約 1,076,908 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/170.html
本日の医務室⇔自室2度目の往復を達成したルイズが凄まじい勢いで部屋に飛び込んできた。 その心中は「酒ッ!飲まずにはいられないッ!あの使い魔のせいで荒れているクソッ!」というところか。 「……さっきから何やってんだオメーは」 「何やってんのはあんたの方よォーーーーッ!決闘でギーシュ殺したって本当!?いや嘘よね!頼むから嘘って言ってぇ~~」 だが、そんなルイズの懇願虚しく 「決闘なんだから始末するに決まってんだろーが」 と1秒足らずでそれを肯定される。 ――――――終わった そう思いながら椅子に力なく座り込む。その姿たるや真っ白に燃え尽きた某ボクサーの如し。 「向こうから決闘を仕掛けてきたんじゃあねーか、返り討ちにして何か問題でもあんのか?」 分かってない、こいつは事の重大さを全く分かってない。 その時ルイズは本気で思った『死にたくなった』と 少し時間をバイツァ・ダスト 学長室に流れる緊張した空気、その原因は当然対峙する仙人もどきと暗殺者だ。 「で、では…私は外に控えておりますので…」 完全にビビりながら半分逃げるようにして退出するコルベール 「さて…お主、ギーシュ・ド・グラモンと決闘をしそれを殺したというのは事実かの?」 「ヤツが売ってきた決闘だ、返り討ちにして問題があんのか?」 「むう」とオスマンが息を呑む (こやつ…メイジを殺害しておいて目に迷いや戸惑いといったものが無いのぉ) スタンドは使い手の精神の象徴とも言われる。 プロシュートのグレイトフル・デッドは体温の上昇差で多少の違いこそあるが老若男女の区別無く『平等』に老化させる。 それが例え貴族や平民であっても一切の例外は無い。 つまりプロシュートにとって身分の違いなどは一切関係なく誰であろうと対等に扱おうとする。 「ヤツはオレを殺そうという『覚悟』があって魔法を使ったんだ… つまりオレに殺される『覚悟』があったという事だぜ?」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ (怖っわいのぉ~何なんじゃこのプレッシャーは) 「そういえば、お主ミスタ・グラモンを老化させたと聞いたが事実ならそれちょびっとだけ見せてくれんかの」 手を合わせ拝むように頼んでくるが、さすがに自分の能力を見せるという事に少しながら躊躇する。 ズキュン! が、スデに知れ渡っているようなので花瓶に入っていた花を掴み直で老化させた。 「こんな魔法は見たことないのぉ…見たところ杖も持ってないようじゃしお主メイジでもあるまい」 「側に立つもの、人間の精神エネルギーの具現化でオレがいた世界じゃ『スタンド』っつーモンだ」 「お主、今『場所』と言わず『世界』と言ったな…こことは別の『世界』という事かね?」 「そうなんだが、ルイズに言っても信じやしねぇ イタリアってとこから来たんだが聞いた事ねぇか。他にスイス、フランス、ドイツ、ハンガリーとかがある」 「ふ~む…どれだったか聞いたような気がするのぉ…どいつじゃったか…ドイツじゃった…なんちゃって♪」 ズキュン! 「二度と言わないから老化は止めて、お願い…」 養豚場の豚以下を見るような目で老化を解除するが、老化させたはずのオスマンがあまり変化していなかった事に改めて異世界だという事を再認識させられる。 「そうじゃ、今ので思い出したわい、ドイツじゃ…って本当だから、これ本当!」 「…マジなら詳しく聞かせてもらおうか」 「ちぃっとばかし長くなるが構わんかのぉ?」 構わねーと目で話をするように促すとオスマンがそれを話し始めた。 ―あれは三十年ぐらい前じゃったかの…わしは森に秘薬の材料を採集にしいっておった… 「S.H.I.Tッ!何でこんなところにワイバーンが居るんじゃ!」 とジョセフ・ジョースターばりの走り方で猛ダッシュするのは今より若干若いオスマン。 そして、その後ろからはワイバーンが追ってきていた。 何故こうなっているかというと 秘薬!その素敵な材料がオスマンを行動させていたッ! ―じゃが雪が降っている森から材料を持って帰る時ワイバーンに襲われてしまってな… 「OH MY GOD!何でこんなとこに木の根なんかあるんじゃ!」 全力疾走していただけあって派手に転ぶオスマン。だがワイバーンは遠慮しない。 ―あの時は死ぬと思ってわしも覚悟を決めてたんじゃ… 「どうせ死ぬならピッチピチの娘の胸の中で死にたかったのぉ…」 もう偉大な魔法使いとは思えないような邪心溢れる思考である ―じゃが、わしにワイバーンが襲い掛かる前に爆発が起きて助かったんじゃ 「な、なんじゃあ~!?」 ―周りを見渡すと一人の男が杖のような物を持って立っておった 「ブァッカ者がァァァァァァアアア我がナチスの科学力は世界一ィィィィィ 露助どもの作った生物兵器などどうということはないィィィィィイイイ」 ―奇妙な男じゃった…爆風にフッ飛ばされてるわしに近付いて起こしてくれたんじゃが、後ろからワイバーンの群れが追ってきての… 「寝とる場合かァーーーーーッ!」 男がオスマンを半ば無理矢理起こす。 「スマンのぉ、助かったわい」 「喜ぶのは後だ」 「どういう事じゃ――」 ―あの時は本当に怖かったわい…なにせワイバーンが十数匹も居たんじゃから… だがその男は少しも慌ててなどいなかった…わしを庇うように立ち隠れていろと言ってきたんじゃ… 「フン、うろたえないィィィィィイイイドイツ軍人はうろたえないィィィィィイイ」 男に目掛けワイバーンが殺到するッ! 「そこの木の影に隠れていろ老人ッ!」 ―その男の妙な自信をなぜだか信頼する事ができてわしは迷わず隠れた… 「くらえ!露助の鳥公!30㎜の鉄板を貫通でき一分間に600発発射可能の徹甲弾をッ!!」 ―雷のような凄まじい音じゃった…じゃがその時男に異変が起きた… バギィ! 「何だとォォォォオオオ!物資不足の前線ではロクに整備もままならんかッ!」 ―急に音が止まって男がワイバーンに囲まれたんじゃ… 「聞こえるか…老人!」 ―そうして男がわしにある物を投げ逃げろと言ってきたんじゃ… 「ここはおれがどうにかする…それを持って逃げろ!」 「じゃがお主一人では…」 「フフ…老人と二人でこの数を相手にしても結果は変わるまい おれは誇り高きドイツ軍人!死ぬ覚悟などとうに出来ておるッ!それにそれがあれば一匹ぐらいなら何とかなるッ!」 ―わしは男の言うとおり逃げた… 「人間の偉大さは-恐怖に耐える誇り高き姿にある…か これを言うのは二度目だな…おれもお前の所に征くぞジョジョ!」 ―やっと安全な場所まで逃げたと思ったらあの場所から爆発が聞こえてな… 「自爆システム作動ォォォオオオ!我が祖国よ永遠なれえェェェェエエィッ!!」 オスマンが一息付く 「これがわしが知ってる限りの話じゃ…その男がわしに渡した物は 男が最初にワイバーンに使った杖らしき物と同じでわしらはその爆発を起こした魔法の杖を『破壊の杖』と呼んどる」 「確かに男が何回か『ドイツ』と言ったような気はするんじゃがな」 「オレの世界には魔法の杖なんて存在しねーからな…ま、ドイツっつー単語だけじゃあ判断できねーな」 「さて…本題じゃがお主にはミス・ヴァリエールと一緒に居てもらうぞ なにしろ前例が無い事じゃから王室に相談してみんことにはどうなるか分かったもんじゃないわい」 「もうスデに似たような状況なんだが」 「まぁそう言うな…どうなるか分かったら使いを寄こすからもう決闘なぞせんようにな。もっとも、生徒達がお主に挑むとは思えんがの」 部屋から出る。だが、その時眼鏡の女性とすれ違った。 「失礼します。オールド・オスマン」 「ミス・ロングビルか何かあったかの?」 「…あれが『悪魔憑き』…ですか」 「『悪魔憑き』何の事じゃ?」 「生徒達の間で噂になってますよ。人間の年齢を奪う『悪魔』に憑かれていると」 「なるほど…『悪魔憑き』か…言い得て妙じゃの。して要件はそれだけか?」 「あ、いえ紅茶をお持ちしたんですが一つ余分になってしまいましたね、というわけで二杯飲んでください」 そこには笑顔ながら飲め!という命令を下しているような秘書の姿があり―『死にたくなった』 プロシュート兄貴―「執行猶予中」 二つ名「悪魔憑き」 ←To be continued 『魁!ドイツ軍』 歌:ルドル・フォン・シュトロハイム ドイツ軍人の生き様は 色無し 恋無し 情け有り 戦争の道をひたすらに 歩みて明日を魁る 嗚呼ナチス男意気 己の道を魁よ ドイツ軍人の魂は 強く激しく 温かく 総帥の夢をひたすらに 求めて明日を魁る 嗚呼ナチス 男意気 己の道を魁よ 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/246.html
ある虚無の曜日、ルイズは朝からウンウン唸っていた。 その隣のソファーでは、DIOが図書室から新しく借りた(強奪に近いものと思われる)本を、無言で読んでいた。 『僕の私のハルケギニア大陸』というタイトルで、凡その子供が読むような、簡単な地理書だ。 DIOは、コツを掴んだ人間が、自転車をあっと言う間に乗りこなしてしまうように、ドンドンとハルケギニアの知識を得ていた。 そんなDIOを脇目に、暫く唸っていたルイズだったが、突然雷に打たれたようにその顔を上げた。 「…そう、そうよ! 今は考えたってしょうがないわ。 何と言われようが、こいつは私の使い魔。 そうよ! 忘れてたわ、私、どんなことがあろうと乗り越えてみせるって、あの時誓ったじゃない!」 あの時、とは契約の時のことだろうが、とにもかくにも、ルイズは一人でヒートアップしていった。 そして、ベッドから立ち上がって、DIOを指差した。 腰に手まで当てて、随分と興に入った雰囲気である。 「DIO! 本を仕舞いなさい! すぐ街に行くわよ!」 「これまた突然だな。……何をしに?」 DIOはチラッとルイズを見て、ため息をつきつつ本を閉じた。 「ナイフ、買ってあげるわ! あと服も! 何かある度にいちいち厨房からガメられたんじゃ、私たちの食事がまずくなるし、あんただって、いつまでも上半身裸じゃやってられないでしょ?」 どうやら買い物に連れていくようだ。 武器を買うということは、ルイズがDIOを本格的に自分の使い魔であると認めた証拠である。 「珍しいじゃないか、使い魔に贅沢をさせるなんて…」 DIOはしかし、全く何とも思っていないようだ。 言葉とは裏腹に、自分が使い魔であるなどとは全く考えてはいないようにも取れる。 だが、ルイズは別にそれでもよかった。締めるところでビッチリ締めればいいのだと、割り切っていたからだ。 「必要な物は、きちんと買うわ。私は別にケチじゃないのよ」 ルイズは得意げにいい、もう話は決まったばかりに荷物をまとめ始めた。 あれよあれよという間に外出の準備を完了させてしまう。 早業であった。 「わかったら、さっさと行くわよ。今日は虚無の曜日なんだか ら」 DIOはゆっくりと立ち上がって、ドアに手をかけた。 「ところでDIO、その本どうしたの?」 ルイズの質問に、DIOは動きを止めて、ルイズの方に振り返った。 「モンモランシーという子が、選んでくれたのさ」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― キュルケは昼前に目覚めた。 今日は虚無の曜日である。 窓を眺めて、そこから見える太陽の黄色さに目が眩んだ。 まぶしさと眠気に目をつぶりながら、キュルケは昨晩の出来事を思いかえす。 「そうだわ、ふぁ、昨晩はいろいろ大変だったわ…」 ペリッソンに、スティックスに、マニカンにエイジャックスにギムリに……etc. さすがの『微熱』も燃え尽きそうになるほどだった。 これからはブッキングは避けた方が良さそうね…と思いながら、キュルケは起き上がり、化粧を始めた。 夜明けまで起きていた割にはやけにツヤツヤしている彼女の肌には、化粧は必要なさそうだが、女の嗜みというやつだ。 パタパタと化粧をしながら、キュルケはこれまでの出来事を思い出した。 主にルイズの。 途端に、キュルケの顔に影がさした。 最近のルイズは、どうにもおかしい。 いや、いつもおかしいのだが、あの使い魔を召喚してからはそれが顕著になってきている。 キュルケは、ルイズが腹に抱えている黒い爆弾のことを知ってはいた。 プライドの高いルイズは、『ゼロ』とバカにされてもそう軽率に怒りを表すような人間ではない。 ……ないのだが、『ゼロ』と呼ばれる度に、彼女の心にストレスは確実に蓄積されていくということを、キュルケは知っていた。 そして精神の均衡を保つため、そのストレスは定期的に爆発をするということも。 その時、ルイズは世にも恐ろしい悪鬼になる。 シュヴルーズの件が、良い例だ。 あと、ギーシュの時も。 キュルケは、以前あの状態になったルイズに一発かまされたことがあったので、ルイズの恐ろしさは重々承知していた。 その時のことを思い出すだけで、キュルケは震えがくるのだが、そのおかげでルイズのストレスが爆発するギリギリのラインも、ある程度は心得たのだった。 その範囲内でルイズをからかうのが、キュルケの最近の楽しみでもあった。 しかし……キュルケは疑問に思う。 最近のルイズは、どうにもおかしい。 何だか、爆発の頻度が高くなったような気がする。 というより、寧ろ自分からそれを楽しんでいるような印象さえ受ける。 キュルケの脳裏に、ギーシュとの決闘の時、瀕死のギーシュに対して、いとも簡単に処刑宣告をしたルイズの姿が映し出される。 やはり、あの使い魔のせいだろうか。 だとしたら、釘を刺しておく必要がある。 彼女は自分のライバルなのだ。 勝手な手出しは、その使い魔だろうと許さない。 キュルケは化粧を終えて、立ち上がった。 自分の部屋から出て、ルイズの部屋の扉をノックする。 扉が開くまでの間、キュルケはなるべくルイズ本人が出てくることを願った。 無論、使い魔のDIOの方が出てくる可能性の方が高いのだが、キュルケはそう願った。 何と言おうか、DIOを前にすると、言い知れない緊張を感じてしまう。 萎縮してしまう、といってもよかった。 それは、自分の使い魔であるサラマンダーのフレイムも同じであるらしい。 初めてDIOを見たとき、フレイムはひどく怯えていた。 自分の命令なしでも、DIOを攻撃しそうな勢いだった。 火流山脈のサラマンダーが怖がるほどだ。 そのDIOがどれだけの力を持っているのかは、一応は、ギーシュとの決闘でその片鱗を見ることは出来た。 見たというより全く理解を越えていたのだが、決して無駄にはならないだろう、とキュルケは思った。 そこまで考えたところで、キュルケは開かないドアをもう一度ノックした。 しかし、ノックの返事はない。 開けようとしたら、鍵がかかっていた。 キュルケは少し躊躇った後、ドアに『アンロック』の呪文をかけた。 学院内で『アンロック』の呪文を唱えることは、重大な校則違反だ。 これが色事に関わることなら、躊躇いはしなかっただろうが……。 しかし、そうしてドアを開けてみると、部屋はもぬけの殻だった。 二人ともいない。 キュルケは部屋を見回した。 カーテンはしっかりと閉められていて、部屋は薄暗い。 ルイズがいつも使っているベッドの側には、豪華なソファーが横たわっている。 DIOが使っているのだろうか? だとしたら、随分と生意気な使い魔だと思った。 だとしたら、随分と生意気な使い魔だと思った。ルイズが使っているベッドよりも下手したら高そうだ。 キュルケはさらに部屋を見回して、ギョッとした。 そこには、様々な調度品が、所狭しと並べられていたからだ。 棚の上には壷と皿。 壁には、様々な絵画と、そしてプラチナとゴールドで出来た一対の剣が飾られていた。 隅の壁には甲冑が立っている。 その隣には、両腕のない女神を象った彫刻がデンと置いてあった。 どれもこれもが、憎らしいくらいに完璧に配置されていて、一瞬ここが美術館かと思ってしまったほどだ。 ていうかここはホントにルイズの部屋なのだろうか? チラりと棚に目をやると、開いた扉から、いかにもわたくし宝箱ですと言わんばかりの重々しい箱があり、これまたいかにも年代物そうな金貨銀貨が、溢れだしているのが見えた。 天井には大きなシャンデリアが下がっているが、その大きさの割には、放つ光は柔らかで弱い。 香を焚いているのだろうか、部屋にはほのかに靄がかかっていて、エキゾチックな空気が立ちこめている。 ふらふらと目眩がするのは、決して香の匂いに当てられただけではないだろう。 キュルケは我が目を疑った。 つい先日ルイズの部屋を見たときは、いつも通りだった。 色気も何もないが、こざっぱりしていて、いかにもルイズらしい部屋だと思ったものだ。 「ル、ルイズ…趣味変わったわね……」 キュルケはポツリと呟いた。 そして、キュルケは、ルイズの鞄が無いことに気がついた。 虚無の曜日なのに、鞄がないということは、どこかに出かけたということだろうか。 キュルケは窓を開けて、外を見回した。 辛気くさいルイズの部屋に日光が差す。 門から馬に乗って出ていく二人の人影が見えた。 目を凝らす。 果たして、それはDIOとルイズであった。 「なによー、出かけるの?」 キュルケは、つまらなさそうに言った。 それから、ちよっと考えて、ルイズの部屋を飛び出した。 タバサは、寮の自分の部屋で、いつものように本に目を通していた。 しかし、いつもなら流れるようにめくられる本のページは、先ほどからちっとも変わってない。 タバサは、本を開いているだけで、心ここにあらずだった。 タバサは虚無の曜日が好きだった。 誰にも邪魔されずに、自分の世界に没頭出来るからだ。 しかし、タバサは今日、全く別のことを考えていた。 あの使い魔だ。 タバサは、その特殊な家庭環境から様々な危険を冒してきた。 つまり、モンスター関係に対してはある程度免疫があるつもりだったのだ。 しかしその認識は、ルイズが召喚した使い魔によって改められることになった。 あれこそまさに化け物ではないか。 一見穏やかで、紳士的に見えるあの使い魔は、心の底にはマグマのような激情を籠もらせていることは、ギーシュとの決闘でよくわかった。 決闘……。 タバサは本から顔を上げた。 あの時、追い詰められたDIOが本性を垣間見せたとき、DIOの左手のルーンが光ったのをタバサは見ていた。 そう、見ていたのだ。 欠片も漏らさず。 タバサは、自分の身長ほどもある大きな杖を手繰り寄せて、ギュッと握りしめた。 ルーンが光ったと同時にDIOが、高笑いと共に響かせた言葉『ざわーるど』…。 異国の言葉らしく、タバサの耳に覚えはなかったが、とにかくそのDIOの一言の後に全ては終わっていた。 そして、ギーシュは倒れた。 『見えているのか、我が『ザ・ワールド』が…』。 『ざわーるど』…『ざわーるど』……。 タバサはその言葉を自分の口で紡いだ。 DIOはメイジではない。 とすれば、あの幽霊みたいなものの能力だろうか。 例えば、自分の使い魔であるシルフィードが、人語を話し、己の姿を変えられるように…。 ダメだ。手がかりが少なすぎる。 あの決闘のあと、タバサはDIOのことばかり考えていた。 思考を中断して、タバサはため息をついた。 すると、ドアがドンドンドンと叩かれた。 いつもなら軽く無視するところなのだが、気分転換の良い機会とも思い、タバサは杖を振った。 ドアがするりと開いた。 入ってきたのはキュルケだった。 タバサの友人である。 タバサはキュルケを見ると、結局1ページもめくらなかった本を閉じた。 「タバサ。今から出かけるわよ。支度をしてちょうだい」 「虚無の曜日」 タバサは話をするのは良いと思ったが、外出する気にはなれなかった。 タバサは首を振った。 キュルケは感情で動くが、タバサは理屈で動く。対照的な2人だが、何故か仲はよい。 「そうね。あなたは説明しないと動かないのよね。…あのね、タバサ。 ルイズの様子が最近おかしいの。私は多分DIOのせいだと思っているわ。 その2人が今日、どこかへ馬に乗って出かけていったの!2人っきりで! DIOがルイズに何かしないか、監視しないといけないの! わかった?」 ぼんやりと聞いていたタバサだったが、DIOという言葉を聞いた瞬間、ハッと顔を上げた。 しばらく悩んで、タバサは頷いた。 自分もちょうど手詰まりになっていたところだ。 直接相手をお目にかかるのも悪くない、とタバサは思った。 キュルケは、案外あっさりと承諾をしてくれたタバサを一瞬訝しんだが、機嫌が良いのだろうと思って流すことにした。 「ありがとう! 追いかけてくれるのね!」 タバサは再び頷いた。 窓をあけ、指笛を吹いた。 ピューッという甲高い音が、青空に吸い込まれる。 タバサは窓枠によじ登り、外に飛び降りた。 キュルケもそれに続く。 落下する2人を、タバサの使い魔である風竜のシルフィードが受け止めた。 シルフィードは上空へ抜ける気流を器用に捕らえ、空へと駆け上った。 「いつ見ても、あなたのシルフィードは惚れ惚れするわね」 キュルケが感嘆の声を上げた。 タバサはそれを無視して、キュルケに尋ねた。 「どっち?」 キュルケが、あっ、と声にならない声を上げた。 タバサはキュルケが当てにならないことを改めて認識し直して、シルフィードに命じた。 「馬二頭。食べちゃだめ」 風竜は、きゅいきゅいと鳴いて了解の意を伝えると、高空へ上り、その卓越した視力で目標をたやすく捉え、力強く翼を振り始めた。 自分の使い魔が、仕事を開始したことを認めると、風竜の背びれを背もたれにして、再び本を開いた。 しかしやはり、そのページがめくられることはなかった。 to be continued…… 30へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1527.html
「おお、ルイズが目を覚ましたぞ!」 「よかったよかった」 目を覚ましたルイズの目に、ギーシュとマリコルヌの顔が飛び込んでくる。 「わたし……どうして?」 思わず呆けた声を出してしまう。状況が全く理解できない。 「出航直前に、あのロマリオの神官が、眠っている君をこの船に連れてきたんだ」 「……ここ、船の上?そ、そうだわ!敵軍を止めなきゃ!」 ギーシュとマリコルヌは、怪訝な顔でルイズを見つめた。 「敵軍を止める?」 「これはロサイスを出航する最後の船だよ。撤退は間に合ったのさ!」 「……え?」 わけがわからない、迫ってくるアルビオン軍はどうしたというのだ? 「そうそう、あの神官、君が目覚めたらこの手紙を渡してくれって」 「手紙?」 ギーシュから手紙を受け取ったルイズは、そこに彼女の使い魔の名前が書かれている事に気付く。 「……そうだわ、あいつはどうしたの!?」 「あいつって……君の使い魔かい?この船には乗ってないけど……」 マリコルヌの言葉に、ルイズはいいようのない不安を感じ、手紙を開く。 死にゆく使い魔 ルイズ、お前がこれを読んでいるのは、撤退する船の上でだと願う。 ルイズ、以前俺は不思議な『能力』をもっていると話したことがあったよな? お前は信じなかったが。 無理も無いな、死んでから始めて発動する『能力』なんて。 だがあれは嘘じゃない。 俺の能力、『スタンド』というのは、その人間の精神と深くかかわっている。 だからかな?俺が使ったことも無い『スタンド』の力が分かるのは? そう、俺の精神はその能力に相応しかった。 世の中の全てを、自分自身をも憎んで、そして全てをぶっ壊したかった。 そんな俺が犯罪組織に入ったのも、自然な事だった。 その組織の入団テストで『スタンド』に目覚めた時、俺が何を考えたか分かるか? 絶望?恐怖? いや、それは歓喜だった。 嘘じゃない、思わず笑い出してしまったほどさ。 自分の命と引き換えに、このクソったれの世界を壊しまくる力。 これこそが俺の求めていた物だと、本気で思った。 俺の力を知った組織のボスは、俺を切り札として温存させる事に決めたようだった。 何もしなくても金が入ってきたからな。 ボス自身、俺をどう使うか決めあぐねていたかもしれない。 そりゃそうだ、俺自身、俺の『スタンド』の止め方が分からないんだからな。 それで俺は、俺の『スタンド』の出番が何時来るか、楽しみにしながら待ってた。 別に、勝手に力を使ってもよかったが、『スタンド』に目覚めさせてくれた『恩』を別に感じたわけじゃないが、俺の力を使えと言ったボスが、俺の『スタンド』に殺されるかもと考えると、愉快でたまらなかった。 そんなことを考えるのは、俺にとってなによりも楽しい事であり、それだけしか俺の心は動かなかった。 そして、ついにその『時』が来た。 ボスから裏切り者を消せと指令が来た。 最初で最後の指令。 いざその時になって、俺は笑ったと思うか?それともやっぱり恐くなったか? いや、なんにも無かった。 恐くもねえが、嬉しくもねえ。 自分でも不思議だったが、とにかく待ちに待った瞬間なことに間違いない。 俺は指令通り裏切り者達の所に行き、俺に鉛弾を打ち込んだクソ野郎を恨みながらスタンドを発動させ、死んだはずだった…… しかしなんの因果か、次に気付いた時、俺はお前の使い魔になっちまってた。 全く、ひでえ事になったと、思ったぜ。 くだらねえ人生からおさばらできたと思ったら、しょうもないワガママ娘の世話をさせられるハメになったんだからな。 何故俺が、小娘の下着なんぞ洗濯しなきゃならんのだ? 何故あのマンモーニに、一方的に因縁つけられて決闘せんといかんのだ? 何故勝手に意地を張るお前を、ゴーレムからを守る必要がある? 何故お前を騙したあの馬鹿子爵に怒りを感じちまうんだ? 数えあげたらキリがねえ…… けどな、お前たちと一緒にすごすようになって、なんであの時、俺が何も感じなかったのか気付いたんだ。 俺はこれまでの人生で本当の意味で『生きて』いなかった。 そしてなんで俺が世界をぶっ壊したかったか分かった。 俺は『生きている』奴らがうらやましかったんだ。 俺は『生きよう』とすらしてなかったのにな。 だが今はもう違う……俺は今『生きて』いる。 おかげで恐くて恐くてしかたがねえんだぜ? なんせ今から7万の軍勢に立ち向かわんなきゃならんからな。 たぶん、いや確実に俺はスタンドを発動させるだろう…… ルイズ、お前に頼みがある。 俺の『スタンド』を殺して欲しい。 そのままにしておけば、俺の『スタンド』は全てを食い尽くすかもしれん。 心配は要らない。 なんでかわからんが、今の俺は無敵だと思っていた俺の『スタンド』の弱点が分かる。 あと……お前の虚無でも、たぶんやれると思う。 いや、お前にならやれる!絶対にだ! なあ、ルイズ。 お前には礼を言っても言い切れない。 俺は生まれながらの死人だった。 たちの悪い事に、生者の輝きを憎む死人だった。 でもな、俺はやっと生きるという事と、人生の素晴らしさを理解できたんだ。 ありがとうルイズ。 そしてさようなら、俺の愛しいご主人様 君の使い魔だったカルネより 「なによ……これ?」 涙で視界が歪む。 「なあ、その手紙は何が書いてあるんだい?ルイズ? ど、どうしたんだい、何を泣いて……」 「カルネ!」 ルイズは絶叫すると、柵を飛び越えて、地面に飛び降りようとした。 「お、おい!死ぬ気か?」 「おろして!お願い!」 半狂乱になって暴れるルイズを、必死で止めるギーシュとマリコルヌ。 「無理だよ!下にはもう、味方はいないんだ!」 「おろして……!」 ルイズの絶叫が、遠ざかるアルビオンに向けて響いた。 「相棒が……相棒がいっちまった…」 トリスタニア軍がいなくなったロサイスの郊外で、デルフリンガーが一人寂しげにつぶやいた。 痛い苦しい熱い冷たい死にたくない今すぐ逃げてしまいたい 「そうはいかねえよな…」 致命傷を何度も受けたカルネがつぶやいている間にも、次々と魔法が飛んでくる。 伝説のガンダールヴの力といえども、もう限界らしい。 もっとも適当に失敬してきたナマクラはとっくの昔にへし折れてるが。 「いよいよか……」 一際大きい火球が迫り来る中、カルネはあらん限りの力で叫ぶ。 「ノトーリアス・B・I・G!」 死にゆく使い魔 ~完~ 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1467.html
「またあんた!?」 開けっ放しにしていたチェストを閉じようとして、そのチェストの中に仁王立ちしている存在に気づき叫ぶ。 驚きながらも、三度目の接触にフーケは即座に対応した。 すぐにUターンして窓を突き破り、外に飛び出す。 地面を転がりながらルーンを唱え、起き上がるころには宝物庫を破壊した時と同じ巨大ゴーレムが現れる。 間髪いれずゴーレムを動かし、小屋を叩き潰す。 『破壊の杖』も中にはあるが、そんなものよりも今はあれを仕留めるほうが先決だ。 超巨大ゴーレムの一発でもともとぼろかった小屋は、ほとんど全壊した。 だがおまけにもう一発。 ドォンという音ともに、砂煙が舞う。それが消える頃には小屋はすっかり消え去り、クレーターが生まれていた。 「やった……?」 緊張を込めつぶやく。変態は逃げる暇も与えられずに、小屋と一緒に潰れたはずだ。 だがフーケは全く手ごたえを感じていなかった。冷や汗が吹き出てくる。 (どこにいるんだい……たくッ急に現れたり急に消えたり……こっちの話を全く聞かないタイプね……嫌いよ) 360°前方向に感覚を向けながら、ニヤリと笑う。少しずつだが動悸も収まってきた。 冷静になれ。もう何度目か分からないその言葉を心の中で繰り返す。 冷静に…冷静に…冷静に…冷静に…冷静に…冷静に…冷静に… 「フフッ」 思わず口の端を歪ませて笑う。 探す必要も無く、変態は立っていた。ゴーレムの股の間に。 ボッーと立ったまま、こちらを睨んでいる。 冷静に! 「つぶれな!」 派手な音を立ててゴーレムに亀裂が入っていく。変態が音に反応して上を向いたちょうどその時、ゴーレムが崩壊を始めた。 今度は確実に巻き込まれるところを見届ける。確実に潰れた。 さらにその上に大きな岩が覆いかぶさっていく。 さらにさらに崩すだけでなく、フーケは岩と岩の間の隙間を錬金で埋めていく。 しばらくするとあっという間に小高い丘が完成した。 ふたたび森に静けさが戻る。空気はピンと張り詰めたままだ。 フーケはさらに杖を構えながら、じっと待つ。 十秒……勝ったはずだ……十五秒……あれで死なないはずがないじゃないか……二十秒……(杖を握る手はさらに強くなる)……二十五秒……なんで…… ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………… やはりなんの前触れも無く、潰れたはずの変態は小高い丘の上に出現した。 まるで地面から生えてきたかのようだ。 月をバックにこちらを見下ろす様は、ある一つの単語を連想させる。 (悪魔……!) いつもなら鼻で笑うであろうそんな考えを肯定するかのように、目の前の存在は地獄の底から発するような唸り声を上げる。 「オオオ……アアアア!……うおおおおおおおおああああああああああああ!!」 それをフーケはまるで他人事のように聞いていた。体が麻痺したように動かない。思考が追いつかない。 冷静に…冷静に…冷静に…逃げなきゃ…冷静に…冷静に…冷静に…冷静に……逃げなきゃ……逃げなきゃ逃げなきゃ 杖を握る手が目に見えて震え始めた。だがフーケ自身は全くそのことに気づかない。 「うあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「ひっ」 へたりとその場に腰を落とす。 悪魔は尚もうめき声を上げながら、丘の上で暴れている。その体をポロポロ崩しながら。……崩しながら? フーケはそれに気づいたとき自分が泣いているせいだと思った。涙で視界が歪んでいるからだと。 彼女のわずかに残った冷静な部分が、彼女の細い指を自分の瞳に触れさせた。 濡れてない。自分は泣いてなんかない。 …………ブラック・サバスは本当に崩れ始めていたのだ。 崩壊するゴーレムの隙間を縫うようにして避け、錬金によって埋められる前に丘の上に這い出た。 そこまではよかった。 だが人工的に作られた丘の上には影を作るものは存在しなかったし、二つの月の光はブラック・サバスにとってはいささか暴力的だった。 元の世界にいたころの月光とは比べ物にならないそれは(といってもブラック・サバスが覚えてることなどほとんど無いが) ブラック・サバスを苦しめ、確実にダメージを与えていく。 ブラック・サバスは派手にこけた。足がもげたらしい。それでもガリガリと地面でクロール泳ぎをするように動き回る。 だが半径数メートル内に逃げ場所は無かった。…………いや「いた」。 ブラック・サバスは改めてフーケを見据える。腕だけのほふく前進でフーケの所まで近づいていく。 「アアアアアアアアアア…………!!」 「うわ」 こちらが近づいていることに気づいたのか、フーケも尻餅をついたまま後ずさりしていく。 距離がジワジワと縮まっていく……。 手を伸ばす…が………限界……うう…消える……。 「が…………ま…………」 最後まで残っていたブラック・サバスの仮面も、闇に溶けていくように消滅した。 はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ………… 真夜中の森に、フーケの荒い呼吸音だけが一定の間隔で聞こえる。 力無くよろよろと立ち上がる。 変態のような悪魔……いや、悪魔のような変態?……は唐突に現れ、唐突に消えた。 もっとも今もどこかで息を潜めて、チャンスをうかがっているのかもしれないが。 だが、フーケの目の前で消えた時の様子は、今までに無い切羽詰ったものがあった。 「なんだったんだい……」 力無くうめいて、広場を見渡す。 小屋があったところにはクレーターができ、その横には小高い丘ができている。 これらは全て、あれを倒すためにしたことなのだが…… 奴はそれらを物ともしていなかった。 宝物庫前での攻防と同じだ。全くなすすべが無かった。 「なんなのよ」 再び愚痴る。それしか今はできそうに無い。 ドッと疲れが出てきた気がする。体が異様に重く感じた。 だが、すぐにでも移動しないといけない。 あれが変態か悪魔かは知らないが、魔法学院の「誰かの使い魔」なのは確かだろう。 だとしたら現在進行形で状況は悪化している。すぐにでもさらなる追っ手が来るかもしれない。 使い魔とその主は感覚を共有できるからだ。 すでに使い魔の主はフーケがロングビルであることも、この場所にいることも知ったかもしれない。 先刻までは学院のメイジ程度なら相手にしても余裕だと考えていたが、状況が変わった。 奇襲をかける側から、奇襲をかけられる側になってしまったのだ。 もう学院には戻れない。 フーケはさっさと『破壊の杖』を回収して逃げることを選択した。 「ミス・ロングビルともサヨナラね」 全壊している小屋跡を見て、『破壊の杖』も壊れていないことを祈りつつ、魔法で探索を始めた。 「おーい起きろー」 「…………むにゃ……あと5分……」 ルイズはまだ意識が夢の中にある状態でなんとか返事をした。 「そう言って起きれる奴はいねーんだよ!」 ……もう、うるさいわねサバス……いつの間にそんなにペラペラしゃべれるようになったのよ……うん? 「サバス!?」 ガバッと跳ね起きる。 が、いつもベットの横で立っているルイズの使い魔はいなかった。 「俺だって!相棒はまだ帰ってねーよ」 「そう……あー…いつの間にか寝ちゃってたんだ」 ルイズたちがフーケを逃した後、多くの教師や生徒達が集まり大騒ぎとなった。 目撃者であるルイズたちは、次の日学院長室で詳しい説明をすることになり、とりあえず各自部屋に戻る。 ルイズは途中で地面に刺さっていたデルフを回収し、部屋に戻るまでどっちが役に立たなかったかで口論になった。 部屋に戻るとルイズはまず『再点火』して、ブラック・サバスを呼んでみる。 ブラック・サバスは光に触れたり、影から出たり、ルイズの爆発に巻き込まれると消滅してしまう。 そんなときでも、慌てず『再点火』すればすぐに現れる。 だが、今回はブラック・サバスは出てこなかった。 つまり、今もどこかで「行動中」ということだ。 恐らく、ルイズの命令に従いフーケを追っているだろう。 (感覚の共有ができれば、何をしているのか分かるのに) それができないことに歯がゆい思いになる。 火を点けては消し、点けては消す。それでもブラック・サバスは現れない。 そうこうしているうちに、睡魔に負けて寝てしまっていたようだ。 「で、これから上の奴らに報告しに行くんだろ?その前に相棒呼んでみようぜ」 昨日のことを少しずつ思い出していたルイズを現実に戻すように、デルフが明るい声で提案する。 「そうね」 ルイズは言われるままに、ネックレスの『装置』に手をやる。 一度大きく深呼吸して、『再点火』する。 まだカーテンを開けてない薄暗い部屋が、いっきに明るくなった。 そして………… 「『再点火』したな!」 全く変わりない姿が出てきたことに、ホッとする反面、残念に思う部分もあった。 「おかえり。フーケは?」 「…………」 「フーケは?」 「…………」 「…………」 登場ポーズのまま固まるブラック・サバスの様子に、ルイズは予想が当たっていたと確信する。 「逃がしちゃったのね…………まぁ別にいいわ」 「ほー、おでれーた。もっと怒るかと思ってたけどな」 実際ルイズは怒っていなかった。 むしろ怒りの対象はブラック・サバスにでは無く、不甲斐ない自分に対してのほうが大きかった。 使い魔ばかりに働かせるわけにはいけない。 魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃない。敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのだ。 この後、キュルケたちとオールド・オスマンに報告しに行く。 もしその時、フーケ捜索隊でも作られるなら、真っ先に自分が名乗りを上げようと考えていた。 「その…フーケを逃がしちゃったのは……私もだから…一晩中追いかけてたんでしょ?むしろ……ご苦労様」 すこし照れながら言うルイズ。静かに聞いているブラック・サバス。 「あ、でも!サバス!デルフを捨てたのは駄目よ!それとこれとは別。これは怒ってるんだからね」 「え」 ルイズの意外な言葉に反応したのは、デルフだった。 「せっかく私が買ってあげた剣を、すぐに捨てるんじゃないの!」 「あ、そういうこと」 「それ以外に何があるのよ」 ルイズはデルフを持ち上げながら、尋ねた。 「いや、俺の活躍とかを考えてくれたのかなーとか」 「そんなわけないでしょ。だいたいあんたは報告役なんだから、常に一緒にいなさい。ほら、サバス口開けて」 何気に酷いことを言うルイズの言われるとおり、ブラック・サバスは口を開けた。 「…………もう何か入ってる」 ルイズは口の中を覗きながら呟いた。 「何コレ?」 勝手に口の中からそれを引っ張り出してみる。 金属製の筒。いつも思うのだが、口の中にこんな長い物が入るのは、どういう仕組みだろう。 「変なもの拾っちゃ駄目だって言ってるでしょ」 意味は無いのだろうけど、一応注意しておく。 改めてデルフを突っ込もうとすると、デルフがその奇妙な筒に反応した。 「おでれーた。その分けわかんないのは武器だぜ」 「武器?なんで分かるの?」 「その筒をもう一回相棒に渡して、それからネックレスを見てみな」 言われるままに筒を口の中に入れ、ネックレスにした『装置』を見てみる。 「あ、ルーンが光ってる。どういうこと?」 「前にも言ったろ。相棒は使い手なんだよ。…………あれ?言ったっけ? とにかく、相棒は武器を持ったら……相棒の場合は口に入れたら、そうやってルーンが光んだよ つっても、普通は左手に出るんだけどな。俺を昔使ってた奴にも同じようなのがいた気がする」 「ふーん。よく分かんないけど……」 ルイズは使い手の説明よりも、筒が武器であることに興味がいっていた。 「じゃあ、これもしかしてマジック・アイテム?」 期待を込めて尋ねる。 ……もしかしたら……もしかしたらだけど……これがフーケの盗んだものじゃあ……!? 「それはねーな。魔力の無い相棒が武器として使えるってことは、いわゆる普通の武器ってことだ。 それを手にはめて殴ったりすんじゃねーの?」 あっさり否定される。 「何よ……もうちょっと夢見させてくれても………」 「何ブツブツ言ってんだ?そうだ相棒。これの使い方分かんだろ?見せてくれよ」 デルフは同じ武器として、筒のことを知りたいようだ。 言われたブラック・サバスはルイズの顔をじっと見ている。 (もしかして私の許可待ってんのかしら) だとしたら特に否定する理由も無いなと、軽い気持ちで考える。 「私も見てみたい。見せて」 ルイズのその一言でブラック・サバスは動きを見せる。 口の中から筒を三分の二ほど出して、なにやら色々いじっている。 その動きに全く迷いは無いようで、早かった。 「殴ったりするみたいじゃないみたいね」 嫌な予感がしつつ、手元のデルフに聞く。 「そ、そうだな」 「サバス、やっぱりや」 しゅぽっ。 そんな軽い音と共に、ブラック・サバスの口から…いや、筒の中から白煙が飛び出す。 それは部屋の窓を割りそのまま飛び出していった。 数秒後。爆音。閃光。衝撃。 そして静寂。 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「おでれーた…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「……………………」 「……………………」 「……………………」 「……………………」 「……………………」 「……………………」 「……………………」 「……………………」 To Be 。。 「…………サバスは…………」 「…………洗濯にいった…………」 To Be Continued 。。。。?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1432.html
『過去とは バラバラにしてやっても 石の下から ミミズのように這い出てくる それが良い事であれ 悪いことであれ 』 8話 時刻は夕方。 場所はトリステイン魔法学校、その学園長室。 二人の男が身動き一つせず、声一つ出さずに遠見の鏡――術者が見たい景色を映し出すマジックアイテム、に映し出された、 ヴェストリの広場の状況を凝視していた。 やがて、二人の男のうち、生え際がかなり後退した中年の男――コルベールが口を開く。 「『ガンダールヴ』……まさか、これ程とは…………」 そして、それを白い口ひげと豊かな髭を蓄えた老人――オールド・オスマンが、 「まだ、そうと決まったわけではなかろう」 そう言って諌める。 だが、 「しかし」 と言って、オスマン氏は続ける。 「ミス・ヴァリエールの使い魔……あー、なんと言ったかのう?」 「ホワイトスネイクです。オールド・オスマン」 「あぁ~あ、そうじゃった、そうじゃったな。コールビー君」 「コルベールです。オールド・オスマン。どこかの傭兵とかぶってませんか?」 「そうそう、そんな名前じゃったな。君はど~も早口でいかんよ。 ま、それは良しとして……そのホワイトスネイクが極めて危険、ということだけは、確実と言えよう」 「そう、でしょうね……。ミス・ヴァリエールが一応の手綱は握って入るようですが……彼女では荷が重いかもしれません。 最悪、この学園内でホワイトスネイクと事を構えることになることも考えられます」 「……それだけは、避けたいところじゃな」 そう言って、オスマン氏は嘆息した。 オスマン氏がホワイトスネイクの監視を行っていた理由は二つ。 一つはコントラクト・サーヴァントを行う以前から、ホワイトスネイクに使い魔のルーンが刻まれていたこと。 もう一つは、ホワイトスネイクがエルフともオーク鬼とも異なる類の亜人だったこと。 前者については、まさしく前代未聞のことである。 使い魔として契約もしていないうちから既に召喚者の使い魔となっていた、というのだから常識外もいい所である。 オスマン氏でなくとも首を捻り、すぐにホワイトスネイクに対して調査を開始するだろう。 しかし……オスマン氏はその「調査」という過程をフッ飛ばし、一気に「監視」の段階に入った。 何故なら、オスマン氏はホワイトスネイクを見た瞬間に一つのことを悟ったからだ。 調査などと呑気なことを言っている余裕は無い。 あの使い魔はあまりにも危険だ、と長い歳月を経て培われたオスマン氏の直感が告げていた。 オスマン氏はすぐにホワイトスネイクの監視に入った。 方法は今ヴェストリの広場を監視のと同様、遠見の鏡によるもの。 だが流石に生徒のプライベートに関わる、部屋の中の監視までは行えないので、 実際に監視をしたのは、朝食の席、授業の二つの場面に限られた。 常日頃から秘書のミス・ロングビルにセクハラを働いているとはいえ、 生徒をその対象にするようなことはしない。 オスマン氏にも最低限のモラルはあるのだ。 そして決闘が終わるまで監視を続けた結果、オスマン氏は以下の事実を知った。 ○ホワイトスネイクが生物とは根本的に異なる存在である。 食事は基本的に必要としない。 ○障害物をすり抜けることが出来る。 ○自分自身の意思で、自分を実体化、非実体化できる。 ○ホワイトスネイクを視認するには、メイジであること、もしくは、 ホワイトスネイクを視認するための特別な才能(ホワイトスネイク曰く)が必要。 ○そしてその才能はメイドのシエスタが持っていた。 ○幻覚が使える。(ホワイトスネイク曰く) ○ホワイトスネイクが、ホワイトスネイク自身の体内で生成される円盤状の物体、 「でぃすく」によって、それを突き刺した相手の行動を制御できる。 ○ホワイトスネイクは相手の額に指を突き刺すことで、 相手の記憶を円盤状の物体「でぃすく」として取り出せる。 ○攻撃力は青銅のゴーレムを一瞬で青銅の塊に変える程に高い。 ○高度な心理学的知識、戦略的知識を持つ。 そしてこれらから導き出される事実は――ホワイトスネイクが、 これまでに学園で召喚された使い魔の中で五指に入るほどの危険性を備えていると言うことだった。 本能によって動くことは無く、あくまで冷静に状況を判断した上で行動する。 そして一端敵と対峙すれば、言動、挙動をフルに活用して相手を誘導し、そしてワナに嵌めて相手の「一手」上を行く。 主人であるルイズから20メートル離れられないという妙な弱点も存在するようだが、 仮にホワイトスネイクがルイズの命令を聞かなくなった場合、 ルイズの行動を「でぃすく」によって制限し、その上で持ち運びながら学園中を徘徊することも考えられる。 あまりにも、性質が悪すぎる。 そのことが、オスマン氏を悩ませていた。 ちなみにコルベールが監視に参加している理由だが、 これはコルベール経由で監視のことが知られないようにするため、と言い換えてもいい。 というのは、ホワイトスネイクの左手に刻まれた使い魔のルーンを調べていたコルベールが、 それが伝説の使い魔、ガンダールヴのものと同じだったことに大興奮し、 ノックもせずに学院長室に踏み込んだところ、遠見の鏡で監視の真っ最中だったオスマン氏に出くわしてしまったのだ。 しかもちょうどルイズが爆発で授業をメチャメチャにした後片付けをしている場面で。 当然、それを見たコルベールはすぐにオスマン氏が監視をしている理由を考え始めた。 わざわざ遠見の鏡まで使って、学院長が生徒の後片付けの様子を監視しているのだ。 きっとその目的は片づけをしっかりやっているかどうか、というところではない。 ならその目的は一体何か、とコルベールは考え、そしてすぐにホワイトスネイクのことにたどり着いた。 まあ彼自身もホワイトスネイクの使い魔のルーンのことで学院長室に入ってきたのだから、すぐ気づくのは当然である。 一方のオスマン氏のほうは、コルベールに監視してるところを見られた瞬間、「あ、やばい」と思った。 生徒思いのコルベールのことである。 すぐに自分を問い詰め、監視の理由を聞き出そうとするだろう。 まあ別にそれは構わないのだが、ホワイトスネイクに監視のことが知られるのはマズい。 知られればホワイトスネイクもそれに応じた行動をとるだろうし、 最悪の場合、ルイズの支配下から離れることが早まる事も考えられる。 監視のことを知られるのだけは、絶対にダメだ。 ならば、と考えたオスマン氏はコルベールに、遠見の鏡まで使って監視していた理由を明かし、 その上でコルベールも監視に参加するように言ったのだ。 たとえ監視のことがバレても、コルベールを学院長室から出しさえしなければ情報はもれないからだ。 そしてコルベールもコルベールでホワイトスネイクに興味があったので、あっさりと了承した。 というのが、本来部外者であるはずのコルベールが監視に参加している理由である。 なお、コルベールは自分が来たときに開けっ放しにしていたドアを閉めるや否や、 ホワイトスネイクの使い魔のルーンが、伝説の使い魔であるガンダールヴのそれと同じだったと、 興奮気味にオスマン氏に報告した。が、あんまり真面目には聞いてもらえなかった。 オスマン氏は「所詮伝説」としか、そのことについて考えていなかったのだ。 さて、話を学院長室に戻そう。 「学院内でホワイトスネイクと戦うのだけは、避けたい」 そう言ったオスマン氏は、これからのホワイトスネイクへの処遇について考えはじめる。 監視によってホワイトスネイクの情報はある程度集まった。 そしてそのことから、ホワイトスネイクの危険性も十分に把握できた。 しかし――これはあくまで監視によって得られた情報。 直接接触しなければ得られない情報もあるだろう。 いくらかの危険性――例えば、遠見の鏡で監視していたことがバレる、というようなことがあるかもしれないが、 それでもいずれはやらなければならないことだ。 ならば、なるべく早い方がいい。 それにあの使い魔を常に引き連れる状態にあるルイズに対しても、何らかの処遇を定めなければならない。 そう考え、そしてしばらくの沈黙の後、 「ミス・ロングビルはおるかね?」 と、自分の秘書の名を呼ぶ。 すると、学院長室のドアがコンコンと軽い音を立てる。 そしてその後にドアが開けられ、室内に理知的な顔立ちをした女性が入ってきた。 「お呼びですか、オールド・オスマン?」 その声に、オスマン氏は、うむ、と答えた後、 「ミス・ヴァリエールを呼んできてもらえるかの?」 そう言った。 ヴェストリの広場を出たルイズは、決闘のためにサボった授業には行かず、そのまままっすぐ自分の部屋に戻っていた。 授業をサボるのが悪いことだと言うのは分かるが、今は授業なんか受けてる気分じゃあなかった。 ルイズはベッドの上で仰向けになって、決闘のときのことを考える。 あのとき――ホワイトスネイクは、何か今までと別人みたいだった。 召喚したばっかりの昨日とか、今日の朝食のときは、決闘のときに感じたようなものはなかった。 でもよくよく思い出してみれば……授業の片付けのとき。 あのとき、「でぃすく」の力で自分が魔法を使えるようになる、と話したときのホワイトスネイクが、 ギーシュを追い詰めるときのホワイトスネイクに……ちょっと似てた、かもしれない。 でもよく分からない。 偉そうでちょっとムカつくけど、ちょっとだけ頼もしいホワイトスネイク。 残酷で恐ろしくて無慈悲で、それでいてすごく強いホワイトスネイク。 一体どっちが本当のホワイトスネイクなんだろう? 一体、どっちが本当のわたしの使い魔なんだろう? 朝起きたときとか、朝食のときとか、あのときのホワイトスネイクは単なる忠実な使い魔だった……と思う。 口の聞き方とか挙動とかに引っかかるところはあったけど、それでも自分に忠実だったのは確かだ。 ……召喚した日の夜にパンツ覗いたり、ご主人様を怖がらせたりとか、そういうこともあったけど、 授業で錬金に失敗して爆発を起こしたときは、身を挺して庇ってくれた。 あの時は召喚したばっかりの使い魔に庇われるなんて……なんて思って、情けないような気持ちになったけど、 それでも、ホワイトスネイクに対して頼もしさみたいなものは感じていた。 でも……決闘のときのホワイトスネイクは、全然違った。 人を殺すことを何とも思ってないような、そんなすごく怖い眼をしてた。 蛇がカエルを睨むときの眼って、あんな感じなのかもしれない。 とにかく、これから食い殺す獲物を見るような、そんな眼だったのは確かだ。 そしてギーシュのワルキューレをあっという間にみんなやっつけちゃったとき。 あの時は、ホワイトスネイクの強さにすごくびっくりした。 だってあんなに強かっただなんて、考えもしなかったから。 そして……あんなに恐ろしい、残虐なヤツだったなんてことも、考えもしなかった。 ギーシュを怖がらせて、追い詰めるためにあらゆる手段を使って、そしてその上で記憶まで奪い取ろうとした。 最後には記憶を奪うのにわざわざあんなふうに怖がらせたりしたのは…… きっと、ギーシュが最後に感じる感覚を「恐怖」とか、「絶望」とか、そういったものにしようとしたからだと思う。 まるで拷問だった。 まともな心の持ち主なら到底出来ないような、相手の心への拷問。 それを、ホワイトスネイクは平気な顔をしてやった。 つまり、あいつはそういうヤツなんだ。 そう考えてルイズは身震いした。 あんなに恐ろしいヤツを、わたしの使い魔として御しきれるんだろうか? 今でこそホワイトスネイクはわたしに忠誠を示しているけど、いつかはわたしを裏切るかもしれない。 そうなったら……この学院はどうなっちゃうんだろう? そのとき、ドアが軽い音を立ててノックされた。 来たのは誰だろう? 来た目的はどうせ決闘絡みだろう。 それでそのことで来るかもしれないのは……ギーシュ、モンモランシー、シエスタ、キュルケ、ぐらい。 他に、わざわざ自分の部屋に来そうなのはいない。 自分の知ってる顔を思い浮かべ、そんな事を考えながらルイズはむくりとベッドから起き上がってドアへ向かう。 そしてドアを開けると―― 「ミス・ヴァリエールですね? オールド・オスマンが学院長室でお待ちです」 部屋の前にいたミス・ロングビルが、そうルイズに告げた。 オスマン氏に呼び出された理由は、ルイズ自身にも大体察しがついていた。 きっと決闘をした事に関してのことだろう。 貴族同士で決闘をする事はこの学院では禁じられているのだ。 それを破った以上は、何らかのペナルティーは覚悟するしかない。 覚悟するしかないとして……一体どんなことをさせられるんだろう? 学院中の窓を拭く? 全ての空き教室の掃除? まさか女の子にトイレ掃除はさせないだろうが…… そんなことを考えているてますますブルーになりそうな気がしたので、 ルイズはこれから受けるペナルティーについて考えるのをやめた。 そして……部屋で考えていたことの続きに戻る。 そもそもホワイトスネイクは、一体何なんだろう? ホワイトスネイクも自分のことを背後霊だとか生物じゃないとか、よく分かんないけどそんな風に言ってたし、 よくよく思い出してみれば「別の世界から来た」とか言ってたような気もする。 それにホワイトスネイクみたいな亜人は図書館中の使い魔に関するどの本にも載ってなかったし…… ホワイトスネイクが言っていた事は、ひょっとしたら本当なのだろうか? そんなことを考えながらロングビルの後ろを歩いているうちに、学院長室のドアが見えてきた。 ルイズの前を歩いていたロングビルがドアの前で立ち止まり、ドアを軽くノックする。 「入りたまえ」 と、中からしわがれた声が聞こえた。 「失礼します」 と一言言って、ロングビルがドアを開けて室内に入る。 ルイズがそれに続く。 「いやいや、わざわざ呼び出したりしてすまんかったのう、ミス・ヴァリエール」 部屋に入ってきたルイズを見るなり、オスマン氏はにこやかにそう言った。 「い、いえ。え、えと。あの、その」 「そんなに固くならんでよい、ミス・ヴァリエール。さて……ミス・ロングビル。それにミスタ・コルベール。 君たちは退室してくれたまえ」 そうオスマン氏が言ったところで、ルイズは初めてコルベールが学院長室にいたことに気づいた。 そしてコルベールの顔を見る。 見て、ルイズは当惑した。 コルベールが普段の様子からは考えられないほどに、冷静で、表情の無い顔をしていたからだ。 普段のコルベールならば、学院長室に呼び出されて緊張している生徒を、笑顔の一つで落ち着かせようとしたりするだろう。 しかし……この時のコルベールは違った。 少なくとも、ルイズが今までに見知ったコルベールの顔ではなかった。 一体何があったのか……などとルイズが考えているうちに、コルベールはロングビルと一緒にさっさと退室してしまった。 学院長室には、ルイズとオスマン氏のみが残された。 「さて、ミス・ヴァリエール。急にこんな形で呼び出した非礼を、まずは詫びておこうかの。 そして君を呼び出した理由じゃが……それはわし自身の口から伝えておくべきことがあるからじゃ。 君が人づてにそれを知らされたとしても、君にはそうなった理由は分からんじゃろうし、 そうなった理由を説明できるものがわししか居らんのでな」 「はい」 緊張した面持ちで、ルイズが答える。 それにオスマン氏は頷くと、 「では、ミス・ヴァリエール。……君に、一週間の自室での謹慎を命じる」 そう言った。 「……オールド・オスマン」 ルイズが遠慮がちな様子で言う。 「何じゃ、ミス・ヴァリエール?」 「処罰の理由って……やっぱり、ギーシュと決闘したこと、ですよね? だとしたら、ちょっと軽すぎるような、と言うか、その、えっと……」 「学院中の窓拭きとか、空き教室の掃除とか、そういうものを期待しておったのかの?」 「い、いえ! えっと、別にそういう訳じゃ……」 「……まあ君が納得できんのも分かる。 それにそう言うじゃろうと思ったから、こうして君をここに呼んだわけじゃからのう」 「あ……」 ちょっと前にオスマン氏がそれを言ったばかりだったことを思い出し、赤面するルイズ。 「さて……今回の処罰は、決闘のことだけが原因ではない。 君の使い魔、ホワイトスネイクのことも考慮してのことじゃ」 ルイズは思わず、そう言ったオスマン氏の顔を見る。 「君とミスタ・グラモンとの決闘の事は、ミス・ロングビルから聞いておる。 そして、今回の処罰はそれから判断してのことじゃが……ホワイトスネイクは、この学院にとって危険すぎる。 他の生徒と接触しうる状況を作る事は危険じゃと、思ったのじゃ。 それにホワイトスネイクには、未知の部分もあまりに多い。 ホワイトスネイクのような亜人が召喚される例は、わしも見たことが無いでのう。 他にも召喚された瞬間から、コントラクト・サーヴァントもしていないのに使い魔のルーンが刻まれておったという、 前代未聞の事実もあるのじゃ。 決闘に関しての処罰は今言ったとおりじゃが……ホワイトスネイクへの処遇に関しては、まだこれからといったところじゃ。 気苦労をかけることも多いじゃろうが……了承してくれるかの」 「……分かりました」 仕方のないことだ、とルイズは自分に言い聞かせる。 ホワイトスネイクがいつまでも自分で制御しきれるかどうかは分からない。 あの時――ギーシュに記憶の「でぃすく」を返すように言ったとき、 ホワイトスネイクは少しだけ、ほんの少しだけだけど、嫌そうな顔をした。 いや、顔じゃないかもしれない。 ホワイトスネイクが持っている雰囲気に、そういうものが少しだけ感じられたように思ったのだ。 つまり、ホワイトスネイクは今の自分に満足していない。 いつか暴走するかもしれないのだ。 そうなってからでは、遅い。 だから、オールド・オスマンの判断は賢明なものだ。 自分が不当に罰せられてるような気はするけれど、それでも必要なことなんだからしょうがない。 そう言い聞かせた。 そして一方のオスマン氏は、今の発言に一つの「ウソ」を含ませた。 「ミス・ロングビルから決闘のことを聞いた」というところにである。 ウソの理由は、ホワイトスネイクに監視のことを悟らせないためだ。 ホワイトスネイクが実体化していない状態でも周囲の状況を完璧に把握できている事は、決闘からも明らかなこと。 目の前にはルイズしかいないようでも、ホワイトスネイクも自分が何を言ったのかを把握しているのだ。 である以上、下手な事は言えない。 そう考えてのことであった。 「それと、ミス・ヴァリエール」 そして、オスマン氏が不意に声を上げた。 「ホワイトスネイクを呼び出してもらえるかね?」 オスマン氏の注文の内容に驚くルイズ。 「え!? え、あ、その、えっと、オ、オールド・オスマンは、その……ホワイトスネイクを、ここで……」 「今ここでホワイトスネイクと戦う、と言っとるわけではないよ、ミス・ヴァリエール。 そうでなければ一週間の謹慎なんぞ、君に命じるはずが無いからの。 ……わしが望んでおるのは、ホワイトスネイクとの直接対話じゃ。 面と向かって話さんと分からんこともあるでのう」 暫しの沈黙の後、 「分かりました。……ホワイトスネイク、出てきなさい」 ルイズの声に応じ、瞬時にルイズの背後にホワイトスネイクが発現した。 ホワイトスネイクが現れたことを確認すると、ルイズはそっとホワイトスネイクの顔を見る。 しかしその目、その顔に表情は無く、ホワイトスネイクが今何を考えているのかは読み取れない。 「さて……話をするのは初めてじゃな。わしはオスマン。トリステイン魔法学院の学院長じゃ。 みんなからはオールド・オスマンと呼ばれておるよ」 どこぞのポケモン博士のような、ありきたりな自己紹介をするオスマン氏。 「ホワイトスネイク、ダ」 それにホワイトスネイクは淡白に答える。 「私ニ聞キタイ事、トハ?」 「まずは……そうじゃな。君の生態について、とでも言っておこうかの。 何せ、随分と長いこと生きてきたわしでさえ、君のような亜人には始めてお目にかかるものでのう」 ちなみに、オスマン氏はホワイトスネイクがキッチリ自分の質問に答えてくれることを期待していない。 生態というやつはその生物にとっての弱点とかかわりを持つことが多い。 このホワイトスネイクのことだ。 どうせ素直には答えてくれはしないだろう。 だがそれでもオスマン氏が困る事はない。 今聞いたことは遠見の鏡を使った監視で、ある程度は把握しているからだ。 しかし、聞かないなら聞かないで逆に不審を煽るだろう。 ここは聞いても無駄と分かっていても聞くのが得策だ。 そして―― 「ソレハ答エラレナイ。私ノ弱点ニ関ワル話ダ」 オスマン氏の予想通り、ホワイトスネイクは答えることを拒んだ。 「ちょっとホワイトスネイク! オールド・オスマンの頼みをそんなふうに無碍に断るってどういうこt」 そしてそれに対し、ルイズが声を荒げてホワイトスネイクを非難するが―― 「いや、いいんじゃよ、ミス・ヴァリエール。本人が答えたくない、と言っとる以上、強要するわけにもいくまいて。 これは君だけでなく、ホワイトスネイク君にも関わることじゃからのう」 オスマン氏がこのように言ってしまったので、ルイズはまだ何か言いたげだったが、バツの悪そうな顔をして押し黙った。 オスマン氏もオスマン氏で断られる事は予想していたので、 断られたことに関してはルイズのように腹を立てる事は無い。 無いのだが、 「でも答えてもらえんのは、やっぱり残念なことじゃのう……」 聞いたからには「はいそうですか」で終わると怪しまれるので、なるべく名残惜しそうに言う。 そして、しばらく間を取るかのようにオスマン氏は沈黙した。 それに合わせるようにルイズとホワイトスネイクも沈黙する。 こういう危険な手合いと会話するときには、話の進め方、口調、間など、様々なことに気を使わなければならない。 まったく面倒なことよ、とオスマン氏は内心に嘆息した。 そして、「わざと」思い出したかのように、本命の話題に入る。 「ああ、そうじゃ。もう一つ聞きたいことがあったんじゃよ」 「何ダ?」 「お前さんの思想、というかものの考え方、じゃな」 「話ガヨク見エンナ……ドウイウコトダ?」 「決闘でのことじゃよ、ホワイトスネイク。 君が何故、ミスタ・グラモンをあのように精神的に追い詰めるようなやり方をしたのか……それが知りたいのじゃ」 「……知ッテドウスル?」 「どうもこうも……あんな真似をする使い魔は学院の歴史の中でも君が初めてじゃ。 こっちが君なりのものの考え方も理解せんうちに他の生徒に危害を加えられる、というのは避けたいのじゃよ」 なかなかうんと言ってくれんのう、と内心に愚痴るオスマン氏。 さてどうしたものか、と思索を巡らせたところで―― 「イイダロウ」 ホワイトスネイクから了承が出た。 それを聞いてひとまず安心するオスマン氏。 一方のルイズは驚きに、思わずホワイトスネイクの方に振り向く。 ホワイトスネイクがさっきのように断るだろうと思っていたためだ。 「『何故あんなことをしたか』……ト言ワレレバ、『アノ小僧ガ敵ダッタカラダ』トシカ、答エヨウガ無イナ」 「ほう……」 「敵ハイカナル手段ヲ持ッテシテモ排除スル。 二度ト立チ上ガレヌヨウニ、二度ト歯向カエヌヨウニ。 例エ記憶ヲ奪ッテヤッテモ、心ノ淵ニ刻マレタドス黒イ怒リヲ潜在的ナ拠リ所トシテ、生キ続ケル者モイルノデナ。 念ヲ入レルトイウ意味デ、確実ニ始末スルタメニ、アノヨウニ『恐怖』ヲ与エル手法ヲ取ッタ」 記憶を奪われながらも、心の淵に刻まれたドス黒い怒りによって生き続ける者。 言うまでも無く、ウェザーのことである。 あの時――故郷での最後の夜の、ウェザーとの決闘で、プッチ神父は僅かながらもウェザーに情けをかけた。 記憶を奪うだけで、命は奪わなかったのだ。 そしてその結果、ケープ・カナベラルを目前にして死に掛ける羽目になった。 ホワイトスネイクがあのような行動を取ったのはそのためだ。 心にドス黒い怒りを刻むヒマすらないように、それを覚える余裕すらないように、ギーシュの精神を蹂躙したのだ。 そしてそれを聞いて……ルイズは改めてホワイトスネイクに恐怖を感じた。 やっぱり、こっちがホワイトスネイクの本性だったんだ。 決闘で見せた、恐ろしいホワイトスネイクが、本当のホワイトスネイクだったのだ、と。 そういうことを、改めて理解した。 「……なるほど、な。 君の考えはよく分かったよ、ホワイトスネイク君。 今君が言った、『記憶を奪う』……じゃったか? 決闘を見聞きしておったミス・ロングビルから聞いてはおるものの……まったく君は、不思議なことが出来るのじゃな」 ため息混じりにオスマン氏は言った。 そして、理解した。 精神的にも、能力的にも、ホワイトスネイクは危険すぎることを。 そして……近いうちに引導を渡してやらねばならないことを。 「今日はすまんかったの、ミス・ヴァリエール。 もう帰ってよいよ。 ああ、あとそうじゃ。 君はこれから一週間、自室で謹慎となるから、そのこともしっかり頼むぞい?」 「……はい」 ルイズは気を落とした様子で、オスマン氏の言葉に答えた。 そしてうつむき加減で学院長室のドアを開け、部屋から出た。 部屋の外にはロングビルとコルベールが控えていた。 コルベールは部屋から出てきたルイズを見て心底ほっとしたかのように息を吐くと、学院長室に入っていった。 そしてロングビルは、 「ミス・ヴァリエール。あなたの部屋までは私がお送りすることになっています」 と言って、今度はルイズに前を歩かせて、一緒にルイズの部屋の前まで着いて来た。 その様子を見て、ミス・ロングビルは、多分オスマン氏から詳しい話を聞いていなかったんだろう、と思った。 そしてコルベールのことも思い出し……コルベールはきっと、 ホワイトスネイクと一戦交える覚悟をしていたのだろう、と思った。 それほどに、ホワイトスネイクは危険視されているのだ。 そう考えると、やっぱり自分が情けなくって、涙が目に滲みそうになった。 ホワイトスネイクがどんなに危険なヤツなのかってことも知らないで、 使い魔が召喚できたことを単純に喜んで、使い魔が自分に忠実なことを単純に嬉しく思って……。 結局自分は、本当に何も分かってなかったのだ。 そう思うと、また悔しいやら、情けないやらで、泣きそうになっってくる。 でもロングビルがすぐ後ろにいる手前、頑張って泣かないようにした。 部屋の前まで来ると、ルイズはロングビルには何も言わず、すぐに部屋に飛び込み、ドアをバタン! と勢いよく閉めた。 このままだと涙が目からこぼれてしまいそうだと思ったからだ。 しかし一方の、何も事情を知らされていないロングビルは、 ルイズが与えられた罰則に不貞腐れているのだろうと、見当違いの推測をした。 なので、念を押す意味で、 「ミス・ヴァリエールはこれから一週間、自室で謹慎となります。 謹慎期間中に部屋から出た場合、さらに罰則が追加されますので、決して部屋からは出ないで下さい。 朝昼晩の食事は、部屋の前に用意させます。 例外として部屋を出ることが許可されるのは、トイレに行く時と、部屋の前の食事を取るときだけです」 と、あくまで事務的な口調で言ってから、また学院長室に戻っていった。 ルイズはその足音を聞きながら、ベッドの上に腰を下ろした。 そしてそのまま夜になって、着替えて寝るまで、ずっとそうしていた。 部屋の前に置かれた食事には、手をつけないままだった。 その夜――ルイズは、夢を見た。 見たことも無い、世界だった。 どうやらどこかの室内らしい。 壁は石造りのようで、滑らかで灰色。 天井には、ルイズが見たことも無いような、光を放つ不可思議な形をした道具。 そして壁には――血まみれになった男が一人、荒い息で、壁に背を預けて床に座っていた。 深い傷を負っているらしく、ぐったりとしている。 男の数メイル先には、なにやら金属で出来ているような、黒光りする道具が転がっている。 そのあまりにも奇妙な光景に、ルイズは言葉を失い、ただ目を見開いてそれを見るばかりだった。 そうこうしているうちに、男が誰かに話しかけるように、何かを喋り始めた。 だが、どこかノイズがかかっているようで、よく聞こえない。 「やっ……たな……。……を止め……るスタ…………いに! 手に入れ……。 そして………は死んだ。弾が………ブチ込んで……よ」 しかし、それに答える声は、あまりにも鮮明で、あまりにも聞き覚えがありすぎた。 そしてその声がするほうを見て、ルイズは絶句した。 「アア……目的ハ全テ手ニ入レタ」 声の主は、ホワイトスネイクだった。 (え……? ちょ、これって……ど、どういうこと? 何でホワイトスネイクがあたしの夢に? それにそもそもこの場所は一体何なの? この血まみれの男は一体何なの?) そう自問して、ルイズはあることに気づく。 (あいつ……『別の世界から来た』って言ってた……。 だとしたらこれは、あいつが前にいた世界……ってことなの……?) しかし夢の映像は、ルイズの疑問をも考察するかのように淡々と続いていく。 「君ノオカゲダ、ジョンガリ・A! 我々ハ本当ニイイコンビダ」 「フフ……頼む………に連れて行ってくれ………しちまった」 血まみれの男がホワイトスネイクに何か頼み事をしている。 だがホワイトスネイクはそれを意にも介さず――床に転がる、黒光りする道具を手に取った。 そしてそれを、男に向かって構える。 (ち、ちょっと、ホワイトスネイク! あんた一体何する気!? あの血まみれの男の人をさっさと助けなさいよ!) ルイズは夢の中で必死に声を張り上げる。 だがその声は、二人には全く聞こえていないらしい。 「なあ……俺の銃………ないか?」 男がキョロキョロしている。 さっきの道具を探しているらしい。 だが次の瞬間―― 「ココダ」 ドシュッ! ホワイトスネイクの手に握られた道具から放たれた弾丸が、男の喉を貫いた。 男は、声も上げずに死んだ。 (え……? な、なに? ホワイトスネイクのヤツ、今何したの? あの男の人、死んだの? ホワイトスネイクと男の人は仲間だったんじゃないの!?) 混乱するルイズを尻目に、夢の映像はやはり淡々と続く。 男を殺したホワイトスネイクは、ゆっくりと男の死体に近づき、そして男の手に、先ほどの道具を握らせた。 そして薄ら笑いを浮かべながら、言った。 「ケネディヲ暗殺シタ犯人モ……コウヤッテ人生ヲ終エタ。 ……リー・ハーベイ・オズワルド……ダッケ? 確カ……。 『死人ニ口ナシ』。ダカラ歴史ハ丸ク治マッタ……。 私ノ正体ヲ知ル者ハオマエダケダシ、『看守殺シ』ノ罪モ、オマエ一人ノ仕業ダ……」 そこで、夢が映し出す映像は暗転した。 そして次々と、いくつもの場面を映していく。 心に闇を抱えるものにつけ込み、利用するホワイトスネイクを。 他人の欲望を利用するホワイトスネイクを。 そして、ホワイトスネイクが付き従う、浅黒い肌の、黒服の男を。 黒服の男は、まさしくそれまでに映されたホワイトスネイクの人間版であった。 相手の心の闇を利用し、欲望を利用し、そして使い捨てる。 そしてそればかりではなかった。 敵と戦えばどんな姑息で卑怯な手段も平気で取った。 相手にとって何よりも、命よりも大切なものをエサにして逃走し、 追い詰められれば醜く命乞いをし、スキあらば一瞬で命乞いをした相手を殺す。 ホワイトスネイクは、そんな男に付き従っていたのだ。 そして、それらの行動をその身をもって支えていた。 そのことが、ルイズの心に一つの感情を灯していった。 そして、また一つの映像に行き着いた。 そこで黒服の男は、再び醜く命乞いをしていた。 神だの大いなる意思だの、わけのわからない大義を持ち出して、 相手がさも無知であるかのように、高説を振るっていた。 それを直接ぶつけられたわけではないルイズでさえ、吐き気を催すような気分になった。 そしてルイズには理解できた。 もうこの男は、ここまでだと。 その予想通り、相手の少年は命乞いを聞き入れなかった。 男は、これまでに重ねた邪悪な行いの全ての報いを受けるかのように、全身を細かく粉砕されて、死んでいった。 そこで、夢の映像は終わった。 夢の終わりと同時に、ルイズは目が覚めた。 むくりと起き上がって、窓の外に目をやる。 月はまだ高い。 夜明けはもう少し先だろう。 そんなことを考えながら、ルイズは自分の心の中にふつふつと湧き上がる感情の正体を、静かに理解した。 夢を見ていたときから、自分の中に芽生えてきていた感情だ。 そして、一つの名前を呼ぶ。 「――ホワイトスネイク」 その声に応じるかのように、ルイズの背後にホワイトスネイクが現れる。 「ドウシタ、マスター? コンナ夜遅クニ」 「……あんたに、聞きたいことが、あるのよ」 一言一言噛み締めるように、ルイズは言った。 その様子から普段との違いを即座に察知したホワイトスネイクは、多少の警戒感を込めながら聞き返す。 「……トイウノハ?」 ルイズは息を軽く吸ってから、それを言った。 「あんたはわたしの使い魔になる前に、一体どんなことをしてたの?」 ホワイトスネイクにとって、それは全く、思いもよらない質問だった。 だが、それでもホワイトスネイクは冷静だった。 冷静に、それに対応できてしまった。 そしてその冷静さが、この時はアダとなった。 「一人ノ男ニ仕エテイタ。ソシテソノ男ノ命令ニ従イ続ケタ。ソノ男ガ死ヌマデノ間ナ」 「私が聞いてるのはそんな大まかなことじゃないわ。 あんたがその男に仕えて、一体何してたかって事を聞きたいのよ」 ルイズの声の調子は先ほどと変わらない。 「ソレヲ聞イテドウスル?」 「聞いちゃいけないの?」 「ソウイウワケデハナイ。ダガ他人ノ過去ニアマリ首ヲ突ッ込ムモノデh」 「『死人に口なし』」 ホワイトスネイクの言葉を遮って、ルイズがぼそりと言った。 そしてその言葉に、ホワイトスネイクは久しく戦慄に近いものを感じた。 死人に口なし。 ホワイトスネイク自身もよく覚えている、ジョンガリ・Aに対していった言葉だ。 それを何故……マスターが知っている? いや、それともただの偶然か? 「何を驚いてるの? あんたらしくないじゃない、ホワイトスネイク」 ルイズの方もホワイトスネイクがいくらかは驚いている事は分かっている。 だがそれでもルイズの声の調子が変わることは無い。 「夢をね、見たのよ。そこであんたを見た。あんたが仕えてる男も見た。 ……もちろん、あんたが過去にしたことも、全部。 始祖ブリミルの思し召しかしら? ……こんな夢を見られたのは」 「…………」 ホワイトスネイクは何も言わない。 ただ、沈黙してルイズの言葉を聞くだけだ。 「仲間を裏切って殺して、他の人に近づいて、利用して、それで使い捨てて…… それなのに、あんたは自分からはほとんど戦おうとしなかった。 戦うにしても、戦う相手は自分が絶対勝てる相手だけ。 負けそうになれば、どんな手段を使ってでも逃げる。 逃げられなきゃ命乞いする…………これが、私が見た、あんたがしてきたことよ。 …………わたしはね、あんたが正直に、自分が何をしてきたかを言ってくれたら、こんなに怒ってなかったかもしれない。 ……そうでなくても十分怒ってたけど」 そこでルイズは一息ついて、 「ねえ、ホワイトスネイク。あんたは何で、さっき聞かれたときに誤魔化そうとしたの? 単純にあの過去を知られたくなかったからなの?」 口調こそ冷静だが、ルイズの心中にはふつふつと怒りが煮えたぎっていた。 ホワイトスネイクがしてきたことが、ルイズには心の底から許せなかったのだ。 確かにホワイトスネイクへの恐怖はある。 でもそれさえ木の葉のように吹っ飛んでしまうぐらい、ルイズは怒っていた。 「……マスターノ信用ヲ失ッテハ私モ戦イニククナル。 ソレデハマスターヲ守ル事モ難シクナr」 「黙りなさい、この卑怯者ッ!!」 ルイズの叫びが、室内に響いた。 「そうよ、あんたは卑怯者よ! ギーシュのワルキューレをあんな簡単にやっつけられちゃうぐらい強いくせして、戦いはいつも他人任せ。 自分が戦わなくちゃならないときは、どんな卑怯な手段でも使う! どんな姑息な真似だって平気でやる! 負けそうになれば命乞いでもなんでもする! ……あんた、恥ずかしくないの? あんなことして生き延びて、恥ずかしくないの!? 他人を利用して、使い捨てて、それでも罪悪感は感じないの!?」 一気にそこまで言い切ると、ルイズは肩を上下させて息をした。 そして一方のホワイトスネイクは、ルイズの心からの怒りに、 「……私ハカツテノ主人デアル男ノ精神カラ生マレタ。 私ハソノ男ノ深層心理ソノモノナノダ。 ソシテ、ソノ男ニハ全テヲ犠牲ニシテデモヤリ遂ゲヨウトスル事ガアッタ。 ソノタメニハ、ソノ男ハドンナコトデモシタ。 私ハ男ノ精神カラ生マレ出タ存在ダカラ、私ガソレヲ望ンデイルノモマタ事実ダ」 そう、あくまで冷静な口調で答えた。 そしてそれを聞いたルイズは、頭のどこかで、何かが切れるのを感じた。 「……言い訳のつもりなの? それ……」 そして、 「フザケてんじゃないわよッ!!」 再び、怒りに満ちた叫びを上げた。 「全てを犠牲にしてですって? そういうのはまず自分から率先してその犠牲ってヤツに回すからそう言うのよ! でもあんたの前の主人がやってきた事はそういうのじゃない! いつも犠牲にするのは他人ばっかりで、自分は何一つ手を汚そうとしない! そういうのは高潔でも立派でもない、この世でもっともゲスな行いよ! それに、その男の精神から生まれたとかなんとか、わたしにはよく分かんなかったけど……一つだけ言えることがあるわ。 それはあんたが、自分の性格を前の主人のせいにしようとしてるってこと。 そんなので言い逃れようと思ったのね、あんたは。この場だけは誤魔化そう、なんていうふうに……。 …………命令よ、ホワイトスネイク。『もう二度とわたしの目の前に姿を現さないで』」 もう二度と、自分の前に姿を現すな。 そう、ルイズは確かに命令した。 「マスター」 「これは命令よ、ホワイトスネイク!」 ホワイトスネイクが何か言いかけるが、ルイズがそれを遮った。 数秒、ルイズとホワイトスネイクの視線が交差する。 そしてその後、ホワイトスネイクは何も言わずにフッと姿を消した。 姿を消す瞬間、その表情には僅かながら、感傷に近いものが浮かんだ。 ルイズはホワイトスネイクが初めて見せる表情に、ほんの一瞬、戸惑いを覚えたが、すぐに怒りがそれをかき消してしまった。 そしてホワイトスネイクが完全に姿を消したのを見届けてから、再びベッドに横になった。 息はまだ、荒いままだった。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/501.html
脱!ゼロの二つ名…予定 爆発による煙は晴れ、視界が開けると、その中心で桃色のブロンドの少女ルイズは唖然と立ちつくしていた。 「人…間?…なの?」 ルイズは目の前に横たわる人間が召喚されたのだと気付いた。人間を召喚するなど前代未聞だが、頭にカラがある事に気付き、何かの亜人だろうかと想像する。…鳥人かな? しかし級友は優しくなかった 「オイオイ!今度は平民を召喚しちまいやがったぜm9(^д^)Pmプギャー」「流石ルイズ!俺達に出来ない事を平然とやt(ry」 「エ~?マジー?平民~? キャハハハハ」「キモーい!!平民召喚が許されるのはダメルイズだけよね~ アッハハハハ」 そんな随分と酷い中傷は、しかしルイズの耳に届かなかった。 その人間の寝顔があまりにも穏やかで起こす事を躊躇ってしまうからだ。こんな全てやり遂げた様な安らぎを未だ見た事は無い。 「ミスヴァリエール。時間が惜しい。早く契約をなさい。」 味わいある壮年コルベールが契約を促す。 正直平民と契約させるのは彼自身納得行かない。 ましてやうら若き乙女で、しかも落ちこぼれとは言えヴァリエール家の子女。もったいないと思うが、なにぶん他の生徒の前でそんなことを出せる訳もなく、努めて淡々と続きを促した。 自分の召喚したのが平民と思われている事に気付いたルイズは恥ずかしさに顔を朱に染め、契約を行う さて、お決まりの呪文と、せ、成約のキ…キキキスキス鱚帰スすすsususuあわわわ 頭の中がキスkiss鱚といっぱいになるが外には出さない様に感情を抑える。純情でも人前には示さない安いプライドがあるのだ 顔に手を触れる …!!冷たい!いや冷たいなんてもんじゃない!まるで死体だ 困惑した顔でコルベールを見る。 髭親父はすがる様な濡れた瞳にクラっときたが、我慢して続けさせた。 恐る恐る唇を合わせる。だが、その唇は暖かかった。順番に手を触れている顔も熱が通いだした。まるで唇から熱が巡りだしたかの様に 「…うぉおお!」突然男は目を醒ました。「ひゃ!」驚きルイズは尻餅を着いた。 髭親父がこっちを見ていた。 ……何を見られているか気付いて顔を真っ赤にした…スケベ親父めぇ~ スカートをキチッと直し気丈に構え「契約完了しました。ミスタコルベール」言外に非難を込めて言った。 コルベールが近付き左手に浮かんだルーンを確認する。ルイズは反対側に回ってエロ髭から距離を取る 「ふむぅ…契約は問題なく出来たね。」 微笑む髭を冷たい目で流し、自分の使い魔に向う。ルーンの痛みが引いたところでさっそくコミュニケーションを取る 「あんた誰?」名前は大事だ。あんただのお前だのそういう呼び方は嫌いだ。 使い魔は周囲の状況に戸惑いつつも落ち着いて答えた 「俺…か?俺はレオーネ・アバッキオだ。」 「レ・オーネ=アバ・キヨ?ちょっと貴族みたいな名前ね。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! ルイズ様か、愛を込めて ル イ ズ て呼んでもよろしくてよ?」 キマッタ!これで主導権を握ったわ!更に呼び捨てすら許す心の広さも示して見せたわ! 「…アバッキオだ。区切って読むな。」「う!うう五月蝿いわね!ちょっとした間違い位流しなさいよ!」 あれ? 「…さてそれでは帰りますかね皆さん」 コルベールが皆を先導する。 瞬く間に空に浮かび上がり去って行った。鮮やかで 悔しい 「あれは何だ?」アバッキオ…何を言ってるの?基礎的な魔法じゃないの…ひょっとして魔法見た事無い? 「ここはトリスティン魔法学院よ。魔法何てまるで珍しくないわ。」メイジの誇り高さに胸を張ってみる…色々と虚しい 「…とするとその魔法とやらで俺を助けてくれたのかあんたは?」 「あ、あんたですってぇえぇ~~!?言葉遣いが違うんじゃなくってぇえ~?」前言撤回。こいつは平民だ。ならちゃんと躾をかまさなくてはならない。噛みつくようなら罰だって与えなくてはねぇえぇ~! だが予想外の反応が返ってきた 「…ありがとよ。」「へ?」唖然とした。何でお礼言われたのかしら?やはり…何者? 「と…とりあえず学院に帰るわよ。着いて来なさい。」細かい事は部屋で聞こう と歩き出すと ドサリ とアバッキオは倒れた。 「え?ちちょっと!」何なのぉ~こいつぅ~いきなしブッ倒れるとか穏やかじゃないわ! 憤りをよそに、アバッキオはピクリともせず、ルイズは焦りだした。 「まさか凄い衰弱してるの?何なのぉ~こいつはぁ?」 これからの事を考えるとルイズも一緒に倒れてしまいたい気分になってしまったのだった to be contenued
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2499.html
おれは…死ぬのか…吸血鬼にもなれず…無様な姿をジョジョに晒して…死ぬのか… ……いやだ、そんなのは嫌だーーーッ!!!! おれは使い魔になるぞジョジョーッ!第一話 ふと我に返るとおれは地面に仰向けに寝ころんでいた。抜けるような青空が眼前に広がっている。 周りからは太陽の光を浴びた青草の匂いがかすかに漂ってくる。 おれは死後の世界など信じていない。だが、もし本当に死後の世界があったのだとしたら… まさかおれは天国に来たのか? 反省も後悔もする気はないが自分の行っていた事が良い行いだとは到底思えない。 だとしたら神という奴はとんでもない―馬鹿野郎だと言うことだッ! と、いきなり視界に少女の顔が写る。おれを覗き込んでいるらしい。 「あんた…誰?」 変な髪の色だ―それがディオの第一印象であった。幼さを残しながらも顔立ちは整っている。 だが髪の色が桃色がかっているのはどういう事だッ!天使というのはまさかピンク色の髪をしているのか? それにあのスカート!ボヘミアン(*19世紀の自由人)の踊り子でもあんな短い丈ではないぞッ! 顔を上げてあたりを見回すと、似たような格好をした人間が沢山いることに気がついた。 遠くには中世を思わせる城もある。どうやらここは天国でもあの世でもないようだ。 「あんた誰って聞いてんのよ!」 先ほどおれを覗き込んでいた少女(ガキ)がまた尋ねてきた。まずは状況を把握する必要がある。 「ここは…どこだい?」 「質問を質問で返すなーっ!!疑問文には疑問文で答えろと、教えられてるのか!?」 どうやら怒らせたらしい。フン、自分から聞いてきて勝手に怒り出す。これだからガキは。 手で草を払いながらできるだけ丁寧に対応する。 「失礼した、ぼくはディオ・ジョースター…」 ここで考える。おれはジョースター卿を殺そうとした。また、あのジョナサンと同じ姓でいる事にももはや耐えられなかった。 そろそろジョースターの名を棄ててもいい頃合いだろう。 「すまない、言い間違えた。ディオ・ブランドーだ。」 「どこの平民?」 胡散臭い目で見つめてくる。それよりも平民だとッ!?このディオの格好はどう見ても貴族の格好だ。 少なくともよほど裕福な庶民でない限り間違える事はないだろう。 だが、こいつは今おれの事を平民だと断定した。よく聞くと周りからも 「ゼロのルイズが平民を召還した…」 「やっぱりルイズはルイズだ…」 という声が聞こえてくる。ところどころから笑い声も聞こえる。どうやらあのガキはルイズというらしい。 だが奴らの目――まさかこのディオを笑っているのか!?年端もいかないガキどもが――ッ! 「フン、どこに目がついているのかは知らないがこれでもぼくは貴族でね」 「はぁ?マントも杖もないのにどこが貴族なのよ?」 杖?マント?何を言っているんだ、こいつは。 よく見ると周りの奴らも全員マントに杖を持っている。 するとおれは死んだのではなく黒魔術かなにかでここに召喚されたというのか…? よく見ると奴らの足下には様々な動物がいる。まさかおれがあいつらと同じだというのかッ! このディオがッ! ルイズはショックを受けていた。今まで魔法は失敗だらけ、この春の召喚に失敗したら ひと思いに退学…させて…NO!NO!NO! りゅ…留年?NO!NO!NO! りょ…両方ですかぁーっ?YES!YES!YES! もしかして家門の恥として絶縁ですかぁーっ!YES!YES!YES!OH!MY!GOD! な結果になるのは目に見えている。だからこそ爆発の後、なにかが倒れているのを見た時は喜びで泣きそうになった。 だが現れたのはドラゴンはおろかネズミでも蛙でもない、一介の平民だった。 そ、そりゃちょっとハンサムだけど今私が欲しいのは使い魔であってイケメンの平民じゃない! だからこそルイズは詰め寄る。 「ミスタ・コルベール!もう一度召喚をやり直させてください!」 だが現実の壁は非情だった。 「ミス・ヴァリエール、それはできない。二年生に進級する際、君達は『使い魔』を召喚する。今やっているとおりだ。 それによって現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、専門課程へ進むんだ。一度呼び出した『使い魔』は 変更する事はできない。何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ」 「でも…」 「ミス・ヴァリエール。今君の選べる選択肢は二つだ。あの青年と契約するか、それとも留年するかだ。」 「くっ…」 「あら、よく見るといい男じゃない。ねえ、タバサ」 「…。」 この一連の流れを外野は楽しんでいた。 「あの」ゼロのルイズが使い魔召喚に成功したと思ったらよりによって平民を召喚したのだ。 『全く期待していなかったサーカスを見に行ったら意外と面白かった』その場の空気の殆どがそんな感じであった。 特にキュルケは楽しんでいた。ルイズはツェルプストー家にとって今、最低限張り合うに値する人物となったのだから。 タバサは…見ていなかった。本を読む方に既に意識を移していたのである。 視界の片隅で先ほどのガキが禿の男と揉めている。話の内容から察するにどうやら本当におれは奴らに『召喚』されたらしい。 吸血鬼だってこの世に存在するんだ、今では召喚だってあり得る話だ。ディオがそう考えていると 男との口論を終えた少女はディオに歩み寄ってきた。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから!」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 またも意味のわからない事を畳みかけてくる少女に反論しようとした瞬間、ルイズの唇がディオのそれと重なる。 ズキュウウゥンッ!! どこからともなくそんな音が聞こえてきた。 「やった!さすがゼロのルイズ!俺たちにできないことを平然とやってのける!そこに痺れるあこがれるぅ!」 とは後に当時の事を語るマリコルヌの弁である。 (ど…どうなのかしら…?) ルイズがディオの顔を見ると、ディオは醜悪な顔――はっきりと人間の表情でいえば怒っていた。 「貴様!このディオに対していきなりなんの真似だーッ!」 ディオの拳がルイズに迫る。避けられない!ルイズは思わず目を瞑った。だがいつまでたっても殴られる気配はない。 恐る恐る目を開けるとディオは左手を庇うようにして屈み込んでいた。 「ぐっ……貴様…何をした……ッ!」 そこにははっきりと使い魔のルーンが刻まれていた。 (も…もしかして成功した?) 「ミス・ヴァリエール、進級おめでとう」 ふと気がつくと後ろでコルベールが微笑んでいた。 『ゼロ』のルイズ、魔法が生涯で一度も成功した事がないと揶揄されたルイズであったが使い魔の儀式は成功したのだ。 今まで張り詰めていた気が抜けたルイズはへたへたと座り込んだのであった。 to be continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/424.html
彼は1度死んだ。 殺されるわけがない、そう思っていた。 自分を殺せる奴はいない、その気持ちが油断を生じさせたのか 実にあっけなく、彼は死んだ・・・・ 目を開くと青空が広がっていた。 「さすがゼロのルイズ!」「平民を呼び出すなんて!」「ありえないだろ常識的に考えて」 なんだ・・・俺は死んだんじゃないのか? 「ち、ちょっと失敗しただけよ!」 ここはどこだ・・・?こいつらは・・・? 「ミスタ・コルベール!儀式を「だめです」 おい、そこの女!ここはどこだ! 「なによ!あんたが勝手に出てきたんでしょ! ほんとにもぅ・・・あんた、名前は?」 何だこいつは?人にものを頼む態度か? まぁいい・・・俺の名は、メローネだ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/814.html
「少年よ、ある種の事柄は死ぬことより恐ろしい…」 闇の底から声が響いていた。 「お前の『肉体』やわたしの『能力』がそれだ………」 闇の一点が蠢き、人の形が現れる。 巨大な男の影、恐るべき力を持った魔人。 「わたしも、おまえも同じだ………」 男の姿が闇に溶け、そして次の瞬間そこには蒼い異形が立っていた。 『 化 物 』 だ ! ! 「……………ッ!!」 育郎が尋常でない勢いで飛び起きる。 「夢か…」 荒い息を整え、右腕の袖を肘辺りまで捲り上げると、そこには爛れた肌が見えた。 青い、そこは人間の肌にはありえない色をしている。 「どうした相棒?」 すぐ傍に立てかけてあった剣、意思を持つ魔剣デルフリンガーが育郎に声をかける。 「デルフ…いや、何でもない」 「そうかい?のわりにはうなされてたぜ、相棒」 服の袖を戻し、目を閉じて先程の夢を思い出す。 「悪い夢さ…」 「ねえルイズ、貴方の使い魔なんか変じゃない?」 ミセス・シュヴルーズの授業中、キュルケがひそひそとルイズに話しかける。 「別に普通じゃない?ていうか、何であんたがそんな事気にするのよ… まさかまだあいつの事狙ってるんじゃないでしょうね?」 「あら、まさか私がそんな簡単に諦めると?」 「なんですっムガ!?」 ルイズの口が、ミセス・シュヴルーズが杖を振って出現させた赤土によって塞がれた。 「ミス・ヴァリエール、授業中に大きな声を出してはいけませんよ。 そもそもむやみに声を張り上げるのは、淑女としても褒められたものではありません」 怒られるルイズを、ニヤニヤしながらキュルケが見る 「淑女失格ですってよ、ミス・ヴァリエール。貴方の胸とおんなじね」 「ムガー!!(なんですってー)」 「ミス・ヴァリエール!」 「ムガ……」 しゅんとするルイズの様子に、教室にどっと笑いがおこる。 「はいはい、みなさん静かに、静かに! ハァ…まったく、少しはミス・ヴァリエールの使い魔を見習いなさい」 その言葉に、何人かが教室の後ろに立っている育郎を『何で平民なんかに?』 という目で見る。 最初の授業の一件以来、ミセス・シュヴルーズは礼儀正しい育郎を気に入り、 このように授業中騒ぎが起こった時には、何かと引き合いに出すのだった。 当の育郎はその騒ぎをよそに、今日の夢の事を考えていた。 「『化物』か…」 夢に出てきた男について考える。 名前も知らない男だったが、忘れることの出来ぬ相手だった。 「………」 授業を受ける魔法使い達を見る。 あるいはあの男がこの世界に生まれていたらどうなっていただろう? 受け入れられ、ごく普通の人生を過ごすこともできただろうか? 周りの使い魔たちを見る。 見慣れた動物もいるが、地球には存在しない異形の生き物もいる。 しかし、それは地球で生まれた育郎から見た話であり、この世界で彼らは、 唯そういう生き物であるというだけだ。 自分が今ここで『あの姿』になったら、この人達は自分をどう見るだろう? 珍しい生き物ぐらいに思うだろうか? だがその『力』を見たら? 「きゅるきゅる」 気付くとキュルケのサラマンダー、フレイムが心配そうな顔でこちらを見ている。 (やめよう…考えても仕方の無い事だ。 あの力を使えばルイズにも迷惑がかかる。使わないに越した事は無い) しゃがみこみ、フレイムの頭をなでてやる。 「ありがとう、大丈夫だから」 「きゅる…」 「ムガ…」 ルイズがミセス・シュヴルーズにばれない様、そっと後ろを振り返ると、育郎が フレイムの頭をなでているのが見えた。 「ムガムガ(なによ、キュルケの使い魔なんかと仲良くして…) ムガムガ(キュルケが変とか言うから、具合が悪いのかと思ったじゃない)」 そう思うと何故か怒りがこみ上げてくる 「ムガムガー!(というかなんで私がそんなこと心配しなきゃいけないのよ!) ムガー!(先生に怒られたし!)」 「ミス・ヴァリエール、授業に集中しなさい!」 「ム、ムガ…(す、すいません…)」 「親父…今何してやがんのかな…」 そのころデルフリンガーは、一人ルイズの部屋に取り残された寂しさからか、 武器屋の親父の事を思い出していた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/287.html
監督教官のコルベールはほぼ満足していた。 新2年生のほぼ全員が使い魔の召喚と契約を無事済ませていたからだ。 (なまじ高等な幻獣を召喚されたら契約するだけで一苦労ですからねぇ) 生徒達が自分の力量と特性を見極め、それに見合う使い魔を召喚し、メイジとしての自分自身のあり方を見定める。 これが2年生最初の授業にして伝統の儀式「春の使い魔召喚」の目的だった。 とはいえ、 (まあ、やっぱりというか、予想に反してというか…) 今年度最大の問題児のみ、まだ使い魔との契約を済ませていない、という点だけは不満足だった。 その問題児、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが問題児たる所以は、通常のように 素行不良や成績不振、または対人関係といった人間的な部分には無い。 魔力はあれど術を一切使えないという、メイジとしての存在意義そのものを危うくするほどの欠点を、 彼女が持ち合わせていた事、ただそれだけ。 コルベールの予想通りだったのは、ルイズの召喚魔法が常識外れの結果に終わった事。 コルベールの予想と異なっていたのは、ルイズが一発で使い魔の召喚に成功した事。 そしてコルベールの予想を遥かに超えていたのは、召喚した使い魔が人間だった事。 「ミスタ・コルベール!もう一回だけ召喚させて下さいっ!」 嘆願、と言うよりもわめき散らすルイズを前にして、 (さてどうしたものか) 極力表情を表に出さないように、コルベールは悩む。 召喚した使い魔が気に入らないという理由でのやり直しなぞ、到底認められるものではない。 それは使い魔召喚という儀式とその目的を、ひいてはトリステイン魔法学園の伝統を、乱す事に他ならないからだ。 一方、自分が知る限り、人間を使い魔として召喚、使役したメイジなぞ聞いた試しもない。 コルベールはより無難な回答を出すことに決めた。 「それは駄目だ。召喚に成功したのなら、それが君の使い魔となるべき者なんだ。例えそれが…」 改めてルイズが召喚した人間を観察する。 がっしりとした筋肉質の若い男。立ち上がると身長は2メルテもありそうだ。 どこか気品のある、それでいて垢抜けない仕草は辺境出の貴族のようにも見える。 杖は持っていない。衣装も見慣れぬ物だ。身分を示すような装飾品も見当たらない。 「…平民だったとしても例外ではない。これがこの儀式のルールであり伝統だと説明したはずだがね」 目に見えて落胆するルイズ。他の生徒達は口々にはやし立てる。 「さあ、契約を済ませ、儀式を完遂するんだ、ミス・ヴァリエール」 召喚した平民のもとへ渋々と戻り、その場に座らせてから、杖を振り、口訣を結ぶ。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」 唇を合わせようとルイズが顔を近づけると、平民の男が突然立ち上がる。 「な、何をするだァーッ!ゆるさんッ!」 「ちょっと!じっとしてなさいよ!」 「何てふしだらなんだ君はッ!こんな人目のある所で、見ず知らずの男である僕にッ!」 「あんたは私の使い魔なんだから言うこと聞きなさいよ!」 「僕は紳士だ!愛してもいない女性から誘惑されるなど願い下げだッ!」 「いいから座りなさい!あたしが届かないじゃないの!」 「君の言うことを聞くつもりはないッ!」 まるで会話が噛み合っていない。 (ああ…もうどうしたもんだか) コルベールは頭を抱える。授業時間はとっくに終わっているのに、これ以上面倒を増やして貰いたくはなかった。 「結構いい男じゃないの、ねぇタバサ?」 赤髪の女生徒キュルケの問いかけに、 「…」 青髪の女生徒タバサは特に答えを返さない。 早々に自分の使い魔と契約を結んだ二人はルイズと使い魔のちぐはぐな口喧嘩の推移を見守っていたが、 「それにしてもいつまでやってんだか」 まるで話が進まないのでいい加減飽きてきた。 「さっさと押し倒してキスしちゃえばいいのにねぇ」 「相手が大きすぎる」 「あなたなら『風の槌』でブッ倒しちゃうんじゃない?」 「手助け禁止」 「あ」 男の眼前で小さな爆発が生じる。 怯んだ男が膝を屈した所でルイズはその頭を両手で掴み寄せ、強引にキス。 「うわお、情熱的ぃ」 にやにやと嫌な笑みを浮かべるキュルケ。 ジョナサンは目の前で拳銃を発射されたような衝撃と爆音にもうろうとしていた。 (な、何を…?) 視覚と聴覚が白く塗り潰された中で、頭を掴まれ、唇に何かが触れる。 「はっ、離すんだッ…」 掴まれた頭をふりほどき、どうにか立ち上がろうともがくが、 「うおおおおおお!」 左手に生じた焼け付くような痛みにうめき声を上げ、またその場に膝まづく。 「終わりました、ミスタ・コルベール」 ルイズは複雑な心境で一礼した。 失敗魔法の爆発で使い魔の平民-ジョナサンに目くらましを浴びせ、その隙に契約を成功させたのは 我ながら胸がスカッとする機転だった。 が、そもそもその魔法が失敗だったこと、そして何よりも自分の使い魔がどこの馬の骨とも知らない平民であることは はなはだ不服でならなかった。 更に悪いことに、コルベールはジョナサンの左手に刻まれた使い魔のルーンを一目見るなり、 「ふむ…珍しいルーンだな」 とだけ呟き、後はまったく関心を払わなかった。 (せめて魔法の系統ぐらい教えてくれても良かったのに) 「ほら『ゼロ』!早く来ないと次の授業が始まっちまうぜ?」 「頑張って走りなさいな!グラウンドは広くてよ!」 「飛行」の魔法で易々と校舎に戻るコルベールと級友達を苦い思いで見送ってから、その光景にぽかんと口をあけて 見とれているジョナサンに 「ほらっ!あたし達も校舎に戻るわよ!」 と声を掛ける。