約 1,076,880 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/51.html
どうやら貴族というものは自分で服を着るという概念はないようだ。 ルイズを着替えさせながらそう思う。目が覚めるとまず私に驚く。私が召還された使い魔だと思い出すと突然、 「服」 と言い出す。まったく貴族という奴は皆こうなのか? ルイズとともに部屋を出る。すると別の部屋からも誰か出てくる。 赤い髪で褐色の肌を持つ女だった。ルイズより背が高く顔の彫りは深い。バストは大きくブラウスのボタンを外し強調されている。 彼女はこちら見ると薄く笑う。 「おはよう。ルイズ」 「おはよう。キュルケ」 ルイズは嫌そうに挨拶を返す。彼女の名前はキュルケというらしい。 「あなたの使い魔って、それ?」 キュルケはこちらを指差すと馬鹿にした風に言う。 「そうよ」 ルイズが意地になって言う。 「あっはっは!ほんとに人間なのね!すごいじゃない!」 やれやれ、貴族というのはこんなのばかりなのか。 まぁ、生活の苦労を知らなければこうなるのは当たり前かもしれないな。 生まれたときから人の上に立ち、甘やかされて育ったのだろう。 ルイズとキュルケが話しているとキュルケが出てきた部屋から赤く大きなトカゲのような生物が現れた。 そこにいるだけで周辺の温度が上がる。 何だこれは? それが顔に出たのだろう。キュルケが笑いながら説明する。どうやらこの生物は火トカゲというらしい。これが彼女の使い魔でフレイムというらしい。 火竜山脈とかいう場所の火トカゲでそこの火トカゲはブランドものらしい。きっと見た目と強さに定評があるのだろう。 「それであなた、お名前は?」 キュルケが聞いてくる。 「吉良吉影だ」 「キラヨシカゲ?変な名前」 そりゃこっちの人間からしたら変だろうな。 しかし目の前で言わなくてもいいものを…… 「じゃあ、お先に失礼」 そう言うとキュルケとフレイムは去っていった。ルイズは悔しいのだろう、文句を言っている。 そういやさっき彼女はルイズを『ゼロのルイズ』と言っていたな。召還されたときも誰かがそう言っていた気がする。 ルイズは私を召還したときに随分と馬鹿にされていたようだ。さっきもそうだ。そこには『ゼロのルイズ』という単語が出てくる。ルイズの あだ名なのだろう。 そういえばルイズは魔法を使ってないな。それが関係しているのだろうな。 ルイズが落ち着いたところで食堂に行く。食堂には大きく長いテーブルが三つ並んでおりテーブルには豪華な飾り付けがしてある。 いかにも「私たちは金持ちだ」見たいな感じで呆れるな。料理も朝から豪勢だ。こいつら胸焼けしないのか? 「椅子を引いてちょうだい」 ルイズが言う。椅子を引いてやる。 するとルイズが何か渡してくる。スープだ。そして皿の端にパンを二切れ置く。 「あんたの朝ごはんよ。私の特別な計らいで床で食べていいわ」 そういえば人間は食事を取らないといけないんだったな。理不尽だが我慢する。 少しの辛抱だ。こんなな小娘の言うことを利くのは情報を得るためだ。自分に言い聞かせる。 なにやら祈りが唱和される。こいつらにとってこれがささやかな糧か。早死にするぞ。 5へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/91.html
偉大なる使い魔-1 偉大なる使い魔-2 偉大なる使い魔-3 偉大なる使い魔-4 偉大なる使い魔-5 偉大なる使い魔-6 偉大なる使い魔-7 偉大なる使い魔-8 偉大なる使い魔-9 偉大なる使い魔-10 偉大なる使い魔-11 偉大なる使い魔-12 偉大なる使い魔-13 偉大なる使い魔-14 偉大なる使い魔-15 偉大なる使い魔-16 偉大なる使い魔-17 偉大なる使い魔-18 偉大なる使い魔-19 偉大なる使い魔-20 偉大なる使い魔-21 偉大なる使い魔-22 偉大なる使い魔-23 偉大なる使い魔-24 偉大なる使い魔-25 偉大なる使い魔-26 偉大なる使い魔-27 偉大なる使い魔-28 偉大なる使い魔-29 偉大なる使い魔-30 偉大なる使い魔-31 偉大なる使い魔-32 偉大なる使い魔-33 偉大なる使い魔-34 偉大なる使い魔-35 偉大なる使い魔-36 偉大なる使い魔-37 偉大なる使い魔-38 偉大なる使い魔-39 偉大なる使い魔-40 偉大なる使い魔-41 偉大なる使い魔-42
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1790.html
猫の姿なぞ見えないのに猫の鳴声がするだのでプチ幽霊騒ぎが起こっているが、正体はもちろん猫草である。 その猫草がヴァリエール家に住み着いてから約二ヶ月。 「…マジか?」 「ええ、明日の夜ぐらいに着くって姉様がフクロウで」 「ウニャ!ニャ!ニャ!ニャ!」 ボールを転がして遊んでいる猫草の鳴声を背景に出た言葉が『マジか?』である。 覚悟はしていたが遂に来た。元ギャングをしてこれほどの反応を示す物。 つまり、遂にルイズがここに帰ってくるという事だ。 無駄に広い領地なので老化もあるし、まぁ大丈夫だとは思うが一応警戒態勢に入らねばならない。 「ニャギ!フギャ!ニャン!ニャ!」 「ルセーぞ」 何かヒートアップしてきた猫草の上に布を被せる。 しばらくもがいていたが、寝たようだ。自由奔放もいいとこである。 草だが猫。猫だが草。奇妙という言葉が最も似合う生物。 そして、その奇妙な生物を見て一発で猫だとのたまったカトレアのド天然さも。 ある意味似た者同士かもしれない。違うのは健康の問題ぐらいか。 この後、カトレアが先発して旅籠まで出迎えに行った。もちろん、動物満載の馬車で。 なお、猫草は居残りである。こいつ、猫だけあって人の好き嫌いが結構激しい。 多分、エレオノールあたりを見れば空気弾を撃ちこみかねない。 布の下でゴロゴロ音を出して爆睡している猫草の顎の下を触る。 紛れもない植物の感触に僅かに伝わる音の振動。…イタリアは猫が多いが、こいつ程好き勝手やってる猫もいねーだろとマジに思う。 とりあえず今は、来るべき来訪者に備え仕事を済ませておかねばならなかった。 そのヴァリエール家領地を進んでいるのは、ルイズ、エレオノール姉様、犬、シエスタの四名。 この前から三日後。さらに犬がアンリエッタとキスしていたという事で、色々格下げである。 まぁそれだけ気になっているという事かもしれんが。 職業メイドたるシエスタも何故居るかというと、エレオノール曰く『ど、道中の侍女はこの娘でいいわ』とのことだが、実際のところ理由は別にある。 ルイズを連れ戻しに学院に乗り込んだ姉様であるが、幾分勝手が分からないので見当違いなところまで入ってしまっていた。 「まったく…あの子ったら、戦争に着いていくなんて勝手なことを言って」 文句たれながら院内を歩くエレオノールだが、戦争という事でそれなりにルイズの事を心配しているようだ。 次に入ったのは風の塔。いい加減魔法でこちらの存在をアピールしようかと思ったが、そんな事やったら多分マズイので自重する。 人に聞けばいいのだが、不機嫌オーラ全開でドS丸出しのエレオノールに近付きたがる人はあまり居ないらしい。 メイジであれ平民であれドMはそうそう居ないものだ。 段々ムカついてきたのだが、倉庫の前で声が聞こえた。 丁度いい。人が居るなら聞こう。というか口を割らす。 ギャングの考え方になってきたが、妖精さんの件で一杯一杯なのである。 だが、入ると同時にエレオノールの顔が歪む。 視線の先には水兵服とスカートに身を包んだ…いやそれだけならまだいいが、小太りの『メーーーーーン!』だったからだ! 「はぁ…んぉ、ハァハァ…かか、かわいいよ…」 しかもなにやら悶えているご様子。扉を開けた様子にすら気付いていない。 「ぼ、ぼくはもう…う、うあああ」 生涯初めて見てはいけない物という物を見てしまった気がするが、気の強いエレオノール。これしきの事でひるんだりはしない。 「あなた、なにやってるの!」 「ひぃぃいいいいい」 その声に逃げようとした人が足をもつれさせ床をのた打ち回っていたが、その近くには『嘘つきの鏡』があった まず真っ先に嫌悪感が先行したし、こんな人の居ないとこでコソコソ怪しい事をやているということで、その背中を思いっきり踏んだ。 「使用人の分際で、こんな場所でなにやってるのかしらね…しかも、そんな格好で…汚らわしいわッ!」 踏んでいる足の力を強める。あの使用人(兄貴)に頭が上がらなくなったせいで、ストレスというものが溜まっているのだ。 「あ!んあ!あ!ふぁ!」 豚のような悲鳴をあげていたが、少々上気した顔で男が答え始めた。 「こ、この服があまりんも可憐すぎて…で、でもぼくには着てくれる人が居ないから…う、うぉぉお!」 「それで自分で着て、その『嘘つきの鏡』でって事?…情けないわねッ!」 グリィ! そんな音が聞こえそうなぐらい足をグリグリと動かすと、男が悲鳴をあげるが、どことなく悦んでいるような気がする。 「ハァハァ…あの時見た姿はまさに感動だ!ぼくのハートは可憐な官能で焦げてしまいそうさ! だから、その想いのよすがに、せめてこの鏡に自分の姿を映して…ああ、ぼくは…ぼくはなんて可憐な妖精さんなんだ…!あぁああああッ!」 即席とはいえ士官訓練を二ヶ月終え、空軍に配属され水兵服を見て彼が思い出したのは、あのルイズの姿。 乗艦する前に水兵服を一着かっぱらい、わざわざ抜け出して学院に戻ってきてのご乱行である。 そして『妖精さん』。今最もエレオノールが聞きたくない言葉にして忘れたい言葉だ。 それをわざわざ思い出させてくれたこのド変態をどうしてくれようかと思い、さらに踏む力を強める。 「あ!ああ!誰か知らないけど、あなたみたいな美しい人に踏まれて、我を忘れそうだ!う、うお、うおお!」 「おだまり!」 「ふひぃぃ!こんなところで可憐な妖精さんを気取ってしまったぼくにもっと罰をッ!お願いだ!ぼくの顔を踏んでくれ! 我を忘れた僕の罪と一緒に押しつぶしてくれ!そうだ、圧迫だ!呼吸が止まるぐらい!もう耐えられないッ!踏んでくれ!早く!」 「 『 圧 迫 祭 り 』 だ ッ ! ! 」 「まだ言うか!」 二回目の禁句。それに従い、顔を思いっきり踏み付け、鞭を取り出し打つ。 「もっとだ!もっと乗って!強くッ!ふぎぃ!?あぐ!ほごぉ!あぎぃ!」 「黙れと言っている!この豚!」 「ぶ、豚……?ああ、そうさ、ぼくは豚だ…!この醜くて卑しい豚にもっと罰をォーーーーーーー!!あ!あ!んああぁああああ!」 別世界に到達した男が気絶したが、その表情は達している。 「まったく…平民はこれだから…」 養豚場の豚を見るような目で気絶した男を見ているが、実際のところ平民ではなく、ここの生徒である。 が、扉の方から音。 そこにいたのは、かなり顔を赤らめているメイド。ご存知シエスタだ。 「ああ…やっぱり貴族の方達って、あの小説に書かれているような事を……」 『バタフライ伯爵夫人の優雅な一日』 トリスタニアで今人気の読み物らしく、倹約派のシエスタも自費で購入し読んだばかりである。 内容は『高貴な女性の口にはできない欲求が積もり積もって…』。言うまでもなくR指定相当の物だが、この世界にそんな概念など無い。 今のシエスタの目の前の光景は、どう見てもドMの豚に鞭を振るって悦に入っているドSの女王様なのだから、そう思うのも仕方無い。 小説にもそんな話があっただけに、もう間違いない。 ふとエレオノールと視線が合う。 マズイ。イケナイモノを見てしまったと思い、下手すれば次に鞭が振るわれるのは自分だと判断したようだ。 「ごご、ごめんなさい!」 踵を返し走り去ったが、テンション絶賛上昇中である。 どこか、うっとりしたような感じで顔を赤らめながら走っているが、まぁ無理も無い。 だが、エレオノールはそうはいかない。 『HOLY SHIT!』である。当人にしてみれば、そんなつもりは無かったが、状況的にそうなってしまっていると今更ながら理解した。 顔を踏んでいた足。手に持った鞭。『豚』発言。 状況証拠だけで殺人罪が立件できそうな勢いだ。 そしてそれを見られてしまった。 「ごご、ごめんなさい!」 そう言って顔を赤らめさせながら逃げ出したメイドを見て、血の気が本気で引く。 『妖精さん』だけではなく『女王様』という称号まで頂いてしまえば、再起不能どころか自殺モノだ。 さらに平民の中での噂が伝わる速度が恐ろしく早い事も知っている。 そして、それは何時か貴族の中にも… 『ヴァリエール家の長女が婚約を解消された理由は、夜な夜な伯爵を鞭で打っていたからだ』 「ま、待ちなさい!ていうか待って!お願い!」 そんな噂が貴族社会で流れる事を想像しながら、必死になって追いかける。 生涯これ程焦った事は無い。前回の件を一気に更新して最高記録である。 そして誰も居なくなった倉庫の中で、散々踏まれ、鞭で打たれ、罵られた男。 マリコヌルが達してしまっている顔で何かに目覚めていた。 というわけで、必死こいて説明し監視も兼ねて連れてきたという事である。 なお、半分涙目だったのは言うまでも無い。 「サイトさん…世の中知っちゃイケナイ事って結構あるんですね…」 「一体何が…」 どこか遠くを見て達観したような表情のシエスタと才人が乗った馬車と その後方にエレオノールとルイズが乗った馬車が続くが、前の馬車よりも立派な後ろの馬車からは妙なオーラが滲み出ている。 「ね、姉様…学院でなにふぁいだ!いだい!あう!」 「いい事、ちびルイズ?世の中には知らないでいい事が沢山あるの。それなのに、なんで見に寄ってくるのかしらね……?見なくてもいいものをッ!!」 今にも、この世はアホだらけなのかァ~~~~ッ! と言いながら目に指を突っ込まんばかりにルイズの頬をエレオノールがつねる。 今ならギャングのボスも立派に務まりそうだ。 「わ、わかりまひた…」 「戦争に行くだなんて。あなたが行ってどうするの!しっかりお父様とお母様に叱ってもらいますからね!」 「で、でも…この前の任務の時は…」 「あなた、戦争がどういう物か分かってるの?街での任務なんかとは一緒にしない!」 情けない声をあげて押し黙るが、エレノオールですらこれだ。ルイズには烈風を説得できるか非常に不安だった。 そんなギャングのボスと化さんばかりのエレオノールを乗せた馬車の前の才人だが、気分は暗い。 ルイズが戦争に参加するという事は、自分もゼロ戦ひっさげての参陣となる。 戦争なぞ17年生きてきて初めての体験だ。正直言えばやりたくなぞないが あの時のアンリエッタを見て『この可哀想なお姫様の手助けをしてやりたい』という気持ちが湧き上がっていた。 そういえば、姫様も結構胸が大きかったなー。 ああ、この戦争終わったらセーラー服着た姿見たい。多分、いや絶対似合う。清純そうだし。 そんな、けしからん妄想を犬がしていると、シエスタが曇った顔をして話しかけてきた。 「サイトさんも、アルビオンに行くんでしょう?」 「え?…ああ、うん」 シエスタも似合いそうだなー。と引き続き煩悩モード満載だったが、とりあえず現実に戻った。 「わたし、貴族の人達が嫌いです…自分達だけで殺し合いをすればいいのに…わたし達平民も巻き込んで…」 「戦争を終わらせるためだって言ってたけどな」 「戦は戦です。サイトさんが行く理由なんて無いじゃないですか」 元が同じ故郷という事で、それなりに、というかかなり親しくはなった。 「そうなんだけど…あいつが、そのままいるんだったら…多分、ルイズと一緒に行ってたと思うんだ。だから俺も」 実際のところ、その『あいつ』は親玉狙いで真正面からドンパチやる気は全く無い。 「死んじゃ嫌ですからね…知ってる人がいなくなるってのは、もう見たく無いんです」 ああ、もう可愛いなチクショー。ルイズとは大違いだ。いや、ルイズも可愛いけど精神的な意味で。 そんな事を思いつつも、プロシュートとの距離は確実に狭まっていた。 「こんなもんか」 一通りの仕事を終えて一息つく。 後ろで猫草がゴロゴロ鳴きながら寝ているのがムカつくがまぁ良しとしよう。 後は他のヤツに任せて適当にバックレてれば大丈夫なはずだ。 大体何時も飯食うときにあんな人並ばせる必要があんのかと。 刺客が紛れてたら死ぬぞ。と、元暗殺者として常々思う。 メイジといっても飯時を狙われたらどうしようも無いはずだ。 常に警戒してんのか、単に城の中に居るから安心しきってんのかのどっちかだとは思うがイタリアなら軽く2~3回は死んでいると考えなくもない。 プロはリスクを恐れてこういう所はあまり狙いたがらないのだが、追い込まれてテンパったカタギが自爆覚悟で襲撃してくる事がある。 後先考えていないだけに、そういう素人が一番怖い。 もちろん、暗殺チームはそんな事関係無しに殺ってきたが。 適当にバックレてる間に飯も終わったようで、一応の警戒はしているが視界の範囲にルイズの姿は無かった。 が、カトレアの部屋の方からルイズの短い悲鳴。数人の使用人が何事かと出てきたが 続いて『ニャーン』という鳴声が聞こえたので猫草だな。と納得した。 普通はああいう反応だろう。やはりカトレアは何かが違う。 次いで遭遇するとマズイのがシエスタだが これは、性格的に勝手が分からない場所だけあって、あまり部屋の外から出ないから大丈夫なはずだ。 そして、問題無いのが才人だ。 老化してりゃあバレやあせんだろうし、顔を合わせたのも一回だけだ。 むしろ、ここは後退するより前に出て才人から近況情報手に入れるのが得策かもしれないと判断した。 そう決めると早速行動開始だ。軽く捜したがすぐ見付かった。 つーか、負のオーラ全開でマンモーニさを限りなくアピールしていた。 説教した後のペッシがあんな感じだ。 元暗殺者に完全ロックオンされたとは露知らず、改めて身分差というものを痛感させられていた才人が浸っていると声を掛けられた。 もちろんヴァリエール家仕様で、髪型変えて、老化しているダンディさ300%増しのプロシュートである。 「シケた面してなにやってやがる。使い魔がルイズの側にいなくていいのか?」 「え、ああ。凄い城なんで、なんだか気後れしちまって。って、いいんですか?お嬢様を呼び捨てにして」 「構うこたぁねー。バレなきゃいいんだよ。バレなけりゃあな」 限りなくタメ口で軽く話しかけてきた男に気が緩んだのか、多少才人が明るくなる。相変わらず立ち直りだけは早いようだ。 「で…どんなだよ?使い魔ってのは」 「どんなって……優しい時もあるけど、犬って言われたり、鞭で叩かれたり…」 叩かれていたりするのは、まぁ自分に責任があるのだが、ダーティ入っている時、人はどんどんそっちに進むものである。 「たっく…全然、変わってねーな」 「昔から、あんなだったんですか?」 昔っつっても、月単位の事だ。そうそう変わりはしない。 「ああ、一回怒ると中々おさまんねーからな。そんなに嫌なんだったらさっさと逃げちまえ。稼ぎ口ぐらいは紹介してやんぜ?」 「それはできませんよ。一応、俺はあいつの使い魔だし……それに逃げたら、前のヤツに負けたような気がして」 (意地だけは一端ってワケか) よもや目の前の男が、先代だと思っていないようでどんどん話してくれるが 纏めると『あまりの貴族っぷりにビビって身分の違いを思い知り凹んでいる』という事らしい。 「少しそこで待ってろ」 プロシュートが厨房に消えていったが、しばらくすると壜を一本持ってきてそれを投げてきた。 「うわ!危ねぇ…これ、何ですか?」 「見りゃ分かんだろ。酒だ」 落としそうになったがなんとか受け取る才人だったが、不思議そうな顔をしている。 「いや、それは分かりますけど」 「適当にかっさらってきたが…まぁそこいらの安酒よりは良いモンだと思うぜ」 「いや、いいんですか?ここで働いてるのに」 「ハッ…!言ったろーが、バレなけりゃあいいんだよ。部屋がアレだろーからな。酒ぐらいは良いモン飲んでも構わねーだろ?」 全ての思考は、『ギられた方が悪い』。まさにギャング。 「あ、ありがとうございます」 「じゃあな。面倒だろうが、やるならトコトンやりな」 ナイスミドル!! 軽く笑いながらの顔を見て才人が本気でそう思う。 今の精神状態ならホイホイついていってしまいそうだ。 無論、誘ってもいないので、ついて来られても困るのだが。 ヴァリエール家に来てようやく人間扱いを受けたような気がして泣きそうな才人だったが とりあえず、廊下で飲むのもなんなので部屋に戻る事にしたのだが、先客がいた。 「遅い」 「…シシ、シエスタさん?」 部屋の中には、グビィと荒れている英国貴族を髣髴とさせる飲みっぷりのシエスタがいた 目が完全に据わっている。なんというかギャングっぽい。 「せっかく遊びにきたのに、居ないってのはどういう事れすか」 「い、いや、ちょっと話してて」 「ミス・ヴァリエールとですか。なんだかんだ言ってやっぱりそうですか」 「俺はルイズの事はなんとも…」 「まぁいいサイト。お前も飲め」 スゴ味を含ませた声でシエスタが呟く。ドスが効いててなんか怖い。 「い、いただきます」 怖いので差し出されたままの酒を飲む。 この後、才人が潰れるまで酔っ払いと使い魔によるほぼ一方的な酒リレーが行なわれる事になった。 酒リレーが開催されている中、ルイズはカトレアの部屋にまだ居た。 何故か知らんが、猫草を挟んで一緒に寝ている。 最初は驚いたものの、猫草が出す空気クッションが気に入ったらしい そのうちルイズが毛布被って外に出て行ったが、向かった部屋の先はある意味地獄に近かった。 「あら、いらっしゃい。ミス・ヴァリエール」 「なな、なんであんたがいるのよ!」 「する事が無いので遊びにきただけれすけど」 酒で顔を赤くしているシエスタと、なにか分からんが喰らえッ!的な感情で赤くしているルイズ。 こちらも対照的である。 そして、潰れている才人。もう少し飲んでいれば、ドッピオみたいに釘を吐いているような姿が見られたかもしれない。 「ミス・ヴァリエール」 「な、なによ…!」 こんな部屋でなにやってたのかと想像して、沸騰しかけのルイズだったが、シエスタの妙な迫力に押されていた。 「飲め」 ズイィっと差し出される酒瓶。プロシュートが見るに見かねて才人にギってきたのを渡したやつだが、もう半分程開いている。 「どうしたのよ、これ」 「とりあえず、飲め」 「そんな事いいから、自分の部屋に戻りなさい」 負けじと言い返したが、シエスタがルイズに顔を近づけてきた。 「サイトさんの事、好きなんでしょ?ハッキリ言ったらどうですか」 「な、な…!」 唐突に本丸を攻められルイズがうろたえる。『ジャーーーン ジャーーーーン』という音が聞こえそうなぐらいに。 「ち、違うわよ!な、なんでこんなヤツ…」 必死になって否定したが、気になっている事は確かで、現在心拍数絶賛上昇中だ。 そんな様子のルイズをシエスタがジーっと見つめ… 「……汗かいてますね」 「こ、これは暑いだけで、べ、別に…ひゃわん!」 ルイズの頬を伝う汗を舐めたッ! 「この味は…嘘をついてる味です…!ミス・ヴァリエールッ!」 「あ、あう…うぅ…ふひゃあ!」 「どうなんですか?…質問は既に…拷問に変わってるのれす」 汗を舐められるなぞ初体験だったので戸惑っていたのだが、続けざまにシエスタがルイズの平原…もとい胸を触っている。エロイ 「や、やめ……この、ぶぶぶ、無礼者…ひぁ!」 「無駄です。無駄無駄。そんな板じゃサイトさんは振り向いてくれません。わたしが大きくしてさしあげます」 遂に両の手でガッシリとつかみ始めた。…つかむ箇所があるかどうか知らんが。 「い、板じゃないもん」 「一度言った事を二度言わなきゃ分からないってのは、その人の頭が悪いって事です。贔屓目に見ても板です」 完全にギャングと化したシエスタだが、構わずにルイズの平原を掴んで手を動かしている。 とりあえず満足したのか手を離すと転がっていた酒瓶を抱えると外に出ていった。 「ひっく。早めに捕まえないと待ってるだけになるんですから」 「あ……」 少しだけ落ち着いた口調でそう言ったが ここ数ヶ月任務やら、ザ・ニュー・使い魔のおかげで頭の隅に追いやってあまり考えなかったが、意味する事に空気の読めないルイズも気付いた。 「そういえば、そうだったっけ…死んだかもしれないなんてとてもじゃないけど言えないわ……」 実際のとこ生存云々どころか同じ場所にいるのだが、全く気付かれては無いというのはプロと素人の差というやつだろう。 そして、寝るべく廊下を闊歩しているプロシュートの視界に入った珍妙な生物がそこに居た。 「…なんだこいつは」 目の前に映るのは、空の酒瓶抱いて廊下で倒れている非常によく見知った顔。 さすがにメイド服ではないが、猫草に負けないぐらい爆睡かましているシエスタだ。 「うお…酒クセー。なんであいつにやった酒持ってんだこいつ」 とりあえず、邪魔というか、こんなとこで寝てられても困る。 こんだけ潰れてれば起きないだろうとして抱えると運ぶ。とりあえず、部屋の場所は聞き出せたので運んだ。 「オレはこんなキャラしてねーぞ」 文句言いながら、シエスタをベッドに放り投げるように運んだが、介護キャラじゃあない。 相手を介護が必要にさせるように追い込んだ事は数え切れないが。 そんな事を考えながら、ドアの方に向き直って外に出ようとしたが、後ろからプレッシャーというかスゴ味を感じた。 そう…擬音が出んばかりにシエスタが立ち上がっていたからであるッ! 「な…ッ!バカな…こいつ起きて…!うぉおおおお!?」 急だったので、さすがの元ギャングも対処できずに押し倒される形となったが、色々とヤバイ。 何だ、この状況は!?カタギに元ギャングが倒されるってどういう事だよッ! それ以前に、このヤローどういうつもりだ!起きてたならせめて言いやがれ!クソッ馬鹿にしやがってッ! いや、この場合ヤローって言うのか?男じゃねーしな。あー、もうそんな事はどうでもいい。メローネでもいいから助けやがれってんだド畜生が! http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0411.jpg http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0409.jpg 0.5秒の間にそんな事を考えたが、バレちまったモンは仕方無い。 ルイズとかにバレるよりはマシだ。 失敗は前向きに利用しなくてはならないとリゾットも言ってたはずだ。 「おい、オメー…とりあえず退け。どういうつもりか知んねーがな……こいつ……寝てやがる」 反応が無いので妙だと思ったがどうも寝ボケていただけのようだ。 一先ず安堵したが、そう安心してられない。 こんだけ焦ったのも久しぶりだ。 シエスタを引っぺがすが、スーツに涎が付いている。ヴァリエール家の私物の方だからいいが、持ち込んだ方だったら説教かましてるとこだ。 壁に背を預け溜息を吐いたが、引っぺがしたシエスタが重力に従ってもたれ掛かってきた。 試しに頬を少し強めにつまむ。 反応は無い。まぁ大丈夫だとは思う事にした。 というか、最近マジで胃が痛くなってきたかもしれない。今度水のメイジにでも診てもらおう。 手を離したが、シエスタは変わらない顔で爆睡している。 「しっかし…のん気そーな面ぁしてやがんぜ」 ペッシを除いた暗殺チームは寝ている時もかなり神経使っていた。 ギアッチョやイルーゾォはともかくとして、プロシュートは殆どの時はスタンドを出して寝ている。 今もそうだ。これも結構スタンドパワーを使うのである。 ルイズ達もそうだったが、かなり無防備な寝顔のシエスタを見て、少しばかり羨ましくなった。 襲撃を気にせず寝ていた時なぞ何時以来だったかと思ったが、思い出せそうに無い。 難儀な商売やってたなと思ったが、別段後悔はしない。 相変わらず、涎垂らして爆睡決め込んでいるシエスタだったが、なんかの夢でも見ているのだろうか腕を掴まれた。 「…やっと捕まえ…もう離しま……から……」 「なに見てやがんだかな」 この元ギャング、よもや自分の事だとは全く思わないし、思おうともしない。この元ギャングも大概ド天然である。 いい加減出たいので、腕を振るが、ガッシリと掴まれて離れない。 手でこじ開けてもすぐ、また掴んで離れない。 「……起きてんじゃねーだろうな」 これで狸寝入りだったら相当黒い。ブラック・サバス並に真っ黒だ。 どうしたもんかと、髪掻きながらマジに考えたが対処法が思いつかない。 典型的な強打者タイプのボクサーだ。普段が打つ方だけに、こういう打たれ方をされると弱い。 しかも、悪意無しにされると反撃のしようも無い。ある意味、こういうのが真の邪悪というのかもしれない。 「こいつまだ持ってたのか。メローネに売りつけられたモンなんだがな…そんな良い物か…?」 面倒だと思いながら視界に入ったのは、この前くれてやった飾りだ。 メローネに半分押し付けられんばかりに売りつけられたのだが、案外気に入っていた。 それを欲しい言われた時は、まぁ世話なってたしくれてやったのだが、他人がそこまで常備するようなモンでも無いだろとは思う。 徹夜で他のヤツの仕事引き受けて、バックレるための暇作っていたため、多少なりとも寝ておきたかったのだが 現状、無理矢理引っぺがすにしても何か知らんが妙に喰らいついてくる。 腕を飛ばされようが脚をもがれようともな!と言わんばかりに これ以上強くやると起きて面倒な事になりかねない。かといってこのまま寝ると洒落にならない気がする。 「仕方ねー…気が済むまで居てやっが、これでゼロ戦の貸しはねぇからな」 その内離れんだろと思っていたが、結構粘る。一時間経っても離れやしない。 「くそ…何なんだこいつ…」 元ギャング。しかも暗殺者にこんだけ遠慮が無いヤツってのは見た事が無い。 いい加減もうどうでもよくなってきた。 出たとこ勝負。そう考えると寝る事に決めた。 眠いものは眠い。こいつが起きるより早く起きればいい事だ。 バレたらバレたで黙らせばいい。こんだけ広けりゃルイズ達には聞こえないだろう。 何時もと同じようにグレイトフル・デッドを出したが思い直す。 横でアホみたいに涎垂らして爆睡しているヤツを見たら、スタンド出して寝るのがバカらしくなってきたからだ。 メタリカなら気にしなくてもいいんだがな、と思うと寝た。 同じ場所で寝る元ギャングと現役メイド。相変わらず実に奇妙な組み合わせであった。 ルイズ― 潰れている才人を見てムカついたのか一発蹴り入れてカトレアの部屋に戻った。 …が板と言われた上、色々やられたので部屋に付く頃には半泣きだった。 猫草―常に18時間ぐらいは寝て、起きている時は食ったり遊んだり、犬とは違って充実している。 マリコルヌ―覚☆醒! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/784.html
使い魔ファイト-1 使い魔ファイト-2 使い魔ファイト-3 使い魔ファイト-4 使い魔ファイト-5 使い魔ファイト-6 使い魔ファイト-7 使い魔ファイト-8 使い魔ファイト-9 使い魔ファイト-10 使い魔ファイト-11 使い魔ファイト-12 使い魔ファイト-13 使い魔ファイト-14 使い魔ファイト-15 使い魔ファイト-16 使い魔ファイト-17 使い魔ファイト-18 使い魔ファイト-19 使い魔ファイト-20 使い魔ファイト-21 使い魔ファイト-22 使い魔ファイト-23 使い魔ファイト-24 使い魔ファイト-25 使い魔ファイト-26 使い魔ファイト-27 使い魔ファイト-28
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/694.html
翌日、いよいよ始まった品評会。舞台の上では次々と二年生たちが自身の使 い魔の特技を披露している。うち何名かは単なる大道芸になっていたりする のだが、滞りなく進行していた。 そして、ついに、ルイズの名前が呼ばれた。彼女は先日とは違い、覚悟を決 めたのか凛とした表情で己の使い魔を連れたって舞台に上った。 ルイズのクラスメイトや数名の教師、自分の仕事をしているものたち以外は ざわめきを起こす。それでも彼女は動揺しなかった。 「私の使い魔を紹介いたします。名はンドゥールです」 「がんばれー、『ゼロ』のルイズー」 野次が飛ぶ。その二つ名の意味を知っているものたちからは笑いが生まれる。 それでも顔をうつむかせない。 「見てのとおり、彼は人間です」 さっきより大きな笑いが起こる。こんな罵声はわかっていたことだ。 それに負けぬよう、彼女は己の胸を張って言い放った。端的にンドゥールの 特技というか得意なことを表すもの。 「――この場の誰より強い人間です!」 笑い声も何もかもが消え、しんとなった。ルイズは表情を硬くして、観衆を 見つめながら思った。 (言っちゃった………) 「なら誰かとやってみろよ!」 予想通りの声が飛んできた。それを合図にしてかざわつきが生まれ、それは 加速度的に大きくなっていく。教師たちは静まらせようとしたが、その必要 はなかった。 親衛隊の一人がゆっくりと手を上げた。 「私が相手になりましょう」 今度はどよめきだ。トリステインで親衛隊というものは男児であれば誰もが 入隊を夢見る部隊。それほどの実績と、吟味された力がある。そんな人物と 戦う。 ルイズはやっぱりやめにしないかなあと思った。勝てるとは到底思えなかっ たのだ。 「礼を言う」 だが、ンドゥールはそんな主人の心配などお構いなしに了承した。 わかっていたことである。元々、ンドゥールが親衛隊の中から適当に一人選 んで戦わせてくれと王女に頼んだのだ。なれば受けるのは当然の流れ。 ルイズは舞台に歩いてい来る騎士を見た。精悍な顔にマントの下にある鎧か らあふれる威厳、別にンドゥールを弱いと思っているわけではないが、いく らなんでも相手が悪すぎる。 そう思っていた。 すぐさま刃引きされた剣が用意される。勝負はどちらかが自身の敗北を認め ることで終わる。魔法は自由だ。ルイズはここまで来てしまってはもう止め ようなどとは思わなかったが、下がる前にンドゥールに尋ねた。 「これ、使う?」 ルイズは懐から水筒を出した。彼が異常聴覚以外になにか特別なものをもっ ているのは確かだが、具体的にはわかっていない。それでも水を使うことを 彼女は知っている。 「一応、いただいておこう」 ンドゥールはそれをズボンのポッケに入れて、騎士と対峙した。その人物は 剣を構え、目を尖らせている。杖を取り出さないことから魔法を使う気はな いようだった。対するンドゥールは、左手に剣を握っているものの構えては いなかった。 しばらくどちらも動かなかったが、痺れを切らしたのか騎士がじりじりとす り足で近づいた。やがて互いの間合いに入る。 騎士が剣を振りかぶり、床を蹴った。 ンドゥールの左手が光った。 「んぬお!」 騎士が苦悶の叫びを上げた。 鎧の横っ腹に目にいつのまにか剣が食い込んでいた。 「まいった……」 今度は逆に喝采があがった。野次を掛けていたものたちも大きな拍手を鳴ら している。騎士は一礼をしてから舞台から降りていった。 「やっぱりタバサのシルフィードか。ま、妥当なとこよね」 キュルケが舞台を見てそんなことをいった。隣にはギーシュやルイズもいる が、ンドゥールの姿はない。彼は生徒ではなく使い魔の立場である。そのた め席が用意されておらず、ほかの使い魔たちとともに中庭の隅で鎮座してい た。 「ダーリンもなかなかだったけどねえ。ルイズ、悔しくないの?」 「あれだけやってのけたら十分じゃないの。本当に親衛隊を倒すなんてこっ ちが驚いたわ」 「そうよね。ますます惚れ直しちゃったわ」 「言っときなさい。でも、おかしいのよね。剣は使えなかったはずなのよ。 自分でも言ってたもの」 「あんなあっさり倒したのに?」 「うん」 二人の視線が木陰で休んでいるンドゥールに注がれる。もしかして、あれが デルフリンガーの言っていたことなのかしら、と、ルイズは思った。 舞台上では王女がもう一度竜で舞ってほしいと頼んでいた。それに応じ、タ バサは使い魔に乗りあがった。 「あれ?」 自分の使い魔が選ばれずにいてうなだれていたギーシュが声をだす。静粛な 場にふさわしくないそれを隣席のモンモランシーが注意する。 「どうしたのよ」 「いや、彼、なにをしてるのかなって」 「誰よ」 「ンドゥール、ルイズの使い魔だよ」 その名前にモンモランシーだけでなくキュルケ、ルイズもそちらを見た。 ンドゥールは、使い魔の群れから離れて歩いていた。向かっていく先は外に 繋がる門である。 「あいつ……!」 「ちょっと駄目よ。座ってなさいな」 席を立とうとするルイズをキュルケがとめる。渋々それに従った。 「でも、彼はどこへ行こうっていうんだろうね」 「さあ。でもそろそろ黙ったほうがいいんじゃないの? 先生たちがこっち 見てるわよ」 モンモランシーがそう言うとぴたりと全員口を閉じてしまったが、ルイズだ けはそわそわと落ち着きがなかった。 (どこに行くのよ) 自分が戦いを頼んだのだから腹が立ったなんてわけではないだろう。それに なんだか妙に急いでいる。一体なんだというのだ。 答えはすぐにわかった。というよりもわからされた。突如、彼が向かってい る門が破られたのだ。 「なに!?」 いち早くルイズがそれを見た。そしてルイズの隣にいた者たち、舞台にいる ものたちと波紋が広がるように次々と門から出てきたものに気づいていった。 人型、薄茶色の肌、城壁と同じ背、生えている草、ところどころ穴が開いて いるがメイジならすぐさまそれがなんなのか理解する。 「ゴーレム!」 「姫殿下をお守りしろ!」 その声に応じて親衛隊が王女の周りを固めた。学院の教師たちは自身の杖を 取り出す。 「あんのバカ! 気づいてたらいいなさいよ!」 ルイズも杖を取り出し、魔法を唱えだすが横から口をふさがれる。 「ふがふ! ふがふがががー!」 「あんたが魔法使ったって失敗しかしないでしょ。使い魔を殺す気?」 キュルケにそう言われ、しぶしぶ杖を下ろす。と、次には駆け出そうとした ところを再びとめられる。 「離しなさいよ!」 「だからやめなさいって言ってるでしょ。ここは私たちに任せなさい。フレ イム!」 主の声にサラマンダーが鎌首を持ち上げ走り出す。それだけでなく彼女自身 も呪文を唱える。 「この『微熱』のキュルケがお相手してあげるわ! ファイアーボール!」 「僕だってやってやるさ。ゴーレムたち!」 火球が飛んでいき、青銅の像が走っていく。それだけでなく多くの攻撃魔法 が襲い掛かる。タバサは本を読んでいる。 ンドゥールはそれらとゴーレムの攻撃をよけながらなんとか奮闘している。 圧倒的な優勢ではあるが、見ているしかないルイズは胸の奥に焦燥感を覚え た。 (自分でいうのもなんだけど使い魔は立派。立派だけど、じゃああたしって 何なのよ!) 地団駄を踏む。彼女は己の無力さに涙がこみあげてきそうになった。いまは それを堪えることが精一杯。唇からは血が出ていた。 やがてゴーレムは多重攻撃に耐えかね、ゆっくりとその形を崩していった。 魔法の数も少なくなっていく、と、一発の大きなファイアーボールがンドゥ ールを狙ったかのように飛んでいった。 それは直撃こそしなかったものの、ンドゥールを転ばせてしまった。さらに 運の悪いことに力を失ったゴーレムが土の塊となって彼に降りかかり、完全 にその姿を隠してしまった。 それを見て、ルイズは気絶しかけたが、何とか踏みとどまる。 「ギーシュお願い!」 「わかってるさ。愛しのヴェルダンデ、彼を助けてやってくれ」 主人の命令に応じ、大きなモグラが土の山に突き進む。 「大丈夫でしょ。そんなたいした量じゃないわ」 「……うん。そうよね」 ルイズはキュルケの言葉で心が少し落ち着いた。が、なにか先ほどまでとは 違う焦りが心の中にやってきた。それはとても妙なもの、自分のものではな く他人のもののような気がした。 徐々に、それは形を得て、言葉になった。 (囮―本命―違う) それは彼女がよく知る、ンドゥールの重く響く声だった。 「ルイズどうしたのよ。顔色悪いわよ?」 キュルケの声も聞こえない。モンモランシーやタバサも顔を寄せているが、 ルイズは彼女たちの顔が見えていない。 (狙いは――) ルイズは首を真後ろに向けた。ムチウチになりそうな勢いだった。 彼女の視線の先は、この品評会が行われている広場の反対側。僅かな暇もな くルイズは走り出した。 「どこにいくのよ! ルイズ!」 後ろから掛けられる声も気に留めない。使い魔から発せられたメッセージを 受けて走る。敬愛する王女の姿も入らないほど視野狭窄になっていた。 彼女は裏側にたどり着き、本命を見た。それは門を破壊したものとは比べ物 にならない大きさのゴーレムだった。そばにはフードで顔を隠した人物が宙 に浮いている。ゴーレムを操り同時にフライを使う、それだけで相当な使い 手とわかる。 狙いは明白。宝物庫の破壊だ。 「ちょっと、なによこれ!」 キュルケとタバサがルイズのあとを追ってやってきた。 「ゴーレムよ! 見たらわかるでしょ!」 「でもこれさっきのよりもっと大きい……もしかして『土くれ』のフーケ!?」 その大きな声が災いした。 フーケと思われる人物に彼女たちは姿を見られてしまった。 「く……ファイアー!」 キュルケが火球を投げつける。だがそれはゴーレムの肌を少し焦がすにとど まった。 「見掛け倒しってわけじゃないのね」 「当たり前よ。こっちが本命だもん」 「あんた、そういやなんで気づ……なにしてるのよ!」 キュルケが声を上げるのも無理はなかった。ルイズは呪文を唱えていたのだ。 成功率『ゼロ』だというのに。 「ちょ、やめ………」 「―――ファイアー、ボール!」 ゴーレムが主人を守ろうと動く。が、ルイズの魔法は、なにも起こらなかっ た、わけではない。宝物庫の外壁が爆発した。 「どこがファイアーボールよ!」 「うるさいわね。ちょっと失敗しただけじゃないの」 最悪の状況で二人は口喧嘩を始めてしまった。危険極まりない、が、ゴーレ ムは彼女らを攻撃しなかった。 「あれ……」 タバサが上空を指差した。ルイズとキュルケは喧嘩をやめて空を見上げた。 そこでは、ゴーレムが宝物庫の壁を巨大な腕で殴りかかっていた。 「ああ!」 ゴーレムは壁を打ち抜いた。 ヴェルダンデによってンドゥールはたいした時間もかからず救助された。と はいえ下半身はいまだ土の中だ。 「感謝は結構だよ。君は体を張って奮戦していたわけだしね」 ギーシュはそういうものの高慢な笑みが張り付いた顔は、礼をして当たり前 と言った感じだった。本来ならンドゥールは感謝するところだが、今回はし なかった。己の杖を地面に突き刺し、柄を自分の耳に当てる。 ギーシュはそれを見て少し腹が立ったが、その些細な苛立ちを吹き飛ばす轟 音が耳に入った。 『土くれ』のフーケと思われる人物は宝物庫に入り、長い箱を奪っていった。 「……ん、」 タバサが使い魔のシルフィードに乗って風の魔法を放つが、それすらもゴー レムという壁に阻まれてしまう。 地面からはキュルケが何度も火球を放つがまったく効果はない。 「かったいわねえ! 逃げられちゃうわこれじゃ」 「そうさせないようにがんばりなさいよ!」 「やってるわよ!」 また喧嘩が始まるが今度はすぐにやめた。大きな足が迫ってきていたら当然 だ。二人はなんとかそれを避けるが、こんどは大きな腕が振り下ろされる。 タバサがシルフィードを向かわせる。自身でも魔法でゴーレムを攻撃する。 しかしその巨体は揺るがない。 拳は、落ちた。が、結果的に、ルイズとキュルケは無事だった。ゴーレムに つぶされる直前、何かに押し飛ばされたのだ。 「……なに、あれ」 タバサは思わず声を上げていた。もともと寡黙な彼女がこのような声を出す ということは、それだけの驚きだったのだ。 「……水?」 キュルケがそうこぼした。そのとおり、彼女らの眼前に水が立っていた。 水系統のメイジが助けてくれたのだろうか。キュルケにはそれが誰かわからな かったが、ルイズにはその人物に心当たりがあった。 「――ンドゥール!」 「うそ! これダーリンなの!?」 「たぶん!」 水は返答せずにゴーレムに襲い掛かった。やすやすと体に穴を開けて潜り込 むと縦横無尽に走り回り、傷だらけにしていく。しかし効果がない。一瞬で ふさがってしまう。水もそれを察したのか、ゴーレムの頭に上っていき、術 者を狙おうとする。 しかし、見当違いなところを襲っている。 「どうしたのあれ」 「わからないのよ! ンドゥールは音で場所を確認するの。だから空にいら れたら攻撃できないんだわ」 「じゃあ教えないと。ダーリンそこじゃないわ左よ!」 キュルケが場所を叫ぶがそれは術者にも筒抜けだ。水は相変わらず命中しな い。ゴーレムは外へと歩いていく。このままではまんまと宝物を盗まれてし まう。 「……ンドゥール、隠れてて」 ルイズはそういい、呪文を唱えだした。キュルケはそれが聞こえていなかっ たので止めることができなかったが、ンドゥールがゴーレムの体の中に隠れ たことでルイズが何をやろうとしてるのか気づいた。 「また………」 「ファイアーボール!」 数秒の間をおき、爆発した。今度は宝物庫ではなくゴーレムだったが、頭の 表面をほんの少し削っただけ。砂を巻き上げただけに過ぎない。 ゴーレムはなんのダメージも負っていないのか歩みを止めなかった。 だが、ようやく水は当たりをつけ、まっすぐ術者に向かっていった。 腕を掠め、血が吹き出る。しかしなんの障害にもならなかった。盗賊はゴー レムとともに外へと出て行ってしまった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/86.html
見えない使い魔-1 見えない使い魔-2 見えない使い魔-3 見えない使い魔-4 見えない使い魔-5 見えない使い魔-6 見えない使い魔-7 見えない使い魔-8 見えない使い魔-9 見えない使い魔-10 見えない使い魔-11 見えない使い魔-12 見えない使い魔-13 見えない使い魔-14 見えない使い魔-15 見えない使い魔-16 見えない使い魔-17 見えない使い魔-18 見えない使い魔-19 見えない使い魔-20 見えない使い魔-21 見えない使い魔-22 見えない使い魔-23
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1696.html
「ルイズ!何やってるのよ!!早く逃げなさい!!」 シルフィードの上からキュルケが叫ぶ。 ルイズの前では、30メイルに達するゴーレムが今まさに拳を振り下ろさんとしていた。 「いやよ!」 ルイズが叫び返した。 「魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない、敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!」 それに反応するように、ゴーレムが腕を振り下ろす途中で動きを止めた。 その足元に、いつの間にかフードを被った人物――土くれのフーケ――が立っていた。 「好奇心から尋ねたいんだが」 フーケが口を開く。 「他人に背中を見られると…どうなるんだい?」 「さあ…?」 何故か、醒めた顔になったルイズがその問いに答える。 「見せた事、ありませんから」 フーケの好奇心がツンツン刺激された。 み…見てみたい……。 ゼロのルイズ。 魔法成功率がゼロのルイズ。 サモン・サーバントも失敗したルイズ。 召喚に失敗してからのルイズの落胆は酷かった。 それまで、魔法が失敗しても、同級生たちから罵倒されても、胸が小さくても、 常に皆を見返そうと努力し、何事も先陣を切って歩いていたルイズが、召喚失敗を境にコソコソと皆の後ろを歩くようになった。 教室に入るのは一番最後であり、教室では最後列に座り、時には壁際に立ち、教室を出る時も一番最後。 以前なら、学院の通路で誰かと鉢合わせした時、例え相手が上級生だとしても、 『どかしてみなさい…あたしがどくのは、道にウンコがおちている時だけよ』と決して譲らなかったルイズが、 今では相手が使用人でも、率先して壁際に退く様になっていた。 そんなルイズがフーケ討伐に志願した時は、その場に居た全員が驚くと同時に安堵した。 「ああ、この方がミス・ヴァリエールらしい」と。 残念ながら、土くれのフーケ討伐は失敗だった。 破壊の杖は戻ったが、討伐に志願したミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ及び道案内役のミス・ロングビルは帰ってこなかった。 真新しいわだちを辿って、フーケの隠れ家らしき小屋に行き当たった学園の教師達は、ゴーレムが崩れた後とおぼしき土くれと、 三人分の学院の制服、そしてミス・ロングビルの物と見られる衣服を発見した。 状況から見て、討伐に志願した生徒達は、フーケに返り討ちにされたと判断された。 同時にフーケ自身も、破壊の杖をその場に置いて逃げ出すほどの重傷を負ったのだろうと。 死体は何らかの理由によってフーケが別のものに練成したと推測された。 現場の衣服の側に落ちていた、見慣れぬ『小動物らしきミイラ』に気に留める教師は誰も居なかったのだ。 アルビオンの軍艦『イーグル号』に乗っていたウェールズ皇太子が「不審な風竜が居る」と、部下に声を掛けたのは、フーケ討伐『失敗』から二日後の事だった。 その風竜はイーグル号の下方300メイルあまりの所を、狂ったようなスピードを出しながら飛んでいた。 呼ばれた部下が欄干から身を乗り出し下を覗くと、風竜が血を噴出しながら落ちて行く所だった。 「多分、戦闘で傷ついた風竜が迷い出て来たのでしょう」 部下がそう伝えた時点で、ウェールズの様子はおかしかったという。 欄干に背を当てて座り込み、ニューカッスル城に着くまで一歩も動かなかったのだ。 秘密港についてからも、部下たちを先に下船させ、自分が最後に降りると言って聞かなかった。 その後は、自室に篭り、食事も自室で食べるようになり、誰とも会わなくなった。 心配した父王がやって来た時は、流石に顔を出したが、文字通りドアから顔を出しただけという始末だった。 それ以来、ジェームズ一世とウェールズ皇太子の仲は非常に悪くなった。 同時に、皇太子一人しか居ないはずの部屋の中から、ぶつぶつ呟く声が聞こえるようになり、兵士達の士気は非常に落ちてしまった。 「王子は戦争が怖くなり、おかしくなったのだ」と。 そのため、レコン・キスタの進行は大方の予想より早く進み、あっさりとニューカッスル城は攻め落とされた。 ウェールズ皇太子の部屋を見つけた兵士は、ウェールズの気が狂ったという情報を持っていたが、用心して仲間が集まるのを待って乗り込むことにした。 仲間が集まったところで、先頭の一人がエア・ハンマーでドアを吹き飛ばし、部屋に踏み込んだ。 そこには、杖も持たず、ガリガリにやせ細り、狂気的な眼を兵士たちに向けているウェールズが一人、ポツンと立っていた。 城全体が血生臭かったが、踏み込んだ兵士たちの鼻を別の異臭が突いた。 その場に居合わせ、幸運にもアルビオンを脱出する事の出来た兵士の話によると、ウェールズの最後の言葉は次の様だったという。 「ぼくの背中……見たいかい?フフフ…いいよ………フッ、見せて…あげるよ。ウフハ……ウヘ。フフフ………ヘ。ヘヘヘ」 ウェールズはまるでダンスのステップの様に、その場でクルリと背を向けた。 その背中が、まるで本をめくる様に引き裂かれ、血が噴出した。 「何が起きたんだ?」と最前列の一人が思ったとき、そいつの背中は既に裂き開かれていた。 そして、『背中から血が噴出す』という現象自体が、まるでドミノ倒しの様に兵士たちに伝わっていった。 その場に居た兵士たちは、全員ウェールズの方向を向いていた。 即ち、ほぼ全員が前に立っている味方の背中を視野に入れていたのだ。 噴血のドミノ倒しは城中を駆け巡り、敵味方問わず命を奪っていった。 ニューカッスル城で生き残った者は、ウェールズの部屋に踏み込んだ時『最前列に位置し』尚且つ『最初に背中を見なかった者』とだけとなった。 ニューカッスル城付近に野営していた貴族派の軍は、蜂の巣を突付いたような騒ぎとなった。 見えない何者かが、次々に味方の背中を引き裂いて行く。 必死に剣を、槍を、杖を振っても、見えない何者かを防ぐことが出来ない。 あっと言う間にあたりは血の海になった。 さらに、死んだはずの仲間の死体が何処にも見当たらない(実際は自分たちの足元に転がっていたのだが、誰も小さなミイラなどに構っていられなかった)。 「仲間を殺した『何か』は人を喰う」 しかも、大量に。非常に大量に。 それは何者にも勝る恐怖だった。 最早、自分達が勝利した等と思っている者は誰も居なかった。 最後の最後に、王党派が魔物を放ったのだ、と噂が流れた。 その後、30000人ほどの兵士が犠牲になった所で、貴族派は三つのルールに気がついた。 即ち、 1:魔物は無差別ではなく個人に取り憑く 2:取り憑かれた者は誰かに背中を見られた者は死ぬ。 3:見てしまった者の背中に魔物が移る。 だが、ルールに気づいたとて時既に遅かった。 魔物による虐殺を目の当りにた兵の殆どは、心を病んでしまった。 遠くで誰かが倒れたと思った瞬間、自分の傍らにいた者が血を噴出し倒れる。 近くで物音がしても、そちらを向いては行けない。 魔物が居る地域から無事に抜け出すためには、目を開いてはいけない。 恐怖のあまり自分の目を潰す兵士も少なくなかった。 魔物を心底恐れ、軍を脱走する者が続出して、レコン・キスタは軍としての機能を完全に失った。 さらに、貴族による『魔物狩り』が行われるようになった。 少しでも『背中を隠すように歩いた者』や、『家や自室から出て来なくなった者』は問答無用で殺されるのだ。 最初の内は、『魔物狩り』に強い反発を感じていた平民達も、魔物によってサウスゴータが死の町となったと知ってからは、逆に率先して『狩り』を行うようになった。 都市や町や村はその機能を失っていき、魔物と『魔物狩り』によって数ヶ月のうちにアルビオンの人口が半減してしまった。 当然の如く、アルビオン大陸で『謎の疫病』が猛威を振るっているという情報が周辺各国にも流れ、アルビオンへの入出国は全面禁止となった。 早い時期にアルビオンを脱出できた難民は幸運だった。 あるいは、早々に脱出した者達が、後から来る者達の退路を塞いでしまったのか。 アルビオンの魔物の脅威を難民聞いた各国の首脳達は、入出国禁止だけでは、脅威を防ぎきれないと判断し、 アルビオンからの飛来物は、例え脱出船であろうと、乗組員や乗客が何人乗って居ようと、全て撃墜し、焼却するよう命じたのだ。 こうして、神聖アルビオン共和国は建国する事無く滅びてしまった。 その後、アルビオンでは殆どの住民が原始的で排他的な生活を送っているという。 アルビオンが『浮かぶ孤島』と成ってから十余年、世界は平和だった。 皮肉にも、死の大陸となったアルビオンが空飛ぶ脅威となり、各国の結束を強めたのだ。 ラ・ヴァリエール家の中庭に、生前ルイズが『秘密の場所』と呼んでいた池がある。 その池の中心に設けられた小島には一つの墓碑が立っていた。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 誇り高き ヴァリエール家の三女 ここに眠る そこにはそう記されていた。 次女のカトレアが病死してから、訪れる者が殆ど途絶えた墓であったが、 年に数回、元グリフォン隊の隊長が、花を手向けに訪れるという。 ゼロのルイズ。 生涯で成功した魔法は、召喚だけだったルイズ。 一つの大陸を壊滅させた使い魔を呼び出したルイズ。 その事実を知る者はたった一人、ルイズに呼び出された使い魔だけであった。 「…ねっ!」 完
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1800.html
教室の一角。マントを羽織った少年少女達の間に、大男が倒れていた。 気を失っているようだが、それでもその雰囲気にはなにか語るべくないものがあった。 「へ、へいみん?」 「そもそも人間?」 「ゴーレムとかじゃない・・・よな?」 「ざわ……ざわ……」 筋肉質であり、マントや宝石などの小奇麗なものはつけていないことから、貴族ではないことはわかる。 しかし、彼の頭には角。彼の両肩にも角。人間ではないのか、人間、あるいは亜人だとしても平和的な人間でない可能性が 非常に高そうだとメガネの少女は冷静に分析した。 「ゼロのルイズ!なにを呼び出したんだ!」 「何度も失敗して、成功したと思ったらこれかよ!」 「まともに使える魔法はないのか!」 教室から少女に向けて野次が飛ぶ。 桃色の髪の少女が叫ぶ。 「こ、コルベール先生、やっぱりこの大男とも『契約』しなければいけませんか?」 「ミス・ヴァリエール、例外はありませんよ。」 少女は少し唸った後、諦めたように気絶しているであろう大男に近づく。 「き、貴族にこんなことされるなんて……普通は一生ないんだからね!」と気絶している大男に話し掛ける。 そして、彼の顔に顔を近づけ、唇をあわせた。 左手の甲が光る。 「ROOOOAHHHHHHH!!」 それとほぼ同時に大男が叫び声と同時に目を覚ました。 (な、なんだこの痛みはァーーッ!このような痛みは……例えるなら、そう『波紋』ッ! それに…なぜ俺はこんなところにいるッ!?) 叫び声をあげた大男の迫力から、本能的に命の危険を感じて逃げるようにして 教室の出口へ向かうものが現れる。 「女ァーーッ!俺になにをしたーーッ!」 少女はその叫び声に怯み、数歩下がりつつ答えた。その前にさりげなく髪の薄い男性が立つ。 「つ、使い魔のルーンを刻んでいるのよ。すぐ終わるから、あ、安心しなさいよ…」 左手の甲の光が収まり、痛みが治まった大男は状況を確かめようとする。 (俺は、『エイジャの赤石』を賭けて、ピッツベルリナ山神殿遺跡で、古代ローマの戦車戦を行い… ジョセフと戦った末……奴に敗れて死んだはず…… しかし、無い筈の両腕!両足!胴体!全て元通りだ……どうなっているんだ?俺は死んだのではないのか? 死んだことに悔いはない。一人のジョセフを戦士に成長させ、その戦士に全力を持って戦い、 敗れて死んだということは誇りでもあるし、名誉でもある。 が、しかし……生きている……死ぬ前の走馬灯という奴でもなさそうだ……) 彼は少女に向き直って強く問い詰める。 「女、ここはどこだ……俺に何をした。」 「さ、さっき言った通りよ。あんたを私が『サモン・サーヴァント』で召還して使い魔の契約をしたの。 つまりあんたは私の使い魔。わかった?平民だからわからない?」 「『サモン・サーヴァント』だと?確か人間どもの言葉で『召使』だったか……俺に召使をやれと?」 「だからさっきから使い魔だって言ってるでしょ。主人である私の望むものを見つけてきたり、守ったりするのよ。 使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるはずなんだけど……まだ契約して時間が短いからかしら、 なにも見えないし聞こえないけど……そうそう、もちろん主人である私には絶対服従ね。」 「先ほど召還などといったか……よくわからんが何か普通の人間どもとは違う能力を持っているようだな? 死の淵に居た俺を五体満足までに回復させるのだからたいしたものだ。場所もどうやらピッツベルリナ山神殿遺跡でもなさそうだ……」 「あ、あんた?魔法も知らないの?どこのド田舎のド平民よ!?ピッツベルリナ山なんて聞いたことないわよ! だいたいあんた、人の話聞いてないでしょ!あんたは私の使い魔になるの!わかってるの?」 少女はルーンを結べたこともあって面食らいつつも少し強気に出ていた。 が、使い魔に素直になる気を微塵も感じられないためにただでさえ常日頃バカにされている少女は 焦り、いらついていた。 が、やはり大男の返答は少女の望むものではなかった。 「体のいい召使い兼ボディーガードなどをなぜ俺がしなければならない?俺が従うのは強者だけだ。断る。」 「は、はぁ?あんた、人の話わかってるの?大体強者って……平民だか亜人だかしらないけど、 仮にもここは魔法学校。これだけの貴族に囲まれて勝てると思ってるの?」 「そう思うなら……試してみるか?力づくでここを出ても構わなんしな。」 大男はなめ回すようにクラス見る。その迫力に短く声をあげるもの、後ろに倒れるものなどがいたが、各自同じようなものであった。 「……が、この部屋には俺の相手をできるような者はいないようだな……そこの男は見込みがありそうだが、生憎リングがないものでな。さ、どけ」 「だ、誰がどくっていうのよ!私がどくのは道にマリコルヌが落ちてるときだけよ!」 少女は数歩後ろに飛びのき、杖を向ける。 「ミス・ヴァリエール!貴女は下がっていなさい!」 男が叫び大男に杖を向ける。ぶつぶつと何事か唱えた後に杖の先から炎の玉が大男へ向かう! しかし彼は、片手だけで、その巨大な炎の玉を払いのけた。 まるで、ハエを払うかのように。 普通の相手であればかわすのも難しいタイミング、威力も普通の相手であれば手で払いのけることなど選択肢にすら 入らなかったであろう威力。まさに絶妙な攻撃であった。 惜しむらくは、放った相手が普通の相手ではなかったことだ。 「ここの人間どもは波紋の一族とは違う……なにか不思議な能力を持っているようだな……魔法学校などといっていたが… これらを『魔法』と呼んでいるのか?だが、威力も工夫も足りなかったな。貴様でこの程度ならば……たかが知れるな」 彼は致命傷どころか火傷すらしていない。 怯む様子もなく、彼は起き上がった。そして、光、前の世界であれば忌むべきものであった光の差す 窓の方向へ走り出し、その方向にいた先ほど攻撃してきた杖を持った男に蹴りを放とうとするッ! 起き上がった勢いによる攻撃と脱出を同時に行う。彼の戦闘のセンスは失われていなかった。 1対1ならば確実に仕留めていただろう。1対多でも彼の神経が研ぎ澄まされた、彼が言えば激昂するであろうが 油断していない状況であればその蹴りは入っていたであろう。しかし、彼はその男以外を敵としてみなしていなかった。 伏兵は男の後ろの少女だった。 少女が叫ぶ。 「コルベール先生……下がるなんてできません……敵に……敵に背中を向けないやつを貴族と呼ぶんです! 『ファイアー・ボール』!」 先ほどの少女が大男に杖を向け、なにかを飛ばす。 大男は先ほどと同じタイプの攻撃であると断定し、同じ対処を試みた。 片手をなにかが飛んでくる方向に出し少女を見据える。 「馬鹿の一つ覚えかッ!MOOOOOO!!」 片手でそれを払いのけようとした…が!それが腕に着弾した途端!爆発をおこしたッ! 彼女の唯一の『得意技』である爆発が大男を包む! 轟音が部屋を包む。教卓の上の備品が少々吹っ飛ぶ。教卓も吹っ飛ぶ。しかし、それでも大男は立っている…はずだった。 その大男の類まれなる身体能力をもってすれば、この程度の規模の爆発では驚きすらしなかっただろう。 しかし、大男は立てなかったッ!爆発による煙が舞っている中、彼はひざまずいていた。 その爆発は『普通』の爆発ではなかった。 (か、体が痺れるッ!う、動けんぞッ!幸い体は無事のようだが……これはまるで『波紋』ではないかッ……MOOOOOO……! しかし、この少女…波紋戦士には見えん……シーザーのシャボン玉のような攻撃のように攻撃してきたなにかに波紋を含めているなら、 俺の体の神経は破壊されるはずッ!しかし、動けないだけでそれはない……さらに、無意識下の波紋戦士でもしているはずの 波紋の呼吸をしていない。そして、なによりもッ!戦いについて場数を踏んでいる雰囲気、こういった命の危険に大して無防備すぎる…… つまり、この程度の能力を持った人間はこのあたりにはいくらでもいるということか? ということは、俺に適うだけの戦士がまだどこかにいるのではないだろうか? 我が柱の男たちの敵は波紋戦士たちだけだと思っていたが……少し…興味がでてきた…この魔法とやらに) 強者と戦いこそ全てである大男は心境の変化とともに立ち上がった。 そして、煙がはれたのち、少女は立ち上がった大男に話し掛けた。 「これで貴族と平民の格の違いがわかったでしょう!おとなしく使い魔になりなさい!」 「……いいだろう……少しの間、その使い魔とやらになってやろう……」 「少しの間って…ま、今のところはまあいいってことにしておいてあげる。 じゃあ、使い魔には名前が必要ね。あんた、名前ある?」 風の戦士が、二度目の二〇〇〇年ぶりの目覚めを果たした。 「俺の名はワムウ。風の戦士ワムウだ。」 風と虚無と使い魔 召還潮流
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1827.html
ヴェストリの広場に向かうルイズとワムウ。 「勝算はあるのか?」 「ないわ」 「作戦はあるのか?」 「ないわ」 「俺に助けろなどというのか?」 「言わないわ……ああ、なんであんなこと言っちゃったのかしら…あんたに似てきたのかも」 口調は嫌がっているようだが後悔の念はなかった。 「ならば、付き添いは必要ないな」 「あら、何様のつもり?主人に付き添いって私子供じゃないのよ」 「俺から見れば人間なんぞ皆子供だ」 ワムウがフッと笑う 「よく言うわ」 「遅れるなよ」 「あいつが笑ってるところなんて……初めて見たわね。雨でも降るのかしら」 * * * 「はあ?ゼロのルイズが決闘?あの恐ろしい使い魔じゃなくて?」 キュルケがタバサから噂を聞き、首を傾げる。 「変ねえ、あいつは後先考えないことがあるとは忍耐だけはあると思ってたのに。 ま、あのヴィリエじゃもし気に入らなくなったらなにするかわかんないけどね、最近は落ち着いてきたと思ってたけど。あいつ何されたのよ」 「メイドが侮辱された」 たまたま食堂にいなかったキュルケの代わりに事態を見ていたタバサは答える。 「あいつも素っ頓狂な理由で決闘なんかするわねー。確か禁則事項だったわよね?校則は守らないと」 「私たちも人のことは言えない」 「未遂でしょ。校則破りなんてバレなきゃいいのよバレなきゃ」 キュルケは立ち上がって歩き出す。 「どこ行くの?」 「あんた程じゃないけどヴィリエは確か風のラインメイジでしょ?点もないのにどれだけやれるかからかいに行くのよ」 * * * 「なに?あのルイズが決闘だって?本当かい、モンモンラシー」 決闘でのケガでまだ医務室暮らしのギーシュ。 「ええ、本当よ」 「やれやれ、あの使い魔に影響されたのかな?それで、原因と相手は?」 「風のラインメイジのヴィリエよ。原因は私は直接見てないけど、シエスタっていうメイドの平民らしいわ」 「ああ、あの脱いだら凄そうな」 「ギーシュ、そうえいばケティの件問いただしてなかったわね?あと見舞いに来た子達のことも」 モンモンラシーに殺気が宿る。 その気配を感じ取って慌てるギーシュ 「ははは、何言ってるんだモンモンラシー、君の愛のこもった看護のおかげで全治数週間のケガだってのにもう歩けるようになったし、僕もヴェストリの広場を見に行こうかな」 言うが早いか、ギーシュは立ち上がって医務室を出ていった。 「まったく、あの浮気癖の治療法はないのかしら…」 モンモンラシーはため息をついて、医務室を出て行った。 もちろん、行き先はヴェストリの広場。 * * * 「おい、また決闘だってよ」 「誰と誰がだい?またゼロの使い魔かい?」 「その主人とヴィリエだってよ」 「チハとシャーマンくらい差があるな」 「いや、クリリンと魔人ブウくらいだろ」 「いやいや、勇次郎とディーノ男爵くらいだって」 「ちょっと待てお前、地獄の魔術師バカにしやがったな?」 「あんな奴ヘタレじゃねーか、所詮鎮守直廊三人衆だろ」 「黙れ、今その思いをはらしてやる!キレまくってはらしてやる!」 「俺が最強だ!はらしてやる!」 「最高にハイ!って奴だーーッ!」 * * * ヴェストリの広場、決闘開始10分前。 「立ち見席でいい、買うぜ!50ドニエまで出す!」 「金さえ出すなら一番前の席だって引っ張ってきてやる」 「特等席だっ!……500ドニエ以上出せる奴っ……!ケチケチしてると買い損なうぞ!」 席の売買まで行われ、非常に活況を呈している。 この前のワムウとギーシュの決闘での結果が尾を引いているのか、それともルイズがどう戦うか見ものなのか。 「ヴィリエに5スウ賭けるぜ!」 「あ、あれは!1ヶ月分の小遣い全部だ!」 賭けも行われ、さながら祭りのような異様な雰囲気だ。 あまりの騒ぎに校長を含め、教師が駆けつけたが、止めるどころか声すら届かない。 「のう、ミス・ロングビル。ワシ、けっこう娯楽だけは用意しているつもりなんじゃが、近頃の子供はそんなに退屈しておるのかのう……今期の学生は色々と不安じゃ……なんとか仲裁できんかの?」 「ミスタ・オスマンがやらないなら無理でしょう」 「スクウェアクラスが5人居ても仲裁なんて無理ですな」 「やれやれ、こういうときはいつも風を自慢しておるミスター・ギトーに押し付け…任せたいんじゃが、あやつはどこにいるんかの?ミスタ・コルベール」 「えーっと、さっきチラっと見たんですが…」 コルベールがあたりを見回す。 そして、ギトーを見つける。 「最前席に座ってますな」 コルベールはため息をつく。 「なあ、ちょっとあやつを殴ってきていいかの?わしゃもう泣きたくなって来たわい…」 「やれやれ、すごい活況だね、モンモンラシー」 立ち見席で遠巻きに広場を眺めるギーシュとモンモンラシー。 そこに席を探しているキュルケとタバサがスペースを目ざとく見つける。 「……ほんと、どこも空いてないわね…あ、ギーシュの隣が空いてるわね。あそこで妥協しましょう、行くわよタバサ」 「妥協ってなんだねキュルケ、そんなに僕の隣がいやなのかい?」 「あんたの隣なんて座ってたらうるさいのが増えるもの、あんたの女だなんて思われると色々と面倒だしね」 「…僕の名誉を貶すのがそんなに好きかい?」 「あんたの名誉なんてこの前の決闘で急落も急落、整理ポスト行き同然じゃない」 「せめて、そういうことはモンモンラシーの前以外で言ってくれよ…」 決闘後の医務室で五股もバレ、使い魔に決闘で敗れて取り巻きも消え、唯一残ったモンモンラシーの中での評価もガタ落ち。 それでも彼女が残ったのは決闘の原因が彼女の香水であったこともちょっとだけ影響している。 「おいお前らも賭けないか?1口10ドニエだ」 小銭の入った箱と賭け金の額を書いている紙を持った同級生が彼らに尋ねる。 「今の倍率どうなってんのよ」 キュルケが興味を示す。タバサはギャンブルは嫌いではないが、野暮だと思って顔を上げない。 「賭けになんねーよ、今ならルイズに賭ければ140倍だ、どうだい賭けないかい」 彼は肩をすくめる。 ギーシュがポケットの財布を出し、 「そうだな、じゃあルイズに5口かけるよ」 「ほう、ギーシュ、なかなかギャンブラーだな」 「彼女が勝ってくれれば彼女の使い魔に負けた僕も少しは汚名返上できるかもしれないからね。まあお祈りみたいなもんさ」 ギーシュは苦笑する。 「そうねえ…」 キュルケが呟く。 「じゃあこれくらいかしら…5スゥだから…50口ね」 「はいはい、ヴィリエに50口ね」 「待って、わたしの『投票先の選択』の発言がまだすんでないわ」 帳簿に書き込もうとした彼の手が止まる。 「ルルルルルルルルルルル、『ルイズ』だとッ!あんたは一番バカにしてるはずじゃ…」 「140倍なら十分儲かる見込みありよ」 「驚いた、こんだけもらえれば黒字だな、サンクスキュルケ!」 彼は去っていった。 「どういう風の吹き回しだい、キュルケ?」 「言ったとおりよ、殺し合いならともかくルールのある決闘なんだから十に一つくらいはルイズでも勝てるでしょ。 1割で勝てるんだから140倍なら限界まで張らないと……それに、なんとなく『なんか』やりそうなのよね、あの子」 ギーシュはニヤっと笑った。 「君はルイズ以上に素直じゃないな」 「どういう意味よ、燃やすわよ」 キュルケはニコリともせずにギーシュを睨んだ。 「ふーっ、もうすぐ決闘開始か、まあこんなもんだろうな」 帳簿を見直し、一息つく。 「おい、そこの男」 「ヒッ!な、なんですか?」 いきなり後ろから巨漢に話し掛けられ、ビクりとする。 どうみてもメイジではないが、平民からの賭けも募っているため、その件かと思う。 「なんでしょうか?賭けならば一口10ドニエですが」 「賭けをやっているらしいな、この宝石を賭けよう、証明書もある」 大男は宝石と証明書を懐から出してくる。素人でもわかるくらい素晴らしい輝きを誇っている。 「そうですね…それはいくら分ですか?」 「100エキューだと書いてあるな」 冷や汗が彼の頬を走る。 (ひゃひゃひゃ100エキューだって!?馬が何頭帰るんだ!?えーと…2頭、3頭、5頭、7頭…) 「どうした?受けないのか」 「そ、そんな、ヴィリエにそんなに賭けられたら赤字ですよ」 「ヴィリエ?誰だそれは、俺はルイズに賭けると言ってるんだ」 彼の汗が引く (やったァーーッメルヘンだ! ファンタジーだッ!こんな体験できるやつは他にいねーッ!) 「わかりました、ルイズに100000口ですね!」 (でも…万が一…当たっちゃったら…俺破産だな!そんなわけないだろうけどね!ハハハ!) 「「ルイズ・フランソワーズの入場だァーーッ!」」 場内から歓声があがった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/135.html
魔法学院の教室の1つ。 ルイズ達二年生は、今日はここで『土』系統の魔法の講義を受けることになっていた。 皆、様々な使い魔を連れていた。 キュルケのサラマンダーをはじめとして、フクロウや、カラスや、ヘビやドラゴンや…実に多種多様だ。 召喚が終わってから初めての授業、本来なら使い魔の見せ合いで騒がしくなるはずなのだが、 彼らは今日は一段と静かだった。 皆、1人の生徒の登場を待っていた。 『ゼロ』のルイズ。 魔法を全く使えない彼女が、サモン・サーヴァントでとんでもない化け物を呼び出し、挙げ句の果てにコルベール先生に重傷を負わせたらしいという噂が、まことしやかに囁かれていた。 目撃者の証言によると、彼女が召喚したのは化け物ではなくて『死体』…それもバラバラの… だそうだが、彼らの叫びは他の生徒の、常識という箱に入れられ、蓋を閉められた。 大体の生徒は、化け物説を信じ、期待とスリルに胸をふるわせていた。 ギイと、重々しく講義室の扉が開いた。 他の生徒は皆そろっていたので、残る1人は必然的に噂の『ゼロ』ということになる。 果たして、入ってきたのはルイズであった。 皆の視線がルイズに向けられていた。 そして、ルイズに続いて入ってきた、1人の男に。 だれもかれもが、あっけにとられていた。 "なんだ。どんな化け物かと思ったら、ただの平民じゃないか" 1人また1人くすくすと笑い始める。 だが、キュルケとタバサは鋭い視線を男に向け、 そしてルイズの召喚を間近で見ていた一部の生徒は、困惑しながらも怯えていた。 そしてさらに一部の生徒は、その男が自分達と同じ食卓についていたことを思い出し、眉をひそめた。 ルイズは不機嫌そうにドカっと席についた。 そしてルイズが男と一言二言、言葉を交わすと、男は生徒達の間をゆっくりと通り抜け、後ろの壁にもたれかかり、腕を組んだ。 初めは興味深そうに生徒達の使い魔を観察していたが、 やがて飽きたのか、その手に抱えていた本を読み始めた。 先日ルイズが与えたものなのだが、どうみても子供向けなそのタイトルが、 ますます生徒の笑いを誘った。 そうしているうちに扉が開いて、先生が入ってきた。 優しげなおばさんの雰囲気を漂わせている彼女は、ミス・シュヴルーズといった。 彼女は教室を見回すと、満足そうにほほえんで言った。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。 私はこうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは皮肉気な笑みを浮かべた。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。 ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズが後ろで本を読んでいる男を見て、とぼけた声で言うと、教室はどっと笑いに包まれた。 「おい『ゼロ』!召喚に失敗したからって、その辺歩いてた平民 を連れてくるなよ」 ルイズはだんまりを決め込んだ。 それをどう誤解したのか、クラスメイトの嘲りはますますひどくなっていった。 『かぜっぴき』のマリコルヌが、ゲラゲラ笑った。 「あの『ゼロ』だぜ? 失敗に決まってるじゃんか。 皆、知ってるよな?今までルイズがまともな魔法に成功した回 数は?」 "『ゼロ』だ!"と、他の生徒が唱和した。 再びゲラゲラ笑い。 調子に乗って歌まで歌いだした。 "♪ルイルイルイズはダメルイズ~♪魔法が出来ない魔法使い♪…" みんなして調子を合わせられているところを見ると、影で結構歌われているようだ。 ルイズは拳を握りしめて屈辱に耐えていた。 爪が食い込んで血が垂れる。 どうせ、言ったってわからない奴らなのだと、必死にそう自分に言い聞かせた。 シュヴルーズは、厳しい顔で教室を見回した。 そして、杖を振ると、ゲラゲラ笑っている生徒の口に、どこから現れたのか、ぴたっと赤土の粘土が押しつけられた。 「お友達を侮辱するものではありません。 あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 教室の笑いが収まった。一見するとシュヴルーズの懐の深さが示されたように見えるが、 そのキッカケを作ったのは間違いなくシュヴルーズであったし、マリコルヌたちの狼藉をしばらく見過ごしていたのも、シュヴルーズであった。 楽しんでいるのだ、結局。 ルイズは思う。 自分が笑われているところを楽しむだけ楽しんでおいて、 キリのいいところで、どこかの聖者よろしく 「貧しい者こそ救われる」とばかりに手を差し伸ばすのだ。 とんだ自己満足だ。 貧しいのはそっちの脳みその方だ、この偽善者め…! ルイズは心の中で吐き捨てた。 そんなルイズの胸中を知らずに、シュヴルーズは授業を再開した。 彼女が杖を振ると、机の上に石ころがいくつか現れた。 そして、この授業のメインである、『錬金』の講義をはじめた。 知識だけは他の生徒よりはあるルイズは、耳タコなその内容に飽き飽きして、ボーッとしていた。 「私はただの、『トライアングル』ですから…」 そんなシュヴルーズの声が聞こえた。 えぇカッコしぃめ…! と思いながら、ルイズは後ろを振り返った。 後ろでは、自分の使い魔であるDIOが、本に目を注いでいたが、シュヴルーズが石ころを真鍮に変える魔法を使っている時には、しげしげと前を向いていた。 (一応聞いてはいるんだ…) 案外好奇心旺盛ね、とルイズが考えているところに、シュヴルーズからの呼び声がかかった。 「ミス・ヴァリエール! よそ見をしている暇があるのなら、あ なたにやってもらいましょうか」 「え、わたしですか?」 突然のことに、ルイズは焦った。 話を全く聞いてなかった。 「そうです。ここにある石ころを、あなたの望む金属にかえてご らんなさい」 あっさり話の内容をネタバレしたシュヴルーズを小馬鹿に思いつつ、ルイズは俯いて、密かにほくそ笑んだ。 一発かますチャンスだ。 そして、これ以上ないってほどの作り笑顔で、立ち上がった。 「わかりました、ミス・シュヴルーズ! わたし、失敗するかも しれないけど、精一杯やってみますわ…!」 キラキラと瞳を輝かせる様が嘘くさかった。 ルイズの恐ろしいほくそ笑みをしっかり見ていたキュルケは、空恐ろしいものを感じ取り、止めに入った。 『ゼロ』ネタでからかわれた後のルイズは、何をするか分からない。 「ミス・シュヴルーズ。やめたほうがいいと思いま…ひっ!」 ルイズはギロリと、シュヴルーズには分からないようにキュルケを睨んだ。 "邪魔するならあんたから吹き飛ばす"ルイズの目がそう言っていた。 そしてルイズは、目尻に涙を蓄えながら、よよと嘆いた。 「そうですわね。ミス・ツェルプストーの言うとおりですわ。私 なんかがやったら、皆さんの大切な授業の妨げになってしまい ます……」 そうして、悲しそうにうつむいて席に座ろうとするルイズを、シュヴルーズは引き止めた。 「いいえ、いいえ、ミス・ヴァリエール。誰にだって失敗はあり ますとも! さぁ、やってごらんなさい。失敗を恐れていては、何も出来ま せんよ」 (………計画通り…!) ハナから勝負にならなかったのだが…。 ルイズはいかにも可憐な笑顔を浮かべて立ち上がった。 しかし、彼女の背中には、目にもの見せてくれてやると、どす黒いオーラがただよっていた。 キュルケの横を通り過ぎるとき、ルイズはドスのきいた、低い声で呟いた。 「友達のよしみよ。さっさと消えなさいな、ツェルプストー」 もうダメだ。おしまいだ---顔面蒼白でキュルケは戦慄した。 そうして、わざわざ教壇の側に回り、石が全員に見えるようにして、 離れた所から錬金の魔法にしては異常な量の魔力を石の全てに込めだしたルイズを尻目に、 キュルケはじっとDIOに視線を向け続けるタバサをひっつかんで教室を脱出した。 ―――次の瞬間、教室の中で、学院全体が揺らぐほどの大爆発が起こっていた。 間一髪だ……、キュルケは己の生を始祖ブリミルに感謝して、床にへたり込んだ。 to be continued…… 19へ