約 1,076,897 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/43.html
思い出せ、思い出すんだ。さっきまで何をしていたのか。 何時も通り仕事をしていたんだ。そして……鏡だ! 突然鏡が現れたんだ!私はそれに突っ込んでしまったんだ!そしていつの間にか 気絶してしまったんだ。 何ということだ。もっと慎重に行動するべきだった。銃の弾が惜しいからといって 安易に近づいてしまうとは…… 「いい加減聴きなさいよ!」 くそっ!さっきからなんだこの女は! いや、そうだ。今するべきことは状況の把握だ。 さっきからキンキンとうるさい少女に向き直る。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 突然誰かがいうと少女以外は笑い始めた。 「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」 少女が怒鳴り返す。 「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」 「さすがはゼロのルイズだ!」 周りが囃し立て笑い声がさらに大きくなる。 とりあえず目の前の少女はルイズというらしい。 「もう!あんた誰!どこの平民!」 彼女はさらに大きな声で私に怒鳴ってくる。相当怒っているらしい。 なんてうるさいんだ。だんだん冷静さが戻ってくる。 「私は吉良吉影、そしてここが何処どこだか教えてくれないか?混乱で頭が爆発しそうだよ」 「ミスタ・コルベール!」 彼女はさらに怒鳴る。すると周りの人垣が割れ中年の男性が現れる。 彼女はなにやら男性と話し始める。 しかし話しの内容はさっぱり理解できない召還だの使い魔だの儀式だの… 何かの宗教だろうか?そうすれば彼らの服などは理由がつく。黒魔術とかあんなのだ。 「でも平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」 彼女がそう言うと、また笑いが起こる。彼女が人垣を睨み付けるが笑いは止まらない。 男性は彼女に諭すように話しかける。そして私を指差し 「~~~彼には君の使い魔になってもらわなければな」 「そんな……」 彼女はガックリ肩を落とす。 理解できていることを総合するとどうやら私はルイズと呼ばれる彼女の使い魔というものになるらしい。 使い魔……語感から判断するに召使みたいなものか? そんなことを考えていると周りがまた五月蠅くなる。 ルイズが私を困った顔で見ている。 一体なんだ? 「ねぇ」 突然話しかけられる。まぁこっちも話しかけられたほうがありがたい。 「なんだ?」 早くここの詳しいことを聞かなくてはいけない。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、普通は一生ないんだから」 顔を顰める。彼女がなにを言いたいのか理解できない。彼女は目を瞑り手に持った杖を私の前で振るう。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、 我の使い魔となせ」杖を私の額に置くと私の顔を腕で引き寄せる。 「!?」 いきなりで反応できない。まだ混乱しているらしい。 そして私の唇とルイズの唇が重なった。 3へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/427.html
教室は石造りのいわゆる階段教室だったが、部屋に入るサイズの物だけとは言え、使い魔となった 様々な生物が最後部に並んでいる所だけはジョナサンの「教室」の概念からかけ離れていた。 一部の使い魔はイギリスで見慣れた種類の動物なので猫だ烏だと見分けが付いたが、古代ギリシアの伝説やおとぎ話に出てくるような妖怪変化の類になると名前はおろか動物なのかどうかも外見だけでは分からなくなってくる。 ルイズは生徒用の席と立ち並ぶ使い魔、そしてジョナサンを何度か見比べてから、 「椅子に座ってなさい。あんた図体が大きいから立ってると他の使い魔の邪魔よ」 と自分の席の左隣を指差す。 「仰せのままに」 ジョナサンは大きな体を長椅子の端に押し込む。 ルイズがちらりと顔色を伺うが何を考えているかは掴めない。 その後数人の生徒が入ってきた後で、教師と思しき年かさの女性が入ってきた。 教師は「赤土」のシュヴルーズと名乗り、教室に並ぶ生徒達の顔をざっと見回す。 「皆さんが無事に『春の使い魔召喚』を済ませたのを見て、私も誇りに思います。 中には珍しい使い魔を召喚した方もいるようですが」 教室中の視線がルイズとジョナサンに集まる。 「おや?ヴァリエールの使い魔は平民じゃあないか!確かにこいつは珍品だ!」 「さすが『ゼロ』!オレたちにできない事を平然とやってのけるッ、そこにシビれる!あこがれるゥ!」 劇がかった口調で数人の生徒がはやし立て、「ルイルイルイズはダメルイズ…」の合唱に入ったところでシュヴルーズの杖が振られると、 「使い魔は術者の術の表れ。そして召喚した使い魔はメイジにとって己の半身に等しい存在なのです。 使い魔を侮辱する事はメイジを、そしてメイジの操る魔法を侮辱する事に他なりません。猛省なさい」 途端に歌声が止む。 ジョナサンが肩越しに後ろを伺うと、生徒の何人かがせっせと口中から粘土を掻き出していた。 「では授業を始めます。皆さんは私とこれから一年間『土』属性の魔法について…」 毎年ごとに繰り返す口上をそらんじながら、シュヴルーズはほぼ満足だった。 教師が生徒にナメられないコツ、それは教室の中では誰がボスなのか、最初にその事をアホガキどものクサレ脳ミソにはっきりと刻み込むこと。 そのために効果的な手段が授業の障害となる問題児の実力排除。 今年はミス・ヴァリエールをダシにして即座に問題児をあぶり出せたので楽でいい。 決め台詞も噛まずにバッチリ決まった。 ただ今年のクラスにおける最大の不安要素もまた、ミス・ヴァリエールだった。 学業成績は優秀、素行にも問題点は無し、そのくせ実技成績のみ最下位をキープし続けている、学園創設以来の規格外。 教室全体に目を配るフリをしながら、シュヴルーズは常にミス・ヴァリエールを見張る。 彼女に魔法を使わせる口実を探すために。 授業中もルイズの心中は穏やかではなかった。 ミス・シュヴルーズがバカどもを黙らせた手腕は鮮やかだったが、結局使い魔をダシに自分が侮辱されたことには変わりはない。 (そもそもこいつが来なければ…) 苦々しく左に座るジョナサンを見ると、ミス・シュヴルーズの講義に神妙に聞き入っており、更に石を練成し、青銅へと変えた時には相当驚いた様子だ。 (そうそう、少しはメイジに対し敬意を払って欲しいわね) チャンスが来た。 咳払いを一つ。声を張り上げる。 「ミス・ヴァリエール!授業中によそ見をしているという事は、授業の内容を既に理解しているのですね?」 「あ!はいっ!」 ミス・ヴァリエールは慌てて立ち上がり(いい反応だ)、 「では前に出て、実際にこの石を『錬金』で金属に変えてみてください。青銅でなくとも結構ですよ」 「…もう、あんたのせいよ!」 道を譲る使い魔の平民に言い捨てて、緊張した面持ちで教壇に上がる。 教室からはクスクスと笑い声が聞こえる…かと思ったが不安そうな囁きしか聞こえない。 既に身構えている生徒もいる。 「あの…ミス・ヴァリエールに魔法を使わせるのはやめた方が…」 水を差すのはミス…ツェルプストーか。 どう言い返そうか思案していると、 「やります。やらせてください」 ミス・ヴァリエール自身から申し出がある。 (意欲はあるのね…結構。ではお手並みを拝見) 「ではお願いしますよ」 シュヴルーズは笑みを浮かべる。 駆け出しの「ドット」メイジでも道端の石を卑金属に変える程度なら造作も無い。 (…はずなのよルイズ、集中するのよ…) 頭の中で組み立てた術式を三度見直し、 (青銅でなくてもいいから、鉛でも錫でも亜鉛でもいいから、せめて何か金属に変わりなさい…) 口訣で魔力に術式を刻み、杖を介して石に注ぎ込む。 純粋元素に還元された石が一瞬輝き、 「うわあぁぁぁッ!『ゼロ』が唱えたああぁぁッ!」 教室中の生徒達が慌てふためいて机の影に隠れるのと同時に、 「ちょっとみなさ…」 事情を理解できていないシュヴルーズの目の前で、爆発した。 爆発で生まれた衝撃波は石が乗っていた机の半分をズタズタに引き千切り、シュヴルーズを黒板まで吹き飛ばし、ルイズに尻餅をつかせる。 砕けた木片は教室のあちこちに飛び散り、窓ガラスを割り、黒板にひびを入れ、制御が失われた使い魔達に当たり大騒ぎを引き起こす。 何が起こるか予想済みの生徒達は全員が石造りの机のお陰で難を避け、そんな中で唯一隠れ損ねたジョナサンは反射的に手を前に伸ばし指を広げ、 「おりゃっ!」 眼前に飛んできた木片を挟み取る。 爆煙と埃が収まった時、魔法を掛けられた石は跡形もなく消えていた。 「…失敗しちゃったみたいね」 スカートの裾を整えつつ言うルイズの声は実に白々しかった。 担当教員のシュヴルーズがのびてしまったため結局授業は中止、元凶のルイズには罰として教室の掃除が命じられた。 「…但し魔法は一切使わないよう頼むよ」 駆けつけた教師は重々しく付け加え、気絶したシュルヴルーズを医務室へと運び出す。 「ありがとよ!『ゼロ』のお陰で楽できたぜ!」 「せいぜい掃除がんばりな、魔・法・な・し、でな」 小馬鹿にする声を勤めて無視。いちいち気にしていたのではこちらが参ってしまう。 「ほら!使い魔なんだからあんたが掃除しときなさいよ!」 ルイズの怒声に立ち上がるジョナサン。 「これは君が受けた罰だ。僕は君を手伝うつもりだが、だからといって授業を中断し教室を使えなくした君が掃除をしなければ、先生が君に罰を下した意味が無くなる」 「う…わ、分かってるわよそんなの!じゃあ手伝いなさい!」 慌ててルイズは教室の隣にある掃除用具入れに向かうが、足を止めて振り向く。 「あとご主人様に逆らったから昼食抜き!」 二人は暫くの間黙々と手を動かしていたが、そのうちルイズがぽつりと口を開く。 「分かったでしょ?何で『ゼロ』って呼ばれているか」 その声には今までのような覇気は無い。 「どんな魔法を使おうとしても失敗するの。いっつも爆発してばかり。 成功率ゼロ。魔法のセンスゼロ。だから私の二つ名も『ゼロ』のルイズ」 ジョナサンは木片を拾う手を止め、 「…君は魔法が『失敗』したから『爆発』した、と考えているんだろうけれど…」 顔を上げ、ルイズの瞳を真っ向から見据える。 「果たして本当にそうかな?」 「な、何でそんな事言えるのよ?」 「授業の内容を思い出していたんだ」 顔を伏せ、また木片拾いに戻りながら話し続ける。 「人間に個性があるように、メイジの操る魔法にもそれぞれ個性がある。 その個性は大まかには地水火風の四元素、どの操作を最も得意とするか、という形で現れる。 『使い魔は術者の特性の表れ』と言ったのも、召喚する際に得意とする元素の要素を何らかの形で持ち合わせた生き物を自然と呼び寄せているからだろう」 「あ、あんた…いつの間に…」 机の上を拭くルイズの手が止まる。 「魔法が失敗した時に普通はどうなるのかは知らないが、少なくとも常に『失敗すれば爆発』という乱暴な結果になるとは思えない。 石の『錬金』に失敗すれば石は石のまま、という方がより自然だ」 立ち上がり、拾った木片をゴミ箱へと持っていく。 「そして僕を使い魔として召喚し、契約を成功させた事からも、僕の見る限り君は魔法を使えるし制御もできていると思う」 「な、何言ってんのよ!あんたみたいな平民を召喚したんだから失敗じゃないの!」 「違う。もし君の言う事が正しいなら、召喚の時も、契約の時も、何かが爆発しているはずだ。 …例えばこの僕自身とか」 両手一杯の木片をゴミ箱に投げ入れる。 「だ、だって、それは練成術と召喚術とでは、原理が…」 語尾を濁らせるルイズ。 「君はこう言った。『魔法を使おうとするといつも爆発する』と」 手に付いた土埃をはたき、もう一度ルイズを見据える。 「だったら逆に考えるんだ。君の魔法は『どんな物でも爆破する』んだ、と考えるんだ」 馬鹿にされた、とルイズはまたまなじりを上げる。 「そっ…そんな魔法聞いた事ないわよ!」 「さあ、その辺は僕も知らない。何しろ昨日召喚されたばっかりだし、魔法についての知識も、せいぜい聞きかじった程度だからね」 腰を反らして伸びを一つ。 「さて、早く掃除を終わらせようか。ご主人様に罰を受けて昼食抜きの僕はともかく、 君まで昼食抜きなんて嫌だろう?」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/861.html
トリステイン魔法学院は広大な敷地を誇るため、一言に寮から宝物庫と言っても結構な距離がある。 少女の速度でしか走れないルイズと、老人ながら鍛錬を重ねた肉体を持つジョセフとでは到達する時間も圧倒的な違いがあるのは当然のことだった。 (出来ればああいう危険な場所に連れていきたくはないんじゃがな) 結構な距離がある場所からでも「あれは巨大だ」と判るほどのゴーレムが宝物庫の塔を殴り続けている現場は、子供でも危険だと判る。 だが腕の中のルイズは、「魔法学院に来るだなんて……いい度胸してるじゃない……!」と、背中の毛を逆立てていた。ふぎゃーと鳴き出さない様に気をつけなければなるまい。 この分だと連れて行かなければ気が済まないだろうし、連れて行くなら行くで自分の目と腕の届く場所に置いておく方がよっぽど安全と言うものである。 「それにしても……あんな大騒ぎするとはまたムチャなことをしよる! 宝物庫からモノ盗むにしたって、もうちょっと静かにやったらいいんじゃないのかい!」 「ああいう派手なコトしたがるのは『土くれ』のフーケだわ! 舐めた真似を……っ!」 「なんじゃその『土くれ』のフーケって!」 「貴族ばっかり狙ってる盗賊よ! 見ての通りああいう派手な盗みで貴族を馬鹿にしてるから色んな国から賞金掛けられてるのよ!」 「ってゆーか、ありゃ明らかにメイジじゃろ! ギーシュとか問題にならんぞ!」 「当たり前よ! あれだけ大きなゴーレムを錬金出来るってことは多分最低でもトライアングルクラスなメイジ……ドットなギーシュとは比べ物にならないわ!」 見たら判るわい、という言葉はごくりと飲み込んで。 「とりあえず! あれをブッちめるとかそんなんは幾ら何でもムリじゃ! 学院にはちゃんとしたメイジ達がおるんじゃろ、せめて足止めくらい出来りゃッ……」 背後を振り返ったジョセフだが、空を飛べるはずのメイジ達が寮の窓から飛び出してくる様子は全く無い。 つまり普段馬鹿にされているルイズだけがいち早く宝物庫に駆け付けて、ルイズを馬鹿にしている連中はまだ来てもいないというか……来る気配すら見せていない。 (おっ……お前ら、ちったあ大口に似合った働きくらいせんかい!) 窓から飛んでこないということは、自分の足で走ってくるということだがそれは非常に期待が薄い。つまり、ここから自分達だけでどうにかしなければならないという事である。 退却しようにも主人にその気が全くないという事と、ジョセフ自身にもそんな気は全くないという事である。 「ぶっちゃけるぞルイズ! 正直、わしではあいつに勝てる見込みは全くない! じゃからとにかくフーケとやらの足を止めて、何とかする方向性で行くッ!」 「そんな後ろ向きな!」 「正直足止めだって過ぎた状態じゃわいッ」 悪態を付きながらも、さてどうやって足を止めるかを懸命に考えるジョセフ。 (まァああいうデカブツを相手にするときのセオリーはッ……足を狙ってブッちめる、というのが無難じゃわなァ~~~。それであやつの動きを止められれば、何とかなるかもしらん!) 「ルイズ! お前は遠くから何でもいいからあやつに魔法をブッ放してやれ! わしはあやつに突っ込む!」 「判ったわ!」 やがてゴーレムのフォルムが十分に視認できる距離まで来たところで、まずルイズを降ろし。ジョセフはそのまま右手にハーミットパープルを纏わせた。その瞬間、手袋の中で眩く光った光は、夜の闇の中でほのかに漏れた。 「……なんじゃ、これはッ……」 しかし手袋を脱いで光の正体を把握しようとする前に、ゴーレムをハーミットパープルの射程範囲に捕らえていた。 錬金された土で構成された小さな灯台ほどもある太い足は、如何にも堅固そうでただ殴ったりしていては歯も立つまいとは馬鹿でも判る。だから。 「行くぞッ! ハーミットウェブ!!」 右腕を大きく振りかぶって勢い良く突き出せば、素早いスピードで茨達がゴーレムの足に食い込み、内部へと侵食を始めた。敵の内部にハーミットパープルを沈み込ませてから、そこに波紋を爆発的に流して破壊しようという作戦である。 「食らえぃッ! 波紋のビィィィィィィトッッッ!!!」 たっぷりと波紋を流し込んだ瞬間、ゴーレムの足が凄まじい爆発を起こした! 「よしッ! やったッ!」 グッと拳を握ったガッツポーズは、しかし次の光景を目の当たりにして固まることとなる。 爆破したはずの足は、まるでビデオの巻き戻しのように破片が足のあった場所へと戻り、すぐさま新たな足として復活してしまったのだ。 「大したモンじゃないか! だがね、それじゃあこの『土くれ』のフーケの錬金したゴーレムは壊せないってコトなんだよ!」 柄の悪い喋り方で、女の声が上から降ってくる。 (フーケとやらは女かッ。じゃが今はそんなこたぁ関係ないッ!) 後ろに飛びずさり、距離をとろうとした瞬間、ルイズの呪文が完成した。 「ファイアーボールッ!!」 しかし詠唱が終わった瞬間に杖の先から火の玉が迸る代わりに、前触れもなくゴーレムの腕が大爆発を起こし、しかもその爆風の余波で宝物庫の壁にヒビを入れてしまっていた。 しかも間の悪いことに、胸から飛び散った破片(破片と言っても、ルイズほどもある大きさの土塊である!)がジョセフのいる辺りに降り注いだ! 「うおおッ!?」 飛びのこうとする動きを封じられ、思わず腕で身をかばうジョセフ。 しかしその反射的な動きがジョセフの命取りだった。 再生しようとするゴーレムに引き寄せられる土塊に、ジョセフも巻き込まれたッ! (う……うおおーーーッッッ! し、しまった……フーケのゴーレムの再生方法は、「壊れた箇所を構成していた土が巻き戻しのように壊れた箇所に戻る」ッ! じゃったら、吹き飛ばされた土塊どもの側におるわしもッ……)『引き寄せられる』ッ! 正確には、ゴーレムを構成する土に隙間なく魔力を敷き詰めることにより、「土塊それぞれに自分が構成しているパーツの場所を覚えさせる」というプロセスを経る事で、フーケのゴーレムは強力な再生能力を得ることに成功していた。 そして破壊された破片達の中に取り残されたジョセフも、土塊を引き寄せる魔力の網に引っかかる形となり『引き寄せられた』のだッ! 果たして再生した手の中には、ジョセフが首だけ出した形で握り締められていた! 「ジョっ……ジョセフ! ジョセフを放しなさい!!」 この事態の元凶ともいえるルイズは、自分のしでかした大失態に気付く様子さえなく、次から次へとゴーレムに爆発を起こさせ、土塊を地面とゴーレムの間で往復させ続けていた。 「うっ……うおお! やめっ、やめるんじゃルイズ! わしが死ぬッ!!!」 腕で顔をかばうことも出来ないジョセフが必死に制止するが、頭に血が上りきったルイズに、爆風に紛れたジョセフの必死の悲鳴が届くはずも無かった。 そしてフーケは、ヒビに入った壁にジョセフを握ってない腕で数発のパンチを入れ、人が通り抜けられる隙間を作り出した。 「感謝するよお嬢ちゃん! この忌々しい防御魔法ばっかの壁はゴーレムでも吹き飛ばせなかったんでね!」 嫌味ったらしく言い残したフーケは、悠然と宝物庫への侵入を果たす。 そして数分後、何かを大切そうに脇に抱えたフーケが出て来ると、彼女は再びゴーレムの肩に乗った。 「あはははははっ! 確かに頂いたよ! せっかくだからこのジジイは殺しちまってもいいんだけどねェ……」 見事に目的を果たしたフーケは、高笑いと共に、なおもゴーレムを爆発させ続けるルイズと、なおも腕の中から逃げ出そうともがいているジョセフを見下ろした。 「あたしの仕事を手伝ってくれたお礼にジジイは返してやるよ!」 そう言いつつも、地響きを鳴らしながらゴーレムは塀へ向かって歩いていき。もののついでとばかりに塀を踏み潰したところで、ジョセフを握っている腕を振り上げ―― 「ちゃんと受け取りなッおチビちゃんッッッ!!!」 ジョセフを、魔法学院に建つどの建物よりも高く放り投げたッ! 「うっ、うおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!?」 幾らジョセフと言えども、何十メイルもある高さから落ちれば無事では済まないどころか死んで当たり前! (ハーミットパープルでどっかに引っ掛かるかッ……落下スピードを殺しきれるか!?) 右手にハーミットパープルを蔓延らせながらも、瞬間的に捕まりやすい建物を探すも、御丁寧にどの建物からも遠い広場に落ちていく! (しっ……死んだかァーーーーー) さしものジョセフも何の解決策さえ見つからず、死を覚悟したその瞬間! 一頭の風竜が、落下するジョセフを口で咥えて受け止めた! 「ナイスキャッチ、シルフィード」 「きゅいきゅい!」 淡々とした少女の声に、嬉しそうに答える竜の声。 「たッ……助かったのかッ……?」 下半身を竜の口に咥えられたまま、ジョセフは竜の上に乗っている二人の人影を見た。 「はーいダーリン、危機一髪だったわねえ。ごめんねー、ちょっと用事があってね♪」 「その声は……キュルケか!」 何度もアタックを掛けられた声は十分に記憶に刻まれている。 「そうよダーリン。ああ、なんて運命的なのかしら! 愛するダーリンの危機をこんな形で救えるだなんて!」 勝手に自分の世界に入って身体をクネクネさせているキュルケを、横の少女が杖で小突く。 「シルフィードは私の使い魔」 無表情に抗議した青髪の少女に、ジョセフはにかりと笑った。 「おうそうじゃった! お嬢ちゃんのおかげで助かったわい。ええと、名前は……」 キュルケとよく行動しているのは見かけるが、こうして会話をしたのは初めてだった。放課後の教室での集まりに参加していない少女の名前までは、流石のジョセフも覚えていない。 「タバサ。タバサと呼んでくれて構わない」 「オーケー、助かったわいタバサ。すまんが、ちょっくら下ろしてくれんか。安全じゃろうというのは判っとるんじゃが、ドラゴンの口に半分咥えられとるのは心臓に悪い」 心臓に毛が生えているジョセフでも、肝を冷やす事態がこれほど連発すれば弱気な発言が出るのも致し方ない。 地面に下ろされたジョセフは、ぺたりと地面に腰を下ろした。 そこにルイズが駆け寄ってくる。 「何してんのよジョセフ! 早くフーケを追いかけるのよ!」 今の事態をこれ以上なく悪化させた張本人を見るジョセフの目が恨みがましいのを誰が責められるだろうか。 だがジョセフが投げ捨てられてキャッチされて着地するまでの間に、ゴーレムは既に巨大な土塊の山に戻っており、フーケの姿ももうないようだった。 「こいつぁ参った……早いトコ追いかけんと逃げられちまうぞ!」 フーケが魔力を込めた土塊とこの周辺の地図を媒介にして念写すれば、今からフーケを追いかけることも十分に可能。ここで別の国に高飛びされてしまえばより追跡が困難になる。 だが「念写でフーケの居場所を突き止められます!」と言ったところで、誰が信じてくれるというのか。この世界ではスタンドや念写は四系統魔術以外の能力。 ルイズはこの能力を知っているが、それ以外の相手にそれを教えると様々な不都合が懸念される。ルイズとジョセフだけで追跡したとして、今の繰り返しになることは火を見るよりも明らか。 きちんとした討伐隊を組織して追撃するのが一番確実だろうが、討伐隊を向かわせるまでの時間のロスは痛すぎる。そして居場所を突き止められるかどうかも非常に怪しい。 (さてどうするッ……今夜中に追いかけて、ゴーレムを出させんうちに不意打ちするんが一番確実かッ。じゃが向こうも魔法なり馬なりあるから追いかけるにしても……ッ) 沈思黙考に入ったジョセフ。ああんそうやって考えてるポーズがダンディ、とドサクサ紛れに抱きつくキュルケと、離しなさい人の使い魔に何してんのよとキュルケをひっぺがしにかかろうとするルイズ。 ジョセフはしばらくして意を決すると、ルイズにつかまれたキュルケに抱きつかれたまま立ち上がった。 「ルイズ、図書室でここらの地図を何枚か見繕ってくれぃッ」 ジョセフの中で出た答えは、念写で今夜中にフーケに追いついての強襲策だった。 これだけの敗戦(原因は半分以上ルイズだが)を喫した以上、ルイズが一敗地に塗れているという屈辱を甘受する事はないだろう。 となれば、ルイズを連れていくのが一番無難だ。付いて来るなと言っても付いて来る諦めの悪さと聞き分けの無さは、もはや今夜中に矯正出来る見込みは無いのだから。 タバサはその様子をほんの僅かの間眺めていると、静かに口を開いた。 「キュルケ。貴方はオールド・オスマンを図書室にお呼びして。それとジョセフ、図書室の事ならミス・ヴァリエールよりも私の方が詳しい」 キュルケはその言葉を聞けば、「判ったわ」とジョセフから離れ、すぐさまオスマンを探しにやっとこさ現場に集まってきた教師達と生徒達の野次馬のところへと走っていった。 だがジョセフとルイズは、タバサの申し出に顔を見合わせて困惑の表情を浮かべた。 地図で念写する能力を他人に教えるのはまずい、という認識が二人にある。 確かに図書室の主っぽい風情のタバサの方がルイズよりも早く地図を持ってこれるだろうが、それはそれというものだった。 そうやって顔を見合わせているのを見たタバサは、何故二人が自分の申し出を快諾しないのか、おおよその見当はついた。ハーミットパープルとかいう茨を何らかの形で使おうとしているのだ、ということは彼女には理解できる。 そこでタバサは手持ちのカードを一気に広げて見せることにした。 「ジョセフ。貴方の紫の茨は出来るだけ人に見せたくないというのは理解できる」 その言葉を聞いた二人が、同時に驚きに目を見開く。ジョセフが何かを問おうとするのを、タバサは緩く手をかざして制した。 「ヴェストリの決闘で貴方がワルキューレの中に茨を発生させるのを知覚した。巧妙な隠蔽だから気付いたのはおそらく私一人。私はその能力を誰かに言いふらすつもりも無い」 淡々と言葉を紡ぐタバサ。彼女をじ、と見つめるジョセフ。 彼女を信頼していいものかという疑問と、野次馬達に見えないようにしていた隠者の紫を看破した能力。そして現在の切羽詰った状況。それらを勘案し、ジョセフは頷いた。 「――判った。それではタバサ、地図を見繕って貰えるかの」 「ちょっとジョセフ! ご主人様に相談もしないで勝手に決めてんじゃないわよ!」 横目でタバサを見るルイズの目からは、「この女ニガテ」という意思がありありと感じられる視線が注がれていた。。 ジョセフは知る由も無いが、図書室でルイズを諌めたのは他ならぬ彼女だった。 そのおかげでひとまずルイズとジョセフの間にささやかな信頼関係は出来たものの、それでも何かもを見透かすような底知れない何かと、風竜を使い魔にするメイジとしての実力の高さにおちこぼれメイジがコンプレックスを抱くのを誰が責められるだろうか。 ジョセフは、なおもわいやわいやと騒ぐルイズの頭に手を置くと、わしゃわしゃと頭を撫でる。そして何事か彼女をからかう言葉を聞いたルイズがムカついてジョセフの脇腹にチョップを入れた。 その微笑ましいやり取りに、タバサは僅かに切なげな目をしたが、その微かな変化に気付ける親友はこの場にはいなかった。 「事は急を要するはず。ついてきて」 シンプルに用件だけを告げ、タバサは図書室へと歩いていく。 そしてルイズとジョセフも、タバサの後ろについて図書室へと向かっていった。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1037.html
使い魔の鎮魂歌~前奏曲~ 使い魔の鎮魂歌~本編~ 使い魔の鎮魂歌~終曲~ 使い魔の鎮魂歌sotto voce
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/227.html
「………きー」 突如武器屋の中でどこからか声がした 何故に武器屋なんぞに居るかというと シエスタに連れられ厨房裏で食事を取りマルトーから自分が平民達から 『我らの剣』などと言われている事を知った後食堂でまたしても暗い|||線を作っているルイズを発見した。 そりゃあもうその場にプッチ神父がいたら間違いなくハイウェイ・トゥ・ヘルを選択するだろうと言わんばかりの状況だッ! 「…朝から調子の上がり下がりが激しいヤツだな」 「その原因作ったのはあんたじゃないのよぉ…」 もう今にもヤケ酒大会Part2に発展しそうな状況を見たキュルケが昨日の二の舞は御免だと別の話を切り出す。 「ほ、ほら、今日は虚無の曜日なんだからダーリンに城下街を案内してあげたいんだけど」 「頼むからその呼び方は止めろ…プロシュートでいい」 「それはお互い名前で呼び合う関係になったって思っていいのかしら♪」 「主人に話し通さずに何やってんのよツェルプストー!」 魔法学院名物『ゼロ』vs『微熱』の口喧嘩が開始され辺りが騒がしくなり五分程時を加速させた結果―― 「なんですって!」 「なによ!」 もう内容がプロシュートと全く関係ない話に発展している。 (幹部連中がこれと同じとは思いたくねぇがリゾットもよく胃に穴が開なかったな……メタリカか?メタリカで塞いでんのか?) 当の本人はチーム一の苦労人を思い出し同じ持続力Aでもこうも耐性が違うものかと感慨に浸っていたのだが。 「ったく…何やってんだオメーらは!…だが、街は見ておきてぇ案内頼めるか」 もちろん真の目的は万が一の逃走経路の確認にある。 「もちろんよプロシュート」 「ちょっと…使い魔が主人に断りもなく勝手に何やってんのよ」 「爺に事の次第が分かるまで同じ行動するように言われてるからな。オメーも一緒に来るに決まってんだろーが」 「それじゃあ、あんたが私に合わせるのが当然じゃない!」 「着いてこねーのは勝手だがどうなるかまでは責任取らねーからな」 「……分かったわよぅ」 さすがにオスマン直々の言葉であるからには逆らうわけにはいかない。 「タバサー、シルフィードお願いねー♪」 親友に送り迎えを頼もうとするが 「虚無の曜日」 そう短く言い放ち本に目を戻された。つまりまぁ断られたという事だ。 「仕方ないわねぇ…」 そんなこんなで馬に3時間程乗って城下町に着きスリをグレイトフル・デッドで捻り上げつつ案内を受け最後に着いたのは武器屋というわけだ。 スタンドを備えてはいるがもちろん暗殺者だけあってある程度の武器は扱いなれている事もあり立ち寄ったのだがそこで 「……きー」 という声を聞いたのだが周りには店主とルイズとキュルケしか居ない。 「…にきィー」 また聞こえたがやはり他三名しか居ない。居ないのだがその言葉が自分にとって聞きなれた単語であったような気がした。 「…何か言ったか?」 「何も言ってないわよ」 だが、直後プロシュートを驚愕させるに十分の言葉が聞こえたッ! 「兄貴ィーーー」 「ペッシかッ!?」 短くそう叫び声が聞こえた方向に向き直るがあるのは積み上げられた剣の山だ。 「ペッシがここに居るわけねぇが…何だ?一体」 「ここだぜ兄貴」 声のする方向を凝視する。一本の錆がある薄手の長剣がそこにあった。 「剣が…話しただとッ!?」 さすがのプロシュートも剣が話すという超事態には驚きを隠せないッ! 「こんな所にインテリジェンスソードがあるなんて珍しいわね」 「意思を持つ刀ってのは組織の情報網に過去一つあったってのを見た事はあるが…」 スタンドの可能性を考慮に入れたが話を聞く限りこの世界にはそういう剣は結構あるらしいのでその可能性は除去しておく。 少しばかり気になる事もあったのでその『剣』と話す事にした。 「テメー…何でオレを兄貴と呼んだ?何故オレを『知って』いる?」 「この辺りじゃ貴族に決闘を挑まれそれを返り討ちにして殺した見たことも無い服を着てる平民が居るって噂は知らねーヤツはいねーぜ兄貴ィ」 情報統制というものは現代においても完全に行うことは不可能だ。 どこからか水道管の水漏れのように漏れだしてしまう。 もっともその情報統制を恐怖と暴力によって完璧に行っていたのが『パッショーネ』のボスであるのだが。 この中世レベルのハルケギニアならその手の噂が広まるのは当然だった。 「フン…オレを知っている理由は分かった。だが兄貴ってのは何だ」 「そりゃあその動きを見れば兄貴が一級のプロのてのが理解できるぜ」 「デル公がお客様相手にそんな話し方するなんざ明日は雪だなこりゃあ…」 そんなこんなで剣をいじくり倒していると剣がまた話始めた。 「兄貴はスゲーや!『使い手』だったのか」 「『使い手』…だと?」 「俺を買ってくれ」 (オレにはグレイトフル・デッドがある…攻撃に関して言えば必要ねぇが… 情報面では使えるかもしれねぇな、何より『使い手』ってのが気になる) 「親父、こいつの値は?」 「いい加減厄介払いしたいんでエキュー金貨百枚で結構でさ」 見えないようにギーシュの遺産をグレイトフル・デッドで数える。 「ギリギリってとこか…」 カウンターの上に剣と金貨を置こうとするが横槍が入った。 「ちょっと…剣なんか買ってどうするのよ?使った事あるの?というかその金貨は何?」 「刃物なら扱った事はある。金は出所を聞きてーのか?」 「……いい、聞きたくない」 聞いたら多分…いや、絶対不幸になる。聞いちゃダメよルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! と心の中で堅く誓う。 だが、そんな心中を無視して別の方向から横槍が入ってくる。 「彼にそんな錆た剣を持たせるなんて…神経がどうかしたんじゃあない?」 「…プロシュートがこれ選らんだんだし関係無いじゃない」 「私ならもっと立派な剣を選んであげるけど…仮にも貴方の使い魔なのに彼に出させるってのはどうかと思うわよ?ヴァリエール」 「仮にもってどういう事よツェルプストー!私だって剣ぐらい買ってあげれるわよ!」 魔法学院名物『ゼロ』vs『微熱』第二ラウンド『城下町武器屋』よりお送り致します。 金だけ回収し無言で店の外に出るが―― 「ここに居るとペッシがマトモに見えてくるな……」 この世界に来てリゾットの気苦労の多さが初めて理解できたと本気で思っていた。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/150.html
究極の使い魔-1
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/408.html
めちゃくちゃになった教室に残っているのは、この惨状を引き起こしたルイズ本人と徐倫だけだった。 お互いに黙々と、しかし徐倫は教室の掃除や修繕をこなし、一方のルイズは部屋の隅に蹲ったまま少しも動かない。 「……ちょっと、落ち込んでる暇あったら手伝いなさいよ」 「うるさい」 取り付く島も無いルイズの返答に、徐倫は苛立ったように舌打ちした。 これまで堪えてきた事が無駄になるような、明確な反抗心の明示だった。 舌打ちを聞き咎めたルイズが睨んでくるが、今度ははっきりと徐倫も睨み返す。 「何? 使い魔のクセに何か文句あるわけ?」 「二言目にはそれだ、『使い魔のクセに』 あたしが使い魔じゃなかったらそこまで威張れないだろ? 『魔法も使えないメイジのクセに』なんだからな」 「……ッ! わたしを馬鹿にしてるの!?」 「してるねッ、あからさまに……。甘ったれたお嬢様……今も不貞腐れて、自分の不始末の片付けもしようとしない。魔法が使える使えない以前の問題だ! 『馬鹿』が嫌なら『ガキ』でいい、お前なんか」 ルイズと声を荒げて口論するなど、もう珍しい事ではなかったが、その時の徐倫は自分でもコントロールできないほど熱くなっていた。 第一印象が最悪なルイズに対して信頼や友情など欠片も無い筈なのに、今、強い失望感を感じている。 『ゼロのルイズ』という侮辱に晒され続けた少女の境遇を理解し、同情心や庇護欲が多少は湧いている筈なのに、それらを全部消し飛ばして言いようの無い苛立ちを抱いていた。 悔しいと感じながらもただ蹲って周囲に棘を伸ばす事しかしないルイズの姿勢を見ていると、父に愛されていないと思い込み、いじけてグレていたかつての自分を嫌でも思い出す。 徐倫のかつて無いほど容赦も遠慮も無い叱責に、ルイズは顔を真っ赤にして憎しみの視線を向けた。 「うるさいうるさいうるさいッ!! あんたなんかに何が分かるのよ!? どんなに頑張っても報われない、わたしの悔しさが! 『ゼロ』なんて呼ばれ続ける悔しさが、あんたになんか……っ!!」 「分からないわね。あたしは悔しがってれば何とかなるなんて、考えないから。悔しがる段階なんて、もう終わったのよ『お嬢様』 反省も努力もすればいい。でも、今は自分の失敗の後始末を……行動の『責任』を取るべきだわ。違う……?」 口調は落ち着いているが、徐倫の言葉は変わらず叱責するような強い声色を孕んでいた。 叱り飛ばすように真っ直ぐ見据える視線に耐え切れず、ルイズは顔を背けた。徐倫が自分よりずっと大人に思えた。 『悔しがっていれば何とかなるなんて考えない』―――そう言う徐倫の言葉には『説得力』と『凄み』があった。それを実践してきたという、確固たる下地があった。 敗北感と屈辱が、プライドの高い彼女の心を深く抉る。 徐倫はルイズを『お嬢様』と呼ぶ。名前で一度も呼んでいない。その意味を、漠然と感じていた。 「うるさい……使い魔の、クセに……っ!」 「……もういいわ」 苦し紛れの言葉に返された声は、酷く冷めていて、ルイズは突き放されたのだと感じた。 急に言いようの無い不安と寂しさが湧き上がる。自分を見限ろうとする徐倫を、何とか引き止めたかった。 「あんたには……分からないわ」 「……」 「『家族』さえ、わたしを認めなかった……。二人の優秀な姉がいて、立派な血筋があって……でも、わたしは魔法が使えない! だから、両親だって何の期待もしなかった! 魔法が使えないせいで、わたしは親にさえ見捨てられて…………ぐぶッッ!?」 自分の内に溜め込んだものを必死に吐き出していたルイズの言葉は、強制的に停止させられた。 頬に感じた強い衝撃と共に体が宙に浮き、次の瞬間床に投げ出される。 徐倫に殴られたのだ。しかも平手などではなく、容赦の無い拳によって。 ルイズは初めて受けた暴力の痛みとショックで、床に這いつくばったまましばらく混乱していた。 拳で殴られた経験など全くなかった。 躾けの為にはたかれたとか、キュルケとの取っ組み合いで叩かれたとかいった類のものではなく、焼けるような激情を乗せた拳で殴り飛ばされたのだ。 ルイズは自分を殴った使い魔を見た。睨むのではなく、放心したような呆然とした表情で。 徐倫はそんなルイズを、凄まじい怒りの形相で見下ろしていた。 「……『親』が、『家族』が……お前を愛していないなんて……ッ。お前が言うなッ! どこまで独りよがりに甘ったれるつもりだッ!? このクソガキッ!!」 血を吐くような怒号。教育の為に叱られた事がある程度の経験しかないルイズにとって、徐倫の激しい怒りは初めて感じる恐怖と不安だった。 そのまま胸倉を掴み上げられる。 思わず「ひ……っ」と悲鳴が漏れたが、徐倫は一切容赦をしなかった。 「さっき言ったとおり、あたしはお前の事なんて分からない。ひょっとしたら、お前の親は自分の子供に焼けたフライパンを押し付けて喜ぶような最低の親なのかもしれない。だが、『そんな事はない』とハッキリと反論出来るなら……尚のこと聞けッ!」 互いの鼻先が触れ合う程に顔を付きつけて、徐倫は言った。 「『親』を、子供が理解するのは難しい……スゴク難しいんだッ。だけど、自分の独りよがりな考えで、『親』を疑うような事はするなッ! その身勝手さを、いつか『親』や『家族』の尊さに気付いた時、死んでしまいそうなほど後悔するッ! 絶対に……ッ!!」 「……」 叫ぶ声には、激しい怒りと苛立ちと、そして哀しみがあった。 徐倫はまだ何かを続けて言いそうになったが、それがもはやルイズに対する言葉ではなく、自分自身に向けて叫ぶ言葉になると理解して、静かに口を閉じた。 そして、すぐに自己嫌悪が襲ってきた。 気まずげに胸倉を掴んでいた手を離せば、ルイズが脱力するように床に座り込む。 何を、しているのだろうか。今言った事全部、本当は昔の自分にぶつけてやりたい言葉だったのに、八つ当たりのように目の前の少女にぶつけてしまった。 ただ、何も知らず父親や世間に反抗するだけだった昔の馬鹿な自分を、今のルイズは酷く思い起こさせるのだ。 「……悪かったわね。もういいから、出てって」 未だ呆然としているルイズから目を逸らすように背を向けると、徐倫は再び作業に戻った。 その後ろ姿をぼんやりと眺めていたルイズは、口から流れる血が止まる頃にようやく我に返ると、ハンカチで口を押さえながらフラフラと立ち上がった。 殴られた頬が疼くように痛み、ぶつけられた罵倒が心を軋ませ、悔し涙が溢れてくる。憎い使い魔を見ようとせず、逃げるように教室の扉へ駆け寄って……ドアノブを握った時に、徐倫の言った言葉が思い起こされた。 ―――反省も努力もすればいい。でも、今は自分の失敗の後始末を……行動の『責任』を取るべきだわ。 ―――その身勝手さを、いつか『親』や『家族』の尊さに気付いた時、死んでしまいそうなほど後悔する。 「……わたし、は……っ」 ただ、『誰か』に認めてもらいたいだけだった―――。 ルイズはハンカチをポケットに突っ込むと、踵を返して徐倫の元に歩み寄り、彼女の握っていたモップを奪い取った。 「ちょっと……っ?」 文句を言いかける徐倫を無視して、背を向けながら煤で汚れた床を磨き始める。ただ一心不乱に、まるで親の仇の如く。 何か言いたそうな徐倫をひたすら無視し続けていたが、ふと動きを止めると、赤く腫らした痛々しい頬のまま肩越しに振り返って睨み付けた。 「あんたなんて……大嫌いよ! バカ!」 何かもっと気の利いた事を言うつもりだったが、結局出てきたのはそんなありきたりな罵詈雑言だけだった。 上手く口に出来ない悔しさでまた涙を滲ませながら、ルイズは徐倫に再び背を向けて掃除に集中した。 一方の徐倫は先ほどまで自己嫌悪で久しぶりにネガティブな思考に捉われていたが、ルイズの唐突な行動や言葉に今は混乱していた。 何と言ったものかよく分からず、結局何も言えずにルイズとは背中合わせのまま作業を再開した。 互いに一言も声を交わさず、視線も交えず、必要な場合以外は協力もしないのに、目的だけは同じにして作業を続けていく。 とてつもなく気まずい空気の中、ただ作業時間だけは当初の予定よりずっと短く済んだのは確かだった。 昼休みになって、食堂へ向かう廊下の途中でも二人の気まずい空気は全く晴れなかった。 相変わらず目は合わせない。 ルイズは時間が経って頬の痛みと腫れが増すほどに沸々と怒りがこみ上げ、徐倫は時間が経って冷静になるほどに軽率で衝動的な行動過ぎたと大人気なさを反省した。 食堂に着く頃には、二人のテンションはすっかり入れ替わった状態だった。 頭が冷えた徐倫に、頭に血が上ってきたルイズ。 ルイズの頬はもはや見た目にハッキリと分かるほど腫れ、ヒリヒリ痛い。きっと昼食で何を食べても美味しくないだろう。 食堂の入り口に着くと、ルイズは勢いよく振り返った。無礼を働いた使い魔に痛烈な罰を与えるつもりだった。 しかし、その意気込みも徐倫の目を見据えた途端霧散してしまう。 殴られた事が怖いとかショックだったとか、それだけではなかった。 徐倫の言った言葉が、酷く心に重く残って、どうすればいいのか分からなくなっていた。 「……ジョリーン、あんたは……その」 「……何?」 「……今日のご飯はヌキ! いいわね!」 ルイズはやけっぱち気味にそう言うと、そのまま逃げるように食堂へ駆け込んでいった。 そして残された徐倫は、ルイズの言葉に反発したり逆らったりする事も出来ず、小さくため息を吐いて廊下の壁にもたれ掛かった。 空腹だし、理不尽だとも感じるが、正直ルイズに負い目もあるので甘んじて受け入れる他なかった。 殴ったのはやりすぎだと思っていたのだ。ルイズの頬は何度見ても痛々しい。 なまじ同性同士であっただけに、遠慮や容赦がなかったのがマズかった。もし徐倫が男だったなら、手加減したり暴力に忌避感を抱いたりしただろう。 そもそも、ルイズの弱音などに対しても、あそこまで過激に反応しなかったかもしれない。 いずれにせよ、現実として今回はやりすぎだ。徐倫は空腹に鳴る腹を押さえて、この罰を耐える事にした。 「あの……どうかなさいました?」 そんな徐倫に声を掛けたのは、メイドの格好をした一人の少女だった。 彼女の名前は『シエスタ』といった―――。 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1652.html
それから数時間後。大人しく空賊に捕らえられたジョセフ達は、空賊船の船倉に閉じ込められていた。 ジョセフ達をここまで運んできた船、『マリー・ガラント号』の乗組員達は自分達のものだった船の曳航を手伝わされているようだ。 ジョセフはデルフリンガーを取り上げられ、メイジ達は杖を取り上げられた。後は鍵を掛けてしまえば何も出来ない、という認識はおおよそ間違ってはいない。 だがジョセフは特に何か行動を起こすでもなく、酒樽や穀物袋や火薬樽が雑然と置かれた船倉で静かに寝転がっていた。 「どうするんだジョジョ! 空賊なんかに捕われてしまったんだよ、どうにかしないと!」 空賊に発見されてからこの方、徹頭徹尾徹底抗戦を唱えているギーシュが、船倉の中で唯一この状況を打開できそうなジョセフに詰め寄った。 だがジョセフは起き上がる素振りさえ見せず、寝転がったままギーシュを見やった。 「ここで暴れてもどーもならんじゃろ。まだわし一人だけが捕まったんならどーとなりとでも出来るが、お前達まで人質になっとったら正直どうもできんぞ。幾ら何でも五人も守りながら戦うだなんて器用なマネはわしにはできん」 杖を取り上げられたメイジが五人雁首を揃えたところで、足手まといにしかならないのはここにいる全員が理解していることである。 更に言えばジョセフの傷は包帯の下で波紋を流しているとは言え、まだ治療中である。今の傷の具合では戦いに必要なだけの波紋を練るのもやや厳しい。 そうなればジョセフは傷を癒す時間を得る為、黙って寝転がっているという次第だ。 (ッつーか今回はハイジャックとはなァー。つくづくそーゆー星の下に生まれとるんじゃよなァわしは) ほとんど他人事のように心の中で呟いたジョセフは、他の面々の様子を伺ってみた。 一番落ち着きが無いのはギーシュだ。 船倉の中で何か使えるものはないかと探した結果、火薬樽を見つけて何やら奇跡の逆転劇の台本を書いているようだが、あんなものをこんな場所で使えばどうなるか、については考えが至っていないようだ。後で鉄拳制裁混じりの説教をすることにした。 ギーシュの次に落ち着きが無いランキングに入賞したのはルイズだった。 こちらは大人しく自分の横にぺったり座ってはいるが、視線が落ち着き無く彷徨い続けている。 それに加えて暇を見つけては傷は大丈夫か痛くは無いか、と心配そうに尋ねてくる事も忘れない。 その度に大丈夫だこんな可愛いご主人様に心配してもらえて光栄だ、と笑って答えればルイズは顔を赤らめながら「そ、それならいいのよ」と顔を背けてしばらく黙る。 あんまり同じ受け答えだと向こうもそれに気付くので、頭を撫でたりちょっと腕を上げて力こぶを作って見せたりのバリエーションをつけることも忘れない。 第三位に入るのはワルド。ギーシュと同じく船倉の荷物を興味深く検分してはいるがギーシュとは違い、脱出目的のために見ている訳ではないようだ。 空賊の荷物はどんなものか、を見ている程度のものだろう。 第三位と甲乙つけがたいが、第四位はキュルケだった。彼女は生来の肝の太さを遺憾なく発揮し、看守の男を色仕掛けで虜にしようとしていた。 だが意外と看守の男は身持ちが固いらしく、キュルケの悩殺を楽しみはするもののそれに乗る様子はない。 そしてぶっちぎりの第五位は言わずと知れたタバサである。 空賊に発見される前から今に至るまで、取った行動と言えば『読書』一択。 ページを捲らずに読んでいるフリをしているとか、本が逆さまだということなど断じて無く、普通に本を読み続けている。 (それにしてもあのお嬢ちゃんはただモンじゃねェよなァ) ジョセフは内心で感心しつつ、包帯の上から腕を撫でて傷の具合を確認する。 まだ痛みはするが、死ぬほど痛いというわけではない。もう少し時間を掛ければ完治もするだろう。また呼吸を整え、波紋を練り込んでいると扉が開いた。 太った男がスープの入った大きな鍋と水差しの乗ったトレイを持ってやってきたのだ。 「メシだ」 扉の近くにいたジョセフが受け取ろうとするのを、男はトレイを持ち上げて阻止した。 「おっと、質問に答えてからだ」 その言葉にルイズが立ち上がった。 「言って御覧なさい」 「お前達、アルビオンに何の用だ?」 「旅行よ」 ルイズは腰に手を当てて、毅然と言い放った。 「トリステイン貴族が今時のアルビオンに旅行だって? 一体何を見物するつもりだい」 「さあね。考えてみたら?」 「随分と強気だな。トリステインの貴族は口ばかり達者なこった」 空賊の男は苦笑いすると、トレイをジョセフに渡す。それを船倉の中央に置くと、腹をすかせた全員がわらわらと寄ってきた。 「なんだいこれは、こんな粗末なものを食わせようと言うのか!」 具も殆ど浮いていないスープを前に、憤懣やるかたない様子のギーシュだが他の面々は黙ってスプーンを手に取っていた。 「文句があろうがなかろうが食っとけ。腹が減ってヘバっとったらマヌケもいいとこじゃ」 そう言ってジョセフが最初にスープを飲み、口の中で転がしてから飲み込んだ。 「お、けっこう旨いぞ。ヘンなモンは入っとらんようじゃ」 その言葉に全員がそれぞれスープを飲むが、すぐに飲み終わってしまうと再びやることが無くなった。 また時間を持て余そうとした時に、ジョセフが不意に口を開いた。 「なあ。こんなにヒマなんじゃしちょいと賭けでもせんか」 壁に凭れ掛かって脚を組みながら、泰然とした態度で船倉を見渡す。 使い魔の言葉に眉を顰めるのはルイズだった。 「ちょっとジョセフ、こんな時に何を言ってるのよ」 だがジョセフは主人の言葉を意にも介さず、船倉にいる全員に向けて言葉を続ける。 「なあに、とても簡単な賭けじゃよ。誰が乗る?」 ニヤリと笑うジョセフの言葉に、悠然と立ち上がるギーシュ。 「いいだろう、だがどういう賭けかを聞いてから乗るか反るかを決めてもいいんだろう?」 「ああ構わん。他に乗るヤツぁおらんか?」 ワルドは興味深そうに見ているだけで立ち上がらないし、タバサは我関せずと読書を続行している。 そしてルイズは頬を膨らませながら腕を組んで、『こんな時になんて不謹慎な』という態度を崩していない。 残った一人であるキュルケは、そんな一行の様子を見てやれやれと立ち上がった。 彼女としてはこういうイベントがあれば参加したいというのもあるが、ジョセフの持ちかけた賭けに興味をそそられたのが最大の理由であった。 「じゃあ私もその賭けに参加させてもらおうかしら」 「グッド!」 ジョセフがニヤリと笑って親指を立てる。 「で、賭けの対象はなに? それを聞かせてもらわないと話が始まらないわ」 早速すすすとジョセフに近付いたキュルケは、ジョセフの前に座り込んで聞いた。ギーシュも貴族然とした優雅な足取りでジョセフに歩み寄った。 他の面々はそれでも興味を引かれて聞き耳を立てることとなった。 「んじゃ賭けを発表するぞ。賭けの対象は『この船の主が空賊か否か』じゃ!」 船倉の中で呆気に取られなかったのは、ジョセフとタバサ、そしてワルドくらいのものだった。 しばらく妙な雰囲気の沈黙が漂ったが、それを打ち破ったのはギーシュだった。 「は……はははははは! なんだいジョジョ、何やら随分と落ち着いてると思ったら何の事は無い、一番混乱しているのは君じゃないか! いきなり何を言い出すかと思ったが、正直僕は君の正気を疑ってしまってるよ!?」 いかにも最高の道化師を見たかのような破顔の笑みでジョセフを指差して笑うギーシュ。 聞き耳を立てていたルイズも、あちゃあ、と言わんばかりに顔に手を当てて眉間に深く皺を寄せていた。 「で、ダーリンはどっちに賭けるの?」 しかしキュルケはチェシャ猫のように笑いながら、さも愉快げに問いかけた。 ジョセフは余裕めいた笑みを全く崩さず、二人の貴族に下向けの掌を緩やかに見せた。 「わしが賭けるのは、お前達の後でいい。お前達の反対に必ず賭けよう。空賊だと賭けたらそうでない方に、そうでない方なら空賊だと言う方に賭けよう」 「そんな賭けでいいのかい? じゃあ僕は当然、空賊だ、という方に賭けるよ。賭け金はどこまで賭けたらいいんだい?」 勝ちを確信、どころか勝利を疑うこともせず、ギーシュは嬉々として上限を聞いた。 「幾らでも青天井で構わん。わしはそれに見合った代償を賭ける」 「そうか! じゃあそうだな……では僕は、100……いや、200エキューを賭ける!」 120エキューで平民一人が一年間暮らせるだけの金額だというのに、それを易々と超える金額を提示するギーシュ。 「ほう太っ腹じゃな。負けたらきちんと払ってもらうぞ」 「なあに、こんな勝ちを譲ってもらえる勝負ならこれくらいのコトはしないとね!」 「ちょっとギーシュ! いくらなんでもジョセフに200エキューなんて手持ちがあるわけないでしょ!?」 ルイズが慌てて二人の間に駆け寄るが、ギーシュは芝居がかった動作でルイズに指を突きつけた。 「おっとミス・ヴァリエール。使い魔の言葉は主人の言葉だということでもある。もしジョジョが賭け金を払えないというのなら、君に払ってもらってもいい……が、それではつまらない。だから僕は、君ではなくジョジョから全てを取り立てることにしたッ!」 ゴゴゴゴゴ、と何やら特徴的な書き文字がバックに出ているようなポーズと顔でジョセフに視線を向ける! 「この200エキューの代償として、ジョジョ! 君に一年間、僕の執事をやってもらおうッッッ!!」 ドォーーーーz_____ン どこからか特徴的な効果音さえ聞こえそうな勢いで言い放ったッッッ!! ジョセフは無論、口端をこれ見よがしに大きく吊り上げて叫び返すッッッ!!! 「グッドッ! いいじゃろう、その賭け乗ったッ!!」 バァーーーーz_____ン 二人とも不敵な笑みを浮かべて視線をぶつけ合えば、ドドドドド、と音が聞こえそうなすさまじい緊迫感が二人の間に流れた。 ルイズは懸命に叫びたててこの賭けは無効だ主人が同意してないから成立しない、と言っているが、この二人は聞き入れる気配など微塵も無い。 やがて愉快げな笑みのまま、ジョセフはキュルケに視線を向けた。 「で、キュルケ。お前はどっちに賭けるんじゃ?」 問われたキュルケは、赤い唇を褐色の指先で色っぽく撫でて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「あたしは、ダーリンの賭けた方に乗るわ」 「ミス・ツェルプストー! 君まで僕に200エキューをただで渡すというのかい!?」 笑いが止まらないとは正にこの事だろうと言う満面の笑みで、ギーシュはキュルケを見やった。 「いいわ、なんなら私もミスタ・グラモンの召使をやってもよくってよ?」 自慢の赤毛を両手でかき上げれば、ふわりと立ち上る女性の色香。 「あ、それはモンモランシーが誤解するから本気でやめて」 「誤解させるつもりだったんだけど」 素で返されたのでキュルケも素で返す。 「じゃ、私も200エキューをベットするわ。それでいいわね」 つまんないわね、と唇をちょっと尖らせてから、ジョセフににまりと笑みを向けた。 「よし! ではわしは『この船の主は空賊ではない』に賭けるッ!」 この時点で賭けは成立した。 「んもう! 本当にどうして私の使い魔は主人の言う事を聞かないのかしら……!」 大きく天を仰いで嘆息しつつ、力が抜けたようにルイズは壁際に寄りかかった。 その時、再びドアが勢い良く開き、随分と痩せぎすの男が入ってきた。空賊はじろりと一行を見渡すと、ニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。 「おめえらは、もしかするとアルビオンの貴族派かい?」 敵意を持った沈黙と、この場にはそぐわない余裕めいた沈黙が空賊に答えた。 「おいおい、黙ってちゃ判らないだろうよ。でもそうだったら失礼したな。俺達は貴族派の皆さんのおかげで商売させてもらってるんだ。王党派に味方しようとする酔狂な連中を捕まえたら、それもまた商売になるって寸法だ」 「じゃあ、この船はやっぱり反乱軍の戦艦なのね」 ほら見ろ、と言わんばかりにギーシュがジョセフに笑って見せた。 「いやいや、俺達は別に雇われてるワケじゃねえ。あくまで対等に協力しあってるだけだ。ま、お前らにゃ関係のないことだがな。で、どうなんだ? 貴族派か? それならちゃーんと港に送ってやるよ」 ねめつけるような空賊の視線に、ルイズはあからさまな怒りの視線をぶつけながら立ち上がった。 「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか! 寝言は寝てから言ってほしいものだわ! 私は誇り高きアルビオン王党派への使いよ、まだあんた達が勝ったわけじゃないんだからアルビオンは王国だし、正当なる政府はアルビオン王室よ!」 凛とした態度を崩さずに、怯えも恐怖も見せずに言ってのける。 「私はトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまりは大使だということよ! だから大使としての扱いをあんた達に要求するわッ!」 ギーシュは今にも顎が外れそうなほど口を大きく開けて、叫んだ。 「きっ……君は大バカか、ミス・ヴァリエールッ!?」 「誰がバカよ! 命惜しさに誇りを捨てて空賊風情に媚を売るだなんてマネを易々とするほうがよっぽどバカだわ!」 ギーシュに向き直ったルイズは、躊躇うことなく怒鳴った。 「それはそうだが、時と場合を選んでくれないか! 君がどういう行動をしようが勝手だがね、それに僕たちまで巻き込むのはやめてくれ!」 「うるさいわね! ならアンタは貴族派ってことにすればいいじゃない!」 「何を言うかミス・ヴァリエール! このグラモン元帥の四男たる僕に、アンリエッタ王女の信を裏切る真似をしろとでも!?」 ムキになって言い返すギーシュを見たキュルケは、呆れた顔で二人を見た。 「これだからトリステインの貴族は……。どうしてこんなに口だけ達者なの?」 頭痛を感じ始めた額に手をやって、やれやれと首を振った。 そんな様子を見ていた空賊はやがてさも楽しげに笑った。 「正直なのは美徳だろうが、お前達ただじゃすまねえぞ」 「あんた達なんかに嘘ついて頭下げるくらいなら、死んだほうがマシよ!」 断言するルイズに、ジョセフが立ち上がると主人に近付いていった。 何をする気か、と空賊も含め、船倉にいる全員の視線を集めたジョセフは、ルイズの横に近付くと、不意に帽子を脱いでルイズの頭に被せ、その上から力強く撫で回した。 「よく言ったッ! よく言ってのけたルイズッ!」 「え、あ!?」 突然のことに真っ赤になりながら、されるがままに頭を撫でられるルイズ。 「そうでなくっちゃな、それだからわしの可愛いご主人様なんじゃよなッ! いいぞルイズ、流石わしのご主人様じゃッ!」 かか、と満面の笑顔のジョセフはそれだけに留まらず、膝を折ってルイズと視線を同じ高さにすると、頭を撫でる手で主人の顔を引き寄せ、頬ずりまでして見せた。 ついに気が狂ったか、と考える者もいたし、はいはいバカ主従バカ主従、と呆れを隠さない者もいた。 「……頭に報告してくる。その間に遺書の文面でも考えてな」 余りの展開に気圧された空賊は去っていった。 「……ところでミス・ヴァリエール。僕達はもう破滅だと思うんだが」 大きく溜息をついて肩を落とすギーシュに、ルイズは毅然と言葉を掛けた。 「最後の最後まで私は諦めないわ。地面に叩きつけられる瞬間まで、ロープが伸びると信じるわ。――それに、私にはジョセフがいるんだもの」 帽子を被せられたまま、躊躇わずに断言したルイズの頭が再び大きな掌で撫でられた。 「あのねえ……ジョジョの手は君がとっくにリザーブしてるじゃないか。僕達はどうしろって言うんだい。せめて嘘くらいついてもバチは当たらないだろう」 もはや死を覚悟し始めたギーシュに、それでもルイズはきっぱり言い切った。 「それとこれは話が別よ! 嘘なんてつけるもんですか、あんな連中に!」 はああ、と大きく溜息を吐いたギーシュは、もはや問答は無駄だと判断して次の言葉を接ぐ事を諦めた。 ワルドもルイズに近付こうとしたが、ジョセフの凄まじい気迫(ワルド以外には欠片も感じさせなかった)に気圧されて近付くことができなかった。 やがて程無くして扉が開いた。先程の痩せぎすの男だった。 「頭がお呼びだ」 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1945.html
「ヴァリエールの名に懸けて必ずお前を八つ裂きにしてやる!!」 いつもの見慣れた自分の部屋、わたしはベッドから身を起こした。 「・・・夢か」 ドン ドン ドン ガチャガチャ 乱暴にノックされ、ドアを開けようとする音が聞こえた。 しかし、鍵をしっかりとかけているのでドアは開かない。 カチリ ガチャ 鍵が勝手に外され、返事も待たずにドアが開けられた。 こんな事をする奴は一人しかいない。 「ちょっとキュルケ『アンロック』は止めてって何時も言ってんでしょーが」 わたしの文句にかまわずにキュルケはズカズカと部屋に入ってきた。 「あのね、朝早くから『八つ裂きにしてやる』なんて聞かされた日には 何事かと思うじゃない」 「あ・・・ご、ごめん。寝言、聞こえちゃってた?」 「寝言ォ?あんた思いっきり叫んでたわよ」 「だから、それは謝るわよ。起こしちゃったみたいね」 わたしは素直に頭を下げた。完全にこちらが悪いのだ。 「いや、それはいいんだけどね」 急にキュルケの態度がしおらしくなった。 「一体『誰を』八つ裂きにするの?」 キュルケが上目遣いに聞いてきた。 「誰って、あなたには関係ないでしょ」 そう、これは、わたしの問題。 「ひょっとして、あの『子爵さま』なの?」 ワルドの事を言っているのだろう。 「・・・違うわ」 キュルケが目をパチクリとさせた。 「ありゃ、違うの?」 「違うわ」 わたしは即答する。 「じゃあ誰よ?」 キュルケがしつこく訊ねてくる。 「それは・・・」 「それは?」 キュルケが続きを促すように復唱する。 「オ・・・」 「オ?」 キュルケが身をググッと前にのめり込ませてきた。 「思い出せない」 キュルケが道化師ばりにズッコケた。 「下着、見えてるわよ」 「おちょくってんの、あんたわー!」 キュルケが怒って出て行った後、身支度を整えながらデルフリンガーに問う。 「ねえ、デルフリンガー」 「なんだ?」 「わたし、寝言を言ってたのよね?」 「みてえだな」 「『誰を』八つ裂きにするか言って無かった?」 「いや、名前は言って無かったな」 「そう」 わたしは、一体『誰を』八つ裂きにしようとしていたのだろう。 そもそも何故そんな事をしようと思ったんだろう・・・思い出せない。 「まあ、何かの拍子で思い出すか・・・」 「なあ、貴族の娘っ子」 「なによ?」 「なんで俺っちを持ってんだ、授業に行くだけだろ?」 「いいじゃない別に、倉庫に入りたいわけ?」 「いや、そういうワケじゃネーけど・・・」 デルフリンガーはプロシュートが持っていた数少ない私物の一つ・・・ わたしはプロシュートが居ないことを常に戒めるためにデルフリンガーを 杖代わりに突いて持ち歩いていた。 教室に入ると、クラスメイトたちが取り囲んだ。 顔を見渡すと、いつものバカにしたような表情ではなく 何か聞きたそうな顔をしてた。 タバサ、キュルケ、ギーシュも同じように取り囲まれていた。 「ねえルイズ、あなたたち、授業を休んでいったいどこに行っていたの?」 モンモランシーが腕を組んで話しかけてきた。 どうやら、ワルドと出発するところを何人かに見られてたみたいね。 タバサは何事も無かった様にじっと本を読んでいる。マイペースな子ね。 キュルケは化粧を直している。あんた人前で・・・娼婦か? ギーシュは足を組み人差し指を立て上機嫌に笑っていた。 しょうがないわね。 わたしは人壁をかきわけギーシュの頬をひっぱたいた。 「なにをするんだね!」 「軽々しくしゃべらないでよね」 わたしは真剣な顔でギーシュに頼んだ。 「・・・すまない、調子に乗りすぎてしまったようだ」 ギーシュは姿勢を正し黙ってしまった。 しかし、その事が逆に好奇心をツンツンと刺激してしまったみたいだ。 再び、わたしを取り囲みうるさく騒ぎはじめた。 「ルイズ!ルイズ!いったい何があったんだよ!」 「なんでもないわ。ちょっとオスマン氏に頼まれて、王宮までお使いに行ってた だけよ。ねえギーシュ、キュルケ、タバサ、そうよね」 ギーシュは素直に頷いた。べネ!(良し!) キュルケは意味深な微笑を浮かべた。このツェルプトーは・・・。 タバサはじっと本を読んでいた。ホント、マイペースな子ね。 クラスメイトたちはつまらなそうに、負け惜しみを並べながら席へと戻っていく。 「そうよねゼロのルイズだもんね、魔法のできないあの子に何か大きな手柄が 立てられるなんて思えないわ!」 モンモランシーがイヤミったらしく言った。我慢我慢。 「フーケを捕まえたのだって、あなたじゃなく、あの怖い使い魔にまかせっきり だったんじゃないの?」 わたしが言い返さない事をいい事に言いたい放題にいってくれるわね。 「だいたい、何であなたがあの使い魔の剣を持っているのよ?」 「預かっているのよ」 「なんで?」 キュルケといいモンモランシーといい、しつこく食いついてくるわね。 「死んだのよ・・・だから、わたしが持っているの」 どうせ隠しても、いずれバレるのだから言ってやった。 「へえ」 モンモランシーは目を細め口元をつり上らせた。 「ひょっとして殺されたのかしら、あの使い魔、ギーシュを倒したぐらいで調子に 乗ってたんじゃないの?」 イマ ナンテ イッタノ コイツ 「取り消しなさい」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 「ひっ」 モンモランシーが悲鳴を上げた。 「プロシュートの侮辱を取り消しなさいって言ってんのよ」 「睨まないで、睨まないでよ」 モンモランシーが首を振りながら後ずさる。 「あんた、わたしをなめてんの!突っ掛かってきておいて今更被害者気取り?」 「ひっ、その『目』で睨まないで」 「謝りなさいって言ってんでしょうが!」 怯えるだけで、ちっとも謝らないモンモランシーに だんだん我慢がならなくなってきた。 キュルケがわたしとモンモランシーの間に割って入ってきた。 「ちょっとルイズ、あんたマジで恐いわよ。その目、まるでダーリンみたいよ」 プロシュート? 「あははははははははははははは」 何言ってるのコイツ。突然に笑い出した、わたしを間の抜けた顔で黙って見る クラスメイトが更に可笑しかった。 「ははははははははは、ふざけないで!!」 わたしはキュルケに一喝した。 「ルッ、ルイズ?」 「キュルケ、あんたの目は節穴なの、わたしの目がプロシュートみたいですって 冗談でも二度と言わないで!!」 「ご、ごめん悪かったわルイズ」 やけに素直に謝るキュルケを置いて、わたしはモンモランシーに向き直した。 「さて、謝ってもらおうかしらモンモランシー」 モンモランシーは涙目になりながら杖を抜いていた。 「なによゼロのルイズのくせに。ちょっと恐い目ができるからって、 いい気にならないで」 魔法で黙らせるつもり?上等じゃない。 「モンモランシー頭上、二メイル」 「へ?」 わたしは素早く杖を抜き呪文を詠唱する。 「ファイアーボール」 狙い通りにモンモランシーの頭上で爆発が起こる。 爆発によりクラスメイトたちは耳を塞ぎしゃがみこんだ。 モンモランシーは腰が抜けたのかヘナヘナと座り込んだ。 「どうするのモンモランシー。あなたが、わたしを溺れさせるのが早いか。 わたしが、あなたを爆発させるのが早いか試してみる?」 モンモランシーが顔を見上げ睨みつけてきた。 「わたしの方が早いわ。わたしは、たった今、唱え終わったんですもの」 モンモランシーが杖を振るうと、わたしの顔が水で覆われた。 「ゴボッ」 なんたる失態、威嚇せずに当てとけば良かったわ。 どうする? デルフリンガーなら、この水を消すことが出来る! 鞘から外し、刃を水に触れさせれば・・・ 「ほほほ、どうしたのゼロのルイズ。まともに喋る事も出来ないみたいね」 モンモランシーが立ち上がり、勝ち誇るように笑う。 「頭を下げなさい。そうすれば『許して』あげるわ」 『許す』ですって?これで頭を下げることが出来なくなったわ。 それは、わたしの『誇り』が許さない。 頭が下げられないのなら剣を持ち上げれば・・・ 重い・・・うまく力が入らない。 「ガボッ」 わたしはデルフリンガーを手放し、水をかき出そうと手を突っ込む。 バシャバシャと水をかき出すが、まったく効果が無かった。 「ほほほ、不様ねゼロのルイズ。さあ、頭を下げなさい」 誰が下げるもんですか・・・息が出来ない・・・ いや、息を『吸う事』ができない。 『吐く事』は出来る・・・そして呪文を唱える事も・・・ 「イン・・・エグズ・・・ベッド・・・ブレイヴ・・ブァイアボール」 わたしは自分に向けて杖を振る。 どぱん 水表面に爆発が起こり、わたしは机に寄り掛かった。 すううううううぅ、空気がこんなにも旨かったなんて知らなかったわ。 「な・な・てま・を」 モンモランシーが目を見開き口をパクパクとさせていた。 なんてまねを? よく聞こえないわ、耳が潰れたかしら・・・ 「さて今度はこちらの番ね『覚悟』はいいかしらモンモランシー?」 モンモランシーは口をパクパクさせている。 ごめんなさい?許して? 「ごめん、聞こえないわ」 『ヤル』と心の中で思ったのならスデに、その行動は完了している! 「ファイアーボール」 モンモランシーの顔面が爆発した。 いや、正確に言うとモンモランシーの目の前で爆発が起こり直撃した。 顔面血まみれになりながらモンモランシーは倒れた。 すぐさまギーシュが駆け寄り、モンモランシーの顔にハンカチを被せ お姫様抱っこをした。 ギーシュが黙って、こちらを見つめている。 「どうするのギーシュ?敵討ちってんなら受けて立つわよ」 もう後には引けない・・・トコトンやってやるわ。 ギーシュの目には敵意が無かった・・・ 黙って首を横に振り、ペコリと頭を下げてから教室から出て行った。 わたしも治癒を受ける為に、おぼつかない足取りで医務室に向かった。 次の日から、わたしに面と向かって『ゼロ』と呼ぶ者はいなくなった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/863.html
「で…だけど、本当にアンタ、何も思い出せないわけ?」 「ああ、本当だ」 ここは、ルイズの部屋だ。ここが『トリステイン』の『魔法学院』ということは教えてもらった。 さっぱり意味がわからん。ルイズの話のことじゃない。 俺はどこにいて、何をしていて、なぜここに来たのか? ルイズの話では、『召喚』というのはこの世界のどこかから『使い魔』というのを連れてくるらしい。 困った事に、オレの故郷はさっぱり思い出せない。 故郷なら知り合いもいるだろう。そうすればきっと名前だってわかるのに……。 そこで、先ほどのルイズの質問と相成ったわけだ。 「でも困ったわね…アンタを『使い魔』とするのに『下僕』とか『犬』じゃあ呼びにくいし… 人前ではカッコがつかないわ……」 「じゃあ…そうね、喜びなさい! このルイズ・ド・ラ・ヴァリエール様が名付け親になってあげるわ!」 「名付け親?」 「そうよ! フフン! わたしのネーミングセンスの見せ所ってワケね!」 ルイズはそう言ってちょっとの間考え込んだ。 「そうね…『トリステインに吹く熱風』と言う意味の! …う~ん、イマイチ、今の忘れて」 ルイズはベッドから立ち上がって窓の側に行く。空は底抜けの碧さだった。 「いい天気ね……」 「ああ…」 「よし、決めた、決めたわ。アンタの名前は『ウェザー』…ウェザーよ」 ウェザー……『天気』か…。 「けど貴族の使い魔になるんだから苗字も必要ね……。ヴァリエールの名はあげられないけど…」 そう言って窓の外を見つめるルイズ。空の蒼と薄桃の髪が対照的だ。 「ウェザー…ウェザー・ブルースカイ……」 今度はこっちを見てきた。けどまた窓のほうに顔を向ける。 「いえ、違うわ……そう、これよ、『ブルーマリン』……アンタの名前よ」 「ウェザー……ブルーマリン?」 「そうよ、ウェザー…『ウェザー・ブルーマリン』、わたしの使い魔」 ウェザー…ウェザーか……いい名前だ。 「ありがとうルイズ。いい名前だ。気に入った」 俺は心から礼を言った。嘘偽りは無い。が、ルイズにはそれが気に入らなかったみたいだ。 「ちょっと! 平民の、それも使い魔の分際で! 貴族を呼び捨てにするとは何事よ!」 どうやら自分の名前を呼ばれたのが気に食わなかったみたいだ。 「いいこと!? わたしを呼ぶ時は『御主人様』というのよ! わかった!?」 「アンタは名前の無い俺に素敵な名前を付けてくれた。この名前はオレの宝物だ。 だからオレのほうもアンタの事を名前で呼びたい。……ダメか?」 「なな…何よ、宝物なんて言っちゃって……当然でしょ! 貴族が名付け親なのよ! け、けど、そそ、そこまで言うなら、な、名前で呼んだって構わないわよ? ありがたく思いなさい!」 「ああ、ありがとう。ルイズ」 「陽が暮れてきたな……」 夕焼けが部屋を赤く染める。 窓の側に立っていたルイズの顔は、夕日よりいっそう赤く見えた。