約 1,077,072 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/591.html
ルイズが他の生徒たちを怒鳴りつけていると、教師らしい中年男性がため息をつきながら近寄ってきた。 「オホンッ!ミス・ヴァリエール・・・速やかに契約を。 時間が・・・あまりないのでね。」 「・・・ハイ、ミスタ・コルベール。そこの餓鬼、後で覚えてなさい。 それにしても貴方、ずいぶんおとなしいわね。声もあげないなんて。ま、いいわ。 ・・・我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え・・・我の使い魔となせっ!!!」 ズキュウウーンンッ!!!! スーパーフライ、アヌビス神、チープトリック・・・いずれも主を必要とし、求めていた! その能力ゆえに主を殺したものもあったが、いずれも主を求めていたのだ! 確かに例外も存在する!主の死を発動の条件とするものも存在する! しかしこのキラークイーン、断じてそのような性質のスタンドではない! ならばっ!主を失ったキラークイーンが、 この少女を新たな主とすることは極々自然なことではないだろうか!? ルイズの口付けがキラークイーンに新たな運命を与えた! 「ッ!!?」悠然と少女を見下ろしていた彼が突然震えた。 彼の左手にルーンが刻み込まれているのだ。 そう、シアーハートアタックと呼ばれていた、追尾戦車の部分に・・・。 「これはッ!?キラー・・・クイーン・・・? こいつの名前が、力が・・・言葉ではなくっ!心で理解できるっ!! そして・・・この能力!魔法ではない力!スゴイッ!スゴイけど・・・微妙にムカつくわ・・・。 これじゃあまるで私が爆破しかできないみたいじゃない・・・。」 強化能力・・・シアーハートアタック 自動追尾型爆弾戦車。基本性能、原作通り。 ルーン発動時、ちょっとガンジョーになる。 しかしもともとガンジョーなため、とくに意味はない。 ルイズ・・・どうして爆破なのよお~!!と心の中で叫んだ。 To Be Continued → 1話< 目次
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1739.html
「そういえば聞いてなかったけど…ルイズ、あなたは何しに実家に行くの?」 ワインを飲みながらキュルケがルイズに問いかける。 「それは…その…」 ハシバミ草のサラダを食べるタバサを見ながら、どこか後ろめたそうな声で答える。 「私のお姉さまが病気がちで…」 「ふ~ん…でイクローに治してもらおうってわけね」 朝食をとってすぐ、育郎達はルイズの実家に向かうべく出発し、昼過ぎには領地に つくことが出来た。ヴァリエールの領地は広いとはいえ、竜ならすぐの距離である。 しかし、そこで軽く食事をしたいというキュルケの提案があった。 「だってずっとシルフィードの背中でお腹が空いたじゃないの。 ヴァリエールの屋敷についても、すぐに食事というわけにはいかないでしょ?」 まったくその通りで、さらには自分もお腹がなり始めていたいたので、ルイズは 文句を言いながらも賛成し、近くの旅籠で休む事にしたのだ。 「うん…」 「なによ、ひょっとしてタバサのお母様が治らなかったから遠慮してるの? そんな事タバサは気にしないから安心しなさいな。ね、タバサ?」 その言葉に、変わらぬ調子でハシバミ草を食べ続けるタバサが頷く。 「ほらね。イクローもそんな顔してないで。 まったく治らなかったわけじゃないんでしょ? 出発した時に、ベルスランもあんなにお礼を言ってたじゃない」 「そうだな…すまないキュルケ、気を使わせて」 「いいのよ。だいいち、沈んだ顔で食事してもおいしくないじゃない」 そう言って笑うキュルケのおかげで、その場の雰囲気がやわらぐ。 「にしても公爵家ってだけあって、娘っ子の家はずいぶんてーしたもんみたいだな」 傍に立てかけてあるデルフが呟くと周りから歓声が挙がった。 「おおー、さすがルイズ様がお連れなさった方だ。喋る剣をお持ちだなんて」 「貴族でねえって言ってらしたが、さぞかし名のある方にちげえねえ!」 「お連れの貴族様も名のある方だろうに、さすがルイズ様だあ」 等と、ルイズが来たと知って集まってきた村人達が騒ぎ出す。 「そうだね」 軽く周りを見回しながら、育郎がデルフの言葉に同意する。 「あら、そうかしら?」 「………」 対するキュルケとタバサはごく当然と言う顔をしている。 育郎はその事に感心するが、自分も最近は似たような状況で食事をしているためか、 以前なら気後れするような状況でも、自分が普通に食事している事に気付く。 シエスタをモット伯から助け出してからというもの、貴族からはあいかわらず恐れ られてはいるが、育郎は平民の間で、まるで英雄のような扱いを受けるように なっていた。それもシエスタのおかげなのだろうが、逆にそのシエスタのおかげで 困っているとも言えるのだ。 「俺は感動したぜ!初めて知った人の愛、その優しさに目覚めて、裏切り者の名を 受けて、全てを捨てて魔王に戦いを挑むなんてよ! 俺の料理が食いたくなったらいつでも言ってくれ!」 とはコック長のマルトーである。 どうやらどんどん話が大きくなっていったらしい。 このような状況に慣れ始めているのは、色々とまずいのではないかと育郎が考えて いると、外にいる村人達がにわかに騒ぎだした。耳を傾けてみると、竜だの お嬢様等という単語が聞こえてくる。どういうことかと思っていると、いきなり ドアが勢いよく開き、そこから金髪の女性が旅籠に入ってきた。 「え、エレオノールお姉さま!ど、どうしてここに?お仕事でいないはずじゃ?」 ルイズの言葉を無視して、金髪の女性はルイズに歩み寄り、その頬をつねる。 「その言い方だと、私がここにいたら悪いみたいじゃないちびルイズ!?」 「ひてゃい!わ、わりゅくないでしゅ!」 頬を引っ張られながら弁解するルイズ。 「気を利かせた村人が、貴女がここに着いたと知らせたのよ。 それで休みを取ってた私が、竜に乗って迎えに来たってわけ。わかった?」 「わかりまひた!ひゃからちゅねらにゃいでおねーひゃま!」 「ねえ、この人が貴女のお姉さんなの?」 二人の様子にあっけにとられながらも、キュルケが口を開く。 「病気にはとても見えないんだけど…ひょっとして小さいのを治すの? ああ、それは貴女も一緒か、さすが姉妹ね」 そう言って、ルイズがエレオノール姉さまと呼ぶ女性の胸を指差す。 なるほど、見ればその胸は遠慮しがちというか、自己主張が薄いと言うか、ルイズ と同じタイプのスタンドというか、ぶっちゃけ小さかった。というか無かった。 「遺伝」 タバサのとって置きの駄目押しの言葉で、周囲の空気が完全に凍りついた。 「あ、あんたらね!?」 ルイズが怒りの声を上げようとしたその瞬間、姉の声がルイズの耳に届く。 「ルイズ…」 「ひゃ、ひゃい!」 酷く冷えた自分の姉の声に脅えるルイズ。 「ねえ、ルイズ…貴女のお友達は随分と面白い人たちみたいね? よければお名前を教えてくださらない?」 そう言って視線をキュルケたちに向ける。そのあまりの迫力に、近くに立っていた 村人が腰を抜かすが、キュルケは涼しい顔でその視線を受け止める。 ちなみにタバサは、ハシバミ草のサラダのおかわりを要求した。 にやりとキュルケは笑い、馬鹿丁寧なしぐさで礼をする。 「これはこれはご丁寧に。名乗るほどではありませんが、キュルケ・アウグスタ・ フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します」 ツェルプストーという単語、ヴァリエール家の宿敵を意味する名に、エレオノールの 迫力に圧されていた村人達がざわめく。 「つぇるぷすと~?おちび!どういうこと!? 何であなたがツェルプストーの人間と友達なの!?」 「と、友達なんかじゃ」 「だまらっしゃい!」 「ひゃん!ひゃめ、いでゃいいでゃい!」 「ふう。まったくこの子は、昔っから心配ばかりかけて」 「うぅ…まだひりひりする…」 思いっきりつねられた頬をさするルイズを横目に、エレオノールは改めてキュルケ 達に向き直る。 「それで…カトレアを治療するメイジはどっちなの?そっちの小さい子?」 タバサが首を振る。 「じゃあ、やっぱりツェルプストーの方なのね…じゃなけりゃルイズだって、 ツェルプストーをヴァリエール家に招くなんて」 「あら、私でもないわよ」 「じゃあ誰よ?」 タバサとキュルケが育郎を指差す。 「………ねえルイズ?」 「な、なんですかお姉さま?」 「彼、マントもつけてなければ、杖も持ってないようだけど…」 「そ、そうですね」 「私にはどうしてもメイジに見えないのだけれども…気のせいなのかしら?」 「いえ、その…気のせいじゃないでいだだだだだだだ!!!」 再び頬をつねりながら、エレオノールが怒鳴る。 「おちび、あなた何考えてるの!カトレアは水のスクエアに診て貰っても駄目 だったのよ?平民の医者なんかが治せるわけないでしょ!!本当にこの子は…」 「あの、お姉さんそれぐらいで…ルイズもずいぶん痛がってますし、そんなに つねったら跡が残るかもしれないじゃないですか?」 「貴女は黙ってなさい!まったく平民が気軽に貴族に話しかけるなんて… でも一理あるわね…跡が残らないように、反対側の頬をつねる事にするわ」 「いや、そうじゃなくて…」 止めようとする育郎を無視して、ルイズに折檻を続ける。 「残念ながらイクローは唯の平民じゃないわよ」 頬をつねりながら、キュルケを見るエレオノール。 「どういう事かしら、ツェルプストー?」 敵意の篭った目でキュルケを見つめるエレオノールの傍で、ルイズが身体が固まる。 「彼はね、東方の亜じ」 「ちょおおおおっとキュルケ!貴女に話があるんだけれども!」 「あ、こらルイズ!」 エレオノールから強引に逃れ、後が恐いが、とにかくキュルケの首根っこを捕まえ、 部屋の隅に連れてゆく。 「ちょっと何するのよルイズ!」 当然の如く抗議の声をあげるキュルケに、ルイズが回りに聞かれないように、 小さな声で伝える。 「イクローが、その…亜人だって事は内緒にしといて!?」 「なんでよ?」 「エレオノールお姉さまはアカデミーの研究員なの!」 「ああ…そういう事」 アカデミーと言えば、人体実験も辞さないと噂される研究機関である。確かにそんな 人間が、珍しい東方の亜人のことを知れば、当のイクローは唯ではすまないだろう。 「何?東方の医者とでもいうの?」 「そそそそうなんです、お姉さま!ね、キュルケ?」 「まあ、そういう事」 「東方…ねぇ」 育郎に疑わしげな目を向けるエレオノール。 確かに東方といえば、エルフが治める地である。その地の技術は、あらゆる点で ハルケギニアのどの国よりも優れていると言われている。 「その話、本当なの?」 「え?あ、はい、そうです」 しかし、それ故に東方産と偽って詐欺等を行う輩が存在するのである。 実際エレオノール自身、『東方から来た!』等と言う謳い文句の豊胸グッズに 7回ほど騙されている。ちなみにルイズは、まだ2回騙されただけである。 「あら、イクローが嘘をついてるとでも? ご心配なく、彼はこの子の使い魔なんですもの」 疑わしげな視線を育郎に向けるエレオノールに、キュルケが答える。 「はぁ?平民が使い魔ぁ?」 またつねられてはたまらないと、ルイズが続ける。 「そうなのお姉さま!ほら、イクロー。使い魔のルーンを見せて」 言われたとおりに左手のルーンを見せると、やっとエレオノールも納得した。 「まったく…使い魔が平民だなんて…」 溜息をつきながらそう呟く姉に、ほっと胸をなでおろすルイズ。 「そういえば、お姉さまはどうして休みを?やっぱりちい姉さまが心配で?」 蒸し返されても困るので、話題を変えようと話を振る。 「まあ、それもあるんだけど…ちょっとね」 何処か嬉しそうなエレオノール。 「そういえば昨日、どこぞの貴族様がエレオノール様と一緒に、 お屋敷に向かったって聞いたぞ」 「そういえば少し前に、エレオノール様が婚約なされたって話があったよな?」 「おお、という事は公爵様に挨拶に来られたにちげえねえ」 村人達の言葉に、やあねぇだの、もうそんな話が広まってるの、等と言いながらも まんざらでもなさそうな様子のエレオノール。 「ご婚約おめでとうございます、エレオノール姉さま」 「ありがとう、ルイズ」 素直に礼を言う姉に驚愕しながらも、これで今日はもうつねられる事はないと 安堵するルイズ。 「それで、その婚約者はどのような方ですの?」 問いかけるキュルケの顔は、酷く楽しそうな顔だったのだが、幸せを味わっている エレオノールはそのことに気付かない。 「バーガンディ伯爵さまは…」 嬉しそうに婚約者の話をしだすエレオノール。 「ねえ、キュルケ…あんたひょっとして」 「なーに、ルイズ?」 「変なこと考えてないでしょうね?」 「別に」 「…ならいいけど」 「いい男だったら手を出そうかなって考えてるだけよ。 ヴァリエールから恋人を奪うのは、ツェルプストーの伝統だし」 「あんたねえ、絶対やめてよね!」 そのころ話題のバーガンディ伯爵は。 「申し訳ありません…この婚約はなかった事に!」 婚約解消のため、ヴァリエール公爵に頭を下げていた。 「エレオノールに何か至らぬところでもあったかな?」 白くなりはじめた口ひげを揺らし、渋みがかかったバリトンで伯爵に問いかける。 「いえ…そんな…」 モノクルをはめた目の、鋭い眼光に脅えながら答える。 「エレオノールは素晴らしい女性です!気高く、そして美しい。しかし…」 一旦言葉を区切って、伯爵が言葉を続ける。 「もう………限界なのです!」 苦渋の顔でそう答えるバーガンディ伯爵をから目を離し、隣に立つ、 長年ラ・ヴァリール家の執事を務めてきたジェロームに視線を移す。 「………」 無言で首を振るジェロームを見てから、公爵はおもむろに立ち上がり、 頭を下げたままの伯爵に歩み寄った。 「バーガンディ伯爵…」 公爵の言葉に、ビクリと身体を震わせる伯爵。 今の彼の行動は、天下のラ・ヴァリエール公爵家の名誉に泥を塗る行為なのだ。 「…いままで良く頑張ってくれた!」 「へ?」 しかし、怒りの言葉を待ち受けるバーガンディ伯爵の耳に届いたのは、 意外にもねぎらいの言葉だった。 「まったくエレオノールのあの性格はいったい誰に似たのやら…なあ、ジェローム」 「それは私の口からはとても…」 「いえ、あの…」 「うむ、それもそうだな。わしとて気軽に言えん!」 「ご理解していただきありがたく存じます」 「その、ですから」 「おお、これはすまなかった伯爵。ジェローム、竜の用意を。 エレオノール達が帰ってくる前に出発できるよう急がせろ」 「はい、承知いたしました」 そう言って、部屋から出て行くジェロームを見送ってから、バーガンディ伯爵が 恐る恐る公爵に問いかける 「……その、良いのですか?」 「しかたあるまい…無理をして一緒になってもな…無理をしなくとも、たまに きつい時があるのだから…いや、ごくまれにだ。あれも丸くなったし。 そもそもわしはそういう事にならないよう、いつも気をつけておるしな! いや、普段は素晴らしいのだよ。勘違いをしてはいかんぞ」 「は、はぁ…」 いまいちよくわからないが、とにかく助かった事に安堵する伯爵であった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/131.html
結果的にルイズの企みはほぼ失敗したといえる。 あのあとDIOが帰ってきてから、ルイズは1も2もなくDIOに魔力を流す訓練をした。 少しずつ少しずつ流してゆくのは実に骨が折れた。 気を抜けば、蛇口を壊したみたいに抜けていってしまう。 2、3時間の試行錯誤の後、ルイズは肌でその調整を覚えた。 そして、DIOの意に反する命令を聞かせるには、相応の魔力を代償にされることを、数回の気絶の後、ルイズは知った。 仮にルイズが一時間に生産できる魔力を10として、DIOに強制命令執行を行うには15必要とすれば、その差額の5が、気絶というかたちでルイズに跳ね返ってくるのだ。 巨大なダンプカーを操縦しているような気分だった。 操作性最悪だ。 燃費も余りに悪すぎる。 取り敢えずルイズはルーンを介してDIOに洗濯を命令してみた。 当たり前のようにルイズは気絶した。 しかし、二時間後に失敗を悟ったルイズが目を覚まして裏庭に向かうと、意外や意外、自分の服が綺麗に洗濯されて整然と干されていた。 ルイズの純白の下着が、ユラユラと風に揺れていた。 怪訝な顔を向けるルイズに、DIOは答えた。 「使い魔になると、約束したじゃあないか、『マスター』。 これくらいのことはするさ」 「せ、洗濯、上手ね」 「……昔とった杵柄だ」 完璧すぎて、嫌みにしか聞こえない。 DIOは表面上は穏やかだが、すねたような、嫌そうな雰囲気がルーンを介してしっかり伝わってきて、実に心地よかった。 しかしなんだ、別に無理やりさせなくても、使い魔としての仕事はやってくれるらしい。 ありがたいといえば、ありがたいが、素直すぎて逆にルイズは不気味だった。 一線を越えるような命令には従わないが、何を考えているのかわからない。 一応警戒するものの、同時にルイズは、化け物のくせに優雅で貴族然としたDIOにこうした汚れ仕事をさせることに、ゾクゾクするような背徳的な喜びを覚えた。 気がしただけだが。 2メイル近い屈強な男が、自分の命令でゴシゴシ洗濯していただろう姿を想像して、ルイズはうっとりした。 (今度から見学してみようかしら……) ルイズは案外ダメな人間だった。 使い魔として働いてくれるDIOにすっかり味を占めたルイズは、段々調子に乗り始めた。 ルイズそれを自覚していたが、こんな楽しいこと、止められそうにもなかった。 掃除をさせて、キレイになった部屋のぐるりを見回して、ルイズは得意になった。 (もっと鍛錬を積んで、魔力を増やしてゆけばゆくゆくは……) 輝かしい未来を妄想して、ルイズはウキウキした。 床につく前、ルイズはDIOに一冊の本を貸した。 彼女が子供の頃、よく姉のカトレアに読んでもらった、思い出の品だった。 ありがたく読むようにと言うルイズに、DIOは何も言わずに本を受け取り、宝物庫からパチってきたソファーに横になった。 (……………………………) ルイズは今度はDIOに床で寝るように命令してみた。 ルイズの意識が急速に遠のいた。 何故だろうか、昨日と違って、DIOには何の変化もなく、ソファーでルイズが貸した本を読み始めていた。 いずれにせよどうやらルイズにはまだ過ぎた命令らしかった。 レベル不足という奴だ。 だが、今度はちゃっかりベッドの上からためしていたので、問題は無かった。 いつか絶対に床に寝かしちゃる……と薄れる意識の中で固く決意しながら、ルイズはポテンとベッドに伏せった。 明日は学級閉鎖が解かれ、召喚を行ったクラスメイト達が初めて顔を合わせる日だ。 そう思うと、ルイズは複雑な気持ちでいっぱいだった。 翌朝、ルイズはやはり部屋に溢れる陽光で目を覚ました。 カーテンは閉められていて薄暗いものの、その光をウザったく思いながら、ルイズはもぞもぞとベッドから起きた。 「服~」 薄闇の向こうから、ポーンと上下が飛んできた。 「下着~」 薄闇の向こうから、ポーンと上下が飛んできた。 「着せて~」 「…………………」 今度は何も反応がなかった。 渋々ルイズは自分でそれらを身につけた。 もう目は覚めていた。 「今日は授業があるわ。あんたにも同伴してもらうから」 DIOは無言でルイズに従った。 ルイズが使い魔と共に部屋を出るのとちょうど同じく、隣のドアが開いて、中から燃えるような赤い髪をしたキュルケが出てきた。 メロンみたいなバストが艶めかしく、身長、肌の色、雰囲気……、全てがルイズと対照的だった。。 彼女はルイズを見ると、にやっと笑った。 「おはよう。ルイズ、もう大丈夫みたいね」 とりあえずは契約に協力してくれた恩人なのだが、ルイズは嫌そうに挨拶を返した。 「おはよ、キュルケ」 挨拶もそこそこに、キュルケはその隣にいる男に鋭い視線を向けた。 「で、これがあなたの使い魔ってわけね」 「そうよ」 「まぁ、契約したあとは、ご主人様と使い魔の間の問題だから、 口出しはしないわ。 でも、サモン・サーヴァントで化け物喚んじゃうなんて、あな たらしいわ。さすが『ゼロ』。 クラスはあんたの噂で持ちきりよ~?」 ルイズの白い頬に、さっと朱がさした。 「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよね~。 フレイムー」 キュルケの呼び声に応じて、彼女の部屋からのっそりと、真っ赤で巨大なトカゲが現れた。 廊下の気温がグッとあがった気がする。 それを見たDIOは、実に興味深いといった風に、そのトカゲ…サラマンダーに視線を向けた。 サラマンダーがビクリと震えて、己の主を守ろうとキュルケの前に進み出た。 「平気よ。あたしが命令しない限り、襲ったりしないわ」 しかしサラマンダーは、牙を剥き出しにしてDIOを威嚇している。 今にも炎を口から吐き出しそうだ。 しげしげとサラマンダーを観察しながら、DIOが聞いた。 「こんな生き物が、この世界には当たり前のように存在してるの か」 「えぇ、そうよ。でも、そのセリフ、そっくりあなたに返してあ げるわ。 あんた、何者?」 「…………DIO、だ」 サラマンダーに目を向けたまま、名乗った。 「へぇ、ディオね。名前だけはマトモね」 そこにルイズが割り込んできた。 「DIOよ。ディオじゃなくて、DIO」 「はぁ?どう違うのよ?」 「私に聞かないでよ。あいつがそう言ってしつこいから、先に言 っておいただけよ」 「ふぅ~ん。ま、どうでもいいけど。 じゃあ、お先に失礼」 炎のような赤髪をかきあげ、キュルケは去っていった。 フレイムはこちらに視線を向けたままジリジリと後ずさり、やがて振り返って自分の主を追った。 キュルケがいなくなると、ルイズは拳を握り締めた。 「キーっ!なんなのよあの女!自分が火竜山脈のサラマンダーを 召喚したからって! ……あぁ、もう!」 「何か問題でも?」 「おおアリよ! メイジの実力を計るには、使い魔を見ろって言 われているぐらいよ! なんであのツェルプストーがサラマンダーで、わたしがあんた なのよ! 化け物? わたし化け物なの? 冗談じゃないわ!」 「……もし、本当に使い魔がメイジの写し身なのだとしたら…… ふん、君が私を喚んだとしても不思議ではないね」 思わぬ返答だった。 「どういうことよ。やっぱり私が化け物だって言いたいの? 朝食抜くわよ?」 「…………………」 トリステイン魔法学院の食堂『アルヴィーズ』。 3つのやたらと長いテーブルが並んでおり、百人は優に座れそうだ。 ルイズたち二年生は真ん中のテーブルらしかった。 一階の上に、ロフトの中階があった。 教師たちはそこで食べるようだ。 その中に、コルベールの姿を窺うことは出来なかった。 まだ回復していないらしい。 自分の未熟のせいでケガをしたコルベールを思うと、ルイズの胸は痛んだ 。 ルイズは気を取り直すと、得意気に指を立てて説明にはいった。 「トリステイン魔法学院では、魔法だけでなく、貴族たるべき教 育を存分に受けるの。 だから食堂も、貴族の食卓にふさわし云々……」 ペラペラとまくしたてるルイズだが、DIOは全く聞いていなかった。 サッサと席について、その豪華な食事にありついていた。 突然現れて、勝手に席についた大男に、生徒は眉をひそめたが、男の発する『自分はここにいて当たり前』オーラのせいで口出しが出来ないでいた。 そしてその作法は完璧だった。 誰も、目の前に座っている男が、三日前に見た死体だとは露とも思わなかった。 それに気づかず話し続けるルイズの話はとうとうクライマックスを迎えたようだ。 サッパリした顔をして振り返ったが、そこにはもちろん誰もいなかった。 慌ててテーブルに目をやると、DIOは既に食事を終えていた。 「んな、ななななな、何してるのよ!?」 ドカドカとクラスメイトにぶつかりながら、DIOに詰め寄る。 「食事を終わらせた。外で待っているよ、『マスター』」 去り際の、"まぁまぁだ"というDIOのセリフが、癪に障った。 自分に逆らったらどうなるか、朝食で教えてやろうと思っていた目論見は御破算になり、ルイズはプルプルと震えながらDIOの背中を見送った。 to be continued…… 18へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/945.html
城にある小さな礼拝堂、そこでは結婚式の最中だった。キュルケにタバサ、 ンドゥールが客、ウェールズが司祭の役。 だが新婦であるルイズはどこかぼんやりとしたままでワルドの言葉を聞いて いる。ウェールズの言葉も耳に入っていない。両目は赤くはれ上がっている のは夜通し泣き明かしたからだ。 「ねえ、ダーリン」 キュルケが小声でンドゥールに話しかけた。 「いいの? このままで」 「別にかまわん。それに、ワルドが俺が思ったとおりの人間なら、じきにこ の場は崩壊する」 どういうことかはわからなかったが、キュルケは静かに杖に手を伸ばした。 タバサも黙ったまま同じ行動を起こす。 ルイズの目にはワルドが映っている。幼いころから憧れていた男、婚姻の約 束を交わした男、結婚しようと言ってくれた男。それは心から嬉しかった。 このおちこぼれの自分を好いてくれるのだ。でも、どうしても彼と結婚する というのはしっくりこなかった。脳裏に思い浮かべられないのだ。自分がワ ルドの妻となって、彼を支えるという姿を。 それに、抵抗もあった。ワルドを思い浮かべるともう一人の男が彼を跳ね除 けるようにやってくるのだ。 フーケと戦ったとき、身体を抱きしめてくれたその大きな腕に『安心』した。 言葉は恐怖をかき消してくれた。 だが、その男は自分を止めてくれなかった。好きにすればいいと。しかし、 同時にいつになっても自分を助けてくれるとも言った。恩を返すだけだと。 情けないことだが『安心』した。結婚をしてもそばにいてくれる。なんと図 々しいことなのだろうか。 自分はなんなのか。甘えているのではないか。 そう思ってしまうと、もうルイズには不可能だった。 彼女は司祭と新郎に向かって言った。 「私、この結婚、できません」 ワルドの表情が凍った。 ウェールズは目を瞬かせて、尋ねた。 「……新婦は、この結婚を望まぬと?」 「そのとおりでございます。お二方に列席していただいた三名には大変失礼 なことですが、私はこの結婚を望みません」 ありゃあとキュルケが口をこぼした。隣のンドゥールに尋ねる。 「こうなるって予想できていたの?」 「まさか。だが、たぶんここから大変なことになるぞ」 壇上ではウェールズがワルドを説得している。 「子爵、お気の毒だが花嫁が望まぬならば式を続けるわけにはいかぬ」 「……緊張しているだけなんだ。そうだろう?」 ルイズは違うといった。 「そうじゃないの。あなたとは結婚できないの」 はっきりとした決別だった。ワルドは怒りか恥辱か、わなわなと身体を震わ せてルイズの肩を掴んだ。表情が朗らかなものからトカゲを思わせるものに 変貌した。 「世界だ! 僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」 ワルドはそれからは恐ろしい剣幕でルイズを欲した。 君が必要だ! 君の力が必要だ! 優秀なメイジへと成長する君が必要なんだ! ルイズはそれを聞きながら身体に恐怖が走った。おかしい。これまでの紳士 ではなく、身も蓋もなく渇望するそのさまは亡者のようだった。それはただ 見ていただけのものたちにも不信感を募らせた。 「おやめなさい!」 キュルケが叫ぶ。 「あなた、黙って聞いてればさっきからずいぶんとふざけたことばかり言っ てるじゃないの。一言もルイズを好きだなんて言ってないし、自分のことば かり考えてる。口説き文句、少しは考えたの?」 「部外者は黙っておれ!」 キュルケの言葉をさえぎったワルドの瞳にはドス黒い光が宿っていた。彼女 はンドゥールの言葉を思い出す。確かにこの場は崩壊した。 睨みかえし、言葉を続ける。 「部外者じゃないわ。ルイズは私の級友なんだもの。これ以上侮辱するって んなら、相手になってあげるわよ!」 そう言って杖を向けた。そばにいるタバサも杖を構えている。 ウェールズはこの一触即発の事態を取り直すため、まずワルドとルイズを引 き離そうとした。瞬間、彼は突き飛ばされた。 ウェールズの顔に赤みが差す。 「な、なんたる無礼! 子爵よ、ラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば我が魔法の刃が貴殿を切り裂くぞ!」 さすがに三人に囲まれて観念したのか、ワルドはルイズから身を引いた。顔 には満面の笑みがあるがそれは空虚なものだった。恐怖を駆り立てる。 「仕方あるまい。目的の一つは諦めよう」 「一つ?」 ルイズが言うとワルドは、うむ、と呟いた。 「僕はこの旅に三つの目的を持って挑んだ。一つはルイズ、君をこの手にす ること。そして二つ目は、君のポッケに入ってあるアンリエッタ王女の手紙 だよ」 ワルドは杖を抜いた。キュルケ、タバサ、ウェールズが呪文を唱える。しか し、一瞬遅かった。 「三つ目は――皇太子の命だ」 「レコン・キスタ――」 魔法は間に合わず、ワルドの杖はウェールズの胸に突き刺さった。 ウェールズは倒れた。 だが、ワルドは苦虫を噛み潰した表情をしていた。 「やってくれたな使い魔!」 ンドゥールはワルドの怒りを受けながら立ち上がる。彼もデルフリンガーを 抜いた。 「驚いたな。中身はただの水じゃなかったのか」 「俺のスタンドをこめておいた」 ウェールズとワルドの間、そこに水が立っていた。ンドゥールの水が彼を守 ったのだ。ワルドは顔面を歪ませてンドゥールを睨んだ。 「使い魔、君はいつから気づいていたのだ?」 「あえて言えば最初からだ。俺は悪人の中にいたのでな。そういう匂いに敏 感なのだ」 「なるほど。つまりただの勘ってことか。それにしても、僕が悪人と?」 「違う」 「じゃあなんだと?」 「小物だ」 水がワルドへ襲い掛かる。少量であるためか力はなく、ワルドの服を破る程 度である。しかし、注意を向けられれば十分、無防備な彼へ炎と二つの風が 食いかかった。 「ぬう!」 ワルドは魔法で相殺しようとするも、三重の力に対抗することはできない。 壁に叩きつけられる。もはや圧倒的劣勢、不意打ちが失敗した時点で彼は逃 げるべきだった。判断を誤った。 それでも両の眼球には強い、ギラギラした光があった。 ルイズが悲痛な声で叫ぶ。 「もうやめて。ワルド」 「やめられないさ。それに勝ち目がないわけじゃない」 ルイズの呼びかけにワルドは不適に笑い、指を鳴らした。 同時に、礼拝堂は火に包まれた。仕込みをしていたのか火の回りは速い。 瞬く間に熱と光が充満する。 「どういうことだ?」 火に囲まれたなか、いち早くンドゥールがワルドに問い詰めた。 「この火は俺の能力を殺す。知っていたのか」 ンドゥールの言うとおり、水は熱に力を奪われたのか立つ事ができなくなっ ていた。ワルドは答えた。 「まあね。君に恨みを持つ人物から教えられているんだよ。水を使うってね。 もっとも、それだけじゃないだろう。聞こえてきたのは」 「複数のお前の声が聞こえた」 「風の遍在。そういうことか。スクウェアのクラスであってもなかなか困難 な術だというのに」 ウェールズは納得したようだがンドゥールもルイズも意味がわからなかった。 だがキュルケは、ついこの間受けた授業を思い出した。 そのとき『疾風』という二つ名を持つ教師は風が最強といっていた。 その所以とは…… 礼拝堂の戸が開かれ、四重の魔法が射ち込まれた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/981.html
あれから貴族達は蜘蛛の子を散らすように才人から逃げていった。 あの、ゼロと呼ばれて切れかかっていたルイズや、心配をして見に来たシエスタすら、才人の5m以内に近寄ろうとしない。 至極当然だ。僕だって近寄りたくない。 才人が近づけば、近づいた分だけ後ずさり。 近づく。 後ろに下がる。 近づく。 後ろに下がる。 駆け寄ってくる。 全力で後ろに下がる。 「おい……、ちょっと待っ……」 「イヤァアアアアアアアアアアア! こっちに来ないでくださいィィィィイイイ!」 「許可しないィィィィィィイイイイイイイ! 使い魔が、私のそばに近づくことを許可しないィィィィィイイイイイ!」 「僕のそばに近寄るなァァァァァッ!」 「こいつはクセェー! ゲロの臭いがプンプンするぜぇーーーーッ! こんな平民には出会った事が無いほどなァ!」 才人は泣きそうになっていた。 僕はさんざんボロクソにいわれて、凹みきった才人を、何とか水場まで連れてくる。 はじめはシエスタが水場までの案内を勤めることになったのだが、上っ面は取り繕っていたものの、今にも泣き出しそうな様子だったので、僕が代わりに才人を水場まで連れて行くことになったのだった。 女性は大切に扱わなくてはならないからな。 「へっ……。どうせ俺はモグラさ……」 「良いから、早く身体を洗ってください」 しかし、今にもキノコが生えてきそうな、この才人はどうにかならないのか。 彼は調子に乗るのも、落ち込むのも早い。しかもどちらも天井知らずだ。 マッハで落ち込み、マッハで立ち直る。 きっと空気の速度を超えてるから、とことん空気が読めないのだろう。 僕はそう、自分の中で結論づけることにした。 身体は洗えるが、パーカーの方はどうしようもないので、洗濯して干すことになった。 勿論、洗濯は才人にやらせる。 替えの洋服なんて持っているわけが無く、上半身裸で、ひたすらに服を洗う姿は、何とも哀れみを誘った。 でも手伝わない。 ともかく、このままではルイズの元に戻ることも出来ないので、僕が学ランを貸してやる必要がある。 「もう、大丈夫だよな……?」 しきりに自分の臭いを嗅ぐ才人。 これを見ていると、どうも貸そうという気が起こらなくなる。 しかし、おいていくわけにも行かないだろう。 「気になるんだったら、コレを使ってください」 僕はズボンのポケットに入れていた、消臭スプレーを才人に手渡した。 秋葉原を歩くのに、常備していた奴だ。 正直、コレ無しで彼処は歩きたくない。 「ああ、サンキュー」 そういってスプレーを受け取り、才人は念入りに身体に吹き付け始める。 そういえば、この世界ではスプレーの換えはきかないんだな。 やむ得ないとはいえ、簡単に才人にスプレーを貸したことに、僕は少し後悔した。 彼がそこの所を、配慮してくれればいいのだが…… 「おし、もう大丈夫」 かけ終わったのか、才人は僕にスプレーを返してくる。 残量を確かめるため、軽く振ってみる。 チャポチャポと音がした。 結構使われてしまった様だ。 まだ新品だったのだが。 才人の方を向く。 フローラルな香りが鼻についた。 僕は思いっきりため息をつきながら、才人に来ていた学ランを渡した。 才人は受け取った学ランを見つめ、ぽつりとつぶやく。 「なあ、花京院」 「何です?」 「何で、秋葉原行くのに学ラン来てたんだ?」 「僕は学生ですから。ガクセーはガクセーらしくですよ」 「いや、理由になってないから」 やや身長に差があるためか、僕の学ランは才人には一回り大きかった。 僕にとっては膝下ぐらいまでだが、才人にとっては脛ぐらいまである。 学ランが汚れないか、少しそわそわしながら、僕等はルイズの部屋の方へと戻る。 途中、ルイズの部屋へと向かう螺旋階段を上りながら、才人が何かを思い出したように話しかけてきた。 「そういやさ、聞きそびれたことがあんだけど」 「何ですか?」 僕はどうせまた、空気の読めない事を言うつもりだろうと、聞き流すつもりでいた。 「あの決闘の時、お前から出てきた緑色のアレ、いったい何なんだ?」 「!」 「アレが前言ってた、スタンドって奴か?」 唐突だった。 今、彼はなんと言った? 僕のスタンドが見えた。といったのか? その一言を聞いて、今までの、スタンドが発現してからの思い出が、すっと僕の頭の中に浮かび上がっていく。 「お、おい。花京院? お、俺、今何か不味いこと言ったのか!?」 僕に気持ちが通い合う人が何人現れるだろうか。 小学校のクラスの○○くんのアドレス帳は友人の名前と電話番号で一杯だ。 母には、父がいる。父には、母がいる。 TVに出ている人や、ロックスターにはきっと何万人も居るんだろう。 自分は違う。 自分にとって、真に心の通い合う友人は現れるのだろうか? 実を言うと、ここが異世界と解った時、ほんのちょっぴり期待をした。 記憶の僕のように、ここなら、ひょっとすれば、僕と真に心が通じ合う友人が出来るかも知れない。っと。 今、目の前の才人は、ずっと僕の目の前にあった、一つの柵を、何も無いかのように越えてきたのだ。 心に、ささやかな期待が生まれた。 何故見えたのか、そんな疑問は、その期待の前では些細なものだ。 「いえ…… 後で、詳しく教えます……」 「そ、そうか……」 ルイズの部屋の前に着く。 僕の心は、いささか弾んでいた。 あの時、ルイズが殺気を放っていたことすら忘れるほどに。 僕らは、部屋のドアを開けた。 鬼がいた。 「随分と、機嫌良さそうじゃない。ご主人様にあれだけふざけたまねをしておいて……」 鬼……この部屋の主、ルイズは右腕に乗馬用の鞭を持って、どっかりとベットの上に座っていた。 正直言って、僕らは目の前の少女にびびっていた。 足がすくんで、体中の毛が逆立ち、全身が凍り付いた。 胃が痙攣し、胃液が逆流してくる。 反吐をはく、一歩手前だ。 「勿論、覚悟は出来ているわよねぇ……」 底冷えがするような声だった。 「「HOLY SHIT! ヤッバアアアイイ!」」 「待ちなさぁ~い!」 結局、あれだけゼロゼロと連呼したことで、僕と才人は3日間の飯抜きを宣告されたのだった。 チャンチャン♪ To be contenued…… 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2272.html
6話 「諸君、決闘だ!」 そう言ってギーシュが薔薇の造花の杖を掲げると、周囲から大きな歓声が上がった。 ヴェストリの広場にはすでに多くの生徒が集まり、ギーシュとホワイトスネイクを取り囲んでいる。 ルイズは生徒の輪の最前列で、ホワイトスネイクの背中をじっと見つめていた。 「さて、逃げずに来たことは褒めてあげるよ」 「部屋ノ隅デ震エテイルコトヲ選バナカッタノハ立派ダッタナ」 食堂での応酬と同じように、ホワイトスネイクから挑発が返される。 「ふん、では始めさせてもらうよ」 そう言ってギーシュが杖を振ると、杖から薔薇の花びらが一枚離れた。 だが次の瞬間、薔薇の花びらは甲冑を着た女戦士の人形へと変わった。 人形は金属製らしく、全身が淡い金属光沢を放っている。 「ホーウ……」 ホワイトスネイクが感嘆した声を上げる。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。文句はないだろう?」 「御託ハイイカラサッサトソノ人形デ仕掛ケテコイ」 「そうかい、では遠慮なく」 ギーシュが言い終わるのと同時に女戦士の人形が走り出す。 が、数歩で立ち止まった。 「おっと、そういえばまだ名乗っていなかったな。 僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。 したがって僕の青銅のゴーレム、ワルキューレが君の相手をするよ」 そう言ってまたフッとカッコつけた。 ただこれがやりたかったがために女戦士の人形――ワルキューレを止めたようだ。 「では、いくぞ!」 その声とともに、再び走り出すワルキューレ。 ホワイトスネイクとの間合いを一気に詰める。 そして自身の拳の間合いにホワイトスネイクをおさめると、すかさずパンチを放ったッ! ぶおん、と空気を切り裂く青銅の拳はホワイトスネイクのボディへと一直線に向かい―― グワシィッ! 受け止められたッ! 「な、なんだってぇ!?」 (コノ威力……パワーハCッテトコカ。 私ノ方モパワーCガ妥当。ルイズハ近クニイナイシ、コノ距離ナラ当然ダナ) 驚くギーシュと、相手と自分を冷静に評価するホワイトスネイク。 「今度ハコチラノ攻撃ダ」 ホワイトスネイクは素早くワルキューレの懐に潜り込む。 そしてその伸びた腕を掴むと、一気に反動でワルキューレの体を宙に浮かせ―― ドグシャアッ! 頭から地面に叩きつけたッ! 「『ジュードー』トカイウヤツダ。パワーノ弱イ私ニハ、ウッテツケノ技デナ」 「な、な、な……」 予想だにしなかった事態にギーシュは言葉を失う。 彼の目の前で地面に突き立てられたワルキューレはしばらく手足を動かしていたが、すぐに墓標みたいに動かなくなった。 そしておろおろするギーシュとは逆に生徒達は大歓声を上げた。 「すっげぇーぜ、今の! あいつ、何やったんだ!?」 「ワルキューレを頭から地面に叩きつけるなんて……」 「野郎……面白くなってきたじゃねーか」 そしてルイズも、予期しなかったホワイトスネイクの実力に唖然とする。 「な、何なの? 今あいつがやったの……?」 「特別な体術」 「……え?」 「彼は体の反動を使ってゴーレムを投げ飛ばした。 力任せに投げたのとは違う」 いつの間にかルイズの横に立っていたタバサが解説する。 「な、何であんたがここにいるのよ! っていうか今の説明……」 「この子が自分で見たいって言ったのよ、ルイズ」 「あっ、キュルケ!」 「ご機嫌いかが? 今朝は危うく寝坊するところだったそうじゃないの」 「う、うるさいわね! ちゃんと朝食には間に合ったんだからいいじゃないの!」 「はいはい。それでタバサ、あいつはどうなの?」 「分からない。動きに余裕があるから、まだ何か隠してるのは確実」 「ふ~ん……それは楽しみ。っと、そろそろ動きそうね」 一旦止まった戦いが、再び動き始める。 場所は変わってトリステイン魔法学院の学院長室。 ギーシュとホワイトスネイクの決闘が始まる、数分前のことだ。 「暇じゃのう……」 「平和ですからね」 「何かこう、面白いことでも起きんかのう……例えば決闘とか」 「学院長自らが風紀を乱さないでください。それと」 「何じゃ、ミス・ロングビル」 ドグシャァッ! 「ぶげぇッ!」 「私のお尻をなでるのはやめてください」 華麗なハイキックで老人を椅子から蹴倒す女性は、ミス・ロングビル。 反対に椅子から蹴倒された老人がオールド・オスマン。 ロングビルはオスマンの秘書で、そのオスマンはこのトリステイン魔法学院の学院長を務めている。 「あいたたた……」 ミルコ・クロコップのようなハイキックをモロに食らったにもかかわらず、何もなかったかのように立ち上がるオスマン。 「今度やったら王宮に報告しますからね」 「ふん。王宮が怖くて学院長が務まるかい」 オスマンはふてくされたように言うと、床から何かを拾い上げた。 「気を許せる友達はお前だけじゃ、モートソグニル。 ん、ナッツが欲しいのか? ちょっと待っておれ」 オスマンはポケットからナッツを数粒取り出すと、 手の上にちょこんと乗っているハツカネズミのモートソグニルに近づける。 モートソグニルはちゅうちゅうと鳴いて喜ぶと、ナッツをかじり始めた。 「ん、どうじゃ? うまいか? もっと欲しいか? じゃがその前に報告じゃ、モートソグニル。 ……ほうほう、純白かね。だがミス・ロングビルは黒にかぎ」 ボグォッ! 「うげぇっ!」 オスマンの言葉を遮るようにして叩き込まれたのは、胃袋に正確に打ち付けられるヒザ蹴りッ! そして頭から床に倒れこんだオスマンに、さらに追撃の後頭部への踏みつけッ! ゲシッゲシゲシィッドガッドゴオッドゴッドゴッ! 「分かった! 分かったから! ちょ、やめるんじゃミス・ロングビル! 痛い! 痛いからッ!」 そんなふうにしてオスマンがロングビルに蹴り回されていると、不意にドアが大きな音を立てて開いた。 「オールド・オスマン!」 「何じゃね?」 そう答えたオスマンは、すでに床の上でなく椅子の上に座っていた。 まるで何もなかったかのようだ。 ロングビルも同様に、部屋の隅の椅子に腰かけて物書きをしている。 まさに早業である。 学院長室のバイオレンスな日常はこうして保たれているのだ。 「たた、大変です!」 そう言って広すぎる額を汗で光らせているのはコルベール。 使い魔召喚の儀式に立ち会っていた教師だ。 「なーにが大変なもんかね。どうせ大したことのない話じゃろうて」 「そんなこと言わずに! こ、これを見てください!」 そう言ってコルベールがオスマンに突き出した本のタイトルは「始祖ブリミルと使い魔たち」。 「ほーう……それでこの古い本がどうしたのじゃ?」 「その本の……このページです! それと、これを!」 コルベールが本のページと、一枚のルーンのスケッチをオスマンに見せる。 オスマンの目が本とスケッチを素早く行き来した。 その眼は先ほどまでの好々爺の目ではない。 熟練の魔法使い特有の、鷹のように鋭い目だった。 「ミス・ロングビル。少し席をはずしてもらえるかね?」 「かしこまりました」 ロングビルはそれだけ言って、学院長室を出た。 と、入れ替わりに一人の教師が血相を変えて飛び込んできた。 「オールド・オスマン! い、一大事です!」 「今度は何じゃ?」 オスマンが眉間にしわを寄せて言う。 「それが、ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようで……」 「決闘? やれやれ……暇を持て余した貴族は、本当にロクなことをせんのう」 今さっき暇を持て余して「決闘でも起きないかな」とか言った揚句にセクハラしていた男とは思えないセリフである。 「それで、決闘しとるのはどいつじゃ?」 「は、はい……一人はギーシュ・ド・グラモン。もう一人は……」 「グラモンのとこのバカ息子か。どーせ女の子の取り合いでもしたんじゃろうて。それでもう一人は誰じゃ?」 「もう一人は……その、私も信じられないのですが……」 「何じゃ、早う言うてみい」 「……亜人です。昨日ミス・ヴァリエールが召喚して、契約したやつです」 思わず顔を見合わせるオスマンとコルベール。 「よろしい。ではその決闘は放っておきなさい」 「ええ!? い、いいんですか? 教師の中には『眠りの鐘』の使用許可を求める者もいますが……」 「……ギーシュ・ド・グラモンと戦う亜人はどんなヤツじゃね?」 「へ? は、はあ……ミス・シュヴルーズの話では、言葉も話せるし授業も聞けるとのことでしたが……」 「つまり頭はいいんじゃろ? だったらやり過ぎるようなことはせんハズじゃ。放っといて構わんよ」 「そ、そうですか……」 そう言って教師が学院長室を出て行くのを見届けると、壁にかかった大きな鏡に杖を振った。 すると、その鏡にある光景が映し出される。 ヴェストリの広場の、今まさに行われている決闘の光景だった。 鏡の中ではギーシュと亜人――ホワイトスネイクが向き合い、 二人の間にギーシュのゴーレムが頭から地面に突き立てられていた。 「……コルベール君。わしの判断は合っておったと思うかね?」 「まだ分かりません。でも、間違っていたと分かった時には全てが手遅れでしょう」 「そうじゃな……そうならんようにせんとなあ」 机の上でナッツをかじっていたモートソグニルが不意にぴょんと窓に飛び移ると、そのまま外に出て行った。 戦いが動いたのは、ちょうどその時だった。 場所はヴェストリの広場に戻る 「ふふ……ま、まさか僕のワルキューレを倒すとはね。な、中々やるじゃあないか。 だが、これで終わったと思うなよ!」 冷や汗をぬぐいながらギーシュが再度薔薇の造花の杖を振るう。 杖から離れた花びらは6枚。 それらが宙に舞い上がって、6体のワルキューレになって地面に降り立ったのはやはり一瞬の出来事だった。 「おいおいおいおいおいおい! ギーシュのやつ、出せるワルキューレの残り全部出したぞ!」 「あれで頭に血が上っちゃったのかなあ?」 「そりゃああんなの見せられたらなあ……」 ギーシュの陣容に生徒も驚きの声を上げる。 だが―― 「サッキノガ6体カ。面白クナッテキタジャアナイカ」 ホワイトスネイクは焦り一つ見せずに、むしろ楽しそうに言った。 「ふふん、そうやってのん気してられるのも今のうちさ。 考えてもみなよ、君? 6対1だぜ? 勝てっこないよ。 もし君が僕に『ごめんなさい』と言えば」 「脳ミソガクソニナッテルラシイナ」 「な、なんだとお!?」 「ソンナ寝言聞イテルヒマガアッタラサッサトソイツラヲ私ニ差シ向ケロ」 「……そうか、そんなに死にたいんだったら!」 ギーシュが杖を振るうと、ワルキューレたちの目の前の地面から武器が突き出てきた。 剣、両手剣、長槍、ランス、斧、スレッジハンマー……。 いずれも大変な重武装だった。 そしてワルキューレたちが、それらを手に取り、ホワイトスネイクに向けて構える。 「今ここで殺してやるッ!」 ギーシュの声とともに、一斉にワルキューレがホワイトスネイクに襲い掛かる。 やられる! 次の瞬間に訪れているであろう凄惨な光景に、思わず目をつむるルイズ。 その直後に大きな歓声が上がった。 やられ、たんだ。 あいつが、あのにくたらしい嫌味な使い魔が、ホワイトスネイクが! ルイズが絶望に近い、うすら寒い感情が自分の心に湧きあがってくるのを感じる中、 その肩をぽんぽん、と叩かれた。 思わずルイスは振り向く。 「なーに目なんかつむっちゃってるのよ、ルイズ」 キュルケだった。 「でも、でもあいつが!」 「自分の使い魔の安否ぐらい、自分で確かめなさいよ」 そう言われて、顔を正面に向けられるルイズ。 その目に飛び込んだ光景は―― (私ノスピードハA。上々ダナ。 ソレニ対シテコイツラハCッテトコカ。 何テ、スットロイヤツラナンダ) ホワイトスネイクはワルキューレたちの有様に呆れながら、大振りの斧の一撃をやすやすとかわす。 その後ろから飛び込むようにして襲ってきたランスの突きも、とっくに見えていた動きだった。これも難なくかわす。 さらに両手剣の横薙ぎ、長槍の連続突き、スレッジハンマーの振り下ろしが立て続けにホワイトスネイクに向かってくる。 だが、全部遅すぎた。 スキを窺うようにして仕掛けてきた、剣を持ったワルキューレの攻撃も見え見えの奇襲にすぎなかった。 軽くかわして、ついでに足を引っ掛けてやった。 ワルキューレが無様にすっ転んで地面を転がる。 そうやってホワイトスネイクがワルキューレをあしらうたびに、周りの生徒たちから歓声が上がった。 あの亜人は何なんだ? 何であれだけ武装した、しかも6体もいるワルキューレ相手にあんなことができるんだ? なんてヤツなんだ、あの亜人は! そんな呆れたような、あるいは感嘆したような感情が彼らの歓声の源だった。 「あいつ……すごい」 「そうね。あんなに大きいのに、あんなに身のこなしが軽いなんて、感心しちゃうわ。 ……でも彼、攻撃はしないのね」 「さっきみたいな投げ技は使えない。かと言って青銅のゴーレムを一撃で破壊できるようなパワーは彼にはない」 「……何で分かるのよ?」 タバサの推測にルイズが異議を唱える。 「一発ぶん殴っただけでワルキューレを壊せるなら、最初の一体をそうやって壊してるじゃない?」 「あ……そ、それもそうね……」 「でもキュルケの言うとおり。このまま避け続けてもそれだけじゃ意味がない」 「じゃあ彼はどうするのかしら?」 キュルケがタバサに尋ねる。 タバサの視線の先には前後をワルキューレに挟まれたホワイトスネイクがいる。 前のワルキューレは斧を、後ろのワルキューレはランスを構えている。 「彼は、避ける」 タバサが呟くように言った。 前門のワルキューレが斧を振りかぶる。 後門のワルキューレが構えたランスをホワイトスネイクの背中に突き出す。 瞬間、ホワイトスネイクは地面を強く蹴り、宙に飛んだ。 斧のワルキューレとランスのワルキューレが、互いに攻撃すべき相手を見失い―― 「避けて同志討ちさせる」 ズゴォッ! 互いの得物が、互いに直撃したッ! 一方のワルキューレは胴体をランスで穿たれ、もう一方のワルキューレは斧で首を跳ね飛ばされていた。 「くそッ、だが!」 ギーシュは毒づきながらもすぐにハンマーを携えたワルキューレをホワイトスネイクの着地点に先回りさせる。 自由落下するホワイトスネイク。 それを待ち受けるワルキューレ。 ホワイトスネイクはそれにちらりと目をやると、小馬鹿にしたように笑った。 そしてワルキューレのハンマーの射程に、ホワイトスネイクが入ったッ! 「今だッ!」 ゴヒャァァッ! ギーシュの声に応じ、ワルキューレは打ち上げるようにハンマーを振るうッ! だが、手ごたえなし。 ハンマーがホワイトスネイクを粉砕する音は、響かなかった。 (あれ? 何だ? 何が起きた?) 混乱するギーシュをあざ笑うかのように、ホワイトスネイクはワルキューレの背後にすとんと着地した。 「言イ忘レタガ……私ハ射程圏内ノ空中ヲ自在ニ移動デキル。 空中デ一旦停止スルクライ、造作モナイコトダ」 そう言ってホワイトスネイクは腰を落としてワルキューレの胴体に腕を回し、ガッチリとロックする。 そしてッ! メシャッ! バックドロップだッ! 後頭部から地面に叩きつけられたワルキューレは、自重と落下の衝撃で簡単に自分の首を手放した。 「くそぉぉぉーーーーーーーッ!!」 やけくそになったギーシュが残る3体のワルキューレでホワイトスネイクを取り囲む。 「やれぇッ!」 ギーシュの号令で、3体が一斉にホワイトスネイクに襲い掛かる。 「『ギーシュ』・・・・・・ダッタカ。ヤハリオ前ハ……」 ホワイトスネイクは3体の攻撃を容易く避ける。 さっきのようなそれなりのコンビネーションもない、 ただ3体が一緒に仕掛けてくるだけの攻撃などホワイトスネイクには何の意味もなさない。 ゆえに今回、ホワイトスネイクは避けるだけではなかった。 攻撃を避ける間際にワルキューレたちの武器の切っ先、矛先をわずかにずらしていた。 そしてホワイトスネイクが3体の包囲から抜けると同時に―― 「タダノ、馬鹿ダッタナ」 ガッシィィーーンッ! 3体のワルキューレは一体化していた。 互いの武器で、互いの胴体を貫きあって。 「そ、そんな、ぼ、ぼぼ、僕の、ワルキューレが……ぜ、全滅……」 ギーシュがかすれた声でそう呟いたのと、ヴェストリの広場が大歓声に包まれたのはほぼ同時だった。 「や、やりやがった! あいつ勝っちまった!」 「ブラボー……おお、ブラボー!」 「グレート! やるじゃあねーかよ」 そして驚いていたのは、ルイズも同じだった。 「あいつ、あんなに強かったんだ……」 「すごぉーい! いいカラダしてるとは思ってたけど、まさかこんなに強いなんて! あたし、彼のこと気に入っちゃったかも……」 「ちょ、キュルケ! あんた本気なの!? っていうかあれはわたしの使い魔よ!?」 「そんなの関係ないわ。恋ってのは突然訪れるものなの。 ツェルプストーの女はそれに何よりも忠実なのよ」 「そういう問題じゃないでしょ!」 「二人とも静かに」 唐突にルイズとキュルケの会話をタバサが遮る。 「どうしたの、タバサ?」 「様子がおかしい」 「え……?」 タバサの言葉に従い、ルイズとキュルケは広場の中心に目を向ける。 そこにあったのは、腰を抜かして地面にへたり込むギーシュと、彼にゆっくりと歩み寄るホワイトスネイクの姿。 「お、お前! ぼぼ、ぼ、僕に、何する気だ!」 「私ガコノ決闘ヲ楽シミニシテイタ理由ハ3ツ」 一歩ホワイトスネイクが近づく。 しかしギーシュは動けない。 「ち、近寄るな! 来るなあ!」 「1ツ目ハハメイジノ戦イノ一端ニ触レラレルコト。 私ハコノ世界ニ来テマダ日ガ浅イ。 ナノデコノ世界ノ一般的ナ戦イニ直ニ触レラレタノハトテモ価値ノアルコトダッタ」 また一歩ホワイトスネイクが近づく。 しかしギーシュは動けない。 「なな、何言ってるんだお前! や、やめろ、近づくな! 来ないでくれ!」 「2ツ目ハ自分ノ戦闘能力ノ現状ヲ測レルコト。 ヤハリ戦闘能力トイウヤツハ実戦デシカ測レンカラナ。 コッチニ来テカラ私自身ガ弱クナッテイルコトモ心配ダッタカラナ」 ホワイトスネイクが、ギーシュに手の届く位置まで来た。 しかし……ギーシュは動けない。 「そ、そうだ! ぼくが悪かった。ぼ、ぼくが悪かったんだ、だから……ひぃっ!」 「ソシテ3ツ目ハ……」 ホワイトスネイクがギーシュの胸元を掴んで無理やり立たせる。 ギーシュは動けない。逃げられない。 そして「それ」が行われる。 「だから許し」 ドシュンッ! 空気を切り裂くような音とともに、ホワイトスネイクの貫手がギーシュの額に突き刺さった。 「3ツ目ハ、オ前ノ記憶ト『魔法ノ才能』ヲ得ラレルコトダ」 「あいつ、やりおったわ!」 「遠見の鏡」で決闘を見ていたオスマンが叫ぶ。 同じく決闘を見ていたコルベールは既にここにはいない。 ヴェストリの広場に行ったのだろう。 「まさかとは思っとったが……ええい、モートソグニル!」 遠い場所で決闘を見張らせていた自分の使い魔の名を呼ぶオスマン。 すぐに返事と思しき鳴き声が返ってくる。 「眠りの鐘じゃ! すぐに鳴らせぃ!」 言うが早いが、オスマンは素早く杖を抜いてルーンを唱える。 「サイレント」の呪文だ。 その鐘の音の響くところにある者をことごとく眠らせる眠りの鐘。 響きは音としては学院長室まで聞こえなくとも、音の波として確実にここにも到達する。 うっかり自分も眠ってしまうわけにはいかないため、音そのものを遮断したのだ。 (たかだか子供の決闘とはいえ、死人を出すわけにはいかぬ) オールド・オスマンは人間としてはダメな男だが、教師としては最上の男だったのだ。 「あ、あいつ、ギーシュを殺しちゃったの!?」 ルイズが震える声で言う。 「どうでしょうね……血は出てないみたいだけど、放っておくのはヤバそうだわ」 「同感」 キュルケとタバサが杖をホワイトスネイクに向けて構える。 「な、何してるの二人とも!?」 「止めるのよ。このまんまじゃ、本当にただ事じゃ済まなくなりそうだもの。 別に彼を殺したりはしないから大丈夫よ」 そう言ってルーンを唱えるキュルケ。 タバサの方はすでにルーンを唱え終わっており、その目の前に7、8本のツララが形成されている最中だった。 そして、タバサがツララをホワイトスネイクに向けて飛ばそうとした瞬間、その鐘の音は響いた。 決して大きな音ではなく、しかし心の奥底にまで浸み渡る音。 その音がタバサの体から力を奪っていった。 (こ、これ、は……) 薄れゆく意識の中で、タバサは音の正体を理解した。 (これは、『眠りの鐘』) その眠りの鐘の影響は、ホワイトスネイクにも及んだ。 「コノ音……何、ダ……コレハ?」 全身から力が抜けていき、激しい睡魔がホワイトスネイクを襲った。 「第、三者ノ……介入カ? アルイハ……ダガ……!」 ホワイトスネイクは、ギーシュの額から貫手を引き抜いた。 引き抜いた指に挟まれていたのは輝く二枚のDISC。 貴重な戦利品だ。 滅多なことでは手放せない。 こんな、わけのわからない攻撃なんかのためには、決して。 「コレハ……回収……スル。カ、確、実、ニ……」 最後のパワーを振り絞って体内にDISCを収納すると、ホワイトスネイクは煙のように姿を消した。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1718.html
ドドドド・・・ と凄まじい威圧感を放ちながらブラフォードは困っていた 長髪の大男が威圧感を撒き散らしていたらきっと誰でも引くだろう 「あ・・・あの・・・ど・・・どうかなさ・・・なさいました?」 「ん?ああ・・・どこで洗濯をすればいいのかわからないのだが」 「え・・えーっと・・・・こ・・・こちらです」 その後 ここ(トリステイン魔法学校)で仕えているメイド、シエスタの案内により第一の任務を終えた 後ブラフォードはルイズが居る教室を探していたがご主人様の爆発に巻き込まれ ブラフォードの髪の毛が軽傷!デブが一人リタイヤ! 「ところで何故教室で爆発があったのだ?何かが襲撃してきたり誰かが喧嘩でもしたのか?それと なんで俺だけが掃除しなければならないのだ?」 「か・・・関係ないわよ!それにあんたは使い魔!ご主人様の命令を無理にでも聞きなさい!」 もしやルイズが爆発を起こしたのかと思ったブラフォードだったがあえた言わなかったのは 本人なりのやさしさであった 何故か動いた髪の毛により掃除もすぐに終わりルイズとブラフォードは灰色の搭もびっくりな スピードで食堂に向かった。ちなみにこのブラフォードは召還されてから何も食べてないので そろそろ何かを食べないと餓死しそうであった 「なかなか豪華だな・・・ところで俺の席はどこだ?」 ブラフォードがその言葉を口にした瞬間 「あら?本当は平民はこの食堂には入れないのよ?」 「そこから先は言わないでくださいご主人様、もうわかっています俺の分はあれでしょう?」 ブラフォードが指をさした先にあったのは・・・消し炭に見えるパンと濁った水(スープ)だけであった 「あら物分りがいいじゃない?」 最高にハイになりそうなルイズと大型犬に囲まれたチワワのように縮んでいるブラフォード 何かがおかしいようだが気にしてはならない ガシャン!という音がなった ダイアーさんなら明らかにこの後薔薇を投げそうだがギーシュは違った!(二つバシンとなっただけだが) 「な・・・何をするだァッー!!!ゆるさーん!!!」 「ひっ・・・!すみません!すみません!」 ひたすら頭を謝るシエスタ まぁ悪いのは勝手に香水を落として割って 二股がバレたギーシュが悪いのだから 「あの子はさっきの・・・」 と思ったときにはすでにブラフォードはギーシュに回し蹴りを食らわせていた! 「あべしッ!」 そしてでんせつがはじまった
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/885.html
夜も更け、わたしはベットに腰掛けていた 授業中止 姫様ご訪問 ワルド子爵 許婚 憧れの人 姫 子爵 姫 子爵 姫 子爵 姫 子爵 姫 子爵 部屋のドアがノックされた 真っ黒な頭巾をすっぽりとかぶった、少女が入ってきた 「・・・あなたは?」 少女は黙って頭巾を取った 「姫殿下!」 わたしは慌てて膝をつく 「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」 姫様は涼しげな、心地よい声で言った。 「結婚するのよ。わたくし」 姫様・・・なんだか悲しそう 「・・・おめでとうございます」 とりあえず祝辞を述べる、姫さまは椅子に座ったプロシュートを見ていた 「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら」 「お邪魔?どうして?」 いったい何を言ってるのだろう? 「だって、そこの彼あなたの恋人なのでしょう?」 「姫さま、彼は使い魔です!」 わたしは首を振って否定した・・・・・・・・ ・・・もしプロシュートが恋人だったら?・・・ 「今から話すことは、誰にもはなしてはいけません」 姫さまはプロシュートの方をちらっとみた 「席を外すか?」 プロシュートが気をきかすが、姫さまは首を振った 「わたくしはゲルマニアに嫁ぐことにしました」 「なんですって!よりにもよって、あんな成り上がりの野蛮な国に」 それで、あんなにも悲しそうな顔を・・・ 「仕方ありません、小国である我がトリステインを守る為には 強固な同盟関係がひつようなのです」 「お国の為とはいえ、あまりに御労しい」 「わたくしはトリステインの王女、国の為にこの身を投出す事など・・・ その前にしておかなければ成らない事があります」 「同盟を結ぶための婚姻を妨げる材料を取り戻さねばなりません」 「姫さま!いったい、姫さまのご婚姻を妨げる材料って何なのですか?」 姫さまは両手で顔を覆ったまま苦しそうに呟いた 「・・・わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」 「いったい、その手紙はどこにあるのですか?」 姫さまは首を振った 「その手紙はウェールズ皇太子が所持しています」 「プリンス・オブ・ウェールズ?あの凛々しき王子さまが?」 姫さまはベットに体を横たえた 「ああ!ウェールズ皇太子は、敵に囚われてしまうわ! あの手紙も明るみに出てしまう!そうなったら破滅です!」 「ならば、このわたしが手紙をその前に取り戻して見せましょう」 ・・・つい、勢いで言ってしまった・・・わたしの言葉を聞いて 姫さまは、ぼろぼろと泣き始めた 「このわたくしの力になってくれるというの?ルイズ・フランソワーズ」 「もちろんですわ!姫さま!」 姫さまはプロシュートに声を掛けた 「頼もしい使い魔さん。わたくしの大事なお友達を、これからも よろしくお願いしますね」 そんな、まさかっ!姫さまは左手をプロシュートに差し出した 「いけません!姫さま!使い魔にお手を許すなんて!」 「いいのですよ。この方はわたくしのために働いてくださるのです。 忠誠には、報いるところがなければなりません」 姫さまはニッコリと微笑んだ 「ルイズ、お手を許すってのはなんだ?」 プロシュートがわたしに聞いてきた 「お手を許すってことは、キスしていいってことよ」 「ああ、あの跪いてするアレか?」 「そうよ、そのアレよ」 プロシュートが跪き姫さまの手にキスをする この行為がどれだけ名誉なことか判っているのかしら? 「こんな事に成るなんて夢にも思わなかったぜ」 プロシュートが感想を口にした。なんだ、ちゃんと判ってるんじゃない だがっ!次に出た言葉は、わたしの理解を超えていた 「まさか王女のケツを拭く羽目になるなんてなあ」 ・・・・・・・・・ 「なに言ってるのアンタわー!」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1345.html
「ほら、朝だよ」 育郎がベッドの中で丸くなっているルイズを揺さぶる。 「うにゅ~もうちょっとー」 「もうそろそろ準備しないと遅れるよ」 「むー」 仕方なくベッドから離れるルイズ 「ほら、顔を洗って。着替えはいつも通りそこにあるから」 「ふぁ~い」 「着替えはおわったね、はい鞄」 「うん」 「それじゃあ行こうか…ど、どうかしたのかい!?」 見るとルイズが頭を抱えてうずくまっている。 ルイズは先日の一件で色々考えた結果、もう育郎を召使のように扱うのはやめようと 決心したのであった。それは単純に、育郎の境遇に同情したと言うだけではないのだが、 とにかく、今日からはそれまでのように、自分のことは自分でしようと、 そう考えていたのである。 ち、ちがう…こんなはずじゃなかったのに! 平民に何もかもやらせる事は、貴族を人間的にどんどん駄目にしてるのかも… ルイズは生まれて初めてそんな事を思った。 食堂に入ると、自分達に視線が集まるのを感じる。 なんとなく、使い魔を連れての初めての授業を思い出すが、その時とは視線の質が 明らかに違う。ある生徒達はこちらを見ながら、小声で囁き合い、ある生徒は露骨に 脅えた顔をこちらに向ける。中にはルイズを見て、涙を流す女生徒までいた。 昨日何故か部屋にやってきたキュルケから、育郎が悪魔だのなんだの好き勝手に 噂されているとは聞いていたのだが… 「…予想していたとはいえ、ここまでとはね」 溜息をつくルイズ。育郎を見ると複雑な表情をしている。 幸いな事に、先生達はチラリとこちらを見る事はあっても、基本的にそれぐらいで、 特に変わった反応はしない。一応オールド・オスマンの説明を信じているようだ。 そのオールド・オスマンの姿も見えたが、ミス・ロングビルにアッパーを喰らって 宙を舞っていた。これはどうでもいい。 あ、浮いたオールド・オスマンにさらにストレートを叩き込んでる。 とはいえ、どうでもいい事にはかわらないけど。 「ところでルイズ…僕の食事だけど、本当に良いのかい?」 育郎がルイズの隣に並べられた、食事を指差して聞く。 「いいのよ!その、えーと、ほらあれよあれ!た、ただの平民よりはこう、 使い魔として役にじゃなくて…とにかくいいの!」 そう言って隣の席を指差す。 「でも、座る席は決まって…いや、やっぱりいい」 ルイズの席の周りは誰も座っていなかった。ついでに料理もルイズと育郎の分以外は、 かなり離れた場所に置かれていた。 よく見れば平民のメイド達も、調理場からチラチラとこちらを伺っている。 「…まあ、気持ちはわかるけど、何日かすればいつも通りになるわよ。たぶん」 脅えながらこちらを伺うメイド達の中に、黒髪の少女を見つけ、育郎の顔が曇る。 育郎は昨日の決闘が終わり、ミス・ロングビルに連れられていく時に、シエスタと 思わしき黒髪が、その場を離れていくのを見ていた。となると、変身した姿も 見ていたと思って良いだろう。脅えるのも仕方が無い。 そう考えていると、自分が見ているのに気付いたメイド達が、 調理場へ引っ込んでいった。 「………外で食べてこようか?」 「い…いいわよ…」 と言ってみたものも、とても食べにくい。 こちらが気になるのは分かるのだが、そんなに凝視されると、その…困る。 「あらルイズ、大人気ね」 「キュルケ!」 「キュルケさん」 食堂に入ってきたキュルケがこちらに気付き、気付かない方がおかしい気もするが、 こちらに手を振って近寄ってくる。 正直いつもなら嫌な顔をして、追い返そうとする所だが、今日に限っては普段通り 語りかけてくるキュルケがありがたかった。 「キュルケでいいわよ、えっとイチローだっけ?」 「イクローです、キュルケさん…」 「だからキュルケで良いって」 とりあえず、昨夜で誤解は解けた(何を誤解していたのかはよくわからないが) キュルケは、育郎が噂のような危険な人物ではないと、納得してくれたようだ。 たまに熱っぽい視線を送るのも、何時もの悪い病気なのだろう。 じゅるり 何時もの悪い病気なのだろう。 「あ、そうそう貴方達タバサ見なかった?」 「タバサ?えっと、授業中いつも貴方の隣に座る、青い髪の子?」 「そう、その子。朝から姿が見えないんだけど、知らないかなって」 「まだ寝てるんじゃないの?」 「う~ん、あの子に限ってそんなことは無いと思うんだけど…」 「その…ちょっと良いかな?」 何時の間にかモンモランシーと腕を組んだギーシュが、三人の傍まで近づいていた。 「君は…その…大丈夫かい?」 育郎が席を立って、ギーシュに近づこうとするが 「………!!!」 「モンモランシー…」 組んだ腕に力を込め、育郎を睨み付けるモンモランシーをギーシュはなだめる。 「その、怪我なら大丈夫さ。君のおかげだよ…」 「ギーシュ!貴方はこいつの」 「あら、最初に決闘を申し込んだのはギーシュのほうじゃない。 傷を治したことを感謝こそすれ、恨むのは筋違いでなくてモンモランシー?」 「…ッ!」 今度はキュルケを睨み付けるモンモランシー、 「モンモランシー、いいんだ。彼女の言うとおりだよ…」 「でも!」 「モンモランシー、君が僕のことを心配してくれるのは本当に嬉しいんだけど…」 「………わかったわ」 さすがに簡単には納得できないのか、不満そうな顔をするが、素直にギーシュの いう事を聞くモンモランシー。 「それで…何の用なのよ?」 ルイズの不機嫌そうな声に、ギーシュが躊躇いながら口を開く。 「その…約束通りあのメイドには謝っておいたよ。 ちゃんとモンモランシーにも頭を下げさせたから…」 「そうか、ありがとう…」 「いや、貴族として当然の…な、なんだい君たち。そんな変な顔して?」 口をポカンと開けているキュルケとルイズに、ギーシュが気付く。 「その、ギーシュならともかく…モンモランシーも!?」 ルイズが驚いた声をあげて、モンモランシーを見る。 「な、何よ…悪い?」 「へー貴方がねぇ…」 キュルケが世にも珍しいという目でモンモランシーとギーシュを見比べる。 「だ、だってその…じゃないとギーシュの名誉が傷つくし… そ、それに言う通りにしないと、そいつが何かするかわからないじゃない!」 「おお!モンモランシー、僕の為に!」 「あ、貴方の為じゃなくて…もう…」 「それでもありがとうと言わせてくれ、愛しいモンモランシー」 顔を真っ赤にしたモンモランシーを、感極まった様子でギーシュが抱きしめる。 「相棒、このバカップルに何か言ってやれ」 「そんな、邪魔するのは悪いよ…」 「なんか、ますます食事がしにくくなったわね…」 「アタシ、タバサの部屋を見て来るわ…」 どうでも良いが、抱き合う二人を『死ねば良いのに』という目でマリコルヌが見ていた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/891.html
暗闇の中、ある男が浮かんでくる。そいつを殺そうと杖を向けるも、魔法が 出てこなかった。巨大なゴーレムが現れない。 なぜか。躍起になって何度も何度も杖を振るう。呪文を唱える。されど意味 はない。と、見かねたように男がこう言った。 「お前の持っているものは何だ」 そんなもの自分の杖に決まっている。そう言おうとしたが、違った。 手に持っていたのは、切り落とされた自分の指だった。 「最悪の寝覚めね」 ぼうっとした口調でそうこぼした。彼女はトリステイン魔法学院の宝物庫に 保管されてある破壊の杖を盗んだフーケである。盗難には成功したものの、 使い方がわからなかったので生徒たちを利用しようとした挙句、彼女たち自 身によって取り押さえられてしまい、監獄に閉じ込められている。 思い返せば思い返すほど間抜けなことをしたものだ。フーケはそう思った。 「でも、あの男……」 フーケがまぶたを閉じる。そうすると一人の男が浮かんできた。みすぼらし い格好をした盲目の男、体格は大きく、そんじょそこらの兵士よりも立派な 体だった。名前はンドゥール。 彼女はここに来てから何度も彼が出てくる夢を見てきた。先ほどのようにど こか怪談みたいなものから倒される瞬間の映像が繰り返し再生されるものと、 さまざまである。それらを見るたびに完治したはずの右肩と亡くした右手の 人差し指がうずくのだ。 復讐したい。完膚なきまでに叩き潰してしまいたい。そう願うが、彼女は杖 を没収されているので脱走などできはしない。 悔しくてたまらない。もう一度会いたい。フーケは強く歯を噛んだ。 「『土くれ』」 ふと、その誰がつけたか知れない二つ名が呼ばれた。鉄格子の向こう側に、 いつの間にか客が来ていたのだ。 「何用かしら。あいにくお茶もないんですけど」 「話をしにきたのだ。マチルダ・オブ・サウスゴータ」 その名前は、久しく忘れかけていた本名だった。 「ガンダールヴ?」 「そう、ガンダールヴじゃ」 ある日の夜、ンドゥールはオスマンに呼び出されていた。くれぐれも一人で 来るようにとのことだった。今回はルイズもついてこず、部屋の中でじっと していた。 「おぬしの手には使い魔のルーンが刻まれているのは知っておるじゃろ? それがガンダールヴというもはや伝説となった使い魔と同じものなのじゃ。 なんでもあらゆる武器を使いこなしたとか」 「……どおりで。あれの扱い方がわかった理由もそれか」 「そうじゃの」 「それと、剣を抜いたときに筋力や敏捷性が上がることもそれに関係してい るのか?」 「いや、それはさすがにわからん。なにせ資料が少なすぎるのでの。ともか く、おぬしがガンダールヴという伝説の使い魔なのは事実じゃ。それと、お ぬしが使う水の魔法じゃが、あれはいつから使える?」 「生まれつきからだがひとつ訂正する。あれは魔法ではない。スタンドだ」 「スタンド?」 オスマンが聞き返すがンドゥールはそれ以上言わなかった。 二人が静かに水を飲んだ。 「ま、ともかく両方とも隠しておいたほうがいいぞい」 「なぜだ?」 「仮に王宮に知れてしまえばまたぞろ調子に乗るやもしれぬ。そうなったと き、矢面に立たされるのはミス・ヴァリエールじゃ。それはおぬしも望まん じゃろ?」 「まあな。しかし、なるほど。なぜルイズを連れてくるなと言ったのかがわ かった。あいつはアンリエッタ王女と親しい。あっさりと打ち明けるだろう」 「教師の心、生徒知らずじゃ」 オスマンは目を細めて笑った。 「……あ、帰ってきたわね」 「やあ! 失礼しているよ!」 ンドゥールが部屋に戻ると、ルイズと一緒になぜか興奮しているギーシュが いた。 「なぜこいつがここにいる?」 「なんだい。その自慢の耳で聞いていなかったのかい。仕方ないね。この僕 が――」 「姫様から秘密の任務を任されたの」 「この僕が……」 「あんたが学院長室にいるときにちょうどお忍びでアンリエッタ様がこられて。 ギーシュは盗み聞きしてて、それに志願したの」 「あいだっ!」 ンドゥールが拳骨を振り下ろした。ギーシュの脳天にこぶができた。 「それで、どんな任務だ?」 「その……」 ルイズが語った内容は次の通りだった。 現在、隣国のアルビオンの貴族が反乱を起こし、今にも王室を倒してしまう とのこと。その次にはこのトリステインに進行してくること。この国は脆弱 なためゲルマニアという国と同盟を結ぶためアンリエッタ王女は嫁ぐことに なったのだが、その婚姻を破棄してしまう手紙をアルビオンのウェールズ皇 太子が持っていること。それを反乱勢に奪われる前に取り戻さなければなら ない。 「難儀だな」 ンドゥールのため息でルイズは気が沈んだ。自分の感情が高まっていたとは いえ、少しは考えるべきだったかもしれない。それでも、と、彼女は思う。 安請け合いではなかったのだ。敬愛する主人のため、古き友の力になるため だったのだ。 光を映さない瞳を見て、しゃべる。 「ンドゥール、言っとくけどこれは反故にできないわよ」 「わかった。それで、いつ出る?」 その返事にルイズは拍子抜けした。 「明日、だけど、いいの?」 「いいもなにも、いくのだろ?」 「そうだけど……」 「なら準備をして早目に眠れ。ギーシュ、お前もな。遅刻するなよ」 ンドゥールはそう言って定位置に座った。ギーシュは頭を抑えながら静かに 部屋を出て行った。ルイズは尋ねる。 「あんた、反対しないの?」 「しない。なぜそう思う?」 「だってため息ついてたじゃない。やりたくないんでしょ?」 「お前が決めたのだ。俺はお前がその道を進みやすいようにするだけ。とり たてて異議はない」 答えを聞き、ルイズは自分のベッドに潜り込んだ。パチンと指を鳴らして室 内の明かりを消すとンドゥールが横になる音が聞こえた。 (でも、たぶんぐっすりと熟睡していないでしょうね) ルイズにはなんとなくそれがわかった。彼は眠りながらも耳を澄ませ、不審 な物音に注意を払っているのだ。 せめて、そんなことをする必要がないぐらい強くなりたいと思う。 理由はいまのところ彼女にはわからなかった。 翌朝、ルイズとンドゥール、そしてギーシュはまだもやが残っている空気の 中で出発の準備をしていた。長く馬に乗るためのブーツを履き、水や保存食 が詰まった荷物を馬にくくりつける。 「そういえばギーシュ、使い魔はどうするのよ」 「我が愛しのヴェルダンデかい? もちろん連れて行くさ。あれでも地中を 掘って進んでいく速度はなかなかのもんなんだよ」 おいでと、とんとんと地面をけった。もくもくと彼の足元が盛り上がり、大 きなモグラが姿を現した。 「ああ、今日も可愛いぞヴェルダンデ! どばどばミミズをいっぱい食べた かい?」 モグラはフグフグと鼻を引くつかせる。ギーシュは自身の使い魔を強く抱き しめ、すりすりと頬ずりをしだした。その様子を見てルイズはちょっと気分 が悪くなった。 「……まあ、ついてこれればいいわ」 そう言って彼女は背を向けた。そのとき、モグラが突如ギーシュを離れてル イズに飛び掛った。 「な、なんなの! お、重!」 堪えきれずに地面に倒れてしまった。モグラは暴れるルイズの上を動き回り、 薬指にしている宝石に鼻を近づけた。そこでどっかんと蹴りを入れられる。 ンドゥールだった。 「大丈夫か?」 「な、なんとか。それよりも、ちょっとギーシュ! 使い魔の躾はしっかり してなさいよ!」 「うう、悪かったよ。僕が悪い。だからヴェルダンデは許しておくれ。いつ も僕のために宝石を捜してきてくれるんだ。さっきのもそうだったんだ」 ギーシュはいつもの高慢さからはほど遠く、真摯に謝った。ルイズは面食ら いながらもそれを受け止める。そしてパンパンと服を叩いてから馬に跨った。 ンドゥールに手を伸ばし、後ろにつくように促す。 と、彼がふっと上空を見上げた。 「どうしたの?」 「空に何者かがいる」 すぐにルイズはンドゥールが向いているほうへ顔を動かした。そこには、確 かに大きな翼を持った生物、グリフォンに跨った人物がいた。 「何者だろうね? また『土くれ』のフーケみたいに泥棒に来たのかな」 ギーシュはそういいながら杖を構えた。いつでもゴーレムを呼び出せるよう にしている。しかし、ルイズはその人物を見て、驚きの声を上げた。 「ワルドさま!」 「知っているのか?」 「ええ、でも、どうして彼が……」 そう言っている間にワルドと呼ばれた人物は三人の前に降り立った。つばの 広い帽子の下には精悍な顔があった。 彼はグリフォンから降りると満面の笑顔でルイズに駆け寄ってきた。もとも と険しい顔は笑みを浮かばせると途端に父性があふれてくる。 「久しぶりだな! ルイズ!」 「え、ええ。でも、なぜあなたがここにいるの?」 「ああ。僕はいま、魔法衛士隊に所属しているんだ。このたび女王陛下から 君たちを手伝うように命じられたんだよ」 「魔法衛士隊?」 「親衛隊。でも、あなたは以前姫様がここに来られたときにいなかったわ」 「そのときは枢機卿の護衛についていたのさ。まだ平穏だったからね」 ルイズはどこか落ち着かなくワルドと会話をしている。 彼女の頬が若干赤くなっているところをギーシュが見て、おやと不思議に思 った。今までそんな表情などしたことはなかったのだ。知り合いだというこ とは家柄を考えたら納得するが、どうやらそれだけではなさそうだ。 ワルドはようやく気づいたのかそばにいるンドゥールと成り行きを眺めてい るギーシュに目を寄せた。 「ルイズ、彼らを紹介してくれないか?」 「あの、使い魔のンドゥールと、ギーシュ・ド・グラモンです」 「君が使い魔のンドゥールか! なるほど、盲目というのも事実だったのだ な。それにグラモン元帥のご子息、これほど頼りになるものたちもそういま い!」 大きく笑う。ンドゥールを知っているということはフーケの事件は耳に入っ ているのだろう。 「いや、君のような人物が彼女の使い魔なら僕も安心だ。これからも僕の婚 約者をよろしく頼む」 『婚約者?』 男二人の声が重なった。 その片方、ギーシュは納得した。 (だからあんな顔をしていたのか) それに彼から見てもワルドはかなりの美青年である。そのうえ魔法衛士隊と いうだけで十分な名誉を持ち、周囲から多大な尊敬を集める。そのうえ隊長 と来た。これでは美点はあっても汚点はない。男として完全に敗北している なあと彼は諦観して、ンドゥールを見た。相変わらずの無表情だったが、ど こか鋭いものがあるとギーシュは思った。