約 1,076,941 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/96.html
「着替えさせて」 わたしは、部屋の窓際で夜空を眺めてるプロシュートに声をかける 「1人で着替えられねえのか?」 こちらを見ずに、なめたことを言ってくれる 「着替えられるわよ!でも、あんた使い魔でしょ、なら言うこと聞きなさいよ」 「使い魔の仕事は主人の身を守る事だったよなあルイズ」 「ええ、言ったわよ」 「なら、守ってやる。それで文句ねえだろ」 何言ってるの、この男? 「無理よ、唯の平民がモンスターやメイジに敵うわけないわ」 「ルイズお前の敵は誰だ、無理かどうか証明してやろうじゃねえか」 ただの着替えがとんでもない事になってきた 敵?モンスターは此処にはいない、今わたしの敵は・・・ 「キュルケね、ツェエルプトーのキュルケ」 「そうか、じゃあキュルケを始末してやろう」 ・・・・・・はい? 「始末って、殺すってこと?」 嫌な予感がするけど聞いてみる 「そうだ、ウダウダ言うより手っ取りばやいだろ」 「だめよ、そんなことしちゃ!」 ヴァリエールとツェルプトーの両家は、殺し殺されてきたけど。今は、そんな事ない。 キュルケはギャフンと言わせたいけど。殺したいとは思わない。 「ヴァリエールとツェルプトーが抗争になる事を考えているのか?」 プロシュートがわたしの考えていることを読んだかの様に話しかけてくる 「それなら問題ない、暗殺するから両家の抗争には発展しねえ。」 わたしは自分の体が固まるのを感じた。この男、殺ると言ったら行動が完了する気がする わたしの身を守る、それを証明するためだけに・・・こいつ、唯の平民じゃないの 「あなた、殺し屋なの?」 恐る恐る聞いてみる 「そうだ」 即答・・・この男嘘はついていない 睡眠不足だわ。昨日、怖くて寝られなかった それでも、朝方には寝たんだけど 凄い怖い・・・嫌な・・・グロイ夢を見た 結局、わたしは一人で着替えをすることにした そうでもしないと、あの男がキュルケを殺そうとするから だけど、わたしは主人として、あの使い魔を躾けていかなくちゃいけない 椅子に腰掛けてるプロシュートに挨拶する 「おはよう」 「おはようルイズ」 お互い挨拶を交わす 「朝食よ、食堂に行くわ」 プロシュートは黙って後を付いてくる 「朝から、えらく豪華じゃねえか」 食堂の料理を見たプロシュートが上機嫌で感想を述べる 「あんたは、こっち」 わたしは床に置いてある皿を指差してやる ゴゴゴゴゴゴゴゴ 怒っている、見た目は冷静だが間違いなく、この使い魔は怒っている。 「どう言う事だ、ええルイズ」 突然わたしは、今朝見た夢を思い出した 暗殺者として邪魔者は、次々と始末してきた しかし、自分達の縄張りは、全然ウマミが無かった。 収入はボスからのささやかな報酬だけ 我慢できなくなった仲間がボスの正体を調べ始めた 行方不明になる仲間 大量の差出人不明の荷物 荷物を開けそれらを並べてみると 仲間の輪切り死体だった た、食べなくて良かった。間違いなく吐いてたわ。 思い出した夢、きっとこの使い魔の記憶だろう 裏社会の人間、わたし・・・この使い魔と上手くやっていけるのかしら 「聞いてんのか、ルイズ」 イラ付いた口調でプロシュートが声を掛けてくる 「食欲が無くなったわ、わたしの分食べていいから」 「どこに行くんだルイズ?」 表に出ようとした、わたしを呼び止める 「外の空気を吸ってくるわ、すぐ戻るから」 プロシュートは何も言わず朝食を食べ始めた わたしは、颯爽と表に出ると、誰もいない所にいき一人で泣いた
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1009.html
「…何だこいつは」 「よぉ…兄貴…」 夜、ルイズの部屋の前には何故かデルフリンガーにブッ刺されたハムが置いてあった。 とりあえずデルフリンガーからハムを抜きかじる。不味くは無い。 「…何があった?」 「いや、兄貴があのメイドの娘っ子と一緒に馬乗ってるとこ見た嬢ちゃんがな…」 「アレか?馬乗ったことねぇっつーから乗せただけだが…」 「…兄貴そっち方面に関しては結構天然なんだな」 メローネ曰く 「本人にその自覚が無いだけ周りに与える影響がディ・モールトヤバイ。ありがちなジャッポーネのゲームの主人公ぐらいに」との事 「まぁ、そういうわけで嬢ちゃんがプッツンしてハムに刺されたってわけでな」 ハム=生ハム=プロシュート。だろうと検討を付ける。そのハムを刺しているという事は、締め出し継続という事だろう。 「仕方ねーな…まぁいい、明日からはオメーにも手伝ってもらうからな」 「手伝う?何をだ?」 「仕事だ」 それだけ言うと、ハムとデルフリンガーを持ち歩き出す。 「なんの仕事か分からねーけど、今日はどうすんだ?」 「寝る」 「どこで?」 「マルトーが使用人の部屋使っていいつったからな」 その部屋の扉を開け、上着を脱ぎ寝る。 後ろの一人を気にしながら馬を走らせたため例によって疲労感があり、すぐに寝た。 しばらくして、部屋に入ってくるのは熱の流法絶賛習得中のご存知シエスタだ。 本来、他にも使っているのだが、マルトーの深読みしすぎた計らいにより二人のみとなっている。 「おでれーた…これ嬢ちゃんが見たらどえらい事になるな」 スデに体力&精神力回復状態に入っているプロシュートは眠っている。 左腕を頭の下に、右手を腰のあたりに乗せ そして、シャツのボタンを下の方だけ留め胸元を出しているという結構セクスィーな姿で。 そっち方面の趣味の方が見れば間違いなく『や ら な い か』突入というところである。 そんなプロシュートを見てシエスタが大きく息を吸い 「ちょっとだけ…ちょっとだけなら…」 と呟きつつ対象へと近付く。 (おいおいおいおいおいおい!こいつは兄貴色んな意味でヤベーってか普通逆じゃねーの?) ヤバイとは思うが、声には出さない。この剣、何だかんだで結構楽しんでいる。 ゆっくりとだが万力を締めるような動きで近付き、開いている右手を握った。 (へ?それだけ?つまんねー) シエスタにとっての不幸?は―プロシュートが、この世界に来るまで常に臨戦態勢であったという事。 逆に幸運は―プロシュートが、グレイトフル・デッドを出しながら眠っていなかった事。 プロシュートにとっての不幸は―疲労と、まだ完治しきっていない怪我で、ここが別世界という事を忘れているという事。 逆に幸運は―この世界に暗殺チームの仲間が居ない事。 右手を握った瞬間グィィッっと腕が左上の方に振り払われ、当然その手をしっかり握っていたシエスタがバランスを崩して倒れ込む。 「グレイトフル・デッ…!…何やってる」 スタンドを出現させた分、タイムラグが生じギリギリ直触りを仕掛ける一歩手前で止まった。発動してたら多分再起不能になる。責任取ってくださいどころじゃ済まない。 プロシュートが下!シエスタが上だッ!の状態でテンパりながらシエスタが答える。 「え、いや!あの!…右手!右手がですね…!」 右手?と疑問符が浮かび自分の右手を見る。掴んでいる、どう見てもシテスタの手を掴んでいる。 さすがに、状況が掴めない。寝ていたはずなのに、なして手を掴んでいるのかと。 (…直触りでも仕掛ける夢でも見たか?) と思いっきりズレた思考を張り巡らせていると 「おーい、明日の食材の搬入について聞き忘れた事があ………スマン邪魔したな」 お約束のように入ってきたのは料理の事ならトニオさんの次にスゴイナンバー2、マルトーであった。 「ちちちちちち、違いますマルトーさぁぁぁぁぁぁん!」 必死になって否定するが、もーマルトーは止められない。 「だから言っただろ?鍵しとけって。しかし、まぁ…おまえさんの方が仕掛けるとはなぁ…」 感慨深げに目を閉じながら一人うんうんと納得したかのように首を縦に振る。 「不可抗力…不可抗力で、こ、こうなったわけなんですよ~~」 「心配するな、誰にも言いやしないからよ」 「何なんだマジで…」 「…兄貴マジで天然なのな」 「それじゃあな、シエスタ。未来の旦那さんとよろしくやってくれ。鍵忘れるなよ」 廊下をスポットライトが当ったような明るさでマルトーが去る。 完璧に自分が押し倒していたと思われorzの形でへたり込む。 が、そこに懐かしい祖父の声が聞こえた (何?押し倒したと思われた?逆に考えるんじゃ『押し倒して事実にしてしまえばいい』と考えるんじゃ) それにしても、このジジイ外道である。 「分かりましたおじいちゃん!『女は度胸!何でもためしてみるもんさ』ってよく言ってくれた、それですね!」 微妙に間違っているが、『覚悟』を決め後ろのリボンを解きエプロンを床に落す。 「せせせ、責任取ってくれなんて言いませんから、その・・・・・・プロシュートさん?」 寝ている。もう思いっきり寝ている。 (…兄貴は、これで素なんだよなぁ。もったいねぇ) このギャング、弟分相当の人間と仲間の状態はよく気付くが、それ以外の事はマジ疎い。 ギャングになる前、女性と付き合った事が無いというわけではないが、根っからの兄貴気質なのであまり続いてなかったりする。 面倒見と顔は良いため固定ファンが居たぐらいだが、ギャングになってからはさすがにそんなものも居ない。 「わたしって魅力無いのかしら…」 そう言いながら、自信を失ったかのようにため息を付く。 起きていれば多分、説教開始だが当人が寝ているためそれは起こらない。 モンモンとした気分でベッドに潜り込み布団を頭まで被り、色々まぁR指定一歩手前な想像をした後、寝た。 それから数日経過したがプッツンしっぱなしのルイズが昼頃プロシュートが毎日馬に乗って出かけているのを見付けた。 「ご主人様を放って何やってるのよ…!あのメイドは一緒じゃないみたいだけど」 自分が締め出している事は思いっきり棚に上げているが、毎日放っぽり出されるのは気に入らないご様子。 「昨日真夜中に帰ってきたのを見たけど何してるのよあいつ……まさか!いえ…でもそんな…だけど剣持ってるし…それに確か」 (そうなってくるとオレとしては脱走し資金・食料を得るために どこかの貴族の館に押し入りそいつの家のベッドの上には見知らぬ老人の死体が転がってるって事になるな) 「こんな事言ってたわよね…」 「な、何が目的だ!」 「答える必要はねーな」 その館には二人の男しか居ない。他は全て朽ち果てている。 「貴族にこ、こんな真似をしてただで済むと思っとるのか!この私を誰だとおもっちょる!死刑だ!死刑にしてやる!」 「なに…オメーが心配する事じゃあねーよ。朝、見付かるのは身元不明の老人の死体なんだからな…」 ズキュン! 屋敷から出てくるプロシュート。だがその背にはその館にあった財宝が詰め込まれていた。 「貴族つってもシケたもんだな…次は王室を殺るか…」 トリステインの貴族の館が次々と襲撃される事件が勃発するが、それは遂に王室にまで及ぶ事になる。 秘法が全て盗み出され城に残ったものは兵士とメイジの朽ち果てた死体。そして王女―アンリエッタまでもが朽ち果てていた。 「そんな事になったら…破滅だわ!…どうしよう…ヴァリエール家がわたしの代で終わるなんて…ちいねぇ様ごめんなさい!」 壁に頭を打ち付けながら犯罪的想像をしているが遂に決意したかのように立ち上がる 「フフ…ウフフフ…これは…犯行現場を突き止めて躾けないと駄目みたいなようね…」 ドス黒いオーラを出しながら後を追うべく厩舎へと向かうが後ろから有無を言わさない声がかかった。 「ほーう…この『疾風』のギトーの授業をサボってどこに行こうというのかね?」 教師陣知名度ワーストナンバー1のエセスネイプことギトーであった。 「行かせてください!ヴァリエール家の未来が懸かってるんです!」 「…ヴァリエール家の心配より君の単位の心配をしたまえ」 単位!それは学生生活においてかなりのパーセンテージを秘める言葉ッ! 現在、魔法成功率ゼロのルイズにとってそれが一つ減るだけでもディ・モールトヤバイ! 「…分かりました」 素直に従うルイズを見て教室に向かうギトーだが、歩の速度を落したルイズが少し距離を開けた瞬間…逃げた。 「かかったなッ!アホがッ!!」 「偏在だ」 「ふぎゃ…!」 杖で思いっきりシバかれたルイズが引きずられるように教師に運ばれた。 「それとオールド・オスマン師が呼んでいたので授業終了後に向かうように」 「S.H.I.Tッ!王室もロクなもんを送りつけてこんのぉ…まがいものにしても文字すら書かれておらぬではないか」 オスマン自身各地で始祖の祈祷書と呼ばれるものは幾百と見てきたが何も書かれていないというのは初めてだ。 そこにノックの音がした。 「秘書を雇わねばいかんな…また酒場に行くかの!…コホン!鍵は掛かっておらぬ。入ってきなさい」 それにしても、このジジイ全く懲りていない。 入ってくるなり開口一番ルイズが口を開いた。 「話というのは…まさか!プロシュートがどこかの屋敷を!?そうなんですねオールド・オスマン!!」 「お…落ち着きなさいミス・ヴァリエール。君の使い魔の事ではない」 かなりテンパっているルイズに少し引いているオスマンだが思い出したかのように祈祷書を差し出した。 「何ですかこれは?…まさか、ヴァリエール家取り潰しの……!!」 「…ミス・ヴァリエールの使い魔は何かやらかしたのかね?」 「あ…いえ、それでこの本は?」 墓穴掘ったと後悔しつつ話題を変えるべく話を本に戻す。 「始祖の祈祷書と言われるものでな、王室の伝統で王族の結婚式の際には貴族より選ばれた巫女が祈祷書を手に詔を詠みあげねばならん」 「それで、わたしが呼ばれた理由は?」 「姫がその巫女にミス・ヴァリエールを指名しておる」 「姫様が?」 「うむ、巫女は式の前より、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き詔を考えねばならぬ」 ぶっちゃけ、今にもプロシュートが王室を襲うのではないかと気が気ではない状況なのだが姫様の頼みであるなら断れない。 「み、詔もわたしが考えるんですか!?」 「草案は宮廷の連中が推敲するじゃろうから心配せずともよい。伝統というものは厄介なもんじゃのぉ だが、ミス・ヴァリエール。逆に考えるんじゃ『王族の式に立会い詔を読み上げるなど一生に一度しかできない』と考えるんじゃ」 「わ、わかりました。謹んで拝命いたします」 (ヴァ、ヴァリエール家の未来が…でも姫様の頼みを断るわけにもいかないし…!) その後、さらに数日経過し虚無の日になったが肝心の詔はキレイサッパリ浮かんでこない。 「我々は一人の英雄を失った、これは敗北を意味するのか!否、始まりなのだ!」 ボツ:英雄がウェールズなのでこんなの結婚式で詠みあげたら同盟破棄は確実。 「ウェールズは風になった――アンリエッタが無意識のうちに取っていたのは敬礼の姿であった―――涙は流さなかったが無言の愛があった――奇妙な友情があった――」 ボツ:上に同じ 「『真実の愛』がある、そして『結婚』がある。昔は一致していたが、その『2つ』は現代では必ずしも一致していない 『真実の愛』と『結婚』はかなりズレた価値観になっている……だが『同盟締結』には『結婚』が必要だ…… 二人にもそれがもう見える筈だ……式を進めてそれを確認しろ…『仮面夫婦への道』を…わたしはそれを祈っているわ、そして感謝する ようこそ……『政略結婚』の世界へ…………」 ボツ:同盟云々より自分の命が危うい 「駄目ね…思い浮かばないどころか色んな電波を受信してる気がするわ…」 気晴らしに部屋の外に出るが、再びプロシュートとシエスタが馬に乗ってどっか行くのを見つけて一時間程固まった。 風上のマリコヌル ― 露伴ちゃんのように爆破され死亡 「………アギ……」 あ、まだ生きてた。 「タバえも~~~~~ん!」 と今にも叫ばんばかりにタバサの部屋の前にダッシュかまし扉を開けようとするが、扉に鍵が掛かっていてノックしてもなんの返事も無かったので…『爆破』した。 「ねぇーーーーーーー!シルフィード出してぇーーーーーーーーー!」 始祖の祈祷書片手に、部屋の中に突入するが誰も居ない。が、後ろから声が掛かった。 「あたしも『アンロック』ぐらいした事はあるけど、爆破ってのは無いわよ?」 「タバサ知らない!?というか教えなさい!」 「あの子なら…ヴェストリの広場でシルフィードと一緒だったけど…今は近付かない方がいいわよ…ってもう居ないわね」 全力疾走でヴェストリの広場に向かうが…何故か広場から煙が湧き上がっていた。 (お、おねーさまは一体なにを…) 「次は…海草 そしてワイン 豆を入れた後…野菊…干し芋 鱒 バター」 鍋の中に次々と素材を入れていく。 「そして…はしば…はッ!コフン…!ケフ…!………草」 (なんの草ですかーーー!) 大量のはしば…ゴフン!ゲフン!草を入れ仕上げに入る。 そしてその上澄み汁を水筒に入れた。 「……味見したい?」 (遠慮しますおねーさま) 「そう…気に入ったの。たーんとお飲み」 (逃げるんだよォーーーー!…っておねーさま尻尾は…!きゃうぅぅぅ!尻尾はダメって…!) 逃げようとするが尻尾を思いっきり捕まれシルフィードが悶えているとこにルイズが現れた。 「丁度良かったわ!シルフィード貸して!ヴァリエール家の危機!OK!?分かったなら乗せて!」 「虚無の曜日はこの子は動かないわよ。何があったの」 必死こいて説明するが、強盗だの、メイドだの挙句ヴァリエール家取り潰しの危機だと話が繋がっていない。 「ほら…口開けて」 (おねーさま、そ、そんな無理矢理…だ、ダメです!) 「えーっと話を繋げると、ダーリンがメイドと一緒に馬に乗って強盗しに行ってあなたの家が取り潰されるって事?」 (うぁぁぁぁ、も、もうダメ!は、入っちゃう!水筒の先が入っちゃうぅぅ) ダーリンと聞いたタバサがもう今にもシルフィードに飲まそうとしていた水筒を引っ込め、その背に乗り込む。 (た、助かったぁぁぁ) 「どっち?」 「分かんないけど方角は城下街の方だったわ!」 「馬一頭。見付からなかったら飲ます」 (ごめんなさい、ごめんなさいおねーさま。頑張って見つけるからそれだけは許してください) 「この子が自分から動くなんて珍しいわね。あたしも行くわ」 2時間経過したが依然として見付からない。 タバサが水筒に手をやりシルフィードの頭に近付く。 (ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナ…居ました!おねーさま!!) シルフィードの目を通してタバサが二人を確認し水筒を収める。 「どこ!?どこに!?早くしないとヴァリエール家がぁぁぁぁ」 「あの建物に入った」 そうしてタバサが建物を指差す。 「ねぇ…あれって…」 「もしかして…」 「宿屋」 スタープラチナ・ザ・ワールド! タバサとシルフィードを除いて時が止まり止った世界の中で、なーんかものスゴイピンク色の妄想がリプレイされたッ! ~10分経過~ 「や…やるわね…あの平民…学院じゃできないぐらい激しいことをしてるって事ね…」 先に時が動き出したキュルケがジュルリと涎を飲み込み口を拭いて熱の流法に突入した。 ルイズのは方はなんかブツブツ言っている。免疫が無い分、妄想力(もうそうぢから)が高いらしい。 「……エオル…スーヌ……ル・ヤル……クサ オス………ヌ・ウ…ュ・ル……ド ベオー…ス……ル・スヴ……ル・カノ……シュラ ジュ……イサ………ジュー・ハ…ル・ベ……クン……ル…… 」 6XXX年、ハルケギニアは虚無の炎に包まれた!地は枯れ、海は裂け、あらゆる生命体は絶滅したかに見えた。だが!人類は死滅していなかった!! 「YouはShock!虚無で空が落ちてくるー…YouはShock……」 「なに鼻血流しながらブツブツ言ってるのよ」 モヒカン率のやたら高い世紀末世界が見えたような気がしたがルイズの妄想だったらしい。 「あああああああ、あのサカリの付いたハム…!まままままま、毎日こんな事してたんだわ……!」 今にもキレそうだが鼻血流しながら言っているあたり説得力は無い。 一人冷静なタバサが呆れたように二人を見ているが口を開いた。 「入る?」 その言葉を聞いて二人は実に迷ったッ! キュルケの場合よろしくやっていた場合、参加するかどうかッ! ルイズの場合、今後の扱いをどうするかッ!あと、25%ぐらい泣きたい気持ちでッ! 20分程迷った結果入る事になった。 「ゴクリ…いい…開けるわよ?ってお子様には刺激が強いわよ!」 生唾が止まらない御様子のキュルケさんだが、水筒片手にしたタバサが先に入った。 そして立ち止まって呟いた。 「珍しい…」 『珍しい』、現在進行形で脳内ピンクのお二人にはもうそっち方面としか受け取れない。 「なに?扉入っていきなり!?」 そりゃあいくらあたしでも心の準備ってもんがー。と涎を拭きながら視線を前にやるが、それ以上にブッ飛んだものを見る事になったッ!! そこで見たものは営業スマイル全開でウェイターをやっているのは我らが兄貴だったッ! あの無愛想面がこうも笑えるものかと思えるぐらいスゴかったッ! 「いらっしゃ……い」 扉が開いたのを見てそっちに目をやると見慣れた三人が居たので一瞬その顔を引きつらせるがすぐに顔を戻す。この男プロである。 「三名様入ります」 変わらず営業スマイルで三人を奥の方のテーブルへと運ぶと急に何時もの顔になった。 「…なにをしにきた?」 「いつもの冷静な顔もいいけど、笑顔もステキねー」 「超レア」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ *┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 「なにをしにきた?」 「そ、そりゃあねぇ…ルイズ?」 このアマーーーー!わたしに振るのかーーーーーッ!と心の中で恨みながら何とか答えた。 「あんた…が毎日、出かけてるし…きょ、今日だって…あのメイドと一緒だったから…」 「それで、尾けてきたってか」 毒気を抜かれ呆れたように言い放つ。 雰囲気が軽くなったのかキュルケが口を開いた。 「で、ここで何をやってるの?」 「…見りゃあ分かんだろ、仕事だ」 「いや、それは分かるけど…なんで?」 「色々とだ」 そうしてると珍妙な声が聞こえた。 「プロシュートちゃ~~~ん。こっちのお客様の相手してあげてぇ~~~」 「…イエッサー、ミ・マドモワゼル」 そういって離れていったプロシュートと入れ替わるようにシエスタとゴツイピチピチの衣装のオカマがやってきた。 「あれ、皆さん。どうしてこんなところにいらっしゃるんですか?」 いつもとは違ったメイド服のシエスタだったが、後ろのオカマが強力すぎてそっちは目に入っていない。 「…何…やってるの?」 「ここ、わたしの従妹とそのお父さんが経営してるんです。で、こちらがその『ミ・マドモワゼル』ことスカロンさんです」 「あら~~~可愛い娘達ねぇ~~どう?うちの店で働いてみ・な・い?」 ぶっちゃけドン引きで声が出ない。なんとかルイズが声を絞り出す。 「え…その…スカロン?さん」 「ノンノンノン『ミ・マドモワゼル』よ」 「…ミ・マドモアゼル…あいつは…ここでなにを?」 「あいつ?プロシュートちゃんのこと?この前シエスタちゃんと一緒に来てから働いてもらってるのよ~ プロシュートちゃんのおかげで女性客も増えたんだから大満足なのよ。ン~トレビア~~ン」 初めて紹介された時スカロンがプロシュートに迫り、思わずボスが乗り移ったのは内緒だ。 「兄貴ィー、三番テーブル、シフトB」 壁に立てかけられたデルフリンガーから伝令が伝えられると声が聞こえてきた。 「お客さん、うちの店はそういう店じゃあねぇんだぜ…?」 スゴ味の聞いた声が聞こえてくると女性客から黄色い声援が上がった。 ちなみに、これで相手が引き下がらない場合。鳩尾への蹴りから鼻っ柱への膝蹴りx5が入り店の外に放り出される事になる。 そこに扉が開き客が入ってくる。だが、こちらからはそれが見えない。 「『ミ・マドモアゼル』要注意客Oが来店しましたぁ~~」 「まぁOが!?あの人、いっつも妖精さん達にイタズラするのよねぇ~~」 「…妖精さんって…なに?」 「ここで働いてる女の子達のことなんです。店の名前が『魅惑の妖精亭』っていうかららしいんですけど」 しばらくすると、軽い悲鳴が上がった。 「尻なでたぐらいで怒らんでもいいじゃろ?どうじゃ秘書やらんか!」 なんか、ものスゴク聞いた事ある声だった。 「兄貴ィーー5番テーブル、シフトO」 「全然懲りてねーなジジイ……」 「ゲェーーー!どうしてここに…!そ、そうじゃ、良いものあげよう!…だからこの件は内密にな…?」 「……なら、こいつを立て替えて貰いてぇんだが…経費で落ちんだろ…?」 「どれどれ…ちっとばかし高くない?これ」 「無理ならいいんだが…魔法学院院長っつー身分を笠に『魅惑の妖精亭』でセクハラか…大変だな明日から」 「分かった!分かったから…!内密に頼むぞい!」 どう見ても恐喝です、本当に(ry それを終えたプロシュートが戻ってきた。 「『ミ・マドモアゼル』…金は今できたから今日で抜けさせてもらうぜ」 「あらぁ~~~残念ねぇ~~プロシュートちゃんならいつでも歓迎よ」 「そんときは世話になるかもしれないが、頼むから顔を近付けるなッ!」 「いいじゃない、キスしちゃうわぁ~~~」 「うぉぉぉぉああ!!シエスターッ何やってるーッ!早くこいつを止めろーーーッ!!」 ある意味列車から落ちそうになった時より必死であった。 プロシュート兄貴 ― スーツ代GET が精神的に少々ダメージを負う。 要注意客O― スーツ代を経費で落そうとするがもちろん落ちず自腹確定。 ルイズ キュルケ タバサ シエスタ ― 引きつった笑みを浮かべながら傍観 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1093.html
幕間 ルイズの部屋に戻ったホワイトスネイクが最初に見たのは、ドアのすぐ前に脱ぎ捨てられた下着だった。 どう考えてもルイズのものである。 そしてその上には何か書き置きのようなものがぽんと置いてあった。 だが―― 「…読メナイ」 ホワイトスネイクにはそれが読めなかった。 (妙ナ話ダ…言葉ガ通ジテ文字ガ通ジナイ、ダト? 一体ドウイウワケデソンナコトニナッテシマッテイルンダローナ…マア、今ハ置イテオクカ) 状況から考えるに、多分「洗濯しておけ」とか書いてあるのだろうが……年頃の小娘がそんな事を書くだろうか? ホワイトスネイクはルイズの方を見るが、既に寝てしまっているので内容を聞くことは出来ない。 ホワイトスネイクは少し考えた後、 「記憶ヲ見レバ済ム話ダナ」 ルイズの記憶を見ることにした。 そう決めたホワイトスネイクはふわり、と宙に浮き上がると、 ルイズのベッドの上の空中で音も無く静止する。 そして慣れた手つきでルイズの額に指先を当てて―― ズギュン! 奇妙な音とともに、ホワイトスネイクの指がルイズの額に突き刺さったッ! だが不思議なことに流血は一切無い。 まるで水面に指を突っ込んだかのように、ごく自然にホワイトスネイクの指はルイズの額にめり込んでいる。 そして数秒後、ホワイトスネイクは、円盤状のものをズルリとルイズの額から抜き出した。 これが「DISC」である。 ルイズの記憶がホワイトスネイクの能力によって、形となって取り出されたのだ。 そしてこれまた慣れた手つきで、ホワイトスネイクはそのDISCを自分の額に突き刺した。 直後、DISCに映像が映り始める。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「まったく、あの使い魔ときたら! ご主人様のパンツ覗くなんて信じられないわ! 召喚できたときは「やったッ!」って思ったのに…付き合ってみないと分かんないものね」 DISCにはルイズの部屋が映りこみ、そしてプンスカ怒っているルイズの声が流れてきた。 「とにかく! これからはあたしが使い魔としての何たるかをビシッ! と教え込まなきゃいけないわ! まずその第一歩は…洗濯ね!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 本当に洗濯させるつもりだったのか、とホワイトスネイクは呆れた。 しかし自分で締め出した相手に書き置きを残すとは一体どういうことだろう。 自分でそう決めたことを忘れないためか? などと考えたホワイトスネイクだが、とにかくこれであの書き置きの内容は大方確認できた。 ならばもうこのDISCに用はない、ということでさっさと自分の頭からDISCを抜き取ってルイズに戻す。 戻したのは、そうしないと大変なことになるからだ。 場面はちょうどルイズが服を脱ぎ始めるところだったが、 真性ホモ(ホワイトスネイク談)だったプッチ神父の影響のため、 性欲を持たないホワイトスネイクには別に興味の無い映像である。 さて、ルイズに記憶のDISCを戻したホワイトスネイク。 はっきり言って洗濯なんかのためにコキ使われるのは不本意だったが、本体――厳密には本体ではないが、その命令とあっては仕方がない。 渋々ながら下着を引っ掴み、鍵を開けてドアを開く。 さっきみたいにすり抜けなかったのは、言うまでも無く下着がドアをすり抜けられないからだ。 そしてルイズの部屋を出たホワイトスネイクは考える。 この建物の内装やルイズの部屋を見る限り、この世界の科学技術は相当に遅れている。 早い話、洗濯機なんて文明的なものがあることは期待できない。 水道さえも無いだろう。 多分「魔法」とやらで色々解決してしまえるからそうなっていったんだろうが…と思ったところでふとある疑問が生まれた。 洗濯機が無い、ということは、それを何かで補っているということ。 地球の中世ヨーロッパならメイドあたりにやらせていたんだろうが、この世界には魔法がある。 魔法でどれだけのことが可能かは明確には分からないが、 文明の発達さえ遅らせてしまうのだから相当に幅広い応用が利くのだろう。 つまり魔法で洗濯をやるぐらいはできるハズである。 なのに―― 「何故アノ小娘ハ私ニ洗濯ヲヤラセルンダ?」 魔法が使えるなら自分で洗濯ぐらいやるはずである。 それに自分がここに来たばかりのとき、他の生徒が魔法で空中を飛んでいたのに対してルイズは自分の足で歩いていた。 ということは… 「アノ小娘ハ魔法ガ使エナイノカ」 という結論に至ったホワイトスネイク。 周りは皆使えるのに不憫な話だな、と少しばかりルイズに同情した。 魔法が使える使えないはスタンドであるホワイトスネイクには、 スタンド本体がプラスαの何かを持っているかどうかという程度の話なので別にルイズに幻滅したりすることは無い。 とここまで考えたところで大分発想が脱線していたことにホワイトスネイクは気づいた。 自分は洗濯をしなければならないのである。 どういうわけか魔法を使えない、あの小娘の代わりに。 まずこの世界に洗濯機は無い。 そして水道も無い。 要するに「井戸を探してそこで水を汲んで洗濯」しなきゃあならないってことなのだ。 改めて、こんな使われ方は不本意だとホワイトスネイクは思った。 とにかく井戸を探さなくてはならない。 こんな夜中には誰も起きていないだろうから探すのは自分だ。 となると、そこで問題が起きる。 「私ノ射程ハ20メートルシカ無イカラナ…」 井戸がルイズより20メートル以上離れた場所にあれば、ホワイトスネイクは井戸までたどり着くことが出来ない。 つまり洗濯が出来ないのだ。 いや、この部屋に来るまでの道筋から推測する限り、確実にルイズから20メートル以内に井戸は無い。 ホワイトスネイクにとっては別に進んでやりたい仕事でもないが、 かと言って「出来ませんでした」で終わらせるようでは、 プッチ神父のスタンドとして完璧に近い仕事をし続けたホワイトスネイクのコケンに関わる。 そこで数秒考えてホワイトスネイクが出した結論は―― 「誰カ他ノヤツニヤラセルカ」 思いっきり他力本願であった。 だがホワイトスネイクとしては「結果的に下着の洗濯が出来ればそれでいい」ので、そこには大してこだわらない。 しかし…だ。 ついさっきこの世界に現れた身長2メートルの亜人に 「洗濯してくれない?」と頼まれて快諾する者など間違いなく一人もいないのは分かりきった事。 無論、ホワイトスネイクだって真正面から頼むわけじゃあない。 では、どうするのか? その答えが、ホワイトスネイクの以後の行動にある。 ホワイトスネイクはまずルイズの下着を彼女の部屋の前の廊下にぽんと置くと、 その隣の部屋のドアをすりぬけ、堂々とそこに侵入した。 果たしてそこには、赤毛の女がぐっすりと眠りこけていた。 薄い下着を押し上げる豊かな胸や肉付きの良い肢体が実にセクシーだが、 性欲を持たないホワイトスネイクにとってはやはりどうでもいいことだった。 そして部屋を見渡すと、暖炉の下にはなにやら真っ赤で馬鹿でかいトカゲ……とでも形容すべき生物がすやすや眠っている。 (何ダコイツハ…? スタンドノヴィジョンカ? ヨク分カランガ、起キラレルト厄介ニナリソーダナ) そんな事を考えながらホワイトスネイクはトカゲに近づき―― ドシュン! 「『コレカラ一時間、グッスリ眠リコケロ』。オ前ニ命令スル」 体から抜き取ったDISCをトカゲの頭に突き刺し、ホワイトスネイクはそう言った。 これもまたホワイトスネイクの能力の一つ。 命令を受けた生物は、例えその内容が 「人が来たら頭を撃ち抜いて射殺した後にDISCを回収しろ」という複雑なものであっても、 「破裂しろ」などという理不尽極まりない命令でも必ず遂行するのだ。 さて、これであと1時間きっかりはこのトカゲの五感は無効化している。 たとえ自分の主人が突然起き上がって部屋を出て行ったとしても、それに気づくことは無いだろう。 そして下準備を終えたホワイトスネイクは赤毛の女に近づき―― ドシュン! 「『部屋ヲ出テ廊下ニ転ガッテイル下着ヲ洗濯シロ』。オ前ニ命令スル」 トカゲにやったのと同様に、ホワイトスネイクは赤毛の女にそう命じた。 すると女は唐突にむくりと起き上がると、着の身着のままの格好でふらふらと部屋から出て行った。 ふわりと空中に浮かびながら、その後を追うホワイトスネイク。 そして女は廊下に転がっているルイズの下着を見つけると、 胸の谷間から棒切れのようなものを抜き出して何かをごにょごにょと唱えた。 するとルイズの下着がふわりと浮かび上がり、さらに女の杖の先から水流が飛び出した。 杖から放たれた水は空中で下着を丁寧に揉み洗いしている。 便利なものだな、とホワイトスネイクはその光景を眺めながら思った。 そして数分間揉み洗いが続いた後、女は再び何かごにょごにょ唱え始める。 すると今度は杖の先から小さな火の玉のようなものが現れた。 その火の玉は先ほど放たれた水に包まれた下着の周りをぐるぐると回り始める。 火の玉の熱は下着を包む水を徐々に蒸発させていき、やがて下着を完全に乾燥させた。 便利なものだな、とホワイトスネイクは(以下略。 そして洗濯の終わった下着はぽとりと廊下に落ち、 女は手に杖を持ったまま、またふらふらと自分の部屋に戻っていく。 「ゴ苦労ダッタ」 ホワイトスネイクはその背中にそう言うと、下着を拾い上げてルイズの部屋に続くドアを開けた。 部屋に入ったホワイトスネイクは、窓から外を見る。 空は暗く、月の位置もまだ高い。 夜明けまではまだ時間がありそうだ。 そんな事を考えながら、ホワイトスネイクは自分自身を解除した。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1246.html
キュルケは褒められた。もんのすんごく褒められた。 三十メイルもあるゴーレム相手に一対一で圧勝するっていうくらいだから褒められるに決まってる。 褒められるだけじゃなく、使い魔に関していろいろと質問攻めにされたらしい。自慢してた。 「シュヴァリエ」の爵位ももらえるということで、これ以上ないくらいの有頂天だった。ふんっ。 タバサも褒められた。こっちもかなり褒められた。 各地を賑わせた大泥棒・土くれのフーケを捕まえればそりゃ褒められるわよ。 「シュヴァリエ」の爵位はすでに持っているとのことで、精霊勲章が授与されるらしい。 すでにシュヴァリエだったっていうのはスゴイわね。人は見かけによらないわ。 モンモンランシーもちょっとだけ褒められた。ヨーヨーマッがマリコルヌを助けたからね。 助ける以外の意図があった気もするけど、それはこの際見なかったことにするらしい。 ギーシュはちょっとだけ評価が上がった。 大釜を担いでいる状況下で自分の安全よりも先にモンモランシーを助けた態度が評価されたらしい。 話を聞いて、たらしっぷりを嫌っていた連中もちょっとは見直したみたい。 しかしあの大釜、どういう原理で動いてるのかしら。自力じゃ絶対移動できないと思う。 ミキタカとぺティは褒められたわけじゃないけど感心された。 時間を置いていてさえ、後片付けの使用人達が顔をしかめる激臭の中で平然としていた二人はたしかにびっくりね。 で、その他。 「あのねグェス。マリコルヌが褒められないってのはよく分かるわ。だって彼足手まといだったもの」 「そうよねー、リアルで腰が抜けた人なんて初めて見ちゃった」 「問題はね、腰が抜ける等のアクシデントに見舞われなかったにも関わらず何もしなかった人だと思うの」 フーケの杖を奪ったのはたぶんグェスなんでしょう。 まさか本当に失くしたわけないだろうし、グェス以外の人がとったなら名乗り出てるはずだし。 何より得意げに見せびらかしていたことがいい証拠よ。 これはこれで立派な殊勲だと思う。褒められるべきことだと思う。 二十メイルは離れていた距離で、おそらくは肌身離さず携えていた杖を奪い取るなんて。 それも大泥棒・土くれのフーケから! 単なるこそ泥には絶対できることじゃない。でもね……。 もしここで「ジャンジャジャーン! 実はフーケの杖を奪い取ったのはうちのグェスでした!」なんて発表しようものならどうなることか。 「そうか、ルイズの使い魔は物を盗むのが得意なのね」って思う人がいるでしょ。 そうなれば「あれ? そういえば最近ちょっとした物がなくなったりしたけど」と考えることもあるはず。 で、「ひょっとしてルイズの使い魔が盗んでたんじゃ……」となって、 「それじゃ私の金貨も」「ひょっとして俺の剣もじゃないか」ってなる。 つまり手柄を誇ると同時に罪科までついてきてしまうという形になるの。意味無いじゃない。 誰にも知られない手柄なんて、何もしなかったのと変わらないわ。 誰が喋ったのか、「ルイズが人質になって足を引っ張っていた」なんて噂まで広まってるし。 「わたしよりマリコルヌの方がよっぽど足手まといだったっていうのよ」 「あまり他人の悪口言うもんじゃないわ。せっかくの可愛いドレスが台無しよ」 グェスに諭されるし。もうわたしは人として駄目なのかもしれないわね。 「ほら、できた。きれいなルイチュかわいいルイチュ。頬ずりしたくなっちゃうくらいよ」 慣れない化粧はグェスに任せた。おかげで鏡の中のわたしはいつも以上に美少女してる。 胸元が開いているせいで貧弱なバストサイズをアピールし、バレッタでまとめた髪は鬱陶しい。 白い手袋なんてして、汚れたりしないかしら。 「うーん。さすがに首輪はアウトよね。このネックレスなんてどうだろ」 「……ねえグェス、本当にきれい?」 「もちろんキレイよ、あたしのルイチュ」 「誰があんたのものですって?」 「もう怖い顔しないでよ。ジョークよジョーク。そんなにムキにならないでさー」 調子に乗りやすいんだから。謙虚な主とは大違いね。 「それじゃ大人しく待ってなさいよ。人の物に手を出したりしちゃ駄目だからね」 「わかってるってばァ」 「あとね」 「何よ」 「ありがとう、グェス」 どんな顔をされるか見たくなかったから後ろを振り返らずに控え室を出た。 調子に乗られるのは癪だけど、杖を盗ってくれなかったら命が無かったもん。 逃げるしか能が無いと思っていたグェスが、わたしの数百倍は役に立ってくれた。数千倍、数万倍かもしれない……はぁ。 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール嬢のおなーりー!」 おなーりー……ってなんとなく卑猥な響き。 でも今のわたしは犬以下のモグラ。それが相応しい女よ。 キュルケはホール全体の中心だ。普段から人気のある子だけど、今日はさらに特別だもんね。 高い鼻は一層高くなり、自負と自信が彼女を包み込んでいる。本当にわたしとは対極的な存在ね。 嫉妬にかられた誰かがカマイタチでも使って服も下着も切り裂いてくれないかしら。 スカッとするし眼福もあるしで二度美味しい……友達の不幸まで願うようになったらおしまいね。今のは無かったことにしましょう。 キュルケがこちらに手を振っていたので舌を出してやったらおっぱいを揺らされた。くっ。 キュルケの取り巻き達がわたしにチラッと目をくれて、すぐに逸らした。ふん。 ダンスを申し込んでくる男の子も何人かいたけど、皆わたしに同情してくれているのね。ありがとう、気持ちだけはいただいておくわ。 「ヨォールイズ。メッチャクッチャキレェーだなァーッ」 そう言ってくれるのはあなただけよドラゴンズ・ドリーム。 あなたはわたしより先にご主人様見てあげてね。詰め込みすぎて頬が三倍に膨らんでいるようだから。 例のごとく、ミキタカはシエスタと話し込んでいるみたい。 ミキタカと話す分には料理長も文句を言わないし、シエスタもやりたい放題ね。強くなったわ……本当に。 モンモランシーは大釜とダンスを踊っていた。さすがに恥ずかしそうだけど、相手の大釜は楽しそうに踊っている。 一年生らしき女の子が何も見ていない目で大釜を見ているけど……ギーシュの浮気相手かな。 彼女達の未来に幸あれかし。わたしにはそれくらいしか言うことがない。 モンモランシーの使い魔はメイドに混じって給仕をしてた。 ゴーレムに踏まれて以来、妙に動きが良くなった気がする。 頭の中の蛙も潰れた、なんて意味の通らないことを言っていたけど何なの? なんだかんだでみんな楽しそう。大切な人と楽しみを分かち合っている。楽しめないのはわたしだけ。 ホールには居場所が無くて、わたしはバルコニー、通称さびしんぼゾーンに出た。こういう気分の時はここでやり過ごすに限るわね。 バルコニーの枠で頬杖をついてため息。何かあるたび思い知らされるのよね。わたしって本当に役立たずだ。 誰かの役に立ちたいとか、誰かに褒められたいとか、誰かと仲良くなりたいとか、何一つ上手くいかない。 本当はもっと違った気がするのよ。ギーシュと決闘してこてんぱんにするとか、フーケをやっつけて皆に一目置かれるとか、キュルケに迫られるとか。 シエスタと一緒にお風呂に入るとか、タバサに舌入れてキスされるなんてのもあるわね。 全部妄想なんだけどさ。現実じゃ何一ついいことないもの。 かといってミキタカほど妄想方面に突き抜けることもできないわたしは中途半端一直線。 中途半端なりになんとかピリッとした解決策を望んでいるんだけど……むう。 お酒でも飲んで憂さを晴らしたいけど、わたしって舐めただけでもダウンしちゃうからなぁ。 もう少し強かった気もするんだけど、それもまた妄想なんでしょうよ。 「あ……」 一人たそがれてるのに、空気を読まずベランダへ踏み込んでくる気配を感じて振り向いた。 そう、空気が読めない人といえばこの人をおいて他に無いわよね。 「マリコルヌ……」 「ちょっと、いいかな」 よくないって言っても聞きやしないんでしょうね。はいはい。 「何? なるだけ簡潔に済ませてもらえる? わたしもうちょっと一人でいたいの」 「うん……あのさ」 何か躊躇しているというか……言いにくいことでも言おうとしてる? 不可解なその態度は、わたしに一つの事実を思い出させた。そうだ、わたしはこいつに弱みを握られていた。 これはアレかしらね。「秘密を暴露されたくなければ言うことを聞け」ってやつ。みなさーん、ここに犯罪者がいますよー。 「ちょっと……その、謝りたいことがあって」 謝りたい? こいつに謝られるようなことって何かあったっけ? 「フーケを捕まえた時、ぼく一人だけ何もできなかっただろ」 何もできなかったっていう自覚はあったわけね。 「それで、君を危険な目に合わせちゃっただろ」 申し訳なく思ってたってわけか。意外と馬鹿真面目なところがあるのねぇ。 「別にあなたが謝る必要はないわ」 「うん……」 わたしとしてはさっさと向こうへ行ってほしいんだけど、マリコルヌは動こうとしない。 「まだ何かあるの?」 「あの……さ。もし次があったら」 「次があったら困るでしょ」 「もしだよもし。もしも、次があったらって話だよ。もし次があったら腰が抜けても魔法を使うよ」 うーん……本人は決意表明しましたってところなんでしょうけど……微妙ね。 正装で決めてるんだけど衣装に着られている印象が拭いきれない。言うなれば大人の格好を真似してみた子供。 そんなマリコルヌが腰が抜けても魔法を使うって失笑ものじゃない? わたしは笑わないけど。 「決意は買うけど、腰を抜かさずに魔法を使った方がいいんじゃない?」 「……それも頑張るよ」 そっちを頑張りなさいよ。あんた優先順位間違えてるんじゃないの。 優先順位……優先順位か。ふーむ。なるほど。これはこうしてあれがあれで。 そうなるわよね。つまりわたしは……ちょっと面白いこと思いついちゃったかもしれない。 プロジェクト名は……使える女ルイズ計画とでもしておきますか。 「じゃあねルイズ。君をパートナーにしたい人も少なくないみたいだから早く戻ってきた方がいいよ」 「余計なお世話よマリコルヌ。ところで……」 どうしようかな……でもここで聞いておくべきよね。聞かないままでいるってのは精神衛生上良くないもの。 「わたしの方からも聞きたいことがあるんだけど……いい?」 「何だい?」 「あのね、ほら、一昨日の夜……わたしが学術的な好奇心からキュルケの本を読んでたじゃない?」 「うん」 「それで……あなた、その事誰にも言ってないわよね?」 「そうだね」 「どうして?」 わたしの知る限り、最もわたしを馬鹿にしていたのがこのマリコルヌだった。 ゼロと呼んだ回数はキュルケよりも多かったんじゃないかと思う。 キュルケはかわいがるって感じだけど、こいつの場合は笑い者にしてやろうって感じなのよね。 言われるたびに風邪っぴきと言い返して、罵りあいに発展、先生に怒られたってことがどれだけあったかしら。 「あなたはゼロのルイズを馬鹿にするのが好きなんでしょう? だったら皆に触れ回るべきだったんじゃないの? 学術的好奇心からとはいえ、淑女が読む本ではないもの」 「……ぼくはあまり魔法が得意じゃない」 わたしの前で魔法が得意じゃない宣言とは……喧嘩売ってる? 「魔法を使えない君を馬鹿にすることで、自分が上にいるような気になってたんだと思う」 やーな男ね。 「でもさ。ぼくは君を散々馬鹿にしてきたのに、君はぼくの使い魔を笑わなかったろ」 あ、そうだ。ひっついているだけで何もできないマリコルヌの使い魔蛙。 嫌ってほど馬鹿にしてやろうと思ってたのに、色々ありすぎて忘れてた……。 「それだけじゃなく……元気を出せって励ましてもくれた」 危なかったわ……もし思った通りのこと口に出してたら、今頃わたしここにいないわね。 「あとさ……」 パーティーの喧騒に紛れるくらい声を落としてこう付け加えた。 「もしもぼくが君の立場だったら……やっぱり黒い場所を爪でこすったと思うんだ。たぶん君よりも熱心に」 どちらからということもなく顔を見合わせた。 ちょっと躊躇したけど、自然に浮かんだ苦笑いを抑えられなかった。 マリコルヌは頬を朱に染めて照れ笑いしてる。 「どうしようもない人ね、本当に」 「君に言われたくないよ」 本当にどうしようもない。口に出しただけじゃなく、心から思っている。でも、わたし達は笑った。 こちらもまた心から笑った。自嘲なんかじゃなく、なんていうか……楽しかったのよね。不思議と。 わたしはドレスの裾を両手で持ち上げ膝を曲げて一礼、 「わたしと一曲踊ってくださいませんこと。マリコルヌ・ド・グランドプレ」 マリコルヌはそれを受けて胸に手を当て一礼、 「ぼくでよかったら喜んで。ルイズ・フランソワーズ」 わたしの手をとり、ホールの隅に導いた。 キュルケやその他あでやかな人達が目立つ場所で踊る中、わたし達はひっそりとステップを踏んだ。 僻んでいるわけでもいじけているわけでもない。わたし達には隅が相応しい。 だって、目立つところで秘密のお話ってわけにはいかないでしょう。 「マリコルヌ。あなたもああいう本持ってるわけ?」 わたしは小さく囁き、 「さすがに異世界の書物は……でも『メイドの午後』の無修正版なら」 マリコルヌは小さく囁き返す。 「焚書の憂き目にあったっていう無修正版? スゴイもの持ってるのね。後で見せなさいよ」 「いいけど。汚さないでくれよ、大事なものなんだから」 「フリッグの舞踏会」の伝説に反し、恋人と結ばれるなんてことにはならなかった。 でも、それはそれでいいと思う。ここには恋人よりも手に入れ難い……同志がいるんだから。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1261.html
ヴェストリの広場へ向かう4人の少女と1匹の使い魔。 双月は雲に隠れているため、道中はけっこう暗い。キュルケが魔法で灯したランプを頼りに進んでいく。 「別に着いて来なくてもいいのに」 ルイズがシエスタと名乗ったメイドの少女に話しかける。 「いえ、原因の発端は私ですし……」 「だから別にあんたの為に決闘するんじゃないんだってば」 もう何度目かになるそのやり取りをキュルケは苦笑しながら聞いていた。 「それに、ミス・ヴァリエールの使い魔さまにもいろいろお世話になりましたし」 それを聞いたルイズは足を止めた。すぐ後ろを歩いていたタバサがルイズにぶつかる。 「痛い」 「あ、ゴメン。………シエスタ。ブラック・サバスがどうしたって?」 「お手伝いしていただいたんです。夕食の準備とかを」 もっとも邪魔にしかならなかったが、それは言わないでおく。 「あいつ……!一日姿を見せないと思ったら何やってんのよ……」 不機嫌そうに呟くルイズを見て、シエスタは余計なことを言ってしまったことに気づく。 「あ、いえ、あの」 なにかフォローになることを言おうとするが、何も思い浮かばない。 ルイズから他の貴族とは違う何かを感じていたとはいえ、貴族は貴族。やはり恐怖心はあった。 そこに助け舟を出したのは意外にもタバサだった。 「昼間図書館で会った」 「え?」 タバサの方を向き疑問符を上げる。 「会ったって。ブラック・サバスと?」 コクリとうなずくタバサを見て、ルイズは質問を続けた。 「図書館で何してたのあいつ」 「何かしゃべってた」 実際にはタバサは図書館でブラック・サバスの姿を見たわけではなく、ただ話しかけられただけでしかない。 しかし、今さっきの食堂でのブラック・サバスの声とセリフを聞いて、昼間の図書館の声の主がそれだと理解したのだ。 「そういえば、私も昼間に中庭で会ったわよ。あんたの使い魔の…ブラック・サバス?」 今度はキュルケが思い出したように話し出す。 「あんたも!?ほんとにあいつ一日中ほっつき歩いてたの!?」 ルイズはブラック・サバスに文句のひとつでも言ってやろうとして…ふと止まる。 「キュルケ、あんたブラック・サバスはさっきまで死んでたと思ってたんじゃなかったの?昼間に会ってんじゃない」 言われたキュルケは思わず、う……と声を漏らす。 まさか昼間に会ったルイズの使い魔を幽霊と勘違いしたとは言えまい。 「そ、そんなことより!早く行かないと、不戦敗になっちゃうわよ!」 急に慌てだしたキュルケに疑問符が浮かぶも、彼女の言うことももっともだったので思考を切り替える。 「サバス!この話の続きは、決闘の後でゆ~っくりするからね!」 さっきまで最後尾をヒョロヒョロついてきていたブラック・サバスに向かって言う。 が、そこには話題の中心になっている使い魔の姿は無かった。 「…………ええええ!?まさかまた勝手にどこかに行ったの!?あのバカ犬!!!?」 今度はルイズが急に慌てだす。 「ちょっと!ヴァリエール!落ち着きなさい!うろたえるんじゃあないッ! ドイツ軍人はうろたえないッ!」 「ドイツ軍人ってなによ!」 「いいから落ち着きなさいって、もしかしたら先に行ってしまったのかも……」 言いながらキュルケは、ランプを前方へ向けた。その灯りの中にブラック・サバスの仮面のような顔がヌッと浮かびあがる! 「キャア!」 後ろから甲高い悲鳴が上がった。 「サバス!!!フラフラしないの!私の影の中にいなさい!」 ルイズが杖を向けながら怒りの声を上げる。 「だいたいあんた影の中しか歩けないんでしょうが!なんで普通に歩いてんのよ!」 そこまでまくし立てて、気づく。 「……………………そうか。今あんたが立ってるところも影なのか」 さっきまでルイズは、ブラック・サバスは『自分たちの影』を踏んで付いて来ているとばかり思っていた。 しかし今、このパーティーはブラック・サバス、ランプを持ったキュルケ、ルイズとシエスタ、タバサの順番で並んでいる。 ブラック・サバスは誰の影も踏めてない。ならばブラック・サバスが踏んでいる影は、何の影か? 恐らくブラック・サバスは『月を隠している雲の影』を踏んでいるはずだ。 (てことは…………今暗いところは全部雲の影で……てことは………暗いところは全部こいつのテリトリー?) 今度は急にニヤニヤし始めたルイズにキュルケは少なからず不審の目を向ける。大丈夫かしらこの子。 「ワケが分からないけど…自己解決したみたいね」 「ええ。これで勝ちは決まったも当然よ。私が手を出さなくてもサバスだけでも勝てるわ」 またもや妙に自信満々に言う。 「この使い魔そんなに強いの?」 疑いの目でキュルケはブラック・サバスを見る。 「もちろんよ。こう見えてこいつ、ものすっごい力持ちなんだから」 ルイズは昨日と今朝で二度、ブラック・サバスに捕まる経験をしていた。 あのとき感じたパワーは今まで体験したことの無いものだった。 物理的な強さというよりも、なんというか魂ごと押さえ込まれるというか……。 この自信満々のルイズに対して疑いの目を向けるのはシエスタもだった。 どう考えてもこの使い魔が力持ちとは思えない……。大丈夫かこの人。 「サバスちゃんと言うこと聞きなさいよ!働きようによっては、特別に今日フラフラ歩き回ってたこと許してあげてもいいわ」 ルイズは上機嫌だった。もう勝った気でいる。 (後で泣くことにならなければいいけど) キュルケの心配をよそに、ルイズは勝った時の決めゼリフへと思考を移していた。 「遅刻」 後ろからのタバサのつっこみでやっと一行はヴェストリの広場へ歩き出した。 To Be Continued 。。。。?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2502.html
ルイズは自分のベッドへ行き二時間眠った。そして…目をさましてからしばらくして 使い魔が逃げ出したことを思い出し…… ………泣いた…… おれは使い魔になるぞジョジョーッ!第三話 ディオがルイズの部屋に入ると昨日散乱した下着がそのまま散らかっていた。どうやらあの後ルイズはそのまま寝てしまったらしい。 まだ朝は早い。使い魔として信頼を得る為ならば心底嫌だが掃除、洗濯くらいはやってやらなければいけないだろう。 日の光を浴びて小川はきらきらと輝いてまるでダイヤモンドが流れているようである。 ディオは洗濯場らしき場所を見つけると腰を下ろし、洗濯を始めた。 ディオ・ブランドーといえば常に上に立ちながら都合よく部下を使っていた印象が強い。 だがディオはジョースター家に養子として入る以前、具体的には母が死んでから父を殺害するまでの間、 家事の一切を切り盛りしていたのである。 故に洗濯も一通りこなせるのだが、それは同時にダリオとの辛い生活を思い出す事でもあった。 よってディオは早々に「この洗濯、昔の生活を思い出すッ!」と不機嫌になると、下着の端をつまんで小川の流れに暫く浸すだけにした。 「それじゃあ汚れは取れませんよ」 気がつくと後ろにメイドが立っていた。その笑顔はディオに一瞬だけ遠い昔、元気であった頃の母の笑顔を思い起こさせた。 「君は誰だい?見たところこの学院のメイドのようだが」 「私はシエスタと申します。あなたはミス・ヴァリエールが召喚した平民の方ですね?」 「ああ。ぼくはディオ・ブランドーだ。よろしく」 どうやらゼロのルイズが平民を使い魔にしたという噂はあっという間に校内に広がったらしい。 「それよりディオさん。そんな方法じゃちゃんと綺麗になりませんよ。」 と言うとシエスタはディオの籠を手に取り、慣れた手つきで洗いはじめ、あっという間に洗濯を終えた。 「ふぅ、できました。」 笑顔で洗濯済みの籠を渡すシエスタ。 「すまないね。ぼくは女物の下着を洗った事がなくてね、どうしたらいいのかわからなかったんだ」 そう言うとシエスタは今更ながら女物の下着を洗っているディオを思い出して赤面する。 「でっでもっ酷いですよね!他の方は使い魔がいても自分で掃除も洗濯もするのに…」 やはりルイズはおれを奴隷かなにかと勘違いしていたようだ。怒りの感情が込み上げてくる。 「…。」 気が付いたらシエスタが少し引いていた。気付かないうちによほど凄い顔をしていたらしい。この感情がすぐ顔にでるのもなんとかしないとな。 「あの…」 やがてシエスタは怖ず怖ずと提案をした。 「よかったらこれからは私が洗濯しましょうか?」 「本当かい?しかし君も忙しいだろう。大丈夫かい?」 「はい。あの程度の洗濯ならすぐに終わりますから♪」 フフ…この言葉を待っていたぞッ!人が困っていれば手助けしてしまうようなお節介野郎めッ! 「ありがとう、ミス・シエスタ」 「そ…そんな…ミスだなんて…///ただのシエスタでいいですよ」 「でもそれじゃあぼくの気がすまないな」 「いいんですよ、困った時はお互い様です」 「ありがとう、いつかお礼をするよ」 そういうとシエスタに背中を向けて部屋に戻るディオ。その顔つきはまさに『計画通り!』とでも形容できるような表情だった。 ディオにとってシエスタは都合よく動く駒の一つを見つけたぐらいでしかなかったのだろうか…。 to be conthinued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1089.html
グェス……グェスはいねえがあ……悪いグェスはどごだあ……。 「ミスタ・コルベール。わたしの使い魔見ませんでしたか?」 「見たといえば見たが……廊下を北に向かって走っていたな。しかし君、ミスタ・グラモンの使い魔を見たかね。凄いねあの老人は」 わたしから逃げられるとでも思ってるのかしら。 宝物庫の前で何やらゴソゴソやっていたミス・ロングビルを発見。 この人相変わらずいいプロポーションしてるわね。オスマンの狒々爺に触らせるのがもったいないくらい。 「ミス・ロングビル。わたしの使い魔見ませんでした? 平民の女なんですけど」 「全力で走っていた犯罪者風の人? それなら男子寮の方へ向かわれたようですけど」 男子寮? ははーん、ミキタカを味方につける気でいるわけね。 ミキタカやぺティが何と言ったって全力でぶったたいてやるんだから。扉の前でノックノック。 「ミキタカ? グェスいる?」 「いりませんよ」 ん? んん? えーっと……どういうこと? 「入るわよ」 扉を開けた先にはここ数日で見慣れた部屋とミキタカ、せいぜいぺティがいるくらいだと思っていたけど、ぺティではなくなぜかシエスタがいた。 二人並んでベッドに腰掛けているその光景からは、朴念仁だって甘いひと時が想像できる。 何よ阿呆ミキタカ。先にシエスタに目をつけてたのはわたしなのに。だから嫌よ男って。いやらしいことしか頭に無いんだから。 ああ、シエスタの貞操は無事かしら。この阿呆貴族に隠れ巨乳揉みしだかれてたりしないといいけど。 有無を言わさず必殺のルイズヒップドロップを敢行、二人の間に無理やりお尻をねじ込んだ。 咄嗟にシエスタが立とうとしたけど、腕を掴んで押さえ込む。 「シエスタ、あなたグェスを見なかった?」 「ええと……」 相変わらず怯えてるシエスタ。わたしとしては精一杯フレンドリーなつもりなんだけどなぁ。何がいけないんだろ。 シエスタはわたしの頭越しにミキタカを見て、ミキタカは小さく頷き返した。何この二人は恋人的空気。 「私がお見かけした時は食堂にいらっしゃいました」 「ふーん……食堂ね。ありがとうシエスタ」 「あ、あの、ミス・ヴァリエール!」 シエスタが立ち上がりかけたわたしの袖を引く。 「私、負けませんから!」 ……誰が? 誰に? 何で? 主語も述語も目的語もはっきりしていない。 「す、すいません。ご無礼をお許しください」 で、目が合うと謝るし。この娘も情緒不安定ね。お年頃ってやつ? 何かよく分からないけど、わたしはシエスタから挑戦されたらしい。 挑戦か。嫌な響き。またえらく嫌われたもんね……この娘に嫌われるとなぜだかへこむわ。 本当ならわたしを好いてくれるのが基本形だった気がするんだけど、どう考えても妄想以外の何者でもなくさらにへこむ。あーあ。 こんなわたしの傷ついたハートも全てグェスのせいと結論付けて、さらなる怒りを胸に食堂へと足を向ける。 食堂は西日が射して磨いたばかりのテーブルは照り返し……もう夕方だったのね。わたし何時間走り回ってたんだろう。 そこにもグェスはいなかったけど、パイプをふかすぺティとモンモランシーと大蛙と……知らない人間が見たら打ち捨てられているとしか思えない大釜が鎮座ましましていた。 「ねえモンランシー。あなた達グェス……」 「しっ! 静かに!」 何よ何よ。皆でわたしのこと邪魔者扱いして。どうせわたしなんてゼロよ。胸も才能もゼロよ。 「老師、お願いです。今のぼくには生きるための力が必要なんです」 「ねっ。力が必要なんだよ、ねっ」 なになに、弟子入りしようっていうの? 弟の使い魔に? ギーシュ必死すぎじゃない? 「背中を見せれば死ぬ。そのことに絶望していました」 あ、それで釜かついで動いてたのか。そりゃわたしでも絶望するわ。釜背負って外出てくるあたりは大物よね。 「ですが、老師の力を目の当たりにしてぼくの考えは変わりました。ぼくは……ぼくはまだ生きたい。やりたいことはたくさんあります。モンモランシーをもっと愛したい」 カアアアア……ペッ! アア胸糞悪い。何この学院。カップル率高すぎ。そうですか。独り者に死ねと言いますか。 「な、何言ってるのよギーシュ」 洪水のお嬢さん、顔が赤いですよ死ね。何よ目ぇ潤ませたりして。上も洪水下も洪水ですって? バーカバーカ。 「キーシュが言っていました。老師の前身は修行者だと。その技は修行によって身につけたものだと。お願いです、その技を……温かく、力強いその技をぼくに教えてください!」 「わたしからもお願いします、老師。ギーシュは馬鹿で浮気者だけど、それでも死ぬのは……」 モンモランシーも頭を下げた。こいつら何で使い魔相手に敬語使ってるのかしら。 「それはできん相談じゃな」 ぺティ冷たい。考えるふりくらいしてあげてもバチは当たらないでしょうに。 「老師!」 「そんな……!」 「冷たいねっ、ねっ」 ぺティはパイプの火を落とし、大事そうに懐へしまいこんだ。 すげなく頼みを断った爺さんとも思えない、好々爺丸出しの笑顔で大釜に手を当てた。 「この技は習得に骨が折れる。才能のある者でも数年はかかるじゃろう。今のまま挑めば過程で死ぬ」 そりゃそうよね。背中見せられない人間じゃ修行は無理でしょ。 「それにのう少年よ。そなたには必要の無い技なんじゃよ」 どうせ死ぬから必要ないよなんて言わないでしょうね? 「この技術がなぜ生まれたか分かるかね? ある者に近づこうとしたからじゃ」 「ある者……?」 「君の背中にとりついている者、と言えば分かりやすいかな」 大釜の中で、何かが打ち付けられる音が響いた。たぶん立ち上がろうとして頭ぶつけたんだろう。 「ふざけないでください! ぼくは! ぼくはこいつのために!」 「ふざけてなどおらんとも。わしの技……波紋は、人ならぬものに近づくため人間が編み出した技術体系に過ぎん」 「老師! ぼくは! ぼくは!」 大釜が揺れていた。顔が見えなくても何を思っているかはよく分かる。 「……そなた、使い魔を知ろうとしたかね」 「ぼくは……は?」 大釜の揺れが収まっていく。わっかりやすい。 「背中を見せれば主が命を落とす。そこで止まっていたのではないかな」 「それは、その。だって死ぬんですよ」 「誰であろうと一度は死ぬ。その運命から逃れることはできん。死は言い訳にならんよ」 厳しい意見ね。そこまで覚悟してる人ってそうそういないと思うけど。 「使い魔と話し合ってみるといい。何ができ、何ができないのか。それを知るだけでも益はあろう」 「そうそう。もっと話そう話そう。ねっねっ」 ぺティはギーシュのことを話していたんだろう。でもその言葉はわたしにも当てはまった。 そっか……そうよね。わたしはグェスのできることを考えていなかった。 グェス本人がただの平民であることを忘れ、無謀な戦闘行為に付き合わせようとしていた。 使い魔なら従って当然だと思っていた。ふんぞり返って上から押さえつけようとしていた。 そんなの、グェスじゃなくたって逃げて当たり前だ。 「そなたは大地」 「ぼくが……大地?」 「砂か、泥か、岩か、土か、決めるはそなたのみ。芽吹いた植物を生かすも枯らすも己次第と知れ」 大地。ちょっとかっこいいな。わたしも大地になれるだろうか。 「ぼくが……大地……」 アドバイスに対し、御礼の一つも言うつもりだったんだろう。大釜が持ち上がり、そこからギーシュが顔を出した。 ギーシュにとって不幸だった……いやこれは幸運か。幸運だったことは、この場にはぺティだけではなく、モンモランシーがいたということ。 地面から上を見上げれば、当然モンモランシーも視界に入る。モンモランシーのスカートの中も。 「白……? 白? 白! 白! 白かったであります!」 ギーシュの視線を追い、ギーシュの言葉を聞き、その意味を捉え、モンモンシーの表情が哀から怒へと一変した。 モンモランシーのパンツは白、と。メモメモ。ギーシュもたまには役に立つ。 「いい加減にしなさい! あなたの頭の中そればっかりじゃないの!」 「待って! し、仕方ない! これは仕方ない! どうしようもない!」 うん、仕方ない。それは本当に仕方ない。 スカートを押さえて大釜を蹴りまくるモンモランシーに対し、ギーシュは鉄壁の篭城作戦で対抗する。 じゃれあう二人をいつもの笑顔で見守るぺティ。何このトリオ。楽しそうじゃないの。 ていうかわたし完全に無視されてるよね。グェスのこと聞いたのに忘れられてるよね。もういいよ、もういい。 「ちょっとそこの矢印つけた蛙」 「は? 私めのことでしょうか」 あんた意外にそんなのがいますかっていうのよ。 「胡乱な平民の女見なかった? わたしの使い魔なんだけど」 「怪しい方なら中庭の方で見かけたように思いますが……ゲロッ」 これもグェスの計略だったりして。学院中をぐるぐると歩き回らされている。 ま、ご主人様の義務だと割り切ろう。使い魔放っておくわけにはいかないもんね。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2578.html
反省する使い魔! 第十話「インテリジェンス◆ビート」 キュルケの誘惑を振り切った次の日。 音石は今、学院の広場にいた。 つい10分程前に彼は目を覚まし、 昨日と同じようにルイズを起こそうと(もちろんギターで)したが 「今日は『虚無の曜日』だからゆっくり寝かせて・・・」 そう言われ、ルイズは再び眠りに落ちてしまった。 『虚無の曜日』………、つまり日本でいう日曜日のような 休みの日のことを言っているらしい…………。 そういうことならと、音石ももうひと眠りしようとしたが 窓から差し込む快晴の光や鳥の鳴き声。 とても二度寝できるような状況じゃなかった。 以前も述べたかもしれないが、音石は刑務所にいた為 その規則正しい生活習慣が完璧に体に染み付いたおかげで いやでも朝早くに目を覚ましてしまう。なんとも難儀な話である。 仕方なく音石は藁の上から立ち上がり、昨日と同じように 服にこびりついた藁を払い落とすと、ルイズの部屋を後にした。 ルイズの部屋を出ると、音石がまず最初に向かったのは シエスタとはじめて出会った水汲み場だった。 音石はそこで顔を洗うと、清々しい風を肌で感じていた。 肌でモノを感じる。音石はギタリストとして 常に音やリズムなどを肌で感じている。 そのため音石にとって、肌でモノを感じるというのは とても重要で素晴らしいことなのである。 そして現在に至る。 音石はその後、水汲み場からそのまま広場へと移動した。 そしてさらにそのまま、学院の男子寮、女子寮から 出来るだけ離れた広場の隅のところへと移動した。 「………さてと、ここら辺でいいか」 なぜ音石が男子寮、女子寮からできるだけ離れたかというと 彼なりの気遣いの配慮である。 なぜなら音石が寮から離れていったのにはわけがあったのだ。 「学院なんかでゆっくりと『コイツ』を堪能できる場所なんざァ 限られてるからなぁ。ここらへんなら寮にいる連中に 聞こえることもなけりゃあ文句言われることもねぇだろ………」 そして音石はそのまま『コイツ』こと、愛用のギターを手に持った。 ドギュウウウウーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!! 「YEAH!」 弦を指で弾き、発する音に合わせて体を激しく動かし、髪がなびく。 音石にとって、ギターを奏でている時間こそが何よりも幸せであった。 たとえ嫌なことがあってもギターさえ弾いてしまえば その嫌なことを忘れさせてくれる。 既に音石の頭の中には派手なステージでスポットライトを浴び、 歓声が降り注いでいる自分の姿が出来上がっていた。 彼は今、最高に満足している。 今振り返ってみれば、彼はこの世界でゆっくりと 心ゆくままにギターを演奏するのは今が始めてである。 召喚された最初の日にはライトハンド奏法、一回だけ。 その次の日にはルイズのお目覚めリサイタルや ギーシュの決闘の時に軽く弾いた程度である。 次第に音石の顔に大量の汗が溢れ出した。 しかし彼のギターのボディの材料、 中南米ホンジュラス産の1973年のマホガニー材が 彼の汗を呼吸するかのように吸い取り、 音石が汗をかけばかくほど、ギターの音が良くなっていった。 ネック部の弦には狂いがなく、100年間暖炉に使われてきた 超乾燥のくるみ材(盗品)を使用しているため、 音がビビることなく、音響的な渋い味わいを出している。 そしてなによりその渋い味わいの音を正確に 鳴り響かし引き出してるのは、ギターの材質関係なく 彼のギタリストとしての実力だろう。 ギュウウウーーーーーーーーーーンッ………… 「万雷の拍手をおくれ、世の中のボケども」【うっとり?】 【パチパチパチパチパチパチッ】 「おっ?」 ギターで一通り演奏し、ラストは自分の気に入っている 決め台詞で締めくくると、万雷とまではいかないが 小さな拍手の音が音石の耳に入った。 音石がその拍手のするほうへ振り向く。 そこに居たのは、ルイズと同じくらい小柄で水色の髪、 片手にはその小柄な体よりもはるかに長い杖、 もう片手には三冊の分厚い本をもっている少女だった。 音石はその少女に見覚えがあった。 確か召喚された日にギーシュに魔法で浮かされたとき キュルケと一緒にいた記憶がある。 その次の日には、シエスタが落としそうになった食器を 拾い戻す前に空を見上げていたとき、ドラゴンの上に 跨っていた記憶もあった。だが名前は知らない。 「お前は………確かキュルケと一緒にいた………」 「………タバサ、あなたは?」 「音石明だ……、いつからそこにいたんだ?」 「だいぶまえから」 「そうなのか?コイツ(ギター)に夢中だったから気付かなかったぜ。 なあ、……さっきのオレの演奏どんな感じだった?」 音石としては、ギターが存在しないこの世界の人間に、 どんな印象を持たれるか興味深かった。 「初めて聴く音……、変わってたけどなかなかユニーク」 「ふむ、まぁそんなモンだろうな。 それでタバサ、こんなとこでなにしてたんだ? 寮からだいぶ離れてんのに………」 「……どちらかといえばそれは私のセリフ」 「ははっ、ちがいねぇな」 「わたしは図書室に借りていた本を返しにいって あたらしい本を借りて、部屋に戻る途中に 奇妙な音が聞こえたから、気になって来てみたら貴方がいた」 「オレは随分と早く目が覚めちまってよぉ~~~………、 気晴らしついでに、腕が鈍ってないか確かめていたんだよ」 「腕が鈍っていないか?」 タバサが知る限りでは、音石はルイズに召喚されたときから ずっとギターを決闘中だろうと肌身離さず抱えていた。 そんな彼がまるで久しぶりに演奏するかのような 物言いに疑問を感じたのだ。 「………ん、ああ。ワケあって牢屋の中にぶち込まれててな。 ちょうど出所したところをルイズに召喚されたんだよ」 「………そう」 なぜ牢屋の中に入っていたのか………。 気にならないと言えば嘘になる。 しかし無理に相手の詮索するようなことはタバサはしたくなかった。 人はそれぞれにいろんな『過去』を背負っている。 楽しかった思い出、悲しかった思い出、悔しかった思い出、 そしてそんな思い出には必ず理由が存在する。 だからこそタバサは、目の前の男が牢屋の中に 入っていた人間であろうと、少なからず何か理由があるのだろう。 そう解釈したのだ。 他の生徒や教師がこの事実を知れば音石に対して 強い警戒心を抱くだろう。 しかしタバサは違った。ワケがあって『過去』を 知っている彼女だからこそ 音石に対して、警戒することもなかった。 「………ひとつ、質問がある」 「ん?」 だがタバサにはまだ気になることがあった。 それは…………。 「ギーシュとの決闘のときに見せた あれは…………………………何?」 「マジックアイテムを使った魔法だ」 当然嘘である。 音石は食堂でのマルトー達とのやりとりをもとに 自分のスタンドのことを誰に尋ねられたら マジックアイテムと言って誤魔化そうと 昨日の夜から考えていたのだ。 実は言うと音石はタバサが自分を尋ねたときから 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』のことを 聞いてくるんじゃないだろうかと予想はしていたのだ。 なぜならここの生徒たちは決闘のこともあり ほとんどが確実に音石にビビッている。 それは昨日すでに音石も確信している。 (まあ、もともとそのつもりでの決闘なのだが) そのため、そんな生徒が自分に話しかけるなんて よほどの物好きか、プライドの高い馬鹿、 チリ・ペッパーの謎を探ろうとしている命知らず。 音石はそう考えていたのだ。 当然、スタンドのことを話しても音石に得はない。 ルイズやオスマンに話したのは彼らを自分なりに 信頼しているからだ。 仮にキュルケにスタンドのことを聞かれても 音石は絶対に岸辺露伴の名言『だが断る』と言い切るだろう。 「嘘」 「なにィ?」 音石の答えをタバサがバッサリと否定した。 「あんな亜人を呼び出す魔法は私は知らない」 「おいおい、世界は広いんだぜ? それに比べ、人間一人が脳みそにぶち込む記憶なんざ たかが知れてるんだ。世の中お前が知らないことなんて 腐るほどあるんだよ……………」 「…………………」 音石は知らないがタバサは俗に言う『本の虫』である。 授業中はおろか、出歩くときも本を凝視している。 今日のような休みの日は一日中部屋に篭って本を 読むのが彼女の楽しみである。 それ故に彼女は成績も優秀、あらゆる魔法の知識を読破している。 マジックアイテムも例外ではない。 だから音石に知らないこともあると言われて プライドが少し……だいぶ……ちょっと傷ついた。 「ならこれだけは教えてほしい」 「………なんだ?」 「あなたは…………どこの出身?」 (痛いトコつくなァーおい) 「ここからずっと遠い所だよ」 「遠いところ?」 「正直言ってオレにもわかんねーんだわ だいぶ離れているせいでな………… だからオレもここら辺の地理をよく知らねぇんだよ」 「そう…………」 音石が今答えられるのはこのくらいが精一杯である。 音石としてはいちいち答えてやる道理はないが、 もしもというときがある。 音石はあとでルイズにこの世界の地理や国のことについて 色々と教えてもらおうと考えていた。 ついでになぜ道理もないのにタバサの質問に答えたかというと 単なる気まぐれである。 「あ、オトイシさん!」 すると突然だれかに名前を呼ばれ、音石は振り返った。 やって来たのはシエスタである。 どうやら昨日と同じように洗濯をしていたようだ。 しかしなぜ水汲み場から広場の隅にきたのだろうか? 音石はそれが気がかりだった。 「おお、おはようシエスタ」 「あ、おはようございます!………あ、そうじゃなくて。 オトイシさん、ミス・ヴァリエールが探していましたよ」 「ルイズが?チッ、仕方ねーな。 んじゃあタバサ、そういうことだから…………いねェ」 音石が振り向きなおってみると いつの間にかタバサはその場を去っていた。 まるで雪みてーな奴だな、現れたと思ったら いつの間にか消えてやがる。 音石はタバサにそんな印象を感じながら、 シエスタと別れ、女子寮のルイズの部屋に帰っていった。 音石は知らない。タバサの二つ名がその印象どおり 『雪風』であることを…………。 そんなこんなで現在音石はルイズの部屋へと辿り着き ルイズの部屋のドアノブに手を掛けた。 【ガチャ】 「あ、オトイシ!ちょっとアンタどこ行ってたのよ!?」 「ギターの練習だ。つーかよ~~… どこに行こうがおれの勝手じゃねーか」 「もうっ!あんた、わたしの使い魔って自覚ある!?」 「はっ、オレにも人権ぐらいあってもいいと思うが?」 「ふん、まあいいわ。それはそうとオトイシ! ゆっくり寝て気分もいいことだし、 今日は街に買い物に行くわよ!」 「お!街か~、いいねぇどんなのか楽しみじゃね~か~ なにか買いたいモンでもあんのかルイズゥ~?」 音石からしてみれば召喚されて以来 この学院を一歩も外に出ていなったので この世界の街というのがどのようなものなのか かの有名なルーブル美術館を観光するかのようで 非常に楽しみで心が躍った。 しかしそれはそうとして、なぜ急に街に行くなどと 言い出したのか。そこに小さな疑問を感じていた。 「わたしじゃないわ、オトイシ。アンタのよ」 「オレの?」 「そっ、さすがに自分の使い魔をずっと藁で 寝かしておくのもなんだし。 今日はアンタ用の枕やモーフを買ってあげるのよ!」 そのルイズの言葉に音石は目を見開かせ、 やがてその顔に笑みが浮かび上がった。 「おいおいおい!なんだなんだァ~ルイズ! 随分とメチャ嬉しい事してくれんじゃね~か~~! こりゃ明日は空から槍が降ってくるぜェ、はっはっは」 「一言多いのよアンタは! そ、それと勘違いしないでよね! 使い魔の面倒を見るのは貴族として 当たり前のことなんだから!」 はいはい、笑みを浮かべながら音石は言葉を返し、 街に行くための支度を手伝い、 部屋を出る際に小さな袋を手渡された。 袋の中を見てみると、音石は「おおっ!」と声を上げた。 小さな袋の中には輝かしい金貨がギッシリと詰まっていた。 「財布を持って守るのも使い魔の役目よ」 「なるほどな」 「あ、それから。街に行くんだからスリとかに気をつけなさいよ?」 「わかった、任しとけ」 音石の頼りがいがあるような態度に ルイズはどこか安心したが、この時彼女は気付かなかった。 自分の使い魔が主人である自分の目を盗んで、 いつの間にか袋の中の金貨を四枚ほど抜き取り、 ポケットにいれていたことを。 音石明。この男、やはり悪党である。 ルイズはそのまま忘れ物がないか確認した後、 音石とともに自室を後にした。 学院の庭をルイズの後に続いて歩いていると 音石はあることに気付いた。 「おいルイズ、学院の門はあっちだろ? どこにいくんだ?」 「街までは結構距離があるから 乗り物を取りにいくのよ」 「乗り物?」 音石の頭に?マークが浮かび上がると 奇妙な小屋に辿り着き、中からシエスタが出てきた。 「シエスタ?」 「ミス・ヴァリエール。頼まれていたモノは 用意しておきました」 「そう、ありがとう。それじゃあここまで連れてきて頂戴」 「かしこまいりました」 貴族であるルイズの前では シエスタも給仕としての顔を覗かせており、 いつものシエスタからは想像も出来ない真剣な顔で ルイズに対処していた。 音石はそんなシエスタにどこか感心していたが、 次に彼女が連れてきた『モノ』を見て、体がぴたりと止まった。 「………馬?」 そう、馬である。二頭のでかい馬。 その小屋は貴族用の馬を置いておく厩舎小屋なのである。 「なあ、まさか……こいつに乗って?」 「そうよ、当たり前でしょ?」 あっさりと返答するルイズに音石の頭と肩はガクッ下がった。 (マジかよ~、なんかもっとこう…… 魔法を使った乗り物を想像してたぜ、 『アラジンの魔法のランプ』に出てくる 空飛ぶ魔法の絨毯(じゅうたん)的なモノをよ~~ うわァ~、一分前のおれ殴りてェ………) 「ちょっとオトイシ。どうしたのよ?」 「なぁルイズゥ~、オレ馬なんて乗ったことねぇんだけど」 「そうなの?あんたがいたトコって馬がいないの?」 「別にいねぇーわけじゃねぇんだが………」 そこで音石は、シエスタに聞かれると面倒だと判断し ルイズの耳元で小声で話しかけた。 「オレの世界じゃ自動車や自転車やらの 移動手段があるから、馬なんて普通つかわねぇんだよ」 「そうなの?」 「別に馬がいないってわけでもねぇんだが………、 趣味とかスポーツぐらいでしか生の馬自体みかけねぇんだよ」 「え、じゃあオトイシ。 あんた馬を直接見たのコレが初めてなの?」 「当たり前だ。こんなのテレビぐらいでしか見たことねぇーよ!」 はあっ、とルイズに口から大きな溜め息が出た。 「もう、仕方ないわね。ええっと…確かシエスタだったかしら? 悪いけどその馬たちを門の外まで連れてきて頂戴。 オトイシ、さすがに学院内じゃなにかとあれだし 学院の外で私が馬の乗り方を教えてあげるわ」 (ご親切ありがてぇんだが、すっげー乗りこなす自信がねぇ……) その後、音石はルイズのご教授の下、 乗馬についてとりあえず基礎から教えてもらい 貴族用の馬だけあってか、馬自身も利口でおとなしく 一時間半かけて音石は少しずつ順応していった。 しかしまあそれでもぎこちないのはお約束。 だがそれでも、わずか一時間半で 馬を走らせる程にまで扱えるようになれるのは、 成長性の高いレッド・ホット・チリ・ペッパーの本体である 音石本人の驚異的な順応性や学習性の高さあってのものだろう。 そんなこんなでやっとの思いで何とか馬に乗って 走らすなどのある程の技術を使えるようになった音石は ルイズの後に続いて壮大な草原を馬で走らせていた。 「はっはー!乗れるようになっちまうと 意外と楽しいじゃねーか!YES!GO!GO!」 「ちょっとオトイシ!あんまり調子乗ってると おっこちちゃうわよ!落馬ってとっても危ないんだから! あ、音石。そこを右に曲がって!」 ルイズよりも先行し、音石は馬を走らせ はじめての乗馬経験でテンションが上がっており 落馬の危険も顧みず、お構いなしに馬のスピードを上げていた。 しかし音石は知らない。 目的地であるトリスティン城下町は 馬で走らせても三時間かかるほどの距離にあることを……。 790 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12 41 40 ID d/YP6Vt0 [12/27] そして一方こちらは、所戻ってトリスティン魔法学院。 そこはタバサの部屋である。 彼女は虚無の曜日を読書で費やすことを日課としており、 音石と出会う少し前に借りていた本を物静かに読みふけっていた。 【コンッ……コンッ……】 その静寂を小さく突き破ったのは 部屋のノック音だった。しかし誰かは見当がつく。 学院の教師に呼び出されるような心当たりはないし、 自分の部屋に尋ねてくる人物など『彼女』以外考えられない。 本来ならせっかくの読書の時間を無駄にしたくないので このまま無視するにかぎるのだが、タバサを違和感を感じていた。 扉のノック音に『彼女』らしい、活発で元気な感じがなかったのだ。 「………どうぞ」 タバサがそう言うと、部屋の扉はゆっくりと開かれ 入ってきたのはキュルケであった。 キュルケを見たとき、表情には出さなかったものの タバサは内心驚いていた。 キュルケの顔が見ているだけでわかるほど とても暗い表情をしていたからだ。 いや、表情だけじゃない。目の下にクマが出来ており よく見ると目元に乾いた後がある。泣いていたのだろうか? 791 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12 42 25 ID d/YP6Vt0 [13/27] 「タバサ……、お願いがあるの…」 「……………何?」 とても暗い声、普段元気活発溢れる彼女からは 想像も出来ない声の低さにタバサは只ならぬものを感じた。 キュルケはタバサのかけがえのない親友だ。 その親友がこんな姿になっているなんて 余程のことがあったのだろうとタバサは察した。 「ルイズと……その使い魔のオトイシが 城下町に買い物に行ったの(シエスタから聞いた) 急いであの二人を追いかけないといけないのよ だからお願い。貴方の風竜、シルフィードの 力を貸してほしいの、わけは………聞かないで」 「…………………」 タバサは無言のまま部屋の窓を開き、口笛を鳴らした。 するとどこからか青い肌をした竜、タバサの使い魔 シルフィードが現れた。 「ありがとうタバサ」 タバサがシルフィードに跨ると、キュルケもタバサの後ろに跨り 学院から飛び上がった。向かう先はトリステイン城下町……。 一方その二人、ルイズと音石は トリステイン城下町の大通り、ブルドンネ街に辿り着いていた。 「…………………………………」 そして音石は、その一角の壁に手でもたれかかり 背中の腰辺りをさすっていた。 「もう!言わんこっちゃないわね! 乗馬初心者のあんたがあんな長い距離を 馬でとばしまくったら、そりゃ腰も痛めるわよ!」 「…………面目ない」 さすがに音石も言い返す言葉も見つからなかった。 調子に乗って墓穴を掘ってしまうのは彼の悪い癖である。 実質、三年前の杜王町の一件でも この癖が原因で散々な目にあっている。 音石自身もこの癖には反省しようと努力してはいるのだが 元々彼の性格上の問題もあってか、なかなか直せるものでもない。 しかし言い換えれば、そこが彼の魅力のひとつなのかもしれない。 「………もしまだ痛むんだったらここで待ってる? 私ひとりで買い物済ませるから………」 「……いや、大丈夫。だいぶマシになった」 「無理してないでしょうね?」 「無理なんてする必要があるかっての」 音石は大きく背中を仰け反ると、背中からポキポキッと 気持ちのいい音がなり、それと同時に腰の痛みを引いていった。 「そう、ならいいわ。それじゃいくわよ! はぐれて迷子とかにならないでよね」 ルイズが街中を歩き出し、音石もその後に続く。 しかし人ごみを進んでいるうちに音石はあることに気が付いた。 「それにしても随分と道が狭いな。ここって大通りなんだろ?」 音石が向こう側の壁とこちら側の壁を 目で測ってみると、だいたい5mぐらいしかない。 「そうよ、あんたの世界に比べたら狭いかもしれないけど こっちの世界のわたしたちからしてみれば コレぐらいが普通なのよ」 「まっ、そんなもんなんだろーな。認識の違いなんて」 「そんなもんなんでしょーね。あ、それはそうとオトイシ! ちゃんと財布持ってるわよね?まさか取られて無いでしょうね? いくらアンタでも魔法を使われたら一発なんだから 気をつけなさいよ」 「魔法?おいおい、魔法を使うって事は 貴族なんだろ?なのに盗みなんてするのかよ?」 「貴族にもいろいろいるのよ。 いろんな事情でその地位を追いやられて 傭兵や犯罪者に成り下がる奴もいるのよ」 「つまり没落貴族ってやつか? やれやれ、この世界の世も末だな」 何気ない会話を繰り返していると 一軒の建物に辿り着いた。服などが飾られてる ところから予想するとどうやら衣服店のようだ。 なぜ服屋に?とルイズに聞いてみると どうやら音石のための変えの服も注文してくれるそうだ。 「いらっしゃいませ貴族様」 店に入ると、早速店員がルイズに 貴族相手の丁寧な接客を行いはじめた。 「今日はどのような御用で?」 「使い魔のための服をいくつか注文したいの」 「こちらの御方ですか、かしこまいりました どのような衣装をご希望で?」 「そこは彼に任せるわ。オトイシ、どんな服がほしいの?」 「そうだな………」 音石は顎に手を置き、店にある衣装を眺め考えるが この世界の時代が時代なだけあってか はっきりいって、これだ!とくるようなモノはなかった。 「オレが今着てる服と同じやつは作れるか?」 音石がそう言うと、その店員は音石に 「失礼」と呟き、音石が着ている服を 手触りで調べ始めた。 「………なかなか変わった作りと材質ですね」 「ワケあって遠い地方から来てんだよ で、作れんのか?」 「ええ、少し手間取るかもしれませんが これならなんとか作れるでしょう。 ですが材質が材質のため少々値が張るかもしれませんが……」 「いいかルイズ?」 「ええ、お金はある程度多く持ってきてるから大丈夫よ でもいいのオトイシ? せっかくなんだしなんか別の服を買っても……」 「いらねぇよ、それにコイツ(今着てる服)には けっこう愛着があんだよ。これからなにが起こるかわかんねーし 予備に何着か持ってたって損はねーだろ」 「まっ、あんたがそれでいいなら もう何も言うことはないわ。 ………それじゃ、服が出来次第ここに送って頂戴。」 「かしこまいりました」 ルイズがなにかを書き記したメモと一緒に代金を支払い、 音石と共にその店を後にし、 今度は別の店で枕やモーフを購入し、 服と同じように学院に送るようにと注文した。 やることも一通り終え、二人は現在街を出ようと移動していた。 すると音石はあることに気が付く。 「なあルイズ、この裏路地抜けていけば 近道になるんじゃねぇのか?」 音石の言葉に、ルイズは脳裏にいままで記憶している この街の構図を展開し、道を辿らせる。 「確かに………、行けるかもしれないわね 事が早く済ませるのには越したことないわ 行きましょオトイシ」 ルイズ自体はその裏路地に入った経験はないが 記憶している街の間取り的に考えると なかなかの時間短縮になると予想したからだ。 しかしこのような薄汚い路地裏に足を入れるのは なにがおこるかわからないと抵抗はあったが、 自分にはオトイシという優秀な使い魔がいる。 そう考えると些細なことだと自然に思ったのだ。 そして路地裏を進んでいくと、四辻の道に入った。 「えっと、この道があーであの道があーだから……」 ルイズがその四辻でどの道に進めば 一番の近道になるか考えている一方、 音石はあくびをしながら路地裏の周りを 興味深そうに見回していた。 薄汚い野良猫、道端に散乱しているゴミ屑 そして殺風景な風景。 こうも絵に描いたような路地裏も逆に珍しい。 するとだ、音石の目にとある看板が目に入った。 その看板はファンタジーの剣の様な形になっており なにか文字が書いてあったが、 生憎音石はこの世界の文字が読めないためルイズに質問した。 「なァなァルイズ」 「ん、なによ?」 「あそこの看板、剣みてぇーな形してっけど ……もしかして武器屋か?」 「あら、よくわかったわね? 確かに武器屋だけどそれがどうかしたの?」 「行ってみよーぜ!」 「はぁッ!?なんでよ!? あんたなんなに強い能力もってるくせに 剣なんて持ってどうするつもりよ!?」 「別にほしいなんて一言も言ってねぇーだろー? 俺の世界っつーか国にはあんな武器屋なんて どこにもねぇからよ。興味あんだよ なあルイズいいだろぉ?ちょっと見るだけでいいからさ~」 「……はァ、仕方ないわね。 まっ、まだ時間には少し余裕あるし今回は特別よ?」 よっしゃ!と音石は歓喜の声を上げ、 早歩きでその武器屋に向かった。 店の中に入ると、壁に剣や槍が飾ってあり つぼの様な容れ物にもあらゆる武器が収納されている。 おお!すげェ!っと日本ではまず見れない光景に 音石は興奮を隠せず、店の見渡した。 すると店の奥からどこか胡散臭そうな主人が現われた。 797 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12 47 10 ID d/YP6Vt0 [19/27] 「これはこれは貴族様! いらっしゃいませ、当店に一体どのようなご用件で?」 「別に用って程じゃないわ、ウチの使い魔が どうしても見たいっていうから連れてきただけよ」 「は、はァ。さようでございますか………」 店主は内心舌打ちをした。 (ウチの店は見世物じゃなく、商売をやってんだ! せっかくの貴族の客だってのにこのまま帰してたまるか! この世間知らずの貴族からたっぷりと金を搾り取ってやる!) 悪巧みを考えている店主の視線がルイズから 店に飾ってある武器を眺め回っている音石に変わる。 (このにいちゃんがこの貴族の使い魔だってんなら この貴族よりもこっちをうまく口車に乗せたほうが 効率がいいかもしれねぇな…………… 見たところ武器に興味があるようだし うまくいきゃあこの使い魔を通してあの貴族から ありったけの金を搾り取れるぜ!!) 「お客様、武器に興味がおありで?」 「ん?ああ、俺がいたところじゃあ 剣みてぇな武器なんて売ってねぇからな」 「ほっほー左様で……、どうです? せっかくですしなにかご購入なさってはいかがです?」 「必要ないわよ」 店主のあくどい接客にルイズが横槍を入れた。 さすがにその言葉に店主も戸惑ったが、 逆にそれを止めたのは音石だった。 「まぁまてよルイズ、このおっさんが 言ってることも一理あるぜ? せっかく来たんだし、なにか記念に買って帰るのも 悪くはねぇだろ」 「あんたに武器が必要だとはとても思えないんだけど…」 「世の中『もしも』って時がいくらでもあるんだ その『もしも』に備えとくのもありだと思うぜ?」 音石が言う『もしも』とは スタンドの射程距離のことである。 レッド・ホット・チリ・ペッパーは 電線などによる発電物がない限り、 その射程距離は一般の近距離パワー型と ほとんどかわらない。 ついでに近距離の場合の レッド・ホット・チリ・ペッパーの パワーの源である電力は音石の 精神力(スタンドパワー)によって補われている。 それ故にこの先この世界でどんなことが 起こるかわからない以上、ソレに備える必要がある。 例えば何らかの原因でまた貴族と対峙したとしよう、 彼らは基本、距離を置いての魔法を行使する。 コレが致命的であり、こちらのスタンドの射程距離に 相手が入らない限り、こちらは打つ手がない。 つまり音石は遠距離に対応できる武器がほしいのだ。 これはSPW財団から聞いた話なんだが かつて自分が『弓と矢』を使って生み出した二匹の鼠、 その二匹はどうも遠距離のスタンドを使っていたそうだが 仗助はどうもベアリングとライフルの弾を使って スタンド射程を補い、コレを撃退したそうだ。 その例もなる。用心に越したところで 別に損もないだろうと判断したのだ。 問題はどんな武器にするかだ。 「弓……いや、ナイフとかないか? こう……投げる用に有効なやつ」 「かしこまいりましたお客様、少々お待ちを」 店の奥に移動した店主は影で音石たちを嘲笑った。 (やりぃー!うまくいったぞ! この勢いでどんどんせしめ取ってやるぜ!!) 「これぐらいしか置いてありませんが如何でしょう?」 店奥から戻ってきた店主は、 木箱のケースに収納されているナイフを持ってきた。 音石はへぇ…っと呟き、ナイフを手に取り ダーツを投げるような仕草でナイフを動かした。 「お気に召しましたかな?」 「ああ、なかなかいいじゃねぇか。気に入ったぜ」 「そいつぁよかった。どうですお客様? そのナイフのついでにこちらの剣も如何です?」 すると店主はカウンターの下から、大剣を取り出してきた。 「我が店一番の業物で、かの高名なゲルマニアの 錬金魔術師シュペー卿の傑作で。 魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさあ どうです、美しい刀身でしょう? 今ならお安くしておきますよ?」 確かに見事な大剣である。宝石などもちりばめられ その美しさを引き出している。 しかし少々度が過ぎる感じがある。 その大剣を見た瞬間、特に興味もなく 退屈そうにしていたルイズがはじめて その大剣に興味を示した。 「あら、ほんとに綺麗な剣ね。一体いくらなの?」 「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千ってところでさ」 「高すぎるわ。立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの もっと安く出来ないの?」 「貴族様ぁ~、勘弁してくだせぇ ウチも生活がかかっているんですよ」 (別に剣はいらねぇんだがなぁ) いつの間にか店主の交渉対象がルイズに変わってしまい 音石は何気なく陳列している武器を1つ1つ見ていると とある一振りの剣に目が止まった。 鞘の形状からすると日本刀のように反りの入った剣だった。 音石はなにか引き寄せられるかのように その剣に手を伸ばし……その剣を掴み取った。 「こいつはおどれぇーた、声もかけてねぇのに 俺をこの大量の武器の山から選び取るとは……」 すると突然、どこからか低い男の声が聞こえた。 音石は周りを見渡すが、自分とルイズと店主以外 この武器屋にはだれもいない。 「どこ見てんだよ……、あ~なるほどな 選び取れる筈だぜ。お前使い手か」 音石は耳を澄まし、声の発信源を探ってみたが その声はどうやら自分が持っている剣から放たれているようだ。 「剣が………しゃべってんのかッ!?」 「おうよ!オレはデルフリンガー様だ!!」 「それってインテリジェンスソード?」 「なんだそりゃ?」 「簡単に言えば魔法で人格が宿ったマジックアイテムよ」 「ふ~ん。インテリジェンスソードね~」 「こらデル公!!お客様に変なこと吹き込むんじゃねぇ!!」 「うっせえクソおやじ!!おいお前! 出会ってばっかでなんだが、お前オレを買え!!」 「はっはっは!こいつはおもしれぇー。 剣が売れ込みをしてるぞ!!」 「ちょっとオトイシ、あんたまさかその剣 買うつもりじゃないでしょーね!? インテリジェンスソードなんてやめなさいよ!! うるさくてかなわないわ! それにこの剣、よく見たら錆だらけじゃない そんなのよりこっちの大剣のほうがよっぽどマシよ!」 「世間知らずの貴族の娘っ子には 俺様のすばらしさなんてわかんねーだろーよ!! あんな見かけだけのデカイ剣なんかより オレを買ったほうが絶対得だぞ!!」 剣と人間との口論のなか、音石は少し考え あるいい方法を思いついた。 「なぁおやじ、この大剣は鉄も一刀両断できるんなら 当然それなりに頑丈なんだよな?」 「え?……あ、ええああそりゃあもちろん! なんたってこの剣は【パキィンッ!】かの有名な……え?」 店主は一瞬何が起きたのか理解できなかった。 しかし次第に何が起きたのか理解していった。 そう、高値で売りつけようとしていた大剣が 突然真っ二つに折れてしまったのだ。 「どうやらなまくらだったようだな」 「な、な、なァァーーーーーーーーッ!!? な、な、なんで!?け、剣が勝手に!?」 店主はせっかくの品物が使い物になれなくなった現実に 理解できないまま悲痛の声をあげていたが ルイズは音石がなにをしたのかしっかりと理解していた。 レッド・ホット・チリ・ペッパーを発現させ 中指で大剣をでこピンするかのように打ちつけたのだ。 その結果、大剣は真っ二つに折れたのである。 「ちょ、ちょっとオトイシ。あんたなんで」 「おいおいルイズゥ~。剣を買う買わない以前に オレにはコイツ(スタンド)があるんだぜ~~? 仮に剣を使うんなら、コイツの攻撃に 耐えられるような剣じゃねぇと意味がねぇだろ~?」 「お、おめー、今のは一体?」 手に持つデルフリンガーからも驚きの声が上がった。 「さすがに魔法で作られた剣だけあって 見えるようだな?さ~て…果たしてお前はどうかな?」 音石のレッド・ホット・チリ・ペッパーは デルフリンガーの傍に近寄り、 中指を親指で押さえ、でこピンの体勢にはいる。 「え!?お、おい!ちょっとまて…」 【ガァアアアンッ!!】 「いってえええええええっ!!!」 レッド・ホット・チリ・ペッパーの強烈なでこピンで デルフリンガーの刀身は大きな悲鳴を上げたが なんと剣は折れることなく、それどころかヒビも入っていなかった。 「………なるほど、上出来だ」 「あ、あんた。時々怖いぐらい無茶するわね……」 「褒め言葉として受け取っておくよ」 「で、でもやっぱりわたしの使い魔として もっと見栄がいいモノがいいわよ~、例えばそうね~…」 するとルイズが許可もなく店の奥に ずかずかと入っていった。 「え?ちょ、ちょっと貴族様!?」 ショックで落ち込んでいた店主も ルイズの勝手な行動に我に返り ルイズに制止の声をかける。 それでもルイズは足を止めず更に店の奥へと入っていった。 自分が貴族であることを鼻にかけているのだろう。 「しっかし汚い店ねぇ~~、掃除くらいしなさいよねぇ」 ルイズは自分のことを棚に上げながら 店に罵倒を浴びせ、店の奥の貯蔵庫を見回りはじめた。 するとだ……、散乱してる武器の中から 一本の剣がルイズの目に止まった。 ルイズはその剣を見た瞬間、一直線にその剣に歩み寄った。 「こういった薄汚いところに上等な掘り出し物があるって 以前だれかに聞いたことあるけど、 案外その通りなのね…。この剣、とても美しいじゃない こう言った剣こそ私の使い魔の持つものとして 相応しいわ…………。でも本当に美しいわね…… いっぺん抜いてみようかしら………」 ルイズはそのままゆっくりと その剣に歩み寄り、手に取ろうと手を伸ばした。 「ちょっと貴族様!さすがに困りますぜ!! ………ッ!?あァーーやばい!!! その剣を手に持っちゃだめだァーーーーーッ!!!」 ルイズを止めようと追いかけて姿を現した店主が ルイズがその剣を手に取ろうとした瞬間、 大声で静止の声をあげた。 しかし…………時既に遅し!! 店主が声を上げたときには ルイズはその剣を『引き抜いていた』! 店主に続き音石もデルフリンガーを手に ルイズを追いかけたが音石はルイズの顔を見た瞬間息を呑んだ その顔はまるで別人で、目には殺気が充満していた。 ルイズはその剣を手に振り返り 音石に向かってある言葉をささやいた。 「お前の命………、貰い受ける」 その剣にはデルフリンガーのように名前があった。 その名はアヌビス それ以上でもそれ以下でもなく それがその剣の名前だった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1629.html
「……ってわけだ」 一通り話したが、もちろん手紙と元使い魔、虚無の事は伏せてある。 「小さい小さいと思っていたけど…ルイズも大きくなったのね」 感慨深げに言うのは黙って聞いていたカトレアだ。 もちろん、当人からしたら、まだ十分小さい域に入っているのだが、知らない間に紆余曲折を経て成長している事は嬉しいようだ。 しかしまぁ、それを見ているプロシュートはこの目の前の人物がその口から聞くまでルイズの姉などとは思ってはいなかった。 ハッキリ言えばマジに貴族か?と思ったぐらいだ。偏見っちゃあ偏見なのだが、今まで出会った貴族があんなのばかりだから仕方ない。 穏やかそうな顔立ち、雰囲気、これでもかと言わんばかりに振りまく優しさオーラ。後、結構ある胸。 似てるのは髪の色と目の色ぐらいであろう。メローネが居たらベイビィ・フェイスで遺伝子情報を解析させてるとこだ。 「これから、どうなさるおつもりですか?」 そんな事考えていると、どこぞの聖人かと思いたくなるぐらいの微笑を向けられそう聞かれた。 元ギャング的にこんなナマモノ見た事無いから仕方ない。 普通の状況なら一発説教かましに行くついでに学院にINしてもよかったが、この場合少し違った。 アルビオンへの侵攻計画があるかもしれないと聞いた。つまり戦争だ。 あのルイズの事。まず自身も参戦すると言い張る事は確実だ。 グレイトフル・デッドの能力を知っている以上、自分も付き合わされる事も確実だろう。 使い魔ではなくなったからには、付き合う義理も無くなったのだが、下手に能力が上の方にでも知れたら洒落にもならない。 半径200メートルの無差別老化能力。間違いなく単独最前線行きだ。 いくら射程が長いといっても、軍を相手にできると思っている程能力を過信していない。 魔法の射程よりは遥かに長いが、罠や砲などがあってはどうしようもないし、スデにガンダールヴではない。支えれたとしても局所的なものだろう。 仮にグレイトフル・デッドがトリステインの勝因に繋がったとしても、その後に待っているものが問題だ。 あの姫様はそう思っていなくても、周りの貴族どもはナニをするか分かったもんではない。 魔法という自らの特権を上回る力を持つ平民の存在。普通に考えれば暗殺対象になる事間違いなしだ。 ここに来た直後なら、まだそれでも国一つ相手にする気にはなれただろうが、現在においてはその認識を改めさせられている。 その原因に直結しているのが、ワルドだ。 対生物なら、例外なく発動する老化能力。それが全く…直触りすら通用しなかった遍在。 ムカつく相手だが、ある意味感謝すらしている部分もある。 死にかけはしたものの、そういうモノがある事を早いうちに知れたからだ。 相性が悪い。それも最悪にだ。スタンド能力ならワルドにだけ注意すればいいが、魔法ならそうはいかない。 同じ魔法を使えるヤツは必ず居る。不特定多数のそういうヤツに狙われたのでは確実にこちらが不利だ。 ギアッチョを相手にするよなものである。 使われるだけ使われて、必要が無くなれば冷遇され始末されるというのは、パッショーネに属していた時の二の舞だ。それだけは避けねばならない。 何より死んでいった仲間にどの面下げて会えたもんか分かったもんではない。 暗殺チーム全体の誇りに関わる事なのだ。 そういう事から、即返答するという事には至っていない。逃げるという選択肢は浮かんでいないあたりはさすがというべきか。 「まあ、まあ、まあ、まあまあ」 そう言ってカトレアが近付いてくる。何だと思いつつ何時もの顔でそれを見ていると、じっと見つめられた。 元ギャングの仏頂面と、見る人が見たら女神かと言いたくなるような微笑。極めて対照的だが、変わらない表情でブッ飛ぶような事を言われた。 「あなた、ルイズの恋人ね?」 オーケーちょっと待て。スタンド攻撃か。トーキング・ヘッドか。と何故か遭遇した事の無いスタンドとその能力が頭に浮かんだ程だ。 「ケンカでもしたのね。だからルイズのとこに行きたくないんでしょ」 楽しそうにそう言っているが、言われた方はたまったもんではない。 「…どこでそう思ったのか知らねーが、違う」 今なら、アンリエッタがルイズの部屋を訪れた時、同じような事を言われて人を『生物』呼ばわりしてくれた気持ちが分かる。 「腐れ縁みてーなもんで、面倒見てただけだ」 プロシュートにとってルイズの扱いは、多少なりとも成長を見せたとは言え未だペッシと同程度なのである。 まぁそのペッシと同程度という事が結構スゴイ事なのだが。 「あらあら、ごめんなさいね。わたし、すぐ間違えるのよ。気にしないで」 そう言いながら笑っているが、マジにそう思ったかは不明である。 なんせ常に同じような微笑を振りまいているのだ。リゾットの無表情とは対照的だが、その心中を正確に読むのがディ・モールト難しい。 ハッキリ言えば苦手なタイプに属するのだが、嫌な感じはしない。ごく僅かな例外を除いて人間こういうタイプを嫌うヤツは少ない。それは元ギャングとて同じ事だ。 まぁだからと言ってアテがあるわけではないのだが。 最悪、『魅惑の妖精亭』という選択肢もあったが、それはマジに最後の手だ。 あれもあれなりに結構目立つ。現在チップレース、歴代最高記録保持者に君臨しているのだ。 何よりあの一件があってからスカロンの側にはあまり居たいものではない。悪いタイプではないとは思うが、生理的にダメだ。ちょっとしたトラウマも受けているし。 思案を巡らせ、オスマンあたりに言えば何とかなるかもしれんという結論に達しかけたが、次のカトレアの言葉にそれを捨てる事になった。 「そうだわ…行く場所が無いなら、いい事があるの。あなたさえよければだけど」 さて、こちら魔法学院だ。 あれから数日経った今、ザ・ニュー使い魔こと才人は、絶好調ッ!誰もぼくを止めることはできないッ!!という具合に結構巧くやっていた。 トライアングルクラスを倒したからには、先代ほどではないにしろ、それなりに一目置かれるようになっている。 もっとも、当の本人にとっては、その先代の事が気になっていたりするのだが。 「なあ、デルフ。お前が言ってた兄貴ってどんなやつだったんだ?」 「んー、そうだな。一言で言うなら…かっこいいな」 二重ショック!剣にまでそう言われるという事は、本気でそうなんだろうと思ったが、もう一つのショックの理由はルイズにある。 あの後、ルイズにもどういうやつなのか聞いたのだが 「かか、関係無いじゃない!今の使い魔は、あ、あんたなんだから!」 という具合に、少しばかり顔を赤くさせて返答させられたのだ。 つまるところ、二重ショックの原因は『剣であるデルフが言うんだから間違いなくかっこいい』『かっこいいからルイズがそいつの事が好きだった』 と、まぁそう判断した。前者は間違ってはいないが、後者は少しばかり違う。 プロシュートの溢れんばかりの兄貴オーラのおかげでルイズ自身、好きというよりマジに『怒ると怖いが少し年が上の頼れるお兄さン』的存在に落ち着いていた。 要はすぐ上の姉、カトレアに対してのものと同じような感情である。まぁそれで他人にもって行かれたくないというとこがあった。 だからと言って、本人の前ではそうならなかったり、人から聞かれても、性格的に認めたくないのでその辺り勘違いされる要因だ。 当然、そんな事知ったこっちゃあない二代目からすれば凹ませる原因になっていたりする。 特に何があったっつーわけでもないが、あの決闘の時に自分をかばうようにして見せた姿を見た時ゲージが振り切れたっぽい。 このルイズ、比率で言うなれば4 6の割合でデレが優勢だ。言うなれば惚れ才人か。惚れ薬要らずである。 もっとも、当人の性格からして結構流されやすかったりするから、例によってキュルケに誘惑された時なぞかなりグラついてた。 さっそく手ぇ出す辺りさすがというべきか、過去は振り返らないタイプというかアレなのだが。 なんせ、『おっぱい星人』に属する彼からして、あのボリュームは凄まじいものがあったからだッ! 容姿のタイプ的にはルイズ、属性的にはキュルケ。 もち、ルイズがキュルケの部屋に飛び込むという形でケリがついたのだが、当然、説教タイムである。 鞭片手にプロシュート仕込の説教が開始されたが、本職には遠く及ばないのでいかんせん迫力が足りない。 「いい!?わたしが怒ってるのはね!あ、あんたがツェルプストーの女に尻尾なんて振ったからよ!サイト! そりゃあ、たたた、確かに、キュルケは…あ、あるわよ、むむ、胸とか!わたしだってスゴイと思う!」 こんな具合に、キュルケのアレと自分のアレを比較し怒ってんだか、絶望してるんだか分からないような声なので、どっちかというと可愛いというべきか。 そんな感じなので、当人全く応えていない。むしろ生暖かい目でそれを見ていた。 「平和だねー。兄貴が居た時じゃ考えられないね」 と、暇そうにしているデルフが言ったとおり、先代が居た頃に比べてかなり緩い雰囲気だが、両名とも何だかんだでそれなりに上手くやっているようである。 ちなみに、ゼロ戦だが現在コルベールが管理しているが、外装は修復されているため、機銃弾は装填されていないもののほぼ新品同然である。 それを見た才人が、この前イタリアで見付かったゼロ戦が何故にここにあるのかと聞いたのだが、こっちにあったものだと説明され驚いた。 そして、その持ち主の子孫がここに居ると聞いてさらにブッ飛んだ。 ご存知シエスタだが、曽祖父と同じ国から来たという事で、結構話をしたりするようになった。 才人としても同じタイプのスタンド…もとい血統という事で、良好な感じで互いに接している。 「やっぱり、ひいおじいちゃんは『日本』ってとこから来たんですね…」 ある時そう言ったのだが、心なしか声の調子が重い。さすがにそれに気付いたのか、どうしたのかと聞いたが、やっぱりちょっと暗い。 首から下げていた飾りを手に持つと、静かに話し始めた。 「これ、プロシュートさんっていう人に頂いたんです」 見せて貰うと裏面に、文字が刻まれていた。読めないが文体そのものは見覚えがある。 「ゼロ戦がサイトさんの世界に戻ったって事は、プロシュートさんは戻れたんですね」 まぁ戻れたどころか、目の前の少年とスデに遭遇しているのだが、そんな事はシエスタは知らないし、才人もあの『マシーン』がそれだとは知らない。 「…あのさ、どういうヤツだったのか聞かせてくれないか?」 度々出てくる前任者のが出てきたのでめちゃ興味はある。ルイズに聞いてもアレだったし、小太りに聞いたらビビって話したがらないし何も聞けていないからだ。 「…自分の向かう道を貫ける人…ってところですかね。凄い人でしたよ、なんていうか周りの人が引っ張られるぐらいに」 どこか遠くを見て言うシエスタに、さすがにどこかヌケていると評判の才人も気付いた。 「何回も助けて貰ってたのに、わたしったら何も恩返しできなくて…」 「でも、もう帰ったんだろ?それじゃあ…」 その続きを言う前に、シエスタが言う。 「わたしが、戻ってきてくれると思って待ってるだけですから」 それだけ言うと、元の明るい顔になり、その場を離れ残ったのは才人一人になった。 心中かなり複雑である。シエスタの話を聞く限り、ただかっこいいヤツというわけではない。 ただ、ぶっちゃけ贔屓目に見ても可愛い範疇に入る少女二人に好意を向けられても(一人はまぁちょっと違うが)平然と戻れるというとこが癪に障った。 「……ムカつくな」 非常に正直な感想で、万が一会ったら一発ブン殴ってやろうかと思ったぐらいにだ。 まぁ、自分も帰る時が来るかもしれない、というのは完全スルーしているあたりは、らしいといえばらしい。 再び場所が移り、こちら実家だ。 デカイ屋敷という事だけあって、多数の使用人が働いているのだが、黒スーツに眼鏡をかけた元暗殺者がそこに混じっていた。 スーツ姿がこれ以上なく似合うだけあって非常に馴染んでいる。ちなみに眼鏡は伊達だ。 主な仕事はカトレアが飼う動物、特に熊、蛇、虎などの一般的に言う猛獣系の世話だ。 長年勤めてきた使用人ですら、ちと危ない範囲に入るのだが、平然とそれをやるので一発採用相成った。 何故にそれができるかというと、誰も見てない所でグレイトフル・デッドを叩き込んだからだ。 負けた方が舎弟になるギャング世界の掟。動物の世界でもまぁ似たようなモンである。 ペッシは進んでああなった方だが、年が近いギアッチョとやりあって負けているため、そっちにも頭が上がらない。 能力的に言えばビーチ・ボーイならホワイト・アルバムの装甲を突破できるのだが、性格的な差が出た結果といえよう。 カトレアの誘いを受けた理由としては、ここが公爵家というのが最大の理由だろう。 王室に近い立場だけあって、情報がかなり流れてくる。 アルビオンに侵攻が本当に行われるかどうかにしても、情報はどうしても欲しい。 もちろん、使用人に流れてくる話など大したものがあるとは思えないが、そこはカトレアから聞き出せるので問題ない。 というか、動物の世話なぞほとんどついでである。 初っ端からギャング的行動をモロに叩き込んだので、世話なぞすぐ終わり時間を持て余している。 字が読めないという事で、空いた時間カトレア直々に他に内密に勉強会が始まるのだが 動物に囲まれた中、かなりファンシーな雰囲気でやっているので、結構居心地は悪い。 教えている方は、結構楽しそうなので問題無いだろうが、教えられている方は 猫とか子犬とかが脚の上にのったりするので、ちとアレだが受けている立場なのであまり何も言えない。 「…オレも結構ヤキが回ったな」 メローネあたりが見たら何を言われるか分かったもんではない。 そう呟くと、膝の上の猫を少し触って本に目を向けた。 プロシュート兄貴―ザ・ニュー職場! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/780.html
「それほんと?」 ルイズは疑わしげにジョニィを見つめながら言った。 あの後、ジョニィは授業の終わったルイズの部屋へ連れて行かれ、お互いの情報をある程度交換した。 ───もちろん『遺体』やスタンドの話はしなかったのだが。 彼女、ルイズが言うにはここはハルケギニアのトリステイン魔法学院で今いる場所はトリステイン魔法学院の寮内のルイズの部屋。 学院の生徒は二年生に進級する際、『使い魔』を召喚する。 自分はルイズにその『使い魔』として1890年のアメリカ・ミシガン湖畔から召喚されたらしい。 (なんか…すごい話だ…すごい出来た話で…でも…かなり頭がイカれてる…) いつぞやの地質学博士のときと同じようなことを思ったジョニィだったが さすがに空を飛ぶドラゴンやグリフォン、そして空に輝く二つの月を見て信じざるをえなかった。 (ここは本当に…僕がいた世界じゃないのか…?) 「僕が嘘をつくメリットが無い」 一方ルイズは目の前で夜食用のパンを食べる男にますます疑いの眼差しを向ける。 それもそうだ。 彼は昨日までアメリカという場所で世界中が注目する大陸横断レースに参加していたと言うのだ。 そんな国もレースも聞いたことがない。 この平民は自分を何も知らない貴族だと思って嘘をついているのだろうか。 「信じられないわ」 「僕だって信じられない」 「別の世界ってどういうこと?」 「魔法使いなんてイカレたことを言いだす人間は…変態地質学者くらいだと思う。月だって一つしかない」 そう言ってジョニィは窓から見える二つの月を指差す。 SBRレースでは何度も野宿を体験した。 もちろん雨や雪の日もあったが夜には美しい月が見える日も多かった。 そしてその月を一緒に見ていた友人のことを思い出す。 (もう夜になってしまった…ジャイロ…君は…大丈夫だろうか?) そう思うと急に心配になってきた。ゴールが近づくにつれて大統領の刺客の攻撃も執拗になっている。 黄金の回転で強化されたスタンドを持つ今、足手まといにはならないだろう。 「それで…君には悪いんだけど僕を元の世界に帰してほしい。使い魔は他を当たってくれ」 「無理よ。一度契約を結んだ使い魔を元の世界に戻す魔法なんて無いわ」 「なにそれ!?勝手に召喚しておいて無理ッ!?」 「無理なものは無理なのよ」 その言葉にジョニィはガックリとうなだれる。 このままでは遺体を集めることも回転の技術を学ぶことも出来ない。 だがこのままここにいるわけにもいかない。 (何が何でもレースに戻って大統領やDIOより先に遺体を全て集めたい…) そう考えれば…元の世界に戻る方法を探すのにこの学院という場所はベストだろう。 情報も入ってくるだろうし、文献を探せば帰る方法が見つかるかもしれない。 (立ち止まるわけにはいかない…ここで立ち止まれば僕の心は再び死ぬ) 「…わかった」 「え?」 「だから君の使い魔だっけ?なるよ…。でも帰る方法が見つかったら僕はすぐに帰らせてもらうぜ」 「口の利き方がなってないわ。『なんなりとお申しつけください、ご主人様』でしょ?」 「………」 頭にタスクで風穴開けてやろうかと、少し考えるジョニィであった。 「それで、使い魔って何するんだい?」 「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ。…でも、あんたじゃ無理みたいね。わたし、何も見えないもん」 「他は?」 「秘薬を見つけたり、あと、主人を敵から守るって役目もあるわ。これが一番重要なんだけど、あんたじゃ無理ね」 そう言ってルイズはジョニィの脚を見る。 直接聞いたわけではないがルイズもジョニィの脚が動かないことには気付いている。 魔法が使えない平民が戦闘中に動けないようでは戦うことなんて無理!とルイズは考えていた。 「だからあんたに出来そうなことをやらせてあげるわ。炊事、洗濯、その他雑用」 「まあ…いいさ」 その言葉を肯定と受け取ったルイズは小さく欠伸をした。 「さてと、しゃべったら眠くなっちゃったわ」 「で、僕はどこで寝ればいいんだ?」 ルイズが指差したのは床だった。 「野宿には慣れてるけど…僕は犬や猫じゃあないんだ」 「仕方ないでしょ。ベットは一つしかないんだから」 そう言うとルイズは一枚毛布を投げてよこした。 それから何にも言ってないのに勝手に衣服を脱ぎ始め… 「それ明日になったら洗濯しといて」 …そう言ってパンティやキャミソールを投げてよこした。 ───あなたならどうする?最高だった…… 「最高じゃあないッ!おまえ何してるんだルイズーーッ!!洗濯はともかく理由を言えーーーッ!!」 驚くジョニィをルイズはきょとんとして見る。 「寝るから着替えるのよ」 「き、君は男の前で着替えてもなんとも思わないのかッ!?」 「男?誰が?あんたは使い魔じゃない」 そう言ってルイズがぱちんと指を弾くと部屋のランプが消えた。 ジョニィはパンティやキャミソールを部屋の隅に押しやるとそのまま毛布を被った。 寝袋を取ってこようかとも考えたが馬舎まで行く気力も尽きた。 ───ジャイロ、君は女は禍を運んでくると言ってたけど…その通りだったよ… To Be Continued =>