約 1,077,096 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1040.html
食堂はすでに閑散としていた。生徒たちの大半は教室を目指し、先ほどまでの喧騒もそれに伴い移動している。 「ご精が出るのう、お嬢さん」 トンペティに声をかけられたメイドは、 「ありがとうございます」 微笑み返し、少し頬を赤らめミキタカへも微笑みを投げかけた。ミキタカは静かに笑い返し、メイドの頬が一層濃い朱に染まる。 掃除中のメイドが離れていくのを目の端で追い、ミキタカは口を開いた。 「どうでした、老師」 「ふむ……」 手を開き、握り、また開き、握る。掌には幾本もの深い皺が刻まれ、それに倍する古い傷跡が走っていた。 「これは主の求めている答えではないかもしれんがの。ルイズ嬢は……なかなか面白い」 「面白い、とは?」 「うむ。パイプ、いいかね?」 「どうぞ」 深く吸い、吐く。鼻から、口から。 「ルイズ嬢から感じ取った生命エネルギーは男のものと女のもの、合わせて二種類。といっても一種類」 「それは興味深いですね」 「その通り」 紫煙をくゆらせ、より深く腰掛けなおした。 「強い絆。絶ち難き縁。恋や愛もあるが、それだけでは無かろう。ルイズ嬢の深い部分に食い込み、二つの生命エネルギーはもはや一つと呼ぶに相応しい。うらやましい話じゃ」 「多重人格のようなものですか?」 「違う。もっと根本の部分でつながっておる。双方がお互いを喜んで受け入れている。そうじゃの……自分の中にもう一人の使い魔がいる、とでも言えばいいか」 「使い魔ですか」 「陳腐な例えを使うとすれば『運命に逆らってでも離れたくなかった恋人たち』じゃな」 「なるほど。ルイズさんの内面にも何かしらの影響がありそうですね……」 顎に指を当て考える。鼻のピアスと耳のピアスを繋ぐ紐が指をくすぐり、こそばゆい。 「判断材料は増えましたが、これは色々な意味で複雑な問題です」 言葉とは裏腹に、口調ははずんでいた。トンペティも楽しそうに煙を吐いている。 「この問題は夜にでも考えるとして、今は実際的に動くとしましょう」 「別の男女のためかな?」 「義理が多いというのも大変です。正月に付き合いで子供とババ抜きする大人の気持ちです」 やはり、言葉と口調は裏腹だ。パイプを離そうとしないトンペティをそのままに、軽い足取りで厨房の入り口に向かった。 生徒達が食事をとった後でも料理人の仕事は終わらない。次の仕込み、洗い物、皆が皆休む暇なく動き続けていた。 「ちょっといいですか」 その場にいた全ての人間が手を止め、声の主を確認し、一人の例外もなく笑い、作業に戻った。 嘲りではない。声の主に対する「こいつは次に何をやってくれるんだ」という期待を覗かせている。 「マルトーさん。下のゴミ置き場に置いてあった大鍋をもらってもいいですか」 「なんだミキタカ、また何か面白いことでもしようってのか」 コック、メイドといった学院内で働く平民達はミキタカに好感を抱いていた。 貴族であっても偉ぶらず、他の貴族達を彼一流の諧謔で煙に巻く様は見ていて痛快だ。 支持者筆頭が押し出しの強いことで知られるコック長のマルトーであり、ミキタカの頼みであれば多少の無理をも通してくれた。 「いいえ。もう少し切実なことですよ」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/487.html
ギーシュとの決闘から数日、ヴァニラは比較的安定した日常を送っていた 平民が貴族を、それも魔法とは違った力で倒したという噂は学園中に広がり 初めの日こそ無謀にも決闘を挑んだ生徒もいたが杖を消し飛ばされる者が続出し、すぐにいなくなった ついでに財布を盗られたという者もいたが確かめる勇気のある生徒は・・・・教師もだが、一人もいなかった 食事もシエスタが厨房の責任者にかけあい貴族が食べているものと同じものが供されることになり 借りを作るのを良しとしないヴァニラが初めの方こそ拒んだがコック長のマルトーは貴族嫌いらしく 彼曰く、いけ好かない貴族を負かしてくれた礼だということで受けることにした だがその生活の中にもいくつか問題点はある ひとつはギーシュ・グラモン、通称ヌケサク あの決闘でほとんど攻撃らしい攻撃を受けるまでも無く、挙句の果てに自分の作った剣で杖を弾き落とされるという不名誉な敗北を喫し 彼の貴族としての誇りは酷く傷つき、そのまま大人しくしょげ返ってれば何の問題も無いのだが 決闘を見ていた生徒の数人からもヌケサク呼ばわりされ、あろうことか再戦の機会を狙っているらしい ルイズは「また騒ぎになったらどうする気よ!?」と騒ぎ立てていたがヴァニラは「その根性だけは褒めてやってもいい」と評価を改めた もちろん絶対に負けないという自負の上での発言であろう そしてもうひとつ これが一番重要な問題であったがルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、ヴァニラの自称・ご主人様 ヴァニラが彼女に従っている唯一にして最上の理由は元に戻る方法を探すこと だがそれが叶えられる望みが非常に薄いことを知ってしまった ギーシュとの決闘の次の日、ルイズの授業に付き合わされたヴァニラは面倒臭そうな顔で階段に腰を下ろしていた 講堂のような造りになった教室の最下段にたった教師が何か話しているがヴァニラはそれを聞き流しながら今頃ジョースター一行を討ち果 たしているであろうDIOのことを考え、僅か二日で何度目かも覚えていない望郷の念に苛まれていた その時教師であるミス・シュヴールズはルイズをダシに調子こいた二年坊に上下関係を叩き込もうとしていたが致命的なミスを犯そうとし ている事に気づいていない それは 「ミス・ヴァリエール、前に出てこの石ころを望む金属に錬金してごらんなさい」 その瞬間、教室中に緊張が走るッ! それはさながらどこかの高校生が髪型を馬鹿にされた瞬間の女子生徒ッ!! 只ならぬ気配を察知したヴァニラが顔を上げた時にはルイズがゆっくりと教壇に向かい、クラスメイトたちが呪詛や罵倒の言葉を口々に叫 びながら机の下に潜り込んでいる最中だった 状況が掴めず訝しそうに眉を顰めるヴァニラを他所に、ルイズを向かいいれたシュヴールズはにっこりとルイズに笑いかけた 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 その言葉にこくりと頷いて、ルイズは手に持った杖を振り上げた すっかり避難が完了した生徒達の何人かは未だに階段に座ったままのヴァニラに気づき「かわいそうだけどあしたの朝にはお肉屋さんの店 先にならぶ運命なのね」といった感じの哀れむような視線を送る・・・・送るだけで何も言わなかったが 「・・・・・・」 一方のヴァニラはルイズが魔法を使ったところをまだ一度も見たことが無いのでどの程度の実力なのか見極めようと観察する気満々ッ それにしてもこのヴァニラ、ノリノリである ルイズは目を瞑り、短くルーンを唱え、杖を振り下ろし そしてその瞬間、机ごと石ころは爆発した 爆風をモロに受け、リズとシュヴールズは黒板に叩きつけられた 彼方此方から悲鳴が上がり、爆発に驚いた使い魔たちが騒ぎ出したが問題は砕け散った石ころの破片ッ!! 加速度的に広がる破片はさながら榴弾砲の如く飛び散り、椅子や机に容赦なく減り込む 「何ィィィッ!?」 咄嗟に亜空間に逃れようとするヴァニラだが突然のことに対応が遅れ足や肩に数発喰らってしまった 爆発の余波が収まった頃に漸く亜空間から顔を覗かせたヴァニラが見たのは煤で真っ黒になったルイズがむくりと立ち上がり、阿鼻叫喚の 教室を意に介した風も無く、顔に付いた煤を取り出したハンカチで拭きながら、淡々といった瞬間だった 「ちょっと失敗したみたいね」 この日、ヴァニラは『ゼロ』の意味を知り、帰る望みを半分以上、捨てた To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/535.html
いまだに私に目を向けないマンモーニは金属…おそらく青銅…の人形を作り出した あれを操るらしいが、何も支持されていないのか、微動だにしない 私はこれ幸いと人形の横を擦り抜けて… 【逆に考える使い魔】 「僕は魔h「蹴り穿つ!」ぉつべらッ!?」 何をしたか? 簡単だ、容赦無く[コークスクリュー式ボディストレート]を叩き込んだ! 風車のように回転しながら水平に飛んでいくマンモーニ… お?気絶しなかったか!やるな! よし!マンモーニからフラレ虫に格上げしよう! 「ひ、卑怯な…」 フラレ虫が悔しそうに唸るが、相手にしない! 「馬鹿者!決闘者が相対した時点で闘いは始まっているのだ!」 うむ、格好良い!流石は私だ 「ところで…だ、君は私に『お仕置き』をする…と言っていたね…、それは無理な相談だな… だから 私が 君に 特別な 『お 仕 置 き』をしてやろう。」 左手のルーンが猛烈な光を放つ! ルーンから流れ込む知識に従い、私はズボンを脱ぎ捨て! バックステップ、バック転と続け様に距離をとり! 一転して一気に走り込み! フラレ虫に向かって大ジャンプ! 体を海老のように反り! そのまま強調された私の『ちまき』を --少々お待ち下さい-- 「ふ、虚しい勝利だ…」 青銅のギーシュ 第二~第五肋骨完全骨折 内蔵損傷 精神的苦痛により 再起不可能!(リタイア!) なに?なぜ私が強いのか気になる? 逆に考えるんだ、『実は私は義理の息子を瞬殺する力を隠していた』と考えるんだ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1924.html
キュルケに部屋の交換を断られたワルドとルイズ、彼女の使い魔は番頭の親父に、四人部屋に案内された。 「かなり広いな。このの感じだと、日本の東京ならスウィートクラスといっても通るな」 そう発言したのは露伴である。彼の言うとおり、案内された部屋はかなり広い。 また、壁紙はベージュの地に、茶色の縦線が趣味のよい間隔で描かれていたものだ。 なるほど、四人部屋といっても、貴族のために作られたホテルであるらしい。 部屋の中央に、ルイズの部屋にあるものよりふた周りほど大きい、四角い机がおかれている。 「いや、この広さならイタリアのホテルでもそんなにないと思うぞ」 「もっと狭いかと思ったけど。この程度ならあまり不満はないわね。ちょっとは安心したわ」 部屋の入り口から入って右側に、シングルベッドが四つまとめて配置されていた。 二つずつ縦に、互いに頭が向き合うように配置されている。 また、左側はちょっとした広間として利用できるようで、背もたれつきのソファーが二つ対面するように並べられている。背もたれは赤い絨毯地で、足載せも完備。 この部屋は中庭に面した三階なので、ソファーにくつろげば、窓を通して、中庭が見ることができた。だが、中庭は物置になっているようで、部屋の眺めはあまりよろしくはない。 入り口の正面、反対側に暖炉も備え付けられていた。店番はそこに向かっていくと、自分の懐から火打石を取り出し、同じく懐から取り出した紙屑に火をつけた。そこでかがみこんで、暖炉に火をくべようとしている。 「明かりは必要ないと思うがな」ブチャラティは部屋の壁を見ながら店番の背中に話しかけた。 ブチャラティの見る方向の壁には、魔法で点灯する、学院にあるものと同じタイプのランプが二メイル間隔で均等に配置されていた。 明かりならば、暖炉の火を使わずともそれで十分なはずである。 だが、店番の男は暖炉に屈みこみながら、なおも作業をやめない。 手馴れたもので、すでに種火はつけおわり、鞴で薪に火を移している。 「いえ、ラ・ロシェールの夜はこれからが冷えますんで」 要は山岳地帯なので、気温の落差が激しいらしい。 店番は、これは地元のワインですと言ってひとつの瓶をテーブルに置いて退室した。 これで体を温めろ、という事らしい。 「なるほど、シャトー・ツェッペリンの赤か……」 露伴がその瓶の銘柄を確認しながら、ラベルをスケッチしている。 「それは、この地元のワインね。結構やわらかい、飲み易い味わいのはずよ」 「ルイズ、君の体力は大丈夫か?」 ブチャラティはそういいながら、暖炉に一番近いベッドに自分の荷物を置いた。 「大丈夫よ、ありがとうブチャラティ。かなり疲れてはいるけど、この後お風呂に入るぐらいの余裕はあるわ」 ルイズはそういいながら、ブチャラティの隣、壁際のベッドに腰掛けた。 彼女はそういっているが、見た目にはかなり疲れているように見える。 今にもベッドにもぐりこんで熟睡したいのを、彼女は貴族のプライドで我慢しているようだ。 「そうか。だが、休めるうちに休んでおくべきだな。風呂からあがったら、ワインでも飲んで体を温めてから、すぐに眠るといい」 そのようなやり取りを尻目に、ワルドが二人の背後から話しかけた。 「ルイズ、話がある」 ワルドはそういいながら、早々に自分の荷物を入り口の傍らにおいてあるベッドの側に置いている。彼の目は真剣だ。 「ならば、ルイズが風呂に入った後にたらどうだ? 彼女は疲れているようだ。大事な話なら、そんなに急がずに、落ち着いてから話したほうがいいだろう」 「そうね。それで良いかしらワルド? そのほうが私、あなたのお話をじっくりと聞くことができると思うの」 「あ、ああ。それじゃあ、僕達男性陣も旅の垢を落とすことにしようか」 ワルドはそういいながらも、心残りがある調子で部屋を出て行った。 「ワルドの話? いったいなんだろう……」 ルイズは一人ごちながら、部屋の隣にあるという女性用の風呂に向かっていった。 「ふう、さっぱりしたわね」 ルイズが個室に付いていた風呂からあがり、宿屋備え付けの白いローブに着替える。 綿の感触が心地よい。 ルイズがさっぱりとした気分で部屋に戻ると、男三人はすでに寝巻き姿で机の周りを囲むように座っていた。 「待った?」ルイズは髪をバスタオルで拭きながら皆に聞いた。 彼女は自慢の髪の毛を洗っていたので、いつもより入浴時間がかかってしまっていた。 「いや、そうでもないさ、ルイズ。俺たちもさっき部屋に帰ってきたばかりだ」 ブチャラティが、机に置かれた四つのグラスにワインを注ぎながら答える。 彼らも共同浴場から帰ってきたばかりのようだ。 「ちなみに、女性用の浴室はどんな感じだったか?」 露伴の質問に、ルイズは目をぱちくりさせながら答えた。 「どんなって言われても…普通の小さなバスに、シャワーが付いていただけよ? 今回は小さな個室の風呂を使ったし」 「そうか…」露伴はあからさまに残念そうな声を発した。なぜか失望している。 彼がこのような質問をしたのは理由がある。 男三人は大きな共同浴場を利用したのだが、これは宿主自慢の大きな複合施設になっていた。 全面大理石の床に、暖めた蒸気を循環させた快適な気温管理。さらにプールほどもある大きさの浴槽の周りに、従業員が常時二人以上付いていて、宿泊した人には無料で垢すりをやってくれる。おまけにサウナまであった。 男性陣とルイズの入浴時間がそれほど違わなかったのは、露伴がそこで即席の取材を行っていたからだ。 四人は机を囲んで座り、宿の親父が持ってきたワインを飲んでいた。 なぜか部屋には沈黙がある。ワルドは話があると自分からいっておきながら、話しづらそうであった。彼は露伴たちをチラチラと見ている。 先に言葉をつむぎだしたのはルイズだった。 「ねえ、ワルド。あなたと最後に会ったのは……」 ルイズはワルドに言いかけ、ハッと口をつぐんだ。 しかし、言われた当の本人は特に気にした風でもなく、ワイングラスを傾けながら先を続ける。 「君と僕が最後にあったのは、僕の父上がランスで戦死して、その葬式を行っていたときだったね」 「ええ、そうね」 ルイズは罪悪感で声を鈍らせている。 「いいんだ、ルイズ。あの時から、長い年月が過ぎた。僕の父上は立派に貴族としての義務を果たした。 それについては誇りを抱いているし、父上が死んだ悲しみは時が癒してくれたよ。だが、君の美しさは時がたっても変わっていない。いや、ますますかわいらしくなったよ」 「そんな、こと、ないわよ」 顔を赤らめたルイズは、それを隠すかのようにワルドに向かって語りかけた。 「あ、あなたはあの後どんなことをやっていたの? 私、あの後あなたの領地に何度か行ったのよ? でもあなたは全然実家に帰ってくることはなかったわ」 ワルドは顔をほころばせ、ルイズの頭をなでながら微笑んだ。 「そうだね。僕はあの後すぐにトリステインの魔法衛士隊に入隊したんだ。軍務が忙しくてね、領地にはまったく帰れなかったんだよ。いまだに屋敷も執事のジャンに任せっぱなしさ。まあ、そのおかげで隊長になれたけどね」 「そうだったの」 「そうさ。なにせ、家を出るときに決めていたからね。ルイズ、僕は立派な貴族になって君を迎えに行くってね」 「え…?」 ルイズは心底驚いた。家が隣同士でもあり、どちらも由緒正しい家の出であることもあって、ルイズとワルドの両親は、二人の婚約を決めていたのだった。 しかし、当時は二人とも小さな子供。婚約といっても、戯れに交わした約束のはずである。 実際、ルイズはワルドに言われるまでそんな約束があった事すら完全に忘れていた。 「そうさ、ルイズ。僕にとって、君との婚約話は真剣だったんだよ。無論、今もね」 今、なんていったの? そういおうとするルイズの機先を制し、ワルドは言った。 「だから、ルイズ。この旅が終わったら結婚してくれ」 「ええ?」 ルイズは再度驚いた。驚愕したといっても良い位か。 彼女は年頃の乙女であったし、素敵な新婦の姿にあこがれることもあった。 だが、彼女は学生であったし、結婚なんてまだまだ先の事、と思っていた。自分が結婚するなどとは現実感がいまいち沸いてこない。 ルイズは、目が覚めていながら何か妙な夢を見ているような気分を抱いた。 ワルドとはいい思い出しかないが、それは恋愛感情なのだろうか? ルイズにとって、ワルドは憧れなのか、恋心なのか、いまひとつ自分の気持ちがわからない。 ルイズにとってワルドはいい人である。それは間違いない。 だが、今までろくにあっていない人物であったのも確かだ。 それなのに、いきなり結婚などと…… 彼女はこのときどう返事をすればいいのか、どのような表情をしていいのか判らなかった。 ルイズは二人の使い魔を盗み見た。 「なあ露伴。この世界じゃルイズの年齢で結婚するのが普通なのか?」 「さあ、そこまでは僕にもわからないな。なんとも言えないが、ワルドの口ぶりからすると貴族連中の間では珍しくはないんじゃぁないか?」 完全に他人事である。特に露伴は。じつに気楽な表情がなんとも憎たらしい。 「で、でも。私なんかじゃ魔法衛士隊の隊長はもったいないと思うわ。私みたいなろくに魔法が使えない小娘なんて相手にしても……」 「違うんだルイズ。君は自分の本当の力に気が付いていないだけなんだ」 ワルドは自分のグラスに二杯目のワインを注ぎながら語る。 「君は失敗ばかり繰り返して、二人のお姉さんといつも比べられていたね。 でも違うんだ。君は特別なんだよ。スクェアクラスになった今の僕にはわかる」 「そんなことないわ。私はマトモな使い魔も召喚できなかった落ちこぼれよ」 照れたように否定するルイズに対し、ワルドは大げさとも言えるほどに頭を振った。 「違うさ。君の使い魔達、彼らのルーンはどんな意味を持つか知っているかい?」 「いえ、そういえば知らないままにすごしてきたわね」 ルイズは、召還の儀式を行っていたとき、コルベール先生が興味深そうに印を見ていたのを思い出した。 あの博識なコルベール先生も一見ではわからないようだった。かなり珍しい印であることは想像できたが、今まで深く考えたことはなかった。 「アレは『ガンダールヴ』のルーンさ。伝説の使い魔の印さ」 「『ガンダールヴ』?」 「そう、始祖ブリミルが用いたという、伝札の使い魔を君は呼び出したんだよ」 「……平民よ? ドラゴンでも幻獣でもない、ただの一般人よ?」 「『スタンド使い』がただの一般人といえるかい?」 ワルドの一言で、使い魔の二人はようやく話を真剣に聞き始めていた。 「おい、ワルド君よ。君には僕達のスタンドを見せていないはずだが?」 「いや、僕のルイズが召喚したからね。君達がただの平民ではないとは、簡単に想像がつくさ」 「だが、俺達がここに召喚されたときは誰一人として『スタンド』は見えていてもその概念を知るものはいなかった。お前は何故『スタンド』の存在を知る?」 ブチャラティが口を挟んできた。いつの間にか警戒態勢をとり、ワルドを自身のスタンドの射程内に納めている。 ワルドは少し時間の間をおくと、罰の悪そうに頭をポリポリと掻いた。 「しょうがないな。これは王政府の機密事項なんだが……五年ほど前から、系統魔法でも先住魔法でもない、不可思議な力を持つ平民がトリステインとガリアの国内で確認され始めた」 「で、それでどうしたんだ?」 露伴は次を促している。彼は薪をくべて暖炉の火を調節していたが、意識は完全にワルドの話にあった。 「彼らはその能力をどうやって手に入れたのか、どうしてその能力を持っているのかは王政府は解明できなかった。だが、彼らは自分たちのことを『スタンド使い』と名乗っていることが判っている」 ワルドは二人に向けて微笑をたたえた。敵意がいないことを示すため、両手を自身の杖から離したまましゃべり続けている。 「君達は魔法が使えない。だから平民だ。だが僕には、君達には得体の知れない自信を持っているように感じた。だからカマをかけてみたんだが…… どうやらあたったようだな」 「僕達はつまり、してやられたというわけか?」 「そのようだな」 一気に場の空気が弛緩する。そのときになって初めて、今まで空気が張り詰めていたことにルイズは気づいた。 それほどまでに彼女はワルドの申し出に驚いていたのだ。 ルイズは、とりあえずこう答えるしかなかった。 「いまは、考えさせて。ひとまずこの旅が終わるまでは」 「それじゃ、だめ?」 おずおずと言い出した許婚者にワルドは、ほっとした風に微笑んだ。 「そうだね、そうしよう。この話は僕達にとっても唐突過ぎたようだね。でも、僕は 君が『うん』と返事をしてくれると信じているよ」 「と、まあ。今日の話はこれぐらいにして、明日に備えて寝ようか」 ワルドはそういいながら、みなに自分の左腕を見せ付けた。 彼は手首に腕輪をしていて、腕輪の中には円盤型のガラスがはまっている。中に水と、三本の針が入っていた。また、その円盤には金属製の突起物がひとつ付いている。 なにかのマジックアイテムらしい。 「これ、ひょっとして腕時計か?」 「そうさ、少しばかり高かったが」 ワルドが露伴の質問に答えながらその突起物を回すと、今まで無秩序に浮かんでいた三本の針が規則的に動き始めた。 しばらくすると、針が正確に時を示しだす。 「もうこんな時刻だ。明日は早いことだし、もう寝ることとしよう」 「そうだな。明日は早いし、僕は船の取材を存分にしたい。もう今夜は寝よう」 ルイズの複雑な気持ちなど露知らず、露伴はそう言いながら、ワイングラスに残ったワインを一気に飲み干すと、さっさと自分のベッドに入ってしまった。 露伴とワルドの寝息がかすかに聞こえる。彼らは熟睡しているようだ。 ルイズはまったく眠れなかった。ワルドのあの話がされてからずいぶんたつというのに、まだ心臓がドキドキ高鳴っている気がする。 「眠れないわね」 そういいながら布団をどけて起き上がったルイズは、ブチャラティが寝床にいないことに気が付いた。 よく探してみると、部屋のソファーに誰かが座っていた。重なった月の光に照らされた中、ワイングラスを傾けながら外を眺めている。ブチャラティだ。 「ブチャラティ? あなた眠らないの?」 「いや、眠るつもりだったんだが、今夜は月夜が綺麗でね。少しだけ眺めていたら皆眠ってしまった。それよりルイズはどうした?」 ルイズが寝巻きのローブ上に学院のマントをはおり、ブチャラティの隣に、向かい合う形でソファーに腰掛けた。少し肌寒い。 窓を見上げると、彼の言うとおり、上空で重なった月が幻想的な光をたたえているのがみえた。 青白い光がなんとも形容できない幻想的な気分にさせてくれる。 「ブチャラティ。私、なんだか眠れなくて」 「明日は早いぞ、疲れているんだから君はなるべく休んでいるべきだ」 飲むかい? とばかりにワインボトルを傾けたブチャラティに対し、ルイズはうなずいて自分のグラスを取り、彼のほうに突き出した。 二人を、窓越しに月光が照らす中、ルイズはおずおずと語りだした。 「ブチャラティ。私はワルドの求婚にどう答えればいいと思う?」 ブチャラティは彼なりに深く考えた末、彼の前方のソファーに座りこんでいるルイズに向かって、真剣に答えはじめた。 「うーん。俺はそっち方面の話は苦手なんだがな……ルイズが思ったことを正直にワルドに言えばいいんじゃあないか?」 「正直私にもわからないのよ、ワルドのこと……私が彼をどう思っているのか……彼はとてもいい人よ…でも、それは好きとか嫌いとかじゃないような気がするの。 うん、どちらかといえば憧れかな…」 ルイズはそういいながら自分の言葉に驚いていた。 そうか。私、ワルドのことをそう思っていたのか……そうなんだ…… ……私が本当に『好き』なのは……ひょっとして……? ルイズの眼前に、彼が先日アンリエッタの前に跪き、手の甲に口付けをしている光景がフラッシュバックされるように再生された。 同時に、そのとき、自分がどういう感情を抱いたのかも思い出していた。 「ルイズ。ひょっとして、今君には誰か他に、気になっている人物がいるんじゃないか?」 突然のブチャラティの指摘の前に、ルイズは思わずブチャラティの目をマトモに見てしまった。 知らず知らずのうちに彼女の頬が赤くなる。ルイズはつい、ごまかすように夜空を見上げた。重なった月が儚げに輝いている。 「そ、そんなんじゃ……ないわよ」 「そうか? まあ、要はきみが正しいと思った道を選ぶべきだ。身分の丈がつりあわないとか、年齢に差がありすぎるとかは気にすることはないんじゃないかと思う。 君がどの道を選んでも、俺は君の味方でいるつもりだ」 そう、とうなずくルイズを尻目に、ブチャラティは立ち上がって大きく背伸びをした。 もう寝るつもりらしい。 「ブチャラティ」 ルイズは、寝床の向かおうとする彼の背中に声をかけてみた。 「なんだ?」 「その……ありがとう」 「なに、これくらいお安い御用だ」 ルイズはちょっと気取ってワイングラスを傾けた。今なら気分よく眠れそうな気がする。 彼女は重なった、『スヴェル』の月を見ながらそんなことを考えていた。 暖炉の薪の、パチパチとはぜる音が、ルイズの周りの空間を優しく包み込んでいた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/757.html
その日の朝、 「う~ん、もうちょっと~」 「はやく起きないと遅刻するよ」 「何いってんのよ~今日は虚無の曜日だからやすみ~」 等と言う事があった2時間後、 「何で起こさないのよ!今日は買い物に行くつもりだったんだから! これじゃ帰る頃には真っ暗になってるじゃない!」 育郎は馬に乗りながら、何時ものようにルイズの理不尽な怒りを受けていた。 「それで、買い物って?」 3時間程馬に乗った後、ついた街の門のそばにある駅に馬を預け、 映画のセットのような街並みを歩きながら、育郎が隣を歩くルイズに尋ねる。 「剣よ」 何故か80年代なビキニアーマーを纏ったルイズが、剣を抜く様が頭をよぎった。 何かが色々足りない気がした。何が足りないかはよくわからなかったが。 「…似合わないんじゃないかな、君には?」 「はぁ?なんで貴族の私が剣なんて持たなきゃいけないのよ? あんたのに決まってるじゃないの」 「僕の?」 「そうよ!」 ビシッ!っと育郎を指差して続ける、 「昨日の一件であんたが馬鹿力なのはわかったわ! けど、やっぱりそれだけじゃ私の使い魔として不満なの。 剣でも持てば少しはマシになるでしょ?」 いらないと反射的に答えそうになるが、もしもの時、あの力を使わずとも良くなる かもしれないと考えなおす。 「すまない…でもお金は大丈夫かい?」 「あのねぇ、私は由緒正しい『貴族』なのよ?剣の一本や二本どうってことないわ。 アンタに渡した財布の重さでわからない?」 言われてみれば、下僕が持つ物と言われて持たされた財布は、ヘルメットだったら 母さんです…と言ってしまいそうな程ずっしり重かった。 「スリには気をつけてよね。これから行く所は物騒なんだから」 そう言って入った狭い路地裏は、なるほど如何にも危ない雰囲気が漂っている。 「ルイズ、危ないから離れないで」 育郎が差し出した手を、不思議そうな顔をしてルイズは見る。 「何、これ?」 「いや、危なそうだから手をつないだ方が」 一瞬の沈黙の後。 「な、なに言ってるのよ!私は貴族なのよ!危険なんてあるわけないじゃない! それにね、平民が気安く貴族にさわろうとしないの!」 そう怒鳴ってどんどん先に進むルイズであった。 武器屋の親父はなんともたるんだ顔で、パイプを吹かしながら暇を潰していた。 最近は土くれのフーケなんぞという盗賊があらわれたせいで、貴族が下僕に剣を 持たせようとする事がはやってると言われているが、実際は傭兵を雇うことが多く、 思われているほど儲かってるとは言いがたいのだ。 「どこぞの物を知らない貴族でもこねーもんかな…思う存分ぼったくってやるのに」 「そんな美味しい話あるわけねーだろ」 誰もいない所から声が上がるが、親父は特に不思議がる事も無くその方向に言い返す。 「うるせーぞデル公!だいたいテメーはいつも客にいらん事を」 「おっと親父、客が来たみたいだぜ」 「なぬ!?それを早く言えデル公!」 早速顔を引き締め、この界隈に相応しい悪党面にかわる。 「もっと愛想のいい顔しろよ…」 「うるせえな!荒くれども相手にゃ舐められたら終わりなんだよ! ていうかおめえ、客のいる間だけでいいかちゃんと黙ってろよ!」 「ヘイヘイ」 薄暗い店の奥を見ると、こちらを見て胡散臭げな顔をする店主の顔が見えた。 しかしルイズが貴族と気付くと、表情は一変し営業トークを繰り出す。 「いやー若奥様、うちにこられるとはお目が高い!」 「これなんてどうですかい?業物ですぜ」 「もっと太くて大きいのがお望みで?ちょっと待っててくだせえ。 奥からとっておきを持ってきやすんで」 (おい、親父。舐められたら終わりじゃなかったのかよ?) (うるせーデル公!世間知らずの貴族なんて、適当におだててりゃいいんだよ) (そーいうもんかね?) 「ねえ、まだ見つからないの」 「へえ若奥様、いますぐに!いいか、絶対しゃべるんじゃねえぞ?」 「さあ、どうですかい若奥様!かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿の作。 太くて硬くて暴れっぱなし!店一番のビッグマグナムでさ! 魔法がかかってるから青銅だろうが鉄だろうが青銅だろうが青銅だろうが一刀両断! まあ、その分お高くなりやすが…」 見れば宝石が散らばり、見事な細工も施され、いかにも名剣という感じである。 「おいくら?」 「ルイズ…こんな高そうなもの」 「いいのよ!ほら、いくらなの!?」 高価そうなので、思わず育郎が止めようとするがルイズは聞こうとしない。 「へい!エキュー金貨で二千!新金貨で三千でさ!」 あまりの値段にルイズが文句を言おうとしたその時、誰もいない方向から声がかかった。 「おいおい、親父。そんなナマクラ押し付けといて、ボリすぎだろう!」 武器屋の親父の顔色がさぁっと青くなる。 「てめ、デル公!黙ってろって言っただろ!い、いやあのですね」 「まさか貴方、貴族を騙そうとしたんじゃないでしょうね!」 「い、いえいえ、滅相にございません!」 主人を詰問するルイズをよそに、育郎が声のした方に近づく。 「誰かいるのかい?」 「いるのかい?じゃねーよ、おめえの目の前だろ?おでれーた! こんなヌケてて剣を降ろうってか?冗談じゃねえぜ!」 「まさか…『君』なのか!?」 「そうだよ、このトンチキがッ!」 しかして、育郎が見つけた声の主は錆びの浮いた剣だった。 「剣がしゃべるなんて…」 「それってインテリジェンスソード?」 主人と言い争っていたはずのルイズが、いつの間にか傍に来て『剣』を見ていた。 「そうでさ若奥様!世にも珍しい意思を持つ魔剣、インテリジェンスソード! どこのアホ…もとい、魔術師が始めたんでしょうかね?剣をしゃべらせるなんて。 とにかくこいつは口は悪いは客に喧嘩は売るわ…デル公!お客様に失礼だろうが! これ以上失礼な真似をしたら、貴族に頼んでてめえを溶かしてやるぜメーン!」 「うるせえクソ親父!逆にお前のタマ○ンをちょん切ってやるぜメーン!」 「なんだと!なら俺はてめーのそこ以外を切り刻む!」 顔を真っ赤にして『剣』に近づく主人を育郎が止める。 「なんですかい?」 「ちょっと待ってください…ルイズ、この剣を買おう」 「え~~~!やーよ、なんかメーンとか言ってるし」 顔、声共にこれ以上ないぐらい嫌そうにするルイズ。 「このまま溶かされたら可愛そうじゃないか…」 「いいじゃない別に。メーンとか言ってるし」 「それにほら、僕はこの国の事を良く知らないから、何かの時はこの剣に聞けるし…」 「でもねぇ…メーンとか言ってるし」 「あの、いいですかい?」 何とかルイズを説得しようとする育郎を見て、主人が声をかける 「それなら厄介払いの値段込みで百で結構なんですが… あ、それとうるさいようでしたら、鞘に入れると黙りやすんで」 「じゃいいわ…メーンとか言ってるけど、買ったげる」 「ヘイ、毎度!」 「ありがとう、ルイズ!」 「い、いいのよ。安かったし…メーンとか言ってるのがあれだけど…」 金貨を渡して、剣を受け取ると、『剣』が早速喋りだした。 「にしてもおめえ、人が良いよな。剣に可哀想はねーだろ」 「まったくね、メーンとか言ってるのに」 「よろしく、デルコー」 「ちがわ!デルフリンガー様だ!この…」 急にデルフリンガーが押し黙る。 「どうかしたのかい?」 「おでれーた、こいつはおでれーた…てめ『使い手』か?」 「使い手?」 「いや、それだけじゃねーな…はーこりゃスゲーや。おでれーた」 「………わかるのか?」 「ま、俺は『剣』だからな。使う奴の事ぐらいわからーな」 「なによ、二人でこそこそと。またメーンとか言ってるの?」 「いや、なんでもない…デルフリンガー、その…」 「わーってるよ、嬢ちゃんには内緒にしといてやる」 「なー、相棒…」 馬に乗って帰りの道を急ぐ育郎にデルフリンガーが話しかける。 「なんだい?」 「いやな…どうってことねーんだが…」 少し戸惑いながらデルフリンガーが口を(?)開く。 「あのな、相棒…相棒がスゲーのはよくわかったんだが…」 「?」 「なんだか俺いらねーんじゃねーかって気がしてきてな…」 「………」 「な、何とか言ってくれよ相棒!?」 「そろそろ店閉まいにするか。おい、デル公…っていねーんだったな… まったく、あいつの厄介払いが出来て、百ももらえたんだから今日は万々歳だぜ」 武器屋の親父が、つい何時ものクセで誰もいない店の中で喋りだす。 「それにしてもあれだな、随分と長い付き合いだったぜ…ったく あいつのせいで何度儲け話が駄目になったか…」 何時もならここでデルフリンガーが反抗してくるのだが、もう彼はいない。 「へっ、随分静かになっちまったもんだ…」 武器屋の親父は自分の部屋へ行き、2時間眠った… そして……目をさましてからしばらくして… デルフリンガーが居なくなった事を思い出し………泣いた………
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1549.html
―――――――――――――――――――――――――――――――――― 帰る手がかりの一つもつかめぬまま、既にこちらに来て一週間が過ぎた。 一週間もすれば、不本意ながらもこちらの生活にも慣れてくる。 朝起きて、才人共にルイズを起こし、才人が着替えさせている間に、僕が洗い物を済ませる。 僕はスタンドを使えば、いちいち水くみ場まで降りる必要もないので、適任であるのは事実だが、コレには理由がある。 はじめは交代交代で洗濯を行う予定であったが、才人がパンツの紐を切ったのがばれ、洗濯は僕が一手に担うこととなったのだ。 ちなみにこの事で、才人は一週間のご飯抜き、僕も止めなかったということで、五日のご飯抜きを宣告された。 もっともそんなことをされても、ルイズの朝食中に厨房でご飯を貰うので、全く関係がないのだが。 しかし衣食住の、住しか面倒を見ていない、しかもその住ですら怪しいのに、「ご主人様」と呼べ、敬いが足りないとは、理不尽甚だしい。僕のルイズ株は下がりに下がって、既に上場廃止状態だ。 そういう事で僕らは自然と、厨房との親交、つまりはマルトーさん達コックや、シエスタ達メイドとの親交が深まっていくのだが。 既に厨房に来る一通りの人間には、顔を覚えて貰っている状態だ。 一部の人間とは、仲良く会話を交わせるまでに至っている。 食事の後は、才人はルイズと共に授業へと、僕は血管針カルテットと共に衛兵として、見回りに当たる。 見回りといっても、侵入者に備えるなどではなく、生徒同士のもめごとの報告、出来るのならばその場を押さえる事や、魔法関係以外の備品の整理、人手が足りない所の手伝い、貴族の使いっ走りが主な仕事内容だ。 そのため貴族と接触する機会が多く、しかも殆どの貴族が高慢不遜な奴ばかりなので、極めてストレスが溜まる。 御陰でもめごとの仲裁にはつい力が入って、スタンド大活躍だ。何回貴族に向けて、『エメラルド・スプラッシュ』を放ったことか。 衛兵の仕事が再会して早三日目で、僕の前でもめごとを起こしたり、面と向かって罵倒するものは、ほぼ皆無となった。 さて、衛兵の仕事が終われば、僕も才人と同じように、ルイズの世話に戻る。 この時間が、一番トラブルに巻き込まれやすい時間だ。 この間は衛兵の仕事をしている時と違い、貴族に手を出せば、以前と同じく謹慎処分を受ける。 それを知ってか、ここぞとばかりに嫌がらせをしてくる。 もっともそういうことをする、臆病者の嫌がらせなんて、大したことのない罵倒程度なのだが。 適当にデルフリンガーを持った才人をけしかければ、あっという間に大人しくなる。 表向きな立場を持たない才人は、僕と違って、倒しても咎められることもないからな。 こちらに来て一週間。既に僕の平穏を乱す相手はルイズ、才人、そしてキュルケの三人のみだ。 ルイズは言わずもがな、あの癇癪持ちの自称ご主人様にかなう相手はいない。 才人は非常に優秀なトラブルメーカーだ。たいていの場合、僕まで連座で罰を受けるので、迷惑きわまりない。 この二人に比べれば、ルイズと混ぜない限り、たいした問題にならないキュルケは一段落ちる、はずだったのだが、最近になって、一つ問題が出てきた。 キュルケが才人に対して誘惑を敢行した事だ。 七股に挑戦するとは、見上げた根性だと思う。 変節をする人間は嫌いだが、ここまで来ると嫌おうという気すら起きず、返ってほほえましく感じる。 いや、そもそも変節しているわけではないな。一応、『微熱』とやらの二つ名の筋は通しているのか。 多分、相手も火遊び程度で、本気で誘惑するつもりは無いようにも思うのだが、どうか。 それはともかく、この劣悪な上、慣れない状況で、僕らが持ったのは一週間持ったのはやはり一重に、お風呂という存在があったからであろう。 お風呂は心の洗濯とは、誰が言い出したのか。 この異世界に於いて、この言葉は、非常に実感できる重みがあった。 そのため、お風呂のコンディションは常に万全を期しておかなければならない。 特に、放っておけば崩れてくる竈の整備などは、絶対に欠かしてはいけない。 本日の分の仕事を終えた僕は、今日もいつものように竈の様子を見に行った。 その途上、広場で思いがけない人影を見る。 「あれは……」 「よしよし、ヴェルダンテ。君はいつ見ても可愛いね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」 あの金髪。気取った雰囲気。間違いない、ギーシュだ。 だが、よく見れば何か、そのギーシュに抱えられて、大きな影がもう一つ。 こちらからはよく見えないが、サイズは小熊ぐらいはある。いったい何だろうか。 僕は後ろから息を潜めて、気付かれぬよう慎重に、ギーシュへと近づいた。 影の正体は巨大な土竜であった。 その土竜はギーシュの言葉に、鼻をモグモグとひくつかせている。 どうやらコレがギーシュの使い魔らしい。 僕はその姿をよく観察する。 「そうかい、そりゃよかった!」 成る程、くるくるとした目、綺麗な毛並み、可愛らしいという形容詞も、間違いではないように思う。 しかしながら、その土竜に頬ずりをするギーシュの様は、僕には非常に滑稽なものにしか見えない。 ともかく僕はギーシュに用があるので、土竜と離れるタイミングを狙って、後ろから声をかける。 「ギーシュ」 「誰だい? 僕を呼ぶの……は……」 あの決闘の日以来、ギーシュは僕の顔を見ると一目散に逃げ出すため、半径10m内に入れた試しがない。 だが、今の僕とギーシュの距離は1mもない。 ギーシュは僕の接近を許したことで、バカみたいにポカンと口を開ける。 そして状況を認識するや否や、いつも通り、脱兎の如く逃げ出した。 しかし、今回は逃がすわけには行かない。 僕はスタンドで、ギーシュの身体を一瞬にして縛り上げる。 「う、動けない!」 「そんなゲロ吐くぐらい怖がらなくても良いじゃないですか。何もしませんよ、安心してください」 「う、嘘だ。僕は騙されないぞっ!」 参ったな。ギーシュは完全におびえきった目でこちらを見ている。 少し、決闘の時にボコボコにしすぎたのかもしれない。 「だ、誰か助けっ……むがっ!」 「静かにしてください」 「むー! むー!」 騒がれてはマズイので、スタンドを猿ぐつわ代わりにして、ギーシュを黙らせる。 僕は仕方なく、ギーシュが落ち着くまで待つことにした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「本当に、危害を加えるつもりはないのかい?」 「ええ。そちらから何もしてこない限りは」 「わかったよ」 10分程して、ようやくギーシュは騒ぐのを止め、僕の話に耳を傾け出した。 これで、ようやく会話が出来るのか。 「それで、一体何の用なんだい?」 とはいえ、まだ少々警戒しているようだ。 ギーシュは何を考えているのか探りを入れる目で、こちらを見ている。 この状態で、いきなりお願いを切り出す訳にもいかない。 僕は無難に、先程の使い魔らしき土竜の話を切り出すことにした。 「いえ、あなたが土竜と戯れていましたので、何事かと思いまして」 「土竜? ああ、僕の使い魔のヴェルダンテの事かい?」 多少だが、ギーシュの表情が和らいだ。 この話題を切り出したのは正解かもしれない。 「ヴェルダンテというんですか。凄く可愛らしいですね」 「君もそう思うのかい!」 この後、ギーシュによる20分にも渡る使い魔自慢が繰り広げられると解っていれば、僕はこんな事を切り出そうとは思わなかっただろう。 「ヴェルダンテが…… ヴェルダンテは…… ヴェルダンテ。ああ、ヴェルダンテ、ヴェルダンテ……」 既に何回、ヴェルダンテという言葉を聞いただろうか? 学校では優等生として振る舞っていたので、形だけではあるが、人の話を聞くのはうまいと思う。 その僕が、心の底から止めてくれ、と思ったのだ。 もはや、語るには及ばないだろう。 「……というわけなのさ。どうだい、凄いだろう?」 「……ええ、本当に」 僕はよく耐えました。と続けたい所をぐっと我慢し、大きく息をつく。 まぁ、それだけ耐えたこともあって、ギーシュの僕に対する警戒心は、今は殆ど感じられない。 「ああ、済まないね、長々と話してしまったよ。っと、そういえば君はどうしてこんな所にいるんだい?」 「あちらにある、お風呂を修繕しようと思いまして」 そういって僕は広場の角の、僕と才人で制作した風呂場を指さす。 とはいっても巨大な鍋と、土で出来た竈に、申し訳程度の衝立があるだけなのだが。 ギーシュは興味深そうに、それをまじまじと眺める。 「平民も水の張ったお風呂につかるのかい?」 「いえ、コレは五右衛門風呂といいまして、僕や才人の故郷のお風呂です」 「へぇ、君たちの故郷は、その服装といい、随分変わったところなんだな」 ギーシュは特に、それ以上聞こうとせず、作ったお風呂をまじまじと見ている。 が、やがて興味を失ったのか、再び僕の方へと向き直った。 と、今度は僕の制服のポケットの辺りをじーっと見ている。 確か今、ポケットの中には石けんの香りつけに使おうと思っている、ムラサキヨモギが入っていたな。 ギーシュはいったん口元に手を当て、改めて僕のポケットを指さしていう。 「それはムラサキヨモギの葉かい? できればいくつか譲って欲しいんだが」 「これを、ですか?」 「ああ、代金は払うよ。そのポケットに入っている、半分ぐらいの量で良いんだ」 コレは思いがけない交換材料が出来た。 正直、どうやって頼もうかと思っていた所だ。 これならば僕の方からも切り出しやすい。 「お金はいりませんが、代わりにこの竈を、青銅に錬金してもらえますか?」 「それでいいのかい? なら、おやすい御用さ」 そういってギーシュは、ポケットから薔薇の造花を抜いて、短くルーンを唱える。 すると土の竈は見る見るうちに、赤銅色へと染まっていく。 ものの数秒で、竈は見事な青銅製へと変化した。 僕は改めて見るその魔法の便利さに、素直に感嘆の声をあげる。 スタンド能力には余りそういうものはないからな。 ギーシュはその声を聞いて、得意げに鼻を鳴らす。 「それでは、コレを」 「ああ、確かに貰ったよ」 僕は約束通り、右ポケットの方に入っていたムラサキヨモギの半分を、ギーシュに手渡した。 ギーシュはそれを受け取って、「これでモンモランシーとの仲直りの材料が出来た」等とつぶやいて、ご機嫌な様子で校舎の方へと戻っていった。 何に使うつもりかは知らないが、大方、香油か何かを作るつもりだろう。 それはともかく、これで竈に関しては問題ないだろう。 となれば、後はもう一つの予定である石けん造りだ。 本当であれば、先に石けんをつくってから、才人が来るのを待って竈の修繕を行うつもりだったが、ギーシュとあったことで、この分ならば、才人が来る前に終わらせられそうである。 僕は早速、調理場で貰った海草の灰と廃品の鍋、植物性の油、そしてムラサキヨモギを使って、石けん造りへと取りかかるのだった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/149.html
ルイズはニヤニヤしながら自分の使い魔の背中を見送った。 ルイズには考えがあった。 どうせ怒りのやり場を失っているギーシュは、DIOに決闘を申し込んで憂さを晴らそうとするに決まっている。 平民が貴族に勝てるわけがないという前提がその根拠だ。 しかし、ルイズにとっては、DIOがギーシュに勝とうが負けようがどうでもよかった。 DIOがギーシュに勝てば……それでいい。 自分は何もする必要がない。 ただ、DIOがギーシュを殺そうとしたなら、それを止めればいいだけだ。 万一DIOが逆らっても、強制執行してしまえばいい。 気絶してでも。 それは別にいい。 DIOがメイジに勝つほどの強さを秘めているのなら、それくらいの覚悟はしよう。 そしてもしDIOが負けたなら、ルイズはDIOを吹き飛ばすつもりだった。 所詮カリスマだけの使い魔なら、ルイズは用はなかった。 ルイズが求めるのは、真に力を持つ使い魔だ。 ギーシュ程度におくれをとるなら、問答無用で吹き飛ばして、改めてサモン・サーヴァントを行えばいい。 『ゼロ』と呼ばれることには変わりないけど、少なくとも安穏とした生活が戻ってくる。 『旧い使い魔を殺せば、新しい使い魔を召喚できる』 これはルールだった。 つまり、どう転ぼうがルイズに損はないのだ。 ルイズは、自分がDIOを吹き飛ばして、粉々の肉片にする様を想像して、ウットリした。 正直に言うと、どちらかというとルイズはDIOに負けてほしかったのだった。 だが、ルイズにとっての目下の問題は、これから起こる決闘の行く末ではなく、目の前に置かれているワインだった。 ルイズはDIOが飲み残した、アルビオン産のワインボトルに手を伸ばした。 一口飲む。 実に旨かった。 ギーシュは、突如後ろからメイドの両肩に手を乗せた男に、鋭い視線を向けた。 メイドが振り向いて一言「DIO様」と呟いた。 DIOはシエスタの肩に手を置いたまま、ギーシュに言った。 「『君が軽率に…香水の瓶なんか落としてくれたおかげで…二人のレディと、私のメイドの名誉が傷ついた。……どうしてくれるんだね?』」 DIOはクックッと笑った。 明らかに先ほどのギーシュの言葉に対する当てつけだった。 ギーシュの取り巻きが、どっと笑った。 「そのとおりだギーシュ!お前が悪い!」 ギーシュの顔が、屈辱で真っ赤に染まった。 「ふん……!お前は確か、平民だったな。あの『ゼロ』が呼び出したっていう」 ギーシュはルイズの方をチラと見た。 ルイズはワインを飲んでいた。 いい具合にほろ酔いなルイズは幸せそうだった。 こちらを全く気にした様子もないことが、ギーシュの癪に障った。 「そろいもそろって、貴族に対する礼儀を知らない奴らだ。 君たちのようなものを野放しにしたら、我々貴族の沽券に関わる!」 自分はともかく、己の主をこき下ろされて、シエスタの目が怒りに染まった。 ギロリと睨みつけてくるシエスタに、ギーシュは思わず気圧された。 「だとしたら、どうするかね…?」 DIOはシエスタを抱き寄せながら言った。 シエスタの顔が嬉しそうにほぅと和らいだ。 ギーシュはそんな二人にますます顔を赤くし、マントを翻して言い放った。 「よかろう。君に礼儀を教えてやろう。ちょうどいい腹ごなしだ」 DIOはギーシュに分からぬようにほくそ笑んだ。 「ヴェストリの広場で待っている。 いつでも来たまえ」 ギーシュの取り巻きが、わくわくした顔で立ち上がり、ギーシュを追った。 ギーシュの姿が見えなくなると、DIOはシエスタを放した。 シエスタはその場に畏まった。 「申し訳ありません、DIO様! 私が至らぬばかりに、DIO様にとんでもないご迷惑を…!」 「シエスタは自分の仕事をしただけだ。 気にするな」 「あぁ、DIO様。御慈悲に感謝いたします……!」 さっきのギーシュに対する謝罪とは全然違うシエスタの態度に、ルイズは笑いを堪えきれなかった。 クスクス笑っているルイズの席の方へ、DIOは戻っていった。 シエスタはしずしずと彼に従った。 ルイズは、決闘になることは分かっていたが、それをDIOの方からけしかけていたことが、不思議だった。 ルイズは笑いながらDIOに聞いた。 「どうしたのよ?自分からふっかけるなんて。 キャラじゃないわよ?」 ルイズの問いに答える前に、DIOは空になったグラスにワインを注ごうとボトルを傾けた。 が、何もでてこない。 DIOははぁ、とため息をつき、ルイズを見た。 ルイズはチシャ猫のような、してやったりの表情を浮かべていた。 「……君の話と、さっきの授業で、この世界の魔法という技術体系は概ね把握したつもりだ。 私はそれを身をもって知る必要がある。 そしてもう一つ……」 ルイズは微笑みながら先を促した。 「私の『スタンド』の回復具合のチェックだ」 聞き慣れない単語に、ルイズは首を捻ったが、ようは自分の実力試しをするつもりなのだろうと結論した。 「まぁ、別にアンタの意図はどうでもいいわ。 でも……」 途端に、ルイズの笑顔がピタリと消えた。 さっきまでの微笑みが嘘のような無表情だ。 ルイズはDIOの目を覗き込んだ。 「でも、さっきアイツは私のことを『ゼロ』と呼んだわ」 DIOは何も言わない。ルイズは続ける。 「もし…アンタがギーシュに勝ったら、構わないわ……そのままギーシュを殺しなさい」 許可でも懇願でもない、冷徹な命令だった。 「だが…色々と問題があるんじゃないか?」 そういうDIOに、ルイズは一転して笑顔になり、杖を取り出した。 「あら、大丈夫よ。粉々に吹っ飛ばすから。 それに、使い魔の責任は、御主人様の責任よ?」ルイズは笑顔で言った。 ルイズの杖が"ミシッ"と音を立てた。 今にもへし折れそうだ。 DIOは一言「おぉ、コワい」と言った。 しかし、言葉とは裏腹に、DIOの顔には笑みが浮かんでいた。 「そう?これでも最初は死人沙汰は避けようと思って『いた』のよ?」 ルイズはDIOからちょろまかしたワインの最後を飲み干した。 どうやら彼女は、まだあの授業の時にからかわれたことを根に持っているようだった。 「で、これからどうするの?すぐにヴェストリ広場まで行く?」 そう聞いてくるルイズに、DIOはかぶりを振った。 「いや、これから少し厨房に寄る。色々と入り用のものがある」 ルイズはそれまで一度も 厨房に入ったことがなかったので、興味をそそられた。 ついて行くと言うルイズを、DIOは無言で承諾した。 「DIO様、ミス・ヴァリエール、どうぞこちらへ」 シエスタの案内で厨房についたルイズは、予想外にごちゃごちゃしている様子に眉をひそめた。 こんな汚い場所に、何の用があるというのだろうか。 すると、奥で鍋をふるっていた男がこちらに気づき、ドスドスと音を立てて近づいてきた。 「おぅ、誰かと思ったら、DIOじゃねぇか!」 そう叫んでDIOを歓迎したのは、料理長のマルトーであった。 DIOにワインを振る舞った人物である。 彼は平民なのだが、魔法学院の料理長ともなれば、その収入は身分の低い貴族なんかは及びもつかなく、羽振りはいい。 そしてマルトーは、そんな裕福な平民の多分に漏れず、貴族と魔法を毛嫌いしていた。 シエスタは二人の邪魔にならないように、少し離れた場所に控えた。 豪快なマルトーの態度だが、意外にもDIOは気にせず答えた。 「やぁマルトー。君のイタズラは、どうやら大成功のようだったな」 マルトーはそれを聞くと、喜びと苛つきが混ざったような矛盾した顔をした。 ルイズはわけがわからず二人の顔を交互に見やった。 「ハンッ、それみたことか! 貴族の連中め、散々っぱら威張り散らすくせに、味の違いもわからねぇときたもんだ。恐れ入るぜぃ!」 そういうと同時に、マルトーがルイズに顔を向けた。 「誰でぇ?貴族様がこんなところに、何か用かい?」 「彼女は、私のご主人様だよ、マルトー。 ルイズ、という」 DIOがそういうと、マルトーはその大きな目をさらに大きく見開いて、ルイズを見た。 そして、大声で笑いだした。 「ブッハハハハ! ご主人様!?この小娘が?お前さんの?冗談きっついぜおい!」 ガハハと笑うマルトーに、DIOは低い声で言った。 「ルイズは、君のイタズラに気付いていたぞ?」 マルトーの笑いがピタリと止まった。 そして、しげしげとルイズを眺め回した。 その視線を不快に感じて、ルイズは一歩退いた。 「何よ、さっぱり話が見えないんだけど!? 説明しなさいよ!」 マルトーは頭にかぶっている大きな帽子をかぶりなおした。 「……俺は貴族が嫌ぇだ。奴らは口を開けばやれ魔法だの、やれ貴族の教養だのとぬかしやがるからな。 だから、俺はチョイと試してみたくなったのさ」 ルイズは未だに話が見えず、首をかしげた。 「俺は今日の生徒の昼食にだすワインを、普通の庶民が飲むような安物にすり替えてやったわけよ。お嬢ちゃんは気づいたみてえだがな」 ルイズはハッとした。 あのワインはそういうことだったのか。 貴族である自分を試されたと言う事実と、一口とはいえ、安物を飲まされたという事実に、ルイズは腹を立てた。 そんなルイズを見て、マルトーは反論した。 「お怒りのようだがよ、お嬢ちゃん。あんたの周りに気づいた奴がいたか?これっぽっちでも、怪しんだ奴がいたか?」 ルイズは言葉に窮した。誰も少しもおかしいと思っていなかったのは事実だ。 「おたくらが豪語する貴族の教養ってのは、所詮そんなもんなんだよ。 その点、DIOは本物だ。こいつは違いが分かる奴だ。こいつに飲まれたあのアルビオンのワインは幸せものってやつよ」 ルイズは何も言い返せなかった。 「だが、あれに気づいたお嬢ちゃんも、てえしたもんだ。 次からは、お嬢ちゃんにも他の奴らよりチョイと良いヤツを出してやるよ」 ルイズは何だか納得がいかなかったが、相手が料理長ということもあり、その場は矛を収めた。 「ところで、マルトー。……頼みがあるんだが」 話の区切りを見たDIOは、自分の用事に入った。 自分には関係ない話だと思い、ルイズはその場を離れた。 ふと横を見ると、シエスタがこちらをじーっと見つめていた。 「……何よ?何か用?」 「いえ、何も、ミス・ヴァリエール」 それっきり、シエスタは視線を逸らした。 そんなシエスタの態度にルイズが居心地の悪さを感じていると、DIOがルイズの方に戻ってきた。 話は終わったようだ。 シエスタがDIOに深くお辞儀した。 「で、一体何の用だったわけ?」 とりあえずルイズは聞いた。 「……ちょっとした借り物だ」 DIOは答をはぐらかしたが、ルイズはそれ以上追及しなかった。 「では、ヴェストリ広場とやらに向かうとするか。 シエスタ、案内しろ」 シエスタはかしこまりましたと言った。 ルイズはマルトーの言葉の意味を深く考えていた。 to be continued…… 22へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1861.html
「諸君、私は料理が好きだ…むにゃむにゃ…」 「おい、起きろ」 へんじがない。ただのねむいひとのようだ。 「おい、起きろ」 二回目のコール。しかしやはり、返事は無い。 無言で管から作った空気の渦を、枕もとに飛ばす。 ルイズはその衝撃で目を覚まし、ワムウを睨みつける。 「あんた!あれほどいったでしょ!また枕一つダメにして!」 無残な枕だったものをワムウにぶつける。 「朝早く起こせといったのはお前だろう、シエスタと出かけるんじゃなかったのか?」 「そうよ!何でそれを早く言わないのよ、さっさと着替えさせなさ…あんたに期待したら服がいくつあっても足りなかったわね……ああ、もうあんたは出かける準備しときなさい」 昨夜に服を片付けさせようとして引きちぎられていたルイズはワムウの家事能力について大分理解してきていた。 「俺も行くのか?」 「ああ、あんたは昨日の夕食のときいつのまにか居なくなってたわね。あの超絶的ダイナマイト一食爆発的雑味えぐ味ゼロ的格別デザート的天使的至高快感的今世紀最大的料理人のマルトーさんの料理を楽しまなかったなんて始祖ブリミルから天罰が下ってもおかしくないわ。今思い出してもヨダレずびっ!だわ!歯が飛び出たりしたときはびっくりしたけど」 昨日の回想に浸り始めるルイズ。 ワムウは無視して質問を続ける。 「だからなぜ俺もいくんだ?お前らは湖に行くんだろう?危険があるにしても俺を頼るな」 「違うわよ、昨日シエスタに急な用事が入って街に行かなくちゃいけなくなったから、一緒にいくことにしたの。 あんたも私の使い魔になった以上、この辺の地理とか常識をしっておいてもいいでしょ?」 「別に地理や常識などに興味は無いが、こちらの世界の武器は気になるな。戦闘はやはり魔法主体なのか?」 「前線に出てくるメイジなんて数が知れてるから、武器くらいあるわよ。むしろ魔法で武器を強化しているからあんたのところのなんかよりたぶんずっと強力よ!あんたんとこに錆びない剣だの喋るグラブなんてなかったでしょ?」 ワムウは少し考え、承諾した。 「わかったなら荷物でもまとめときなさい、使い魔なんだから荷物もちくらいしなさいよ、それくらいできるでしょ?」 ルイズは財布となにかがいくつか入っているカバンを指差した。 * * * 「あら、待たせちゃった?」 既に三頭、馬が校門の外につながれていた。 「い、いえ、そんな滅相も無い!」 待たせたという言葉に過剰反応するシエスタを見てフフフと笑う。 「でもいいんですか?私だって馬車なら操れますよ?わざわざ一人一頭乗馬でいかれるなんて…」 「たった3人で街行くだけなのに馬車なんか一々出してどうするのよ、これでも私乗馬は特技なのよ? 心配するならこいつが馬に乗れるかどうかの方を心配したほうがいいわ、あんた乗馬経験あるってほんとのほんとよね?」 「ああ、何度かな。もっとも、普通の馬ではないが」 「そんなことだろうと思ったわ。とりあえずあんたでも乗れそうな一番でかい馬を頼んだけど…シエスタ、私の馬はどれ?」 「えーと、ルイズさんの馬はそこのヴァルキリーっていう馬で、私の馬はその鹿毛の馬で名前はストライクイーグル だそうです。ワタライ牧場生産って書いてありますけど…シズナイってどこだか知ってます?」 「うーん、聞いたこと無いわね」 「そうですか、私も聞いたことないと思ったらどうやら東方生まれらしくて…ちょっと怖いです」 「大丈夫よ、馬に東も西もないわよ。それで、ワムウのは?」 「えーと、もうすぐ来るみたいで……あ、来ました!」 ズシン、ズシンと重々しいを立てて、巨大な黒い馬がやってきた。 「…ほんとに、これ馬?」 ルイズがポカンと口をあけて馬を連れてきた人に尋ねる。 「ええ、気性が荒すぎてこの世話をできるのはあっし一人だけなんで止めたんですが…」 御者は語尾を濁す。 ワムウが前に出て、馬に近寄る。 「あ、あんたもかなりでかいですなあ」 そして、ワムウは首に手を当てる。 唸っていた馬が急に静まる。 「あれ?大人しくなったわ?」 「この馬でいい、出発するぞ」 ワムウは巨馬にまたがり、馬は歩み始めた。 「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!ほら、シエスタも乗って乗って!」 * * * 虚無の曜日。なにげなく外を見ていたキュルケがワムウとルイズと一人のメイドが出かけようとしているのを見つける。 キュルケは部屋を飛び出した。 鍵のかかっている部屋を無理やり『アンロック』であける。 部屋の主にサイレントをかけられるが、相手も根負けしてサイレントを解く。 「タバサ、今から出かけるわよ!早く支度をしてシルフィードを呼び出して!」 「虚無の曜日」 反論の意を示されるが、そんなことは知ったことではない。 「あんたにとって虚無の曜日はどういう物かわかってるけど緊急事態よ!エマージェンシーよ!スクランブルよ!」 しかしタバサは首を振る。 「あのゼロのルイズの使い魔とルイズとメイドが出かけたのよ!たぶん誰もいない森の中で二人を丸呑みするに違いないわ!早く追いかけないと!」 「ルイズが、心配?」 「ち、違うわよ!学院から人死にが出るのが嫌なだけよ!あんたのシルフィードじゃなきゃ追いつかないんだから!」 しょうがないか、と言わんばかりにうなずき、窓の外に向かって口笛を鳴らす。 * * * 「へー、シエスタはタルブの村の出身なんだ、どんなところなの?」 「自然に囲まれてて、すごい綺麗なところですよ。田舎って言われればそれまでですけどね」 シエスタはえへへと笑う。 「そんなところなんだ、一度いってみたいわね。どれくらいの距離なの?」 「馬で数日くらいかかると思いますよ、だからあんまり頻繁に帰れなくて送金とかは街で頼まないといけなくて…今日もそれの手続きが急に入ってしまって……」 「その年で家計を支えてるんだ、やっぱりすごいわねシエスタは。私には考えられないわ」 「そんな、貴族と平民では生活も変わりますから、それが当然ですよ。ルイズさん達は将来立派な貴族になるためにここで学んでいるんですから。それを私たちが支えられるっていうのは私にとっても嬉しいですよ…あ、街が見えてきましたよ!」 町の入り口にある馬停所に馬を止め、シエスタは少し時間がかかるということで少しの間別行動ということにした。 「ルイズさんは寄るところあります?」 「そうねえ、特に無いけど……そういえばワムウが武器を見たいって言ってたわね、そこの武器屋で待ってるわ」 「はい、わかりました。大体15分もあればいけると思います」 といってシエスタは街の中心部に歩き出した。 「さ、ワムウ行くわよ」 ルイズは武器屋の扉を開ける。 「いらっしゃいませ……おやおや、貴族様ですか、いったいなんの御用で?」 髭を生やした三十後半から四十歳台くらいの店主が声をかけてくる。客はいないようだ。 「こいつが武器に興味があるらしくて」 「おや、そうですか。色々と揃えておりますよ、もちろん冷やかしでも構いませんよ。どんな武器をご所望で?」 「そうだな、こちらの世界の武器をあまり知らんからな、オードソックスな奴を見せてくれ」 「オードソックスな武器ですか、コレクションを披露できなくて残念ですな。世界の妖しげな武器を集めるのが趣味の一つでしてね、こうして趣味が高じて武器屋をやっているわけですが……」 「どんな武器があるのよ?」 ルイズが口を挟む。 「人心を操る剣はもちろん、刃物付帽子、妖怪を封じていた槍、三方向に攻撃する妖刀……珍しいところでは正義の算盤や八岐大蛇の尾から取り出した剣、こんにゃく以外ならなんでも切れる剣などなんでもありますよ……お値段は張りますがね」 「いくらくらいなのよ?」 「ピンキリですが、私のコレクションは端金じゃ売れませんな。正義の算盤なら五千エキューというところでしょうか」 「高すぎるわよ!何年遊んで暮らせるのよそれ!」 「もちろん買われなくても結構です…コレクションを売るとしたらそれくらいは必要、という例えですよ」 店の棚を物色しているワムウが手を止める。 「これは…剣はあまり詳しくないが素晴らしいな」 「お客さん、お目が高い。それは東方のニッポーネというあの技術立国で作られた名剣でございます…それを作った剣職人はあの有名なホンダソウイチロウでして…コレクションではありませんが名剣には間違いないですな」 「いくらだ?」 「三千エキューですな、新金貨なら四千五百で」 「エキューというと、この金貨か?」 「ええ、それが三千枚です」 「ちょっとワムウ、あんた、何に手出してるのよ!いっとくけど私は剣に五百エキュー以上払う気はないわよ」 「俺の金を使う。なにぶん臨時収入があったんでな、だがさすがに三千はない」 「ふむ、それは残念ですな……ですがお客様はわかってらっしゃる…普通の人間とはオーラが違うようですし……そうですな、私の趣味の一つはコレクションと言いましたがね…私はギャンブルにも目が無くてね、どうです? その剣を賭けて私とギャンブルでもいかがでしょうか?」 その提案にルイズがそんなの認められない、とばかりに 「ギャンブルなんて無理よ!負けたとき三千エキュー払え、なんていわれても私は嫌よ!」 反論するが 「負けたときに金はいりません…私は生まれついての『賭け師(ギャンブラー)』!私はあなた達のような『魂』を集めるのがコレクションで…もっとも『魂』を集めると言うのは比喩のような物だと思って構いません… ギャンブルは精神と精神の戦い!いわばギャンブラーは戦士!勝利したときには相手の魂を得るといっても過言ではありません さあ!あなたがギャンブルを受けると言うのならば!『魂を賭ける』とおっしゃってください」 「いいだろう、魂を賭けよう」 ワムウは即答する。 「グッド!お名前はなんといいます?…おっと、名前を尋ねるならばこちらから名乗らなければ…私の名前は『ダニエル・J・ダービー』と申します……」 「ワムウだ」 「ワムウ様ですか、いいお名前ですな」 鈴の音が鳴り、外の風が入ってくる。 「あっ、シエスタ、用事は終わったの…ってなんでキュルケ達までいるのよ!」 「あんたが食われるかどうか見物に来たのよ!でもあんたアホじゃないの?その使い魔のために武器屋に寄るなんて盗人に追い銭どころか強盗に拳銃よ!なに考えてるのよ!」 「別に買うわけじゃないつもりだったけど……なんか変なことに巻き込まれそうでね」 店主がキュルケに話し掛けてくる。 「いらっしゃいませ……その通り、少々取り込み中でね、注文をするなら後にしていただけますかな?」 キュルケは怪訝な顔をする。 「なにをする気なのよ?」 ルイズが説明をする。 「ギャンブルだって…勝ったらそこのホンダなんとかの剣を貰えるんだって」 それを聞いてキュルケは顔を変える。 「ホンダって…あのホンダ?ゲルマニアでもあんな剣は作れないわよ!店主、私もそれに乗せなさい!」 「いいでしょう…しかし2人というのは中途半端ですな……せっかくですから、5人乗りませんかね? 聞けばその男性は使い魔とおっしゃる……使い魔と主人は一心同体…乗るならば『魂を賭ける』とコールしてください」 「仕方ないわね、私も乗るわよ『魂を賭けるわ』」 「ルイズさんが乗ると言うなら私も…『魂を賭けます』」 「私も『魂を賭けるわ』、タバサはどうするの?」 「ギャンブルなら少しは慣れてる…『魂を賭ける』」 「グッド!5人揃いましたな!では、準備してくるので少々お待ちを…」 ダービーは中に去っていく。 キュルケが尋ねる。 「ギャンブルって、何するのよ」 「知らないわよ」 「はあ?何するかもわからないのに受けたの?バカじゃないの?」 「あんたも同じでしょ」 いがみ合っている間に、ダービーが戻ってくる。 「お待たせしました…四人ならば麻雀やトランプなどもいいですが…説明がまどろっこしいのは避けたいところです…そこで、こんなものを用意しました」 ダービーが持ってきたのはテーブルと、12枚のカード。 「名づけるならば…『限定ジャンケン』!」 「なによ、その限定ジャンケンって。ジャンケンは知ってるけど」 「その通り、普通のジャンケンを知っていれば誰でもわかるゲームです…しかし少し説明の時間を頂こう。 この6枚のカードをどうぞ」 それらには『グー』『チョキ』『パー』とその絵柄が書かれていた。同じカードが二枚ずつある。 「ご存知の通り、このカードでジャンケンをして頂きます…カードの数と内訳は私も貴方達も同じです… これで、『5回』ジャンケンをしていただきます」 「普通のジャンケンとはどう違うのよ?」 「一度使ったカードはもう二度と使えません…ですから最終的に一枚だけ余る、ということです」 「余ったカードはどうするの?」 「カードを余らせるというのは、最後のジャンケンで両者残り1枚、勝ち負けがわかっているという状況を避けるためです。やる前から勝負が決まっている勝負ほど興が削がれるものはありませんからな」 そしてチップを十枚、袋から出してくる。 「これを五枚、貴方達に渡します…一枚が魂一つと考えてください……私のチップも五枚、ただし私の魂が一枚、残りの四枚があの剣の分です。終わった時にこの剣のチップが一枚でもそちらにあれば潔く渡しましょう」 受け取ったチップには一人一人の似顔絵が描かれていた。 「説明が長くなりましたな…では始めましょう。最初は誰です?」 「俺が行かせて貰おう」 ワムウがテーブルの前に立つ。 「グッド!あなたの出すカードが決まったら裏にしてテーブルに置いてください…両方が置いたら一斉にめくります。 私は……そうですな、最初は武器屋ですからな、刃物を意味するチョキにすることにしましょう」 ダービーが揺さぶってくる。 が、ワムウはポーカーフェイスを崩さない。 「そうか、では俺はこれでいこう」 ワムウはカードを伏せ、自分のチップを横に置く。それに応じてダービーも裏のカードとチップを置く。 「では…オープン!」 ダービーが出したのは……『パー』。 それに対して、ワムウが出したのは……『グー』! 「MOOWWWWW!!貴様、騙したな!」 「言ったでしょう、ギャンブルとは戦い、戦場で後ろから刺されたと言っても文句をいえる相手はいませんよ」 「そうよワムウ、あんた単純すぎるのよ!あんなの信じるほうがバカなのよ!次は私がやるわ!」 「グッド!では次は今勝ちましたし…ゲンのいい『パー』にしましょうか…」 ルイズは不適に笑う。 「フフ、ワムウには通じたかもしれないけれど、私には通用しないわよ?」 そうして笑みを残しながら裏のカードとチップを置く。 「そうですか…そんな相手と戦えるとはギャンブラー冥利につきますな、では私はワムウを賭けましょう」 同じくチップとカードをテーブルに置く。 「では……オープン!」 ルイズが出したのは…またもや『グー』 それに対してダービーは……… 『パー』! 「ニ勝目とは幸先がいいですな……では『ルイズ』も頂きましょう」 「そ、そんな…」 愕然とするルイズにワムウが文句を言う。 「お前はひねくれすぎている」 「二連敗しているというのにずいぶんと余裕ですな、皆様。魂を賭けていると言うのに…」 ダービーはニヤリと笑い、続ける… 「私、一つ嘘を言っていましてね…『魂』を集めると言うのは比喩のような物だと言いましたが… 実は比喩ではありません…生まれながらの能力で…私は『オシリス神』と呼んでいますが… 私の能力は『負けを認めた相手の魂を文字通り奪い取る』!そのチップはいわばあなたの魂そのものなんですよ! もし、あなた達が負けたら…私のコレクションとなってもらいます」 ダービーはアタッシュケースを開ける。 そこには顔のついたコインが並んでいた。 「これはリチミエミエ…四暗刻のミエと自称していましたが大した事はなかった…これはヤマサキカズオと言ってね… 隣にいたリエコというのは敵ではありませんでしたが、このカズオは実に強かった!実際負けそうになりましたからね… さて、このコレクションにメイジと使い魔が増えると言うのも実にいい!では続けましょうか…」 負けても特にデメリットはない、と思っていた彼らの空気が凍りつく。 「ちょっと!騙したの!」 「そんな人聞きの悪い、あなたたちは『魂を賭ける』と言ったはずです。負けても何も失わないなんてギャンブルではない!」 「そんなに言うなら次は私が…」 キュルケが行こうとするが、それを制してタバサが前に出る。 「キュルケは熱くなってる。熱くなったら負け」 「ほう、なかなか歯ごたえのありそうな相手がでてきましたな」 「ダービー、あなたは嘘をもう一つついている」 タバサは杖を振る。ダービーの後ろの壁が凍りつく。 「イカサマは認めない」 「ほう、なんのことやら…」 ダービーは表情を崩さない。 タバサは自分たちのカードを見せる。 「グーとチョキの右上の角に切り込みが入っている。グーは1つ、チョキは2つ」 ダービーはニヤリと笑う。 「よく気づきましたな、ここからが本当の勝負と言うわけですな」 ルイズが喚く。 「ちょっと!イカサマしてたなんんて卑怯よ!」 「なにをおっしゃる…イカサマを見抜けなかったのは見抜けない人間の敗北なのです… 私はね、賭けとは人間関係と同じ……騙し合いの関係と考えています。泣いた人間の敗北なのですよ」 イカサマを見破られたと言うのにその態度は変わらない。 そして新品のカードの入った箱を取り出す。 「これは見ればわかるようにまだ未開封、あなた達が開けて調べてもらって構いません。なんなら魔法でも」 といってタバサにそれを渡そうとする。 しかしそれを受け取らない。 「別に調べない。ただイカサマをしていたんだから次からは貴方から先にカードを出してもらう… それと、私たちが魂を取り返せなかったらもう一戦受けてもらう」 「グッド!では再開しましょうか!」 現在のタバサのカード チョキ チョキ パー パー 現在のダービーのカード グー グー チョキ チョキ * * * こんな小娘にイカサマがバレるとは思っていなかったが…なかなか面白くなってきた! 二勝先行した以上チョキを二回出しグーを出せばこちらの勝利は確定している…が、こいつらの魂を剥げるだけ剥ぐのも面白い!残り三戦、全勝するのも悪くは無い! さすがに前のバカどもと違い、こちらのカードがチョキを出せば負けないくらいはわかっているはず… その裏をかいて!ここは『グー』を出す! 「ふふ、私は『ワムウ』を賭けましょう、セット…」 「セット」 両者のカードが揃う。 「では…オープン!」 タバサのカードは…… 『パー』! 「一勝」 「ほう、なかなかやりますな、しかし私がまだ一勝残っている…そちらが全て取り返すのは難しいのでは?」 「次につなげる」 「ふふ、それもいいでしょう」 あそこでパーを出すとはなかなか図太い…図太いがギャンブルには繊細さ、臆病さも必要…次何がくるかわからん…様子見にここは『チョキ』!図太すぎるならばここで落ちる! 「今度はルイズを賭けましょう……ではセット!」 「セット」 タバサもカードを置く。 「オープン!」 カードが開かれる。 タバサのカードはチョキ。あいこである。 「一勝一分け」 「次でラストですな、そちらのカードはチョキとパー、こちらはグーとチョキ…なかなか面白くなってまいりましたな」 ここでチョキを出してくると読んでくるとは…こいつ、ギャンブルに慣れているな……だが、それならばむしろ読みやすい…下手な勝負に出てくる素人より、勝負の理由のある経験者のほうが読みやすい… 次につなげると言っていた以上、ここで奴は負けるわけにはいかんだろう…… ここは!勝負に出る! 「もう一度『ルイズ』を賭ける!セット!」 「セット」 全員が緊張する。 「オープン!」 ダービーは『グー』! それに対しタバサは……… 『パー』! 「二勝二敗。引き分け」 「ここでパーを出してくるとは、なかなかのギャンブラー…気に入った!あの剣はあげれんが…そうだな、健闘賞というところか、ワムウでしたな、この剣を二百エキューでお譲りしましょう」 そういって錆びた剣を棚から出してくる。 「なによ、このボロ剣」 「てめえダービー!なにが残念賞だ!そこの娘っ子もなにがボロ剣だ!誰がお前らなんかに使われてやるもんかい!」 ルイズが少し驚く。 「これってインテリジェンスソード?」 「そのとおりです…少々珍しいので集めたのですが、雰囲気が妖刀魔剣からは遠いものでしてね、お譲りいたしましょう」 ワムウは剣を握る。 「おどれーた。てめー使い手か。前言撤回だ、俺を使いやがれ」 「譲ると言うんだから貰っておこう、二百エキューだったな」 ワムウは金貨をテーブルに置く。 「まいどありがとうございます、どうぞごひいきに…ギャンブルはいつでもお受けしますよ」 「もう勘弁よ」 ルイズ達は出て行った。 「…それにしてもタバサ、あんた結構図太いわね」 キュルケが呆れたように言う。 「見抜けない人間の敗北。自分で言っていた」 「ま、さすが雪風のタバサよね」 イカサマを見破ったときに出した氷。 ただの氷ではなく光を反射しやすくした氷だった。 その氷を鏡にしてダービーのカードを覗き込んでいたのだ! 渡されたカードを確かめなかった理由もその氷が溶ける前に勝負を終わらせたかったからだ。 「黒い壁だったからやりやすかった」 ルイズが背を伸ばす。 「あーもう疲れちゃったわ。シエスタ、こんなことに巻き込ませてごめんね。どっか行くところある?」 「そうですね…お昼にでもしませんか?」 「あら、いいわね」 「あたしがいい店知ってるわよ」 キュルケが口を挟む。 今日のトリステインは平和であった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2501.html
ところで、ぼくは仮面を持っていなかったかい? あれはぼくのお守りでね、ないと少し困るんだ。 だが返ってきたのはそんな仮面は知らないし、最初からなかったという答えだった おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 幕間 侵略者ディオ 二つの月が輝く夜…学院の庭の椅子に一人の青年が腰掛けていた。だが気配を感じる事ができるものなら気がついただろう。 満天の星明かりに加え二つの月が辺りを照らしているのに、その青年の周りだけは闇夜よりも濃い漆黒の雰囲気に包まれている事を… ディオはこれからの計画について考えていた。 何はともあれ考えなくてはならないのが石仮面の存在だ。あの後ルイズに聞いたところ石仮面はあの場所に来ていない事がわかった。 だが、おれはあの鏡に吸い込まれる瞬間まで石仮面を持っていた。ならば答えは一つッ! 石仮面もこの世界に来ているのだッ! 恐らく向こうとこちらの間を通る瞬間におれは手を放してしまい、石仮面はあの場所ではない所に落ちたのであろう。 街道の真ん中かもしれないし、森の奥深くかもしれない。だがおれには奇妙な確信があった。 間違いなくいつかおれは石仮面に出会う。 運命とでもいうのだろうか、普段は一笑に付して否定するような解釈だが、人間の感情以外のところでディオと石仮面の繋がりが感じられた。 故にルイズッ!このディオはいま暫く貴様の下に居てやろうッ! とある種のハチが卵を産んだ芋虫を食い尽くして孵化するように、いつか石仮面を見つけこの身が人間を超越したら 貴様は真っ先に血祭りにあげてやる。 ゆらり、とディオは立ち上がる。辺りの重苦しい空気が動く。 だが万が一という事がある。完璧と思える策を弄しても、しばしば自滅してしまうのが人間だからな…。 その場合、いかにルイズを上手く利用して地位や財産を手に入れるかが重要となる。 その為にもまずはこの学院内に『友達』を作らねばッ!まだこの世界には文字や地理、風習などわからないことが多い。 だから貴族、平民の垣根なくこのディオを支えてくれるような『友達』を作る必要があるのだ。 気がつくと周りは明るくなり、鳥の囀る声が聞こえていた。 「朝か……奴の様子でも見に行くか…ハクション!」 そう一人ごこちつくとくしゃみをしながらディオはルイズの部屋へと行った。 生身の身体に夜の寒さはきつかった。 to be continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2497.html
おれは使い魔になるぞジョジョー!-0 おれは使い魔になるぞジョジョー!-1 おれは使い魔になるぞジョジョー!-2 おれは使い魔になるぞジョジョー!-幕間 おれは使い魔になるぞジョジョー!-3 おれは使い魔になるぞジョジョー!-4 おれは使い魔になるぞジョジョー!-5 おれは使い魔になるぞジョジョー!-幕間2 おれは使い魔になるぞジョジョー!-6前 おれは使い魔になるぞジョジョー!-6後 おれは使い魔になるぞジョジョー!-7 おれは使い魔になるぞジョジョー!-8 おれは使い魔になるぞジョジョー!-9 おれは使い魔になるぞジョジョー!-10