約 1,076,904 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1846.html
使い魔は引き籠り-1 使い魔は引き籠り-2 使い魔は引き籠り-3 使い魔は引き籠り-4 使い魔は引き籠り-5 使い魔は引き籠り-6 使い魔は引き籠り-7 使い魔は引き籠り-8 使い魔は引き籠り-9 使い魔は引き籠り-10 使い魔は引き籠り-11 使い魔は引き籠り-12 使い魔は引き籠り-13 使い魔は引き籠り-14 使い魔は引き籠り-15
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/863.html
「で…だけど、本当にアンタ、何も思い出せないわけ?」 「ああ、本当だ」 ここは、ルイズの部屋だ。ここが『トリステイン』の『魔法学院』ということは教えてもらった。 さっぱり意味がわからん。ルイズの話のことじゃない。 俺はどこにいて、何をしていて、なぜここに来たのか? ルイズの話では、『召喚』というのはこの世界のどこかから『使い魔』というのを連れてくるらしい。 困った事に、オレの故郷はさっぱり思い出せない。 故郷なら知り合いもいるだろう。そうすればきっと名前だってわかるのに……。 そこで、先ほどのルイズの質問と相成ったわけだ。 「でも困ったわね…アンタを『使い魔』とするのに『下僕』とか『犬』じゃあ呼びにくいし… 人前ではカッコがつかないわ……」 「じゃあ…そうね、喜びなさい! このルイズ・ド・ラ・ヴァリエール様が名付け親になってあげるわ!」 「名付け親?」 「そうよ! フフン! わたしのネーミングセンスの見せ所ってワケね!」 ルイズはそう言ってちょっとの間考え込んだ。 「そうね…『トリステインに吹く熱風』と言う意味の! …う~ん、イマイチ、今の忘れて」 ルイズはベッドから立ち上がって窓の側に行く。空は底抜けの碧さだった。 「いい天気ね……」 「ああ…」 「よし、決めた、決めたわ。アンタの名前は『ウェザー』…ウェザーよ」 ウェザー……『天気』か…。 「けど貴族の使い魔になるんだから苗字も必要ね……。ヴァリエールの名はあげられないけど…」 そう言って窓の外を見つめるルイズ。空の蒼と薄桃の髪が対照的だ。 「ウェザー…ウェザー・ブルースカイ……」 今度はこっちを見てきた。けどまた窓のほうに顔を向ける。 「いえ、違うわ……そう、これよ、『ブルーマリン』……アンタの名前よ」 「ウェザー……ブルーマリン?」 「そうよ、ウェザー…『ウェザー・ブルーマリン』、わたしの使い魔」 ウェザー…ウェザーか……いい名前だ。 「ありがとうルイズ。いい名前だ。気に入った」 俺は心から礼を言った。嘘偽りは無い。が、ルイズにはそれが気に入らなかったみたいだ。 「ちょっと! 平民の、それも使い魔の分際で! 貴族を呼び捨てにするとは何事よ!」 どうやら自分の名前を呼ばれたのが気に食わなかったみたいだ。 「いいこと!? わたしを呼ぶ時は『御主人様』というのよ! わかった!?」 「アンタは名前の無い俺に素敵な名前を付けてくれた。この名前はオレの宝物だ。 だからオレのほうもアンタの事を名前で呼びたい。……ダメか?」 「なな…何よ、宝物なんて言っちゃって……当然でしょ! 貴族が名付け親なのよ! け、けど、そそ、そこまで言うなら、な、名前で呼んだって構わないわよ? ありがたく思いなさい!」 「ああ、ありがとう。ルイズ」 「陽が暮れてきたな……」 夕焼けが部屋を赤く染める。 窓の側に立っていたルイズの顔は、夕日よりいっそう赤く見えた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/846.html
どっと疲れた。もう何が何やら。 わたしがため息をつくとキーシュもため息をついた。 わたしが顔を上げるとキーシュも顔を上げた。 わたしが右手を上げるとキーシュも右手を上げた。 こ、の、お、と、こ、は、あああああああああ……。 ……いや違う。冷静だ冷静だ冷静にならなきゃダメ。こうやって怒らせるのがこいつのやり口。 深呼吸を数度、真似するキーシュを無視して続けると、頭の血も降りてきた。 落ち着こう。毛布の上に寝転がると、キーシュも隣に寝転がった。 あんたねぇ、見る人が見たら絶対に誤解されるわよ。でも指摘したら負けだ。スルー、スルー。 「ねえキーシュ」 「キーシュだなんて。せっかくヒミツを分かち合ったんですから本名で呼んでください」 グググ……耐えろ。苛立たせるのが狙いなんだ。 「そうね、やたら長い上に語呂が悪いからミキタカでいい?」 「とてもいいですね」 名前馬鹿にされてんだから怒りなさいよっ、間抜けっ。 「ねえミキタカ。わたしが失敗した理由はわたし自身が一番よく知ってる」 マリコルヌにさえ馬鹿にされるゼロのルイズだからね。情けない話だけど、事実だからどうしようもない。 「だけどなぜあんたがサモン・サーヴァントを誤魔化そうとしたの。ペットの二十日鼠でどうこうしようって、いくらあんたでもそりゃ無理よ」 「ルイズさん、私はサモン・サーヴァントができないんです」 は? 「私はできる魔法とできない魔法がしっかりと別れているんです。私にサモン・サーヴァントは使えないんです。これは超数学で求めた真理です。間違いありません」 超数学云々はともかくとして、前半部分は理解できた。 そうだ、キーシュ――もうミキタカでいいよ馬鹿――ミキタカは、初歩の初歩が使えなかったり、応用中の応用が使えたりと、とてもちぐはぐなメイジだった。こいつならサモン・サーヴァントが使えないということも……あるかな? 「ですが、あなたは違います。爆発を起こしたことがそれを証明しています。絶対成功不可能な私と違って、ほんの少しの後押しさえあれば問題なく使い魔を呼び出すでしょう」 え……そ、そう? そうかな? やだなぁもう褒めたって何も出ないからね。 「私がその後押しをします」 「後押しってどうするのよ。二人で召喚するわけにもいかないでしょう」 「いいえ、断固として二人で召喚します」 「あのね、妄想もほどほどにしておかないといつか脳みそ爆発するわよ。コルベール先生が許すわけないでしょう」 「まずはルーンの詠唱に合わせて煙幕を焚き、先生の視界を塞ぎます。もちろん魔法は使いません。ルイズさんも私も特殊なメイジとして覚えられているでしょうから、特有の現象ということで納得してもらいましょう」 人の話聞かないのはもう慣れたもんね。だから悔しくなんかないもんね。 「そしてその後、ルイズさんは私を使ってサモン・サーヴァントを唱えます」 ぼうっとしていたせいじゃない。 モットーに従い、疲れきっていながらも頭の中ははっきりとしていた。 はっきりとしていてなお、目の前で何が起きたのか理解することができなかった。 隣で寝転がっていたミキタカの身体が解けた。 「召喚ができないとはいえ、私にも魔力はある。二人の力を合わせれば魔力も、成功率も二倍です」 私はどんな間抜け面でその光景を見ていたんだろう。 徐々にではなく、一斉にばらけていく。ミキタカの身体が、長い金髪が、鼻ピアスが、服が、全てが解け、一つの物体を形作っていく。 わたしは半開きで口を開けてそれを見る。口の中が乾き始めたことにも気づかない。 「二倍の魔力で二倍の使い魔を召喚し、煙の中で私とルイズさんが一体ずつ契約する。二人で呪文を行使する形になりますから、どちらも使い魔と契約できるわけです」 杖だ、これは。メイジの杖だ。 口も消え、耳も目も鼻も消え、ミキタカの痕跡が一切無くなっているのに声は聞こえる。 魔法じゃない。絶対に魔法じゃない。ベッドの上に寝た時点で、すでに杖は手放していたはず。それに一語の詠唱も無かった。それなのに、それなのに発動するなんて、そんな。ありえない。 「これが私のたてた作戦です」 「これ、幻覚?」 やっとの思いで声を出した。発言も発声もどちらも間抜けに聞こえたのは気のせいじゃないと思う。 「幻覚ではありません。現実です」 くっ、こいつに現実とか言われると無性に腹が立つな。 待てよ……そうだ、そういえば。 突然の怪現象に見舞われて混乱していたわたしの頭脳に一筋の光明が差し込んだ。 そうだそうだ、ミキタカの出自だ。母親がエルフという噂があった。 つまりこれは先住の魔法? だから杖が必要なかった? 詠唱も? そうか、ミキタカは先住の魔法を使えるんだ。だから使える魔法に偏りがあった。 特定の魔法のみ天才的に使いこなしたのもそういうことか。 うわ、すっごい腑に落ちた。納得。正体が分かると急に親しみを感じてくる不思議。 いいなぁ先住の魔法かぁ。ちょっとだけ格好いいよね。すっごい強いんだっけ。わたしも使ってみたいな。 「だけど……見れば見るほど本当に杖ね」 「もちろん杖ですよ。ただし振り回したり殴りつけたりはやめてくださいね。感覚はそのまま残っていますから」 何という事はない気持ちで杖に触れた。軽く握り、構えてみる。途端、 「おっおっおっおおおおおお!」 すごいすごいすごいっ。これはすごいよ。わたしの中にとめどなく魔力が流れ込んでくる。 この部屋の風景が、小物の一つ一つから毛布、ベッド、箪笥の裏の埃にいたるまで、全てが輝いて見える。 熱い。身体が熱い。熱風が吹き、吹き返し、わたしの中で轟々と吹き荒れている。 今ならできるような気がする。使うことができなかった、使えないせいで散々馬鹿にされてきた、どうしようもなく手の届かない存在だった、魔法を使えるような気がする。 「私の部屋で魔法はやめてくださいね」 分かってるわよ。何よ、人の心でも読んでるのかしら。 「読んでませんよ」 だったらいいけど。 「お願いします、ルイズさん。私と一緒に使い魔召喚の儀式をやりましょう。助けてほしいんです」 「……助けてほしい?」 「はい。助けてほしいんです」 その言葉には真実味があった。そう、ミキタカにしたってここで退学するわけにもいかないんだよね。 それに。ふうむ。これ、案外いけるかもしれない。それだけの説得力がある。先住の魔法ってやつは。 「どうしてもっ、助けてほしいっ……ていうなら手伝ってあげてもいいけど」 「そうですか。ありがとうございます」 同情ではなく、わたしからの手助けという形なら、ごく自然に協力することができるって寸法ね。 ミキタカめ、ルイズ使いがなかなか上手くなってきたじゃないの。どうせ偶然だろうけど。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/673.html
煙の晴れた中庭を前にしてルイズは天に向かって祈りをささげた (我等が始祖にして偉大なるブリミル、私何か悪いことを致しましたでしょうか? 今まで生きてきた中で嘘をついたことはあります、隠し事をしたこともあります ですが魔法が使えぬゼロという嘲笑に耐え、懸命に努力してきたつもりです たしかに神聖で美しく強い使い魔というのは高望みし過ぎたかもしれません、自分でもそう思います でもこれはあんまりじゃないでしょうか) 何度かの失敗の後でやっと呼び出すことに成功した自分の使い魔に視線を移す 髪の色は自分と同じピンク‐でも斑模様、服装はほぼ半裸‐三十過ぎがする格好ではない 平民という時点で問題外、外見でも不合格を宣告するには十分、駄目押しなのはその態度だ 私を、可憐でひ弱な百合の花の様な貴族の美少女を見て、怯えているとはどういうことだ 平民が突然こんな所に来れば混乱するのは無理も無いが、これはありえない 結論:これは使えない 「ミスタ・コルベール、もう一度召喚の儀式をやらせて下さい」 「ミス・ヴァリエール、それはダメだ」 あっさりと却下される 人事だと思って…、薄いの髪の毛だけではないらしい 神聖な儀式だの、伝統だの、ルールは絶対だの、再召喚が行えるのは使い魔が死んだ時だけだの、 どうでもいいことをまくし立てた挙句の果てに、時間が押しているからさっさと契約を済ませろと来た まあ確かに何時までもこうしている訳にはいかない、極めて不本意ではあるが契約を行うことにする 決してU字禿の言葉に押された訳ではない 口の中で呪文を唱えた後、怯える男に口付けをした 唇が離れた後、左手を抱えて男はのた打ち回りながら倒れた 私の唇に触れたのだから感激して涙するのが筋だろうに失礼な奴だ 刻まれたルーンを興味深そうに見ていたU字禿や私を馬鹿にしていた同輩が室内に戻ってなお、男は倒れたままだった その様を見て一人残ったルイズは声を上げる 「ほら、いつまでも寝てないでさっさと起きなさいよ」 反応がない いぶかしみながら、爪先でつついてみる ピクリとも動かない 「えっ!」 口に手をかざしてみる 息がない 「あれっ!?」 首に手を当ててみる 脈がない 「これって、つまり」 ■今回のディアボロの死因 ×ルイズにキスされたショックで死亡 ○ルーンを刻まれたショックで死亡
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/684.html
ルイズ達が目指しているのは、港町ラ・ロシェール。 トリステインから馬を走らせれば二日、空に浮かぶ大陸『アルビオン』への玄関口として知られている。 港町とは言っても海に面しているわけではない、いや、空を海に例えれば間違いではないが。 そのラ・ロシェールの酒場で、アルビオンへ行こうとする傭兵達が集まり、前祝いをしていた。 「アルビオンの王さまはもう終わりだね!」 「ガハハ!『共和制』ってヤツの始まりなのか!」 「では、『共和制』に乾杯!」 そう言って乾杯しあう傭兵達、彼らは元はアルビオンの王党派についていた傭兵達だが、王党派よりも良い待遇で貴族派が雇ってくれると知って、王党派を裏切った。 彼らは王党派を離脱すると、貴族派に付いて各地の傭兵達を集めた、この酒場に残っている傭兵達は、言わば連絡役なのだ。 ひとしきり乾杯が済んだとき、酒場に仮面を付けた男が現れた。 男は傭兵達に近づき、料理の並ぶテーブルの上に重そうな袋を置く、すると重みで口が開き、金貨が顔を見せた。 「働いて貰うぞ」 傭兵達はその男を不審に思ったが、袋に書かれているマークがアルビオン貴族派のものだったので、にやりと笑って頷いた。 一方、魔法学院を出発したルイズ達は、ワルドの乗るグリフォンの早さに驚いていた。 ロングビルとギーシュの乗る馬は、途中で二回も交換した、しかしワルドのグリフォンは疲れを見せずに走り続ける。 長時間馬を駆るのは乗り手にとっても大きな負担だが、ワルドとグリフォンはまったく疲れた様子を見せない。 「ちょっと、ペースが速くない?」 ワルドの前に跨ったルイズが言った。 ルイズはワルドと雑談を交わすうちに、学院で見せるようなくだけた口調に変わっていった、ワルドがそれを望んだためでもある。 「ギーシュもミス・ロングビルも、へばってるわ」 ワルドが後ろを向くと、ギーシュはまるで倒れるような格好でへばっている、ロングビルは明らかに表情に疲れが出ている 「ラ・ロシェールの港町まで、止まらずに行きたいんだが……」 「普通は馬で二日かかる距離なのよ、無理があるわ」 「へばったら、置いていけばいい」 「そういうわけにはいかないわ」 「ほう、どうしてだい?」 ルイズは、困ったように言った。 「だって、仲間じゃない。それに……」 何かを思い出そうとして、結局そこで口をつぐんだ。 ルイズの頭に、古い宮殿での記憶が引き出される。 ある目的を持って二手に分かれたが、それが二人を見た最後だった。 三人いるはずの別チームが、再会したときは一人に減っていた。 炎の使い手と、砂の使い手、その二人を助けられなかったことをずっと悔やんでいる。 その記憶に引きずられたルイズもまた、仲間と離れるのは怖いのだ。 「やけにあの二人の肩を持つね。もしかして、彼はきみの恋人かい?」 「あ、あれが…? 冗談じゃないわよ」 ルイズは苦虫をかみつぶしたような顔をした。 「ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」 「お、親が決めたことじゃない」 「おや?ルイズ!僕の小さなルイズ!きみは僕のことが嫌いになったのかい?」 過去の記憶と同じおどけた口調で、ワルドが言った。 「何よ、もう、私、小さくないもの。失礼ね」 ルイズは頬が熱くなるのを誤魔化すように、頬を膨らませた。 グリフォンの上でワルドに抱きかかえられながら、ルイズは先日見た夢を思い出していた。 生まれ故郷の、ラ・ヴァリエールの屋敷で、困っているときは、いつもワルドが迎えにきてくれた。 だが、そこに現れる白金の光、光は徐々に人型をして、屈強な戦士を思わせる姿に変わる。 薄いブルーの色をしたその戦士に抱きかかえられ、ワルドと対峙するルイズ。 その夢が何を意味するのか、今のルイズには分からなかった。 途中、何度か馬を替えたので、ルイズ達はその日の夜中にラ・ロシェール付近にまでたどり着くことができた。 町の灯りが見えたので、ギーシュとロングビルは安堵のため息をついた。 「待って!」 不意にルイズがワルドを制止した。 「どうしたんだい?」 「誰かいるわ…2……3人…」 そのとき、不意にルイズ達めがけて、崖の上から松明が投げこまれ一行を照らした。 「な、なんだ!」 「馬から下りなさい!」 慌てて怒鳴ったギーシュに、ロングビルは指示を飛ばす。 突然の事に驚いた馬が前足を上げたので、ギーシュは馬から落ちてしまう、そこに何本かの矢が飛んできた。 もの矢が夜風を裂いて飛んでくる。 「奇襲だ!」 「伏せなさい!」 ギーシュがわめくと同時に、ロングビルは地面を練金して泥の壁を作った、スカッと軽い音を立てて矢が突き刺さる。 ワルドは風の魔法を唱えて身の回りにつむじ風を起こし、矢を防いてでいたが、攻撃に転じようとしたときに別方向から一陣の風が吹いた。 同時に、ばっさばっさと羽音が聞こえた、その音に聞き覚えのあったルイズが崖の上に目をこらすと、六人ほどの男達が風の魔法に巻かれて崖から転がり落ちてきた。 「ほう」 感心したようにワルドが呟くと、がけの上から落ちた男達は地面に体を打ち付けてうめき声を上げた。 そして空には見慣れた幻獣…タバサの乗るシルフィードが姿を見せていた。 「シルフィード!」 ルイズが驚いて声を上げると、シルフィードは地面に降り、その上からキュルケが地面に飛び降り髪をかきあげた。 「お待たせ」 ルイズもグリフォンから飛び降りキュルケに怒鳴る。 「お待たせじゃないわよ! 何しにきたのよあんたたち!」 「あーら、助けにきてあげたんじゃないの。朝がた、あんたとギーシュが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」 キュルケはシルフィードの上に乗ったままのタバサを指差した。 寝込みを叩き起こされたとは言え、パジャマ姿は何か面妖だ。 「キュルケ、あのねえ、これはお忍びなのよ?」 「お忍び? …まさかギーシュと駆け落ち?」 ルイズは笑顔になりながら杖を抜いた、その仕草にキュルケが冷や汗を流す、やばい、怒ってる。 こんな場所で爆発を起こされてはたまったものではない、これにはキュルケも謝った。 「ま、まあ冗談よ!勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの」 キュルケはグリフォンに跨ったままのワルドににじり寄り、しなを作った。 「おひげが素敵なお方ね、あなた情熱はご存知?」 ワルドは、側に寄ろうとするキュルケを手で押しやる。 「あらん?」 「助けは嬉しいが、婚約者に誤解を受けると困るのでね、これ以上近づかないでくれたまえ」 そう言ってルイズを見つめる。 「こ、婚約者?…ふーん、ルイズにねぇ…」 キュルケはルイズを冷やかしてやろうかと考えたが、気が乗らない。 ルイズに微妙な戸惑いがある、と感じたからだ。 しばらくしてから、男達を練金の手かせで拘束し、尋問していたロングビルとギーシュが戻ってきた。 「子爵、あいつらは物取りだと言っていましたが」 「ふむ……、なら捨て置こう」 ギーシュの報告を受けて 先を急ごうとグリフォンに跨るワルドをルイズが制止する。 「ルイズ、どうしたんだ?」 「あいつら、グリフォンに乗ったワルドを見ていたはずだわ。それなのにたった三人で襲ってくるなんて…ねえ、キュルケ、上空から見ても三人だった?」 「あたしが見た限りじゃ三人よ、ね、タバサ」 タバサは無言で頷く。 「何か気になることでも?」 ロングビルの質問に、メイジ4人をたった3人で襲う野党がいるだろうか?と、ルイズが答える。 「貴族派に嗅ぎつかれているのかもしれんな…どちらにせよ、ラ・ロシェールに一泊するしか無い、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」 ワルドは一行にそう告げた。 ルイズは腑に落ちないものを感じながらワルドに手を引かれ、グリフォンに跨った。 キュルケはシルフィードの上に乗り、本を読んでいたタバサの頬を突っつく、出発の合図らしい。 目の前の峡谷には、ラ・ロシェールの街の灯が怪しく輝いていた。 そしてルイズの中にいる『誰か』が、ワルドに対する警戒心を強めていた。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-17]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-19]]}
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/726.html
朝靄の煙るヴェストリ広場、そこにヴァニラは一人佇む 正確には彼のスタンド「クリーム」も一緒なのだが常人の目には映らないうえにスタンドは本体と一心同体、故に彼は一人だった 元の世界、延いてはDIOの元へ帰るための頼みの綱だった――蜘蛛の糸よりも頼りないが、ルイズの渾名である「ゼロ」の意味を知り 、いつかルイズに見切りをつけることを視野にいれなければと考え、毎朝ルイズを起こす前に精神鍛錬をやるようにしていた。 少しでも早く、少しでも遠くへスタンドを飛ばせるように、それこそ自分と対峙した時のシルバーチャリオッツのように (だが当面の目標は・・・) 顔を動かさぬまま、そっと森の方へ視線を向ける (あの爬虫類をここから消し飛ばすことだな) 茂みから小さな炎と、つぶらな瞳がヴァニラを見つめていた 亜空の使い魔――ヴァニラの日常 鍛錬を終え、部屋に戻ると洗濯物をまとめて洗い場へ持っていく 心底嫌そうに下着を洗っているのを見られてからシエスタが代わりにやってくれているので洗濯籠に入れただけでまた部屋に戻ると、今度は未だに夢の中のルイズを起こす 「おい、朝だ。起きろ」 部屋の端から端までフッ飛ぶくらいに思いっきり蹴りを入れてやりたいところを自制し、少々力を込めて肩を揺さぶる 「う・・・・?」 しかしルイズは首を傾げるような仕草で寝返りを打つと毛布をすっぽりと被り、丸まってしまった。 今ここにマニッシュボウイがいればいいのに、などと物騒なことを考えながらヴァニラは溜息を吐くと無理やり毛布を剥ぎ取った 「な、なによ!なにごと!」 「朝だ、遅れるぞ」 ようやく起きたルイズに着替えを投げてよこすといい加減聞き飽きた愚痴をBGMに着替えが終わるのを待つ。正直、だるい 男であるDIOと比べるのもなんだがあまりに・・・・・貧相なルイズの着替えを見たところでヴァニラにとって何の慰めにもならない 彼の名誉のためにいっておくが別にアーッ!とかではない、念の為 着替えを終えたルイズに伴い食堂へ赴くと相変わらず貧相な食事をいそいそと平らげ、部屋に戻る振りをして厨房へと潜り込み賄を別けてもらう 念の為廊下の途中でクリームを使って姿を消しているので万が一ルイズに見つかる心配も無いだろう(途中で危うくコルベールの頭髪を消し飛ばしそうになったがばれなかったので気にしない) .... まともな朝食を終えると外に出て薪割を始める マルトーは別にいいといっているのだがヴァニラは妙な律儀さで毎朝食事の礼にと薪割りをしていた 一応手斧を借りはしたがそれは使わずクリームの手刀で次々と薪を割り、あっと言う間に一日分の煮炊きに必要な薪の山を築き上げるいくらスタンドが弱体化したとはいえ木材を裂く程度の力は残っていた 「・・・・またか」 気配を感じ、薪を縛り纏めながら視線を向けると建物の影から巨大な赤い蜥蜴が顔を覗かせている 最近気がつけば事あるごとにあの蜥蜴に見張られていた 誰の使い魔かは知らないが普通使い魔とは主の目や耳になるものらしいから恐らく何らかの目的で偵察をしているのだとヴァニラは推測していた (杖を消し飛ばした連中か、それともあのヌケサクの使い魔か・・・何れにせよまっとうな目的ではないだろうな) 気づいていない風を装い、マルトーに薪割が終わった事を告げるとルイズが食べ終わるよりも先に部屋に戻る 椅子に座ってDIOの無事を祈っていると何やら機嫌の悪そうなルイズが貴族にあるまじき悪態をつきながら戻ってきた 「どうした、何か面白い事でもあったか?」 「うるさいわね!あんたには関係ないでしょ!?」 ヴァニラが皮肉を込めて声を掛けるとルイズは悪鬼の形相で睨みつけ、喚くその答えにヴァニラはつまらなそうに肩を竦ませるが、授業の準備をしながらぶつぶつと繰り返される独り言からキュルケとかいう奴と何か一悶着あったらしいと察するが頻繁に聞く名前だけに毎度の事なのだろう (私に被害が及ぶようなら釘を刺しておきたいが・・・) しかし態々その相手を探し出して始末をつけるのは何となくルイズのために働くような気がして止めにした その判断があんな事態を招くなどと、その時は誰も気付きませんでした・・・ To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/973.html
「何考えてんのよ、あいつは!」 ルイズが廊下を走っている。 「私が…ご主人様が心配してあげてるっていうのに…」 いくら腕力が強かろうと、ギーシュの操るゴーレムの前ではひとたまりも無いだろう。 「何のために剣を買ったと思ってるのよ!」 剣を使えば勝てないまでも、一矢報いることが出来るかもしれない。 そうしたらあの使い魔も、臆病者と呼ばれる心配もなくなり、素直に謝るだろう。 「ボロ剣!あんたの出番よ!!」 勢いよく自分の部屋の扉を開けて、デルフリンガーが置いてある場所に向かって叫ぶ。 「あ~ん?出番…いいよ、相棒には俺なんていらねーんだ。もう実家に帰る!」 しかしデルフリンガーはすっかり駄目になっていた。 「実家ってどこよ!?」 「武器屋。だいたい俺が必要な相手ってなんだ?ドラゴンの大群でも湧いたか?」 「なに大口叩いてんのよ!貴族よ、貴族!ドットだけど平民が素手で、 あんたがいても無理だと思うけど…とにかく勝てるわけ無いでしょ!」 「じゃ俺帰るわ」 「どうやってよ!?そうじゃなくて!あーもうこのボロ剣、とにかく行くわよ!」 デルフリンガーを掴んで走り出す。 「あいつ、私が行く前にやられたら承知しないんだから…」 「今日はどんな風にミス・ロングビルとスキンシップをとろうかのう…」 学院長室にて、オールド・オスマンはこれからやってくる秘書に、 いかにセクハラするかを考えていた。老いて益々盛んなスケベジジイである。 「やはりここはオーソドックスにモートソグニルに覗かせるべきか、 ボケたフリをして尻をさわるべきか、悩むのう…そうじゃ! 胸を揉まねば治らない発作というのはどうか!? しかし流石に胸はまずいかのう、本気で殺されるかもしれん…尻でさえあれじゃから」 今朝、尻を触ったら『こいつはメチャ許せんよなあああああ!』とバックブリーカーを 決められた時の事を思い出していると、ノックの音が聞こえた。 「む、誰じゃ?」 「オールド・オスマン、私です!」 「ふむ、入ってきたまえ」 立てかけてあった杖を振って扉を開けると、秘書のミス・ロングビルがそこにいた。 「ヴェストリ広場で、決闘をしようとしている生徒達がいます! 何人かの教師が止めようとしましたが、生徒達に邪魔されて、止められないようで…」 「なんじゃ、それぐらいの事で騒々しい…で、その暇な貴族は誰と誰なんじゃ?」 「一人は貴族なのですが…その、もう一人はイクロー君… いえ、ミス・ヴァリエールの使い魔の平民です」 「なんと、あの少年か!相手の貴族は?」 「ギーシュ・ド・グラモンです。教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の 使用許可を求めおりますが…」 「ふむ…」 鬚をいじりながらしばし黙孝した後、オスマン氏は口を開いた。 「たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使うわけにはいかん、放っておきなさい」 「はい…」 不満そうなミス・ロングビルに、オスマン氏は続ける。 「…と、言いたいところじゃが。ミス・ロングビル、君が止めてきなさい。 なに、少々手荒な事をしてもかまわん。ワシが許可する」 「は、はい!」 その言葉を受け、急いで部屋を出ようとすると、一人の教師がドアの外に立っていた。 「おや、これはミス・ロングビル。どうかしたのですか?」 「すいません、急いでいるもので…」 入れ替わりで、太陽拳ができそうな教師が部屋に入ってくる。 「何かあったのですか?」 「いや、グラモンの馬鹿息子が平民と決闘をするとかいう話でな。 ミス・ロングビルに止めに言ってもらったのじゃよ、ミスタ…コルレル?」 「コルベールです!しかし、彼女に止められるなら、他の教師達が止めているのでは?」 チッチッチッ、と指を左右に振ってオスマン氏が答える。 「相手の平民なんじゃがな…ありゃミス・ロングビル、たぶん惚れとるな」 「なななな何ですと!?」 実はコルベールは影ながらミス・ロングビルを狙っていたのだ。 「ま、実際は惚れとるとまでいかんじゃろうが、きっかけがあればすぐじゃ」 うんうんと一人で納得するオスマン氏。 「そこでじゃ!そのきっかけを与えてやったというわけじゃ」 「というと?」 「察しが悪いのう、ミスタ・ブリトヴァ」 「コルベールです…」 「良いか?はっきり言ってただの平民では、すぐにやられてしまうじゃろう… ミス・ロングビルが駆けつけるころには、少年はボロボロになっておる。 彼女は間に合わなかった事を悔やんで、せめて少年を看病しようとする 保健室で若い男女が二人きり…これはもう何か起こることは間違いない!」 「そ、そうでしょうか?」 「わかっとらんのう…一人はやりたい盛りの年頃、一人は婚期を逃した女ざかり。 これで何かおこらんはずがあるまい!というかワシなら無理にでもおこすね! 少年は真面目そうじゃったから、責任を取ってミス・ロングビルとゴールイン! ミス・ロングビルはきっかけを作ったワシに感謝!きっと尻を触っても許してくれる! あるいは胸もOKになるかもしれん!いや、なるに違いない!」 「おい、ジジイ」 そのころミス・ロングビルこと、土くれのフーケは 「ふふふ、ボロボロになった坊やを看病することによって、アタシへの高感度はアップ! 東方の情報や、ラ・ヴァリエール家の情報をゲット!夢がひろがるねぇ!」 あんまりオールド・オスマンと変わらない事を考えていた。 「ところで何しに来たんじゃ、ミスタ・ガブル?」 「コルベールです!ってそうでした、大変な事がわかりました!」 先程の冷めた態度とはうってかわって、コルベールが興奮した様子で告げる! 「あのミス・ヴァリエールの呼び出した少年なんですが、 変わったルーンだったので調べてみたら…これを見てください!」 コルベールが机の上に、ルーン文字のスケッチと、古びた本を置く。 「『実践!ブリミル式毛根復活法 私はこれでフサフサに!』もう手遅れじゃと思うがのう…」 「それは部屋に置いてあるはず!?」 「嘘だよお~~ん!冗談じゃ、冗談ッ! しっかしそんな本、本当にあるんじゃな。適当に言ってみただけなんじゃが」 キレそうになるのを必死で抑えて、コルベールが本を開けて話を続けようとする。 「…見てください、彼のルーンは始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に 刻まれていた物とまったく同じだったのです! つまりあの少年は…伝説の『ガンダールヴ』になったんですよ!」 机を叩いて、オスマン氏に詰め寄る。 「落ち着かんかい、ミスタ・ラスヴェート。あと顔が近い。 ルーンが同じじゃからといって、そうと決まったわけではないじゃろう」 「コルベールです!まあ、それはそうですが…」 「しかし、それはちょうど良いかもしれんな」 「は?」 オスマン氏が壁に掛かった大きな鏡に向かって杖を振ると、ヴェストリ広場の様子が 映し出された。コルベールが、人だかりの中心にいる2人の少年の片方に目を奪われる。 「彼は!?」 「そうじゃ、先程の話の平民じゃよ」 はっ、となってオスマン氏を見るコルベール。 「もし少年が『ガンダールヴ』なら、これではっきりするはずじゃ…」 「諸君!決闘だ!」 ヴェストリ広場の中心でギーシュが薔薇の造花を掲げた後、育郎にそれを向けた。 「とりあえず、逃げずに来た事は、褒めてやろうじゃないか」 隣ではモンモランシーが『あ~~~ん…頼もしいわ!アタシのブルりん!』という目で ギーシュを見つめている。 「モンモランシー、この勝利を君に捧げよう」 薔薇を口にくわえ、優雅に礼をするギーシュをさらに熱っぽい目で見るモンモランシー。 ギーシュは、思わずこの状況を作り出した育郎に感謝したくなってくるが、 もちろんそんな態度はおくびにも出さない。 「………」 対する育郎は、ギーシュとは対照的にその心は沈んでいる。 彼自身、本来争を好まない性格という事もあるのだが、ここ数日で魔法にいくらか 触れてきたとはいえ、さすがに戦いに使う魔法など見たことがないのだ。 危険な状態になれば、取り返しがつかなくなるかもしれない。 しかしそれでも、震えるシエスタの姿を、そして自分の事を『ゼロ』と言った時の ルイズの悲しそうな顔を思い出すと、決闘をやめる気にはなれなかった。 「では始めようか…ワルキューレ!!」 ギーシュが叫んで薔薇を振ると、花びらが一枚宙に舞い、それが全身金属でできた、 戦乙女の姿に変化した。 「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュ! 従って青銅のゴーレム、ワルキューレがお相手するよ。行け!僕の美しき戦乙女よ!」 ワルキューレが育郎に向かって走り出し、その青銅の拳を突き出す。 しかしその拳の先には育郎はいない、軽く体を捻ってかわしている。 ワルキューレは次々と拳を繰り出すが、その全てが空を切った。 自分に向かって放たれた銃弾すら知覚できる今の育郎にとって、ワルキューレの拳は 止まっているに等しい。 「なかなかやるじゃないか、あの平民」 「ギーシュが遊んでるだけだろ。おいギーシュ、そろそろ本気を出せよ!」 「はっはっはっ、まかせたまえ!」 周りの生徒の声に答え、ギーシュは薔薇を振ってさらに3体のワルキューレを生み出し、 育郎を襲わせる。 ひょっとしてこれはまずいんじゃないか? ギーシュは少しだけ焦っていた。 4体に増えてもワルキューレ攻撃はさっぱり当たらないのだ。 モンモランシーの方を見ると『何やってんの?』という顔でこちらを見ている。 勿論自分が負けるわけは無いのだが、そもそもモンモランシーは野蛮な事は 嫌いなのである、長々と戦いを見せても喜ばれる事は無い。 逆に考えるんだ、避けられると言うのなら… 「…避けられない攻撃をすれば良い!来いワルキューレ!!」 育郎から離れ、ギーシュの傍に移動したワルキューレ達が横一列に並んでいく。 「突撃だ!!」 その声と共に4体のワルキューレ全てが、一斉に育郎に向かって突進する。 これなら例え避けようとしても、全てのワルキューレを避けた方向に動かせば、 完全に避けられる事は無いだろう。 対して育郎は、なんと突進するワルキューレに向かって走り出した。 「ふっ、恐怖のあまりおかしく…ってワルキューレを踏み台にしたぁ!?」 確かに横方向には対応できただろうが、縦の方向は想定していなかった。 もっとも、突進するワルキューレに向かって飛び上がり、その頭を踏み台にする という事を、想像出来る物はこの場にはいなかっただろうが。 一呼吸の後、ギーシュの後ろに育郎が降り立つ。 そしてその瞬間、ギーシュの背筋に冷たいものが走った。 「うわわわわわ!!」 ギーシュ・ド・グラモンの中に眠る軍人の血が、あるいは生物の純粋な本能が、 自分の後ろのいる生き物が、尋常な代物で無いと激しく警告する。 「わ、ワルキューレ!」 振り向きながら薔薇を振り、さらに2体のワルキューレを、今度は素手ではなく、 槍を持たせた状態で練成し、攻撃の指令を与える。 しかし、その槍は受け止められた。 並みの人間よりは強い力を持つはずのワルキューレが、特別に体格がいいわけでもない 育郎に、それぞれ片手で攻撃を止められている様は異様であった。 この瞬間、彼は自分が相手にしているのは、人間であるという認識は吹き飛んだ。 育郎はこのまま、手に持った槍を投げ飛ばし、ギーシュの杖を奪えば終わりと考えた。 この数日の出来事で、魔法を使うのには杖が必要だという事はわかっている。 これで終わり、そう安堵していた。 しかしそれは油断だった。 ギーシュにとっての幸運は、それほど強力なメイジではないという事だった。 故に育郎はその力を使う必要は無いと判断した。 ギーシュにとって不幸は、それでも彼はメイジであり、簡単に人を殺せる力を 持っているという事だった。 「ぐぅ…ッ!?」 育郎の腹部から槍が突き出ていた。 彼の背後にはその槍の持ち主、ギーシュが作り出せる最後のワルキューレが佇んでいる。 育郎がギーシュの杖、薔薇を奪おうと手を伸ばすと、ギーシュはその手を払うように 杖を振った。もっともそれは、育郎にはそう見えたというだけであって、 実はワルキューレを作り出す為の行動だったのだ。 それが分からなかった育郎は、背後に現れたワルキューレに気付かず、その攻撃を まともに受ける事となった。 「ああ……」 呆然とするギーシュ。 いくら相手が平民でも、ここまでする気など無かった。 しかしあの瞬間、己の体を駆けずり回った恐怖が、彼を過剰な行動に移らせた。 「ギーシュ!後ろから攻撃するなんて卑怯だぞ!」 「平民相手に情けないぞ!」 周りの声でなんとか冷静になっていくギーシュ。 モンモランシーを見ると、口を押さえて真っ青になっている。 「そんな!?」 ルイズが広場にたどり着き、人ごみを掻き分けて見た物は、自身の使い魔が 槍に貫かれている姿だった。 こんな事なら剣なんてとりにいかなければ良かった 何としてでもあの時止めるべきだったのだ これは自分のせいなんだ… 涙で視界がぼやけてくる。 やっぱり自分はゼロなんだ 使い魔も止められない、おちこぼれのメイジ あの傷じゃ死んでしまうかもしれない 自分がゼロだからあの使い魔、イクローが死んでしまう… 「泣くな娘っ子、相棒なら大丈夫だ」 手の中のデルフリンガーが、ルイズに声をかける。 「何が…何が大丈夫なのよ…あいつが、イクローが…私がゼロのせいで…」 「しゃーねーな……相棒を見てみな」 「………え?」 『変化』がおきていた 「なななななな何だこれは!?」 ギーシュの目の前で信じられない光景が展開されていた。 育郎を貫いている槍が、ひとりでに押し出されたのだ。 『「寄生虫バオー」の麻酔作用開始! 育郎の肉体を槍が貫いた瞬間、体内の「寄生虫バオー」は育郎の精神を麻酔し、 彼の肉体を完全に支配した!』 渇いた音を立てて槍が地面に落ち、その傷が見る見るうちに塞がっていく。 『「寄生虫バオー」の分泌液は血管をつたって細胞組織を変化させ……… 皮膚を特殊なプロテクターに変える!』 育郎の肌の色が変わっていき、顔にひび割れが入り、髪が伸びていく。 蒼い、その肉体は人間にはありえない質感と色をしていた。 『筋肉・骨格・腱に強力なパワーをあたえるッ!』 そこに立っていたのは人間ではなかった 金色の目と蒼い肌、蒼い髪を持つ異形が唸り声を上げたッ! こ れ が ッ ! こ れ が ッ !! バルバルバルバルバル!!! こ れ が 『 バ オ ー 』 だ ッ ! そいつに触れることは死を意味するッ! アームド・フェノメノン 武 装 現 象 ッ ! ウォォォォォォォォォオオオオオオオム!!!!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1238.html
『ゼロと奇妙な隠者と――?』 冬もそろそろ過ぎ去り、歩みの遅い春が訪れようかとする頃。ジョセフが召喚された春から一年弱、ルイズ達も三年生に進級することを決めて一足早い春休みに入ろうとしていた。 使い魔として平民が召喚されただけでも大概大事だと言うのに、それから起こった数々の出来事は辛いことも悲しいことも楽しいことも嬉しいことも手当たり次第。 それでも、この一年をもう一度過ごせと言われれば、喜んで過ごしたいと思うようなお祭り騒ぎだった。少なくともルイズと彼女の親友達はそう思っている。 そんなお祭り騒ぎの毎日でも、そんなに毎日イベントが詰め込まれているわけでもない。何かしらのイベントが起こる日よりも、平穏な日々の方が多いに決まっている。 だが今日から、ルイズとジョセフ主従、そして彼女達を取り巻く人々から平穏な毎日と言うものが消し飛んでしまうことを、まだ誰も知らない。 その日の晩。キュルケは寮の階段を登り、フレイムと共に自室へ帰るところだった。 彼女の隣の部屋はもはやこの学院で誰も知らない者はいないルイズの部屋である。ジョセフが召喚されてからも毎日毎日騒がしかったが、彼がシュヴァリエの称号を受けて貴族になり、シエスタがジョセフ付きのメイドになった最近は騒がしさに拍車がかかっている。 それも大体はルイズとシエスタがきゃんきゃん言い争いをしているため、そのけたたましいことと言ったら。しかもジョセフが積極的にスケベなものだから二人にちょっかいを出したりしてとんでもないことになったりするのがどうにも。 今夜も今夜とて階段を登り切っていない内から騒ぎ声が聞こえてくる。 「本当に飽きないわねえ。もうちょっと他人の迷惑とか考えてくれないかしら」 自分も部屋に毎晩お客様を招待しているのは棚に上げて、呆れた様子で呟いた。 だが少女二人の騒ぎ声が、何やら普段と違うようだった。 何とはなしに赤ん坊の泣き声のような声も聞こえてくる。 「え? 何? そういうプレイ?」 キュルケの頭の中ではルイズとシエスタに囲まれたジョセフが赤ん坊のカッコをしてあんなことやこんなことをしているピンク色の妄想が素晴らしい勢いで広がってしまった。 すげえ。これは後学の為にも見物……いやいや見学させてもらうべきかもしれないわ。 そう考えたキュルケはすぐさま足取りを抜き足差し足にし、ルイズの部屋の前へ素早く辿り着いた。 だが近付いていくごとに、部屋の中で行われている光景が奇妙に変貌していく。 ルイズとシエスタの声に赤ん坊の泣き声……と焦っているらしいジョセフの声。 なんだ? 四番目の誰かさんがいるのか? もはや好奇心は沸点直前。 キュルケは期待に打ち震えながら、ドアノブを掴んで一気に蹴り開けたッ! 「ハーイ皆さん! 何してるのかしらーーーーッ……て」 そこで繰り広げられていた光景は、キュルケの思考を凍結させた。 部屋の住人であるルイズとジョセフとシエスタ……はまあいい。いておかしいことはない。だが問題は。大問題は。三人が床で車座になって全裸になっているという―― (あ。やっべ。これは) キュルケはすぐさま現状を把握すると、何気なく手を上げて廊下へ出て行く。 「ごめん。お楽しみの真っ最中だったとは。お邪魔虫はクールに去るわ」 「いやいやいやいやいやいやいやいや!!!」 現実に素早く立ち戻ったルイズが勢い良く立ち上がり、気を利かせて去ろうとするキュルケを無理矢理引き戻そうとする。 「ちょ! あんたルイズ! 服くらい着なさいよっ……て」 小さな身体の何処にそんな力があるのか、というくらいにキュルケの腕をつかむルイズは、きっちりと制服を着込んでいた。 「事情は中で説明するから! 早く入りなさいよ!!」 そのまま部屋に引きずり込まれたキュルケは、何とはなしに(ああ、男一人に女三人というのは初めてだわ。女の子相手でも大丈夫かしら)と考えていた。 それから数分後。 キュルケはルイズとジョセフとシエスタからの説明(主にジョセフ)を受けて、一応は事態を納得した。 今、彼女の腕の中では赤ん坊らしき何かが泣きじゃくり、彼女の服もまた消え失せていた。ジョセフから手渡されるまでは半信半疑だったが、こうやって実際にだっこしてみると信じざるをえなかった。 「これがスタンド能力? でもダーリンのハーミットパープルとは違うわよ」 「そりゃそうじゃ。スタンドッつーのはそれぞれ個人差があるモンじゃからの」 そう言うジョセフの両目は後ろから覆い被さるルイズの両手で隠されていた。 事の発端はこうだ。ジョセフが昼間に洗濯をしていると、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。何かと思って近付くと乳母車があり、その中に透明な赤ん坊がいたのでひとまず拾ってきて現在に至っているらしい。 「そもそも乳母車の材質がこっちじゃー作れやせんモンじゃからの。この子もなんかの拍子でこっちに来ちまったと考えて問題はないじゃろ」 ちなみに乳母車にはばっちり「Made in Japan」の刻印がついていた。 「それにかんしゃく起こすと服以外にももっと色んなものが透明になっちゃうのよ。私達でどうにかしないとどうにも出来ないわよ。それに……」 (ジョジョのお願いを無碍には出来ないもの) ぽそぽそ、と何かを言ったのは三人には判ったが、何を言ったのかは聞こえなかった。だが大体何を言ったのかは、判られてしまった。 「はいはい判った判った。でもどうするのよ、普通の子供ならまだしも子守りなんて雇うワケにもいかないでしょ? 下手に知れたらアカデミーに連れてかれたりしかねないわ」 悪名高いアカデミーのことは、ゲルマニア出身のキュルケでも大体知っている。 これまでに華々しい戦歴を挙げてきたルイズとジョセフがいまいち認められていないのも、アカデミーに二人のことを知らしめてはいけないという、オスマンとアンリエッタの配慮によるものでもある。 「その点は大丈夫です、ミス・ツェルプストー。私は故郷で弟や妹達の世話をしてきましたし、子守は慣れてますから」 シエスタがしゅたっと手を上げる。ここでジョセフの点数を稼ぐ目論見も当然ある。 「でもシエスタ、あなたも昼間色々仕事してるでしょ。この上仕事増やしたらキツくない?」 彼女の目論見を看破したルイズがすぐさまジト目でツッコミを入れる。 「いざとなりゃあわしが寝ないで子守してもええがの」 24時間働けるEnglish Man In NewYork(←イギリス人には見えないし空気読んでない)が現れた。 「とりあえず他にも色々と問題があると思うんじゃよ。赤ん坊は泣くのが仕事じゃし、しかも気に入らんことがあれば周りのものが全部透明になっちまう。一応学院長には話を通してきたからいいんじゃが、あまり周りに知らせるアレでもないからのー」 「んじゃタバサとギーシュとモンモランシー辺りにも話を付けといていいんじゃない? あそこらへんは言うなって言ったら言わない面子だし」 こういう時に現実的な思考が出来るキュルケは頼れる味方である。 「まず、色々用意しなくちゃいけないモノがあるんじゃないの? 子供育てるって一言で言ったって、買うものだってあるでしょ。次の虚無の曜日に、城下町へ行くなりしないと」 キュルケの言葉に「あ」という顔をした三人を見て、彼女は自慢の赤毛を緩く振った。 「……明日にでも、城下町で色々揃えてきなさい。先生には上手に言っといてあげるから」 これはこれから苦労するぞ、という直感を疑おうともせずに溜息をついてから、キュルケははたと思い当たったことを口にしてみた。 「そう言えば、フーケ騒動からどのくらい経ったっけ」 いきなり何を言い出すんだと思いながらも、ルイズが答える。 「ええと……ジョセフが召喚されてからちょっとくらいしてだから……十ヶ月前?」 「正確には十ヶ月と一週間ちょっとだわね」 にまぁ、と満面の笑みを浮かべた口元を手先で覆い隠したキュルケへ、ルイズはいつものように眉毛をV字にして声を尖らせた。 「何よキュルケ。言いたいことがあるならちゃんと言えばいいじゃない」 「あ、言っていいんだ?」 今にも笑い出しそうな唇を懸命に動かしながら、キュルケは自分の想像を口にした。 「あのお熱いベーゼでルイズが孕んだ結果だって考えたら辻褄合わない? 御懐妊から御出産までそのくらいだって考えたらちょうどそのくらいだものねー」 いつものように大暴れし始める二人を押し留めたのは、赤ん坊の泣き声と、なんでもかんでも透明になっていく光景だった。 それから老人と少女達の悪戦苦闘七転八起の子育てが始まることになる。 ただでさえ気性が激しいのに透明な女の子(シエスタの触診で判明した)ということで、並々ならぬ苦労があることは火を見るより明らかだったが、それを育てる親代わりがジョセフも含めて世間知らずな貴族達というのもまたシエスタの苦労の種の一つだった。 子育て経験豊富なシエスタはともかくとして、ルイズ、キュルケ、タバサにジョセフと、子育てに積極的に関わることになった他のメンバーは非常に役に立たないので、「将来必要になるかもしれない」ということも含めてシエスタの子育て授業が始まることになった。 「まさか平民の私が貴族の皆様方にこんな事をお教えする日が来るだなんて」とあわあわしていたシエスタだが、必要に迫られた生徒達の飲み込みは非常に早いことに安堵もした。 赤ん坊が透明な件についても、キュルケから提供を受けた化粧品で化粧をさせることで一応の決着はついた(でもこんな若い頃から化粧するとお肌にどうかしらねえ、と言ったキュルケに「お前が言うな」というツッコミも入った)。 そして誰が親代わりになるかという点については、赤ん坊がジョセフにばかりよく懐いていたので、満場一致で「ジョセフの子供」ということになり、めでたく「静・ジョースター」という名前をつけられることとなった。 長期休暇中ということもあり、シエスタやジョセフがメインで静の世話をする中、他の三人が代わる代わる手伝いをするというパターンが成立していた。 しばらくは慣れない子育てに七転八倒していたのも、すぐに七転八起になり、やがて全員が赤ん坊を抱く手付きにも慣れた様子が見えるようになってきた。 「魔法の勉強より大変」とタバサが呟いたのだから、平坦な道のりではなかったのだが。 しかし一つの問題が解決したと思えてきた頃、密かにもう一つの問題が成長していた。 すっかり春めいて花も咲き誇る頃、静はすっかりジョセフを独占してしまっていた。 静が透明なのをさておけば、どこからどう見ても孫の世話をする祖父そのもの。 だがそれは、ついこの間まで祖父の横にいた孫、ルイズには気に入らない事態だった。 (何よ何よ! 私の使い魔なのにどうして赤ん坊の世話にかかりっきりなのよ!) 子供も喋れない赤ん坊に嫉妬するのもどうかと思われるが、実際に弟や妹に親を取られたと思った子供は、親の目を引こうと「子供返り」と呼ばれる退行現象を起こすことがある。 大家族の生まれであるシエスタは赤ん坊とはあんなものだ、と割り切ることが出来たが、末っ子なルイズはそんなことだと割り切ることも出来なかった。有体に言えば、ヤキモチが悪化したということだ。 その結果、丸一日ジョセフ達の前にルイズが姿を現さなかったのに至り、キュルケとタバサはある重大な決意を固めた。 二つの月が大きく空を輝かせるその日の夜。主のいないルイズの部屋の中、揺りかごの中ですやすやと寝息を立てている静を、椅子に座ったまま優しげに見守るジョセフの後ろにキュルケがやってきた。 「あ、ダーリン? シズカはあたしが見てるから、ちょっとルイズのトコに行ってあげて」 「あん? いや、じゃがキュルケももう寝る時間じゃろ? なんならシエスタに……」 「あー、シエスタなら今日は仕事が多かったからって部屋で寝てるし」 モンモランシー特製の睡眠薬で、一番のお邪魔虫は朝までぐっすりである。 「それに孫はシズカだけじゃないでしょ。ルイズもたまには構ってあげないと」 「ふむ……そうじゃの。んじゃ、ちょっとの間子守を頼めるかの」 ジョセフはルイズを大人だと認めているので(少しの間ならほっといても大丈夫)と思っているフシがある。だがジョセフは自分も17歳だった頃をすっかり忘れてしまっているが、17歳なんていうものはまだまだ子供もいいところである。マンモーニである。 そしてキュルケに言わせれば「ルイズもダーリンもコドモ」……と。まあそんな所である。 と言うわけでジョセフはルイズを探しに部屋を出て行って。キュルケは苦笑しながら、音を立てないようにそぉっとジョセフが座っていた椅子に座った。 ルイズはヴェストリの広場の片隅で一人、膝を抱えて座り込んでいた。 もう何時間こうしてるか判らないが、部屋に帰るとイヤなコトを言ってしまいそうで帰ることは出来なかった。今もまだ、イヤなコトを言ってしまいそうなので帰れない。 それでも、きっと。 (……ジョジョが迎えに来てくれたら、帰れるかもしれない) 最初のうちは(迎えに来たら怒鳴り倒してやる)だったのが、(何よ自分の主人くらい迎えに来なさいよ! そんなに赤ん坊の方が大事なの!?)に変わり、やがて(……どうしよう、こんな時間になっちゃった。帰るタイミング逃した)を経て現在に至っている。 こうやってじっと一人でいると、「なによルイズ・フランソワーズ。赤ん坊に嫉妬してどうするっていうのよ」と、冷静な考えがやっと復活する。 色々ヤキモチだって妬いた。それこそジョセフに近付いた女性みんなにヤキモチを妬いてきた。でも、だからって。赤ん坊にまでヤキモチ妬くというのは、果たして貴族以前にオンナノコとしてどうなんだろう。 (……だってジョジョは……盛りの付いた犬で……私の使い魔なのに……目を放すとすぐに他の女の子にちょっかい出すし……で、でも、わ、わたしの……私の、おじいちゃんで……その……) おじいちゃん、と認めるだけでも顔が真っ赤になるのに、それ以上言おうとすれば顔から火が出るような騒ぎになる。 しばらく奮闘していたが、結局それ以上考えることも出来ず大きく首を振った。 (何よ私) 小さな小さな溜息を、ついて。 (……バカじゃないかしら) くすん、と小さく鼻を鳴らした。 さく、さく、と草を踏みしめながら近付いてくる足音にも、顔を上げなかった。 「おお、ここにおったか」 「……何しにきたのよ」 尻尾があれば思わずぴんと立っていただろうに、口から出るのはいつもの憎まれ口。 「老いぼれの犬めが寂しがりのご主人様を探しに来たんですじゃよ」 「うるさいっ」 不貞腐れてそのままでいれば、左によっこらしょと座った気配が感じられた。それから大きな右手で、優しく頭を撫でられる。 ルイズは抗うこともせず、ただ撫でられるままになっていた。 「あーと。ほら、機嫌直せ。いつからここに座っとったんじゃ、すっかり髪の毛が冷えちまっとるぞ。こんなじゃ風邪引いちまうじゃろ」 「……いいのよ。どうせ私はバカなんだから風邪なんか引かないわよ」 「迷信じゃよそんなモン」 そう言ったジョセフは、ルイズの腰を両手で掴んで軽々と持ち上げてしまうと、そのまま自分の膝の上に彼女を乗せてしまった。 「っ、何するのよ勝手に!」 抗議と共に背後のジョセフに振り向き睨み付けはするものの、相変わらずの気楽な笑みが見えただけだった。 「ほれ、冷えた身体を暖めてやらんとな。女の子は身体を冷やしちゃいかんからの」 腰に当てられた手からほのかに日差しのような光が漏れ、ルイズの身体に波紋のような暖かさが回っていく。 決して不快ではない心地よい温度に、ルイズは不服そうにしながらも静かに目を閉じた。 「またわしがなんかやったんかの。最近は……特に何もやっとらんつもりじゃったんじゃが」 「……別に何もないわ」 一瞬言葉を選んだ後で出てくる否定の言葉が、決して彼女の意思を忠実に表しているわけではないことは、もうそろそろ一年を経過する付き合いを経たジョセフにはよく判る。 「えーと。あれか。静のコトかの」 当てずっぽで言った言葉に、小さな肩がぴくりと震えた。 「……うるさいわね。いいわよ、主人なんかほっといて赤ちゃんの世話でもずっとしてなさいよ。ガンダールヴなんかやってるより子守やってる方がよっぽどお似合いだわっ」 その言葉に、ジョセフはおおよその事情を察した。隠せない苦笑を隠す努力もせず、腰に当てていた手を肩に回して、自分に振り向かせた。 「……何よっ。何か言いたいことでもあるの」 月明かりに照らされる少女の両目は、月光を受けて色濃く潤んでいた。泣き虫なこの少女は、自分に泣き顔を見せるのをあまり良しとしないのだ。 「んじゃまあ僭越ながら。静も大切じゃが、ご主人様もとても大切に思ってるんじゃよ」 「……あたしとシズカのどっちが大切なのよ」 「そりゃ両方じゃよ」 「嘘でもこういう時はご主人様って言いなさいよっ。気が利かないわねっ」 赤ん坊に張り合う17歳というのも、どういうモンじゃろうなあ。と思ってしまうのは、仕方のないことだった。 呆れも半分、微笑ましさも半分。 なおも何かを言い募ろうとするルイズの言葉を飲み込むように、唇を重ねた。 「んっ……」 きゅ、と瞼を固く閉じるが、ジョセフの唇を拒もうとはしない。 誰もいない広場の片隅に、ほんの少しの間だけ沈黙が訪れた。 そして、唇が離れた時。ルイズの小さな手はジョセフの耳を摘んでひねっていた。 「アイチチチチチ、お気に召しませんでしたかの」 その言葉に、更にぎゅうううう、と力を込めてひねり。そして、耳元に濡れた唇を寄せて囁いて。 ジョセフだけに聞こえた言葉に笑みを漏らすと、今度は両頬と額に、キスが落ち。それから もう一度、唇が重なった。 結局二人が部屋に帰った頃には、キュルケは椅子の上ではなくベッドの上ですやすやと寝入っていた。 ルイズに叩き起こされたキュルケは、寝癖の付いた赤毛を気だるそうにかき上げながら言った。 「シズカに弟か妹を拵えるのは、せめて学院卒業してからになさいよ」 To Be Contined?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2035.html
入り口にあった松明に火をつけ、タバサたちは鍾乳洞の中を進む。 先導していたミノタウロスが部屋のように開けた場所で立ち止まる。 そこには机、椅子、炭などの生活用品だけではなく、 秘薬のつめられた瓶や袋、マンドラゴラの苗床や奇妙な道具などが整理されておかれていた。 棚には奇妙な人形や仮面、鉱石、そしていくつか本が並んでいる。 「粗末な物しかないが、座りたまえ」 腰掛けたタバサが男に問いかける。 「あなた、何者?」 「ラルカスという。元は、いや今もだが貴族だ、十年前にミノタウロスを倒した」 「その格好は?」 「ああ、気になるだろうな…端的に言えば、禁忌である脳移植を行なったのさ、 人間の体、そして不治の病と引き換えにこの恐ろしいほどの生命力を持つミノタウロスの体を手に入れた」 「それで、魔法が使えるし、言葉も通じるのね!」 シルフィードがワムウの後ろから口をはさむ。 「その通りだ、しかし魔法が使える、といっても人間のときとは比べ物にならないね。 人間のときもかなりの腕の水と火のメイジだと自負していたが、今やスクウェア以上の腕はあるのではないか、と思う。 もっとも、比べる相手がいない以上本当のところはわからぬがな」 ラルカスは口の端を歪める。 「寂しくはないのね?」 シルフィードが質問する。 「もともと独り身だ、絶縁こそされなかったが事実上ただの放蕩貴族、洞窟だろうと大して変わらぬ」 「でも、おいしいもの食べられなさそうなのね、お肉はちゃんと食べてるのね?」 ラルカスの口が数秒止まるが、慌てた様に話しを始める。 「……出たところの森で生き物ならいくらでもとれる、火も見ての通りあるしな」 「その森の生き物に人間の子供を食う奴がいるのか?」 唐突にワムウが話を変えたので、ラルカスは首をかしげながら答える。 「オーク鬼だっているし探せば剣牙虎くらいはいるかもしれんが、それがどうした?」 「質問を変えるか、ここの入り口に埋まっていた人間の骨は、誰の食べ残しだ?」 場が静まる。 「そ、それは本当なのね!?」 タバサは杖を構え、椅子から立ち上がる。 険しい顔になったラルカスが声をだす。 「……あれはこのあたりに住むサルの骨だ」 「そうか、化け物なら化け物らしく残さず食えばよかったものを」 ワムウがワンステップで飛び掛かり、ミノタウロスを思いっきり蹴りあげる。 「待つんだ、話を聞いてくれ」 「俺は戦いに飢えている、戦う理由ができたというのに話し合う戦士がどこにいる。 嘘ならもう少しまともな嘘をつくんだな、もっともそれでも俺が聞く保証はないがな」 杖を抜いたラルカスが放つ水の弾をいなし、もう一度胴体を蹴りあげると、堅い皮膚は破れ、肉体が露出する。 露出した胴体をワムウは一部食い、既にラルカスは致命傷のようだった。 「なんだ、この程度か。わざわざ遠出したというのに手応えがないな」 ぶつぶつと回復魔法を唱えるが、ほとんど傷はふさがらない。 小さな声でもごもごと話す。 「…二男として生まれ、不治の病に侵され、放蕩し、俺を超える化け物に殺されるのか」 「貴様ごとき化け物ではないな、所詮人間だ」 「そうか、俺は人間か、ならば悲劇だろうか、この俺の人生は」 「そんなことはあの世で決めろ、お前の身の上話に付き合っている暇はない」 「喜劇は無理でも、英雄談、くらいはめざせるかもしれんな」 「人間にしては強いかもしれんが、メイジとしては二流以下だな。狩りに慣れても実戦でそれを生かすのには長い時間がかかる」 「……俺は人間を超えたかったのだ、このまま死ねん、このまま悲劇では終わらせん」 右手が棚にあったある物をつかむ。 ワムウが驚く。 「なぜ、そんなものがここにあるのだ!」 ラルカスは血まみれの手で、それを顔にかざす。 「俺は人間を超越する!」 石仮面は、ラルカスの顔で輝いた。 「な、なんなのねあれ!」 「あれは石仮面」 「知っているのお姉様!?」 場が静まる。 「そ、それは本当なのね!?」 タバサは杖を構え、椅子から立ち上がる。 『石仮面』とは 非常に堅い石でできており、古来では鈍器として使われていたという説もある。 いつごろからハルケギニアにあったかは不明で、現在はロマリア皇国が数個保持しているいわれているが、 教皇はそれを否定しており、機密情報とされている。ただし確認された事例として、使い魔召還の儀式で 召還されてきた、鎮魂歌の洞窟などで拾えた、宝箱に入っていた、円盤の入った容器と一緒に届いた、などの報告がある。 これを被った生き物は、恐ろしい生物に生まれ変われるといい、その化け物は、首だけでも生きていられる、何十年何百年も 海の底で暮らせる、ひからびても血を浴びせるだけで蘇る、相手の血を飲み干した場合は、相手の魂を取り込むことができる、 ジェットエンジンをつけて空を飛んだ、女性型アンドロイドを従える、幻想郷を霧で覆うなど数多くの伝説を残しており、 人々から長い間恐れられてきた。始祖ブリミルは恐ろしいこの怪物を倒すために四人もの使い魔を従えたという説もあり、 しかもその内ガンダールヴ以外の伝説の使い魔の死因はこの化け物によるものである、という伝説もゲルマニア東部には 根強く残っており、宗教研究家の間ではこの化け物とはエルフを指している、という説が有力である。 (出典 ブリミル書林刊「豪華哀鈴」より) 「カーズ様の作った石仮面はこんなところにまで広がっていたのか」 「きゅい!?カーズ様って誰なのね?」 「話はあとだ、あの堅い皮膚に再生能力をもたれるとなると、かなり楽しめそうだな」 仮面がラルカスから落ちる。 すでに腹部の傷は再生しきっていた。 ワムウは飛び掛かろうとし、ワンステップで高く跳躍する。 ワムウは、突然現れた人形に空中で殴り飛ばされる。 屈強な体つきで、そして頭部にハートのマークがある。 着地したワムウが呟く。 「スタンド、とやらか」 「ほう、ご存じか。その通りだ。先ほどはあまりのスピードで身を守る暇もなかったが、今は別だ。 力に、精神力に、動体視力に、体力に、全てに満ちあふれている。素晴らしいぞ、この体は!」 杖を振ってでてきた、水が鍾乳石を切り裂く。 「どうだ、この魔法は。ミノタウロスのときですら、俺は水の魔法について勘違いをしていた。 水の本質は治療でも洗脳でもない、ダイヤモンドすら切り裂く圧倒的圧力だ!」 ラルカスはスタンドを従え、杖をこちらに振るう。 鍾乳洞と、ワムウの皮膚が切れる。 ワムウの顔色が、変わった。 杖を構え、ワムウたちに向き合う。 「スタンドの名を名乗ろう、クレイジー・ダイヤモンドだ」 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/13.html
ギーシュ・ド・グラモンは武門の生まれである 父も、長兄も次兄も三兄も、常に戦の先頭に立って活躍している 「生命を惜しむな、名を惜しめ」とは 幼い頃から父に聞かされてきた家訓であった そして、今ここで彼は 「…ぐ、ううっ」 腰が引けていた ために一歩出遅れたのが彼の幸運であったのだろう 召喚したての使い魔、大モグラ(ジャイアント・モール)のヴェルダンテを あのおかしな平民にけしかけずにすんだのだから 向かっていった使い魔のことごとくがブッ飛ばされたのを見て 彼のファイティングスピリットはさらにくじけていた (冗談じゃあないぞ… なんなんだあれはぁぁぁ~~ 戦列艦が服着て歩いているのかぁぁ~~ッ 無理、絶対無理ッ あんなの勝てない、近寄りたくもないッ) 心の叫びが顔に出る 必死に隠したところでバレバレ 彼はそういう男だった だが そっと後ろを見る おびえ、ふるえる愛しい女子生徒達が告げていた 今こそグラモンの武勇を見せよと 「く、く、くぅッ…」 (くそぉぉ~~ッ 行くしかないのかぁ~~ッ ぼくが一体何をしたっていうんだぁ~~ッ) 彼はナンパ男だった しかも無類のミエッ張りだった ドバァッ しかし、流れる冷汗はやっぱりウソをつかなかった 足下の震えは武者震いだと自分で自分に言い張っていた 「およしなさいな」 後ろから呼ばれて振り向くと、額の汗がボダタァッと芝生に滴った そこにいたのは褐色肌のボンッキュッバンッ キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー グンバツのボディーを持つ女ッ!! 「ととと止めないでくれたまえよ、ミス・ツェルプストー ご婦人には、きッききき危険すぎるッ」 「逃げなかったのはホメてあげるけど、あなたのそれは『無謀』よ、タダの…」 「ぶっ侮辱はやめてもらおうッ!! このボクとて武門のはしくれッ 惜しむ生命などッ」 「はいはい、ゴタイソーな前口上はいいから下がってなさい …勝ちたいんでしょ?」 「あるのか勝算がッ!?」 「落ち着いて観察なさい」(つーかナンもカンガえてなかったのねアンタやっぱり) キュルケは鳥の巣頭を指し示す 生徒用の、教鞭状の魔法の杖の先端で ドッ ガズッ ドバ ちょっとだけタフな使い魔達が最後の戦いを挑んでいたが 全員コロリと昼寝するのは時間の問題だった 「見てわからない? あいつを中心に半径2メイルか3メイル」 キュルケの眼には見えていた 鳥の巣頭を中心とした、キレイな球形のシルエットが 最初にたくさん襲いかかっていったとき すでに観察を終えていたのだ 「アッ!!」 ギーシュにも、今見えた 鳥の巣頭がわざわざ相手に「走り寄った」のをッ 「1(アン)」 人差し指を立て、数字の1を示すキュルケ 「あいつは遠くの敵を殴れない」 次に別方向を示す まずは衛兵の方向を、続いてルイズの胸元を 衛兵の兜は頬と醜く混ざり合い、ルイズのマント留めもまたオカシな形に変わっていた キュルケは人差し指に加え中指を立てる 「2(ドゥー)、あいつに殴られたものは変形する」(リクツはゼンゼンサッパリだけど) 「ちょっと待て、ミス・ツェルプストー」 ブワァッ ギーシュの冷汗はスゴイ勢いで復活していた 改めて鳥の巣頭が恐ろしかった 「それは、つ、つまり……こういうことじゃあ、ないのかい 『殴られたら終わり』」 「ええ、その通り でも、『殴られなければいい』とも言えるわよね」 キュルケも決して恐ろしくないわけではなかった だが彼女の中で勝算は限りなく100%に近づいていた 「『殴られなければいい』だって? キミの目は…フシ穴なのかい?」 「あら、どうして?」 ビシイッ ギーシュは鳥の巣頭を指さしたッ 「あいつを見ろよ 怒ってるぞ――ッ 女王陛下のドレスの裾を踏んづけても気づかないくらい怒ってるぞ――ッ」 ムッ!? 鳥の巣頭は直感的に気がついた 誰か自分を指さした 笑われたような気がする ムカつく ぶっ飛ばす!! ズザザッ 駆け足ッ ギーシュの目の中で鳥の巣が次第に巨大化してくるッ 「ま…待て、こっちに、こっちに来るぞッ あんなのをキミはどうするつもりなんだぁぁ―――ッ」 「いいから落ち着きなさいな、みっともない…」(どうみてもアンタのせいでしょアンタの) 「これが落ち着いていられるかッ 父上、母上、兄上、ああっ先立つ不孝をお許し下さいッ」 ギュッ 胸元に指を組むギーシュは始祖プリミルの元に予約席を取りに走っていた ドドドドドドドドド 迫り来る死神 その名は鳥の巣ッ キュルケは他人事のように赤い髪を掻き上げ、 魔法の杖の先端を右手人差し指でピンピン弾いていた 「あなた、そんなにアレが恐ろしいの」 「恐ろしいさッ 怖いに決まってるだろ――ッ」 「でも安心なさい、もう恐れることはないわ」 「えッ なんでッ!?」 ビククゥッ 思わず縮めた身を伸ばし、キュルケの顔を見るギーシュ 自信満々の表情に今すぐ答えを求めていた 「なぜなら」 「な、なぜなら?」 グワッ キュルケの杖がピンと跳ねた瞬間に炎の塊が飛んでいく 鳥の巣頭に寸分違わず飛んでいく 「鳥の巣頭」に飛んでいく そして ボソァッ ボロッ ドザァッ 「…3(トロワ)!!」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「私がもっと怒らせるからよ、ギーシュ・ド・グラモン」 炎の塊は頭上をそれて飛んでいった 「鳥の巣頭」の前半分が、かすれた炎にえぐり取られて消えていた 今やそれは鳥の巣ではなく、前に飛び出たボンバーヘッドであった 「…う、うう、ウソ、ちょ、マ、マジ、そ、そんな ば…ば、ば…バカなぁぁ―――――ッ!?」 呆然とする鳥の巣男を前に、ギーシュの絶叫だけが響いた 「さぁて―――手合わせ願おうかしら? この、微熱のキュルケがッ」 ドンッ 決闘の手袋を叩きつけるがよろしく、 キュルケが前に、進み出たッ 3へ