約 2,223,748 件
https://w.atwiki.jp/sentai-soubi/pages/3135.html
「OK!Saturn!(オーケー、サターン!)」 【名前】 サターンソーサリー 【読み方】 さたーんそーさりー 【登場作品】 仮面ライダーフォーゼ など 【初登場話】 第17話「流・星・登・場」 【分類】 必殺技 【使用者】 仮面ライダーメテオ仮面ライダーフォーゼ メテオフュージョンステイツ 【詳細】 仮面ライダーメテオの必殺技。 武装のメテオギャラクシーのサターンレバーを操作、右拳から土星の輪のようなエネルギーリングを射出、標的を斬り裂く。 メテオのパワーアップ後の中盤からは技をあまり使わなくなる。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6605.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 「また吸血鬼のお出ましよ。まったく、なんたら村の騒ぎがどうにか片付いたばかりなのに、もう一匹湧いて出てくるなんてね」 そう言ったのは、泉のように青い瞳と、癖ひとつない青くきらめく髪をもつ少女だった。 整った目鼻立ちと雪のように白い肌は、豪奢な絹のドレスとあいまって美術品を思わせる美しさをかもし出しているのだが、敵意に満ちた 険しい目つきと粗野な態度が、それらの美点をだいなしにしていた。 ガリア王国、いや、ハルケギニア大陸における最大の都・リュティスの東端には、『グラン・トロワ』と呼ばれる広大かつ壮麗な王宮が存在し、 そこから少し離れた場所に『プチ・トロワ』という小宮殿が建てられていた。 その『プチ・トロワ』の一室で、ふたりの少女が向かい合っていた。 「だから、あんたは命に代えてもその吸血鬼を始末しなくちゃいけないってわけよ。でも、相手はとびきり凶暴なやつ。 この一月で二十人も殺されたって話よ。その中にはあんたの前任者も含まれるんだけど、化け物は血を吸うだけでは飽き足らず、騎士の手足を 人形みたいに引きちぎったんだってさ。おお、怖い怖い!」 言葉とはうらはらな嗜虐的な笑みを浮かべて彼女――現在のガリア国王、ジョゼフ一世の娘であるイザベラ王女――が語りかける相手は、 自身より四つか五つは年下に見える、小柄な少女だった。 少女が身に纏った白いシャツと黒いスカートは簡素だが仕立てのよいものであり、見る者が見れば、それがトリステイン魔法学院の女子生徒の 制服だと、すぐにわかるだろう。 少女はイザベラとまったく同じ色合いの瞳と髪――こちらは少年のように短く切りそろえられている――の持ち主だが、他の点では まったく似ていなかった。 この少女の異常なまでに物静かな物腰と態度は、青い瞳に嫉妬と憎しみの炎をちらつかせ、脅しの言葉を吐き散らす王女と際立った 対照をなしているのだ。 一切のことに関心を示さず、すべてを拒む冷たい雰囲気を漂わせてはいるが、不思議と陰気臭い印象は受けず、むしろ新雪の清らかさを 連想させた。 「ずいぶんと余裕じゃないの。歴戦の騎士様、若き天才メイジ様は、吸血鬼ごとき何度でも叩き潰してみせるって?」 相手が何の反応も示さないことに苛立ったイザベラは眉根を寄せ、少女をにらみつけるが、彼女はひたすら無言のままで、眼鏡のレンズ越しに じっと前方を見すえるだけだった。 イザベラは聞こえよがしに舌を打った。 「その態度が吸血鬼に出会っても続くかどうか、怪しいものだけどね。せいぜい、吸血鬼の餌にならないよう気をつけなさい、シャルロット…… ああ、今はタバサだったっけ? どっちでもいいけどとにかく、あんたの幸運が尽きないように祈っておいてあげるわ」 イザベラがふん、と鼻を鳴らして手を振り退出をうながすと、シャルロット――あるいはタバサ――と呼ばれた少女は無言で踵を返し、 王女の部屋を出て行った。 タバサはその本名を、シャルロット・エレ-ヌ・オルレアンという。 ガリア王ジョゼフの弟・オルレアン公シャルルの忘れ形見であり、イザベラ王女とは従姉妹の間柄になる。 高貴な王族であるはずのタバサがこのような扱いを受ける原因は、五年前のある日までさかのぼる。 ジョゼフ王主催の狩猟のさなか、オルレアン公シャルルは何者かによって暗殺され、その妻、つまりタバサの母親もまた、未知の猛毒を盛られて 精神に異常をきたした。 これらの凶行の犯人は明らかになっていないが、ジョゼフが深く関わっているであろうことは、王宮内でなかば公然の秘密となっていた。 ジョゼフの、タバサに対する残酷な仕打ちがなによりの証拠だった。 王が哀れな姪に与えたのは、慰めや慈しみではなく、熟練の騎士にさえ達成不可能と思える決死の任務だったのだ。 タバサは唯々諾々としてこれらの任務を達成していった――失敗や拒否は王家に対する反逆ととられ、彼女だけではなく、病に臥せる 母親の身をも危うくするであろうことは確実だからだ。 最愛の両親を襲った不幸と、死と隣り合わせの過酷な闘いは、タバサから人間らしい表情と感情を奪っていった。 そうしてついには、イザベラ王女に「薄気味悪い人形」と揶揄される、何が起きようが顔の筋ひとつ動かさず、必要に迫られたとき以外は 口を開かない、今のありさまに成り果てたのだ。 青く輝く鱗をもつ竜が巨大な翼をはばたかせるたびに、眼下に広がる野原や田園や森林が、矢のような勢いで過ぎ去っていった。 竜の首の付け根のあたりには小柄な少女が跨っているが、彼女の青い瞳には雲ひとつない蒼穹も、生命に満ちた地上の光景も映らなかった。 その少女――タバサ――の視線は、手にした羊皮紙に釘付けになっていたからだ。 タバサが何事かをつぶやくと、竜は長い首を横に曲げて彼女を見やり、かっと口を開いた。 「きゅ、きゅい!? また? 早くも二度目の吸血鬼退治なの? またごわごわの服を着て、騎士のまねごとしなくちゃ駄目ぇ!?」 牙の生えた竜の顎の間から、若い女の哀れっぽい声が漏れ出した。 「ひどすぎるのね! あのいじわる従姉姫、本気でお姉さまをどうにかしちゃう気なのね!」 竜はあきれたように頭を左右に振り、二十フィートにも及ぶ巨体に似合わない愛嬌のある声で、喋り続けた。 「かわいそうなお姉さま! もっとかわいそうなシルフィ! きっとまた、吸血鬼を釣り上げる餌の役をやらされるのね! 今度という今度は 年貢の納め時なのかもしれないのね。ああ、先行く不幸をお許しくださいなのね!」 もしも何者かがこの様子を目にしていたなら、さぞかし奇妙な光景と映ったことだろう。 乗騎として軍隊で飼われている竜はいくつもの命令を聞き分け、犬や馬に劣らぬ高い知能と主人への忠誠心をもつことで知られるが、 それでもあくまで獣に過ぎず、自らの乗り手と言葉を交わすようなことはない。 つまり、タバサの≪使い魔≫シルフィードは、ただの竜ではない――その正体は古代に絶滅したと思われている伝説的な幻獣、人語を解し ≪先住の魔法≫を使いこなす稀少な≪韻竜≫なのだ。 彼女――シルフィードは雌竜だ――は自分を召喚したタバサを姉と呼んで慕った。 実際には、シルフィードはタバサの十倍以上は歳をとっているのだが、非常に寿命の長い≪韻竜≫は成長も緩慢としたものであるため、 その精神は人間の子供のそれと大差ないのだ。 「騎士になる必要はない」 タバサはそう言って、しきりに嘆くシルフィードを落ち着かせた。 「ほんとに? ほんとにお芝居しなくていいの?」 シルフィードはおそるおそる尋ねた。 「今度の事件は異常。前と同じやり方では無理」 「異常?」 タバサの言葉に、シルフィードが大きな眼を細めていぶかしんだ。 「吸血鬼といえば、町や村の中に紛れ込んで夜になったら人を襲う。このあいだの村でもそうだったのね。今度は違うの、お姉さま?」 「人相風体は明らか。目撃者も複数」 タバサはそう言って、シルフィードの眼前に、自分が読んでいた羊皮紙を突き出した。 「……ええと、『身の丈二メイル前後、肩まである銀髪に、同じく銀色の顎ひげ。右の頬に大きな傷跡。服装は黒いぼろぼろの外套と編上靴』」 羊皮紙に書かれた文字を読み上げるシルフィードの声が、疑わしげなものに変わった。 「これだけ目立つ格好なのに、誰が吸血鬼かわからないの? そんなのおかしいのね。普通の吸血鬼よりも精霊の力に通じていて、 シルフィみたいに変身できるの? それとも、誰とも関わり合わないで、昼間は空き家かどこかに隠れているとか?」 「わからない」 タバサはかぶりを振り、ふたたび羊皮紙に目を通した。 それは執行長官が王宮に送った報告書であり、そこにはシルフィードが読み上げた吸血鬼とされる者の特徴に続いて、こう書かれていた。 「……メルドープ、ポトー、マルメディ、サン・ヴィト、ジャンディエヌイル。アルジャンタン地方の二町三村が今もって吸血鬼の脅威に さらされ続けているが、解決の糸口はつかめていない。目撃者たち――彼らが吸血鬼でなければ屍人鬼(グール)でもないことは証明済み――の 証言にもとづく人相書きを近隣の町や村に張り出し、すべての廃屋と地下室を捜索し、数百人を動員しての山狩りさえ行ったが、何の成果も 得られなかった。また、この吸血鬼に関する謎は、その居場所だけではない。ポトーの農夫を襲った化け物は翌日、マルメディの夜警の血を すすったが、これら二つの集落は、直線にして六十リーグも離れているのだ。双子のように瓜二つの姿をした複数の吸血鬼による共謀が あったのか、あるいは、翼でも生やして空を翔けたのか……」 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7109.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ タバサは女を睨みつけ、 「≪屍人鬼≫」と低くつぶやくと、 杖を掲げ、早口に呪文を唱えだした。 「待って、待ってください! わたしは≪屍人鬼≫じゃありません!」 女はおびえた声でそう叫ぶと、両手を前に突き出しあとずさった。 「騎士様、お話ししたいというのは、この傷のことなのです! わたしを助けてください! どうか、どうかあいつを退治してください! このままでは、わたしは本当に――」 「あいつ?」 シルフィードが当惑したようすで口を挟んだ。 「あいつって、吸血鬼のこと?」 女はシルフィードの方に向き直ると、何度も大きくうなずいた。 「そうです! あいつは……あの化け物は、今夜もわたしの所にやって来ます! そう言っていたんです!」 その言葉を耳にして、シルフィードは困惑に眉根を寄せ、タバサは青い瞳に謎めいた光を浮かべた。 「詳しく聞かせて」 タバサにそう促された女は、おずおずと言葉を紡いだ。 「あの、ここではちょっと目立ってしまいますし、立ち話もなんですから……川の向こうの空き家まで来ていただけませんか? わたしは、 そこで寝泊りしているんです。すぐそこです、一リーグも離れていませんから」 そう言って女が歩き出すと、タバサはなんの躊躇もなくその後について行った。 「きゅっ?」 主人の意外な行動にしばらく呆然としていたシルフィードは、気を取り直すと、小走りでタバサを追いかけた。 タバサの隣に並ぶと腰をかがめ、ひそひそと耳打ちした。 「お姉さま、ついてっちゃだめ。これはきっと罠なのね!」 シルフィードは、五ヤードほど先を行く女の背に、疑いの眼差しを浴びせた。 「ついてった先にはきっと、吸血鬼が待ち構えているのね。自分たちの縄張りに誘い込んでから、魔法を使う暇も与えずに襲いかかってくるつもりね、 きゅい! 怖い!」 「それはない」 タバサは冷ややかに答えた。 「わたしたちを騙すつもりなら、わざわざ首の傷を見せたりはしない。自分が≪屍人鬼≫だと疑われるようなことはしない」 「でもでも、そう思わせて油断させる作戦かも……」 シルフィードはなおも食い下がったが、タバサに 「吸血鬼が現れるならかえって好都合。探す手間が省ける」と言われて口を閉ざした。 タバサたちが三人がたどり着いたのは、広々とした草地に面した、石造りの小屋だった。 すぐそばにはささやかな菜園が設けられていたが、そこには、初夏の陽射しを浴びて旺盛な生命力をいや増した雑草がはびこっており、 何が植えられていたのか判別もつかない有様に成り果てていた。 「ここです。街で聞いた話では、以前は陶工の夫婦が住んでいたそうですが、二週間ほど前に逃げ出してしまったそうです……吸血鬼を恐れて」 そう言うと女は小屋の扉を開け、タバサとシルフィードを中へとうながした。 「お姉さま」 シルフィードは、覚悟を決めたような表情でタバサに言った。 「まずシルフィが先に入って中を調べるから、何かあったらすぐに助けに来て欲しいのね。メイジは≪使い魔≫を見捨てない、でしょ? でしょ?」 「杞憂」 タバサは小さくつぶやいた。 タバサとシルフィードは、床に敷かれた毛布の上に、並んで腰を下ろし、石壁に背中を預けていた。 小屋の中に異状がないことを確認したシルフィードは、なおも周囲をきょろきょろと見回し、いっぽうタバサは、杖を手にしたままじっと女を 見つめていた。 タバサの視線を非難がましいものだと勘違いした女は、しきりに頭を下げ、 「申し訳ございません、騎士様。椅子のことにまで気が回らなくて……」と弁解した。 小屋の住人は一切合財を持ち去っており、そこには、腰掛けのかわりになる物さえ見つからなかったのだ。 「構わない」 タバサが答えた。 「きゅい、気にしなくてもいいのね」 シルフィードは笑ってうなずいた。 「そういえばまだ聞いてなかったけど、あなたのお名前は?」 シルフィードの問いに、女ははっとして口許に手を当てた。 「申し遅れました、わたしはローザといいます。生まれはゲルマニア東部のゼーロウ。歌とレベックの音色で日々の糧を稼ぐ、しがない旅芸人です」 女はそう言ってお辞儀をすると、自らの身に何が起こったのかかを語りだした。 「この地に来たのは、三日前のことでした。途中で出会った旅人たちは皆、アルジャンタン地方には近寄るな、あそこは吸血鬼に魅入られた 死と荒廃の土地だ、と私に忠告してくれました」 そこまで言ってから、ローザは大きく溜息をつき、スカーフを巻きつけた首筋を軽くさすった。 「ああ、あの人たちの言葉に素直に従ってさえいれば、こんな厄介ごとには巻き込まれずにすんだのに! 吸血鬼騒ぎの噂を聞いたわたしは 怯えるどころか、かえって奮い立ったのです――恐怖に震え絶望に沈む人々を、音楽で元気づけてあげようと。今思えば、愚かな考えでした。 メルドープの町の広場で行った最初の興行は、まずまずの成功と言ってよいものでした。町の人々は、わたしの歌声と音色に、拍手と銅貨で 応えてくれたのですから。その後でわたしは、一軒の小屋が空き家になっていることを知りました。陶工とその妻が吸血鬼を恐れて、 孤立した家を捨て、どこか遠くへ逃げ出したことを。宿代を惜しんだわたしは、そこに寝泊りすることに決めました」 「それが、ここなのね」 シルフィードの言葉に、ローザはうなずいた。 「ご覧のとおり、空き家になってからまだそれほど経っていないので清潔ですし、扉も頑丈なので閂(かんぬき)さえ掛けておけば安心して眠れる、 そう思っていたのですが……考えが甘かったのです。あいつには、あの化け物には通用しませんでした」 「吸血鬼」 タバサがぽつりとつぶやくと、ローザは鋭く眼を細めタバサたち主従の顔を見やり、数秒の後、ためらいがちに口を開いた。 「あれが現れたのは、昨晩遅くのことでした。毛布にくるまって眠っていたわたしがふと目を覚ますと、 小屋の中に、何者かの気配を感じたのです。 扉も窓も閉ざしていたはずなのに、どうやって潜り込まれたのかはわかりません。周りは真っ暗で、相手の姿はまったく見えませんでした。 しかし、あいつの瞳が放つ赤く不気味な輝きだけは、はっきりと目にしました。あの二つの光を見た瞬間に、相手が人間ではないことがわかりました。 あんな眼をした生き物を、わたしは他に知りません。竜やバジリスクの眼光よりも恐ろしい、邪悪そのものの輝きなのです。あの瞳を見たわたしは、 魔法をかけられたように、身動きひとつとれなくなりました――悲鳴をあげることも、視線をそらすこともできなくなってしまったのです。それから……」 ローザが唐突に口ごもった。 「それから、どうなったの?」 シルフィードが緊張した声で先をうながした。 「騎士様……その、申し上げにくいことですが、実はわたし、それから何が起きたのか、はっきり覚えていないんです」 ローザは申し訳なさそうにうつむき、ぼそぼそとつぶやいた。 「あの眼を見てから先のことは、すべてが夢うつつの中で……はっきり覚えていることといえば、あいつが姿を消す間際にわたしの耳元でささやいた、 ある言葉だけです」 「な、なんて言ったの?」 シルフィードは怯えた口調で訊いた。 「あいつは言いました。『その赤い髪が気に入った。お前のような女を探していたのだ。お前を、この異郷の地で初めての、 我が≪血族≫に加えてやろう』と。あいつの声は、聞いたことのない奇妙な訛りがあって、ぶっきらぼうだけど妙に生気に欠けた、 不気味なものでした。そして、ぞっとするような含み笑いを漏らし『怖いか? 逃げ出したいか? だが、お前には≪印≫をつけた。 どこへ逃げ隠れようと、俺にはお前の居場所がわかる。忘れるな、お前はもう俺の物だ。次の夜を、さらに次の夜を楽しみにしておけ。 俺との逢瀬を重ね、お前は≪血族≫へと生まれ変わるのだ』と言ったのです。 わたしはその後すぐ意識を失い、次に目を覚ましたのは、夜明け前のことでした。わたしは最初、すべてはただの夢だと思いました ――ここに来るまでにさんざん耳にした吸血鬼騒ぎの噂が惹き起こした、ひどい悪夢だと。しかし、わたしの首筋には、あいつの言う≪印≫が くっきりと刻まれていたのです」 そう言って、ローザは首に巻いたスカーフをほどき、二つの傷跡を露わにした。 「きゅっ……」 傷を見たシルフィードは息を呑んだ。 「で、でも、やっぱりほんとのほんとは夢で、その傷は、ヒルかなにかに咬まれた跡とかじゃないの?」 「残念ながら、違います」 ローザは沈痛な面持ちでかぶりを振った。 「わたしはこれまで、街道から外れた野山を行くことも度々で、そこで何種類もの虫に刺され、また、刺された人たちを見てきましたが、 こんな咬み跡を残す虫を見たことはありません。この地方だけに棲む、珍しい種類がいるというのなら話は別ですが」 タバサは無言のまますっくと立ち上がり、ローザの首の傷を覗き込んだ。 「確かに、ヒルとは違う」 タバサはそう言うと、感情のこもらない淡々とした声で続けた。 「あなたは吸血鬼に咬まれた。しかし、どういうわけか≪屍人鬼≫にはならなかった。その事は信じる」 「本当ですか? ありがとうございます、騎士様!」 ローザは喜びの声を上げた。 「ああ、騎士様たちに出会えて、本当によかった。この傷のことを誰にも言えず、困り果てていたところだったんです。 町の中で誰かにこの傷を見られたら、わたしはたちまち≪屍人鬼≫扱いされ、弁解する暇もなく殺されてしまっていたでしょうから」 「そんな、大げさなのね」 シルフィードが笑うが、ローザの表情は真剣そのものだった。 「わたしは今まで何度も見てきました――よそ者というだけで罪の疑いをかけられ、まともな調べもなしに罰を与えられた、流れ者や難民を。 町の人たちに、吸血鬼と関わりがあると疑われてしまえば、もうおしまいです。みんなは恐怖と怒りに熱狂し、復讐を果たそうとするでしょう」 ローザは溜息をつき、寂しげな微笑を浮かべた。 「どこの国でも流れ者というのは、味方のいない、肩身の狭い存在なのですよ……そんなことより」 そう言って、身を乗り出すと 「後生です!」と叫んだ。 彼女の美貌は極度の恐怖に歪み、切れ長の瞳には涙が浮かんでいた。 「騎士様、どうかあの化け物を退治してください! あいつは今夜も必ず現れます! あいつの言う≪血族≫がどういうものかは解りませんが、 きっと≪屍人鬼≫のようなもの――あるいは、もっと悪いものに違いありません。わたしは、そんなものになりたくない! 吸血鬼の下僕になるのを待つくらいなら、今この場で、自ら命を絶ったほうがましです! お願いです、騎士様!」 ローザの哀願に耳を傾けていたタバサは、しばらく考え込むような表情(少なくとも、シルフィードにはそう見えた)をしていたが、 やがてこくりとうなずくと 「わかった。ここで吸血鬼が現れるのを待つ」と告げた。 「ただし、この小屋の外で」 浅い眠りの中にいたシルフィードは、何者かが自分の頬を軽く叩いていることに気づいて目を覚まし、ゆっくりと瞼を持ち上げた。 彼女の目に映ったのは、天頂に昇った青い月のおぼろな光に照らし出された、タバサの姿だった。 「交替の時間」 タバサはそう言うと、シルフィードの鼻先に懐中時計を突きつけた。 「ええ~、もう? お姉さま、シルフィが時計のことをよく知らないからって、ずるしてない? 全然寝た気がしないのね……きゅいぃ」 シルフィードがあくびをかみ殺しながら抗議したが、タバサは黙ってかぶりを振った。 タバサとシルフィードがそんなやりとりを交わしていたのは、ローザが寝泊りする小屋から少し離れた、背の高い茂みの陰だった。 タバサは、心細いので一緒に居て欲しい、というローザの頼みに耳を貸さず、この茂みから小屋を見張り、吸血鬼が現れるのを 待つことに決めた。 小屋の中に三人も人間が居ては(うちひとりの正体は韻竜だが)、ローザを狙う吸血鬼が、今夜の襲撃を断念するかもしれない、と考えたのだ。 タバサの立てた作戦は、恐怖に震えるローザを餌にして吸血鬼を釣り上げるという非情な代物だった――タバサの目的は、 ゲルマニア出身の旅芸人を守ることではなく、あくまで吸血鬼を退治することにある。 陽が沈み周囲が暗くなる頃に、タバサが最初の見張り役に立ち、シルフィードは後に備えて仮眠を取っていたのだ。 「お姉さま、こんなの時間と体力の無駄遣いなのね」 目にかかる前髪を払いのけながら、シルフィードがひそひそ声で不満を漏らした。 「あの小屋は扉も窓もきちんと閉まるし、床も頑丈ね。侵入に使えそうなのは煙突くらいだけど、今回の吸血鬼はサビエラ村の時と違って、 2メイルもある大男なんでしょ? どうやったって、こっそり忍び込めるわけがないのね。だから、ローザさんに噛みついたのはきっと、 ただの虫。あの人は、夢と現実の区別がつかなくなっちゃっただけなのね」 タバサは何も答えず、地面に敷いた毛布に身を横たえると、 「静かに」と告げてから目を閉じた。 長時間にわたって眠気と退屈を相手に闘う夜の見張りは、タバサが思っていた以上に、己の心身を疲労させていたのだ。 見張りのあいだ、常に小屋の方に向けられていた彼女の視界に飛び込んだ動く物といえば、風にそよぐ草と木の葉、 夜空を舞う夜鷹やフクロウ、そしてコウモリだけだった。 「眠いけど寝ちゃだめ、眠いけど寝ちゃだめ。お姉さまに叱られる。ごはん抜きは嫌。うう~」 シルフィードは、自身にしか聞こえない小さな声でもごもごとつぶやきながら、必死の思いで眠気に耐えていた。 彼女は自らの頬をつねり、大きく首を振り、屈伸を繰り返して、どうにか眠りに落ちないように頑張っていた。 「きゅい、何も来るはずないのね。あんなお話を信じちゃうなんて、お姉さまらしくもない――」 シルフィードの言葉は、そこで途切れた。 韻竜の鋭敏な耳が、何者かが床を踏み鳴らす音と、半ば喉に詰まったようなあえぎ声を捉えたのだ。 狼狽した彼女が呆然としていると、小屋の中からか細い悲鳴が上がった――ローザの声だった。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7534.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ ローザの口元から覗く牙を目にして、タバサは眉根を寄せた。 「それが≪血族≫。あなたは奴と同じ化け物に変わってしまった」 タバサの口調は、ただ事実を確認しているだけだと思わせる淡々としたものだったが、彼女の瞳には怒りとも悲しみともつかない、 謎めいた輝きがあった。 ローザは冷ややかに笑いを漏らしたが、その声は奇妙なほどに生気が欠けており、美しくも虚ろな響きがあった。 「そのとおりです、騎士さま。わたしはあのお方の≪血族≫となりました。あのお方のふるさとでは『不死者』、あるいは『闇の貴族』とも 呼ばれている不滅の存在。≪屍人鬼≫を操るちゃちなまがいものとは違った、まことの吸血鬼へと生まれ変わったのです。 騎士さまとはじめてお会いしたあの日、子供のようにおびえて取り乱していたのが恥ずかしくなります。だって、今のわたしは とっても素敵な気分なのですから」 ローザの声は穏やかなものだったが、タバサはその裏に潜む侮蔑と嘲笑、そしてどす黒い欲望を感じ取り、言いようのない悪寒を覚えた。 「わたしはあのお方から、不老にして不滅の肉体と、永遠の命を授かりました。ゲルマニアの片田舎からやって来た旅芸人にとって、 身に余るほどの栄誉です。貴族のお嬢さまはご存知ないでしょうが、旅芸人というのは気楽なようでいて、なかなか辛い稼業なのですよ。 芸では稼げず、娼婦の真似事で糊口をしのいだことも一度や二度ではありません。今はもう、飢える心配はなくなりました。 すべてあのお方のおかげです。そのかわり、困ったことがふたつだけあるんですよ。ひとつは、もう二度とお日さまを見られなくなったこと。 もうひとつが何か、騎士さまにはわかりますか?」 タバサは問いかけに答えず、 「あなたは……化け物に変わってしまった」と、 先程の言葉を繰り返した――自分自身に言い聞かせるかのように。 ローザはうつむくと、白く細い首筋に手を当てた。 そこに赤いスカーフは巻かれていなかった。 「喉が……喉が渇いてしかたがないのですよ。この渇きは人間の温かい生き血でのみ癒されると、あのお方はおっしゃっていました。 渇きはたいへんなものでしたが、血をいただく相手は時間をかけて吟味することにしました。生まれ変わってはじめての、 記念すべき行いなのですから、適当な誰かで済ませたくはなかったのです。 思わず咬みつきたくなるような綺麗な肌と、けがれなき血と肉をもった人が理想の獲物でしたが、メルドープのような宿場町でそれを探すのは 難しいことでした。そうするうちに私はふと、うってつけの相手に思い当たったのです――騎士さま、あなたですよ」 そう言って、ローザは顔を上げた。 血の気の失せた青白い顔に張り付いた微笑は先刻と変わらなかったが、その両眼はいまや大きく見開かれており、瞳が不気味な赤い光を放っていた。 吸血鬼の赤い瞳を覗きこんだ者が心身の自由を奪われてしまうことを、身をもって学んでいたタバサは、とっさに目を伏せる。 「はじめてお会いしたとき、思ったんです。こんなに小さくて可愛らしい女の子が、荒事を為しにやって来た騎士だなんて、とても信じられないと。 髪も肌もとても綺麗で、まるでお人形さんみたいって」 陶酔したようにそう言うと、ローザはタバサに向かって一歩踏み出した。 「ああ、その白い肌の下を流れる血は、どんな味がするのでしょうか?」 タバサは何も言わず、じっとローザの足元を見つめ、相手との間合いを測る。 「騎士さま、わたし、もう我慢できません。だから……」 次の瞬間、ローザの表情が一変した。 目の光が強まり、唇が歪んだかと見ると、穏やかな表情が一瞬のうちに、血に飢えた野獣のそれへと変化したのだ。 「血を! あなたの血を!」 狂気じみた絶叫とともにローザは地を蹴り、タバサに躍りかかった。 振り回される腕は、むなしく空を切った。 タバサは素早く≪フライ≫の呪文を唱えて浮かび上がり、相手の一撃をかわすと、そのまま三十フィート近い高さにまで宙を翔け昇る。 タバサは、くやしそうに自分を見上げるローザに向かって言い放った。 「あなたは死んでいる。吸血鬼に偽りの命を与えられているだけ。もう、もとには戻れない。わたしにできることは……」 そこで少し言いよどむが、意を決したように言葉を続ける。 「あなたの魂を解放し、あるべき場所へと導くだけ」 タバサは杖を振りかざし呪文を唱えるが、それと同時に彼女の体は、縄が切れた釣瓶(つるべ)のように真下へ落ちる――別の魔法を使ったために、 ≪フライ≫の効力が失われたのだ。 落下しつつも呪文を完成させると、ローザの周囲にいくつもの氷柱が現れた。 その鋭い先端はいずれも、彼女の胸に向けられている。 ≪ウィンディ・アイシクル≫の魔法によって作りだされた氷柱が一斉に襲いかかるが、ローザの両腕が目にも止まらぬ勢いで振るわれると、 氷柱はすべて空中で打ち砕かれるか、蠅のように払い落とされていた。 ふたたび≪フライ≫の魔法を使って落下を止め、空中に静止していたタバサの眼が、驚きに見開かれる。 ローザは凄艶な笑みを浮かべると、 「心臓を狙えば、あのお方のように倒せると思いましたか? 狙いがわかれば、打ち落とすのはたやすいことです。 『闇の貴族』は力が強いだけではなく、眼もいいのですよ、騎士さま」と言った。 タバサは素早く≪フライ≫で空高く舞い上がろうとしたが、ローザの動きはさらに機敏なものだった。 矢のような勢いで飛んできた白っぽい何かが、みぞおちに喰いこむのを感じて、タバサは息を詰まらせ、体をくの字に曲げてあえいだ。 衝撃によって≪フライ≫を維持するための集中が途切れたため、彼女は墜落し、背中から地面に叩きつけられた。 ローザが投げつけたのは、握り拳ほどの大きさの氷の塊だった――叩き落とした≪ウィンディ・アイシクル≫の残骸を拾い上げていたのだ。 あまりの激痛に意識を失いかけたタバサだったが、杖を手放しはしなかった。 痺れる四肢に鞭打って、満身の力で上体を起こし、両手で杖をついて立ち上がろうとする。 そうしている間にも、ローザは目前に迫っていた。 振ろうとした杖は、その細腕からは想像もつかない怪力で奪い取られ、さらには強烈な平手打ちが飛んだ。 タバサの眼鏡は吹き飛び、青い眼には火花が飛ぶ。 ふたたび意識を手放しかけて膝から崩れ、芝生の上に倒れた。 ローザは杖を足元に放り捨てると、ふたたび穏やかな微笑を浮かべたが、その赤く輝く瞳には、皮肉な軽蔑の色が浮かび、獣じみた 情欲の火が燃えていた。 「さあ、遊びはこれでおしまい。騎士さま、悲しまないで。あなたのことは忘れません……永遠に、この世の終わりまでね」 そう言って襟首をつかみ、なかば気絶したタバサを片手で軽々と引きずり起こすと、もう一方の手でマントを引き剥がす。 あらわになったタバサの白い首筋を見たローザは、舌なめずりしてからかっと口を開き――身をこわばらせた。 欲望に燃えた眼に、嫌悪と驚愕の色が浮かぶ。 「なに、この匂い……? ううっ!」 うめき声を上げると手で鼻と口を覆い隠し、タバサから顔をそむける。 吸血鬼が嫌悪を覚えた匂いの源は、大蒜だった。 タバサは紐に吊るされたいくつかの大蒜を、ペンダントのように首から提げていたのだ。 ローザに起きた異変が、タバサを現実に引き戻した。 相手が大蒜の匂いに不快を示し、うろたえていることを知ったタバサは、すぐさま反撃に移った。 シャツの胸ポケットをまさぐり、銀のナイフを取り出す。 それはつい先刻、宿の厨房で大蒜といっしょに手に入れたものだった。 彼が話した吸血鬼の弱点を思い出し、万が一の事態のために用意したものだったが、こうも早く使うことになるとはタバサ自身、 思いもしなかった。 突然の吐き気をもよおす悪臭に驚きひるんだローザだったが、タバサの襟をつかんだ手を放そうとはしなかった。 その手に銀のナイフが突き刺さり、ローザは甲高い悲鳴を上げた。 苦しみもだえるローザから解放されたタバサは、放り捨てられた杖に飛びつく。 「痛い、痛い! わたしは不死身なのに、どうしてただのナイフが!?」 苦痛に顔を歪め、ローザはわめいた。 「どんな武器にも魔法にも、傷つくことはないはず! あのお方はそうおっしゃっていた! なのに、そんな!」 ローザが手の甲を貫いたナイフを引き抜こうとする隙に、杖を取り戻したタバサは、呪文を唱えた。 周囲の空気が急激に冷やされ、氷の矢が現れる。 相手を見据えるタバサの眼に、躊躇の色はなかった。 ローザが気づいたときには、≪ウィンディ・アイシクル≫が彼女の胸を、狙いあやまたず貫いていた。 「そん……な……」 うめき声を上げると、ローザは仰向けに倒れ、動かなくなった。 タバサは大きく息をつくと、平手打ちを受けたときに落ちた眼鏡を拾い上げ、ローザのほうに向き直った。 「始祖よ。願わくばこの哀れな者の魂に、安らぎを与えたまえ。この者の魂が天上への道に迷わぬよう、導きたまえ……」 血のにじんだ彼女の唇は、祈りの次に、魔法の呪文を紡いだ。 彼はこう言った――『杭が引き抜かれると吸血鬼はふたたび甦ってしまうため、その体を炎か陽の光によって灰にしなければならない』と。 彼女には、急いでやるべきことが残っていたため、悠長に日の出を待つわけにはいかなかった。 翌日の昼過ぎ、タバサは、メルドープから十マイル以上離れた小村であるサン・ヴィトのはずれ、誰も寄り付かないわびしげな丘に来ていた。 丘の下には地下墓地が設けられていたが、ここ百年近く、何者の棺も運び込まれることはなかった――近くに新しい教会墓地が作られたためだ。 長きにわたって打ち捨てられていた、この墓地を最近訪れた者といえば、執行官率いる吸血鬼捜索の一隊だけだったが、 彼らは中に踏み入ろうとはしなかった。 地下墓地の門は錆びた鎖で閉ざされ、腐りかけた扉も動かされた形跡がないため、捜索隊はここに吸血鬼はいないものと判断し、引き返したのだ。 タバサは、苔むした門をじっと見つめる。 その顔には昨晩の闘いの傷がまだ残っていた――打たれた頬に貼られた、湿布が痛々しい。 「お姉さま、ほんとにここなの?」 シルフィードが巨体に似合わぬ不安げな口調で問うと、タバサは地図を拡げた。 その地図はアルジャンタン地方全域をあらわしたものだったが、大きく不恰好な楕円形が、赤いインクで描き込まれていた。 「この赤いのは?」 「あの化け物の行動範囲。敵はここからここまで、一昼夜のうちに六十リーグを移動したことがある」 タバサは楕円形の両端を交互に指し示す。 「えー? そんなの、無理なのね。途中で誰かに見つかっちゃうわ。シルフィみたいにお空を飛べるなら話は別だけど……」 「飛べる」 「きゅい?」 タバサの意外な返事に、シルフィードは戸惑った。 学院で彼から、その故郷に棲む吸血鬼に関する説明を受けたのち、タバサは推測を立てていた。 あの吸血鬼はコウモリに変身して夜空を翔け、壁を飛び越し、煙突や二階の窓から家々に――ローザの小屋にも――侵入していたのではないかと。 そう考えれば、怪物の神出鬼没ぶりにも説明がつく。 メルドープの寺院の地下室から姿を消したやり口も同じだ――コウモリに姿を変えて、通気口をくぐり抜けたのだろう。 タバサは説明を続けた。 「行動範囲の中心がここ、サン・ヴィト村。化け物は一晩のうちにここから他の村や町まで往復し、昼間はこの地下墓地で眠っていた。 この周囲に、陽光と人目を避けて隠れられる場所はここしかない」 この地下墓地には小さな通気口があり、長年のあいだ風雨にさらされて鉄格子を失ったそれは、小動物にとって格好の出入り口となっていた。 吸血鬼は門を使わず通気口から出入りしていたため、捜索隊の注意を惹くような痕跡を残すこともなかったのだ。 「ええと、どういうこと?」 主人の言うことが理解できず目を白黒させるシルフィードに構わず、タバサは墓地の門へと向かう。 「もう! お姉さまったらシルフィをばかにして、大事なことはなんにも教えてくれないんだからぁ!」 ふてくされるシルフィードの声を背に受けながら、タバサは門を閉ざした鎖を≪錬金≫で断ち切り、扉に手をかけたが、 そこでいったん動きを止め、自らの≪使い魔≫を振り返る。 「これで終わり。もう誰も……誰も、犠牲にはならない」 主人の声を耳にして、シルフィードはぎくりと全身をこわばらせた。 タバサのことをよく知らぬ者なら気づかなかっただろうが、彼女の声はわずかに震えていた――激しい怒りに。 主人のただならぬ様子を前にシルフィードは困惑したが、タバサの声はすぐに、元の平坦な調子に戻った。 「すぐ戻る」 「お……お姉さま?」 「空で待っていて」 そう告げると、ぼろぼろの扉を静かに押し開け、中に踏み込む。 やがて、少女の小さな後姿は闇に飲みこまれ、消えていった。 「きゅい……お姉さま、どうかご無事で……」 残されたシルフィードはそうつぶやくと、翼をはばたかせ、空に舞い上がった。 竜の翼が力強く大気を打つ。 「お姉さま、今度はちゃんと帰ってゆっくり休めるのよね? 学院に戻ったと思ったら、すぐにまた、どこかへ向かわされたりしないわよね?」 念を押すようなシルフィードの問いにタバサは答えず、いつものように本の頁をたぐっていた。 背に乗った主人に無視されても構わず、シルフィードは喋り続ける。 「それにしても、今回の任務はおかしなことばかり! 無事に終わって学院に帰ったと思ったら、またすぐ引き返して。 それに、あの丘の下のお墓で何があったのかも、教えてくれないし。お姉さまがとっても大きな棺桶を運び出してきたから、中を覗いてみたら、 あるのは灰色の塵とぼろぼろの服だけ。あれで終わりって、どういうこと? もう、わけのわかんないことばかりだったの! きゅい!」 ひとしきりぼやいたのち、シルフィードはやや真剣な口調で、主人に問いかけた。 「ね、お姉さま。結局、あの怪物はなんだったの?」 タバサはようやく口を開くが、答えは謎めいたものだった。 「知らないほうがいい。あれは、闇の彼方から迷いこんだもの。わたしたちの理解が及ばないもの」 「もう、お姉さまったら! たまに答えてくれたと思ったら、そうやってけむに巻くんだから。シルフィがわかんないように、 わざと難しい言いかたして!」 シルフィードの抗議を気にもかけず、タバサはふたたび頁に目を落とす。 彼女は、『不死』の怪物の異様きわまりない特性も、ローザを襲った悲劇とその最期についても、シルフィードに教えようとはしなかった。 それらはあまりに邪悪でおぞましい事柄であり、無邪気で天真爛漫なシルフィードに知らせるのは、間違った行いだと感じたのだ。 タバサは思う。 早く学院へ帰りたい、と。 キュルケとは一週間以上も会っておらず、あの自由奔放な行いや一方的なお喋りが、無性に恋しかった。 そういえば、今日は≪虚無の曜日≫――彼との約束の日だが、学院に着くのは早くても昼過ぎだ。 彼をラグドリアン湖畔の屋敷に連れて行くには遅すぎるし、これ以上シルフィードを酷使するのも、気がとがめる。 しかし、彼の使う癒しの魔法が、母を苦しめる病に対してどのような効き目を見せるのか、一刻も早く知りたいという思いもある。 うまくすれば、五年前の優しく美しかった母が、戻ってくるかもしれないのだ。 自分はどうするべきかと、タバサは考えに没頭した――暗澹たる出来事の記憶を、脳裏から締め出すかのように。 結局、タバサの悩みは無駄に終わり、シルフィードは休む間もなく主人と≪ゼロのルイズ≫を乗せて『北の山』へ飛ぶことになるのだが、 それはまた別の物語だ…… 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7213.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 「お、お姉さま、起きて! たいへん、たいへん!」 何の兆しもなく起こった異変を前にして、ひどく恐慌をきたしたシルフィードは、主人の両肩をつかんでがくがくと揺さぶった。 タバサはすぐに目を覚まし、眼鏡をかけると、杖を手にして立ち上がった。 「来たの?」 タバサの問いに、シルフィードは勢いよくうなずいた。 「小屋の中からローザさんの悲鳴が! お姉さま、早く!」 タバサは茂みの陰から飛び出すと、小屋に向かって走りつつ早口に呪文を唱えた。 彼女が小屋の扉に向かって片手を突き出すと、腹に響くような重々しい激突音が、夜のしじまを破った。 ≪エア・ハンマー≫の呪文によって作り出された空気の弾丸を受けた扉が、巨獣の突進を受けたかのように吹き飛んだのだ。 タバサは足を止め、扉を失った戸口の向こう、小屋の中の暗闇に目を凝らした。 主人に追いついたシルフィードはその背後に立ち、頭越しに戸口を覗き込むと、 「……ローザさん、ローザさん?」と囁くような小声で呼びかけたが、 中からは何の返事もなかった。 タバサは油断なく前方を注視したまま、シルフィードに 「下がって」と告げると、 一歩ずつ慎重に足を進めた。 シルフィードが見守るなか、タバサは魔法の灯りをともそうと杖を掲げたが、不意にその手がぴたりと止まった。 彼女が手を止めたのは、小屋を充たす闇の中に、一対の赤い輝きを認めたからだ。 その光は何らかの生き物の瞳から放たれているようだが、このような異様な眼光の持ち主を、タバサは知らなかった。 生気に欠けた、氷のように冷たい光でありながら、燃えるような憎悪と欲望が溢れているのだ。 タバサが動きを止めたその瞬間、小屋の中の闇を割って、何かが凄まじい勢いで飛び出してきた。 それは野獣じみた咆哮を上げつつタバサにつかみかかってきたが、彼女が素早く身を伏せたため、振り回される長い腕は空を切った。 タバサは、月明かりに照らし出される敵の姿を見上げた。 それは、七フィート近い長身を誇る大男だった。 背は高いが、枯れ木のように痩せ細っているため堂々とした印象は受けず、ぼろきれ同然の黒い外套をまとったその姿は、 みすぼらしくも不気味なものだ。 男の容貌は、落ち窪んだ眼窩の奥で赤く光る眼を別にしても、おぞましいものだった。 たてがみを思わせる、ぼさぼさの銀髪と顎ひげに覆われたその顔は病的に白く、大きな傷痕が目立ち、 まくれ上がった唇からは牙が突き出していた。 その姿は、目撃者の証言をもとに作られた吸血鬼の人相書きと、まさに一致した。 相手が、この地を騒がせる吸血鬼だと瞬時に悟ったタバサは、地に伏せたまま早口に呪文を紡ぐと、杖を一振りした。 彼女の周囲の空気が渦巻き、目に見えない風の刃が形作られる。 次の瞬間、刃は男を袈裟懸けに切り裂いた。 魔法を受けた相手はよろめき、何歩かあとずさったが、それだけだった。 男は、倒れるかわりににっと口元を歪めると、低く響く声で嘲笑を漏らした。 タバサの目が驚きに見開かれる。 以前の任務で、吸血鬼の途方もない生命力を目の当たりにしていた彼女は、今の≪エア・カッター≫を必殺の意気で放った ――たとえ相手が鋼の鎧を着込んでいても、無事にはすまなかっただろう。 しかし、この吸血鬼は致命傷を負うどころか、ありえないことに、血の一滴も流していなかった。 タバサは相手を、その身に血の通わぬガーゴイルか何かとも考えたが、それもまた、ありえないことだった。 等身大のガーゴイルがあれほど強烈な一撃を受けたならば、精巧に作られた体内の機構が破壊され、死んだように動きを 止めるはずなのだから。 自分が闘っている相手はいったい何者なのかという疑念と、なぜ魔法が通用しないのかという困惑が、タバサの頭の中を掻き乱した。 吸血鬼はふたたび長い腕を伸ばし、タバサの喉首をつかもうとしたが、彼女はその指先めがけて≪エア・ハンマー≫を叩きつける。 節くれだった指がぐしゃっと音を立ててへし折れるが、吸血鬼は悲鳴ひとつ上げなかった。 さらなる魔法の一撃を与える時間はなかった。 タバサが杖を振り上げ、ふたたび呪文を唱えるより速く、吸血鬼の腕が閃いたのだ。 払い飛ばされたタバサは小石のように宙を舞うと、背中から地面に落ち、何度も草地の上を転がった。 「お姉さま!」 シルフィードが悲鳴を上げたが、その声はタバサの耳には届かなかった。 タバサが意識を取り戻したとき、まず目にしたものは、夜空に輝く青い月だった。 吸血鬼の凶暴な力によって弾き飛ばされた彼女は、仰向けに倒れたまま気絶していた――ほんの数秒のことだったが、 闘いのさなかにあっては致命的な隙だ。 タバサの手が本能的に杖を探ったが、彼女の手の届く範囲にそれはなかった。 吸血鬼の一撃を受けたその時に、手から飛び出したのだ。 タバサの表情に、焦りの色が顕れた。 杖を失った今、彼女は無力な少女にすぎない。 しかも、闘いの相手は、常識外れの強大な怪物だ。 杖を取り戻さねば、彼女を待つ運命は無残な死以外にない。 タバサは歯を喰いしばると、全身をさいなむ苦痛に耐えて立ち上がり、杖を探して首をめぐらせた。 五ヤードほど先の地面に目当ての物を見出したタバサは、跳躍の体勢をとったが、そこに、黒く巨大な影が割って入った。 音もなく忍び寄った吸血鬼が、その長身痩躯を覆いかぶせるようにして、立ちふさがったのだ。 タバサは驚きの表情で相手を見上げ、そして、まともに覗き込んでしまった――乱れた銀髪の下に爛々と光る、赤い瞳を。 タバサはその瞬間、自分が赤い視線のもたらす不気味な力に囚われ、全身から力が抜け出していくのを感じた。 視界は霞がかかったようにぼんやりとしたものになり、敵に立ち向かわねばという意思さえもが薄れていく。 吸血鬼の視線のもたらす効果は、≪スリープ・クラウド≫の魔法や≪先住魔法≫の≪眠り≫とはまったく異なる、奇妙なものだった。 彼女は立っている力も失って、その場にへなへなとくずおれた。 吸血鬼はそんなタバサを見て満足げに笑うと、その長身をかがめ、彼女の細い首に向かって手を伸ばした――≪エア・ハンマー≫を 受けて折れたはずの指は、何事もなかったかのように治っていた。 吸血鬼の冷たい指先がタバサの首筋に触れようとしたその瞬間、巨大な何かが風を切って飛来した。 「お姉さま、お姉さまぁ!」 叫びとともにやって来たのは、竜の姿に戻ったシルフィードであった。 驚きの表情で振り返った吸血鬼の頭を、青い鱗に覆われた力強い前脚がなぎ払う。 地上すれすれの高さを矢のような勢いで飛ぶシルフィードは、すれ違いざまに強烈な一撃を叩き込んだのだ。 たまらず倒れこんだ吸血鬼の顔は鉤爪に引き裂かれ、首は異様な角度に折れ曲がっていたが、それも数秒のことだった。 怪物が上体を起こしたときには傷は癒え、首も元通りになっていたのだ。 タバサには、それだけの隙で充分だった。 シルフィードの翼が巻き起こした突風にあおられて、ふたたび地面を転げることになったタバサだったが、転がった先には偶然にも、 彼女の杖が落ちていたのだ。 いまだ夢うつつの境地にあったタバサは、無意識のうちに杖に手を伸ばし、それを握り締めた。 杖に触れるやいなや、なかば麻痺していた彼女の五体に新たな力がみなぎり、生き抜こうとする意思が炎となって燃え上がった。 一瞬にして正気づいたタバサは、新たな呪文を唱えた――刃も礫(つぶて)も通用しない敵だが、倒す方法は必ずあると信じて。 シルフィードの攻撃をものともせずに立ち上がり、憎々しげな呻きを漏らしながらタバサの姿を探す吸血鬼の背中に、狙いを定める。 呪文が完成し、タバサの杖の先から、耳をつんざく轟音とともに稲妻がほとばしり、吸血鬼を貫いた。 タバサが使った魔法は、≪ライトニング・クラウド≫だ。 肉と衣服の焼け焦げるおぞましい臭気が鼻をつくなか、タバサは、背中を向けたまま棒立ちになる相手を見つめた。 枯れ木のような巨体は、微動だにしない。 「……やった?」 タバサは思わず、安堵混じりの呟きを漏らした。 しかし、怪物は死んではいなかった。 煙を上げてくすぶる外套を翻し、タバサの方へ振り返ると、唇を大きく歪め鋭い牙を剥き出しにした。 赤く輝く眼が細められ、嗜虐的な笑みが浮かぶと、タバサは咄嗟に眼を伏せた。 彼女は、もう一度あの赤い眼の持つ邪悪な力に屈してしまえば、助かるすべはないと確信していたからだ。 吸血鬼は突然に狂気じみた叫びをほとばしらせると、凄まじい勢いで突進してきた。 タバサは素早く呪文を唱えたが、それは彼女がもっとも得意とする攻撃魔法、氷の矢を放つ≪ウィンディ・アイシクル≫だった。 人の腕ほどもある太さの氷柱(つらら)が忽然と現れ、怪物に向かって飛ぶのを見ながら、タバサは内心で自分の愚かさを責めた。 本来なら、≪フライ≫で空中に逃れて態勢を立て直すべき状況だったが、不死身の怪物を前にして冷静さを失い、咄嗟に使い慣れた 魔法に頼ってしまったのだ。 風の刃も竜の鉤爪も通用しない相手に氷の矢を放ったところで、何の意味があるだろう? タバサはあらためて≪フライ≫の呪文を唱えようとしたが、その動作が唐突に止まった。 吸血鬼は苦悶の表情を浮かべながら、仰向けに倒れ、息絶えていた――タバサの放った氷柱が、その心臓を貫いていたのだ。 不死身とさえ思われた怪物のあまりにあっけない最期に、タバサはぽかんと口を開けて立ち尽くした。 「お姉さま、今回は危なかったのね! シルフィにいっぱい感謝して、いっぱいお肉を食べさせてくれなきゃだめなのね! きゅい!」 大きな翼をはばたかせながら、シルフィードは背に乗せた主人に話しかけた。 タバサたち主従は、任務終了の報告のためにリュティスへと向かうところだった。 タバサはいつものように、本を片手に沈黙を続けていたが、シルフィードは話を続けた。 「ローザさんも無事でよかった! あいつに血を吸われて弱ってたけど、おいしいものを食べてたっぷり眠れば、きっと良くなるわ!」 吸血鬼の死を確認したタバサは、血を失って気絶していたローザを助け起こし、彼女にメルドープの宿屋の一室をあてがった ――十日ぶんの宿賃を渡した上で。 ローザは、二晩続けて血を吸われたせいで、顔は蒼白くなり、痛々しいほど衰弱していたが、それを除けば変わったところはなく、 ≪屍人鬼≫のような怪物に成り果てているようにも見えなかった。 「それにしても、あいつは一体なんだったのかしら?」 シルフィードは得心のいかぬ様子で言った。 「お姉さまの魔法もシルフィの爪も全然効かない不死身の怪物かと思ったら、胸に氷の矢が刺さっただけで死んじゃうなんて。 それに、どうやってローザさんの小屋に潜り込んだのかもわからずじまいだし。とにかく、あれは絶対、吸血鬼なんかじゃないのね。 雰囲気もすごく不自然で、まるで≪魂の泉≫と関係なく生まれてきたような……お姉さまはどう思う?」 「わからない」 タバサはぶっきらぼうに答えた。 「もう、ちょっとは考えたらどうなのね」 シルフィードはあきれたように首を振った。 タバサが倒した吸血鬼の死体は、溶けてやや小さくなった氷柱が刺さったままの状態でメルドープの寺院の地下室に安置されており、 後日、リュティスの宮廷から派遣された調査隊に引き渡される手筈になっていた。 研究が進めば、怪物のもつ凄まじい不死性や、瞳の魔力について、いくばくかのことが判明するかもしれない。 「そうだ、あの人はどう?」 何かをひらめいたようなシルフィードの言葉に、タバサはわずかに眉根を寄せた。 「誰」 「あの人よ、シルフィに踊りを教えてくれた魔法使い、ルイズさまの使い魔さん! すごく遠くの国から来て、 いろんなことを知ってるみたいだから、もしかしたらあの怪物のことも知ってるかも! ね、お姉さま。学院に戻ったら、 さっそく訊いてみたらどう?」 シルフィードにそう言われて、タバサは考えるそぶりを見せたが、彼女の脳裏を占めるのは、吸血鬼に関することではなかった。 遥かな異国のメイジである彼なら、知っているかもしれないと考えたのだ――未知の癒しの魔法、彼女の母親を救う手段を。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1379.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 67 :66:2007/08/23(木) 21 05 33 ID H4fkg1tU ほいほい、ではサクサクっと解説していきますか。 アナランドの魔法使いの扱える呪文は48種類。 当然、《冠》奪還の冒険に出た「きみ」も魔法使いなのだが、 その呪文書は悪党や怪物の手に渡らないよう、門外不出。 故に冒険に出る前に、呪文を暗記しなければならないのである。 まあゲームブックなので選択肢が提示されるから、 当てずっぽうにパラグラフを選んでも良いんだけど……。 時々ダミー(存在しない)呪文が混ざってて、 それを選ぶとペナルティとして体力点が減ったりするから油断できない。 ちなみに魔法使いの体力点は2D6+12。 平均して19点ということを把握してると、それぞれのリスクがわかって面白いかも。 68 :66:2007/08/23(木) 21 06 05 ID H4fkg1tU ZAP……体力点4 指先から稲妻を発射する。サンダーボルトとか、そんなイメージ。 指を狙った方向に向けなきゃならないので、それができないと使えない。 HOT……体力点4 火の玉をぶつける呪文。そのまんまファイヤーボール。 威力だけなら多分最強。さすがにマンパン砦のあの人を殺せるとは思わなかったけど。 やっぱり両腕を狙った方向に向けなきゃ使えない。 FOF……体力点4 魔法の壁を作り出す。ものすごい硬い。あらゆる物体を通さないらしい。 一方通行の壁にしたり、壁を移動させたりもできる。 ものすごい集中力が必要、らしい。 WAL……体力点4 見えない壁を作り出す。FOFと何処が違うのかと小一時間(ry こっちは壁自体を動かしたりとかできないらしい。 LAW……体力点4 相手の意思を支配できる。バカな生き物にしか効果はないけど。 わりと使い勝手は良いイメージ。短時間しか使えないけど。 DUM……体力点4 相手を不器用にする呪文。つまり剣とか杖とか持てなくなる。 スデゴロ相手には使えないのが難点。便利だけど。 69 :66:2007/08/23(木) 21 06 54 ID H4fkg1tU BIG……体力点2 ぶっちゃけゴッドマン、かくーだい! 三倍の大きさになれる。 力も増えるけど、狭い場所で使うと頭をぶつける。 狭い場所で使うなと明記されてるあたり、使う奴が多かったのかアナランド人。 WOK……体力点1 手首にコインを貼り付けることで、そこに見えない盾を作り出す。 その代わり、そのコインは完全に使い物にならなくなってしまうが、 物語も後半になると買い物の機会なんて殆ど無いので、費用対効果抜群。 DOP……体力点2 鍵開けの呪文。どんな鍵でもあっという間に開けられるけど、 魔法でかけられた鍵だけは駄目。まあ、お約束だよね。 RAZ……体力点1 武器に蜜蝋を塗りつけることで、ダメージを二倍にする!すげえ! 剣術熟達の腕輪や、広刃の剣などと組み合わせて使いたいところ。 SUS……体力点2 罠がありそうな時に唱えると、その避け方を閃く。 引っかかってしまった時なら、被害を最小限にする方法も。 まあ時々「もうダメぽ」と教えてくれることもある。ひでえ。 SIX……体力点2 その名の通り、5体の分身をつくって6人がかりでフルボッコする呪文。 まあ鏡に映したように同じ行動しかできないのが難点。 是非、分身殺法の達人である某氏相手に使っていただきたいところ。 JIG……体力点1 ついカッとなって踊りたくなってしまった、状態にする呪文。 ただ竹笛を吹いている間しか踊ってくれない。 踊らせてる間に逃げるも良し、踊り疲れさせて尋問するも良し。 GOB……1匹につき体力点1 ゴブリンの歯をばら撒いて、その数だけゴブリンを作り出す。 バカだけど命令に忠実な良い奴らなんですよ、本当。バカだけど。 YOB……体力点1 GOBの強化版。ジャイアントを作り出すことができるのです。 いや本当、頼りになる良い奴なんですって。バカなんだけどね。 70 :66:2007/08/23(木) 21 07 32 ID H4fkg1tU GUM……体力点1 にかわの粘着力を飛躍的に高める呪文。硬化促進剤と呼ぼう。 それだけの呪文だが、使い方次第で楽しさ無限大。 HOW……体力点2 ピンチから抜け出す方法を閃く呪文。SUSとの違いを具体的に(ry まあ、罠とピンチは違うっていうことなんだろう、うん。 やっぱりこっちも時々「もうダメぽ」と教えてくれることがある。ひでえ。 DOC……体力点1 薬の効力を爆発的に高める呪文。どんな傷でも治してくれる。 これさえあれば24時間戦えるってもんですよ、ええ。 死人を生き返らせることはできないので注意。 DOZ……体力点2 相手のスピードを六分の一に落とす呪文。 劣化版ザ・ワールドというか、なんというか。 まあフルボッコできるのは間違いない。 DUD……体力点2 金銀財宝その他の幻影を作り出す呪文。 見た目だけなら「いいえ、真鍮です」よりも派手。キュルケ大喜び。 ただ幻影は術者がいなくなると解けるので、あとで怒られないよう注意。 MAG……体力点2 ”ほとんどの”魔法から身を護る呪文。 相手の呪文発動より早く唱えなきゃならんけどな。 ”ほとんどの”なので注意。全部じゃないのでうっかりしてると14行き。 POP……体力点1 小石を爆発させる呪文。 威力があるとか、音が凄いとか便利そうなんだが、、 どうも自分は本編で使った記憶がない。うーむ。 FAL……体力点2 落下速度をゆっくりにしてくれる呪文。 高いところから落ちたときとか、上から物を落とされたときに便利。 DIM……体力点2 相手を混乱させる。ぶっちゃけメダパニ。 混乱させるだけなので、むちゃくちゃな行動をされて負けることもしばし。 チューイせよ。 71 :66:2007/08/23(木) 21 08 21 ID H4fkg1tU FOG……体力点2 唱えた奴以外には部屋が真っ暗になったように見せる呪文。 窓の無い室内のみだけどな。でも”月の蛇”は外でもできるんだぜ。 ズッルーイ。 MUD……体力点1 呪文を唱えて砂粒をばら撒くと、そこに流砂の池を作る。 一歩でも踏んだら、ずるずる吸い込まれていくらしい。 NIF……体力点1 ものすごい悪臭を周囲に漂わせる呪文。 嗅覚のある動物なら確実に行動不能になる。 自分も例外じゃないので鼻栓必須。無い時に間違って使うと、もうね。 TEL……体力点1 布製のスカルキャップを被ることで、周囲の知的生命体の思考を読み取ったり、 まわりの部屋の様子とかを感じ取ることができる便利な呪文。 でも布製のスカルキャップってどんな代物よ。 GAK……体力点1 黒い仮面が必須必須。ないと使えないなんてレベルじゃないっぽい。 この呪文を唱えるときに仮面をつけてると、周りの人間をビビらせることができる。 無差別なのでルイズがいるときに使うと面白いかなあ、とか妄想。 SAP……体力点2 相手の士気を挫く呪文。それだけ。 こっちがヘッポコだとやっぱり負ける。 GOD……体力点1 金の装身具を身につけてから唱えると、周囲の人間は術者のことが好きになるらしい。 タイタン世界にゃ女ッ気なんて欠片もないから情報収集とか潜入用だろうけど、 ハルケギニアで使ったらハーレム作るのも楽だろうなあ。 KIN……体力点1 裏が金張りの鏡を相手に向けて呪文を唱えると、相手の分身を作り出せる。 分身は命令に従うので相手と戦わせることができるけど、 やっぱり実力も同じなので、勝つか負けるかはサッパリ不明。 72 :66:2007/08/23(木) 21 10 28 ID H4fkg1tU PEP……体力点1 火酒を飲んで、力を普段の数倍にする呪文。 つーか「力を二倍にする火酒の効果を高める」だけらしい。 どんな酒だよ、火酒。 ROK……体力点1 呪文を唱えて、特別な石の粉を振り掛けると相手は石になってしまうらしい。 ……これもやっぱり使った記憶がないなあ。 NIP……体力点1 本編でも既に使われた加速装置。赤い彗星。通常の三倍モード。 黄色い粉が必要。 HUF……体力点1 とてつもない突風を生み出す呪文。 ただし疾風の角笛とかいう楽器を吹かないと使えない。 人間くらいなら軽く吹っ飛ばせるらしい。 FIX……体力点1 相手をその場に固定できる呪文。空中であっても無問題。 樫の若木の杖が必要。これも劣化版ザ・ワールドと呼べなくもない。 NAP……体力点1 相手を眠らせる呪文。スリープクラウド……と思いきやまったく別物だったり。 真鍮の振り子を目の前で振って眠らせる、ってんだからどこの催眠術かと。 73 :66:2007/08/23(木) 21 11 45 ID H4fkg1tU ZEN……体力点1 宝石をはめこんだメダルを首にかけて呪文を唱えると、思い通りに浮遊できる。 ……これってやっぱり「禅」から来てる呪文なのかなあ。 YAZ……体力点1 美しい真珠の指輪をはめて呪文を唱えると、姿が消える。 でも音は消えない。ごそごそ動いていると直ぐにバレるから気をつけろ! SUN……体力点1 黄色の太陽石を輝かせる呪文。 目くらましから懐中電灯、何でもござれ。 KID……体力点1 骨の腕輪をはめて呪文を唱えると、思い通りの幻が作れる。 でも幻を破るような行動をとると直ぐにバレるので気をつけろ! RAP……体力点1 人間以外の生物と意思疎通できるようになる呪文。 緑色のカツラという趣味の悪い代物を被らなきゃならんのが難点。 高木ブーですか。 YAP……体力点1 こちらはRAPの動物限定版。 やっぱり緑色のカツラが必須。畜生! ZIP……体力点1 緑色の金属の指輪をはめていないと使えない。 木や土を通して瞬間転移することができるが、岩や金属は超えられない。 下手に使うと”かべのなかにいる!”で14行きである。 FAR……体力点1 水晶球を使って未来予知をする呪文。 ぶっちゃけ「いつ」の未来なのかはわからないが、 まあ大抵はすぐ近くの未来である、らしい。 RES……体力点1 生き物の死体に聖なる水をふりかけて呪文を唱えると、蘇生させることができる。 ハルケギニアでは、やっぱり凄い呪文なんだろうか。 ZED……体力点7 全てが謎に包まれた、史上最強の呪文、らしい。 唯一唱えたのはスローベンのネクロマンサーのみだが、 その後、彼の姿を見たものは誰一人としていない。 74 :66:2007/08/23(木) 21 14 07 ID H4fkg1tU というわけで以上48種類。独断と偏見に満ちた解説でした。 あと俺と作者さんはまったく無関係ですんで、念のため。 ソーサリーが大好きなんでwktkしながら読ませてもらってますけども。 ああ、早く何処に行っても誰と会っても、 「このアナランド人め!」って言われるようにならないかなあ、彼も(笑) 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3365.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 彼は満足げにうなずいた。 日に数十回も唐突に現れては消える小さな『裂け目』を調べていた彼は、予想どおりの場所に現れた『裂け目』をくぐり抜け、まったく未知の世界に降り立ったのだ。 数日を費やして――彼は自らがもたらした『時』の影響を受けない存在なのだが――この世界を隅々まで巡り、多くのものを見て、多くのことを聞いた。 すべてを知った彼は、ほくそ笑んだ。 この世界は絶好の『遊戯盤』だ。 ここには過剰なまでに厳格で小うるさく、創造や諧謔の精神に欠けているくせに力だけは強い、あの『天の王宮』の神々は居ない。 ≪大いなる意思≫と呼ばれる土着の神――もしくは神に近いものは存在するらしいのだが、それが彼に力を振るうことはない。 彼のような強力かつ危険な『異物』の侵入を許し、なんの対策も講じようとしないのがなによりの証拠だ。 つまり、彼の遊びは何者にも邪魔されることはないのだ。 すでにひとりの人間の男が、彼に先んじて遊戯を始めているので、さっそく対手の名乗りを上げてやろう、と彼は考えた。 だがその前に、駒を盤上に並べねばならない。 大国の支配者である相手の操る駒は多いが、それに対して彼が直接に指示を与えて動かす駒はごく少数でよい――人と神の絶対的な差を考えれば、 遊戯を心ゆくまで楽しむためにはこれくらいの手加減が必要だ! 「ああ! 恐ろしい! 恐ろしい!」 クロムウェル議長は、枯れ木のように痩せこけた全身をがくがくと震わせながら、熱病にうなされる病人を思わせる口調でひとりごちた。 天蓋つきの豪奢な寝台に腰かけ、両手で顔を覆う。 「あの女は、これ以上わたしになにをさせようというのだ? にっくき王家を打倒すれば、それで終わりではなかったのか? 『王党派を殲滅したのち、ハルケギニア統一の手始めとしてすみやかにトリステインに侵攻せよ』だと!? そんなことをすれば、世界中を敵に回すことになる。あの女など、いや、ガリア王など信用できるものか。邪魔になれば血を分けた兄弟さえ容赦なく抹殺する、 情けを知らぬ冷酷なけだものではないか!」 クロムウェルはそう言うと、大きく溜息をついた。 「しかし、もう後戻りはできない。わたしは、奴らなしにはなんの力も策もない無力な存在なのだ。あの女に逆らえば、すべては終わってしまう!」 ここは、アルビオンの王都ロンディニウムの中心にそびえ立つ、ハヴィランド宮殿の一室だ。 かつて国王その人が寝起きしていた広々とした部屋で、クロムウェルは悲鳴じみた声で愚痴を漏らしていた。 今の彼に、アルビオン全土に革命の嵐を巻き起こした≪レコン・キスタ≫の首魁、反乱軍総司令官としての威厳と自信に満ちた態度はない。 「わたしの≪虚無≫の力が偽りのものだと知れれば、あの頭の弱い将軍どもも離反してしまうに違いない。ああ、このハルケギニアのどこかに、 本心からわたしに忠実なる者はいないのか? この哀れな男に、二心なく従ってくれる者はいないのか?」 「この世界には、おらぬな」 なんの前触れもなく響いた低い声を耳にして、クロムウェルは跳び上がる。 慌てて顔を上げた彼の正面に、ひとりの男が立っていた。 それは奇妙な男だった。 ただでさえ背が低いのにひどい猫背とがにまたであり、大きさの合わないぼろぼろの服を身にまとっている。 髪はぼさぼさで、頬のこけた貧相な容貌に軽薄そうな笑みを浮かべているが、その瞳には真剣な光が浮かんでいた。 風貌だけとれば物乞いか狂人とみなされて当然の姿なのだが、この男にはどこか人間離れした雰囲気が漂っていた――信じられないほど年経りた巨木のごとく、 ただそこに在るだけで他を圧する、神秘的な眼に見えない力を発散しているのだ。 「き、きさま何者だ! どこから入った! 警備の者はどうした!?」 なんとか威厳を取り繕おうとするクロムウェルだが、その声は震え、うわずっている。 戦時の常として、指導者の死を願う者は多い――それは敵対者たちだけではなく、友軍や民衆のなかにさえ存在するのだ。 暗殺をなにより恐れるクロムウェルは、自身の周辺の警備を可能な限り厳重なものとした。 ハヴィランド宮殿には常に数十人の歩哨、立哨を立て、自室の窓は鎧戸と鉄格子によって念入りに封鎖されている。 それなのに、この男はクロムウェルの前に立っているのだ。 「この世界には、きさまに心からの忠誠を誓う者などおらぬ」 男はクロムウェルの質問には答えず、現れたときの言葉を繰り返す。 「しかし、世界を隔てる壁の向こうを探せばどうであろう? そこには幾多の驚くべき種族が存在する。そのなかから、とっておきの強さと 忠誠心を誇る連中を見繕ってきてやったぞ。とある野心的な魔法使いが自らの手で作り出した、恐るべき下僕……ああ、こちらの呼び方にならえば≪使い魔≫になるのかな? とにかく、そやつらはきさまの最も忠実な部下となるであろう」 「な、なにを訳のわからぬことを言っておるのだ! 衛兵を呼ぶぞ!」 クロムウェルは男を怒鳴りつけた。 男がどうやら暗殺者ではないようなので安心すると、遅ればせながら、相手の無礼な言動に対する怒りがふつふつと湧き上がってきたのだ。 「まあ見てみよ、議長殿。これがきさまの≪使い魔≫どもだ。遥けきカーカバードの地より、わざわざ拾い集めてきてやったのだぞ」 男はそう言って口の両端を吊り上げると、懐からごみの塊のようなものを取り出し、それを毛足の長い絨毯の上に放り出す。 それをおずおずと見つめたクロムウェルは、男の言う≪使い魔≫が何匹もの蛇の死体であることに気づいて激昂する。 「ふざけるのもいい加減にしろ! 死んだ動物が部下になどなるものか!」 「きさまには、死者をよみがえらせる手段があろう? きさま自身のものではない借り物の力、魔法の指環の力ではあるが」 男は人を不快にさせる、皮肉に満ちた笑顔を崩さずに答える。 「な……なぜそれを知っている!? きさまはいったい……?」 自らの最大の秘密を告げられて呆然とするクロムウェルをよそに、男は言葉を続ける。 「忠実なる下僕が欲しくば、指環をこれらの屍に用いよ。こやつらは、この惨めな姿からは想像もできぬ強大な力と知性をもっておる。 その力を持ってすれば、きさまは真(まこと)のアルビオン王、いや、ハルケギニア王となることさえ不可能ではない」 「この蛇どもに、≪アンドバリの指環≫の力を使えと言うのか? これを人間以外に用いたことはない、なにが起こるかわからんぞ!」 指にはめた指環をじっと見つめながら、クロムウェルはうめいた。 この指環は、かつてシェフィールド――忠実な秘書の皮を被りながら、裏では彼に命令を下すあの女――にそそのかされてラグドリアン湖の精霊から奪った秘宝なのだ。 シェフィールドは、指環には伝説の≪虚無≫の力が秘められているのだと彼に告げたが、それが具体的にどのようなものなのかは、いまだ知らされていない。 うろたえるクロムウェルを見据える男の瞳が、異様な輝きを帯びる。 「なに、心配いらぬよ。それの本質は、この世界を構成する力の結晶にすぎぬ。強大な≪水≫の力が秘められておるのだ」 すべてを知りつくしているかのような男の言葉の前に、クロムウェルは先刻までの怒りも疑いも忘れ、真剣に聞き入る。 「もちろん、ブリミルとかいうきさまらの神がもたらした魔法ではない。この世界には、より恐るべき魔法がある」 「せ、≪先住の魔法≫なのか?」 クロムウェルが問いただす。 「さよう。きさまはあの魔女めにたばかられておったのだ。あやつはなにひとつ、きさまに真実を告げぬ。ただ主人の意向を伝え、きさまがそのとおりに動くよう見張るだけだ。 奴らにとって、きさまは盤上の駒にすぎぬ。必要とあらば――いや、不要とならば、かな――簡単に切り捨てるであろう。 秘密を漏らさぬよう、きさまの口を永遠に閉ざしたうえでな」 不思議なことに、男の言葉はまったく正しいものだとクロムウェルには感じられた。 今までずっとこらえてきた、シェフィールドとその背後に居るガリア王ジョゼフに対する怒りを爆発させる。 「おお! おのれ、おのれ! ガリアの毒虫どもめ! 前々からそうだろうとは思っていたが、やはりこのわたしを陥れるつもりだったか! さんざん見下し、こき使っておいて、用済みになれば捨て去るつもりなのか? 許せん、奴らもアルビオン王家と同じだ! わたしを侮辱し、 恥をかかせ、最後には命まで奪おうとは!」 クロムウェルは怒りに顔を赤く染め、呪いの言葉をわめき散らす。 それを冷ややかな眼で見つめていた男は、咳払いをひとつして、クロムウェルの注意を向けさせる。 「しかし、この蛇どもは嘘はつかぬ。一心に主人であるきさまに仕えるであろう。こやつらの前では、あの魔女もただの女にすぎぬ。 ゆっくりと、甘美なる復讐の果実を味わうがよかろう」 「おお……し、しかし、シェフィールドを傷つければ無能王の怒りを買ってしまう! あの大国、ガリアを敵に回しては、アルビオン一国ではどうにもならないぞ」 復讐の光景を想像して顔を輝かせるクロムウェルだが、その後に訪れるであろう身の破滅を思い、身震いする。 「なにひとつ問題はない。余の秘策、神の偉大なる叡智を授けようぞ。しかしそれは、きさまが≪使い魔≫を従えてからよ。物事には順序というものがあるゆえ」 そう言って男は背筋を伸ばし、偉大な国王か大司教のように両腕を広げて仰々しく語るが、その貧相な姿には似合わない、いささか滑稽な動きだった。 しかし、男を取り巻く神秘的な空気は先刻より強まっている。 男は愚者の外見をとってはいるが、人間以上の存在であることは疑う余地もなかった。 「か……神? きさま、いや、あなたが?」 「余は神よ。ただし、ふたつの世界を隔てる壁の向こう側のな。神であるがゆえ、卑小な人間のごとく嘘をついたりはせぬ」 驚きに眼を見張るクロムウェルに歩み寄り、男はなにごとかを耳打ちする。 「そ、そのようなものが本当に……?」 「嘘はつかぬと言ったはずだ。よいか、クロムウェルよ。この≪策略の神≫ロガーンに従え。さすればきさまは、すべての敵を打ち倒し、 王のなかの王となるであろう。ハルケギニアのすべての民は、きさまの前にひれ伏すのだ。そして余は、一切の見返りを求めぬ。 我が名代であるきさまが≪聖地≫のさらに彼方、東のさいはて、ハルケギニア全土にあまねく威光を示すことこそが、我が喜びよ」 「は、ははっ! あなた様に従います!≪策略の神≫よ! 大いなるロガーンよ!」 クロムウェルはロガーンと名乗る男の前にひざまずき、床に額を擦りつけた。 気がつくとクロムウェルは寝台に横たわっていた。 眼をこすって上体を起こし、そこですべてを思い出す。 「あれは夢だ」と力なくつぶやく。 「わたしの気の迷いが生み出した、くだらん夢にすぎん。なにが神だ、使い魔だ……壁の向こう側? ≪門≫? そんなものがあるはずは――」 そこまで言って、寝台の脇の床になにかが落ちているのを見出す。 それはもつれ、絡みあった、何匹かの蛇の死体だった。 「ば、莫迦な……あれが、あんなことが、あんな存在が現実のはずは……」 クロムウェルは震える声でそう言うが、蛇の死体から視線を逸らせない。 「やめておけ、愚かなことだ……貴重な≪虚無≫の……いや≪先住≫の力を、よりによってこのような長虫に!」 その言葉とはうらはらに、彼はゆっくりと指環をはめた手を掲げた。 数日後、アルビオン反乱貴族連合のあいだでは、奇妙な噂が流れていた。 ――総司令官であるオリヴァー・クロムウェルが、誰も見たことがない奇妙な幻獣を使い魔として召喚したらしい。 ――クロムウェルの使い魔は凶暴な人喰いの化け物であり、すでに幾多の捕虜や平民の奉公人が犠牲になっているそうだ。 ――その中には忽然と姿を消したクロムウェルの秘書、ミス・シェフィールドも含まれている。 彼――≪策略の神≫は、ハルケギニアと呼ばれる『遊戯盤』に最初の一手を打った。 大陸全土を震撼させる、人と神の対局が始まったのだ。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7418.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 彼は奇妙な存在だった。 どこにでも居るような若い男であり、いかにも平民といった風情の姿をしているのだが、それでありながら、どこかハルケギニアの人々とは違った、 異質な雰囲気を漂わせていた。 元はといえば、二十日余り前に、タバサと同学年であるひとりの少女――貴族でありながらいかなる魔法も使えないために、≪ゼロ≫という 不名誉なあだ名をもつ――によって≪使い魔≫として召喚され、魔法学院へとやって来たのだ。 現れた直後に、少女の唱える≪コントラクト・サーヴァント≫の呪文を攻撃性のある魔法と勘違いしたのか、剣を振りかざして暴れようとしたが、 その場に居合わせたタバサが≪ウィンド・ブレイク≫で吹き飛ばして失神させたため、事なきを得た。 通常は鳥や獣、ときに幻獣が呼び出されるはずの≪サモン・サーヴァント≫において、人間が現れるというのは前代未聞の珍事であったが、 真に学院の者たちを驚愕せしめる事件は、召喚の翌日に起きた。 彼は、食堂でとある生徒と揉め事を起こし、ついには決闘沙汰にまで発展した。 主人である少女が必死で止めるのも聞かず、『ヴェストリの広場』で決闘に及んだ彼は、剣で青銅ゴーレムを打ち砕き、さらには、 誰も見たことのない奇妙な魔法の道具を用いて、勝利を得たのだ。 娯楽に飢えた少年少女たちが野次や声援を飛ばすなか、人垣に混ざって決闘を見届けていたタバサは、彼とその道具に対してわずかに興味を覚えたが、 すぐに思考の埒外に置いた――イザベラ王女からの、出頭命令が届いたためだった。 タバサが彼に驚かされたのは、決闘の一週間後に起きた別の事件においてのことだった。 天下を騒がす怪盗≪土塊のフーケ≫が≪エルフの魔法書≫を奪ったことによって引き起こされた、この騒動にタバサは巻き込まれ、 友人のキュルケとともに翼ある大蛇と闘う羽目に陥ったのだが、その闘いの中でタバサは、常識外れの光景を目にした。 彼が、杖も無しに≪ファイヤーボール≫の魔法を思わせる火の玉を作り出し、大蛇を一撃のもとに倒したのだ。 闘いの後、疑問が彼女の頭を占めた――彼が使ったのは、決闘のときに使ったような魔法の封じられた品物か、それとも≪先住の魔法≫か。 彼がそれらしき道具を手にするところを見かけなかったため、前者の可能性は低かったが、後者はさらにありえないことだった。 自身も≪先住の魔法≫の使い手であり、主人とともに闘いの場に居合わせたシルフィードによれば、彼からは何の精霊の力も感じられなかったというのだ。 ≪四大系統≫でも≪先住の魔法≫でもない、未知の力を操る異邦人に対する興味はいや増したが、タバサは彼に関する情報を集めたり、 直接に話をしようとはしなかった。 誰かに興味を示すところを見られれば、別の誰かの注意を惹くことになる。 彼女は極力、学院内で目立つような真似はしたくなかったのだ。 そのまま一週間以上が過ぎたある日――正確にはアンリエッタ王女が学院を行啓した日――タバサと彼の関係は、劇的に変化した。 王女を歓迎する式典から早々に抜け出したタバサは、シルフィードのもとへ向かうことにしたのだが、そこで彼女が見たものは なんとも異様な光景であり、しばらくの間、呆けたように立ち尽くすことになった。 なにしろ、後脚で器用に立ち上がったシルフィードが、彼の吹き鳴らす竹笛の音に合わせて踊りらしきものを見せ、楽しげに歌を口ずさんでいたのだから! 気を取り直したタバサは彼らに近づくと、気まずそうな表情をする彼に告げた――シルフィードの正体が人間の言葉を操る韻竜であることは秘密にせよ。 かわりにこちらも、彼が魔法使いであることは黙っておくから、と。 彼は取引に応じ、シルフィードのことは誰にも話さない、と耳慣れぬ異国の神の名において誓った。 彼とタバサ、そしてシルフィードのふたりと一頭は、互いの秘密を守りあう、不思議な関係になったのだ。 アルジャンタン地方での吸血鬼退治の任務を終え、学院に戻ってきたタバサは、寄宿舎の玄関で彼と出くわした。 彼はタバサと話がしたいと言った――ちょうど彼女も、同じことを考えていたところだ。 タバサは、ふたりきりで話をするため自室に彼をいざなったが、彼の質問には黙ってうなずくか、かぶりを振るか、さもなくば、何の反応も示さなかった。 石のように押し黙った相手を前にして、いくらか苛立った様子を見せはじめた彼に向かって、タバサは問いかけた。 「あなた……癒しの魔法は使える?」と。 返ってきた答えは肯定であり、望みの持てるものだった。 タバサの母親を苦しめている毒は、いかなる≪水≫の魔法も通用しない恐るべきものだが、彼の操る魔法はハルケギニアの常識の外にあるのだから、 試してみるだけの価値はある、とタバサは考えた。 「その魔法は、心に影響を及ぼすような病には効くの? 何年も続いている症状を治せる? 必要な秘薬は貴重なもの?」 タバサは、普段の寡黙ぶりからは想像もつかないほどの勢いで、矢継ぎ早に質問を繰り出した。 質問攻めにあった彼は困惑の表情を見せ、実際にやってみないことにはなんとも言えぬと答えるばかりだ。 彼が、病に臥せっている家族でも居るのかとに質問してきたので、タバサはそうだと答える。 それを聞いた彼は、では自分の術を試してみたいので、次の≪虚無の曜日≫にでも患者のところまで連れて行ってはくれないか、と言った。 タバサは黙って頭を下げ、肯定と感謝の意を示した。 彼女は表情には示さなかったが、内心では少なからぬ驚愕とわずかな疑念を覚えていた――自分のような愛想ひとつ振りまかぬ者を相手に、 見返りも求めず善意を示してくれる人物は、キュルケを除けば彼が初めてだった。 彼との用件は済ませたので、話を切り上げ、ひとりになろうかと考えたタバサだったが、彼女の脳裏にはシルフィードのある言葉が引っかかっていた。 任務を終えた帰路、彼女はこう言った――「すごく遠くの国から来て、いろんなことを知ってるみたいだから、もしかしたらあの怪物のことも知ってるかも!」 タバサには、あの吸血鬼は彼と同じ国からやって来たのではないか、という直感めいた思いがあった。 彼と吸血鬼はまったく似ていないが、それでもわずかに、共通した雰囲気が感じられるのだ――ハルケギニアよりもずっと古めかしく、野蛮で荒々しい、 危険に満ちた世界独特の。 「もうひとつだけ、訊きたいことがある」 タバサは彼を見据えると、抑揚に乏しい声をあげた。 「あなたの国にも、吸血鬼はいる? いるなら、特徴を教えてほしい」 意外な質問に、彼は面喰った様子を見せたが、ひとつ咳払いをすると、≪旧世界≫――彼の祖国がある大陸――における吸血鬼が どのようなものであるかについて語りだした。 彼の語る吸血鬼は、ハルケギニアに潜み棲む同名の妖魔とはまったく異なった存在だった。 人間とよく似た姿をしており、長く伸びた牙で人間の首筋に咬みつき、その生き血をすするのは同じだが、共通点はそれだけだ。 ≪タイタン≫の吸血鬼は妖魔でも亜人でもなく、そもそも生き物ですらない。 一度死んだはずの人間がどういうわけか甦った、『不死』と呼ばれる怪物であり、死者であるがゆえに、尋常の方法で傷つくことはない。 おもな武器は人間離れした怪力だが、獲物を捕らえるためには、強力な催眠効果のある視線を用いることもある。 赤く輝く眼を覗き込んだ者は自分の意思を失い、呆然と立ちつくして、血を吸われるがままになってしまうのだ。 それらの能力だけでも充分に脅威だが、さらに恐ろしいことに、吸血鬼は人間を自らの同族へと変えてしまう力を持つ。 気に入った人間のもとに三晩続けて現れ、少しずつ血を吸い、同時に、人間を吸血鬼へと変貌させてしまう一種の毒を注ぎ込んでいくのだ。 三晩めに犠牲者は死んでしまうのだが、すぐに吸血鬼として甦り、新たに恐怖を撒き散らすことになる。 死者が甦り生者に害をなすという、にわかには信じがたい話を聞きながらも、タバサは確信する――あの怪物は間違いなく、 彼の語る吸血鬼と同じ種族であると。 怪物は≪エア・カッター≫も≪ライトニング・クラウド≫も通用しない不死身の肉体を誇り、赤く光る眼でタバサの意思を奪い、さらには、ローザに≪印≫を付け、 彼女を己の≪血族≫へ変えようとしたのだから。 「咬まれたのが二晩だけなら助かる?」 ローザの身を案じたタバサは、彼に問いかけた。 彼はうなずくと、三晩めに血を吸われて死ななければ吸血鬼になることはない、襲われた者もいずれ健康な体に戻る、と答える。 それを聞いたタバサは、内心でほっと胸を撫で下ろした。 タバサはメルドープを離れる際、任務に対する協力への報酬として、ローザに十日ぶんの宿賃を渡しておいた――それだけ休めば、 失血で弱っていた彼女も元気を取り戻し、旅芸人の仕事に復帰できるだろう。 安心したタバサは、吸血鬼について、より多くのことを知りたくなった。 あの異常きわまりない怪物の同族と、再び闘う機会があるとも思えないが、自分が闘った相手のことを知っておいても損はないと考えたのだ。 並外れた読書家であることからも判るように、彼女の知的好奇心は非常に旺盛だった。 まずは怪物への対処法を知ろうと考えたタバサは、彼に問いかけた。 「どうやったら死ぬ?」 その言葉を受け、彼は吸血鬼の弱点について語りだした。 吸血鬼はなぜか大蒜(にんにく)を忌み嫌うが、これを突きつけてみたところで、時間稼ぎにしかならない。 その生命なき肉体に武器や火は通用しないが、銀でできた武器だけは吸血鬼を傷つけることができ、殺すことさえ可能だ。 しかし、このやり方は根本的な解決にはほど遠い。 死んだ吸血鬼からその霊魂であるコウモリが出現すると、どこへともなく飛び去り、数日後には本来の姿を取り戻してしまうのだ。 直射日光を当てれば一瞬にして崩れ去り塵と化すというが、曙光の兆しが訪れるやいなや吸血鬼はねぐら ――大抵の場合は、地下の納骨堂に置かれた棺の中――へ逃げ帰ってしまう。 彼らを倒す最良の方法は、心臓に杭を突き刺すことだ。 心臓を貫かれると、怪物は苦悶のうちに死んでいく。 タバサは、自分が図らずも怪物の弱点を突いていたことを知った。 不死身と思われた怪物は、タバサが夢中で放った≪ウィンディ・アイシクル≫に心臓を貫かれ、あっけなく死ぬことになったのだ。 偶然によって勝利を得たことを知った彼女だったが、彼が次に口にした言葉に、おのれの耳を疑った。 杭が引き抜かれると吸血鬼はふたたび甦ってしまうため、その体を炎か陽の光によって灰にしなければならない。 タバサが怪物の死体を最後に見たのは三日前、メルドープの寺院の地下室でのことだった。 仰向けに寝かされた死体の胸には氷の矢が刺さったままだったが、それは時間の経過にともなって溶け、小さくなっていた。 氷が溶け、矢の形を失った時点で、おそらく吸血鬼は復活するだろう。 「……終わってない」 やや青ざめた顔をして、タバサは小さくつぶやいた。 どうしたのだという彼の問いを無視して、タバサは床に放り出していた鞄を拾い上げ、身の丈よりも長い杖を手にすると、窓を大きく開け放つ。 困惑した表情の彼の方に振り向いて一言、 「出かける」と告げると、 高く響き渡る口笛を吹き鳴らした。 たちまち窓の外に飛んできたシルフィードは、翼をはばたかせながら空中にとどまり、自分の背に主人が飛び乗ってくるのを待つ。 「≪虚無の曜日≫までに戻る」 窓枠に片足を掛けた姿勢でタバサは言った。 「薬を」 そう言い残すと窓の外に飛び出し、シルフィードの背中へと降り立った。 「アルジャンタンへ。急いで」 タバサが行き先を告げると、シルフィードは大きく翼を広げて舞い上がる。 「お姉さま、そんなに慌ててどうしたの? 忘れ物? 長旅に疲れておなかを空かせた、かわいそうな使い魔をこき使うだけの理由はあるんでしょうね? うう、シルフィはこれからごはんだったのに……」 疑問と不満を一度に吐き出すシルフィードの背の上で、タバサは思考を巡らせる。 甦った吸血鬼は、どう動くだろうか。 メイジが油断ならぬ相手であることを思い知った怪物は、アルジャンタンの地から逃げ出す――この考えはあまりに楽観的すぎる。 逆に、復讐のためにタバサを捜し求める――吸血鬼の執念深そうな顔つきからしてありうる話だが、その前にやるべきことは、別にあるはずだ。 タバサは頭の中で、自分が吸血鬼ならどうするかを考えた。 「長い眠りからの目覚め……空腹と喉の渇き……腹ごしらえ……人間の血……」 我知らず考えを口に出していたが、それはシルフィードの鋭い耳でも捉えきれぬほどの、小さなつぶやきにすぎなかった。 「誰でもいい? いや、どうせなら……」 そこまで言って、はっと息を呑む。 「弱っていることは知っている……居場所もわかる……≪印≫で……三回目の夜……≪血族≫……」 じょじょに声は大きくなり、それに気づいたシルフィードが長い首を曲げ、主人のほうを振り返る。 「きゅい? どうしたの、お姉さま?」 タバサはぽつりと、しかし重々しい口調で答えた。 「ローザが危ない」 ハルケギニアの夜空に浮かぶ大いなる兄弟の片割れ、青の月は、メルドープの町をおぼろに照らしていた。 強行軍を終えて疲労困憊のシルフィードを町のはずれに置き去りにして、タバサがまず駆けつけたのは、寺院だった。 彼女の予想通り、吸血鬼の死体は地下室から消えうせていた。 タバサが司祭から聞き出したところによれば、彼女がこの町を発った翌日の朝、死体に異状はないかと見回りが行われたが、 その時点ですでに死体は消えてしまっていたというのだ。 『リュティスから来る調査隊に引き渡すまで死体を安置し、何者の手にも触れさせぬこと』という指示は厳格に守られていた ――扉は鍵を掛けて閉ざされ、地下への入り口には衛兵が立てられた。 しかし、死体はどこにもなく、後には小さな水溜りが残されているだけだった。 扉のほかに地下室から外へ出る手段といえば、天井に設けられた通気口くらいのものだが、鼠や猫ならともかく、人間がくぐり抜けられる大きさではない。 ましてや、あの吸血鬼はそびえ立つような長身の持ち主だ。 タバサが次に向かったのは宿屋だったが、そこでも不可解な消失が起きていた。 吸血鬼の死体が消えたことが明らかになった朝、旅芸人のローザもまた、宿の一室から姿を消していたのだ。 寝台のシーツは妙に乱されており、小さな血の染みが残っていたが、助けを求める声や物音を聞いた者は皆無だった。 財布や毛布など、彼女の荷物はすべて部屋に残されていたが、ただひとつ、レベックだけが見つからなかった。 タバサはひとまずシルフィードと合流することに決めた。 宿を出る前に厨房に立ち寄り、目当ての物を手に入れたタバサは、急ぎ足に町外れへと向かいながら、考えを整理した。 ただやみくもに探したところで、吸血鬼もローザも見つかりはしないことは明白だ。 しかし、タバサは学院で重大な手がかりを得ていた。 彼の知識と彼女の読みが正しければ、吸血鬼は明日の夕方までに、今度こそ本当の最期を迎えることだろう。 ローザの行方を示す手がかりはどこにもなかったが、彼女がどうなったかは容易に想像がついた――考えるだにおぞましいことだったが。 「助けられなかった」 つぶやきが口をついたそのとき、レベックの緩やかな旋律が夜風に乗って流れてきた。 驚きに目を見開いたタバサだったが、すぐに音がどこから流れてくるかを聴きわけ、その方向へと走る。 空気の流れを敏感に感じ取る≪風≫のメイジならではの芸当だ――音とはつまるところ、空気の振動なのだから。 音の源を求めて走ったタバサは、道から百ヤードほど外れた狭い草地に、ひとりの女が立っているのをを見出した――それは、ローザだった。 特徴的な黒みがかった赤い髪を下ろして風になびかせ、肩に構えたレベックを、弓を用いて奏でるその姿は、おぼろな月明かりとあいまって 幻想的なものだった。 ガリアやトリステインのものとはまったく異なった異国風の旋律は、タバサにとって聴き慣れないものだったが、どこか物悲しく、胸を打つものだ。 タバサが草地に進み出ると、ローザはレベックを奏でる手を休め、微笑んだ。 その眼はなかば閉じられており、タバサの姿が映っているかどうかも定かではなかった。 「こんばんは、騎士さま。素敵な夜ですね」 その声はものうげで、どこか皮肉な響きがあった。 タバサは挨拶に応えず、両手で杖を構え進み出る。 「いずれ、メルドープにお戻りになるだろうとは思っていましたが、こんなに早いとは驚きです。喜ばしいことですが」 ローザは、ひとり悦にいっているような口調で 「初めての獲物は、あなたにしようと決めていましたから」と言うと、 にっと唇を歪めた。 そこには、月明かりの下でも見間違えようのない、一対の鋭い牙が突き出していた。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6671.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ ガリア北西部、西の大海に面したアルジャンタン地方には、恐怖が潜み棲んでいた。 恐怖は曲がりくねった谷間や鬱蒼とした森を霧のように流れ、疫病のように町や村に滲み入り、夜毎に犠牲者を増やしていった。 王都リュティスへと通じる街道の宿場町メルドープにも、恐怖ははびこっており、町民たちはそれに対抗する手段を見出せずにいた。 その恐怖がこの地方に到来してからもう一月近くになるが、最初の惨劇は、このメルドープで起きたものだった。 ある朝、一人の行商人が変わり果てた姿となって見つかったのだ。 内側から鍵のかけられた宿の部屋から、全身の血を失い干物同然に成り果てた人間の残骸が見つかり、その首筋には、鋭い牙による咬み跡が 残されていた。 このハルケギニアの地に、人間を襲ってその血肉を喰らう猛獣や幻獣、亜人は数多いが、このような屍を残す存在はひとつだけだ ――もっとも恐るべき妖魔、『吸血鬼』をおいて他にない。 吸血鬼は並外れた生命力と怪力の持ち主であるだけでなく、メイジの操る≪四大系統≫とはまったく異なった≪先住の魔法≫の使い手でもあるが、 それらは決して圧倒的な強みではない。 彼らが最悪の存在と呼ばれるのは、その姿が普通の人間とまったく見分けがつかないためなのだ。 吸血鬼は人間の集落に紛れ込み、なにくわぬ顔で日々の暮らしを営んでいるように見せかけながら、夜にはその本性を現して(吸血鬼は日光を苦手とする)、 歯の奥に隠された鋭い牙で人間に咬みつき、生き血をすする。 さらに、血を吸った人間をひとりだけ≪屍人鬼(グール)≫と呼ばれる下僕に変えることができ、その≪屍人鬼≫もまた、首筋に牙の跡が あることを除けば、普通の人間とまったく区別がつかないのだ。 狡知にたけた吸血鬼は滅多なことでは馬脚を現さないため、疑心暗鬼に陥った者たちは互いを吸血鬼だ、≪屍人鬼≫だと決め付けあい、 その結果、流血の惨事が引き起こされることも珍しくはない。 本物の吸血鬼は醜い争いに巻き込まれないようそっと姿を消し、人々の愚かさを内心で嘲笑しながら、次の狩場へと向かうのだ。 最初の犠牲者が出てから一週間ほどのうちに、さらに二人の町民が吸血鬼の牙にかかって果てたが、吸血鬼の正体は誰にもつかめなかった。 町の門は日没とともに閉ざされるため、町民の誰かが吸血鬼に違いないと噂され、何人かの者が疑われもしたが、証拠はなにひとつ 見つからなかったのだ。 やがて四人目の犠牲者が出たが、それは、メルドープから十マイルも離れたサン・ヴィトという名の村の農道で見つかった。 サン・ヴィトからの報せを耳にしたメルドープの人々は、驚愕しつつも内心では安堵した――村の連中にはかわいそうだが、吸血鬼は この町から出て行った、メルドープは救われた! だが、それは、より恐るべき事態の幕開けにすぎなかった。 サン・ヴィト村の事件の二日後、吸血鬼はメルドープに舞い戻り、女をひとり血祭りにあげたのだ。 次の晩には、マルメディの街路を巡廻していた夜警が襲われたが、このとき、吸血鬼――あるいはその手下の≪屍人鬼≫――の姿を目にした者が 現れた。 目撃者はふたり連れの職工であり、ほろ酔い加減で酒場を出たしばらく後に、薄暗い路地で凶行の現場に出くわしたのだ。 目撃者たちの戦慄したことに、長身の怪物は夜警の両肩に力強い指を喰いこませ、鋭い牙で夜警の喉笛に荒々しく咬みつき生き血をすすったのち、 悲鳴を上げて助けを呼ぶふたりには目もくれず、その場を悠々と歩み去ったのだという。 アルジャンタン地方全域が驚愕と恐怖、そして憶測にざわめいた。 しかし、今や吸血鬼の面相が割れ、執行長官が大がかりな捜索を始めたこともあり、いずれこの妖魔も捕らえられるか、殺されるか、さもなくば 遠くへ逃げ去るに違いない、と人々は信じていた。 この判断が誤っていたことは、数日のうちに明らかになった。 アルジャンタンのすべての町や村で、徹底した聞き込みが行われたが、マルメディでの目撃情報と一致する姿を目にした者は、誰ひとり現れなかった。 執行官とその部下たちや、有志によって臨時に結成された自警団は、吸血鬼の潜んでいそうな廃屋、地下室や屋根裏、果ては山中の洞窟までもを 調べたが、無駄に終わった。 人々の努力をあざ笑うかのように、吸血鬼は夜毎に襲撃をくり返した。 吸血鬼の手口はさまざまで、密室に音もなく現れ、誰にも気づかれることなく凶行を成し遂げることもあれば、力任せに窓を突き破り、犠牲者の 断末魔の叫びを周辺一帯に響かせることもあった。 すさまじい悲鳴に眠りを破られた人々が、手に手に雑多な武器を握りしめ、息せき切って現場に駆けつけたときには、妖魔は煙のように姿を 消していたのだ。 その行動範囲は異様なほど広く、まる一日のうちに四十マイル近く離れた場所に現れたことさえあった。 その神出鬼没かつ気まぐれな動きからは、何の法則性も見出されず、まるで、目の前に並んだいくつもの皿から、少しずつ料理を つまんでいるかのようだった――この場合、町や村が皿で、料理はそこの住民たちということになる。 途方に暮れた執行長官が王宮に泣きついたため、ついにはひとりの騎士が派遣された。 その騎士は優れた魔法の使い手であり、幾多の功績を誇る歴戦の勇士でもあったが、アルジャンタン地方にやって来てからわずか三日で、 任務に失敗することとなった。 ジャンディエヌイルという村で調査を行っていた騎士は、そこで目指す獲物と遭遇したらしい――後に残されたのは、五体をばらばらに引き裂かれた 騎士の死体だけだった。 騎士の敗北を知った人々は絶望に沈み、日没を恐れた。 暴虐をほしいままにする吸血鬼の噂は、旅人たちの口を通じて近隣の各地に広まり、そのため、アルジャンタン地方を訪れる者はめっきり 少なくなった。 商人や巡礼たちはこの地を避けるようになり、街道を行き来するのは、馬車に家財道具を積み上げた『難民』たちばかりだった――彼らは恐怖に 耐え切れず、故郷を捨てどこか遠くへと逃げることに決めたのだ。 深夜に訪れる死の恐怖は、アルジャンタンに未曾有の不景気と荒廃を招いた。 人々の心は絶望に塗り潰され、子供さえもが笑顔を忘れた陰鬱の地――タバサが訪れたアルジャンタン地方は、そのような場所だった。 ふたりの女が、メルドープへ向かう道を歩いていた。 ひとりは眼鏡をかけた小柄な少女――タバサだ。 もうひとりは、青い髪と瞳――タバサのそれと同じ色合いだ――をもつ、二十歳前後と思われる若く美しい女だった。 女は、胸元が大きく開いた紺色のチュニックを身にまとっており、その裾からはすらりとした白い両脚が伸びていた。 この北部ガリアでは貴族であれ平民であれ、女性には謙虚さと慎ましさが求めらる風潮があるため(隣国トリステインほどではないが)、 彼女の服装は非常識なほどに挑発的で、はしたないものだといえた。 しかし、当の本人はそれを恥ずかしがる様子もなければ、自慢する風でもなかった。 一見、姉妹のように思える容姿をしたこのふたり連れだが、年長の女の口から出た言葉は、意外なものだった。 「う~、お姉さまの嘘つき! 今回は化けなくていいって言ったのに~!」 女が恨みがましい口調でそう言うと頭を左右に振ったので、振り乱された青く輝く長髪が、陽の光を受けてきらきらと輝いた。 女は青く大きな瞳が目立つ整った顔をタバサに向け、まくしたてた。 「これじゃあ、この前と同じなのね! また、こんなごわごわの服を着せて! お姉さま、ひどすぎる! シルフィをだますなんて!」 そう言ってチュニックの胸元を引っ張ると、豊かな二つのふくらみがはみ出しそうになった。 黙って女の抗議の言葉に耳を傾けていた――あるいは、聞き流していた――タバサが口を開いた。 「だましていない」 「うそ! 言った、言いました!」 女は食い下がった。 「お姉さまはシルフィに、今回は化けなくてもいいって言ったのね!」 「騎士になる必要はない、と言った。あなたの服は平民のもの。杖もマントも持たせていない」 タバサにそう言われて、女は言葉に詰まった。 「あなたは従者。騎士じゃない」 「きゅ、きゅい……そ、そんなの詭弁なの。ペテンなの。またごわごわの服を着せられて……」 女は、チュニックの袖や裾をしきりに引っ張っていた。 「ああもう、むずむずするの! これだから人間の姿に化けるのはいやなのね。ね、お姉さま。町に行くのはお姉さまおひとりだけにして、 シルフィは空で待機というのはどう?」 「却下」 タバサと言い争うこの女は、その口ぶりから察しのつくとおり、人間ではなかった。 その正体は≪韻竜≫のシルフィードであり、彼女は≪先住の魔法≫を使うことによって、竜から人間へと姿を変えることができるのだ。 メルドープに着いたタバサとシルフィードはさっそく聞き込みを開始した。 ある者には、王宮から派遣された騎士の権威をもって問い詰め、またある者には、シルフィードの色仕掛け――彼女自身はなにもしていないのだが、 その美しい容姿と肌の露出が多い服装は、男の目を惹きつけてやまない――で話を聞き出そうとした。 上は町長から下は物乞いにいたるまで、数十人に話を聞いて回ったが、執行長官が王宮にあてた報告書に加えるべき情報は、なにひとつ 得られなかった。 タバサと話をした者たちのうち何名かは、途方もない推測を口にした。 第一の犠牲者を発見した宿屋の主人は、複数の吸血鬼が同盟を結び、人間に対する新戦術を試しているのではないかとほのめかした。 また、ある老人は、くだんの吸血鬼は≪先住の魔法≫で自由に姿を変えられるに違いないと主張し、コウモリに化けて町に忍び込んでいるのだと断言した (吸血鬼が≪変化≫の魔法を使うという説は広く知られているが、学識豊かな者たちによって――自身が≪変化≫の使い手であるシルフィードにも―― 迷信だと否定されている)。 タバサとシルフィードは肩を並べて、町外れに向かって歩いていた。 三時間以上にわたる調査は空振りに終わったが、タバサは苛立ちや落胆の色は見せず、いつも通りの無表情を保っていた。 そんなタバサに、シルフィードがすり寄って囁いた。 「ねえ、お姉さま。ふたりともよく働いたんだから、そろそろ、ちょっと早い晩ごはんにするといいと思うの。向こうのほうから、焼いたお肉の いい匂いがするわ! 生もいいけど、人間の姿で食べる、味付けしたお肉もおいしいのね、きゅい!」 「次はサン・ヴィト村」 シルフィードの提案を、タバサは冷ややかにはねつけた。 「ええ~、もうよそへ行くの? ごはんを食べてからでも遅くはないでしょうに~」 シルフィードは不満を漏らした。 「服を脱いで、元の姿に戻って、村まで飛んでからまた化けて、また服を着て……おなかぺこぺこのかわいそうなシルフィをさんざんこき使うなんて、 ひどいお姉さまなのね! もっと使い魔をいたわるべきだと思うのね!」 「次はサン・ヴィト村」 タバサは行き先を繰り返す。 「うう~、村に着いたら、ちゃんとごはん貰えるんでしょうね?」 「調査が終わってから」とタバサは答えて、ぱっと振り返った。 「きゅい?」 タバサの視線を追ったシルフィードは、何者かが建物の陰に身を隠すところを目にした。 「誰? 誰なの?」 「出てきて」 タバサたち主従の呼びかけに応じて、相手は姿を現した。 それは、すらりとした肢体と、美しく整ってはいるが病人のように青ざめた顔が目立つ、若い女だった。 汚れとつぎはぎだらけの着古された旅装束をまとい、黒みがかった赤い髪は後ろに束ねられていた。 ほっそりとした首には、薄汚れた服とは不似合いなほど鮮やかな赤いスカーフを巻きつけていた。 そのいでたちと、手にした三弦のレベックを見るに、彼女は旅芸人のようだった。 女の表情からは、不安と困惑がありありとうかがえた。 「どちらさま? 何かご用?」 興味津々のシルフィードに促されて、女はためらいがちに口を開いた。 「あ、あの……町の者たちが噂していたのですが、あなたがたが、吸血鬼を退治に来られた騎士様なのですか?」 女の声は透き通った美しいものだったが、わずかにゲルマニアなまりの響きがあった。 「いかにもその通りなのね。こちらにおわすお方こそガリアのシュヴァリエ、とっても強くてかわいくて、シルフィのご主人さまであらせられる、 ≪雪風のタバサ≫さまなのね!」 小さくうなずくだけで何も言わない主人に代わって、芝居がかった口調でタバサを紹介したのはシルフィードだ。 自慢げに胸を張るシルフィードに構わず、タバサは一歩進み出た。 「用件は」 タバサに無愛想な口調で問いかけられ、女はおどおどした様子を見せた。 魔法という強大な力の使い手であるハルケギニアの貴族たちは、大半の平民にとって畏敬と畏怖――まれに軽蔑と憎悪――の対象だ。 気まぐれに平民を傷つける貴族などそう多くは居ないが、それでも、平民たちは貴族の機嫌を損ねることをなにより恐れるのだ。 「こわがることないの」 シルフィードは、おびえる女を安心させようと言葉をかけた。 「お姉さまはいつもこうだから、気にしないで。本ばかり読んで、まともな会話のやりかたを学ぼうとしないからぶっきらぼうだけど、 怒っているわけじゃないのね。お姉さまがもっと普通にお話しできるようにシルフィも日々頑張ってるんだけど、これがなかなか……」 「用件は」 内容が脱線しはじめたシルフィードの言葉をさえぎって、タバサは問いを繰り返した。 女は不安げな表情でうつむいていたが、やがて意を決したようにタバサに向き直ると、 「騎士様、お話の前に見ていただきたいものがあるのです」と言った。 女はきょろきょろと周囲を見回し、自分たち以外に誰も居ないことを確かめると、首に巻きつけた赤いスカーフをほどき、首筋をあらわにした。 それを目にしたシルフィードは 「きゅっ!?」と息を呑み、 タバサはわずかに眉を吊り上げると、己の身の丈よりも長大な杖を構えた。 女の首には、二つの赤く小さな傷があった――それは、吸血鬼の牙の跡だった。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/yamiorica/pages/798.html
ソーサリア()/Sorceria 概要 2022年5月19日にカテゴリ化された「ソーサリア」と名のついたカード群。 属するモンスターは全て魔法使い族で統一されている。 裏側守備表示になるモンスター効果を活用し、エクシーズ・リンク召喚を駆使してコントロール・ビートダウンを行う。 それぞれ以下のカードが以下の共通テキストを持つ。 カード 共通テキスト L以外のモンスター ①:このカードがリバースした場合に発動する。このカードはこのターンに2度まで戦闘・効果では破壊されない。●:自分・相手のエンドフェイズに発動する。このカードを裏側守備表示にする。 レベル2 このカードをX召喚の素材とする場合、魔法使い族モンスターのX召喚にしか使用できない。 魔法 ②:このカードが墓地に存在し、自分フィールドのモンスターが裏側守備表示モンスターのみの場合、自分・相手のエンドフェイズに自分の墓地から他の「ソーサリア」カード1枚を除外して発動できる。このカードを自分フィールドにセットする。 罠 ①:(固有条件)、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。自分フィールドの裏側守備表示の「ソーサリア」モンスター1体を表側守備表示にし、対象のモンスターを破壊する。 カード一覧 効果モンスター レベル2 《気丈のソーサリア》 《真成のソーサリア》 《悠揚のソーサリア》 《来寇のソーサリア》 《一閃のソーサリア》 《残夜のソーサリア》 エクシーズモンスター ランク2 《神妙のソーサリア》 《奇蹟のソーサリア》 リンクモンスター リンク2 《不撓のソーサリア》 魔法カード 速攻魔法 《ソーサリアロード》 《ソーサリアガード》 罠カード 通常罠 《ソーサリアマジック-エンフォルド・ストーム》 《ソーサリアマジック-ディメンション・ヘドロン》 《ソーサリアマジック-デステニック・チェーン》 《ソーサリアマジック-オーバーラップ・サンダー》 関連リンク tron コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る