低い危険度、まだ野犬の方が危険だろう。 しかし……だからこそ、解せない。先ほど述べたように普通は死出蛍に触られても軽度の栄養失調になるくらいだ。死ぬなんて事態は滅多にない。だというのに……この事件は人が死にすぎている。たかが死出蛍で何人も人が死ぬわけはない。そもそも警官たちとて夜間に捜索をしていたのだから当然懐中電灯は持っていたはずなのに、なぜ……。 「……学者さん」 「なんだ?」 「死出蛍って群れますか?」 「ん? ああ、群れる。と言ってもラルヴァの一種だ。ある特殊な条件下でなければせいぜい十かそこらだろう」 「じゃあこれって特殊な条件下ですか?」 「……何?」 彼女が指差したのはこの周囲の木々……否、 「なるほど。たしかにこれだけ集まれば死ぬほど生気を吸われるな」 眠りから目覚めるように木々の中から浮かびだす、数百数千もの死出蛍の群れだった。 「しかし、なんとも……すごいなこれは」 呆れと感心が半々の心境で私は死出蛍を見ていた。数千匹の死出蛍の群れは今も続々と数を増し続けている。夜行性とはいえ、これだけいてよく昼間一匹も見なかったものだ。……ああ、そうか。日が昇ると木に隠れない奴は消えてしまうのか。 「感心してる場合じゃないですよ学者さん!?」 口調こそ慌てているが彼女と彼女のパーティの動きは機敏だった。先刻説明した『接触すると生気を吸われる』、『大きく強い光に包み込まれると消滅する』という二つの情報を有効に使い、距離をとりつつそれぞれが携行した懐中電灯の光を当てて死出蛍を消していく。さすが双葉学園都市の生徒。場慣れしている。 「ところで君達は異能を使わないのか?」 「あたしのチームは全員身体強化系の異能ですから!」 なるほど。道理で昼間あれだけ歩き回ったのにまったく疲れないと思った。 「となると逆に死出蛍で良かったということか」 エレメントに物理攻撃は効かないが死出蛍は懐中電灯があれば倒すことができる。この分ならじきに…………待った。 「だから……これで倒しきれるなら警官は全滅なんてしやしない」 ラルヴァの存在を知らず、気が動転していたとしてもこの暗闇で懐中電灯の光を当てれば死出蛍の弱点は分かる。しかし警官は全滅した。即ち、死出蛍にはまだ秘密が…………あった。 懐中電灯に照らされて徐々に数を減らしていた数千の死出蛍。奴らは示し合わせたように一箇所に集合し ――そのまま一匹の巨大な死出蛍と化した。 小さな球体が巨大な球体を成す様はまるで原子の結晶構造のようだ。一匹一匹は一円玉程度の大きさだった光球も寄り集まって、今では運動会の大玉の数倍は大きい。 「納得した。これではもう懐中電灯ではどうしようもない」 私も生徒たちも懐中電灯の光を当て続けているが、まったく効く様子がない。それはそうだろう。今の死出蛍の光は懐中電灯などよりも遥かに大きく強い。加えて、今の巨大化した死出蛍に触れられれば一瞬でミイラと化してしまうはずだ。さらに不味いのは、 「……やっぱりなぁ」 「あの、学者さん? やっぱりって?」 「さっき死出蛍のことをこれといった意思もなくと言ったが、あれには若干誤りがある。 動物以下の微生物並みのCランク知性と言っても、微生物並みには知性があるんだ。 食べ物を探す程度の知性は持っている」 「つまり……?」 「デカくなって大食らいになった死出蛍には我々がご馳走に見えているだろうな」 巨大死出蛍はゆっくりと動き出し、 次の瞬間には最高速で突撃してきた。 「退避ーーーーーー!!!」 彼女の退却指令に彼女のパーティが一斉に駆け出す、と同時に私は彼女に背中におぶられていた。『さすが身体強化系。私一人くらいへっちゃらだ』や『男としてはいささか恥ずかしい格好だな』など思うことは多々あったが何よりしみじみと思うことは、 「……背負われてなかったら私は今頃ミイラの仲間入りしていただろうな」 現在彼女と死出蛍の両者とも推定時速50kmオーバー。『表側』の陸上世界記録が足元にも及ばない一般道路の制限速度ギリギリのスピードだ。自分の足で逃げてたら一秒で死出蛍に追いつかれて生気を吸い尽くされていただろう。身体強化特化のパーティに同行してよかったと心から安堵する。 「それで学者さん! これからどうしましょう! 死出蛍には光の他に弱点ないんですか? あたし虫除けスプレー持ってますけどこれ効きますか!?」 「ハッハッハ、面白いことを言うなぁ黄みは」 死出蛍という名前でもあれは昆虫型のラルヴァではない。そもそも効く効かない以前に虫除けスプレーじゃ駄目だろう、殺虫剤じゃないんだから。 「光以外に明確な弱点はない。あとは他のエレメントと同様に異能で片付けるしかない。 だから手としてはこの遊園地に来ている他のグループの超能力・魔術タイプの異能力者に任せるか……」 「か?」 「懐中電灯と比較にならない光量を当てるしかない。 君、フラッシュグレネードか閃光玉か太陽拳を持ってないか?」 「そんなの用意してないですよ」 「そうか。なら」 するべきことは一つ。 「逃げよう」 「はい」 私を背中におぶったまま彼女達は死出蛍から逃走する。逃走を開始してすぐにアトラクションのジャングルを抜け出し、今は舗装された園内の道路を走っている。お互いに全力で動いてるのだろうに両者とも時速50kmからまったくスピードが落ちない。私は『やはり異能力者とラルヴァはすごいな』と子供のようにぼんやりと考えていた。 ただ死出蛍はこれが最高速度なのだろうが、彼女は全力でこそあれ最高速度ではない。私という荷物を背負っているから逃げ切れない速度でしか動けないのだ。その証拠に彼女の仲間は先行して前方にいる。 さて、どうしたものか。少なくとも彼女の背から飛び降り自ら死出蛍に食われることで彼女の負担をなくすという選択肢はない。死ぬのはごめんだし、そんなことされたら彼女達もトラウマだろう。 やはりここは彼女に頑張ってもらうしかあるまい。頑張れ。 「学者さん! 他のグループと連絡が取れました!」 彼女は器用にも私を背負って全力疾走しつつ片手で通信機を使って他のグループと連絡を取り合っていた。 「超能力・魔術タイプの異能力者は?」 「いました! もうじきこちらに到着します……来ました!」 彼女の言葉とほぼ同時に車のエンジン音が私の耳にも届いた。一台の軍用ジープが交差した路地からやってきてこちらに並走する。その軍用ジープは最年長らしい男子学生が運転し、後部座席から三人の女子学生がルーフのない車内から身を乗り出している。 三人は死出蛍へと狙いを定め――超能力・魔術の力を死出蛍に向ける。不可視の念動が、極北の冷気が、炎の円盤が死出蛍を攻撃する。不可視の念動は死出蛍の少しだけ後退させ、極北の冷気は死出蛍の速度を若干緩め、炎の円盤は死出蛍を真っ二つに引き裂く。が、あっという間に再び結合して元通り。 要するに効いていないのだ。 「はぁ!?」 ジープを運転していた男子学生が驚愕の声を上げる。ああ、私も驚いた。 「弱いラルヴァだと思っていたが……。 懐中電灯で死滅するくせに異能に対してこれだけ高い耐性があるとはな。 なるほど、5の等級だけでなく下級の等級でも例外だったか」 「だから感心してる場合じゃありませんって!?」 まったく応えた様子もない死出蛍は我々を追い続ける。 「異能が効きづらいとなるとやはり光しか倒す手段はないか……」 しかし、そんな光源をどこから用意すればいいんだか。 「ちなみにそちらはフラッシュグレネードか閃光玉か太陽拳を持ってないか?」 駄目元でジープを運転していた彼に尋ねてみたが、 「ねえよ! つうか太陽拳って技じゃねえか! 天津飯かよ!」 やはり駄目だった。それも今度はツッコミまでついていた。 さて、どうしたものか。まぁとりあえず今すべきは……データ収集か。 「君達、頼みがあるんだがもう一度攻撃してみてくれないか、と」 最初からそのつもりだったのか彼女たちは私が言い終えるころには既に死出蛍を攻撃していた。しかしやはり念動は多少のノックバックをするに留まり、冷気は進行速度をわずかばかり緩めるに過ぎず、炎の円盤は死出蛍を切り裂くもすぐ復元されてしまう。 「……ふむ」 なるほど。なるほど。なるほど。 “二回とも同じだった”。おかげで合体した死出蛍の耐性は大体分かった。推測どおりなら……、 「聞きたいんだが、虫除けスプレーはどこにある?」 「え?」 「さっき虫除けスプレーを持ってると言っただろう?」 「ポーチの中ですけど……」 「少々借りるぞ。あと、悪いが少し動く」 彼女の腰に装着されているポーチを開き、中から虫除けスプレーの缶を取り出す。缶の横面に書かれた『火気厳禁』の注意書きを読み、私はおもむろに懐からライターを取り出す。同時に身体を捻って自分の上半身を死出蛍の方へと向かせる。 「きゃっ! なにを」 「あの生徒が放った炎の円盤が死出蛍を真っ二つにするのを二度見た。 二回ともすぐに修復したのでご覧の有様だが、一時的にとはいえ分裂したのは確かだ。 ではなぜ分裂したのか? 高速回転する円盤が切断したのか? いや違う。運動エネルギー……物理攻撃はエレメントに何のダメージも与えない。 切断したのは……炎の高熱だ」 私はスプレーのノズルの先端を死出蛍に向け、 「高い熱エネルギーを受けることで元々は群体である死出蛍は一時的にその繋がりを断たれる ようだ。無論、またすぐに元に戻るわけだが……」 スプレー缶の手前に点火したライターを添える。 「熱エネルギーを受ければ部分的に合体が解けて分裂して小さくなってしまう。 炎で包める程度には、な」 私がスプレーのトリガーを押し込むとノズルの先端から高圧ガスによってスプレーの微粒子が噴出し、 ライターの火が着火して即席の火炎放射器となった。 「推測どおりだ」 炎の高熱に炙られ、巨大死出蛍がボロボロと崩れだす。バラバラにされたところでまた合体することなど容易な死出蛍の分体はしかし、炎に包まれて徐々に消えていく。なぜなら 「簡単な科学の問題。燃焼という現象のエネルギー変換を説明せよ」 「? えっと、化学エネルギーから熱エネルギーと音エネルギーと……あ!」 「光エネルギーだ」 熱エネルギーで元の小さな光球に分裂した死出蛍を炎という名の光が包み、消滅させていく。私が虫除けスプレーで簡易火炎放射器を作ったのと同様に、車の女子学生たちも虫除けスプレーやヘアスプレーを取り出し、炎の円盤の少女が点火することで火炎放射を死出蛍に噴きつける。 良い子は真似しないで頂きたい。 徐々に徐々に磨り減っていくというのに微生物並みの知能しか持たない死出蛍は我々を追撃することをやめず、結果として総体積を減らし続ける。死出蛍はもう、詰んでいた。 「そういえばこんな諺があったな」 「飛んで火に入る夏の虫、だ」 スプレーの中身を使い切るまで火炎放射した結果、死出蛍は一匹残らず消えてなくなっていた。 「終~了~!!」 ジープを運転していた男子学生のその言葉が合図になって私は彼女の背から降ろされ、生徒たちもようやく終わったと息をついた。 「……まぁ、まだ一つ残ってるんだが」 「残ってるって何がですか学者さん?」 私の独り言が聞こえたらしく彼女が私に尋ねてきた。 「死出蛍の群れが出る前に話していたことだが」 「?」 「死出蛍は通常多くても十匹程度の群れしか作らない。……ある特殊な条件下でなければ」 「その条件って」 「それは“現場”に戻ってから話そう。君、すまないがジープに乗せてくれないか。おんぶを頼むのも気が引けるのでね」 数分後、我々は死出蛍と遭遇した場所であり、被害者たちが殺された場所であるジャングルのアトラクションへと戻っていた。ジープを降りて全員でジャングルの中を歩く。 「おっと……」 逃げるときは背負われていたので気づかなかったが夜間の鬱蒼としたジャングルは中々に歩きづらい。うっかりすると足を取られて転びそうになるので注意しながら歩いていく。 だがそうして歩いていたとき、ぐにっ、と足元から柔らかい感触が返ってくる。 「…………」 “踏んでしまったかもしれない”。 私は恐る恐る足を動かし、今しがた踏んだ地面に懐中電灯の光を当てる。暗いのでわかりづらいが私が踏んだあたりは心なし地面の色が他と違う。それに土の表面が随分と柔らかそうだ。まるで……最近一度地面を掘り返したかのように。 「この事件のことを、もう一度確認してもいいかな?」 「? はい、構いませんけど」 「最初に事件が起きたのは一週間前。この遊園地で働いていた女性従業員が行方不明になった。 翌日、やはりこの遊園地で働いていた男性従業員の姿が終業時刻から見えず、翌朝ミイラに なって発見された。このことから最初に行方不明になった被害者もまた同じように変死して いると見られ、第一の被害者とされた」 「はい、この事件の被害者たちは死出蛍に生気を吸われて殺されたんですよね」 「それなんだがな……第二の被害者と第三の被害者はともかく……第一は違うかもしれん」 「どういうことですか?」 私は彼女と話しつつ、慎重に靴を動かして色の違う土を少しずつどかしていく。 「さっきは途中になったが、死出蛍が十以上の群れを作るには特殊な条件が整っていなければ ならない」 土をどかしていくと、土とは違う若干硬い感触がした……この靴は後で捨てよう。 「その特殊な条件下とは……」 土をどけ終えると、その中からあるものが文字通り顔を出した。それは……、 「新鮮な“他殺”死体が近くにあることだ」 地中の微生物に食われて腐乱した女性の死体。 この変死事件の最初の被害者だ。 翌日、私は双葉学園都市内に借り受けている自分の研究室で死出蛍の事件のことを留守番していた助手に話していた。 「これは私の推測になるが恐らくあの女性を殺したのは第二の被害者だな」 「はぁ、何でですかー?」 「痴情のもつれか、金銭トラブルか、そんな事情は知ったことではないが彼は彼女を殺した。 突発的な殺人だったのだろう。遺体を処分する準備など何もせずに殺してしまった彼は、 ひとまず彼女をあのアトラクションのジャングルに埋めた。準備を整えるまでの急場しのぎ としてな」 「無計画ですねー」 「まったくだ。翌日、遺体を処分する手筈を整えた彼は彼女の遺体を掘りおこすために再び 深夜にあの場所を訪れた。だが運悪く彼女という他殺死体を苗床に繁殖した死出蛍に襲われ、 ミイラ第一号になったわけだ。まぁ、彼に関しては自業自得だな。 可哀そうなのは第三の被害者である警察官達だと私は思うね」 「ご冥福をお祈りしますー」 「しかし、こうして推測を続けたところで殺人事件のほうの真相を知る術はないな。 この事件はラルヴァ事件になってしまったのだから警察としては迷宮入りだ」 どちらにしろ加害者は死んでいる。見方によっては殺された女性が復讐したとも言えるだろう。死出蛍にしてみればただ単に繁殖と食事をしていただけなのだろうが。 「死出蛍は生きている人間の生気を吸って生き、他殺死体を使って繁殖する。 何故他殺死体でなければいけないのかはまだわからない。 殺された人間の怨念でも吸うことで繁殖するのか、それとも単なる習性なのか。 何にしても、傍から見てる分にはまるで死者の魂が蛍に変ずるかのような光景なのだろうな……」 蛍は古くから人魂を連想させる生物だ。以前観た映画でも死者を荼毘に付したときの火の粉が蛍を連想させるシーンがあった。 「センセも死んだら蛍になりますかー? この夏の見ものですねー」 助手の脳内では俺の命は夏までなのだろうか。 「生憎だがそんなに早く死ぬ気はないな」 「私はまだラルヴァを知り足りないのだから」 第一話【死出蛍】 了 登場ラルヴァ 【名称】 :死出蛍 【カテゴリー】:エレメント 【ランク】 :下級C-5 【初出作品】 :怪物記 第一話 【備考】 :ラルヴァの等級付けの隙間に存在するラルヴァ。 これといった意思も無く現代科学で対処可能だが、 近づくと生気を吸われるのでいるだけで人に被害が及ぶ。 普通は軽い栄養失調になる程度だが稀に死ぬ事例もある。 自分より強い光に包み込まれると消滅する。 懐中電灯を持っていれば子供でも対処可能。 通常は群れても十匹程度だが、他殺死体があると繁殖して数を増す。 過去に確認された動物の死体での繁殖数は百匹ほどだったが、 人間の他殺死体の場合は数千匹を超えることが確認された。 数を増すと集合・合体し一匹の巨大な死出蛍となる。 この状態になっても光が弱点である。 また、強い熱にさらされると一時的に合体が解ける。 ただし、光と熱以外には強い耐性を示す。 登場キャラクター 学者 【名前】 語来 灰児(カタライ ハイジ) 【学年・クラス】 ラルヴァ研究者 【性別・年齢・身長・体重】 男・25・182cm・63kg 【性格】 物事の視点や考えを周囲に左右されない。そして何よりも理屈屋。 【生い立ち】 大学を飛び級で卒業後に日本政府直属の研究所に就職した後にラルヴァの生態研究専門の研究者となる。 【基本口調・人称】 年上に対しても年下に対しても目上に対しても目下に対しても学者然とした順を追ってはいるが回りくどい話し方をする。 一人称:私 二人称:君 一人称複数形:我々 二人称複数形:君達 【その他】 学園都市に研究室を借りて滞在し、能力者がラルヴァと戦う際に同行し、ラルヴァを観察する。 学園都市に来る前からの助手が一人いるが、彼以外誰も姿を見たことがない。 夏でもブラウンのロングコートをはおり、内ポケットにライターや懐中電灯など色々なものをしまっている。しかしフラッシュグレネードと閃光玉と太陽拳は入っていなかった模様。 夏場は保冷剤が仕込んであるのでコートを着込んでいても内側は涼しい。 【久留間戦隊(クルマセンタイ)】 怪物記一話にて灰児が同行したパーティ。 リーダーは久留間走子(クルマ ソウコ)。 五人のパーティメンバー全員が身体強化系の異能力者であり、高速・高機動の連携徒手格闘戦を得意とすることで知られている。そのためビーストには強いが、エレメント、特に接触による生気吸収を行うタイプの相手は鬼門である。 実戦経験は多く、戦績も中程度。 【TeamKAMIO】 怪物記一話にて援軍に到着したパーティ。 リーダーは上尾慶介(カミオ ケイスケ)。 四人のパーティメンバーは異能力者でないカミオと三人の少女異能力者という構成。 上尾の軍用ジープにパーティメンバーを乗せることで足の遅い異能力者をカバーする戦術を取る。 オンロードオフロード屋外屋内を問わず自前のジープで走破する。 その際に公共物を破壊してしまうことも多い。 登場ラルヴァページへ トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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小学三年生の播磨りむるには、どうにも気に食わない男子がいた。 「思いきりぶつけたな、バカ!」 「手加減したのに!」 放課後にクラスのみんなでドッジボールをしていたのだが、村田淳博(むらたあつひろ)が彼女の顔面にボールをぶつけてしまった。彼は十分に力を抜いて放ったのだが、運動オンチのりむるが捕球し損ねてしまったのである。 背中まである茶色い髪を振り乱し、りむるは村田を追いかけ回す。すると彼は上り棒にしがみつき、するするとてっぺんまで逃げてしまった。 「ちょっと、意地悪!」 村田は、りむるが高所恐怖症であることを知っていた。一人ほっと胸を撫で下ろす。 そしてその後、一緒に下校をしている女子たちの間で、村田のことが話題に出た。 「村田くんってかっこいいよね」 「全っ然そんなことないと思うな!」 聞いても無いのに悪態をついたのは、りむるである。 「ドッジボール上手だよね、野球やってるから?」 「あ、太陽くんが言ってた。一緒のクラブなんだって!」 「ふーん」 ちゃっかりとそういう情報に耳を傾けているのも、りむるである。 「週に三回、中央グラウンドで練習してるんだよ」 そう、クラスメートの森田虹子が言った。ちらりとりむるの方を見て。 双葉区の運営する中央グラウンドでは、りむるにとって別世界が広がっていた。 夕暮れ時の中、ユニフォーム姿の少年たちがシートノックを行っている。捕球に失敗したときはもちろんのこと、少しでももたつくと「しっかりやれコラァ!」と怒られている。想像以上の過酷な練習内容に、りむるは言葉を失っていた。 村田もこの普段とは違う服を着て、グラウンドのどこかで砂まみれになっているのだろうか? 気になって仕方ない彼女は、よく目を凝らして彼を捜していた。 「村田くんはあっちにいるよ」 「森田さん?」 いつの間にか隣に虹子がいた。彼女もたまに、少年野球クラブの練習を見に来ているそうだ。 りむるは虹子に連れられ、グラウンドの隅のほうへ案内された。そこでは三人の男子が、それぞれキャッチャーを相手に渾身の一球を投げ込んでいた。 その中に村田はいた。三人の中で一番肩幅が広く、「1」の番号がちっぽけに見えるぐらいである。彼がオーバースローで右腕を振りぬくと、白球は一直線に飛んでいき、キャッチャーのミットに刺さった。ズバンと気持ちのいい音が上がる。 「アイツ、ピッチャーだったんだ」 りむるは彼の豪快な一面に見とれていた。教室では絶対に見ることのできない勇姿。しばらくしてキャッチャーが立ち上がり、彼のところに近寄った。一言二言交わした後、村田は機嫌悪そうに土を蹴る。 「どうしたのかな」と心配になったときだった。 「村田くん、すごく調子が悪いんだって」 ぽつりと虹子がそう言う。 彼女が同じクラブの男子に聞いたところによると、先月からチームのエースはスランプに苦しめられているそうだ。負け試合が重なり、最近では自分から先発したがらないぐらい、精神的に追い詰められているらしい。 だが、このチームでナンバーワンのピッチャーは村田淳博である。彼の復調なくしてはチームの勝利はありえない。そんな絶大な期待と信頼が圧し掛かっているのも、彼にとってマイナス要因となっていた。 「村田……」 りむるは極度の苦しみにあえぐ、クラスメートの背中を眺めていた。 双葉島の球場にて、秋の少年野球大会が開催された。 結局、村田は調子を取り戻すことができず、やむなくチームは先発投手に朝倉太陽を起用した。 だが太陽はもともと制球が悪く、体も小柄なので安定した球威も球速も得られない。ピッチャーに不向きの選手なのだ。案の定毎回ランナーを出し続ける、苦しい試合展開となった。 そしてとうとう三点を先制され、監督は交代を告げた。もう一点もやれない状況なので、ついにエースの村田を投入する。 浮かない顔をし、しょんぼりとマウンドにやってきた村田。太陽はそんな彼を一目すると、「しっかりしろ!」と一喝した。 「すまん。でも」 「ここはお前しかいないんだよ!」 一死、ランナー三塁。しかも次のバッターは長打力がある。難しいところだ。 太陽はマウンドを離れ、そのまま守備固めでショートの位置に入る。村田は二、三球ほど投球練習をしてみるが、やはり思ったとおりにならないのか、表情が晴れることはなかった。 まず一球。いきなり変化球がすっぽ抜けてしまい、ど真ん中に入ってしまった。とてつもなく大きな快音が響く。「やられた!」と、この場の誰もが思った。 だが村田が振り向いたときには、ボールは横に切れていってスタンドに吸い込まれてしまい、ファールとなっていた。バッターが打ち損じたのだ。命拾いをした。 しかし、これで村田はますます自信を無くしてしまった。怖気づいてしまい、なかなかストライクが入らない。ボールが三つになる。 「やっぱ俺じゃダメなんだ」 村田が弱弱しく天を仰いだ、そのときだった。 バックネットの奥のほう、かなり高い位置にて、誰か女の子が立っている。よく見てみると、それは同じクラスの播磨りむるであった。思わず村田はびっくりした。 「村田、頑張って!」 彼女は声を震わせながら、大きな声を出した。りむるは高所恐怖症であるはずだ。それに耐えて、わざわざあのような場所で応援してくれているのだ。 そんな彼女の行動に、村田の魂が奮える。彼の瞳に本来あるべき力が宿った。 不利なカウントも気にならなくなった。この場で打者をねじ伏せればいいのだから。しなやかな動きで腕を振りぬき、まずインコースぎりぎりを攻める。これで二ストライク。 いきなり勢いの増した厳しいボールに、今度はバッターが驚いた。すかさず村田がアウトコースにフォークを放ったので、彼はついそれに手を出してしまい、三振を喫する。 村田はそのとき、りむるが微笑んだのを見逃さなかった。「なんだあいつ、あんな可愛い顔もできるんだ」。嬉しくなり、もっといいところを見せてやろうといっそう燃える。 そして次の打者もショートゴロに仕留め、ついに村田はこの難局を乗り越えることができた。白い歯を見せながらベンチに戻っていく彼の事を、りむるは頬を染めながら見守っている。 ところが不意に、彼がりむるの方を向いた。いきなりのことに彼女は飛び跳ねてしまうのだが。 村田はにっこり、「ピースサイン」を彼女に示してみせた。 りむるも嬉しそうに、ピースを返してやった。 「ほら、あと少しだから頑張れ」 りむるは汗を流しながら、一生懸命、上り棒にしがみついていた。先にてっぺんにいる村田が、彼女に手を伸ばしてやる。二人の手が一つになったとき、とうとう彼女は上り棒の頂上に到達することができた。 てっぺんから眺め下ろす校庭には、白線のあとがうっすらと見える。どこからかカレーの香りがする。木々がさーっと音を立てたとき、校舎のほうから音のこもったチャイムが聞えてきた。 生まれて初めて見る光景に、心を奪われているりむる。そんな彼女に村田は言った。 「怖くないの?」 「平気。何かもう、慣れちゃった!」 「おかしなヤツだな」 「なっ、あんたには言われたくないっ」 と、危うくバランスを崩しかけたりむるを、村田は抱き寄せることで支えてやる。彼女は顔を真っ赤にして声を荒げた。 「ちょっと、ひっつかないで!」 「落っこちるぞ?」 「やっぱ離れないで……」 目の前には夕暮れ空が広がっている。他に誰もいるはずのない、二人だけの景色。「ずっとこうしていたいな」と、りむるは思っていた。 そして村田も、こっそり同じ事を考えていたのであった。 本文 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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西院 茜燦 いい加減覚えてくれ……ゼンザじゃなくてセンザ、だ 基本情報 名前 西院 茜燦(さい せんざ) 学年・クラス 2年 性別 ♂ 年齢 17 身長 175cm 体重 60kg程 性格 根はマジメ。気苦労が絶えないせいか面倒事は自分一人でやりたがる 生い立ち 大昔は退魔士だった家系の、極普通のサラリーマンの息子極普通の生活をして一般生徒として双葉学園に入学したが今や相棒となった剣を手にしたことで異能の世界へ足を踏み入れることになる 基本口調・人称 俺、あんたorあなた、~さん 程々に丁寧口調 特記事項 超ノーコンなのに球技大好き キャラデータ情報 総合ポイント 22 レベル 7 物理攻防(近) 6 物理攻防(遠) 1 精神攻防 2 体力 5 学力 3 魅力 2 運 2 能力 コードネーム『獅子の魂、勇猛なるかな(ライオンハート)』 特記事項 実家古来に伝わる秘剣、四宝剣を持つ 能力 コードネーム『獅子の魂、勇猛なるかな(ライオンハート)』 防衛戦の矢面に立つ際に発現する、自動発動式の超人系能力。状況と戦う意志に呼応して身体能力を高めるが、器の限界が振り切れると内部から反動を受ける その他詳細な設定 四宝剣は、百虎(風)・花雀(火炎)・繚龍(氷結)・乱武(残突特化)の4振りの刀と特殊な形状の鞘からなる呪術剣。 鞘が持ち主から漏れ出た力を回収し、その力を刀身に充填することで抜き放ったときに力を発現させる。 各々の刀に特性発現時間には時間制限があり、再び力を取り戻すには鞘に収めて再充填を行わなければならない。 また、4本分まとめて収納できる鞘には、呪術と伝統工芸的細工がしてあり、一本を抜いた時点で他三本を抜くことが出来なくなり、物理的破壊などを以って強引に二本以上抜こうものなら、呪術により鞘も刀も力を失ってしまう。 同時に、鞘の特性から一本でも刀を失えば他の三本も使えなくなるという厳しい制限がかけられている。 また、パラス・グラウクスという専用の戦闘用二輪車両を所有している。 これとは別に一般的な普通二輪車も所持しており、免許も取得している。 登場作品 登場作品のリンクを貼ってください。後から追加もしていってください 作者のコメント PC質問大会(別名人身御供) 簡単に自己紹介をお願いします 2Dの西院茜燦です。 ゼンザじゃなくてセンザです。ゼンマイでもセンザイでもゼンザイでもなくセンザです。 異能について教えてください 異能の判定をしてもらった担当の人は『獅子の魂、勇猛なるかな《ライオンハート》』って名づけてました。 危機的状況、背後に守るべき人が居る状況であると身体能力を向上させるという異能で、自分で制御はできません。 あまりに絶望的すぎると限界以上に増幅されて逆に自滅する恐れもあるので、そうなる前に撤退する必要がありますが。 特技があったら教えてください 小さいころから祖父に鍛えてもらった、剣道剣術ならそこそこ。 とは言え、逢洲さんに戒堂や宮城といった、自分と互角以上の使い手が何人も居るので、引続き精進が必要ではありますが。 あとは、そうだなぁ、う~ん、球技は好きですよ。 ……何です、その「ええぇ……」って顔は? 趣味や日課があれば教えてください 趣味は、上京の足としても使った単車で学園都市外周とかを走るくらいかな? 日課は家事全般、ですかね。 家族ぐるみの付き合いがあった中等部のメイと一緒に住んでますが、メイは家事の類はほとんど出来ないので。 家を空けるときのために、そろそろ簡単なところから教えていかなきゃとは思ってるんですがね。 自慢話があればご自由にどうぞ 別に、自慢というようなことは何もないんじゃないかと。 強いて挙げれば、アメリカの「スクール」SF分校とイギリスの「ガーデン」の両方に行ったことがある、くらいかな? ……どっちも滞在1日未満だったけど。 朝の挨拶は何ですか? 目上・敬意を払う相手:おはようございます クラスメイトなど付き合いのある相手:おはよう 付き合いの深い男友達;うっす ※状況により多少の変動あり 好物(食べ物)を教えてください 何でも食べますよ。父も祖父も食に厳しい人だったんで。 「うまけりゃ何でもいい」って感じです。 好きなおかずは最初に食べる?最後まで取っておく? 出されたものを均等に食べていくようにしてるので、別段最初や最後に偏ることはないですね。 体で最初に洗う箇所を教えてください ……こんなこと知って嬉しい奴が居るのか? 別にどこからってのはないけど。気が付いたところから、かな。 犬派か猫派どっち? 実家にゃ犬も猫もいるので、どっちかってのはないですね。 飼うのなら、これ以上手間が増えないのがいいなぁ……。 家で落ち着く場所は? 一人静かにゆっくりできる自室、ですかね。 ストレス解消によくすることは? 竹刀や得物を揮って体を動かしたり、単車で走ったりしてますね。 一意専心ってのができてくると、嫌なこととか面倒なこととか、そういうのがきれいさっぱり消えてくれるんですよ。 お友達か知り合いを3人ほど教えてください 田舎からの知り合いに、大学部の有賀先輩と、さっきも話したメイ。 1年の鵡亥姉妹とはパラスの面倒見てもらってるのもあるんで良く話しますね。メイとも気が合うようで、遊び相手をしてもらうこともあります。 演習チームを組んでた頃からの付き合いで、B組の舞華さんと話をする機会もあります。 剣道剣術関係で、宮城や戒堂と知り合えたのは、自分にとって大きな収穫だと思ってます。 天地については……普段のアレがなけりゃ、いいヤツなんだけどなぁ、とは思いますね。 学園で何か頑張っていることはありますか? 田舎に帰って「何しに東京に行ったんだこの馬鹿者が!」って怒られないように、文武両道を心掛けてます。 双葉学園って、どういうところがスゴイと思いますか? 良くも悪くも、「何でもアリ」なところかな。 逆に、この学園に足りないものって何だと思いますか? 人の名前を、ちゃんと覚えてくれる人が、もっと多いといいなぁ……(遠い目)。 学園生活での一番の思い出を教えてください あんまりいい思い出がないような気がするなぁ……このままで良いのだろうか? テスト勉強は真面目にやりますか? (それとも一夜漬けか?ヤマは張るか?) そりゃまぁ、真面目にやりますよ。ヤマ張ったって外れりゃ徒労、一夜漬けして寝ぼけて試験受けたって良くはならないですからね。 理数系は鵡亥姉妹、英語はメイのおかげで大分助かってるってのはありますけどね。 異性のタイプが知りたいです そういうことを論じられる立場ではないのでノーコメントで。 学校内に好きな人がいたら教えてください! いません。 河でおぼれそうになってる人が二人居ますが助けられそうなのはどちらか一人だけ。どうしましょう? 凍気の霊剣、繚龍で河を凍らせて、一人は溺れないように確保してからもう一人を救助します。 目の前にラルヴァがいます! どうしますか? まずは警戒、敵対行動を取るようなら迎え撃ちます。 あなたはラルヴァを殺して平気ですか? 話し合う余地がある限りは話し合いたいところですが、価値観やメンタリティが人間のそれとはかけ離れていてどちらか一方の絶命を以てしか終わらない場合や、そもそも捕食のためにしか襲ってこないような場合は止む無しです。 初体験はいつ? 初めてラルヴァに遭遇したのは高1の夏休み。 何も出来ずに逃げるしかなかった自分が、今でも悔しいです。 何か言っておきたいことがあれば自由にぶっちゃけてください センザです。 球技に混ぜてください。「隅の方に立っててくれたらいいよ」とか「ひとまずベンチで」とか言わんといて下さい……。 お疲れ様でした。今日帰ったら何をしたい? 腹を空かせて待ってるメイに晩飯作ってやります。
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ナルヨーサンハ(ナルヨー・サンハ) ゾロアスター教の火の神。 神霊ヤザタの一人。 神の伝令者、使者。 別名: ナイルヨーサンハ
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落合 瑠子 「じゃあね、ヤスくん。また明日学校で会おうね」 基本情報 故人 名前 落合 瑠子(おちあい るこ) 学年・クラス 高等部1-D 性別 女 年齢 15 身長 158 体重 50 性格 大人しくて誠実。人を疑わない 生い立ち 商店街の乾物店の一人娘 基本口調・人称 私 ヤスくん ママ・パパ 特記事項 異能力を持たない一般人です。大切に育てられてきました 関川 泰利 「瑠子、おまたせ。やっと会えたね。もう一人にはしないから・・・・・・」 基本情報 故人 名前 関川 泰利(せきかわ やすとし) 学年・クラス 高等部1-D 性別 男 年齢 15 身長 168 体重 55 性格 真面目。けっこうロマンチスト 生い立ち 島生まれでごく普通の家庭育ち 基本口調・人称 俺 特記事項 真面目で、大好きな人のためなら命も惜しまない キャラデータ情報 総合ポイント 20 レベル 6 物理攻防(近) 3 物理攻防(遠) 2 精神攻防 3 体力 4 学力 3 魅力 3 運 2 能力 跳躍『フライ・ハイ』 特記事項 高くジャンプすることによる回避・奇襲を得意としました 作者のコメント 余談ですが、関川泰利はスカイライン・ピジョンの候補生でした 生きていれば彼が五番機でした 彷徨える血塗れ仔猫 「また、忘れた頃に出てきてあげるから。・・・あはははははっ!!」 基本情報 名前 通称:血塗れ仔猫 (ちぬれこねこ) 学年・クラス 1-Bだっけ? どうでもいい 性別 雌猫だよ 年齢 本当の年齢は四桁なんだよ 身長 そんなに高くないね 体重 泣き虫癌細胞のページで調べたら? 性格 お腹を空かせたら許さなぁい。食べてやる 生い立ち 古来からいる猫耳ラルヴァの「本性」なんだよ 基本口調・人称 私 私のおしゃべりを邪魔したら殺すよ 特記事項 春奈・・・。次会ったら生かしておかなぁい・・・! キャラデータ情報 総合ポイント UNKNOWN レベル UNKNOWN 物理攻防(近) UNKNOWN 物理攻防(遠) UNKNOWN 精神攻防 UNKNOWN 体力 UNKNOWN 学力 UNKNOWN 魅力 UNKNOWN 運 UNKNOWN 能力 UNKNOWN 特記事項 ラルヴァだからステ振りは無しだよ 皮肉ねぇ。 せっかく泣き虫みきは私を倒して過去を乗り越えられたかと思ったのに 私の犯した罪を背負っていかなければならないなんて・・・ 大好きな双葉学園のみんなに、殺人鬼として断罪される日も近い? あはは。私の言ったとおりだぁ 結局、立浪みきは血塗れ仔猫としてみんなから憎まれる「宿命」にあるの! ざまぁないねぇ! あはは! ねぇねぇ、どんな気持ち? 春奈せんせー? 私の繰り広げてきた奔放な過去は全部、立浪みきが背負っていくべきものなんだってさ! それが「みんな」の意見なんだってさ! 恐れ多くもこの血濡れ仔猫を脅した糞尼が、今に見てなさい・・・? 次、私が蘇ったときがあなたの完結だから・・・ 作者のコメント ハーメルンのバイオリン弾きの リュート王子みたいな境遇を書きたいと思ったら血塗れ仔猫が生まれました
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召屋 正行 「頼む、そいつを解放してくれっ! そうでないと俺はただの役立たずになっちまう」 基本情報 名前 召屋 正行(めしや まさゆき) 学年・クラス 高等部 二年C組 性別 男 年齢 16 身長 188 体重 72 性格 常識人、ツッコミ、怠け者、ペシミスト 生い立ち 普通のサラリーマンの家庭に生まれ、普通に育つ小学生時代は、その能力で『虫採りまさくん』と呼ばれ、尊敬されていた。双葉学園には高等部から入学その異常な世界に辟易している 基本口調・人称 俺 他人に対しては苗字で呼ぶか、お前、あんた、コイツなど 特記事項 困った立場になるすぐに癖毛のくしゃくしゃと掻き毟る瞬発力はあるが、日ごろの運動不足が祟ってスタミナはゼロ能力の関係上、記憶力とイマジネーションは高く、歴史などの科目は強い。一方、数学、物理といった計算を強いるものは全くの苦手で赤点ギリギリにある 特記事項 変態ホイホイが真の能力という噂もある 能力 あらゆるものを召喚する能力。過去に見聞きしたものを明確にイメージすることで、現実世界にそのものを召喚する。犬やクワガタ、カブトムシといった昔から記憶し、身近に接しているものや過去に何度も召喚しているものは、タイムラグなく現実世界に呼び寄せることができる。ただし、ラルヴァや空想世界の動物など、曖昧なイメージや情報量が少ない場合は、召喚に時間が掛かったり、失敗する。召喚された生物がどこからやってくるのかは不明。送還は任意では行えず、召喚した生物と一定距離を離れることで、自動的に送還される。欠点は常時一体しか召喚しかできないこと、コントロールできないことにあるが、その一方で、召喚した生物と精神的、肉体的にリンクしていないため、現実世界で召喚した生物が殺されてもダメージは受けない その他詳細な設定 装備:知人の付与魔術師に祝福してもらった伸縮式の特殊警棒 好物:ナポリタン 【召屋正行の日常はこうして戻っていく】で召喚したクロについて 召屋が幼少時に友人として創造したイマジナリーフレンド。彼の危機に能力が発現し、それ以後、彼を守る心強い相棒となる。 「黒いライオンのような姿で、気高く、知的で、心優しく、人を傷つけず、ラルヴァのみを食い、それによって育つ」という設定を子供の頃の召屋によって与えられている。 原因は不明だが、長期間、記憶の書き換えと欠落により、その存在を忘れていた。 寄生線虫の寄生のによる能力の暴走の副作用により、その記憶は戻ったが、召屋自身の能力は年々衰えており、本物のクロを呼び出すことは非常に困難である。 無理に召喚しても実体化できるのは3分程度であり、その直後に魂源力の枯渇によって召屋は意識を失い、2~3日は目が覚めることはないため、彼がクロを召喚することはまずないだろう。 登場作品 ・【召屋正行のささやかな日常はこうして壊れた】 そのいち そのに そのさん 作者のコメント メッシー.bmp
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ユーリーサンセイ(ユーリー3世) モスクワ大公、ウラジーミル・スーズダリ大公。 関連: ダニールアレクサンドロヴィチ (ダニール・アレクサンドロヴィチ、父) エヴドキヤアレクサンドロヴナ(2) (エヴドキヤ・アレクサンドロヴナ、母) コンチャーカ (妻) 別名: ユーリーダニーロヴィチ(2) (ユーリー・ダニーロヴィチ) ゲオルギーダニーロヴィチ (ゲオルギー・ダニーロヴィチ)