約 1,077,050 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1840.html
歓声と怒号の飛び交うヴェストリの広場。 ルイズとヴィリエが対峙する。 まずはルイズが口を開く。 「開始の合図はどうするのかしら?」 「いつでもよろしくてよ、魔法の使えないゼロのルイズに先制攻撃されたところで私の勝利は変わりませんから」 余裕綽々と答える。 「あら、それじゃあお言葉に甘えておきたいところだけれども…魔法が使えない、は訂正して貰わないとね」 詠唱の短い、コモンマジックを唱える。詠唱は短いが、威力は十分である。 ヴィリエの手前に大穴が空く。 圧倒的にヴィリエムードであった広場はざわめく。 「確かにゼロかもしれないけれど、あなたくらいを吹っ飛ばすくらいの威力はあるわ」 ルイズも負けじと余裕を見せる。 「ゼロのルイズに魔法の侯爵をされたとあっちゃあラインメイジの名が廃れるわね」 しかし、ヴィリエは余裕の姿勢を崩さず、杖を構え、長々と詠唱した。 そして、彼女は2人に増えた。 「これが『偏在』。どう、驚いたでしょ?詠唱が長すぎるから実戦で使えるのはトライアングルの上くらいからだけれど、あなた相手の1対1の決闘なら十分使えるわ」 そう言って偏在を戻す。 しかし、ルイズは挑発に乗らなかった。 「風の魔法の講義、ありがとう。でもミスタ・ギトーの授業で十分でしたわ、じゃあ始めましょうか…… 開始の合図は……貴女がコイントスをして、そのコインが地面に落ちたら詠唱を始める、これでいい?」 「ええ、構わないわ。ただ、手加減はするつもりないの」 ヴィリエは一瞬話すのを止めて、また話し始める。 「この世で最も大切な事は『名誉』であると私は考えているの。すなわち最も忌むべき事は『侮辱』する事と考えているわ。 私たち貴族は平民と違って、金や利益のため、あるいは、劇場や食堂の席を取られたからといって、人と争ったり、命を賭けたりはしないわ。争いは実にくだらんバカのする事。 だけれども、!『侮辱する』という行為に対しては、命を賭ける。殺人も、ブリミル神は許してくれると思っている! ……あなたが決闘を受けた以上、負けたときの仮にも貴族なんだから貴族らしく覚悟くらいはしておきなさい」 観客がざわめく。 食堂の関係者数人は憎憎しげに見つめ、一部の生徒はそうだそうだと野次を飛ばしている。 「あなたこそね、さあ始めましょう」 ルイズは数歩歩き、コインを投げて渡す。 そして、両者が杖を構え、ヴィリエがコインを右手に持つ。 ヴィリエがコインを弾いてトス! コインが高々と空中を舞う。 コインが上がった瞬間! ヴィリエはルイズの意外な行動に驚いていた! なんとルイズは、ヴィリエに向かって突っ走っていった! コインをトスしたために左手だけで杖を持っていたため、杖を構えるのが遅れる。 そして、後ろでコインが地面にあたり甲高い音を鳴らしたときには ヴィリエはルイズのタックルを受け杖を落としていた。 「私の勝ちよ、ミス・ヴィリエ」 ルイズはそう宣言した。 * * * 「な、納得いかないわ、卑怯よ!開始の合図の前に突っ込んでくるなんて!」 「私は、こう言ったのよ『貴女がコイントスをして、そのコインが地面に落ちたら詠唱を始める』 合図の前に走ってはいけないなんて一言も言ってないわ」 ヴィリエは歯軋りをする。 「それだけじゃないわ!コインを自分でトスすればいいのに、わざわざコインを渡すためを装って近づいて、そして相手の片手をコイントスで塞いで注意がコインに言っている間に…」 「なんとでも言うがいいわ。普通にやってたら風のラインメイジ相手にはやればやるほど不利になることはわかってる。 でも、なんにも覚悟も戦術もない、偉そうな口上叩いて余裕ぶっていた相手ならペンタゴンだって私でも倒せるわよ。 負けたからにはあんたのいう、貴族らしくシエスタを許しなさいよ」 ルイズは片膝のヴィリエを見据えて、いや睨んで、そう述べた。 「わかったわ、あんたがなんでそこまであのメイドに肩入れしてるかはわからないけど…貴族らしく約束は守るわ」 それを聞いてルイズは背を向けて去っていく。 しかし、 「でも…あんたは許さないわ……それに、杖を落としたら負けなんて聞いてないわ!エアカッ…」 しかし、その詠唱は止められる。 観客席から乱入してきた2つの物陰に殴られて。 「負けは負けだ、油断するならそれくらいのハンデ与えても十分戦えるようになってからするんだな」 「おーおー、俺も同じ意見だぜ。気が合うな、亜人さん」 ルイズは、ぽかんと口を開ける。 「えーと…ワムウと…あなたは確か……料理長さん?」 「ああ、料理長マルトー、以後お見知りおきをな」 「許さんぞ平民!ジワジワとなぶり殺しにしてくれる!平民の方は逃がさんぞ!覚悟しろッ!」 起き上がったヴィリエが憤怒の表情でマルトーを睨む。 「あんたがどこの貴族だかは知らんが、決闘後に背後から狙った、なんて知れたら貴族の力は使えるのかねえ?」 しかしマルトーは屈しない。 そのセリフを聞いて、ヴィリエは杖を構える。 「決闘なんていうまどろっこしいことはもう終わりよ!ルイズとその使い魔はともかく、平民一人くらい、家の力がなくても…」 マルトーはなにかを取り出しそれを注入する。 すると彼のオーラが変わりだす。 バルバルバルバル!! これがッ! これがッ! これが『ドーピングコンソメスープ』だッ! ウォォォーーム!! 「もしかしてお前、まだ自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」 ヴィリエは、杖を落として逃げた。 * * * ヴィリエが逃げるのを見て、ギーシュとキュルケが手を合わせる。 「しあわせぇ~~~~~っ!」 「私たち金持ちっ………! 億万長者………!」 こっそりと逃げようとする胴元。 それをギーシュがタックルで倒し、押さえ込む。 「嘘だ…夢だろ…これ…夢に決まってる…!」 「ところがどっこい…夢じゃありません!これが現実です!」 「ぐにゃ~~~~」 その日から数日間、ギーシュの羽振りが異常に良くなるが、70スゥくらいなんてすぐ飛んでいくものである。 半分だけでも実家に送れたのは幸運だっただろう。 * * * 「あ、ありがとうございました…」 決闘が終わり、広場を離れて厨房に来ている。 普段の料理長の姿に戻ったマルトーにルイズは礼を述べる。 「なあに、いいってことよ、『我らが杖』よ!俺たちがかばうはずのシエスタをわざわざこんな騒ぎまで起こして守ったんだ! その辺の貴族は嫌いだが…外見や服装だけじゃねえ、あんたは精神的にも貴族だ!気に入ったぜッ!」 周りのコックなども同意見のようで、しきりにうなずいている者も多かった。 「さーて、戦勝祝いだ!おい!1924年物のシュタインベルガーをもってこい!」 ルイズは厨房奥の部屋に案内され、そこの席に座らされる。 すると、料理が運ばれてくる。ヨダレずびっ!なくらい美味しそうだ。 料理に手をつけようとすると、シエスタが厨房に入ってくる。 「ミス・ヴァリエール!大丈夫ですか!」 実際はかすり傷一つしていないのだが、まるで今夜が山だと言われたかのような慌てぶりだった。 「だ、大丈夫よシエスタ、そんなに慌てないでよ」 「で、でもミス・ヴァリエールが私なんかのために決闘を申し込んだなんて気が気じゃなくて…」 「そうやって自分を卑下しないの。ほら、マルトーさんがすごい上等そうなワインを下さったから、一緒に飲みましょう?」 「え、い、いいんですか?ミス・ヴァリエール?」 「前から思ってたけど、そのミス・ヴァリエールっていうのやめてよ、ルイズでいいわ」 「そ、そうですか……じゃあルイズさん、乾杯……」 グラスが鳴る。 「さっ、俺たちも飲みますか。ワムウさんもどうです?」 「少々用があるんでな、その分今日の主役にでも飲ませてやってくれ」 ワムウは食堂から出て行った。 「ひ…ひと思いに宝石を…とっていってくれ」 NO NO NO 「あ…ありがね全部?」 NO NO NO 「りょうほーですかあああーーッ?」 YES YES YES 「もしかして借金ですかァーーッ!?」 YES!YES!YES! ”OH MY GOD” 追記。質素な生徒が一人増えたそうです。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/598.html
もしこの光景を第三者が見ていれば、余程間抜けな光景に見えただろう。 学院中の生徒が広場に集まった中、誰も言葉を発さずに何が起こったのかを全員が計りかねている、という状況を。 その中でも現状を生み出したジョセフ本人が一番計りかねているというのが、何よりもマヌケだった。 (い……今ありのままに起こった事を話すぜ! なんてモンじゃあないわいッ……もっと恐ろしい何かがこのわしに起こっておるッッッ) どこぞのフランス人のようなことを考えながらも、ハッタリを最大の武器としているジョセフである。いち早く正気を取り戻すと、歯を剥き出すほど笑い、握り締めた左手をギーシュに向かって見せ付ける。 「どうじゃッ! これがこのわしジョセフ・ジョースターの実力の片鱗というモンじゃッ! 降参するなら今のうちじゃぞお坊ちゃん!」 (いや違う違う、何言ってんじゃあわしぃ~~~~~シエスタを侮辱したあやつをブッチめるんじゃろうがッ気が動転してるからっていつも通りに振る舞ってどうするッッッ) 心の中で自分にツッコミを入れながらも、口から出てしまった言葉は取り消せない。 (頼むッ! ここでヘタれて参りましたとか言わんとってくれッ、そんな決着はお互いのためになりゃせんのじゃッ) ガッツポーズは取りながらも、内心冷や汗流し放題のジョセフだった。無論、そんな様子は億尾にも出さないのは流石と言うべきか。 薔薇を突き出したままのギーシュは、そっと俯いたかと思うと……肩を小刻みに震わせた。 「ふっ……」 「ふ?」 「ふざけるなッッッッこの平民がーーーーーッッッ」 ギーシュがブチ切れた。降伏勧告がいい方向に行ったのは喜ばしいが、ジョセフはジョセフで(あっちゃー、こりゃ本当にヤッベェかもしれんのう)と他人事のように考えていた。 「次のお前のセリフは『こんな侮辱をしておいて生きて帰れると思うな』じゃ」 それにしてもこのジジイノリノリである。 「こんな侮辱をしておいて生きて帰れると思うなッ……貴様ああああッッッ!!」 彼が怒りに任せて薔薇を振り下ろすと、今度は七枚の花びらが宙に舞い……七体のワルキューレが広場に現れた! しかも今度は、七体のワルキューレそれぞれが槍、斧、剣を持ち、片手にはシールドさえ構えている。先程までより格段に殺意の高い錬金に、観客達は大盛り上がりだ。 「おおっギーシュの奴本気出してきたぞ!」 「ワルキューレ七体同時とか大人気なくね? 二股バレたからってどうなんだアレ」 「こりゃあの平民死んだろ」 観客はジョセフ以上に他人事丸出しの無責任な言葉を並べ立てる。 しかしジョセフは、内心胸を撫で下ろしていた。 (二股か。あの年で二股なぞけしからんッ。ロクな大人にゃなりゃせんわいッ。 だがまぁ~~よしよし。流石にあのお坊ちゃんも、そこまでヘタレじゃなかったということじゃな。ちょうどいい、わしに一体何が起こっているのか確認させてもらうッ!) 両腕をボクシングスタイルに構えると、ワルキューレ達がどう来るのか様子を見る。 地面に散らばるワルキューレの残骸を目の当たりにした後では、流石にギーシュも慎重な陣形を引いてくる。 一体を自分の左前方に置き、ひとまずの守りを固める。前衛に四体横に並べ、中堅には二体を並べてジリジリと進軍させてくる。怒り狂っている割にはジョセフを侮ることをやめた、堅実な用兵をしてくる。 (ただのお坊ちゃまじゃないようじゃな。こうなると、いきなりお坊ちゃまに走り込んで殴り倒して終了ォッという甘い話にゃならんな) 数の上ではお坊ちゃん+ワルキューレ七体で合わせて八人、対するこちらは一人。 得体の知れない第三の力が手元にあるらしいが、それがどう使えるものなのか。 さっきの状況をもう一度頭に思い浮かべてみる。 (波紋を込めた左手でアッパーぶちこんだら、あのワルキューレが吹き飛びおった。敵に強度がなかったワケじゃない……今の状況で波紋ヌキとかは出来ん。では左手以外で攻撃を仕掛けたらどうなるか、じゃな) 確認すべき事柄を頭の中で反復すると、姿勢を低くして一番左のワルキューレに距離を詰める! 波紋を流しているとは言え、これほど身体を軽く感じるのは五十年ぶり……これまでのことを考えれば、まるで身体が羽根のようだ、とさえジョセフは思った。 「食らえぃッ! 波紋のビィィィィィトッッッ!!」 まず最初は頭数を減らすことも期待して、左ストレートをワルキューレのくびれた腰目掛け撃ち放つ! 鉄球を鉄骨の上に叩きつけたような凄まじい音を発したワルキューレは、陥没して引きちぎれた腰から上が地面に重々しく落ち、続いて残った下半身も膝から崩れ落ちた。 (左手はマグレじゃないということかッ) ワルキューレが使い物にならなくなったのを横目で確認して、すぐ隣のワルキューレの懐へ一気に飛び込んで距離を詰め……今度はワルキューレの脛に左のローキック! 続いて響くのは、鉄板に鉄槌を振り下ろしたような鈍く大きな音。 彼女の足はひしゃげるどころか引き千切れ、ぐらりと体勢を崩す。そのまま勢いに任せ、右フックを盾を構えた左腕目掛けて打ち込めば、盾を構えた腕どころか胴体にまで拳がめり込んだ。 ワルキューレのフォルムが大きく歪んだのを確認すると、カウンター気味に振り回された腕を左腕で受け止め、そのまま反発する波紋を流して4メイルほど背後へ飛びずさる。 僅かな時間で二体の金属人形をスクラップにしたジョセフは、自らの身体に起こっている異変にひたすら驚愕していた。 (い……一体、わしの身体に何が起こってるんじゃッ! これは明らかにわしの知らん力が働いておるッ……! だがDIOの血の効果じゃあないッ) まだそうだと判断するには早計かもしれないが、その可能性を否定する材料には乏しい。DIOの血が原因だとすれば、波紋を流し続けている自分にダメージが来ているはず。 今のジョセフの血は、波紋の影響で主人にダメージを与えるどころか、ダメージ自体ほぼなくなっている。それはつまり、DIOの血はおおよそ浄化されているということだ。その考えたくもない可能性を放棄出来ることに、ジョセフは安堵の吐息を漏らす。 しかしギーシュは素早く薔薇を振り、再びワルキューレの数を七に戻す。 前に残っている四体のワルキューレは、一気にスピードを上げてジョセフへ距離を詰めていく。 (そりゃそうじゃわな、数で押してりゃどうにかなるかもしれんからなッ。幾らブッ飛ばしてもお坊ちゃんがすーぐに七体に数戻しやがるのが厄介じゃわいッ) ジリ、と後ろずさるジョセフの踵に、先程破壊したワルキューレの残骸が当たる。拳大ほどの青銅塊は、武器としても十分に使えそうだ。 ジョセフは続いてテストを行うべく、素早く身を屈めると塊を両手に取り、左手の塊にだけ波紋を流す。 「これでも食らえぃッ!」 裂帛の叫びと共に、一番近いワルキューレの足元目掛け、波紋を流した青銅を投げ付ける。 その身体の振りを利用し、返す腕で波紋を流していない塊を二番目に近いワルキューレの足元へと投げ付ける! 本当は胴体目掛けて投げたかったが、流れ弾を観客にぶつけてしまうのは本意ではない。外れれば地面にめり込むコースを心がけて投げた。 ワルキューレは素早く避けようとしたが、その努力もむなしく二体とも足に青銅塊の直撃を受けた。酷く歪んだ足は自重を支えることが出来ず、そのままぐらりと地面へと崩れ落ちた。 (これもそうかッ……投げたモノでもあのデカブツをブッ壊せるッ! それも波紋のあるなしは関係ナシということじゃな。詳しい事はちっともわからんが、これって…… スター取ったファイヤーマリオ状態っつーことでいいんじゃろうなァ~~~ッ?) 力の意味はよく判らんがとにかく凄い力だ、とジョセフは判断した。 だがしかしだ。今しがた二つのワルキューレを再起不能にしたというのに、ギーシュは倒れたワルキューレに素早く見切りを付け、またも新しいワルキューレを錬金していた。 ギーシュのその顔に焦りはない。むしろ余裕を取り戻した笑みさえ浮かべていた。 (そうさッ……冷静に考えたら幾ら平民が強かろうが、じっくりとチェックメイトまで駒を動かし続ければいいんだ! 向こうはたった一人、僕はワルキューレ七体とメイジ一人……この勝負、勝てるッ!) チッ、と舌打ちがジョセフの口から小さく漏れた。 (質量保存の法則とか余裕無視じゃのー。向こうが魔力尽きるまで根競べするか? ……出来ればそれは避けたいッ。お坊ちゃんの顔を見るに……まだまだ余裕ですよッて顔しとる!) 得体の知れない力とは言え、いつどんな反動が来るかさえ理解できていない。そんな力に頼るのは出来うる限り避けたい。 だがこちらは一人、どれだけ早く動いたとしても一度の動作で二体壊すのが今の限界。 二体壊してもすぐに向こうは新しいのを用意してくるのだから、堂々巡りもいいところだ。 無理矢理接近してもいいが、向こうもまだ何を隠し持ってるかは判らない。かと言ってこのままではジリ貧になるのは目に見えている。 ならば取る手は! ジョセフは帽子を手に取ると、軽く頭を掻きむしり。そして帽子を被り直すとパンパンと手を叩き合せ、ニヤリと笑って言い放つ! 「こーゆー時は強行突破すんのが一番じゃよなァ~~~~~~!!?」 そう叫んだ瞬間、ジョセフはワルキューレの隙間を潜り抜けてギーシュへの速攻タッチダウンを狙う! 「そう簡単に行かせると思うなよッ!! ワルキューレッッッッ!!」 だがそれはギーシュにとって予想内の行動でしかない! そして何より、ギーシュの付近には召喚したてのワルキューレが多くいる。ギーシュへ辿り着く進路を巧みにブロックしながら、ジョセフの前に立ちふさがるワルキューレから必殺の速度を持って槍が突かれる! 「フンッッッ!!!」 しかしその一撃は、ジョセフが素早く突き出した左肘が、切っ先を受け止める! だが背後からは剣を大きく振りかぶったワルキューレが、ジョセフの脳天を打ち砕こうと大上段から振り下ろし…… 「チィッッ!!」 こちらは帽子に当たったところで、帽子に流れた波紋が剣の動きを封じ込めた! だがそれでジョセフの足は敢え無く止まってしまい、その隙を見逃さないワルキューレ達が一斉に武器を哀れな老人目掛けて打ち下ろしたッ! 「まっ……まだまだ、じゃああああ!!」 ジョセフは意地を見せる! 続いて振り下ろされる斧も剣も槍もメイスも、波紋を流した指や腕や肘で、辛くも全てを受け止めた。だがジョセフは、七体のワルキューレで象られた円陣の中央に封じ込められる結果となってしまった。 少しでも力を抜けばジョセフはワルキューレ達の武器に押し潰されるだろう。ワルキューレ達は各々の怪力と数に任せ、ジリジリとジョセフへの圧迫を強めていく。 それを見たギーシュが、自らの勝利を疑わない高らかな笑い声を上げた。 「は、はははははははッッ! 惨めな姿だな平民! まるで鳥篭の中のボロマリオネットじゃあないか!」 ジョセフが身動き取れなくなったのを見て、余裕たっぷりに近付いていくギーシュ。 ギーシュはマリオネットと言ったが、見る人間が見れば新しいジョジョ立ちとも称する事の 出来る……とどのつまり、ジョセフは人体構造にかなり無理を強いる体勢になっていた。 「やっ……やかましいわい!」 さしものジョセフも、七体のワルキューレを支え切るのがやっとらしい。 先程までの余裕の表情は何処へやら、歯を強く食いしばって辛うじてワルキューレを留めている、といった状態だった。 「ふはははははっ、全くお似合いの姿だよ! ああ、言い忘れていたが僕の能力は当然とも言えるかもしれないが『錬金』だけじゃない。僕自身にも攻撃手段があるということを先に言わせて貰おうッ! 僕の勝ちだッ平民ッッッ!!」 罠にかかった獲物を今から嬲り殺そうとするハンターの笑みを浮かべながら、薔薇をジョセフに向けたその時! 「ちょっ……ちょぉっと待ってくれんかのぉ?」 媚びているようなジョセフの笑みが、ギーシュに見えた。 「なんだどうした? あれだけ威勢のいいことを言っておきながら今頃命乞いか?」 「いやいや、命乞いだとはそんな。ここは一つ、お互いのために引き分け、ということにせんかと提案をな」 当然ギーシュはハン、と鼻で笑い飛ばした。 「引き分けェ? 僕が勝ったのに? どうして僕が君の言う事を聞かなければならないんだい?」 「どうしてもダメですかなァ~?」 「どうしてもダメだな」 「どうしても?」 ジョセフの笑みが消え、はっきりと唇が動いた。 「ならお前の負けじゃ。色男のお坊ちゃん」 ギーシュがその言葉の意味を吟味するよりも先に、ジョセフは瞬時に身を屈めたかと思うと――ジョセフのボディブローが、眼前のワルキューレの胴体を歪めて行く! 「この期に及んで悪足掻きをしてどうするッッッ」 未だワルキューレの輪の中心にいるジョセフを見下ろし、悠然と薔薇を振ってワルキューレ達を動かそうとしたギーシュは、やっと気付いた。 『ジョセフに止められていたはずのワルキューレ達の武器が、ジョセフはしゃがんでいるというのに微動だにしていなかったこと』と、『薔薇を振ったはずなのにワルキューレ達はジョセフに抑えられているかのように身動きが取れないこと』に。 「なっ……」 「どおおおおりゃああああああッッッッ」 何が起こっているのか理解し損ねたギーシュの眼前で、一体のワルキューレが吹き飛ばされ青銅の塊に成り下がった。 六体のワルキューレは、それでも動こうとするが全く動くことが出来ない。 目の前で起きていることが信じられず、何かに憑かれたように薔薇を振り回すギーシュの眼前に、ジョセフが立ちはだかった。 ギーシュの心に、これまで経験したことのない感情が沸き上がったのを、彼は知った。 「なっ……何をした!? 何をしたと言うんだァーーーーッッッ!!?」 「そんぐらい自分で考えんと成長できんぞとさっき言ったはずじゃよな、お貴族様のお坊ちゃま?」 ジョセフの左手が素早く動き、ギーシュの右手を薔薇ごと掴む。 振り解くことも、薔薇を落とすことさえも、異様な握力の手は許さなかった。 何故ワルキューレの動きが封じられたかを説明しようッ! ジョセフがワルキューレ達に突撃する前に『帽子を手に取ると、軽く頭を掻きむしり。そして帽子を被り直すとパンパンと手を叩き合せ』たことを思い出して欲しい。 ここの描写をもっと詳細に描写するとこうなる。 『ジョセフは自分の髪の毛を数本掌に取り、波紋を流した髪の毛を両手に用意した』が、正確な描写なのだッ! ジョセフはワルキューレ達を自らの身を囮として誘き寄せさせて、ワルキューレ達の攻撃をわざと受け止めたのだ。 その際振り下ろされた武器に波紋を流した髪を付着させ、隣にやって来たワルキューレにくっつけることにより、『ワルキューレ達を瞬間的に溶接』してしまったのだッッッ! そして一体だけ、「囲まれた後の脱出口を作る」ため、わざと溶接しないワルキューレを残す。 ジョセフはワルキューレを各個撃破してもギーシュが次々と作り出す事への対抗策として、『壊さずに動きを止め、ワルキューレ達が動かないことに動揺したギーシュに接近をかける』ことを選んだのだッ! だがジョセフは、ギーシュに手品の種明かしをすることはしない。 「さぁて……オシオキの時間じゃのォ~~~~~、色男のお坊ちゃんよォ~~~~~?」 今、自分が抱いている感情の名前は、恐怖なのだと。ギーシュの心の何処かが、答えを出した。 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/910.html
ドン、と体に衝撃が走り、次の瞬間には礼拝堂の壁に背中を激突させていた。 続いて響いてくる音、エア・ハンマーが床や壁をたたきつける音だろうか。 混濁した意識の中、ルイズは状況を把握しようと必死に視聴覚を働かせようとする。 しかし、強く背中を打ち付けたせいか、呼吸が極端に乱れ、体を動かすことが出来ない、その上ワルドの杖が左肩をえぐり、その痛みがなお呼吸を邪魔していた。 『…ズ ……ルイズ 起きろ』 頭の中に響く声は、夢の中で会った、空条承太郎の声。 その声にハッとしたルイズは、体を丸めて力を入れて、痙攣を押さえ込んだ。 「ワルド…なんで、なんでワルドが裏切るのよっ…」 と、一瞬だけ考えてから、ルイズはかろうじて顔を上げた。 礼拝堂を所狭しと飛び回るワルド達、遍在の魔法で合計七体に分身したワルドは、じわりじわりとウェールズを追いつめていった。 ウェールズもトライアングルとはいえ、かなり優秀なメイジなのか、スクエアであるワルドの攻撃をかろうじて防いでいる。 しかし服はボロボロ、頬や腕からは血を流している、このままでは時間の問題だと、素人でも理解できるだろう。 「ぐっ…杖、杖は…」 視線をワルドに向けたまま、手探りで腰に差した杖を引き抜き、ファイヤーボールの詠唱を始める。 「…ファイヤーボール!」 バァン!と破裂音が鳴り、ウェールズを背後から攻撃しようとしていたワルドの体が弾け、霧のように霧散する。 やった! と喜ぶ間もなく、別のワルドが唱えたエアハンマーで、ルイズの体は再度宙を舞った。 ルイズは勢いよく始祖ブリミルの像に衝突し、ゴォンと重たい金属音を響かせた。 「か は 」 ドサッ、と冷たい床の上に落ちたルイズは、ブリミルの像と床に衝突したショックで、横隔膜を痙攣させて、体をビクンビクンと震わせた。 「ルイズ!邪魔をしなければ、楽に死なせてやろうと思ったのに、いけない娘だ!」 「貴様ァーーッ!」 勝ち誇ったように台詞を吐くワルド、それに怒りを顕わにし、立ち向かおうとするウェールズ。 しかし、ワルドの分身が一人減った程度では、ウェールズが圧倒的不利な状況に立たされている事に変化はなかった。 再度ルイズの頭に声が響く。 『ルイズ、体を貸せ、時間がない』 「ハァ…ッ、と、とっとと、意識を奪えば、いい、でしょ」 砕かれた肩が酷く痛み、呼吸も苦しい、いまにも気絶しそうだが、なぜか気絶できなかった。 『やれやれ…どうやら無理なようだ』 「なんでよっ」 『おまえは、『諦めていない』、だから意識を乗っ取れない』 「肝心なときに、痛っ…じゃあ、どうしろって言うのよ!」 『スタンドをおまえに預ける、俺は…』 『”痛み”を引き受ける』 その声と同時に痛みが薄れ、ルイズの体が軽くなる、ルイズはさっきまでのショック状態が嘘のように立ち上がることが出来た。 それを見たワルドの表情が変わる、そんなバカなとでも言いたいのだろうか、そんな表情だ。 頭の中で声がする。 『思ったより肩からの出血が多い』 「分かってるわよ」 苦悶に満ちていたルイズの表情に、笑顔が戻る。 『スタープラチナはおまえが思ってるほど忠実じゃない』 「分かってるわよ」 痛みなどものともしない、余裕すら感じさせるルイズの表情を見て、ワルドは攻撃対象をルイズに変更した。 「ルイズ!君の傍らに立つ”それ”が、それが君の使い魔か!土くれのフーケが言っていたが、まさかそんな”使い魔”を持っていたとは!ルイズ、やはり君は思った通り、素晴らしいメイジだ!」 そう言いながらも他のワルドが呪文を詠唱する、ワルドの戦い方のもっとも厄介な部分だ。 フライの魔法を使いながら攻撃魔法を使うのは不可能だと言われている、しかしワルドは三人以上に分身することで、浮遊と攻撃の魔法を交互に唱え、自由自在に魔法を駆使するのだ。 ワルドの台詞が終わったと同時に、右から別のワルドがライトニング・クラウドを放つ。 「おらぁーっ!」『オオオオオオラァァ!』 ルイズと同時にスタープラチナが雄叫びを上げ、始祖ブリミル像を破壊する。 その破片の中に隠れるようにして、ルイズは宙に浮き、ライトニング・クラウドの電撃は破片に吸収された。 「何ッ!?」 おそらく本体であろうワルドが驚きの声を上げる。 ルイズは破片の合間を縫って、天井近まで勢いよく飛び上がった。 しかしそこには、別のワルドが接近し、呪文の詠唱を完成させようとしていた。 ワルドが杖を向け、魔法を放つより一瞬早く、ルイズは天井に意識『破壊』のイメージを向けた。 「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらァッ!」 『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!』 スタープラチナの放つ拳が、轟音と共に固定化のかけられた天井を破壊する。 その破片をワルドに向かって跳ね返す、するとワルドはその破片を避けた。 ルイズは考えた、緊急回避が可能ならば、フライでもレビテーションでもない、おそらく風の魔法で飛んでいる。 スタープラチナの目が素早く下を見ると、ワルドの攻撃を必死に避けるウェールズと、こちらぬ杖を向けているワルドが一人見えた。 「スタープラチナ!」 ルイズの叫びと同時に、スタープラチナはルイズの手からブリミルの像の破片を奪う。 そしてスターフィンガーと同じように力を集中させた指先が、目の前のワルドを宙に浮かせているであろう、もう一人のワルドに向けて、その破片をはじき飛ばした。 「ぐあっ!?」 宙に向けて杖を向けていたワルドが声を上げる、破片が左目から頭を貫通し、ワルドは煙のように消えた。 目の前のワルドもあわててフライの呪文を詠唱しようとするが、それよりも早く落下途中の破片をワルドに向けて殴り飛ばした。 「ぐおっ!?」 蛙のつぶれるような声と共に、そのワルドも顔面を削られ、煙となってかき消えた。 (あと四人!) スタープラチナを使って着地の衝撃を和らげると、ウエールズを取り囲んでいた四人のワルドのうち三人が、ルイズから離れるようにして跳躍する。 そしてウェールズと戦っていたワルドが、他の三人とは別方向に跳躍する。 ルイズはその隙にウェールズの側に駆け寄った、ウェールズは全身傷だらけに見えたが、それほど深い傷は受けてはいないようだ。 「殿下!」 「ミス・ヴァリエール、このような目に遭わせてしまって、申し訳がない」 「覚悟の上です!それより、何とかここを脱出しましょう」 「…私が活路を開く、君はその隙に逃げなさい!」 そう言うとウェールズは魔法を詠唱し、竜巻を作り出した。 竜巻はウェールズとルイズを囲み、礼拝堂の中を埋め尽くそうと勢いを増していく。 少しだけでもワルドの足止めが出来ればいい、そう考えての行動だった。 しかしルイズは、ワルドの一人が笑みを浮かべたのに気づいた。 …まずい! そう思った次の瞬間、二人を囲む竜巻から、光り輝く刃のようなものが飛び混む。 刃はウェールズを狙って飛び込んできたが、その直前スタープラチナが刃を弾いた。 「ッ…!」 ルイズの手に痛みが走る、痛みは一瞬だったが、手の甲がパックリと裂けていた。 承太郎が痛みを引き受けてくれてはいるが、ダメージを増やすのは得策ではない。 そんなことを考えている間にも、輝く刃がは竜巻の中で数を増していく、青白い光はルイズとウェールズの血を吸おうと、不気味に輝いていた。 「殿下!風で吹き飛ばしてください!」 「く…、む、無理だ…耐えるのが、精一杯…!」 ウェールズは杖を構えたまま脂汗を流しながら返事をした、すると、それを見たワルド達が高笑いをして、言った。 「「「「ハハハハハハハハハ!」」」」 「ウェールズ皇太子殿下、君はスクエアのメイジを甘く見たな」 「この青白いはエア・ニードル、真空の渦に触れれば肉は裂け骨は砕ける!」 「さきほど、そこを歩いていたメイドからナイフとフォークを借りてね、エアニードルの核にしたのだよ」 「分身を作り出した後でも、この程度の竜巻を飲み込むのはたやすい!」 そう言ってワルドの一人が杖を振る、すると、ウェールズの顔がより厳しいものに変わる。 一人は竜巻を作り出し、ウェールズの竜巻を取り囲み、押しつぶそうとしている。 一人はエア・ニードルの魔法を食器のナイフにかけている。 一人はエア・ニードルを風の魔法で操り、竜巻の中にいる私達に狙いを定めている。 一人は…何かの袋を取り出した。 「火の秘薬だ!」 ウェールズが叫ぶ、そして、同時にワルドの竜巻がウエールズの竜巻を押しつぶし、竜巻は大人二人入るのがやっとの大きさにまで縮められてしまった。 ルイズと、ウェールズの身体をエア・ニードルが切り裂いていく、スタープラチナでナイフを弾き、致命傷を裂けてはいるものの、ルイズの手は切り傷だらけで、何カ所かは骨にまで達している。 袋を開けたワルドが、竜巻に袋を向けて、言った。 「ルイズ、君には驚いたよ、スクエアのメイジを一時的にとはいえ手こずらせたのだからね、だが…ここでお別れだ。だめ押しに火の秘薬を受けたまえ」 そう言ってワルドが竜巻に火の秘薬を流す。 「スタープラチナ!」 「もう遅い!脱出不可能よ!」 そしてワルドは杖を振って、火の秘薬に着火した。 ドォォン…と、城が響く。 火の秘薬は竜巻により、爆発に近い強烈な燃焼を起こし、超高温の竜巻がルイズとウェールズを包んだ。 竜巻が消えた後には、焼けこげた地面しか残っておらず、二人が死んだのは誰の目にも明らかだ多。 ワルドは、自分を追いつめた婚約者に敬意を払うため、地面に転がっているルイズの杖を拾おうとした。 「うあああああああああああああああああああああア!」 『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーーーッ!!!!』 「ぐがっ!?」 上空から突如現れたルイズに驚いたワルドは、とっさにエア・ハンマーを自分に当てて逃げたが、スタープラチナの拳を胸と腕に食らい、バランスを崩して着地に失敗した。 ルイズは肩に乗せたウェールズを床に降ろしてから、ワルドに近づいた。 「な、なぜだっ!ど、どうやって逃げた!」 「…殴っても消えないって事は、貴方が本体のようね、ワルド」 ルイズの表情が、いつものものでははない、これからワルドを殺そうとしている、それだけの覚悟が感じられた。 ワルドはテレパシーのようなもので他の三人のワルドに意志を伝える、ルイズを殺せと。 分身が杖を振り、魔法を放とうとしたその時、突如分身達の目の前にナイフが現れた。 「「「!?」」」 どすっ、と、訳も分からぬうちに分身達は頭にナイフを生やして、霧散した。 「な…な…」 ワルドは、ただ呻くしかできなかった。 何が起こった? 今、何が起こったのだ? わからない、だが、一つだけ理解できることがある。 ルイズは自分を殺そうとしている。 思い沈黙が流れた。 ドォォォンと、外から爆音が響く。 反乱軍達の侵攻が、とうとう城内に及んだのだろう。 ワルドの頭に、「もう少し時間を稼げば助かるかもしれない」という考えが浮かんだ。 それが命取りだった。 目の前のことに集中していればいいものの、彼は雑念で気を散らせてしまったのだ。 助かるかも知れない、と考えるワルドの腹に、スタープラチナのつま先がめり込んでいた。 「……!」 声にならないワルドに、再度スタープラチナで殴りかかろうとしたその時、偶然、天井が崩れた。 それに気づいたルイズは慌ててウェールズの側に飛んだ。 「スタープラチナ!」 『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーッ!』 落ちてくる天井の破片をスタープラチナで破壊し、ウェールズの安全を確保した時、礼拝堂の入り口から転がるようにして逃げるワルドの後ろ姿を見た。 「ワルド…さよなら」 もう追いかける力も残っていない。 痛みこそないものの、出血が多く、足に力が入らない。 ワルドを追う余力も、攻め込んで来るであろう反乱軍に立ち向かう力も残っていなかった。 とにかく、ウェールズ殿下を逃がさなければいけないのだと、自分に言い聞かせたが、身体が動かない。 トリスティンの政治的には、ウェールズ殿下が生きていてはまずい、それぐらいは理解しているつもりだ。 しかし、アンリエッタはウェールズを愛しているし、ウェールズもアンリエッタを愛している。 ウェールズを助けたい! 例えその結果ゲルマニアとの同盟が反故になっても、アンリエッタを苦しめることになったとしても、この恋だけは成就させなくてはならない。 そんな使命感がルイズを突き動かした。 ウェールズを担ぎ上げようとしたが、うまくいかない。 力が入らない。 駄目なのか、私はここで死ぬのだろうか。 「アン、ごめんね…」 そう呟いて、ルイズは意識を失う。 意識を手放す瞬間、なぜか、身体が浮いたような気がした。 そして場面はキュルケ達に移る。 「もう始まってるわよ!」 シルフィードの上でキュルケが叫ぶ。 目の前に広がるアルビオンの浮遊大陸からは、大砲の音、すなわち戦乱の音が響いていた。 「これでは、ミス・ヴァリエール達を捜すどころじゃないぞ!」 「ギーシュ、あんた昨日は『例え戦地でも姫様のためなら喜んで!』とか言ってたじゃない!」 「そっ、そりゃそうだけど」 シルフィードの上で口論している二人はさておき、タバサはシルフィードの話を聞いていた。 『きゅいきゅい』『ふもー』 シルフィードが話しているのは、ギーシュの使い魔ヴェルダンデ、その得意の鼻がルイズのつけていた宝石のにおいを覚えているというのだ。 タバサキュルケとギーシュに「しっかり掴まってて」とだけ告げて、シルフィードを雲の中に突っ込ませた。 「…あれは何?」 暗雲の中をしばらく進むと、小舟が見えた。 空に浮かぶ船にしては小さすぎる船だ、大人四人が乗れる程度の大きさだろうか。 『きゅいきゅい!』 シルフィードが、ルイズのにおいがすると告げる。 タバサは迷わずその小舟にシルフィードを近づけた。 「ルイズ!」「ヴァリエール!」 突然近くから聞こえてきた声に、小舟に乗った女性…ニューカッスルの秘密港でルイズを迎えたメイドの女性は、驚いて声を上げた。 「あ、あなた方は!?」 「それはこっちの台詞よ、何よ…ルイズ、ひどい傷じゃない」 キュルケが血相を変える、ルイズの身体には包帯が巻かれていたが、出血を抑えきれてはいないと分かったのだ。 「そ、そちらに倒れてるのは…まさか」 ギーシュの疑問に、メイドが答える。 「アルビオンのウェールズ・テューダー殿下…いえ、先皇が討ち死にされた今、ウエールズ・テューダー陛下にございます」 「僕たちはトリスティン魔法学院で、そこに倒れているヴァリエールの友達だ」 「まあ!そうでございましたか、どうかお願いがございます、お二人を連れてすぐにここを離れてください」 キュルケは船に乗り移ると、ルイズを抱き上げた。 ギーシュもまたウェールズをシルフィードに乗せる。 「あなたは?」 タバサがメイドに聞くと、メイドはにっこりと笑って言った。 「私には最後の役目がございます、どうか、できるだけ遠くに離れてください」 タバサはメイドの言わんとしていることを察し、無言でうなずいた。 「あ、それと…、トリスティンのお方ならモット伯にお会いすることもありますでしょう、もしモット伯と、衛士の方にお会いすることがあれば、一人の生徒が勇敢に死んでいったとお伝えください!」 「わかった」 タバサが答えると、そのメイドは小舟の中央に設置された風石の箱を操作し、ニューカッスルの秘密港に向けてゆっくりと移動していった。 それを見送る間もなく、タバサはシルフィードに急いでここを離れろと伝える。 「おい!彼女も連れて行かないのかい!」 風を受けて喋りにくそうにしながらも、タバサに詰め寄ろうとするギーシュだったが、キュルケがそれを制止した。 「ツェルプストー、何をするんだ」 「あんたねえ、野暮って事を知らないの? …あのメイド、メイドのくせに、いっぱしの貴族みたいな目をしてるじゃない」 ギーシュはその言葉の意味が分からなかったが、次の瞬間、あの小舟が飛び去った方から輝く爆炎を見て、その意味を察した。 ごうごうと音が響き、雲が爆風に巻き込まれて散っていく、そして爆炎に巻き込まれた戦艦が看板を火の海にしていた。 ドオン!と、数秒遅れて到達した爆音。 それを見たギーシュは、メイドの言った「最後の役目」の意味が分かった。 アルビオンの下部に設置されていた火の秘薬を、あのメイドが点火したのだろう。 あの規模では、生存は絶望的だと、皆が感じていた。 ルイズは意識を失っていたが、スタープラチナの目が、爆炎を見ていた。 『あのメイドは昨日、ウェールズに詰め寄り、生きて欲しいと懇願していた奴だな』 「死ぬつもりだったのよ、あのメイド…死ぬのは怖いとか言っておきながら、笑顔で死にに行ったじゃない、ホント生意気なメイドね」 『本当に…生意気だと、思っているか?』 「生意気よ。だって………私より、貴族らしいじゃない」 シルフィードがアルビオンの下から抜け出し、太陽の下に出る。 ルイズと承太郎は、スタープラチナの目を通して、アルビオンを包み込む雲を見た。 目の錯覚かも知れないが、雲の一部が、まるで手を伸ばすように伸びた。 その雲はモット伯の別荘で戦ったメイジによく似ている。 手を差し出された雲は、先ほど笑顔で死地に向かったメイドによく似ていた。 二つの雲は、抱き合って、消えた。 前へ 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/926.html
ディアボロは歩きながら先程までの会話を思い出す 食事中突然苦しくなったと思ったら目の前にあの小娘だ 「“こんな目に遭いたくなければ使い魔としての立場をわきまえることね”だと、小娘め」 憤然としながら歩いていた為、何かを踏み砕いた事に気が付かなかった (気付いたとしても気にも留めなかっただろうが) 「待ちたまえ」 金の巻き毛をした少年がこちらに向かって声を掛けてきた 「何だ、小僧」 「キミが今踏み付けた壜から足をどけたまえ」 「壜だと」 確かに足の下には砕けた壜の欠片が見える ディアボロはそれを踏み躙りながら言った 「これがどうかしたか」 「足をどけろと言ったのだ、それはモンモラシーから貰った大切な物だ どけなければ彼女と僕を侮辱しているものと受け取るぞ!」 それを聞き一旦は足を持ち上げた、そして思い切り踏み下ろした 顔に向かって手袋が投げ付けられる 「ヴェストリ広場だ!そこで待つ!」 (ふん、決闘というわけか、青っちょろい小僧如きが まあいい、メイジとやらの実力を測るいい機会だ) 手袋を広げながらそう考えたディアボロは近くの人間に場所を聞き、ヴェストリ広場に歩を進めた 一連の様子を影から見ていたルイズはほくそえんだ ディアボロとギーシュの決闘 普通の人間なら大慌てで止めに走るだろうが、止める気は微塵も無い いい機会なのだ 自分が呼び出した使い魔が只の平民等では無い事示すいい機会 ギーシュはドットクラスだがれっきとしたメイジだ それを圧倒したともなれば、召喚したルイズの評価も変わるであろうというものだ 不思議な事にルイズはディアボロがギーシュに負けるとは微塵も考えていないらしい 実力的に隔絶していたとしても勝てるとは限らないのは何度も見ている筈なのにも関わらずである 「ヴェストリ広場」 日中でも余り日が差さぬ中庭で、そうであるが故に決闘がたびたび行われている場所でもある (現在では貴族同士の決闘は禁じられている為、いいとこ生徒同士の小競り合いといった具合だが) 決闘があると聞きつけた生徒達が大挙として押し掛け、広場を取り巻いている その中心で二人の男が対峙していた 「ここに居る全員が立会人だ、君が負けたなら先程の侮辱を頭を下げて謝罪して貰おう!」 「やってみろ、お前の様なマンモーニに出来るものならな」 ディアボロの言葉に激したギーシュは薔薇の花を振るい、一枚の花弁を落とした 花弁から現れた甲冑姿の女性を模した彫像に命じる 「ワルキューレ、あの男を叩きのめせッ!」 ギーシュの声と共に彫像-ワルキューレがディアボロに向かって突進する (ほう、ゴーレムという奴か、だがその程度では話にもならんわ) 「キング・クリムゾンっ!!」 観衆の中に紛れていたルイズはディアボロの傍に立つ異様な人影を見た 身長はディアボロと同じ位、金網状の模様が全身を覆い、額には小さな顔がもう一つ付いている ギーシュも観衆も誰も目を向けてはいない 誰も気付いていない?見えていないのか? ルイズははたと気付いた、 あれこそがあの不可視の人影こそがディアボロの自身の源、自分が感じたディアボロの力なのだと ワルキューレがディアボロに向かって突進する ディアボロがワルキューレに向かって突っ込む 両者の距離が5メートルを切った時 「!? な、何だ、身体が重い! 立っていられないだと! はッ!」 両者がぶつかった鈍い音が広場に響き渡り、気まずい沈黙だけが後に残った ■今回のボスの死因 転んだところにギーシュのゴーレムがぶつかり頚椎骨折で死亡
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1287.html
翌日 「おはよう。使い魔君」 まだ酒の影響が抜けていないドッピオに朝っぱらから爽やかな声でワルドが声をかけてきました 「どうも・・・」 適当に挨拶し切り抜けようとしますが 「つれないな、僕たちは仲間じゃないか」 まだ絡み付いてきます 「仲間と言っても僕は貴方を信用してるわけじゃありませんから」 「君はアンリエッタ姫の選んだ人材を疑ってるのかい?」 「はい」 きっぱりと答えました 「・・・そこまで信用してくれないとは思わなかったよ さすがに始祖ブリミアの伝説の使い魔ガンダルーヴ。主しか信用してくれないか」 「・・・ガンダルーヴ?」 聞きなれない単語が出てきました 「おや、知らなかったのかい?じゃあ特別に教えてあげよう ガンダルーヴはありとあらゆる武器を使いこなす使い魔だったらしい そのガンダルーヴと同じルーンを君は宿しているんだよ」 初耳でした。実際、武器を使っての戦いもなく使いこなすと言うことはなかったのですから 「へえー、それはすごいですね」 「それで・・・だ。ルイズから聞いたんだが君は何か特別な力、魔法とはまた違う力を持ってるらしいね どうだい?この先その力だけでは切り抜けられるところは狭くなっていくかもしれない 剣でも使ってみたらどうだい?そのときの手合わせくらいならしてあげてもいいが」 遠回しに手合わせを望んでいるワルドですが 「お断りします。僕にはこの力だけで十分です」 「そうかい。だけどこの先の任務を同じくする仲間の正確な実力は知っておきたい そういう意味で手合わせ、願えるかな?使い魔君」 「お断りします」 「え?」 そういってドッピオはワルドの横を通り過ぎます 「どこへ行くんだい?」 「朝食を食べに行くだけですけど。その様子だともう食べたんじゃないですか? ついてくる必要ないと思いますけど」 「いや、僕も朝食は取っていない。一緒に食べよう」 食堂にいたのは食べ終わったルイズ 食後のワインを取っているキュルケ まだ食べているタバサの三人でした ギーシュはドッピオとワルドが話している間に起きたらしく三人で食堂に行くことになりました ドッピオはどうも食欲が湧きませんでした。昨日の酒の影響です スープとサラダを注文しているところを見てワルドが 「そうか、二日酔いなんだね使い魔君 二日酔いなら良い薬がある。これを飲んで元気になるといい」 「結構です。二日酔いじゃありません」 「そ、そうか」 実際はそうなのですがそのことはなぜか言いたくなかったドッピオです どうせ二日酔いがなくなったら手合わせを申し込むのでしょう 「違うのか・・・それならいったいどうしたんだ?」 「別にどうでもありませんよ・・・」 ワルドに対して適当に答えてドッピオはサラダに手を出しました 「・・・!」 突然タバサの目が光りました 「・・・?どうかしましたか」 「・・・別に」 別にと言うタバサですがこちらの動きをずっと見ています (・・・まあ気にしても仕方ないか) そう思いサラダに口にしました ドッピオが口にしたのは普通のサラダでした ですが、はしばみ草というとてつもなく苦い植物を液状にしドレッシングとしてかけたものでした 栄養価は高いもののその苦味から人々から嫌われていますが中には愛好家もいるようです 反応を示したタバサも愛好家の一人、最近は異世界間で出回っているタバ茶という異世界の自分が作ったお茶を飲むのが趣味となっています 現在、この世界のタバサはまだ青銅会員。このはしばみ草愛好会を知ってから日が浅く入っていきなり白銀会員などになれるほど甘くない 別世界の自分を超えるために日々出回るタバ茶を研究し自分も一つ開発に成功したのです 名はまだ決まっていませんが、はしばみ草をドレッシングに混ぜることにより通常のサラダをはしばみ草風味に はしばみ草自体にかけることによりその味はさらに引き立つと言うドレッシングですが (これは・・・まだ完成していない) このドレッシングは強い味で味の上書きをさせるだけの物 理想は共鳴、はしばみ草となんらかの食材を混ぜることによる共鳴 そのための研究は毎日続いていましたが自分ひとりでは行き詰っていました (・・・協力が必要) そう。協力者、自分以外の味覚を持ったアドバイザーが必要とタバサは考えていました そこで今、目に付いたのが彼・・・ドッピオでした (彼の・・・率直な感想が必要) はしばみ草ドレッシングをかけたのは他でもないタバサでした ドッピオはそれを口にし、何度か噛み、飲み込みました 「・・・どう?」 ドッピオはサラダを一口食べた後、タバサからそう聞かれました 「え?」 「味は・・・どう思った?」 「えっとこのサラダのことですか?」 コクリと首を縦に振りました 「ドレッシングの苦味がちょっと気になりますけど美味しいと思いましたよ」 「・・・そう」 彼が言ったのはサラダに関してでした。ドレッシングは苦味が気になると言った程度 「・・・ドレッシングもそれなりに美味しい類だと思いますよ」 「本当?」 「はい」 思ったことをそのまま言ったドッピオですが 「でもこのドレッシング、何かが足りないような気がするんですよ」 「貴方もそう思う?」 「はい・・・甘みと辛みはこの味に合わないし、しょっぱいのも違うんですよね・・・ 残るのはすっぱいものなんですけど・・・酢とか入れるとどうなるんだろう」 「酢・・・それだ」 「?」 足りないと思っていたものは酸味 そう、彼が提示した酢は研究に新たな道を示すものでした (この件が落着したら早速・・・) そう考えるタバサでした
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2575.html
反省する使い魔! 第九話「噂の奏で△微熱の乙女」 学院長室が配置されてあるのは トリスティン魔法学院にいくつもそびえ立つ塔の一角だ。 当然、移動には内部の螺旋階段を使用する。 そして今その螺旋階段では、ルイズの後に続くように 音石が階段を下りていた。 すると音石に背を向け階段を下りながら ルイズが話しかけてきた。 「ねえオトイシ、あんたなんで スタンドのことを黙ってたの?」 「そこんとこは悪かったと思ってるぜルイズ、 だが勘違いはしないでくれよ。別に隠してたわけじゃねェ、 ただ単純に『話す機会』がなかった…。それだけだぜ。 …クックック、そう考えるとあのギーシュって小僧との決闘が ある意味、お前にオレのことを知ってもらう 『いい機会』だったって事かもしれねーな」 音石が得意げに鼻で笑った。 それにつられてルイズも「もう、ばかねぇ」と 薄ら笑いを浮かべた。 「まっ、こうして話してくれたわけだし 今回は特別に許してあげるわ。その代わり!」 突然ルイズが振り返りビシッと音石を指差した。 「あんたさっき学院長室で言ってたわよね? 『オレの世界についてはまた今度じっくり話してやる』って その約束、しっかり守ってもらうわよ!」 このルイズの命令には音石も意外そうな顔をした。 「なんだよルイズ、地球に興味があんのかよ?」 「そりゃね、私これでもハルケギニアについては 結構いろいろと知っているほうなのよ? だからとても興味があるわ、魔法が存在しない世界だなんて、 とても想像できないもの」 「へぇ~…、人は見かけによらねーってのはこの事だな」 「なんか言った?」 「幻聴だろ」 そんなやり取りをしているうちに いつの間にか二人は階段を降りきっていた。 そして二人は自室……つまりルイズの部屋に戻るべく、 学院なだけあって無駄に広い中庭の道を通っていった。 そんなときだ、向こう側から数人の男女生徒が歩いてきた。 ルイズは彼らを見た瞬間、若干動きが躊躇った。 そんなルイズの反応に気付いた音石も向かってくる 生徒たちの顔を見る。……そして気付いた。 向かってくる生徒の何人かが今日の授業で見た顔……、 つまりルイズのクラスメイトだったのだ。 彼らは全員が楽しそうに会話を繰り広げ、 廊下の真ん中を堂々と歩いていた。 しかし、一人の生徒がルイズたちに気付いたのか、 顔をはっ!とさせ、一緒にいる仲間たちに なにかをささやき始めた。 ルイズたちからは距離があったため なにをささやいているのか聞こえなかったが、 次の瞬間、彼らが一斉にふたつに分かれ ルイズたちが余裕で通れる道を作ったため なにをささやいていたのか余裕で予想が付いた。 ルイズと音石が彼らを通り過ぎると 彼らは逃げるようにその場を走り去っていった。 ルイズは何か複雑な気分だったが 音石は心の中で嘲笑っていた。 (フッフッフッフッ、あの決闘自体がルイズに スタンドを教える『いい機会』だとすれば…、 あの決闘での勝利は貴族の肩書きなんかで図に乗っている ガキ共に喝を入れる『ちょうどいい機会』ってわけか……) その後、音石はルイズの部屋で 自分の故郷、地球についての説明をした。 地球の歴史、科学技術の発達、自分は地球の 日本という国の人間で国によって言語が違うなど。 ありとあらゆる説明をしていくにつれ ルイズは未知な知識が次から次へと 頭の中に入っていく新鮮な感覚に興奮と驚きを 隠せないでいた。 音石自身も自分の世界では誰でも知っていて当然の常識を こうもいちいち驚きまくるルイズの反応は 見ていておもしろかったため特に不満も めんどくささも感じないまま説明を続けた。 当然、説明すればするほどルイズからの質問が増えていく。 車とはどういうものなのか? 鉄の塊がどうやって空を飛ぶのか? 音石はサムライなのか? など、説明するにつれ質問にも答えなければならないため 当然、喉がスッカラカンに渇ききってしまい ルイズの部屋に置いてあった水を必要以上に摂取した。 喉を渇かすこと自体は音石にとってよくあることだが、 その渇きを癒すために摂取した水の量が半端じゃなかったため、 音石はこの日、ひどくトイレに悩まされる羽目になった。 そんなこんなで会話を繰り広げていると いつの間にか、外が暗くなっていた。 どうやらお互い会話に夢中になっていたのか 時間が過ぎているのに気付かなかったらしい、 音石にとってはこの世界で二度目に迎える夜だったため どこか奇妙な感覚を味わっていた。 先に外が暗くなっていることに気付いたのは音石だが ベットに座っていたルイズも音石が気付いたすぐ後に 外が暗くなっているのに気付き、何かを思い出したのか 勢いよく立ち上がった。 「あ、いっけない!オトイシ、行くわよ!」 「行く?…ああ、夕食か?」 「そうよ、早くしないと神聖なる 食事前の祈りに遅れちゃうわ!」 「祈り?そんなんがあんのか?」 「はぁ?あんた何言って…… あ、そっか…。あんた朝食のとき すぐに出てったから知らないのも当然ね…… いい?私たちの祈りってのは始祖………」 「なあルイズ、説明してくれんのは嬉しいんだが 急いでんならせめて行きながらにしねーか?」 「………それもそうね、ついてきなさい」 部屋に出た二人は食堂に向かうために 廊下の奥にある階段を目指した。 音石は食事前の祈りについての説明をしている ルイズの後に続いて歩いていたが、 音石は食堂に行ったらまたシエスタの世話になるか と考え事をしていた為、 最終的には祈りというのは かつて存在した始祖とかいうお偉いさんに 感謝の言葉を送るというアバウトな感じにしか 覚えていなかった。 ルイズの後に階段を下りようとしたその時、 音石は咄嗟に後ろを向いた。視線を感じたからだ。 刑務所に入っていると、その気がなくても 嫌でも看守の目を気にするときがある。 そのため音石は妙に視線や気配に人一倍に敏感になっているのだ。 かつて牢屋に入っていたアンジェロが 虹村形兆の気配にいち早く感付いたのがいい例である。 しかし音石の視線の先には女子寮の生徒たちの 部屋の扉が連なっているだけで、 特にドアの隙間や廊下の一番奥にある窓ガラスには こちらを伺うような人影もなかった。 (………気のせいか?) 「ちょっとオトイシ!なにしてんのよ、早く来なさい!!」 「あ、ああ………今行く……」 音石は疑問を感じながらも これ以上、ルイズを待たせたら大目玉を くらいそうだったため、慌てて階段を下りていった。 足音が遠のいていくと、ルイズのひとつ奥の部屋…… キュルケの部屋の扉がキイィィィィ…っと音を鳴らした。 わずかに開いた扉の隙間からはキュルケの使い魔、 フレイムが顔を覗かせていた。 ルイズと音石が食堂に辿り着くと 相変わらず大勢の生徒がにぎやかに談笑の声を上げていた。 しかし、生徒が少しずつ音石の存在に気付くと にぎやかな談笑も少しずつざわめきに変わっていった。 「お、おい、あいつだぜ」 「ば、馬鹿!目を合わせるな!ギーシュの二の舞になるぞ!!」 「なんであんな野蛮人を先生たちは放っとくのよ……」 「ちょ、ちょっと…声が大きいって!聞こえたら殺されるわよ!」 「平民のくせに…………」 「あんな強力な亜人を操れる奴が平民なわけないでしょうッ!? きっとエルフが魔法を使って化けてるのよ!」 「なんであんなのがルイズの使い魔なんだよ…………」 そんな陰口が食堂に充満していく有様だが、 席に向かうルイズの後に音石が続いて歩くと 机と机の間に立っていたり、椅子に座っていたり している生徒たちは音石が近づいてくると 立っている生徒は怯えながら机に張り付くように道を譲り 座っている生徒は椅子に身を伏せていた。 なかには震えている生徒までいる始末だ。 学院長室から部屋に向かう途中の事といい、 この食堂での今といい、どうやら音石は かなり生徒たちから恐れられているらしい。 どうやら『レッド・ホット・チリ・ペッパー』だけでなく ギーシュを半殺しにしたことがよほど効果的だったらしい、 しかし元よりそのつもりでギーシュを必要以上に痛めつけたのだ。 音石としてはどこか奇妙な達成感を感じていた。 対してルイズは自分の使い魔が噂されるほど 優れている事に胸を張ればいいのか、 まるで自分が音石に相応しくないような 物言いをしている生徒に怒ればいいのか どこか複雑でどこか悲しい気分のまま席に座ったが、 ポンッと肩を叩かれ、振り返り見上げてみると 音石が自分の心情を察してくれたのか 「言いたい奴には言わせておきゃあいい… まっ、気に入らねー奴がいたら教えな 変わりにブッ飛ばしてやっからよぉ~~…」 と悪ガキのように笑いながら言った。 そんな音石の笑顔を見ていると ルイズも陰口でブツブツ言っているだけしかできないような 奴らにいちいち反応している自分が馬鹿らしく感じた。 (そうよ!今は無理でもそのうち何も言えないぐらいに 成長してやるんだから!実際わたしはこいつを召喚したじゃない! へこたれても仕方がないわッ!!) そしてルイズは一言笑顔で「ありがとう」と音石に返した。 その目にはその目には音石とはまた違う 輝きと強い勇気と希望に満ち溢れていた。 すると給仕たちが厨房から 美味そうな食事を机に運び始めた。 そこでルイズはふとあることに気付いた。 音石の食事のことである。 ルイズは今朝、ここの給仕にみずぼらしい料理を 自分の使い魔に出すようにと命令しそのままである。 しかし音石は異世界の住人でありながらも なにかといろいろ自分のことを気に掛けてくれている。 性格は多少野蛮で大雑把なところはあるが ソレさえ除けば基本いい奴である。 さすがに今朝のようなみずぼらしい食事を 出すのはルイズの人間としての良心が痛んだ。 だが料理はもうすぐそこまで運ばれている。 ルイズはどうしようかと焦ったが いつの間にか音石がその場に居ないことにも気付いた。 「あ、あれ?あいつどこ行ったのよ?」 周りを見渡しもどこにも音石の姿はない。 するといつの間にか隣にモンモランシーが 座っているのにも気付き、彼女に聞いてみることにした。 「ねえ、モンモランシー。私の使い魔どこ行ったか知らない?」 「ん?彼ならさっき厨房に向かっていくのを見たわよ? たぶん、厨房の給仕たちに食事をもらうつもりじゃないかしら?」 「そうなんだ……、わかったわ、ありがとう」 自分の使い魔が給仕に食事を恵まれるというのも気に引けるが それならそれでいいかと納得し、 ルイズは自分の前に食事が置かれるのを確認した。 相変わらず、おいしそうな香ばしい匂いが食欲をそそった。 「ねえ、ルイズ」 すると急に先ほどのモンモランシーが話しかけてきた。 「ん、なによ?」 「あの使い魔、なんて名前だったっけ?」 「え?オトイシ・アキラだけど………」 「そう……オトイシさんって言うんだ……」 モンモランシーのありえない呼び方に ルイズは自分の耳を疑った。 「『さん』ッ!?え、ちょっとモンモランシー!? あ、あんたまさかッ!?」 「えっ!?あ!?ち、ちがうわよルイズッ!! 誤解しないでッ!誰があんな平民なんかをっ!! しかもアイツはギーシュをあんなひどい目にあわせたのよッ!? なんで私がそんな奴のことなんか………」 そう言うとモンモランシーは腕を組みながら、 プイッと顔を逸らした。 しかし顔を逸らした先には厨房があり、 モンモランシーは厨房を眺めたまま、 完熟したトマトのように顔を赤くしながら 徐々に意識が上の空になっていった。 「よお、シエスタ」 「あ、オトイシさん!!」 厨房に現れた音石の名をシエスタが叫ぶと 厨房中の料理人、メイドたちが仕事の手を止め、一斉に音石を見た。 そんな視線に音石は多少気まずいモノを感じたが よくよく見ると、彼らの視線は先ほどの生徒たちのような 不安と疑惑が篭った目ではなく、逆に尊敬と憧れを その目に篭らせていた。 すると厨房の奥から大柄で筋肉モリモリマッチョマンの 料理長マルトーが現れた。 「おお、来たか!『我らが狂奏』!!」 「はぁ?」 突然現れたマッチョマンにわけのわからない 呼び方をされ、音石の頭の上に?マークが浮かび上がった。 「あ、オトイシさん。紹介しますね! この人は料理長のマルトーさんです マルトーさん、この人がさっき言った オトイシさんです!」 「わざわざ言わなくてもわかるさシエスタ! 顔に大きな傷痕があり、見たことのない楽器をぶら下げた男! そしてこの只者ならぬオーラ!一目でわかったぜ! こいつがシエスタを助け、貴族を倒した『我らが狂奏』だってな!! がっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」 マルトーが豪快に笑いながら、 音石を半ば力ずくで椅子に座らせ、 昼間のシチューとは比べ物にならないくらいの 豪勢な食事が机に置かれた。 「おいおい、いいのかぁ?この料理、 下手したら食堂の貴族どもより豪華だぞ?」 「なぁ~に、別に気にするこたぁねぇよ お前さんはシエスタを助けてくれたんだ! だからこの料理は俺たちからのささやかなお礼だ!」 そういうことなら……、と音石はフォークを手に取り、 美味そうな匂いを漂わせているチキンを取ろうとしたが 突然マルトーが料理の皿を横にずらし、 音石はむなしく机を刺してしまい、手が止まった。 なんのつもりだと言いた気に音石はマルトーを 見上げたが、その時のマルトーの顔は先ほどの 豪快な笑顔から真剣そのものの顔で音石を睨んでいた。 「ただ………最後に確認しておきたいんだが…… まさかお前さん、実は貴族……なんてことはないよな?」 「…………………なにィ?」 「シエスタから聞いたんだが…… お前さん、なんでも手で直接触れることなく ゴーレムを破壊したそーじゃねーか… そこら辺をはっきりさせておきてーんだ」 マルトーの言葉に音石は理解した。 そういうことか…、この世界じゃあ平民は魔法をつかえねぇ……、 つまりそれは魔法を扱うための精神力が扱えねーって事だ。 てことは当然こいつら平民は貴族とは違って スタンドを見ることが出来ねーってわけか……。 音石は手に持つフォークを机に置き、 マルトーの顔を睨み返した。 「くっく、おいオッサン。勘違いしてんじゃねーよ 確かにオレには普通の人間にはない 特殊な『チカラ』を持っちゃいるがよ~~~~……、 コレだけははっきり言ってやる………。 オレをあんな口だけ野郎どもと一緒にすんじゃねーよ」 シエスタや周りの料理人たちやメイドたちが冷や汗をかいた。 マルトーは学院中の平民の間ではメイジ嫌いで有名である。 沈黙という重い空気が流れた。 ―――――――――しかし………、 「………グ……、グゥアッハッハッハッハッハッハッ!! コイツは驚いた!俺に睨まれてそんな口を利いた奴は お前が初めてだよ!!いやはや、まったく恐れ入ったぞ!!」 「ギャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!! オッサン!あんたも人が悪いぜェ!! せっかくの飯だってのにこんな邪険なムードにされちゃあ うまい飯もまずくなるってもんだぜ!?」 「ガッハッハッ!!違いない!!」 「ギャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」 「ガッハッハッハッハッハッハッハッハッッハッ!!」 そんな二人の豪快なやり取りにシエスタたちは 安堵と喜びに満ち溢れていた。 どうやらシエスタたちは下手したら 殴り合いになるんじゃないかと心配していたようだ。 音石はマルトーと気が合ったようで あっという間に打ち解けることが出来た。 音石が食事をしているとあらゆる質問が 料理人やメイドたちからぶつけられてきた。 主に年齢や出身、決闘についてである。 出身は適当に誤魔化したが 決闘に対しての質問は特殊な『チカラ』を 持っているとだけ教え、『スタンド』のことは 黙っていることにした。 しかし、どういうわけか。 マルトー含む、ほとんどの者は音石が持っている ギターがマジックアイテムと勘違いしている者もいる。 特殊な『チカラ』=マジックアイテム 彼らはそう解釈したのだ。 だが音石からしても、マジックアイテムというのが どういうものかは知らないが、そう解釈してもらえるなら そっちのほうが都合がいいと判断し、そういう事にした。 そんな音石に付けられた称号が『我らが狂奏』である。 どうやら決闘の最中にギターを弾いていた音石の姿が その称号を生んだらしい……、なんともえげつない呼び名である。 「また来いよ『我らが狂奏』!! 俺たちゃあいつでもお前を歓迎するぞ!!」 「ああ、また世話になるぜオッサン。 じゃあなシエスタ」 「はい!是非またいらしてくださいね!!」 食事を終えた音石は厨房を後にし、ルイズの元に向かおうとしたが 戻ってみると、ルイズが座っていた席にはルイズは居なかった。 「ルイズなら先に帰ったわよ」 「ああン?」 突然声をかけてきた相手はモンモランシーだった。 「頼まれたのよ、あいつが戻ってきたら 先に部屋に戻ってるって伝えてってね」 「そいつはご苦労さん…………じゃあな」 「え?あ!?ちょ、ちょっと待ちなさい!!」 正直この時、音石はこのまま無視して部屋に戻りたい気分だった。 呼び止められた理由がだいたい予想が付くからだ。 せっかく貴族がわざわざ伝えてあげたのよ!? 感謝の言葉を送るなりするのが礼儀でしょ!? どうせこんな風なことを言われるに決まってる。 そう思った音石だが………興味があった。 昼間のギーシュの物言いから推測すると、 このモンモランシーはおそらくギーシュの恋仲かなんかだろう、 だからこそ興味があった。 そんな彼女が恋人であるギーシュを半殺しにした自分に 一体どんな口を利いてくるのか非常に興味があったのだ。 だから音石は部屋に戻ろうとした足を止め、 モンモランシーのほうへ振り向いた。 その時の彼女の顔は熱でもあるのか妙に赤かった。 「あ……あの!じゅ………授業の時……… そ、その………た、助けてくれて……あ、ありがとう」 音石は自分の耳にクソでも入ったんじゃないかと疑った。 まさか逆にお礼を言われるとは思っても見なかった。 この世界に来て音石は、貴族に対してはっきりいって ロクな印象がない。 この世界の貴族はどいつもこいつもその肩書きを 馬鹿みたいに威張り散らすことしか知らないカス。 どちらかというと音石のなかにはこういう印象が 定着しきっていた。 だからもしも自分を見下すような物言いをしたら 適当に馬鹿にして嘲笑ってやろうと考えていたが、 逆にこう言うことを言われるとどう対処すれば いいのか非常に困ってしまう。 「………ああ、まあ……あれだ………えっと……」 音石はぎこちない感じで、 どう言葉を返したらいいか考えていた。 元々音石は敵を作りやすい人柄のせいか 他人に感謝されること自体が極端に少ない。 ましてや女性に礼を言われたことなど 音石が記憶してる限りではほとんど経験がない。 まあ単に音石が覚えてないだけかもしれないが……。 音石は照れているのか頭をかきながら視線を逸らし、 「オレが勝手にやったことだし気にすんな」 と簡潔に言った。 モンモランシーは何かを言おうと 口を開こうとしたが、音石は逃げるように 早歩きで食堂を後にした。 らしくねぇ………、 音石はルイズの部屋がある女子寮の 階段を昇りながらそう思った。 さっきの食堂でのモンモランシーの感謝の言葉には 音石は正直今思えば感心している。 しかしそれでもいきなりあんなこと言われたら どう言葉を返せばいいのか迷うのを通り越して 気恥ずかしくなってしまう。 (まったく、らくしねぇな音石明 承太郎の野郎みてぇにクールにいかねぇもんか………) いろいろ考えているうちに かえってむなしくなってしまい 音石は深いため息をついた。 今から外に出てギターを激しく演奏して 気分でも晴らそうかとさえ思ってしまう。 そんなことを考えているうちにいつの間にか ルイズの部屋がある階にたどり着き 今日はさっさと寝てスッキリしようと思い ルイズの部屋に近づいていったが 廊下の奥の暗闇からひとつの炎が宙に浮いているのが 目に入り、音石は咄嗟に足を止めた。 警戒していたが徐々に暗闇からソレが姿を現し、 その炎の正体がキュルケの使い魔、 サラマンダーのフレイムの尻尾だと気付いた。 「はぁ~~、なんだ脅かすなよ てっきり人魂かと思ったじゃねぇか、 あ~~~、心臓にわりィ……」 音石は服の上から自分の左胸に手を押さえ 心臓の鼓動が早くなっているのを確かめると、 突然フレイムが音石のもうひとつの手の 服の袖を咥えてきた。 「ん?なんだよ、人懐っこいやつだな 遊んでほしいのか?」 「きゅるきゅる」 「うおッ!?お、おい。いきなり引っ張んなよ! この上着、結構高いんだぞ!?」 突然、力強くフレイムに引っ張られた音石であったが 下手に引き剥がそうとすると、お気に入りの上 値段も張った大切な上着が破けてしまう恐れがあったため、 引き剥がそうにも引き剥がすことができなかった。 されるがままにフレイムに引っ張られていくと どうやら自分の主人であるキュルケの部屋に連れてこようと しているようだ。 部屋のドアは半開きなっており、フレイムがその間に体を入り込ませ、 音石もその後を無理やり入り込まされた。 部屋の中はなぜか真っ暗で、いつの間に服を咥えている 口を離していたフレイムの尻尾の炎があっても 1メートル先も見渡せない空間となっていた。 ついでにこちらの世界ハルケギニアでは 『メートル』は『メイル』で表されているらしい。 「扉を閉めて」 すると暗闇の部屋の奥から声がした、当然キュルケである。 先に述べたように、部屋の中は1メートル先も見渡せない状況だ。 当然、そんな暗闇の中ではキュルケの姿を目視することは不可能である。 しかしなんと音石はこの暗闇の中、はっきりとベビードールだけを着た セクシーな格好をしたキュルケの姿を認識していた。 なぜそんな暗闇の中を音石が目視できたかというと 音石はこの時、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の 『眼』だけを発現し、それを自分の眼球の上に コンタクトレンズのように重ね被せたのだ! チリ・ペッパーは電気のスタンド! その発光体質を利用した音石独自の暗視スコープなのである!! (おいおい……、一体なんのつもりだこの女?) 音石はそんなキュルケのベビードール姿に若干戸惑いながらも、 同時に興味があったので言われた通りに扉を閉めることにした。 すると部屋に置いてあった数本のロウソクが一斉に炎を灯らせた。 キュルケがなにか魔法をつかったのだろう、 音石は彼女の手に杖があることを確認した。 「そんな所に突っ立っていないでこっちに来てくださらない?」 音石はゆっくりとベットに座り込んでるキュルケの傍に歩み寄った。 「オレとルイズが食堂に行くとき、妙な視線を感じたが…… あれはお前の使い魔だったのか?」 「あら、気付いていたの? さすがね………。ええ、その通りよ」 「なんでおれとルイズを監視してやがったんだ? なんでもお前の実家とルイズの実家は昔っからの 因縁らしーじゃねーか?まさかそれに関係してんのか?」 「誤解しないで、別にヴァリエールなんか監視しないわ あの娘、なにかとそのことにこだわっているけど 私は別に興味ないもの、ご先祖様たちの問題なんて…… それよりも………!」 「うぉわッ!!?」 すると突然キュルケが音石の手を引っ張り 自分の体の上に音石を無理やり押し倒させる体勢を作り出した。 音石は嫌の予感がしながら自分の額から首筋に 冷や汗が流れるのを実感した。 音石は咄嗟に手を伸ばし、キュルケから離れようと 体を起こし立ち上がろうとしたが、 いつの間にか自分の首に手を回しているキュルケによって それもできなくなっていた。 「私が興味あるのは………… ミスタ・オトイシ、あなたなのよ」 「…………ああ、なるほど、そういうことか?」 「ええ、わたし、貴方に恋してるのよ」 二人の顔の間隔は鉛筆縦一本分くらいで 互いの吐いた息が肌で感じ取れるほどのものだった。 しかし、ここで焦ってはと相手の思うつぼだ。 音石はここぞという時こそクールに対処するのが 最善の策だと結論付けた。 だから音石は無理にキュルケから離れようとせず あえてこの距離のまま彼女に話しかけた。 「なぁキュルケ……、君の気持ちはうれしぃんだがよ~~~。 昨日今日知り合った相手にいきなり惚れるってのは オレからしてみれば普通にどうかと思うぜ?」 「そんなことはないわ、現にあなたは学院中の人気者じゃない」 「嫌な意味でだろ?そんなんで君に惚れられる道理はないぜ?」 「フフッ、意外と謙虚なのね。聞いたわよ? あなたがギーシュと決闘したのは一人の女の子を 助けるためだったって………」 「…………………………………………」 「あなたの決闘での戦い様、カッコよかったわ まるで伝説のイヴァールディの勇者みたいだったわ! あんなすごい亜人、見たことないわ! 青銅を一発で粉砕するほどのパワー! 戦いながら楽器を奏で続ける不敵な物腰! あれを見た瞬間、わたしの心に火がついたのよ! 情熱!そう、『恋』と言う名の情熱よ!! 昨日知り合ったばっかりだからだなんて些細なことよ!」 『言ってもムダ!』 キュルケの話を聞いていると、 音石は嫌でも広瀬康一が山岸由花子に対して言った あの言葉を思い出してしまった。 音石はあの時、康一と由花子の戦いの一部始終を監視していたが 由花子はなにかを好きになると周りが見えなくなる異常な女だ。 この女、キュルケもまさにそれだ。 由花子のような凶暴性がないとはいえ、一度何かに夢中に なると周りが見えなくなっているんだ。 しかもこの女は貴族という身分のせいか 『自分が好きになった男は自分が手に入れて当たり前』 と思っている。 由花子とはまた違った異常さが彼女に潜んでいた。 少なくとも音石にはそう思えて仕方なかった。 (これ以上この部屋にいるのは絶対にやばい! だが力尽くじゃだめだ! この女が何をするかわかったもんじゃねぇ…… 下手に断ったらこの状況の濡れ衣をオレに着せる可能性がある。 『いきなり部屋に上がりこんできて襲ってきた』ってな! そんなことになったら今度こそ大問題だ。 ギーシュとの決闘のときとはわけ違う。 学院長のじぃさんでも庇いきれるかどうか…………… なんとかこの女が納得する方法でここを 抜け出さねぇとこれから先、ここでの生活がどうなるか わかったもんじゃねぇぞ!!) 音石はどうするか考えていた。 しかし周りが見えない女をうまいこと説得する方法など はっきり言って容易なことではない。 「フレイムで監視していたのはごめんなさい。 あなたが気になって仕方がなかったの」 「………キュルケ、ひとついいことを教えてやるぜ。 人間、『仕方がなかった』でいくらでも誤魔化せるんだぜ?」 これはつい昨日まで刑務所にいた音石だからこそ言えるセリフだろう。 『仕方がなかった』、どんな奴でも自分の間違いを否定するとき 必ずこの言葉を口にする。間違いの罪が深ければ深いほど この言葉を口にする。刑務所にいた音石はそんな言葉を 口にする人間を人一倍見てきた。 だからこそ音石は、この『仕方がなかった』という魔性の言葉が どれほど恐ろしいかよく知っていた。 「……そうね、貴方の言うとおりだわ。 本当にごめんなさい。でもわかって頂戴……、 どうしようもないのよ。恋は突然だし、 『微熱』の二つ名を持つ私のプライドが許せなかったのよ!」 (………これで『微熱』ねぇ~~) 音石は完璧に呆れかえっていた。 こんな自分を好きになってくれるのは正直うれしい。 しかし先程も音石が言ったように、昨日今日会ったばかりの相手と 恋人関係になるような観点など音石は持ち合わせていない。 ……………………………その時だ。 突然、部屋の外窓を叩く音がした。 音石とキュルケが窓を叩く音に反応し、咄嗟に窓のほうを見る。 すると窓を見ると同時に勢いよく窓が開いた。 開いた窓の外には一人の少年の姿があった。 「キュ、キュルケ……、待ち合わせの時間に来ないから 来てみれば……。な、な、なぜよりによってその男と………」 「ペリッソン!ええと、申し訳ないけど二時間後に…………」 「い、いや……。きょ、今日の約束はなかったことでいいから…… は、はは……そ、それじゃあごゆっくり!」 「え、あ、ちょ、ちょっとペリッソン!?」 (……ここ、たしか3階だよな?……でもまあ、 メイジ相手に今更って感じもするな) 「ふふっ。彼、確実にあなたに怯えてたわね」 「……なあキュルケ、俺が思うに先約があったんじゃないのか?」 「彼の勝手な勘違いよ。私が一番愛してるのはあなたよオトイシ それにもう過ぎたことじゃない?彼は約束はなかった事でいいって 言ってたんだから………」 (マジでおっかねー女だぜ、こいつの恋愛感情は子供のオモチャと一緒だ。 なにかを気に入ったオモチャを見つけるととことん遊び尽くすが、 また別の気に入ったオモチャを見つけると今まで遊んできた オモチャは何の迷いもなしに捨てやがる。 ひとつの事に夢中になるが、それ以外のものは すべてどうでもいいと認識しちまっているんだ。 ………ああ、だから『微熱』なんて中途半端な二つ名なわけだ) 音石のなかでなにかがしっくりきた。 するとまた別の少年が窓の外から顔を覗かせてきた。 置いてあるロウソクの光具合の影響か、知らないだけか、 今度の少年は音石を見ても怯えた様子はなかった。 「キュルケ!その男は誰だ!? 今夜は僕と過ごすと約束したじゃないか!」 「ああ、ごめんなさいスティックス 今夜の約束はなしってことで♪」 するとキュルケが胸の谷間か杖を取り出し、 杖を振った。するとロウソクの炎が蛇の形を模り、 窓の外にいる少年を突き飛ばした。 「呆れたを通り越して逆に感心するよ よくまあ一晩にこう何人も…………」 「あなたは彼らと違うわ!『特別』よ!」 「『特別』ねぇ~………、おっとキュルケ! どうやらまだ予約が残ってるみたいだぞ?」 「えッ!?」 音石が窓を指差し、キュルケが驚きの声を上げ振り返る。 そこには三人の少年がぎゅうぎゅう詰めになって窓の外にいた。 「「「キュルケ!そいつは誰だ!!恋人はいないって言ったじゃないか!」」」 「ああもう、うるさい!フレイム!!」 キュルケが苛立ちを隠せない口調でフレイムに命令した。 きゅるきゅるっと鳴いたフレイムは、そのまま三人に向かって 死なない程度には手加減してるであろう炎を吐いて 三人を窓から焼き落とした。 キュルケがその様子を見て安堵の息を吐いた。 ところが前を向きなおすと音石はベットから立ち上がり 自分に背を向け、扉のほうへ帰っていこうとしていた。 「待って!誤解よ!別に彼らとはなんともないわ! 単なるお遊びよ!ねえ、お願い待って!!」 キュルケもすぐさまベットから立ち上がり、 音石の後を追い、彼の背中に抱きつこうとした。 しかしそれは、抱きつこうとした瞬間、 音石が向き直った事によって中断された。 「よかった、考え直してくれた……の……ね………」 キュルケは振り向き直った音石の顔を見て息を呑んだ。 とても冷たい目をしていたからだ。 貴族である自分にむかって……………… いや、それどころか彼の目は人間に向けるべき目ではなかった。 養豚場の豚でもみるかのように冷たい目……………、 とても…………………、とても残酷な目だった。 キュルケはそれを理解すると同時に、 自分の背中が冷えかえるような感覚に襲われた。 「………キュルケ、これだけは教えといてやる お前には言っても無駄だろうが……………… 男はな………、お前の退屈しのぎの道具じゃないんだよ」 「道具って…………。ち、違うわ! わたし別にあなたや彼らをそんなふうにみてわけじゃ………」 「もうお前は喋るな」 「……………………………………え?」 「もうてめーにはなにもいうことはねえ……… とてもアワれすぎて……………………何も言えねぇ」 キュルケのなかでなにかが崩れ落ち音がした。 水晶玉が叩きつけられるような………… すがすがしいくらいに残酷な音だった。 バタンっと音石が扉の音を鳴らし部屋を後にし、 膝を突き、その場に立ち尽くしたキュルケに フレイムが心配そうに近寄った。 するとキュルケはフレイムに寄りすがり……………泣いた。 音石がキュルケの部屋を出ると、 見計らったかのようなタイミングでルイズの部屋のドアが開いた。 案の定、出てきたのはルイズだった。 そしてルイズも音石の存在に気付き、それどころか音石が キュルケの部屋から出てきたことにも気付いた。 「オ、オトイシ!?あ、あんたキュルケの部屋で何してたのよ!?」 「…………………………………………」 「な、なんとか言いなさいよ!! こ、こ、こ、この………エロ犬【ドォンッ!】ひゃあっ!?」 ルイズはたまたまそばに置いてあった鞭を手のとり 音石に向かって振り上げようとしたが、 音石は顔を伏せたまま、キュルケの部屋の壁に向かって 力一杯、拳で殴りつけたのだ! そんな突然の行動にルイズの体は硬直した。 すると顔を伏せていた音石はゆっくりと顔を上げた。 ルイズに向かってフッと小さな笑みを浮かべた。 「なんでもねえよルイズ、実は今日 キュルケの使い魔が俺たちを監視していたから その理由を問い正してただけだよ」 「………え?そ、そう……なの?」 「ああ、何でもオレに興味があったそうだ」 「え………はぁッ!?もう!キュルケの奴、一体何考えてんのよ!!」 ルイズがキュルケの部屋に乗り込もうとしたが 音石が手を壁にし、それを静止した。 「よせルイズ、ほっとけ」 「でも使い魔に色目使われて黙っていられないわ!!」 「必要ねぇよ……、」 音石の言葉にルイズは何かを察したのか、 仕方ないわねと言って、音石と一緒に部屋に戻ることにした。 部屋の中ではルイズはキュルケに対しての愚痴を 散々音石に浴びせた後、二人とも眠りに付いたが ルイズはベットの中で、音石の先程の行動を思い返すと 怖くて仕方がなく、自分は本当に彼を使い魔として…… パートナーとしてやっていけるのか不安になってしまった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/83.html
フーケを倒し、学院に帰ることとなったドッピオとルイズですが 「・・・・っ」 「・・・・・・」 ドッピオの足はとても酷いことになっていました 何か支えが無いと歩けないほど酷く、ルイズに少し寄り掛からないと歩けないのです 「・・・・・・」 ルイズは自己嫌悪を起こしていました 結局は今回自分は邪魔なだけで自分がいなければこの使い魔はすぐに勝てたと言うのに 「・・・・あの」 自分の責任で負傷した使い魔に謝ろうと、ルイズはたまらず声をかけてしまいました 「今回は・・・その・・」 謝ろうとしても謝罪の言葉が見つからずモゴモゴしていると 「謝らなくていいですよ」 「え?」 まるで自分のことを見透かされたかのように声をさえぎられたのでした 「今回はあの場でルイズさんを取り残したのが悪かったんです ・・・本当にすいません」 事実ドッピオはロングビルがいるから大丈夫ということを考えてルイズを残しました 結果そのあとの戦いに支障がでました。ドッピオは自分が甘いと考えていました 「・・・なんで?」 その後、主からでた言葉は疑問でした 「なんでそんなに自分ばっかり責めるの?ディアボロだって私を邪魔って言ったのよ? なんでアンタは・・・私を責めないの?」 なんで、そんなの考えるまでも無い。自分の不注意で招いた結果だったのにルイズを責める道理は無い そう思っていたドッピオは 「全部僕が悪いんです。力を持たない主を守れなくて何が使い魔ですか? ・・・もしルイズさんが自分のことを悪いと思っているなら」 一区切りおいてドッピオは 「成長してください。自分の未熟な過去に打ち勝って強くなってください 今回のことに対する謝罪はそれで十分です。まずは・・・」 ドッピオは笑って 「その泣きそうな顔をどうにかするところから始めましょうか」 そう言いました。ルイズはあわてて顔を隠します ・・・今は寄りかかる訳にもいかないのでドッピオは座っています 目をゴシゴシしてから向き直るともうその顔はいつもの顔です 「・・・今回は助かりました。次回もまた期待していいですね?」 微笑みながらそう聞いてくる使い魔に 「もちろんじゃない!」 なんの臆面もなく答えられたルイズの顔には憂いは浮かんでいませんでした 「・・・頼りにしてくれてありがとう」 聞こえたか聞こえなかったかわからないほどの小声でしたがドッピオはしっかり聞こえていました ですがあえてそれには何も言いません。しばらく無言で歩いた後 「そろそろ学院が見えてきますね」 「さぁ、さっさと帰るわよ」 「もちろんです」 辺りはだんだんと暗くなり2つの月が見え始めていました 帰った後ドッピオはすぐに保健室へ運ばれました。傷だらけですがどれも致命傷ではありません 二日ほどで完治したドッピオはいつも通りに家事をこなしていました その後、破壊の杖を取り戻したコンビとして周囲から注目の的となったルイズは困惑しドッピオはあまり取り乱しませんでした そんな毎日を少し楽しみながらドッピオは家事にいそしんでいました。 12へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/740.html
ホル・ホースは自分の意識がゆっくりと覚醒していくのを感じていた。 「あんた誰?」 彼がはっと目を開けるとそこには美しい少女の顔。 状況はよくわからないが、とりあえず名前を聞かれているらしい事だけはわかった。 このような美少女からの問いを無視するのは失礼だろうと思い、ゆっくりと起き上がり答える。 「俺はホル・ホースだ、美しいお嬢さん」 彼女はその言葉に面食らったようで、やや顔を赤くしている。 『ゼロのルイズ』と馬鹿にされるのが常であるルイズは、直接的に容姿を褒められる事に余り免疫がないのだった。 「あ、ああんたどこの平民よ!」 ホル・ホースは方膝をつき、彼女の手を取り、さらにキザったらしい笑みを浮かべつつ、 「世界中が俺の庭さ。女の呼ぶ声があればどこにだって駆け付けるぜ」 などとのたまった。しかしホル・ホースの手は顔を赤くしたままのルイズにあっさりと払いのけられる。 「へ、平民が気安くさわんないでよ!」 (何よコイツ……! なんか……ギーシュと同類な気がするわ……) 「ルイズが平民を召喚したぞ!」 そこへルイズ心の中なんかおかまいなしに、周りから野次が飛んでくる。 「さすが『ゼロのルイズ』! 平民喚ぶなんてルイズにしか出来ないな!」 「うるさいわね! ちょっと間違っただけよ!」 そしてその後もなんやかんやと言い争いが続く。 ルイズが野次にいちいち言い返すため、なかなか終わりそうにない。 一方突然一人置いてけぼりにされたホル・ホースはというと、冷静に周りを観察していた。 周りの風景、人間、話の内容―― しかし得られた結論は、わけわからんぜ、という事だけ。 とりあえずはこのまま様子を見ようと決めた。 しばらくして、話が終わったのだろうか、ルイズが近寄ってくる。見ればほんのりと頬が赤い。 「あんた、貴族にこんな事してもらえるなんて、普通は一生ないんだから感謝しなさいよね」 彼女はそう言うと、呪文を唱え、ホル・ホースの額に杖を当てる。 そして、ホル・ホースの頬にルイズの両手が添えられる。ルイズの頬は先程にもまして赤い。 ルイズにとってそれは、ただせさえ恥ずかしい行為な上、しかもこれが初めてだ。 「じっとしてなさいよ」 (なんだ? ……これじゃあまるでキスするみてーだぜ……) ホル・ホースがそんな事を思っていると、本当にキスが交わされた。 「おいおいお嬢さんよ……いきなり随分とって何だアア──ッ!」 若干の動揺を隠しつつ口にした言葉は、しかし体の内から溢れた猛烈な熱さによって中断せざるをえなかった。 「うるさいわね! すぐに終わるから黙ってなさい!」 スタンド攻撃を疑い『エンペラー』を構えようとしたホル・ホース。 だが、その前に言う通りに熱が引いたので、結局そうするのはやめた。 代わりに質問をぶつける。 「一体おれに何をしたッ!?」 「使い魔のルーンを刻んだだけよ」 「使い魔のルーン?」 なんだあそりゃ? と思っていると、いつの間にやら寄って来ていた黒ローブの男が自分の左手を眺めているのに気付く。 「ふむ、珍しいルーンだな」 ホル・ホースも自分の左手を見ると、手の甲に見慣れない文字が書かれていた。 というかこれは本当に文字なのだろうか。模様と言った方が近い気もする。 「これが使い魔のルーンてやつかい?」 「そうよ」 「珍しいルーンだが、とにかく『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね。それじゃ、みんな教室に戻るぞ!」 さっきの男がそう言うと、男の体が宙に浮く。さらに続けて周りにいた者達も同様に宙に浮く。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」 そうして周りにいた少年少女は口々にルイズに嘲りの言葉をかけながら飛び去っていってしまった。 それを見たホル・ホースはポカーンと口を開けている。 「なんだありゃあ……」 余りに非常識な光景に、さすがに動揺が口からこぼれる。 何か仕掛けがあるようには見えないし、あれだけの人間がみな同じスタンド能力を持っているとも思えない。 飛び去っていった者のセリフからは、宙に浮くのは「技能」のような印象を受けた。 だが大勢の人をトリックもなく宙に浮かせる「技能」とは? そんなものはホル・ホースの記憶のどこにもなかった。 広場に取り残された二人は、ホル・ホースは混乱から、ルイズは屈辱に耐えるようにしてしばらくの間黙っていた。 だがやがてルイズはホル・ホースに向き直り、怒鳴った。 「あんた、なんなのよ!」 「そりゃあこっちのセリフだぜ。わからん事が多すぎる。ちょっと一から色々と教えてくれ」 「まったく。どこの田舎から来たのか知らないけど、説明して上げる。ちゃんと聞きなさいよ!」 ルイズの説明を、ホル・ホースは一つずつ確認して頭に入れていく。 ここはハルケギニアのトリステインはトリステイン魔法学院。 彼女達は貴族で、メイジと呼ばれる魔法使い。驚くべき事にここでは普通に魔法が使用されている。 おまけにドラゴンやグリフォンといった生物までいる。 自分は魔法で『召喚』されここにやってきた。 彼女の名前はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。 今日から自分の主人で、自分は彼女の使い魔というものになったらしい── にわかには信じ難かったが、実際に人が飛ぶところや、さっき周りにいた奴らが連れていたおかしな生き物達を見ていたので、 まだ半信半疑だが、一応信じる事にした。 「陽が暮れてきたわね……部屋に戻るわ。着いてきなさい」 そう言ってさっさと歩いていってしまったルイズを、ホル・ホースは仕方なしに追っていった……。 到着したルイズの部屋は十二畳ほどの大きさで、置いてある家具は高級そうな物ばかり。 ホル・ホースは「今度はおれの番だ」と言い、こっちに来た時の状況や元いた世界の事をルイズに説明した。 「それって本当?」 「誓って本当だぜ」 「信じられないわ。別の世界があるなんて聞いた事ないもの」 「おれだって聞いた事ねえ。だが事実だ。少なくとも月が二つ見える世界なんてのは知らねーぜ」 窓から空を見ながら言う。 「じゃあなんか証拠見せて」 「証拠だとォ?」 証拠と言われてもホル・ホースは今大した物を持っていない。 愛用のジッポと煙草、あとは金と腕時計。 ホル・ホースはとりあえずそれらを見せた。 「確かにハルケギニアのお金じゃあないみたいね……これは何?」 ルイズがジッポを手に取り尋ねてくる。 「それはな、こうするんだ」 キンッという心地よい音がして蓋が開く。そして点火。 「何これ、火系統の魔法を使ってるの?」 「魔法なんかじゃあねえ。技術だ。」 「魔法じゃないの? こっちのは時計? 随分と小さいけど……」 「ああ。高い金払って買った最新物だ。正確さは折り紙つきだぜ」 あの時のような事はごめんだからな、と心の中で呟く。 「これは何?」 「煙草もねーのかよ。これはこうすんだぜ」 煙草を一本加えライターで着火し、煙を吐き出す。 「ちょっと! これパイプ!? 部屋にニオイが付いちゃうから消して!」 「こんなとこ来てまで煙草消せと言われるとは思わなかったぜ……」 世知辛い世の中になったもんだ等と思いながら、渋々煙草を消した。 「まあ、とにかく信じてもらえたかい」 「まあいいわ。一応信じてあげる」 そうは言ってもルイズの表情を見るにまだ半信半疑といったところのようだ。 「そりゃありがてえ、それじゃ元の世界に帰してくれ」 「無理よ。あんたの世界とこっちの世界を繋ぐ呪文なんて聞いた事ないもの」 「俺を呼んだ魔法を使えばいいじゃねーか。あれであの鏡みたいのが開くんだろ?」 「『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけの魔法よ。元の場所に帰す魔法なんてないわ」 「物は試しって奴だ。一回やってみりゃあいいじゃねーか」 「それも無理」 「なんでだ?」 「『サモン・サーヴァント』はね、使い魔が死なないと、もう一度は唱えられないの」 「なんだとお!?」 「死んでみる?」 小悪魔的な笑顔で尋ねるルイズ。かなりかわいいが、言ってる事はとんでもない。 「いや、遠慮しとくぜ……」 ホル・ホースは、はあ、と溜息をついて、なんとはなしに自分の左手を見つめた。 「それは私があんたのご主人様って印みたいなものよ」 「それでおれは使い魔、だったか? それって辞められねえのか?」 「辞めるなんてできないに決まってるでしょ! もう契約は済んじゃったんだから!」 「『契約』ってのはお互いの意思確認の元にするもんだぜ。あんな一方的なものを──」 「うるさいわねッ! 私だってあんたみたいなただの平民、使い魔にしたくなかったわ! でもしょうがないでしょ!」 ホル・ホースは再び溜息をついた。 「それじゃあ、その使い魔ってのは何をすりゃあいいんだ?」 「まず、主人の目となり耳となることね。でもこれは無理みたい。あんたが見てるもの、私には何にも見えないもの!」 「はぁ……」 「それから、主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とか。でもこれも無理ね! あんた、秘薬が何かなんて知らないでしょ?」 「ああ、そうだな」 ルイズは苛立たしそうに言葉を続けた。 「そして、これが一番重要なんだけど……使い魔は主人を守る存在なのよ! 主人を敵から守るのが一番の役目! でもあんたじゃ無理ね……」 ホル・ホースは考える。たいていの人間相手ならば自分の『皇帝』でどうにかなるだろう。 しかしさっきの広場には竜らしきものまでいた。あれに勝てるかは微妙だ。 それに自分は「守り」に向いていない。単独で戦闘するのにも向いてない。大きなことは言わない方がいいだろう。 なので一言、「まあ、そうかもなあ」とだけ答えた。 「だから、あんたにも出来そうなことをやらせてあげる。掃除。洗濯。その他雑用。」 「それをこなすんなら、おれの衣食住くらいは保障してくれるのかい?」 「ええ、そうね。」 「そうか。なら使い魔ってのをやってもいーぜ」 「当然でしょ。しゃべってたら眠くなっちゃったから寝るわ」 ルイズはあくびを一つすると、ブラウスに手をかけ、ボタンを一つずつ外していく。 下着があらわになったになったところで、ホル・ホースから声がかかった。 「おいおいお嬢ちゃん、今日出会ったばかりの男の前で着替えるなんてえのは、よした方がいーぜ」 「男? 誰が? 使い魔に見られたってなんとも思わないわ」 いやそうじゃあなくて、無防備すぎて危ないぜ、という事なのだが、それを言うと話がこじれそうなのでやめておいた。 とりあえず後ろを向いておく。 「じゃあこれ、明日になったら洗濯しといて」 ぱさっ、ぱさっと飛んできた物を掴んで見ると、キャミソールとパンティであった。 「へいへい、りょーかい」 適当に答えるホル・ホースに「ちゃんとやりなさいよ」と声をかけ、ルイズはベッドに腰を落とす。 「で、おれはどこで寝りゃあいいんだ?」 ルイズは無言で床を指差した。 「だろうなあ」 そう言いホル・ホースは床にごろんと寝転がる。 これにルイズの方が困惑したような表情を見せる。 反発されると思っていたのだが、文句一つ言わずに従われてしまった。 元々多少は悪いかな、と思っていたのにそうされると、罪悪感というものが余計に湧いてくる。 「これ、使いなさい」 なので、そう言って毛布を投げ渡した。それが彼女なりの精一杯であった。 もっとも、ホル・ホースにしてみれば、女性を差し置いて自分だけがベッドで寝るなんて考えられないし 今日出会ったばかりの、それもまだ幼い少女といきなり同衾するなどということも考えられないからなのだが。 だがもらえる物はもらっておこう。そう思って毛布に包まった。 ルイズがパチンと指を鳴らすと明かりが落ちる。これも魔法か、便利なものだと思う。 明かりが落ちてしばらくすると少女の寝息が聞こえてきた。ルイズは早々と眠ってしまったようだ。 窓から見える二つの月を眺めつつ、ホル・ホースは考えていた。 突然異世界に来てしまった。帰る方法もわからない。だが何が何でも元の世界に帰りたいという理由はなかった。 元の世界では大した目標もなく世界を流離っていた。 こっちでだって今までと同じように、「仕事」をして金を稼いで、たまに女と遊べりゃあそれでいい。 その為にはとりあえずの生活基盤を作ることが必要だ。 そしてこっちの世界の地理や文字といった様々な事を学ばなければならない。 特に魔法については重要だ。この世界には魔法使いがいる。そいつらの多くは貴族だという。 自分の「仕事」の対象はお偉方が多い。こっちでも同じ事をするのならそれは変わらないだろう。 ならば魔法を知り、対策を取れるようにしなければ。幸運にもここは「学校」である。 色々と学ぶにはうってつけだ。 やる事が増えた。明日からの生活は大変そうだ。 そんな事を思いながら、ホル・ホースも眠りに落ちていった── To Be Continued
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1795.html
寺院がある。立派な大きさではあるが、手入れをされていないので屋根や壁は錆でくすみ、門柱は崩れ、鉄の柵は歪んでいる。 ここはとうの昔に廃墟となった村、いまはオーク鬼と呼ばれる亜人の巣と成り果てていた。 森林を開拓して作り上げたのはいいのだが、近くにそいつらが住み着いていたので襲われてしまったのだ。 領主に兵の派遣を要請しても無視をされたので村人はとっくに出て行っている。 タバサはそっと木の陰に隠れ、寺院を覗いた。もうすでに作戦は始まっているので、まもなく中から豚に似たオーク鬼が来るはずだ。 その証拠にさっきから悲鳴がこだましていた。 やがて、戸が乱暴に開け放たれ血だらけになったオーク鬼が外へと走ってきた。 ンドゥールの水でやられた仲間の血だ。そいつらはそのまま門を開けようとする。 だが、そうはさせない。 『ウインディ・アイシクル』 タバサの魔法、氷の槍がいくつも彼らの前方に突き刺さる。オーク鬼の先頭が足を止め、次々とぶつかっていく。 そこに大きな炎が飛び込んでいった。 キュルケのファイアーボールだ。 オーク鬼は見かけとは裏腹の俊敏さでそれを避けるが、炎が地に着いた途端、彼らはより大きな炎に包まれてしまった。 これはギーシュが錬金で作り上げた油、地に染み渡らせていたのだ。 しかし、それでも全滅とはいかない。まだ数頭生き残っている。 そいつらはタバサ、そしてキュルケが隠れている木に向かって走り出した。と、その姿が消える。 ぷぎい、ぴぎい、と声がする。ギーシュの使い魔、ヴェルダンデが掘った穴に落っこちたのだ。 「やったわね」 キュルケがタバサの隣に降り立ち、別のところに隠れていたギーシュも彼女らに近づいた。 そして三人で穴を覗き込む。 必死に登ろうとしている様が見えたが、ギーシュは錬金で作った油を大量に中に注ぎ、キュルケが使い魔のフレイムに火を吹かせた。 夜、寺院の中庭で火を起こし、シエスタが料理を作っていた。なにかのシチューのようである。 その傍らではンドゥールたちが寺院に残されていたものの物色をしていた。 「やっぱりろくなもんがなかったわねえ」 「見つかったのは、銅貨と真鍮のネックレスぐらいか。ま、こんなものだろうね。 ンドゥール、君はいるかい?」 「いらん」 「だろうね」 とはいえ戦利品ではある。ギーシュは記念にそれらを袋に包んだ。 ちなみにこれで七件目であるため少々荷が嵩張ってきていた。そろそろ捨てるか魔法に使うかしなければならない。 ギーシュでもやろうと思ったらナイフにするということもできる。 ちと疲れるが。 「みなさんできましたよ。どうぞ、お食べください」 シエスタが出来上がった料理を配っていく。 パンとシチューという、学院にいたころでは考えられないほど質素な食事ではあるが不満はない。あろうはずもない。 シエスタが作るものが旨いためだ。なんでも実家に伝わる料理であるらしい。 「しかし、あなたもよくやるわよね。私たちだけじゃあどうなっていたことか想像したくもないわ」 「大したことありませんよ。罠とかなら簡単に作れますし、ンドゥールさんも捕まえるのを 手伝ってくれましたから」 「いやいや謙遜することはないさ。これも一種の才能だよ。うん、今日も美味しい!」 ギーシュは口を大きく開けてシチューを食べる。 彼は以前、シエスタに理不尽な言いがかりをつけていたこともあるが、すでにわだかまりはとれているようであった。 五人は夕食を食べ終えた後、これよりあとのことを話し始めた。 「僕はね、そろそろ学院に戻ったほうがよくないかと思うんだ」 「そうよねえ。誰にも言わずに出てきちゃったんだもん。きっとカンカンだわ。そういえば、シエスタはいいのよね」 「ええ。マルトーさん、料理長からンドゥールさんを手伝うんだったらかまわないって言われてますから。 なんならそのまま帰省してもかまわないって」 「そうなの。じゃあ、シエスタを実家に送り届けてから学院に戻るとしましょうか」 「い、いいんですか?」 「いいわよ。亜人との戦いにも慣れちゃったからこれ以上の進歩はなさそうだし。 三人もいいでしょう?」 肯定の返事が返ってきた。 「それで、実家はどこなの?」 「タルブっていう村です」 五人がシエスタの地元であるタルブの村に着くと、それはそれは大騒ぎになった。 貴族が三人もやってきたのでシエスタの家族は急ぎご馳走を用意し、村長さえも挨拶をしに出向いてきていた。 ンドゥールはやれどう紹介すればよいものかシエスタは悩んだが、結局奉公先で世話になっている人ということで落ち着いた。 そうして食事を終えると、ンドゥールたちはシエスタに案内され村を回ることにした。 夕日で赤く染まった草原。彼女は、はにかんだ笑顔で、これがこの村のもう一つの宝であると言った。 「でも、ンドゥールさんには見えないんですよね」 「ああ」 「………すいません。こんなこといっちゃって」 「かまわん。それに、風は感じることができる。いいものだ」 シエスタは心の底から嬉しそうに笑った。 「……あちゃー」 「ん、どうしたんだいキュルケ?」 「見なさいよあの子の顔、恋する乙女じゃない」 言われギーシュもシエスタを見る。確かにどこか熱っぽくンドゥールを見つめていた。 そうか、好きなのか。きっかけはなんだったんだろう、と、思ったらすぐさまわかった。 自分の醜い行いである。ちょっと死にたくなった。 「で、どうするんだい?」 「どうするもねえ、今からどっかに消えるのは不自然でしょ。それに、私もダーリンを譲る気は毛頭ないわ」 ふふ、と、キュルケは笑った。 「シエスタ、もう一つの宝だってことは、まだ名物みたいなものあるんでしょ? 案内してくれない?」 「あ、は、はい。こちらです」 シエスタは見えないようにため息をつき、歩き出した。ギーシュはンドゥールの後ろを歩きながらキュルケに向かって言った。 「君は本当に意地が悪いね」 「お黙り」 道中のシエスタの説明によると、その宝というものは奇妙な張りぼてであるとのことだった。 なんでも『竜の羽衣』というたいそうな名前はついているものの、鉄の板やらが組み込まれただけのもので、実際はただの大きな置物と化しているとのことだった。 シエスタの曽祖父がそれで空から飛んできたとのことだが、本当に飛ぶ姿を見た人物は一人もいないので嘘つき扱いをされ、そのうちどこにも行くあてがなかったので村に住み着き始めたのだそうだ。 「ここにそれがあるんです」 シエスタは四人を奇妙な形をした寺院に連れてきた。 丸木で組み立てられた門に石ではなく板と漆喰で作られた壁、木の柱、白い紙と綱で作られた紐飾り、とても一般的なものとはいえなかった。 「どうぞ。お入りください」 シエスタに促され、足を踏み入れようとしたギーシュたちだったが、ンドゥールの手にさえぎられた。 「な、なんだい?」 「……中に一人いるな」 「え、そういえば、お父さんがこれに興味を持った旅人が泊まっているって言ってましたけど、その人でしょうか」 「恐らくそうだろう。しかし、この足音は……」 ンドゥールはそう言ってすたすたと中に入っていった。シエスタたちもそれを追って中に入る。 すると、ンドゥールの言ったとおり、一人の男が『竜の羽衣』らしきものの前に立っていた。 彼は深緑のコートを羽織り、黒い眼鏡をかけていた。 じっとその『竜の羽衣』を見つめていたがンドゥールたちに気づき、こちらに振り返った。 「すみません。勝手に入ってしまって。すぐに出て行きます」 小さく頭を下げ、彼は外に出て行こうとしたがンドゥールの目前でとまった。 その瞬間、二人の間に奇妙な空気が形成された。ギーシュは鳥肌が立った。キュルケもつばを飲んだ。 のどかな村の中であるというのに、一瞬にして戦場になったかのようであった。 「なあ、そこの人」 男のほうが口を開いた。彼はンドゥールに向かっていっている。 「僕は君に出会ったことがあるかな? どうも初見の気がしないんだが」 「一度、会ったことがある。いや、正確ではないな。やりあったことがある。 それが正解だ」 「……失礼だが、名前を尋ねてもいいかな?」 「ンドゥールだ。花京院典明」 空気があまりの緊張に固まった。シエスタは気を失いかけ、ギーシュもキュルケも全身を汗で濡らしていた。 身も凍るほどの殺気がぶつかり合っているこの場に耐えられない。 「念のために尋ねよう。エジプトの砂漠で出会った、水と一体化するスタンド使いか?」 「そうだ。法王の緑。目は治っているようだな」 「ああ。君につけられた傷は完治したよ。跡は残っているけどね」 ずず、と、花京院と呼ばれた男の背後に人型の像のようなものが浮かび上がった。 ンドゥールも腰につけた水筒の蓋を外す。 まさに一触即発。 だが、爆発は封じられた。 「なにやってんだいあんたら!」 喝が入った。その怒声で充満していた殺気が掻き消え、花京院とンドゥールは臨戦態勢を解いた。 おかげでギーシュたちは呼吸が楽になった。 九死に一生を得た気分だったが、それをした人物を視認すると、礼を言う場合ではなくなった。 なぜならその人物は、ギーシュにとって苦い思い出のある女だったからだ。 「お前、『土くれ』のフーケ!」 「やあ」 彼女は包帯を巻かれた手を上げた。 「奇遇だね。言っとくけどやりあう気はないから、杖は出すんじゃないよ」 ふざけたことをぬかされた。 とはいえ、こんなところで戦いをおっぱじめるわけにも行かないのでギーシュもキュルケも杖を出すことはなかった。 「上出来。それで、あんたたちはなんでこんなことにいんの? その、ンドゥールまで連れて」 「マチルダ、彼らと知り合いなんですか?」 花京院が少し戸惑っているような彼女に尋ねる。どうやらこの二人は知り合いのようであった。 「ま、顔見知りみたいなもんさね。ほら、あんたらも積もる話があるようだし、とりあえずここを出ようじゃないか。 話ぐらいなら聞いてあげるよ」 突如現れたフーケに言われ、各々は寺院を出て村に戻っていった。 シエスタはどういうことなのか説明を求めていたが、ンドゥールは答えず、ギーシュもキュルケも事態がよくつかめていなかった。 六人はタバサのいるシエスタの家に向かった。 すると客人が増えたとまたてんやわんやになるところであったが、フーケがシエスタの父に挨拶すると彼は、村長のとこにとまってた人たちか、と言って落ち着いた。 『竜の羽衣』に興味がある旅人というのはフーケと花京院の二人のことだったのだ。 「それで、どっから話そうかね」 「まずは、どうしてここにいるか。それを教えてもらいたいわ」 キュルケが物怖じせず言った。フーケはよどみなくすらすらと答える。 「なに、ちょっとヨシェナベっていう珍しい料理があるって聞いてね。食べに寄っただけさ。 言っておくけど、盗みをするつもりはないからね。討伐隊が組まれちゃたまんないし」 「たしかに。それで、その彼とはどういう関係なのかしら。お仲間がいるなんて知らなかったけど」 「そりゃね。だってこいつと知り合ったのはあんたらと別れたあとだったんだ。知ってるわけがないさ」 「そう。で、そっちのノリアキ? あなたと私のダーリンはどういう関係なの?」 「ダーリン?」 キュルケの言葉を聞き、花京院はンドゥールに目を寄せた。 「そいつのことであってるよ。といっても、全然相手にされちゃいないようだがね」 「うるさいわよ」 むすっとキュルケはむくれた。 この旅の途中も、どんなにアタックしたところでちっともなびきはしなかったので自信を失いかけていたりする。 「ああ、僕と彼とはね、一度戦ったんだ。そのときは僕の負けだったけども」 「それだけ?」 「それだけだ」 ンドゥールも肯定したのでそれ以上の追求はできなかった。フーケも何か聴きたそうにしていたが、口をつぐんでいる。 「質問は終わりましたか?」 花京院がキュルケに尋ねた。 「ええ、こっちからはね」 「それでは僕からも聞かせてもらいます。というより、お願いがあります。 あの寺院に飾られてある御神体、譲ってはもらえませんか?」 「えっと、それは、なぜなんでしょうか。父によると、あれは墓碑銘が読めるものがいればその人に譲るようにと、おじいちゃんが遺言を遺したらしいのですけど」 「僕は読めます。海軍少尉、佐々木武雄、それがあれの持ち主」 シエスタは花京院の剣幕に押されながらも尋ねた。 「あ、あの、理由を教えていただきませんか? なぜあんなものが必要なのか」 「あれは、僕の生まれた国で作られた機械です。あなたの曽祖父が乗ってきたという話を聞きました。墓も遺品も確かめたので間違いありません」 「本当なのか?」 ンドゥールが尋ねる。花京院は肯定した。 「君は見えていないからわからないだろうが、御神体と言うのは飛行機だ」 「ひこうき?」 ンドゥールと花京院以外のメンバーが疑問符を並べた。そんな言葉を始めて聞いた。 「要は空飛ぶ機械。誰にも信じてもらえなかったみたいだけどね」 「なぜだ?」 「ガス欠さ。調べさせてもらった。たぶん飛び立ったものの気づいたらこんなところにいたんだろう。途方にくれただろうね」 花京院はやれやれというジェスチャーをした。 「そういえば、お前はどうやってこの世界に来た」 「僕は気づいたらここにいたよ。君の主人に殺されたあとにね」 「俺も似たようなものだ。お前の仲間に倒され、自害したあと気づいたら召喚された」 「つまり、互いにどうやってここに来たのかわからないと」 「そのようだな」 はあ、と、二人そろってため息をついた。話からして敵同士だったようだが、いまは同じ身の上であるようだった。 キュルケは情報を交換し合う二人を眺め、なんかこの世界とかわけがわからないけど別にいいか、と思った。 「それで、飛行機に乗ってどうするのだ?」 「あれの持ち主は東からやってきたらしいからね。東に飛んでいけば、なにか戻るための手がかりが見つかるかもしれない」 「そうか」 ンドゥールが小さな声で答えた。まるで胸に何かが詰まっているみたいだ。 「君は戻りたいとは思わないのか?」 「戻れば『あの方』のためにお前とお前の仲間たちと戦う。それは誇りが失われる。 まけたのだ。俺は。それを覆そうとする行為など、許せん」 「しかし、もう決着はついているはずだ。確かめてみたくはないかい? 僕は、君の主人に倒されたのだからね」 「そうなのか。となると、もうすんでいるか。『あの方』か『あの男』のどちらが勝利しているものか、もう一度会いたいものだ」 翌朝、ギーシュたちは荷を纏めて出発の準備をしていた。学院からふくろうが飛んできてお叱りを受けたのだ。 おまけに罰則も。予想していたことなので生徒の三人はしょうがないかと受け入れた。 シエスタはそのまま残っていてかまわないとのことだった。 ンドゥールは、花京院とフーケを御神体の飛行機に連れてきていた。彼は左手で機体に触れる。 すると、ぼうっと彼の左手に刻まれているルーンが淡く光った。 「それはなんだ?」 「ガンダールヴという使い魔のルーンであるらしい。これのおかげで、この飛行機の情報も知ることができる。日本で作られたゼロ戦、らしい」 「ゼロ戦。第二次世界大戦の代物か。すごいものが落ちてるものだ」 「なんなんだいそれ」 ちんぷんかんぷんのフーケが花京院に尋ねた。 「戦闘機ですよ。こっちだと竜に乗って空を飛ぶでしょ? 僕のいた世界は、これに乗って戦うんです」 「へえー」 じろじろとフーケはその『ゼロ戦』を見つめる。とても空を飛ぶようには見えない。 いいとこカヌーに羽をつけた大きなおもちゃである。 「でも、これをどうやって運ぶんだい? ガソリンとかいうのがなくて動かないんだろ?」 「ギーシュのコネで学院に運んでもらう。花京院、お前も来るか?」 「ああ。僕もいく。調べ物もしてみたいからね」 「じゃ、私とはここでお別れだね」 それは仕方のないことだ。学院に戻れば彼女の顔を知るものが大勢いる。 そんなところにいけば捕縛されてまた処刑を待つ身になる。それは勘弁願いたいのだ。 マチルダは乾いた息を吐いて二人に言った。 「達者でね」 学院に『竜の羽衣』とともに帰ると、軍人から運送代を請求された。 そのことについてはまったく考えていなかったンドゥールは困った。 花京院は金を持っていたものの全然足りなかった。 しかし、コルベールという教師が代金を肩代わりすると申し出てきた。 「いいのか?」 「かまわないさ。ただ代わりに研究させてくれ。こんな興味深いものを見たのは生まれて初めてだよ」 花京院は興奮している彼を見て、少し驚いているようだった 「それで、どうやって空を飛ぶんだね? ささ、早く飛ばしてみてくれたまえ。おお、好奇心でこんなに震えてきている」 「ガソリンがないのでできん。これと同じものがあれば空を飛ぶことができる」 ンドゥールはタンクに残っていたガソリンをコルベールに渡した。その匂いはやはり独特であったようだ。彼がすぐに鼻をつまむ。 「わかった。わかったよ。すぐに錬金してみるからね。それまで待っていてくれたまえ」 コルベールはそういい、走ってその場を離れていった。 「すごい人だな」 「ああ、この世界では珍しい人物だ。初歩的なエンジンをも作っていたので協力してくれるだろうとは思ったが、まさかここまでとはな」 「……そういえば、僕はここにいていいのか? 入る許可なんかもらっていないんだけど」 「そうだな、一応学院長のもとにいったほうがいいだろう。案内してやる」 そう言ってンドゥールが歩き出したところ、宿舎から一人の少女が走ってきた。その足音に彼は気づき、花京院もそちらを見やる。 疾走してきているのは桃色の髪をした少女、ルイズであった。 彼女は勢いを弱めることなく二人に近づき、どん、と、ンドゥールに飛びついてきた。 「どうした。いきなり」 「うるさいうるさいうるさい! ようやく帰ってきたと思ったらこんなところでのんびりしてて、すぐに私のところに来なさいよ! 私の使い魔だって自覚あるの!」 「……」 「考え込むな!」 ルイズはその小さな手でンドゥールを叩いた。怒っているようだが力は入っていない。 なぜかぼろぼろと泣いていた。 「どうなっているんですか一体」 蚊帳の外にいる花京院はそんなことを呟いた。 目を丸くしている。 ルイズはここしばらく授業に身が入らなかった。朝起きるのもかったるく、食事もあまり摂ることはなかった。 それでも惰性で出席はしていたのだが教師の言葉もほとんど耳に入らず、毎日毎日外を眺めていたのだった。 おかげで集中しなさいと怒られることがしばしばあった。 ところが、今日、亜人退治に出た連中が帰ってくると知って心が躍った。 いつもいつも自分の後ろから響く音が戻ってくる。そりゃあ嬉しかった。 しかし、迎えに行かずに自室で報告を受けようなんて思ったのにいつまでたってもきやしない。 貧乏ゆすりをしながらも辛抱強く待っていると、なんだか中庭がざわつきだしていた。 いらいらしたのでそちらを見やると、ンドゥールがコルベールと知らない男の三人で話し込んでいた。 腹が立った。あいつは主人の下に来ないでなにをしているのかと。なんでそんな知らないやつと親密になっているのかと。 メラメラと嫉妬が燃え上がった。相手は男だがそんなことは関係なかった。男色は珍しいものではないのである。 走った。走ってンドゥールの下に駆けつけた。 視界に入れると、なんだかもう久しぶりにあったから胸の中が爆発しそうなぐらい切なくなった。 だから飛びついてそれから殴った。 けれど隣の緑の男はその自分をなんだかおもしろそうに見ていて余計に腹が立った。 なんなのよと憤りたかったが、彼女は目から出所不明の涙が出てきてなにも言葉にならなかった。 それから緑の男、花京院はコルベールの助手ということでこの学院に居座り変な置物をンドゥールと一緒に調べ始めた。 それがまたルイズにとって腹立たしいことだった。 洗濯や掃除などはやってくれるのだが、授業にンドゥールはついてこずにずっと中庭で作業をしている。 つまり一日の大半、せっかく帰ってきたのに離れて生活しているのだ。近くにいるというのに顔を合わせることがほとんどない。 それは彼がいなかったときより辛く、寂しさが染み入ってきた。 それに、理由が理由だった。 東に元の場所に戻る可能性があり、あのヘンテコな置物であれば飛んでいける。 それはつまり――、帰りたい。そういうことじゃないのか。 と、色々あったおかげで、ルイズはすねた。 「いや、ここに来られても困るわよ」 「……」 ルイズがいるのはキュルケの部屋。深夜、いつまでたってもンドゥールが来ないもんだからならこっちも出て行ってやるとばかりに駆け込んだのだ。 隣に。 そんなことをしたところで彼なら簡単に居場所がわれるというのはわかっているのに。 キュルケは大仰にため息をついてベッドに倒れこみ、窓に張り紙をする。 今日は密会は中止と書いたものだ。念のためサイレントもかけて声が漏れないようにもした。 「ルイズ、あなたね、言いたいことがあったらはっきり言いなさいよ。私は心の中を読めるほど器用じゃないんだから」 「……わかってるもん」 「じゃあ言いなさいよ。なにか言いたいことがあるからここにきたんじゃないの?」 「………どうやったら、」 「んん?」 「どうやったら、男はなびくの?」 「はあ?」 さすがにこの質問には面食らった。キュルケは確かに男漁りが趣味であるため他の女子よりかはこの手の事は詳しい。 けれども、いくらなんでもそんなことを、しかも仇敵ともいえる間柄の相手から尋ねられるとは考えもしなかった。 なにしろ一般的には貴族も平民も関係なくはしたないことなのだから。しかし、相手は想像がついた。そんなのただ一人しかいない。 「ダーリンを誘惑するのなら協力しないわよ」 「な、なんであんなの誘惑しなくちゃいけないのよ!ばっかじゃないの! ばっかじゃないの!」 「そうだからここに来たんじゃないの。それともなに? 彼以外の、そうね、あのカキョーインとかいう男でもたらしこむつもり?」 「いやよ! そんなわけないじゃない!」 こりゃ会話にならない。キュルケはルイズの首根っこを捕まえて部屋からぽいっと出した。 付き合ってられないのだ。 それでもちょっとした助言をくれてやる。 「ルイズ、なびいてほしいのなら本人に直接いきなさい。回りくどいことをせずにね。 あなたにできるのはそれぐらいでしょ」 猫のようにつまみ出されたルイズは、結局自分の部屋に戻るしかなかった。 けれどもいまだにンドゥールは中庭にいて戻る気配はなかった。 あの変な置物を使いどこへ飛んでいくのだろう。 空を飛ぶなんてことは全然信じていないが、仮に本当だとしたら、彼はやはり『あの方』のもとへ戻るつもりにちがいない。 いくらなんでも目の前に餌がぶらさがっていたら誰だって飛びつくものだ。 それが、いくらどんな騎士より誇り高い男であろうとも。 ルイズはベッドに飛び込み毛布を頭から被った。涙が頬を伝っていった。シーツでぬぐっているうちにいつしか鼻水もでてしまった。 初雪のように白い肌は真っ赤になってしまった。あまりに、あまりに悔しかったのだ。 存在の価値が違いすぎる。自分では『あの方』には勝てない。 ルイズはキュルケに色仕掛けの方法を学んでも無意味だってのはわかっていた。 彼がそんな単純な男であったなら心の葛藤は消えていることだろう。 でもそれは彼ではない。彼でなければ駄目なのだ。彼だからこそこんなに苦しんでいるのである。 ルイズは静かに、一人、寂しく、孤独に、泣いた。行ってしまうのか、やはり、と。 彼女には友達がいる。キュルケやタバサ、ギーシュ、あまり親交を深めているわけではないがシエスタというメイドだってそうだ。 それに教師だって己の努力を認めてくれている人たちがいる。 だが、ンドゥールは、影のように付き従い、何度も命を助けてくれたあの使い魔は、いつしか彼女たちよりさらに一線越えた存在になっていた。 だから悲しい。だから、キュルケの言ったように『本人に直接いく』というようなことはできない。 反対できない。きっと命令すれば、恩義に厚い彼はここに留まるだろう。ルイズにはそれがなんとなくわかっていた。 だが、そうするとンドゥールの心に喜びは生まれない。彼の意思でここに留まってもらいたいのだ。 仕方ないからとか、命を救ってくれたからとか、そんなんじゃあ駄目なのだ。 大事な存在だから、自由にさせてあげたいのだ。 ルイズは泣いた。泣いて泣いて、泣き崩れた。 そのためドアが開く音も、聞きなれた杖の音にも気づかなかった。 ギッと、ベッドが軋んだ。どうしたのかとルイズが思うより早くごつごつした指が彼女の頭をなでてくれた。 それをしてくれたのは、他の誰でもないンドゥールだった。 彼は湿った布巾をルイズの手に握らせた。 「顔を拭け」 「……いらないわよ。風呂に入ったんだから綺麗なままよ」 「涙で汚れてるだろ」 ルイズはぐっと歯を噛んだ。泣き声を彼は聞いたからここにやってきたのだ。 もう隠すこともできないので諦めて顔を拭く。 痛かった。 「俺は、お前を慰めるようなことはできない」 ンドゥールが急にそんなことを語りだした。毛布からわずかに顔を出してルイズは彼を見上げる。低い声。 「以前にも言ったが、俺にできることは戦うことだけだ。お前の命を脅かすものを排除する。 それだけしかできん。しかし、生きていくにはそれだけでは不足ということも知っている。 それも俺のように欠落した人間でないならなおさらだ。戦う以外で、俺は手助けができない。 お前が何に苦しんでいるのかはわからない。どうやったら癒すことができるのかわからない。 すまないな」 謝られた。ンドゥールにはなにも悪いことない。 なのに気に病んでいる。 心配させてしまっている。 ルイズはそれが心苦しかったが、嬉しかった。 醜い感情、負担になっているのに。殺したかった。暗部を消したかった。 「………もうやだ」 「なにがだ?」 「自分がいやなの。もうすっごくいや。かっこわるいし、馬鹿だし、」 「魔法が使えないからか?」 「違うもん。そんなのどうでもいいもん」 「そうか」 ンドゥールは優しく、慣れてない手つきで頭をなでた。 しばらくそうしていると、ルイズは泣きつかれたためゆっくりと眠ってしまった。 彼女はその日、自分が誰かの盾になっている夢を見た。 誰かを、大事な誰かを守っていた。守られてばかりじゃない。 嬉しかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/421.html
小ネタなんでジョースター卿召喚 PS このジョースター卿は10人目 629とジョセフの影響を受けています。 ギーシュ モンモラシーとケティからふられた後の所までキング・クリムゾン発動! 「君が軽率に香水のビンなんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」 シエスタは何も言えず、怯えている。 「いいかい?君が香水のビンを置いたとき、知らないふりをしたじゃないか。 話を合わせるぐらいの機転があってもいいだろう?」 「え……でも」 シエスタは目に涙を浮かべながら何か言おうとする。 「口答えするのかい?」 そんな光景を見てジョースター卿は貴族として威厳たっぷりの声でギーシュをたしなめた。 「まぁ、待ちたまえ少年」 「何だ平民…だよな?まぁ、使い魔の分際で口を挟まないでくれないか」 「自分が二股したのがばれて振られたからとは言え、メイドに八つ当たりするのは大人気ない」 「な。。。使い魔の分際で貴族に逆らうのか!!」 「だから落ち着けと、そして逆に考えるんだ」 「逆に?」 「二股かけて振られてしまったと考えるんじゃない、後になって刺されなくてよかったと思うんだ…」 「なっ、何を言い出すんだ!!」 「あの二人の目を思い出すんだ。もし…もしだ…後々になってあの二人の本気の魔法を 一緒に食らって君は…果たして生きているかな?」 「う…」 ギーシュはその光景を思い浮かんで…言葉を失った・・・だがジョースター卿は構わず続けた。 「そして振られたと考えるんじゃない、新たな恋を探せると考えるんだ」 「なっ…だっ、だがっ!僕自身のプライドが…」 「だからと言って平民の女性に八つ当たりする方がプライドが落ちると思うが? ここはおとなしく彼女等に謝ってきたが周りの見る目も変わると思うんだがね」 「うぅ・・・」 「そして二股を許してもらえないなら逆に許してくれる女性を探すんだ」 「なっ、そんな人いるわけないだろ!!」 ・・ 「だから逆に考えたまえ、二股を許してもらえるほど素晴らしい女性に調教するのだよ」 「な・・・僕のワルキューレも月まで吹っ飛ぶこの衝撃・・・」 「そして逆に考え(キング・クリムゾンで時間飛ばし そして放心状態のまま10分間ジョースター卿のセリフを聞き洗脳されてゆくギーシュ… ・・・・・・ 「だがもし浮気相手と子どもが出来たら…」「逆に考えるんだもうその相手は自分から逃れられないと…そして ある人物の言っていたセリフだが…君に送りたい言葉がある」 「?何て言葉を・・・?」 「『ハーレムを作る』『浮気は隠す』「両方」やんなくっちゃあならないってのが 「若さ」のつらいところだ…覚悟はいいかな?(私はやらないがね)」 「…わかった、わかったよジョースター卿!! 貴方の腹黒さ! 「言葉」でなく「心」で理解できた! 浮気をするって思った時は卿ッ! すでに浮気をしているって事だね!」 ・・・何だか熱くなってる二人を見つめている周りのギャラリーは当初は白けた目線で彼等を見ていたが、 ギーシュの目が段々とやばい方向に加熱をしているのを見た女子生徒達は (こいつ・・・さっきまでマンモーニだと思ってたが、 まるで『10年』も修羅場をくぐり抜けて来たようなスゴ味とエロスを感じる目をもつやばい男に…) そしてその日ハルケギニア グラモン家至上最大の好色者ギーシュ・ド・グラモンとして 歴史に刻まれるきっかけとなったとかならなかったとか… おまけ ギーシュ最後の遺言 「僕は「正しい」と思ったからやったんだ 後悔はない… こんな世界とはいえ僕は自分自身の『信じられる道』を歩いていたい!」