約 1,077,058 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1879.html
明るくなってきた頃妙な重みを感じ目を覚ましたが、前。 「なんだこりゃあ…」 正確に言うと、視線の斜め下75°の先に黒い髪。 シエスタの頭があって本気でビビった。 おまけに顔をこちら側に向けているため、スーツの胸のあたりに思いっきり涎の跡が付いている。 普通に考えると、ちょっとばかりアレでナニな状況で人に見られたらモノ凄く誤解されそうだが 正直、今のシエスタさんには魅力もクソも何も無い。 素面でやってるのなら平均値を上回る胸が当たっているだけに効果はそれなりにあるかもしれない。 …が、ここに居るのは潰れた酔っ払いの成れの果て。 脱いだら結構凄いのにそれなりに重要な局面で悉く空回りしているのが勿体無い。 したがってプロシュートにとって、今現在のシエスタも手の掛かる弟分扱いである。不憫。 もっとも、この唯我独尊がデフォルトな元ギャングに目上として扱われる者はそう居ない。 暗殺チームにおいても、リゾットが唯一それに該当し、後はペッシを除いてほぼ横。 ましてリゾットが居ないこの地においては、表面上はともかく芯のとこでは『平等に価値が無い!』と言わんばかりに目上という扱いが無い。 ルイズはもちろんのこと、アンリエッタですらまだまだ甘ったれたマンモーニで、オスマンに至ってはただのスケベジジイという扱いである。 老若男女、生物であるならば一切合財の区別無く平等に老化させるというスタンド能力はここから来ていると見て間違いないはずだ。 首を曲げるとゴギャンと良い音がした。 妙な体勢で寝たというのもあるだろうが、人一人がもたれ掛かってる状態が続いていたのだ。 一瞬、どういう状況か理解できずに、頭の中にメローネがパク…インスパイアされて作った『生ハム兄貴』なる歌が流れたが、思い出した。 「ああ…クソッ…!こいつが潰れて離れなかったんだったな…」 さすがに、もう掴まれてなかったので引っぺがしてベッドに運んでやる。 本来なら放り投げるとこだが、寝起きは低血圧のため若干対応が柔らかい。 イタリア人的に考えれば、色々と何かやっててもおかしくないが ご存知プロシュートはそういう方面では全く以ってイタリア人的要素を持っていないため、メローネのような事にはなりはしない。 ただ、ご存知兄貴気質のため、これが少なからずとも世話になっていたシエスタでなければ、問答無用で蹴りが入っているところである。 少しすると、苦しそうな寝息を立てはじめる。 「そりゃあ、潰れるぐらい飲めばな…」 床に転がっている酒瓶を見て呆れ気味に呟いたが、シエスタは何かうなされているような感じだ。 「…あうう…よ…妖精さんが……圧迫…祭り……」 「このヤロー…圧迫されてたのはこっちだってのによ」 まぁ、なんのこっちゃとも思ったが『圧迫祭り』という言葉に心当たりは無い。 ただ、妖精さんは心当たりがあるので、機会があればついでに聞いてみる事にしようと決めて部屋の外に出た。 「っはうあ!……今…おぞましいほどの悪寒が…何事!?」 襲撃を受けた暗殺者かというぐらいの速度で飛び起きたのはご存知エレオノールだ。 妖精さんは広まっていなかったが、新たな火種を抱えてしまいダブル・ショックである。 だがッ!鞭を振るっている時に僅かながらだが高揚感があったのも確かッ! 無論、『女王様』などという称号は頂きたくもないし、認めたくも無いので無かった事にしてしまっているが。 それでもッ!背筋にゾクッときたものがあるのも事実である。 グビィ 喉の奥の方で生唾飲み込むと、御愛用の鞭を手に取り振ると先端が中空を斬り風切り音が鳴る。 …が、今現在は何の感情も沸いてこない。 「気のせいね…まったく…それもこれも全部あの平民のせいだわ…」 重ねて言うが、一応あれでも貴族の子弟である。 とりあえず、まだ薄暗い時間帯だ。普段忙しい中での久しぶりの帰省である。もう少し寝なおす事に決めた。 なお、夢の中で『圧迫祭り』が開催されていたのは言うまでも無い。 「あう…いたた…」 プロシュートが出てからおよそ一時間後ようやくシエスタが目を覚ましたが、二日酔いであろう頭痛を感じ頭を押さえていた。 状況確認のために辺りを見回すと転がっている酒瓶が視界に入り、一応の理解はしたようだ。 「そう言えば…夕飯の時に一杯ぐらいならって思って…ど、どうしよう…もし失礼な事でもしてたら…」 失礼どころか一犯罪犯しかけたのだが、酔っ払いには二種類ある。 酔ってる時の記憶が綺麗に飛んで何も覚えていないタイプと、酔ってる時の記憶がしっかり残って起きてから後悔するタイプに分かれる。 シエスタは前者と見て間違い無い。 「でも、なにか良い事があったような…」 必死になって記憶を探ったが、思い出せそうにない。 一つだけ、誰かを掴んで一緒に居たような気はしたが。 「夢だわ…夢!……たぶん」 リアルでやってたらと思うと、顔から火が出る思いだったので夢だと思い込む事にした。 もっとも、現実だったらそれはそれで良かったのだが、相手は手の届かない所に行ってしまってるだけに夢としか思えなかった。 が、それはそれ。 未だ戻ってくると信じている。当の元ギャングがどう思っているかは知らないが強い子である。 ただ、シエスタの不幸は酒癖が悪い事であり、二日酔いになるまで飲んでいなければもう一時間ばかり早く起きれてご対面できたかもしれない。 まあ、その場合は説教確定なので運が良いのか悪いのか。 そうしているとシエスタが少しばかり悶え始めた。 どうも夢と思っている内容から妄想が発展気味になっているようだ。 「……や、やだわ、わたしったら…で、でも」 R指定一歩手前…もとい、突入していたのだが、まぁ例によってそういう小説を読んでいたのだから仕方無い。 妄想力(もうそうぢから)は、かなり高い方らしい。突っ走るタイプとみて間違いない。 生憎のところ部屋には一人。止める者なんぞいやしない。 もうスデに頭の中では幸せ家族計画まで構築されており、色んなデートプランが練られている。 本人が聞いたら説教間違いなしだが、突っ込む事ができるものは存在しないのだ。 自重という文字は今現在、存在すらしていない。多分、今のシエスタはエコーズACT3やヘヴンズ・ドアーですら止められない。 おかげさまでテンション絶賛上昇中でカトレアが扉をノックする頃には、タルブで二人してワインを造っているというとこまでに発展していた。 廊下を適当に歩いていると随分と騒がしくなってきた。 大体の事は分かっている。ルイズの親父、つまり、ヴァリエール家公爵が帰ってきたらしい。 「さて…あの頑固親父を説得できるかどうか見物だな」 まー無理だろうとは思うが、やらないよりマシというとこだ。 防御側が五万に対して侵攻側が六万。数の上では勝っているが本来、侵攻側が確実に勝つには防御側の三倍の兵力を要する。 急な侵攻計画で準備期間も足りず、学生を徴用するようでは無謀だとパパンは反対している。 プロシュート自身、戦略的に正論だと思わんでもないが この際、やるからには精々ハデにやらかして陽動してくりゃあいいと思っている。 つまるとこ、説得できようができまいが、どうなろうとどうでもいいということだ。 だが、そこに一つ疑念というか気にかかるものが浮かんだ。 (おいおい…オレは何時からロハで仕事するようになったんだ?) 自分でもそう思わないでもないが無理も無い。 パッショーネに属していた時でさえ、一応の報酬はあった。 スデに恩義も返しフリーな身である以上実利的な面からしてクロムウェルを殺る理由が無いのだ。 ただ、感情的な面から言えば別だ。 アンドバリの指輪の件で大分ムカついているのである。 前ならば、報酬無しで動くなぞ考えられなかったし、基本的に感情に流される事無く一切の区別無く対象を始末してきた。 組織に敵対したのも、組織から不当な扱いを受けたからというチームとしての実利的な面から取った行動だ。 本来なら、アンドバリの指輪の件では、自分や借りのあるヤツが直接害を蒙っていないので感情のみで動く理由も無かったはずだ。 だからこそ、そこに生じた矛盾に多少戸惑っている感はある。 「やれやれ…考えたところで仕方ねーな」 そのあたりは変わったつもりは無いが、それは自分でそう感じているだけで外から見ればどうなっているか分かったもんではない。 リゾットあたりが、この状況下におかれていたらどうすっかなとも思ったがそんな仮定を考えても仕方無い。 とにかく今は、濃いオッサンのために掃除なんぞする気も無いので昼頃までバックレる事に決めた。 この元ギャング、雇われている身でありながら実に自由人(フリーマン)である。 空を流れる雲を寝ながら眺めているプロシュートだったが、未だ警戒は怠ってはいない。 場所は池のある中庭の小島の影。 城の中から死角でサボるには非常に適切な場所であるため、結構気に入っている場所である。 バレたらバレたで表面上適当に『すいませェん』とでも言っときゃいいと思っている。 まぁ、バックレると言っても特にする事もなく、何も考えてはいない。ただ単に空を見ているだけだ。 実際のとこ、ここまで空を見てみるのも久しぶりだ。 今までやる事成す事全てにおいて血の臭いが漂っていたが こういうのも性には合わんがたまになら良いかもしれんと思ったとこで足音に気付き、軽くその方向を見ると思考を呼び戻し瞬時に行動させる。 ルイズが半泣き状態でこちらに向かってきているからだ。 さすがに、こいつにバレたら洒落にならんという事で身を隠したが、ルイズは小船の中に潜り込み毛布を被ると本格的に泣き始めた。 どうやら、パパンの説得は見事失敗したらしい。 放っておいてもよかったが、性分からして、こういうのを見るとつい説教しに出ていきたくなる。 「あー、クソ…鬱陶しいな。この腑抜けがッ」 遠い暗殺より目の前の修正…もとい教育。 一発殴って気合入れてやろうかとも考えたが、それをやると、今までやっていた労苦が水泡と帰す。 不測の事態でバレるのは致し方ないとしても、自分からバラすなぞ最たる愚考だ。 石で勘弁してやろうとし、適当な大きさの石を掴み投げようとしたが、また足音が聞こえた。 こちらも見知った顔だ。 昨日酒をくれてやったばかりのマンモーニ。 それが池に入り、ルイズが入った船の毛布を剥ぎ取りなにやら言っている。 細かい事までは聞こえなかったが、カトレアが馬車を用意したらしいが、何故かルイズが拒否している。 今にもドシュゥーーz___という音を出しながら投げようとしていた石を後ろに捨てるともう少し様子を見る事にした。 「いくら頑張っても、家族にも話せないなんて。誰がわたしを認めてくれるの? 皆、わたしの事なんて魔法が使えない『ゼロ』としか思ってない。なんかそう思ったら、凄く寂しくなっちゃった」 ルイズはそう言ったが、一人だけ自分を相応に認めてくれていた者が居た事は知っているが それは、もうここには居ない。 才人が着た時シルフィードの夢で見た内容と被って思わず頭を押さえたのだが 今になってみれば、まだ夢と同じように説教された方が良かったかもしれない。 「俺が認めてやる。俺が、お前の全存在を肯定してやる。だから、ほら立てっつの」 さっきよりも小さくなったルイズを見て、何かに本格的に目覚めそうな才人がそう言ったが 自信とやる気がほぼ『ゼロ』になっているルイズにはあまり意味を成さない。 「何が『認めてやる』よ。上っ面だけで嘘つかないで」 「嘘じゃないっての」 「…汗かいてるじゃない。今回の戦だってどうせ姫様のご機嫌取りたいんでしょ。キスなんてしてたし」 非常に冷たい声だ。DISCが刺さっているのならホルスかホワイト・アルバムだろう。 「ばば、馬鹿お前、あれは成り行きで……」 「成り行きでキスするの?へぇ~そぉー。もう放っといてよ」 言い訳無用な感じで言葉に詰まった才人だったが、続くルイズの言葉にいきなりキレた。 ルイズが『主人をほったらかして何やってるのよ…』と小さく呟いたのだが、才人には妙に大きく聞こえたのだ。 ルイズを主人にするのは使い魔たる才人だが、それはここに居るから才人の事では無い。 ルイズは思わずそう思ってしまって口に出ただけだが、先代。つまりプロシュートの事だ。 いたがって対抗心全開の才人からすれば『こうかは ばつぐんだ!』である。 「バカか?お前は!」 「なによ!誰がバカよ!」 「じゃあ大バカだ!誰か好き好んでお前みたいなわがままでえったんこのご主人様の使い魔やってると思ってるんだっつの!」 「か…!誰が板よ!よ、よくも言ったわね!この…犬!」 「いや、板とは言ってない!でも何度でも言ってやる! 正直な、俺だって戦なんて行きたくないし元の世界に帰りたいんだよ!そんなに前のヤツがいいなら、そいつと行けよ!」 「だったら帰ればいいじゃない!そうすればもう一度サモン・サーヴァントができるわ!」 売り言葉に買い言葉だが、二人とも似たタイプだけに止まらないし並大抵の事では止まらない。 ルイズとしてはポロっと口にしただけで、才人も先代の名前を出したからこうなっているが、両者とも本心ではない。 「……っかー、見てらんねぇ。痴話喧嘩じゃあねーか」 横で聞いている方からすれば、ガキ同士の喧嘩だ。それもかなりレベルの低いやつ。 思いっきり聞かれている事なぞ露知らず喚き散らす二人を見て呆れたものの これ以上ここに居る気も無いので見付からないように中庭から離れたが、少し目が暗殺者のそれに変わった。 池の方を見るとカトレアを除いたヴァリエール家御一行とほぼ全ての使用人が池を取り囲むようにしている。 理由は分からんが、なんかやったのだろう。 体験した限りガンダールヴなら大丈夫だろうとも思ったが、考えてみれば才人は丸腰だった。 「こいつは…『HOLY SHIT』っつーんだったか?ありゃ死んだな」 武器が無ければ一般ピーポーである才人なぞ、まな板の上の鯉。まさに俎上の魚だが あのウルセー剣を渡すつもりは無い。あんなのに知れたら一発でバラすだろうからだ。 回収するにしてもそのまま盾として使うつもりでいる。 無ければ向こうは困るだろうが、こっちだって困る。 一国のボスを殺るからには、それ相応の下準備というか、明確な弱点と能力特性があるだけにできる限りは伏せておきたいのだ。 ホワイト・アルバムやマン・イン・ザ・ミラーなら、こんな面倒な事せずに楽でいいのだが。 無論、ここで老化を使うと確実に巻き込んでバレるので、使う事はできない。 ルイズ達自身で乗り切って貰わにゃならんのだが、どうやらそうもいかないようだ。 何かが池に落ちた音がしたが、これはルイズが才人を突き落としたせいらしい。 続いて、やたら威厳のある声が聞こえてくる。 「ルイズを捕まえて塔に監禁しなさい。一年は出さんからな。 で、あの平民な。えー、死刑。メイジ36人集めてウィンド・カッターで輪切りにして瓶に詰めて晒すから台を作っておきなさい」 「かしこまりました」 モノ凄く覚えのある処刑方法を聞いて、決めた。 殺しはしないが、そのうち一回シメると固く誓う。 直接手は出せないので、まず、前のように自身を老化させ、適当なやつから武器を奪う。 何か言いたそうだったが夢の世界へと無理矢理ご出席して頂く事で解決した。 ルイズは小船のなかで半分呆けているので丁度いい。 取り囲まれてパニクっている才人目掛け剣を投げた。 「やべぇかもな…」 淡々とギャング的処刑法を命じるヴァリエール公爵を見て本気でヤバイと思い始めたが 急ぎだったのでデルフリンガーは持ってきていない。 今にも『ズッタン!ズッズッタン!』というリズム音が聞こえそうだったが、そこに風切り音がして目の前に剣が一本抜き身のまま突き刺さった。 思わず飛んできた方向を見ると、昨日見たばかりの顔を見て少し躊躇したが目が合った。 そうすると、親指で自分の後ろを指差し、続いて同じように親指で首を掻っ切るように走らせ、それを下に向けた。 『さっさと行かねーと、オレがオメーを殺す』 意味合いは違うが、助けてくれたと判断して剣を引き抜くとルーンが光る。 放心しているルイズを肩に担ぐと走り出す。 すれ違う瞬間に頭を下げ侘び入れながら駆け抜ける。 元使い魔としては別段驚く速度ではなかったが、それを知らない連中はおったまげている。 「ななな、何しとるんじゃああああァーーーッ!」 一拍置いてヴァリエール公爵の素敵なシャウトが響き渡るが、もうスデに遠い所まで行ってしまっていた。 放心したところを背負われたルイズだったが、使用人の一人とすれ違い、顔を少し上げ、その背を見た時少し違和感を感じた。 何故だかよく知っている気がしたからだ。 だが、背負われているため、それはどんどん小さくなる。 「ま、待って!戻って!」 「無理言うな!」 戻って確認したかったが、戻れば『輪切りの才人』が出来上がる事になる。 諦めたのか大人しくなったが、やはり妙に気になっていた。 この前の雨で辛うじて生き残っていた煙草に火を付ける。 煙草を吸うときは、ムカついた時と一仕事終えた時であるから、一応ミッションコンプリートである。 公爵の素敵なシャウトが轟き、そっちの方に目をやるとプッツンした公爵と使用人連中が後を追い、蒼白を通り越して白くなった顔の公爵夫人がブッ倒れ運ばれている。 暗殺を達成したような気分で煙を吐き出すと、その煙の向こう側から良い感じに強張った顔のエレオノールが音を出しながらやってきた。 「…どういうつもり?」 「何がだ?」 「あの平民に剣を投げ渡した事よ!」 見られてたが、少し遠かったので老化してた事はバレていないようだ。 「アレか。言うだろ?オレは馬に蹴られて死ぬってのはゴメンなんでな。大体、妹の心配するより先に、てめーの方を心配した方がいいんじゃあねぇか?」 「くぐ…うるさい!今日という今日はどうなるか分かってるんでしょうね。父様や母様に知れたらクビじゃ済まないわよ」 「気にしなくてもいいぜ。今日で辞めるからよ。ああ、そうだ。ついでに一つ聞きたかったんだが…『圧迫祭り』って何だよ?」 どの道、これ以上ここに居ても得る物は何も無さそうだ。 そろそろ、別の場所で動くべきだろう。いっその事アルビオンへ乗り込んでもいいが、船が出ているどうか微妙なところだ。 「な…何故それを…!」 またしても息を吐き出し崩れ落ちたエレオノールだが、それを見て何かあるなと思い追撃を仕掛ける事にした。 「人それぞれだからな、知られても死にはしねぇだろ」 「ああ…あのメイド…よりにもよってこんなヤツに……!」 例によって聞いちゃいないようだ。 「まぁ気にすんな。強く生きろよ」 もう完全に勝ったと思いエレオノールに背を向け煙草を吸ったが、殺気を感じた。 後ろを振り向くと手に鞭を持ちゆっくりと立ち上がっている。 「ヤッベ…やりすぎたか?」 「フフフ…口封じしないと…そう、まずは…」 言うが否や鞭が振るわれる。 それに当たるプロシュートではないが、エレオノールの妙な迫力には若干引いている。 「おい、戻ってこい」 こいつも、ルイズと同じと判断したが、どこか意識がブッ飛んでいる感じがしないことも無い。 どこか意識が飛びながら鞭を振るうエレオノールだったが、あの時感じた高揚感を感じていた。 (これよ…!これでないと!!) 今はまだ鞭が当たっていないが、当たればそれが確証に変わるという事は分かっている。 理性の面では認めたくないが、その理性がブッ飛んでいるので止まりたくても止まらない。 半分トリップしたかのような顔で鞭を振るうエレオノールを見て、そういう事かと判断したが、このままされるままというわけではない。 「なんで周りにこんな面倒なヤツしかいねーんだよ…いい加減戻って…来い!」 「か…ッ!」 非常に良い音がしたが、それもそのはず。 重なるようにして拳がエレオノールの鳩尾に入っているからだ。 ギャングを辞めたとは言え、その力はまだまだ衰えてはいない。 「ベネ(良し)…ま…そのうち起きんだろ」 一呼吸置いて、今度こそ間違いなくエレオノールが崩れ落ちた。 寝ている面だけなら、何時もキツイ顔してるヤツには見えないんだがな。 そんな事考えていると跳ね橋が上がる音が聞こえてくる。 そこまで面倒見きれんとして、橋が上がる様を見送っていたが、鎖が変色し土に変化した。 『土くれ』ことフーケを思い出したが、そんなもんがここに居ない事は確認済みだ。 この屋敷であいつらに手を貸しそうなメイジと言えば一人しかいないので正体はすぐ分かったが。 街道の向こうに遠ざかる馬車を窓から見つめたカトレアだったが、激しく咳き込んだ。 遠距離で『錬金』を唱えたからで、遠距離型スタンドを無理に使ったような感じだ。 普通なら精神力の消耗だけで済むが、カトレアの場合肉体的にもかなり疲労する。 少し意識が遠くなって倒れかけたが、間髪入れず猫草が空気クッションでフォローしている。 「ありがとう、大丈夫よ。もう平気」 「ウニャン」 そう言って猫草に笑みを浮かべると丸まって寝始めた。 とことん自由な生物(ナマモノ)である。 完全にこの家に居付く気だ。まぁベースは植物なので動けないのだが。 そこにいつの間にか扉近くに立っていたプロシュートが壁にもたれながら声をかける。 ヴァリエール家の使用人が着ている服ではなく、お馴染みのスーツ姿だ。 一応才人の部屋も回ってきたがデルフリンガーは無かった。一応回収はされたらしい。 「よぉ、アレはお前か。中庭の場所教えたのもそうだろ?面倒見がよすぎるってのもどうかと思うぜ」 「あらあら、あなた程じゃないわ」 兄貴と呼ばれているだけの事はあって、面倒見のよさにかけては定評があるプロシュートだ。 笑いながらそう言ってきたがぶっちゃけ反論の余地が無い。 「ちっ…言い返せないってのが洒落なってねぇ」 一応、本人もその辺りは自覚しているが、最後まで調子を狂わせてくれるヤツだ。 天敵というのはこういうのをいうのだろう。 もちろん、殺ろうと思えば殺れる相手だが、顔見るだけで毒気を抜かれてしまうような感じだ。 なんというか、オーラそのものが違う領域で同じ生き物と思いたくない。 「あいつらはどうした?」 「もう行ったわ。この子みたいに何時までも籠の中の鳥じゃないって事ね」 その視線の先には籠の中で包帯を巻かれていたつぐみだ。 笑みを浮かべながら中に手を伸ばすと、つぐみが手の上に乗った。 包帯を外されたつぐみを、ものスゴク輝いた目で猫草が凝視していたので布を被せたが そうしていると、カトレアが窓から手を出し2~3語りかけると、空へと飛び立って行った。 布を被せるのが少し遅れていたら、潰れたつぐみを食べる猫草という、少しばかり精神的外傷を残しそうな光景になっていたので間に合ってなによりだ。 「それじゃあオレも行くか。面倒かけたな」 「ええ。あなたにも、始祖のご加護がありますように」 例の鋭い勘によって出て行く事を分かっていたようで、特に驚きもされなかったが。 「ああ、言い忘れたが、ファッツ(大蛇)は最近食いすぎだ、控えさせろ。チャリオッツ(虎)の毛並みが最近悪いから、一度診て貰った方がいい。それから…」 今まで仕事で世話してきた危険動物達だが、状態はしっかり把握している。 仕事の内容に関しては手を抜いたつもりは無い。 そして、続きを言おうとすると、笑いながらカトレアに止められた。 「やっぱり、あなたの方が上ね。この子達の事はもういいから、代わりにルイズと、その騎士殿の事をお願いするわ」 そうすると、少しばかり真剣な目でカトレアがプロシュートを見つめた。 「あの子、ワルド子爵の件ではもう落ち込んだりしてなかったけど また、あの子の居場所が無くなったら取り返しが付かなくなるような気がするの。だから…」 「あー、分かった、分かった。見れるとこでならオレのやり方で両方纏めて面倒見てやんよ」 無論、本気で見れる範囲内の事でだ。手の届かない場所の事は知った事ではないし 守るよりも攻めを得意とするので、クロムウェル暗殺をやらんといかんなと一層思う。 頭を潰せばどんな生き物でも死に至る。それが例え組織でもだ。 レコン・キスタやパッショーネのような新興組織なら、なおさら頭を潰された時の混乱は大きい。 その隙を付いて麻薬ルートを乗っ取ろうとしただけに現実味がある。 「ったく…にしても人の事心配できる立場じゃねぇだろうが」 本来なら、カトレア自身が身体の弱さから心配される立場だ。 「いいのよ。あの子には先がある。私と違ってね」 そう言って目を閉じたカトレアだったが、それを聞いたプロシュートがカトレアの頭を一発叩いた。 「病人に言いたかねーし、やりたくもないんだが、この際だ。ついでに言わせて貰うぜ。 誰がオメーに先が無いって決めた。医者か?他人に言われて限界決めてんじゃねぇ。どうせなら最後まで足掻いてみろよ」 出来て当然と思い込む。 精神そのものを具現化するスタンド使いにとって大事な事だが、非スタンド使いにも言える事だ。 病は気からという諺もある。 やりもしないでハナっから投げ出すというのは、この男の最も嫌うところである。 しばらく呆然として俯いていたカトレアだったが、いつもと変わらない笑みを浮かべ顔を上げた。 「そうね。見てるだけじゃなくて私も…」 そこまで言ってプロシュートの姿が無い事に気付いた。 寝ている猫草に向けて杖を振ると、鉢が浮きカトレアの腕の中に納まる。 相変わらず、気にした様子も無くゴロゴロと音を立てている猫草を見てカトレアが決めた。 今度、この動けない猫草を自分が連れて街へ出てみようと。 やれるやれないは関係無い。そう思うだけでも十分だった。 プロシュート兄貴―無職! エレオノール姉様―『未』覚醒! 猫草―ヴァリエール家に根を張る 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1933.html
オレは女の笑顔がこんなに怖かったのは初めてだね、マジに。 「さあイルーゾォ、別に怒ってなんか無いの。大人しくして、名前特技その他色々ありったけ全部吐きなさい」 だから杖を向けるなよ、畜生・・・・後ずさるまま部屋の隅まで追い込まれ、もう逃げ道はない。観念するオレ。 (イルーゾォ自身は気づく事すらないが、『コントラクト・サーヴァント』は彼の思考にある程度干渉し、 ことルイズに対し恐れは抱けど実際に拳を振るおう、という気を起こさせない。) ギーシュは(途中から共犯って雰囲気だったくせに!)帰還を喜ぶ恋人に抱きしめられてデレってるし まるっきり誘拐犯扱いのオレをメガネ女は感情の失せた目で見つめ、 反対に褐色肌の方はなにやら熱っぽい目で嘗め回す。(おい、好意的なら助けてくれよ!おいったら!) 「ほらッ!早く言いなさいよッ!!」 「はい!イタリアから来ましたイルーゾォ、特技は鏡の世界を行き来する事、職業は暗殺者です!」 ・・・・。・・・・・・・・。 うわあ、凄く嫌な間。凍った空気。 テンション上げて聞き出した本人はビシッと固まったっきり動かねえし 抱き合う恋人同士は着信中の携帯電話宜しくガタガタブルブル震えだした。 メガネ女は何処から突っ込んでいいやらわかりません、と顔に書いてあるようだし 褐色肌も余りの事に血の気が引いて、肌の色が普通になってた。そんな訳は無い。 やがてルイズがおずおずと口を開く。 「い、今まですみませんでした・・・・殺さないで下さい・・・・」 「いえいえこちらこそ、殺さないで下さい。」 ラチが開きやしねえんだ全く。 「そんで、ええと?オレに何か用だったんだろ」 正直じっとして居たかった所を無理矢理引きずり出され、一刻も早くバックレたいオレとしては この恐ろしい状況をすぐさま切り上げて鏡を探す旅に出るのが最優先。後、シエスタに癒されたい。 冷静に考えれば考えるほどに、向こうとこちらの戦力の差がマジに規格外で、その上わずらわしい事に お向こうさんはオレの千分の一だって頭を使って動いてない。 オレがいくら理詰めで保身のために動いたって、向こうはそんな事意にも介さず力を振るうだけ。 だんだん判ってきたぞ。特にギーシュと十数分づつの格闘と会話を経て、脳の片隅で組み上げる。 こいつらがオレに向ける意思は、『敵意』でも『害意』でもなくただの『圧力』だ。 支配して当然という意思なんだ。 だから今オレが置かれている状況は、例えば『自分のボールペンが机の上から転がり落ちたから拾い上げた』のと同じように 『いないと不便だから、居たほうがいいから捕まえた』と、こういうことだ。 しかし此処へきて、拾い上げたボールペンはボールペンじゃない、って事に奴らは気づく。 もっと血の染み込んだ、鋭いものさ。 皆が次々と使い魔を召還する中、私だけ幾度も失敗する。 まあ、これは普通に予測できた事だ。 召還した使い魔は、なんと人間で、魔法を知らない平民だった。 まあこれだってあるかもね。予測こそ出来なかったけど、十分キャパシティに収まる。 魔法を知らない平民は、けれども不思議な力を使う。 ・・・・これだって。鳥が空を飛べるように、魚が海を泳ぐように、私達に少し難しい事を、平気でやってのける使い魔は少なくない。大丈夫。 使い魔の正体は、暗殺者だった。 もうこれは、どうしようもなく『有り得ない』。 だってまず、暗殺者、って言ったら人を殺すじゃない。 もうそこから駄目。だってね、人前じゃあ絶対にこんな事言わないわ、けれど殺人鬼って言うのは怖い。凄く怖い。 私が貴族で、殺人鬼が平民でも、それでも怖いもの。 人を殺すような奴は、全員牢屋の中にいるべきなのよ。それが秩序ってものなの。 それだけじゃない、しかも『暗殺者』。一人や二人じゃあないぜ!って感じがひしひし伝わってくる。 しかも『正々堂々と誇りを賭けて』みたいな私達『貴族』の考えは全然通じないでしょう、『暗殺』っていうからには。 『貴族』は例え戦争だろうと誇りを持って戦うって私は信じてる。背中からグッサリ、なんてことはあってはならない。 けれど、『暗殺者』だったら違うんじゃあない?どうだろう。今まで知り合いに『暗殺者』がいなかったから、よく判らないけど。 決定的な脳味噌のつくりの違いだと思う。そしてそれは、私にとって完全に『他の生物』と同じぐらいの隔たりを持つ。 私は今まで何回だって『ぶっ殺してやるんだから!』って思ったけれど、 『よし、今から殺す』って言うのは無い。そんな選択肢は無いの。だって人は殺しちゃあいけないもの。 決闘を仕掛けたギーシュだって同じだわ!きっと口ばっかりで、思っても見なかったはずよ。 目の前にへたり込んで『暗殺者です』と言いやがった私の使い魔を見る。 笑っていた。それはもうニヤニヤと。 どうやら『暗殺者』っていうのは本当らしい。私達の心にちょっとずつでも(たくさんって訳じゃないわ!)芽生えた恐怖を すぐさま嗅ぎ取って愉悦をもらす。そう、恐怖するって事は、自分が相手より弱いと認めること。 力ばかりじゃあない、メンタルとか、可能性とかの話。 私達五人がかりで今彼を取り押さえようとしたら、物凄く簡単だ。 でも、その結果の先に『イルーゾォの死』は有り得ない。 私達は殺せない、でも目の前の男は『オレは違うぞ』ってきっと思ってる。 逆に、凄く凄く難しいけれど、イルーゾォは私達を殺せる。その『可能性』がある・・・・ ニヤニヤ笑いは信憑性に直結していた。 「話は終わりか?」 言外に『殺さないさ、そんなに怖がるなよお嬢ちゃん』みたいな含みを感じて悔しかった。 ――――上から押さえつけたから、押さえつけ返される。 じゃあどうするの?ルイズ。 杖を突きつける手が震える。怖かった。使い魔が殺人鬼なんて酷い受難。運命を呪う。イルーゾォの存在を恨む。 私は、私は―――― 「関係ないわ。あ、あなたが暗殺者でも、私は貴方の主人なの。」 言った。 怯えも震えも飲み込んで、きっぱりと言った。『使い魔は主人の言う事を聞け。』従属は私の魔法で決定されている。 だから抗うな。 この選択は褒められたものじゃあない自覚はある。 この使い魔の人格ってものを、踏みにじる結果になるかもしれないけど。 それでも私はイルーゾォを召還して、決めた。何よりも『尊敬に足る主人になる』と。 イルーゾォの顔から笑みは消えていた。冷えた瞳は侮蔑と憎悪を含んで、私を透かして誰かを睨む。 ほら、彼は支配者を嫌っている。 彼はきっと覚えがあるのだ。抗い得ない力でもって支配し、配下の人格を一切省みない『主人』ってものに。 私がやっと成功させた魔法。 呼び出された使い魔は、今までもずうっと誰かの使い魔で、そして主人を恨んでいた。 これは乗り越えるべき試練だ。――――なにも、魔法の力で屈服させようというわけじゃないの。 彼が仕えても構わないと思うような主人にならなくちゃいけない。 『そういう主人』になるには・・・・自分の使い魔を恐れているようじゃいけないと思った。 「ルイズ?」 キュルケが私の背中に声を投げる。 それに続くように、ギーシュもそういう言い方は無いんじゃないか、と言った。 恐れから言っているのか、彼への憐憫で言っているのかは判らなかった。 ――――両方だと思う。 「わかった。仕えろって言うんだな?わかったよ。」 冷えた瞳のままで、彼は無理矢理に笑顔に似たものを作る。ぎちっと軋む音すらしそうだった。 「暗殺者に何をさせる?ああ、前に言ってたな。身の回りの世話だったか。 掃除か、洗濯か、何かな・・・・?どれも得意って程でもない。――――お勧めは暗殺、なんだけど。」 「いらないわ。人殺しなんてもうさせない。」 何故だか漠然と抱いていた、彼と友人同士のように笑いあう未来が、ぱりんと音を立てて崩れる。 私達は、対等になることは決して無い。私がそれを選択した。 (それでも私は、これこそ彼への敬意の現れだと断言できる。) 「明日、外出するから。――――身辺の警護みたいなものだと、思ってくれればいいから――――予定を空けておいて。」 言外に命令であると含ませる。彼はそれを受けて、ふんと鼻を鳴らして頷いたあと、不機嫌に部屋から出て行った。 少なくとも今日はもう彼の顔を見ないだろうという確信がもてた。 「なんでもっと、素直になれないのよ!」 じゃあどうしたらよかったの?キュルケはずるい。手放しで彼のためだけに行動できるんだから。 イルーゾォがもし、キュルケの使い魔なら・・・・その台詞、私が貴方に言ったはずよ!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/412.html
馬に3時間程揺られて城下町に到着した私とペットショップとおまけ一人。・・・・・・3時間も乗っててちょっとお尻痛い しっかし、相変わらず人がいっぱい居るわねぇ。歩いていると肩が人にぶつかって痛い。 数が半分ぐらい減って無くなればちょうど良い具合になるのに。 それにしても・・・・・・ 「ペットショップ?」 さっきからペットショップの様子がおかしい。 後ろをチラチラと振り返って、何か気になるものでもあるのかしら? ちゃんと集中してもらわないと困るわけだけど。 零落れた貴族の中に魔法を使ってスリや強盗の犯罪を企てる社会不適格者が居るから、そんな駄目人間の魔の手が私に伸びないようにしなさいよ!って道中で散々話したのに。 まあ、良いわ。アホ鳥がしっかりしてないなら。私がその分しっかりしてれば良いだけだし。 え~っと、この曲がり角の路地裏だったわね? 変な臭いがするしゴミや汚物が道端に転がってて汚い所・・・・・・平民の中にさえも入る事が出来ない爪弾きに相応しい場所ね。 こんな所に居ると体が腐りそう、とっとと用事済ませなくちゃ。 確か、あの四辻あるピエモンの秘薬屋の近くにあったような。 ・・・・・・後ろをちょっと振り向いてみる。 ニコニコ 奇妙な笑みを浮かべたギーシュが私の後ろに着いて来てる。これなんてストーカー? ・・・・気にしてもしょうがないし、放っとこ放っとこ。 そして前を向こうとした瞬間。 ドン 「気を付けろガキッ!」 小汚い身なりをした男が私の体にぶつかった。 小柄な私はそ衝撃にたたらを踏んでよろける。 痛たた。前見て歩きなさいよね!・・・ン?懐が・・・ 考えるより先に、捨てゼリフを残してその場を去ろうとする小汚い男の指を私は掴んだ。 ポキッ 指が曲がってはいけない方向に曲がり、小枝を折るような音が辺りに響く。 「へぇっ?」 呆けたような声を出す男の顔。 その声に反応する事無く、私は指を引っ張りながら、男の足を蹴り払った。 グルン!ドンッ!ボクン! 面白い程無様に1回転した男は勢い良く地面に叩き付けられ。 掴んだままの手を捻り、足の助けを借りて男の肩を外す。 肩の激痛と地面に叩き付けられた衝撃で息が詰まったのか、ヒュウヒュウと喘ぐ男の無事な方の手から――――私の財布が零れた。 (この肥溜めで生まれた玉無しヘナチンの癖に私の財布を! そのシリの穴フイた指でぎろうなんてぇ~~~~~~~っ!! こいつはメチャゆるせないわねぇぇぇ~~~っ!!!) 貴族様からスリをしようなんて不届き者はどうするべきか? コンマ数秒で行われた脳内会議は満場一致で笑顔の死刑判決。 体格的な問題でアルゼンチンバックブリーガーはできないのが残念だけど その代わりに、ヘドぶち吐けッ!とばかりに即、男の顔や腹に蹴りの連打を見舞った! 何故かギーシュまで参加してるけど関係無いわ!死刑執行! ガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ!!!!! 路地裏に響き渡る破砕音と男の悲鳴。 「ふぅ」 数十秒後、良い汗を拭って何事も無かったかのように歩き出すルイズと従者一人と一羽。 歩き去ったその場所には顔の穴全てから黄色い汁を垂れ流してピクリとも動かない男だけが残った
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1796.html
タルブの村、フーケ=マチルダは花京院と別れた後もそこに逗留していた。 ワルドにつけられた傷は深く、水魔法を日に何度か使っていくことでどうにか完治はしたものの元の状態には戻っていない。 リハビリが終わるまではしばらくゆっくりするつもりだったのだ。 しかし、そんなことを言ってられない事態になってしまった。 ある日のことだった。泊まっている村長の家で身体を動かし、どこにも違和感がないことを確かめていたら、大気を揺るがす爆発音が耳に突き刺さってきたのだ。 直後には地震のような震動も伝わってきた。 これは明らかに自然の現象ではない。彼女は村長たちと一緒に急ぎ外へ出た。 まず視界に入ったのは何隻もの船が落下している光景だった。 山肌にぶつかり黒煙を上げるもの、森に落下し暴虐の火を撒き散らかすもの、様々だったが、共通点があった。 偶然落ちたものではない。落されたのだ。 マチルダにとって予想外であった。ワルドが戦争をもうすぐ起こすといっていたことは覚えている。 しかし、まさか不可侵条約をあっさり破って仕掛けてくるとは夢にも思わなかったのだ。 「村長さん、村人を非難させな」 「ま、まさか、戦争なのですか?」 「そうさ。しかも………あいつらろくでもないことをするみたいだ」 上空から生まれて初めて見るような巨大な船が下りてくる。 それが錨を草原に下ろし停泊すると、何頭ものドラゴンが飛びたちまっすぐ村にやってきていた。 これは戦争だ。それも、相手は条約を破る歴史的に見てもそういない厚顔無恥。 礼儀や配慮など持ち合わせているはずがない。そんなやつが、敵に遠慮をするか? いいや、示威行為として、見せしめとして、盛大な炎を上げるだろう。 マチルダの勘は当たっていた。 ドラゴンは村の上空に飛来すると、家々に火を吹きかけたのだ。 「逃げな! 焼き殺されちまうよ!」 マチルダが叫ぶ間にも火は燃え移っていく。防衛の術がないためたったの三頭で十分だというのだろう。 空飛ぶ相手は厄介ではあるが、マチルダならば相手はできる。 だが、敵はこれだけではない。戦うというのならばその後ろとも事を構えなければならない。そんな覚悟はない。 こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。 そのはずなのに、彼女は杖を持ち走っていた。 村の入り口では男連中が女子供を外に逃がしている。村長からの指示が早かったためにいまのところ怪我人はいない。 転んだ人がいるだけだ。しかし、彼らに向かって一頭のドラゴンが近づき鎌首をもたげ、火を吹いた。 メイジでもなんでもない平民が防ぐことはできない。 が、突然に地が盛り上がり彼らの盾となった。 火は村人に届くことはなかった。 ドラゴンに跨る兵士は背後に振り向いた。そこにはマチルダがいた。彼女が守ったのだ。 「貴様、メイジか」 「そうだよ。まったく、こんなことガラじゃないんだけどね」 「ならば我らレコン・キスタに入れ。貴様の腕なら相当な地位につけるぞ」 ため息をつく。 「あのさあ、なんであんたら馬鹿の一つ覚えみたいにそんなことしか言えないんだい?」 「ほう、何度か言われたことがあるのか。ならば、入るつもりはないのだな? このような状況においても」 マチルダの周囲には、前方のものを含めて三頭のドラゴンがいた。 なるほど、まともに戦って勝てるわけがない。だが、それならまともに戦わなければいいのだ。 マチルダは前に歩いた。 「入ると、決めたのか?」 「んなわけないでしょばか」 ドラゴンが背後からハエのように飛ばされた。村人を救った土、それをゴーレムに変えたのだ。 さらに間断いれずにもう一頭のドラゴンをも殴り飛ばす。 最後のやつは腕の届かないところに逃げ出してしまったが、船に戻すつもりはなかった。 マチルダは燃え盛る家の中から焦げた柱をゴーレムで取り出し、投げつけた。 「おおあたりっと。やれやれ。貧乏くじ引いちゃったわね」 そう言ってマチルダも村から出ようとしたところ、背後から爆発音がした。 自分以外にもメイジがいたのだろうかと思ったが、そうではないと徐々に知ることになった。 爆発は一度ではすまなかった。何度も起こった。マチルダは、それが魔法や自然で起こったものではないということもわかった。 爆発したところからは火も煙も昇ってこなかったからだ。 普通そんなことはありえない。 不審がるマチルダの耳に奇妙な声も聴こえてきていた。 「……………ジャネェー」 人間のものとは思えない、ひどく無機質な声。いや、音というべきである。 マチルダはゴーレムの頭に飛び乗って村を見回し、その声の主を見つけようとした。 一番近い家が爆発した。火は消し飛んだが、そこから彼女のほうに向かってくる小さな物体があった。 それが爆発を起こしたのか、確信はなかったがゴーレムに殴らせた。 つぶれた。そう思った瞬間、ゴーレムの腕が爆発して消えた。マチルダは爆風に飛ばされ地面に降り立った。 「今ノハ人間ジャネェー」 髑髏が付いた走る車、それがその声の主だった。 「……なんだいこりゃ」 それはゴーレムの胴体に突っ込み、圧倒的な質量を持つそれをあっさり爆発させて消し去った。 塵一つ残っていない。 マチルダの背筋が寒くなった。あんなものを食らえばどうなるかわかりきっているからだ。 どうかこっちに振り向かずどっかに行ってくれればと願ったが、そんなわけがなかった。 その子供のおもちゃのような車は彼女に振り向き、走ってきた。 「今ノハ人間ジャネェー」 「―――じょ、冗談じゃないよまったく!」 冗談じゃなかった。マチルダは生まれてこの方、これ以上の恐怖を味わったことがない。 ワルドはまだ人間だった。だから驕りと油断があり、隙を突くことができたのだ。 ところが今回の敵は己の意志というものが存在しない。そのため油断や驕りが生まれることもない。 ただただ自動的に爆破させているのだ。 それだけでなく自慢の巨大ゴーレムのパンチをものともせず、あっさりとこの世から消し去ってしまうほどの能力を持っている。 救いがあるとするならそれは一つ、空を飛べないことだ。 「これで飛行能力までついてたらって考えると、ぞっとしないね」 フライを使い、マチルダは恐ろしい敵から逃れることができていた。 しかし、そいつはマチルダの真下から離れようとはしない。 それを利用していっそアルビオンの船にぶつけてやろうとも考えたが、途中で殺されるか、そうされなくともどのみちなんらかの対抗策を用意されているに違いなかった。 やるだけ無駄である。しかし、ではどうする。 打撃は無意味、かといって魔法を使ってどうにかなるとは思えない。こいつは大火に突っ込んで爆発させまくったのだから。 ……どうしてわざわざ火の中に突っ込んでいったのか。 マチルダは村のことを思い出す。目の前の車は燃えている家を爆発させて回っていた。 それなのにいまはマチルダ自身を追ってきている。人間を狙っている、のは間違いない。 だが、識別する方法は視覚的なものではない。なにか、条件があるはずだ。 そうでなければ、車の近くに落ちたときに殺されている。 なぜあのときゴーレムに向かったのか。なぜ燃えている家を爆破させていたのか。 その理由は―――温度。 ゴーレムはドラゴンの火を浴びて熱せられていた。だから先に向かったのだ。 しかし、答えがわかったところで、どうだというのか。学院の宝物庫に匹敵する頑丈さをどうやって攻略するのか。 いや、それより、どうやってこの状況を脱するのか。 そのうち魔力は切れてしまう。そうなったら………… マチルダが悩んでいると、視界に数十人の軍勢が入ってきた。 彼らは恐らくここら一帯の領主であるアストン伯とその兵士たちだろう。 領土内に侵攻されたので黙っちゃおれんとばかりに出征してきたのだ。 その行為はすばらしいものだ。領民を捨てずに戦いにきたのは。 だが、彼女に言わせれば、それは勇気でもなんでもなく蛮勇である。確実に、死ぬ。 ノミが人間に勝てるか。 彼らはそのままマチルダのほうに近寄ってきた。車は距離があるからかまだ彼女の真下にいる。 「貴女に尋ねるが、村人たちはどうなった」 精悍な顔つきをした男だった。鎧の装飾からして伯爵だろう。 「みんな無事さ。家や田畑はあんなことになっちまったけどね。それより、あんまりこっちに近寄るんじゃないよ。あたしの真下にいるやつが村をあんなふうにしやがったんだ」 正確には違うが、こうでも言っておかなければ不用意に近づいて爆死してしまう。 余波にやられてはたまらないのだ。 ところが、いいのか悪いのか、この伯爵はモットとは大違い。 善人だった。 「わかった。なら、まずは貴女を助けよう」 伯爵がそう言うと、一人のメイジが詠唱を始め、よりにもよってファイアーボールを投げてきた。 突如生まれた高温、車はそれにまっすぐ向かい、爆発した。 「今ノハ人間ジャネェー」 「よ、余計なことを!」 車はマチルダ以外の温度に気づいてしまった。 馬、人間、よりどりみどりだ。 「逃げな! そいつは『ぶっ壊れ』ない!」 せっかくの警告を聞いちゃいなかった。一人の兵士が馬から下りて剣を叩きつける。 しかし、パキンとあっけにとられるほどの間抜けな音を立てて真ん中から折れてしまった。 そして、その無知な兵士はこの世から消えた。 マチルダは即座にフライを切った。すると重力の鎖に絡め取られ落ちていくがその最中に遠くへファイアーボールを投げ込んだ。 車はそちらに向かって走っていく。そして、爆発した。 「なんなのだあれは! 彼は一体どうなったのだ!」 「死んだんだよ。よくわかんないけど、あの車は温度が高いところに走って爆発するんだ。跡は残らない」 マチルダの話を聞いても伯爵はまだ半信半疑だったが、もう一度遠くに火をつけると車はそちらに向かっていき爆発した。 「……何者かの使い魔であるのか?」 「わかんないけど、その可能性はあるわね」 もしくは、花京院と同じスタンドか。これならもっと話を聞いておけばよかったと考えかけたが、いまはそんな場合ではなかった。 車は彼女らの方向に走ってきている。 また遠くに火を点けて遠ざける。 「尋ねるが、村人たちはいずこに」 「南の森。そっちに避難しているよ」 「そうか。皆のもの、あの魔物は私が引きつける。その間に村人たちを館へ誘導しろ」 「……正気かい?」 「無論。こういうときに殿を勤めるのがメイジである。貴女は逃げても構わんぞ」 「そういわれてハイハイ逃げられたらいいんだけどね」 「人がいいな。『土くれ』のフーケよ」 「ばれてたのかい。まったく、こんなのあたしのガラじゃないのに。 なんでこうも貧乏くじを引かされるのかね!」 マチルダはあちらこちらに火をつけて兵士たちのために時間を稼いだ。 アストン伯も協力してくれるが、いつまでもこんなことをしていられない。 そのうち精神力か体力が尽きてしまい世界からさよならだ。 「案はあるかい?」 「ある。極々簡単な方法がな」 「マジで? じゃあやってみなよ」 アストン伯は短く詠唱すると、車の前方に水を生み出した。そして、衝突した瞬間、がちがちに凍らせてしまったのである。 車はごろごろと残った勢いで転がったが、爆発するようなことはなかった。 マチルダは恐る恐る触れてみても分厚い氷に覆われているせいか爆発はしない。 たぶん、標的を抹殺するためにある程度近づく必要があり、それを温度で確かめるのだが、氷に覆われているためそれを感知できないのだろう。 「……機転が利くじゃないか」 「お褒めに預かり光栄だ。しかし、なにもかもが遅かったようだ」 二人の視線の先には、陣を広げ始めているアルビオンの軍隊が見えた。 元々数十人の軍勢など歯牙にもかけていない。使い魔かなにかがこのような事態になろうとどうだっていいのだ。 「一泡、吹かせてやりたいもんだね」 「まったくの同感だ。彼奴らは、罪なきものたちの命を軽々と奪おうとしたのだ。 貴族ではない。もはや蛮族である」 「ともかくいまは待ちだね。それしかできない」 「うむ。貴女も館に来るといい。どうせ盗むものは何もないが気落ちしないでくれたまえ。 いや、一つあったか。ものではないがな」 王宮ではレコン・キスタの侵略戦争に対して会議が進められていた。しかし、まったく進むことはない。 ただ情報が真偽に関わらず飛び交っているだけに 過ぎず、参加している誰もが内容を把握し切れていなかった。 確かなことは戦争が始まったこと、王女の婚姻が延期になったこと。 たったの二つだった。 その騒々しい会議室から離れた宮廷の中庭では、とうに魔法衛士隊が出陣の準備を終えていた。 ただ、状況が状況だけにすぐさま出ることはできないということを面々はわかっていた。 これがもし、周到な準備をしてからの『正々堂々』とした戦争であれば話は違っていただろうなと衛士の一人であるアニエスは思っていた。 そもそもグリフォン隊の隊長が裏切り者だと判明してからまだ半年もたっていない。 混乱は表面上治まっているに過ぎず、部隊の再編成はまったく進行していない。そこへ狙ったかのように、いや、狙って戦争だ。 このまま反抗せずに降参という可能性もある。 「困ったものだ。なあ、4」 『腹減った。干し肉くれ』 アニエスはため息をつき、話し相手の小さな人間らしきものに小さく切り分けた肉を与えた。 彼か彼女かの額にはあるルーンが刻まれており、見た目は使い魔のようであるため彼女は一応貴族連中に混じって隊に入ることはできた。だが、所詮平民であることには変わりない。 彼女は常に最前線で命を張らなければならない。 『さっきの話だけどよぉー、アニエス、たぶんお前の心配は無用だぜ』 「なぜだ?」 『そりゃあお前が不吉だからだよ。俺がついているんだぜ。安全なんてものとは程遠いさ。 なにせ、元の主人つうか本体だかいうやつはその不吉を嫌って俺を認めなかったぐらいだからな』 4は腹を抱えて笑った。 『ほれ見ろ。姫様がでてきたぜ』 彼の言うとおりだった。王女は中庭に出てきて出撃を伝え、自らもユニコーンに跨った。 『やっぱ俺がついてるから不吉だな。今度ばかりは死ぬかもしれないぜえ』 「死なない。死ねないからな」 ルイズはンドゥールと学院の玄関先で王宮からの馬車を待っていた。アンリエッタの結婚式に出るためである。 ちなみに、いまだに詔は完成していない。 はっきり言うと才能がないというのもあるがンドゥールが旅立ってから数日前、あの夜が明けるまですっかり忘れてしまっていたからだ。キュルケやギーシュには呆れられてしまい、それでも即興でなんとかしようとしたがどうにもならなかったので王女の側近であるマザリーニに助言を頂こく腹積もりであった。 しかし、それも結局無駄なことだった。 ンドゥールがピクリと妙な動きをした。ルイズがどうしたと尋ねる前に彼は地べたに座り込み、杖を耳に当てた。 「……なにか聴こえるのね」 「…………馬車が来るのであったな。ルイズ」 「ええ、そのはずよ」 「いま来ているのは馬一頭だ。それもなんらかの、喜ばしくない事態を伝えに来ている。限界以上の速度を出しているために馬が疲弊しているのが足音でわかった」 ルイズは目を細めて遠くを見やった。その数分後、彼の言ったとおり早馬が駆けてきた。乗っているのは服装から王宮のものであった。 その人物はルイズたちの前で馬を止めると焦った口調で学院長の居室を尋ねてきた。 教えられると一目散に走っていく。 「なにがあったのかしら。ンドゥール、聴ける?」 「ああ、できる。サイレントとかいう魔法は使う暇もないだろう」 それからしばらくし、ンドゥールはルイズに語った。 「宣戦布告、だそうだ。アルビオンが不可侵条約を破り攻め入ってきた。現在、タルブが占領されているそうだ」 シエスタの故郷であるとンドゥールは教えてやった。 「村は全焼だが村人は全員無事だが………そこに陣を張りラ・ロシェールで軍同士がにらみ合っているとのことだ。準備が早かったのか制空権を取られて難儀しているらしいな」 「つまり、戦争が始まった、のよね」 「そうだ」 ルイズはそれを聴き、頭が真っ白になってしまった。また戦争、また人が死ぬ。どうしてもアルビオンの人たちを思い出してしまう。 「なんなのよあいつら。なんでそんなに戦争が好きなのよ。なんでそんなに奪いたいのよ」 「さあな。よほど不足なのだろう。だから戦争など仕掛けるのだ」 ンドゥールが歩き出した。そのあとをルイズがついていく。 「どこへいくの?」 「花京院を起こす」 そう言って、彼が向かったのはコルベールの研究室であった。 花京院はそこで寝泊りしているのだ。 いきなり起こされすこし不機嫌であったが、事情を聴くと花京院ははっきり目が冴えたようだ。 すぐさまコルベールを叩き起こしてゼロ戦を動かせるようにしてもらった。 ガソリンをゼロ戦に注いでいる間にルイズが二人に尋ねる。 「これで、どこにいくつもりなの?」 「タルブの村だ。そうだろ?」 「ええ。なにせこのゼロ戦は譲り受けたとはいえ、あの村に骨をうずめた佐々木武雄さんの誇りであり魂だったんです。助けにいきますよ。君はどうするんだい?」 「シエスタには恩を受けている。命の、というわけではないが、放っておくわけにもいかん。 それに、あの村にはフーケだったかマチルダもいる。俺はアルビオンであいつに助けられ……てもないな。もともとあの場に残ったのはあいつが原因だったか。それでも、指を奪っておいてなにも復讐をされなかったのでな、ついでに助けにいくか」 「彼女はついでか。サポートはしてくださいよ。毎日操縦法を教えられていてもぶっつけ本番なんですから」 「わかっている」 二人はゼロ戦の風防を開いて乗り込もうとしたのだが、ンドゥールのマントが弱い力で引っ張られた。 「私も連れて行きなさい」 ルイズだった。 「……詰めれば三人で乗れるんじゃねー? ああ、久しぶりの発言がこれか」 なにかを諦めたような口調でデルフリンガーが言った。それはその通りではあるが、行き先に問題がある。 「なにをしにいくのかわかってるのか?」 「わかってるわ。わかってるからいくのよ。それに、あんたは私の使い魔。目の届かないところで勝手をされるわけにはいかないもの。それに、なんだかね、こう、根拠はないけどいけそうな気がするの」 「まあいいんじゃねお二人さんよ。嬢ちゃんが危なくなるような事態になったら相棒が責任もって守ればいいんだし」 「そうですね。大体危なくなるっていうときは僕たちも危ないんですから。 それじゃあ乗ってください。一度、元の場所で飛行機が墜落したことがあるので祈っててくださいね」 花京院が冗談気味に笑い操縦席に座った。その背後、元々無線機が詰め込まれていたスペースにンドゥールとルイズが座った。クッションが敷かれてあった。 それは、いつか二人でどこかに飛び立つからだろうとルイズは思い、少しだけ苦しくなった。 コルベールが前方から風を吹かせる。花京院は慎重にだが適切なスピードで作業をすすめていく。 ここ数日、彼は学院に来てからンドゥールに付きっ切りで操縦法を教えてもらっていた。 何度も何度も繰り返し行ってきた。 間違いはない。 ゼロ戦は、いま、再び空へと駆け上る。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/936.html
食事が終え、おのおの休憩を取り始める。 衛兵の仕事は、当番制だ。 次の当番時間は夜になるということで、一同は仮眠を取るため、奥の寝室へと消えていった。 僕だけは、皆が起きてくる頃には授業も終わっているため、今日の分の衛兵としての仕事はこれで終わりだ。 掃除ぐらいしかした覚えがないのだが。 だったら、別にここに授業が終わるまで居続ける必要もないだろう。 というか、血管針カルテットには悪いが、あまりこの悪臭漂う部屋に長居はしたくはない。 一応、ルイズの従者ということにもなっているので、今、中庭を歩いても咎められはしないだろう。 今の内に、貴族達の顔を覚えておくのも良いかも知れない。 「それでは、僕はヴァリエール嬢の護衛に戻ります」 「おう……。胸当てだけは外しとけよ……」 「それと……槍の整備も忘れるな……」 そういって、彼らは仮眠室へと消えていった。昨日の騒ぎの収拾で、一睡もしていないらしい。 僕は言われるがまま、胸当てを外して、元あった場所に直しておく。 槍も邪魔なので片づけたいのだが、備品は自分たちで整備しなくては成らないらしい。 仕方なく、これは持っていくことにした。 屯所の壁にかけておいた学ランを羽織り直し、中庭へと出る。 遠目に、貴族共が談笑しているのが見えた。 どうやら食事後のティータイムと決め込んでいるらしい。 僕はその中に、見知ったピンクの髪の少女を見つけた。ルイズだ。 朝のおっぱい……じゃない! …赤い髪をした女性も一緒だ。 そしてもう一人、見たこともない、青い髪のちびっ子が見える。 様子を見ながら、少しづつ近づく。 「ああもう! ほんと腹立つわね! 大体なんなのよ、その子!」 「あたしの友達よ。使い魔の儀式で風竜を呼び出したのよ? まともに契約も出来ない誰かさんと、ち、がっ、て」 「な、ななななんですって~~~」 「あ~ら、やる気?」 どうやら赤髪の女性とルイズが、なにやら言い争っているらしい。いや、ルイズがからかわれているといった方が正解か? ちなみにちびっ子の方は、黙々と本を読み続けている。 っと、ついに互いに杖を抜きはなってしまった。 ほっといて、沈静化する様子はない。 少し注意するか。 「ッ!?」 止めに入ろうと近づいて、ようやく気がついた。 ルイズ達のテーブルに、サクランボが山盛りになっている。 ルイズにいえば、一つぐらいくれるかも知れない。 いや、今は弱みを見せてはマズイ! つけ込まれるッ! いや、僕にはこの『ハイエロファント・グリーン』があるッ! コイツを昔のように誰にも気づかせなくしてやる。 そう! サクランボをとって、舌の上で転がすため、完璧に気配を消してやろう! 少しづつ、サクランボに向けて、僕のハイエロファントグリーンをほどいていく。 確実に手に入れるため、一瞬で、しかもひっくり返さずに手元まで持ってこなくてはならない。 ならば、このハイエロファントで作った網で、マグロを捕まえるみたいに一気に引き上げる! しかし、注意をサクランボに向けすぎたのがまずかった。ちびっ子が杖を抜いたことに気がつかなかったのだ。 後少しでサクランボに手が届くという所で、急につむじ風が吹いた。 つむじ風は、ルイズとキュルケの杖を吹き飛ばした。ついでにサクランボの籠もひっくり返された。 「今は休憩中」 見ると、先ほどまで黙々と本を読んでいたちびっ子が、杖を片手にこちらを向いていた。 どうやら今の風は、この子が放ったようだ。余計なことをッ! 落ちたサクランボに目をやる。全て、今の風でつぶれてしまっていた。 オロロ~ン。 「っと」 風で吹き飛ばされた杖が、こちらの方へと舞ってきた。 僕はそれを二杖とも受け止める。 「あら?」 「あああ、あんた……いつからそこに」 「今さっきですが」 二人とも、僕の姿に気づいたようだ。ちびっ子の方は未だ、興味なさ気に黙々と本を読みふけっているが。 ともかく、僕は両手の杖を二人へと返した。 「あら、ありがと」 「……」 ルイズは僕の右手にあった杖をふんだくるやいなや、僕に対して一気にまくし立ててきた。 「あんたいったい何なのよ! 使い魔召喚の儀式で平民を呼びだしたと思ったら突然暴れて逃げていくし! 仕方なく追いかけて使い魔にしてやろうと思ったらその……キ、キスも避けるし! 前髪は鬱陶しいし! あげくスタンド使いとか訳が分からないこと言い出すし! ほんとなんなのよ、もう!」 好きなだけまくし立てて、荒々しく肩で息をし出すルイズ。 横にいた赤髪の女性は目を丸くしている。 ちびっ子の方も、本から顔を上げてルイズの方を見ている。もっとも表情は変わっていないが。 頭に血が上ることが多すぎて疲れたのか、ルイズはドカッと、荒々しく近くの椅子に座り込んだ。 そしてテーブルの上のケーキをヤケ食いしだした。 それでも、ちゃんと切って食べているのは、教育のたまものなんだろう。 「?」 なにやら、あっちの方の席が一気に騒がしくなった。 「何があったのかしら?」 ルイズは我関せずといった調子で、未だにケーキを食べ続けている。既に3個目だ。 と、見覚えのある格好をしたメイドが、こちらに向かって走っている。シエスタだ。 シエスタはひどくおびえた様子だ。 その様子が気になった僕は、走っていくシエスタの肩を押さえて、事情を聞く。 「シエスタ、何があったんですか?」 「は、離してください!」 いきなり呼び止められて、ひどくおびえた様子のシエスタだったが、何度か深呼吸をさせ、落ち着かせる。 僕は改めて、事情を聞く。 「それで、何故あんなに慌てていたんですか?」 「そ、それが……。才人さんと、グラモン様が決闘を……」 ガタン 誰かが立ち上がるような音がする。 見るとルイズが口元を押さえて、立ち上がっていた。 何か言いたそうにしているが、口の中にケーキが残ったままで喋るのはプライドが許さないようだ。 ともかく、僕はシエスタから、事の詳細を聞く。 「……それで、才人さんが持っていた香水が元で、グラモン様が激怒なさいまして、そのまま決闘ということに…」 どうやら才人が持ってきた香水で、その持ち主の二股がばれて、逆切れ、決闘という運びになったらしい。 その相手というのは相当、どうしようもない奴だな。 ソイツの事はともかく、これはまずい。 ルイズの話によると、貴族は悉くメイジだという。 昨日暴れた時に、こちらに火の玉等を飛ばしてきた奴らを思い出す。 僕は退けることが出来たが、才人にそれが出来るか? 無理だ。そもそも運動神経でさえ、僕に負けている。 生身でどうこうなる相手じゃない。 才人は僕にとって、真の友か? 答えはNOだ。彼には僕のスタンドは見えない。僕という像が見えていない。 けれども友人か? といわれればYESだ。 見捨てられる訳がないッ! 以前の僕なら考えもつかなかった。だが今の僕は、僕じゃない僕を通して、仲間というものを知っている。 もう二度と、ひとりぼっちの花京院典明には、絶対に戻らないッ! 「すみません、シエスタ。その広場というのはどっちでしょうか」 「そこのアーチをくぐった先ですけど…… だめです! 殺されちゃいます!」 シエスタが引き留めようとする。 しかし、僕はそれを振り切って、そのアーチに向かって走り出した。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/772.html
「言ってる事は……よくわかったよ… だけどはっきり言わせてもらう…」 ”彼”、いや…『パンナコッタ・フーゴ』の顔には興奮気味なのか 玉のような汗が浮かんでいるし、唇もブルブル震えている。 目も躊躇いがち。心ここにあらずと言った様子だったが ついに決心した彼は、目の前の少女と向かい合って叫ぶ。 「ど~して!ぼくが君の下着を洗わなくちゃならないんですかーッ!?」 彼の手には小さな布が握られていた…。 『紫霞の使い魔』 第二話 【使い魔フーゴ;主人からの第一指令】 「やっぱり理解してないんじゃないの!?案外頭が鈍いのね、あんた!」 ネグリジェ姿のルイズがベッドに腰掛けて 怒鳴り散らす。 「わかっていますよ!ここがぼくの居た世界じゃないことは!」 フーゴの指さした先には地球ではありえない『二つの月』…。 しかも、『草原』においても人が宙を浮く様を見せつけられてしまったのだ。 無いと信じていた『鏡の世界』に引きずり込まれたこともあったので ここが『魔法の世界』だと認める事はできた。受け入れたくはなかったが…。 「あんたのいう『ぼくの居た世界』のほうがわからないけどね…。 ま、いいわ。続けなさい…」 上から見下すような態度に心の天秤が傾くが、まだ耐えられた。 「それでっ!貴女達が『魔法使い』だという事も! ぼくが『使い魔』になったのも 帰る方法も無いことも、理解できました!!」 彼の『左手』には奇妙な文字が描かれていた。契約の印『ルーン』。 『珍しい形』といわれたが、そんなことは些細な事。 ”フーゴ”が”ルイズ”の『使い魔』になった証であることが重要なのだ。 使い魔は死ぬまで変えることができない。 つまり、彼が帰れるとすれば『物言わぬ屍』になってから…。 帰還計画は遙かに絶望的である。 「なーんだ。よくわかっているじゃない…。偉い…偉い…」 やるきの欠片もない、だらけた拍手を送るルイズ。 送られた方のフーゴは当然イイ気がするわけない…。 その証拠に、こめかみがピクピク動き始めている。 「けれども!何でそれが君の洗濯物を洗うことになるんですか!!」 しかし、理性が必死に殺意を押さえてくれたおかげで 『まだ』会話を続けることができた。 「そこまで解っていて何で『消去法』ができないのかしら?」 ルイズは、『やれやれだぜ…』と言いたげな様子で指を折り曲げながら話し始めた。 「あんたみたいな露出狂じゃあ 1,『主人の目となり耳となること』はできなかったし 2,『主人の望む物を探してくること』もできそうにないし 3,『主人を敵から守ること』は絶対不可能だわ! というよりもそんな格好しているあんたの方が 圧倒的に『女性の敵』よッ!この変態男!」 フーゴの手が痙攣でも起こしたかのように震え始め、 その閉じられた口の裏で、歯が両顎に押しつぶされかけながらも 彼はじっと耐えて聞いていた。 「そんなあなたでも掃除、洗濯みたいな雑用ぐらいはできるでしょ! それぐらいやって貰わなくちゃ、わたしが困るのよッ!」 突然だが、時限爆弾が目の前に置いてあると仮定してほしい…。 そこには お決まりの『赤』と『青』、二本のコードがある。 残り時間は刻一刻と削られていく…。 早くどちらかを切らなければならない。 普通は爆破コードがどれなのか不明なのだが 今回はわかっている! 『赤』を選べば爆発し、『青』を選べば爆弾解除。 そう聞けば、大体の人は『青』を切るだろう…。 でも自分が『狂気の爆弾犯』だとしたら…? 『切れ!』というのならば当然『赤』を切るしかないッ! 己の中の殺意が囁くままに… そう!『いつものフーゴ』ならば間違いなく『赤』を選ぶはず! だが彼は… 「り…了解しました…。ご主人…様」 『青』を選んだ! (そうだ…耐えるんだ…。元の世界に戻るとしても! このままこの世界に残るとしても! しばらくはここで生活していくしかないんだ…。そのためにも この『忌まわしき自分の欠点』は乗り越えなければならないッ!) 「やっとわかったようね…。」 ルイズが優越感に満ちた笑みをうかべた。 「じゃあ洗濯物はまかせたわ。 あんたの寝床は…この毛布で充分ね。 あと、朝はちゃんと起こすこと!いいわね!」 「…了解しました」 その言葉を聞き、ルイズは満足げにベッドに潜る。 彼女が小さな指をパチンと鳴らすと、辺りは闇に包まれた。 フーゴも毛布を被って床へ横になり この昂ぶった心を落ち着ける事にした… が、無理だった。しばらくすると『怒り』は収まりつつあったが 代わりに『不安』という感情が浮かび上がってきた。 自分のことではなく、仲間に対する『不安』…。 彼らには『亀』があるが、敵に見つからないという保証は …無い。今も危険と隣り合わせで過ごしているのだ。 果たして、今も無事でいるのだろうか? そう考えると異世界にいるとはいえ…いや、絆を断ち切ったといえ 『平和な夜』を過ごしている自分が嫌な奴のように思えてきた…。 ふと、ベッドの方を向くと『新しいボス』が寝息を立てているのが見えた。 まだ中学生くらいなのだろうか?とても小柄で華奢な体つきをしている。 もはや彼女への『怒り』は湧いてこなかった…。 彼女にしてみれば召喚されてきたのが『ただの人間』だったのだ。 機嫌が悪いのも仕方がないことだろう…。 そもそも初めて出会ったばかりで、うち解けあうほうが無理な話。 こういうのは少しずつ分かり合っていくものだ。 (『死』か『殺』の狭間で悩んでいたぼくに この子は『生』の道を開いてくれたのだ…。 この世界で新たな繋がりをつくっていくためにも! そして、この『新しいボス』から『信頼』を得るためにも! 『使い魔』として、できる限りのことをしよう…!) そう考えたフーゴは暗闇の中から起きあがり、洗濯物を抱えて部屋を後にした。 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1550.html
二回目の決闘騒ぎを無事に潜り抜けたジョセフだが、今も現在進行形で危険が迫っているのを忘れてはいない。 アルビオンの貴族派が自分達の任務を把握しており、その妨害の為に動いている事。ラ・ロシェールの傭兵達が自分達を襲ってきた事。ワルドは任務以外に何らかの目的がある事。 十中八九、ワルドは裏切り者か内通者のどちらかであろうという事。 しかも旅の仲間全員にその事実を教える訳には行かないというのが、またも心労の種でもある。 ルイズに教えれば、隠し事や曲がった事が嫌いな彼女のことだ。真正面からワルド本人に問い質しに行くだろう。ギーシュは口が軽い、下手に教えればいつ漏らすか判ったものではない。 だがこの一行が命の危険に晒されているというのは変えようのない事実である。護衛対象に護衛されている事実を伏せたままの護衛という難易度の高い任務を前に、ジョセフは一つの答えを出した。 決闘以後どこかに行ってしまったワルド抜きでの食事を終えたジョセフは、部屋に戻るとルイズにやおら切り出した。 「なあルイズ。どうせ今日一日時間があるんじゃし、ちょっと字ィ教えてほしいんじゃよ」 「字? アンタ、普通に会話出来てるじゃない」 「いやぁ、話す分にゃ問題はないんじゃが読み書きが出来んのじゃ。これから先、字が読めたりせんと不都合もあるだろうしな」 「うーん、そうねぇ……」 その言葉にルイズは少し考える。ジョセフの言う事は尤もだし、教えることも吝かではない。だがやはりワルドの事が気にならないと言えば嘘になる。すぐにうんとは頷けない。 だがそんな反応はジョセフには予想内の反応である。 「ああ忙しかったらいいんじゃ、キュルケかタバサに教え――」 「いいわッ! 教えてあげるッ! 平民が貴族に教えを請えるだなんて滅多にないことなんだから心して拝聴するのよッ!」 二人の名を出した瞬間に態度を豹変させる主人の反応に、ジョセフはニカリと笑った。 (まあ何と言うか判りやすいと言うか単純と言うか) と言う訳で二人はラ・ロシェールの書店に出向き、ジョセフが傭兵達から巻き上げた金で何冊かの初歩的な文法などが乗っているトリステイン語の教本と紙束を買って来ると、改めて部屋でルイズの授業が始まった。 だがここで問題が少し発生した。 ルイズはどちらかと言えば厳しく教えるタイプで、ジョセフは努力とか頑張るとか言う言葉が一番嫌いなじじいだったのだ。 始まって一時間もしないうちにルイズの怒声が何度か響き渡ったが、それでもジョセフは少しずつだが着実に字を学んでいった。ひとまずトリステインで使われている字を書けるようになり、発音もおおよそ出来る頃になった時には既に日は傾いていた。 中庭では見事主人に追いついたヴェルダンデがギーシュに熱い抱擁を受けるのもそこそこにどばどばミミズをたっぷり食べてるのを見下ろしながら、二人は夕食前のティータイムを楽しんでいた。 「けっこう覚えが早かったわね、この分ならすぐに簡単な本程度なら読めるようになるわ」 「元の世界で使ってた言葉となーんとなく似てるからな。英語とフランス語くらいしか違わんかったような感じじゃよ」 湯気の香る紅茶を飲みつつ、ジョセフは微かな違和感を感じていた。まるでコーラの炭酸がいつもより抜けているような、そんな些細な違和感。 だが些細過ぎた為、(ま、気のせいだろなあ)で終わってしまったのだが。 「さ、夕食までまだ時間があるわ! せっかくだからこの童話の本くらいは読めるくらいにならないと!」 と、物を教える喜びに目覚めたらしいルイズは意気揚々と本を広げ、ジョセフに渡す。 「うはァ、もう今日のところはこのくらいで勘弁してくれんかのォー」 「ダメよダメ! こういうのは一気にやっちゃった方がいいんだからッ!」 教え方の違いはあれど、かつてエリナお祖母ちゃんに厳しく歴史と国語の授業を教えられてる時の気分を久しぶりに味わいながら、ジョセフは諦めて音読を始めた。 めでたく本を一冊読み終えた直後にキュルケが明日の出発の前祝いだと宴会に誘いに来たが、すぐにも駆け出そうとしたジョセフの襟首を掴んだルイズが一方的に断ってしまった。 「ダメよダメ! まだ任務中なのに酒盛りなんてもっての他だわ!」 言われてみれば非常にもっともな意見である。王女殿下から直々に受けた任務中に騒いでいられるか、という言葉の何処に反論出来るだろうか。 「えー……、ご主人様、今日一日頑張ったんじゃしちょびっとだけでも……」 と、ジョセフが恐る恐る機嫌を伺ってみたりするが。 「ダメったらダメっ!」 ルイズの有無を言わせない断言に、諦めざるを得なかった。 「じゃあしょうがないわね。来たくなったらいつでも来なさいよ?」 キュルケもルイズとの付き合いは長いので、ルイズがこう言った時には妥協点がないということもよく知っている。ここで押し問答をしていたら宴会に参加できる時間が少なくなると判断したキュルケはあっさりと引き下がった。 「ああ……ちょっとくらい飲みたかった……」 がっくりと肩を落とすジョセフに、さすがにルイズもちくりと罪悪感を持った。 「……しょうがないわね、じゃあ部屋にボトルと料理を持ってこさせるから。それ以上はダメよ」 今までの落胆から一気に機嫌を上昇させたジョセフにやれやれと苦笑を浮かべながら、ハンドベルを鳴らして呼び出した使用人に用件を言いつけた。 「ああ、朝からずーっと勉強漬けじゃったからなァ~~~~。こりゃ料理もワインもうまいじゃろうな」 大きく伸びをして、凝り固まった気分を解消していく。 「このくらいで弱音吐いてどうするのよ。私なんか毎日このくらい勉強してるのに」 「年取ると勉強するだけでも大変なんじゃよ」 互いに減らず口を叩きながら、ふと窓を見やったジョセフが目を擦った。 「……おや? 月が見えんぞ……かすみ目か?」 窓の外で煌々と光っているはずの月が、全く見えなかった。まるで何か巨大な物体が月を隠しているかのような状態だ。 「もう情けないわねジョジョ、いくら年寄りだからって……」 ジョセフの言葉につられて窓を見たルイズも、同じように目を擦った。 すると月明かりをバックに、巨大な影を形作っていた輪郭が動く。目を凝らして見ればそれは巨大なゴーレムだと判り、すぐさまゴーレムを操る主に行き当たった。 「フーケかッ!!」 巨体ゴーレムの肩に立った人物は、長い髪を風にたなびかせながら、自らの名を呼ぶ二人に笑みを見せた。 「感激だわ。覚えててくれたのね」 「盗人稼業の次は傭兵か。もうちょっとまともなシノギをするべきじゃな!」 ジョセフはデルフリンガーを構えながら、ニヤリと笑う。 フーケはその言葉に、ギリ、と歯噛みした。 「誰のせいでこうなったと思ってるんだいッ!」 「お前のせいじゃろが、『土くれ』のフーケよ。自分のミスを人のせいにするなら、所詮貴様は他人に左右される程度のマヌケな人生だったってこったッ!」 更に目を凝らしてよく見ると、フーケの隣に黒マントと白仮面の貴族が立っていた。傭兵達を雇ったのはこの貴族のことだろう。喋るのはフーケに任せているが、体付きからしておおよそ男のはず。相手の実力がわからない以上、闇雲に攻撃を仕掛けるのはリスクが高い。 ジョセフはすぐさま判断すると、怒り狂ったフーケがゴーレムの腕を振り上げさせたのを横目に、ルイズを抱き抱えてすぐさま部屋を飛び出した。 後ろでベランダを叩き壊したらしく轟音が響き渡ったが、それを見ることもせず一階へと駆け下りる。だが一階も既に戦場となつており、ジョセフは小さく舌打ちした。 キュルケ、タバサ、ギーシュ、夕食には戻ってきたらしいワルドが魔法で必死に応戦しているが、多勢に無勢の言葉そのままに苦戦しているようだ。宿の外に陣取っている傭兵の数と言ったら、ラ・ロシェール中の傭兵をかき集めてきたのが明白すぎる数だった。 床と一体化していたテーブルの脚を折って盾にしているものの、傭兵達はメイジとの戦いに慣れているようで、しっかりとキュルケ達の魔法の射程を見極めた上で射程外から弓を射掛けている。 しかも暗闇を背にしている傭兵達に地の利があり、屋内の迎撃部隊には分が悪い。 ジョセフはデルフリンガーを振り回して飛び来る矢を切り払いながら、素早くキュルケ達の陣取るテーブル裏へと飛び込んだ。 「おう。なかなか苦戦しとるようじゃな」 「見ての通りよ、大変だわ」 軽口を叩き合うジョセフとキュルケ。 他の貴族達は突然の襲撃に、カウンターの下に逃げ込んで震えているだけだ。 戦力になるとは期待していなかったが、予想通り過ぎるのもつまらない。 「やっぱり来るとは思ってたけれど、なかなか盛大な歓迎だわね」 キュルケの呟きに頷いたのは、ジョセフとタバサだけ。残りの三人はその言葉に息を呑んだ。 「そ……それはどういうことだいミス・ツェルプストー!」 ギーシュが血相変えて詰め寄るが、キュルケは事も無げに返事した。 「あのねぇ、崖の連中がただの物取りなはずないでしょ? ちょっと考えれば判るわ」 尋問した張本人は、言葉を返すことも出来ずがくりと肩を落とす。 「フーケがおるッつーことは、アルビオンの貴族がバックにいるんは決まりじゃな」 石のテーブルに矢が降る音を後ろに聞きながらも、ジョセフは普段の調子を崩さない。 「彼らは断続的に魔法を使わせ、精神力が無くなった所で突撃する戦術と予想。私達はどう対処すべきか考えなければならない」 タバサの言葉に、ギーシュは杖を持つ手を震わせながら言った。 「僕のゴーレムで防ぐよ」 「ムリじゃな。青銅じゃちぃと剣や矢を受けるには柔らか過ぎる」 ジョセフの言葉に、ギーシュはムキになって言い返した。 「やってみなくちゃ判らないじゃないか!」 「ギーシュよ、その言葉には二つの意味があるな。やってみなくては結果がどうなるか判らないのか、判りきった結果でもやってみなくちゃ判らないのか。今のお前の言葉は後者の方じゃぞ。ちったぁ頭冷やせッ」 有無を言わさずのゲンコツに、ギーシュは頭を抱えた。 「トリステインの貴族は口だけは勇ましいんだから。勇気と蛮勇の違いくらいいい加減辞書に載せてもらいたいものだわ」 溜息混じりに言ったキュルケの言葉に頷いたのは、タバサとジョセフだった。 「――いいか諸君」 ワルドが低い声で言い始めた言葉に、ひとまず耳を傾ける一行。 「このような任務は、半数が目的に辿り着けば成功と「却下」」 ワルドの言葉を、ジョセフが一刀両断に切って捨てた。 「わしが向こうの親玉なら、傭兵どもを見せ札にした上で逃げ道を作る。そして馬鹿面晒して逃げてきたのを、待ち伏せさせている本命の部隊でとどめを刺す。戦力分断の愚で大敗晒した連中なんぞ歴史ン中にゃ掃いて捨てるほどおるわいッ」 こんな時でも優雅に本を広げているタバサは、まだ本から目を離さずに頷いた。 「こういう時ゃ逆転の発想じゃ。ここで傭兵どもをブッちめて、全員で堂々と動く。見せ札の後ろにもう一枚抑えのカードを用意できるほど、アルビオンの貴族派連中はオツムが宜しくないようじゃからなッ!」 ギーシュとルイズはワルドの言葉とジョセフの言葉の間でまだ迷いを捨てきれなかったが、キュルケとタバサはジョセフの言葉にすぐさま賛同した。 「私はダーリンにベットするわ」 「私もジョセフの意見に賛成する。ここで私達の戦力を分断させればそれこそ向こうの思う壺」 半数の意見が『全員で迎撃』という意見に転がった直後、ジョセフは間髪入れずギーシュに言う。 「ここでヌーベルワルキューレじゃ! 目には目を、矢には矢を、じゃ!」 「だがジョジョ! 向こうは顔を出したところに矢をすぐ射掛けてくるんだよ!?」 「なぁに、こういう時にはこういう時なりの手段がある。とりあえず作ってくれ」 と、ギーシュから続いて女性陣三人に視線を移した。 「誰か鏡持ってないか? 手鏡でいいんじゃが」 「それなら私が持ってるわ」 と、肌身離さず持っている化粧道具の中から手鏡を取り出すキュルケ。 「うむ、それで十分じゃ」 満足げに頷いたジョセフの横で、ヌーベルワルキューレが錬金される。 「さあ作ったよジョジョ! なんならもう一体作ろうか!」 半ば自棄気味に怒鳴ったギーシュに、ジョセフはボウガンに弦を装着させて事も無げに頷いた。 「おう、もう一体頼む」 弦を装着させたボウガンに初弾を装填させると、再びキュルケを見た。 「手鏡でちょーっとだけあいつらを映してくれ」 その言葉でジョセフが何をしたいか察したキュルケは、いかにも愉快げな笑みを浮かべて手鏡を軽くテーブルから上げた。 傭兵達の矢がなおも飛び来るが、テーブルからほんの僅かだけ覗いた手鏡を矢で射抜けるほどの名射手は傭兵達にはいなかった。 テーブルから身を覗かせるヌーベルワルキューレには矢が集中するが、上半身に矢が突き刺さった程度ではワルキューレの動きが阻害されることも無い。 トリガーを握ったジョセフは小さな手鏡に映った傭兵達を横目で見ながら、最初の一発――この戦況を変える切っ掛けの弾丸を、撃った。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/468.html
「ない。ありえない。ディ・モールト(本当に)ありえない。」 高価そうなアンティークが飾られた部屋。 メローネはルイズとこの部屋で二人っきりであった。 しかし!事もあろうにメローネは!こんなディ・モールト(とっても)いい状況でッ! ・・・現実逃避の真っ最中であった。 普段冷静で理屈で動いている者ほど、自分の理解の範疇を超えた物事に遭遇すると それを認めることはできないものである。 「ないないないないナイナイナイナイナイナイ こんなバカなことがあってたま・・・・」 そのとき彼の目に飛び込んできたのは・・・二つの月であった。 ゼロの変態第二話 使い魔暗殺者(ヒットマン)メローネ! 部屋に帰ったメローネがルイズから聞かされたのは、だいたい次のようなことであった。 ・ここはハルケギニア大陸トリステイン王国のトリステイン魔法学院。 ・そこの2年生恒例の『サモン・サーヴァント』の儀式の時メローネは召喚された。 ・使い魔を送り返す魔法なんて無い。少なくにもルイズは知らない。 ・ちなみにここには身分制度がある。 ・貴族(メイジ)は魔法が使える。平民は魔法は使えない。 ・だから貴族が上ッ!平民が下だァァ!! その他諸々のことである。 「・・・信じるしかないようだな。ここが『異世界』だということを・・・。」 信じたくないという顔をしながらメローネはつぶやいた。 「それよりあんたの言ってることの方が信じられないわよ。 だいたい証拠でもあんの?」 「・・・これじゃ証拠にならんか?」 メローネは自分のパソコンを見せた。スタンドパワーで動いているのでここでも使える。 その事だけが彼にとって救いだった。 「たしかにこんなものここにはないけど・・・。」 (だからって怪し過ぎよッ!ただのド田舎モンにきまってるわ!) ルイズがものすごい怪しんでいる一方、メローネの頭は冷静さを取り戻していた。 元々頭脳派のメローネである。冷静さを失ったらただの変態である。 (帰れないとなると、ここで生活するしかないな・・・ 言語すらわからんこの世界では俺ひとりでは・・・きっと暮らせない。 やはり使い魔になるしかないのか・・・) (それに・・・俺はあのとき新入りが作った蛇に噛まれて死んだはずだ・・・ となるとこの女・・・命の恩人という訳か・・・) そしてメローネが出した結論は・・・ 「・・・なるよ。」 「へ?」 「なると言ったんだ。お前の使い魔に。」 「えっ?あっ、そ、そう。や、やっと自分の立場が理解できたのね。」 さすがのルイズも急に話しかけられのでびっくりしている。 「で、使い魔って何をすればいいんだ?」 「ま、あんたにできそうなのは掃除洗濯その他雑用ってとこかしら。 どうせ戦いとかは無理でしょ?」 「ま、まぁ無理だな・・・。」 スタンドのことは言わないでおこう。厄介ごとになるかもしれない。 「じゃ、明日から仕事してもらうから。」 「ヲイ、ちょっと待て。・・・何してる?」 目の前で女の子が服を脱ぎ始めるのである。誰だってそー言う。彼だってそー言った。 「何って・・・寝るから着替えるのよ。」 「・・・・・・わかった。・・・俺はどこで寝ればいい?」 ルイズは黙って指さした。・・・床を。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(毛布があるだけマシか・・・?)」 「あ、あと明日になったらこれ洗濯しといて。」 メローネに下着を投げつけるとルイズはベッドに潜り込み、指を鳴らしてランプを消した。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 メローネは理性を保つので精一杯だった。いろんな理由で。 「やめといた方がよかったか?」 メローネはこれから訪れるであろう受難の日々を想像し、ジャッポーネのゲームなら いろいろオイシイ展開になってるのにと思い、おとなしく寝た。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/169.html
学院長室への階段。 ミスタ・コルベールは、左足を若干引きずりながら一歩一歩上っていた。 時々左足に痛みが走る度、彼は三日前にその傷をつけた、ミス・ヴァリエールの使い魔を思い出す。 初めはただの死体だと思っていたソレが動き出し、あまつさえ自分に牙をむいた様を。 それをいなせなかった事実は、単純にコルベールに驚きを与えていた。 (私も、ヤワになったというわけですかな……) が、同時に彼は、その使い魔に対して非常に強い興味を抱いていた。 首だけでも活動し、メイジにケガすら負わせる異形に。 コルベールは好奇心の強い人間だった。 襲われたことに怒りを覚える前に、興味を感じてしまっている自分を皮肉りながら、コルベールは学院長室の扉を開けた。 「失礼いたします、学院長」 コルベールが学院長と呼ぶ人物、オールド・オスマンは、窓際に立ち、腕を後ろに組んで、重々しく彼を迎え入れた。 側には彼の秘書であるミス・ロングビルが黙々と書類仕事をこなしていた。 コルベールは無言で彼女に挨拶した。 彼女もまた無言でそれに応じた。 「ケガは治ったようじゃな、ミスタ・コルベール」 「……まだ少し痛みは残りますが、概ねは」 「君の治療に使った秘薬の代金は、バカにならんかったぞ…?」 「…………………」 「一応は、勤務中の事故じゃからな。学院の経費で決算じゃ。 しかしのう、額が額じゃ。王室の連中からまたケチを付けられるわ」 「………申し訳ありません」 コルベールは居心地悪そうに頭を下げた。 オールド・オスマンはフンッと鼻息を荒げた。 「謝る時間があれば、たるんだ貴族共から学費を徴収する上手い方法を考えるんじゃな。 誰だって我が身は可愛い……そうじゃろう?」 オールド・オスマンの鋭い視線が、コルベールを射抜いた。 コルベールは再び頭を下げた。 冷や汗が彼の頬をつうっと垂れた。 「で、一体何のようじゃ? ケガの回復の報告だけをしに来たのではあるまい」 そんなものは書類で済む話じゃからのう、というオールド・オスマンに、コルベールは重々しく言った。 「…ヴェストリの広場で、決闘を始めようとしている生徒がいるようです。 大騒ぎになっています。」 オールド・オスマンは苦々しげにため息をついた。 「全く、隙を持て余した貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんわい。 で、誰が騒いでおる?」 「1人は、ギーシュ・ド・グラモン」 「あのグラモン家のこせがれか。 オヤジ同様、大方女の取り合いじゃろう。 相手は誰じゃ?」 コルベールは一瞬躊躇したが、オールド・オスマンの促しに耐えきれずに話した。 「……どうやら、ミス・ヴァリエールの使い魔のようです」 オールド・オスマンの片眉がピクと持ち上がった。 「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが…」 オスマンの目が、再び鷹のように光った。 コルベールはうっとうろたえた。 「アホか。小競り合いの延長のような決闘如きに、秘宝を使ってどうする。 しかし………ふむ、そうじゃな…ウチの大切な教員にケガをさせたそのミス・ヴァリエールの使い魔か…。興味深いのう」 いちいち話をほじくり返すオスマンに対して、コルベールは針のむしろに居るような心地だった。 そして、オスマンはその杖を振った。 壁に掛かった大きな鏡に、ヴェストリ広場の様子が映し出された。 ――――――――――――――――――――――― ヴェストリ広場は魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある中庭である。 西側にあるその広場は、昼間は日があまり差さない。 決闘にはうってつけの場所だった。 そのヴェストリ広場は、ギーシュの取り巻きが広めた噂を聞きつけた生徒で、溢れかえっていた。その中には、キュルケとタバサの姿も伺えた。 噂を聞きつけて駆けつけてきたのだろう。 他の観衆と違って、二人はいつでも魔法を使えるように緊張していた。 が、キュルケは時々チラチラとルイズ顔色をうかがっていた。 何かに怯えているようだった。 その観衆の輪の中、DIOは静かに皆の視線を受けていた。 後ろには、ルイズとシエスタがいた。 ルイズは腕を組んで、己の使い魔を見守……いや、睨みつけている。 「諸君! 決闘だ!」 ギーシュが薔薇の造花を掲げた。 歓声が巻きおこる。 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はあの『ゼロ』の使い魔の平民だ!」 ルイズの頬が一瞬ピクリと痙攣した。 が、すぐに何事もなかったように無表情に戻る。 ギーシュは一通り歓声に応えたあと、もったいぶった仕草でDIOの方を向いた。 「とりあえず、逃げずに来たことは誉めてやるよ、平民」 ギーシュは薔薇をいじくりながら歌うように言った。 DIOは無視した。 「では、始めようか!」 そう言うと同時に、ギーシュは薔薇を振るった。 花びらが一枚宙に舞い、甲冑を着た女戦士の形をした、人形になった。 硬い金属製のようだ。 甲冑が陽光を照り返し、きらめいた。 DIOはその様子を見やると、興味深そうにほぅといった。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。 文句はあるまいね? 僕の二つ名は『青銅』。従って青銅のゴーレム、『ワルキューレ』がお相手するよ」 ギーシュが大仰に礼をした次の瞬間、ワルキューレがDIOに向かって突進した。 一瞬で間合いに入ったワルキューレが、その右の拳をDIOに振りかざした。 が、瞬間、あたりに銅鑼を思い切り叩いたような、 "ゴワァァアン"という音が響いた。 ワルキューレが地面に水平に吹っ飛び、ギーシュの前に転がった。 みると、ワルキューレの腹部は、ハンマーで殴られたようにボッコリとへこんでいた。 ギーシュは、うっと呻いた。 DIOを睨む。 DIOは腕を組んだまま、静かに佇んでいる。 しかし、ギーシュの目は、DIOの前に、うすぼんやりとした何かが浮いているのが見えた。 DIOはチッと舌打ちして、ソレを見ている。 「平民…! 今何をした!? 何だソレは!?」 DIOは再びほぅと言った。 「見えるのか、小僧。我が『ザ・ワールド』が」 ルイズは、先ほどの光景を間近で見ていた。 ギーシュのワルキューレが、DIOにその金属の拳を振りかざした瞬間、DIOの体から出てきたソレが、ワルキューレを殴り飛ばしたのだ。 ソレは、DIOの周囲をフワフワと漂っていた。 人間の上半身のようにもみえるソレは、ヒドく像がぼやけていた。 ムラサキともピンクともつかない色を放っていて、まるで幽霊のようなソレには、左腕がなかった。 (あれが、DIOの言っていた、『すたんど』…ってやつかしら?) ルイズはそう推測した。 恐らくはあれが、DIOの能力なのだろう。 青銅をへこませた所をみると、かなり腕力がありそうだ。 『ざわーるど』……変な名前だ、あいつの靴のデザインには負けるけど、とルイズは思った。 だけど、あれだけなのだろうか……? あれでは、殴る拳が一つ増えただけに等しい。 それだけで倒せるほど、ギーシュは……メイジは甘くない。 何か、別の力でもあるのだろうか、あの幽霊には。 何にしても、これからが見ものだ、とこぼしつつルイズはギーシュの方を見た。 一方のギーシュは、苦々しげにDIOに吐き捨てた。 「…ふん!何だか知らないが、やってくれたじゃないか。 『ゼロ』の使い魔の癖に…!」 ルイズの頬が、今度はピクピクと二度痙攣したが、ルイズは表面上は穏やかだった。 ―――表面上は。 そんなルイズの内心を知らぬまま、ギーシュは再び薔薇を振った。 六枚の花びらが舞い、さっきと同じように六体のワルキューレが現れた。 先ほどとは違い、剣や槍や斧など、様々な武器を持っている。 それと同じく、ギーシュの足元に転がるワルキューレの腹の窪みがすうっと元に戻った。 「平民のクセに、生意気におかしな力を使うようだな。 …いいだろう、ならば、この『青銅』のギーシュ、全力でお相手いたそう!」 ギーシュが薔薇の造花を振ると、一体をギーシュの側に残して、都合六体のワルキューレが、DIOに向かって再び突進した。 それを迎えて、DIOは初めて、組んでいた腕を解いた。 to be continued…… 23へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1286.html
わたしはヴェルダンデを押し退けようとするがビクともしない 一陣の風が舞い上がり、ヴェルダンデをふきとばした 「誰だッ!」 ギーシュが激昂してわめいた 朝もやの中から、長身の貴族が現れた。あれはワルドさま 「貴様、ぼくのヴェルダンデになにをするだー!」 ギーシュは薔薇を掲げるが、ワルドさまも杖を抜きギーシュの造花を散らす 「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。 きみたちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、 一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」 ワルドさまは、帽子を取ると一礼した 「納得できねえな」 プロシュート!? 「姫さんは誰にも話せないってんでルイズに言ったんだろ、どういう事だ?」 「それは、おそらく僕がルイズの婚約者だからだと思うんだ、姫殿下も 粋な計らいをしてくれる」 「ルイズそれは本当なのか?」 プロシュートが顔に汗を浮かべながら質問してきた 「ええ、ワルドさまは両親同士が決めた許婚よ」 「マジかよ・・・・・」 プロシュートが信じられないって感じで呟く まあ・・・『ゼロ』のわたしには勿体無いくらいの人だしね わたしが立ち上がると、ワルドさまは、わたしを抱えあげた 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」 「お久しぶりでございます」 ワルドさまはとても嬉しそうだ。十年ぶりかしら・・・ 「相変わらず軽いなきみは!まるで羽のようだね!」 「・・・お恥ずかしいですわ」 「彼らを、紹介してくれたまえ」 ワルドさまは、わたしを降ろすと帽子を被り直し言った 「あ、あの・・・、ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のプロシュートです」 わたしが交互に指差すと、ギーシュは深深と、プロシュートはつまらなそうに 頭を下げた 「きみがルイズの使い魔かい?人とはおもわなかったな」 ワルドさまはきさくな感じでプロシュートに近寄った 「僕の婚約者がお世話になっているよ」 「そりゃどうも」 プロシュートが素っ気無く答える ワルドさまが口笛を吹くと、朝もやの中からグリフォンが現れた 「おいで、ルイズ」 ワルドさまはわたしの手を引くとグリフォンに跨り、わたしを抱きかかえた 「では諸君!出撃だ!」 頭の中に声が聞こえてきた お忍びっつってる側からデケぇ声で出撃だぁ?この野郎、ふざけてんのか? ワルドさまの軍人としての振る舞いにプロシュートは我慢出来ない様だ 確かにコレ、お忍びの重要任務よね・・・ ワルドさまに気をつける様に頼む? 笑い飛ばされるだろうか・・・ 気分を悪くするだろうか・・・ プロシュートに気にしすぎと言う?・・・ 無茶苦茶怒るわね・・・きっと どうする・・・どうする・・・どうする、ルイズ? よしっ、決めたわ! 聞かなかった事にしよう!