約 1,077,048 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/231.html
康一が、ルイズの使い魔として『召喚』された日の翌日。 ロクな寝床を与えられず、床で毛布に包まっていた康一は、両肩の痛みと共に目が覚めた。 現在の時間を確認するために、時計を手探りで掴もうとする。 しかし脳ミソが半分も活性してない康一は、時計じゃなく昨晩ルイズが投げてよこしたパンティを掴んでしまった。 「う、うわあああああああッ!」 あたふたしながらパンティーを放り投げ、康一は一気に目が覚めた。 周りをキョロキョロと見回し、やっとのことで自分が置かれている状況を理解する。 (そうだ、僕は自分が住んでいた世界から別の世界に呼び出されたんだっけ……) 康一のことなどまったく気にもとめずに、ルイズはベッドの上でスヤスヤと寝息を立てている。 顔を覗き込むと、ニヤニヤと笑っている。良い夢でも見ているのだろう。 顔は可愛いけど、ワガママなんだよな。などと思いながら、康一は昨日起こった出来事を回想していた。 康一が呼び出された世界は、魔法が当たり前のように使われているファンタジー世界。 ここはトリスティン魔法学院とかいう所らしく、その学院は、まるで中世の城のような佇まいだ。 しかし、そんな中世の城よりも康一が驚いたことは、二倍程の大きさがある月であった。 大きさだけでなく、数も二倍に増えており、この世界に月は二つも存在しているらしい。 なお、地球のどこを探しても、月が二つ見える場所なんて存在しない。 つまり、ここは地球外の場所であるということの証明である。 もし飛ばされたのが康一じゃなく露伴だったら、 「凄い! 本当に凄い所だ! こんな体験は他の誰にも出来ないぞ! 僕は最高のネタを手に入れた!!」 と言いながら、大はしゃぎしているだろう。 しかし、今回この世界に連れてこられたのは康一であり、そんな感動に浸る余裕がある人物ではない。 早く自宅に戻って、犬の散歩をして、宿題をしなくちゃいけない。 このままでは学校にも通えず、母親や姉に再会することすら出来ないのである。 召喚されてから数時間後、ルイズの部屋にいた康一はこのままじゃまずいと思い、 「なんとか元の世界に帰る方法は無いんでしょうか?」 とルイズに聞いたが、「無理よ」という期待外れな答えが返ってくるだけだった。 「でも、僕をこの世界に連れてきたのだから、元の世界に戻す事だって……」 ルイズは困り顔で、康一の言葉を遮った。 「あんたが、他の世界から来たなんて信じられないけど、別世界を繋ぐ魔法なんて知らないもの」 「じゃあ、どうやって僕をここに連れてきたって言うんですか!」 「こっちが聞きたいわよ!」 ルイズに逆ギレされ、ショボボーンと肩を落とす康一。 「いい加減諦めなさいよ。 私だって、あんたみたいなのが使い魔なんて嫌だけど、取り消すことはできないし……」 はぁ、とため息をついてベッドに座るルイズ。 康一も同じようにため息をつき、左手の甲に描かれた謎の文字を見つめた。 ルイズの使い魔となった時に印されたものである。 「ああそれは、私の使い魔ですって印みたいなものよ」 それを聞いて再びため息をつく康一。もう何度目のため息なのか覚えていない。 結局のところ、『運命』というものらしく、どうあがいても帰れないのだと悟った。 「……わかりました。帰る方法が見つかるまで、ルイズさんの使い魔ってやつになります」 「ちょっと、そこは『なんなりとお申し付け下さい、ご主人様』でしょ」 反論する余力などないので、康一はルイズの言う事をスルーして話を続ける。 「ところで、使い魔というのは、具体的には何をすればいいんです?」 「まず、主人の目となり耳となること」 「以心伝心ってやつですか?」 どういう意味かわかっていない様子のルイズは、首を傾げながら聞く。 「……何それ?」 「言葉とか使わないで、考えてることがお互いに理解できるって意味です」 「そうね、そんなところかも。でもあんたじゃ無理みたいね。私、何も見えないし感じないもん!」 「そうですか……」 そりゃあ、そんな簡単にお互いが分かれば苦労しないよ。と康一は思った。 「でも、一番大事なのは主人を守ることよ! 使い魔の能力で主人を敵から守るのが一番の役目! でも、あんたじゃ無理ね……」 「ははは……」 もっとも、康一はエコーズというスタンドがあるため、ルイズを敵から守るのは難しいことじゃない。 しかし、スタンドは魔法使いにも見えないらしく、ルイズから見れば康一はただの平民である。 康一はスタンドの事を話そうかとも思ったが、色々とややこしいことになりそうなので、やめておいた。 ようは、ルイズがピンチになった時にエコーズを使えばいいだけなのだ。説明は、その後いくらでもできる。 「ま、あんたが出来そうなことをやらせてあげる。洗濯。掃除。その他雑用」 「はぁ……」 それじゃ家政婦じゃないか、と思いながらも、康一は素直に従うことにする。 いちいちモメたところで、気が弱い康一が言い負かされるのは目に見えているからだ。 「わかったら、明日から早速やりなさいよ」 そう言って、ルイズは眠たげにブラウスのボタンを外す。 下着があらわになったルイズの姿を見て、康一は慌てて視線を逸らす。 「う、うわぁあああ! ちょ、ちょ、ちょ、何してるの!?」 ルイズは頭に?マークを浮かべた表情をしている。 「何って、寝るから着替えてるのよ」 「そ、それならそう言ってよ! 僕に着替えてるところを見られても平気なの!?」 「あんた使い魔でしょ。別になんとも思わないわ」 つまり、僕は男として見られてないのか……。そういえば、犬とか言ってたし……。 康一は、男として見られてない自分がちょっぴり悲しくなった。 「じゃあ、これ、明日になったら洗濯しといて」 ルイズの下着姿を見ないように視線を逸らしていた康一の後頭部に何かが飛んできた。 なんだろうと思って、頭に乗っかっていたソレをマジマジと見つめる。 手には、レースのキャミソールと白いパンティが握り締められていた。 「……わぁぁぁあああッ!」 慌てて握り締められていたソレを手から離す。 「し、下着まで洗濯するのォ~!?」 「当然でしょ。誰があんたを養うと思ってるの?犬のあんたは私の言うことに従ってればいいの」 もう少し恥じらいを持ってほしいよなぁ~……。などと思いながら、ルイズの下着を慎重に拾う。 ネグリジェに着替えたルイズは、寝支度が整ったのか、薄暗いランプ付けて布団に包まっていた。 「あの~、ところで僕はどこで寝れば……」 ベッドは一つしかない。布団もベッドの上にあるのしかない。 ルイズは毛布を康一に投げ、床を指差して再び布団に包まった。 「はぁ~あ……」 康一は、一日を締めくくる大きなため息をついて布団に包まった。 そして、話は冒頭に戻る。 康一は、とりあえず自分の主人を起こそうと思い、スヤスヤと寝ているルイズの体を揺すった。 ルイズは、「う~ん……」と唸った後、うっすらと目を開ける。 「うー、なによ……なにごと?」 「あの~、朝ですけど……」 「はえ? そう……。って、誰よあんた!」 ルイズはまだ寝ぼけているのか、康一を見るなり怒鳴った。 「僕だよ、康一だよ! 酷いなぁ、もう。忘れるなんてさぁ~……」 「ああ、使い魔ね……。昨日、召喚したんだっけ」 ルイズは、大きなあくびをしながら起き上がる。 そして椅子に掛かっていた制服を指差しながら、康一に向かって命じる。 「服」 康一は素直に制服を取って、ルイズに渡す。 だるそうにネグリジェを脱ぎ始めるルイズ見て、慌てて視線を逸らす。 「下着」 「もお~、下着くらい自分で……」 「そこのー、クローゼットのー、一番下の引き出しに入ってる」 康一は、何を言っても無駄だと思って引き出しをあけた。 中には、沢山の下着が入っており、康一は思わず顔を赤くする。 適当に選んで、ルイズの姿を見ないようにしながら下着を渡した。 「服着せて」 康一は頭を抱えた。そして思った。 彼女は異常ではないが、常識がまるっきりない! と。 「早くしなさいよ!」 「あ、あのねぇ! 服ぐらい自分で着なよッ! いくら僕より年下だからって、服くらい自分で……」 「あっそ。言うこと聞かない使い魔は、朝ごはんヌキ」 ルイズは康一の言葉を遮って、勝ち誇るように言った。 いくら温厚な康一でも、これはさすがにカチンときた。 「冗談じゃないぞー――ッ! もう付き合っていられるかッ! もう我慢できないッ! 1から10までキミの言うことを聞いていたら僕の身が持たないよッ! 朝ごはんなんているものかッ!」 そう言って、康一はルイズの部屋から出て行った。 「コラーッ! ご主人様を置いてどこ行くのよ!」 ルイズは康一の後を追おうと廊下に飛び出すが、 下着姿であることを思い出してすぐに部屋の中へと引っ込んだ。 衝動的に部屋から飛び出した康一であったが、部屋を出て行った事をすぐに後悔した。 何せ、右も左も分からないような場所に、一人飛び出して来てしまったからだ。 しかも、さっきから腹がぐーぐー鳴っている。 朝ごはんはいらないと言ったが、昨日から何も食べていないため、腹が減って仕方がなかった。 「おなか減ったな……。やっぱり素直に従った方がよかったかなぁ……」 必死に腹の虫を抑えようと、腹を支えるが、さっきからずっと鳴りっぱなしだった。 鳴らすまいと思えば思うほど虫は鳴く。満腹なんだと思えば思うほど空腹になっていく。 「どうなさいました?」 その言葉に反応して振り向くと、銀のトレイを持った少女が心配そうに康一を見ていた。 カチューシャで纏めた黒髪とメイド服が特徴的な女の子だ。 「いえ……おかまいなく」 康一は、自分を心配する女の子に感謝しながらも、 名前も知らないような子に迷惑をかけるわけにはいかないと思って、その場を立ち去ろうとする。 「あなた、もしかして、ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」 「あれ? 僕のこと知ってるんですか?」 「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって。噂になってますわ」 女の子はかわいらしい笑みを浮かべた。 ルイズと違って、随分と大人しそうな子だなぁ。と思いながら康一は尋ねる。 「キミも魔法使いなの?」 「いえ、私は違います。あなたと同じ平民です。貴族の方々をお世話するために、ここでご奉仕させていただいてるんです」 自分と同じ平民と聞き、康一は妙に親近感を覚えた。 「そっかぁ~、何だか安心するなぁ~。あ、僕は広瀬康一って言います」 「変わったお名前ですね……。私はシエスタっていいます」 お互いに自己紹介を終えたところで、再び康一の腹の虫が鳴いた。 「おなかが空いてるんですね」 「あ、はい……」 康一は、顔を赤くしながら腹を抑える。 「こちらにいらして下さい」 シエスタは、康一を誘導するように歩き出した。 康一が連れていかれたのは、食堂の裏にある厨房だった。 大きな鍋やオーブンが沢山並んでいる。周りには、コックやシエスタと同じ格好をしたメイドたちが大勢いた。 「ちょっと待ってて下さいね」 康一を厨房の片隅にあった椅子に座らせると、シエスタは小走りで厨房の奥に消えた。 そして、お皿を二つ抱えて戻ってきた。大きな皿にはスープが、小さな皿にはロールパンのようなものが二つ乗っかっている。 「朝ごはんを用意したときに出たあまりで申し訳ありませんが、よければ食べて下さい」 「え? でも僕、お金とか持ってないし……」 「あまり物ですから、気にしないで食べてください」 康一はシエスタの行為に感謝しながら、パンをかじり、スープを飲んだ。 「おいしいッ!おいしいですよ、コレ!」 康一は、涙を流しながら夢中になって朝飯を頬張る。 シエスタは、ニコニコしながらその様子を見つめている。 「そういえば、ルイズさんはどうしたんですか?」 「ワガママばかり言うから、ついカッとなって出てきちゃったんだ……」 「まあ! なら、早く戻らないと……」 「どうせ朝ごはんはヌキだろうし……。それに、あっちが謝ってくるまで戻ってやるもんかッ!」 「何があったか知りませんが、大変そうですわね……」 シエスタは、哀れむような顔で、康一を見つめている。 康一は、あっという間に朝飯を食べ終わり、空になった皿をシエスタに返した。 「とてもおいしかったですよ、ありがとうございます」 「よかった。もしおなかが空いたら、いつでも来てくださいな」 康一は、シエスタの優しさに感動して再び涙を流した。 この世界に来てから、こんなに嬉しいことはなかった。 「うう……ありがとうございます。シエスタさん、もし困ったことがあったら何でも言って下さい。お手伝いしますよ」 ルイズに召喚されるより、この子に召喚されたほうが、何倍も幸せだっただろうな……。と思いながら、 康一はシエスタの手伝いをしようとした。 「なら、次にここにきた時に、食事を運ぶのを手伝ってくださいな。朝の分は全て終わってしまったので……」 シエスタは微笑んで言った。 その言葉を聞いて、康一は大きく頷いて返事をする。 「よろこんでやりますよ!」 「あ、それともう一つお願いが……」 席を立とうとする康一に、シエスタが一言付け加える。 「ルイズさんの所に戻ってあげてください。 きっと、困ってると思います……」 「……わかりました。実は、僕もちょっと大人気なかったかなって思ってて……」 康一は、シエスタに向かって深々とお辞儀をすると、礼を言って厨房から出て行った。 厨房からルイズの元へ戻ろうと、キョロキョロと辺りを見回していると、偶然にも食堂から出てきたルイズと出会った。 ルイズは康一を見るなり、不機嫌そうな顔をしながら言った。 「ご主人様の命令を無視して、どこに行ってたのよ!」 「勝手に飛び出したことは謝るよ。でも、キミも、もうちょっと……」 「言い訳は聞きたくないわ! 昼食もヌキだからね! フンッ!」 そう言って、昼食ヌキを言い渡したルイズは踵を返す。 ついて来いと言わんばかりの背中を見つめながら、康一はルイズの後に続いた。 (はぁ……この性格は露伴先生のスタンドでも直りそうないや……) そう思いながら、康一は深いため息をついた。 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1212.html
結局ギーシュも同行する事になった いつもと違い、わたしは乗馬用のブーツを履き、プロシュートは剣を背負っている そんな風に出発の用意をしていると、ギーシュが、困ったように言った 「お願いがあるんだが・・・」 「なんだ」 プロシュートは、馬に荷物を括りながら、ギーシュをギロッとにらみつける 「僕の使い魔を連れて行きたいんだが」 「使い魔なんかいたのか?」 「いるさ。当たり前だろ?」 わたしとプロシュートは顔を見合わせた。それから、ギーシュの方を向いた 「連れてきゃいいじゃねーか。っていうかどこにいるんだよ」 「ここ」 ギーシュは地面を指差した 「いないじゃないの」 わたしに向かってギーシュがにやっと笑った。 地面が盛り上がり茶色の生き物が、顔を出した ギーシュはずさっ!と膝をつくと、その生き物を抱きしめた 「ヴェルダンデ!ああ!ぼくの可愛いヴェルダンデ!」 プロシュートは心底呆れた声で言った 「なんだそれ?」 「なんだそれ、などと言ってもらっては困る。大いに困る。 ぼくの可愛い使い魔のヴェルダンデだ」 その生き物は巨大モグラだった 「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの・・・って なんで、わたしに寄ってくるの?」 ヴェルダンデがわたしを押し倒してきた 「や!ちょっとどこ触ってるのよ」 ヴェルダンデが薬指の指輪に鼻を摺り寄せてきた 「この!無礼なモグラね!」 ギーシュが頷きながら呟いた 「なるほど、指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね」 「現金なモグラだな」 「現金とか言わないでくれたまえ。ヴェルダンデは貴重な鉱石や宝石を僕の ためにみつけてきてくれるんだ。『土』系統のメイジのぼくにとって、この上も無い。 素敵な協力者さ」 「宝石か、鉱脈でもみつけりゃ大金持ちだな」 プロシュートがそう言うとギーシュが驚いていた 「グッドアイデア。プロシュート、君は平民にしておくのは勿体無い位のナイスガイだね。 ここは一つ君に敬意を表して、兄貴・・・プロシュート兄貴と呼ぶことにしよう」 プロシュート兄貴ィッ!やっぱり兄貴ィはスゲーやッ! なんか、そんな声が聞こえてきた 「・・・呼ばなくていい」 「なんだい遠慮してるのかい?それとも照れているのかい?なあに 気にする事はない!君と僕の仲じゃないか、あっはっはっはっは」 ギーシュ、なんて馴れ馴れしい・・・いや、怖いもの知らずか っていうか、早く助けなさいよ!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/31.html
「あんた名前は?」 「ヴィネガー・ドッピオです」 「それじゃあんたのことはドッピオって呼ぶから…」 魔法学院の一室の椅子に座る青年、もといドッピオは目の前のベッドに座る少女の質問に答えていた 広場でボスと話をしていると突然手を捕まれて城のような建物の中の彼女の自室らしき場所に連れ込まれたのだ そしてドッピオは質問責めにあっていた 話を聞いているうちにわかったことはここはイタリアじゃなく魔法使いがいる国 少女はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 通称ルイズ そしてここ魔法学校 魔法生物の使い魔呼んだんだけどあんた誰? って話らしい しまいには「呼んじゃった以上仕方ないから平民のあんたのご主人様になってあげるから感謝しなさい!!」 ときた。…のだが彼やもう一人の彼的には (言っていることがわからない。イカれてるのか?この状況で?) (ボス・・・僕、ストレスで挫けてしまいそうです ) と当然の反応である(一人は未来に不安しているが) キング・クリムゾンの腕を発現させルイズの反応を見たがどうやら見えていないらしい つまり新手の敵スタンド使いではないらしいのだが魔法使いがいるなんて考えられなかった 常識的に考えて もちろん自分が特殊であることもキスのせいで頭から吹っ飛んでいる されているのはボスだが彼にされたのも事実、彼はとっても純愛系なのだ 「貴女の話はわかりました ここが魔法の国、貴女の魔法で僕が来た、使い魔の儀式ってのでキスした それで帰れたりするんでしょうか?」 もしGERの能力が切れた(ジョルノに何かあった)のなら元の世界に戻ってもう一度再建したほうがいい と考えたドッピオの考えは 「無理よ… サモンサーバントであんたを呼び出したのは私 だけど元の場所に帰す魔法なんて知らないし聞いたこともないわ」 この主人にスパっと切り捨てられたのだ 「そうですか・・・僕はどうなるんでしょう」 「元々人間なんて使い魔になられたって困るのよ とりあえず掃除や洗濯をしてもらうわ」 「・・・分かりました」 ドッピオはこれでも譲ったつもりだった だが次の一言で温厚なドッピオは怒ってしまうのだった 「それにしても最初と今とではまったく別人よ なんだかよくわかんない変な平民かと思えば今は礼儀正しい人になってるし 「どこから襲ってくるんだ」とか「俺のそばに近寄るな」とか、最初は精神障害と思ったけど今はそんなことないし あんた、なんなの?」 「・・・変?」 最初、もちろんそれはディアボロ自身のことだ。ドッピオ自体も分かっている いや、それが悪かった。彼は自分が変な扱いをされるぐらいならまだ怒らない だが、ルイズは罵倒してはいけない人を罵倒した 人にはいくつか言われたり、やられたりすると許せない個人個人の地雷と言うものがある (この人・・・ボスを侮辱した・・・!) ドッピオは怒ってしまったのです 「何でボスを貴女なんかに侮辱されないといけないんですか!! 自分で呼び出しておいて無責任な魔法使い様で… 付き合ってられません。僕は帰ります!!」 そしてそのまま出ていった 罵倒した本人は 「・・・ボス?」 聞きなれない人物の事を半濁していた 建物を出ると見渡す限り地平線 どんな田舎に来てしまったのだろう この怪しい魔法使いどもの敷地をでていこうと正門らしき場所に向かいドッピオは歩を進める 「・・・それにしてもここは地球のどこなんだろう」 周りの景色を見渡しながら首を傾げる 木々や草花を見る限りどうも地元で見たことないものばかりである 「これはまさか異世界…」 頭を回転させるが何者かの言葉によって遮られた 「トゥルルルルルル!」 何者かの言葉はドッピオ自身の言葉だ 「電話だ!・・・えっとどこに・・・」 そこにある木の枝を拾い耳と口にあてる 「もしもし」 (ドッピオ、このまま抜け出すつもりか?) 「あ・・・はい」 (ならばあては?) 「・・・ありません」 (・・・私も侮辱されたのは腹が立つが今はそのようなことで怒るな 我々には今はあの少女しか・・・ルイズしかあてが無いのだから) 「すいません・・・ボス」 (いいのだ、私の可愛いドッピオ。私のために怒ったのだろう?) ドッピオはボスが少し変わったのに気がついていた GERによって地獄を味わい、ディアボロが他人の痛みをわかってあげられるようになったことを 「・・・ボス」 (なんだ?ドッピオ) 「・・いえ、やっぱりなんでもありません」 ドッピオはこう思ってしまった。今のボスなら野望という大きな幸せではなく日々の小さな幸せで生きていけるのではないかと そんな日々をドッピオは欲しいと思ってしまったのだ (このままこの世界でボスと一緒に・・・) そんなことを考えていたドッピオの思考は 「やあ、そんなところで何をしているのかな?」 突如の声で切られてしまったのだ 「・・・あ、ルイズさん・・・」 「ハアハア・・・急に抜け出してどこに行くつもりなのかしら?」 息を切らしながら最初に声をかけた人の後ろからルイズがやってきた 「・・・すいません、ルイズさん。急に怒り出してしまって」 ドッピオはディアボロを侮辱されたのをまだ良く思っていないが急に怒り出したのは悪いと思いまず謝った 「・・・あれから少し考えたんだけど」 ルイズが口を開く。ドッピオはそれが何かと思って顔を上げると 「あんた、やっぱり精神障害でしょ」 そんなことを言われた 「・・・え?」 「そうとしか考えられないのよ。部屋でボスとか言ってたでしょ? 最初と今と違うならあんた二重人格とかそういうのよ」 「えっと・・それは・・その」 ドッピオは少々迷っていた。このまま自分のことを正直に言うべきかそれとも嘘を言うべきか どうするか迷っていたとき 「まあまあ、そこら辺にしておいたほうがいいのではないかな?ミス・フランソワーズ」 一緒に来た金髪の人に遮られたのだ 3へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/862.html
結局、トリッシュはカッタル~と思いつつも授業に出ることにした。一人で居てもやる事もなく、暇だったからだ。 それにマリコルヌにドライヤー代わりに使わせた風の魔法以外も見てみたいと思っていた。 授業で使う教室は半円状の大学の講義室のような場所だった。周りを見渡すと他の貴族たちも使い魔を連れて 椅子に座り、思い思いに雑談している。トリッシュの通っていた学校の風景とさほど変わりはない。 ただ、プランターに植えられた猫のような植物、召使いのように脇に控え、時々主人を溶かす人型の生物、 コッチヲミロォーと叫ぶラジコン型の生物?、壁にもたれて椅子に座ろうとしない貴族の存在が、 ここが異世界だと言うことを物語っていた。 ……最後の貴族のことが気になったのでトリッシュは床に座っているマリコルヌに聞いてみることにした。 「ねぇ、あの貴族ってどうしてマネキンみたいに突っ立ってんの?座ればいいじゃない」 「ああ、彼は昨日召喚の儀式が終わってからずっと、人に背中を見せたがらないんだよ」 トリッシュは不思議に思ったが、そんな趣味なんだろうと思うことにした。 教室に教師らしき貴族が姿を現した。緑色の髪をした知的な容貌の女性だ。緑色の髪を見てトリッシュは、 染色に失敗したか、錆びた水道管の水で頭を洗ったんだなと思い、髪は女の命なのに可哀想。と、少し不憫に思った。 「ミス・ロングビル。ミセス・シュヴルーズはどうしたんですか?」 桃髪の少女が緑髪の女に尋ねる。周りの貴族たちもなにやら騒いでいるようだ。 「ミセス・シュヴルーズは、御友人が怪我をなさったとかでこの授業は…」 「ひょっとして自習!?」 トリッシュの後ろに座った赤髪の年増が嬉しそうに叫び、身を乗り出す。しかし、緑髪の女が年増の方を見て にっこり微笑み首を振ってそれを否定する。 「いえ、この時間は他の先生方の手が空いていないので、私が代わりに授業を行います。 今日は基本的なことを行いますので、心配はご無用ですよ」 最後に、“失敗してもイジメないで下さいね” と付け加え周りの貴族を見回した。それを見て年増女は不満そうに 椅子に座りなおす。 年増女が座ったのを満足そうに見て、きょとんとした顔をする。こちらを見ているようだ。 「あら…そこのメイドさん。もう授業が始まってますので出てもらえますか?」 「ほら、モンマロッシ、アンタ言われてるわよ」 トリッシュが隣に座ったドリル女に親切に教えてあげた。 「私じゃなくてあなたでしょ!それから私の名前はモンモランシーよ !」 キャンキャンと犬のように吼えるドリル女をトリッシュは無視して窓の外を眺めている。 困ったような顔をする緑髪の女にマリコルヌが代わりに答えた。 「ミス・ロングビル。彼女は僕の使い魔です」 「風邪っぴきさん!使い魔を召喚できないからってメイドを連れてくることは無いでしょ!」 堂々と答えるマリコルヌを見て桃髪が指を差しながら『m9(^Д^)プギャー』と言った顔で笑った。 人のことが言えるのだろうか?と、トリッシュが思っていると――― 「人のこと言えない」 年増女の隣に座った娘が、心を呼んだようにボソッと答えたとたん、教室が爆笑の渦に包まれた。 「ルイズお前が人のこと言えるのかよ!」 「墓の穴を掘るって書いて、『墓穴を掘る』って言うんだぜ!今のお前はまさにソレだぁーーー!」 「かかったな!アホが!!」 「m9(^Д^)プギャー」 トリッシュは桃髪がしまったとばかりに頭を抱えるのを見て、ナランチャみたいだと思った。 後ろの年増女の娘も、なぜか頷く。 「皆さんお静かに!…ミスタ・グランドプレ。一つ質問があるのですが宜しいでしょうか?」 「なんですか?ミス・ロングビル」 「その…どうして床に座っているのですか?」 もっともな疑問を尋ねる。誰だってそう思う。トリッシュだってそう思う。 「使い魔と言えど女性です。床に座らせるなんて出来ません」 その答えを聞いて緑髪の女は感心したように頷く。 「判りました。ミスタ・グランドプレは紳士なのですね。ですが、デブが座ってると通路を塞いで邪魔なので 空いている席に座ってください」 容赦のない言葉を緑髪の女が言い、マリコルヌが素直に従い後ろの椅子に座る。少し泣いているようだ。 「ええと…皆さん、無事『サモン・サーヴァント』に成功したようですね。ミス・シュヴルーズも皆さんの使い魔を 見るのを大変楽しみにしていました。そ、それでは授業を始めますね」 定型文を言うように緑髪の女が言葉を紡ぎだすと授業が始まった。 今日は土系統の『錬金』と言うものをするそうだ。 緑髪がなにやら金属を懐から取り出して教壇に置く。そして、小さく呪文を唱えるとその金属が土に変わった。 「ミス・ロングビル!それって土ですか?!」 後ろの席の年増女が驚いて身を乗り出す。トリッシュは「なに言ってんのアホが。見りゃわかんでしょ」と 言おうと思ったが、なんとか原作に沿おうと必死なその姿を見て哀れに思い、言うのを止めた。 原作?何のことだ? 「なに言ってんのよキュルケ!見ればわかるでしょ!!」 トリッシュの代わりに空気の読めない桃髪が答える。今度は赤髪の年増が頭を抱えていた。 「ええ、これが『錬金』です。では誰かにやってもらいましょう」 そう言って、貴族を見渡す。桃髪は待ってましたと杖を取り出し教壇へ――― 「では、ミス・モンモランシ。やってみて下さい」 「え?私ですか?」 緑髪は微笑みドリル女を促す。ドリル女は教壇に立ち、呪文を唱えて見事『錬金』を成功させた。 それを桃髪が手に持った杖を折りそうなくらいに曲げ、悔しそうな顔をして見つめていた。 「起きてよトリッシュ!授業が始まるよ!!」 マリコルヌに起こされてトリッシュが顔をあげる。どうやら教室に入って椅子に座ったとたん眠ってしまったようだ。 「おはよう~マリコルヌ」 「おはよう。もうすぐ授業が始まるから」 背筋を伸ばして欠伸をし、周りを見る。夢で見たものと同じ風景がそこにあった。 「正夢かしら?まさかね」 教室のドアが開き、緑色の髪をした知的な容貌の女性が現れた。夢で見た姿そのものだ。 緑髪の女は教壇に行き、一つ咳払いをして貴族たちを見る。そして――― 「ミセス・シュヴルーズは、急用で外出しましたので私が代わりに授業を行います」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1250.html
6話 ヴェストリの広場は、魔法学院の「火」の塔と「風」の塔の間に位置する、西側の広場である。 この場所は西側ということもあって、日中はあまり日が差さない。 つまり目立ちにくい、ということで、決闘なんてことをするのにはうってつけの場所である。 ……はずだったが。 「諸君、決闘だ!」 などとのたまって薔薇の杖を掲げる目立ちたがり屋のおかげでヴェストリの広場はまさに大盛況、 前後左右人だらけ――まあ生徒ばっかりだが、とにかくそういう状況になってしまった。 目立ちたがり屋とは、言うまでも無くギーシュのことである。 そして前述したとおりにギーシュが杖を掲げてカッコつけた台詞を吐くと、 周囲の生徒達から大きな歓声があがった。 「ギーシュが決闘するんだってよ!」 「相手はルイズだ!」 「魔法使えないのに決闘するのかよ!?」 「いや、ひょっとしたら決闘するのはルイズの使い魔なんじゃないか?」 「ペリッソンを気絶させたヤツじゃないか! ギーシュは大丈夫なのか?」 「キノコを最初に食べた者を尊敬する……」 「族長(オサ)! 族長(オサ)! 族長(オサ)!」 そんな歓声に、ギーシュは満面の笑みで手を振って応える。 そして、それから広場の反対側に立つルイズをぐっと睨みつけると、広場の中心に向かって歩を進める。 ルイズもそれを見て、広場の中心へと歩き出した。 ホワイトスネイクは、ルイズの後ろに空中を滑るように移動して続く。 「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてあげるよ、ルイズ」 「私のほうこそ、コソコソ逃げなかったあんたに感心してるぐらいよ、ギーシュ」 まずは舌戦。 古来より続く、戦いの基本である。 ここでガマンが効かなくなってうっかり攻撃を開始しちゃったりすると、 相手の策にハマったりして大変なことになるものなのだが―― 「っ! ……いいだろう、そこまで大口が叩けるなら、準備は万端のようだな!」 ギーシュはルイズの安い挑発にあっさり乗ると、杖を振るう。 その動作で、杖から一枚、花びらが地面に舞い落ちると―― 「……ホウ」 「それ」を見たホワイトスネイクが、感嘆した様子で声を漏らす。 ギーシュの杖から舞い落ちた花びらは地面に落ちると同時に、甲冑を着た女戦士の人形に姿を変えたのだ。 その高さは人間とほぼ同じ。 その表面は深い緑色――青銅色に輝いている。 「僕は『青銅』のギーシュ。君が魔法を使えようと、使えなかろうと、 僕はこの青銅のゴーレム、『ワルキューレ』でお相手するよ、ルイズ」 (『青銅』……ト名乗ッタナ、アノ小僧ハ。 ツマリアノ人形……『ゴーレム』、ダッタカ? アレハ青銅デ出来テイルノダナ) ギーシュがカッコつけた口上を聞いて、ホワイトスネイクはそんなことを思った。 そして一方のルイズは、 「ホワイトスネイク」 「何ダ、マスター?」 「あんたに命令するわ」 来たな、とホワイトスネイクは思った。 マスター、もといルイズは魔法を使えない。 どんな魔法を使っても、きっと授業のときのように爆発する。 だとすれば……あの青銅のゴーレムに勝つ手段は、ルイズにはない。 それでもルイズがギーシュに勝とうとするなら、自分に――ホワイトスネイクに、頼るしかない。 だからきっと、「わたしの代わりに戦いなさい」と命令するだろう。 その方が確実だし、決闘でぶちのめす、という目的も果たせるからだ。 そう、ホワイトスネイクは考えていた。 「私が戦える限り戦い切るまで、あんたは手を出しちゃダメ」 しかしルイズの命令は、ホワイトスネイクにはまったく意外なものだった。 つまり、ルイズは自分であの青銅のゴーレムと戦おうと言うのだ。 無謀にも程がある。 勝算はあるのか、何故そんな意味のない事をするのか。 そういう言葉が口をついて出かけたが、ぐっと堪える。 自分はスタンドだ。 スタンドは本体に意見などしない。 スタンドは本体の力そのものでしかない。 力は、持ち主に意見しない。 そう言い聞かせて、自分には到底理解できないであろうこの命令を、 「……了解シタ」 渋々ながらホワイトスネイクは了解し、自分自身を解除した。 ホワイトスネイクの姿がルイズの背後からフッと消える。 それを見て、今まさにワルキューレをけしかけようとしていたギーシュは、 「ルイズ、君は使い魔を引っ込めるのかい?」 驚いた様子でそう言い、ワルキューレの動きをピタリと止めた。 ギーシュもまた、自分がホワイトスネイクと戦わねばならないものと考えていたからだ。 そしてワルキューレを止めたのは、予想外の事態に、ギーシュの生来の小心が「危険だ」と囁いたからである。 しかし、そんなギーシュに対してルイズは、 「そうよ。何を驚いてるの? 御託はいいから、早く仕掛けてきなさいよ、ギーシュ」 さも当然とでも言うような態度で言い放って杖を抜く。 既に、自分に勝算があるかのような態度だ。 「そうか……ならばもう遠慮はするまい! 行け、ワルキューレ!」 ルイズの再三の自分を見下ろした態度で、完全に戦闘体制に入ったギーシュは、すかさずワルキューレに指令を出す。 ワルキューレが、青銅製の重い足を軽やかに持ち上げて一歩を踏み出した。 そしてニ歩目、三歩目と徐々に加速し、ガシャガシャと関節を鳴らしながらルイズの方へ突進する。 ルイズはそれを確認すると、ワルキューレと距離をとるようにしてニ、三歩下がる。 だがその程度では駆け足でルイズに迫るワルキューレとの距離は取れない。 ついに、ルイズとワルキューレとの距離が五歩まで縮まる。 そして四歩、三歩と瞬く間に距離は縮まり、距離が二歩になったところでワルキューレがぐん、と拳を振り上げる。 重いワルキューレの体重を十分に乗せたパンチが、来るッ! それを認識した瞬間、ルイズは横っ飛びにワルキューレの正面から逃れた。 直後、ルイズがいた空間をワルキューレの拳が薙ぐ。 そして体重を十分に乗せたパンチが、逆にワルキューレ自身の重心を崩す。 ぐらり、とワルキューレがよたける。 この瞬間を、ルイズは待っていたッ!! 素早く体制を立て直し、杖をワルキューレへ向ける。 そして短くルーンを唱え、ワルキューレに向けた杖を振り下ろすッ! ドモンッ! ワルキューレの体内で、鈍い共鳴を伴った爆発が巻き起こるッ! ワルキューレの体内は空洞ッ、 そしてその空洞の中に閉じ込められた爆圧はワルキューレの細くくびれた腰周りを風船のように肥大させ、 さらにその胴体につながれた脆弱な間接を、根こそぎッ、もぎ取るッ! バギョアァッ! 金属が引きちぎれる甲高い音とともに、ワルキューレはッ! バラバラに砕け散ったッ!! 自身を支える両足どころか両腕までもを失い、さらに腹を爆圧で膨らませ、 まさしくダルマ同然の姿になって地面に転がるワルキューレ。 自分が目の前の、コモン・マジックさえまともに使えない少女に対して、 絶対の自信をもって送り出したしもべが晒した無様な姿に、ギーシュは声にならない呻き声を上げた。 その様子を横目に、ルイズは表情を崩さずに言う。 「今朝の錬金の授業で……知ったのよ。 わたしが錬金に失敗すると、錬金の対象だったものは、その中心から爆発する。 石ころみたいなのに使えば、まず間違いなく粉みじん、よ。 ま、考えてみれば当然よね。 錬金は、対象の物質を構成するものをまったく別のものに変換する魔法。 だから魔法に失敗して爆発が起きれば、対象の中心から爆発が起きる。 そして今……わたしはあんたのワルキューレの全身を砂に錬金しようとした。 そして魔法は失敗するから……ワルキューレはその中心から爆発する。 つまり……爆発はワルキューレの中心、つまり空洞のお腹から始まる。 さて、どうしたの? 早く次のワルキューレを出しなさいよ。 あんたの精神力なら、まだ六体は出せるはずよ、ギーシュ」 冷静に、自分のしたことを説明して見せるルイズ。 その様子にギャラリーは完全に静まり返る。 あの「ゼロ」が? まさかあんな手段でギーシュのワルキューレを? 誰もが、ルイズのしたことを半信半疑に見ていた。 そして一方、土を付けられた形となったギーシュは、 「くそ……僕を……甘く見るなッ!」 そう言って、手に持った杖を力任せに振るう。 再び杖から花びらが舞い落ち、それぞれがワルキューレへと変化する。 その数六体。 今ギーシュが出せる限界にして最大の数だ。 そしてギーシュはそれら全てを自分の前にずらりと整列させ―― 「君の言うとおり、これが僕が出せるワルキューレの残りの数だ。 そして一体のワルキューレに丸ごと錬金をかけるようなことをしたなら、 時間も精神力も余計にかかってしまうのは僕にだって分かる! 集中力だって多く必要になる! つまり、君はさっき僕のワルキューレを倒したやり方では、この六体を倒すことは出来ない! もう分かるだろう! 今この瞬間で、君の負けだ、ルイズ! 君にはもう、僕のワルキューレに殴り倒される未来しか残っていないぞッ!」 そう、大声で叫んだ。 決闘が始まる以前のカッコつけたギーシュはここにはいない。 今のギーシュには、カッコつける余裕なんて無い。 確かに状況においては、なるほどギーシュがルイズよりかなり優位に立っているだろう。 しかしルイズはギーシュを圧倒していた。 精神の面で、ギーシュを圧倒していた。 そのことがこの圧倒的優位な状況にもかかわらず、ギーシュから余裕を奪い取っていたのだ。 そしてルイズはギーシュの言葉を一通り聞くと、 「そうね……確かに、状況はわたしが圧倒的に不利。 でもそれはわたしが決闘を降りる理由にはならない。 わたしはわたしで決めて、ここにいるのよ。 だからどんなに不利でも、そんなのは関係ない! やれるだけやるまで、杖を落とすまで、杖を折られるまで、わたしは決闘を続けるわッ!」 高々と宣言するかのように、そう言った。 そんなルイズの姿を見て、周囲の生徒達はようやく理解した。 自分たちの目の前にいるルイズは、もう自分たちが知るルイズではない。 何かは分からないが、だが確実に、ルイズは以前より成長している、ということを。 そして、それは相対するギーシュにも感じ取れた。 今まで見下していたものが、いつの間にか自分よりもずっと先にいる。 技術とかの問題ではない。 何か、何かよく分からないものにおいて、ルイズは自分より遥か先にいる。 それが、気に入らなかった。 自分でもそれを認めてしまうのが、なおさら気に入らなかった。 ギーシュはそんな思いを無理やり胸中にしまいこむと、苦し紛れに叫んだ。 「くっ……行けぇッ、ワルキューレ!」 ギーシュの号令とともに、ワルキューレたちが動き出す。 どれか一つが抜け駆けすることも無い、一つの青銅の壁のようにルイズに迫る。 それを見て、ルイズは覚悟を決める。 あれから逃れる手段は、自分には無い。 先ほどワルキューレを破壊したやり方では、あの壁は突破できない。 なら、どうするか。 もう考えていられる時間は幾分も無い。 5秒もしないうちに、ワルキューレたちは自分のところに到達する。 何か、何か手段は―― そうやって必死に策を探すルイズの脚に、何か硬いものがぶつかった。 思わず下に目を向けるルイズ。 そして――閃いた。 あのワルキューレを突破する手段が、起死回生の方策がッ! ルイズはすぐに足元に無数に転がるそれを、思い切り、迫り来るワルキューレの方へ蹴飛ばす。 蹴飛ばされたそれは、迫り来るワルキューレのうちの一体にぶち当たり、跳ね返って地面に転がる。 しかし跳ね返ったとはいえ、それにはいくらかの重量があり、遠くまでは転がらない。 はたしてそれが落ちた場所は、迫り来るワルキューレの正面、すぐ近く。 そしてワルキューレのうち一体がそれを――先ほど破壊されたワルキューレのパーツを跨ごうとした瞬間―― ドッバァァァアアアアン! パーツが、炸裂したッ! 炸裂を引き起こしたのは、ルイズの「錬金」の失敗魔法ッ! 破裂したワルキューレのパーツはまとまった一つの金属。 だからこそ、内側より解放されるその爆発力は、手榴弾さえ上回るッ! そして強烈な爆圧は、パーツを跨いだワルキューレと、その両脇のワルキューレを転倒させ、 さらには地面の土を盛大に巻き上げ大きな土煙を作るッ! 興奮した周囲からわあっ、と歓声が上がる。 それを聞いてギーシュは思わず舌打ちした。 何をそんなに騒ぐんだ。 まだ自分のワルキューレは三体が無傷で動いている! 転倒した三体が起き上がるのには時間がかかるが、 まだ立っている無傷の三体があれば、あっというまにルイズを…… そこまで思ったところで、ギーシュは奇妙なものを感じた。 ワルキューレがルイズを攻撃する音が、まだ聞こえてこない。 ワルキューレは青銅の塊だ。 それで人間を打てば絶対に音がする。 それなのに……その音が聞こえない。 爆発の直前のルイズとワルキューレとの距離を考えれば、もうルイズに到達したはず。 なのに何故ワルキューレは、まだルイズを攻撃していな…… その瞬間だった。 自分の正面、約数歩先。 もうもうと立ち込める土煙からルイズが飛び出し、自分の方へ一直線に駆けて来るのが見えたのは。 ルイズは衣服のところどころを何か鋭いもので切っており、血が滲む場所も少なくない。 その上、土煙を突破してきたため体中泥まみれ。 自分が起こした錬金の爆発に自分から突っ込むことでワルキューレを振り切り、 さらにギーシュの目を誤魔化すために土煙の中を突破した結果だ。 傷の中にはいくらか雑菌が入ったことだろう。 それでも、そんなことはお構い無しと言わんばかりに、こちらに突っ込んでくる。 その姿はあまりにも前向きで、そして、あまりにも誇り高かった。 一直線に土煙を駆け抜け、ギーシュの前まで駆け抜けたルイズは、ギーシュに杖を突きつけ、高らかに宣言する。 「杖を捨てなさい。わたしの、勝ちよ」 さっきの爆発のときよりも、数倍大きな歓声が、巻き起こった。 ルイズが、「ゼロ」と呼ばれて蔑まれたあの少女がギーシュに勝ったのだ。 その事実が周囲の生徒達を、より大きい興奮に包んでいた。 だが――そのとき、ルイズには二つだけ、しかし致命的なミスがあった。 そして一つの不運があった。 一つのミスは三体のワルキューレを土煙の向こう側に残したままだったこと。 もう一つのミスは、ギーシュがまだ杖を持っていたこと。 そして一つの不幸は――周囲から巻き起こる歓声のため、後ろから迫り来る、ワルキューレの足音に気づけなかったこと。 ギーシュは、湧き上がる歓喜を顔に出さないようにするので必死だった。 結局この「ゼロ」は、最後の最後でツメが甘かった。 まだ自分は杖を持っている。 土煙の向こうにいるワルキューレを操ることが出来る。 そしてこの歓声があれば――ルイズにばれることなく、背後からルイズを倒せる! グラモン家の男児たるこの僕が、魔法一つまともに使えない「ゼロ」に、負けるはずなど無かったんだ! そうほくそ笑みながら、三体のワルキューレのうち一体を、土煙の中に隠れるように操作する。 これで周囲からはこのワルキューレの動きは見えない。 そして、土煙の中から、ルイズの方へ突進させるッ! いつもなら、ガシャガシャとうるさい音がするはずのワルキューレの歩みも、この歓声のおかげでそれが聞こえない。 ワルキューレの姿が、土煙の中からでも ルイズには、これを受けきれるだけの体力は残っていないッ! 勝ったッ!! そう、ギーシュが思った瞬間だった。 ズゴンッ! 鈍い音とともに、ルイズのすぐ後ろまで迫っていたワルキューレが吹っ飛ばされたッ! 突然の轟音に、大騒ぎしていた周囲の生徒達が一斉にシン、と静まる。 そして、今更になってギーシュは気づいた。 ルイズに、「そいつ」がいたことを。 「そいつ」は――ホワイトスネイクは、今の音に驚き、振り向いたルイズに向かって、 しかしルイズには背を向け、ワルキューレを吹っ飛ばした方向を見据えながら言った。 「マスター……ココカラハ、私ノ領分ダナ」 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/33.html
ディアボロがこの世界に来てから二日がたちました ルイズを起こし着替えさせて汲んできた水で顔を洗ってあげます。もちろんドッピオがやっています 「男の前で恥ずかしくないんですか?」 やってはいるが毎朝異性の裸を見るのは大半の男性にとっては余り精神的に優しくないものだ 「はぁ?男?あんた使い魔でしょ?偉そうなこと言ってないで早くしなさいよ!!」 「・・・はい」 タオルで顔を拭いてやると朝食を取りに行く 初め食事にまで制限を付けられそうになったが何とか頼み込んだ。労働の後がパン一個なんてふざけています 朝食の後は午前中の授業です ルイズが授業に出ている間に部屋の掃除をします 箒とちりとりを使いささっと済ませてしまいます。ドッピオは案外家事に適正があるんです やり始めるととまらなくなって隅から隅まで掃除をしてしまうことがあります ドッピオはそこそこのところでやめて洗濯に行きます 洗濯も二日ほどたつと慣れてきます。スキルは5ほどでしょうか 洗濯も終え、洗濯物を干すともうお昼です 「ふー・・・お昼ご飯の時間かな?」 太陽が真上にあがってきています。ドッピオはこのお昼ご飯を楽しみにしているのです 「こんにちは、マルトーさん」 「お、いらっしゃい!」 魔法学院アルヴィーズ食堂、コック長マルトーさん ルイズさんに躾と言われてパン一個しか食べさせてもらえなかったとき、賄い料理を食べさせてくれた優しい人だ 「賄いだったらもう少しで出来るからそれまで待っててくれ」 「それじゃ料理を配るのを手伝いますよ」 食堂でウェイターの真似をするのは昨日からだ 賄い料理を貰いっぱなしなのはいけないと言ってここで働かせてもらっている 「クップププ」 「ククク」 ・・・笑い声があるのは使い魔なのにこんなところで何をやっているんだ。みたいなことだろう 「・・・ドッピオさん」 「いいんですよ。シエスタさん」 笑い声をそこそこ無視して料理を配る 「・・・あの」 「はい?」 僕に話しかけたのは茶色のコートを着た女性。下級生がこういう格好をしているんだっけ 「ギーシュさまがどこにいるか分かりませんか?」 「ギーシュ?」 ・・・ああ、脱走したときにルイズさんと一緒に来た金髪の人か、食堂の中をぐるりと見渡すと・・・ 「あ、います。外のほうですね。案内しましょうか?」 「お願いします」 外に行くとギーシュはこの子以外の女性と話していた まだこの子は気づいていない (・・・二股?よくないな・・改めさせたほうがいいかな) 配るために持っていた物のうちの一つ、チーズケーキを持って話しかける 「チーズケーキをお頼みの方」 「は?チーズケーキなんて頼んでないよ・・て君はミス・フランソワーズの使い魔」 「それではこちらの女性と待ち合わせの方は?」 「?!・・モンモランシー、ちょっと待っててくれるかい?」 そういうとギーシュはつれてきた子の肩をつかんで奥の茂みは行った もれ出る話を聞くとギーシュが二股をかけているのが分かって女性のほうが怒っているようだ あ、女性のほうが帰っていった ギーシュが戻ってくる 「モンモランシー、あの子はただの」 「・・・最低」 「うっ」 「・・・下劣」 「ぐっ」 「・・・絶交よ」 「なっ?!最後まで聞いてくれモンモランシー! ほら君の顔に怒りは似合わない」 二股をかけた人の末路って怖いなー 結局、ギーシュは二股をかけているのがばれて二人からふられてしまったようだ 「・・・くっ」 結構、効いたみたいだけど 「・・・・」 僕に怒りが向けられているのが気のせい・・ではないと思う 突如、ギーシュから何かを投げつけられる。手袋だ 「平民風情がこの僕に恥をかかせるとはね」 「いや、それは自分が悪いんじゃ」 「うるさい!君を叩きのめさないと気がすまない。決闘だ!」 「え?」 外の中庭、周りには大勢のギャラリーがいる どこで聞いたのか決闘と聞いて見に来た人たちだと思う 「勝負方法は単純にどちらかが負けを認めるまで、分かったかな」 「・・・つまり二股をかけた自分が悪かったと認めさせればいいんですか」 周囲から笑いが漏れる 「うるさい!君があの子をあの場に連れてこなければ万事上手くいったって言うのに・・!」 「いや、元々待ち合わせていたって聞いたんですけど」 「・・・そういえば・・ええい、あのとき見えていたはずだろう!気を使うのが常識だろう!」 「どんな常識ですか。二股かけていいなんて」 「うるさい!」 ・・何をするつもりだ 「エピタフ」 エピタフを使い未来を察知する 「なっ!」 一歩後方に下がって攻撃を回避する 「言い忘れていたけど僕は貴族だからね。魔法で戦わせて貰うよ」 目の前にいるのは青銅の鎧人形。形は・・・なんだろう? 「・・・魔法・・次、何が来る・・・」 5へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1664.html
「くそ…馬を奪われたおかげで、追いつきゃあしねぇ」 だが、馬にも体力というものがある。常時全速では当然バテてスピードも落ちるものだ。 特に、一人余分に乗せているヤツは、それが顕著だ。 馬が倒れない程度に走らせていると、敵が視界に入った。 「…あの女のいう事そのままだと…連中、痛覚が麻痺してるヤク中か…考えたくねぇが死体ってことか?」 前者ならともかく、後者を相手にするとなると恐ろしく相性が悪い。 広域老化は死体には全く効かないからだ。 対応策を練っていると、二人乗っている馬以外のうち2体がこちらに向かってきた。 足止めのための時間稼ぎをするつもりらしい。 「やるしかねーみたいだな」 グレイトフル・デッドを発現させると同時に馬の速度を落とし、地面に降りる。 落馬なんぞしたら洒落にならないからだ。 10秒もすると、馬が急激に老化を始めた。 「あんだけ走りゃあ、温まってるだろうよ」 向かってきていた馬が等しく脚を朽木のように枯れさせ倒れていっているが、微塵も油断していない。 さっき聞いた様子では落馬程度では大したダメージにならないからだ。 投げ出された敵の一人に素早く駆け寄るとが、やはり老化はしていない。 「…マジに死人かよこいつら!」 体は確実に死んでいるのに、精神だけはしっかりと存在する。スタンドで操っているようなヤツとは比較にもなりゃしないだろう。 「そりゃあ、効かねーわけだ……だがなッ!」 確かに、体温がほとんど存在しない以上、広域老化は効きはしない。 だが、直は別だ。直なら有機物である以上冷やしていようが、お構い成しに老化させる。 新鮮と言えばアレだが、死んだばかりの死体のような感じだ。 死体に直触りなどする必要もなかったし、やろうとも思わなかったのでやった事は無いが、老化させれらる自信はある。 そう!スタンドとは精神!出来て当然と思い込む事こそが重要ッ!! 「老化しちまえば…動きたくても動けないからな。死人は黙って寝てな」 これでもかというぐらい直を叩き込んだが、これで効かなければお手上げだ。首を落そうにもデルフは無い。 一瞬間をおいたが、掴んだ敵がみるみる干からびていく。 林檎などの果物も老化させられるのだ。死体といえど、特に変わりは無いのだが…。 「いや…マジに…恐れ入ったよ…まだ…動けんのか」 枯れ果てた敵が動く。いや、動こうとしている…と言ったほうが正しい。 直触りをモロに喰らえば、死なないまでも寿命寸前まで追い込まれる。普通なら気絶するはずだ。 立ち上がろうとするが、背骨が音をたて歪み立てないでいる。 杖を振ろうとするが、手や指先がボロボロになって崩れていき、杖を落す。 魔法の詠唱をしようとしているが、歯のほとんどを抜け落ちさせている。 だが、それでもこいつは動こうとしている。B級映画でもこんなのお目にかかれないはずだ。 「おおおおおおおおッ!さっさとあの世へ行きやがれぇーーーーーーこのクソがァーーーーーーーーーーッ!!!」 そいつの頭を蹴り飛ばし首をヘシ折り、さらに続けざまに、グレイトフル・デッドで殴りつける。 後ろから、もう一人の魔法が背中をかすめたが攻撃を止めない。 気が付くと老化した敵は全身の骨を砕けさせるようになっていたが、砕けさせた場所はすぐに治っているようだった。 老化を解けばすぐにでもこちらに襲い掛かってくるだろう。 鬼人の如き形相で後ろを振り向き、もう一人の敵に駆け寄る。 魔法を使っては来ているが、飛んできたのが氷の槍だったのが幸いした。 これならばスタンドで受けられる。風や火などは実体が無いだけに受けられないのだ。 「グレイトフル・デッドッ!!」 時間は少し遡り場所はラグドリアン湖。 ルイズ、才人、タバサ、キュルケがそこに居た。 なんでまた居るのかと言うと、タバサの帰省に合わせてオプションよろしく付いてきたのだ。 それで、タバサの実家に来たのだが、紋章を見てルイズとキュルケがブッ飛んだ。才人は紋章の事など分かっちゃいないので無反応だが。 ガリア王家の紋章そのものだったからである。 ただ違うのはXの傷が入った不名誉印だった事だが。 そこで、執事のペルスランから本人が居ないところでタバサに関する事を聞いた。 毒を盛られタバサの母が精神を壊し人形を娘だと思うようになってしまった事。 汚れ仕事を押し付けられ、シュヴァリエの称号のみを与えられ、トリステインに留学させられた事。 そして今も、解決困難な事があると、呼びつけられているという事を知った。 当然の事ながら才人とキュルケは、その凄まじい経緯に言葉を失っていたが、ルイズは少し違った。 (そんな危険な事させられて、与えられたものがシュヴァリエの称号だけだなんて…なんか…あいつと似てる) 先代ことプロシュートが属していた暗殺チームと、今現在のタバサの状況は似ていた。 だからこそ、タバサに与えられた指令を何の迷いも無く手伝うと言えた。 他の二人も思うところは違うが、結論は同じだ。 それで、ラグドリアン湖の水位が急激に上昇しているために、その原因と思われる水の精霊の討伐に向かったのだが 現代日本人の才人が「いや、倒す前にまず水位を増やした理由とかを聞いた方がいいんじゃないか?ゲームでも大体そうだし」 と、非常にゲーマー的な答えを導き出した。 本来なら、タバサが風の魔法で空気の層を作り水に触れず湖底を歩き キュルケが炎で精霊をあぶるという戦法だったのだが、ぶっちゃけ二名ほど役立たずである。 空気の球が破れ少しでも水に触れると、操られるため危険極まりないのだが、そこで出たのが才人の答えだ。 「水の精霊と交渉するって事?でも誰が?」 「……モンモランシーなら」 そう言うルイズだが、声は暗い。 原因は、やはり『アレ』にあるのだろう。 知らない才人は「なら、早く行こう」的な態度だったが、知ってるキュルケはちと不安げである。 「あー…頼み辛いのは知ってるから無理しなくてもいいわよ。あたしとタバサで倒せばいいんだし」 「頼み辛いって、喧嘩でもしてんのか?」 「…シルフィード借りるわ。すぐ戻るから」 そう言うとルイズと才人を乗せたシルフィードが学院へと飛び立っていった。 「嫌よ、なんでわたしがそんな事しなくちゃいけないのよ」 もう爽やかさすら感じられる即答である。 「なんでだよモンモン」 「誰がモンモンよ!」 「やっぱりまだギーシュの事…」 「ギーシュ?誰だそりゃ」 その疑問に答える者は居ないが、何となく非常に気まずいという事は分かる。 しばらく黙っていたが、モンモンが少しからかい気味に条件を出してきた。 「…そうね、ここで土下座でもしてくれればやってあげてもいいわ」 「土下座!?いくら喧嘩してるからってそこまでさせることないだろ!」 「これは、わたしとルイズの問題よ」 才人の抗議を、その一言で押し止めルイズを見る。 少し震えてるようだったが、まぁ想定内だ。 モンモン自身、あのルイズがそんな事できるわけがないッ!x4と思っていたからだ。 (次は、怒りながら杖を出してくるってとこかしらね) だが、違った。床に膝を付いている。やる気だ、こいつは焼き土下座でもするという目だッ! そう思ったか知らないが、才人が止めに入った。 「や、止めろって!そんな似合わないことするなんて、お前らしくないって!」 「いいの!わたしがこうしたいんだもん!」 「あーーーもう!土下座なら俺の方が得意だろ!俺が代わってやる!」 得意とか不得手とかそういう問題ではないだろうが、そんなテンパり気味の二人を見てモンモンが呆れたように言い放った。 「分かったわよ、行けばいいんでしょ行けば」 「でもまだわたし…」 「ホントは最初から分かってたのよ…仕方ないって。あんなのに決闘挑んだんだから」 「じゃあなんで土下座なんてさせようとしたんだ?」 「『覚悟』…っていうのを見てみたかったってとこね。ホントにするとは思わなかったけど」 「じゃあ、解決したんだな。ならラグドリアン湖に戻ろう。ルイズ、モンモン」 「だから……モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ」 「長い。やっぱモンモンだな」 「やっぱり行くの止めようかしら」 「ごめん、だから行こう。な?」 三人がシルフードに乗り空に浮くとモンモランシーが小さく呟くように言った。 「これが、さよならを言うわたしよ、ギーシュ」 シルフィードが飛び立った後、その場所に薔薇の花びらが7枚舞った。 そして再び、森だが 「っぁ…ハァーーー…ハァーーー…クソが…」 もう一人も直で老化させたのだが、さっきのと同じように枯れ果ててはいるが、まだそいつらは動こうとしていた。 息が荒いのは珍しく我を忘れていたからだろう。 老化させて脆くなった骨をヘシ折ってもすぐ治るわで死なないのだ。 「ハァー…どうなってやがんだよこいつは」 一度息を大きく吐き出すと冷静さを取り戻したが、やはり胸糞が悪い。 老化が継続している限り危害は無いだろうが、正直言うとキモイ。 なにより、一刻も早くカタを付けたかった。 「……燃やすか」 ここまで来るとゾンビ扱いだ。となると燃やすのが一番手っ取り早いと判断した。 念のために老化させた草を集め、持ち込んだライターで火を付ける。 水分なぞ、ほとんど飛んでいる敵と草だ。非常によく燃える。 まぁだからこそ、まだ動こうとしている事がありえないのだが。 燃え尽きた死体を見て忌々しげに呟く。 「ギアッチョが居りゃあな…」 ホワイト・アルバムなら、絶対零度で凍結させ粉微塵に砕くことができる。 そんな事を考えていると、聞きなれた音が聞こえてきた。 「…あいつらも来たのか」 遠目だが、街道を低空飛行するシルフィードが目に入った。 森に入って死体を焼却処分していたため気付かれる事は無いだろうが、一応木の影に身を隠しながら高速で移動しているシルフィードを見送る。 「あれなら、すぐ追いつくだろうが…オレも行った方が良さそうだな」 老化で一度足を止めさせ直を叩き込んだ自分でもこれだ。ルイズ達だけだと、危ないかもしれんと判断し後を追う事にした。 10分程バイツァ・ダスト 「アンドバリの指輪でウェールズ皇太子を蘇らせて姫様をさらうなんて… やっぱり、あの時似てるって思ったのは気のせいなんかじゃなかったんだわ!」 「実は生きてたんじゃねぇの?」 「そりゃねぇな相棒。兄貴が完全に死んでるって言ってたし、城の中に敵が雪崩れ込んできたしな」 アルビオン以降にやってきて状況を知らない才人にデルフリンガーがカタカタと音を出しながら説明をしている。 万が一生きていたとしても、あれだけの敵が雪崩れ込んできたのなら、確実に首を取られるはずだ。 「銃士隊の人たち…大丈夫かしら…」 モンモランシーを連れてくればよかったと思ったが、無理言って水の精霊を呼んでもらったのだ。戦いになるかもしれないのにこれ以上巻き込みたくなかった。 「…見つけた」 シルフィードの目を通してタバサが、前を走る三頭の馬を見つけ馬の前にシルフィードを出した。 「ウェールズ皇太子!」 ルイズが叫び驚愕する。やはりウェールズだった。 才人はウェールズを知らないが、そのやり口が気に入らなかった。 ウェールズ自身にではなく、指輪を盗み偽りの命を与え、意のままに操っているクロムウェルが。 「あんたはもう死んでるんだろ!?姫様を返せ!」 「初めて見るが、君は誰かな?」 「平賀才人。ルイズの使い魔だよ」 「おや…ミス・ヴァリエールの使い魔は…確かプロシュートというんじゃなかったのかな?」 「どうでもいいだろ、そんな事!」 その叫ぶような声に対してウェールズは微笑を崩さない。 「返せと言ったね。それはできない。彼女は彼女の意思で、僕に付き従っているのだ」 「姫様!こちらにいらしてください!そのウェールズ皇太子は、アンドバリの指輪を持つクロムウェルによって偽りの生命を与えられた皇太子の亡霊です!」 ウェールズの後ろからガウン姿のアンリエッタが現れルイズが叫ぶが、アンリエッタは唇を噛み締めたまま動かない。 「そんな…姫様…」 「見てのとおりさ。さて…取引といこうじゃあないか」 「さて…面倒な事になってやがんな。こいつは」 ウェールズ達から離れる事、約5メートル。追いついたプロシュートが森の中の大木に背を預け立っていた。 もちろん、ルイズ達からは見えない方にだ。 気配を消しながら観察していた時、ルイズ達以外に見知った顔を見つけた 「それにしても、あの時のマンモーニが、オレの後継いで『ガンダルーヴ』ってのになってるたぁな」 顔を確認してあのマンモーニと判断したのだが、とりあえず傍観する事に決めた。 ウェールズが取引という言葉を吐いたからには、今すぐにどうこうあるまいと判断したからだ。 「取引だって?」 「そうだ。ここで君達とやりあっては馬を失う事になってしまうかもしれないからね。そうなっては道中危険だし、魔法も温存したい」 その瞬間タバサが問答無用で『ウィンディ・アイシクル』を叩き込んだ。 『ブッ殺すと心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!!』と言う声が聞こえそうなぐらい躊躇が無い。 何本もの氷の槍がウェールズを貫いたが、倒れず傷口が塞がっていく。 「無駄だよ。無駄無駄、君達の攻撃では、僕を傷つける事はできない」 「見たでしょう!それは皇太子じゃない!別のなにかなのよ姫様!」 傷が塞がる光景を見て顔色を変えたアンリエッタだが、左右に首を振り苦しそうな声を出した。 「お願いよ…ルイズ。杖をおさめて…わたし達を行かせてちょうだい」 「姫様!それは『アンドバリの指輪』でクロムウェルに操られているだけなんです!」 喉が裂けんばかりにルイズが叫んだが、アンリエッタは鬼気迫るような笑みを浮かべている。 「そんな事は知ってるわ。百も承知よ…でも、それでも構わない!ルイズ、あなたは人を好きになったことがないのね。 本気で好きになったら、何もかもを捨ててもついて行きたいと思うものよ。嘘かもしれなくても、信じざるをえないものよ。 わたしは、水の精霊の前で誓約の言葉を口にしたの。『ウェールズ様に変わらぬ愛を誓います』と。だから行かせてルイズ。わたしからの最後の命令よ」 アンリエッタの決心の固さに負けたのかルイズが杖を降ろし一同がそれを呆然と見送ろうとし、唯一の生者を含んだ死者の一行がその先へと進もうとしていた。 木の影でそれを見ていたプロシュートが、ゆっくりとグレイトフル・デッドを発現させる。 さらに近付き、距離にして4メートル。不意を突き直をぶち込むには十分すぎる距離。 バレちまうが、この際仕方ないとしたのだが、不意にそれを中断する。 ウェールズ達が進もうとする先に、デルフリンガーを構えたマンモーニが居たからだ。 「姫様…悪いけど言わせて貰うよ。俺は生きてる頃の皇太子様とも会った事が無いし、恋も、愛も知らない。 ルイズを今まで助けてきたのだって、俺じゃない。でも、そんなのが愛じゃないって事ぐらいは分かるんだよ!」 「これは命令よ…どきなさい!」 全身を震わせながら叫ぶ才人と、精一杯の威厳を振り絞りアンリエッタの叫びが重なる。 「あいにく、俺はあんたの部下でもなんでもねぇ。 俺はルイズの使い魔だ。使い魔は主人の命令しかきかないんだよ。どうしても行くって言うんなら……仕方ねぇ。俺はあんたをたたっ斬る!」 それを聞くとグレイトフル・デッドを引っ込め木に背中を預け目を閉じた。 「マジにあいつ、あそこでオレに土下座してたやつか?ま…しばらくはオメーに任せてやるよ、しばらくはな…」 もちろん、最後の最後に危なくなれば出ていくつもりだったが、どんなヤツかという事も見てみたくなったからだ。 目を閉じていると、魔法が飛び交う音が聞こえてくる。 キュルケが炎が効く事に気付いたようだが、天から一滴、水が落ちてきた。 「不味いな…」 雨が降れば火の威力が削がれる。魔法がそれに当てはまるかどうかは知らないが、とにかく不味いと判断した。 木の下にいるだけあって、そう濡れてはいないが、街道で戦っている方は、本降りになった雨をモロに受けている。 「杖を捨てて!あなたたちを殺したくない!雨の中では『水』には勝てはしないわ!」 「…そうなんか?」 アンリエッタの勝ち誇ったような叫びを聞き、才人がウェールズ以外の死者を焼き払ったキュルケに尋ねたが、『やれやれだぜ』と言わんばかりに肯定された。 「こんなに雨が降ってちゃ、あたしの『炎』も水の壁に遮られるわね。タバサの壁と、あなたの剣じゃ傷を付ける事もできないし…打ち止め。負け!」 「しかたないわ…逃げましょう。ここで、あんたたちを死なすわけにはいかないもの」 皆が逃げようとするが、才人だけはそこに留まっていた。 「なにやってるの!勝ち目無いんだから、逃げないと!」 「なぁ…デルフから聞いただけなんだけど、プロシュートってやつは逃げたのか?」 「どうでもいいじゃない!そんな事!!」 「ニューカッスルってとこでも、死にそうになりながらでも敵に向かっていったんだろ?」 「そりゃな、『一度敵のノドに食らい付いたら、なにがあろうと離したりしない』ってのを地で行くのが兄貴だったし」 「じゃあ俺もそうする」 それを聞いてルイズが絶句した。 (あの馬鹿ハムッ!居なくなったのに妙なとこで影響ださないでよ!!) 心底そう思うが、言う相手が居ないのでどうしようもない。 「あんたとあいつは違うの!だから逃げる!命令よ!」 「違うって、何が違うんだよ。お前を守ってたんだろ?だから俺もお前を守ってやる」 本物のド平民の才人と現役暗殺者でスタンド使いだから違うという事だったが、妙にプロシュートに対抗意識を燃やしている才人は気付く術は無い。 ちなみに、プロシュートからは『守る』とか言われた事はないので直接才人に言われた分、ルイズの心拍数は上がっている。 無駄にルーンが光出すと、デルフが間の抜けた声をあげた。 「あー、わり、忘れてた。あいつ、随分と懐かしい魔法で動いてやがんなぁ」 「はい?」 「いや相棒、マジごめん。でも俺が思い出した。 あいつらと俺とは根っこは同じとこで動いてんのさ。『先住』の魔法ってやつでさ。ブリミルもあれにゃあ苦労したぜ」 「言いたい事があるなら、ハッキリ言いなさい!役立たずね!」 「役立たずはどっちだよ…バカの一つ覚えみてーに『エクスプロージョン』ばっか連発じゃねぇか そいつは強力だが、精神力を激しく消耗する。この前みたいなデカイのなんて兄貴でもない限り、一年に一度撃てる撃てねぇかだ」 「じゃあどーすんのよ!」 「ブリミルが対策練ってるはずだぜ。祈祷書のページをめくってみな」 ルイズが祈祷書をめくると、新たに文字が書かれたページを見つ文字を読み上げる。 「…ディスペル・マジック?」 「そいつだ。『解除』魔法。それならアンドバリの指輪の効果も消えるはずさ」 逃げ出さないルイズ達を見て、アンリエッタが悲しげに首を振ったが顔をあげ呪文を唱える。 「これ以上…行く手を阻むなら…!」 「愛している。アンリエッタ」 その言葉とウェールズの笑みを見ると、アンリエッタの心が熱く潤む。 僅かに頷くと、二人が同時に詠唱を始めた。 『水』『水』『水』そして『風』『風』『風』。 水と風の六乗。 通常ならトライアングル同士といえど、このように魔法を重ねるなどほとんどできはしないが、選ばれし王家の血が可能にする。 王家のみに許されたヘクサゴン・スペル。その圧倒的破壊空間は、まさに歯車的水竜巻の小宇宙ッ! 謳うようなルイズの詠唱を聞き勇気が沸いてきた才人だったが、デルフリンガーがヤバそうに呟く。 「やっべぇなぁ。やっぱ向こうが先みてぇだ」 慌てたキュルケがウェールズとアンリエッタに炎を放ったが、全て二人の周りを回る水竜巻によって掻き消され水蒸気を出している。 「…どうしようか」 勇気は沸いていたが、さすがにどんどん膨らんでいく水竜巻を見て、その言葉が出た。 「どうするもなにも、あの竜巻を止めるのがお前さんの仕事だよ。ガンダールヴ」 「俺かぁ…でも不思議だ。あんなでっかい竜巻だってのにちっとも怖くねぇ」 「詠唱中の主人を守るのがガンダールヴなんだからな。相棒の仕事はそれだけだ 主人の詠唱を聞いて力がみなぎるってのは、母親の笑い声を聞いて赤んぼが笑うのと同じで、そういう風にできてんのさ」 「簡単でいいな。…プロシュートってやつもそうだったのか?」 「…あー、いや。兄貴は…どうだろうな。まぁいいか。任せた」 使われていたデルフリンガーすら分からない。なにせ攻撃が最大の防御を地で行くあのギャングである。とてもじゃないが想像できなかった。 「楽勝だ。俺は虚無の使い魔だぜ」 そう言うと竜巻を迎え撃つべく向き直ったが、デルフリンガーが少し異変に気付いた。 「お…見ろよ、何か竜巻の大きさが小さくなったみたいだぜ」 「本当だな」 ヘクサゴン・スペルの詠唱を行っていたアンリエッタが、僅かだが、ウェールズとの詠唱が合わなくなっている事を感じていた。 (そんな…どうして…!) 体のあちこち、特に関節が痛くなり、疲れが出てくる。 まるで、極限まで無理をして魔法を使った後のような感じの疲れだ。 二人の呪文が完成し、水竜巻が放たれたが、本来の威力とは程遠いものだ。 才人がその前に出てデルフリンガーで受け止めた。 「これなら…なんとかなりそうだぜ相棒」 デルフリンガーを中心にして水竜巻が回転する。 飲み込まれそうになるが足を踏ん張り耐えていると、デルフリンガーが水竜巻を全て飲み込んだ。 「ごちそーさん」 「お前、ホント伝説なんだな」 「あたぼーよ」 そうこうしていると、ルイズが詠唱を完了させたのか、後ろから『ディスペル・マジック』を叩き込んだ。 アンリエッタの周りに、眩い光が輝きウェールズが崩れ落ちる。 それに駆け寄ろうとしたアンリエッタだったが、不完全だったとはいえヘクサゴン・スペルを使った精神力の消耗と謎の疲労のおかげで意識を失い地面に倒れた。 だが、倒れ意識を失う瞬間に、その謎の疲労は霞のように消えてく事を感じていた。 「ふん…オレの老化に巻き込まれてそれだけで済んだなんざ、運の良いヤツだぜ」 ヘクサゴン・スペルは選ばれし王家の血を持ち、息が合わねば不可能だ。 広域老化を発動させたのは、キュルケが二人に向け炎を放ち、それが二人の周りを回る水竜巻に掻き消された時。 「水蒸気がある分、蒸し暑いだろーからよ」 夜、しかも雨が降っている状態では、体は当然冷えて広域老化の効きは非常に悪い。 だが、キュルケが放った炎の熱量は相当なものだ。掻き消されたとはいえ、それなりの水を蒸発させ水蒸気を発生させる。 もちろん、その湿度を伴った温度がダイレクトに届くわけではないが、ほんの少しアンリエッタの体温を上げるには十分だった。 しばらくしていると、アンリエッタが目を覚ました。 冷たくなり、転がっているウェールズを見て悪夢から覚め正気に戻ったらしい。 「わたくし…なんてことをしてしまったのかしら…」 「目が…覚めましたか?」 両手で顔を覆っているアンリエッタに、いつもの感じの声で問うた。 「なんと言ってあなたに謝ればいいの…?わたくしのために傷付いた人々になんと言って赦しを請えばいいの?教えてちょうだいルイズ…」 「謝るのは後ですよ姫様。向こうで銃士隊の人が沢山倒れてるんです。早く助けないと手遅れになっちまう」 特に、一人離れていた場所で気絶していた人なぞ、早く手当てしないと本当に死んでしまうかもしれなかったからだ。 「そうだわ…アニエスにもひどい事をしてしまったわね…」 ウェールズの死体を木陰に運ぶと、銃士隊の面々が倒れている場所へと戻っていった。 見えなくなると木の後ろに居たプロシュートが出てくる。 こっちに持ち込んできたタバコを咥え火を付けた。 「…ちッ!」 だが、タバコは完全に水に濡れていて火は付かない。 本来、吸う事は滅多に無いが、そうさせたのは心の奥底に沸き立つドス黒い感情からだろう。 (何時以来だったかな…こんだけムカついてんのはよ) 少し考えたが、思い出した。 というより、あまり思い出したくなかったので忘れようとしていただけかもしれない。 「ソルベとジェラートの時…か」 ジェラートが猿轡を飲み込み死に、ホルマリン漬けにされた輪切りのソルベが送られてきた時。 あの時も、今のようなドス黒い感情が湧き出ていた。 殺すだけではなく、その死体すら利用するボスのやり口を見た時と同じだ。 誇りも何もあったもんではない。 暗殺チームに属しているからには、常に死ぬという事を覚悟してやってきているが、その覚悟している死すらも踏みにじるような行為を見た時だ。 あの時は、ギアッチョが今にも飛び出しそうな勢いだった。 リゾットが何時もと同じ、冷静さを保った顔で抑えていたが、それにギアッチョが反発していた。 「腑抜けやがったのかてめーはッ!?仲間が殺されてんだぞ!オレ達は暗殺チームだろーが!『恩には恩を仇には仇を』が、あんたの流儀だったんじゃあねーのかよ!」 もちろん、今動けば何もできないという事は理解していたが、このドス黒い感情からプロシュートも一瞬だが、ギアッチョに賛同しかけた。 「抑えろ…今、行動を起こせば。オレ達はボスに近付く事すらできない…耐えろ…仇は…必ず返す…!」 だが、続くリゾットの言葉に、そのドス黒い感情が四散した。 言葉だけなら、そうならなかっただろうが、リゾットの肩からカミソリが飛び出し血を流していたからだ。 リゾットは常に感情を抑え、一定の態度を保ち続けている。冷徹と思われてるかもしれないが、実際のところそうではない。 チーム1の苦労人でもあるが、チーム1諦めが悪い男でもあるからだ。 メタリカが暴走しかけているのにリゾットは冷静さを保ち、チームを纏めようとしている。 そんな姿を見たからこそ、そのドス黒い感情を抑えた。 だが、この感情はその時の物を遥かに上回る。 死体を利用するという点では同じだが、死体だけではなく、精神…魂すらも踏みにじっている。 ウェールズの肩を掴んだときに感じた冷たいものは、多分そのせいだろう。 仮定の話として、リゾットやメローネ…チームの仲間が、偽りの精神だけ与えられていればどうするか。 決まっている。速やかにブチ殺し、そんなナメた真似したやつに生まれてきたことを後悔させるような方法で殺す。それだけだ。 そんな事を思いながらウェールズの死体に近付いたのだが…。 「やぁ…どこかで見たと思ったら…やはり君だったのか」 「…ッ!」 まだ動くか。そう判断し直を叩き込もうとしたが、着ている白いシャツに赤い染みが広がるのを見て止めた。血が流れ出ると言う事の答えは一つだ。 「…手間かけさせやがって。やっと戻ってきたみてーだな」 「ヘクサゴン・スペルの最中にアンリエッタの息が合わなくなったのは君の力なんだろう?…おかげで、アンリエッタが誰も傷つけずに済んだ…」 「ハ…ッ!てめーは思いっきりやっといてそれか?ナメた口利いてんじゃねぇ」 「はは…耳が痛いな…最後に一つ頼みがある」 「死人の分際でなに贅沢抜かしてやがる」 「アンリエッタを赦してやって欲しい…彼女は悪い夢を見ていただけなんだ。ウェールズ・デューダーという仮初の悪夢を」 「オメー1人の責任だって事か?確かにオメーがそそのかしたみたいなもんだからな……だが断る」 「…!?」 「赦す?ナメんな。一発言ってやらなきゃあ分かるモンも分かんねーんだよ。同じ事やらかしたら、次なんてねーんだからな…」 ギャングの…特に暗殺の世界において、二度目というのは、ほぼ無いと言っても等しい。 だからこそ、一度失敗をした時には、それを教訓として心に刻まねばならない。 ペッシをブン殴っていたのもそれが理由だ。だからこそ、その言葉には重みがある。 「そうか…なら言い直すとしよう。君にもアンリエッタを頼みたい」 「暇がありゃあな…で、どうすんだ?これ以上利用されねーようにしてやってもいいが」 そう言うと手を翳す、老化させれば利用することもできないだろうと思ったからだ。 「それはアンリエッタに頼むとするよ。君には改めて礼を言わせて貰う。ありがとう…」 「死人の礼なんざオレの耳には聞こえねーよ」 踵を返しウェールズの元を離れる。そうすると銃士隊の治療を終えた一行が戻ってきた。 正直言えば、アンリエッタに蹴り入れて説教したいとこだったが、例のドス黒い感情が上回っておりそれはしなかった。 「クロムウェルだったな…」 言われていた名前を反復する。 これからどうするかと思っていたが、一つの結論に達してドス黒い感覚が一気に消え去った。 何のことは無い。いつもやっていた事をやるだけだ。つまるとこ暗殺を。 そう結論付けると、侵攻が起こった時どうするかと考えていた事がバカらしく思えてきた。 ルイズが行きたいというのなら行かせてやればいい。マンモーニだが、そこそこ根性のある使い魔も居るようだ。ならオレは勝手に得意な事をやらせてもらう。 いっその事、干からびたクロムウェルとかいうヤツの死体をアンリエッタに投げつけてやるというのもいいかもしれないと思った程だ。 もちろん、暗殺である以上は、これまでどおり姿を隠し情報を集めるなどをしておかねばならないが。 しばらくすると、ウェールズを乗せたシルフィードがどこかに向かって飛び立ち、木の影からそれを見送る。 「オメーに言うのは二回目だったな……アリーヴェ・デルチ」 いつの間にか巨大な雨雲は去り、二つの月が森を照らしていた。 プロシュート兄貴―暗殺執行前、潜伏進行中 ルイズ&才人―進んだような進まないようなそんな微妙な感じ。 ギーシュ―ようこそ…思い出の世界へ… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1534.html
プロシュートが戻ってきた。 「ヤツ等は貴族に雇われたとゲロしたぜ」 ゲロって何? 「喋ったって事だぜ、ルイズ」 わたしの方を向きプロシュートが言い直した。 そんなにも不思議そうな顔をしてたかしら。 「それなら、最初からそう言いなさいよね」 「よく、あっさりと聞き出したものだな」 ワルドさまが不思議そうに言った、なんとなく分かっているわたしにとって そこには気づいてほしくなかった。 「まず、1人ブッ殺した」 まず・・・か、プロシュートの返答を聞いたワルドさまの顔が強張った 「残った連中は知っていることを、俺が質問する前に話してくれたぜ」 いきなり殺されたんじゃ、交渉の余地なし。男たちは話すしかなかったのね。 「その後に全員ブッ殺した」 「何で殺すのよ!」 わたしはプロシュートに怒鳴った、なにも殺す事は無いと思ったからだ。 「お前を守るためだ、ルイズ。貴族を襲ったんだ、殺されたって文句を言えねえ、そうだろ?」 たしかに、そのとおり・・・わたしが黙って聞いている事を肯定と 受け止めたのか、プロシュートは後を続ける。 「ルイズ、お前がフーケを捕まえに行くと言った時や、戦争中の国に行くと言った時も、 危険だからヤメロとか自殺行為だとか俺は止めたりしねえ。俺は保護者じゃねえ、 お前の使い魔だからなあ。唯、お前を敵から守るだけだ!」 プロシュートはわたしの身を守る為に敵を殺した。 ・・・でも、わたしは納得出来なかった 「だから、殺す必要は無かったと思うの。縛ってたし、気になるんだったら 動けなくなる様に傷つければ良いじゃない」 プロシュートが大きなため息をついた。 「甘いんじゃねーか!ルイズ。もし、今ここでヤツ等を放置すれば再び襲って 来るだろう。こんどは単純な奇襲じゃなく罠も張り巡らせてなあ」 プロシュート・・・なんという用心深さなの。 わたしの身を守る、わたしの使い魔。 わたしが甘いというの? いや、いけない。使い魔に振り回されるな! 確かにプロシュートはわたしの身を守っている。 しかし、わたしの言うことを全て聞いてない。 まるで手綱を受け付けない馬の様ね。 馬は、わたしを乗せているが思い通りに走ってくれない。 馬が乗り手を認めていない・・・つまり、わたしの力不足ってことね。 ・・・上等じゃない。今まで驚かされ続けてきたけど、使い魔に振り回される メイジなんて恥もいいとこだわ。わたしは、この任務を通じて少しでも プロシュートに相応しい立派なメイジに成ってみせるわ。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/640.html
** 数日が過ぎると、生徒達のジョナサンへの印象は二つに割れていた。 一つは貴族に歯向かう不埒な平民、というもので、面と向かってジョナサンに勝負を挑んだり罵声を浴びせる者こそ いなかったものの、ルイズと一緒くたに厄介者を見る目を向けられるようにはなった。 もう一つは平民ながら天晴れ、という評で、周囲が驚いたことにギーシュはこの側に立っており、それどころか 「身分の差こそあれ僕達は友人だ、なぁジョジョ?」と公言して憚らなかった。 とはいえ彼自身の女癖の悪さは決闘後も一向に直る気配を見せなかったが。 一方で使用人、つまり学内の平民達からの評価も微妙なものだった。 「魔法が使える平民」「貴族を圧倒した平民」…つまり「評価はするが得体の知れない奴」というのが大勢の意見で、 その中で「貴族サマに一泡吹かせたってだけで俺ぁ痛快だ」と大笑した厨房長のマルトーと、先の決闘の一件で 危うい所を逃れたシエスタだけは、ジョナサンにとって数少ない味方となった。 ルイズにしてみればジョナサンは思った以上に「使える奴」だったが、いかんせん説教臭いのと偉そうなのが いちいちカンに触っていた。 餌付けで言う事を聞かせる方法が聞かない事を悟ると、ジョナサンが使用人の食卓で食事を摂ることを 渋々ながら承知し、その代わりにジョナサンに小間仕事を幾つかさせようとした。 ただ残念ながらジョナサンは生活能力がさほど高くない事がすぐ判明し、結局他の使い魔同様に主人であるルイズの 身辺警護が主な仕事となった。 ジョナサン自身はそのような評価を気にする事も無く、ルイズに付き添って学園生活を送っていた。 当然授業にも同行し、ジョナサンもハルケギニアの歴史・地理・文化についての知識を少しづつ学び始めたが、 いかんせん魔法学校という場所柄のため授業も魔法の原理と実践が主体であり、魔法が使えない身にすれば メイジを相手にした場合の策を考える時以外は無用の知識でしかなかった。 同時に元の世界に戻る方法をあちこち尋ねてはみていたが、そもそも使い魔と主人の契約は無条件の終身契約な上、 「異世界から来る」者がいる割に「異世界に行く」者は皆無と知り、最近ではかなり悲観的になっていた。 そして教師陣は… 「ハブショ」 鼻毛を抜いてくしゃみ一発。 トリステイン魔法学園学長オールド・オスマンのこの癖はコルベールにとって馴染めないものの一つだった。 「…なぁ、ワシの言った通りになったろォ~?」 「はぁ」 納得いっていない表情のコルベールはこれまた納得いっていない返答をする。 「あのグラモンん所のマセガキは口ばっかりなんじゃから…まあ石畳の傷だけで済んだんだから良しとせねばな。 秘宝を使って生徒の喧嘩を止めたりすれば後が面倒で困るしの」 「石畳は先日生徒に実習の名目で修理させました。ただやはり『何が石畳を切り裂いたのか』を知りたがってたとか」 「まあ言って信じる奴もおるまいて。見ていたこっちが信じられんのじゃから」 鼻毛を抜いてくしゃみ一発。 「ところで例の件、調べが付いたと聞いたが?」 「あ、はい…これを」 コルベールは小ぶりの古書を取り出し、付箋を挟んだ箇所を開く。 「これだけが一致しました」 「おっそろしく古い本だのぉ…しかも薄いし小さいし…良う見つけてきたもんじゃな」 「『始祖ブリミルの使い魔たち』。刊行年不明、子供向けの教材か絵本です。 文学の未整理棚にあったのをたまたま見つけてきました」 開いたページのルーンの一つを指差し、 「これです」 「『ガンダールヴ』…『始祖ブリミルの盾』か…」 「はい。ですが本の中にはこれ以上の記述はありません。ルーンだけです」 「繰り返すが、他の資料には載ってないんじゃな?」 「まず最初に『魔力文字大全』を調べましたが、該当するルーンはありませんでした」 「あれに載ってないとなれば本当に忘れられたか、それとも…」 オールド・オスマンの意地の悪い笑み。 「『歴史的に無かった事にする』ため消したか、じゃな」 「そんなバカバカしい…」 「自分に都合の良い歴史が欲しい連中はそれくらい平気でやるぞ。時間と手間は掛かるが確実な方法じゃ」 鼻毛を抜いてくしゃみ一発。 「こうなると確証が欲しいのぉ…彼が本当に『ガンダールヴ』たる者か、そしてその主が主たるにふさわしいか」 「では模擬戦でも?」 「そんなスッとろい事せんでもええわい。相手役なら適任がいるじゃろが」 「はあ…あまり関心しませんが…」 渋るコルベールを面白がるように見つめつつ水タバコの吸い口を引き寄せ、 「素破かと思うて泳がしてみたがそんな大したタマでなし、そろそろお引取り願う頃合じゃろうて。 それともなんじゃい、おぬしも色香にたぶらかされたか?ん?」 ほくそ笑みながら一口。 「そうではなくて万一を考えると…」 「ま、よしんば失敗しても何とかするわい…トリステイン魔法学園の名誉にかけて、な」。 笑いと共に煙を吐き出すオスマン。この癖もコルベールにとって馴染めないものの一つだった。 「さて、女狐を釣る餌じゃが…あれでいいかのう…」 その三日後、トリステイン魔法学園の宝物庫に怪盗「土くれのフーケ」が現れた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1425.html
ザ・サン…もとい頭を光らせながらコルベールが何やら疲れきった様子でプロシュートに近付いてきた。 「君に言われたとおり、樽五本分のガソリンの精製が今、終わったところだよ」 「早いな」 この前ガソリンのサンプルを作ってから数日、それから飛ばせるだけの量を精製する事になったのだが、結構早く出来たのでそれなりに驚いていた。 「それが飛んだ姿を見たくてね…ふふ…ここ数日徹夜続きだったよ」 目の下のくまがスゴイ。 俯き怪しく笑いながら荷台に積んだ樽を浮かしながら運んでいる姿は、なんかもう色んな意味でペリーコロ(危険)さんである。 広場に付きガソリンを入れていると、他の教師からアルビオン宣戦布告を聞いたコルベールがブッ飛んでいた。 「なんですと…!アルビオン軍がタルブ村に!?」 スデに他の教師や生徒達には禁足令が出ているらしい。 「ヤベー状況か?」 「…トリステイン艦隊は司令長官が戦死した上に、残存艦艇も無傷の艦はほとんど無いらしい」 地上戦力も3000対2000で劣っている。 つまり、制空権を抑えられ、蹂躙されるだけという事だ。 「まぁついでだ、あいつに『これ』を見せるっつったからな」 「タ、タルブに行くというのかね!?禁足令が…」 そこまで言って関係無い事に気付いた。 目の前の男は生徒でもなければ貴族でもない。 「ちょ、ちょっと何やってんのよ!」 そこに飛び込んでくるのはルイズだ。 「タルブまで空の散歩だ」 「散歩って…聞いたでしょ!?アルビオン軍が攻めてきたって!!」 「放っといても、そのうちこっちに来んだろーが、それにだ」 「…それに?」 「守んのは性に合わねーんだよ。どうせ相手すんなら打って出た方が早い」 「兄貴の能力じゃここの連中巻き込むしな」 「そういうこった」 必要であれば巻き込むのも躊躇しないが、能力的には敵のド真ん中での能力使用による殲滅が最も適している。 ルイズもグレイトフル・デッドの射程はどのぐらいか聞いていたが、それ以上の射程の大砲でドンパチやっている戦場に行かせる事はできない。 「…こんなのでアルビオン軍に勝てるわけないじゃない!怖くないの…!?死んじゃったらどうするのよ…!!この馬鹿!!」 「怖くねーやつなんていねぇよ。それを上回る『覚悟』を持ってるか持ってねーかってこった。恐怖心を持たないヤツが居たとしたらそいつは、ただの馬鹿だ」 「じゃあ…なんでタルブに行くのよ…!」 泣きそうだが、必死になってこらえる。泣いたところで説教が始まるか、ガン無視されるだけだ。 「言うだろーが、『攻撃は最大の防御』ってな。待ってるだけじゃあ状況が悪くなるだけだ。………こっちだと一応オメーらも仲間なんだからよ」 「あたしとしては『仲間』より『恋人』って言って欲しかったんだけどね」 「な…ッ!何時からそこに居やがった…!」 「おもしろそうな事やってるからさっきからそこに居たんだけど」 よく見るとタバサも隣に居る。 仲間云々の部分はルイズに聞こえない程度の声で言ったつもりだったがしっかりキュルケに聞かれていたらしい。 「ちッ!…時間がねー、オレはもう出るぜ」 「照れなくてもいいじゃない。…あ、でもそんなダーリンも素敵ね」 「レア」 そんなやり取りを見ていたルイズだが、自分も含めて仲間と思っていてくれている事に気付いた。 「…なによ…性に合わないって言ったくせに、結局守るためじゃない」 「ルセーな…あっちに居た時は、オメーらみてーなマンモーニは居ねーんだよ」 ペッシの事はスルーしているが気にしない。 空にペッシが泣き顔で『ひでーや兄貴ィィィ』と言っているような気もしたがこれも無視した。 そう言いながらゼロ戦に乗り込もうとする。 「わ、わたしも、それに乗って行くわ!」 「言っとくが、こいつが墜ちたら死ぬぞ?」 「わたしはあんたのご主人様なのよ!?あんた一人死なせたら…わたしがどうすんのよ!そんなのヤなの!」 ルイズの目をジーっと見る。目は反らさない。 それだけ確認すると、何も言わずゼロ戦に乗り込む。 「な、なによ!こんな時ぐらい言う事聞きなさい!」 しばらくするとゼロ戦の中から破壊音が聞こえ、操縦席から壊れた馬鹿デカイ無線機が放り投げられた。 「ったく…あの時のペッシと同じ目ぇしやがって…言っとくが後ろに席はねーぞ」 組織を離反すると決意した日、マンモーニながら自分達に付いてくると言った弟分と同じような目をしていた。 だからこそペッシと同じようにルイズを連れて行く気になった。 ルイズがゼロ戦に乗り込むと同時に各計器チェック、機銃弾装填確認を行う。 全て良好。旧日本海軍の整備力の高さと固定化の賜物だ。 「ミス・ヴァリエール!…行くな…と言いたいところだが止めても君は行くのだろうから…これだけは言わせて欲しい」 何時に無く真剣な顔のコルベールを見てルイズが操縦席から身を乗り出しそれを見る。 「自分の身を大事にしなさい。わたしから言えるのはそれだけだよ」 「あたし達も『仲間』なんだから付き合うわよ」 キュルケに同意するようにタバサも無言で頷く。 「…ついでだ、纏めて面倒みてやるが、万が一の覚悟ぐらいはてめーでしろよ」 そう言うが、甘くなったなと思う。 イタリアに居た時なら、任務を遂行するためには切り捨てる事も必要だと割り切っていたはずだが ブチャラティの言う事もここに来て分かるような気はしてきた。 「『任務は遂行する』『弟分も守る』『両方』やらなくちゃあならないのが『兄貴』の辛いところ…ってとこか」 「なんか言った?」 「何も言ってねーよ」 「…嘘ね!」 ルイズが後ろで色々五月蝿いがエンジンをかけそれを無視する。 「兄貴、このままだと距離が足りねぇ、前から誰かに風を吹かせてもらわねぇと」 「オメーに分かんのかは理解できねーが…気がきいたな」 「俺は伝説の武器だからよ、ひっついてりゃあ大概の事は分かるさ」 「自分で伝説とか言ってるヤツが一番危ねーんだよ」 「あ、それ結構傷付いた、ヒデーよ兄貴ィ」 「前を見なさい前をーー」 軽口叩きながらコルベールに風を吹かしてくれるように伝える。 風が吹くと同時にブレーキを踏み込みピッチレバーを合わせる。 ブレーキを弱めフルスロットルにすると、勢い良く加速する。 「ぶぶぶぶぶぶ、ぶつかる!」 「舌ぁ噛むぞ黙ってろ!」 後ろでルイズが辞世の句を頭に浮かび上げているが、壁にぶつかる手前で操縦桿を引き上げると、それに合わせゼロ戦も地を離れた。 「素晴らしい…まるで私の信念が形となったようだ…」 このハゲ、ゼロ戦が飛んだ姿を見てどこぞの軍人が乗り移ったご様子で日食の事はすっかり忘れている。 「なにこれ…ホントに飛んでる!」 「しかも、はえーなこいつ、おもしれえ!」 「そりゃあな」 巡航速度程度でも350キロ以上は叩き出せるゼロ戦だ。 フルスロットルなら524キロまで出せる速力を誇る。 当然、キュルケとタバサを乗せたシルフィードは置いていかれている。 「ちょっと、もうあんな先にいかれてるじゃない!もっと速度出ないの!?」 「無理」 (は、速過ぎるのねーー) 二人を乗せている以上出せる速度は決まっているが、乗せていなくても付いていけないである事は今、必死こいて飛んでいるシルフィードが一番よく知っている事だ。 タルブ村に接近するにつれ、村から煙が立ち昇り、ほとんどの家は廃墟と化している。 プロシュート自身、目的の為なら無関係の者を巻き込む事は厭わないタイプだが、この場合は別だ。 明らかに、目的も無いのに破壊行為をしている。 まぁ、それが分かっているからこそ、イラ付きが自分にも向かっているのだが。 「なにこれ…ひどい…」 ルイズが眼下の惨状に目を覆うが、今の自分ではどうする事もできないため、それを見る事しかできない。 「兄貴、一騎来るぜ」 「他はどうしたよ?」 「居るとは思うが…まだ分からん」 その竜騎兵を無視しタルブ村上空を旋回するように飛ぶ。 「ちょっと!なんで何もしないのよ!」 ギャーギャー五月蝿いが無視決め込んでいると、ありえない速度の『竜』に驚いたアルビオン竜騎士隊が全騎囲むようにして、こちらに向かってきていた。 囲みを突破し離脱する形で距離を取ると180°反転し速度を飛行可能速度ギリギリに落すと……群れの中に真正面から『突っ込んだ!』 「な…!なにやってんのよあんたはーーーーッ!反転はともかく減速のわけを言いなさいーーーーーー!!」 「ヤベーって!あいつらのブレスを受けたらこいつでも一瞬で燃え尽きちまうぜ!」 機動と運動性能のみを追求し装甲を全て捨てた機体であるゼロ戦が火竜のブレスを受ければそうなる事は容易に予想できる。 「火竜よりオメーのがあぶねーだろ!」 喚きながら首を絞めようとするルイズをスタンドで阻む。 少しばかり連れてこなけりゃあよかったと思ったが、もう手遅れだ。 「だ、だったら頑張りなさぁぁぁい!こんなとこで死んだら恨んでやるんだから!!」 この状況下で墜とされた場合、両名とも死亡確定なのだがあえて突っ込まない。突っ込んだら負けのような気がする。 「ほほほほ、ほら!かか、囲まれたじゃない!ブ、ブレスがくるわ!」 もうこれ以上無いぐらいルイズがテンパっているが、プロシュートにしてみれば風竜ではなく火竜がブレスを吐くという方が『スゴク良かったッ!!』 「弾は補充が利かねぇからな…このブレスが良いんじゃあねーか! こいつを燃え尽きさせられるぐらいの火力なら、十二分に温まるだろうからよ・・・!」 全騎射程圏内、当然向こうのブレスは届かないがあえて接近した。 「グレイトフル・デッド!」 「ぜ…全滅!?二十騎もの竜騎士がたった三分で…ば、化物か!」 報告を聞いたサー・ジョンストンが喚くが後ろに控えているワルドとしては、この被害は想定済みの事だ。 「やはりガンダールブが出てきましたな」 そんな冷静なワルドを見てプッツンきたのかジョンストンが掴みかかった。 「貴様…!そもそも何故竜騎士隊を預けた貴様がここにいるのだ!臆したか!!」 それを横から見ていたボーウッドが咎めるようにして入ってきたが、矛先がワルドからボーウッドに変わっただけだ。 「何を申すか!竜騎士隊が全滅した責任は貴様にもあるのだぞ!貴様の稚拙な指揮が竜騎士隊の全め…」 喚きながらボーウッドにも掴みかかろうとするが、その途中で言葉が途切れた。 「流れ弾か…ここまで飛んでくるとはな。注意しようではないか子爵」 「ええ、流れ弾ですな」 見るとジョンストンの額に穴が開き、そこから血が吹き出している。 いくら、怪我が魔法で治せるとはいえ、脳に食らえば一発で致命傷だ。 ぬけぬけと言うが、当然流れ弾などではない。 だが、この二人が何もしていない事は回りの船員達が見ている。 「それで、レキシントンの準備は整ったのかね?」 「気付かれないように高度を取りましたので少々手間取りましたが、今終わったようですな」 「偏在か…便利なものだな。しかし、レキシントンを犠牲にする必要があったのかね?」 「私は元魔法衛士隊の隊長ですからな。アンリエッタが出てきている以上、士気は高いでしょうしメイジの比率も多い事はよく知っています」 「士気完全にを打ち砕き、メイジにも止めることができない戦法というわけか… まぁそれはいいとして、全艦に伝達『司令長官戦死。コレヨリ旗艦艦長ガ指揮ヲ執ル』以上」 一方こちらラ・ロシェールに布陣したトリステイン軍だが、ハッキリ言って手詰まりになっていた。 敵はこちらより数が多い三千、おまけに艦隊砲撃の援護付き。 対してこちらは数は二千だが、アンリエッタが陣頭指揮を取っているため士気は高くメイジの数では有利といえた。 「敵艦隊はまだ見えませんが…砲撃に備えて空気の壁で防ぐように手配はしておきました」 国民からはからっきし人気の無いマザリーニではあるが、この男が居なければトリステインなど国として成り立っているかどうか怪しいものだ。 有能だが、周りから評価されていない。どことなく暗殺チームに通じるものがある。 「しかし…砲撃も完全に防げるわけではないでしょうし それを耐えたとしても突撃してくるでしょう。とにかく我々には迎え撃つことしか選択肢はありませんな」 「勝ち目は…ありますか?」 勝算など無い戦いだったが、それをここで言うのは兵の士気にも関わる事だし、それをアンリエッタに言うのも憚られた。 「メイジの数では上回っておりますので…五分五分…といったとこでしょうかな」 そうは言うが実際のところ、上空からの長距離砲撃の前ではそれは意味を成さない。 勝ち目は無いが…やれるところまではやると悲壮な決意をした瞬間、騒がしくなった。 竜騎士が一騎近付いてきたのである。 兵が攻撃を仕掛けるが、風に阻まれる。魔法も同じだ。 そして、竜騎士が近付くと、その正体も分かった。 「…ワルド子爵…裏切り者の貴方が今更何の用がおありですか!」 「ふっ…勇敢な事だな。さすがに兵の士気も高い。お飾りながら国民の人気だけはあるとみえる」 「黙りなさい…!ウェールズ様の仇とらせてもらいます!」 「おお…!恐ろしい、恐ろしい!そんな事をされては返すものも返せなくなります」 「返すもの…?」 「元々は王党派の『物』だったが…必要が無くなったので返しておこうと思いましてな」 「一体何を…!?」 「是非受け取っていただきたい。ウェールズも取り返したいと思っていた物をな」 そう言うとワルドが掻き消え風竜がどこかへ飛んでいく。偏在だったという事だ。 「落ち着きなされ。将が取り乱しては、軍は瞬く間に壊走しますぞ」 そう言われてもアンリエッタの心中では色々な疑念が巻き起こっていた。 返すものとは何か。王党派の物でウェールズも取り返したいと思っていた物… そう考え、空を向くが何かが見えた。 空の大きさから比べれば点のような大きさにすぎなかったが…僅かだが、それが大きくなってきている。 「枢機卿…あれは…?」 そう問われマザリーニも空を見上げる。 瞬間、嫌な予感がした。 そして、その数秒後その予感が的中した事を確信した。 「ア、アルビオンの奴ら…なんという事を…全軍ラ・ロシェールより速やかに離脱!」 「枢機卿…!この後に及んで何を…!」 空を見上げたまま、撤退命令を出したマザリーニに憤りかけるも 顔が尋常じゃなかったので、もう一度空を見上げると、その意味を理解し自身も固まっているマザリーニをユニコーンに乗せ兵と共にラ・ロシェールから逃げる。 「気付いたようだが、もう遅い!」 遥か上空から何か巨大な物がトリステイン軍目掛け落ちてきている。 「『レキシントン』号だッ!!」 落下の微調整を風で行っていたのは当然偏在のワルドだ。 船体にはこれでもかというぐらい火薬が仕込まれている。 それに気付いたトリステイン軍だが、落下により加速した巨大戦艦レキシントンを止める術などありはしない。 文字どおり壊走し逃げ惑う。 「ブッ潰れろぉぉぉぉ!!」 最高に『ハイ!』になった偏在のワルドが地面と激突する20秒ほど前に船体に火を付ける。 そうして船体が燃え上がり、地面に激突すると同時にレキシントンが大爆発を起こした。 「き、旗艦を…こんな事に使うなどとは…!」 アンリエッタとマザリーニは辛うじて爆発から逃れたものの、他はもうスデに壊走していると言ってもいい状態で、被害状況すら分かりはしない。 もちろん、このまま壊走状態のままでは、何もせずに敗北するであろうことは十分に分かっている。 「部隊の再編を…被害状況も確認しなければ」 生き残った将軍と素早く打ち合わせをするが、遥か彼方から下がりに下がった士気にトドメを刺す光景を見る事になった。 「……なんだ…あの船は…」 歴戦の将軍ですら、我を忘れたかのようにその船を凝視している。 その目には、あの巨大戦艦『レキシントン』よりも一、二回り大きく、さらに装甲を金属で覆った艦が空を飛んでいる光景が目に映っていた。 その船からボーウッドがラ・ロシェールを見ている。 『レキシントン号だッ!』作戦には本来乗り気ではなかったが、この船を見た瞬間気が変わった。 装甲を金属で覆い、さらに、あのクロムウェルが連れてきたシェフィールドと呼ばれる女がもたらした技術より格段に上の装備のこの船を。 少し後ろを見る。 そこには、ワルドが召喚した使い魔が鎮座していた。 正直なところ、この船が存在するのが使い魔のおかげだなど未だ半信半疑だ。 確かにジョンストンなどより、余程司令長官らしい佇まいをしている。 船長服を身に纏い、パイプを吸っている姿など、憎たらしいぐらい余裕あり気だ。 これが、人間であればまだ納得できたであろうが… 「『ストレングス』か…確かにレキシントンが玩具に見える船だが…」 そう呟き視線を前に戻す。 その使い魔の正体は広義で見れば『猿』だった。 ←To be continued