約 1,076,944 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/561.html
「……ズ………さい……ゥ~…」 寝ているルイズの頭に何か声が聞こえるが寝起きが壊滅的に悪いルイズだ。当然この程度では起きはしない。 「…イズ……なさい……フゥ~…」 今度はさっきよりも大きく、そしてはっきりと聞こえた。妙に重圧感のある声だったのでさすがのルイズも目を開ける。 「ルイズや…起きなさい…ブフゥ~~」 辺りを見回すが何も居ない。だが景色には見覚えはあった。生まれ故郷のラ・ヴァリエールの屋敷の中庭だ そして何故かベッドがそこにあった。 何故ベッド?とルイズが頭に「?」マークを浮かべていると突如 グォォォオオォォ という音と共にベッドに四肢と頭が生える。 ベッドが突然縦も横も巨大な男になったのである。正直言ってビビる。そりゃあジョルノだってビビる。 「……あんた…誰?」 恐る恐るサモン・サーヴァントをし平民を召喚した時のように目の前の男に問うがその返答は実に意外だったッ! 「ブフゥ~~…私はあなたの杖の精です…ブフ~~~」 「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ」 そう叫び一目散に逃げる!自分の杖の正体がこんなのだったのだから半泣き、いやもうマジ泣きだ。 「ブふぅ~逃げないで、逃げないでっていうか引かないで。ブフ~~~ 今日は私…ブフゥ~~~爆発を起こしてもめげずに頑張るあなたを応援しにまいりました。ブフゥゥゥ~~」 さすがに応援という言葉にルイズも立ち止まる。 「さぁこの精霊様に何でも言ってみさないブフゥゥ~~っとね」 「そ、それじゃあ精霊様!一つだけ聞きたい事があります! わたくし…使い魔が問題を起こし続け酷い有様です…この先ずっと問題を起こす使い魔なのでしょうか?」 さっきまで思いっきりドン引きし逃げようとしていたのに現金なものだが、当の精霊様の返事は 「もぐ、もぐもぐ…まーねぇ。ブフゥ~~」 クラッカーを食べながらそう即答した。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 もうさっきよりもマジ泣きしながら逃げ回る。顔から色んな汁とか出しながら。 「ま、待ちなさいルイズ!…ブフゥ~今の無し、ノーカン!ノーカン!ブフゥゥゥ」 焦りつつも自分の指ごとクラッカーを食べる精霊様がマジ泣きして逃げるルイズが思わず足を止める言葉を吐き出す。 「ルイズ…ブフゥ~~よくお聞き。寝ている場合じゃあないのよ。ブフーーー 今、君たちにディ・モールトデンジャーが迫っているのだよ。ブふーー」 「……え?……ディ・モールトって何ですか?」 「ブフゥ~~…『非常に』ってこと」 「………デンジャーって?」 「『危険』なこと。ブフ~~~」 「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ」 「寝ながら何喚いてんだ…ウルセーから起きろ」 目を開けると悪夢の元凶がそこに居た。 覗き込むようにして起こされたため思わず顔が赤くなる。 「……あんたが原因よ」 「そいつは悪かったな」 もちろん、クラッカーの歯クソほどにも悪いと思ってはいないのだが。 「…ってなんであんたがここにいるのよ?」 ドアには鍵が掛かっており鍵を持っているワルド以外入ってこれないはずだ。 「人がベランダで月見ながら酒飲んでるとこにアホみてーな叫びがしたから来てみればっつーわけだ」 よく見れば窓が開いている。つまりそこから入ったという事だ。 「不法侵入じゃない…ワルドに見つかったらどうするのよ!?」 「使い魔扱いしといて今更でもねーだろうが」 「…実際、使い魔なんだから仕方ないじゃない」 それに返事せずに部屋から見える普段とは違う一つになった月を見る。 「大きさは違うが…一つだけだとイタリアで見るヤツとあまり変わんねーもんだな」 もっともその心中は(ギアッチョがこれ見てりゃあ間違いなく『引力を無視してんじゃあねぇ!コケにしやがってッ!ボケがッ!』とブチキレてるだろうな)であるが ルイズの方はそれを別に受け取っていた。 「…イタリアって所に帰りたいと思ってるの?」 「…戻る手段がありゃあな。あっちではオレの残りの仲間が命を賭けて戦っている オレが生きてるのに戻らないってわけにもいかねーからな。だが、今のとこ戻る手段が無い以上オレの任務はオメーの護衛だ」 「……悪かったわよ」 「何がだ?」 「…わたしが『ゼロ』のせいで、そんな大事な事してる時にこっちに呼び出しちゃって」 一瞬訪れる気まずい沈黙。だがそれを打ち破ったのはプロシュートだ。 「言ったろーがよォーーーオメーに召喚されてなけりゃあオレも死んでたってな それにだ。オメーはまず『自信を持て』…『自信』を持っていいんだぜ!オメーの爆発をよォーー」 「…それって褒めてるのか貶してるのかどっちなのよ?」 「あの爆発をマトモに食らえば人一人軽く消し飛ばせるからな」 「ok貶してるって事ね?ちょっとそこに座りなさい。ご主人様を貶すって事は躾が必要なようだから」 どこからともなく鞭を取り出すが依然としてプロシュートは冷静だ。 「今のでキレるってギアッチョかオメーは、一体何歳だよ」 「16だけどそれが何か関係あるのかしら?」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴという音とドス黒いオーラを噴出させているルイズだがプロシュートは別の事で飲みかけのワインを思いっきり咽ていた 「ガハッ!ガッ!ゴフッ!……マジかよ?精々12~14ぐれーだと思ってたが」 ボスの娘―トリッシュ(プロシュート達は名前を知らないが)ですら15である。あのルイズをそれより年下と思っているのは当然だッ! 「な、なななななんですってェーーーーーッ!そ、そそそそう言うあんたは何歳なのよォーーーーーッ!!」 「…22だ」 そう聞いて今度はルイズがぶっ飛ぶ番だった。 「OH MY GOD!28ぐらいだと思ってたのに人の事言えないじゃない!」 プロシュートの爆弾発現に思わずさっきまでの怒りがどこかに消し飛んだ。 「ウルセーな…そういやあのワルドってのはどうなんだ?」 「ワルドは…確か26のはずよ」 「お前……あの髭よりオレを上と思ってたってのはどういう事だよクソッ」 思わずギアッチョの口癖がうつったが気にしない。 「確か婚約者とか言ってたな」 「昔、わたしとワルドの父が交わしたのよ。確かに憧れてたけど十年前別れて以来会ってなかったから正直どうしていいのか分からない…」 (6と16って地球じゃあ犯罪だぜ?おい) さすがにこれは文化と価値観の違いなので口には出さないが若干引いている。 「……ワルドから結婚を申し込まれたんだけどどうしたらいいと思う?」 「…憧れてたんならすりゃあいいじゃあねーか。まぁオレに聞かねーと結論が出ねーようじゃあ止めといた方がいいな」 「自分でもよく分からないのよ…ずっと憧れてたのに…何かか心に引っかかる…」 「オレが言えるこたぁテメーで選んだ選択を後悔するような生半可な『覚悟』はすんなって事だ」 「…その覚悟っていうのがよく分からないから聞いてるんじゃない」 「言葉じゃなく心で理解するもんだから説明できるもんじゃあねぇ」 それを最後に言葉が途切れるがその沈黙も長くは続かない。 「チッ…!ナイフを土くれに変えたっていうから予想はしてたがな」 プロシュートの視線の先には月を遮るようにして巨大な物体がそこに存在していた。 月明かりをバックに写るは巨大な人型。さらによく見ればそれが岩で構成されている事が分かる。 そしてその巨大な質量の上に鎮座している長い髪の人物は―― 「オメーか『フーケ』。どうやって脱獄したか知らねーが…今回はババァになるだけじゃあ済まねーぜ?」 「感激だわ。覚えててくれたのね」 「心配するな、すぐに忘れるからよ。…ただしお前が『老化して』オレをだ」 「お、お礼をしにきてあげたのに、あ、あああいかわらずおっかないわね……」 その言葉に手を掴まれ己の体が急激に朽ち果てていくような感覚を思い出したのかフーケが怯む。 「白仮面とマントの男ってのがそいつか…随分と手の込んだ真似をしてくれるな」 フーケの横にその男が立っているが何も言わない。いや言わないが身振りで『やれ』と言っているようだった。 「それじゃあ、わたしからのお礼を受け取って頂戴!」 「土産なら必要ねぇッ!」 その言葉と同時にゴーレムの拳でベランダが粉砕されるがそれよりも早くプロシュートがルイズの腕を掴み部屋を離脱していく。 だが階段を降り一階に向かうがそこも戦場と化していた。 ワルド達が下で飲んでいたのだがそこに傭兵の一部隊に襲われたのだ。 ワルド、タバサ、キュルケが応戦しているが数があまりにも違いすぎ手に負えないでいる。 床と一体化している机の脚をヘシ折りそれを盾にしているが 傭兵たちは手練でメイジとの戦い方を心得ているらしく、緒戦の応酬で魔法の射程を見極め、その射程外から矢を射かけてくる。 傭兵側が暗闇を背にしているというのも不利な点だった。 「これじゃあジリ貧ね…!」 魔法を唱えようにも少しでも姿を見せればそこに矢が射掛けられる このまま行けば間違いなく精神力が途切れたところに突入され突撃されるのは自明の理だ。 「この前吐かせた連中もこいつらの仲間ってわけか」 そこに二階からプロシュートとルイズが降りてくる。身を隠そうともしないプロシュートに矢が飛んでくるが全てその手前で止まっている。 グレイトフル・デッドでガートしているのだ。そしてそのまま机の影に滑り込む。 「この様子だとラ・ロシェール中の傭兵が集結してるみたいだね」 入り口の先にはフーケのゴーレムの足も見え下手すればこのまま建物ごと潰される恐れがあり、それがプロシュートとタバサを除いて焦らせていた。 「いいか諸君。このような任務では、半数が目的地にたどり着けば成功とされる」 タバサが本を閉じ自分とキュルケを杖で指し「囮」と呟く そしてプロシュート、ルイズ、ワルドを指し「桟橋へ」と呟いた。 それに応えるかのようにしてワルドが裏口にまわるように促すが、プロシュートは動こうとはせず口を開いた。 「囮ってのは悪くねーが人選ミスだ。タバサとキュルケだけで支えきれるもんでもねぇ。…だがオレとタバサが居りゃあ5分でカタが付く」 「言ってくれるな…だが、君がそれでいいというのなら任せよう。裏口に回るぞ」 ルイズはあの時以来のアレを使うつもりだと思っていたが、そこにプロシュートが自分のために囮を買って出たという吊橋効果もいいとこな思考でキュルケが口を挟む。 「ダーリン…あたしのために…無事会えたらキスしてあげるから死なないでね」 「オメーのためでもねーし、その呼び方は止めろ」 三人が姿勢を低くし移動する。当然矢が飛んでくるがそれはタバサが風を使い防いでいた。 「どうして貴方が囮に?」 「確か二つ名が『雪風』だったな。氷を作れる事と、何より口が硬そうってのがある 対応策を知ってるヤツは少なければ少ないほど良いし合流するのに竜が使えるからな…」 「氷?」 「老化を抑える」 それだけ言い放ち広域老化を仕掛けようとするがそれをタバサに止められた 「あそこにも人がいる」 そう言って杖で指した方向には貴族とここの主人がカウンターの下で震えていた。主人に至っては腕に矢を食らっている。 氷が作られるのを確認すると無言で貴族の客と主人に氷を投げつけ、1~2発頭に当たったのか貴族が文句を言おうとするが 「死にたくなけりゃあ黙って持ってろ」 その、スゴ味の効いた声に全員が押し黙る。 そしてタバサが自分の氷を作ったのを確認すると己の分身の名を宣言するかのように叫んだ。 「ザ・グレイトフル・デッド!」 突入を仕掛けようとしていた傭兵達の動きが急激に鈍くなる。 クソ重い鎧を着込みこちらに矢を射掛けているのだ。当然――フルスピードでカッ飛ばした車のように『温まって』いる 「頭痛がする…吐き気もだ…この俺が気分が悪いだと…?疲労感で…立つことができないだと……!?」 それに呼応するかのように次々と自らの鎧の自重に耐え切れず崩れ落ちる傭兵達。 それを巨大ゴーレムの上で見ていたフーケだが正直気が気ではない。 「傭兵達が倒れていくって事はあの使い魔が残ったって事ね… それにしても、あんな魔法反則じゃあない…無駄に範囲が広いし射程に入ったら即あんな風になるわね…」 「分散させる事ができれば問題無い」 「あんたはそうでも、わたしはそうはいかないさね…あいつに掴まれた時の事は今でも夢で見るんだから…」 「……よし、俺はあいつを相手にする」 「…わ、わたしはどうすんのよ」 フーケが眼下の惨状に恐怖しつつ引きつりながら男に問う 「好きにしろ。逃げようとも前の勝手だ。合流は礼の酒場で」 男がゴーレムから飛び降りると倒れている傭兵を避けるかのようにして宿屋に入っていく。 「何考えてんだか…勝手な男だよ」 そう苦々しげに呟くフーケだが攻撃を仕掛けるか逃げるかまだ迷っているようだった。 だが、さすがに傭兵達の悲鳴が地の底から聞こえるようね呻き声に変わった時決断は決まった。 「………逃げるんだよォーーーーーッ!スモーーーーキィーーーーーーーッ!」 ゴーレムをジョセフ・ジョースターのように走らせその場を離脱した。 「…片付いたようだな」 酒場の中はスデに阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。 なにせ鎧姿の傭兵達が全て倒れ伏せ呻き声をあげている。 大半は生きているようだが体が温まっているのだ。寿命が尽きるのは目前だった。 だがそこに一人、仮面の男が乱入してきた。 (新手か…!?…老化してねーようだが氷でも持ったか?) 広域老化で老化してないのなら直しかない。即座にそう判断し接近戦を仕掛けるべくデルフリンガーを抜き距離を詰める。 「やっと…俺の時代が…長かった…冬が…」 白仮面の男が黒塗りの杖を握ろうとする。剣を振ったのでは間に合わない。そう判断し突進しつつ蹴りをブチ込み酒場の外に吹っ飛ばした。 「チッ…!さすがに杖は離さねーか」 吹っ飛ばされながらも杖はしっかり握っておりプロシュートに向き直り杖を構えている。 「兄貴ィ!魔法が来る!」 白仮面が呪文を唱えているがデルフリンガーに言われるまでもなく男との距離を詰めようと駆け出している。 右手に持ったデルフリンガーで斬りかかる。甲高い音が鳴り響き白仮面が杖でこれを止めている。 だがこれは陽動だ。人間見えているものに注意がいけばそれ以外の場所が疎かになる。 「…掴んだッ!」 プロシュートの左手が男の腕をガッシリと掴んでいる。直触りを仕掛けようとしているのだ。 手加減の必要など微塵も無い。スタンドパワー全開の直触り。白仮面の男は確実にミイラになるはずだった――― 「…何の真似だ?」 だが白仮面の男は老化した気配など微塵も見せずにそう答える。さすがのプロシュートもこれには動揺したッ! 「バカなッ!直触りを受けて『老化しない』だとッ!?」 「兄貴ィ!ヤベーぜッ!そいつから離れて構えてくれッ!」 だが、遅かった。離れた瞬間、白仮面の男周辺の空気が冷え空気が弾け閃光がプロシュートの体を貫いた。 「~~~っがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「兄貴ィィィィィィィイイイ!『ライトニング・クラウド』かよぉ!」 一瞬意識が飛びそうになるがそうなれば傭兵達の老化が解除される。それだけは避けようとし意識をギリギリのところで意地するが正直ヤバイ。 「たまげたな…今のを受けてまだ生きているか」 (左腕の感覚がねーな…おまけに直を受けて老化しないだと?話てるって事はゴーレムの類じゃあねーしどういうこった!?) 生物である以上グレイトフル・デッドの老化からは逃げられないはずだ。ましてこの男は魔法まで使っている。 いかに体を氷で冷やしていようとも直触りを受ければ確実に老化するはずなのだが、こいつは老化してない。それが珍しくプロシュートを焦らせていた。 白仮面の男が第二撃を仕掛けようと呪文を唱えようとする。だがそこに上空から風の塊が白仮面の男を襲い吹き飛ばした。 「早く乗って!」 タバサがシルフィードの上から『エア・ハンマー』を唱え白仮面の男を吹き飛ばしたのだ。 一瞬白仮面の男を見据えるが、すぐに考え直す。 (どういうわけか知らねーが直が効かない以上老化は役に立たない…か。腕もヤバイし時間稼ぎは達したな) そう判断しシルフィードに飛び乗る 「直が効かない理由は分からねーが…この借りは兆倍にして返すぞッ!」 その言葉と同時にシルフィードが上空に飛び立ったが事実上の敗北と言ってもよかった。 プロシュート兄貴 ― 左腕―第三度の火傷 スーツ損傷率17% ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1322.html
二人! 使い魔が疾ぶ! 空条承太郎絶体絶命。周囲を取り囲んだメイジ達の詠唱は今にも終わろうとしていた。 放たれるのは炎か、氷か、風か。何にせよ承太郎を絶命させるには十分な威力。 何とか時を止めて窮地を脱しようにも、ついさっき止めたばかりで休みが足りない。 冷静に、承太郎は判断した。自分はここで死ぬのだと。 そして魔法の詠唱が終わるのを静かに聞いて――鎖がジャリと音を鳴らす。 視線を向けてみれば、付け根近くから壊された学ランの鎖が、重力に逆らい屹立して震えていた。 それが何なのか理解するよりも早く、詠唱を終えた魔法が放たれるよりも早く、鎖は見えない糸に引っ張られるように上空へと飛び上がった! 繋がれている学ランごと! 学ランを着ている承太郎ごと! 一瞬遅れて承太郎がさっきまで倒れていた地面に魔法が叩き込まれ土煙が上がる。 魔法をはずしてしまったメイジ達は、慌てて空を見上げた。 承太郎はグングンと高度を上げていて、その先には一匹の風竜の姿。 「これは……まさか!」 「ぶった切った鎖を直せばよぉ~……当然引っ張られる。 俺が鎖をしっかり掴んでおけば……! UFOキャッチャーよりも確実に承太郎さんを拾い上げれるぜぇ~」 風竜の上まで引っ張り上げられた承太郎は、風竜の主の個性的な髪型を見た。 「ルイズさんは無事送り届けました。助けに来たっスよ、承太郎さん!」 仗助の手の中にあった鎖が、承太郎の学ランの鎖と繋がる。 間に合ってよかったと笑顔を浮かべる仗助を見て、承太郎も思わず微笑を見せて返した。 「この高度なら竜騎士でもない限り手出しはされません、安心していーっスよ」 そう言いながらクレイジー・Dで承太郎の身体や学ランに触れる。 すると身体の傷どころか破れた服まで元通りになった。 「助かった……。礼を言うぜ、仗助」 「一緒に1999年の杜王町へ行くまでは、死ぬ訳にはいかねーっスから」 二人は笑みを交わす。 仗助はようやく十七歳の承太郎と真に信頼できる関係になれたと思った。 勇気と闘志が湧いてくる。 大人の承太郎のようにクールなばかりではなく、烈火のような熱さを秘める承太郎の姿を垣間見たため、親近感は大幅アップだ! 「それじゃあ帰るとしますか。旗艦のヴュンなんたら号でいいスよね?」 「仗助。1999年の俺はいい歳だったろうが、今の俺は十七歳だ。 敬語や丁寧語を使う必要はねーぜ……。それと……できれば行き先は変えてもらいたい」 「行き先? どこへっスか?」 「首都ロンディニウム……。クロムウェルを倒す」 七万の軍に突っ込んだ事もそうだが、やはりこの承太郎プッツンしてるらしいと、仗助は再び頭を抱えた。若い頃はあんまりクールじゃなかったのかな~? とすら思う。 「承太郎さん、それは勘弁してください。俺は自分の傷は治せねーんスから、 敵陣の真っ只中に飛び込むなんて真似はさすがに……」 「アルビオン軍の主力は今俺達の下で混乱している連中だ……。 つまり首都ロンディニウムには最低限の戦力しか残されていない。 俺と仗助のスタンド、そして使い魔の力があれば……」 「クロムウェルの野郎一人ぶちのめすくれー簡単って訳か~……。 連合軍が敗退しちまったし、それくらいしかアルビオンに勝つ手段は無さそーだなぁ」 「クロムウェルを討ち取り、このくだらねー戦争を終わらせて、とっとと日本に帰る方法を探すとするぜ仗助。覚悟はいいか? 俺はできている」 仗助の風竜、アズーロは威勢よく吼えると、ロンディニウム目指して飛翔した。 狙うはクロムウェル! 奴を倒してこの戦争を終わらせる!! 地べたを這いずり回る主力部隊を無視して、ジョースターの血統が空を舞う! アズーロの接近に気づいた首都ロンディニウムは、たった一騎で主力の七万を混乱に陥れた風竜の乗り手を恐れ、城の警備をさせていた竜騎兵をすべて出して撃ち落とすよう命令した。 連合軍との戦いで数を減らした竜騎兵だが、それでも数は五十もある。 そのすべてがたった一騎の風竜に向かって襲ってきた。 「作戦は以上だ。いいな? 仗助」 「任せてください。連中にヴィンダールヴの真骨頂を見せてやるぜ~。 アズーロ! おめーも気合入れろよォ~……お前は俺の相棒なんだからよー」 「キュイキュイッ」 ガンダールヴ+デルフリンガー+ヴィンダールヴ+アズーロ VS 竜騎兵五十騎 絶望的な数の差を前に仗助は笑みを崩さない。余裕の笑みを崩さない! 「頼むぜアズーロ! どの竜よりもお前が一番高く飛べるってところを見せてやれ!」 「キュイッ!」 ゴウッと風を切ってアズーロは天高く飛翔し、太陽の中へと飛び込む。 とはいえ敵の数は五十、いかに太陽に隠れようと角度の問題で、アズーロの姿を視認できる者は多かった。 さっそく魔法を詠唱し杖を向けるが、途端にアズーロは宙返りをして退却を開始する。 たった一騎で突っ込んでおきながら、今さら怖気づいたのか? そう思った直後、火竜のブレスが数騎の竜騎兵を焼き払った。 「よしよし、いい子だ。この調子で頼むぜェ~」 そう言いながら仗助が撫でる竜は、火竜。アズーロではない。 太陽の光の中に隠れた承太郎と仗助は、時間を止めて敵の竜に飛び移ったのだ! 承太郎は火竜の騎手を蹴り飛ばすと、仗助を手綱の前に座らせて時間停止を解く。 そして仗助はすぐさまヴィンダールヴの力で火竜を操り同士討ちをさせる。 突然味方を攻撃した竜に戸惑いながらも竜騎兵はその火竜を攻撃する。 「避けろ!」 仗助は初めて乗った、しかも敵の火竜を誰よりも見事に操って見せ、次々に敵のブレスや魔法を回避しながら火竜のブレスで反撃する。 さらに他の竜とすれ違い様に、承太郎は銃弾を弾いて乗り手を落とす。 空中を飛び回っている竜の背中からでも、スタープラチナの精密な射撃は的確に乗り手だけを撃ち落とした。 とはいえ数の差は埋め難い、次第に火竜は敵竜騎兵に囲まれてしまう。 「次のターゲットはあの火竜がよさそうっスね~……。 いい体格してるからブレスの威力もありそうだしよ~」 「あの竜だな。行くぜ、スタープラチナ・ザ・ワールド!!」 時間を止めた承太郎は仗助を脇に担ぐと、スタープラチナの脚力で火竜の背中をめり込ませながら新たな獲物に飛び移る。 そして新しい火竜の乗り手を軽く蹴飛ばして火竜から落として、仗助を手綱の前に座らせる。 「時は動き出す。……仗助!」 「ほれほれ、俺が新しいご主人様だぜェ~。名前は何ていうんだ? へえ、エドワウか。それじゃさっそく言う事を聞いてもらうぜ」 新たな竜を得た二人は、即座に奇襲をかけ他の竜騎兵を次々に落としていく。 時折反撃を受けエドワウが負傷するが、仗助が即座に治す。 スタープラチナの時間停止とジャンプ力で竜から竜へと飛び移り、ガンダールヴの身体能力で振り回すデルフリンガーが敵の魔法を吸収し、クレイジー・ダイヤモンドの能力が負傷した竜を治療し、ヴィンダールヴの能力が竜の能力を最大限に発揮させる。 四つの力が合わさり竜騎兵は次々に落とされていき、最後に残ったのはエドワウに乗る承太郎と仗助のみであった。 そうすると雲を背中に白い身体を隠していたアズーロが降りてきて、お疲れ様とばかりに仗助に顔をすり寄せる。 「よしよし、いい子だ。ところで承太郎さんって竜に乗れますか?」 「振り落とされない程度には……な……」 「じゃ、そのエドワウは承太郎さんに任せます。火竜の火力も必要っスからね~」 仗助がアズーロに乗り移った時、竜巻が二人を襲った。 咄嗟にアズーロを操縦しバランスを取らせた仗助はともかく、承太郎はエドワウごと地面に落ちていった。 「承太郎さん!」 仗助が叫んだ直後、上空から雲に隠れていた風竜が一騎、急降下してくる。 「ガンダールヴ! 今度こそ、今度こそ討ち取ってやるぞ!」 怒りと憎しみに燃えるワルドが杖を掲げて叫んでいた。 ワルドは仗助を無視してアズーロの脇を抜けると、承太郎目掛けて竜を突進させる。 「アズーロ!」 「キュイッ!」 一心同体ともいえるアズーロは、即座に主の考え通りに急降下してワルドを追う。 しかし助走距離が足りない! いかにヴィンダールヴといえど、自分より先に、しかも上空から急降下を始めた風竜に、同じ風竜で追いつく事はできない。 承太郎は必死にエドワウの手綱を握り締め、振り落とされまいとするが、上空から新たに魔法を放とうとするワルドを見てそうもいってられない状況と理解する。 「フフッ……いかに時間を止められようと、場所が空ではどうにもできまい! 足場が無ければ跳ぶ事もできぬ! 地面に到達する前に決着とつけてやるぞ!」 ワルドは嗜虐の笑みで表情を歪めると、再びウインド・ブレイクを放った。 エドワウの手綱がちぎれ、承太郎は空に放り出される。 「死ね、ガンダー……ゴブッ!?」 突然ワルドは口から血を吐いた。身体を大の字に広げて落下速度を抑えながら、スタープラチナの指は次々と銃弾を上空に向けて弾き飛ばす。 的確に口へと撃ち込んだ次は杖を持つ指、続いて右目、左目と命中させる。 「ガボゴボッ……!」 悲鳴を上げながらワルドは風竜から振り落とされ、杖を手放した状態で地面に向けて落下して行った。 一方承太郎も眼下に広がる岩肌を睨みつけ、スタープラチナでショックを和らげようとしている。 しかし。 「承太郎さぁぁぁん!」 アズーロを駆る仗助が地面に激突せんばかりの勢いで助けに向かってきたため、即座に承太郎は学ランの鎖を切断して仗助に向かって投げた。 鎖を掴んだ仗助は即座にクレイジー・Dの能力を発動する。 地面からわずか数メイルという距離で承太郎は止まり、壊れた鎖が引っ張り合った事によりアズーロの背中へと舞い戻っていった。 「ドラァーッ!」 「オラァッー!」 クレイジー・ダイヤモンドがスタープラチナを抱き止め、承太郎はアズーロの手綱を掴んでその背中に乗る。 しかしアズーロの鼻先もまた地面までわずか数メイル。 「アズーロォォォッ!!」 「キュッイィィィーン!」 一際大きく鳴いたアズーロは円を描くようにして急上昇する。 どんな高性能コンピューターでも計算できないようなギリギリの神業で、アズーロの腹は岩肌のわずか五サントほど上をかすめた。 その岩肌から少し離れた位置に、潰れたトマトのようになっているワルドがあった。 「竜騎兵隊ィ! 全ッ滅ッ!!」 「やれやれ……ちと苦労したが、行くぜ。ロンディニウムの城に殴り込みだッ」 「キュイィィィーッ!!」 快進撃を続ける二人と一匹はロンディニウムの城へと疾ぶ! 目指すはクロムウェルがいるだろう玉座の間! 空から見えるベランダから突撃すればすぐだろう……。 時を止めるスタープラチナ! 神の左手ガンダールヴ! 伝説の剣デルフリンガー! 物を直すクレイジー・ダイヤモンド! 神の右手ヴィンダールヴ! 風竜アズーロ! ジョースター!! 虚無の使い魔!! その相棒!! もう誰にも止められない。 しかし待ち受ける者のスタンド能力を彼等はまだ知らない。 それに対抗する手段を手放してしまっていると彼等はまだ、知らない……。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/263.html
康一達がマリコルヌに地獄を見せていた同時刻、本塔の最上階にある学院長室で、ちょっとした騒ぎが起ころうとしていた。 トリステイン魔法学院の学院長を務めるオスマン氏が、白いひげと髪を揺らして、退屈そうにしていた。 「暇じゃのう……」 オスマンは、机に手をつきながら立ち上がり、理知的な顔立ちが凛々しい、ミス・ロングビルに近づいた。 椅子に座ったロングビルの後ろに立つと、重々しく目をつむった。 「こう平和な日々が続くとな、時間の過ごし方というものが……」 「オールド・オスマン」 オスマンが、年季の入ったしわをよせながら重々しく語ろうとするが、ロングビルによって遮られる。 「なんじゃ?」 「暇だからといって、わたくしのお尻を撫でるのはやめてください」 オスマンは口を半開きにして、耳をロングビルに向けながら聞く。 「え? ポッポ ポッポ ハト ポッポ?」 「都合が悪くなると、ボケた振りをするのもやめてください」 どこまでも冷静な声でロングビルが言った。 オスマンは深くため息をついた。そして真剣な顔をしながら語る。 「そういえば、昨日召喚されたという平民の少年はどうしてるんじゃろうな? 後で様子でも……」 「少なくとも、私のスカートの中にはいませんので、机の下にネズミを忍ばせるのはやめてください」 ロングビルの机の下から、小さなハツカネズミが現れた。 オスマンの足を上り、肩にちょこんと乗っかって、首をかしげる。 「気を許せる友達はお前だけじゃ。モートソグニル」 そう言って、ネズミの前にナッツを振る。 「ほしいか? カリカリの欲しいじゃろう? なら報告をするんじゃ」 ネズミは、ちゅうちゅうと鳴きながら、オスマンに耳打ちした。 「そうかそうか、白か。純白か。よーし、よしよしよしよしよしよしよしよしよしよし! よく観察してきたのう、モートソグニル! 褒美をやろう。いくつ欲しいんじゃ? 二個か?」 ネズミは、顔を横に振って、ちゅーうちゅうちゅうちゅう! と鳴いた。 「三個欲しいのか? カリカリのを三個……。いやしんぼじゃのう! よし、三個くれてやろう!」 ロングビルが眉をぴくぴくとさせながら、その光景を見ていた。 「オールド・オスマン」 オスマンは、ネズミに向かってナッツを放り投げながら聞く。 「なんじゃね?」 「今度やったら、王室に報告します」 その言葉を無視するかのように、オスマンはネズミと戯れていた。 ネズミが手を使わずに、全てのナッツを口でキャッチして、カリコリさせながらナッツを食べている。 「よォ~しよしよしよしよしよしよしよしよしよし! とってもいい子じゃぞ、モートソグニル!」 うれしそうにネズミを撫で回すオスマン。 その光景を見ていたロングビルは、オスマンの背後に無言の圧力をかける。 「下着を覗かれたぐらいでカッカしなさんな! そんな風に怒ると、余計にしわが増えるぞ。 これ以上、婚期は逃したくないじゃろう。 ぁ~~~~、若返るのう~~~、何というスベスベの……」 オスマンが、ロングビルのお尻を堂々と撫で回し始めた。 ロングビルは立ち上がり、無言で上司の顔面を手の甲の部分で引っぱたいた。 バギィッ! 小気味良い音を立て、オスマンは地面に倒れる。 追撃といわんばかりに、ドガドガドガと、オスマンの体中に何度も蹴りを入れ続ける。 「ごめん。やめて。痛い。もうしない。ほんとに。許して!」 「このッ! このッ! このエロじじぃがッ! 思い知れッ!!」 普段の冷静なロングビルとは思えない台詞を言い放ちながら、尚もオスマンに蹴りを入れる。 「あだッ! うげッ! ごげッ! と、年寄りを、きみ。ちょま、まって。折れちゃう! はぐッ!」 「私の清らかな部分を! よくも汚れた指先で! いやらしく撫で回してくれたわねッ!」 ロングビルは完全にプッツンしているようで、目を尋常じゃないほど見開いている。 迂闊なことをしたと後悔しながら、意識が遠くへいきそうになるオスマン。 オスマンが失禁寸前になっていたその時、 ドアがガタン! 勢いよくあけられ、中堅教師のミスタ・コルベールが飛び込んできた。 「オールド・オスマン!!」 「……」 返事がない。 ロングビルは何事も無かったように机に座っているが、オスマンはピクピクと体を痙攣させていた。 いつものことなので、特に気にも留めずにコルベールは話を進める。 「たた、大変です! ここ、これを見てください!」 『炎蛇のコルベール』の二つ名を持つコルベールは、 白目をむいて気絶しているオスマンを燃やして、強制的に意識を覚醒させる。 そして、図書館にあった書物をオスマンに手渡した。 「これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか」 オスマンは何事も無かったかのように、書物をマジマジと見つめている。 「これが一体どうしたと言うんじゃ。 こんな古臭い文献など漁ってる暇があったら、貴族から学費を徴収するうまい手を考えるんじゃよ。ミスタ……、なんだっけ?」 オスマンは首を傾げた。 「コルベールです! お忘れですか!」 「そうそう。そんな名前だったな。それで、この書物がどうかしたのかね? コルベット君」 「コル 『ベール』ですッ! わざとらしく間違えないで下さい!!」 だめだコイツ……、と思いながら頭を抱えるコルベール。 「とにかく、これを見て下さい!」 コルベールは、康一の手に現れたルーンのスケッチを手渡した。 それを見た瞬間、オスマンの表情が変わった。目が光って、厳しい色になった。 「ミス・ロングビル。席を外しなさい」 ミス・ロングビルは立ち上がり、部屋を出て行った。 彼女の退室を見届け、オスマンは口を開いた。 「詳しく説明するんじゃ、ミスタ・コルベール」 ルイズがめちゃくちゃにした教室の片付けが終わったは、昼休みの前だった。 罰として、魔法を使って修理することが禁じられたため、時間が掛かったのである。 といっても、片づけをしたのは殆ど康一で、ルイズは面倒くさそうな顔で机の煤を拭いただけだった。 新しい窓ガラスや重い机を運ばされた康一はくたくたになりながら、食堂へ向かうルイズの後ろを歩いてる。 「……」 「……」 二人とも無言であった。 ルイズは不機嫌そうにしており、康一は話す気力もないと言った感じで肩を落としてる。 だらだらと歩く康一に我慢できなくなったルイズが、康一に向かって怒鳴りつける。 「ちょっと! 私の使い魔らしく、もっとシャキっとなさい、シャキっと!」 康一は、何も答えずにノロノロと歩いている。 「人の話を聞いてんの? この犬!」 犬と言われた康一は、ムッとしながらも何とか堪え、ルイズの所までスタスタと歩いた。 ルイズの肩に手をポンと置き、散々コキ使われた恨みを籠めながら笑顔で返事をする。 「僕もシャキっとしたいんだけど、何せもう体力が 『ゼロ』 だからなぁ~」 康一は、『ゼロ』の部分だけ声を張った。 ルイズの眉毛がぴくぴくと動き、歯はギリギリと不協和音を奏でていた。 「いや、本当は僕も急ぎたいけど、体力が『ゼロ』だし、気力も『ゼロ』だからさぁ~!」 「ふーん、へぇ~、そーなの。 体力が無いなら仕方ないわね~」 ルイズは笑顔で、しかし、万力の力を込めるように、拳を握った。 それを見た康一は、ヤバイと思って、後ずさりしながら離れる。 「さ、さあ~てッ! 早いとこ食堂に行こ……」 ルイズの右ストレートが、康一の左頬にクリーンヒットする。 バギィッ! という音が、食堂へと続く廊下に響いた。 康一は、明日の食事も全て抜きとされてしまった。 殴られた左頬を押さえながら、康一はシエスタに案内された厨房へ向かっていた。 口の中は鉄の味で充満しており、虫歯になった時のように、ジンジンと痛みが走っている。 「あら、コーイチさん」 厨房の前に到着すると、シエスタが大きな銀のトレイで、何枚もの皿を運んでいる最中だった。 康一は、シエスタのところまで駆け寄り、一礼をした。 「どうも、シエスタさん。朝はお世話になりました。運ぶの手伝いますよ」 そう言って、シエスタの持っていたトレイを持ち上げる。 しかし、片づけで大幅に体力を失っていたこともあり、持ち上げた体勢のままプルプルと震えて動けなくなる。 「あ、あの……無理はなさらないほうが……」 シエスタが康一を心配そうに見つめる。 「だ、だ、だ、大丈夫……です。あ、いや……。やっぱまずいかも……」 シエスタは、康一の両手に重なるように手を置き、トレイを持ち上げるのを手伝う。 「す、すいません……」 シエスタの手に触れていることも相まって、康一は顔を真っ赤にして俯いた。 「一緒に運びましょう。二人で運べば、お互い楽に運べますから」 そう言って、可愛らしい笑顔でニコリと微笑むシエスタ。 康一は十分の一でもいいから、シエスタの優しさをルイズに分けてほしいと思った。 皿が乗っているトレイを、厨房のテーブルに乗せる。 トレイから皿を下ろしていると、料理を作っていたコックが皿を何枚か要求した。 康一が皿を持っていき、コックが料理を盛って、再び康一に手渡す。 シエスタが康一から料理を受け取り、何枚か大きな銀のトレイに乗せて食堂へと持っていった。 数分後、メイン料理の全てを運び終えたメイドたちは、デザートの時間になるまで昼食を取っていた。 「うーん、やっぱおいしいッ!」 康一も、シエスタを含むメイドたちと賄い料理を食べていた。 今日の賄いはシチューらしく、康一の腹を満たすには充分すぎる程の量が入っている。 シエスタは、その様子をクスクスと笑いながら見ている。 「……? どうしたの?」 「コーイチさんって、本当においしそうに食べてくれますね」 「そりゃあ、本当においしいんですから、自然とそうなりますよぉ~!」 そう言って、満面の笑みでシチューを頬張る康一。 ルイズに殴られた傷なんて、気にならないくらいであった。 「この後、デザートを運ぶんですよね? 僕も手伝いますよ」 「そんな、そこまでしてもらうわけには……」 既に厨房の仕事を手伝って貰っており、これ以上手伝ってもらっては申し訳ない、とシエスタは思った。 「いえ、朝もご馳走になりましたから、是非やらせて下さい!」 「……わかりました。なら、手伝って下さいな」 康一の素直な瞳を見て、断っては逆に失礼だと思ったシエスタは、デザート運びを手伝ってもらうことにした。 大きく頷き、康一は再びシチューを食べ始めた。 大きな銀のトレイに、デザートのケーキが並んでいる。 康一がトレイを持ち、シエスタがはさみでケーキをつまみ、一つずつ貴族たちに配っていく。 「なあ、ギーシュ! お前、今は誰と付き合ってるんだよ!」 声のした方を見ると、金色の巻き髪にフリルのついたシャツを着た、キザなメイジがいた。 薔薇をシャツのポケットに挿している。どうやら友人らしき人物と話をしているようだった。 「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」 「つきあう? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 あの人、自分を薔薇に例えるなんて、よっぽど自分の容姿に自信があるんだなぁ~。 などと思いながら次の席までトレイを運ぶ。 特に興味もなかった康一は、すぐに視線を元に戻した。 次の席にケーキを配ろうと康一が移動した時、シエスタが何かに気づき、はさみをトレイに置いた。 「すみません、ちょっと待ってていただけますか?」 「あ、はい」 そう言って、シエスタはさっきのキザな男の元に駆け寄った。 知り合いかな、と思いながら康一が見ていると、何やら少しモメているようだった。 シエスタは困った顔をして、オロオロとしていた。 何かあったのかと思い、トレイをテーブルに乗せて康一がシエスタに声をかける。 「どうしたんですか?」 「あ、それが……」 その時、一人の女性がキザ男に向かってコツコツと歩いてきた。 「ギーシュさま……。 やはりミス・モンモランシーと……」 「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは……」 ギーシュと呼ばれた男がそう言いかけた時、パァンッ! という音が、食堂に響いた。 ケティと呼ばれた女性が、ギーシュの頬を思いっきり引っ叩いていた。 「その香水が貴方のポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」 ギーシュは頬をさすった。 康一が何事かと思っていると、康一を押しのけて、また一人の女がギーシュの前に現われた。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ……」 「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?」 モンモランシーは、テーブルに置かれたワインのビンを掴むと、中身をどぼどぼとギーシュの頭の上からかけ、 「うそつき!」 と怒鳴って去っていった。 しばし、なんともいえない沈黙が流れた。 ギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと顔を拭いた。 そして、首を振りながら芝居がかった仕草で言った。 「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 康一は、この人二股かけてたのか、まあ自業自得かな。などと思っていた。 あんまり惨めな姿を見ていると可哀想だったので、康一はすぐにその場を去ろうとする。 「……メイド風情がやってくれたね。君が軽率に、香水のビンなんかを拾い上げたおかげで、 二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだい?」 シエスタは、体を震わせながら、半泣きで土下座をする。 その光景を見た康一は、ピタリと足を止め、ギーシュの元へと引き返した。 「も、申し訳ございません!」 「謝って済む問題じゃない。キミには責任を取ってもらうとしよう。 ここのメイドをやめて、今すぐトリステインから出て行ってくれたまえ」 そう言って、ギーシュはシエスタの元から去ろうとする。 それを聞いていた康一が怒りをあらわにしながら言った。 「ちょっと! 何もそこまでする必要はないじゃないですか!」 「ん? 君は確か……ゼロのルイズの使い魔だったか。 使い魔如きが、軽々しく僕に話しかけないでくれたまえ」 使い魔如きと言われカチンとするが、 それよりも頭に来たのは、ギーシュが自分の責任をシエスタに押し付けてることだった。 「話を聞いていると、悪いのは明らかにキミの方だ! 大体、二股をかけてるのが悪いんじゃあないか。自業自得だよ!」 ギーシュの友人たちが、どっと笑った。 「確かにその通りだ! ギーシュ、お前が悪い!」 「そうだ、お前が悪い!」 それを聞いていた、周りのギャラリーたちも、一斉にギーシュを攻め立てた。 「責任転嫁するなんて、かっこ悪いぞ!」 「この極悪人め!」 「キミが真の邪悪だ」 周りから好き放題言われるギーシュ。 プルプルと振るえ、顔を怒りの形相へと変えた。 「よくも……僕にこんな恥をかかせてくれたな……」 歯をギリギリとならし、康一をキッと睨みつけている。 康一も負けじと、ギーシュを真っ直ぐ見る。 「そうやって、なんでもかんでも人のせいにするのは止めた方がいいよ。 全てキミが悪いじゃあないか。周りの皆だって、そう言ってるよ」 うんうん、と頷くギーシュの友人とギャラリー達。 「……どうやらキミは貴族に対する礼を知らないようだな。 よかろう、ヴェストリの広場で待っている。ケーキを配り終えたら来たまえ」 くるりと体を翻し、ギーシュと、その友人たちが去って行った。 「コ、コーイチさん! 逃げて下さい! 殺されちゃいます!」 「シエスタさん」 「悪いのは私なんです! だから、行くのは絶対にやめて下さい!」 「シエスタさん、聞いて下さい」 康一は地面に座り込んでいたシエスタの手を取って、立たせた。 その姿は、体の小さな康一とは思えないほど、凛々しかった。 ドキリと胸をならし、シエスタは思わず視線をそらす。 「僕が逃げるってことはつまり、シエスタさんの名誉を汚すことになります。 シエスタさんは何も悪くないんです。だから、自分が悪いなんて言うのはやめて下さい」 康一は、真っ直ぐにシエスタを見ながら言葉を続ける。 「それに、僕は彼に解らせてあげなければならないんだ。『お前が悪いんだ』ってね。 大丈夫。僕は一度殺されそうになったことがあるからね。あんな奴、ちっとも怖くなんかないよ」 そう言って、康一はテーブルに置いたトレイを持った。 「さ、それより、早くケーキを配りましょう。皆さん、お待たせしてすみません」 康一達は、残りのケーキを貴族達に配っていった。 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1597.html
その能力、『ヘブンズ・ドアー』によって本に変えたタバサを、露伴は真剣な眼差しで見つめていた。 ガリア。王族。エルフ。母親。人形。雪風。北花壇騎士団。ガーゴイル。使い魔。幽霊。はしばみ草。キュルケ。読書。 風韻竜。シルフィード。王都リュティス。プチ・トロワ。トライアングル。イルククゥ。イザベラ。風の妖精。ジョゼフ。 そよ風。グラン・トロワ。親友。エルフの毒。ヴェルサルテイル宮殿。シャルロット・エレーヌ・オルレアン。 父を暗殺され、母は自分をかばってエルフの毒を飲んで心を蝕まれている。 王家としての名を剥奪され、ガリア王国の汚れ仕事を一手に担う、存在しない『北』の名を持つ騎士団。 そんなタバサの記憶を、露伴はどんな気持ちで読んでいるのだろうか。 タバサの過去を、記憶を。一体どんな気持ちで。 「………『今起こったことは全て忘れる』………と」 「………っ」 「あぁ、起きたかい」 机に突っ伏していたタバサが顔を上げて、最初に目にしたのは真正面のイスに座っている露伴の姿だった。 右手で頬杖を付いて、左手でページをめくって読んでいるそれは、絵本だ。 「ぼくが住んでたところと文字が違うんでね、ほとんど読めない。かろうじて絵柄でストーリーがわかる絵本を読んでいるというわけさ」 訊いていないのに説明する露伴の顔を凝視しながら、タバサは必死で頭の中をバイツァ・ダスト。 何があった、何が起こった? さっきまで何をしていた? 何をされた? なにかを。いったい何を? 凝視するタバサの視線に、露伴は気付いていながらも本へ降ろす視線を決して動かすことはない。 タバサを視無い、文字通りの無視。この上なく理想的な無視だった。 どこから、ヴァリエールの錬金。爆発するのがわかってて外に出て……その後は……。 「おいおい。どうしたって言うんだ? まさか『忘れてしまった』と言うのかい? ぼくが、この『岸辺 露伴』がお願いしたんじゃないか。 ぼくが『何処へ行くのか訊いたら君は「図書室へ」といって、「迷惑でなければ連れていって欲しい」と言ったら君は了承した』んじゃないか」 ……そうだった。キシベロハン。そんな名前だった。 「それが図書館に着いたら急に『倒れてしまった』んじゃないか。思い出したかい?」 ………そう、そうだった。忘れていた。それに倒れるなんて、初めての経験だ。朝ご飯をもっと食べておけば良かったかもしれない。 「……お礼」 「ん? あぁ、気にする事じゃあないさ。むしろお礼を言いたいのはぼくの方さ。あんなにも素晴らしい物を見ることが出来たのだからね」 この間も露伴はタバサに視線を向けることはなかった。 そしてタバサもそれ以上何か言うことはなく、本を探しに立ち上がった。 立ち去る気配にも露伴は視線を動かさない。 じっと、机に広げられている、デフォルメされたキャラクターを凝視しながら、膝の上に乗せた静の頬をくすぐる。 それを、静はその小さな手で握りかえし、嬉しそうに笑った。 この、ヴァリエールの使い魔は本が好きなのだろうか。 そう思いながら、読みかけだった本を取って、タバサは露伴の正面の席に着く。 このトリステイン王立魔法学院の図書室には、国内はもちろん、国外で発行された本も集められている。 その蔵書量は圧巻である、彼が言った『素晴らしいモノ』とはその事だろう。 タバサ自身も、ガリア王家の出身故、それなりの暮らしをしていたとはいえ驚いたくらいだ。 本を愛するものであれば、何らかの感嘆を覚えるのは必然だろう。 だとすれば「読めない」というのは、悲しくはないのだろうか。 本を持ってきたは良い物の開かずに、タバサは露伴の顔をじい、と見つめる。 変わった服。あきらかに平民にしか見えないのに、本に注がれる視線には何か不思議な感慨を覚える。 「………こう言うときは。自分自身を読めないのが不便だな。世の中良いことばかりじゃないか」 「……何」 タバサの言葉に、露伴がようやく顔を上げた。 「ん? あぁ、いや。ただの独り言さ」 露伴はそれだけ言って再び本に視線を降ろす。 それから、露伴はその視線を上げることはなかった。 そしてタバサもあえて話しかけると言うことはなかった。 この時は、まだ。 「ふぇ……あぁ……」 一瞬、赤ん坊が声を上げたかと思ったら、露伴の方がガタンと椅子を蹴飛ばすように立ち上がった。 それをタバサは短く注意する。 「図書室」 静謐な図書室だ、それくらいの音でも他のモノの集中力をガオンッするには十分である。 「あ、あぁすまない、ちょっと急用が。おっと、この本は何処にあったかな」 左腕に静を抱いたまま、露伴は読んでいた本を返そうとするが、何処から取ったのか思い出せない。 「返しておく」 「あ? あぁ、そうかありがとう。ではお願いするよ」 タバサからの思いがけない申し出に、露伴はコレ幸いとその本を預ける。 実際は、その本をタバサの隣に置いただけだったが。 「それじゃまた。失礼するよ。ミス・タバサ」 それだけ言って、露伴は図書室を後にする。 露伴の言葉にはタバサは返事することなく、本に目を落としている。 露伴が急に慌てて出ていった理由は、タバサはきちんと理解していた。 ただ、その事のみに気を取られていて、もっと重要なことには全く気が回っていなかった。 出物腫れ物所嫌わず。 食べる物食べれば出すのは当然のことである。 そう、タオルケットに包まれた静がその中に………。 不快感に泣き出した静だったが、場所が場所だけに緊急手段を取った。 コレが教室だとかルイズの部屋だとかならともかく、図書室で大泣きされては困るからだ。 普段は露伴は静にはそんなことは書き込まない。 赤ん坊が泣くのは赤ん坊からのヘルプのサインであり、言葉を使えない故の唯一の意思伝達方法なのだから。 むしろ『泣かれないと困る』のだ。 泣かれて苦労するのは周囲の人間であり、最も近いのは露伴だが、露伴は子守りという経験を大切にしている。 泣かれることは苦ではない。ヘルプサインをしっかりと出してくれる分にはそれは十分納得のいく理由。 露伴が書き込むことは、極力その本人の性格や人生に影響が出ない程度。 そう、ルイズやタバサ書き込んだ『岸辺 露伴に協力する』と言った程度である。 それくらいならば、その本人の人格に影響しない。 ルイズならばぶつくさ文句を言いながらもちゃんと帰る手段を探すだろう。 タバサも、何度か会ううちに自分から協力を申し出てくるだろう。 タバサの性格は露伴も読んで既に把握しているのだ。 無口で無表情で、人と関わりと持とうとしないのは、自分のせいで心を病んでしまった母が理由。 しかし、人との関わりを断つという割には、あのキュルケを親友と感じているところもある。 結局は彼女も人恋しいのだ。 「だからこそ素晴らしい………。見てみたくなったぞ。魔法の使えない『ゼロのルイズ』。 他者を拒もうとする『雪風のタバサ』。そしてそれさえ溶かす『微熱のキュルケ』」 それが、彼女らのリアル。そして露伴が望むリアリティ。 「………まずは静の処理からだな。とりあえず汚物を処分して体を洗ってやって後着替えか……シエスタに頼むか。広場にいるかな」 彼女達というキャラクターが一体どんなストーリーを作り出しているのか、それを想像するだけで露伴は心が躍るのだ。 心の高ぶりに、露伴の脚は軽やかに螺旋階段を下りていった。 「ぐすっ………何よ、みんなゼロゼロってバカにして。ロハンも私おいてどっかいっちゃうし。何でよ、どうしてよ。ロハンまで私を見捨てるっているの………」 ほとんど半泣きで、一人で、ルイズは未だに部屋の片付けをしていた。 しばらく待っても露伴は帰ってこない、等のロハンはルイズのことをてっきり忘れてしまっていることなど露にも知らず。 幼い頃からそうだった。ヴァリエール公爵家の三女として生まれたにもかかわらず、魔法が一切使えない。 その事を、両親にも落胆され、上の姉にはバカにされ……そして使用人にすら哀れまれる始末。 下の姉だけは、いつかきっと出来るようになると慰めてくれたけれど。 ただ、使い魔が召喚できてとても嬉しかった、それが平民で前例がないとは言っても、始めて、始めて魔法が成功したのだから。 それなのに………それなのに……。 「ちょっとルイズッ」 唐突に教室のドアが勢い良く開かれる。 慌ててルイズは目の端に浮かんだ涙を拭う、こんなところを他の誰かに見られたくない。 「……何よキュルケ。片付け中よ」 慌ててやってきたのは憎きツェルプストーの女。 「あんた使い魔はどうしたのよ」 「知らないわよっ!」 ルイズの叫びにキュルケがひるむ。 「知らないわよあんな奴! 人の話聞かないし。人をご主人様だと思わないし。赤ん坊ばっか気にしてるし。勝手にどっかいっちゃうし。ご主人様ほっぽって……うっ……ぐっ……」 「あんた………泣いてるの」 「泣いてなんかないわよ! なくもんですか! 掃除の邪魔だからどっか行ってよバカァッ」 意固地になっているルイズを、茶化せるほどキュルケはバカではない。 ただ、頭の中でグルグルと何かが渦巻いて前後不覚になっている、それを一発で目を冷ます、気の利いたコークスクリューを放った。 「掃除している場合? あんたの使い魔がいまギーシュと決闘しようって言うのに、あんたはこんなところでのうのうと掃除してるってわけ?」 「今なんて?」 「あんたの使い魔が、ギーシュと決闘するって言ってんの。ヴェストリの広場よ、止めるなら今のうちじゃない?」 ヴェストリの、とまでキュルケが言ったところでルイズはその手に持っていた机の瓦礫を放り捨てて教室を飛び出した。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/691.html
此処は練兵場だか何だか知らんが広い場所 この場に立っているのは、私と髭と主人だ 互いに実力を知るために手合せをしよう、とか何とか まぁ、断るのも可愛そうだから引き受けたが… 試したい事もあるから丁度良い さて、始めようか! 【逆に考える使い魔】 少し時間をバイツァ・ダスト! 手合せの為に宿の外に出た時 私は見てしまった! 空から変態が落下してきた瞬間を! そして!私の血に潜む何かが…奴は『邪悪』だと叫んでいる! 「ここは何処だ!?貴様は誰だ!?」 混乱してようが関係ない! 「俺に近「ふんッ!」…ッ!?」 ―ハルケギニア BF1階― ジョージに首を両断されて死亡 妙なテロップが…電波か? 「相棒よぉ…使ってくれるのは有り難いけど…イキナリ辻斬りh(チンッ)」 初ゼリフのデルフを無視し、戦利品を懐に収める DISCという名らしい… 私が死んでから何年経ったか知らないが、向こうの世界では便利な物が出来たようだ… 音楽を楽しむ為の娯楽道具(CD部分の説明)と戦う為の武具(スタンド部分の説明)を兼ねるとは、お得だな DISCには、ヘタクソな字で『クリーム』と書いてある 未強化だから慎重に使わば… で、現在に至るわけだが 再びデルフを抜いて構え…頭に流れる膨大な量の情報から不要なモノを排除! オメガ13Zって何だ? そんな事を考えながら打ち合っていると魔法で吹き飛ばされてしまった… しまったな…どうせなら、盛大に血糊を撒き散らしながら派手に吹き飛べば良かった… なに?何故、盛大に血糊を撒き散らすのか? 逆に考えるんだ、『油断させて抹殺出来る』と考えるんだ…どうにも奴が気に食わないからな! 「ン、ンー?それの程度では使い魔失格だよ?」 キタ---------!プッツンキタネコレハ! 「調子扱いてんじゃ…ゲフン!ゲフン!…良いのかね?全力を出しても?」 「僕は実戦で鍛えられたメイジだ、多少のことでは揺るがないよ」 「ならば刮目せよ!己の魂を燃やす一撃!」 己に感じる小宇宙を燃やす! 「ハァァァァアアアア!」ただならぬ気配に警戒を強める髭…しかし、無駄な行為だ! さらに気張って警戒が強まった…このタイミングだ! 「アアアッ!…限界だ…」 「な、なんだっ「隙有りィぁ!」しまっ!?」 全てを霧散させて崩れ落ちると見せ掛け、懐に忍ばせたロープを掴み、巧みな操作で縛り上げる! 「変態秘奥義!空中亀甲縛りッ!」 本来なら木に吊し上げるなりするのだが、場所が無いからハンマー投げの如く高速回転! 「ギィャアアァァア!絞まるぅ!…でも、それがイ「氏ねぃ!」 なんか呟いたので地面に叩きつけて黙らせた… 真性とはな…いや、主人がドSだから問題ないな… 気は乗らないが、気絶した髭を(縛ったまま)担いで宿に戻るとするか… 本日の成果 クリームのDISK ルーンの効果を確認(様々な武具の効果、使用法、技術情報の習得)
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/787.html
第一回最強おっぱいトーナメント――優勝者キュルケ――を終え、ほくそえむ。 これは面白い。ただの眼鏡は願い下げだけど、この眼鏡なら使い魔にする価値がある。 「ミスタ・コルベール。わたし、この眼鏡を使い魔にします」 「納得してくれたかね。それでは儀式を続けなさい」 野次馬どもがまた笑った。そりゃそうよね。眼鏡使い魔にするメイジなんて天地開闢以来初めてだろうし。 甘い甘い、浅慮浅慮。見た目で良し悪しを判断する愚物どもよ、笑わば笑え。最後に笑うのはこのわたし。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 ブリッジをつまんで両手でささげもった。生涯の相棒となるであろう相手は太陽の光を受けて輝いて見える。 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え……」 ここで詠唱は中断させられた。眼鏡が手から落ちた。 はじめは汗か何かで手が滑ったのかと思った。でもそんなわけない。しっかり持っていたもの。 次に思ったのは、落としたらやばいってこと。割れたら終わる、とも思った。 時間よ止まれ、と思った。でも止まらない。眼鏡が地面めがけて落ちていく。 手を伸ばしたけど、しょせんはわたしの反射神経、どう考えても届かない。 眼鏡は地面に落ちて砕け散る直前でフレームを伸ばし、見事に軟着陸した。 二本のフレームを交互に動かし、小刻みだが素早く駆けていく。 「えっ」 伸ばした手が行き場を失い、中途半端な位置で停止した。 わたしを含めた一同、口を半開きにして眼鏡が消えていく様を見守るだけ。 振り返ることさえせずに、眼鏡は茂みに消えていった。 「ちょ、ちょっと! 何!? 何なの!?」 わたしは大馬鹿だ。こんこんちきだ。後から考えれば本当によく分かる。 特殊な眼鏡だったってことは知ってたんだから、動くくらいは予想しなくちゃいけなかったのに。 眼鏡、眼鏡、どこへ消えた。怒ったりしないから帰ってきて。本当に。お願いだから。 呆然としていたクラスメイト達も、ようやく現状が笑うに値する状況だと気づいたらしい。 またドカン。笑い声。誰も手伝ってくれないから、わたしは一人で草原を走り回る。 偉大なる始祖ブリミエルよ。これは好奇心に従い他人の裸を見るだけに終わらずランキングまでつけてしまったわたしへの罰ですか? 結局眼鏡は見つからなかった。 わたしは延々と草原の中を這い回っていたせいで膝が擦り切れそうに痛い。 疲労も極地、足腰ガクガク、目ぇ見開いてたせいで頭も痛くて医務室のベッド直行コース。 あの眼鏡め。どこかに逃げたのか。それとも誰かがこっそり持っていったのか。 ふん、どっちにしたってすぐに見つかるだろうけど。魔法で探すそうだから。 次会った時は覚えてなさいよエロ眼鏡。 皆は眼鏡を探すわたしを少しばかり不審に思っていたみたいだ。 嫌だ嫌だとゴネていたのに、いざ無くなってみれば必死で探し回る。そりゃ怪しいよね。 でもあれは特別な眼鏡。ただの眼鏡じゃない、わたしの使い魔。必死で探すだけの価値がある。 コルベール先生にだけは言うべきだったのかもしれないけど、やっぱり言えないこんなこと。 「眼鏡をかけたら皆が素っ裸でそこにいました。ウヒヒヒ」 はい、アウトー! キュルケはわたしの視線に気がついていたみたいだし、モンモランシーの虫刺されも聞いた。 ただ服が消えて見えただけじゃなく、それにかこつけたウォッチングはバレバレになる。 貴族の子弟にあるまじきこと。淑女としての地位は失墜、阿婆擦れのそしりは免れない。 翌日には噂になってるんだ。わたしの二つ名がゼロからむっつりに変わってるんだ。 わたしのような美少女が好色だなんてことになれば、思春期全開の連中を喜ばせてしまうじゃないの。 肉コルヌあたりに「よう、むっつりルイズ! 今日も元気に欲求不満か?」なんて言われるんだ。 ああ、なんてこと。考えるだけでハラワタが煮えくり返る。むっつり助平を馬鹿にするな。 そもそもおかしいと思うのよね。世間の風潮ではオープン助平の方がいいみたいになってるじゃない? でもね、そんなことはないと思う。心の中でだけ助平なんて慎ましやかでしょ。 オスマンの爺さん見れば分かるように、性犯罪なんてみんなオープン助平がすることなんだから。 自己を抑圧したむっつり助平が犯罪に走るなんてことをしたり顔で言う自称事情通がいるけど、それって見当はずれもいいとこ。 そもそも犯罪に走った時点ですでにそれはむっつりじゃないっていうのね。 むっつりっていうのは墓の下に入るまで、自分の中だけで空想を完結させるからむっつりっていうの。 誰かに迷惑をかけたりするのはマコトのむっつりじゃない。ただの外道だ。 むっつりとはそんなものじゃない。もっと大きくて、自由で、豊潤で……ビバむっつり助平。 ということを機会があれば熱弁してやろうと思っているけど、幸いにしてその機会には恵まれなかった。 医務室の扉がノックされた。 「どうぞ」 抑えた口調ながら内面はかなり興奮してたりする。 誰だろ誰だろ。コルベール先生かな。先生だったら眼鏡捕まえたってことだよね。うっひょう。 「ルイズさん。教えてほしいことがあるのですが……」 扉の向こうから出てきた顔はわたしの予想外だった。というか予想以下だった。 ほとんど話したことのないこいつに比べればキュルケやマリコルヌやモンモランシーの方がまだましだ。 「なにかしら……」 あ、やばい。名前思い出せない。ええっとなんだっけなんだっけ。グラモンは確実なんだけど。 いつも阿呆とか呼んでるから名前忘れちゃった。 「……ミスタ・グラモン。あいにく体調が悪いからお役に立てるとは思えないけど」 「それで私の聞きたいことというのはですね」 聞いてないよね? わたしの話聞いてないよね? 婉曲的な拒否とか分かってないよね? ベッド脇の椅子に腰掛けてるけどわたしの許可もらってないよね? むう、噂通り油断のならぬ男よ。こいつに騙された生徒もかなりいるって聞いたぞ。 今のわたしってばちょっと弱ってるじゃない。気をつけないと危ないね。 「あなた、眼鏡を召喚しましたね」 「……ええ」 「その眼鏡をかけた時、何かおかしな物が見えたりはしませんでしたか?」 ん……んん? この男……?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2114.html
「ふん…何人か足りないね」 人質が集められている食堂に来たフーケだが、集められている生徒と教師を見て数が合わない事に気づいた。 「1、2、3…あの火の小娘とタバサ、コッパゲに…モンモランシーか 最後のはともかく、トライアングルが三人…何企んでるんだかね」 もっとも、フーケ自身はコルベールを自分より下と見ているため、あまり勘定には入れていないが。 「戻ったよ」 「土くれか。どうだ?」 「収穫無しさ。特に何もありゃしない。街で手に入る情報なんてたかが知れてるって事さね」 確かに嘘ではない…が内心では心臓が跳ね上がりそうだ。 焦ったりすれば、メンヌヴィル曰く『感情が乱れれば、温度も乱れる』らしいから、何かしら疑われかねない。 下手打ってバレれば焼かれかねないし、生き延びたとしても異変を察知したあのドSが自分諸共巻き込んであの力を使いかねない。 前門の虎、後門の狼とはこの事だろう。泣きたくなってきたが耐える。 2、3、5、7、11、13、17、19…そんな幻聴が聞こえてきたが、そんなもので平静を保てる人間はそうは居ない。 「温度が乱れている。何かあったな?」 しかし、現実はフーケにとって非常に非情である。 どうもあの義眼を見ると全てを見透かされているようで平静を保てない。 故に、自分でも気付かないぐらい微妙に体温が上がっていたのだが、あっさりメンヌヴィルに気付かれた。 ヤバイ。このままだと本格的にボロが出て焼かれかねない。 思わず辺りを見回したが後ろ手に縛れらているオスマンを見付け咄嗟に言葉が出た。 「ああ、少し借りがあるヤツが居てね…あのジジイさ」 これまた嘘ではない。ロングビル時代に散々に尻を撫でられ、モートソグニルを介して下着を見られ、挙句婚期を逃すとまで言われた。 一度や二度蹴り倒したぐらいでは到底鬱憤を晴らせるものではない。 「少し借りるよ。いいね」 予想外な事ははあったが、ここまでは順調だ。 「ミス・ロングビル、いや今は土くれだったか」 「あら、学院長先生。その節ははお世話になりましたわ。是非ともお礼がしたいんですがよろしいでしょうか?」 口調はロングビル時代のそれになったが、地の底から湧き上るようなドス黒い声だ。 この辺りは演技ではなく本気だ。だからメンヌヴィルにもそれは見抜けなかった。 「それはいいが大事な人質だ。やりすぎるなよ。土くれ」 「そんなに心配なら何人かよこしな。わたしは構わないよ」 オスマンを連れて行くフーケに一人の傭兵をメンヌヴィルが付けたが、その時のオスマンの目は売られていく子牛のようだったという。 場所は変わって通称『悪魔の手のひら』ことヴェストリの広場。 原因が原因だけに、普段から余程の事が無い限りは人が居ない場所ではあるが、一つの人影がそこにあった。 木の陰から顔を出したり引っ込めたりする事数度。完全に不審者だが、状況が状況なだけに仕方ないのだろう。 「な、なに…戦争なんてアルビオンでやるんじゃなかったの?」 金髪縦ロールという典型的なおぜうさまな髪型のご存知モンモランシーだ。 偶然にも目が覚めて、眠れなかったので寮の外をブラついていたら、傭兵が押し入ったので逃げてきたというわけである。 杖は持ってきたものの、相手はプロの上に人数も多い。ついでに言えば、自分は水のライン。 腰抜かして捕まらなかっただけマシだろう。 とてもじゃないが、プロシュートに喧嘩売った時と同じと思えない。 が、あの時はギーシュが逝ったばかりで色々スイッチが入っていた。 捨て身になった人間は非常に強いが、そうでなくなれば案外脆いものだ。 早い話、要はまだ死にたくないという事になる。 実際あの後、緊張からの開放で過呼吸に陥り本気で死に掛けた。それだけ一杯一杯だったのである。 「調子乗って、勝手に死んじゃって…結構寂しいんだから」 かつてギーシュが首をヘシ折られた場所に来るとそう呟いたが、近くで少し物音がした。 他の生徒が食堂に閉じ込められているのは見ているから、少なくとも生徒ではない。 つまり、傭兵か教師か火の塔に駐屯している銃士かになるのだが、傭兵は全員メイジの上この奇襲だ。 残っている教師ではどうなるか分からないし、銃士では相手にならないと思っている。 故に、傭兵が来たと思ったのだが、生憎広場のド真ん中で身を隠すような場所も無い。 確実に近付いてくる足音を聞いてモンモランシーがその場にへたり込んだが、この上なくテンパっている。 「どうしよう…どうしよう~わ…わたし…どうすれば…?」 逃げるのも忘れていい感じに混乱しているが、今の状態は『頭隠して尻隠さず』という諺未満の状態である。 なにせ、隠す場所が存在しないのに、その場で隠れようとしているのだがら、ある意味パントマイマーだ。 空き缶があって人が居れば小銭が稼げるかもしれない。 そんな事をしてても当然状況は変わらないので、遂にジャリ、という音が自分の後ろから鳴った。 その瞬間、モンモランシーの息が止まり、何となくだが感覚がスローモーションになる。 頭に浮かぶのは学院に入学してからの全記憶だ。 その中でも一際鮮明なのが、ギーシュ関係だろう。 ケティから本当に馬で遠乗りに行っただけと聞いた時はしばらく身動きが取れなかった。 ギーシュも悪いっちゃあ悪いが、ある意味決闘の原因になった香水を作ったのは自分だ。 プロシュートに攻撃を仕掛けたのも、そうした思いがあったのかもしれない。 覚悟決めたのか大人しくなったが、次に浮かんだのが何故か現ルイズの使い魔の才人である。 水の精霊との接触に協力してから、語呂がいいのかモンモンと呼んでくる。 極めて馴れ馴れしいのだが、今までそういう扱い方をされていなかったのである意味新鮮味はあった。 そうなってくると、元来気が強い方のトリステイン貴族だ。途端にネガティヴなイメージが消え去る。 「ゴメン、ギーシュ…」 やっぱり、わたしまだ『そっち』には行きたくない。 そう思うと杖を握り後ろを振り向いた。…いや、向いたのだが 「んな体勢で泣いたり謝ったり、麻薬でもキメてんのかオメーは」 と、届いてきたのはそんな想いと覚悟をキレイサッパリ全てブチ切れたギアッチョの如くブチ壊す非常に醒め切った声。 「あ…あ…あんたは…『メイジ殺し』!『悪魔憑き』!『ルイズの使い魔』!…プロひゅ」 「馬鹿かてめーは。お前一人だけなら喚こうが勝手だが、オレを巻き込むんじゃあねぇ」 大声出して人の名前を叫ぼうとしてくれやがったので咄嗟に口を押さえたが、モンモランシーがもがいている。 「…ぅ……ぁ…ム………!!」 一々口で言って大人しくさせるのも面倒なので鼻と口押さえたが、素直に大人しくなってくれたようでなによりだ。 「……ぶはぁ!はぁー…はぁー……何すんのよ!や、やっぱりわたしも殺す気ね!?この人殺し!」 正確に言うと、大人しくなったというより、ぐったりしたという方が正しいだろうが、過程はどうでもいいのである。 「死んで無いだろ、人聞きの悪い。つーか、んなアホな事やってる暇ありゃあ、前、オレに使った毒でも撒いてこい」 「あんな物騒な物とっくの昔に捨てたわよ!見つかったらチェルノボーグ行きよ!」 「てめー、んなもん人に使ってくれやがったのか…」 こいつ今、始末した方が良いんじゃあねーか?とも思ったが止めておく。 少なくともあれから攻撃は受けてはいないし、余計な面倒事は御免被る。 まぁ、そろそろフーケがどうにかしてオスマンを連れてくるはずだ。こいつに構っている場合ではない。 とりあえず放っておいて合流地点に向かおうとしたのだが、さすがにモンモランシーが放置されそうな事に反応した。 「ま、まま、待ちなさい!こんな時に一人にする気なの!?」 それを聞いて、少し後ろ見たが、淡々とした物だ。 「知るか。その杖は何だ?飾りじゃあねーだろ。生きたけりゃあ動け。死にたくなけりゃあそれを使え。それができねぇってんならのたれ死ね」 これがマルトーやシエスタとかの平民連中なら借りも色々あるし考えないでもないが 普段から、メイジだの貴族だの言ってるこいつらには、そこまでする義理も無いし、義務も無い。 この男、普段大口叩いてこういう時に何もしないヤツが一番嫌いなのである。 「なによ…なによ、なによ、こいつーー!」 あまり大声出すと拙いのか微妙な音量のシャウトを聞きながら5歩程進んだが、そこで立ち止まる。 「ま…付いてくるってだけなら、それはオメーの勝手だ。どうするか好きにしな」 直接護衛する気は更々無いが、過程に敵が居れば排除せねばならんので、同じような物だろう。 つまり、かなり遠まわしに、必死こいて食らい付いてくるなら来い。と言っているわけである。 最初のほうで突き放し、後である程度引き寄せる。ペッシ相手に使われていた十八番が見事に炸裂していた。 「…礼なんか言わないわよ」 「いらん。ヘマしたら自分でどうにかしろ」 まぁ向こうが攻撃されれば、自分で何とかしろ。という事ではあるが。 それでも、どうも甘くなったかと思わないでもない。 ペッシあたりならば、あの時点で鉄拳制裁であるというのに。 どうもこちら側だと調子が狂う。久々に勘を取り戻せそうな状況下なのだが、それでもまだ本調子では無いというところだろうか。 前ならば、有無を言わさずこの辺り一帯がスデに老化に巻き込まれていてもいいのだが 後の事を考えたりするようになったあたり、やはり少しばかり甘くなったかと思い、『やれやれ』という言葉が無意識に出て頭に手がいく。 とりあえず、この次遭った敵は溜まったストレスと憂さ晴らしに徹底的にブチのめそうと誓い再び歩き出した。 再び場所が移って、半ば奴隷のような扱いのオスマンを引き連れたフーケだが、風の塔に着いた。 「さて…どうしてやろうかね。とりあえず、そこの糸と釣り針取ってきて。ああ、見たくないなら外で待ってな」 「良い趣味だな土くれ。あの有名な盗賊が拷問好きとは」 「人の事言えないだろ」 「…そりゃあそうだ。違いない。特に隊長はだ。で、何処にあるんだ」 「そこの奥にある。奥にね…」 いいや、限界だ!と言わんばかりのフーケに従い、道具を取りに行くため背を向けたが 傭兵が足元にあるロープを跨いだ瞬間、それが絡み付いて上半身を縛り、手を後ろ手に縛った。 「な…!土くれ、裏切ったのか!」 「悪いね。こちとらやたら性質の悪いのと組まされてる上に後が無いんだ。文句はそいつに言ってくれ」 「人が悪いの。それならそうと早く言って欲しいもんじゃ」 心底安堵したかのようなオスマンを見たが、続く言葉にフーケがキレた。 「やっぱわしに惚れてる?今度は本当の名前も教えて欲しいのぉ。それともロングビルちゃんってよベボォ!」 「調子に乗るんじゃないよ。このヒゲ!」 綺麗な蹴りが入って踏まれたオスマンが咽ているが心なしか嬉しそうなのは気のせいだろう。 「いや~この感触懐かしいわい」 …多分気のせいだ。 そんなやり取りをしていると、手を縛られただけで足は動く傭兵が逃げる。隙だらけなのだから当然だ。 「やば…」 このまま食堂に行かれでもしたら洒落にもならない。 焼死か老化かの二択になり、それは非常に拙い。 後を追おうとしたが、打撃音と共に傭兵が部屋に飛び込んできた。 正確に言うと吹っ飛ばされたのだが、似たようなものだろう。 食堂からは離れているが、異変を察知されると拙いので咄嗟にサイレントをかけたが、それがある意味仇になった。 そろそろフーケとの合流場所の塔の近くに来たプロシュートと必死になって付いてきているモンモランシーだったが 不意に部屋から飛び出してきた男とぶつかった。互いに倒れはしないが、後ろ手に縛られているだけあって体勢は向こうが悪い。 男の姿形を見たが、少なくとも教師でも無いし生徒でもないし、平民でもない。 なら残った選択肢は傭兵だ。つまり敵だ。排除しても問題無い敵だ。手加減なぞ一切合財する必要の無い敵だ。丁度いい。 腕を少し前に突き出し、指をゴキリと鳴らす。 それの動作と向けられている冷たい眼を見て杖を出すこともできない傭兵が後ずさったが、間髪入れずに距離を詰め肘撃ちが顎に入った。 傭兵が勢いで派手に吹っ飛んだが、その後の悲鳴は無い。フーケがサイレントをかけたらしい。 なら『何をやっても』『悲鳴』が聞こえる事は無いという事だ。丁度いい。 普段はやらない、というか直触り直行だが、それでは気がおさまらんというのがこの傭兵の不幸だろう。 グレイトフル・デッドで頭を掴み無理矢理立たされる形となったが、スタンド使い以外にそれを見る事はできない。 空いた方の手で傭兵の肩を掴み、プロシュートの口が開かれたが当然音は出ない。 読唇術ができるなら『別にお前でなくても良かったんだが…運が悪かったと思って諦めろ』と解読できたはずだ。 それから十数秒の間、近距離型スタンドの如く傭兵を殴り続ける悪魔が居たというのは、後のフーケの証言である。 トドメに直を叩き込んで終わりにしたプロシュートがフーケに近付いてきたが 顔に少し赤い物が付いているのを見て、顔を引きつらせながらフーケが目を反らした。 多分、別の赤い物か何かで血じゃない。例え万が一血であっても、返り血とかじゃあ絶対無い。 「まぁ、あそこまでやる必要無かったな」 目を反らしながらサイレントを解いたが、そこで出た言葉がこれだ。 「なら最初からやるな!」 思わずフーケが突っ込んだが、心の中で思ったならその時スデに行動は終わっているので仕方ないのである。 「気にすんな。で、連れてきたか?」 「まったく、こいつは…ああ、そこに居るよ」 赤い物を指で拭きながら視線を下に向けると仰向けに踏まれているオスマンがそこに居た。 もとい、踏まれているというより自ら下に潜り込んでいるような気がしないでもない。 「やはり白より黒に限ると思うんじゃが、どう…ごめん。止めて。痛い、痛いから」 「…こいつ殺してもいいかい?」 「我慢しろ。そんなでも一応ここのボスだ。それと殺してもなんて使うんじゃあねぇ。殺したなら使ってもいい」 フーケが更に蹴りを入れたが、その上で交わされている会話は非常に物騒である。 「あだだ…ひょっとして、わし命の危機?」 「そんなだから、こいつに付け込まれんだよ…つーか、案外反応が薄いな」 「年を取ると大抵の事では驚かなくなるものじゃ」 言ってる事は中々だが、依然として踏まれているため説得力は一切無い。 「オールド・オスマン…それにミス・ロングビル!」 ロングビルと呼ぶのは現状一人しか居ない。当然必死に付いてきたモンモランシーである。 「おお、ミス・モンモランシ無事じゃったか」 「はい。でも…その一体何を…?」 そりゃあ学院長が辞めたと言われた元秘書に踏まれているのだから気にはなる。 なお、あの一件は当事者(コルベール含む)を除いてロングビルがフーケだと知らされていない。 盗賊を学院長自らが雇ったなど知れたら洒落にもならないという事だ。 無論、そんな事情なぞ知った事ではないヤツには関係無いのだが。 「何だ知らねーのか。そいつが土くれだ」 「は?何?土くれってあの土くれ?それがミス・ロングビル………嘘ぉ!?」 「一々叫ばないと反応できねぇのかオメーは」 もはやリアクション大王と化しているモンモランシーを無視するが、フーケが意外そうな顔をしてオスマンから足を離した。 「わざわざ連れてくるなんてどういう風の吹き回しだかね。明日は槍でも振るんじゃあないか」 「勝手に付いてきただけだ。それよりどうなってる」 「人質は全員食堂に集められてるよ。メンヌヴィル達もそこに集まってる」 他に銃士が居ると聞いたが、人質を取られている以上あまり戦力にはならんと判断した。やはり老化で一気にカタを付けるしか無い。 「つーわけだ。全員老化させちまうが構わねーな」 老化と言っても、そう簡単に死にはしない。むしろ女子生徒や女で編成された銃士なだけあって老化は傭兵達より遅い。 というより、夜だけあって動かないヤツならそうそう進行はしない。 今まで動いていた傭兵連中も時間が経てば体温が下がり利き辛くなる。 仕掛けるなら今が最適なのだが… 「駄目」 「それじゃあ…何ィ!?構わねぇだろうが。死にゃしねぇよ」 「駄目」 「……ガキが小遣いせびってるのを断ってるんじゃああるまいし駄目はないだろーが。何かあんのか」 「…使い魔とメイジは一心同体と言うしな。それが死んでしまえば同じ事じゃて」 確かにまぁ、鼠やフレイムみたいなのは確実に死ぬ。 だからと言って、最も確実な方法をやらないというわけにもいかないが。 「本人が死ぬよりマシだろ。第一贅沢言える状況かよ。切り捨ててでも預かり物を守る。それがお前の任務だろーが」 「生徒も守る。その使い魔も守る。両方しないといけないのが学院長の辛いところじゃよ」 「……ちッ!あのヤローと同じ事言いやがって。……仕方ねぇな。条件付きの仕事は高く付くから覚悟しとけ」 どうして、こいつらはたまにマジになりやがるか。 そう思ったが、その覚悟を持ったブチャラティに敗れたのだから仕方無いと思う事にした。 「まぁ、お主とコルベール君が居ればなんとかなるじゃろうて」 「あいつか…?まぁいい。言うまでも無いだろうが、一応説明しといてやる スタンド名は『ザ・グレイトフル・デッド』。オレの半径200メートル以内の生物は全て朽ち果てると知れよ」 こいつらは知っているため、対処法以外は教えても特に問題は無い。 無論、言葉尻にあまり人に言うなという事は匂わせているが。 「さて、そろそろ戻らないと勘付かれるね」 「気付かれてもオレの事言うんじゃあねぇぞ。つーか言ったらてめーも巻き込むからな」 「さっき仕方ないって言ったばかりだろ…ホント頼むよ」 肩を落としながらフーケがオスマンを連れて食堂に戻ろうとしたが、それを見て呼び止めた。 「待て。オメーなんつってそいつを連れてきた」 「え?ああ。咄嗟だったから借りがあるって言って………ああ、拙いか」 「どうしたんじゃね」 二人の視線の先には極めて元気そうなオスマンが写っている。 フーケは借りがあると言って連れてきたのに、このままというのは非常に拙い。 「まぁ、これも報酬の内だ。諦めろ」 「むむ。そりゃあ一体どういう」 感情の篭ってない声でオスマンにそう言ったが、今一状況が掴めていないようだ。 「いつも鼠を使って下着を除いたり、散々色んな所を撫でてくれた借りを返して貰うって事さ」 「えー、その、つまり…わし大ピンチ?」 杖を取り出し、無言で金属製の鞭を作り出したフーケを見てオスマンが後ずさったが見えない何かに捕まれた。 もちろん、グレイトフル・デッドである。 「と、年寄りをそんな乱暴に扱ったらいかん!平和的に、話し合いで解決をじゃな!」 「話し合いですか。確かにわたくしもこんな事はしたくありません」 「そ、そうじゃろう。だからここは一つ穏便に」 「だが断る。この土くれの最も好きな事の一つは、ボケジジイに裁きの鉄槌を下してやる事だ!」 「OH MY GOD!プロシュート君!ミス・モンモランシ!彼女を止めてくれんか!」 必死になって助けを求めたが、プロシュートは元より、モンモランシーも醒めた眼をしている。 「言ったろ。覚悟しとけって。纏めて老化させてりゃあ、んな目に遭わずに済んだんだよ」 モンモランシーは何も言わないが、土くれとは言え、それだけのセクハラかましていたのだからオスマン株最安値更新大暴落というやつだろう。 「さぁ、お仕置きの時間だ。殺しはしないから安心しな!」 何時に無く生き生きとしたフーケがそう宣言すると、夜も明けない学院に憐れなボケ老人の叫びが木霊した。 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1852.html
「ふあ・・・・っくし!」 うわっ寒ィッ 鏡の世界には温度が無い。 生物が居ないのは勿論、暖炉が燃えていようと、それは『鏡に映った炎』であり 手を触れても火傷する事は無い。 鏡の中の物を触れないのと一緒で、炎に当たった爪が跳ね返されるばかりで 手を突っ込む事さえ出来ないのだ。 だから鏡の世界は寒い。寒いから、寝るときには毛布なんかが必需品だ。 「あァ・・・・?」 勝手に『跳ね除いた』掛け布団を手繰り寄せようとして拒まれて、自分が『中』に居ると判った。 それにしても見慣れない部屋だ、ここは―――― ぼんやりと眺めていると、掛け布団は更に遠くへ飛び、 天蓋つきのベッドから箪笥へむかって、誰かが歩いていくようだった。 途中椅子やゴミ箱なんかにガツンガツンとぶつかっている。 (思い出した・・・オレは変な小娘に『連れて来られて』・・・・そいつの部屋だ。) 部屋の主はだいぶ朝に弱いようだ。・・・・でも、オレだって弱い。 (『サモン・サーヴァント』とかの話は詳しく聞きたいし、 此処が何処なのかも知りたい――――陸伝いに帰れればいいんだが。 でも、今『鏡の世界』から出て行ったら物凄く、面倒くさいんじゃないか?) 引き出しが勝手に開き、衣服がふわりと宙に浮かんで消えた(身に着けたんだろう。 生き物が『自分の一部』と判断したものは『精神エネルギー』となり、許可しない限りこちらには現れない) あの小娘、なんだってオレに「ご主人様と呼びなさい!」なんて言っていたかは知らないが、 オレを見下しているところがある。後、スタンド名の『サーヴァント』って所に物凄く嫌な予感がする。 (嫌だな・・・オレはまだ眠たい・・・・) 「『マン・イン・ザ・ミラー』?」 ベッドの近くにマン・イン・ザ・ミラーが浮き出した。 いきなり訳のわからないところに連れて来られても、知らないやつに囲まれても。 こいつと『鏡の世界』がある限り、オレは大丈夫だ!安心していられる。 なあ?マン・イン・ザ・ミラー。お前は間違いなく最良のスタンドだ。 そりゃあパワーは強くないかもしれない。昔ちょっとした諍いで鏡の中に引き込んだプロシュートの野郎は マン・イン・ザ・ミラーに殴られても怯む事無く殴り返してきた。オレを。 (あれは悔しかった。だがオレはあれで大切な事を学んだ!俺より強そうなやつは、腕と足を許可しちゃいけない。頭突きにも注意だ) だからスタンドだけで強い相手を殺すのはちょっとした骨だし、鏡の外ではたいしたことは出来ない。 でもオレはお前を信頼してるぞ。 お前はオレに安全をくれるし、従順だし、鏡の中なら何だって出来る。 唯一文句があるとするならば喋らない事だが (鳴くだけでもいいのに。メローネのスタンドくらい喋ったらもっといいが、生意気なのは嫌だ) オレの言う事はちゃんと判ってるみたいだから、それだけでいいさ。 「だから、『マン・イン・ザ・ミラー』――――掛け布団を直してくれよ。 もう一度寝る。後二時間くらいしたら起こしてくれ」 言うが早いかマン・イン・ザ・ミラーはひょいと掛け布団を摘みあげる(オレでは動かせないからな。) ありがとう、マン・イン・ザ・ミラー・・・・ああ~、温かいなあ。きっと凄く高いベッドだぜ! 文句の一つも言わない『マン・イン・ザ・ミラー』、ルイズがそれを見ることが出来たなら、きっと言うだろう。 「私も、あんな使い魔が欲しい。」 二時間きっかりかどうかは知らないが、マン・イン・ザ・ミラーに揺すり起こされて、オレはやっと目が覚めた。 今が何時なのかはよく判らない。でも、腹が減ったな・・・・ あのルイズとか言うやつに聞く事も色々あるし。ついでに、食事できる場所があるかも聞いてみようか。 ここがイタリアじゃないんなら、オレは無一文だしな。 (オレの目的は『一刻も早く帰る』から、『確実に帰る』にスイッチしていた。 快眠によりすっきりした脳味噌は一転、酷く楽観的になっていて 『心配しなくてもあいつ等はそうそう死なないし、万一帰るのが遅れても事情を話せば糾弾されまい』と判断したためだ) いつ帰れるか判らないんなら、衣食住。住は大丈夫だが、それ以外が問題だ。 鏡の中の食い物は食えない、服だって着られない。結構制約が多いんだ。 場合によっては簡単な仕事を見つける必要があるかも・・・・・室内で、一人で出来る奴がいい。 慣れた動作で鏡を潜って、外の世界へ出る。軟らかい照明と温度、生きた世界だ。 (でもオレは、かえって落ち着かない。) とりあえずルイズの部屋から出て、廊下をうろつく。昨日と違って全然人が居ない。 『居すぎる』よりはオレ向きだが、一人も居ないんじゃ道も判らないじゃないか。 だが、ずいぶんファンタジーでメルヘンな建物だし、人探しついでに探索も悪くないかもしれないな。 そして結構重要なのが、鏡の位置の確認。見つけたら場所を覚える。外せそうなら持ち歩く事。 無いぞ。 鏡が無いぞ、全ッ然無い! トイレには辛うじてあったが、それ以外には全く無い。 いや、全くといってもまだ行っていない場所はまだまだある。この建物は以上に広い上、至るところが施錠されていた。 それに、そもそも一般的な建物にはそうそう鏡などかかってないだろう。(あるなら個人の生活スペースだ) でも、こんなに古風でデザイン性溢れた建物なんだし、その辺にかかってたっていいだろう!廊下とかに! インテリアとか、そういうのは無いのか?わざわざ古風に建築するんなら、機能性なんて考えなくてもいいじゃないか。 コレは予想外に不便だな。『マン・イン・ザ・ミラー』は鏡があればこその最良、なければ何も出来ないといってもいい。 だから『仕事』の際には事前に鏡を設置して・・・・しかし、この場合はどうしたものだろう?設置するにも、何処から調達すればいい? 何かあったらとりあえず便所に駆け込む、なんて格好悪い真似したくない。 ルイズの部屋の、箪笥の横の鏡。あれ、割って持ち歩いてしまおうか? それとも適当なガキでも捕まえて、手鏡を―――― 「おや、君はたしか、ミス・ヴァリエールの使い魔の。」 「は?(使い魔?)」 「こんなところで何をしているんだね、新学期の始めの授業は使い魔も出るしきたりなんだ。 ミス・ヴァリエールからはぐれてしまったかな?そこの角を左だよ」 「・・・・どうも。」 昨日オレの手をじろじろ見ていたハゲだ。つうか、今も見ている。 何なんだ?気持ち悪いな。まあ別に、ハゲはうつる病気って訳じゃない。オレの髪は強い方だし―――― 「ちょっと、左手を良く見せてもらってもいいかな?」 「!」 また反射的にぶん殴ってしまった。『許可』しないうちに触れるから悪い! まあ、強く出れそうな奴には強く出るのがオレ流だ。フハハハハ、とか笑ってな。最高に「ハイ!」って奴だ。 昨日ぐっすり眠ったら、ずいぶん気持ちが落ち着いたからな。今のオレは悲観的じゃない、暗殺者のイルーゾォ。 暗殺者は強い。オレはもっと強い。オレのスタンドは最良だ!自信に溢れたオレは、顎を上げて歩く。 そういえば昨日、あの娘っ子にずいぶん舐めた態度をとられたっけ。 次にあったら『質問』・・・・いや『尋問』ついでに、「大人のお兄さんを怒らせると怖いんだぞ」って教えてやら無いといけないな。 「暗殺者を怒らせると」の方がビビるか?・・・・いや、ひけらかすものじゃないし、ビビらせ過ぎても可哀想か・・・・ 角を曲がって左、ドアノブに手を掛ける寸前に、 派手な爆音がしてドアごと吹っ飛んできた。 直撃を食らって(泣くほど痛かったが、もちろん泣いてないぜ)一瞬意識を失う――――― 「え?罰掃除ですか?そんな・・・・・・もう、イルーゾォは何処なのよーっ?!」 ―――――何か考えるより先に、全速力で便所の鏡に飛び込んだ。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/741.html
朝!マリコルヌ・ド・グランドプレの新しき人生の始まりである!! 普段より二時間ほど早く起き、ベッドで未だ眠っているトリッシュを起こさぬように細心の注意を払いながら タンスの奥深くに仕舞ってあった秘密の品を取り出してカバンに詰め込み、そっとドアを開いて廊下に 誰も居ないことを確認すると足音を立てないように歩き、寮を後にした。 朝もやが煙るトリステイン魔法学院の隅にあるヴェストリの広場まで辿り着き、周りに人影がないことを 何度も確認して広場の隅の地面に穴を掘り、部屋から持ち出したカバンを開ける。 カバンの中にはフリルの付いたドレスや、リボンに彩られたスカート等々、女物の服がカバン一杯に詰め込まれていた。 その一品一品を名残惜しそうに触りながら掘った穴へと放り込む。 「コレなんか手に入れるのに苦労したよなぁ」 手に持ったのは学院の女生徒用の制服。魔法の掛かった扉を解除し警報の魔法の無効化等を行ないながら 全ての罠を掻い潜り、備品庫から盗んできたものだ。 無論、盗んだ事がバレないように全てを元の状態に戻したことは言うまでもない。 カバンに入っている服は全て、自分の倒錯した趣味を満足させる為に何度も危ない橋を渡って揃えた 品々である。自分の全てと言っても過言ではない。 心の声が『捨てるこたぁーねー、トリッシュに着せてやんな』と囁くが、サイズが違うし、それに昨日までの自分に 別れを告げるためにも捨てねばならなかった。 「これで良し」 盗みで培った隠蔽技術を最大限駆使して地面を元通りに戻し、マリコルヌはヴェストリの広場の入り口にまで 歩みを進め、もう自分にも何処に埋めたのか判らない地面の方を向き、 「アリーヴェデルチ(さよならだ)」 今まで世話になった服たちに感謝と別れを告げ、マリコルヌは広場を後にした。 その姿をモグラだけが見つめていた。 昨日の自分に別れを告げたマリコルヌが次に向かった先は厨房であった。トリッシュの朝食を用意させる為である。 朝早くから厨房は貴族たちの朝食の準備で忙しそうに人々が働いている。それを見ながら なかなか声を掛けれずにマリコルヌが厨房の入り口で立ちすくんでいると、後ろから声を掛けられた。 「お、おはようございます。如何なされました?」 マリコルヌが振り向くとそこには黒髪のメイドがマリコルヌを怯えた眼で見つめていた。 「いや、ちょっと話があって…」 「申し訳ございません!」 突然黒髪のメイドは頭を下げ謝ってきた。その声が大きかったので厨房内の料理人たちもマリコルヌに気付いた。 黒髪のメイドとマリコルヌに厨房中の視線が集まる。 「ちょっと待って!なんで急に謝るんだよ!」 そう言ってからマリコルヌは気付いた。朝早くからわざわざ貴族である自分が厨房を訪れたのである。 何か不作法があったとメイドが恐れ、魔法の使えぬ平民が貴族に対し必要以上にへりくだるのも無理はなかった。 「シエスタがどうかしたんですかい?」 巨漢の料理長がその手に包丁を持って、背後に立ちマリコルヌを見下ろしていた。 マリコルヌを包丁で傷つけようとする意図で持っていた訳ではなく、料理の最中に思わず持ってきてしまったのだろうが 包丁を持ち背が高くガッシリとした体格の料理長にビビッたマリコルヌは、しどろもどろになりながらも 何とか用件を伝えることに成功した。 「しかし、使い魔に人の食事を与えるんですかい?」 「僕の使い魔は君たちと同じ平民なんだ」 「えっそうなんですか?」 驚くメイドと訝しげな視線を送る料理長。料理長の男、マルトーは大の貴族嫌いでマリコルヌが使い魔と言えど 平民に貴族と同じ食事をさせるなど信じられなかった。 「その使い魔平民なんでしょう?犬っころと同じメシでも食わせときゃいいじゃないですか」 「貴族だろうと平民だろうと(好きな人には)変わりない!」 自分の皮肉に対し、『変わりない』と断言したマリコルヌにマルトーと厨房内の料理人、そしてシエスタは驚いた。 今まで貴族は平民のことなど奴隷か動物程度に思っていると考えていたからである。 彼らが今までに会った殆どの貴族は事実そうであったし、ここに居る貴族の子息たちもそうであった。 だが、目の前の小太りの貴族は『変わらない』と言った。月までぶっ飛ぶ衝撃をその場に居た平民たちは受けた。 「判りやした。用意させていただきます」 「うん、よろしく頼むよ。それから君、シエスタって言ったよね?」 「は、はいっ!何でしょうか?!」 「もう一つ、お願いがあるんだけど…」 固まるシエスタに向けて神妙な面持ちでマリコルヌは語りかけた。 部屋に手荷物を携えて戻ってきたマリコルヌは、まだトリッシュが寝ているのを見てベッドに近づいた。 寝苦しかったのか、単に寝相が悪いのかトリッシュの太ももが露になったのを見て、心の中で 始祖ブリミルに感謝しつつ、荒い鼻息を抑えながらトリッシュを揺さぶる。 「ト、トリッシュ、もう朝だよ。」 「う~……ん…」 ゴロリとトリッシュは寝返りを打つ。その拍子で胸の谷間がマリコルヌの眼に飛び込んできた! (ウオオオッ!良いんですか?!朝からこんなんで良いんですか?!) 思わず床の上でブリッジをカマして、悶え打つマリコルヌ。 (ウオッ!ウオッ!ウオッ!ウワオオォォォッ!) ブリッジが限界まで達しマリコルヌは床に崩れ落ちた。その後しばらく息を整えて再度トリッシュを起こそうとする。 「朝だよトリッシュ。朝食に間に合わないよ」 何故か先ほどとは打って変わり、太ももや胸の谷間に興奮しないキレイなマリコルヌに変貌していた。 「あと5分~、5分だけでいいから~」 「ダメダメ、早く起きて」 「ん~、ミスタ、水、フランス製のミネラルウォーターじゃなきゃダメよ ジョルノは着替え取ってちょうだい」 「フランスってのは知らないけど水と着替えだね」 マリコルヌは朝変えておいた水差しから新鮮な水と、調達した着替えをベッドの脇に置く 「さーさー起きた起きた」 「わかったわよ…アンタ誰?」 『トリッシュ、マリコルヌデス。昨日ノコトヲ思イダシテ』 「僕だよ。君の主人のマリコルヌだよ」 スパイス・ガールとマリコルヌに言われてトリッシュはやっと思い出した。夢ではなかったのだ。 「そこの洗面器に水を汲んでおいたから。着替えはここね。それじゃ僕は部屋の外で待ってるから」 そう言ってマリコルヌは部屋を出て行った。 「夢なら良かったのに…」 『トリッシュ、スグニ朝食ト言ッテマシタ。朝食ヲ抜クのは身体ニ良クアリマセン』 「そうね…おなかも減ってるし」 スパイス・ガールに促され、しぶしぶベッドから降りて顔を洗う。 「そう言えば着替えを用意したとか言ってたけど…」 ベッドの脇に置かれた、マリコルヌが用意した服を手に取り顔をしかめる。 「ナニ?このダサいズボン」 『トリッシュ、ソレハ「ドロワーズ」トイウ下着デス』 「下着ィ~?!マジこれ穿くの?!信じらんない…」 身だしなみに気を使うイタリア人で女のトリッシュにとって、二日続けて同じ下着を穿くことに抵抗があり、 用意された物が新品であったのも後押しして、仕方なくドロワーズを穿くことにした。 「それでコレね…」 着替えたトリッシュは何処から見てもメイドそのものであった。さすがにカチューシャとエプロンは付けなかったが。 部屋を出た後、外で待っていたマリコルヌの言い訳を聞きながら食堂へと案内された。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2017.html
++第十話 使い魔の決闘④++ 花京院は驚いていた。 剣を握ってからの自分の変化に。 左手に刻まれたルーンが光っている。 体が羽のように軽い。空を飛べそうなほどに、軽い。 その上、左手に握った剣が体の一部のように馴染む。 ……不思議だ。剣を使ったことはないのに。 眼前に立つギーシュが、ゆっくりと剣を振りかぶった。 右足で踏み込み、そのまま振り下ろすつもりだ。 右肩から左脇にかけて、いわゆる袈裟切りというやつだ。 そんな推測する余裕さえあった。 相手の剣の軌道上に自分の剣を構える。 剣と剣がぶつかる瞬間、剣を傾ける。 攻撃を受け流され、力んでいたギーシュはバランスを崩した。 その隙に足を引っ掛ける。 ゆるやかに過ぎていく視界の中で、ギーシュの体が大きな弧を描く。 ギーシュは仰向けに倒れた。 状況が理解できていないようで、ぽかんとした表情で花京院を見上げている。 花京院は無言で剣を突き立てた。 ギーシュの頭……ではなく、そのすぐ横に。 「続けるか?」 「……僕の負けだ……完全…敗北だ」 剣を放り投げ、ギーシュは両手を上げた。 それを見届けると、花京院は剣から手を放した。 ――あの平民、やるじゃないか! ――ギーシュが負けたぞ! などと見物していた連中から歓声が巻き起こる。 戦いが終わったからか、急に全身に疲労を感じた。 騒がしい観客たちに背を向けて、花京院は歩き出そうとした時、 「何やってんのよ!」 歓声を割くような一声が、その場に響いた。 全員の視線が一点に注がれる。花京院も目を向ける。 そこには怒気をまとったルイズが仁王立ちしていた。 「ルイズ……」 花京院は続いて何を言おうか迷った。僕は勝ったぞ、と言いたいわけではない。迷惑をかけたな、……そうでもない。ただ一言、言いたいだけだ。 足を引きずりながら花京院はルイズの前に立った。 「……すまなかった」 ルイズは目を引ん剥いて花京院を見た。 花京院は小さく微笑むと、歩き出そうとした。 しかし、花京院はまさに満身創痍、限界ぎりぎりの状態だった。 足がもつれ、体勢を崩してしまった。 倒れる寸前に花京院は何かにしがみつき、体勢を維持することに成功した。 ほっとしたのは一瞬だった。 「……こ、こここ」 ルイズの声が耳元で聞こえる。 朦朧とする意識の中で、花京院は事情を理解した。 どうやら倒れそうになった自分は思わずルイズに抱きついてしまったらしい。 いくら疲れていてもどうなるかはわかる。 花京院は脱力しながら次の絶叫を聞くことにした。 「こ、ここ、このバカー!!」 花京院の右の頬に鋭い痛みが走る。 見事な平手打ちだった。 今の一撃がとどめとなり、花京院は完全に意識を失った。 + + + 朝の光で、花京院は目を覚ました。 体中の包帯を見て、思い出す。 ……そうだ。僕はギーシュと決闘をして勝った後、気絶したんだ。 起き上がろうとすると、身体の節々が痛んだ。 どれぐらいの間寝ていたのかはわからないが、傷はまだ完治してないらしい。 なんとか起き上がって、周囲を見回す。 ルイズの部屋だった。どうやらルイズのベッドで寝ていたようだ。 視線を落とし、左手のルーンを見る。 決闘の最中にこのルーンが光り出したら、体が羽のように軽くなり、体の一部のように剣が動いたのだ。 今、左手のルーンは光ってはいない。 ……なんだったんだ、あれは。 そんなことを考えながら左手を見つめていると、ドアがノックされた。 「どうぞ」 花京院が答えると、ドアが開いて一人のメイドが入ってきた。 ここでは珍しい黒髪とその顔には見覚えがあった。 「シエスタじゃないか」 「お目覚めですか? カキョーインさん」 「ああ。ところで、あの後……?」 「あれから、ミス・ヴァリエールが、ここまであなたを運んで寝かせたんですよ。先生を呼んで『治癒』の呪文を、かけてもらいました。大変だったんですよ」 「『治癒』の呪文?」 「そうです。怪我や病気を治す魔法ですよ。ご存知でしょう?」 「いや……」 花京院は小さく首を振った。ここでの常識は異世界から来た花京院には通じない。 それにしても、魔法とは随分種類が豊富なようだ。治療するのもあれば、土人形を動かしたり、炎や風を操ることもできる。 もしかすると、そんなメイジと戦うことがあるかもしれない。そのために対策を立てておいたほうが良いかもしれない。 「あ、でも、治癒の呪文のための秘薬の代金は、ミス・ヴァリエールが出してました。だから心配しなくていいですよ」 黙っているから、お金の心配をしていると思われたらしい。 「秘薬の代金ってやっぱり高いのかい?」 「まあ、平民に出せる金額ではありませんね」 また一つ借りが出来てしまったようだ。 ここに召喚し、命を救ってくれたこと。 そして、秘薬の代金を払い、怪我を治してくれたこと。 いずれこの世界を去るときには返すつもりだが、今はまだ借りておこう。 花京院は立ち上がろうとして、顔をしかめた。 「ぐっ……」 「まだ動いちゃダメです! あれだけの大怪我では、『治癒』の呪文でも完璧には治せません! ちゃんと寝てなきゃ!」 手を貸そうとするシエスタを制して、花京院はベッドに座った。 体はまだ本調子ではないので、無理は控えておく。 「お食事をお持ちしました。食べてください」 シエスタは銀のトレイを花京院の枕元に置いた。 「ありがとう。僕はどれぐらいの間寝ていたんだ?」 「三日三晩、ずっと寝続けていました。目が覚めないんじゃないかって、みんなで心配してました」 「みんな?」 「ええ。厨房のみんなです……」 シエスタはそれからはにかんだように顔を伏せた。 花京院はその不思議な行動を見つめる。 「どうしたんだ?」 「いえ、あの……、すいません。あのとき、逃げ出してしまって」 「謝るほどのことじゃないだろう。それに、平民と貴族の立場を考えれば仕方ないとも……」 「い、いえ!」 花京院の言葉をさえぎり、シエスタは大きな声を出した。 きょとんとして見つめる花京院に照れるようにシエスタは赤くなる。 「確かに前は怖かったです……けど! もう、そんなに怖くないです! 私、感激したんです! 平民でも、貴族に勝てるんだって!」 興奮するシエスタを見て、花京院はふと思う。 なぜ、あの時勝てたのだろう。僕はあの時既に限界だった。しかし、剣を握った瞬間、何かが起きたんだ。剣を握った瞬間……? ふと視線を落とし、花京院は左手のルーンを見つめた。 「……ん?」 「どうかしましたか?」 「いや、なんでもない」 シエスタに答えながら花京院はもう一度左手を見た。 剣を握った瞬間、光を放ったルーン文字。それがわずかにではあるが、薄くなっているような気がした。注意して見なければ気付かないほどの違いだ。 あの時もこれが影響したのか? それで、何かの力を使ったから薄くなった……? 考えてみようにも情報が足り無すぎるので、今は深く考えないことにした。 何気なく頭を掻いて、右腕も治っていることに気付いた。痛みは残っていたが、折れた骨はくっついているようだった。 「この腕も魔法で?」 「ええ、そうですよ」 「たった三日で……」 複雑な気持ちで包帯を撫でて、花京院は呟く。 「カキョーインさん。魔法に驚くのもいいですが、ミス・ヴァリエールにお礼を言っておいた方がいいですよ。看病してくれていたのは彼女なんですから」 シエスタは視線を机の方に向ける。 ルイズは椅子に座り、机に突っ伏して眠り込んでいた。 「ルイズが?」 「はい。包帯を取り替えたり、顔を拭いてあげたり……。ずっと寝ないでやっていたから、お疲れになったみたいですね」 静かな寝息を立てながら眠っている。長い睫毛の下に隈が出来ていた。 相変わらず、寝顔は可愛らしい。年相応の可愛さがある。 ふと、ルイズが身じろぎした。 「ふぁああ」 大きなあくびをして、伸びをする。それから、ベッドの上の花京院に気付いた。 「あら。起きたの」 「あ、ああ。色々とすまなかった。それと、看病ありがとう」 「怪我は?」 「痛みはあるが動けないほどでもない」 「そう。だったら……」 ルイズは頷くと、顎の先で机の上を示した。 机の上には籠があり、洗濯物の山が積まれている。 訳がわからず、ルイズに視線を戻すと、「洗濯」と一言言った。 要するにそれを洗えという意味らしい。 「ミス・ヴァリエール! カキョーインさんはまだ――」 「黙りなさい」 「そんな……」 「ギーシュを倒したからって待遇は変えないわよ」 シエスタの言葉をあっさり切り捨て、ルイズは花京院を睨みつける。 今にも噛み付かんばかりのルイズの形相に花京院は内心苦笑する。 ……優しいのか、厳しいのか。よくわからないな。 どうやら、それは表情に出ていたようだ。 「何笑ってるのよ!」 「いや、なんでもない」 慌てて、花京院は首を振る。 一見険悪にも見えるその二人の様子に、シエスタはおろおろしながら花京院を見た。 大丈夫、というように花京院が頷くと、シエスタはルイズと花京院の顔を交互に見てから部屋を出て行った。 部屋にはルイズと花京院だけになった。 なんだか興奮しているルイズにどう対処すべきか花京院が考えた時、ルイズが言った。 「いい? 忘れないで! あんたはわたしの使い魔なんだからね!」 指を突きつけ、勝ち誇ったように胸を張っている。 子供が背伸びしているようなその光景に、花京院はやはり苦笑するしかなかった。 『わたしの使い魔』。彼女はそう言ったが、それはいつまでのことなんだろう。明日までか、一週間後なのか、それともこのままずっとか。予測することすら難しい。 けれど、それまでは彼女の使い魔でありたい。 密かに花京院はそう思った。 To be continued→