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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十七話「才人よ再び」 奇獣ガンQ カプセル怪獣ウインダム 宇宙捕獲メカ獣Σズイグル 巨大機械人形ゴブニュ(オグマ) 登場 「ただいま」 学校から帰った才人が居間に行くと、そこに母がいた。短めの髪に、最近太り始めた身体。 「母ちゃん。腹減った。飯にしてよ」 「まだだよ」 「何でだよ。味噌汁が飲みたいよ」 何でもない、どうでもいい味なのに、何だか無性に飲みたかった。 「才人」 「何?」 「あんた、やることやったのかい?」 「やることって?」 「あるだろ? 約束したことが」 「約束?」 「ああ。友達と大事な約束をしたんじゃないのかい?」 そう言われても、才人は思い出すことが出来なかった。 焦って、思い出そう、思い出そうとする内に、才人は目が覚めた。 跳ね起きた自分は、ティファニアの家のベッドの上にいた。傍にタバサが座って、本を読んでいる。 目を覚ました才人に、ゼロが真っ先に問いかけた。 『起きたか、才人。気分はどうだ?』 「ん? 何かすっきりした気分だけど……。これってティファニアの呪文のせいなんかな? よく分かんねぇ。いつもと変わらん気がするけど。でもやっぱり、何か消えたのかな」 才人は自分の顔を見つめているタバサに質問する。 「みんなは?」 「先に帰った。あの、ハーフエルフの女の子を連れて」 「そっか……。薄情な連中だな。人に変な呪文かけといて、おまけに置いてけぼりかよ」 苦笑した才人は、今の己の心境を確認する。 ゼロの言った通り、自分の心の中の勇気は消えていないことはすぐに分かった。この星の人たちの ことは今も大事に感じるし、苦しめられる人のために戦う気概も残っている。 だがそれ以上に、今は地球に帰りたい気持ちでいっぱいだった。こっちに来てから、一年以上も 経っているのだ。家族、友達……顔を見たい人はいくらでもいるし、何もすることがなくとも家の 景色が見たい。 それまでルーンの力によって抑圧されていた分の郷愁の念が、一辺に噴出したのだった。 「……こんな気持ちにされるんだったら、ゼロと分かれた時にしてからにしてほしかったよ。 そしたらすぐに帰れたのに」 『すまねぇ。けどこういうのは、機会がある時にやっておくべきなんだ。次の機会が来るまで、 ずっともやもやしたもんを抱えちまうからな』 才人は自分の左手の甲に目を落とした。ルーンの記憶への干渉は消えたが、ルーン自体は そのまま残っている。 それをぼんやり見つめながら、才人はふとつぶやいた。 「俺の……ルイズへの気持ちっていうかさ、それもやっぱり、“使い魔のルーン”が『こっちの 世界にいるための偽りの動機』と一緒に寄越した、偽りの感情だったんかな」 壁に立てかけたデルフリンガーが答える。 「さあね、分からねえ。相棒の心のことだろうが」 「もし、そうだったとしたら……俺はどうすりゃいいんだろうな」 「さて、どうすりゃいいんだろうなあ」 「パムー……」 タバサの頭の上のハネジローは、才人を見つめて心配そうに鳴いた。 「イヒャヒャヒャヒャヒャ!」 その頃、ルイズたちはガンQの襲撃を受けている真っ最中だった。ガンQは恐怖する彼らに対し、 その反応を面白がるかのようにわざとジリジリにじり寄る。 ルイズは考える。こんな場所で何の前触れもなく、計ったかのようにあんな異形の怪獣が 偶然出現するはずがない。あれもガリアからの刺客に違いあるまい。簡単な任務だと思われたが、 やはり自分たちの動向はガリアに掴まれていたのだ。 「わたしとティファニアが一緒になったところを、纏めて捕まえようってことかしら……!」 反射的に才人の名前を呼ぼうとしたが、すぐに言葉を飲み込んだ。勝手に才人の記憶を いじっておいて、ハルケギニアに縛りつけておいて、彼に助けを求める権利は自分にはない。 ルイズは代わりに、こんな時のためにゼロから預かったカプセル怪獣の小箱を取り出した。 そしてギーシュたちの目がガンQに向いている間に、カプセルを一個取り出して放り投げる。 「お願い、ウインダム!」 投擲したカプセルが開き、ガンQのまさしく眼前にウインダムが召喚された! 「グワアアアアアアア!」 「イヒッ!?」 ウインダムはすぐにガンQに掴みかかって、その動きを制した。 「今の内に逃げましょう! ロサイスまで行けば、駐屯軍がいるわ!」 「あ、ああ!」 「ほら、早く立って! それでも騎士隊の隊長?」 腰を抜かしていたギーシュはキュルケに腕を引っ張られた。ティファニアと子供たちは ミーニンに先導される。 「グワアアアアアアア!」 「イヒャアーッ!」 ウインダムはルイズたちから引き離すようにガンQを殴り飛ばすが……吹っ飛んだガンQの姿が 一瞬にしてかき消えた! 「グワアッ!?」 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 ガンQはウインダムの背後に現れてからかうように飛び跳ねる。振り返ったウインダムが 飛びかかったが、再び消失。今度は三体になってウインダムを囲んだ。 「イヒャヒャヒャヒャヒャ!」 混乱して何度も身体を左右に振るウインダム。完全にガンQに弄ばれている。 「グワアアアアアアア!」 ウインダムは自棄になって一体に額からレーザーを放ったが……巨大な目玉の瞳孔に 吸い込まれていく! 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 ガンQはレーザーのエネルギーを変換し、怪光弾にしてウインダムに撃ち返した。 「グワアアアアアアア!」 強烈な一撃によってウインダムはばったり倒れ、カプセルに戻ってしまった。 「ウインダムが、あんな簡単に……!」 戦慄するルイズ。自分たちはまだ全然逃げられていない。 それでも走らねばならぬ、と懸命に足を動かすのだが……行く手に別の怪獣が立ちふさがっていた! 「な、何だあいつは!? 怪獣か……ゴーレムか!? どっちだ!?」 惑った感じに叫ぶギーシュ。彼の言う通り、新たな怪獣は大部分が金属になっており、 生物とロボット、どっちつかずのような見た目であった。 正面から見たら十字架のようなシルエットは、宇宙捕獲メカ獣Σズイグル! その中央部の 蓋が開き、現れた四連の砲門がティファニアに向けられる。 「! 危ないッ!」 「きゃッ!」 ルイズは咄嗟にティファニアを突き飛ばしてかばった。その代わりにルイズが、Σズイグルから 放たれた光弾を食らう……! 「……あれ?」 反射的に受け身の姿勢を取ったルイズだったが、吹っ飛ばされることは愚か何のダメージも なかった。逆に怪訝な顔になるルイズ。 だが、やはり何もなしではなかった! 彼女の両手の甲に、金属片のようなものが取り つけられていたのだ。 「これは……? うッ!?」 その部分から電流が発せられ、ルイズは磁力により無理矢理腕を広げさせられた。 すると金属片が増殖するように広がっていき、たちまちルイズを閉じ込める十字架へと 変化したのだった! 「ル、ルイズ!」 「馬鹿! あんたが捕まっちゃ意味ないでしょ!」 ギーシュとキュルケはすぐにルイズを助けようとしたが、十字架がΣズイグルに引き寄せ られていき、ルイズは砲門の部分にすっぽりと収まって囚われてしまった。 「ルイズを返しなさいッ!」 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 Σズイグルに杖を向けるキュルケたちだったが、その前にガンQが跳んできて立ちはだかる。 キュルケの放った『ファイアー・ボール』はガンQに吸い込まれてしまい、全く効果がなかった。 「くッ……!」 「わたしが、記憶を奪います!」 キュルケに代わって、呪文を詠唱したティファニアがガンQに『忘却』の魔法を掛けた! これでガンQは記憶を失い、無力化するはず……。 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 そう思われたが、ガンQに何の変化も見られなかった。『忘却』の影響まで受けていない! 「う、嘘!? わたしの魔法がちっとも効かないなんて……!」 初めてのことに衝撃を受けるティファニア。だがガンQはまともな生物ではない、いや科学的な 見地からでは一切分析することが不可能なほどの、不条理が形を成した怪獣。『忘却』の効果を 受ける脳が存在しないのだ! キュルケたちがガンQに足止めされている間に、Σズイグルは空高くに向けて浮上していく。 その先の空間にワームホールが開かれた。 「見ろ! 空に穴がッ!」 「ルイズを連れ去るつもりよ!」 「は、早く何とかしないとまずいぞ!」 「もう魔法の射程外よ……! こんな時に、せめてタバサがいてくれたら……!」 無力さを悔しさとともに噛み締めるキュルケ。タバサのシルフィードならば、ガンQをかわして 上空へ逃げるΣズイグルを追いかけることも出来るのに。 「くッ……!」 一方でΣズイグルに囚われているルイズは、必死にもがいて脱出を図るも、少女のか弱い 筋力ではそんなことは土台不可能であった。 それでもルイズはゼロに、才人の名を呼ぶことだけはせずに、最後まであきらめない気持ちで 抵抗を続けた。 ルイズたちの異変を感知したミラーナイトは、同時に出現した怪獣を多少無理してでも 迅速に倒し、ルイズを助けに鏡の世界の道を全速力で駆けていた。 『間に合え……! ルイズ、今行きますッ!』 ミラーナイトは肩を負傷していた。怪獣を素早く倒すために捨て身の戦法を取ったため、 その代償として受けた傷だ。 だがミラーナイトは苦痛も振り切って、ルイズのために急ぐ。アルビオンはもう目の前だ。 ……が、途中で目に見えないバリアに激突して、それ以上先に進めなかった! 『な、何ぃッ!? 鏡の世界に、道を阻む障壁が!?』 衝撃を受けるミラーナイト。これは明らかにただごとではない。これもガリアの妨害か! しかし、まさか鏡の世界にまで干渉してこようとは! この分では、外部からもアルビオンに 突入することは不可能だろう。 こんなことまで出来るとは、一体ガリアはどれだけの力を有しているというのか! ……いや、 今問題なのは、ミラーナイトたちまでがルイズを救出することが出来ないということだ! ルイズはこのまま、ガリアの手に落ちてしまうのだろうか! 「ん?」 己の感情について悩む才人の左目が不意にかすんで、空の光景が映った。遠く眼下には 怪獣ガンQと、ギーシュたちの姿がある。 それは使い魔のルーンの効力により、つながったルイズの視界だった。彼女が重大な危機を 感じたことで、自動でルーンの力が発動したのだ。 「全く……何であいつってば、こう間が悪い訳?」 苦々しくぼやきながら、ベッドから飛び降りる才人。そこにゼロが尋ねる。 『才人、行くのか』 「当たり前だろ」 『……戦えるのか? 今の心境で』 心配するゼロだった。望郷の念で心がかき乱されている状態で、満足に力を発揮できるのか。 下手をしたら、才人に最悪の事態が起こる。 しかし才人は安心させるように、フッと笑った。 「大丈夫だ。何か、急にやる気になってきたからさ」 「相棒、娘っ子のことは好きなのかね?」 デルフリンガーが聞くと、才人は憮然とした声で返した。 「いや、やっぱり好きじゃねぇ。あんな女、わがままで、バカで、気位ばっかり高くって……。 冷静に考えてみると、やっぱり全然好きじゃねぇ。というか腹立つ。何捕まってんだよ。迷惑だっつの」 「じゃあ何で、助けるんだね?」 「……そんな女だけど、悔しいことに見てるとドキドキすんだよね。これが巷で言うひと目ぼれ だとしたら、俺はその存在を呪おうと思う。あーあ、せっかくさよならできるところだったのに……」 ぼやいていると、タバサが笑っているような気がして驚いて振り返った。 「なぁお前、今笑った?」 「気のせい」 「なぁ、笑ったろ! なぁ!」 「パムー」 ハネジローは嬉しそうな鳴き声を上げていた。 『才人! 行くんなら早くしねぇと間に合わねぇぞ!』 「ああそうだった! タバサ、先に行くぜ!」 才人はウルトラゼロアイを出すと、いつもよりも勢いよく装着した。 「デュワッ!」 Σズイグルは既にワームホールのすぐ真下にまで差し掛かっていた。後一分もしない内に、 ルイズはどこか別の場所へ連れ去られてしまうことだろう。 もう駄目だと、ルイズがギュッと目をつむった、その時、 「シェアァァッ!」 猛然と飛んできたゼロがΣズイグルに飛びつき、ワームホールに突入するのを阻止した。 「えッ……!?」 驚いて目を開けるルイズ。ゼロは捕まえたΣズイグルを引きずり下ろし、自分ごとまっさかさまに 地上に叩き落とした。 「テェヤッ!」 起き上がったΣズイグルの中から、ルイズはゼロの立ち姿を、その中の才人を見つめた。 「サイト……どうして……?」 『ルイズ! 元々動けねぇだろうけど、じっとしてろよ!』 才人の声が聞こえた。ルイズはゆっくりと目を閉ざすが、先ほどの絶望の現実から目をそらす 行為とは異なり、心から安心して才人にその身を託す意志が宿っていた。 「ハッ!」 ゼロはデルフリンガーを出すと、一瞬でΣズイグルに剣を突き立て、刃を走らせた。 そして引き抜くと、刃の上に繰り抜かれた十字架が乗っていた。何と精緻な達人技か! 「ルイズ!」 ゼロはデルフリンガーを地面に刺し、十字架を滑らせてルイズを地上に下ろした。そこに キュルケたちが駆け寄り、ギーシュのワルキューレによって十字架がこじ開けられた。捕獲を 目的としたもののためか、強度はそこまでではなかった。 危ないところでルイズを取り返すことは出来たが、怪獣たちを倒さないことには状況は 変わらない。ΣズイグルとガンQ、二体の怪獣が同時にゼロに攻撃してくる。 「イヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」 Σズイグルは腕を出して、指先から光弾を乱射してくる。ガンQは肉体から複数の眼球を 飛ばして、そこから怪光弾を発射する攻撃だ。ゼロは四方八方からの集中攻撃に晒される。 『ぐッ……!』 猛攻に一瞬ひるむゼロだったが、すぐに体勢を立て直して叫んだ。 『何のこれしき! 今日の俺たちは、ちっとばかし過激だぜぇッ!』 光弾を浴びながらもガンQに向けて跳躍。空中からの回し蹴りを食らわせる。 『でりゃあッ!』 「イヒャアッ!?」 眼球からの光弾を途切れさせると、バク転しながらΣズイグルに接近。雷光の如き勢いで チョップを振り下ろした。 『だぁぁぁッ!』 手刀は本物の刀のようにΣズイグルの右腕を切断した! Σズイグルは大きくよろめく。 一方でガンQが起き上がるが、ゼロはそれを待ち受けていたかのように高速移動で肉薄し、 ガンQのど真ん中に鉄拳を繰り出した。 『せぇぇぇぇぇあぁッ!』 「イヒャァーイッ!」 ガンQは殴り飛ばされて宙を高々と舞い、森の中に転落した。 そしてゼロは振り返りざまにワイドゼロショットを発射! Σズイグルは光弾を撃って 反撃するが、必殺光線は光弾も軽々押し戻してΣズイグルに突き刺さった。 強烈な一撃により、Σズイグルは一瞬にして爆散した! 「イヒィッ!?」 『お前にはこれだッ!』 ゼロはΣズイグルを撃破した勢いのままに振り向き、ルナミラクルゼロに変身すると地を蹴り、 ガンQに向けて一直線に飛んでいく! 『はぁぁッ!』 ゼロスラッガーを両手に握り締めて、ガンQの目玉の中に自ら飛び込んだ! 次の瞬間に、ガンQは内側からズタズタに切り裂かれる。 「イヒャアアア――――――!?」 ガンQが一瞬大きく膨らみ、破裂。跡にはウルトラマンゼロが片膝を突いた状態から、 カラータイマーを鳴らしながら立ち上がった。 「す、すごい! 今日のゼロは一段とすごい戦いぶりだったな!」 流れるような戦いぶりで敵を二体、瞬く間に打ち破ったゼロに、ギーシュが熱にうかされた ような声を上げた。その後ろでは、ルイズがゼロを見上げて様々な思いが入り混じった微笑を浮かべた。 と安心し切っていた彼らだが、 ドズゥゥンッ! 「!?」 ゼロの背後にいきなり巨大ロボットが着地したのだった。首と胴体が一体化した左右非対称の 歪な外見であり、顔面部分の四つのランプがスクロール点滅している。 巨大機械人形ゴブニュ、オグマタイプだ! 『まだいやがったか! であぁッ!』 ゼロが瞬時に詰め寄ってパンチを浴びせたが、ガァァァンッ、と鈍い音が鳴るだけで、 ゴブニュはびくともしなかった。 『か、かってぇぇッ! 尋常じゃねぇ硬さだ!』 拳が痺れてあえぐゼロ。ゴブニュ・オグマタイプの装甲は特殊な金属製であり、よほどの 破壊力でなければ傷一つつかないほどの頑丈さなのだ。ゴブニュは腕で自らのボディを叩き、 まるで堅牢さをアピールしているようである。 ゼロもまた、生半可な攻撃は意味がないことを悟るが……そんな時に限ってカラータイマーの 点滅の間隔が早まり、エネルギーがもうほとんど残っていないことを知らせた。 『しまった! 最初に飛ばしすぎたぜ!』 強力な必殺光線を放つ分も残っていない。ルイズも魔力切れを起こしているので、彼女の 魔法でエネルギーチャージすることも不可能だ。万事休す! ゴブニュはゼロに鉄拳を返す。 『ぐわぁぁぁぁッ!』 殴り飛ばされたゼロが崩れ落ち、片膝を突く。もう立っていられるだけの余力すらなかった。 『も、もう限界だ……! 変身を解かざるを得ねぇッ!』 これ以上のエネルギー消費は最早命に関わる。ゼロはやむなくその場で変身を解き、消えていった。 「ぜ、ゼロが消えてしまった! ぼくたちはもう終わりだぁぁぁーッ!」 「だから、すぐに取り乱すんじゃないのッ!」 頭を抱えて絶叫するギーシュを叱ったキュルケだが、彼女も内心ではどうすればいいのか 分からない状態であった。あのゼロの攻撃も寄せつけないゴブニュを退ける手段が、今の 彼女たちには残されていない。 ゴブニュはこちらに振り向くと、ルイズを狙って突き出た頭頂部の尖端から放電を飛ばしてきた! 「きゃあああッ!」 ルイズの危機! そこを救ったのは、横から飛び込んできたタバサ。シルフィードに跨った 彼女は素早くルイズを拾い上げて、電撃から逃れた。 「よぉ」 シルフィードの上には才人もいた。変身解除と同時にタバサが回収していたのだった。 ルイズは彼に向かって思わず叫んだ。 「あ、あんた、何で来ちゃったのよ! 呼んでないでしょうが!」 「勝手に危なくなっといて、よく言うぜ。俺だってなぁ、出来ることなら来たくなかったよ」 ケッと目を細めて憎まれ口を叩く才人。 「けど、キュルケやギーシュ、ティファニアがやべぇだろうが。シエスタとか姫さまとか、 タバサの母ちゃんだってほっとけねぇだろうが。俺は友達を助けに来ただけだ!」 「何ですってぇ? わたしはどうなのよ! その中にわたしは入ってない訳!?」 ルイズは頭に血が上り、怒鳴り返した。 「何よ! やっぱり使い魔だから好き好き言ってたのね! さいってい!」 才人は怒りを通り越した声で叫んだ。 「あのなぁ。あんだけ好き好き言ってるのに、応えてくれない女を好きになる奴なんていねぇよ!」 「え?」 「お前といえば、気位ばっかり高いわ、すぐに怒って暴力を振るうわ、そのくせいい気になったら すぐ調子に乗るわ。お前が好きだなんて言ってたのは、やっぱり使い魔としての好きだわ。以上でも 以下でもありません。俺はこれから、そういうことにする」 「ちょっと待って! ほんとに認めないでよ! ひどいわ!」 才人とルイズがやいのやいの揉めていると、デルフリンガーが割り込んだ。 「相棒も娘っ子もいちゃついてるとこわりいんだけど、そろそろあれを何とかするのを考えねえとやべえぜ」 「誰がいちゃついて……うわッ!?」 才人とルイズが怒鳴ろうとしたが、シルフィードが急に傾いたので舌を噛みそうになった。 ゴブニュがシルフィードを狙って電撃を連続で飛ばしてきているのだ。シルフィードは 巧みにかわし続けているが、このままではいつ撃ち落とされるものか分からない。 タバサがルイズの方を向いた。 「虚無」 「撃てないのよ!」 「何故?」 「精神力が切れちゃってるの!」 「溜めとかなきゃ」 「虚無は寝れば溜まるってもんじゃないのよ!」 タバサはしばらく考えると、いきなり“レビテーション”を唱えて、才人を自身の側に手繰り寄せた。 「ど、どうしたんだタバサ?」 戸惑う才人に、タバサはルイズにも聞こえるような声で、才人に告げた。 「この前の続きをする」 「は? この前の続きって何……むぐッ!?」 才人の言葉はさえぎられた。タバサの唇で。 タバサは才人に突然キスをしたのだった。しかも濃厚に舌を絡めて、吸い上げる。 「パムー!」 ハネジローは恥ずかしげに小さな手で目を覆い隠した。 一方、この光景を見せつけられたルイズは一瞬、頭が真っ白になった。しかしキスをしていると いうことを理解すると、肩が地震のように震え出す。 「あ、あんたたちぃ……こここ、こんな時にぃ……」 タバサは才人の首に腕を回し、小さな身体を密着させる。 「こ、ここ、この前の続きですってぇ―――――――――――ッ!? やっぱりそういうこと してたんじゃないのぉぉぉ――――――――――――――――――――ッッ!!!」 桃色の髪がぶわっと逆立ち、鳶色の瞳が燃え上がった。極限まで高められた怒りが精神力を 生み、魔力のオーラとなってルイズの身体を包んだ。 タバサは才人の身体からぱっと離れた。 「今」 ルイズは我に返り、“エクスプロージョン”の呪文を唱え始めた。 その様を呆気にとられてながめる才人が、ハッと気がついた。 「そうか! タバサはこれを狙って! わざとルイズの怒りを招いて、精神力を回復させたんだな!」 『えーッ!? これでいいのか!?』 ゼロが思わず叫んでいた。 呪文を完成させたルイズは、溢れ出そうな魔力を杖の先の一点に集中し、一気に振り下ろした。 白い光が、ゴブニュの一点に現れた。 光が大きく広がってゴブニュを包み込む、次いで耳をつんざく爆発音が響いた。 もうもうと立ち昇る硝煙。ルイズと才人は降下したシルフィードの上から地面に下りる。 「やった……か?」 静かにつぶやく才人。ゴブニュがどうなったかは、煙に紛れていて見えない。あれほどの 爆発を受けて、無事では済まないと思うが……。 だが……煙の中からぬっとゴブニュが出てきた! 「!?」 思わず言葉を失うルイズたち。まさか、エクスプロージョンでも倒せなかったのか!? ゴブニュはルイズたちに向けて腕を伸ばす。 「も、もう駄目だわ! 逃げましょう!」 「い、いや待った!」 ルイズは必死の体で逃げ出そうとしたが、才人が呼び止める。 何故なら……ゴブニュは腕を前に伸ばした姿勢で、硬直したからだ。そのまま微動だにしない。 顔面の四つのランプからは、光が消えていた。 茂みに身を隠していたギーシュは、唖然とつぶやいた。 「た……立ったまま死んでる……」 ――ロボットなので死んでいるという表現はおかしいが、ゴブニュは完全に機能停止になり、 それ以上全く動き出す気配を見せなかった。 その後、ゴブニュを各国の研究者が回収しようとしたが、あまりにも重すぎて運ぶ手段がなかった。 しかし砕いて破片にすることも出来ず、装甲の特殊金属は『錬金』も受けつけなかった。 やむなくゴブニュは、その場に捨て置かれることとなった。やがてロサイスと忘れられた村を つなぐ道の途中にいつまでも仁王立ちし続けるゴブニュは、アルビオンの新名所として有名になったという。 「うーんうーん……」 ロサイスからトリステインに戻るフネの中、才人はボロボロになって船室のベッドの上で うなされていた。 どうしてこんなことになっているかと言うと、タバサとのキスでの怒りが“虚無”に費やしても 収まらなかったルイズによって、半ば八つ当たり気味にボコボコにされたからであった。 そこに扉が外からノックされて、ルイズがバツの悪そうな顔で室内に入ってきた。 「あのね。一応、聞いてあげる。大丈夫?」 「お前……殴り過ぎ」 憮然と文句を向ける才人。 「あ、あんたが悪いのよ。あんたが、使い魔としての好きとか言うから。う、嘘に決まってるわよね。 あんた、わたしのこと大好きだもんね」 「こんなことされて、そう言える奴がいたら連れてこい」 「へ、へんだ。大好きなくせに」 「あのな、逆だろ? お前が俺のこと、好きなんじゃねぇか」 「ま、まま、ままま、まさか!」 顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振るルイズ。 「大好きだから、あんなにやきもち焼くんだろ? さっきのキスで怒って精神力が溜まったのだって、 つまりはそういうことなんだろ。見え見えなんだよ」 う~、と半泣きでうなるルイズだが、うなずいてひと言、 「……そうね。そうかもしれないわ」 「え?」 才人が振り返ると、ルイズは勝ち誇った笑みを浮かべた。 「いやだ。犬が涎を垂らしてるわ」 「だ、騙したな! そういうことするからなぁ……!」 プイッと横を向いた才人が、照れ隠し気味に告げる。 「やっぱり、俺、時が来たら帰るからな。本当にな! ……でも、今の中途半端な状態のままじゃ この世界のことが心配で、夜も眠れなくなっちまいそうだ。だから、帰るのはこの世界がある程度 落ち着いてからにするよ」 『才人、本当にいいのか? 別に、無理して俺たちにつき合わなくたっていいんだぜ』 問いかけたゼロに、才人は力を込めて答えた。 「無理じゃないさ。ここで投げ出したら、男が廃る! そうだろ?」 『……違いねぇな』 ゼロは安堵した声を出した。 ルイズの方は、才人のハルケギニアに留まる宣言に嬉しさを感じていた。自分を助けに 駆けつけてくれたことと、ぶっきらぼうな言葉の裏に、自分への愛情を仄かに感じる。 ティファニアの呪文を越えた今、それは彼の本当の気持ちだと分かる。 しかしそれが分かってなお、ルイズには不安が残っていた。自分自身の魅力に自信がないから、 才人が義理で助けてくれているのではないかという気持ちがしこりのように残り、素直になる ことが出来ない。 そのため、本心とは裏腹な言葉を吐いてしまう。 「あ、操られているのはわたしだもん。使い魔に情を抱くように条件づけられているのよ。 だからやきもちを焼いたりしちゃうし、したくもないのに、こんなことしちゃうのね。きっと」 「え? んむ……」 ルイズはタバサのキスを上書きするかのように、才人の唇に自分のそれを重ね合わせた。 才人は唇越しに、ルイズの言葉の嘘を感じ取った。ルイズのキスには熱があるから。 その熱とともに、夢の母が言った、『やること』の意味を噛み締めていた。 アルビオンからトリステインへと近づいていく中で、二人は熱いキスを交わし続けた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五話「魅入られた少女」 毒ガス幻影怪獣バランガス 登場 リシュの引き起こした事件が解決し、クリスが帰国してからしばらく経ったある日のこと。 朝もやの中、ヴェストリの広場に、一人、一人と生徒が現れた。いずれも、地獄のアルビオンから 生還した生徒たちである。 軽く緊張した面持ちの彼らの目の前に、二人の男子が立つ。ギーシュと才人だ。 その内の才人が、かちんこちんのギーシュの肘をつついた。 「な、なんだね?」 「お前、隊長だろうが。ちゃんと挨拶しろよ」 「うう……」 「なんだよ?」 「い、胃が痛い……」 集まった生徒たちが爆笑した。 「……しっかりしてくれよ」 「やっぱり、きみが隊長になったほうがよかったんじゃないかね? 水精霊騎士隊(オンディーヌ)の 隊長なんかぼくには荷が重すぎる」 困った顔でギーシュが言った。 リシュの件で、才人が囚われの身となり、ルイズも一時命の危機に瀕したことを知ったアンリエッタは、 二度と同じようなことが起きないようにするため、表向きは怪獣や宇宙人に関わるような怪奇事件を調査する 目的の、実態は才人たちの支援組織となる新たな騎士隊の結成を学院に対して発令したのだった。騎士隊の 名称は、英雄たちウルティメイトフォースゼロを助ける騎士たちとして相応しい名誉ある名を、とアンリエッタが かつて存在した伝説の近衛隊の呼び名からつけたのであった。 才人はゼロに変身する都合上、隊長だと色々と不都合が生じるし、ハルケギニアのルールに 疎いところもあるので、副隊長の座に着いた。代わりの隊長はギーシュだ。人柄と実力と経験に 不安は残るが、父親は元帥だし、他に適任もいなかった。 「由緒がどうした。気にしたってキリがねーだろ」 「で、でもな……、さすがにぼくがその、伝説の騎士隊の隊長というのは、うーむ……」 「おいギーシュ! サイト! いつになったら訓練を始めるんだよ! 毎朝グダグダじゃないか!」 二人がもたもたしていると、隊員の間から野次が飛んだ。 「ほら、お前が、もたもたしてるから文句言われたじゃねーか」 「きみがうだうだ文句ばっかりつけるからじゃないのかね!」 「お前が情けないからだろうが!」 「だから隊長はきみがやれって言ったじゃないか!」 才人とギーシュで言い争いになると、才人が小馬鹿にした調子で言い放った。 「……ったく、そんなだからモンモンに許してもらえねえんだよ」 「モンモンとのことはきみにかんけぇええええないだろぉおおおおおおおッ!」 キレたギーシュが才人に殴りかかった。 「やりやがったな! いいぜ、今日の訓練の初めはお前とのぶつかり稽古だぁぁぁッ!」 才人の方もギーシュに飛びかかってやり返す。彼らの熱に当てられた隊員たちもギーシュ側、 才人側の二つに分かれて壮大な取っ組み合いを開始した。 その様子を見ていたルイズが呆れ返ってつぶやいた。 「……毎度毎度、飽きもせずによくやるわね」 その日の午後、昼食の席。オンディーヌが結成されてから、才人はルイズの隣ではなく 騎士隊の者たちとかたまって食事することが多くなっていた。 その席で、ギーシュやマリコルヌがある話題を上げていた。 「今年のスレイプニィルの舞踏会に、オールド・オスマンが女王陛下を来賓に仰いだが、 キャンセルされたと教師たちが噂してたよ。ああ、舞踏会の席で女王陛下にお目通り 出来たら望外の喜びだったのに……。実に残念だよ」 「でもそれは仕方ないだろ。女王陛下は連日激務に追われていらっしゃるそうだし。所詮は 学院の一行事にお越しいただくという方が無理ってもんさ」 二人の話を耳に入れた才人が尋ねかける。 「スレイプニィルの舞踏会?」 「そうだよ、今度、新学期が始まるだろ?」 「新学期で、どうして舞踏会なんかやるんだよ」 「そりゃ、歓迎に決まってるじゃないか。新しく入ってきた貴族の少女たちは、社交界が初めて という子も少なくない。そんな子たちに、ぼくが手取り足取り、大人の社交を教えるのさ! あ、少年もいるけどね」 要は新入生歓迎会のようなものか、と才人は解釈した。そういえば、自分が召喚されたのは 春の使い魔召喚の儀式の場だったから、今現在と大体同じ季節のはず。あれからもう一年が 経とうとしてるんだなぁ、と何だか感慨深いものを感じた。 「でだな、ただの舞踏会じゃないんだよ!」 話が進むに連れ、ギーシュは興奮気味になる。 「どこがどう“ただの”じゃないんだよ」 「仮装するのさ」 「仮装? そんなの別に普通だろ。どこがすごいんだよ」 才人が問い返した時、後ろの席の会話が才人の耳に入ってきた。 「知ってるかい? 最近、トリスタニアの上空に現れた“怪鳥”の話」 「ああ。竜騎士隊に勤める兄貴も噂してたが……、ほんとなのか?」 才人はそちらが気に掛かり、ギーシュたちをほっぽって聞き耳を立てた。 「……なんでも、幅は百五十メイルはあったって言うぜ」 「フネじゃないのか?」 「そんなかたちのフネがあるもんか。それに鳥のようなかたちをしてたって。仮に怪獣だとしても でかすぎだよな。まぁ、アルビオンでそれくらいの大きさの奴が現れたけど……」 「やめてくれよ……。あんな感じの化け物がほいほい出てきたらたまんないぜ……」 才人はいささか不穏なものを感じて、席を立って話を聞きにいった。 「その話、詳しく聞かせてくれないか?」 それは、最近宮中で噂になっていることであった。竜騎士が夜間飛行中に、巨大な“影”を見たと。 幅は百メイル以上で、およそ生物とは思えないような奇妙な音を立てていたという。しかし竜騎士の竜が 怯えて、観察する前に逃げ出してしまったそうだ。報告を受けた竜騎士中隊があがったときには、もう霞の ように消えていたという。王宮では、雲を見間違えたという意見が主流のようだ。 才人はその“怪鳥”の噂を考察する。やはり怪獣としても大きすぎるから、宇宙人の円盤の 一種だろうか。しかし、竜騎士に見つかるようなヘマをする円盤がウルティメイトフォースゼロの 監視をかいくぐれるとは思えない。 いずれにせよ、この噂話だけでは情報があまりに足りないので何も断定は出来ない。 だが新手の敵かもしれないので、覚えておいた方がいいだろう。 才人が席に戻ると、マリコルヌに見咎められた。 「おい、人の話はちゃんと聞けよ! 途中で席を立つなんて失礼極まりない!」 「んあ? ああ、ごめん。で、仮装がどうしたって?」 「もういい!」 「ごめんごめん。そう怒るなよ。お前たちも気にならないか? トリスタニアの上空に現れた 謎の巨大な影! こういうのを調べるためのオンディーヌだろ」 「夜の哨戒飛行なんて、誤認の連続だよ。そもそも空の出来事じゃあ、ぼくたちじゃ調べようがない。 裸のお姫さまが飛んでた、なんて情報なら調査に乗り出してもいいが」 ギーシュらはへそを曲げてしまっていた。参ったな、と才人が思っていたら、眼鏡をかけた少年、 レイナールが口を開いた。 「きみたち、舞踏会も謎の影もいいが、騎士隊そのもののことももっと考えてくれよ。ぼくたちが 宮中でなんと呼ばれているか知ってるかい? “学生の騎士ごっこ”だぜ? そりゃあ、昔の偉大なる 武人たちと比べられて、“子供のお遊び”なんて言われてしまうのはしかたない。でも、ぼくたちが それに甘んじるいわれもない。だからこそギーシュ、サイト、きみたちにはもっと真面目に考えてほしいのさ」 ギーシュと才人は、うむむ、と顔を見合わせた。 「きみの考えは正しいかもしれんが、で、どうすりゃいいんだ?」 「もっと陣容を強力にしたい。今のところ、シュヴァリエはサイトだけじゃないか」 「といっても、シュヴァリエなんてなかなかもらえる称号じゃないし……」 「一人知ってるぜ」 レイナールの考えとは、才人の他に学院でシュヴァリエの称号を持つタバサを騎士隊に 招き入れるというものであった。 そんなレイナールたちにオンディーヌ加入を誘われたタバサだったが、彼女は北花壇騎士の 任務がある。つき合ってはいられないので、すげなく断ったのだった。 そしてその日に、タバサは新たな密書を受け取った。しかしそれはいつものイザベラの 召集状とは違い、チクトンネ街のある酒場に来るようにとの指示書であった。 その指示通りに酒場に着いたタバサを迎えたのは……かのシェフィールドだった。彼女は タバサに対して、このように告げた。 「あなたとわたしの主人はね、こういう風に考えているの。世界に四匹しかいない竜同士を 戦わせてみたいんだけど……、どうしていいのかわからない。で、竜を捕まえることにしたってわけ」 「…………」 「竜には、強力な護衛がついている。だから、あなたにその護衛を退治してほしいのよ。 その隙に、わたしが竜を盗むってわけ」 「護衛を退治?」 「あなたもよく知っている人物よ」 シェフィールドの見せた似顔絵を見て、タバサの目が見開かれた。 「この任務を成功させたら……、大きな報酬があるわ。あなたの母親……、毒をあおって 心を病んだのよね。その、心を取り戻せる薬よ」 タバサは軽く唇を噛んで震え、シェフィールドに敵意を含めた視線を送った。 「あら? 天下の北花壇騎士さまが、知り合いだからって私情を挟むの? わかってるの? あなた、自分の母親の心を取り戻せるチャンスなのよ」 ギーシュたちが話題にしていた、スレイプニィルの舞踏会の当日がやってきた。その舞踏会前に、 ルイズは才人に、仮装舞踏会で絶対自分を見つけることと厳命した。この命令の裏には、ルイズと シエスタの女の勝負があるのであった。 夢の世界で、才人との間に確かな絆があることを実感したルイズ――。しかしそういうことが あるとすぐ調子づくのがルイズという女。主人と使い魔の絆が奇跡を呼んだのよ、これはどこぞの 泥棒猫が入り込む余地なんてないわねオホホという感じにシエスタ相手に散々自慢し、さすがに イライラが頂点に達したシエスタが、この際ですから白黒はっきりつけましょうと勝負を申し出たのだった。 その内容こそ、スレイプニィルの舞踏会で才人がルイズを見つけられるかどうか。見つけられたら、 シエスタは才人のことをきっぱりあきらめるという条件であり、そのためルイズは気合いが入って いたのだった。 さて、スレイプニィルの舞踏会とはギーシュたちの言ったように、ただの仮装舞踏会にあらず。 “真実の鏡”を使用して、自分の最も憧れる人物の姿に変身するという内容である。そしてルイズが 変身した相手とは……二番目の姉のカトレアであった。 「サイトはわたしがわかるかしら」 つぶやいたルイズは、わかるわよね、と思った。何せ、カトレアの姿なのだ。 ホールには、それぞれ変身をした様々な人で溢れていた。伝説の勇者、偉人、有名人……、 ウルティメイトフォースゼロの姿になった人もチラホラいたので、ルイズは苦笑した。 才人が自分の元までやってくるのを待つルイズだが、舞踏会が始まった直後に背後から名前を呼ばれた。 「ルイズ」 早いわね! とウキウキしながら振り返ったルイズだが……残念ながらお目当ての才人では なかった。ずっと背が低いし、何より女子だ。 「タバサ?」 後ろにいたのがタバサだ。ルイズが名前を言うと、コクリとうなずいたので、誰かの変身ではないようだ。 「そんな姿でどうしたの? 仮装するなら、鏡はホールの入り口よ」 入り口を指差すルイズだが、タバサは彼女の言うことには構わず、ルイズの手を取って引っ張り出す。 「ついてきて」 「え? ち、ちょっとタバサ、わたし今、大事な用があるんだけど……」 いつになく強引なタバサに戸惑うものの、今まで何度も助けられているので、袖にするのは 忍びない。ルイズは手を引かれるままにホールから外へ連れ出されていった。 才人がホールにやってきたのは、ルイズが連れ出された後だった。彼は周りを見回してひと言、 「うわッ、ゼロたちの格好までいるぜ! しかも仮装っていうか、ほぼそのまんまだ! これどういうことかな?」 ゼロは透視を行って、仕組みを見破る。 『魔法で姿を変えてるみたいだな。まぁ魔法の学校の仮装だから、当然ってとこだろうな』 「そうか、ギーシュたちが話してたのはそういう意味だったのか」 『だがルイズが誰なのかは教えねぇぜ。それじゃフェアじゃねぇからな』 「ああ、分かってるよ」 才人はちゃんと己の判断力でルイズを見つけ出そうとする。しかし一歩踏み出したところで…… 異常が発生した。 周囲の人たちの容姿が一瞬にして変化し、見慣れた学院の生徒たちのものとなったのだ。 変身が解除されたみたいだ。 「うわ! 魔法が解けた!」 「まだ舞踏会は終わってないぞ!」 騒然となるホール。才人は何事かと呆気にとられる。 「何だ何だ? 何か事故でも起きたのか?」 一方、ゼロは訝しげな声を発する。 『妙だな……。ホールのどこにもルイズの姿がねぇぞ。魔法が解けたのなら、この場にいなけりゃ いけないだろうに』 「え? それってどういうことだ……? 俺に見つけろって言っておいて、自分はここにいない?」 才人が、訳が分からずに首をひねっていると、ゼロの声が不意に緊迫の色となった。 『! 学院の外に異様な気配が現れたぜ! まずい、ルイズの身に何か起こったのかもしれねぇ!』 「何だって! やばい、すぐ行かなきゃ!」 才人はマントを翻し、急いでホールの出口へ向かって走り出した。 その少し前……ルイズはタバサに連れられ、学院の外、明かりが届かないような場所まで来ていた。 夜の帳に覆われた野外まで連れられ、ルイズも不審に感じる。 「ねぇタバサ、ここはもう学院の外よ。こんなところに連れてきて、何のつもり……あら?」 気がついたら、タバサの姿がなくなっていた。自分が目を離した一瞬の隙に、どこかへ 行ってしまったのか。だが何のために? 「た、タバサ? どこ行ったの? 変な冗談はやめてちょうだい、あんたには似合わないわよ……」 また、自分の姿がいつの間にかカトレアから元に戻っていることにも気がついた。 「え? 舞踏会が終わるには早すぎるはず……」 「確かにお目当ての子に間違いないわね。悪いけれど、確認のために魔法は解かせてもらったわ」 闇の中から、知らない声音が聞こえてきた。ルイズは咄嗟に身構えて、杖を抜いた。 「誰ッ!? 姿を見せなさい!」 「これは失礼」 自分の前方から、マジックアイテムの明かりとともに黒髪の見慣れぬ容貌の女が現れた。 ハルケギニア大陸では見ないような顔の作りだ。 「わたしは、こっちではもっぱらシェフィールドと名乗ってる者。けれど、あなたには……」 女の前髪が揺れ動き、隠されていた額が露わになった。 そこには、ルーン文字が刻み込まれている。 「ミョズニトニルン、と名乗った方がいいかしら?」 その名と、額のルーン文字――才人の左手の甲のガンダールヴの印と酷似した刻印で、 ルイズは驚愕した。 「“虚無”の使い魔!?」 「うふふ、こうして顔を合わすのは初めてね、わたしの主人と同じ力を持った娘さん」 シェフィールドこと、才人以外の“虚無”の使い魔が目の前に出てきたことに、ルイズは 呆気にとられた。ティファニアとの出会いで、虚無の担い手は四人いることは既に知っていた。 そしてまだ見ぬ他の二人が使い魔召喚をしていたら、才人以外の人間の使い魔が出来ているはず。 そのことは考えていたが、それが本当にいるのだと見せられたらさすがに驚きを禁じ得ない。 同時に、この状況からして、ミョズニトニルンは穏やかな用事でルイズの前にやってきたのでは ないことも理解した。 「わたし以外の担い手の使い魔が、こんな夜更けに何の用かしら!」 深く警戒しながら問うと、ミョズニトニルンは変に恭しい態度で頭を垂れた。 「あなたをお招きに参ったのです。わたしの主人は、この世に三人しかいない同じ力を持った同志を、 ご自分の元へご招待するようわたしに仰せつかったので」 「ふざけないで! 要するに、わたしをさらおうってことでしょ! 誰があんたなんかの言うことなんか……」 ミョズニトニルンの振る舞いに、逆に神経を逆なでされたルイズは怒鳴るが、どこからか 赤い煙が立ち込めてくると、その声が急速に弱まる。 「うッ、これは……!」 毒ガスだ、と判じた時にはもう遅く、ルイズの意識が遠のいてその場に倒れかかった。 彼女の身体を、ミョズニトニルンが操るガーゴイルが受け止め、背に乗せる。 「陛下と同じ虚無の担い手でも、所詮は小娘、呆気ないものね。後は陛下の元まで連れ帰るのみ……」 ミョズニトニルンは自身もガーゴイルに乗っかって飛び立とうとしたが、そこに才人が駆けつけてきた。 「ルイズッ!」 「あら、護衛の騎士様はさすが有能ね。ここを突き止めるなんて。でも、一歩遅かったと いうところかしら」 嘲るミョズニトニルン。才人はこの状況をひと目見て、大体のところを察してデルフリンガーを抜いた。 「ルイズを返しやがれ!」 あらん限りの殺気を向けるが、ミョズニトニルンは涼しい顔で嗤ったままだ。 「あんたの相手は、わたしじゃあないわ」 ミョズニトニルンの背後の闇の中から……赤い毒ガスとともに巨大怪獣が出現する。 「クアァ――――――!」 角ばった頭部と羽を持つ怪獣、バランガスという名前だ。才人は怪獣の姿によって目を見開いた。 「怪獣を操ってるだと……!?」 ということは、ミョズニトニルンは宇宙人か? しかし、額にルーン文字が見える。あれは自分と 同じ、“虚無”の使い魔の印ではないか! ではあの女の主人は、宇宙人を使い魔にしたということ なのか? それとも女は人間で、アルビオンの時のように侵略者が裏で糸を引いているのか? まさか リシュではないのだから、虚無の担い手自身に怪獣を操る力はないだろう……。 何にせよ、今すべきことはルイズを救い出すことだ。才人はウルトラゼロアイを出そうとしたが…… 彼の側にタバサがひょっこりと現れる。 「タバサ!? どうしてこんなところに……いや、今はそれはいい!」 才人はバランガスから目を離さないまま、タバサに頼み込む。 「ルイズがあいつらに捕まっちまったんだ。それを助け出す! お前も力を貸してくれ!」 しかし……タバサからの返事が来る気配がない。 「タバサ……?」 さすがに訝しんで振り向いた瞬間――氷の矢が放たれた! 才人に向かって! 「なッ!?」 咄嗟に飛びすさって回避する才人。そんな彼を、タバサは杖を向けて強くにらみつける。 この殺気……今のが何かの間違いではないと、才人に知らしめた。タバサは、ミョズニトニルンの 側に立ち、才人を殺そうとしている! 「ど、どういうことだ!? タバサッ!」 気を動転させる才人が問いかけたが、タバサは何も答えようとはしなかった。 タバサに守られるミョズニトニルンは、さも楽しそうに言い放った。 「あんたの相手はわたしじゃあないけど、怪獣でもない。そのガリア王国が誇る北花壇騎士―― あんたたちの言うところのタバサだよ!」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十六話「弄ぶ眼」 奇獣ガンQ 登場 ガリア王国からタバサを救出し、遂に魔法学院へと帰還を果たしたルイズたち。しかしそれから ほどなくして、すぐに次の冒険がアンリエッタによってもたらされた。 ルイズたちはティファニアをウエストウッド村の子供たちごとトリステインまで保護するよう 命じられたのだった。やはり、ガリアが暗躍を見せる中で誰にも守られずにいるというのが心配 とのことだった。 道中目立ってはいけないので、アルビオンに向かったのはルイズ、才人、ギーシュ、タバサと キュルケの五人という少人数だった。本来は前者の三人だけのはずだったが、学院を出発した ところでタバサたちが同行してきたのだ。しかもそれを決めたのは、意外にもキュルケではなく タバサの方だという。シルフィードに乗せてもらえたので、結果的には大助かりではあるのだが……。 タバサの見せた積極性を、才人はいささか怪訝に思った。彼女は直前にも、侵略者ではなく 国家そのものを敵に回すということでとりあえず読み書きが出来た方がいいだろうと思い立ち、 勉強を始めた才人とばったり鉢合わせになると、何を思ったかその手伝いをしてくれたのであった。 お陰でとてもはかどったのだが……確かに今までにも何度も危ないところを助けてくれたとはいえ、 平時までこんなにも積極的に協力してくれるのは初めてのことだった。ガリアから救い出したことに 恩義を感じているのかとも思ったが、それならルイズたちにも同様でないといけない。今のところ、 それらしい様子は見られなかった。 タバサのそんな変化の原因について、彼女の親友キュルケに尋ねたところ「きっと、あなたは 特別なのよ」と何やら意味深な答えをいただいた。それはどういう意味なのか、才人にはよく分からなかった。 ウエストウッド村の入り口に到着してから、チラ、とタバサの顔を一瞥する。 「パムー」 タバサの頭の上のハネジローがひと鳴きした。ハネジローはタバサにベッタリなほど懐いており、 ウエストウッド村にまでついてきてしまったのだった。それはともかく、肝心のタバサの方は相変わらずの 無表情で黙りこくっており、何を考えているのかは窺い知れなかった。 黙りこくっているといえば、もう一人……ルイズもタバサに負けないくらい静かで、しかも 纏う雰囲気がどこか重かった。 キュルケが才人をつつく。 「ねぇサイト。ルイズ、一体どうしちゃったの? 朝から変よ。黙っちゃって……」 「いや……実はな」 才人が事情を打ち明けると、キュルケは驚いた声を上げた。 「まあ! 精神力が!」 「しッ! 声が大きいよ」 実は今のルイズは、精神力を使い果たして魔法を撃てない状態に陥っているのだった。 それが発覚したのは、前述のタバサに読み書きを教わったことに連なる混乱の際。タバサが 才人をいやに親しくしているのをルイズが邪推し、そこからなんやかんやあってまぁいつも通りに ルイズが憤怒して爆発を食らわそうとしたのだが……何も起きなかったのだ。他の魔法も一切、 発動しなかった。 このことについてデルフリンガーが、ルイズの精神力が底を尽きたのだと語った。しかも “虚無”の魔法の場合は普通の系統魔法よりも溜めるのに長い時間が掛かり、いつ回復するかは 彼にも分からないという。 「強いってことは、それだけ使いづらいってことさ。むしろ今まであれだけバカスカ撃ってて、 よく持ってたもんだよ。恐らく、相棒がそうだったように、娘っ子もでっけえ悪を前にした際の 感情の高ぶりで精神力を生み出してたんだろうな。だがそいつも遂に限界が来たんだろうね。 そうそう上手い話はねえってことさね」 それで朝から落ち込んでいたルイズではあるが、どうもそれだけではないようだった。 出発時に彼女へ実家からの手紙が届いたのだが、それを読んでからますますひどくなった ように見える。アンリエッタを前にした時も、ひと言も発しなかったくらいだ。 どんな内容が書いてあったのかは知らないが、あの厳格な家族の元から送られてきたものだ。 きっと今のルイズに追い打ちを掛ける内容だったのだろう、と才人は考え、ひとまずはそっと しておくことにした。 「あらら、じゃあゼロのルイズに逆戻りって訳? でも、爆発すらしないんじゃ、更に重症ね」 「言うなよ。気にしてるんだから」 「でも、そっちの方がいいんじゃない?」 キュルケが真顔で言った。 「何でだよ」 「あの子に“伝説”なんて、常々荷が重いって思ってたの。あたしぐらい楽天的な方が、 過ぎたる力にはちょうどいいのよ」 そうかもしれない、と才人は思った。 さて、一行はティファニアの家の前に並んだ。藁葺きの屋根から、煙が立ち上っている。 「お、いるみたいだな」 「いやぁ、こんな簡単な任務でいいのかねぇ。いつもの怪獣に追われるような苦労に比べたら、 何だか拍子抜けしてしまうよ」 ギーシュが鼻歌交じりに言った。 「もう、ほんとにお前ってば緊張感がない男だな」 「きみに言われたくないな。というか最近のきみはおかしいぞ」 「俺が?」 「そうさ。何だか妙な使命感に振り回されているように感じるよ。昔のきみはもっとこう、 適当だったじゃないか」 「そうか?」 「ああ。もっと気楽にいきたまえよ。気楽に! あっはっは!」 確かに言われてみれば、最近はどうガリアに立ち向かうかということばかり考えているような 気がすると感じる才人だった。しかし状況が状況だし、幾度もの戦いを越えて戦う勇気を手に したのだ。考え方の一つくらいは変わるだろう、と重くは受け止めなかった。 「そんな油断してるとね、ろくなことがないわよ」 キュルケがギーシュに呆れた目つきを送った。 「望むところさ! ウチュウ人でも何でも来い! さてと、この家だな」 ギーシュは調子づいて、ティファニアの家の扉の前で声を張る。 「ご家中の方に申し上げる! オンディーヌ隊長、ギーシュ・ド・グラモン! 王命により 参上つかまつった! では御免」 返事もなしに扉を開けたギーシュが、一瞬で固まる。 「何よ。どうしたのよ。ほんとに中にウチュウ人がいたの?」 キュルケも中を覗き込むと、やはりその身体が硬直した。 才人とタバサは顔を見合わせて、二人同時に扉の中に顔を突っ込んだ。家の中にいた二人の 人物の姿に、才人たちも固まった。 一人はティファニア。こちらに呆然とした顔を向けている。しかし懐かしいティファニアに、 声をかける余裕さえなかった。残りの一人が問題だったのである。 タバサがつぶやく。 「フーケ」 もう一人は、学院から破壊の杖――スパイダーと青い石を盗み出そうとした盗賊であり、 ウェールズを一度殺害したワルドに協力していた女であり、タルブの村を焼き、あの悲惨な アルビオン戦役の原因となったレコン・キスタに与していた、フーケがそこにいたのだった。 そこから、一時は大混乱となった。激昂した才人がフーケに斬りかかり、激しい決闘が 始まろうという事態にまでなった。しかしそれを止めたティファニアによって、フーケの 意外な事実が明らかとなった。フーケの本名はマチルダであり、彼女の父が仕えていた 相手でありフーケの命の恩人の娘がティファニアだということが。どこから捻出されているか 不明だったウエストウッド村の生活費は、フーケによって賄われていたのだ。もちろん、 フーケは己の仕事をティファニアには秘密にしているのだが。 憎き相手ではあるが、ティファニアの姉代わりだという彼女をよりによってティファニアの前で 倒すことは出来ない。才人たちは仕方なしに、フーケと同じ空間を過ごすことになった。ずっと ギスギスした空気が漂い、ハネジローだけが同じ小怪獣のミーニンに興味を持って戯れていた。 そして本題である、ティファニアのトリステインによる保護に関しては、意外にもフーケが賛同した。 その晩、さっさと帰り支度を行うフーケを才人は呼び止めて問いかけた。 「俺たちがどうしてテファを連れていこうとするのか、聞かないのか? 心配じゃないのかよ」 フーケは微かに寂しそうな表情を浮かべて、答えた。 「どんな道だろうが、わたしと行くよりは、マシだからさ」 そのひと言に、フーケも己の現状に思うところがあるのかもしれない、と才人は一瞬思った。 フーケはローブを深く被ると、才人に告げた。 「あんたもたまには、故郷に帰るんだね。親に顔を見せてやりな。わたしみたいに、帰る場所が なくなっちまう前にね」 その言葉が、才人の頭の中に残った。 眠れない才人はティファニアの家の外に出て、ぼんやりと月を見上げながらフーケに言われた ことを脳裏で反芻していた。 『故郷に帰るんだね』 そう言われても、ゼロと合体している内は帰ることは出来ない。 しかし……いざ分離する時が来たとしても、自分は地球に帰ろうとするのだろうか? どういう訳か、その欲求が湧いてこないのだ。何だか、自分のことでない話のように感じる……。 「サイト」 不意に名前を呼ばれ、振り返ると、ルイズが傍に来ていた。ずっと黙っていたのにどうしたのだろう、 と手を伸ばすと、ルイズの頬が濡れているのが触感で判明した。 ルイズは泣いているのだと、才人は慌てた。 「おい、どうしたんだよ。泣いてるじゃねぇか」 才人の言葉を無視して、ルイズは言った。 「あんた、帰りたくないの?」 「……え?」 「故郷に、帰りたくないのかって、聞いてるの」 「どうして、いきなりそんなこと聞くんだよ」 「答えて」 才人はゆっくりと、最近いつも繰り返していた言葉を口にした。 「いや、こっちの世界で、やれることをやってから帰ろうっていうか……」 「嘘」 「嘘じゃねぇよ」 「じゃあ、どうして、ちいねえさまには故郷のことを相談したの? わたしにはそんなこと、 ひと言も言わないのに」 才人は一瞬、呆気にとられる。 「どうして、お前が知ってるんだよ」 「ちいねえさまからの手紙に書いてあったのよ」 手紙を差し出すルイズ。それを受け取った才人は、月明かりの下で読む。タバサに教えて もらったお陰で、字を追うだけで内容が頭に飛び込んできた。 そこには、故郷を想っていた才人が心配であること、ルイズには才人を故郷に帰す義務が あることが書かれてあった。 涙で顔をぐしゃぐしゃにして、ルイズは言った。 「どうしてあんたは、わたしに本音を打ち明けてくれないの?」 才人はその理由を考える。惚れた女には弱みを見せたくないから……だけではない気がした。 そもそも、ルイズの前で故郷を意識したことがほとんどないのだ。 ルイズの後ろから、小さな声が答えた。 「使い魔だから」 「タバサ」 タバサがいつの間にか外に出てきていた。ルイズは自分に言い聞かせるように言った。 「そう。タバサの言う通りなんだわ。だからあんたは、わたしが傍にいると、帰りたいと 心の底から思わない。いや、思えない。こっちの世界に、いなければならない理由まで 作り上げて、あんたはわたしの傍にいようとする。いや、させられてる」 「違う。それは違う。それは……」 才人は否定しようとしたが、し切れなかった。ルイズの言うことは、筋は通っている。 タバサが語る。 「使い魔は、主人の都合のいいように“記憶”を変えられる。記憶とは、脳内の情報全てのこと。 あなたが簡単な勉強で、わたしたちの文字を覚えたのもそう。あまり故郷のことを思い出さない のもそう。そして“ガンダールヴのルーン”は、あなたの心の中に『こっちの世界にいるための 偽りの動機』を作ったのかもしれない。あなたは本当の気持ちをごまかされてる可能性がある」 「そんなことがあるのかよ?」 「その効果は、時間が経つにつれ、強くなる。使い魔が徐々に慣れ、最後には主人と一心同体にも なるのは、そういうこと」 「パム……」 タバサの頭の上のハネジローが、不安げな視線を才人に向けた。 「おいおい、そんな、自分が自分でなくなるなんて、そんなことが……」 才人がそう言ったら、背負っているデルフリンガーが発した。 「まあな、自分のことは、自分が一番分からんもんさ」 才人は思い悩む。タバサの言うことは真実なのか。自分は心を、知らず知らずの内に変えられて いたのか。もしかしたら、ゼロとともに戦う勇気までも、ルーンによって作られた感情では……。 「い、いや、それだけは絶対に違う! 作りものの勇気で、試練を乗り越えられたはずがねぇ! 俺の中に芽生えた勇気だけは本物だ! なぁ、そうだよな!?」 左腕のブレスレットを持ち上げて、ゼロに助けを求める。ゼロからの返答はこうだ。 『ああ。お前の勇気は本物だと、俺が保証するぜ。お前の熱い心の震えを肌で感じれば、 それは確かに分かる』 一瞬安堵する才人だったが……。 『けど、勇気は己の本心を覆い隠すためのものでもねぇ。……才人、お前は自分の偽りのない 本当の気持ちと向き合う必要があるのかもしれない』 「い、偽りのない本当の気持ちなんて……そんなのどうすれば」 才人が戸惑っていると、ティファニアたちまで目を覚まして才人たちの元に来た。 「サイト、それ、本当なの?」 「ティファニア」 「あなたの気持ちが偽られてるとか、記憶を変えられてるとか……」 「分かんねぇ。自分がどうなのか、自分じゃよく分からねぇ」 正直につぶやくと、ルイズがティファニアの方を向いた。 「ねぇ、ティファニア。あなた、記憶を消せるじゃない。その部分を消すことが出来る? ガンダールヴのルーンが作った才人の心の中の、『こっちの世界にいるための偽りの動機』を 消すことが出来る?」 「分からないけど……」 「出来るだろうさ。“虚無”に干渉できるのは、“虚無”だけだ」 「おいおい、人の心に勝手なことすんなよ!」 才人は叫んだが、デルフリンガーは取り合わずにルイズに問いかける。 「でもな、娘っ子……。その部分を消したら、お前さんへの気持ちもなくなっちまうかもしれないんだぜ」 「いいわ」 ルイズはきっぱりと言って、涙を拭いながら気丈に言い放った。 「め、迷惑だもん。す、好きでもない男の子に言い寄られるなんてひどい迷惑だわ。勝手に ナイト気取りでおかしいわよ。ほっといてよ!」 「ルイズ……お前……」 「ほら、さっさと魔法をかけられて、元のあんたに戻るがいいわ」 「ルイズ!」 ルイズは駆け出したが……一旦立ち止まり、うつむいて言った。 「わたし、お手伝いしたいけど。今のわたしじゃ無理よね。本当のゼロのルイズじゃ……」 ルイズはそれだけ言い残すと、この場から逃げていく。追いかけようとした才人の腕を、 キュルケとギーシュが掴んだ。 「離せよ! 離せ!」 「ぼくはね、きみを友人だと思う。だからこそ、こうした方がいいと思うんだ」 「あたしも同じ気持ちよ」 二人は珍しく真剣な顔で、うなずき合う。 更に才人の耳に、虚無のルーンが聞こえてきた。 「ティファニア……」 見ると、真剣な顔をしたティファニアが、才人に向かって虚無のルーンを唱えていた。 呪文が完成し、杖が振り下ろされると……才人の意識に色んな光景が現れてきた。 学校から帰ってきて、くぐった自宅の玄関。いつも観ていたテレビの番組。電話越しの クラスメイトとのどうでもいい会話。隣の席だった女の子。母の味噌汁の味。そして母の顔……。 それまで抑圧されていたものが解放されると、才人の目からどっと涙が溢れ出た。 「……帰りてえ。帰りてえよ」 そのつぶやきを最後に、才人は意識の糸が切れた。 翌日の早朝、ルイズたちはロサイスへの道をとぼとぼと歩いていた。 昨晩に気を失い、それから一度も目を覚まさなかった才人はウエストウッド村に置いてきた。 タバサが才人についていると言ったので、彼らは陸路でロサイスを目指しているのだ。 「ここからロサイスは五十リーグは離れてるんだろ? そんな距離を歩くなんて、いや、 随分と大変だな」 「仕方ないでしょ。タバサが残るって言うんだから。サイトが国にすぐには帰れないって、 そんなに遠いところなの?」 黙って唇を噛んでいるルイズに、キュルケが囁きかける。 「なんてね。ほんとはあたし、知ってるの。サイトが別の世界とやらから来た人間で、 ウルトラマンゼロの正体ってこと。タバサと一緒に気づいたのよ」 チラッとルイズに視線を送るキュルケ。 「しかしまぁ、あんたも冷たいわよね。何回もお世話になったサイトを置いていっちゃうなんて」 ルイズは押し黙ったまま、何も答えない。 「ねぇルイズ」 「何よ」 「ほんとはあなた、怖いんでしょ」 「何が」 「サイトの自分に対する気持ちが、使い魔としての気持ちだったらどうしようって……。 あなたはそれを見たくない。だからこうやって結果を見届けずに逃げ出してる」 「違うわ」 「タバサが“預かる”って言ってくれなかったら、どうするつもりだったの? 放っておいたの?」 「そんなことしないわ。姫さまが急いでティファニアを連れてこいって言うから、仕方なく 先に行くだけよ。タバサがそう言ってくれなかったら、そりゃ残ってるわよ」 「言い訳だけは一人前なんだから」 「言い訳じゃないもん」 「もし、サイトのあなたに対する想いが、使い魔のそれだったら、あなたはどうするの?」 「どうもしないわ。サイトがゼロと別れられる時が来たら、見送ってあげる。それだけだわ」 「じゃあその想いが、サイト自身の本物だったわ?」 「か、変わらないわよ」 「今、照れたわね」 「照れてない。照れてないわ!」 「ほんとに分かりやすい子ね。あなた。やっぱり大好きなんじゃないの。サイトのこと」 「勘違いよ! 馬鹿!」 「ねぇルイズ。あなたの今の行動、卑怯よ。相手の気持ちが偽りだったとしても、あなたの 気持ちがそうじゃないならいいじゃない。今度こそ、自分自身の魅力で勝負すればいいだけの話だわ」 「……わたし、好きじゃないもん」 と自分に言い聞かせるルイズだったが、目からは涙がこぼれた。 本当は分かっているのだった。キュルケの指摘が紛れもない真実だということを。彼女に とってはどんな大怪獣よりも、才人の自分への感情が偽りだったということを確かめることの 方が怖いのだ。だからこんな風にみっともなく、尻尾を巻いて逃げ出している。 才人と過ごした時間が、思い出が、掛けられた言葉が、全部嘘になってしまう。この世で 何より大事なものが……。どんなに成長しようとも、それを確かめられるルイズではなかったのだ。 最後尾のギーシュは、一人うなっていた。 「何だか哀れになって、サイトの“こっちの世界にいるための偽りの動機”とやらを消すことに 賛成してしまったが……考えてみたら余計に可哀想なことをしてしまったんではないかな」 もしかしたら才人は、そう思うことで精神のバランスを取っていたのかもしれないのではないか、 とギーシュは今更ながらに考えていた。『こっちの世界で自分が出来ることをする』というのは、 使い魔だからというだけでなく、精神のバランスを取るために、才人の心が生み出した苦肉の策では ないのか。 でも、才人は故郷に帰ろうという素振りを見せたことはついぞないではないか、とも思い、 自分がもし使い魔として召喚されたら? と想像した。 「うーむ」 しかし上手く想像できなかった。ハルケギニアしか知らないギーシュには、他の土地の ことなんて思い描けなかった。 そのため考え方を変えてみた。今の才人の置かれている状況を、自分に当てはめてみたのだ。 まず女の子がいて、次にメイドの女の子がいて、もう一人小さな女の子がいて、最後に ハーフエルフだが巨乳の女の子。そして忘れちゃいけないのが、 「みんな可愛い、という点だな、うん」 ギーシュははた、と膝を叩いた。何だ、そんな場所に召喚されたら、帰る必要なんかないじゃないか! 何とも浅はかな結論にたどり着いたギーシュは、この事実を落ち込んでいるルイズに教えて やろうと駆け出そうとしたが、その時に後ろから肩をちょんちょんとつつかれた。 「ん? 誰だね。今、忙しいんだ。後にしてくれたまえ」 再び、その肩が叩かれた。 「全く、ぼくの肩を叩く奴は誰だ?」 ふと疑問を抱いた。一緒に村を発った者が全員、自分の前にいる。彼らが自分の肩を叩く ことは出来ない。ということは……。 「きみはサイトだな! うんそうだ。どうしたね。戻ってきたのかね。というかきみの言った通り、 あのティファニアという女の子、胸が大変にけしからんな! あれはちょっと本物かどうか、 確かめる必要があるとこのギーシュ、考えた。断然同意だろう? なあきみ!」 振り返ったギーシュは絶叫する。 「ぎぃやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」 それで前を歩くルイズたちは一斉に振り返った。彼らの顔は一瞬で青ざめる。 「な、何よあれ!」 いつの間にか自分たちの背後に、巨大怪獣が出現していた。 いや……あれも『怪獣』と呼んでいいものなのか? 身体の半分ほどもある異常な大きさの 一つ目から、手足が生えているかのような針の振り切れた異形。どう見てもまともな生き物 ではない。その眼が自分たちをジロジロ舐め回していた。 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 巨大な目玉そのものの怪物……奇獣ガンQが笑い声のような鳴き声を発した。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十四話「ラグドリアン湖のひみつ(後編)」 水棲怪人テペト星人 カッパ怪獣テペト カプセル怪獣ミクラス 大蛙怪獣トンダイル 登場 「か、怪獣よ! やっぱり出してきた!」 「ひぃッ! こっちに来るぅ!?」 テペト星人と戦いながら、怪獣テペトに目を向けたキュルケが叫び、ギーシュとモンモランシーは 半狂乱になった。テペトはラグドリアン湖の中央から、ザブザブ水を掻いて才人たちのいる岸辺へと 向かってくる。あれに上陸されたら、才人たちの勝ち目は一気になくなってしまう。 『才人! 俺たちの出番だぜ!』 「ああ!」 ゼロの呼びかけで、才人が懐のウルトラゼロアイに手を伸ばして触れた。だがその時、 「サイトぉ! わたし、怖いッ!」 「おわッ!?」 ルイズが後ろから才人に抱きつき、こっそり場を離れてゼロに変身しようとした彼を引き止めた。 「ル、ルイズ! 離すんだ! 今こんなことしてる場合じゃないだろ!」 このままでは変身できない。慌てて剥がそうとする才人だが、ルイズは余計に強く抱きつく。 「嫌ッ! サイト、どこにも行かないでぇ!」 「ああもうッ! こんな時までぇーッ!」 才人がてこずっている間にも、テペトは少しずつ迫り来ている。 『しょうがねぇ! 才人、こんな時にはアレだ!』 「ああ! 行け、ミクラス!」 仕方なく才人は青いカプセルを、周りに見られないようにこっそり投げ飛ばし、変身できない時の味方、 カプセル怪獣をテペトの前に出した。 「グアアアアアアアア!」 カプセルから出てきたミクラスがラグドリアン湖の水面に足を突っ込み、早速テペトへと 掴み掛かっていく。 「キャ――――――――!」 「グアアアアアアアア!」 テペトと両腕を捕らえたミクラスとの押し合いになるが、ミクラスの力の方が勝り、テペトを 突き飛ばして岸から引き離した。そして口から熱線を吐き、テペトの頭頂部の皿を撃つ。 「キャ――――――――!」 皿を焼かれたテペトは慌てて腰を折り、頭を湖面に突っ込んだ。水で皿を冷やすと頭を上げ、 改めてミクラスと向かい合う。 「グアアアアアアアア!」 ミクラスは水の抵抗を物ともせずにテペトに肉薄し、殴り合いで圧倒する。ミクラスの怪力に テペトは敵わず、一方的に押される。 「今の内に逃げられそうね……。ギーシュ、早く包囲を破ってよ!」 ミクラスが食い止めている中、生き残りのテペト星人にまだ囲まれている一行の内のモンモランシーが ギーシュに頼んだ。と、その時、彼女の頬を赤い舌がペロッと舐めた。 「あら? もう、ロビン。こんな時に甘えてこないでよ」 モンモランシーはそれをロビンと思い、たしなめたが、舌はペロペロ頬を舐め続けた。 「やめてったら! 聞き分けのない子ね」 と言っていたら、ギーシュが何やら顔を真っ青にしてこちらに視線をやっていることに気づいた。 「ギーシュ? 何ぼんやりしてるのよ」 尋ねると、ギーシュは震える手で自分を指差した。いや、よく見ると自分の足元を、だ。 「モ、モンモランシー……君の使い魔は、足元にいるよ……」 「え?」 下を見ると、確かに使い魔のカエルはモンモランシーの足元に控えていた。 「じゃあ、この舌は一体……」 自分の頬を舐めていた舌の正体を訝しむモンモランシー。よく考えれば、ロビンのものだとしても 大き過ぎだ。振り返って後ろを見てみたら……。 「カアアアアアアアア!」 赤い二つの目玉を人魂のように爛々と光らせている、カエルによく似た新たな巨大怪獣が、 地面から首だけ出して舌を伸ばしていた。モンモランシーの頬を舐めていたのは、その怪獣の舌だった。 「ぎゃああああああああああああああああああああッ!!」 モンモランシーとギーシュが絶叫を上げた。才人はすぐに端末で怪獣の情報を調べる。 「あいつは、大蛙怪獣トンダイル!」 その背後では、相変わらず才人にピッタリくっついているルイズが、モンモランシーと ギーシュを足したものよりも大きな悲鳴を上げた。 「嫌ああああああああああああ!! カエルうううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」 「うわぁッ!? お、おいルイズ!」 才人の身体からルイズの腕が離れたので、才人が慌てて振り返ると、彼女はコテンとその場に 倒れ込んで気絶した。小さなロビンも怖がるくらいだったので、超巨大なトンダイルを見て、 恐怖のあまり精神を保てなかったのだろう。 「ルイズ! ルイズったら!」 「駄目だぜ相棒。娘っ子、完全に気を失ってらあ」 才人が何度も呼びかけても、ルイズは目を覚まさない。デルフリンガーが呆れて言った。 「カアアアアアアアア!」 トンダイルは土の中から全身を出すと、才人たちには構わず湖の中に入る。そして口から 火炎を吐いて、テペトを追い詰めているミクラスを背後から攻撃した。 「グアアアアアアアア!」 背中を焼かれたミクラスが反り返ってよろめいた。その隙にテペトが持ち直し、反撃を行う。 「キャ――――――――!」 「カアアアアアアアア!」 トンダイルも同時に攻撃を仕掛ける。ミクラスは前後から挟み撃ちで叩きのめされ、一気に 窮地に追い込まれてしまった。 「トンダイルもテペト星人の配下なのか……!」 状況からして、テペト星人はトンダイルも支配下に置いているようだ。ミクラスのピンチに 焦る才人だが、不幸中の幸い、一番厄介だったルイズが離れた。これでゼロに変身できる。 「みんな! ルイズを安全な場所まで連れてく! 気をつけてくれ!」 「分かったわ!」 素早くルイズを背負って仲間たちに告げると、デルフリンガーを片手にテペト星人の集団へ 斬りかかっていった。 「おらおらぁー! どけどけぇッ!」 目の前の敵を斬り伏せて強引に包囲を突破すると、全速力で森の中に姿を隠した。そして湖から 離れたところでルイズを降ろしてそっと木に寄りかからせた。スヤスヤ眠っている姿に、ほっと息を吐く。 「デュワッ!」 満を持してウルトラゼロアイを取り出し、顔に装着して変身した。 「キャ――――――――!」 「カアアアアアアアア!」 テペトとトンダイルは、膝を突いたミクラスを容赦なく叩きのめし続けている。そこに、 森から飛び出したウルトラマンゼロが飛び蹴りの姿勢でラグドリアン湖へ急降下していく。 「ダァー!」 「カアアアアアアアア!」 鋭いゼロキックはトンダイルの頭部に決まり、トンダイルを横転させた。テペトはゼロの 乱入に驚いて、殴る手を止める。 「デヤァッ!」 「キャ――――――――!」 そのテペトの胸の中心にも横拳が入り、弧を描いて吹っ飛んでいく。敵怪獣を湖に沈めたゼロは、 ボロボロのミクラスを助け起こした。 『よく頑張ってくれたな、ミクラス。戻ってくれ』 ミクラスを気遣って、カプセルの中に戻した。それと同時に、トンダイルが水を掻き分けて起き上がる。 「カアアアアアアアア!」 トンダイルは口から、今度は赤い球体をいくつも吐き出してゼロへ飛ばす。これは本来 獲物を中に閉じ込め、冬眠中の保存食にするためのトンダイルカプセルだ。武器としても 使うことが出来るようだ。 『はッ! こんなヒョロ玉食らうかよぉ!』 しかしゼロはトンダイルカプセルを全て素手で叩き落とした。それからトンダイルに一瞬で飛び掛かり、 首元に水平チョップを入れる。 「カアアアアアアアア!」 『おらおらぁッ!』 早く鋭いチョップでひるませたところで、でっぷりと突き出た腹をボコボコに殴る。トンダイルは ゼロのラッシュになす術なく、大きくたじろいだ。 一見優勢なゼロだが、ここで違和感に気づいた。 『ん? テペトはどこ行きやがった?』 今湖面に立っている敵はトンダイルだけで、先ほど沈んだテペトが浮き上がってこない。 そう思った矢先に、 「キャ――――――――!」 『うおうッ!?』 水中を音もなく移動して近寄ってきていたテペトが、ゼロの足首をすくい上げて転倒させた。 仰向けに倒れたゼロに、すかさずテペトとトンダイルのタッグが覆い被さるように襲い来る。 「キャ――――――――!」 「カアアアアアアアア!」 『ぐッ! こ、こいつら! げぶッ!』 ゼロはテペトに腹部を、トンダイルに顔面を踏みつけられ、湖の中に押し込まれていく。 「ゼロが危ないわ!」 「危ないのはこっちも同じだよぉ!」 キュルケが叫ぶが、直後にテペト星人がまた一人飛び掛かってきたので、火炎で黒焦げにした。 メイジたちは依然としてテペト星人と交戦しており、ゼロを援護する余裕はない。 「キャ――――――――!」 「カアアアアアアアア!」 テペトとトンダイルはそれをいいことに、情け容赦なくゼロを水の中に沈める。テペトが ゼロの腹を散々に殴りつけ、トンダイルが顔を鷲掴みにして湖中にグイグイ押し込む。 すっかり水中に浸かったゼロだが、その瞬間に、彼の沈んだところから赤い輝きが巻き起こった。 『おらあああああッ! 調子づくんじゃねええぇぇぇぇぇぇぇッ!』 「キャ――――――――!?」 「カアアアアアアアア!」 直後に、怒声とともにストロングコロナゼロが超パワーで立ち上がり、その勢いでテペトと トンダイルをはね飛ばした。 即座に起き上がって二人がかり、いや二体がかりでゼロに襲い掛かるが、トンダイルは顎に 拳をもらい、テペトはみぞおちに肘鉄を入れられてあっさりと返り討ちにされた。 『ふんッ!』 更にゼロは二体の頭をむんずと掴むと、引き寄せてゴチン! と激しくぶつけさせた。 互いに頭を打った怪獣たちはフラフラと後ろへ倒れる。 「カアアアアアアアア!」 その内に、トンダイルが四つん這いの姿勢のまま逃亡を始めた。ゼロに敵わないと見ての行動だが、 トンダイルは根っからの人食い怪獣。みすみす逃がす訳にはいかない。 「セアッ!」 ゼロは通常の状態に戻ると、ほうほうの体で逃げるトンダイルの背にワイドゼロショットを撃ち込んだ。 必殺光線を食らったトンダイルは一瞬で爆散した。 トンダイルを倒したらテペトの番とばかりにゼロが振り返る。すると慌てたテペトが、 予想外の行動に出た。 「キャ――――――――!」 両手をこすり合わせて頭をペコペコ下げ、許しを乞い始めたのだ。 「怪獣が命乞いしてるわ……」 「呆れた……」 その光景を見たキュルケとタバサが、冷めた視線を送った。 「……」 ゼロは無言で腰に手を置き、テペトのことをじっと見つめる。テペトはすがりつくように、 黙ったままのゼロを拝み倒すが、 深く頭を下げた瞬間に、皿から怪光線を発射した! 『おっと!』 しかしそれは、ゼロが咄嗟にバツ印に組んだ腕にガードされた。それを見て、テペトは後ろに 倒れ込むと水中に潜り込み、泳いで逃げ出した。 『そんなしょっぱい騙し討ちに引っ掛かるかよぉ!』 言い放ったゼロは頭からゼロスラッガーを放り、水中に潜り込ませる。直後にザシュッ! と気持ちのいい音が鳴り、ふた振りのスラッガーが湖から飛び出してゼロの頭に戻った。 その後に、スラッガーに十字に切り裂かれたテペトの破片が四つ浮かび上がってきた。 「最後!」 ゼロが二体の怪獣を倒すのと、タバサが最後に残ったテペト星人にとどめを刺したのは ほぼ同時だった。地上に現れた敵が全て倒れると、ラグドリアン湖よりテペト星人の円盤が浮上し、 空へ向けて飛び上がる。このまま宇宙へ逃れようというつもりか。 「ジュワッ!」 しかしその円盤も、エメリウムスラッシュを受けて木端微塵に吹き飛んだ。敵を全滅させたと 判断したゼロは、空の彼方へと飛んで去っていった。 「みんなー。大丈夫だったか?」 元に戻った才人は、未だ眠り込んだままのルイズを背負い、岸辺へと帰ってきた。するとギーシュが咎める。 「遅いぞきみ! 敵はとっくにこのギーシュ・ド・グラモンが片づけてしまったよ」 「あんた、ほとんど何もしてなかったでしょ」 さっきまでの恐慌ぶりがどこへやら、見栄を張るギーシュにキュルケがツッコミを入れた。 そんな漫才のようなやり取りは置いておいて、モンモランシーが湖に目を向けて皆に呼びかける。 「みんな! 精霊の気配が戻ったわ!」 「本当か!? 良かった! これでルイズを元に戻せるな!」 それを聞いて、才人が一番喜んだ。 「水の精霊が戻ったのと、涙をもらえるかどうかは別の問題よ」 「細かいことはいいよ! とにかく、早く呼んでくれ」 才人に急かされて、モンモランシーがもう一度ロビンを湖中に送った。すると今度は、 水面が盛り上がって、水がアメーバのような形になった。これがモンモランシーの言う、 水の精霊らしい。 「水の精霊。わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。 水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。覚えていたら、わたしたちにわかるやりかたと 言葉で返事をしてちょうだい」 モンモランシーが呼びかけると、盛り上がった水はぐねぐねと形を変え、モンモランシーそっくりの 姿になった。才人は驚いて目を丸くした。 「覚えている。単なる者よ。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」 水の精霊はモンモランシーに答えると、彼女が何か言う前に言葉を紡いだ。 「まずは、貴様たちが我を捕らえ、我を支配しようとした、この世界とは異なる外の世界から 現れた異な者どもを退けたことについて礼を言おう。我は湖の奥深くに身を隠しながら、全てを見ていた」 「水の精霊がお礼! そんなの、滅多にないことよ」 モンモランシーが驚愕してつぶやくが、才人は水の精霊の発言に関心を持った。 「それって、テペト星人のことか? やっぱり、あいつらがいたからあなたは隠れてたんだ。 テペト星人は、あなたを捕まえようとしてたんだな」 聞き返した才人に、水の精霊が肯定する。 「そうだ。あの異な者どもは、この世界の理とは異なる不可思議な力を用いて、我を支配しようとした。 当然我は抗ったが、奴らは水を阻む鋼鉄の船から出てこなかった故に、我は手出しが出来なかった。 そのため、我は身を隠す以外になかった」 「水の精霊は、水に関しては万能だけど、相手が水に触れなかったら無力なの。そこを突かれたのね」 モンモランシーが補足説明を入れた。 「テペト星人、そういう目的でここに潜んでたのか……。もし水の精霊が操られてたら、 大変なことになってただろうな」 「侵略者の魔の手って、精霊にまで及んでたのね……。今回は失敗だったけど、ぞっとするわね……」 才人とキュルケのひと言で、一同は背筋を寒くした。しかし今は才人たちに、最優先の目的があるのだ。 モンモランシーが頼み込む。 「水の精霊よ、お願いがあるの。あなたの一部がすぐに必要なの。わけてはもらえないかしら?」 その頼みを、水の精霊は快く引き受けた。 「よかろう。貴様らは我を脅かす者どもを退治した。その恩に報いるのが道理」 「やったわ! 精霊にお願いを通すのは、本当はとても難しいことなのよ。わたしたちは、 ある意味ラッキーだったわね」 水の精霊が細かく震えると、ぴっ、と水滴のように、その体の一部がはじけ、一行の元へととんできた。 それが『水の精霊の涙』だ。ギーシュが慌てて持ってきた壜で受け止めた。 水の精霊は用を済ませると、すぐに水底に戻っていきそうになった。だがそれをキュルケが呼び止める。 「ちょっと待った! アタシとタバサは、実はもう一つあなたに用があるのよね」 「え? そうだったんだ」 才人らが驚いた顔をしていると、水の精霊が戻ってきて、キュルケに問い返した。 「なんだ? 単なる者よ」 「あなたが湖の水かさを増やすのを止めて、この辺りの洪水を引いてもらいたいのよ。あー…… 水浸しになったせいで、タバサの領地に被害が出てるから、元に戻すようにとの使命も受けて アタシたちは来たのよ」 確かに、時期的に考えて、洪水とテペト星人の襲来は別問題。このままだと辺りの土地は元に戻らない。 だがキュルケの頼みは、水の精霊は断る。 「ならぬ。貴様らへの恩は、先ほどのもので返した」 だがキュルケは引き下がらない。切り込み方を変えてみる。 「だったら、水かさを増やす理由を教えてくれない? アタシたちに解決できることなら、 なんでもするから」 それを聞くと、水の精霊は少し間を取ってから、返答した。 「お前たちに、まかせてよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我への脅威を取り払った。 ならば信用して話してもよいことと思う」 前置きしてから、水の精霊は理由を語り出した。 「数えるほどもおろかしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前たちの同胞が盗んだのだ」 「秘宝?」 「そうだ。我が暮らすもっとも濃き水の底から、その秘宝が盗まれたのは、月が三十ほど 交差する前の晩のこと」 おおよそ二年前ね、とモンモランシーが呟く。 「我は秘宝を取り返したいと願う。大地を水が浸食すれば、いずれ秘宝に届くだろう。 水がすべてを覆い尽くすその暁には、我が体が秘宝のありかを知るだろう」 「な、なんだそりゃ。気が長いやつだな」 途方もないほど時間の掛かるやり方に、才人が呆気にとられた。 「我とお前たちでは、時に対する概念が違う。我にとって全は個。個は全。時もまた然り。 今も未来も過去も、我に違いはない。いずれも我が存在する時間ゆえ」 水の精霊の目的を知ったキュルケがうなずく。 「分かったわ。だったらアタシたちでその秘宝を取り返してあげるわ。それでいいでしょ、タバサ?」 タバサもコクリとうなずいた。それからキュルケが肝心なことを聞く。 「なんていう秘宝なの?」 「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」 「なんか聞いたことがあるわ」 モンモランシーが呟く。 「『水』系統の伝説のマジックアイテム。たしか、偽りの生命を死者に与えるという……」 「そのとおり。死は我にはない概念ゆえ理解できぬが、死を免れぬお前たちにはなるほど 『命』を与える力は魅力と思えるのかもしれぬ。しかしながら、『アンドバリ』の指輪が もたらすものは偽りの命。旧き水の力に過ぎぬ。所詮益にはならぬ」 「そんなシロモノを、誰が盗ったんだ?」 「風の力を行使して、我の住処にやってきたのは数個体。内の一人が、こう呼ばれていた。 『クロムウェル』と」 「聞き間違いじゃなければ、アルビオンの新皇帝の名前ね」 キュルケのひと言で、才人たちは嫌な予感を覚えた。アルビオン新政府と、侵略者が与しているのは、 タルブでの一戦で明らかになったこと。もし『アンドバリ』の指輪をクロムウェルが盗んだのなら、 当然それは宇宙人たち、延いてはヤプール人の手元に……。 「偽りの命とやらを与えられたら、どうなっちまうんだ?」 「指輪を使った者に従うようになる。個々に意思があるというのは、不便なものだな」 「とんでもない指輪ね。死者を動かすなんて、趣味が悪いわね」 呟いたキュルケが、水の精霊に請け負う。 「分かったわ! その指輪を取り返してくるから、水かさを増やすのを止めて!」 水の精霊はふるふると震えた。 「わかった。お前たちを信用しよう。指輪が戻るのなら、水を増やす必要もない」 「いつまでに取り返してくればいいんだ?」 「お前たちの寿命がつきるまででかまわぬ」 「そんなに長くていいの?」 「かまわぬ。我にとっては、明日も未来もあまり変わらぬ」 そう言い残すと、水の精霊はごぼごぼと姿を消そうとした。 「待って」 その瞬間、タバサが呼び止めた。その場の全員が驚く。タバサが他人を……、いや人じゃないけど、 呼び止めるところなんて初めて見たからだ。 「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」 「なんだ?」 「あなたはわたしたちの間で、『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」 「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違う。ゆえにお前たちの考えは我には深く理解できぬ。 しかし察するに、我の存在自体がそう呼ばれる理由と思う。我に決まったかたちはない。しかし、 我は変わらぬ。変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」 タバサは頷いた。それから、目をつむって手を合わせた。いったい、誰に何を約束しているのだろう。 才人たちにはとんと見当がつかなかったが、唯一事情を知るキュルケは、その肩に優しく手を置いた。 才人たち一行が水の精霊の涙を手に入れて、学院に帰還している頃。アルビオン大陸の、 新政府の中心地の城にある、皇帝クロムウェルの部屋の中で、クロムウェルと秘書のシェフィールドが 虚空を見上げていた。 するとその虚空が、突然音を立てて割れた。比喩の類ではない。本当に、ガラスを割ったかのように 空中が割れたのだ。そしてその中には、赤く歪んだ空間とその中で蠢く何人もの怪人の姿がある。 それがヤプール人。宇宙人連合をハルケギニア世界に引き入れ、今アルビオンを傀儡としている黒幕の正体だ。 『そうか。テペト星人が散ったか。これで連合も、大分数が減ったな』 ヤプールはテペト星人がラグドリアン湖でゼロに敗れたことの報告を受けた。だがそれを聞いても、 少しも憐れむ様子を見せず、それどころか呆れたように鼻を鳴らした。 『まぁ、どうでもいいことだ。所詮、あんなゴロツキどもにはあまり期待を寄せてなかった。 超獣を十分に育成するまでの繋ぎだ』 「それで、我が支配者よ。次はどのような手を打たれますか? このままウルティメイトフォースゼロに 大きな顔をさせておいては、人間どもが発するマイナスエネルギーが低下するものと思われますが」 クロムウェルが淡々と呟くヤプールに指示を仰いだ。 しかし、本物のクロムウェルはとっくに処分されている。成り代わったナックル星人も、 タルブ戦で息絶えた。だというのに、クロムウェルがまだいる。今度は一体何者が化けているのか。 『我らが支配者! 今度はわたくしめに出撃の命令を! 最早宇宙人連合など、アテにはなりませぬ』 クロムウェルの部屋に、緑色の目をした怪人がどこからか空間転移により現れた。両手は ハサミになっており、頭部には紅葉に似た大きなヒレが生えていて、その派手さにより目を引きつけられる。 この怪人の名はギロン人。どこの星の宇宙人かは定かにはなっていないが、雇われの宇宙人連合とは違い、 ヤプール人に直接仕えて忠誠を誓う異星人なのだ。 『私に超獣を何体かお貸し頂ければ、ウルティメイトフォースゼロなど、軽くひねってやりましょうとも!』 ゼロたちの強さを知ってか知らずか、やたら大きなことを述べるギロン人に、ヤプール人が返答する。 『ならぬ。超獣はまだ育ち切っていない。今のままではウルティメイトフォースゼロには勝てん。 超獣を出すのは、もっとマイナスエネルギーを集めてからだ』 『はッ! 出過ぎた真似を致しました!』 ギロン人はあっさりと申し出を取り下げた。ヤプール人に危ういほどに心酔しているようだ、 と傍観しているシェフィールドは評した。 『しかし、ギロン人、お前には出撃してもらうことにしよう。差し当たっては、こいつらを使うといい』 ヤプール人が片手を上げると、部屋の片隅の鉢植えが突然ガタガタと音を立てて揺れた。 シェフィールドらが目を向けると、その陰から正体不明の物体がいくつか這い出てきた。 「ほう、これらは……支配者よ、また面白いものをご用意されましたな」 シェフィールドは出てきたものが何か知らなかったが、クロムウェルとギロン人には心当たりが あったようだ。ニヤニヤと不気味な笑みを見せている。 『そしてもう一つ。ウルティメイトフォースゼロを釣り出すのに、餌が必要だ。その餌は、 こいつが適任だろう。入ってこい』 更にヤプール人の指示により、扉が外から開かれて金髪の凛々しい顔立ちの、だが顔に 生気が全く見られない、気味の悪い青年が入ってきた。 『まずはこいつを使って、トリステインの新女王、アンリエッタを釣り上げる。それで奴らは 必ず誘き出される。そこを一気に畳んでしまえ! ギロン人!』 『ははぁッ! お任せ下さい!』 背筋を正してヤプール人に応えるギロン人。 その背後に控えた、新しく入ってきた青年は、王党派と貴族派の最後の決戦の折に、 ワルドに殺害されたはずのウェールズ皇太子だった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間その五「その時ウルトラセブンは」 宇宙斬鉄怪獣ディノゾール 宇宙斬鉄怪獣ディノゾールリバース 登場 M78ワールド。それは皆ももうよく知っている、我らがウルトラマンゼロの故郷。M78星雲の存在する、 数多のウルトラ戦士の宇宙である。 その宇宙の一画で現在、赤い流れ星が青い流れ星を追いかけ、広大な宇宙を横断していた。 「キャァ――――――――!」 青い方の正体は、青みの掛かった外骨格に全身を包んだ大怪獣。日本の尻尾をたなびかせ、 四つもある眼をギラギラと光らせる。下顎は左右に二つに分かれ、金属音に似た甲高い雄叫びを上げる。 この怪獣の名はディノゾール。驚くほどに長い歯舌を振り回し、あらゆるものを両断してしまう 恐ろしい攻撃力を持った宇宙怪獣だ。 そしてそれを追跡する赤い流れ星の正体は、銀と赤のボディの中央に菱形の青いカラータイマーを 輝かせる、我らのウルトラ戦士だ! 「セアァッ!」 ウルトラ戦士は十字に組んだ腕から黄金色の光線を発射! その光線はディノゾールの首に見事命中! 首から上が丸ごと爆散したディノゾールは高度を落としていき、宇宙に漂う小惑星の表面上へと 墜落していった。ウルトラ戦士もその後を追い続け、小惑星上に飛び込んでいく。 「タァッ!」 ダァンッ! と土煙を巻き上げて着陸した、若々しくも雄々しい雰囲気を纏った勇姿。 彼の名は、ウルトラマンメビウス! 一方、首を失い上下逆さまに地面に刺さったディノゾールだが、命が失われたはずの肉体が 突如として不気味にうごめき出した。二本の尾が引っ込んだかと思えば、二つの新しい頭部を 持った首へと変形。手足もメキメキと形を変え、腕は脚部に、脚は背面を覆う装甲と化す。 首のあった部分からは新たな尾が伸び、上下反転した姿勢のまま別の怪獣へと生まれ変わった! 「キャァ――――――――! カァァァァァァッ!」 この姿は通称ディノゾールリバース。肉体の極性を反転させて復活するという、数いる怪獣の中でも 他に類を見ない極めて特異な性質を持っているのだ。最大の武器の歯舌が二本となることで戦闘力は 増大するが、宇宙怪獣に最も大事な飛行能力は失われる。そのため、群れを作るディノゾールに 強大な外敵が現れた時、一匹が犠牲となって群れ全体を逃がす生存本能の発展した末に生じた 特殊な再生能力と囁かれている。 「セアッ!」 復活したディノゾールリバースに、メビウスは勇敢に立ち向かっていく。しかし接近しようと 駆け出したその時に、ディノゾールリバースが先手を取って双頭から歯舌、断層スクープテイザーを伸ばした。 シュンシュンッ、と線が宙を舞い踊った、かと思われた次の瞬間、メビウスの身体を恐ろしく速い斬撃が襲う! 「ウワァッ!」 ダメージをもらうメビウスの後方で、小惑星の岩山の先端が綺麗に切断され、地面へと滑り落ちていった。 ディノゾールの歯舌は最長百万メートルにも及ぶ長さに対して、直径はわずか一オングストロームしかない。 そのため、ウルトラ戦士の視力を以てしても見切るのは困難。しかもそれが二本となっては、メビウスの苦戦は むしろ当然といったところだ。 「キャァ――――――――! カァァァァァァッ!」 ディノゾールリバースは凶刃の舌の二刀流を存分に振るい、メビウスをもてあそぶように苦しませる。 メビウスは相手の猛撃に、なかなか反撃に出ることが出来ない。 しかしメビウスも立派な勇士の一人。このくらいでは参らなかった! 「シャッ!」 左腕に装着したメビウスブレスから引き出したエネルギーを両手に宿らせることで、手刀を文字通りの 光刃と化す。ライトニングスラッシャーだ! 「ハッ! タッ! セアァッ!」 そして猛然と前へ駆け出すメビウス。断層スクープテイザーが飛んでくるが、メビウスは恐るべき 凶器を見事に見切り、手刀でぶつ切りにしていく! 自身の一番の武器を切り落としながら接近してくるメビウスにディノゾールリバースは 恐れおののいた。しかし行動を取ろうとした時にはメビウスは肉薄し切り、すれ違いざまに 相手の胴体を水平に切り裂く! 「キャァ――――――――! カァァァァァァッ!」 大ダメージをもらったディノゾールリバースの動きが大幅に鈍る。一方で振り返ったメビウスは、 再びメビウスブレスに沿えた右手を走らせてエネルギーを引き出す。両手を頭上へ持っていくと、 輝く光の帯が無限を示すメビウスの輪を作り上げる! 「セアァーッ!」 そして発射する、必殺のメビュームシュート! その一撃は、ディノゾールリバースを 跡形もなく吹き飛ばした! 逆転勝利を飾ったメビウス。そんな彼から少し離れた二か所の地点に、ウルトラ戦士と 別のディノゾールが一対ずつ着陸する。 「キャァ――――――――!」 二体の別個体のディノゾールに相対しているのは、紅蓮の鋭き眼差しの戦士と荒々しくも 女性的な柔和さを面影に両立した不思議な戦士。 偉大なる先輩戦士、ウルトラセブン! そしてウルトラマンエース! 「キャァ――――――――!」 ディノゾール二体は彼らに歯舌の斬撃を繰り出す。だがさすがは歴戦の勇士たち。ほぼ不可視の 攻撃を見切り、難なく回避した。 「ジュワッ!」 セブンは頭部のアイスラッガーを投擲。ゼロスラッガーの元祖とも言える宇宙ブーメランは素早く 断層スクープテイザーを根本から切断し、ディノゾールから武器を奪った。 「キャァ――――――――!?」 「ジュワーッ!」 ひるむディノゾールにセブンは右腕を脇に、左腕を胸の前に置いた姿勢を取り、額のビームランプから 緑色のレーザー光線を照射! これぞ必殺のエメリウム光線だ! 「キャァ――――――――!!」 エメリウム光線の一撃はディノゾールを一瞬で爆裂させた! 「トアァーッ!」 エースの方もディノゾールへ必殺の光線技を放とうとしていた。両手にエネルギーを溜めると それを額のランプまで持っていき、更に増幅して集中。最後に両手から赤色光線として発射。 パンチレーザーの強化版、パンチレーザースペシャルだ! その攻撃により、最後のディノゾールも粉々に粉砕された。三体の怪獣を倒すと、メビウスが 二人の戦士の元まで歩み寄って話し掛ける。 『セブン兄さん、エース兄さん、この宙域の怪獣は全て倒したみたいです』 『うむ、これでひと安心だな。しかし、他の場所ではまだまだ怪獣が暴れていることだろう。 ひと息ついている暇はない』 セブンがうなずきながらもそう語った。 ゼロがハルケギニアに赴いた頃と前後して、M78スペース全体で怪獣が凶暴化し、各地で多大な 被害を出す事態が相次いでいた。そのため宇宙警備隊は宇宙のあらゆる場所にウルトラ戦士を 向かわせ、事態の鎮静化を図っているのだ。しかし未だにその目途は立っていない。 メビウス、セブン、エースの三戦士も、群れから離れて人の住む惑星を襲撃しようとしていた ディノゾールたちを発見し、被害を未然に防ぐためにやっつけたのであった。 『80によると、宇宙全体のマイナスエネルギーが増大傾向にあります。原因を突き止めねば、 どれだけ怪獣と戦ったところで事態の解決にはならないでしょう』 とエースが意見する。 『しかし、その原因が一向に掴めないのがもどかしいところだ。私たちはその時まで、怪獣の被害を 食い止めねばならない』 セブンがそう言い、新しい現場に向かおうとしたその時、不意に星空の彼方を見上げた。 『む……!』 『セブン兄さん、どうしましたか?』 メビウスが怪訝そうに尋ねると、セブンは二人に向けて告げた。 『……次元の彼方から、ゼロの気配が途絶えた』 『えぇッ!?』 この時、ハルケギニアではちょうどゼロが、己の命を引き替えにしてヤプールの膨大な闇を 祓ったところであった。セブンは親子の絆といえる超感覚により、その事態をキャッチしたのだった。 エースとメビウスは泡を食う。 『大変なことではないですか! まさかヤプールに……!』 『セブン兄さん! やっぱり、あなただけでもゼロの元へ向かうべきですよ!』 メビウスはそう意見したが、それを却下する声が降ってきた。 『いや、その必要はない』 『! ゾフィー兄さん!』 見上げると、ウルトラマンによく似た容姿の戦士が彼らの元に降りてくるところだった。 胸と両肩には、点の列が飾られている。 彼の名前はゾフィー。偉大なウルトラ兄弟の長男にして、宇宙警備隊の隊長を務める、 ウルトラの星でも特に重要なポストの戦士なのだ。 そのゾフィーが語る。 『意識を集中すればわかるだろう。一時は異次元から強烈に感じられた、ヤプールの闇の波動が なくなっていることに。ゼロはヤプールに勝ったに違いない』 『しかし、ゼロは相討ちになったみたいです! 彼の生存も危うい状況ですよ! ゼロの命を助けなければ……!』 メビウスが反論するが、肝心のセブンがそれをさえぎった。 『いや、ゼロなら大丈夫のはずだ』 『セブン兄さん……!?』 『ゼロも今や立派なウルトラ戦士だ。ウルトラ戦士は、そう簡単に死んだりはしない。ここにいる全員が、 そのことを分かっているはずだ』 どのウルトラ戦士も、楽に戦いを終わらせた経験などほとんどない。誰もが厳しい戦いをくぐり抜け、 死の淵に瀕することもあった。しかし、彼らは悪にどれほど追い詰められようとも、最後には復活して 逆転を果たした。セブンもメビウスもエースも、そんな経験をしている。 『その理由は、守るべき人たちの声が私たちの命を支えてくれたから。ゼロだって、今は気配が 感じられなくとも、助けを求める声があれば必ず再び立ち上がるだろう。私はそれを信じている』 父親であるセブンがそう言う以上は、エースとメビウスに異論はなかった。 『セブン兄さんが信じるのでしたら、俺も信じますよ。ゼロの復活を!』 『はい! ゼロが帰ってくる日を僕も待ちます!』 四人のウルトラマンは、宇宙の果ての更に先、ハルケギニアの宇宙のどこかにいるはずのゼロに思いを馳せた。 『ゼロ……お前の光は不滅だということを、この父に示してくれ!』 セブンは、今はどこにいるか分からないゼロに向けて、願いを込めた。 ……その頃の、惑星ハルケギニア。シティオブサウスゴータから南西に百五十リーグ近くも 離れた森の中に、突如として一人の少年の姿が虚空から飛び出すように出現し、そのまま地面に うつ伏せに倒れ伏した。 少年の背負う剣が声を発する。 「どうにか成功か……。まったく……、“使い手”を動かすなんざ何千年ぶりだ? しかもこんな やり方は初めてだぜ……」 嘆息したのはデルフリンガー。彼を背負う少年はもちろん、才人である。 デルフリンガーはヤプールの闇をかき消すゼロの光が消えかけた正にその瞬間、吸い込んだ魔法の分だけ ガンダールヴの肉体を動かす能力の応用で、ゼロのテレポーテーション能力を使ってゼロ=才人を脱出させたのであった。 「相棒、滅茶苦茶まずい状態だぜ……。俺っちももう魔法が切れちまったし、どうしようもできねえ。 近くに人がいればいいんだが……そもそもここはどこだ……」 デルフリンガーは自分たちがどこへ飛んだのかも知らなかった。しかしそれは無理のないことだろう。 試したこともない手法をぶっつけ本番で実践した上に、テレポートの瞬間がわずかにも早かったら ヤプールを倒し切れず、わずかにも遅かったらゼロと才人は消滅していたというシビアすぎる タイミングだったのだ。転移先を選ぶ余裕があるはずがない。無事に着地できただけでも奇跡のようなものだ。 それは非常に分の悪い賭けであった。しかもその賭けはまだ続いている。ここで才人が助からなければ、 結局は何の意味もないのだ。 「相棒、お前さんの運が『虚無』の魔法並みに強けりゃ、まだ助かる道があるんだがな……」 ともかく、もうデルフリンガーは一歩も動けない。才人が助かるか否かは、天命に預けるしかない。 ……その時、彼らの近くの樹の陰から、ガサガサと物音が立った。 「お?」 目はないが、視線を向けるデルフリンガー。どうやら近づいてくる気配は、獣のものではないようだ。 「……へへッ。相棒、お前さんはツキに見放されてないみてえだな」 倒れ伏す才人の元へと、人影がそっと近づいてきた。 流れるような美しい金の髪から覗く耳は――人間ではありえないほどにとがっていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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監督教官のコルベールはほぼ満足していた。 新2年生のほぼ全員が使い魔の召喚と契約を無事済ませていたからだ。 (なまじ高等な幻獣を召喚されたら契約するだけで一苦労ですからねぇ) 生徒達が自分の力量と特性を見極め、それに見合う使い魔を召喚し、メイジとしての自分自身のあり方を見定める。 これが2年生最初の授業にして伝統の儀式「春の使い魔召喚」の目的だった。 とはいえ、 (まあ、やっぱりというか、予想に反してというか…) 今年度最大の問題児のみ、まだ使い魔との契約を済ませていない、という点だけは不満足だった。 その問題児、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが問題児たる所以は、通常のように 素行不良や成績不振、または対人関係といった人間的な部分には無い。 魔力はあれど術を一切使えないという、メイジとしての存在意義そのものを危うくするほどの欠点を、 彼女が持ち合わせていた事、ただそれだけ。 コルベールの予想通りだったのは、ルイズの召喚魔法が常識外れの結果に終わった事。 コルベールの予想と異なっていたのは、ルイズが一発で使い魔の召喚に成功した事。 そしてコルベールの予想を遥かに超えていたのは、召喚した使い魔が人間だった事。 「ミスタ・コルベール!もう一回だけ召喚させて下さいっ!」 嘆願、と言うよりもわめき散らすルイズを前にして、 (さてどうしたものか) 極力表情を表に出さないように、コルベールは悩む。 召喚した使い魔が気に入らないという理由でのやり直しなぞ、到底認められるものではない。 それは使い魔召喚という儀式とその目的を、ひいてはトリステイン魔法学園の伝統を、乱す事に他ならないからだ。 一方、自分が知る限り、人間を使い魔として召喚、使役したメイジなぞ聞いた試しもない。 コルベールはより無難な回答を出すことに決めた。 「それは駄目だ。召喚に成功したのなら、それが君の使い魔となるべき者なんだ。例えそれが…」 改めてルイズが召喚した人間を観察する。 がっしりとした筋肉質の若い男。立ち上がると身長は2メルテもありそうだ。 どこか気品のある、それでいて垢抜けない仕草は辺境出の貴族のようにも見える。 杖は持っていない。衣装も見慣れぬ物だ。身分を示すような装飾品も見当たらない。 「…平民だったとしても例外ではない。これがこの儀式のルールであり伝統だと説明したはずだがね」 目に見えて落胆するルイズ。他の生徒達は口々にはやし立てる。 「さあ、契約を済ませ、儀式を完遂するんだ、ミス・ヴァリエール」 召喚した平民のもとへ渋々と戻り、その場に座らせてから、杖を振り、口訣を結ぶ。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」 唇を合わせようとルイズが顔を近づけると、平民の男が突然立ち上がる。 「な、何をするだァーッ!ゆるさんッ!」 「ちょっと!じっとしてなさいよ!」 「何てふしだらなんだ君はッ!こんな人目のある所で、見ず知らずの男である僕にッ!」 「あんたは私の使い魔なんだから言うこと聞きなさいよ!」 「僕は紳士だ!愛してもいない女性から誘惑されるなど願い下げだッ!」 「いいから座りなさい!あたしが届かないじゃないの!」 「君の言うことを聞くつもりはないッ!」 まるで会話が噛み合っていない。 (ああ…もうどうしたもんだか) コルベールは頭を抱える。授業時間はとっくに終わっているのに、これ以上面倒を増やして貰いたくはなかった。 「結構いい男じゃないの、ねぇタバサ?」 赤髪の女生徒キュルケの問いかけに、 「…」 青髪の女生徒タバサは特に答えを返さない。 早々に自分の使い魔と契約を結んだ二人はルイズと使い魔のちぐはぐな口喧嘩の推移を見守っていたが、 「それにしてもいつまでやってんだか」 まるで話が進まないのでいい加減飽きてきた。 「さっさと押し倒してキスしちゃえばいいのにねぇ」 「相手が大きすぎる」 「あなたなら『風の槌』でブッ倒しちゃうんじゃない?」 「手助け禁止」 「あ」 男の眼前で小さな爆発が生じる。 怯んだ男が膝を屈した所でルイズはその頭を両手で掴み寄せ、強引にキス。 「うわお、情熱的ぃ」 にやにやと嫌な笑みを浮かべるキュルケ。 ジョナサンは目の前で拳銃を発射されたような衝撃と爆音にもうろうとしていた。 (な、何を…?) 視覚と聴覚が白く塗り潰された中で、頭を掴まれ、唇に何かが触れる。 「はっ、離すんだッ…」 掴まれた頭をふりほどき、どうにか立ち上がろうともがくが、 「うおおおおおお!」 左手に生じた焼け付くような痛みにうめき声を上げ、またその場に膝まづく。 「終わりました、ミスタ・コルベール」 ルイズは複雑な心境で一礼した。 失敗魔法の爆発で使い魔の平民-ジョナサンに目くらましを浴びせ、その隙に契約を成功させたのは 我ながら胸がスカッとする機転だった。 が、そもそもその魔法が失敗だったこと、そして何よりも自分の使い魔がどこの馬の骨とも知らない平民であることは はなはだ不服でならなかった。 更に悪いことに、コルベールはジョナサンの左手に刻まれた使い魔のルーンを一目見るなり、 「ふむ…珍しいルーンだな」 とだけ呟き、後はまったく関心を払わなかった。 (せめて魔法の系統ぐらい教えてくれても良かったのに) 「ほら『ゼロ』!早く来ないと次の授業が始まっちまうぜ?」 「頑張って走りなさいな!グラウンドは広くてよ!」 「飛行」の魔法で易々と校舎に戻るコルベールと級友達を苦い思いで見送ってから、その光景にぽかんと口をあけて 見とれているジョナサンに 「ほらっ!あたし達も校舎に戻るわよ!」 と声を掛ける。
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前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「う、ううむ…………」 いかほど気絶していたのだろうか? ギトーは覚醒した。いや、なんか能力値とか跳ね上がる訳じゃなく、 普通に目が覚めた。車輪が石に当たる音が聞こえる。 気絶する前の最後の一瞬を思い出す。 確か『ライトニング・クラウド』が何故か自分に当たって……。 そこまで言って、ギトーは身を跳ね上がらせる。 「そ、そうだ!『土くれのフーケ』はどうした!?」 「もう終わったよ」 と、後ろから声がする。 「なんだと!?」 と振り返ると、そこには確かに フーケらしき人物が何か妙な格好で倒れていた。 なんというか、驚愕の表情を保ったまま固まっている。 近寄って触ってみると、まるで石のようだった。 「これは……どうなってるんだ?」 「秘密」 「……まぁ、それは良いが、何で更にロープで縛ってるんだ?」 その疑問に、タバサではなくアセルスが返す。 「聞きたいことがあるんだ」 「聞きたいこと?」 ロープで少々粗くもしっかりと縛ると、ルイズがギトーに言う。 「先生、すいませんがちょっとあっち向いてて貰えますか?」 「何でだ?」 「えー、と……それは秘密です」 「……まぁ構わんが」 彼女の言葉に、ギトーは釈然としない様子だったが、従い、適当な方向を向く。 彼の耳に、水の音が聞こえてくる。 「もう良いですよ」 「な、なにが起こったんだい!?」 その声にギトーは振り向く。 そこには、さっきまで石のように固まっていたフーケが縛られながらも暴れていた。 その様子を見て、ルイズの使い魔の青年が言う 「観念してください。杖ももう奪いました」 そう言うと、フーケはおとなしくなる。 次いで、アセルスがフーケに問う。 「ちょっと聞きたいんだけど」 「なんだい」 「君のゴーレムに刺さっていた剣だけど、どうしたの? あの後小屋を探しなおして見たけど、無かったんだ」 「あんたなんかに君呼ばわりされる年じゃないがね。 まぁいいか。あの剣なら妙な格好をした男にやったよ」 「……え?」 「途中で立ち寄った村でいきなり見つけられたもんだから、 口止め料としちゃあ何だがその剣を渡したのさ」 「そ、そんなぁ……」 うなだれるアセルス。 そこに、ギトーが口を挟む。 「すまんが……アセルスとか言ったかな?魔法学院まで来て貰う」 「……何で」 「その女は『土くれのフーケ』と呼ばれる泥棒だ。 それと戦っていた君に幾つか聞きたいことがある」 返事も聞かずに、ギトーはフーケの方に近づく。 「『土くれのフーケ』。当然、お前にも魔法学院まで……」 と、フーケの顔を見た瞬間、ギトーが驚きに満ちた表情で言う。 「ミス・ロングビル?」 「……そうだよ」 『土くれのフーケ』、ミス・ロングビルと名乗っていた女はその疑問に答えた。 「そうか、ミス・ロングビルが『土くれのフーケ』じゃったのか…… 美人だったものだから、何の疑いもなく採用してしまったわい」 学院長室で、5人の報告を受けたオスマンは呟く。キュルケは、火傷の治療のためここにはいない。 その5人とコルベール加えたをくわえた6人は、お前それはどうよ、と思っていた。 自分以外の全員からの冷たい視線に晒され、オスマンは冷や汗をかきながら咳払いをする。 「と、ともかくじゃ、フーケを捕まえた諸君らの健闘、心より祝いたい。 『火返しの鏡』は残念だったとは言え、『盗賊の指輪』は取り返した」 「当然の結果です」 と、言ったギトーに対して、他の四人がすかさず言う。 「何もしなかったよね……先生」 「役に立ってない」 「むしろ足手まといだったね」 「いない方が良かったな」 華麗な四連携であった。ギトーが硬直する。とそこに、オスマンが続けた。 「もとより期待しておらん」 訂正。華麗な五連携であった。ギトーが崩れ落ちる。精神的LPが5は減っただろう。 「さて、フーケは城の衛士に引き渡した。『盗賊の指輪』も宝物庫に収まった これで万事解決じゃな。」 一旦間を空けてから、オスマンは続ける。 「ミス・ヴァリエール。君の『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出しておいた。 今ここにはいないが、ミス・ツェルプストーも同様にじゃ。 タバサ嬢はすでにシュヴァリエの称号を持っているので、 代わりとして精霊勲章の授与を申請しておいた」 そう言うと、ルイズは顔をほころばせる。 オスマンはまだ続けた。 「さてさて、今日は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り『盗賊の指輪』も戻ってきたことだし、 予定通り執り行う。アセルス殿……でしたかの?あなたも良かったら客人として出てはいかがかな?」 「うーん……じゃあ、出させて貰うかな」 「なら歓迎させて貰おう!さて!今回の主役は君たちじゃ!精々着飾るのじゃぞ!」 二人は礼をし、残りの二人は礼をせず、一人は崩れ落ちたままで、 その後4人が外に出ようとする。動かなかったのは、ブルーであった。 ルイズがそれを見て言う。 「ブルー?」 「後で行く」 ブルーが素っ気なく言うと、ルイズは心配そうな顔をしながらも去っていった。 何故心配していたかというと、馬車の帰り道で、タバサと話してからずっと様子が変なのである。 どこか遠くを見ているような、そんな感じであった。 タバサに何を話したのか後で聞いてみるのも良いかも知れない。 ルイズは何か話の切っ掛けになるような事を考えた。 思いつかない。どのような話ならこの少女は話してくれるだろうか。 考えている間に、どんどんと廊下を進んでいく。 ルイズは、取り敢えず一つの話を持ち出した。 「それにしても、あの『盗賊の指輪』って凄いわね」 「…………」 タバサは黙ったままである。 それでもルイズは続けた。 「人の姿を消すなんて。『盗賊の指輪』って言うけど、本当に盗賊が持ってたら大変じゃ……ない」 何故最後の方遅くなったのかというと、何か違和感を感じたからである。 なんでオスマンはあのとき「秘密じゃ」と言ったのだろうか。 ルイズはある考えに思い至り、廊下を逆走して学院長室へと向かった。 転じて、学院長室。 「……何かわしに聞きたいことがあるようじゃな」 そう言って、オスマンはコルベールに退室を促す。 コルベールは納得はしてなかったようだが、外に出た。 その後、ブルーは口を開いた。 「『盗賊の指輪』は、俺の知ってる人間が持っていた道具だ」 「ふむ、知り合いかね?」 「いや、俺が一方的に知ってるだけだ。それは何処で手に入れたんだ? ……いや、『火返しの鏡』だったか、それもだ」 オスマンは、その言葉を聞くと、何かを思い出すように黙り込み、 その後重く口を開けた。 「それらをわしにくれたのは、どちらもわしの命の恩人じゃ」 「そいつらはどうしたんだ?」 「『火返しの鏡』を持っていた人間は、今どこにいるかは知らん。 『盗賊の指輪』を持っていた人間は、死んでしまったよ」 「……なんだと?」 「それほど昔のことでも無いのだがな、 わしが森を散策していると、ワイバーンの群れにおそわれたのじゃ。 そこを彼女が救ってくれたのじゃ。彼女は、『盗賊の指輪』を使い、 わしを逃がしてくれたのじゃ。だが、彼女は酷い怪我をしておった。 わしは彼女を助けようとしたのじゃが……」 オスマンは俯いた。 「間に合わんかった。彼女は「まぁ、因果だね」などと言っておった。 何をしてきたのかは知らんがの……」 その話にも心を動かすことはなく、冷静にブルーは次の話を聞いた。 「『火返しの鏡』は?」 「あれは、30年ほど前じゃったかのう。 わしはワイバーンに襲われておった。」 どんだけワイバーンにおそわれてるんだ? 「じゃが突如現れたその男は……あれは銃だったのかのぅ? とにかく、それでワイバーンを吹き飛ばしたのだ。 その後、何か妙な道具を取り出して、なにやら叫ぶと消えてしまった。 その時に『火返しの鏡』を落としていったのじゃよ」 「……消えた?」 「そう、突然スッパリとじゃ」 ブルーは考え込む。 それはもしかしたら―― 「済まない、その道具は残っていないのか?」 「残っておらん……その道具が必要なのかね?名は何というのだ?」 ブルーはその名を告げた。 「『リージョン移動』だ」 「『リージョン移動』?ふむ、聞いたこと無いの…… それは一体何なのだ?」 「リージョン間を移動するための『ゲート』を作り出すために必要な道具だ」 「リージョン?」 ブルーは考え込んだ。 なんと言えばいいのだろうか? 取り敢えず思いついた言葉で置き換える。 「……そうだったな、別の世界と思ってくれ」 「ほう、では君は他の世界から来たのか?」 ブルーは考え込んだ。 言ってしまって良い物か、と。 だがここまで言ってしまった以上、もはや余り変わらないだろう。 「そうだ」 「そうか……帰りたいのかね?」 「帰らなくてはならない」 「……解った。君には恩がある。 その『リージョン移動』とやら、調べてみよう」 「……感謝しよう」 「でも……」 「何だ?」 「何も解らなくても、恨まんでくれ。なあに、こっちの世界も住めば都じゃ。 嫁さんだって探してやる」 ブルーは彼には珍しく、ため息をついた。 いや、もしかしたらもう一人の方かも知れないが。 突如、外から声が聞こえてきた。 「ミス・ヴァリエール!なんですか!?」 「ちょっと学院長に聞きたいことがあるんです!」 ブルーとオスマンは顔を見合わせる。 オスマンは、二人に入ってくるようにと言った。 入ってくると、ルイズはオスマンに尋ねた。 「失礼を承知で聞きます、学院長は透明になれる『盗賊の指輪』を何に使ってたんですか?」 オスマンが止まる。そして、ぎこちなく返す。 「ハハハ、何を言っていルのかねミス・ヴァリエール。宝物庫ニあるモノをどうやってつかうというのかネ?」 「鍵持ってるじゃないですか学院長」 コルベールがルイズの言葉を継いで言う。 オスマン、動揺しまくりである。 「いや、それはだな……」 その様子を見て、コルベールが禿げた頭に手を当て、 呆れながら言う。 「……大体解りました」 後は何も言うまい。『盗賊の指輪』はオスマンの手には置けないので、 その後の話し合いで、宝物庫の鍵ごとコルベールが預かることとなった。 さてさて。 ギーシュはこの舞踏会にてある人物に会いたいと思っていた。 『土くれのフーケ』を捕まえるのを協力したと言う、剣士である。 この『フリッグの舞踏会』に招待されたらしい。 なぜギーシュがそのことを知っているかというと、生徒の殆どが知っているからである。 一応秘密にされていても、あの夜の轟音は殆どの生徒が聞いていたし、 それで目が覚めた生徒達の一部が、ゴーレムを目撃している。 更に教師の一人が急用で居なくなり、 宝物庫の壁に大穴が開いていれば馬鹿でも予想は付くという物である。 だいたい、教師より生徒の方が圧倒的に数が多いのだ。 教師の耳に入らなくても、生徒の耳にはいることの方が圧倒的に多い。 そして、こういう時の子供達の結束は素晴らしいである。 バラバラに聞き集めた断片を、ものの見事に一つの物にしてしまった。 最もオスマンはこのことに気付いていて、 本当に隠したい――先ほどのブルーとの話などは、 すぐ外にいたコルベールさえも聞けてないのだが。 とにかく、ギーシュはその人物に会いたいと思っていた。 舞踏会の直前に聞いた話だと、鋼のゴーレムを剣で真っ二つにしてしまったとか。 剣を使うと言うことは平民なのだろうが、 ギーシュはブルーとの決闘以降平民に対する認識を改めている。 それが誰なのか知っているであろうブルーが、 バルコニーにいるのを見つけ出すと、彼は問うた。 ブルーは無言で指さした。ギーシュがそちらの方を向くと、 なにやら凄い人集りが出来ている。黄色い声も聞こえてくる。 近寄ってみると、彼の耳にも黄色い声の具体的な内容が聞こえてきた。 「アセルス様!私と―」 「いえ、私と踊ってくださいまし!」 ダンスの申し込みをしているらしい。 ギーシュはゴーレムを剣で切ったと聞いてから、 豪傑みたいな感じかとかと思っていたが、 とんでもないイケメンだったりするのだろうか、とも思い始めた。 まぁ、とにかく見てみれば解ることではある。 「すまないが、少しどいてはくれないかね?」 その言葉に、黄色い声を上げていた女子生徒達が、一斉にギーシュの方を向く。 思いっきり敵意のこもった目で。いや、殺意の方が近いかも知れない。 「あなたはギーシュ・ド・グラモン!」 「アセルス様にも手を出そうというのかしら!?」 「いや、僕は男色の気はない……ってケティ?」 「アセルス様が男ですって?」 「え?そう聞いてるけど……違うの?」 「……なら、教えてあげるわ」 「魅惑の君」「薔薇の守護者」「美しき方」 「私達のアセルス様よ!」 と素晴らしい連携力で言い、 再びその連携力で今まで群がっていた生徒達が モーゼに分かたれた海の如く真っ二つに分かれる。 つーか、ここはいつから針の城になりましたか? 半妖様と女子生徒自重しろ。薔薇を用意するな。通り道に撒くな。 転がしているその赤い絨毯はどこから引っ張り出してきた? ともかく、その先には半妖様……もとい、アセルスが立っていた。 ギーシュはその姿を見て呆然とする。 「えーと……君、何の用?」 「い、いや、ちょっと一目見て置きたかったから来ただけなんだけど……」 ギーシュは戸惑いながらも言葉を紡ぎ出す。 そして、いつもの調子に戻って次のセリフを言う。 「それにしても、こんなに美しいレディとは思わなかったな。 どうでしょうか、この僕と一曲――」 「アセルス様に手を出すんじゃないッ!」 ギーシュは、近くにいたケティから 二股したときの数十倍の威力のビンタを食らい、 きりもみ回転しながら吹っ飛んだ。まぁ、なんだ。自重しろ。 ルイズが扉から入ると、控えていた衛士が彼女の到着を告げる声を上げる。 それは特に気にせず、ルイズは自らの使い魔の姿を探す。 途中、結構な数の男子にダンスを申し込まれたが、それも気にしない。 そのうち、バルコニーに佇んでいる彼の姿を見つける。 ずっと考えていた自らの疑問を確かめるために、彼の名前を呼ぶ。 「ルージュ」 「ルイズ?」 ルージュは振り返って答えた。 ビックリするかとも思ったが、それほど大きな反応は見せなかった。 が、暫くたつと止まる。そして聞き返してきた。 「どこでその名前を?」 「夢を見たの」 「夢?」 それには返さなかった。代わりにはならないが、問いかける。 「どういう事なの?」 「…………」 黙り込んでしまう。なので、続けた。 「なら聞かないわ」 「ありがとう」 手すりに寄りかかっているルージュの隣まで歩き、 自らも背を手すりに預ける。 ルイズは、ルージュに再び問いかける。 「あなたはどこから来たの?」 「前に言ったけど……」 沈黙。 お前らやっぱり双子だな。 「そ、そうだったわね。キングダムだっけ」 「そうだよ」 「夢を見たのよ。月が一つしかなかった」 返事はない。 「ねぇルージュ。あなたの居たところはどんな所なの?」 「一言では語りきれないよ」 「……それもそうね」 そう言ってから、バルコニーから背を離し、 自らの使い魔の正面に立つと、手を差し出した。 「踊ってあげても、よろしくてよ」 使い魔は、主人の言葉に笑いながら返す。 「身に余る光栄ですね。 一曲、踊っていただけますか?」 そう良い、手を取る。 「おでれーた!」 特に話すことも思いつかないので黙っていたデルフが叫ぶ。 「主人のダンスの相手を務める使い魔なんて、初めて見たぜ!」 二つの月が、夜を照らしていた。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十四話「ひきょうもの!シエスタは泣いた(前編)」 冷凍怪人ブラック星人 登場 トリステイン王女アンリエッタから、帝政ゲルマニアとの同盟に破局をもたらす手紙を アルビオンのウェールズ皇太子より回収する任務を受けて旅立ったルイズと才人たち。 しかし護衛につけられたグリフォン隊隊長ワルドは、『レコン・キスタ』の回し者だった。 ウェールズの命を狙うワルドは才人が一度は阻止したのだったが、宇宙人連合の横槍により、 結局ウェールズの命はワルドに奪われてしまった。そのため、任務は達成したが、 ルイズと才人の心には重い雲がのしかかった……。 「……よっと。これでいいか?」 『ああ、ありがとな。これでミラーナイトといつでも話が出来る』 旅を終えて魔法学院に帰ってきたルイズと才人が最初にしたことは、ゼロの頼みで姿見を 部屋に置くことだった。鏡ならルイズの部屋にももちろんあったが、全身が見えるものの方がいいと ゼロが言うので、新しく購入したのだ。そして今、それを部屋の壁際に設置した。 『ルイズもありがとうな。わざわざ新しく買ってくれて』 「別に礼を言われるほどのことじゃないわ。これくらい……」 ゼロの呼びかけに対するルイズの返事は、どこか暗かった。それを聞きとがめた才人が、 ルイズに尋ねかける。 「ルイズ、まだ皇太子のことを気にしてるのか? まぁ、俺も何とも思ってない訳じゃないけど……」 「……それもあるけど、それ以上に姫殿下のことが気に掛かってるのよ。姫殿下……あんなに 胸が張り裂けそうな顔をなさって……」 ルイズは、アルビオンから帰還してすぐに王宮に向かい、顛末の報告をした際のアンリエッタの顔を 思い出していた。 彼女は最愛のウェールズの死を聞かされて、静かに嘆き悲しんだ。だがそれ以上に、ワルドが 裏切り者だった事実にショックを受けていた。よりによって内通者を使者に選んだことで、 自分がウェールズを殺したようなものだと自らを責めていた。 軍の立て直しが急がれるこの大事な時に、魔法衛士隊の一角の隊長が離反したという事実は、 余計にトリステインの負担になり、アンリエッタの負担につながる。愛する人の死でただでさえ 精神が傷ついている彼女が押し潰されやしないかとルイズは気を病んだが、そんな彼女に アンリエッタは、努めて笑顔を作って言った。 『大丈夫ですよ、ルイズ。あの人は、最期まで勇敢に戦い、死んでいったと言いましたね。 ならばわたくしは……勇敢に戦って生きていこうと思います』 アンリエッタはそう宣言したものの、それでもルイズの心の暗雲は晴れなかった。あの時ウェールズを 最後まで守り抜けていれば……そう考えてしまう。それは才人も同じだった。 二人がいつまでも暗い顔をしていると、それを察したゼロが急に語る。 『ウルトラマンは神じゃない。救えない命もあれば、届かない思いもある』 「え?」 『前に親父たちが言ってたことさ。ウルトラマンは色んな超能力を持ってるが、それでも 何もかもが出来る訳じゃない。時にはどうしようも出来ないことに直面することもあるってな』 父親たちからの言葉を語るゼロは、けど、とつけ加える。 『だからって諦めちゃいけねぇんだ。立ち止まってちゃ、救える命も救えねぇ。たとえその時は救えなくとも、 前に進み続ければ、別の命を救えられるようになるかもしれない。大切なのは、最後まで諦めずに立ち向かうこと。 心の強さが、不可能を可能にするんだってな』 「……いいことを教えてくれるお父さんね」 ゼロの言葉で、ルイズも才人も少しばかり気持ちが軽くなっていた。そうだ、いつまでも ウジウジしていたってしょうがないじゃないか。今は何も出来なくとも、いつか自分たちに 出来ることがやってくるかもしれない。その時のために、今よりも成長することに 力を注ぐ方が大事なのだ。もう悲劇を繰り返さないために……。 『それより今は、ミラーナイトと話をしようぜ。あいつきっと、超空間で離ればなれになってからのことを 知りたがってるだろうしな』 ルイズたちが決心を固めていると、ゼロがそう言って、姿見に向かって呼びかけた。 『おーい、ミラーナイト! 聞こえてるかー!』 『はい。ちゃんと聞こえてますよ』 姿見の鏡面が揺らぐと、その中に等身大のミラーナイトの姿が映し出された。鏡の中に ミラーナイトがいる構図に、ルイズは驚いて小さく声を上げた。 『驚かせてしまいましたか? 改めて、自己紹介させてもらいます。私は鏡の騎士、ミラーナイト。 お二人にはゼロがお世話になっているようで、お礼を申し上げます』 ミラーナイトはルイズと才人に対して深々と一礼した。しかし腰を折っても、身体が鏡面から はみ出すことはない。完全に鏡の中に収まっている。 「これって幻術じゃなくて、本当にこの鏡の中にいるのよね……。鏡の中に入れるっていう ゼロの話は本当なのね……」 『私のことは既にゼロから聞かれてるようですね。ではゼロ、あなたから私に、この星のことを 教えてもらえませんか? 何分やっと到着したばかりで、右も左も分からなくて……』 『おういいぜ! まずは、このハルケギニアっていうところだが……』 ゼロはハルケギニアという星の特色や文化、文明、メイジのことや、この宇宙に到達してから 今日までのことをまとめてミラーナイトに伝えた。 『なるほど、分かりました。この星は、広い宇宙の中でも独特なようですね』 『あぁそうだな。それでここにいるのが、俺と同化してる平賀才人と、それを召喚したルイズ。 そっちの壁に立て掛けてる剣はデルフリンガーって言うんだ』 「あッ、どうも。ご紹介に預かりました、平賀才人です」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。みんなルイズって呼んでるわ」 「この俺がデルフリンガーさまだぜ! 全くもう一人の相棒のお仲間は、相棒に負けず劣らず仰天人間だな!」 才人たちが名乗ると、ミラーナイトはもう一度礼をした。口調から受けるイメージ通り、 相当礼儀を重んじるタイプのようだ。 『これから長いおつき合いになることかと思いますが、どうぞよろしくお願い致します。 それでゼロ、あなたには私が不在のせいで大分苦労をさせてしまったようですね。申し訳ありません』 ミラーナイトは今までゼロが一人で怪獣、宇宙人と戦っていたことと、ゼロが移動に難儀していたことを すまなく感じていた。 『いいんだよ。しょうがねぇことさ。それより、お前が無事にたどり着いてくれて嬉しいぜ。 危ないところを助けてもらったしな』 『そのことは、ルイズさんのお陰でもあります』 「え? わたし?」 いきなり名前を出されたルイズがキョトンとする。 「でもわたし、あの時何もしてないわよ?」 『いいえ。この星の到着したばかりで、ゼロがどこにいるかも分からなかった時、あなたの声が聞こえたんです。 だから私はあの場に駆けつけることが出来た』 ミラーナイトが説明されたルイズは、指に嵌まった『水のルビー』に目を落とした。一度は アンリエッタに返却しようとしたが、彼女からせめてもの報酬にとそのままもらうことになった。 代わりに、ウェールズの形見である『風のルビー』を渡したのだった。 『あなたのゼロを助けたいと思う気持ちが、私を呼び寄せたに違いありません。感謝致します』 「そ、そんなお礼を言われるほどのことじゃないわ! 頭を上げて!」 礼を述べられたルイズは、特別なことをしていないのにそこまで感謝されて、むしろ申し訳ない気持ちになった。 そうしていると、ゼロが話を切り替える。 『とにかく、これでウルティメイトフォースゼロが一人集結だ! これからはお前も、 ハルケギニアを守る任務についてくれるよな?』 『もちろんです。それに、鏡さえあれば、ゼロも私の能力で現場へと移動できるようにしますよ』 『おぉっし! これで大分楽になるぜ!』 今までの問題が解消するより、ミラーナイトに会えたことの方が嬉しそうなゼロに、 才人とルイズが思わず苦笑した。 『私の力が必要な時は、鏡面に向かって呼んで下さい。いつでも馳せ参じます』 話が済んで、ミラーナイトの姿が鏡の中から消えると、ルイズは才人に向き直り、その中のゼロに向けて言った。 「あの、ゼロ……昨日は、ごめんなさい」 『ん? 急にどうしたんだ』 「昨日はわたし、ひどいこと言っちゃったでしょう。わたしの方こそ、あなたの事情を無視して勝手なお願いして、 当たり散らして……今になって思えば、自分が恥ずかしいわ……」 ルイズは王軍への助力を頼んで、断られたことで怒鳴り散らしたことを冷静になった頭で思い返し、 反省していた。申し訳なさそうな彼女を、ゼロはあっけらかんと許す。 『いいってことさ。俺も同じ立場だったら、無理言ってると分かっててもキレてただろうからな。 むしろお前が辛いのに、何の力にもなってやれず、すまないと思ってる』 「そ、そんな……こっちが悪いのに、そう思われたらほんとに申し訳ないわ」 二人が謝り合う状態になったことで、才人も含めて笑いをこぼす。そしてその件は、自ずと 水に流すことになった。 その後、才人はルイズの部屋を出てある場所へ向かっていた。 『才人、もうじき日が沈むっていうのに、どこに行くんだ?』 「厨房だよ。シエスタにお礼を言いに行くんだ」 シエスタとは、才人が魔法学院に来てからよく世話になっているメイドのこと。才人がこちらの世界で 最初に仲良くなった相手でもある。しかしルイズは、何故か彼女のことをよく思わないらしい。 別に反りが合わないという訳でもないようなのに、不思議だと才人は考えている。 「俺たちが留守にしてる間に、ルイズの部屋の掃除をしててくれてたみたいだしな。それで マルトー親方に、今どこにいるか聞くんだよ」 『そういえば帰ってきてから、シエスタを見てないな。まだ俺たちが帰ってきたのにも気づいてないかもしれねぇな』 ゼロと話し合いながら、厨房に足を運ぶ才人。しかしそこで、料理長のマルトーからとんでもないことを聞かされた。 「ええッ!? シエスタが辞めた!?」 「ああ。我らの剣が不在の間にな……」 ギーシュを倒した才人を、平民の希望の星だと呼ぶマルトーは、はっきりと告げた。 「そ、それってどういうことですか!? シエスタが何かしたんでしょうか……! それか家庭の事情とか」 「いや、そういうことじゃないんだ。胸糞の悪い話なんだがな……」 マルトーは不快そうに顔を歪ませて、事情を話す。 「先日王宮の遣いのモット伯っていう貴族がやってきてな。学院長に用事を告げて、そのまま 帰ればよかったってのに、偶然鉢合わせたシエスタに目をつけると、自分のメイドにするって言って 引っこ抜いていっちまったんだ……」 「何だって!? そんな無茶苦茶な! シエスタの意思は!?」 「もちろんあいつも嫌がってたが、平民の気持ちなんて、貴族にはどうだっていいのさ。 そして平民は貴族に逆らえない。悔しいが、俺たちじゃどうしようも出来ないのさ……」 残念そうにマルトーが語っている間に、才人は歯を食いしばって顔を歪めていた。 「モット伯? ああ、僕も噂には聞いたことがあるよ」 シエスタを連れ去ったモット伯の情報を得るため、才人はギーシュを捕まえてモット伯のことを尋ねた。 「『波濤』の二つ名を持ち、王宮の勅使の役を任されるほどの貴族さ。ただ、相当な好色家で、 あちこちで若く美しい平民の娘を買い入れて、自分の屋敷に囲ってるそうだ。特に最近は 頻度がひどいって話を聞いてるね」 「そうか……ギーシュ、お前みたいな奴なんだな」 「一緒にしないでくれないか……? 僕は無理強いはしないよ。か弱き女の子は、優しく愛でるものさ」 相変わらず歯の浮くような台詞を臆面もなく言うギーシュである。 「それでまさか、そのシエスタというメイドを取り返そうというつもりかい? やめた方がいいよ。 評判は良くないといえ、モット伯は王宮に直々に仕えるほどの貴族。平民の君にどうこう出来るものじゃないんだ」 「出来る出来ないじゃないんだよ! シエスタのためなんだからな!」 「……まぁ、警告はしたからね」 熱く語る才人に閉口したギーシュは、ふと思い出してつけ加える。 「あッ、そういえば、モット伯がゲルマニアの貴族が家宝にしてる、この世に二つとない 珍しい書物も欲しがってるって話を聞いたことがあるな。もしかしたら、それがあれば話は別かも……」 「何だって!? その貴族ってのは一体誰だ!?」 「うわわ!? や、やめてくれたまえ君!」 興奮した才人がギーシュを揺さぶったので、ギーシュは目を白黒させる。 「ぼ、僕も詳しいところは知らないんだ。それによく考えれば、ゲルマニア貴族の家宝を 手に入れるなんて土台無理な話だよ。今のは忘れてくれ」 「くそッ……まぁとにかく、色々と教えてくれて助かった。最後に一つ、モット伯の屋敷の道順を教えてくれ」 ギーシュより屋敷までの道のりを聞き出すと、才人は彼から離れた。 「道筋は分かったけど、実際問題どうするか……見当がつかないな。ゼロ、何かいい方法はないか?」 『難しいな……。この星の住人が相手じゃ、ウルトラマンの超能力を使う訳にはいかない。 あくまでこの星のルールに則らないといけないんだが……』 「方法はないか……。けど、とにかく行動しないと始まらないよな!」 手段は思いつかなかったが、才人はモット伯の屋敷に向かうことに決めた。だがちょうどその瞬間に、 角の陰から呼び止められる。 「ちょっと待ちなさい。ご主人様を放ってどこに行くつもり?」 「うわッ、ルイズ!? どうしてここに?」 陰から顔を出したのは、他ならぬルイズだった。 「妙に戻るのが遅いから、捜しに来たのよ。全く手間を掛けさせて……。まぁそれより、 モット伯のところへ行くつもりなんでしょ?」 「ま、まさか今の話聞いてたのか?」 無言で肯定したルイズは、ハァとため息を吐く。 「向こう見ずにも程があるわね。ギーシュも言ってたけど、モット伯は貴族よ? 今回ばかりは 力押しじゃどうにも出来ないでしょうし、平民のあんたじゃお目通り出来るかどうかも定かじゃないわ」 「けど、シエスタが! このまま黙ってることなんて!」 「ちょっと落ち着きなさい」 焦る才人を制して、ルイズが告げる。 「しょうがないから、わたしが一緒に行ってあげるわ。公爵家のわたしが相手なら無視は出来ないはずよ。 そしたら、交渉の余地もあるわよ」 「えッ、ほんとか!? 本当に協力してくれるのか!?」 申し出に大喜びする才人だが、直後に不思議がる。 「でも意外だな。お前ってシエスタのこと好きじゃなさそうなのに、力を貸してくれるなんて」 「確かに、あの子のことはあんまり気に入らないけど……不必要にサイトにベタベタするし……」 途中のひと言は、聞こえないように小声で話すルイズだった。 「でも、だからって放っておくのは目覚めが悪いわ。それにあんたはアルビオンへの旅で いっぱい頑張ったし、そのご褒美代わりよ」 「そうか! とにかく、ありがとうなルイズ!」 「お礼を言うのは早いわよ。メイドを取り返してからにしなさい」 非常に嬉しそうな顔を見せる才人を一瞥したルイズが、次のように思う。 (そうよ。サイトとゼロには何度も助けてもらってるんだから、せめてこういうところじゃ 力になってあげないと……) 才人とゼロにどんな力があろうと、貴族社会の中では無力に等しい。だから二人の代わりに力になろう。 今の自分では、そういうことでしか役に立てない……と、とにかく才人とゼロの役に立つことを望むルイズは考えた。 それからモット伯の屋敷へ急行したルイズと才人は、門番に話をつけて、屋敷の中に立ち入ることに成功した。 「うわッさぶッ! 何だってこんなに寒いんだ? 夏でもないのに、冷房効きすぎじゃないのか?」 門をくぐってエントランスホールに踏み込んだ才人は開口一番に、身体を震わせつつ言い放った。 屋敷の中は、明らかに外よりも冷え込んでいるのだ。 「レイボウが何かは知らないけど……確かに変ね。水系統の魔法でも暴発させたのかしら?」 ルイズも身震いしながら疑問に感じていると、二人の面前に問題のモット伯が、執事風の格好の老人と うら若き乙女を従えながら屋敷の奥よりやってきた。 ルイズと才人は、その内の乙女、もっと言えば彼女の格好に目を引きつけられた。ハルケギニアでは 見たことのない純白の衣装を纏っており、ルイズはどこの民族衣装だろうと考えた。 だが才人はその衣装の正体を知っていた。日本の伝統的な着物そのものなのだ。だが、 当然この世界に日本は存在しない。ならあの着物はどういうことか? その疑問を考える間もなく、 モット伯が口を開く。 「そなたがヴァリエール家の三女か。こんな夜更けに、どのような御用で」 非常に抑揚のない、冷たさすら感じられる口調だった。この屋敷の中の気温より冷たいかもしれない。 (変ね……学院で遠巻きに見ただけだけど、こんな人だったかしら。顔色もやけに悪いし…… もっとも、それはここの衛兵たちも同じだけど) モット伯や周りにいる衛兵たちの様子を観察していぶかしむルイズ。そろいもそろって 青白い顔を並べており、比較的血色がいいのは老人と女性だけというありさまだった。 しかし今はそんなことを考えていても仕方ない。気を取り直して口を開く。 「突然のご訪問をお許し下さい。実は、伯爵に折り入ってお願いがございます」 「それは一体何か」 「伯爵が学院よりお連れになった、シエスタという名のメイドをお帰しいただきたいのです。 彼女はわたしの使い魔がよく世話になっている娘ですので、急にいなくなられると困ると 使い魔が申しております。代わりに伯爵のご要望を、ヴァリエールの名の下に何でもお叶え致します。 どうぞ、お願い出来ませんでしょうか」 へりくだった態度で頼み込むルイズ。しかし、 「断る。今の私が求めるのは若い娘のみ。それ以外には何も求めぬ。帰るがよい」 「なッ……!?」 交渉する余地もなくはねつけられたことで、ルイズも才人も絶句した。上手く行かないかもしれないとは思ったが、 ここまで頑なな態度を取られるとは思わなかった。 「ち、ちょっと! 少しは考えてくれてもいいじゃないですか!」 必死に食い下がる才人だが、彼が口を開くと、モット伯は汚らしいものでも見るような目つきを向けた。 「黙れ。平民風情が、貴族の私に盾突こうというのか。衛兵、その男を叩き出せ」 「うッ!?」 モット伯の命令で、あっという間に衛兵が才人を掴んで、槍を向けた。想像以上の暴挙に ルイズが慌てていると、モット伯の前に黒髪でそばかすが目立つが整った顔立ちの 若いメイドの少女が飛び出てきた。彼女こそ、問題の中心のシエスタだ。 「お待ち下さい! 伯爵、この者をお許し下さい! 私が代わりに罰をお受けしますので、どうか!」 隠れて話を聞いていたシエスタは、すぐに才人への許しを乞うた。だがモット伯は態度を緩めない。 「邪魔だ。たかだかメイドが、お前も私に逆らうというのか!」 「あうッ!」 あろうことか、モット伯はシエスタを足蹴にした。これにはルイズも怒りを爆発させた。 「伯爵! いくら平民でも、何の罪もない娘に何て振る舞いを! すぐに謝りなさい!」 声を荒げて怒鳴ると、ルイズにも槍の穂先が突きつけられた。 「ちょッ!? ど、どういうつもり!? わたしに手を上げるなら、ヴァリエール家が黙ってないわよ! それでもいいの!?」 普段は出さない家の名前で脅しを掛けることまでするが、そうしたらモット伯に代わって老人がルイズを嘲った。 「黙れ黙れ、所詮は小娘が! 伯爵は今や、そんなものなど全く怖くないほどの力を得られたのだ! 痛い目を見たくないのだったら、このまま黙って帰るがいい!」 「何ですって……!?」 ルイズはたかが使用人が自分に向かって無礼な物言いをしたことより、その内容に耳を疑った。 公爵家の権威が怖くない力とは、どういうことなのか。おかしい。入った時点で思っていたが、 この屋敷はおかしいことだらけだ。 「ちょーっと、お待ちなさいな!」 危機的状況にルイズと才人が冷や汗を垂らしていると、急にこの場には似つかわしくないほど 明るい声が響き渡り、同時に門が外から勢いよく開かれた。そうして立ち入ってきた人物の顔を見て、 ルイズが唖然とする。 「キュルケ!? あんた、何でここに!?」 燃えるような赤い髪は見紛うはずもない、キュルケである。相変わらずタバサが同行しているのは、 シルフィードに乗せてもらったからだろう。ルイズの問いかけに、キュルケはしれっと答える。 「今日旅から帰ったばかりなのに、サイトがギーシュからモット伯爵の話を根掘り葉掘り 聞いてるところを目にしてね。これは何かあると思って、つけさせてもらってた訳」 「ちょっと! また野次馬根性出したってことね!?」 「まぁまぁ、今はそんなこといいじゃない。それよりモット伯爵」 ルイズを適当にあしらうと、キュルケはモット伯に向き直って、服の下から包みに覆われた何かを取り出す。 「聞けばあなた、我がツェルプストー家の家宝をご所望なんですって? ここにあるから、 それでお手打ちにして下さらないかしら?」 「え? 家宝って……まさかギーシュが言ってたゲルマニアの貴族って、キュルケのところだったのか!?」 かなり身近にいたことに、才人は思い切り面食らった。 「これは昔、あたしのおじいさまが、あるメイジが偶然何処かから召喚したものを買い取ったものなの。 あたしも中身を見たけど、ほんとにこの世に二つとないような珍しい本で、特に伯爵のようなお人が 欲しがりそうなものだったわ。だからこれに違いないと思って、嫁入り道具として渡されたこれを持ってきたって訳」 「い、いいの? 家宝をそんな簡単に交渉材料にしちゃって」 キュルケのことを毛嫌いしているルイズも、さすがに戸惑った。だがキュルケはあっさりとしている。 「字は読めなかったけど、載ってる挿絵だけならあたしには必要のない内容だったし、別に構わないわ」 「……断る。今の私に必要なものは、生身の娘だ。書物など、どうでもよい」 求めていたはずの書物を引き合いに出しても、モット伯は断固として譲らなかった。 しかしキュルケは下がらない。 「まぁそう焦らないで。中を見てからご判断なさっても、遅くないんじゃないかしら?」 と言いながら、包みを外して、中身を皆の目に披露した。その瞬間、才人が思わずつぶやく。 「えッ!? あれって、エロ本じゃ……」 書物の正体は、女性のあられもない姿が表紙になっている、ひと昔前のエロ本に間違いなかった。 予想外すぎる正体に才人が言葉をなくしていると、それに反応した者がもう一人いた。 「何!? それは地球の書籍か! 何故この星に?」 「……え?」 おかしなことを口走った老人に、ルイズや才人、キュルケらの視線が集中した。そうすると、 老人は途端にしまったという表情になる。 『才人、あいつもしかして……』 「ああ。俺も今そう思った」 ハルケギニア社会では耳にしない単語が飛び出たことで、ゼロも才人も老人の正体を勘ぐった。 そのため才人は、確信を得るために、こっそりウルトラゼロアイをガンモードで取り出して 老人に突きつける。 「おいあんた。これが見えるか?」 「ぬッ!? 貴様まさか! おのれッ!」 ウルトラゼロアイは、この星の住人では武器になるものとは想像できない形状なのにも関わらず、 老人は明らかに用途が分かっている反応を見せた。これで確定だ。 「お前人間じゃないな! 正体を見せろッ!」 「ぐわぁッ!」 トリガーを引いて光線を浴びせると、それにより老人の姿が揺らぎ、黒い身体に白い顔面、 ギョロリと剥いた大きな眼球に赤鼻が目立つ怪人の姿に早変わりしていた。 「そ、その姿は! もしかして!」 ルイズたちがこの変化に驚愕していると、正体を現した怪人は名乗りを上げた。 『バレてしまったならしょうがない! 私は宇宙人連合の一人、土星からやってきたブラック星人だ!』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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辻発彦(85) 辻 発彦(つじ はつひこ、1958年10月24日 - ) は、佐賀県小城市出身のプロ野球選手。愛称は「ハツ」。テレビ埼玉・NHK・BSの野球解説者および日刊スポーツ野球評論家を務めて、2007年より中日ドラゴンズの2軍監督を務める。2006 ワールド・ベースボール・クラシック日本代表内野守備走塁コーチも務めた。 略歴 * 高校は佐賀東高校、社会人野球は日本通運出身。 * 1984年 - ドラフト2位で西武に入団。背番号は5。 * 1985年 - 二塁手のレギュラー獲得。 * 1987年 - 故障で出遅れるも読売ジャイアンツとの日本シリーズでトリッキーな走塁を見せた。ウォーレン・クロマティの緩慢な守備のスキを狙い、一気にホームインする頭脳の走塁だった。 * 1993年 - .319で首位打者、.395で最高出塁率獲得。 * 1996年 - ヤクルトに移籍。背番号は8。この年.333で打率2位。 * 1997年 - 移籍後初のリーグ優勝を経験し、1994年以来3年ぶりの優勝を経験。古巣との日本シリーズを制し、1992年以来5年ぶりに日本一の栄冠に輝く。 * 1999年 - 現役引退。 * 2000年 - ヤクルトのコーチに就任。背番号は84。 * 2002年 - 横浜ベイスターズのコーチに就任。背番号は85。 * 2006年 - 11月1日、中日ドラゴンズの二軍監督に就任した。背番号は85。 タイトル・表彰 * 首位打者(1993年) * 最高出塁率(1993年) * ゴールデングラブ賞 8回(1986年、1988年~1994年) * ベストナイン 5回(1986年・1989年・1991年~1993年) * オールスターゲーム出場 9回(1986年・1988年・1994年・1996年) 引用元Wikipedia