約 774,131 件
https://w.atwiki.jp/live2ch/pages/254.html
トップ ボツカテゴリ ニコ生デスクトップキャプチャー / 2018年01月24日 (水) 15時43分34秒 現在、このページは読む必要はありません。ニコ生、およびツイキャスの仕様変更により、ニコ生デスクトップキャプチャーを使う必要がなくなったためです。詳細は後述します。2018.1.24 PCの画面をみんなに見せたいときに!画像や動画もOK ニコ生デスクトップキャプチャー(以下NDC)は、ライブ配信でデスクトップ画面や画像を配信するさいに使用するアプリです。基本的には、PCの画面に表示しているものを視聴者に見てもらうために必要なアプリと考えてください。 ▲ニコ生デスクトップキャプチャー NDCは、Windows 10環境下でのIEやEdgeに対応していません。Windows 10でNDCを使用したい場合は、ChromeまたはFierfoxを使用してください。 目次 NDCが不要なケース(重要) NDCの動作に必要なランタイムランタイムについて ランタイムの確認 ダウンロード/インストールダウンロード NDCのインストール 簡単な使い方 映像ソースについて 「ウインドウで指定」ボタンによる画面取込み 「ウインドウ領域を指定」ボタンによる画面取込み そのほかの画面取込みトリミング 全画面 画像ファイルの表示方法 字幕の表示方法 細かな設定詳細指定 キャプOP 画像処理OP オプション設定の変更ロゴを非表示にする フレームレートを変更する こんなときは「NDC(XP)」が表示されない 「ソフト側でNDCを選択してください。」と表示される 画面左上しか映らない 取り込み範囲の文字がつぶれるときは その他 関連項目 NDCが不要なケース(重要) PCの画面を視聴者に見せる機能が配信ソフトに搭載されている場合、NDCは必要ありません。下表に掲載している配信ソフトを使えばNDCは不要です。配信ソフトのほうにNDCと同様の機能が搭載されているからです。 NDCの要否 操作 備考 NLE 不要 「追加」→「画面キャプチャー」 ニコ生専用 OBS Studio 不要 「+」アイコン→「画面キャプチャ」 お薦め OBS Classic 不要 「追加」→「画面キャプチャ」 古いバージョン XSplit 不要 「追加」→「Screen Capture...」 お薦め 2019年現在、少なくともゲーム配信についていえば、NLE、OBS Studio、XSplitのいずれかの配信ソフトを使っている人がほとんどです。つまり、大多数の人にとって、NDCを使う意味は薄くなっているのが現状です。また、そもそも2018年1月23日からは「かんたん配信」(「ブラウザ配信」)が廃止されたため、ニコ生で配信するには配信ソフトを使う必要があります。 ニコニコ生放送を参照する ツイキャスについては、2017年7月からだれでも配信ソフトを使って配信できる仕様に変更されました。もしツイキャスの「高画質ゲーム配信」について知らない場合は、以下のページをご覧ください。配信ソフトを使って(NDCを使わずに)、ツイキャスでゲーム配信する方法を掲載しています。 ツイキャス(PC配信)を参照する くどいようですが、ここから下の解説は基本的に読む必要はありません。 ▲画面の上へ NDCの動作に必要なランタイム ランタイムについて NDC(Ver 1.12以降)の動作には、ランタイムライブラリというものが必要です。具体的には、.NET Framework 4(または4.5)およびVisual C++ 2010 再頒布可能パッケージ(x86)がPCにインストールされている必要があります。 Windows 8/8.1の場合、.NET Framework 4.5が最初からインストールされています。 ランタイムの確認 PCに両ランタイムがインストールされているか、以下の方法で確認しましょう。 コントロールパネルを開きます(*1)。 一覧に「Microsoft .NET Framework 4 Client Profile」が表示されていることを確認します。 または、コントロールパネルから「プログラム」→「Windows の機能の有効化または無効化」でも確認できます。 .NET Framework 4は、こちらからダウンロードできます。 さきほどと同じ手順で「プログラムのアンインストール」に「Microsoft Visual C++ 2010 x86 Redistributable」が表示されていることを確認します。Visual C++ 2010 再頒布可能パッケージ(x86)は、こちらからダウンロードできます。 まちがえやすいところですが、たとえ64bit版OSであったとしても32bit版パッケージであるVisual C++ 2010 再頒布可能パッケージ(x86) はインストールしておいてください。 ▲画面の上へ ダウンロード/インストール つぎにNDCをダウンロードしてインストールしましょう。NDCの動作に必要なランタイム(上述)がすでにPCにインストールされていることを前提としています。ランタイムがインストールされていない場合は、まずランタイムをインストールしてください。 ダウンロード NDCは、こちらのサイトで配布されています。「NDCXP120_Installer.msi」というファイルをダウンロードします。 NDCのインストール .NET Framework 4およびVisual C++ 2010 再頒布可能パッケージ(x86)がインストールできている場合は、さきほどダウンロードした「NDCXP120_Installer.msi」を起動して画面を順に進めていってください。以上でNDCのインストールは完了です。 ▲NDCのインストール画面 インストールの途中で、64bit版のNDCをインストールするか聞かれます。よくわからなければインストールしなくてもかまいません。かりに64bit版をインストールする場合は、Visual C++ 2010 再頒布可能パッケージ(x64)がPCにインストールされている必要があります。 ▲画面の上へ 簡単な使い方 最初にNDCの簡単な使い方を見ておきましょう。以下の解説は、「かんたん配信」で配信する場合、または「外部ツール配信」でFMEを使って配信する場合を想定しています。 ニコニコ生放送で枠をとって配信を開始します。 「かんたん配信」タブの「映像」で「NDC(XP)」を選択します。FME使用時は、「Video」の「Device」で「NDC(XP)」を選択します。同項目が表示されない場合は、こちらをご覧ください。 ▲かんたん配信の場合 すると、下記画像のような「スタート画面」とよばれる画面が表示されます。スタート画面はPCの画面を隠すためにも使用できます(*2)。 「デスクトップ」→「ウインドウで指定」の順にクリックします。 すると紫色の枠が表示されます。 枠内にある半透明の白い部分をドラッグし、ゲーム画面など視聴者に見せたい箇所に枠を重ねます。 枠の辺・角をドラッグして取込み範囲のサイズを調整します。枠内にある映像を視聴者に見せることになります。 枠内の「決定」ボタンをクリックします。 ニコニコ生放送の再生画面(配信画面)を見て、うまく映像を取り込めているか確認します。 かんたん配信の場合は、「オプション」をクリックして「フレームレート」を「15 FPS」にします。かんたん配信では、これ以上高いフレームレートに設定しても意味がないからです。FMEを使用している場合は「30 FPS」にします。 かんたん配信時の設定方法について不明な点がある場合は、かんたん配信のやり方をご覧ください。 ▲画面の上へ 映像ソースについて それではNDCの詳しい使い方について見ていきましょう。NDCの「映像ソース」と書いてあるところを見てください。通常は「デスクトップ」を頻繁に使用するはずです。 説明 デスクトップ デスクトップ画面を取り込む 画像ファイル PCに保存してある画像ファイルを取り込む スタート画面 画面を隠す そして、「デスクトップ」なかで使用頻度が高いのは「ウインドウで指定」および「ウインドウ領域を指定」です。最初に使いこなせるようになりましょう。 なお、フルスクリーンのゲーム画面は取り込むことができません。映像が映らないか、または乱れます。ウィンドウでゲームを起動するようにします。 ▲画面の上へ 「ウインドウで指定」ボタンによる画面取込み 「デスクトップ」→「ウインドウで指定」の順にクリックします。すると紫色の枠が表示されます。デスクトップ画面のうち、枠の内側にある範囲を取り込んで配信することになります。この枠のことを取込み枠といいます。取込み枠は白い半透明の部分をドラッグすることで移動でき、辺や角をドラッグすることで大きさを変更できます(*3)。 ▲難しく考える必要はありません。枠内にある範囲を視聴者に見せることができるということです。枠外にある範囲は視聴者には見えません。 取り込む範囲の位置と大きさを決めたら、「決定」をクリックしてください。「決定」をクリックせずに「Esc」キーを押すと、取込み枠の位置・大きさを変更せずにキャンセルします。 枠の大きさは「幅」と「高さ」を見ればわかります。この数値を見ながら枠の大きさを変更することによって、枠の大きさを任意のサイズに変更できます。Webサイトなどのテキストを取り込みたい場合は、「幅」と「高さ」の数値によっては字がつぶれて読めなくなることがあります(後述)。 ▲画面の上へ 「ウインドウ領域を指定」ボタンによる画面取込み いま述べた「ウインドウで指定」と似ていますが、「ウインドウ領域を指定」もよく使用します。ゲーム画面などのキャプチャー対象のウィンドウに肌色の四角い部分をドラッグ&ドロップしてください。「ウインドウで指定」と違って、この方法ならば自動的に取込み範囲を決めることができるので便利です。 また、キャプチャー対象を移動しても取込み範囲がずれないという点も重要です。「ウインドウ領域を指定」以外の方法でデスクトップ画面を取り込むと、キャプチャー対象を移動したさいに取込み範囲がずれてしまいます。たとえば、ゲーム画面を「ウインドウで指定」によって取り込んでいるとします。このときゲーム画面を移動すれば取込み範囲がずれます。しかし、「ウインドウを指定」によってゲーム画面を取り込んでいるときは取込み範囲がずれません。 「クライアント領域」にチェックを入れておけば、タイトルバーを除外してキャプチャー対象のウィンドウを取り込みます。たとえばPCゲームのウィンドウでいえば、ウィンドウのタイトルバーを除いたゲーム画面だけを取込み範囲にしてくれます。通常はチェックを入れておいたほうがよいでしょう。 ▲画面の上へ そのほかの画面取込み トリミング ほかにも「トリミング」でもデスクトップ画面を取り込むことができます。「トリミング」をクリックすると緑色の半透明なレイヤーがデスクトップ画面いっぱいに表示されるので、ここでドラッグして取込み範囲を決めます(*4)。 全画面 「全画面」は、デスクトップ画面全体を取り込みます。文字が読みづらくなるため、通常は使いません。 ▲画面の上へ 画像ファイルの表示方法 HDDに保存してある画像ファイルを視聴者に見せたいときは「画像ファイル」をクリックします。そして、「参照」をクリックして画像ファイルを選択します。画像ファイルを直接NDCにドラッグ&ドロップすることでも画像を取り込むことができます。「表示モード」は「アス比固定」のままにしておきましょう。 この方法で画像ファイルを取り込むメリットは、画像ファイルをデスクトップ画面に表示しておく必要がないという点にあります。すなわち、デスクトップ画面に表示している画像ファイルを取り込む方法だと、画像をデスクトップ画面に表示しておかなくてはいけません。そのためデスクトップ画面が狭くなってしまいます。しかし、「画像ファイル」のほうから画像ファイルを読み込めばデスクトップ画面を広く使うことができます。 ▲画面の上へ 字幕の表示方法 画面に字幕(テロップ)を表示することができます。視聴者に伝えておきたいことがあるときは、字幕を有効に使いましょう。字幕は視聴者が見ている画面に表示されます。 字幕を表示するにはまず「テロップ」をクリックします。すると画面が切り替わるので、テキスト入力欄に文字を入力して「確定」をクリックします。ここで入力した文字は、テキスト入力欄の文字を削除して「確定」をクリックしないかぎり表示されます。入力できる文字数は最大で50文字です。 ▲画面の上へ 細かな設定 NDCの「映像ソース」で「デスクトップ」を選択しているときは、「詳細指定」「キャプOP」「画像処理OP」において細かい設定が可能です。 詳細指定 「詳細指定」で数値を入力して「決定」をクリックすれば、それに合わせて取込み範囲を決めることもできます。「マウスを追跡する」は、チェックを入れておくことでマウスカーソルの移動に合わせて取込み範囲が変化します。 キャプOP マウスカーソルを表示したいときは「マウスカーソルを表示する」にチェックを入れておきます。取込み範囲内に、視聴者には透明で見えないものがある場合、「レイヤードウインドウも表示する」にチェックを入れます。 画像処理OP 「表示モード」では「アスペクト比固定」以外を選択する必要はありません(*5)。「画質」では「低い」と「高い」を選択できます。ケースにもよりますが、後者を選択していると高画質になります(*6)。 ▲画面の上へ オプション設定の変更 ロゴを非表示にする 画面右上に表示されているロゴは非表示にできます。ロゴを非表示にするには「オプション」をクリックして「透かしを表示する」のチェックを外します。 フレームレートを変更する フレームレートというのは、動きの滑らかさを決める設定のことです。私たちはニコニコ生放送でカクカクした紙芝居のような配信をよく見かけます。この状態を「フレームレートが低い」「低フレームレート」といい、基本的にはフレームレートが高いほうが動きの滑らかな動画になります。 しかし、ニコニコ生放送に限っていえばフレームレートを高く設定する必要はありません。15fpsくらいにしておきましょう。30fpsに設定すると逆に映像がカクカクします(「かんたん配信」時)。これはPCスペックや回線速度に関係なく起こる現象であり、ニコニコ生放送(ユーザー生放送)の仕様となっています。 他方、FMEを使用している場合は、FMEの「Frame Rate」と同じ値を設定してください。FME使用時は、NDCで設定したフレームレートでの配信となります。たとえば、FMEの「Frame Rate」を30fpsにし、NDCの「フレームレート」を15fpsに設定した場合、15fpsでの配信となります。 ▲画面の上へ こんなときは 「NDC(XP)」が表示されない 「NDC(XP)」が表示されず選択できない場合は、以下の点を見なおしてください。 かんたん配信の場合は、ChromeまたはFirefoxを使用する。IEやEdgeは使用しない。 かんたん配信の場合は、Webブラウザを再起動する。 Skypeを完全に終了させる(*7)。 ランタイムをインストールできているか確認する。 「ソフト側でNDCを選択してください。」と表示される 「かんたん配信」タブの「映像」、またはFMEの「Video」の「Device」で「NDC(XP)」を選択していない状態でNDCを起動すると、「ソフト側でNDCを選択してください。」と表示され、ボタンをクリックできません。放送画面またはFMEで「NDC(XP)」を選択すればNDCを使用可能になります。 また、「Adobe Flash Player 設定」の「カメラとマイクへのアクセス」で「拒否」を選択した場合も同様のメッセージが表示されるので注意しましょう。まちがえて「拒否」を選択してしまった場合は、画面上で右クリックして「設定」→「許可」の順にクリックしてください。 画面左上しか映らない 画面左上しか取り込めないという場合は、以下のようにします。 デスクトップ画面上で右クリックし、「画面の解像度」を選択する。 「テキストやその他の項目の大きさの変更」をクリックする。 「小 - 100% (既定)」にする(Windows 8.1の場合は、スライダーをいちばん左に移動して「推奨サイズ」にする)。 PCを再起動する(必須)。 Windows 10の場合の設定方法は以下のとおりです。 デスクトップ画面上で右クリックし、「ディスプレイ設定」を選択する。 「テキスト、アプリ、その他の項目のサイズを変更する」を「100% (推奨)」にする。 PCを再起動する(必須)。 ▲画面の上へ 取り込み範囲の文字がつぶれるときは 取り込み範囲の文字がつぶれてないように美しく表示したい場合、「デスクトップ」の「画像処理OP」タブの「画質」で「高い」を選択する方法が簡単でよいでしょう。 また、NDCの「デスクトップ」で取込み範囲を幅640、高さ360にして、「かんたん配信」タブで解像度を「640 x 360」にする方法もあります。デスクトップ全体を取り込んではいけません。映像を縮小するので文字がつぶれるからです。 ▲画面の上へ その他 「ファイル」をクリックして「常に手前に表示」にチェックを入れると、NDCがいつも最前面に配置された状態になります。 NDCを起動すると自動的にWindows Aeroが無効になります(*8)。 NDCとよく比較されるアプリとして、SCFH DSFがあります。NDCとSCFH DSFの違いとしては、たとえば後者にはレイアウト機能といって、Webカメラの映像とゲーム画面を2窓で同時に配信することができる機能があります。NDCには同機能がありません。 ▲画面の上へ 関連項目 コメント質問など ニコ生で必要なものこれだけ!ニコ生の配信で必要になるものを確認しよう! ゲーム配信で必要になるものあらゆる配信サイトに対応!ゲーム配信で必要なものを準備しよう ▲画面の上へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/511.html
魔の坂道を根性で登りきり、やっと教室に到着した。 あの朝のハイキングコースはいい加減やめて欲しい。 俺は鞄を自分の机に下ろすと、ちらりと後ろの席を見た。 ハルヒはまだ来ていないようだ。 しばらく待っていたが、ハルヒは一向に姿を見せない。 どうしたんだろうか?まさか欠席か? 「よーし、じゃあホームルーム始めるぞー。」 岡部が教室のドアを開けて入ってきた。 ハルヒは結局今日は欠席か、とか思っていると、 なんと、ハルヒが岡部の後ろから付き添うように教室に入ってきたではないか。 なんだ、ハルヒ。また何かやらかしたのか? ハルヒは若干俯き気味だ。 ごほん、と岡部がわざとらしい咳払いをする。 「えー、今日は皆に聞いてもらいたいことがある。」 岡部はハルヒに顔を向け、小声で「自分で言うか?」と聞いた。 ハルヒはフルフルと首を横に振る。 岡部はハルヒを少し見つめたあと、また前に顔を向けて、 少し間をあけてから言った。 「実は涼宮が転校することになった。」 ・・・・・・・・・は? 教室から驚愕の声が上がる。 俺は声が出ず、口をぽかんと開いたままにしていた。 「お父さんの仕事の関係らしくてな。海外に行く事になったらしい。」 ・・・・・・・・・。 嘘だろ? 俺は席に戻ったハルヒに質問攻めをした。 どうやら岡部が言ってる事は全て本当のことらしい。 海外に行く日は・・・・・・。 今週の土曜日。 なんてこった。もう1週間も無い。 冗談だろ? 最近のハルヒがおかしかった理由を一気に理解した。 鬱だったのは、俺達と別れるのが嫌だったから。 いつも以上に活発だったのは、俺達との最後の時を楽しむため。 突然のオゴリは、最後のハルヒなりの気遣い。 ・・・・・・。 嘘だろう、嘘であって欲しい。という想いが俺の頭の中をめぐる。 今、ここで岡部がプレートを掲げながら「ドッキリでした」と言ってきても、許せてやれる。 嘘と言ってくれ、ハルヒ。 「私だって信じたくないわよ。でも本当のことなの。仕方ないわ・・・。」 毎日のように部室に行き、 毎日のように長門は本を読んでいて、 毎日のように朝比奈さんが茶を入れてくれて、 毎日のように古泉とボードゲームをし、 毎日のようにハルヒが突然持ってきた馬鹿な計画につきあわされ、 毎日のようにSOS団の皆で笑って過ごす。 こんな毎日がずっと続くと思っていた。 わかっていた。 高校卒業と共に、そんな楽しい日々が無くなるのも。 でも、卒業する日が来るまでは、せめて卒業までは、 ずっとそんな日々が続くと確信していた。 しかし、その運命の時は、俺が予想していたよりもはるかに早く訪れたようだ。 ハルヒがいなくなる。 俺の中で何かがガラガラと崩れていく気がした。 団長がいてこそのSOS団だろ? お前がいなくて どうするんだよ。 俺はとぼとぼとした足取りで部室に向かった。 ハルヒを除いた三人は既に揃っていた。 「みんな・・・えらいことになった。」 「・・・・・・聞きました。涼宮さんのことでしょう?」 古泉はいつものようなニヤケ顔ではない。 もっとも、古泉がこの状況でまだニヤケ顔だったら 俺は古泉をぶっ飛ばしていたかもしれない。 朝比奈さんは、メイド服も着ずに、パイプ椅子に座って涙目だ。 長門はいつもの無表情だが、手元にはいつもの本がなく、床の一点をただじっと見つめていた。 「・・・・・・・・・。」 沈黙が流れる。その時だった。 「ヤッホー!!皆元気ー!?」 驚いたね、流石に。見ると、ハルヒの表情は、いつものような笑い顔だ。 「よくお前、笑っていられるな。」 俺がそう言うと、ハルヒは部室の雰囲気に気付いたらしく、 笑い顔を真顔に戻して、教室の時のような表情をつくる。 「皆、もう知ってるんだ・・・。」 ハルヒはすたすたと歩いていき、いつもの席に着いた。 それから30分ほど、俺達は何も話さずにそうしていた。 これほどまでに重い空気が流れたのは、この部室初めてのことであろう。 「ねぇ。」 突然ハルヒが口を開いた。 「このまま、こういう雰囲気で過ごしてもしょうがないじゃない? もうあと僅かしかない時間なんだから、もう少し楽しみましょうよ。」 ・・・・・・わかっている、わかっているが・・・そううまくは切り替えられんな。 「そう言ってても始まらないでしょ!!」 ハルヒは大声を出すと、いきなり机を叩いて立ち上がった。 そして、机に顔を伏せていた朝比奈さんのところまでいくと、朝比奈さんも立ち上がらせる。 「さぁ、みくるちゃん!着替えるわよ!!」 そう言うと、朝比奈さんの制服を脱がせ始めた。やばいっ!! 俺と古泉は急いで部屋から出て、ドアを閉めた。 中からは朝比奈さんの悲鳴とハルヒの変態チックな声が聞こえてくる。 しばらくして、 「ど・・・どうぞ。」 という朝比奈さんの声がしたので開けてみると、 メイド姿の朝比奈さんの横に、バニー姿のハルヒがいた。 「バニーよっ!」 何故お前も着替える。 「なんででもいいでしょー?キョンもコスプレしない?楽しいわよ。」 遠慮しておく。 「遠慮しないの!小泉君!クリスマスのときのキョンのトナカイ衣装出して!」 マジで?あれ?あのトナカイには俺の忘れたいトラウマがあるのだが。 そもそも、今日はクリスマスじゃない。 「はい、ただいま。」 古泉は、俺のトナカイ衣装がかけてあるハンガーを手にとる。 っていうか、古泉も何ハルヒの言う事素直に聞いているんだ。 「さぁ、キョン。さっさと着替えるのよ。」 断る。断じて着ない。 「つべこべ言わずに着替えなさい!!」 そう言うと、ハルヒは俺に飛び掛ってきた。やめろ!!この痴女め!! 「やめろって!わかった!自分で着替える!!自分で着替えるから!!」 俺がそう叫ぶと、やっとハルヒは俺のシャツのボタンにかけていた手を止めた。 朝比奈さんは、両手を顔に当てながら耳を真っ赤にして蹲っている。 「最初からそう言えばいいのよ。じゃ、さっさと着替えなさい。」 その前にだな、ハルヒ。 「何よ?」 俺はドアの方を指さす。するとハルヒは納得したように、 「ああ、そうね。じゃあみくるちゃん、有希、いくわよ。」 ハルヒは蹲ってる朝比奈さんと、パイプ椅子にじっと座っていた長門を連れて、 部屋の外に出て行った。やれやれ。 抵抗がある。それはそうだろう、いきなりこんなトナカイ衣装を着ろ、と言われて 素直に着る奴がいるだろうか。いるとしたら、そいつは変態が含まれている。 「さて、涼宮さんたちを長く待たせるわけにもいかないですから、 早く着替えてしまいましょう。」 うるさいな、古泉。人の気も知らないで。と、振り返ると、 そこにいたのは古泉ではなく、やけにでかいカエルだった。 ・・・・・・誰? 「僕ですよ。面白そうなので、僕も着替えてみました。」 古泉の声を発する化けガエル。よくみると、それは俺達がバイトで得たカエルの衣装だった。 お前も着替える必要ないだろ。お前は変態か? 「キョン、まだー?」 ハルヒがドンドンとドアを叩く。 ・・・何の罰ゲームだ、これは。 俺の姿を見るなり、ハルヒは大爆笑した。 まぁ、こういうリアクション取るとはわかってたがね。 朝比奈さんは、手で口をおさえながら俺の姿を凝視している。 長門はというと、眉ひとつ動かさずに無表情のままだ。 気付くと、化けガエルの視線がこちらに向いていた。 なんだカエル。やるのか?トナカイなめるなよ、この両生類が。 「いやー、やはりあなたのコスプレが一番様になってますね。」 どういう意味だ。とりあえず言っておこう、全然嬉しくない。 ここで俺はあることに気付いた。 「そういや長門だけコスプレしてないな。」 一同が一斉に長門を見る。 「・・・・・・・・・。」 長門の眉が1ミクロン動く。 しばらくそのまま固まったあと、長門はすたすたとハンガーの前に歩いていき、 ひとつのハンガーを手に取って言った。 「これ。」 ナース服だ。 古泉と外で待つこと、数分。 「うわっ、有希、あんたなかなか似合うわね。 キョン、古泉くん、いいわよー!」 ドアを開けると、そこにナース服の長門がいた。 「・・・・・・・・・。」 無愛想なナースさんは、無言のまま突っ立っている。 ・・・俺は今、ひょっとしてすごいものを見ているのではないだろうか。 長門がコスプレするなど、まず普通なら考えられない。 これをデジカメで撮って学校にいる長門ファンに売れば、 かなりの高額で売れること間違いなしだ。 「・・・・・・。」 長門は無言で棚から本をとると、ナース姿のまま、所定の場所について読書を始めた。 無表情、無言で読書をするナース。なんなんだろうね、これは。 「じゃあ、これで全員コスプレ完了ね!」 全員でコスプレしてどうするというのだ。 「楽しいからいいじゃない。」 俺は早く脱ぎたいのだが。 「そんなノリの悪い事言わないの。」 ノリってお前・・・。 「まぁまぁ、たまにはいいじゃないですか。」 うるさい、化けガエル。田んぼでゲコゲコ鳴いてろ。 「キョンくん、似合ってますよ。」 そんな、朝比奈さんまで! 俺のハートは1000ダメージを受けた。 しかし、すっかり元のSOS団の雰囲気に戻ったな。 これも団長、ハルヒがいてこその――・・・ ・・・・・・ああ、そうだった。ハルヒは、もう来週の日曜日にいなくなるんだ。 この楽しい日々も、ハルヒがいてこそ、成立しているんだ。 ハルヒがいなくなったらSOS団は―――・・・ 帰り道、前ではしゃいでいるハルヒに聞こえないように俺は古泉に話しかけた。 「なぁ、古泉。」 「何でしょうか。」 「ハルヒの転校が無しになるってことはないのか?」 「・・・・・・正直申し上げますと、難しいとだと思います。 涼宮さんが激しく願えば可能かとも考えられますが、 今の彼女の精神では、『仕方が無い』とされています。 加えて、今の彼女は段々力が薄れてきている状態にあります。 その条件で彼女が転校しないことになるのは・・・・・・。」 「・・・・・・そうか。」 俺は帰り道、はしゃぎまわるハルヒの顔をじっと見つめていた。 それからは、俺はホームルームが終わると即効で部室に行くようにした。 限りある時間を大切にするためである。 こうなることがわかっていれば、もっと前々から時間を大切にしていたのだが。 人との別れは、突然訪れるものだ。 金曜日。今日が、ハルヒがSOS団での最後の活動。 「ヤッホー、って、何それ。」 ドアを蹴り破って入ってきたハルヒは、 部室の中央に置かれたものを見て口をぽかんと開けた。 見てのとおり、鍋だ。 「何で鍋?」 「お別れ会ですよ。」 古泉は、ニコニコしながら言った。 「お別れ会?ってことは、一種のパーティーね!」 ハルヒは目を輝かせる。 パーティーではないとは思うけどな。 「じゃあ始めましょう!!」 その日、最後の活動は、今までのSOS団の活動の話で盛り上がった。 ハルヒがSOS団を結成したときの話、野球の話、七夕の話、 映画を作ったときの話、俺が入院した時の話、ハルヒの文化祭でのライブの話・・・。 まだまだ話足りなかったが、時は残酷なもので、 それを全て話しきるまでの時間は与えてくれなかった。 ふと気付くと、外ではぽつぽつと静かに雨が降り出していた。 今、俺は空港にいる。朝比奈さんも、古泉も、長門も一緒だ。 もちろんハルヒも。 そして別れの時まで、あと30分。 「いよいよね・・・。」 ハルヒは右手にはキャリーバッグがある。 見ると、朝比奈さんは、もう涙目になっていた。 「ちょ、ちょっとみくるちゃん。いくらなんでもフライングしすぎよ。」 「だ・・・だって・・・。」 しょうがないないわね、みくるちゃんは、とハルヒは朝比奈さんの頭をぐしぐしと掻いた。 ハルヒの両親をみたのも、そういえば今日が初めてだ。 父親は、なんだか優しそうな人で、 母親は、リボンを頭につけた、元気のある人だった。 どちらかというとハルヒは母親似だろう。 「今まであの子の事、ありがとうございました。 大変でしたでしょう?」 ハルヒのお母様が俺に向かって言った。 「いえいえ、そんなこと。」 実際は大変だったけどな。 「さて。ちょっとあんたらここ一列に並びなさい。」 何だ? 「いいから、早く。」 ハルヒに言われるまま、俺等団員は横一列に並んだ。 ハルヒはまず、古泉の両手を掴んで、 「古泉くん。あなたは副団長としてよく働いてくれたわ。 あなた無くして、このSOS団の活動はできなかったと言っても過言ではないわ。 今までありがとう。」 「ありがとうございます。」 古泉はニッコリと笑う。 どうやらハルヒのやってるこれはお別れの挨拶らしい。 次にハルヒは、長門の両手を掴んで、 「有希。あなたはSOS団唯一の無口キャラ、兼万能少女として頑張ってくれたわ。 今までありがとうね。」 「そう。」 長門はおもむろに一冊のハードカバーの本を取り出し、 「読んで。」 それをハルヒに渡した。 「これ、私に?」 ハルヒは戸惑ったような表情でそれを受け取った。 「そう。」 「・・・ありがとう、有希。大事にするわ。」 ハルヒはそれをバッグに入れると、今度は朝比奈さんの手をとった。 朝比奈さんの顔は涙で濡れている。 「みくるちゃん、あなたは部の萌系マスコットキャラとしてよく頑張ったわ。 それと、あなたの入れてくれたお茶は、他の誰が入れるお茶より美味しかったわよ。 もう、あれが飲めないとなると、ちょっと寂しいけど・・・、ありがとうね。」 ハルヒがそういい終わる頃には、朝比奈さんの顔は涙でぐしょぐしょになっていた。 「もう、ちょっとみくるちゃん?・・・しょうがないわね。」 朝比奈さんにつられたのか、ハルヒの目にも少し涙が浮かんできた。 最後にハルヒは俺の前に立って、 「キョン。あんたは・・・まぁ特に働いて無いけど、」 おいおい、ちょっと待て。 「あんたがいてくれて良かったわ。 あんたがいてSOS団だもん。 …今までありがとうね。」 ……ああ。 「それとキョン。」 ハルヒはごそごそとポケットを探り始めた。 なんだ? ハルヒはそれを掴むと、俺の胸に押し付けた。 赤い布?手に取ってみると・・・ 腕章だ。ハルヒがいつもつけていた、 団長 の腕章。 「あんたを、SOS団の団長に任命するわ!喜びなさい!」 …俺が? ………俺が団長? 横を見ると、他の団員も俺を見ていた。 俺がこいつらを引っ張っていくのか・・・? 俺はハルヒがいなくなると同時に、SOS団も無くなると思っていた。 しかし・・・。 SOS団は、まだ続いていくのか。 そうだ、こいつ等はまだここにいる。 今度は、俺がこいつ等を引っ張っていくのか。 ハルヒじゃなくて、今度は俺が。 俺は、腕章をぎゅっと握った。 「あんたたち!」 ハルヒは涙を流しながら笑っていた。 「次回のSOS団不思議探索パトロールをする日を発表します!」 ハルヒは斜め上を人さし指で指す。 「私は五年後に、日本に帰ってくるわ! 五年後の今日と同じ日、いつものあの場所だからね。」 ハルヒの笑っていた顔が、徐々に歪んでいく。 「駅前・・・集合よ。キョンあんた・・・ぐす・・・いつも遅れるんだから・・・ぐす。 早く・・・ぐす・・・。来なさいよね・・・ぐしゅ・・・。 遅れたら・・・ぐす・・・罰金なんだから。」 気付いたら、頬が熱くなっていた。 何事か、と頬を手で触ってみると、熱い液体がついていた。 その液体は俺の眼からつたっているようだった。 ハルヒの父親が、優しい顔でハルヒの肩を叩く。 「じゃあ・・・・・・。」 ハルヒはそう言って踵を返した。 ――コノママイカセテイイノカ?―― ・・・次の瞬間に俺がとった行動は、今思えばとんでもないことだったと思う。 朝比奈さんも、古泉も、長門も、ハルヒの両親も見ていただろう。他の乗客もな。 とんでもない行動だった。しかし、後悔はしていない。 俺は、ハルヒの肩を掴むと、身体を引き寄せ、唇を重ねた。 そのまましばらくして、唇を離し目を開けると、ハルヒは驚いたように目を見開いていた。 いや、ハルヒだけじゃないな。朝比奈さんも、古泉も、長門も、ハルヒの両親もだ。 ハルヒは、そのまま顔を赤くして、口を開いたままになったが、 しばらくすると、顔に笑みを浮かべ 「ぷっ」 と吹き出した。 「何だ。」 「何でもないわよ。ふふ。」 ハルヒは小さく手を振りながら、 「じゃあねっ!」 と言い、飛行機の中に消えた。 いつものような笑顔で。 その後、俺はハルヒを乗せた飛行機が、青い空に消えるまで見送っていた。 「団長・・・か。」 ぽつりと呟いてみる。 「長門。」 俺はハルヒが去っていった青い空を、そのまま見上げながら言った。 「お前は北高に残るのか?ハルヒの元にいくのか?」 「情報統合思念体の判断で、 私が都合よく再び涼宮ハルヒの元に現れるのは、不自然で、不適切な刺激を彼女に与えるとされたから、 涼宮ハルヒの観測は海外にいるインターフェースが行うことになった。 だが、私を消去すると、五年後の涼宮ハルヒに不適切な刺激を与えることになると考えられたため、 私は消去されずに北高に残ることになった。」 「そうか・・・。・・・古泉は?」 「僕は元々ここいらの区間の閉鎖空間の処理の担当です。 異動になる、というのはよっぽどの事がないかぎりありません。」 「そうか・・・。・・・朝比奈さんはどうですか?」 「えっと・・・ぐす・・・今問い合わせてみたんですけど・・・ぐす・・・。 詳しくは禁則事項で言えないんですが・・・ぐす・・・ 私はしばらくこの時間に残らないといけないらしいです・・・ぐす・・・。」 「そうですか・・・。」 俺は青く広がる空を眺めて、もう一度呟いた。 「団長・・・か。」 腕に腕章を着けた俺は、今、全力で自転車をこいでいる。 まったく、こんな日に寝坊してしまうとは・・・。 待ち合わせ場所に到着すると、懐かしい面々がそろっていた。 「遅いですよ。」 「・・・・・・。」 「キョンくん!お久しぶりです!」 相変わらずニヤケ面の古泉、無口無表情の長門、若干背が高くなったであろう朝比奈さん。 そして、奥で笑みを浮かべながら腕組みをしている黄色リボンの女は、間違いなくあいつだ。 「キョン!遅いわ!罰金よ!!」 fin
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1886.html
例年に比べて少しくらい気温が高かったらしい夏も終わり 通学路の坂、キョンに言わせるとハイキングコースにも涼しさが到来してきた。 季節は秋。 キョンの奴は「うだるような夏がようやく終わってくれた…」なんて呟いてたけど 私に言わせれば夏の方がよっぽど面白い気がする。イベントが多いからね。 まぁ、秋は秋でイベントがあるからいいんだけど。 今日は古泉くんとみくるちゃんは実家の用事、有希は遠い両親に会いにいくらしく休み。 キョンは馬鹿だから先生に呼び出されてるらしい。 つまり私は今一人。理由も言わずに部室の鍵を閉めて帰ったら キョンが混乱するだろうし仕方がないから残ってあげてるって訳。 「あぁつまんない…何で団長のアタシが待たされなきゃいけない訳? 全部キョンのせいなんだから…来たらどう罰を科してやろうかしら? …そうだ、あの馬鹿面見るために隠れていきなり驚かしましょう!!」 そんな事を考えて私は部屋を見渡した後、みくるちゃんのコスプレ衣装の裏に隠れた。 衣装ならたくさんあるし、黙っていればバレないからね。覚悟しなさいよキョン!! その後10分くらいしてようやくキョンが部室に来た。 本当はすぐ出て行こうと思ってたけどキョンが一人の時は何をしているのか気になったし 少し隠れてキョンの観察をすることにした。変態なことしてたら許さないんだから!! 「ん?何だ、今日は皆来てないのか…俺が一番最後かと思ってたんだが…」 なんて阿呆みたいに呟いた後、何とあろうことか団長席に座ったの。信じられない。 後でとっちめてやろうなんて考えてるアタシの耳にその後とんでもない言葉が飛んできたわ。 「ハルヒまで来てないとはな…最近気になって仕方ないし話せなくなるからな。助かった…」 気になる?私を?どんな風に? 「アイツ可愛いよな…」 な……嘘…キョンが私を? 「抱きしめたくなるの何度我慢した事か…偉いぞ俺…」 信じられなかった。いつも振り回しているのに。 そう思ったら嬉しくなったと同時に身体が熱くなった。そう、今まで感じた事の無いような熱さ。 いや、正確に言えばキョンが気になり始めた時に感じた時の熱さと似ている。 でも今度の熱さは私にもしっかり分かった。 性欲。 キョンは私を異性として見てくれている。 恋愛なんて一種の気の迷い、精神病なんて思ってたけど違うのかもしれない。 アタシもキョンを抱きしめたい…それ以上も… そう考えた私は動きが早かった。いい?感謝しなさいキョン。 今からアンタは妄想の中でだけでもアタシに抱かれるの。 アタシはスカートの下から手を入れパンツ越しに秘部を撫でた。 ぐっちょり濡れているのが分かる。これが愛液…キョンを思って出た愛液… アタシの初オナニーの相手はキョンになった…嬉しくてたまらない… 気持ちよくてたまらない…秘部が熱い…ウズウズする… どこかで聞いた覚えのあるオナニーの仕方を思い出しながら必死に指で秘部を刺激する。 そしてもう一方の手で胸を触る…乳首が起っていてまるで自分の身体ではないような感じだった。 しかしアタシはうかつだった。初オナニーだったからかもしれない。 興奮していつしかキョンのいる部室だってことを忘れて一心不乱にしていたせいで 声が漏れて… 「ハルヒ?」 手を元に戻して「隠れてたのよ!!顔が熱いのは熱かったから!!」って言えばいいのに… でも狂ったアタシは止められなかった。 キョンの前で、キョンの顔を見ながら必死に秘部を刺激していた。 よりよい快感。キョンはアタシの前で顔を赤らめて顔を背けている。 止めないと。分かってるのに。アタシの理性じゃ快感には勝てない。 「キョン…キョン…キョン~…もっと…んぁ…」 衣類は乱れ、目の前で愛する人に見られ、二人きりの部室。 そんな状態の中で喘ぎ声なんか止められなかった…ただもう感じるしかなかった… 嫌われたくない…でも…止められない… そしてアタシはとうとう最大まで火照った体をさらけ出しながらキョンにこう言った。 「いい?アタシはね、アンタが好きなの!! アンタを考えながら今生まれて初めての自慰をしてしまったの!! だから…責任を取りなさい!!アタシが好きならだけど… もし好きならだけど…今回だけはアンタの好きにさせてあげるから…」 「本気か?」 え? 「本気でハルヒは俺のことを思って?」 そうよ… 「…嬉しいよハルヒ…俺もお前が好きだ!!だから…好きにしていいか?」 うん… 「初めてだから下手だけど勘弁してくれよ?」 「大丈夫よ…アタシはアンタってだけで大満足なんだから…ん…胸…そんなに強く…」 キョンはアタシを抱きしめると床に寝かせ、キスを一通りした後アタシの両胸を揉んでいた。 「んぁ…いい…キョン…ん…あぁ…」 乳首を指で弾かれる。それだけの行為でアタシの欲求は高まる。 胸を舐められる。それだけの行為でアタシの全てをキョンに委ねたくなる。 「キョン…下も…」 アタシがそう言うとキョンはアタシのパンツに手をかけそっと脱がした。 「凄ぇ…めちゃくちゃ濡れてる…俺が…」 「濡れてるとか言わないでよ…ねぇ…早く…」 分かったよ、と呟くとキョンはアタシのアソコを指で刺激した。 「んん…ぁあ…ヒィ…」 指入れるぞ、そう言うとゆっくりアタシのアソコに指をくねらせていった。 「ぃ…あぁ…ぁん…指…アタシの中に…」 キョンはアタシの一通りの喘ぎ声を聞き終えると自分のモノを出し 「なぁ、入れて…いいか?」 「ん…いいわよ…今日安全日だから……生でも…でも赤ちゃん生まれたら責任取りなさいよね…」 「責任って…」 そう言いながらもキョンはアタシのアソコに軽くモノを触れさせると少しずつ入れていった…」 「ん…痛ッ…や…駄目…ん…血…痛いよ…」 「わ、悪いハルヒ!!大丈夫か?今日はやめ…「やめないで…ちょっと待ってて…」 「分かった…」 その後数十分の間動かさず硬直状態だったけどアタシの「そろそろ…大丈夫そう…」って声で キョンは少しずつ腰を動かした。少し痛かったけどそれ以上にキョンのモノがあるってだけで。 それだけでアタシは満足できた。 「ハルヒ…しまりが…凄い……」 「馬鹿ッ…何言ってんのよ…んぁ…駄目……もうイキそう…」 「俺もだ…抜いた方がいいか?」 「駄目…アタシの中で…中で出して!!」 その声を合図に二人とも同時にイッた。 「キョンの…こぼれたのおいしい…」 「おいハルヒ、床舐めることないだろ…」 「いいじゃない…おいしいんだし…」 こうしてアタシたちの初体験は終わった。 いまでもたまにアタシたちは部室・教室で、普段はキョンの家でしている。 最初夏の方が好きって言ったっけ?あれ、撤回ね。 キョンさえ居ればどの季節だって最高なんだから!!
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5842.html
涼宮ハルヒの遭遇Ⅲ 翌日、土曜日。 と言う前振りをかますともうこの日に何があるのかは言わずもがなだ。 そう、SOS団恒例町内不思議探索パトロールである。 と言っても今日は最初から、何を探すかだけは決まっていた。 当然だよな。 昨日の放課後の団活最初のミーティングでハルヒが言い出したんだ。 その時の状況を少し語ろう。 …… …… …… …… …… …… 放課後―― 俺とハルヒと長門は5時間目と6時間目の自習をいいことに文芸部室でポニーハルヒと過ごしていた。 もちろん、話の中心にいたのはこっちのハルヒで、向こうの世界とこっちの世界を事細かに聞き続けていたんだ。 特に違いがあったときのハルヒの爛々とした瞳は、会心の悪巧みを思い付いた時の300ワット増しの輝きよりもはるかに凄まじい光沢を放っていたぜ。 そりゃそうだよな。ハルヒにとっては待ち望んでいた未確認生物との遭遇だ。おそらく、古泉Presentsの推理ゲームよりもはるかに楽しんでいることは確かだな。ハルヒの言葉ではないが、これでハルヒが興奮しないと言ったら嘘になる。それくらい今のハルヒは今までのハルヒが、俺にとっては迷惑なことが多かったが、楽しんできたことと比べても比べモノにならないくらい生き生きとしているんだぜ。 つってもまあ、俺は一度だけこういうハルヒの表情を見たことがあるがな。 ハルヒはさっき、自分に訪れた四年ぶりの不思議と言っていたが、正確には違うんだ。 もうお分かりだよな? そうさ。俺は覚えているし、ハルヒもおそらくは覚えているだろうがあれを夢だと認識してしまっている向こうの世界でのことだ。 あの時も、古泉言うところの《神人》を見たときはこんな顔をしていた。 分かりやすい例えはサンタクロースに会った子供のような顔だ。 「きゃっ」 突然、可愛らしいびっくりした声を拝聴させていただきました。 考えるまでもない。朝比奈さんが来たんだ。 しかも朝比奈さんはまったく何も知らずにここに来たんだろうぜ。 いやまあ、俺も驚かせようと思ったわけじゃなく、連絡を入れておくべきだったと思っているんだが完全に失念していたんだ。 本当に申し訳ございません。 「あ、みくるちゃん。御苦労さん。どう? 驚いた?」 話しかけると同時にハルヒは席を立って、即座にドアを閉める。 へぇ、ハルヒにしちゃなかなかの心遣いだな。まあ、確かにポニーハルヒを他の誰にも見せるわけにはいかんからな。 見せてしまえば混乱間違いなしだ。 「あ、はい……で、でも何なんですかー? 涼宮さんがどうしてふ、二人いるんですか? いったい何が……」 いつぞやのようにおどおどしながらのびっくりおっかな声が届きました。 「ふっふうん。そっちのあたしはパラレルワールドから来たあたし! 待ち望んでいた異世界人よ!」 満面の笑顔で紹介するハルヒの声を聞いて、朝比奈さんがポニーハルヒへと視線を移す。 しかしまあどうやら朝比奈さんも古泉と長門同様、ポニーハルヒがこっちのハルヒと同一人物であることを見抜いたようだ。 捜査員ってのはよほど目が肥えていらっしゃるようで。 対するポニーハルヒは、またどこかおどおどした視線を俺に向けてくるし、よく見れば隣に座っている長門の制服の裾を掴んでいる。 いや待てよ? そう言えばさっきの古泉の時もそうだったよな。 てことは、ポニーハルヒの世界には朝比奈さんと古泉はいないのか? 聞いた限りだと向こうの世界でも谷口、国木田、阪中は同じクラスだったし、担当も岡部だと言った。 まあ俺にはどうしても想像できんのだが、谷口がクールな優等生だったり、国木田がお調子者だったり、阪中の身長が低かったり、岡部教諭がジャージ姿ではなくスーツにネクタイ姿だったりしているという違いはあるがな。 ついでに朝倉涼子もいるらしい。もっともその朝倉はどうもこっちのハルヒっぽい性格だそうだ。んで、もっと分からないことにその朝倉と谷口が付き合っているらしい。 何をどうやったらそんな風になるのかを聞いてもみたが、ポニーハルヒの返答は正直言って理解不能だった。 つーわけでポニーハルヒが何と言ったかは割愛させてもらうぜ。俺自身が理解できていないんだ。うまく説明する自信がない。 「大丈夫だ。こっちの人もキミに危害を加えるような真似は絶対にしないさ」 俺が優しく諭してやると、ポニーハルヒはちょっと上気した顔で一度こくりと頷き、朝比奈さんに会釈する。 「ん? ねえそっちのあたし。向こうの世界には古泉くんとみくるちゃんはいないの?」 まあハルヒも同じことを感じるわな。ついでに俺も聞こうと思っていたことだ。手間が省けたぞ。 「いえ……それはその……あたし、他のクラスと上級生に知り合いいませんし……」 なるほど。そういうことか。だったら分からなくても不思議はないわな。 「へえキョンにも想像付いたんだ?」 「どういう意味だ? と言うより、お前は俺がそんなに鈍い人間だとでも思っているのか?」 「違うわよ。ただ、あんたは普段、あたしがどんなに言って聞かせてあげても不思議からは目を背けることが多いのに、パラレルワールドの理屈が分かっていたってのが疑問だったからよ。何? ひょっとしてキョンも本心は不思議を望んでいるの?」 おいおい、なんだ? その好奇心いっぱいの色を携えた悪だくみ全開の光を放つ瞳は? べ、別にいいじゃないか。俺だって不思議なことが起こることを否定はしないぜ。むしろあってもいいと思っている。ただ単にお前ほど渇望していないだけだ。 「ふうん。自分に素直になることは悪くないと思うけど、あたしから気まずくて目を逸らすのはどういう意味があるのかなぁ?」 「うぐ」 正直に言葉に詰まる俺だった。 そしてしばし沈黙の後、古泉も部室に戻ってきた。 全員揃ったところでハルヒが、いつも通り、団長席の椅子に仁王立ちして宣言したんだ。集合はいつも通り光陽園駅北口午前9時だが大事なのはその後の言葉だ。 「明日の不思議探索パトロールの課題はたった一つよ。今までは『何か不思議なこと』で良かったけど、今回はテーマを持って各自回るように。いいわね? んで、もちろんそれはパラレルワールドの入口捜しよ。絶対に他のことに目を奪われないこと。例えそれがミステリーサークルだろうと、タイムマシンだろうと一切無視でいいわ。そして手抜きはなしだからね! 必ず見つけるように!」 …… …… …… …… …… …… と言う訳で、今日が昨日から見て翌日の土曜日だ。 ちなみに珍しく、本当に珍しく俺は集合場所に一番遅れることはなかったのである。 何故かって? いや、まさか俺も朝の7時半に自宅に来訪者があるなんて想像もしていなかったからな。おかげで相当早く家を出ることになったんだ。 んで誰が来たかと言うと長門とポニーハルヒだ。 ポニーハルヒは昨夜、長門の部屋に泊めた。理由はいたって単純な消去法だ。 まず古泉と朝比奈さんは論外だ。別に二人が信用ならないわけじゃないぜ。ただ、この二人の背後にある機関が信用ならんし、そうでなくてもポニーハルヒは向こうの世界で古泉と朝比奈さんに会っていない。 となれば知らない人間と一緒に居ることによって、あの情緒不安定なくらい内気なポニーハルヒがホームシックにかかって泣き出さないとも限らない。 こっちのハルヒももちろん無理だ。ハルヒには妙な背後関係はないが一人暮らしじゃない。そっくりさんだと偽ろうが、ハルヒの家にいるのは、ハルヒと血の繋がった両親なんだ。ポニーハルヒが自分たちと無関係ではないことを悟ることができるだろうし、んなことになればややこしくなること間違いなしだ。 俺についてはこっちのハルヒが提案前に却下したのである。 その時、少し悲しげな表情をポニーハルヒは見せたが、それでもあっさり自己完結して納得した。まあ理由は分からんでもない。 ハルヒが却下した理由はともかく、ポニーハルヒが俺のところでの宿泊を断念したのは、彼女にとっては、トートロジーで申し訳ないが、俺は俺なのだが俺ではないからだ。 ポニーハルヒが恋心を抱いているのはあくまで向こうの世界の俺であり、この俺じゃない。同じ顔で本人であることは確かなんで頼ったり縋ったりはできても男と女のシチュエーションを連想させることには抵抗があるんだろうぜ。 となると残るは向こうの世界でも頼りにしていて面識があり、かつ何の雰囲気を起こりえない長門有希だけとなる。 んで、その長門とポニーハルヒが俺を迎えに来たのである。 にしたって7時半は早くないか? 約束の時間までまだ1時間半はある。自転車でも集合場所に着いてからまだ1時間は待ちぼうけだ。 しかしどうしてもポニーハルヒが強請ったそうで、俺と長門と一緒に集合場所に行きたかったらしい。 理由は長門が話してくれた。 「この涼宮ハルヒは自分の稼働視界内に私とあなたを捉えていないと精神状態が不安定になる。これがわたしがここにいる理由。あなたがここにいる理由」 てことは昨夜も結構大変だったのか? 「その認識は正しい。昨夜、わたしは別々の部屋で就寝するよう提案したが彼女は拒否した。寝床を供にし、今日を迎えた」 「ぶ、部長……」 淡々と冷静沈着に告げる長門にポニーハルヒの頬が赤く染まる。 つってもまあ、別段、この二人に何か人に言えないようなことがあったとは思えんがな。ポニーハルヒは単に一人で寝るのが怖い子供のような自分を俺に告げられて恥ずかしい思いを抱いただけだろうから。 もっとも俺はそんなポニーハルヒがいじらしくて可愛く思えて仕方がないってもんだ。まったく、このポニーハルヒの性格をこっちのハルヒに少しは分けてもらいたいもんだぜ。 ちなみにこの会話は俺たちが駅前でハルヒと朝比奈さんと古泉を待っているときに交わされたものだ。 そして今回、俺以外で初めて全員に奢る羽目になったのは古泉一樹である。 まあ、こうなったのははっきり言って規定事項だ。意外でも何でもないことを俺は知っている。 まず朝比奈さんは未来人だから、今日、この場所にどの時間に来れば一番遅くならないかを知っていても不思議はないし、古泉はハルヒのご機嫌どりが半分目的みたいなものだからハルヒより遅く来るなんて真似はできないだろう。 となれば古泉が一番最後に到着するしかない。 俺には一番最後に現れた古泉の表情はわざとらしく苦笑を作っているようにさえ見えたほどだ。 が、この想像は完全に的外れだったたらしい。古泉は振りではなく本当に苦笑だったんだ。そして一番最後になった理由もハルヒのご機嫌どりが目的ではなかったそうだ。それは不思議探索パトロールの時に古泉本人から聞かされた。 「閉鎖空間と《神人》だと?」 「ええ……一週間毎日一回なら結構ありましたし……たまに同じ夜に二度も出動することもあったのですが……今回発生した二回の《神人》の傍若無人ぶりは常軌を逸しておりました……それも二回ともですよ……なんとか粛清することはできたのですが……あまりの疲労に集合時間に間に合うギリギリまで僕は就寝していたんです……」 何故か不思議探索パトロールの時は俺と誰が組もうとも定番コースとなっている気がする河川敷で、肩を並べてぶらつきながら、まるで月曜朝の通勤ラッシュの満員電車に乗り込もうとするサラリーマンのように肩を落としながらため息をつきつつ古泉は説明を始めて俺は思わず声をあげていた。 よく見ればどこか自嘲と言うよりも自虐的な笑みを浮かべている。しかも俺に視線を向けることさえない。 おっと、説明が遅くれたが、今回の午前の部は俺と古泉、SOS団三人娘とポニーハルヒで班分けされている。 本来六人いるんだから三人ずつが妥当じゃないかと思ったならちょっとそれは甘いな。 ポニーハルヒは俺か長門が傍にいないと気が狂ってしまいかねないくらい不安に支配されて泣き出しそうになるんだ。んな女の子を放っておける奴がいるなら俺はそいつを市中引き回しの刑に処したところで残虐非道と非難される言われはないだろう。 と言う訳で、こっちのハルヒが長門とポニーハルヒをワンセットで見ることを提案したんだ。 むろん、なぜ俺ではないけないか、という質問は呑み込んださ。 いやまあ……というかその質問をすること自体に俺は身の危険を感じてしまったからなのだが…… まあとりあえず今は古泉の話を聞いてやろうぜ。 「原因はもちろんお分かりですよね?」 知らん。 ……などとは言えんよな。と言うか古泉のこの触らぬ神に祟りなしっぽい雰囲気を前に誤魔化すことなんざできん。 「……ポニーハルヒか?」 「ご名答……あなたと彼女の仲良さげなことに涼宮さんが嫉妬している……と考えるのが一番妥当ですからね……なんたって佐々木さんの時と違って今回の《神人》は暴走に近いくらい暴れまくっていましたから……《神人》の暴走機関車状態なんて初めて見ましたよ……ああ……彼らも走ることができるんだ……とどこか的外れな感想を抱くほどでした……」 そ、それはすまなかった。マジで悪い。 俺にもこれは想像できるな。あの青白い巨人が周りの建物を殴って壊すんじゃなくて走りまわって蹴散らすんだ。さぞかし壮絶な光景なことだろう。 しかしだな。ポニーハルヒが仲いいのは俺じゃなくて向こうの俺だ。向こうの俺を恨むならともかく、何で俺が悪者にならなきゃならんのだ? あと、お前だってポニーハルヒに冷たく当たるなんてできないだろ? あんな捨てられた子猫のような瞳で見つめられた日にゃ、おかしな趣味がない限り、絶対に庇護欲をそそられるってもんだぜ。 「確かにそうです……そしてそれは涼宮さんもそう思っています……ですからあんな凶暴な《神人》が生まれたんですよ……現実世界であなたやもう一人の涼宮さんに当たる訳にはいきませんからね……苛立ちまぎれを通り越して完全に怒り狂っいました……」 古泉の自虐的な笑みはまったく崩れる気配を見せない。 「古泉、そこのベンチで寝てろ。俺は一人でしばらくぶらついてくる。集合時間ぎりぎりに着くくらいになったら迎えに来る」 「いいのですか?」 俺の心ばかしの提案に、ここで初めて古泉は俺に視線を向けた。珍しく笑みが消え、虚をつかれた表情を見せている。 「仕方ないだろ。なんだかんだ言っても原因は俺だ。それにお前には何度か世話になっているし、ハルヒのご機嫌どりでも結構疲れているだろう。たまにはゆっくり休め。集合正午まででも二時間は楽に休めるし、今この季節はそんなに寒くない。むしろぽかぽか陽気が眠気をより一層誘うってもんだ。俺がお前の分もパラレルワールド入口探しをしといてやるぜ」 「それではお言葉に甘えまして――」 呟くと同時に古泉はベンチに横になって、途端、すでに眠りに落ちていた。 たまには一人でぶらつくのも気兼ねしなくていいってもんだ。 俺は古泉を置いて、河川敷を北上し始めた。 もっとも、やっぱりそう簡単に見つけることはできなかったがな。 正午駅前集合時、やっぱり向こうも見つけることはできなかったらしい。 無表情の長門の横に寄り添うように佇んでいるポニーハルヒは落胆の色を隠せていないし、こっちのハルヒは思いっきり苛立っていた。朝比奈さんに至ってはポニーハルヒに頭を下げっぱなしなのである。 別に朝比奈さんが悪いわけではないのだが、ポニーハルヒの今にも泣き出しそうな表情を見てしまえば、朝比奈さんじゃなくても申し訳ない気持ちでいっぱいになるよな。 つーわけで、こっちのハルヒのイライラ顔は自分自身に対してのものだ。 現に「首尾は?」という質問に対する俺の「何も」という回答を耳にして何の文句も言ってこなかったんだからな。 昼食も兼ねた喫茶店でこっちのハルヒは珍しく、俺と長門をポニーハルヒの両隣りに置いて、自分自身はポニーハルヒの正面に座り必死にポニーハルヒを元気づけていた。 んでポニーハルヒも涼宮ハルヒ本人だ。自分のことだから今、目の前の相手がどれだけ懸命に自分を励ましてくれていることを察してやれるのもたやすいってもんだ。 こっちのハルヒのおかげで、どうやらポニーハルヒに少し笑顔が戻ってきたときは俺も妙に嬉しかったぜ。 もっとも、そんな俺の表情を目にしたこっちのハルヒからは殺気の視線を向けられたがな。 さて、今度は午後の部だ。 もちろんクジ分けする訳で長門とポニーハルヒはセットな訳だが―― 俺は心底、古泉に良かったな、と言ってやりたくなった。 なんたって午後は俺と朝比奈さんと古泉になったんだ。 これで午後も古泉は就寝決定だ。俺と朝比奈さんの二人で探索してくるからお前は安心して眠っていろ。 もしハルヒが一緒にいようものなら古泉は絶対に無理をする。それで体を壊しちゃ元も子もないもんな。もしかたしたら今晩も、古泉言うところの暴走機関車《神人》を相手にしなきゃらんかもしれんし、それなら今はゆっくり休むといい。暴走機関車《神人》を発生させてしまったのは俺が原因なんだ。ハルヒは自分の力を知らない訳だから一緒に背負ってもらうことはできん。だったら俺がハルヒの分も古泉を気遣ってやればいい。 俺はそのためにいる。ハルヒの無茶の尻拭いするために俺はSOS団にいるんだ。長門、朝比奈さん、古泉が自分たちの役割を果たしつつSOS団の活動に付き合っているんだ。俺だって自分の役割くらい果たさないとな。 「あの……キョンくん……ごめんなさい……あたしあんまり役に立てなくて……」 「いやぁ全然」 二人で歩き出してしばらくしてから朝比奈さんがとっても沈痛な面持ちでいきなり謝罪されました。 もちろん、俺にも何故朝比奈さんが悪びれたのかの理由が分かっている。 「大丈夫ですよ。ポニーハルヒだって朝比奈さんの笑顔に癒されているはずです。それで充分ですよ」 「でも……」 「心配いりませんって。それに今回の出来事は実質誰も何の役にも立っていません。ですから朝比奈さんだけが罪悪感を背負う必要なんてないですよ。と言うよりもみんな、朝比奈さんと同じ気持ちでしょうし、たぶん、ポニーハルヒも同じく俺たちに申し訳ないと思っていることでしょう」 俺は気遣う笑顔を浮かべて言った。 そうなんだよな。 こと異世界となると宇宙的、未来的、あるいは超能力的ギミックはほとんど何も役に立たない訳で、実はハルヒの力もあまり意味を為さない。 なぜならハルヒが変革できるのはこの世界か自らが創造した世界であって、パラレルワールドまでその力を及ぼすとは思えない。 そんなことができるなら、ハルヒはこの世界に居やしない。とっくの昔に好き勝手に異世界を放浪していることだろうぜ。もちろん、俺やSOS団を巻き込んでな。 これは古泉が言っていたことなんだが、どんなに不思議な力を持っていようともハルヒだってこの世界の一部だからなんだ。 この理屈なら自身が存在する世界に干渉することはできても、異世界に対しては何もできない、ってことと同義語だ。 もちろん宇宙人、未来人、超能力者についても同じことが言える。 こいつらが存在するのはこっちの世界であり、こっちの世界以外の干渉力を持たない。 事実、もし長門が異世界の扉を開けるならとっくに開いているだろうし、古泉にしたってハルヒが創り出す閉鎖空間以外の異空間に侵入できるならポニーハルヒを送ってやることだって可能だ。朝比奈さんが越えてくるのは時間であって空間じゃない。 んで、もちろん俺には何の力もない。 つまり、SOS団全員がポニーハルヒに対しては何の力にもなってやれないってことなんだ。 それこそ、ハルヒの言った通りでパラレルワールドの入り口を見つけてやるくらいしかできないんだ。 だから朝比奈さんだけが悪びれる必要はないってことだ。 結局、午後も何も見つけることができなかった。 俺とこっちのハルヒで見送った長門の横にいたポニーハルヒの背中はなんだか今にも泣き出しそうでいじらしく、できるなら抱きしめてやりたいという気持ちにさえ駆られたさ。もちろん俺だけじゃなくてこっちのハルヒもだ。 「なあハルヒ」 「なに?」 「明日は必ず見つけ出してやろうぜ」 「言われなくても分かってるわよ!」 俺とハルヒはそんな会話を交わして今日は解散した。 明日ももちろん、SOS団町内不思議探索パトロールの予定が入っている。 しかしだな。 このときばかりは、俺には前の記憶が残ってもいいから、去年の夏休み、15498回繰り返したあの二週間を昨日と今日だけでいいからもう一度無限ループしてくれないか、と見送るこっちのハルヒの背中を見つめながら心の中で懇願していたんだ。 だってそうだろ? ポニーハルヒのあんな憔悴しきった背中を見てしまえば、二日間の記憶をリセットしてやりたい、って思うのも当然だろ? それに無限ループ日常で前の記憶が残るなら何をやって駄目だったかが分かるんだ。延々と二日間だけを繰り返したところで今度は前の二日間が無駄になる訳じゃないからな。 などと普段はハルヒの力を億劫にしか感じてなかったてのに、都合のいい時だけ発動してくれなんて自分勝手なことを願いながら俺はベッドで横になっていた。 今日も古泉は大変な思いをしているのだろうか、とも考えた。 ところがだ。 実は古泉は一つ、完全に間違っていた。 ハルヒはハルヒであってハルヒでしかない。 以前、頭の中で呟いたトートロジー。 それを再び思い出す事態が俺に降りかかったのである。いや今回は俺だけではなかったがな。 そうなのだ。ポニーハルヒも存在する世界が違うとは言え、涼宮ハルヒであってそれ以外の何者でもないのである。 内気だろうが、インドア派だろうが、ポニーテールだろうが、紛うことなく涼宮ハルヒその人だったんだ。 涼宮ハルヒの遭遇Ⅳ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/6015.html
11 36 キョン「はぁ、なんでこんなに遅く帰らなきゃいけねんだよ。」 俺はハルヒに付き合わさせられて遅く帰っていたときだった。 もぞもぞと動いていた物があった。 それを見てみると視界が暗くなった。俺が覚えている事はこれくらいしか無い。 7月6日 午後4 00 SOS団部室 ガチャ ハルヒ「みんないる~て、有希と古泉くんだけ~、みくるちゃんは。」 古泉「朝日奈さんなら少し遅れてくると、そういえばキョンさんは。」 ハルヒ「キョンだったら今日は休みよ。」 ハルヒ「なんか暇だから今日は帰るわ、古泉くんと有希も早く帰りなさいよ。」 古泉「そうですかではお言葉に甘えて帰らしてもらいます、では。」 続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3047.html
このSSにはオリジナルカードが若干登場します。 但しゲームバランスを崩すようなあまりにも強力なオリジナルカードは出ないのでご安心ください。 TURN-01 TURN-02 TURN-03 TURN-04 TURN-05 TURN-06 TURN-07 涼宮ハルヒの決闘 ハルヒのデュエル講座その1 ~デッキ編~ 涼宮ハルヒの決闘 ハルヒのデュエル講座その2 ~デュエル編~ 計算が間違っている、このカードの効果はおかしい、等の指摘があれば雑談所でしてくれれば幸いです。 確かめてから投下していますが、もしかしたら…というのもあるかもしれないので。 宜しくお願いします。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5841.html
涼宮ハルヒの遭遇Ⅱ さて、こういう場合はどういう言い訳を思いつけばいいのだろう? なんせ、俺はポニーハルヒに向こうの世界の俺のあだ名のことを問い詰めようと両肩を掴んで詰め寄っていたんだ。しかもポニーハルヒの表情は少し頬を染めて上気気味だったんだぜ。 その静止画像を見てしまえば、俺とポニーハルヒがイケナイことをしている場面に見えないこともない訳で、となるとこの後の展開がどうなるのかという想像をするのもたやすいってもんさ。 事実、今現在俺は自分の予想した通りの展開に陥っている訳だが…… 「で、これはどういうことなのかきちんと説明してくれるわよねぇ? キョぉン?」 ぎりぎりと俺のネクタイを締め付けるハルヒパワーは現在天井知らずで、おそらく今年、どんな猛暑が来ようともこの熱さには絶対に勝てないことだろう。 って、ちょっと待て。これは本気でやばい。窒息の危険を俺は完全に感じてしまっている。 「こ、古泉! 頼む! 助けてくれ!」 長門に頼もうものならちと手加減というものを知らなそうだし、ポニーハルヒはいきなりの展開にオロオロ状態な訳だから役に立ちそうにない。 となれば俺が古泉に助けを求めてしまうってのは消去法で確定的な選択肢だ。 が、古泉はいつもの俺たちの小競り合いを見つめる興味深げな面白そうな笑みを浮かべることなく、思いっきり苦笑を浮かべているだけである。 しかし、その表情は如実に「すみません。僕にもあなたを助け出すなんて無理です。ここは自力で乗り越えてください」と語ってやがる。 「きょぉ~~~ん、古泉くんは関係ないでしょぉ? どうせあんたが古泉くんの人の良さと有希の無口なのをいいことにこの子を連れ込んだことをやり過ごそうとしただけなんでしょぉ?」 ハルヒはちっとも笑っていない目で満面に笑みを浮かべながらさらに俺を締め上げる。 いや……悪いがその考えは全く逆だ……お前にこの子を見られたくないから古泉と長門が隠そうとしたんだ…… と言えればどれだけ楽かは分からんが、言ったところでハルヒが俺の言葉を信じるわけがない。それは長門のお墨付きだ。 じゃあどうする? このままでは俺は明日の朝日はもちろん、今日の夕日どころか、昼休み終了のチャイムさえ聞けそうにないぞ。 「あ、あの……そっちのあたし! キョンくんに乱暴しないでください……!」 って、え……!? その意外な助け船はこの場にいる人間の中では一番頼りになりそうになかったはずの、しかし精一杯勇気を振り絞った感ありありの声だった。 「パラレルワールドから迷い込んだですって!?」 「は、はい……」 明るい声を張り上げながら、ハルヒは爛々と輝く瞳で今一度マジマジとポニーハルヒを見定めている。 どうやらポニーハルヒは恥ずかしそうなのだが、こっちのハルヒがそんなものに構う訳ないよな。それも自分自身なんだ。自分が自分に気を使うなんてまずないだろうぜ。 「やれやれ」 俺は嘆息して、そのまま古泉と長門に視線を移す。 長門は無表情の中に少しだけ悔恨を隠しきれない表情を浮かべているし、古泉に至っては完全に無言でしかしその瞳はひたすら俺に謝り続けている。 まあ仕方ないよな。 俺だってハルヒが立ち去ったことで安堵してしまったんだ。長門と古泉が同じ思いを抱いて注意力も霧散させてしまったって仕方無いことだ。 「素晴らしいわ! そっちのあたし! ね、キョン、すごいと思わない? 今まであたしたちが逢いたくてたまらなかった宇宙人、未来人、異世界人、超能力者の内の一人なのよ! これで興奮してこなきゃウソってもんよ!」 ポニーハルヒから、まるで瞬間移動したかのように俺に詰め寄りながら口角泡を飛ばすこっちのハルヒ。 で、あたしたち、って何だ? 俺は別にそういった連中との遭遇を――待ち望んだことはないとは言わないが、それはもう中学を卒業する時に一緒にそういう夢を見ることからも卒業していたんだ。 だいたい異世界人と遭遇するのは今回が初めてだが宇宙人、未来人、超能力者とはもう逢っているんだ。 お前みたいに、そこまで興奮することもなければ驚愕することだってないぞ。申し訳ないがお前と喜びを分かち合ってやることはできん。 「なあハルヒ。そっちのハルヒはこっちに遊びに来たわけじゃない。迷い込んで来たわけだから、そんな嬉しがるような表情を見せちゃ悪いんじゃないか? お前もこのハルヒを向こうに帰してやる方法を考えてやろうぜ。そっちの方が彼女も喜ぶってもんだ。それにこっちのハルヒは世界が違うだけでお前でもあるんだ。お前だって自分が喜ぶことをしてやりたいと思わないわけじゃないんだろ?」 「ん、まあそうなんだけどさ。でも仕方ないじゃない! あたしにとっては四年ぶりの不思議遭遇なんだし、ちょっとくらい浸ったっていいじゃない!」 俺のツッコミにハルヒが会心の笑顔のままで、しかしどこか拗ねたような口調で返してくる。 四年ぶり、か…… ハルヒのその言葉を聞いて俺の胸の内には夏の夜空の下のグランドが浮かぶ。 もしかしたらハルヒの不思議遭遇はそれが最初だったのかもしれんな。 などと感慨深げにもなったりしたのだが―― 「そう言えば、そっちのあたしさ」 「え? な、何ですか!?」 いきなり振られて思いっきり戸惑うポニーハルヒ。 「そんなにおっかなびっくりしなくてもいいわよ。別にあたしだってあたしにイロイロしようなんて思わないもん。んなの自分がやればいいし、そうじゃなかったらみくるちゃんにやってもらうから」 はい、朝比奈さんはお前のおもちゃじゃないんだぞ。 俺はジト目の横目でツッコミを入れるがむろん、ハルヒは気にしない。 「それよりも気になったのは、あなたがこいつのことを『キョン』って呼んだことなのよ。向こうの世界のこいつもキョンって間抜けなあだ名なの? あとそっちのキョンとはどんな関係なの?」 「あ……うん……その……彼が『キョン』って呼んでもいいって言ってくれたし……」 戸惑うような口調はそのままなのだが、しかしポニーハルヒはどこか純情乙女の恥じらいの表情で、向こうの世界の俺との関係を話してくれた。 なんでもポニーハルヒはこっちのハルヒと本当にまったく正反対で、しかし内気すぎるがゆえにうまく人と接することができず高校入学から一ヶ月で、やっぱりこっちのハルヒ同様、クラスから孤立してしまったらしい。その間にやはりというかなんと言うかポニーハルヒの前の席になったのは向こうの世界の俺だったらしいのだが、その俺も入学式翌日から三日ほどは話しかけてくれてはきたがやっぱりうまく受け答えできなくていつしかそっちの俺もポニーハルヒに話しかけることを諦めたそうだ。 で、一ヶ月経って、このままじゃいけないと一念発起して、今の髪型・ポニーテールで登校した。 だが、もうクラスの誰もポニーハルヒを気に留める者はおらず、髪型のことを聞いてきてくれるクラスメイトはいなかったとか。 泣きそうになって落ち込んできたところに、向こうの俺が教室に入ってきて座った途端、振り向いて声をかけたんだとよ。「髪形変えたのか?」ってな。 ポニーハルヒは相当びっくりして思わず、あっちの俺の目を見て「うん……」と答えたところ、俺が「似合ってるぞ」と笑顔を向けてくれてかなり嬉しかったってさ。 それが高校入学以来、ポニーハルヒが初めて成立した会話とも言っていた。 んで、それがきっかけになって、以来、少しずつあっちの俺と会話出来るようになり、いつしか二人一緒に行動するようになっていったんだとよ。 あと長門との出会いも一緒に話してくれた。 もちろんこっちの長門じゃない。あっちの世界の長門のことだ。 あっちの世界の長門も文芸部室にいて、こちらと同じ文芸部部長という肩書を持っているらしく、ただその肩書は単にポニーハルヒと向こうの俺が入るよりも先に文芸部に入ったがために強制的に持たされた肩書だそうだ。向こうの文芸部も前の年の三年生が卒業して部員0、休部が決まっていたクラブなのだが向こうの長門が入部したことによりその危機を免れたとのこと。 このあたりはこっちの世界と似たようなもんだな。まあパラレルワールドは並行世界。似たような、それでいて違う世界がパラパラ漫画のように空間を隔てていくつも存在している世界なんだから詳細はともかく全体的な設定が似ていたとしても不思議はないんだろうぜ。 おっと、向こうの長門とポニーハルヒの出会いのいきさつだが、ポニーハルヒは元々、小説執筆が趣味らしく、入学当初から文芸部に入りたかったらしいのだが言うまでもなく思い切りを持てなかったんだってよ。 それで向こうの俺と一緒に行動するようになって、去年の文化祭での代理ヴォーカルのお礼にを言いにきた諸先輩方に一人で対面する気概が持てなかったこっちのハルヒ同様、一人じゃ思い切りを持てなかったもんで、そいつと一緒に文芸部室のドアをノックしたとか。 んで、むろん、このポニーハルヒを向こうの俺が放っておける訳もなく、一緒に文芸部に入部したそうだ。 向こうの世界の長門の裏設定は知らんが、こっちの長門と性格はどうやら違っていて、頼りがいがあり優しい笑顔がトレードマークの部長さんだそうで、向こうの俺に続いて、向こうの長門もポニーハルヒを受け入れてくれたんだってさ。 と言う訳で、こっちの世界の長門にポニーハルヒが縋ってしまったのも仕方がないというわけだ。 この後は、その後一年間のポニーハルヒと向こうの俺と長門との文芸部ライフや俺と親睦をどんどん深めていく話へと向かうのだが…… 「それでね……ずっと彼のことを名字の『さん』付で呼んでたんだけど、クラスのみんなが彼のことを『キョン』て呼んでたんで、思い切ってあたしもいいかな?って聞いたら、彼がちょっと困った表情を浮かべてたけど優しげに『いいよ』って言ってくれて……『その代わり俺もお前のことを下の名前で呼ばせてもらうぞ』って言って……って、あの……そっちのあたし、いったいどうしたんですか……?」 「いいえぇ~~~なんでもぉぉぉ」 ポニーハルヒの思い出話というかほとんど惚気話にしか聞こえない邂逅が進んでいくに連れてハルヒは殺意にも似たなんとも表現し難い雰囲気のボルテージを上げていったのである。 と言うか、ハルヒはポニーハルヒの思い出話の中の俺が「似合ってるぞ」と声をかけたシーンの時にいきなり俺に裏拳をかまし、『二人一緒に行動するようになった』ってところくらいでブルドッキングヘッドロックを敢行して、その後の話の間中、俺に脇四方固めを仕掛けて今現在ぎりぎりと俺を締め上げているのである。 ちょ、ちょっと待て……ポニーハルヒに優しげな声をかけたのは俺じゃなくて向こうの俺だ……あと一緒にいるのも俺じゃない……つか、俺も前にお前のポニーテールを褒めてやったじゃねえか……いや、マジで死ぬ……頼むから勘弁してくれ…… 「あ、でも良かった♡」 そんな俺とハルヒの絡みあいをちょっと戸惑い気味に見学していたポニーハルヒが急に安堵感を如実に表した表情で微笑みかけてくる。 これのどこが良かったんだ? このままだと俺はハルヒに殺されてしまいかねないのだが…… 「何が?」 と言う訳で声を出せない俺の代わりに問いかけたのは肩越しにポニーハルヒをどこか睨みつけているこっちのハルヒである。 その声もとってもドスが利いているのだが、どういう訳かポニーハルヒの笑顔は崩れる気配を全く見せない。 ポニーハルヒの思い出話とこの世界に現われてからの行動を鑑みればこっちのハルヒにビビって怖じ気づきそうなものなのだが…… 「だって、こっちのキョンくんとあたしも仲良さげなんだもん。だから安心した」 うぉい! よくもまあ臆面もなく朗らかな笑顔でんなことを口にできるもんですな!? 俺のツッコミは声にならなかったが、その言葉を聞いてこっちのハルヒが即座に思わず俺を開放してくれた。 んで、 「ちょ、ちょっと待ってよ! あたしとキョンは別に……と言うか仲が悪くなくて当然でしょ! だって、あたしが団長でこいつは平団員の同じ団所属なんだから仲悪い訳ないじゃない……! って、古泉くん! 何? その微笑ましいものを見るような顔は!」 「いえ、とんでもない。微笑ましいものを見るような、ではなくて本当に微笑ましいものですから」 「それはフォローになっていない。トドメ」 ハルヒの狼狽言い訳に古泉が応えて、長門が珍しくツッコミを入れた。 と言うか、俺もこんなハルヒは面白いとさえ思っている。さっきの首絞めのクレームなんざ銀河の彼方に葬り去れそうなくらいだ。 なんせ何も言い返せなくなって真っ赤になって言葉を失ったハルヒなんてそうそう見れるものじゃないからな。 そんな微笑ましいやり取りには当然時間制限があり、午後の始業チャイムが聞こえてくればお楽しみは放課後まで我慢しなくちゃないはずだったのだが今日は長門が情報操作してくれた。 どんな情報操作をしたのかと言うと俺とハルヒのクラスと長門のクラスの午後からの授業を全て自習にしたことである。 表向きな理由はハルヒのご機嫌どりでポニーハルヒと一緒に居させてやりたかったからだ。まあ、せっかくハルヒの目の前に現れた異世界人なんだ。心ゆくまで堪能させてやればいいさ。 できれば黙っていたかったんだがバレてしまったものは仕方がない。古泉と長門も開き直って黙認することにした。 むろん問題がないわけじゃない。ハルヒには『ある』と思ってしまえば現実になってしまう世界を都合よく改変できるというハタ迷惑な能力を持っているわけだから、これでハルヒは『異世界』を認識してしまったことになり、今後、わらわらと異世界人がそこら中の別世界から現れるかもしれんからな。 しかし、俺も古泉も長門も、ハルヒが別の認識を持ったことに気付いたから気にしないことにしたんだ。 何かって? それは俺が言ったことさ。 ――ポニーハルヒは遊びに来たんじゃなくて迷い込んだ―― 異世界からこっちの世界にはそう簡単に来れるはずもなく、奇跡に近い確率をくぐり抜ける、それも自分の意志ではない『偶然』というあやふやな事態が起こって初めて遭遇できる出来事であることをハルヒが理解してくれたんだ。 つまり、今回のことは文字どおり『たまたま』、異世界人と巡り会えたと思ってくれたってことさ。 こういう認識ならそんなもん、テレビや雑誌で報道される胡散臭い不思議現象とそう変わらない認識でしかないし、それが今回は(待ち望んでいたとは言え)珍しく自分の目の前で起こったってだけでイレギュラー事態としか思わんだろしな。 ハルヒは不思議な事柄はあると思っていながら逆にあり得るはずがないとも思っている訳で、ハルヒが望み、またあり得ないと思っているのは『自由に行き来できる異世界人』であり、そうでなければ常識として定着されるわけがない。 これが古泉と長門が黙認した理由だ。世界が揺らぐ心配がないからこそ放置したんだ。 もっともハルヒも含めて俺たちは是が非でもポニーハルヒを元の世界に帰してやらなきゃならないって気持ちは一致しているがな。 しかしだな。俺たちの午後からの授業を全て自習にしてまでポニーハルヒを保護しなくちゃいけないのは何故か。朝比奈さんは構わないだろうけど、それでも俺たち以外にポニーハルヒを見せたくないのであれば、この文芸部室に幽閉しておけば済む話だ。ここならSOS団以外、誰も入ってくるはずがない。来るとしても部外者しかおらず、当然ノックする。そんなもの鍵をかけて居留守を使えば済む話だ。古泉発案の傀儡生徒会長は俺たちが集まっていない限り来る訳がない。 と言うことはだ。もう一つ、このポニーハルヒを俺たちで保護しなくちゃならない理由があるわけだが、それを俺が知ったのはもうちょっと後になってからだ。 涼宮ハルヒの遭遇Ⅲ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/522.html
プロローグ 高校卒業して4年経った… 俺は、今、新人として会社を勤めてる… 皆の状況を知らせて置く事にしよう 谷口は、現在NEET化になって、職探しを求めてる 国木田は、高校の教師として勤めてる 鶴屋さんは、父の跡継ぎに働いてると聞いた 古泉は、政治界に入って活躍してるらしい 朝比奈さんは、一時に未来へ帰ったが…去年帰って来て、現在はOLとして勤めてる 長門は、本が好きで図書館の仕事に勤めてる ハルヒ?ハルヒは…「ムー」と言う本の編集者になって働いてる… やれやれ、ハルヒはこういうの好きだからな… さて、仕事が終わり、家に帰る所だが… 偶然、あの懐かしき涼宮ハルヒに会った… 「!…ハルヒ?」 ハルヒ「ん?誰?あたしをよ……!キョン?」 3年ぶりの再会である… しかし、こんな時間に何やってんだ? ハルヒ「仕事よ、仕事…宇宙がどうのこうのって奴よ」 そ…そうか… ハルヒ「それにしても、久しぶりね…元気してた?」 「あぁ、してたさ」 ハルヒ「そぅ………」 「ん?今何で言った?」 ハルヒ「何でもないわ…そうだ、一緒に居酒屋へ行かない?」 …ま、多分、俺の奢りだろうよ… ハルヒ「違うわ、あたしが奢るよ」 …そ、そうか… ……ハルヒ、変わった…のか? さて、今、居酒屋に居る… ハルヒ「さ、何でもいいわ!すみませーん、ビール2つ」 ?…あれ?…ハルヒって、酒に弱かったっけ? 「ハルヒ、酒弱かったんじゃないのか?」 ハルヒ「アレは、昔の事よ?昔と同じしないでね」 …そうか、確かにハルヒは変わった… 確かに、変わったんだがな…何か、腑に落ちない感じがする この後、二人で仕事の話、懐かしき日の話など喋った…笑ったりもした。 そして、帰り道… ハルヒ「ねぇ、キョン…電話番号とメアド教えてくれない?」 ん?いきなり何言ってるんだろうか? 「あぁ、教えてやる…090-……で、家は……そして、メアドは……これだけだな」 ハルヒ「ありがとう、まだ機会あったらメール送るわ」 「あぁ、分かった…」 …変わったんだな、ハルヒ… 「……帰るか」 ふぃー、疲れた… 今、俺が住んでる場所は…都会内の少し金高かったマンションである… 部屋は、シンプルな空間になってる… 「…シャワーでも浴びるか…」 サァー… 涼宮ハルヒ、6、7年前…初めて会った… SOS団も作って活動した…あの夢も激しく覚えてる… そして、3年後…ハルヒはこう言った…泣きそうな声で 「SOS団はこれでお終いです…あたしは、楽しかったわ…… 別れるのは…おしいけど…いつか、まだ会える気がするわ… 元気でね…皆…ありがとう…そして、さようなら…」 あの時は覚えてる…アレから4年経ったのか… ふぃー…さっぱりした… ♪~♪~♪~ ?携帯鳴ってるな…誰だろうか… [メール着信 涼宮ハルヒ] ハルヒ!? しかし、何故、メールが来るんだ? 取りあえず、開くか… From涼宮ハルヒ Subキョンへ ――――――――――――― 今日は楽しかったわ!ありが とう! あたしの頼み…聞いてくれる? 土曜日に遊園地行かない? 返信待ってます。 ハルヒ……土曜日は…何も無いな… …よし、返信しよう…勿論行くとな… しかし、こっちの方が憂鬱だね ハルヒがあんなに変わるとは誰も予想しなかったとは… 土曜日ね… さて、今日は土曜日である! 俺が勝手に「デート」だと思っておく事にしよう 俺の愛車に乗って待ち合わせへ向かう… 確か、○○公園だな…お、ここだ!ここだ! さて、ハルヒは… ハルヒ「♪~♪~♪~」 いた 何やら、楽しみにしてるように鼻唄を歌ってる…行くかな 「よぅ、ハルヒ…待たせてスマなかったな」 ハルヒ「ううん、いいの…混んでたんでしょ?」 「ん、まぁ…そういう事だ…んで、どこの遊園地?」 ハルヒ「東京と言えば、ディ○ニーランドだけど…ダメかな?」 !?…か、可愛い!こんなに前より可愛くなったな… 取りあえず、今の感情を表に出さないでっと 「いや、構わんよ、金は十分あるからな」 ハルヒ「ありがと!キョン」 こうして、ディ○ニーランドへ向かったのである 今、遊園地に着いたけど、大変だった 交通道路を利用しようと思ったら混んでるわ 遊園地の近くに渋滞あるわ ははははは…見ろよ!人がゴミのようだ!と思われるぐらい、いっぱいいた… トータルして、2時間掛かったね ハルヒ「ホントにゴメンね」 「いや、行きたがったんだろ?だから、いいじゃないか…どれ乗る?」 ハルヒ「そうね、ジェットコースター乗りたいわね」 「了解!」 と、俺は軍人みたいに敬礼した ハルヒ「あはははは…何、軍人みたいな事してるのよ」 「はははは…」 とまぁ、色々楽しく乗り物乗ったり、買い物したりもした。 「っと、日が暮れたな…」 ハルヒ「そうね…最後に観覧車乗って帰ろっか」 「そうだな」 と、ハルヒと一緒に観覧車へ足を運んだのである 金を払い、ハルヒと一緒に観覧車に乗った。 …何だが、変な雰囲気になりそうだ… 長い長い沈黙が続いたが…それを破ったのは ハルヒ「ねぇ、キョン…」 ハルヒである… 「何だ?」 ハルヒ「綺麗だね」 「…あぁ」 「……」 「……」 むぅ、耐えられんな…この沈黙は… ハルヒ「ねぇ、キョン…あたしの話聞いてくれる?」 「…何だ?」 ハルヒサイド あたしは、初めてキョンに会った時、少し戸惑いだわ… 小学校頃、ある男に似てだからね… そして、あたしはそう思った…この人ならあたしを変えてくれるかな?と… その結果、少しだけ…ほんの少しだけ変わったわ…キョン、あんたに感謝したいわ… ………キョン、これだけは言わせて…あたしは、あんたが好きよ…大好きだから… 4年間、あんたと離れて物凄く寂しかったの…寂しかったのよ! キョン!あたしは物凄く…物凄く…うっ、ううっ…うっ… ハルヒサイド終了 ハルヒ「うっ…うっうっ…」 ハルヒ…4年間、寂しい思いをしてたのか… 「ハルヒ、ゴメンな…4年間、お前の気持ち分かってなくで… 本当にゴメンな!俺だって、ハルヒの事が好きだ…大好きなんだ…」 ハルヒ「キョン…」 言え!俺よ!チャンスは一度しかない! 「ハルヒ…ちゃんと聞いてくれ…」 ハルヒ「う、うん…」 「け、けっ…け、け、けっ…ふー…結婚しよう!お前を幸せしてやる!」 ハルヒ「え!?」 「やれやれ…何と言ったら分かるんだ…幸せしてやるよ…ハルヒ」 ハルヒ「あ、あぁ…あ…キョン!ありがとう!キョン」 と、めでたくキスしたのである… 「お、ハルヒ…外見ろよ」 ハルヒ「え?…わぁ…雪だ…」 「あぁ…」 ハルヒ「キョン…」 「ハルヒ」 と、まだキスした ――ありがとう、キョン… エピローグ 数ヵ月後…色々あったが… 俺は、ハルヒとめでたく結婚した! みくる「おめでとうございます」 ありがとう、朝比奈さん 古泉「おめでどうございます。あなたの尻を見たかったですけどね」 ありがとな、だけど…いい加減ホモから卒業しろ 長門「……おめでとう」 ありがとう、長門…長門もいい相手見つけてくれよ 谷口「君の心に今すぐアクセス!いやいや、おめでとう!キョン」 ありがとうよ、だが…今のカッコ悪い… 国木田「おめでとう、キョン」 おぅ、ありがとよ 鶴屋「おでとう、キョンくん!めがっさ頑張って!」 ありがとう、鶴屋さん と、まぁ…ここへ来た皆様がお祝いしてくれたのである。 「……ハルヒ」 ハルヒ「ん?」 「今日の夜はアレだから、準備してなwww」 「え!?あ、その…もぅ、キョン!恥ずかしい事言わないでよ!」 「ははははは…」 そして、ハルヒは仕事を辞め、主婦として少し忙しい日々を送ってる キョンはハルヒのために、一生懸命働いてる。 二人は、今、幸せである… 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5098.html
文字サイズ小で上手く表示されると思います 涼宮ハルヒの愛惜 最終話 ハルヒの選択 後編 古泉。お前、ハルヒがSOS団を作った目的って覚えているか? 「え? ……はい、覚えています」 呆けた顔の超能力者は、床に座ったままで頷く。 そうか、じゃあ言ってみろ。 「宇宙人や未来人、超能力者を見つけて一緒に遊ぶこと……ですか?」 そうだ。 あの時のハルヒの楽しそうな顔は、生涯忘れられそうにないぜ。 ハルヒにとって未来人や宇宙人、超能力者ってのはいったいなんだと思う? 「涼宮さんにとっての……?」 そうさ、あいつは別に宇宙人でも未来人でも超能力者でも異世界人でも男でも女でもい い、自分が特別だって思えるくらいに一緒に居て楽しい存在を探してたんだ。そして見つ かったのが、朝比奈さんに長門、そしてお前。あと、ついでに俺だな。あれから半年以上 一緒に居るんだ、そろそろわかろうぜ? 「何を……でしょうか」 おいおい、俺に全部言わせるつもりか? 古泉の目の前に立ち、俺は溜息をついた。その溜息は古泉だけに向けられた物ではなく ……何ていうか自分にも向けられた物でもある。 あいつはお前らの正体に気づいてないのに、宇宙人も未来人も超能力者も探さなくなっ た。つまり、あいつは目的の存在をもう見つけてるんだよ。あいつが見つけた宇宙人でも 未来人でも超能力者でもなく、一緒に居て自分が特別な存在だって思えちまう程楽しい存 在ってのは……正体なんて関係ない、団員である俺達なんだよ。 ……やれやれ、お互い大変な奴に選ばれちまったもんだよな。 俺はまだ座ったままでいる古泉の前に手を差し出した。 古泉、もしもお前がハルヒと一緒に居る事から降りるのなら仕方ないが、まだそのつも りが無いのならついてこい。ハルヒはお前を待ってるぞ。みんなも……ついでに俺もな。 涙で歪んでいた古泉の目に――遅せーよ――ようやく力が戻った。 古泉の手が俺の手を掴んだ所で、俺は目を覚ましてやろうとわざと乱暴に引き起こす。 よろけながら立ち上がり 「……また、借りができてしまいましたね」 照れくさそうにしている古泉を睨み、 なんのことだ。 俺はそう言い返した。 「今回の機関の動きについて僕にわかる事は一つだけ、涼宮さんの誘拐に森さんが関わっ ているという事だけです」 鶴屋さんが用意してくれた10人は乗れそうな3列シートの大型ワゴン車――運転手付 き――の中で、ようやく調子を取り戻した古泉が口を開いた。 ちなみに車の持ち主である鶴屋さんは「内緒話ししなきゃなんでしょ? あたしは前に 座ってるからさ。目的地が決まるまではあたしの心当たりをぐるぐる回ってるからね」と 言って助手席に座ってくれている。 ここまで手助けしてもらっておいて、何も言えなくてすみません。 「森さんってあの、孤島の別荘で色々とお世話をしてくれた人ですよね」 「ええ、彼女です」 って事は、あの人も機関とやらの一員なのか? 「はい。機関で最も優秀な人材と言われています」 躊躇いがちに答える、古泉の顔色がやけに悪い。 「……あの、どうして森さんは涼宮さんを誘拐したんでしょうか」 「そこまでは。ただ、実際に機関の部隊が動いている様なので今回の件は彼女の独断では なく機関の作戦による物だと思います。ですが僕はメンバーから外されているのでこれ以 上の事はわかりません」 古泉、前に言ってた気配がどうとかでハルヒの居場所ってのはわからないのか? 「かなり近づけば大体の居場所はわかるんですが、今はただ、彼女が無事だという事しか わかりません」 そうか……。長門、喜緑さんからあれから連絡は? 「しばらく待って欲しいとメールが来てから、連絡が無い」 喜緑さんでも状況を掴めないとなるとこれは大事だな……ここまでくると、俺が頼れそ うなのは後1人しか居ない。 俺が恐る恐る朝比奈さんへと視線を向けると、 「……ごめんなさい」 何も聞く前に朝比奈さんは暗い顔で俯いてしまった。 ……ですよね。 そもそも、これが話していい事なら前みたいに事が起きる前に警告なり相談なりされそ うなもんだ。 俺が異変に気づいたきっかけである朝比奈さんからあった電話の内容は、未来からの指 示で今すぐハルヒを探さなくちゃいけないという事だけだった。 何の事かわからなかった俺と朝比奈さんは、ハルヒや古泉に電話してみたり、鶴屋さん に調べてもらっていく間にハルヒが誘拐されたという結論に行き着いたわけだ。 最初、俺はハルヒが「宇宙人にさらわれてみたい!」等と思いついたんじゃないかと心 配したんだが……相手が謎の機関だったんじゃ……どっちもどっちだよなぁ。 しかし……超能力者も未来人も元宇宙人も駄目となると、後は現役宇宙人である喜緑さ んの連絡を待つしかないんだろうか。 思わず無言になった俺達が居る後部座席に、 「ね~! お話は終わった?」 助手席から退屈そうな鶴屋さんの声が聞こえてきた。 すみません、まだ何処へ行けばいいのかわからなくて。 「そうなの? とりあえずハルにゃんの居そうな場所には着いたんだけど」 当たり前の様に告げられたその言葉に呆然とする俺達に、鶴屋さんは楽しそうにフロン トガラスの向こうを指差している。 気づけばいつの間にか車は止まっていて、鶴屋さんが指差す先にはヘッドライトに照ら された北高校の校門があった。 車を飛び出した俺達は、真夜中の校庭を走っていく。 そんな中、俺は隣を走る鶴屋さんに疑問をぶつけてみた。 鶴屋さん。ここにハルヒがいるって、どうしてわかったんですか? 「えっ? ああ、古泉君の住んでる場所を探したのと同じ方法で探したのさ!」 古泉の家って……確か、俺との通話記録から契約情報を割り出したんでしたっけ? 「そうそう。学校のデータを探してる時間がなかったから携帯会社のサーバーにちょろん とアクセスしてね! それで、ついでにみんなの通話記録を検索してみたらビンゴってわ けさ」 ビンゴ、ですか。 さらわれた後、誰かがハルヒと電話した記録が残ってたんだろうか。 「みんなの通信記録の中で1人だけ居た不自然な反応。その人はずっとこの場所で留まっ てたってわけ」 それが、ハルヒって事ですか。 「え? 違う違う!」 慌てて鶴屋さんは手を振って見せる。 「見つかった不自然な反応っていうのはね? みんなから聞いた話ではハルにゃんを探し てるはずなのに、ず~っとこの学校の中でじっとしてたのさ。それはもちろんハルにゃん じゃなくって……あの人」 そういって鶴屋さんが指差した先、グランドの中央に立つ小さな人影。 俺達を待ち構える様に立ちはだかったのは――俺が最後の切り札だと思っていた人 「……困ります」 マジかよ……。 月の光に照らされた穏やかな顔つきの上級生、喜緑江美里さんの姿だった。 ――別に言葉や態度で足止めされている訳ではないのだが、彼女の手前で全員が足を止 める。 機関とやらがどれ程やばい物なのか俺は知らん、古泉が何故か怖がっている森さんの凄 さってのもな。 そんな俺でもこの人のやばさなら何となくだが分かるぞ。 大人しい上級生にしか見えない喜緑さんだが、その正体はれっきとした宇宙人なんだ。 その実力を俺より知っているのかも知れない古泉だけでなく、事情を知らない鶴屋さん でさえも迂闊に動けないでいる。 俺達を見回した後、 「このまま、何も聞かずに帰ってもらえないでしょうか」 喜緑さんは疲れたような声でそう言った。 この先にハルヒが居るんですね。 俺の質問に、喜緑さんは視線を向けるだけで何も答えてはくれない。 何も聞くな……って事か。 「ここまで来れば僕にもわかります。間違いなく、この先に涼宮さんが居ます」 そう言って、古泉は喜緑さんの後方にある部室棟の方向を指差した。 古泉、ハルヒは無事なんだろうな? 「今のところは」 とはいえここでのんびりしてていいとは思えない、何とか説得を試みようと俺が一歩踏 み出した時、 「待って」 後ろに立っていた長門が、俺の手を掴んで引き止めた。 「彼女は、私が引き受ける」 引き受けるったって……お前はもう普通の人間なんだろ? 以前、朝倉から俺を守ってくれた時なら話はわかるが、今のお前じゃそんな無茶はでき ないはずだ。 「大丈夫」 俺の目を見てそう言い切る長門は、ゆっくりと頷いた後 「信じて」 と、付け加えた。 どう考えたって大丈夫じゃない、相手は宇宙人でお前は元宇宙人でしかないんだ。 「…………」 ……そんな説得をした所で、お前が聞くわけはないか。 俺はそっと朝比奈さんの方へ視線を送る――これから起きるであろう未来を知っている はずの朝比奈さんに。 これがチートだの小細工だの歴史改竄だのと言われようが知った事か、俺は長門を危険 な目に合わせる訳にはいかないんだ。 そんな俺の思いを知ってなのかどうかはしらないが、朝比奈さんはしばらく迷った後、 目を閉じて小さく頷いてくれた。 すんません、後で怒られる様な事があったら俺に好きなだけ八つ当たりしてくださいね。 俺は朝比奈さんから長門に向き直り、その小さな両肩に手を乗せた。 本当に大丈夫なんだな。 「大丈夫」 俺を見つめている長門の目は、嘘をついている様には見えなかった。 そうか。危なくなったらすぐに助けを呼ぶんだぞ? 「そうする」 いつか見たのと同じ、何かを決意した顔で俺を見る長門の頭を撫でつつ、俺は頷いた。 よし……頼んだ。 ―― 感じるまま、感じる事だけを ―― 月明かりも差し込まない学校の中庭に、4人の高校生が走りこんでくる。 その姿を捕らえた監視カメラは、映像の中の動く物体を機械的にサーチしていった。 「……」 机に置かれたモニターの中を動く4人の人影を、森は無言のまま見つめている。 彼らが部室棟の入口付近に辿り着いた時、建物の入口とその周辺に隠れていた機関の実 行部隊が作戦通りに彼等を取り囲んだ。 まず、朝比奈みくるをマネキンを梱包するくらいに問題なく捕縛。 次に彼女を庇おうとした彼を捕縛。 抵抗しても無駄だと分かっているのだろう、古泉も抵抗を止める。 最後に…… てぇーいりゃー!! 4人中3人を捕まえて油断していたのだろう。油断していた黒服の男から警棒を奪い取 ったあたしは、迷う事無く相手の鎖骨付近に警棒を叩き込んだ。 何かが砕ける感触を感じる間もなく、残りの襲撃者に視線を向ける。 あたしが抵抗する事が余程予想外だったのかな? 動きを止めた男の1人に警棒を投げつけて、あたしは飛んでいく警棒を追いかけるよう にして駆け出す。 顔に向かって飛んできた警棒を両手で防ごうとする相手に、警棒よりも先にあたしの肘 が腹部にめり込む。くの字に曲がった男の顔に、ようやく飛んできた警棒が激突した。 「鶴屋さん?」 それが誰の声だったのかわからないけど、あたしの動きは止まらない。 地面に落ちた警棒を拾って、次の相手へと飛び掛っていく。 「無駄な抵抗をす ごっめんねー、聞いてる余裕ないのっ。 大きく開いた男の口に、あたしが投げた警棒が突き刺さった。 残った敵は……見える範囲に居るのは2人、見た目では武器無し。 身構える相手に、あたしはここからが正念場だと思ったんだけど……。 「退け」 現れた時と同じ、倒れた仲間を連れて音も無く黒服の襲撃者は去って行ってしまった。 暗闇の中、頬の傍にあるマイクを意識しながら小さな声で呟く。 実行部隊が壊滅した。プランBに移行する。 「かしこまりました」 無線から聞こえる返事には、僅かな動揺も感じられなかった。 言う必要はない事だが……。 目標の中に、鶴屋家の御令嬢が居る。 なんとなく、そう付け加えると 「……なるほど、実行部隊5人では歯が立たない訳ですな」 今度の返事には、少し楽しそうな響きがあった。 予定通りに頼むぞ、新川。 返事を待たずに無線を切った森は、来るべき時に備えて機器の撤収に取り掛かった。 「ふぇ~……こ、怖かったです~」 はいはい泣かない泣かないっ! みんな~怪我とかないかな? 涙目のみくるを慰めつつ、あたしはふらついている2人に声をかけた。 「俺は大丈夫です」 みくるを庇った時にぶつけた頭をさすりつつ、キョン君も答える。 「僕も怪我はありません。ですが、まさかここまで乱暴な手段に出るとは……」 ショックを受けた顔で古泉君は呟いた。 全力で追い返しておいてフォローするのもなんだけどさ、今の連中ってあたし達に危害 を加えるつもりはなかったみたいだよ? 「え?」 ほらこれ、さっきの奴らの落し物だけど。木製の警棒と防犯用の捕獲ロープだもん。こ れを見る限り何か目的があってあたし達を捕まえたかったみたいだね。ただ単に邪魔なだ けだったら、もっと簡単な方法があるっしょ。 そう、これって危害を加えずに捕獲したかったとしか思えないんだよね……。 今更だけど、敵の目的が何なのかを考え出したあたし達の前に 「お忙しいところ失礼します」 ――あたしの目には、その人は突然現れた様に見えた。 背中を冷たい汗が伝っていく。 さっきあたし達を捕まえようとした奴らが飛び出して来た時も、あたしはその動きにす ぐに気づいて反応できた。 それからもあたしは警戒を続けていたはずなのに、その男の人が口を開くまで、あたし はその人の存在に全く気がつけなかったのさ。 「貴方は……もしかして」 「新川さん」 キョン君と古泉君の言葉に、その男の人――執事服に身を包んだ落ち着いた雰囲気の男 性、新川さんは恭しく頭を下げてみせる。 「ご無沙汰しております」 「貴方も、ハルヒを誘拐した連中の仲間なんですか?」 キョン君の質問に、 「左様で御座います」 新川さんは間を置いて頷く。 「訳を聞かせてください」 凄く怖い顔をした古泉君が前に出ると、新川さんはすっと体をずらしてその視線を避け る。新川さんはあたし達の視線を一身に受けながら、部室棟の入口を手で指し示した。 「私の任務は、ここから先にそちらのお嬢様方2人を通さない事です。ご質問があれば、 この先に居る森がお答えします」 森という単語に、古泉君がまた体を震わせていた。 ……あたしとみくるは駄目だけど、キョン君と古泉君はハルにゃんの所に行っていいっ て事? 「仰るとおりで」 じゃー2人はお先に行っちゃって! 軽く言い切るあたしに、キョン君は驚いている。 「鶴屋さん?」 ほらほら急いだ急いだ! ハルにゃんを助けなきゃなんでしょ? ここで話してる時間 はないっさ! それでもまだ何か言いたげなキョン君だったけど、 「すみません、すぐに涼宮さんを連れて戻ります」 思い切りがいい男の子は高評価だねっ、古泉君は頭を下げて1人部室棟に走っていった。 「おい、待て古泉! ……すみません、もしも危なくなったら」 だーいじょうぶだって! 危なくなったらちゃんとみくるを連れて逃げるからさっ! あたしの言葉を聞いてもまだ不安そうだったキョン君だけど、みくるが無言で頷くのを 見ると古泉君を追いかけて部室棟に走って行った。 さっきの長門っちの時もそうだったけど、あれだけ心配性なキョン君がみくるが頷くと すぐに納得しちゃうってのは……まあ今は謎のままでいいっか。 2人の姿が階段の上に消えるのを見届けて、あたしは部室棟の入口で音も無く立ってい る新川さんに視線を戻した。 みくる~? 視線は変えないまま名前を呼ぶと、 「は、はい!」 少し後ろの方からみくるの可愛い返事が聞こえてきた。 あのさ、ちょろっと危ないから本校舎の中に隠れててくんないかな。 「え、え? ……鶴屋さん、何かするんですか?」 ん~……うん。暴れる。 あたしと新川さんの距離は、まだ間合いと呼ぶには遠すぎる距離だけど、あたしはゆっ くりと足を一歩前へ進めた。 「ええ? そんな、ここでキョン君達の帰りを待ってたほうが……」 「私としましても、ここは大人しくお待ちになられる方がよいかと思います」 余裕とか、落ち着き、そんなレベルじゃない。 新川さんから感じられるのは、圧倒的な力の差による――自負。 ね~新川さんって森さんと比べてどっちが強いのかな。 あたしの質問に新川さんは少し迷った後、 「森とは何度か手合わせした事は御座いますが、全て森が勝ちました」 そう答えた。 じゃあ、上に行った2人はここに残ってるより危険って事だよね? 距離にして10歩、自分の間合いに入ったあたしは何時もの様に体が望むままに構える。 「お答えしかねます」 そんなあたしを見ても、新川さんは真っ直ぐな姿勢で立ったままでいる。 恐れるな、考えるな! あたしは自分を奮い立たせて、新川さんに向かって走り出した。 ―― 私が、させない。 ―― どうして、こんな事を。 私がそう訪ねても、喜緑江美里は彼らが走り去って行った方向から視線を外そうとはし なかった。 すでに彼等の姿はここから見ることは出来ないかったが、そんな事は彼女にとって何の 問題でもないはず。 それにしても……わからない。 穏健派に属するはずの貴女がこんな事に加担する理由、それは何。 「……今は答えられません」 彼達の姿が旧館の方へと消えるのを見届けた後、彼女は振り向いてそう答えた。 今は……という事は。 いつになれば、答えられる。 私の質問に、彼女は首を横に振る。 「私にはわかりません」 彼女にはわからない、それはつまり上位者の命令で彼女が動いているという事。 涼宮ハルヒの観察を行う彼女は、各思念体の直属。……ありえない、やはりこれが穏健 派の取る様な行動だとは思えない。 やがて、私に向き直った彼女は真剣な顔で聞いてきた。 「長門さん。今からでも遅くありません、彼等を説得してここから出て行ってはもらえま せんか?」 その質問に私は頷いて、付け加えた。 涼宮ハルヒと一緒になら。 「それは……できません」 彼女の顔が苦しそうに歪む。 では、私も貴女の要望には答えられない。 「……困りましたね。ですが、貴女がここに残ってくれてよかったと思っています」 何故。 私は5人の中で最も戦力にならない。足止めをするのが目的だったのなら、これは最悪 の結果のはず。 「この先には数人の戦闘要員と、機関の使い手が2人居ます。……今は人間になったとは いえ、かつての同僚が危険に晒されるのはあまり気持ちのいい事ではありません」 いけない。 急いで追いかけようと走り出した途端、長門の体を不可視の何かが縛り付けた。 かつての自分なら容易くできた事、情報操作による行動停止を前に今はそれを知覚する 事も抵抗する事もできない。 動けなくなった私の前に立って、彼女は諭すように言った。 「ここでじっとしていて下さい。それに、彼らが万一機関の使い手から逃れる事ができた としても、森園生の力によって涼宮さんには近づけません。何をしても無駄なんです」 ……だったら。 私は自分の体で唯一自由だった視線を動かし、彼女の顔を睨んで言った。 だったら、ここで貴女を倒してみんなを助ける。 ―― デジャブ……ってやつか? ―― 俺が部室棟に入った時、すでに古泉が階段を登る足音は聞こえなかった。 それは古泉がすでにハルヒの元に辿り着いたって事なのか、それとも……。 真っ暗な階段の先を何とか見据えようと目を細めるが、そこには何も見えない。 ええい、どっちにしろ行くしかないだろうが! 頭を過る暗い考えを跳ね除けようと、俺はわざと大きな音を立てて階段を上り始めた。 ――その違和感に気がついたのは、階段を上り始めてすぐの事だった。 前方に見えているはずの階段の踊り場は、俺がどんなに階段を登っても一向に近づいて いる気配が無い。 何が起きてるんだ? 一旦立ち止まり振り返ってみると、そこには遥か遠くまで下っていく階段の姿があるだ けだった。 くそっ! 罠かよ? ただの一般人相手に手の込んだ事をしてくれやがって! あっさ り罠にかかった自分にも腹が立つが……そうだ! 古泉! どこだ! そう叫んだ俺の声は、目の前にある暗闇に吸い込まれて返って来る言葉はなかった。 駄目か。どうする、このまま登るか? それとも一旦戻るか? そう俺が考え込んでいると、 「あ、あれ? どうして貴方が?」 背後から聞こえてきた間抜けな声に振り向くと、そこ居たのは先に行ったはずの古泉だ った。 お前、先に行ったんじゃ? 「貴方こそ……待ってください、貴方は確かに僕より後にこの階段へ足を踏み入れた。そ うですね?」 ああ、間違いない。 旧校舎の入口から階段まではすぐだからな。 「という事は、この階段は恐らく階段の途中と踊り場付近の辺りで空間が繋がっているの だと思われます」 ……古泉、頭大丈夫か? 空間が繋がるとかどこのファンタジー世界だ、ここは現実だぞ? 「僕はいつでも」 そこそこに正気なつもり、だろ? そんな事はどうでもいい。理屈なんて好きにしろよ。 で、どうすればハルヒの所へ行けるんだ? 「このまま貴方は階段を上ってください。僕は逆に階段を降ります」 それで? 「僕の推測が正しければ、僕と貴方はいずれまた階段で出会う事になります。そこから空 間の途切れ目を辿れば、この階段から抜け出せるはずです」 ……さっぱり意味がわからんが、まあいい。信じてやるよ。 俺は古泉に頷いて見せ、終わらない階段を再び上りだした ――なるほど、流石は超能力者って奴だな。 数分後、俺が見たのは階段の先で俺を待つ古泉の姿だった。 「これで確証が持てました。この付近に空間を連結している次元断層があるはずです」 もう理解しようとするのは諦めた。 そこからなら出られるって事か? 「ええ。ですがここから出た先が現実の世界だとは限りません、行き先がここよりももっ と危険な場所ではないという保障は1つもないんです」 だからどうした。 安全確認でもしたつもりか? 「……いえ。そうですね、貴方のその言葉が聞きたかったのかもしれません。こう見えて、 僕は臆病なんですよ」 そう言った古泉は何故か嬉しそうに笑った。 ……お前が笑う所、久しぶりに見た気がするな。 差し出された古泉の手を掴み、目を閉じる。そして階段を数段上った所で、 「もういいですよ」 古泉の言葉に目を開いた時、そこは階段の踊り場だった……が。 これは……閉鎖空間か? 「どうやらその様ですね」 月明かりが差し込んでいるだけで真っ暗に近かったはずの階段は、今は灰色の光のよう な物に包まれていた。 まさかまたお前と閉鎖空間に来る事になるとはな……とはいえここなら古泉以外の人間 は入ってこれないはずだ。さっきの黒服みたいなのが襲ってこれないだけまだいいのかも しれない。 「涼宮さんの反応はすぐ近くです。急ぎましょう!」 ああ。 俺は古泉に続いて、階段を駆け上って行った。 灰色の部室棟の中には当たり前だが誰の姿も無く、廊下を走っている間も誰にも会うこ とは無かった。……ん? おい、古泉。 「なんですか?」 新川さんの話じゃ、ここに森さんが居るはずじゃなかったのか? 俺の言葉に、また古泉の顔色がまた悪くなる。 「部室棟に居る事は確かだと思います。ですが、この空間の中に僕以外の能力者の気配は ありませんから、彼女はここには居ないはずです。彼女の事は、ここから出る時にだけ注 意すればいいでしょう」 そう言い切っているのに、古泉の言葉には自信がまるで感じられなかった。 あの森さんはそんなに怖い人なんだろうか? ……俺にはそうは見えないんだが。 そんな事を話している間に、俺達はSOS団の部室の前に辿り着いた。 ここか? 「ええ」 緊張した顔の古泉の手がドアノブに伸び、俺が頷くのを見た後、古泉はドアノブをゆっ くりと回した。 不思議な程無音で、ドアは開いていく。 そこで俺達が見たのは、部室の中でいつもの様に団長席に座って眠っているハルヒの姿 と……何となく、そんな気はしてたよ。 「お待ちしておりました」 そんなハルヒの隣に立つ、見慣れたメイド服に身を包んだ森さんの姿だった。 「な、なんで……貴女が……」 絶望って言葉がこれ以上ない程似合う顔で古泉は呟く。 おい古泉しっかりしろ! 挨拶だけで戦意喪失すんな! ……駄目か。 えっと、森さん。 「はい」 硬直して動けない古泉に代わって、俺は口を開いた。 細かい事情とかはいいんで、そこのバカを返してもらえませんか? 俺は「バカ」という部分だけわざと大きな声で言ってみたんだが……くそっ気絶してる のか知らないが、ハルヒは何の反応も示さない。 「申し訳ありませんが、それはできません」 あくまで丁寧な物腰で――つまり、欠片も譲歩する気が感じられない言葉で森さんは言 い切る。 ……だったら、どうすればハルヒを返してもらえるんですか? 森さんの事だ、どうせ返答は無い。そう俺は思っていたんだが。 「このまま1時間程お待ちいただければ、涼宮さんの自由をお約束します」 意外にも森さんはそう提案してきた。 なんだよ、古泉の反応だけで想像していたよりもずっと話が分かる人じゃないか。 じゃあ、その数時間で何をするつもりなのか教えてもらえませんか? そう尋ねた俺に森さんは小さく頷いた後―― 「世界を再構成します」 ……これ、笑う所? 窓から差し込んでいる灰色の光に照らされた森さんの言葉には、いつか聞いたあいつの 言葉と同じように何の迷いも感じられなかった。 そんな時――お、おいマジかよ!?――まるで出番を待っていたかのようなタイミング で、部室の窓の向こうに青白い巨体、神人が姿を現しやがった! やばい、ここに居たら巻き込まれ……ん? 神人は何故かこの部室には興味がないらしく、本校舎や街のあちこちで好き放題大暴れ している。 おい古泉! 俺には詳しい事はわからんがあれが暴れてたらまずいんだろ? さっさと 行けっ! 「で、ですが!」 あのなぁ、ここが何とかなっても世界が崩壊したら一緒だろうが! 古泉もそれはわかっているのだろうが、どうやら森さんを前に俺1人残す事を躊躇って いるようだ。 この人は俺に任せろ、何とかしてみせる。 「貴方は森さんの事を知らないからそう言えるんです。さっきお会いした新川さんですが、 あの人はああ見えて世界でも有数の傭兵なんです。これまでにも何度もテロや戦争を未然 に防いできた本物の英雄であるあの人ですら、森さんには手も足も出ないんですよ?」 ……必死に熱弁する古泉には悪いが、お前の説明と目の前に居る森さんはどうしても一 致しないんだが。 アンティークなメイド服に身を包んだ森さんは、それこそ長門とそれ程変わらないので はと思うほど華奢な体をしている。 「見た目で判断してはいけません」 とにかくだ、森さんがそれだけ凄いとするさ。 「ですから本当に!」 いいから聞け! そんな凄い森さん相手にお前は対抗できるのか? できないから脅え てるんだろ? それだったらお前は神人を止めに行った方がまだ助かる可能性があるとは 思わないか? 奇跡を待つより何とやらっていうしな。 これが絶望的な状況なら最善手を打つしかないだろうが? 「それは……そうですね」 まったく、冷静なのはお前の役割だったはずなんだがな。 納得してからの古泉の行動は早かった。 「すみません、涼宮さんをお願いします!」 そういい残して廊下に飛び出していく古泉の体からは、いつか見た赤い光に包まれ始め ていた。 頼むぜ古泉、俺達の世界を守ってくれよ? 「……」 そして問題はこっちか。 部屋から古泉が出て行く時も、森さんは何の邪魔もしなかった。 それは余裕からの行動なのか……それともまた何か罠でも仕掛けているのだろうかね。 とにかく、まずはハルヒの状況を確認しないとな。 ハルヒに向かってゆっくりと歩く俺の姿を、森さんは静かに見守ってい……あれ、普通 に辿り着いてしまったぞ。 俺がハルヒのすぐ隣に立っても、森さんは何もしてこなかった。 ただ、俺の様子を見ているだけ。 いったいなんなんだ? ともかくこいつを起こしてみよう、そう思った俺はハルヒの肩に触れようとしたんだが ……なんだ、これ? ハルヒの体からすぐの場所に何か見えない壁があって、それは全身 を覆っているらしく俺の手はハルヒに届く事は無かった。 おい! ハルヒ起きろ! 揺さぶろうにもその壁は動かず、俺の声もハルヒには届いていないらしい。 この壁はいったいなんなんだ……まさかこれも森さんがやった事なのか? 「……」 俺を見る森さんの視線には感情らしきものは見当たらず、その姿はまるでかつての長門 を見ているようだった。 森さん。 「はい」 世界を再構成って、どんな意味なんですか? まあ、聞いたからって素直に答えてもらえるとは思っていなかったんだが、 「閉鎖空間の内面世界を神人によって崩壊させ、その場所に彼女の意識によって新たな世 界を創造します」 意外にもあっさりと返事が返ってきた――意味はさっぱりだけどな。 それって、結局どうなるんですか? 「新たな世界は彼女の望んだ世界になります」 ……それって、もしかしてどうなるのかわからないって事なんじゃ。 「はい」 おい、本気なのかよこの人! 古泉が言うのとは別の意味で怖いんだが? ハルヒの思い通りの世界なんて本気で洒落にならんぞ? それって止めてもらう訳にはいかないんですか? 「できません」 どうして? いったい誰がそんな世界を望んでるって言うんですか? 「この世界に生きる全ての生物です」 ……は? 今、何て言いました? 「この世界は今、とても不安定な状態にあります。たった一人の少女によって崩壊する可 能性を常に秘めている。一度判断を間違えれば、何も知らないままの数十億もの命を失う 事にもなり兼ねない」 淡々と呟くその言葉には、何の感情も感じられなかった。 ……世界が再構成されたら、貴女の言う何も知らないままの数十億もの命ってのはどう なるのか分かってるんですか? 「はい」 森さんはハルヒの隣にあるパソコンを指差すと、 「今、私たちが居るこの閉鎖空間は現実の世界をコピーした物です。パソコンに例えて説 明すると、この空間は現在神人によって基礎部分を残してフォーマットされています、そ れが終われば彼女の認識によって世界が再構築されていきます。構築が完了すれば、コピ ーの元になった世界は消えます」 消えますって……死んでしまうって事なんじゃ? 「そうとも言えます。ですが代わりに、新しい世界にはこの世界に現存する全ての命が生 まれる事にもなります。それは全く同じものではありませんが、現在存在する物とほぼ同 じ物になります」 ちょっと待てよ、それって……あの時の。 森さん! 貴女が今言ってることは、以前古泉や長門や朝比奈さんが止めようとした事 じゃないんですか? ハルヒが世界の再構成を始めたあの日、確かに俺は古泉の言葉を聞いたんだ。 まだ俺たちと一緒に居たい、できるならば戻って来て欲しいってな。 「古泉が?」 そうです、あいつは仲間の力を借りてなんとかここまで……来れた……って。 それまで穏やかだった森さんの顔に、急に浮かんだ表情。それは紛れも無く 「……勝手な事を」 怒りだった。 目の前に居るのは長門と変わらない様な華奢な女性だ、それは間違いないのになんで俺 はこんなに震えてるんだ? 「なるほど。一度は再構成寸前まで進んでいたプロセスが急に白紙に戻った事がありまし たが、あれには古泉も加担していたんですね」 俺は今まで、なんだかんだで機関ってのは敵じゃないんだと思っていた。そしてそれは、 今でも間違いじゃないんだろうな。 つまり、この人たちにとって俺達は敵じゃないが……味方でもないんだ。 森さんはポケットから銀色の懐中時計を取り出すと、蓋を開けて中を見つめている。 「残り約32分で神人の活動は完了します」 そんなもん、古泉が何とかするさ。 そう強がった俺に、森さんは首を横に振る。 「神人の数と行動範囲を考えると、古泉の能力では作業完了を遅らせる事しかできません。 それも長く見積もって3分といった所でしょう」 ……こうなったら、無理やりにでも止めるしかない。 いくら森さんが凄い人だろうが知った事か! 俺は手近なパイプ椅子を1つ畳んで両手 で持ち上げた。 頼む、再構成とやらを止めてくれ。……こんな事はしたくないんだ! パイプ椅子を持った俺がそう叫んでも、森さんには何の変化も無い。 抵抗も、避けようともしない森さんに……俺は、俺は………………くっそお!! 振りかぶったパイプ椅子を、俺は足元の床に向かって叩きつけた。 衝撃に耐え切れなかった椅子の部品がいくつも散らばり、その破片の様子を森さんは眺 めている。 どうすりゃいいんだ……このまま何もできずに見てろってのか? おい起きろハルヒ! 俺は立ち上がり、団長椅子で眠り続けているハルヒを揺さぶろうと手を伸ばした。その 手はやはり見えない壁に阻まれてハルヒの体に触れることは出来なかったが……そんな事 はどうでもいいんだ! さっさと起きろ! お前の団員がピンチで世界は滅亡の危機なんだ! こんな時の為の SOS団だろ! 違うか? ついでに教えてやるがお前が中学の時に見たジョン・スミス は俺だ! あの時お前が地面に書いた文字は宇宙人語で『私はここにいる』だろ? なあ、 起きろよ! 頼むから起きてくれよ! どんなに俺が叫んでもただ喉が掠れるだけで……俺にはハルヒの前髪1つ揺らす事はで きなかった。 ……俺の切り札まで無効とは恐れ入ったよ。 声が届かないんじゃ何を言っても無駄だよな。 もう俺達にできる事は何も……な…………俺……達……? 俺のカマドウマ以下の頭脳に、その言葉はやけに大きく響いた。 ハルヒはここで寝ている。 古泉はバイトで大忙し。 俺はここで嘆いていて……それで終わりじゃない、SOS団はまだ居るじゃないか! まだ長門も朝比奈さんも鶴谷さんも居るんだ、みんなが揃えばもしかしたら……。 古泉が居ない今、ここにみんなを呼ぶ為には……手は一つしかない。 森さん。 「はい」 頼むぜ。あんたのその静かな態度は余裕の表れであってくれよ? 祈るような気持ちで、俺は賭けに出た。 外に居るみんなをここに呼んでもらえませんか。 「……」 これが最後なら、せめて一緒に居たいんです。 この言葉は嘘じゃない、だがこれで最後にするつもりなんか欠片もない。 俺達の間に流れる沈黙は、やがて彼女の小さな手振りによって終わった。 森さんの右手が部室の窓へと向けられると、古ぼけた部室の窓はまるで魔法がかかった かのように変化してそれぞれに映像を映し出したのだ。 窓の1つでは青白い神人の群れを相手に奮戦する古泉が映り、他の窓では新川さん相手 に格闘を繰り広げている鶴谷さんの姿が見える。長門は何故か喜緑さんの目の前でじっと 動かないままで、朝比奈さんは校舎の中で震えていた。 ……こ、これは。 「現在の状況です」 森さんの言っている意味はなんとなくわかるが……その前に、この人はいったい何者な んだ? いくら森さんが凄い人だからって、これはもう超能力なんて言葉では説明できない。こ んな無茶苦茶な事ができる奴って言ったら、俺には宇宙人くらいしか思いつかないぞ? 森さんの素性を想像して冷や汗を流す俺に、森さんは丁寧に頭を下げる。 「こちらとしましては貴方以外の人にこの場所へ来て頂く訳には参りません。申し訳あり ませんが、この映像だけでご容赦願います」 ……妙に丁寧な言い方だが、これは裏を返せばヒントになるかもしれない。 つまり今のは、森さんにとってここに来てしまったら困る事になる奴が俺達の中に居る って事だよな? それは……可能性として一番高いのは鶴谷さんだろうか。 部室の窓の中で、鶴谷さんは新川さん相手に俺では目で追うこともできない程の速さで 戦っている。 くそっ、もしもそうだとしてもここに古泉が居なかったら鶴谷さんを連れてこれないじ ゃないか! どうりでさっき、あっさりと古泉を見逃した訳だ。 古泉が映る窓では、逃げ惑いながらも反撃を繰り返す赤い光が見える。 携帯電話は……圏外か、そうだよな。閉鎖空間まで電波が来てたら逆に驚く。 古泉に連絡を取ることができないとなると、くそ! どうすればいい? 焦る俺が窓に映る映像にじっと目を凝らしていると、その内の1つに違和感を感じた。 それは長門が映っている映像で、喜緑さんと一緒にじっと立ったまま二人は動かないで いる。 あれ、何か変だと思ったんだが……。 他の映像と違ってここだけ静止画に見えるその映像を見ていた俺は、ようやくその違和 感の正体に気がついた。 さっきまで見詰め合っていたはずの2人のうち、長門だけが視線が変わっているのだ。 長門の視線は、まるでモニター越しに俺を見つめているかの様に固定されている。 何だ……何か口が動いている様な気が……。 ……い……ま……た……す……け……に……い……く……? その瞬間、部室の窓の全てが白く光ったかと思うと、みんなの様子を写していた窓ガラ スはまるで念入りにハンマーで砕いたみたいに空中で飛散して、そのまま霧の様に消えて いった。 何が起きたのか何て事はわからないが……まあいいさ、俺が信じてないで誰が信じてや るんだよ。 こんな状況でも顔色1つ変えない森さんの横を通って、俺はいつもの自分の席へと戻っ た。 なあに、その静かな顔ももうすぐ驚きに変わるだろうぜ? 数分後――俺が聞いたのは、廊下から聞こえてきた誰かが走ってくる足音。その音はま っすぐこちらに向かってきて、そして躊躇なく扉は開かれた。 「ハールにゃんどこさー? っと居たぁ! おおお! キョン君も居るじゃないか!」 最初に入ってきたのは鶴屋さんだった。 「涼宮さん! キョン君!」 元気一杯の鶴屋さんに手を引かれて、我らが天使の朝比奈さんも登場だ。 「……」 そして最後に……ありがとうな、お前が何かしてくれたんだろ? 無言のまま頷いてみせる長門の姿もそこにあった。 これで形勢は逆転だな。他力本願? ああ、好きに言ってくれ。俺はハルヒが助けられ ればそんなもんはどうでもいい。 「ちょっとキョン君、どうしてハルにゃんを連れ戻さないのかい?」 そうしたいんですが……事情はうまく説明できませんが、とにかくそこに居る森さんを なんとかしないとハルヒを助けられないんです。 「おっけー。話はさっぱりだけど、やらなきゃいけないことはよ~くわかったよ」 部屋の中に見慣れない顔を見つけた鶴屋さんは一歩前に出た。 「あんたが森さん? ハルにゃんを誘拐したくなる気持ちは正直わかるんだけど、これは ちょろっとお痛がすぎてるっさ!」 わかるんですか。 「あの、お願いします。涼宮さんを解放してください」 「私からもお願いする」 3人の言葉を聞いても、森さんは顔色1つ変えないでいる――本当にこの人は何者なん だろうか? 自分を取り囲むように立つ俺達を見て、森さんは小さく溜息をついてから……。 「それはできません」 はっきりと否定するのだった。 「ふ~ん、口で言っても分からないなら体に言い聞かせちゃうよ? そっちの方が趣味だ しね! 言っておくけど今日のあたしは凶暴なんだから手加減できないっから!」 さっきまでの勢いが残っているのか、鶴屋さんは威嚇するように構えて見せる。 俺ならすぐに引き下がりそうな本気の視線を前に――それでも、森さんには何の変化も 無かった。 じりじりと距離を詰める鶴屋さんを、森さんは視線の端でそっと見つめている。 鶴屋さん気をつけてくださいね? 見た目じゃわからないですけど、森さんは新川さん よりも凄い人らしいんです。 「うん、聞いてるよ。それが本当かどうかを確かめる意味でも、是非お手合わせしてもら わないっとねぇ」 いかん、余計に火をつけちまったのか? 傍目にも分かるほどテンションを上げた鶴屋さんは――まるでそこだけコマが少ない映 画をみたいに一瞬で森さんに蹴りかかっていた。 といっても俺には結果しか見えていないんだが、即頭部を狙ったらしいその蹴りは、ま るで必要な分だけ動いたみたいな森さんの動作で回避されて空を切る。 「――!」 完全に捕らえたと思っていたのか、鶴屋さんの顔に動揺が走った。 それでも―― 「せいりゃー!」 駒の様に体を回し、鶴屋さんは矢継ぎ早に蹴りを放っていった。 いったいどんなバランス感覚をしているんだ? 軸足を床につけたまま、森さんの膝や腹部、胸や顔へと繰り出された蹴りの雨は、彼女 の服を揺らすだけで一撃も体に触れることは無かった。 援護に入りたい所だが……正直、俺では邪魔にしかならないだろう。 じっと2人の攻防を見守っていると、やがて鶴屋さんの動きに変化が現れてきた。 相手に反撃される事を考えて攻撃していたのでは、森さんを捕らえる事はできない。 そう考えたのだろうか、鶴屋さんは一気に森さんとの距離を詰めていった。 満員電車の中の様に向かい合った状態で、鶴屋さんの肘や膝が乱れ舞う。どう考えて も避けられるはずがないはずなのに…… 「な、なんでさー?!」 鶴屋さんの攻撃は、それでも空を切るのだった。 反撃覚悟、組み付こうと腕を伸ばしても森さんはその動きが分かっていたみたいに容易 く背後に回ってみせる。 急いで振り向こう鶴屋さんが体を捻ると、 「おおわっ!」 急にバランスを崩した鶴屋さんは、その場に倒れてしまった。 鶴屋さん! 「痛てて……い痛っ! な、なんなのこれっ?」 起き上がろうとした鶴屋さんが再び倒れたのも無理は無い、倒れた鶴屋さんの手足は、 いつの間にか彼女自身の長い髪で縛られてしまっていた。 いくらなんでもこんな一瞬で人の手足を縛るなんて不可能だ。しかも相手は鶴屋さんな んだぞ? 「つ、鶴屋さん」 「みくる! その辺に鋏ない? 鋏!」 「そ、そんなの駄目ですよ?!」 「いいから鋏ぃ~!」 じたじたと暴れる鶴屋さんの前に立ったのは。 「……」 いつの間にか俺の傍から離れていた長門だった。 「だめ! 長門っち危ないよ!」 「大丈夫」 鶴屋さんに頷いて見せてから、長門は森さんへと向き直る。 まるで鶴屋さんを守る様に立つその姿は、かつて俺を守ってくれた時の様に見えた。 「涼宮ハルヒを連れて帰る」 そう言い切る長門を前に、 「申し訳ありませんが、それはできません」 森さんは一歩も引こうとしない。 俺は、これから長門がいったい何をするつもりなのか全く知らなかった。それはまあい つもの事だし、正直聞いた所で俺に出来る事などないのも知っている。 それでも、この時ばかりは思ったぜ。 頼む、先に言ってからにしてくれってな。 長門は静かに自分の胸に手を当てて、その言葉を呟いたんだ。 「来て」 その瞬間、さっき俺がモニター越しに見た光が狭い部室を埋め尽くした。 強い光を放つ長門の背中から突き出すように伸びた二本の光の柱。 それはやがて翼の様に形を変えて、長門の体を包み込んでいく……。 眩い光の中で、俺達は確かに見てしまったんだ。 光の中央に突如現れ、長門の小さな背中を愛しそうに抱いて立っている……あいつの 姿をな。 「お久しぶり」 長門を抱きしめたまま、そいつは俺に向かっていつか見た笑顔を向けている。 こんな状況に欠片も似つかわない軽い口調で挨拶してきたのは――まさかお前にまた 会う事になるとはね――消えてしまったはずのクラス委員、朝倉涼子だった。 ……朝倉、お前天使だったのか? そう俺が聞いたのも無理もないだろ。 長門の背中にあったと思った光の翼は、今は朝倉の背に移り静かに揺れている。 「さあ? それはどうかしら」 茶化すように朝倉ははぐらかしたが、何故か俺をじっと見つめて視線を外そうとしな い。 何だろう。 その視線は久しぶりに見たクラスメイトって感じではなく、更に言えば殺し損ねた殺 害対象を見ている様にも見えない。 始めて見るはずの朝倉のそんな顔を……何故だろう、俺は懐かしく感じていたんだ。 どこだったかは思い出せないが、俺はどこでこの目を見た事があるような……。 「さっさと終わらせちゃうね。さ、長門さんは危ないから離れてて」 頷いた長門が俺の隣に戻ったのを見て、朝倉は小さくウインクしてから森さんへと向 き直った。 「な、ななな。何なんですか、あの人?」 「キョン君! キョン君! あれって天使なのかい?」 さ、さあ。俺には正直さっぱりです。 朝比奈さんはいいとして、鶴屋さんに朝倉を見られてしまったのはまずかったかもし れないが……まあ、今は緊急事態だから仕方ないよな。 長門、あれは本当に朝倉なのか? 俺の質問に長門は頷く。 「彼女は味方」 ……そっか。 疑うまでも無い、朝倉を見る長門の視線には確かな信頼が篭められていたんだからな。 世界崩壊の危機とやらが迫っているはずなのに、俺が安心しきっていたのも当然だろ? なんせ、ここには本物の宇宙人が居るんだ。 いくら森さんが格闘技の達人だろうが、不思議な力が使えようが関係ない。人間が宇 宙人に勝てるわけがない。 「はじめまして。貴女には何の恨みも興味も無いんだけど、長門さんのお願いだからち ょっと怖い思いをしてもらうね?」 言い終えるまでもない、気がつけば俺達の回りにあった机や椅子は姿を消していて、 まるで森さんの視界を塞ぐ様に数え切れない程の光の槍が取り囲んでいた。 い、いつの間にやったんだ? 突如として現れた鋭利な刃物によって、ここからではもう森さんの表情を見る事すら できない。 「逃げようとしても無駄、もう動きも封じたから。ちゃんと勉強したのよ?」 そこで俺を見なくてもいい。 「は~い。さ、森さんだっけ? 涼宮さんを解放してこの閉鎖空間を消しなさい。お返 事はもちろん「はい」よね?」 そう笑顔で言い切る朝倉を前にしても、森さんは 「それはできません」 はっきりと言い返しやがったようだ。 お、おい! マジで危ないんだって! 一度殺されかけた俺にはわかる、朝倉は笑ってるからって安心できる相手なんかじゃ ないんだ! 「ふ~ん……そう」 朝倉の笑顔に何かが混ざった気が――瞬間、森さんの足元に数本の光の槍が突き刺さ っていた。 ほんの僅か、森さんの足元から数センチ離れた場所に槍は深々と突き刺さっている。 「次は当てるわよ。返事ができる内に「はい」って言った方が貴女の為だと思うなぁ」 嬉しそうに笑う朝倉を見て、森さんはそっと腕を横に振った。 「え?」 その動きを見た朝倉の顔から笑顔が消える。 同時に、森さんを取り囲んでいた光の槍も、朝倉の背中に輝いていた光の翼も全て姿 を消してしまっていた。 光の翼が消えて急に暗くなった部室の中、 「いけない」 よろめく朝倉の体を、走り寄った長門がそっと支える。 「……あ、貴女いったい何者なの?」 朝倉にそう聞かれても森さんは何も答えようとせず、ただ静かに懐中時計を取り出し 「残り13分です」 まるで時報の様に、俺達に告げるのだった。 「キョ、キョン君! 残り13分って何が起こるのさ?」 床に転がったままで聞いてくる鶴屋さんに、俺は現状を何て答えればいいのか分から なかったし、どう説明すればいいかなんて考えている余裕もなかった。 いざとなったらハルヒにキスをすればいいって事あるごとに言われてきたが、それす ら今はできないぞ? ……もう駄目なのか? ごく普通の人間である俺ですら世界の崩壊を意識しはじめた時、そいつはやってきた。 ――正義の味方は遅れてやってくるもの。 「わぁ? 今度は何なのさ!」 そんなルールを守っているのかどうかは知らないが……遅えよ、馬鹿。 前触れもなくがら空きになった窓枠から飛び込んできた大きな赤い光は――お、おい? その光は俺達の元ではなく、迷う事なくまっすぐ森さんへと向かって飛んでいったの だ。 いくらなんでもこんな物は避けられない。 そう信じるに足るだけの勢いで飛んできた古泉は、森さんの体を確かに捉え―― 「ふっ」 ……小さな息と共に振り上げられた森さんの右手の一振りで、あっけなく跳ね飛ばさ れちまいやがったのだった。 大きな音を立てて壁にめり込んだ古泉が、ゆっくりと落ちてくる。 「きゃあ!」 古泉! 思わず駆け寄った俺を見て、古泉は弱々しく笑顔を浮かべて見せ……そのまま意識を 失って倒れてしまった。 古泉! おい古泉! 起きろ! 目を覚ましやがれ! ぞっとする程ぐったりとしている古泉の傍に、朝倉がやってきた。 動かない古泉に手をかざして、朝倉は真剣な顔をしている。 「大丈夫、気絶してるだけ。命に別状はないわ」 よ、よかった……。 ったく心配させやがって! 朝倉、古泉を起こせるか? 「うん。それくらいなら」 じゃあやってくれ! 「は~い。任せて」 目を閉じた朝倉の掌に小さな光が生まれ、その光は古泉の体へと進んでいく。 やがて、弱々しかったその光が完全に古泉の体に消え去ると、 「…………こ、ここは?」 入れ替わるように古泉は目を覚ました。 やれやれ……ったく心配させやがって、あれだけ森さんには歯が立たないって言って た癖に何で無茶したんだ? 「す、すみません。……ですが、この世界はすでに臨界状態を迎えています、残された 時間はもう殆どないでしょう」 ……だから賭けに出たってのか? 「ええ。ですが、やはり僕では彼女を止めることはできないんですね……」 ゆっくりと立ち上がった古泉の視線の先では、この部屋に来た時に俺が見た姿とまる で変わっていない森さんの姿がある。 誰も口を開けないでいる中、森さんは懐中時計をしまって口を開く。 「間もなく、世界の再構築が始まります」 森さんがそう言い終えるのを待っていたように、部室棟は小さく揺れ始めるのだった。 ――俺は心のどこかでこう思ってたんだ。 例えどんな非常識な事が起きたって、SOS団が揃えば何とかなるってな。 事実、これまで何度も俺達は無茶な出来事に巻き込まれてきたが、結果的になんとな かってきたんだ。今回は例外だ……なんて思いもよらなかったぜ。 ここで奇跡を願おうにも、ハルヒが寝てるんじゃどうしようもない……。 「……森さん、最後に1つ聞かせてください」 落ち込む俺を前に、古泉は決死の表情で森さんへ問いかけている。 「今から起きる再構築は、本当に涼宮さんが望んでいる事なんですか? 確かに、ここ 最近の涼宮さんはいつもと違っていました、不機嫌に見えるのに当り散らしてきません でしたしね。しかし、それと突然起きた今回の騒動に繋がる理由が僕にはわからないん です。以前、彼女が世界を作り変えようとした時とは状況が違います。彼女は現状に絶 望などしてはいなかった。それなのに何故?」 ハルヒじゃない。 「え?」 これはハルヒが望んでる事じゃないって言ったんだよ。 熱弁する古泉に反論したのは、何故か俺だった訳だ。 「それは……いったい」 理由なんて知らん。でもな、これだけは言い切れる。あのバカは世界の再構成なんて くだらない事を本気で望んだりしちゃいねぇよ。 「ですが、実際にあの時……」 前の事か? あの時だってそうだろ。あいつが本気で望んでたんなら、みんなが俺に ヒントを出したりできると思うか? そんな理屈は抜きにしても、俺はハルヒがそんな 事を望んでるなんて思えん。 言いたい事を勝手に言っただけの俺に反論、というか質問してきたのは 「1つ聞かせてください」 何故か森さんで、 「貴方は、世界を再構成したいと思った事はありませんか」 その内容は意味不明だった。 ……何を言ってるんですか? 月曜の朝に、実は今日は日曜だったらいいのにって思ったことならいくらでもあると か――そんな話じゃないよな、多分。 「もしも貴方に、世界を自分が思うとおりに書き換えられる力があったなら。その力を 使わないで居られる自信がありますか」 使うはずが無いでしょう? そんな事をして何になるんですか。 「いえ、貴方は書き換えました」 静かに首を振って、森さんはそう否定する。 いったい何の事を言って……。 「過去に世界が改変された時、貴方はエンターキーを押したでしょう」 静かなその声は、俺の中に静かに広がっていくようだった。 ――何で……何で森さんがそんな事を? 「あの世界は、貴方の選択によって時空修正されました」 事情が分からないみんなの視線を感じながら……俺は立っているだけの気力もなくな り、その場に座り込んでしまった。 ――長門によって書き換えられた世界を元に戻す為、長門にピストル型装置を構えた 時、俺は俺のハルヒと古泉と長門と朝比奈さんを取り戻す。そう決めたんだ。 今でもそれは間違いだった何て思っちゃいないさ、でもその代償に俺はあいつらの未 来を奪ってしまった……のか……。 「その事について、貴方を責める事ができる人は何処にも存在しません」 見下ろすような森さんの視線は、少しだけ優しかった気がした。 「古泉の質問に答えます、彼女は世界を変えたいと思ってはいません。ですが彼女が世 界の破滅を願わない様にする為には、こうして世界を彼女の望む姿に変え続ける必要が あるんです」 淡々と諭すように語る森さんに反論したのは、 「違います!」 いつになく真剣な顔をした古泉だった。 「森さん。確かにその様な意見が機関に存在する事は知っていました。ですがそれでは、 僕達がこんな力を持っている理由が説明できないじゃないですか!」 古泉は掌に、かつてカマドウマと戦った時に見せた熱を放つ赤い光を作ってみせた。 同じように森さんも掌に光玉を作って見せ、 「古泉、これは彼女の良心だ」 「良心?」 「そうだ。今、鍵である彼が思いつめている様に、彼女もまた自分の選択が世界を改編 してしまう事に抵抗が無い訳ではない。人は、生きる為に他の生物の命を奪う時、それ が自然の摂理であると理解していても心に呵責が生まれる。無意識の内に世界を変えて しまう事に対して彼女の呵責が生み出した力、それがこの力だ」 そう言って、森さんはあっさりと光玉を握りつぶしてみせた。 閉鎖空間の存在。 そして、超能力者。 ……なるほどな。 未だ目を覚まさないハルヒの姿を見て、俺は溜息をついた。 なあハルヒ。今ならお前の気持ちが、前よりほんの少しだけだがわかってやれる気が するよ。 森さんの言葉が全部真実かどうかなんてわからんが……何故か俺はそう思った。 「そんな……」 よろける古泉にかけてやるフォローの言葉も思いつかない。 「涼宮ハルヒは閉鎖空間を作り、神人を暴れさせる。その先にある結果は二つ存在する。 1つは破滅、完全な虚無への回帰。私達が防ごうとしているのはこれだ。そしてもう1 つは再生、より安定した形に世界は再構築される。本来であれば再生は誰にも止める事 はできない……だから、お前には何も伝えていなかったんだ」 静かに続いていた振動は森さんの話が進むにつれて徐々に大きくなり、ついに天井か ら埃が落ち始めてきた。 そんな中、長門はじっと朝倉に寄り添っていて、2人は抱き合う様にしてこれから起 きる出来事を受け入れようとしているみたいだった。 古泉は壁にもたれたまま俯きっぱなし。 ……森さんの言葉が余程ショックだったんだろう、何やら独り言を繰り返している。 鶴屋さんはようやく自由になった体で、朝比奈さんの事をしっかりと抱きしめていた。 結局、巻き込むだけ巻き込んで助けてもらっておきながら、何も説明できないままに なってしまって……本当にすみません。 そして俺は、 「……」 座ったまま、ただ森さんの顔を見続けるだけだった。 この人の言っている事が勝手な欲望だとか、独りよがりな思い込みの結果だっていう のなら反論のしようもあったさ。 無駄な抵抗だってなんだってしてやるよ。 だが、森さんの言葉にはそんな私情は見つからず、俺にはもう言い返す言葉がない。 そうさ、ここが長門が書き換えた世界だったら、そもそもこんな理不尽な出来事が起 きる事もなかったんだよな。 ――静かに終わりを迎えようとしていた部室の中で、まだ諦めていない人が居た事を 俺はこの後知る事になる。 「……ま」 ――まるで囁くような小さな声。 それは古泉でもなければ長門でもない。朝倉でもなく鶴屋さんでも……眠ったままの ハルヒでもなかったんだ。 「待ってください……」 ――その声はとても小さかったけれど、とても強い決意の先にあった言葉。 いったい誰だって? みんながよーく知ってる人、いや――本物の天使様だよ。 「待ってください!」 そう叫んで朝比奈さんは鶴屋さんの腕から飛び出し、震えながら森さんの前へと詰め 寄った。 「みくる? あ、危ないっさ!」 引きとめようとする鶴屋さんを、朝比奈さんはそっと手で押し留める。 か弱い朝比奈さんの力で鶴屋さんが止められるはずは無いんだが、涙目だけど必死な 朝比奈さんの顔を見て、 「みくる……」 鶴屋さんは引きとめようと伸ばしていた手を戻した。 「……鶴屋さん、今まで本当にありがとうございました。私、鶴屋さんに会えて本当に よかったです」 「ちょちょっと! ……みくる、何を言ってるのさ……ねえ」 朝比奈さん、なんでそんなに悲しそうな顔で笑うんですか。 「みんなも本当にありがとう。……そして、涼宮さんも」 机の上で動かないハルヒに向かって、朝比奈さんはそのまま話し続ける。 「……恥ずかしい思いもいっぱいしたけど、私は涼宮さんの事が大好きです。遠くから 見てた時よりもずっと。だから……もしもまた会えたなら……遊んでくださいね?」 言葉の最後は涙で掠れてしまって俺には聞き取れなかったんだが、きっとハルヒには 聞こえていたはずだ。 理由なんて無いが、俺にはそう思えたんだ。 服の袖で涙を拭いて、朝比奈さんは森さんの顔をじっと見つめる。 そして……何かを決心した様に口を開いた。 「キョン君、時間の流れには色んな考え方があって……ごめんなさい、私の知識じゃ上 手く伝えられないんですけど……。未来は選択によって絶えず分岐を繰り返していて、 選ばなかった未来は無くなるんじゃないんです。ただ、別れてしまった世界には二度と 行けなくなるだけなんです。それは終わりと同じかもしれないけど、終わってはいない んです」 静かに語る朝比奈さんを、森さんは反論もせずじっと見つめている。 「ごめんなさい、こんな説明じゃわからないですよね。……もっといっぱい、お話しし たかったなぁ」 俺は朝比奈さんのその言葉は、もうすぐ世界が終わってしまう事を言っているんだっ て思ったんだ。 「キョン君、今から私はTPDDを強制解除して禁則事項に該当する言葉を言います」 え? じっと森さんを見つめて、俺には背を向けた状態で朝比奈さんは話し続ける。 「そうすれば……きっと、私も森さんもこの世界から居なくなると思います」 な、何を言ってるんですか。 「森さんが居なくなれば、きっと涼宮さんを起こす事ができると思うから……後の事は お願いしますね?」 朝比奈さん! いったい何をするつもりなんですか? 俺の言葉に振り向いた朝比奈さんは、口の動きだけで俺に何かを伝えていた。 朝比奈さんが伝えたかった言葉がなんだったのかわからないまま……朝比奈さんは森 さんへと向き直る。 そして―― 「森園生さん。貴女は……貴女は!「降参します」 ………………へ? その場に居た全員が――叫ぼうとして口を開けたままの朝比奈さんも含めて――が固 まっていた。 …………今、何て言いました。 聞きなおした俺に、 「降参します。涼宮ハルヒの身柄をお返しし、再構築を停止させます」 森さんは両手を挙げて……やはり無表情でそう言ったのだった。 突然の展開に誰も動けない中で、 「……朝比奈みくるを止められなかった時点でこうなる可能性がある事はわかっていま したが……まさか、本当にパラドクスを恐れないとは驚きましたよ」 溜息と共に、森さんの周囲に金色に光り輝く玉が数え切れないほどに現れ部室を照ら したかと思うと、 「わわわっ!」 「おっと!」 「きゃあ!」 光はまるで意思を持った様に一斉に飛び去っていった。 ある玉は部室の壁を貫き、またある玉は窓から空へと飛んでいき――部室の中は一瞬 金色に包まれ、その光はあっという間に消えていった。 な、何をしたんだ? 再び光を失った部室の中、誰一人状況が掴めない中で――数秒後、それまで大きくな っていっていた振動は、どんどん静かになっていった。 やがて――灰色だった空に亀裂が走り出す。 お、おい古泉! これはもしかして。 「ええ間違いありません。信じられませんが……神人が全滅し、閉鎖空間が崩壊しよう としています。余波が来ます! みなさん伏せてください!」 空に走った亀裂から光が差し込み、世界が再び大きく揺れ始める。 古泉の言葉に従ってみんながその場に伏せる中、俺は古泉がハルヒの上に覆いかぶさ る姿を見た気がした。 ……ここは……。 急に辺りが静かになって、恐る恐る顔を上げた俺の視界に入ったのは夕方、いや朝方 らしい薄暗い部室と――ようやくお目覚めか。 「……おはよう」 何故か照れ笑いを浮かべたハルヒだった。 ここは……部室か。 壁に古泉がぶつかった跡はない、机や椅子も元のまま。窓にはちゃんと古ぼけたガラ スが入っているし、そしてみんなの姿もそこにあ……あれ? 長門……朝倉はどうしたんだ? 何故か部室の中に、朝倉の姿は見つからなかった。 思わず小声で聞いた俺に、長門は寂しそうに首を横に振る。 それっきり何も言おうとしない所を見ると……まあ、何かあるんだろうな。 そして居なくなっていたのは朝倉だけでなくもう1人、ハルヒの隣には…… 「何よ」 いや、何でもない。 ハルヒの隣にずっと立っていた森さんの姿も、どこかに消えてしまっていた。 いったいこれは何だったのか……正直、色々あり過ぎてもう訳が分からないぜ。 それでも、世界は無事でこうしてみんなとまた会えたんだ。それだけで十分「ねえ、 キョン。ちょっと聞きたい事があるの」 って訳にはいかないよな。やっぱり。 いったいなんだ? 悪いが、聞かれても答えられない事だらけだぞ。 「何で部屋で寝てたあたしがここに居るの?」 知らん。 「それに、何でここにみんなが揃ってるのよ」 さあな。 ずんずん迫ってきたハルヒは、俺の前に立ち……なんだよ、その顔は。 怒っているのでも笑っているのでもない、何とも言えない顔で…… 「まあ、その辺は……知ってるからいいんだけどね」 だったら聞くなよ。 ……っておい、何で寝てたはずのお前が知ってるんだ? まさかお前、さっきまでの事を―― 「いいじゃない。そんな事」 人を混乱させるだけさせておいて、ハルヒは――ああ、お前はそんな顔で笑う奴だっ たよな――久しぶりに向日葵の様な笑顔を浮かべていた。 「そうね……せっかくみんながここに集まってるんだから大事な事を確認しておくわ」 ハルヒはそう言いながら、まずは窓際に立っていた長門の元へと歩いていった。 「最初は有希ね。1つ教えて」 「何」 「貴女にとって、あたしって何なの? 団長?」 意味不明な質問をするハルヒに長門は、 「大切な人」 観察対象とか言い出さなくて良かったが……それにしても、聞いているこっちが恥ず かしく……ってまあ、女同士だよな。 しかし、同姓だから問題無いなんて常識的な発想をハルヒに当てはめる事には無理が あったらしい。 「……そっか。じゃあキョンは?」 ハルヒの言葉で、部室の中に緊張が走ったのがわかる。 なあハルヒ、お前が何を勘違いしてるのか知らな……聞いてねぇな、これは。 真剣な顔で見つめるハルヒを前に、長門は 「大切な人」 俺に視線を向けながら、そう答えた。 「……そっか。うん、あたしもそうよ」 接近するハルヒから逃げようとしない長門の顔にハルヒの影が落ちて、 「……」 そのまま接近を続けた2人の唇は重なるのだった。 ……頼む、誰か俺に現状を説明してくれ。さっきまでの展開と落差がありすぎてつい ていけない。 「……これはびっくりだねぇ」 「す、涼宮さん」 女性陣2人が興味津々な目で見守る中、2人はようやく離れた。というかハルヒだけ が離れた。 「うん。前々からおかしいと思ってたのよね」 何かを納得するように頷きながら、ハルヒは朝比奈さんの方へと近づいていく。 ……嫌な予感がする。 ある意味、世界崩壊の危機なんかよりも、もっととんでもない事が起きてしまうよう な……そんな予感が。 「日本は一夫一婦制で重婚は犯罪って言うけど、それって所詮小さな島国の小さな考え 方だわ」 日本に居るなら日本の法律に従え。 文句があるのなら、政治家になって法律を変えるか違う国へ行けばいい。 「SOS団は、世界を大いに盛り上げるこのあたし涼宮ハルヒの団なのよ? だったら 守るべき法律はもっと世界的じゃないといけないのよ! ……つまり、同性愛は禁止な んて偏見も、当然守らなくてもいいのよね」 ここに来て自分が標的に選ばれている事に気づいたらしく、朝比奈さんが逃げ場を探 し始めた。 朝比奈さん! 早く逃げてください! 「え、あ、あ、あの。えっと?」 朝比奈さんの元へ行こうとするハルヒの前に立ちふさがったのは、 「ちょーっとまったー! ハルにゃんのその意見には賛成だけど、みくるはあたしのだ からねっ! これだけは何があっても譲れないっさ!」 森さんを相手に戦っていた時よりも遥かにテンションが高い鶴屋さんだった――それ と鶴屋さん、意見に関しては賛成なんですか。 ハルヒと言えど、上級生である鶴屋さんを相手にそこまで無茶を押し通しはしないだ ろうと思っていた俺は、 「そうね。じゃあ、半分ずつって事にしましょう」 ハルヒという存在を甘く見すぎていた。 おい半分ってなんだ? 朝比奈さんは物じゃないんだぞ? 「みくるを……ハルにゃんと半分ずつ?」 「そう。半分ずつ。あたしは鶴屋さんの事大好きだし、一緒の方が楽しそうじゃない?」 見上げる様な視線で何かを考えていた鶴屋さんは……やがて、 「そっれいいねぇ!」 もう駄目だ。 味方だったはずの鶴屋さんはあっさりと寝返り、逃げられないように朝比奈さんの体 を押さえるのだった。 「え、あの鶴屋さんどうして? あの、あ涼宮さんまで?」 「大丈夫大丈夫、怖くないから」 「さ~みくるちゃん。……あ、その前に個人の意見もちゃんと聞かないとね」 順番が逆じゃないのか? 「ねえみくるちゃん」 「はは、はい」 駄目だ、俺には朝日奈さんが肉食獣を前に脅える小動物にしか見えない。 「そんなに怖がらなくてもいいでしょ? また会えたら遊んで欲しいってさっき言って たじゃない。嬉しかったな~あれ」 「えええ?! す、涼宮さん何でそ――」 朝比奈さんの台詞が何故途中で途切れたのか? ……まあ、多分想像してる通りだろうから省略させてもらおう。 じたじたともがいていた朝比奈さんの手足が、やがて静かになった頃。 「――っぷはぁ…………ふぅふぅ……うぅ……」 ようやく開放された朝比奈さんは涙目になっていた。 「みくる~。キスする時は鼻で息をしなきゃ」 鶴屋さん、多分泣いてる理由は呼吸困難だけじゃないと思いますよ? 「さて……次は古泉君ね」 「ええ?!」 それまでいつもの様に営業スマイルで傍観していた超能力者は、その一言で面白いよ うに動揺していた。 古泉は照れ笑いと共に近寄ってくるハルヒと、何故か俺を見比べている。 ……なんだその目は。言いたい事があるのならはっきり言え。 「言えるわけないでしょう」 小声で反論する古泉だったが……そうだ、そういえば。 「ど、どうしたんですか?」 そういえばお前には貸しがあったんだよな、2つ程。 俺の言葉に、古泉は口を閉ざす。 「何よ……何男同士でひそひそ話してるわけ? ……まさかあんた達、そーゆー関係だ ったの?」 何だその詮索するような目は。ついさっき同性愛を否定しないって言ってた奴の行動 とは思えんぞ。 生憎だがそんな趣味はない。それよりハルヒ、古泉に何か話があるんじゃないのか? 「あ、そうね」 俺がその場を離れるのを見て、ハルヒは自分の携帯電話を取り出し――バキッ ……って何してやがる?! ハルヒの手の中で、携帯電話はあっさりと二つに折れ曲がっていた。 「ねえ古泉君」 壊れた携帯電話をゴミ箱に投げ入れてから、 「携帯電話が壊れちゃったわ」 ハルヒはそんな事を言い出した。 「これで……あの時の返事は、直接貴方に言うしかなくなったのよね」 何の事か知らないがそれだけの為に壊したのかよ? 「涼宮さん」 ハルヒはしばらく古泉の足元の辺りを見ていたんだが、やがて気合を入れるように顔 をあげ、古泉の顔を見つめた。 傍目にも緊張しているのがわかるハルヒよりも、その前に居る古泉の方がよっぽど緊 張している様だ。 朝比奈さんや鶴屋さん、長門までもが注目して見守る中。 「あたしね……古泉君の事、好きよ」 最後まで目を見て言い切ったハルヒの言葉に、古泉は口を開いたままで何も言えずに いた。 時折、助けを求めるように俺の顔を見る古泉に俺は――やれやれ。 俺は古泉に見えるように指を二本立てて、その内一本を曲げてから口だけで「いえ」 と言ってやった。 古泉はそれを見て苦笑いを浮かべた後…… 「僕も、涼宮さんの事が好きです」 はっきりと、そう答えたのだった。 鶴屋さんと朝比奈さんが声を出さずに歓声を上げる中 「……ありがとう」 そう言って抱きついてきたハルヒに、古泉は一方的に抱きつかれたまま両手を挙げて いた――意外に手のかかる奴だな。 俺が残ったもう一本の指を折り曲げて見せてやると、古泉は諦めたような……それで いて、至福の様な笑顔を浮かべて、ハルヒの体を抱きしめるのだった。 かくして、世界に平和が訪れたらしい。 いや~色々あったが「あんた、何勝手にまとめようとしてるのよ」 ……駄目か。 古泉から離れたハルヒは、今度は俺の前にやってきていた。 そして問答無用で俺の服を掴みっておいまて! 俺には何も聞かないのかよ? 「あたりまえでしょ? あんたの気持ちなんて知った事じゃないわ。……でも言いたい のなら言わせてあげるけど」 ……迂闊な事を言ってしまった。 「ほらほら、さっさと言いなさい。それとも何、またこうすればいいの?」 そう言いながらハルヒは髪留めゴムを取り出し、伸び始めていた髪を後頭部でまとめ あげるのだった。 ……ってまてよおい? またこうすればいいって、まさかあの時の事まで覚えているってのか? 動揺する俺の質問は完全無視。ハルヒは問い詰めるような顔で 「感想は」 ……そんなもん聞くまでもないだろ? しかしここは言ってやるべきなんだろうな。 そもそもだ。 俺は自分がポニーテールが好きなんだとずっと思っていたんだが、ハルヒに巻き込ま れてからというもの、街でポニーテールを見かけてもそれ程興味を持たなくなったんだ。 それは俺の好きな髪形ってのはポニーテールじゃなくて、お前のポ……まあいい。 やっぱり似合ってるぜ、ハルヒ。 問答無用、強引にキスしてくるハルヒの体を受け止めながら……そうだな、そろそろ 年貢の納め時かもしれん。 認めるよ。ハルヒ、俺はお前の事が―― それぞれのエピローグ その日を境に、再びハルヒは俺達と一緒に行動するようになっていた。 以前の様にハルヒは無茶をやるようになり、主に朝比奈さんと俺はそれに振り回され っぱなしの毎日だ。 「さ~みくるちゃん! 今日は巫女服に着替えましょう~」 どこからともなく仕入れてきやがった和風の衣装を手に、ハルヒは朝比奈さんを追い 掛け回している。 「す、涼宮さん……最近どんどん衣装が増えてる気がするんですけど……」 朝比奈さんの不安そうな視線の先には、すでに溢れかえりそうになっている衣装掛け がある。 ちなみに、衣装は朝比奈さんだけでなく、長門のも分も追加されていたりするぞ。 「だってスポンサーがついたんだもの。ね、鶴屋さん」 「その通りさ! みくるの巫女さん姿なんてめがっさ楽しみだねぇ~。ほらほら、巫女 服を着る時は下着も脱がないと駄目なんだよ?」 脅威が二つに増えて、朝比奈さんの苦難はより厳しいものとなっていた。 「や! 駄目! それだけは駄目! 駄目です~!」 古泉、廊下に出るぞ。 これ以上ここに居たら間違いなく逮捕されるだけでなく、それ以上の罪を犯してしま う危険すら感じる。 「了解しました」 俺は長門に終わったら呼んでくれと伝えて、廊下へと避難した。 扉を閉め、朝比奈さんの悲鳴が小さくなった所で 「1つ、聞いてもいいですか?」 遠慮がちに古泉は聞いてきた。 ああいいぞ。ちょうど俺も聞きたいことがあったしな。 前に一度、扉にもたれていたせいで朝比奈さんのあられもないお姿を偶然にも見てし まった経験がある俺は、廊下の窓側の壁にしゃがんでから古泉に喋るように促した。 「では僕から。何故……涼宮さんが僕の気持ちを確認しようとしたあの時、貴方は僕に 言えと仰ったのですか?」 そんな事言ったか? 悪いがまったく記憶にないな。 「僕は……貴方は長門さんの事を好きなのだと思っていました。ですが、涼宮さんを助 けようと必死になっている貴方を見ている内に、それは間違いだとわかったんです」 そんな簡単にわかった気になられてもな……。 まあいい。俺がお前に言えって言った理由だったな? 「ええ。恋敵にあえて塩を送るような事をした、その理由が知りたいんです」 ……お前、意外に鈍い奴だな。正直驚いてるぞ。 古泉、お前だって自分がハルヒの事を好きなのに、俺とあいつをくっつけようとして ただろうが。 自分の事を棚に上げてよく言うぜ。 「それは……ですがそれは」 機関の方針って奴か? ……ったく、そんな無駄な気を回した所で無意味だって言っ てやれ。 そう言い切る俺に、古泉は溜息で答えて……何笑ってるんだよ。 「いえ、何でもありません。それで、貴方の質問とは」 俺か? 俺が聞きたいのは、 「いいわよー!」 部室の中から聞こえたハルヒの声で、続けようとした俺の言葉は掻き消された。 俺がお前に聞きたかったのは結局、機関ってのはハルヒをどうするつもりなのかって 事だったんだが……まあいいよな。俺が詮索する事じゃない。 例え機関が敵に回ろうが何も心配する事は無い。 なんせ、俺達にはあの森さん相手に怯まなかった超能力者が居るんだからな。 話の続きを待っている古泉に、俺は部室の中へ戻ろうと首を振った。 さて、巫女姿の朝比奈さんか……いったいどんな神々しさなんだろうね? 背中についた埃を払いながら、いつもの非日常が待つ部室の扉を、俺は自分の手で開 いた。 長門に自分が宇宙人であると打ち明けられて以来、俺は様々な話をこいつから聞いて きた。 そのどれもが容易には信じられない内容で……でもまあ、結局信じる事になるのはわ かってはいたんだが……。 それでも、やはり俺の口から最初に出る言葉はこれからも同じなのだろう。 ……マジか? 「本当」 昼休みの部室、俺の目をじっと見返す長門が言うには……だ。 今、この部屋に居るのは俺と長門だけなのだが、俺を見ているのは長門だけではない んだとよ。 氷が張った湖の様に、奥底で緩やかに流れている様な長門の目。その目を通して俺を 見ているのは長門自身と――朝倉なんだと長門は言う。 「喜緑江美里は私とは違う派閥から派遣されているインターフェース。今回の様に、彼 女が敵対行動を可能性は想定されていた。人間になった私にはそれに対抗する力は無い。 その為に、私には護衛がつけられた」 それは以前、朝倉の一件があったからこその事なのかもしれんが――問題はその護衛 をしてくれる奴の人選だ。 統合思念体の考え方なんて物はわからんし、そもそもわかりたくもないんだが……よ りによってあいつを選ぶとはな。 ……つまり、その護衛ってのが朝倉なのか。 「そう。彼女は今、私の中で待機モードで存在している。彼女の情報連結は解除されて しまっている為、この世界で行動できる時間はとても短い。普段は私と五感を共有し、 私の身に危険が迫った場合に限り、彼女は私を助けてくれる」 なるほどね。 長門の説明で思い浮かんだのは、光の翼をまとって笑う懐かしい笑顔だった。 ん……って事は、今俺が喋ってる事も聞こえてるのか? 「聞こえている」 そうか。 なんとなくそう聞いただけだったんだが、長門はまるでビデオカメラでも構えている みたいに、俺の言葉を待っている。 ……といっても、別に俺はあいつに何か伝えたい事があるわけじゃないんだが……ま あいいか。 えっと、朝倉。この間は助かったよ、ありがとう。 ……まだ何か言わないといけないのか? えっと……あ、そうだ。 朝倉、多分これは俺の勘違いか何かだとは思うんだが……。お前、俺と2人でどこか に出かけた事が……あるわけないよな。すまん、忘れてくれ。 森さんの前に突然現れたお前を見た時、俺は湯煙の中で幸せそうに笑ってる朝倉の顔 を思い出した様な気がしたんだが……気のせいだな。 部室の中に予鈴が響くのを聞いて、俺はなんとなく名残惜しい気持ちに引かれながら も席を立った。 そろそろ教室に戻らないとな。 予鈴が終わりそうになっても窓際の椅子から立ち上がろうとしない長門に、俺はそう 呼びかけてみたんだが何も反応は無い。 長門、遅れるぞ? 「いい」 いいって……ああ、次の授業は教室じゃないのか。 じゃあ、また放課後な。 ゆっくりと頷く長門の視線に見送られながら、俺は部室を後にした。 ――扉が閉まって静寂を取り戻した部室の中で 『ありがとう、お話させてくれて』 私にしか聞こえない彼女の声が音も無く響いている。 いい。感謝しているのは私。貴女のおかげで彼を守れた。 『ん~……かっこよく登場したのに、あっさり森さんに負けちゃったから素直に喜べな いけどね』 それは仕方ない。 『ねえ、あの人ってただの人間なの?』 そう。 それは間違いない。 『それって本当? 情報操作に抵抗したり、神人を瞬時に消し去ったり……。あの未来 人の女の子が言おうとしてた事と関係があるの?』 ある。でも言えない。 『え~? 気になるなぁ』 私にも疑問がある。 『え?』 貴女の事を、彼に説明させないのは何故。 『何故って……。だって、キョン君はあの時の事はもう覚えていないもの』 貴女にはある。 『……そんな事を言って困らせないで、やっと気持ちの整理ができたんだから……。そ れより貴女こそいいの? せっかくキョン君を独占するチャンスだったのに』 いい。 『無理してない?』 していない。 『……それならいいんだけど。私は、キョン君は涼宮さんよりも貴女が好きなんだって 思うんだけどなぁ……いつも面倒みてくれてるし』 彼が私の事を大切にしてくれているのは、私が人間の生活に慣れていないから。 『え?』 彼は優しい。とても。だから私の事を放っておけない。 『それだけかな』 彼が私に抱いている感情は、私が彼を思う感情とは違っていた。 『……』 彼が私と同じ目で見ている相手は、他に居た。 ――そう、私ではなかった。 『そっか……』 それに、私には貴女が居る。 『うん。……そうよね』 この部屋には私しか居ない。 でも、少しも寂しくはない。 私は1人ではないのだから。 『……ねえ、ところで授業には行かなくていいの?』 大丈夫、情報操作は得意。 『ちょっとまって! 今の貴女にはそんな事できないでしょ?」 ……そうだった。 『ほらほら急いで! あ~もう! お弁当は後で持ちに来ればいいからしまわなくてい いの。とにかく教室に向かって?』 了解した。 まるで自分の事の様に彼女は指示をしてくれて、そんな彼女に従う事に私は喜びを感 じていた。 ――数ヶ月前、私は生まれてはじめて神に祈った。 大切な人にまた会えますように――と。 その願いは本当に叶った。 この星の神様は働き者。 来年は何を願おう? ――とても楽しみ。 長い様に思えて、過ぎ去ってしまえばあっという間でしかない冬が過ぎ――今は春。 満開を迎えた木々を撫でるように風が舞い込み、薄く色付いた桜の花びらが緩やかに 散っていく。 風情なんて概念とは縁遠い俺ですら、思わず感傷に浸ってしまうのも無理もないだろ。 ハルヒと出会って……もうすぐ一年になるのか。 最初に思い出すのはいつも同じ。高校初日、一生忘れられないであろう自己紹介と共 に俺とハルヒは出会った。 それは本当に偶然だったのか……今となっては何とも言えないな。 ……おや。 ふと気がつくと、物思いに耽っていた俺の顔を遠慮がちに見上げている視線がそこに あった。 俺と視線があうと、彼女は表情を綻ばせ 「……この公園を一緒に歩くのって久しぶりですね」 そう言って微笑む朝比奈さんの顔は、いつになく穏やかで言うまでも無く可愛らしく、 思わず息を飲んで 「おやおや……どきどきな雰囲気だねぇ。お姉さんお邪魔じゃないかな?」 ……息を飲んでしまった俺の顔を、意味ありげで楽しそうに覗き込んでいるのは、言 うまでも無くいつも楽しそうな鶴屋さんだった。 そんなわけないじゃないですか。 「本当? 馬に蹴られちゃったりしない?」 しません。 残念ながらね。 両手に花という言葉を、そのまま具現化した様なこの状況に不満を持つ男がこの世に 居るのだろうか? いや、居ない。 桜並木というオプションがある事を考慮してもそう言い切ってしまえる程に、華やか な振袖――鶴屋さんが着付けしたらしい――に身を包んだ今日の2人はいつにも増して 綺麗だったわけさ。 さて、今日はハルヒ考案による花見なんだそうだ。 進級を控えて、SOS団の更なる結束が~とか何とか言っていたハルヒはいつになく ハイテンションで、その勢いのままに俺は早朝からの場所取りを命じられた訳だ。 当初、何が悲しくて1人寂しく早朝から公園で座っていなければならんのだ? とも 思ったんだが、意外や意外。ようやく日が昇ってきた頃、眠たい目で公園にやってきた 俺が見たのは入口で待っていた二人のお姫様だった。 なるほど、これが早起きはプライスレスって奴か。 「いや~絶好のお花見日和だねぇ~」 そう言って鶴屋さんが見上げた空には雲ひとつ無く、雲ひとつ無いとってつけた様な 晴天が好き放題に広がっていた。 季節外れの台風のせいでここ数日天候は悪かったと思うんだが……まあいいさ、それ が誰のせいかなんて無粋な事は考えない様にしよう。 普段から面倒に巻き込まれてる俺への、神様なりの配慮かもしれないしな。喜ぶべき 事には、素直に喜んでおくのが正しい生き方だ。 謎は謎のまま、あるべき物はあるべきばしょにってな。 ――しかし、彼女はそうは考えなかったらしい。 「ね~キョン君」 はい。 「そろそろ、全部教えてくれてもいいんじゃないかなぁ」 全部……ですか? 「そう! ハルにゃんと長門っちとみくると古泉君と……あの森さんの事、とか。ね」 笑顔の中に「教えてくれるまで諦めないっさ!」とでも言いたげな雰囲気を含ませ、 鶴屋さんは俺を見つめるのだった。 「あ、あの」 慌てる朝比奈さんは俺と鶴屋さんの顔を交互に見るだけで、残念ながら助け舟は来そ うに無い。というかむしろ助けを求めている気配すらある。 ……正直、ここまで助けてもらっておいて何も言わない事に罪悪感を感じない訳じゃ ないさ。鶴屋さんの助けがなければ、ハルヒだって助けられなかっただろうしな。 しかし、だ。 みんなの背景を教えるって事は、そのまま危険な事に巻き込んでしまう事にもなりか ねないんだよなぁ……。 「ね~ね~。後で教えてくれるって言ってたじゃないか~」 それは……はい。 つまらなそうにふくれる鶴屋さんを申し訳無く思って見ていると、 「……そっか、うん。ごめん、もう聞かないよっ」 気のいい先輩の顔に戻った鶴屋さんは寂しそうに笑うのだった。 本当にすみません。 「じゃ~代わりに1個だけ教えて! みくるがあの時言った言葉だけでいいからさ!」 「えええ! あ、あれは駄目です、本当に駄目なんです!」 本気で慌てている朝比奈さん。 「あたしにも秘密なの? 寂しいなぁ~……」 「ごめんなさい。あれだけはどうしても言えないんです」 俺もあれは気になってはいたんだが、朝比奈さん曰く「自分が世界から居なくなって しまう」言葉である以上、一生答えを知りたくない質問でもある。 「おや、二人とも勘違いしてるねぇ」 「え?」 あれ? 違うんですか? 「あたしが聞きたいのはみくるが言わなかった言葉じゃなくて、あの時キョン君に向か って口パクで言った言葉の方なのさ」 ってそっちですか。 「あれって何て言ってたの? あたしからはよく見えなくてさ、キョン君からは見えて たでしょ」 すみません、俺にもよくわかりませんでした。 「そそそそうですよね」 何故かわからないが、俺の返答に朝比奈さんはやけに動揺していた。 本当に何て言ってたんだろう? 「あらら、そうなんだ。ねぇみくる~。あれってキョン君に言ったんだよね?」 「あの……はい、そうです」 素直に頷く朝比奈さんを確認してから、鶴屋さんは笑顔で 「あのさ。「貴方の事がずっと前からす」の後に、みくるは何て言ってたのかな?」 絶対に確信犯だ、この人。 ……でもまあ、これは流石に鶴屋さんの見間違いだよな。朝比奈さんが俺にそんな事 を言うはずがな……あ、あれ? 朝比奈さんの顔色は、桜の花びらの様から一気に赤へと色付き「……ふ~ん。キョン、 あんたずいぶんモテてるみたいね」 確信犯は2人居た。 背後から聞こえてきたその何かを企むような声は、本来この場に居るはずがない…… まあ、こいつがいつどこに居ようが今更驚かねぇけどな。 振り向いた先に居た華やかな髪飾りと振袖に身を包んだハルヒの姿を見て、俺は驚く 前に溜息をついていた。 「すすすす涼宮さん」 デジャブって奴か? 胸元に腕を寄せて震える朝比奈さんを見るのはこれで二度目……いや、結構頻繁に見 てるか。 「あのね、みくるちゃんが誰を好きになってもそれはいいのよ。ま、普通に考えてあり えない事だけど、その相手が奇跡的にそこのバカだとしてもね」 好き放題言ってくれるな。 まあ、俺だって朝比奈さんが俺に密かな恋心を……なんてのはありえないって事くら いわかってるよ。 「でもね、みくるちゃんの事が一番好きなのは間違いなくこのあたしなのよ! さあ、 今からあたしの愛を再確認させてあげるわ!」 おいまてハルヒ、何を馬鹿な事を 「あたしも負けないっさー!」 鶴屋さんまで何を言ってるんですか?! 「えええええ!?」 本気で脅える朝比奈さんに、2人の手が伸びていく。 「あああの! えっとその、涼宮さんはキョン君と古泉君の事が好きなんじゃ……」 俺を気にするようにして朝比奈さんは意見してみたが、 「え? 違うわよ。あたしはみんなの事が好きなの。愛は世界を救うって言うし、好き なのは1人だけとかそんな出し惜しみしちゃいけない物なのよ! だーかーら、みくる ちゃんは何も心配せず、安心してあたしの愛を受け入れてね!」 俺はお前の頭が心配だ。 「そうそう。いや~ハルにゃん良い事言うな~」 駄目だこの2人。 「そ、そんな~!」 相手がハルヒ1人の時ですら一度も逃げ切れた事が無かった以上、鶴屋さんが加わっ た今となっては、朝比奈さんが無事に逃げきれる可能性は、古泉が俺にボードゲームで 勝利するくらいにないだろう。 これは早めに止めた方がよさそうだ。 鶴屋さん、ここは公園で人の目もありますから。 「そっか、キョン君も一緒にいたずらしたいのかい?」 人の話を聞いてください。 「あ、みくるちゃんの振袖胸元が苦しそうね。ちょっと緩めてあげましょう~」 「な、何で腰帯に手をかけるんですか?」 「ほら、花見には付き物でしょ? あ~れ~って回る奴」 どこの世界の花見だ、それは。 っていうかそれは胸元と関係ないだろ。 「日本古来の伝統文化に決まってるじゃない。ねー鶴屋さん」 「そうそう。女の子の夢だよね~」 どんな夢ですか、それ。 「おや、皆さんもうおそろいですね」 未来人の窮地に登場したのは、いつもの笑顔を取り戻した超能力者と、以前より口数 が増えてきた元宇宙人(振袖バージョン)だった。 古泉、いい所に来た。朝比奈さんを助けるのを手伝え。 「了解です」 「あ、古泉君。ちょちょっとこら! 人の楽しみを邪魔しないの!」 「申し訳ありません。僕は彼の命令に逆らえないんですよ。ね?」 同意を求めるな。意味不明な事を口走るな。気色の悪い視線を投げるな。 「わわっ! キョン君そこは駄目さ! あ~んハルにゃんが見てる~!」 鶴屋さん。俺が掴んでるのはどう見ても肘です、変な声を出さないでください。 朝比奈さんに群がる二人を取り押さえようと俺と古泉が取り組む中、何故か長門も手 伝いに来てくれた。 「ふぇ……な、長門さ~ん」 着崩れてしまった振袖姿で妖艶な色気を放つ朝比奈さんは、長門に助けを求めて手を 差し伸ばした――のだが 「以前から、一度やってみたいと思っていた」 長門の手は朝比奈さんの手ではなく、彼女が死守していた腰帯に伸びて――直後 「や、駄目~!」 回転しながら薄着になっていく朝比奈さんの姿を、俺は溜息と共に見守るしかなかっ た訳だ。 「ナイス長門っち!」 一仕事終えた顔の長門と、そんな長門とハイタッチを交わしている鶴屋さんに突っ込 むだけの気力もありゃしない。 「うう……も、もうお嫁に行けません……」 朝比奈さんはうずくまり大粒の涙を流していた。 ……その、なんていうか来て早々災難でしたね。でも最初が悪ければ後はどんどん良 くなるって神社の人が前に言ってましたから、きっと良い事が 「こらみくるちゃん! そこは「あ~れ~」でしょ? はい、もう一回やるわよ!」 追い討ちをかけるなこの馬鹿! 「や、駄目! これ以上は駄目です! お願いです、駄目~!」 おいハルヒよせ! いくらなんでも内掛けはまずい! 「いいところなんだから邪魔しないで!」 邪魔するに決まってるだろうが! 「ちょっと離しなさい! ああもう、いいかげんにしないと本気で怒るわよ?!」 こっちの台詞だ! 「なによ! あんたそんなにみくるちゃんが好きなわけ?」 いきなり何だそれは。 「ああもう! ……キョン、あんたは誰が……その。あれよ! あんたの気持ちを教え なさい!」 俺の気持ちだと? そんなもん……その、あれだ。 「部室でも、結局あんただけは何も言わなかったじゃない」 えっと……ああそう! あれだ! ハルヒ、お前と一緒だよ。 ついさっき聞いたハルヒの言葉を思い出した俺は、誤魔化すつもりでそう言ってしま った。 「え?」 だから、俺の気持ちはお前と一緒だよ。 ほら、さっきお前が言ってただろ? 古泉や俺とかそんなんじゃなく、みんなが好き だ~って……あ、あれ? 何でお前の顔が急に赤くなってるんだ? 「…………」 お、おいハルヒ? 急に顔を赤らめて俯いたハルヒは、そのまま沈黙してしまう。 直後、俺の肩に置かれる古泉の手。 「おやおや、これは御暑いですね」 古泉、お前何を言ってるんだ。 「地球温暖化がこんな所にまで」 『本当、こっちまで熱くなっちゃったわよ』 長門まで? しかも何か違う奴の声まで混じってなかったか? 「いいなぁハルにゃん。みくる~……あたしもみくるにあんな告白されてみたいよう」 「つ、鶴屋さん? ……あの、ここじゃちょっと」 「え! ここじゃなきゃいいの?」 ちょっと鶴屋さん? 告白っていったい何の話ですか! 「さ、僕達は邪魔にならない様にお花見の準備を進めておきましょう」 「賛成~恋する2人のお邪魔はできないってね」 「じゃあ、お料理並べますね」 「手伝う」 頼むから人の話を聞いてくれって! なあ! ――俺の叫びは桜の花びらに紛れ、その声に耳を貸す人は誰一人いなかったとさ。 涼宮ハルヒの愛惜 ~終わり~ 数百メートル先――桜並木の下で騒ぐ彼らの姿を、私は木陰に隠れて見つめていた。 数年もの間、ずっと観察を続けてきた彼等の顔を1人1人順番に眺めてからTPDD の回線を開く。 報告。コードネーム森園生。時空震の反応、閉鎖空間の発生。共に認められず。確認 願う。 ――了解。……規定事項「スペアキー」の完了を確認。これで、この時代における全 ての規定事項は無事、履行されました。森園生、貴女の帰還を承認します―― 了解。 最後の報告を終えてデバイスをオフにした私を、 「お疲れ様でした」 江美里さんの落ち着いた声と 「……」 新川の優しい視線が見つめている。 ありがとう。 この場に相応しいで言葉はわかっても、今は笑うべき所なのかそうでないのかは私に はわからなかった。 これでも少しは社交性を身につけたつもりだったんだが……駄目だ、任務だと思わな いとやはり体は動かない。任務であればできる事なのに、何故なのだろう? 戸惑う私に、 「園生さん。貴女はそのままでいいと思いますよ」 この場に相応しいのであろう笑顔を浮かべて、彼女はそう言ってくれた。 その言葉は私の中にあった硬い何かを優しく包んでくれて――なるほど。これが気遣 いという物なのか。 宇宙人のインターフェースから人との接し方を学んでいる自分に、園生は自然と微笑 んでいた。 江美里さん、貴女の助力には本当に感謝しています。 「いえ、私は園生さんのプランを穏健派に伝えただけ。後は穏健派の意向に従っていた だけですので、どうかお気になさらないでください」 優しい宇宙人はそう言って私の手を取った。 「……また、会う日を楽しみにしていますね」 ええ、私も。 柔らかなその手をそっと握り返し、私は彼女を真似て微笑んでみた――が、彼女は何 故か笑いを堪えている……どうやら及第点には程遠いらしい。 寝ごり惜しそうな彼女から視線を移し、私はもう1人の男へと向き直った。 ……新川。 「はい」 いつもの黒の執事服に身を包んだその男は、やはりいつもの様に私を見守ってくれる ような暖かい視線を向けている。 その視線は私が彼と初めて会った時からずっと続いているのだが、私はその理由を知 らない。 そして新川は、その理由を話そうとしない。 ――ならば、わからないままでいいのだろう。 ただ、私にはお前の視線がとても心地よかった。 だから伝えておかなくてはならない。 ……いままでありがとう。 そっと頭を下げる新川へ、私は学んだばかりの笑顔を贈った。 柔らかな風が通り抜けていき、その風を追うように桜の花びらが舞い降りてくる……。 頃合だな。 私は静かに目を閉じて――声をあげた。 古泉、腕を上げたな。 新川と江美里さんの顔に緊張が走り、同時に同じ方向に振り向く。 私の言葉が辺りに響いて消えた頃、古泉は2人が見ていた木の影から姿を現した。 この2人に気づかれない様にここまで接近できるとは……どうやら、私が教える事は もうない様だ。 ――幼く無知で、勢いだけの実力が伴わなかった少年は、もうここには居ないという 事か。 古泉、そんな顔をするな。 「……」 無言で立つ古泉は、非難するのでも怒っているのでもなく、ただ……悲しそうな顔を していた。 もう気づいているだろうが、私はお前を騙していた。その事について弁明する言葉は ない。殴りたいのであれば殴ってくれても構わない。 そう私が言っても、古泉はただ私を見ているだけ――これなら、殴られた方がまだ気 が楽かもしれないな。 沈黙が苦痛に変わってきた頃になって、ようやく古泉は口を開いた。 「森さん。僕には貴女がわかりません」 ……。 「機関の情報を調べました。涼宮さんを誘拐した事に関して、機関は何も知らされてい ませんでした。怪我をした同志も居ない、世界の再構築が機関の意向だという話も作り 話……貴女は、いったいどんな目的があってあんな事をしたんですか!」 ……。 「古泉さん違うんです、園生さんは貴方が思っている様な……」 無言でいる私に代わって話をしようとする江美里さんを、私は手で制した。 いいんです、伝えなくても。……古泉、私の予想では、お前はこの件に関して深入り しないと思っていた。 「僕もそのつもりでした。ですが、一つ気になった事があるんです」 気になる事? 「ええ、僕自身の事です」 そう言って古泉は自分の頭に手を当てる。 「僕の記憶の中では、貴女と僕は色んな場所へ出かけています。しかし、その記憶はど こかへ行ったという事実だけで、そこで何をしたのかは全く思い出せないんです。最初 は僕の思い違いなんだと思いました。ですが、それだけではどうしても納得出来ないん です。機関の意向であるという貴女の言葉を疑ったのは、それがきっかけでした」 ――まさか、2度も使う事になるとは……私は古泉に何も答えないまま、右手の掌に 小さな金属の塊を精製した。 それはイメージした形へと変化し、冷たく重い金属――小さな銃へと姿を変える。数 秒後、自分に向けられた私の手に銃が握られているのを見て、古泉は体を硬直させた。 銃口の先に古泉の額を定めて、そのまま口を開く。 古泉、いい男になったな。 「え?」 私が次にお前に会う時……その時は全てを話そう。約束する。 「森さん、貴女は――」 さよならだ、古泉。 ――これは私の規定事項。 私はトリガーを引き、掌に収まった小さな銃は弾倉に残っていた最後の弾を音もなく 吐き出す。 弾丸は光となって一瞬で目標を貫き――桜の花びらが舞う中、古泉は倒れた。 新川、すまないが。 「ご心配なく、うまく処理しておきます」 ……頼んだ。 「本当に良かったんですか? 何も伝えなくて」 新川に担がれて古泉もこの場を去り、私は江美里さんと2人っきりになっていた。 いったいどんな理由があるのかわからないが、この宇宙人は私と古泉の関係が気にな っているらしい。 まるで自分の事に様に彼女は辛そうな顔をしている。 伝える必要はありません。古泉とは、また会う事になりますから。 「……ですが、彼の記憶にあった貴女との思い出は消してしまったんでしょう?」 はい。今度は出会った時から全ての記憶を消しました。 「……それでは……それでは貴女の思いは……」 なるほど、彼女の杞憂の正体がやっとわかった。 江美里さん、あいつは違うんです。 「え?」 私が最初に恋した古泉は、あいつではありません。 「え? それっていったい」 続きは……そうですね、また――年後に会った時にお話ししましょう。どこかゆっく り出来る場所でお茶でも飲みながらね。父に美味しいお菓子を焼かせます。 「ま、待って!」 それでは、また。 はじめて見る彼女の戸惑った顔を目に焼け付けながら、私はこの時代に別れを告げた。 涼宮ハルヒの愛惜 ~終わり~ その他の作品
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5359.html
涼宮ハルヒのOCG④ (2008/11~ ぐらいの時期だという前提でお願いします) 「えーっとね、潜水艦でキョンくんに攻撃して・・・カードを一枚伏せてわたしの番は終わりだよ。」 「違うわよ妹ちゃん、ターンエンドの前にこのカードを伏せとくの。そうすればキョンが何か出してきても一発で除外・・・」 今俺の目の前にはなぜかカードを握る我が妹と、その後ろからあーだこーだと口出ししてるハルヒがいる。長門はというと後ろの方で俺の本棚をあさっている、マンガぐらいしかないから面白くないと思うぞ長門。そして場所は俺の部屋だ。さて、何でこんな状況になったんだろうな。少し時間を遡って話していくか・・・。 朝倉との奇妙な再会の翌日、やはり朝倉は北高に転入してきた。俺のクラスではなく長門のクラスだったので大した騒ぎにはならなかったのだが、我らが団長がそんなニュースを聞き逃すわけも無く、放課後部室で朝比奈さんのお茶を飲みながら一緒にデュエルをしている(ディアボリックガイを制限解除したのは絶対にミスだ)と、ハルヒがドアを蹴っ飛ばして、 「突然転校して突然転入した、うちのクラスの元委員長にして今は有希の友達、朝倉涼子よ!今日からSOS団の一員ね!」 と、一気に朝倉の自己紹介をした。俺たちの中で一番長かったんじゃないか?まあ、俺と長門はされたことすらないような気もするが。ともあれこんな感じで朝倉も放課後の部室に姿を現わすようになり、デュエルができることが分かると、 「すごいじゃない涼子!パーミッションなんてデッキ今まで見たことなかったわ、あたしと勝負よ!勝負!」 と当然のようにデュエルを始め、俺は朝比奈さんや長門、古泉と交替で勝負したり、ウィキでカードの裁定を調べたり(ライラのカード破壊効果、対象は相手の伏せてある天罰。ライラの効果にチェーンして天罰を使用して、天罰に魔宮の賄賂をチェーンしたとき、逆順処理後ライラは守備になるか)と、だんだん日常化しつつある放課後を過ごし、金曜の放課後をむかえると 「明日は全員で駅前に集合ね!遅れたら罰金よ!」 いつもの団長の命令で解散となった。 そして不思議探索の日、俺は罰金を免れた。前代未聞のことだが、理由は朝倉と長門が二人そろって遅れてきたためだ。どうやら朝倉が長門の服を選ぶのに時間をとられたらしい。 「長門さん、せっかくのお出かけなのに制服で行こうとするから、私の服と長門さんの服をいろいろ合わせてたの、そしたら・・・」 とのことである。珍しいこともあるものだ。まあ長門の私服姿は新鮮だったし、何より俺がおごりを免れたので万々歳だ。そして午前中のクジ分けだが・・・ 「あたしは無印」 「僕は印入りですね」 「無印」 「印入りです」 となって俺の手には無印の爪楊枝があり、朝倉の手には印入りの爪楊枝があった。つまり俺・ハルヒ・長門と、朝比奈さん・古泉・朝倉となったわけだ。各々の会計を済ませ(割り勘ってのはいいね)分かれて歩き出すと、 「ねえ、今日はキョンの家行ってみない?」 とかハルヒが言い出した。こいつの発言が突発的なのはいつものことだが、なんでまた俺の家なんだ。 「なんか冬以来妹ちゃんに会ってなかったし、シャミセンも見てみたくなったから」 なんとも適当な理由だな。確か今日は両親とも妹の学級懇談会かなんかで午前中不在だったし、妹も一人での留守番を寂しがってた気もする。まあこの二人を連れてけば妹も喜ぶだろうし、あちこち連れまわされるよりはマシだが・・・ 「長門、お前はどうしたい?」 一応、見慣れない私服姿の宇宙人娘の意見も聞かなくてはならな・・ 「賛成、私も彼の自宅を訪問する。」 「決まりね」 というわけで先ほど出たばかりの俺の家へ舞い戻り、 「キョンの部屋がいいわ」 「賛成」 「わたしも~」 賛成3棄権1により俺の部屋へと入り、長門とハルヒがデュエルを始め(というかデッキ持ってきてたのか)、興味をもった妹が友達にもらったというカードを自分の部屋から持ってきて、3人で新しいデッキを構築。ルールを覚えつつの模擬戦ってことで今俺と妹+ハルヒがデュエルしていて・・・冒頭に戻るわけだ。 「裏守をリリースして邪帝召喚、効果でサブマリンロイドを除外、ダイレクトアタックで俺の勝ちだ妹よ。」 「うーキョン君つよーい。ハルにゃんくやしいよ。」 「そうよキョン、すこしは手加減しなさい!邪帝なんて壊れカード使っちゃダメよ」 ガイザレス使ってるお前に言われる筋合いはないぞ。ハルヒの教え方がいいのか、妹はルールの飲み込みが速い。カード名はまだ全然覚えてないようだが。 「一度あなたとあなたの妹だけで闘うべき」 いつのまにか後ろにいた長門が言った。そうだな、試しに一回ハルヒ抜きでやってみないか? 「そうね。一回やってみましょ。妹ちゃん、ちょっとこっちに来て、作戦会議よ!」 なにやら部屋の隅でごそごそやり始めたハルヒと妹を一瞥して、俺のベッドの上に腰掛けて珍しそうにマンガを読んでる長門を見た。 「面白いか?」 「・・・ユニーク。ただ、ラーの翼神竜は裁きの龍の完全下位に思える。」 まあそりゃそうだな。読みたきゃ借りていってもいいぞ? 「そう。」 ハルヒ達の方は終わったらしい、よし、いくぞ妹よ。 「うん。えへへ今度こそ負けないよキョンくん。」 「キョン、先攻は妹ちゃんにあげなさいよ」 ああわかってる。おれだってそのくらいのハンデはやるさ。 「じゃあわたしからね、どろー。モンスターカードを一枚セットして、カードを3枚伏せて、終わりだよ。」 3伏せとは気になるな・・・。まあいい、ドロー、俺はハーピイ・クイーンを召喚し・・ 「えーっとキョンくん、キョンくんがモンスターを召喚したときにね、この伏せたカードを発動したいの」 ・・奈落の落とし穴、か。さらば俺のハーピイ。カードを一枚伏せてターンエンドだ。 「キョンくんの番がおわったときに、サイクロンを使って伏せたカードなくしちゃうね。やったーキョンくんのとこにカードなんにもなくなった!」 げ・・・。エンドサイクなんてできたのか妹よ。しかも神宣とかおいしいのを破壊するとは・・ 「いいわよ妹ちゃん!」 ハルヒが後ろでエールを送っている。くそ、忌々しいがいかんともしがたい。 「わたしの番だね、どろー。もぐらをだして、キョンくんにこーげき!カードを一枚伏せて終わりだよ。」 もぐらといってもグランモールではない。ドリルロイドである。よって俺のライフは残り6400というわけだ。俺のターン、ドロー。霊滅術師カイクウを召喚、ドリルロイドに攻撃だ。んでカードを2枚伏せてターンエンドだ。 「どろー、潜水艦をだして・・・」 おっとそうはいかん、召喚したときに激流葬を発動だ。フィールド上のモンスターを全部破壊するぜ。 「えーーつ、キョンくんずるーい。」 「キョン少しは遠慮しなさいよ。」 そうはいわれてもな、それに除外されないだけマシだと思うぞ。妹よ、ターンエンドか? 「あ、うん。」 俺のターン、ミストバレーの戦士を召喚、プレイヤーにダイレクトアタックだ。そしてカードを一枚伏せてターンエンドだ。 「うわーライフが6100になっちゃった。ハルにゃんー、大丈夫かな?」 「平気よ平気、ライフが0にならなきゃ全然問題ないわ。」 全然問題なくも無いがな、ハルヒ。800きるかきらないかってのはけっこう微妙なラインだぞ。洗脳的な意味で。 「えと、わたしの番だね、どろー。裏側でモンスターを出して、カードをもう一枚伏せておわりだよ。」 裏守か・・・。おそらくトラックロイドか何かだろうが伏せも気になるしここは普通に攻撃といこう。ミストバレーの戦士で裏守に攻撃だ。 「ひっくりかえって召喚。ひっくりかえったからメタモ・・メタモルポッドの効果をつかうね。キョンくん手札捨てて5枚引いてー。」 なんてこった。今までのデュエルであんなカードは出てきてないぜ。さてはハルヒの差し金か。仕方ない、カードを5枚ドローだ。そしてメイン2、霊滅術師カイクウを召喚。8シンクロでダークエンドドラゴンを特殊召喚。一枚伏せてターンエンドだ。 「わたしのターン。カードをひいて、伏せてあったカードを使うね。チェーン・マテリアル!手札・デッキ・墓地からトラックと新幹線ともぐらさんと戦闘機をフィールドの外に置いて、手札から線路が3本伸びてるカードを発・・・」 そうはいかん。ビークロイド・コネクション・ゾーンにチェーンして神の宣告だ。 「えーっと、キョンくんの神の宣告にね、わたしもカードを使うの、神の宣告!」 ふっ・・・それも読んでたぜ。さらにチェーンしてもう1枚神の宣告を発動だ。悪いな妹よ。そう簡単にやられはしないぜ。 「キョンくんのカードに・・チェーンして・・・魔宮の・・・・ハルにゃん、これなんて読むんだっけ??」 「わいろよ妹ちゃん!」 「そうだった。魔宮の賄賂を発動するね。」 ちょっと待て、なんで魔宮の賄賂なんていう高額カードが妹のデッキに入ってるんだ?うちにそんなカードはないぞ。というかあったら俺がデッキに入れてる。ふと視線をずらすとハルヒがニヤニヤしながらこっちを見てる。なるほど、これもハルヒの差し金か・・。 「甘いわよキョン!あたしたちがさっきの作戦会議でなんにもしてないと思ったの??」 一杯くわされたな。まあ仕方ない。逆順処理でビークロイド・コネクション・ゾーンは有効。ライフは妹が1525、俺は1600.んで、何を召喚するんだ? 「ロボット!」 スーパービークロイド・ステルスユニオンね、了解だ。だがチェーンマテリアルを使ったターンは攻撃できない。俺のターンだ、ドロー! 破壊耐性はあっても墓地へおくる効果への耐性はないぜ!ダークエンドの効果を使い・・ 「読んでたよ!てへっ! 天罰をはつどう!」 なんだって、なんか朝倉の時以上にカウンターばっかりされてるな・・・。裏側守備でモンスターをセット、ターンエンドだ。裏守なら吸収はされない、なんとか次のターンまで・・・ 「わたしのターン、ドロー。もぐら・・じゃなくてドリルロイドをしょうかん!ドリルロイドでキョンくんの裏側モンスターを攻撃!そしてステルスユニオンでキョンくんにダイレクトアタック! やったーキョンくんに初めて勝った!ハルにゃんやったよー」 「すごいわ妹ちゃん、えらいえらい。」 ハルヒと妹は手を取りあって小躍りしてる。負けた・・・なんだか普通に負けた。あんなにカウンターされるとは思ってもいなかった。正直いおう、ショックだ。 「勝負は時の運」 長門が呟くように言った。そうだな、まあこういうこともあるよな。 「そう。この漫画を借りたい。」 ん?○戯王か? 構わんが今日はこれから午後もあるのにもって歩くのは邪魔じゃないか? 「大丈夫。情報操作は得意。私の家まで転送する。」 そうか。まあそれならいいんだが。長門、最近情報操作能力の使いどころがおかしくないか? 「気のせい」 気のせいではないと思うんだが・・・まあいいか。 「おっと、もうこんな時間ね。キョン、有希、午前の部は終わりだからそろそろ出かけるわよ!」 妹とはしゃいでいたハルヒが時間に気づいていいだした。今度は俺もデッキを持っていけとのことらしい。午後もどっかでデュエルするのか? 「お邪魔しましたー。妹ちゃん、またね!」 「うん、ハルにゃん、有希ちゃん、楽しかったよ~。」 妹と別れて家をでた俺たちは(結局デュエルするためだけに俺の家に来たんだな)再集合場所の駅前へ向かった。なんか今日は一日が長いぞ。まだ半分も終わってないとか信じられん。だが・・・久々に妹があんなに喜んでいるのを見たような気がする。これもハルヒのおかげか。ありがとうな、ハルヒ。 「な、何よ急に・・・」 「なんか妹が喜んでたからさ、その礼さ。」 「ふ、ふん。あんたが普段かまってあげないからでしょ! でも・・・・・・・・・どういたしまして。」 最後の方は消え入るような声で言ったハルヒはプイと前を向いてしまった。やれやれ、午後のクジ分けはどうなるかな、少し楽しみだ。 ハルヒ+長門+妹という奇妙な組み合わせで午前中を過ごした俺達は(といってもただ決闘していただけだが……)駅前で再集合してファーストフード店で昼食をとったあと、午後の部のクジ分けをした。 「いつも爪楊枝じゃ面白くないわ!たまには変わったクジ分けをしましょ!」 というハルヒの鶴の一声によりハルヒのデッキの中から罠とモンスターを各三枚ずつ選んでテーブルの中央に置き、それぞれ引くことになった。爪楊枝と根本的には何も変わらないような気がするのは気のせいだ、多分。 「俺は剣闘獣の戦車」 「あたしはダリウスね」 「僕は剣闘獣ムルミロです」 「………次元幽閉」 「えと…魔宮の賄賂です」 「私は剣闘獣ベストロウリィね」 という結果になり(見れば見るほど剣闘獣だ。やれやれ)午後は俺・長門・朝比奈さん、ハルヒ・朝倉・古泉になった。あれ、また長門が一緒か……まあこういう日もあるだろう。 「今日中に最低1つは○ナミの不思議裁定を見つけるわよ!各自分かれて探索開始っ!」 そう宣言するや否やハルヒは朝倉の手をとってあっという間に行ってしまった。そのあとを古泉が小走りで追いかけている、ごくろうなこった。というか不思議裁定を見つけるならわざわざ街をぶらつく必要もない気もするが、ここは敢えてツッコまないでおこう、ハルヒのことだ、代わりに何を言いだすかわからん。それに今の状況は両手に花、しかも未来がらみも宇宙がらみもないときてる。この状況に文句を言ったらバチがあたるぜ。 「あのぅ………キョン君?」 俺がよからぬ妄想に入りかけたとき、朝比奈さんが声をかけてきた。なんでしょう? 「えーと、今日このあと行きたいところとか、予定とかありますかぁ?」 いえ、とくにはないですが……長門はどうだ?図書館とか行きたいか? 「今日はそれほど行きたいわけでもない。」 長門にしては曖昧な表現だ。まあ何か予定があれば合わせると考えて問題ないだろう。 「二人とも何もないのなら……鶴屋さんの家に行きませんか?」 鶴屋さんの家に行くのはバレンタイン以来か。あのときは全く大変だったな。今回は「みちる」さんも連れていく必要もなさそうだしあちこち歩き回るよりはゆっくりできそうだ。長門、どうだ? 「構わない」 ということで朝比奈さん、俺も長門も賛成です。 「よかったぁ…。じゃあ、案内しますね!」 朝比奈さんは可愛らしくうなずくと前にでて駆けていった。俺も何回か付近まで行ってるから道は知ってるんだがな。まあそこをつっこむのは野暮ってものさ。 「やあやあみくるにキョン君に有希っ子、よく来たねっ!さあさあ中へ入った入った!」 鶴屋さんの家である和風の邸宅(相変わらず広いな)の入り口につくと、朝比奈さんが連絡したらしく、ハイテンションの鶴屋さんが迎えてくれた。どうやら今日の午後は朝比奈さんと鶴屋さんは遊ぶ約束をしていたらしく、もし不思議探索があったとしてもそのメンバーも連れてくることになってたらしい。ハルヒとペアが一緒になってたらどうしたんだろうな、いやでも鶴屋さんの誘いならハルヒも応じたかもしれん。 「さぁさぁみんなこっちにょろ」 鶴屋さんが案内した先は1つの部屋だった。この屋敷は和風で統一されているのだが、この部屋は最近作ったらしく半洋風半和風といった感じだ。 「今日はここで思いっきり遊ぶっさ!」 鶴屋さんがその部屋の戸を開くと、 「うわぁ………」 「すげぇ……」 「……………驚愕」 そこには○ナミのカードゲームセンターを彷彿させるような光景が広がっていた。壁にはガラスケースに飾られた大量のカード(なんとサモプリもプリズマーもある)、部屋の中央には長テーブルと椅子、テーブルの上には印刷されたデュエルフィールド、さらにライフカウンターまでおいてある。やっぱ鶴屋さんって金持ちだったんだな……。というか親御さんはなんていってるんですか? 「なんか元々うちは○ナミの大株主だったらしくてさっ、わたしが興味もったっていったらいい機会だからって会社の人が作ってくれたんだよっ。今度ここで公認大会もやるらしいっさ!まぁカードゲームセンター鶴屋店ってとこだねっ!」 鶴屋さんはアハハと快活に笑った。ん?鶴屋さんは確か「興味をもった」っていってたな。ということは興味をもつきっかけがあったはずだ。鶴屋さんと仲のいい友達といえば……… 「鶴屋さん、こないだ遊んだときに家でデュエルやったらすごく面白がって、それからたまに一緒にやるようになったんですよ」 俺が答えに辿り着くよりも先に、朝比奈さんが答えてくれた。ううむ……たったそれだけでこんな部屋まで作ってしまうとは、ハルヒといい長門といいデュエルには何か人をひきつける魅力があるのだろうか?まぁ俺も今となっちゃ面白いが、初体験でここまでいれこんだかどうかは正直わからんな。 「キョン君、私と一緒にやらないかい?」 デッキを片手に(緑色のスリーブだ)鶴屋さんは言った。つまりデュエルやらないかい?ってことだろう。いいですよ、じゃあその奥のテーブルで…………ってちょっと待て、いつのまにか俺と鶴屋さんの間に人が割り込んでいた。ライトロード使いの宇宙人である。 「午後は私が」 とデッキ(スリーブは白だった)を片手に瞬間移動としか思えないスピードで俺と鶴屋さんの間に移動した長門は言った。あー、なんだつまり午前中はデュエルしなかったから午後はやりたいと、そういうわけか? 「そう」 といいつつ長門は首だけをこちらにむけた。 「わはは、面白いね有希っ子は!わたしはどっちでもいいにょろ?」 鶴屋さんは快活に笑って俺の判断を待っている。うーむどうしたものか。 「だめ?」 長門が数ミリ首をかしげた。その仕草は反則だぜ。分かった、先に鶴屋さんとやっててくれ。後で代われよ? 「わかった」 長門はわずかにうなずくと鶴屋さんとテーブルに向かいあって座ってデッキをきりはじめた。 「よしっ!有希っ子!じゃんけんっさ!」 ジャンケンの結果、長門が先攻になった。鶴屋さんのデッキがわかる前にデュエルが終わらなければいいのだが……。ちなみに俺も朝比奈さんもデュエルはやらずに長門VS鶴屋さんを見ている、まあSOS団の面々同士は毎日のようにやってるしな。 「私の先攻、ドロー。スタンバイフェイズ終了、メインフェイズに移行する。手札よりソーラーエクスチェンジを発動、ライトロード・ビースト ウォルフをコストにする。デッキから二枚カードをドロー、二枚墓地へ送る。」 ちなみに墓地へ落ちたのはライコウと奈落の落とし穴だ。まあ普通の落ちかただろう。 「よしっ!有希っ子!じゃんけんっさ!」 ジャンケンの結果、長門が先攻になった。鶴屋さんのデッキがわかる前にデュエルが終わらなければいいのだが……。ちなみに俺も朝比奈さんもデュエルはやらずに長門VS鶴屋さんを見ている、まあSOS団の面々同士は毎日のようにやってるしな。 「私の先攻、ドロー。スタンバイフェイズ終了、メインフェイズに移行する。手札よりソーラーエクスチェンジを発動、ライトロード・ビースト ウォルフをコストにする。デッキから二枚カードをドロー、二枚墓地へ送る。」 ちなみに墓地へ落ちたのはライコウと奈落の落とし穴だ。まあ普通の落ちかただろう。 「ライトロード・パラディン ジェインを通常召喚。ターンエンド。エンドフェイズ、ライトロード・パラディン ジェインの誘発効果 デッキからカードを二枚墓地へ送る。」 うげ…、ライロぶんまわりだな全く。というか長門、そんなにモンスター名を正確に言わなくても大丈夫だぞ、大会じゃないんだしな。いや大会でもライロのモンスター名を毎回一字一句違わずに読むやつなんてそうそういない気がする。 「そう」 長門は僅かに首肯した。 「有希っ子らしいといえばらしいんだけどねっ!私のターンっさ!ドロー。サイバードラゴンを特殊召喚。ライオウを通常召喚。サイドラでジェインに攻撃にょろ。」 「ダメージステップ、ダメージ計算時」 あーオネストか。あそこまでポーカーフェイスでいられるとなんかすごいプレッシャーだな。 「でも鶴屋さんにはあんまり効果がないような気がします」 と朝比奈さん。まぁたしかにあの年中ハイテンションの鶴屋さんにはプレッシャーを感じることなどなさそうだ。 「とくになし。ジェインは破壊。」 ……ってブラフだったのか!長門が心理作戦を使うとは驚きだ。いったい誰から習ったんだ? 「朝倉涼子に聞いた」 納得。あいつは毎回重要どころでオネストを使ってきやがる。おかげでアルテミス攻撃表示でも迂闊に攻撃できやしない。やれやれ。 「ライオウで攻撃にょろ」 「攻撃をうける」 「カードを三枚伏せてターンエンドっさ!」 鶴屋さんのデッキはまだよくわからない。場にでてるカードだけだと朝倉のパーミッションとあんまり変わらんな。 「私のターン、ドロー。スタンバイ、メイン。手札よりおろかな埋葬を発動。ウォルフを墓地に送って誘発効果発動、特殊召喚する」 「特殊召喚にチェーン!奈落の落とし穴にょろ」 「ウォルフは除外。ルミナスを通常召喚、優先権行使、手札からガロスを捨てて墓地のウォルフを特殊召喚する。」 「スルーするっさ!」 「バトルフェイズ、ウォルフでライオウに攻撃する。」 「ターンエンド。ルミナスの誘発効果発動。デッキから三枚墓地へ送る。」 うーむ、奈落にライオウにサイドラか…。鶴屋さんのデッキはメタビートか?いかんせん汎用性が高すぎるカードばかりで全然分からん。朝比奈さんは鶴屋さんとやったことあるんですよね? 「はい何回もやりましたし、実はあのデッキもわたしがアドバイスして組んだんですよ?」 なんだってー、そういや朝比奈さんはSOS団の中で唯一の古参だったんだっけ。ん?なら朝比奈さんなら鶴屋さんのデッキを知ってるはずだ。 「朝比奈さ……」 「禁則事項です☆デュエルの勝敗が出てからの方が面白いですよ。」 うっ…朝比奈さんに考えを読まれるとは………普段はドジっ娘メイドでも、時々朝比奈さん(大)の片鱗が伺えるぜ。俺としてはいつまでも可愛らしくいてほしいのだが………いやそれはそれで将来が不安か。というか将来は既定事項か。あーもうわけがわからん。 「私のターンっ、ドロー!エアーマンを召喚っ!誘発効果でデッキからアナザーネオスをサーチっさ。バトルフェイズ!エアーマンでルミナスに攻撃っさ!」 「破壊される」 「カードを二枚伏せてターンエンドにょろ」 俺と朝比奈さんが話している間にもデュエルは進んでいた。そういやハルヒ達はどこいったんだろうな?午前はただ俺の家に来て妹と遊びつつデュエルしただけで終わったんだが、午後も似たり寄ったりか?それとも○ーガやアメ○リとかのカード屋を巡ったりとか、まあそんなとこだろう。黙ってれば普通に可愛いハルヒと谷口的美的ランクAA+の朝倉、悔しいが顔はいい古泉が店内に入ってきたら客はどんな反応をするのかね。 「私のターン、スタンバイ、メイン。ウォルフをリリースしてケルビムをアドヴァンス召喚。誘発効果、コストで墓地に4枚送る。対象はサイバードラゴンと伏せカード1枚。チェーンは?」 「あるにょろーん。効果にチェーンしてスキルドレインを発動。コストでライフを1000払うっさ!」 「バトルフェイズ、エアーマンに攻撃する」 「受けるよー」 「カードを1枚セットしてターンエンド」 「私のターンっ!手札から神獣王バルバロスを通常召喚さっ!バトルフェイズっ、ケルビムに攻撃っ」 ……鶴屋さんのデッキはスキドレバロスだったらしい。やれやれなんつう高額デッキだ。 「攻撃宣言時、罠カード光の召集を発動する。」 「あちゃ~これはやばそうにょろ」 スキドレ発動下でも何故か発動できるオネスト。長門や朝倉には悪いがやっぱやっかいだと思うのは俺だけだろうか。OCG化でこんなにも強力になったカードも他にはないだろうな。というかなんでいつも闇と光が優遇されるんだ!風属性のオネストを出せ、風属性を。 「オネストを手札より捨てて効果発動。ケルビムの攻撃力を3000上昇させる。バルバロスは破壊。」 「やられたにょろ~。ターンエンド!」 デッキ的には鶴屋さんのもオネストがいてもおかしくないんだが、どうやらいなかったようだ。 「…私のターン、ドロー。裁きの龍を特殊召喚。ジェインを通常召喚。バトルフェイズ、裁きでサイバードラゴンに攻撃。」 「攻撃宣言時に次元幽閉を発動っ!」 「裁きの龍は除外。ケルビムでサイバードラゴンに攻撃。」 「破壊にょろ。ジェインの攻撃も受けるっさ。」 「ターンエンド」 うーむ。鶴屋さんの状況はかなり厳しいな…。手札にはエアーマンでサーチしたアナザーネオスがあることはわかってるんだが、長門の場にはケルビムとジェインがいる。幽閉か聖バリ、ライボルをひけばなんとかなるってとこだろう。 「私のターン!ドロー!アナザーネオスを召喚っ!ジェインに攻撃!」 「ジェインは破壊。」 「カードを一枚伏せてターンエンドっ」 お、鶴屋さんカウンター罠をひいたのか? 「ブラフかもしれないですけどね…。一応アナザーネオスは光属性だし…オネストも警戒させられますね」 え?朝比奈さん、やっぱあのデッキにオネスト入ってるんですか? 「え?えーっと………禁則事項です☆」 ………多分入ってるんだろう。やれやれ。長門は攻撃してくるかな? 私のターン、ドロー。スタンバイ、メイン。バトルフェイズ…………………………………」 あれ、珍しく長門が長考している。一枚の伏せとアナザーネオスが光属性であることが攻撃を躊躇わせているのだろうか。まあ確かにこの攻撃の後ケルビムが除去されれば、スキルドレイン発動下ではかなり危険だ。バルバロスか死者蘇生で次のターン負けることもあり得るしな。 「……………ケルビムでアナザーネオスに攻撃する。宣言時何か?」 「ないよっ!」 「ダメージステップのダメージ計算時、優先権を放棄」 「こっちからはなんにもなしっさ!」 「アナザーネオスを撃破。ターンエンド。」 「鶴屋さんなんにもなかったみたいですね……」 朝比奈さんが俺の隣で呟いた。うーむこれはいったいどうなんだろうな。 「私のターン、ドローっ!私の負けにょろ。サレンダーっさ!」 「………了承する。」 サレンダーと共に鶴屋さんが手札と伏せを公開した。伏せはサイクロン。今ひいた手札は魔宮の賄賂、持っていたのはスキルドレインのようだ。やれやれ、伏せも全部ブラフだったってことか。 「なかなか楽しかったっさ!真剣勝負は面白いにょろ。」 鶴屋さんは負けたというのに相変わらずのハイテンションだ。鶴屋さんにとっては勝敗よりもデュエルすること自体が楽しいんだろうな。 「じゃあキョンくん。お待たせっさ!私と決闘!」 そういえば最初は俺とやるはずだったな。すっかり忘れてたぜ。 「………先にやらせてくれたことを感謝する」 席を変わろうとしたとき、長門が小さく言った。そんな大したことじゃないぜ。 「…………そう」 長門は僅かに頷くとカードが展示されているガラスケースの方へ向かった。 「こっちはいつでもいいよっ!」 見ると、鶴屋さんがデッキをディールして待っていた。よし、じゃあやりましょうか。じゃんけん、ほい。俺の先攻、ドロー! ………その後もしばらく鶴屋さんの家で遊んでいると、ハルヒの再集合の電話がかかってきたので(なんか機嫌が良さそうだった、なんでだろうな)俺と長門と朝比奈さんはいつもの駅前に向かった。ちなみに鶴屋さんとの決闘は俺の3勝2敗だった。ダルシムとデスカリが結構効いた。2敗のときはバルバロスとスキルドレインでこてんぱんにやられたけどな。 傾きかけた夕日に彩られた駅前にはハルヒと朝倉と古泉が既に待っていた。古泉があまり疲れた表情をしてないところを見るとそんなにあちこち振り回されたわけでもなさそうだな。よう古泉、そっちはどうだったんだ? 「フリー対戦会に参加しましてね。流石は涼宮さん、11勝4敗という素晴らしい成績でしたよ」 まあ剣闘獣だからそう簡単には負けんだろうな。ちなみに4敗のうち1つは朝倉らしい。パーミッション恐るべしだぜ。当のハルヒは朝倉や朝比奈さん、長門と談笑していたが、どうやら終わったらしい。 「本日のSOS団の活動はここまで!解散よ!」 腰に手をあてていつもの如く宣言し、俺達はそれぞれの帰路についた。長門は朝倉と、古泉と朝比奈さんは1人で、そして俺は……………ハルヒと二人でだ。たまたま駅前からの帰り道が一緒というだけなのだが、不思議探索の後ハルヒが上機嫌の時はいつもこうして帰っている。不機嫌の時はどうかって?触らぬ神に祟りなし、というか勝手にハルヒが帰ってしまうから必然的に別行動になる。ともあれ今日はフリー対戦会でボロ勝ちしたせいかえらく上機嫌だ。 「今日の大会楽しかったわよ」 ハルヒが言った。古泉から聞いたぜ、ボロ勝ちだったらしいな。 「あたしの剣闘獣がそう簡単に負ける分けないじゃない!……涼子には負けたけど」 らしいな。ちなみに朝倉や古泉の戦績はどうだったんだ? 「涼子は7勝5敗だったわ。『大寒波それ無理。』とか言ってたわね。古泉くんはボロボロだったけど、3勝はしてたわ。しかも商品で王宮の弾圧あてたのよ!すごいわよねー」 ハルヒは嬉々として言った。随分面白そうだったんだな。今度は俺も参加してみたいものだ。 「あったりまえじゃない!6人全員で参加してSOS団の名を天下に轟かすのよ!」 そんなこんなでハルヒと俺は帰り道を話ながら帰っていった。鶴屋さんが決闘できること、デッキはスキドレバロスであること、古泉だけなんであんなにデッキ構築が滅茶苦茶なのか、とかな。 ……ちなみに新パックはSOS団で箱買いが決定した。ダークダイブボンバーが当たることを期待するぜ。 END