約 1,076,923 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1066.html
本来は良識の府の象徴的存在としてあるべきなのだが、トリステイン魔法学院の学院長室は、部屋の主と同じくどこまでも軽かった。 秘書が本の整理をすれば背筋に指を這わせ、秘書がかがめばネズミを走らせ、秘書が横にいれば臀部へと手が伸び、三度に一度秘書からの反撃が受ける。 このように乱れた部屋が権威を持とうはずもないのだが、今日の学院長室は気まずくも重い雰囲気に包まれていた。 原因はただ一つ。「遠見の鏡」に映し出された平民の女だ。 後ろを振り返らず、すれ違う者の目を気にもせず、全力で手と足を振り、廊下を真っ直ぐに駆けていく。 「オールド・オスマン」 「うむ」 「あの平民、逃げてしまいましたが……」 「うむ」 「あの逃げ足! そして躊躇の無さ! 主人への気遣い皆無! あんな使い魔見たことない!」 「うむむ……」 真面目と不真面目、ハゲとヒゲ、好一対の二人は苦い顔を見合わせた。 「まさかあそこまでアレな使い魔とは予想外でした。やはり参加者はある程度絞っていくべきかと」 「まぁ待て。結論を出すのはまだ早かろう。あの使い魔にしても何かしらの考えがあってやっておることかもしれん」 万事に拘泥しないオールド・オスマン個人としては、なるだけ門戸を広く開いておきたい。 だが使い魔の自覚が無いただの平民を晒し者にしては、使い魔本人も主のメイジも気の毒だろう。 しかし開始前から爪弾きにするというのも問題だ。どうすべきか、慎重に事を決める必要があった。 「平民の使い魔はもう一人いたはずじゃな。それを見て決めるのもよかろう」 「はあ」 「それにじゃ。君の意見を汲むとすれば総合的な評価をつけることになる。臆病さを打ち消すだけの長所があれば問題あるまい」 「なるほど」 「私としても実現させたいと思っておるよ。君の提案した『使い魔大品評会』を」 お父さま、今までお世話になりました。 お母さま、わたしの死体に怒りをぶつけるのはやめてくださいね。 ちいねえさま、悲しませてごめんなさい。 もう一方姉さまがいたような気もするけど、たぶん気のせい。そうですよね、エレオノール姉さま。 ……ここまで悲観的なこと考えておいてなんだけど、あれ当たったからって死にゃしないわよね。 医務室行きは確定だろうけど。あーあ、秘薬って高いのよね。顔に傷でも残ったら嫌だから使わなきゃならないし。 以上、時間にして一秒半。あ、今二秒になった。 人間の潜在能力というのは大したもので、ワルキューレがわたしに振り下ろした拳を見ながらここまで色々と考えることができた。 殴られる覚悟を決めて、その百倍はグェスをぶん殴ることも決めて、わたしは頬を差し出したけど、今日のわたしは良くも悪くも全てが裏目で、望んでもいない助けが入った。 わたしの頬と青銅で作られた拳の間に一枚の掌が差し込まれた。 人を殴り飛ばそうとするだけの勢いがあったはずなのに、ぴたりその場で静止する。 「勇気と無謀とは似て非なるもの」 厚く、傷だらけで、でもほんのりとした暖かさを持つ掌の持ち主は……。 「蚤の無謀をとるか、人の勇気をとるか。当人次第じゃな」 ぺティ! いきなりのお説教にムカッときたものの、どうやらその相手はわたしじゃなかったらしい。 ぺティの目は食堂の一隅を占める大釜へと向けられていた。 わたしは退いた。殴られる気こそあれ、退く気なんてさらさらなかったのに、それでも一歩退いた。 半ば以上はよろけていたと思う。これを認めるのはとんでもなく悔しいんだけど、わたしを襲ったワルキューレではなく、助けてくれたぺティに圧されていた。 よろけ、転びかけたところを後ろの誰かが受け止めてくれた。 「老師、よろしくお願いします」 その誰かは見なくても分かった。あんたまた人の見せ場とる気? かわいい女の子に容赦しないくらいだから、老人のぺティにだって容赦するわけがない。 ワルキューレの拳がぶんぶん振るわれる。当たれば死ぬ。嘘。でも大怪我はするでしょ。 そんな攻撃が降りそそぐ中、ぺティのフットワークは羽根のよう。すげー。 その左手には、たぶん荷運びしていた中から失敬してきたんだろう、ワインが一瓶握られていた。 右手には、いつも着ている使い古したコートが提げられている。 そのコートで暴れる牛をあしらうようにして、左足で一撃、ワルキューレの足首へ蹴りこんだ。 さらに避けたところでもう一撃、椅子の上から着地しなに鋭く蹴り刻み、青銅の足首が大きく変形する。 流れるように三撃目が決まり、青銅の足首がポキリといった。 さっすが修行者、やってくれるわ。ギャラリー含むわたし、歓声。 「ふむ。あきらめは悪いようじゃな」 釜の中でくぐもった詠唱が乱反射している。ぺティを取り囲み、ワルキューレが全部で三体練成された。 ギャラリー含むわたし、ブーイング。修行者だからって平民相手にやりすぎでしょ。 周囲が騒ぐ中、当のぺティと、わたしの後ろの誰かさんは、慌てる様子も見せない。 ぺティにいたっては右手のワインのコルクを飛ばし、喉を鳴らして飲む始末。落ち着いてるっていうか混乱してるのかしら、ひょっとして。 ギーシュがワルキューレをけしかけようとした時には、すでにワインが一瓶空になっていた。速っ。 あーあ、あの飲み方は悪酔いするわよ。殴られて痛くて、起きたら頭も痛いって最悪じゃない。 「それではいくかの」 行くってどこに行くのよ。酒飲みの行くとこっていえば一つしかないけど。 ぺティは大きく息を吸い込んだ。大きく大きく吸い込んだ。どこまで吸うの? 吸った分だけ吐き出した。大きく大きく吐き出した。吐きすぎじゃない? 内臓出るわよ? ぺティの呼吸はどこまでも大きくなる。息遣いがここまで聞こえてくる。変なの。 その息遣いに合わせて口から赤い何かが出てきて、うええっ内臓……いや内臓じゃない。内臓は青銅を切断しない。濡れてる……液体? ワイン? 口から出てきた赤い液体が……っていうと血みたいね。 ワインか血か分からない何かが、形を変え、矢継ぎ早に噴き出された。見た目はともかく、威力に関しては血やワインなんてものじゃない。 ゴーレムの末端を狙い、液状の円盤が次々に命中した。足首を断ち切られ転ぶもの、頭を削り取られるもの、腕が落ちるもの。 あらゆる方向へ飛び、かといって狙いは過たず、真紅の散弾がワルキューレを斬りさいなむ。 直線で飛ぶならともかく、あきらかに不自然な軌道を描くものもある不思議。これ、魔法? ギャラリーは喝采を通り越して呆然、ただ一人空気の読めない誰かさんだけが拍手を送る。 もう這いずる事すらできないくらいズタボロにされたワルキューレを避け、ぺティが大釜へと進み出た。 足を踏み出すたび、手を差し伸べるたび、床に飛び散った赤い飛沫がダンスを踊る。何これ。 どうやら魔法ってことは間違いないみたいだけど、原理はこれっぽっちも分からない。 釜の底に指をかけ、返した。息を呑むギャラリー含むわたし。 重そうな釜を軽々とひっくり返したから驚いたわけじゃない。 中のギーシュが幽鬼のように痩せこけていたからというわけでもない。 わたし達が驚いた理由は、釜の中にいたのがギーシュだけじゃなかったから。 二体のワルキューレがギーシュの両脇、一体だけ突出したワルキューレが小脇に剣を携えていた。 その剣を前へ突き出し、ギャラリーの呑んだ息が悲鳴として吐き出されんとしたその時。 ぺティが、ぺティのコートが、ゆらめいた。その動きは、例えるとしたら意地の悪い蛇。 蛇が、その身を縮ませ、思い切り伸ばす。反動でぺティは縦に一回転、横に半回転、半秒ほどで天井近くに跳び上がった。 ワルキューレの剣はコートを突き刺し、なぜか抜けなくなったみたいでもがいているけど、誰もそちらは見ていない。 上。滞空速度は異常なほどに遅い。混乱するギャラリーが身を乗り出し、輪をかけて混乱しているはずのギーシュが撃墜を命じる時間は充分すぎるほどあった。 左からワルキューレ。右からも同じタイミングでワルキューレ。 迎撃されることを知りつつ、正しい放物線を描いてただ前へ落ち、左右から襲いくるワルキューレに向けてそれぞれ一本ずつ脚を伸ばした。 打撃をくわえようって蹴りじゃない。その証拠にワルキューレは削れもへこみもしていていない。 ぺティの脚はあくまでも遮蔽物を排除するために伸びていた。 二体のワルキューレに挟まれる形で落ちてきたぺティが、両の脚でワルキューレを押しのけた。 ということは、つまり、ギーシュは丸裸でぺティの前に身を晒すことになる。 ワルキューレに脚をかけたままで、十字に組まれた手刀がギーシュの喉元へと突きつけられた。 なんて早業! 始まった、と思った次の瞬間にはもう終わっている。まるで稲妻ね。 壁に押し付けられた格好でギーシュは動けない。動いてみようがない。 怒りのためか、それとも焦りのためか。青ざめていた顔に赤みが差してきた。そしてこけた頬に柔らかな肉が……ってええええっ!? 充血し、濁っていた目に一条の光が差した。だらしなく半開きになっていた口元に力が戻る。 視線はしっかりと定まり、くたびれていた髪は艶やかさを取り戻し、一匹の幽鬼がわたし達の知るギーシュ・ド・グラモンになった。 モンモランシーは驚き、戸惑い、そこから喜び、喜びを隠すように口を一文字に引き結んだ。 彼氏彼女で百面相してりゃ世話無いわ。 「もういいようじゃな、お若いの」 右のワルキューレを蹴り、その反動で左を蹴り、誰かさんの隣に着地した。悔しいがお見事。 支えを失ったギーシュは壁を背にして尻餅をついた。 モンモランシーは「馬鹿馬鹿大馬鹿」とギーシュを叩く。その瞳からは滂沱と流れる涙がって見せ付けんじゃないわよ。 「お嬢様、そうむやみに殴っては頭が馬鹿になってしまいます。ゲ……ゲ」 そう思うのなら止めなさいよ。だいたい馬鹿に関してはもう遅いわよね。 「よかった、よかった。仲直りできた。ねっ」 ……誰? 「お疲れ様でした老師」 よくよく考えてみると、あんた何もしてないじゃない。 いつの間にか殺伐だった空気が微笑ましいそれに変わり、ギャラリーはなぜか拍手。わたしも拍手。 確実に見せ場をとられた。絶対に気のせいじゃない。ちょっと涙目でわたしも拍手。グェス何処行った。見つけたら皮剥いでやる。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1230.html
疑念! 意思の在り処 ゼロ戦の周囲を竜騎士隊が固めて飛ぶ。弾切れのゼロ戦にとってはありがたい護衛だ。 しばらくするとスタープラチナの目が前方にいる十数匹の敵竜騎士を発見した。 迂回できそうなので承太郎はゼロ戦を傾け方向を変える。 すると他の竜騎士もゼロ戦を囲むように軌道を変え、戦闘の竜騎士が速度を調節してゼロ戦に接近してきた。 承太郎は伝令用の小さな黒板にスタープラチナで素早く文字を書いてそれを見せる。 『前方に竜十数騎確認、回避する』 彼は慌てて前方を確認するが敵影など見つけられなかった。 だが『ひこうき』という奇妙な風のマジックアイテムを使う彼等は、多分自分達では解らない何らかの方法で敵の存在を知りえたのだろう。 ゼロ戦と竜騎士隊は順調に敵を回避しながらダータルネスへと接近する。 しかしダータルネスまで後少しというところで、承太郎はそれを発見した。 それは百騎を越えようかという竜騎士の群れ。 そして地図につけられた幻影作戦目的地は、百の竜の群れの目前であった。 つまり発見される前提で百の竜の前に飛び出さなければならない。 百の竜の存在を承太郎は小さい黒板に書いて皆に教える。 すると竜騎士隊は互いの顔を見てはうなずき合い、百の竜の待つ空へと突っ込む。 「えっ!? じょ、ジョータロー! 大変、みんなが……!」 「野郎……そういう、事か。……何が護衛だ、あいつ等は……捨て駒だ」 「捨て……? ま、まさか、囮になって私達を……」 「……行くぜ、ルイズ。詠唱の準備に入れ」 「ジョータロー!? 本気!?」 竜騎士隊を盾にするようにしてゼロ戦を飛行させながら、承太郎は奇妙な感覚に陥った。 ――これは本当に、俺が望んだ戦いなのか? 味方の竜騎士が敵の竜騎士の注意を引く。 そして複数の竜騎士から魔法を受けて墜落し、またはゼロ戦への攻撃を自ら受けて墜落し、彼等は若い命をアルビオンの空に散らしていく。 ――こうなる事は解っていたはずだ。ウェールズの仇を討つための戦争なんだからな。 承太郎はスタープラチナで座席の下のレバーを引っ張った。 コルベールからもらった説明書の内容が正しければ、これで速度が増し敵を振り切れる。 尾翼下の胴体の外板がはずれて鉄の筒が現れると、そこから青白い炎が噴出する。 炎の使い手コルベールが開発したロケット推進機関だ。 ――仇を討つなら俺一人でアルビオンに忍び込みクロムウェルを暗殺すればいい。 ゼロ戦の加速に敵の竜騎士達は驚愕し、追いつく事も魔法の狙いをつける事も不可能。 これで作戦は成功したも同然だろう、竜騎士隊の犠牲を払って。 ――なぜ俺は異世界の戦争なんかに首を突っ込んでいる? ゼロ戦は計器速度で450ノット近い速度を捻り出して飛び続ける。 敵を振り切った今、ダータルネスまで障害は無い。 ――この世界で戦う理由を見つけた途端、俺はそれをしなくてはならないと思った。 ウェールズを殺し、そして死後までも彼の生命と名誉をもてあそんだレコン・キスタを、確かに承太郎は許せないし怒りも感じている。 だが何かが違う。その怒りが何かに利用されている気がする。 ダータネルスの港に到着し、船を係留するための桟橋が多数見えてきた。 「上昇して。虚無の魔法を使うわ」 「…………」 承太郎は無言でルイズの指示に従い、ゼロ戦を操縦する。 高度を下げて減速し、風防を開けてルイズが詠唱を開始すると、承太郎は先程まで考えていた疑問が薄らいでいくのを感じた。 ルイズの虚無の詠唱を聞いていると、なぜか心が安らぐ。 作戦がうまくいきそうだから安心しているのだろうか? 仲間を――犠牲にしたのに。 わずかな疑心が、安らぎを拒絶する。 エクスプロージョン。ディスペルマジック。 あの時に感じた高揚感や信頼感などは、今感じているこの感情は、まさか。 詠唱が完成する。 描きたい光景を強く心に思い描くべし。 なんとなれば、詠唱者は、空をも作り出すだろう。 虚無の魔法イリュージョンにより雲が掻き消え、空に幻影が描かれ始める。 それは巨大な戦列艦の群れ。 ここから何百キロメイルも離れた場所にいるはずのトリステイン侵攻艦隊の姿。 ロサイスに向かっていたアルビオン艦隊は、ダータルネス方面からの急便の知らせを聞き全軍を反転させた。 ヴュンセンタール号の作戦会議室で将軍は報告を受け取り、もぬけの殻となったロサイスへ全軍を全速前進させた。 しかし上陸が成功しても苦しい戦いになるだろう、アルビオンには手つかずの五万の軍隊が眠っているのだ。 帰還中のゼロ戦の中には沈黙が流れていた。 竜騎士隊の犠牲を目の当たりにしてルイズは落ち込んでいたが、きっと承太郎も同じ気持ちだろうと思い無言の彼を気遣っていた。 だが承太郎は、確かに彼等の犠牲を憂いてはいたものの、ずっと考え事をしていた。 『使い魔として契約していない竜は気難しく、乗りこなすのが一番難しい幻獣なんだ。 乗り手の腕、魔力、頭のよさまで見抜いて乗り手を選ぶんだぜ』 先日、竜騎士隊の一人が言った言葉を思い出す。 つまり使い魔として契約すれば、竜は無条件で主を乗り手として選ぶ。 タバサのシルフィードもとても従順で、タバサだけでなく自分達も平気で乗せる。 使い魔とは、そういうものなのだろうか。 だとしたら自分はどうなのか? 伝説の使い魔ガンダールヴのルーンを刻まれた自分は? この世界で戦うと決めたのは本当に自分の意思か? この世界でウェールズの仇を討つと決めたのは本当に自分の意思か? この世界でルイズを守ると決めたのも本当に自分の意思なのだろうか? 自分の怒りは悲しみは、使い魔のルーンに介入されてしまっているのではないか。 脳味噌が頭から左手に移ったような気分になり、承太郎はタバコを点けた。 そういえば最近あまり吸っていなかった、ルイズが嫌がるからだ。 「ちょっと、こんな所で吸わないでよ。煙がこもるじゃない」 「……やかましい、黙ってろ」 ルイズを気遣ってタバコを吸うのをやめようかと一瞬考えたのは、本当に自分の意思か? 気分転換のために吸っているはずのタバコが、やけに不味く感じられた。 自分の意思の在り処はどこなのだろう? 頭か、胸か、それとも左手か。 一匹の風竜がアルビオンの空を飛んでいた。 黒衣の男を乗せたその竜は、何かを発見してそれを主に教えよう小さく鳴く。 だが竜は人語を話せない。 伝説の韻竜でもなければ、人間との完全な対話は不可能だ。 だが黒衣の彼は風竜の頭を撫でるとを森の中に降下させ、そこに倒れている竜騎士隊を発見する。 着ている服装を見るにアルビオン軍ではないようだが、だとするとトリステインかゲルマニアの連中だろうか? なぜこんな場所に? 主から連合軍に協力するよう言われているし、見捨てていくのも寝覚めが悪い。 人間十名は全員重傷、風竜は一匹だけ無事で擦り傷がある程度だが気絶している。 残る九匹の風竜は全部死んでいた。死因は魔法で受けた傷や落下した衝撃。 そして生き残った十人の騎士達が死ぬのは時間の問題であり、水のスクウェアメイジが貴重な秘薬を使っても助かりそうにない奴もいる。だが。 「死んでいないのなら……問題なく『治す』!」 黒衣の男は、手袋をつけた両手からさらに『腕』を出して、竜騎士隊の騎士と竜を次々と触っていった。 「さて、こいつ等が目を覚ましたら……トリステイン軍の旗艦にでも行くか。 ガンダールヴが承太郎さんだったとして、どうすっかな~?」 黒衣の男は、ハルケギニアの人間では決してありえない『個性的』な髪型だった。 第六章 贖罪の炎赤石 完 ┌―――――――┘\ │To Be Continued └―――――――┐/
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/721.html
予定の時間より少々時間をかけて、二人は城下町に辿り着いていた。 「ここが『ブルドンネ街』。トリステインで一番大きな通りよ」 「ふむ。なかなか活気があるのう」 地図を片手に歩くルイズと、その後ろをついて歩くジョセフ。 「……何回目じゃろか、このやり取り」 「うっさいわね!」 二人は豪快に道に迷っていた。 「大体武器屋なんて行った事ないんだもの! あっれおかしいなあ、この通りからこの裏通りに行けばあるはずじゃないの!?」 地図と周囲の風景を見合わせたり、地図を傾けたり回したりして髪をわしゃわしゃと掻くルイズ。 その様子を見ているジョセフは、ふむ、と顎を撫ぜて決断を下す。 結局この前見せられなかった、「お見せしたいもの」を見せるチャンスだ。 ハーミットパープルを見せようとした試みは、ルイズが癇癪起こして失敗した。 どうしてそれで三ヶ月食事を抜かれたのか、どうにも納得いかないが。 「ええとじゃなルイズ、わしにいい方法がある。ちょっとこっちの空き地に来てくれんか」 怪訝そうな顔をするものの、ルイズは素直についてきた。 空き地は適当に砂地。ハーミットパープルを使うには申し分の無い立地だ。 「で、いい方法って何よ?」 腕を組んで使い魔を見上げるルイズに、ジョセフはニヤニヤ笑って手を差し出した。 「ちょいと地図を貸してくれ。武器屋までの行き方を調べる」 少々不審げな顔で見ているが、物は試しとばかりに地図を渡す。 「まず、ルイズに見せておきたいものを見せる。見えるかどうかは判らんが……ハーミットパープルッッ!」 ジョセフが叫んだ瞬間、右手から三本の紫の茨が勢い良く出現した。 「きゃっ!? な、何よそれ!」 思わず身構えたルイズに、ジョセフは「ほう見えるんじゃのう」と感心した。 「さっきも言ったが、これがわしに発現した『スタンド』、ハーミットパープル。 言わばわしの魂の形を具現化したものと言ってもいい」 「は……魂? 具現化……?」 予想外のものを見たルイズは、理解が全く追いついていないようだが、興味はあるのか指先で茨をつついたりしている。 「触れるわよこれ」 「わしのいた世界ではコイツはスタンド能力がある人間にしか見えんかった。 こいつぁわしの仮説じゃが、ルイズが見えとるということはメイジにはコイツが見えると考えてもいいじゃろうな」 後でシエスタに何気なく見せて確認しようと考えるジョセフに、ルイズは茨を摘んでまじまじと観察しながら聞いた。 「で……ハーミットパープルだっけ? これで何が出来るの?」 「おおそうそう。スタンドっつーのは魂の具現化したモンじゃから、人それぞれ違う形のスタンドになるし、同じスタンドはないと言ってもいい。 で、それぞれのスタンドには固有の能力がある。 わしのスタンド、ハーミットパープルの能力は念写に念視! こっちの世界じゃちぃと能力が制限されるがッ……『この街の地図』『この街の砂』そして『わしらの持っている金貨』があれば!」 ジョセフは懐から金貨の入った袋を取り出し、一枚の金貨を地図の上に置く。 「ハーミットパープルッッッ!! 武器屋までの道筋を写し出せッ!!」 ジョセフの叫びに応えた茨達は、地図の上を素早く走り回る。 金貨が地図の上に置かれ、砂が地図に描かれた道に振り撒かれていく。 最後に一つの小石がある区画に置かれると、茨達は巣穴に戻る蛇のようにジョセフの手へ戻った。 「よっしゃ、成功じゃ。この金貨があるところが今わしがいるところ。 で、この砂の道を通っていって、小石のあるところに行けば武器屋に辿り着くって寸法じゃ!」 「本当にー?」 まだ疑わしげな目で地図とジョセフをねめつけるルイズ。 「ま、百聞は一見にしかずってヤツじゃ。とりあえず行ってみてからのお楽しみじゃよ」 金貨は袋に戻すが、地図に砂と石を乗せたまま、今度はジョセフが地図を持ってルイズを先導していく。 果たしてルイズ主従御一行は、今度は迷わずに武器屋の前に辿り着いていた。 「へぇ……随分と便利な能力なのね」 素直に感心するルイズに、ジョセフは軽く苦笑いしながら言った。 「本当は他にも色々出来るんじゃがな、こっちの世界には機械がないからけっこう使いどころが限られるんじゃな。 ちゃんとした機械があれば、誰かが考えてることを読んだり、遠いところにおる誰かの姿を映し出したり出来るんじゃ」 むぅ、と唇を尖らせたルイズは、何となくムカついてジョセフの脇腹をチョップで突く。 「おふっ。何するんじゃよルイズ!」 「別にー。なーんか年取ってるからって色々出来るのがなんかムカついただけだもの」 「このスタンドは、いきなり授かったモンじゃからなあ。そう言われても困るわい」 苦笑しながらジョセフは武器屋の扉を開けて中へと入る。 「へいらっしゃい。……お貴族様ですかい。うちは上に目を付けられるような商売してませんぜ」 ルイズの姿を見たと同時に嫌そうな顔を隠しもしない主人に、ルイズは憤然とした顔で返事をする。 「客よ。今日はコレに持たせる武器を買いに来たの」 「ああ、お客様でしたかい! それならそうと早く言って貰わないと!」 すぐさま表情と口調を変えて揉み手する身代わりの速さに、ルイズは眉間の皺を更に強く刻み、ジョセフは軽く苦笑いをして見せた。 「で、どのような武器が御入用で! ちょうどそこの従者さんにピッタリのいい武器が入荷したところでさあ!」 と、早速裏に引っ込んで一振りの剣を持ってくる。 どこぞの何たらが鍛えた業物でなんたらかんたら、と口上を述べてくるが、ジョセフは一目見ただけで「いらんのう」と考えていた。 そもそも主人の顔には「よーしパパ貴族からボリまくるぞー」という表情がバッチリ滲み出ている。例えいい武器でも買う気が失せる。 ジョセフは様々な武器で戦うことも多かったが、そもそも使った武器がコーラやテキーラやクラッカーだったり、その場にあるものを駆使して戦うスタイルだった。 強いて言えばロープやワイヤーなんかがあればいいのう、とか思いはしたが、見回した限りではジョセフのお気に召すような代物は存在しなかった。 武器を使うにせよ、波紋を流す為には油を塗らなければならない。 となると、あまりデリケートな武器だとすぐに錆びて使い物にならなくなる。 となると、ハンマーやらの判り易くて手入れのし易い武器が便利だが、あまり重くても不便だ。 ボウガンも考えたが、そもそも爆破攻撃の出来るルイズがいるのに遠距離攻撃してどうするのか。 (困ったのう。かと言って「いりません」で終わったらせっかくのルイズの気持ちが無駄になるし) 主人の口上を半ば無視して、もう一度店内をぐるりと見回した時。ふと、声が聞こえた。 「うぉーいそこの爺さんや! ナマクラばっか薦められて困ってますって顔してんじゃねえか! なんなら俺っちを買いなよ、損はさせないぜ!」 「うるせえデル公! お貴族様に失礼な口叩いてんじゃねえぞ!?」 猫なで声の口上から一変、声の主に怒鳴りつける主人。 もはやルイズも不機嫌に主人の言葉を聞き流している状態だったので、ふと彼女も主人から視線を離して店内を見回した。 しかし店内には、ルイズ、ジョセフ、店主の三人しかいない。 「おいおいここだぜここだぜ! へーい爺さん、このデルフリンガー様はこの店で売ってるようなナマクラとは大違いだぜ! ここはどーんと買っちまいな!」 (こいつぁ面白そうじゃな)と興味を引かれたジョセフは、主人がまた怒鳴りつけようとするのに背を向けて、声の出た場所へと歩いていった。 そこには土産屋の店先で傘立てにまとめて差し込まれている木刀のような風情で、細長の籠にまとめて入れられている剣達の中から聞こえてきた。 「オッケエエエエ爺さん! ここだここだ!」 籠の中で一振りだけ、自分の身をぶん回してけたたましく自己主張している剣を見た。 ジョセフは手を伸ばすと、その剣を手に取り、鞘から抜いて刀身を見てみる。 見ればこの店の中で一番みすぼらしく、剣には錆がびっしりと浮いている。 「ほう、剣が喋っとるわい」 承太郎やポルナレフからアヌビス神の騒動は聞いていたが、(こういうところで主人に怒鳴りつけられるような剣が危なくはないじゃろ)という判断で、ジョセフはあっさりとその剣……デルフリンガーを手に取った。 その瞬間、左手の手袋の中で、ルーンが眩く光った、が……ジョセフはそれに気付かない。 しかし彼……デルフリンガーを持った瞬間、ジョセフの頭の中に様々な情報が入り込む。 「おでれーた! 爺さん使い手かよ!? こいつぁすげえ、長生きってーモンはしてみるモンだぜ。 こりゃあ俺っちを買わなかったら人生の150%は損しちまうぜェ!?」 傍目から見れば、デルフリンガーは何やら一人(一振り?)で随分と盛り上がっている。 「うるっさいインテリジェンスソードねぇ。こんなの買ったらうるさくてしょうがないわ。 もっといいもの買ってあげるから別のにしなさいよ」 わいやわいやと喚く剣を一瞥し、ルイズは面倒くさそうに言う。 だがジョセフは、うむ、と頷いた。 「ではこいつにするかい。主人! こいつは幾らかの?」 「ちょっと! やめなさいよジョセフ! 私の言う事が聞けないの!?」 デルフリンガーとルイズ、二人がわいやわいやと騒ぐのに内心嫌気が差しながらも、商売人として最低限の愛想笑いは崩さない。 「あー……本当はその大きさの剣なら新金貨でも200枚ってーところなんですがね。厄介払いも込みで100で結構でさ。 あんまりうるさいようなら、鞘に収めたら喋れませんから」 (ま、高いのを売りつけちまえなかったのは残念だがデル公がいなくなるならちょうどいい) と、デカい老人と小娘貴族を見ながらほくそ笑む主人。 ルイズはそれでもなお不満げにジョセフに怒鳴っていたが、彼が何やら彼女に耳打ちすると、ちょっとまだ不審げながらも金貨の袋から金貨を取り出してカウンターに並べていく。 そして新金貨百枚を渡して売買が成立すると、ジョセフはにまりと笑みを浮かべた。 「ああ、主人。さっきの……ええとなんじゃったかな。ゲルマニアの錬金術師シュペー卿が鍛えし業物か。それを見せて欲しいんじゃが」 (やったッ!)と主人の内心に笑みが広がる。 見た目こそは綺麗だが、あれはちょっと使えばすぐに折れてしまうようなナマクラだ。 どうせほんの少ししたら怒鳴り込んでくるだろうが、「使い方が悪かった」でトボけ通せばいいだけのこと。 実にボロい商売だ。これだから貴族相手はやめられない。 今夜はとびっきりのワインとうまいツマミで祝杯を挙げようと期待しながら、再び奥から言われた剣を持ってきた。 「ほうこれこれ。ああ、さっき見せてもらった剣達もついでに見せてもらえるかの」 主人は喜び勇んでカウンターに剣を並べていく。 「ほーほー、これはこれは。……で、主人。この業物は幾らじゃったかな」 「エキュー金貨で2000。新金貨なら3000ってところでさ(本当はエキューで1000、新金貨でも1500ってところだがなジジイ!)」 「本当はエキューで1000、新金貨でも2000ってところだがなジジイ!」 突然聞こえた声に、店主はびくりと肩を震わせた。 老人でもデルフリンガーでも当然小娘でもない、四人目の誰かの声が聞こえたのだ。 それも、自分の考えたことを全て言い当てた言葉が! だが老人はただ飄々とニヤニヤしているだけだし、小娘は腕を組んだまま冷たい視線で自分を見ているだけだ。 (だとすればデル公の仕業か! つまんねえ悪戯しやがって!)と怒鳴ろうとした瞬間。 「だとすればデル公の仕業か! つまんねえ悪戯しやがって!」 と、またも自分の考えてた言葉を全て一字一句間違えない言葉が吐かれた! 「次にお前は『なんだ、一体誰が俺の言う事を言ってるんだ』と言う」 「な、なんだ、一体誰が俺の言う事を言ってるんだ……ハッ!?」 目の前の老人が、してやったりという顔で自分を指差しているのを目撃し……主人は、自分の心臓が氷の手で捕まれた様な錯覚を抱いた。 「そうそう。言い忘れてたが、わしゃ人の考えてる事が判るんじゃよ。で、こいつは幾らかの」 主人は恐怖しながらも、(嘘だ! そんな事があるわけがない!)と、懸命に心で否定しようとしたが、すぐさま「嘘だ! そんな事があるわけがない!」と叫ぶ男の声が聞こえ。 力の抜けた膝が床に崩れ落ちた。 主人にとっては謎の男の声だが、ルイズやジョセフ達にはその声がどのようなものかは判っていた。 それはデルフリンガーから発せられた声。 正確に言えばジョセフの手から伸びたハーミットパープルが主人に絡み付き、他の茨が巻き付いたデルフリンガーから発せられた、『主人の心の声』だった。 つまり主人の声がそのまま発せられているということだ。 だが自分の発する声は、頭蓋骨で反響するために「自分が思う自分の声」と「周囲が聞く自分の声」はかなり異なったもので聞こえる。 自分の声を客観的に聞いた経験もない主人にとっては、聞いた事のない声と認識するのは当然のことだった。 だから店内では、主人が勝手に一人でつまらない事を言って自滅しているという滑稽な状況が展開されていた。 「へえ、平民が貴族を騙してたということなのね。これは無礼討ちという事で今買ったばかりの剣で斬り殺してあげるべきかしら」 うふふ、と楽しそうな笑顔でジョセフの横に歩いてくるルイズ。 「全くですのう。わしのご主人様にこれだけのウソを吐いてたという事は今すぐ不敬罪でその首落とす以外にないのではないでしょうかのう」 うふふ、と楽しそうな笑顔で主人を見下ろすジョセフ。 主人は必死の覚悟で地面に這い蹲り、額を何度も床に打ち付けて許しを請う。 「御、御慈悲をっ……! 愚かな平民めに、是非とも寛大な御慈悲を……っ!!」 「そうねえ。どうしてあげようかしら。デルフリンガー……だっけ? この平民にアナタはどれだけバカにされてたのかしら。 あまりいい扱いはされてなかったようだけれど」 「いやー、コイツは俺っちに向かってそりゃ毎日好き勝手に言ってくれてましたからねぇ。 俺っちの切れ味確認ってコトで試し斬りしちまっても文句はありませんぜ」 如何にも楽しそうなルイズの問いに、楽しそうに鞘口をカタカタ鳴らすデルフリンガー。 もはや死を覚悟して、それでもなお僅かな希望に望みを託して額を床に摺り続ける主人。 吹っかけられたお返しを十分にしたのを確認すると、ジョセフはルイズに目配せをする。ルイズはニヤリと笑って頷いた。 「よきに計らえ」というやつである。 「じゃがわしらも無意味な殺生はしたくないのでのう。 これから心を入れ替えて真面目に商売するというなら、許してやるのも吝かではないぞ」 その言葉に、弾かれたように顔を上げる主人。 死にたくないという涙と、命が助かった、という喜びに塗れた顔はあまり見てて気持ちのいいものではなかった。 「あ、有難う御座います、寛大なお心に、深く感謝いたしますっ……!」 「まあしかしじゃ。これだけの大罪でただで命を救っては、わしらの気持ちも収まらん。 ここはそうじゃな、これから心を入れ替えるという証を見せてもらわねばならん。わしが欲しいモノを用立ててもらうことにしようかの」 とびっきりのワインとうまいツマミで祝杯、というささやかな贅沢は遠のいたが、今すぐ人生が終わる最悪の事態を避けられた主人が、一も二もなくその申し出に跳びついたのは言うまでもない。 ただしジョセフの無理難題に、ルイズが許した出費は新金貨一枚。しばらくの間、晩酌を諦めることを余儀なくされた主人であった。 さて。 「な……何よ、あのイバラ……。ダーリンって一体、何者なの……?」 ルイズがジョセフを連れて城下町に行こうとするのを目撃したキュルケが、親友であるタバサに頼み込んでシルフィードに乗って街までやってきていたのを、ルイズ主従は気付いていなかった。 そして道に迷った挙句、ハーミットパープルとか言う紫の茨で何かしてから武器屋に入ってからの一部始終を、キュルケとタバサの二人に目撃されていたことも。 「……何者かは判らないけれど、彼が私達に話す気になるまで知らない振りをしておくのが得策」 図書館の彼女、青髪のタバサが、動揺を隠そうともしないキュルケを横目で見る。 「彼がやっとルイズに話した事を根掘り葉掘り聞くのは愚策」 ヴェストリ広場決闘事件で、ほんの僅かだけジョセフが用いた紫の茨。 それを知覚できたのは、タバサ一人だけだった。故に彼女は、ジョセフを称して「アメジスト」と呼んだのだが、その言葉の意味を理解しているのは彼女一人だけである。 しばらくして意気揚々と奥から出てきたルイズとジョセフの姿を見つけた二人は、すぐさま建物の陰に隠れて二人の尾行を再開する。 その後、一組の主従は服屋で服を買ってから帰途に着く。 その日から、ルイズは赤い洗面器という単語だけで爆笑できる会の一員となった。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/746.html
夕方になり、ワルドとギーシュが女神の杵に戻ってきた。 ギーシュは、あっちを見てこいこっちを見てこい等と、一日中こき使われたらしい。 「魔法衛士隊は、ばけものだ…」 酒場のテーブルでへばっていたギーシュが、そう呟いた。 「馬鹿ねえ、朝は『魔法衛士隊隊長のお供が出来るなんて幸せだ!』とか言ってたクセに」 「ううう…」 キュルケに言われても何の反論も出来ない、それを見たタバサは相変わらずパジャマ姿のまま読書していた。 しばらくしてから、ワルド、ロングビル、ルイズも酒場へ集まり、明日の予定が話し合われた。 今日ギーシュとワルドが交渉したおかげで、朝一番に出航する輸送船でアルビオンに行けることになった。 明日は朝が早いので、遅れたら置いていくと語るワルドに、ギーシュは今日何度目か分からない冷や汗を流した。 そろそろ部屋に戻ろうと、ワルドが立ち上がった時に、酒場の外からガヤガヤと声が聞こえてきた。 ラ・ロシェールの町は宿場町でもあるので、夜中でも人通りはある、しかし何か雰囲気がおかしい。 ワルドに続き、キュルケとタバサもそれに気づいた。 次の瞬間、扉が吹き飛ばされ、軽装鎧を着込んだ男がルイズ達に弓矢を向けた。 突然の事に驚いたのはルイズ達だけではない、この酒場には他の客もいるのだ。 慌てて逃げようとした客達は、弓矢におびえてカウンターの下に隠れている。 ラ・ロシェール中の傭兵が集まっているのではないかと思えるほどの傭兵を前にしては、キュルケ達でも分が悪かった。 テーブルを盾にして矢をしのぎ、魔法で応戦していたが、どうにも勝手が悪い。 傭兵たちは魔法の有効な範囲になかなか入ってこない。 メイジとの戦いに慣れているのか、キュルケ達が応戦しているうちに射程を見極められているようだった。 他の客たちはカウンターの下で震えているのが見える。 「参ったわね…」 ロングビルの言葉に皆がうなずく。 「いいか諸君、このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ成功とされる」 非常事態にもかかわらず本を読んでいたタバサは、ワルドの言葉を聞いて本を閉じた。 そして、ワルドとルイズとロングビルを指さした。 「桟橋」 そしてキュルケと自分とギーシュを指さし 「囮」 と呟く。 ワルドがタバサにタイミングを尋ねると、タバサは今すぐと答えた。 「聞いてのとおりだ。裏口に回る、行くぞ!」 ルイズははキュルケ達を見ると、キュルケはご自慢の赤髪をかきあげ、つまらなそうに唇を尖らせていた。 「危なくなったら逃げなさいよ!」 「何言ってんのよ、もう十分危ない目に遭ってるじゃない」 ルイズがキュルケを心配するが、キュルケは余裕の表情を崩さない。 タバサがルイズを見つめた。 「行って」 ギーシュも薔薇の形をした杖を手に持ちつつ、ルイズを見た。 「こ、これも姫様のため、そして友人のためさ!」 緊張か恐怖のあまり、微妙にろれつが回っていなかったが、そんな虚勢がルイズの心を解きほぐした。 「ねえ、ルイズ。勘違いしないでね?あんたのために囮になるんじゃないんだからね」 「わ、わかってるわよ、か帰ってきたら決着を付けるんだからね!」 ルイズはそう言ってから、キュルケたちにぺこりと頭を下げた。 そんなちぐはぐな態度がおかしくて、震えていたギーシュにも少し余裕が戻る。 ロングビは転がっていた椅子をバリケード状の金属板に練金し、ワルドとルイズを連れて裏口へ急いだ。 通用口から出る頃には、酒場から爆発音が聞こえてきた、陽動が始まったのだろう。 「……始まったみたいね」 先行するワルド、しんがりのロングビルに挟まれて、ルイズが言った。 裏口の方へルイズ達が向かったのを確かめると、キュルケはギーシュに厨房の油をもってくるように命令した。 「じゃあおっぱじめますわよ。ねえギーシュ、厨房に油の入った鍋があるでしょ」 「揚げ物の鍋のことかい?」 「そうよ。それをあなたのゴーレムで取ってきてちょうだい」 「お安い御用だ」 ギーシュはテーブルの陰で杖を振りワルキューレを出す。 ワルキューレは矢を体にめり込ませながら厨房に走り、油の入った鍋を運び出した。 「ギーシュ、それを入り口に向かって投げて」 そう言いながらもキュルケは化粧を直している。 「こんなときに化粧するのか。きみは」 呆れ気味のギーシュがワルキューレを操り、油を酒場の入り口に向かって投げる。 「だって歌劇の始まりよ? 主演女優がすっぴんじゃ、しまらないじゃないの!」 まき散らされた油に向かって、キュルケは杖を振る、油は一気に引火して、酒場の入り口とその周辺に炎を振りまいた。 「花びら」 タバサが短く言うと、風の呪文を詠唱して床に風を起こす。 ギーシュは言われるままに、薔薇の形をした杖から花びらを放ち、風に舞わせた。 「練金」 タバサの指示にハッと気づいたギーシュは、花びらを油に練金する。 色気たっぷりの仕草で呪文を詠唱するキュルケが、再び杖を振るう。 タバサの風が花びらを巻き込み、花びらは油となる、そこにキュルケの放った火球が混ざり、地面を炎が覆い尽くした。 炎は酒場の外にいるる傭兵達にまでからみつき、つい先ほどまで統制のとれていた傭兵達は、一瞬で混乱状態に陥った。 ギーシュは驚いていた、キュルケとタバサの使った魔法はごく基本的な魔法だ。 しかし、火、油、風の三つが、酒場の外を覆う傭兵達を混乱させ、何割かを戦闘不能に陥いらせている。 ルイズは自分の失敗魔法をコントロールすることで、ギーシュとの決闘に勝った。 ギーシュは使い方次第で驚くべき効果を発揮する魔法と、それを効果的に操るキュルケとタバサに尊敬のまなざしを向けた。 そして、自分の無知を恥じつつ、ルイズの無事を案じていた。 その頃ルイズ達は桟橋へ向けて走っていた。 とある建物の間にある長い階段へと駆け込み、脇目もふらず駆け上る。 長い階段を上りきって丘の上に出ると、そこに生えた巨大な樹が四方八方に枝を伸ばしていた。 山ほどもある樹の枝に、船が吊されているのを見て、ロングビルは「急ぎましょう」とルイズに言う。 この樹は内側が空洞になっており、いくつかの階段があった。 ワルドが階段にかけられているプレートから目当てのものを探し、そこを駆け上がる。 途中の踊り場で、ルイズは後ろから近づいてくる何者かの気配に気づいた。 後ろを見ると、ロングビルの後ろに黒い影が近づいている。 ばっ、とロングビルとルイズの頭上を飛び越して、その影はルイズの前に立った。 「ヴァリエール嬢!」 ロングビルの声に反応したルイズが、後ろに飛ぶ。 男はルイズを捕まえようとしたが、ルイズが予想外の反応速度で跳んだのでからぶってしまう。 その隙にロングビルが仮面を付けた男の足下を練金し、足を鉄で拘束する。 「行きなさい!」 ロングビルが叫ぶ、ルイズは無言で頷き、仮面を付けた男の脇を走り抜けようとした。 男は杖を振り呪文を唱えたが、それより一瞬早くルイズの周囲に金属のドームが作られた。 仮面の男が持つ杖から電撃が放たれたが、ドーム状の金属に吸収されて、あっけなく霧散してしまった。 仮面の男は、ロングビルを見た、いや、仮面に隠されてはいるが、その目は明らかにロングビルを睨んでいるのだと分かる。 「土くれのフーケ…貴様、裏切ったか…やはり盗賊は盗賊だな」 「ふん、あんたが何者なのか知らないけどね、あたしは一匹狼が似合ってるのよ」 そう言いながらロングビルは男の周囲を練金し、男を土で包み込んだ。 「貴様!後悔することになるぞ」 「おあいにく様、狙われるのは慣れっこよ」 男は、ベキベキベキベキと嫌な音を立てながら、土の中に消えた。 「ふう…あたし、何やってんだろ」 そう呟くロングビル…いや、土くれのフーケの表情は、貴族をからかっていた時の笑顔とはまるで違う、和やかなものだった。 「まったくだな」 「!?」 ロングビルは、背後から突然聞こえた声に驚いた。 慌てて後ろを振り向くと、そこには今死んだはずの、男が杖を向けていた。 呪文を詠唱する間も無いと悟ったロングビルは、踊り場の窓を突き破って外に飛び出す。 フライの呪文で体勢を立て直そうとするが、仮面の男はそれよりも早く外に飛び出て、ロングビルに杖を向ける。 「『ライトニング・クラウド』!」 バチン、と男の周囲で空気が弾ける音が鳴り、次の瞬間、ロングビルの体を電撃が走っていた。 「ッあああァァあァアアあッ!」 電撃による衝撃で意識を失い、ロングビルは地面に落ちるかと思われたが、仮面の男はロングビルをゆっくりと地面に着地させた。 そして、ふと『女神の杵』の方を見る。 既に傭兵達を倒したであろう三人が、ロングビルの後を追ってくるのは想像に難くない。 仮面の男は、懐から掌に収まる程度の箱を取り出すと、うつぶせに倒れたロングビルと地面の間に挟み、短く練金の呪文を唱えた。 小さな箱から、カチリ、と不吉な音が鳴った。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-19]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-21]]}
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2434.html
ルイズは無力だった。 空から砲弾が降り注ぐ中、彼女は平民と同じようにメイジ達が張り巡らせる風の障壁に守られているしか出来なかった。 何も出来ず空を見上げる彼女の目には、知らないうちに涙が溜まっている。 戦場にやって来たはいいものの、彼女はただの少女となんら変わりはない。杖を掲げれば爆発くらいは起こせるが、数多く降る砲弾の一つや二つ爆発させたところで、現状を打破できる訳でもない。 むしろまかり間違って風の障壁を爆破させてしまったりすれば目も当てられない。 自分を守ってくれる使い魔は空の上で飛行機に乗って戦艦に立ち向かっている。 竜騎士隊を全滅させた飛行機も、戦艦と比べれば鯨と羽虫のようなもの。しかしそれでも逃げようとする気配は見えない。空高く舞い上がり、急降下しながらレキシントン号に白い光を次々と打ちかけている。 だがレキシントン号はビクともしない。もう一度同じ動きを繰り返したが、それでも結果は同じだった。 召喚してから今まで、常識では考えられないような結果を生み出してきたジョセフでもこれが限界なのだと、心のどこかが答えを出していた。 (もうダメよ……もう、アンタに出来る事なんかないんだから! 早く帰りなさいよ、諦めて! ほら、もう日蝕の輪だって出来てきてるじゃない……!) この世界と異世界を繋ぐ扉らしい日蝕の輪。太陽と二つの月が重なる事によって発生するそれは、あと数分ほどで出来上がるだろう。 後はあの輪へ飛び上がって元の世界に帰ればいいだけだ。もうこんな戦争に関わらなくてもいいんだから―― 焦燥渦巻くルイズの思考に、突如別の何かが飛び込んできたのはその時だった。 降りしきる砲弾が風の障壁で弾き飛ばされている光景に、別の光景が混ざって見え始めていた。 (これは……もしかして……) かつて同じ感覚があったことをルイズは覚えていた。 ニューカッスルから脱出する時、アンデッドじみた化物となって戻ってきたワルドと対峙するジョセフの視界が映り込んできたことを。 (ジョセフの見ているものが、また見えてきた……) 右目をつぶり、左目だけに意識を集中させる。 しかし見えたのは、狭苦しい空間の中で、ハーミットパープルを生やした右手と左手が何か突き出た棒をそれぞれ握り、何か慌しげに視線をあちらこちらへやっている光景だった。足元でデルフリンガーが金具を鳴らしている様子も見える。 ガラスを張った格子の向こうには、青い空と白い雲、そしてレコン・キスタの艦船があった。ジョセフが飛行機の中から見ている景色を見ている、という結論に達するのは難しいことではなかった。 「……何してるのよ」 だがハルケギニアの住人であるルイズには、見えている光景に映る物体が何なのか少しも判ることはなく、ジョセフの視界が見えたからと言って何がどうなっているのか判るはずもない。 ちょうどその時、ジョセフはハーミットパープルを通じてエンジンが焼け付いていることを理解し、デルフリンガーに事態を説明しているところだったが、当然そんな事態が起こっているとはルイズにはおよびも付かない。 しかし普段見ようと思っても見えないジョセフの視界が見えていることは、何かしら緊急事態が起こっているということは判る。 首を傾げたルイズの頭の中へ、突然ジョセフの視界が映り込んできたように、またもや突然激しい轟音と、それに負けないように声を張り上げた誰かの声が聞こえ始めた。 『ふぅーむ。こいつぁ参ったな……掻い摘んで言うと、帰れんくなったっつーこった』 野太い老人の声に、ルイズは小さな肩を跳ね上がらせた。 口調からしてジョセフかと思ったが、どこかしらジョセフの声とは似ていない声質であり、誰か別の人物の声だと考えたその時。 『気楽に言ってんじゃねえよ! しゃあねえ、じゃあどっかに着陸して……』 続けて聞こえてきたのはデルフリンガーの声。こちらは何度も聞いてきた、間違いなくあの生意気なインテリジェンスソードの声であった。 (え!? これは一体どうなってるの……!?) 混乱するルイズの頭の中に、再び聞き覚えの無い老人の声が響いた。 『いや、このままあいつらをほったらかすとろくなことにゃならん』 『おいおい、もう何も出来ないだろ。これ以上何かするってったら……』 老人の声に答えるデルフリンガーの声。 そこに来てルイズは、この聞き覚えの無い老人の声の主はジョセフである、と判断した。聞こえてくる声が違うのは、何か喉を痛めるような出来事があったのだろうと考える。 デルフリンガーと会話する老人に、ルイズの心当たりは一人しかいない。 一般に、自分の声を録音して聞いた時に自分の声でないように聞こえるのだが、発声する本人は自分の口から出た声の他に、声帯の震えが頭蓋骨を通じて直接伝わっているもう一つの声も同時に聞いている。 自分の声を録音して聞いた時に違和感を感じるのは、頭蓋骨を通して伝わる声が聞こえず、自分の口から出た声のみを聞く為に起こる現象だからである。 ルイズがジョセフの聴覚を共有している今、ルイズが聞いているのはジョセフ本人が普段聞いている声であり、すぐにジョセフの声だと判別出来ないのは自然なことであった。 さて、そして先程聞こえてきた言葉を思い返し、その意味が理解できた途端、ルイズの顔から全身に向けて鳥肌が走る。 ――帰れなくなった。 (え、どういうこと――) 更に意識を集中させ、ジョセフの言葉から何が起こっているのかをより知ろうとする。 『このゼロ戦のパイロットには伝統的な戦法があってな』 『おい。ちょっと待て。もしかして、この飛行機をあのデカブツにぶつけようとか、そんな無謀なことを考えてるわけじゃないよな?』 『よくわかったな』 『……無茶苦茶だ――』 「ちょっと!! 待ちなさい!!」 『――そりゃねえよ』 『なぁに、わしは手近なフネに飛び移ってハイジャックするつもりじゃ。死にはせん』 声を張り上げるが、ジョセフには全く届いていないようだった。 (……まずいわ!) このまま手をこまねいていれば、ジョセフは飛行機と共に戦艦に突っ込んでいく。 それを今すぐ翻意させられるとすれば、自分かデルフリンガーしかいない、が。 『なぁに、わしは手近なフネに飛び移ってハイジャックするつもりじゃ。死にはせん』 『おい、考え直そうぜ。それはあんまりにもあんまりだ』 召喚してからさして時間が経ってないとは言え、声のトーンで何を考えているかくらいは判るようになっている。 ジョセフは既に覚悟を決めているし、デルフリンガーもその無謀な挑戦を止めようとはもう考えていないのは丸判りだ。 (考えなさいルイズ! 今、ジョセフに命の危険が迫っているからジョセフの見ているものや聞いているものが私に伝わってくる……) 一般的なメイジとは違って、意識の共有はよほど切羽詰った時にしか出来ないと言う事ならば――ジョセフに自分の見ているものが見えるかどうか判らないが、今すぐに手を講じられなければ、ジョセフが死ぬ。 ルイズは手に持っていた杖の先端を自らの喉元に突き当て、声を張り上げた。 「待ちなさい! そんな勝手なこと、主人の許しもなしにやらせないわ!」 『ルイズ!? ルイズなのかッ!?』 (届いた!) まかり間違って一言でも呪文を唱えれば爆発魔法で首から上が消し飛ぶ。 それを命の危機と判じられるルーンの判断への感謝を後回しにし、矢継ぎ早に叫んだ。 「アンタ一人が犬死にしたってどうにかなるわけじゃない! いい年して何を思い上がってるのかしら、自分だけが死ねば何とかなるだなんてお門違いもいいところだわ!」 空からの砲撃が段々と数を減じてきている中、一人叫び出したルイズの言葉に構う者は周囲にはいない。 『いや大丈夫だっつっとるじゃろ! 乗っとる飛行機墜落するんもこれで五度目じゃから安全に脱出するコツも知っとる!』 「そういう問題じゃなくて! ジョセフ、アンタは私の見てるものが見えるの!?」 『ああ、見えるが……』 ジョセフの訝しげに問う声に、ルイズはウェールズと、その腕に抱かれているアンリエッタをしかと右目に捕らえた。 「いい!? ジョセフ、アンタが波紋やスタンドを使えるように、私達には魔法があるの! ずっと前にお母様から聞いた事があるのよ……王家の人間にだけ許される、スクウェアなんか目じゃない、『ヘクサゴン・スペル』と呼ばれる魔法が!」 始祖ブリミルとその弟子達の血統を色濃く受け継ぐ王家の人間の詠唱が可能とする、伝説の魔法。ルイズはそんなものを見たことなど一度もない。母からこのような魔法も存在する、と聞きかじっただけでしかなかった。 果たしてあの二人がヘクサゴン・スペルを用いる事ができるのか、よしんば唱えられたとしてもあの艦隊に打撃を与える事ができるのか。そんな事は判る筈もない。 だが、ルイズの唇はそれをよく見知っているかのように、澱みなく言葉を紡いでいた。 「今ここには、水のトライアングルであられるアンリエッタ様と風のトライアングルのウェールズ様がおられるわ! この砲撃が終わったらお二人が詠唱を始めるのよ、アンタがそこにいたら魔法の巻き添えになるだけよ! これは命令よ、今すぐそこから離れなさいッ!!」 ジョセフを使い魔としてから、ずっと見てきたものがある。 まるで魔法のように、嘘を真実に変えてしまう口先の巧みさ。舌先三寸で人を言いくるめる話術。相手の欲するものを看破し、代わりに自分の欲しいものだけを差し出させる公称術。 融通の利かない真っ直ぐな気性を持つルイズは半ば呆れて半ば感心しながら、あっけらかんと人を騙してみせるジョセフを見てきたのだ。 今、ルイズは一世一代の大嘘が自分の口から出て来たことに今更ながら気が付いて、自分自身で驚いていた。 客観的な時間にすれば、数秒も要さない僅かな時間だった。だが、当のルイズにはその何十倍もの時間が経過したように思えるほどに長い時間が過ぎた後。 『――判った』 短い言葉が頭の中に響いたその時、ルイズの左目は再びコクピットから地上の戦場を映し、それっきりジョセフの声も聞こえなくなる。ルーンが、ジョセフの命の危険が去ったと判断した、ということだった。 バネでも仕込まれていたかのような動きで空を見上げれば、飛行機が急旋回して艦隊から離れていくのが見える。 力を込めすぎて強張っていた手をそっと下ろして杖を自分の首元から離すと、安堵を多分に混ぜこぜた空気を身体の底から搾り出すように吐き出した。 そして一度、二度、と深呼吸を繰り返せば、体中に浮ついたような間隔が広がり始め、やがて頬を大きく吊り上げる笑みが知らず知らず浮かんでくる。 (ああ……そうか、こういう気持ちなのね) ここに至って、ルイズはジョセフの心を理解したような気がしていた。 嘘やはったりを利かせて相手を騙す。たったそれだけの事が、こんなに楽しいだなんて。いつもジョセフが満面の笑みを浮かべてたのもよく判る。 「そうか、そういうことなのね……」 見る見る間に遠ざかった飛行機を見上げながら、一人ごちた。 終わりがないように思える艦砲射撃も、弾丸には限界がある。 だが、砲撃を防ぎ続けるトリステイン軍の士気の減衰する速度はずっと大きい。 魔法の障壁は今だ健在とは言え、メイジの恩恵を受けられない平民の傭兵達の被害はかなり大きい。 ラ・ロシェール周辺の地形が大きく変わってしまった頃、これ以上の砲撃は金の無駄遣いと判じたアルビオン艦隊は砲撃を止める。そして損耗など僅かにもないアルビオンの地上部隊が鬨の声を上げて押し寄せてくるのが、肉眼ではっきりと見えていた。 勝利を疑うどころか、これからの虐殺と略奪に目を輝かせている様さえ見えそうな、それほどの勢いで押し寄せるのを見たアンリエッタは、元より白い顔を更に白くし、自分をしかと抱きしめるウェールズへ縋るような視線を向けた。 「ウェールズ、様……」 アンリエッタの回りに配された将兵は、名のあるメイジばかり。あれだけ降り注いだ砲弾を受けてもなお、被害はほぼないと言って良かった。 だが、うら若き少女でしかないアンリエッタの心が恐怖でくず折れずに済んだのは、愛するウェールズの腕の中にいたからということでしかない。 ウェールズは、か細く自分の名を呼ぶアンリエッタの艶やかな髪に手を差し入れると、髪を梳く様な愛撫を与えた。 「……アンリエッタ。君は覚えているかい、僕達が初めて出会った……ラグドリアンの夜を」 戦場の中、その声はあまりにも優しく、周囲に誰もいないかのような甘い囁きだった。 「忘れるはずありませんわ! わたくしの人生の中で、あの夜は最も美しい記憶ですもの!」 「あの夜、君は誓ったね。ラグドリアンの湖に住まう水の精霊……又の名を『誓約の精霊』と呼ばれている。その姿の前で為された誓約は違えられることはない、と。その湖で……君は、僕への永久の愛を誓った」 「ええ! あの時の誓いは今も変わっておりませんわ! いいえ、今とは言わず、これからもずっと!」 「だが、僕はあの時、君の誓いに応える事が出来なかった。僕達は王家の人間だ……六千年の歴史を持つ王家の為とあれば、僕達の意思など鑑みられることはない。君もそうだ、国を守る為に、意にそぐわぬ婚姻を強いられる。 君の気持ちを、僕が知らないはずはない。世界中の誰より、一番僕が知っている。そして……僕の気持ちを世界中の誰より知っているのは、君だ。アンリエッタ」 陶器のように白かったアンリエッタの頬が、ウェールズの言葉を一言聞く度に、まるで花が色付くような美しい血色を取り戻していく。 「君を不幸にすると知っていて、永久の愛を誓うことは僕には出来なかった。だが、今の僕は違う。アルビオンの大陸から、彼に無理矢理連れ出され……僕は、アルビオン王家の皇太子ウェールズではなく、ただのウェールズになれたんだ」 ウェールズは艦隊の向こう、まるで豆粒のように見える飛行機を見上げ、目を眇めた。 「今、僕がこうやって君を抱きしめているのは……親愛なる友人、ジョセフ・ジョースターの尽力あってこそだ。彼があの飛行機械に乗って戦いに馳せ参じたのは何故だと思う、アンリエッタ!」 周囲の喧騒も、ここが戦場の只中であるということも、今のアンリエッタにはなんら関係の無いことだった。ただ、ウェールズが紡ぐ言葉をたった一言すら聞き逃すまいと、ただ愛する青年の姿だけを見つめ続けていた。 「自分をジョジョと呼んだ友人が困っているなら、助けに行くのが当たり前だと! たったそれだけの理由で、彼は死地に赴いてくれたんだ! 僕達は彼の厚意を受け取るだけじゃいけない! 黄金のように輝く彼の誇りに報いる誇りを見せなくてはいけない! そうでなくては……格好悪いじゃあないか! 誇り高きメイジとして、彼の友人として、見せなければならないものがあるッ!」 ウェールズは体の中から迸る感情を抑えようともせず、腕の中にいる少女に向けるには大きすぎる叫びを向けた。アンリエッタもまた、彼の叫びに眉を顰めることも無く……むしろ、陶酔しているかのように、ウェールズだけを青の瞳一杯に映していた。 ウェールズは、アンリエッタを抱く腕に力を込める。少女の細い肢体へ腕を食い込ませようかとするように、両腕でひたすらにアンリエッタを掻き抱いた。 「だから……だから! 僕に力を貸してほしい! 僕の愛するアンリエッタ……!」 抱擁と言うには、無骨かもしれなかった。 しかし、アンリエッタはそれを不快に思うことなど無い。その返答として、自分もまた力の限りウェールズを抱き締めると、彼の胸へただひたすらに縋り付いた。 「ああ……ああ! わたくしは……わたくしは、あの夜からずっと、ずっと、その言葉を求めておりました! あなたに愛される……ただそれだけ……ただ、それだけでわたくしの一生は幸福に彩られるのですもの!」 生きてきて良かった、と思った。この瞬間の為に私は生まれ生きてきたのだ、とさえ思えた。それほどまでに、少女は幸福だった。 知らずに流していた涙を拭うかのように、ウェールズの掌がそっとアンリエッタの頬を包んで、顔を上げさせた。 「さあ、アンリエッタ……私達は在るべき所に帰らねばならない。その為に、やらねばならないことがある。かの謀反者達に、ハルケギニアの王家を敵に回す無謀さを見せ付けねばならない。それが……“僕達”の義務だ」 ウェールズが口にする言葉の一つ一つが、アンリエッタの心をひたすらに高まらせていく。 もう既にアンリエッタの心に、恐怖など一片も無い。彼女の未来は、美しい薔薇色だけが象っていた。今、向かい来る三千の兵より、空を占める艦隊より、ただ愛する青年が自分を腕の中に抱いている事実だけが心を占めていたのだから。 二人は、どちらともなく杖を手に取った。 片手に杖を持ち、もう片腕には愛する者を抱いたまま、詠唱を始める。 『水』、『風』。二つの点が合わさる。水の風が、生まれる。 『水』、『風』。二つの線が交わる。水の旋風が、二人を囲む。 『水』、『風』。二つの三角が重なる。水の竜巻が、屹立する。 水と風の六乗。例えトライアングル同士と言えども、この様に息が合うことなど皆無と言っていい。しかし、選ばれし王家の血がそれを可能にする。 王家にのみ許されるヘキサゴン・スペル。 詠唱が干渉し合い、互いの魔力を更なる高みへと押し上げる。 水のトライアングルと風のトライアングルが絡み合い、竜巻は中心に六芒星を描く。 それは竜巻でありながら、津波。津波でありながら、竜巻。 この一撃を受ければ、どれほど堅固な城砦であろうと為す術も無く吹き飛ぶだろう。 「――まだだ」 まだ、詠唱は止まらない。 「――まだです」 まだ、二人は止まらない。 竜巻は城の様に膨れ上がってなお、ウェールズとアンリエッタの杖から放たれない。 竜巻が描く六芒星が、凄まじい回転を始める。 水と風のトライアングルは、止まらない。 ウェールズは、漆黒の輝きを込めた両眼で遥か上空に鎮座する『レキシントン』号を射抜く。 「――空を飛ぶということはッ!!」 全身から迸る魔力。どれだけ汲み出しても、なお無限に湧き出てくるような感覚さえ抱いていた。 「地面に落ちる『覚悟』を持たなければならないということだッッ!!」 アンリエッタは、艦砲射撃でかつての美しさを損なったラ・ロシェールと、今にも崩壊しそうなトリステイン軍を黄金の視線で見やった。 「私は――アンリエッタ・ド・トリステイン。トリステイン王家の王女です」 全身から迸る魔力。どれだけ汲み出しても、なお無限に湧き出てくるような感覚さえ抱いていた。 「もう恐れはありません……私は私の意志で歩いていく。これが私の――王家の血を継ぐ者の『覚悟』です」 『水』、『風』。 二つの『四角』が生まれ、合わさり、交わり、重なり――高みに上り詰める! 『水』『水』『水』『水』、『風』『風』『風』『風』。 二人の心の高まりが、二人のトライアングルメイジの力を引き出し、二人のスクウェアメイジを誕生させた。 二人のスクウェアメイジが初めて用いる魔法は、六芒星を更に超える八芒星、オクタゴン・スペル。 天さえ貫かんとばかりに膨れ上がった竜巻は、海を丸ごと飲み込んだかのよう。 高く聳える周囲の山々さえ凌駕するほどに成長した竜巻は、最早竜巻と呼ぶには壮大過ぎた。しかしそれを呼称する言葉は、竜巻であった。この場にいる全ての人間が見たことのないほどの、雄大過ぎる竜巻。 そんな巨大な代物を操るのは、たった二人の青年と少女。二人の杖が、空に浮かぶ艦隊に向けられたその時、八芒星の魔法は静かに動き始めた。 最初は人の歩み程度の速さが、ほんの数秒ごとに加速を続けていく。 これまでレコン・キスタが射ち込んだ砲弾や、砲弾で砕かれた岩や人馬。 それらを全て飲み込み、内に含み、空へ駆け上がり、レコン・キスタの地上部隊など眼中にないとばかりに彼等の頭上を跳び越していく。 レコン・キスタ艦隊は、突如生まれて向かい来る巨大な竜巻に恐慌を起こしていた。 必死にこの場から逃げ出そうとする者達は、将の制止など聞けるはずもない。 フネを戦域から逃そうとする者、魔法で逃げようとする者、逃げようの無い者、既に命運を悟った者。 彼らの運命は、一律だった。 竜巻は向かう。レコン・キスタのフネ達を咀嚼し、食らい、更なる勢いさえ増して、『レキシントン号』へと襲い行く。 「“それ”は僕のものだッ!! 返してもらうぞッッッレコン・キスタァァーーーーーー!!」 全長200メイルを誇る戦艦に、青年の絶叫が轟き――これまで竜巻が咀嚼したありとあらゆる全てに噛み砕かれていくのみだった。 十数隻もあった艦隊を一隻の例外も無く飲み込んだ竜巻は、まるで竜が天に戻るかのように雲達を超えて突き上がり……不意に宙返りをした。 凄まじい勢いで天空から放たれる、竜巻の弾丸。 その照準は、レコン・キスタの地上部隊―― 「これが君達の欲したものだッ!! 君達が立ち向かったものだッ!! そして――これこそが、僕達の力なんだッッッ!!」 地上へ向けて撃たれた竜巻の中では、まだ辛うじて『それ』が形を留めていた。 『それ』は、かつて王の手にあったもの。 叛徒達が奪い、汚した『それ』は、今この時、再び在るべき所へ『帰還』した。 「『ロイヤル・ソヴリン』だッッ!!」 振り下ろされる『王権』は、既に戦意など根こそぎ奪われたレコン・キスタ兵達を一切の容赦なく飲み込み……そして、これまでの艦砲射撃など比べ物にならないほど、地図を大きく書き換えさせることとなったのだった。 To Be Continued → 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/507.html
僕たちはルイズに案内されるがままに、学院寮にあるという彼女の部屋へと向かう(彼女が言うに、この学院は全寮制だという事)。 彼女曰く、本来使い魔はおのおのの適した環境を住処とするらしいが、人間というのは異例らしく、見合う場所がないため、暫定的にルイズの部屋ということになったらしい。 使い魔でない僕まで一緒というのは、あわや牢屋行きになりそうだった僕について、ルイズが口を利いてくれたためらしい。 大分、恩着せがましく言っていたため、少しばかり癪に障ったが、僕は素直に感謝の意を述べた。 石造りのアーチを抜け、重厚な石造りの階段を何段ものぼり、長い通路を通った先に、彼女の部屋はあった。 そこの部屋は、昔家族で行ったフランスで見た、貴族の部屋とよく似ていた。 もっとも電気でなく、ランプの明かりで部屋が照らされているため、派手な装飾が成されているであろう家具も、さほど嫌な感じをさせなかった。 ルイズは僕らにパンを渡すと、部屋にあるものの中でも、一際装飾が華美なベットに腰をかけ、僕たちと向かい合った。 「本当に、別世界から来たの?」 どうやら先ほどの話の続きを始めるつもりらしい。 「何か証拠見せてよ」 異世界から来た証拠。はじめは服の素材を見せてみようかと思ったが、それでは文化の違いですまされる可能性がある。 なら、ここでの文明レベルで作れないものを見せればいい。 今までの発言や、見た感じから生活レベルは僕たちの世界で言う、中世末期から近世初期ぐらいといった所だろう。 仮に魔法でさらに高い技術レベルを有していようとも、流石にここまでは作れまいと確信を持てるものが一つ、あった。 「才人、カバンの中身を」 だが言い終わる前に、既に才人も同じ事を思いついていたのか、先ほど中庭で回収したカバンを開き、中に入っているものを取り出した。 ルイズは出てきたものをじーっと眺める。 「何、これ?」 「のーとぱそこん」 パソコン。修理したばかりのそれは、ぴかぴかとプラスチックの光沢を放っている。 にしても才人の声が、詰め物をしている所為か、全く締まらない。いや、勢いよく肘打ちをした僕が悪いのだが。 もう少し加減をすべきだったな……等と考えている内に、才人はパソコンの電源を入れた。 そして、パソコンの画面やゲームなどをルイズに見せる。写真などがあれば良かったのだが、あいにく修理に出していたため、そういうデータは残っていなかった。 様々な説明の甲斐あってか、ともかくルイズは、多少の不信感を残しているようではあるけれども、一応、異世界から来たと言うことを信じるという意思を表した。 ここでようやく本題である、元の世界に返せるかという事をルイズに問う。 返答はすぐに返ってきた。 「無理よ」 彼女が言うに、サモン・サーヴァントは、本来この世界……ハルケギニアにいる生き物が呼び出される者で、異世界から使い魔が呼び出されるという話は聞いたことがないらしい。 またサモン・サーヴァントは呼び出すことしか出来ない上、使い魔がいると使えないらしい。 「そういえばさっき『できるんなら、破棄している』と言ってましたね。何故です?」 「それは……」 いささかルイズは間をおく。 「使い魔が死ななければ、ならないからよ」 そのままルイズは才人に向かって「死んでみる?」と聞く。才人は全力でかぶりを振った。当たり前だ。 ともかく、すぐに元の世界に戻る手段は無いらしい。 しかたない。長時間かかってでも、いろいろ調べてみるしかないだろう。 どれくらいかかるだろうか? 一ヶ月か? それとも一年? いずれにせよ、すぐには帰れないのだけは事実だ。 「わかった。じゃあ、僕たちは何をすればいい?」 しばらくは情報を集めなくてはならない。貴族の近くなら情報も多く手に入るだろう。 第一、彼女には迷惑をかけてしまったという負い目と、口利きをしてもらった礼もある。 僕は恭順するということを示した。 才人も渋々ながら、使い魔になることを了承する。 とりあえず僕は学ランの襟を正して、才人は鼻の詰め物を抜いて、形を正して、ルイズの方を伺った。 「そうね……」 考え込むように唸りながら、ルイズは僕と才人を交互に見る。そして大きくため息をついた。 「とりあえず使い魔の方からね。使い魔には、主人の目となり、耳となる能力が与えられるんだけど……無理みたいね。他には……主人の望むものを見つけてくるんだけど。 例えば、魔法の触媒となる秘薬の材料。そうね……硫黄とか、特殊なコケとか。あんた、解る?」 「全然。無理」 「はぁ…… 後は、これが一番大事なんだけど、主人を守る事ね。でもこれは……」 間をおいて、僕の方を見、言う。 「こっちの方が、よっぽど期待できそうね」 「うっせ」 「だからあんたに出来そうなことをやらせてあげる。そうね…… 洗濯。掃除。その他雑用ってとこかしら」 「ふざけんな!」 「じゃああんた、何か出来ることあるの?」 そう聞き返され、言葉に詰まる才人。そんな才人を後目に、次は僕の方へと向き直った。 しかし指をさすなり、突然頭を押さえて、考え込むように唸った。その仕草は、何かを思い出そうとしているように見える。 そこでふと気がついた。 まだ僕は、彼女に対して名前を教えてないことに。 「花京院典明。僕の名だ」 「ノリアキ? 変わった名前ね。……あんたはここでは衛兵兼、あたしの従者ってことで学園長から達しが出たわ」 「具体的には?」 「あたしが学園に行ってる間は、衛兵としての仕事を。あたしが帰ってきたら、従者としての仕事をしてもらうわ。基本的にはそこの使い魔の手伝いね」 「そこのってなんだよ!」 正直、遠くに飛ばされたらどうしようかと思ったが、とりあえず、僕はここでの拠点を手に入れた。帰る方法は、これからじっくり探せばいい。 ルイズは大きく欠伸をする。 「ふぁ~……。いろいろと喋ってたら、眠くなってきたわ」 そういえばもう日が暮れて、大分時間が経つ。僕らの時刻で言えば、今は夜中の10:00ぐらいだろう。 ふと部屋を見る。ベットは当然、一つしかなかった。 「俺たちは何処で寝たらいいんだよ」 ルイズは毛布を二枚、こちらに投げてよこし、もう一度大きな欠伸をしながら、床を指さした。 「犬か猫かよ!」 「しかたないでしょ…… ベットは一つしかないんだから」 そういいながらルイズは、僕たちがいるにもかかわらず、服を脱ぎ始めた。 才人はなにやら興奮気味にルイズを止めようとしている。 僕はというと、そういえば貴族というのは小間使いが部屋にいたとしても、基本的に気にもとめないらしいな。 と歴史の授業で習ったことを思い出していた。 才人の方を見ると、今度はなにやら、ぶつくさ小声で何かいっていた。 そんな才人を見ている間に、こっちの方へと下着が飛んできた。 「じゃあ、これ、明日までに二人で洗っといて」 「何で俺がお前の下着を! 洗濯! ふざけるな! 嬉しいけどさッ!」 「誰があんたの面倒見ると思ってるの? ここは誰の部屋? 誰がご飯用意すると思ってるの?」 「うぐっ」 才人はまたルイズに不平を言っている。案の定、またやりこめられている。 そういう僕も危うく、自分でやれ、自分で! といいそうになったが、彼女は一応『恩人』であると言い聞かせ、喉元まで来たその言葉を飲み込んだ。 ともかく、今日は疲れた。僕は毛布にくるまり、床に身体を横たえた。 才人の方も、同じように毛布にくるまり、身体を横にしている。 ルイズが指を弾くと、部屋のランプは光を失った。便利なものだ。 しばらくその状態で横になり、窓の外から二つの月を眺めた。 ベットの方から寝息が聞こえる。既にルイズは寝ているようだ。 その、規則正しい寝息の音を聞き、僕も瞼がストーンと落ちてきたのだった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/257.html
決着は互いに剣を買って終結した。 もっとも武器としての剣を欲していたのではなく話す剣から情報を引き出すのが目的だったのだが。 剣の名はデルフリンガーというらしく相変わらず兄貴と呼んでくる。 長い上に兄貴と呼んでくる事もありペッシと呼ぶと言うと 泣きながら?『デル公でもいいですからペッシだけはやめてください兄貴』と言われた。そんなに嫌か?ペッシは 3日程経過 特に何事も無く時間の流れに身を任せていたが、プロシュートは奇妙な違和感を感じていた。 「……この視線…人の物じゃあねぇな。とすると…使い魔か…?」 ここ数日明らかに何者かに監視されているという感覚がある。さすがにどこぞの吸血鬼のように『貴様見ているなッ!』というわけにはいかない。 人ならば誰が見ているかというのは分かる。だが探ってみても自分を見ているヤツなど確認できない。 とすると残る選択肢は使い魔を通しての監視しか無い。 夜になりルイズの部屋でどの辺りかを考える。 だが心当たりが無い。イタリアに居た時ならそんな心当たりなぞそれこそ星の数程あったが生憎この世界ではそんな心当たりは無い。 「昼間は仕掛けてこねぇとは思うがな…」 「…何か言った?」 「オメーには関係ねーこった」 「あんたの関係無いは私の不幸に直結してる事が多いから不安なのよ!」 (向こうからこねーならオレ自身を餌にして早めに炙り出す…か) 暗殺者という職業柄プロシュート達は徹底した現実主義者だ。 危険を危険として受け止め、それに対しての対策を素早く練りそれが終われば後は日常と変わらずに過ごす。 先の恐怖を先取りし縮こまるという事はしない。だからこそボスの娘の情報が手に入った時即座に行動を起こしたのだ。 (監視の時点で悩んでも仕方ねーことだな) そう考えると探りたければ探らせればいいという結論に達し…寝た。 (今は……な) 「…でプロシュートはどちらの剣を使うのかしら?」 翌々日例によってルイズとキュルケが揉めていたのだが、その内容がルイズとキュルケの買った剣どっちを使うかというものだった。 武器としての剣が欲しいのではなく欲しいのは情報なのだが二人にとっては意地の張り合いというものがあり揉めていた。 なんだかんだで第三ラウンドに発展し出た結論が 「「決闘よ!」」 「オレの関係無いとこでなら好きにしろ」 我関せずを貫こうとするプロシュートだが決闘内容が「自分を吊るしてそのロープを魔法で切った方が勝ち」などという提案が挙がった時は無言で二人を見据え ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨ (この目は…) (間違いなく…) ( (老化させてやろうか?と思っているッ!) ) 二人がそう思った瞬間 「「ごめんなさい」」 さすがの二人も年取って放置されるというのは絶対に嫌らしく同時に謝っていた。 夜になりルイズとキュルケ、タバサの三人が中庭に集まり決闘を始めようとしてるがプロシュートは居ない。 二つ出ている月の元の草原。そこにプロシュートが佇んでいる。無論、月を見ているわけではない。 「早いうちに炙り出されてくれると楽に済むからな…」 学園からある程度離れた場所、夜、そして一人。襲撃するにはこの上ない条件と言える。 襲われる事を知っての行動。 相手もそれは承知の上だろうが確実にやるならこの条件しか無い。 自らを釣り餌にした行動だ。 しばらく経ったが何も起こらない。 ――が僅かな匂いを感じた瞬間 (毒かッ!?) 瞬時にそう判断し姿勢を低くつつ風上に向かう。 風上に移動しつつ周辺を探るが辺りに人は見当たらない。 だがその間も流れてくる匂いは途切れない。 (風上に移動してるってのに誰も見えねぇ上に匂いも途切れやしねぇ…どういう事こった…?) 視界が良好というわけではないが月明かりがある。誰かが居れば分かるはずだった。 (何の毒が知らねーが…これ以上はマズイな…探す発想を『四次元』的にしなくてはいけないんだ…! 使い魔で監視するって事は相手はメイジって事だ…ヤツらを探すにはオレ達の常識外の発想が必要だッ!) 移動しながら考えるがある事に気付き―― 「なるほどな…同じ高さで見つからないって事は下か上って事だ」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨ 上を見上げる…居た。プロシュートから10メートル程離れた上空に揺れるようにしてそいつが居た。 「オレの移動に併せ絶えずそれを流し続けてたってわけか…」 「気付いたみたいね…でもあいつの射程は精々1~2メイル ここまでは絶対に届かない。次はあの薬で――」 そう言おうとした瞬間己の身に力が入らない事に気付いた。 「気温が低い夜とは言え…老化は確実に進行しているんだぜッ!!」 最初に香りを感じた瞬間スデにグレイトフル・デッドの広域老化を発動していたのだが気温が低めな夜という事もあり効果が出るのに時間が掛かった。 「何で…!?あの時は近付いてなきゃ攻撃できてなかったのに…!」 高度が下がり始める。効果は低いとはいえ疲労感を起こさせるには十分だ。よろめいたように地面に着地し…その時それが誰か分かった。 「テメー…あのマンモーニに香水ブチ撒けてたヤツか。確かモンモランシーとか言ったな… どういうつもりか知らねーがオレを倒す覚悟があるって事は倒される覚悟はできてるんだろうな…」 モンモランシーは答えずこちらを凝視してきている。攻撃を仕掛けるべく近付くが 「何…ッ!?」 急に体の感覚が無くなった。正確に言えば、触覚が完全に麻痺し体の動きも鈍い。 「さっきの匂いの正体は…麻痺毒ってわけか」 「麻痺毒?少し違うわね…麻痺してるのは確かだけど痛覚だけは残すっていう高尚なものよ」 「趣味の悪りぃもん作りやがったな…」 「『悪魔憑き』に趣味が悪いって言われたくないわ、ギーシュを虫ケラみたいに殺しておいてッ!」 杖を向け魔法を唱えてきた。恐らくは水系統の魔法。 迎撃しようとするが体の動きが鈍い。つまりグレイトフル・デッドの動きが鈍くなり迎撃が不可能だ。 全て命中した。命中したはずだったがプロシュートはそこに平然とというわけではないが依然として立っていた。 「命中した…はずなのに!」 「賭けだったが…魔法ってのはスタンドに干渉できねーようだな…」 スタンドはスタンドでしか傷付ける事はできない。それを利用し命中する直前グレイトフル・デッドを全面に展開させ全て『受け止めた』のだ。 体の動きが鈍いがG・デッドを前面に出し突き進む。 魔法が飛んでくるが全て命中しない。いや、命中はしているが当たる直前で弾かれている。 触覚が無いため平衡感覚が取れてないが何とか接近し――掴んだ だが、掴んで互いの目が合った瞬間何を狙っていたのかを理解する。 ああ、そうかこいつのこの目 ――こいつ…テメーの命を的にしてやがる バギィ 杖をヘシ折りそのままの勢いで投げ飛ばす 「…どうして殺さないのよ!ギーシュを踏み潰した時みたいに!」 「ハン!こんな人気の無い場所でオレがオメーを殺せば今度は決闘の時みてーにはいかねーからな」 この状況下で正当防衛を主張したとしてもあの連中の事、プロシュートが不利になるのは自明の理だ。 「今のオレの任務は『護衛』だ。この状況でオメーを殺るとルイズを護衛するしない以前の問題になるからな…」 唯でさえ状況が危ないのにここでモンモランシーを殺せば確実にルイズが責任を取らされる事になる。 それでは護衛の失敗だ。 本来なら老死させるとこだが、プロシュートの能力が老化という事はスデに知れ渡っている。 暗殺者とヒットマンの違いがこれだ。暗殺者は常にバレないように相手を殺す。 ギーシュの時は自身の能力を見せ付ける事で恐怖心を周りに植えつけさせこれ以上決闘なんぞを挑まさせる気を無くすのが目的だったが今回はそれが仇になった。 「…ここで私を殺さないとまた襲ってくるかもしれないわよ?」 「来たければ来やがれ、そのぐらい『覚悟』している だが、一つ言うがオレの任務は『護衛』だ。オレじゃあなくルイズを狙えば容赦はしねぇ」 「…………」 その場をふらつきながらに立ち去るプロシュートをモンモランシーはただ黙って見送るしかできなかった。 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ ―― 完全敗北(再起可能) 二つ名 香水 「思ったよりヤバいな……」 麻痺しかけた体を半分引きずるようにして中庭まで戻ってきたが毒が回ってきたのか本格的に体が動かなくなってきた。 「助けてくれ兄貴ィィィィィィイイイ!」 遥か上空から声が掛かり上を見てみると…デルフリンガーがロープに吊るされていた。 そしてその下に杖で構えている問題児が二名。 「……何やってんだ?」 「決闘よ。ロープを魔法で切った方の剣をプロシュートが使うかを決めるためのね」 「兄貴ィィィィィイイイ死んじまうぅぅぅぅぅ」 「…別に剣を吊るす事たぁねーだろ」 上の方から「そうだぞー」という声が聞こえるが 「そっちの方がやる気がでるじゃない」 と、スデにやる気満々で止める術は無い。 ルイズがロープを狙い杖を構え魔法を使ったが―― ドッグォーz_ン 「テメェェェェェェ俺を殺す気かァァァァァァアアアア」 デルフリンガーの後ろの壁が見事に爆発しヒビが入った。 「失敗しても爆風でロープが切れると思ったのに…!」 「最初から爆発が前提ェーーーーーッ!?テメー魔法ナメてんのかァァァァァァアアアア」 ギアッチョの如くデルフリンガーがキレる。当然だがキュルケは大爆笑だ。 「ロープじゃなく壁を爆破するなんて『ゼロ』は本当に器用ね!あっはっは!」 敗戦ボクサーのように膝を落とすルイズを後ろ目に今度はキュルケが狙いを付ける。 「『微熱』の二つ名の由縁見せてあげるわ」 杖の先から火球が現れロープに向かい真っ直ぐに飛んでいく。 キュルケの十八番『ファイヤーボール』だ。 「兄貴ィィィィ落ちる!落ちて折れる!折れて死ぬぅぅーーーーーーッ!」 地面に落ちていくデルフリンガーだが上空でシルフィードと共に待機していたタバサが『レビテーション』をかけ激突は免れた。 「私の勝ちね、ヴァリエール!」 勝利宣言も高らかに勝ち誇るキュルケだが、敗者の方はというと…ショボーンという音が聞こそうに座り込み『の』の字を書いている。 だが、地面が揺れる。 「な、なに!?」 全員が思わず息を飲む。 「ゴ、ゴーレム!?でもこんな大きいの見たことない!」 ギーシュ(故)のワルキューレなどとは比べ物にならない程の大きさだ。 蜘蛛の子を散らす。そんな表現がピッタリ当てはまる勢いでルイズとキュルケがゴーレムの移動線上から逃げた。 だが、一人逃げない者が居た。否、逃げれなかった者が居た。 「くそ…今頃回ってきたか」 地面が派手に揺れたせいで倒れたのだが体が麻痺しているせいでこれ以上動けないのだ。 その場を動かないプロシュートに我を忘れたルイズが駆け寄る。 「な、なんで逃げないのよ!あんたってば!」 「後始末の後遺症でな…!」 ゴーレムが近付き二人の頭上でその巨大な足を上げる。 「オレに構うなッ!」 「く…重いのよあんた!」 引きずってでも動かそうとするが体格差が大分ある二人だ。ゴーレムの足からは逃れるには至らない。 覚悟を決めた瞬間シルフィードが滑り込み二人を足で掴み上げた。そしてそのまますり抜けるようにして上空に舞い上がった。 その下でゴーレムがひびの入った壁を破壊し中に進入。 しばらくしてからまた肩に乗りモンモランシーと戦っていた草原へと向かっていく。 「土のゴーレム!?…あの大きさだと操ってるのはトライアングルクラス…以上ね」 「…随分と派手にやってくれたじゃあねーか」 体さえ動けばゴーレムの肩に乗ってロープを着ているヤツに直触りを叩き込んでやるとこだが生憎体は言う事を聞いちゃくれない。 そうしてるとこにルイズが自分を危険に侵して助けようとした事を思い出した。 「助かったから良いが『構うな』と言ったはずだぜ?」 それにルイズが当たり前のように言い放つ 「問題があるとは言え私の使い魔なんだから見捨てたりするわけないじゃない」 「……言ってくれるじゃあねーか」 そう言い放ちまだ少しだがルイズの『覚悟』を認めた。 翌日…当然の事ながら学院は大騒ぎだ。 何せ宝物庫の壁を物理的な力のみでブチ破り壁に 『破壊の杖、確かに領収致しました。土くれのフーケ』 と犯行声明が残されていたのだから。 「土くれだとッ!?盗賊風情が魔法学院に手ぇ出すなぞナメやがってクソッ!」 「HOLY SHIT!衛兵と当直は何をやってたんだね!」 「OH MY GODッ!破壊の杖を盗まれるとは…ドジこいたーーーッ!こいつはいかーーん!王室がお怒りになられるチクショーーー!」 とまぁ教師達がディ・モールトベネな具合にテンパっている。 完全にテンパり責任の擦り合いをしている教師達を尻目にオスマンに眼鏡の女性―ロングビルがフーケの居場所を掴んだ事を知らせていた。 「至急王室に報告を!王室衛士隊に頼んで、兵を向かわせなければ!」 そうU字禿コルベールが叫ぶがオスマンがその年齢らしかぬ怒気を含んだ叫びを上げる。 「王室なんぞに知らせている間に逃げられたらどうするんじゃ!S.H.I.Tッ!! それにこれは我が身の不始末!魔法学院の問題を我々で解決できねばどうする!」 オスマンが捜索隊を結成するため有志を募るが…教師陣は誰一人として杖を掲げようとしない。全員お互いの顔を見合わせるだけだ。 「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」 犯行現場を見ていたため呼ばれていたルイズが杖を掲げる。 「何をしているのです!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて……」 「誰も掲げないじゃあないですか」 『覚悟』を決めた強い言葉がシュヴルーズの言葉を遮らせる。 それに続くようにしてキュルケ、タバサが杖を掲げた。 それを見てオスマンが笑った。 「そうか。では頼むとしようか」 幾人かの教師達が生徒達だけでは危険だとオスマンに進言するが 「では、君達が行ってくれるかね?」 と問われると全員黙り込んでしまう。 「彼女達三人に勝てる者が居るなら一歩前に出たまえ。 居らんじゃろう?それに彼も居る事じゃし心配あるまいて」 全員の視線がプロシュートに集まった。 「「「悪魔憑き…」」」 どちらかというと教師達はルイズ、キュルケ、タバサの三人よりプロシュート一人にビビっている。 得体の知れない力で一瞬にして人を老化させメイジを顔色一つ変えず殺す事ができるのだからそれも無理ない事なのだが。 誰も前に出ない事を確認するとオスマンが四人に向き直った。 「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」 ルイズとキュルケとタバサが真顔になり直立し―― 「杖にかけて!」 と同時に唱和した。 プロシュート兄貴 ―― ザ・ニュー任務! 二つ名 悪魔憑き 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/960.html
「・・・。」 「う~ん・・・キュルケ・・・に・・・シアーハー・・・むにゃ・・・。」 「・・・。」 「壊れない・・・ウフフ・・・。必殺・・・やって・・・おしまい。」 「しばっ!!」 バサァッ!! 爽やかな朝に不穏な寝言を言うルイズ。 そんな彼女の朝は、キラークイーンに布団を引っぺがされることから始まった。 さすがに布団の爆破はしない。 『許可なき爆破は許さない。』キラークイーンに課せられたルールである。 どのみちルイズに馴染んできたキラークイーンにとっては、ルイズの意志がなければ出来ないが。 その他にも目覚ましの役目も言い渡されている。 そんな忠実なる使い魔に、彼女は寝ぼけ眼で言い放った。 「・・・誰?ってか何?」 「・・・。」 「あ、使い魔か・・・。」 ・・・何かもうダメだ。 「着替えなきゃ・・・。えっと、パンツは一番下に・・・と。」 衣擦れの音の響く部屋、その中で無駄に存在感を発揮するキラークイーン。 オプションには半裸の美少女。 異様な光景である。 「櫛は・・・キラークイーン、ちょっと取って。」 櫛を手渡すキラークイーン。何故かいつまでも視線をルイズの手に向けている。 「あんたって手を見ると動き止まるわよね・・・。変なの。」 その理由を彼女は知らない。 でも知らない方がいいってことも世の中にはたくさんありますよね。 「さて、準備も出来たし朝食に行くわよ。ついてきなさい。」 何となくキラークイーンには傍にいて欲しいルイズ。彼を近くに呼び寄せます。 別に離れても問題は無かったのだけれど、あんまり離れていると何かこうムズムズとするのです。 部屋から出て、施錠チェック終了!!といったところでなるべくなら聞きたくない声がした。 燃えるような髪。ルイズとは対照的な「何想像してんのさ」と聞こえてきそうな体。 そう、今朝、ルイズの夢の中で爆弾戦車に追っかけ回されていた女性、キュルケである。 ちなみに爆死する前に布団を引っぺがされたため、死んではいない。 「あら、ルイズ。その猫っぽい亜人が貴女の使い魔?けっこうキュートね。 フフッ・・・ひょっとして他の人のをさらってきたんじゃないでしょうね?」 「黙りなさい、キュルケ。体温すらない体にするわよ?あと人の使い魔、勝手に触らないで。」 「・・・。」 「・・・?フフ・・・私の手、綺麗でしょ?」 「キラークイーン!手なんか見ててもしょうがないでしょう!?行くわよ!」 「あら、キラークイーンっていうのね。素敵な名前・・・。 それと・・・私だけが知ってるのもフェアじゃないから。」 彼女の隣にジョーダンのようなトカゲが現れた。 「これが私の使い魔、フレイム。サラマンダーよ。しかも火竜山脈の・・・。 好事家に見せたらきっと欲に塗れた醜態を晒してくれるでしょうね・・・。」 「ふ~ん、まあまあね。あんたにぴったりじゃない。それじゃ、私お腹空いてるからこれで。」 「あ、ちょっと・・・。」 有無を言わさず立ち去るルイズ。 普段見せているコンプレックスの欠片も見せなかったルイズにキュルケは戸惑っていた。 意外に思えるかもしれないが、このときルイズが癇癪を起こさず、冷静に対応できたのは奇跡などではない。 なぜならキラークイーンもけっこうレアなため、この時点でルイズには勝った!!という考えが浮かんでいたのだ。 キラークイーンの能力を把握しているルイズにとって、サラマンダーなどシアーハートを発射するだけで事足りるのだから、 当然といえば当然の態度である。 本日のルイズ・・・夢の中で必殺技を思いつく。 必殺技・・・シアーハートアタックを発射後すぐにキラークイーンで全力投球。これにより周囲の温度に影響されずに標的に向かう。 ただし対象物に温度がない場合は使えない。 To Be Continued → 戻る 目次
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/213.html
法皇は使い魔~法皇の使い魔第二章~ 「我が名は花教院典明」 なぜ僕は生きているのかという疑問はもはや頭の中に無かった。 DIOのことだから能力は時間を止める事だけでは無いかもしれない。 殺してからも相手に死を与え続ける、そんなえげつない能力があってもおかしくは無い。 とても恐ろしい能力だ。しかし、だからこそ彼は誇り高く名乗った。 スタンドでは負けても心で負けないために。 そしてDIOの恐怖に打ち勝つために。 「ハイエロファントグリーン」 彼のスタンドが現れ臨戦態勢に入る。 するとなぜだろう、 「なに叫んでるんだ?」 「変な髪形だなあ」 「あんな服見たこと無いぞ」 見下されている感じはあれど殺意もなさそうだし、スタンドも見えていないようだ。 「カキョーイン?発音しにくいわね、何でも良いけど動かないでね」 名前を聞いてきた少女が近づいてきた。 相手がスタンド使いで無いと思って油断していたそのときだった 唇を奪われた いつもは冷静な花教院だがこのときばかりは動揺した。 髪型は独特だがイケメンといってなんら差し支えの無い彼だが、 承太郎達と出会うまで真の友達いなかったのである。彼女などいるはずが無い。 つまりファーストキスだったのである。 「な、なによ、私だって初めてなんだからね」 少女が赤面して叫んでいる。 彼はとりあえず話題を変えようとした。普段の冷静なイメージを崩したくなかったのである。 「そういえば、あなたの名はなんというのですか」 口調はあくまで冷静だった。 「私はルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 ルイズ、自分のファーストキスを奪った相手なのか。 こんな事を考えていると急に体が熱くなっていった。 これは恥ずかしいというれぜるじゃ無い、これはもう明らかな痛みだ。 「まずい・・・意識が・・・遠・・・のい・・・て・・・いく・・・」 油断していた、キスで動揺していたとはいえこんなに簡単にやられてしまうとは・・・ 夢を見た。承太郎たちと日本へ戻る夢だ。 承太郎はいつものように静かで、ジョースターさんとアブドゥルは仲良く酒を飲み、、 ポルナレフはいつものように騒がしく、イギーもこころなしか幸せそうな顔をしていた。 そして僕は・・・ 「こ、ここはどこだッ」 いいところで夢から覚めるとそこは西洋風のベッドの上だった。 なぜ僕はこんなところにいるんだ・・・そうか、DIOの第2の能力で・・キ・・ス・・をされて・・・ 彼は少々赤面しながら彼は大体の事を思い出した。 「もう手遅れかもしれないがとにかく逃げるしかないッ ハイエロファントグリーンッ壁に穴を開けろッ エメラルドスプ・・・」 「もう起きたの?それに何叫んでるのよ」 ピンク色の髪をした少女ルイズが部屋にはいってきた。 「お、お前はッDIOのスタンドだか手下だかわからないが、 さっきのキスで君を敵と確信した、女の子だが倒させてもらおうッ、 ハイエロファントグリーン、エメラルドスプラッシュだッ」 彼のスタンドの手から宝石が放たれる。 「な、何なのよ、何で急に空中から宝石なんかが出てくるのよ?」 「何?やはり君にはハイエロファントグリーンが見えていないのか?」 そういえば彼女がDIOの仲間なら寝首をかく事だって容易だったはずなのになぜ自分を殺さなかったのか。 冷静になって考えればこちらの勘違いかもしれない。 「一応聞くが、君はDIOという男は知っているか?」 「DIO?だれよ?それと君って呼ぶのはやめなさい、使い魔のくせに無礼よ!」 「使い魔だと?いったい何なんだ?それは。」 花京院という男は冷静である。 「使い魔」と呼ばれに明らかに目下に思われているのに現状把握に努めている。 その結果ルイズから、この世界の事、使い魔とは何か、などを聞き出すことに成功した。 「つまり、僕は君、失礼、ルイズの執事となればいいのだろう? だが断るッ といいたいところだが、DIOの仲間と間違えて攻撃してしまった以上、 謝罪の気持ちの表れとして当分はルイズ、あなたの言う通りにしよう。」 もちろん、彼の心の中には、まだDIOの手下である可能性はぬぐいきれなかったが、 元の世界に帰るためにルイズの近くにいることが最善であるのも確かだ。 「それじゃこの下着洗っといてね」 早速ルイズが仕事を申し付けてくる。 それにしてもあまり親しくも無い男に下着を洗わせるのは恥ずかしくないのだろうか? 承太郎で無くてもこういうだろう。 「やれやれだ」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1669.html
翌朝・・・。 ルイズとワルドは、結婚式の準備をしていた。 といっても、今まさに攻め落とされんとしている城で派手なことができるわけもなく、 ウェールズ・・・アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に乗せ、同じく純白の乙女のマントを纏うだけという単純なものではあったが。 「ねえワルド、本当にここで結婚式をするの?」 昨日はセッコに手紙を始末されたショックもあって、勢いで“今結婚しよう” と言うワルドに同意してしまったものの、一晩空けて冷静になってみると、やはり何か違う気がするのであった。 「僕が相手じゃ不満かい?」 「・・・」 そうじゃなくて、ここで今するのが気に入らないのよね。 ルイズとしてはささやかに式を挙げるなら、帰ったら任務のことでどうせ会う、アンリエッタの前で誓いたかったのだ。 それに、ある意味では全権大使とも言える自分が、いくら亡命を勧めても聞かなかった頑固な武人であるウェールズ皇太子。 その最期の思い出が、昨日会ったばかりの他国人の結婚式だなんて。 そんなの、悲しすぎるわよ。 それに、いや、そんなこと以上に、何故か心は不安でいっぱいだ。 その時、ワルドがルイズの手をとった。 「さあ行こう、ルイズ。 始祖ブリミル像の前で、ウェールズ皇太子が待ちわびているぞ」 「え、ええ」 ワルドに手を引かれ、戦の準備で誰もいない滅び行く城の廊下を、ウェールズの待つ礼拝堂に向かって歩く。 昨日は、わたしとセッコ以外、皆笑っていた。 まあセッコは、悲しんでいるという感じではなかったけれど。 今も、隣のワルドは幸せそうに微笑んでいる。 きっと、ウェールズも笑って死を迎えるのだろう。 何故、わたしだけが寂しいのかしら。 わたしが・・・おかしいのかしら?それともわたしが、何か悪いことを? 「ルイズ!行き過ぎているぞ、礼拝堂はこっちだ!」 「あ、そう、そうね。ごめんなさい、ワルド」 さてその頃、鍾乳洞に作られた港の中、セッコはニューカッスルから一足先に脱出するため、 疎開する人々に混じってイーグル号に乗り込む列に並んでいた。 「なあ、相棒」 「どうしたあ?」 「なんか体がスースーして気分悪いんだけどよ」 「人前で鞘から抜くと、ルイズが怒るんだから仕方ねーだろお。喋れるだけいいと思え」 「むう」 デルフリンガーの鞘は、話し相手を欲しがったセッコによって、そのまま喋れるよう穴だらけにされていたのだった。 「ところでよ、娘っ子を放置してきて本当によかったのか?」 「命令されたらオレにはどうしようもねーよ。さすがに[死ね]とか言われたら必死で逃げるけどなあ。」 「難儀なもんだな、まーあのワルドって奴も強そうだし、なんとかなるかね」 「オレは、あいつ嫌いだけどな。ルイズの婚約者じゃなかったらぶち殺したいぐらい。」 「おいおい、やっぱ戻った方がよくねえか相棒」 ちょっと考えてから、答える。 「いや別に、オレの目の前にいなけりゃそれで。」 「ははは、ちげえねえ」 ルイズとワルドが礼拝堂につくと、皇太子の礼装に身を包んだウェールズが、一人で始祖ブリミル像の前に佇んでいた。 「・・・お一人なんですか?」 ルイズは無礼な疑問を口に出してしまった事に気づき、慌てて手を当てた。 「すまないね。できることならもう少し豪勢にしてあげたいが、皆は戦の準備で忙しいんだ。」 「も、申し訳ありません、殿下」 「気にしないでくれたまえ。では、子爵」 「はい」 ワルドが、仰々しく一礼した。 「それでは、式を始める」 王子の声が、ルイズの耳に届く。 しかし、ルイズの心は結婚を前にしているというのに、様々な疑問が渦を巻き、憂鬱であった。理由はわからない。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いた。 「誓います」 ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール・・・」 朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げる。 そう、わたしって今憧れの婚約者と結婚しようとしてるのよね。 それなのに何故、何故こんなに不安なのかしら。 ウェールズ達が死に行こうとしているから? それは悲しいことだけれどわたしと直接は関係ないわ。 セッコがアンリエッタの手紙を握り潰したから? いや、手紙が敵の手に永久に落ちなくなれば根本的に問題は起こらないわけだし、セッコはあいつなりに最善の手を取ったのよね。 お仕置きは必要だろうけど、少なくとも不安とは違う。 結婚したらセッコを常に監視するわけにいかないから? 確かにあいつは放っておくと極めて危険だ。 でも、考えてみれば傍においておかなくてもいくらでも手はある。 今気にやむようなことではない。わたしはそんなに神経質ではない・・・と思う。 じゃあ、何で不安なのよ!この疑問は何! 「新婦?」 「・・・新婦?」 ウェールズが心配そうにこっちを見ていた。はっとして顔を上げる。 こんなとき・・・疑問を感じたとき、あいつならどうするだろう? この世界の何よりも無邪気で、残酷で、正直で、そして純粋な自分の使い魔。 「緊張しているのかい?仕方がない。初めてのときは、ことが何であれ、緊張するものだからね」 にっこりと笑って、ウェールズは続けた。 「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。 では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫と・・・」 違う、違うのよ、ウェールズ殿下。わたしは緊張してなどいない。 ルイズは首を振った。 ただ、何かが引っかかっているのよ。 誰も答えを出してくれない悩みが、疑問があるとき、どうすればいい? この世で、一番信じられるものは何? それは・・・ 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔で、ルイズの顔を覗き込む。 わたしは、あいつに影響されているのだろうか? いや、元々そうだったのだろう。この世で一番信じられるものは、“わたし”。 自分が納得できないことは、今やるべきではないこと。 ルイズは、ワルドに向き直った。 「どうしたね。ルイズ。気分でも悪いのかい?」 「気分は、悪くないわ」 「なら、誓おうじゃないか」 「いいえ、ワルド。今は、結婚できないわ」 ウェールズは首をかしげた。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、私はこの結婚を望みません。少なくとも、今は」 ワルドの顔に、さっと朱がさした。ウェールズは困ったように首をかしげ、残念そうにワルドに告げた。 「子爵、まことにお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにいかぬ」 ワルドはウェールズを無視してルイズの手をとった。 「ルイズ・・・緊張してるのかい?きみが、僕との結婚を拒むなんて」 「ごめんなさい。ワルド。この旅で判ったんだけど、何故かあなたと二人でいると不安になるのよ。 女神の杵亭に居た時。桟橋で、セッコが錯乱してあなたに殴りかかったとき。それに・・・。 もちろんワルド、あなたのことは憧れだし、少なくとも嫌いじゃないわ。でも、今はだめ。今は結婚できない」 ワルドの表情が変わる。 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる!そのためにきみが必要なんだ!」 豹変したワルドに怯みながらも、ルイズは力強く首を振った。 「わたしの不安は、そういうことだったのね、ワルド。世界なんかいらないわ」 ワルドは両手を広げると、ルイズに更に詰め寄った。 「僕にはきみが必要なんだ!きみの能力が!きみの力が!」 何を言っているの?こんなワルドって、あの優しかったワルドがこんなに・・・ いや、一度だけ、一度だけこんなワルドを見たことがある。 ラ・ロシェールで、セッコと手合わせしたときに。 あの時、わたしはセッコがキレていたのだと思っていた。 あいつが暴走しやすいのはいつものことだったし。 盗賊をバラバラにしたのを前の晩見てしまったから、余計そう思ったのかもしれない。 ・・・でも、違ったのね。本当に“キレて”いたのは、ワルドの方だった! 「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか! きみは始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう!きみは自分で気づいていないだけだ!その才能に!」 「ワルド、あなたまさか・・・」 ルイズの心が、急激に醒めていく。 自らに酔っているかのように昂りつつあるワルドと対照的に。 セッコはイーグル号に乗り込んだ瞬間、突然言い知れぬ不安に襲われた。 身震いし、目をこする。 「おい、どうした相棒!」 「おかしい。」 「なんだ、疲れてんのか?」 「違う、オレは昨日たらふく飯を食ったし、よく寝た。」 でも、変なものが見える、これは・・・昨日の城?・・・ウェールズ・・・と? 「なんなんだよ相棒」 「左目にワルドが見える、そのせいで胸クソわりい。あと左手が熱い。」 印が、光っている。なんだこりゃあ? 「何を訳の判らないこと言ってるんだ?」 「呼ばれてる、気がする。」 「落ち着けって!トリステインに一足先に帰ってのんびりするんだろ相棒!」 うう、だめだ、この映像・・・これを消さねえと・・・ 「ちょっと、黙ってろ。」 オレは、・・・を信用しすぎていた。だから、・・・は死んだ。 本当に信用できるのは、やっぱり、オレ自身だよなあ。 セッコは、発進寸前のイーグル号から飛び降りた。 「なあ相棒、この船に乗らなかったら、どうやって帰るんだよ!」 デルフリンガーが叫んでいる。 「うぁ?あー。多分大丈夫だ。[不安]がなくなってから、考えるぜえ」 セッコは、デルフリンガーを抜き、壁に潜った。 「なにがだ・・・グボァ、ぁぃぼヴ!ぬぁんだこれ気持ちわりい!がぼぁ!」 「これが、オレだ。オレを相棒っつーなら慣れろ。あと、静かにしてろ。 振動が、音が聞こえねえと方向感覚が狂うんだよぉ。」 上に向かって、深く、潜っていく。上に、上に。 ルイズに対するワルドの剣幕を見かねたウェールズが、間に入ってとりなそうとした。 「子爵、きみは振られたのだ。潔く・・・」 が、ワルドはその手を跳ね除ける。 「黙っておれ!」 ウェールズは驚いて立ち尽くした。ワルドはルイズの手を強く握った。 「ルイズ!きみの才能が僕には必要なんだ!きみはそれに気づいてない!」 ルイズはワルドの手を振り解こうとしたが、ワルドの力は物凄く、解けない。 「冗談じゃないわ!さっきまでは、トリステインに戻って、ゆっくり話してから、そうして結婚しようと思ってた。 だけど、今確信したわ。やっぱりあなたはわたしを見ていない!」 暴れるルイズを見て、ウェールズが加勢し、ワルドを引き剥がそうとした。 しかし、ワルドはそれを突き飛ばす。 「うぬ、何たる無礼!何たる侮辱!子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を放したまえ!さもなくば、我が魔法の刃がきみを切り裂くぞ!」 ワルドは、それでやっと手を放し、そして張り付いたような笑みを浮かべた。 「こうまで僕が言ってもだめかい?ルイズ。僕のルイズ。」 「嫌よ、絶対に!」 「この旅で、きみの気持ちを掴むために、ずいぶん努力したんだが・・・」 「そう。わたしのあなたへの気持ちは、この旅で離れたのよ」 覚悟を決めたルイズは、そう吐き捨てた。 それを聞いたワルドは、両手を広げて首を振った。 「こうなっては仕方がない。ならば目的の一つは諦めよう」 「目的?」 ワルドの笑みが、禍々しく歪む。 「そうだ。このたびにおける僕の目的は三つあった。その二つが達成できただけでも、よしとしなければな」 「達成、二つ?どういうこと?」 なによ、まだ・・・まだ何かあったわけ? 「まず一つはきみだ。ルイズ。きみを手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」 「当たり前じゃないの!」 ワルドが、ルイズを見つめなおす。 「二つ目の目的は、ルイズ、君のポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」 それを聞いたウェールズは、全てを察したのか杖を構えた。 しかし、ルイズは突然、笑い始めた。 「そう、残念ね。すっごく残念。それも、達成は不可能よ、ワルド!」 「「何?!」」 ウェールズも、ワルドもはっとした顔になる。 「手紙なら、セッコが、わたしの使い魔が処分したわ。 あの時は、さすがに慌てたし、怒ったわ。でも、今となっては勲章ものね」 「ガンダールヴか!なんと使えぬ奴!おのれ!」 「残念ね」 「・・・だが、三つ目は達成させてもらうぞ!」 閃光のように素早く杖を引き抜いたワルドが、呪文の詠唱を完成させ、ウェールズに飛び掛る。 「き、貴様!レコン・キスタ・・・」 正面から飛び掛ったワルドの攻撃を、何とか弾き返したウェールズの言葉は、しかし最後まで続かなかった。 「貴様の命だ、ウェールズ」 ウェールズの背後、始祖ブリミル像の影から、もう一人のワルドが飛び出し、その胸を貫いていた。 「・・・風の遍・・・在・・・ぐあ・・・」 ウェールズの口から、どっと鮮血が溢れ、床に崩れ落ちる。 「あなた、貴族派?・・・裏切り者、だったの?」 さすがにそこまでは読み切れなかったルイズが、わななきながら怒鳴った。 「そうとも。いかにも僕は、アルビオン貴族派、レコン・キスタの一員さ」 ルイズは杖を振り上げようとしたが、遍在のワルドに掴まれ、壁に押し付けられた。ワルドはそのまま言葉を続ける。 「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がっているのさ。そして、最終的には、始祖ブリミルの光臨せし[聖地]を取り戻す」 「昔は、昔はそんなふうじゃなかったわ。何があなたを変えたの?」 「話せば、長くなる。今ここで語る気にはならん」 逃げようとしても、壁に押し付けられていて動けない。 「どうして・・・」 「だから!だから共に世界を手に入れようと言ったではないか!」 「嫌よ、世界なんていらないって言ったでしょう・・・」 「もう、遅いんだよ。言うことを聞かぬ小鳥は、首を捻るしかない。さようなら、可愛い僕のルイズ」 ルイズの首に、手がかけられる。 「う・・ぐ・・・助けて・・・セ・・」 駄目、息が・・・ 「残念だよ・・・。この手で、きみの命を奪わねばならないとは・・・」 ワルドは、そう言いながらも実に楽しそうだ。それがとても、悔しい。 せめても本当に悲しそうにしてくれていれば、まだ救われたのに。 意識が朦朧としてきたせいか、壁に沈みこんでいるような感覚がある。 わたしは、こんな夢を・・・ その時、突然締め付けていた力が緩んで、ルイズは失神し床に崩れ落ちた。 ワルドの目が、驚愕に見開かれる。 壁から生えた腕に、“遍在”の胸が貫かれていた。 To be continued…… 戻る< 目次 続く