約 440,007 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4958.html
前ページ次ページゼロの視線 第二話 ふむ、と弦之介は困っていた。 「召喚」と「契約」とやらで呼ばれた次の朝。 洗濯を終え(次期党首とはいえ自分の事は自分でやるべし、と教育された)主である少女を起こし 食事を終えた後屋根の上でまどろんでいると、妙に騒がしい。 見ると、るいず殿ではないか。 なにやら変わった色の髪の毛をした少年と向かい合っている。 喧嘩でもしているようだ。 やれやれ 放っておくわけにも行くまい。 「で、『ゼロのルイズ』 どうあってもボクと戦おうというのかい? キミは愚かと知ってはいたがここまで天井知らずの愚か値ストップ高とは思わなかったよ」 「あたしが愚かならあなたは阿呆よ。 大体フタマタ掛けしといて失敗の責任をメイドに押し付けるってどれだけ阿呆?」 「彼女が機転を利かせれば二人のレディの名誉は守れたんだよ。 それに貴族に全面的に従い時に生命すら投げ出すのは平民の義務、常識じゃないのかい。 それは偉大なる始祖ブリミルより授かった正当なる権利さ」 「じゃああたしは全ての貴族を敵に回して、その上で全ての女性の権利のためにアンタをドツくわ このあたしじゃない、ヴァリエール家でもない、『女性』を敵に回したこと後悔なさい」 なぜか片方の目に眼帯をしたマリコルヌが審判役を買って出た。 こういった「力ある者」同士の喧嘩はえてして「やりすぎて」しまう事が多いため審判役が立てられる。 両者とも「審判役」の言葉に逆らってはいけないとされているのだ。 「両者ともこの決闘の結果を始祖ブリミルの啓示とし、決して異議を差し挟んではならない。 お互いOK?それではみなさん!メイジファイト! レディ ゴゥ!」 その言葉に両者とも杖を構える。 先制攻撃は・・・・・・・・・・・ルイズ。 「ブツブツブツブツ・・・・・・ファイヤーボール!」 その言葉とともに壁の一部が爆発する。 「おいおい、かわったファイヤーボールだな」 「うわっ 危ねっ」 「残念ながら狙いが甘いとか色々問題があるようだね。いけっワルキューレ!」 その言葉とともに一体の銅製のゴーレムが立ち上がる。 装飾過剰な無手の『彼女』、しかし2メイルの巨体は十分危険であった。 「ボクはキミと違って大人だからね、手加減はしてあげるよ」 更なる呪文を唱え、見当違いの方向を爆破しながらルイズは叫ぶ。 「大人ってのはメイジだろーが平民だろーが自分の仕出かした事の責任きっちり取るモンよ。 自分より弱いモンに押し付けてる時点で大人ホザくな。 生えてもいないくせに」 「しっ失礼だなキミは!これから生えるんだ!」 「あらやだ、本当だったの?」 その言葉にその場は爆笑に包まれる。 「あくぁwせdrftgyふじこ! 心底無礼にして失礼だなルイズ!手足の一本くらいは覚悟したまえ!」 「出来るといいわね、つるつるギーシュ!」 その瞬間、男のデリケートな部分を侮辱した罰があたったのか、石に足を取られてルイズがバランスを崩す。 「くらうがいい!」 ワルキューレの豪腕が、地に突き刺さる。 しかし、土煙の収まった後には少女の姿は無かった。 「ふむ、使い魔の義務と権利としてここはわたしが引き受けようか」 ルイズを抱き抱えた弦之介の、いっそ幻想的とすら言えるオリエンタルな美しさに その場の一同は凍り付いていた。 そしてそれまで関心など欠片も無いかのごとく本に没頭していた眼鏡の少女が、本を閉じた。 「あら、タバサも彼狙い?」 「興味がある」 「あら珍しい、やっぱ異邦の美形だから?」 「違う。彼の風体はガリアに伝わる伝説の勇者に似ている」 「伝説の勇者?」 「これは秘密」 そう前置きしてタバサは友人に語る。 ガリアの一部に伝えられし英雄の物語。 七百年程前のガリア。 王と王妃が事故死し、残されたのは17才の王女のみ。 これを好機と時の大公が王家乗っ取りを画策する。 その時ふらりと現れたのは三人組の盗賊を自称する男たち。 ガリア王家に伝わる秘宝を盗み出さんとやってきた彼らは、もう一人の女性と組んで王女を守る。 秘宝を隠す謎を解き明かした彼らは、平民でありながら強大なメイジである大公と渡り合って これを倒したという。 この国に留まって自分を助けて欲しい、さもなくば自分を連れて行ってくれ 涙ながらにすがる王女を振り切ったリーダーは、後からやってきた茶色い服の男と合流し、何処とも無く去ったのだとか。 「で、秘宝って何だったの?」 「わからない。リーダーが『自分の懐には大き過ぎる』と今一度封印した」 その三人組の一人の服装が、あのゲンノスケの服に似ているのだとか。 「武器も、『1メイルに及ぶ剃刀』と称される細身の剣」 「なるほど、どの程度伝説に似てるのか。こりゃ目が離せないわね」 前ページ次ページゼロの視線
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/71.html
第四話 命令 前ページ次ページゼロの影 “彼”は思案に暮れていた。 腹心の部下が光の鏡に吸いこまれ、姿を消してから気配を探っている。しかし何も手がかりはなく、虚しく時間が過ぎていくばかりだ。 魔界にも地上にもいない。ならば天界にいるのかと思ったが、“彼”の直感は異なる結論を下していた。 あの忠誠心が服を着て歩いているような部下が己の元に帰ってこないのは、不可能な状況下にあるからだ。 “彼”は部下の帰還を疑っていなかった。 闇の衣を身にまとっている状態でも大抵の敵は簡単に滅ぼすことができ、ほとんどの攻撃が効かない。 万一封印を解く事態になっても最強の肉体に秘法をかけて文字通り無敵の存在と化している。 帰還を確信しつつも最強の肉体と最高の忠臣を一刻も早く手元に戻すため、“彼”は捜索を続けていた。 軍の指揮を執っていたウェールズは突然ズキリと心臓が痛むのを感じ、胸を押さえた。本来ならばワルドの杖に急所を貫かれ死んでいたはず。 それを救ったのはミストバーンだった。顔を合わせた時間こそ少ないが、確かに通じるものがあった。 (アンリエッタに、勇敢に戦い死んでいったと伝えるよう頼んだからね) あのままでは死んでも死に切れなかっただろう。散ることを決意した戦いの場へ送り出してくれた――どれほど感謝しても足りない。 (おかげで最後に格好がついた……) 自分の名を心に留めておくと約束してくれた。彼がそう言ったからには永遠に忘れはしないだろう。 ウェールズも、国民やアンリエッタ、ルイズ、そしてミストバーンを想いながら命尽きるまで戦い抜くつもりだった。 彼らは今どうしているだろうか――考えかけたが、首を振って思考を切り替えようと努めた。 自分の果たすべき役割を思い浮かべ、精神を集中させる。彼らに恥ずかしくない戦いぶりを見せようと。 ルイズは眼前に広がる光景を信じられなかった。 ミストバーンの胸が青白く光る杖で貫かれ、先端が背から突き出ている。心臓を貫通していることが明らかだった。 傷口を広げるために杖が捻られると、口の端から血が滴り、首ががくりと垂れた。さらに深く押し込まれても声一つ上げず、両手は力なく下がっている。 「ミストバーン……!」 初めて名を呼んだというのに返事は無い。 杖が引き抜かれ、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。倒れ伏した彼の体の下にじわじわと赤い染みが広がっていく。 (わたしの――わたしのせいで) 彼女を守ろうとしたため隙が生じ、刺されてしまった。自責の念、後悔が膨れ上がりワルドへの怒りに姿を変える。 杖を掲げたがワルドの方が早い。瞬時に魔法を放ち、ルイズを吹き飛ばす。床に転がった彼女はそれでも杖を構えようとしたが、壁に叩きつけらた。 蒼白な顔になった彼女にワルドが苦笑する。 「だから! だから言ったではないか、共に世界を手に入れようと!」 ルイズの目から涙がこぼれる。 ミストバーンとの戦いの時はキュルケとタバサ、コルベールやギーシュがいて助けてくれた。 ゴーレムの時はミストバーン達が共に戦ってくれた。 今は――誰もいない。意地を見せても認めてくれる者はいない。 苦痛と死の予感が彼女の意識を押しつぶし、恐怖へと染め上げていく。 「言うことをきかぬ小鳥は首をひねるしかないだろう? なあルイズ」 残念そうに囁いたワルドが歩み寄る。ルイズは震えながら青年を見るが、やはり奇跡は起こらない。 ワルドは怯えた獲物の様子に満足げな笑みを浮かべた。もはや邪魔者はいない。 彼は完全勝利を――人生の成功を確信した。 だが、彼はいくつか過ちを犯した。 まず一つは、ミストバーンにとどめを刺さなかったこと。万全を期すなら首をはねるか心臓をあと数回は刺すべきだった。 二つ目は、気を緩めたこと。最大の敵を葬ったと思い込み、威圧感から解放された反動で彼は冷静さを欠いていた。 「主の所有物である体を、傷物にしてしまったな」 三つ目の過ちは、不用意な発言。彼は言葉を重ね、知らぬうちに破滅の淵へと近づいていく。 「ルイズ……君も、彼も愚かだ。彼の崇拝する主も暴君か無能か……暗愚なのだろう」 今、彼は最大の過ちを犯した。すなわちミストバーンの主を侮辱したのだ。 「あ……ああ……!」 ルイズが震えながら声を絞り出した。声の調子が変わったことに気づいたワルドが振り返り凍りつく。 ミストバーンが立ち上がっていた。口元と胸を真紅に染めた壮絶な姿で。 目元は髪に隠され見えない。異常なまでに膨れ上がった殺気がワルドの肌を刺し貫く。 偏在が杖を振るうが、避けたようには見えぬ動きで回避し、偏在の頭部をつかんだ。 手に力を込め、風船の破裂するような音と共に握りつぶす。 「馬鹿な……急所を貫かれて何故動ける!?」 ミストバーンは伏せていた顔を上げた。 常に閉ざされていた双眸が開き、底知れぬ暗さをたたえた瞳が裏切り者を見据える。 闇を切り取ったような眼がワルドの心を突き刺し凍てつかせる。 彼は、恐怖に縛られ動けぬワルドに指を突きつけた。 そして下される、死の宣告。 「……命令する。……死ね」 彼は静かに、そして深く、怒っていた――。 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/69.html
第三話 その名を永久に 前ページ次ページゼロの影 勇ましく悲しい者達の宴は明日滅びるとは思えぬほどに華やかであった。その中心には巨大な花瓶が据えてあり、大量の花が活けてある。 ルイズは耐えきれず外に出ていき、ワルドがそれを追う。ミストバーンの元へウェールズが歩いてきた。 彼の体から一瞬不穏な空気が立ち上り、ウェールズの目が細まる。 刹那、両者の腕が閃光のように素早く動き、ミストバーンの拳はウェールズの眼前に、ウェールズの杖はミストバーンの胸に突きつけられていた。 周囲の者達が気色ばむが、ウェールズが手を振って黙らせる。単に実力を図ろうとしただけだと知っているためだ。 何事もなかったかのようにミストバーンが口を開く。一瞬の攻防でウェールズの実力を悟ったのだ。 「……不思議なものだな、人間とは。怯え助けを乞うばかりの者もいれば、死を恐れぬように振舞う者もいる」 「怖いが、守るべきものがあるからね」 貴族派レコン・キスタはハルケギニアを統一しようとしており、理想を掲げている。しかし彼らは流される民の血も荒廃する国土も考えない。 勝てずとも勇気を示さなければならない。それが王家に生まれた者の義務なのだから。 そう語るウェールズの瞳には諦めでも絶望でもない輝きが宿っている。 彼の覚悟は異世界の住人であるミストバーンにも伝わった。彼は譲れぬもののために命をかけて戦い、他の者達を照らそうとしている。 「……強き者には敬意を払うのが私の信条だ。お前の名を永久に心に留めておくことを約束しよう」 その言葉の中には膨大な感情と本物の敬意がにじんでいた。ウェールズが目を瞬かせ、微笑む。 「ありがとう……!」 アンリエッタには勇敢に戦い死んでいったと告げてくれ――そう言い残してウェールズは宴の中心へ戻っていった。 新たな名を心に刻みこんだミストバーンはルイズにワルドとの結婚を知らされたが何の感慨もない。彼はただ傍らにいるだけだ。 翌日、ルイズは夢の世界にいる心地でワルドとの結婚式を進めていた。ウェールズが見守り、神父の前でルイズとワルドが並んでいる。 ルイズの身長ほどもある壁際の花瓶には城中の花が集められ、甘い香りをまき散らしていた。 憧れていた相手。結婚という語から溢れる美しい煌き。だがそれらは現実のこととは思えなかった。 心の内に広がる雲に耐えきれず、ルイズは唇を噛んだ。どうすればよいのかわからない。思い浮かぶのは、何故か青年の顔。 彼はワルドから戦の準備を手伝うよう頼まれていた。結婚式に全く興味を抱いていないため外で働いているだろう。 彼は、ワルドがルイズを必要としていると言った。その言葉が胸に残っていたが違和感が拭えない。 決めるのは自分なのだ。結婚という問題の責任を、ミストバーンやワルドに押し付けることはできない。 ワルドに対する想いはミストバーンの忠誠心の十分の一、いや五十分の一もないかもしれない。忠誠心と愛情は違うが、ワルドは心の中心にはいない。 結論にたどり着くとルイズは自然と首を振っていた。 「ごめんなさいワルド。わたしあなたと結婚はできないわ」 ワルドの顔に朱がさした。ルイズの肩を掴み、熱に浮かされたようにぎらつく目でルイズを射る。 「世界を手に入れるために君が必要なんだ! 始祖ブリミルをも超える君の才能が!」 ルイズはその時悟った。ワルドが必要としていたのは、彼女自身ではなく魔法の力。それも、ありもしない才能を手に入れようとしていた。 彼が認め必要としているものは、彼女の中には存在しない。 引き離そうとしたウェールズが突き飛ばされ、顔を赤く染める。ワルドは手を離し、蛇のように双眸を光らせながら優しい笑みを浮かべた。 「駄目かい? 僕のルイズ」 「いやよ、誰があなたと結婚するものですか」 ワルドは天を仰ぎ両手を広げた。 「目的の一つは諦めよう……二つ達成しただけでも良しとしなければ。一つ目は君を手に入れることだが、果たせないようだ」 ルイズが嫌悪に満ちた目で睨みつける。 「二つ目はアンリエッタの手紙だ。そして三つ目は……ウェールズの命」 ウェールズが杖を構えようとしたが、ワルドが閃光のように素早く杖を引き抜き、青白く光らせつつ胸を突く。 だが、胸の中央を貫くはずだった先端は逸れた。胸を切り裂かれたものの致命傷ではない。 ワルドの手の甲には薔薇の造花が深々と突き刺さっていた。ワルドが花瓶へ杖を向け、空気の槌で粉砕する。その陰から悠然と姿を現したのは白い闇。 「なかなか洒落た真似をしてくれるじゃないか、君。気配の消し方も人間とは思えん」 ワルドが薔薇を引き抜き床に叩きつけた。踵でぐりぐりと踏みにじる。かつてギーシュから取り上げた杖を花瓶の陰から投擲したのだ。 ワルドに杖を向けようとしたウェールズを阻む。 「ゆけ……戦場へ……!」 ウェールズは頷くと、風のルビーを渡して赴くべき場所へと駆け出した。 ルイズが戦慄きながら怒鳴る。 「あなた、アルビオンの貴族派だったのね!」 「そうとも。ミストバーン、素直に敬意を表するよ。愚かな者達は捨てて僕と同じ『レコン・キスタ』の一員に加わらないか?」 ルイズが怒りに燃える目でワルドを睨む。 「姫様への忠誠は……嘘だったのね! 姫様は信じてらしたのに」 誰よりも、ルイズ自身が信じていた。憧れの相手を。淡い想いを抱いていた彼を。 「信じるのはそちらの勝手だ」 冷たく言い放った裏切り者は邪魔者を消そうと杖を掲げた。その顔が強張る。 ミストバーンの全身から純然たる殺気が立ち上っている。冷たい横顔からは、触れると切れそうなほどの怒り。 「忠誠を誓った相手を簡単に裏切り……私に薄汚い裏切り者になれと勧めるとは、な……!」 彼にもわかっている。 これは人間同士の問題であり、彼が口を出すものではないと。ワルドの行いを責めることはできないと。 力こそ正義の魔界において、力を得るため――目的のために行動するのは正しいことだ。信じた者が、騙された方が悪い。見る目が無かっただけだと笑われる。 ウェールズを早目に殺そうとしたのも王党派の士気を下げ、自軍の余計な消耗を避けるため。何も間違ってはいない。 それでも彼には耐え難かった。 「ウェールズの全てを賭けた戦い……貴様如きに汚されてたまるものか!」 どれほどワルドが強くとも、彼の心に名が刻まれることは永久に無い。 ワルドが杖を上げ、ミストバーンが拳を構えると空気が戦いの前兆を示すように震えた。 ワルドが杖を振るうと流水のようによどみなく呪文が完成し、巨大な空気の塊がミストバーンに叩きつけられた。その威力は手合わせの時とは比べ物にならない。 「どうした? 使いたまえよ、ガンダールヴを……全ての力を!」 ガンダールヴの力を発揮すれば速度が跳ね上がるというのに使おうとしない。 高らかに笑うワルドへ静かな声で問う。 「お前こそ使わんのか?」 まさか全力を使わずに倒せるとでも思っているのか――そう言いたげな声だった。 ワルドの顔が強張ったが、挑発に薄い笑みで応えた。 「ならばお教えしよう、風の最強たる所以――偏在を。ユビキタス・デル・ウィンデ……」 呪文の完成と同時にワルドの体が分かれた。ただの分身ではなくそれぞれに意思と力が宿っている。 「やはりお前だったか……」 彼はワルドと仮面の男の気配がよく似ていることを察し、警戒していた。自身が主の分身体を預かっているだけにそういった魔法の存在を予想していたのだ。 興味の欠片もない結婚式に潜んでいたのも、手がかりであるルイズや認めたウェールズを殺させぬため。 直前まで姿を現さなかったのは名を覚えるに値するか見極めようとしたからだ。 ルイズはあまりの衝撃に動けない。 認められたと思いこみ、全て否定された。大きな存在でなかったとはいえ絶望と悲しみは深い。 ワルド達が一斉に攻撃に転じると杖や魔法が身体をかすめる。万全の状態ならば全く問題にしないが、力が極端に落ちている今五対一では分が悪い。 だがワルドは目の前の男が危険な存在であることを悟っていた。これほど強烈な殺気を放つ相手を侮っていると手痛い一撃をくらう可能性が高い。 速やかに攻撃を叩きこもうと偏在が同時に詠唱を始める。ウィンド・ブレイク――猛る風が敵を吹き飛ばす魔法だ。ミストバーンはようやく剣を抜き、右手で構えた。 「剣で風を止められるものか!」 ワルドが笑うがその眼が見開かれた。生じた風がデルフリンガーの刀身に吸い込まれていく。 接近し、反応の遅れた偏在の胸を左手で貫き消滅させる。 「やはり魔法を吸収するようだな」 彼は手合わせの時に魔法の威力が軽減されたことに気づいていた。 闇の衣に封印されている時は呪文を吸収、増幅し打ち返す技を持っている。感覚が似ているため気づいたのだろう。 フェニックスウィングが不完全な今ならば魔法を防ぐ有効な手段となり得る。 だが、一体消されたとはいえ本体と合わせてワルドは四人。 「厄介な能力だが、吸収されぬ魔法で攻撃すればよい」 その杖が細かい振動と共に青白く輝く。ウェールズを貫こうとした呪文エア・ニードル――杖自体が渦の中心であり、吸収はできない。 鋭利な切っ先が四方から迫るのを受け流し、手で払い、かわす。相手が吸収できる魔法を使わないことを悟り、再び剣を納め素手で戦っている。 「何故君は戦う? それほどルイズに忠誠を誓っているのか?」 「我が主はバーン様ただ一人……」 彼が戦っているのは誰の命令でもない。彼にはルイズこそが帰還の鍵を握るという漠然とした予感があった。 手がかりのルイズを守るという“義務”と、ウェールズの邪魔はさせないという彼自身の意志だけで戦っている。 ルイズは体の震えを押し殺し、目の前で繰り広げられる戦いを食い入るように見つめていた。 裏切りの衝撃が徐々に薄れ、行動すべきだという思いが湧き上がる。 しかし、何をすればよいのかわからない。足手まといにならぬよう引っこんでいるしかないではないか。自分はゼロのルイズなのだから。 そこまで考え、ルイズは自分の両頬をばちんと叩いた。 (ええい! らしくないわ!) 何もしないうちから諦めて保身を考えていては主人失格だ。もっとも、まだ主とは認められていないのだが。 (我が主はバーン様ただ一人……) 「もう、少しは気をきかせなさいよ!」 悔しさと怒りがふつふつとこみあげ、あっという間に悲しみと恐怖を押し流す。 ワルドはミストバーンに注意を向けている。いくらゼロのルイズと呼ばれているとはいえ意識から締め出すとは――完全に甘く見られている。 「わたしを……このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールをなめるんじゃないわっ!」 彼女はこめかみに青い筋を浮かび上がらせながら呪文を詠唱した。杖を振ると偏在の一体が爆発し、消滅する。 本体と合わせてワルドは三人に減った。これで有利になると考えたルイズへ、近い位置に立っていた偏在が向き直り躍りかかった。 ミストバーンは見た。ルイズへ凶刃が迫るのを。 彼と主をつなぐ唯一の線が、一筋の希望の光が絶たれようとしているのを。 ――主の元へ、戻れなくなる。 「ルイズ!」 気がつけば、初めて叫んでいた。同じ闇を抱える者の名を。 デルフリンガーを抜き放ち、ルーンを光らせつつ投げつける。 ルイズは見た。ミストバーンが己の名を叫び、剣を抜いて投擲したのを。 目の前に迫った偏在が胸を貫かれ消滅するのを。 そしてその隙に、もう一体の偏在が彼の心臓を青白く輝く杖で貫いたのを――! 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1507.html
前ページ次ページゼロの答え 一旦部屋に戻ってルイズは爆発でボロボロになった服を着替えた。着替え終えると昼食をとるため食堂へと向かった。 デュフォーにも一緒に来るように言っておいたので一緒に廊下を歩く。 正直気分は最悪だった。腹の立つ使い魔にご主人様らしいところを見せ付けようと張り切ったのに結果はあれだ。 これではますます嫌味を言われる材料を与えてしまったようなものだ。 なのに使い魔のほうは何も言おうとしない。ひょっとして同情されているのだろうか? そう考えるとますます落ち込む。 (平民の使い魔にすら同情されるなんて……) そうこうしていると食堂に着いた。 このときルイズは酷く落ち込んでいてあまり周りを良く見ていなかった。 そのせいか椅子に座ろうとしたとき、一人の男子のマントをうっかり踏んでしまった。かなり思いっきり。 「ぐえっ」 蛙を踏み潰したような声を上げて男子が仰け反る。とその時、男子のポケットからガラスの小壜が落ちた。 勢いよくポケットから飛び出たためだろう、その小壜は床に落ちるとあっさり割れてしまった。 「あ、ごめん、ギーシュ」 流石に悪いと思ったのかルイズは謝った。だがギーシュは謝罪の言葉など聞こえていないかのようにルイズを怒鳴りつけた。 「なんてことをするんだ!ゼロのルイズ!この香水はモンモランシーが僕に」 ギーシュは最後まで言うことができなかった。モンモランシーにまで言ったところで一人の少女が席から立ちあがり、ギーシュの前に立ち塞がったからだ。 「ギーシュさま……」 「ケ、ケティ。その、これはごかぶっ」 最後まで言い訳させずケティと呼ばれた少女はギーシュのほほを思いっきり張り飛ばした。 「ご自分でおっしゃったことが何よりの証拠ですわ!さようなら!」 呆然とほほを押さえるギーシュ。だがその少女と入れ替わるように、また別の少女がギーシュの前に立ちふさがった。 「ギーシュ。何か言いたいことは?」 「モ、モンモランシー、こればぁっ!?」 モンモランシーはケティと同様に言い訳させる間もなく殴り飛ばした。平手ではなく、拳で。綺麗なストレートだった。 もんどりうって倒れるギーシュ。モンモランシーはテーブルの置かれたワインの壜を掴むと、倒れているギーシュにかけた。 中身が空になるとおまけといった感じで壜をそのままギーシュの頭の上に落とした。 「この嘘つき!」 そう言い捨てると憤懣やるせないといった表情でモンモランシーは自分の席に戻る。ギーシュは目を回していた。 ルイズは自分が原因だったため、流石に少しは悪いことをしたかなと思ったものの、元はといえば二股をかけていたギーシュが悪いと思い直して気にしないことにした。 ギーシュの分の食事が余ったのでデュフォーにも多少分けてあげようかと思ったが、マリコルヌが既に陣取っていたので諦める。 そのデュフォーだがパンとスープを食べ終わるとどこかへ行ってしまった。どこに行ったのか気になったものの、こちらはまだ食事中だったので放っておく 普通はご主人様の食事が終わるまで待つものだが、もうこの使い魔にそんなことを期待するのは諦めた。 ちなみにワインまみれで目を回しているギーシュを介抱しようとする人間は誰もいなかった。まあ二股かけていた最低男を助けるほど心の広い人間はいなくて当然だからよし。 ルイズが食事を終えてデザートを待っていると、何故かどこかへ行ったはずのデュフォーと今朝見かけたメイドが配っているのが目に入った。 驚いてルイズは飲みかけた紅茶を噴いた。正面に座っていた女子が嫌な顔をする。だがそんなことよりデュフォーのほうが重要だ。 「デュフォー!あんた何やってるのよ!」 デュフォーはケーキの置かれたトレイを近くのテーブルに置いて、怒鳴り声をあげて近づいてくるルイズに向きなおった。 一緒にケーキを配っていたメイドは突然怒鳴り声をあげて貴族が走ってきたため硬直している。 とりあえずルイズは一緒にケーキを配っていたメイド(シエスタというらしい)の方から事情を聞くことにした。 デュフォーから聞こうとしないのは、こいつが説明したら平静を保てる自信がなかったからだ。 「……つまりあいつはわたしが上げたパンとスープじゃ足りなかったから。直接厨房に行って、手伝う代わりに食事をくれって言ったのね」 「はい、そうです。デュフォーさんが突然、厨房に来たときは驚きました」 「あなたが一緒に配っているのは?」 「あ、それは私は今朝デュフォーさんと顔を合わせたので面識があったからです」 なるほど理由を聞いてみれば単純なことだった。ルイズに食事の量を増やしてくれと言わなかったのは、使い魔としての立場を理解してのことなのか。 それとも言っても聞き入れるわけがないと理解していたからなのか。―――恐らく後者だろうとルイズは思った。 「でも大丈夫?こんな奴が手伝ったらかえって邪魔じゃない?」 「そんなことありませんよ。デュフォーさんは私がケーキを掴み易いタイミングと高さでトレイを出してくれるから凄い助かってます」 そういうとシエスタは再びケーキの配り始めた。デュフォーと一緒に。 ―――面白くない。とルイズは思った。 (わたしに対してはあれだけムカつくことをしてくるのに、メイドに対しては優しいなんて) 実際は別にそんなことはないのだが、ルイズはそう思い込んでいる。 ルイズがそんなことを考えていると誰かに話しかけられた。そちらを見るとそこにいたのはギーシュだった。 「何よ、何のよう?言っておくけど今機嫌が悪いから、話しかけないで」 「ゼロのルイズ。君のせいでケティとモンモランシーの名誉が傷ついたじゃないか。どうしてくれるんだい?」 「は?何言ってるのよ。あれはあんたが二股かけてたのが悪いんじゃない」 「それに昼食もとれなかった。これもどうしてくれる」 「……それもあんたの自業自得でしょ」 どうやらギーシュは今さっき目が覚めたらしい。ギーシュの分の昼食はマリコルヌが全て平らげていたから当然昼食にはありつけなかったのだろう。 ルイズは相手をするのが馬鹿らしくなってギーシュから視線を外した。するとケーキを配り終えたらしいデュフォーが目に映った。 「おい、ルイズ。一体どこを見て……ん、あれは?」 ギーシュもルイズの視線に気がついたのかデュフォーたちの方を見る。 ちょうど配り終えたらしくルイズのところへと歩いてくるところだった。 ルイズの傍にきたところでギーシュは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。 「流石はゼロのルイが呼んだ平民だ。ご主人様を放っておいて同じ平民の子とデートでもしてたのかい?」 どうやらルイズからデュフォーへと八つ当たりの対象を変えたらしい。 もちろんギーシュだって二股をかけていた自分が悪いことは理解しているが、八つ当たりをしないと収まらないのだ。 だがはっきり言って絡んだ相手が悪かった。 「お前頭が悪いな」 「なっ!」 「このトレイを見ればデザートのケーキを配っていたことはわかるだろう?それとも頭が悪いから理解できないのか」 「なななな、なっ!」 ギーシュの顔が怒りのあまり赤を通り過ぎてどす黒くなった。 これはもう喧嘩を売っているという次元ではない。今すぐギーシュがデュフォーを殺そうとしても納得できるほどだ。 現にデュフォーの隣に居るシエスタは恐怖のためか蒼白になっている。 ルイズですらあまりにもあまりな言いように硬直していた。 「きききききききききき、君はどうやら貴族に対する礼を知らないようだな。さ、流石はゼロのルイズが呼んだ平民だ」 「お前頭が悪いな。さっきも流石はゼロのルイズが呼んだ平民だ、と言ったのをもう忘れたのか?」 ギーシュが無言で薔薇の造花を振り上げたところで近くにいたギーシュの友人がギーシュを押さえ込んだ。 「よせ、ここで魔法を使うのは拙い」 「離せ、こいつは、僕が」 「気持ちはわかるが落ち着け。やるならヴィストリの広場だ」 必死でギーシュを宥める友人たち。当事者の癖に我関せずといった表情でそれを見つめるデュフォー。 傍から見れば蒼白になっているシエスタの方がギーシュの怒りを向けられた当事者にしか見えない。 しばらくして何とか落ち着いたのか荒い息を吐きながら、ギーシュはデュフォーに薔薇の造花を突きつけた。 「決闘だっ!いいか、ヴィストリの広場で待ってるから必ずきたまえ!貴族に対する礼儀を教えてやろう!」 そう告げるとギーシュは体を翻した。その後ろをさっきまで宥めていた友人たちがわくわくした表情でついていく。一人だけデュフォーの案内と逃がさないようとの監視も兼ねて残った。 「あ、ああああ、なんてこと。あ、あなた殺されちゃう。貴族をあんなに怒らせるなんて……」 血の気を失った表情でそう言うと、シエスタはだーと走って逃げてしまった。 そこでやっとルイズの硬直が解けた。 「あああああ、あんたね、平民がメイジをあんなに怒らせてどうするのよ!本当に殺されるわよ!」 「大丈夫だ」 「何が大丈夫よ!ああもう!仕方ないわね。私も一緒に頭を下げてあげるから謝りなさい!あんただけだと確実に許してもらえないだろうけど、わたしも頭を下げるなら許してもらえるかもしれないわ」 「非があるのはあいつだろ。俺やルイズが謝る理由はない」 「このわからずや!あんたは確かにムカついてムカついてムカついてムカつく奴だけど、それでもわたしが召喚した使い魔なのよ!勝手に死なせるわけにはいかないんだから!」 「なんだと?」 「そうよ!あんたは絶対に勝てないわ。その上あれだけ怒ってるのよ。手足の一本や二本くらいの重傷で済んだら運がいいわよ!」 「言いたいことはそれだけか?」 「それだけかって……聞きなさいよ!メイジに平民は絶対勝てないの!あんたがアンサー・トーカーとかいう能力を持ってても意味がないの!」 「意味がないかどうかは見ていればわかる」 そういうとデュフォーは一人残っていた男を促して歩き始めた。 「――――――っ!もう知らない!あんたなんかどうなっても知らないんだから!」 そう叫ぶとルイズはデュフォーを追いかけていった。 デュフォーがヴィストリの広場についたときには、噂を聞きつけた生徒たちで広場は溢れていた。 「とりあえず逃げずにきたことだけは誉めてあげるよ。それとも謝りにきたのかい?今更謝っても手遅れだけどね」 そう告げるとギーシュは薔薇の造花を突きつけた。目は殺気だって血走っている。傍目にも、もはや謝った程度では許す気はないのがわかる。 「お前頭が悪いな。戦いに来たことくらいわかるだろう」 ギーシュの顔が歪んだ。この期に及んでもそんなことを言われると思っていなかったのだろう。 「そ、そうかい。それじゃ始めるか」 そう言うと同時にギーシュが薔薇の花を振り、花びらを青銅でできたゴーレムへと変える。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句……」 ゴーレムを出すとギーシュは長々と口上を述べようとしたが、途中で止めざるをえなかった。デュフォーが歩みを止める様子を欠片も見せず、こちらへと向かってくるからだ。 開始を告げると同時にデュフォーはギーシュへと近づいていった。走らず、歩いて。ギーシュがゴーレムを出してもまったく足を止めることはなく、ザッ、ザッと距離を詰めていく。 そのギーシュのゴーレムなど気にするまでもないというかのような態度に知らず歯を食い閉めた。ギリッと歯が軋む音が聞こえた。 ギーシュは無策に歩いて近づいてくる平民を叩きのめす―――いや叩き『殺す』ようゴーレムに指示を与える。 同時に再び薔薇の花を振り、更に六体のゴーレムを出す。新たに出たゴーレムにも同様の指示を出した。 ここまで自分を馬鹿にした態度をとる平民を生かして帰す気は、もはやギーシュになかった。 合計で七体ものゴーレムが一斉にデュフォーへと殺到し―――そして全ての攻撃があっさりと避けられた。 「―――え?」 ギーシュが間の抜けた声を出した。だがそれはその場を見た人間の素直な感想だった。誰一人として今、目の前で起こったことを理解できなかった。 誰が見ても避けられるとは思えなかった七体ものゴーレムの攻撃が、デュフォーがほんの少し動いただけで全て宙を切った。 そこから先はまるで夢の中の出来事のようだった。ギーシュにとっては悪夢に等しい。 ギーシュへと近づいていくデュフォーに攻撃をしかけるゴーレムたち。だがデュフォーはまるでどこにくるのかが解っていたかのように、少し動くだけでそれを全て避ける。 目の前の男を平民だと侮る気持ちは跡形もなくなった。代わりに恐怖が芽生える。 「何でだよ、何でワルキューレの攻撃が当たらないんだよっ!」 必死でゴーレムに命令を下すギーシュ。だが攻撃を当てることはおろか、後退、いや足を止めることすら満足にできない。気がつけばデュフォーはもう間近に迫っていた。 ドン、とギーシュの背中に何かが当たる。振り向くとそこには壁があった。ギーシュは無意識のうちにデュフォーから離れようと後ずさりしていたことに気がついた。 (追い詰められた―――?) ギーシュがそう思った瞬間、首を掴まれ、壁に押し付けられた。一瞬息が詰まる。魔法の杖である薔薇の造花が叩き落された。 「まだやるか?」 冷めた声でデュフォーが訊ねる。既にギーシュは戦意を喪失していた。 震える声でギーシュが降参を告げたのをルイズは信じられないものを見るような思いで見ていた。 前ページ次ページゼロの答え
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8215.html
前ページ次ページゼロの賢王 あの爆発からそれ程時間も掛からぬ内に、騒ぎを聞きつけて何人かの教師らしき者たちが教室内へやって来た。 彼らは暴れ出した使い魔たちを大人しくし、気絶していたシュヴルーズに治療を施す。 幸い他に怪我人は無く、生徒たちは口々にルイズに対しての不平不満を言いながら教室を後にして行った。 当のルイズは気絶から回復したシュヴルーズに罰を言い渡され、教室内の片付けをする為に残されていた。 当然、ポロンもその場に残っている。 (魔法を使わずにここを片付ける、ねえ) ポロンはルイズがシュヴルーズに言われたことを心の中で復唱しながら教室内を見回した。 あれ程の爆発があったとは思えないくらい、教室内の大部分は無事であった。 (あの爆発。ありゃあ、イオラくらいの破壊力はあったな。よくこんだけの被害で済んだもんだ。 これもこの世界の魔法のおかげなのかねえ?) ポロンは改めてこの世界の魔法に感心する。 ルイズの方を見ると、何か言いたそうな感じでこちらを睨み付けていた。 (とと・・・さあて、ご主人様の癇癪玉が破裂する前にとっとと片付けますかねえ。・・・さっき賄い貰っといて良かったわ) ポロンは教室内の片付けを始めた。 暫く2人で黙々と作業をしていると、ルイズがぽつりと呟く。 「・・・失望した?」 「ん?」 それは注意深く聞かなければ聞こえない程か細い声であった。 今度はハッキリとした声で聞いて来る。 「私に失望したんでしょ?・・・ええ、言わなくても分かるわ」 「どうした急に?」 ポロンは思わずルイズの方へ目を向けた。 ルイズは立ち止まり、目に涙を溜めている。 「貴族だのご主人様だの偉そうに言っておいてこのザマよ。私、魔法が使えないの。 魔法を使おうとすると、いつもこうやって爆発が起こるの。魔法の成功確率ゼロ、才能ゼロ。 ・・・それがゼロのルイズの由縁よ。笑っちゃうでしょ?」 「んなことはねえよ。お前、俺を召喚したじゃないか」 「でも、平民を召喚するなんて私聞いたこともないわ。もしかしたらそれすらも失敗なのかも知れない・・・」 それきりルイズは押し黙ってしまった。 ルイズは下を向いて床を見つめたままである。 ポロンは無言でルイズの側に近寄った。 「なあ、ルイズ」 「・・・何よ?」 「お前腹減ってないか?」 「・・・え?」 「もう昼時だもんなあ・・・。それにこんな力仕事してたら腹も減って当然だ」 「・・・何を言ってるの?」 「腹が減ってるからそんな後ろ向きなことをついつい言っちまうんだよ。だから早く片付けて飯食おうぜ?」 そして、優しい笑みを浮かべてルイズの髪をわしゃわしゃと撫でる。 「・・・!!な、何するのよ!?」 「お前らしくねえぞ、ルイズ!元気出せ!」 「ポロン・・・」 「お前には間違いなく才能があるさ!何たって他でもないこの俺様を呼んだんだからな!」 ポロンはそう言って真剣な顔で自分を指差した。 そんなポロンを見て、ルイズは呆れた様にため息を吐く。 「そうね、アンタ見てると悩んでるのが馬鹿らしくなったわ」 「だろ?悩むのは悪いことじゃないが、悩み過ぎるのは体にも心にも良くないぜ?」 「・・・考えとくわ」 ルイズはそう言って教室内の片付けを再開し出した。 先程よりは表情がいくらか明るくなった様に見える。 ポロンは取り敢えずそんなルイズを見て安心し再び作業に取り掛かった。 片付けの最中、ポロンはルイズが先程言った言葉を思い出していた。 『魔法の成功確率ゼロ、才能ゼロ。・・・それがゼロのルイズの由縁よ。笑っちゃうでしょ?』 (でも、本当にそうなのか・・・?) ポロンはルイズの言葉に疑問を持つ。 ポロンの世界の呪文にはあの様な爆発をもたらすものがある。 イオ系と呼ばれるその呪文はポロンの世界ではポピュラーな呪文である。 だが、ルイズの発言からすればあの爆発はそもそも魔法としては認められていない様に聞こえる。 仮にこの世界の魔法に爆発を起こすものが無いとしても、あれだけの魔力が放たれたのだから 失敗であったとしても、彼女に才能が無いなどとはとても思えない。 ポロンも賢王として目覚める前は、自分の意志で魔力を放つことさえ出来なかったのだから。 (何か切っ掛けでもあったら吹っ切れるのかも知れねえが・・・。生憎こちらの魔法には詳しくないからなあ) それは自身の呪文についても同様であった。 魔力もあるし、呪文も覚えている。 だが、一部の呪文しか使用出来ない。 この不可解な現象にポロンは戸惑っていた。 (俺も・・・何か切っ掛けがあれば、また前みたいに呪文を使うことが出来る様になるのだろうか?) そう思いながらも、出て来たその考えを一笑する。 (俺らの世界は『失われし日』でもう呪文が使えねーんだぞ?前みたいに呪文が使えても、それはこの世界だけだ。 根本的な問題の解決にはなってねえ。なってはねえが・・・) ポロンは再びルイズの顔を見る。 (それでもこの世界にいる間はそれでいいじゃねえか!アイツを守る為には今のままじゃきっと足りねえ・・・) ポロンは次に自分の右手を見た。 船の上で見た時の右手は既に賢王ではなく船大工の手であった。 しかし、今は賢王の手になりつつあるのだ。 (切っ掛け・・・か) 「こ・・・これは!?信じられん!!まさか・・・彼は・・・」 その頃、図書室ではコルベールがポロンの左手のルーンに関して調べていた。 「これは大変だ・・・!早くオールド・オスマンに報告しなくては!!」 そこが図書室であることも忘れてコルベールは大きな声を上げる。 周囲の生徒の冷たい視線にも気付かぬまま、コルベールは1冊の本を持って図書室を出て行った。 コルベールが学院長室に辿り着くと、入れ違いで緑色の髪をした妙齢の女性が部屋から出て来た。 「あ、ミス・ロングビル!オールド・オスマンは中にいますか?」 「ええ、いますけど・・・何か御用ですか?」 「有難うございます!」 そう言ってコルベールは転がる様に学院長室の中へと入って行った。 ロングビルは首を傾げながら、その場を後にした。 「失礼します!オールド・オスマン!!」 学院長室の扉を慌しく開けたコルベールにオスマンは何事かと驚いた。 「一体どうしたのかね?ミスタ・コルベール。いつになく興奮しているようだが・・・」 「は、はい。話すと長くなりますので取り敢えずはこの本を見て下さい!」 コルベールは先程図書室から持って来た1冊の本を開いて、オスマンに見せた。 そして、胸元から1枚の紙を取り出してその本のとあるページと見比べさせる。 その2つを交互に見比べたオスマンはすぐに目を見開いた。 「こ、これは!?」 「これが本当だとしたら、これはとてつもないことですぞオールド・オスマン!!」 片付けを終えた2人は昼食の為に食堂へ来ていた。 相変わらずポロンの食事はささやかなものだったが、何も文句言わずに平らげる。 (しかし、力仕事の後だってのにこれじゃあやっぱ足りんわな。仕方ない、また厨房にお世話になるとするか) 「ルイズ、ちょっと席離れていいか?すぐに戻るから」 「何?またトイレ?」 「まあ、そんなところだ」 「すぐに戻りなさいね?」 「ああ」 ポロンも今回は早く食事を済ませて戻るつもりであったので頷く。 食堂を出てから、先程シエスタに案内された通りに歩くと、無事に厨房へと辿り着いた。 中へ入ると、マルトー以下厨房で働く人々は皆ポロンを歓迎した。 同じ平民としてのよしみじゃねえかと、今度はワインまで注ごうとしてくれている。 ポロンも流石にそれは断り、パンを半分に切ってドレッシングを和えた野菜を挟んだもの(いわゆるサンドイッチ)だけを貰って頬張った。 そうしていると、シエスタがワイングラスに水を注いで持って来てくれた。 ポロンはそれを一気に飲み干す。 「ぷはー、いやーわざわざ有難うなシエスタ」 「いえ、私が好きでやっていることなので、ポロン様はお気になさらないで下さい」 「いや、何かシエスタには面倒掛けっぱなしだからな。今朝の礼もしてねえし」 「本当に大丈夫ですから」 「そうだ。シエスタに何か困ったことがあった時、このポロン様が必ず助けに行ってやるよ!」 「ポロン様・・・」 そう言うと、シエスタの頬は紅潮して瞳が潤み始めた。 「有難うございます」 シエスタは深々と頭を下げた。 その後、何かを思い出したかの様に手を叩く。 「あ、私はこれからデザートの配膳がありますのでこれで失礼させて頂きますね」 「おお、頑張れよシエスタ!」 ポロンはシエスタを手伝おうかとも思ったが、これは彼女たちに与えられた仕事なのである。 それを好意とは言え、少しでも奪ってしまうのは野暮な気がした。 それにすぐに戻るとルイズに伝えてあるのであまりゆっくりも出来ない。 (早く戻らないとご主人様のへそが曲がっちまうな) ポロンはマルトーにお礼を言った後、厨房を後にした。 ルイズの席に戻ってくると早速ルイズは不機嫌を隠さない表情でポロンを見つめる。 「遅かったわね?」 「いやー、すまねえ。歳食うと長くなっちまって仕方ねえ」 「私はまだ食事中よ?汚い話は止めて頂戴」 「おっと、こいつぁ失礼」 そう言うと、ポロンは床に座った。 その後、ポロンはルイズと特に何か会話をした訳ではなかったが、 側にいるだけで、ルイズの寂しげだった表情は少し和らいでいる様な気がする。 ふと食堂内を見ると、シエスタがデザートのケーキを配っていた。 テキパキと働くシエスタを見て、ポロンは妻サクヤの姿を重ねる。 (サクヤは元気でやってるかね?チビどもも) この世界へやって来てまだ1日しか経っていないが、やはり次元の違う世界へ来てしまったと思うと望郷の念が強くなる。 果たして自分は元の世界へ、そしてサクヤと子供たちが待つ家へと帰れるんだろうか。 ポロンはそんな思いに駆られていた。 「どうしてくれるんだ!?」 その時、食堂内に怒号が響き渡った。 ポロンが声のした方を見ると、キザっぽい少年が1人のメイドを怒鳴りつけているのが目に入った。 その少年に向けて必死に頭を下げて謝っているのはシエスタだった。 (何があったんだ?) ポロンは思わず立ち上がる。 ルイズはそんなポロンを横目に言った。 「どうせあの平民が何か粗相でもしたんでしょ?止めなさい。野次馬なんてみっともないから」 「いや、アイツがそんなヘマするわけがねえし、仮にしたところであんなに怒鳴りつけられる様なことなんて・・・」 「ちょ、待ちなさい!」 ルイズが止めるのも聞かずにポロンはシエスタの方へと向かった。 「まったく!これだから平民は」 少年はそう言い捨てると高慢な態度を振りかざしながらシエスタを見下している。 思わずポロンは声を掛けた。 「おい、これは一体どういうことだ?何があった?」 「ポ、ポロン様?」 シエスタは突然のポロンの闖入に目を見開いた。 その目には涙が浮かんでいる。 少年はポロンの顔も見ずに答えた。 「どうしたもこうしたもない。この平民の愚かな行為で2人のレディの名誉が傷付けられたんだ!」 「だから何がどうなってそんなことになったんだよ?まずはそれから聞かせろよ!」 ポロンがそう言うと、近くにいた気の弱そうな少年がこれまでの経緯を教えてくれた。 ポロンのことを教師と勘違いしたのか、その少年は終始敬語であった。 「ハァ?それは全部ひっくるめてお前が悪いんじゃねえか!」 全てを聞き終えたポロンの口から真っ先に出て来たのはその言葉だった。 ことの経緯を簡単にまとめると、シエスタが彼の落とした小瓶を拾ったことで二股がばれ、2人の少女にひっぱたかられたという。 それで、その原因をシエスタが小瓶を拾ったこととして八つ当たりしていたのであった。 「てめえは二股をかけて、バレたら責任転嫁ってそっちの方がその子たちの名誉を傷付けてるだろ?」 周りの男子もポロンの言葉に同調して「そうだ!そうだ!」と囃し立てた。 やはりそこは思春期の男子で二股をかけた少年の行動に対し、嫉妬心からかあまりいい感情を抱いていない様であった。 当の少年は顔を真っ赤にしてポロンを睨み付ける。 暫くポロンの顔を見ていた少年は、目の前の男が何者なのかを思い出すと見下す様な笑みを浮かべた。 「誰かと思えば君はゼロのルイズが呼び出した平民の使い魔じゃないか。ただの平民風情が貴族に楯突くなんて許されると思っているのかね?」 「てめーのケツをてめーで拭けねえで、挙げ句の果てに弱い奴に八つ当たりするのが立派な貴族たあ、こりゃあ初耳だね」 ポロンがそう言うと、少年は舌打ちし、憎悪に満ちた目でポロンを睨み付けた。 しかし、すぐにやれやれといった感じで肩をすくめた。 「ふう、流石はゼロのルイズの使い魔だ。主人が無能なら使い魔も愚かだということかな?」 「何だとてめえ?」 「フン、君みたいな出自も分からない平民は知らないと思うが『使い魔を見ればそのメイジが分かる』と言ってね。なるほど、確かにその通りだよ」 少年は再び見下した様な笑みを浮かべた。 今度はポロンが少年を睨み付ける。 「何だい?事実を言われたことがそんなに悔しいのかい?」 「俺のことは別にいい。だが、ルイズのことを言うのは許せねえな。大体てめーみたいなゲス野郎にルイズを詰る資格はねえよ」 「・・・言ってくれるじゃないか。今の言葉、すぐに訂正するなら許してやる。僕は寛大だからねえ」 「けっ、シエスタに当たり散らしてた奴の何処が寛大だって言うんだ?全く、親の顔が見てみたいね。 まあその親もきっとろくでも無いゲス野郎なんだろうな。『子供を見れば、その親が分かる』って言うからなあ」 ポロンが先程少年から言われたことをそのまま返してやると、少年は怒りに身を震わせている。 「こんな屈辱は初めてだ。よりによって我が両親まで愚弄するとは・・・。決闘だ!貴族の誇りをかけて貴様と決闘する!」 「ハァ?言うに事欠いて決闘?」 「ヴェストリ広場へ来たまえ!そこで待っている!!」 言うだけ言うと、少年はさっさとその場から去っていった。ポロンはぽかんとした表情でその背中を見つめていた。 ふとシエスタの顔を見ると、その顔はまるで死んだ人間を見たみたいに青ざめていた。 「ポロン様、殺されちゃう・・・。貴族を本気で怒らせたら・・・」 「シエスタ・・・?」 「ぽ、ポロン様!わ、私のことはいいんです!で、ですからあの御方に謝って下さい!そ、そうすれば命までは・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 ポロンはシエスタの脅える顔を見て、決心を固めた。 そしてシエスタの震える肩を抱きしめる。 「ぽ、ポロン様!?」 突然のことにシエスタは驚く。しかし、ポロンは意に介さずシエスタの耳元で呟いた。 「大丈夫だ。俺は死なねえ」 「ポロン様・・・」 「それに言ったろ?何か困ったことがあった時はこのポロン様が必ず助けに行ってやるってさ」 「・・・はい」 すっかり震えが治まったシエスタを確認するとポロンは体を離す。 ルイズはその様子を唖然としながら見つめていた。傍から見れば、とても間抜けな表情をしていただろう。 「ルイズ!」 ポロンの声で、ルイズはハッと気が付く。 「な、何よ?」 「ヴェストリ広場って何処だ?」 「え?アンタ本当に行くの?」 「当たり前だ」 そう言ったポロンの表情はいつになく真面目で真剣そのものであった。 前ページ次ページゼロの賢王
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/83.html
第二話 勇者の名の下に 前ページ次ページゼロの影 ロサイスに到着したウィンプフェンは本国へ退却の打診を行ったが、即座に却下された。 突然連合軍の半数が寝返りド・ポワチエが戦死したなどと言われて信じられるはずもない。 繰り返し訴え続け、許可が出たときには貴重な時間が浪費されていた。 アルビオン軍主力の進撃が予想より早いことを告げられたウィンプフェンが頭を抱える。 「もっと……もっと早く撤退準備をすべきだった」 保身に走ったせいで全軍の乗船は間に合いそうにない。丸一日足止めする必要があるが、七万の大軍を相手にしては不可能だ。 空からの砲撃も駄目であり、重装備は失われ、打つ手は無いかに思われた。彼は考えに考え抜いて――閃いた。 「そうだ! “あれ”を使おう! 今ここで使わずしていつ使う! 伝令!」 ルイズとミストバーンのいる天幕へと伝令がやってきたのは夕方になってのことだった。 「ミスタ、ウィンプフェン司令官がお呼びです!」 「わたしも――」 「いえ、ミス・ヴァリエールは来なくて良いそうです」 嫌な予感がしたが逆らうわけにもいかず、彼女は檻に入れられた虎のように歩き回って待った。 彼が司令部から出てくるのを見て慌てて駆け寄ったが、尋ねても答えず街外れへ行こうとする。 「どこに行くのよ。なんで――」 ミストバーンはルイズに向き直ったが、やはり沈黙したままだ。その手が動いた瞬間ルイズの首筋に衝撃が走り、視界が暗くなった。 近くにいた人間に彼女を船に送り届けるように伝え、町外れへ向かう。一度も振り返らず前だけを見据えて。 時刻は少し遡る。 司令部を訪れた彼に、ウィンプフェンは喜びを顔中ににじませながら芝居がかった動作で両手を広げた。 部下達はなぜそれほど大仰な態度で接するのかわからず視線で尋ねあっている。 ウィンプフェンは咳払いし、高らかに告げた。 「よく来てくれた。用件は他でもない、元の世界へ戻る手がかりについてだ」 わずかに表情が動いたが、興奮を抑えるように拳に力を込める。 「先ほど入った情報によると、光り輝く扉が現れたらしい。召喚のゲートに似た、な」 地図の一点を指し示す。 「この丘の周辺だ。行くかね?」 (夢が……告げたのか?) 丘の上に光の扉が出現し、そこから元の世界に帰るという夢。託宣だと考えても仕方ないほど、ただの夢で片付けるにはあまりにも鮮烈なものだった。 しかも一度だけではなく繰り返しだ。最近は毎日のように見ている。 いずれハルケギニアを去るという確信に近い予感を抱いていたが、的中したのだろうか。 証拠としてウィンプフェンは兵士の証言の書かれた書類などを出して見せた。 目を通したミストバーンは今にも出て行きたい様子だったが、ウィンプフェンが渋面を作り唸る。 「今からでは敵と接触するかもしれん。いきなり攻撃されることはないと思うが慎重に行かないと……。駄目だった場合船に乗れんことになる」 「かまわぬ」 背を向け、司令室を出ようとした彼を慌てて呼び止める。 「ミス・ヴァリエールにはこの情報を知らせるな。余計な時間を消費し、敵と接触したり扉が消えたりする可能性が高まる」 返ってきたのは沈黙だけだった。 彼が出て行ったあと、部下達が顔を見合わせ恐る恐る発言する。 「本当によろしかったのでしょうか。いくら元の世界に戻るためとはいえ危険すぎます。接触の可能性はきわめて高く――」 ウィンプフェンはにやりと笑い、腕を組んだ。 「いいのだ。むしろそれが狙いだ」 「それはどういう……?」 「アルビオン軍に情報を流しておいた。『虚無の影』が単騎で偵察に現れる、この機を逃すと被害は広がるばかりだから今叩き潰せと」 「な、なぜ!?」 「決まっている。足止めだ」 兵士の一人が納得しがたいというように叫んだ。 「ならばなぜ、騙すようなことを仰ったのです!? 最初から殿を命じればよかったではないですか!」 ウィンプフェンは嘲りと哀れみを足して割った表情で相手を見つめた。こめかみを指でトントンと叩き、ゆがんだ笑みを浮かべる。 「騙すなどとは人聞きの悪い。彼はトリステインの人間ではない、素直に従うはずもなかろう」 以前彼の境遇を聞いた後、利用できるように証拠の類をでっちあげていた。それを今回使ったのだ。 毒を飲まされたような表情の兵士達へ両手を広げる。 「『虚無』は未知数だ。うまく使えばさらなる大軍をも撃退できる可能性を秘めている。だが、使い魔の方はいくら強くとも兵士の力に換算できる」 ここで使うのがちょうどいいということだ。完全に使い捨ての道具として扱っている。 「し、しかし……!」 言い募ろうとする兵士は言葉を飲み込んだ。 追い詰められたウィンプフェンは精神の均衡を手放しかけている。普段押し殺し、表に出さない本音を迸らせている。 常の彼は慎重なだけでここまで言うような人物ではなかった。だが、極限まで高まった焦りや恐怖が彼を行動に踏み切らせた。 「素晴らしいじゃないか! 英雄! 救世主! まさに“勇者”だ!!」 目を血走らせ、熱に浮かされたように叫ぶ彼とは反対に兵士達の面は凍っていく。 「彼がもし帰還したらどう言い訳なさるおつもりですか」 「嘘はついておらんのだ、責められるいわれは無い。せいぜい派手に暴れてから死んでいただきたいものだ」 扉が現れた“らしい”と言っただけで断定はしていない。危険についても説明し、警告した。だから非難される筋合いはない。 ルイズは名家中の名家の令嬢であり後で揉めることもあり得る。 一方ミストバーンは異世界の住人で人間ではない。潰し合うだけ潰し合って死んでほしいというのが正直な気持ちだった。 「“勇者”の健闘を祈ろうではないか、諸君」 己の正義を確信しきった口調に兵士達は項垂れた。 誰かがしなければならないことをこんな形で押し付けたウィンプフェンも、止めようとしない自分達も、情けなかった。 馬を駆るミストバーンへ、背の剣が歯に物の挟まったような言い方で呟いた。 「なあ相棒、言っとくぜ。どーもキナ臭えから気をつけろよ。……調子悪いんだろ?」 痛いところをつかれ反論できない――そんな沈黙だった。 本来ならば力を抑えても脆い人体などひとたまりもない。だが、手加減したとはいえ人間の少女が気を失うだけで済んでしまった。 時間が惜しいとはいえウィンプフェンを締め上げて真偽を確かめることもしなかった。 「なんで一人で行くんだよ。危ないことに付き合わせたくないってか?」 デルフリンガーはそう言っているが説明する時間が惜しく、うるさいから黙らせただけだ。 扉が見つからなかった時に最大の手がかりは“丘の扉”から“ルイズ”に戻る。アルビオン軍と接触し、殺されては困る。 それを聞いてデルフリンガーはムッとしたようだった。 「……この冷血」 デルフリンガーの呟きとともに日に照らされる丘の姿が見えた。 丘に近づくにつれて、逸る気持ちを抑え馬の速度を落とす。敵軍の姿は見当たらず気配も感じないが、慎重を期すに越したことは無い。 (この身体はバーン様のものだからな) 相手が人間だからといって喧嘩を売って回る気はない。速やかに戻れればそれでいい。 周囲を確認しながら少しずつ進んでいく。 丘の上に扉は無いようだがとりあえず登り、敵軍がどれだけ近づいているか、扉が近くに無いか確認するつもりだった。 「無かったらどうすんだ?」 「キメラの翼を使う」 所持していた道具や貨幣は預けてきたが、いざという時のために残ったキメラの翼二枚のうち一枚を持ってきていた。 (だが――) そこから先の言葉を打ち消す。 斜面をゆっくり登っていく間思考は取り留めもなくさまよっていた。 思い出されるのは桃色の髪の少女。彼が人間の敵だと知って戸惑いを隠しきれない様子だった。 このまま永遠に別れることになってもそう影響は無い。いずれ新たな使い魔を――害のない者を召喚し、契約するだろう。 “ゼロのルイズ”と呼ぶ者もいるが、彼はルイズを“ゼロ”だとは思っていなかった。 努力し、誇りを見せ、強大な力を得たルイズは尊敬に値した。彼女は自分の力で偉大なメイジになるだろう。 そこまで考え、軽く首を振る。主の元へ戻ればくだらぬ感傷など消えるはずだった。 ――主の元へ、戻れば。 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3946.html
前ページゼロの魔獣 旧タルブ村跡地。 そこに、かつての人々の営みの跡は見受けられない。 目の前に広がるのは、ペンペン草一本生えていない荒野。 明らかに自然の作ったものではない、断層と陥没。 そして、その中央にポッカリと開いた 『 地獄の釜 』・・・。 最後の調査隊が引き上げを決め、今や無人となった惨劇の場に、一組の男女が立ち尽くしている。 女の方は、ズタボロのマントに全身を包んだ緑髪。 端正な顔立ちを台無しにする異常な目付きの悪さ、加えて、やたら大仰且つ悪趣味な煙管をふかしている。 一目見れば分かる危険人物 ― 『土くれ』のフーケだった。 「・・・旦那もまた えらくこっぴどくブチのめされたもんだねえ・・・」 フーケがしみじみと言う。 男の方は、右手は手首から先が、左は肩口から先が丸々存在せず 羽織っただけの上着の袖を、風にはためかせていた。 「お前には随分と世話をかけたな 『土くれ』」 「貸し借りは無しだよ ワルド」 それっきり、二人は無言となり、暫らくの間釜の底を睨み続けていた・・・。 「・・・結局 あの光柱はなんだったんだい?」 「さて な・・・」 フーケの問いに、虚空を見上げながらワルドが答える。 「本来交わるはずの無い 異なる世界が出会った結果なのか あるいは この眼前の惨状すら 大いなる始祖ブリミルの 導きの一部なのか・・・」 「・・・・・・」 「・・・かつての俺は あのシャフトと同じだった 異界のもたらす力を求め それにおぼれた挙句 このザマだ」 「今は 違うとでも?」 「今はもっと強欲さ 力はいらん 真理が知りたい あの魔獣は何処から来たのか? そして俺達は何処へ行くのか・・・」 「懲りない男だねえ アンタも・・・ 勝手に身を滅ぼすがいいさ」 フウゥゥっと、大きくケムリを吐き捨てた後、フーケが煙管を高々と振り上げる。 直後、背後にいたゴーレムの関節が回転を繰り返し、瞬く間に巨大なバギーへと変貌を遂げた。 「これからどうする?」 「怪盗のやる事はただ一つ・・・ だろ? ただ これからは貴族のお宝なんてケチくさい事は言わないよ 魔獣は虚空に去ったが あたしにはヤツとの戦いで得た最強の力がある コイツであたしは天下を盗む! 口だけのスカした貴族どもを片っ端から蹴散らして 世界中をあたしのシマに塗り替えてやる!」 「・・・懲りないのはどっちだ 魔法学院のガキどもにブチのめされたヤツの台詞じゃあないだろ」 「過去の事を蒸し返すんじゃないよ そういうアンタこそどうするんだい? アルビオンに戻るのかい?」 「そうだなあ・・・」 言いながら、ワルドは躊躇いもせずバギーへと乗り込む。 「俺はヤツとの戦いで 全ての力を失ったが 未だに好奇心と 小賢しい頭脳の方は残ってる とりあえず暫らくは 女極道の片腕をやらせて貰うとしようか・・・」 「つくづくけったいな男だねえ・・・ 当分の間給金は出ないよ! ワルド」 フーケは煙管を持ち替え、トン、トン、トーン、と、三度ゴーレムを叩いた。 四つの巨大なローラーが土煙を巻き上げ、二人を乗せたバギーが荒野へと消えた・・・。 タルブでの戦闘から二週間。 「地獄の釜」から10リーグ程離れた草原地帯に、タルブ村の移住作業が始まっていた。 最終的な勝者にこそなったとはいえ、異界の技術がもたらした被害は事のほか大きく、 軍の再編、負傷者の介抱、虜囚の保護、難民の支援と、 トリステイン軍は猫の手も借りたいほどの忙しさに追われていた。 その為、魔法学院も授業の一時休止を決め、貴族の子弟たちはタルブの復興支援に参加していた。 「―それにしても これからハルケギニアはどうなっちゃうのかしら・・・?」 再建が進む村を一望できる丘の上で、キュルケが呟く。 眼下には、タルブ復興のシンボルとして、 子供達の英雄となった巨大な青銅乙女が、木材を運ぶ姿が見える。 「なーにしみったれた事言ってんのよ まったく似合ってないわよ キュルケ」 「だって あんな物を目の当たりにしちゃったら ねえ ・・・タバサ」 「・・・・・・・」 ルイズの反発を受け、キュルケは青髪の少女へと同意を求める。 二人とも、タルブの地に『地獄の釜』を開けた光柱を、最も間近で見た生き証人だった。 あるいは、学生たちの中ではタバサこそが、事態の深刻さを最も理解していたのかもしれない。 世界が注目した、『レコン・キスタ』のトリステイン侵攻。 その中で明かされた、未知の力 ― 箱舟、ドグラ、魔獣・・・ そして・・・ 大地に巨大な風穴を開ける程の、膨大なエネルギー。 あの光柱で、世界ははっきりと、『異世界』の存在を認識してしまった・・・。 勿論、今すぐにどうという事ではない。 異世界の技術を御せず、手痛いしっぺ返しを喰らう形となったアルビオンは、 首脳部の責任問題に端を発した内乱により、外征に打って出る余力を完全に失った。 ガリア、ゲルマニアの諸国も、アルビオンの二の舞を恐れ、現在は静観に徹している。 だがそれも、所詮、喉元過ぎれば・・・ というヤツであろう。 追い詰められたアルビオンが、シャフトの残した技術力をテコに、巻き返しを謀る可能性は十分にある。 他の諸国も、あの巨大なエネルギーを己が物にせんと、いずれは独自の研究を始めるであろう。 『異世界』と出会ってしまったハルケギニアは、もはや引き返せない時代へと突入していた。 「大丈夫よ」 ルイズが断言する。 「異世界との遭遇がもたらしたものは 何も邪悪な力ばかりではないわ シンイチと出会ったあたしも もう過去の臆病な自分ではない あたしだけじゃない キュルケにも タバサにも ギーシュの中にも シンイチと出会った全ての人たちの中に 彼の強烈な生き様が息づいている・・・ だから 世界が巨大な変革を遂げる事も あたしは恐れない シンイチの世界の技術が ハルケギニアを脅かすのなら 彼の魂を受け継いだあたしが それを喰い止める力となって見せる!」 桃色髪の少女の大言壮語を、友人二人は呆れ顔で見ていた。 「あなた・・・ 前々からバカだとは思ってたけど いつの間にか本物のバカになってたのね」 「大風呂敷」 だが、そう語るキュルケもタバサも、どこか吹っ切れたような笑顔をしている。 「まったく 随分と大きく出たものだな ルイズ 今の君が心配しなきゃいけないのは 三日後の事じゃないのかい?」 ワルキューレの右肩に乗りながら、ギーシュがこちらへと近づいてくる。 三日後、トリステイン魔法学院の、授業再開の日。 その日の最初のプログラムは、学院史上でも異例の事態となる、 ルイズの2度目のサモン・サーヴァントの儀式と決まっていた。 「余計な心配は無用よ あたしを誰だと思っているの?」 かつての彼女の使い魔のように、不敵な笑みを浮かべながら、ルイズが言い放つ。 「楽しみにしてなさいよ デルフ 今度こそ アンタを持つにふさわしい 伝説の使い魔を呼び出して見せるわ!」 「おう! そいつはありがてえ 今度は俺をブン投げたり 置いてけぼりにしたりしない奴を頼むぜ!」 伝説の剣のおどけた口調に、その場に居合わせた一同が笑う。 「みなさーん 食事の準備ができましたよー」 風に乗って、遠くからシエスタの声が響いてきた―。 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ 神聖で美しく そして強力な使い魔よ 私は心より訴えるわ! 我が導きに答えなさい!」 ド ワ オ オ ォ ッ ! ! ― いつもの詠唱、 いつもの爆発。 今日もトリステインは平和であった・・・。 「何やってんだバカヤロー」「ふざけんなッ! ゼロのルイズ」 眼前で生じた爆発にも、学友たちの罵倒にも、ルイズは身じろきひとつしない。 腕組仁王立ちの体勢で、黒煙の中を凝視している。 「いいえ! 召喚は成功よ!!」 ルイズがピッ、と杖を指し示す。 立ち込める煙の中に、確かに何者かの影が動く。 「あれこそが あたしの新しい使い魔 この世で最も神聖で美しく そして強力な・・・ って ええッ!?」 いち早く使い魔を発見したルイズであったが、驚愕の声を上げたのも、彼女が最初だった。 さもありなん。 爆発の中央にいたのは平民の少年・・・。 ―その日 虚空の果てまで吹き抜けるような青空の下 真理阿の最後の予言が、現実となった。 ( ゼロの魔獣 完 ) 前ページゼロの魔獣
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8557.html
「ドラゴンクエストモンスターズ+」よりスラおを召喚。 ゼロのルイズと魔物の勇者-01 ゼロのルイズと魔物の勇者-02 ゼロのルイズと魔物の勇者-03 ゼロのルイズと魔物の勇者-04 ゼロのルイズと魔物の勇者-05 ゼロのルイズと魔物の勇者-06 ゼロのルイズと魔物の勇者-07 ゼロのルイズと魔物の勇者-08 ゼロのルイズと魔物の勇者-09
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4034.html
武者ガンダムシリーズ「新SD戦国伝 伝説の大将軍編」より烈光ガンダム 珍SD戦国伝 ゼロの大将軍-01 珍SD戦国伝 ゼロの大将軍-02
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6329.html
召喚されたモノの外見についてはまとめwikiのお絵かき掲示板ログ139を参考にしてください。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしの僕よ!神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!わたしは心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」 本日何度目かの爆発が巻き起こる。 そしてついに、ルイズの呼びかけに答えしものが、土煙の向こうにその姿を現した。 「……なによコレ」 それは、大きな頭だった。 というか、よく見ると作り物だ。所謂おめんであった。 「ゼロ!ゼロのルイズ!おめんなんて呼び出してどうするの!」 「うるさいわね!」 おっほっほ、と笑いながらヤジを飛ばすのは、見物していた宿敵のキュルケである。 ルイズはキュルケをギロリと睨んだ。 「さ、ミス・ヴァリエール。契約を」 コルベールの言葉に、渋々おめんを持ち上げる。 何というか、非常にムカつく造作だ。 ごんぶとのタラコクチビルも、中途半端にニヤけた目元も、ちょろっとだけあるキューピー人形のような髪も、そのすべてが絶妙なイヤらしさを演出している。 「うわっ、重た……ったくなによ、こんなもん本当にかぶれるのかしら」 ルイズは思わず、そのおめんを頭にかぶせてみた。 「……とれないわ」 まさしくジャストフィットであった。 「むぎーーー!だめ、取れない!しかも前見えない!」 引っ張ってもなにしても,そのおめんはルイズの頭から外れなくなってしまったのだった。 「コレなんなのよォーーーーッ!!」 「なにって、おめんでしょ」 「見ての通り」 キュルケと、その隣のタバサが冷静にツッコんだ。 キュルケはニヤニヤ笑っている。 「そんな召喚された得体の知れないもんかぶったりするからよ」 「あんた今『こりゃ面白くなってきた』って顔してるでしょ!」 さんざん喚いてもおめんは取れず,ルイズは焦ってきた。 「ねえ、……これ、やばいわよ、いやマジで。ちょっとマジで真剣に考えましょうよ」 「そうね、どうする?一年生も呼んできて見せよっか」 「画家を呼んで肖像画を描かせる」 「あんたらねーーーーッ!」 ぜんぜん真剣に取り合わないキュルケとタバサに、ルイズはキレた。 「とりなさいよ!ねえ!なにしてんのよあんたら!はやくしなさいよ、殺すわよ!さあ!早く!とれーーーー!!」 「なんか精神的余裕がなくなったら、どんどん嫌な奴になってきたわね」 「うッ!」 喚くルイズが、突然首のあたりをおさえた。 「く、空気があまり入ってこない……、まま、まずいわ……、酸欠になっちゃう……」 「そりゃそんなに騒ぐから……」 見物していた生徒たちからツッコミが入る。 「あんたら呑気ね!そりゃあんたらはいいわよね!おめん付けてないんだもんね!」 「なに言ってんの」 その時、ルイズは足を引っかけて、びたーん!と盛大に転んだ。 おめんは前がぜんぜん見えないので、石に躓いてしまったのだった。 ルイズはがばっと跳ね起きた。 「あんたら今、足かけたでしょ!誰よコラ!ぶっ殺してやる!」 「心が狭くなって人間不信になってる……」 「どこ!あんたら!ここはどこ!どこ行った!わたしを置いて逃げやがったな畜生ども!」 「完全に混乱して自分を見失ってる」 「しょせんルイズはこの程度の人間だったということさ」 「むッ!そこかーーーーッ!!」 ルイズはがばっ!とタバサの使い魔・シルフィードに飛びかかった。 シルフィードは困って、きゅいきゅい鳴いた。 「実に面白い。予想外。今度他の人でも試してみよう」 タバサがなんだか物騒なことを呟いた。 さすがに見かねたキュルケが、ルイズに話しかける。 「しょうがないわねえ、ルイズ。それ割ってあげるわ。いらないでしょ?そんな使い魔」 「ホントに!?お願い!」 ルイズは必死になって答えた。 「タバサ、頼める?」 キュルケがそう言うと、タバサはこくりと頷いた。 「少し痛いかもしれない」 「なんでもいいから!早くして!」 「わかった」 そう言うと、タバサは自分の身長より大きな杖を、まるで野球のバットのように振りかぶった。 「 少 林 寺 撲 殺 拳 !! 」 「りゃーーーーーーーーーッ!!」 ボグシャァ!! タバサは杖でルイズのおめんを思いっきりぶっ叩いた。おめんにビシィ!とヒビが入った。 「しゃーーーーーーーーーッ!!」 バリャァ!! さらに杖を叩き付けると、ルイズのおめんが割れた。 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」 ドコドコドコドコドコ!! タバサはルイズのボディに強烈なパンチを何発も叩き込んだ。 「オラぁぁ!!」 タバサはルイズを全力で蹴っ飛ばした。 「ちゃーーーーーッ!!」 タバサの渾身の右ストレートで、ルイズは30メイルも吹っ飛んで、森の木に激突した。 「ねえ……途中から記憶ないんだけど、なんで頭だけじゃなくて身体中に傷があるのかしら」 「さぁ」 「てゆーかわたしこの学校やめるわ」 『清村くんと杉小路くんと』からおめんを召喚