約 440,007 件
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/85.html
第四話 ゼロとゼロ 前ページ次ページゼロの影 胸に走る痛みに炎を思わせる赤髪の少女は眉をひそめた。彼女の名はキュルケ。アルビオン侵攻には参加せず、学院に残っていた。 気がかりそうに見つめる青髪の少女――タバサに大丈夫というようにひらひらと手を振ってみせる。 「今ごろどうしてんのかしらねー」 どうでもよさそうな表情と口調の彼女に、タバサはぽつりと呟いた。 「心配」 「まっさかあ!」 途端にキュルケは大仰に眉を上げて否定してみせた。 「殺したって死ぬような可愛げないわよ、ヴァリエールもダーリンも」 「心配」 淡々と指摘され、キュルケはほんの少し頬を赤く染めた。 「ち、違うわよ! ヴァリエールはイノシシみたいにつっかかるのが面白いし、ダーリンはもっとお近づきになりたいから死なれちゃ困るって程度で」 それ以上追及せずタバサは本に視線を戻した。 彼女はミストバーンにどこか近しいものを感じていた。怒り、憎しみ、そして孤独――。 彼女はキュルケに出会い救われた。彼にはそんな存在がいるだろうか。 どれほど深い闇も照らすような。どんな障壁も焼き尽くすような。 もしキュルケを喪ったり二度と会えなくなったりしたらどうなるだろう。彼女はふるふると首を振り、想像を打ち消した。 その時おそらく自分の心が死ぬであろうことを、彼女は悟ったのだから。 船の上で学院の生徒達は安堵したように仲間と笑い合っていた。アルビオン軍の進撃速度は極端に低下しており、全軍乗船も間に合いそうだった。 彼らの口に上るのは一人の英雄――否、“勇者”の名。 「すげえよな! 俺達全員を逃すために敵地に残って戦ってんだぜ!? ……おいギーシュ、どうしたんだよ? 活躍の場を奪われて悔しいのか?」 「やめとけやめとけ、七万の大軍相手じゃお前なんか鼻クソ以下だ」 ギーシュは憂鬱そうな面持ちで首を振った。 「そりゃわかってるよ。僕が言いたいのは――」 タルブの村での戦いの後ギーシュは名前で呼ばれるようになっていた。今まで顔もろくに覚えられていなかったため急激な変化に戸惑ったものだ。 彼はウィンプフェンの語った内容に違和感を覚えていた。ミストバーンが他人の盾になるとは思えない。 仮に戦うとするならば、自らを高める者の命を賭した覚悟が必要だとギーシュはぼんやり想像していた。 だがウィンプフェンにそんなものがあるとは思えない。もしかすると、情報を操り彼を利用したのかもしれない――そんな気がする。 「トリステインの美しきレディ達を守るのは僕達の役目のはずだろう?」 「そんなこと言ったって、弱い奴が残っても仕方ないだろ」 「そりゃそうだけど……誰かに全部押し付けて知らん顔でいいのかね」 苦しい時は力ある者にすがり、戦いが終われば手の平を返す。それで胸を張って生きていけるのか。 もっと強くなって自分が戦えるようになりたい――ギーシュはそう思った。 「彼が“勇者”なら、僕達は――」 そこまで言いかけて苦笑する。勇者という響きは彼には似合わない。麗しき女性以外のことを考えていたため頭が混乱しているようだ。 薔薇の造花を一振りし、花びらを落として口にくわえ直す。 それから彼は愛しのモンモランシーのことを想い、幸せそうな笑みをこぼした。 徐々にアルビオン軍が体勢を立て直し、脅威を葬る準備を進めている。間もなく丘の上へと殺到するだろう。 デルフリンガーが知らせるが立ち上がる力は残されていない。 心臓二つを潰され、両腕は千切れかけてろくに動かない。全身に刻まれた無数の傷の痛みすら鈍く遠くなっていた。 感覚がゼロへ近づいていく。だがそれは以前の状態に戻るのではなく、最も遠いはずの死がすぐそばまで迫っているということだ。 (バーン、さま……) 自分が滅んでも主が立ち止まることは無いと知っている。振り返らず一人で己の道を歩んで行くだろう。 体を返せないことだけが心残りだが、理想の器の中で死ぬのなら“寄生虫”にはもったいないくらいの最期だ。 「申し訳ありません……バーン様」 彼は薄れゆく意識の中、繰り返し主の名を呼び、詫び続けていた。 その時、ぽたりと雫が落ちた。いつの間にか視界に桃色の髪が揺れている。 「いっつも謝ってるのね」 彼にはルイズが泥まみれになりながらここまで来た理由も、涙を流す理由も理解できない。不思議そうに眺める彼の顔に水滴が落下し続ける。 その頬は深々と切り裂かれ、エルフに似た形の耳は半ばから千切れていた。髪も、肌も、衣も、血に染まっている。 (何が……何が“認めさせる”よッ!) 悔しくてたまらなかった。 一緒に行動することすら拒まれたことが。限界まで追い詰めてしまったことが。 何より、ここまで傷つくのを止められなかったことが。 弱さを見せようとしない彼にとって、血に塗れ倒れている姿を見られるのは屈辱以外の何物でもないだろう。 彼女は涙を振り払い、誇りにかけて叫んだ。 「わたしが命を賭けてまで認めさせようとした大魔王の部下! それは熱い魂を持った誇り高き戦士よっ! 偽りのない忠誠心こそがあんたの最大の武器じゃなかったのっ!」 ともに戦った時と同じく、その眼は真っ直ぐ彼を見据えている。器ではなく彼自身の魂を。 「正体が何だろうと! どんな姿だろうと! あんたはあんたよ……! わたしの騎士(シュヴァリエ)で大魔王の誇る忠臣――ミストバーンよ!」 魂の奥底から絞り出される言葉が彼の心に染み込み、光となって照らし出す。 「あんたがゼロであってたまるもんですか……! 誰にも――誰にも偽りなんて言わせないんだから!」 ゼロになりかけていた何かが眩い輝きとともに蘇る。不死鳥のように。 「そう、か」 血のこびりついた唇がゆっくりと動いた。 ここで諦めては主からの信頼を裏切ることになる。 絶対に譲れぬものを、自ら“偽り”にしてしまうことになる。 全てを与えられた恩を返していないのに、勝手に歩みを止める権利などない。 「少しは報いなければ……死んでも死にきれん」 かすかに口元に笑みが浮かび、消えかけていたルーンが輝きを取り戻す。 (何故君は戦う?) 命をかけて戦った敵の問いが蘇る。答えは、彼が尊敬し、その名を覚えた者と同じ。 「守るべきものが――在るからだ……!」 身を起こし、立ち上がる。――彼が彼であるために。 ルイズはその背を見て息を呑んだ。一目見たら永久に忘れられない惨い傷。背中だけでなく両腕も所々炭化し、体中に斬られ、刺され、焼かれた跡がある。 (あんたはわたしが責任持って送り返すんだから……!) 絶対に死なせない。その一念で『始祖の祈祷書』をめくり、あるページを開く。そこに光る文字を読み進める。 (ほんの一瞬だけでいい……! 『虚無』の力よ湧き上がれっ! 今こそ……あいつの力になるためにっ!) 息を吸い、精神を集中させる。極限まで研ぎ澄まされた神経が言葉を紡ぎだしていく。 デルフリンガーが問う。 「……どうする?」 「戦い抜き、バーン様の元へ戻る」 もう、迷わない。 詠唱を背に敵の方へ足を踏み出そうとした時、声が聞こえた。 何よりも望んでいた声が。 「――ミストバーン」 弾かれたように顔を上げ、声の源――太陽を見つめる。天空の太陽は完全に隠れようとしていたが、彼の心を確かに照らしている。 表情が驚愕に、次いで歓喜に染まり崩れ落ちるように跪く。 「あ……ああ……!」 尽きぬ想いを込めて主の名を呼ぶ。 「バーン様――!」 異世界の像を虚空に映し、腹心の部下を探していた“彼”は困惑した。 発見したはいいが、秘法が解け、素顔も露になっており、器が徹底的に痛めつけられていたのだから。 冷静に観察するうちに“彼”は施した封印が完全には解けていないことを知った。 解けているように見えるが、召喚の衝撃でゆがみ、逆に力を極限まで抑え込んでいたのだ。ルーンを刻まれる前から身体を蝕む枷がつけられていた。 「ミストバーン」 名を呼ぶと体がびくりと震えた。 「申し訳……ありません」 彼は心から怯え悲しんでいる。帰還が遅れ、主の体を守れきれなかった失態に。 “彼”にも叱責したい気持ちはあるのだが、今はそんな時ではない。 「余がお前に預けた力は……そんなものではないはずだ」 “彼”は手を向け、魔法力を放った。移動や魔法の行使はできずとも、声や力を届けることは可能であるようだ。 ねじれた封印が正しい形に戻り、項垂れていたミストバーンは力が湧き上がるのを感じた。 「言ったはずだ。お前は余に仕える天命をもって生まれてきた、と。余のためにまだまだ働いてもらわねばならん」 己の体を忌み嫌い、鍛え強くなれる者を羨望した時――その能力を必要とし、生きる理由を与えてくれた存在。 (最高の主、バーン様……。あなた様に出会えて……良かった) 彼には歪んだ封印やルーンによる反発だけでなく、他に精神的な枷があった。 秘法が解けたため、主の体を敵の攻撃で傷つけてはならない。無茶な戦い方をして内側から破壊してはならない。 それらの想いが動きを鈍らせていた。 また、あらゆる感情を無理矢理抑え込み封じていたためガンダールヴや暗黒闘気も力を発揮できなかった。 今、心の枷がルイズと主の言葉によって砕け散った。 ルーンの反発も収まり、融け合い、昇華された。 傷口からしゅうしゅうと白煙が噴き上がり、細胞がうごめき再生していく。 闇の衣から血の染みが消え、美しく力に溢れた元の姿を取り戻していく。 ――羊皮紙にはこう書かれていたかもしれない。 『虚無に心が完全に食われる時、少女が涙し、闘志を取り戻す。主という名の光が姿を現し、影を包む』 ルイズは青年の全身から放たれる力を感じ、『始祖の祈祷書』の文面を思い起こしながらいよいよ高らかに詠唱した。 『破壊の力も解呪の力も持たぬが、あらゆる災厄から対象を守り抜く力を持つ魔法をここに記す。 完全に日が食われる時のみ唱えることができ、いかなる干渉も受け付けぬ絶対不可侵の存在へと変える、その名は――』 「凍れる時の秘法(インビンシブル・マジック)」 青い閃光――召喚の際に解かれ、再びかけられた秘法の光が完全に傷の癒えた彼を包みこんだ。 時の流れをゼロにする魔法と、その術者である虚無の使い手ルイズ。 主のために忌避する能力をも揮う、枷を打ち砕きゼロにしたミストバーン。 ゼロとゼロ。 互いの心の闇――“ゼロの影”を払い、認め合った者達。 本来相まみえぬはずの二人が巡り合ったことによって起こる、限りなく奇跡に近い何か。 隠れていた太陽が光を取り戻すにつれて、二人を中心に力が渦巻いていく。 「それでこそ余の半身よ」 大魔王が満足そうに笑い、影が首を垂れる。 「お許し下さい……バーン様」 ふがいない姿を晒した失態は戦いで償うしかない。ハルケギニアで詫びるのはこれで最後にすることを誓い、視線を太陽に向ける。 完全に太陽が姿を現し青年を照らした。 ――羊皮紙には以下のように書かれていた。 『太陽が完全に食われる時、時が凍り、失ったものを取り戻す。太陽の光が姿を現し、影を包む』 「バーン様……よろしいですね!」 「許す……! ミストバーン……!」 掲げられた左手が、天高く輝く太陽に重なった。 封印が完全に解かれ、神の領域に達した力が弾ける。 魔界の頂点に立つ、最強の男。 その半身が今、真の力を取り戻した――! 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4906.html
前ページ次ページゼロの女帝 「全宇宙のどこかにいる私の使い魔よ! この世で最も強く、賢く、美しい存在よ! わが呼び声に答え我が元に来たれ!」 例によって例のごとく、幾十回と召喚に失敗しまくるメイジ見習いたる彼女の名は ルイズ・フランソワ-ズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエ-ル。 もう周囲はもちろん本人も回数を覚えられない位に繰り返された儀式。 しかし、今回は違った。 詠唱が終わると同時に起きた爆発の中に、すらりと背の高い女性が立っていたのだから。 ある意味、彼女の願いはかなえられた。 この世でもっとも強い存在と言って、否定できる人間はそう多くないだろう。 この世でもっとも賢い存在と言って、違うと言い切れる人間は多分居ない。 この世でもっとも美しい存在というのは個人で差があるが、やはりそれはたいそう美しい。 「おい見ろよ!ありゃあ平民だぜ」 「さすがゼロのルイズだ!平民を召喚しやがった」 本来ならそういった嘲りの声に満たされるであろう空間は、空気が音を伝える事を放棄したのかと思われるほどに沈黙に満ちていた。 何故なら、閉じたままの扇子で口元を覆ったその女性(年齢は分からない 外見は『若奥様』風だがその雰囲気はひどく老齢している) は何もせず、ただ周囲を見回すだけで物理的なエネルギ-すら感じさせるほどの圧力を振りまいていた。 主である筈のルイズもまた、「コントラクト・サ-ヴァント」どころか近寄ろうと思う事すらかなわない。 そんな中で一人の男が彼女に近寄り、話しかける。 「失礼します、レディ。私はコルベ-ルと申します。 お耳汚しとは存じますが、宜しければレディのおかれた状況についてご説明いたしますので 聞き入れて下されば幸運にございます」 「あら」 妖艶な流し目でコルベ-ルを見やる女性。 「あなた、礼儀というものを多少はご存知なのね」 「この場にいる子供達より多少は人生経験というものを積んでおりますので」 そう、一目で分かる。 本来なら関わってはいけない相手だ。 即座に後ろを向き、全力で逃げ出すべきだ。 しかしそれはかなわない。 責任を持つべき子供たちがいるし、なによりも逃げられない。 逃げようと振り向けば即座に後ろからばっさりだ。どっちもどっちもどっちもどっちも! いや、逃げようと考えた瞬間頭を粉砕されてしまうに違いない。 もう逃げるとか状況を見るとかそんな事は関係無い。 そんなモノを超越したレベルの相手だと分かる。 卑屈と言われようがなんだろうが彼女の機嫌を損ねない、それしかない。 「ふ-ん、魔法・・・そしてサモン・サ-ヴァントねぇ・・・」 「はい、無礼とは存じておりますが知性を持つ存在を召喚するというのは全く前提にも前例にも無く、故にレディを いかに扱うか判断しかねる、そんな状況なのです」 話を聞きながら彼女の目は爛々と輝き始める。 彼女を知る者なら即座に回れ右、そして突進!とばかりに後ろも見ずに逃げ出すだろう。 コルベ-ルとやらの話を聞きながら彼女は心の中で自分の『船』に呼びかける・・・よし返事が来た。 この星はぎりぎり自分達の勢力圏内、しかしかなりの辺境だ。 まだ誰も発見していないらしいこの星の生命体はNα-3型、いわゆるア-スノイドと呼ばれるタイプ。 例外はあるにせよ百年は生きられまい。 調整を受けてほぼ不死たる自分達なら死まで見届けても「ちょっと寄り道して遊んでた」で済む程度だろう。 ちらりと自分を召喚したらしい娘を見やる。 ふむ・・・状況はなかなか楽しそうだし、この娘も面白いおもちゃになってくれそうだ。 (まあ西南ちゃん程じゃないだろうけど) 「よろしい!」 彼女が扇子を広げてそう宣言した時、ルイズ嬢の運命は決まった。 本当のパッピ-へ、いわゆる「トゥル-エンド」へと繋がるものの無意味な苦労、無駄な難儀、 避け得るはずの被害、理解し難い理不尽に塗れた、そんな人生を歩む事に。 「ルイズちゃんのサ-ヴァントとやら、立派に勤め上げて見せます! 全てこの、神木・瀬戸・樹雷にまかせなさい! ほ-っほほほほほほほほ-!」 前ページ次ページゼロの女帝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8525.html
「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ!我が導きに応えなさい!!!!」 ピンクブロンドの髪をうねらせた少女は、杖を振るわせながら切羽詰ったように声を張り上げた。 巻き起こる爆発。 吹き上がるキノコ雲。 飛ばされ転がるマリコルヌ。 そして、煙幕の中から巨大な影が現れた。 「え・・・・・・まさか、成功したのか?」 「石像が浮いてる・・・・・・ゴーレム?」 「あれ、なんか犬が乗っかってないか?頭のとこ」 「ゴーレムに乗って空飛ぶ犬・・・・・・?」 それは、ゴゴゴゴゴと重低音を響かせながら石像に乗り、空に浮かぶ犬であった。 「み、みみみミスタ・コルベール!こここ、こういう場合はどうすればいいんです!?あの犬と契約 すればいいんでしょうか!?」 ゴーレムは動揺する少女とバーコードサンシャインの前にゆっくりと近づくと、いきなり爆発 を起こした。 「やっぱり爆発したぞ!」 「さすがゼロのルイズだな!」 あまりにあまりな事態のはずなのだが、心配するような声はまったく見られない。 煙幕が晴れると、そこには白い一対の翼を広げる少女がルイズの上に圧し掛かっていた。 ルイズと同じ髪の色をしたその少女は、ゆっくりと目を開け、立ち上がる。 「おはようございますです、ご主人様!」 「ご・・・・・・ご主人、様?」 「はいです!ご主人様がくるみのご主人様ですぅ!きゅ、きゅ、きゅいーーーーーーーん!!」 遠目に見守るクラスメイト達のそばで、「きゅいっ!きゅいっ!きゅーーーーーーーーーぅっ!」 と張り合って叫び、青い短髪の少女に杖ではたかれる蒼い竜の姿があった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/863.html
ルイズたちが教室に入ると、廊下まで聞こえていた賑やかさが消えうせ、牽制するかのような視線が向けられた。 そんな態度をとる理由、そして視線の向けられているであろう人物にルイズは検討がついていた。 十中八九間違いなく、シャオがその原因だ。 おそらく、昨日の儀式の終わった直後から噂になったのだろう。 ゼロのルイズが月の精霊を召喚したことが。 精霊と言えば水の精霊のように人間とは違う価値観でこの世に存在にして、あの恐るべきエルフたちの使う先住魔法の源。 そんなただでさえ畏怖すべき存在な上に、彼女は月という魔法にかかわりの深いものの精霊なのだ。 あとはまぁ、かわいい女の子がいたからつい見てしまった。というのもあるんだろう。 現に薔薇を持った少年がその彼女にわき腹をつつかれている姿もあった。 そんな教室に、一人の女性が入ってきた。ミス・シュヴルーズだ。 彼女は教室を見回すと-シャオの辺りで一瞬視線が止まったことは言うまでも無い-満足そうに微笑んで言った。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。特にミス・ヴァリエールは月の精霊を召喚したとか。 このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ」 そう言うと、そのまま授業に入った。 授業自体はほぼ問題なく進んでいた。錬金にルイズが指名されるまでは。 「では、この錬金をミス・ヴァリエールにやってもらいましょう」 その一言で教室の空気が緊迫したものに変わった。 「ミ、ミス・シュヴルーズ、彼女にやらせるのは止めたほうがいいと思います」 キュルケが困り顔で進言する。 「どうしてです?」 「危険だからです」 なにも知らないシュヴルーズにキッパリと言い放つ。教室のルイズとシャオ以外の生徒がそれに同意し頷く。 「危険?どうしてですか?たしかに彼女に授業を教えるのは初めてですが、彼女が努力家であることは聞いています。 さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい」 そう言いルイズに催促をした。 「あなた、危ないから机の下に隠れていたほうがいいわよ」 ルイズの後ろの席に座っていた生徒がシャオに避難をすすめる。 「? どうしてですか?」 「いいから。悪いことは言わない。ルイズが杖を振る前に隠れておきなさい」 そう言うと机の下に隠れてしまった。 「さぁ、錬金したい金属を強く思い浮かべ、杖を振るうのです」 そしてそのセリフの直後、教室に爆音が鳴り響いた。 その爆発に驚き、使い魔たちがパニックを起こして教室で暴れ始める。 「襲撃!?みんな、ご主人様をお守りして!!」 勘違いをしたシャオがそう叫ぶと支天輪を前にかざし、彼女は自身に仕える星神と呼ばれる中国星座の精霊たちを召喚する! 次々と現れる小人や鳥にペンギンもどきや鹿etc。 このとき、右手のルーンが輝いていたのだが、それに気づいた者は誰もいなかった。 なぜならパニックになる使い魔とそれを治めようとする生徒、そしてルイズを守ろうと翻弄するシャオたちのせいで、教室は阿鼻叫喚の坩堝となっていたからだ。 ルイズはそんな現実から逃避するために、シュヴルーズのように気絶した振りをするしかなかった。 「はぁ・・・」 小人達の手で修繕されていく教室の中でルイズは大きなため息をついた。 「ごめんなさい。私が早とちりをしてしまったばっかり・・・」 シャオが実に申し訳なさそうにルイズに謝った。 そんなシャオに、ルイズは慌ててフォローを入れる。 「べ、別にあなたは何にも悪くないのよ。使い魔としての役目を果たそうとしてただけなんだから」 ルイズたちには教師からこっぴどく説教を喰らった後、罰として教室の修繕を命じられていた。 もっとも、教室の修繕はシャオの呼び出した建物の建設・解体を担当する48人の小人からなる星神『羽林軍』がさっきからやっており、ほとんど終わっている。 「なんだかね、とっても情けないなぁって思っちゃっただけよ」 ルイズは少し寂しそうに呟き、心情をシャオに漏らす。 「わたしね、さっきみたいに他の連中と違って魔法が上手く使えないの。 もちろん努力は沢山したけど、いつも同じ結果だから『ゼロのルイズ』なんて呼ばれてる。 せめて人並みに魔法が使えるようになりたいんだけどね・・・」 そんな今にも泣き出しそうなオーラを出すルイズを、シャオは優しく包み込むようにそっと抱きしめる。 「私には、魔法を使えるようにしてあげることはできません。だけど、いつかそうなれるように応援することはできます。 私は諦めずに応援し続けます。だから、あなたも諦めないでください。夢を現実にすることを」 ルイズは抱きしめられる中で、彼女の雰囲気が自分の好きなほうの姉に似ていることに気づくのであった。
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/61.html
第五話 月影 前ページ次ページゼロの影 学院に戻り報告を済ませると、一同はオスマンにフーケを雇った経緯について問い詰めた。 正直に“色香に目が眩みました”と答えたオスマンに死ねばいいのにという呟きが漏れたが誰も否定する者はいない。 非難の眼差しをごまかすかのようにルイズとキュルケにはシュヴァリエの爵位申請が宮廷に出され、タバサには精霊勲章の授与が申請されたことを告げ、ぽんぽんと手を打った。 今夜『フリッグの舞踏会』が行われるという。パーティーでの戦闘服――ドレスを身に纏い美しく着飾ろうと出ていった少女達とは反対に、ミストバーンは残った。 「あの筒は私の世界の道具だ」 オスマンは世界が二つあるような言い方に異論を挟まず、納得したように頷いた。ミストバーンの異質な空気から別世界の住人であることを気づいていたのだろう。 だが、何故破壊力は持たぬはずの魔法の筒に物騒な名が冠されたのか。 オスマンは遠い目をして語り始めた。 三十年前、森を散策していた彼はワイバーンに襲われ、そこを救ったのが筒の持ち主だった。 彼がデルパと唱えると見たこともないモンスターが飛び出し、破壊神のごとき恐ろしい勢いでワイバーンを蹴散らしたため破壊の筒と名付けたのだという。 そのモンスターは結局逃げ出して戻ってこなかった。追いかける余裕もなくオスマンは怪我していた恩人を学院に運び込み、手厚く看病したものの死んでしまったのだと言う。 誰が呼んだか尋ねたが、オスマンは首を振った。 「わからん。どんな方法でこっちにやってきたのか最後までわからんかった」 次にオスマンはミストバーンの左手に視線を移した。 「これが光ると、力が湧き上がる気がした」 「……ガンダールヴの印じゃよ。その伝説の使い魔はありとあらゆる武器を使いこなしたらしい」 それ以上のことはわからない。せっかく掴んだと思った手掛かりは再び零れ落ちていった。 だが、この学院やルイズに関わることで元の世界に戻れるきっかけが掴めるかもしれない。しばらくは彼女の傍で過ごすしかないようだ。 食堂の上の階のホールでは舞踏会が行われていた。 戦闘の後の栄養補給のため美しく優雅に食事を進める彼は妙に場の雰囲気に馴染んでいた。 食物に戦いを挑むのはタバサであり、キュルケは言い寄る男達と楽しげに語らっている。ギーシュは凄まじい色彩感覚をぶちまけた衣装で周囲の度肝を抜いていた。 栄養を十分に摂取したと判断したミストバーンはやがてバルコニーに移り、二つの月を眺めている。 それぞれにパーティーを満喫していると、やがて衛士がルイズの到着を告げた。 ルイズは桃色がかった髪をバレッタにまとめ、ホワイトのパーティードレスに身を包んでいた。 その美貌に次々に男たちが群がりダンスを申し込むが、彼女は全て断るとミストバーンに近寄って来た。 「踊らないの」 「……私は戦いしか知らぬ」 彼が生まれたのは戦場に渦巻くどす黒い思念の中。体を持たぬ彼は他者に宿り、次々と強い体へ移っていった。 器が傷つこうと痛みを感じることはほとんどないが、極上の料理も美酒も愉しめない。己の手で打ち負かしたという実感が無いため戦いの快楽すらない。 何のために生きるのか――自我が芽生えてからずっと心の中に溜まっていた疑問は、主と出会うことによって解答を与えられた。 夜空の双月を見上げる。想うのは常に主のこと。 「私の世界では、月は一つだった」 「その……バーン、様に月が二つあると教えたら何て言うかしら?」 ルイズが寄り添うように立ち、同じく見上げながら問いかける。彼女は儀式の時の様子から、彼にとって最も大切な者の名を察していた。 「あの御方ならば、まず太陽が二つあるかどうか気になさるだろうな」 珍しく余計なことを喋ったミストバーンに、ルイズは微笑んで一礼した。 「わたしと一曲踊って下さいませんこと?」 「踊ったことなど――」 どこまでも真面目に答える彼は心なしか戸惑っているようだ。 ルイズはクスリと笑い、彼の手を取る。 「知らないなら、これから知ればいいじゃない」 自信満々にホールの中央へ進み出る。足を踏んでも知らんぞ、と無言の圧力が襲いかかるが気づかぬふりをする。 彼は最初こそぎこちない動きだったものの、徐々に慣れてきたのか動きは滑らかになっていく。 やがて二人の姿は調和し、溶け合っていった。 切り離すことのできぬ光と影のように。 第一章 光と影 完 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2012.html
岩明均『ヒストリエ』より、古代ギリシアのスキタイ人奴隷トラクスを召喚 (※注意!! ルイズの扱いが酷いです。グロ描写にも注意。) ゼロの蛮人(バルバロイ)-第一話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第二話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第三話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第四話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第五話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第六話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第七話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第八話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第九話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第十話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第十一話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第十二話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第十三話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第十四話 ゼロの蛮人(バルバロイ)-第十五話
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2708.html
「ももえサイズ」の死神ももえを召喚 参考 ももえサイズ(wikipedeia) ゼロの使い魔ももえサイズ-1「ゼロの使い魔ももえサイズ」 ゼロの使い魔ももえサイズ-2「ゼロの使い魔死神フレイム二年生ももえサイズ」 ゼロの使い魔ももえサイズ-3「ゼロの使い魔死神フレイムデルフリンガーシルフィード二年生ももえサイズ」 ゼロの使い魔ももえサイズ-4「ゼロの使い魔死神友情フレイムデルフリンガーシルフィード香水下級生ももえサイズ」 ゼロの使い魔ももえサイズ-4.5「出張由美ちゃん~はじまりは超展開~」 ゼロの使い魔ももえサイズ-5「ゼロの使い魔死神友情タバサの裏設定フレイムデルフリンガーシルフィード香水下級生ももえサイズ」 ゼロの使い魔ももえサイズ-6 「ゼロの使い魔死神友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィード香水下級生ももえサイズ」 ゼロの使い魔ももえサイズ-7 「ゼロの使い魔死神ガーゴイル友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィードネギ香水下級生ももえサイズ」 ゼロの使い魔ももえサイズ-8「ゼロの使い魔死神ガーゴイル友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィードネギ香水草鞋下級生ももえサイズ」 ゼロの使い魔ももえサイズ-9ゼロの使い魔死神ガーゴイル友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィードネギ香水草鞋干し肉細長い棒悪魔の猟銃下級生ももえサイズ」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3127.html
前ページ次ページゼロのドリル 三ヶ月後――。 「無理だ……勝てっこないっ!!」 総数七万のアルビオン軍を目の前にして、伝説のゴーレムであるカオガミ様の副操縦士になったギーシュはそう叫んでいた。 なぜギーシュが副操縦士になったのか。 それはルイズが自分の巨大な魔力を上手く調節できなかったからだ。 カオガミ様が傷ついたとき、ルイズは簡単な修復にも無駄な魔力を使っていた。それを見かねたコルベールが効率よく魔力を使えるよう、土のメイジを乗せれるように改造したのだ。ゴーレムのことで、土のメイジの右に出る者はいないから。 もっとも改造などと大げさな言い方をしているが、実際には三十メイルのゴーレムの胴体部分に穴を開けて人一人が座れるスペースを空けた程度だ。 「ちょ、ちょっと!! 男の癖に弱腰にならないでよ!」 自分が座る操縦席の下にいるギーシュに向かって、震える声でルイズは叫んだ。 アルビオンとの戦争でめざましい活躍を見せたカオガミ様のゴーレムは現在、アルビオンから撤退するトリステイン軍の殿を任されていた。 七万を前にして自分はただの一体。逃げることは許されない。なぜなら、これは死守命令。つなわち、命がけで守れと言う命令だ。 死んだらどうなるんだろう? 痛いのかな? 暗いのかな? ブリミル様の元に召されるのかな? 分からない、怖い。 操縦桿を持つ右手がガチガチと震える。ルイズは左手で右手首を握りしめて、無理矢理その震えを抑え込もうとした。 それから何度か深呼吸して、自分と同じように震えてるであろうギーシュに呼びかける。 「ギーシュ。私を信じなさい。あんたが信じる、私を信じなさい」 「君が信じる僕は? 君が信じる僕はないのか、ルイズ?」 「私たちはこんな所で負けないんだから」 「スルー!?」 ゼロのドリル 中編「あばよ、デル公」 そんな二人の会話を、ルイズが座る操縦席の後ろで聞いていた喋る剣、デルフリンガーが遮る。 「漫才もいーけどよ、嬢ちゃん。そろそろ敵の射程に入っちまうぜ、これ」 直後。目の前が真っ赤に燃え上がる。大きくゆれるカオガミ様。炎の魔法が直撃したのだ。 「ひ、ひぃ!」 ギーシュの口から悲鳴が零れる。作戦級の規模を想定した大がかりな魔法攻撃が直撃したのだ。現在のハルケギニアでこの炎を受けて生きている人間はいない。 そう、今回の戦争でカオガミ様が挙げた戦果は戦術レベルではなく、作戦レベルで考えなければならないほど大きかったのだ。 「こ、のぉ!」 炎を放ってきた魔術師隊に向けて拳を突き出す。距離にしておよそ数百メイル。パンチが届く距離ではない。 敵はカオガミ様の射程外から一方的に魔法を撃つ作戦のようだ。 しかしルイズは慌てず、魔力――と信じている"力"が拳に集まるイメージを固める。すると拳からドリルが出現。出現したドリルはそのまま拳を離れると、回転しながら敵の部隊へとぶっ飛んでいく。 大慌てで敵はドリルをかわす。地面に突っ込んだドリルは回転もそのままに、周りの土をえぐり取りながらアルビオン大陸を貫いた。 「よし、このまま遠距離から攻撃するんだルイズ!」 「そいつは賛成できねーなぁ」 「インテリジェンスソードは黙っていたまえ。僕はルイズに言っているんだ」 「なによ。ギーシュの癖に私に命令する気?」 「め、命令じゃないよ。提案だ」 ルイズは意識をゴーレムの背中につんだ風石へとやる。緑色の光が風石から溢れだして、カオガミ様の身体をフワリ――と、宙へ持ち上げる。 「お。嬢ちゃんは分かってるみたいだねぇ」 「ななな、何を考えているのかねルイズ。そうか! 空から攻撃するんだね! それなら更に敵から距離を稼げる!!!」 「突っ込むわよ! ギーシュ!!!!」 「ほ、本気かいルイズ!! ミス・ヴァリエール!!!!」 「ええ! 本気よ!!!!」 ルイズがゴーレムの片腕を丸ごとドリルに変える。するとギーシュは慌ててそのドリルをルイズの魔力を使って青銅へと錬金した。 巨大なドリルを尽きだしたまま、カオガミ様は一直線に敵の本陣へと突っ込んでいった。 遠距離からの差し合いでは数の差、そこからくるスタミナの差で負ける。それがルイズの判断であった。 ゆえに一見無謀とも思える中央突破を強行することにしたのだ。 「司令塔や指揮官を狙え」 敵陣の中に降り立ったルイズはデルフリンガーのアドバイスを聞くやいなや、即座に多くの兵に守られている貴族に狙いを定めた。 足下では土のメイジがゴーレムを錬金してただの土くれに戻そうとしている。 片手のドリルでそのメイジ達を薙ぎ払いながら、ルイズはひたすら司令塔を倒し続ける。 倒した指揮官の数が二十を超えた辺りで、土のメイジ達はルイズのゴーレムに対抗するために、数百人で力を合わせ同じ大きさのゴーレムを数体作り出した。 「ふはははは!! 見ろ、このゴーレムの数を!! たった一体で何が出来る!!」 どこかの誰かがそう叫ぶ。たまたま聞こえたその声に、ルイズは律儀に応えてやった。 「ふん。やってみせるわよ!!」 死への恐怖と、命より大切な誇り。その天秤を、力尽くで誇りに傾けるために、ルイズは叫んだ。 敵のゴーレムは軍人らしい連携のとれた動きでカオガミ様を包囲する。 包囲されたルイズは迅速に、迷わず、包囲したゴーレムの中の一体に飛びかかって思いっきり蹴っ飛ばした。 迷いのない動きにうろたえた他のゴーレムの動揺を見逃さず、続けてすぐ側にいたゴーレムを思いっきり殴りつける。 冷静さを取り戻した他のゴーレムが一斉に飛びかかってきたのを見るやいなや、ルイズは全身から高速で回転するドリルを生み出して全てのゴーレムを貫いた。 ――いける!! このまま押し切れば勝てる。 一瞬で全てのゴーレムを葬ったルイズを見て、敵の大部隊は恐怖に駆られて統率を失い始めていた。 勝機が見えてきたルイズの心に、ほんのわずかな隙が生まれた。 「油断すんねい嬢ちゃん!! "風"がくるぞ!!」 その一瞬の隙を突いた者がいた。 元トリステイン王国魔法衛士隊・グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 ルイズの元婚約者であり、今は――敵。 愛馬であるグリフォンに跨り、上空から一気にカオガミ様の、ルイズの操縦席めがけて急降下してきた。 どうやらこの戦いが始まってからずっと、ルイズ達の直上に控えてチャンスを待っていたらしい。 ワルドは落下の加速と風の魔法による加速、更に偏差による分身と鉄も切り裂くウィンドカッター。これら全てを使ってカオガミ様に突っ込んできた。 大きな音と衝撃が戦場に木霊した。 ワルドはこれだけの魔法を使った。これだけ使ってようやくルイズが座る操縦席を覆う装甲に、亀裂を一筋だけ入れることが出来た。 そして、風のメイジである閃光のワルドにしてみれば、この亀裂だけで十分だった。 小娘一人を葬るぐらい、この程度の亀裂があれば十分だったのだ。 「さよなら、僕のルイズ」 「ワ……ルドさま……」 亀裂からルイズに向かってエアカッターを唱える。 ルイズは咄嗟に魔法を吸収するデルフリンガーを盾にしようとした。 斬――と操縦席の中に音がなり、操縦席が真っ赤に染まる。 にやりと、ワルドの顔に笑みが浮かぶ。 間に合わなかった。 真空の刃は、エアカッターは、ルイズの脇腹を引き裂いていた。 胴体が真っ二つにならなかったのは、ギリギリで身体半分だけデルフリンガーを盾にすることが出来たから。 口からゴポリと血の塊を吐き出した。痛みでこぼれる涙で霞む瞳で、元婚約者の顔を見る。 ワルドはトドメのエアカッターを唱えようとしている。急いで振り払わなければいけないのに、手には力がこもらない。息は吐くばかりで、なぜか吸うことが出来なかった。 あ……そっか。私、死んじゃうんだ。 当然のようにそう覚悟して……操縦桿を握る手がルイズの意志を無視して動いた。 カオガミ様の手がへばりついていたワルドをはじき飛ばす。 「その傷でまだ動くか!」 吹き飛ばされたワルドの表情が驚愕でゆがむ。 血に染まった操縦席。そこに座るルイズの瞳からは、すでに光が消えていた。 けれど操縦桿を握る手にだけは、まるで本人の意志を無視しているかのように、不気味に力がこもっている。 「吸った魔力の分だけ、持ち主を動かすことが出来る力。どたんばで思い出したねぇ」 ルイズの片手に掴まれていたインテリジェンスソードがそう呟く。 「坊主! 嬢ちゃんがもたねぇ……退くぞ!!」 「なんだなんだ? なにかあったのかね?」 副操縦席にいたギーシュには何が起こっているのかサッパリ分からなかった。 状況の説明を求めるギーシュの言葉を無視して、デルフリンガーはルイズの身体を操作してカオガミ様を浮かばせると全速力で戦場を離脱した。 「なにをやっているんだい、ルイズ!? し、死守命令を無視するのか?」 「死守ならやったよ。嬢ちゃんはな、文字通り死ぬまで、よ」 カオガミ様の身体から急速に力が無くなり始めていた。ルイズの"力"が供給されなくなったせいで、もう動かなくなり始めていたのだ。 「あと使えるエネルギーは……これだけってわけかい? たまんねーな」 デルフリンガーはルイズの身体を操作するとカオガミ様にスピンオンされていたコアドリルを抜き取り、代わりに自分の刀身をその穴にそえる。 「……な……にを」 か細い声がした。 血まみれの少女の、死体と言っても過言ではないほどボロボロの少女の口が、ほんの少しだけ動いた。 「してる……の……デルフ」 「こーすんでい」 朦朧とゆれるルイズの瞳に見られている中で、デルフリンガーの刀身が緑色に輝き出す。 「覚えとけ嬢ちゃん。おめぇさんの使ってる力は魔力じゃねぇ、螺旋力ってんだ」 輝きが消えたとき、デルフリンガーの刀身はルイズにとって良く見慣れた、螺旋を描く突起物。ドリルとなっていた。 「俺がインテリジェンスソードであるために使っていた進化エネルギーを螺旋力に戻す! うけとれぇい、ルイズ!!」 そのままルイズの身体を操作して、デルフリンガーは自らのドリルをカオガミ様にスピンオンした。 サイズが違いすぎるせいで差し込み口を破壊してしまったが、ひび割れた隙間から溢れんばかりの光が零れだした。 そうして……デルフリンガーはルイズの目の前で光の粒子となって消えていく。 眩い光を全身から放ったカオガミ様は、そのまま戦場から猛スピードで離脱した。ワルドのグリフォンですらそのスピードには着いていくことが出来なかった。 真っ赤に染まった操縦席で、ルイズはぼんやりとデルフリンガーが消えた螺旋ゲージを眺めていた。 ――お礼を言っておくね、デルフリンガー。一応、ここまで付き合わせたギーシュは無事にモンモランシーの元へ返してあげたかったから。 デルフリンガーの螺旋力も切れたカオガミ様は、しばらく飛び続けた後そのまま近くの森に墜落した。多くの木々をなぎ倒しながら、森の中で横たわる。 そのカオガミ様の操縦席の中で微笑みながら――ルイズは息絶えたのであった。 次回 後編 「天の光は、全て虚無」 前ページ次ページゼロのドリル
https://w.atwiki.jp/4423/pages/339.html
編集する。 カウンター - 2024-09-03 03 40 07 (Tue) ゼロの使い魔の用語は、 * * * * * * リンク * * * * * * [[]] [[]] リンク コメントログ 名前 コメント 編集する。 出典、参考
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/224.html
「テイルズオブシンフォニア」のジーニアスが召喚される話 ゼロのマジックユーザー1 ゼロのマジックユーザー2 ゼロのマジックユーザー3