約 1,077,058 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1351.html
朝食を厨房で取った僕と才人は、その辺をぶらぶらと歩いている。 こんな事をしていたなら「また、ご主人様をほったらかしにして!」等と、僕らの自称ご主人様、ルイズが激昂するだろうが、今日はあいにくそんなことはない。 というか、未だに部屋で寝ている。 一応、起こしたのだが「今日は虚無の曜日だから……」と二度寝を始めてしまったからだ。 仕方なく、僕らは洗濯物だけは洗っておいてやった。全く、世話の焼ける。 ともかく、アレである程度は自分を律せられるルイズが、二度寝をするという事は何かあるのだろう。 そう思って適当なメイドに話しかけて聞いてみれば、今日は僕らの世界で言う日曜日のようなものらしく、学校も休みで、衛兵やメイドも、最低限の数しかいないとのこと。 昨日、説教する余裕があるなら、それぐらいのことは教えておけ! とルイズに言いたい。 そうとわかれば、僕も寝る余裕があったろうに。 まあともかく、この暇な時間を放置するわけにも行かないと、この機会に学園の回れる所を回っておこうと才人が言い出し、僕もそれに同行して、現在に至っているわけだ。 ちなみに、今は本塔の中庭の辺りを散策中である。 「……顔をつっこむ程度で許してやるか………」 「なぁ、花京院。何ぶつぶつ言ってんだよ」 「……いや、やはりぴかぴかになるまで舐めさせるのが……」 「お~い、花京院」 「……しかし、女性用のを舐めさせて、精神的に再起不能というのも……」 「無視すんな~」 才人がさっきから、しきりに話しかけてくる。実に鬱陶しい。 今の僕の頭の中は、貴様に対する、昨日の事への報復を考えることで忙しいんだ! 結局、僕はあの後ほぼ一睡もすることなく、朝を迎えることとなった。 普段なら徹夜程度なんて事はないのだが、厨房での無茶な体勢での長時間の気絶。 昨晩のキュルケの部屋でのグダグダ。 ルイズの部屋での延々とした愚痴。 その全てが合わさって、僕は今、精神的にも、肉体的にもかなりヤバイ状態にある。 先程、鏡で確認したら、かなり凶悪な顔つきになっていた。 目元はつり上がって、表情全体に影が差し、瞳は生気が消えたように暗い。 白目の所は赤く充血し、瞼の重さに耐えかねて眉間にしわが寄っている。 前髪は幽鬼の如くぐったりとしなって、僕の顔の半分を隠している。 僕自身、こういう奴がいたら犯罪者と見まごうことだろう。 事実、シエスタなどは出会うなり、悲鳴を上げた。 一番スゴイ反応を返したのは、マルトーさんだ。僕の顔を見るなり包丁を持ち出してきた。 最近はこんなトラブルばかりだ。 ここに来てからというもの、どうもついていないな。 そう、僕は考えながら、またうつむいて報復の過程を考える作業に戻る。 「うおっ!」 「あ、わりぃ。呼びかけても、反応しねぇからさ」 「眠いんですよ……」 唐突に隣を歩いていた才人が、僕の肩を揺さぶった。 体調不良でふらふら気味の僕は、その揺れに逆らうことが出来ず、ドシィインと尻餅をついた。 ズボンが土でひどく汚れた。 まさか、ここまで寝不足が効いているとは。 ……報復するにしても、コレは一度仮眠を取る必要があるな。 僕はぱんぱんと、土埃のついたズボンをはたきつつ、立ち上がる。 そして精一杯、今できる限りのまじめな顔をして、才人の肩をつかんで名前を呼ぶ。 「才人」 「な、何だよ?」 「僕は暫く仮眠を取ります」 僕はただそれだけを言って、才人の肩から手を離し、そのまま戻ってきた方向へ、回れ右する。 才人は暫く、何がなんだか解らないといった様子で、しばし呆然としているようだ。 この隙に、僕はさっさと戻ってきた道をふらふらとした足取りで進む。 「え!? ちょ、おい待てよ!」 ようやく状況を認識した才人がそんな声を挙げたのは、既に僕が寮の方へと通じるアーチまで、たどり着いてからのことだった。 そういうわけで一足先にルイズの部屋までたどり着いた僕は、颯爽と寝る準備に入る。 今なら近くにマニッシュボーイがいても、僕は夢の世界に入ることに躊躇はないだろう。 布団を敷いて、毛布にくるまり、僕はそのまま身体の状態に任せ、目を閉じた。 「げげげ、下僕の分際で、二度寝の上にご主人様に起こされるなんて…… こここ、これは本格的にお仕置きが必要なようね……」 混濁しきった意識の中で、少女のそんな声が耳に入る。 嫌な予感がした。 僕はとっさに毛布を振り払い、混濁した意識を一気に現実まで引き上げる。 そこには大きく右腕で鞭を振り上げるルイズの姿があった。 アレで叩く気か? 冗談じゃない! 「『ハイエロファント・グリーン』ッ!」 僕はスタンドを発現させ、ルイズの部屋の四隅にある調度品に、ひも状にほどいたスタンドを引っかける。 そしてそこを基盤として、天井付近に蜘蛛の巣のように張り巡らせ、そこを縦横無尽に逃げ回る。 魔法で狙撃することのできないルイズは、部屋の下で必死に鞭をふるっているだけだ。 「コラァ! 避けるんじゃないわよッ! おとなしく降りてきて、叩かれなさい!」 「断るッ!」 結局、狭い部屋で行われた僕とルイズの鬼ごっこは、暫くして早めの昼飯を済ませた才人が乱入したことにより、ルイズの標的が才人に変わるまで延々と続けられた。 「全く、あんた達は使い魔や下僕としての基本がなってないようね!」 ルイズは才人をイス代わりにして、僕の方へと向き直る。 だんだん言われ慣れてきたせいか、反発は覚えるものの、下僕と言われるのに怒りを覚えなくなってきた。 こういう慣れ方は、実に不本意だ。 「下僕、聞いているの!?」 「あうっ!」 さっきから、僕がよそ見や何か違うことに意識を取られるたび、何故かルイズのイスになっている才人が鞭で叩かれている。 その姿を見ていると、復讐をするのがカワイソウになってくる。 でも昨日のことを思い出し、腹が立ったのでまた、よそ見をする。 「よそ見してるんじゃないわよ!」 「ひぃん!」 再び、才人が鞭で叩かれる。 ……叩かれた後、才人がなま暖かい目でルイズを見ているのは、気のせいだと思いたい。 初めての親友候補が実は変態マゾ野郎でした。なんて、僕には人生リタイア級の衝撃だ。 それはともかく、結局ルイズの話は昨日の夜の説教の焼き増しだった。 もっとご主人様に尽くすべきだの、貧乳は正義だの、下僕と使い魔にはみっつのUが必要だの。 僕は適当に聞いているフリをして流し続けた。 その所為か、たびたびルイズも鞭をふるって才人を叩く。 そのときのルイズは妙に生き生きとしていた。コイツもなのか。 途中でルイズがお昼の休憩を挟みつつ行われた、ルイズの下僕&使い魔講義はおいかけっこを含めて、3時間という長大な記録をたたき出した。 まあ、よくもそれだけ舌がまわるものだ。 座り心地が悪かったのか、途中からは普通のイスに座って行われたのだが。 ともかく、その不毛な下僕&使い魔講義が一区切りつくと、ルイズは席を立って制服とは違う、別の服を着せるよう、僕らに指示を出した。 正直、またあの様な不毛な講義を開催されてはたまらない。 僕は大人しくその要求に従い、ルイズに服を着せた。 ちなみにまな板や、ロリコンに興味はありません。 僕に着せ替えられたルイズは、僕たち二人の方を向いて言う。 「外出するわよ。さっさと馬の用意をして」 「外出?」 「そうよ、あんた達もついていくの」 これはまた脈絡のないことだ。 何故。聞かずにはいられない! 「僕たちもですか。しかし、どうして?」 「明日から衛兵の仕事を再開するのに、槍が無くてどうするのよ。使い魔の方も、それなりに武器を使いこなせるみたいだし」 この一言に、僕は非常な衝撃を受けた。 あの高慢ちきでケチで、差別主義者の自称ご主人様が、僕らにモノを与えるだって!? 間違いない。コイツはラバーソウルの化けた偽物だ! 「珍しい……」 才人がつい、僕らの思いを口に出す。 それを聞くなり、ルイズがこちらをジロリと睨んできた。 「どうしてよ」 「お前って、ケチだと思ってた。飯とかひどいし」 どうしてお前はそう、思ったことをすぐ口にする! いっそ封鎖してやりたい気分になったが、特にルイズは気にした様子もなく、それどころか、何故か得意げな表情になって言い放つ。 「あんまり贅沢させると、癖になるでしょ? 必要なモノはきちんと買うわよ。私は別にケチじゃないの」 訂正。やはりいつものルイズだ。 これほどテンプレート的な高慢ちきも、中々いないだろう。 まだ出会って三日だが、実に人物像がつかみやすいな。 そういうわけで僕らは馬に乗って、初めての、異世界街見学というのを体験することになったのだった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/940.html
「空! ハゲ空飛んだ! スゲェ!」 空くらい飛ぶでしょメイジなんだからわたし除く。 「ね、この字みたいなの何?」 「わたしの使い魔になったって証のルーンよ」 「使い魔? あたしが? 使い魔ねぇ。家来みたいなもんなの?」 なんか軽いわねぇ。もうちょっとその格調高いというかさ。 「ルイチュの家来だったらなってもいいかな。かわいいし、魔法使えるし、それに貴族!」 ……ルイチュって誰? 「いいわね。メス豚どもに囲まれてるよりいい生活ができそう。なーんか世界も終わりそうな雰囲気だったしさ」 「メス豚? あんた養豚場で働いてたの?」 「ううん。水族館ってとこにいたんだ。ろくでもねーとこさ」 水族館で豚に囲まれて……水棲の豚? 「ねえヘアバンド無い? あれがないと自分って感じしなくてさ」 知らないわよ。あんたが置いてきたんでしょ。 「知り合いがみてもあたしだって気づかないかも」 面倒くさいわね。買い物に行く時にでも好きなの選べばいいじゃない。 「月! 月が二つ! 嘘じゃなかったんだ! 本当にファンタジー!」 月見て興奮する気持ちは分かるけど、ちょっとオーバーじゃない? たしかに今日の月はいつもよりエロチックな感じだけど。 「あたしってこういうの憧れてたのよねぇ。ファンタジアとかさ」 しかしこいつ、いちいちリアクションが激しくて疲れるわ。 ミキタカの使い魔見習ってほしい。枯れてるといか落ち着いてるというか、静かなもんよ。 ミキタカの使い魔、名前はぺティ、ぺティ……ペッティング? そんな名前の人いないわよね。 なんだったっけ。思い出せいないな。本人に聞くってのは気まずいし。もう面倒くさいからぺティでいいや。 わたしのグェスに比べると、人生経験の差っていうのかね。 「ねえ、ぺティ。あなたはどこで何をやっていたの?」 「山奥で修行をしておった。たまに里へ下りることもあったが、戦ってばかりじゃったな」 簡潔! かつ、頼もしい! うーん、老師って感じ。 少しは感銘を受けるとか、己を恥じるとか、そういう殊勝な反応を期待していたんだけど、 「美味しい! ああ、アイスなんて何年ぶりかな」 なんかバクバク食べてるし。 「これだから平民は困るのよね。ガツガツしてみっともない」 「そんな意地悪言わないで食べてみてよルイチュ。ほら」 こんな得体の知れないものが美味しいわけないでしょ……冷たっ! う、うまっ! 「何これ。ちょっとだけ美味しいじゃないの……」 「でしょ、でしょ。これならチーズ味のペンネ無しでもいいかな」 「老師もいかがです? 他にも色々ありますよ。ロースト・チキン、白身魚のスープ、はしばみサラダ」 車座になって遅すぎるご馳走に舌鼓をうつ。 なぜこうも遅くなったのかといえば、やっぱりそれもグェスのせい。 何かを目にするたび質問を口にして、わたしの説明を中断させる。 その質問への回答の途中で別の質問をはさみ、話はどんどん逸れていく。 彼女に全て納得してもらうまで質疑応答を続け、その間に日はとっぷりと暮れてしまった。 ぺティとミキタカはニコニコ笑って見てるだけ、グェスは気のむくままに聞くだけで、結局わたし一人が損してる。 美味しいものでも食べなきゃやってられないってものよね。あ、これも美味し。 「なんだか見慣れない料理が多いけど、厨房に新しいコックでも入ったの?」 「いいえ、これは私が作ったんです」 「ひょっとしてまた例の変身?」 「その通りです。これらの料理は私の身体の一部を変身させたものです。遠慮なく食べてください」 「大丈夫なの? 食べ過ぎて気がついたらあんたがいなくなった、なんてのは嫌よ」 「その辺は考えてあります。髪の毛の先や伸びた爪が無くなる程度ですから」 なんだか食欲の失せる話をしてくれるじゃないの。いいわよ、それもある意味背徳的なものがあってそそるってことにしといてあげるわよ。 「例の変身? 何それ、どういうこと?」 こいつはまたいらない部分に食いついてくるし。 グェスのいらない好奇心のせいで、立場を分かってもらうための説明会は夜までかかった。 まだまだ教えるべきことはたくさんあったんだけど、夜遅くまで男子の部屋にいりびたるってのもまずいからね。 ある意味私の宿敵ともいえる存在、オールド・オープン・オスマンが作った決まり事のおかげで、 比較的緩めに男子エリア女子エリアを行き来することはできるようになった。 きっとこのルールは、誰かのお腹が膨らむか、誰かの背中が刺されるかするまでは続くんだろう。 その時が来るまでは、せいぜい使ってやればいいのよ。キュルケほどじゃないにしてもね。 ミキタカとは当分の間協力体制でいかなきゃいけないだろうし。 途中、ギーシュの部屋の前で頑張ってるモンモランシーを横目に……何やってるんだろ彼女? 私は自室まで戻ってきた。 「さ、グェス。ここがわたしの部屋。つまりあなたが寝る場所になります」 「ふうん。まぁまぁかな」 「あのね。口の利き方に気をつけなさい。言葉使いを丁寧にするとか、もう少しやりようが……」 「ポスター貼ってもいい?」 「聞きなさい! ここはわたしの部屋なの。あなたの自由にできる場所じゃないの。本来ならね、使い魔なんだから納屋なり自室前の廊下なりで寝てもらうべきなんですからね」 「あーあ、今日は本当疲れたわ。ねえルイチュ、さっさと寝ましょうよ」 わたしは確信を持った。こいつは本来ミキタカの使い魔になるべきだったんだ。人の話というかわたしの話を聞き流す能力はミキタカに勝るとも劣らない。 ふん、そっちがその気ならわたしにだって考えがあるんだからね。どっちが上なのか分からせてやる。 「うわ、すんげえネグリジェ。いかにも貴族って感じ。下着もキュートッ。ルイチュに似合いそうっ」 ぐ、ぐ、ぐ、ぐぐぐぐひひひひひひひひひ。耐えるのよルイズ。この女に自分の立場というものを……。 「そんじゃちょっと借りとくよ。おやすみルイチュ」 「ちょっと待ってグェス。あんたはベッドじゃない。あんたは床」 言ってやった! 言ってやった! 「ほら、これ使っていいわ。わざわざ先生からもらってきてあげたのよ。ありがたく思いなさい」 汚い毛布、投げてやった! 投げてやった! あっはは、グェスぽかんとしてるよ! 分かった? あんたは使い魔、あたしはご主人様。あたしのベッドで寝られるだなんて考えるだけでも恐れ多いってのよおーほほほほほほ。 「ルイチュ……」 正直、わたしはグェスをなめていた。グェスの反応を勝手に予想し、決め付けていた。 怒る、泣く、侮辱する、諦める、反論する、唖然とする、脅す。 グェスがとった行動はそのいずれでもなかった。グェスはなんとも優しげに微笑み、わたしを抱きしめた。 「分かるわ……その気持ち」 は? 「私も昔はあなたと同じ事を考えてた」 何が? 「でもね、聞いてルイチュ」 はあ。 「人間は鳥やネズミとは違うの。人間は人間なのよ。貴族でも人間をペットにしちゃいけない。たとえそれが使い魔であってもね」 むう。 「そのルールを破るとけっこうひどい目にあう。たとえばボコボコに殴られるとか」 わたし脅されてるの? でもグェスの顔見るとそんなことでもないみたい。 「あとボールペン何本も盗られたり、弁当の中の大好物だけ食べられたり」 何それ? 実体験? 「あたし達は使い魔とご主人様である前に友達同士でしょ。ね、窓際の方は譲ってあげるから」 さ……諭されている……! しかもわりと正論! 平民をペットのように扱う貴族がいないわけじゃないけど、わたしの信条としてそういう貴族大ッ嫌いなのよね。だいたいにしてオープン助平だし。 しかもわたしにとってのキラーワードである「友達」を混ぜてくるわ、抱きしめることでおっぱいを押し当ててくるわ……まさか全部分かってやってるんじゃないでしょうね。この女……できる! 「そう、なるほどね」 今回ばかりは負けを認めるわ、グェス。でもあっさり兜を脱ぐわけにはいかないのがわたしのキャラの難しいところ。 「あんたがどうしてもベッドで寝たいってのは分かったわ」 わざと冷たくグェスを押しのけ、ベッドの中へ潜り込んだ。 「そんなに寝たいのなら半分のベッドで寝ればいいじゃない」 「ありがとう、ルイチュ」 「な、何よお礼なんか言われる筋合いないんだからね! もう明かり消すわよ」 うん、いい感じ。これでわたしの人となりが分かってもらえたんじゃないかな。 しっかし寝床につくだけで一苦労ね。これから先が思いやられるわ。 ミキタカの方は上手くやってんのかしら。ぺティも大物っぽかったけど、ミキタカには参るんじゃないかな。 わたし達みたいにどっちがベッドで寝るかなんてことで揉めてたりして。 もぞもぞとグェスが入り込んできた。一つのベッドを二人で使うだなんて、何か変な感じ。 ミキタカとぺティも同じ事してんのかな。 てことは、儀式の流れ上とはいえ、キスをした男と男が同じベッドで寝るってことになるわけか。 「ご主人様、今日はお疲れになりましたろう」 「ええ、使い魔召喚は初めてのことでしたからね」 「そりゃいかん。そこへ寝てくだされ。修行者時代に培ったマッサージで肉体疲労を解消してさしあげましょう」 「どうもありがとうございます。それではお願いします。……んっ、これは効きそうですね」 「そうじゃろうそうじゃろう」 「えっ、ちょっと、そ、そこは……あっ」 「ふふふ、力を抜きなされ」 「あっ、あっ、や、やめて……」 「おかしいのう。肉体の方はやめてほしくないようじゃが」 そこで逆にミキタカの反撃……だけどぺティの熟練の技が……修行者なんて男ばっかりだろうしやっぱり……。 「ねえ、ルイチュ」 「なによグェス」 「鼻血出てるみたいだけど……大丈夫?」 「鼻水の見間違いでしょ。夜だからちょっと冷えてるのよ」 グェスに背を向け、窓の方を向いた。二つのお月様は妖しくも美しく下界を照らしてくれている。これじゃランプ消しても鼻血が見えるはずだわ。 下らないことを考えるのはやめにしなくちゃ。……それにしても、どっちが上でどっちが下なのかしら。 「……ルイチュ、あたし達友達よね?」 「早く寝ないと明日困るわよ。使い魔はご主人様を起こさなくちゃいけないんだから」 「ルイチュ、あたしを置き去りにしたりしないでね」 「早く寝なさいって」 「もう猟奇殺人とかしないからさ……おやすみルイチュ」 「おやすみなさい、グェス」 ん? 何かサラッととんでもないこと言われた気がする。気のせいかな?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2245.html
ゼロと使い魔の書 第六話 かちゃり、とスプーンを置く音が、活気ある厨房の中でやけに大きく聞こえた気がした。 「ありがとう、とてもおいしかった」 琢馬はいつもと変わらぬ様子で、隣のシエスタに告げた。 「ふふ、お粗末さまでした。また食事を抜かれてしまうようなことがあったら、いつでもいらして下さい、タクマさん」 「恩に着る。ところで何か俺でも手伝える事はないか?ご馳走になりっぱなしというのも気が引ける」 今まで他人に気を遣うといったことがあっただろうか。この世界にきてから色々と初めての体験が多い。それら全ては、 その時抱いた感情とともに革表紙の本にあますことなく記されていく。できれば、後から読み返したくなるような記述を残したいものである。 「そうですね……でしたら、デザートを運ぶのを手伝ってくださいな」 手伝いの内容は過去の体験を思い返す必要もない、シエスタがケーキを配る間、銀のトレーを持っているというごくごく簡単なものであった。 中央のテーブルに差し掛かったところで、耳障りなはやし声が聞こえてきた。 「なあ、ギーシュ!お前、今は誰と付き合ってるんだよ!」 取り巻きの中央の金髪の少年に、その言葉は向けられていた。 少し、意外に思った。中世の貴族が付き合うといったら結婚前提で、軽々しく誰それに乗り換えるなんてことは絶対にない事だと思っていたが、どうやらここら辺の事情は今までいた世界とあまり変わらないらしい。 「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのさ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 肩をすくめる動作と共に吐き出されたセリフに周りの友人がややあきれたような笑みを返しているところを見ると、一夫多妻というわけでもないらしい。 友人の反応まで総合すれば、普通の高校の教室でも充分ありえそうな光景である。 彼らの盛り上がりが最高潮に達したのと、シエスタが彼らにケーキを配るのとはほぼ同時であった。 大げさな身振り手振りを交える金髪の少年のポケットから見覚えのある小瓶が落ちる。確かモンモンランシーという女学生が昨日廊下の影で彼に渡していたものだ。 「シエスタ、一人で配るのは大変かと思うが、先に行ってくれるか?」 シエスタは小瓶に視線を落とし状況を理解したようで、軽くうなずくと一人でケーキ配りを続けた。 「落とし物です。旦那様」 拾ってよく見ると、きらきらと朝の光を反射した紫色の液体はとても美しかった。 しかし、金髪の少年は自分が思ってもみなかった行動に出た。 「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」 声色や表情から、そしてThe Bookの記述から、はっきりと嘘だと分かった。 この金髪の少年が何を考えて今のようなことを言ったのか。大方この小瓶が誰かと付き合っている証拠となるような代物で、それを誰にも知られたくないがために嘘をついたといったところだろうが、 別にそんな経緯には興味がない。が、ここでただ引き下がるのは自分の記憶力を否定されたようで面白くない。 「失礼しました。私はてっきり、昨日モンモランシー様が『あなたのために調合したの……愛しているのなら受け取って、ギーシュ』というお言葉と共にギーシュ様に渡されて、 『もちろんさモンモランシー。薔薇のように美しい君からのプレゼントを受け取らなかったら、きっと始祖ブリミルの怒りに触れてしまうだろうね』とギーシュ様がおっしゃったものだと思っていましたが、 私の勘違いのようで、申し訳ありません」 金髪の少年の顔は始め赤くなり、続いて青くなり、最終的ににごった白色になった。 「意外!それはモンモランシー!」 「気取ったこと言ってると愛想つかされるぜ!」 「違う。いいかい?彼女の名誉のために言っておくが……」 再び喧騒に包まれるかと思われたが、茶色いマントの一年生がギーシュのところまで来て涙目で恨みがましい視線を向けたことで一瞬にして沈下した。 「ギーシュ様……やはり、ミス・モンモランシーと……」 「彼等は誤解しているんだ、ケティ。僕の心の中に住んでるのは君だけ……」 「このきたならしい阿呆がァーーッ!!」 その一年生は外見からは想像できない嫉妬に狂った咆哮をあげると、何も入っていないワイングラスで金髪の少年を殴りつけた。 幸いというべきか、ガラスの破片は少年だけに突き刺さったようだった。 一年生が元の席に戻るのと入れ違いになるように、金色の巻き毛の少女が少年のもとにやってきた。 ガラスで切ったらしい傷を押さえながら、少年は続いてやってくる人物に目を見開いた。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ……」 「やっぱりあの一年生に手を出していたのね?」 「いや、だから……」 「この二股かけて遊んでる堕落した男がァーッ!!」 少女は空の皿で少年の頭を殴りつけた。広間の誰もが注目するようなひどく大きい音と共に皿は割れ、少年はテーブルへ突っ伏した。 静寂が食堂の一角を支配する。 取り巻き達が囃し立てるかと思ったが、彼らはお互いの顔を見合わせるばかりで何も言おうとしない。さすがにいたたまれなかったらしい。 「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 ポケットからハンカチと薔薇を取り出すと、少年は顔の血を拭い、こちらを睨みつけた。 「おい、君、こちらへ来たまえ」 薔薇を軽く振りながら言った。 一歩踏み出すと同時に、少年はいきなり拳で殴りかかってきた。よけられたが、よける必要性を感じなかった。クレイジーダイアモンドのラッシュを受けた自分にとっては ものの数には入らない。 拳が左頬に入る。鈍い音がしたが、大したことはなかった。しかし造花のとげで切ったらしく、一筋の血が頬を流れる。 「痛いか、平民。君はその程度の怪我で済んでいるが、君のおかげで二人のレディが傷ついてしまったんだぞ?」 短い、息を呑むような音が聞こえた。見るとシエスタがこちらを見ていたらしく、口を手で覆っていた。心配そうな顔をしていたので、とりあえず落ち着かせることにした。 「おい、なんて顔してる。不安なのか?ケーキ配りなら、悪いがもう少し待ってくれ。俺はちょっとこのマンモーニと話があるんだ」 彼女を仕事に戻そうとしたら、少年が割り込んできた。 「おい、今なんて……」 「まあまてよ。新しくいくつか言葉を覚えたからって、人の話に割り込むのはマナー違反だ。落ち着いて彼女に説明させてほしい。あとでちゃんと君の話は聞いてあげよう。それともなにか?いそいでいるのか?専属のベビーシッターでも待たせているのかい?」 そう言うと、少年の顔に血管が浮き出てきた。どう反応するか少し興味があったが、怒り方は貴族も何も関係ないらしい。 もう一回殴りかかってくる、かと思いきや、少年は無理に落ち着けるように肩を上下させ深呼吸すると、憎しみがこもった視線を自分へ向けただけだった。少し意外だった。 「いいだろう……貴族に対するその口のききかた、勇気だけは認めてやろう。だがお前、『覚悟』はあるんだろうな?」 少年は薔薇を琢馬へ突きつけた。 「これからお前に『決闘』を申し込む。五分後、ヴェストリの広場でだ。よもや逃げたりしないだろうね?」 「五分だな。わかった」 気取ったしぐさで立ち去る少年を眺めていると、後ろから声をかけられた。 「タ、タクマさん、あ、あなた殺されちゃう……」 シエスタだった。もうケーキは配り終えたらしい。 「それほど、強いのか?」 「貴族の方を本気で怒らせたら……」 「なら、シエスタは人に責任を押し付けるような人間に、命乞いするべきだと?」 シエスタは唇を噛んで迷うような素振りを見せた。きっと、この世界では貴族と平民の格差は絶対なのだろう。自分と住んでいた世界が違うこの少女はおそらく、自分の問いに答えることができない。 だがそれでも考えを変えるつもりはなかった。 「命乞いするような人間は、一生負け犬なんだ」 琢馬はシエスタに背を向けた。 ヴェストリの広場がどこにあるかは知っていた。一瞬、ルイズのことが頭に浮かんだが、関係ないと考え直し、食堂の出口へと向かった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/748.html
「ルイズ…ルイズ…外が騒がしくなってきたわ。そろそろおきたほうがいいんじゃない…?」 ルイズはん~っとかわいらしく伸びをするとずるずるとベットから降りてふらふら歩きながら近くにある椅子にパタンと座り込む。ルイズはう~う~うなっている。 「服、着替えたほうがいいんじゃないの?しわになってるわよ。それ」 トリッシュはルイズの着ている服を指差した。 「服、とってそこのクローゼットの中にあるから」 トリッシュは何も言わずルイズの制服を取ってやる。 「下着もとって。クローゼットの一番下にあるから」 トリッシュはここでも何も言わずに下着を取ってやった。 「服、着替えさせて」 トリッシュは今度こそぶちぎれた。 「ルイズ~!!テメー寝ボケテンノカ!?コノガキガーッ!!サッサト自分デキガエヤガレェー!!」 スパイス・ガールが突如としてルイズの目の前に現れた。ルイズはスパイス・ガールの有無を言わせぬ凄味にルイズは言われるがまますぐに着替えた。 トリッシュは窓際まで歩いていって窓の外を見る。 「ルイズ、もうそろそろ、食堂に行かなくてはならないのでしょう?」 窓の外には食堂へ向かう生徒達がちらほら見え始めていた。トリッシュは前日にコルベールに聞いていたから早く起きたつもりだったが、どうやら少し寝坊したらしい。 都会の生活では十分早起きだったが。 「ちょっと、ちょっとまって服を着替えないと…!」 「…そういえば、私も服を着替えたいわ…。でも、着替えは持ってないし…ルイズよかったら服を貸してくれる?」 『多少』、潔癖症であるトリッシュにとって同じ服を2日続けて着ることは耐えられそうにない。 ルイズは自分の着替えをクローゼットの中から取り出すとその中で一番大きな一着をベットに投げた。 「これをきるといいわ!上等なシルクな服よ!」 ルイズは少し誇らしげにその服について説明した。 トリッシュは一瞥すると多分サイズが合わないことを理解したが、誇らしげなルイズにそれを言うのははばかられた。 「…そう、ありがとう。感謝するわ…」 実際トリッシュがその服を着ると腰は余るし胸にいたってはだいぶきつい。それに小さすぎてトリッシュのおへそがただたっているだけでしっかり覗かせていた。 しかし、着てみるとわかったが、確かにこの服の生地はかなりいいものみたいだ。肌に滑らかな感触だし、着ている重さをほとんど感じなかった。 「さぁ、トリッシュ、食堂へ行くわよ!!」 ルイズはとうに着替えを済ませていたのかさっさと部屋を出ようとしていた。トリッシュも鏡の前で簡単に身だしなみをチェックするとルイズのあとを追って部屋を出た。 部屋を出るとルイズが憎憎しげに赤い髪の胸の大きな女をにらみつけていた。 「(ルイズ…彼女は?)」 「(キュルケよ…あとで説明するわ)」 「おはよう、ルイズ」 「…おはよう、キュルケ」 トリッシュとルイズが小声で話しているとキュルケがルイズに挨拶してきた。 キュルケはにやっと笑いながら挨拶してきたが、なかなかそういうしぐさがさまになる女だった。 ルイズとは、正反対なトリッシュともまた一味違う魅力をかもし出した少女だった。 対してルイズは嫌そうにキュルケに挨拶を返した。 「なに、それが、あんたの使い魔なの?」 トリッシュを指差して、馬鹿にしたようにキュルケは言った。 「そうよ」 「はっはっはっ!すごいじゃない!ほんとに人間を召喚するなんてッ!」 トリッシュは傍らにスパイス・ガールを出してみたが、キュルケにはやはり見えていないようだった。 見えていればルイズの汚名を晴らすことができるのに…とトリッシュはわかっていながらも少し悔しい気持ちになった。 「やっぱり使い魔にするならこういうのがいいわよねぇ~!フレイムッ!」 ドアの開いていた部屋から真っ赤で巨大なトカゲがふわふわと浮かびながら現れた。 トリッシュは一瞬身構えたが、特に危険が無いようなのですぐに構えをといた。スタンド戦において見慣れないものをみたらすぐに戦えるように身構えなくては命はない。 キュルケはめざとくトリッシュをみると笑いながら言った。 「ほっほっほっ!あなたもしかして火トカゲをみるのははじめて?」 「…ええ、かなりここから遠いとこから召喚されたからね」 「怯えているみたいだけど、大丈夫よ、フレイムは私が命令しない限り人は襲わないわ」 別に怯えてはいない、と反論しようかと思ったが負け惜しみにしかキュルケには聞こえないだろう。そう思い、何も言わなかった。 キュルケはさらに饒舌に自分のフレイムがいかにすばらしいかをとくとくと説いている。ルイズはそれを悔しそうに聞いている。 「それにしても…」 キュルケは一通りルイズに自分の使い魔について自慢し終わるとトリッシュに顔を向けじろじろとトリッシュの体をみてくる。 「あなた名前は?」 「…トリッシュ・ウナよ」 キュルケはにやっと笑うとルイズに向かって小ばかにしたように言った。 「ルイズ、みてみなさいよ!あんたの使い魔、あんたよりだいぶセクシーよ!ご主人様なのに…ぷぷっ…使い魔に負けてるなんて…笑いが止まらないわ!!」 ルイズは悔しそうに顔をゆがめてキュルケをにらみつけるていたが、トリッシュがルイズの肩にぽんっと手を置いてルイズに優しくささやく。 「ルイズ、あなたは魅力的よ…私が保証するわ。他人と比較して自分を卑下するとせっかく魅力が半減するわ…それに、ルイズ、あなたはまだまだこれから成長するわ。 もっともっと自分を磨けばそこにいるキュルケなんて目が無いくらいの立派なレディになるわよ」 ルイズはトリッシュにうなずいて見せてから、キュルケに向き直ると得意げに胸を張るキュルケにルイズも負けじと胸を張る。 いかんせん、戦力差は膨大だが。 「キュルケ!あんたなんてすぐに追いつくんだから!私のほうが若いんだから成長性では私のほうが上よ!成長したらあんたなんて目じゃないんだから!!」 ルイズはそれだけ言うとトリッシュと一緒にずんずんと食堂に向かってあるきだした。 一人残されたキュルケは肩をすくめてため息をつきながらつぶやいた。 「…若いたって1才しか違わないじゃないの。それに16でそれじゃあねぇ~」 はぁ~やれやれとキュルケはルイズについていくかのように食堂へむかう。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/453.html
ヴェストリ広場は「風」と「火」の塔の間にある広場だったが、周囲を野次馬が取り囲んでいるあたりは 広場というよりもまるで野良試合のリングのようだった。 生徒達よりも優に頭一つは背の高いジョナサンは野次馬を掻き分けるようにして広場の中に歩み入る。 「ん?ワイン片手とは随分と余裕じゃないか、平民」 ギーシュは既に広場の奥に陣取っていた。 「それとも酔いで恐怖を少しでも誤魔化そうという魂胆かな?」 取り巻きがどっと笑う。 (思い出す…あの日、ディオと勝負した試合を…) ジョナサンの脳裏に、少年時代に経験したほろ苦い敗北の記憶がよぎる。 「まあいい。諸君、決闘だ!」 ギーシュの声に野次馬が一斉に沸き立つ。 (だが全てがあの時とは違う。場所は異世界、相手は魔法使い、) 「改めて名乗らせていただこう。僕は『青銅』のギーシュ・グラモン!」 (そして僕には皆から受け継いだ精神があるッ!) 「ジョナサン・ジョースター」 クゥゥゥゥゥ…コオォォォ… 広場に響く耳慣れぬ音に野次馬の歓声が不安そうなざわめきに変わる。 だが音の正体がジョナサンの呼吸音であると分かると、 「何のつもりだい?フーフー吹くならファンファーレでも吹いて貰いたいものだね」 ギーシュは手にしたバラの造花を構え、 「メイジと平民では力の差がありすぎる。君には一つアドバンテージをくれてやる。 このバラ、つまりメイジの命たるこの杖が僕の手から離れれば負けを認めてやろう」 短く口訣を結んでから軽く振る。 絹の花弁が一枚宙に飛び、音も無く地に落ちると、瞬く間に花弁は女性を模した青銅の甲冑へと姿を変える。 「ああそうだ、言い忘れていたな。僕はメイジだ。メイジらしく魔法でお相手するよ」 指揮棒のように造花を構え、 「青銅のゴーレム『ワルキューレ』が君の相手だ…文句はあるまいね?」 ジョナサンを指すと、甲冑は無造作に、しかし自然な動きでジョナサンへと歩み寄る。 しかしジョナサンはその動きを見ていない!構えてもいない! その目はグラスに注いだワインに向けられていたッ! グラスに注いだワイン、その水面には幾重にも波紋が浮かんでは消える。 (あの甲冑の『波紋』だけが探知できない…使い魔…いや、生物ではないのか?) 波紋探知機。 自分の発する波紋を使い生物の位置と種類を特定する、波紋法を利用した対生物専用のレーダー (むろんジョナサンはこのような単語を知らないが)であるが、波紋の「慣らし」で使ってみた結果に ジョナサンは目を奪われていた。 「おいおい、余所見していると危ないぞ?僕のワルキューレは手加減できないからね!」 得意気なギーシュの声にジョナサンが視線を上げると、既に目の前に迫った青銅の甲冑-ワルキューレは 鋲を打った青銅の拳を固め、素早く右フック。 「おおおッ!?」 ジョナサンは開いた左手をワルキューレの下腕に素早く当て、拳の軌道を逸らす。 次いでワルキューレは拳を逸らされた反動を生かして左フック。ジョナサンはこれに右膝を当てて受け止め、 「コォォォォーッ!」 呼吸で生まれる波紋を集め、 「ふるえるぞハート!」 束ね、 「燃え尽きるほどヒート!」 拳を受け止めた膝の一点から放出ッ! 「鋼を伝わる波紋!銀色波紋疾走(メタルシルバーオーバードライブ)ッ!」 …したが、ジョナサンの波紋は丁度避雷針が雷を地面に逃がすかのように、 ワルキューレの青銅の腕を、胴体を、足をすり抜け、あっさりと散らされてしまう。 「うまくかわして一矢報いた、ってつもりかい?」 ギーシュは得意気な笑みを浮かべ、 「何をしたかは知らないが、その程度では僕のワルキューレに傷一つ付けられないよ!」 オーケストラの指揮者気取りで造花を振り、ワルキューレに再度攻撃を命じる。 (波紋が生物の体へ流れた感触が無い…) ジョナサンは右へ左へと闇雲に振り回されるワルキューレの拳から横飛びに離れ、 (やはり使い魔、いや生物ではない…ならばッ!) ワインを口に含み、 (ツェペリさん…あなたの技をお借りします) 波紋の呼吸ッ! 「波紋カッター!」 歯の隙間から噴き出したワインは極薄の回転ノコと化し、鋭い風切り音と共にワルキューレの青銅の身体へと 食い込み、まるで熱したナイフでバターを切るように切り込んでいく! 「あれ…魔法…なのか?」 「属性は何だ?水か?」 「まさか!あんな術聞いたこともありませんわ」 「それよりも一瞬光らなかった、あいつ?」 野次馬が口々に言い合う中、ジョナサンの放った波紋カッターがワルキューレの右腕を断ち落とすと、 「何で、何で、平民なのに、魔法が…」 やっとの事で人垣の前に陣取ったルイズと、 「な、な、何をした平民ッ!武器も無しに、僕のワルキューレをッ!」 御自慢のワルキューレを易々と傷物にされたギーシュは動揺をあらわにした。 しかし! 「…浅い!」 胴体へ食い込んだ所でカッターを形作る圧力が急速に失われ、無害なワインの雫へと戻り、飛び散った。 (やはり波紋の集中が甘いのか…) 「お、おのれェェェ!」 ギーシュはバラの造花で宙を薙ぎ、同時に6体、今度は様々な武器を手にしたワルキューレを練成、 都合7体のワルキューレで素早く円陣を組んでジョナサンを取り囲む。 「どうやら僕を本気にさせたようだな…全力で相手してやるッ!」 激昂するギーシュに対しジョナサンは平静さを崩す様子は無い。 (戦いの思考その1…敵の立場で考える) 呼吸を乱さず、波紋を練りつつ、左右を見回す。 (同士討ちの可能性があるのに僕を取り囲んだ…冷静さを欠いた判断だ) 突きつけられた武器を見定める。馬上槍が2、両手剣が2、片手剣が2、拳が1。 (冷静さを欠いているなら、当然全員を円陣の中央にいる僕に突っ込ませるはず) 「どうだ!君の魔法でもこれだけの数を同時に相手にできるかッ!」 総攻撃の命令を下すべくギーシュは造花を顔の横に、あたかも手にしているのが細剣で、 これでジョナサンの澄ました顔をえぐってやらんと言わんばかりに、構える。 「ギーシュ!まさか本当に殺す気ッ?!」 ルイズの怒声は既に悲鳴に近い。 (波紋カッターでは威力不足だった…だがこれならッ!) 波紋エネルギーを再度高めると、 (な、何だ?) ジョナサンは左手の甲に熱と光が生じたのを感じ、 (左手…?) その原因を調べようとわずかに視線を逸らせたその時、 「食らえぇッ!」 ギーシュは造花を突き出し、ワルキューレは命令のままに得物をジョナサンへと突き立てるッ! 最初は誰一人として何が起きたのか理解できなかった。 同士討ちにこそならなかったが、ワルキューレの武器の切っ先は互いに絡みあい、 その先にはザルのように穴だらけにされたジョナサンが…いなかった。 「上だァァッ!」 野次馬の一人が天を指す。 ジョナサンは一瞬の間に宙へ逃れていた!その高度およそ5メルテ! そして手にしたグラスは空っぽッ! 「パウッ!」 再度ジョナサンの口から超高圧のワインが撃ち出される! しかも今度は一点に絞り連続して射出ッ!波紋カッターならぬ波紋ジェット! 波紋ジェットの先端は波紋カッターのように圧力が失せずにワルキューレの青銅の胴体を貫通! そこでジョナサンが素早く首を振るとジェットも縦横無尽に振り回され、武器が絡み合って 身動きの取れないワルキューレを次々に切り刻み、広場の石畳をえぐり飛ばすッ! (ディオ…今度は君に礼を言わないとな…) 崩れ落ちるワルキューレの残骸を背に、 (これは君が僕を倒した技なんだから) ジョナサンは音も無く降り立った。 左手の紋章はゆっくり輝きを失い、また元の黒い線条へと戻った。 目の前の出来事を理解する数瞬の後、得意絶頂の極みにあったギーシュはようやく 自分が絶望のドン底に叩き落された事を悟った。 「うっ…うわあああぁッ!来るなッ!来るなあぁッ!」 ごく平静に歩み寄るジョナサンに対し、ギーシュは更に造花を振り上げ、 「く…?」 全身に奇妙な痺れを感じる。 「コ…ケ…」 動けない。声が出ない。呼吸もままならない。 (ま、まさかこいつ、僕に『麻痺』の魔法をッ…) 辛うじて動く目だけを動かして何が起きたかを確認すると、造花の先はジョナサンの手にした 空のグラスに突っ込まれていた。 ジョナサンの体はどことなく金色の光を発しているように見え、同じ光がグラスを伝い、造花を伝い、 ギーシュの全身をも包んでいる。 (こいつッ!もしかして!動けない僕をメッタ打ちにッ!) ギーシュは人生初めて「全身の血の気が引く」感覚とはどのような物かを知った。 (こ、降参するッ!僕の負け…) 「ケ…ヒ…」 (駄目だァァァ!こ、声が出ないィィィ!そ、それどころか…息がッ!呼吸が…できないッ!) 脂汗がどっと流れ出す。 (こいつッ…もしかして…このまま…僕を…) ジョナサンがゆっくりとグラスを引くと、バラの造花もギーシュの指から引き抜かれる。 造花が指から離れると金色の光が薄れ、直後に体の自由が戻ったギーシュが膝から崩れ落ちた。 激しく空気を貪るギーシュの目の前に造花入りのグラスが差し出され、 「杖を手放したな。君の負けだ」 ジョナサンの勝利宣言と共に野次馬が一斉にどよめいた。 「なぜ…あのまま…窒息するのを…待たなかった…?」 まだ息が荒いながらも立ち上がるギーシュ。 「いや…動けない僕をどうにでもできたはずだ… なのに…あれだけの魔力がありながら…なぜ僕を攻撃しないんだ?」 「確かに僕は決闘の申し出を受けたが、それはシエスタの誇りを守るためで、できれば君を傷つけたくはなかった。 あのワルキューレだって攻撃していいものかどうか、最初は迷ったぐらいだ。」 ちらりとワルキューレの残骸に目をやる。 「それに、あの技…あの時に初めて試したものだから、どれほどの威力があるか分からなかった。 間違って君やミス・ヴァリエール、それに他の皆を巻き込む訳には行かないから、 上空から攻撃してみたら正解だったよ…あの有様だ」 ワルキューレがいた地面は波紋ジェットの余波で深い溝が幾重にも刻まれ、石畳はおろかその下の土壌までが ぱっくりと口を開けていた。 「あと勝負とはいえ、君のワルキューレを7体も壊してしまった。許してほしい」 「ふっ…はっはっは!」 突然天を仰いで笑い出すギーシュ。 「おいおい、あのワルキューレは僕が『錬金』で作ったゴーレムだよ!魔力さえあれば幾らでも作れるさ!」 笑い終え、2メルテ近いジョナサンを見上げるギーシュの顔には元の自信が戻っていた。 「とはいえ正直魔力は今ので底を尽いたし、さっき僕が言ったアドバンテージに従えば僕の負けだ。 ルールは遵守する。さもなくば決闘そのものを侮辱することになる… 違うか平民、いや、ジョナサン・ジョースター?」 「その通りだ」 グラスからバラの造花を抜き取るギーシュ。今度はビリッと来なかったのでほっとした様子を見せる。 「だがそれでは僕の気が済まない。せめて勝者の望みを一つ聞かせては貰えないか? さあ、ジョナサン・ジョースター、君の望みを言ってくれ。これは僕自身の誇りの問題だ」 「シエスタと、あの二人の女生徒に謝って欲しい」 ぽかん、と呆けた顔に変わるギーシュに反し、 「あと、友人は僕をジョジョと呼んでいる」 ジョナサンの顔はごく真剣なままだった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/130.html
『青銅』のギーシュ① 「ボーノ。」 「え?」 ブチャラティはシチューを口にしてふとそう言った。 「ボーノ(うまい)って言ったんだ。うん。文句なしだ。君、料理うまいんだね。」 久々にまともな食事をしたのもあるが、ブチャラティは心からそう言った。 「あ、ありがとうございます・・。すごくおなかすいてたんですね。」 シエスタが聞いてくる。よほど喰い方にいきおいがあったからだろう。 「ああ。ここ数日まともな食事ができなかったんでね。」 「お腹が空いたら、何時でもいらしてください。私たちが食べているものでよかったら、お出ししますから」 「助かるよ。じゃ、これからもよろしく。」 そしてブチャラティが食べ終えてから言う。 「何か、手伝えることはないかな?」 「え?」 「このまま喰いっぱなしと言うのもどうも気が晴れなくてね。何かないかい?」 シエスタは慌てたように、 「いえ!いいんですよ。気にしなくても・・・。」 「いいから。オレの気持ちとして受け取ってほしい。」 シエスタは遠慮がちに、 「それじゃあ・・・。後でデザートを運ぶのを手伝ってくれませんか?」 「了解した。」 「おい、『ゼロのルイズ』の使い魔がウェィターの真似事してるぜ。」 「何やってるんだろうな。クク・・・。」 ブチャラティに対しての笑い声が聞こえる。 「あの、ブチャラティさん・・・。」 「いいんだ。気にしないでくれよ。ストロベリータルトのお客様!」 そうして仕事をしてた時だった。 「ギーシュさま!?」 「え?」 叫んだのは、昨日の茶色のマントの女の子だった。 「あ、またあなたですか・・・。すいませんギーシュさまかと思って。」 何であんな奴と間違えられるんだ?そう思いつつも聞いた。 「すいません。ギーシュさまを見かけませんでしたか?ずっと探しているんです。」 「えっと・・。あ、外のほうにいるな。案内しようか?」 「お願いします。」 外に行くとギーシュはこの子以外の女性と話していた まだこの子は気づいていないようだ。 「ああ、見てくれモンモランシー。この僕の使い魔の美しさを! 君ならこのヴェルダンテの美しさがわかるだろう・・?」 「うん・・まあそうかもね・・・。」 ギーシュは肩にカエルを乗せた女の子に膝の上の使い魔の自慢をしているようだ。 「もっとも、このヴェルダンテの美しささえ、君、"香水"のモンモランシーの前には 素手の人間がドラゴンを倒す願いと同じくらいかなわないのだろうけどね。」 「フ、フン!わかり辛い例えねっ!褒めてるのそれ?」 そういいつつもモンモランシーは満更でもないようだ。 「・・・チーズケーキのお客様。」 「給仕くん。それを頼んだのは僕じゃないよ。」 「いいから。これはオレの奢りだ。遠慮せずにじっくり味わえ。」 ブチャラティはそう言ってチーズケーキを置く。 「おや?君は『ゼロのルイズ』の・・。何をやってるんだい?」 「気にするな。それより・・・。なるほどな。」 ブチャラティはモンモランシーのほうを向いてから、またギーシュに向き直った。 「なんだい・・?」 「学年か。」 「なんだと聞いているのだが?」 「そのマント学年を現してるんだなといったのさ。お前たちはルイズと同じ学年で2年生。 そこでお前を探していた茶色のマントの子は1年生なんだな。そう理解したのさ。」 「何っ!?」 あの子がこちらに向かってきた。 「ギーシュ様・・?これはいったい・・・?」 「ケ、ケティ違うんだこれは・・・!」 「ちょっとギーシュ!?やっぱりアンタ一年生の子に手を出していたのねっ!!」 「モ、モンモランシー、落ち着いてくれ!」 ブチャラティはその様子を眉一つ動かさず見ている。 いいザマだな。そう思っているのだろう。 「さようならっ!」 ケティと呼ばれた方が顔を抑えて走り出した。 ギーシュがモンモランシーのほうを向いて言う。 「モンモランシー、わかってるよね、あの子はただの・・・。」 「最低。」 「う・・。」 「・・・下劣。」 「うぐっ・・。」 「・・変態!」 「な!ちょっとそれはちが・・。」 「クサレ脳みそ!!」 「ひ、ひど過ぎる!!」 「あんたなんかもう絶交よ!二度と話しかけてこないで女たらし!」 メメタァッ! モンモランシーはギーシュの顔を叩いて帰っていった。 「ハハハ!ふられちゃったなギーシュ!」 「おー怖い怖い。さ、行くか」 ブチャラティはそう言って帰ろうとした時だった。 「待ちたまえ。」 呼び止められた。いまにもプッツンしそうなギーシュに。 「何の用だ?もう用はないんだが。」 「平民風情がこの僕をコケにして、そのままサヨナラできると思うか? 君のせいで二人のレディの名誉が傷ついたんだぞ?」 だがブチャラティは冷静に返す。 「悪いのはお前だろ?オレはあの子にお前を探せと言っただけだ。二股かけて散ったのは お前が自分の尻拭いができないのが悪いんだろ?」 ドッと笑いが沸き起こる。ギーシュの顔がさらに赤くなった 「どうやら君は貴族に対する礼儀を知らんようだな・・・。」 「生憎この世界の存在すら昨日知ったばかりでね。 そうでなかったとしても、お前のようなマンモーニに対する礼儀なんてまるで知らん。」 「・・・・何だって?」 「マンモーニ(ママっ子)って言ったのさ。乳離れできないママっ子ってね。」 プッツンと言う音をブチャラティは確かに聞いた。 「ヴェストリの広場で待っている。ケーキを配り終わったら、来たまえ。君に礼儀を教えてあげよう。ちょうどいい腹ごなしだ。」 ブチャラティはそこで止まった。 「腹ごなしだと?」 「つまり、決闘を申し込むと言う事さ。まさか逃げるつもりではないよね・・・。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。 駆けつけたシエスタが慌ててブチャラティに駆け寄る。 「ブチャラティさん!やめて!」 「・・・いいぜ。受けてやるよ。」 「グッド。その得意げな顔、潰してやる。覚悟しておきたまえ。」 ギーシュはそう言って消えた。 「ブチャラティさん・・・なんて事を・・・!貴族にケンカを売るなんてっ!」 「舐められていて何も言い返さないよりマシだよ。」 「わかっているんですかっ!?メイジは魔法を使うんですよっ! 殺されちゃいますよ・・・。本気で怒らせてしまったら・・!」 「気にしないでくれ。それより、残った仕事を片付けよう。」 ブチャラティはまるで気にしないとでも言うように仕事を続けた。 ―※― 「ギ、ギ、ギ、ギ、ギーシュと決闘するですってぇ~~!!?」 「ああ。アイツがどうしてもオレを叩きのめさなきゃ気がすまないらしい。」 決闘数分前、ルイズがブチャラティに噛み付いてきた。 「ギーシュとルイズの使い魔が決闘するぞ!・・ってあの"かぜっぴき"のマリコルヌが 騒いでた時は寿命が縮むかと思ったわ!今すぐ降伏してっ!」 「レスピンジェレ(断る)。あいつは逃げるなとオレに言ったもんでな。 ・・・見に来るか?」 「なっ!・・・もういいわよっ!もうアンタなんか知らない! 勝手にやっつけられちゃえばいいわっ!」 「そうかい。」 ブチャラティはルイズの手のひらを取った。 「じゃあ『約束』しよう。オレは絶対生きて帰る。アイツも倒す。 ・・・なんならアイツの『晒し首』を持ってきてもいいぜ。」 「え!?アンタなに言って・・?」 「安心しろ。言葉の綾だ。お前が殺すなと言ったら殺さない。でもオレは負けて帰らない。」 ブチャラティの手が離れた。と同時に、 「それまでこれでも喰って待ってろよ。」 ルイズはいつの間にかリンゴを持っていた。 「な、何これっ!?どっから出したのコレ!?」 ブチャラティはもう行ってしまった。 「何なのアイツ・・・・?」 ―※― ヴェストリの広場 「逃げずによく来たね。一応褒めてあげるよ。」 ギーシュが杖として使う薔薇の造花を持って立っていた。 「逃げるな。と言ったのはお前だろ?」 「フン。その減らず口はいつまで続くかね。」 ギーシュが造花を掲げる。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 「『戦い』に文句も卑怯もあるわけないだろ。使えよ。」 周りのギャラリー達はむしろおかしいと思った。平民とメイジの決闘で なんで平民のほうがあんなに余裕そうなのかっ!?疑問が頭から離れなかった。 「おっと言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。」 造花から花弁が散り、等身大の人形と化した。 「従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ。 まずは・・・様子見と行こうか!?」 ガッキン!! 襲い掛かるワルキューレ!だがブチャラティはっ!? 「ハハッ!あいつ動かないぞ!やっぱりハッタリかっ!!」 観客の一人が言った時だった! 「"スティッキィ・フィンガース"!!!」 ブチャラティ以外には見えない人型の何かが出た。 そしてワルキューレがブチャラティを捉えた。と思ったときだったっ! 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!!!」 ドゴッ ガスッ バキャキャ ドズッ ドズッ ドボォ!! あまりに予想外ッ!!ブチャラティの後ろの人らしき物がワルキューレを拳で破壊していくっ! だがそれが見えない他人には"見えない打撃"が襲っているようにみえたっ! 「な、なんだああぁーっあいつぅーッ!!?手も足も出してないのにっ!」 「"打撃"が・・"打撃"がどんどん人形を破壊していくぞぉー!?」 ズサッ 「なるほど・・。固いな。S・フィンガースのパワーでも結構戸惑うもんだな。 そして、今のは『実体』だ。実は"スタンド使い"というオチはなさそうだな・・・。」 「・・・な、何をしたんだ・・?君は・・・?」 舐めてかかっていたギーシュが!あの少年は今ッ! 今起きた事に実感が持てなかったっ!それはそうだろうっ! 『平民』に破壊できるはずのない自分のワルキューレがっ!今ッ! ブチャラティによってプライドごと完全に!粉みじんにっ! 手からすべり落ちた皿のように破壊されてしまったのだからっ! 「・・・まさか、卑怯だとか言うんじゃないよな?ギーシュ・ド・グラモン。 おまえが"魔法"を使っていいと言ったんだぜ?もっともオレのは"魔法"ではないが。」 「くっ、甘く見ないでもらおう。こうも言ったはずだッ!『まずは様子見』と!」 ギーシュの花から複数のワルキューレが飛び出す! 「この数相手に時間かけてたら一気にオダブツだっ!さあ観念しろっ!」 ガシャンガシャンガシャン!! 複数のワルキューレがブチャラティを襲うッ! 「その気取った顔、崩して血ヘド吐かせてやるっ!!」 「なめるなよ。様子見してたのは・・・お前だけじゃあないんだぜっ!」 ドッカアアアアン!!! 「な・・・ウソだろ・・?」 ギーシュは悪夢を見ているように感じた。 気がついたらワルキューレのほとんどがっ!バラバラに解体されていたっ! 「これがオレのスタンド、“スティッキィ・フィンガース”の能力だ。 ワルキューレの断面が見えるかい?」 「こ、これは・・!『ジッパー』だ!ワルキューレにジッパーが付いて バラバラにされてるっ!!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。 「(見えるのか・・・。S・フィンガース事体は見えてないようだが・・・。)そう。オレの能力なら、『ジッパー』を貼り付ければどんなに固くても関係ないんだ。 ・・・一気に形勢逆転だな。」 ギーシュはすでに本能的な物で察していた。―――― 分が悪い。 「こいつは・・・マジにやばいっ!!」 ブチャラティが近寄ってくる!ギーシュが杖を構えた。 呪文を唱える間、ギーシュの杖の先に土が、砂が寄せ集まっていたっ! それはまさにチャージ中のエネルギー砲のごとく! 「吹っ飛べっ!!」 ヒュウン!! 石礫が飛んだッ!ブチャラティがスタンドでガードする! 「これは・・。石だというのに、『ダイヤモンド』のように固く、『弾丸』のようにするどいっ!」 ブチャラティが一歩引く。だがそこにはっ!! 「ワルキューレ達がお待ちかねさっ!」 ブチャラティに再び襲いかかるッ! 「そして、少しわかったぞ・・。君の『スタンド』とやらの弱点がっ!」 ギーシュは一歩、また一歩と下がる。 「やっぱりだ。君の“見えない打撃”も『ジッパー』も遠くの敵にはあたらないっ!! でなければ攻撃のために駆け寄ってくるはずがないもんなっ! そしてワルキューレとの戦いを観察するに・・・せいぜい、2,3メイルって所だろう?」 ブチャラティには、この世界の単位はわからなかったが、自分の弱点を 知られたのはヤバイはずだった。 だがっ!『彼』の目はあきらめてはいないっ! 「『2メイル』とは、『2メートル』の解釈でいいのか・・?どうでもいいが。 ああ。オレのスタンドは最もポピュラーな“近距離パワー型”だからな。仕方ない。 だが、そんなの俺たちの世界じゃ『常識』だ。『弱点』とも取らない。 そんな物、能力で補っていく物だからな。」 キッ! ブチャラティはギーシュを見据えて言う。 「おまえのワルキューレ。スタンドじゃあないからおまえ自身にはダメージがないし、 魔法だからいくらでも操れる。防御に関しても優秀だし、距離を取って戦うには使い勝手のいい 魔法だ。だが、」 ブチャラティは駆け出す。目標は、自分とギーシュの間にいるワルキューレ! 「攻撃に関してはオレのほうが上だな。パワーはオレのほうが上。 さらにスタンドだからすり抜けることができる。薄い壁とかならな。 そして、『実体』であることが災いしたな。コイツはオレが『応用』させてもらう。」 そして射程距離内にワルキューレが! 「ところでお前、『だるまおとし』って知ってるか?・・・知らないだろうな。オレだって とある仲間から教えてもらったばかりだからな。円柱型の積み木をかさね、一番上に頭となる 達磨をおくんだ。そして頭が落ちないように体を打撃で吹っ飛ばすんだ。 ちょうどこんなようにっ!“スティッキィ・フィンガース”!!」 タタタタタン! ブチャラティがワルキューレに『ジッパー』をつける。 ただし、精密かつ素早く、同じ幅にバラけるようにッ! そして・・! 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!!!」 S・フィンガースの打撃でバラバラになったワルキューレがギーシュの方向に飛ぶっ! バキッ!ドカッ!ボコッ! 「グッ!がはあぁぁぁぁぁ!!」 腹ッ!肘ッ!膝ッ!胸ッ!腹ッ! 一つ一つのパーツがギーシュにぶち当たるッ!! 「アリィ!!!」 頭のパーツがまたギーシュにクリンヒット!! 「ぐおおおおおおおおああああああ!!!」 「おっと。『失敗』したな・・・。間違えて達磨(頭)まで吹っ飛ばしてしまった。 まあ全弾命中したから、ここはよしとしよう・・・。」 「ぐ・・・・。ゲホッ!ゲホッ!」 ギーシュがむせた。その時出たのは・・・血液だっ!! 「先に血ヘド吐いたのはそっちだったな。自慢の魔法も実戦慣れしてなければオレには 勝てはしないさ。」 ブチャラティはギーシュに近づく。 「く・・・クソ・・・。」 「お前が申し込んできたのは確か『決闘』だったよな?『決闘』なんだからオレとおまえのどちらかが死んでもまさか文句なんかが出るはずがない。そうなる事を『覚悟』したからオレに決闘を申し込んだんだよな・・・・?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・!!!!!! ブチャラティから感じるそのプレッシャー。それがあの『ゼロのルイズ』の、あのおとなしそうな使い魔と同一人物なのが、ギーシュにはマジに信じられなかったッ!! (コイツ・・・マジかっ!?マジに僕を殺す・・・つもりか!?・・・いやマジだっ! こいつには、言った事を本当にやってのける『スゴ味』があるっ!!) ギーシュは反射的に立ち上がるッ! 「来るなッ!これでもくら・・・!」 バシッ! ブチャラティの“S・フィンガース”は、ギーシュの杖を持った手を跳ね除けた。 そのため起こった事はギーシュにとってあまりに『信じられない出来事』だった。 「手・・・。手が・・!!僕の手がぁぁ!!ブッタ斬れてるっ!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・ 「答えろよ・・・・。『質問』はすでに・・・『拷問』に変わってるんだぜ?」 to be continued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/964.html
ヴェストリ広場に着く。 既に広場の中心には、人だかりが出来ていた。 おそらく彼処で、決闘とやらが行われているに違いない。 「なんだよ。もう終わりかい?」 その中心から、呆れたような男の声がする。 才人の声じゃない。おそらく相手の声だ。 今、なんといった? 終わり? もう勝負がついたというのか? いや、そんなはずはないだろう。彼はかなり意地っ張りだ。 一度決めれば、たとえ何回殴られようが、意地だけで立ち上がってくる。 早く止める必要がある。 僕は人混みの中に押し入った。 「おわ、なんだよ!」 「失礼。通してください」 途中、何度も人にぶつかりながら、何とか、決闘とやらが見える所までたどり着く。 そこには腹を押さえてうずくまる才人と、それを見下ろす鈍い赤褐色の甲冑をまとった像。そして、そこからやや離れた所に、薔薇を持った、きざったらしい少年。 たぶんアレが、グラモンとやらだろう。 「さて、これ以上続けるだけ無駄だと思うが?」 「……だ、誰がっ!」 震える足に手を置きながら、何とか立ち上がる才人。 それに併せて像が動いた。なるほど、あれが俗に言う、ゴーレムという奴か。 才人は大方、アレに殴られたのだろう。 さて、ここから妨害しても良いが、僕はそこまで無粋じゃない。 ましてや、二股がばれて、八つ当たりをするような奴だ。 ここで訳も分からないまま負かしても、またいつか余計なことをする。 必ず、奴のプライドを粉みじんにしなくてはならないッ! 僕は、決闘への乱入という形を取ることにした。 これこそゲームセンター界に伝わる、由緒正しい、プライドを潰す手順だ。 「なんだい、君は?」 「私の名前は花京院典明。今、ここで倒れている、平賀才人の友人だ」 僕が乱入したことで、人混みが一気に騒がしくなった。 乱入してきた僕が誰か、近くの奴に聞いているのだろう。 ゲームセンターで人が集まった台に乱入した時と、同じ反応だ。 「見ての通り、才人も私も平民だ。それに一対一で、決闘を挑むというのは、君たち貴族にとっては恥ずべき事じゃないのか?」 僕はルイズから、貴族というのは、平民相手には感情的になりやすいということを学んだ。 だから、この挑発は有効だという自信があった。 案の定、目の前の気障な少年も、ギャラリーさえも食いついている。 僕は口上を続けた。 「しかもこの決闘は、彼の逆切れからはじまったと聞く!」 そういってビシッ! と気障な少年の方に指をさす。 ギャラリーから失笑が漏れ、さされた少年の方はぴくぴくと頬を引きつらせている。 「元はといえば、あの香水を拾ったのは私だ! 格好つけて二股をするなら、我々平民の二人や三人、なぎ倒して見ろ!」 我ながら、意味の分からない理論だ。 だが、頭に血が上った奴には、この程度の挑発で十分効果を発揮する。 案の定、目の前の少年はあっさりと挑発に乗ってきた。 「良いだろうッ! 君もそこの平民と一緒に、僕の『ワルキューレ』で、貴族に対する礼儀を教えてやるッ!」 その一言と共に、ギャラリーが騒がしくなる。 「や、止めといた方が……」 「ギーシュ、お前じゃ無理だ」 「黙って、引っ込んでろよ」 「所詮貴様は只のドットメイジ。大人しく、そっちの平民をいたぶってろ」 何人かのギャラリーが、少年の止めに入る。というか、バカにしている。 顔を見ると、昨日、僕が暴れた場に居合わせた奴らだった。 「何だ君たちは! まさか僕が平民二人程度に負けるとでもいいたいのかッ!」 ギーシュとやらは、そのギャラリーに対して吼えた。 しかし、相変わらず止めに入った奴らは、少年に冷たい視線を送るのを止めない。 かわいそうだけど、明日の朝にはにはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね、といった感じだ。 しかし、止める奴らもいれば、煽る奴もいる。 「ギーッシュ! その生意気な平民をのしちまえーーー!」 「やっちまえーーーー!」 「ギーシュ(オサ)! ギーシュ(オサ)! ギーシュ(オサ)!」 こっちは昨日、暴れた時は居なかった奴らだ。 解りやすいぐらい、反応が二分化されている。 まぁ、どちらにしろ、いまさらギーシュは引けないだろう。 「さあ、どうするッ!?」 「決まっているッ! 決闘だッ!」 良し! かかったッ! 僕は才人に肩を貸して、改めてギーシュと正面から対峙する位置に立つ。 「花京院……」 「何ですか?」 「わりぃ……」 「そういうのは、勝ってからにしてください」 才人が立つ。 っと、そうだった。 「邪魔なんで、これ、持っておいてくれますか?」 「おう……」 僕はずっと手に持っていた槍を、才人に手渡した。 才人はその槍をぐっと握る。すると、突然、才人の左手に刻まれた文様が光り出した。 「何だよ、コレ!」 「!? ……いったい何が」 「平民、もう用意は出来たのか! 始めるぞ!」 とりあえず、光り出した才人の左腕の文様については後回しだ。 今は、この目の前のコイツを叩きのめすッ! 少年は薔薇を掲げ、その薔薇から花びらを飛ばす。 すると花びらから先ほどと同じゴーレムが、6体精製された。 先ほどのも合わせると7体。 「僕の二つ名は『青銅』! 青銅のギーシュだッ! 君たちは相応の喧嘩の売り方をしたのだからな! 思い知ってもらうぞ!」 どうやらこれが全力らしい。 ゴーレムは青銅製。なら… 「たいしたことはない! 食らえッ! 『エメラルドスプラッシュ』を!」 僕のハイエロファント・グリーンから、破壊のビジョンが、エメラルドとなって撃ち出される。 かなり厚みのある石の建物ですら破れるのだ。 ペラペラの、たかだか青銅製ゴーレムなんて、簡単にブチ砕けるッ! 僕のエメラルドスプラッシュは、ゴーレムを3体巻き込んで爆砕する。 ゴーレムは綺麗に、バラバラになって吹っ飛んだ。 「へっ?」 ギーシュは何が起こったか解らないといった調子で、その様子を眺める。その姿は何ともマヌケだ。 ようやく何が起きたのかを理解した少年は、慌てて叫んだ。 「ワ、ワルキューレ! 僕を守れッ!」 ゴーレム達が、ギーシュのフェンスになるように密集する。 だが、そんなことをしても無駄無駄無駄無駄ァ~。 僕はもう一度、スタンドでゴーレム達に標準を合わせた。 もう一発、エメラルドスプラッシュを叩き込むッ! 「待てよ、花京院。後は俺にやらせてくれ」 「才人?」 だめ押しにもう一発といった所で、才人が突然止めてきた。 後は自分が片づける? 言ってる意味が分からない。イカれているのか? この状況で。 「才人。まだ意地を張って……」 僕が制止の言葉をはき出す前に、才人はゴーレムに向かって走り出した 「早いッ!」 アレは人間のだせる速度なのか? 僕ですら、スタンドを介した視界で追うのがやっとという速度で、才人はゴーレムへとつっこんでいる。 おそらく、周りの人間には、何が起こったのか見えていないだろう。 才人はゴーレム達の前で立ち止まり、そのまま、槍を横ナギに振るった。 槍は、パクゥーと空気が裂き、ゴーレム達へとたたきつけられた。 ドグシャァと叩きつぶれるような音と共に、ゴーレムの上半身がちぎれ飛ぶ。 しかし槍も、HBの鉛筆をへし折るように、ペキィと叩き折れた。 それと同時に、才人の左手の紋様からでた光も収まった。 『世界ッ!』 ギャラリーはおろか、当事者の才人や僕ですら理解不可能な光景に、時が止まる。 「ひっ!」 『そして時は動き出す』 ギーシュのおびえた声と共に、再び時は動き出した。 才人の右手に握られた、へし折れた元槍と、上半身のちぎれ飛んだ、四体のゴーレムが、先ほどの光景が幻覚でないことを見せている。 僕はすぐさま、ギーシュの方を確認する。 ぺたんと座り込んで、目をまん丸くして才人の方を見ていた。 ぽろりと、手から薔薇が落ちる。 それと共に、残っていたゴーレムの下半身は、土に還っていった。 なるほど、あれが杖だったのか。 「続けるか?」 ギーシュの口がぱくぱく動く。 参ったというつもりだろう。 だが、ここで参ったといわれては、プライドを暗黒空間にばらまくことが出来ない。 肉体的にも、お仕置きをする必要があるッ! 僕は迷わず、ギーシュの口の中にハイエロファントを飛び込ませた。 そしてそのまま、ギーシュを操るッ! 「ふん。平民に僕が降参するだとッ! なんて! なんて面白いジョークだッ! ガボッ!」 「続けるんだな」 「ガボガボッ! 君なんて素手で十分だッ! フヒィーッ、フヒィーッ」 「なら、容赦しねえっ!」 (ゆ、許してくださいぃ~~~~~!) 操っているハイエロファント越しに、そんな思考が流れてきた。 それに対し僕は一言 (お前は男としての領域を踏み出した。だ め だ ね) と送り返す。 才人が思いっきり、右腕を振りかぶる。 ギーシュの目に、涙が浮かんだ。 才人の拳は、そのままギーシュの腹部へ吸い込まれる。 ドグオォっと鈍い音がした。 「いいか・・・このパンチはゼロのルイズにバカにされた分だ……八つ当たりと思うかも知れないが、コレはお前が俺に八つ当たりした分だと思え」 なんて理不尽な言い分だ。 だが、僕は才人のしたいようにさせておく。 「また、ゼロって……」 しかし才人。先ほどから、僕の後ろで殺気を放っている人物は誰だと思う? 「そしてこれもゼロのルイズにバカにされたぶんだッ! そして次のもゼロのルイズにバカにされた分だ! その次の次のも、その次の次の次のも…その次の次の次の次のも…次の! 次も! ゼロのルイズに飯抜きにされたぶんだあああーッ! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも! これも!!」 「!?」 僕のハイエロファントが、警告を発している。 マズイ! 「才人ッ! 早くギーシュから離れるんだァー!」 「え?」 しかし、もう遅かった。僕は急いでスタンドを引っ込める。 ギーシュは才人に襲いかかるようにして倒れ込んだ。 ギーシュは口元を押さえる。 「な、なんだよ。まだやる気か!?」 「うっ」 先程まで食後のティータイムを取っていたのだ、あれだけお腹を殴られれば…… 吐くに決まっているッ! 才人は見事なゲロ・スプラッシュの洗礼を浴びる事になったのだった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1199.html
ヴェストリの広場は昨日とは打って変わり熱気に包まれていた。 「諸君!決闘だ!」 薔薇の造花を掲げ上げたギーシュに呼応し、歓声が沸き起こる。 「頼んだぞ平民!オレ達の分までぶちのめしてやれー!」 「平民っ!ギーシュをぶっ殺せー!オレが『許可』する!!」 「お前の背中はオレ達が守ってやる!思う存分戦えーー!!」 「あ~~ん…頼もしいわ~。私のサイトさん」 「そのキレイな顔を吹っ飛ばしてやれーー!!」 「年齢=童貞を舐めんなーー!!!」 モテるギーシュに対する嫉妬と好きな子に告白をして「私、ギーシュ様が好きなの…御免なさい」と断られた 恨みによって、決闘ではなく処刑を期待する男達の怒号で広場は溢れかえっていた。 ちなみにギーシュのファンと彼氏彼女持ちの連中は、広場入り口でモテない男達によって阻まれている。 「お前…随分嫌われてるんだな」 「う、うるさい!彼らは別だ!!」 キザな男ではあるが交友関係が広く、誰に対しても気軽に話しかける事ができるギーシュは周りから好かれる タイプの男であるが、浮いた話も多く(その多くは噂だが)女生徒からの人気も高い事から、一部の生徒からは 蛇蝎の如く嫌われていた。(かつてはマリコルヌもその一人だった) ギーシュにしてみれば言い掛かりも甚だしい事だが、それを口にしたら最後、広場から生きて出られない事は 嫌でも理解できた。 ホームグラウンドで試合に臨んだら観客席が全て相手側のサポーターで埋まってました。 そんな絶望的な状況下で顔を青褪めながらも闘志を燃やそうとサイトを挑発する。 「とりあえず、逃げずに来たことは誉めてやろうじゃないか。本当にありがとう」 「いえいえ、どういたしまして。逃げたら後が怖そうだし」 ギーシュが心の底から感謝を述べ、サイトがそれに答える。一瞬ほのぼのとした雰囲気が漂うが、それも束の間 薔薇の造花をあしらった杖を振り、ギーシュは青銅の騎士を錬金する。 「君の相手はこのワルキューレだ。さあ!掛かってきたまえ!」 余裕綽々でサイトに宣言するギーシュに対し周囲から非難の声が上がる。 「このタマナシヘニャチンがぁーー!!素手でやれ!素手で!!」 「平民相手に恥ずかしくないのか!!」 「サイトさ~ん。眼の中に親指つっこんでグリッ!とやっちゃえー」 「任せろ平民!お前ら魔法で援護するぞ!!」 流石にギーシュも非難の嵐に耐え切れず、もう一度杖を振りサイトの前に両刃の剣を作り出す。 「その剣を取りたまえ使い魔君。いや、マジでお願いするよ」 ギーシュが手を合わせて懇願して、サイトも素手では不安なので剣を手に取ると、何故か身体が軽くなった気がした。 「さあ勝負といこう。行け!ワルキューレ!!」 今まで剣など持った事がないサイトは見よう見まねで構え、青銅の騎士を迎え撃つ。 瞬閃、青銅の皮膚を軽々と斬り裂き、ワルキューレは宙を舞う。 自慢のゴーレムを一撃で葬り去られたギーシュと一撃で葬り去ったサイトの二人は、全く同じ表情を浮かべ呆然と 二つに裂かれて落下するワルキューレを見つめた。 「見ましたか学院長!やはり彼はガンダールヴに間違いありません!!」 「ふうむ……」 遠見の鏡に映された光景に興奮するコルベールと神妙な面持ちでそれを見つめるオスマン。 コルベールがサイトに記された見慣れぬルーンを調べた結果、かつて始祖ブリミルに仕え、盾となりて守り通した 伝説の使い魔『ガンダールヴ』のルーンに類似している事を突き止め、それが本物かどうかを確認する為に 二人が考え出した結論はサイトと誰かを戦わせると言うものだった。 無論、生徒の使い魔であるので死なせたり重傷を負わない様に配慮し、その為ギーシュに白羽の矢が立った。 彼の作り出すゴーレムならば、頑丈で手加減もできるのでサイトを試すには丁度良い相手なのである。 渋るギーシュをオスマン秘蔵の金髪ロール娘の卑猥な画集で釣り、なんとかそれを承諾させたのであった。 「あの三文芝居が始まったときは、どうなるものやら冷や冷やしたもんじゃがの」 「まあ、結果的に決闘になったから良いでしょう」 遠見の鏡には二体、三体と作り出されその都度サイトに破壊されるワルキューレの姿が映る。 「確かに強いが…まだガンダールヴと決まった訳ではない。それに…」 「はい。仮に彼がガンダールヴだとしても王宮に知らせる訳には参りませんね」 国民から『鳥の骨』と揶揄されるマザリーニ枢機卿が、腐敗しきった貴族連中に睨みを効かせてはいるが、 彼自身、その忠義にも関わらず仕えている王族に嫌われ、砂糖に群がる蟻の様に甘言で用いて王族を惑わし、 利を貪ろうとする貴族達が住まう宮殿に知らせればどうなるか、それは火を見るより明らかである。 「この事はワシらだけのヒ・ミ・ツじゃぞ」 「判っております。」 五体目のワルキューレが真一文字に断ち割られ、広場に歓声が轟く。 「まだやるか?」 「当たり前だ!」 強がってはみても、ギーシュの残りの精神力を総動員しても武器を持ったワルキューレを二体錬金するのが 関の山、それでは到底サイトには勝てない。 オスマンからは手加減する様に申し付けられたが最早そんな状況ではなかった。 ギーシュは周りの自分を囃し立てる声も聞こえないほど集中し、如何にしてこの強大な敵に勝つかを考えた。 そして一つの案が浮かび、それを実行に移した。 「行くぞ!出てこいワルキューレ…ああっ!」 ギーシュの錬金したワルキューレは上半身は原型を留めないほど醜く膨らみ、バランスを崩して地面に倒れこみ、 身体を支えようと腕を伸ばすが自重を支えきれずに腕が潰れる。下半身は形こそ変わらないが上半身とは 反対の方向を向き歩くことさえままならない。誰が見ても明らかな失敗にギーシュの顔が情けなく歪む。 「ギーシュ!負けを認めちまえー!!」 「お前もコッチに来い。ここは居心地いいぞ」 「サイトさーん!相手が泣くまで殴るのをやめちゃダメですよ~」 「平民!チャンスだギーシュを斬り殺せー!!」 錬金に失敗したギーシュが泣きそうな顔で自分が戦うと手招きする。サイトにはもう戦う気はないが、決着を着けねば 場が収まりそうにないので、仕方なく失敗したワルキューレを飛び越えギーシュの前に立つ。 「もういいだろ?オレの勝ちだ」 「ああ、恐れ入ったよ。僕では相打ちがやっとだ」 ギーシュが両手を挙げて首を振る。不審に思ったサイトが問い詰めようとすると、背後の失敗したワルキューレが 動き出し、醜く膨らんだ上半身を内側から破って通常のワルキューレが姿を現してサイトに槍を突きつける。 「なんだ?!どうなってんだ!」 「…そうか。あれは失敗じゃない!錬金したワルキューレの上に失敗した様に見せかける為に 薄い膜の様な青銅を被せたんだ!オレ達はまんまとダマされたんだよ!!」 「クソッ!一杯食わされたぜ!!」 騒ぎ立てる観客に華麗に一礼し、ギーシュはサイトを見る。 「と、言う訳さ。使い魔君」 「……参ったな。勝ったと思ったんだけど」 困った様に頭を掻くサイトに、ギーシュは手を差し出した。 「僕の名は、ギーシュ・ド・グラモン。君は?」 サイトは差し出された手を見て逡巡した後、その手に自分の手を重ね合わせる。 「サイト。平賀才人だ」 お互いの健闘を称え握手する二人を見て、観客達も毒気を抜かれて拍手を持って祝福する。 ここに貴族と平民の垣根を越えた友情が生まれようとしたその時、突然爆発が起きて二人は吹き飛んだ。 「このバカ犬!御主人様に逆らってなにしてんのよー!!」 「ちょっとルイズ!ギーシュまで巻き込まないで!!」 ルイズとモンモランシーが言い争いながら乱入し、片方は襟を掴んで広場から退散して、もう片方はその場で 手当てを始めてハートが飛び交う空間を作り出す。 状況が掴めず呆然とする観客達が次第に引き上げ、締まらない形で決闘イベントはお開きとなった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/715.html
ラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』 この宿に泊まったルイズ達は、一階の酒場で適当な料理をつまんでいた。 今後の予定などを話していたが、ロングビルはラ・ロシェールにとどまると聞いて、ギーシュが何故ここに止まるのかと質問した。 「私は、ミス・ヴァリエール、そしてワルド子爵が帰還されない場合の連絡役ですから」 ロングビルの答えに「なるほど」と頷いていると、そこにワルドが戻ってきた。 ワルドはアルビオンに向かう船を調達するために出かけていたのだ。 席に着いたワルドから、アルビオンにわたる船は明後日になると告げられる。 「あたしはアルビオンに行ったことがないからわかんないけど、何で明日は船が出ないの?」 キュルケのふとした疑問にワルドが答える。 「明日の夜は月が重なるだろう、『スヴェル』の月夜だ。アルビオンに行くには距離がある。その翌日の朝ならアルビオンがラ・ロシェールに近づくんだ」 キュルケは、タバサのシルフィードに乗せて貰えば良いと考えたが、シルフィードに無理をさせるのは少し気が引ける、おとなしくワルドの言葉に従うことにした。 ルイズも同じ事を考えていたが、本来ならお忍びの任務、タバサの力を借りるのはあまり良くないと思い、何も言わなかった。 ワルドが席を離れると、あらかじめ預かっていた鍵を机の上に置く。 「さて…そろそろ寝るとしようか。部屋は取ってある、ルイズと私は相部屋だ、後は…」 それを聞いたルイズは顔を真っ赤にする。 「そんな、ダメよ! ままままだ私たち結婚してる訳じゃないし、それに…」 「婚約者だからな、当然だろう?それに…大事な話があるんだ、二人きりで話をしたい」 そう言って、ワルドはルイズを連れて部屋へと入っていく。 後に残された四人はしばらく悩んだが、ギーシュは一人、他の三人は相部屋ということで落ち着いた。 ルイズとワルドが入った部屋は、この宿でもっとも上等な部屋であり、そのつくりは貴族の館の私室のようで、豪華な装飾の割には落ち着いた雰囲気のいい部屋だった。 「きみも腰掛けて、一杯やらないか? ルイズ」 ルイズは言われたままにテーブルに着くと、ワルドが注いだワインを二人で乾杯した、ルイズは恥ずかしさからか、少しうつむいていたが。 「姫殿下から預かった手紙は、きちんと持っているかい?」 ルイズはポケットの上から、アンリエッタの封書を押さえた。 どんな内容なのか具体的に入ってくれなかったが、恋文に似た思いで書いたのだと想像はつく。 ウェールズから返して欲しいという手紙の内容は、もしかしたら…そこまで考えて頭を振った、今はそんなことを考えても仕方がない。 そんなルイズを心配して、ワルドが語りかける。 「不安なのかい? 無事にアルビオンのウェールズ皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるのかどうか」 「そうね。不安だわ…だけど……」 そこでルイズはハッと気づく、ワルドの後ろに見える、比較的大きな姿見の鏡に、あの青い色の幽霊が浮かんでいたのだ。 ワルドはルイズの視線に気づき、ふと後ろを見る、しかしそこには誰もいない。 鏡にも何も映っていなかった。 「ずいぶん心配しているのだね…大丈夫だよ。きっとうまくいく。なにせ、僕がついているんだから」 「そうね、あなたがいれば、きっと大丈夫よね」 ルイズは落ち着いたフリをして答えるが、内心は焦りがあった。 心の中で誰かが警鐘を鳴らしている、何かがおかしい、何かが引っかかる。 昔、吸血鬼が居た。 その吸血鬼のカリスマ性とも言うべき、人を『恐怖』させ『安心』させる姿。 あの雰囲気に共通する、何かがあるのだ。 いつの間にか、ワルドは遠くを見る目になって、ルイズに語り出した。 ワルドはルイズとの思い出を語り、そして、ルイズの魔法は4大魔法ではなく、別の魔法…すなわち虚無の魔法に最も近いのではないかと言った。 歴史書が好きだったワルドは、始祖ブリミルの魔法についても調べていた、火炎と油による爆発は、火と土の合成だが、単体で爆発を起こせる魔法は存在しないはずだとまで言った。 それが本当の事かどうか分からないが、ルドが自分を評価してくれているのは分かる。 しかし現実味を感じられない、どこか白ける気すらした。 そして… 「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」 「え……」 いきなりのプロポーズに、ルイズははっとした顔になった。 先ほど現れた幽霊のことも忘れ、ルイズはワルドの話をじっと聞き続けた。 一方、キュルケ、タバサ、ギーシュの三人は、景気づけと称した一気飲みでロングビルに敗北していた。 翌日、ルイズ達4人は、ラ・ロシェールの町を見て回っていた、ロングビルは一応護衛なのでルイズと行動を共にしている。 ワルドは後学のためにと、ギーシュを連れて桟橋へ行ったが、実際の所ギーシュは体の良い小間使いだろう。 一通りラ・ロシェールを見て回った四人は、『女神の杵』の裏手にある練兵場に来ていた。 「昔はここで修練してたのねー」 キュルケが興味深そうに呟く。 歴史などには興味のなさそうな彼女だが、練兵場の壁は、高位のメイジが固定化をかけたと思われるほどの丈夫さがあった。 そしてその岸壁にも、いくつかの傷や焦げ跡がある。 集団戦と言うよりは、決闘の痕と言うべき傷が、キュルケの心を喜ばせた。 「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったと聞いています」 ロングビルの言葉に、一同が感心する、言われてみれば宿の作りに不思議な点があったと思い出せるからだ。 そういえば…と、キュルケがロングビルを見る。 「ミス・ロングビルはラ・ロシェールに住んでたの?」 ロングビルはこの宿だけではなく、ラ・ロシェールの事に詳しかった。 事実、町を巡って何か分からないことや疑問があれば、ロングビルが説明してくれたのだ。 「いえ、私は…」 「アルビオン訛り」 ロングビルを差し置いてタバサが答えた、その答えでキュルケとルイズが納得する。 アルビオンの貴族ならば、大陸に来る時にこの町を必ず通る、しかし納得したところで別の疑問が出てきた。 なぜルイズと共にアルビオンに同行しないのか? 故郷ならば、地理にも情勢にも詳しいのだろうが、それなのにアルビオンには同行しないと言う。 その答えは三人にとって驚きのものだった、ロングビルはアルビオンの貴族ではなく、アルビオンの貴族だった者、なのだ。 貴族としての立場を剥奪されたメイジ、ある意味、王党派を恨んでいてもおかしくない人物がルイズの護衛をしていることに、三人は大いに驚いた。 「ミス・ロングビル、なんでルイズの護衛なんて引き受けたのかしら?」 キュルケは不信感を隠そうともしない態度で質問する。 「…私は、戦争を防ぐために手伝って欲しいとしか、オールド・オスマンから承っていませんわ、王党派への恨みがないと言えば嘘になりますが、戦争が始まって孤児が増えるのは…もう、見たくはありません」 ロングビルはルイズを見た、ルイズは何か考えるように、うつむいている。 「私からも一つだけ質問させて頂きます、ミス・ヴァリエール…貴方はなぜモット伯の元へ、シエスタを助けに行こうとしたのですか?」 キュルケとタバサもルイズを見た、この二人にしても疑問に思っていたからだ。 「貴族が、一人の平民を贔屓するのは、決して良いことだとは思えません。モット伯は教育と称して少女を嬲り、売買もしていたと判明しましたが…そうでなかったら、どうするおつもりでしたか?」 その質問は、あらかじめ答えが用意されていた。 いや、ルイズ自身が自問自答していたのだ、これは誰からの受け売りでもない、ルイズ自身の答えだった。 「一度でも友人と呼んだ者を見捨てるのが貴族といえるのかしら」 ルイズは、真剣な目でロングビルを見た。 ロングビルは、その視線に思い出す者があった。 そもそもロングビルの一家が貴族の立場を剥奪されたのは、父親がアルビオンの王家に逆らったからだ。 しかし、父は決して後悔などしていない。 王家よりも、自分よりも、何よりも大事な『理念』を守ろうとした父、その視線とうり二つに見えたのだ。 以前のルイズならば、同じ答えを言ったとしても、そこには説得力が無かっただろう。 しかし今のルイズに見える『威厳』と、目の奥に見える『悲しみ』があった。 「貴方は、精神的にも貴族なのね…」 ロングビルの呟きに、ルイズは少しだけ頬を染めた。 「照れてる」 「う、うるさい!」 タバサの言葉に、いっそう顔を真っ赤にしてルイズが怒鳴る。 「ちょっとあんた何格好いいこと言ってるのよ!ゼロのルイズのキャラじゃないわよ!」 「ゼロって言ったわねこの色ぼけ女!」 キュルケのちょっかいで、普段の騒がしさを取り戻した三人。 その三人を見ながら、ロングビルは何かを決心していた。 キュルケと喧嘩しつつも、ルイズの頭の中にはある記憶が浮かんでいた。 シエスタを助けるため、モット伯へと立ち向かう決心を与えた、ある人物の記憶だった。 『なぜ おまえは自分の命の危険を冒してまで わたしを助けた…?』 『さあな…そこんとこだが おれにもようわからん』 なぜ命がけでシエスタを助けに行ったのか、よく分からない。 アンリエッタからのお願いを、命の危険があると知りながら引き受けたのも、よく分からない。 でも、よく分からないままでも、いいじゃないか…。 前へ 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1739.html
「そういえば聞いてなかったけど…ルイズ、あなたは何しに実家に行くの?」 ワインを飲みながらキュルケがルイズに問いかける。 「それは…その…」 ハシバミ草のサラダを食べるタバサを見ながら、どこか後ろめたそうな声で答える。 「私のお姉さまが病気がちで…」 「ふ~ん…でイクローに治してもらおうってわけね」 朝食をとってすぐ、育郎達はルイズの実家に向かうべく出発し、昼過ぎには領地に つくことが出来た。ヴァリエールの領地は広いとはいえ、竜ならすぐの距離である。 しかし、そこで軽く食事をしたいというキュルケの提案があった。 「だってずっとシルフィードの背中でお腹が空いたじゃないの。 ヴァリエールの屋敷についても、すぐに食事というわけにはいかないでしょ?」 まったくその通りで、さらには自分もお腹がなり始めていたいたので、ルイズは 文句を言いながらも賛成し、近くの旅籠で休む事にしたのだ。 「うん…」 「なによ、ひょっとしてタバサのお母様が治らなかったから遠慮してるの? そんな事タバサは気にしないから安心しなさいな。ね、タバサ?」 その言葉に、変わらぬ調子でハシバミ草を食べ続けるタバサが頷く。 「ほらね。イクローもそんな顔してないで。 まったく治らなかったわけじゃないんでしょ? 出発した時に、ベルスランもあんなにお礼を言ってたじゃない」 「そうだな…すまないキュルケ、気を使わせて」 「いいのよ。だいいち、沈んだ顔で食事してもおいしくないじゃない」 そう言って笑うキュルケのおかげで、その場の雰囲気がやわらぐ。 「にしても公爵家ってだけあって、娘っ子の家はずいぶんてーしたもんみたいだな」 傍に立てかけてあるデルフが呟くと周りから歓声が挙がった。 「おおー、さすがルイズ様がお連れなさった方だ。喋る剣をお持ちだなんて」 「貴族でねえって言ってらしたが、さぞかし名のある方にちげえねえ!」 「お連れの貴族様も名のある方だろうに、さすがルイズ様だあ」 等と、ルイズが来たと知って集まってきた村人達が騒ぎ出す。 「そうだね」 軽く周りを見回しながら、育郎がデルフの言葉に同意する。 「あら、そうかしら?」 「………」 対するキュルケとタバサはごく当然と言う顔をしている。 育郎はその事に感心するが、自分も最近は似たような状況で食事をしているためか、 以前なら気後れするような状況でも、自分が普通に食事している事に気付く。 シエスタをモット伯から助け出してからというもの、貴族からはあいかわらず恐れ られてはいるが、育郎は平民の間で、まるで英雄のような扱いを受けるように なっていた。それもシエスタのおかげなのだろうが、逆にそのシエスタのおかげで 困っているとも言えるのだ。 「俺は感動したぜ!初めて知った人の愛、その優しさに目覚めて、裏切り者の名を 受けて、全てを捨てて魔王に戦いを挑むなんてよ! 俺の料理が食いたくなったらいつでも言ってくれ!」 とはコック長のマルトーである。 どうやらどんどん話が大きくなっていったらしい。 このような状況に慣れ始めているのは、色々とまずいのではないかと育郎が考えて いると、外にいる村人達がにわかに騒ぎだした。耳を傾けてみると、竜だの お嬢様等という単語が聞こえてくる。どういうことかと思っていると、いきなり ドアが勢いよく開き、そこから金髪の女性が旅籠に入ってきた。 「え、エレオノールお姉さま!ど、どうしてここに?お仕事でいないはずじゃ?」 ルイズの言葉を無視して、金髪の女性はルイズに歩み寄り、その頬をつねる。 「その言い方だと、私がここにいたら悪いみたいじゃないちびルイズ!?」 「ひてゃい!わ、わりゅくないでしゅ!」 頬を引っ張られながら弁解するルイズ。 「気を利かせた村人が、貴女がここに着いたと知らせたのよ。 それで休みを取ってた私が、竜に乗って迎えに来たってわけ。わかった?」 「わかりまひた!ひゃからちゅねらにゃいでおねーひゃま!」 「ねえ、この人が貴女のお姉さんなの?」 二人の様子にあっけにとられながらも、キュルケが口を開く。 「病気にはとても見えないんだけど…ひょっとして小さいのを治すの? ああ、それは貴女も一緒か、さすが姉妹ね」 そう言って、ルイズがエレオノール姉さまと呼ぶ女性の胸を指差す。 なるほど、見ればその胸は遠慮しがちというか、自己主張が薄いと言うか、ルイズ と同じタイプのスタンドというか、ぶっちゃけ小さかった。というか無かった。 「遺伝」 タバサのとって置きの駄目押しの言葉で、周囲の空気が完全に凍りついた。 「あ、あんたらね!?」 ルイズが怒りの声を上げようとしたその瞬間、姉の声がルイズの耳に届く。 「ルイズ…」 「ひゃ、ひゃい!」 酷く冷えた自分の姉の声に脅えるルイズ。 「ねえ、ルイズ…貴女のお友達は随分と面白い人たちみたいね? よければお名前を教えてくださらない?」 そう言って視線をキュルケたちに向ける。そのあまりの迫力に、近くに立っていた 村人が腰を抜かすが、キュルケは涼しい顔でその視線を受け止める。 ちなみにタバサは、ハシバミ草のサラダのおかわりを要求した。 にやりとキュルケは笑い、馬鹿丁寧なしぐさで礼をする。 「これはこれはご丁寧に。名乗るほどではありませんが、キュルケ・アウグスタ・ フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します」 ツェルプストーという単語、ヴァリエール家の宿敵を意味する名に、エレオノールの 迫力に圧されていた村人達がざわめく。 「つぇるぷすと~?おちび!どういうこと!? 何であなたがツェルプストーの人間と友達なの!?」 「と、友達なんかじゃ」 「だまらっしゃい!」 「ひゃん!ひゃめ、いでゃいいでゃい!」 「ふう。まったくこの子は、昔っから心配ばかりかけて」 「うぅ…まだひりひりする…」 思いっきりつねられた頬をさするルイズを横目に、エレオノールは改めてキュルケ 達に向き直る。 「それで…カトレアを治療するメイジはどっちなの?そっちの小さい子?」 タバサが首を振る。 「じゃあ、やっぱりツェルプストーの方なのね…じゃなけりゃルイズだって、 ツェルプストーをヴァリエール家に招くなんて」 「あら、私でもないわよ」 「じゃあ誰よ?」 タバサとキュルケが育郎を指差す。 「………ねえルイズ?」 「な、なんですかお姉さま?」 「彼、マントもつけてなければ、杖も持ってないようだけど…」 「そ、そうですね」 「私にはどうしてもメイジに見えないのだけれども…気のせいなのかしら?」 「いえ、その…気のせいじゃないでいだだだだだだだ!!!」 再び頬をつねりながら、エレオノールが怒鳴る。 「おちび、あなた何考えてるの!カトレアは水のスクエアに診て貰っても駄目 だったのよ?平民の医者なんかが治せるわけないでしょ!!本当にこの子は…」 「あの、お姉さんそれぐらいで…ルイズもずいぶん痛がってますし、そんなに つねったら跡が残るかもしれないじゃないですか?」 「貴女は黙ってなさい!まったく平民が気軽に貴族に話しかけるなんて… でも一理あるわね…跡が残らないように、反対側の頬をつねる事にするわ」 「いや、そうじゃなくて…」 止めようとする育郎を無視して、ルイズに折檻を続ける。 「残念ながらイクローは唯の平民じゃないわよ」 頬をつねりながら、キュルケを見るエレオノール。 「どういう事かしら、ツェルプストー?」 敵意の篭った目でキュルケを見つめるエレオノールの傍で、ルイズが身体が固まる。 「彼はね、東方の亜じ」 「ちょおおおおっとキュルケ!貴女に話があるんだけれども!」 「あ、こらルイズ!」 エレオノールから強引に逃れ、後が恐いが、とにかくキュルケの首根っこを捕まえ、 部屋の隅に連れてゆく。 「ちょっと何するのよルイズ!」 当然の如く抗議の声をあげるキュルケに、ルイズが回りに聞かれないように、 小さな声で伝える。 「イクローが、その…亜人だって事は内緒にしといて!?」 「なんでよ?」 「エレオノールお姉さまはアカデミーの研究員なの!」 「ああ…そういう事」 アカデミーと言えば、人体実験も辞さないと噂される研究機関である。確かにそんな 人間が、珍しい東方の亜人のことを知れば、当のイクローは唯ではすまないだろう。 「何?東方の医者とでもいうの?」 「そそそそうなんです、お姉さま!ね、キュルケ?」 「まあ、そういう事」 「東方…ねぇ」 育郎に疑わしげな目を向けるエレオノール。 確かに東方といえば、エルフが治める地である。その地の技術は、あらゆる点で ハルケギニアのどの国よりも優れていると言われている。 「その話、本当なの?」 「え?あ、はい、そうです」 しかし、それ故に東方産と偽って詐欺等を行う輩が存在するのである。 実際エレオノール自身、『東方から来た!』等と言う謳い文句の豊胸グッズに 7回ほど騙されている。ちなみにルイズは、まだ2回騙されただけである。 「あら、イクローが嘘をついてるとでも? ご心配なく、彼はこの子の使い魔なんですもの」 疑わしげな視線を育郎に向けるエレオノールに、キュルケが答える。 「はぁ?平民が使い魔ぁ?」 またつねられてはたまらないと、ルイズが続ける。 「そうなのお姉さま!ほら、イクロー。使い魔のルーンを見せて」 言われたとおりに左手のルーンを見せると、やっとエレオノールも納得した。 「まったく…使い魔が平民だなんて…」 溜息をつきながらそう呟く姉に、ほっと胸をなでおろすルイズ。 「そういえば、お姉さまはどうして休みを?やっぱりちい姉さまが心配で?」 蒸し返されても困るので、話題を変えようと話を振る。 「まあ、それもあるんだけど…ちょっとね」 何処か嬉しそうなエレオノール。 「そういえば昨日、どこぞの貴族様がエレオノール様と一緒に、 お屋敷に向かったって聞いたぞ」 「そういえば少し前に、エレオノール様が婚約なされたって話があったよな?」 「おお、という事は公爵様に挨拶に来られたにちげえねえ」 村人達の言葉に、やあねぇだの、もうそんな話が広まってるの、等と言いながらも まんざらでもなさそうな様子のエレオノール。 「ご婚約おめでとうございます、エレオノール姉さま」 「ありがとう、ルイズ」 素直に礼を言う姉に驚愕しながらも、これで今日はもうつねられる事はないと 安堵するルイズ。 「それで、その婚約者はどのような方ですの?」 問いかけるキュルケの顔は、酷く楽しそうな顔だったのだが、幸せを味わっている エレオノールはそのことに気付かない。 「バーガンディ伯爵さまは…」 嬉しそうに婚約者の話をしだすエレオノール。 「ねえ、キュルケ…あんたひょっとして」 「なーに、ルイズ?」 「変なこと考えてないでしょうね?」 「別に」 「…ならいいけど」 「いい男だったら手を出そうかなって考えてるだけよ。 ヴァリエールから恋人を奪うのは、ツェルプストーの伝統だし」 「あんたねえ、絶対やめてよね!」 そのころ話題のバーガンディ伯爵は。 「申し訳ありません…この婚約はなかった事に!」 婚約解消のため、ヴァリエール公爵に頭を下げていた。 「エレオノールに何か至らぬところでもあったかな?」 白くなりはじめた口ひげを揺らし、渋みがかかったバリトンで伯爵に問いかける。 「いえ…そんな…」 モノクルをはめた目の、鋭い眼光に脅えながら答える。 「エレオノールは素晴らしい女性です!気高く、そして美しい。しかし…」 一旦言葉を区切って、伯爵が言葉を続ける。 「もう………限界なのです!」 苦渋の顔でそう答えるバーガンディ伯爵をから目を離し、隣に立つ、 長年ラ・ヴァリール家の執事を務めてきたジェロームに視線を移す。 「………」 無言で首を振るジェロームを見てから、公爵はおもむろに立ち上がり、 頭を下げたままの伯爵に歩み寄った。 「バーガンディ伯爵…」 公爵の言葉に、ビクリと身体を震わせる伯爵。 今の彼の行動は、天下のラ・ヴァリエール公爵家の名誉に泥を塗る行為なのだ。 「…いままで良く頑張ってくれた!」 「へ?」 しかし、怒りの言葉を待ち受けるバーガンディ伯爵の耳に届いたのは、 意外にもねぎらいの言葉だった。 「まったくエレオノールのあの性格はいったい誰に似たのやら…なあ、ジェローム」 「それは私の口からはとても…」 「いえ、あの…」 「うむ、それもそうだな。わしとて気軽に言えん!」 「ご理解していただきありがたく存じます」 「その、ですから」 「おお、これはすまなかった伯爵。ジェローム、竜の用意を。 エレオノール達が帰ってくる前に出発できるよう急がせろ」 「はい、承知いたしました」 そう言って、部屋から出て行くジェロームを見送ってから、バーガンディ伯爵が 恐る恐る公爵に問いかける 「……その、良いのですか?」 「しかたあるまい…無理をして一緒になってもな…無理をしなくとも、たまに きつい時があるのだから…いや、ごくまれにだ。あれも丸くなったし。 そもそもわしはそういう事にならないよう、いつも気をつけておるしな! いや、普段は素晴らしいのだよ。勘違いをしてはいかんぞ」 「は、はぁ…」 いまいちよくわからないが、とにかく助かった事に安堵する伯爵であった。