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闇夜が包む海鳴市。 その上空で、様々な色の光がぶつかり合い、離れていく。 光と光が触れる度に起こる轟音。 その合間に響く銃声。 雷の魔導師と烈火の騎士、そして人間台風の戦闘は延々と続けられていた。 雷の魔導師は前衛にて烈火の騎士と斬り合い、人間台風は後衛に立ち銃撃で雷の魔導師を援護する。 対する烈火の騎士は、近接戦、銃撃、二人のスペシャリストに挟まれながらも倒れる事なく善戦している。 今にも崩れそうな、危なげな均衡を保ったまま戦闘は続いていく。 何度目か分からない鍔迫り合いにデバイスが火花を散らす。 鍔迫り合いを挟み交わされる視線と視線。 シグナムとフェイト、互いに疲労の色を見せながらも戦意は衰えていなかった。 一瞬の膠着のあと、鍔迫り合いの形がゆっくりと崩れていく。 押される側はフェイト。 単純な力勝負ならシグナムの方が優勢。 そのまま押し切り斬り裂くべく、シグナムが更に力を込める。 だが、その目論見は一発の轟音に阻まれた。 轟音が響くと同時に、シグナムの持つ烈火の剣が跳ね上がり、大きく力の掛かる 方向が流れた。 その隙を見逃すフェイトでは無く、瞬時に漆黒の戦斧を振るう。 シグナムの頬を僅かに掠めた。 「くッ!」 舌打ちと共に大きく後ろに下がり距離を離すシグナム。 続いて鳴り響く二回の轟音。 シグナムは、轟音の発生源を見向きもせず、全速力で空を駆け続ける。 その轟音は、最強の射手からの攻撃の合図。 見なくても分かる。 轟音の元には、赤コートの男が銃を構えているだろう。 確認をする暇すら勿体無い。 この銃撃を回避するには、ただ全力で、不規則に動き続けること。 脚を止めれば追撃の弾丸が飛んで来るし、何よりテスタロッサがその隙を見逃さない。 (マズいな……攻めきれん) 小さな舌打ちと共にシグナムは、こちらへと迫る金髪の少女、そして後方で銀の銃を構える赤コートの男を睨んだ。 一息つく暇さえない、熾烈な攻撃に曝されながらも、烈火の騎士――シグナムは諦めずに剣を振るい続けていた。 だが、どう立ち回ろうと圧倒的不利な状況は一向に揺るがない。 テスタロッサに浮かんだ僅かな隙をつき攻め込もうとしても、赤コートの男が放つ恐ろしいほど正確な射撃により阻止される。 後方に立つ赤コートに攻め込もうとしても、驚異的な機動力でテスタロッサに回り込まれ、阻止される。 どう動いても攻め込めない。 何時まで経っても勝機が見えない戦闘に、さしものシグナムにも疲弊が見える。 だが、それでもシグナムは諦めようとはしない。 主を救うため。 その一心で空を駆け続ける。 そして遂に、シグナムの想い、執念に応えるかの様に――その時は来た。 □ ヴァッシュが引き金を引いたと同時に、シグナムは猛然とフェイトに接近した。 ただ愚直に、一直線に、フェイトを目指し空を飛ぶ。 何故か、先程までと違い、その動きを阻害する弾丸は飛んで来ない。 (当たり前だ) ようやく到来したチャンスに心の中で笑みを浮かべ、シグナムが疾走する。 誰にも邪魔される事無く、烈火の騎士は空を駆け抜けフェイトの懐へと潜り込む。 その距離はフェイト、シグナム、共に自分の力が最も発揮できる領域。 振るわれた烈火の剣を漆黒の斧が受け止める。 一瞬の膠着。 直後、反発し合う磁石の様に二人は弾け飛び、距離が離れていく。 「――逃がすかぁッ!」 弧を描くように間合いを取るフェイトに、無理矢理とも言えるほど強引にシグナムが直進し距離を詰める。 同時に己が手の中にある魔剣から魔力の込められた弾丸を排出。 その名の如く魔剣が炎に包まれる。 カートリッジによる魔力増加。 前回の戦いではこの魔力増加に為す術もなくフェイトは圧倒された。 だが、今回は違う。 相手がカートリッジを使うのなら、こちらも使えば良い。 迫る炎刃へと戦斧を掲げ、コッキング音と共にリボルバーが回転―― 「フェイト!」 ――する事は無かった。 何とか金色の障壁を形成するが防ぎきれない。 直撃。 目にも止まらぬスピードでその幼い容姿がビルの屋上へと吸い込まれていった。 何故、フェイトはカートリッジを使わなかったのか? 何故、ヴァッシュはシグナムが突っ込んでいった時、銃を撃たなかったのか? どちらの疑問も、答えは単純にして明快。 ――弾切れ。 ヴァッシュの銃は弾丸を、バルディッシュ・アサルトはカートリッジを、それぞれ消費仕切っていた。 どれ程の精密射撃が出来ようと弾丸が無ければは意味を為さない。 カートリッジシステムが組み込まれていても、肝心のカートリッジが無くては意味を為さない。 敵の武装が両方共、弾切れを起こした瞬間。 それが引き起こす、大幅な戦闘力の低下。 飛び交う弾丸、カートリッジにより強化された魔法、2対1という圧倒的不利な状況。 その中で待ち続けた唯一の勝機。 目まぐるしく変化する戦いの中、現れたほんの一瞬の勝機。 その勝機を見逃す事なく、シグナムは――喰らい付いた。 弾き飛ばされたフェイトを一瞥するシグナム。 分かっている。 これ位ではあの魔導師は引かない。 直ぐさま立ち上がり再び斬りかかって来るだろう。 (だが、それで良い) 今の一撃で、ほんの一瞬だけテスタロッサは戦場を離れる事になる。 そしてその一瞬こそ、後方にて援護に徹するガンマンと1対1になれる瞬間。 「レヴァンティン、カートリッジロード!」 咆哮と共に烈火の剣がその形状を変え、紫色に発光する。 攻撃対象は赤コートの男。 この攻撃により確実に赤コートの男を倒し、テスタロッサとの1対1の勝負に持っていく。 それが私の勝つ唯一の方法。 紫電を纏った烈火の剣を振り上げ、シグナムが吼える。 「飛竜――ッ!?」 瞬間、甲高い金属音と共に強烈な衝撃が、レヴァンティンを襲った。 (何だと!?) 暴れる剣を手離さないよう、必死に力を込め、攻撃が飛来した方を睨むシグナム。 その視線の先には、銃口から細い煙を流す銀色の銃、そして悠然とこちらを睨む真紅のコートを羽織った男。 ヴァッシュの拳銃は弾切れを起こしているはず。 だが、確かにその拳銃から弾丸は射出された。 考えられる事は一つ。 シグナムがフェイトと行った、僅か二回の斬り合いの間に弾丸をリロードし、再び狙いを付け、発砲したということ。 (早い……!) 自分の予想を遥かに越えた相手の実力に、シグナムの頬を一筋の汗が伝う。 (――だが、残念だったな。武器は手離していない!) 手に走る痺れを無理矢理に押さえ込み、シグナムは剣を振り下ろす。 「――一閃ッッ!」 叫びと共に放たれた紫電の暴風が、全てを飲み込みヴァッシュへと迫る。 対するヴァッシュが行うは、大口径リボルバーによる超速の連続射撃。 神業とも言える精密射撃と、神速の早撃ちの合わせ技。 最強のガンマン、ヴァッシュ・ザ・スタンピードだからこその超絶技巧。 一、二、三、四、五。 リボルバーに残された全ての弾丸が一寸の狂いも無く、暴風の奥で螺旋を描いている烈火の剣へと命中する。 ――だがそれでも、暴風は揺るがない。 魔法により強化された鞭状の剣は、その勢いは寸分も弱まる事なく、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへと飛来する。 ヴァッシュが立つ場所は、逃げ場の無いビルの屋上。 紫電の暴風がビルに命中、轟音が世界を支配した。 □ 「…………馬鹿な」 通常形態に戻ったレヴァンティンを手に、呆然とシグナムが呟いた。 「JACK POT」 額から一筋の血を流しながらも、男は飄々とした笑みを浮かべていた。 まるで何も無かったかの様に男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは笑っていた。 飛竜一閃。 カートリッジの魔力により強化した『シュランゲ・モード』を相手へと振るう、 シグナムが持つ魔法の中でも最高クラスの威力を有する技。 それを銃撃で防ぐ事など到底不可能。 少なくとも五発の弾丸を一ヶ所に集中させたとしても、揺らがせる事すら叶わなかった。 だが、その攻撃をヴァッシュは銃撃によって逸らし、避けた。 どのようにして? 単純な話だ。 五回の銃撃で逸らす事が出来ないのなら、さらに撃てば良い。 そう、ヴァッシュは紫電の暴風がその身に届く前に、再びリロードし、更に六発の弾丸を叩き込んだのだ。 数センチのズレも無く叩き込まれた計十一発の弾丸。 それは、遂に暴風を怯ませる事に成功する。 僅かに歪む、紫電の奥の螺旋。 それにより生まれた極小の隙間。 迷うことなく、ヴァッシュはその隙間へと身体を滑り込ませた。 神業、いや魔技としか言いようのない銃撃、身のこなし。 双方が重なる事による発生した、有り得ない回避は、数百年の戦いを経験したシグナムですら理解する事ができなかった。 必殺の一撃を避けられたシグナムは、その事実に呆然とヴァッシュを見つめる。 その姿が隙だらけという事にすら気付けずに。 「はぁぁああああ!」 「ッ!」 幼い叫びに我を取り戻した時には、金色が視界を埋め尽くしていた。 それでも無意識に体が反応する。 反射的に剣を掲げ防御の体勢を取っていた。 だが、その様な半端な防御体勢で防ぎきれる訳もなく―― 「くぁああッ!」 ――シグナムは、強烈な衝撃に翻弄されながら真下のビルへと叩きつけられた。 □ 「ヤ、ヤバかったぁ……!」 守護騎士がビルに叩きつけられた事を確認すると同時に、ヴァッシュは大きく安堵の息をついた。 その表情に先程までの飄々とした笑みは無く、代わりに、冷や汗が滝の様に流れていた。 「あれだけ撃って少し逸れるだけとか、何ちゅー攻撃だよ全く……」 実を言えば、先程の一撃をヴァッシュが避ける事ができたのには運の要素も大きかった。 ヴァッシュが幸運だった事は、シグナムが使用した魔法――飛竜一閃が『剣』を媒介にした攻撃であった事。 もしこれが純粋な魔力だけによる砲撃であったのなら、ヴァッシュに防ぐ方法は無かった。 魔力の膨大な流れの前には弾丸など意味を成さない。 勢いを弱める事も出来ないだろう。 だが、飛竜一閃は剣を媒介にした攻撃。 剣に纏う魔法はどうにも出来ないが、その奥の剣に衝撃を与える事は出来る。 それでも、大口径リボルバーから放たれる十一発の弾丸を一点に集中させる事により、何とか逸らせるといったレベルだが。 その幸運を噛み締めつつヴァッシュは、守護騎士が落下したビルへと足を向ける。 「…………やっぱり無理、かな……」 ふと、ヴァッシュの口から呟きが漏れる。 誰の耳にも届く事なく空に散ったその言葉は、深い深い悲しみを帯びていた. □ 「これで終わりです、シグナム。もう抵抗を止めて下さい」 膝をつくシグナムへと金色の刃を突きつけ口を開くフェイト。 口を閉じたまま、闇夜に煌めく金色の刃を睨むシグナム。 「フェイトの言うとおり!そろそろ止めにしないかい、守護騎士さん?」 後ろから掛けられた声にシグナムは顔を向ける。 そこには、銃を構えたまま微笑みかけるヴァッシュが立っていた。 武器を持った二人の敵に挟まれた状況。 守護騎士・ヴォルケンリッターの将でも逆転は難しい。 「……まだだ」 ――だがそれでもシグナムは降伏の意志を見せない。 主を救う。 その確固たる願いを叶える為、諦める訳にはいかなかい。 「……君も中々しつこい人だね……。そろそろ大人しくしてくれたらコッチとしても万々歳なんだけど」 「そいつは残念だったな……私に引く気は無いし、大人しくするつもりも無い」 嘲るような笑みがシグナムの顔に浮かぶ。 「……どうしても引いてくれないのかい?」 「シグナム、もう……」 ヴァッシュとフェイトの悲しげな声が重なった。 甘い。 なんて甘いのだろう。 二人の悲しみが含まれた視線を受けながらシグナムは思う。 「ああ、引けないな。騎士のプライド、そして我等が主のため引けない――いや、引く訳にはいかない!」 思い浮かぶあの暖かい日常。 戦う事しか知らない自分達を一人の人間として扱い、様々な事を教えてくれた心優しい主。 最初は戸惑ってばかりだった。 そのぬるま湯の如く平穏な日常に困惑するばかりだった。 だが、ある時自分達は気付く。 笑いかけてくる主を見て心に浮かぶ『それ』が、楽しそうに話しかけてくる主を見て心に浮かぶ『それ』が――『幸せ』というものなんだと。 そして同時に思った。 この平穏な日々を護りたい、と。 暖かな、まるで太陽の様な微笑みを向けてくれる主を護りたい、と。 ――心の底からそう思った。 だが、そんな気持ちとは裏腹に、あの日はやって来る。 苦悶の表情で胸を抑える主。 脂汗を流しながら、それでも「大丈夫や」と笑いかける主。 医者に言われた。 足の麻痺範囲が広がっていると。 このままでは命に関わると。 私達は気付いた。 闇の書が、主――八神はやてを蝕み続けているのだという事を。 私達は決意した。 闇の書を完成させようと。 約束に背いてでも主を救おうと。 あの暖かく平穏な日常を取り戻そうと。 ――私達は決意した。 「……一つだけ教えてくれ」 前方から掛けられた言葉に、シグナムの意識は現実へと引き戻された。 気付けば、後ろにいたはずのヴァッシュが正面に回り込んでいる。 その手に握られた銃が自分ではなく、何も無い地面へと向けられている事にシグナムは気付いた。 「……何だ?」 数秒の間を挟んだ後、警戒を含んだ声色でシグナムが聞き返す。 手の中の剣が揺れた。 「何故、君達は戦う?この平穏な世界で暴れまわり、闇の書を完成させて……君達は何を望むんだ!」 吐き出す様に口から出た疑問。 終わりにつれて強くなる語気は、ヴァッシュの心の中の苛立ちを表しているのか。 その表情に先程までの飄々とした笑みは無い。 「……貴様に言う必要はない」 だが、その叫びにもシグナムは答えない。 ヴァッシュの、そしてフェイトの顔が虚しく歪んだ。 「……シグナム、あなたを逮捕します」 金色の刃をシグナムの首元へと近付けるフェイト。 そう、シグナムが何と言おうと勝負は決しているも同然。 シグナムにとっては敗北、フェイト達にとっては勝利という形となって。 だが、シグナムはこの状況でも勝負を諦めない。 「まだだ……まだ捕まる訳にはいかない」 小さな呟き。 それは跪いている自分への叱咤。 それは側に立つ二人にも聞こえる事なく、空中に溶ける。 「私はまだ…………戦える!」 シグナムの口から飛び出た決意の咆哮と共に魔剣が動く。 最後のカートリッジから、莫大な魔力が流れ込んだ。 そして、同時に動く雷の魔導師と人間台風。 首元で静止していた金色が烈火の騎士を貫き、音速に加速した一発の弾丸が烈火 の剣を叩いた。 立ち上がる暇も無い。 二つの攻撃が騎士を無力化する―――筈だった。 「「なッ!?」」 フェイトとヴァッシュが驚愕に目を見開く。 視線の先には、金色の魔力刃を意に介さず剣を構える烈火の騎士の姿。 その身体は、淡い紫色の光に包まれている。 その光景に二人の動きが止まる。 (防御魔法!?マズい――) その考えにフェイトが行き着いた時にはもう遅かった。 シグナムを包む光が消失、同時に迫る烈火の剣。 二人が、反射的にそれぞれの得物を掲げるも、烈火の騎士渾身の一撃は防ぎきれない。 フェイトが知覚できたのはそこまで。 灼ける様な痛みと共にフェイトの意識は闇の中へと落ちていった。 □ 「勝った……のか」 何処か信じられない様に、シグナムが呟いた。 その視線の先には倒れ伏す真紅のコートと、漆黒のマント。 非殺傷設定とはいえ渾身の一撃、二人を気絶させるのには充分なはずだ。 最後のカートリッジでシグナムが使った魔法は甲冑・『パンツァーガイスト』。 その驚異的な防御力は、戦斧から放出された魔力刃を無効化し、大口径のリボルバーから生み出された衝撃を無いものとした。 圧倒的に有利な状況だからこそ浮かぶ、僅かな油断。 烈火の騎士は、その隙を見逃さず、結果勝利を手に入れた。 倒れる二人を複雑な表情で見つめるシグナム。 その時、何処からともなく古ぼけた一冊の本が現れた。 「わざわざ済まないな」 その感謝の言葉に喜びを表すかの様に、古本はシグナムの周りを飛び回る。 そんな古本を見て微笑みを浮かべながら、シグナムは倒れ伏すフェイトに近付き、手を伸ばした。 同時に現れる小さな金色の光球――リンカーコア。 「……行程がどうあれ、勝ちは勝ちだ」 表情に暗い色を浮かべつつ、シグナムはリンカーコアへと闇の書を掲げた。 「蒐しゅ――」 だが、シグナムはその言葉を言い切る事が出来なかった。 何故ならその瞬間、シグナムの言葉を掻き消すかの様に銃声が鳴り響いたのだ から。 「アイタタタ……死ぬかと思ったよ、ホント。いや、非殺傷設定様々だね」 シグナムが振り返るとそこには、右手で銃を握り、左手で肩を抑えている男が立っていた。 銃からは細い煙が天へと昇っている。 「さっきの紫色の奴にはビックリしたよ。銃弾は弾くし、フェイトの攻撃は効かないし。 魔法って奴はとことん便利だね。今度僕にも教えてくれない?」 何故だ? シグナムの脳内を疑問が埋め尽くす。 何故立っていられる? 渾身の一撃だった。 僅かに防御されたが、それでも立ち上がれる訳が無い。 なのに何故コイツは立っている? どうして、小憎たらしい笑みを浮かべていられる? 「僕が立っていられる事が不思議かい? こう見えても身体の頑丈さには自信があってね。……そう簡単には倒れないよ」 そう言うと男は微笑んだまま、銃をシグナムへと向けた。 「貴様……!」 その小馬鹿にした微笑みにシグナムの脳内が沸騰する。 何故、こいつは倒れない? 飛翔する竜の一閃も、渾身の袈裟斬りも、通じない。 その小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、立ちふさがる。 一足飛びにヴァッシュへと踏み込み、レヴァンティンを振るった。 だが、交わされる。 その笑みを崩す事すら叶わない。 「穏やかじゃないねぇ。この殺伐とした空気を和ませてあげようと思ったのに… …。 そんな眉間に力入れてたら小ジワになっちゃうよ」 切り返しの逆袈裟も、銀のリボルバーに易々と受け止められる。 「さて、僕としてはそろそろ降参して欲しいところなんだけど……それは無理みたいだね」 交差する拳銃と剣を挟み、飛ばされる言葉。 それは降伏を望む言葉。 「当たり前だ!」 苛立ちがそのまま口から飛び出す。 飄々とした微笑みが一瞬だけ、悲しげに歪んだ。 「やっぱ、そうだよね……」 悲しげな表情は、呟きと共に再び飄々とした笑みに戻る。 常に飄々としていた男が、一瞬見せた憂いの表情に、シグナムは僅かに困惑する。 もし、この場に高町なのはが居たら気付いたのかもしれない。 ――今、人間台風の顔に映る飄々とした微笑みの下に深い深い悲しみが隠されて いる事に。 「……俺もそろそろ覚悟を決めなくちゃな……」 そう告げると、ヴァッシュは拳銃をホルスターへと戻し、今だに自分の事を睨み続けているシグナムに背中を向けた。 突然の行動に困惑するシグナムを後目に屋上の端まで歩き、振り返るヴァッシュ。 何時の間にかその顔から笑顔は無くなっている。 「一対一(サシ)なら君も納得してくれるだろ? 今日限り捨ててもらうよ、その魔剣」 何時もの間の抜けた様子を微塵も感じさせない、真剣な表情でヴァッシュが呟く。 戦慄が烈火の騎士を駆け抜けた。 「お前は……一体?」 唐突に変わった男の雰囲気に、シグナムの口から疑問が零れた。 その疑問は、前回の対峙にて鉄槌の騎士が口にした疑問と全く同じ。 「僕かい?僕はヴァッシュ・ザ・スタンピードさ」 ヴァッシュが口にした答えも、あの時と変わらない。 真剣な表情を崩し、一瞬だけ、男は飄々とした笑みを浮かべた。 人間台風は望む。 赤の他人であった自分を必死に引き止め、自分を庇う為に『優しい嘘』をつき続けてくれた心優しい少女、そしてその家族、親友たちと送る平穏な日常を。 烈火の騎士は望む。 自分達を――プログラムでしかない自分達を家族として向かい入れ、穏やかな生 活を教えてくれた心優しい主と送る平穏な日々を。 ――互いに望むは、大切な人と送る平穏な日常。 切欠は一陣の旋風。 この戦いの始まりと同じ様に、シグナムが駆け出した。 □ ――長かった勝負は呆気なく終わりを告げる。 空を駆けるシグナムを、微動だにせず待ち受けるヴァッシュ・ザ・スタンピード。 唯一の武器は今だホルスターの中。 瞬きをする暇すら無く二人の距離が縮まっていく。 それが意味するは、シグナムの間合いへとヴァッシュが引き込まれているという事。 だが、それでもヴァッシュは行動に移さない。 回避への前兆も見せずにただ立ち尽くす。 遂にはシグナムの間合いに入る。 シグナムが狙うは袈裟切り。 自らが出せる最高のスピード、威力で左肩から斜めに斬って落とす。 闇夜に煌めく烈火の剣が真紅のコートへと迫っていく。 (この勝負、私の――勝ちだ!) 数十センチの所にまで迫った烈火の剣。 この距離まで迫った剣は、例えフェイトの高速移動魔法であったとしても回避は不可能。 詠唱の間さえ与えてもらえないだろう。 烈火の騎士が勝利を確信するのも仕方がない。 魔導師であっても、守護騎士であっても、数十センチの所まで迫った剣を避ける事など出来る訳がないのだから。 そう、魔導師であっても、守護騎士であっても、だ。 ――烈火の騎士は、それを知覚する事すら出来なかった。 何故か、地面へと傾く身体。 倒れまいとする意志に反するかの様に、全く力を入れる事が出来ない両脚。 地面に覆われた視界の片隅に映る烈火の剣。 手に握っていた筈の烈火の剣は明後日の方向に吹き飛んでいる。 右腕を伸ばし、ソレを掴もうとするも、両脚と同様に動かない。 瞬間、地面が完全に視界を覆う。 (何が――?) 訳の分からない状況に疑問が浮かぶが、それ以上思考を続ける事は不可能であった。 コンクリートの灰色に染まった視界が黒に変化する。 同時に、体中を駆ける凄まじい衝撃。 頭蓋に浮かぶ脳が揺れる。 「俺の……勝ちだ」 黒に染まる意識の中、何処か悲しげな男の呟きが聞こえた。 □ あの刹那に放たれた弾丸は六発。 狙った箇所は三つ、右腕と両腿。 それぞれに二発ずつ、全く同じ位置に弾丸を叩き込んだ。 一発目の弾丸がバリアジャケットを貫き、続いて飛来する二発目の弾丸がその奥に位置する肉体を破壊する。 剣を握るには不可欠な右腕と地を支える両の脚。 この二つを撃ち貫かれたシグナムは、大きくバランスを崩し、その突進の勢いのまま地面へと突っ込んだ。 蓋を開けて見れば何て事はない、あまりに一方的な勝負。 人間台風と烈火の騎士との一騎打ちは、人間台風の圧勝という形で幕を降ろした。 「俺の……勝ちだ」 後方で倒れるシグナムへと複雑な表情を向けるヴァッシュ。 その心に浮かぶは僅かな後悔。 話し合いで解決できれば良かった。 相手から引いてくれる事を望んでいた。 誰も傷付かないで済むなら、その方が良いに決まっている。 だからヴァッシュは呼びかけ続け、戦闘を引き伸ばし続け、説得をし続けた。 何度斬りかかられようと、途轍もない威力の魔法で攻撃されようと、ヴァッシュは、誰も傷付かないで済む方法を選び続けた。 ――だが、ヴァッシュは気付いてしまった。 それはあの戦闘で持てた唯一の会話。 『何故、君達は戦う? この平穏な世界で暴れまわり、闇の書を完成させて……君達は何を望むんだ!』 数分前にヴァッシュの口から出た疑問。 闇の書の話を聞いた時から、常に抱いていた疑問。 この平穏な世界を犠牲にしてでも闇の書を完成させる理由。 『……貴様に言う必要はない』 答えは聞けず、ただ一言で斬り捨てられた。 だが、この瞬間、ヴァッシュは気付いてしまった。 ――騎士の瞳に力強い灯火が宿っている事に。 それは、なのはやフェイトにも宿る『決意』という名の灯火。 誰にも曲げる事ができない、消える事の無い灯火。 『引かない』 その灯火が語った。 だから、撃った。 その信念ごと彼女を止める為に、武器ではなく彼女自身へと狙いを定めて引き金を引いた。 ここで止めなければ、闇の書は完成される。 闇の書の完成。それが意味するは、世界の終焉。 駄目だ。 それだけは絶対に許せない。 だから撃った。 この選択は間違っていないはずだ。 でも―― ヴァッシュは何とも言えない後味の悪さに顔を歪める。 視線の先には細い煙を流す一丁の拳銃。 長年、自分と共に不殺を貫き続けた相棒が、何も言わずにこちらを見つめていた。 「まだ……だ……まだ、私は……」 その時、小さな呻き声がヴァッシュの耳に届いた。 声のした方に顔を向けると同時に、ヴァッシュの表情が後悔から驚愕へと移り変わる。 その視線の先には、満足に動かない両脚を引きずり這い進む一人の女性――シグ ナムの姿。 脚と腕から流れる血液で灰色の屋上へと、真紅の線を描きながら、シグナムは目指す。 相棒、レヴァンティンを再びその手に握る為に、シグナムは這い進む。 「こんなところで……!主、はやての為に……私は、まだ……!」 大口径のリボルバーで四肢を撃ち貫かれたのだ。 ほんの少し動いただけでも、尋常でない苦痛が彼女を襲うはずだ。 だが、それでもシグナムは、ゆっくりとゆっくりと、相棒へと向かい這い続ける。 「……もう止めるんだ」 その痛々しい烈火の騎士の姿に、ヴァッシュの顔が苦々しく染まる。 「お願いだ、もう……止まってくれ」 無意識の内に、ヴァッシュの本心が言葉となる。 「止まってくれ…………止まるんだ!」 怒鳴り声と共にシグナムとレヴァンティンの間に割って入ったヴァッシュは、手の中の拳銃をシグナムへと突き付けた。 「もう、君に勝ち目は無い! 君がどんなに足掻いても、その剣を手にしても、俺に勝つ事はできない! それは君にも分かってる筈だ!なのに何でまだ戦おうとする!」 誰も傷つけずに戦いを終わらせる事が無理だと思ったから引き金を引いた。 放たれた弾丸はその四肢を貫き、確かに戦闘不能な傷を創った。 だが、それでもこの人は戦おうとする。 葛藤の末に放った弾丸でも止まらない、止まってくれない。 「黙れ!私は主のため、絶対に負ける訳にはいかない! 何も知らない管理局風情が邪魔をするな!」 騎士の瞳がヴァッシュを射抜く。 ヴァッシュは気付いた。 目の前の女が抱える『決意』が自分の想像よりも遥かに強固な事に。 百五十年の長い人生でも、これ程の執念を持った人間は見たことが無い。 彼女を支えている『主』とはそんなにも大きい存在なのか。 真っ直ぐとシグナムに向けられていた銃口が揺れる。 強く唇を噛み締め、ヴァッシュが口を開いた。 「君は――「そういう訳にもいかない。次元の平和を守る。これが僕達の仕事だ 」 ヴァッシュの言葉を遮り、上空から若々しい声が聞こえた。 同時に現れた蒼色の鎖が、地を這う烈火の騎士を縛り付け、拘束する。 「闇の書の守護プログラム、シグナム。君を逮捕する」 史上最年少の執務管が迷いの無い瞳を烈火の騎士へと向けていた。 □ 「クロノ……なんで君が……」 「エイミィから通信が入ってね、慌てて飛んで来たんだ。 …………それで、君は何をしている、ヴァッシュ・ザ・スタンピード?」 屋上に降り立ったクロノは、視線とデバイスをシグナムに向けたまま、怒りの色を含んだ口調でヴァッシュへと問い掛けた。 「どういうことだ……?」 「君は曲がりなりにも管理局員だ。敵の事情を聞いてどうする? 自分で捕まえておいて同情でもするのか? ……それは偽善と言うんだ、捕まえる側の人間にそんな事は許されない」 若き執務管の双眸が人間台風を貫く。 まだ幼い、自分の十分の一も生きていない筈の少年の瞳にも確固たる『信念』が宿っていた。 「……ヴァッシュ、これが僕達の仕事なんだ。 わざわざ敵の事情に構っていたら、次元の平和なんて守れないんだよ」 「……それでも……それでも俺は……」 クロノの言葉が正論だと理解しつつもヴァッシュの根幹を支配する信念が反抗する。 (甘過ぎる) 唇を噛み締め俯くヴァッシュを見て、クロノはそう思った。 確かに戦闘能力はズバ抜けている。 現になのはやフェイトですら手こずる守護騎士を、戦闘不能にまで追い込んだのだ。 その戦闘力は折り紙付きだ。 だが、その余りに甘過ぎる性格が邪魔している。 正直に言えば危うい。 先程だって敵に同情し、引き金を引くのを躊躇っていた。 その思想は、人間としては素晴らしかもしれないが、管理局員としては危険だ。 (何とかしなくちゃな……) フウと、大きくため息をつき、クロノは守護騎士へと視線を戻す。 「さて、少し寝ててもらうよ」 バインドによりピクリとも動く事が出来ないでいるシグナムへと、クロノはS2Uを振り上げた。 「……ブレイク・インパルス!」 そして、僅かな躊躇いの後、振り下ろす。 蒼色の光に包まれるのを感じながらシグナムの意識は深遠の闇へと消えていった。 「……よし、一人確保。残るは二人、そして主か、もう一人の守護騎士。……ヴァッシュ、君はここでこの女を見張っていてくれ。僕は残りの騎士達を何とかする」 「……ああ、任せてくれ」 「あとフェイトの事も頼む。目を覚ましたら無理するだろうから、何とか収めといてくれ」 そう告げ再びクロノは夜空に舞い上がる。 ヴァッシュを連れて行きたくもあったが、今のヴァッシュは足を引っ張るだけだ。 そう判断し、一人で飛び上がったクロノの瞳に――信じられない光景が映った。 (ヴァッシュ!?) まるで自分を狙うかの様に銀色のリボルバーを構えているヴァッシュの姿。 何故、ヴァッシュは銃を向けられているのか? 噴き出す疑問に体が硬直する。 その硬直を狙ったかの様に引き金を引くヴァッシュ。 轟音が鳴り響く。 バリアジャケットを貫通するまでは至らないが、凄まじい衝撃が走り、大きくバランスを崩れる。 痛みに霞む意識を必死に引き止め、ヴァッシュを睨むクロノ。 何故か、ヴァッシュ自身も信じられないといった様子でクロノの方を見詰めている。 ――瞬間、巨大な白い『何か』が、先程までクロノの体が存在した空間を薙いだ。 □ クロノが空に舞い上がったと同時に、ヴァッシュ・ザ・スタンピードはある異変を感じ取った。 その異変とは、そう遠くない過去にも感じた、言うなれば『共鳴』。 有り得る筈のない『共鳴』に、ヴァッシュの心を埋め尽くしていた葛藤は何処かに飛んでいき、頭の中が真っ白になった。 茫然自失の中、反射的に動く右腕。 放たれた銃弾がクロノに命中し、その幼い姿を弾き飛ばす。 そして、感じ取った通りに、クロノがいた位置を巨大な白い刃が通り抜けた。 「何で……何でお前が……」 首を右に曲げた先には一人の男――この世界にはいる筈の無い男が笑みを向けていた。 「よう、ヴァッシュ」 それは、あの時と変わらぬ笑み。 『大墜落(ビッグ・フォールの)』時に見せた、この世界に飛ぶ寸前の邂逅で見せた、狂気の笑み。 有り得ない。 次元を越えたこの世界にお前が居る訳が無い。 なのに何故――。 捨てようと決意した過去が、因縁が、心の中で噴き出す。 「……何でお前がここに居るんだ、ナイブズ!」 苦悩の末に掴んだ勝利。 開かれるかと思われた自由の扉。 だが、その先にあったのは深い深い絶望。 前へ 目次へ 次へ
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リリカルコア外伝 第一話 「過去」 「状況を開始します。現在時、1500」 高町なのは一等空尉が厳かに口を開き言葉を紡ぐ。 「状況はこうです。ここから南西へ約四十キロ、かつて企業の所有していた軍事基地に正体不明の部隊が 出入りしているのが確認されました」 なのはの言葉を一語一句聞き逃しまいと隊員たちが耳を傾ける。 「航空中隊は陸戦二個小隊と輸送ヘリ四機を増強し同施設を制圧、安全化します」 陸戦小隊長が小言で中隊長に耳打ちする。何を話しているのかは分からないが中隊長は首肯する。 「なお、今回使用するデバイスはすべて実戦設定で行います」 その言葉に隊員達、中隊長以下小隊長が数名がどよめく。 「作戦完了時刻は2000とします。状況説明は以上です。・・・質問は?」 静聴していた隊員たちが小言でささやきあう。 「ありません」 代表して中隊長が宣言する。 「分かりました。では私と採点官は以後、皆さんの訓練の採点を行います」 状況がなのはから下達され、それを受けた中隊長が命令を下達。 命令を受けた部隊は待機していた隊員たちを叩き起こし、寝ぼけ眼のまま準備をする、 航空中隊の隊員は空戦用の甲冑を装着。 陸戦小隊は一般の隊員が使う戦闘装着セットを取り出して装着する。 輸送へリ四機はエンジンを始動、機長・副機長・機付員二名の四名が機体をチェック。 中隊長の命令下達後、一時間程度でここまで出来る。 いつでも出撃可能な状態。この状態で待たされるほど士卒に辛い事は無い。 「この中隊は錬度が高いね」 なのはは隣にいる赤毛の小さなパートナーに話しかける。 「そうだな、上下の意思疎通が良く出来てる」 隣に立つのは八神はやてデザインの赤い騎士甲冑を着込み、“鋼鉄の伯爵・グラーフアイゼン”を 肩にかけるのはヴィータだった。 「うん、そろそろ出るのかな?」 「みたいだな、偉いやつらが出てきたぞ」 ヴィータが顎で示した先、中隊長と小隊長クラスが最終調整を終え、隊舎から出てくる。 各小隊長が配置に着くのを確認した中隊長が腕を大きく振る。 それを合図に航空魔導師約四十名、輸送ヘリ四機にそれに詰め込まれた陸戦魔導師約四十名が空に飛び立つ。 それを見送ったなのはは自身もアクセルフィンを展開、空に上がる。 「じゃあ、行って来るね。ヴィータちゃんはここから監視よろしくね?」 「おう、任せておけ。しっかり採点してやっといてやるよ」 なのはが笑いながら手を振り、飛び上げると南西の方向に消えていった。 「んじゃ、あたしも仕事するとしますか・・・」 それを見送ったヴィータは訓練の統制室の隊舎へと足を向けた。 『第四小隊、降下開始』 『ミル51よりパパ、配置完了』 『ミル51、チョーク降下、完了後警戒位置に着け』 『了解。各チョークへ、LZに着陸する。すぐに降りろ』 どうやら訓練は無事に進行している。 先行小隊が降下し、橋頭堡を確保し、そこに陸戦小隊が降下する。 おそらく他の三個の航空小隊もすぐに降下し、施設内に突入するだろう。 手際が良い。各隊員の錬度も高い。 なのはは頭の中でチェックリストを反芻し、指揮官の指揮、隊員の動きをチェックしていく。 『ミル54よりパパへ、方位342、単騎で接近してくるのがいる』 『パパよりミル各機へどんなヤツだ?』 『・・・砂埃で分からない』 中隊長がなのはをちらりと見る。 なのはは首を傾げる。戦技教導隊で作成された訓練内容の予定には無い、状況外の事態。 「陸戦小隊、展開急げ。航空小隊は突入を続行」 中隊長が不測の事態にも拘らず冷静に命令を下し、迎え撃つ準備を行う。 『こちらミル52、機体が見えた!!接近してくるのはレイヴンだ!!』 『待て、こちらはスレッジハマー、戦闘の意思は無い、戦闘の意思は無い。繰り返す戦闘の意思は無い・・・』 通信でそう宣言した本人が突然、丘の向こうからジャンプで現れ機体を着地させる。 「おいおい、撃つなって・・・。」 頭部ハッチが開く。そこから顔を出すのは二十代後半から三十代前半ぐらいの青年。 その周囲を陸戦小隊の隊員達がデバイスを構え取り囲む。 「除装しろ!!さも無くば・・・」 「・・・わかったよ」 案外おとなしく機体を除装し、青年が出てくる。 その脇を手馴れた手つきで二名の隊員が抱え、動きを封じる。 「名前は?」 「ボス・サヴェージ。こいつはスレッジハマー」 「レイヴンか・・・」 中隊長が顔を顰めながら呟く。 「ここに来たのは仕事のためだ。この廃墟を調査しろって言うのが仕事でな。来て見ればお前達がいたって・・・」 「黙れ、お前達はこいつを監視してろ。機体には封印を掛けておけ」 そう吐き捨てると中隊長がなのはに目配せをする。 「これは状況ですか?」 「いいえ、これは状況外の事態です。一旦状況を中止しますか?」 「予定外とはいえ闖入者は拘束しましたから問題は無いでしょう。訓練を続行します」 『こちら第二小隊、降下許可を』 『パパよりゴルフ21、降下を許可する。降下後、施設に突入しろ』 『こちら第二小隊、異常なし』 『第三小隊、整備用と思われる機械が散乱しているが』 『こちら先導小隊、おそらく最奥部と思われる格納庫まで到着。隠し部屋の類は確認できない』 「こちら本部、了解。各班は各階層の掃除を実施しろ。高町一尉、異常ないようですな」 「そうですね」 「航空総隊の本領、緊急展開の良い訓練にはなりましたな。後は・・・」 そう言うと中隊長が横目で拘束されているボス・サヴェージをみる。 「彼にお帰り願いましょう。彼の依頼人には何も無かったと報告していただくことになるでしょうな・・・」 どうやらこの人物はレイヴンに対してあまりよい感情を抱いていないらしい。 「そろそろ頃合だな・・・」 「え・・・?」 「ん?」 「こちらスレッジハマー、時間だ、始めろ」 なのはと中隊長が声のほうを見る。 視線の先、ボス・サヴェージと名乗った男が自身の駆るスレッジハマーに乗り込み起動させるのが見えた。 「おい待て!!・・・っが!!」 止めようと駆け寄った隊員をスレッジハマーの右腕に装備されたバズーカで殴り飛ばす。 なのはには一瞬何が起きているのか分からなかった。よく見るとボス・サヴェージを監視していた隊員が 二名倒れこんでいた。地面に血溜りを作りながら・・・。 <マスター!!> レイジングハートが警告を発する。 我に返り戦闘態勢で構えるとボス・サヴェージ=スレッジハマーは右腕に装備された大型バスーカを向けていた。 「・・・っな!?」 だが次になのはの目に飛び込んできたのはバスーカの方向から打ち出されたロケット弾。 <プロテクション> レイジングハートがオートガードを発動、ロケット弾を受ける。 「くっ・・・。どうして!?」 『悪いな、これが俺の仕事なんだよ。お前を抹殺することがな!!』 「なにを・・・。第一陸戦小隊!!各個に射撃開始!!やつを逃がすな!!第二陸戦小隊は援護しろ!!」 隊長の命令一過、入り口を守っており戦闘待機状態にあった第一小隊が素早く反応しレイヴンに集中射撃をくわえる。 だが、重装甲が売りのスタンハンマーは命中弾を受けながら回避機動を、バズーカと背部に積まれた誘導弾を放つ。 「うわ・・・!!」 「シールド!!」 「只の誘導弾じゃない!!分裂・・・」 最後まで言い終わることなく隊員達の周囲に着弾。 爆風に吹き飛ばされる者、破片で負傷するもの・・・。一部の隊員は倒れ伏したまま動かなくなる。 『こちら第二航空小隊!!敵性魔道甲冑と接触、交戦中!!』 『どこから出てきたんだ!?』 『あそこだ!!隠しゲート!!』 『さっき調べただろう?見落としたのか?!』 『違う、巧妙に偽装されてたんだ!!・・・うわ!!』 施設内でも戦闘が開始されていた。通信内容は悲鳴と怒号が響く。 「中隊各員!!これは訓練ではない!!各小隊は合流し・・・」 中隊長が怒鳴り声で指揮を執ろうとする。だがそこへスレッジハマーが突撃、左手で殴り飛ばす!! 「第二陸戦小隊は負傷者を施設内に運んで!!彼の狙いは私。私が相手をする!!」 「了解!!」 無傷か負傷が浅い隊員がなのはの指示を聞いて負傷した中隊長や隊員を抱えまだ安全な地上施設内に逃げ込もうとする。 「第一層にもいる!!」 「どうにか掃討しろ!!」 「相手は少数だ!!恐れるんじゃない!!」 必死に戦っているであろう隊員の声が聞こえる。なのははそれを背中に受けながら ボス・サヴェージ=スレッジハマーと向き合う。 『機種解析・・・、不知火だ!!』 『・・・何だって?』 『狭霧もいる!!』 両機種とも高性能を売り文句にする機体。 ちょっとやそっとでは購入・維持できるものではない。 『各隊、壁を背にして動け!!飛べない状態では勝ち目がない!!』 『小隊長、上!!』 『な・・・』 通信が途絶える。やられたのかそれともジャミングがかけられているのか・・・ 施設内での戦闘も激しくなっているのだけは確実。 だが航空総隊の隊員はそう簡単にやられるような隊員達ではな い。だがそれはあくまでも広い空でのこと。 狭い空ではその実力は発揮できない。 だが航空総隊の隊員はそう簡単にやられるような隊員達ではない。 だがそれはあくまでも広い空でのこと。狭い空ではその実力は発揮できない。 なのはは歯噛みしながらボス・サヴェージ=スレッジハマーを見る。 「どうして・・・、なんでこんな・・・!!私が狙いなら・・・、私だけを狙えば・・・」 「まだ分からんのか?!」 ボス・サヴェージ=スレッジハマーが語尾を強くしてなのはの 言葉を遮る。 「イレギュラーなんだよ!!お前は!!」 ボス・サヴェージ=スレッジハマーが怒鳴る。 その言葉の意味を理解するのになのはは少々の時間を有した・・・。 目次へ 次へ
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モンスターリスト ※必要クオーツ数の後ろの()内はその他を含めて必要な総計数を表しています 例:キングワイバーン?風のクオーツ*10(20) この場合 1:錬成したクオーツの総数が20以上であること、かつ 2:錬成した風のクオーツの総数が10以上であること を表します。 また、時間を指定しているものは練成の終了時間をその時間内におさめる必要あり。 表の条件を満たしていなくても、大量に錬成していると進化する事例がいくつかあるようです。 番号 名称 属性 進化条件 他種族進化 主な出現地域 1 キングワイバーン 風 ワイバーン+風10(20) モノリス塔内部 2 ワイバーンパピー 風 ワイバーン ファイアワイバーン ダークワイバーン ジュエル採掘場 3 ワイバーン 風 ワイバーンパピー+風*5(5) キングワイバーン 火の山 フラン=モート 4 ダークワイバーン 闇 ワイバーンパピー+闇*5(10) メタルワイバーン ジュエル精製工場 5 ファイアワイバーン 火 ワイバーンパピー+火*5(10) 火の山 フラン=モート 6 ベヒモ 土 ベヒモス 新街道 7 ベヒモス 土 ベヒモ+土*10(10) ダークベヒモス 官邸地下迷宮 8 ダークベヒモス 闇 ベヒモス+闇*10(20) キングベヒモス 地上灯台 9 キングベヒモス 闇 ベヒモス+闇*10(20) メタルベヒモス 10 ウルフ 氷 アイスウルフ 旧街道 11 アイスウルフ 氷 ウルフ+氷*5(5) ブリザードウルフ ロックウルフ サンダーウルフ 新街道 12 ロックウルフ 土 アイスウルフ+土*10(20) ザガリア遺跡 13 サンダーウルフ 雷 アイスウルフ+雷*10(20) ザガリア遺跡 14 ブリザードウルフ 氷 アイスウルフ+氷*10(20) フェンリル 15 メタルワイバーン 闇 ダークワイバーン+闇*10(30) 23~3時の間に錬成終了 16 メタルベヒモス 闇 キングベヒモス+闇*10(30) 23~3時の間に錬成終了 17 フェンリル 氷 ブリザードウルフ+氷*10(30) 18~6時の間に錬成終了 18 アルマジロ 土 ビッグアルマジロ ジュエル採掘場 19 ビッグアルマジロ 土 アルマジロ+土*5(10) ライノ ジュエル採掘場 20 ライノ 土 ビックアルマジロ+土*10(20) トリケラトプス アイスマンモス 官邸地下迷宮 21 トリケラトプス 土 ライノ+土*10(20) 官邸地下迷宮 22 アイスマンモス 氷 ライノ+氷*10(20)? 23 ドラゴンパピー 火 ドラゴン 新街道 24 ドラゴン 火 ドラゴンパピー+火*5(10) ファイアードラゴン サンダードラゴン 火の山 フラン=モート 25 サンダードラゴン 雷 ドラゴン+雷*10(20) ホーリードラゴン 官邸地下迷宮 26 ファイアードラゴン 火 ドラゴン+火*10(20) ホーリードラゴン 27 ホーリードラゴン 光 ファイアードラゴン+光*10(30) サンダードラゴン+光*10(30) 6~18時の間に錬成終了 モノリス塔内部 28 フォレストドラゴン 水 ウォータードラゴン ポイズンドラゴン ザガリア遺跡B3(最深部) 29 ウォータードラゴン 水 フォレストドラゴンドラゴン+水*10(15) モノリス塔内部 30 ポイズンドラゴン 闇 フォレストドラゴン+闇*10(20) 19時~22時の間に練成終了 官邸地下迷宮 31 フェアリーラビット 風 ピクシーラビット サモナー訓練場1階・地下1階 32 ピクシーラビット 風 フェアリーラビット+風*5(5) エルフィンラビット ダークラビット ホーリーラビット 地上灯台 火の山 フラン=モート 33 エルフィンラビット 風 ピクシーラビット+風*10(10) 34 ホーリーラビット 光 ピクシーラビット+光*10(20) 10~16時の間に錬成終了 ザガリア遺跡 35 ダークラビット 闇 ピクシーラビット+闇*10(20) 23~3時の間に錬成終了 ジュエル精製工場 36 レオ 火 ファイアーレオ ウインドレオ ウォーターレオ 地上灯台 37 ファイアーレオ 火 レオ+火*5(5) ブレイズレオ 火の山 フラン=モート 38 ウインドレオ 風 レオ+風*5(10) 官邸地下迷宮 39 ウォーターレオ 水 レオ+水*5(10) ジュエル精製工場 40 ブレイズレオ 火 ファイアーレオ+火*10(20) ホーリーレオ 火の山 フラン=モート 41 メタルグリフォン 闇 23~3時の間に錬成終了 官邸地下迷宮 42 イモムシ 光 ビートル サモナー訓練場・地上灯台 43 ホーリーレオ 光 ブレイズレオ+光*10(30) 6~18時の間に錬成終了 モノリス塔内部 44 ロックタートル 水 ミスリルタートル ダイヤタートル サモナー訓練場地下1階 45 ミスリルタートル 水 ロックタートル+水*5(15) 官邸地下迷宮 46 ダイヤタートル 氷 ロックタートル+氷*5(15) ザガリア遺跡 47 フレイムタートル 火 マグマタートル サモナー訓練場地下1階 48 マグマタートル 火 フレイムタートル+火*5(15) 火の山 フラン=モート 49 メイジホーク 雷 オアシスバード ジュエル採掘場 50 サンダーバード 雷 ロック 地上灯台 51 ロック 風 サンダーバード+風*5(10) 火の山 フラン=モート 52 フェニックス 火 オアシスバード+火*5(10) 53 グリフォン 雷 モノリス塔内部 54 オアシスバード 水 メイジホーク+水*5(5)? メイジホーク+雷*5(5) フェニックス 地上灯台 55 エルバード 水 エルエルバード 旧街道 モノリス塔 56 エルエルバード 水 エルバード+水*5(15) ?~?時の間に錬成終了(朝) 57 スリムバード 風 エレガントバード ジュエル採掘場 58 エレガントバード 風 スリムバード+風*5(15) ?~?時の間に錬成終了(朝) 59 サンドワーム 土 スコーピオン サモナー訓練場1階 60 ビートル 雷 イモムシ+雷*5(5) 4~5時の間に錬成終了 クリスタルビートル 61 クリスタルビートル 風 ビートル+風*5(10) ビートルキング 62 ビートルキング 火 クリスタルビートル+火*10(20) 63 スコーピオン 土 サンドワーム+土*5(5) マンティス ザガリア遺跡 64 マンティス 水 スコーピオン+水*5(10) マンティスクイーン 65 マンティスクイーン 氷 マンティス+氷10(20) 66 ゴーレム 土 サンダーゴーレム 旧街道 67 サンダーゴーレム 雷 ゴーレム+土*15 地上灯台 68 マグマゴーレム 火 アーマーゴーレム ザガリア遺跡 69 アーマーゴーレム 闇 マグマゴーレム+火*5(15) ザガリア遺跡 70 メア 風 ケルピー 地上灯台 71 ケルピー 光 メア+光*5(5) ユニコーン 火の山 フランーモート 72 ユニコーン 光 ケルピー+光*5(10) モノリス塔内部 73 ヤングトレント 光 エント+光*5(15) 朝 ユグドラシル 火の山 74 トレント 光 エント ジュエル採掘場 75 エント 光 トレント+光*5(10) 10~??(朝)の間に錬成終了 ヤングトレント 地上灯台 76 ユグドラシル 光 ヤングトレント+光*10(20) 朝 77 リトルジラフ 雷 ジラフ ファイアージラフ アイスジラフ サモナー訓練場1階・地下1階・ジュエル採掘場 78 ジラフ 雷 リトルジラフ+雷*5(5) シルバージラフ 火の山 フランーモート 79 シルバージラフ 雷 ジラフ+雷*10(20) キリン 80 キリン 雷 シルバージラフ+雷*20(40) 官邸地下迷宮 81 ファイアージラフ 火 リトルジラフ+火*5(10) フレイムジラフ ジュエル採掘場 82 フレイムジラフ 火 ファイアージラフ+火*10(20) 官邸地下迷宮 83 アイスジラフ 氷 リトルジラフ+氷*5(10) ブリザードジラフ 地上灯台 84 ブリザードジラフ 氷 アイスジラフ+氷*10(20) モノリス塔内部 85 バードマン 風 バードマンロード 新街道・地上灯台 86 サンドマン 土 キングサンドマン モノリス塔内部2階 87 フロッグマン 水 フロッグマンロード ザガリア遺跡 88 サハギン 氷 サハギンロード サモナー訓練場1階 89 バードマンロード 風 バードマン+風*5(15) 火の山 90 キングサンドマン 土 サンドマン+土*5(15) 91 フロッグマンロード 水 フロッグマン+水*5(15) 官邸地下迷宮 92 サハギンロード 氷 サハギン+氷*5(15) ザガリア遺跡 93 プチデビル 闇 リーパー プチエンジェル ジュエル採掘場 94 リーパー 闇 プチデビル+闇*5(10) 夜 アーリマン ザガリア遺跡 95 アーリマン 闇 リーパー+闇*10(20)夜 官邸地下迷宮 96 プチエンジェル 光 プチデビル+光*10(10)? 朝 ザガリア遺跡 97 グラスレイ 水 デザートレイ メタルスティングレイ ジュエル採掘場 98 デザートレイ 火 グラスレイ+火*5 ストームレイ ジュエル採掘場 99 ストームレイ 雷 デザートレイ+何かのクオーツ*15 火の山 フラン=モート 100 メタルスティングレイ 闇 グラスレイ+闇*10(30) 23~3時の間に錬成終了 101 バイパー 土 ナーガ 地上灯台 モノリス塔 102 ナーガ 土 バイパー+土*5(15) シェンロン 103 シェンロン 光 ナーガ+光*10(20) 6~18時の間に錬成終了 104 デウス 光 105 リヒト 光 ???最深部 106 シャッテン 闇 ???最深部 107 アネモス 風 錬成アイテム「イカロスの翼」使用 108 二グル 水 錬成アイテム「ソロモンの指輪」使用 109 タツッコ 氷 錬成アイテム「竜のぬいぐるみ」使用 110 カグツチ 火 錬成アイテム「イースターエッグ」使用
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後に闇の書事件と呼ばれる事件が起きてから、しばらく経ったころ、 「はやてちゃんが意識不明!?」 病院からの電話に、シャマルは呆然となる。金髪を肩のあたりで切りそろえた二十歳くらいの女性だ。受話器を落とさなかったのは僥倖だろう。シャマルはどうにか受話器を置くと、その場に崩れ落ちる。 居間にいて声が聞こえたヴィータ、シグナム、ザフィーラも顔色を変える。 「おい、はやてが一体どうしたんだ?」 「突然、病院で昏睡状態に陥って、原因不明だって・・・・・・」 「魔力の不足か」 シグナムが唇を噛み締める。年はシャマルと同じくらい。髪をポニーテールにした凛々しい雰囲気の女性だ。 手にしたものの願いを叶える闇の書。しかし、莫大な魔力を必要とする闇の書は、魔力の収集を行わなかった彼らの主、八神はやてを確実に蝕んでいる。 進行を抑えるべく、シグナムたちは連日、異界に飛んで魔力を収集しているが、はやての容態は悪化する一方だ。このままでは命にかかわる。 「やっぱり、こんなちんたらしたやり方じゃ、間に合わねぇよ!」 ヴィータが苛立ちまぎれに机を叩く。長い髪を二つの三つ編みにして垂らしている、きつい目つきの少女だ。年は六、七歳か。 はやてが悲しまないように、ヴィータたちは相手の命を奪わず、魔力の元、リンカーコアのみを奪取する方法を取ってきた。しかし、その方法も限界に来ていた。 「落ち着け、ヴィータ。主が悲しまないよう最善を尽くす。それが我らの誓いではないか」 床に伏せていた蒼い狼、ザフィーラがヴィータを諭す。 「でも、このままじゃ、はやてが・・・・・・」 「手がないわけじゃないわ」 シャマルが静かに言った。 「どういうことだ? 詳しく聞かせろ」 「この前、時空のはるか彼方に、膨大な魔力反応を感じた。もし、その魔力を手に入れられれば、はやてちゃんを助けられるかもしれない」 「何だよ。そんな方法があるなら早く言えよ」 ヴィータは胸を撫で下ろした。しかし、シャマルの顔は険しいままだ。 「どうした?」 シグナムが促すと、シャマルは重々しく口を開いた。 「簡単に行ける場所じゃない。たぶん往復だけで丸一日かかる。まして、その先にいるのはこれまで観測したこともない魔力の持ち主。全員でなければ、絶対に負ける。いいえ、全員で行っても勝てるかどうか・・・・・・」 先日襲撃した時空管理局の少女たちも、相当な魔力の持ち主だったが、今回はさらに桁が違う。まるで神か悪魔の居場所でも突き止めたかのようだ。 「相手が誰であろうと関係ない」 シグナムが剣型デバイス、レヴァンティンを取り出す。 「主を救えるなら、たとえ神だろうと悪魔だろうと倒してみせる」 全員が力強く頷く。彼らの心に迷いはない。 彼らの名はヴォルケンリッター。闇の書の守護騎士たちだ。 魔力で作られた道具でしかなかった彼らに、人の心と温もりを教えてくれた八神はやて。彼女を救えるなら、どんな罰だって甘んじて受ける。 「決まりだな」 「こうなると、はやてちゃんが昏睡状態なのは不幸中の幸いかもね」 「ああ、余計な心配をかけずにすむ」 「ならば、一刻も早く出発しよう。そして、一刻も早く戻らねば」 ザフィーラが立ち上がった。その姿が、狼の耳と尻尾を生やした浅黒い肌をした男に変わる。 万が一、目を覚ました時のために、石田医師に伝言を頼む。石田医師からは、こんな時にはやての傍からいなくなるなんてと文句を言われたが、仕事の都合でどうしようもないと押し切った。 「では、行くぞ!」 シグナムの号令の元、騎士服に着替えたヴィータ、シャマル、ザフィーラが転移を始める。 その頃、時空監理局所属アースラ艦内では、 「敵が移動を開始した?」 「はい。座標xに向けて移動中です」 「かなりの距離ね」 「もしかしたら、そこに闇の書があるのでは?」 黒衣の少年、クロノが母親であるリンディ艦長に向けて言う。 「その可能性は高いわね。収集した魔力を主の元に届けるつもりかも。そうなると、なのはさんやフェイトの協力は不可欠ね」 アースラは、なのはたちのいる時空に進路を取った。 ヴィータたちが降り立ったのは、月光が降り注ぐ広い草原だった。 ただし、その場所には無数の化け物が巣食っていた。 「おい!」 狒々(ひひ)や牛、草原を埋め尽くす化け物の群れに、ヴィータが思わず声を上げる。 化け物すべてが桁違いの魔力を放出している。たやすく倒せる相手ではない。 「ほう。面白い獲物がかかったものだ」 化け物たちの中心にいる巨大な牛が渋い重低音で言う。魔力の量から、そいつが親玉なのだろう。 牛が吠えると、その姿が変化していく。牛の角はそのままに、体は虎に、背からは巨大な翼が生えてくる。 「おお、窮奇様が……」 「真の姿を現された」 化け物たちがどよめく。 しかし、シグナムたちを驚愕させたのはそこではない。本性を現すやいなや、化け物から凶悪な魔力が放出されたのだ。 「・・・・・・嘘」 シャマルの足から力が抜け、その場に膝をつく。 「まさか、ここまでとは」 シグナムたちも武器を構えているが、顔から血の気が引いている。話には聞いていたが、まるで神か悪魔のような力だ。闇の書以外でこれだけの力を持った存在がいるなど信じられない。 (今の私たちで勝てるか?) 歴戦の勇士である彼らでさえ、いや、だからこそ勝機のなさを自覚せざるをえない。 窮奇と呼ばれた化け物が喉の奥で笑う。 「見たところ、人間ではないな。なかなか強い力を持っている。貴様らを食えば、この傷も少しは癒えるかな?」 窮奇の首には骨まで達する深い裂傷があった。普通ならとっくに死んでいるような大怪我だ。 「手負いでこの力か」 「おもしれぇ! てめえの力、そっくりいただいてやる」 ヴィータが金槌型デバイス、グラーフアイゼンを振り回して突撃する。 「ふん」 魔力の放射だけで、ヴィータは軽々と弾き飛ばされる。それを合図に一斉に化け物たちが襲ってきた。 主はやての為に不殺を貫いてきた彼らだが、これほど邪悪な存在に手加減する理由はない。 無数の化け物たちを、レヴァンティンが切り伏せ、グラーフアイゼンが叩き潰す。それでも倒して切れない相手をザフィーラが退ける。倒した敵からリンカーコアを摘出しながら、シャマルが傷を負った仲間たちを回復していく。 必死に応戦するが、すべてが手練れの上、数も多い。防戦一方だった。 苦戦する守護騎士たちを、窮奇がいやらしい笑みを浮かべて眺めている。その気になればいつでも始末できるのに、シグナムたちが傷つきもがき苦しむさまを楽しんでいるのだ。 その時、 「万魔拱服!」 轟く声と魔力が、シグナムたちを取り囲む化け物たちを一掃する。 「ちっ!」 思いがけない新たな敵の出現に、窮奇や他の配下たちが逃げていく。 「・・・・・・助かった?」 ヴィータがほっと息をつき、ザフィーラが狼の姿に戻る。 「えっと・・・・・・大丈夫?」 声をかけてきたのは、不思議な服を着た少年だった。赤い古めかしい衣に、長い髪を後頭部でまとめている。その肩には、白いウサギのような獣を乗せている。 「誰だ、てめえ?」 喧嘩腰のヴィータに、少年は答えた。 「俺は安倍昌浩。陰陽師だ」 「ま、半人前だがね。晴明の孫」 「孫言うな!」 肩の獣が茶化すように言う。それに少年は半眼で唸る。 「そのウサギ、喋るのか?」 「うん。ウサギじゃないけどね。物の怪のもっくんって言うんだ」 「俺は物の怪と違う」 「おんみょうじ? もののけ?」 聞いたことのない単語の連続に、ヴィータが胡乱げに眉をひそめる。一方、昌浩も怪訝な表情だ。 「君たちは一体? かなりの霊力を持っているようだけど・・・・・・」 昌浩たちは内裏を炎上させた妖怪を追っていた。妖怪の主を突き止めたと思ったら、変な風体の女たちが戦っていた。状況を飲み込めずとも仕方ない。 シグナムが代表して、前に出た。この世界の常識がわからない以上、この少年を頼りにする他はない。 「私の名はシグナム。この地に来たら、突然、化け物に襲われて困っていたところだ。助けてくれて感謝する。彼女がシャマル。こちらの狼の姿をしているのがザフィーラだ」 シグナムたちは昌浩の見たこともない服装をしていた。特にシグナムの服はすらりと伸びた足が裾から見えて、昌浩は目のやり場に困る。 「し、しぐなむ? しゃまる? ざふ? ……変わった名前だね」 昌浩が舌をかみそうな様子で名前を呼ぶ。ヴィータがそれを鼻で笑う。 「はっ! てめえの名前だって変わってるだろうが。昌浩だっけか?」 「こら、名前は一番身近い呪なんだよ。馬鹿にしちゃいけない。それで、君の名前は?」 「ヴィータだ」 「びた? なんか濡れ雑巾が落ちたような名前だね」 「てめえ! 言ってることが違うじゃねぇか!」 カッとなったヴィータがつかみかかろうとするのを、シグナムが押しとどめる。 「すまない。われわれはここに着たばかりで、勝手がわからないのだ。出来れば説明してもらえると助ける」 「うーん。どうしようか、もっくん」 「さてな。晴明に聞いてみたらどうだ?」 「構わんよ。家に来てもらいなさい」 突然の声に、昌浩たちはぎょっとなる。 振り返ると、白い衣をまとった長身の青年が、穏やかな笑みをたたえて立っていた。 「せ、晴明!」 「え? あれ、じい様なの?」 もっくんと昌浩が目を丸くする。 「遠方より客来ると占いに出ていたが、いやはや、ここまで特殊とは。この晴明も恐れ入った」 晴明は意味ありげに笑みを浮かべる。 「では、私は客をもてなす用意をする。昌浩、案内は任せたぞ」 それだけ告げると、晴明は風のように姿を消す。 「じゃあ、ついてきて」 シグナムたちは昌浩に連れられて、彼の家に向かった。時刻が遅いせいか、それとも文明がそれほど進んでいないのか、明かりの類はほとんどない。月と星の光だけが木造の家屋を照らしている。 「似てる」 道中、町並みを見渡していたシャマルがポツリと呟く。それにシグナムが反応した。 「似てる? 何にだ?」 「この道なんだけど、前にテレビで見た京都のものとそっくり」 「言われてみれば、昌浩殿の服装も時代劇に出てきたものによく似ているな」 「何だよ。タイムスリップしたとでも言いたいのか?」 ヴィータが目を細める。 「よく似た別世界なのだろうが、その可能性もある。思い込みは危険だが、手がかりがあるのはありがたい」 昌浩は裏表のない性格のようだが、後から出てきたあの青年はどうも油断がならない。下手をすると、奴にいいように使われてしまう危険があった。自分たちの判断材料が欲しい。 やがて昌浩の家にたどり着いた。木造で一階しかないが、敷地面積が半端ではない。その広さにヴィータは唖然となった。 「お前、もしかしてすごい金持ちなのか?」 「違うよ。家が広いだけ。俺の家より広くて豪華な家なんて、たくさんある」 昌浩が苦笑する。 一行は家に入り、廊下を進む。しかし、進むにつれて、昌浩の顔が険しくなっていく。 「どうした?」 「別に。ここだよ。じい様入ります」 シグナムたちは奥にある一室に入った。そこには灯火の光に照らされて、顔に深いしわの刻まれた白髪の老人が座っていた。 てっきりあの青年が出迎えると思っていたシグナムたちは拍子抜けした。 「誰だよ。この爺は」 「さっき会った人だよ。俺のじい様」 昌浩がヴィータに憮然と告げる。 「馬鹿いうな。ぜんぜん違うじゃねえか」 「つまりこういうことじゃよ」 老人が目を閉じると、その体からあの青年が浮かび出てくる。 「これは離魂の術といってな、魂だけを遠くに飛ばす術じゃ。魂の姿だから、わしの全盛期の姿になれる」 シグナムは愕然とした。こんな魔法は知らないし、それを行うのにどれだけの魔力を使うか、見当もつかない。 (もし、この老人から魔力を奪えれば・・・・・・) シグナムの手がピクリと動いた。 その瞬間、夜色の外套をまとった男が突然現れた。 「うわっ。どっから現れた!?」 男は無言でシグナムに視線を送る。あの刹那に漏れた殺気を感じ取られたらしい。 「六合(りくごう)。下がりなさい」 晴明に言われて、外套の男は姿を消す。 「失礼。彼らは十二神将といって、わしの式神・・・・・・・そうさな、そなたたちと同じような存在といえば、お分かりかな」 老人は手にした扇をシグナムたちに向けてにやりと笑う。 (我ら守護騎士と同じ……つまり人ではないということか) どうやら正体をほぼ看破されているらしい。ますます油断がならないと気を引き締める。 「彼らは隠形(おんぎょう)といって、あのように姿を自在に消せる」 「便利なものだな」 「えっ? 人じゃないの?」 昌浩が驚いて、まじまじとヴィータたちを見つめる。 「じろじろ見るんじゃねぇ」 ヴィータが昌浩の足を踏みつける。足を抑えて飛び跳ねる昌浩を、晴明が大げさなしぐさで嘆く。 「おお、昌浩よ。そんなことにも気がつかないとは」 「そりゃ、衣装は変わってるなとは思いましたけど、だって人間と寸分違わないじゃないですか」 ザフィーラが普通の動物ではないことはわかっていたが、他は人間だと信じ込んでいた。 「己の未熟を棚に上げて、言い訳とは。わしの教えが悪かったのか。じい様は悲しいぞ」 「はいはい。すいませんでした!」 昌浩が不機嫌に怒鳴る。晴明はわざとらしい泣き真似をやめると、シグナムたちに向き直った。 「では、そちらの事情からお話いただけるかな?」 シグナムは慎重に言葉を選びながら説明した。こちらが人間ではないとわかっているなら、都合がいい。主が命の危機にあり、救うためには大量の魔力がいる。闇の書や詳しい話は省いたが、嘘は言っていない。 相手は百戦錬磨の狸爺だ。下手な嘘はすぐに見抜かれるだろう。 「魔力?」 昌浩が疑問を口にする。それにはむしろシグナムが困惑した。 「昌浩殿もあの化け物たちも使っていたではないか」 「ああ、霊力のことか。化け物が使っていたのは、妖力だけど」 「どうやら、こいつらはすべて一括りに魔力と呼んでいるようだな」 もっくんが納得したように頷く。 シグナムは話を元に戻した。 「あの窮奇とかいう化け物の魔力を奪えれば、主は助かるかもしれない」 「なるほど。窮奇か。大陸から渡ってきた妖怪。それもかなりの大物だな」 「こちらの事情は説明した。次はそちらの番だ」 晴明の話は聞いたことのない単語が多く、シグナムたちは理解に苦労した。 ようするに、晴明はこの国の政府の要職にあり、その政府で一番偉い人の娘があの化け物に命を狙われている。それを退治しようとしているのが、晴明と昌浩だった。実際に動いているのは昌浩だが。 「窮奇の目的は力のあるものを喰らって、傷を癒すこと。かの大妖怪が完全な状態になれば、どんな災厄を招くか。我々の目的はどうやら同じのようだ。協力していただけませんかな?」 晴明が提案する。 シグナムたちはすばやく視線で意見を交わす。窮奇を退治するには、自分たちだけでは心もとない。晴明も昌浩もあの十二神将もかなりの実力者だ。これだけ心強い援軍を得られるなら、願ってもない。 「こちらからもぜひお願いする」 (それにもし化け物退治に失敗しても、彼らの魔力を奪うという選択肢もできるしな) シグナムの心に苦いものが広がる。そんな裏切りをすれば、主はやてはきっと悲しむだろう。だが、彼女を救う手が他にないのであれば、シグナムはその手を汚すことにためらいはない。 「決まりですな。では、今夜は我が家に泊まるといい。私の客人ということで、部屋は用意してあります。それにその衣装も目立ちすぎますな。代わりの物を用意しましょう。それと気をつけていただきたいのですが、ここでは妙齢の女性が素顔をさらして歩くことはあまりない。出歩く時はそれを忘れないで下され」 「わかりました。何から何まで世話になって申し訳ない」 シグナムが頭を下げる。ますます古い日本の風習にそっくりだ。それを参考に行動すれば、そこまで問題はなさそうだ。 「いえいえ。お安い御用ですぞ。では、今宵はこれまでということで」 シグナムたちは別の部屋に案内された。そこにはすでに三人分の布団が敷いてあった。薄い衣を重ねて掛け布団にしている。さすがにザフィーラの分はないようだ。 ヴィータとシャマルは横になると、すぐに寝入ってしまった。 疲れていたのだろう。特にシャマルは本来後方支援なのに、前線で戦ったのだ。無理もない。 今日だけで闇の書のページがかなり埋まった。窮奇を倒せば、もしかしたら、闇の書の完成すら夢ではないかもしれない。 晴明が裏切るとは思えないが、念のため、シグナムとザフィーラが交代で見張りにつく。 夜は静かにふけて行った。 目次へ 次へ
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小型モンスター ギアノス、ブルファンゴ等の攻略情報 中型モンスター ドスギアノス、ドスファンゴ等の攻略情報 大型モンスター ティガレックス、ナルガクルガ等の攻略情報
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早朝、シグナムは起きると、庭に出て稽古にいそしんでいた。 背後にかすかだが気配を感じる。本当に些細な気配だが、覚えがある。昨夜の十二神将だろう。 (私の監視といったところか) 昨日、殺気が漏れたのは失敗だった。要注意人物になってしまったらしい。 「確か六合殿と言ったかな?」 声をかけると、六合が姿を現す。夜色の外套に、顔には黒い痣のような模様がある。 「もしよければ稽古に付き合ってもらえないか?」 六合は無言で頷く。もし戦うことになったら、手の内を知っていたほうがやりやすい。互いの利害は一致している。 六合の左腕の銀の腕輪が、長槍に変じる。その構えには一部の隙もない。 「ほう。これは面白くなりそうだ」 シグナムのレヴァンティンと六合の槍の先端が触れる。それを合図に激しい打ち合いが始まった。 「見て見て、シグナム!」 シャマルがはしゃいだ声で近寄ってくる。シグナムも六合も互いの武器を収める。 「こんな素敵な衣見たことない!」 シャマルは色鮮やかな衣を何枚も重ね着していた。動きにくそうだが、とても美しい。はしゃぐのも無理からぬことだろう。 「ああ、よく似合っている」 「って、二人して何してたの?」 シャマルは二人の様子に首をかしげる。 六合もシグナムも息を切らして、顔から大量の汗が流れ落ちている。 「いや、六合殿に稽古に付き合ってもらっていたのだ」 「稽古?」 シャマルはますます首をかしげた。二人はどう見ても全力の試合の後だ。 「いや、あまりに楽しくてな。つい時間を忘れてしまった」 シグナムは朗らかな顔で笑った。 単純な強さだけなら、昨日の化け物のほうがはるかに上だろう。先日戦ったフェイトもスピードは素晴らしかったが、剣の腕前ではシグナムに分がある。 剣の技量だけで自分と互角に戦えるものと出会ったのは、初めてかもしれない。 「・・・・・・シグナム」 シャマルが半眼でつぶやく。 相手の手の内を探り、いざというときに備えるはずが、相手を好敵手として気に入ってしまった。これでは高潔なシグナムが裏切りなどという卑劣な真似をできるはずがない。 「だ、大丈夫だ。使命は忘れていない」 シグナムは必死に弁解するが、その慌て振りが自分の言葉を裏切っている。 「そ、それにあの化け物を退治すればいい。それで万事解決だ」 「本当にバトルマニアなんだから」 シグナムは強引に自分を納得させると、六合に向き直った。 「さて、続きをしようか」 その顔は、まるでお気に入りのおもちゃを見つけた子供のような、明るい笑顔だった。付き合いの長いシャマルも初めて見る表情だ。 六合は無言で頷く。その顔がいささかげんなりとしているのを、シャマルは見逃さなかった。 「動きにくい。わかりにくい。動きにくい」 ヴィータは不機嫌な顔で家の中をうろうろしていた。シャマルに無理やり着せられた着物が、足にまとわりついて歩きにくいことこの上ない。しかも昌浩の家の中は、広くてややこしく迷子になっていた。 「どうしたの?」 部屋から出てきた昌浩と出くわす。 「何でもねーよ。てめえこそどうしたんだよ」 昌浩は髪を結い上げ、黒く長い烏帽子をかぶっている。おそらくこれが彼の正装なのだろう。 「俺はこれから仕事。陰陽寮に出仕しないと」 「仕事~?」 ヴィータは眉をひそめた。目の前の少年はどう見ても、はやてより少し年上くらいだ。それが仕事に行くのは奇妙に思えた。それとも子供っぽいだけで、実年齢はもっと上なのか。 「お前、いくつだよ」 「十三歳」 「おもいっきし子供じゃねえか!」 「こら。俺はこれでも元服を終えた立派な大人なんだよ」 昌浩の台詞にもっくんが半眼になる。 「半人前のくせにえばるな。晴明の孫」 「孫言うな」 言い合いを始める昌浩ともっくんをヴィータはじっと見つめた。おもに肩に乗っているもっくんを。 「どうしたの、びたちゃん?」 「違う! 人を勉強も運動もできない小学生みたいに言うな! ヴィータだ、ヴィータ!」 「ご、ごめん。まだ慣れなくて。それでもっくんがどうかした?」 「もっくん言うな」 文句を言う物の怪を、昌浩は無視する。 「よかったら、触ってみる? もふもふして気持ちいいよ。温かいし」 「おい、本人の承諾も得ずに勝手に話を進めるな」 「ふ、ふん。別にいいよ」 ヴィータはそっぽを向いた。しかし、ちらちらともっくんを見ているので、触りたいのが丸わかりだ。 「はい」 昌浩は笑顔を浮かべて、もっくんを差し出す。 「へっ。仕方ないな。どうしてもって言うなら、触ってやる」 「だから、俺は承知しとらんと言うのに」 もっくんの文句は再び無視された。 ヴィータがおずおずと物の怪に触れる。物の怪はされるがままになっている。 なめらかな手触りに、ぎゅっと抱きしめると適度に柔らかく温かい。その抱き心地のよさにヴィータの顔がほころぶ。 「あ、ありがとう。昌浩」 思わず素直に礼を言ってしまい、ヴィータの顔が赤くなる。それを見られまいとうつむくと、頭を優しく撫でられた。 「触りたくなったら、いつでも言ってね」 「…………お前は気安く触るなー!」 ヴィータの拳が昌浩の鳩尾に突き刺さる。うずくまる昌浩を尻目に、ヴィータはどすどすと足音を立てながら歩いて行った。 (あいつ、むかつくな) どうも誰かに似ている気がする。それがヴィータの心を波立たせるのだ。しばし考えたが、誰に似ているのか答えは出なかった。 朝食の席で、ヴォルケンリッターたちは昌浩の両親に挨拶をした。扱いは晴明の客人ということになっている。 どう考えても怪しいが、晴明の客人ということで、昌浩の両親は無理やり納得したようだった。 朝食を終えると、昌浩と父親はすぐに仕事に行った。 それを見届けると、シグナムたちはあてがわれた部屋に集まる。 「はやての作るご飯が懐かしいぜ」 ヴィータが遠い目で呟いた。焼いた魚やご飯など、食事自体は悪くなかったのだが、全体的に薄味で淡白な物しかないのだ。特に砂糖がないので、甘いものは皆無だった。 「アイス。ケーキ」 「言わないで。私まで恋しくなる」 シャマルも悲しそうだった。早く目的を遂げないと二人がホームシックにかかりそうだった。 シグナムは強引に話を進めることにした。シグナムも朝食の前に、この世界の服装に着替えている。 「とにかく窮奇の居場所を突き止めなければ。シャマル、探索は?」 「今朝からやってるけど、この町にはいないと思う。魔力の痕跡を追っても、途中でぷっつり切れちゃってるの。 あれだけの魔力を持っているのに、隠れることがすごく上手いみたい」 「たちが悪いな」 シグナムが唇を噛みしめる。しかし、十二神将も隠形を会得している。同じ世界にいる窮奇も会得していたとしても不思議ではない。あれを使われては、よほど近くにいない限り、シャマルの探索にも引っかからないだろう。 「一応、探索は続けてくれ。後は我々が地道に探すしかないか」 「でも、この世界の女は顔をさらしちゃいけないんだろ。外に出られないぞ」 それでなくとも、まだこの世界の常識を知らないのだ。自分たちだけで町を歩くのは危険だ。 「私が行こう」 のっそりと狼の姿のザフィーラが立ちあがる。 シグナムたちは気まずげに視線を交わした。 「どうした? 犬の振りをすれば怪しまれないと思うのだが」 「いや、こんなでかい犬が一匹で歩いてたら、大騒ぎになるだろう」 「……ならばこちらなら」 ザフィーラが人間の姿に化ける。シグナムたちはますます難しい顔になる。 「耳と尻尾が生えた人間って、もっと駄目だろう」 「うむ。狼の姿以上に大騒ぎになるな」 ザフィーラは狼の姿に戻って座り込んだ。心なしか寂しげな表情を浮かべている。 あの隠形と言う魔法を本気で学びたくなってくる。 「やっぱり晴明さんの協力を仰ぐべきじゃないからしら?」 「これ以上、あの老人を頼りたくないのだが」 借りを作ったら最後、どんな方法で返せと言われるかわかったものではない。出会った翌日にして、晴明の印象は最悪だった。昌浩が信用できる人柄なだけに、腹に一物ある晴明が際立って悪く見える。 今だってかすかに視線を感じる。恐らく十二神将の誰かが監視をしているのだろう。 こちらのこともどれだけ知っているか、わかったものではない。本当に食えない爺だ。 「やっぱり昌浩が帰ってきてから、夜、一緒に探すしかないか」 ヴィータが片膝を立てながら言った。それに妖怪は夜行性と聞く。昼間に探しても見つけられる可能性は低いだろう。 「それしかないか。シャマルは昌浩殿の母上から、なるべく情報を収集してくれ」 「わかったわ」 シグナムに言われ、シャマルが昌浩の母親の元に向かう。家事手伝いをしながら、この世界の常識を学んでいくのだ。 「わたしたちは?」 「特にすることはないな。体がなまらないよう、気をつけていてくれ」 シグナムがいそいそと立ちあがる。それと同時に騎士服を装着する。六合と稽古の続きをやるのだろう。 「まったくバトルマニアはいいよな」 ヴィータはとことん憂鬱になる。ヴィータとて戦いが嫌いなわけではないが、さすがに一日中武器を振りまわしていたいとは思わない。ゲームもないこの世界では、時間をどう潰していいかわからない。 「ザフィーラ、ゲートボールでもやるか?」 「いや。おとなしくしていよう」 「そっか」 ヴィータは一人で庭に出た。そこに昌浩より少し年下らしい黒髪の少年が立っていた。放たれる魔力から、ヴィータはそれが十二神将であると悟った。 「お前は?」 「十二神将、玄武だ。晴明より、お前の暇つぶしに付き合ってやれと指示された」 玄武が淡々と言った。 どうも子供扱いされている気がしてむかつくが、相手がいないよりはましだ。 「お前、ゲートボールってやったことあるか?」 夕刻、昌浩は仕事を終えて帰路についていた。 「しかし、昌浩や、本当にあいつらを信用していいのか?」 「どうして? 悪い人じゃなさそうだよ?」 「それはそうかもしれんが……」 純粋な眼差しで言われると、もっくんは反論できない。 昌浩は新しい家族が増えたようで嬉しかった。特にヴィータは、末っ子の昌浩にとって、初めての妹同然だ。少々口が悪いのが難点だが。 「ただいま」 昌浩が玄関をくぐると、そこには信じられない光景が広がっていた。 まるで全力疾走の後のように息を切らした六合とシグナム。 無言で、柄の長い金槌のような不思議な道具を使って、球転がしをしているヴィータとよく知らない十二神将。 台所では、夕食の用意をしながら、シャマルと母がまるで旧知の仲のように談笑していた。 昌浩に気がつくと、ヴィータがまなじりを釣り上げて迫ってきた。 「遅い!」 「ええ!?」 「もっと早く帰ってこれねぇのか!?」 「無茶言わないでよ。退出時間は決まってるんだから。これより早くは帰れないよ」 「言い訳するな!」 「はい!」 ヴィータの剣幕に、昌浩は背筋を伸ばす。 ヴィータが不機嫌なのには理由があった。玄武とゲートボールに興じていたのだが、玄武は勝っても負けても無反応で、退屈この上なかったのだ。 「おし、あの化け物を探しに行くぞ!」 「みんな、ご飯よー」 気の抜けたシャマルの声が、ヴィータの気勢をそぐ。 「お、ま、え、はー!」 「まあまあ、腹が減っては戦はできぬっていうし」 昌浩が必死になだめる。その時、ヴィータの腹の虫が盛大な音を立てた。 「ほらね」 「笑ってんじゃねぇ!」 ヴィータの拳が昌浩の顎に炸裂する。 「ほら、さっさと飯にするぞ」 ヴィータがすたすたと歩いて行ってしまう。 「……なんか俺、今朝から殴られてばっかりだ」 「いろいろ大変だな。晴明の孫」 「孫言うな」 痛みに呻いていても、いつものやり取りは忘れない昌浩ともっくんだった。 その頃、都の外れの草原に、なのは、フェイト、クロノの三人が降り立った。 「ここにヴォルケンリッターがいるんだよね?」 「間違いない」 白いバリアジャケットを着た、なのはの問いに、クロノが静かに答える。目の前には古めかしい町並みが広がっている。ヴォルケンリッターの主を見つけ出し、捕まえなければならない。 「行くぞ」 クロノが一歩踏み出す。 その瞬間、虚空から突然人間が現れた。青い髪をした青年に、筋骨隆々とした壮年の男。それに五歳くらいの少女だ。 「何者だ!」 クロノたちはそれぞれデバイスを構える。そこにオペレーターのエイミィから通信が届く。 『気をつけて。分析したところ、そいつら守護騎士に限りなく近い存在みたい』 「奴らの仲間か」 クロノは顔をしかめる。まさかまだ仲間がいるとは思わなかった。それとも集めた魔力で新たに作り出したのか。 「我らの主から、貴様らに伝言がある」 青い髪の青年が声を張り上げる。彼らは十二神将だった。青い髪の青年が青龍、筋骨隆々としているのが白虎、それに女の子が太陰だ。ここに来たのは晴明の指示だ。 「“ここはひいてくれ”以上だ」 「ふざけるな。それだけでおめおめ帰れるものか!」 クロノが怒鳴る。今はっきりと主と言った。つまり闇の書の主はここにいるのだ。絶対に逃がしはしない。 「ならば、力ずくだ!」 青龍が青い光弾を放つ。 クロノたちはとっさに飛行して回避する。 「ほう」 「ちょっと、青龍。相手が人間だったら、どうするのよ」 太陰が苦言を呈する。十二神将には人間を傷つけてはならないという掟があるのだ。 「はっ。足から翼を生やして、空を飛ぶ人間などいるものか。間違いなく妖怪だ」 「今なんか失礼なこと言われなかった?」 なのはが若干涙目で言った。 「覚悟!」 青龍が信じられない跳躍力で、なのはに肉薄する。 「ひっ」 鋭い眼光に、鬼気迫る表情、全身から放射される殺気に、なのはの体がすくむ。 「なのは!」 「お前の相手はこっちだ」 なのはの援護に向かおうとしたフェイトの前に、白虎が立ちふさがる。掘りの深い顔立ちに、たくましい体躯。まるで筋肉の軋む音が聞こえてきそうだ。白狐は険しい顔のまま、鋭い風の刃を放つ。 咄嗟に回避するが、白虎は執拗に攻撃を繰り出す。 「フェイト!」 「行かせない!」 クロノの前には太陰が立ち塞がった。クロノの魔法を、素早い動きでことごとく避けていく。太陰が放つ竜巻を、クロノはどうにかバリアで防ぐ。 戦いはこう着状態だった。お互いに決定打を繰り出せない。 「なのは、フェイト、撤退だ!」 不利を悟ったクロノが撤退を指示する。 青龍たちは、それ以上追撃してこなかった。 アースラに戻ったなのはたちを、リンディ艦長が出迎える。 「お帰りなさい。随分苦戦したみたいね」 「すみません」 クロノは素直に頭を下げる。あんな幼子に翻弄されて、クロノの自尊心はいささか傷ついていた。あまりに幼い容姿なので全力で攻撃できなかったのだが、そんなものは言いわけにならない。 「ですが、こちらの思わぬ弱点が発覚しました」 クロノは、なのはたちを振りかえる。 なのはたちは若干青ざめた表情で立っていた。 「二人とも、どうしたの?」 リンディは心配そうに二人に駆け寄る。これまで二人がこんな様子になったことはない。 「つまり、こういうことです」 クロノがディスプレイに青龍と白虎の顔をアップで映す。 「「ひっ!」」 なのはとフェイトが怯えた顔で抱き合う。 ディスプレイを消してクロノはゆっくりと言った。 「どうやら二人は怒った大人の男性に弱いようです」 「へっ?」 リンディは思わず間の抜けた声を出してしまった。 なのはの父と兄は普段は温厚で、滅多に怒らない。怒る時は怖いのだが、いい子のなのはが怒られたことは、これまで数えるほどだ。 そして、フェイトは母親やアルフなど、生まれてから、大人の男性と接したことがほとんどない。クロノやユーノでは子供すぎる。険しい顔のおっさんと向かい合ったことなど皆無だろう。 「なるほど。二人とも耐性がなかったのね」 リンディが苦笑いを浮かべる。 もしあの戦いで、なのはやフェイトが全力を出せていれば、勝ち目はあっただろう。攻撃力ではこちらに分があるし、あの青い髪の青年は空が飛べないようだった。しかし、完全に委縮してしまっているあの状態では、半分の力も出せるかどうか。 「相手がどこまで考えてあいつらを投入してきたかわかりませんが、状況はかなり厳しいです」 こういった苦手意識は一日や二日で克服できるものではない。徐々に慣れていくしかないのだ。 しかし、クロノ一人でヴォルケンリッターすべてを相手に出来るとも思えない。頭の痛い問題だった。 「だ、大丈夫なの。今度は我慢する」 「そ、そうだよ。私たちなら大丈夫」 なのはとフェイトが拳を握って勢い込む。 クロノが再びディスプレイを映す。 「「ひっ!!」」 「……今度はアルフとユーノを連れて行った方がいいかな」 怯える二人を見ながら、クロノは静かに溜息をついた。 夜警に出かけた昌浩たちは、とりあえず窮奇が逃げて行った方角に向かうことにした。シャマルは家に残ってみんなの支援をすることになっている。 窮奇が町の中にはいないのは間違いないので、かなり遠くまで行かないとといけない。 「そう言えば、君の髪飾り面白いね。ちょっともっくんに似てるかも」 道すがら、昌浩がそっとヴィータの帽子についているウサギの飾りに手を伸ばした。 「触るな!」 パンッと乾いた音がして、ヴィータが昌浩の手を弾く。 よほど強い力で叩かれたのか、昌浩の手が軽く腫れている。さすがにやり過ぎたと、ヴィータはばつが悪くなる。 「ごめん」 しかし、謝ったのは昌浩の方だった。 「なんで謝るんだよ?」 「きっと大事な人からの贈り物なんでしょう? わかるよ。俺にもそういうのあるから」 昌浩は胸元を握りしめた。そこには匂い袋がぶら下がっている。 昌浩は場の空気を変えるように明るい声を出した。 「それにしても、町の外となると行くのが大変だね」 「おい」 歩みを続ける昌浩の服の裾を、ヴィータがつかむ。 「何?」 「どうして飛んでいかない?」 「……だって、俺、飛べないから」 「ふざけんな! あんだけの魔力持ってて飛べないって、どういうことだよ!?」 「いや、俺人間だし、普通は飛べないって」 「んなわけあるかー!」 ヴィータの絶叫が夜の町に轟く。 「落ち着け。近所迷惑だ」 シグナムがそっとヴィータの肩に手を置く。 「この世界ではそれが常識なんだろう。ならば、我々が配慮すればいいことだ」 シグナムがぐいと昌浩を抱き寄せる。体のあちこちに触れる柔らかい感触に、昌浩の顔は真っ赤に染まる。 「シ、シグナム!?」 「喋ると舌をかむぞ」 シグナムの体がふわりと宙に浮く。そのままぐんぐんと高度を上げ、町並みが足元のはるか下に広がる。 「へぇー。都って上から見るとこんな感じなんだ」 昌浩が感嘆したように呟く。 「おい、何赤くなってやがる」 ヴィータが同じ高度まで上昇しながら軽蔑するように言った。隣ではザフィーラも宙に浮いている。 「だ、だって、こんな……」 「おー。おー。一人前に赤くなって。こうして人は大人になっていくんだなぁ」 「もっくん、うるさい。それにしても、みんな飛べるんだ。すごいね」 晴明とて飛行の術は知らないはずだ。十二神将でも飛べるのはごく一部だろう。それができるシグナムたちを昌浩は素直に称賛した。 「私たちにしてみれば、魔力さえあれば、そこまで難しい魔法ではないのだがな。では、このまま探索を続けよう」 その日は窮奇の足取りはつかめなかった。しかし、町の中を暴走していた車の妖を見つけ、昌浩はそれを自分の式にした。仲間が増えた上に、空の散歩を楽しめて、昌浩はご満悦だった。 窮奇の手がかりがつかめないまま、数日が過ぎた。 時折、窮奇配下の妖怪とは出会うが、敵は決して口を割らない。 ヴィータたちの焦りは日に日に高まっていく。こうしている今も、はやての命は危ぶまれているのだ。 それは昌浩も同様だった。時間をかければかけるほど、窮奇に狙われている娘の命が危ない。 昌浩は地上から、空からヴィータ、シグナム、ザフィーラが散開して捜索を行っているのだが、それでも結果は芳しくなかった。 そんなある日、いつものように夜警に出た昌浩たちだったが、シグナムが不意に固い声で言った。 「尾行されているな」 「まさか窮奇の仲間?」 「いや。尾行のしかたが素人だ。おそらく人間だろう」 昌浩たちは路地の角を曲がると、追跡者を待ち伏せた。やがて人影がきょろきょろと周囲を窺いながら現れる。 その時、風が吹いた。馴染んだ香りが昌浩の鼻孔をくすぐる。 「観念しろー!」 「ちょっと待ったー!!」 不審者を取り押さえようするヴィータを、昌浩が押しとどめる。 「あっ。昌浩、そこにいたんだ」 人影が朗らかにそう言った。 「どうしてここにいるんだよ、彰子!」 月明かりが人影を照らす。そこには見るからに上等な着物を着た、長い髪の少女が立っていた。年齢は昌浩と同じくらい。ただ立っているだけなのに、振舞いに優雅さがある。 「誰だ?」 「藤原彰子。左大臣……ええと、この国で一番偉い大臣の娘で、この子が窮奇に狙われているんだ」 シグナムの疑問に昌浩が答えた。 「なるほど。どうりで優雅なわけだ」 「昌浩、この方たちは?」 「ええと、協力者というか、仲間というか……」 昌浩が今度は彰子の疑問に答える。 「初めまして。私はシグナム。しかし、狙われているのに出歩くとは感心しないな」 彰子の住む所には晴明が直々に結界を張っている。そこにいる限り、窮奇とておいそれと手が出せないはずなのだ。 「そうだよ。彰子。早く帰った方がいい」 「嫌よ。私だって昌浩の役に立ちたいわ」 口喧嘩を始める昌浩と彰子から、もっくんは距離を取る。その背をむんずとヴィータがつかんだ。 「もっくん。あいつらどういう関係だ?」 「もっくん言うな……一口に説明すると難しいが、昌浩の大事な人……かな?」 「大事な人?」 「お前も見たことあるだろう。昌浩が首から下げている匂い袋。あれは彰子が贈ったものだ」 「なるほどね」 昌浩が以前、大事そうに胸元を握りしめていたことを思い出す。そこに匂い袋があることをヴィータが知ったのは、それからすぐのことだった。 「へっ。色気づきやがって。これだからませガキは」 「おい。手に力を込め過ぎだ。痛いぞ」 「ヴィータ!」 ザフィーラが注意を促す。 咄嗟にとびのくと、さっきまでヴィータがいた地面を鋭い爪が抉った。 「誰だ!」 全員が瞬時に戦闘態勢に移る。 月を背にして、人間ほどの大きさの鳥が翼を広げていた。鳥妖、シュン。窮奇配下の中でも屈指の実力者だ。 「窮奇様の邪魔をする愚か者ども。この場で朽ち果てるがよいわ!」 シュンの声を合図に広がった結界が、昌浩たちを飲み込む。 周囲の光景は変わらないが、虫の声やかすかな人の気配が途絶える。異界に引きずり込まれたのだ。 民家の屋根や道の向こうから妖怪たちが続々と姿を現す。完全に囲まれている。 もっくんがヴィータの手を振りほどくと、シュンと正面から向き合う。 「こちらも連日の捜索に飽き飽きしていたところだ。貴様をひっとらえて、主の元まで案内してもらおう。幸い、ここなら全力を出しても問題なさそうだしな」 「もっくん?」 ヴィータが声をかけると、もっくんは凶暴な笑みを浮かべた。 「ちょうどいい。お前たちにも俺の真の姿を見せておこう」 真紅の炎がもっくんから立ち上る。 炎をかき分けて長身の青年が現れる。 ざんばら髪に褐色の肌。仏像のような衣をまとっている。放たれる魔力は凄絶にして苛烈。これまでヴィータたちが会ったどの十二神将よりも強い。 「紅蓮!」 昌浩がもっくんのもう一つの名を叫ぶ。 紅蓮。またの名を騰(とう)蛇(だ)。地獄の業火を操り、あらゆるものを焼き尽くす十二神将最強にして最凶の存在だ。 「こいつもザフィーラと同じかよ」 紅蓮の全身から、炎で形作られた蛇が無数に放たれる。蛇は妖怪たちを飲み込んで次々に焼きつくす。 「昌浩、彰子がいないぞ」 ザフィーラが緊迫した声で言った。 「しまった!」 最初に結界を張った時、彰子だけ中に入れなかったのだろう。昌浩たちを足止めしている隙に、彰子をさらう計画だったのだ。 「シャマル! 彰子殿の居場所はつかんでいるか?」 シグナムが叫んだ。 『大丈夫。敵は鳥型の妖怪一匹だけよ。でも、すごい勢いで町から出ようとしている』 「シグナム。この異界から脱出はできるか?」 紅蓮が攻撃の手を緩めることなく聞いた。 「可能だ」 転移魔法を使えば、どうにかなるだろう。 「しかし、転移するには少し時間がかかる」 「ならば、昌浩とお前たちは彰子を追ってくれ。その時間は俺が稼ぐ」 一人で大丈夫かと、喉まで出かかった言葉をシグナムは飲み込む。紅蓮の顔は自信に満ち溢れていた。 転移に入ったシグナムたちに、妖怪たちが一斉に襲い掛かる。 「行かせない!」 吹きあがる炎の壁が妖怪たちを阻む。 「邪魔はさせん!」 壁と蛇の間隙を縫って、シュンが爪を振りかざす。 「紅蓮!」 紅蓮の手が燃え上がり、赤い槍が出現する。 「行け!」 シュンの爪を紅蓮が槍で受け止める。 次の瞬間、昌浩たちは元の世界へと転移していた。 「ふふ。消えぬ傷。癒えぬ傷。これが獲物の刻印よ。窮奇様もさぞお喜びになろう」 彰子をつかんだまま飛びながら、鳥妖、ガクが微笑む。 「それはどうかな?」 声と同時に、ガクを取り囲むように魔法陣が発生する。その中からシグナム、ヴィータ、ザフィーラが現れた。 『転送成功』 シャマルが勝ち誇った声で言う。 「おい、重いぞ」 「だって、しょうがないじゃない」 ヴィータが不機嫌に言う。その背には昌浩がしがみついていた。転移した時、昌浩はヴィータと一緒に飛ばされたのだ。 「ええい、邪魔をするな!」 ガクの魔力が炸裂する。その隙に、ガクは包囲網を抜けだそうとする。 「アイゼン!」 「レヴァンティン!」 ヴィータが鉄球を打ち出す。鉄球は鳥の足に当たり、彰子を取り落とさせる。 続いて、鞭のように伸びたレヴァンティンがガクを切り裂く。 「彰子!」 「任せろ!」 落ちていく彰子を、ザフィーラが抱き止める。 「気を失っているだけだ。命の心配はない」 彰子の様子を確認し、ザフィーラが告げる。昌浩は安堵した。 「しかし、今回は大きな手掛かりを得られたな」 シグナムが鋭い目で、ガクの向かった方角を睨む。 「窮奇は間違いなく北にいる」 「おい、北には何があるんだ?」 「そうだな……貴船山とか?」 『シグナム、気をつけて!』 「シャマル?」 シグナムが聞き返そうとすると、上空に巨大な魔力が出現した。 「まったく使えぬ部下どもよ」 聞き覚えのある重低音。放たれる圧倒的な魔力。振り返るまでもない。真上に奴が現れた。 「死ね」 死刑宣告と共に、雨のように大量の魔力の刃が降り注ぐ。 シグナム、ザフィーラが咄嗟にバリアを展開する。しかし、昌浩を背負っていたヴィータの反応が遅れる。 (間に合わねぇ!) 刃がヴィータの眼前に迫る。その時、ヴィータの体が真横に流れた。 振り返ると、昌浩の体が宙に舞っていた。ヴィータを助けるために、昌浩が突き飛ばしたのだ。 「よかった」 昌浩がにっこりと笑う。 ヴィータが手を伸ばす。しかし、それより早く昌浩が魔力の刃に貫かれる。空中に赤い花が咲いたかのように、鮮血が散る。 「昌浩ー!」 ヴィータの悲痛な叫びが、都の空に轟いた。 「昌浩! しっかりしろ」 窮奇は一度の攻撃だけで去って行った。ヴィータは昌浩を抱き止めると、繰り返し呼びかける。意識を失ってしまったら、助かるものも助からない。 魔力の刃は昌浩の腹を貫通していた。出血で昌浩の衣は真っ赤に染まっている。もしかしたら、内臓を傷つけたかもしれない。 「昌浩!」 敵を片づけた紅蓮が、慌てて駆け寄る。しかし、昌浩の凄惨な傷を見て絶句する。 「シャマル。転送と傷の手当てを。早く!」 『やってるわよ!』 苛立った様子でシグナムとシャマルが交信する。 次の瞬間、昌浩の体は光に包まれて、姿を消した。 「おい、昌浩は大丈夫なんだろうな」 「安心しろ。シャマルは回復魔法のエキスパートだ。彼女に任せれば問題ない」 取り乱す紅蓮をシグナムがなだめる。 「とにかく戻るぞ。今は昌浩殿の容体が心配だ」 屋敷に戻ったシグナムたちを、疲れた様子のシャマルが出迎えた。その隣には六合もいる。 「一命は取りとめたわ。出血が激しいから、しばらくは絶対安静だけど、もう大丈夫。後遺症の心配もないわ」 「そうか。ありがとう。感謝する」 もっくんの姿に戻った紅蓮がほっと胸をなでおろした。 六合はザフィーラから気絶している彰子を受け取ると、送り届けるべく彰子の屋敷へと向かった。 「昌浩君には今晴明さんが付き添ってる」 「様子を見てくる」 もっくんが昌浩の部屋に向かうのを、ヴィータが足早に追いかける。 部屋では、静かに眠る昌浩の横に晴明が座っていた。普段はなんのかんのと言っても、やはり孫のことが心配なのだろう。 部屋に入ってきたもっくんとヴィータに、晴明はそっと人差し指を口に当てる。 昌浩は青ざめた顔はしているが、呼吸は安定している。命の心配はないというシャマルの言葉をやっと鵜呑みにできた。 ヴィータは昌浩を挟んで晴明の対面に座ると、そっと目を伏せた。 「爺さん、悪い。昌浩は私のせいで」 「気にすることはありません。昌浩はヴィータ殿を助けようとしただけ。むしろ、あの時助けようとせなんだら、この晴明、決して許しはしなかったでしょう」 「でも……」 「まあ、この晴明ならば、ヴィータ殿を助けて、自分も無傷で済ませたでしょうがな。まったく昌浩は未熟でいかん」 晴明が大げさな身振りで嘆く。 「おいおい。怪我人に鞭打つなよ」 もっくんが晴明をたしなめる。気のせいか、眠っている昌浩の眉間に皺が寄っている。 晴明は、ヴィータを励まそうと思ったのだが、ヴィータは暗い顔のまま沈みこんでいる。 「ヴィータ殿」 「……似てるんだ」 「?」 ぽつりと呟いたヴィータの言葉に、晴明は首を傾げる。 「昌浩はずっと誰かに似てると思ってた。でも、今晩ようやくそれがわかった。昌浩は、はやてに似てるんだ」 はやてが誰かとは晴明ももっくんも尋ねなかった。 はやては、ヴィータのわがままを笑って許してくれる。でも、注意すべき時は注意する。ヴィータを子供扱いするその仕草が、昌浩とかぶる。 だが、それ以上にもっと本質が似ているのだ。 両親のいないはやて。両足が不自由なはやて。決して幸福とは呼べない状況なのに、それでも日々明るく笑うはやて。 自分ではなく、他の誰かが幸せなのを嬉しいと、心から笑えるはやて。 「わかんないよ! どうして自分以外の幸せで笑えるんだ! はやても昌浩も」 窮奇の魔力に貫かれる瞬間まで、昌浩は笑っていた。自分が死ぬかもしれないのに、ヴィータが助かって嬉しいとその顔が物語っていた。 「……本当にわかりませんかな?」 晴明が優しい口調で尋ねた。 「わかんないよ」 「では、もしあの状況が逆だったなら、どうします?」 昌浩が絶体絶命なら、ヴィータはどうしたか。かばえば自分が傷つくとしたら。 「……助けた……と思う」 「はやて殿の命が危なかったら?」 「絶対助ける! 当たり前だ!」 「つまりそう言うことです」 晴明が穏やかな手つきでヴィータの頭を撫でる。 普段の晴明は人を食ったようなことしか言わないのに、こういう時は包み込むような優しさを見せる。もしおじいちゃんがいたら、こんな感じなのかもしれない。ヴィータの心が不思議と落ち着いていく。 「難しく考えることはありません。大切な人を助けたい。それは当然の行動なのです。ですが……」 晴明は意味ありげに眠る昌浩を見つめる。 「昌浩が起きたら、ヴィータ殿には叱る役をお願いしたい。この孫は助けられた人がどんな気持ちになるか、まるでわかっていないようなので」 真に人を助けようと思うなら、自分も死んではならないのだ。昌浩はヴィータを助けるのに必死で、自分の身を守ろうとしなかった。よかったなどと呟く暇があったら、攻撃を防ぐ努力をすべきだったのだ。 「お、おう。任せとけ!」 ヴィータががぜん勢い込んで立ち上がる。 「お前ら。もう少し静かにしろ。怪我人の前だぞ」 もっくんがピシリと尻尾を打ちつける。 晴明とヴィータは顔を見合せて笑うと、この場をもっくんに任せて静かに退出して行った。 目次へ 次へ
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ロリコンとは何か? 辞書的な意味ではロリコンとは、幼女や少女に対して抱く男性の性的嗜好、もしくはそういった性癖を持つ人物の事を意味する。 おそらくこの少女の求める答えはこういった明確な意味の回答なのだろうが、果たしてこの事を告げるのはなんとも憚られた。 というより………、 (なぜそのような事を聞いてくる? 一体何があったんだ?) 思考の海にいくら沈もうと答えは出ないし、もちろん状況を打破する事もできない。 窓の外に見える夕日は、そんな彼の姿を嘲笑うかのように悠々と沈んでいった。 リリカルなのはARC THE LAD 『第二話:ミッドチルダの車窓から(前編)』 「なかなか見つからねぇな………」 情報端末を操作しながらエルクはつぶやいた。 場所は自分のアパートの一室。 窓からは朝日が差し込み手元には自分で淹れたコーヒー。 一見清々しい朝の風景のようだが、当の本人は大分疲れた様子である。 普段は勢いよく立ち上がっている髪も、心なしか幾分萎びている様であった。 その原因は昨日受けた依頼にあった。 今エルクは二つの依頼を受けている。 その内の一つであるお届け物、その届け先のティアナ・ランスターの情報を得ようとしているのだがなかなかうまくいかない。 「もっと詳しく言ってくれよな………」 生憎会話する時間が少なすぎて分かるのは唯一名前のみ。 一応依頼者であるティーダと呼ばれていた男から、取り上げたまま持ち帰ってしまったデバイスが有るには有るが、知性型ではなかったため専門の機材がないと情報を得られない。 そのため悪いと思ったが依頼品の手帳の内容を見て、おそらくティーダと兄妹の関係にあるであろうと判断し今検索しているのだが、普段使い慣れていないエルクには大変な重労働であった。 というのも、複数の次元世界の情報の集積地であるミッドチルダの電子の海は途方もなく広大であり、まるで砂漠に落ちた針を探すような徒労感ばかり募ってゆくからだ。 こういった類のものは専門の情報屋に頼るのが一番であるが、荒事専門であったエルクにそんな知り合いは殆どいない。 (シュウならこういうのに詳しいんだが、今はもう一つ依頼があるからなぁ………) どうしたものかと悩ませていると、不意に部屋のドアの開く音がした。 「あの………、おはようございます」 「キュクルー」 現れたのはエルクの受けているそのもう一つの依頼の依頼主である桃色の髪の少女と銀の幼竜。 依頼内容は彼女達の保護である。 「ああ、おはよう。えっと………キャロだったっけ? 起きてすぐに悪いんだが詳しい話を聞かせてくれないか?」 昨夜空港で軽く話を聞いた際にエルクが知った事は、彼女達の名前と管理局に無理やり連れ去られたという事。 この時点で先程の黒服達の話を思い出したエルクは、彼女の依頼を受けてとりあえず自宅に保護したわけだが、事の詳細を聞く前に気が抜けたのか彼女らは寝入ってしまったのだった。 「詳しい話ですか? 何を言えばいいんでしょう?」 「どうしてさらわれたのか、その経緯を教えてくれないか?」 「経緯、ですか………」 エルクの言葉を受けると、少し顔を俯かせながらキャロはポツリポツリと言葉を紡いでいった。 まるで思考を過去へと遡らせるように、世界が変わった、そのときの事を。 ◆ 第6管理世界、その一地域であるアルザス、ここでは古くから竜が神として祭られてきた地だ。 その信仰の恩恵なのか力があるから信仰していたのかは定かではないが、この地では竜を呼び出し使役する「竜使役」という力を持つ者が少なからず存在している。 少数民族「ル・ルシエ」、その中に生まれたキャロもまた、特殊な力が使えるという事を除いては他と全く変わらない普通の子供であった。 ただし、その力は自身が持て余すほどに強大で、あまりにも暴力的であった。 他とは一線を画す力を周囲の人間は、黒き竜の力、災いを呼ぶ力として恐れ拒絶した。 伝統や慣習に縛られ、柔軟な発想のできない彼らには、キャロを受け入れるだけの心のゆとりなど存在しなかったのである。 しかし、唯一祖父だけは神に近い巫女たる力だと庇ってくれていた。 そのおかげもありキャロは祖父ヨーゼフの庇護の下、他者の思惑に触れることなく健やかに育っていった。 だが永遠のものなどなく、祖父により守られてきた平穏はやがて、ある日突然終わりを告げる。 その日はいつに無い快晴であり、吹き付ける涼やかな風に、キャロは今日もきっといつもと同じ穏やかな一日が過ごせると思っていた。 肩には自分で孵した竜フリードリヒを乗せ、祖父の洗濯の手伝いをしていた時、不意に空が陰ってきた。 不思議に思い見上げた空、そこには天を覆うようにして浮かぶ鋭利な形状をした巨大な無機物。 キャロは今までこのような存在を見たことは無かったが、何か良くないものが来たような気がしてならなかった。 「キャロ、中に入ろう、何か嫌な予感がする」 祖父もキャロと同じ気持ちだったのだろうか、キャロに呼びかけると隠れるように家の中へと入っていった。 そして、それからしばらくしてのことである。 「お邪魔するよ」 声のした方を向くと、そこに居たのは入り口に立つ長老と、見慣れぬ幾人かの黒服の男達。 「長老、いったいどうしたのじゃ?」 「………この娘です」 祖父の問い掛けには答えず、長老は黒服達をキャロの方へと促した。 男達は無言で家に入ってくるとキャロの周りに機材を並べ始める。 「なんじゃ、お前達は、何を………?」 詰め寄ろうとする祖父を長老は手で制した。 「二人だ。この数が何を意味するか分かるか?」 「何の話を?」 「ヨーゼフよ、彼ら異郷の者達は竜使役の力を求めている。もう二人連れて行かれた、これ以上長老として我が民の犠牲は出せん」 「長老、まさか………」 「一番力の強いキャロを差し出せば、もう我らに構うことも無いだろう」 「まさかそんな理由でキャロを売ったのか? あれだけ虐げておきながら犠牲になれと!?」 瞬く間に次々と積み上げられていく機材に、やがてキャロの姿が見えないほどになった。 「おおー! こ、これはすごい。ここを見てください。この少女の能力は未開発ながら、こんなに高い数値を示しています。全く素晴らしい………、使えますよこいつは」 「待て、この子に何をするつもりだ!?」 「じじい、邪魔するな!」 祖父は長老の制止を振り切り歩み寄るが、それは黒服に突き飛ばされ叶わなかった。 「おじいちゃん!」 キャロは悲痛な声を上げ近寄ろうとするも、黒服に抑えられて動けない。 黒服の一人は祖父に近寄ると、上から見下すように冷酷に告げた。 「何をするかだと? ふん、貴様には分らないだろうが言ってやろう。こいつは管理局の兵士として新しき人類となるのだ。このガキも恒久の平和の礎となれば本望だろうよ」 「おじいちゃん! おじいちゃん!」 「グルルルル!」 キャロはなおも祖父に駆け寄ろうとし、そんな彼女の不安な心を反映してかフリードは黒服の一人に飛び掛る。 しかし………、 「勝手に動くな」 黒服がつぶやくと同時、突然現れた光の輪のようなものに共に拘束されると、一切の身動きが取れなくなった。 そしてそのまま追い立てられるように、キャロ達は家の外に連れ出される。 非難の声を上げようとした時、キャロはふと横に居並ぶ人達に気付きそちらを見た、見てしまった。 道の脇に佇みじっとこちらを見てる大人たち、彼らのキャロを見る目は連れ去られる事に対する同情でも哀れみでもなく、――安堵である。 やっと余所者が消えてくれる、そんな様子で皆止めようともせず、連れ去られようとするキャロをただ眺めていた。 まるで他人事、連れ去られようとするキャロには何の関心も払いはしない。 その光景を見たくなくてキャロは目を閉じた。 だが、代わりに耳に入ってくる大人たちの囁きは、自分の想像を確信させるものでしかない。 このときになってようやくキャロは自分が嫌われた存在であり、部族の一員として認められていなかったのだと判った。 そしてそのまま、深い悲しみの中で住み慣れた村から連れ出されたのだった。 ◆ 「そうやって連れ出された後、いろんな研究所に移されて何度も検査を受けました。そして昨日、また別の施設に移されるために次元を超える船に乗せられて、空港に着いたら急に建物が揺れて………」 「その隙に逃げ出して俺と出会ったってわけか」 「はい。………村の外で優しくされたの初めてだったから、すごくうれしかったです」 痛々しい表情のキャロを見て、エルクは何とかしてやりたいと思う。 「じいさんの所へ帰りたいか?」 だが、その言葉にキャロはさらに表情を曇らせてしまった。 「………いえ。おじいちゃんに迷惑を掛けてしまいそうですから………」 「そうか………」 強大な力を持つというだけでキャロを忌避していた村である、その排斥は当然祖父にも向かっていただろう。 戻れば必ず迫害される、それ以前にそもそも村に再び受け入れるかも疑わしい。 それに逃げたとなれば、元の村に当然さらった連中の手は伸びる。 強引にさらうような奴等だ、庇えば何をしてもおかしくはない。 加えて、別世界の移動には必ず管理局の厳しい目が入るのが通例だ。 にもかかわらず奴等が検査を素通りしたという事は、管理局の名を騙る犯罪組織などではなく、管理局の裏の顔であると考えられる。 管理局に関する黒い噂は今まで幾つか聞いたことがあるが、所詮噂の粋を出ないものに過ぎないと思っていた。 しかしこうして本人から聞くと、それらの噂も事実ではないかと勘繰ってしまう。 表向きの正義と大義を盾にした、この非人道的な事がどれほど管理局の深くに組み込まれているかは判らない。 もちろん理念ある局員が殆どだとは思うが、やはり管理局との接触は出来る限り避けたい。 そのため管理局に頼み込むという、まっとうな方法では別次元には移動できなくなった。 となるとキャロを元の世界に帰す選択肢が選び難い今、これから彼女を安全に保護する方法はミッドチルダ内、それも管理局の影響の薄いところに行くしかないだろう。 だが、そういった場所は大抵治安が悪い廃棄都市か、そもそも住めないような極地である。 当然そんな所でキャロのような少女が暮らしていく事は極めて難しい。 「だったらキャロが安心して暮らすには、ギルドが幅を利かせている所に行くのがいいな」 「そんな所あるんですか?」 「ああ、俺の知り合いが居るインディゴスって所でな、少なくとも管理局にまた捕まる事はないと思うぜ」 エルクが知る限りで条件を満たす場所は、知人の住む町しかなかった。 そこも特別治安の良い所ではなかったが、ギルドが取り締まっている分いくらか安全である。 おまけに情報を得るのにも都合が良い、問題を一挙に解決できる方法だ。 「そんな所があるなら行ってみたいです」 「そうと決まればさっさと行こうぜ、早ければ早いほど追手は来難いだろうし」 そこで話を打ち切ると二人と一匹は支度を始める。 ただ目的地へと向かうだけ、簡単な旅となるはずだ。 ◆ 夜とは対照的に昼の大通りは活気に溢れている。 その通りの発端、行きかう人波の中心、それがレールウェイの駅である。 そこには凄まじい人だかりが出来ており、その中にはエルク達の姿もあった。 「凄い人数ですね。お祭りでもあるんですか?」 「休日ってのもあるが、昨日空港が焼けたせいだな」 エルクは切符を注文しつつキャロの質問に答える。 休日を利用して遊びに来ていた者は意外と多かったらしく、人の群れの中には旅行鞄を抱えた者が多数見られた。 「そういえばエルクさんの荷物はどこに行ったんですか? 色々用意してたみたいですけど」 エルクは服の上から暑苦しそうな外套を纏っているだけで、先刻まとめていた手荷物の類は見当たらなかった。 「服にいくつか収納スペースがあるんでそこに入れてるんだ」 動きやすいしな、と付け加えてエルクは改めて人波を見つめる。 異常な人数に、大変な時期に重なったものだと苦笑すると、キャロが迷わぬように注意しつつ駅へと進んでいった。 「………なんですか………コレ」 「キュゥ………」 エルク達が今居る駅のホーム、ソレは彼らの目の前に確固として鎮座していた。 大型輸送リニア『グラウノルン』。 古代の巨大列車と同じ名を冠すこのリニアは、その名に恥じぬ巨体に威厳を纏い、まるで見るもの全てを威圧しているようであった。 路線に対して不釣合いのサイズではあるが、そんな見た目の鈍重さとは裏腹に、最新の魔法技術とAI制御により、そこらのレールウェイ等より遥かに速い。 「こんな馬鹿でかいリニアは他に無いだろうから、驚くのもまあ無理ないな。とりあえず中に入っちまおうぜ」 おっかなびっくりなキャロの手を引きエルクは車内へと進む。 内部は当然のごとく広く、通路は二人並んでもまだ人とすれ違えるほどであり、両脇に並んだ個室と壁に施された質素な装飾は、照明と相成って柔らかで落ち着いた印象を受けた。 そんなホテルの様な車両の中ほど、そこにエルク達の座席があった。 部屋の前後には大きくゆったりとしたソファーが備え付けられており、中央に置かれたテーブルには鮮やかな装飾が成されている。 高級な席であることは一目で判るほどに明らかだった。 「あの………、エルクさん」 「なんだ? 腹でも減ったか?」 「いえ、そうじゃなくて………、まあ、確かにお腹は空きましたけど」 「じゃあなんか頼むか」 車内通信で食事の注文を始めてしまうエルクに対し、キャロは急いで訂正する。 「そうじゃなくて、こんな高そうな所でいいんですか?」 「ああ、その事か。今日は人が多かっただろ、そのせいでこういう席しか空いてなかったんだ。くつろげなかったらゴメンな」 「い、いえ! そんなことないですよ」 キャロが急いで否定するとほぼ同時、大きな音でベルが鳴り響く。 出発の合図だ。 ◆ 坦々と流れてゆく都市区画のビル群を横目に、エルクは先程運ばれてきた料理に手をつける。 だが正面に座るキャロは、何かを考え込む様にじっと皿を見つめていた。 横でフリードが物欲しそうにして肉料理を眺めているのだが、それも全く目に入っていないようである。 やがておずおずと顔を上げると、エルクの方を申し訳なさそうな顔で見上げた。 「どうして………ここまで良くしてくれるんですか? わたしは何のお返しも出来ないのに………」 「もしかして、さっきからずっと黙ってたのはその事を考えてたからか?」 エルクが手を止めてキャロの方を見ると、キャロはその通りだと言わんばかりにコクコクと頷いていた。 「んー、なんていうか俺も似たような境遇だったからかな」 「似たような境遇?」 「俺も六年前にシュウ―――これから行く所にいる人なんだが、そいつに拾われたんだ」 「エルクさんが………ですか」 「ああ。傷だらけで、昔の記憶全部無くしてて、シュウに出会ってなかったらのたれ死んでただろうな。だからもし自分と同じように行き場を失くした奴が居たら助けてやろうと思ってたんだ」 「そうですか………」 キャロは少し気兼ねしたようにしてエルクを見る。 「記憶無いんですか?」 「まあ、無くても生活に困らないからな。とりあえず冷めないうちに食事を終わらせようぜ!」 その場の気まずさを払拭すべく努めて明るく言うとエルクは食事を再開し、キャロもそれに習いようやく手をつける。 始終おとなしかったフリードはいつの間にか一皿勝手に平らげており、コロコロした玉のようになって満足そうに横になっていた。 しばらく黙々と食べ進め一段落したとき、思い出したかのようにキャロはエルクを見上げた。 「聞いてなかったんですけど、シュウさんって人もハンターなんですか?」 「ん? そうだぜ、俺にハンターの技術を教えてくれた人だ」 「ハンターってどういう仕事なんですか?」 「色々あるが俺がするのは大体荒事だな。指名手配犯の捕獲や依頼人の護衛、あとは最近急に増えてきた危険なモンスターの対処ってのもある」 エルクの答えにキャロは少し不思議そうな顔をする。 「モンスターって何ですか? 動物とは違うんですか?」 「モンスターってのは他時空からの外来生物、それも人間を襲う奴のことだ。魔法を使ってくる奴もいるから魔導師である俺達が処理するしかないんだ」 「処理って事は、やっぱり殺しちゃうんですか?」 少し悲しい顔をしてキャロが見つめる先には、幸せそうに寝転がるフリードの姿があった。 「………モンスターは次元移動なんて出来ないから、ミッドに居るのはペットや実験体として人間に連れてこられた奴らばかりさ。本来は被害者だが人間に危害を加える以上駆除するしかない」 すっかり暗くなった雰囲気にエルクは、話題を間違えたと今更ながらに思い顔をしかめた。 キャロは閉鎖された村に住んでいたというだけあり、何にでも関心を示し質問してくる。 話題に困らないのは良いが、どう答えてもキャロが喜んでいるようには思えなかった。 そもそもエルクはまだ一度もキャロが笑うのを見たことが無い。 感情の豊かなはずの年頃にもかかわらず、キャロの表情は老成しているかのように変化に乏しい。 ここまで感情を押し込めてしまうほどにキャロを傷つけてきた周囲への怒りで、エルクはなんとかしたいという思考は全て空回りしている様に感じるのだ。 楽しそうな話題を探してふと窓の外を見ると、車外の風景は画一的だった都市から無秩序に繁茂した緑の山々へと変わっていた。 「そうだ、ミッドの風景でも見てみないか? このリニアには確か展望台があったと思うし」 キャロがコクリと頷きフリードを抱きあげるのを見て、エルクも立ち上がり先導するように通路へと出た。 少しはこの雰囲気が払拭される事を望んで。 ◆ エルク達がしばらく歩いて行き着いた先、行き止まりとなる扉には貨物室と表示されていた。 「道を間違えたか?」 「反対側じゃないんですか?」 ろくに案内も見ず進んだせいである。 引き返そうと思ったとき、エルクは何か違和感の様なものを覚えた。 「妙だな」 「どうしたんですか?」 「防犯用レーザーセンサーが切られてる。これじゃ盗んでくれって言ってる様なもんだ」 いぶかしみ扉に軽く触れると僅かに開いた。 それと同時に何かを漁る音、くぐもったうめき声が漏れ聞こえてくる。 明らかに変だという思いから、エルクは隙間から内部を覗き込んだ。 荷物の積まれた棚の並んだ先、そこに数人の人影が見える。 中央には警備員と思われる数人が縛られて転がされており、その周りで四人ほどの男達が荷物を漁っていた。 (どう見ても強盗だよな………) ならば止めるべきとデバイスに手を伸ばしたが、急に強盗らしき男達の一人がこちらに向かって歩いてきたので、急いでキャロを連れて脇に隠れることにした。 入れ替わるようにのこのこと扉から出てきた男、エルクの中では既に強盗確定だが、その理由ぐらいは知っておくべきだと思う。 なぜなら、このリニアはかなり強力なセキュリティーを搭載している。 それを打ち破るにはそれなりの人員と機材が必要だった。 ただの物取りが狙うには割りに合わないのである。 エルクは極力気配と足音を消し、素早く滑るように男の面前へと飛び出す。 相手は驚いたような顔をしたが、もちろん声を出させるような隙など与えず、強烈なボディーブローを叩き込んだ。 抵抗するだけの気力を失った相手を暗がりに連れ込むと、後は極めて簡単である。 少しデバイスをちらつかせるだけで易々と口を割り、聞いてもいないのに全てを話す男。 そして………。 エルク達の今回の旅は簡単な物から一転して、厄介な事へと変わってしまった。 戻る 目次へ 次へ
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モンスター 小型バルバール バルバール(籠持ち) グラナーダ カフラバーウ 中型猫犬メラースアウロス ティラール アグノス 首伸び二足マムマ ベゲモート アルマドゥラ 背面ガエルヨンガンドゥーツ クァンドゥーツ 大型プロトポロス ガンペロ エダークス 小型モンスター モンスター名称 弱点 状態異常攻撃 備考 バルバール 物理・火 なし 盗み バルバール(籠担ぎ) 物理 なし グラナーダ 物理・氷 なし 飛行・自爆 カフラバーウ 氷 感電 中型モンスター モンスター名称 弱点 状態異常攻撃 備考 メラースアウロス 火 異 犬 ティラール 弱 異 豹 アグノス 弱 異 ゴースト マムマ 火 睡眠 鳥 ベゲモート 氷 燃焼 カバ アルマドゥラ 雷 氷結 メカ ヨンガンドゥーツ 物理 感電 盗み 青ガエル 自爆 クァンドゥーツ 物理 感電 盗み 赤ガエル 自爆 大型モンスター モンスター名称 弱点 状態異常攻撃 備考 プロトポロス 雷 異 備 ガンベロ 火 異 備 エダークス 雷 異 備 名 弱 異 備 名 弱 異 備 名 弱 異 備 名 弱 異 備 アカンティラド 風 燃焼・氷結・感電 音波攻撃
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「……来ないね、ヴァッシュ」 「バイトが長引いてるのかなぁ。それにしても遅い気けど」 高町なのはとフェイト・テスタロッサの二人は、夕刻の登山道広場にて並んでベンチに腰掛けていた。 冬場という事もあり日が落ちる時刻も早い。 時間が経過するにつれ陽が落ち、周囲の気温も低くなっていく。 ホウと、吐いた息は純白に染め上がっていた。 寒気に包まれながら二人は待ち人の到来を待つ。 「なのは、ヴァッシュの話って何だと思う?」 「うーん、何なんだろ。大事な話だとは言ってたけど」 ヴァッシュから告げられた待ち合わせ。 彼の言う大事な話と一体何なのだろうか。フェイトにもなのはにも予想がつかない。 ただヴァッシュがあれだけ言うという事は、本当に大事な話なんだろう。 あれこれ思考してみながら、なのはは空を見上げる。 静かな赤焼けの空には、まだ夕刻だというのに真ん丸な満月が光っていた。 「でも、ヴァッシュがこういう事を言い出すのって珍しいね」 なのはに釣られて空へと視線を移しながら、フェイトがポツリと呟いた。 夕焼けの中、満月を見上げる二人の少女。 何処か幻想的で、とても平穏な光景がそこにはあった。 「フェイトちゃんもそう思う?」 にゃははと苦笑を浮かべながら、なのはもフェイトの言葉に同調する。 寧ろ普段は苦笑を浮かべられる側のなのはである。 僅かな呆れを含んだその苦笑は、なのはにすれば珍しい部類の表情であった。 「ああ見えて、ヴァッシュって余り人に悩みを打ち明けるタイプじゃないから。一人で抱え込んじゃう質だ」 フェイトもまた苦笑する。 悩み事を一人で抱え込み、誰も巻き込む事のないよう、誰にも心配を掛ける事のないよう、一人で解決しようとする。 まるで何処かの誰かを見ているようであった。 「ふふっ、フェイトちゃんと似てるかもね」 「それを言うなら、なのはにだって似てるよ。そっくりだ」 なまじ常人より力を持つばかりに、余り人を頼ろうとしない。 信頼してない訳ではなく、ただ巻き込みたくないから、そうする。 それは、二人の魔法少女とも何処か通じているようにも思えた。 言葉を交わして、肩を寄せ合って、似たもの通しの二人が笑顔を浮かべる。 「遅いね、ヴァッシュ」 「ねえ」 二人は顔を見合わせて笑い合いながら、ヴァッシュを待つ。 寒空の下を長時間待たされ、だがしかし、その言葉に辛辣な色はない。 時間がとても穏やかに過ぎていく。 寒空の彼方では、世界を照らす恒星が一日の役目を終えて地平へと沈んでいく。 一日がまた終わろうとしていた。 暖かく平穏な一日が、また終わる。 そして太陽が沈み、広場の街頭が音をたてて点灯したその時―――遠くから足音が聞こえてきた。 「ヴァッシュさん、遅いですよ」 と、なのはは頬を膨らませて、フェイトはそんななのはに苦笑しながら、足音のした方へと振り向く。 待ち人のようやくの到来かと思われた瞬間。 だがしかし、其処にいたのは二人にとって思いも寄らぬ人物達であった。 「シグ……ナム……」 「……ヴィータ、ちゃん……」 闇の書の守護騎士。 鉄槌の騎士と烈火の騎士が、其処にいた。 呆然とした表情で守護騎士達を見るなのは達に、守護騎士達もまた虚をつかれたように動きを止める。 この遭遇は守護騎士達にとっても予想の範囲外の事。 街灯に照らされる広場を、重い重い静寂が支配する。 予想外の出会いは両者から言葉を奪い去っていた。 沈黙の中、ギリという鈍い音が聞こえる。 歯を噛み締めた音。その音は烈火の騎士から届いたものであった。 直後、事態が急変する。 「はあああああああああああああ!!!」 咆哮と共に烈火の騎士が斬り掛かってきた。 ◇ 寒空の下ベンチに腰掛ける二人の魔法少女を見て、シグナムは思った。 ただ一言、裏切られた、と。 その結論は、ヴァッシュへの不信が積み重なって導き出されたものであった。 待ち合わせの場所にいた管理局の魔導師。 肝心の男の姿は何処にもなく、いるのは管理局の魔導師だけ。 あの男は自分達の事を管理局には伝えないと言っていた。 なのに何故、管理局の人間がこの場にいる? 何故、管理局の魔導師が待ち構えている? まるで、誘き出されたかのようだ。 大事な話があると嘘ぶき、待ち合わせの場所へと管理局の魔導師を待機させ、一網打尽とする。 そんな意図が、見え隠れする。 「はあああああああああああああ!!!」 だから、シグナムは激昂した。 はやてを救いたいとのたまいながら、結局は管理局に情報を流した男に対して。 あれだけの事をのたまいながら、結局ははやてを見捨てた男に対して。 世界の滅亡と主の救済、その選択を持ち掛けておいて、結局は自分達を裏切った男に対して。 シグナムの感情が、爆発する。 積もり積もった鬱憤をも巻き込んで爆発した感情は、既に理性で引き止めるものではなかった。 男に対する憤怒の感情は眼前の魔法少女達へとすり替わり、シグナムは行動を開始した。 レヴァンティンを起動させ、騎士甲冑を纏うシグナム。 一瞬の躊躇いもなく、対話の暇すら与えようとせず、シグナムは剣を振るった。 全力で地面を蹴り抜き、宿敵の魔導師との距離を詰め、レヴァンティンを横一閃に振り抜く。 「くうッ!」 唐突の襲撃に、だがしかしフェイトの防御はギリギリのところで間に合った。 右手を掲げて殆ど反射的に防御魔法を形成し、シグナムの刃を阻止する。 とはいえ、急場の防御魔法でシグナムの渾身の一撃は止められない。 シールド魔法を挟んで伝わる強大な剣圧に、フェイトの細躯が後方へと大きく弾かれた。 その身体が後方の森林へと激突する寸前、フェイトを抱きかかえたのはなのはであった。 バリアジャケットに身を包み、レイジングハートをアクセルモードで装備する。 「待って、話を聞いて下さい! 私達は……!」 「あの男に言われて来たのだろう! なら、交わす言葉などない! お前等は我らの敵だ!」 取りつく島もなく、シグナムは烈風の如く攻撃を仕掛けてくる。 その熾烈な攻撃は前回の戦闘時とはまるで別人のようなもの。 がむしゃらと言えば聞こえは悪いが、シグナムの剣術から繰り出される攻撃は疾風怒涛の勢いであった。 その攻撃は、ただ疾く、重い。 剣の矛先は、フェイトを庇うように立ったなのはへと向けられている。 「盾!」 掲げた桜色の防御魔法に、重い重い剣戟が突き刺さる。 充分な魔力を込めた盾だというのに、僅かに軋む様子が窺えた。 重い一撃であった。 シグナムを突き動かす感情が、なのはにも伝わる。 だが、なのはには理解しきれない。 何故、シグナムが此処までの感情を持って敵対するのか。 前回の戦闘から今回の間に、何があったのか。 疑問に覚えど、答えを見出すには判断材料が少な過ぎる。 「だりゃああああああああ!!」 「なのは!」 シグナムの猛攻に耐えるなのはに二つの声が掛かる。 絶叫と共に突撃してくる鉄槌の騎士に、臨戦態勢を整え戦線に介入する雷光の魔導師だ。 横合いからなのはに襲い掛かるヴィータを、フェイトの戦斧が食い止めていた。 なのはとフェイトが目を合わせて、一度頷き合う。 直後、なのはを守護していた防御壁が爆音と共に弾け飛んだ。 クロスレンジで戦闘していた四人を巻き上がった爆煙が包み込む。 「ヴィータちゃん、シグナムさん、話を聞いて。私はあなたとお話がしたいの!」 煙を切り裂いて宙に舞い、魔法少女達は守護騎士から距離を取る。 離した間合いを挟んで、なのはが言葉を飛ばした。 「うるせー! お前らに話す事は何もねえって、言ってんだろうが!」 だが、言葉は届かない。 願いの言葉はそれ以上の憤りを持って弾かれる。 何故ヴィータがそれだけの憤りを覚えているのか、なのはには分からない。 敵意が桁違いに高まっている。 その敵意の太源が、ヴァッシュ・ザ・スタンピードとの邂逅だという事をなのは達は知り得ない。 知り得ないからこそ、困惑する。 そして、なのは以上の困惑を覚えていたのはフェイトであった。 フェイトと相対しているシグナムは、ヴィータと比較しても段違いな程の激情を表出している。 前回までの冷徹な面持ちなど何処かに消え去っていた。 憤怒を顔に張り付かせ、怒りに肩を震わせている。 まるで別人の如く形相であった。 「シグナム、一体……」 「預けた決着は今しばらく後にしたかったが……すまんな、自分を抑えられそうにない!」 フェイトの問い掛けを遮るように、シグナムは動く。 次いでヴィータも、なのはへと急迫する。 ヴァッシュへの不信感が疑念を育て、謀られたとの想いを産む。 もしヴァッシュがこの場にいたのなら、幾らか話は違って来たのだろう。 同様にシグナム達の激怒から襲撃をされたとしても、ヴァッシュは必死に語る。 話し合おう、と。 話し合い、誰もが助かる道を探そう、と。 だが、もう遅い。 守護騎士達の不信は限界を越え、戦闘へと身体を突き動かす。 魔法少女と守護騎士が再び交差する。 本来ならば対話の道を歩む筈だった邂逅は、架け橋たるガンマンの不在により、激闘の舞台へと姿を変えた。 魔法少女は守護騎士達を止める為に武器を掲げ、守護騎士達は感情に身を任せて、そして己の使命の為に武器を振るう。 流転する場を止められる者など、もう居なかった。 ◇ 「始まったようだな」 薄暗の空を走る光線を眺めながら言葉を零す者がいた。 仮面の男。その片割れが空を見上げてポツリと呟く。 仮面の男の足元には、幾重ものバインドでがんじがらめにされたヴァッシュが転がっていた。 「良いのか? 管理局のデータにクラッキングを掛ければ発見を遅らせられるが」 もう一人の仮面の男が、言葉を紡ぐ。 その視線の先にはボンヤリと空を見上げるもう一人の男・ナイブズがいた。 ナイブズは仮面の男の言葉に顔を向けずに答える。 「必要ない。むしろ奴等に見ていて貰わねば困る」 視線すら合わせず、何の気なしに発せられた言葉だというのに、仮面の男達は思わず息を呑む。 百戦錬磨の経験によるものか、それとも獣特有の本能的なものなのか。 ともかく、仮面の男達はナイブズの脅威をひしひしと察知していた。 邂逅の時に見せ付けられた『力』。 そして、人類に対する異様なまでの憎悪。 仮面の男達もナイブズの危険性は理解している。 だが、その活動を止める事もできない。 敵対すれば、瞬きの間もなく殺害されると分かっているからだ。 自分達では敵わない。 いや、おそらく管理局の魔導師でも、ナイブズを打倒する事は不可能だろう。 現状が奇跡といっても良い程だ。 死者が一人も出ていない現状が。 「……そうか。なら、良いが」 現在は利害が一致から協力体制を取ってはいる。 だがしかし、ナイブズが人類を滅亡させる活動を始めた時、自分達は本当にナイブズと敵対できるのか。 自問するも答えは出ない。 眼前の男との敵対を、心の根っこの部分が拒絶する。 胸に巣くう感情の正体を、仮面の男達も理解できていた。 恐怖だ。 情けないとは、彼等自身も思う。 しかし、そんな上っ面の感情では抑えが効かない程に、恐怖は大きいものだった。 「お前達は手筈通りに行動しろ。それで、おそらく完成だ」 仮面の男達はナイブズの言葉にただ頷くだけであった。 利害は一致すると頭の片隅で言い訳をしながら、行動する。 心中の恐怖から逃げるかのように、仮面の男達は夜天の空に飛び出した。 ◇ 「うおおおおおおお!」 高町なのはとヴィータとの戦闘は膠着状態にあった。 果敢に突撃してくるヴィータに、なのはも得意な中・遠距離戦を展開する事ができない。 振るわれる鉄槌をレイジングハートで防ぐ。 レイジングハートの柄が火花と共に悲鳴を上げた。 「どうしても……話を聞かせては貰えないの?」 「うるせえ! 何も知らないお前が首を突っ込むんじゃねえ!」 交差するデバイスを挟んで、なのははヴィータへと語り掛ける。 返答は怒号で、ヴィータは渾身をもってグラーフアイゼンを振り抜いた。 なのはの身体が錐揉みを描いて、宙を舞う。 体制を崩したなのはに好機を見たヴィータは、更に攻め込もうと空を駆ける。 「レイジングハート!」 「なッ!?」 錐揉み状態にありながら、なのははヴィータを見失ってはいなかった。 螺旋を描く身体をコントロールし、無理矢理に砲撃の体制を取る。 大袈裟に吹き飛ばされわざと隙を見せ、そこに付け込んできたヴィータへと砲撃をぶちかます。 一連の動作は殆どフェイク。確実にヴィータへ砲撃を当てる為の布石であった。 『Divine Buster』 「シュート!」 相棒の言葉に、なのはが合わせて吼える。 同時に撃ち出されるのは桜色の奔流。 空気を呑み込む轟音と共に鮮やかな砲撃が、鉄槌の騎士へと迫っていく。 「なめんじゃッ……ねええええええ!」 視界を埋め尽くす桜色にも、対する鉄槌の騎士は怯まない。 迫る砲撃に対してシールド魔法を形成し、斜めに傾ける。 砲撃の奔流をいなす。 砲撃を正面から受け止めるのではなく斜めに受ける事で、流れのベクトルを変更。 桜色の奔流はヴィータから反れ、その後方の空間へと流れていった。 無茶とも取れる攻防の末に、ヴィータはなのはへの接近に成功する。 手中の鉄槌から空薬莢が二発飛び出す。 鉄槌が、形状を変えた。 「ラケーテン……ハンマーアアアアアアア!」 「レイジングハート!」 カートリッジを使用しての一撃に、レイジングハートもまたカートリッジの使用で応える。 魔法楯が掲げる右手から発生し、加速の付いた一撃を食い止めた。 鉄槌に備わるスパイクと、プロテクションとが火花を散らす。 「何も知らない……そう、私は何も知らないよ。ヴィータちゃんが何でそんなに怒っているかも、何でそんな辛そうな目をしてるのかも、私は知らない」 均衡の最中、なのはは口を動かす。 楯を掲げる右手に渾身の力を込めて、それでもヴィータに向けて言葉を投げる。 「伝えてくれなくちゃ、言葉にしてくれなくちゃ、分からない。何も言ってくれないんじゃ、伝わらないよ」 激烈な攻防とは反対に、なのはの声は静かで落ち着いたもの。 だが聞く者が聞けば、分かる。その言葉の奥底にて燃えたぎる感情を。 「私は知りたい。ヴィータちゃんが何でそんなに怒っているのか、辛そうな目をしているのか、私は知りたい」 なのはの瞳に光が灯る。 力強い輝きを放つ瞳に、歴戦の騎士が僅かに気圧される。 「だからお話を聞かせて貰うよ―――全力で!」 言葉を切ると同時に、なのはは右手を少しだけ傾けた。 右手の動きに同調して、なのはを守っていたプロテクションが斜めに傾げる。 グラーフアイゼンが、火花を散らしてプロテクションの表面を滑る。 何の事はない。ヴィータが先程なのはに行った事を、同様に行っただけだ。 鉄槌をいなし、その突き進むベクトルを変更させた。 激情に支配され判断力が低下したヴィータの、その裏をかいた一手。 ヴィータの体勢が、鉄槌に引っ張られ前につんのめる崩れる。 その鼻先に紅色の宝玉が突き付けられた。 「くそッ!」 高速移動魔法を発動させ、無理矢理に身体を動かしてヴィータはなのはから距離を取る。 視界の先では着々と発射シークエンスが進んでいるが、不思議と焦燥はなかった。 砲撃ならば先程、ギリギリではあったもののいなす事が出来た。 ならば、問題ない。 何度砲撃を撃たれようと、何度でも弾き飛ばす。 勝利を掴むまで何度だろうと、繰り返すだけだ。 そして、砲撃が放たれる。 数瞬前と同様に盾を斜めに突き出し、衝撃に身構えるヴィータ。 桜色の光と紅色の盾とが、ぶつかり合う。 「なっ……!?」 だが、此処でヴィータにとって完全に予想外の事が発生する。 砲撃の威力が先刻のものと段違いなのだ。 受ける事は勿論、反らす事すら叶わない。 ヴィータを守る唯一の防壁に、一瞬で亀裂が走っていく。 「てめぇ……ッ!」 先程の一撃はなんだったのか、とヴィータの脳裏に疑念が湧く。 同様の砲撃魔法、カートリッジの追加もない。だというのにこれだけの威力の差。 ヴィータは知らない。 先の一撃が、対話を優先させての一撃だという事を。 今回の一撃が、撃破を優先させての一撃だという事を。 だからこその、桁違いの威力差。 ヴィータを守るシールド魔法が、音を立てて粉砕される。 声を上げる暇もない。 ヴィータの身体が桜色の奔流に呑み込まれていった。 ―――が、どういう訳かヴィータを呑み込んで直ぐに、砲撃の魔力放出が止まる。 魔力の奔流に包み込まれていたのは一秒にも満たない僅かな時間。 身体中が痛みに悲鳴を上げるが、戦闘不能に陥る程ではなかった。 「え……」 呆然の声を上げたのはなのはであった。 話を聞く為に、話を聞かせて貰う為に、放った砲撃。 撃破するつもりで放った全力全開の一撃。 撃破の末の対話を掴む為の、全力全開の一撃であった。 その一撃が無惨に宙へと無惨する。 ヴィータを撃破するには至らず、僅かな照射で砲撃が消え去った。 何で、となのは思わずレイジングハートを見る。 魔力が切れた訳ではない。 発射シークエンスにも問題はなかった。 何故砲撃は中断されたのか、純粋な疑問になのはは手中の相棒を見る。 見て、驚愕すると同時に、理解した。 砲撃が中断された、その理由を。 レイジングハートが、切断されていた。 柄部とレイジングハートの本体たる宝玉とが切り離され、宝玉が重力に引かれ落下している。 僅かな感触もなかった。 斬り取られた瞬間も分からない。 砲撃が阻止された理由は分かれど、また新たな疑問が脳裏を埋め尽くす。 何が起きたのか、ただその疑問がなのはの思考を支配した。 相棒の不在に、飛行魔法の維持すら困難となる。 崩れるバランスの中で、落下中のレイジングハートの元へと強引に駆けるなのは。 墜落する直前でレイジングハートを掴み取る。 魔力を込めると共にレイジングハートの修復機能が発動し、元のアクセルモードへと戻る。 体勢も何とか立て直す事ができた。 「何をしている」 声が、響き渡る。 ただポツリと呟かれただけの言葉が、轟音鳴り止まぬ戦場を駆け抜け、二人の動きを止める。 なのはは警戒に満ちた表情で、ヴィータは驚愕に満ちた表情で、声のした方へ振り向く。 其処には、男が立ち尽くしていた。 「何でお前がここにいんだよ……ナイブズ!」 闇夜の中にポツンと、白い点がある。 ライダースーツのような、身体に張り付いた真っ白な服を纏った男。 刈り上げられた短髪は薄い金色に染められている。 なのはは、男の顔に覚えがあった。 映像記録の中にて一騎当千の活躍を見せていた正体不明の敵。 アンノウンがそこにいた。 「少し用があって近場にいた。お前は相も変わらずの苦戦か、ヴィータ」 アンノウン―――ナイブズが、口を開く。 圧倒的な存在感であった。 喉が干上がり、視線は固定される。 レイジングハートを握る腕にも、知らず知らずの内に力が籠もった。 この男は何者なのだろか……、なのはは警戒を崩さずに男を見る。 「……うるせーよ」 「まぁ良い。せっかく通りかかったんだ、力を貸してやる。こいつの相手は俺に任せろ。お前はシグナムの助けに行け」 ナイブズは、まるで買い物でも任されたかのような気楽さで、なのはの相手を引き受ける。 その様子に気負いと云ったものは微塵も感じ取れない。 言葉一つで、管理局エースとの対戦を選択した。 「……殺すなよ?」 「善処する。それよりシグナムを任せたぞ。奴は冷静さを失っている」 僅かな逡巡を見せたものの、ヴィータも戦線を離脱する。 ナイブズの『力』はヴィータも認めていた。 高町なのはを圧倒する事も分かっている。 だからこその、忠告。 主の命を守る為の、主の道を穢さない為の、忠告であった。 「待って、ヴィータちゃん!」 離脱する鉄槌の騎士に声を掛けるも、ヴィータはチラリと視線を向けるだけであった。 ヴィータの瞳は敵に向けるものだというのに、心配気に揺れていた。 その瞳が意味する事に、なのはは気付かない。いや、気付けないというのが正解か。 なのはの視界の内で、ヴィータの姿が見る見る小さくなっていく。 遠方にて激突し合う黄色と紫色の光の最中に、赤色の光が交わっていった。 ヴィータを追跡する事はできない。 眼前に立ち塞がる男がそれを許さないだろう。 焦燥を押し殺して、なのははナイブズと相対した。 「あなたは、何が目的でヴィータちゃん達に協力するんですか?」 問い掛けに対するナイブズの返答は熾烈極まるものであった。 ナイブズは無言で左腕を掲げた。 掲げた左腕が白色に変化し、十枚程の刃と化す。 刃の横幅は、凡そ人の胴体と同等かそれ以上。 余りに巨大な刃の数々が、一瞬で男の左腕から湧き上がる。 異様な光景になのはは息を呑んだ。 人一人を殺すには余りに大袈裟な凶器が、なのはを狙っていた。 其処からは無言の戦闘であった。 ナイブズはなのはと会話をするつもりもなく、なのはは口を開く余裕すらない。 上下左右から覆い尽くすように迫る巨大な刃の数々に、なのはは己の全身全霊を賭けて、回避を行っていく。 全方位から迫る刃の数々は、まるで徐々に閉じていく巨獣の口の様。 なのはは、生きながらに咀嚼される獲物の気分を味わった。 『Accel Fin』 旋回、宙返り、高速移動、緩急を付けてのフェイントと、なのはは持てる全ての回避行動を施行して、命を繋いだ。 巨大な刃が、皮膚から僅か数センチの所を通過する。 掠めた刃が、堅牢なバリアジャケットをまるで紙切れのように切り裂く。 肌が粟立つ。 今まで感じた事のない程の巨大な『死』の感覚を、なのはは感じていた。 数分の回避運動の末に、攻撃が止む。 バリアジャケットの端々が切り裂かれ、身体の至る所に浅い切り傷を負いながらも、なのはは猛獣の咀嚼から生還した。 ナイブズとの距離は、凡そ1キロ程離れてしまっていた。 逃げ惑う中で知らずの内に離れていったのだろう。 空の彼方で豆粒大の大きさになったナイブズを見て、なのはは思わず安堵を覚える。 そんななのはを、ナイブズは遠方の空から見詰めていた。 プラントの翼手を使用しての攻撃など、彼からすれば殆どお遊びレベル。児戯に等しい攻撃である。 だが、その児戯に等しい攻撃から生還した人間など、百五十年の人生で二人しか見た事がない。 成る程、流石は次元を統べる管理局の尖兵といったところか。 それ相応の実力は有しているのだろう。 再びナイブズの左腕が動く。 先程同様に、なのはへと殺到する刃。 刃は1キロという距離を一瞬で埋め、四方八方からなのはを囲う。 なのはもまた、足首に備わった桜色の羽根を羽ばたかせて加速する。 迫る刃からまた逃げ回ろうと動いたところで、だがしかし刃が唐突に動きを変える。 視界を囲む刃の数々が、更なる拡散を見せたのだ。 木々が枝分かれするかのように刃の先端が幾重にも分裂し、それぞれが独自の動きを取りながらなのはを穿たんとする。 さしもの、なのはも反応しきれない。 身を捩り、最後の最後まで回避運動を取るが、足掻きに終わった。 避けきれなかった四本の刃が、なのはの四肢を貫通する。 プラントの刃が切れ味を前にバリアジャケットは本来の役目を果たせない。 リアクターパージすら発動する事が出来ず、刃に切り裂かれる。 経験した事のない激痛が、なのはを襲った。 「っぐ、あああああああああああああああああ!」 声が、止まらない。 痛覚が意識を支配し、精神を汚していく。 貫通した刃に四肢が固定され、動く事すら許容されない。 細刃に両手両足を拘束されたなのはの姿は、まるで張り付けにされた罪人のようであった。 「あく……せる……」 だが、なのはの心は折れない。 貫通する右腕で、それでも相棒たるレイジングハートを握り締める。 なけなしの集中力で必死に魔力を練り、射撃魔法を発動させる。 精神すら削る未体験の激痛に、流れ止まらない血の喪失感に、それでも不屈の闘志は輝きを止めない。 足掻きにも到らぬ反撃をしようと試みる。 そんななのはの姿に、ナイブズは無表情を貫く。 光り輝く不屈の闘志を前にして、ナイブズが心を揺るがす事は、一瞬たりともなかった。 決死の想いで魔力を操るなのはへ、ナイブズは冷酷に冷徹に終焉を与えた。 プラントが真なる力―――『門』を開く。 視認すら不可能な、極小規模の『門』。 ミクロ単位の大きさで発動された『門』が、『持ってくる力』を引き出しエネルギーとして爆発させる。 エネルギーは指向性を以て、1キロ先のなのはへと殺到し、その身体に直撃した。 レイジングハートが緊急防御として発動させたプロテクションは、飴細工の如く砕け散る。 音すら消えて、なのはの身体が横っ飛びに吹き飛んだ。 加速魔法すら超越する勢いで、なのはは山あいへと墜落する。 十何本の木々をへし折り、地面を抉り飛ばし、ようやくなのはの身体が進行を止めた。 完全に意識は消失し、頭が力無く垂れる。 ここに魔法少女の完全敗北が決定付けられ―――そして、終わりの始まるを告げる材料が取り揃った。 ◇ 「よう、ヴァッシュ。始めようぜ、終わりの始まりを」 ボロボロとなった魔法少女を肩に担いで、ナイブズは始まりの場所へと舞い戻っていた。 全身をバインドでがんじがらめにされ、地面に転がるヴァッシュの近くへと魔法少女を投げる。 どしゃ、という鈍い音と共に、魔法少女が地面を転がる。 魔法少女が、ヴァッシュが、言葉にならぬ声を漏らす。 薄ぼんやりとではあるものの、辛うじて意識はあるようだった。 とはいえ、殆ど意識は混濁しているだろうが。 ナイブズはヴァッシュの側で膝立ちとなる。 左腕が、掲げられた。 「物覚えの悪いお前にもう一度教えてやるよ。俺達の『力』を、人間の醜悪さを」 掲げた左腕で、ヴァッシュの顔に触れる。 その顔を隠すように、覆う。 ヴァッシュが僅かに身を捩った。 それが彼に可能な最後の抵抗であった。 「見せつけるんだ、俺の、俺達の『力』を」 ナイブズの左腕が、光る。 それに呼応するように、ヴァッシュの右腕も。 始まりは灯火の様な淡い光。 だが、光量は瞬く間に膨張していき、照らすものを増やしていく。 場にいるヴァッシュ達を。 暗闇の森林を。 桜台そのものを。 光が、満たしていく。 白色の、強烈で暴力的な光。 光は加速度的に輝きを増加させていき、全てを覆い尽くす。 「人間共に、見せ付けろ!」 そして、終わりの始まりが、始まった。 白色が、世界を覆い尽くした。 ◇ 朦朧とする意識の中、なのははその光景を見ていた。 視界に溢れる痛い程の白色が、世界を染め上げる、その光景。 朧気な視界を動かす。 なのははの視線は無意識の内に、白色の極光が発生源へと向けられていた。 不意に、なのはは感じた。 身体を支配する脱力感を押して、心底から噴出するは怖気。 見てはいけない。 これ以上、そちらに目を向けてはいけない。 心が、本能が、叫んでいた。 でも、意志に反して瞳が動く。 ―――駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、 ぼやける視界が其処にいる何かを捉えた。 白色の光の中、横たわる何かを。 ―――見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな それは白色の中でも目立つ赤色であった。 赤色の布が、白色の轟風を受けて千切れんばかりに靡いていた。 ―――駄目だ、見るな、駄目だ、見るな、駄目だ、見るな、駄目だ、駄目だ、見るな、駄目だ、見るな、駄目だ、見るな、駄目だ、見るな、駄目だ 視線が、動く。 靡く赤色を追って、視線が上方に動く。 ―――今、 そして、 ―――『彼』を そして、 ―――見ては、 そして、 ―――いけない 見た。 赤色から生える、天使の如く右腕を。 その右腕が生えた『男の姿』を。 『ヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿』を、見てしまった。 「――――――――――――――――――ッッッ!!!?」 高町なのはは声にならない絶叫を上げて、意識を失った。 白色が世界を震撼させる。 星々が輝く夜天を、人々が暮らす海鳴市を、世界を隔てる次元をも、震撼させる。 人々は見た。 世界を揺らす閃光に、遙か天高くへと伸びる光線。 そして、天に聳える月を蹂躙する光球を。 物理的に、精神的に、それは世界を震撼させた。 こうして平穏な日々は終焉を告げ、物語の終わりが始まった。 二人の人外と、魔法少女と、闇の書が描く物語。 その終わりは、この瞬間を境にして始まった―――。 前へ 目次へ 次へ
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モコモコ・コケホッホー・バッファモー種モコモコ毛刈り後 モフモフ コケホッホー ホーホー バッファモー バッファロー アント・ビートル・スパイダー・ホーネット・スコーピオン種アント キラーアント アントクィーン ビートル ヘラクレス スパイダー ヘルスパイダー ホーネット クィーンビー キングビー スコーピオン デスストーカー ヘブンシザー オーク・ゴブリン・バイキング種オーク オークアーチャー ハイオーク オークハンター ゴブリン ゴブリンアーチャー ゴブリンパイレーツ チンピラゴブリン ボブゴブリン ゴブリンスナイパー キャプテンゴブリン ゴブリンドン オークバイキング ハイオークバイキング オーガバイキング ハイオーガバイキング リーノ・ビッグマッシュ・トマトーガイスト種リーノ ミーノ ユッキー ナッピー ビックマッシュ トリッキーマッシュ トマトーガイスト オニオンゴースト ビックリピーマン オニオング カブカブリ チロリ・エレパン・パァムキャット種チロリ フワリ エレパン マンモス パァムキャット マァムタイガー レィムレオパード ダック・ウィーグル種ダック ペンギン ウィーグル ブラックバード サンダーバード フェアリー・上位妖精種フェアリー ハーデス レッド イエロー グリーン ブルー トータス・スカイフィッシュ・スライム種トータス フォートタス スカイフィッシュ スカイフィッシュ シーラ スライム ダークスライム ゴースト・ヒトダマ種ゴースト ゴーストレイ ネクロ ファウスト ヒトダマ イグニス ガイアス エアラー ツンドラ シャドウパンサー・シルバーウルフ種シャドウパンサー ブラッドパンサー シルバーウルフ ハンターウルフ リーフボール・フラワーリリウム種リーフボール プランコア フラワーリリウム フラワーライオン フラワーブロッサム フラワークリスタル トロル・ハンマートロル・ミノタウロス種トロル タイタン ハンマートロル ギガンテス マスターギガント ミノタウロス ミノタウロスキング リトルメイジ・デーモン種リトルメイジ リトルウィザード リトルエンペラー フレアメイジ アイスウィザード エレメンタルンペラー デーモン アークデーモン タイフーン ゴーレム・モンスターボックス種ミニゴーレム ゴーレム モンスターボックス パックンボックス ドラゴン種ミニドラゴン グリーンドラゴン レッドドラゴン ブルードラゴン イエロードラゴン ピンクドラゴン 第1部ボスアンブロシア ライデン マリネッタ デッドツリー キメラ 第2部ボスプロテクローン フレクゲンガー アクナトレース サブイベント「思い出」ボスグリモア2 サルファゴス ウーパードラゴン オクトパイレーツ2 クリスタルマンモス2 ひのえ きのと セイレーン デスウォール デッドツリー2 キメラ2 グレーターデーモン2 G・ゴーレム ルージュ マリン オリーブ エメラルド 畑ダンジョン・シアレンスの迷宮ボスグレーターデーモン オクトパイレーツ グリモア プロテグリード フレクザィード アクナビート シナリオ外のボスクリスタルマンモス モコモコ・コケホッホー・バッファモー種 モコモコ 冬に毛をかろうとすると、 つぶらな瞳がなにかを訴えてくる……。 毛刈り後 ふっくらもこもこした毛が特徴。 風通しがよく、夏でも蒸れることはない。 モフモフ 見た目と違ってどうもうなモンスター。 モコモコかと思って駆け寄ると確実にやられる。 コケホッホー 早朝から大きな声で鳴くため、 目覚まし時計代わりとして親しまれている。 ホーホー 非常に大きなコケホッホー。 コケホッホーの親とも言われている。 バッファモー 穏やかな性格。人を襲うことは無いが、 ちょっかいを出すと怒るので注意。 バッファロー 赤いものを見ると興奮して、 一直線に突っ込んでいく。 アント・ビートル・スパイダー・ホーネット・スコーピオン種 アント せわしなく歩きまわり、 たまに思い出したように攻撃してくる。 キラーアント アントの親分。アゴがとても発達していて、 岩をもかみくだいてしまう。9 アントクィーン 女王アリ。 王を生む宿命を持つ。 ビートル 強力な角で相手を吹き飛ばす。 角相撲でヘラクレスに勝つのが目標。 ヘラクレス 毎日、自慢の角を研いでいる。 角の硬さは鉱石にも匹敵する。 スパイダー ちょこちょこ飛び回り獲物を追い詰める。 吐き出すクモの糸は、獲物の足を絡めて 動きを遅くする。 ヘルスパイダー 日中は木の枝なので休んでいる。 クモの糸で作ったハンモックは最高だとか。 ホーネット クイーンビーのためにせっせと働く。 外敵には容赦なく毒針を飛ばしてくる。 クィーンビー ホーネットを従える女王ハチ。 空を優雅に飛び回る。 キングビー 大きなハチ。 蜂の王。でも女王蜂には頭があがらない。 スコーピオン 砂漠に潜む暗殺者。 尻尾には強力な毒が仕込まれている。 デスストーカー さっとハサミで獲物を捕らえ、 そのまま尻尾で獲物をしとめる。 ヘブンシザー 大きなサソリ。ハサミにより死を導くことから デスキャンサーまたはホーリーキャンサーとも 呼ばれている。 オーク・ゴブリン・バイキング種 オーク ちょっとマヌケなモンスター。 好奇心が旺盛でたまーに町に出て、 様子をうかがっていたりする。 オークアーチャー おっとりとした性格。 なにごともワンテンポ遅い。 ハイオーク 用心深く、森の奥地で生活している。 縄張り意識が強く、外敵には容赦がない。 オークハンター 森の狩人。オークハンターの弓から 逃げるのは至難の技。 ゴブリン 泣く子も黙る鬼の子ゴブリン。 とにかく攻めてくる。 ゴブリンアーチャー 落ち着きがなく、 つがえた矢をポロポロ落とす。 ゴブリンパイレーツ 自分が一番だと思っている下っ端。 実際はキャプテンゴブリンより弱い。 チンピラゴブリン ナイフを振り回しながら なにかと絡んでくるワイルドな野郎。 ボブゴブリン 泣く鬼の子も黙る形相。 とにかくおっかない。 ゴブリンスナイパー 射撃の精度は天下一品。 狙った獲物は逃がさない。 キャプテンゴブリン 頼もしき若頭。 2本のナイフを自在に操る。 ゴブリンドン 目があっただけで襲いかかってくる。 ワイルドすぎてとても怖い。 オークバイキング 凶暴なオークの戦士。 自分のために暴れる、他人のためには 動かない。 ハイオークバイキング 誇りをもった立派な戦士。 暑いのが苦手で寒いところにこもっている。 オーガバイキング 2本の手斧を投げ飛ばしてくる。 コントロールも高い。 ハイオーガバイキング 着ている装備も優秀な戦士。 よろいの裏にはたくさんのオノが 仕込まれている。 リーノ・ビッグマッシュ・トマトーガイスト種 リーノ 体を丸めた姿はリンゴそのもの! と 思っている節がある。大きすぎるのに。 ミーノ 体を丸めた姿はみのむし! と思っている節がある。 まさにその通りである。 ユッキー 体を丸めた姿はゆきだるま! と 見た目は雪だるま、触ってみると 案外ふわふわしている。 ナッピー 体を丸めた姿はパイナップル! わたしはナッピー、かわいいパインの 妖精よ! と思っている節がある。 ビックマッシュ 人の背丈ほどある巨大キノコ。 危険を察知すると、毒の粉を振りまく。 トリッキーマッシュ 蛍光色に光るお化けヒノコ。 体を光らせ仲間と交信する。 トマトーガイスト トマト型の頭を持つ幽霊。 目の前から消えたと思ったら、 どこからか現れ、トマトを飛ばしてくる。 オニオンゴースト タマネギ型の頭を持つ幽霊。 食べ物の恨みは怖い、ちゃんと残さず 食べないとダメなようだ。 ビックリピーマン ピーマン型の頭を持つ幽霊。 ひとりでピーマン、ふたりでピーメン。 5人集まり、ピーレンジャー。 オニオング 巨大なたまねぎのおばけ。 このたまねぎは食べられそうな色をしていない。 カブカブリ カブの頭を持つ幽霊。 ソニックウィンドを使うこともできるが、 たまに間違えて自分も切ってしまう。 チロリ・エレパン・パァムキャット種 チロリ 愛らしい小動物。 常に何かをかじっている。 フワリ もさもさしていて、とても手ざわりがよい。 尻尾をもふもふするだけで幸せになれる。 エレパン 長い鼻を持つ大きなモンスター。 溜めておいた水を、一気に放出する。 マンモス 氷点下も耐えることのできるモンスター。 その体はとても丈夫で、並の攻撃では びくともしない。 パァムキャット ヒト型をしたケモノ。 ネコのようにしなやか。 ムダ毛を気にしている。 マァムタイガー ヒト型をしたケモノ。 トラのように強い。 筋肉質なのを気にしてる。 レィムレオパード ヒト型をしたケモノ。 ヒョウのようにしたたか。 ちょっと大きいのを気にしている。 ダック・ウィーグル種 ダック ペタペタとかわいい足取りで歩く。 見た目とは裏腹に、足は速い。 ペンギン 寒い地方に住む二足歩行のモンスター。 氷の上でもしっかりと走る。 ウィーグル 空高くから獲物を狙いすまし、 鮮やかに仕留める空のハンター。 羽ばたきで風を起こすことができる。 ブラックバード 体が黒いので夜なら目立たないが、 鳥目のせいか活動は昼が多い。 サンダーバード 雷を帯びた鳥。 近づくと危ないが本人は人恋しい。 フェアリー・上位妖精種 フェアリー 小さな体で動きが速い妖精。 鬼ごっこはかなり強い。 ハーデス 悪夢をさそう妖精。 耳元でささやかれると、一瞬で悪夢に うなされる。 レッド とってもかわいらしい妖精の上位種族。 燃えさかる炎の心の持ち主で、 その心が炎の魔法となって周囲を焼き尽くす。 イエロー とってもかわいらしい妖精の上位種族。 おっとりとした性格で、少々のことでは動じない。 土の魔法が得意。 グリーン とってもかわいらしい妖精の上位種族。 見た目とは裏腹に風の魔法が得意で、 下心丸出しの男たちを切り刻むぞ。 ブルー とってもかわいらしい妖精の上位種族。 クールな性格だから水の魔法が得意なのか、 その逆なのか。 トータス・スカイフィッシュ・スライム種 トータス 背中に大きな甲羅をしょっている。 身の危険を感じると甲羅にこもってしまう。 フォートタス ゲームとかが好きな亀。 通常のトータスの 4倍は回転すると言われている。 スカイフィッシュ スカイフィッシュ 空に浮くフシギな魚。 口から協力な水鉄砲を吐く。 シーラ 地上でも水の中でも生活できる。 釣り竿で釣れるほど、軽くはない。 スライム ぷよぷよとしたモンスター。 ゼリー状の体は核を守る役割をしている。 ダークスライム 核を守るため体の色が暗くなっている。 中からちゃんと見えているのだろうか。 ゴースト・ヒトダマ種 ゴースト 背後から突然あらわれる幽霊。 しょっちゅう幽霊騒ぎを引き起こす。 ゴーストレイ ここまで大きいとユウレイ的な怖さよりも 別の恐ろしさが込み上げてくる。 ネクロ 仮面に隠された素顔。 その素顔を知るものは……もういない。 ファウスト 死神と呼ばれ、死期が近い人の ところへ訪れ、命を奪うと言われている。 ヒトダマ 夜中によく目撃される。 その際、なぜか写真に撮られるため、 本人は人気があるのだと思っている。 イグニス 常に熱を発しており、冬には家庭で 暖房代わりとして活躍している。 ガイアス 島と大地の怒りの化身。 農業大好き。 エアラー 風に乗ってさっそうと現れ、 さっそうと去っていく風来坊。 ツンドラ 体が凍っても動くことができる。 暑いところは蒸発してしまうので苦手。 シャドウパンサー・シルバーウルフ種 シャドウパンサー 2足で歩くことができるめずらしい獣。 前足を器用に使ってご飯を食べる。 ブラッドパンサー 後ろ足の筋力が発達したパンサー。 一歩で相手との間合いを詰める。 シルバーウルフ 寒い地方に生息する狼。 気性が荒くなかなか人になつかない。 ハンターウルフ きらびやかな毛が目を引く。 乗ってみるとちょっと王子様気分。 リーフボール・フラワーリリウム種 リーフボール 植物の浮遊モンスター。 日の当たるところが好き。 プランコア 見かけによらず知能は高く、 人間の言葉を理解できる。 フラワーリリウム 可憐な花をもつモンスター。 あま~い蜜をたくわえている。 フラワーライオン ライオンのたてがみに似た、 立派な葉っぱを生やしている。 フラワーブロッサム 大きな種を口から飛ばしてくる。 音に敏感に反応し、うねうね動く。 フラワークリスタル クリスタルのように透き通る不思議な 葉っぱをもつ不思議な植物。 トロル・ハンマートロル・ミノタウロス種 トロル 力自慢の巨人族。 どんな相手も自慢のこぶしで一撃K.O. タイタン 振り下ろすコブシは鉄をゆがませる。 これを喰らったらたんこぶじゃすまない。 ハンマートロル ところ構わずハンマーを振り回す。 ハンマーで叩き割れないものがキライ。 ギガンテス 独自に編み出したグレイト打法を使う。 ハンマーの使い方で右にでるものはいない。 マスターギガント ところ構わずハンマーを振り回す。 叩き割れなくてもハンマーで叩く。 ミノタウロス 大きな体に、小さなオノが武器。 しかし、大きい分小回りはきかない。 ミノタウロスキング 大きな体から繰り出される突進は 大木をなぎ倒すほど強力。 リトルメイジ・デーモン種 リトルメイジ ちっちゃな魔法使い。火の魔法を得意とし、 自分の魔法で焼いた魚が好き。 リトルウィザード いたずら好きな魔法使い。 訓練を重ねたため、色々な魔法が使える。 リトルエンペラー 高度な魔法使い。 長寿なため、日々積み重ねた知識の量も 増えてあらゆる魔法に精通している。 フレアメイジ 非常に高度な魔法使い。 火の魔法を得意とし、すべてを焼き尽くす。 アイスウィザード 非常に高度な魔法使い。 水や氷の魔法が得意で、その魔法の周辺の 大気を氷結させ、相手は死ぬ。 エレメンタルンペラー 非常に高度な魔法使い。 極めに極めたその魔力は初歩の魔法であろうと 恐るべき威力を秘める。 デーモン ずる賢い悪魔。 直接攻撃、魔法攻撃、回復と万能タイプ。 アークデーモン すご腕の槍使い。 確かに一流だが、思いやりはもってない。 タイフーン 台風の化身。 テュポーンと呼ばれることもある。 ゴーレム・モンスターボックス種 ミニゴーレム ちいさなゴーレム。 小さいから簡単に作れると思われがちだが、 実はゴーレムを小さく作るのはすごく大変。 ゴーレム 手が、体から離れて動くため、 遠くにあるものをつかむのに苦労はしない。 モンスターボックス 宝箱の姿をしたモンスター。冒険者を おびき寄せて、襲いかかる知能犯。 パックンボックス なんでも食べる食いしん坊。 おいしいものを食べると腹痛を起こす。 ドラゴン種 ミニドラゴン するどい爪と硬いウロコの持ち主。 並の武器では太刀打ちできない。 大人になると能力により色が変わる。 グリーンドラゴン 空を飛び、谷を超え、 スキあらばファイアブレスを吐く。 みんなの憧れドラゴン参上! レッドドラゴン 赤いドラゴン。 通常のドラゴンの3倍のスピードを誇る、 と言われているがそこまではない。 ブルードラゴン 蒼のドラゴン。 深海まで潜ることができる。 イエロードラゴン カレーのドラゴン、ではない。 ピンクドラゴン 運命のドラゴン。 竜も誰かの愛が欲しい、誰かに愛を与えたい。 第1部ボス アンブロシア キックが得意。 ところ構わずリンプンをまき散らす。 抱きしめられると羽が折れるのが悩み。 ライデン 雷のように疾い名馬。 速いではなく疾い。 マリネッタ 古い人形。 思ったよりも怖い、 操り主に不満を持っている。 デッドツリー 木の異形。 リンゴをエサに動物をおそったりする。 自分に生えてるきのこが好物。 キメラ 何種類もの生物を合成したモンスター。 誰が合成したのだろう。 第2部ボス プロテクローン 地幻竜、ネイティブドラゴンのクローン。 コピーがオリジナルをこえることを夢見ている。 フレクゲンガー 火幻竜、 ネイティブドラゴンのドッペルゲンガー。 本物とは会わないように気をつけている。 アクナトレース 水幻竜、ネイティブドラゴンのトレース。 自分が偽物であることに気づいていない。 サブイベント「思い出」ボス グリモア2 帰ってきたグリモア。 とある遺跡マニアには復讐心よりも かっこいい名前で呼ばれるようにしてもらって 感謝している。 実際はグリモアとは ネイティブドラゴンの幼生のことである。 サルファゴス 偉い人のヒツギ。 関わったものに呪いをかけると言われている。 ウーパードラゴン 電気を操る天然記念物。 ワープもする。 オクトパイレーツ2 帰ってきたオクトパイレーツ。 意外と触手の攻撃がいやらしい。 クリスタルマンモス2 帰ってきたクリスタルマンモス。 攻撃すると怖いぞう! ひのえ 物理攻撃タイプの赤いほう。 イワナの塩焼きが大好き。 きのと 魔法攻撃タイプの青いほう。 失敗作は食べたくない。 セイレーン 人魚のような魚人のようなモンスター。 デスウォール 変な声で笑う壁。 変身して攻撃する。 得意の変な声で近所の住民に被害を与える。 デッドツリー2 帰ってきたデッドツリー。木の怪異。 バレてるとわかってても擬態する姿勢は 見習うべきものがある。 キメラ2 帰ってきたキメラ。 複数の生物を合成したホムンクルス。 いったい何とひきかえに作られたのか。 グレーターデーモン2 帰ってきたグレーターデーモン。 断じてゴリラではない、マントヒヒでもない。 ウッホホウッホ。 G・ゴーレム 古代の技術で働くドレイ。 本人はまんざらでもない。 ルージュ 少しだけ成長した妖精の上位種族。 燃えさかる心の持ち主で、 その心が火の魔法となって周囲を焼き尽くす。 マリン 少しだけ成長した妖精の上位種族。 クールな性格だから水の魔法が得意なのか、 その逆なのか。 オリーブ 少しだけ成長した妖精の上位種族。 おっとりした性格で、少々のことでは動じない。 土の魔法が得意。 エメラルド 少しだけ成長した妖精の上位種族。 見た目とは裏腹に風の魔法が得意で、 下心丸だしの男たちを切り刻むぞ。 畑ダンジョン・シアレンスの迷宮ボス グレーターデーモン ゴリラじゃない!と主張するおぞましき悪魔。 ウッホウッホ。 オクトパイレーツ 夏の浜辺で発見されたカラをかぶったタコ。 タコだってスミを吐く。 グリモア とある遺跡マニアから グリモアと間違えられた結果、9 正式に名前がグリモアになったドラゴン。 プロテグリード 地幻竜、ネイティブドラゴンの1柱。 空から隕石を呼び出す。 使いっ走りが得意。 フレクザィード 火幻竜、ネイティブドラゴンの人柱。 炎よりも尻尾が怖い。 寝起きは機嫌が悪い。 アクナビート 水幻竜、ネイティブドラゴンの人柱。 アクナビットを召喚して戦う。 お花見が好き。 シナリオ外のボス クリスタルマンモス 攻撃すると怒るぞう!