約 1,076,739 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2463.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 魔法学院の教室は、以前大学見学のときにみた講義室のようだった。 ただ、全体が石造りだし、天井の明かりは蛍光灯ではなく、何か白熱電球のような光がふわふわと浮いていたりするのだった。 「(うーん、魔法だ・・・)」 康一は改めて、ここが魔法の世界だということを確認した。 ルイズと康一が入ると、教室のあちこちからクスクスという笑い声がする。 ルイズはそれが聞えないふりをしていたが、康一からはルイズの耳が赤くなっているのがわかった。 教室を見回すと、様々な動物がいる。というか見たこともないような生き物があちらこちらでうようよしている。 でっかい目玉おばけがふよふよと浮いていたり、下半身が蛸の女性が大きなあくびをしていたりするのが見える。 康一は目を擦ってみたがやはり見間違いや幻覚ではないようだ。 誰も騒ぎにしないところを見ると使い魔というやつなのだろう。 その中に朝出会った赤くて大きなトカゲをみつけた。 案の定、その近くの席にキュルケが座っていた。周りを男達に囲まれているのを見て「やっぱり男のほうが放っておかないよなぁー」と思う。 向こうもこちらに気づいて、康一にひらひらと手を振ってきた。 こちらも手を振り返したら、ルイズに後頭部を叩かれた。 ルイズが席の一つに座ったので、康一も隣に座った。 ルイズが変な顔をした。 「あんた、なにやってんの?」 「なにって・・・」 「そこはメイジの席よ。使い魔は座っちゃダメ」 「じゃあ、どこに座ればいいのさ!」 どこを見渡しても『使い魔用の席』なんてものは見当たらない。 「床に座ればいいじゃない。」 ルイズはさも当然そうにいった。 康一はまた出て行きたくなったが、ぐっとこらえてルイズの近くの段差に座り込んだ。 石畳に座るとおしりがつめたい・・・。康一は黙って立ち上がると、教室のうしろに立っていることにした。 ルイズはその様子を見ていたが、何も言わなかった。 そうしていると、扉が開いて中年の女の人が入ってきた。 紫色のローブに身を包み、帽子を被っている、ややふくよかで優しそうな人である。 彼女は教壇に立ち、教室を見回すと、満足そうに微笑んでいった。 「皆さん。春の使い魔召還は、大成功のようですわね。『メイジを知るには使い魔を見よ』といいます。このシュヴルーズ、みなさんが立派に使い魔を召還できたことを誇りに思いますよ。」 クスクスという笑い声が教室のあちこちから聞える。 シュヴルーズは教室の後に立っている康一を見つけると、誰だろうかとしばらく考えていたが、思い至ったらしい。 「ああ、そこの平民の男の子は、ミス・ヴァリエールの使い魔ですね?なかなか個性的というかなんというか・・・」 と先生が呆れたようにいうと、教室がどっと笑いに包まれた。 ルイズは顔を真っ赤にして身を縮めている。 シュヴルーズはさっと手を振り、教室の笑いを沈めると、教師の顔に戻って言った。 「それでは授業を始めます。私の二つ名は『赤土』。『赤土』のシュヴルーズです。二つ名の通り、『土属性』のメイジです。では、まずはおさらいから。魔法の四大系統はご存知ですね?」 教室を見回す。 「ミスタ・マリコルヌ?」 名前を呼ばれた太っちょな生徒が立ち上がった。 「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。「火」「水」「風」「土」の四つです!」 シュヴルーズは頷いた。 「よくできました。ミスタ・マリコルヌ。これに今は失われた『虚無』の系統を加えて、全部で五つの系統があります。我々メイジは、今までこの始祖より与えられた『系統魔法』を使い、人々の暮らしを豊かにしてきました。」 シュヴルーズは講義する。魔物から土地を解放し、開拓し、建物を立て、暮らしに必要なものを作る。病気を癒し、天候を読み、人々を守る。魔法の恩恵があるからこそ今の世の中があるのだと。 康一はうーん、と腕組みをした。なるほど、メイジが威張るのにも理由があるんだなぁ~。 シュヴルーズは教卓を右に左にと歩きながら続けた。 「そうした系統魔法の中で、『土』は一際生活に密着した属性であると言えるでしょう。そこで、まずは皆さんに『土』系統の基礎である、『錬金』のおさらいをしてもらいます。」 そういうと杖を振った。 教卓の上に数個の石ころが並べられる。そのうちの一つに杖を当てた。 シュヴルーズが短いルーンを唱えると、そのただの石ころが一瞬眩しく光り、黄金色の金属に変わっていた。 「う、うわぁー!ただの石っころが黄金になったぁー!!」 康一は思わず声をあげた。 教室中からまた小さな笑い声がする。 ルイズは康一をキッと睨み、ぱくぱくと口だけで「あんたは黙ってなさい!」と言った。 シュヴルーズは康一のことを少し見た。 「・・・いいえ、これは黄金ではなく真鍮です。私はただの『トライアングル』ですから・・・。黄金練成は『スクウェア』クラスでないと不可能です。」 教室を見回す。 「みなさんのほとんどは『ドット』か『ライン』ですが、真鍮への練成は『ドット』クラスでも可能です。」 「せんせー!『ゼロ』クラスでも可能でしょうかー!」 金髪の少年が手を上げて言うと、教室がどっと笑いに包まれた。 ルイズがその場でがたっと立ち上がった。 「ギーシュ!あんたは黙ってなさいよ!」 「別に、ぼくはただ授業における健全な質問をしただけだよ。無駄口は慎みたまえ『ゼロ』のルイズ。」 金髪の少年は手に持った薔薇で口元を隠し、にやりと笑った。 なんとなく康一はむっとした。 「はい、そこまでです。静かにしなさい。」 シュヴルーズが手を叩くと、再び教室が静かになる。 「ミスタ・グラモン。お友達を挑発するものではありません。」 シュヴルーズが注意すると、ギーシュは「かしこまりました、ミセス。」と大仰に一礼をした。 「では、ミス・ヴァリエール。あなたに、この真鍮への錬金をやってもらいましょうか。」 教室がどよめいた。 「え、わたしですか?」 ルイズは自分を指差した。 「そうです。さぁ、教卓の前に出てきなさい。」 と机の上の小石を杖で示した。 ルイズはなぜか立ち上がらない。どうしようかと迷っているようだ。 発表するのが恥ずかしいのかな?だとしたら意外な一面だ。と康一は思った。 「さぁ、恥ずかしがらずに!私はあなたが非常に勤勉な生徒であると聞いてますよ?落ち着いてやれば大丈夫です。さぁ、失敗を恐れずに!」 シュヴルーズは促した。 ルイズはそれでも迷っていたようだが、やがて決心したように立ち上がった。 教室から悲鳴が上がった。 「ルイズ、やめて。」 キュルケがおびえたように言う。 「うわぁー、ゼロが魔法を使うぞぉー!」 「みんなかくれろぉー!!」 それらの声を意に介することもなく、ルイズは緊張した面持ちで教室を降りていく。 ルイズがシュヴルーズ先生の前に立ったころには、教室内の生徒は皆机の下に隠れていた。 シュヴルーズはそんな生徒達を不思議に思ったが、とりあえずルイズに試させることにした。 「さぁ、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を思い浮かべるのです。この場合は真鍮ですね。」 ルイズはその言葉にこくりと頷くと、一度大きく息をして手にもった杖を振り上げた。 思い切ったように、目を瞑り、杖を振り下ろす。 その瞬間。石ころが机ごと爆発した。 爆炎と机の破片が飛び散る。生徒達は机の下に隠れて無事だったが、シュヴルーズは至近距離で爆発を喰らい、吹き飛んだ。 教室の後方にも爆風が及んだ。 「ACT3!」 康一はとっさにスタンドで身を守った。 だが、隠れ切れなかったほかの使い魔は爆風と爆音でパニック状態になる。 火トカゲは火を吹き、バジリスクはカラスを石にした。目玉オバケの触手に絡み取られたマリコルヌの股間に大蛇が噛み付いた。 「うぎゃぁーー!!!」 教室は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。 一方この惨状を巻き起こした張本人といえば、最も近くで爆発を受けたはずなのに、吹き飛ばされもしないで立っていた。 ただ、全身煤と埃まみれで、服はぼろぼろ。スカートが破れて、少しパンティが見えていた。 こほっ、とルイズは煤で真っ黒な咳をした。 「ちょっと失敗したみたいね。」 教室中から怒号が飛んだ。 「どこがちょっとなんだよ!この魔法成功確率『ゼロ』のルイズがぁーーー!」 「だからやめてっていったじゃない!」 「メディック!メディーーック!」 「もう、ヴァリエールは退学にしてくれよ!!」 康一は、ようやく『ゼロ』の意味を理解した。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/650.html
ここらでポルナレフの一日を簡単に語ろう。 朝起床したらバケツに水を汲んできて、それからルイズを起こして洗顔させる。その後着替えさせ、一緒に食堂に行く。その時こっそりと厨房に回り食事を頂く。 授業にはついていかず、午前中に掃除と洗濯を済ませる。亀の中に洗濯機があるのだが、亀も鍵もルイズが所持しているので使えない。 昼食をまた厨房でもらった後、食後の運動として決闘の真似事に付き合う。機嫌がいい日は杖を折るだけ、悪い日は良くて切り傷、悪くて針串刺しの刑ですませる。 夕方になればまた厨房に行き食事をもらう。 その後ルイズや亀と部屋に戻り、またルイズの身の世話をしたあと、藁の中で寝るのだ。 なお、今後の事も考え、開いた時間を使って、ハルケギニアの文字や地理等の常識的知識を勉強している。 シエスタやマルトー達が暇な時は彼等に教えてもらい、そうでない時は図書館に行き適当な本と自分の知識を照らし合わせたり、知り合いがいたらそいつに教えてもらったりするのだ。(主に決闘相手) 特にハルケギニアの言語はラテン語系のそれとは似て非なる物だったが、一週間足らずで簡単な文なら読み書き出来るようになった。 そして今日も決闘が終わったその足で図書館に来ていた。 「学校の図書館で勉強か…何だか学生に戻ったような気分だな。」 ポルナレフは本から顔を上げ呟いた。 彼は既に三十を過ぎている。学歴も高校までしか無かったので、それだけ学校が懐かしく思えたのだ。もっとも体育会系の彼は図書館で勉強なんてあまりしたことが無かったのだが…。 そう物思いに耽っていると、廊下でドタドタ走る音がし、誰かがドアを破壊するかのような勢いで開けて入ってきた。 ポルナレフが迷惑そうにドアの方を向くと、それはルイズだった。 「ハァ…!ようやく…ハァ…見つけ…た…!」 息を切らしつつ、ルイズはポルナレフを睨み付けた。 「図書館では静かにな。あと廊下は走るな。」 ポルナレフは明らかに場違いな指摘をあえてしてみた。 「黙りなさい!誰のせいだと思ってんの!」 当然ルイズはキレた。そのツッコミにポルナレフは10点中3点と心の中で酷評を下した。 「ひょっとして俺か?」 「あんたよ!何でかは知らないけどミスタ・コルベールからあんたを学院長室に連れてこい、て言われたの!」 「学院長室に?」 ポルナレフは驚いた。何故自分が呼ばれねばならない? 自分は一生徒の使い魔であれ、一応ここの生徒では無い。決闘なんて一方的に相手がやってくる物で自分に非は無いはずだ。あ、でもマリコルヌだけはやりすぎだったか。 とはいえ、学院長がお呼びなのだ。行かねばなるまい。 面倒臭そうに立ち上がるとそのまま図書館から出て、ルイズの後について行った。 学院長室に向かう途中、ふとポルナレフは気付いた。 「お前…亀はどうした?確か今朝授業に連れていったよな?」 「え…あ…そ、その」 「まさか爆発の餌食に……」 「まさかそんな訳ないでしょ!ただいつの間にかいなくなってただけよ!」 ルイズは顔を真っ赤にして言った。 「主人なら自分の使い魔(自分含む)ぐらいちゃんと管理しろ。」 「うるさい!」 そんなやり取りを交わしつつポルナレフは南西の方角に亀の気配を感じた。 ポルナレフはチャリオッツが戻ってきて以来、何故か亀の位置がだいたい分かるようになったのである。 おそらく亀も同じくポルナレフの位置が分かっているのだろう。 だからといって何のメリットもないのだが、ポルナレフはこの現象に関してジョースターやディアボロの血統を思い出した。 彼等は血の繋がり故か互いの位置が分かる。 かといって彼等みたいに亀と自分に同じ血が流れているとは思えなかったが、一つだけ思い当たる節があった。 それはトリッシュに化けたディアボロのもう一つの顔、ドッピオである。 あの時、既に視覚を失い、魂の形を見ていたブチャラティの目をディアボロはどうにかしてごまかした。 ブチャラティはあの時確かにトリッシュだと言った。 ポルナレフはディアボロがドッピオに自分とトリッシュの魂が似通う部分のみを渡したのではないだろうかと推測していた。(事実そうなのだが) それならトリッシュがドッピオなのにディアボロの存在を感じたのも納得がいく。 つまり、互いの位置が分かるのは血統云々というより、魂が繋がっている、あるいは共鳴を起こしているのではないか。 それも自らの魂を具現化出来るスタンド使いだからこそ、出来るのではないだろうか。 それならレクイエムの時には魂が入れ代わり、それ以後亀の中で幽霊として過ごしていた自分と亀の魂が繋がっているということがありうるかもしれない。 だから亀だけでなく自分にも使い魔のルーンが刻まれたのか? ポルナレフがそんな事を考えているうちに、ルイズが亀を見つけた。 「ようやく見つけたわ。ほら、こっちに来なさい!」 ルイズは逃げようとした亀を捕まえた。 それを見て、亀の位置なんて分かったところでしょうがない、現に自分よりルイズが先に見つけたではないか、とポルナレフは思った。 「君がミス・ヴァリエールの使い魔君とやらかね。ご存知だとは思うが、わしはトリステイン魔法学院学院長オスマンじゃ。 こちらは秘書のミス・ロングビル。」 「始めまして」 ロングビルはペコリとお辞儀した。 「J・P・ポルナレフだ。」 ポルナレフもお辞儀した。 「さて、ポルナレフ君。君を呼び出したのは君に聞きたいことがあるからじゃ。なに、そんなに固くなることはない。 別に校則違反の決闘を責めてるんじゃないから。」 ポルナレフはホッとする反面、決闘のことを責めるので無ければ一体なんの用事だろうと疑問に思った。 「君に聞きたいのは…あのゴーレムのことじゃ」 「『ゴーレム』?ギーシュのワルキューレのことか?」 「違う違う、あんな物じゃ無い。わしが言っておるのは決闘の度に君の側にいる『見えない』ゴーレムじゃ。」 オスマンは『見えない』殊更強調して言った。ポルナレフは一瞬ドキリとしたが、冷静を装い、 「私の側に立つ見えないゴーレム?何のことだ?」 と返答しつつ、チャリオッツを呼び出し、オスマンにその剣先を向けた。 いざとなったらオスマンの喉をかっ切る覚悟である。 「隠しても無駄じゃよ。のぉ?ロングビル。」 「ええ。大人しく認めた方がいいですよ。」 ガサガサと後ろで物音がした。 「何故なら貴方は既に死地にいるのですから。」 ポルナレフが後ろを振り向くと、そこにいたのは杖を構えたコルベールだった。前をみるとこれまたいつの間にか杖を構えたオスマンとロングビルがいた。 まさに前門の虎後門の狼、絶体絶命である。 「成る程…それほどこいつを危険視するか。」 ポルナレフはそう呟くと、静かに両手を上げ降参の意志を示した。その様子に三人ともホッとして杖を下ろした。 「それじゃあ、教えてくれるのかね?」 「仕方あるまい。貴様らの望む通り教えてやろう…だがその前に聞きたいのだが、何故あれを知っている?見えないはずだが…?」 「そこの遠見の鏡に映っておった。そのままでは見えん事は使い魔を使って確認した。」 「さてはあの白鼠か…あと、ミス・ロングビル。」 「何ですか?」 ポルナレフはつかつかとドアの方に歩いていくと思いっきりドアを開けた。 「キャッ!」 少女の悲鳴らしき声がした。 その声にオスマン達がドアの向こうを見るといきなり開いたドアに鼻柱をぶつけ、床に後頭部を打ち付け昏倒したルイズの姿があった。 鼻血がヤバイ位出ていて、せっかくの美少女がもはや間抜け面である。 「盗み聞きしている輩を何処か遠くへ連れていってくれ。」 「何故私が…」 「すまんがロングビル、彼女を医務室に。」 「…分かりました。」 ロングビルは私だけ話を聞かせないつもりか畜生、と心の中でプッツンしながらルイズにレビテーションをかけ、医務室へ運んでいった。 「さて、それじゃあ何から話せばいいんだ?ロングビルが帰って来るまでに終わらせたい。」 「何故じゃ?彼女にも話を聞く権利は…」 「ロングビルが帰って来たら、その頃にはルイズも帰ってくるからだ。」 ポルナレフは一週間、ルイズを観察した上で、運んだ人が医務室から戻ってくるより先にここに来れると判断した。(あくまで予測である) だから、一番重要でなく、かつ片道の時間が長くなりそうなロングビルを指名したのだ。 オスマンは、よっぽど嫌いなんだな、と同情しつつポルナレフに全てを話すように言った。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/219.html
「つまりこういう訳か?『俺は亀の中にいたため亀と一緒にこの世界に来てしまった。』」 「あんたのその元の世界とやらが本当ならね。でも何であんたまで使い魔になっちゃったのかはさっぱりだわ」 「蘇れたことや帰る方法の方がよっぽど重要だと思うが…」 ポルナレフは空に浮かぶ二つの月を見て溜め息をついた。 今は夜、学生寮のルイズの部屋で二人は今後の事について話していた。 ポルナレフにとってかつての世界に執着はあまりないとは言えない。それどころか他人には言えない大事な用事があったのだ。 それはSPW財団に矢の追跡調査の報告である。彼は承太郎達にレクイエムという新たな力を知らせなければならなかった。 そのため一刻も早く元の世界に戻らなければならなかった。 「しかし、呼び出せたんだから元の世界に戻る道もあるだろう。入口だけで出口の無い家は無いからな。」 「それまではどうするの?」 「分かりきったことを言うんじゃないッ!当分その使い魔とやらをしながら世話になるしか無いだろッ! ああ、なんて厄介な事をしてくれたんだ貴様は…」 ポルナレフは頭を抱え込んでしまった。帰らなければならないが方法が分からない以上どうしようもないのだ。 (しかしなんて暢気な亀だ…同じ境遇のくせに…) すぐ傍で寝ている亀を羨ましそうに見た。 一方ルイズは使い魔である一人と一匹を見て、おそらくこんな事を出来たのは空前絶後私だけだろうと自負していた。 (まさか一度に二匹なんて…!それほど特別なのかしら!?) 自分が『ゼロ』である時点で十分特別だと思われるのだが、そんな事は頭の中に無かった。 しかし、あることに気付いた。 「あんた結構筋肉はついてるけど、ただの平民よね?」 「平民と呼ぶな。貴様達の世界ならそうかもしれんがあいにく俺はここの人間では無いからな。」 「ということは…大して役に立たないわね…」 ルイズはうなだれた。最もな事である。彼女達メイジにとって使い魔とは主人の目となり耳となり、また主人を守る存在であるからだ。 他の使い魔、たとえ犬でさえ平民よりずっとマシに思えた。 「役に立たないとは酷いな。何かの役には立つさ。まあ、ドラゴンやらグリフォンなんかと比べられてもあれだがな。」 ポルナレフは苦笑した。チャリオッツが使えれば並の使い魔ごときに負けない自信はあったが、そのチャリオッツはローマで殺してしまっているため、今はいない。蘇ったことを理解した直後、試してみたがやっぱり無理だった。 「全くよ!…しょうがないわ。あんたには掃除洗濯その他雑用でもしてもらおうかしら」 「別にかまわんぞ。それぐらいしか今の俺には出来んだろうしな。」 案外すんなり受け入れたポルナレフにルイズは多少驚いた。てっきり抵抗するものだと思っていたからだ。 しかし一方のポルナレフは心の内で (誰がそんな面倒な事するかッ!いきなりこんな場所に呼び出されてしかも高慢な態度取られてよく思う奴なんかいるわけあるまいッ!) とキレていた。 「さてと、しゃべったら、眠くなっちゃったわ」 ルイズはそんなポルナレフの胸の内も知らず暢気に欠伸をした。 「そうか。それじゃおやすみ…」 ポルナレフはそう言うと亀の甲羅に鍵を嵌め、甲羅の上に足を載せようとした。 「あんた何しようとしてんのッ!?」 ルイズは自分の使い魔がもう片方の使い魔を殺そうとしている様にしか見えない光景に、思わずそう叫んだのだが、 「寝るんだろ?ここには俺が寝るベットやソファは無い。だったらここで寝るしかあるまい。」 とポルナレフは落ち着いて言うと『中に入って』行った。 「…はぁ?」 ルイズはそのあまりに異常な光景に今度は開いた口が塞がらなかった。 「あんた…どこ行ったの?」 「ここだが?」 「キャッ!?」 昼間と同じ様にポルナレフの首だけが甲羅からニュッと出ていた。 「ななな、何が起こっているの!?あたしの頭がおかしくなったの?それとも何かの魔法!?平民が!?ありえない!」 「だから亀の中が…」 「何故なの!?全く意味が分からないわッ!」 そういうとポルナレフの首から逃れるようにベットにダイブし、毛布を頭から被るとガタガタ震えだした。 「一日に二回も男の生首がいきなり目の前に現れたんだ。怯えて取り乱すのも無理はあるまい。しかし、『これ』を理解させるにはもっと時間が必要かもしれんな…」 と呟くとポルナレフはそのまま亀の中のソファで何日ぶりかの睡眠を楽しんだ。 …ルイズが震えていた本当の理由も知らずに… To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2466.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ルイズは久しぶりに上機嫌だった。 何かが良くなったわけでもない。午前中もやっぱり魔法は失敗してしまった。 それでもルイズの心は軽かった。 ここ最近ずっと味気なかった食事も、今はなんだかとても美味しく感じる。 康一が教室で言ってくれた言葉を思い出した。 そうだわ。わたし、まだ17なんだもの!これからどんなことがあるか分からない。 まだ自分の『運命』に絶望するのは早すぎる! 使い魔だって、最初はみんなと違ってたからがっかりしたけど、よく考えたら人間なんだから、猫や鳥を召還するよりずっと上等だわ。 ルイズは食事を終え、ナプキンで口元を拭いた。 午後は自習らしい。せっかくだから魔法の練習をしよう! そこに数人の男子が通りがかった。 そのうちの一人が、ポケットから小瓶を落としたので、ルイズは声をかけた。 「ちょっと。何か落としたわよ。」 ん?と振り向いた顔を見て、ルイズはゲッという顔をした。 ギーシュ・ド・グラモン。さっき教室でわたしに嫌味を言った、キザで嫌なやつ! 「なんだいルイズ。もう片付けは終わったのかい?」 ギーシュがいかにも嫌味な口調で言った。 ルイズは思わず怒鳴りそうになったが、我慢することにした。 確かに、自分の失敗のせいで彼にも迷惑をかけた。だからぐっと堪える。 「ええ。ミスタ・コルベールにもういいって言われたの。それより、その小瓶。あんたが落としたんでしょ?」 と、床に落ちている紫色の小瓶を指差した。 今度はギーシュのほうが、ゲェ~!!という顔をした。だが、瞬時に表情を取り繕うと、 「し、知らないね。それはぼくのものじゃないよ。適当なことを言わないでくれたまえ。」 と背を向けようとする。 「嘘!あんたのポケットから落ちたの見たんだから!いいから持っていきなさいよ!」 別にギーシュのことなんかどうでもよかったが、適当よばわりされたのは我慢ならなかった。 すると、ギーシュと一緒にいた友人達が、「おおっ!」と騒ぎ始めた。 「おい、ギーシュ!それってもしかしてモンモランシーの香水じゃあないのか!?」 「そうだ!この鮮やかな紫色の小瓶・・・間違いない!モンモランシーのだ!ギーシュ・・・お前モンモランシーと付き合ってるのか?そうだろ!」 「あ、あんまり騒ぐんじゃない!いいかい?彼女の名誉のために言っておくが・・・」 ギーシュが否定しようとしたとき、ルイズの後にあるテーブルから、一人の女の子が立ち上がった。茶色のマントだから一年生だろう。 その栗色の髪をした可愛い少女は、涙ぐんだ目でギーシュを見つめた。 「ギーシュ様・・・やはりミス・モンモランシーと付き合っておられたのですね・・・」 ぼろぼろと涙がこぼれる。 ギーシュは慌てて女の子の肩を抱いた。 「い、いやだな。ケティ。そんなつまらない勘違いで美しい顔を涙に濡らさないでおくれ。ぼくはいつだって君一筋なんだから・・・」 「へぇ~~~?君一筋・・・ねぇ。」 ギーシュはぎくりと固まった。ゆっくりと声をしたほうに顔を向けると、きれいな金髪の巻き髪をした女の子が立っていた。 「ギーシュ。あなた、やっぱり一年生の子に手を出していたんだ・・・」 ギーシュはケティの肩を抱いていた手をぱっと離した。 「ちち違うんだモンモランシー!彼女とはラ・ロシェールの森まで遠乗りをしただけで・・・。ああっ!その薔薇のように麗しい顔を怒りにゆがめないでおく・・・!」 その瞬間、バッチコーーン!と食堂中に響くいい音をさせて、ケティのビンタが飛んだ。 「ギーシュ様!最低です!」 そして泣きながら走り去っていった。 「ああっ!ケティ!」 思わず手を伸ばしたギーシュに、背後からドバドバとワインが振りかけられた。 ギーシュがゆっくりと振り向くと、モンモランシーはワインの空き瓶を床に投げ捨てたところだった。 「二度と私に近づかないで。」 凍りつくような声色でそれだけ言うと、つかつかと歩き去っていく。 要するに二股をかけていたらしい。ルイズは馬鹿なやつ。とつぶやいて立ち上がった。 ワインまみれで立ちすくむギーシュの横をすり抜けて出口へ向かう。 「待ちたまえ・・・!」しかしそこでギーシュがルイズを呼び止めた。 「・・・・なに?」 ルイズが振り向くと、ギーシュはルイズに薔薇の造花をつきつけた。 「君の軽率な行動のおかげで、二人のレディの名誉が傷ついてしまった・・・。どうしてくれるのかね?」 ルイズは薔薇を払いのけた。 「わたしの知ったことじゃあないわ。ギーシュ。二股かけてたあんたが悪いんじゃない。」 まわりの生徒達がやんややんやと騒ぎ立てた。 「そのとおりだギーシュ!お前が悪い!」 ギーシュの顔に赤みがさした。 「ぼくは君が呼び止めたときに、知らないといったはずだ。そこで引き下がっていれば、こんな騒ぎにはならなかった!」 ルイズは呆れた。心の底から呆れた。こんなやつが貴族を名乗っていいのだろうか。 だから馬鹿にした口調で斬って捨てた。 「あんたが二股をかけるのが悪いんでしょ。『青銅』・・・いや、『二股』のギーシュ?」 集まってきた人垣がどっと笑う。 ギーシュは思わず頭に血が上りそうになったが、それを堪えた。 相手は『ゼロ』のルイズだ。この僕が何をむきになることがある。 ギーシュはやれやれ、と溜息をついて見せた。 「まぁ、君のような似非貴族に、マナーを期待するのが間違いだったか。いいさ、行くがいい。『ゼロ』のルイズ。」 似非貴族!これ以上ルイズの心に突き刺さる言葉は他になかった。 「・・・ヴァリエール家を馬鹿にするならタダじゃおかないわよ、ギーシュ。」 ルイズが声の震えを押さえつけるようにして言うと、ギーシュはふふん、と笑った。 「僕はヴァリエール家を馬鹿にしてなんかいないさ。ヴァリエール家はトリステインでも最も由緒正しき家柄の一つだ!僕はとても尊敬しているよ!」 ただね・・・、ギーシュは口元をゆがめた。 「君は別だ、ルイズ。由緒正しきヴァリエール家に相応しくない落ちこぼれ。未だに魔法の一つも使えない似非貴族とは君のことさ。」 ギーシュはルイズを指差した。ルイズはその指に、自分の心臓を抉られたように思った。怒りと悲しみで言葉が出てこない。 「今日も授業をぶち壊してくれたね。君のような似非貴族がメイジのふりをしているから、僕たちはとても迷惑しているんだ。」 ルイズを助けに入る者はいない。みな、少なからずもルイズに思うところがあったのだ。 ところで・・・。ギーシュは、ルイズの耳元で囁いた。 「君・・・本当にヴァリエール公爵家の子どもなのかい?」 ルイズの頭が真っ白になった。気がついたときにはギーシュに杖を突きつけていた。 「決闘よ!!」 ギーシュは一瞬ぽかん、としたようだったが。やがてぷっと吹き出した。 周り中がどっと笑い出す。 「あはははは!ルイズ!君は自分が何を言っているのか分かっているのかい?君が僕と決闘だって!?」 ギーシュが馬鹿にしたようにいった。ルイズは震える声で答えた。 「そうよ!わたしはあんたに決闘を申し込むわ!」 ギーシュは、笑うのをやめた。でもねぇ・・・ 「この学院では決闘は認められていないんだよね。特に『貴族と貴族の決闘』はね・・・!だから、君がこうお願いするなら受けてもいいよ。」 芝居がかった口調で続けた。 「『今まで貴族のふりをしていてすみませんでした。わたしはしがない平民ですから決闘を受けてください』とね。」 口笛が飛んだ。騒ぎを聞きつけてあつまった人垣から「いいぞー!やれやれー!」と野次が飛ぶ。 くやしい!くやしい!くやしい!くやしい! ルイズは手を裂けんばかりに握り締めた。 どうがんばっても、わたしよりこいつのほうが貴族らしい・・・。そんなことくらい自分が一番分かっている。 貴族にも、平民にもずっと馬鹿にされてきた!誰もはっきりとは言わなかったが、ギーシュが言っているのは、ずっと自分が思ってきたことなんだ。 わたしはギーシュが憎いんじゃない・・・反論できない自分が情けないんだ!! 涙で視界がゆがむ。座り込んでしまいそうだ。 でも、こんなやつの前で泣いたりするもんか!泣くもんか!泣くもんか!泣くもんか! ルイズは必死に唇をかみ締めてギーシュを睨みつけた。 そのとき、高らかに声が響きわたった。 「それなら、ぼくが決闘を申し込むよ!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド ざわめく群集をかき分けて、ゆっくりとギーシュの前に立ちふさがったのは、『ゼロの使い魔』と呼ばれた、小さな平民の男の子だった。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/12.html
「宇宙の果てのどこかにいる私のシモベよ… 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よッ 私は心より求め、訴えるわ 我が導きに…答えなさいッ!!」 ドッグォオォ 今更、爆発くらいでは誰も驚かない 慌てて身をかばいはするが、誰も彼も、ただそれだけのことだ ゼロのルイズが魔法を使えば爆発する 馬を怒らせたら蹴飛ばされるのと同じくらい、彼らにとっては当然 だが、煙がおさまったあと、そこに見えてきたものは違った そういえばルイズは召喚魔法を使ったのだ クラスメートは皆、そのことを思い出していた そして――― 「…なに? この…鳥の巣アタマ…は?」 当のルイズがのけぞりおののいた時、それは噴出する 煙から現れ出た男、その頭ッ 彼らの目にはまさしく鳥の巣ッ 笑い出すにはあまりに充分ッ 「うはッ」 「くくくっ」 「あっはっはっはっはっは」 「ぶーっはっはっはっはァ――――ッ」 「ちょ、ちょっと、ぷはっ、アハハハハハハハハ」 「鳥の巣、鳥の巣、くわははははは」 「さっすがルイズッ ぐはははは」 「鳥の巣男を召喚したぞおおおお」 「そこにしびれるあこがれるゥ――ッ ヤッハハハァァ」 腹を抱え、転がる 教員にも収集がつかない 引率のコルベールは頑張っていたが その努力はむなしかった 笑い声に囲まれたルイズは拳を握り、 どうしてくれようかと男を見やった瞬間である 「DORAa!!」 ズド ルイズは空を飛んでいた 何が起きたのかわからなかった 空と地面がぐるりと視界を一週、二週、三週 桃色がかったブロンドも歌舞伎のように乱れ、そして ドザアッ 肩から落ちた 笑い声がぴたりと止んだ 「鳥の巣」の様子はおかしかった 誰が見ても明らかだった そいつは今まで座っていたが 立ち上がってみると、意外なまでに大きな男だった 「鳥の巣」もそうだが、見たこともない黒ずくめの服装、その装飾 何から何まで奇妙だ だが奇妙なのは、もっとも奇妙なのはッ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 男が一体何をしたのか、誰の目にも見えなかった 「お…おまえ、ご主人様にッ つ、使い魔のぶんざいでぇぇっ」 痛みを忘れたルイズは身を起こし、半泣きで怒鳴るが 虚勢は一瞬で消し飛ばされた ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 「鳥の巣」が影となって、その目元はよく見えない 見下ろすように顎を上向けているにも関わらず (何、こいつ… なんか知らないけど、ヤバいッ) 直感し、立って少し離れようとした直後 男が初めて喋った 聞き取れる声を出した 「oreno…」 「オ、オレ、ノ?」 「orenoatamaganandatte?」 「わ、わっかんないわよっ 人間の言葉しゃべんなさいよッ!!」 「darenoatamagaDORAEMONnoSUNEOmiteedato~~~ッ」 「そこまでだッ」 「不審なヤツめ、取り押さえてやる」 衛兵がやってきた 誰かが呼んだのだろうか どうでもいいが彼らは不運だった ドゴ バキャア 兜と顎が砕け割れる 二人同時だった 同時に別方向に飛んでいった 今度こそ確かに言える 「見えない何かに殴られた」 この場にいる全員に、そうとしか見えなかった 「kikoetazoKORAaa!!」 ズンッ 踏み出す男、全員後じさる 「い…い…」 ゲドゲドの恐怖ヅラで、生徒の一人が命じてしまった 緊張に耐えきれず、火蓋を切ってしまった 召喚したての使い魔に、自らの半身にッ 「いけえええ、ビーティィィィ―――ッ」 パニックだった 頭の血管がプッツンした生徒が次々と使い魔をけしかける だが、彼らなどよりも「鳥の巣」男の方が圧倒的にプッツンしていた 彼らはそれを知らなかった プッ プッ… プッ…… プッ ツ~~ン 「DORARARARARARARARARARARARARARARARA」 バス バスッ ドゴォ ベキッ ズドム 使い魔達が空を飛ぶ 木の葉の軽さで宙を舞う 大惨事である 「なんということだ…」 コルベールは戦慄する あと数分もしないうちに、このままでは生徒達が「殴られる」 応援を呼ばせようと、先に殴られた衛兵二人に向き直り… 目の玉をひん剥いたッ 「治っている? ひとりでに? いや…違うぞ」 「た、助けてくださ、助けてェェ」 「これ、は…こいつはッ」 ドドドドドドドドドドドドドドドド (兜と顎が、癒着…しているのか? これは魔法か? 何の系統だ…水、土? スクエアメイジだとでもいうのか、あの青年がッ そんなことはどうでもいい もし子供達がこの力で殴られてみろ…ハッ!?) すでに一人殴られている コルベールは咄嗟に彼女の方を見た 抜かした腰でずりずりと下がっていく彼女の胸にある、マントの留め金…五芒星の、学園制式の… 本人は気づいていないようだが… 三日月にも似た前衛芸術と化し、一部はシャツと同化していた (ダメだ…応援を呼んでいるヒマは、ないッ 守るのだ!! 私が、生徒をッ) 2へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1461.html
ドロの使い魔-1 ドロの使い魔-2 ドロの使い魔-3 ドロの使い魔-4 ドロの使い魔-5 ドロの使い魔-6 ドロの使い魔-7 ドロの使い魔-8 ドロの使い魔-9 ドロの使い魔-10 ドロの使い魔-11 ドロの使い魔-12 ドロの使い魔-13 ドロの使い魔-14 ドロの使い魔-15 ドロの使い魔-16 ドロの使い魔-17 ドロの使い魔-18 ドロの使い魔-19 ドロの使い魔-20 ドロの使い魔-21
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2489.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ルイズは元々勤勉な学生だった。 やんごとなき大貴族ヴァリエール家の三女。期待もされた。期待に答えたいとも思った。 だからルイズは基本的に努力家である。 そんなルイズの努力は、決して実ることがなかった。 一度は絶望し、諦めかけたこともあった。 しかし今、ルイズは再び燃えている。焦りではない。まるで小さな頃、初めて自分の杖を手にしたときのような、希望と情熱が彼女の胸に灯っている。 すっかり夜も更けてしまった学院外の草原で、一向に成功する気配をも見せないコモンルーンに挑戦している。 だから、彼女がこの夜、あの場所で起こったことを見つけたのは決して偶然ではなく、小さなご主人様の隣に、同じくらい小さな使い魔の少年がランタンを持って立っていたのも、また偶然ではない。 「ふわあああぁぁぁ・・・」 暗闇の中、地面に座り込んだ少年が大きなあくびをした。 「ねぇ・・・もうそろそろ寝ようよぉ」 康一は試しにご主人様にお願いしてみた。 「だめよ。まだ今日のぶんが済んでないもの。」 ルイズは使い魔の懇願を振り向きもせずに却下した。 小石が真鍮になるイメージを浮かべる。ゆっくりと呪文を唱える。母親が子どもに絵本を読み聞かせるように。正確に。確実に。そして、数歩先の小石に向けて杖を振った。 ボンッ! 一瞬白い光を放ち、小石が爆発した。 爆風に巻き上げられた砂がぱらぱらと落ちる。 魔力を抑えているので、大した被害にはならないのだが。 「し、失敗ね。それじゃあ今度は抑揚を変えてやってみるわ。」 まだまだやる気のルイズに、哀れな使い魔は溜息をついた。 連日この調子である。 『100回失敗したら10000回練習するわ。10000回失敗したら100万回練習すればいいわ!』 ルイズはもう一度自分を信じることにしたのだ。この努力は無駄ではない。 きっといつか私にもコーイチに起こったような「運命」がやってくる。わたしがみんなに認められるようになる。そのときのために。 しかし、その結果残されたのはおびただしい数の爆発と爆音とクレーターである。 真夜中だろうとボンボン爆発させているので、ついに教師から学院の外で練習するようにと言われて追い出された。 それでもルイズはあきらめない。このくらいで諦めたらいつか「運命」がやってきたときに申し訳が立たないわ。なんて、よく分からないことを言っている。 そして康一は泣き言をいいながらも、なんだかんだで毎夜ルイズの練習に付き合っているのだった。 特にやることもないので、ぼーっとルイズを見ている。 よく意外に思われるが、康一はコツコツ努力を積み重ねていくタイプでもない。剣の練習もあれからそんなにしていなかった。 デルフリンガーは、自分の大きさに比べて相棒が小さすぎることに危機感を覚えたのか、最近は「食べろ!食べてでっかくなれ!」と事あるごとに言っている。 それがうるさいので、今は剣を持ってきていない。 「食べて横に大きくなってもしょうがないだろーに。」と思う。 ふと何か違和感を感じた。 妙な音がするわけでもない。ルイズは疲れてへろへろだが特に変わった様子もない。 そして気づいた。ここから遠目に見える学院の、中央塔のあたりで何かがうごめいている。 しかし縮尺がおかしい。中央本塔は相当な高さのはずだ。それと比べるなら、『それ』は10m以上の高さがある。 「ね、ねぇ。あれ、何?」 康一が指を指すと、ルイズが肩で息をしながら不審げに振り向いた。 「なによ・・・。今いっぱいいっぱいなんだから話しかけないで・・・って、なにあれ。」 ようやくルイズも気づいたらしい。 「ゴーレム・・・かしら。でもなんでこんな時間に、あんなところで?」 そこでハッと気がついた。 「まさか、賊!?」 「賊って、泥棒ってこと?」 「きっとそうよ!最近このあたりを、『土くれ』のフーケっていう土のメイジがが荒らして回ってるって聞いたわ!」 きた!と思った。 あれがわたしの「運命」だわ! あれに気づいているのはまだきっと自分達だけ。フーケをわたしが見つけたんだわ! フーケを捕らえれば、大手柄だ。千載一遇のチャンスが転がり込んできた! 思わす走り出したが、ちょうどルイズは消耗しきってふらふらのところだった。 足が絡まり、躓いて危うく倒れそうなところを康一が支える。 「急に走ったら危ないよ!肩を貸してあげるから捕まって!」 思いがけず胸に飛び込んでしまったルイズは慌てて康一を突き放そうとした。 「あ、汗かいてるから・・・」 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」 康一はルイズの腋に肩を入れ、腰に手を回してルイズを支えた。 もうルイズは康一に体を預けるしかない。 康一はあわあわと動揺するルイズを連れて、学院に向かった。 見上げるほどの巨大なゴーレムがゆっくりと拳を振り上げ、全体重をかけて壁に打ち付ける。 ゴン! と小さな音がする。普通なら爆音といっていいほどの衝撃音がするはずだが、それがほとんどしない。 フーケがゴーレムの操作と平行して、『サイレント』をかけているのだ。 盗賊として経験を積んでいるフーケにしてみれば、そう難しいことではない。 「それにしても、硬いッたらないね!」 フーケは先ほど殴りつけた壁に顔を寄せると舌打ちした。 もう自慢のゴーレムで10回は殴りつけているというのに、傷がつく様子すらほとんどない。 巡回はないはずだ。ここのメイジ共は平和ボケしていて当番をサボるのが当然になっているのは事前に調べがついている。 だからそうそう気づかれない自信はあるが、あまり時間をかけたくはない。 「せめて、ヒビでも入ってくれればそこから崩せるんだけどねぇ。」 後5分は挑戦してみよう。フーケは殴りつけるのを再開するため、ゴーレムの肩口に飛んだ。 ちょうどそのタイミング。 フーケが先ほどまでいた場所が突然爆発した。 「何っ!?」 もう見つかったというのだろうか。慌ててあたりを見回すと、ゴーレムの足元に誰かがいる。 あれは・・・ルイズ・フランソワーズと、彼女に捕まった平民の使い魔、コーイチだ。 「何でこんなところにあいつらがいるんだい!」 壁はやぶれそうにない。しかも人に見つかってしまった。 目撃者を消せば多少の時間は稼げる。しかし、落ちこぼれのルイズはともかく、コーイチの実力は未知数だ。できるだけ相手をしたくはない。 それに、コーイチは貴族に使役されているだけの気のいい少年だった。彼を殺したくはない。 「コーイチ・・・。なんでよりによってあんたなんだい!」 逃げたいところだが、一度失敗すれば警備は強化されるだろう。多分こんなチャンスはもうめぐってこない。 今まで掃ってきた労力と自分の身の安全を天秤にかける。 天秤は、自分の身の安全に傾いた。 口惜しいが逃げるしかない。 だがしかし、そこでフーケは気づいた。 先ほど爆発(恐らくルイズの失敗魔法だろう)が起こった場所から放射状にヒビが入っている。 どういう理屈だかはわからない。しかしこれぞまさしく天の助け! フーケは覚悟を決めた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/423.html
■ ゼロの変態 ├ ゼロの変態-1 ├ ゼロの変態-2 ├ 第二話 使い魔暗殺者(ヒットマン)メローネ! ├ 第三話 シエスタ ├ 第四話 余の仇名はゼロ ├ 第五話 二股貴族物語 ├ 第六話 フルボッコ・ギーシュ・シティ① ├ 第七話 フルボッコ・ギーシュ・シティ② ├ 第八話 コードギーシュ~反逆の富竹~ ├ 第九話 ジャイアントモール~ギーシュが燃え尽きる日~ └ 最終話 ホワッツ・ア・ワンダフル・ヘンタイ ■ 新ゼロの変態 ├ 第一話 帰ってきた変態 ├ 第二話 カオスは大変なものを残して行きました ├ 番外 惑いて来たれ、地味な神隠し ├ 第三話 チャームポイントは泣きボクロ ├ 第4話 ディノクライシス ├ 間奏曲(インタールード) ├ 第五話 ついてない男 ├ 第六話 テニヌの皇帝 └ 最終幕(フィナーレ) ■ ゼロの変態マキシマム └ 第一訓 ちらっと目に入った物の方が印象に残る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2467.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 小さな少年である。 女の子ですら、大体が見下ろす形になる。 男と比べると、頭一つ分以上は低い。 メイジでもない。強そうにも見えない。 しかし、その目を見た群衆は、なぜか自分から道を開けた。 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド 康一は、驚くルイズの肩に手を置いた。 その手からは「もう大丈夫だから。」という覚悟が伝わってくる。 康一はルイズの前に進み出た。 ギーシュは、突然しゃしゃり出てきたチビの平民を見下ろした。 「なんだって?よく・・・聞えなかったんだが。もう一度言ってくれるかな、平民。」 「ぼくがお前に決闘を申し込む。そういったんだ。」 ギーシュはようやく、目の前にいるのがルイズの使い魔だということを思い出した。 「ああ、君はルイズが捕まえてきた平民だったか。どうせ使い魔召還が出来ないからといって、その辺の子どもをさらって来たんだろう。平民の出る幕じゃない。どきたまえ。」 「嫌だね。」 康一はギーシュを指差した。 「おまえはルイズの『誇り』を不当に侮辱したッ!その償いをしてもらう!」 「ふん、ばかばかしい。君になにができるというんだね。」 「お前をじゃがいもだって目を背けるようなぼごぼごの顔面にしてから、ルイズに言った言葉を取り消させるッ!」 ギーシュは目を細めた。 「平民の癖に口だけは達者だな。その勇気に免じて見逃してやろう。さっさと『ゼロ』を連れて逃げ帰るがいい。」 「逃がしてください。の間違いじゃないのか?」 「・・・なんだと?」 ギーシュは聞き返した。 「『僕は女の子に振られて恥をかいたので、ルイズにやつあたりをしました。この上平民にぼこぼこにされるのは嫌なので、見逃してください。』お前はそういうべきじゃないのか?」 ギーシュは覚悟を決めた。ここまで侮辱されて放っておいたら、貴族としての沽券に関わる。 「いいだろう。そこまで死にたいのなら相手をしてやる!ヴェストリの広場まで来い!」 ギーシュはマントを翻し、食堂を出て行った。 「ギーシュとルイズの使い魔の決闘だァー!」 ギーシュの友人達がわくわくした様子でそれについて行った。 周りに集まった人垣も、この面白そうなイベントに興味津々だ。 既にヴェストリの広場への移動を始めている。 自分もそれについていこうとした康一をルイズがしがみつくようにして引き止めた。 「あ、あんた。何言ったか分かってるの?死ぬわよ!?」 ルイズはさっきまで自分が追い詰められていたのをすっかり忘れてしまったのかのようだ。 「あのくそったれな貴族をぶっ飛ばして、君に謝らせる!」 「無理よ!」 ルイズは悲鳴をあげた。 「ギーシュはあれで強いのよ?『ドット』メイジだけど、一度にたくさんのゴーレムを操れるの!同じ学年で、あいつより強い奴なんて数えるほどしかいないわ!」 康一は袖をつかむルイズの手を押さえた。 「ぼくはこの世界のメイジについてあまり知らない。ひょっとしたらぼくなんて相手にならないほど強いのかも・・・。でも、あれはぼくが今戦わなくちゃいけない敵なんだ!」 「だから、君はぼくを信じてほしい。大丈夫!ぼくは負けるつもりなんてこれっぽっちもないからね!」 康一はルイズの手を離させると、ヴェストリの広場に向かって歩き出した。 「ちょ、ちょっと待ちなさい!」 ルイズは康一の目に、思いがけず強いものを感じて、うろたえながらも彼を追いかけた。 ヴェストリの広場は、『風』と『火』の塔の間にある普段人気のない中庭である。 群集について行った康一は大きな人垣があるのを見つけて、そこに分け入った。 人垣を抜けると、すでにギーシュは薔薇の造花を手に待ち構えていた。 「とりあえず、逃げずに来たことはほめてやろう。」 「這い蹲るのはお前のほうだ!逃げる必要なんかこれっぽっちもないねッ!」 そのとき、康一はギーシュの奥の人垣の中に、知っている人を見つけた。 「(シエスタだ!)」 きっと騒ぎを聞きつけて駆けつけたのだろう。 シエスタは野次を飛ばす観衆の中で、懸命に「コーイチさん!逃げてください!」と叫んでいる。 「そっか・・・」 康一は気づいた。自分がこれから『スタンド』を使えば、普通の平民でないことがばれてしまう。 「(ごめんね、シエスタ。騙すつもりはなかったんだ。君によくしてもらってすごくうれしかった。)」 シエスタは裏切られたように感じるだろうか。康一は心を痛めた。 そのとき、康一の体に光る粉のようなものが振りかけられた。 「なにっ!?」 「ギーシュ!大丈夫だ!この平民、『マジックアイテム』はもってないぜ!」 声がしたほうを振り向いた。さっきギーシュと一緒にいた仲間の一人だ。 「お前ぼくに何をしたッ!!」 「何って、『ディテクト・マジック』さ・・・」 かわりにギーシュが答えた。口元に笑みを浮かべている。 「君が魔力を持った品を持っているかどうか調べた。当然だろう?これは僕と君との一対一の決闘だ。他人の魔法に介入されるのは不愉快だからね。まぁ、持っていないようで少し感心したよ。」 ギーシュは薔薇の造花を振った。 一枚の花びらが地面に舞ったかと思うと、甲冑を着た女戦士のような人形が現れた。 「僕の名はギーシュ・ド・グラモン!『青銅』のギーシュだ。当然自分の魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 これが『ゴーレム』・・・!人間程度の大きさだが、全身が金属でいかにも堅そうだ。 それに自分に比べるとずいぶんと大きい。体重が違いすぎる。まともに殴りあえるわけがない。 「いくぞ!!叩きのめせ!ワルキューレ!」 ギーシュが命令すると、ゴーレムがドン!と土煙をあげて突進してきた。 康一は身構えた。 「(でも、君は勘違いをしている。ぼくの『エコーズ』は『マジックアイテム』なんかじゃない。ぼく自身の能力!)」 「そのワルキューレが、ACT3の重さに耐えられるか試してやるッ!」 康一は声高にACT3を呼 『異端者は通常火刑に処せられるわ。』 「はっ!?」 康一は、突然ルイズが言っていたことを思い出した。 そうだ・・・『エコーズ』が『マジックアイテム』じゃないことがばれてはいけないのだ。 つまり、今ここで『スタンド』を使うわけにはいかない!? 康一が気づいたときには、ワルキューレが目と鼻の先まで接近していた。 「しまった!!」 避ける間もなく、ワルキューレの青銅製の右拳が顔面を捉え、康一は吹き飛んだ。 ギーシュは地面に這いつくばった康一を見下ろし、大きく手を広げた。 「さぁ。哀れな平民に貴族との『絶対的な差』というものを教育してあげよう。」 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2458.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 「とりあえず座りなさい。」 部屋に入ってそうそう、ルイズは命令した。 「・・・座るってどこに?」康一は尋ねた。 広い部屋である。うちのリビングくらいの大きさかなぁと康一は思った。 扉から入って正面には大きな窓が開いている。もう暗くて外の様子はわからないが、二階だし景色はよさそうだ。 左手には大きなクローゼットと姿見の鏡が置いてある。そして右手には大きなベッド。ベッドの近くには窓に面するように机と椅子が置かれていて、机のうえにはなにやら分厚い本が開いたままになっていた。 「そうね・・・そこの椅子でいいわ。」マントを入り口近くの帽子掛けにかけながら、ルイズが机の前に置かれている椅子を示した。 康一は言われたとおりに椅子に座り、きょろきょろと辺りを見回した。調度品も一つ一つが飾り気があって、いかにも高そうに感じる。 そうしていると、ルイズがやってくる。腰に手を当てて溜息をついた。 「やっと二人きりになれたわね・・・」 とびっきりの美少女にこんなことを言われてドキドキしない男がいるだろうか!だが、えてしてそういった期待は裏切られるものなのである。ルイズは椅子に座った康一の前に立つと眉を吊り上げた。 「さぁ、白状してもらうわよ。あのゴーレムはなに?」 召還してから今まで、無視されたり教師に割り込まれたりと、質問を邪魔され続けてルイズは我慢の限界にきていたのだ。 やっぱりね・・・。康一は半ば予想はしていたものの、がっくりとうなだれた。 「君にも見えてるんだよねやっぱり・・・ぼくの『スタンド』が。」 「それ!それよ!あんたそいつをどこから出したわけ?」 「どこから・・・といわれてもなぁ・・・」 消えている間、『スタンド』がどこにいるのか、なんてあまり考えたことはなかった。 「まぁ、あえて言うならぼくの体から、かなぁ。」 「嘘!どこかにマジックアイテムを隠してるんでしょ。見せて!」 と手を突き出す。 「そ、そんなのないよ!」 「しらばっくれるんじゃないわよ!あんたみたいな平民がゴーレムを作るなんて、絶対ありえないんだから!」ルイズがつかつかと近づく。 「だから、ゴーレムじゃないったら!それにさっきから平民平民言ってるけど、なんでそんなことがわかるのさ!」 確かに自分は庶民的な家庭の出だが、見ただけでそんなことが分かるのだろうか。 「何言ってるのよ。あんた杖を持ってないし、マントも着てないじゃない。・・・ていうか、あんたって魔法を見たこともないんだったわね。じゃあ貴族にも会ったことがないんだ・・・」 貴族・・・どうやらこの世界では「貴族=魔法を使える人」「平民=魔法を使えない人」ってことらしいぞ?と康一は気づいた。 「まぁそんなことはどうでもいいわ。早く見せなさい!」 ルイズがずいっと近づいてくるので、康一は椅子から立ち上がって後ずさった。 「そんなものはないったら。あれはぼくの『スタンド』だよ。」 「じゃあ、その『スタンド』を私に渡しなさい。」 「だから『スタンド』は渡せるようなものじゃないんだったら!」 ルイズが詰め寄り、康一が下がる。二人はぐるぐると部屋の中を回る。 「ええい、もう!じれったいわね!」 ルイズは痺れを切らして康一を突き飛ばした。康一はちょうど後ろにあったベッドに倒れこんでしまう。 「いいから出しなさい!」 ルイズが康一の上に覆いかぶさり、康一の学生服を脱がそうとする。 「ちょ、ちょっと待って!何をしてるんだぁー!」康一はびっくりして叫んだ。 「うるさいわね!あんたが大人しく出さないのが悪いんでしょ!どこに隠してるの!?」 すごい力である。康一よりも小さいはずの女の子が、抵抗する康一から無理やり服を剥ぎ取っていく。 「だからマジックアイテムなんかないったら!大体もしあったとして、なんで君に見せないといけないのさ!ああっ!ズボンは!ズボンはやめて!」 「やっぱりあるのね!わたしはあんたのご主人様なんだから、使い魔の全てを知る権利があるのよ!!」 「そんな無茶苦茶なぁー!」 その時、バタンという音がして突然扉が開いた。ベッドに入ろうとしたところでのルイズの部屋からの大騒ぎに、文句をつけに来たキュルケである。 「うるさいわよルイズ!こんな遅くに何大騒ぎして・・・」 その後に言葉を続けることはできなかった。 なぜなら。ちょうどその時康一はパンツ以外の全ての衣服を剥ぎ取られたところで、最後の砦であるパンツが引き摺り下ろされるのを阻止すべく、必死の防衛戦を繰り広げており、 ルイズは「ここね!ここに隠してるんでしょ!」といいながら、髪を振り乱し、乱れる服装も意に介さず康一にのしかかろうとしていたのだ。 時が止まった。 固まるキュルケと康一をよそに、ルイズは自分の状態にまだ気づいていないようで、 「なによキュルケ。今忙しいから話なら後にしてくれない?」と息を荒げながらのたまった。 「えーっと・・・」キュルケはぽりぽりと頬を掻いた。 「ルイズったら、思ったよりも情熱的なのね。わたしは襲うより襲われる女になったほうがいいと思うけど、それは個人の自由だものね。」 ルイズはキュルケの言葉をしばらく考え、ようやく今の自分の状態に思い至ったようだ。ぱっとパンツから手を離すとキュルケに詰め寄る。 「ちちちちちちち違うのよキュルケ!これはそんなのじゃなくて・・・!誤解よ!誤解だわ!」 「いいのよヴァリエール。気にしないで。恋愛の形は自由なのだから。ただ男の子に好かれたかったらもう少し慎みを持ったほうがいいとだけ忠告しておくわね。」 といいながら扉へと戻っていく。 「待ってキュルケ!話を聞いて!」 「『ご主人様なんだから使い魔の全てを知る権利があるのよ』ねぇ。あのルイズが言うわねぇ。」 ルイズは耳まで赤くして、それはそういう意味じゃないわよ!と言おうとしたが、キュルケはその間にするりと扉の向こうへ逃げてしまった。 「それじゃ、ごゆっくり~♪」 バタン ・・・・・・・・・・・・・。 ルイズはその場にぺたんと座り込み、頭を抱える。 キュルケは面白おかしくこのことをみんなに話してしまうだろう。そうしたら自分の評判は地に墜ちてしまう・・・! 「嫌がる使い魔を初日で手篭めにした・・・」とか「使い魔に手を出すなんて・・・欲求不満がたまっていたのね。」とか「ミス・使い魔イーター」とか呼ばれてしまう・・・! 「おはよう!ミス・使い魔イーター!」 「あっ!使い魔イーターがこっち見てるぞ!」 「隠せ隠せ!ぼくらの使い魔も美味しくいただかれてしまうぞ!」 「破滅・・・破滅だわ・・・」 康一はルイズが正気にもどったのを見て取ると、剥ぎ取られた服で体を隠しながら、ルイズの肩を叩いた。 「えーっと、落ち着いたんだったら。ぼくのズボンを返して欲しいんだけど・・・」 ルイズは座り込んだままぼんやりとした目で康一を見て、視線をおろした。そしてようやく自分がまだ手に康一の学生ズボンを後生大事に握り締めていることに気がついた。 その瞬間、それまで脱力していたルイズの叩きつけるようなビンタが飛んできた。 「あんたのせいだからねっ!!!」 バッシィィ――z__ン!!!! 威力が強すぎたらしい。康一は吹き飛びながら、ぼくが何をしたっていうんだ・・・と思いつつ気絶した。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔