約 774,020 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3189.html
突然ですが、ここで問題です。 複数の組織から「進化の可能性」、「時間の歪み」、「神」などと呼ばれ、しかし自分は「団長」だと信じてやまないのは誰でしょうか? …………………………………………。 はい、答えは「涼宮ハルヒ」です。画面の前のみんなは、わかったかな? なーんて紹介の仕方をしてみたが、この涼宮ハルヒ、大学生になった現在も全快ブッチギリである。 何が全快ブッチギリかと言えば、もうお分かりだろう。SOS団の活動、および日頃の傍若無人っぷりだ。 高校卒業から大学進学、それから2年への進級と色々やらかしてくれたりしたがここはごっそりと割愛しよう。きりがないからな。 まあ紆余曲折あって現在もあの閉鎖空間を発生させたりなんやりする能力は健在な訳で、 それを監視する立場の朝比奈さんや長門、古泉も毎度の騒動に巻き込まれ続けている。 誰が望んだのか俺とハルヒと長門と古泉は揃いも揃って同じ大学に入学。まあこうなるにも色々とあったが割愛だ。 朝比奈さんはどこかの会社に就職したことになっているが、どこで働いているのかを尋ねると、 「禁則事項です」 の一点張り。その麗しい唇は硬く閉ざされている。 して、今回はクリスマスの特別イベントとしてハルヒが「SOS団クリスマス大かくれんぼ大会」なんてものを企画したがために これまた厄介な出来事に、鶴屋さんや妹も含めて巻き込まれていく訳だ。 いい加減、普通のクリスマスを過ごしてみたいもんだぜ……。 さて、季節は誰がなんと言おうと冬。 今年ももう来年へ渡す襷を肩から外し、ひっしとその手に握って中継所へとラストスパートかけている頃だ。 何事もなくその襷リレーが行われればよかったのに、涼宮ハルヒはそれを許さなかった。 昨日、ハルヒから、 「明日朝8時に駅前に集合ね。泊まりの準備もしといて。遅れたら承知しないから」 との電話がかかって来た。今日は12月24日。ご存知のとおり、クリスマスイヴである。 まあ、SOS団がクリスマスに何かしでかさなかったことなど一度もないし、今年も覚悟はしていたがこういう連絡はもっと早い段階でしてもらいたいもんだ。 とは言え、俺は事前にハルヒから連絡が来ることを知っていた。ソースは、現在何故か俺の隣の部屋に住む鶴屋さんだ。 なんでも鶴屋さんの実家が所有している別荘を使えるように古泉から要請があったらしい。 「一樹くんからは何するかとかは聞いてないけどさっ。ハルにゃんのことだから楽しいことになるんじゃないかなっ」 と鶴屋さんは笑っていたが、俺からすればそんなウキウキ気分なんかには全くなれず、 どうせ起こるだろう突拍子もない事件に思いを馳せれば、ツーメランコリーな気分になる。 鶴屋さんもわざわざ別荘を提供しなくてもいいんですよ? ここ最近は俺の部屋に居候中の、やけに早起きな妹によって6時前の起床を余儀なくされていた。 だからハルヒの設定した集合時間の8時には楽勝で間に合い、ちんけな罰ゲームを受けるにいたるはずはなかった。 なかったはずだったんだ…………。 朝、目を開けると外はすっかり明るくなっていた。 妹より先に起きちまったか。 そう思って時計を見た瞬間、俺の背筋は液体窒素にぶち込まれたバラの花の如く凍りついた。 枕もとの時計の長針は6を、短針は7と8の間を指していた。 俺が約20年の人生で得てきた知識をフル動員するとそれは7時30分を表している。 どう考えても遅刻です本当にあり(ry などと誰に向けているのかよく分からない感謝などしている場合じゃない。 安らかな顔で眠る妹を叩き起こして驚くべきスピードで準備し、家を出た。 あの遅刻しそうなときの人間の行動の速さはなんだろうね。 まあそんなことはどうでもいい。早くいつもの駅前に行かなければ。 妹を愛チャリの後ろに乗せ、冬なのに汗ばむほどのスピードで駅に向かった。あの時の俺は風と1つになっていたと言っても過言ではないね。 そこから図ったようなタイミングで駅を出た電車に飛び乗り、車内で簡単な朝食をとった。 駅に着いて電車を降りるとオリンピック選手顔負けのスタートダッシュで改札をくぐり、いつもの集合場所に向かう。 やはりというかなんというか、ハルヒたちSOS団メンバーと鶴屋さんはすでにそこにいた。 「遅い!18秒の遅刻よ!」 ハルヒは息も絶え絶えの俺たち兄妹の前で腕組みで仁王立ちしている。 「当然、然るべき罰を受けてもらうわ。ていうか、何で妹ちゃんまでいるの?来るなんて聞いてないわよ」 俺が言う前にお前が電話を切ったんだろうが。お前はいつもそうだ。 「まあいいわ、一人くらい増えたって大丈夫でしょ。ね、古泉くん?」 「ええ、おそらく問題ないかと。どうです?鶴屋さん」 「うん、めがっさ余裕だよっ。あそこはけっこう広いからねっ」 鶴屋さんのけっこうと、一般的なけっこうの定義にはかなりの相違があるので、今回の別荘もかなりでかいんだろうな。 と、言うことでつつがなく妹の参加が決定し、SOS団+αは電車に乗って一路北に向かった。 乗車の直前に罰としてこれでもかと菓子とジュース類を買わされた。 親父からの少し早いお年玉があったから、問題なかったけどな。 電車内ではハルヒを中心に古泉が持ってきたトランプやらUNOやら麻雀やらなんやらで馬鹿騒ぎし、 電車が別荘の最寄り駅に着いた頃にはメンバー一同妙な疲労感を感じていた。けっこうな長旅だったしな。 駅から出ると、これも毎度おなじみとなった新川執事と森園生メイドが待っていてくれた。 「お久しぶりです。また会ってしまいましたね」 「いえ、我々も最近、涼宮様に振り回されるのもそう悪くないと感じてまいりました」 新川さんはハルヒには聞こえないくらいの声でそうおっしゃり、小さく笑った。 森さんも肯定するかのように笑んでいる。この人たちとあったのは5年前か。 ことあるごとに召集されて、いつも本当にご苦労なことだ。心から労いの言葉を捧げたい。 その後、俺たち一行は新川さんの運転する小型バスに乗って別荘へと出発した。 バスの座席は一般的な2席セットのものがズラッと2列並んでいるのではなく、 テレビでたまに見るような、こうグルッとソファのような座席があるやつになっていた。 「キョンくん、今日はごめんね。あたしが寝坊しちゃったから……」 「かまわんさ。お前に頼りきっていた俺にも非がある」 「ううん、私のせ「まったくね。あんたもそろそろちゃんと遅れないようにしなさいよ。本当にSOS団員としての自覚が足りないわね」 おそらく、私のせいだから、と言おうとしていた妹をハルヒが遮ってきた。 お前、もう少し空気を読め。そんなんじゃ某巨大掲示板で「ゆとり乙」とか叩かれるぞ。気をつけろよ? 「そんなことよりハルヒ、そろそろ何をしでかそうとしてるか教えてくれてもいいんじゃないか?」 「秘密よ、秘密。こういうことはギリギリまで知らされてないほうが面白いでしょ?」 いいや、面白くないね。そうやって自分の物差しを他人に押し付けるのは良くないことだぞ。 「とにかく、今日は思いっきりスキーして遊ぶわよ」 どうやら今向かっている別荘はいつぞやの別荘同様にスキー場に隣接しているらしい。すさまじい財力だな、恐るべし鶴屋家。 そう言えばもう1つ、確認しておきたいことがある。古泉に尋ねてみる。 「なあ、また吹雪に巻き込まれて……なんだ、クローズドサークルとかになったりしないよな?」 「それはおそらくないでしょう。今回涼宮さんは事件を望んでいる訳ではありません。もっと明確な目的が今の彼女にはありますからね。 彼女にとってクローズドサークルなど邪魔になるだけです。天気も今日、明日と晴れの予報が出ていますしね。 まあ、あの予報士の予報なのでその精度にはいささかの不安がありますが」 そうかい、それならかまわん。不安要素が1つ減った。 「到着でございます」 バスが止まり、新川さんの渋い声が車内に響く。 「荷物は我々が先に別荘に運んでおきますので、皆さんはここでお降りになってください」 森さんの好意に甘え、俺たちはバスを降りた。 まあ、好意ってたってそれが森さんの仕事ってことになってるんだから当然っちゃあ当然な訳だが。 「では、定時にお迎えにあがります」 「お気をつけて」 新川さんと森さんの乗ったバスを見送り、俺たちはゲレンデに向かう。 いやはや、まさかこんな景色が見られるとは思わなかった。 ゲレンデからは麓の街並みや遠くの山々が一望でき、冬の澄んだ空気の助けも借りて壮観の極みを体現していた。 「さぁ、滑るわよ!競争よ、競争!」 ハルヒにはそんなもの関係ないようだが。 スキーウェアなんかは既に用意されており、各自がそれぞれの体のサイズにあったもの着込んだ。 驚きだったのは妹の分もしっかり用意されていたことだ。 「鶴屋さんから妹さんが居候しているという情報は得ていたので用意しておきました。 きっと妹さんも参加されると思ったので」 うむ、今回ばかりはgjだ、古泉。何故に妹のサイズを知っていたかに関しては、特別に黙認してやる。 今回、俺はスキーではなくスノーボードに挑戦することにした。 スキーはそれなりに出来るがスノボは初体験だ。スノボにおけるロストヴァージンだな。 ………………すまん、今のは妄言だ。忘れてくれ。 とにかく、俺はなかなかの苦戦を強いられた。 見かねたのかは知らんが、順調にスキーを滑り倒していたハルヒがわざわざスノボに履き替えて指導してくれた。 それは非常にありがたいのだが、 「シュバッと立ったら、つつついーーっと滑って、転びそうになったらグワッとバランスをとるのよ。 方向を変える時はこうアベシ!ってするの。止まるときはヒデブ!っと気合で止まるの。気合が大事よ」 と、非常に抽象的で訳のわからん説明で、そんなもので上達する訳もなく俺は雪まみれになっちまった。 第一、そんな気合で止まったら、俺はもう死んでしまう。 で、スキーやスノボを楽しんだ後、新川さんのバスで別荘に向かった。 数時間にわたる長旅と、先の運動は俺たちからことごとく体力を奪っていき、 バスの中でぺちゃくちゃとくっちゃべっているのはハルヒと鶴屋さんに妹くらいのもんだ。 他のメンバーはグロッキー状態でしゃべる気力もない。長門はまあ割りと元気そうだが、いつものように無言を保っている。 そんなことはどうだっていい。さっさと別荘に着いて、熱い風呂に入って一休みしたいもんだね。 結果から言うと別荘はかなりでかかった。 これを『けっこう広い』と形容する鶴屋さんの感覚は多少なりとも麻痺しているのかもしれない。 一見すると純和風の超高級老舗旅館の風情だ。『@と@尋の神隠し』に出てくる湯屋を思い出してほしい。 あれをふた周りほどスケールダウンさせればちょうどこの別荘くらいになるんじゃないだろうか。そのくらいのでかさだ。 新川さんの案内で中に入ると異様な光景が目の前に広がっていた。 どこまでも続くのではないかと勘違いしてしまうくらい長大な廊下に、びっしりと日本兜が並べられていた。 いかめしいその和製鎧たちの隊列に俺たちは思わず気圧されてしまう。 朝比奈さんなんてカタカタと震えている。それがまた俺の庇護欲を著しく掻き立てるんだな、うん。 「すごいっしょ、これ。実はうちの爺さんがこういうの集めるのが趣味でねっ。 最初は家に置いてたんだけどめがっさ邪魔になってきたんでここに置いてるんだよ。 てかここはそのために爺さんが建てたんだっ。馬鹿だよねっ、アハハハハ」 馬鹿かどうかは分かりかねるが、鎧兜の保管のためだけにこんな家を建てる精神状態は俺には到底想像できない。 世の中ぶっ飛んぢまってる人ってのは結構いるんだな、と感心しておこう。 「では皆さんのお部屋にご案内します。皆さんのお部屋は2階にございます。 1人1部屋とさせていただいておりますが、よろしいですかな?」 「いいわよ」 と俺たちの意見を聞くこともなくハルヒが返事し、そういうことになった。 「え……あたし誰かと一緒がいい……」 ほらみろ、妹がこう言ってるじゃないか。 「じゃあ、あたしのところに来ますか?」 妹は朝比奈さんの助け舟に、 「はい!」 と言って乗り込んだ。いやあ、本当に朝比奈さんはお優しい。 はちきれんばかりのあの御胸の半分は優しさで出来ているのかもな。 一旦部屋に案内してもらった後、少し早めの夕食となった。 案内された部屋はだだっ広く、畳と板張りの床が半々になっていた。一番奥には神棚が祭られ、 壁にはミミズの這ったような筆跡の、おそらく格言的な言葉が描かれた毛筆の書や、長刀用の竹刀に木刀などがかけられていた。 「ここはねっ、爺さんが無理言って作った武道場なんさっ。弟子をたくさん引き連れて、ここで稽古をつけてたなっ」 そんな武道場に整然と並べられた座布団に俺たちは座った。 武道場に流れる張り詰めた空気に思わず背筋が伸びてしまう。 と、森さんが漆塗りの膳を持ってきてくださった。膳の上には和を感じさせる品々が並んでいた。どれも美味そうだ。 しかし、無骨な武道場で、和膳を運ぶエプロンドレスのメイドというのはなんだかシュールな画だった。 「いっただきま~す!」 ハルヒを先頭に、俺たちは食事を始めた。 おそらく新川さんによるものと類推されるメニューたちは、どれもとびきりの破壊力を持ってして俺の味蕾を刺激した。 これを不味いと評する美食家がいたら、そいつは確実にモグリだね。 左隣の妹を見ると、一品一品をじっくり噛み締め、 「これはどんな味付けなんだろう……」 などと勝手に新川料理の研究をしていた。そんなに料理が上手くなりたいのだろうか。まあ、全然悪いことではないんだが。 はたまた右隣のハルヒは、 「うまっ!モグ……これもなかなかの味ね!新川さんにSOS団名誉料理長の称号をあげちゃおうかしら!」 と、やはり新川さんの料理に感動しているようだった。 SOS団名誉料理長の称号はやらんで言いと思うがな。そんなもの、新川さんのプラスに何一つならない。 そうして俺たちは新川さんによる絶品和膳に舌鼓を打った訳だ。 その後のことは特筆すべき点はほとんどない。 朝比奈さんの部屋に集まって――集められて――ゲームしたりしたくらいだ。 あとは風呂入って寝たくらいだな。男同士の露天風呂の描写なんて、どうだっていいだろ? では、話を一気に次の日、つまりクリスマス、まさにその日に移行させていこう。 朝、いつもどおり妹が俺をトランポリンにしてきたので俺はいやでも目覚めることになった。 「朝ごはんだよ」 とのことなので2人で武道場に向かう。 にしてもなぜ武道場で食事するんだろうか。 俺たちくらいの人数を余裕で収められる部屋なら、ここにはいくらでもありそうなもんだが。 ま、このSS作者の意向ってのが理由の最有力候補だな。なら、気にしてやらないのが作者のためだ。 朝食も昨日の夕食同様に、1人づつに膳が配られたのだが、その上にはトーストにバターやジャム。フルーツの盛り合わせなんかが乗っていた。 それがまた、武道場にメイドというシュールな画をさらに強くしていた。 朝食後はハルヒの判断で昼までの自由時間となった。 ハルヒは俺たちにそういった旨の支持を出してすぐにどこかに消えてしまった。 「おそらく、この別荘内の探索ではないでしょうか。昨日、そのような行動をされている様子は見られませんでしたし」 とは、古泉の弁だ。 俺と古泉、そして朝比奈さんはすることもないので武道場でトランプを始めた。 長門も誘ったが、 「いい」 とだけ言って、読書を始めていた。 鶴屋さんと妹はというと、長刀の竹刀を使い、なんか稽古を始めたようだ。 鶴屋さんによる長刀教室みたいなモノらしい。ほんと、あの人らは元気だな。 おそらく昼に集合した時に今回のメインイベントが発表されるのだろうが、 そう考えると俺の気分は下降曲線を描き始め、見る見るうちに憂鬱な気持ちになる。 今は目の前に朝比奈さんというエンジェルがいるからまだマシだが。 昼食をとった後すぐ、俺たちはハルヒによって集合させられた。 「では、これから本日行われるイベントを発表します!」 おお~~、と鶴屋さんと妹が拍手する。ハルヒには脳内補完されて大歓声になってるだろうが。 5~6枚重ねた座布団の上に仁王立ちするハルヒの顔は、腹立つくらい笑顔だった。 「思いついたのは12月の初めだったかしら?とにかく、あたしは思いついたの、面白いことを! それから古泉くんと打ち合わせを重ねてきたわ。極秘裏にね。ね、古泉くん」 古泉はいつもの半笑いのまま恭しく頭を垂れる。 「ハルヒ、御託はいいからさっさと発表してくれ」 「何よ、もうちょっとくらい人の話を聞きなさいよ」 お前が言うと説得力皆無なんだが。 「まあいいわ、発表するわよ」 ここでハルヒはたっぷりと間を置いた。一同に妙に間延びした空気が流れる。 そしてハルヒは力強く言い放った。 「これより、第一回SOS団大かくれんぼ大会を開催します!!」 頭の中に稲妻が走ったかのような衝撃があった。もう、なんだ。呆れてものも言えない。 散々引っ張っておいてかくれんぼ?小学生か、俺たちは。 鶴屋さんと妹のカシマシ娘コンビはなんかテンション上がっているが、朝比奈さんは頭の上に?マークが10個くらいありそうな顔をしている。 もしかしてかくれんぼ自体を知らないのかもしれない。 ていうか何故にクリスマスにかくれんぼなのか。あいつの脳の仕組みを解明したらノーベル賞モノかもしれない。 「文字どおりSOS団によるかくれんぼ大会よ。鶴屋さんや妹ちゃんもいるけど、名誉顧問に準団員だから問題ないわ」 いつ妹は準団員になったんだ。即刻の退団を要求したい。 「詳しいことは古泉くん、説明よろしく」 面倒なことは他人に押し付けるハルヒだ。 「では、僭越ながら……。基本的には通常のかくれんぼと同じルールです。鬼が隠れている人を探す……、それだけです。 ただし、今回はこんなものを用意しました。お願いします」 古泉が新川さんと森さんに目配せすると2人は俺たちに何かを配りだした。 受け取ったそれは携帯電話。しかも旧式のものだ。 「少し古い機種なのは御用者ください。古いほうが細工しやすかったもので」 「細工?」 「はい、ちょっとした細工が施してあります。まずは、その説明をしましょうか。 皆さんがお持ちの携帯にはさまざまなアプリが入っています。左上のアプリボタンを押してください。 アプリの選択画面になったはずです」 確かに、3つのアプリが画面上に表示されている。 「まず一つ目のアプリ。画面上では右端に表示されているものです。 これは隠れている人、ここでは便宜上『ハイダー』と呼ばせていただきますが、ハイダーのおおまかな位置が表示されます。 アプリを起動してみてください」 アプリを起動すると部屋の見取り図のようなものが表示された。 「では、3のキーを押してください」 古泉の支持に従うと画面が切り替わり、また別の見取り図が表示された。一番大きな部屋に赤い点が寄り集まり、明滅を繰り返している。 「その赤い点が我々の位置を示しています。そして先程のように階数に合わせて任意の数字キーを押すと、 その階の見取り図と位置情報が表示されます。この建物は4階建てなので4までの数字キーがこのアプリに対応することになりますね。 ここは3階なので3のキーを押しました。離れを確認する際は、1階は5、2階は6、3階は7を押してください」 「なあ古泉、こんな機能があったらすぐに鬼に見つかっちまうだろ」 「安心してください。鬼にはこのアプリは使用できません。それについては後で説明します」 了解した。説明を続けてくれ。 「はい、では続けます。この赤い点ですが、その点が誰かは表示されませんのであしからず。 では次のアプリです。先程のアプリのとなりにあります。これは先程のアプリと同様の操作で鬼、 ハイダーに合わせて、ここでは『シーカー』と呼んでおきましょう。シーカーの位置情報が表示されます。 ただし、使用できるのは一台につき3回まで。また、起動してから1分でアプリは自動的に終了します。有効に使用してください」 「では次のアプリ。……ですが、先の2つのように、このアプリはハイダーには特に役立つものではありません。 テトリスなどのミニゲームが収録されています。隠れている間の暇つぶしにでも使ってください」 また妙に怪しいアプリだな。ゲームに熱中させている間にハイダーをゲッチュー、ってか。 「また、ハイダーがシーカーに確保されると、それぞれの携帯に報告のメールが送信されます。 そして、メモリー内には各人の携帯番号が登録されています。電話での情報交換等に使用してください。 ただしメールを受信することはできますが、送信することはできないようにしてあります」 「それで全部か?」 「いえ、まだあります。まず、ハイダーが残り2人になるとハイダー側の携帯は一切の機能が停止します。 ただし、片方1人の確保を伝えるメールを受信する必要があるので、電源を入れた状態で持っておいてください。 また、先程説明した機能以外は使用できなくなっています。これで携帯についての説明は終わりです。 質問はありますか?」 皆、無言で質問が無い意思を示した。 朝比奈さんは本当に理解しているのか、いささか心配だが、あとで詳しく教えてさしあげよう。 「ではルールの説明です。基本的には先程言ったとおり、普通のかくれんぼです。 今回の変更点としましては、ハイダーは確保されるとシーカーになる、このくらいです。 また、シーカーの携帯にはハイダー確保のメール受信と、電話機能しかありません。ハイダーが確保されると携帯のその他の機能は停止します。 シーカーはハイダーを確保したらハイダーの携帯の『#』と『*』を同時押ししてください。 そうすることで各携帯にメールが送信されます。ハイダーは見つかったら素直に携帯をシーカーに渡してください。 なお、誤って#と*を同意押しするとシーカーに見つかっていなくても、見つかったことになりますので注意してください。 説明は以上です。質問を受け付けます」 これも、質問は無いようだ。それにしても古泉、このSS一番の長台詞、お疲れ様。お前はよくやったよ。 「では、そろそろ開始しましょう。隠れる場所はこの本館と別館の内部と連絡路です。外に出たり、危険な場所には隠れないように。 最初の鬼は新川さんと森さんです。優勝者には商品がありますのでがんばってください。鬼が動き出すのは10分後です。 では、涼宮さん」 「ありがとう、古泉くん。 オッホン。ではこれより、SOS団大かくれんぼ大会を開始します!! レディ~~……ゴウ!!!」 ハルヒの号令で俺たちは武道場に新川さんと森さんを置いて駆け出した。俺もダッシュだ。 一応、勝負事だしな。俺だって勝ちたいさ。 ここで、鶴屋家別荘の大まかな説明をしようと思う。 まず本館、4階建てだ。1階には玄関から続く長い廊下に大小3つの練習場、倉庫がある。階段横の裏口は別館への渡り廊下に続いている。 2階は宿泊スペース。30近い部屋で埋めつくされている。 3階にはさっきいた武道場がある。ここが一番広い部屋になっている。他には倉庫があるくらいだ。また、別館への連絡路がある。 4階は炊事場や浴場などの生活に必要な諸施設となっている。 別館は3階建て。1階には事務室や休憩室があり、2階・3階と武道場になっている。広さは本館の3分の1くらいか。 俺は一旦1階まで降りて別館に行った後、3階まで上がって本館に戻り、4階に上がった。 この遠回りに深い意味はないのだが、軽いかく乱になるかと思ったんだ。 なんだか新川さんはかくれんぼのプロの気がするからな。いや、なんとなくなんだが。 僅かな音さえ認識して、それを頼りに探しそうだもんな、あの人。 4階に着くと、浴場の脱衣所に設置されたロッカーの1つに身を潜めた。もちろん、男湯だ。 少しすると、携帯がぶるぶると震えた。メールが来たようだ。 [これより、行動を開始いたします] とだけ書かれた本文は、シンプルな文面ながら確実に新川さんと森さんが動きだしたことを知らせた。 しかし、なんだかテンションが上がってきたな。 さっきは小学生か、なんて言ってしまったが、これはけっこう楽しい。隠れてるだけなのにな。 とりあえず、アプリを起動し各ハイダーの位置を確認する。 本館の1階と2階に隠れている奴は1人もおらず、2階に2人、4階には俺を含めて2人、別館の各階に1人づつ隠れているようだ。 皆、微動だにせずじっとしている。さあ、最初に捕まるのは誰か。 といきなり電話がかかってきた。 『もしもし、キョンくん?』 「なんだよ、電話するには少し早いんじゃないか?」 『いや、今どこに隠れてるのかな、って思って。今どこに隠れてるの?』 「本館4階の浴場だ。お前は?」 『あたしは2階の部屋に隠れてるよ。まあそれだけだから。じゃあねぇ!』 ツー……ツー………… いきなりなんなんだ、妹よ。お前の行動もイマイチ掴みどころがないな。 と、また電話がかかってきた。 『キョン、今どこにいるのか教えなさい!』 「本館4階の浴場だが?それがどうしたってんだ」 『4階ね。わかったわ。じゃ』 ツー……ツー………… ハルヒに至っては自分の場所も教えん始末だ。なんか、フェアじゃないぞ。 と、またまた電話だ。 『もしもし』 やけに済ました声が聞こえる。今度は古泉か。 「なんだ。俺に電話をかけるのがブームなのか」 『はて、なんのことでしょうか?まあいいでしょう。今どこにおいでか教えていただきたいのですが』 「お前もそれか。今日でもう3人目だ」 『3人目?他に誰が?』 「ハルヒと妹だ」 『なるほど。流石、と言うべきですね。それより早く場所を』 「本館4階の浴場だ」 『なるほど……。わかりました、僕は別館の3階にいます。では、健闘を祈ります』 ツー……ツー…………。一体奴らはなんなんだ。 しばらく隠れていると携帯が振動した。メールだ。 [開始から7分24秒、古泉氏を確保] やはりというか、古泉が最初か。にしても早いな、おい。やはり超絶スネーク執事新川氏の成した所業だろうか。 ん?スネーク?何を言ってるんだ、俺は。 とりあえず、アプリを起動。各人の位置確認だ。 別館の1階にあった点が猛烈な速度で本館に移動している。 と、またメールを受信した。 [古泉氏確保から1分09秒、鶴屋氏を確保] 早い。いくらなんでも早すぎる。 これは新川さんがスネークとかそういう問題じゃない。あ、またスネークって言っちゃった。 これは何か裏があるはずだ。考えろ……古泉発見から鶴屋さん発見までになにがあったのかを……。 刹那の思考の後、俺は1つの答えに辿り着いた。 俺はすぐさまロッカーから飛び出し、階段を駆け下りる。携帯のメモリーから古泉の番号を探り、電話をかける。 奴は、すぐに電話に出た。 『なんですか?ハイダーがシーカーに電話するなんて、あなたも命知らずの人ですね」 「てめぇ、はめやがったな」 『おや、もう気づいてしまいましたか。しかしはめた、というのは心外ですね。これは戦略です』 うるさい。お前、次に会ったら2発ぶってやる。親父にもぶたれたこともないであろうその頬を、2度もな!! 『それは非常に困りますね』 すかした古泉との電話に早々に嫌気がさし、電話を切る。 奴、そしてハルヒと妹がしたのは、よく考えれば極々当然のことだ。奴らは事前に各ハイダーの位置を把握していた。 そして、いざシーカーになった時、その位置情報でハイダーを探す。ただそれだけだ。 そうしておけば誰かが見つかった時に、少なくとも1人の鬼の位置がわかることになるしな。 妹さえ気づいたというのに。チクショウ、俺のスペックは妹以下かよ。 と、ハルヒから電話だ。 『キョン、今どこにいるか教えn「だが断る」』 やはりな。もうその手は食わん。すぐ後に妹からも電話がかかってきたがもちろん無視だ、無視。 俺は本館2階をひっそりと歩きながら二つ目のアプリを起動した。鬼の位置を確認するアレだ。 今、鬼は新川スネークに森さん、古泉に鶴屋さんの4人だ。開始から10分足らずでこれか。 古泉のことだから事前にスネークたちと打ち合わせていたに違いない。ハルヒを1位にさせたいだろうからな、あいつらは。 画面に視線を戻し、俺は2のキーを押す。そして、俺の点を見た。 …………そこにはハイダー、つまり俺を示す赤い点のすぐ後ろに鬼を示す青い点があった。 恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはメイド・オブ・ザ・イヤーを贈っても遜色のない美人メイドが立っていた。 「キョン様、見~つけた」 森さんの口から”~”が飛び出るとは思わなかった。それにしても今のは反則的なかわいさだった。 「では、携帯電話をお渡しください」 かくして、俺は5人目の鬼となった。 10分も経たないうちに3人が見つかる、という驚異的な展開の速さを見せたかくれんぼも、ここに来て停滞の体を見せ始めた。 俺が鬼になってから30分以上経つが、誰も見つかっていない。 一番驚きなのが朝比奈さんが見つかっていないことだ。あの人のことだからすぐに見つかってしまいそうなもんだが。 俺の予想としては1位ハルヒ、2位長門、3位鶴屋さんってとこだったんだが、 鶴屋さんは早々に見つかって鬼になっているし、勝負の世界では何が起こるかわからんね。 しかし、こんな出来レースも珍しいな。古泉を始め”機関”の連中は何がなんでもハルヒを1位にするだろう。 朝比奈さんや、長門も、直接的な動きは無くともそうなることを願っているはずだ。 しかし、ハルヒがそんな事情を知るわけがなく、見つかりたくない一心で変な能力を発揮しかねない。 早いとこ、ハルヒ以外の3人を見つけたほうが懸命だな。 3人を求め、広大な本館の2階を歩いていると、廊下に段ボールが落ちているのを見つけた。 怪しい、実に怪しい。これを怪しいと思わない奴がいるとしたら、そいつの辞書に俺が「怪しい」という項目を足してやる。 まさか、ここにハイダーが隠れているとは俺だって思わない。結果から言うと、確かに中にはハイダーはいなかった。 「…………新川さん、何してるんですか……」 段ボールの中には新川さんが収納されていた。 「見つかってしまいましたか。これは一本取られましたな」 そんなつもりは毛頭ないんですが……。 「いや、こうして潜むことで移動してくるハイダーを待ち伏せていたのです。妙案かと思われたのですが」 多分、本気で言ってるんでしょうが、これはあまりにも怪しすぎます、新川さん。 「では、この案は無しでございますな。残念です」 そのまま新川さんは段ボールを持ってどこかに行ってしまったが……あの人本気でスネークかもしれない。 いや、俺自身もスネークという言葉の深い意味はわからないんだが、何故かスネークという言葉が頭から離れないんだ。 3階を歩いていると、今度は鶴屋さんと出くわした。 「やあキョンくん、何か見っかったかい?」 段ボールに隠れている新川さんなら、とはなんだか言いづらいのでここはお茶を濁しておこう。 「全く何にもです」 「そうかい、そうかい。いやぁ、みくるも見つけらんないってのは何か悔しいにょろね」 鶴屋さんは言いながらすぐそこにあった倉庫の扉を開けた。 中には剣道の防具と思しきものが収納されていた。 「お~~いっ、みくる~!長門っち~!妹く~~ん!出ておいでよっ!」 がさがさと防具を掻き分けていく鶴屋さんの後ろを俺も探してみる。棚の影とかに隠れているかもしれない。 と、鶴屋さんの声が響いてきた。 「おっ、妹くん見っけ!」 「え?どこです?」 「さっき外の廊下を走ってったよっ。さっ、追いかけるにょろよ、キョンくんっ!」 鶴屋さんは防具の山をすっ飛ばして駆け出した。 俺も急いで走り出すが鶴屋さんがあまりに速くて追いつけない。日頃の運動不足が祟ってか、体力的な限界も間近だ。 「キョンくんっ!」っといきなり鶴屋さんがUターンしてきた。 「妹ちゃんは武道場に走ってったにょろ。あたしが前から追い詰めるから、キョンくんは後ろから回り込むっさ!」 ほとんどスピードを緩めぬままに、鶴屋さんは俺が来た道を逆方向に走っていった。 妹を挟み撃ちにする作戦みたいだな。ていうかこれ、鬼ごっこじゃないか? まあいい。とにかく早く武道場に行かなければ。俺は鶴屋さんとは逆方向に走り出した。 俺が武道場に着くと、妹がこちらに走ってきていた。が、俺を見て急ブレーキをかける。 妹は武道場の真ん中で立ち往生している。俺と鶴屋さんはじりじりと妹との距離を詰めていく。 「さあ妹くん。おとなしく携帯を渡すんだっ」 「イヤって……言ったらっ!?」 そう言い終るが早いか、妹は俺に向かって走り出した。 鶴屋さんより俺のが弱いってことか。否定はせんが、兄貴をなめるなよ。てかお前、ルールは遵守しろ。 と、俺が入ってきた入り口から新川さんが入ってきた。妹は2対1は不利と見たか踵を返して鶴屋さん方向に駆け出す。 その時だった。 「てやぁっ!!」 鶴屋さんの気合の一声と共に、妹の体が空中を舞った。 妹にぎりぎりまで近づいていた鶴屋さんは、妹にこれ以上ないほどに美しい背負い投げを決めたのだ。 「どうだいっ?参ったにょろかっ!?」 「はい……参りました……」 一瞬の間の後、2人は大声で笑い出した。 「いやはや、見事な一本でしたな」 新川さんがそっとつぶやき、渋い笑みを浮かべた。 残るハイダーは朝比奈さん、長門、そしてハルヒだ。 妹捕獲の後、俺たちは少し休憩をとることにした。そうして今4階の炊事場に向かっている。新川さんがお茶を淹れてくれるとのことだ。 やけにアグレッシブな逃走劇を演じた鶴屋さんと妹は、まるで姉妹のように俺の前を肩を並べて歩いている。 ほんと、このコンビは元気だし、仲が良いな。お互い通じるものでも感じるんだろうか。 まあ、おてんばっぷりや、意外と武闘派なとこなんかは似てるな。 「あれ、今日晴れてたよね?」 妹の言うとおり、窓から見える空は昼前までの晴天から一転、どんよりとした曇り空になっていた。 今日は1日晴れの予報だったが、本当にあてにならん気象予報士だな。 日の光を遮る雲は、まるであの空間のような灰色をしていた。 新川さんの美味いお茶――朝比奈さんのソレには劣るが――を飲んだ後、俺たちはそれぞれがバラバラになって捜索作業を行うことにした。 俺以外の3人は別館に向かうとのことだった。俺は本館をじっくり探すことにする。 『もしもし。少し困ったことになりました』 古泉から電話がかかってきたのは3人と別れて10分ほど経ってからだった。 「……それはハルヒ絡みの困りごとか?」 『そのとおりです。はっきり言いますと、小規模ながら閉鎖空間が発生しかけています』 「しかけている?発生はしてないのか。なんとも中途半端だな」 『ええ。こんなことは初めてで、僕自身上手く表現することができません。 現在、本館と離れは通常の空間と閉鎖空間との境界が非常に曖昧になっています。おそらく、涼宮さんの仕業です』 そんなこと俺に言われても困る。お前は閉鎖空間のプロだろうが。 『そうなんですが、こういった状況は想定外でした。ここは長門さんと協議したいところなので、すぐに長門さんを探し出してください』 無茶なことを言うな。と言いたいところだがそうもいかないらしい。妹を閉鎖空間に招待する気にもなれんしな。 しかし、俺たちが苦労せずとも長門はすぐに自首してきた。 自分で#と*を押し、リタイアを自ら宣告した後、俺に電話してきた。 『本館4階の書斎』とだけ。 本館4階の広い書斎には俺、長門、古泉他”機関”のメンバーが集っていた。 「これは涼宮さんの力によるものでいいですね、長門さん?」 「そう。この現象は涼宮ハルヒによるもの。 おそらく、鬼に見つかりたくない、もしくは1位になりたいという強い感情から彼女がこの現象を引き起こした。 先程私が自ら捕獲に当たる行動をした際に、閉鎖空間の占有範囲が飛躍的に向上、通常空間をほぼ侵食した。それはあなたたちも感じているはず」 つまり、ハルヒがかくれんぼで1位になりたいと願ったからこうなったのか。しかし閉鎖空間を作っても1位になれるわけじゃないだろう。 「この空間は涼宮ハルヒが1位に最もなりやすい環境に設定されている。その詳細は私にもまだ解りかねる。 また、この空間は閉鎖空間に酷似するが、厳密には全く違うもの」 「涼宮様のイライラや、不満によって生じたものではないから、ですかな?」 新川さんの問いに、長門は「そう」とだけ答え、 「この空間は通常の閉鎖空間を希釈したような性質を持っている。時間の流れも互いに同期している」 「世界を改変しようとする意思も無いですしね。我々の力も微々たる力しか発揮されない」 古泉の手の上には、ピンポン玉と同等かそれ以下のサイズの赤い玉が浮かんでいる。 「この空間も基本的には選ばれたごく一部の人間にしか出入りすることは出来ない。 しかし、この空間は現在この建物、または別館の一部の場所で通常の空間と繋がっている。情報統合思念体との連結が途絶えていないのが証拠」 つまり……どういうことだ? 「この閉鎖空間もどきは、本館と離れの中のどこかに僕らのような能力を持たない人間でも出入りが出来る入り口を持っている、ということです。 そうですね、長門さん?」 「そう。現在この空間にいるのは我々を含め8人。涼宮ハルヒは入り口の向こう側の通常空間にいる。 彼女からは私たちは視認出来ず、こちらからも彼女を視認することは出来ない」 「じゃあ、どうやってハルヒを見つけるんだ?」 「この空間と通常の空間の狭間は、彼女の体表面を薄く覆うように形成されていると推測される。 彼女が移動すれば、当然空間の狭間も移動する。その際に生じるこの空間の揺らぎを検出し、彼女の位置を捕捉する」 「お前にはそれができるのか?」 長門は数センチの僅かな首肯を返してきた。いつも数ミクロンの頷きをすることを考えれば、随分と力強い。 「まずは朝比奈みくるを確保すること。仮に朝比奈みくるが1位になった場合、この空間が完全な閉鎖空間と化し、世界が改変される可能性がある。 だから、朝比奈みくるを見つけ出して。私はここで空間の揺らぎを検出する」 こうして俺たちは朝比奈さんを見つけることになった。 「あまり長い時間この状態にするのもよくないようです。少しづつですが空間の閉鎖空間化が進んでいます」 森さんがそう言っていたので時間に余裕も無いらしい。 しばらく朝比奈さんを大声で叫んだりもしながら探したが見つからない。俺と古泉は一旦本館3階の武道場で落ち合った。 「困りましたね。まさか彼女がこんなにも見つからないとは。実は鶴屋さんや長門さんとは事前に打ち合わせていたんです。涼宮さんを1位にするように」 やっぱりこれは出来レースだったわけか。 「ええ。朝比奈さんに関しては事前に役目を与えておいて失敗をされても困りますし、どうせすぐに見つかると思ったので打ち合わせていませんでした」 つまり、そういう話を聞いていなかった俺も、お前らに役立たずと判断されたわけか。 「すいません、そういうことになります」 古泉はいけしゃあしゃあとぬかしやがる。ほんとに腹が立つ奴だな。 と、突然古泉の表情が曇った。 「どうした?」 「いえ……何か妙な気配を感じたもので……。森さんならすぐにわかるんでしょうが……。 彼女は機関の中でも空間を察知する能力に長けているんですよ。長門さんには及びませんが」 そうだったのか。超能力者の力にも得手不得手があるんだな。 などと関心していると、鶴屋さんと妹が武道場に入ってきた。4人で簡単な情報交換を行う。その時だ。 けたたましい音と共に武道場の入り口の引き戸が破られた。 「おい、なんだあれは」 そう言わずにはいられない。引き戸を蹴破って武道場に入ってきたのは、人間ではなかった。 人と大差ない大きさの青白い光を放つ”何か”が1階にあった日本兜を着込んで立っていた。”何か”は腰に佩いた日本刀をゆっくりと抜く。 「神人によく似ていますが……なんなんでしょうね。ただ、我々に敵意を持っているのは確かなようです」 古泉は手の上にあの赤い玉を作り出す。 「キョンくん、あれ……何なの?」 そうだな、妹よ。訳わからんよな、こんなもん。 「俺にもよくわからんが、とにかくかなりヤバイもんだ」 「なるほど……」 こんな説明でいいのか?なんて物分りの良さだ。 「SOS団なら何が起こっても不思議じゃないでしょ?」 全くだ。その意見には全面的に賛成だが、それほど不確かな理由はない。 そうこうしているうちに神人もどきは数を増やし、5体ほどが武道場に入ってきている。 「とりあえず、逃げないといけませんね」 「そうだねっ。けど、やっこさんにはそんな気はめがっさ無いみたいだよっ。ほら」 見ると、武道場のもう1つの入り口からも神人もどきが入ってきていた。俺たちはさながら猫に追い詰められた鼠だ。 「やるっきゃないねっ。妹くんっ!」 鶴屋さんは妹に長刀竹刀を投げ渡し、2人はそれを構えた。 「ふ~~……もっふっ!!」 古泉が超能力的エネルギーパワーボールを叩きつける。神人もどきたちの足元に着弾したそれは、閃光と共に炸裂する。 立ち上がる粉塵に向かって鶴屋さんが突っ走り、長刀を振るう。妹は背後の警戒にあたる。 俺はただ古泉たちの後ろを逃げる。闘ったりはしない。それが俺の役目だからな。 だってそうだろ?俺はただの一般人だ。まあ。妹もそうなんだが……。 神人もどきの1体が鶴屋さんへ袈裟懸けの剣を浴びせる。当たれば即死モノの太刀筋を、鶴屋さんは絶妙のタイミングで回避した。 神人の振るった剣はドガンッ、と鈍い音をたてて床にめりこむ。 世界一鋭利な剣である日本刀なら、もっと綺麗に床に入っていくと思うんだが、あれはもしかして模造刀か? 「どりゃっ」 鶴屋さんが神人もどきをなぎ払い、妹も背後の神人相手に獅子奮迅の活躍をしている。古泉は2人を援護するようにふもっふを連発。 本当に申し訳ないくらい俺は何もできない。今度妹に空手でも習うかな。うん、そうしよう。それがいい。 「さあみんな、こっちだよっ!」 鶴屋さんが神人もどきを吹っ飛ばしてできた突破口に4人で突っ込む。 だが神人もどき共は倒されても倒されても起き上がり、追いかけてくる。ゾンビか、お前らは。 「痛っ……!」 そう妹がうめくのが背後から聞こえた。振り返ると妹が右手を押さえている。なんと、血が出ているではないか。 静かに滲み出る鮮血は、妹の腕を伝ってポタポタと床に落ちていく。 奴らが持ってたのは模造刀だけじゃなかったのか。竹刀対真剣では竹刀に黒星がつくに決まっている。 証拠に妹の足元には綺麗に真っ二つにされた竹刀が転がっていた。 「妹くんっ」 うずくまる妹に鶴屋さんが駆け寄る。 その真後ろでは神人もどきが妹の血が着いた刀を振り上げ、2人に切りかかろうとしていた。 そして、無防備な2人に真剣が振り下ろされた。 気がつくと、俺は走り出していた。 一瞬、俺の耳は一切の音を感知しなかった。それだけ無我夢中だったのかもしれない。 自分でも驚くほどの速さで神人もどきに駆け寄った俺は、これまた驚くほど高く跳躍する。 刀がまさに鶴屋さんの背中に触れんとした瞬間、俺のドロップキックが神人もどきにクリーンヒットした。 神人もどきは刀を残して真っ直ぐ吹っ飛んでいく。 着地後視線を上にやると、もう1体の神人もどきが切りかかってくるのが見えた。 俺は転がっていた刀を手に取り、神人もどきの刀を受け止める。金属同士がぶつかり合う鋭い音が響いた。 神人の太刀筋はとてつもなく重かった。だが負ける訳にはいかない。ここで負けたら妹と鶴屋さんが傷つく、俺の名が廃る。 「どりゃあっっ!!」 気合一発、俺は神人の刀を払いのけ、その首を切り飛ばした。 神人もどきの頭部は青い光の跡を残しながら胴体から離れ、刹那の空中浮遊を楽しんでいた。 直後、古泉の赤玉が数個飛来し、爆発、追撃を仕掛けようとしていた神人たちを蹴散らす。 その隙に俺と鶴屋さんとで妹の肩をとり、駆け出した。もう神人もどきに追いかけるそぶりは見られなかった。 最後に振り返ったとき、俺が切り飛ばした首を胴体のみの体が拾い上げ、またその体に迎え入れているのが見えた。 長門が待つ4階の書斎に向かう途中、古泉が話しかけてきた。 「驚きました。あなたがあんな動きをするとは。さっきのあなたはとてつもなく速かったです」 そうだったのか?無我夢中だったからよく覚えていない。 「そりゃあ、もう。信じがたい速さでした。考えてもみてください。あなたと鶴屋さんたちとの距離は5メートル以上はありました。 それを、刀が振り下ろされてから2人が切断されるに至る間に駆け抜けたんですから」 それは確かに早いな。びっくり仰天だ。 「それに、あなたは神人に似た”アレ”を切断しました。当然のように思っているかもしれませんが、あれは一種の異常事態です。 普通、神人に実質的なダメージを与えられるのは僕らのような力を持つ物のみです」 「僕の推測ですが、あなたは長い期間僕や長門さんのような特異な力を持つ者たちに囲まれていたために、 僕たちの能力の一部を会得したのでしょう。長い間閉鎖空間に行くことがなかったので気づかなかったようですが」 どうやら俺は、ハルヒに振り回されて宇宙人的、未来的、はたまた超能力者的な力に触れ続けたせいで、その力を少し受け継いじまったらしい。 俺はSOS団唯一の普通キャラだったのに、これではいよいよ超人変体集団になってしまうぞ。 まあ、その力があったおかげで妹や鶴屋さんを助けられたんだから、一概に否定する訳にはいかないな。 ん?こんな力があると今後俺も面倒ごとにおいて戦力に数えられたりしないか?嫌だ。果てしなく嫌だ。 憂鬱な気分に浸りつつ、書斎に到着する。中には新川さんと森さんもいた。 妹の手当てを2人に任せ、長門にさっき起こったことを報告する。 「あれはこの空間に設定された、涼宮ハルヒを1位に仕向けるための特性の1つ。彼女を捕獲しようとする者に対し攻撃を加える。 装備もまちまち。基本的には模造刀を持つが一部真剣を装備している。おそらく、この建物の所有者がここに保存していたもの」 「確かに爺さん、刀なんかもここにおいてたよっ」 とにかく、ハルヒ探索が一層困難になったのは確かだな。だが、早く事態を解決しないといけない。 「よし、俺たちで固まって朝比奈さんを探そう。長門、お前も来てくれるか?」 「そのつもり。でも、あなたにはしなければいけないことがある」 長門の視線の先には、右手に包帯を巻いた妹がいた。その表情からは、はっきりと恐怖の感情が見て取れる。 「彼女は私たちの特異性に、ある程度の理解を示していた。だが、先の事態はその許容範囲をはるかに超えた。 あなたは彼女にすべての事情を説明する必要がある。それが、あなたの役目」 そして、俺と妹を残して長門たちは朝比奈さんを探しにいった。 「この部屋に防護フィールドを発生させる」と長門が言っていたので安心だが。 妹は無言で椅子に座り、ひたすら下を向いていた。さっきまでの活躍が嘘のようだ。近づくと、小さく震えていることにも気づいた。 俺は妹の前にしゃがみ、その手を握る。妹は、静かに泣いていた。 「怖かったな。お前にこんな思いをさせて、悪いと感じている。すまなかった」 「キョンくん……」 妹は俺に抱きついてきて、はっきりと嗚咽をあげはじめた。 俺は妹の小さな背中をそっと抱く。それくらいしか出来ることがわからなかった。 俺は妹を抱いたまま話を始めた。 ハルヒのこと、長門や朝比奈さん、古泉のこと、SOS団のこと、そして今回のことはハルヒの力によって起きたということ。 それらをゆっくりと、言葉を選びながら妹に話した。そして最後にハルヒを恨んだりしないようにお願いした。 ハルヒは好き好んでこの力を持った訳じゃないからな。恨むなら、ハルヒに力を与えた神だかなんだかの不確定な存在を恨んでほしい。 ハルヒも、あの力の犠牲者なんだ。 妹は全て理解してくれたようだ。ほんとに物分りの良い、素直な奴だ。兄としては非常にうれしいぞ。 しかし、それでもなかなか泣き止むことはなかった。まあ、腕を真剣で切られ、挙句死の一歩手前まで行ったんだからな。無理もない。 今回の事件で俺の兄としての無力さが露呈した。もっと、強くならねばと思う。ちんけな能力無しでの強さでな。 と、突然携帯が鳴った。画面には [追尾アプリ起動中] という意味不明のテロップと、見取り図が表示されていた。 数分後、長門たちが朝比奈さんを連れて帰ってきて、まだ抱き合っていた俺たち兄妹は赤面することになる。 「妹くん、長門っちが呼んでるよ」 妹が長門のもとへ行くのと入れ替えに古泉が寄ってきた。 「長門さんは妹さんの治療をするそうです。傷跡は完璧に消えるそうなのでご安心を」 そうか、そりゃよかった。 「鶴屋さんにも、ハルヒたちの説明はしたのか?」 「もちろんしました。まあ彼女も僕たちがおかしな力を持っていることには気づいていたのですぐに納得してくれましたよ」 「そういえばさっき携帯に変な画面が表示されたんだが。ありゃなんだ?」 「あれはハイダー側の携帯に仕込んでおいた発信機が作動していたんです。ハイダーの携帯にはゲームのアプリが入っていましたよね?あれはこちらが用意した罠だったんです。 アプリを起動すると自動的に起動したハイダーの位置情報がシーカーに知らされるようになっていました」 「随分と姑息な手を用意してたんだな」 「姑息とは聞こえが悪いですね。僕は『このアプリはハイダーには特に役立つものではありません』と、しっかりと役に立たないことを伝えていました。充分フェアかと思いますが」 じゃあ、そういうことにしとけ。好きにしろ。 「朝比奈さんはそのゲームアプリを起動したから見つかったのか」 「ええ。本当にラッキーでした。これで涼宮さん探しが開始できます」 朝比奈さんらしいドジで愛くるしい捕まり方だが、よくここまで粘ったな。人には意外な一面があるもんだ。 その朝比奈さんは妹を治療中の長門に向かって、 「あたし、楽しくてつい調子に乗ってしまって……本当にごめんなさい」 と、「問題ない」という長門の声も聞かずに謝り続けている。俺ならあなたにいくら謝ってもらっても問題ないんですが、あんまりくどいと逆に人を怒らせますよ? 「それで、涼宮さんですが、彼女は現在自分がで優勝したことを知っているはずです。ですが、この閉鎖空間もどきは消滅していません。 もしかしたら消えてくれるんじゃないかと思っていたんですが……うまくいきませんね」 などと古泉は貼り付けたような笑顔で言っているが、それって非常にやばいんじゃないか? 「ええ、非常にやばいです。神人もどきの強さもどんどん増しています。さっきも一度出くわしたんですが、更に大きくなっていました。 おそらくいつまで経っても自分を見つけない我々に、涼宮さんは不快感を感じているのでしょう。でも、見つかりたくはない。 そんな思いが入り乱れ、肥大化して閉鎖空間化にも歯止めが効かなくなっているんでしょう」 見つかりたくないから作り出したこの閉鎖空間もどきを、今度は見つけてもらえないイライラで本物の閉鎖空間にしようとしてるのかあいつは。カオスだな、おい。 「カオス……ですか。確かに、このSS作者も情報量の多さに事態を把握しきれず、このSSにいくつかの矛盾を発生させています。 僕にこんなことを言わせているのが何よりの証拠です。カオス、という表現が適切でしょうね」 「事態を収拾するのは簡単。涼宮ハルヒを確保すればいい」 いつの間にか妹の治療を終えて俺たちに近づいていた長門が静かに言った。 「限定空間内生命体たちの位置と、通常空間との間で発生する空間の揺らぎを比較すると、揺らぎの周辺に限定空間内生命体が分布することがわかった」 長門の言う限定空間内生命体とは、俺たちを襲った神人もどきを指しているようだ。限られた空間内でのみ活動する生命体、ってとこか。 空間の揺らぎとはハルヒのことだろうからその限定空間内生命体たちの中心にハルヒはいるんだろう。やれやれ、いよいよ面倒なことになってるな。 「その……限定空間なんとやらの数は?」 「全部で36体。真剣を装備しているのは14体」 多いな。どうせハルヒを捕まえるにはそいつらをもれなく倒さなきゃいけないだろうからとことんハルヒ探しのミッションの難易度は高いな。 「限定空間内生命体はいずれも肥大化し、強力。あなたのような人間が応戦するのはあまりに危険」 「では、我々と長門さんが協力して戦うわけですね?」 「そう。統合思念体の意向に関係なく、私はそのつもりでいる。あとはあなたたち次第」 「……しょうがないですね。事態が事態ですし、一般人を巻き込んだ手前、我々も責任を取る必要がありますし。わかりました、協力します」 ここに宇宙人と超能力組織の一時的同盟が締結された。なんとも頼りがいのある同盟だ。 「あなたちの体表面に生体防護フィールドを発生させる。これである程度の攻撃にも耐えられる」 と長門にいつかのように妹共々甘噛されて、俺たちはハルヒ確保に乗り出した。他の連中は朝比奈さん探索時にすでにやられていた。 窓の外の空はほとんど閉鎖空間と同じ灰色をしている。早くハルヒを見つけ出さないとな。 俺たちは先頭に長門と古泉、後ろに新川さんと森さんを配してその間に俺や朝比奈さんたちの一般人勢というフォーメーションに長門のナビゲーションで進んでいく。 そして本館1階に到着した時だった。 「来ます」 古泉の言うように廊下を挟んだ左右の練習場の壁をぶち破りながらゆっくりと神人もどきどもが出てきた。 神人もどきは天井の高さよりも大きくなっていて、首を折り曲げるようにして立っている。手に持っている日本刀がおもちゃのようだ。 「この限定空間内生命体の向こう側に彼女はいる」 長門は静かに両手を神人もどきに向けて掲げ高速で何事かつぶやく。すると両手から数え切れない数の白い光の矢のようなものが神人もどきたちに向かって放たれた。 それはあまねく神人もどきに命中し奴らの巨体をよろめかせる。 「我々もいきましょう」 古泉の言葉に合わせて機関の3人も攻撃を始める。 古泉は赤い玉をふもっふし、新川さんは手を銃のような形にして指先から古泉同様の赤い玉を打ち出し、森さんは前に重ねた両手から赤い円形の波を放っている。 超能力者ってのは攻撃方法も異なるのか。ほんの少し勉強になった。なんの役にもたたんが。 轟音の響く戦況を、しばらく圧倒されつつ眺めていた俺の襟首を突然長門が掴んだ。見る間に俺と長門を包むように淡い水色の膜が発生する。 俺が事態を飲み込む前に長門は跳んだ。俺共々に。 爆煙立ち込める神人もどきの間を長門は一瞬で駆け抜けて神人への攻撃を止めぬまま俺に言った。 「玄関から外に出て」 「ハルヒは外にいるのか」 「そう。私の攻撃にも限りがある。急いで」 俺は長門から離れ玄関の大戸を開ける。俺の前に広がった灰色の景色はまさに閉鎖空間だった。 と、携帯が鳴る。長門だ。 『聞こえる?』 ああ、聞こえるぞ。お前が闘ってる音もな。こっからどうしたらいい? 『そのまま何もせず、手を前に伸ばして』 …………それだけか?そんなことでいいのか? まあいい。長門の言うことに間違いなど、間違ってもない。変な日本語だが気にするな。俺は今ただ手を伸ばす、それだけだ。 何も無い虚空に俺は手を伸ばしていく。と、指先が何かに触れる感覚があり、直後に景色が一変する。 空は今朝同様に青い。もとの空間に戻ったようだ。 「あれ、あんたいたの」 しかめっ面で振り向いたハルヒの肩に俺の片手は置かれていた。もう片方の手に持っている携帯からは不通を告げる音しかしない。 「ねえ、みくるちゃんが見つかってあたしが1位になったってメールが着たのに、今の今まで誰もあたしのとこに来なかったのはどうして? キョン、ちゃんと説明しなさい」 そう言われてもな……。まさかお前が作った閉鎖空間もどきに閉じ込められて妹は腕を斬られて俺は変な力に目覚め長門と機関が同盟を組んだとは口が裂けても言えないし。 「なんでも携帯のシステムを管理してたサーバに異常が起きたらしくてな、お前の居場所を捕捉出来なかったんだ。 だからずっとお前を探してたんだ。待たせてすまなかったな」 口からでまかせにしては上手い言い訳ではないだろうか。ハルヒも、 「なら、しょうがないわね」 とご納得の様子だ。 「じゃあ早くみんなを集めて。私の表彰式をするわよ!!」 しかめっ面から一転、ハルヒは飛び切りの笑顔を見せた。 その後、3階の武道場に集まった俺たちは、かくれんぼ大会の表彰式を行った。 3位の長門には3万円分の図書券、2位の朝比奈さんには高級茶葉と最新型のポット、ハルヒには謎の巨大な箱が贈呈された。 まるで謀ったように各自にぴったりの賞品だ。ただ、ハルヒの箱の中身は最後まで教えてくれることはなかったのでわからないが。 ちなみに4位以下の参加者にはポケットティッシュが1つずつ配られた。3位との間に随分と差があるな、おい。 また、鶴屋さんと妹はこの日あったことをすっかり忘れており、ずっとハルヒを探していた記憶に入れ替わっていた。 「あれは彼女たちが保有する必要の無い記憶。生体防護フィールドを発生させた時、記憶を改変する因子を仕込んでおいた」 長門によればそういうことらしい。 表彰式終了後は飲めや食えやの大宴会が催され、俺はしばしの間今日の徒労を忘れて楽しんだ。そして、もう一泊した後、俺たちは帰路に着いた。 「今回のことは本当に予想外の事態でした」 帰りの電車の中で古泉が口を開いた。女性陣は少し離れた席でトランプを楽しんでいる。 「まさかイラつかずとも閉鎖空間同様の空間を発生させるとは思まいせんでしたから。今後の参考にさせてもらいます」 ああ、ぜひともそうしてくれ。もうあんな思いをするのは勘弁してほしい。 「そう言えば。なぜあの力を放棄したんです?今後役立つこともあるでしょうに」 古泉の言う『あの力』とは俺が発揮してしまった高速移動と神人破壊能力だ。俺は長門に頼んでこの能力を無効化する因子を体にぶち込んでもらっていた。 何故かって?決まってる。 俺は普通でないといけないんだ。俺も妹も鶴屋さんも、基本的に普通の人間であって、そうでなければいけない。 もうこの世界にはおかしな力や由来を持つ奴が嫌と言うほどいるからな。それがこれ以上増えることによるメリットなどほぼ無いに等しいと断言していい。 だから俺はあの力を捨てた。まあ未練が全く無かったと言うと嘘になるが俺は普通なんだ。後悔はしていない。 「そうですか。少しは僕の負担も減ると追って期待したんですがね。残念です」 お前は俺がどれだけハルヒにこき使われているかいまだに理解できていないようだな。いいだろう、今度小一時間みっちり講義してやる。 ああ、そうそう。ハルヒが宴会中に「年越し合宿するわよ。スタートは28日からね」と言っていたのを忘れていた。 今度も別の鶴屋さん家所有の別荘でやるつもりらしい。鶴屋さんもそれを了承していた。 どうせろくなことにはならんだろうな。まあ、いいさ。俺は普通の人間として騒動に巻き込まれていくだけだ。
https://w.atwiki.jp/srkjmiroor/pages/983.html
「カ、カッパーー!」 【名前】 妖怪カッパ 【読み方】 ようかいかっぱ 【声】 近藤浩徳 【登場作品】 手裏剣戦隊ニンニンジャー 【登場話】 忍びの2「ラストニンジャになる!」 【所属】 牙鬼軍団 【分類】 妖怪/合成妖怪 【好きな物】 相撲 【好きな場所】 レイクサイド 【攻撃力】 星2 【不思議な技】 星3 【ふぶきガス】 星5 【恐れの収集法】 水辺で襲う 【妖怪モチーフ】 カッパ(河童) 【器物モチーフ】 消火器 【他のモチーフ】 消防士 【詳細】 邪悪な妖気の宿った手裏剣の影響で「消火器」が変化した妖怪。 絶対零度の吹雪を浴びせたり、襲った人間と勝手に相撲し、上手投げで水中に落とす。 誕生過程は不明。 ヒトカラゲ軍団と「恐れ」を集めるのに人間を襲う。 ニンニンジャーの妨害に遭って交戦、能力でニンニンジャーを追い詰めるも、アオの五トン忍シュリケン「火炎」の術に怯み、撤退。 ヒトカラゲ軍団と共に人間を再び襲いはじめるが、アオに妨害され、能力の1つ「吹雪ガス」でアオを変身解除に追い込む。 変身解除した八雲を追い詰めるが、天晴の「火炎」の術で怯み、集結した5人のニンニンジャーへの変身を許す。 ニンニンジャーと交戦、アカの「火炎」の術、アオの「水」の術、アカとアオの連携技、2人の「金」の術で落とされた金だらいによって頭の皿を割られ、2人の「奥義・ニンレツザン」により倒される(上記の台詞はその際のもの。)。 その直後、小槌が放つ邪気の力によって「肥大蕃息」し、巨大化する。 シュリケンジンと交戦、背中にチューブを出現させ飛行し、攻撃をかわすが、新たにドラゴマルを中心とし合体が完了したシュリケンジンドラゴの攻撃でダメージを負い、最期は「シュリケンジン・ドラゴバースト」を受け爆散した。 【余談】 デザイナーのK-SuKe氏によると「『器物に封印の手裏剣が刺さり、それが妖怪になる』という話だったため、消火器の殻を割って、河童が内側から無理矢理出てきたような姿をコンセプトにデザインした」らしく、他にも「『消火』からの連想で頭部の皿を消防士のヘルメットのようにし、泳ぎの得意な河童から消火器をスキューバダイビングの装備のようにした」とコメントしている(DVDの映像特典の「忍者秘伝ノ書」より)。 声を演じる近藤浩徳氏は過去にも怪人の声を担当。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/868.html
昨日、俺のクラスは、月に1回の席替えをした。 そして、俺は窓際一番前という最悪なポジションを獲得してしまったわけだが、 じゃあ、ハルヒはその後ろか?と問うものもいるだろう。 しかし今回、ハルヒは俺と同じ列ではあるが、すぐ後ろではなく、窓際の一番後ろという前と変わらないポジションにいた。 ことの起こりは昨日のことだ。 母親は朝っぱらから親父とケンカしたらしく、親父が会社に行った後は俺にまでやつあたりしてきた。 しかも、俺はその日も妹にダイブをされたせいで腹が痛かったわけだ。ったく、朝から怒るなよ。 朝食はやけに焦げ臭かった。 しかも、朝のテレビ番組でやってた星座占いで俺の星座は12位。 そして極めつけの母親の言葉 「あんたも高校生なんだから彼女の一人ぐらい作りなさい!」 なんじゃそりゃ!俺だってできるもんならほしいさ。 気にしていることを言うな! その日の朝は、「いってきます」とも言わずに学校に向かった。 さらに学校につくと谷口が昨日のナンパは成功した!とか言ってきやがった。 そのときに谷口のチャックが開いてなかったのが、むしょうに腹立たしい。 さらにはチンプンカンプンな数学の授業で俺が指名され、素直に「分かりません」と言うと、「ちゃんと授業聞いてたのか?」とぬかしてきやがる。 さらには後ろの女も「何であれぐらいの問題も分からないの?」とか言ってきた。 体育の授業では5キロマラソンの途中に靴はぬげるし、 英語の授業では日本語訳しろと言われて、言ってみたら全く違っていてクラスの連中に笑われて、 朝ご飯同様、弁当もいつもよりまずくて(これは気もちの問題かもしれないが) 弁当食べ終わった後にトイレに行くと、清掃中。 とにかく、散々な一日だったんだ。 こんだけあってイライラしない人間なんていないだろ? でも、それだけなら俺もあんなとちったことはしなかったかもしれない。 まあ、そりゃそうだ。この時点ではとちるきっかけがなかったからな。 で、ことの起こりは5時間目と6時間目の休憩時間に起こった。 その途中、俺は背中に鋭い痛みを感じたわけだ。 こりゃあ、いつものシャーペンをつついてくる感触だな。 「今度のみくるちゃんのコスプレなんだけどすっかり忘れてたわ。今度はスッチーよ!最近そういうドラマが多いしね。で、今回はあんたが衣装料だしてちょうだい」 「何で俺なんだよ?」 「あたしは今お金ないの。それにいっつもみくるちゃんのコスプレ衣装はあたしが買ってるのよ?ああいうのは団員から徴収するものよ。今まであたしが出してあげてたことに感謝してほしいぐらいだわ」 そして、俺はその言葉にブチ切れてしまったわけだ。 「そんなことはどうでもいい!だいたいオレは別に朝比奈さんにスッチーのコスプレをしてほしいとも思ってないし、だいたい朝比奈さんにも迷惑だろ! それよりもだ、だいたいSOS団が発足してから罰金罰金、俺が悪くなくても俺の奢り。今までお前のせいでなくなった金はいくらだろうね?5桁は軽くこすね。あやうけりゃ6桁をこしてるかもしれん。 だいたいお前は朝比奈さんをおもちゃにして楽しんでるかもしれねーが、俺はSOS団のメンバーに昼食奢ってもなんも楽しくないんだ。それに、不思議なんて見つかるわけねーのに不思議探索で大事な大事な休日をつぶされるわ。 今になって思うが、ゴールデンウィーク明けにお前に話しかけるんじゃなかったよ。はっきりいってお前のその態度にはうんざりだ!」 クラスの連中は俺達を終始、唖然と見ていたように思われる。 今考えたらよくハルヒは何も言わずにその言葉を聞いてたなと思うよ。 俺はそのときのことをこれまでにないほど後悔している。 そして、そう思うのに先ほどの文句を喋り終えてから1分もかからなかった。 せいぜい、10秒ほどだろう。 俺はそのときにはもうしまった!と思ったが、言ってしまえば後の祭りである。 その間、教室は沈黙していたはずだ。それとも回りの声が聞こえないほど俺自身、後悔していたのかもしれん。 で、その沈黙を破ったのはハルヒだった。 ハルヒはいきなり机からノートを取り出し、最後のほうのページを破り、そこに『退団宣告』と、大きく書いて、俺に渡した。 「じゃあもうSOS団に来るな!バカキョン!」 すまん古泉、きっと今頃、神人はあばれほうだいなはずだ。 で、俺は何とか謝ろうとしたんだが、授業始まりの鐘が鳴り、岡部の「みんな席につけー」という言葉で俺は謝るタイミングをなくしてしまった。 で、6時間目の授業はLHR。 その時に、月に1回の席替えをして今の座席となったわけだ。 その後、この気もちを朝比奈さんのメイド服姿で癒してもらおうと部室に行こうとしたのだが、後ろでハルヒに襟をつかまれ、 俺を下駄箱の前まで運んだ後、「もう来るなって言ったでしょ」とかこれ以上にないぐらいの恐ろしい笑みで言った。 いやぁ、あれは怖かった。 俺は今日、ハルヒが学校を休んでるというわけでもないのに、ハルヒに会わずに午前中の授業を終えた。 「おいキョン、そろそろ涼宮と仲直りしてやったらどうだ?」 「僕もそうしたほうがいいと思うよ。仲が悪いキョンと涼宮さんって何か違和感があるしね。」 いや、俺もな、そうしようとは思うんだが、むこうがそのチャンスを与えてくれなさそうなんだよ。 「まあ、涼宮は頑固だからな。たとえキョンが謝ったとしても許してくれるかは疑わしいな」 「でも、やっぱり謝っておいたほうがいいよ」 それよりお前ら二人、特に国木田。なぜ俺が悪いのを決め付けて話す。 後悔してる自分が言うのもなんだが、少しはハルヒも悪いだろうが。 「まあ、かく言う俺は、お前があの変人好きハルヒとずっと続くとは思ってなかったけどな」 「そんなこと言ったらキョンがかわいそうだよ。僕はキョンのこと応援してるよ。」 おいおい、まるで俺とハルヒが付き合ってたみたいな言い方しないでくれ。 で、俺はできるだけササッと弁当を食べ終え、 先ほど、古泉から『また中庭に』というメールを受け取ったのでその場所に向かった。 「僕が話したいことは分かっていますか?」 俺が古泉のもとについたとたん、古泉はまるで分かってますよね?というような笑みを浮かべて俺に問いかけた。 まあ、予想はつくさ。 「昨日はホント、部室の中にいるだけできまずかったですよ」 「あれ?昨日お前、部活に行ってたのか。おれはてっきり神人倒しで忙しいかと思ったんだが」 「閉鎖空間は発生したんですけどね。規模が小さかったので他の仲間だけでたりて、機関には涼宮さんの観測をつづけてくれと頼まれたので、そのまま部室にとどまっていました。涼宮さんの様子では規模が小さいようには思えなかったんですけどね。 もしかしたら、涼宮さんは見た目よりも怒ってないのかもしれません・・ …それより、どうやら昨日、席替えをしてあなたのすぐ後ろの席が涼宮さんにならなかったそうじゃないですか」 「ああ」 「これは結構、重要な問題ですよ」 んな大げさな 「まあ、涼宮さんの力が衰えていて、そのような結果になったと考えると話は早いですし、そうだと、こちらとしても嬉しいのですが、確かに衰えてるとは思うのですが、そこまで衰えてるようには思えませんしね。 それと、ここからは僕の予想ですが、涼宮さんは、あなた自身から近づいてきてほしいと思っているのではないでしょうか?」 「俺はハルヒの近くになりたいと念じて近くの席になるような力は持ち合わせていないぞ」 「いいえ、そうじゃなくて、普通に近づいたらいいんです。席が離れてるのにわざわざ休み時間に話しかけてくれる、とかね。とにかく、涼宮さんに謝ってみてください」 「あいつが謝らせてくれる時間を作らせてくれると思えなないのだがな~」 「そんなことはないと思いますよ。まあ、時と場合によるでしょうけどね」 「それに、何度も何度もしつこくて余計嫌われないか?」 「それはあなたの謝り方にもよるでしょう。それにしても、やはりあなたも涼宮さんに嫌われたくないんですね」 「そういうわけじゃねーよ」 「まあ、こちらもできるだけあなたに謝りやすい環境を作って差し上げることにしましょう。できたら今日中に仲直りしてくれたらこちらとしてもありがたいのですが」 まあ、そうは言うものの、その後にハルヒに謝ろうと近くによっても、俺に気づくとすぐにどこかに行ってしまう始末である。 しかたない、明後日の日曜日になんとか謝るか。 古泉が言っていた謝りやすい環境とはこうだ。 明後日は俺ぬきでいつもの不思議探索パトロールをやるらしく、うまくやってハルヒを公園まで連れて行き、そこで俺とばったり会って俺が謝るという設定。 もちろん、明後日は2:2で別れると予想され、ハルヒは誰とペアを組むか分からない。そのため、長門と朝比奈さんにもこのことを伝えておくとのことだ。 で、公園への誘導方法は「最近、公園で幽霊を見たという人がいるらしくて」とハルヒに言うつもりらしい。 とりあえず、朝比奈さんがハルヒとペアにならないことを祈ろう。 嘘がつけなさそうな人だからな。 で、その日曜日になったわけだ。 俺はなぜか、普段の不思議探索の日よりも早い時間から公園にいる。 とりあえず、ハルヒが来るまで誰とペアになったんだろう?ということを考えておこう。 古泉とペアになったらどうだ? 「じゃあ、あたし達は駅の北を探すから、有希とみくるちゃんは南お願いね!」 で、古泉が、 「そうそう涼宮さん。こないだ知人に聞いたのですが、そこの公園で幽霊らしきものを目撃した人がいるらしいです。」 で、ハルヒは目を輝かせて、 「それホント!そりゃあ行くしかないわね!」 ということで順調にいきそうだが、その場合長門たちがどうなるか気になるな。 まあ、こっそりついてくるっていうのが一番ありえそうか。 じゃあ、長門とペアになったらどうだ? 「じゃあ、あたし達は駅の北を探すから、古泉君とみくるちゃんは南お願いね!」 で、長門が、 「こっち」 と言ってそれ以外何も言わずに連れてきそうだな。 ハルヒは長門には従いそうだから。 だが、その場合、古泉が朝比奈さんとペアだからな。それが腹立たしい。 じゃあ、朝比奈さんとペアになったら? 「じゃあ、あたし達は駅の北を探すから、古泉君と有希は南お願いね!」 で、朝比奈さんが、 「あ、あの・・・こ、公園に・・・えっとキョ・・・じゃなくて、ゆ・・・」 「あぁ、もう何が言いたいの?いいからさっさと行くわよ。そうね、今日は新しい衣装を買ってあげる」 「ひょえー」 ……やっぱり朝比奈さんじゃダメそうだな。 で、30分ほど待っただろうか? 結局、俺の元にきたのは4人全員だった。 ハルヒは俺に気づいたとたん、後ろの3人を睨みつけているようだった。 ハルヒの顔は見えんが、古泉と朝比奈さんは苦笑している。 長門は、いつもどおり無表情だけどな。今回ばかりは何も読み取れん。 まあいい、とりあえず古泉に言われたとおりに実行しよう。 「俺はパトロールに呼ばれてないぞ」 「あんたはもうSOS団じゃないでしょ」 とりあえず俺は、古泉の言われたとおり一息おいてから、 「こないだは悪かった」と、謝っておく。 「その日は、いろいろ不運続きでな、ついつい八つ当たりしてしまった。とにかく、言葉が自分の意図とは関係なく出ちまって。中には自分でも信じられないことを言っていた。 もし、あの時谷口に『あんな変な部活さっさとやめろ』みたいなことを言われたら、お前に言ったことと全く逆のことで、谷口を怒鳴っていたと思う」 ハルヒは何も言ってこない。少しは何か言ってくると思ったんだがな、だがこのほうがいい。 「本当にあの時は不運続きだった。まあどんなことがあったかは話せば長くなるから言わないが、その時の俺で一番の不運はやっぱり、お前に退部宣告をさせられたことだ。そのときに起こったいろんな不運がどうでもよくなってしまうほどな。嫌なら毎日行ってなかったさ。 だからさ、お願いがある。もう一度、SOS団に入らせてくれないか?」 終始沈黙が起こった。 どんだけ続いただろうな。って言っても、1分もかかってなかったと思うが。 その沈黙を破ったのはまたもやハルヒだった。 「罰金」 普段より小さい声でハルヒはそう言った。 一応、はっきりと聞こえたが「なんだって?」と聞いてみる。 「罰金よ罰金!あたしにあんなこと言ってタダですむと思ったら大間違いよ!そうね、フランス料理のフルコースをSOS団全員分で済ませてあげるわ。いい?あたしは別に許したわけじゃないわよ!あんたがいなくてもSOS団はやっていけるしね。 ただ、こっちの3人がキョンがいなくちゃ嫌なようだから、あんたをSOS団に再入団させてあげる!でも、今度あんなことをあたしに言ってみなさい。その時は死刑だから!」 何でだろうな?怒ってるのにどこか嬉しそうだ。 後ろの3人も。 それにしても、今回は急激に俺の財布が軽くなりそうだ。いや、札がコインに変わるだろうから重くなるか。 だがまあいい、今回ばかりは諭吉様も笑ってらっしゃるようだしな。 次の日、俺は教室の後ろのドアから入って、「はよ!」とハルヒに声をかけてから自分の席に向かった。 ところで、何で今日はポニーテールなんだろうな? でも、席はやっぱり離れ離れ・・・か。 まあ、たった1ヶ月だ。その分授業に集中できそうだからいいじゃないか、俺。 で、今日は珍しく岡部は鐘が鳴る2、3分ほど前に教室にやってきた。 腕時計を見る。教室の時計を見る。腕時計を見る。もう一度教室の時計を見る。ああ、早く来ちまったーと後悔してる。 一番前の席もなかなか面白いじゃないか。 で、岡部が腕時計の針を動かしていると、その岡部に何か話しかけてる生徒がいた。 何話してるんだろうね~? ハンドボールのやり方を教えてほしい。とかか? まさか進路のことじゃないだろう。さすがにまだ早すぎる。 とか考えてると、岡部がこっちを見ていることが分かった。 おいおい、まさか俺に対する文句を言ってたんじゃないだろうな? ハルヒじゃなくて何で俺なんだ? と思っていると、岡部が今度は近づいてきた。 何言われるんだ俺? 「なあキョン」 先生もその名で呼ぶんですか・・・ 「こいつと席変わってやってくれないかな?」 ………え? どうやらその生徒は最近目が悪くなってきたらしく、後ろのほうの席じゃあ黒板の字が見えにくいということだ。 で、なぜ先週言わなかったかと言うと、先週は目を細めてなんとか見ていたというのだが、やはりそれじゃあ疲れるということで、岡部に相談したらしい。 ちなみに、その目が悪くなった生徒がどこの席だったかは、ご察しのとおりだと思うぞ。 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/982.html
涼宮ハルヒの中秋 第1章 涼宮ハルヒの中秋 第2章 涼宮ハルヒの中秋 第3章 涼宮ハルヒの中秋 第4章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6557.html
Ⅲ 寂しい灯りが照らす下、朝比奈さんと俺はお互いベンチに座っていた。何か話した方がいいかと思うのだが、朝比奈さんから呼び出されたのに俺が関係ない話をグダグダ話すのもいかがなものかと思い、今の膠着状態に至るわけだ。制服姿のままの朝比奈さんは、膝の上に乗せた自分の手の甲を眺めたまま動かない。そんな深刻そうにされると、一体どんな話が飛び込んでくるのかと俺は不安倍増になる。これがもし俺と朝比奈さんが向かい合っていたのなら、伝説の木の下ならぬいつものベンチ横で告白されるのではないかと思わず妄想を繰り広げてしまうのだが、今現在の事情が事情だけにそれはないな。さて、何が朝比奈さんの口から飛び出してくるか。鬼か?蛇か? 「キョン君は‥‥」 ようやく、ハムスターが精一杯に振り絞って出たかのような言葉は、何やらいやぁな予感しかさせなかった。結果的に、今すぐ告白しろみたいな話になるんじゃないか?この出だしは。 「今の涼宮さんをどう思いますか‥‥?」 「今のハルヒですか‥‥」 ……なんと答えればいいのやら。少し、いやかなり変わった気がするが、口では具体的にどう変わったのか言えないこともあり、これは言えそうにない。しかしいつも通りだと思いますよ、なんて本心と真逆なことをあの朝比奈さんの目の前で言うわけにもいかん。こうして呼んでくれたからには、ちゃんと理由があってのことだからに違いないからな。例え話の終結点が告白しろでも、嘘はいけない。嘘はいけないと、ふしだらな俺でも小学生の時に習ったことを覚えている。 「朝比奈さんはどう思いますか?」 しかし結局俺は、会話では禁じ手に値する質問を質問で返すという暴挙に出た。すまん、朝比奈さん。ハルヒが変わったのではなく、俺がハルヒを見る目が変わったかもしれないという点を無視したかったのさ。だって認めたくないだろ? 「‥‥私は古泉君の話を聞きました」 そう朝比奈さんは一呼吸おいて、小鹿のような瞳に決意を露に浮かべてから俺の目を直視して言葉を顔面にぶつけてきた。 「わたし、古泉君の言葉が間違っているような気がするんです」 俺は思わず目を見開いたね。ということは、告白云々は関係ないということだからだ。 「古泉くんの話はとても的を得ているし、話にもズレがないことは分かっているんです。でもわたしは、それでも本当のことはそうではないと思います」 「というと‥‥?」 「今の涼宮さん自身が、読書大会を開く前の涼宮さんと何か違う気がするんです‥‥‥」 なんと! 朝比奈さんも同じことを考えていたとは。しかもわざわざここに呼び出してまで言うからには、何か根拠があると思っても良いんですね、朝比奈さん。 しかし朝比奈さんは、わたしは話ベタだし、どうしてそう思うのか具体的には言えないのだけれどと前置きを重ねて言葉を区切っていた。変に思うかもしれない、とまで言っていたが、貴方のことを変だと思ったのは自分が未来人ですと告白された時以来はありませんよ。 「ただ涼宮さんが部室でしばらく寝て起きた時、ちょっとした時空震を感じました。おそらく長門さんも気付いたと思います」 「古泉は気が付かなかったのでしょうか?」 「‥‥そこ、なんです。キョンくんはどう思いますか? 気が付いたかと思いますか?」 たしか夏休み、ハルヒの勝手な行動で俺らは野球に参加させられるはめになった。その時クジで俺が4番に選ばれたんだが、野球経験も乏しく相手が相手ということもありエースのような活躍が出来なかったことにハルヒは理不尽な苛立ちを溜め、閉鎖空間を発生させた。あの時専門分野である古泉は除いても、朝比奈さんと長門は2人とも気づいたようだったな。長門はなんでも出来そうだが、朝比奈さんは未来人であるのだからそういったものには感知できないものかと勝手に思考していたが、そうではないようだ。ということは、朝比奈さんの専門分野である時空の揺れを古泉が感知出来てもまぁ不思議ではない。 無論俺にはさっぱり分からない。 「わたしは、具体的にはないにしろ、古泉くんも何か感じ取ったかなと思いました。なので、ここからする話は古泉くんが感知したということを前提に話していきますね」 「古泉くんは、あの日涼宮さんに何か異変があったと察知した。でも、貴方には涼宮さんにこ、告白をするように言っていますよね?」 「ええ」 「わたし思うんです。古泉くんがそう貴方に迫るのは涼宮さん自身がそう望んでいるからじゃないかな、って」 「‥‥え」 つまり朝比奈さんが言うには、古泉が俺にああ言うのは古泉自身の意思ではないということになる。またしてもハルヒの能力。いよいよ神らしくなってきたなハルヒ。 「あの噂‥‥わたしが誰かから聞いたわけじゃありません。朝起きて目が覚めた時にはもう、ああそうなんだって勝手に思ってたんです。鶴屋さんもキョンくんと涼宮さんのこと話していました。一緒に話してて、鶴屋さんに 「みくるも気づいてたのかい?」 と聞かれて、その時に初めて疑問に思いました。そういえば、なんでキョンくんと涼宮さんは一緒に帰ってるんだろう‥‥って」 なんということだ。噂を植え付ける? 洗脳の間違いじゃないか。事情を知ってる朝比奈さんでさえ記憶を曖昧にしてしまうとは、ハルヒの能力もさなぎから成虫になるみたいに羽化してるということか。 「わたし、長門さんが本を閉じて着替えのために貴方たちが一旦外へ出た時ようやく気付いたんです。2人で読書を進めるために残ってるんだったって‥‥」 朝比奈さんはうるんだ瞳をこちらに向け、まさにこのことを言いたかったのだと言わんばかりに声を上げた。 「キョンくんを今日呼び出すつもりになったのは、あの部室で思い起こしたんです。それまで、わたしもキョンくんが涼宮さんに告白するように勧めるつもりでした。でも、それはわたしの意思じゃなかったの。 どうしてかは分からない。告白するようにキョンくんに言うことがわたしの意思じゃないと証明は出来ないけれど、でも信じて。わたしは涼宮さんが、能」 「ちぃーすキョン‥‥‥って、うおっ!?」 ええい、どうしてこのタイミングでお前は出てくるんだ。朝比奈さんが何を言わんとしてるのが、やっとその一言で分かりそうだったのによ。 「あさ、あさ、朝比奈先輩じゃないですかあ! おいキョン。お前新月の夜にマジで気をつけとけよ。じゃないと」 「あっキョンくん‥‥この話はまた今度にしましょ」 「えっ!」 そう言うと朝比奈さんはスクッと立ち上がり、小走りで夜の闇に溶けていった。まだ一番大事なこと聞いてないですよ! 「朝比奈先輩、送りますよ!」 と谷口が追いかけていきそうになったが、こいつがついて行ったら間違いなくストーカーになる。だから俺は無理矢理谷口を止め、もう二度と邪魔するなと釘を打っておいた。 しかし朝比奈さんもあんな中途半端なところで帰らなくてもいいのに。 ‥‥‥。 しかし気になることばかりが残った。結局朝比奈さんは何が言いたかったんだろうか。 古泉はハルヒの方に何らかの異常が発生したのを感知した。それで奴はどう考えたんだ。ハルヒが今までと違う変化があるかを機関の力頼りに調べてみたが、何も発見出来ず、強いて言うならば閉鎖空間の規模が大きくなってきていること。そこでこれまでの読書の経緯を考慮し、ハルヒは俺の告白を待っていると解釈した。 じゃあハルヒを中心に起きた時空震はなんだ。古泉は考えた。ハルヒが夢か何かを見て、俺のことが好きになったスイッチだったのではないかと。 そして朝比奈さんはこう言う。古泉はハルヒの異変をキャッチした。変だな変だなと思いながらも何の変化は分からずじまい。そして、その時偶然か意図的なのかは分からないがハルヒが古泉を通じて、俺がハルヒに告白するよう仕向けることを願った。 古泉はハルヒがまさか自分に能力を使ってるとは思わず、自分の推理を考えてハルヒが告白を待っているという結論に達する。そして俺に迫る。ハルヒの異変のことを疑問に思いながらも‥‥‥。 つまりどっちの解釈でも、ハルヒは告白を待ってるということにならないかこれ。 考えれば考えるほど俺の頭の中は混乱状態に陥って行き、結局その日は明日当てられるかもしれない英語のリーダーの問題も解かずに眠ることを選択した。これ以上人間の持つ素晴らしき能力、思考というものを続けると、俺の頭は銃弾が直撃したタイヤよろしくパンクしそうだ。朝比奈さんの言わんことをまだ最後まで聞いたわけじゃないこともあってか、無心になることは無理そうだった。がそこは強引になんとかするしかない。 ……だが眠れない。 「はぁ‥‥」 なんで俺がこんな目にあうのだろうかね? 地球滅亡まであと6日。 ゲームならこんな感じにテロップが現れるかもしれない朝、俺は妹が来てシャミの歌を歌いながら起こすのに応じ、素直に一発で起きた。もちろん快眠故の起床ではない。眠れなかったのだ。 親が作ったトーストをゴムかなんだかを食ってるような感じを嫌とういうほど口の中で味わったあと俺は学校へゆっくりとした歩調で向かった。ハルヒの顔をまともに見れるような気がしない。 どんよりとした雰囲気を半径50㎝に漂わせながらのろりのろりと坂を上っていると、後ろから聞きなれた声音が後ろから聞こえてきた。なんだ、お前か。 「なんだとはなんだキョン。お前最近なんか見る度にやつれててるよな。また涼宮に振り回されてるのか?」 「いろいろとな。それより谷口、昨日はよく邪魔をしてくれたな」 「邪魔ぁ? 俺はお前と涼宮とのことで邪魔したことはないぞ」 涼宮との間は、か。確かに。でもな、 「せっかく朝比奈さんと話してたのに何も妨害することないだろう。友達なら黙って見ておくまでに留めておいて、その後は静かにいさぎよく立ち去るもんじゃないか?」 はぁ、とあからさまに溜息を吐いてやったところ、谷口の反応は俺の予想の斜め上をいくようなものだった。 「何言ってんだ? お前と朝比奈さんなんて昨日見てないぞ」 俺はあまりの谷口の素の反応に思わず目を丸くしたが、それは一体どういうことだ。 「それよりキョン。お前朝比奈さんと何だって? 話してたって? 2人きりで。おいキョン。マジで新月の夜に気を付けとけよ。俺はともかく朝比奈さんのファンでなおかつ上級生の人達からはとんでもな‥‥‥」 「待て谷口。お前は昨日夕方、公園にあるベンチ前通ったろ?」 しかし谷口はいよいよ俺を憐れむを見るような目で見て 「そうかキョン。お前もとうとう涼宮の毒牙にかかっちまったか。あいつの毒はハブをも上回るからな、まぁヘンテコな団を作った時にはもう既に毒は体内に回っていたんだと思うが‥‥‥。涼宮のように好き勝手やるのもアレだが、俺にクローン説をもちかけるなんてもっとアレだぞ」 谷口はいぶかしむような目でこちらを見ているが、もちろん俺がクローン説を本気でテスト平均点以下仲間に説こうとしているのではないのは明白だ。そして谷口のこの顔を見る限り、本当に俺と朝比奈さんが話していたのを知らないようだ。 ‥‥もう、本当に何が起こってるんだ。俺の寝不足が精神にまで影響を及ぼし始めたとか言わないでくれよ、頼むから。 ともかく、何かいやぁな予感しかしない。谷口にクローン説が当てはまらないならば、未来から谷口が来てわざわざ俺と朝比奈さんの秘密のカンバセーションを邪魔しに来たか、あるいは俺にも想像出来ない異常事態が発生しているかということだ。ハルヒのハルヒによるハルヒの身勝手さのための地球滅亡の前兆として、現れてはいけない時間軸が4次元と共に生まれてしまったか、谷口の記憶を半強制的にいじったか、あるいは谷口がボケたかかもしれない。俺としては谷口がボケているという可能性を是非推薦したい。というよりそうであって欲しい。 しかし念のために朝比奈さんの確認も取っておかなければ。昨日の話のクライマックスもまだ耳に入れてないこともあるから、俺は今長門よりも朝比奈さんに会いたかった。ハルヒになんとか不審に思われないよういつも通りの自分を全力で演じ、放課後になるや否や俺は文芸部室に駆け込んだ。 だがこういう日に限って誰もいなかったりする。癖になっているノックを2回して、返事がない時点で脱力感が襲ってきたがまあ仕方ないだろう。少し急ぎ過ぎたようだ。 俺の直感では真っ先に長門が来て、その後続いて朝比奈さん、3位にニヤケハンサム面の古泉、ラストにハルヒ。 しかし俺の期待を見事裏切るか如く、次に文芸部室のドアを開けたのは古泉だった。古泉の微笑もいつもに比べてどことなくぎこちなく、よく見れば目の下にはクマがある。 「それはお互い様と言ったところでしょう。貴方もいろいろと悩みを抱えておられているようですね。もし良かったら、僕がその悩みの相談に乗りましょうか?」 さも俺が何に悩んでいるのか知らないといった雰囲気でそう聞いてきやがる。原因はお前があんなことを言い出すからなんだがな。 「貴方も朝目覚めたら世界中が閉鎖空間に飲み込まれていたら嫌だろうと思ったので、僕なりの配慮と受け取ってください。本当はそのようなことを貴方に言うのは心苦しかったのです。閉鎖空間については、僕たちの専門ですからね」 地球が滅亡してたら起きるなんてこと出来ねーよ。少なくとも何の悔やみも迷いも生じずに消えていたさ。 古泉はいつもの微笑をフフと自然に作り上げたあと、ニヤケスマイルを崩してまるで近所のお兄さんがガキに向けるような朗らかな笑みを作った。 「でも、良かった」 「貴方がもし今回の涼宮さんの件について、それこそクマも作りもせずに軽率に行動をしていたらそれこそ僕は疑問視してしまうところです。世界がかかっているとはいえ、この問題については1週間ギリギリまで悩んでもらっても僕は構いません。少なくとも、僕が苦労してる分と同等ぐらいまでの苦労は‥‥‥してもらった方がいいかと」 結局自分も苦労してるんだから俺も苦労しろってことかよ。まあ喜べ。俺は巣の入り口が角砂糖で塞がれたアリぐらい苦しんでいるぞ。 「というより、いつの間にか話の流れが告白するみたいになってるがな、俺はそんなことする気サラサラないぞ」 「目の下にクマがある人が言うことではないですね。1週間後、また貴方とはさみ将棋が出来ることを期待しておきます」 古泉がそこまで言うと、ハルヒ達がまるでタイミングを見計らったか如く扉を勢いよく開けた。まさか聞いてなかっただろうな。 「さあ、今日もガンガン活動するわよ!! みくるちゃんお茶ね」 朝比奈さんの着替えのため俺らは一旦部屋から出て、メイド服に早々と衣装チェンジをした朝比奈さんのお茶を渋い音を立てながら各々の行動に戻った。 古泉は1人詰め将棋、俺は無論読書だ。 朝比奈さんになんとか話を聞こうと隙をあれこれと伺ってみるものの、どういうわけだかハルヒが相手チームのキャプテンをマークするバスケット選手並みのディフェンスを朝比奈さんに張り巡らしているような気がしたので声をかけることが出来なかった。仕方ない。今日の夜に電話をして話を聞いておこう。ついでに谷口のことについても。 まぁ、それも‥‥ 「さあキョン、残り4冊よ!」 「では、お先に失礼します」 「‥‥‥」 「あ‥‥キョン君、頑張ってね」 ‥‥この俺とハルヒオンリーな空間を1時間耐えきれたらの話だがな。耐えるって何を? 何だろうね。 睡眠不足プラスアルファ神経を約半日張り詰めていたこともあってか、6冊目の哲学書の表紙が嫌に重く感じる。タイトルから察するに、人間の言葉の意味についてボヤボヤと語り継がれているようだ。 「‥‥ねえ」 俺の頭がボヤボヤとして来始めた頃、不意にハルヒが声をかけてきた。なんだ。 「最近、アンタ何かあったの?」 何かってなんだ。 「何かよ!」 そう訳も分からず叫ばれても困る。しかしハルヒは俺の目をまっすぐ見つめ、俺が一体何を考えているのかを見通そうとしているようだった。ということは勿論、俺もハルヒの顔を見つめていることになり、ハルヒの瞳に反射して映る俺の間の抜けた顔はハルヒが何故こんなことを言い出したのかを思惑しているものだった。 その原因は分からないが、どうやら怒っているのではないらしい。ハルヒは俺から顔を背け、自分の目の前にある本へと強引に視線を変えた。机の上には長門が好みそうなハードカバーのSFが置いてあったが、おそらく今のハルヒの目には何も写っていないだろう。 「今日だってそうよ。徹夜でもしたみたいなクマがあるのに無理に元気出してるし、あたしが後ろからシャーペンでつっついても気づかないし、それに‥‥‥」 ハルヒがハルヒらしからぬことを言い出したので俺はこの上なく戸惑っていた。いや、マジで混乱していた。一体何故こんなことに。 ハルヒが一瞬空気を置いてから、またこちらに視線を翻し俺に向かってツバがかかる勢いでこう言った。 「なんであたしにそんなに気を使ってるのよ!!!」 ‥‥へ?Ⅲ と思わず呟いてしまうところだった。気を使っているだと。俺が? ハルヒに? 「あたしに対する態度がなんかよそよそしいわよ! あんた何か隠してるでしょ!?」 ハルヒはそう言い、俺のうろたえた表情を見るなり我が意を得たと確信したらしく、対ハブ戦で主導権を握ったマングースの如くニヤリと笑った。パイプ椅子から立ち上がるなり俺の胸ぐらをひっ掴み、「言いなさい」と下僕にカツアゲする姿は女王陛下そのものと言ってもいい。なんてめんどくさいことになってしまったんだ。 俺がハルヒに気を使ってるなんて天地がひっくり返って人間が空に落ちるような事態が発生したとしても常識的に考えてありえないだろ。俺はハルヒに気など使っていない。 ‥‥‥ってのは嘘ぴょんで、 正直に言うならば確かに神経を張り詰めさせている。そりゃそうだ。俺がハルヒに告白しないと地球が滅ぶ。まさに天地がひっくり返る状況の真っ只中にいるというのに気を使わん奴がいるというのか。いるなら手を上げてくれ。最優秀脳天気賞を俺が直々にくれてやるよ。別に嬉しくないだろうがな。 「ハ、ハルヒ。とりあえず手をどけてくれ」 苦しくなってきた、と言うより先にハルヒは「駄目よ」と返事した。目が爛々と輝いていやがる。さっきまでの物鬱げな表情はどこいった。NASAのロケットと共に宇宙の彼方へと消えたか? 「あんたが何を隠しているのか言うまでも絶対離さないわ」 ハルヒに隠し事だと。Oh no! 隠し事しかないぞ。 俺はどうにかして状況を打開しようと立ち上がってみたが、首は苦しいままだった。この脚本を書いたの誰だ。もし俺が主人公ならここで死んじまうぜ。何故なら選択肢が告白するか、今ここで現世に別れを告げるかの2つに1つしかないからな。 だがそんなシナリオに従うほど俺はまだ自分の運命に悲観していない。運命よ、そこをどけ。俺が通る。 「あー‥‥あー、実はだなハルヒ」 「いっとくけど、あたしに誤魔化しは通用しないわよ」 通用しないわよと言われて、はいそうですかと本当のことをベラベラ喋るわけにはいかないことぐらい俺にでも分かる。ここは俺の天性のアドリブ能力でなんとか場をしのぐしかない。 と思案していた矢先だ。 「分かってるわよ‥‥みくるちゃんのことでしょ!?」 「は?」 何故ここで朝比奈さんが出てくる。 「最近妙に仲良いわねと思ってたのよ。そして昨日確信したわ。あんたが公園でみくるちゃんと密会してるの見たんだから!」 なんと! あの場にまさかハルヒがいただと!? しかも密会なんて誤解されるような表現を使いやがって。俺たちは何もいかがわしいことしてないぞ。 「というよりなんでお前が公園に‥‥」 「誰だって別れた後に小走りでどこか向かっていたら気になるでしょ!?」 別に気にならん。俺なら急いで家に帰ったんだなとしか思わないぞ。 というよりも尾行されていたとは。我ながら迂闊だったか。 「ハルヒ。尾行なんてあまり好ましくない行動だぞ。そんなことやっていいのは本物の探偵かドラマの警察だけだ。一般人がやってしまうとストーカーに‥‥」 「そうやって話を逸らそうなんてことさせないわよ! あんたとみくるちゃんがあんなとこで一体何を話してたのか言いなさい!!」 尾行したという話をし始めたのはお前なんだがな、ハルヒ。 しかしなんとか話を騙し騙し変更しようと思ったのがバレたみたいだ。これは思いの他厄介なことになった。 「そう‥‥何も言わないのね。いいわ、言ってあげる。あんたみくるちゃんを恋愛対象として見てるでしょ!?」 ハルヒの表情はひくひくと痙攣しながらも無理矢理笑顔を浮かべており、こういうときどういう顔をしていいか分からないようだった。にしても俺が朝比奈さんを恋人対象として見るねえ‥‥。確かに朝比奈さんは小柄で可憐かつ庇護欲をそそるような素晴らしい体型と性格の持ち主で、その上禁則事項まみれではあるが未来から来たというオプション付き。そりゃ付き合えたら俺の学園生活もそこら辺に生えてる名も知らない雑草からバラ色のそれへと移り変わるだろうが、しかしなぁ‥‥。 そんなことを脳が酸素不足になりながらも考えていると、ふっと窒息感が和らいだ。ハルヒが力を抜いたらしく、顔を俯かせながらも手だけは俺の胸ぐらを弱々しく掴んでいた。 「‥‥そうよね」 静かにそう、確かに呟いた。 「女のあたしも思うわ‥‥みくるちゃんは可愛いってね。彼女に出来るものならしてみたいわ」 「俺もそう思うぞ」と言えるような状況ではなかった。さっきまであんなに勢いがあったハルヒが急にしおれてしまい、このなんとも言えぬまるで恋する乙女のような情緒不安定さがハルヒにもあったということは、とても筆舌しつくしがたい困惑を俺の中で渦を巻かせている。 「‥‥なあハルヒ。仮にそうだとしよう。だとしてもなんで俺がハルヒに気を使わなくちゃならないんだ?」 「やっぱりみくるちゃんが好きなのね‥‥」 「仮の話だ」 「だって‥‥あんた忘れたの? 団内の恋愛は禁止じゃない」 知らなかった。そうだったか? 「そうよ‥‥」 ハルヒは俺から手を離し、相変わらず俯いたまま重い足取りで窓へと歩みよった。外から室内へと夕暮れの光が差し込んでいたが、ハルヒの窓の向こうを見る様はまるで雨を眺めているかのようだ。そして窓に反射して見えるハルヒの顔は切なさが垣間見えた。 「いいわよ、別に。特別に許可してあげる。他の誰が何と言おうとあたしが許してあげるわ‥‥」 ‥‥と、ハルヒは言ったきりこちらに振り返りもせず黙ったまま景色を眺めていた。おい、こんな展開になるなんて誰も考えちゃいなかったぞ。何故二言三言の会話の間に俺が朝比奈さんを好きということになっている。そりゃまあ好きに違いないが、そう、俗に言うラブではなくライクというやつだ。それに例えラブでもお前が認めたところで朝比奈さんが認めないだろうよ。なんつったて未来人だしな。まあ他にも要因はあるが。 「一体お前が何の勘違いをしてるかは分からないが、俺は別に朝比奈さんにそういった感情を持ち合わせてないぞ」 「嘘よ。あんたいつもみくるちゃんからお茶貰う時デレデレするじゃない」 あんな校内一と言っていいほど可愛い人からお茶貰ってニヤけない奴はいないだろうよ。 「それに! 現に昨日もあってたじゃない! あれは何よ!!」 まるで浮気現場を目撃した新妻との会話みたいになっているのは気のせいか? 「ごちゃごちゃ言わずにその理由を言いなさいよ!!」 「あれはだな‥‥そう。朝比奈さんから相談を受けたんだよ。最近ハルヒの元気が無いような気がする、とか言ってたぞ。俺はそんなことないと否定しといたが、朝比奈さんは自分の出したお茶がまずいんじゃないかと杞憂しておられた。だから色々と話してたわけだ」 「なんであんたに相談するのよ!? 有希や古泉君がいるじゃない!!」 ハルヒはずかずかとこちらに歩を進め、俺は思わず後退りしているうちにいつの間にか背が壁と触れ合っていた。こいつも怒ったような表情したり捨てられたら子犬のような寂しげな表情したりと忙しい奴だ。ガムを噛んだ息でも嗅いで「いいじゃない!」と言って笑ってればいいものを。 「長門は‥‥えー、ほら、あいつ文芸部に所属してるぐらい本が好きだろ? 部室内でもひたすら本読んでるし、あんまり他のことに関心を向けてない‥‥かもしれない! って朝比奈さんは思ったのかもな」 「有希はそんな薄情な子じゃないわよ!」 分かってるさ。多分長門が一番皆の状態を把握してる。 「古泉は単純に‥‥家が遠かったんじゃないか?」 「‥‥‥‥」 けれどこれだと、それだったら3人が一緒に帰ってる時に話せば良かったじゃない! と突っ込まれたら終わりだ。言ってから気づいたが、トゥーレイト。 「要は、ハルヒ本人に知られなきゃ誰でも良かったのさ。朝比奈さんは陰ながらハルヒに元気を出してもらおうと頑張ってたというわけだ」 「そうだったのね‥‥全く。みくるちゃんったら、そんなこと気にしてたのかしら! 団長本人に聞かなかった罰よ。今度お返しに新しい衣装着せるんだから‥‥」 しかしハルヒが肝心なところで単純なのは助かった。それにしても朝比奈さんに新しい衣装か。そろそろ冬になるんだし、サンタの衣装にして欲しい。朝比奈さんがサンタコスチュームを身に纏えば、本物サンタクロースでさえ恐れ多いことだ。有無を言わず退散するだろう。ただしプレゼントは置いていってくれよな。 そうやって、漸く俺が一難去った喜びを朝比奈サンタを想像して噛み締めていると、ハルヒが第二の核爆弾を追加直撃をさせてきた。 「じゃあ、あんたは何であたしに気を使うの?」 しまった、っという言葉を寸でのところで飲み込んだのは我ながら勲章ものだ。誰でもいいから俺に賞をくれ。 「ねえ、なんでよ‥‥?」 だが賞は誰からも授かることはなかった。俺の耳に届いた言葉は授与式の司会者の声ではなく、不安そうなハルヒの声。 まるで、自分が俺に何か気に障るようなことをしたか気にかけるような、そんな声音だった。 「あの、そのだな‥‥‥」 ‥‥ここで少し考えてみてほしい。放課後、それも下校間際の時間帯だ。部活や居残りさせられていた生徒達はようやく帰宅時間かと安堵やら残念な思いをしながら長い長い坂道を下る頃であろう時間。そんな学校には誰もいない時間帯。強いて言うなら残っているのがほとんど教師しかいないような時に、ただでさえ人気のない旧館の2階でそれなりに‥‥というよりも黙っていさえいれば朝比奈さんと双璧をなすほど容姿を持つ、お偉く気の強い団長様が1人の一般男子生徒を壁へ追い詰め、こんな不安そうな触れたらその繊細なガラス細工が壊れるような表情をしていてだ。君は何も感じないか? 夕暮れの明かりも消えかけて、残るはそろそろ取り替えた方が無難な電灯の心許ない明かりがあるだけで、状況だけで言うならばこれほどドキドキする場面はそうそうないような事態で何も思わない奴がいるのか? だとしたら、そいつは鈍感ってレベルじゃねーぞ。 まるで今までのハルヒとの会話はこの時のためにあったんじゃなかろうか。今がそうなのか。今が言うべき時か? これほど、誰かがお膳立てでもしたんじゃないかと疑うようなベストコンディションはもう残り6日間の内には必ずといっていいほど無いだろう。 今、逃したらもう言うチャンスがきっとない。地球が滅ぶか滅ばないかは今まさにこの瞬間にかかっている。俺の手のひらの中にある。 ゴクリ、と唾を飲む。 言うしかない。いいか、俺。逃げはなしだ。ここで「俺はお前に気なんか使ってないぞ」なんてのは御法度だぞ、OK? 地球がどうにかなるかならないかの瀬戸際なんだ。地球が太陽系の惑星から消えるなんて嫌だろ、どっかの星みたいに。さあ言え。言えったら。 言え!! 「‥‥‥‥」 「‥‥キョン?」 問いに答えない俺を見て、ハルヒは首を傾げながら俺の顔を覗きこんだ。可愛い仕草も出来るんだな、ハルヒ。 ってのはどうでもいい。俺は骨の髄までチキンらしい。しかしこの際チキンでも構わない。俺の中である疑問が生まれたのだ。俺は今、猛烈に自分自身が告白するようにせがんでいる。何故だ? 地球が滅びるからか? でもそれって本当か? 本当に地球のためを思って告白云々を考えていたのか? 我ながら自分の思想さえコントロール出来ないのかと世間の人から罵詈雑言が飛んできそうだが、まさにそうかもしれない。 つまりだ。 俺の思想さえもをハルヒが操っていたとしたら、どうする? わけ分からんことを言うな。まさにその通りだ。そんな哲学書みたいな思想、俺なら5秒で飽きる。しかし今回ばかりは匙を投げっぱなしというわけにはいかない。そうだ。 『古泉君の考えは、涼宮さんの意志によるもの‥‥』 『涼宮さんは能‥‥』 朝比奈さんの言葉が途切れ途切れに思い出される。ハルヒが能力を使い、他人の思考さえも我が手の物に出来るかもしれないという可能性があるのだ。今切に告白したがっているのは俺の意志ではなく、ハルヒがそう命じているから‥‥‥? ‥‥‥あほらし。哲学書を読み過ぎたか。 俺の意志にしろハルヒが告白されたがっているにしろ、どちらにせよ閉鎖空間を抑えるための方法はただ一つ。言うしかないのだ。 言った後の結果が怖いとか、今までの関係が良いとかそういう深層心理から生み出された逃げだろ。その点については安心しろ。ハルヒは告白されて断った試しがないらしい。もしかしたら5分後に振られたという最高記録を抜かして5秒で振られるという最新記録を生み出すかもしれないが、何はともあれ言わなきゃ始まらない。 ‥‥‥言うぞ。どうせならカッコ良く言えよ。 「ハルヒ」 「‥‥何よ?」 人生経験上、女性と付き合った試しがない。強いて言うならば妹の友達と映画を見に行ったが、あれは別だ。ともかく、告白の時に一体どんな前振りをすればいいか分からない。古泉ならそういうのがホイホイと出てくるだろうが、生憎今だけはあいつには頼りたくない。というより誰にも知られたくない。 俺はハルヒがまるで逃げないようにするがために肩を掴み、じっとハルヒの視線を捉えた。ハルヒも今が一体どういう空気なのか読んだ‥‥かは知らんが、何も言わず俺の眼を見つめ返す。5月の俺すげーな。よくあの唇にキスしたもんだ。 ‥‥‥他の言葉はいらない。なんで気を使ってるのか聞かれて告白するというデタラメな順序もこの際無視だ。胸が高鳴ってくる。意志では抑えれそうにない。だが、たったその一言で、この不可解な動きをする鼓動も地球も処方箋いらずで助かるというのなら、‥‥‥ 「ハルヒ、」 もう一度呼んだ。 返事はない。構わん。 「」 気のせいだろうか。声が聞こえた。もちろん俺のではないし、ハルヒのうろたえた声でもなかった。 ふと隣を見るといつの間にかドアが開いており、まるで最初からそこにいたと言わんばかりにそいつは立ったままこちらを見ていた。 見覚えのある瞳だ。無機質と無感動を貫いた闇色に染まる確かな水晶体。 「長門‥‥‥」 そう、そこには長門がいた。 「忘れ物をした」 言い訳を言うかのようにそう付け加えると、長門は足音もなしに定位置へと進んでいった。いつも長門が座っているパイプ椅子の上には分厚いハードカバーの本が置いてある。さっきまでそんなものあったか? 長門がもう一度こちらを見つめ、今し方の光景が何を意味するか観察兼分析しているように見えた。まあ長門なら最初から分かっていそうだが。 それでも人間ってのは不思議なもので、そんなに見つめられるとつい条件反射でお互い体を離し距離を置く。恥ずかしくてあまりハルヒの方が見れないが、ちらっとだけ見ると肩のところにシワが寄っていた。どうやら相当強く掴んでいたようだ。 「下校時刻」 そうポツリと呟くと、俺たちの視線を促すよう長門は時計を見つめた。 「あ‥‥ああ。そうだな‥‥‥」 ‥‥‥‥何故、邪魔をしたんだ長門。 これまでの経験から分かる。長門は意味のないことなどしない。確かに、夏の合宿で部屋に入る入らないの際に意味なし問答を繰り広げたさ。だがあれは長門なりのジョークともとれないことはない。 じゃあ、聞くが。今回は何故だ。なんで長門は邪魔をした。地球が消えるか消えないか、俺が死ぬような思いで悩んできてようやく決心が出た答えを何故×にした。何故なんだ。教えてくれ長門。 「そ、そうよ!! もう下校時刻じゃない!? キョン、有希。帰るわよ!!」 ハルヒはそう言い、自分の鞄をひっ掴むとまるで俺から離れるように先に部室を出た。その行動は何故だか分からないが意味もなく俺を傷つけた。 そんな感傷に浸るか浸らないかの刹那だ。長門が瞬間的に俺のブレザーポケットの中に何かを突っ込ませた。一瞬だけ見えたが、あれはしおり‥‥? 「ほら、有希もキョンも。早く帰るわよ!!」 ハルヒがひょこっと顔を覗かせ、俺たちにそう呼びかける。長門は何も答えず部室を出て行き、俺は長門の背を追いながらもポケットの中の物の感覚を弄っていた。 意味があるんだな、長門。信じてるぜ。 俺も鞄を背負った後、明かりを消して部屋の外へと足を進めた。 →涼宮ハルヒの分身 Ⅳへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6529.html
涼宮ハルヒの遡及Ⅵ 「ちょっとキョン! 何がどうなったのよ!?」 「んなこと俺が知るか! と言うかこの状況を何とかしないと冷静に考えられるわけないだろ!」 などと大声で叫び合う俺たちの周囲は、巨大なバッタの大群に囲まれてしまっていて逃げ道もねえ! しかし、こいつらの俺たちの見る目は食料としてではない。まあそれは当然だな。バッタは草食だ。肉には興味がないはずだ。 もっとも、だからと言って俺たちのことを見逃してくれるような気は毛頭無さそうで、明らかにその複眼は敵意で満ちている。 「どうやって切り抜けるのよ……?」 「俺も教えてほしいくらいだ……」 くそ……古泉たちはどこに行っちまいやがったんだ……? 妙な緊張感が場を支配する。ただし、少しでも動きを見せようものなら、あっという間にその沈黙は破られ、これだけの巨体でしかもバッタの習性が失われていないとするならば、間違いなくその脚力の餌食になることだろう。この大きさが相手であれば人間の方が虫けらでしかない。 もちろん、この数が相手じゃさっきの俺の妙な力は使えんぞ。どうすりゃいい? が、 「バーストクラッシュ!」 んな!? いきなり、あたかも天から聞こえてきたかのような咆哮に俺たちを取り囲んでいたバッタたちが周辺ごとド派手に爆発して砕け散っていく! しかも一体一体なんかじゃない! まとめて吹き飛んだんだ! い、いったい何が…… 「キョン見て!」 驚嘆に叫ぶや否や、ハルヒが無理矢理俺を上に向かせる。 そこには……って、え!? 俺も驚愕に目を見張った。 なぜなら俺たちの頭上に一人、人がいたからだ。 「まったく……今度はいきなり場面が転換したし……」 むろん、それはこの場に登場してくれることに越したことがない人物。と言うか居てくれたことがありがたい。 そしてハルヒも昼間とはやや恰好が違っていようと本来の彼女の姿を知っている。 「さくらさん!」 ハルヒが歓喜の声を上げた。 どうやらアクリルさんだけがハルヒの力の影響下からは外れているらしい。 この辺りはこの人が異世界人で助かった。ハルヒの手の中にある世界とは別の世界から来ているだけあって例外なのだろう。 なんせ『場面が変わった』って言ったからな。 でなけりゃ今頃、俺たちはどうなってたか……考えるだけでも寒気が走っちまう。 あー……てことは動いたのは俺たちじゃなくて長門、古泉、朝比奈さんの方か。 てことは三人はあの場所ごと、別のところに飛ばされたってことだよな。 「で、原因は何なの? 解ったんでしょ?」 「え、ええ……まあ……」 アクリルさんの問いに俺はなんとも困った表情で言い淀むしかなかった。 もっとも、今回の相手がアクリルさんで良かったと思うのはこういうときなんだよ。 ハルヒが目の前にいても堂々と話ができるというか…… ――聞こえる? 今、念波で繋いだから。これならキョンくんも心で思うだけであたしと会話できるわよ―― という訳だ。さすがは魔法使い。テレパシーもお手の物ってことだ。 ――……手短に話してくんない? 思ったことはダダ漏れになってるから―― は、はい! 実はですね、かくかくしかじかで…… ――なるほどね。解ったわ。それじゃあとにかく他の三人と合流するのが先決ね―― って、んなことできるんですか!? ――もちろん。あのナガトって子が言ってたでしょ。あたしからあの子の『存在形態パターンの残留痕跡を感じる』って。つまり、あの子の匂いをあたしが辿ればいいのよ。あと、あたしがこっちの世界に来れたのもこれが理由―― と言うと? ――あたしは向こうの世界でキョンくんを一度おんぶしてる。その時にあなたから移った匂い=存在形態パターンの残留痕跡があたしに残っていた。その匂いを辿ってこっちの世界にテレポートしたってことよ。んで蒼葉が来なかった理由もこれ。蒼葉とキョンくんには一度も接触がなかったからあたしじゃないと来れなかったってことね―― そ、そうですか……もうほんと何でもアリだな…… ――くすっ、前も言ったけど『本当に』何でもアリって訳じゃないからね。あたしにだってできることとできないことがあるわよ。たとえば死んだ者を生き返らせることはできないし、生命体じゃないものの再構成はできない。あと、前みたいにあたしたちだけじゃキョンくんを元の世界に戻すことができない、とか。案外、できないことの方が多いかもね―― あ……云われてみれば確かに…… 「ちょっとキョン!」 とと、なんだハルヒか。どうした? いきなり割ってきて。 「はぁ? 割ってきたって何よ? 別にあんたとさくらさん、話してなかったじゃない。あたしが声をかけたのはあんたがさくらさんの質問に答えずに黙り込んだからよ」 あ――! 確かにそうだ。俺はずっと考え込むように下を向いていたし、俺とアクリルさんは目を合わせてもいない。なのに『割ってきた』という表現は確かに間違いだ。 「えっと、だな……ハルヒ、それは何と言うか……」 俺は答えに窮した。まさか素直に、 「今、あたしとキョンくんはテレパシーで会話してたから、って、だけ」 と言う訳にもいかんし……って、さくらさん!? 「ん? 別にいいんじゃない? だってハルヒさんもあたしが魔法使うってこと知ってるんだし、伏せる意味なんてないじゃない」 い、いやまあ……確かにそうなんですけど何と言うか…… 「テレパシーですって!? さくらさん! それ、魔法を使えなくても、前に蒼葉さんから貰ったあの石が無くても交信可能なの!?」 ほらやっぱりな。ハルヒが目を爛々と輝かせるのは目に見えていたさ。だから、それをハルヒが『常識』として認知するのがはっきり言って怖いんだが…… って、おい! 俺は無視かよ!? などと心の中でツッコミを入れる俺の眼前では、ハルヒとアクリルさんが何やら俺には聞こえない会話を交わしている。 ハルヒの奴、実にいい笑顔だな―― って、何を感慨に浸っている俺! 「キョン! あんただけ何、こんな面白いことを独り占めしようとしてんのよ! こういうことはみんなで分かち合うもんよ!」 あーハルヒの奴、本当に嬉しそうだな。光が弾けて大爆発してもまだ後から後から湧いてきそうなはちきれんばかりの笑顔だ。 「分かった分かった。じゃあ、さくらさんがお前にも言ったと思うが、これから長門、古泉、朝比奈さんと合流しようぜ」 「へ? どうやって?」 言ってなかったんですか!? さくらさん! 「言ってないわよ。だって、さっきのテレパシーは『キョンくんとこうやって話してたの』くらいの説明しかしてないし。あっそうそう、もう一つ、『これも魔法使いかそういった能力者じゃないとできない』って付け加えておいたから」 「何よキョン。ひょっとしてまだあたしに隠していることがあるの?」 いやぁ別に何も隠していませんよハルヒさん。ですから、そのにんまりした悪企み視線をぶつけないでください。 結構、心臓に悪いんで。 って! 「えっ!?」 俺とハルヒが驚嘆の声を上げたのは当然だ。なんたって―― 「説明の必要はないわよ。論より証拠。ハルヒさん、キョンくんの手をしっかり握って。あたしはあなたの手をしっかり握るから。絶対に離しちゃ駄目よ。離してしまうと今度は三人バラバラになる可能性があるんだから」 そう、アクリルさんがにこやかに告げると同時に、彼女を中心に、いきなり光が俺たちの周りに駆け廻り、円を作ったんだ。 しかも勢いを加速させながら回転し続けているし、その振動が地面を伝わって俺たちの全身を包み込んでいる。 こ、この現象は……!? 「何? 何なの?」 ハルヒが珍しく狼狽している。まあ仕方がない。いきなりこんな超常現象が起これば、たとえ、普段から望んでいたとしても、いざ、現実になれば誰だって驚くに決まっている。 「空間移動魔法よ。ナガトさんの匂いを辿って、そっちに行くから。さ、早くキョンくんの手を握って」 「は、はい!」 言って、ハルヒは俺の手を強く握る。 「ほらキョン! あんたもしっかり握りなさい! 離すんじゃないわよ!」 「お、おう!」 なんたってアクリルさんが結構物騒なことを言ったからな。もし、アクリルさんが、いや、アクリルさんだけじゃない、長門、古泉、朝比奈さんとだって逸れてしまうのは絶対にまずいだろう。なんせ俺が有している力は集団でかかってこられると何の役にも立たんからな。 くそ、ハルヒは俺になんて中途半端な力を付けやがる。 「じゃあ行くわよ!」 アクリルさんが吼えると同時に光度と円を駆けるスピードの勢いが増す! そしてその高度が光の柱となって俺たちの周りに立ち上ったんだ! そのまま左手人差し指を天に向け、 「テレポテーション!」 アクリルさんが声を上げた刹那、俺はなんだか目の前が光に包まれ、体が光に溶け込むような錯覚を感じた。 ……さて、俺たちは首尾よく長門、古泉、朝比奈さんと合流できたわけだが…… 「キョ、キョンくぅん……!」 「なっ!?」 いきなり、朝比奈さんが泣きながら抱きついてきたのである。 あ、朝比奈さん……周りを見ましょうね周りを…… などと苦笑を受けべて心の中で思ってみても、もちろんどうにもならないのである。どうにもならないのだが…… 「ギンプロデクション!」 俺たちの周囲を空間ごと震わす大爆撃音! もっともそれはアクリルさんが創り出した透明感あふれる淡い光のドーム型障壁によって俺たちにはまったく被害は及ばない! まあ、この爆撃のおかげでハルヒ火山の噴火からは免れたことだけは確かだな。 ささ、今のうちですよ、朝比奈さん。名残惜しいのは俺も同じですが、離れましょう。 「そ、そうですね……」 小声で呟き二人は離れる。 そんな俺たちを見ることすら、ハルヒが忘れてしまうことが眼前で起こっているのである。 「何あれ?」 多少のシリアス感はあるものの、どちらかと言えばあまり緊張感を感じられないアクリルさんが問いかけたのはハルヒに、だ。 その視線は、長門がスターリングインフェルノを振るいながら、古泉が赤いエネルギー球をぶつけながら攻撃している、ティラノザウルスとプテラノドンを足して、凶悪にぬめり輝く牙を存分に見せつける体長10mほどの見るからに堅そうな漆黒の鱗に包まれた……そうだな、こう表現するしかないだろう。 『空飛ぶ怪獣』を数匹捉えているのである。それも上空には大軍でいるように見えるのだが…… 「あ、えと……あたしが今作ってるストーリーに出てくる敵キャラ……」 「ふうん。なるほど、センスは悪くないわね。確かに凶悪で強そうよ」 「そ、そうかな?」 アクリルさんが笑顔で感想を述べられて、ハルヒがまんざらでもない表情を浮かべている。 って、そんな場合か? などと心中でツッコミを入れる俺も実はあまり危機感を感じていない。 「で、あんなのがあとどれだけいるの?」 アクリルさんが悠然と問いかける。 「ううん……一応、ミクル、イツキ、ユキに一人当たり十匹から二十匹は担当してもらってその上に君臨するボスキャラを三人で協力して倒してもらうつもりだから合わせて五十匹プラス一、ここに見えてる分と他には一匹ってところです」 「了解」 頷いて、アクリルさんが戦場へと歩み出る。 おや? この結界術が消えない? 「ねね、ひょっとしてさくらさんが戦うの?」 まあそうだろうな。でなきゃ俺たちをここに残す訳がない。しかも俺たちはあの人の結界術に守られている。完全に観客に徹していられるぞ。 「うん! これはいいわね! ミクルが負傷して戦線離脱! ピンチに陥ったイツキとユキの援軍として異世界からキョンから事情を聴いた援軍が訪れる! もう急展開ってやつよ!」 「え? ということはあたし、危ないことしなくていいんですかぁ?」 あのー朝比奈さん? あなたは主人公のはずなのですが? なのにその晴れやかな笑顔はどうかと。 というか、何の伏線もなしにストーリーの中の『俺』が異世界人と知り合うのもなんだかなぁ。 「理由付なんて後から何とでもなるわよ! だいたい少年誌だと売れている漫画家になればなるほど、伏線を無視したり、無かったことにしたりして行き当たりばったりでストーリーを作っていることが多いんだから!」 いや、それは多分に偏見が混ざっていると思うぞ。何よりお前が一番伏線無視して行き当たりばったりだろ。 しかしまあ朝比奈さんが傷つく姿は見たくありませんからミクルの戦線離脱はある意味、理想の展開だろうか。 もちろん、長門や古泉のことも心配だが、あの二人は勇猛果敢に立ち向かう役割の方が似合っている気がするのでこの際、頑張ってもらうでよしとしよう。 すまん、長門、古泉。 もっとも、それはアクリルさんがいるから思えることなんだ。 なんて思ってる間に、アクリルさんが地を蹴って、宙を駆けるように舞う! 「スターダストエクスプロージョン!」 と、同時にあの、銀河を駆ける数多の流星を彷彿とさせる広範囲粉砕魔法を発動させる! さすがに体長十メートルだけあって、全て吹っ飛ぶという訳にはいかんが、そうだな、十匹は吹っ飛んだ! で、いったん、着地して、古泉と長門の前に立つ。 「これはこれは」 「頼もしい助っ人」 古泉は会心の笑顔で、長門はいつも通りの至極冷静な表情で呟いたのではなかろうか。後ろ姿だから確認はできんがそれくらいの確信を持てる声色だったしな。 「さぁて、一気に片付けるわよ!」 再び、上空の怪獣を睨みつける古泉、長門、アクリルさん。 おそらく三人には勝利を確信した笑顔が浮かんでいるはずである。 「セカンドレイド!」 怪獣の口から撃ってくる妙に赤紫の炎を全身で纏った赤いエネルギー球をバリアにして宙を舞いながら流れるように接近しつつ、勢いに頭髪を風圧になびかせる古泉が懐に飛び込んで放ったエネルギー球が一匹の翼竜を粉砕すれば、 「……」 三匹ほどの翼竜に、これまた宙に浮き、見事な誘導を仕掛ける避け方でわざと囲まれた長門がスターリングインフェルノを新体操選手のリボンよろしく、どこか見惚れてしまう手さばきで振りかざす。 刹那、翼竜たちが漆黒の闇に喰われて消滅する。 で、もう一人、 「アルゲイルフォルス!」 アクリルさんが開放した、あたかもマグマのような業火の孔雀がまた一匹、翼竜を飲み込んでいるんだ。 もちろん、翼竜たちが攻撃していない訳じゃない。 しかし、この三人の動きに対応するにはその巨体が邪魔しているのだろうか、捉えることができないんだ。それにしても古泉と長門の攻撃力が上がっているような気がする。なんたってアクリルさんが戦線に加わるまでの攻撃では翼竜一匹すら三人がかりでかかって行かないと倒せなかったんだからな。それがいきなり一人一匹は確実に素早く一撃で倒せている。これもアクリルさんが何かしたのだろうか。三人の前では五十匹という数がそんなに多くないように見えなくもない。 まあ、もっとも、 「ひぇぇぇぇぇぇぇ!」 「うぐ……」「ん……」 朝比奈さんが頭を抱え込んでしゃがみ込み、俺は右手を、ハルヒは両手を目の前にかざしてしまうほどの対峙の余波が俺たちを襲ってくるんだがな。 アクリルさんの結界術の中にいるから、ダメージはまったくないが、踏ん張らなきゃならんほどの多少、強めの風圧は来るし、地響きを引き起こすほどの振動もある。周囲がどうなってるかは瞳に飛び込んでくるわけだから言わずもがなってやつだ。 ……こんな凄い状況下に、あいつらはいるのか……? 戦慄を覚えずにはいられん。 「ねえキョン」 「何だ?」 「とんでもないわね、この臨場感」 「まあそうだな。なんたって夢でも幻でもない。今、現実に目の前で起こっているわけだからな。おっと心配するな。確かにお前がこの世界を創り出したが、今回は別の異世界を存亡の危機に立たせている訳じゃないらしい。さくらさんがそう言ってた」 古泉からはこの世界は広がらないと聞いているし、表現はされてなかったが、俺はアクリルさんからそう聞かされていた。 そんな俺の言葉に、どこか安心したのか、ハルヒが笑顔を浮かべて聞いてくる。 「この凄さをあたしに表現できると思う?」 なんか場違いな会話だが、ま、それはそれだけ俺たちがあの三人を、いや、正確にはアクリルさんを信じてるってことだ。俺たちを守ってくれているのは勿論、古泉、長門を決して危ない目に合わせないってな。その確信を持つことができる表情をあの人はしていた。 「お前ならできるさ。いや、これ以上のとてつもないものを表現できると思うぜ」 「ふふっ、ありがとうキョン。そう言ってもらえると嬉しいわ。ますます創作意欲が湧いてくるってもんよ」 それはいいが、頼むから今後は紙の上だけにしてくれよ。今度、俺たちが巻き込まれた時は助っ人がいるとは限らんからな。 勝ち気いっぱいの笑顔を浮かべるハルヒに苦笑を浮かべる俺。 「どうやらボスのお出ましのようですよ」 ん? 古泉がすぐそばに立ってやがる。よく見ればその反対側には長門も。もちろん結界の外ではあるんだがな。 もちろん、アクリルさんは俺たちの正面だ。 てことは、あの五十匹は片付いたってことか!? すげえ! 「さくらさんのおかげですよ。本当に助かりました。あれだけの数を一人で三分の二は倒してしまったのですからね」 だろうな。あの人のとんでもない強さは俺も向こうの世界で目の当たりにした。 なんせ攻撃属性の水中生物相手に水中で、それも百匹以上を一人で俺ともう一人を守りながら殲滅させてたし、怪獣付野盗の巣窟を秒殺した御方だ。 しかも、お前の云う《神人》をたった一人で数えきれないほどの数を吹っ飛ばした蒼葉さんよりも戦闘力があるってことらしいからな。ひょっとしたら今回の翼竜数程度じゃ数の内に入っていないのかもしれん。 「……今の話は初めて聞きましたよ? あの《神人》を……たった一人で滅ぼせる方がおられたのですか……?」 古泉が愕然たる表情を浮かべているが、 「すまん……だが、この話は勘弁してくれ……重い出来事を思い出してしまう……もっとも、それは背負っていかなきゃならんことなんだがな……」 「だよね……」 俺とハルヒは沈痛の表情を浮かべて俯くしかできない。そんな俺たちの様子に、古泉はさらに何かを聞こうとしていたみたいだが、俺たちの心中を察してくれて、それ以上は聞いてこなかった。 ちなみにハルヒはあの世界の青白い巨人のことを知っているので傍にいようが、古泉とこの話をしていようが問題にならん。名前については古泉が話したしな。 代わりに視線を再び前方へと向ける。 見れば、大地を揺るがせながら何か山みたいなものが地平線の彼方からのように近づいてきつつあったのである。 涼宮ハルヒの遡及Ⅶ
https://w.atwiki.jp/nikonamaigo/pages/2.html
メニュー トップページ 進行中のタイトル戦 第9回ニコ生名人戦1 終了した大会 第1回ニコ生天元戦 第2回ニコ生天元戦 第1回&第2回ニコ生名人戦 第3回ニコ生名人戦 第4回ニコ生名人戦 第5回ニコ生名人戦2 第6回ニコ生名人戦 第7回ニコ生名人戦 第8回ニコ生名人戦 第1回ニコニコ囲碁クラブの大会 第2回ニコニコ囲碁クラブの大会 その他 囲碁のルール説明 コメント メニュー リンク ニコニコ生放送 @wiki @wikiご利用ガイド 他のサービス 無料ホームページ作成 無料ブログ作成 2ch型掲示板レンタル 無料掲示板レンタル お絵かきレンタル 無料ソーシャルプロフ アクセス数 本日 - 昨日 - 統計 - 更新履歴 取得中です。 ここを編集
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/55.html
涼宮ハルヒの動揺 基礎データ 著:谷川流 口絵・イラスト・表紙:いとうのいぢ 口絵、本文デザイン:中デザイン事務所 初版発行年月日:平成17年(2005年)4月1日 本編293ページ 表紙絵:涼宮ハルヒ タイトル色:赤色 初出ライブアライブ(ザ・スニーカー2004年12月号)、朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00(ザ・スニーカー2004年2月号)、 ヒトメボレLOVER(ザ・スニーカー2004年10月号)、猫はどこにいった?(書き下ろし) 朝比奈みくるの憂鬱(ザ・スニーカー2005年2月号) 初出順:ライブアライブ(第15話)、朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00(第8話)、ヒトメボレLOVER(第13話)、猫はどこにいった?(第17話)、朝比奈みくるの憂鬱(第16話) 裏表紙のあらすじ紹介 幻にしておきたかった自主映画だとか突然のヒトメボレ告白、雪山で上演された古泉渾身の推理劇や、朝比奈さんとの秘密のデートSOS団を巻き込んで起こる面白イベントを気持ちいいくらいに楽しんでいる涼宮ハルヒが動揺なぞしてる姿は想像できないだろうが、分かさのハプニングであいつが心を揺らめかせていたのは確かなことで、それは俺だけが知っているハルヒの顔だったのかもな……。お待ちかね「涼宮ハルヒ」シリーズ第6弾! 目次 ライブアライブ・・・Page5 朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00・・・Page52 ヒトメボレLOVER・・・Page95 猫はどこにいった?・・・Page187 朝比奈みくるの憂鬱・・・Page242 あとがき・・・Page298 アニメ 2009年改めて放送した『涼宮ハルヒの憂鬱』より 2009年放送第25話『朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00』 2009年放送第26話『ライブアライブ』 2009年放送第27話『射手座の日』 2006年放送したテレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』より 2006年放送第1話『朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00』(DVD第01話 構成第10話) 2006年放送第12話(DVD第12話 構成第12話)『ライブアライブ』『ヒトメボレLOVER』『猫はどこにいった?』、『朝比奈みくるの憂鬱』は未アニメ化。 漫画 ツガノガク版(雑誌の発表号などの詳しい情報はツガノ版漫画時系列で) コミックス第6巻に収録『朝比奈ミクルの冒険 EPISODE00』は未コミカライズ。(溜息に内包の状態) 第28話『ライブアライブ』 番外編『ショー・マスト・ゴー・オン』 コミックス第10巻に収録第43話『ヒトメボレLOVERⅠ』 第44話『ヒトメボレLOVERⅡ』 第45話『ヒトメボレLOVERⅢ』(雑誌表記ではヒトメボレLOVER最終話) コミックス第11巻に収録第50話『猫はどこにいった?Ⅰ』(原作P187-P217) 第51話『猫はどこにいった?Ⅱ』(原作P217-P241) コミックス第12巻?に収録第54話『朝比奈みくるの憂鬱Ⅰ』(原作P242~P275、最初からハカセ君救出後みくるが泣くところまで) 第55話『朝比奈みくるの憂鬱Ⅱ』(原作P275~P297、みくるが泣くところから最後まで) 登場キャラクター(原作のみ登場) キョン 涼宮ハルヒ 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん 朝比奈さん(大) 谷口 国木田 キョンの妹 中河 森園生 新川 多丸圭一 多丸裕 シャミセン シャミツー ハカセ君 あらすじ 後に繋がる伏線・謎 文化祭時に表われた中世風の服を着た集団 刊行順 ←第5巻『涼宮ハルヒの暴走』↑第6巻『涼宮ハルヒの動揺』↑第7巻『涼宮ハルヒの陰謀』→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/24.html
『情緒クラッシャー』 「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 「食ってねぇ」 「言い逃れなんてしても無駄よ!机の上に空の容器が…」 蹴り飛ばされる机。身をすくませるハルヒ。 「食ってねぇ」 「…わかった。食べてないのね」 「あぁ。食ってない」 「…そう」 「謝れよ」 「え…」 「謝るんだよ。俺に。当然のことだろう?勝手な憶測で人を疑ったんだから」 「………」 床に手を付き頭を下げるハルヒ。 「…疑ってごめんなさい」 「…それから?」 「え?」 「さっきのは疑ったことについての謝罪だろ?二度も同じことを言わせたことについての謝罪がないじゃないか」 「…二度も同じことを言わせてごめんなさい」 「いいよ。気にしてないから。俺そういう細かいことを引きずる方じゃないんだ。ただ次からは注意してくれよな。俺はお前のことが大好きだからさ。 もう殴ったりしたくないんだよ。顔面がかぼちゃみたいになってたり、足引きずったりしてるハルヒを見るのはホント辛いんだよ。 なぁ?分かるよなハルヒ?」 「…うん」 「『うん』?」 「は、はい!」 「いい返事だ、ハルヒ。 分かったらさっさとパンツを下ろせよ。あと今週の分な」 「ひぃふぅみぃ…足りてないぞ」 「あの…そのことなんだけど…もうこれ以上…家からお金持ってくるのは…」 ゴッ 「俺は足りてないって言ったんだよ」 「………」 「当たり前だろ。家の金を取るなんて親御さんに悪いじゃないか。だからそれ以外の方法を取ってるんだろ」 「…キョン…お願い…私…限界なの…」 「あ?」 「もうキョン以外とするのイヤ…イヤなの…お願い…もう…」 「…そうか。お前は死ねって言うんだな、俺に。借金があって大変な俺に。そりゃそうだよな。好きでもない男とするのなんて誰だってイヤだよな。 俺だってイヤだよ、大好きなお前を他の奴に抱かせるのなんて。愛してるからな。ハルヒのこと。分かった。死ぬよ、死ねばいいんだろ。死ねばお前も満ぞ…」 「嘘!嘘だから!もっと…もっと私稼ぐから…我慢して…もっといっぱい…!!だからお願い…冗談でも死ぬとかそんな…!」 「そう言ってくれると信じてたよハルヒ。次の分は今日の足りてない分とペナルティー合わせて…4万追加でいいや。お前も少しは寝ないと体もたないだろ?」 「…ありがとう」 「いいって。さ。尻上げろよ。今日はあんまり時間が無いんだ。帰りに長門の家に寄らないといけないんだ。あんまり待たせると可愛そうだからな。あれでアイツさびしがりなところあるんだぜ。あー…きもちぃー♪」 「キョン…私、キョンの彼女なのよね?あ…ん…私達…付き合ってるの…よね?」 「当たり前だろ。あ、今日安全日だっけ?違った?まぁいいか。とにかく出すからなー。 あ、後、次からは焼きプリンで頼むな。今日のはあんまり好きじゃないんだわ」 「う…うぅ…」 「愛してるぜーハルヒー」 ガチャ… ハ「いやっほ~キョ…」 キ「ハルヒ、うるさいぞ、長門は今読書中なんだ、静かにしてあげなさい」 ハ「ごめんなさい…キョン、有希…今日はもう帰るね」 キ「………」 長「………」 バタン 長「………(ハルヒの奴、キョンに注意されて帰ってやんのwwwwwざまぁwwwwww)」 『右から左へ』 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 キョン「次の休みどこ行きます?」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン!?」 みくる「そうですねぇ。あ。そろそろ紅葉がキレイな季節じゃないですか?」 ハルヒ「あたしのプリン食べたでしょ!?」 古泉「なるほど。紅葉狩りというわけですね。確かに今が一番いい時期かもしれません」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?キョン!?」 長門「こうよう…」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 キョン「お。長門、紅葉を知らないのか」 ハルヒ「ちょっと!ちょっと!キョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 長門「………」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしの、あたしのプリン食べたでしょ!?」 みくる「えっとぉ…冬が近付くと一部の植物がぁ…」 ハルヒ「ちょっと!あたしのプリン食べたでしょ!?」 古泉「朝比奈さん、百聞は一見に如かず。理屈よりも、連れて行って差し上げれば一目瞭然ですよ」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン、プリン食べたでしょ!?」 キョン「決まりだな。正直ボーリングだ、カラオケだって金も続かなくなってたとこだし、ちょうどいいぜ」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?食べたでしょ!?」 みくる「私、お弁当作りますねぇ」 ハルヒ「ちょっとキョン!キョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 キョン「ありがたいなぁ!さ。今日はそろそろ帰りましょうか」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン!あたしのプリン食べたで…」 バタン ハルヒ「ちょっとキョン! 咽喉が渇いたから『ドンッ!』っ!?」 キョン「何だって?」 ハルヒ「な、何するのよ! 吃驚するじゃ『ドンッ!』ひっ!?」 キョン「だから何だって?」 ハルヒ「や、やめて『ドォンッ!』よぉっ!?」 キョン「聞こえねーよ。何が言いたいんだよ、ったく」 ハルヒ「つ、机『ドン!』っひ、ぃ、『ドン!』蹴らない『ドォン!』で、よぉ……」 キョン「あー? 聞こえねーっつーの」 ハルヒ「……うぅ」 ナッパ「白菜うめぇwwww」 あたしは今いじめにあっている。 でも、そんなの中学からのことだった。 みんな馬鹿だからそうなんだって思ってた。 でも、高校に来ていじめはエスカレートしていった。 移動教室から帰ってくると机には「気違い死ね」の文字が書かれていた。 それだけじゃなくて、鞄にも「キモイ死ね」の文字。 ご丁寧にも油性のマジックで書くものだから落ちない。 水で洗っても洗っても落ちない。 部室に行く時は手で隠しながら入った。 ばれたら嫌だったから。 汚れた机を雑巾で拭くと、周りでクスクスと蔑む声が響いた。 でも、あたしのが頭もいいし、顔だっていい。 運動神経だっていいし、こんなやつら一撃で倒せる自信がある。 でも、それはできなかった。 過去に余りに腹を立てて男子を殴ってしまったことがあった。 もちろんあたしは勝った。 でも、次の日集団で来てあたしをリンチした。 ブラジャーを取られて排水溝へと投げ捨てられた。 それがどんどんエスカレートしていった。 止まる事はない延々と続けられる嫌がらせ。 耐えられなくなってあたしはキョンに相談した。 キョンは親身になって聞いてくれた。 あまりの嬉しさに、今までの孤立感、屈辱、羞恥、全てが涙に変わっていた。 その時、あたしはキョンに身体を許してしまった。 次の日、キョンは殺人的な言葉を口にしていた。 「あいつ抱いてやったよ。くせぇしきたねぇし、顔だけだな。ヤリマンだなありゃ」 取り巻きは爆笑。 あたしは人間不信に陥っていった。 誰に相談すればいいんだろう? 悪いのはあたし? あたしは一度だけ自殺を試みました。 紐で首を縛って、力いっぱい引っ張りました。 でも、死ねませんでした。 生きていることに気付いた時、あたしの目からとめどなく涙が溢れました。 今でもあたしは馬鹿な人の卑劣ないじめに耐えています。 悪いのはあたし? 馬鹿キョン馬鹿キョン! と。何度も俺の頭を叩くハルヒの手首を握って制止し、 「止めろ!」ドスの聞いた声と共に、と睨みつけた。 「いい加減にしろ! ったく、毎度毎度。俺はお前の奴隷じゃないんだぞ!」 「何よ! 何か文句あるっていうの。キョンの癖に!」 怖じもへったくれもなく睨み返してきやがる。 その目が、口の聞き方が、傲慢な態度が、全部が癪に触る。 「あんたは黙って私のいう事を聞いていれば良いの!」 「だから! 俺はお前の奴隷じゃないっつーの!」 「はん! 何よ! 文句あるの! 無いわよね! あんたは奴隷よ、奴隷!」 「――っ!」 目の前が真っ赤になった。血が上るどころか、瞬間沸騰した。 何度かこういう事はあったが、桁が違う。止める奴も居ない。 衝動は思考を陵駕する。本気で握りしめた拳は、力の限り振り切られた。 「っ!?」 イスを巻き込み、机にぶつかり、吹き飛ぶハルヒの体。 顎を殴られたうえに、頭を机にでもぶつけたのだろう。 「う、あ、あぁ……っ」 顔を両手で覆い、気持悪い呻き声を上げながら、ジタバタと床の上で跳ねる。 「……もう一回言ってみろ」 髪の毛をつかみ引き摺って、無理矢理に身体を起こす。 痛い痛い痛い……! と喚き散らす。唾を飛ばし、口の端から血を垂らし、喚く。 「な、に……」 すんのよ、とでも言いたかったのだろうか。 言葉が続く前に、顔面を机に思い切り打ちつけてやった。 「おい、聞こえないぞ。しゃきっとしろよ」 髪の毛を引っ張って顔を起こし、耳元で呟いた。 ハルヒはぼろぼろと涙をこぼしながら、鼻血を垂らしている。 俺の顔を見て「ひっ」と顔を痙攣させた。あぁ、どうやら俺が恐いらしい。 「ほらほら。もう一回言ってみろよ? 俺はお前の何だって?」 恐がらせないように、とびきりの笑顔でワンモアトライ。 「ごめ……ん、なさ……い」 ガン! 「……ご、め……な、」 ガン! 「や……め、」 ガンガンガン!!! 「……」 パクパクと口を引き攣らせている。 どうやら「ゆるして」と言っているらしい。 俺はずい分可愛くなってしまったハルヒの顔に唾を吐き、部室を出た。 ハルヒ「みんな聞いて、大ニュースよ大ニュース!!」 !...あれ?あんただれ?」 美代子「引っ越し・引っ越し・ さっさと引っ越し、シバくぞ!」 鶴屋さん「繰ーりー出せー鉄拳~♪」 みくる「ふぇ~」 長門「無理です…」 ハルヒ「ハブられた…」 キョン「あははー」 ハ「やっほーみんな」 キ「お前誰だ?」 ハ「はぁ?何言ってんのアンタ?私はハルヒよ!」 キ「お前こそ頭大丈夫か?はるひはそこに居るだろう」 は「え?呼びましたか?」 ハ「え?」 ハ「……」 ハ「ちょっちょっちょっちょっと!まってアンタ私の派生キャラじゃない!なに私の団長椅子に座ってんのよ!」 は「え?えぇ?あ、あのー」 み「どこの誰か知りませんがはるひちゃんをいじめないでくれませんか?」 キ「つーか派生キャラ?何を言っているんだこいつ?そうかキチガイだ……よし古泉コイツを職員室に連れてくぞ」 古「わかりました」 ハ「ちょっと!話なさいあんた達私が」バタン み「……よしハルヒちゃん今日はめいどさんの服着てみようか?」 は「え?またですか?」 長「…スク水巫女服もある」 は「あ、じゃあめいどさんの服をください」 み「はーいじゃあそっちでお着替えしてくださいね~」 長「スク水巫女服……」 ハルヒ「すごいことを発見したわ!」 キョン「なんだイキナリ」 ハルヒ「谷口のWAWAWAについてよ!」 キョン「ああ、アレについてね。何だ言ってみ、聞くだけ聞いてやる」 ハルヒ「いい?谷口のWAWAWA…パソコンで入力してみてよ、キーボードに注意して!」 キョン「なんでだよ」 ハルヒ「いいから!」 キョン「まったく…、w・a・w・a・w・aっと…ん?…こ、これは!?」 ハルヒ「そう!つまり谷口は突 徒 子 公 太 郎 だ っ た の よ !」 キョン「なんだそんなことかよ…」 ハルヒ「(´・ω・`)」 キョン「…ヌプ」 古泉「ひゃっ!?キョ、キョンたんのえっちぃ!」 キョン「…ドピュ」 古泉「いや~///」 長門「ヴァギナー!!!」 キョン「ちょ、直球だな小娘…」 古泉「…わ?」 長門「ノン ノン ノン 『ヴァ』」 キョン「クチュ…」 長門「ヴァギナー!!!」 古泉「ゃぁ~///」 ハルヒ「ちょっとぉ、ちょっとちょっと!なんで有希は良くて私は無視するのよぉ!?」 キョン「………」 古泉「………」 ハルヒ「なんとかいいなs 長門「ヴァギナー!!!」 ハルヒ「ちょ/// 有希うるさっ 指指すなぁ!///」 古泉「か~え~る~の~う~た~が~」 キョン「か~え~る~の~う~た~が~」 長門「き~こ~え~て~く~る~よ~」 ハルヒ「き~こ~え~て~く~る~よ~」 古泉「………」 キョン「………」 長門「………」 ハルヒ「な、なんなのよあんた達最近!!も、もう知らないんだからっ! ウワァァン。゚(つд`゚)゚。」 バタン 古泉「………」 キョン「………」 長門「……グワッ」 古泉「グワッ」 キョン「ゲロゲロゲロゲロッ」 長門「グワッ」 古泉「グワッ」 キョン「グワッ」 ハルヒ(なんなのよちくしょー!) ハルヒ「あれ?…そういえば最近みくるちゃん見ないわね…」 古泉「………プッ」 長門「………プリッ」 キョン「ひゃ~いw」 ハルヒ「な、何よ、あんた達何か知ってるの?」 古泉「or2=3 プッw」 ハルヒ「腐っ! なによ!い、言いたいことがあるならっ、て本当に臭い!!」 長門「ケアル」 キョン「長門はケアルを唱えた。でもみくるんはアンデッドだった…」 ハルヒ「な……そ、それどういう意味?」 古泉「裏切りに」 キョン「死を」 長門「巨乳に」 キョン「制裁を」 ハルヒ「ちょっと、ちょっとちょっと!あんた達みくるちゃんに何をしたのよ!?」 みくる「あの…私ならずっとここにいるんでしゅけど…」 ハルヒ「答えなさいよキョン!」 みくる「またでしゅか?また無視でしゅか?いい加減にしないと泣きましゅよ?」 ハルヒ「なんで無視するのよ!!」 みくる「せ~の、」 ハルヒ・みくる「ウワァァン。゚(つд`゚)゚。」 キョン「あ~る~日♪」 古泉「あ~る~日♪」 キョン「森の中♪」 古泉「も、もも森さんの膣内…ハァハァ」 キョン「ハルヒに♪」 古泉「電波を」 キョン「出会った♪」 古泉「受信した♪」 キョン「はぁ…」 長門「まぁそうクヨクヨすんなよ。そのうち良いことあるって、なっ?」 キョン「長門…ありがとう…俺頑張るよ!」 古泉「しょ、しょんなことより僕の替え歌どうでしゅたか?」 キョン「イェーイ!イツキたんサイコーwww」 長門「なんか涙出てきた…GJ!」 ハルヒ「………」 シンジ「泣いてるの?」 ハルヒ「な、泣いてなんかないわよ!」 キョン「わいわい」 古泉「がやがや」 長門「きゃっきゃっ」 ハルヒ「ねぇ!みんな今度の連休ぅ……」 キョン「………」 古泉「………」 長門「………」 ハルヒ「あ…ううん、なんでもない…」 キョン「わいわい」 古泉「がやがや」 長門「ざわざわ…」 ハルヒ「………グス」 獅子丸「ハルヒちゃん泣いてるの?」 ハルヒ「な、泣いてなんかっ、て誰よあんた!?」 長門「部室の蛍光灯を白熱灯にしてみた」 キョン「いいんじゃないか。部屋の雰囲気が落ち着いた気がするよ」 古泉「なんか…眠いよ…(つω-`)ゴシゴシ」 キョン「ハハハwまったく、イツキは子供だなぁw」 長門「子守り歌歌ってあげるね」 古泉「う…ん……zzZ」 長門「あら…必要なかったみたい」 キョン「そうみたいだn ハルヒ「歌なら私に任せて!!!」 キョン「!」 長門「!」 古泉「うわっ!なになに!?」 キョン「……チッ」 長門「……ちっ」 ハルヒ(あぁ…伝わる、ただの舌打ちなのに色んな感情が伝わってくるわっ! 主に『空気読めよ電波』みたいな刺々しい負の感情が……!!嬉しい、キョンが今だけは私を無視しないでいてくれてる!) 長門「涼宮アヒルの憂鬱」 ハルヒ「ガアガア、って誰がアヒルじゃい!」ビシィ キョン「おーッと、団長様のノリツッコミだッーーー!サイコーだぜウチの団長はよォッーーー!」 古泉「団長!団長!」 みくる「団長!団長!」 鶴屋さん「団長!団長!」 コンピ研部長「団長!団長!」 コンピ研ズ「団長!団長!」 長門「団長!団長!団長!!団長!!」 一同「団長!!!団長!!!たすけて団長ォーーー!!!!」 ♪~~♪~~♪~~♪~~←あの曲 ハルヒ「わ私が悪かったです!謝りますからどうか、テンションをお鎮め下さいィ~~」バッサバッサ 不思議探索当日。 ハルヒ「キョン遅いわよ罰金ね!」 ハルヒ「じゃあいくわよ、古泉君、有希!」 ハルヒ「午前は大した成果が無かったわね…午後こそ何か見つけること!」 ハルヒ「…今日も何も収穫無し、ね。じゃあ解散、また学校でね」 ハルヒ「………全員にボイコットされたからって一人芝居は寂しかったかな………」 「ハルヒ、好きだ。付き合ってくれ」 「ええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」 「なんだその驚きようは、失礼な」 「何言ってんのよ、あのね、あたしはね、あの、その、そう! つまり団内恋愛は禁止なのよ! わかった? わからなくてもだめー」 「ふふふ、そう言ってくれると思ったぜハルヒよ」 「? ?? ??? なに? なんなの??」 「というわけだ、谷口。俺の勝ちだな」 「ちぃっ、俺の告白も断らなかった涼宮がよりによってキョンの告白を断るとはな……しかたない、麻雀のツケはチャラにしてやる」 「古泉ばっかり相手にしてるとゲームの腕が落ちるんだよなー、ハルヒ、こんどはゲーム付き合ってくれよ」 「まさか、あんたたちあたしがキョンの告白を受け入れるかどうかで賭けしてたんじゃないでしょうね」 「おいキョン、ちょっとヤバイ雰囲気じゃねーか?」 「そうだな、逃げるぞ!」 「待ちなさいこのアホバカども~!!」 「あたしはただ、キョンに告白されたいなって思ってただけだったのにぃ……ぐすん」 長門「SOS団の団長は私。文句ある人は?」 ハルヒ「(´∀`)∩はいぃ~~」 キョン達「異議無し」 ハルヒ「(;´∀`)何でぇ~~?」 長門「新団長をよろしく」 キョン達「団長!団長!よろしく団長!」 ハルヒ「(;´∀`)さみしぃ~~」 キョン「あああああああ!!クッソ涼宮がっ!!ウッゼェェエエエんだよヴォケナスがあぁぁぁあ!!!!」 キョン「死ねっ!!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇええ!!!」 ハルヒ「(ヒッ!やだ、また犯されちゃう……でも、)」ビクビクッ ハルヒ「ちょっと…みんな、私を無視しないでよ……」 ハルヒ「……無視っていうか全員にボイコットされたんだけどね……部活……」 ハルヒ「ちょっと…キョン、私を無視しないでよ……」 キョン「………( ゚ ж ゚;)プルプルプル」 ハルヒ「キョン……どうして私を無視するのよぉ!」 キョン「………(((((; ゚ ж ゚ )))))ガタガタガタブガクルブルブル」 授業中にクラス一のブスの顔に髭が生えてるのを発見した時の俺のリアクション。 はるひ「みんな~次は何して遊ぶ?」 キョン「じゃあおままごとなんかどうだ?」 はるひ「いいよ~じゃあキョンくんが旦那さんで私が奥さん、いつきくんが子供でみくるちゃんはペットのポチ、有希ちゃんはタマだよ~」 古泉「なるほど、父との禁断の関係に溺れる息子の役ですね」 みくる「私はご主人様の忠実なメス犬です♪」 長門「了解、アパートの隣に済む旦那を狙う泥棒猫の役と認識」 幼子の前で何を言い出すんだこいつら はるひ「ちがうよ~へんな設定を付け足さないでよぉ」 ほら見たことか、わけが分からず泣いちゃったじゃないか 古泉「すみません軽いジョークですよ」 みくる「ごめんねはるひちゃん」 長門「謝罪する」 キョン「どうするはるひ?」 はるひ「えへへへじゃあ良いよ!みんなであそぼ」 古泉「(やはりこちらのはるひさんに着いて正解ですね)」 長門「(能力が同じならば観察しやすい方をとる)」 みくる「(しかしあちらのハルヒさんはどうします?)」 古泉「(最近能力自体が弱まっているのが観測されてるので、消滅は近いでしょう)」 長門「(ほっておくのが得策)」 みくる「(ですね)」 ハルヒ「何のつもりよ!!!早くここから出しなさいよ!!」 キョン「フン」 10日後 ハルヒ「いやぁぁぁ・・・・・はやくお家へ返してよぉぉぉ」 キョン「フヒヒヒヒ」 古泉「おい 俺にもやらせろよ」 みくる「あ、ずるい あたしが先!」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5764.html
無事ではないような気はするものの、とりあえず進級を果たした俺たちだが、 これといって変わりはなく、いつものような日常を送っている。 今日は日曜日で、全国の学生は惰眠を貪っている頃だろう。 諸君、暇かい? それはいいことだ。 幸せだぜ。 俺は、暇になりたくてもできないんでな。 日曜日。 ハルヒが黙っているわけもなく、金を無駄にするだけの町内散策・・・ いや、不思議探索の日となった。 今日も既に全員集合ときた。 いいんだ、もう慣れたよ。 もう、奢り役となって一年も経つんだな。 「キョン!はやくアンタもくじ引きなさいよ!」 分かってるさ。 ハルヒの手に収まった爪楊枝を引いてみる。 印付きか。 周りを見ると、ニヤケ古泉は印なし、朝比奈さんも印なし、長門も印なしを持っていた。 つまり、ハルヒとってことだな。 「珍しいですね。あなたと涼宮さんのコンビとは。」 「・・・長門と朝比奈さん襲ったらコロスぞ。」 古泉はフフフと微笑んだ。 気持ち悪い。 マジで襲ったらシメてやるからな。 「よし!じゃぁ早速行くわよ!」 ハルヒは俺のコーヒーをズズズとすすると、伝票を俺に突きつけた。 「早く来なさい!ドアの前にいるから!」 「キョン君、いつもごめんなさい。」 「いえいえ。」 あなたになら、店ごと買ってやっても構いませんよ。 と言いたいが、そんな金はねぇな。 いつもの様に財布を薄くし、自動ドアを出た。 古泉他二人はもう出発したらしく、希望に満ちたハルヒだけが立っていた。 「おっそいわよキョン!気合が足りないわ!」 「なんの気合だよ。」 「あのね!不思議もそんな甘っちょろいもんじゃないんだから!第一・・・」 ハルヒは後ろ歩きをしながら、俺に話しを聞かせた。 おい、後ろ道路なんだぜ、ちょっとは注意したらどうなんだ。 と思った矢先、向こうの車線から、ものすごいスピードで車が走ってきた。 おい、ハルヒ、危ねぇぞ! 「え?なに言ってんのよキョ・・・」 車は、ハルヒのすぐ後ろに迫っていた。 考えている暇はない。 俺は自分の出せるだけの力で、ハルヒを遠くへ突き飛ばした。 視界からハルヒが消えると、車が目の前にいた。 ******* 感覚がない。 どこからかざわめきが聞こえる。 そして、耳元では、いつものあの声がしていた。 「・・・ョン・・・キョン!」 ハルヒが、顔面蒼白の面持ちで俺に寄り添っていた。 頭がガンガンする。 体もバキバキだ。 周囲の声も聞こえなくなってくる。 やっと分かった。 ああ、俺はきっと死ぬ。 何気なく見やった道路は真っ赤に血染めされていた。 俺の血だ。 ハルヒは助かったんだよな。 神様が消えることはなかったぜ、古泉。 長門の観察対象もなくならない。 ああ、でもせめて最後に朝比奈さんのお茶をー・・・ 「キョン!?だめ!目を閉じないで!開けて!」 そしてハルヒ、俺、楽しかった。 最期に、ハルヒと不思議探索しそこねたな。 楽しかったぜ、ハルヒ・・・ 突然、目の前が真っ暗になった。 闇にいる。 ただひたすら、漆黒の闇の中にいる。 キョン・・・ ハルヒなのか? お願い、目を開けて・・・ 俺は、開けているつもりなんだ。 どこにいる? どこで泣いている? キョン・・・! その声と同時に、世界に光が差し込んだ。 いつかの閉鎖空間のように、バリバリと裂けていく暗闇。 目の前に、ハルヒがいた。 「ハルヒ・・・!」 思わず、叫んでいた。 しかし、ハルヒの目は俺を見ていない。 涙が溢れるだけだ。 そして、俺の真後ろを、さも俺がいないかのように見つめていた。 いや、俺はいないんだ。 「キョン・・・!嫌よ!バカキョン!目、開けなさいよ!」 振り返ると、そこには俺が寝ていた。 蘇る思い出。 ここは、消失事件の病室だ。 そこに、俺が白い顔で寝ていた。 血なんてどこにも付いていない。 まるで、寝ているかのように・・・ 俺は、死んでいた。 そして、今の俺は、幽霊だ。 ついに、異世界人になっちまったか。 天国という異世界のな。 「キョン!」 「ぅぇっ。キョンく~ん!目を・・・目を開けてくださぁ~い!」 「・・・。」 「・・・。」 珍しく、古泉も無言だった。 いつものニヤケ面なんてどこにもねぇ。 みんな、俺を見ていない。 ただ、 ただ、一人だけ、 長門と、目が合った。 ****** 病室から団員が帰る時、長門は俺に 「私の家に来て。」 と、聞こえるか聞こえないか、の声で囁いた。 ドアに触れることはできない。 でも、壁を簡単にすり抜けられた。 幽霊って、どこに逃げても付いてくるって本当だったんだな。 そんなことを考えられるほど、俺は冷静だった。 軽々と長門のマンションの壁をすり抜けると、いつものように置物状態の長門がいた。 「長門・・・。」 「待っていた。」 「お前、俺のことが見えるのか?」 「そう。」 やはり、万能選手だ。 「あなたが今日この世界から居なくなるのは、規定事項だった。」 「なんで言ってくれなかったんだ?」 「私にその権利はない。権利を握っているのは、情報統合思念体。」 「朝比奈さんも言ってくれなかったぜ。」 「朝比奈みくるも、朝比奈みくるの異時間同位体も、それは禁則に該当する。」 やっぱりな。 そんな未来を左右すること、未来人が言ってくれるはずがない。 朝比奈さん(大)も。 「朝比奈みくるの異時間同位体からの伝言を預かっている。」 長門は、俺にファンシーな封筒を差し出した。 朝比奈みくる と丸っこい字でかかれた封筒。 いつだったか、下駄箱に入っていたっけ。 キョン君へ ごめんなさい。 私はそちらへ向かうことができませんでした。 ヒントもなにも言えず、本当にごめんなさい。 そっちの私を面倒見てくれて、ありがとう。 あなたがいたから、今の私があるの。 あなたに出会えてよかった。 朝比奈みくる 向かうことができない、てことは、来ようとしてくれていたんだな。 ありがとう、朝比奈さん。 俺も、朝比奈さんがいてくれてよかったです。 でなければ、あの消失事件で、この世界に戻ることができなかった。 いや、それ以前に三・・・いや、四年前の七夕に行かなかったら、 きっとハルヒにも出会えていなかったさ。 「俺、もう戻れないのか?」 「戻れる可能性はある。私もその可能性のおかげでここにいる。」 「どういうことだ?」 「私は一度、死を経験している。」 どういうことだ? 長門は、情報ナントカに製造された人造人間なんじゃないのか。 「私は以前、普通の人間だったという記憶がある。しかし、私は突然死に遭遇した。そこで彷徨い、偶然、情報統合思念体に出会った。 感情などの人間性を抹消し、データや情報統合思念体との連結を備え付けられた。 そして、涼宮ハルヒの観察を命じられ、今に至る。」 「俺には詳細が分からんが、お前は元幽霊ってことなんだな?」 「そう。以前、物語を書いた時に、それを題材に書いたはず。」 思い出すは、生徒会長に命じられ、無理やり作ったあの冊子。 幻想ホラーとい難しいお題の話を書いてたっけ。 どこかリアリティがあるのに、なんのことか分からないあの話。 私は幽霊だったのだ・・・みたいなこと書いてたよな? それって、長門、お前自身のことだったのか。 死んだ記憶だけを残されて、自分が何なのかも分からなかった長門。 自分の棺の上にいた人物・・・ それが情報統合思念体の一端末・・・ そこで長門は情報統合思念体と繋がり、自分を有希、と名付けたってワケだ。 「そう。ただし、あなたの可能性は、情報統合思念体と結合することではない。」 「じゃぁ、なんだ?」 未来人になって、TPDDを備え付けられるとか、 超能力者になって、あの神人を倒せ、とかか? しかし、長門はまた違うことを言った。 「あなたにとっての可能性は、涼宮ハルヒに必要とされること。」 古泉は以前、ハルヒは神だと言っていたっけ。 その神の力を最大限に利用し、生きろ、と言っているわけだ。 俺だって生きたいさ。 やり残したことだらけだ。 でも、俺が自分の意思だけを貫いたら、どうする? 俺が死ぬのは規定事項のはずだ。 俺が生きれば、未来にずれが生じるだろう。 また、朝比奈さんがベソかきながら走り回るに違いない。 ・・・俺だって、考えていないわけじゃないんだぜ。 「それはできない。」 長門は俺をじっと見つめたまま動かない。 「俺も生きたいけど・・・そんな、ハルヒの力を利用するなんてできねぇ。」 「そう・・・」 「死人は生き返らないんだ。」 長門はなにも言わなかったが、少し、悲しそうな表情をした。 長門には色々お世話になったさ。 朝倉に殺されかけたとこを、2回も助けてくれたんだ。 無限の八月を一人、記憶を持ったまま、助けも呼ばないで。 もっと、俺を頼ってほしかったさ。 なにもできなくとも、支えくらいならしてやれる。 「・・・ありがとう。」 長門は小さな声でそういうと、 本当に僅かだし、気のせいかもしれない。 でも、 少しだけ、笑った気がした。 「俺がこの世界に留まれるのは、いつまでなんだ?」 「涼宮ハルヒが望むなら、いつまでも。彼女には、あなたに対してやり残したことがある。」 「それを解明すればいいんだな?」 「そう。」 幽霊がいつまでも人間界にいていいもんじゃないからな。 「ただ、彼女がどんな非常識なことでも思ったことを実現させるということを忘れないで。」 「ああ、分かったよ。」 長門は、いつもの平坦な声で、更に続けた。 「あなたと私が話せるのは、最後。私はもうあなたを見ることができなくなる。」 「期限がある、ということなのか?」 「そう。その期限は、あなたがこの部屋から出るまで。」 えらい急な話だ。 いや、でも幽霊と人間がいつまでも話をするのは、変だな。 「うまく言語化できない。ただ・・・あなたには、色んな感情を思い出させてもらった。」 俺が? 長門に感情を? 「それらを全て、言語化するのは難しい。」 「俺でも、役にたったか。」 「感情が皆無だった私に、あなたはたった一つの光だった。」 「光・・・?」 「あんなに気にかけてくれたり、完結に言えば、大切な人であった。」 俺なんて、何もできてないぜ。 なんせ、何の能力もない凡人だ。 長門には、色々迷惑かけっぱなしだったのに。 「あなたと私がSOS団で繋がりを持てたのは、規定事項と信じている。 詳細は不明。でも、繋がりを持てて本当によかったと思っている。」 「俺も、長門と一緒に図書館に行けて、楽しかったぜ。」 また 図書館に 約束、守ってやれなくてごめんな。 「ハルヒを頼んだぞ。朝比奈さんと、古泉にもよろしく言っといてくれないか。」 「了解した。」 「あとのことはまかせろ。絶対に世界を終わりにしたりしねぇから。」 長門は小さくこくり、と頷くとそれ以上はもう何も言わなかった。 この壁をすり抜ければ、長門とはもう喋れない。 会えるけど、もう目を合わせることはできねぇ。 「じゃぁ、俺はもう行く。」 「そう。」 「じゃぁな、長門。」 長門は、もう一度小さく頷いた。 俺はそれを見届けると、壁をすり抜けた。 体が浮いていた。 情報統合・・・ナントカを、「くそったれ」と思っていたが、そうでもないかもしれない。 そいつがいなかったら、長門とは会えなかったからな。 もうすこし、お手柔らかにしてやってくれ。 情報統合・・・思念体。 ******* さて、ハルヒのやり残したこととはなんだろうね。 通夜にはたくさんの人が参列してくれていた。 「馬鹿野郎・・・なんで死んじまったんだよ。」 「キョン・・・最後まで格好よかったね・・・涼宮さんは、助かったんだから。」 谷口と国木田だ。 もう一度、バカやったり、一緒に弁当囲んだりしたかった。 「キョン君・・・寂しくなるよ・・・。」 いつもより元気が50割減になっている鶴屋さん。 あなたには笑顔のほうが似合ってます。 「うわぁぁぁぁん!キョンくーん!」 妹はわんわん泣き叫んでいる。 せめて、お兄ちゃんと呼んでほしいもんだ。 「キョンく~ん、寂しいです・・・」 朝比奈さんは、目を真っ赤に腫らせていた。 そんなに泣かないでください。 素敵なお顔が大変なことになっていますよ。 「残念です。すてきな仲間だというのに・・・」 古泉は、ニヤケ面をどこに置いてきたんだ、という顔をしていた。 すてきな仲間。 素直に嬉しいぜ。 「・・・・。」 長門は終始無言で、俺の遺影をじっと見つめていた。 「・・・・・・・・・・・・。」 そして、ハルヒは泣いていなかったが、目は腫れていた。 そりゃ、あんだけ泣いてたんだ。 団長さんよ、SOS団を頼んだぞ。 雑用兼財布係はもういない。 けど、世界を終わらしたりしないでくれよ、ハルヒ。 ******* 数日経てば、ハルヒの元気も戻るさ、と思っていたが、そうではなかった。 静まり返った文化部・・・SOS団の部室に、俺はいた。 誰とも目は合わない。 いつもの指定席に座るハルヒは、外をじっと見つめたまま動かない。 古泉もゲームを取り出すことなく、じっと一点を見つめていた。 まるで、全てが喪失してしまったかのようだった。 俺は・・・こんなSOS団を望んでいない。 ハルヒだってそうだ。 結局その日は、誰一人口を開く者はいなく、そのまま解散となった。 ハルヒの跡をつけてみた。 ハルヒの後姿はとても小さく見えた。 異変に気付く。 ハルヒ、そっちはお前の家の方向じゃねぇだろ? そっちは確か・・・俺が死んだ場所・・・ 予想は合っていた。 俺の事故現場には花がたくさん手向けられていて、ハルヒはそこに手を合わせた。 「キョン・・・キョンのバカ・・・なんであたしなんか庇って・・・」 バカ、て・・・ 「死んだなんて嘘よ!戻ってきて・・・お願い・・・。」 ハルヒ、しっかりしろ。 俺はもう死んでるんだぞ。 お前がしっかりしないでどうするんだ。 「うぅ・・・キョン・・・。」 ハルヒはその場に泣き崩れた。 街行く人たちが、ハルヒにちらりと視線を送っていく。 一番星が出ていた。 ****** 事件は早々に起きた。 俺は、急に意識が飛んだ。 幽霊に意識があるなんて、初めて知ったよ。 真っ暗な世界。 まるで、眠っているような感覚だった。 「・・・・ン・・・?キョン?」 聞き覚えのある声。 目を開くと、そこにはハルヒがいた。 すぐ、なにが起こっているのか、分かった。 灰色の空間。 いつかの、閉鎖空間。 神人はまだいない。 あの日目覚めた時と同じ場所。 「キョン!?どうして?生きてる、本物?」 「ハルヒ・・・。」 「バカ!どうしてあんな・・・!」 「ハルヒ。」 俺はハルヒの言葉を遮った。 ハルヒは、また、俺と2人の世界を望んだんだ。 戻ってきて・・・お願い・・・ この言葉は、本当のことになった。 長門は言った。 ハルヒの力を忘れてはいけない、と。 「俺は、死んでるんだ。」 「どうして!?今、現にここにいるじゃない!」 「ここは、夢なんだよ。」 「え・・・。」 「前にも、ここに来なかったか?」 丁度、一年前くらいか。 ここで、ハルヒとキスをした。 あれは夢という記憶になっているが、現実なのだ。 「え、キョンも同じ夢を見たの?」 「ああ。たぶん、ハルヒと同じ夢だと思う。」 「戻ろう。こんなところ、ずっと居るもんじゃない。」 手を引こうと、ハルヒに近づくと、俺はハルヒに引っ張られた。 顔がぶつかるのを、寸前で止めた。 「嫌よ。」 ハルヒは真剣な目をしていた。 こいつも、本気なようだ。 「あたしはあんたがいればそれでいい。ここであんたが生きれるなら、あたしはこの世界を選ぶ。 あんた、幽霊なんでしょ?天国の人、異世界人じゃない!私が探していた、最後の不思議。 そして、ずっと探していたわ。 ジョン・スミス」 俺は、驚いた。 ジョン・スミス。 なんでハルヒが知っている? 「あんたが死んだ日、夢を見たの。あたしが中学の時、校庭に書いたメッセージ。 それを書いた人よ。それ、あんただったのよね。あの時のあたしは、ジョンの顔が 見えなかったわ。でも、夢のジョンは、顔がよく見えたの。」 「な・・・」 「あたしを理解してくれて、あたしの初恋の人。」 「・・・」 「それが、あんたよ、キョン。」 つまり、ハルヒは夢で時間遡行をしたんだ。 全ての原点の4年前に。 そうか、その時から俺は異世界人だったんだな。 違う時空から来てんだ。 異世界人で間違いねぇだろ。 「もう、不思議なんて探さなくていいわ!あんたが最後の不思議だもの!」 「ハルヒ・・・。」 「嫌よ、あんたのいない世界なんて、価値はないの!」 ハルヒは、大きな目から涙をこぼした。 まるで、訴えるような目。 「キョン、あたしはあんたが好き。」 「!」 「ずっと、そうだった。精神病でも構わない。だから、お願いだから・・・」 ・・・ああ、俺だってそうだったさ。 自己中心的で、我がままで、無駄に元気で、笑顔が似合ってて、優しいハルヒをな。 「ハルヒ。」 ハルヒは目に涙を溜めたまま、俺を見上げた。 「俺は、元気なお前が好きだった。でも、今のお前は違う。」 「・・・。」 「SOS団だって、元気のカケラもねぇじゃねぇか。」 「あんたがいないから・・・。」 「俺は、こんな世界望まない。」 俺はその場にしゃがみ込み、ハルヒを見上げた。 「SOS団はどうなるんだ?せっかくあそこまで仕上げたのに。 ハルヒ、まかせてもいいよな?」 「あたしをなんだと思ってるのよ、団長様よ?でも、あんたがいないのは嫌。」 「俺は死んでる。死んだ人は生き返らない。」 ハルヒの目から落ちた涙が、俺の顔に落ちた。 あったけぇ。 「大丈夫だ。俺は待っている。何年でも、いや、何十年でも、何百年でも。」 「・・・。」 「お前はゆっくり来い。大丈夫だから。」 「・・・待ってないと、死刑だからね。」 死刑は嫌だからな。 俺は、ハルヒを連れて校庭の中心へ行った。 神人はいない。 青白い世界。 こんな世界より、ハルヒには希望に満ちた元の世界で生きてほしい。 「ハルヒ・・・好きだ。」 「あたしも、好き。」 ハルヒの小さな肩に手を置く。 「俺は・・・ ここにいる。」 ハルヒの涙だらけになった顔が近づき、俺はハルヒにキスをした。 一年前のように、嫌々なんかじゃない。 俺も、ハルヒも望んでいる。 元気なハルヒが大好きだった。 引っ張られっぱなしのあの日常も、俺は大好きだったさ。 やがて、目を閉じていてもまぶしいくらい、周りが明るくなった。 元の世界が閉鎖空間と入れ替わる。 それと同時に、光も消えていった。 その光と共に、俺の体も消えた。 ハルヒ、大丈夫だ。 俺は、ここにいる。 *お*わ*り*