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「ヴァッシュ。お前に名指しの依頼だ。 クライアントは・・・ビジター。 いや、独立傭兵レイヴンだ」 そう告げたのはいつものヴィルではない。 レイヴン自身から託された、チャティの声だ。 「お前が開発したAC用増加兵装パッケージ、 『RaDバルテウス』を購入したいが、取りに行く暇がない。 指定するポイントまで輸送してほしい・・・とのことだ。 ボスが作った玩具だ、制御は俺に任せてくれ」 示された引き渡し場所は、バスキュラープラントの頂点。 今まさに、『Dコーラル』によって真の姿へと変貌した オラトリア・スクリアが占拠し、コーラルリリースを 実行しようとしている、ルビコンで最も危険な戦場だ。 「オイオイ・・・相変わらずふざけたやつだな。 そこまでどうやって行けってんだ??」 悪態を吐くヴァッシュだが、拒否するつもりは毛頭ない。 何しろ、提示された報酬金額がまさしく桁違いなのだ。 RaDバルテウス本体の価格も含むにせよ、あまりと言えば あまりの高額報酬に、ヴァッシュも思わず飛びついた。 コイツ・・・どんだけ金が有り余ってんだ?? 「それこそ、こいつを活用するしかあるまい。 初めからそのつもりだったのだろう?」 ヴィルの言葉に促され、視線を上げたヴァッシュが 乗り込んでいるガルブレイヴは、すでに 『アッシュカンパニー』の客寄せパンダ、 『RaDバルテウス』に連結され、いまや遅しと その力を解き放つ時を待ち侘びている。 「まぁな。どっちみちアイツには用がまだ残ってんだよ。 チャティ。お前が開けてくれた、第二助手の・・・ 姐さんの手記の中身が、きっと必要になるだろうからな」 ずっと解けなかった、カーラの置き土産に掛かった鍵を、 果たしてチャティは解いてみせた。 そこに記されていたのは、コーラルの可能性に惑溺し 危険な研究を繰り返す第一助手への危機感と、 置き去りにされたその息子への気遣い。 そしていつか、コーラルの危険性が 看過できぬものになった時に、それを抑止する力が 必要になるはずだと、密かに研究を進めていた 成果物が、そこに遺されていた。 それが、『アンチコーラルパルス』。 照射された部位のコーラルは共振を誘発され、 そのエネルギーを急速に使い切って不活性化に至る。 当時の第二助手は、コーラル全体を殺し切るには 必要なエネルギーに対し効果が限定的すぎる、 という理由で不採用と判断し、結局シンプルに 燃やし切るのが一番効率的だという結論に至ったようだが。 デソレイション・コーラルを一身に集積された オラトリア・スクリアという標的に対してならば、 狂った神を貫くミストルテインともなりうるだろう。 レイヴンがザイレムで発見したウォルターの遺産、 ラングレン・レポートがルビコンの危機を知らせ、 ヴァッシュがバスキュラープラントで発見したカーラの遺産、 アンチコーラルパルスがそれを打開する切り札になる。 この情報をアシュリーに拾わせた エセリアの真意はどこにあったのだろう? 俺にはまだ、アイツと話さなくちゃならない 話題が残っているらしい。 ヴァッシュが見上げたバスキュラープラント上空は 朱に縁取られた闇黒に染まり、オールマインドが言う 『コーラルリリース』がもう間近に迫っていることを 如実に伝えていた。 タイムリミットまでは、もう僅かだろう。 「まぁ、直接訊くのが手っ取り早いか」 それは・・・ヴァッシュ自身の肉体についても同じだった。 レイヴンとの死闘に際し、全開で駆動した コーラルイグニッションの反動は全身に及んでいた。 限界以上に圧をかけられたコーラルブラッドは 血管の各所を食い破り、全身を黒い亀裂で蝕んでいる。 内出血を起こした皮膚の下では、不活性化した コーラルが肌を末端からどす黒く染め上げている。 感覚はすでに遠く、侵食は今も徐々に進行中だ。 悲壮感はなかった。 ヴァスティアン・ヴァッシュの短い生涯にあって、 死はいつも、すぐ傍に当たり前にあるものだった。 死期を予め知ることができるなんて、随分と贅沢な話だ。 あとは。残された時間で何を為すか、それだけだ。 「やるぜ。チャティ、ヴィル。 一丁、派手にぶちかましてやろうじゃねぇか」 決然と見上げたヴァッシュの視線に応えるように、 RaDバルテウスのジェネレータが唸りを上げる。 「無茶させてごめんね!でもここで退がったらもう キャンプまで一直線なんだわ〜!」 ブラバンソンの見つめる戦場はまさに地獄の様相だった。 魑魅魍魎の如きC兵器の大群が跋扈する最終防衛ライン。 オラトリア・スクリアの出現により暴走を始めた コーラルの使徒がバスキュラープラントから溢れ出し、 明確に人類を敵視して牙を剥き始めた最悪の状況。 「大丈夫です!絶対にここで食い止めます!!」 だが。今のブラバンソンは以前とは違う。 愛機アップルヘッドはB.A.D.カタフラクトにより その機動性と火力を大幅に拡張されている。 操縦技術は拙くとも、戦術判断には見るべきものがあると 自分を評価してくれた仲間達の期待に応えるべく、 少年は覚悟を込めてペダルを深く踏み込む。 ヴァンガードオーバードブーストが火を吹き、 磁気火薬複合式メインホイールが唸りを上げて、 むくつけき鉄塊をかっ飛ばす。 想像を遥かに超える加速。射程距離に合わせた 前進のつもりが、気づけば敵陣の前衛を構成する ヴィーヴィルの一体を体当たりで粉砕していた。 左右から挟み込むヘリアンサス型が並走するが、 この至近で左右を迎撃できる武装はない。 為すすべなく激突を許すも、破砕されたのは 相手の方だった。 高速回転する前輪、スウォームクロウラーに 巻き込まれて砕け散った鉄クズを跳ね飛ばし、 強引なドリフト機動でどうにか制動した頃には、 敵部隊の反対側に突き抜けていた。 迫る怒涛を押しとどめる堰であるべき 我が身が進んでその役割を放棄するなど、 あってはならぬことだ。 焦りを懸命に抑え込み、冷静に姿勢を立て直して カタフラクトが持つ殲滅力をフル回転で運用する。 バーストキャノンとVTFナパームミサイルが 背後を見せた敵部隊を草でも刈るように薙ぎ払い、 そしてオーバーヘッドレールキャノンが 複数の標的をまとめて貫く。 合わせて、手近の敵機にはアップルヘッド自体の 手持ち武装も駆使して片っ端から叩き潰す。 その破壊力は、行使するブラバンソン自身も 目を回しそうなほどの凄まじさであったが、 それでも敵の数はなお膨大だった。 仕留めきれなかった撃ち漏らしが、 防衛ラインを抜けていく。 「よぉ、犬コロ!随分と図体がデカくなったじゃねぇか」 奇しくも、かつて同じバスキュラープラントで聞いた声。 同時に、撃ち漏らしを拾うように降り注ぐのは、 RaD謹製のクラスターミサイルだろうか。 対象周辺を丸ごと焼き払うことで確実に標的を撃砕する、 粗雑極まりない発想がいかにもドーザーらしい。 いや・・・それにしたって数が多い。多すぎる。 遠近感が狂ったのかと思うような大型弾頭から分離した、 その子弾一つ一つがクラスターミサイルだった。 コンテナミサイルから分離したミサイルがさらに爆撃を 撒き散らし、視界全体が爆炎の底の沈む。 「まぁ、俺も人のことは言えねぇな!!」 一面の火の海に舞い降りた惨状の元凶は、 ブラバンソンが操るカタフラクト建造の主犯格でもある。 「ヴァッシュさん!助かりました!! 流石にちょっと・・・やりすぎですけど」 半ば呆れ気味のブラバンソンを、 ヴァッシュは豪快に笑い飛ばす。 「悪ぃ悪ぃ!ずっと雨ざらしにされてた RaDバルテウスのようやくの晴れ舞台だからな。 ちょいと張り切りすぎちまった」 軽口を叩き合いながらも周囲を警戒していた ブラバンソンが、可変型レドームに新たな脅威を捉える。 「識別名・・・Cトータス。 本体上面をパルスシールドで防御し 低空爆撃を敢行する広域殲滅型C兵器だ」 ヴィルの伝えた情報に、伏せたお椀からミールワームが 溢れたようなその姿を凝視したヴァッシュが首を捻る。 「・・・ネーミングがこじつけがましくなってきたな。 アレを亀呼ばわりは無理があるだろ」 兎にも角にも。 道すがらの障害物は排除していくしかない。 RaDバルテウスの手持ち武装を活かすべく 全速で距離を詰めるその目前で、 Cトータスの挙動が変化する。 「いや・・・思ったより亀だな」 手足のように四方に伸びていた砲台が引き込まれて、 代わりの出現したのは火炎放射器。 手足と頭を引っ込め、火を吹きながら高速回転する その姿は、誰がなんと言おうと亀ったら亀だった。 そしてもちろん、そのままこっちへ突っ込んでくる。 「ヤケクソみてえなヤツだなオイ! 脳筋にも程があるだろ!!」 それは、こんなものを作った人には言われたくない ・・・などと、余計なことを言わないのが ブラバンソンのいいところだった。 あくまでも冷静に、バーストキャノンと ナパームミサイルで遠巻きに迎撃を図る。 「クソッ!回転したら固くなるってのは 実際どの程度マジなんだ??」 根拠はわからないが、事実としてトータスの守りは カタフラクトの火力をして凌ぎ切っていた。 勢いを増したトータスはそのままこちら目掛けて 突っ込んでくる。 「回転中は攻撃は通らない。今は回避に徹して、 反撃のタイミングを───」 「しゃらくせぇな」 ヴィルの分析を、ヴァッシュはぶった斬る。 「こっちは急いでるんだよ」 ACで対処するならば、なるほど妥当な対応だろう。 だがしかし。今やこちらも、その埒外。 無法極まる暴力の化身だ。 「一直線でぶち抜くぞ!やるぜ、ブラバンソン!!」 根拠はわからないが、ヴァッシュの目に輝く 確信の光を、ブラバンソンも信じてみる。 「・・・了解ですッ!!」 先制の一撃は、オーバーヘッドレールキャノン。 フルチャージの一撃が至近で炸裂し、 甲殻を強引に穿ってその回転を押しとどめる。 「こいつが痛くねぇとは言わせねぇ」 その間に踏み込んだバルテウスが放つのは、 両腕に備えたボレーガン。 13×14発の砲弾の分厚い弾幕がトータスを守る パルスシールドを一撃の元に吹き飛ばす。 「ッしゃァ!!押しとぉぉぉおおおおるッ!!!」 そのまま、ノーブレーキでぶち当たる。 跳躍したカタフラクトがスウォームクロウラーを、 降下したバルテウスがグラインドブレードを叩きつけ、 推進力と質量で分厚い甲殻を力任せにブッ壊す。 「じゃあなブラバンソン!こっちは大元を ぶっ叩いてくらぁ!守りはよろしく頼んだぜ!!」 背中を無惨に抉り取られた残骸を尻目に、 バルテウスは上空へと舞い上がる。 「あっらぁ〜?早速ハデにやってんじゃない! いいの?ソレって売約済みよねェ?」 「そりゃピーさん、無茶な注文をつけるヤツが悪いぜ。 最小限の傷で引き渡すから勘弁してもらいてぇな!!」 合流したのは、ピーファウル率いるラカージュの面々。 ヴァッシュが先払いで受け取ったレイヴンからの報酬を 振り込んだら、VOBを背負って勝手についてきた。 「あんな大金積まれて、ハイサヨナラってワケには いかねぇよなぁ!傭兵にだって仁義ってもんがあらぁ」 嘯くシュトラウスだが、彼の場合はこのミッションに 合わせて用意した緊急展開用複合ブースター 『ヴァンガードオーバードブースト』が実現する 超スピードに興味があったに違いない。 VOBとバルテウスでバスキュラープラントに 殴り込みをかける、覚悟ガン極まりの突撃野郎ども。 盛大な歓迎の花火が行手に咲き乱れるが、 「遅すぎるな、これは」 雨霰と降り注ぎ、地表を焼く弾幕をも振り切って、 ディアーチルは先陣を切って突っ込んでいく。 ミサイル砲台の迎撃をかわす地表スレスレの低空飛行から、 バスキュラープラントの根本にギリギリまで急接近。 砲台の射角の内側に回り込んで、頂上目指し駆け上がる。 「おや。主賓が待ちきれず出迎えにきてくれたようだね」 ジャックスナイプは平然と言ってのけるが。 「オイオイオイ・・・冗談じゃねぇぞ」 バスキュラープラントを駆け上がっていく ラカージュ編隊の頭上を捉えて遅いくるは、 本丸であるところのオラトリア・スクリアそのもの。 全長7km超の巨体が頭上を遮る天蓋と化して押し迫り、 その圧倒的な火力で暴虐の限りを尽くす。 降り注ぐレーザー、ミサイル、パルスの雨霰に コーラルナパームの乱れ撃ち。 VOBが齎す猛烈なスピードがなければ、 あっという間に全滅していただろう オーバーキル級の超火力のオンパレードだ。 極め付けは、解放された口腔から迸るコーラルブラスター。 HAL826が運用したコーラルライフルのフルチャージ、 あれの直径が100倍増しになったものといえば その脅威は想像に難くないだろう。 バスキュラープラントの壁面を爆砕しながら 薙ぎ払われる極太のコーラルビームがラカージュの 面々を丸ごと飲み下す勢いで正面から迫ってくる。 その照準は正確で、もはや逃れうる術はない。 「そっちがその気ならよぉ・・・!!」 生唾を飲み込み、狂奔する運動ベクトルに 揺さぶられながらもヴァッシュは カバーされていたトリガーを解放する。 「こっちも遠慮はナシでやらせてもらうぜ!!」 目前に迫る光の奔流をも吹き飛ばす号砲が天に轟く。 放たれたコーラルナパームキャノンは、コーラルと ナパームジェリーを混淆したRaD特製の砲弾をぶっ放す。 「やはり、コーラルカクテルはよく燃える。 差し詰め、アイビスの火のミニチュアだな」 コーラルブラスターの勢いをも吹き飛ばす 出鱈目なほどの爆圧が、バスキュラープラントに クレーターじみた風穴を穿つ。 「・・・正気か?」 「そんな筈がないだろう」 平然と言い放つチャティに、 流石のヴァッシュも呆れ顔だ。 ともあれ、これは好機だ。 バスキュラープラントの中に入れば、 あの巨体ならば追跡は・・・ 「ちょっとォ!?なんであのデカブツが 余裕で飛べるほどの穴が空いてんのよォ!? なんもかんもデカすぎて感覚が狂っちゃうわねェ!!!」 しかして、オラトリア・スクリアは追ってきた。 バスキュラープラントを縦貫するコーラル吸入口は、 コーラルを周辺の大気ごと吸入するため、 天盤まで直径およそ20km程度の吹き抜けになっている。 まず、オラトリア・スクリアが潜り抜けられるほどの 大穴がバスキュラープラントの側壁に 開いてしまったことがそもそもおかしいのだ。 ピーファウルが絶叫したのも無理からぬ話である。 そして状況は、むしろ悪化している。 前方からは、アラレズやミサイル、機銃などの 防衛機構の熾烈な迎撃。 背後を取ったオラトリア・スクリアは さらに執拗な追撃を加えてくる。 「ヘッ、こういう時こそアタシの出番だよなァ・・・!!」 ただ一人、VOBをペデスタルドローンに連結して その上に搭乗するという形で参戦していたバジャーリガー。 その理由がこれだった。 脚部はドローンに固定したまま上体を180°回転。 後方に向き直った態勢で唯一の武装である 拡散レーザーを追い縋るオラトリア・スクリアに据える。 本体への有効打は臨むべくもないが、 飛来する飛翔体の迎撃ならばお手のものだ。 魚群の如く無数に飛来するコーラルミサイルの嵐の中から 背後の味方に直撃する軌道のものだけを見切って、 拡散レーザーで撃ち落とす。 殿を務める彼女の活躍により、ラカージュは 損害を最小限に抑えつつ最高速を維持して バスキュラープラントの頂点を目指す。 ターゲットの予想外の奮闘に業を煮やしたか。 オラトリア・スクリアが獰猛に吠える。 いや、正確には周囲へある種の信号を発したのか。 轟いた大音声は、確かに状況を一変させた。 ラカージュの面々と共に天へと遡上する コーラルの潮流に変化が生まれる。 不規則に、気まぐれに揺れていた赤い粒子たちが、 大気を揺るがす振動波に打たれた瞬間、明確な意思を 帯びて各所で一定のまとまりを形成していく。 あるものは刃に、あるものは鏃に、あるいは荊や 棘、機雷やワイヤートラップのように。 凝集する粒子が自在に姿を変えて、 ラカージュの面々の行手を阻む。 「おおっ!?なんだこいつは!?あっははははァ!! 随分とスリリングなアトラクションじゃねぇか!!」 極限のスリルにテンションのネジがぶっ飛んだ シュトラウスが、痛快に笑い飛ばしながら 俄かに始まった障害物レースに命懸けで挑む。 ワイヤーを潜り抜け、機雷網をかわし、 必要とあらばグレネードをブチかまして 突破口をこじ開ける。 命知らずの水先案内人の開いた脱出路に 残るメンバーも続々と飛び込んでいくが、 それはまさに超音速で繰り広げられる 綱渡りとでもいうべき曲芸飛行だ。 いつまでも続けられるような無茶ではない。 「オイオイオイ!なんでもアリだなコイツ!!」 毒付くヴァッシュが駆るRaDバルテウスは 他の僚機に比べ遥かに巨大で、その分動きもやや鈍い。 仲間たちの軌道をトレスするにはやや無理があった。 四方に荒れ狂う運動ベクトルに揺さぶられながらも なんとか喰らいつけたのもほんの10秒足らず。 大きく弧を描き誘導弾の雨をかわす途上で ついに慣性に負けて脱落する。 「無理をするな、ヴァッシュ! お前が離脱すればチャティをあえては狙うまい!!」 すぐ後ろでそれを察知したディアーチルが飛び出して、 レーザーハンドガンとミサイル、そしてレーザーランスを 駆使してヴァッシュの前方のトラップ群を撃ち落とす。 カーラが遺してくれた設計図からなんとか作り上げた 大事なマシンを手放す決断は軽くはない。 しかし・・・自分を案じて自ら危険へ飛び込んだ 仲間の命より重いものなど、あるはずもない。 逡巡さえも己に許さず、ヴァッシュは強制離脱を図る。 クイックブーストでバルテウスから飛び出す形で分離した ガルブレイヴが、狂奔する大気に煽られて上空で反転する。 急速に運動エネルギーを失ったヴァッシュの眼前には、 急上昇を続けるオラトリア・スクリアの巨体があった。 かわすには、あまりにも巨大すぎる壁だ。 ならば・・・ぶつかっていくしかない。 真っ直ぐに、オラトリア・スクリアの 胸を目掛けて飛び込んでいく。 「───そこにいるんだろ!アシュリー!エセリア!!」 最後の可能性に一縷の希望を託して、 ヴァスティアン・ヴァッシュは声を限りに叫んだ。 見る間にも至近に迫る巨体が、 拒否を突きつけるように榴弾砲を撃ち放つ。 放たれた砲弾は17発、予測される回避軌道を悉く 抑えたその散布界に、逃げ場はない。 意を決して真っ直ぐに突っ込むヴァッシュの目前で、 砲弾の一つがビリヤードのように弾かれ軌道を変える。 「そうだ。真っ直ぐに進みたまえ、少年」 最速でスナイパーキャノンを手動装填する グリッドピアサーから、ジャックスナイプが叫ぶ。 「迷うなよ。君の道は、私が拓く!!」 続くミサイル群を貫いた二の矢の軌跡を潜って、 ヴァッシュはついにオラトリア・スクリアの胸部に取り付く。 アジャイル・フェアリングの機動調整と 最大限のバックブーストで相対速度を可能な限り減殺しても、 衝突事故のような激震がコックピットを襲うが、 弱音を吐いている暇に告げるべき言葉がある。 「俺はお前に謝りたくてここまで来たんだ! お前達を助けられるなら、命だって惜しくない!! 頼む・・・応えてくれ!!」 ヴァッシュは声を枯らして叫ぶが、 厚い甲鉄の奥にはその声は響かない。 ───違うな。ヴァッシュ、それじゃダメなんだ。 それでは、私を助けることにはならないんだ。 アシュリーの声もまた、オラトリア・スクリアの胸の奥、 エセリアの人格の中に封じられ、決して届くことはない。 ───エセリア。お前にも聞こえているだろう? ヴァッシュはここまで来てくれた。 お前ともっと、話がしたいんだ。 応えてやってはくれないか? 肉体の主導権を握るエセリアは頑なに身を捩り、 耳を塞いで訴えを退ける。 「ダメ・・・ダメ!ダメなの!! 僕は、アイビスの火に焼かれた人たちの、 コーラルたちの声から生まれたんだから!! これ以上悲しいことが起こらないように、 みんなの願いを叶えなくちゃいけないんだから!!」 胸に取り憑いた異物を取り除くべく エセリアの意思がガルブレイヴの周囲に コーラルの弾幕を形成する。 一斉にヴァッシュを貫くかに見えたそれは、 先んじて放たれたミサイル群によって破壊される。 「呆れた。あーた、まだ自分を他人だと思ってるワケ? あんた以外の誰が!あの子を幸せにできるってのよ!!」 あろうことか。ヴァッシュに倣いVOBをパージして スクリアの胸部へ降り立ったピーファウルが 散布型ミサイルとパルスブレードを振るい、 ヴァッシュへ迫る攻撃を次々に撃ち落としていく。 「男だろォが!腹ァ括ってカマしてみせろやッッッ!!!」 力強い声に背中を押され、 ヴァッシュは一世一代の覚悟を込めて全力で叫んだ。 「・・・アシュリー!俺には、お前が必要なんだッ!!」 ───ほう?言ったな?でもまだまだだ。 私はもっと恥ずかしいことを言ったぞ?? 「お前のためだと思って追い出したけど、 俺が間違ってた。諦めさせるのが最善だと思ってたけど、 俺自身がお前のことを諦められてなかった」 ───うむうむ。わかってきたじゃないか。 それで?謝罪すると言うなら誠意を見せてほしいな? 「お前が俺を許せないなら謝る!! お前が言う罰ならなんでも受ける!! 女児用スク水でもローションレスリングでも 首輪でも女装でもなんでもやってやる!!!」 ───おおっ!?!?いいじゃないかいいじゃないか。 しかし・・・まだだ!まだ足りないぞッ! 肝心の一言がまだ聞けていない!! さぁ、さぁ!ドーンとぶつかって来いッッッ!!! 満面を朱に染め、羞恥に震え、 それでもヴァッシュは全力で叫ぶ。 「───お前が好きだ、アシュリー!!! 俺も、お前と生きていきたい!!!」 告白に応えるように、スクリアの胸部に赤光が閃く。 真紅の波紋が、あろうことか『❤️』マークを形成し、 大気を押し広げて胸郭が解放される。 「うむッ!合格だ、ヴァッシュ!! 私を力いっぱい抱きしめていいぞ!!!」 姿を見せたクアッドリガーに重なり、 ガルブレイヴのディスプレイ全面を大写しになった アシュリーの顔面が占拠する。 「お、お前ってヤツはよぉぉぉおおおおおおおおおお!!!」 最大級の羞恥プレイに真っ赤に泣き腫らした顔で、 ヴァッシュは飛び出したアシュリーを受け止める。 ───えええええええ!?!?ちょっとちょっとぉ!? なんで体を取り返されてるのよぉ!?!? 「ふふん。自分を偽って他人の言いなりになっている者に、 私の愛が止められるものか!!!」 ───何よそれぇ!! 犠牲者の無念をなんだと思ってんのよぉ!! エセリアを奪われた怒りを訴えるように、 オラトリア・スクリアが吠える。 制御を担う自我を失い、暴走する悪意が一層激しく 周囲のコーラルを駆り立てて、自らを裏切った アシュリーを、そしてエセリアを滅ぼさんと 一際巨大なエネルギーを収束する。 「今からそれを、まとめて成仏させてやると言っているのだ!! 私とヴァッシュの愛のパワーでなっ!!!」 「もう勘弁してくれぇ・・・」 ヴァッシュは既に限界だったが、 アシュリーは今まさに絶好調だった。 堂々と胸を張るアシュリーの目前で、 スクリアがかき集めたコーラルの火球が撃ち抜かれる。 内部で着火されたコーラルカクテルが引火し、 特大の爆発を巻き起こして オラトリア・スクリアの巨体をも退がらせる。 「どうだ。笑えるだろう、ビジター。 ボスの遺した図面を、ヴァッシュが形にした。 会心の出来栄えだぞ。存分に楽しむといい」 振り返れば、放棄されたはずのRaDバルテウスは レイヴンにより回収されていた。 撃ち放たれたばかりのコーラルナパームキャノンから あからさまに剣呑な紅いスパークを走らせながら、 チャティはどこか得意げだった。 気づけば、そこはバスキュラープラント天盤。 眼下を埋め尽くすコーラルの海の只中、 彼我の存在規模の差を超えて。 ガルブレイヴを搭載したクアッドリガーが、 オラトリア・スクリアに対峙する。 ───決着は今。 「さぁて、仕上げといこうじゃないか。 やるぞ!!ヴァスティアン・ヴァッシュ!!!」 関連項目 アッシュガル グレイクレイン ピーファウル シュトラウス バジャーリガー ディアーチル ジャックスナイプ レイヴン(堕魅闇666世) エセリア クアッドリガー ブラバンソン RaDバルテウス B.A.D.カタフラクト 投稿者 堕魅闇666世
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アーカイブ @wikiのwikiモードでは #archive_log() と入力することで、特定のウェブページを保存しておくことができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/25_171_ja.html たとえば、#archive_log()と入力すると以下のように表示されます。 保存したいURLとサイト名を入力して"アーカイブログ"をクリックしてみよう サイト名 URL
https://w.atwiki.jp/dtmer/pages/27.html
コード進行(強進行編) コード進行は、曲で言うと主に「背景」を司る役目を果たします。 「明るく元気な感じ」や「暗く悲痛な感じ」、「恐ろしい感じ」、 「不思議な感じ」・・・など様々な印象を率直に表現することが できます! ここでは、多くの曲に用いられる「強進行」を書いていきます。 コードって何? まず、そもそもコードとは何でしょう。 「コード」とは音が重なったもので「和音」とも言われます。 「和音」は、その音の数によって「三和音」「四和音」・・・と 表しますが、一般的に使われる和音は3度音程の音を重ねた 「三和音」や「四和音」を使います。 音階と和音 音階と和音の間には、深い関わりがあります。 意図した印象の曲調に合わせるには、双方にある音を その局所で使うことである程度纏まりのある曲になります。 (これを無視して創ると統制のない不安定な曲ができることが あります) 音階上に出来る和音 これらのことを踏まえて、長音階から和音を作っていきます! (この方法で得られた和音のことを「ダイアトニックコード」と言います) ※判りやすいよう、コードごとに色分けしてあります。また、下部のローマ 数字は音程の度数で「ディグリーネーム」と呼ばれる表記方法です。 コード進行では移調しても分かるよう、ディグリーネームで表されるのが 一般的です。四和音で書かれている理由は、三和音への応用が利きやすく なるためです。 和音の機能 さて、いよいよコード進行の話に入るわけですが、 先ほどのダイアトニックコードにはそれぞれ 以下の機能(役割)を持っています。 トニック(T)コードの調性を決める主演です。この中でIはどのコードにも進むことが出来て、最終的にはV7→Iで終わります! I,IIIm7,VIm7 サブドミナント(S)主にトニックやドミナントの働きを助ける名脇役(?)です。。。トニック~ドミナント間の橋渡しとしてしか使われません(汗) IV,IIm7 ドミナント(D)トニックが主演ならこちらは助演です(笑)。強進行ではトニックにのみ進みます! V7,(VIIm7-5) よく見ると、太字になっている部分がありますが、 この3つがよく進行で使われるので「主和音」と 呼ばれます。これ以外の和音は「副和音」と呼ばれ、 主和音進行に変化を付けるために使われます!! (この続きは代理和音(I)で) コード進行 これらの機能を踏まえると、以下の様な関係になります。 それぞれ、赤字はT、青字はS、橙字はDになります。
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エレメントコア EC。 デヴァイスコアが俗に言うHPであるのに対して、コチラは俗に言うSPorMP(スキルパワーまたはマジックポイント)に値するもの。 精神力によって値の最大値は上下し、尽きると文字通り通常の攻撃しか出来なくなる。 戦闘中はスキル使用によって減少し、スキルが終了した時点で最大値まで回復する(タイムディレイはもちろん存在しているので、瞬時に回復と言うわけではない) 詠唱系デヴァイス所持者はデヴァイスコア消費よりもコチラのほうが大量に消費する。 スキル乱発によるバランス崩壊を阻止する役割を果たす新要素である。
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Rank》S AC スモーキングバレル識別名 バントライン 『俺を殺すには、俺の許可がいる...そんなもの、出すつもりはないけれどな。』 AC名 スモーキングバレル 識別名 バントライン 所属 独立傭兵 ランク S 強化世代 第4世代 企業のルビコン進駐計画と同時期に密航した独立傭兵。第4世代の強化人間である。 作戦内容によって装備を変える柔軟性を持ち、戦闘スタイルもその装備に合うように適応させるため、作戦成功率が非常に高く、不測の事態にも対応できるほど技量がある。また、外見年齢は20代中盤であるが、彼の戦闘はまるで歴戦のベテランのそれであり、臨機応変に立ち回る。 どことなく旧世代の映画の登場人物を思わせるような言動をするが、仕事に私情は持ち込まないため、傭兵としての冷静さおよび冷徹さは持ち合わせている。また、前述の通り不測の事態にも対応が可能なため、判断力が高く、また、機転が効くと考えられる。フットワークが軽く、グリッド051でアリーナ観戦をしていたり、大豊の工業団地で立ち食いをしているところ、ベイラムの占領したエリアにしれっと出入りしているところ、キャンプ・カンネーで取引をしているところを目撃されている。このことから複数の拠点を持っていると思われる。 彼の登録機体はMELANDER C3ベースの機体であるが、胴に通常タイプのMELANDER、腕部に軽さと運動性能が優れるTOOL ARMを使用している。このことから彼は元ベイラム陣営と考えられるが、レーザー兵器の使用に躊躇が無いため詳細は不明である。また、先に書いたように彼は任務によって装備を変えるため、特定の武装構成を持たない。彼の機体は目立つ傷跡もなく、綺麗に仕上がっているが、本人曰く、「愛機を大切に扱うのは当然だ」とのことである。 + ... 映像記録:レネゲイド ベイラム所属と思われるACの残骸が所持していた映像 「レネゲイド(裏切り者)」と呼称されている人物についてのものである 裏切り者に名はいらない、彼の呼称は以降「レネゲイド」とする。 この映像は「レネゲイド」が上官を殺し、犯行現場だった基地に壊滅的な被害を与えた後に去るところを収めたものだ。 彼はその後、我々ベイラムの進駐と同時にこのルビコンに降り立ったと思われる。 彼が最後に目撃されたのはグリッド051のアリーナで試合を観戦しているところだった。 そこで、偽の依頼を出し、彼がグリッド051から誘い出されたところに制裁を与える。 各員、絶対に奴を生きて返すな。 この部隊は制裁を与えることに失敗したようだ。 + ... 映像記録:"コロラド" ベイラムのデータベースから引き抜かれた秘匿データの1つ。 "コロラド"という名の人物に関してである。 "コロラド"は優秀な兵士であり、彼が関わった作戦は全て成功している。 部隊員との連携も取れており、このままいけば強力な戦力になり得る。 そのうち、部下を持たせることも検討されるだろう。 撃破数記録 汎用兵器 43機 MT 32機 AC *17機 特殊兵器 3機 (撃破ACの中には高ランク機体も複数含まれている) 関連項目 アード 元同僚。知ってるなかで一番強い女。 サラトガ なかなかくたばらないババア。 インダス なかなかくたばらないジジイ。 登場小説 硝煙は夜空を濁らせた ヴァーサス・アンノウン 投稿者 ジョン
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気狂いめ、第二再教育センターを狙うとは……! ヴェスパー候補生搭乗機 所属 アーキバス フレーム 純正VPシリーズ 建設途中の第二再教育センターを襲撃したユージーンの前に立ち塞がった機体。警備用に用意していたもののようだが、そのシンプル過ぎる武装構成から、果たして実戦を想定していたのかは怪しいところである。 現地研修を行っていたヴェスパー候補生が搭乗しており、動きそのものは優秀ではあったが、実践経験の有無が明暗を分けた。 後にアーキバスが回収した残骸を調べたところ、武装と手足を破壊されて身動きが取れなくなったところを執拗に嬲り殺しにされたのだと思われる。 登場小説 その指先が触れたのは 目標を確認、捕獲します……。 アーキバス捕獲部隊所属AC(一般機) アーキバス捕獲部隊所属AC(隊長機) 所属 アーキバス フレーム VPシュナイダー混成 アーキバスに存在すると実しやかに噂されている捕獲部隊で運用されるAC。 一般機が高い機動力で敵に貼り付き、消耗させた後にスタンガンを装備した隊長機により対象を捕獲する戦法をとるものと思われる。 複数機で行動しているのが度々目撃されているが、アーキバスは存在を否定している。 そもそも誰を捕獲するのか、何故態々部隊で運用しているのか、それらは一切判明しておらず、一説では再教育センターやファクトリーからの脱走者を捕らえる為とも言われているが、その真偽は不明である。
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砲火降り注ぐ戦場の底を駆け巡る 必死の修復作業の甲斐もあり、 恒星間航行移民船ザイレムはついに浮上した。 「地下で技研の遺跡が見つかったかと思ったら、 今度は都市サイズの移民船かよ。 話がデカすぎて眩暈がしてきたぜ」 山場を乗り越えたドーザー達は、 占拠したばかりのザイレムのセントラルホールで 互いの健闘を讃える祝宴を開いていた。 「封鎖機構でも、技研都市やザイレムの真の姿のことは 知らされていなかったが・・・ 今思えば、我々や封鎖衛星などの戦力は、これらの存在を 秘匿するために配備されていたのかも知れんな」 ヴァッシュも、マックスの指揮の下で ザイレム復旧に奔走していた。 マックスがヴァッシュに教え、さらにその下で アシュリーが学ぶ2段階の師弟関係である。 封鎖機構と袂を分ち、ヴァッシュと共にジャンク屋として 生きていくと言う決意を伺わせるアシュリーは、 素直で真面目な理想的な弟子だった。 普段の言動からすると意外なほどに地頭も良く、 すでにヴァッシュにとっても頼もしい助手となっている。 「我々が作業に専念できたのも、独立傭兵レイヴンの 活躍があればこそだ。あの働きを見れば、 カーラがあそこまでして救出に奔走したのも頷ける」 ザイレムを駆け巡り、アーキバスの執拗な妨害を 七面六臂の活躍で退けた独立傭兵レイヴンの働きが 状況を決定づけた。 とはいえ、何しろ全長20kmに及ぶ巨大船だ。 防衛に協力してくれた戦力はレイヴンだけではない。 「俺は、艦首部分で露払いしてた黒い機体が気になるな。 俺でも見たこともねぇようなレアパーツも使われててさ。 動きもマジでハンパねぇんだよ。撃墜数だけなら あのレイヴンだってきっと超えてるぜ。 ぜひ今度じっくり機体を見せてもらいたいもんだ」 メカ好きの血が騒ぐのか、閉じた瞼にその雄姿を思い描く ヴァッシュの耳元で、不意に端末からの声が響く。 「おっと、お褒めに預かり恐縮だね。俺を呼んだかい?」 不意打ちを喰らってひっくり返るヴァッシュを尻目に、 今度はヴァッシュの隣で黙々と料理を口に運ぶマックスの 端末から音声が響く。 「やぁやぁ、君が噂の『ラッシュジョブ』だね。 話はカーラから聞いてるよ、大活躍だったそうじゃないか。 このデカブツは、アイビスの火以前からの遺物だ。 相当ガタも来ていたし、正直ジャンク屋に修理できんのか? と思ってたが・・・すまない。過小評価も甚だしかったな」 変声機を介しているらしい金属的な声にはノイズが混じり、 飄々としたフランクな言葉遣いとはいかにもミスマッチだ。 「お前さんが、カーラが雇った傭兵か。いい仕事だったよ。 おかげさまで、こっちも安心して作業ができた。 名前を聞かせてくれるか?ぜひ覚えておきたい」 「俺かい?俺は・・・なんだっていいが、 そうさな・・・『ムラサメ』とでも名乗っておこう。 まぁ、気にかけるほどのモンじゃないさ」 登録されている機体名と同じ名前。すなわち、 詳しくは素性を明かせない身の上ということか。 同じく人には話せぬ事情を抱えた者同士、 マックスもそれ以上の追求はしない。 「野郎ども!楽しんでるかい?? 最後の晩餐だ、せいぜい悔いの無いようにしてくれ」 ホールに響いたカーラの言葉に含まれる、 不穏な気配にドーザー達がざわめく。 「あんた達。ここまでよく、 私を信じてついてきてくれたね。 けど、ここから先は、 私の話をよく聞いて判断して欲しい」 いつになく神妙な気配を見せるボスの言葉に、 普段は騒々しいドーザー達も固唾を飲んで静まり返る。 「まず、自己紹介をしておこうか。 私はRaDの頭目、『灰被り』のカーラ・・・ なんてのはまぁ、世を忍ぶ仮の姿ってヤツさ。 私は『オーバーシアー』。 かつて星系を丸ごと焼いたコーラルが、 再び災いをもたらす前に、それを焼き尽くす。 そのために、ずっとその動向を監視してきた」 俺たちを、騙していたのか。 誰かが叫んだ。 あるいは、ヴァッシュ自身の言葉だったかも知れない。 「そうだね。その通りさ。 あんた達には、随分と楽しませてもらったよ。 RaDは、居心地のいい隠れ蓑だった。 本来の目的を・・・忘れちまいたくなるくらいにね」 隣で、マックスが拳を握りしめて俯いたことに、 アシュリーだけは気づいていた。 「だけど、楽しい時間はもうおしまいだ。 コーラルは間も無く破綻する。 その性質もロクに理解しちゃいない アーキバスの馬鹿どもがバスキュラープラントから コーラルを真空中に吸い上げれば、 それは幾何級数的に増殖して、瞬く間に臨界を迎える・・・ わかるかい。アイビスの火の、再現さ」 『灰被り』が語る災厄の脅威に、 ドーザー達から悲鳴が上がる。 俄かに喧騒に呑まれかけたホールに カーラの叱咤が響き渡る。 「狼狽えるんじゃないよ!! このシンダー・カーラがそんな無粋なマネを見過ごすもんか。 ザイレムを、何のためにわざわざ叩き起こしたと思ってんだ」 啖呵を切るその頼もしい声を信じて、 彼らはここまでやって来たのだ。 落ち着きを取り戻した聴衆に、カーラは策を伝える。 「破綻を起こす前に、コーラルを焼き尽くす」 カーラが立つ演壇の背後にスクリーンが現れ、 ザイレムの進路を示した作戦概略図が表示される。 図上を進むザイレムはバスキュラープラントへと直進し、 そのまま激突して諸共に弾け飛ぶ。 「このザイレムは、コーラルに火を付けるための火薬庫さ。 バスキュラープラントの土手っ腹に派手にぶちかまして、 吸い上げられたコーラルをまとめて焼き払う」 あまりといえばあまりの無茶な作戦だ。 その途上に待ち受けるアーキバスの苛烈な妨害は、 想像を絶するだろう。 「はっきり言って、生きては帰れない作戦だ。 爆発したコーラルがどれほどの規模の厄災を齎すかは、 私にも計算しきれない」 豪放磊落なボスの、いつになく神妙な声に ドーザー達は事態の深刻さを嫌でも理解する。 「だが・・・そうだね。今ならまだ、間に合う。 今、ここで、作戦に参加せずにザイレムを離れれば、 おそらく巻き込まれることはないだろう。 脱出艇は用意してるよ。逃げたいんなら止めやしない」 「けどね」 カーラが立ち上がり、指先を正面に突きつける。 その先には、アーキバスに占拠された バスキュラープラントが不気味な赤光を走らせている。 「私は、ここで引き下がるのは真っ平御免だね! 私達のルビコンだ。私達のコーラルだ、違うかい!? それを後からノコノコと割り込んできた亡者どもに 奪われたまんまじゃ、格好がつかないだろう? 外野に勝手に燃やされちまうくらいなら、 先に私たちが火を付けてやろうじゃないか」 『灰被り』はとびきり狂暴な笑顔で、こう締め括った。 「この星のコーラル全部を集めて ブチ上げる、特大の花火だ。 今生の別れには、これ以上ない 手向けだとは思わないかい?」 ─── 「最後にお前と一緒にコイツの修復ができてよかったよ。 俺からお前に伝えるべきことはもう残っちゃいない。 免許皆伝ってところか・・・せっかく身につけた技だ。 せいぜい、これからも活かしてやってくれ」 「こっちこそ。本当に、世話んなったな、マックスさん。 あんたが俺の先生になってくれて、本当に良かった」 これが師弟の今生の別れだと理解した ヴァッシュとマックスは、最後に互いの両手を硬く握る。 「私からも礼を述べさせてくれ。おかげでどうやら、 ヴァッシュの助手くらいは務まりそうだ」 隣に立つアシュリーも深く頭を下げたのち、 ヴァッシュの肩を叩いて脱出船への移動を促す。 脱出船を係留したハンガーの脇には、決戦に臨んで 最後の整備を受ける艦載機が並び立ち、 その中には一際目を引く漆黒のACの姿もあった。 「行くんだな。その選択の先に、幸運があることを祈る」 機体越しに声をかけてくれたムラサメに、2人は それぞれなりの敬意を込めて敬礼の姿勢をとる。 「ザイレムを離れるのは責めないよ。それも選択だ。 そもそも、お前さん達はジャンク屋であって、 戦争屋じゃない。まして、この星がどうのとか、 人類の運命だとか、そんな物を背負わせるなんて酷な話だ」 ヴァッシュ達に視線を合わせていたムラサメの頭部が、 朱に燃える空の果てに聳え立つ バスキュラープラントへと向けられる。 「・・・そういうのは、俺たちだけでいい」 言葉に窮するヴァッシュに代わり、 アシュリーが最敬礼の姿勢をとって その覚悟にまっすぐに向き合う。 「・・・貴官の、そして、この作戦に臨む すべての英雄達の・・・健闘を祈る」 左手でサムズアップを返すムラサメに深く頭を下げて、 アシュリーは後ろ髪を引かれがちなヴァッシュと共に 脱出艇へと乗り移った。 燃える成層圏を駆け巡るカーマンラインの潮流に乗って、 脱出艇はザイレムから遠ざかっていく。 遠望するザイレムはその周囲を無数の強襲艦に包囲され、 彼らがこれから対峙する困難を嫌でも認識させた。 「これで良かったのか、ヴァッシュ」 舷窓に張り付き、常ならず無口な相方に アシュリーは声をかける。 「良いも悪いもあるもんかよ。 俺は・・・コーラル無しじゃ生きられない。 だってのに姐さんは、それを焼き尽くすと言ったんだ。 自分を切り捨てた相手に、ついていく義理なんかあるかよ」 拗ねた様な声音には年相応の少年らしさが滲み、 アシュリーは初めて、ヴァッシュがまだ14歳の 少年であることをまざまざと思い知らされた。 戦いは激しさを増し、艦隊の前衛とザイレムはすでに 交戦を開始している。 交わされる砲火が繰り広げる壮絶な破壊に 見入っていたのも束の間のこと。 「おい・・・!?こっちに来てるぞ!?」 誰かが叫んだ声で、船内はパニックに陥る。 アーキバスにしてみれば、皆殺しを躊躇う理由はない。 そしてこの船が、別命を帯びた敵でないという保証もない。 「クソッ・・・!アシュリー!出るぞ!!」 逃げ場のない船内でパニックに陥るドーザー達を掻き分け、 脱出艇のハンガーに格納した愛機へと乗り込んだ ヴァッシュとアシュリーは、船外へと飛び出す。 「これが・・・カーマンラインか。 アリオーンもここでは、天翔る天馬というわけだ」 「面白がってる場合かよ!やるぞ!!」 コーラル満ちる空と宙の狭間を ガルブレイヴとアリオーンが駆け抜け、 脱出艇を襲う強襲艦に挑みかかる。 「前方は輻輳照射レーザーの射角だ。 艦の高度に合わせて、水平方向から挟撃するぞ!!」 古巣の兵器の弱点を熟知したアシュリーの指示に従い、 ガルブレイヴとアリオーンは左右から強襲艦を攻め立てる。 分散した敵機を甲板上の対空機銃が迎え討つが、 いずれ劣らぬ高機動機。 それも今は、カーマンラインが供給する エネルギーにより限界を超えた出力を獲得している。 軽々と迎撃を掻い潜ったヴァッシュとアシュリーは 甲板上に強行着陸し、至近距離から 砲塔群を蹴散らしながら艦橋へと突撃する。 「かつての同胞の艦も、こうなっては見るに堪えぬ。 せめて、私の手で沈め・・・!!」 アリオーンのレイピアとガルブレイヴのダガーが 艦橋に軌跡を交錯させ、一刀の元にその命脈を断つ。 沈みゆく強襲艦の先には、未だ無数の敵影が見える。 新たな脅威の現出に対応すべく動いた艦隊が、 ヴァッシュとアシュリーを遠巻きに包囲して、 射程差を利して一方的に攻め立てる。 「クソッ!こうなっちまうとうまくねぇな・・・!」 「・・・いや、上出来だ、ヴァッシュ」 通信に割り込んだのは、 もう二度と聞くことはないと思っていた声だった。 同時に、包囲陣の一角をなす艦影を、 複合エネルギーライフルの最大出力の一撃が撃ち貫く。 「チャティか・・・!助かるぜ!!」 ザイレム上層の市街地からこちらを援護するのは、 機動性を捨てて火力と射程に振り切った、 重戦闘仕様の《笑えない》サーカスだ。 あれを捕獲するためにボナ・デアで繰り広げた戦闘が、 もう随分と昔のことのように思える。 「助力感謝する、チャティ。 こちらは外郭から敵艦隊を撹乱する。 火力供給はお前に期待させてもらうぞ」 「任せてもらおうか、ヴィル。 ボスの仕事の成果、お前にも見せてやろう」 高精度、かつ大火力の遠距離砲撃を投射する 《笑えない》サーカスと艦隊の内陣で撹乱を図る ガルブレイヴとアリオーンの連携は奏功し、 強襲艦隊は徐々にその数を減らしていく。 「なるほど。スネイルの奴が手を焼く訳だ・・・ 相手してやる。退屈させてくれるなよ」 その声は、ザイレム内部に破壊の暴風を巻き起こす 群青の機影から放たれた。 「敵AC、ロックスミス。識別名、V.Ⅰフロイト・・・ アーキバスの最高戦力だ。逃げろ、チャティ!!」 市街地に背を向けたチャティが敵機に対応するには、 ヴィルの警告は遅きに失した。 兵装接合部をピンポイントで捉えたブーストキックが、 背部ミサイルポッドを跳ね飛ばす。 「まずは、安そうな方から片付けよう」 すかさず抜き放たれるレーザーブレードが、 複合エネルギーライフルを切り飛ばす。 続いて火を吹く散弾バズーカで機体がついに硬直し、 動きの止まったタンクACの履帯を、頭部を、 腰部関節を、コックピットハッチを、 精密制御されたレーザードローンが精密に撃ち抜く。 「ボス・・・ビジター・・・」 時間にして・・・わずかに5秒で、 《笑えない》サーカスは大破に追い込まれた。 「チャティ・・・ッ!!」 我知らず、ヴァッシュは飛び出していた。 胸を叩き、血中のコーラルを呼び覚まして 機体を紅蓮の光に包む。 「待て、ヴァッシュ!イグニッションに頼りすぎるな!!」 増大した出力に物を言わせて猪突するガルブレイヴを、 アリオーンも全力で追う。 「止めるなよ・・・! 今使わなけりゃ、いつ使うってんだ!!」 特例上位ランカー、アリーナランク、Sー1。 正真正銘、このルビコンで最強のAC乗りが相手なのだ。 手を抜いてどうにかなる敵ではない。 炎を引き連れ、ザイレムに舞い戻ったガルブレイヴが アサルトブーストの慣性を乗せた渾身の斬撃を放つ。 「・・・ほう」 こともなげに薙ぎ払ったブレードに打ち込みを凌いだ ロックスミスが、纏わりつくガルブレイヴを ライフルで冷静に迎え撃つ。 「ただの強化人間ではないな。そういう動きだ」 オープン回線越しに、野獣めいた舌なめずりが はっきりと聞こえた。 「少しは、楽しませてくれよ」 距離を取る敵手を咎めるべく放った双対ミサイルが 軌道を変える前に、フロイトは転針していた。 ヴァッシュが戦術の切り替えを判断した時には、 目前に迫った敵機を迎撃するはずのボレーガンは、 すでにロックスミスの足に蹴り飛ばされている。 「早ぇえ・・・!今の、俺よりも!?」 それは、機動だとか、反応だとか、そういう フィジカルのみで到達できる次元の迅さではない。 見えている世界が、違うのだ。 フロイトの目には、2手も3手も先の自分の行動が、 手に取るように読まれている。 そう悟った時には、もう手詰まりだった。 散弾バズーカが至近で爆ぜ、視界を爆炎で埋めた隙に すでに展開されていたドローンが周囲を包囲し、 関節を撃ち抜く弾幕が張り巡らされている。 「嘘だろ・・・?」 戦士の頂きとは、これほどまでに遠いのか。 身を苛む熱に耐え、命を削る覚悟で臨んでなお、 手も足も出ない、絶望的なまでの戦力差。 「仲間の仇一つ、討てねぇのかよ・・・!」 致命の一撃となるであろう、レーザーブレードの 最大出力の一撃が間近に迫るも、ACS負荷限界を 迎えた今のガルブレイヴに争う術は、ない。 「訂正してもらおう」 その言葉と共に、ロックスミスを直撃するバズーカの 特徴的な連鎖爆発には見覚えがあった。 「俺はまだ健在だ」 多段炸裂バズーカを構える《笑えない》サーカスを 包むパルス防壁は、緊急防護機構ターミナルアーマー。 自分がかつて不意打ちを受けた機能に、 今度は窮地を救われるとは。 「やっと追いついたぁ〜〜〜! チャティの避難は僕に任せて! ヴァッシュ?負けちゃダメだからねっ!!」 遅れて到達したアリオーンが、満身創痍のチャティを 安全圏まで護衛すべく戦場から離脱する。 「ヘッ。犬死にしてたまるかよ・・・! そっちこそ、頼んだぜ!」 コーラルイグニッションの弊害だろうか。 脳裏を掻き乱す耳鳴りに苛まれながらも、 ヴァッシュは気丈に言葉を返す。 仕切り直しとなった戦闘だが、対するロックスミスは 明からさまに興が削がれた様子だった。 「・・・今、この場で摘むのは気が乗らんな。 逃げるなら止めはしない。さっさと失せろ」 思いがけぬフロイトの言葉には、 ありありと失望の色が浮かんでいた。 ここまで明け透けに侮られたのは、 ヴァッシュも初めての経験だったが、それも当然と 思わせるほどに、両者には歴然たる実力差があった。 それでも。 「ふざけろよ。こうなっちまったからには・・・ 俺はもう、逃げる訳にはいかねェんだよ!!」 自分を捨てたカーラへの感情にはまだ、整理がつかない。 それでもここで、彼らを捨てるのは正しい選択ではないと、 今のヴァッシュは根拠も分からぬままに確信していた。 「まさか、戻ってくる羽目になるとはな。 戦場の女神ってやつは本当に性根が悪い」 後背から襲いかかるコーラルライフルの一撃を、 ロックスミスは難なく回避する。 「・・・ムラサメ!!」 傷ついたガルブレイヴを庇うように ロックスミスの前に姿を晒す漆黒のAC。 「ヴェスパー首席隊長、フロイト。 悪いが計画の邪魔だ、消えてもらおう」 「・・・面白い趣向だ。いいだろう、乗ってやる」 およそ、命を賭した戦場とは思えぬ言葉と共に、 ロックスミスはムラサメへと踊りかかる。 深く踏み込む斬撃の機動を見切り、跳躍したムラサメが ミサイルと併せてレーザードローンを展開。 応じたロックスミスも同じくドローンを展開し、 両者が操る攻撃端末が、激しく交錯する両機の周囲で 目まぐるしくドッグファイトを繰り広げる。 「お前は『当たり』だな。俺の他にここまで ドローンを扱える奴がいるとは」 アサルトライフルの速射弾とコーラルライフルの赤光を 高速機動の合間に撃ち交わしながら、 両機は大規模戦闘が展開する戦場の只中を駆け巡る。 周囲で激突する雑兵など、あってなきものが如く。 隔絶した領域で鍔迫り合う2人のエースの機動には、 もはや何人たりとも関与する余地がなかった。 「バカ凄ぇ・・・これが、『本物』ってヤツかよ」 所詮自分など、理も技もなく勢い任せで 機体を振り回すだけの素人に過ぎなかったのだと、 まざまざと思い知らされる。 歯噛みするヴァッシュだが・・・ 手をこまねいている訳にはいかない。 「その機動。まさに研ぎ澄まされた刀のようだ。 美しいが・・・同時に、脆い」 アサルトブーストで急迫するロックスミスを 迎撃すべく、直撃を期してムラサメは 光波ブレードの最大出力の一撃を放つ。 「横合いから打ち込めば、容易くへし折れる」 高速前進にバッククイックを割り込ませ、 機動ベクトルを直角に曲げる。 常識を覆すような垂直跳躍機動で渾身の一刀を跳び交わした ロックスミスが散弾バズーカを撃ち下ろし、 ムラサメとその周囲一帯を爆炎に包む。 朱の炎を切り裂く、大上段からの光刃がムラサメの 首級を刈り取るべく縦一文字に奔る。 「俺を・・・無視してんじゃねぇよッ!!」 交戦するロックスミスとムラサメの周囲を駆け回る ガルブレイヴが、展開したレーザータレットを一斉起動。 四方から閃くレーザーが、ロックスミスを打ち据える。 「なるほど。そういう戦い方もあるか・・・面白い」 止めを阻まれたロックスミスが後退したタイミングで、 ガルブレイヴが大きく踏み込む。 「おぉぉおおおおおおああああ!!!」 今のヴァッシュに残された手札は、勢いだけだ。 腰だめに構えたレーザーダガーを真っ直ぐに ロックスミス目掛け突き出す。 「捉えられるものか。そんな機動ではな」 容易く鋒をすり抜けたロックスミスの膝蹴りが ガルブレイヴの腹を捉え、抱え込まれたその全身を ドローンが滅多刺しに撃ちまくる。 「───そいつはどうかな」 その側面。回り込んだムラサメのコーラルライフルが ロックスミスへ突きつけられる。 零距離で叩き込まれたチャージショットが、 ロックスミスを大きく吹き飛ばす。 「V.Ⅰ。何を遊んでいるのです。 貴方には重要な任務を預けてあるはずです。 野犬など捨て置きなさい」 無視できぬ痛打を被ったロックスミスが間合いを 取り直したところで、神経質な声が通信に割り込む。 「ああ・・・そうだな。 今回は十分に楽しませてもらった。 寄り道はこの辺りにしておこうか」 あっさりと割り切り、ロックスミスは後方へと身を投げる。 市街地レイヤーの端から空中へ飛び出した機影は 自由落下と共に間も無く視界から消え去っていった。 「やれやれ・・・深追いは禁物か。 お前も、厄介な戦闘狂に絡まれて災難だったな」 緊張が解けたムラサメに助け起こされ、 ガルブレイヴはどうにか再び立ち上がる。 「戦闘はもう無理かもしれんが、一応は動けるな。 よし、一度態勢を整えるぞ」 そこへ、窮状を察したと思しいもう一体のACが降り立つ。 「お前は・・・噂の独立傭兵レイヴンか。 助かる。一緒にこいつを運べるか」 言葉もなく歩み寄るACが、肩を貸すべく ガルブレイヴに接近した・・・かに見えた、その瞬間。 「がッ・・・!?」 衝撃がヴァッシュを襲う。 「レイヴン・・・何を!?」 フロイトが去った断崖へ自らも蹴り落とされながら。 頭上で相対する2体のACを、ヴァッシュは見上げていた。 「そうか。そういう『選択』をしたんだな」 レイヴンの真意を察したムラサメの反応は早かった。 「だが俺も、『選択』した。この星を焼いて、 人の理を守るという道を」 しかし・・・レイヴンは、それ以上に早かった。 躊躇いなくレイヴンへ向けられた銃口を容易く潜り、 叩き込んだ一撃は、先の戦闘で損耗した ムラサメにとどめを指すには十分だった。 「届かないのか・・・この機体を以てしても」 変声機がイカれたのか、漏れ聞こえる声が変質する。 「なぜだ・・・なぜ俺は、何一つ守ることができない!?」 苦渋の滲む青年の本来の声には、先刻までの余裕はなく。 痛ましいまでの慟哭には、その胸の裡に刻まれた 悔恨がありありと滲んでいた。 諸共に堕ちるガルブレイヴとムラサメに一瞥をくれ、 レイヴンは飛び去る。 ザイレムの総指揮を執る、 シンダー・カーラの待つ貯水ドームへと。 「レイヴン・・・なんで。 なんでなんだよッ・・・!!!」 叫ぶヴァッシュの声を聞き届けるものは、 もう誰もいない。 関連項目 ヴァスティアン・ヴァッシュ 『ミセリコルデ』アシュリー ??? ジュリーリグ・マックス 《笑えない》サーカス 投稿者 堕魅闇666世
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チームデータ Return 更新日 5/13 PM (前回 5/5 PM) 領 地 エリア名 領地評価 計 領地数 RANK 評価増減 BURIED FACILIY 5,635 1 738⇒ 640 - 1333 MINING AREA 0 0 -⇒ - + 0 URBAN AREA 175 1 1139⇒1129 + 0 ABANDONED CITY 1,098 2 318⇒ 310 - 29 MARINE FACILITY 138 1 1911⇒1824 + 15 UPPER AREA 318 1 1737⇒ 886 - 284 HUGE CANYON 912 2 722⇒ 420 + 310 ALPINE BASE 8,140 4 76⇒ 68 + 331 ※総評 「防衛は積極性と忍耐も必要ですし、侵攻時に、防衛側として嫌な戦い方を探るチャンスにもなります。頑張りましょう.。 しかし、前回更新時のABNDOの情勢に続き、UPPERでも、侵攻が激しくなり、多くのチームの領地が失われ、一部のチームへ領地が流れているようですね。こ次に来る激しくなるエリアはどこなんでしょうか?」 過去ログ 更新日 5/5 PM (前回 5/3 PM) 領 地 エリア名 領地評価 計 領地数 RANK 評価増減 BURIED FACILIY 4,302 2 725⇒ 738 - 242 MINING AREA 0 0 -⇒ - + 0 URBAN AREA 175 1 1136⇒1139 + 0 ABANDONED CITY 1,127 2 670⇒ 318 + 457 MARINE FACILITY 123 1 1925⇒1911 + 0 UPPER AREA 34 1 1736⇒1737 - 2 HUGE CANYON 602 1 722⇒ 722 + 0 ALPINE BASE 8,140 2 92⇒ 76 + 1029 更新日 5/3 PM (前回 5/2 PM) 領 地 エリア名 領地評価 計 領地数 RANK 評価増減 BURIED FACILIY 4,544 2 754⇒ 725 + 434 MINING AREA 0 0 -⇒ - + 0 URBAN AREA 175 1 1136⇒1136 + 0 ABANDONED CITY 670 2 1327⇒ 670 + 0 MARINE FACILITY 123 1 1932⇒1925 + 0 UPPER AREA 36 1 1736⇒1737 + 0 HUGE CANYON 602 1 720⇒ 722 + 0 ALPINE BASE 7,111 2 101⇒ 92 + 904 更新日 5/2 PM (前回 4/30 PM) 領 地 エリア名 領地評価 計 領地数 RANK 評価増減 BURIED FACILIY 4,110 2 735⇒ 754 - 312 MINING AREA 0 0 -⇒ - + 0 URBAN AREA 175 1 1141⇒1136 + 0 ABANDONED CITY 670 2 1327⇒1327 + 0 MARINE FACILITY 123 1 1229⇒1932 - 169 UPPER AREA 36 1 925⇒ 1736 + 0 HUGE CANYON 602 2 925⇒ 720 + 143 ALPINE BASE 6,207 2 100⇒ 101 - 65 更新日 4/30 PM (前回 4/28 PM) 領 地 エリア名 領地評価 計 領地数 RANK 評価増減 BURIED FACILIY 4,422 2 749⇒ 735 + 12 MINING AREA 0 0 -⇒ - + 0 URBAN AREA 175 1 1136⇒1141 + 0 ABANDONED CITY 670 2 1369⇒1327 + -28 MARINE FACILITY 320 1 1233⇒1229 + 0 UPPER AREA 36 1 844⇒ 925 + 0 HUGE CANYON 459 2 1506⇒ 925 + 234 ALPINE BASE 6,272 2 93⇒ 100 - 420 更新日 4/23 PM (前回 4/19 PM) 領 地 エリア名 領地評価 計 領地数 RANK 評価増減 BURIED FACILIY 6,980 3 549⇒ 581 - 252 MINING AREA 0 0 -⇒ - + 0 URBAN AREA 175 1 1139⇒1140 + 0 ABANDONED CITY 180 2 1950⇒1359 + 0 MARINE FACILITY 320 1 1242⇒1234 + 300 UPPER AREA 336 1 836⇒ 842 + 0 HUGE CANYON 225 2 193⇒1517 - 2744 ALPINE BASE 5,844 1 103⇒ 105 - 82
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ベリウスの朝は、季節を問わず常に暗い。 それでも、薄明を照り返す万年雪のおかげで、 ブラバンソンが足元を見誤った事はついぞなかった。 洗濯場と物干し台を6往復。 仲間達の衣類を掛け終えたら、子供達に 白湯と乾パンを配り、朝ごはんの時間だ。 白み始めた空に、皆が吐き出す息が白く立ち上る。 この時間の清冽な空気が好きで、 ACパイロットに登用された今も 洗濯係を引き受け続けている。 もっとも最近では、理由はそればかりではないが。 乾いたばかりの衣類の籠を手分けして背負い、 それぞれの持ち主の元へと運ぶ。 下働きの孤児達のリーダーであるブラバンソンが、 部隊の最重要人物を担当するのは必然である。 油と鉄の匂いが満ちる格納庫には場違いな柔軟剤の芳香が、 眠りについた巨人の列の間をまっすぐに駆け抜ける。 目指すは、その最奥に佇立する暗紫色の痩せた機影。 「ウォルフラムさん!お洗濯あがりました!!」 タラップを駆け上りながら、今もコックピットに 引き篭もっているであろう 『ウルヴス』の首魁に声をかける。 その姿を見ていたのだろう。 目の前でタイミングよく解放されるコックピットから 漏れ出す空気を、ブラバンソンは密かに深く吸い込む。 灰皿に積まれた燃え殻から溢れる煙草の濃い紫煙。 ずっと風呂に入っていない体から滲み出す汗と体臭。 長時間稼働し続けた内燃型ジェネレータの焼け焦げた匂い。 狭い空間に充満していた強烈な悪臭が一度に押し寄せる。 整備兵達が揃って顔を顰めるこの匂いが、 ブラバンソンは不思議と嫌いではなかった。 どす黒い隈で縁取られた、光を吸い込む暗い瞳よりも はるかに雄弁に、目前の女性の生命を実感させてくれるから。 「お疲れ様です。お着替えをお持ちしましたから、 いい加減お召し物を交換してくださいね。 ああ、待って!今は脱がないで!!」 無言で咥えタバコを灰皿にねじ込み、パイロットスーツを はだけたウォルフラムを慌てて止めたところで、 乗機パープルヘイズの通信機からの音声が響いた。 「あ〜、やっぱりここだったか。 よぉウォルちゃん!相変わらずひっで〜ツラだな!」 モニターに現れた眼帯の女性は・・・ 確か、サムノッチさんだ。 キャンプ・カンネーの駐在さんからの連絡とは珍しい。 仏頂面のウォルフラムがじろりとモニターを睨む。 「要件はなんだ。どうせ碌な事じゃないんだろ」 「へっへぇ、ご明察〜〜〜! ちょっちウチらの戦力だけじゃー どーにもなんない用事ができてさぁ〜・・・ 腕っこきを何人か、こっちに寄越せない??」 なんでもない事のように言ってのけるが、 要するに相当な荒事の依頼だ。 「・・・一つ、貸しだぞ」 フン、と面白くもなさそうに鼻を鳴らしたウォルフラムが、 流れで話を聞いていたブラバンソンの方をちらりと見遣る。 「まずは・・・お前、行ってみるか?」 実を言えば、ウォルフラムから 話しかけられたのはこれが初めて。 うっかり頷いてしまったブラバンソンは、 やはり少し、浮かれていたのかもしれない。 ─── 「で?俺らがこの犬コロの散歩を押し付けられたってか?」 やってらんねぇぜ、とでも 言わんばかりのオオグチの話しぶりに、 ブラバンソンが申し訳なさげに身を縮める。 「まぁまぁ。いいじゃありませんか、ルシャール。 この子は役に立ちますよ。 『半人前だが、少なくとも邪魔にはならない』 貴方もそう言っていたでしょう?」 にこやかに仲裁するヒアリング・ルルーアンの言葉に、 オオグチが目に見えて狼狽する。 「おい!?よせよ姉貴!! 本人に聞こえる所で言うモンじゃねぇだろ・・・ 「あ、ありがとうございます・・・! お二人のお役に立てるように頑張ります!!」 思いがけぬ嬉しい評価に、 ブラバンソンも些か食い気味である。 「バァ〜カ、ガキが張り切ってんじゃねぇ! てめぇは犬コロらしく俺らのケツについてくりゃ それでいいんだよ」 三人とその乗機を積載した輸送機の上に、 バスキュラープラントが作る巨大な影がかかる。 大気圏の辺縁まで高く伸びた桁違いの威容も、 今ではドーザー達の格好の餌場である。 だが・・・技研の遺した巨大構造物には未だ、 未知の危険が数多く眠っている。 「宝探しに励んでた独立傭兵から つい3時間ほど前に救難信号があってね〜・・・ 一緒に映像が送られてきたんだけど。 まぁ、見てみてちょーだい」 サムノッチの緊張感に欠ける口調とは裏腹に、 再生された動画の内容は剣呑なものだった。 未知の遺失技術で構成された廃墟、 というべきバスキュラープラント内部の 独特の景観の中を、多足を備えた巨影が闊歩する。 その身に纏う深紅の光からも、その動力源は明らかだ。 撮影者の方に向き直った巨体が突如猛烈な勢いで 接近してくると共に、『オイオイオイ!!』と叫ぶ 少年の声を最後にブツリと映像が途切れる。 「これは・・・C兵器ですねぇ」 「だな。それも、とびきりのデカブツだ」 既知の機種であえて比較するならば、 近いのはシースパイダーだろうか? ただしこちらは、同じ節足動物でも 蟹の類を彷彿とさせるシルエットだ。 多脚で支持されたボディから伸びる巨大な爪が 見るからに凶悪である。 「ま、仮に呼ぶとしたら『Cキャンサー』ってとこかなぁ」 我ながら安直だけどね!などと呑気にのたまい、 にししと笑ったサムノッチが作戦概要を説明する。 「コイツの爪はプラントの壁面も余裕でちょん切っちまう。 下手すると麓まで降りてキャンプをぶっ壊しかねない。 アタシらとしてもちょーっと放っとけないんだよね〜・・・ だから、プラントの内部でカタをつけて欲しいワケ」 輸送機はさらにプラントへと迫り、もはや眼前は その巨大な壁面で覆い尽くされている。 遠目からでは平板な壁としか見えなかったそれも、 実際には複雑な凹凸を伴い、内部へと続く 無数の開口部が備わっていたことが明らかになる。 そして、プラントの自己防衛機能は未だ、現役である。 「もう十分です。お二人とも、発進しますよ!」 輸送機の運動性能では、迎撃を掻い潜るのは困難だ。 砲台の射程に入る前に、ACがカーゴから発進していく。 「お前のポンコツじゃ、真っ直ぐ飛んで ようやく届くかどうかってトコだな。 いいか?余計なことは考えずにひたすら前に進め」 ブラバンソンにとっては初めてとなる空挺降下作戦だ。 オオグチのアドバイスに従い、浮遊感に狼狽えそうに なりながらもなんとかアサルトブーストを起動、 バスキュラープラントへ向けて高速巡行に突入する。 その遅れさえも計算づくだったのか。 先んじて巡航に入ったルルーアンのルーフ・アイリスと オオグチのゲッカ・アジサイが並んで先行し、 既にバスキュラー・プラントの迎撃圏内に突入している。 この距離ならば対空砲撃の類はまだ届かず、 ミサイルだけに集中するなら対処は難しくない。 「なるほど・・・ドーザー達が上空からの接近を 好まないのはこれの所為ですか」 それ以上の脅威として圧力をかけてくるのが、 高速で飛来する小型C兵器『アラレズ』である。 「ジャマくせぇんだよ、ミジンコ風情がッ!」 直撃コースに入った一体にゲッカ・アジサイが 火力を集中するが、前面を厚く覆う パルスアーマーに阻まれ有効打にならない。 「防壁は正面に集中しているようですね・・・ 合わせますよ、ルシャール!」 最初の突撃をかわした時点で弱点を看破した ルルーアンの言葉に、オオグチも即座に意図を理解する。 「なるほどな・・・!任せろよ姉貴!!」 大きく弧を描いてアラレズ編隊が再び迫るが、 プラントを目指す2機のACは進路を曲げない。 無防備な横腹を捉えた2機のアラレズが、 それぞれに異なる角度から姉妹に襲いかかるが・・・ 「そこです」「もらったァ!」 同時に動いたルルーアンとオオグチが、 レーザーダガーの軌跡を交錯させる。 斬り捨てたのは、互いの側背を狙っていたアラレズだ。 互いの獲物と脅威の位置関係を把握し、回避と遊撃の タイミングを一致させ、2人が互いの囮に、 伏兵になることで防壁の存在しない側面を突く。 双眸を分かち合った姉妹なればこその鮮やかな連携に、 ブラバンソンは目を見張る。 対処法を確立したルルーアンとオオグチはそのまま プラントの壁面に到達するかに思われたが・・・ 「いや、まだだ!オオグチさん・・・!」 撃ち漏らしたアラレズの一体がその側面に迫るのを、 ブラバンソンは見逃せなかった。 背後を捉えたその進路を阻めるのは彼だけだ。 バーストマシンガンをハンガーに預け、 握り固めた拳を打ち込んでアラレズの軌道を捻じ曲げる。 「色気は出すなっつっただろうが・・・バカ野郎!」 ひと足先にプラントに取り付いたゲッカ・アジサイが 振り向いた視線の先で、コンデンサが払底した ブラバンソンの乗機、アップルヘッドが落下していく。 「諦めないで!ジェネレーターの回復を待って、 ホバリングで粘れば十分にたどり着けるはずです!」 ルルーアンの的確なアドバイスがブラバンソンの 命脈を繋ぎ止めた。 焦らず、スティックは前に固定。 コンデンサが復旧しても少し我慢だ。 容量が十分に回復するまで堪えた上で、 一定の間隔でブーストペダルを踏んで 消耗を抑えながら落下エネルギーを徐々に減殺する。 降下作戦の訓練を通して、必要な操作を頭の中で 整理していたことが幸いだった。 生死を分つ窮地の中、どうにか必要な操作を実行した ブラバンソンも、どうにかプラントの壁面に到達する。 ただし・・・先着した姉妹とは 300m近い高度差ができてしまっていたが。 「やれやれだな・・・内部構造も分りゃしねぇってのに、 どうやって合流したもんだか」 ため息を吐くオオグチに対し、 ルルーアンは至極落ち着いていた。 「それなら大丈夫。私に伝手があります」 素早くスキャンモードを起動し、マッピングを開始した 姉の動きに迷いはなく、オオグチとしては そんな姉に頼もしさを感じずにはいられない。 「また例の足長おじさんか?」 「いえ、それとは別口です。・・・ね、アイリス?」 意味ありげに愛機の名を呼ぶ姉の言葉はいかにも 思わせぶりだが、あえて疑念を抱くことはしない。 ヒアリング・ルルーアンが請け負うならば、 きっとうまくやってくれる。 「姉貴がそう言うなら、別に疑わねぇよ。 おい、犬コロ!勝手にくたばるんじゃねぇぞ!!」 不肖の妹はただそれを信じて、刃を振るうのみだ。 「わかりました!こちらもなんとか安全を確保します!」 応答してすぐに、ブラバンソンもルルーアンを倣って スキャンモードを起動・・・したはいいが。 その有効範囲の狭さにブラバンソンは思わず肩を落とす。 アップルヘッドの頭部パーツは、惑星地表の広域探査を 目的とした廉価品であり、狭隘で入り組んだ地形を 走査するような状況は基本的に想定していない。 スキャン機能は最低限のものであり、 範囲の狭さだけでなく有効時間も絞られている。 それがために。 ブラバンソンは、接近する脅威をかわせなかった。 「しまった・・・!?」 気づいた時にはもう遅い。 跳び移った新たなフロアには数機の技研製MT、 ディノイザーが待ち構えていた。 「や、やるしかない・・・!」 単独での戦闘はこれが初めて。 どこまでやれるかわからないが、逃げ場はない。 兎にも角にも引き金を引くことだ。 迫り来るディノイザーの一機をロックサイトに捕捉するや、 ブラバンソンは手持ちの武装を一斉に連打する。 垂直発射型ミサイルは天井の構造物にぶつかって 無駄弾に終わったが、少なくともバーストマシンガンは 真っ直ぐに標的を捉えてくれた。 意外な活躍を見せ、敵機に止めを刺してくれたのが 左手に握ったスタンボムランチャーだった。 「あれ?この武器、こんなに当てやすかったっけ??」 先日、名も知らぬショップから届いた アップデートキットを組み込んだせいだろうか? 目に見えて射出時の初速が速い。 広域に走る電撃は、MT相手ならばほぼ必中だ。 「うん。これなら、先手を打って敵を処理できる・・・!」 愛機の意外な頼もしさを発見したブラバンソンは、 平時の落ち着きを取り戻す。 周囲をよく観察して地形を把握。 残りの敵に闇雲に突っ込まずに遮蔽物に身を隠す。 頭上の射線が通る位置取りを確保し、再度スキャンを実行。 遮蔽物越しに残る敵機を把握し、垂直ミサイルを発射する。 先制攻撃が刺さるタイミングに合わせて跳躍し、 一瞬頭を出したところでスタンボムを発射。 その繰り返しで残るディノイザーも安全に撃破できた。 「一時はどうなることかと思ったけど、 意外と僕だって・・・」 いやいや、調子に乗っちゃダメだ! 僕みたいな新兵が下手に何かしようとしても、 ルルーアンさん達の邪魔になる。 とにかく安全を確保しないと・・・ などと自戒した矢先、スキャンに引っかかる未知のAC。 「やったな、逆流王女!お待ちかねの救援だぜ!!」 どうやら、向こうもこちらの存在を感知したようだ。 オープン回線から聞こえてきたのは、快活な青年の声。 「そ、その渾名だけはご勘弁頂きたい・・・!」 続いて、いかにも生真面目そうな女性の声。 「えぇ〜?直撃喰らったのはオレなんだぜ! このくらいは勘弁しろよな!」 確か、通報してくれた傭兵は三人組で動いていたはず。 そして、今会話している青年の声は 記録映像の悲鳴とは違っている。 ともあれ、スキャンで確認した透視画像を頼りに ようやく対面した救助対象の異形ぶりに、 ブラバンソンは密かに息を呑む。 片やは軽量とはいえタンク型でありながら 上半身の装甲がギリギリまで削られている。 武装も重量削減を意識して選ばれているらしく、 地上での機動性を最重要視していることが見て取れる。 もう一機は、それに輪をかけて異様だった。 四脚といえば四脚には違いないのだが、 軽量2脚と軽量逆関節を強引に繋いで 無理やり獣のような躯体を構築しているのだから、 およそ常識的な代物ではないだろう。 「おや・・・ブランドン殿! まさか貴方が応援だったとは。 『ドーンブリンガー』の際には ご注文ありがとうございました」 女性の声に、ブラバンソンは返答に窮する。 アップルヘッドに搭乗していた前任者が 最期を迎えた戦場の名に、彼が残した言葉を また思い出してしまったからだ。 「・・・申し訳ありません。 ブランドン・キーツは先の戦闘で死亡しました。 今は、僕が・・・識別名『ブラバンソン』が この機体を預かっています」 どうにか絞り出した言葉に、今度は相手の方が沈み込む。 「それは・・・すまない、失礼した。 そうか、君が件の『犬コロ』だな。 彼の望み通りになったのなら・・・ うむ。それがせめてもの手向けか」 独りごちた言葉に、ブラバンソンは引っかかりを感じた。 「彼の・・・ブランドンさんの望みって・・・?」 しかし、答えを得ることはできなかった。 「オイオイ!呑気だなぁアシュリー!? 補給が済んだなら戻ってくれ! こっちはそろそろ限界なんだが??」 今度こそ、あの声だ。 Cキャンサーを発見した、まだ若い男性の声。 「すまんヴァッシュ!すぐに援護に向かう!!」 踵を返すアリオーンに、シュトラウスのガストも続く。 「悪いな!早速だが君にも手伝ってもらうぜ!」 2体の高機動ACになんとか追いすがりながらも、 ブラバンソンは精一杯の声で返事を返す。 「もちろんです!そのために来たんですから!!」 迷宮のように入り組んだ遺構が、不意に途切れる。 プラントの中央に近づき、 大部屋の一つに行き当たったのだろうか。 いや、それにしても広すぎる・・・ いつもの癖で戦場全体を見渡し、 ブラバンソンはその元凶を発見する。 「あれが『Cキャンサー』・・・!?」 まさに蟹と形容するほかない重厚な巨体は、 優に全高100mを上回るだろう。 そして、その周囲を飛び回っているのが、 先ほどの通信の主だろうか。 逆棘を備えた巨大な脚の間をスライディングで抜け、 腹部の下に滑り込んだ群青の機体が 両腕のグレネードガンを叩き込む。 「これが本気のC兵器ってヤツか!? 硬ぇってレベルじゃねぇだろ・・・!!」 怒涛の炸裂弾10連射、それですらも、 Cキャンサーの甲殻には有効打とはならない。 技研が残したウォッチポイントの防衛機構、 アイスワームが備えていた電磁障壁。 それと同じ技術がこのCキャンサーにも使われている。 さすがにアレのような二重構造ではないが、 いずれにせよこちらの通常兵器では ダメージが通らないのは変わらない。 これを破る手段を見つけられぬまま、 彼らは今に至るまで攻めあぐねる羽目になったのだ。 ガルブレイヴの至近で、キャンサーの腹部が開く。 すわ、好機到来か・・・と、踏み込んだ矢先。 「オイィィイイイ!?!?」 内部にびっしりと詰め込まれた炸裂弾が撒き散らされる。 咄嗟に発動したアサルトアーマーでなんとか凌げたが、 こんな手段が使えるのはあと一回だけだ。 「クッソ性格悪ィなオイ! まだこんな隠し玉があったのかよ!!」 「だが、あるいはアレが狙い目かもしれんぞ、ヴァッシュ」 驚くべき加速で戦場に飛び込んだアリオーンが ガルブレイヴに合流し、ミサイル弾幕で離脱を支援する。 「おおっとぉ!速さについてはオレも負けてないぜ!!」 シュトラウスも程なく合流し、アリオーンとは逆サイドから 持てる火力を叩きつけていく。 だがやはり、攻撃が効いている気配はない。 天面に備わったコーラルレーザー砲塔と 左右から伸びた棘から走るスパークによる反撃で、 3機は後退を余儀なくされる。 これの繰り返しで、結局埒があかなかったのだ。 弾薬類の損耗だけならシェルパを手配するにしても、 操縦者の疲労は如何ともし難い。 「こ、こんな化け物、どうすれば・・・」 間近に討伐対象の戦闘力を見せつけられ、 ブラバンソンは戦慄する。 未熟な新兵が挑むには、あまりにも強大な敵だ。 「ブラバンソン君だったな。君のスタンボムが頼りだ」 ヴィルに突然話を振られ、ブラバンソンは困惑を隠せない。 「ぼ、僕ですか・・・?」 「そうだ。電磁障壁は放電に弱い。 奴の装甲の隙間に刺されば、シールドは消滅するはずだ」 その提案に、少年は目を丸くする。 俄かに注目を浴びたスタンボムだが、 元はと言えば倉庫で埃を被っていた余り物だ。 用廃棄同然の数合わせのACならばこれでもいいかと、 仕方なく詰んだような武器だったのだ。 それなのに・・・ 「ああ、頼むぜ!大丈夫だ。 お前の・・・アップルヘッドのボムランチャーには、 ウチの特製アップデートキットが 組み込まれてるんだからな!」 アップルヘッドに並び立ったガルブレイヴから 届いたヴァッシュの言葉は、さらに意外だった。 「えっ・・・!? これ、ヴァッシュさんたちが作ったんですか?」 「正確には、発案者は君の前任のブランドン氏だ」 話す間にも、Cキャンサーは甲高い足音を響かせ迫りくる。 その顎部が解放され、発射されたコーラルビームの照射が 前方の広範囲を水平に薙ぎ払い、爆発を連鎖させる。 「彼は言っていたよ。俺のようなろくでなしにも 文句も言わず付き合ってくれるバカな子供がいるとな。 いずれ、その子にこの機体を譲るときのために、 なんとか少しでも性能を上げておきたいのだと」 大きく弧を描く軌跡を刻みながら回避した アリオーンとガストが左右からの弾幕で キャンサーの目を引く。 「オレたちが囮になるからさ! お前が、攻撃の瞬間を狙ってスタンボムを ハッチに捩じ込んでくれ!!」 シュトラウスの言葉に、ブラバンソンの腕が戦慄く。 あまりにも、重すぎる責任だ。 「・・・任せてくださいッ!」 震える手を硬く握りしめ、託された役目を果たすべく ブラバンソンはペダルを踏み込む。 「ヘッ!いい返事だ!! こっちも命懸けでやるからよ、外すんじゃねぇぞ!!」 跳躍したガルブレイヴが、キャンサーの正面に躍り出る。 最小限の動作でレーザーを掻い潜り、 反撃を承知で腹部の下へと潜り込む。 「───オラァ!撃ってみろよッッッ!!」 その挑発に応じるかのように、ガルブレイヴの目前で 炸裂弾を満載したハッチが解放されたのを、 ブラバンソンは見逃さなかった。 「外すもんか───!!」 放たれたスタンボムは確かに、開かれたハッチの奥へ 吸い込まれ、内部で電撃を放ってキャンサーの 内蔵炸薬を誘爆せしめた。 「やった・・・!」 小さくガッツポーズを決めそうになったブラバンソンだが、 アシュリーの冷静な一喝が冷や水を浴びせる。 「待て!まだ足りていない!!」 「え・・・!?」 その一瞬の油断が、明暗を分ける。 自らを脅かす武器を持つ敵機を、 Cキャンサーの左腕の鋏が拘束する。 そのパワーは凄まじく、装甲に食い込んだスパイクは 用廃棄同然の旧式ACをギチギチと猛烈な圧力で締め上げる。 それでも飽き足らず、高く掲げた標的を撃ち抜くべく、 顎部を開いてレーザーをチャージし始める。 「こいつッ・・・!!」 破滅を目前にして、 ブラバンソンは己の感情に翻弄されていた。 それは、彼自身が驚くほどの巨大な怒りだった。 「大事な機体なんだぞ!! 汚い手で触るんじゃないッッッ!!!」 ブランドンさんが託してくれた、僕の宝物なんだ。 こんなところで、壊させてたまるものか───!! 飛距離と弾速が大幅に強化されたスタンボムは レーザー発射口を直撃し、 迸る放電がキャンサーの体内を駆け巡る。 今度こそ、確実に効いた。 機体を覆う電磁障壁が激しい雷光を放ち消失する。 最後の悪あがきとばかり、元凶たるジャンク機体を 叩き潰すべく左腕を振りかぶるキャンサーだが。 「合わせて、ルシャール!」 「言われなくても・・・外すか、よッ!!」 同時に振るわれる二振りの光剣が軌跡を重ね、 交差する一瞬の内にキャンサーの左腕を根本から斬り飛ばす。 「ルルーアンさん!オオグチさん!! すみません、助かりました・・・!」 拘束から解放されどうにか着地したアップルヘッドの前に、 左右から滑り込むルーフ・アイリスとゲッカ・アジサイ。 「ヘッ。これで貸し借りナシだぜ、犬コロ」 「どうにか間に合いましたね。さぁ、今のうちに!!」 「よっしゃーッ!これまでの恨みィ!!」 「遠慮はいらん、一気に沈めるぞ!」 「いや待て!丁寧に無力化すればいい値で売れ・・・」 ヴァッシュが止める暇もあらばこそ。 千載一隅の好機に、その場に集う6機の(うちの5機の) 全火力がキャンサーの頭部に集中し・・・ 「オイィィィィィィィイイイッッッ!!!」 断末魔の叫びと共に、木っ端微塵に砕け散る。 ─── 「おかげ様で、命拾いしました。 本当に、ありがとうございます」 共に戦った傭兵たちと別れ、 帰りの輸送機でようやく一息ついたところで、 ブラバンソンは今更の疑問に行きあたる。 「でも・・・どうやって僕たちの 位置が見つけたんですか?」 いいところに気がつきましたね? とでも言いたげな、意味深な微笑みと共に。 「ええ。あちらの方々と一緒に、 親切なご同輩がいらっしゃいましたらからね?」 謎めいた言葉でルルーアンははぐらかす。 「またそれかよ。そのうちキチンと話してくれよな」 何やら、拗ねたような口調で舷窓に目を逸らすオオグチに、 ルルーアンはまたいずれ、と嫋やかに微笑む。 「ああ、それと」 にこやかだった表情から一転。 ルルーアンの隻眼がブラバンソンを真っ直ぐに捉える。 「今回随分と助けられたセラピスト・・・ スタンボムランチャーの件ですが。 先ほど連絡がありまして。 帰ったらすぐに再アップデートしろとのことです。 なんでも、今回組み込んだキットには 重大な違法改造が含まれていたとか」 「ええ・・・」 斯様に、画竜点睛を欠く結末ではあったが。 恩人が遺した一瞬の輝きが、己の命を繋いでくれたことを ブラバンソンはずっと忘れないだろう。 関連項目 ブラバンソン ウォルフラム サムノッチ ヒアリング・ルルーアン オオグチ シュトラウス アッシュガル グレイクレイン 投稿者 堕魅闇666世