約 774,020 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/511.html
キーンコーンカーンコーン ふぅ──やっと授業が終わった。 朝から何も喋って無い私をよそに、教師というのはベラベラと喋る。 あたしはそんな教師を退屈な相手の対象だとしか見ていなかった。 ───この時までは。 私は起立、礼。が終わったその直後にキョンの席のイスを引っ張った。 普段のキョンならあたしの机に頭をぶつけるぐらいの仕草はするはずだった。 …するはずだった、はずだった…。 なんで?どうしてそうも、いつもと…違うの? 私がイスを引っ張った直後、キョンは席から立ち、どこかへ行ってしまった。 他の生徒を見る限り、ぐるりと輪になるようにグループを作っており ──まるで私だけが孤立してるかのように見えた。いや、客観的に見ればそう…なのだ。 古泉「おやおや、ここはキョン君いじめスレですか。私の肉棒が唸りますね。」 そして孤立した今、あの時の退屈は私に話しかけてきた。 『もう、転校しちゃったら?』『何のために居るの?』『友達・・・・ダレ?」 いや…なんで?あのうっさいバカがいないだけでなんで…? 私は黒板を見つめなおすと、まだ書き写して無い部分をノートにとった。 ──いや、孤独なのが怖くて取る「フリ」をしていた。 それを察したかの様に、男子グループの内の一人が黒板を消しに行く。 ──ああ、いいわよ。もう、そことってあるしね…… 無意味に自分の両手を見つめると、涙が少しずつ沸いてきた。 『あたし…なにやってんの?別に悲しくない。こんなの中学の時と同じ。』 なのにこんなに悲しいのは──キョンという話し相手が──遠ざかってしまったから? …ああ、もうバカ!一生懸命書いたノートが涙でくしゃくしゃ! ホントに取り直さなきゃ…ダメじゃない…黒板……消えてるのに… 古泉「ハハッ、よくあることです。」 ──宮さんですよね?涼宮さん。 上から聞こえる声に私はハッと顔を上げる。 そこには女子グループの内の1人 いかにもやんちゃそうな女子生徒が私の名前を呼んでいた。 ハルヒ「な、なによ?」 このクラスには男子グループがあれば女子グループもある。 ──その女子グループのうちの1人が話しかけてくるなんて。 …相当面白いネタでも持ってきたのかしら? 私は自分の顔から少量ながらにも涙が溢れている事も気にせず その女子生徒を眺め返した。 女子生徒「これ、ハンカチ…」 ──えっ? …そうだ、あたしだって普通の女子生徒だ。 急にあたしの中の何かがサッパリと冷めたように抜けていく。 そういえば、言ってたな。キョン。 「お前は自己中すぎる。」 「付き合いきれん。」 「またそれかぁ・・・」 だけど… 『普通にしてれば可愛い』って── 古泉「なんか臭いぞ」 私はキョンの言葉を頭に描き返すと ふとハンカチを差し出している女子生徒の方を見ると。ようやく自分でも悟った。 ──私だって普通の女子高生…じゃない。 身を持って本当の退屈を知ったからだろうか、目の前にあるソレはとても輝いて見えた。 私の一番望んでいないもの、平凡。それが、今ばかりは輝いて見えた。 私は涙顔を見られた恥ずかしさもあってか、少し強気な顔になる。 ──話かけるなら、もっと早くにきなさいよ! 恐らく心はそう叫んでいた。 そして不本意ながらも、その平凡というなの橋に足をかけようとする。 ハルヒ「あ、ありがと。いやー最近涙腺ゆるんじゃってねぇ。 もしかして風邪かな?いや、これは花粉症かぁー!」 クラス全員が、一帯となったかのように静まり返る。 そして、ハンカチを差し出した女子生徒の声だけが冷たくこだまする。 ───ないね。やっぱり。 古泉「ハハッ、あとがこわそーだっと。」 静まりかえったと同時、いや、その後を追うように ハンカチを持ってきた女子生徒が声を漏らす。 ───ツマンナイ。 その声がクラスに響き渡ると、一つの女子グループから苦笑が聞こえた。 …ああ、そういうことか。一人を囮にして私を観察しにきたんだ…。 ……いい魅せ物でしょ?でも、アンタもタダの人間なのよ。 あたしを楽しませる事の出来ないニンゲン。 だから?あたしがアナタを楽しませてみろと? …ふざけんじゃないわよ! 急にあたしの中にあった怒りが爆発する。 それは反射的に行動にも現れ、ハンカチを差し出した女子生徒の手をパン!となぎ払う。 クラスには険悪なムードが立ち込める。 あたし…退屈……ははっ、あの教師と同じ……退屈。 『──転校って意外と悪くないんだぞ。ハルヒ。』 ……キョンの声だった。 古泉「続きを読むにはふんもっふ!ふんもっふ!」 キョンがクラスへ帰ってくると、先ほどの雰囲気が嘘のように、皆明るくなっていた。 谷口「よう、キョン!どこ行ってたんだよ!」 国木田「やっぱりキョンがいないとダメだねぇ。」 なに…この…偽善者共……! あたしの精神はもう限界だった。 なんで…キョン……コイツだけ…! あたしはキョンに嫉妬していた。 団長のあたしがダメでなんでコイツだけ…! しかしそんな事も、よくよく考えてみれば納得せざるをえなかった。 ───そっか、キョンは違うんだよね。あたしと。 この瞬間、どこかに壁ができたような気がする。 SOS団という薄い仕切り、そんなもの見掛け倒しにすぎなかった。 一方私に設けられたのはクラスという大きな壁。全員が団結して造った壁。 ──面白いじゃないのよ!逆にやりがいがでる! …こんな壁……あたし一人で… 気づけないわけが無い、あたし一人、強がってるんだ。 この空間で、一人だけで… 古泉「ハハッ、これが本当の閉鎖空間ですか?」 教師「えー本日を持ちまして、涼宮ハルヒさんは転校することになりました。」 …どいつもこいつもニヤケ面。 教師がいなかったら拳の1発や2発かましてるところよ。 ──そんな学校生活も、もう終わり。 唯一出来た思い出が楽しくなかったのが心残りかな? 教師の岡部がサラリと奇麗事を並べると、生徒の間からは拍手の音が聞こえた。 どうせ、万歳の拍手だろう。あたしを惜しむ者なんて一人もいない。 あたしの前の席にいるキョンが遠く見える。 …キョンは、どういう意味で拍手してるんだろう…? だけどもう、どっちでもいい、アンタともサヨナラよ。 ……少しだけ楽しかった。ありがとうね。 あたしはもう次の生活を思い描いていた。次こそ普通に生きれますように…。 そんな精神状態の中、ある音があたしの耳を刺激する。 ガラッ! キョン「どうしたんだハルヒ、お前らしくないぞ。」 ──えっ? ……キョン? 古泉「見て下さい、この体。機関のお偉い方さんからも好評なんですよ。」 ──嘘。キョンはあたしの席の前で拍手を送っている。 ただ、転校しようとしているあたしを、無関心な表情で…。 長門「…精神を攻撃する情報思念体。解ってしまえば、怖くない。」 突然現れた長門が教師である岡部に飛び掛る。 ──そんな光景に驚いている暇もなく、キョンがあたしの手を引っ張る。 キョン「いくぞ、こっちだ!」 その時のキョンの手は暖かかった。間違いない。本物だ。 あたしはふと顔に笑みを戻すと、そのまま倒れてしまった。 キョン「───おーい、ハルヒぃー。」 ん……ん? 気づけばあたしはキョンに抱きかかえられていた。 ──夢?だったの? キョン「お前相当悪い夢見てたんだな、ソファーから落ちるなんて普通はありえんぞ。」 普通の部室。普通の光景。普通の…キョン……。 ハルヒ「あ……あっ、そう! あたしたまにはだってこーいう事あるわよ!」 ──嬉しかった。夢でよかった。 そう思うと同時に、また眠気が誘ってくる。 ハルヒ「あたし、もっかい…寝る。 キョンも……。」 あたしは喉まで出かけた言葉を噛み殺した。 だけど、あの、手を引っ張ってくれた時のキョンは本当に頼もしかった。 ──そのうち、副団長も考えてやらなくはないわ。団長があたしでよかったわね、キョン。 古泉「さてさて…涼宮さんはまた眠ってしまいましたが…。」 長門「いい。……彼女に何らかの支障を出さない事、これが私達の役目。」 キョン「しっかしまぁ、やっぱり頼りになるよな、長門は。」 長門「………」 ───ハルヒ、お前は戦った。自分の精神に負けず、がんばった。 だから今は眠っていろ、SOS団の団長が倒れるなんて団員の俺達には、願ってもいない事だからな…。 ……お前が閉鎖空間にいる間、いろんな計画立ててたんだぞ。 お前が起きたら、どれから実行してやろう……っとと、それを決めるのは団長のお前だったな。はははは……。 Fin これを読んでくれた古泉萌えの皆さんありがとう 古泉「次週もマッガーレ!」 2話
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2845.html
「何であんたはメールの返事出すのに4時間もかかるの?信じらんない。」 「だから、晩飯食べた後に寝ることなんてお前もあるだろう」 「はぁ?電話の音もわからないくらいの超熟睡をソファーでできるの。あんたは」 「着信34件はもはや悪質の域だぞ。出る気も失せるのはわかってくれ」 「わからないわよ!あんたあたしがテストでいつもより悪い点とって落ち込んでるの知ってたでしょう!?」 「知らん。俺から見りゃ十分すぎる成績じゃないか。むしろもっと点数寄こせ」 「何よその言い方!あたしの貴重な時間を割いてキョンの勉強見てあげたのにあんた平均点にも到達してなかったじゃない。 やったとこと同じ問題が出たってのに、そっちこそ悪質よ。名誉毀損!!」 「俺は見てくれなんて頼んでない。お前が理由つけて俺の家に押しかけただけだろうが」 「何それ!最ッ低!!」 こんなやりとりがずっと続いた。 朝、HR前の時間。ハルヒとのたわいもない話をする時間が、 または恋人としての少し甘酸っぱいやりとりをする時間だったのが、些細なきっかけでこんな状態になってしまった。 俺はこんなやりとりをしたくない。でも、このときの俺はどうやら言葉を返すのに全力を尽くしていたらしい。 言葉でハルヒに勝とうなんて思っても無駄なのにな。 この頃になるとクラスメイトは俺たちが付き合っていることなど常識になっていた。 が、やっぱりこんな状態だと、気にかける目を向けてくる奴が結構いる。 谷口を見てみろ。古泉のニヤケ面と俺のやれやれをくっつけたような顔になってやがる。 それを伝えようとしても、伝える相手は一切こっちを見ようとしない。 担任が入ってきたおかげでひとまず救われたが、俺たちはもちろんのこと、クラス全体がしんみりした空気になってしまった。 そもそも俺たちがこういう関係になったのは半年以上も前だが、この関係はバレバレだった。 教室でいちゃついたり、付き合っていると言ったことは一度も無いのに不思議なもんだ。 休み時間も昼休みも、ハルヒは教室にいなかった。当然だろう。 早いものでもうすぐ6限が終わる。こんな状態で部室に行けるわけが無い。 冷静になって考え直してみると、やっぱり俺が謝らなきゃいけないんだろうな。 どっちが悪いとかそういう問題じゃない。こういう時は男が先に謝るものだからな。 それに善意で俺の勉強を見てくれているハルヒに対してあれは言いすぎだ。 とにかくはやくハルヒと話がしたかった。 頼む。頼むから部室で待っててくれよ。ハルヒ。 待っててくれと思うのは俺が掃除当番だからであり、掃除中は気が気じゃなかった。 そんな俺に寄ってくる影がひとつ。やっぱり谷口か。 「ようよう。この後は結局どうすんだ?」 「習慣通り団活に出るさ。何度も言うがお前は心配してくれなくてもいい。」 「涼宮と別れることになったらそのときは付き合ってやるぜ?」 「誤解されるような言い方はやめろ。それに俺はハルヒと別れたりはしない。」 「だろうな。明日までには教室の空気を軽くしろよな。ったくお前らはよー・・」 谷口の適当な愚痴を聞きながら掃除を終わらせ、俺は部室に向かった。 足が重い。 筋肉のつかない筋トレをしている気分だ。 そうしてやっと旧館に足を踏み入れて少し歩いたところで、俺は天使に出会った。 いやいやいつ見ても本当に天使のようなお方だ。 「朝比奈さん。」 朝比奈さんは水を汲みに行く途中のようで、メイド服を着てヤカンを手にしている。 俺の姿を見るやいな早足でこっちに向かってきた。どうやら俺に言いたいことがあるらしい。 なるほど。ハルヒからの伝言か・・・と思ったらそうではないらしい。 「わたしがあなたにどうしても言いたかったんです。」 なるほど。ヤカンは部室を出る口実ということですね。 「あなたと涼宮さんの事で・・・。」 「ああ、やっぱり今日は部室に行かない方がいいということですか。」 「違うの。その逆。涼宮さんすっかり落ち込んじゃって、どうしたらいいかずっとわたしと相談してたの。 だからあなたに安心してほしくて・・。あ、もちろんこの話は内緒ですよ。」 聞けばハルヒは最初は俺の愚痴を言っていたらしいが徐々に不安を口にしたらしい。 朝比奈さんの話に俺は頷くしかなかった。 ハルヒの奴・・・ 教室ではそんな様子は全然無かったのにな。 俺の前で沈んだ表情を見せないのは意地か。まぁ俺も他人のこと言えないんだけどな・・ 朝比奈さんの話によると長門と古泉は一緒に図書室で待機しているらしい。 「キョン君。がんばって。」 そんなに大袈裟な事なのかね。これ。 コンコン 部室のドアをとりあえずノックしてみる。返事は無い。 恐る恐るドアを開ける。いつもの席にハルヒがいた。 パソコンが見事に顔を隠してくれている。 俺はドアを閉め、意味は無いと思うが鍵も閉めた。 とりあえず口を開こうかと思った。 「キョン。ちょっとこっち来なさい」 が、ハルヒのこの一言によって拒まれる。何を言おうというのだ。 被害妄想が頭を駆け抜けたが、ハルヒはパソコンの画面に興味を示してるようだった。 よく見たらハルヒの奴はいつもと同じ表情 ・・に見えるが少し無理してやがる。 長門の表情すら読める俺が気づかないとでも思ったのか。 こいつはほんとにもう・・・ 「これ見て。なかなか面白そうだと思わない?今度の土曜日にどう?SOS団で!」 面白いぜ。ハルヒ。お前のその人間臭さというかなんというかそんなものがな。 俺がパソコンの画面をあまり見てないことなんてお前はわかってるんだろう。 そうやってハルヒがしゃべって、俺がうなづいているだけで5分経過。 そろそろ言おうとしたことを言わせてもらおうか。 画面を指差すハルヒの手を握る。 ハルヒはほんのわずかビクっとしてこっちに不可解な視線を送って、「何?」と呟いた。 その表情から不安を感じ取る。表情は素直なんだな。不覚にも可愛いと思ってしまうじゃないか。 「あー・・。朝は ごめん な。」 改めて考えると色々と恥ずかしい。顔よ頼むから赤くならないでくれ。 「・・・」 「あんなことを言うつもりは全然無かったんだ。」 「・・・」 「勉強だってハルヒに見てもらうの、いつも楽しみにしてるから。」 「・・・」 「俺いつも自分のことばっかりで・・だから・・・。」 「フフッ・・アハハハッ」 ハルヒは急に笑い始めた。おかげで赤面がさらに赤面した。 そしてなんともいえない安堵感も広がった。 もしかしてこう言い出すのをわかっていたとか・・・もうどうでもいいか。 「アンタにそんな真面目な顔は似合わないわよ!」 もう結果オーライだ。 ハルヒがまた俺の前でこうやって笑ってくれるだけで良い。そういうことだ。 いつぞやの時よりは溜息が少なくなりそうだ。 少ししたら空気を察した古泉長門朝比奈さんが入ってきた。 朝比奈さんはウィンクをしてくれた。ありがたいのですがまさか聞いてないですよね。 古泉のニヤケ顔が素に見えるのも気のせいですよね。 活動終了後、俺はハルヒと帰り道を共にする。 「ハルヒ」 「何よ」 「俺の勉強、また近いうち見に来てくれないか。」 「言われるまでもないわよ。あたしが見ないで誰があんたの面倒見るのよ」 「じゃあ来週の土曜日、でどうだ。 ・・・泊まりで。」 「い・・・えっ!?でもあんたの」 「家族が旅行なんだ。寂しいから、な。」 やっぱりちょっと厳しいかな、と思ったが返事はすぐに返ってきた。 「もうほんとにしょうがないわね。一晩かけてじっくり教え込んでやるわ。特に数学!わかった!?」 「ああ。」 細かい予定を話し合っているうちにもうハルヒの家に着いてしまった。 遠回りすればよかったな。どうせ同じか。 「じゃあねキョン。明日寝坊すんじゃないわよっ。」 「待ってくれハルヒ。」 「今度は何?」 「キスしたい」 「はっ?・・・ んっ!?」 ダメだな俺。相手の返事ぐらい待った方がいいぞ。 ハルヒは逃げやしないんだからそんなに必死に味合わなくてもいいじゃないか。 俺は数秒で済ませておくことにした。やっぱり恥ずかしいしな。うん。 「・・ったく・・・キョン・・・」 「何だ。」 ネクタイを掴まれた。 「あの・・今日は・・あたしも・・・悪かった・・わよ。」 「なんて言った?」 実は聞こえてたけどわざと聞いてみた。 「はん。その手には乗らないわよ。」 「だめだったか・・・ってぅおっ!?」 ネクタイを引っ張られ、そのまま俺はまた目をつぶる羽目になる。 珍しいな。ハルヒがあんな謝り方するなんて。 珍しいな、ハルヒからのキスなんて。 もっしかして本当はずっと言おうとしてたんじゃないか? 最後の最後まで我慢してたんだろう。ほんとに頑なな団長さんだな。 俺たちはしばらくお互いを貪るのに夢中になった。 多分最長記録だろう。 俺がそうなるようにしたんだからな。 後にハルヒは呟いた 「舌入れるんじゃないわよエロキョン。」 ・・・さて。 朝日が漏れる部屋に寝っころがってる俺は天井に向かって悩ましげな視線を送る。 4日目だな。もう慣れた頃合だ。 時間が随分飛んだな。1~3日目は少なくとも半年以内にまとめられるが、今日はいきなり半年以上も飛んだ。 考えても意味は無いが、もしハルヒが俺との思い出を見せているのなら、昨日の夢の日と今日夢の日との間に何も無かったのはおかしい。 ハルヒと気持ちを確認してから、この喧嘩をする日までだって沢山の思い出がある。 デートと呼ばれる事だって何度もしたし、ハルヒの手作り弁当だって食った。初めて手を繋いだ日だってわりと覚えている。 キス・・・だって少ないが何回かした。この喧嘩した日まで軽いのだけしか・・ってなんか自分で恥ずかしくなってきたぞ。 次に見るとしたらそうだな。もしかしたら、あの泊りがけの勉強会かもしれない。 って何考えてるんだ俺は。ハルヒがもしかしたら俺に何かして欲しいのかもしれんのだぞ。 ちょっと早いがダイニングに向かう。 ハルヒも起きたばかりのようだった。 「あら?あんた早いわね。丁度いいわ、たまにはご飯作りなさいよ。」 「ああ。」 どうしても夢の中のハルヒと重ねて見てしまう。 そういえば最近あの頃みたいにデートとかしてないな。 俺は仕事で忙しいし、その事に対してハルヒは「しょうがないでしょ。さっさと昇進しなさい」と、素で言う。 これは間違いない。あと空いた日があっても、運悪くハルヒが体調を崩したりしてたな。 朝飯の準備をしながら、俺はとりあえずハルヒに少し聞いてみようと決めた。 「キョン。これちょっと油っぽいわよ」 「そうか?」 「ったくあんたは料理上手くならないわね。」 「悪かったな。それとお前のが上手すぎるんだ。」 「そう。誉めても何も出ないわよ」 素っ気無い態度だな。ハルヒらしいといえばそうなんだが・・・。 なんというか・・・もっともっと笑って会話がしたいものだ。 そんなわけでそろそろ本題に入るか。 「ハルヒ」 「何?」 「どうだ?今度の日曜、出かけないか。」 「あんた、昇進試験が近いんでしょう?そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないの。」 痛いところを突かれた。時間を止めて言うことを整理できればいいんだがな。 まっすぐに俺の目を見て心配そうに言っているからにはハルヒは面倒くさいわけでは無さそうだ。 これは本音だろう。 「でも、たまにはお前とゆっくり過ごしたい。お前だって・・」 「あのね、あんたは変なところで優しすぎるのよ。 試験が終わって仕事がちょっと落ち着いたら散歩でも旅行でも行けばいいの。それに・・・。」 「どうした?」 「・・ちょっと気分悪い。最近風邪気味なのよ。」 風邪気味だって? 声も枯れてない、鼻水も咳も出てない、だるそうにも見えない。 慌てておでこをくっつけてみる。 ・・・熱も無い。 でもハルヒが言うからにはそうなのだろうな。 「・・だから最近体調がおかしいって言ったでしょ。」 「そうか・・・俺にできることは何かあったら・・」 「それはそうとあんた時間そろそろやばいんじゃない」 「うぉ!?いけねっ」 時間の野郎、いつのまに進んでやがった。 これじゃハルヒと満足に会話もできない。 でも少ないが収穫はあった。 ハルヒが「今週末は○○に行くわよ!」と引っ張っていかないのは俺の仕事事情を心配してるから。 そしてハルヒの体調がおかしいということだ。今まで普通に見えたのになんてこったい。 明日にでも古泉に電話しよう。ちょっとは解決に役立つかもしれん。 俺が鞄を持って玄関を飛び出す。 ハルヒはしっかり玄関で「いってらっしゃい」と言ってくれた。 素っ気無いと思いきや、ちゃんと出迎えてくれるところがハルヒらしいかもな。 俺はその夜早く眠りについた。 早めに寝ておいたほうが良いと判断したからな。 「ほら、ここ違う!」 「そこは暗算でやっちゃだめ!」 「まさかこの公式忘れたんじゃないわよね」 ハルヒのスパルタ教育は留まるところを知らない。 土曜日。夜。家族は旅行。一応彼女と2人きり。 ・・・見事な337拍子だな。 こんな用意されたようなシチュエーション二度とないだろう。 ・・・・そんなことを一瞬でも考えたら負けかもしれん。 ってほどハルヒは密度の濃い家庭教師に徹していた。 早めに晩飯を済ませて俺の部屋に閉じこもり、もう4時間が経過していた。 休憩や雑談を挟みながらも効率よく勉強を勧めていく様には俺も感心せざるを得ない。 今日のためにいろいろスケジュールを考えていたとしか思えない。実際そうなのだろうな。 最後の問題が解けたときはもう時計の針は日付変更線を越えていた。 「先風呂入るから」と言ってハルヒは部屋から出て行き、俺は一息つく。 ハルヒの使っていた教科書やら問題集やらをそっと覗いてみると、案の定線やメモやらがびっしりと書き込まれており、俺のためと思われる書き込みもある。ほんとに忙しい団長さんだ。 こら。ニヤケ顔になってるぞ。今日だけでもしっかりしなきゃな。 俺が風呂から上がって部屋に戻ると、ハルヒは俺のベッドで眠りこけていた。 布団は用意すると言った筈だがそういや準備してなかったな。 それ以前に寝る直前にまとめ問題やるって言ってたのに。教師が先にばててどうする。 ・・・なんてな。ご丁寧に目の下にうっすらとクマなんかつくっちまってさ。 もし俺のために徹夜してできた・・とかだったら・・・、いや考えちゃだめだな・・・。 ハルヒの今日のスケジュールはほぼ完璧だった。 俺の今日のスケジュールは俺自身でさえ未知数なのにな。 ベッドに腰掛ける。 こんな時間だと俺でも眠い。まとめ問題は朝にでもやればいいだろう。 ハルヒに視線がいく。風呂上りの女の匂い、乾ききっていない髪、いつもの活発さとのギャップ、独占感、無防備に上下する肩・・・ハルヒの全てが俺を誘ってるようにしか見えない。・・・だめだな俺。 とりあえず起こしたほうが良さそうだ。 「ハルヒ、起きろ。ハルヒ、おいハルヒ」 「・・・ん・・・。キョン?」 こいつは低血圧なのか。スローな動きで起き上がり半分しか空いてない目を向けてくるハルヒ。 なんかもう反則どころの騒ぎではない。とにかく俺は隣に座るよう促す。 「もう寝るのか」 「・・・・どっちでもいい」 「眠いのか」 「うーん・・なんか思ったよりも疲れてただけよ。」 「徹夜で俺の為に予定表組んでたんだよな」 「・・・それが何」 「ありがとう」 「珍しいわね。あんたが素直に感謝するなんて」 「当然だろう。好きなんだから」 「・・・・キョン・・・」 ハルヒの手を握り、愛しむように撫ぜる。 引き寄せられる勢いでキス。そしてキス。 見つめあい、ハルヒが優しく微笑んだところで俺はハルヒを押し倒した。 「やっ・・!」 ハルヒは驚いた顔で見つめてくる。・・・当然だろうな。 徐々に不安の色も見えてきて、俺は動揺する。 「ハルヒ・・・その・・・いい、か?」 「・・・」 ハルヒは不安げな表情のまま黙り込んでしまった。 普通に考えればいきなりは無理に決まってる。急に罪悪感が湧く。 「すまん・・・すまない・・・あー・・」 「・・さい。」 「・・・へっ?」 「優しく、しなさい。」 「ハルヒ!?」 ハルヒは目を逸らして唇をキュッと結んだ。そしてちらりとこちらを見て。顔をちょっと赤くした。 心臓が壊れたように暴走を始める。俺はもう何も考えられなくなったようだ。 当たり前というべきか、谷口から借りたAVと現実は大きく違った。 ハルヒは目をつぶってずっと黙り込んでいた。 たまに目を開けて俺を見ては、荒くなった息を整えようとしていた。 俺が「声我慢しなくていいぞ」「力抜けよ」と声をかけても生返事だ。 俺自身、興奮しきって夢中だったせいで鮮明には覚えてない。 結構長い時間前戯をしていたが、結局ハルヒはずっと堪えるような表情だったと思う。 でも徐々に俺の努力が実ってきたようで、気が付いた時には眉間のシワも消えていた。 むしろ今度はこっちが堪える番になってきた。ので、俺は声をかけた。 「ハルヒ、その・・大丈夫か。」 「・・・ん」 「嫌だったらやめようか」 何故か俺はハルヒがここでどう否定するかを楽しみにしていた。 ハルヒは首を横に振る。もうそれだけで俺は衝動に支配されそうになる。 ハルヒは相変わらずだんまりなので「じゃあいくぞ」とでも声をかけようか迷ってる時に、ハルヒが口を開いた。 「・・キョン」 「どうした?」 ここでハルヒはいつも俺に見せるような不適な笑みを見せた。 俺が驚いている間もなく、ハルヒははっきりと言った 「ほら、早くきなさいよ。」 痛みを堪える表情が、喘ぎを堪える表情になる。 シーツを掴んでいた手が、俺の背に回される。 甘い息の中に、すがるように俺を呼ぶ声が聞こえるようになる。 全てが俺を刺激し、自我のコントロールを不能にした。 そのときはっきりと覚えていたのは、俺が壊れたようにハルヒの名前と愛の言葉を叫んでいたこと。 そして終わった直後の短い会話だけだった。 「・・・キョン」 「ん?」 「愛してる」 そしてハルヒは更に耳元で、俺の名前を呟いた。 こいつが一度も呼んだことのなかった、俺の本当の名前を。 5日目、予想通り。 布団の中での俺の下半身はどえらいことになっていた。俗に言う夢精である。 なんとなくだが、今日もリアルな夢を見るとしたら内容はあの夜しかないとわかったからな。 とにかく見つかる前に処理しよう。 どうせなら夢の続きとして次の朝まで見ていたかった。 今でもよく覚えている、あそこまで俺に甘えてきたハルヒは当時新鮮すぎたからな。 といっても大したことはない。朝、カーテンの間から差し込む光で目が覚めた俺たちは笑いあい、キスを繰り返し、気持ちを素直に口にする。 布団から出ようとする俺の腕をひっぱって「もうちょっと・・・」と恥ずかしそうに言うハルヒは可愛いってレベルじゃなかった。 その後の会話で知ったことだが、ハルヒは俺がやろうとしていたことを知っていたらしい。 なんでも、前日に空にしたゴミ箱に唯一あった薬局のレシートを見てすぐにピンと来たらしい。 驚いたり不安になったりしたのは、俺が強引だったから・・・って俺はそんなつもり無かったんだけどな。 更に補足をしておくと、ハルヒがだんまりなのはこの最初だけで、次からは実にハルヒらしい反応を味あわせてくれた。俺もそれに応えようといつも必死だったな。 たまには思いっきりいじってやりたくなるが、なかなかそうはいかないみたいで、むしろハルヒが攻勢になって俺をヒーヒー言わせる時もあったぐらいだ。 いかん。そろそろ現実に帰らねば。 夜、仕事が終わった後俺は古泉に電話した 「古泉です」 「よお。久しぶりだな」 「珍しいですね。あなたから僕に連絡をよこすなんて。」 「そうでもねえよ。」 適当に挨拶をして、俺は早速本題に向かうことにした。 説明はそう長くはかからなかった。 ここ数日、高校の時のハルヒとの思い出が夢として出てくること。その夢がはっきりしていること。 ハルヒがもしかしたらイライラしてるかもしれないこと。 「で、だ。ハルヒの調子はそっちから見たらどうなのかなと思ってな。」 「そうですか。残念ながらあなたの期待には沿えません。その話には正直驚かされました。 何度でも言いますが涼宮さんはあなたと共に生活を始めてから本気でイライラすることはほとんど無くなりましたからね。 安定したとは言い切れませんが、今もです。」 「そうか。」 正直こういう結果じゃないかと薄々思っていたのであまり驚かなかった。 でももしちょっとでも異変がおきたらすぐに知らせろよ。 「もちろんです。しかし僕が思うに、普通に考えてあなた自身で解決するのが望ましいかと。」 「やっぱりな」 結局古泉に電話してもあまり解明が進んだとはいえなかった。 まぁ深刻な事態ではなさそうで安心した。そのときは嫌でも巻き添えを食うからな。 自分で言うのもあれだが、ハルヒのことを一番解ってるのは俺だ。俺しかいないんだ。 もしハルヒが俺に何かを求めたい、または求められたいのなら俺は全力で応えたい。 努力するさ。全力で努力するから。 だから・・・その間ぐらいは 懐かしい夢ぐらい見てもいいよな。ハルヒ。 俺は今、ハルヒの部屋の前にいる。 扉をノックするのが怖いが、それじゃお先は真っ暗だ。 なので、ノックする。返事は無い。 「勝手に入らせてもらうぞ。」 俺は恐る恐るハルヒの部屋に入った。入り口で立ちすくむ。 ハルヒは机に座っていた。出てけ、とも来るな、とも何も言わなかった。 後ろ向きなので表情はわからない。 ハルヒとはもう何度も喧嘩になった。 言い合いみたいなものは毎週のようにやっている。 大抵俺がやれやれとでも言いながらハルヒに譲ってしまうのだが、俺が引かなきゃハルヒは滅多に引かない。その結果がこれだ。 ハルヒは俺を罵倒し、部屋に閉じこもって3時間。 俺も大層怒りに震えていたが、ようやく頭が冷えた。俺から干渉するのは不服だがこれがルールというものなのかね。 悪い方が謝るなんて誰が決めた。問題は和解できるかどうかなんだよ・・・な。俺たちは。 俺たちが同棲を始めてまだ半年。 別々の大学に通っているせいで色々と食い違ったりして大変だがなんとか乗り切ってきた。 が、お互いにいろいろと溜め込んでいたらしい。 ハルヒは食事を作るので、俺が突然「悪い!今日飲み会行くから晩飯いいや」 とメールを送ったりすると大層ご立腹になされた。当たり前だよな。 しかしそれはハルヒも一緒で、同じことを何度も言い聞かせたこともあったっけ。 ストレスと似たようなものだろうか。気づかないうちにいつの間にか溜まって、気がついたら暴発してしまう。 付き合い始めて高校卒業まではハルヒと一緒にいてストレスなんざ溜まる余地も無かったが・・・ 同棲を始めてからは、何かと不憫が続いてしまったようだ。 今日だって、きっかけはTVのチャンネル争いから始まり、どうして根拠のない浮気話にまでなるのか。 でもこれをすらりと乗り越えるのが俺たちなんだよな。 さて、ハルヒの背中に向かって俺は言葉をつむぎ始めた。 何を言ってるかは自分にもいまいちわからない。 なんせ今は夜中の2時である。生理的にきつい。 気づいたら土下座なんかしている。時計は3時を越していた。 俺は何を言っているんだ。声が枯れてるような気がするがどうでもいい。 ハルヒの声が聞こえた、気がした。 床しか見えなかった俺の視線にハルヒの足が入ってきた。顔を上げようとした俺だが、頭を手で押さえられた。 「何でいつもこうなのよ。」 ハルヒの呆れた声が届いた。まったく何でいつもこうなんだろうな。 「いつもいつも、何であんたが謝るのよ。」 床とハルヒの膝しか見えないぞ。 「ほとんど悪いのはあたしなのに」 どうでもいいだろそんなこと。 「明日あんたの好きなものでも作ってごめんって言うつもりだったのに。」 それは是非実行してくれ。 「何であんたは全部背負い込むお人よしなのよ。」 声、震えてないか。 「もうしゃべらないで!」 「うぇっ!?」 頭を上げようとした俺をハルヒは膝に押さえつけた。いや・・・いろんな意味でやばいぜこれは。 それでも上を向こうとする俺にハルヒは目隠ししやがった。 「だーめ・・・。」 別にどんな顔してても俺はどうも思わんぞ。 と言いたいがここは言わない方がいいだろうな。 それでも今のハルヒがどんな顔をしてるか見たかったな。 しかしよくよく考えてみろ。 膝に頭を押さえつけられ、そのまま仰向けになる。要は膝枕だな。 目隠しをされる。会話が終わる。そして今はもう夜中の3時過ぎだ。 それで気持ちが落ち着いたらどうなるか。サルでも分かるな。 俺はそのまま見事に眠りこけてしまったわけだ。 ・・・寝足りないな。 チュンチュン聞こえるのは鳥の鳴き声だろう。ってことは今は早朝か。 この匂いはハルヒの部屋・・・そうか、俺は深夜にハルヒの部屋に押しかけたんだったな。 なんだかあたたかい。そういえば体に毛布がかかっている。ハルヒの奴・・・ 目を開けようと思えば開けられるだろう。顔を隠すものは何も無い。 でもそれは無理ってもんだ。頭や髪の毛を撫ぜられているんだからな。 手を撫でられたり、耳元をいじられたり、首に触れられたり・・・本当にハルヒなのか? うふふ・・っと軽い笑い声が聞こえた。畜生・・・かわいいじゃないか。 でもちょっとだるいんだ。床に寝てるようじゃ疲れは取れないからな。 だからもう少し・・・。もう少しだけ寝かせてくれよ。 もう少しお前の温かさに触れていたいから・・・ ・・・・やっぱり寝足りない。 素直に起きて布団に入ればよかったかな。 すーすー寝息が聞こえる。目を開けてみようか。 やっぱりハルヒは寝ていた。 俺の体の位置がずれていたのはハルヒが壁にもたれられるようにしたのだろう。 時間を見たらもうすぐ昼じゃないか。大学を思いっきりサボってしまったわけだな俺たち。 ちょっと惜しいがむくりと起き上がってみる。 普通部屋の壁にもたれかかって寝れるか?電車で寝たほうが疲れが取れるんじゃないかと思うな。 だから俺は俗に言うお姫様だっこでハルヒをベッドまで運ぶことにした。 ハルヒを寝かしつけてるうちに、俺は無性にさっきのお返しがしたくなった。 恐れ多いがハルヒのベッドに忍び込み、髪の毛をなでてみた。ついでに色々いじくってみる。 なんて柔らかいんだろう。なんて思ってるうちにハルヒがもぞっと動いた。 うーん と唸るハルヒ。目をつぶったまま「キョン・・んー・・」とか言うな。可愛すぎるから。 とりあえず俺は「今日は土曜日だからゆっくり寝ろ」と繰り返し呟いておいた。 しばらくしてハルヒは再び寝息を立て始めた。俺ももう眠くてたまらんな。心地よすぎる。 腕をハルヒに回して俺も寝ることにした。 昼過ぎにハルヒに叩き起こされ罵られまくったが別に後悔はしていない。 ・・・チュンチュン聞こえるのは鳥の鳴き声だろう。ってことは今は朝か。 この匂いは俺の部屋・・・そうか、俺はリアリティのある夢から現実に帰ってきたんだな。 ってな。もうそろそろ数字が曖昧になってきたが、今日で6日目だろう。 まさか同棲してる時の出来事が来るとは思わなかった。 進路騒ぎ、高校卒業、同棲開始、大学入学・・・いろいろあったはずなのに1年ぐらいは飛んだぞ。 これまでから察するに、もう高校にいた頃が夢に出てくることはないだろう。年月順だからな。 これでいくつか推測できることがあるが、はっきりしているのはこの夢現象はいつか終わるということだ。 寂しいのか怖いのかほっとするのか・・・変な気分だが、そのときまでに真実がわかるといいな。 今日は日曜日だ。俺の会社は休みなのでれっきとした休日だった。 俺は勉強と資料探しを兼ねて図書館に行くことにした。 丁度話をしておきたい相手もいるしな。 「長門」 やっぱりいた。椅子に座ってこれまた御堅い本を読んでいる。 古泉がダメでも長門ならわかることがあるかもしれない。そういうわけだ。 「よう、元気にしてたか」 コクン、と長門は頷き、古泉よろしく適当に挨拶した後俺は早速説明を始めた。 話が終わると長門は得意の単語説明を始めた。 「あなたに夢を見せているのは涼宮ハルヒ」 なんと。いきなり核心を突いてきた。 「やっぱりそうか。理由はわかるか?」 「不明」 「・・はは、そうだよな。」 その後も俺はいろいろと質問攻めにしたが、結果はあまり芳しくなかった。 それでも、わけのわからん宇宙人や未来人じゃなくて、ハルヒがこの現象を起こしているとわかっただけでも俺は良かった。 俺は最後に気になっていた質問をした。 「ハルヒがここのところ体調を崩している時があるんだ。原因がわからなくてな」 「・・・」 「本人は風邪って言ってるんだが」 「・・・」 「もしかしたらここ数日の夢と関係あるんじゃないかと思ってな。」 「・・・わからない」 俺が意外に思っているともう一言付け加えられた。 「夢とは関係ない。」 俺は少したわいもない話をした後、長門に礼を言って図書館を出た。 なるほど。古泉が言ってたことにも納得するな。こりゃお手上げになりそうだ。しないがな。 しかしハルヒの仮風邪とハルヒの夢現象が関係ないとは驚いた。 ということはハルヒは本当にたまに気分が悪くなると考えざるを得ない。 これじゃますますわからん。せめて夢にヒントが出てくればいいのに。 いや、本当はあるはずなんだ。間違いなくハルヒが見せてるんだからな。 今日も早めに寝ることにしよう。 さっさと寝て、また夢を見たいんだ。 少しでもヒントをつかみたいからな。 それ以前に、俺は毎晩ハルヒと過ごした日を夢で見るこの奇妙な習慣。 それが楽しみになっているんだからな。 涼宮ハルヒの糖影 転へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3571.html
さて、今現在俺はとある病院のベッドに寝ている。 左腕と左足はガッチリとギプスで固められており、当たり前だが全く動かせない。ある意味左半身不随である。 と、ここまで表現すればもう俺が左腕と左足の骨を折ってしまったということは理解していただけるだろう。 とりあえずここまでの経緯を簡単に説明することにする。 事の始まりはハルヒが階段で足を滑らせたことだった。 ハルヒより数段下にいた俺はハルヒの悲鳴に驚いて後ろを見た瞬間に足をすくわれ、 そしてハルヒもろとも下の階まで転がり落ち、気付けば腕と足がポッキリと逝っていたというわけさ。 そりゃまあ、怒りの感情も少しは湧き出てきたが、あのハルヒに泣いて謝られたら誰だって許さざるを得ないだろう。 ただ、ハルヒも右足を折ってしまい、同じ病院に入院している。いや、同じ病院と言うと範囲が広すぎるだろうか。 「ねぇキョン、暇なんだけど、なんかおもしろいことない?」 何故か同じ”病室”の隣りのベッドにいるわけだからな。 ~キョンとハルヒの入院生活~ 不定期保守連載始まるよー\(^o^)/ *** 「ところでさ、あたしたちが一緒の病室にいるのっておかしくない?」 そう言われてみるとそうだよな。 「男女を同じ病室に入れておくなんて普通じゃ考えられないわ。この病院PTAに目つけられるわよ」 PTAはどうか知らんが普通じゃないってのには同意見だ。とりあえずナースコールでもして抗議するか。 「えっ・・・・・・ちょっちょっと待って!」 どうした?お前だって俺なんかと一緒の部屋に入ってるのは嫌だろ。 「えっと、あのー、うーんとわざわざナースコールしてまで部屋分けなくてもなーって」 じゃあ次に誰か来たら言うか。 「いやいいの!別にこのままでいいから!キョンも言うのめんどくさいでしょ」 別にめんどくさくは・・・・・・ 「だーかーら!このままでいいって言ってんの!」 結局ハルヒのよくわからない意見に強引に賛同させられることとなった。やれやれ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「きつね」「ねこ」「古泉」「人の名前もいいの?みくる」「ルーマニア」 さてハルヒが暇だ暇だとうるさいので定番のしりとりをやっているわけである。 「アジア」「アイス」「ス?・・・・・・ス・・・す・・・」 スは悩む所じゃないだろ。スイカでも酢昆布でもなんでもあるだろうに。 「す・・・・・・す・・・・・・すき・・・・・・」 あ、悪い、聞こえなかった。 「・・・・・・スキー!スキーって言ったの!」 急に大声を出されて驚いた。ハルヒ、聞き取れなかったのは悪かったが、何もそんなに怒らなくても。 「いいから早く次!」 あー、この場合キなのかイなのかどっちなんだ? 「あーもう!バカキョン!飽きた!寝る!」 いや、まだ夕方の5時なんですけど・・・・・・ キョンとハルヒの入院生活保守 *** 本当に5時から寝てしまったハルヒは案の定夜中に眠れないとか言い始めた。 そして結局またしりとりをやっているのである。もう就寝時間は過ぎてるし寝たいんだが・・・・・・ 「タンス」「スイカ」「傘」「酒」 「け」か・・・・・・うーんなんだろうな。眠いから頭がちゃんと働いていないな。 「・・・・・・そうだなハルヒ、『結婚しよう』でどうだ。」 「え?ちょっちょっとキョン、いきなりなに言うのよ!」 「本気だぞ?」 「・・・・・・」 「ほらしりとりの続きだ。『う』からな。」 「・・・・・・『うん』・・・・・・」 「『ん』が付いたぞ。俺の勝ちだ。言ったもん勝ちってとこだな」 「・・・・・・負けたわよ。キョンの優しさにね」 ・・・・・・毛糸。ほら『と』だハルヒ。・・・・・・ハルヒ? 見ると、さっきまで眠れん暇だと騒いでいた団長様がすやすやと寝息を立てているではないか。 しかもどんな夢を見ているのか知らんが、ニヤニヤと笑いつつ涙を流して寝るという曲芸を披露している。 まったく、わがままなお姫様だこと。 おやすみ、ハルヒ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** さっきからハルヒのベッドから聞こえてくるカチャカチャという音は、さっき古泉が持ってきた ルービックキューブの音である。確かに暇つぶしには丁度いいだろう。他人に迷惑をかけないしな。 たまには褒めてやろうじゃないか。グッジョブ古泉。 ・・・・・・まさか1時間やって1面もできないとは思わなかったが。 こりゃ相当イライラしてるな。古泉も計算外だっただろう。・・・・・・閉鎖空間が発生してないといいが。 しょうがない。実はルービックキューブを40秒で6面完成させられる俺が助け舟を出してやろう。 どうやら1面のうち8つは揃っているようだ。こうなりゃ後は簡単だな。 ハルヒ、まずはその右の面を奥に回すんだ。 「・・・・・・」 お、回した。今日はやけに素直だな。じゃあ次は前後の真ん中の奴を右に回す。 で、さっきどかした奴をそこに入れて、あとは戻せば 「できたー!!!!! キョン、ありがと!」 今一瞬ドキッとしたのはハルヒの反応が思ったのと違ったからだぞ。 間違ってもその100Wの笑顔にときめいたわけじゃないからな。 「・・・・・・ねえ、キョンってもしかしてこれ得意?」 ああ、実は得意なんだなこれが。 「・・・・・・だったらもっと早く教えてくれたっていいじゃない・・・・・・」 すまんな。また詰まったら言ってくれよ。 「今日はこれはもういいわ。なんかおもしろいことない?」 やれやれ、結局俺が話し相手になるのか。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 次の日、どうにか片手でルービックキューブができないだろうかと思っていると谷口がやってきた。 来なくていいのに。 「お前せっかく人が心配して来てやったというのにそれはないだろ」 冗談だ冗談。 しばらく3人で適当に世間話をした後、谷口は俺に耳打ちしてきた。 「ところでお前アッチのほうはどうなってる?」 アッチ? 「そろそろ溜まってきた頃じゃねえか?」 溜まる?ああストレスか。 別に溜まってはいない。ハルヒが相手してくれるしな。 「・・・・・・お前、今何と言った?」 いやだからハルヒが相手してくれてるから問題ない、と。 「お前らいつの間にそこまで・・・・・・しかも病院で・・・・・・ナントカ病棟みたいな名前のゲームのやりすぎじゃねえのか?」 何のことだ。 「ちょっと涼宮にも話聞くわ・・・・・・」 と、谷口は向こうのベッドに近づいた。なにやらボソボソと話しているのが聞こえる。 「はあ!?アンタバカじゃないの!?」 「あっちょっと痛い痛いちょっやめルービックキューブは痛いってやめろって角は危ないって」 ガンガンという音が生々しい。 「ちょっとバカキョン!谷口に何喋ったのよ!」 そもそも俺はたいしたことは話していない。谷口はどんな勘違いをしたんだ? ハルヒは顔真っ赤だしさ。 谷口がこぶだらけになって帰ったあと、俺はトマトのように真っ赤になって怒っているハルヒを眺めつつ、 無残にもバラバラになってしまったルービックキューブをどうやって修復しようかと考えていた。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「どうもこんにちは。元気にしてるかな」 今日はなんかどっかで見たような気がする男がノートパソコンを抱えて来た。 「アンタ誰だっけ?どっかで見たことあるんだけど」 「コンピ研の新部長になった者でして」 ああ、どうりで見たことあるわけだ。なんだかんだで関わりはあったからな。 「で、コンピ研があたしたちに何の用?」 「そ、そんな怒らないでくれよ。暇してるって言うからこれを持ってきてあげたんだ」 そう言うと、新部長殿は持っていたノートパソコンを一台ずつベッドの横の棚に置いた。 「長門さん直々に頼まれちゃこっちも断れなくて。あとこの病院無線LAN付いてるらしいね、珍しい」 「有希が?ふーん・・・・・・まあ、アンタもSOS団コンピ研支部のメンバーなんだからね。 これからも団長に気を遣うようにね」 こらハルヒ、また先輩に向かってそんな態度で・・・・・・いやなんかもう本当すいません。 「いや、いいんだよ。もう慣れたからね。でも本当に素直じゃないね、君の彼女」 場の空気が凍った。 「なななななんであたしがキョンなんかの彼女なのよ!!!」 「えってっきりそうだとばかり」 「この!オタク!オタク!」 「いやオタクは否定しないけど、痛っ痛いなんだこれ!?」 それはバラバラになったルービックキューブです。片付けるのは俺です。 「こここここはひとまずたいさーん」 最後まですいません。今度謝らせます。 ハルヒもそんな顔真っ赤にして怒らなくてもいいじゃないか。 「・・・・・・バカキョン」 何がだ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 今日は俺とハルヒが入院してから最初の土曜日である。自分がこんな状況にあるにも関わらず当たり前のように SOS団を招集するハルヒはどういう思考をしているのであろうか。たまにはメンバーを休ませるなり 自分も休んだりすればいいものを。 まあいいか。古泉と話したいこともあったしな。 「んーなにこれ?ウォーリーを探さないで?」 「あのキャラを探すゲームですか?やってみましょうよ」 とりあえず女子3人組をパソコンで遊ばせてる間に古泉とこっそり話すことにした。 「この状況では電話でも込み入ったことは話せませんしね。メールも危険ですし」 そうだな。さて本題だが、気になることが一つある。 「なんでしょう」 ハルヒの骨折は例の能力で治ったりしないのか? 「ああ、そのことですか。きっと彼女が望めばすぐにでも治ると思いますよ」 じゃあ何で治ってないんだ、おかしいだろう。 「理由は至極簡単なものですよ。つまり彼女はそれを望んでいないのです」 ・・・・・・もうハルヒの思考について考えるのをやめていいか?まったくついて行けん。 「いい加減にあなたにもわかっていただきたいものですね。ちなみに僕や機関のほとんどのメンバーの予想は あなたが退院すると同時に彼女も退院するというものですが、どうでしょう?」 いやどうでしょうと言われても。どこにその根拠があるのかわからん。 「まったく、あなたらs「っひゃああああああああああ!!!!!!」 突然のハルヒの悲鳴に驚きつつ女子3人組の方を見てみると、相当動揺している様子のハルヒと、 普段と変わらずポーカーフェイスの長門と、・・・・・・そんなハルヒを見て微笑んでいる朝比奈さんがいた。 「・・・・・・な、なによこれ・・・・・・」 「涼宮さんって思ったより怖がりなんですね。ふふふ」 ・・・・・・何があったんだろうか。 キョンとハルヒの入院生活保守with若干黒いみくる 「・・・・・・わたしだけセリフがなかったのでここで言う。『ウォーリーを探さないで』を見るのは危険。気をつけて」 *** 「ほら、これもおもしろそうですよー。見ましょうよー」 「いや、あのねみくるちゃん、そういうのはもういいから、ね?ギャーとか、ね?」 「じゃあ・・・・・・あ、この『信じようと、信じまいと―』っていうの面白そうですね」 「ねえ、なんかそれ怪しくない?ねえってば」 珍しくハルヒが朝比奈さんに主導権を握られている。なんだろう、日頃の復讐だろうか。 「これはちょっと・・・・・・反応に困りますね」 閉鎖空間が出なきゃいいがな。 朝比奈ミクルの復讐~Episode00はかなりの時間続き、その結果ここには相当やつれたハルヒがいる。 結局閉鎖空間が出てしまったらしい。・・・・・・今回は俺は関係ないよな? ちなみに正気に戻った朝比奈さんは謝ってそそくさと帰っていった。まあハルヒにもたまにはいい薬だろ。 その日の夜中のことである。 「ねえキョン、怖い話してあげよっか」 んー?もう俺は眠いんだが。まあ話したければ勝手に話せ。 その後ハルヒは朝比奈さんに無理矢理読ませられたと思われる数々の話を俺に聞かせた。 「どう、怖いでしょ?」 話し手が声震わせてどうする。あと俺はそういうのには耐性あるからまず効かないな。じゃ、俺は寝るぞ。 「えっ・・・・・・」 それともなんだ。まさか怖くて寝れないとかそんなんじゃないだろ? 「・・・・・・っ!そっそんなわけないでしょバカキョン!あたしも寝るから!別に構わなくてもいいからね!」 図星だったようだ。 キョンとハルヒの入院生活保守with若干黒いみくる 「・・・・・・『信じようと、信じまいと―』は怖い話が苦手な人には推奨しない。気をつけて」 *** 「すーすー」 そんなわかりやすい狸寝入りしなくても。ハルヒ、怖いなら別に無理しなくてもいいんだぞ? 返事が無い。ハルヒー、ハルヒさーん、ハールヒさーん、ハルハルー。 「・・・・・・」 ・・・・・・逃げろ!ベッドの下に刃物を持った男が! 「ふぇっ!?きゃっ!!」 飛び起きた反動でハルヒはベッドから落ちてしまった。やはりあの話も読んでたか。てかやりすぎたか。 「・・・・・・誰もいないじゃないのバカキョン・・・・・・いや嘘だってのはわかってた、わかってたのよ」 ハルヒは起き上がると俺をキッと睨んだ。いや暗いから見えないんだけどこうなんというか眼光を感じるんだ。 こりゃ相当怒ってるだろう。ハルヒを怒らせると後が怖いからな・・・・・・謝っておこうか。 ハルヒ、なんというかその、スマン。 「いい」 そんな無愛想な返事しないで・・・・・・えーとハルヒさん?あなたのベッドはこっちじゃなくてあっちですよ? 「べ、別にいいじゃない、あんたは黙って寝てりゃいいのよ」 そう言うとハルヒは俺のベッドに潜りこんできた。そのため俺は反射的にハルヒの分のスペースを空けるように 左に寄ってしまった。なんとまあ流されやすいことだろう。 狭いベッドに完全に二人が乗っかった状態になると、ハルヒは向こうの方を向いてしまった。本当にハルヒの行動は よくわからんが、今俺の右手をハルヒが左手でしっかりと握っているため、もう逃げられないということだけはわかる。 俺のベッドに入ってからすぐに、ハルヒは狸寝入りではない寝息を立て始めた。 逆にこの状況だと俺が寝るに寝られないわけだが・・・・・・やれやれ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 結局一睡もできなかった。 急に寝返り打って顔が近いとか寝息が顔にかかるとか抱きついてくるとか寝息がかかるとか顔が近いとかかかるとか とにかくそんな状況に置かれて冷静に寝られるほど俺は人間(男?)ができていなかったということだ。 さて朝6時。そろそろハルヒを戻さないと看護士さんが来ていろいろアレなことになるから起こそう、うん。 ハールーヒー起きろー。 「・・・・・・うん・・・・・・うーん・・・あ、おはよ」 やあおはよう。すがすがしい朝だね。俺は睡眠不足で倒れそうだよ。 「ねえねえ、んー」 何だそれは。 「おはようのキス」 夢の相手が誰かは知らんが目を覚ませ。 俺はいつかの消失騒動の時のようにハルヒの頬をつねってやった。 「むぐ・・・・・・う・・・・・・え!? きゃっ!」 ようやく起きたか。ハルヒは一度ベッドから落ちそうになったがなんとか立て直した。 「えーっと・・・・・・えー・・・あー・・・・・・なんで・・・・・・キョンの・・・・・・?」 混乱してるようだ。いや昨日お前から入ってきたんだろうが。 「嘘!?・・・・・・あー・・・・・・あー!」 思い出したか。あとそれからな、夢の中でもおはようのキスはないだろ。 「え!?え!?あたしなんか言ってた!?」 そりゃあもうな、どんな夢かは知らんが現実では俺にねだってたぞ。 「うああああああああバカバカあたしのバカ」 ハルヒは顔を真っ赤にして騒ぎながら自分のベッドに飛び込んでいった。片足折ってるのになんという機動力だろう。 とりあえず何とかハルヒを引き離すことには成功したから俺は一眠りしよう。おやすみ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** そして昼の12時頃俺は起きた。 「あ、キョン起きた?ところで何でそんなに寝てるの?」 いやお前が昨日俺のベッドに入ってきたからだよ。 「・・・・・・ふふーん、あたしがそばにいるからドキドキしちゃって眠れなかったんだ?」 認めたくはないがそういうことになるんじゃなかろうか。 「結構ウブなのね」 うるせーやい。てかお前も話してて顔赤くなってるじゃねえか。 「べ、別に赤くなってなんかないわよ!」 おはようのキス。 「うああああああああ」 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「ところでキョンってこの前のテストどんなだったっけ?」 急に俺の古傷を掘り返すようなこと言うな。特に話すことはない。 「戦わなきゃ現実と」 ・・・・・・わかったよ。8教科で*72点だ。(本人の名誉のため一部を伏せています) 「・・・・・・あんたどこの大学入るつもりなのよ・・・・・・しかもこの大切な時期なのに学校休んでるし」 休んでるのはお前が原因だろうが。 「・・・・・・ごめん・・・」 しまった、と思った時にはもう遅く、この病室内にはなんとも居心地の悪い空気が充満していた。 なんとかこの状況を打破する画期的な一言を考えようとするも、慣れてないからか全く思いつかない。 こんなとき古泉がいれば何とかしてくれるんだよな。初めてあいつを頼りたいと思ったよ。 しかし先に口を開いたのはハルヒだった。 「・・・・・・じゃあさ、きっとあたしの方が早く退院するから、そのあと毎日来てキョンに勉強教えてあげる」 え? いやいいよ、大変だろ? 「成績上げないととどこの大学にも入れないで落ちぶれちゃうわ。だからあたしが伸ばしてあげる。決まりね!」 聞いてないようだ。しかし空気は戻ったのでまあいいか。古泉がハルヒと俺の退院は同時とか言ってたしな。 次の日にはハルヒの右足は完治し、その日のうちにハルヒは退院した。なんてこったい。 キョンとハルヒの入院生活保守(ハルヒの入院は終わり) *** 今日はハルヒが学校に行ったのだろう。古泉からすぐに電話が掛かってきた。 『何かあったんですか? 機関はまるで大騒ぎですよ』 いや、一応心当たりはあるんだが・・・・・・ 『教えてください。授業が始まるまでに』 えーと、一昨日ハルヒが俺が成績悪いから退院したら勉強教えてあげるとか言ってたんだ。 『なるほど。ありがとうございます。全て納得しました』 え?納得できたのか? 『やはりあなたはわかっていないようですね。すいません時間がないので。ではまた』 切れた。・・・・・・なんだってんだもう。 キョンの入院生活保守 *** その日の夕方ハルヒは律儀にもやってきた。来なくていいのに・・・・・・とは言わないが。 「毎日来るって言ったでしょ」 そこまで俺の成績悪いことが気に入らないか? 「気に入らないっていうか・・・・・・あんたの将来を考えてあげてるのよ」 将来って、例えば? 「だから・・・・・・成績悪いとろくな大学入れないでしょ? そしたらまともな会社に就職できないじゃない? そしたら稼ぎが少なくなってあたしが――あたしじゃない、あんたの将来の嫁さんが大変じゃない」 嫁?まさか俺に嫁ぎたいなんて思ってる奴いないだろうよ。 「・・・・・・きっといるわよ、あんたを好きになる人」 そうかい、じゃあ現れるまで気長に待つとしますか。 「・・・・・・バカキョン」 はいはいバカですよー平均点*4点ですよー。 「そういうのじゃなくてね・・・・・・」 バカキョンの入院生活とハルヒのお見舞い保守 *** 「どうせあんたは忘れてるだろうから1年の内容から復習ね」 へいへい。・・・・・・えーと、シン60度「サイン」サイン60度が・・・・・・えー・・・・・・ 「・・・・・・わかんないの?」 はい。 「お母様、ハルヒは課せられた使命を遂げることができません、お許しくださいませ」 なんかほんとごめん。 その後のハルヒのスパルタ指導により俺はなんとか三角比を思い出した。 「むしろこれで*4点も取れてたことが凄いわよ」 取れてないぞ。現代文で稼いでたから数学はIIとB合わせて2*点だったな。 「・・・・・・あたしが養うしかないのかなぁ・・・・・・」 バカキョン(学力的な意味で)の入院生活とハルヒの熱血指導保守 *** さらに2時間にも及ぶマンツーマン(男女間でもこれでいいのか?)レッスンにより、何とか中学卒業レベルの 数学を思い出すことができた。これだけ頭使ったのは受験シーズン以来だぜ。 ・・・・・・ってハルヒ、何やってるんだ。 「ギプスに落書きしてんの。定番でしょ」 見ると、よくわからん絵やらSOS団エンブレムやら「私はバカです」やら「平均点*4点」やら書いてある。やめろ。 「足の裏にも書いてあげる。見えないでしょ?」 見えないな。てかやめろ。 「よしっと。じゃ、あたし帰るからね。明日も来るから覚悟しときなさい!」 完全に聞く耳持たずモードに突入した団長様は嵐が過ぎ去るかのように去っていった。やれやれ。 なぜかその後谷口が来た。来なくていいのに。 「その性格何とかしろよお前」 悪い。昔からなんだ。 「とにかく俺はお前らがあれだけ一緒にいたのに少しも進展してなかったのが気になって・・・・・・」 谷口はさっきハルヒが何かを描いたであろう足の裏を見て固まった。 「・・・・・・なんだよしっかり進んでるじゃねえか。あー心配して損したぜ。お前ももう少し鈍感じゃなければな」 何の話だ。お前よりは鈍感じゃないだろう。 「いや、確実にお前の方が鈍感だ。神に誓ってな。俺は気付いてるがお前は気付いてないのが立派な証拠だ」 そう言うとその絵を携帯で撮って帰っていった。あ、病院なのに携帯オフにしてないじゃんあいつ。 ・・・・・・気付く気付かないって、一体何の話だ? そのあと看護士さんにもやたらニコニコされるし、ハルヒは一体何を描いたんだろう。 キョンの入院生活とハルヒの見舞いwith谷口保守 *** 「おはよう、キョンの様子どうだった?」 「どうだったも何も、これ見てくれよ。きっと涼宮が描いたんだ」 「・・・・・・確実に進展してるんじゃない?これ」 「そう思うだろ?でもキョンの野郎が鈍すぎて結局何も進んでないんだよな」 「涼宮さんもかわいそうだね」 「なーに、そのうち涼宮が折れるさ」 「そしたらくっつくね」 「ああああああああうぜええええええええええええ」 「落ち着きなよ谷口にもいつか春は来るよ正直同意見だけど」 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守~谷口と国木田編~ *** 「ハルヒちゃん、今日もキョンくんのお見舞い?」 「あ、はい、あのバカキョンに勉強教えてやらないといけなくて」 「女の勘だけど、きっとあの子にはハッキリ言ってあげないとわかってくれないと思うのよ。 遠まわしに言っても伝わらないというか」 「え?」 「こんなにかわいいんだからもっと自信を持って言っちゃいなさい。はい、ファイト!」 「あっ、えっ?は、はい」 ハルヒは病室に入ってくるなり、足の裏の絵?を黒く塗りつぶし始めた。 「そうよねー、看護婦さんは普通に見れるわよねー、不覚だったわ」 何かぶつぶつ言っている。確かに見てたぞ。そのあと俺の顔を見てニコニコしてたが。あと今は看護士な。 なぜか学校でハルヒにボコボコにされる谷口、という情景が浮かんできたので谷口のことは言わないでおこう。 それくらい人を労わる気持ちは俺にもあるのさ。前回も俺の勘違い?のせいでボコボコだったしな。 「自信を持って・・・・・・自信・・・・・・」 まだ何か言っている。気色悪いぞ。 「キョン」 と思っていた矢先、ハルヒは意を決したように俺の方を向いた。 何だ。 「んー・・・・・・うー・・・・・・」 だんだん顔が赤くなってきた。熱でもあるのだろうか。 「ああダメ!言えない!言えないって!」 何が言えないのかは知らんがそこはもうお前のベッドじゃないんだから暴れるのはよしなさい。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「じゃあ今日は古典ね。予習してた?」 全然。 「ペナルティで一発ビンタね」 聞いてないぞ。 ハルヒが腕を振り上げたので俺は思わず目を閉じた。 叩かれると思ったがいつまで経っても打撃がこない。目を開けてみると顔の横数cmのところで手が止まっている。 「・・・・・・手が動かない」 はい? 「叩けない」 ・・・・・・お前らしくないぞ?コンピ研の部長にドロップキック食らわしたお前はどこ行った? 「っ・・・・・・もういいわ!古典古典!」 何だったんだ。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「そうね、この小テストで高得点出したらご褒美あげるとかしたらあんたもやる気出るかしらね」 出るかもな。 「えーと・・・・・・じゃあ8割以上であたしがほっぺにキ、キスしてあげるとか!」 じゃあそれで頼む。 「えっ!?ちょっと・・・・・・いいの?じゃなくて、突っ込みなさいよ!」 あいにく今は突っ込む気力が無い。というか自分の冗談で自分で照れるな。 「いやだってまさか肯定されるなんて・・・・・・」 それにどうせ8割なんて取れるわけないんだから変わらん。 「・・・・・・じゃあ3割以下で罰ゲームでキス・・・・・・」 うん、まあそれならほぼ確実だろうが・・・・・・なんかお前にメリットあるか? 「・・・いやだから突っ込みなさいよ・・・・・・」 だから照れるなら言うなって。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「涼宮!キョンが大変だ!」 「えっ!?本当!?」 「今電話が掛かってきて・・・・・・容態が急変してちゅうちゅ、集中治療室に運び込まれたって」 「・・・・・・あたし行ってくる!」 「え?あ、ちょっと」 「どうしよう国木田、涼宮の奴冗談本気にして授業ほっぽらかして行っちゃったぜ」 「流石に言って良い冗談と悪い冗談があると思うよ。噛んでたし」 「キョンにメールしとかないとな・・・・・・」 キョンの入院生活とハルヒの見舞いと谷口氏ね保守 *** ん?谷口からメールだ。 『今から行く奴に「全部冗談だった」と伝えてくれ(^o^)/~~ 後は頼んだm(_ _)m 俺の命はお前に懸かっている(^ー゚)b』 顔文字がうざい。 「キョン!!!・・・・・・え?え?」 うわビックリした。ってハルヒ、授業はどうしたんだ。 「え・・・・・・だって容態が・・・集中治療室・・・・・・って谷口が・・・」 ああ、そういうことか。とりあえずこのメールを見てくれ。顔文字うざいが。 「・・・・・・冗談・・・・・・はあぁ」 するとハルヒは俺のベッドに力が抜けたようにもたれてしまった。 「わざわざこの寒い中この格好のまま走ってきたのに・・・・・・授業もサボっちゃったし」 そりゃご苦労さんだったな。でも俺を心配してくれてたってことだろ?ありがとうな。 「・・・・・・でも逆に嘘で良かったわ。本当にキョンが死にかけてたら大変だし」 そうそう、お前はそういう前向きな考えが似合ってるぞ。ところで授業はいいのか? 「・・・もう学校に帰るわ。あたしが大学行けなくなったら本末転倒だしね。谷口もボコボコにしてやらないと」 あ、ごめん谷口。お前の命守れそうにないや。自業自得だけど。 「・・・・・・キョンは急にいなくなったりしないわよね」 帰り際にこんなことをを訊いてきた。 まあ、そう簡単にぽっくり逝ったりはしないだろうよ。俺みたいな幸の薄い人間は長生きするものさ。 「・・・・・・そうよね、ありがと。また学校が終わったら来るわ」 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「こぉんのバカ!!!」 「うおわっ!!」 「あんたのせいで授業サボっちゃったじゃないの!!」 「いやだっていくらキョンが重体でも授業を抜けるのはないだろうよ」 榊「いや、あの状況は行くだろ」 阪中「行くのね」 由良「行きますよね」 山根「行くだろ・・・・・・常識的に考えて」 ~中略~ 岡部「あれは行かない方がおかしい」 「29対1で谷口の負けだね」 「というわけで責任持ってボコボコになりなさい」 「アッー!」 自業自得谷口保守 *** さて、と。今日は物理だったか?少しは予習しておかないと。 ・・・・・・点数が悪かったときのハルヒのこれ以上ないくらいの悲しそうな顔を見たくないしな。 なぜ俺のためにそんな悲しむのかはわからんが。 「キョン!ちゃんと予習して・・・・・・してる・・・・・・?」 なんだそのUFOを見るような目は。俺が勉強してるのがそんなに珍しいか。 「も、もちろんいいことよ。やる気出してくれたみたいでうれしいわ!じゃ、小テストね」 「予習しても結局これなのね」 お許しください団長様。 「こんなんでT大行けると思ってるの?」 いや行けませ・・・・・・T大?T大と言ったか?俺にそんな大学行けるわけが・・・・・・ 「あたしが行くんだからあんたも行くのよ!そうじゃなきゃSOS団がバラバラになっちゃうじゃない!」 お前T大行く気だったのか。いやそれでも俺は無理だし朝比奈さんは・・・・・・ 「あら、みくるちゃんもT大行くのよ。鶴屋さんと一緒に」 マジですか。 「マジよ」 そういや最近来ないことが多かったような・・・・・・長門はまあいいとしてやはり古泉も? 「そうよ」 あれ?もしかしてSOS団って勤勉クラブ? キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** そういや明日には腕のギプス取れるってさ。 「ほんと!?良かったじゃない!」 この調子で行けばもうじき退院できるだろ。 「・・・・・・ごめんねキョン、あたしのせいで・・・・・・」 だからそれはもう十分謝ってもらったからいいって。それよりも俺は元気なハルヒが見たい。 「え?」 おっと、要らないことまで口走ってしまった。気にするな、お前はいつでも十分輝いてるからそれでいい。 「え?え?」 あれ?何で俺こんなことを? 今日のテンションはなんかおかしいな。何だろう、T大のショックか? 「わかったわ!これからもずっと責任持って輝いてあげるから感謝しなさい!」 まあ、ハルヒの機嫌がいいみたいだし何でもいいか。 キョンの入院生活もそろそろ終わり保守(ぶっちゃけ骨折がどのくらいで治るのかわからない) *** 「・・・・・・」 久々にハルヒはルービックキューブを回している。とは言っても完成させるためではなく、ひたすら崩すためだ。 俺の両手が自由になったから実力を見せろ、ということらしい。 いくらやっても大して違いは無いのに、ハルヒはこれでもかと言うくらい崩している。まあ、満足するまでやればいいさ。 「・・・・・・もういいかしらね」 はいはいっと。 「5分でできたら褒めてあげるわ」 そりゃまた結構な余裕があるな。はいスタート。 はい完成。今日は調子良かった。 「はやっ! 32秒って・・・・・・」 世界レベルだと10秒台とかザラだぞ。 「1面に苦労してたあたしって一体・・・・・・」 それより褒めてくれないのか? 「え?あー、うん、えーっとね・・・・・・」 どうやら5分でできるわけがないと思っていたらしく、褒め言葉を賢明に探しているようだ。 「・・・・・・うーん、惚れそうになった?・・・・・・違う違う違う!」 勝手に一人突っ込みを始めた。ルービックキューブで惚れられてもねえ。 「ま、まああんたにしては上出来じゃない!?」 そんなもんだろうと思ったよ。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「・・・・・・へっくし!・・・・・・うー」 おいどうした?風邪か? 「昨日のアレで体冷しちゃって・・・・・・スカートがこんな短いのが悪いのよ」 最近寒いもんな。しかし女子は大変だよな、こんな寒いのにスカート穿かなくちゃいけないし。 「女は辛いのよ。というわけで布団を貸しなさい。足が冷えてるの」 嫌だ。俺だって寒い。 「じゃあこ、こっちから行くわよ」 そう言うとハルヒはいつかのように勝手にベッドに潜りこんできた。またか・・・・・・ その瞬間である。 「キョンくーん、おみまいだよー!あっハルにゃん!」 「あ」 あ。 「い、妹ちゃん!これはね?違うの、だからね?寒かっただけなのよ!わかる?寒くてね」 「あたしもはいるー!」 言うまでも無く俺は妹のボディプレスを食らった。 現在俺のベッドは3人がひしめくというなんとも定員オーバーな状況にある。 実際妹だけで良かった。親も来てたら何言われるかわからないしな。 「ねえハルにゃんはリンゴのかわむけるー?」 「もちろんよ。女ならできなくちゃダメよ」 「やってやってー」 ハルヒの皮むきは相当上手かった。きっといい嫁さんになれるよ。 「なんとなく素直に喜べないのよね」 なんでだよ。 キョンの入院生活とハルヒと妹の見舞い保守 *** そんなこんなありつつもようやく足のギプスを外して退院できる日がやってきた。 それにしてもあの電動ノコギリは怖いな。いつかテレビで新型のカッターが開発されたとか見たが・・・・・・ 足の裏の絵の解読を試みるもしっかりと塗りつぶされていて無理だった。永遠の謎となったか。 「キョン!退院おめでと!」 お、迎えにきてくれたのか。ありがとな。 「さ、行くわよ」 どこにだ。 「学校よ、学校。今日もSOS団の活動はあるのよ!」 まさかこの病み上がりの身体であの坂を登れと? 「いいから文句言わずについてきなさい!」 やれやれ。 キョンの退院とハルヒのお迎え保守 *** 入院で衰えた足で坂を登るのは流石に堪えたが、なんとか部室まで這ってたどり着いた。 「はい、入りなさい!」 勧められるがままに俺はドアを開けた。そこで俺が見たものとは! 「「「「「退院おめでとー!!」」」」」 華やかに装飾された部室と団員三人、名誉顧問になぜか俺の妹、そしてクラッカー。 これは・・・・・・? 「はい!主役も来たことだし、『ハルにゃんキョンくん退院記念”ラブラブ”パーティー』を始めるよっ!」 「えっ!?ちょっと鶴屋さん、あたしラブラブなんて入れてないわよ!?」 「いーのいーの気にしない!ちょっとの遊び心は必要にょろよ?」 どうやら俺たちのためにパーティーを開いてくれたらしい。なんて皆優しいんだろう。 手書きの看板を良く見るとパーティーの前に赤ペンで小さくラブラブと書いてある。きっと鶴屋さんだろうな。 キョンとハルヒの退院パーティー保守 *** 「じゃあ僭越ながらあたしが乾杯の音頭を取らせていただくにょろ! ハルにゃんキョンくん、お見舞いにいけなくてホントごめんね!受験近くてちょっと忙しくてさー」 なんてったってT大ですもんね。 「ありゃ?知ってたのかい?そうなんだよねえ。しかもみくるもだよ?イメージと違うよね! おっと話がずれちゃったにょろ。ま、あたしが行けなくても毎日二人でお楽しみだったみたいだったからねー。 で、どこまで行っちゃったのかな?」 「つ、鶴屋さん、あたしとキョンは別になにも・・・・・・」 「おんやー?そいつはもったいないねえ。若い男女が一つの部屋にしかもベッドまで用意されてたってのに。 おっとまた脱線。まあとにかく、ハルにゃんとキョンくんの全快を祝いまして、かんぱーい!!」 「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」 おいどうしたハルヒ、酒も入ってないのに真っ赤だぞ。 「う、うるさい!気にしなくていいのよ!」 キョンとハルヒの退院パーティー保守 *** 「涼宮さん、ちょっといいですか?」 「なに?みくるちゃん」 「素直に好きと 言えない君も 勇気を出して Hey Attack」 「・・・・・・それ・・・・・・」 「これ、涼宮さんが書いた詞じゃないですか」 「そうだけど・・・・・・」 「勇気を出してアタックすればきっとキョンくんだって振り向いてくれますよ!ファイトです!」 「・・・・・・ありがとうみくるちゃん。あたし頑張る」 パーティーの片隅での出来事保守 *** そんなこんなで(今日使うの二回目か?)パーティーもお開きの時間となった。 受験生もいるしハルヒにしては早めの時間設定だったな。 「みんなお疲れ!今日はありがとう。後片付けはあたしがするからみんな帰っていいわ」 「いや、僕も手伝いますよ?」 「あたしも手伝います」 「わたしも」 「勉強なんて1日サボっても変わんないにょろよ」 ちなみに妹は寝た。いや、流石にお前だけってのは・・・・・・ 「何言ってるの?キョンもやるに決まってるじゃない。雑用係が休んでどうするのよ」 結局そういうことですか。まあ皆も手伝ってくれるみたいだし・・・・・・ 「それならば、僕は帰らせていただきますね」 「あたしも帰ります。あ、妹さんはあたしが送ってあげますね」 「帰る」 「そういうことなら帰らせてもらうよっ!」 あれ?さっきと話が違ってません?そういうことならって・・・・・・ キョンとハルヒのパーティー後保守 *** やっぱりあの量を二人で片付けるのは辛いものがあった。 「でもこういうのって 仕事したっ! って感じにならない?」 まあな、たまにはこういうのもいいかもしれんな。 って雨降ってるじゃねえか。傘持ってきてないぞ? 「あたしのが一本あるからそれでいいじゃない」 あのときみたいにか? 「うん・・・・・・ダメ?」 いやいいけどさ。お前はいいのか? 「べっ別に相合傘はカップルがやるものとかそんなんはどうでもいいのよ!意識するから恥ずかしいの!」 なんか話が飛躍したな。 キョンとハルヒのパーティー後保守 *** やることも終わったので俺たちは帰ることにした。 そして適当に雑談をしつつ部室棟の階段を下りた、その時だった。 「きゃっ!」 俺の隣りでハルヒはまたも足を滑らせた。このままいつぞやの悪夢が繰り返されるのだろうか。 結果として繰り返しはしなかった。なぜかって? 俺がハルヒをしっかりと抱きかかえていたからさ。 「キョン・・・・・・あ、ありがと・・・・・・」 お前にもうケガなんてさせねえよ。 と、上の気障なセリフを喋ったのは誰だ。俺か。俺なのか。またこの前みたいなテンションなのか俺は。 しょうがない、このテンションのまま最後までいっちまえ。 「え?ちょ、ちょっとキョン!な、なにするのよ!」 何って背中と膝裏を支えて抱きかかえてるだけだぜ?世間的にはお姫様抱っこと言うらしいが。 降ろしてほしいか? 「・・・・・・別にこのままでもいいけど・・・・・・」 ダイヤモンドは大事に運ばないとな。 「・・・・・・」 ありゃ、流石に今のはクサすぎたか? 「・・・・・・前から言おうと思ってた大事な話があるんだけどいい?」 ああ、いいぞ。聞いてやろうじゃないか。 そう返すとハルヒは俺の首に腕を回してきた。 「あたしね、ずっとキョンのことが・・・・・・」 二人は階段から落ちたが、そのおかげで―― 新たな階段を一段上ることができたのかもしれない。 キョンとハルヒの入院生活保守 fin
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/828.html
今俺はハルヒを膝枕している。なんでかって?そりゃあ子供の我侭を 聞けないようじゃ大人とはいえないだろう?まあ俺はまだ自分を大人だとは 思っていないし、周りもそうは思っていないだろう。ただ、3歳児から見れば 俺だって十分すぎるほど大人なのさ。ああ、説明が足りなすぎるか。つまり こういうことだ。 ハルヒは3歳児になっていた。 ことの発端は10時間程前のことだ。休日の朝8時と言えば大半の人間が 「いつ起きてもいい」という人生でもトップクラスであろう幸せを感じつつ睡眠 という行為に励んでいると思う。俺ももちろんそうである。しかし、俺の幸せは 一人の女によってアインシュタインが四則演算を解くことよりもあっさりと瓦解 された。携帯電話がけたたましい音をあげる。携帯よ、今は朝なんだ。頼むから もう少し静かにしてくれ、という俺の願いは不幸にも全く叶えられることはなく、 俺は諦めて携帯に手を伸ばした。溜息をつきながら液晶を見ると思ってたとお りの名前がそこに映し出されていた。言うまでもなくハルヒである。 「キョン!出るのが遅いわよ!」 さすがハルヒだ。休日の朝だというのにこのテンションである。しかも怒っている。 「ああ、すまない。寝てたんだ」 謝る必要性は全くないが、一応謝っておく。こうした方がこいつも大人しくなるだろう。 俺も大人になったもんだ、などと考えているとハルヒが言葉を続けていた。 「まあいいわ、それよりキョン。今日寒いと思わない?」 比較的早く怒りがおさまった--もともと怒ってなどいなかったのかもしれないが--ハルヒが そんなことを言う。 「ああ、そりゃもう12月だからな」 寒くもなるってもんさ。と言ってからもう12月なのかと考える。あと4ヶ月で朝比奈さんが 卒業か・・・あの天使に会えなくなると思うと心を通り越して心臓が直接張り裂けそうだ。 ていうか先月の初めもこんなこと考えてたよな。いや、先々月も考えていた気がする。 「・・・ということで、皆でコタツを買うことになったから・・って聞いてんの!キョン!」 ああ、まずい聞いてなかった。また怒っていらっしゃる。ここは適当に流しておいた方がいいだろう。 「いや、ちゃんと聞いてたぞ。皆でコタツを買いに行くんだろ?で?それをどこに置くんだ?」 「だから有希の家に持ってって皆でぬくぬくするって言ったじゃない。やっぱり聞いてなかったようね。 団員としての自覚が足りないわよ。キョン」 いや、もう十分すぎるくらい自覚はあるわけなんだが・・・。まあハルヒから見ればまだまだ足りないの だろう。そんなことより、今回のハルヒの提案が大して迷惑なものではなかったことに俺は安心して いた。皆でコタツを買って長門の家で暖まろうというだけである。素敵とも思える提案だ。 「すまん。これから精進する。で?何時集合だ?」 「駅前に9時よ。即行で準備しなさい。じゃあね」 と言いこちらの返事も待たずにハルヒは電話を切った。相変わらずである。結局行くんだけどな。 俺に選択肢なんて始めからないのだ。 集合場所に着くと俺以外の面々は当然のように揃っていた。やれやれ、休日だというのに ご苦労なこった。 「おはようございます。キョン君」 おはようございます。朝比奈さん。相変わらず反則的に可愛らしいですね。あなたに会えた だけでも今日ここに来た意味があるというものです。などと俺が至福を味わっていると、 「遅いわよキョン!罰として買ったコタツはあんたが運びなさい!」 俺に指をさしながらそう言うと、ハルヒは近くの電気店の方にスタスタと歩き始めた。ハルヒよ、 お前は遅れなくてもどうせ俺に運ばせる気だったろうが。 「僕も手伝いますよ」 と、いつのまにか隣に来ていた古泉が相変わらずのさわやかな笑顔で話しかけてくる。 「ああ、すまんがそうしてもらえると助かる」 いえいえ、と言う古泉に、 「そういや最近閉鎖空間はどうなってんだ?」 ふと思ったことを聞いてみる。 「閉鎖空間ですか?全くと言っていいほど現れていませんよ。一番近いので3ヶ月前です。 これは今までの最長記録です」 なるほど、あいつもかなり落ち着いてきたんだな。3ヶ月前は何で発生したんだ?何かあった のか? 「いえ、時間帯的に単なる悪夢でしょう。ふふ・・・心配ですか?涼宮さんが」 ニヤニヤしながらこちらを見る。うるせえな、ただ気になっただけだ。そんなくだらない嘘をついた 小学生を見るような目でこっちを見るな。 「やれやれ、あなたもそろそろ素直になった方がいいですよ?」 うるせえよ。そんなことより、 「長門」 俺に呼ばれて長門はいつもの無表情をこちらに向けた。 「お前コタツなんか部屋にあったら邪魔なんじゃねえのか?なんなら俺が持って帰ろうか?」 俺も部屋にコタツなんてあったら邪魔で仕方ないが、長門にだけ迷惑をかけるわけにも いかんだろう。 「・・・大丈夫」 そこで一拍置き、 「どうにでもなる」 と、長門は続けた。そうか、まあ長門のことだ。使わないときはコタツをコンパクトにするだとか、 そういう反則的なことも出来るのだろう。だったら、長門のマンションに置いておいた方がよさそうだ。 「そうか、悪いな」 「・・・いい」 そんなことを話しているうちに俺たちは電気店に着いていた。ハルヒにいたってはもう中に入って いるようで、入り口からでは姿が見えない。 「どうする?探すか?」 「いえ、その必要はないでしょう。なぜなら・・・」 「みんなー!集合よ!いいのを見つけたわ!」 見ればハルヒが電気家具売り場の方からこちらを呼んでいる。 「なるほどね」 「そういうことです」 結果的に言えば、ハルヒの選んだそれは当たりだった。値段の割にはデザインも可愛らしいし --朝比奈さんも満足気だったしな--、大きさも5人が入っても問題のなさそうなものだ った。もともとハルヒは物を選ぶセンスなどは抜群なのだ。 問題はこれを俺と古泉だけでどう運ぶのかということだったが、これは長門の力によって あっさりと解決された。長門が買ったコタツに目を向けながらなにやらぼそぼそと言うと コタツの重みが一切なくなったのである。このような光景--というか、現象というか--を 見ると、俺の周りは非現実的なもんで溢れかえっているんだなと改めて実感する。いや、 もちろんそれが嫌ってわけじゃない。むしろ楽しいと思っているほどだ。 さて、こうなってしまうと朝比奈さんでも片手で運べてしまうのだが、ハルヒの手前まさかそんな ことをするわけにもいかず、俺と古泉はわざわざ「重いものを持っています」といった表情で コタツを運ぶことになった。途中何度か、 「大丈夫?あたしも手伝ってあげようか?」 などと普段見せない優しさを見せんでもいい時に見せるハルヒの提案を、俺と古泉が笑顔で かわすという行為を繰り返しているうちに俺たちは長門のマンションに到着した。 「さあキョン!組み立てなさい!」 「へいへい」 と溜息をつきながら俺はダンボールを開け始めた。こんな扱いを受けているというのに なんでだろうね?全くいらつかないのだ。これが慣れというやつだろうか。だとしたら、 この習性は治したほうがいいのではないだろうか。などと思案している間に古泉の 手伝いもあってか、あっさりとコタツは完成した。まあ、元々組み立てるのが難しいもの でもないしな。 「よし!じゃあ有希!あれ出して」 「わかった」 と、言いながら長門は台所に向かってスタスタと歩いていった。そして数十秒で戻ってくる。 両手には大量のみかんとスナックが抱えられていた。 「おいおい、随分準備がいいな」 「まあね皆には昨日のうちに言っておいたから」 だったら俺にも言っといてくれ。その方が心の準備が出来るってもんだ。 「だって、あんたどうせ暇でしょ?だったら当日に言えば済む話じゃない」 クソ、反論できないのが歯がゆい。ハルヒの言うとおり俺の休日にSOS団がらみ以外 の予定が入ることはほとんどないからだ。谷口や国木田も、 「キョンは休日も涼宮さんと一緒なんでしょ?」 と、誤解を招きそうなことを言ってきたりで、休日に俺を誘うということもない。つまりだ、 俺の休日に予定がないのはハルヒのせいでもあるわけだ。そんなことを知ってか知らずか、 ハルヒはもぞもぞとコタツに体を押し込めながら長門がテーブルに置いたみかんに手を伸ば している。見れば俺以外はもうコタツに入っている。朝比奈さんに至っては、 「暖かいです~」 と、幸せに浸っている。となるとだ、まあここはハルヒの隣に座るのが自然だろう。いや、別に 他意はないぜ?一番近いからそこに座るだけだ。それにハルヒの隣ということを考えなければ ベストポジションだ。なんたって真正面を見れば女神が居るからな。ちなみに長門は俺から見て 右、古泉は左の位置に居る。 「ちょっと!なんであんたがあたしの隣に座るのよ!」 近かったからだ。わざわざ遠回りするのも面倒だろ。 「まあいいわ・・・。結構大きいしね、このコタツ。それにしても暖かいわね」 そうだな。たまにはこういうのもいいよな。 「幸せです~」 と朝比奈さん。本当に幸せそうだ。あなたを見てるとこっちも幸せになってきますよ。 「そうですね。たまにはこんな日があってもいいでしょう」 古泉は俺と全く同じことを考えていたようだ。やめてくれ、微妙に気持ち悪い。 「・・・ぬくぬく」 見れば長門も上機嫌そうである。もうみかんの皮が6枚ほど長門の前に転がっている。 相変わらず素晴らしい食欲だ。 「むう・・・。でもこのまま何もしないのもつまんないわね」 そうか?俺は今日はこのままぼんやりしていたいがね。 「そんなじじくさいこと言ってると早く老けちゃうわよ?」 縁起でもないことを言うな。それにお前も子供じゃないんだから、落ち着けよ。 「ふん。童心をいつまでも持つことは大事なのよ。ね?古泉君」 「ええ、僕もそう思います」 お前は黙っていろ。このイエスマンめ。 「ああ、子供といえば。あんた子供に人気あるわよね?」 ハルヒはあっさりと話を変えた。割とどうでも良かったらしい。しかし、そうは思わんがね。 人気があるといっても。すぐに思い浮かぶのは妹とミヨキチくらいなもんだ。 「ええ~、でもあたしもキョン君は子供に好かれるイメージがありますよ?」 と、朝比奈さんが言う。朝比奈さんがそう言うならそうなのかもしれんと、俺のy=xのグラフ よりも単純にできている脳は勝手に結論を出そうとしていた。 「ね?やっぱりそうよね。じゃあさ、キョン。あんたも子供が好きなの?」 なぜそうなる。 「だってやっぱり好きなものには好かれるじゃない」 「そういうもんか?」 「そういうもんよ」 「まあ、少なくとも嫌いではないな。妹も、特に3歳ぐらいのころはホントに可愛かったな」 言いながら、その時の情景を思い出す。 「ふふ」 「どうかしましたか?朝比奈さん」 「いえ・・・。きっといいお兄さんだったんだろうなあと思いまして。目に浮かびます」 もちろん今もいいお兄さんですけどね。と、朝比奈さんは付け加えた。 「あたしもそれに関しては同感ね」 おお、ハルヒに褒められるとは。これ以上光栄なことはないね。 「もうすこし感情を込めなさい。感情を」 「ばれたか」 「当たり前でしょ?ふわぁ~。なんか喋ってたら眠くなっちゃった」 「あたしもです~」 と、朝比奈さんもハルヒのあくびがうつったのか小さなあくびをした。 「眠っちゃいましょう。もう二人寝てるし、あたし達だけ起きてても仕方ないわ」 言われてからそういえば長門と古泉が全く話に参加していなかったことに気づいた -いや長門に関してはいつものことだし、古泉も一度適当な相槌を打っていた気はするが-、 半立ちになりながらコタツの左右を覗き込むと本当に二人とも寝ているようだ。二人の 寝顔を見ながら、俺はなんだか安心してしまった。この二人はSOS団のことを信頼しきっている のだ。だからこんなにぐっすり眠れるのだろう。そう思うと嬉しいというか喜ばしいというか、そんな 気分になる。 「あんたは寝ないの?」 「いや、俺はいいや」 大体二人で横になったらどっちみち俺は寝れねえよ。などという俺の思考はハルヒには届かないだろう。 「ふ~ん、じゃあみくるちゃんも寝ちゃったみたいだし。あたしも寝るわね」 正面を見ると、女神の姿が見当たらない。おそらくハルヒの言うとおり、お眠りになってしまわれたの だろう。 「お菓子、一人で全部食べちゃダメよ?」 食べねえよ。ていうか無理だ。俺はお前や長門のような何回拡張パックをダウンロードしたかわからない ような胃は持ち合わせちゃいない。 「じゃあ、おやすみ」 ハルヒはそう言いながら寝転がる。 「ああ、おやすみ」 俺はその後、何十分かはわからないが。結構長い時間ぼんやりとしていた。ただ、俺も眠かったのだろう。 頭をコタツのテーブルに突っ伏すとそのまま眠りについてしまった。今日は本当にいい日だ。おそらく面倒事も 起こらない。さっきも言ったが、こんな日があってもいい。 だが、俺のそんな思いは目覚めとともにあっさりと否定された。 「・・・起きて」 静かな、しかしどこか強制力のある声が耳元からする。 「・・・起きて」 二度目のその言葉で俺は目を覚ました。目の前に見慣れた無表情がある。長門だ。 「ああ、長門か今何時だ」 「13時」 そうか、まだ1時間しか経ってないじゃないか。だったらもう少し寝させて・・・、 「キョン!起きたのね!キョンもトランプしましょ!」 いつもの11倍ぐらい目を輝かせながらハルヒはコタツの向こう側からこちらを見ている。 しかもなぜか朝比奈さんの背中に抱きつきながら-いわゆる強制おんぶ状態だ-だ。 「おいおいなんだ?とんでもないテンションだな」 「聞いて」 長門が話しかけてくる。長門がこんなにも自ら口を開くことははっきり言って珍しいことだった。 だから、俺はなんとなく嫌な予感はしていたんだ。 「なんだ、どんな厄介ごとだ?」 「・・・おそらく涼宮ハルヒの精神は14年ほど退行している」 見ればハルヒがターゲットを朝比奈さんから、長門に変えている。長門はハルヒに背中から抱きつかれながら 無表情でそんなことを言っている。なんてシュールな絵なんだ。そしていつもながらとんでもない話だ。 「あ~、精神だけか?」 「・・・そう」 そりゃあ厄介だ。 「そう。厄介です」 と、古泉がそれに反応した。 「見た目も退行してくれていれば、もう少しやりやすかったのですが」 「ふふ・・・さっき古泉さん、涼宮さんに抱きつかれて慌ててましたもんね?」 朝比奈さんがそんなことを言う。 「いえいえ、そんなに睨まないでください。不可抗力ですよ」 古泉はパタパタと両手を振る。別に睨んでなどいない、まあ不可抗力なんだしな。 仕方のないことだ。若干もやもやするがそれは気のせいだ。 「長門よ、そのこうなった・・・」 原因は?と尋ねようとして俺はやめた。なんとなく推測出来るし、多分俺のせいだろう。 だったらそんなことをわざわざ聞く必要はない。 「いや、これは何時ごろ治るんだ?」 ハルヒは長門に抱きつきながらびょんびょん跳ねているため、長門の顔は無表情のままがくがく 揺れている。ハルヒ、やめなさい。長門の頭が取れかねん。 「確定は不可能。ただ長い時間はかからない」 そうなのか? 「・・・そんな気がする」 なるほど、それが長門の意見か。今は長門が意見を言うということもそこまで珍しいということでもない。 「僕もそう思いますよ。これは一時的なものでしょう。まあ、多少厄介ですが。みんなで遊んであげれば、 自然と元に戻るはずです」 「ああ、俺もそんな気がする」 「ただ、トリガーというかキーというか。そういうものがある可能性は否めませんが、それもおそらくは簡単に 見つかるでしょう」 言いながら、こちらを見る。期待していますよと言わんばかりだ。やれやれ、また俺が握っているのか? そのキーとやらを。 「じゃあ、今日は皆で涼宮さんと遊びましょう!ね、涼宮さん」 「うん!」 と、ハルヒが朝比奈さんの問いかけに対して明るく可愛く答えている。今のハルヒに母性本能がくすぐら れているのだろうか。朝比奈さんもまんざらでもなさそうだ。 「じゃあ、キョン!トランプ!」 太陽の笑顔をこちらに向けてトランプを手渡してくるハルヒに対して俺は、 「へいへい」 と、命令に従いトランプをシャカシャカと切り始めた。結局ハルヒの精神が幼児化したところで、俺の ポジションが変わることはないのだ。 「あ!でもトイレ行きたい。キョン!ハルヒが帰ってくるまでに配っててね!」 そう言いながらトイレの方に歩いていった。どうやら記憶はあるらしい。そりゃそうか、俺の名前も覚えてる しな。あとこの頃のハルヒは自分のことを名前で呼んでたんだな、可愛らしいこった。 「みなさん、提案があります」 と、古泉がなにやら喋りだした。 「これから多分数多くのゲームをすることになると思うのですが・・・」 そりゃそうだ、なんたって身体はそのままだからな。体力はものすごいだろう。 「ええ、ですが。そのゲームにおいてですね、涼宮さんを最下位にさせるということは出来るだけ 避けたいんです」 ああ、なるほどね。俺は古泉の言いたいことを瞬時に理解した。ほかの二人もそうだろう。 「確かにな、そんなことになったらもっと厄介なことになりそうだ」 「ええ、ただ彼女は勘がいいですからね。手加減しているのを聡られないようにしなければ いけません」 そうだな、しかしまあ骨の折れる作業だ。 「仕方ありません。それに、こういうのも楽しいでしょう。僕は嫌いじゃないですよ」 確かに退屈はしなそうだな。その時、とたとたと足音が聞こえた。どうやらハルヒが帰ってきた ようだ。 「あ!配っててくれたんだ!ありがとうキョン!」 と、俺にいつもより数割増しの笑顔を向ける。おいおい、勘弁してくれ。素直なハルヒなんて 俺の想像の範囲内には居ないんだ。俺が混乱しつつある頭を何とか正常に戻そうとしている と、あろうことかハルヒはその混乱を増幅させる行為をとりやがった。すなわち、俺の脚の間に ドスンと座ったのである。そりゃあもう堂々と、それが当たり前のように。 「おい、何をしている」 「キョン!イス代わりになって~」 ああ、うんそういうことか。でもな、朝比奈さんでもいいじゃないか。 「う~んそれでもいいんだけどさ、みくるちゃんちっちゃいんだもん」 と、言いながらこちらを見上げる。顔が近いよ、顔が。それと髪からものすごくいい匂いがする。 これはまずい、どう考えてもまずい。 「いや、でもな・・・その・・人をイス代わりにするのはあまりいいことじゃないぞ?」 俺は何とか平静を保ちながら-これは奇跡的なことだ、自分の精神力に感服するね-、 ハルヒに言い聞かす。だが、 「うう・・・キョンはいや?」 と、ハルヒに潤んだ瞳で見上げられれば「嫌だ」などと言えるわけがない。 「ええとだな・・・その・・・」 「わかった・・・。じゃあ古泉くんのところに・」 「ハルヒ!」 「ふぇ?」 「嫌じゃないぞ、全然嫌じゃない。だからここに居なさい」 もちろんこれは古泉の為だ。さっきも大分困ってたみたいだからな、そうだお前の為なんだ。 だから古泉よ、そんなニヤニヤ顔でこっちを見るな。朝比奈さんもそんなに優しい目でこちら を見ないでください。 「え・・・?うん!ありがとう、キョン!」 そう言いながら思いっきり抱きついてくる。いや、だからそういうのはまずいと言ってるだろうに。 「あ~、ハルヒよ。前を向いた方がいいぞ。トランプがしづらいからな」 「あ、うん。ごめんね」 と、素直に前を向く。かくしてようやくトランプまでこぎつけた。これからおそらく何時間も遊ぶのだ。 それが終わる頃には俺はもしかしたら、死ぬんじゃないだろうか?そんなことを俺は本気で考えて いた。 結論から言うと俺は何とか死なずにすんだ。勝因はなんといっても、 「キョンの身体かたーい」 と、言いながら朝比奈さんの方にハルヒが途中で移動してくれたことだ。それでも移動するまでは トランプのババ抜きをしている時にハルヒが最初にあがると嬉しさのあまり俺に抱きついたり、先ほども 述べたのだがハルヒからやたらいい匂いがしたりと、俺のHPはもはや限界まですり減らされていた。 途中で朝比奈さんの方に行ってくれなかったら、間違いなく命はなかっただろう。その時に若干喪失感 みたいなものを味わったが、まあそれも気のせいに違いない。 それと、古泉の言っていた懸案事項も全く問題にならなかった。なぜって?そりゃあハルヒが 何をやらしても強かったからさ。元々3歳の割には語彙が多いなとかは思っていたが、頭の 回転の良さも昔からだったらしい。結局手加減どころか本気をだしても俺達がハルヒにかなうこと はなく、終始1位と2位をハルヒと長門が取り合うという形でゲームは行われていった。ただ、途中 人生ゲームをする時は朝比奈さんに漢字や意味を聞きながらうんうんうなづいてプレイしていたから 4位になっちまったけどな。ちなみに最下位は古泉だ。もちろん、手加減などしていなかったが。 そうして楽しかった時間はあっという間に過ぎ、ハルヒの、 「ねむ~い」 の一言で4時間にも及んだゲーム大会は終わりを告げ、俺以外の4人はあっさりと眠りについて しまった。ちなみにハルヒはといえばコタツには入らず、俺に膝枕をさせながら毛布をかけて眠りこけ ている。 ここでようやく冒頭に戻る。俺はなんとなくハルヒの頭をなでていた。なあハルヒよ?楽しかったか? 今度起きたら元に戻っていてくれよ?子供のお前も好きだけど、俺はやっぱり・・・。俺がありえない 程恥ずかしいことを考えているとパチッとハルヒが目を開けた。ばっちり俺と目が合う。 「ハ・・・ハルヒ・・・?」 「ねえキョン・・・」 「うん?」 「キョンはハルヒのこと好き?」 え~とだな、このハルヒは子供の方のハルヒだよな?ああ、間違いないだろう。自分のこと「ハルヒ」 って言ってるしな。じゃあ、大丈夫だ。嘘をつく必要もない。ハルヒの頭をなでつけながら俺は出来る だけ優しい声で言った。 「ああ・・・好きだよ」 「ホント?」 「本当だ」 「元に戻っても?」 おいおい、こいつわかってやってんのか?いや、まあ大丈夫だろう。ハルヒはこれを夢と処理するはずだ。 「ああ・・・元に戻ってもだ」 「ふふ、ありがとうキョン」 と、ハルヒは更に言葉を続けた。 「あたしも・・・好きよ」 !!驚いてハルヒの方を見るが、ハルヒはもう眠ってしまっていた。いや、さすがにこの早さで寝るのは ガリレオ・ガリレイが天動説を唱えるくらいありえない。俺はおそるおそるハルヒの頬をつねってみるが、 何の反応もない。本当に眠ってしまったようだ。 「ふう」 俺はしばらく考えてから寝てしまうことにした。考え事なんてもともと俺の性分じゃないんだ。そんなもの は古泉あたりにまかせておけばいい。俺はそう決めてかかると、眠りの世界に身を委ねた。 起きると、周りにはもう朝比奈さんと古泉の姿はなかった。右の方を見ると長門がみかんをパクついて いる。お前、それ何個目だよ。 「長門、みんなは?」 「もう帰った。あなたたちもそろそろ帰った方がいい」 そうか、言われて時計を見れば確かにもう結構な時間である。これは帰った方がよさそうだ。 「ハルヒ、帰るぞ」 「ん・・・ううん」 そういいながらもそもそと起き上がる。 「え!うそ!もうこんな時間?どうして起こしてくれなかったのよ!」 どうやらもとのハルヒに戻っているようだ。なんとなくわかってたけどな、だからみんなも帰ったんだろう。 それよりお前はばっちり起きてたし、誰よりもはしゃいでいたぞ。 「いや、俺たちは全力でお前を起こそうとしたがどうしてもお前が起きなかったんだ」 「ホント?有希?」 「本当」 と、長門はゆっくり頷いた。 「そっか・・・」 なんだか少し寂しそうだ。 「すまん・・・無理矢理にでも起こせばよかったか?」 「ううん、いいのよ。ありがとね」 おいおい、元に戻っても素直なまんまか。勘弁してくれ。 「なあに変な顔してんのよ」 「いや、なんでもない」 そう言いながら、帰る準備を進める。さて、 「じゃあ、帰るか」 「そうね」 「じゃあな、長門。いろいろありがとな」 「いい」 「バイバイ有希、また来るからね」 「・・・わかった」 長門がゆっくり頷くのを確認してから俺たちはマンションのドアを閉めた。 帰り道、ハルヒがこんなことを言い出した。 「ねえキョン」 「なんだ」 「あたしね・・・変な夢を見たの」 やっぱりきたか、でもなハルヒそれは夢じゃないんだぜ。 「どんな夢だったんだ?」 なんとなく聞いてみたが、おおよそハルヒの回答は予想がついた。なんたってみんなに 甘えたおした挙句、最後には俺にあんなことを言われたんだ。ハルヒにとっては悪夢 以外の何物でもないはずだ。 「それがね」 と、ハルヒはこちらに顔を向けながら続ける。そして笑顔で顔を輝かせ、 「すっごくいい夢だったのよ!」 と、言ってのけた。おいおい、待ってくれその反応は反則だ。クソ、顔が熱い。ハルヒの 方を見れん。 「ちょっと、何で顔をそらすのよ。ていうか顔赤いわよ?キョン」 夜でもわかるくらい俺の顔は赤いのか、恥ずかしい話だ。仕方ない、喋ってごまかそう。 「あ~、ハルヒよ。俺も変な夢を見たんだ」 「へ~、どんな夢よ?」 「それがな」 俺は言葉を続ける。 「ものすごくいい夢だったんだ」 なぜか、ハルヒの顔が朱に染まった。 fin
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2882.html
涼宮ハルヒの約束 「あんたさ、自分がこの地球でどれほどちっぽけな存在なのか、自覚したことある?」 いつだったか、お前はそう言った。 あの時お前の言ったとおり、俺は本当にちっぽけな存在だと思う。 長門や古泉や朝比奈さんのような特別な力なんて、生憎持ち合わせていないからな。 だがハルヒ、お前は違うだろう?お前はこの地球の中心といってもいいくらいの存在だろう? なのに、なぜだ。 涼宮ハルヒは、3年前に息を引き取った。 俺たち普通の人間と変わらず、ハルヒの死は突然に、そして静かにやってきたのだ。 ハルヒのことだ。 もし間違って死んでしまったりしても、きっとあいつの意味のわからん能力かなんかで生き返ってくるものだと俺は思っていた。 今死ぬことをハルヒは望んでいない。必ず生き返ることを望むはずだ。 三年前の俺は、そう確信していた。 だが、ハルヒは戻ってこなかった。 俺はハルヒの死を理解することなどできなかった。 安らかに眠るあいつの顔だって見た。冷たくなってしまったあいつの手だって握った。あいつの葬式にだって行った。墓参りにだって何度も行っている。 何度現実を突きつけられても、俺はまだわかっていない。 俺はハルヒが戻ってくることを信じてやまないのだ。 三年前、ハルヒが死んで、俺たちSOS団はバラバラになった。 朝比奈さんはハルヒが死んだ直後の病院で、泣きながら、しかししっかりとした口調で俺たちにこう告げた。 「涼宮さんが死ぬことは規定事項なのかどうか・・・私には、わかりません。・・・ 何も、わかりません・・・。 でも、一つだけわかることがあります・・・。未来に帰らなければいけないのは、今、ということです。 短い間でしたが・・・本当にありがとうございました。皆さんに会えてよかったです、本当に・・・。 もう会えないかもしれないけど・・・」 涙で詰まったのか、朝比奈さんは一度うつむいた。そして顔をあげ、少し無理矢理な笑顔を作り、 「さようなら」 まっすぐ俺の顔を見ながら言った。 朝比奈さんは、薄暗い病院の廊下をゆっくりと歩いて行った。小さく震えている背中を見届けながら、俺たちは何も言えずにいた。 何か言うべきだったのかもしれないな。だけど、その時の俺の頭には言葉なんてものは存在してなかったように思う。 古泉はハルヒの葬式が終わった後、 「・・・とても残念です。残念としか、言い様がありません。私たち機関はもう能力を使うことはないでしょう。 使いたくても使えない。涼宮さんが居なければ、私たちはこんなにも無力なのですね。何が超能力者だ・・・と。」 長門以上に無言を貫く俺に、古泉は喋り続けた。いつもより力なく、いつものようにうざったいアクションをつけながら。 「機関は解散しますが・・・僕にはやらなくてはならないことがたくさんあります。 ・・・後始末、とでも言いましょうか。」 お別れですね、と寂しげな笑顔を見せながら俺に言うと、どこからともなく黒い車が古泉を迎えにきた。古泉も俺も、お互いに手を振ることのないサヨナラだった。 どこへ行ったのか、後始末とは何なのか・・・俺は何も知らない。あの日以来、俺は古泉に会っていない。 長門はというと、ハルヒが死んだ日以来顔を合わせていない。葬式に顔を出さなかった長門を俺は不審に思い、その帰りに長門の家に寄ったのだが、部屋は既に蛻の殻となっていた。 あいつも、情報統合思念体とやらのところに帰ってしまったのだろうか。 そうして俺は一人になった。 高校を卒業し、今は大学生だ。普通レベルの大学に合格し、一人暮らしをしながら普通の毎日を送っている。 ハルヒと出会う前のような、フツーの日常を。 友達だってそれなりに居るし、今、彼女だって居る。傍から見れば充実した毎日を送っている。 でもな、ちっとも楽しくなんてないんだよ。 朝比奈さん、長門、古泉・・・そしてハルヒ。 お前らが居ない毎日が楽しいわけなんてないだろうが。 一日たりともお前らを忘れた日なんてないさ。 こんな日常・・・あまりにも普通すぎて、一人で不思議探索にでも出かけたくなるほどなんだ、ハルヒよ。 寂しいじゃねーか。 俺を一人にしないでくれよ、ハルヒ。 お願いだ。 戻ってきてくれよ、ハルヒ―――。 静かな部屋に、携帯のバイブ音が響く。 一人物思いに耽っていた俺は、その音にびっくりし体を一瞬震わせた。 急いで携帯を取ると、画面には彼女の名前と番号が表示されていた。 「ああ、俺だ。どうした?」 『ねぇ。もちろん明日、空いてるわよね?ちょうど休みだし』 「明日?・・・ああ、別に用事はないが。明日がどうかしたのか?」 『・・・冗談でしょ?覚えてないの?明日は半年記念日じゃない』 「ああ・・・明日で半年だったか、すまないな」 『・・・記念日、覚えてくれてたことなかったよね・・・』 「・・・すまん」 『・・・まぁいいわよ。半年記念日前に喧嘩なんてしたくないもの。』 「ああ・・・すまんな。・・・明日はどうする?」 『キョンの家、駄目かな?』 「ああ、そうしよう。午後、適当に来てくれよ。じゃあな。」 電話を切り、俺はため息をついた。 明日で彼女に告白をされて始まった交際も半年になる。 断る理由が特に無かったから付き合っただけで、別に俺には好きという感情がなかったりする。 彼女はしょっちゅう俺に会いたいと言う。きっと彼女の方は俺の事を愛してくれているのだろう。 でも、俺が彼女に会いたいと思う時は、俺の中の男が女を求めた時だ。 我ながら最低だと思う。 ハルヒだったらこんな俺になんて言うだろうか。 引っ叩かれる・・・いや、それどころじゃ済まないだろうな。 俺は不意にカレンダーを見た。 今日は7月6日、明日は7月7日だった。 七夕・・・か。 次の日、午後2時過ぎに呼び鈴が鳴った。彼女だ。 「おじゃましまーす」 「ああ、ちょっと散らかってるけど気にしないでくれ」 俺がそう言うと、これのどこがちょっとなのよ、とぶつぶつ言いながら彼女は部屋を整理し始めた。 あんまり動かしてほしく無い気もするのだがな、片付けるのは確かに面倒なので俺はしばらく何も言わないでいた。 彼女の片づけている手が男の秘密ゾーンに伸び始めたところで声をかけ、片づけを中断させる。 そうすると彼女は思い出したような表情をし、カバンをがさごそとあさりはじめた。 「はいキョン!この本、読みたがってたじゃない?今日寄った本屋でたまたま見かけたから買ったのよ。」 「おお、ありがとうな」 「読んだらあたしにも貸してよね」 本を受け取ると、彼女はゆっくりと俺の体に腕を絡ませる。 俺たちはその状態のまま少し他愛の無い話をしていたが、しばらくすると彼女の唇が 近づいてきたので、俺はそれに答えようと本を置いた。 ―――その時、本からしおりのようなものがハラっと落ちた。 しおり・・・ まさか、長門か? 「待った!」 「わっ!!何!?」 少し大きな声を出し、彼女の体を強引に剥がすと俺は急いでしおりを拾った。 ぶつくさ文句を言っている彼女を尻目に、俺の目はしおりに書かれた綺麗な明朝体を 認識する。 あの公園で待っている 長門だ。 こんなやり方は長門しかありえない。 長門に違いない。そう思いたいのだ。ただの偶然のいたずらなら暴れるぞ。 とにかく、これは長門からのメッセージであり、あの公園とはあの公園だ。 俺の脳裏に、ハルヒがよぎる。 「なによ・・・どうしたの?なにそれ」 「すまん、たった今用事ができた」 「はあ?ちょっと何言って・・・」 「悪い、埋め合わせは今度する!家を出なくては」 「ちょっと、何よわけがわからないわよ!」 彼女の荷物を拾い、強引に手を引いて家を出る。わけがわからないであろう彼女は懸命に俺を引きとめようとするが、湧き上がる感情でいっぱいだった俺は、彼女が納得できるような上手い理由を考えることなどできるわけがなく、そのまま自転車に飛び乗る。 終いにはものすごい剣幕で怒鳴ってきた彼女に、俺は「本ありがとう」とだけ告げ、 ものすごい馬力でペダルをこぎ始めた。 一人暮らしをしている今、あの公園はそんなに近くなく、三駅ほど離れていた。だが、電車を待つ時間は今の俺にとって普段の100万倍増しに苦痛だったからな。 今までこんなに早く自転車を飛ばしたことがあっただろうか。 ペダルの回転が速すぎて足が空回りしそうになりつつ、俺は公園の入り口を急カーブで突っ切る。 ベンチに目をやる。 そこには、紛れもない長門の姿があった。 あまり変わってはいないが、少し大人びたように見える長門が俺を待っていた。 「・・・長門ッ!!」 俺は半ば転ぶようにして自転車から降り、荒い息で長門の名を叫ぶ。 「・・・久しぶり」 そんな俺の叫びにも動じない、三年前と何も変わらない淡々とした声。そして三年前と何も変わらない深海を切り取ったかのような瞳が俺を見つめる。 俺はなんだかひどく安心し、そしてひどく懐かしさに襲われた。不覚にも涙が出そうになる。 「長門・・・お前・・・今までどこで何してたんだよ」 「言語化できない。それより、私は今あなたに話したいことがある。だからここへあなたを呼んだ。」 「おう、なんだ?」 長門は淡々と続ける。 「異空通達情報振動が観測された」 「なんだそれは。ハルヒか?」 「そう。地球でも宇宙でもない場所からの涼宮ハルヒの意思情報振動が宇宙で観測された。その振動はもうすぐ地球にも到達する」 「どういうことだ!?もっとわかりやすく説明してくれ!ハルヒが戻ってくるのか!?」 俺は今ほど長門の難しい言葉と俺の簡単な構造をした頭に腹が立ったことはないだろ う。長門の難しい言葉を理解できるのは古泉ぐらいだろうけどな。 長門は続ける。 「宇宙では涼宮ハルヒの意思情報しか観測されなかった。しかし彼女が暮らしていた地球でなら意思を具現化しやすい。宇宙よりより明確な異空通達情報振動が観測できる可能性がある。 私はそれを調査しに地球へと戻ってきた。でも、異空通達情報振動が観測されたということをあなたに伝える判断を下したのは私の意思」 「なんなんだよ、その異空なんたら情報振動ってのは」 「簡単に表すとするならば、メッセージ、と呼ばれるようなもの。しかし、宇宙で観測された異空通達情報振動は言語化することはできない。」 ・・・つまり、俺の簡単な構造をした頭で解釈してみると、ハルヒメッセージがどこか異世界から発信され、それがもうすぐ地球にも伝わる、ということだろう。 「わかった。じゃあ地球でなら、ハルヒのそのなんたら振動も俺が理解できるものになってる可能性がある、ということなんだな?」 「そう。そして、その異空通達情報振動は、あなたへ向けて発信された可能性が高いとされている」 涙が出そうになる。 ・・・俺をどこか遠いところから見ていてくれていたのか? そして、俺にどんなメッセージがあるというのだ。 ハルヒ。 「到達は、今日の夜頃になると予測されている。しかしどんな形であなたに伝わるのかは予測できていない。そしてそれがあなたに理解できるものなのかは保障できない」 「ああ、それでもいいさ。俺は待ってみる」 「そう」 「ああ。」 そして沈黙。 その沈黙を利用して、俺は気持ちを落ち着かせる。 心臓がうるさい、ええい黙れ。落ち着いて考えるんだ。俺。 いや、なれるか。俺はずっとずっとハルヒを待っていたんだ。なれるはずがない。 「・・・ありがとう、長門。」 「・・・いい。私は、しばらくは三年前利用していたマンションで調査をする。」 「わかった。・・・じゃあ、また会えるんだよな?・・・長門」 まっすぐに俺を見ていた長門の目が、ほんのわずかだが揺らいだような気がした 「・・・会える。私という個体は、あなたに会うことを楽しみとしていた。そして、今ここで再会することができて嬉しく思っている」 「ああ、俺もだよ長門。」 ああ、俺は今相当普通じゃないんだろうな。 長門の目が、ほんの少し潤んだような気さえした。 「じゃあ、今日は帰るよ。また明日、お前に会いに行くよ。話したいことがいっぱいあるし、お前がどうしていたのかも聴きたいからな。 ただ、今俺の頭は爆発寸前なほどやばいみたいだ。一人になって頭の中整理してみるよ」 「そう」 「ああ。本当にありがとうな、長門。」 長門の頭を撫でてやる。なんだか、今のこいつを見ていたら無償にそうしてやりたくなった。 「・・・・・・・・・じゃあ」 「ああ、また明日な。」 長門はなんだか機械的に背中を向ける。俺は長門の背中が見えなくなってから、乱暴に放置していた自転車を持ち上げた。 少しずつ日が暮れる。 俺は家で一人、窓の外を見ながらぼんやり思い出に浸っていた。 一つ一つ思い出していたんだ。SOS団で過ごした毎日を。 何度も繰り返し頭の中で再生した変わることのない映像も、なんだか今日は違ったものに思えた。 あんなことも、こんなこともあったよな。そうして一つ一つ思い出しているうちに、少しずつ視界がぼやけていく。 ・・・くそ、今日はなんだか涙腺が緩いみたいだな。 俺の頬を冷たい水が伝う。 最近はやっと涙を流す回数が減ってきたっていうのに。 お前が今、すごく近くに居るような気がしてならないんだよ、ハルヒ。 一粒、また一粒と目からこぼれていく。 俺はお前に会いたい。 そして、あの頃は素直になれず、気づくことのできなかった気持ちを、お前に伝えたいんだ。 俺は――――・・・ その時だった。 俺の頬に、暖かく懐かしい、そしてこの世で一番愛しく感じられるような手が添えられた。 ゆっくりと優しく俺の涙を拭う。 ―――俺の目の前に今、確かにハルヒが居る。 「・・・もう、泣かないの。バカキョン」 ハルヒは俺の涙を優しく拭い続け、そっと笑った。 「・・・ハルヒ・・・」 「キョン・・・会いたかったの・・・ずっと・・・ずっとキョンに・・・」 ハルヒは、あの頃と何も変わらない姿でそこに居た。しかし、俺の記憶に残っているどんなハルヒの笑顔よりも穏やかに笑っていた。 「ごめんね・・・突然居なくなったりして。・・・あたし、ずっとアンタを苦しめてたのね。・・・あたし、普通の人間なんかじゃなかったのにね。死んでから知ったわよ。 それなのに、あたしあっさり死んだりして、あんたを苦しめたりして・・・」 「ハルヒ・・・俺・・・」 言いたいことや言わなければならないことがたくさん俺の喉へと上ってきて、言葉にならない。上手く言語化できない、とはこのことだな。 ふっ、と小さく笑いを漏らすと、今度は1000万アンペアの輝きを持つ笑顔を見せた。 「いいのよキョン!わかってる。アンタのことなんて全部わかってるんだから!・・・本当よ?」 「ハルヒ・・・俺ずっと・・・ずっとハルヒに・・・」 だめだ。涙で詰まって声さえ出すのが難しくなってきた。 俺はしばらく自分を落ち着かせようと必死になっていた。そんな俺を、ハルヒはとても優しい目で待っていてくれた。 反則だろ。泣き止めるわけないじゃねぇか、こんな状況。 やっとのことで喋れる状態になり、今度は俺がハルヒの頬にそっと手を添える。 すると、今度はハルヒの大きな目から涙がこぼれた。 バカハルヒ。同じように涙を拭ってやる。 そして、大きく深呼吸をする。 「ハルヒ・・・ずっとお前に会いたかった・・・俺はずっと・・・きっと初めて会った日から・・・」 俺は、 ずっとハルヒに伝えたかった言葉を今――― 「好きだ」 そうはっきり告げて唇を重ねる。 あの時、閉鎖空間でキスした時よりも、きっと俺は、その、色々と上手くなっているはずだった。大人のキスのやり方だって知っている。 なのになんでだろうな・・・俺はあの時のように、不器用に唇をぶつけることしかできなかった。 でも、なんでもよかった。そんなことどうでもよかったんだ。 俺の腕の中に、今確かにハルヒが居る。 ずっと会いたかった、ずっと待ち続けた、誰よりも愛おしいハルヒが居るんだ。 今、ここに確かに・・・ 唇を離す。 開かれたハルヒの目から、また一筋涙がこぼれる。 俺が拭う前に、ハルヒは自分で目をごしごしとやると、また穏やかに笑ってくれた。 俺もそれに答えて笑ってみせる。 そしてハルヒは笑顔のまま喋りだした。 「あのね・・・キョン。あたし、今はここの世界にずっと居ることはできないの」 俺は笑顔を一瞬にして保てなくなった。 それでも、ハルヒは続ける。 「でもね、大丈夫。あたしたちはまた会えるの。絶対よ。あたしは今ね、アンタとまた一緒になるために向こうで頑張ってるのよ。 何をしてるのとか、向こうってどこなのかとか・・・それは、うん、そうね。また会えたときにゆっくりたっぷり話すからさ」 「俺はお前とずっと一緒に居たい。もう置いていかないでくれ」 俺の言葉に、一瞬ハルヒは声を詰まらせる。 「・・・ごめんね。でも・・・ほんとに、また会える日がくるから・・・。あたしのこと、信じて・・・キョン」 また涙がこみあげそうになる。俺は顔を歪ませて必死に堪える。 「大丈夫だよ。アンタは今日、ここであたしへの気持ちを忘れるから」 「忘れるわけないだろうが。何言ってるんだ」 「あたし、今この世界では一つしか力が使えないのよね・・・。その力で、アンタのあたしに対する恋愛感情を消すの」 俺はハルヒが言い切る前に力強く抱きしめた。もうまともに顔が見れねぇ。何を言ってやがるんだ、こいつは。 「だめだ。ばかなことはやめろ」 「大丈夫よ。あたしと過ごした記憶は消えたりしないわ。ただ、今までみたいに苦しませたりしないから・・・」 「お前が好きなんだ」 「キョン・・・」 ハルヒが俺から離れる。 「あたし・・・そろそろ、行かなくちゃ」 「・・・ハルヒ・・・ッ」 ハルヒの体が一瞬透ける。 堪えていた涙が、堤防を破壊して一気に流れ出す。 「キョン・・・あたしも・・・アンタのことが好き・・・。それはずっと変わらないから。ずっと・・・永遠に」 ハルヒがどんどん薄れていく。耐え切れず俺は、ハルヒの両手をぎゅっと握り締める。ハルヒはそれに答え、俺と指を絡ませた。 「ハルヒ!」 「キョン、大丈夫よ!アンタは幸せになれる。今まで辛い思いしてた分、ちゃんと笑って暮らせる未来があるんだから。 そして、あたしたちはまた会えるの。約束するわ。あたしのこと・・・信じて」 ハルヒの笑顔が、消えていく――― 「さよなら、またね、キョン。・・・ありがとう」 ―――・・・ ハルヒが死んで5年。 そして、ハルヒと再会してから2年が経った。 俺は21歳を迎える。 そして、今長門と一緒に居る。 長門と、そして長門と共にある新しい命と一緒に、だ。 出産はもう間近だ。その時に備えて、今俺達は二人病室に居る。 あれから、ハルヒと再会してから、長門は普通の人間になることができたという。 そして俺たちは毎日のように会い、そして今、こうして二人で暮らしている。結婚式は2ヶ月前にしたばかりだ。 結婚式には、なんと古泉や朝比奈さんまで来てくれた。古泉も朝比奈さんも多くを語ってはくれないが、今は月に一度程度、4人で顔を合わせている。 きっと二人もハルヒに会ったのだろう。 俺は幸せだった。 長門が居て、古泉や朝比奈さんも居て。 ハルヒが言ったちゃんと笑って暮らせる未来が、今ここにあった。 ただ、ハルヒが居ない。それが足りないだけだった。 「・・・今日は、七夕だな」 今まで沈黙を続けていた病室で、俺はつぶやいた。 長門はふいに、ゆっくりと顔をあげる。そしてそのままゆっくりとカーテンを指差した。 「・・・空」 「・・・?・・・なんだ、天の川でも出てるのか?今日は晴天だったが・・・」 こんな所じゃ天の川なんて拝める程の星は見えないぞ、そう言い掛けながら俺はカーテンを開けた。 そこには、無数の星。 天の川ではない。その星達は、綺麗な幾何学模様を作り上げていた。 「・・・これは・・・」 呆気に取られる俺に、長門はぽつり、と言った。 「『私は、そこに居る』」 その言葉の意味を、俺は一瞬で理解した。 実はな。 俺はやっぱり最低な男みたいだ。 あれから・・・ハルヒと再会した時から、俺の気持ちは変わったりしていない。 今でも俺はハルヒのことが好きだ。 いや、もちろん長門のことだって同じくらい愛しているさ。 あの時、ハルヒは俺からハルヒへの想いを消さなかったってことだ。 何でかって? それは、長門が人間になることができたことを思えば、答えは簡単に出る。 俺は今最高に幸せだ。 ハルヒが言ったように、俺はちゃんと幸せになれたんだ。 ハルヒが嘘をついたり、約束を破ったりすることなんて一度も無い。 あいつは全て有言実行する奴だからな。 そう、 だから今、 俺はあいつが言ったように、ハルヒと再会することができている。 もう7歳になる俺の娘。 俺と長門の子供だ。 黄色いカチューシャをつけて、今、テレビの前に座っている。 うさんくさい番組だ。あんなのをUFOなどと呼んで誰が信じるんだ。下手したら飛行機を画質の荒いビデオカメラで撮影したものの方が世間には受け入れられると思うぞ。 ばかばかしくてため息が出そうになう番組だが、俺はチャンネルを変えたりしない。 そして前言を撤回する。信じる奴だって居るんだよな。今ここで、熱心にテレビに食いついている俺の娘がその一人だ。 最初から最後まで「フィクションです」と言わんばかりのインチキ映像を見せられ、ようやく番組が終わったところで、ずっとテレビに向いていた顔が俺に向いた。 大きな目をぱちぱちと瞬きさせて、100万ワットの笑顔で俺に言うんだ。 「ねぇキョン、宇宙人って居ると思う?」 俺の答えは決まっている。
https://w.atwiki.jp/survivalcraftservers/pages/18.html
お世話になっている生主さんのコミュとサーバー公式コミュを掲載します サーバー公式コミュニティー kiri_cat54503様 http //com.nicovideo.jp/community/co2256350 はおのマイクラ鬼ごっこコミュ(●´ー`●) kaigunHAO様 http //com.nicovideo.jp/community/co2808408 初心者ロトすけのgdgd放送 xRoto_Cat_0117x様 http //com.nicovideo.jp/community/co2321329
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/32.html
二学期がもうすぐ終業式を迎えるある日の午後。 コンビニに行くと言って席を立った古泉は、扉の前でいつもの微笑をたたえ、SOS団アジトを振り返った。 「何か用がございましたらどうぞ」 「古泉くん、あたし雪見だいふくお願いね!」 早速ハルヒが勢い良く挙手して言った。 お前には遠慮と言うものが…ま、古泉だしいっか。 「古泉、ジャンプ頼む。料金後払いでな」 「あのー、古泉くん、ハンドクリームを…あればでいいです。 よろしくお願いします」 朝比奈さんが律義に古泉に頭を下げるのを見つめていると、長門がいつの間にやら古泉の真横に移動していた。 「私も、行く」 ん?古泉に頼んだらどうだ?そのために奴も皆の注文を聞いているんだろうし。 俺がそう思っていると、ハルヒも同じように思ったんだろうな、 「有希、古泉くんに頼んだら? 遠慮してるんだったら大丈夫よ、古泉くんは私が見込んだSOS団の副団長だもん。 断るなんてキョンみたいなケチ臭いことしないわよ!」 市内探索の度に全員分の昼食代やら茶代やらを払っている俺のどこがケチ臭いと言うんだハルヒさんよ。 「いいの?」 古泉、今すぐ俺と代われ。 長門にそうやって上目使いに尋ねられるんならパシリくらい安いもんだ。 「勿論です。どうぞご遠慮なく」 コートを手に取った古泉が長門に爽やかスマイルで促すと、長門は 「昼、少ない日用。羽付き」 とだけ呟いた。 「ゆーきぃー!!!」 長門の一言で外の気温よりも冷たくなった空気の中、真っ先に動いたのはハルヒだった。 「な、長門さん!」 少し出遅れた朝比奈さんも、ハルヒと同じく長門に駆け寄った。 ふたりして長門を抱き寄せ、顔に掛かるふたり分の胸の圧力に身動きできずにいる、なんとも羨ましい状態の長門を古泉から引き離す。 その古泉はと言うと、あまりのことに爽やかスマイルのままその場に固まり、このクソ寒いのに汗を一筋流すなどと高度な技をやってのけていた。 ハルヒと朝比奈さんは俺と古泉から最も離れた場所、つまりハルヒの団長机まで長門を連行して、そこでやっと長門を解放した。 「ゆゆゆ、有希、あなた学校でなったの?」 「なった」 「どうして私に言わないの!? みくるちゃんでも良いわ、とりあえずそーゆー時は知っている人に持ち合わせがあるかどうか聞くもんなのよ!」 ハルヒの物凄い剣幕に、長門はそうなの?とでも言うように首を傾げ、朝比奈さんはハルヒの言うことにこくこくと頷いていた。 「でも、聞くと言っても、そういうのは男の人に聞いちゃだめです」 そこでハルヒ達は全員が全員、俺と古泉の方を見た。 ハルヒは睨み付け、朝比奈さんまでもが咎めるように。 長門はただ見つめただけだったが、なんだなんだ、ハルヒと朝比奈さんのその目は。 俺も古泉も誰にも何もしてないぞ。 何故か冷や汗が垂れてきた。 「それに、古泉くんと有希が一緒にコンビニ行って、よ。 有希がそれ持ってレジに並んだら、古泉くんがなんてリアクションしたら良いか解らなくて困るでしょ!」 「べ、別に何もリアクションなんてしませんが…」 うん、こればっかりは俺も古泉がハルヒに反論するのも無理ないと思うぞ。 俺だって見て見ぬフリをするさ。 「解ってくれましたか?長門さん」 朝比奈さんがまるで姉のように長門に問い掛け、長門がこくっと頷いた。いいね、和む。 「って、悠長にしてる場合じゃないわ!」 ハルヒは自分の鞄に手を突っ込んで小さいポーチを取り出すと、長門の手を掴んで扉までずかずか歩いて行った。 古泉が扉の前から退くと、何故かハルヒは奴を一瞥してから勢い良く扉を開けて部室から出て行った。朝比奈さんもそれに続く。 そりゃな、あんな会話をした後に男共とひとりで残るのは気が引けるだろうよ。 ぱたん、と扉が閉められる音を聞いてから、盛大な溜息をついて俺は机に突っ伏っした。 はー、やれやれ、一気に疲れた。 古泉が壁にもたれ掛かって、そのままずるずると床にへたり込む。 こりゃいつものオーバーリアクションじゃなくて素っぽいな。当然か。 「それにしても、驚きました」 「ああ、宇宙人の長門にもそーゆー…」 「近頃のコンビニって何でも置いてあるんですね」 そっちかよ。今時パンツだって売られてるぞ。 いや、そうやってツッコむ気力さえ今の俺にはもう無いさ。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3166.html
俺はいつぞやのごとく、再びノートパソコンの前で無駄な電力と労力を消費していた。 その理由は、文芸部存続の為、恒例となった会誌のおかげである。 ことの発端である生徒会長が「部活動なのだから定期的に活動しなければ意味がない。定期的に発行して、文芸部としての活動をすること。」 との伝令があった。 しかし以外にもハルヒは今回、あんなに毛嫌いしていた生徒会長の言葉を素直に受け入れたのだ。俺の言葉なんざまったく聞いちゃくれないのに・・・。 「別にいいじゃないの。前回あれだけの人気があったんだから、次回作を期待している読者だっているわ。」 と、我団長は話した。 「わかってるわね、キョン!! 私たちの作るものは常に前回を上回るものでなきゃダメなの。どこかのアメリカ映画みたいなくだらないの続編ものはゆるされないんだからね!!」 いつにもましてハイテンションだな。 って、さらにクオリティの高いものを作れないとダメなのか!? 「もっちろん!! それに今回は私もなにか小説を書こうと思うの。 ジャンルは・・・そうねぇ、前回なかったSFにしようかしら。」 ・・・とかなんとか騒いでいる内にSOS団はあれよこれよという間に会誌vol.2をつくる羽目になった。 各自のジャンルは前回同様と同じものになった。その理由は「その方が慣れてるでしょ?」という団長の一言で決まってしまった。 「期限は一週間! ダラダラと長い時間をとるのは意味ないし、SOS団は他にもやらなくてはならないことは山程あるの! 一週間で仕上げちゃいなさい! 遅れたら罰金なんだからね!」 とまぁかくしてSOS団は再び会誌を作ることになったのだが・・・。 俺はまたしても恋愛小説を書かなくてはならなくなった。ああ、あの忌まわしき過去が、鮭の母川回帰本能ごとく俺のもとに舞い戻ってきやがった。 しかし、かくいう俺も少しうれしいことがあった。 それは鶴屋さんの冒険小説の続編が拝めるからだ。 前にも言ったが彼女の小説は、万人に笑いを与えられる秀作で、とても一般人が書いたとは思えない代物だった。 著者である鶴屋さんも「続編だね!? まっかせといてよ! キョン君の期待に応えるためにもめがっさはりきっちゃわなきゃね!」 といつもの明るい笑顔でオファーしてくださった。 製作開始から3日が経過した。 それぞれ前作同様、同じ手法で製作に取り組んでいるのだが、以外にも前回と比べると団員全員・・・訂正、1団員を除く全員の顔には余裕の表情が伺えた。 ハルヒの言うように、要領を掴んでいるせいか楽しんで製作していた。 ちなみに言うまでもないが1団員とは俺のことだ。 「どうです? 作業は捗っていますか?」 いつものように古泉が寄り添ってきやがった。 「しかし、涼宮さんは前回の貴方の作品では十分な満足は得られなかったようですね。 実を言うと私も、また貴方の作品を読んで見たいと思っていました。」 ・・・こいつは本当になにを考えているんだ? 「普通の高校生と同じようなことを考えていますよ。 超能力以外、普通の高校生とまったく一緒なのですから。」 そんなことは前から何回も聞かされている。 俺は超能力者・古泉の思考ではなく、高校生・古泉の思考について疑問を抱いているんだ。 「キョン君は、今回はどんな恋愛小説を書くんですかぁ?」 と、SOS団のエンジェルこと朝比奈さんが質問を投げかけてきた。 「それがさっぱり・・・。前回のやつだって苦し紛れのもんでしたし・・・。 朝比奈さんはもうネタとかできているんですか?」 「私は、今回眠れる森の美女をイメージにした童話を書くつもりですぅ。」 また誰か寝ているんですね・・・。というか今回ハルヒはどのポジションにつくんだろう? 長門はというと、ただ黙々とノートパソコンの前でカチャカチャカチャと止まることのない音楽を奏でていた。 「なぁ、長門。前回の名前をつけるところの下り、もしかしてあれ、お前自身のことか?」 「・・・。」 「あの、発表会ってなんなんだ?」 「・・・。」 「歌っている男、って誰なんだ?」 「・・・。」 長門には前回の小説のことを幾度か質問してはいるのだが、返答はいつもない。 しかし次回作ではその謎が少なからず解かれるのであることをウイスキーボンボンの中身ぐらいの期待を持つことにしよう。 と考えていると、いきなり「できたぁ!」と叫ぶ声とともにハルヒが部室に入ってきた。 「ねぇねぇキョン!? 見てみて! 今回SFを書いてみたんだけどすんごい名作よ! 読んでみなさい!」 と、数枚の印刷されたてで、まだ暖かさが残る原稿用紙を手渡された。 俺は一応というか、こいつの作るものにはそれなりの評価はしているのでそれなりの期待をもちながら読み始めたのだが・・・。 ハルヒの作ったSFは期待通り、かなり濃密で斬新な作品であった。しっかりとした構成と話でできていて、とても3日で製作したとは思えない、鮮麗としたものだった。 「どう!?」 と、自信満々のハルヒだったが、 「それよりキョン、あんたできたの!?」と鬼編集長が迫ってきた。 「前回もそうだったけど、あんたは問題児なんだからね! これから私がしっかり編集長としてあんたをしごいてあげるわ!」 正直俺はまいっていた。なにを書くにもそんな経験や知識は皆無でとどめにもてたこともない。付け加えるとやる気もない。 そんな俺にハルヒは学校にいる間は愚か、家に帰ってもメールや電話で進捗度合いを俺に尋ねてきやがる。 一歩間違えればストーカーだ。 製作開始5日目、ネタに困った俺は放課後、谷口と国木田に相談した。 「ネタぁ? お前また恋愛小説書くのか? しかし前回のはひどかったな!」 うるさい。お前に言われたくはない。 ちなみに、こいつらは今回会誌には参加していない。ハルヒ編集長曰く、 「あんな作品はページの無駄よ無駄。無駄なことはあたしは好まないの。」 とここでも鬼編集長ぶりを発揮していた。お前が強引に書かせたくせに。 しかしそれをいうなら俺のもだって相当なもんだぜ?この際だから俺も打ち切りにしてくれないか?とたずねると 「あんたはSOS団員なのよ? 団員は必ず参加しないといけないの! そんなこともわからないの?」と怒られてしまった。 そんなことを俺は脳裏で回想していると、国木田が発言した。 「そうだねぇ。なにも出てこないならSOS団の人達を題材にしちゃえば?」 ・・・! 「そりゃおもしれぇ! 涼宮の団は男女いい具合にいるからよ、昼ドラみたいのかいてみろよ!」 ドロドロ恋愛か・・・。いやそれは俺の力量ではかけないな。 「ドロドロは無理だがいい案を思いついた! サンキュー国木田!」 「どういたしまして。あ、SOS団のみんなによろしくね。」 そうして俺は、部室に向かった。 「って俺には礼なしかよ!」 と谷口が叫んでいたがそんなことは気にもとめなかった。 俺は部室に行くと、そこには長門がいつものように本を読みながら座っていた。 朝比奈さんもいつものようにメイド服に着替えていて「あ、キョン君」と優しい笑顔で挨拶してくれた。 そして古泉がいつものようにこちらを見て微笑んだ。こいつの微笑みは朝比奈さんの笑顔で明るくなった俺の心を台無しにしやがる。 しかし、ハルヒはそこにはいなかった。 まぁこれもよくあることだ。 俺は早速ハルヒがコンピ研から巻き上げたノートパソコンを起動して、テキストエディタに文章を叩き込んでいった。 しかし、一日で終わるわけもなく俺はこの作業を土日もすることになった。 ハルヒのストーカー行為にめげることなく、俺は土曜の夜に恋愛小説を完成することができた。 しかし日曜までかかると思っていたのだが・・・俺も知らないうちに書き慣れちまったんだな、恋愛小説。 その報告を編集長に連絡すると、 「そう、じゃあ今からチェックしてあげるからあたしんちまでもってきて。」 という返事が返ってきた。 「ちょっとまて。今からお前の家って・・・。」 「安心して。ママ達は土日は仕事でいつも家にいないの。だから気にすることはないわ。」 ってその方が余計に気にするわ! 「つべこべ言わずにさっさと来なさい! 10分以内で来るように! 遅刻したらジュース奢りだからね!」 と言い残し電話を切られた。 俺は仕方なくノートパソコンを鞄に詰め込み、ハルヒの自宅へと向かった。道中、果汁100%のジュースとコーヒーも買って行った。 ハルヒの自宅に到着した俺は大魔神のごときハルヒの怒りを静める為、ジュースを渡しなんとか機嫌をなだめた。 実際のところ、10分では到底たどり着くことのできない距離にハルヒ宅があるわけで、俺はどうあがいてもジュースを奢らされる運命にあったわけである。 ハルヒはただジュースが飲みたくて俺にあんなことを言ったのだ。 その証拠にこの後ハルヒは「まぁ買ってきたことに免じて私のジュース代は返してあげる。」といって部屋に案内されながら100円返してくれた。そういうならもう20円返せ。 「それより早くあんたの小説読ませなさい。おもしろくなかったらまた作り直さなきゃいけないんだから。」 とハルヒにせがまれたので俺は息つく間もなく、ノートパソコンの電源を入れた。 立ち上がるまでの間、俺はハルヒの部屋をきょろきょろ見渡していると 「こら、エロキョン! そんなにジロジロ見渡さないの!」と怒られてしまった。 そんなことをしているうちにノートパソコンは立ち上がり用意ができた。 「ほらよ。」 そう俺は言ってハルヒに俺の恋愛小説第2弾をご披露した。 俺はどこにでもいる高校生だ。そんな俺の夢描く高校生活とは、まったりと、しみじみとした普通の高校生活であった。 しかしこんな俺の淡い夢も入学式から数日後、儚くも崩れ落ちていった。 その原因は同じクラスでありながら、俺ら普通の高校生とはまったく違うエンジンを搭載した 一人の女子であった。 クラスメイトがそれぞれ自己紹介するときから、いきなりその排気量の違いを見せつけられ、気づいた時には俺はその女子が立ち上げた部活動に入部させられていた。 その犠牲者は他にも3名いたがなんとその3名もそれぞれ未来人、宇宙人、超能力者と奇怪な能力の持ち主で俺は三者三様、エキセントリックな経験をするハメになった。 そんなわけで俺は毎日飽きることなく、常に刺激溢れる毎日を送ることとなった。 初めの頃は迷惑極まりない、明日が恐ろしい日々だったが、人間というものは素晴らしい機能を持った生き物であり、半年も過ぎるとそれらの刺激が楽しいとさえ思えるようになっていた。 そんな毎日を送っていた俺は精神的にも疲れていたせいか、ある変な夢を見てしまった。 その夢とは、あの女子と俺だけしかいないもうひとつ世界、いわゆるパラレルワールドに迷い込んでしまうというものだった。 このもうひとつ世界とは、女子が作り出した世界だった。 現実に楽しみを失い、新しい世界を望む、女子の願いでできた世界であった。 そんな世界に俺はただ一人歓迎されたのだった。 その世界は灰色で、冷たくて、しかも舞台が俺のその女子が通っている学校だった。 そしてその世界には巨大で、建物を破壊する青くて透明な生き物が存在した。 なにもかもが違う世界に女子は感動していた。 しかし俺は、この世界を否定した。 女子はその意見にこう質問した。 「あんたもつまらない毎日にうんざりしてたんじゃないの?」 俺はこう言い返した。 「俺はみんなのいる世界で、みんなと一緒に居たいんだ。」 その言葉を口にした瞬間、俺は気づいてしまった。 俺の生活の中心にいたあの女子もいつの間にか俺の『心』の中心にいることを・・・。 たしかにお前といれることはうれしい。 しかし俺にとってあの生活の中心にいるお前が一番好きであるなんだ。 この気持ちをどうしたらお前に伝えられる? どうしたら・・・。 俺は女子の両肩に手を置き、向かいながらこう切り出した。 「俺、実はポニーテール萌えなんだ。」 「いつぞやのお前のポニーテールは反則的なまでに似合っていたぞ。」 「はぁ、・・・なにいってんの?」 と、女子は戸惑った顔をしながら俺に大きな瞳を見せた。 そして俺は次の習慣、女子に口付けをした。 「・・・え?」っと驚いた声を出した女子だが、俺のキスに嫌がることなく、受け入れてくれた。 俺の気持ちが届くいたのなら、もう一度元の世界で共に生きよう。 できることなら・・・ずっと・・・。 俺はそう祈りつつ、彼女にキスをした。 そして次の瞬間、このパラレルワールドは崩壊し、二人は元の世界に、元の生活にもどるのだった。 ただひとつ、違うことがあった。 次の日、彼女はポニーテールだった。 俺は少し嬉しくなったのでこういった。 「似合ってるぞ。」 終 読んでもらえばわかるであろう。俺は恋愛小説を書き慣れたわけではない。ただ前にあった事象を文字で表現しただけだ。 しかし。俺は前からどうしても知りたいことがあった。 ズバリ、涼宮ハルヒは俺をどう見ているのか。 古泉や長門、朝比奈さんはハルヒは俺のことを特別視しているというが、実際俺はハルヒ本人からそんな類の話は聞いたことが無い。 俺とハルヒが一番近づいた日の出来事。しかもこれは俺とハルヒしか知らない夢の話。(本当は現実の話だが、ハルヒは夢だと思っているからな。) このことを書けばハルヒの本心が少しでも垣間見れるのでは。 そう俺は心に思いながらこの恋愛小説を執筆した。 ・・・・・。 ハルヒから何の反応もない。 もう読み終わってもいい時間は経過した。 ・・・・・。 ハルヒはどうやら混乱しているようだ。 しかし表情はあっけにとられたような顔をしていた。 正直かわいい顔をしていた。 ハルヒはついに沈黙を破って話し出した。 「あたし・・・、この話、知ってる。」 「そうか。」 「なんであんたこのこと知ってるの!? あれはたしかに夢だったはずなのに・・・。」 まぁここまでは期待通りの反応だな。俺はそう思いながら話を続けた。 「・・・実は俺も見たんだ。この夢。てかハルヒもこの夢見たことあるのか。」 当然、俺はハルヒが見たことを知っているが、話がややこしくなるので適当に話を合わせるために言った。 「そうなんだ・・・あんたもあの夢見たんだ。」 そしてハルヒはこう言った。 「すごいわ、違う人間がここまで同じ夢を見るなんて!」 ・・・あれ? 「これはきっと、宇宙人か未来人か超能力者か異世界人が私達に対してメッセージを送ったのよ!」 あれあれ? 「こうしてはいられないわ! キョン、この夢を見たときの状況を詳しく話しなさい!」 そうして俺はこの夢を見たときの状況などを話すことになった。 ハルヒには俺の恋愛小説はもうどうでもよく、あの時の話に釘付けだ。 はぁ・・・古泉よ。ハルヒは俺より不思議現象の方が気になるそうだ。 まぁ、当然といえば当然の話か。入学当初と変わってないってことさ。 とまぁそんなこんなで昔話を小一時間程話した。 あの日の夢の話。ハルヒにとっては悪夢だったはずだが、今ではそんなことも忘れて妄想ネタとなれ果てている。 「まさかこんなところに不思議現象があったなんて・・・。気づきもしなかったわ!」 ハルヒは目をキラッキラさせながら話を続けた。 「でも今考えてみればあの夢はいつもの夢とはなにか違っていたわね。くぅ~!SOS団団長として一生の不覚だわ!」 いや、気づかなくて普通だろ?そもそも夢なんだし・・・。一応はさ。 「そうとわかれば試してみるしかないわね!」 ・・・なにをだ? 「決まってるじゃない、もう一度メッセージを受け取れるかどうかを調べるのよ! SOS団始まって以来、やっと掴んだ不思議現象なんだからこのまま逃す手はないわ!」 まぁお前にとっては初めての不思議現象そうだろうけどな。 「で・・・どうやって調べるんだ?」 「あの夢の登場人物はあたしとキョンだけ。他の団員がこの体験をしているとは思えないわ。」 それで? 「あんたとあたしが同じ場所、時間で寝ればもしかしたらまたあの現象が起こるかもしれないわ!」 なんでそう思うんだ? 「そんなのカンよ、カン。だいたいこんな現象が起こったのかわからない以上、手当たり次第実行するしかないじゃない。」 真相を言ってやってもよかったが、それを言うと今まで隠してきたことの核心を伝えることになるのでやめておこう。 古泉はともかく、長門にまで怒られそうだからな。 「というわけで、キョン。あんた今日ここに泊まりなさい。 大丈夫。ママ達は帰ってこないし、邪魔者もいないし。」 「・・・ってちょっと待て! なんでそうなるんだよ!」 俺は思わず大声を出してしまった。俺がハルヒの家に泊まるなんて・・・。 「より高いシンクロにするためにもここで寝てもらうから。感謝なさい。こんなかわいい女の子と一緒の部屋で寝れるなんて、あんたの生涯で二度と無いチャンスなんだから。」 おいおいおい。一応俺だって健康な男なんだぜ!? 「変なことしたら、死刑だからね!」 だから、そういうならせめて違う部屋とかにしろよ! 「もう、うるさいわね! 団長命令よ! 文句言わないの!」 とまぁ俺は結局、団長の権力により同室で寝ることになってしまった・・・。 くぅ、これが朝比奈さんだったら・・・。俺は今日を命日にしたって構わないぜ・・・。 「なにごちゃごちゃ言ってんの? 寝るわよ。」 といいながらハルヒはベットに潜っていった。・・・あれ?俺の寝床は? せめて毛布の一枚くれたって・・・。 「早くあんたも入りなさいよ。」 ・・・どこに? 「ベットに決まってんじゃない。それともあんた、床で寝るタイプ?」 ・・・こいつはなにをいってるんだ? 「言ったでしょ!?より高いシンクロをするって。近づけば近づくほど、シンクロ率も上がるってもんよ。そんなこと言われなくても気づきなさいよ。」 「それは・・・つまり・・・俺とハルヒが添い寝をするってことか?」 「私の許可無しに変なことしたら、地獄行きだからね!」 そうかい。俺は天国いきたし、まだこの世にたくさんの未練もあるしね。生き延びる為にも、頑張るとするか・・・。 こうして俺とハルヒは一緒のベットで一緒に寝ることになった。 なんだ、この罰ゲーム・・・いや、ボーナスタイム? どちらとも捕らえられるこの状態に俺の頭には今までにないアドレナリンが発生していた。 今俺は、ハルヒと背中を合わせて寝ている状態にある。 ・・・正直、俺の鼓動がハルヒどころか部屋中反響しまくっているのではと思うくらい高鳴っていた。 「・・・ねぇ」 ドキィィィ! 「もう・・・寝ちゃった?」 こんな状態でそんな早く寝れるわけないだろ。むしろ、今日は寝れないかもって思うくらい頭が冴えきってるぜ。 「あの夢なんだけどさ・・・。あんた最後、あたしと・・・なにしたか覚えてる?」 ・・・不意打ちもいいとこだぜ。 「あんた、さっきの話では、私と向かい合ったとこまでしか話てなかったけど・・・。」 俺は正直とまどった。その質問は確かに俺の求めていた質問に近い意味を持った質問だった。だが、このタイミングで聞かれるとは予想してなかった。 いや、そんなことはとっくの前に頭の中から消えちまっていた。 「あたしは覚えてる。 あの時の状況、あんたの顔、あんたの話したこと、あんたとの・・・。」 いやはや、今更ながらあの時はよくあんな大胆なことができたな、俺。 「どうなのよ!?」 「覚えているとも。」 忘れるわけが無いだろ。俺の始めての告白なんだからな。・・・ポニーテール萌えなんて。 「・・・じゃああの時と同じことをすれば、不思議現象起こるかな。」 なんでそう思うんだ? 「扉と一緒よ。入口も出口も場所は一緒。つまり、出口でした事をすれば、入口にいけるんじゃないかなって。」 ハルヒよ。今一度問うぞ。お前は俺と最後にしたことをすると言っているのだな? 「・・・そうよ。」 ・・・その後、数秒の無言の時間が流れた。俺の気持ちの整理をするには十分の時間はあった。 無言の時間が与えてもらった俺の回答は、 「ハルヒ。お前、もう少し自分を大切にしろよ。」 「お前が不思議現象をどれだけ渇望しているのか、これまで行動を共にしてきた俺には良く分かる。だがなハルヒ。いくら不思議現象を追いかけるためとはいえそこまで自分を粗悪に扱うな。」 ・・・俺はいったいなにを言っているんだ? 正直に言おう。俺はハルヒとキスしたさ。 このままの流れでいけばきっとすんなり出来た筈さ。 だが。それは違う。俺がキスをしたい相手はSOS団団長のハルヒではない。高校生、涼宮ハルヒなんだ。 好奇心からキスをするようなハルヒとなんかキスなんかしたくない。したくもない。 第一不思議と遭遇するためにほいそれとキスなんかしてほしくなかった。 そんな思いが、そのまま言葉となって具現化されていく。 「たしかにお前の言うとおりにすれば道が開けるかもしれん。だけどなハルヒ、それはお前にとって本当に心の奥底から求めていることなのか?」 ハルヒの応答はない。だが俺は構わず話を続けた。 「たかが不思議現象ひとつの為に、軽率な行動はしてほしくないんだ。・・・わかってくれるか?」 グス。 ハルヒからの応答がきた。 俺は殴られるのかと思っていた。蹴飛ばされるのかと思っていた。 この応えは確かに痛かった。しかし、体がではない。心がだった。 ハルヒは泣いていた。 そして俺は・・・抱きしめられていた。 「・・・なんだよ。」 「・・・。」 また応答が途絶えた。だんまりは長門の得意技だぞ?そもそもハルヒにこんなスキルがあったのか? 「・・・ごめん、出しゃばったこと言ったな。誤る。」 「違うの。」 「・・・じゃあ・・・なんなんだ?」 「キョンはいつも有希やみくるちゃんのことばかり気にしてたから・・・。」 「・・・。」 「あたしは見放されてるのかなって思ってたから・・・その・・・うれしいの。キョンが私のこと・・・心配してくれたことが。」 どれくらいだろう? 時間はほんの数分しか経っていないはずだが、俺には数時間のような時間が流れた。 ハルヒが俺に見せた本音。 それは今までのものとは違い、どこかテレもあり、且つうれしさからでたといった暖かい本音だった。 いつもは見せないハルヒだったせいもあってか、俺は言葉というか、思考することさえも忘れていた。 ただ、背中でハルヒのぬくもりを感じていた・・・。 夢を見た。 いつものように晴れた日。 いつものようになる目覚ましのアラーム。 「・・・あと5分。」 と、いつものように寝ぼける俺。 「ちょっと、いつまで寝てるの!?」 いつものように起こしに来る妹。 「ほんとに毎日だらしないわね。早く起きなさいよ。さもないと罰金よ!」 ・・・あれ? 何か違う。というか何が違うのかはわかっている。 そうか、俺はハルヒと・・・。 ピピピピピピピピピ! と、俺の眠りを妨げる音が当たり一面に鳴り響いた。 「・・・あと5分。」 「ちょっと、いつまで寝てるの!?」 「ほんとに毎日だらしないわね。早く起きなさいよ。さもないと罰金よ!」 ガバッ! あまりのデジャヴに俺はあわてて目覚めた。 ・・・寝ぼけているせいか、今の自分の状況が掴めない。 「おはよ。もう朝よ。」 そこにはパジャマではなく、普段着に着替えたハルヒが立っていた。 そしてようやく、頭の整理ができてきた。 「そうか、俺、ハルヒん家に泊まったんだっけ。」 夢と現実をまだ区別仕切れていないが、今の現状はなんとか把握できるくらいまで目が覚めてきてはいるが、未だに世界がぼやけている。 「まだ寝ぼけているようね。シャワーでも浴びてきたら?」 それを察してか、ハルヒは俺に古来から伝わる目覚めの方法を提供してくれた。 用は水を浴びて来いってこったな。 まぁ、俺がそう勝手に解釈しただけだけど。 「そうさせてもらうよ。」 俺はハルヒのご好意に甘えることにして、シャワーを浴びた。 浴び終わり、風呂から出ると、キッチンからなにやら音が聞こえた。 その音に導かれるかのように、俺はキッチンに向かった。 「どう? 目が覚めた?」 「ああ、バッチリだ。」 何気ない会話がそこにあった。 なんだこの会話は。まるで俺の夢の続きじゃないか。 今起きている自分の人生の展開に少々戸惑っていたら不意にハルヒが 「それじゃ朝ごはんにしましょ。」 と満面の笑みを浮かべながら食卓に座った。 それにつられ、俺もそのまま席に着いた。 「いただきます。」 なにげない朝食。 しかし、ハルヒあまりにもリアルに再現されている。気持ちの悪いくらいに。 そして俺は聞いた。 「なぁハルヒ、今朝はどんな夢をみたんだ?」 ハルヒはハムエッグを突きながら 「なんでそんなことを聞くのよ。」 と返答してきた。 「いや、なんというか、昨日の実験は成功したのかな・・・と思ってさ。俺、実を言うと朝、目が覚める夢しかみてないからさ。」 「フフ。そっか。」 なんとも不敵な笑顔を俺にしてきた。 なんだよ、その笑みは。 そしてハルヒは言った。 「団長命令よ、昨日の夢、必ず守りなさよ。」 fin
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6533.html
涼宮ハルヒの遡及Ⅹ 迫りくる怪鳥の群れを捉えて俺は愕然としている。 いや俺だけじゃなくて、長門とアクリルさんを除く全員がだ。 ざっとした数を予想すれば……見えてるだけでも千できくのか……暗黒の空の下、向こうの風景がまったく見えんぜ……あの大軍を相手にして三十分だと……? 暗澹なんて言葉じゃ生温い。絶望と言う言葉はこんな時に使うものなんだろう、ということを実感させられる。 なんせ、さっきのハルヒの大技が使えないからな。なぜなら朝比奈さんはエネルギーチャージのために戦線に参加できないからだ。 「古泉一樹」 「何ですか?」 「あなたは彼と涼宮ハルヒと朝比奈みくるの護衛を。その赤いエネルギーがシールドの役割を果たすはず。迎撃はわたしと彼女が受け持つ」 「了解しました。ご武運を――」 振り向くことなく指示を出す長門に頷く古泉。 「す、涼宮さん!」 次に声を発したのは、やや涙声ではあったが意を決した感がある朝比奈さんだ。 「えっと、ミクルミサイルってどうやれば発射されるんですかっ?」 そうか、確かにそれはハルヒにしか分からない。どうやら朝比奈さんは自分に内蔵されている兵器を受け入れることにしたようだ。 「そ、それは……」 まさか考えてない、なんて言わないだろうな? 「違うわよ! もちろん考えてはいたわ! でも本当に発射されるの!?」 「発射されなきゃ俺たちは全滅だ。だが長門もさくらさんも俺も古泉も朝比奈さんも発射されると信じてる」 「キョン? 何で……?」 どうしてそんなことを聞く必要がある? んなもん答えは分かり切ったことなんだぜ。 俺はハルヒの手をぐっと握り、真剣な眼差しでハルヒの大きな瞳の奥を見つめた。 「みんな、お前を信じてるからだよ。現に超級グレートカイザーイナヅマジャイアントSOSアタックは発動した。ならお前が信じているならミクルミサイルも発動する」 「キョン……」 ハルヒがわずかにうつむき、俺たちはそんなハルヒの次の句を待っている。 「分かったわ……」 待ったのは刹那のような永遠の時間。 ハルヒが静かに呟き、そして次の瞬間、 「みくるちゃん! ミクルミサイルの発射ポーズを教えるわよ!」 大声を張り上げると同時にハルヒの瞳には先ほどまでの困惑の色は消え失せ、いつもの勝ち気いっぱいの300W増しの輝きが戻っていた。 そして、それが怪鳥の大群と長門、アクリルさんペアとの戦闘開始の合図でもあったのである。 俺たちを守る古泉の赤いエネルギー球を猛烈な衝撃が襲い続けてくる。 ハルヒは朝比奈さんを、俺は二人を守る形で抱きしめ、ただひたすら朝比奈さんのミサイル充電が終わるのを待っている。 その朝比奈さんは両膝をそろえて膝で立ち、胸のところで腕を十文字に組み瞳を伏せ、ただただ集中しているようである。 もし片膝を立てたポーズでは中身が見えてしまうから、なんて思ったなら大間違いだ。おそらくそんなことは朝比奈さんは勿論、俺も含めた全員が意識しちゃいない。はっきり言ってしまえば今この場面ではどうでもいい。 古泉もまたエネルギー球を消すまいと瞳を伏せ、精神を集中させている。 その外側では―― 「ライツオブグローリー!」 「……」 アクリルさんと長門が大軍をものともせず、とまでは言わないが、四方八方から襲ってくる怪鳥の突撃をかわし、しかし攻撃もしている。 アクリルさんからは目が眩むばかりのほとんどバズーカー砲と言っていいような眩く輝く光線が放たれ、長門からはスターリングインフェルノを振るうたびに説明のしようがない魔力が怪鳥を飲み込んでいる。 数はわずかながら減ってはいるようだが、それでも減っている内には入らないだろう。 「まずいですね……朝比奈さんの充電が間に合うかどうか、というところでしょうか……」 間に合わない、というよりはマシな言い回しだな古泉。 「クールドラグーン!」 今度はアクリルさんが連射可能の、氷の銛を連続で打ち出し、長門は相変わらず無表情で無言のまま、竜巻の刃を発生させている。 「堪えてくれよ古泉……それと何もできなくてスマン……」 「ふふっ、もちろんご期待に添えるよう努力しますよ。僕としてもかけがえのない大切な仲間を失いたくありませんので」 「古泉くん……」 ハルヒが珍しくか細い声を漏らしている。 …… …… …… なんだろうな、この感覚。前に味わった感覚と似てないか…… 俺とハルヒは歯がゆくもただ見ているしかできず、周りに頼りっぱなしで自己嫌悪に陥りそうになった……そう……蒼葉さんと初めて出会ったあの時と…… 俺は思わず思いっきりかぶりを振った。 「どうされました?」 「何でもない……本当にすまない古泉……」 「本当にどうされたんですか? 心配いりませんよ。僕は必ずあなた方を守り通します」 さわやかな笑顔を向けてくるんだが、その頬から滴る汗がお前の状況を知らせているんだよ。 くそ……何か、俺にも何かできることがないのか…… 「キョン! 痛いって!」 「あ……スマン……」 どうやらいつの間にか俺はハルヒを抱きしめる腕に力を入れ過ぎていたらしい。 「あんた……あの時と同じことを考えたでしょ……」 「ハルヒ?」 「だって、あたしも同じだもん……ただ見ているだけしかできなかったあの時……結局、あたしたちは蒼葉さんの手助けをできなかった……」 重く黙り込む俺とハルヒ。 そんな俺たちの耳が捉えたのはアクリルさんのとある言葉だ。 「ナガトさん、確かあなたの設定は悪の『魔法使い』、だったわよね?」 「そう」 ふと見れば、二人が背中合わせで宙を佇んでいて、気が付けば怪鳥たちが攻撃の隙を窺うべく、俺たちを取り囲んで膠着状態にあった。 どうやら長門とアクリルさんの想像以上の力に闇雲に攻撃しても無駄だと悟ったようだ。 「じゃあさ、さっき、あたしが撃ったライツオブグローリーかアルゲイルフォルスをコピーできない? なんか途中から見覚えのある魔法ばっかりだったし、アレってあたしのをコピーしたんだよね?」 「インプット済み。なぜなら魔法使いの設定を持つわたしにとってあなたは最高の模範。途中から、わたしは残された自身の力を魔法のプログラミング化に専念させていた。よって少なくともあなたが使用した魔法であれば使うことが可能、今は攻撃手段としても用いている。故に発動までにやや間が開いている。それは発動キーワードを呟いているため」 「魔法のプログラミング化って……んなことできるのはあたしたちの世界だと世紀の大天才魔工科学者・蒼葉だけよ……とんでもない話ね……って、ということはあなた自身の力は完全に尽きてしまったってこと?」 なんだと!? 「そう。しかし、あなたのおかげで『魔法』を駆使できるため戦闘に支障はない。ところでわたしにとってはアオバなる人物の方が信じられない。魔法、言い換えて意図的に超常現象を発生させる力のプログラミング化は人という有機生命体の器量をはるかに超える技術。それをできるとは考えられない」 「そうなの? あたしはそんなに深く考えたこと無かったし、蒼葉ならそれくらいやりそうなもんだと思ってた節があったから気にしてなかったけど。でもまあいいわ。それよりも、ちょっとした提案があるんだけどいい?」 「了解した」 ふぅ……アクリルさんと長門の様子を見れば、長門はなんとかなるようだ。本気で怖くなったぞ。 おっと、この場合の『怖くなった』は俺たちの危機が増大したからってことじゃない。長門の身が危うくなったことに対してだ。なんせあの雪山の一件があるからな。 「あたしはアルゲイルフォルスを使う。あなたはライツオブグローリーを。んで呪文の詠唱の最後の一句だけどあたしと合わせてこう言って」 ……? アクリルさんが何かを長門に伝えているのだが、はっきり言って俺には理解不能の言葉だった。 ひょっとして、カオスワーズってやつか? 「理解した」 「ん! なら行くわよ! これならこいつらでも半分は吹っ飛ばせるはず!」 ……なんだと!? この数の半分を吹き飛ばせる魔法……!? などと驚嘆している俺の眼前では、アクリルさんが烈火のオーラを、長門が黄金色のオーラを立ち昇らせている。 そして、まるで合わせ鏡のように二人同時に振りかぶり…… って! この魔法は! 『グレイトフルサンライズフェニックス!』 アクリルさんと、そして長門がハモって声を荒げると同時に二人から目が眩むばかりの強烈な光を放つ、そうだ! あの不死鳥が飛び立ったんだ! つか、長門が何でその魔法の名前を知ってるんだ!? 金色の不死鳥の羽ばたきが一瞬にして怪鳥の大群をなぎ払っていく! だが待て! あの魔法は……! 脳裏に浮かんだのは蒼葉さんが力尽きて崩れたあのシーンだ。絶対に忘れるわけにはいかない俺とハルヒの大罪…… 「ふぅ……どうやら楽になったわね。半分以上いなくなったわよ」 「確かに」 が、アクリルさんと長門のあっけらかんとした声が聞こえてきたのでどこかホッとした。 「よかった……もう、二度とあんなことは繰り返したくなかったもんね……」 ハルヒも安堵のため息をついてやがるぜ。そりゃそうだ。俺たちの考えたことは同じだ。 「そう言えば、ナガトさんはどうして今の魔法の名前、知ってたの? あれって蒼葉が考えた名前なんだけど、確か、ナガトさんは蒼葉に直接会ったことないんだよね?」 なんか場違いな会話だ。 しかしまあ、今の魔法の破壊力のおかげで怪鳥がさらに躊躇したからな。 「わたしは前にアオバなる人物がこの魔法を使ったところを目撃してる。だから知っていた」 あ……そういや長門は見てたんだったな……なるほど……そういうことか…… 「ふうん。凄いわね。異世界が視えるなんて。どんな目を持ってたら視えるのかしら。あたしはただひたすら蒼葉のことを祈るしかなかったんだけど」 「世界の連結が断たれていなかったから」 「ああ、そういうこと」 って、分かるんですか!? 今の説明で!? 「うん。でもまあ言葉にしにくいから詳細は省くけどね。それよりもナガトさん、もう一発いける?」 「問題ない」 などと物騒な会話を交わし、再びアクリルさんと長門が生み出した光の不死鳥は残りの怪鳥を壊滅させるのだった。 涼宮ハルヒの遡及ⅩⅠ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5135.html
<涼宮ハルヒの旧友Ⅰ> 俺達が2年に進級してから、もう2ヶ月経った。 そんなある日、急に転校生が来た。いきなりだな、転校生が来るなんて、担任岡部からも口にされていない。 転校生を見るなり、クラスの女子達が騒ぎ出した。 顔をよく見てみると、ものすごいイケメンだった。古泉に匹敵するんじゃないかと言えるくらいイケメンだから、そりゃあ騒ぐだろ。 まあそんなことは別にどうでも良い、問題はハルヒがどう動くかどうかなのだが、あいつのことだ、すぐ転校生がどうとか騒ぎ出すだろう。 そんなことを思いながら、後ろのハルヒの反応を見てみると・・・・・・口をポカンと開けて驚いていた。何回目かな、こんな驚いたハルヒを見るのは。 ハルヒ「キョン、何であいつが・・・ここにいるのよ!!」 何故俺に聞く?少なくとも初対面の俺に聞くぐらいなら神様にでも聞け。 ハルヒ「だって、あいつもう会えないって言ったのに・・・」 待て、何なんだハルヒのこの驚き様は、俺はあの転校生とハルヒがどういう関係かは知らんが。 そんな考えをし終えると、あいつの自己紹介が始まった。 祐樹「俺の名前は保泉祐樹、○○高から来たんだ、ここが今の俺の新天地だ!っていう実感はまだあまり無えけど、まあ楽しくやってくつもりだから、ヨロシクなっ!!」 なんて眩しいスマイルなんだ