約 774,021 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/741.html
キョン「なぁ、しょっぱなの自己紹介のアレ、どのあたりまで本気だったんだ?」 ハルヒ「『しょっぱなのアレ』って何?」 キョン「いや、だから宇宙人がどうとか」 ハルヒ「あんた宇宙人なの?」 キョン「んなわけねえだろ!!お前のその自己紹介のせいで誰一人俺の自己紹介を覚えてねえんだよ! 俺より目立ちやがって!絶対ゆるさん!」 いきなり怒鳴られた、後から聞いた話によると。 キョンは目立ちたがり屋で、しかも極度の負けず嫌いらしい。 それからというものの、キョンはアタシのすることにいちいち突っかかってくるようになった。 こうしてアタシとキョンは出会ってしまった。 ある日、次の時間は体育で着替えなければならないというのにクラスの男子はなかなか教室から出て行かなかった。 アタシはかまわず男子達の目の前でセーラー服を脱いでやった、すると女子の「キャー」悲鳴と供に一目散に教室から出て行った。 だけどキョンはそこに居た。「俺にもできるぜ?」みたいな顔をして女子の目の前でパンツ一丁になったのだ。 「キャー」という悲鳴と供に女子は一目散に教室から出て行った。 アタシは無視してスカートを脱いだ、 するとキョンは得意気な顔をしてパンツを脱いだ。 キョン「どうよ?」 ハルヒ「どうって…体操着に着替えるのにパンツを脱ぐ必要は無いんじゃないの?」 キョン「お、俺はいつもこうなんだよ!」 そういってキョンは下着をつけずに短パンを履いた。 谷口「おい、キョン。横チン出てるぞ」 キョン「お、俺はいつもこうなんだよ!」 その日の体育で女子の注目の的になったのはブッチギリでキョンとその息子だった。 アタシは何かおもしろいものでも無いかと全ての部活に仮入部してみた。 どうやらキョンも負けじと全ての部活に仮入部していたらしい。 キョン「どうだ?どこか楽しそうな部活はあったか?」 ハルヒ「全然無い。これだけあれば少しは変なクラブがあると思ったのに」 キョン「無いものはしょうがないだろ、結局の所、人間はそこにあるもので満足しなければならないのさ。言うなれば…」 なんかうんちくを語りだした、知的なところをアピールしてるんだろうか。 次の瞬間アタシはひらめいた。 ハルヒ「そうだ!無いなら作ればいいのよ!どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのかしら」 キョン「まぁ俺は最初から気付いてたけどね」 そんなこんなでなぜかアタシとキョンは一緒に新しい部活を作ることになった、 そして潰れかけの文芸部室を乗っ取ることに決めた。 放課後。アタシは2年の教室でぼんやりしていた娘を捕まえて部室へ向かった。 ハルヒ「ごめんごめん遅れちゃって、紹介するわ!朝比奈みくるちゃんよ!」 アタシは得意げにみくるちゃんを紹介した。 しかし、キョンも新入部員を連れてきていた。 古泉「はじめまして、古泉一樹です」 キョン「どうやら俺の連れてきた部員のほうが優秀そうだな」 キョンは勝ち誇った顔で言う、アタシはちょっとムッした、 ハルヒ「見なさいよ!メチャメチャ可愛いでしょ!?萌えって結構重要な要素だと思うわ」 キョン「なんの!古泉もイケメンじゃないか!これだけのいい男はなかなか居ないぜ?」 ハルヒ「それだけじゃないわ!ほら!アタシより胸でかいのよ!ロリで巨乳!完璧じゃない!」 アタシはみくるちゃんの胸をモミながらそう言った みくる「ひぇ~っやめてくださぁ~いっ」 キョン「なんの!どうだ古泉の奴けっこうでかいんだぜ?ほら」 なんとキョンは古泉のイチモツをモミだした 古泉「な、なにをするんですか!?」 キョン「ほ~らドンドン大きくなってきた、まだまだでかくなるぞ~」 古泉「ああっ!はうっ!ううっ!」 キョン「どうだすごいだろうハルヒも触ってみるか?」 古泉「あぁぁっ!」 ハルヒ「わかったわ!アタシの負けよ!やめなさい!」 アタシは暴走するキョンを必死で止めた。 古泉「ハァハァ、ありがとうございます、涼宮さん」 変な声を出すな、息を荒げるな、頬が赤いんだよ気持ち悪い。 こうしてアタシ達の部活はできあがった。 ハルヒ「みんなー!野球大会に出るわよ!」 部活を新設して以来なんのイベントもなく退屈だったので アタシは草野球大会の申し込みをしてきた。 キョン「出るからには優勝するぞ!」 ハルヒ「あたりまえじゃない!」 嫌そうな顔をする他の部員を他所に、アタシとキョンは大乗り気。 野球大会の参加が決定した。 試合当日、初戦の相手は上ヶ原パイレーツ、どうやら優勝候補らしい。 でも楽勝ね。今日はキョンも味方だし。 キョンはどうしても4番サードがいいらしくアタシは1番でピッチャーになった 「プレイボール」 試合が始まった、先攻はSOS団 アタシは初球を2塁打にした、ちょろいもんね。 だけど続くみくるちゃんとユキは見逃し三球三振、そしてキョンの打順がきた。 ハルヒ「キョーン!あんたは打たなきゃ死刑だからね!!」 キョン「誰に言ってるんだ?お前が2塁打なら俺はホームランだ!」 結果は…三球三振。どうやら負けず嫌いだけど実力は無いらしい。 キョンは今までに見たこと無いくらいに悔しがっていた。 すると古泉君がアタシに言ってきた。 古泉「まずいですね、今までに無い大規模な閉鎖空間が現れました」 どうやら古泉君の話によるとキョンは負け始めると閉鎖空間とやらを生み出し そこで暴れまわるらしい、しかもその閉鎖空間が広がりきると世界が終わるとか何とか。 なんて迷惑で自分勝手な…。超常現象マニアのアタシはあっさりその話を信じた。 結局アタシ以外ヒットを打つこともなく打者が一巡した。 その間、マリーンズにはバカスカ点を取られる始末。このままじゃ世界が… 古泉「大丈夫、僕と長門さんに彼にホームランを打たす秘策があります」 古泉君には何か作戦があるらしい。私も秘策を出すことにした。 アタシとみくるちゃんとユキはチアガール姿になって打席に立った。 マリーンズ投手はその姿に動揺してすっぽぬけた球を投げてきた。 結果は三塁打!みくるちゃん、ユキは四球で出塁、満塁の大チャンスとなった。 チアガール作戦は効果テキメンね!!そして2アウト満塁でキョンの打順となった。 古泉「ここで秘策の出番ですね、長門さん」 ユキはバットに何か呪文を唱えてキョンに渡そうとした。 だけどキョンは真っ直ぐ打席には向かわなかった。 キョン「そうか…!おもいついたぞ!ちょっとタイム!」 なんとキョンは例のノーパン体操着に着替えて打席に立った。 隙間から2本目の肉バットをぶら下げて…。 こうしてアタシ達は1回戦で出場停止処分となった。 試合後、キョンはマリーンズの主将と何か話していた。 主将「いい試合だったな、ところでそのバットだが…」 主将は頬を染めながらキョンの2本目のバットを見た。 そして2人は奥へと消えて言った。 「アーッ!アーッ!」 奥から主将の声がいつまでも響いていた。 キョンは帰りにファミレスを奢ってくれた。思わぬ臨時収入があったらしい。 閉鎖空間もキョンの何らか征服感により消滅したらしい。 なにはともあれメデタシメデタシね! キョン「おい!ハルヒ!起きろ!起きろったら!」 キョンの声で目が覚めたアタシは目を疑った。 一面灰色の世界の学校にアタシは居た、たしか家でベットで寝てたはず。 一体何があったの??? キョン「わからない、起きたらなぜかここにいて、隣にお前が寝てたんだ」 学校の周りを調べたがどうやら学校の外には出れないらしい、 とりあえず部室に行くことにした。 キョン「俺が先だ!」 キョンは走って部室に向かった、こんな時まで負けず嫌いな奴ね…。 1人で部室にまで歩いていると、そこへ人型の光が現れた 「やぁ涼宮さん、僕です古泉です。」 ハルヒ「古泉君!一体これはどういうことなの?」 古泉「どうやらここは彼の閉鎖空間の中のようです。どうやら涼宮さんには敵わないと思い始めたことにより作り出されたものでしょう」 ハルヒ「どうすればいいのよ!このままキョンと2人でここで暮らさなきゃいけないわけ!?」 古泉「白雪姫という物語を知ってますか?アレを思い出してください 僕はこれ以上ここにいることは出来ないようですね。では…」 そういって古泉君は消えていった。 白雪姫…ってあの童話の?キスでもすれば戻れるとでもいうのかしら… アタシはキョンの待つ部室へ行った。 キョン「遅かったな」 ハルヒ「キョン…アタシ実は巨根萌えなの」 キョン「はぁ?」 ハルヒ「いつだったか、あんたの短パンからハミ出した肉棒 反則的なほど大きかったわ」 そういってアタシはキョンにそっとキスをした。 キョンは負けじと舌を入れてきた、なんて負けず嫌い、 アタシはキョンの上着を剥ぎ取り体に舌を這わせた。 キョンは負けじとアタシを押し倒し挿入動作に入った。 ハルヒ「あいたたたたっ!無理無理そんな大きいの入らないって 痛いっ!わかったアタシの負け!やめてやめて!」 キョンはふと勝ち誇った顔をした。 …次の瞬間、アタシは自分の部屋のベットに居た。 我ながらなんていう夢を…。 次の日、寝不足の目を擦って学校へいくと キョンはノーパン短パンで席に座ってた。 自慢の息子をはみ出しながら キョン「俺の勝ちだな」 終わり
https://w.atwiki.jp/yugioh-vanilla/pages/535.html
【復讐のカッパ】 【レベル】3 【攻撃力】1200 【守備力】900 【合計値】2100 【特殊能力】なし 【備考】復讐のために心を悪に売ってしまったカッパ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1591.html
───毎日が同じことの繰り返し。 それは恐らく誰もが感じる事だろう、実際に俺もそうだった。 しかしてその重要性に気がついてもいないだろう、俺は今ではそんな日常が懐かしく感じる。 毎日、起きて食べて歯磨きしてこのキツい坂を上って何気なく勉強し、そして平凡な部活動にいそしみ、 疲れた体を引きずり毎日のハイキングコースを再び帰り、食べて、寝る。 真面目な学生なら寝る前に翌日の予習や今日の復習なども入れるが、このさいだからどうでもいい。 そんな生活を俺は望んでいた。 じっさい俺は違った。 それは、常識はずれでわがままで唯我独尊、はたまた気分屋な人物に振り回されているからだ。 「楽しいから」、ただそれだけの理由でいるはずのなかった宇宙人、未来人、異世界人、超能力者を探しあて、 一緒に遊ぶという目的だけでそいつは学校で団体を作ったのだ。 ちなみにここで部活や同好会と言わずに団体と言ったのには理由がある。 いまだ生徒会側に認められていないからな、俺の所属する団体は。 ここまで言えば、いや言わなくともわかると思うが、そう、その団体の名はSOS団。 そしてこの存在意義が存在するのかどうかも疑わしい、いまわしいSOS団の頂点にいた奇妙奇天烈という言葉似合う奴こそ、 涼宮ハルヒだったのだ。 涼宮ハルヒと出会ってもう一年がたち、入学してから一年をともに過ごした仲間達の一部にお別れを告げ、 心機一転新たな顔ぶれに身を預けるクラス替えも無事に終了し、俺は二年生になっていた。 「今年一年もよろしくな、キョン」 「なんだかんだで僕達三人、一緒でよかったよ」 そうやって無事に平穏に俺と谷口と国木田は同じクラスになり、新たな生活が始まった─── ───と考えるのは間違っていた。 「キョン!今日はSOS団特別ミーティングだからかっならず来なさいよ!いいわね!来ないと死刑だから!」 そう言って一年間ずっと席替えして、そのうえクラス替えしたのにも関わらず、ずっと俺の後ろの席に座っていたそいつは俺に声をかけた 言うまでもない、涼宮ハルヒだ。 いつもだって勝手に休んだら怒るだろうがお前。 「うるさいわね!いいから来る!わかった?」 俺がはいともいいえとも返事をする前に、ハルヒはいつもどおりに、クラスを飛び出した。 古泉と長門が別のクラスになったのは正直残念だ、またクラスでは俺一人ハルヒのお守りをせねばいかんらしい。 うんざりする。 「もう好きにしろよ」とため息混じりにつぶやいた。 「今年も大変だな、がんばれよ、涼宮係」 誰かさんみたいなニヤケ顔で話しかけるな。 というかいつのまにそんな係ができたんだ、おい。 ハルヒが俺を呼んだ理由はなんとなく予想はつく、おそらくだが。 だがそのおそらくというは当たったらしい。 俺将来占い師にでもなるか? なんて馬鹿なことを考えてもみた。 なにもない始業式後のホームルーム。 ハンドボールバカの岡部が再び俺たちの担任だ。 自己紹介もつつかなく終わり、この日のクラスでの活動は終了した 放課後、俺はかつて文芸部の部室だったドアの前でノックをした。 俺が毎日律儀にSOS団を訪れる目的の8割を占める人物に粗相がないように、だ。 「どうぞ」 天使の声が俺のノックに答える。 ドアを開けてまず目に飛び込んできたのは、我らがSOS団に所属するマイスウィートエンジェル、朝比奈みくるさんだ。 俺が部室に入り自分の定位置に座ると、満面の笑みで 「はい、どうぞ」 とくんだお茶を持ってきてくれた。 「ありがとうございます」 満面の笑みで答える。 たぶん朝比奈さんがいないと俺はとっくにハルヒによって精神病院送りにされてたね、断言できる。 一つ年上の受験生にも関わらずいまだに中学生と間違えそうな魔性の笑顔、たまりません。 ここで気がついた、今日はまだ正文芸部であっていつもは部屋の付属品のようにじっと座って本を読んでいた人物、 長門有希が来ていなかった。 珍しいこともあったもんだ、明日は雨か? 少なくとも背筋の凍るような事件だけはご勘弁願いたいものだ。 いや、ほんとに。 この時はまだ、冗談半分でそんなことを思っていた。 カチャリとドアが開き、古泉一樹が現れた。 「こんにちは、ここではお久しぶりと言った方がしっくりきますかね?」 そんなに長い間会ってないわけないだろう、ハルヒから春休み毎日呼び出しくらったじゃないか。 「まぁそうなんですが、新学期に入ったのでそれなりの言葉を変えようかと。」 そんなことをする必要はない。 それならその笑い方を変えてくれ、見ているだけでいまいましい。 「おや、珍しいですね、今日はまだ長門さんは来てないのですか。」 まったく笑顔をくずしていないことから、何かの事件に巻き込まれているということはなさそうだ。 古泉の機関から見える範囲では、だが。 「今日はバックギャモンでもどうかと」 そう言ってボードを取り出し、俺の前に広げた。 相変わらずのゲームフリークだな、おい。 「どうぞ」 「ありがとうございます」 朝比奈さんから受け取ったお茶を飲みながら、ダイスを振ってゲームを開始した。 ここまではいつも通りだ。 ああ、少なくともこのときまでの話だがな。 「やっほぉ♪みんな来てるー?」 SOS団にいる時しか見せない極上の笑顔を振りまき、ハルヒは登場した。 「…あら?」 すぐにハルヒの笑顔がしぼんだ。 一人だけいるはずの人間がいなかったからだ。 長門のことである。 「…何かの用事かしら?何か聞いてる?古泉君」 「いいえ、残念ながら。」 何が残念なのかよくわからない。 というかなぜ俺には聞かない? 「あんたと同じクラスの私が知らなくてあんたが知ってるなんてことないでしょ」 勝手に決め付けるな、まぁそうなんだが。 「まぁいいわ、そのうち来るでしょ」 俺が遅刻したらそんな悠長なこと言わないくせに 「あんたと有希じゃ立場が違うの、わかるでしょそのぐらい」 長門は俺と同じでヒラだった気がする。 というか正確には文芸部だろう。 俺の記憶が間違っていなかったら、だがな。 「新入生勧誘」 そう黒板にでかでかとハルヒは書いた。 俺の予想通りになったね、この時期のイベントはそれしかないと思うから。 「どんな方法でもいいわ、とにかく団員を集めるの!」 お前なら去年朝比奈さんを強引に入団させたようにすればいいんじゃないか? 「SOS団に必要不可欠な人材ならそうするわ」 お前にとって必要不可欠な人材の定義は一体何なんだ? 両親がいなかったりIQがめちゃくちゃ高かったりとかか? 「そんなの人目じゃわかんないわよ、みくるちゃんだって何度も厳選した結果つれてきたんだから」 初耳だ。 まあ確かに朝比奈さんは我が団に必要不可欠な人材と言っていいだろうな。 ちなみに俺は不安を抱えていた。 ハルヒの不可思議な能力でまた誰か不思議な能力を持つ人間が現れるんじゃないか、と 俺のその不安を確実にするかの様に前に、部室のドアがあいた。 もうちょっと俺を休ませてくれてもいいだろうよ、現実さんよ。 そこにいたのは長門有希、ボブカットを更に短めにしたような短く灰色の髪で、いつもは部室の隅で黙々と本を読んでいる人物だ。 しかし長門は一人じゃなかった。 後ろにいたのはまだ中学生の面影がほんのり残っている男子生徒、おそらく新入生だろう。 そして長門から出た第一声は 「入部希望者」 ハルヒの顔がみるみる輝いた。 しかし俺は気づいていたね、新入生はまだSOS団なんて存在は知らないはずだから。 かわいそうに、こんにちは、ハルヒの毒牙の餌食第一号君。 「ただし文芸部の」 予想外、といえば予想外だったね。 ハルヒのあんな複雑そうな顔を見たんだから。 わかるよ、その気持ち、だが俺は今この新入生に対する同情のほうが勝っているんだ。 この少年は文芸部に入りたくてここに来たんだろう。 おそらく長門のことだから、 「文芸部に入りたいんですが」 「そう」 ですませてしまったに違いない。 かわいそうにかわいそうに、今この学校に文芸部はもう無いに等しいんだ。 ここで一つの疑問にぶつかる。 SOS団の存在を知らなかったのは思いつくが、どうして文芸部の存在を知っていたのか、ということだ。 まぁその理由は簡単なことだ。 あとで説明するのもおっくうだから今まとめて説明してしまおう。 彼は二月に学校見学でここを訪れていたらしい。 そしてその二月に俺達SOS団がやっていたことといえば、そう思い浮かぶ人は思い浮かぶだろう。 生徒会がSOS団に宣戦布告をしてきたのだ。 まぁこれも古泉じるしの暇つぶしイベントだったのだがな。 文芸部の存在意義なないために部室の引渡しを要求してきたのだ。 そのために俺達はハルヒの命令で機関紙を発行し、それでなんとかまるく治めたのだ。 実はその機関紙を置く時期が学校訪問に重なったらしい。 考えてみれば簡単なことだ。 あんな中身のバラバラな機関紙がなぜ簡単に二百部も完全に配給されたのか、 訪問していた人間の何人かが持って行ったらしい。 ごめんな、俺にも責任の一端があったらしい。 でも俺はあいにくその責任を果たす方法を持ち合わせてないんだ。 その機関紙でこの学校の文芸部に興味を持つ、なんてかなり変な思考の持ち主であることは否定できない。 実際かなりの変わり者だったからだ。 髪は綺麗な黒で、男子の髪の毛とは思えないつやを放っていた。 少し長めで、長門とハルヒを足して二で割ったような長さだ。 そして前髪は鼻まで伸びていて、目が半分隠れている。 表情が読みづらい、読みづらい、読みづらい。 体系は普通、国木田に似ている。 一通り説明したあとの彼のセリフに俺は驚愕したね。 誰だってそうだと思うぜ? なんだったら賭けてもいい。 「んじゃSOS団に入っても、いいですか?」 正直何を言ってるのかと思ったね、説明が足りなかったのか? あの会誌はここにいる涼宮ハルヒが作って文芸部に寄生しているSOS団というわけわからん団体が作ったものだ、 という説明じゃ足りなかったかもしれない。 だが俺は丁寧にも、SOS団がどういう目的で作られたのか、ここにいる涼宮ハルヒの理不尽さ、わけのわからなさ、 その全てを説明したはずだ。 俺の記憶が間違っているか? それとも… そのもう一つの予想が的中した 「だって、そっちのがおもしろそーじゃないですか!」 男子のくせに声がアルトだ。 彼はやけに女の子っぽい声でそう叫んだ。 めまいを覚えたね、だってそうだろう。 ハルヒだけならどうにかなる、実際今までそうだったからな。 だけど俺は二人もハルヒが出てくるなんて思ってもみなかったぞ。 勘弁してくれよ。 頭をかかえた俺を尻目に、ハルヒが後輩に近づく。 「あんた、わかってるわね」 何をだ、何を。 「人生の楽しみ方よ!」 あえて言おう。 「お前の人生の楽しみ方を一般人の人生の楽しみ方をごっちゃにしないでくれ」 「うるさいわね!いいじゃない!”そっちのほうがおもしろいじゃないの!”」 デジャブ、こういうときに使う言葉なんだろーな。 「あんた、名前は?」 「えっと」 チラッと長門を見た、なぜだかその時は気にもしなかったが。 「小山アキツキです」 「アキツキ君、じっくりよーっく、人生でこれ以上もないってぐらい考えるんだ」 何を?という顔で俺を見ている、純真無垢という言葉が似合いそうだな。 「夏休みを毎日毎日休みなく五百年分の遊びを体験させられたり、 変な映画の変な役割をさせられたり、冬休みに催眠にかけられたりしたいのか?」 ピクリ、とハルヒが何かを言いたそうな顔で俺をにらむ。 「あー、えーっと、でも、たのし、そうだな、と」 まぁ楽しかったことに異論は唱えない。 しかしそれ以上に疲れる、疲れることこのうえない。 恐らく八割の人間は後悔するだろうし、二割の人間は諦めるだろう、どうにでもしろよ、と。 俺は後者だがな。 「いいじゃない、本人が望んでいるんだから。 よろしくね、小山君」 そうしてSOS団六人目の団員が入部した。 長門が少し複雑そうな顔をしていたのは別の話。 まいどのことながら、やれやれ、だ。 もう、好きにしろよ。 たった一人の進入部員のおかげでハルヒの進入部員強奪大作戦はどうでもよくなったらしい。 「だってみくるちゃんだって三年ではたった一人じゃない」 三年と一年を一緒にするな。 もし朝比奈さんが上のほうの大学を目指すんだったらこの時期から勉強してなきゃいけないんだぞ。 まぁ俺にはわかってる、朝比奈さんが受験をする必要のないことぐらい。 それまでには未来に帰ってしまうだろうから。 まぁたとえハルヒと同じ大学にいくことになっても古泉や長門がどうにかしてくれるさ。 ここで俺は口走ってしまったが、そう、朝比奈みくるは未来の人間なのだ。 今この時から三年前に起こった時空振の理由を知るために過去に来て、そこで得た新たな仕事がハルヒの監視だったのだ。 今ではハルヒのおもちゃにされ、毎日毎日健気にもメイド服に着替えるというハルヒから押し付けられた仕事を全うしている。 他の団員にも、もし実際に経歴書に書いたら即座に精神病院に担ぎ込まれそうなプロフィールがある。 長門有希。 宇宙に存在する統合思念体が人間との接触用に作り出したインターフェイス。 長門が自称するには、宇宙人が製作したアンドロイドのようなものらしい。 古泉一樹。 自称超能力レンジャーの一員で、閉鎖空間という微妙に信じがたい空間で青い巨人と戦うことのできる少年だ。 いつも笑顔でニコニコし、俺をムカムカさせる。 極度のゲーム好きで、俺とよく遊ぶ。 だが九割方俺の勝ちだがな。 ハルヒの感情を感じることが可能らしい。 そして涼宮ハルヒ。 俺が奇妙奇天烈な体験をすることになった全ての元凶であり、わがままで他人の意見なんて聞いたこともない少女だ。 いまだに宇宙人、未来人、異世界人、超能力者との邂逅を望み、走り回る。 しかも困ったことに、自分の思ったとおりに世界を変える能力を持つらしい。 朝比奈さんからは時空のゆがみ、長門からは自律進化の可能性、古泉からは神とまで呼ばれた超少女だったのだ。 黙ってりゃ正直かわいい。 だが、そろそろ俺を落ち着かせてほしいと思うのだがな。 当分無理な願いか。 そして新たに入団した小山アキツキ。 髪の毛は切るのがめんどくさいという風に前髪は鼻まで伸び、そのせいで目が隠れて表情が見づらい。 だが、大して髪の毛に気を使ってなさそうに見えてかなり綺麗なツヤを放っている。 正直鶴屋さん並だ。 口調は子供。発想も子供。体格は少し小柄だ。 ハルヒを男にしたらこんな感じというなのを予想してくれたらいいだろう。 まぁハルヒと違って俺達年上には敬語を使ってくれるからまだいいが。 さて、ここでいったん話は途切れる。 いつもどおりの感覚で一ヶ月は流れた。 後輩が一人増えたからといっても俺の仕事は減らず。 むしろその後輩の世話をやく分増えた気がする こいつは男ハルヒなだけでなく男朝比奈さんみたいなドジらしい。 せめて俺の手は煩わせないでくれよ? 男ハルヒと言っても、さすがに常識は身につけているようだ。 無茶なことは言い出さずに、様子を見ているようにおとなしい。 初めて入団した時に俺を驚かしたような、 「だって、そっちのがおもしろそーじゃないですか!」 な発言とは裏腹に、おとなしく古泉の隣でひたすらノートにシャーペンを走らせている。 俺や古泉がノートを覗こうとするとまるで母親に勉強していると見せかけてゲームをしていたのがバレたみたいな顔をしてノートを隠す。 余計に気になるじゃないか。 まぁ、予想はつくがね。 元々文芸部に所属しようとしていたんだ、小説の一つでも書くだろうさ。 ただ問題なのは、こいつが時折長門をじっと見ているんだ。 まさか長門が主人公の小説か。 そんなことを考えている時だった。 一週間後にはゴールデンウィーク。 ただしスケジュールはハルヒと古泉のせいで暇などない。 そして新入部員の小山にとっては初めての合宿である。 一週間後の荷物持ちをしている自分を思い浮かべて、俺は心底うんざりしながら、放課後の部室へと急いだ。 朝比奈さんは今日は用事で来れないらしい。 余計に肩が重く感じるぜちくしょう。 朝比奈さんがいないからノックする必要もないだろう。 そう考えて部室のドアを開いて俺は心底驚いた。 長門と小山が向かい合って会話している。 おいおい、お前が一般人と真面目に会話しているところなんて多分初めて見たぜ? もちろん俺を除いて、だが。 「あ」 驚いたのか小山は小さく声を上げて俺を見た。 なんだ?例の小説の話か? 「よう」 ごまかすように俺は声をかけた。 いかにも気にしてませんよ、という具合にだ。 「あ、こんにちゎ」 前から思ってたが変なしゃべり方だなおい。 長門は小山の前に座っていたが、いつもの低位置に戻り本を読み始めた。 思えばこの時に思い出すべきだったのかもしれない。 そう、たとえばSOS団の部員は全員まともなプロフィールではなかったこととか、な。 今回の合宿は事件を推理するのが目的ではありません」 翌日、古泉は部室で俺に語った。 ハルヒにはもう伝えてあるという。 朝比奈さんは今日も休みで長門は本を読んでいる。 小山はいつものようにノートの落書きを楽しそうに書いている。 「そんで?今回は何をたくらんでる。」 俺は小山に聞かれないように声を潜める。 古泉はいつもの笑顔を崩さずに言い放った。 「冒険ですよ」 古泉の言うことには、今回は未開の無人島なのだという。 「もちろん、宿泊には困らないように施設は建てさせていただきましたよ」 その話を聞くと今年のゴールデンウィークのためだけに建てたような口ぶりだな。 「ええ、そのとおりです」 開いた口が塞がらないとはこのことだろう。 お前のいる機関のバックアップはなんなんだ。 「鶴屋さんのところですね」 ああ、そうだったそうだったすっかり忘れてたぜ。 機関と鶴屋さんの家は繋がってるんだったな、そういえば。 「しかし未開であるために何がいるかわかりません」 「事前に調べたりはしないのか?」 「ええ、今回のそれは涼宮さんの提案です」 「何か危険なものがいたらどーすんだ?」 「そんな質問は無意味であることをあなたは知っていて聞くんですね?」 「心の準備ぐらいは欲しいだろう」 古泉はニッコリ笑って、 「まぁ同感です。ですが私もたまには思いきり楽しんでみたいのでね。 去年の夏と冬は私が仕掛けをしましたから、今回は純粋に活動を楽しませていただきます。」 「じゃあ危険が迫った時は思いっきり頼らせてもらうぞ」 「わかりました」 そう言い終わるかどうかのところでハルヒが来た。 「今年のゴールデンウィークは楽しみだわ! 今年は去年よりははるかに充実できそう」 それはSOS団がなかったからだろう、という俺のつっこみはまぁおいといて。 その日は当日の話をしながら締めくくった。 古泉と小山と涼宮はあっというまにいなくなった。 俺もすぐに帰ろうとした、が 「これ」 いつのまにか俺の背後にいた長門が俺に本を渡した。 心臓に悪いから気配を殺して後ろに立つのはやめてくれ。 そういえば気配というのが最初からこいつにはなかったか? 「帰ったらすぐ読む」 「そう」 長門はそう言って荷物をまとめ立ち去った。 もちろん本には栞らしいものがはさまっている。 予想はついていた、栞をめくると長門の手書きで書かれたかどうか疑わしいほど整った文字が連なれていた。 『午後七時、あの公園で待つ』 了解した、長門 家に帰ってすぐ栞を確認した俺は、即効で六時半までに飯をたいらげ、自転車をこいでいた。 目的地は、そう、長門が俺に宇宙人であることを明かした晩の、あの公園だ。 いやな予感はあまりしない。 少なくともまだ、の話だが。 俺が視界に入ると同時に長門は立ち上がった。 ここまでは前回と全く同じだった。 「ふう」 俺は自転車から降りて長門に尋ねる。 「どうした?何かあったか」 「………こっち」 長門は俺を案内する。 行き先は考えるまでもない、長門の部屋だ。 「入って」 玄関を開けてそう言うと、長門は部屋の中へ入っていった。 俺は長門のあとに続いて中に入った。 前回より少しだけ物の増えた部屋。 それでも長門らしく生活感の感じない部屋。 これで相手が宇宙人じゃなかったら、一般男子の俺は緊張してしまうだろう、実際一年前はそうだった。 俺がいつもの低位置に座ると、長門はお茶を入れてきた 「今日は何の話だ?」 俺は公園で尋ねたことをもう一度尋ねた。 とりあえずそれを聞いておかないとどうしようもないから、な。 「小山アキツキ」 「小山がどうした」 「彼について様々な情報が錯綜している」 …なんだって? 「簡単に言うならば、正体不明」 長門が理解不能であるってこと、それすなわちアラームレベル7以上だ。 今まで長門が理解不能だったことといえば、去年の世界改変のバグや雪山での遭難が思い浮かぶ。 つまり危機がせまってるってことか? 「そうではない」 長門は続ける。 「彼に対する情報が矛盾しているだけ。 今の所はそれで何か問題が起こるのかは不明」 頼むぜ、そういうのはお前が一番理解が早いんだから。 「検討はしている」 「それで、何が矛盾してるって?」 長門は少し沈黙をためて言った。 まるであまり話をするのに気乗りじゃないように。 「彼は今現在この世界にいるはずの人間」 少し言葉が飲み込めなかった。 だがすぐに尋ねなおす、どういうことだ? 「こちらの情報が正確なのならば、彼は数年前に死去している」 宇宙人?未来人?超能力者? いや、おそらくそのどれにもあてはまらないだろうその存在は、少なからず俺に何かを予感させていた。 「彼の正体は現在のところ不明、彼に対する情報が錯綜している」 つまりどういうことだ? 俺は思った言葉をそのまま口にすることにしたよ。 彼は実態を持つ幽霊ってわけか? 「彼を実体を持つ幽霊であると確定するのは尚早」 「ただ現在の所、そう捕らえるのが最も適切かも、しれない」 長門自身、あまりよくわかっていないようだ。 こういう顔も珍しいな。 まぁ特異な存在をことごとく自分の団に入団させてきたハルヒが今の今まで入団させられなかったほどの存在だからな。 「その例は適切ではない」 長門は続ける。 「彼自身の様な特異的な存在が彼一人しか存在せず、そのために年齢という壁が理由で入団できなかっただけかもしれない」 長門は一気に言い放った。 もうちょっと待ってくれ、俺にも理解できるスピードってもんがある。 「実際今彼はSOS団に所属している」 「そうかもな」 しかしなんでもありなSOS団でもハルヒの他にも正体不明な奴がいるってのは少々不気味だなぁ、おい。 「私個人としても、彼から情報を得ようと行動している」 なるほど、昨日二人で会話してたのはそのためか。 「そう」 やっぱりSOS団でまともな人間は俺だけか。 まだまだ俺の仕事は続きそうだな、やれやれ。 正確には俺と長門と朝比奈さんと古泉の四人の仕事、だけどな。 「じゃあ、俺は今日は帰るよ。 お茶、うまかった」 「そう」 「何かわかったら携帯で連絡してくれ、頼んだぜ、長門」 「わかった」 俺は自宅へと自転車を走らせた。 行きは降っていなかったが今は結構強めの雨が降っていた。 塗れたハンドルが異様に冷たく感じた。 ただでさえ涼宮ハルヒのお守りっていう懸案事項があるのに、これ以上増やさないでほしい。 そう俺は考えていた、そのとき。 暗がりから急に現れた影に俺は驚いた。 あやうくぶつかりそうになりハンドルを切った。 が、自転車のタイヤは塗れた道路を滑り、倒れた。 軽く擦り剥いたらしい。 いてえ、急に飛び出すな馬鹿やろう! しかし驚いていたのは向こうも同じらしい。 目を丸々と開けてこちらを見ている。 そんなに目を開くと飛び出すぜ? 「だ、大丈夫ですか?」 聞き覚えのある高めの声。 俺はハッっとして飛び出した人物を凝視した。 長い前髪、高い声、少し小柄な新入生。 今現在の最大懸案事項、小山アキツキが、そこにたっていた 雨なのにかかわらず、傘も差さずに小山は立っていた。 前髪で顔の半分が隠れていたのにも関わらず、その顔は驚いているのがわかった。 口をぽかーんと開けてこちらを見ていた。 「…驚いた」 驚いたのはこっちだ! 雨、しかも夜に傘もささずに横道から急に飛び出してきたんだ。 俺が一秒でも早く来ていたら、断言できるね、俺はこいつに衝突していた。 「いつつ…」 俺はまるでやすりで削られたように痛む腰をあげた。 軽くすりむいてやがる、痛いはずだ。 「大丈夫…ですか?」 「あまり大丈夫じゃないな」 自転車を起こしながら答えた。 カゴの部分が歪んでやがる。 「そ…ですか」 なんか軽く落ち込んでやがる。 だが俺が気にしているのは別に事故のことじゃない。 いや、事故も多少気にしているがな、うん。 「なんで、こんな時間にこんなとこにいたんだ?」 俺は小山を見た。 「………」 三点リーダで答える小山。 それは長門の専売特許だぜ? 「……わかりません」 はぁ? まるで自分が夢遊病患者みたいな喋り方だな。 だが俺は再び小山に聞いた。 今と全く同じ質問をな。 「なんでこんな時間にこんなとこにいる?」 なんで二回もおんなじ質問したんだ俺…… 小山が俺から目を逸らす。 お? 「……俺、」 小山が喋り始めた。 「俺、昔の記憶がないんです。」 「それで、毎夜毎夜、不安になって散歩するんです」 本当のことを言っているのか? 俺はもちろん疑った、だってそうだろ? 近所から貰った子猫が虎の赤ちゃんだったってぐらいのことは覚悟している。 俺にはそれだけの経験があったからな。 「正直に言え」 俺は小山の両肩を掴み、小山の前髪に隠れた目を凝視する。 「ほ、ほんとうです!」 小山は続ける。 「四年前、それ以前の記憶がないんです。」 四年前、そう聞いて思い出すのは、そう。 俺がSOS団と出会ってから三年前。 長門にとって情報爆発が起き、朝比奈さんにとっては時空振が起き、古泉にいたっては世界の始まった時。 言うまでもないな? 涼宮ハルヒが何かを起こした瞬間のことさ。 「四年前…俺は体中傷だらけで発見されたんです。 発見されてすぐ、俺は病院に担ぎ込まれました。」 小山は、観念したように自分のことについて詳しく語り始めた。 いきなり喋られたから俺は急いで頭を切り替えた。 「発見された当初は、俺は体中あらゆるところが傷だったらしいです。 生きていたのが不思議なぐらいのことだったらしいです。 顔の判別が、できないほどに。 俺を見つけてくれた夫婦の苗字が、小山だったんです。 あ、アキツキってのは俺自身の名前です。 なぜかそれだけ覚えていたんです。 俺は二ヶ月、ずっと包帯で巻かれていました。 一ヶ月後、顔の包帯だけ外して貰いました。 その時です、俺を助けてくれた夫婦はとても驚いていました。」 小山はそこで一区切り置いて、 「俺の顔は、彼ら夫婦が俺が現れるさらに三年前に失った子にそっくりだったらしいんです。」 なるほどな、長門の言ったとおりか。 死んだはずの人間。 俺は口を開く。 「たまたまそっくりだったってことはないのか?」 数秒間、小山は躊躇するそぶりを見せた。 「まぁ、その可能性も、なくはないんですが」 小山は否定ともとれる発言をした。 「これはあとで知ったんですが、俺のうなじのところにあるホクロが、その彼にもあったらしいです。」 俺は考えていた。 小山は嘘はついていない。 そう感じた。 長門の微妙な表情の変化、古泉の笑顔の変化にすら気づくことができる俺にそれを判別するのはたやすい。 いつのまにこんな微妙な特技ができてたんだろうな、俺。 宇宙人? なんとなくだろうが違うだろうな。 未来人? どちらかと言えば過去の人間だ。 超能力者? 死んだのに生き返る超能力なんて聞いたこともない。 そして俺は最後にもう一つの可能性に行き着いた。 それは涼宮ハルヒと俺が出会ったとき。 そう、クラスでのあの突拍子な自己紹介のことだ。 「東中出身、涼宮ハルヒ」 そう語ったのち。 「普通の人間には興味ありません。 もしこの中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私のところへ来なさい。」 そう、俺は気がついた、そしてこれが一番しっくりくるだろう。 小山アキツキ、こいつは異世界人だ、ってな。 結局その日、俺は小山と別れて自宅へと帰宅することにした。 別にそれで何か問題が起こるわけでもなさそうだったからな。 もちろん事故には気をつけろと耳にタコができるほど言い聞かせてやった。 どれだけの効果があったかはわからんがね。 もし何か俺がしたことになんらかの効果が出たかわかる方法があったら教えてくれ。 まぁ実際に教えてもらってもリアクションに困るが。 自宅に帰って事故で痛む体をゆっくりと湯船につけた。 そしてシャミセンを部屋の外に放り出したあと、長門の言っていたこと思い直していた。 しかし襲ってきた睡魔に勝てる見込みも無かったし、まぁ勝つ必要もなかったわけで、俺は寝た。 まぁ、懸案事項は別に小山一人じゃないわけで。 俺の頭はもう一週間後のゴールデンウィークの合宿についてに切り替わってた。 今回も小山のことを含めていろいろありそうだ、いろいろと。 おやすみ、夢の中でだけはせめて忘れさせてくれよ?
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1874.html
“っぅ…やばいわね” あたしはさっき飲んだジュースに猛烈に当たり散らしたい気分だった。 今日は日曜日。あたしはバカキョンのために家庭教師をしてやっていた。…別にキョンの事が心配だからとか、一緒にいたいからって訳じゃないんだからね。ただ…そう、補習とかになって団の活動をサボられると困るのよ! …で、今あたしの目の前にはキョンが座っている。真剣な目で問題を解いてるキョン。間違ってるんだけどね。 でも、今のあたしにはそれをバシバシ叩きながら指摘する余裕がない。あたしは足元にある空のペットボトルを見つめた。 まずいは…かなりまずいは。調子に乗ってあんなに飲むんじゃなかった。…これはキョンが悪いのよ! 『ハルヒ、まあ、飲め。暑苦しくてたまらん』なんて言うから。あたしもついつい…だいたいキョンの覚えが悪いから怒鳴って…だから喉が渇くのよ! “…ぁぅ…” やばい、本気でやばい。よりによってなんでこんな日に断水?!水道局の怠慢だは!ダムに水がないなんて嘘よ。あたしのダムはもう満水なのよ…。 『ぁぁ…』 思わず声が漏れる。キョンが怪訝そうな顔で見てる。あたしは横座りしていた足を組み変えて正座にする。 “こうすれば踵が当たって直で押さえられるは!”まだいける…と思うけど。断水解除は4時だから…後30分ね。もっと早く動いてよ時計… まだ、マヌケ面でこっちを見ているキョン。 『ハルヒ、顔が赤いぞ、汗も凄いし。大丈夫か?暑いのか?』 なんて聞いてくるし。大丈夫そうに見えるの?滴る汗を拭うあたし。 て、あんた何クーラーの温度下げてんのよ!嫌がらせ?もう!バカキョン! …“ヴーーン、ヴーーン ” その時、床に置いてあったキョンの携帯のバイブが床を伝わり僅かな振動をあたしの身体に与えた。 『…ひゃっ…』 “…プシュッ” あっ、あれ?今のはまさか? “ひょっとして…今のはひょっとして…”何か生暖かい感触が下着の中に広がる…。 今、あたしちびった?愕然となる。すぐに確認したいけど今はキョンがいるから無理。今だけどっか行ってよ…キョン。 あたしは祈った。そしたらキョンの奴電話をもって立ち上がり『悪い。親からだ。下で電話してくるは。すぐ戻る』ですって。 部屋を出て行こうとするキョン。チャンスよ!ハルヒ。って…キョン歩かないで…今のあたしに振動は…振動は…。 “プシュッ…ジュッ” …ぁっぁ…えっ?う、嘘… その時のあたしにはもう一刻の猶予もなかった。 キョンが部屋を出るのを見ると速攻でスカートの中に手を入れ下着の上から直接股間を押さえる。 “グジュッ…” あたしの下着は濡れていた。信じられない現実…そして今も染み出すように出てる液体。 “止まれ!止まれ…止まって…お願いだから… 団長たるあたしがこんなところでお漏らしなんて…” 心の中で祈りながら押さえ続ける。 祈りが通じたのか、ちょっと出ちゃったからなのかはわからないけどなんとか止まった…。 …恐る恐る手を離して下着を見る。 “見たくはないけど現状は確認しなきゃ” 純白の下着は薄く黄色く色付き、濡れてしっかりと透けていた。そして白のミニスカートにも…。 “あ、あたしキョンの家で…” 目の前が真っ暗になった。軽いパニックになる。 その時あたしの中でもう一人の冷静なあたしが囁いた。 “大丈夫よ!ハルヒ!まだキョンには気付かれてないわ!今ティッシュを使って吸い取ればごまかせる!” あたしは冷静な自分を取り戻した。幸い今は尿意が引いている。 あたしは部屋の隅に置いてあるティッシュに向かった。 …刺激を与えないように部屋の隅に向かう。 あと…3歩…2歩…1歩…。 ティッシュの回収成功。作戦の第一段階は成功ね。あとは元来た道を戻るだけ…。 中腰、擦り足で元の場所に戻るとあたしは下着とスカートからおしっこを拭った。 …その時、今迄の比じゃないの尿意があたしを襲った。耐え切れない欲求…。 『ぅぅぅ…』 “負けない…あたしは負けない…” 時計を見る。後5分。この波さえ乗り切れば後は天国よ!ハルヒ! ティッシュをもった右手を力いっぱい股間に押し当てる。 … … … 『ガチャ…』 ドアが開く。 『あースマン、ハルヒ。ちょっとこいず…いや、親がなうるさくてな』 あたしはとっさにドアに背中を向ける事しかできなかった。 全身の震えが限界に近づいてる現状を教えてくれる。 キョンはそんなあたしに近づいてきた。 落ちていたティッシュを拾うのを気配で感じる…。 ダメよ!キョン!そのティッシュはあたしの…あたしの…心の中で絶叫する。 キョンは震えるあたしと濡れたティッシュから想像したのだろう…明らかに検討違いな事を言ってきた。 『大丈夫か?ハルヒ…おまえ泣いてるのか?辛い事があるなら話してみろ…』 そう言うとキョンは“ポン”と、あたしの肩に手を置いた。 『…ぃ…嫌…ダメ…』 今のあたしの我慢はその衝撃に耐えられなかった。 『…あっ…あっ…ぁぁ…』 “ショワーーーッ!” という布越しに液体が吹き出す音が聞こえる。それは“びちゃびちゃ”と床を打つ。あっという間に広がる水溜まり。白い下着が黄色味をおびなら透けていく。 『ダ、ダメ…見ないでキョン…!』 それだけ言うのが精一杯だった。出せた事への気持ちよさよさより、下着に広がる生暖かい液体の感触とキョンに見られてることへの羞恥心の方が大きかった 一度出始めたものを止める事はできなかった。 下着だけでなく、スカート、靴下にまで不快なものを感じる。 あたしにはその時間が永遠にも感じられた。 “ちょろ…ちょろろ…” やっと勢いがなくなり、そしてあたしのおもらしは終わった。 あたしは自分に起こった事が信じられなかった。高校生にもなって…ましてや他人の、キョンの前で…消えたくなるような恥ずかしさ…。 『…ハ、ハルヒ?』 キョンの声が背後から聞こえる。突然の事で動揺してるのか声が震えてる。あたしは恥ずかしさで答える事も顔を上げる事もできなかった。 …どうしよう…おもらししちゃった…。 謝らなきゃ…とにかく早くキョンに謝らなきゃ…。 焦りと謝罪したいそんな心とは裏腹にあたしの口をついたのは理不尽な責めの言葉だった。 『…あんたのせいなんだからね…あんたが押さなきゃ全然問題なかったんだから…』 嘘…キョンは悪くない。ジュースがぶ飲みして、もらしちゃったのはあたし。 それでもあたしの理不尽な言葉は止まらなかった。 『…せ、責任とりなさいよ…責任とらなきゃ死刑なんだからね…』 …情けない姿を晒した自分と素直に謝れない自分が許せなかった。 だからキョンに八つ当たりしてるだけ…。解ってる。責任のとりようもないことも、ましてやキョンに責任がないことも…自分が子供みたいなことを言ってることも…。 … … … …キョンはそんなあたしの理不尽な怒りに対して何も言わなかった。 足が濡れるのも構わずあたし前に立つと、一言“ゴメンな”と言ってあたしを優しく抱え上げ、お風呂場に連れて行った。 …お風呂場についた私の服と下着をキョンは優しく脱がせてくれた。 あたしのおしっこのついた物なんて触りたくもない筈なのに…嫌な顔一つしないで…。 それに今はあたしの出したものを片付けるために部屋に戻ってるし。 『シャワーでも浴びてすっきりしろ …俺は着替えを用意するあと、お前の…始末をしとく』の一言を残してあたしを一人にしてくれた。 “…優し過ぎるよ…キョン…” キョンの前では団長として弱みは見せられないと思って我慢してた涙が頬を伝う。 お風呂場の中はあたしの出したおしっこの臭いがうっすらしていた。 シャワーを浴びながらあたしは考える。 “あたしキョンに凄いとこ見られちゃったな…キョンになんて謝ろう? どうしよう…顔合わせられないよ…” “トントン” ドアを叩く音。意識を戻す。 『…ハルヒ、着替えここに置いとくぞ。…あ~それとだな。気にすんな。誰にでも…『わかったわよ!そこに置いてって!!』』 あたしは精一杯虚勢を張り声を出す。そして言ってから後悔の念に押し潰されそうになる。 …またやっちゃったは。今なら顔合わせないで謝ることもできたのに…。 あたしの中で“不安”が広がった。 …“不安?”なんで不安なんだろう? おもらししたことを他人にバラされたらどうしよう…って不安? …違う。キョンはそんなことするやつじゃない。 そんな事は解ってる。 じゃあ、何の不安? …そう、キョンに嫌われるんじゃないか?って不安。汚い女だって見捨てられる不安… なんで嫌われるのが怖いの? …それはあたしがキョンを好きだから。 初めて自分の気持ちに気付いた…。 シャワーを出る。 …身体はすっきりしたけど心は晴れない。 あたしはキョンの用意してくれた服を着る。 今あたしはキョンの部屋の前にいる。 早く入らなきゃ…謝って、そしてキョンに確認しなきゃ… でもあたしの足は動かなかった。 きっと嫌われちゃった。見捨てられちゃう…って不安が大きくなる。寒くないのに膝が震える。 『ハルヒか?もう片付けたから入って来いよ』 気配を察したのかキョンがあたしを呼んだ。 『ガチャッ…』 扉を開けて中に入ると部屋の中は綺麗になっていた。 キョンの顔をまともに見られない。でも謝らなきゃ… 『…ゴメンなさい……キョン…こんなあたしの事なんて嫌いに…なっちゃった……よね』 最後のほうはかすれてよく聞き取れなかったかもしれない。 あたしは泣いていた。 いつの間にか『ゴメン…』と『嫌いにならないで…』を連発していた。 そんなあたしに近づいてきたキョンはあたしを優しく抱きしめてくれた。 『俺のほうこそゴメンな。おまえが我慢してるのに気付いてやれなくて…俺が気付いてやれればなんとかできたかもしれんのに… だからゴメン。…それに嫌いになる訳ないだろ。誰にだって起こりえることだ。だからもう気にすんな。もう済んだことだ…。もちろん誰にも言わない。俺も忘れるからおまえも忘れちまえ!』 『だから泣くな!…いつもの傍若無人なハルヒに戻ってくれ。俺はいつものハルヒが…その…なんだ…好きなんだ!』 えっ?今キョン“好き”って…あたしのこてを。嫌われてないだけじゃなく好きって…。 あたしの涙は止まらなかった。でもそれは今迄の不安から来るものじゃない。嬉しさから来るものだ…。 そんな泣き止まないあたしを見てキョンはいつもの“やれやれ”って表情じゃなく、今迄見せたことのないすっごく優しい眼差しであたしの口を塞いできた…自分の口で…。 そして…。 翌日文芸部室にて… …今日も暑いわ。なんでこんなに暑いんだろ?授業中“夏だからだろ?”なんて月並みな事を言ったキョンには既に罰ゲームを言い渡してある。 今、眉間にシワを寄せながらパンツ一丁にエプロンで席に座ってるわ。涼しそうねキョン。パンツを残したのは団長としての優しさよ!感謝しなさい! そんなキョンを見てニヤニヤしてる古泉君を見てると“ホモ説”もあながち間違いじゃない気がするのは気のせい? 『みくるちゃん!お茶!頭痛くなるくらい冷たいやつよ!』 今日何度目かになる注文をみくるちゃんに出す。 その声に反応してあたしを見るキョン。 お馴染みの“やれやれ”って顔で『飲み過ぎだろ!そろそろ止めとけ…』って言ってきた。 …っと…まあ、そうね。みくるちゃんも大変そうだし、また昨日みたいなことになったら嫌だからね。ここらへんで止めとこうかしら。 …でも、今みたいな“やれやれ”な顔じゃなく、あたしを慰めてくれた時のキョンの…今はあたしの“恋人”のあの優しい顔が見れるならまた……… そんな考えを振り払うかのようにちょっと乱暴にコップを置き、いつもの調子で叫んぶ。 『ねえ!キョン!!』 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/725.html
少女達の放課後 A Jewel Snow (ハルヒVer) ダーク・サイド 繋ぎとめる想い 涼宮ハルヒの演技 涼宮ハルヒと生徒会 HOME…SWEET HOME 神様とサンタクロース Ibelieve... ゆずれない 『大ッキライ』の真意 あたしのものよっ!(微鬱・BadEnd注意) ハルヒが消失 キョウノムラ(微グロ・BadEnd注意) シスターパニック! 酔いどれクリスマス 【涼宮ハルヒの選択】 内なるハルヒの応援 赤い絲 束の間の休息(×ローゼンメイデン) ブレイクスルー倦怠期 涼宮ハルヒの相談 お悩みハルヒ 絡まった糸、繋がっている想い 恋は盲目(捉え方によっては微鬱End注意) 涼宮ハルヒの回想 小春日和 春の宴、幸せな日々 春の息吹 おうちへかえろう あなたのメイドさん Day of February ハルヒと長門の呼称 Drunk Angel ふたり バランス感覚 Swing,Swing,Sing a Song! クラス会 従順なハルヒ~君と僕の間~ B級ドラマ~涼宮ハルヒの別れ~ ハルヒがニート略してハルヒニート 涼宮ハルヒの本心 涼宮ハルヒのDEATH NOTE 思い込みと勘違い 束の間の休息・二日目 束の間の休息・三日目 涼宮ハルヒの追想 涼宮ハルヒの自覚 永遠を誓うまで 涼宮ハルヒの夢現 Love Memory 友達以上。恋人未満 恋人以上……? 涼宮ハルヒの補習 涼宮ハルヒの感染 雨がすべてを 涼宮ハルヒの天気予報 キョンに扇子を貰った日 涼宮ハルヒの幽霊 隠喩と悪夢と……(注意:微グロ) Close Ties(クロース・タイズ) の少し後で セカンド・キス DEAR. 涼宮ハルヒの独白 寝苦しさ 涼宮ハルヒの忘却 涼宮ハルヒの決心 ティアマト(ハルヒ×銀河英雄伝説) 式日アフターグロウ 微睡の試練 涼宮ハルヒの大騒動シリーズ young 神の末路(微グロ注意) 涼宮ハルヒの奇妙な憂鬱 夕日の落ちる場所 涼宮ハルヒの抹消 トラウマ演劇 涼宮ハルヒは夜しか泳げない ハルヒ「釈迦はイイ人だったから!」 (グロ ナンセンス) ハルヒとボカロオリジナル曲の歌詞をあわせてみた 涼宮ハルヒの共学目次 word of thanks 赤色エピローグ 夏の日より 朝比奈さんの妊娠 疑惑のファーストキス 機関の推測(微エロ注意) 涼宮ハルヒの切望―side H― 憂鬱な金曜日 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3159.html
人と人 友達、親戚、恋人、そして仲間 人の絆と呼ばれるもの それにどんな意味があって そしてどんな価値があるのだろうか それは俺には難しすぎてよくわからない いや、本当は考えればすぐに答えの出るようなものだろう だけど俺は考えない 何故かって? 考える必要なんてないからだ だけどもし、誰かから真面目にその質問を投げかけられたとき どう答えればいい? - 涼宮ハルヒの結論 - ……… …… … 「どうしたんでしょう、涼宮さん」 いつもの部室 いつもの放課後の風景だった 異質といえば異質、だが俺にとっては日常となった風景 窓辺で本を読む宇宙人 鼻歌と共にお茶を持ってきてくれる未来人 そして弱いくせにゲームフリークな超能力者 その中に一人だけ混じる一般人の俺はその唐突な質問に一瞬気づかなかった 口を開いたのはお茶のおかわりを持ってきてくれた我が部のエンジェル 未来人の朝比奈みくるだった そう、今日はこの部屋に一番居ないと違和感のある奴が居ないのだ そいつはSOS団というわけのわからん団を作り 俺を非日常の世界に無自覚で引っ張り込んだ迷惑極まりない人間 そう、誰であろう我が団の団長、涼宮ハルヒだ そのハルヒが、今日この場に姿を現していないのだ それは特に珍しいことじゃない あいつはたまに自分の瞬間的な思いつきで早く下校することがある だが、今はそれが異常なのだ それが何故か、実はあいつは今日登校すらしていない いや、今日だけじゃない 実はここ4~5日学校に来ていないのだ 風邪をこじらせたにしては少々長い気がする 「古泉、お前のとこは何か知っているんじゃないか?」 俺は目の前に座っているゲームの対戦相手に尋ねた 古泉一樹、とある機関に所属するエスパー戦隊の一員だ 古泉は手を止めた そして俺は古泉がことさら真剣な表情をしているのに気づいた 「……その事なんですが、実は……」 古泉は真剣な表情そのもので語ろうとした だが次の瞬間古泉は口を閉じた 「……わかりません」 「何?」 古泉の表情と口調は明らかに何かを知っている時のものだった それが何故か急に口を瞑った 「何か俺に隠してるだろ」 「いいえ、それに隠していたのなら隠している事を教えるはずもありません」 それはつまり何かを隠してるという事だ 古泉なりに俺に何かを伝えようとしていることがわかる そしてその内容がハルヒに関する事だというのも会話から察することができる 「ハルヒの事で今更隠し事か?」 「……知らない方がいい」 突然背後から声がした 窓辺で本を読んでいたはずの冷静な宇宙人 長門有希がそこに立っていた 「正確には、涼宮ハルヒ本人が貴方には伝えたくはないと望んでいる」 そして俺が何かを口にする前に長門は言い切り、元の場所へ戻っていった ……隠し事、ねぇ 何かを起こそうとしているなら事前に教えてくれないと心構えってものがだな… 「一人だけ蚊帳の外ってのは気分が悪いな」 「去年の12月は僕は蚊帳の外でしたけど、ね」 と古泉は笑顔で皮肉を言い切った まだ気にしてたのか、意外と根に持つタイプなのか? その日はそれでお開きとなった 長門が本を閉じ、古泉がゲームをしまい、そして朝比奈さんが着替えるから先にどうぞと促す 本来なら2番目にハルヒが部屋を飛び出るというプロセスがあるのだが いつもどおりの日常 ハルヒが居ないのは気にはなったが すぐにまた学校に来るようになるだろう またすぐにいつもの日常に戻るさ 俺はそう思って部室を後にする だが俺の希望はすぐに打ち砕かれた 翌日にな ……… …… … 翌日、涼宮ハルヒは教室に来ていた およそ一週間ぶりに会ったハルヒはやはりいつものハルヒに見えた ただ一点、俺に対して余所余所しかったことを除いて 嫌な予感しかしない そしてこういう予感というのは的中するものなのだ 放課後部室に向かうと、同じ時間に教室を出たはずのハルヒがすでに部室の前に立っていた まるで俺を待っていたかのように 「どうした、ハル───」 「キョン、あんたクビ」 一瞬のことで何を言われたのかわからなかった 俺の言葉を遮り ハルヒが口にした言葉 それは俺に対する解雇の言葉だったのだ 「クビって、ハルヒ、どういう───」 「どうもこうも無いわ、クビの意味ぐらいあんたにだってわかるでしょ」 頭がフリーズした まるで何かのフィルターが脳内に入り込んできたような感じだ 思考が思うとおりに行かない まるで霧がはったかのように 「どうして───」 「私にとってあんたは要らなかった、それだけの事よ」 呆然と立ち尽くす俺にハルヒは一気にまくしたてた そしていいたいことを言い切ると部室のドアを閉めた どうすればいいのかわからなかった 鍵をかけた音はしなかった 目の前のドアノブを捻ればいつもの部室なんだ だけどその距離はとてつもなく長く感じた 手を出せば届く位置にあるドアノブが 俺には触れなかった 触れることが、できなかった どれぐらい長い時間、俺はどうしていたのだろう ただ、一時間の間立っていても誰も来なかったし、そして何もなかった 目の前の扉は、むなしく閉ざされたままだったのだ 俺はただ、その場を後にすることしかできなかった まるで公園の退去命じられたホームレスのように 俺の居場所が唐突に一つ消えた ……… …… … 「おい、キョン、どうした」 翌日教室で谷口が話しかけてきた 「どうしたって、何が」 「目の下に凄いクマができてるぜ?遅くまでゲームでもしてたのか?」 俺は昨晩一睡もできなかった 何故だ ハルヒによる世界に及ぼす影響の心配か それとも仲間たちから爪弾きにされたショックか いや、一番大きい要因は自分でわかっている ハルヒにとって俺はどうでもいい存在だったんだと、そう認識せざるを得なかったんだ 驚いた こんなことで眠れなくなるなんて 俺にとって涼宮ハルヒという存在はそれほどまでに大きくなっていたのだ 「……なんでもない」 俺はそう呟いて机に突っ伏した 「まさか涼宮にフラれでもしたか?」 胸にその言葉が突き刺さった 失恋、確かにそうかもしれない 俺は自分で無自覚のうちに、涼宮ハルヒに恋をしていたのかもしれない でもそうじゃない そうじゃないんだ 俺はハルヒにとってどうでもいい存在 仲間でも、親友でも、ましてや恋人候補ですらなかった それだけのことなんだ…… 俺は始終机に突っ伏したままその日を過ごした 驚いたな、人ってのは眠気と疲労によってはおよそ8時間日中を寝て過ごせるんだな 俺が顔を上げたとき、そこはすでに朱に染まった夕闇の世界だった 後ろの座席に居たハルヒは俺に一言も声をかけずに部室に行ったんだ そうだよな、俺とはなんの関係もないんだから 「起きた?」 いきなり耳に飛び込んできた一つの言葉 それは昨日までずっと耳にしていた人の声だ ただ少し大人びてはいた 言葉の方を見るとそこには朝比奈さん(大)が立っていた 今の時代に居る朝比奈さんよりもっと未来からきた朝比奈さん 「朝比奈さん……」 「大丈夫?少し顔色が悪いようね……」 何故そこにいるかは知らない いや、多分俺に今回の事を説明してくれるんだろう 「朝比奈さん、これはどういう事なんです?」 朝比奈さん(大)が口を開くよりも前に俺は尋ねた それが俺が推測した朝比奈さん(大)がここに来た理由だ そして何より俺の聞きたいことでもあった 「……禁則事項です」 「え」 俺はてっきりその理由を伝えにきたとばかり思っていたがどうやら違うようだ 「俺は、てっきり」 「ごめんなさい、これは私たちじゃなくて涼宮さんの問題なの」 「ハルヒが?」 「そう、私たちは涼宮さんがキョン君に知られたくないことを知っている」 「……」 「だけど、私たちはそれをキョン君に伝えることができない……」 「そう、ですか」 恐らくそれなりの理由があるのだろう 俺にはそれ以上追求することができなかった 「……1つだけ、ヒントだけでもと思って」 朝比奈さん(大)はもう一度言葉を発する 「ヒント、ですか」 「キョン君、どうか涼宮さんを嫌わないで居てあげて」 「え?」 「それとこれもだけど、どうか私たちを嫌いにならないで」 「朝比奈さん?」 俺がその言葉を理解するより前に、朝比奈さん(大)は教室をあとにした そして俺が後を追って廊下に出たとき、彼女はすでにそこには居なかった 俺はただ呆然としていた ただ成り行きの任せるままに それしか俺にはできなかったから ……… …… … 「キョン君どうしたの~?」 ベッドの上で寝転ぶ俺の顔を覗き込む妹 「なんでもない」 「凄く悲しそうな顔をしてたよ~?」 『あんたクビ』 三日前に言われたその言葉が未だに脳裏に深く焼きついていた この三日間 ハルヒは俺と目をあわそうともしなかった いや、俺のほうもハルヒの顔を見ては居なかった 見たら、何かを言ってしまいそうだった 互いに、互いを見ないようにしていた ハルヒはそれを意識してるとは思わなかったが 俺にとっては、大分、辛いことだった 当たり前の風景が ずっと続くと思っていた、非日常なりの日常が もはや過去の思い出だとしか認識できなかった 「じゃあ、いってきます」 「いってきま~す!」 妹と一緒に家を出て、学校への道のりを歩いていく そういえば一度だけハルヒと帰ったときがあったっけ この坂道を、ハルヒは俺から傘を奪って逃げた 振り向きざまに悪戯顔で見せた舌 あれは、幻だったのだろうか…… ……… …… … 「「あ」」 昼休みの学校で擦れ違った朝比奈さん そして目が合ったとき、朝比奈さんは何処か俺を哀れむような目で見ていた それに耐え切れなくて、俺は俯いた 「お、お久しぶりです」 俺は遠慮しがちに挨拶した 俯いたまま、朝比奈さんの顔を直視することができずに 「そう、ですね、お久しぶりです」 「あいつは、相変わらずですか?」 「涼宮さんは……はい」 「そうですか」 俺を解雇したあともあいつは顔色一つ変えずに元気にやってるのか あいつにとって日常はなんら形を変えていないのか やっぱり、俺は日常のピースにすら、組み込まれていなかったのか 「キョン君」 朝比奈さんは口を開く 「キョン君、どうか、涼宮さんを嫌いに───」 「何してるの、みくるちゃん」 背後から冷たい声がした とっさに振り向く そこにいたのは、そう、涼宮ハルヒだった 「……涼宮さ───」 「ほら、一緒にご飯食べましょ、行くわよ」 俺を見向きもせずに 意図的に無視しているとしか思えないほど、ハルヒは完璧に俺の存在を気にかけなかった 「す───」 「ほら!行くわよ!」 朝比奈さんが何かを言おうとするのを遮り、ハルヒはまるで叫ぶかのように言い放った そしてそのまま朝比奈さんの手を引っ張っていく 「待てよ」 俺はいつの間にか言葉を口にしていた 「……何?」 ハルヒはぶっきらぼうにこちらを見て言った まるで相手をするのも面倒くさいといった表情だった 「なんで、俺を避けるんだ?」 「なんで私があんたなんかを避けなきゃいけないのよ」 俺は何を言ってるんだ ハルヒは昔から自分にとって意味の無い奴とは関連しないことぐらい知っていたはずだろ 「……っ」 言葉が出なかった 簡単なことだ 答えは自分ですでに知っていた 「ほら、行くわよ、みくるちゃん」 「あ、キョン君───」 朝比奈さんの袖を引っ張り、ハルヒは消えた 俺は一人その場に残されていた 残っていたのは、ぶつけようの無い 悲しみか、怒りか、はたまた別の何か、か 「なんだってんだよ、畜生、俺が何かをしたかよ」 「……何も」 不意にまた声がした 振り向いた先に居たのは 「貴方は何もしていない」 「……長門」 「じゃあ───」 じゃあ、どうしてと、俺は聞こうとした 「これ以上、私たちに関わる事は推奨できない」 長門は言い放つ またか、どうして誰も俺に何も教えてくれないんだよ 俺が言いたいことを言う前に、勝手な結論ばかり残していきやがって 「……貴方が涼宮ハルヒを嫌悪することを、 彼女 は望んでいる」 「は?彼女って───」 「さよなら」 そう言って長門はその場を後にする 彼女って、誰だ そいつが、俺から全てを奪ったのか? なんで俺にハルヒを嫌いにさせようとするんだ どうやってハルヒにそう唆したんだ 様々な疑問が脳内にわいては消えた ただ、長門の言葉だけが、俺の頭に残っていた ──────閑話休題────── 本当は嫌だった 本当は辛かった それでも私はこうしなければならなかった どうすれば一番彼を傷つけずにすむか そしてこれが、私の結論だった ──────閑話休題────── ……… …… … 「今日はどうするよ、キョンよ」 「何処でもいい」 「まだ引きずってるのか?気にすんなって、あいつは昔からああいう奴なんだよ」 「……そうか」 放課後、SOS団という居場所をなくした俺はここ一週間谷口や国木田とつるんでいた とくに行く当てもなく、ただブラブラと遊ぶ 古本屋で立ち読みしたり、ゲーセンで適当に時間を潰したり 俺はそうやってもてあました時間を無駄に浪費していった 日常 確かにそう考えられることは考えられる だけどこれは俺にとっての日常ではなかった 日常と非日常の逆転した世界 俺にとっては今の時間がどうしても非日常に思えたのだ 「じゃあそこの喫茶店寄ってこうぜ、また店員が可愛いんだこれが」 「ああ」 「いつもそれだね」 「おうよ!男たるものこうじゃないとな、なぁキョン」 「……ああ」 ぶっきらぼうに返事を返す 「なぁ、キョン、いい加減にしてくれよ」 「え?」 「え、じゃねーよ、え、じゃあ、お前は一体どうしたいんだ?」 気がついたら谷口は割りと真剣な面持ちでこっちを見ていた 俺が一体どうしたいって? 「あそこやめてからお前ずっと上の空じゃねーか」 「昔からキョンの知り合いだけどこんなキョンを見るのは初めてだよ」 「……」 「いいか、今は忘れろ、忘れちまえ、それが一番だ、な?」 「……ああ」 わからない 昔は知っていた、こういうときの時間の潰し方 国木田や佐々木とつるんでいた頃を思い出す だけど、どうしても気持ちは乗らなかった もう俺の日常は、向こうに置いてきてしまった ただ今は、他にすることがなかった あの破天荒な団長に次から次へと仕事を押し付けられて 古泉とゲームをして 朝比奈さんのお茶を飲んで たまに長門を観察する それは、もうできないから 「キョン、お前はどうしたいんだ?」 谷口は再び口を開いた 「え?」 「お前がどうしたいのか涼宮に言ったか?」 言ってはない、だけど…… 「確かにあいつは人の話を聞かないしてめぇのやりたいようにしかしない奴だ」 そうだ、あいつはそうやってあの場所を作り出した 「今までだってずっとそうだったしな」 そう、今まで、ずっとそうだった 「だけどよ、唯一あいつと対等に渡り合えたのはお前なんだぜ?」 「……は?」 谷口は俺の肩を叩いた 「お前が初めてだからな、あいつが好んで話しかけてた奴って」 「だからさ、もしお前が正面から口喧嘩したら、あいつだって勝てやしないさ」 「……それは違う」 「ちがわねーよ」 谷口が言い切る 「だって涼宮はずっと寂しそうにしてたぜ?」 …なんだって? 「気づいてなかったのかよ」 だってあいつは俺に会うたびに、俺を無視した 絶対に視線を合わせようとしなかった 「逆だよ」 「え?」 「視線を合わせようとしなかったのはお前だろが」 「……」 確かに、そうだったのかもしれない だが─── 「だが、あいつと最後に会話したとき、俺は……」 「お前は?」 「俺は……」 何も、伝えてなんてなかった そうだ、その通りだった どうして 何故 それしか最近口にしていなかった気がする 「……そうだな」 大切なのは、俺の気持ちだった 最初に出会ったときからあいつに振り回されてばっかりだった気がした だけど、最終的に物事を決めたのは、俺の選択だったんだ 俺が、どうしたいか ───そんなこと決まっている 「ありがとよ、谷口」 「……お、おう!この俺様に諭されるなんてまだまだだな、キョンよぉ」 「ああ……すまん、今日はもう帰るな」 「ああ、またな」 「また明日、キョン」 「ああ、ありがとう」 俺は谷口と国木田に礼と別れを言って家へと駆け出した 「ったく、俺様に柄にも無い事言わせやがって」 「いいんじゃないかな?うまいこといきそうだしね」 ……… …… … 翌日の放課後 俺は部室の前に居た ハルヒは掃除当番だから今日は俺のほうが早かった 今、俺はあいつを待っている どうしても伝えなきゃならないことがあるからな 「お久しぶりです」 いつの間に来たのか 廊下の反対側に古泉一樹が立っていた 「今しがた来たばかりですよ、どうかしましたか?」 「どうかしましたか、じゃない、用件は一つしかねぇだろが」 「ようやく、その重い腰をあげて頂けましたか」 俺はそのときやっと気がついた 目の下に浮かぶクマ 古泉の顔には疲労の色があった 一週間前とは比べ物にならない、まるで重い病気にかかってしまったかのような顔 そして右手の袖からわずかに覗く包帯の白 「……古泉、お前どうした」 「どう、とは?」 「例の、空間か?」 「ええ、実は二週間ほど前から頻発して出るようになったのですよ」 二週間、前? 「あなたが退団を言い渡されるよりもさらに前です」 「それが……」 「それがあなたを涼宮さんが解雇した理由です」 理由 やっぱり俺はただハルヒに使い捨てにされたんじゃなかった だけど何故俺がハルヒに解雇されないといけないのかがわからない 「一体何があったんだ?」 「それは僕の口から言うべきことではありません」 「何?」 「そのために、今日ここへ来たのでしょう?」 古泉はそう言うと部室へと入りドアを閉めた ハルヒが俺を退団させた理由はわからなかった だがすぐに俺はその理由を知る事になる 「……何の用?」 突然の言葉 唐突過ぎて一瞬俺は怯んだ だが俺は意を決して振り向いた その言葉の主 そして今日俺がここに来た理由 「ハルヒ」 「何よ」 俺は自分の言いたいこと、聞きたいことを頭の中でめぐらす このわからずやにどうやって自分の意思を伝えればいいのか 「……どうして、俺はクビになったんだ?」 まず、聞く そうしないと始まらないし それが俺の本題でもあったからだ 「もうあんたが要らなくなったから」 そしてハルヒは答える 予想通りに答えを 一言一句、そのままにな 「嘘だろ」 「──っ!嘘じゃないわよ!」 「嘘だな」 「嘘じゃ、ない」 「じゃあなんで今まで俺を近くに置いてたんだ?」 「それは…」 ハルヒは口をつぐむ 「俺に、そこに居て欲しかったからじゃないのか?」 「はぁ?」 我ながらバカなことを言ったもんだ だけど、言わないと先に進まない 答えがYESでもNOでも、俺は聞いておきたかった 「バカじゃないの!なんであんたなんか──」 「俺は居て欲しかった」 「え」 「お前だけじゃない、俺はここの皆と一緒にいたい 長門や、古泉や、朝比奈さん、そして時々鶴屋さん そして、何よりお前と一緒に居たかったんだ」 一言一句、俺は自分の希望、気持ちを伝えた 正直に 「長門は頼りになるがたまに支えてやら無いといけない」 妹みたいなもんだな 俺には別に妹が居るが 「古泉とはまだゲームの決着が済んでいない」 というかまだまだやりたいゲームがあるらしいからな、あいつには 「朝比奈さんのお茶はおいしい、そして何よりあの愛らしさには癒される」 一緒に居るだけで俺のストレスを消していってくれる 「そしてハルヒ、お前は俺の日常を変えた張本人だ 長門や朝比奈さん、古泉に鶴屋さんに出会えたのもお前のおかげだ バカな騒ぎを毎週のように起こして そして俺を振り回して わがままで、子供で、危なっかしくて」 一呼吸置いた 「キョ──」 「だけど、そんなお前を、俺は傍に居て欲しいと思ってる」 何かを語ろうとするハルヒの言葉を遮り俺は続ける 「ハルヒ、俺はお前が好きだ」 言った 全て言った 俺の気持ちは あとは、ハルヒの傍に居ていいか、それだけの事だった 「──ダメ」 そして気がついた 廊下に落ちる水滴 咽び声 ハルヒは泣いていた 「私の事、好きにならないで」 「ハル……ヒ?」 「好きにならないで!私の事嫌いになってよ!じゃないと、じゃないと!」 ハルヒは叫んだ 何を言っているのかわからない そして 「───げほっ」 ビチャ 嫌な音がした ハルヒは唐突に血を吐いた そしてその場に倒れた
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5134.html
「涼宮ハルヒの鬱憤」の続編です。 狼が牙を研がせる襖から 蕾み開いた蓮の花。 散っては散っては夢の中。 暴れる時の移ろいは もはや誰にも止められぬ――― 先週までのハロウィン調査(正確にはパーティー)も当たり前の事だが、 特に成果もなく一旦中止となり、俺は期末テストに向けて部室で 鬼教官・ハルヒの超スパルタ教育を受けている。 「ハルヒ。お前、その竹刀どこから持ってきたんだ?」 「つべこべ言わずに覚える!」 鼻先に突きつけられた竹刀に怯みながら俺はようやく ハルヒの鋭い剣筋を教科書で受け止める反射神経を身に付けたようだ。 今日は日本史。 俺の最も苦手な教科の一つだ。 「日本史は覚えようと思っても頭に入ってこないんだよな。 教科書の文字が漢字ばっかりで…。 大体、試験範囲は幕末、明治維新だけって言ったってこの時代の奴ら、 色んな面倒事を起こし過ぎだ。」 「覚えられないのはあんたに気合いと根性と脳みそが足りないだけ!」 くそっ…反論の余地無し…。 目の前にいる古泉はニヤニヤしながらお茶を飲んでいる。 「しばらく一緒にゲームが出来ないのが実に残念です。」 勉強しなくても余裕と言った古泉の佇まいが許せない。 神様はなんて不公平なんだ。いや、神様はハルヒだからえ~と…? 「はい、今から10分の休憩を入れるわ。」 最初で最後の休憩時間。 「キョン!はい、これ。」 手渡されたのはカカオ99%の苦~いチョコと緑茶。 ハルヒは「チョコと緑茶は記憶力を良くしてくれるの!」と言っていたが、 俺は胸焼けを起こして集中力を刈り取られそうだ…。 朝比奈さんの入れてくれるお茶が恋しい…。 長門はいつものように読書をしている。 まぁ、こいつに試験勉強は必要無いだろう。 「今回は何を読んでるんだ?長門。」 長門はそっと本を上げて表紙をこちらに向けた。 しまざき…ふじむら?なんで名字が2つ並んでるんだ? 「ほぅ…島崎藤村の『夜明け前』ですか。」 良かった…口に出さなくて…。 「キョン、どうせあんたの事だから『どっちが名字だ?』とか思ったんでしょ?」 そういう勘は本当に鋭いな、ハルヒ。 苦いチョコを緑茶で流し込もうとしたその時、部室の扉が開き、 最近またグッとセックスィ~さを増したSOS団のプレイメイツッ!!こと、 朝比奈さんのご登場だ。 「こんにちは。新しいお茶の葉も見つけたんで皆にも、と思って。 だから今日はここでお勉強しようかなって。」 と、何故かメイド服を手に取る朝比奈さん。何故!? 朝比奈さんが「今日は珍しいお茶の葉が手に入ったんです~。」と 入れてくれたのは蓮(はす)の花茶という最高級品らしく、 なんでも舟で池に咲いてる蓮の花の蕾みを一つずつ摘んで作るものらしい。 う~ん、フローラルな香り…。 さっきまで「歴史っていうのは流れで覚えるの!」と 解説用のノートを竹刀で差しながら叫んでいたハルヒは 俺が黙々と教科書に向かっているのをジーッと見ていたか思うと 夕陽の暖かさに耐えられなかったのか頬杖を付きながら ちょっと遅めのお昼寝タイムに入っていた。 俺もさっきの蓮の花茶の香りに当てられたのか眠くなってきた…。 「ここでサボったら後で涼宮さんに何をされるか分かりませんよ。」 俺の心を見透かしたように古泉はニヤついていた。 分かってるよ…俺もハルヒに竹刀でぶっ叩かれるのはごめんだ…。 その時、部室内がフッと暗くなったので窓の外に目をやると さっきまでの夕陽が消え、灰色の空間が押し迫ってきていた。 「古泉、これは…」 古泉に目をやるとさっきまでのニヤケ顔と違い、真顔で驚いたような表情をしていた。 「閉鎖空間のようですね。しかし、涼宮さんは眠り込んでおいでのようですが…」 と、古泉が喋り終わらないうちに眩しい光が部室を包んだかと思うと、 俺は気絶しそうな目眩に襲われた。 業火に焼かれる月の都の闇の中。 踊る金魚は池の中。 降り注ぐ血の色煙る雨の音。 想う心は一つでもあちらこちらと相容れぬ――― 「ぐおっ!!」 なんか思いっきり腹を踏まれた。痛い…。 「おめぇ何者じゃ?妙な格好しおってからに。」 何だ?ここはどこだ?あれ?谷口???ハルヒ達はどこ行った? 「何しやがんだ?谷口。大体、お前こそ変な格好しやがって…」 「お前、何故わ、わ、わしの名を?怪しい奴じゃ!どこのもんか知らんが、 毛唐みたいな服着よってからに不届千万!攘夷じゃ!この奸賊めが!」 はぁ?と思う間もなく、この着物とちょんまげ姿の谷口は でっかい刃物を取り出し、俺の鼻先に突きつけてきた。 朝倉の時といい、今といい、俺は先端恐怖症にでもなってしまいそうだ…。 冷や汗が背中を伝う、まさにその時だった。 「いたぞ!!こっちだ!!」 と、何人もの集団が大声を出しながらこちらに向かってくる。 「しもうた…。」 一言呟いてちょんまげ谷口は刀を納め、逃げ出していた。 「おい!待てよ!」 俺はとりあえずこの場の空気を読んでちょんまげ谷口と一緒に走っていた。 「お、お前!何故ついてくるんじゃ!?」 「うるせぇ!とりあえず逃げとけみたいな流れだったからだ!」 狭い路地裏に飛び込み、弁慶と牛若丸が出てきそうな橋を渡り、 寺の境内を抜け、走り続けているとそこは昔、修学旅行で行った 太秦映画村のセットのような屋敷の裏門だった。 「くそっ!袋小路か…お前のせいじゃぞ、毛唐!」 表の大通りから声が聞こえてくる。 どうやら相当な人数が追い掛けてきているようだ。 お前は一体、何をやらかしたんだ?谷口。 と、その時、屋敷の通用門が開くと俺と谷口は襟首を掴まれて引きずり込まれた。 これは一体、何の冗談なのでしょうか? まぁ、百歩譲って長門有希と朝比奈みくるに挟まれているのはまだ理解出来ます。 しかし……何故、僕らはちょんまげを付けて妙なはっぴを着た連中に 大人数で囲まれているのでしょうか? 「お前ら、何者だ!?」 それはこちらの台詞ですよ。 「いきなり目の前に現れよって!妙な格好をしている所を見ると毛唐か?」 「この人達は一体、何なんですか~!?」 会話が噛み合ってませんね。この方達が何者なのか僕が知りたい所です。 「…新撰組。」 おやおや? 「日本において残存する歴史的資料のデータと彼らの姿形が一致している。 理由はわからないが、今は彼らが新撰組だと認識するのが妥当。」 「ふぅ~…理由はわかりませんし、信じたくもありませんが、 確かに彼らは新撰組としか見えない格好をしていらっしゃいますね。」 「そして彼らはこちらを敵性と判断している。」 「キョンくんと涼宮さんはどこにいるんでしょうか~?」 「まずはこの場を切り抜けるのが先決。その後、2人の捜索を開始する。 2人の存在も微弱ながら感知出来る。」 「長門さん、どうやらここでは僕の能力が僅かながらですが、発揮出来るようです。 何故かはわかりませんが、少々お力添えは出来そうです。」 「…助かる。」 「先程から何をごちゃごちゃと!!」 キラリと光ったと思うと四方八方から刃が切り込んできた。 「私が障壁を作る。攻撃はあなたに任せる。 ただし、殺さない程度に力を抑えて。」 「分かっていますよ!」 障壁に雷のような電気が走ったと同時に逃げ道を作る為、攻勢に転じた。 「さぁ、長門さん、朝比奈さん。この爆発の煙幕に紛れて逃げましょう。」 この山、登りゃ何見える? あの谷、降りりゃどこへ行く? 誰にも分からぬ獣道。 草をかき分け、野を抜けて道なき道をただひたすら――― 「不逞浪士に逃げられただと?馬鹿野郎!」 屯所内に怒号が響く。 「すみません…しかし、一緒にいたのが妙な格好をした奴でして 西洋人だと思うのですが何故、攘夷浪士が毛唐共と話をしていたのか? 何か繋がりでもあるのかと思いまして…」 その時、外の廊下から誰かが走ってくる足音が聞こえた。 「副長!副長はおられますか?」 激しく襖が開くと一人の小柄な美男子が立っていた。 彼は八番隊組長・藤堂平助。 北辰一刀流の使い手で常に闘いを一番手で先んじる所から 隊士達の間では『魁(さきがけ)先生』と呼ばれている。 「うるせぇな。今度はなんだ?」 不機嫌な顔と鋭い眼光を藤堂に向けながら目の前に座っている男は答える。 この周囲を沈黙せしめる威圧感と凄みを振りまいている男こそ、 京の攘夷浪士から新撰組隊士までをも震え上がらせる 新撰組・鬼の副長、土方歳三その人である。 「それが副長。先程、三条大橋の辺りで 毛唐みたいな妙な格好をした3人組を見つけやして…。 連行しようとしたところ、抵抗していざこざになりそうな時に それがまた奴ら、天狗みたいに不思議な術を使いやがるんでさ。 突然、目の前に現れたかと思うと、火の玉出したり、雷が落ちたみたいに 影も形もなくなって消えちまったり…。 あいつらは天狗みたいな鼻してると聞いた事がありますが、 本当に天狗みたいな妖術を使いやがるんですね。」 副長は溜息を付いてやれやれ…という顔をしながら 「お前もまたそんな訳の分からん報告を入れんのか、と言いたい所だが、 さっきの島田の話と合わせると攘夷浪士達が何らかの理由で方針を変えたのか、 その妙な格好をした西洋人共と何らかの繋がりがありそうな雰囲気だな。 この前の桝屋古高俊太郎への取り調べや山崎の報告から 今はこの京に不逞浪士が多数、潜伏し、何かを企てているらしい。 浪士と毛唐が手を組むなんざ考えられんし、考えたくもないが…。 ちっ…。ったく、面倒臭ぇ。 そいつらも浪士共と一緒にふん捕まえて縛り上げるか、叩っ斬るか、 徹底的にやらねぇといけねぇみたいだな。」 風もなく、太陽がギラギラと輝いている。 メイド服を冬用に衣替えしていたのでとても暑いです。 3人でなんとか狭い路地の片隅に身を潜める事が出来ました。 「情報統合思念体とのコンタクトに成功。 私の持つデータと情報統合思念体の持つデータの間に生じている齟齬は改善された。 侵入コードを解析…。 やはり時間と空間の位相がずれている。 現在の日付は地球時間に換算して、1864年7月7日。 空間座標は京都。 涼宮ハルヒの力により何らかの原因で、 5人がこの時空間に転送されたと考えるのが妥当。」 その言葉を聞き、私は自分でも驚くような大声を出しました。 「そんなはずありません!」 古泉君にシッと声を沈めるように促されながら、2人に説明しました。 「そんなはずありません…。涼宮さんが原因となった時間震動により 時間平面同士の間に大きな時間の断層が出来ているはずです。 私達がいたあの時間より4年以上過去には行けない状態だったはずです!」 そう、そんな過去には行けない。これはもう何回も確認されている事。 「でも、これは事実。恐らく、涼宮ハルヒの力により その時間の断層を飛び越えて転送されたと考えるべき。 元の時間平面上に戻るには…」 「…涼宮さんの力が必要と言う訳ですね。」 「…そう。」 「と言う事はまずはやはりあの2人の捜索が肝要。」 「…そう。」 「原因の究明はその後ですね。」 「あんちゃん達!」 急な背後からの声に3人の動きが止まった。 くそっ…今日は踏んだり蹴ったりの厄日だ。 俺は上に乗っかった谷口をはね除けて、服に付いた泥を払った。 「おい谷口。さっきから言おうと思ってたんだが、お前、袴の帯、解けてるぞ。」 「えっ!?くそっ!お前のせいで今日は踏んだり蹴ったりの厄日じゃ!」 その時、ふと横目にちらりと入ったものに気を取られた。 ポニーテール……ハルヒ!? しかし、目の前に立っていたのはハルヒと同じくらいの眩しい笑顔をした大男だった。 「おまんら、さっきから大騒ぎし過ぎじゃきに。ちくっと大人しゅう出来んかえ。」 あれ?この人ついさっき、どっかで見たような…。 「行ったようじゃの…。しっかし、おまんら…新撰組相手に何やらかしたんじゃ?」 し…新撰組? 「あんな大人数に追い掛け回されるっちゃよっぽどの極悪人かいのぉ~?」 言葉とは裏腹にこの状況を楽しんでいるかのような笑顔をしている。 「き、貴様こそ何者じゃ!?」 谷口は虚勢を張ったが、目の前の大男に威圧され、逃げ腰になっている。 「おんや?おまん、長州の桂んとこに、よう出入りしちょう谷口じゃなかか?」 「か、か、桂さんを呼び捨てとは何たる無礼者!!」 「まっ、ええわ!ところでおまん…」 大男の鋭い眼光に睨まれて俺は少し怯んだ。 「変な格好しちょるのぉ~!ひょっとして、こんが西洋のジャケッツっちゅう着物かい? あ!エゲレス人には英語しか通じんかの?あぁ~…アーユージャケッツ?」 あ…いえ…日本語で大丈夫ですから…。 むしろ、日本語しか通じませんから。 それに「あなたはジャケットですか?」ってどういう意味ですか? 「いっや~!あんちゃん達のさっきのアレ、めがっさ凄かったにょろ!!」 聞き覚えのある声に見覚えのある顔。 ただその人は着物姿で、こちらを好奇心いっぱいの目で見つめていた。 「鶴屋さん!?」 3人は何故、ここに?と思ったに違いない。 「あっれ~?あんちゃん達、うちの事知ってんのかいっ!?」 彼女はニコニコと微笑んでいる。 「…彼女はこの時代の有機生命体。恐らくは私達の時代にいる彼女の祖先。」 なるほど…あのハイテンションは遺伝だったんですね。 「3人だけでごにょごにょ内緒話とは聞き捨てならないさっ! 何で新撰組に追われてたんだいっ!? そんな悪そうな人達には見えないっけどな~! まっ!こうして会ったのも何かの縁さっ! うちに来なよ!あんちゃん達みたいな変わった人達は大歓迎にょろ!」 3人は顔を合わせた。 「ほらっ!早くっ!そんなとこに突っ立ててまた見つかっても知んないよっ! 大丈夫っ!ここらへん一帯はうちの庭みたいなもんさっ!」 3人の背中を押しながら鶴屋さんはずんずん進んで行く。 「ところであんちゃん達のあの雷や火の玉みたいなのってうちにも出せるのかいっ!?」 「…それは不可能。」 「そっかい!あんなの出せたらやりたい放題にょろ?」 何をやりたい放題なんですか? 煩悩は花の種。 人の心に咲く花は悩みの種から芽を吹いて 育つは人煩いの涙の雨と笑うお天道様の声。 煩悩を捨ててはつまらぬ人生。 時は移ろい全てのものは変化する。 それが諸行無常と言うならば、 我を捨て空に達しては開いた悟りも過去のもの――― 「いやっはっはっ!!すまんぜよ! まっさか、言葉の通じるエゲレス人がおるとは思わんかったきに!」 いや、だから…なんか、つっこむのも面倒臭くなってきた…。 「おい!お前、何者じゃ!桂さんやわしの事まで知っとるとは看過出来ん!」 大声を張り上げながら谷口は刀の鍔に手を掛けていた。 「おまん、何をいきっとるんじゃ?わしは…」 谷口は刀を抜き、俺達に剣先を突きつけてきた。 「やめとき…。おまんの腕じゃわしには勝てんぜよ。」 2人は世界を止めたように静かに睨み合っている。 その一瞬、火花が散ったかと思うと、 谷口は転がされ逆に鼻先に剣を突きつけられていた。 「の?言うたじゃろ?」 刀を納めると彼はまた太陽のようにニカッと笑い、 「さぁ~て、おまんら変な奴らじゃきに、ちくっとわしについてこい。 な~に、悪いようにはせんて。」 俺はこういうマイペースな人に巻き込まれてしまう性分なんだろうか? この日、土方歳三は苛立っていた。 「場所は祇園にある実成院という寺の門前にある会所。 隊の羽織から防具に至るまでなるべく全て今日中に運び込んでおけ。 目に付かないよう一遍にではなく、いくつかに分けてな。」 そのように屯所内を動かしながら三条通付近に隈無く探索方の配置を徹底していた。 日の暑さと相まって精神的にピリピリしているだろう。 なにせ京は盆地の為、風が無い。 「少しでも多くの報せが欲しいが…しかし、妙な毛唐共とは一体、何者なんだ?」 庭で子供の笑い声が聞こえる。また、あいつか…。 縁側に出ると子供達に混じって少し猫背の男が大はしゃぎしていた。 「おい、何やってやがる?」 猫背の男がボーッとした顔でこちらを振り返ってきた。 子供達は雀のように飛び散っていった。 「あ~ぁ…土方さんがそんな鬼のようなしかめっ面で出てくるから 皆、怖がって逃げちゃいましたよ。」 ニヤニヤと笑いながらゆるりとこちらに歩いてきた。 気が抜けて隙だらけのようにも見えるが、底を読ませない怖さがある。 「俺も気が張ってんだ。少し気を落ち着けたいんで碁に付き合ってくれんか?」 「良いですよ。ところで先生は?」 「ここでは先生ではなく、局長と呼べ。近藤さんは会津の藩邸だ。ところでな、 探索に出していた島田と巡回中の藤堂から入った報告なんだが、 何でも三条近くで妙な毛唐共が攘夷浪士共と一緒にウロウロしていたらしい。 何の因果か知らんが、もし毛唐と不逞浪士が手を組むなんて事になったら一大事だ。 しかもそいつら、変な火の玉や雷を出すんだとよ。」 「土方さん、熱でもあるんですか?」 「真面目に聞け、馬鹿。」 「フフ…じゃあ、斬っちゃえば良いんじゃない?」 「無茶言うな。」 この時代、幕府は開国させられただけでなく、外国と不平等ながら条約を結んでいた。 いわば攘夷運動はゲリラ的なテロ活動である。 京都守護職である会津藩の預かり、新撰組も外国人の横柄な態度を すんなり受け入れている訳ではないが、立場上、外国人を斬りつけるような 行動は取れない組織である。 ただ、この2人が話している怪しい奴らは宇宙人、未来人、超能力者であるのだが…。 「あぁ~!駄目だ。総司、俺はちょっと散歩してくる。」 「いってらっしゃい。」 碁の相手をしていたこの飄々とした男。 新撰組の中でも一、二の使い手と言われた一番隊組長・沖田総司である。 城? 「ここがうちの屋敷にょろ!さっ!入った入った!」 門をくぐり、様々な季節の木や草花の生い茂る庭を歩いている。 玄関はまだ見えない。 「無駄にだだっ広い家さっ!うちでも時々、迷子になるからね!アッハッハッ!」 人影が見える。…も、森さん? 「お帰りなさいませ、お嬢様。」 「やっほ~!また池の掃除してんのかいっ!」 「旦那様お気に入りの池でございますから。」 鶴屋さんは鼻歌交じりに庭の飛石を一足飛びで駈けていく。 「さっ!入りなよ!たっのも~!」 自分の家に何を頼むんだろうか? 「お帰りなさいませ、お嬢様。」 居並ぶ人、人、人。 「そんな堅っ苦しい挨拶は抜きさっ!この人達を居間に通しておっくれ! あと、お腹空いたから何か食べ物も出して欲しいにょろ!」 「畏まりました。」 凄っ…。 池に小舟を浮かべましょ。 折り紙折った小さな舟を。 蓮の小島に辿り着きゃ 仏と居眠り暇潰し。 もじゃもじゃ頭でポニーテールの大男は2人を引っ張って歩いていく。 そういや…SOS団の皆は、ハルヒは今、どこで何をやってるんだろうか? そもそもこれは夢か?それとも俺だけ閉鎖空間に飛ばされたのか?等と思案していると 大男は俺を問い質した。 「ところでおまん、名はなんと申す?」 今更ですか…。 「なんじゃ言えんのか?エゲレス人の名くらい儂にだって分かるきに。 ジョン・スミスとかそんな感じじゃろ?」 本当に人の話、聞いてませんね。 じゃあもう、それで結構です…。 「ほぅ~!正解か!?ジョンじゃな!ジョン!」 なんか犬みたいで小馬鹿にされてる気分だ…。 大男は立ち止まった。 「さぁ!入るぜよ。」 促されるように小さな門をくぐると庭で2人の男が話をしていた。 「いや~!勝さん、陸奥。ただいま帰ったぜよ。暑い暑い! 海軍操練所の新しいスツーデンツを連れて来たきに。」 この、もじゃポニー男の突然の言葉に俺も含めた4人は呆れたような顔をしている。 ハルヒ並みに無茶苦茶な人だ。 「龍さん、おめぇはまたこんな訳の分からん輩を…」 「いや、勝さん。こいつらは見込みあるきに。のぅ!谷口!ジョン!」 谷口は暴れている。 「なんだ?ジョンってぇのは?」 「この変な服着たエゲレス人の名ぜよ。ジョンじゃ!」 「そいつぁ西洋人には見えんが…」 「ところで陸奥、ここにはおまんしかおらんのかえ?亀達はどうした?」 「望月さん達は人に会う約束があるとかでどっか出て行きましたよ。」 「ほぅか…今の京は危ないきに。あんまウロウロしてたらいかんぜよ。 ちくっとあいつらにお灸据えとかんとな。」 あなたはどうなんですか?もじゃポニーさん。 「おめぇの言えた事かい!龍さん。おめぇも色んな嫌疑掛けられて追われる身だ。」 「儂ゃ何もやっとらん。ただ船で海に出たいだけぜよ。あ!ところで勝さん、 新しい船の話はどうなったきに?黒船が欲しいぜよ!」 「無茶を言うない!まっ、黒船とはいかんが、それなりに当てはあらぁ。 その話はまた後でするとして、それよりもだ、龍さん。 おめぇ、薩摩の西郷って知ってっかい?」 「あの寺の釣り鐘みたいな男じゃろ?」 「よくわっかんねぇ例えだな。俺も会った事はねぇんだが、 おめぇは土佐の脱藩浪士で色んな厄介事も抱えちまってる。 もし、これから京で動き辛くなったらそいつを頼んな。 薩摩が守ってくれるさ。話は付けといた。」 「そりゃありがたいのぉ~。さぁて!おまんら、とりあえず飯じゃ!陸奥も食うぞ。」 未だに俺はこの状況が飲み込めん…何なんだ、一体。 「これから私達はどうしましょう~?」 朝比奈みくるはお茶を飲みながら話を切り出した。 「あ!このお茶、美味しい♪」 「…この時空間は特殊。私の能力もいくつか制限されている。 …あの2人の位置座標までは特定出来ない。でもこの時間にいるのは確か。」 「どうにかして捜索しないと、こんな物騒な所に飛ばされたとあっては 僕らが襲われたと言う事から考えると、彼らの身にも危険が迫ってると 考えてもおかしくはないでしょう。」 「…そう。」 その時、襖が凄い勢いで開いた。 「食べてっかい!御三人。おっや~、なんだか随分と暗い顔してっけど!?」 ここはやはりこの方に頼るしか手はありませんね。 「鶴屋さん。実は僕ら、外国から来た旅の者なのです。」 鶴屋さんは目をぱちくりさせながらこちらを見ている。 「5人でここへ来たのですが、一緒に来たあとの2人とはぐれてしまいました。 どこへ行ってしまったのか皆目、見当も付かないのです。 あとの2人の捜索のお手伝いを頼んでも宜しいでしょうか?」 鶴屋さんは何かを考え込むような顔をして、 「私が知ってる外の国の人達は雷や火の玉を出したりはしなかったにょろ? あんちゃん達の顔も西洋の人より私達に近いし、言葉も通じるし、 うちはまた、妖術使いかなんかだと思ってたさっ! まっ!深い事情がありそうだから詳しくは聞かないでおくよっ!」 あの異常に勘が鋭いのも遺伝ですか…。 「その2人ってのもあんちゃん達と同じような格好してんのかいっ!?」 「えぇ、まぁ…。」 「じゃあ、簡単さっ!そんな格好してる人なんて他にいないから目立つしさっ! すぐに見つかると思うにょろ!森ちゃん!皆に言ってこのあんちゃん達と 同じような格好した2人を探して欲しいにょろ!頼んだよっ!」 やはりいつの時代も只者ではありませんね、鶴屋さん。 「ぷっはぁ~!食った食った!ん?どうした?谷口。 おまん、ほとんど箸を付けとらんな。要らんなら儂が貰うぞ。」 谷口は急に立ち上がって大声を張り上げた。 「儂ゃ、これから大志をなさんといかんのじゃ!大切な用事もある! こんな所で呑気に飯を食っとる時じゃないんじゃ!」 もじゃポニーさんは呆気に取られたような顔をしたかと思うとポツリと語り出した。 「おまん…大志の為に死ぬんか?おまんらが何をするつもりかは大体、分かっちょう。 その覚悟はえぇ。しかし、死んだら元も子もない。 全て終わりじゃ。おまんらがやろうとしちょるんは大志じゃなく、ただの無謀じゃ。 事を成すなら生きて事を成すべきじゃ。 こんな狭い島国の中で仲間同士、いがみ合っておってもせんない。 陸奥や望月、おまんらみたいな若い者がこの先の日本には必要なんじゃ。 1人でも多くの有能な人材が必要なんじゃ。 儂ゃそういう奴らを集めて外国と貿易するんじゃ。 その貿易で得た財で私設艦隊を作り、こん国を外国にも負けん強い国にしちゃる。 まっ、その前に船を手に入れにゃいかんがの! 時代は否応なく変わるぜよ…。 そん時を見られんっちゅうはつまらんじゃろ?」 谷口は拳を握り締めた。 「さきほどの小男は幕府軍艦奉行の勝であろう? あの西洋かぶれと通じておるとは貴様、何者じゃ!?」 もじゃポニーさんは頭を掻いている。 「ありゃ?まだ名乗っとらんかったかのぉ~?そりゃすまんかったわい。 儂ゃ、土佐脱藩浪士、今は神戸海軍操練所の塾頭をしちょる坂本竜馬っちゅうもんじゃ。 ところでおまん、舟は大丈夫か?あれは体が揺れて酔うけんのぉ~。 儂も未だに船酔いには慣れん。そんな奴が海軍の頭っちゅうのもおかしな話じゃがの!」 彼は快活に笑い飛ばした。 この、もじゃポニーさんが坂本竜馬?どっかで見たと思ったのは日本史の教科書か…。 ますます事態が呑み込めん…。 「さぁ~て、と。じゃ、行くか。」 もじゃポニーさんこと、坂本竜馬は刀を手に立ち上がった。 谷口はさっきから黙って俯いている。 「あの坂本さん…どちらへ?」 「船じゃ。ジョンと谷口もついてこい。陸奥はここで待っちょいてくれ。 勝さ~ん、行ってくるぜよ!」 奥からの『おぅ!』という声に見送られ、俺は坂本さんについていった。 太陽がギラギラと輝いている。 谷口は未だに納得がいかないのか、少し離れて歩いている。 その時、バラバラと男達に囲まれた。新撰組だ。 「おい、貴様。名を名乗れ!」 坂本さんはニコニコしながら 「薩摩藩士、才谷梅太郎じゃ。」 と、ネーミングセンスゼロな名前を名乗った。 「訛りが薩摩の者とは違うようだが…。」 「ふ~ん…きっとずっと京におったからでごわす。」 怪し過ぎです。無理矢理過ぎですよ、坂本さん。 「そうか、ところで才谷とやら。おまん、ここで何しちょうぜよ?」 「ちくっと知り合いの所に顔を出しに行くきに。」 「やはり、土佐の者か!!」 バレバレ過ぎです、単純な罠に引っ掛かり過ぎです、坂本さん。 「あっちゃ~…なんで分かったんじゃ?」 この人、アホだ…。 「見た所、妙な格好の毛唐もいるな。副長が言っていた不逞浪士と毛唐というのは こやつらの事か。とりあえず斬っとくか。」 一斉に刃が斬り掛かってきた。 俺はひたすらに避けては逃げる。 期末テストの鬼教官・涼宮ハルヒの竹刀に鍛えられた反射神経、舐めんな! 坂本さんは刀を縦横無尽に舞わせている。 「ジョン!谷口!逃げるぞ!」 必死で走っていた。夢ならそろそろ覚めてくれ!!! 「永倉隊長、逃げられましたね。」 「あのもじゃもじゃ頭、あいつはきっと強いぞ。やり合ってみたかったわ。」 鶴屋さん…何をやってらっしゃるのでしょうか? 「だって、これ凄いよ!何なのさっ!この乳!」 朝比奈みくるはどこの時代に行っても同じ扱いを受けるんですね。 「止めて下さ~い!」 「良いではないか、良いではないか。ウッヒッヒッヒッ。」 ふと襖に影が降りたかと思うと声を掛けてきた。森さんだ。 「お嬢様。」 「どったぁ~?」 「ただいま、旦那様に御客人が御出でなのですが、その中に 偶然なのか、旅の御三方とよく似た格好をした者がおりまする。」 3人は顔を見合わせた。 「キョンくんと涼宮さんです!」 「これは凄いですね!探す手間が省けたと言うものです。 それにしてもどうして彼らは僕らがここにいるのが分かったのでしょうか?」 「行ってみりゃ分かるさねっ!」 僕らは鶴屋さんについて応接間に向かった。 応接間の中には3人の人間が座っていました。そこには確かに彼の姿がありました。 しかし… 「キョンくん!」 「朝比奈さん!長門!古泉!お前ら、どうして!?なんでここに?」 「なんじゃ?ジョン、おまんの知り合いか?」 「こちらの方につれられてここにお邪魔しています。」 「鶴屋さん!」 「あっれ~!君もうちの事、知ってんのかいっ!? 有名になったもんだね、鶴屋さんも!」 「涼宮さんはいないようですね…とりあえず、詳しくお話しましょう。」 浮き世の旅は当ても無く、 時の縛りも無い故に ちょっと一服、笹団子。 見つめる先は鈴の音と旅人行き交う東海道。 朝比奈さんの「禁則事項です♪」と言う言葉に従い、 他の皆さんには席を外して貰う事も考えたのだが、 この時代の彼らの協力無しにはハルヒの捜索は行えない、 という古泉の意見を採用し、俺達は外国から旅をしてきた人間だ、 という設定で、まずはお互いの状況を簡潔に説明し合った。 まずここが1864年7月7日の京都だと言う事、 ハルヒもここのどこかにいるが行方不明だと言う事、 3人は新撰組に追われた事、そこでここの鶴屋さんと出会った事、 家に隠まってもらってた事、 鶴屋さんに2人の捜索を依頼した事。 そして俺はクラスメイトの谷口にそっくりな男と一緒に新撰組に追われた事。 その時この、もじゃポニーの坂本さんなる男に助けられた事。 その坂本さんに無理矢理、勝という人の所に連れて行かれ、海軍に入れと言われた事。 今も新撰組に追われている事。 坂本さんの船購入に出資してくれるのが鶴屋さんである事。 「僕は涼宮さんはてっきりあなたと一緒にイチャついてるのかと思っていたのですが…」 「誰がイチャつくか!?俺もハルヒはお前らと一緒なんだと思ってたよ…。」 また振り出しか…ハルヒ、お前は一体、どこに行っちまったんだ? 「ジョン!おまん、人探ししとったんか!?なら、はよ言や良かったんじゃ!」 坂本さん、あなたが喋らせてくれなかったんでしょうが…。 坂本さんは長門に興味を惹かれたようだ。 「ところで、そこのおなご。おまん、航海士かぇ!? その着物、セーラーじゃろ!?セーラーは海軍の証拠じゃきに! どうじゃ!?儂の海軍に入らんか!?しっかし、随分と破廉恥なセーラーぜよ! 外国じゃ、おなごはこげに肌を露にするもんかぇ!?」 話がややこしくなる。静かにしといて下さい、坂本さん。 あとスカートの中身をあまりジロジロ見ないで下さい、坂本さん…。 「それにしても俺達はなんでこんな所に…朝比奈さんの話では、えぇ~と、 ここらへんに来るのは不可能だったんじゃないんですか?」 「それが私にも不思議なんです~…。」 古泉が笑いながら制止した。 「それはまた後ほど。」 「しっかし、おまんらの話はどっか、芯のよう掴めん話じゃのぉ~…。 なんか気になるし、面白そうぜよ!儂もおまんらについていこうかの!」 えっ!? 「じゃあ、うちも行くにょろ!」 「谷口、おまんはどうする?」 谷口は返事をしなかった。 「ふ~ん…まぁ、納得いかんのに無理矢理引っ張るのもあれじゃきに。 おまんの好きにせぇ。」 谷口は無言で何かを思案しながら、俺達と別れた。 古泉が俺の耳元に囁きかけてきた。気持ち悪っ!!あ…息は吹きかけるな…。 「先程の何故、僕らがこの時代に飛ばされたのか?というお話ですが、 恐らく…涼宮さんが願ったからではないか、と。 あなたの覚えがあまりに悪いのを改善するにはどうすれば良いのか? と、涼宮さんは思案し、あなたの身体に覚え込ませる為に ここへ直接、放り込めば良いのではないか?と彼女は考え、 そして、閉鎖空間とはまた違う世界が構築された。 それに部室にいた全員が巻き込まれたのではないかというのが僕ら3人の意見です。 この世界では不完全ながら僕の力も有効化されますし。」 ハルヒ…あんまり無茶させんな…。 「ところであの天然パーマの方、ひょっとしてあの坂本竜馬ですか?」 「あぁ、みたいだな。どうやら本物らしい。色んな意味で信じられんがな。」 「これは凄い!坂本竜馬、勝海舟、新撰組と、 本当に歴史の教科書の中に飛び込んだ世界のようだ。」 笑ってる場合じゃないだろ…。 「あんちゃん達は皆、三条大橋の近くで離ればなれになったにょろ? じゃ、もう1人もその近くにいるかもしんないよ?皆で行ってみようさっ!!」 次の行動が決まらない俺達は鶴屋さんの提案に賛同したが1人、 坂本さんだけは渋い顔をしていた。 「三条大橋の周りは今はちくっと危ないぜよ。 京にいる攘夷志士から新撰組まで一斉にあの辺り一帯に集まっちょる。 それにジョン達の格好は目立ち過ぎる。服だけでも着替えておくべきじゃきに。」 確かにこの時代にセーラー服やメイド服は目立ち過ぎる…。 それにもうこの格好であの町には出たくない…。斬られるのはごめんだ。 「じゃ、うちにある着物を貸してやるさっ!その服は風呂敷にでも包むんだね!」 まるで夏祭りにでも行くようですね、と古泉は笑いながら呑気な事を言っている。 「あん破廉恥なセーラー服も堪らんけんど、それもなかなか悪くないっちに。」 と、坂本さんは長門に冗談を飛ばしている。 森さん達にも捜索してもらっている事もあり、ひとまず全員で固まって動き、 現地で二手に分かれる事とした。 ハルヒ~…早く出てきてくれ…。 アケビ、椎の実、銀杏(いちょう)に蓮の実。 供物捧げる盂蘭盆(うらぼん)にゃ、 仏様の蓮の葉座布団、摘んどけ、買っとけ、載っけとけ。 言う事聞かないお転婆娘は蓮の葉女にされちゃうよ――― 京都は夏真っ盛りである。 風鈴も音を鳴らさないほど風もなく、制服で歩き回るのは確かにしんどい。 6人は三条大橋に着いたものの、東海道の終点である宿場町と言う事もあり、 人がごった返していた。 「凄い賑わいですね~。」 朝比奈さんは物珍しそうな顔をしながらキョロキョロしている。 落ち着きの無い俺に古泉がニヤニヤと笑いながら話し掛けてくる。 「涼宮さんの捜索という目的がなければ、京の風情を味わいたい所ですね。 まぁ、心配しなくても涼宮さんなら大丈夫ですよ。僕には分かります。 正確には分かってしまうと言った方が正しいのですが…。」 長門が呉服屋の店先に置いてある鈴の付いたかんざしを見つめている。 「お!おまん、仏頂面の割には可愛いもん欲しがるの!買っちゃろか?」 「…ユニーク。これは何という武器?」 武器じゃありませんっ!! 6人でどう二手に分かれようか相談していると、急に町が騒がしくなった。 喧嘩でも起きているのだろうか? 「どうやら新撰組がおるようじゃ…。また攘夷の連中が暴れちょるんかの?」 おいおい…また斬り掛かってこられるのは勘弁だ…。 遠くの方で土煙と怒声が舞っている。 「こりゃ大捕物さねっ!」 人のごった返す通りをかき分けながら何十人という大所帯の 新撰組が抜き身の刀を振り回し、こちらへ駈けてくる。 「ここは危ないようです。ひとまず身を隠しましょう。」 横の路地に入ると大声で喚き散らしているのが聞こえる。 「副長!!副長!!」 「あっちに逃げたぞ!!!」 「待て!コラッ!!!」 「囲め!逃がすな!!」 「叩っ斬れ!!」 こりゃあ、ヤバいんじゃないか?やれやれ…物騒な所に来ちまったもんだ…。 「儂ゃ近眼じゃきに、よう見えんがどうやらこっちに来るようじゃの。」 「バレてしまったのでしょうか?」 「いんや!誰かが追われてるようにょろ!」 俺はふと大通りに目をやり、騒ぎの中心を覗いてみるとあまりの驚きに目を疑った…。 ハルヒッ!? 「……どうやら涼宮さんのようですね…。」 ………………。 今度は何をしでかしやがったぁぁぁあああ~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??? ハルヒィィィイイイ~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 土方歳三は沖田総司の一番隊を借りて京の街を歩いていた。 ここの所、探索や暗殺、拷問と立て続けに面倒事が舞い込み、 諸々の準備にも時間を取られるのと蒸し暑いのとが相まって 気が張って苛立っているようだ。 だが、これも新撰組を最強の武士集団とする為には仕方の無い事。 ちょっとでも気を抜いて取り締まりを緩めれば何が起こるか分からない。 こっちの命があっさり取られかねない事も重々、承知している。 「副長!!」 声を掛けられて振り向くと永倉新八率いる二番隊の連中がそこにいた。 「ちょうど良い所で会いました。先程、妙な浪人2人と西洋人に出くわしました。 やはりあいつら、毛唐共と手を組み、何かを企んでいるやもしれません。」 ちっ…。ったく、つくづく面倒臭ぇ…。 どうも攘夷の連中は俺の神経を逆撫でする為だけに 生きているような連中が多いようだ。 「斉藤の三番隊も今日はこの辺りを巡回中だったよな? 一度合流して配置し直すか…。」 三条大橋の近くで斉藤一率いる三番隊と合流すると、こいつらは何人か 斬ってきた後のようだった。気が荒れて、ささくれ立っている。 「おめぇら、息を整えろ。これから一番隊、二番隊、三番隊の配置を決める! どうやら攘夷志士の連中は毛唐共と手を組んで何かを企てているという 報告が入っている。いいか!!怪しい輩は生かしておかんでもいい!! 局中法度を思い出せ!気を引き締めろ!!俺達の任務は京都の治安を守る事! 面倒な奴らは徹底的に根絶やしに…ん??………はべしっ!!!!!!!」 「…副長??…副長!!!!」 目を覚ますと私は見た事もない川縁の土手に寝転んでいた。 部室にいたのは夢だったのかしら?あれ?こっちが夢? しぱしぱした目でキラキラ光る川を見ると一枚の葉っぱが流れてきた。 「ここ、どこ!?」 周りを見渡すと変な格好をした人達で溢れかえっていて私をジーッと見つめていた。 「何、見てんのよ!?」 手元にあった竹刀を振りかざすと皆、散っていった。 「キョンはどこ?自分から頼んどきながら勉強サボって 私を一人にするなんて、マジあいつ罰金と死刑をダブルで宣告するわ!」 立ち上がって歩いてみると本当に不思議な町だった。時代劇のセットのような町。 むぅ~…なんかジロジロと視線が気になる…。 「おい!そこのおなご!」 声を掛けられて振り向くと全員お揃いのダッサいはっぴを着た男共がいた。 アイドルオタクか何かかしら?気持ち悪いわ…。 「何よ?」 「お前、何者だ?何だ、その格好は?」 あんた達に言われたくないわよ。 「何よ?文句あんの!?マジ殺すわよ!!」 そう言うとそいつらは無礼者だなんだ言い掛かりを付けてきて刀を突きつけてきた。 そんなおもちゃの刀でこのSOS団団長、涼宮ハルヒ様に逆らおうなんて 良い度胸じゃないのよ!?目にもの見せてやるわ!! 30秒もかからなかった。 雑魚ばっかね…そんな腕で私に挑んで来ようなんて100万年早いのよ!! 倒した連中を踏んづけてるとアイドルオタクの仲間らしき連中が 30人近くの大人数でこちらへ向かってきた。 さすがにあの人数を相手に真正面から1人で闘うのは戦略的に不利だわ。 ここはゲリラ的戦術の採用決定ね。 引いては押し、押しては引いて、 路地に身を隠しては迂闊に飛び込んでくる馬鹿の鳩尾に一発! 屋根に上って近付き下でうろちょろしてるアホの脳天に一発! 身を伏せ通り過ぎた所を背後からフルスイングで顔面に一発! 「ふぅ~…何とかかなりの人数を仕留めるのに成功したわ。 全く何なのよ?あいつら、SOS団を脅かす悪の組織か何かで 真っ先に団長たる私を狙ってきたのかしら? それとも、ただ単に気持ち悪いアイドルオタクとして 可愛い女の子に襲い掛かってるってのなら可愛いのも罪よね。」 屋根の上であぐらをかきながら次の戦略を練っていると アイドルオタク達はどこかへと去って行った。 「ふん!逃がさないわよ!この私に喧嘩をバーゲンセールで売りつけるなんて とことん敗北と後悔にまみれさせて服従させてやらないと気が済まないわ!」 屋根伝いにアイドルオタク達を尾行すると 集まって何やら話し合いの真っ最中のようだった。 「私を倒す為の相談かしら?どうやらあの一番前で偉そうに突っ立ってる 陰気そうな奴がアイドルオタクのリーダーって訳ね。」 屋根の上からそ~っと近付き、アイドルオタクのリーダーの真上にまで来た。 「ふふん…まだまだ甘いわね。隙だらけだわ!」 竹刀の構えに力を込めた。 「ていやっ!!!」 「…ん??………はべしっ!!!!!!!」 「…副長??…副長!!!!」 何よ?副長って事は二番手?じゃあ、真の黒幕はまだ他にいるって事ね! 見てなさい!アイドルオタク共! この涼宮ハルヒ様を敵に回した事を後悔させてやるわ!! 俺が今、頭痛と目眩で倒れそうなのはこの町の暑さのせいだけではないだろう。 何故なら、あの涼宮ハルヒが目の前で大人数の新撰組を相手に 大立ち回りを演じているからだ。 「助けに行きましょうか?」 あぁ…そうだな…。 「あれがおまんらの探しちょう者かぇ?こん大人数の新撰組を相手にあん体裁き。 只者じゃないぜよ。」 えぇ…確かに只者じゃありません…。 「ひゃ~!凄い暴れっぷりさっ!」 「でも、涼宮さんが危ないです~。」 「…私が前線に出て障壁を張る。その隙にあなたは涼宮ハルヒを保護して。」 ラジャー、長門。 「行くぞ!」 さすがに緊張するよ…俺は何の術も持たない一般人なんだ。 6人で一気に飛び出し、暴れるハルヒの元に駆け寄った。 「何すんのよ!?離しなさい!」 助けに来てやったのに竹刀で殴られるとは…。 「キョン!?あんた何やってたのよ!?遅いわよ!」 お前こそ何やってんだよ、ハルヒ…。 「SOS団では遅刻は厳禁!罰金よ!」 やれやれ…。 長門が前線を抑え、坂本さんと古泉が襲いかかってくる新撰組を撃退してくれている。 「さぁ!ハルヒ行くぞ!」 「ちょっと!!待ちなさいよ!!真の黒幕はまだ存在してるの!! SOS団を脅かす悪の組織たるアイドルオタク達との闘いはまだ終わってないわよ!」 何を言っとるんだ、こいつは…とりあえずさっさと行くぞ。 俺達は布と剣を目の前にして暴れる闘牛のようなハルヒを 俺と朝比奈さんと鶴屋さんの3人は力ずくで鶴屋さんの家まで引きずっていった。 遅れて長門と古泉、坂本さんが走ってきた。 「何とか撒いてきたぜよ。もうあんな大人数に襲われるのはごめんじゃきに。」 古泉はまたニヤニヤ顔に戻っていた。 「でも、さすが涼宮さんですね。あの人数を相手に一歩も退かないとは。」 「何なのよ!?あともう少しで全員ぶっ倒す必殺技でも出そうだったのに!!」 こいつは本気で言ってるんだから困る…。 「ハルヒよ…お前、今度は一体、何やらかしたんだ? あんな大人数に追い掛けられて逃げ回るなんて余程の事だぞ。」 ハルヒは竹刀を俺に突きつけ叫んだ。 「私はあんなアイドルオタクの雑魚共から逃げてた訳じゃないわよ! さすがの私にもあの大人数相手に1人では多勢に無勢だったから 体勢を立て直す為の戦略的な一時撤退よ! 前にも言ったでしょ!SOS団に敗北主義者は要らないの! それをあんた達が邪魔するから! 次やったら全裸になって校庭で組み体操の刑よ! 八本足の宇宙人に連れ去られる~!って叫びながらね! あのアイドルオタク共、次、会ったらボッコボコにしてやるんだから!」 おいおい、こいつは日本最恐と言われた暗殺集団にまで喧嘩を売るつもりかよ…。 鶴屋さんの家の居間でこれからの善後策を練る事にした。 ハルヒは汚れた制服を着替える為に鶴屋さんと奥へと入っていった。 とりあえずさっさと元の時代に戻りたい…。 「ふふ…どうやら涼宮さんは随分と楽しんでいらっしゃるようですね。」 古泉、呑気な事を言ってる場合じゃないだろ。 長門と朝比奈さんは何事もなかったかのようにお茶を飲んでいる。 2人共、違う意味で鈍感だから羨ましい。 坂本さんは森さんと何やら話をしている。 「それは失礼しました。ですが、涼宮さんは過去に飛ばされたというのに 気が付いていらっしゃらないのが救いです。 悪の組織か何かの陰謀に巻き込まれたと本気で信じているようですから。」 長門がぽつりと口を開いた。 「…大丈夫。ここは改変された世界。元の時代に帰還した際、 完全とは言えないまでも情報統合思念体の力により ある程度の記憶の情報操作、改変、再構成、再構築する事は可能。 例え、涼宮ハルヒが時空間移動の事実を認識したとしてもそれは消去出来る範囲。 但し、行動の記憶までは消去出来ない。 あくまで認識の部分に於いてのみ、改変可能。」 って事は悪の組織と闘った~、みたいな記憶だけ残るって事か? 「…そう。だから戦闘等の行動に問題は無い。」 いや、大有りだ。生まれるよりも前の時代で死ぬなんざ、ごめんだからな! 「ところで俺達が元の時代に戻るにはどうすれば良いんだ? 朝比奈さんの力でも無理なんでしょうか?」 「そうなんです…。私達がいた時代より4年前の涼宮さんを中心とした 時間震動による時間断層が存在しています。 私達が過去に飛ばされてしまったので今度は あの時間より未来にはどうしても行けなくなってしまっています。」 「長門はどうにか出来ないのか?」 「やってはみる。ただし、初めての事例で保証は出来ない。 結局は涼宮ハルヒの力を利用するしか無い。」 「涼宮さんに元の時代に戻りたいと願ってもらう以外に方法はなさそうです。 と言う事はやはり、今回もあなたの力が不可欠な訳です。」 3人の視線が一斉に俺に突き刺さる…そんなに期待しないでくれっ! ハルヒが楽しそうな笑顔で居間に入ってきた。 黄色地にピンク色の蓮の花が施してある着物に着替えたハルヒは 茶道か華道でも習う着物美人なお嬢様にしか見えない。 竹刀さえ持ってなかったら、の話だが…。 隣に座った坂本さんが声を上げた。 「いんや~!さっきの破廉恥なセーラーも悪うなかったけんど、 浴衣着て竹刀を持つおなごとはなかなか。剣の腕と言い、気迫の強さと言い、 まっこと、さな子さんにそっくりなおなごぜよ!」 さな子とはかつて龍馬が通っていた江戸にある北辰一刀流桶町千葉道場の当主、 千葉定吉の娘、千葉さな子の事であろう。 「ジョン!おまんもおなごにゃ尻に敷かれる男かぇ!?」 古泉が意味ありげに笑う。 「さぁ!これからSOS団緊急ミーティングを開始するわよ!」 闇夜に蠢く蛇一匹。 池に浮かぶや蓮一輪。 泳ぐ蛙は睨まれて慈悲を乞う為、蓮の上――― 頭が痛ぇ…。 くそっ…あのアマ!一体全体、何者だ? 大衆の面前で人の脳天に思いっきり一本振り下ろしてきやがって! 次、見つけたらただじゃおかねぇ! 「どうした?歳。随分と苛立ってるようだが…。」 近藤勇は笑顔で訊ねる。沖田総司が代わりに、からかうように答えた。 「今日、土方さんね、三条大橋なんて人の大勢いる目の前で 女の人に竹刀で脳天かち割られてぶっ倒れちゃったらしいんですよ。」 近藤は豪快に笑う。 「歳、お前は昔から女たらしのくせに冷たくあしらう所があるからな。 またどこぞの女にでも手を出して恨みでも買ったんだろうよ。」 土方は益々、不機嫌になった。 「要らねぇ事くっちゃべってんな、総司。それよりも明日の事だ、近藤さん。 桝屋古高俊太郎への取り調べから明日、攘夷浪士共の会合があるのは確かだ。 長州、土佐、肥後あたりの面子だろう。ただはっきりした場所が分からねぇ。 探索に出している山崎や島田からの報告によるとやるとすれば四国屋丹虎か池田屋。」 近藤は先程までの笑顔を解き、真顔になっている。 「隊を二手に分けておくか。」 「あぁ、そうした方が良いだろう。 会津や桑名だけに手柄を持ってかれるのはごめんだからな。」 「しかし、事実なのか?歳。いくら過激な攘夷浪士共とは言え、 御所に火を放ち、一橋公と容保公を暗殺、天子様を長州に連行するなど 正気の沙汰とは思えんぞ。」 「事実かどうかは問題じゃねぇ。事は始まってからじゃ遅ぇんだ。」 ハルヒは 「SOS団の未来を守る為、敵対する悪の組織は徹底的に根絶やしにすべきだわ!」 と強く主張していたが、全員の説得でなんとか踏みとどまらせた。 「じゃあ、仕方ないわね。今日は一旦補給の為、休戦!明日の決戦に備えなさい!」 どこの何と決戦なんだ…教えてくれ。 俺は坂本さんが浮かない顔をしながら言った 「明日か…。」という言葉が引っ掛かっていた。 眠りにつきながら俺は祈った。 目が覚めたら部室かベッドの上に戻っていて欲しい…… ……俺の祈りは通じなかったようだ。 低血圧で目覚めの悪い俺は一番遅い目覚めだったようだ。 ハルヒは物凄い勢いで白飯をかき込んでいる。 「今日は決戦よ!長い一日になるわ。十分に補給しときなさい!」 お前が何もしなかったら何も起きん。 ボーッとした頭で朝飯に手をつけていると森さんの声が聞こえた。 「皆様、おはようございます。坂本さん…少々お時間を。」 坂本さんは森さんと話し込んだかと思うと、浮かない顔つきで戻ってきた。 「…儂と同じ土佐者で今は共に海軍操練所におる亀と北っちゅうもんがおるんじゃが、 昨日、見当たらんかったきに、ここの者に捜索を願ったんじゃ。」 望月亀弥太と北添佶摩の事であろう。 「どうやらあんの阿呆共、面倒な厄介事に首を突っ込んどるようぜよ。 過激な尊王攘夷の連中とは手を切れと何遍も言うたんじゃが…。 おまんも知っちょる谷口もおるらしい。 ジョン、すまんがこの後、ちくっと手伝うてくれんかの?」 「手伝う?」 「あいつらをここに引っ張ってくる。」 新撰組の屯所では土方が部隊を2つに分け編成を行い、一人一人に指示を出していた。 「何度も言うが、場所は祇園にある実成院という寺の門前にある会所。 固まっては動くな。通常の巡回や町に遊びに出てきた態を装ってそこへ集まれ。 今夜は生死を分つ時になるやもしれん。覚悟と準備を怠るな。 全員集まった後、もう一度そこで編成の確認をする。」 三条大橋で出会った妙な輩共とあばずれ女の行方も気にはなるが、 隊士の言う所では攘夷浪士と一緒にいた毛唐共とはあいつらの事らしい。 そう言えば確かに見慣れない妙な格好をしていた。 女に至っては肌を露出させたふしだら極まり無い着物だ。 もし、攘夷浪士と毛唐が手を組んでいるのならば 今夜の会合にはあいつらの姿もあるだろう。 まとめて叩っ斬っちまえば良い。 今夜は新撰組の浮沈を懸けた決戦だ。 土方は刀を持って屯所を出た。 ハルヒは目を輝かせていた。 「事件の匂いがプンプンするわ!その依頼、我がSOS団が引き受けましょう!」 こいつが出てくると何でも無い事まで大事件に発展する。 「ほぅか!おまんみたいな、強かおなごの力が必要かもせん! おなご2人が破廉恥なセーラー着て航海士やって戦闘員まで兼ねるとは 外国はほんに不思議な所ぜよ!」 面倒だ…誰か、俺とツッコミ役を代わってくれる方、メールしてくれ。 「まっ、とりあえず飯じゃ!」 長門はこういう和食の朝は初めてなのだろうか、 興味を惹かれたのかしきりにおかわりしている。 朝飯が終わり、一服しているとハルヒが袖を引っ張ってきた。 「ねぇ、キョン。あのもじゃもじゃの人、坂本さんだっけ? なんであの人、あんたの事、ジョンって呼んでるの?」 そうか…ハルヒにジョン・スミスの事は言えないな…。 「いや、なんか聞き間違えをそのまま勘違いしてるみたいだ。 キョンとジョンって響きが似てるからな。」 納得したようなしてないような顔をしている。 「まっ、良いわ。さぁ!SOS団捜索隊、任務開始よ!」 頭の中で坂本さんの言葉が鳴り響いていた。 『事を成すなら生きて成せ。死んだら終わりじゃ。時代は変わる。』 儂ゃ何がしたいんじゃ…。 「…口。おい、谷口!!」 ハッと顔を上げると座を占めていた面々がこちらを見つめている。 「お前は普段から締まりの無い男じゃが、こういう場くらいしゃきっと出来んか? これから長州藩のひいては尊王攘夷の行く末が決まる時なんじゃ。」 上座に座る男が鋭い言葉を放つ。 「今夜にでももう一度集まろう。その時には桂もおるじゃろうて。」 その言葉で各々、散って行った。 尊王攘夷、か…。 はっきり言うと尊王攘夷とはどんなものなのか自分自身、未だによく分かっていない。 なんだか祭りの熱に乗せられて京まで出てきてしまった気がしている。 「里に帰ろうかのぉ~…。」 そんな事を考えながら歩いていると、見覚えのある集団に取り囲まれた。 「その亀とか言う変な名前の奴らをふん捕まえれば良いのね!楽勝だわ!」 とハルヒは楽しそうに鼻歌を歌いながら歩いている。 またあの橋の所まで行くのか?絶対に襲われる…絶対に新撰組に捕まる。 俺の勘はもはや百発百中なのか、そりゃそうだろう。 こんな怪しげな集団が7人連なって歩いていたら 誰だって気になるに決まっている。 「お前ら、どこへ行く?」 坂本さんと古泉はニコニコと笑っているが、 ハルヒは今にも竹刀で飛び掛かって行きそうな勢いだ。 「このあんさんらが、ちょいと祇園はんにでも顔出そか、言わはりましてなぁ~。」 気が付くと鶴屋さんが艶っぽい京訛りで新撰組の連中にしなだれかかっていた。 「もうすぐ祇園祭でっしゃろ?舞妓はんらの踊りもそりゃ幽玄なもんでっせ? どや?お侍はんらも、うちと一緒に来はりまへんかぇ?」 くっ…朝比奈さんとはまた違うセックスィ~さだ…。 「い、いや。遠慮しておく。任務があるからな。あまりうろちょろするなよ!」 と、新撰組は立ち去って行った。 「アッハッハッ!!東のお芋さんは京訛りの女に弱いのさっ! ちょいと色で仕掛けるとすぐにこうさねっ!ちょろいもんにょろ!」 確かにあれは男としては堪らない…。 「ちょっと、キョン!何、鼻の下伸ばしてんのよ!?このスケベ面!」 …悪かったな! 望月と北添は会合が一旦解散となった後、京の町をブラブラと練り歩いていた。 「龍さんにはなんと言おうかの?」 亀こと望月亀弥太はぽつりと口を開いた。 「おまん、そげに気になるかぇ?確かに海軍を作るっちゅう龍さんの言には 一理も二理もある。けんど、今すぐやらにゃいかんっちゅう事もあるぜよ。」 北添は身近な仲間が抜けて1人になるのが嫌だったのであろう。 引き止めるように言葉を続けた。 「確かにおまんは龍さんから航海術を習い、腕もよう磨いちょう。 でんも、その術を活かすには活かすだけの世が必要じゃ。 今の海は毛唐共に支配されちょる。 こん国から海に出るにはまずこん国から毛唐を追い出し、 天子様を芯に据えた強き国を作らにゃいかんぜよ。」 亀はその意見も分かるし、龍馬の言葉も分かる。 要は優先順位の問題だ。 「とりゃっせぃ!!」 亀と北の脳天に衝撃が走った。 「坂本さん、とジョン。」 はいはい…ジョンですよ。 そしてハルヒ、暴れるな。 「まだ生きちょったの、谷口。」 坂本さんはにこやかに話し掛けた。 「あれ?土佐の亀と北じゃ。」 亀と北はさっき、ハルヒの竹刀を脳天に喰らって気絶している。 「ちくっとこいつらとおまんに話があっての。少し行き違いがあったが、 まぁ、こいつら儂の仲間じゃ。そして、おまんもな。来い。」 坂本さんはぶらりと歩き出した。 「何よ?3人に話があるから引っ張ってくるっていうのは のして無理矢理連れてくるって意味じゃなかったの?」 そんな訳ないだろ、ハルヒ。 気絶して抱えられている亀と北の目を覚まして 突然、脳天をかち割った事を何とか誤魔化し、鶴屋さんの 「さっ!歩いて喉も渇いたし、団子とお茶で一休みにょろ!」 の言葉により、茶屋に入った。 「さぁ!おまんら。これからどうするんか、ちゃっと決めぇ!ちゃっと!」 坂本さんは珍しく熱くなっている。 「悩む事は良ぇ事ぜよ。悩み考えんと出てこんもんもある。 しっかし、何も考えんと事を始めるのはただの馬鹿じゃきに。」 その言葉に北が、 「儂らは今やるべき事をやって、きっちりけじめを付けたいぜよ。」 と言い返した。 「亀、おまんもか?」 という坂本さんの言葉に亀は眉間に皺を寄せて頷いた。 「谷口は?」 谷口はうんともすんとも言わずにただ黙って俯いている。 それにハルヒがイラついたらしい。 「あんた、男らしくないわね!さっきから黙ってないで何か言ったらどうなの!? どうせそんなんじゃどこ行ったって使いっ走りがせいぜいなんでしょうけど!」 お前は黙っとけ。話がややこしくなる。 しかし、ハルヒの煽りに谷口は我慢出来なかったらしい。 「儂ゃ元々、坂本さんとは昨日初めて会っただけの縁じゃ。 助けて貰った恩はある。それはいつか必ず返す。でも、それとこれとは別じゃ!」 坂本さんは大きく溜息をついた。 「おまんら、揃いも揃って頑固者ばかりぜよ。分かった。もう何も言わん。 ただ、一つだけ覚えとけ。必ず生きて帰ってこい。 おまんら、帰ってきたらまた海で遊ぼうぜよ。」 坂本さんは少し寂しそうな笑顔を浮かべていた。 唸る狼、群れをなし、 牙を尖らせ、鼻磨き、 眼は爛々と輝いて 闇夜の獲物を取り囲む――― 昼に3人の探索をしたせいで着物を汚してしまった事を謝って 俺達は制服に着替えた。(朝比奈さんだけはメイド服だが…) 夕方、鶴屋さんの家に戻ると坂本さんは縁側で寝仏のように横になりながら 微動だにしなくなった。何かを考え込んでいるようだった。 俺達も考えなくてはいけない。元の時代に戻る方法を。 蒸し暑い夜だった。 長門は漢字ばかり並んでいる鶴屋家の蔵書を読みふけっている。 ハルヒと鶴屋さんは朝比奈さんに 「みくるちゃんが着物を着てると帯を回したくなる悪代官の気持ちが分かるわね。」 等と、セクハラ三昧のいたずら放題をしている。なんて羨ましい…。 俺と古泉は将棋を指している。3連勝中。 森さんが勢い良く駆け込んできた。 「皆様!どうやら新撰組の方々が三条木屋町の池田屋さんに踏み込んだようです。 尊王攘夷の方々が多数、集まり会合を開いていたようですが、 坂本さんのお知り合いもいらっしゃるのではないかと思いまして…」 その話を聞いた坂本さんは刀を手にして縁側からもうすでに外へと駆け出していた。 「僕らも様子を見に行ってみましょう。」 「ハルヒ!」 ハルヒはもう竹刀を手に外に出ていた。 「分かってるわよ、みくるちゃん!有希!行くわよ!」 「はい!」「……。」 5人で走り出した。………戻ってきた。 「鶴屋さん!森さん!池田屋ってどこ!?」 森さんと野次馬根性丸出しの鶴屋さんに案内され、池田屋のある方向へと来たのだが、 闘いの真っ最中なのだろう、街中の路地と言う路地に兵が蠢いていた。 森さんの話では新撰組だけでなく、会津、桑名の藩兵も出てきているらしい。 「こちらです。」 森さんが全員を近くの家の屋根の上へと導いた。 この時代の森さんも得体の知れない人だ。 騒がしい大声の聞こえる方へと進み、屋根の上から池田屋の見える位置に移動した。 入り口で一人の男が抜き身の刀を手に仁王立ちしている。 新撰組の人間以外は敵だろうが、味方だろうが入れる気はないらしい。 「あぁ~!!あいつよ!アイドルオタクの副リーダー!!」 飛び出していきそうなハルヒを全員で押さえつけた。 坂本さんはどこだ? 「一度、三条大橋に行ってみましょう。」 森さんの言葉に一斉に屋根の上を動き出した。 こちらにも何百何千という藩兵が道を固めていた。 坂本さんはどこだ? 「…待って。」 突然、長門が立ち止まった。 「…こっち。」 長門が歩き出した方角へ進んで行くと 路地の陰に坂本さんに抱えられた谷口と亀が見えた。 2人とも重傷のようだ。 坂本さんにも多少の切り傷が付いている。 「おぅ…おまんら、やっと来たかぇ…。さすがに2人抱えて逃げるのはしんどいぜよ。」 しかし、長門。なんで居場所が分かったんだ? 3人を屋根の上へ乗せようとしたその時であった。 側面から火が噴いた。 「キャッ!!」 「ハルヒッ!!」 一番手で屋根に登ろうとしたハルヒは屋根の上から 真っ逆さまに地面へと叩き落とされた。 「ハルヒッ!!大丈夫か!?ハルヒッ!!」 「こっちだ!!」 藩兵が駆け込んできたのが見えて俺は倒れているハルヒを抱えて 全員で大通りに逃げると三条大橋の目の前で四方全てが囲まれてしまった。 くそっ…万事休すか。 「…橋の上を突破する。」 長門が一歩前に出てきた。 「では、僕が後方の抑えを担当しましょう。」 「…助かる。」 「おい!大丈夫か、長門。」 「…問題無い。 対有機生命体コンタクト用インターフェースの力は物質を介在する事で増幅され、 更に一方向に集中させる事で拡散しているエネルギーを圧縮する事が可能。」 どういう事だ? 「…大丈夫。…本気を出すから。」 ちゃりんと鈴の音がした。 あれは…坂本さんに買ってもらってたかんざしだ、と思った瞬間、 朝が来たのかと思う程の眩い光が辺りを包み込んだ。 突然の眩しい光に眼を開けていられなかった。 ようやく眩しさに慣れて眼を開くとそこには信じられない光景が広がっていた。 橋の上にいた何百人、何千人という人間が跡形もなく、消えていたのである。 いや、一人だけ橋の手前で倒れていた。 長門である。 「長門っ!!」 くそっ…ハルヒと長門、2人も…。 「古泉っ!!!!!!!長門を頼む。逃げるぞ!!撤退だ!!」 「はい!」 全員で逃げようとした時だった。 「亀っ!!」 坂本さんに抱えられた望月亀弥太の背中に刀が突き刺さっていた。 「……何しょるんじゃ、貴様ら!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 刀を抜いて斬り掛かって行こうとした坂本さんに誰かが飛びついた。 谷口だ。 「行かせんぞ…。生きて事を成せ、言うたのはお前じゃろうが…。 時代が変わるのを見せてくれるんじゃろうが…。 お前がおらんのうなったら誰と一緒に海で遊ぶんじゃ!!」 「坂本さん!!」 坂本さんは歯噛みしながらこっちへ駈けてきた。 横を走っていた古泉の息が乱れている。 「ここまで来れば何の問題もなく、逃げられそうですね。」 と、橋を渡り終えた瞬間、急に身体が重くなって倒れて込んでしまった。 目を覚ますと、橋の横の土手にいた。 しかし、後ろから追ってきていた藩兵達はいなくなっている。 鶴屋さん、森さん、坂本さん、谷口の4人の姿も見当たらない。 夜の帳が下りて物音一つしない。 「どうやら僕らだけのようです。」 声を掛けられて振り向くとドキッとした。 目の前に古泉のニヤケ顔があったからだ。近いんだよ、顔が! 「そうだ…皆は!?」 「…問題無い。」 うおっ!長門。 「涼宮ハルヒは落下の衝撃により気絶しているだけ。特に損傷等は見られない。 朝比奈みくるも、じきに目を覚ます。」 「お前も倒れてたが、もう大丈夫なのか?長門。」 「…問題無い。瞬間的に全エネルギーを開放した為に起きた反動。 動作用のエネルギーが注入されれば問題は無い。」 「ところでさっき、橋の上で人が消えたのって…」 「…空間座標を移動させただけ。命までは取っていない。 数が多かったのでエネルギーを消耗した。」 こいつのエネルギーの源って何なんだろう?飯は普通に食ってるよな? 「ふぁ~い…。あれ~?どうしたんですか~?」 朝比奈さんがお目覚めだ。 「ところで一体全体、何が起きたんだ? 坂本さんとか鶴屋さんや森さんはどこに行った?」 古泉と長門が目を合わせた。 「どうやらここは先程までいた時代とはまた別の時代に来てしまったようです。」 は? 「空間の位置座標に変化は無い。但し、時間の位相がずれている。 地球時間に換算すると1867年12月10日。先程の時間座標から3年後の未来。」 …嘘だろ。 「なんで、今度はそんな時間に飛ばされちまったんだ?」 「長門さんのお話ですと、あの時、三条大橋を渡り終えた時にですが、 何でも僕らの元々いた時代に戻る時空間移動の震動が波形として現れたらしいのです。」 じゃあ、なんで…。 「…そう。理由が分からない。 何故、時空間移動の最中にこの時間座標に落下してしまったのか。 涼宮ハルヒの力によるものなのか、外的要因によるものなのか、原因は不明。」 朝比奈さんが真剣な顔つきで聞いている。 「それはひょっとすると…」 「何かご存知なんですか?朝比奈さん。」 「う~ん……禁則事項です♪」 おい…。 これからまた面倒事に巻き込まれるごめんだぞ…。 と思っていると、長門が歩き出した。 「…こっち。」 え? 長門は何も言わずにどんどん進んで行く。 俺はハルヒを背負ってついていった。 「ちょっと待てよ、長門。どこへ行く気だ?」 「…すぐに分かる。」 そのまま5人で歩いて行くと、とある店の前についた。 醤油屋さん???どうした、長門。また腹減ってんのか? 長門がその店の番頭と話をしたかと思うと、二階の部屋へと通された。 そこにいる人を見て驚いた。 「坂本さん!!」 確かに坂本さんである。もう一人、見た事の無い人がいた。 「おぉ!!ジョン!!久し振りぜよ!!」 久し振り?あぁ~…そうか、坂本さんにとっては3年振りか…。 「おぉ、中岡!!こいつらはジョンとその航海仲間じゃ。以前、話した事があろう?」 その中岡という人は頷いた。 「こいつは中岡。同じ土佐者で一緒に色々、やっちょうきに! いんや~!懐かしい!おまんらとは三条大橋で離ればなれになったきりぜよ。 ところでおまんら、今日はなんじゃ?」 長門、何かあるんじゃないのか? 「おぉ!そうじゃ!そこの仏頂面の女航海士!」 と、坂本さんは懐から何かを取り出した。 「おまんから預かっちょったかんざしの鈴、返しとくぜよ。」 綺麗な鈴の音が長門の手の平で鳴った。 「実は儂、女房を持ってのぉ~!さすがに女房の前で他のおなごからの贈り物じゃ なんて言うたら何されるか分からんきに!」 と、坂本さんは快活に笑った。 俺達は知らなかったのだが、かんざしには二つ鈴が付いていたらしい。 長門が坂本さんに買って貰った時に一つ、お礼としてあげていたらしい。 実に長門らしいお礼の仕方だ。 「あっ!そうそう!ところでエゲレス人のジョンなら知っちょるじゃろ。 実はの……今日はこの坂本龍馬のバースデーなんじゃ!!」 へ? 「それはおめでとうございます。」 「バースデーとは西洋では、なんじゃ祭り開いて盛り上がるんじゃろ?」 中岡さんが口を出してきた。 「龍さん、いかんぜよ。風邪引いちょる言うちょったじゃろ?」 「中岡はほんにつまらん男じゃきに。」 俺はふと思い付きを口に出してみた。 「でも、鍋とかだったら身体も暖まりますよ。」 「おぉ!それじゃ、ジョン!藤吉!藤吉!」 と、坂本さんが誰かを呼ぶと階段を登って相撲取りのような巨漢の男が入ってきた。 「藤吉。すまんが、鶏を買うてきてはくれんかの? 儂のバースデーに皆で鶏鍋をしたいぜよ!風邪にも効くしの!」 と、中岡さんの顔を見た。仕方が無いと言う感じだ。 すみません、余計な事言ってしまって…。 随分とお世話になったのだし、俺が言い出してしまったと言う事もあり、 せめて俺達で買い出しくらいには行こうとその藤吉さんに 鶏を売っている店の場所を教えてもらった。 「いんや~!ジョン、すまんの!積もる話はまた鍋の時じゃ!」 眠っているハルヒを置いて行こうとしたら朝比奈さんに止められた。 「いつまた何が起こるか分からないんだから 涼宮さんをひとりぼっちになんかしちゃ駄目です!」 と、怒られた。反省…。 疲れた…本当に疲れた…。 眠たい…布団に入ったら思いっきり寝てやる。 通りの向こうから提灯の灯りが歩いてくる。 今夜は鶏鍋か、美味そうだ。 提灯の灯りがすれ違った瞬間、ふと何かが引っ掛かった。 あれ?坂本龍馬の誕生日って…。 「なぁ、長門…。」 「…何?」 「今日って何月何日だったっけ?」 「…さっきも言った。1867年12月10日。」 「もう一回。」 「1867年…」 「違う!旧暦で!」 「…旧暦に直すと…慶応3年11月15日。」 俺は振り返って、今来た道を引き返そうとした。 しかし、朝比奈さんが必死にしがみついて俺は止めていた。 「駄目です!!キョンくん!!」 無視だ…関係無い…今はそんな言い争いをしている場合じゃない…。 「絶対に駄目です!!それにキョンくんが行っても何も変わらない!! これから起こる事は規定事項なんです!!」 規定事項という言葉に心臓を掴まれたような衝撃が走った…。 「さっきから規定事項だなんだって……… 大切な人1人、守れもしないで何が規定事項ですか!!!」 「規定事項なんです!!!!!」 朝比奈さんは泣いていた…。 「ごめんなさい……。でも、あなたが今やろうとしている事は、 禁則事項なんてレベルの問題じゃない。歴史の改変です。 皆で坂本さんを助けたのも規定事項なら今日の事も規定事項なんです。 あなたがどうしようとやっぱり歴史は変えられない……。」 霞む目の前で坂本さん達がいた部屋の灯りが消えた…。 冷たい風に長門の持つかんざしの鈴が鳴り響いていた――― 全員押し黙って歩いている。 冷たい風が身に染みる。 ハルヒが目を覚ました? 「ねぇ、キョ~ン…今日はもう帰りましょうよ…。皆、疲れてるのよ…。」 またハルヒの寝言か…… いずれ、この身が滅ぶとも 魂までは滅びやせん。 終わり結末、如何なれど 運命共にし、一蓮托生――― ……はべしっ!!! 「ちょっと、キョン!!あんた、何サボってんのよ!?日本史覚えたの!?」 …舌が噛んだ…目の前がチカチカする…涙出てきた。 「痛ぇな!!何しやがんだ!?」 パンッ!! 「へぇ~…この私にいつからそんな大口叩けるようになったのよ? 言ってご覧なさい!キョン!」 「おやおや、またですか?」 頼む!とめろ、とめてくれ、古泉。 「暖かいお茶入れますね♪」 ハルヒ、竹刀で顔をグリグリするな! ―ちゃりん。 新しく読み始めた本に合わせて、 新しいしおりを手に入れました。 二つの鈴が付いた澄んだ綺麗な音の鳴るかんざし。 島崎藤村『夜明け前』ページは今、開かれたばかり――― 「キョン。随分、元気ないわね。テストやっぱり駄目だった?」 「いや。今回の日本史は覚えるのにまさに命を懸けたからな。 ハルヒのお陰でほぼ完璧だ。」 ハルヒは満面の笑顔になった。 「じゃあ、もっと嬉しそうな顔しなさいよね!」 今回のテスト勉強はいつも以上に疲れたんだよ…。 「私に感謝しなさい! お礼はきっちりして貰うから!さっ!行きましょ!」 と、ハルヒは俺の手を取って歩き出した。 「どこへ?」 「どこでも良いわ!お礼!」 また何か奢る羽目になるのか。 ん?雪か…。 「今日は冷えると思ったら雪が降ってきたわね。天気予報も当てにならないわ…。」 「あぁ…そうだな…。」 「ねぇ、キョン。雪って下から見上げると幻想的で綺麗よね…。」 「あぁ…綺麗だな…。」 もうすぐクリスマスか…。 The End 涼宮ハルヒの歓喜~サンタが町にやって来た~へ続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_best/pages/16.html
涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 「今日はこれで終わり! みんな解散よ!」 窓から入ってくる夕焼けに染められたわけではないだろうが、ハルヒの黄色く元気の良い声が部室内に轟く。 この一言で、今日も変わったこともなく、俺は古泉とボードゲームに興じ、朝比奈さんはメイドコスプレで居眠り、 長門は部屋の隅で考える人読書バージョン状態を貫き、年中無休のSOS団の一日が終わった。 正直ここ最近は平凡すぎる日常で拍子抜け以上に退屈感すら感じてしまっているのだが、まあ実際に事件が起これば 二度とご免だと思うことは確実であるからして、とりあえずこの凡庸な今日という一日の終了に感謝しておくべき事だろう。 俺たちは着替えをするからと朝比奈さんを残しつつ、ハルヒを先頭に部室から出ていく。どのみち、朝比奈さんとは 昇降口で合流し、SOS団で赤く染まったハイキング下校をするけどな。 下駄箱に向かう間、ハルヒは何やら熱心に長門に向かって語りかけている。 それをこちらに注意を向けていないと判断したのか、古泉が鼻息をぶつけるぐらいに顔を急接近させ、 「いやあ、今日も平穏無事に終わりましたね。こうも何もないと返って不安になるほどですよ。 まだまだあの神人狩りに明け暮れていたときのくせが抜けていないようでして」 「ないことに越したことはないね。犬が妙な病気になったことを相談されたりされるぐらいならちょうど良い暇つぶしにはなるが、 事と次第によってはとんでもない大事件の場合もあるからな」 俺は古泉と数歩距離を取りつつ返す。古泉はくくっと苦笑を浮かべると、 「何かが起こった方が楽しい。だけど、その影響範囲を含めた規模や自分にとって利益不利益どちらになるかわからないなら、 いっそどちらとも起きない方が良いというわけですか。実にあなたらしい考え方と思いますよ。 恐らく涼宮さんとは正反対の思考パターンですが」 「あいつの場合は、自分にとって楽しいことだけ起こればいいと思っているんだろ。世の中そんなに甘くはねぇよ。 ま、命を狙われたり世界を改変されて孤立したりしたことがないんだから、当然っちゃ当然だな」 大抵、人間ってモノはどこかで何かが起こることを期待しているもんだ。俺だって昔は宇宙人とか未来人とか超能力者が いてくれればいいなぁとか、映画並みのスペクタクルが起きたりしないかと思っていたしな。 ただ、実際に目の前でそんなことが起これば考え方も変わる。少なくとも、もう俺はタヒチのリゾートにあるような 透明度の高い純真な期待感なんて持たないだろう。 そんな俺に古泉はさらに苦笑いして、 「おや、ひょっとして今まで多くのことを経験しすぎて、一生分のインパクトを消化してしまったんですか? 前途ある十代の若者にあるまじき枯れっぷりな考え方ですよ」 うるせえな。一度ヒマラヤの頂上に届きかねないびっくり仰天事やマリアナ海溝以上に深いどん底に突き落とされる 経験しちまうと、何だかんだで海抜ゼロメートルプラスマイナス数百程度が一番いいと思い知らされただけだ。 そんな話をしている間にようやく下駄箱に到着だ。ハルヒの長門に対する語りかけは、もうヒトラーの演説、 テンション最高潮時な演説と化している。もっとも当の長門は相づちを打つように数ミリだけ頭を上下させるだけなんだが。 しかし、そんな自分に酔っているような話し方をしながらも、ハルヒはちゃっちゃと下駄箱から靴を取り出し 下校の準備を進める。全く口と身体が独立して稼働しているんじゃないか? もう一つの脳はどこにある。やっぱりあそこか。 「遅れちゃってごめんなさい」 背後から可憐ボイスが背中にぶつかる。振り返れば、いそいそと北高セーラ服に着替えた朝比奈さんが小走りに現れた。 背後にある窓から夕日が入り、おおなんと神々しいお姿よ。 俺がそんな神秘的情景を教会で奇跡がおきるのを目撃した神父の如く感涙して(していないが)いたところへ、 「ほらっキョン! なにぼーっとしてんのよ! とっとと靴履いて帰るわよ!」 いつの間にやら演説を停止したハルヒ団長様からの声で、幻想的光景から強引に引きずり出された。 全くもうちょっと堪能させてくれよな。まあ、当の朝比奈さんもとっとと俺を追い越して、靴をはき始めているから俺も続くかね。 そんなわけで俺は自分の下駄箱を開けて―― 「…………」 すぐに気がついた。俺の靴の上に一枚の紙切れ――手紙じゃない。本当にただの一枚紙である――があることに。 朝比奈さん(大)の仕業か? またいつもの指令書か…… しかし、違うことにすぐ気がつく。朝比奈さん(大)はもっとファンシーで可愛らしくいい臭いがしそうな封筒入りを使うが、 今ここにあるのはぴらぴらの紙一枚。こんな無愛想なもので送りつけるような人じゃない。それに書いてある内容が 『あと30分以内に●●町の公園に来なさい。一人で』 とまあ何とも一方的な内容である。しかも命令口調。まるでハルヒからの電話連絡みたいだ。 ふと、これはハルヒが書いて何か俺に対してイタズラでもしようとしているのでは?と思ったが、 「なーにやってんのよ! さっさとしなさい!」 当のハルヒは俺につばを飛ばして急かしてきている。大体、こんな手紙なんていう回りくどい手段をあいつがとるはずもなく、 誰もいなくなったところで俺のネクタイ引っ張って行きたいところに走り出すだろうな。 じゃあ、これはなんだ? ラブレターの可能性は否定できないのも事実。せっかくだから行ってみるのも悪くないか。 時計を確認する。ここから指定された場所まではゆっくり歩いて30分もかからない。帰りに道に寄ってみるかね。 俺は他の団員に見つからないように、その紙をポケットにねじ込んだ。 ◇◇◇◇ さて、下校途中に他の連中と別れた俺は、とっとと目的の公園に向かう。初めて行く場所だったので、 その辺りにあった看板の地図を見ながら向かった。 が。 「……全く」 おれは嘆息する。さっきから背後をハルヒたちが付けてきているからだ。どうやら、あの紙をもらってからの俺の挙動が 不審だとハルヒレーダーが捕らえていたらしい。相変わらずの動物並みの嗅覚だよ。 しかし、別に俺はやましいことをしているわけでもないんだから、このまま放っておいてもいいか。 俺はそう割り切ると、俺は背後のストーカー集団を無視して目的地に向かった。 ◇◇◇◇ 俺はようやく目的地にたどり着いた。時計を見ると、あの紙切れを読んでから20分程度。指定された時間には間に合っている。 平日夕方でぼちぼち日が落ちつつあるためか、指定された公園には人一人おらず、閑散とした静けさに覆われていた。 どこからともなく流れてくる夕飯の香りが俺の空腹感を刺激する。 ふと、背後を突けていた連中がいなくなっていることに気が付いた。なんだ? 捲いたつもりはなかったから、 途中でハルヒが尾行に飽きたのか? 俺はそんなことを考えながら、あの紙切れをポケットから取り出して―― この時、初めて俺はここに何の警戒心も持たずのうのうとやってきてしまったことを後悔した。見れば、その紙の文面が 『付けていた連中はいないわよ。邪魔だったから追っ払っておいたわ』 そう変わっていた――ちょっと待て。この紙はずっと俺のポケットに入ったままになっていたはずだ。 それを書き換えるなんていう芸当ができるのはごくごく限られた特殊能力を持つものしかあり得ない。 つまり、俺を呼び出した奴は一般人ではなく、宇宙人・未来人・超能力者――あるいはそれに類する奴って事だ。 ちっ。これで呼び出したのが朝倉みたいな奴だったら、洒落にならんぞ。 すぐに携帯電話を取り出し、とりあえず古泉に―― しかし、時すでに遅し。俺の周りの景色が突然色反転を起こしたかのようになり、次第にぐるぐると回転を始める。 やがて、俺の意識も落下するように闇に落ちていった…… ◇◇◇◇ 「いて!」 唐突に叩きつけられた感触に、俺は苦痛の悲鳴を上げた。まるで背中から落ちたような痛みが全身に走り、 神経を伝って身体を振るわせる。 そんな中でも、俺は必死に状況を探ろうと密着している地面を手でさすった。切れ目のようなものが規則的に感じられ、 コンクリートや鉄ではなくそれが木でできている感触が伝わってくる。 ようやく通り過ぎた痛みの嵐に合わせて、俺は閉じたままだった目をゆっくりと開けた。まず一面に広がる教室の床が 視界を覆う。同時についさっきまで俺に浴びせられていた夕日の灯火が全くなくなっていることに気が付いた。 俺を月明かりでもない何かの弱い光を包み込んでいる。その光のせいか、俺のいる部屋の中は灰色に変色させられ―― 気が付いた。この色合い、以前に見たことがある。あのハルヒが作り出す閉鎖空間と同じものだ。 俺は痛みも忘れ、飛び上がるように立ち上がり、辺りを見回した。 出入り口・黒板・窓の位置。俺がいるのは文芸部室――SOS団の根城と同じ構成の狭い部屋だった。 ただし、ハルヒの持ち込んだ大量のものは一つとして存在せず、空き部屋の状態だった。ただ一つ、見慣れた団長席と同じように 窓の前に置かれた一つの机と、その上に背中を向けてあぐらをかいて座っている一人の人間を除いて。 「……誰だ?」 自分のでも驚くほど落ち着いた声でその人物に語りかける。窓から見える景色は、薄暗い闇に包まれた灰色の世界だった。 やはりここは閉鎖空間なのか? しかし、誰だと語りかけた割には、俺はその机の上に座っている人物に見覚えがあった。いや、そんな曖昧な表現ではダメか。 北高のセーラ服に身を包み、肩に掛かる程度の髪の長さ、そして、あのトレードマークとも入れるリボンつきのカチューシャ。 該当する人間はたった一人しかいない。 こちらの呼びかけに完全に無視したそいつに、俺は再度声をかける。 「俺を呼び出したのはお前なのか? ここはどこだ?」 「黙りなさい」 ドスのきいた声。しかし、殺気に満ちたそれでも、俺はその声を知っていた。 ………… ………… ………… 長らく続く沈黙。俺はどう動くべきか脳細胞をフル回転させていたが、さきに目の前の女がそれを打ち破った。 「――よしっ!」 そう彼女は威勢のいい声を放つと、机から身軽に飛び降りてこちらをやってきた。そして、問答無用と言わんばかりに 俺のネクタイをつかむと、 「成功したわ。奴らにも気が付かれていない。今回はちょっと難易度が高かったから、失敗するかもと思っていたけど、 案外簡単にいったわね。そういうわけで協力してもらうわよ」 おいちょっと待て。なにがそういうわけだ。その言葉には前後のつながりがなさすぎるぞ。 「そんなことはどうでもいいのよ。あんたはあたしの質問に答えれば良いだけ。簡単でしょ?」 「状況どころか、自分が一体全体どこにいるのかもわからんってのに、冷静な反応なんてできるわけねぇだろうが」 ぎりぎりとネクタイを締め上げてくるそいつに、俺は抗議の声を上げた。 だが、この時点で俺は確信を持った。今むちゃくちゃな態度で俺に接してきている人物。容姿・声・性格全て合わせて、 完全無欠に涼宮ハルヒだった。ああ、こんな奴は世界中探してもこいつ以外一人もいないだろうから、 そっくりさんということはないだろう。 俺の目の前にいるハルヒは、すっとネクタイから手を離すと、腰に手を当てふんぞり返って、 「全く情けないわね。少しは骨があるかと思っていたけど、どっからどうみてもただの一般人じゃない」 「当たり前だ。今までそれは嫌というほど見せつけてきただろ」 俺の返した言葉に、ハルヒはふんと顔を背けると、 「あんたとは今日初めて合ったんだから、そんなことわかるわけないでしょ」 あのな、初対面の人間に一方的に問いつめるのはどうかと――ちょっと待て。なんだそりゃ、俺の記憶が正しければ、 お前とはかれこれ一年以上の付き合いになるはずなんだが。しかも、クラス替えまでしてもしっかりと俺の後ろの席に 座り続けているじゃないか。 「それはあんたの所のあたし。あたしはあんたなんて知らないし、こないだ平行時間軸階層の解析中に見つけるまで 存在すら知らなかったわ」 このハルヒは淡々と語っているんだが、あいにく俺には何を言っているのかさっぱりだ。しかも、話がかみ合ってねえ。 このままぎゃーぎゃー言っても時間の無駄だろう。 俺は一旦話をリセットすべく両手を上げてそれを振ると、 「あー、とりあえず話がめちゃくちゃで訳がわからん。とにかく、まず俺がお前に質問させてくれ。 それで状況が把握できて納得もできたら、お前に協力してやることもやぶさかじゃない」 俺の言葉にハルヒはしばらくあごに手を当てて考えていたが、やがて大きくため息を吐くと、 「わかったわよ」 そう渋々承諾する。よし、とにかくボールはこっちが握った。まずは状況把握からだ。 真っ先に俺が聞いたのはこれである。 「お前は誰だ?」 俺の質問に、ハルヒはあきれ顔で、 「涼宮ハルヒよ。他の誰だって言うのよ」 「巧妙に化けた偽物って可能性もあるからな。俺の周りにはそんなことも平然とやってのけそうな連中でいっぱいだし」 「それじゃ、証明のしようがないじゃん。どうしろっていうのよ」 ハルヒの突っ込みに俺は返す言葉をなくす。確かに疑えばどうとでも疑えるのが、俺を取り巻く現在の環境だ。 となると、これ以上追求しても意味がない。それに俺の直感に頼る限り、今目の前にいるのはあのわがまま団長様と 人格・容姿ともに完全に一致しているわけで、それを涼宮ハルヒという人間であると認識しても問題ないだろう。 だがしかし、先ほどの言い回しを見ていると、俺が知っている『涼宮ハルヒ』ではない。 「えー、聞きたいのはな、お前がハルヒであることは認めるが、俺の知っているハルヒじゃなさそうだって事だ。 なら俺のつたない脳を使って判断すると、ハルヒが二人いるって事になるんだが」 「そうよ」 そうよ、じゃねえよ。そこをきっちり説明してくれ。 「あー。あんたの頭に合わせて言うと、別の世界のあたしってことよ。平行世界って言葉ぐらい聞いたことあるでしょ? ここはあんたのいた世界とは似ているけど別の世界ってことよ」 簡単すぎてかえってわからんような。まあいい、いわゆる異世界人ってことにしておこう。このハルヒから見れば、 俺の方が異世界人なんだろうが。 ……しかし、ついにでちまったか、異世界人。しかもよりにもよって別の世界のハルヒとはね。こいつは予想外だったぜ。 ここでふとハルヒが口をあんぐりと開けて呆然としているのが目に入った。 「ちょっと驚いたわ。随分あっさりと受け入れるのね」 「最初は本意じゃなかったが、いろいろ今までそういう突拍子もない話は聞かされまくったから、 いまさらここは異世界で自分は異世界人ですっていわれても、今更驚かねえよ。異世界人については今まで伏線もあったからな」 俺の言葉にハルヒは興味深そうに目を輝かせている。何だ? こいつも宇宙人・未来人・超能力者のたぐいを求めているのか? まあいい。俺は次の質問に移る。 「ここはどこだ?」 「時間平面の狭間よ」 ……何というか、ハルヒが真顔で朝比奈さんチックなことを言うと違和感がひどいな。それはさておき、それじゃわからん。 わかるように説明してくれ。 「何よ、そんなことぐらい直感でピンと来ないわけ? 呆れたわ。未知との遭遇体験に慣れているだけで、 肝心の理解能力は本当に凡人なのね。まあいいわ、ざっと説明すると、あたしが作った空間で誰も入って来れず、 誰も認識できない場所。これくらいグレードを落とせばわかるでしょ」 いちいち鼻につく言い回しなのもハルヒ独特だよ。確かにわかりやすいが。って、なら俺が今ここにいるのは、 お前が招待したからってことなのか? 「そうよ。もっとも周りの人間に悟られずにやるのには、それなりに細工が必要だけどね」 なら次に聞くことは自然に出てくる。 「で、一体俺を何のためにここに連れてきたんだ? 何が目的だ?」 これが核心の部分になるだろう。自己紹介は終わった以上、次は目的についてだ。 ハルヒは待ってましたと言わんばかりに、にやりと笑みを浮かべ、 「それは今から説明してあげる。長くなるから、そこの椅子に座って聞きなさい」 そうハルヒは、また窓の前にある俺的に団長席の上に座る。そして、すっと手を挙げると、床から一つのパイプ椅子が 浮かび上がってくる。 ここまでの話で大体予測していたが、このハルヒは普通じゃない。いや、確かに俺のよく知っているSOS団団長涼宮ハルヒも 変態的神パワーを持ってはいたが、自覚していないため自由にそれを操ることはできない。しかし、この目の前にいるハルヒは 自分の意思で長門レベルのことを今俺の目の前でやってのけたのだ。 やれやれ、これはちょっと異世界訪問という話で済みそうにない気がしてきた。 俺はハルヒの頼んでもないご厚意に甘えることにして、パイプ椅子に座る。 「さて……」 ハルヒはオホンと喉の調子を整えると、 「あんた、宇宙人の存在は信じる?」 このハルヒの言葉に何か懐かしいものを感じた。あの北高入学式のハルヒの自己紹介。ただ、いくつか欠けてはいるが。 俺は当然と手を挙げて、 「ああ信じるよ。少なくとも俺の世界ではごろごろ――とはいかないが、結構遭遇したしな」 「……情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースに?」 返されたハルヒの言葉に、俺は驚く。何だ、このハルヒは長門のパトロンのことを知っているのか? 「当然よ。あいつらの存在、そして、どれだけ危険な連中かもね。実質的にあたしの完全無欠な敵よ」 ――敵。ハルヒの口から放たれた声には明らかに敵意が混じっていた。 どういうことだ。俺が知っている限り、奴らは内部対立はあるとはいえ、主流派は黙ってハルヒを観察することにしていたはず。 あからさまな敵意を見せてはいないんだよ。 「何ですって……? まさか……いや……」 ハルヒは予想外と言わんばかりに思案顔に移行するが、軽く頭を振ると、 「まあいいわ。とにかく、あたしと情報統合思念体は対立関係にある。というよりも、情報統合思念体が一方的にあたしを 敵視して排除しようとしているだけなんだけどね。こっちとしても、敵意さえ見せなければ別に相手にする気もないんだけどさ」 ハルヒはあきれ顔でふうっとため息を吐いた。 排除しようとしているとは、まるで俺の世界とは正反対の行動じゃないか。 「何で対立しているんだ? いや、どうして情報統合思念体はお前を排除しようとしているんだ?」 「細かいレベルでの理由は知らない。とにかくあたしの存在を勝手に危険と認識して、襲ってくるのよ。 それも狙うのはあたしだけじゃない。この星ごと消滅させようとするわ。そんなの許せるわけないじゃない」 「星……ごと?」 何だか話がSF侵略映画っぽくなってきたぞ。情報統合思念体が地球を攻撃するとは、まさにハリウッド映画。 ――ここでハルヒは思い出に浸るように天井に視線を向けると、 「三年前――いや、あんたのいた時間から見れば四年前か。その時、あたしは自分が持っている力に気が付いた。 野球場に連れられていったあの日、自分の存在がどれだけちっぽけな存在であるか自覚したとたん、体内で何かが爆発したような 感覚がわき起こり、この世の全ての存在・情報がどっとあたしの中に流れ込んできたのよ。当然、その中に情報統合思念体に ついてのこともあった」 ここで気が付く。さっきまで俺は灰色に染まった教室の中にいたはずなのに、いつの間にかまるで360度スクリーンの 映画館のような状態になっていることに。そこには野球場の人数に圧倒されるハルヒ・電卓で野球場の人間が 地球上でどのくらいのわりあいなのか計算するハルヒ・ブランコで物思いにふけるハルヒの姿が映し出される。 「きっとその時に向こう――情報統合思念体も気が付いたんでしょうね。あたしはその巨大な存在に触れてみようとした。 そのとたん……」 ハルヒの言葉に続くように、今度は宇宙から眺める地球の姿が映し出される。そして、 「嘘だろ……」 俺は驚嘆の声を上げた。まるで――そうだ、長門が朝倉を分解したときみたいに、地球が一部が粉末のように変化を始めた。 それは次第に地球全土へと広がっていき、最後には風に飛ばされるようにちりぢりにされ消滅してしまった。 呆然と見ることしかできない俺。と、スクリーンに星以外に一つだけ残されているものがあった。 「無意識に自分のみを守ろうとしたんだと思う。気が付いたとき、あたしは宇宙から消えていく自分の星を眺めていた。 ただその恐ろしさと悲しさに泣きじゃくりながら何もできずに」 ハルヒだった。まだ幼い容姿のハルヒが宇宙空間で座り込むような格好で泣きじゃくっている。 目の前で淡々と語るハルヒは決してそのスクリーン上の自らの姿を見ようとせず目を閉じながら、 「何でこんな事になったのか、この時は理解できなかった。いや、今でも完全に理解できた訳じゃないけど。 あたしはただ情報統合思念体という大きく魅力的に見えたものに触れようとしただけ。なのに、奴らはあたしどころか、 周囲全てを巻き込んで消し去ろうとした――許せるわけないじゃない。あたしは何の敵対行動も取っていないのに」 その声には怒気どころか殺気すら篭もっていた。確かに、なにも悪いことをした憶えもないのに、いきなり攻撃されて しかも無関係な人たちまで抹殺したんだから怒って当然か。しかし、何でそこまでして情報統合思念体はハルヒを消そうとする? 「知らないわよそんなこと。とにかく、その後あたしは情報統合思念体からの次の攻撃に備えていた。 あたしの抹殺に失敗した以上、また仕掛けてくると思ったから。でも、いつまで経っても襲ってくる気配はなく、 ただ時間だけが過ぎたわ。おかげでその長い時の間に大体自分ができることがわかったわ。奴らへの対抗措置もね」 「何で連中は追撃してこなかったんだ?」 「あとで奴らの内部に侵入して確認したときにわかったんだけど、最初の攻撃時にあたしは無意識に情報統合思念体に対して ダミー情報を送り込んだみたい。あたしは強大な力を手にした。だけど、あたしはそれを自覚していないという形でね。 だから、奴らは地球を抹殺した理由がなくなり、どうしてそう言った行為を取ったのかわからない状態として処理されていた。 そこにあたしは目を付けた」 ハルヒの言葉に続き、周囲のスクリーンに無数――数えることのできないほどのガラス板のようなものが並列で並んでいる 映像が映し出される。その一枚一枚には無数のカラフルな丸い点が描かれ、様々な形に変化・縮小・拡大・消滅・発生を 繰り返している。 「あたしは地球抹殺の理由の接合性がなくなっていた情報をさらに改ざんした。あたしは自分の力を自覚していない、 だから情報統合思念体は何の行動も起こさなかった。だから地球は消滅していないと。 地球自体は消滅前の時間軸に残されていた情報をコピーしてあたしが再生した。幸い、連中も脇が甘いのか、 そういったことは多々にあるのか、あっさりとあたしの情報改ざんは成功したわ。おかげであの日の惨劇はなかったことにできた。 ただあたしが力を得たという情報まで奴らから消去することはできなかった。結構希少な情報だったせいか、前例として 広域な情報に関連づけられていたから、これを改ざんすると他への影響範囲が大きすぎて、全部改ざんなんて不可能だったから」 あまりのスケールの大きさに呆然と耳を傾けることしかできない。 「……ここじゃそんなことがあったのかよ」 俺は聞かされた衝撃的な話に疲れがたまり、パイプ椅子の背もたれに預ける体重を増加させる。 ハルヒは続ける。 「とりあえずリセットはできたわ。状況はあたしは力を得たが、それを自覚していないと情報統合思念体は理解している。 この状況下でどうすれば奴らの魔の手から逃れることができるのか、次はそれを模索する必要ができたのよ。 あたしが力を得たことで奴らに目を付けられた以上、うまくやり過ごなければならない」 ここでスクリーンに映し出された一枚のガラス板がアップになる。 「一度でうまくいくとは思っていなかったあたしは、一つの時間平面――このガラス板一枚があたしたちのいうところの『世界』と 認識すればいいわ――を支配することにした。こうしておけば、いざ奴らにあたしが力を自覚していることに気が付かれても いつでもリセットできるし、情報統合思念体には同じようにダミー情報を送り込めばごまかせるから」 「で、どうなったんだ?」 俺の問いかけに、ハルヒはいらだちを込めたように髪の毛を書き上げ、 「それがさっぱりうまくいかないのよ。どこをどうやっても途中で奴らに力を自覚していることがばれて終わり。 その度にリセットを続けて来ているけどいい加減手詰まり状態になってきて……」 ここでハルヒはびしっと俺を指差し、 「そこであんたを呼び出したって訳よ」 「何でそうなるんだよ?」 俺が抗議の声を上げると、ハルヒは指を上げて周囲のスクリーンに別のガラス板――時間平面とやらを映し出す。 「手詰まりになったあたしは別の時間平面に何かヒントがないか調べ始めたのよ。そこであんたたちの存在を知った。 同じようにあたしが力を得ながら、情報統合思念体が何もせずにずっと歩み続けている。力を自覚した日から、 4年も経過しているってのに。それはなぜなのか? どうしたらそんなことができるのか? 詳しく別の時間平面を調査していると奴らに気が付かれる可能性があったから、とりあえず一人適当な奴を こっちに連れてきて教えてもらおうってわけ。とはいってもあたし自身を連れてくるとややこしいことになりそうだから、 事情を知っていそうな奴を選んだけど」 そういうことかい。で、唯一の凡人である俺が選ばれたって事か。 ここでハルヒは机を飛び降り、また俺のネクタイをつかんで顔を急接近させると、 「さあ、白状なさい。一体あんたの世界のあたしは何をやったわけ? どうやったら情報統合思念体は手出しできなくできる?」 「何もやっていない。少なくとも俺の知っているハルヒは自分の力を自覚していないからな」 「は?」 ハルヒの間の抜けた声。が、すぐに眉間にしわを寄せて額までぶつけて、 「そんなわけないじゃない! 例えなんかの拍子で自分の力に自覚していなくても、周りに情報統合思念体がいるなら どこかでちょっかい出してくるに決まっているんだから、すぐに気が付くはずよ!」 「だが、事実だ。情報統合思念体はハルヒがその状態を維持することを望んでいるし、それに俺をここに呼び出す前に 俺を付けていたハルヒと一緒にいた小柄な女の子はその対有機生命体ヒューマノイドインターフェースだ」 「バカ言わないで! あたしがあいつらと一緒に仲良く歩いていられるわけがないじゃない!」 ハルヒはつばを飛ばして言ってくるが、そんなこと言われても知らんとしかいいようがない。 それにしてもこのハルヒが持っている情報統合思念体への敵意は痛々しいまでに強く感じる。 「じゃあなんであんたはあたしの力について知っているのよ!」 「長門――情報統合思念体とかその他周囲から教えてもらった」 「じゃあなんであたしに教えようとしないわけ!?」 「一度言ったが、信じてくれなかった」 とりあえず事実だけ淡々と返してやると、ハルヒの顔がだんだん失望の色に染まっていった。やがて、ネクタイから手を離し、 机の前まで戻ると、 「……だめだわ。それじゃだめよ。ただ運良くそこまで進んだだけじゃない。とくにあたし自身が自分の力の自覚がないのは 致命的だわ。自覚したとたん、情報統合思念体に星ごと抹殺されて終わり。そして、リセットもダミー情報による偽装もできない。 あんたの世界も長くはないわね」 そうため息を吐く。 このハルヒの言葉と態度に、俺の脳天に少し血が上り始めた。まるでいろいろあった俺のSOS団人生を 簡単に否定された気分になったからだ。 「おい、俺のやってきたことをあっさりと否定するんじゃねえぞ。確かにお前みたいに壮絶じゃなかったかもしれないが、 俺は俺で色々やってきたんだ。大体、俺のいる世界を全部見たって言うなら、俺たちのその後もわかっているんじゃないのか?」 「あのねぇ、時間平面ってのは数字に表せないほど大量にあるのよ。そこから無作為に検索をかけて、 偶然見つけたのがマヌケ面のあんたがあたしと一緒に歩いている姿を見つけただけ。その後の様子まで確認している余裕は なかったわよ。あまり長時間の時間平面検索は奴らに察知されかねないから」 それを先に言えよ。ってことは、このハルヒは俺たちSOS団についてもさっぱり知らないって事になる。 そこで俺はこのハルヒに対して、俺を取り巻く環境についてかいつまんで説明してやった。 情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースである長門有希。 未来からハルヒについての調査・監視を命じられてやってきた朝比奈みくる。 ハルヒの感情の暴走を歯止めする役目を与えられた超能力者古泉一樹、そしてそれを統轄する組織、『機関』。 ………… だが、ハルヒは話自体は信じたようだったが、やはり俺たちがその後も平穏に進むということについては 懐疑的な姿勢を崩そうとしなかった。 「まさかあたし自らそういう連中とつるんでいたとはね。それも自覚がないからこそできる芸当なんでしょうけど、 とてもじゃないけどリスクが大きすぎてできそうにない。それに皮一枚でぎりぎりあたしに気が付かれていないだけにしか 感じられない以上、いつ自覚してもおかしくないわね。その時点であんたの世界は終わりよ」 「なぜそんなに簡単に否定できるんだよ?」 ハルヒはわからないの?と言わんばかりに嘆息し、 「まず『機関』とやらは、情報統合思念体に逆らえるだけの力があるとは思えない。あんたと一緒にいた色男――古泉くんだっけ? ――が、機関の意向よりあたしが作ったSOS団とやらを優先すると言っても、個人で何ができるわけもなし。 未来人については、同じ時間平面上なら移動可能ということは使えそうだけど、そもそも情報統合思念体はそんなことなんて 朝飯前。対抗手段としては物足りないわね。最後の情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースについては論外。 奴らの支配下から離れて独立しつつあるとか言われても、信じられるような話じゃない。所詮は操り人形なんだから」 その言葉に俺はいらだちを募らせるばかりだ。まるで外部の人間にSOS団の存在意義を必死に説明してみせているような 気分になってくる。いや、このハルヒは確かに俺たちについてまるっきり知らない――それどころか、情報統合思念体に対して 明確な敵意を見せているので余計たちが悪い。 だが、俺はSOS団として満足して生きてきていたし、危険も感じていない。長門のパトロンはさておき、 長門自身には信頼を寄せているし、古泉はSOS団副団長という立場の方がすっかり似合っている状態。 朝比奈さんはもうマスコットキャラが板に付きすぎて抱きしめて差し上げたいぐらいだ。そして、皆ハルヒとともに 平穏無事にいたいと願っている。 それの何が問題だというのだ? このハルヒは自分の力を自覚していないとダメになるということを 前提に語っているようにしか見えない。 その後も必死に説明した俺だったが、ハルヒは聞く耳を持たない。 「悪いけど、これ以上議論しても無駄よ。あんたを元の時間平面に送り返すわ。一応礼を言っておくけど、 そっちもかなりぎりぎりの状態ってことはわかったんだから――」 「そうはいかねえよ」 「え?」 元の世界への機関を拒否した俺に、ハルヒはきょとんとした表情を浮かべた。 俺は正直このまま元の世界に戻るような気分じゃなかった。このままSOS団を完全否定されたっきりでは、 気分が悪いことこの上ないし、そもそもこのハルヒのいる世界は破滅とリセットのループを繰り返している。 だったら、俺の世界と同じようにSOS団を作れば同じように平穏に過ごせる世界が作れるはずだ。 俺にはその絶対の確信があった。 「何度でもリセットできるんだろ? だったら、俺の言うとおりに動いてくれ。そうすりゃ、俺たちの世界が どれほど安定しているか教えてやれるし、ここの世界の安定化も図れる。お前だって手詰まり状態だって言っているんだから、 試す価値はあるはずだ。少なくともお前が到達できない場所に俺たちは到達できているんだからな」 「…………」 ハルヒはあごに手を当てて思案を始めた。 ふと、他人の世界にどうしてそこまでするんだという考えが脳裏に過ぎる。しかし、すぐにその考えを放り捨てた。 ここまであーだこーだな状態になっておめおめと引き下がるほど落ちぶれちゃいない。 「……わかったわよ」 ハルヒは渋々といった感じに了承の言葉を出した。しかし、すぐにびしっと俺に指を突きつけ、 「ただし! 条件付きよ。あんたのいう宇宙人・未来人・超能力者にまとめて接触はしない。一つずつ試していくわ。 情報統合思念体の目はどこでも光っているんだから、変に手を広げて取り返しの付かない事態にならないよう 石橋をハンマーで殴りつけながら進ませてもらうわ。あと、あたしは自分の力の自覚はそのままにする。 この一点だけは譲れない。これがダメというなら即刻あんたを元の世界に送り返すから」 条件付きというわけか。はっきり言って、3勢力がそろわないとSOS団には成り立たないが、この際贅沢はできない。 一つずつ接触しても俺のいた世界のSOS団と同じぐらいの平穏な関係は築けるはずだ。 力の自覚については仕方ない。ハルヒは自分がそれを理解していない状態を極端に恐れている節がある。 それに、これに関してはうまい具合にハルヒが黙っているだけで済むから大丈夫か。 「わかった。それで構わん」 「じゃ、決まりね」 こうして別の世界でSOS団再構築という壮大なプロジェクトが始まった。 ――そして、俺がどれだけ甘い考えをしていたのか、嫌と言うほど思い知らされることになる涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5257.html
ハルヒ「東中出身涼宮ハルヒ、この中に魔術師、呪術師がいたら私の所に来なさい!以上」 これが俺と涼宮ハルヒとの出会いであり、俺が魔術に翻弄される事になったきっかけである 涼宮ハルヒは手品師だ、休み時間は教室にはいないが朝のホームルームが始まるまでのちょっとした時間で、まるで魔術のような手品を披露する 確かにどれもすごいのだが、どうも物足りない気がするのは俺だけらしい 中学から涼宮ハルヒと同じクラスの谷口曰く 谷口「気のせい気のせい、あいつの手品は一級品だぜ。プロからも誘いを受けてるらしいぜ」だそうだ まぁ確かにすごい、それは認めよう。だが俺一人がつまらなさそうにしていたのが気に入らない涼宮ハルヒは俺に話し掛けてきた ハルヒ「あんた、あたしの手品じゃ満足できないみたいね」 キョン「あぁ」 ハルヒ「本気で言ってんの?」 キョン「確かに技術はそうとうなもんだが、何かが物足りないのだから仕方ない」 ハルヒ「何かって何よ」 キョン「俺が知るわけないだろ」 ハルヒ「……っ!」 国木田「相変わらずだねキョン」 キョン「何がだ?」 国木田「そのいつも物足りなさそうな目だよ、やっぱりキョンを満足させられるのは彼女だけだね」 キョン「あいつのを見たらどんな手品も物足りないさ、あいつのは本物の魔術だからな」 そうだ、あいつの親友の手品だけが俺の心に火を灯してくれる 親友曰く、魔導書とやらと契約すれば誰にでもできるらしい 実の所魔導書は俺も持っている、かの死霊秘宝の写本だ。親友に相談したところ俺にはあっていないらしい。 さらに力ある魔導書は必ずしも書の姿をしてるとは限らないとも そんなこんなで1ヶ月が過ぎ涼宮ハルヒは俺を満足させるのに躍起になっていた すでにこの学校では俺以外の奴は涼宮ハルヒの手品を認めたようである そしてついこんなことを言ってしまったのだ キョン「一人で駄目なら他の奴の力を借りたらどうだ?」と するとどうだ、部活を作るとか言い出しやがった。やれやれ、勝手にしろと言いたかったのだが、休み時間に連行されて新クラブ作りを手伝わされるハメになったわけだ ハルヒ「あんたにあたしを認めさせるためのクラブだから協力しなさい」だと で放課後、俺が連行された先は文芸部だった 文芸部、部員1名で廃部寸前の部だった ハルヒ「ここがあたしを認めるまであんたを閉じ込めておく部室よ」 キョン「やれやれ、勘弁してくれ。あぁええっと部長さん?」 長門「長門有希」 キョン「あぁ長門さんとやら、こいつがここを新クラブの部室にするだとか俺を閉じ込めておくだとか言ってるがいいのか?」 長門「構わない」 キョン「追い出されるかもしれんぞ?」 長門「いい」 キョン「……」 ハルヒ「ほらこの子もいいって言ってるんだから。あんたは雑用係兼たった一人の観客よ」 キョン「はぁ仕方ない、わかった。だがこれ以上協力せ…ハルヒ「じゃあ明日の放課後までに手品ができるようにしといてね」……聞く耳を持たないか……」 とまぁ俺に有無を言わさず協力させられるハメに…… 明日の昼休みでいいか 翌日の昼休み、考えてきたレイアウトで部室を整理する。長門は昨日と同じ場所で本を読んでいた キョン「これでよしっと」 長門「……」 長門が無言でこっちを見ている キョン「どうした?」 長門「……何も」 気になる視線だったがまぁいいだろう 放課後 涼宮ハルヒは協力者と称して女子を一人連行してきた。その女子は2年で先輩だ、名前は朝比奈みくるさん みくる「ふぇぇぇ、何ですかここ。何で私連れて来られたんですかぁ」 ハルヒ「みくるちゃん、あんたはあいつを満足させるために連れてこられたの。これからは毎日ここに来なさい」 みくる「そんなぁ、私書道部に入ってるんですよぉ」 ハルヒ「じゃあそこ辞めて」 みくる「えぇぇぇ」 キョン「おい涼宮、それは無茶苦茶だ!」 ハルヒ「あんたのためにやってるんだから黙ってなさい」 長門「……」 みくる「あっ……そっかこれがこの時間平面の……わかりました、書道部は辞めて毎日ここに来ます」 ハルヒ「じゃあ決まりね!キョン、これじゃあ手品できないからやり直しね!」キョン「なん……だと!?」 はぁ、やれやれどうなってしまうんだ……俺の高校生活よ…… 次の日も俺は部室のレイアウトの変更をする 気のせいだろうか、バニー服がかけられているのだが…… 長門「……これ」 キョン「ん?」 長門「……読んで……貸すから」 キョン「……あぁわかった」 長門「……」 なんだろうか、この本どうも不気味だ。しかし俺は似た気配を知っている、そう死霊秘宝の写本に似ているんだ 読まない方が身のためだな そして1週間が経った 毎日毎日ダメ出しばかりで部室の模様替えに飽きてきたころだ 長門「……読んだ?」 キョン「何を?」 長門「……本」 キョン「あぁスマン、まだだ」 長門「……今日読んで」 キョン「わかった、読んでみるよ」 キョン「そんなにいいものかね、こんな不気味な本」と呟きながら、パラパラとページをめくると栞が挟んであった 午後7時光陽公園にて待つ まさか! キョン「すまん待ったか?」 長門「別に」 そして俺は長門邸へと招かれた 招かれたのはいいがどんな話しがあるのだろうか ……しかし殺風景な部屋だな、リビングの家具はコタツだけでカーテンすらない 座って待っていると長門がお茶を煎れてくれた。ズズッ……まぁまぁウマイ キョン「それで何の用だ?」 長門「……涼宮ハルヒのこと、そして私のこと」 キョン「……」 長門「上手く言語化できない、情報にソゴが発生するかもしれない」 キョン「聞いてみないとわからない」 長門「……わかった。まず涼宮ハルヒと私は普通の人間ではない」 キョン「そりゃ普通じゃないだろ」 長門「性格が普遍的という意味ではなく、言葉通りの意味。私はあなた達の言葉を借りて言うなら精霊という事になる」 キョン「……(何か電波話しをおっぱじめやがった)」 長門「私はこの宇宙が創世されたころに書かれた宇宙の書と呼ばれる本の複製。」 キョン「その話しが本当だとして何故人間の姿をしている」 長門「私のような力ある魔導書は必ずしも書と言う形を取る必要性がない」 キョン「わかったよ、で涼宮のほうは(これ以上付き合いきれん)」 長門「3年前この辺境の惑星で大きな情報爆発が起こった。それを感知した宇宙の書はこの惑星の調査を始めた。そして一つわかった事がある」 キョン「……」 長門「この情報爆発の中心に涼宮ハルヒがいた…… そして私は涼宮ハルヒを調査するため作られた写本の一つ」 キョン「信じられんな」 長門「……信じて」 キョン「聞かせてくれ、仮にお前が魔導書だったとしてもう誰かと契約したのか?それと何故俺ではなく涼宮に話さない」 長門「……私は誰とも契約していない。涼宮ハルヒに話すのは危険であると宇宙の書は判断した」 キョン「では何故俺なんだ?」 長門「涼宮ハルヒがあなたを選んだから」 キョン「なぜ?」 長門「あなたが涼宮ハルヒを認めなかったから」 キョン「つまらんもんはつまらんのだから仕方ないだろ」 長門「……」 キョン「そうかい……スマンが今日のところは帰って少し考えさせてくれ」 長門「わかった」 確か親友も言っていたな、魔導書は必ずしも本という形を取っているとは限らないと しかもある程度魔術の事を知れば知っていて当たり前らしい という事は、仮に長門が魔導書でなくとも涼宮が望んだ魔術師か呪術師になるわけだ そしてこの事を話すのは何か危険であるとあいつの親玉は判断したらしい やれやれ、まぁいいかとりあえず今日はもう寝よう 翌日、涼宮が転校生がどうのと騒ぎ始めた まぁ確かにこの時期に転校ってのも珍しいが、騒ぐほどのことかと で、放課後その転校生とやらを部室に連れてきた その転校生は古泉一樹と名乗った、無論俺が本名で名乗ろうと思ったら涼宮に邪魔された事は言うまでもない 長門「……」 みくる「あっ……」 古泉「なるほど、これは素晴らしいですね。さすが涼宮さんです」 ハルヒ「さぁこれでメンバーが揃ったわね」 キョン「どういう事だ」 ハルヒ「遅くなったけど、我がクラブの名前を発表します!」 S ekaiwotezinade O oinimoriageru S uzumiyaharuhino 団 略してSOS団、活動目的魔術師、呪術師を探して一緒に遊び、技術を高め合う という事らしい、おい俺にお前を認めさせるという目的はどこにいった…… こうして結成されたSOS団その初めての週末、涼宮ハルヒはインスピレーションを高めるため市内散策をすると言い出した 当日待ち合わせ15分前に着いたのに全員揃ってて罰金刑を宣告された 今日1日喫茶店での支払いは全部俺持ちだ……まったくやってられん 午前と午後くじ引きで二手に分かれる事になった、何でも新しい手品を思いついたり不思議な事を探すんだと、ただの市内散策と思ってたのに……。 午前の組み合わせが涼宮、長門、古泉の3人。俺、朝比奈さんの2人だ なるほどこんないい事が待ち受けていたのか、なら喫茶店の奢りも安いものだ こんな市内散策真面目にやるのもアレなので、気分転換に河川敷に行くことにした。しかしここでも電波話を聞かされるとは思いもしなかった みくる「キョンくんお話しがあります!」 キョン「……何でしょう」 みくる「……」 キョン「……」 1時間くらい経っただろうか、朝比奈さんはその重い口を開き始めた みくる「私この時代の人間じゃないんです、うぅん人間というのも違う。私は様々な時間を旅する本なんです!」 宇宙の次は時間ですか……、この手の話はもう腹一杯なんだが みくる「私は時間の書という魔導書の写本なんです」 キョン「何で俺にそんな事を話すんです?それにその姿で人間じゃないと言われても信用できませんよ」 みくる「……禁則事項です、この姿でいられるのは私が力を持った魔導書だからです」 キョン「では何のためにこの時代に?」 みくる「この時間から3年前、大きな時空振動が観測されたの。その中心にいたのが」 キョン「涼宮ハルヒですか?」 みくる「どうしてわかったんですか!?」 キョン「先日似たような話しを聞きましてね」 みくる「そうですか。続けますね。調査に来て私達は驚いた、力ある契約者がいない私達ではどうやっても3年前から過去に行く事ができなくなったの」 その後俺はいくつか朝比奈さんに質問したが、契約者はいるのか?という質問以外すべて禁則事項だった そして朝比奈さんはこの時代の契約者を探しているのだと言う あぁ頭が痛い、この自称魔導書の精霊とやらと契約することがない事を祈る その後涼宮からの呼び出しで一旦集合する事になった、やれやれまだ時間じゃないってのにせっかちだねまったく ハルヒ「何か収穫は?」 キョン「何も」 ハルヒ「……まぁいいわ、そんな簡単にいったらつまんないからね」 午後の組み合わせ、涼宮、朝比奈さん、古泉の3人 俺、長門の2人だ 二手に分かれた後長門に少しは信じても良いと伝えた やることも無いので、図書館へ行き暇をつぶすことにする。道中長門から契約者を探しているという話しを聞いた だから何故俺にそんな話しをする、そんなに俺をそっちの世界へ引きずり込みたいか!! 集合時間30分前、長門は床に根を生やしたように動かない!必死に説得し貸出カードを作ってやって図書館を出た 勿論、出たのは集合時間ちょうどだ、一回だけ涼宮からの電話に出て俺たちは集合場所へと急いだ 涼宮に特に何も無かったと報告し解散、別れ際に朝比奈さんから みくる「今日は話しを聞いてくれてありがとう」 とお礼を言われた さて俺も帰るとするか、気分転換に死霊秘宝写本でも読んでいよう。宇宙の書だとか時間の書だとかワケがわからん まっ一度整理するかやれやれだ、まったくやれやれだ 週明け月曜日の放課後 もしもだもし俺の予想が当たっていれば古泉は…… キョン「古泉、お前も俺に話しがあるんじゃないのか?」 古泉「お前もと言うからには他の二人からも既にアプローチを受けているようですね」 キョン「単刀直入に聞く、お前は何の写本だ?」 古泉「と言いますと?」 キョン「他の二人はそれぞれ宇宙の書、時間の書という魔導書の写本と俺に言った」 古泉「だから僕も魔導書ではないか、そう思ったわけですか」 キョン「違うのか?」 古泉「いいえ、あっていますよ。ただ今は超能力の書と言う事でお願いします。何の書かはまたいずれ」 キョン「で、お前は涼宮を何だと思ってる?」 古泉「涼宮ハルヒは、我々のような特殊な魔導書の母ですよ」 キョン「どういうことだ?」 古泉「3年前、僕達は突如生み出された。手品、マジックを超えた魔術を行使する力としてね」 キョン「……」 古泉「ですが涼宮ハルヒに我々は選ばれなかった」 キョン「何故だ」 古泉「簡単です、涼宮ハルヒは既に自身の専用魔導書を生み出し契約していたのですよ」 キョン「はぁ?どういうことだ、あいつは魔導書なんか持ってないぞ」 古泉「あなたも分かっているはずです、力ある魔導書は書と言う形を取る必要性がないことを」 キョン「じゃああいつの魔導書はどこにある」 古泉「深層意識です、この話しもまた改めてする機会もあるでしょう。他に何かありますか?」 キョン「あいつの魔導書の力はなんだ?」 古泉「世界改変です」 キョン「世界改変?」 古泉「そうです、他にも人を楽しませる力もあります。ですがただ一人魔術の効果が無い事がわかりました」 キョン「それは誰だ?」 古泉「分かってて聞いているのか判断に迷いますがあなたですよ」 キョン「なんで俺なんだ?」 古泉「それはこちらが聞きたいくらいです」 キョン「そうかい、じゃあ世界改変のほうは?」 古泉「それもまた後日という事でお願いします」 キョン「わかったよ、一つ聞いていいか?」 古泉「何でしょう」 キョン「契約ってどうやるんだ?」 古泉「んっふ、接吻です」 キョン「……」 俺はこの時全力で思った!こいつとだけは契約したくないと!! 次の日一通の呼び出しの手紙を受け取った 放課後教室で の一言だけだったが女の字であることはわかった 放課後教室にきてみると以外な人物がいた、クラス委員長の朝倉涼子だ。 上がどうたら涼宮がどうたら言いだし、俺を殺して出方を見るとか物騒な事を言い出した 俺の取る行動は一つ!逃げる!!と思い出入口の方に振り向いた刹那風景が変わった 壁は一面鉄の壁になり、出入口も消えていた。机や椅子を投げるなど抵抗を試みるがダメだ、何かの障壁に阻まれ朝倉に届かない 朝倉のナイフを2回3回となんとか躱していたが、終わりは唐突に訪れた そう動きを封じられたのだ、そして俺は人生を振り返り覚悟を決めたその時 鉄の壁に亀裂がはいった、否厳密には壁ではない空間に亀裂が入った。その亀裂から現れたのは長門だった 俺を殺そうと突進してくる朝倉の前に立ちはだかりそのナイフを掴み朝倉の動きを止めた 長門「一つ一つの術式が甘い、だから私に気付かれる、侵入を許す」 朝倉「もう見付かったんだ、結構苦労して作ったのに残念」 長門「あなたは私のバックアップ、単独行動は許可されていない」 朝倉「バックアップねぇ、契約者のいないあなたに言われても良くわからないな」 長門「……宇宙の書・副題朝倉涼子を敵性と判定、魔術情報連結の解除を申請する」 朝倉「無駄よ、いくらあなたでも今の私には勝てないわ」 長門「……# %=@\*###」 朝倉「……#! ; =% @」 キョン「おい長門これは一体!」 長門「動かないであなたは私が守る」 朝倉「契約者がいないままでいつまで持つかな」 長門「……」 どうみても長門が不利だろ、朝倉は攻撃に集中できるが長門は俺の前で障壁を作り防御するだけで精一杯だ 朝倉「これで止めね」 長門「……!」 ……やっぱり俺の命もここまでか…… 長門「○○○○、宇宙の書・副題長門有希は汝と契約する」 キョン「うむっ!」 あぁ接吻だこれは間違いなく接吻だ、てことは何か?俺は長門と契約したってことか……はぁもうどうにでもなれ 朝倉「そんな!こんな人間を主にするなんて!え?なに私の空間が……、そっか入って来る前に交換因子を……」 長門「あなたは優秀、だからここに来るのに手間取った」 朝倉「あ~ぁ、もう少しだったのに残念。よかったわね延命出来て、涼宮さんとお幸せに」 キョン「長門、説明してくれるんだろうな」 長門「問題ない、契約は正確に執り行われた」 キョン「そういう問題じゃないんむっ!」 ガラッ 谷口「ういーす、WAWAWA忘れもの~うおっ!」 キョン(父さん、言い訳できません……) 谷口「すまん……ごゆっくりぃぃ!!」 キョン「どうするかな」 長門「任せて情報操作は得意、但し私の力を使うときは毎回接吻を要求する」 キョン「……わかった何もしなくていい」 長門「了解した、主の命は絶対」 はぁやれやれ、どうすりゃいいんだこれから ハルヒ「……帰る!みくるちゃん明日は撮影するから!!」 みくる「えぇぇ、またバニーさん着るんですか?」 ハルヒ「何のために持ってきたと思ってんのよ」 みくる「わかりましたぁ」 古泉「さて、では我々も解散しましょうか」 キョン「そうだな」 長門「……パタン」 みくる「じゃあ私は着替えますので」 キョン「はい、それではまた明日」 みくる「はい」 古泉「そうそう、お見せしたいものがあるんですが、時間ありますか?」 キョン「なんだ?見せたいものって」 古泉「それは着いてからのお楽しみです」 そういう古泉にホイホイついて言ったのが全ての間違いだった まさか、こいつと…… 車で移動する事になった俺と古泉、なんでも車は古泉が所属する機関とやらのものだと言うことだ 現場に着くまである程度の説明を受けた 古泉が機関で唯一契約者がいない魔導書であること 閉鎖空間とやらが俺に見せたいものだということ 古泉「着きましたよ」 キョン「あぁ、でどこにその閉鎖空間とやらがあるんだ?」 古泉「目の前です、早速侵入しますので目を閉じていただけますか?」 キョン「わかった」 目を閉じてじっとしていると、急に手を捕まれた、気持ちわるい放せ 古泉「もう目を明けて頂いて結構です」 キョン「……灰色の空間……」 古泉「ここが閉鎖空間です、もうすぐアレが出てきます」 キョン「さっき言ってた神人とやらか」 古泉「えぇ、戦闘になる前に僕が何の写本かお教えします。僕は涼宮さんが持つ魔導書の写本です」 キョン「どういう事だ」 古泉「涼宮さんの潜在意識が生み出す閉鎖空間と神人、これについて記されたのが僕たち神人断章なのです」 キョン「なるほど」 古泉「僕の力もそろそろ限界でして、契約者が必要なんですよ」 キョン「それはつまりお前とキスしろと?」 古泉「んふ、いいえ接吻です」 キョン「どっちも一緒だろ」 古泉「接吻とは言いましたが唇を重ねる接吻とは言っていませんよ」 キョン「なんにせよ、お前となんてごめんだ」 古泉「仕方ありませんでは、右手を失礼します」 と言うと、古泉はまるで騎士が王国の姫に忠誠を誓うかのような接吻を俺にしやがった あぁ気持ち悪い忌々しい 古泉「これで僕はあなたの魔導書です。間もなく神人が現れますそこで見ていてください」 そういうと蒼く発光する巨大な化物が現れた、それを古泉含む5つの赤い球が即座に倒してしまった 閉鎖空間がの崩壊とともに俺達は現実空間に戻ってきた 何度もみたいとは思わないが……これは確かにすごい……親友の魔術よりな! こうして俺と古泉は契約する事になったのだ、もう一度似たような事が起こりそうだが、これはまた別のお話だ 自称、宇宙の書の写本 自称、時を駆ける時間の書 自称、変態の書……神人断章 どいつもこいつも俺に見せつけてくれたよまったく そして成行上契約したのが、宇宙の書と神人断章 時間の書とは契約するんだろうか イキナリだが放課後、朝比奈さんにまた呼び出された。なんでも契約して欲しいとのことだ で、俺はその誘惑に勝てるワケもなく契約しようとしたその時だ ハルヒ「あらキョンにみくるちゃん、いつの間にそんな仲になったの?ふぅん……」 寸前でハルヒが来た その後俺は「二度と来るな!」の一言とともに部室を追い出された まったくワケがわからん 仕方ないので今日は帰る事にする テレビを見る、晩飯を食う、そして今日も1日ご苦労さんって事で寝る 次に目覚める時そこは俺の部屋ではないとは夢にもおもわずに…… ???「キョン、キョン!起きてよキョン!」 キョン「うぅん」 ???「起きろってんでしょうが!」 キョン「はっ!」 目覚めると涼宮が俺を覗きこんでいた ゆっくり体を起こし辺りを見回すとそこは、灰色の世界、学校、何故か制服……おかしい俺は部屋で寝ていたはずだ ハルヒ「気がついたらここにいたのよ、ねぇキョンここどこなの?」 キョン「さぁな」 ハルヒ「あんまり驚いてないのね」 驚いてるさ、朝比奈さん(大)が言っていた事が起こってるんだからな キョン「古泉を見なかったか?」 ハルヒ「え?古泉君?見てないけどどうして?」 キョン「いや、何となくな」 魔導書とその主は常に一つだと親友から聞いた事がある……なのに誰もいないとはな、それだけここがヤバイところって事か 涼宮とともに校内を探索していると、以前涼宮が見せた手品とその種が事細かく幻として俺達の目の前にあらわれた なるほど、一見単純に見えた手品の数々もかなり凝っているのがわかる そして涼宮が、ハルヒが全ての人を楽しませたいと言う気持ちが俺にも伝わってきた これがハルヒの持つ魔導書の力なのだろうか、この魔導書の使い方は知らないままの方がいいのかも知れない そんな事を考えている間に部室に到着した、一息入れるためお茶を煎れいつものパイプ椅子に座る さすがのハルヒも今回ばかりは相当不安らしい、何も言わなくても部室に入れてくれた ハルヒ「ちょっと探検してくる、他にも面白い事があるかもしれない」 キョン「あぁ」 しかしなんだな、切望していた魔術師が自分だとは考えもしないんだろうなあいつは 古泉「彼女はあぁ見えて常識ある人ですからね」 キョン「おっやっと来たか」 古泉「お待たせして申し訳ありません、今回の閉鎖空間は特別です。仲間の力を借りてやっと侵入できました もしあなたと契約していなかったら恐らく誰も侵入できなかったでしょうね」 キョン「ほう」 古泉「自身を認めないあなたに業を煮やしていたタイミングでやってくれましたからね」 キョン「何のことだ?」 古泉「時間の書写本と契約しようとしていましたね?」 キョン「あぁ」 古泉「それが今回の閉鎖空間のトリガーになってしまったんですよ」 キョン「何でだ?」 古泉「まったく僕の主は何故こうも鈍感なのでしょう」 キョン「何か言ったか?」古泉「いいえ、なにも。それはそうと長門有希、朝比奈みくるからの伝言です 朝比奈みくるからは、私のせいですごめんなさい。長門有希からは魔術行使の許可を……。以上です」 キョン「二人にわかったと伝えてくれ」 古泉「わかりました、僕もそろそろ限界のようです。あなた方が戻ってくる事を願っていますよ」 キョン「あぁすまんな」 古泉もいなくなったか さてどうする?とりあえず俺があいつを認めている事を伝えないとな ハルヒ「キョン!見てよアレ!!」 神人か、古泉もいない状態でどうする?逃げるしかないか! キョン「逃げるぞハルヒ!」 ハルヒ「ちょっとキョン!」 こうして俺はハルヒを連れて校舎から出た、その間ハルヒのマジックショーを見せつけられるとは思わなかったが キョン「ハルヒ」 ハルヒ「なによ」 キョン「聞いてくれ、俺はお前の手品が凄いと思いながらも、つまらんと思ってきた。何でかわかるか?」 ハルヒ「わかんない」 キョン「俺はな本物の魔術をこの目で見たことがあったからだ」 ハルヒ「あんた知り合いに魔術師がいるの?」 キョン「まぁな、でも俺はいつの間にかお前の手品に魅了され始めてた。いや違うな、実はお前が手品やってる時の髪型、つまりポニーテールに魅了されてたんだ!」 ハルヒ「はぁ?」 キョン「だから、俺はポニーテール萌えなんだよ!」 ハルヒ「だったらみくるちゃんにやってもらえばいいじゃない!」 キョン「あぁもう!お前のポニーテールじゃなきゃ萌えないんだよ!!」 勢いに身を任せ、ハルヒを黙らせるためキスした、何故だかハルヒは抵抗しなかった。それどころかその身を俺に預けているような気がした ……っ! ……、……、……、なんつう夢を見たんだ俺は!フロイト先生も爆笑だっぜ! その後寝る事ができずいつもの時間まで悶え苦しむ事にした 学校に行くとハルヒが髪をバッサリ切っていた。何と……ポニーテールが惜しい…… が、よく見たらポニーテールだった。明らかに髪の長さが足りてないぞハルヒ キョン「でもまぁ、似合ってるぞハルヒ」 ハルヒ「……」 そっぽを向いたままだんまりを決め込んでいたが、まぁいいさ 放課後部室へ行くと 長門「お帰りなさい主、私が魔術を使う前に脱出するとは思わなかった。接吻が……」 黙りなさい、そうおいそれとやられてはかなわん 長門「……そう……はぁ」 みくる「あっキョンくん無事だったんだ!!」 キョン「えぇ何とか帰ってこれましたよ、それより朝比奈さん。胸の谷間の辺りに星形のほくろがあるでしょ?」 みくる「へ?……ふえぇ何で知ってるんですか!何で何で何でですかぁ!」 キョン「あははは」 ハルヒ「ふふん、みくるちゃん。今日はバニー服に着替えましょうか」 みくる「またあの恥ずかしいのを着るんですかぁ」 ハルヒ「当然!」 やれやれ何が当然なんだか…… 古泉「よく帰ってきてくれましたね。機関も僕も感謝しています」 鬱陶しい営業スマイルめ! 古泉「どうやら、僕たち神人断章の母たる彼女はこの世界であなたを認めさせる事にしたようです」 キョン「俺はハルヒを一応は認めたつもりなんだが?」 古泉「そうでした、でなければこちらに回帰できなかったでしょうし。しかし一つだけ問題があります、朝比奈みくるとの関係です」 キョン「あぁそれか」 古泉「彼女とは必要があるまで契約しない事を勧めますよ」 キョン「そうだな、またあんな世界に引きずり込まれたらかなわん」 古泉「なら早く涼宮さんに一言言ってあげてはどうです?」 キョン「……しかし、今日のコーヒーはうまいなぁ」 とまぁ魔導書と契約しちまったわけだが、俺自身が魔術を行使するのはまだ先の話しだと言う事は伝えておく そして朝比奈さんと契約する日もまた、もう少しだけ先だと伝えておく これが俺が巻き込まれた事件だ、そしてここでは語られなかった事柄はまた別の日に話すとしよう 涼宮ハルヒと魔術・アフターへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/877.html
「ねえキョン、あんたどんなところ就職するのよ?」 ハルヒは俺の胸に顔をうずめながら、左指で俺の乳首をいじっていた。 すでに行為は終わっていたし、感慨もなくただされるがままだ。 それにハルヒは俺の胸に寝るのが落ち着くらしく、 週末にはこうやって東京で一人暮らしをしている俺の部屋に遊びに来るのだ。 俺は大学受験を終え、東京の有名私立大学へと進学した。 ハルヒも同じ学校に進学したが、俺とはレベルの違う学科だった。 すでに能力は消えていた。 ハルヒは大学に入って最初の一年はやたらともてていたが、 ずっと俺と一緒にいたおかげで、今は声をかけるものはいなくなった。 ハルヒ曰く、 「馬鹿大勢より、大事な人一人のが価値があるでしょ」 だそうだ。 ハルヒは俺に身体をくっつけたまま上目遣いで俺を見つめた。 「ねえ、時間はあるんだし、もう一回しましょ」 「分かったが、俺は就活で疲れてるんだ、お前が上になれよ」 「分かったわよ、ちゃんと前戯ぐらいはしてよね」 「じゃあ、ちょっと横になれ」 俺はハルヒを下にして、強引に脚を広げた。 いつみても綺麗だって思ってしまうのは、ハルヒの毛が薄く、 割れ目が見えていることだけじゃない。 ひきしまった陰唇はすでに濡れていて、俺を受け入れるのには十分だった。 ハルヒは前戯が好きだ。 初めてした時、俺が舐めようとするのを拒んだが、今では整った顔を歪ませて声をあげている。 「なあ、もういいんじゃないか。十分濡れてるぞ」 「そうね。さっき一回イってるし、十分かも」 そういうとハルヒは起き上がって俺の上に跨った。 「ちょっとキョン、なんでまだこんなに硬いのよ」 ハルヒは俺のペニスを痛いほど強く握って、嫌な笑みを浮かべた。 「入れるわよ」 ハルヒの中に入っていく感触が伝わった。 「んっ…、あっ」 ハルヒは光悦とした表情を浮かべ、俺を見下ろし、ゆっくりと腰をスライドしだした。 「どう? 気持ちいい?」 「かなり」 ハルヒの中はいわゆる名器というやつで、締りも肌触りも俺とぴったりだった。 ハルヒはそれだけいうと、それ以外はなにも言わなかった。 ただ、卑猥な音とハルヒの喘ぎ声だけが狭い部屋に響いた。 「んっ、はぁ、……いや! あ! んっ…」 ハルヒは腰の動きを激しくしだした。 それにあわせて俺も腰を振った。 「ちょっとキョンなんでつくの!? いや、だめ! もう限界! んっ!」 中が急激に締まると、俺は簡単に限界を迎えた。 「で、キョンあんたどこに就職すんのよ」 ハルヒはブラジャーをつけながら言った。 「そうだな、大手の出版社なんか狙ってるんだが」 「また無理そうなところ狙って、落ちても慰めてなんかやらないわよ?」 「やってみないと分からんだろ」 「まったく」 面接当日。 「はい、お守り」 ハルヒはお守りを俺に手渡してきた。 「大学受験じゃあるまいし、要らないだろ」 「ちゃんとよく見なさいよね」 あ、そういうことか。 「大学受験のとき、これ一緒にわざわざ太宰府までいって買いに行ったでしょ? それで一緒に合格できたんじゃない。 今回もね。だから、もっていきなさいよ」 「あ、ありがと」 「まったく、それぐらいしかやってあげられることないからね!」 「分かったよ」 「頑張りなさいよ」 俺は胸が一杯になった。 たまに優しさを見せるハルヒがとても愛しかった。 それは、前から決めていたことでもあった。 「なあ、ハルヒ?」 「なに?」 「大学でたら、結婚しないか?」 「え?」 俺はもう一度繰り返した。 「大学を出て、就職をしたら、結婚しないか?」 「わ わたしはいいけどさ…。 あんたはそれでいいの?」 「いいさ。俺にはハルヒしかいないから」 ハルヒは抱きついてきた。さっきみたいな卑猥な感じじゃない。 優しく、そっとだ。 「ありがとう、でも本当にいいの?」 「ああ」 俺は抱きしめ返した。強く、力強くだ。 そして俺たちはとても静かなキスをした。 「いってらっしゃい」 ハルヒは笑顔でそういってくれた。 「行ってくるよ」 「帰ったら、ご飯の準備しとくわね」 「ああ」 ハルヒの笑顔を見つめ、そして俺は履きなれない革靴に足を入れた。 「じゃあ、行ってくる」 「早く帰ってくるのよ!」 俺はドアを開け、さわやかな気持ちで、右足を踏みしめた。 外は無駄な暑さで、空には大きな入道雲がそびえていた。