約 1,076,879 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/320.html
「おお、来おったか、ミス・ヴァリエール」 ルイズは、オールド・オスマンに呼び出されて、学院長室にいる。 呼び出された理由は決闘以外のなにものでもない。 「さて…、今日はヴェストリの広場が妙に騒がしかったの」 「………」 ルイズは答えない、いや、答えられない。そもそもルイズとギーシュの決闘という事であれば、ルイズとギーシュが責任を取らせられるが、あのメイドに責任の余波が及んでしまっては自分のしたことの意味がないからだ。 「そこにある遠見の鏡で見させて貰ったぞ」 「はい…」 力なく答えるルイズ。しかし、そんなルイズを見たオスマン氏は楽しそうに笑い出した。 「ほっほっほ、見事じゃった、ミス・ヴァリエール。これであの小僧も少しは反省するじゃろうて」 その言葉に驚いたルイズは、はい、とだけ答えた。 「遠見の鏡と言ってもな、ある程度は声も伝えられるんじゃ。この喧嘩の原因はギーシュの二股ではなく、メイドの…確かシエスタと言ったかの、その娘が原因のようじゃな」 「はい、ですが」 「それ以上言わんでいい。あの娘はメイドとしての義務を果たしただけじゃ。この学院の人事に関する決定権は女王陛下からワシが賜ったものじゃ。生徒が騒いだぐらいでメイドを路頭に迷わすようなことはせんよ」 「ほ、本当ですか!…ありがとうございます」 学園長のオールド・オスマンは、齢300とも言われる偉大なメイジであり、あらゆる立場の者達に分け隔て無く接する貴族だとも噂される。 格式や血統を重視する貴族達の中では珍しい存在だが、正直ここまで暖かい言葉をかけられるとは思っても居なかった。 「それにあの娘もあと五年…いや二年もすればムッチムチのプリンプリンに…」 訂正しよう、平民相手にも貴族相手にも見境のないエロジジイだ。たぶん。 ルイズの軽蔑するような視線に気づいたのか、オホン、と咳払いをして居住まいを正した。 「さて本題に入ろう。アンリエッタ姫殿下が近々この学院を訪問なさるそうじゃ」 「えっ!姫殿下が…」 「そうじゃ、姫殿下は今近隣の領地を視察されておっての、こ視察の締めくくりとしてこの学園に訪問される。そこで『使い魔の品評会』を開こうと言うんじゃが…」 ゴクリ、とルイズののどが鳴る。 「王家からの使いの方が言うには、欠席は認められないそうじゃ」 ルイズの肩に、久しく感じていないプレッシャーが重みとなって感じられた。 欠席は認められない。メイジとして使い魔が居ないというのは、非常に不名誉なことだ。姫殿下の前で一人だけ使い魔のいない姿を晒すのは何としてでも避けたい。 「具体的な予定はまだ決まってはおらんし、中止の可能性もある。順調なら十日後あたりに朝食で発表され、その翌日か翌々日あたりにでも開催されるじゃろう」 オスマン氏はじっとルイズの顔を見た。真面目な表情のオスマン氏を見るのは珍しい。普段はくだらない冗談を言ったりしている。生徒達にも「本当に偉大なメイジなのか」と疑問を持つ人も少なくない。 しかし目の前に居るオスマン氏は間違いなくメイジの、貴族の顔だ。 これにはルイズも緊張して、体を硬直させてしまった。 「ほっほっほ、まあメイジには特性があるしのう。今は精一杯がんばりなさい」 そう言って笑うオスマン氏の顔は、同一人物とは思えないほど和やかだった。 話が終わり学院長室を出ようとしたルイズだが、オスマン氏が何か思い出したかのように「ああ、そういえば」とつぶやき、ルイズを引き留めた。 「ミス・ヴァリエール。ところで女子寮の中で何か変わったことは起きておらんかね」 「え? いえ、特には…」 「ふむ、それならいいんじゃ。行ってよろしい」 オスマン氏の言葉に何か腑に落ちないものを感じつつ、ルイズは学院長室を後にした。 夜中。 キュルケから差し入れられた『ゲルマニア特性冷え性に効く特効薬』を、 半ば無理矢理飲ませられたタバサは、いつもなら眠っている時間に目が覚めた。 尿意だ。 眠い目をこすって部屋を出て、寝間着のままお手洗いに向かう。 廊下を歩く途中、何かが揺らめいたように見えた。 「…?」 よく目をこらして見ると、身長2メイルほどの白い人影が、ぼんやりと浮かび、消えた。 そしてその翌日から、女子寮では小物が紛失するといった事件が多発するようになる。 余談だが 人影を見た翌日、タバサはなぜか下着を二枚く洗濯していたとか。 前へ 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/277.html
(ふぅ~~~~ッ、危ないところじゃったわいッ。 ちと刺激的なギャグじゃったとは言え本気で殺されるかもしれんかったのォ) 救急車の中、空の向こうから魂を引き戻されたばかりのジョセフは包帯を巻かれた胸を撫で下ろしていた。 既に死亡していた自分にDIOの死体から輸血して蘇生させるという、ある意味今までの冒険と戦いを台無しにしかけないくらいの大博打ッ。 しかしさしものDIOとは言え、血だけではジョースターの血統を乗っ取ることは出来なかったようだ。 ジョセフは自分の横のベッドに視線を落とす。スタープラチナと承太郎に吹き飛ばされて完全敗北した、かつてDIOだった男の死骸は今も救急車の中で自分達と共に運ばれている。 この死骸を太陽光に晒し、復活の芽を完全に摘み取った時こそ、五十日にわたる冒険が真に終わるのだから。 (じゃが念には念を入れておかなければなるまい……) ジョセフは知らず知らずのうちに、自らの右手を強く握り締めていた。 自分の祖父ジョナサンは、吸血鬼となったDIOと戦いその身を打ち滅ぼした……と思った。しかしッ! DIOは首だけとなっても生きていたばかりか、なおもジョナサンへ襲い掛かり、ジョナサンの肉体を奪い取って復活したッッッ! DIOの血は果たしてどのような効果を及ぼすのか。これで吸血鬼化するとかDIOに乗っ取られるとかしようものなら、本当に今までの冒険が台無しとなる。 しかしジョセフには吸血鬼に対する必殺の切り札、波紋がある。 (じゃがなァ~~~~吸血鬼の血が身体に流れてる人間が波紋使ったら一体どうなるんじゃ? 呼吸が出来なくなって死んだりしたらヤじゃのう) ちょっと波紋を練ってみる。 「おおっ……ふ」 少し痛みが走るが、大体大丈夫。死ぬ危険はない。 だが波紋の効果が自分に及んでいるという事は、少なからずDIOの残滓が自分の中に眠っているということでもある。しばらく血を浄化するためにも、痛みがなくなるまでは波紋呼吸を続けなければなるまい。 「じじい……何してやがる」 承太郎が訝しげな目でジョセフを睨む。 「うむ。DIOの血が流れておるんでの、念を入れて波紋を自分の体に流そうとな……」 先程までの文字通りの死闘を潜り抜けた安堵感が、祖父と孫の間に流れたその瞬間ッッ!! 「ッッッ!!!」 「な……なんじゃあこれはァ~~~~!!?」 突然救急車の中に現れる、眩く光る“鏡”ッ!! 新手のスタンド使い!? 祖父と孫に流れ始めていた安堵感は即座に吹き飛び、二人の男が戦士の表情へと変わるッッ!! スタープラチナ、ハーミットパープル、二体のスタンドが発動する……が、鏡は承太郎とジョセフではなく、DIOへ向かって動き出していたッッ!! 「!!! スタープラチナッ……」 「いかんッッ!」 承太郎は自らのスタンドの能力を発動させようとした。しかしジョセフは…… (あの“鏡”が一体“何”なのかはちっともわからんッッ!! じゃが…あの鏡にDIOを触れさせてはいかんッッ それこそ! 本当に! わしらの旅が台無しになってしまうッッッッ それだけはッッッッ させてはならんのじゃあああああ!!!!) 根拠があったわけではない。 しかし、ジョセフには奇妙なまでに強い『“鏡”をDIOに触れさせてはいけない』という確信があった。 DIOが祖父の死体を冒涜した怒りで高まり、時を止めるまでに至った承太郎の精神は……DIOを再起不能にしジョセフを蘇生させたという気の緩みからか……時を止めることは出来なかった! だがジョセフの試みは成功したッ! DIOの身体をベッドから全て蹴り落とし、代わりに自らが鏡へタックルするように飛び込んだッッ!! 「じじいーーーーーッッッッ」 時間停止を即座に諦め、鏡に引きずり込まれようとするジョセフを無理矢理に引きずり出そうとするスタープラチナッ!! 高い精密な動きと俊敏な速度を持つ白金の腕は、凄まじい勢いで引き込まれていくジョセフの腕を掴んだ……が、スタープラチナの力を持ってしても、ジョセフを引き戻すどころか! 引き込まれていく動きを留めるだけで引き込まれていくことには変わりがない! 「手を離せ承太郎ッ! お前まで引きずり込まれたらDIOの後始末を誰がやるんじゃ!」 「ふざけんなじじいッッッ 俺が生き返らせたってのにここでリタイアなんかこの俺が認めねェェーーーッッッ」 「心配するな承太郎! 何があってもわしは必ず帰ってくる! わしが帰らんかったらスージーにはわしは死んだと伝えておけ!」 「帰ってくるとか言ってるのに遺言残してんじゃねェじじいーーーーッッッ」 「落ち着け承太郎! ホリィから父と息子を同時に奪う気かッ」 その瞬間、スタープラチナの力が思わず緩む! 鏡はジョセフの綱引きに勝利し、一気に彼を引きずり込んだッ! 「ハーミットパープルッッッ!!」 ジョセフが鏡に飲み込まれようとする瞬間、ジョセフの左腕から伸びた紫の茨が彼の上着と帽子へと伸び、持ち主と共に鏡へと引き込まれる! 「いいか承太郎ッ! DIOの後始末はお前に任せるッ! あ……それともう一つッ!」 もはや今のスタープラチナでは鏡からジョセフを引きずり出せない。それを察した承太郎は、歯を食いしばりながら、鏡から僅かに覗いたジョセフの顔を睨みつけていた。 「なんだじじいッッッ!!」 「楽しい旅じゃった! 孫と旅が出来て、わしゃ本望じゃったぞ承太郎!!」 その言葉を最後に、ジョセフの身体は全て鏡に飲み込まれ……そして、鏡も、消えた。 「じじいーーーーーーーーーーーーッッッッ」 承太郎の絶叫が、轟いた。 To Be Contined → 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1135.html
中庭には眼鏡とキュルケがいた。勉強会でもしていたのか、眼鏡は本とノートを持っている。 「ちょっとルイズ。あなた使い魔に逃げられたらしいわね」 うわ……もう広まってるじゃないの。わたしをここから追い出そうっていう闇の勢力でもいるわけ? 「キーシュの使い魔は大活躍だったって聞いたけど。同じ平民でも随分違うものねぇ」 何よ、あんな爺さんがいいの? 見境なし! 淫乱! 色魔! 肉欲の権化! 「コントラクト・サーヴァントまでしておいて従わせることができないなんて」 あーもうやだやだ。こいつ無視無視。おっぱいおっぱいおっぱい。 「あなたらしいわ。さすがゼロのルイズ」 おっぱいおっぱいおっぱいおっぱい。 「ねえ、あなたわたしの使い魔見なかった?」 眼鏡は首を横に振った。役に立たないわね。 「そっちのあなたは見なかった?」 「見てはいねェー……だがヨォ、ラッキープレイスはルイズの部屋って感じダぜェ」 おおお、このドラゴン口をきくんだ。主に似て物言いは無礼だけど素直に凄いわ。 「……今のは腹話術」 えええええっ、そ、そっちの方がスゴイッって! ここで腹話術を出すセンスはともかくとして、意外にユーモアあるのね、この眼鏡。 「ルイズ。あなたタバサのドラゴンが見えてるの?」 「見えてるのって……見えるに決まってるじゃない!」 どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんでしょうね、このおっぱい的存在は。 「アンタもスタンド使いになッたンだなァールイズ。ビックリだッツーの」 スゴイわねえ。唇なんて全然動いてないじゃない。この子にこんな芸があったなんて驚き。 ところでスタンド使いって何だろ? 無知を晒すみたいで恥ずかしいから聞かないけど。 あとでグェスにでも聞いてやるか。あいつ下らないこと詳しそうだし。 「いつまでそこにいるつもりだ?」 少女は伏せていた顔を上げた。話しかけられていたのかと思ったが、そうではないらしい。 普段の口調には、静かに抑えられた蔑みと上っ面以下の敬意が込められていた。 今の言葉からは、ある種の親しみが感じられた。同族への友好的感情といってもいい。けして少女には向けられることの無いものだ。 自分達以外の誰かがいる恐怖、唐突に動いた使い魔への困惑、場違いな嫉妬、それらが混化し、本人さえ理解しがたいものになり、少女は使い魔を見た。 使い魔の目は少女から逸れ、部屋の端へ向けられていた。何も無いはずの空間を凝視していた。 部屋の中には少女と使い魔しかいない。いくつかのパーツに分かれた使い魔が部屋のあちこちで蠢いている。 「顔くらい見せてもいいじゃあないか」 使い魔の口は動いていない。だが、声は聞こえる。 使い魔の声質に似ていたが、決定的に違う部分があった。 その声は空気を震わせることなく、頭の中へ直接割り込んでくる。 「私は君に従おう。君の目的は知らないが、なんとなく想像はつく。協力させてほしいだ」 口をきいているのは使い魔ではなかった。 少女はベッドから半身を起こし、悲鳴を飲み込んだ。右手で左腕を強く掴んだ。爪が食い込み、血が滲むほど力を入れた。 「主は君だ。私は従で充分だ」 使い魔の傍らに緑色の「何か」がいた。人ではない。人の形に似ていたが、絶対に人ではない。 下半身は醜く潰れ、肩や頭部からは無数の管が突き出ていた。 人形の全身にこびりついた緑色のカビが、少女の使い魔と関係があることを証明している。 目は二つあるが、人間の黒目にあたる部分は存在しない。全体が大雑把でいびつな造りをしていた。 「私には過程があればそれでいいんだ」 幻覚を見せられているのだろうか。握り締めた左腕が悲鳴を上げていたが、少女の耳には「何か」の声しか聞こえていない。 「君と戦おうとは思わん。それだけは分かってほしい」 緑色が薄れ、その声が遠くなっていく。少女はベッドから立ち上がった。この部屋にいたくない。 もつれる足で扉へ向かい、ノブに手をかけた。回そうとするが、汗で滑って上手く回せない。 「……お夜食、もらってくる……ね」 聞かれてもいない言い訳を口にした。 貴族嫌いの料理長に頭を下げるのも毎夜のことで、いまさら言葉にするようなことではなかったが、この異常な状況下、言い訳の一つも無しに部屋を出れば何をされるか分からない。 なんとかノブを捻り、扉を開け、外へ出ようとしたところで足を止めた。 少女の意思で止めたわけではない。足首に纏わりつく使い魔の指先を感じ、少女は足以外の動きも止めた。痛いほどに鼓動を速める心臓だけが、例外的に動き続けている。 「スカラファッジョ、あなた見えていましたね?」 千切れた左腕、ねじくれた右腕、胴体から生えた脊椎のような触手、どんなに気持ちが悪くとも払いのけることは許されない。 「ふむ……ふむ、ふむ」 右手で鼻をつままれ、左手に顎を押さえられた。口をこじ開けられ、使い魔が鼻を差し込んで匂いを嗅いでいる。 足が服の内側で這い回っている。そこに劣情は全く感じられず、それゆえ尚の事恐ろしい。 眼窩に指が差し込まれた。蚯蚓じみた長い中指が深く潜り、眼球の裏を撫でた。 震える足を気力で支え、倒れはしないように耐えていたが、使い魔の傍らに緑色の人形が現れた時点で少女の膝は恐怖に屈した。 緑色が腕を振り上げた。親指を内に握りこみ、それ以外の指は伸びた状態で揃えられている。 何をしようとしているのか理解したが、目を逸らすことはおろか、瞬き一つできない。 振り上げられた手が、何のてらいも無く、振り下ろされた。 見開かれた瞳から涙が一滴、それに合わせ、閉じることを忘れた口の端から唾液が糸を引いて床に落ちた。 「……違うな」 手刀が頭を割る直前で人形は消え失せた。だが、少女はへたり込んだまま動かない。 光彩を淀ませた瞳からは次々に涙が零れ落ち、口元は震えるだけで開くことも閉じることもない。 使い魔は少女に興味を失くしたのか、全ての体を元いた位置に戻し、活動を再開した。 ――スタンド使いを召喚した者にもスタンドが見えるのか? スタンド使い使い……ふん。 ――スカラファッジョか。たしか意味は……へっ、いい趣味してやがる。 どれほどだいそれた力を持っているとしても、種が割れていれば恐ろしくはない。 一瞬で壊れた物体を直そうが、光速を超えて時間を止めようが、いくらでもやりようはある。 策を練ることはけして不得意ではなかった。むしろ得意だった。 自分をより強い快楽へと導くための作戦を立てるため、じっくりと事を煮詰めるその時間は、時として実行時の愉悦を上回る。 だがそれも相手を理解していてこそだ。 仕事が終わってからの一杯をかかさない。 髪の毛をけなされればブチ切れる。 毎朝牛乳を飲んでいる。 母親が美人。 些細な情報でもかまわない。蟻の穴がきっかけで堤防が決壊することは珍しくない。 ――だが、野郎は……。 能力を尻毛の先ほども見せない。大切な物が分からない。主を人質にとも考えたが、現状を見る限り喜ばせるだけだろう。 水蒸気になって忍び寄る。雨に紛れて寝込みを襲う。闇雲に行動を起こすのは簡単だ。 だが相手の能力がこちらの意図を上回るものだったとしたら? 人間でないことは見た目で丸分かり。そんなわけの分からない生き物の体内に入っていいものなのか? 全て罠だったらどうする? 液体にさえダメージを与えるような力があったら? 何かに閉じ込める、全てを凍りつかせる、そんな能力だったら? すでに本体を認識されていたら? そのいずれか一つだけで全てが終わる。 ――しかも、このオレに気づいてやがった。 その上で気づいていることを教え、さらに余裕を崩さずこちらに呼びかけた。自分のスタンドを曝け出し、全てを明かしているポーズをとって話しかけてきた。 その態度、そして泡を食って逃げ出した自分自身に腹が立って仕方ない。 ――ケツ穴がいい気になりやがってるな。オレの前で調子に乗ってやがるな。 いい気になっているやつを許す趣味は無い。例外なく後悔させる。 近寄らずに消す手段は一つだけあった。そして、その手段はもうすぐこの学院へやってくる。 ――クヒヒッ、ヘハハハッ、フウウッヘヘヘヘ……ああ楽しみだァ。思うだけでも気分が晴れるぜェェェェ。 自分の強みは「情報」にある。下水の中、天井裏、排水溝、人が嫌がるあらゆる場所を這い回り、この学院を知ろうと努めた。 結果、表から裏までの全てが自分の中にある。部屋の中で本の表紙を眺めているだけの使い魔には手に入れられない情報を持っている。 食堂で大暴れした爺使い魔、ルイズの下着のローテーション、飽く事の無いキュルケの情事、ロングビルの裏仕事。 近いうちに開催されるであろう使い魔大品評会。 使い魔大品評会。 ――それまでは我慢してやるぜ。オレの性にゃ合わねェがよォ。 使い魔品評会は実にいい機会だ。実戦に近い模擬戦には事故がつき物。そうとくればやることは一つしかない。 一つ一つの挙措に隙が無いハゲ教師。裏で汚れ仕事をしているらしいチビ眼鏡。おかしな力でメイジを一蹴した糞爺。世界有数のメイジと噂される学院長。あとは自分以外のスタンド使いとその主人。 緑色を消し、これらの邪魔者もいなくなれば、この学院は自分の天下になる。 ここは一年ごとに新しい子供が自動供給される天国のような場所だ。誰にも譲ることはできない。 犯してやろう。切り取ってやろう。抉り出してやろう。打ち付けてやろう。ぶちまけてやろう。 中から苦痛と快楽を繰り返し与えてやろう。親友同士で楽しませてやろう。 魔法を使うのもいい。小利口な貴族連中では思いもつかないやり方を考えてやろう。 全ては使い魔大品評会だ。そこから始まる。そこから始める。 別にタバサの使い魔信じたわけじゃないけど……あ、あれ腹話術だったっけ。 別にタバサの言うこと信じたわけじゃないけど、自分の部屋に戻ってみることにした。 わたしはわたしなりに反省したけど、グェスだって反省しかもしれないしね。 部屋の中で正座して待ってるかもしれない。 ここまでポジティブに考えてるのに、渡り廊下でマリコルヌに遭遇するし。またよりによって。 ううう、普段人通りが無いところを選んで歩いてきたのに。 「……」 ん? からかわれることを覚悟してたのに、マリコルヌは元気なさげ。 いつもゼロゼロゼロしか言わない風邪ッぴきがおかしいわね。 どうしたんだろ。食堂の騒ぎが伝わってないのかな。だったらラッキー。 「どうしたのマリコルヌ。元気無いわね」 「いや……別に」 「わたしの使い魔見なかった?」 「……別に」 わたしに目を合わせず、腕にひっついた使い魔の蛙をジッと見ている。 これは怪しい。何か企んでいるようね。 どうやってわたしを陥れてやろうか、そんな雰囲気が漂ってるわ。 ふん、そっちがその気ならわたしだって受けてたってやるんだから。 「あのね。病気じゃないならもっと胸を張りなさい。人をからかってばかりいる不遜なあんたはどうしたの」 バァーンっと背中叩いてやった。マリコルヌはむせてるけど、わたしはちょっとだけスッとした。 マリコルヌは放って渡り廊下を後にする。あーあ、こんなことでしか憂さを晴らせない自分が情けない。 今のわたしって、この学院で一番不幸な女の子なんじゃないかしら。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1654.html
空賊に捕らえられたセッコたちは、船倉に閉じ込められた。 元の船の乗組員たちはそのまま船の曳航を手伝わされているらしい。 セッコは剣を取り上げられ、ワルドとルイズは杖を取り上げられていた。 周りには砲弾やら火薬樽やら酒樽やら様々なものが雑然と置かれている。 ワルドはそれらを興味深そうに見て回っていた。 考え事をしていたルイズが、暇そうに寝転がっているセッコに向かって声をかけた。 「ねえ、こっそり外の様子を見てきてくれないかしら」 「こっそりは無理だ。」 「なんでよ?」 ワルドが代わりに答えた。 「扉の外に看守がいるし、他にも見張りはいるだろう」 いや、そういうことじゃねえんだけどな。 ワルドに聞かれたくなかったのでルイズの傍に寄る。 (壁や床が、薄すぎる。中に隠れられねえし、通った後に少し穴が残る。) 「そう、困ったわね。なんとかならないの?」 (部屋から部屋へ渡り歩いて一人残らず死体にするぐらいならできるぜ? ホラー小説みたいによお。) ルイズの顔が引き攣った。 「あのね、セッコ?」 「なんだよお。」 「それは、絶ッッッ対、絶対に!駄目!」 面白そうだと思ったのになあ。 その大声に、あたりを調べていたワルドが戻ってきた。 「落ち着くんだ、ルイズ。僕たちはずいぶん丁重に扱われているぞ」 「杖を取り上げられて船倉に押し込まれてる、これのどこが丁重なの?」 珍しくワルドが正しい。気がする。 「だよなあ、ルイズはともかくよお、おっさんとオレが拘束の必要もない病人や子供に見えるかあ?」 まあ、オレに物理的拘束は意味ねえけどな。 「セッコ、ちゃんとワルドのこと名前で呼びなさいっていったでしょう。 ・・・でも、言われてみればおかしいわよね」 ワルドが言葉を続ける。 「それも不自然ではあるが、この部屋には火薬まで貯蔵してあるようだ。 確か、今のアルビオンでは火薬や硫黄が、黄金かそれ以上の価値があるのではなかったかな? もし、僕たちが自爆したらどうなるんだろうね」 「オレはまだ死にたくねえぞ。」 考えるのが面倒になってきたので再び寝転がる。 ワルドとルイズも腕を組んで首を捻った。 その時、突然扉が開いて痩せぎすの空賊が姿を現した。 「頭が、直々におめぇらを尋問したいとさ。」 なんだそりゃ?身代金を取るために家名でも聞くのかあ? ルイズが泡を飛ばして突っかかる。落ち着け。 「空賊風情が、貴族に聞きたいことなんてあるのかしら?」 「細かいことはお頭に聞いてくれ。俺たちも仕事なんでねえ」 そう言って男は笑った。 「いいじゃないか、ルイズ。直接交渉できるならこれほど楽なことはないだろう」 ワルドがルイズを制した。 とりあえず、様子を見るべきかなあ。 狭い通路を通り、細い階段を登り、三人が連れて行かれた先は立派な部屋だった。 どうやらそこがこの空賊船の船長室らしい。 扉が開くと、豪華なディナーテーブルがあり、一番上座に眼帯を着けたヒゲ面の派手な男が腰掛けていた。 大きな水晶のついた杖を持っている。 頭の回りでは、ガラの悪い空賊たちがニヤニヤと笑って、入って来たルイズたちを見つめている。 入り口のそばにいた一人が声をかけてきた。 「おい、お前たち、頭の前だ。挨拶しろ」 しかし、ルイズはそれを無視して頭を睨む。 「失礼ね!聞きたいことがあるならそっちから挨拶しなさいよ!」 頭はにやっと笑って言葉を返した。 「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、なら本題に入ろうか」 「何よ」 「実を言うと俺たちはな、貴族派の密命で、アルビオンに入る連中を監視してるんだよ。 貴族がこの時期のアルビオンに行くからには何かあるんだろう?旅行なんて言い訳は無しにしようや」 「そう、つまりこの船は反乱軍の軍艦なわけね?」 「いいや、それは違うな。俺たちはあくまで空賊。対等なビジネスさ」 「空賊と手を結ぶなんて本当にアルビオンの反乱軍は屑ね。 わたしはアルビオン王党派、いえ、アルビオン王家への使者よ。 曲がりなりにもあなた達が軍と対等な関係というのならば、大使としての扱いを要求するわ」 「なにしに行くんだ?あいつらは、明日にでも消えちまうよ」 「まだ、敗北宣言はしてないでしょう?それに、何のために行くかなんてあんたらに言うことじゃないわ」 頭は、妙に楽しそうな様子でこちらを見ている。そしてルイズに言った。 「成る程な。まあ俺たちはそんな重箱の隅みたいなことまでは気にしてねえさ。 金が入ってくりゃあそれでいいんだからな。ところで、今からでも貴族派につく気はないかね? あいつらは、メイジを欲しがっている。礼金もたんまり弾んでくれるだろうよ」 ルイズは少し震えながらも、胸を張って答えた。 「死んでもイヤよ」 セッコはその様子を見ながら思った。こいつは、本当に強情な奴なんだなあ。 ・・・確かフーケの時もこんなだっけなあ。 その精神構造は基本的に自分優先のセッコにとって納得できるものではない。 だが、“主”として信念を決して曲げないのは多分いいことなんだろう。 少なくとも、ワルドやアンリエッタよりはいくらかマシに違えねえ。 ワルドのほうを伺うと、神妙な顔で“頭”を見つめている。相変わらずよくわからねえ奴だ。 「もう一度だけ言う。貴族派につく気はないかね?」 大きく息を吸い、胸を張りなおしたルイズより先に、いい加減イライラしていたセッコが罵声を上げた。 「つかねえって言ってんだろうがよお。 どうしても寝返らせてえなら、腕を切り落とすなり今ここで現金積むなり 無理矢理従わせりゃあいいじゃねえか!オメーら訳わかんねえよ!何がしてえんだあああああ!」 「ちょ、ちょっとセッコ気持ちはわかるけど落ち着きなさい!」 ルイズが慌てて止める。それと同時に“頭”がセッコのほうをじろりと見た。 「貴様はなんだ?」 「使い魔だがよお、それがどうした」 「・・・使い魔?」 突然、頭が大声で笑い始めた。 「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシだがね」 言いつつ立ち上がる。セッコはいきなりの変貌を観察した。 ワルドとルイズも顔を見合わせている。 「いや、実に失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはな」 頭はそう言うと、突然顔のパーツを剥がし始めた。 いつの間にかニヤニヤしていた取り巻きたちが直立している。 現れたのは、なんと威風堂々とした金髪の若者だった。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官だ。 もっとも、既にこの[イーグル]号しか存在せず、装わざるとも空賊と大差ない無力な艦隊だがね。 もっとわかりやすく表現するならば、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ルイズは口をあんぐりと開けた。 セッコは首を捻った。 ワルドは興味深そうに、皇太子を見つめた。 ウェールズは、笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。 「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、御用の向きをうかがおうか」 ルイズはいまだぽかんとしている。セッコは胡乱な目でウェールズを見た。 「なあ・・・おめえ本当に本物かあ?だってよお・・・」 今にもウェールズに掴みかかりそうなセッコを制して、ワルドが優雅に頭を下げた。 「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」 「ふむ、姫殿下とな。きみは?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。 そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢。そしてそこの男がその使い魔です」 「なるほど、して、その密書とやらは?」 ルイズが慌てて、胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出した。 しかし、ウェールズは手紙ではなくルイズの指輪を見つめている。 「あ、あの・・・どうなされました?」 「ラ・ヴァリエール嬢、その指輪はどこで手に入れたのかね?」 「これは、任務を受ける際に姫殿下から賜ったものです」 「やはりそうか!それはアンリエッタが嵌めていた[水のルビー]だな。そして・・・」 ウェールズは自分の手から指輪を外し、ルイズの手に近づけた。 「この指輪は、アルビオン王家に伝わる[風のルビー]だ。 水と風は、虹を作る。王家の間にかかる橋さ」 2つの宝石が共鳴し、虹色の光を振りまいた。 「すごい・・・」 ルイズが感嘆したように呟く。セッコとワルドも目を丸くした。 ウェールズは満足そうに微笑んだ。 「すまない、少し話が逸れてしまった。では密書を頂こうか」 ルイズが一礼し、手紙をウェールズに手渡した。 ウェールズは、しばらくの間手紙を恍惚とした表情で眺めていたが、花押に接吻し、開封すると真剣に読み始めた。 「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い・・・、従妹は」 ワルドとルイズが無言で頷いた。 ウェールズの表情が少し曇ったが、最後まで読み終えた時には、微笑みに変わっていた。 「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫からもらった手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」 ルイズの顔が輝いた。 「しかしながら、今、手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。 姫の手紙を、空賊船に連れてくるわけにはいかぬのでね。多少面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい。 ・・・そうそう、剣と杖を返さないとな」 ウェールズはそう言って笑い、甲板に出て行った。セッコたちもそれに続く。 「なあ、ルイズよお?」 「何かしら?」 「アンリエッタは手紙を回収しろつってたけどさ。」 「それがどうしたのよ、今から取りに行くんでしょう」 「受け取ったら、即焼き捨てた方がよくねえかな・・・」 「なんでわざわざ命令無視しなきゃいけないのよ」 「いや、ヤバい手紙なんだろ?どこにあったって爆弾じゃねえかあ?」 アンリエッタがどうなろうと知ったことじゃねえ。 だが、たかが手紙が原因で同盟破棄?戦争?冗談じゃねえ。 まだ死にたくねえつーの。 「馬鹿ね、トリステインなりゲルマニアなり、ちゃんとした城の中にあれば大丈夫よ」 「盗まれたらどうすんだよ。」 「まともに機能してる城にどうやって忍び込むのよ。[ディテクト・マジック]っていう魔法を探知する魔法だってあるわ」 「いやほら、オレとかヴェルダンデみたいに。」 「あ・・・」 「気づけよ。」 「ま、まあ取り戻して姫様に返す前にでも考えればいいわ、多分」 「ほんとかよ。」 ルイズとセッコが話していると、ワルドを伴ったウェールズがルイズの杖とデルフリンガーを持って戻ってきた。 ニューカッスル城まではまだかなりかかるらしい。 そういえば、今日はまだ何も食ってねえなあ。 セッコは、飴を女神の杵亭に忘れてきたことを後悔した。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/993.html
食堂に入るとすでに昼食の用意がされていた。 ジョニィは目の前の貧乏臭いスープとパンを見てため息をつく。 (食事だけは…ジャイロ。レース中より貧しくなってるんだぜ…) そう思いながら皿に手を伸ばす──が、その皿がルイズにひょいと取り上げられた。 「何だ!?何をするんだルイズ!?おいッ!!それは僕の食事だぞッ!」 「か、勘違いするんじゃないわよ。これはあんたのじゃないわ」 そう言ってルイズは近くにいたメイドを呼ぶと自分の食事と同じものを持ってこさせた。 食事を運んできたメイドはスープやサラダなどの皿を慣れた手つきでジョニィの前に並べていく。 「君は一体なにをしてるんだッ!?」 「そ、それは…そ、その…そう!ご褒美よ!一人で教室を片付けたことに対するご褒美!だから感謝して食べなさい!」 もちろん自分を励ましてくれたジョニィに対するお礼のつもりであるが素直に言えるはずがない。 捲くし立てるように言うとルイズは耳まで赤くして「ふん!」と明後日の方向を向いた。 一方、ジョニィはかなり間抜けな顔をしていた。 今までビッチばっか相手にしてきたジョニィにルイズのツンデレな行動が理解できるわけがない。 精一杯考えた結果、 (…毒とか入ってるんじゃあないか?…使い魔が死ぬと次の使い魔が召喚できるとか言ってたよね…?) という結論に至ったのである。 正直、怪しすぎて食べたくはなかったがルイズがちらちらと見てくるので食べないわけにもいかないようだ。 (『覚悟』を決めろジョニィ・ジョースター!『覚悟』は『幸福』なんだッ!…まさかルイズもそこまではしないだろ) 「いただきま…」 そう言いいかけてジョニィは固まった。 …目の前の料理は確かに僕のものだ。この料理は『僕のために用意された料理』だ。 でもこの『サラダ』はそういうんじゃあないッ!違う皿だ!どうなってるんだッ!? ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 『増えている』んだッ!僕のサラダがいつの間にかもう一皿『増えている』ッ! 別に多いに越したことはないんだけどね。 特に気にせずにサラダを平らげていくジョニィを見てルイズは思わず呟いた。 「あんた…よくはしばみ草のサラダなんか食べれるわね…」 「…?おいしいじゃあないか」 そのとき、どこからか風に乗って「仲間」という声が聞こえた気がした。 ──そしてジョニィは知らない。『はしばみ草使い』同士は引かれあう。その運命的なルールを…。 昼食後、こっちの世界に一緒に召喚された愛馬の様子を見るためジョニィは厩舎に向かった。 ルイズは「馬の世話なんて使用人がやってくれるわよ」と言っていたが、ジョニィは愛馬の世話はできるだけ自分でしたかった。 スローダンサーもジャイロと同じように過酷なレースを一緒に走ってきた『仲間』なのだから。 厩舎の近くまで来ると丁度一人のメイドがスローダンサーの手綱を引いて厩舎から出てきた。 ジョニィは驚いた。スローダンサーは気性が荒い。 元天才ジョッキーのジョニィでも一晩かけてやっと乗れるようになった馬である。 そんな馬が大人しくメイドの少女に手綱を引かれているのだ。 (まさか、僕の馬…君は…) ジョニィは愛馬の目を見て確信する。 (間違いない…これで間違いない。『スローダンサー』。『この馬』は…) 『女の子が好き』 「あの、どうなさいました?」 そんなくだらない事を考えているといつのまにかメイドとスローダンサーが目の前に立っていた。 手綱を引いていたメイドはジョニィの左手のルーンを見て「まあ」と声をあげる。 「あなたもしかしてミス・ヴァリエールに召喚されたっていう平民の…」 「…知ってるって事は君も魔法使いなのかい?」 「いえ、私は違います。あなたと同じ平民です。貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公させていただいてるんです。あ、申し遅れました。私はシエスタっていいます。あなたは?」 「僕はジョニィ。ジョニィ・ジョースター」 「変わったお名前ですね…。それでジョニィさん。どうなさいました?厩舎に何か用事ですか?」 そこでジョニィは厩舎まで来た目的をやっと思い出す。 「そう、その馬。一緒に召喚された僕の馬なんだ」 「あら、そうなんですか。その、ちょっと馬体が汚れていたので洗ってあげようかと思ったんですが…」 「無茶苦茶な友達のせいで湖に入ったり砂漠の真ん中を走ったりしたからね…。僕も洗ってやろうと思ってて…水場を教えて欲しいんだ」 「まあ。わかりました。あちらです」 ジョニィの言葉にくすくすと笑いながらシエスタは歩き出した。 水場へと向かう道すがら聞いたところではどうやら平民の使い魔の噂は学院中に知れ渡ってるらしい。 (あんまりいい噂じゃあないみたいだけど…) そんなことを考えていると、前を歩いていたシエスタが二人の貴族に呼び止められた。 一人は茶色のマントを来た栗色の髪の少女、 もう一人はなんと言うか…金色の巻き髪にフリルのシャツ、胸には薔薇をさしたキザな少年だった。 マウンテン・ティムほどではないがルックスもそこそこイケメンだ。 少年はシエスタの前まで来ると髪をかきあげて、スローダンサーを見た。 「君。丁度よかった。少し遠乗りに出かけようと思ってね。その馬を借りるよ。おいで、ケティ」 「は、はい。ギーシュさま」 そう言ってギーシュと呼ばれた少年は芝居がかった仕草でスローダンサーの手綱をとろうとする。 だが、見慣れない男を嫌がったスローダンサーが突然立ち上がって暴れだした。 貴族用に調教された大人しい馬と違いスローダンサーは『性格のいじけた暴れ馬』である。 そんな馬など扱ったことのないギーシュは「うひゃあ!?」と悲鳴をあげて尻餅をついた。 「な、なんだこの馬!危ないじゃないか!」 尻餅をついたままの間抜けな格好でギーシュが怒鳴る。 ジョニィはどうどうと愛馬を宥めながらギーシュを見てため息をついた。 「勝手に近づくからだろ。君みたいなお坊ちゃんじゃあ僕の馬に乗るのは無理だぜ」 「…君は確か、あのゼロのルイズが呼び出した平民だったな。平民が僕を侮辱する気か?」 ギーシュの顔が怒りで歪む。自分が侮辱されていることに気付いたようだ。 そこでケティと呼ばれていた少女がギーシュに慌てて手を差し出した。 「も、もういいですから行きましょう、ギーシュさま。ラ・ロシェールの森へ行く前に日が暮れてしまいますわ」 「…いいだろう。今日はケティに免じて許してやる」 そう言うとハンカチを取り出してゆっくりと頬を拭く。そしてこれまた芝居がかった仕草で立ち上がる。 そのとき彼のポケットから壜がころんと落ちた。 ギーシュは慌ててその壜を拾おうとしたがそれよりも早くケティが壜を拾い上げた。 「ギ、ギーシュさま…これはモンモランシーさまの香水…」 「誤解だよケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは君だけ…」 ケティはポロポロと涙を流すと必死に弁解しようとするギーシュの頬を思いっきりひっぱたいた。 厩舎の前の広場にまるでブ厚い鉄の扉に流れ弾丸があたったような音が響く。 「この味は!ウソをついている味ですわ!さようなら!」 そして泣きながら走り去っていった。 しばらくの気まずい沈黙の後、ジョニィは何事もなかったようにスローダンサーの手綱を引いて水場に向かおうとした。 しかし、ギーシュの怒りは収まらない。怒りの矛先をジョニィに向けて叫んだ。 「待ちたまえ!君のその馬のせいで一人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」 ジョニィにしてみればとんだ言いがかりである。二股かけてるこいつが悪いのだ。 「よく解らないけど二股かけてる君が悪いんだろ。僕のせいじゃあない」 皮肉めいたジョニィの言葉にギーシュの怒りは頂点に達した。 怒りに震える手で胸ポケットの薔薇を握りジョニィに突きつける。 「…君はどうやら貴族に対する礼を知らないようだな。よかろう。君に礼儀を教えてやろう」 「はあ!?だから僕は悪くないだろ?」 その言葉にギーシュは「ふん」と鼻で笑うとまた芝居がかった仕草で肩を竦めて見せた。 「所詮『歩けない使い魔』じゃあ僕の相手にはならないか。ゼロが召喚したからどんな使い魔かと思えば…主人に似て役立たずなうえに腰抜けとは」 「………」 安い挑発だった。普段のジョニィなら乗ったりはしなかっただろう。 「…いいぜ。やってやるよ」 だが、気が付くとそう言っていた。 許せなかった。 自分が歩けないのは事実だしそうなったのも僕の責任だ。 どう言われても仕方がない。 しかし、彼はルイズも役立たずだと言った。 ルイズは自分なりに悩んで…努力して…『生長』しようとしている。 他人に認めてもらおうと頑張っている。 見捨てられる事は怖い事だから…兄を溺愛する父親に見捨てられ…下半身不随で世間にも見捨てられた僕にはそれがよく解る。 その心を知らないヤツが必死に頑張っているルイズを役立たずと言っているのだけは許せない。 ジョニィの言葉ににやりと笑うとギーシュは「ヴェストリの広場にこい」とだけ言って去っていった。 ギーシュの姿が完全に見えなくなると、シエスタが青い顔で呟いた。 「ジョ、ジョニィさん…。あなた…殺されちゃいます…メイジと戦ったりなんてしたら…」 そう言うと、だーっと逃げ出してしまった。 (僕の馬を場房に戻してもらいたかったんだけど…仕方ないか) ため息をついてジョニィは厩舎への道を戻り始めた。 スローダンサーを馬房に戻すと厩舎の壁に鉄の板が立掛けられているのが目に入る。 しばらくして厩舎からでてきた彼の手の中には二つの鉄球が握られていた。 To Be Continued =>
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/866.html
そういえば教室の場所を聞くのを忘れていた。 どうやって教室を探すか。むやみに散策しても見つからないだろうし、遅れたらルイズが何を言い出すか。 しかしそんな悩みは、校舎にはいるなりあっさりと解決した。 廊下には人、人、人。軽く40人ぐらいはいる。どうやら何かあって、ここまで難を逃れてきたらしい。 時折聞こえてくる会話内容から、教室で爆発があり、ここまで逃れてきたこと。そして今、ルイズと、その使い魔が罰掃除をしているということを、僕は知った。 使い魔というのは才人の事だろう。罰掃除と言うからには、ルイズがこの騒ぎに何らかの原因を担っているのは間違いない。僕はそのとばっちりを受けたと言うことだ。 生徒達の様子から、まだ爆発して、それほど時間は経っていないらしい。教室も解ったことだし、急ぐ必要もないだろう。 僕はゆっくり歩いていくことにした。 いざ教室についてみると、中は凄い惨状を呈していた。 教室は一般的な大学の講義室のような造りをしているのだろうが、教室全体が煤汚れており、石っころが机や、壁にまでめり込んでいる。 教壇の辺りでは、才人とルイズが雑巾とちりとりを片手に、石っころを取り除きながら、煤汚れを拭き取っていた。 よく見るとルイズは机しか拭いていない。床などは全部才人がやる羽目になっているらしい。 と、机を拭いていたルイズが顔を上げる。僕が入ってきたことに気がついたようだ。 「遅いわよ、下僕! ほら、早く煤落とすの手伝って!」 どうしてこう、わざわざ勘に障る言い方をするのか。 僕は抗議もかねて、ルイズが渡そうとしている雑巾を無視し、教室中央にあったバケツから、新しい雑巾を一つふんだくり、才人の方へと向かった。 ルイズがなにやら言いたそうに、眉間にシワを寄せてこちらを見る。大方そこを全部任して、自分は休憩するつもりだったのだろう。そうはいかない。 僕が才人と一緒に床を拭き始めると、ルイズは諦めたように、机磨きを再開した。罰掃除という名目上、無理には押しつけられない様だ。 「しかし、何でこんな事になったんです?」 僕は才人に、ルイズには聞こえないよう小声で、どうしてこんな事になったのかを訪ねた。 不満げに床を拭いていた才人は手を止め、口元をにやりと歪ませ、喜々として語り出した。 「ルイズの二つ名……ゼロのルイズって言うんだけど、何でだと思う?」 何故だろう。胸がゼロだからか? 確かに干しぶどうみたいな申し訳程度の胸だが。 いや、胸から離れろ。 「魔法成功確率ゼロだからだとさ。何をやっても爆発するんだと。これも『錬金』とやらの失敗でなったんだぜ?」 才人の声がだんだんと大きくなっていく。色々溜まっているのだろう。しかし、ルイズに聞かれたらどうするつもりだ。 「錬金! あ、ボカーン! 錬金! あ、ボカーン! 失敗です! ゼロだけに失敗であります!」 既に声はかなり大きくなっていた。間違いなく、ルイズに聞こえているであろう。 どうして虎の尾を踏むようなまねをするのか。ルイズの方を見ると、机に突っ伏してプルプルと震えている。 手遅れかも知れないが、僕は才人に釘を刺す。 「才人、せめてもう少し小さな声で……」 しかし弱点を見つけて浮かれている才人は、声が大きくなっている事にも気がつかず、続ける。 「ルイルイルイズはダメルイズ~ 魔法が出来ない魔法使い~ でも大丈夫! だって、女の子だもん…… なんてな。ぶわっはっはっはっはっ……」 「当て身」 僕は才人の首筋を叩いて、強制的に黙らせることにした。このまま放っておいたら、僕まで何をさせられるか… もう一度、ルイズを見る。一見平静を装って、机拭きを続けているが、その表情には影が出来ている。 既に手遅れだったようだ。 危険な雰囲気だったが、ともあれ掃除は何事もなく、お昼には終わらせることが出来た。 用具を片づけ、何度か、訳が分からないといった感じで首筋をさすっている才人と、終始うつむいたままのルイズと共に教室を後にする。 「……さっきからずっと首筋がいてぇんだよなぁ。気がついたら、床で寝そべってたし。花京院、何かしらねえ?」 「いえ……」 ルイズはさっきから、一言も喋っていない。僕もいささかバツが悪いので、殆ど喋っていない。 重苦しい雰囲気が漂う。だが、元凶である才人はというと、まるで空気を読まず、一人で色々喋っていた。 ルイズの肩がプルプルと震えている。しかし才人はお構いなしにまだ喋る。 「胸もゼロ! 魔法の才能もゼロ! ゼロゼロゼロ、ゼロのルイズ~」 才人は一度、調子に乗り始めたら中々空気を読まず、一度痛い目を見ないと、いや、痛い目を見ても懲りないということは、既に熟知したつもりだったが、ここまでとは。本当にわからん奴だなッ! 僕はもう、言いたいだけ言わせておくことにした。今更黙らせても、もう手遅れだろう。 途中で僕は屯所へと戻るため、才人達と別れた。才人と違い、衛兵ということになっている僕は、食事は貴族達の後で、屯所で食べるからだ。 「じゃあ、後でな~」 「……ええ」 相変わらずルイズは何も言わなかった。 屯所に向かうため、中庭に続く広場を通る。昨日、ここで僕たちは召喚されたんだな。 お昼までは時間がある。何となく、僕はここを散策したくなった。 まだ所々、芝がはげ上がっていたり、土が盛り上がっていたりと、昨日暴れた痕跡が残っているものの、殆ど元の状態に戻っていた。 昨日逃げた時点では、かなり派手に荒れていたはずなのだが。それを半日とちょっとで、ここまで直せるものなのか。 「ン?」 芝がはげ上がった所に、きらりと光るものを見る。 近くによって確認すると、紫色の小ビンだった。 僕はそれをぱっと手に取る。 「香水か」 香りからいって、これは体臭を消すためのものと云うよりは、格調高い、女性の魅力を引き立てるようなタイプのものだな。 軽く振ってみる。中には液体が入ったままだ。捨てていったものではないらしい。 おそらく昨日暴れた時に、誰かが落としていったのだろう。 「後で、ルイズにでも聞いてみましょうか」 僕はそれを、屯所の外にかけておいた学ランの右ポケットに入れ、屯所の扉を開いた。 扉を開くと、ペイジさん、ジョーンズさんの他に、二人、僕の知らない人間がいた。 顔に半分だけマスクをつけた男と、顔の左側をまるまる覆うような眼帯をつけた男だ。 「おう新入り。初めてだな。俺の名はプラント」 「ボーンナム」 「花京院典明です。宜しくお願いします」 ペイジさんの話によると、四人併せて血管針カルテットなどと呼ばれているとのこと。理由は本人達も良く知らないらしい。 「さて、後はメイドが食事持ってきてくれるのを待つだけだな」 「そういや、今日は貴族共が中庭でティータイムしてるんだったな」 椅子に座って、メイドが来るのを待つ。 暫くして、こちらに近づいてくる足音が近づいてきた。 コンコンと、二回、ノックの音がした。 新入りということで、僕が扉を開ける。 「お食事をお持ちしました」 そこには、今日、僕にこの屯所の場所を教えてくれたシエスタと、何故か才人がいた。 「何故、才人がここにいるんです」 「いや、それがな……」 「なるほど……」 あの後、ルイズにゼロといった回数だけ御飯抜きを宣告され、空腹でふらふらさまよっていた所を、シエスタに呼びとめられ、厨房で賄い食をごちそうになり、そのお礼にと手伝いをしているらしい。 ちなみに僕が知っているだけでも40回は言っていた。ご愁傷様だ。 「しかし、良くその程度で済みましたね」 「ハァ、嫌みなんていわなきゃ良かったよ」 話している間に、今、ここにいる全員分のシチューとパンが並べられていた。 シエスタは一度、こちらに礼をしてから部屋から出ていった。才人も後に続く。 と、そうだ。 ルイズの近くにいた才人なら、さっきの小ビンのこと、何か解るかも知れない。 「才人、僕の学ランのポケットに小ビンが入っている。さっき広場で拾ったんだが、誰のか解らないんだ。おそらく貴族の誰かのだとは思うんだが。何か心当たりは無いか?」 「え、小ビン? ……そういや、広場で何かを探している奴がいたな」 「なら丁度いい。その人に返しておいてくれないか?」 「構わねぇけど……」 「なら、頼んだぞ」 才人もそういって、部屋から出ていった。 意外と早く持ち主が見つかったな。 「新入り、用事は済んだか? 早く飯にするぞ。……俺の名はペイジ」 「ジョーンズ」ビン 「プラント」ビン 「ボーンナム」ビビン 「「「「頂きます!」」」」パバ――ッ 「……頂きます」 実に斬新な食事の挨拶だ。ついていけそうにない。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/53.html
結論から言うと私は外で食事をさせられた。周りには他の生徒の使い魔がいる。 外に出された理由は私が食事中に吐いたからだ。初めての食事を胃が受け付けなかったらしい。 ルイズはすぐさま私を外に追い出した。その後。何とか我慢して食事を食べる。パンも流動食だと言えるほど噛んで食べれば吐くほどではない。が、やはり体の中に違和感があるのは禁じえない。これからは人間が何をしなければいけないか考えなくてはいけないな。 いつまでも幽霊の常識じゃいけないってことだ。 食事が終わる頃生徒たちが食堂から出てくる。私の方をみて笑う生徒もいる。さっきのことだろう。 そう思っているとルイズが出てきた。 「あんた何してんのよ!恥かいちゃったじゃない!」 会った瞬間怒鳴ってくる。 「調子が悪かったんだ」 当たり障りのないことを言う。食事をしたことがないと言ったら二度と食事させてもらえなくなるだろうな。 「あんたの体調なんて聞いてないわ!罰として昼食抜きね!」 まぁ昼食だけならさして問題はないだろう。 そして教室へ向かう。ルイズと私が教室へ入ると既にいた生徒が一斉にこちらを見る。 そしてクスクス笑い始めるた。特に気にするようなことではない。 教室を見回す。石で出来た大学の講義室みたいだな。 生徒を見るとやはり使い魔を連れている。 フクロウ、ヘビ、カラス、猫、目玉、六本足のトカゲ、蛸人魚etc、、、 ルイズが席に座る。私も席に座り帽子を取る。ルイズが睨んでくるが無視する。どうせ私は床に座れとか言うのだろう。 ルイズが何か言おうとする前に扉が開き中年の女性が入ってきた。ローブは紫色で帽子を被っている。きっと彼女が先生なのだろう。 彼女が春の使い魔召還の祝辞を述べる。先生はシュヴルーズというらしい。 「おやおや。変わった使い魔を召還したものですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズは私を見てとぼけた声で言う。教室が笑いに包まれる。 ルイズは俯いている。シュヴルーズは笑いを取るために言った冗談なのだろうがルイズが傷つくのは考慮に入れてないようだ。 「ゼロのルイズ!召還できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」 誰かがそう言う。するとルイズが立ち上がり怒鳴り返す。 そこから言い争いが始まる。また『ゼロのルイズ』だ。どうやら誹謗中傷の類らしいな。 シュヴルーズが杖を振ると、言い争っていた二人は席に座り静かになった。魔法は便利だな。 シュヴルーズが二人を叱る。 「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」 マリコルヌと呼ばれていた彼ががそう言うと笑いが漏れる。 シュヴルーズがまた杖を振ると笑っていた生徒の口に赤土の粘土が張り付いた。 「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 シュヴルーズは厳しい顔でそういった。 しかし発端を作ったのはお前だろう。 「では授業を始めます」 話しを聴く限りだとこの世界では魔法が科学技術らしい。ゆえにそれを使える貴族が権力を持つということか。 いや、魔法が使えるから貴族か…… こいつらが魔法が使えなくなったらどうするんだろうかね? シュヴルーズが杖を振ると石が光る。光が治まると石は金属に変わっていた。 つくづく魔法は何でもありらしい。 6へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/115.html
「レスピンジェレ(断る)」 「……はぁ?」 「聞こえなかったか?レスピンジェレ(断る)と言ったんだ」 話は多少前に遡る 「――でアンタの名前グレイトフル・デッドでいいの?」 不意に己のスタンドの名を呼ばれ警戒態勢に入るプロシュートだが思い当たる節があったのでそれを解く。 「……プロシュートだ」 「?アンタさっき『名前は?』って聞いた時そう言ったじゃない」 「オメーには関係ねぇことだ」 ここが自分が居た世界とは別の場所だと頭では理解していたが心のどこかでまだ信じきれないでいたプロシュートであったが 夜空に浮かぶ2つの月を見てそれを認めざるをえなかった。 「ここが魔法の国でオメーがオレを召喚し、ここがメイジとかいう貴族に支配されてるって事も分かった」 魔法を使えるメイジが貴族としてこの国を治めているという話を聞いたプロシュートだったが 彼に言わせてみれば『学院とやらで学べる以上メイジが貴族なんじゃあなく貴族がメイジで魔法を使えるヤツを管理して平民とやらを支配してるっつー事か』である。 「それでオレが聞きたいのは元の場所に帰れるかって事だ」 「無理よ… サモン・サーヴァントであんたを呼び出したのは私。 だけど元の場所に帰す魔法なんて知らないし聞いたこともないわ…」 一瞬怒りの表情を露にするプロシュートだがブチャラティに列車から叩き落され地面に激突しそうになった事を思い出しそれを隠す。 (……認めたくはねぇがオレはこいつに命を救われた『借り』があるって事か) 「……それで使い魔ってのは何をすりゃあいいんだ?」 「平民を使い魔にしたなんて聞いた事無いもの…アンタでもできそうな掃除、洗濯ってところかしらね」 ここで時間が戻り冒頭の「レスピンジェレ(断る)」である。(ちなみにこの間僅か0.5秒) 「使い魔に拒否権なんてあると思ってるわけ?」 「そうなってくるとオレとしては脱走し資金・食料を得るためにどこかの貴族の館に押し入りそいつの家のベッドの上には見知らぬ老人の死体が転がってるって事になるな」 「……何が言いたいの?」 「使い魔の手柄は主人の手柄、使い魔の不祥事は主人の不祥事と言ったのはオメーのはずだぜ?」 「使い魔が貴族を脅迫する気!?」 昼間見せたこの男の不可解な能力を思い出しルイズが声を荒げる。 「交渉…と言ってもらいてぇな」 そう言い放ちプロシュートがルイズを見据える。 (こいつ…平民のくせして…でもこいつからはやるといったらやるという…スゴ味があるッ!) 「使い魔は主人を守ると言ったな、ならそれでいいじゃあねぇか。オレがオメーを『護衛』してやる」 「メイジやモンスター相手にそれがきるっていうの?」 「できねぇならできるなんて言いやしねぇ」 「……分かったわ、でも人が沢山居る場所であんな物騒な事しないでちょうだい」 何とか雑用という自分には全く向いてない仕事からは脱する事はできたが、護衛という任務に対し心の奥底で苦笑いをする。 (ボスの娘を奪おうとしていたオレがその娘と同じような歳の女を護衛する事になるたぁな) 「さて…いろいろあって疲れちゃったから寝るわ」 「それは構わねぇがオレは何処で寝りゃあいいんだ?」 ルイズが無言で床を指差し毛布を一枚投げつけてくる ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨ 「な、何よぉー」 プロシュートから発せられる妙なプレッシャーにルイズが押される。 「フン」 それだけ言うとプロシュートが毛布を使い壁に背を預け目を閉じ眠りに入る。 プロシュートが眠りに入ったのを確認するとルイズも安心したのか眠っていった。 薄暗い闇が世界を覆う。 その闇の世界の中心にプロシュートが立つ。 (何処だ…?ここは) 辺りを探ろうとし体を動かそうとするが動けない。唯一動かせるのは首だけだ。 だが闇に目が慣れてくると自分の周りに何かある事に気付く。 (アレは…ソルベ、それにジェラードッ!?) ホルマリン漬けにされたソルベ、猿轡を喉に詰まらせ窒息して死んだジェラード、ボスに殺されたはずの二人の死体がそこにあった。 唯一動かせる首を動かし周囲を探るプロシュート、だがその行為も彼を驚愕させるに足る物を発見させるだけのことだった。 (ホルマジオ!イルーゾォか!?) つい先日ブチャラティ達に挑み敗北していった仲間達 そして彼の網膜に彼にとって信じたくないもの、認めたくないものが映る。 (バカなッ!?ペッシ…!メローネ…!ギアッチョ…!) バラバラに解体されたペッシ、舌を毒蛇に咬まれ絶命したメローネ、首に鉄棒を生やし倒れているギアッチョ。 そして彼の前にプロシュートが最も信頼していた人物が立つ。 (リゾットか!?これは一体どういう―――) だがリゾットも体中に銃弾を撃ち込まれ倒れていく。 (く…一体どういう事だッ!?) 周囲に散らばるチームの仲間達の死体、だがそのかつての仲間達の死体の目は全て等しくプロシュートに向けられている。 あまりともいえる光景に思わず後ろに下がろうと力を込める、だが体は動かない。 そうしている間に後ろから誰かに肩を掴まれる。 (何だとッ……!?) 首を向け後ろを見る、だがその目に映ったものは――――ボロ雑巾のように成り果てた己の姿だった。 この世界に入ってから唯一の音が聞こえる。それも自分の声でだ。 幽鬼のように立ち己の肩を掴むもう一人の自分から オメーハイッタイナニヲヤッテイル?――と もう一人の自分から滲み出るようにして現れる己の分身、無数の眼を持つ異形の悪魔―グレイトフル・デッドが自身の首を掴もうとその手を伸ばす。 己のスタンドが持つ最も威力がある攻撃『直触り』がプロシュートを襲おうとした。 「うおぁあああああああああッ!!」 飛び起き周りを確認する、異常は無い日が昇っている事以外は昨日と同じだ。 心臓の鼓動が早い、呼吸も荒い、立ち上がりスタンドを出す。 変わりない何時もと同じだ、何時もと同じように己の傍らに立つグレイトフル・デッド。 「夢……だと……?」 (あいつらがくたばる夢なんぞ見るなんて冗談じゃあねぇ!) あのしぶといヤツらがそう簡単にやれるとは思ってはいないが、あの夢はリアリティがありすぎた。 そのリアリティさがプロシュートの心に一抹の不安を残す。 「んふふふ……ざまぁみなさいキュルケぇ~」 不意に気の抜けた甘ったるい声がプロシュートの耳に届く。 その声の主に近付く。どんな幸せな夢を見ているのか知らないがモノスゲー笑顔で眠っているルイズがそこに居た。 「……起きろ」 一言声をかける、だが帰ってきた返事は 「そこに土下座すれば許してあげてもいいわ…zzz」 自分はこれ以上考えられないぐらいの悪夢、それに対しこいつはのん気に幸せそうな夢を見寝言までもたれている。 正直に言う「ムカついた」 近くにあった枕をルイズの顔に被せる、無論口と鼻が隠れるようにしてだ。 椅子に座り様子を見る。 5秒後―特に変わりなし 10秒後―少し動き始めた 15秒後―少し痙攣している 20秒後―「苦しいって…言ってるでしょうキュルケェーーーーーッ!!」 少しだけ笑いながらプロシュートが「起きたか」とルイズに言う。 「あれ……夢?」 (……キュルケを使い魔にしてたのに何で途中からアイツの胸に押し付けられて死にそうになんのよ!) 勿論、コンプレックス丸出しの夢を見た原因が枕で口と鼻を押さえられてたという事に気付く由も無い。 ボーっとした目でプロシュートを見ているが酸素が供給され脳も起きたのだろうが不意に 「服」 と言い出した。当然プロシュートには何の事かさっぱり分からない。 「何の事だ…?」 「着替えさせて」 「そのぐらいテメーでやりやがれ!」 「使い魔なんだから身の回りの世話もするのが当然でしょ?」 これ以上言っても無駄だと悟ったのか渋々着替えさせる。 ただ一つ、ほんの小さな声で 「マンモーニが」 という言葉を残して。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2013.html
アルビオンの革命戦争の最終決戦、ニューカッスルの攻城戦は、百倍以上の敵軍に対して、自軍の三十倍以上にも上る大損害を与えた戦い……伝説となったのであった。 攻城に費やした時間は然程長くはなかったが、反乱軍……いや、アルビオン王軍を打倒した反乱軍『レコン・キスタ』は、既にアルビオンの新政府である……の損害は、この戦いに関与したあらゆる人物の想像を遥かに超えていた。 三百の王軍に対して、損害は五千。離脱者も加えれば一万。 人員の損耗数を見れば、五万のレコン・キスタの二割がその数を減じたことになる。 軍事用語で全滅と言えば、外部からの攻撃等により部隊がほぼ機能しなくなるほどの損害を受けている状態を指す。アルビオン王軍のように最後の一人まで死んでしまえば、勿論全滅と称するしかない。 しかしレコン・キスタはこの戦いの後、構成人員自体の大損害及び生存人員に蔓延した戦意の著しい低下により、僅かな期間ながらも軍行動を麻痺させる結果に陥ることになる。 歴史の大きな流れからしてみれば微々たる時間ではあるが、『外部からの攻撃により部隊がほぼ機能しなくなる損害』を受けたという一点を見れば、レコン・キスタもまた「全滅した」という形容をせざるをえないだろう。 * 浮遊大陸の岬の突端に位置した城は、一方向からしか攻めることができない。密集して押し寄せたレコン・キスタの先陣は、魔法と大砲の斉射を何度も食らい、大損害を受けた。 その先陣にメイジの数はほぼ皆無であり、その大多数が平民の傭兵、稀にメイジの傭兵がいた程度であった。空軍の砲弾と風石の消費より平民の消費の方が安く付く為、空軍艦隊が動かなかったのも被害を拡大させた一因である。 しかし多勢に無勢の言葉通り、友軍の死骸を踏み越え数に任せて城壁に侵入したレコン・キスタの兵士達の手で、堅城は脆くも落城する……筈だった。 だがニューカッスルのメイジ達は城壁を破られたと見るや、全員がフライで一斉に城壁から離脱し、城内へと退却していった。 勢い込んでメイジ達を追撃しようとしたレコン・キスタの兵士達の前に立ち塞がったのは、巨大なスコップを構えたゴーレムの軍団であった。 剣でも槍でも槌でもなくスコップを構えた奇妙な人形達に疑問を抱く暇も与えられないまま、空を飛ぶことも出来ず地を走ることしか出来ない傭兵達は、常人を軽く凌駕する膂力を持つゴーレム達が振るうスコップに命を砕かれた。 しかしそれさえも数に任せた傭兵達の、アリが角砂糖に群がるように一体、また一体と破壊されていく。 ゴーレムを打ち倒して今度こそはと城目掛けて走る傭兵達を次に待ち構えていたのは、遥か下の大地へと続く落とし穴だった。門から城へと続く通路を穿つよう、即席の堀として刻まれた穴の中には、またもやゴーレムが配備されていた。 『上から落ちてきた物体全てを穴へ捨てる』という命令を受けて動くゴーレム達は、不用意に落ちてきた哀れな犠牲者達を、穴の底にまた掘られた遥か遠い大地へ続く穴へ、まるでゴミを捨てるような動作で傭兵達を投げ捨てていった。 先陣を取った傭兵達の不運は、城の宝物を漁りに来る大勢の同業者達が血走った目で我先に駆け込んでくる事だった。 罠が仕掛けられている、そんな叫びもやや遅れて城内へと突入してくる兵士達を押しとどめることなど出来はしない。後ろから押し寄せてくる友軍達により、次から次へと傭兵達は遥か下の地面へと真っ逆さまに落ちることとなったのだ。 幸運にも落とし穴を迂回して城に辿り着く兵士もいるにはいたが、ニューカッスルのメイジ達が逃げ込んだ城砦は既に全ての門と窓を閉ざしており、中に入り込むことなど到底出来はしなかった。 だがそれも穴を回避して城に辿り着く兵士の数が増えていくに連れ、城内にレコン・キスタの兵士が遂に侵入するかと思われた……その時。 「レコン・キスタに告ぐ」 ニューカッスル城に響き渡ったのは、ウェールズ皇太子の静かな言葉だった。 風の魔法で増幅されたウェールズの声は、ニューカッスル城や岬全域のみならず、岬の周辺で待機していたレコン・キスタ空軍の艦隊にも届いていた。 「君達レコン・キスタはハルケギニアを統一しようとしている。『聖地』を取り戻すという理想を掲げているが、理想を掲げるのはいい。しかし君達はその過程で流される民草の血のことを考えぬ。荒廃するであろう国土のことを考えぬ」 淡々と、しかし様々な思いを乗せて紡がれる言葉に、ニューカッスル城の攻防に参加している者達が思わず耳を傾ける。 「我らアルビオン王家はご覧の通り小城に追い詰められ、今まさに滅亡しようとしている。しかし我らは勝てずともせめて勇気と名誉、そして王家に秘められし魔術の片鱗を君達に見せ付け、ハルケギニアの王家が弱敵でない事を示さねばならない。 君達がそれで『統一』と『聖地の回復』などという大それた野望を捨てるとも思えないが、それでも我らは勇気を示さねばならぬ」 そこで一旦言葉を切ると、ウェールズは毅然と次の言葉を言い放った。 「何故か? 簡単だ。それは我らの義務なのだ。王家に生まれた者の義務なのだ。内憂を払えなかった王家に、最後に課せられた義務なのだ」 淡々と、しかし苦渋を滲ませた演説が途切れる。そして一つ、大きく息を吸い込んだらしき音の直後、それまでとは打って変わった勇ましい口調が空に響き渡った。 「よってここにアルビオン王家は敗北を宣言する。しかし君達に杖の一本銅貨の一枚たりともくれてやる訳にはいかない! アルビオン王家第一王位継承者、ウェールズ・テューダーがアルビオン王家に伝わる秘められし風の魔法を披露しよう!」 それから、数瞬置いて。 ニューカッスル城に侵入した兵士達は信じられない光景を目撃することになる。 ニューカッスルの城中の至る箇所から爆発が起こり。岬の付け根に当たる部分からも爆発音が轟いた。 突然の事に状況を把握しようとした兵士達の中で、これから起こる全ての事を予想できた者は一人たりともいなかった。 先程轟いた爆発音でさえ、次に轟く音に比べれば蚊の羽音と変わりはなかっただろう。 爆発と煙を噴き上げた城がまるで砂の城であったかのように容易く崩れて行き、大量の瓦礫と化した城の残骸が周囲に降り注ぐ。 城に纏わり付こうとしていた兵士達は、逃げ出そうとする努力を嘲笑うかのように瓦礫に押し潰され、生物としての原型を留めることさえ許されなかった。 しかし城と言う巨大な建造物を構築する圧倒的な体積が降り注ぐ被害は、たかが数百数千の兵士を圧迫する為の代物で済むはずもない。 岬の先端に位置する城が崩壊したことにより、ニューカッスルの岬をてこに見立てた「てこの原理」が発生することになる。 城が崩落することで生まれる圧倒的な落下エネルギーを力点とした結果、何処が作用点になるかと言えば、岬の付け根である。付け根の中で起こった爆発で地盤の緩んだ岬は、力点に加えられた巨大なエネルギーの前に何の抵抗もする事が出来ず……崩落する。 レコン・キスタの不運は、五万と言う数を集めた事に尽きた。 五万と言う大軍といえども、その多数は魔法も使えない平民の傭兵。 それを岬に集約させればどうなるか。 その岬を浮遊大陸から切り離してしまえばどうなるか。 導き出される答えは、あまりにも簡単だ。 ニューカッスル城は、自らが築かれた岬と、何千ものレコン・キスタの兵を道連れとし……遥か下の大地へと落下することとなる。 ここで魔法が使える貴族達はフライの魔法で事なきを得るが、平民達はハルケギニアの引力に縛られるしかない。 地面に落ち行く岬は落下速度と大量の質量という強大なエネルギーを得る。 スヴェルの月夜の翌日という時期、トリステイン王国上空を抜けてガリアへ入り、再び外海へと向かうコースを取ろうとしていたアルビオン大陸から切り離された岬は、ガリア王国の人里離れた山脈に墜落した。 その衝撃はガリアのみならずトリステインやロマリア皇国、果ては帝政ゲルマニアまで届く地震を起こすまでに至った。 かつては名城と謳われたニューカッスルの城は、惨状という生温い言葉で片付ける事は出来なかった。 ガリア王国の山に打ち付けられた岬の残骸には、無数の人間だった残骸が散らばり、腐肉を啄ばむ獣や鳥達でさえ易々と近寄らない領域と成り果てた。 城壁も城砦も爆破と墜落で完全に粉砕され、「城であった」という痕跡は大量の瓦礫の量から辛うじて伺う事が出来るに過ぎなかった。 このアルビオン王家最後の魔法を目の当たりにしたレコン・キスタは恐慌に陥り、貴族・平民双方がこれからの王家の戦いに恐れと怯えを抱き、離反者が続出した。 無論このような凄まじい出来事が人々の口に昇らぬ筈もなく、王家の強大な力が尾ひれをつけてハルケギニアを駆け巡る事になる。失われた虚無の魔法が使われたのだと言う真実味に欠ける噂ですら、それを頭から疑う者は少数派だった程である。 結果、ハルケギニア統一を掲げたレコン・キスタの野望はアルビオン王国に取って代わり新政府を樹立し、神聖アルビオン共和国の名を名乗った段階で動きを大きく留める事となった。 しかしそのような事態に陥ってもなお、笑みを絶やすことのない『レコン・キスタ』総司令官にして初代皇帝であるオリヴァー・クロムウェルに、周囲の側近達は畏怖とも恐怖とも付かない視線で彼を見ることになったのだが。 * 時を大きく戻し、決戦前夜。 ジェームズ一世の寝室を辞したジョセフは、王直筆の書状を手にしていた。 王直属の臣下として認める意を示すこの書状を持つ今、ジョセフはある意味アルビオン国王の権利を行使することを可能としたのである。 たった23分でただの平民の使い魔から、虚無の使い手であり国王直属の臣下へと一足飛びどころかテレポートレベルの大出世を遂げた図体の大きな老人を、後ろに続く誰もが信じられないものを見る目つきで見ていた。 「さァて、これでわしの計画を問題なく進められるな。後はメイジ達に国王陛下の健在っぷりを見せりゃー、それでチェックメイトじゃな」 くくく、と普段と変わらず笑うジョセフに、ウェールズが恐る恐る口を開いた。 「御老人……いや、今は……ミスタ・ジョースターと呼ぶべきだろうか?」 今の自分がどのような存在か計りかねているウェールズに、ジョセフはあっけらかんと言った。 「今まで通り御老人、と呼んで下されば結構ッ。なーに、王が準備を整える前にもう一つやっておかなくちゃならんコトがありますのでな」 歩みを止めないまま、後ろに続く若きメイジ達にニヤリと笑って言ってみせる。 「大人数を納得させるのにわざわざ一人一人説得していくのはマヌケのやることじゃ。大人数を納得させられるたった一人の人間を納得させて、その一人に説得させりゃーそれで済むという事ッ。根回し交渉の基礎の基礎というヤツじゃな」 からから楽しげに笑うジョセフが次に向かったのは厨房。まだ起きていた使用人に書状を見せ、まだ残っていたワイン樽と三百人分のグラスを用意させて、それらをホールへと運ばせた。 それからさしたる時間を置かず、王の命令によって再びホールに集められたメイジ達は自分の目を疑う光景を目撃する。 簡易の玉座の前に現れたジェームズ一世は、老いさらばえた平素の姿ではなく、二本の両脚で何の揺らぎも見せず玉座の前へと歩んでいく。 その側に立つのはウェールズ王子と……もう一人、確かトリステインからやってきたという平民の老人がいる様子に、首を傾げる者は少なくない。 玉座の前に立つジェームズは、ホールに集められた三百のメイジ達を睥睨する。 かつての王を知る古くからの忠臣達は、王から失われて久しい強い眼力を久方ぶりに感じ、思わず背筋を伸ばした。 「あいやおのおのがた、明日の決戦に備えて休息を取っていたというのに、この様な真夜中に呼びつけられてさぞや憤慨しているだろうが。この朕の姿を見てもらいたい」 ホールに朗々と響き渡る声もまた、かつての王が持っていた力強さに満ちていた。 話す事さえ覚束無かった王の凛々しい姿に、アルビオン王家に最後まで殉ずる事を選んだメイジ達はこれは夢ではなかろうか、と自分の正気を疑うも、どうにも夢とは思えない。 「このジェームスが往年の生気を取り戻したのは理由がある。朕の身体に命の灯火を再び燃やしているのは……歴史から失われて久しいとされた、虚無の力」 その言葉に、ホールがざわめいた。 伝説としてのみ語られるだけで、どのような力かさえ歴史の闇に埋もれた虚無の系統。 真偽をすぐさま判別することは出来ないが、しかし、王が雄雄しき姿を取り戻し、生きる力に満ち溢れているのは誰の目にも明らかだった。 そして何より、王は自らの身体に流れている力を虚無だと信じている。 それを誰が面と向かって「いいえ王、それは虚無ではありません」と言う事が出来ようか。出来る筈がない。 突然の王の言葉を頭から信じられる者の数は決して多くはないものの、目撃している光景と王の語る言葉が、段々と三百のメイジ達に虚無の力が存在すると信じさせていくのは、さして難しいことでもない。 「始祖ブリミルの血統を継ぐ王家に、不遜にも楯突く反逆者どもの暴虐を見かねた始祖ブリミルは、遂に自らの使徒をこのニューカッスルへと降臨なされたのだ」 その言葉と共に、後ろに控えていたジョセフが一歩前へ踏み出し、恭しく臣下達に一礼した。平民であるはずの老人を、ジェームスが自らと同等に扱う光景を目の当たりにした臣下達に疑問を指し抱かせる間も与えず、ジョセフの名を高らかに呼んだ。 「彼こそが虚無の担い手、ジョセフ・ジョースター! 始祖ブリミルより授けられし虚無の力と類稀なる奇跡の戦略を携えて滅び行く王家に伝説の力を与えに来たのだ!」 その言葉にホールのメイジ達は一斉にどよめく。 明日死に行くだけの戦いを待っている臣下達に、藪から棒に示された『虚無の担い手』。 いきなりそんな突拍子もない事を言われただけでは、王の言葉と言えども信じることは出来なかっただろう……が、枯れて折れるばかりとなっていた王が往年の精気を取り戻している、奇跡と呼ぶに相応しい姿。 『それは本当に虚無なのではないか』。そんな考えが少しずつ伝染していく。 これが平時ならばそう簡単に信じる事も出来なかっただろう。 が、明朝に死を迎えた者達に突如見せられた奇跡を、藁にも縋りたい心持ちの者達が信じたくなる事を誰が責めることができるだろうか。 一人、また一人と『始祖の使徒』の存在を信じていく。 小さな細波はやがてうねりを得、それが大波へと変貌する様を見たジョセフは、次に自ら用意させたワイン樽を玉座の元へ運ばせた。 樽の横に歩み寄ったジョセフは恭しくメイジ達に一礼すると、朗々とした声をホールに響かせていく。 「さてアルビオン王家に最後までお仕えされた忠臣たる皆様に、虚無の奇跡を御覧に入れると致しましょう。国王陛下の身体に流れる虚無の力、三百のメイジ全てに流すには誠に無念ながら精神力が足りませぬ」 いかにも残念で仕方がない、という様に肩を竦めてから、大仰に両腕を広げた。 「しかし! 虚無の力をこの樽に満たされたワインに流し、皆様方に虚無で祝福されたワインを飲んでいただくことにより、国王陛下ほどに劇的な効果ではないにせよ始祖ブリミルの祝福を皆様に分け与えることが可能になるのです!」 ジョセフの大嘘ハッタリは絶好調であった。 波紋の直流しほどではないにせよ、波紋を流した液体を飲ませれば栄養ドリンクを飲んだくらいの滋養強壮効果があるのは間違いない。が、これほど何の躊躇いもなく虚無の担い手として振舞う姿を目撃している仲間達は、開いた口を塞ごうとも考える事が出来なかった。 ジョセフはまたしてもGetBackを口ずさみ、自分の身体を波紋で輝かせながら杖をワイン樽に触れさせる。 杖から放たれる太陽の光に似た暖かな光は、確かに四系統の魔法では為し得ないもの。 そして樽からグラスに注いだワインを手に、手近にいたメイジを手招きした。 「ではまず、代表して貴方にワインの効果をお確かめ頂きたい」 「わ……私が?」 半信半疑でグラスを受け取るメイジが、恐る恐るワインを飲む。 ワインが口を潤し喉を通っていくに従い、メイジの目が驚きで見開かれた。 「なんというか……気品に満ちたワインというか、たとえると、サウスゴータのハープを弾くレディが飲むような味というか、非常にさわやかだ……3日間砂漠をうろついて、初めて飲む水というような……!」 それから一気にワインを飲み干したメイジは、自分の身体に駆け巡る活力の強さに思わず奇妙な効果音と共にレベル6のポージングを決めたッ! これもまたジョセフの策略の一つである。 虚無の力はジェームス一世の健在っぷりを示すことで証明出来たが、ワインに虚無の力を込めたと証明する為にはまた新たな証拠を用意しなければならない。 そこでたまたま近くにいたメイジを呼び寄せ、グラスを持った手から流した波紋入りのワインを飲ませる事で、三百のメイジ達に『今から飲むワインは虚無の力が込められている』と強く認識させる事が可能になったのだ。 これから残り二百九十九人に振舞うワインは、今の一人に飲ませた「特製レベル6ポージング波紋ワイン」ではなく、「波紋入りレベル1ワイン」と言う様な……つまり紛い物程度の効果しかない。 だがこれからワインを飲むメイジ達は、王と一人のメイジの効果を目の当たりにしている。自分だけ効果がないとなれば、それは始祖ブリミルの祝福を受けられなかったと言う事と同義になってしまう。 その為誰もがワインの効果を疑わないし、疑えない。 だが微々たる物とは言えども、波紋が流れたワインは人間にとって有益なものである。多少の効き目と始祖と虚無の名は、プラシーボ効果を促進させる役割も負うと言う訳だ。 二百九十九のグラスに注がれたワインがメイジ達の喉を通ったその時から、ニューカッスルのメイジ達は否応無しにジョセフを虚無の担い手、始祖ブリミルの使徒として扱わねばならない状態に巻き込まれたのだった。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/206.html
そして三度ルイズの部屋 「………マスター……バーボン」 「誰がマスターよ…」 医務室から2回も猛ダッシュかましたルイズを追って部屋に来たキュルケであったが 椅子に座り真っ白に燃え尽きているルイズを発見した……したのだが現在ヤケ酒を付き合わされる形となっている。 (まったく…ルイズを見にきたのはついでだったのにこれじゃあ本命のダーリンと話もできないじゃない) 彼女にとってギーシュとプロシュートの決闘は互いの命を賭けたものでありギーシュが死んだ事についてはあまり気にしてないらしい。 グビィ 「って瓶から直接飲むのはどうかと思うんだけど…」 どこぞの吸血鬼一歩手前の英国貴族を彷彿とさせる飲みっぷりにドン引く 「うるひゃぁ~~~い…もうほっろいてよぉ~~~」 スデに呂律が回っていない、どう見ても酔っ払いです、本当に(ry 「へっほうっていっへもへーひんがひほくをほろひてたられふむはけがらいらない」 (訳:決闘っていっても平民が貴族を殺してただで済むわけが無いじゃない) 「ふはいまのへきひんはひゅひんのへきひんなんらから ふろしゅーほがひーしゅをやったってほとはえんぶわらひのへひにんにあんのよひゅるへぇ~~」 (訳:使い魔の責任は主人の責任なんだから プロシュートがギーシュを殺ったって事は全部私の責任になんのよキュルケぇ~~) キュルケの目には何かもうルイズの頭の周辺に暗い|||線が見えている。 人これをバッド・トリップと言う 「あんふぁももっほほみなさいよ~ ほへともわらひのはけがほめないっていふのぉ~?」 (訳:あんたももっと飲みなさいよ~ それとも私の酒が飲めないっていうのぉ~?」 (マズイ…このままではルイズが潰れるより私が先に潰される!) 酒瓶片手に迫るルイズ。それを見て撤収しようと決意を決め機嫌を損ねないように優しく話しかける。 「ほ、ほら、明日はせっかくの虚無の日なんだからもう寝た方がいいわよ…ってルイズ?」 「…………zzz」 「やっと潰れたようね…」 自分の部屋に戻ろうと立ち上がるが、パンチドランカーの如く足元がおぼつかない。 「やば……!」 足をもつらせ床に向け倒れる。それだけならまだいい、問題は床にルイズが開けた酒瓶が転がっていることだったッ! キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー 「死亡」(脳挫傷) 二つ名―「微熱」 床に向け倒れながらそんな言葉が頭に浮かんだ。 ガッシィーz_ン だが、何かに腕を掴まれ頭と酒瓶2cmのところで止まり再起不能にはならなかった 「あら…ありがとダーリン♪」 「その呼び方は止めろ」 腕を掴んだ瞬間、勢い余って直触りをしそうになったのは内緒だ。 「助けてくれたお礼に貴方を私の部屋に招待したいんだけど?」 「……遠慮しておく、一服盛られるのは御免だからな」 「あら、失礼ね。…でも毒よりも凄い物があるわよ」 「……わらひのふはいまひかっへにあにあってんのよぉ~~~」 (訳:……私の使い魔に勝手に何やってんのよぉ~~~) ビクゥ! というような音が聞こえんばかりに声の方向に振り向く…がルイズは酒瓶片手に爆睡している。 「……寝言…ね」 これ以上粘ってルイズが起きては洒落にならないと考え部屋を後にする。 去り際にしっかりプロシュートへのアプローチを忘れていないあたり流石だ。 コルベールとオスマンの前にルイズが居る。 そこに、コルベールがプロシュート並みのプレッシャーを放ちながら質問をしてきた。 「質問です…貴方の使い魔が無罪か?有罪か?当ててみてください」 「ひ…一思いに有罪で…」 「NO!NO!NO!NO!NO!」 「む…無罪…?」 「NO!NO!NO!NO!NO!」 「れ、連帯責任ですかぁ~~?」 「YES!YES!YES!YES!『YES!』」 「もしかして『処刑』ですかぁーーッ!?」 そしてオスマンが顔を手で押さえながらダメ押しのように言い放つ 「YES!YES!YES!"OH MY GOD!"」 「嫌ぁぁぁぁぁあああ!」 ベッドから跳ね起き辺りを見回すが、コルベールとオスマンは居ない。 「また、嫌な夢……」 最近色んな事がありすぎて本気で死にそうだ。主に精神的な意味で。 昨日、キュルケが部屋に来た事は覚えてる…でもそこから先の記憶があまり無い 頭を捻って考えていると「くぅ」と音がした (お腹すいたー…) そう思いながらベッドから降り己の使い魔に着替えを手伝わせようとするが 「あれ…服着てる」 これもどういう事か考えているとまた「くぅ~」と音がしたのでとりあえず空腹を満たす事を優先させる事に決めた。 プロシュートを引きつれ食堂に向かうが何かが何時もと違っていた。 自分が通ると他の生徒達が悉く道を明け渡してくれる。そして目をこちらに向けようとしていない。 そりゃあ最初の頃所構わず爆発を起こしてた時はこんな事もあったけど、それはもう昔の事だ。 そして小さな声で聞こえる話声。何時もなら大体「ゼロのルイズ」であったが今日は違っていた。 「悪魔憑き」 そんな言葉がたくさん耳に入る。けれども少なくとも自分はそんな事知らない。 頭の上に「?」を浮かべながら食堂に入っていくとキュルケとタバサが先にいた。 キュルケの顔色が少し悪そうだったけど気にせず近くに座り例の如く始祖ブリミルと女王陛下にお祈りをしてから食事を始めた ――が、横で顔色悪そうにしてたキュルケは正直いって呆れている (私でも二日酔い気味なのに呂律が回らないぐらい飲んでたこいつがどうしてこうも平然としてられるのよ…) そんなキュルケの思いを無視し完食ペースで食べすすんでいく。 (うわー…あんな重そうな物よく食べれるわね…ってワインまで!? 昨日あれだけ飲んどいてまだ足りないっていうの?……恐ろしい娘ッ!…もーダメ、ギブ) 顔色をさらに悪くさせたキュルケが無言で席を立ち去るが、当のルイズは見ちゃいねーようで次々と食べ進んでいく。 しばらくして戻ってくると見事に完食を果たし満足そーにしているルイズを見てなんだか知らないけど『ムカついた』 『ムカついた』から少しシメておく事にする。というかシメる。 「ちゃんと味わっておきなさいよ。…なにしろそれが貴族として最後の食事になるかもしれないんだから」 ガシャン! 音のした方を見るとフォークを床に落としたルイズが小刻みに震えながらキリマンジャロ5万年前の雪解け水を飲んだかのよーに泣いていた。 (やりすぎたかしらね…) 一方こちら『悪魔憑き』ことプロシュート 食堂に入る前しっかりルイズから「メイジ殺したんだからご飯抜きに決まってんじゃないの!!」と言われた為暇そーにしてる。 例によって食堂入り口前に立っているが食堂に入ろうとする生徒は (何であそこに『悪魔憑き』が居るんだ…下手な事すれば年を奪われてギーシュみたいに殺される…ッ!) と思っており誰一人食堂に入れないでいた。 もっとも、『暗殺対象』『向こうから挑んできた』『目標が居るが場所が特定できず無関係の者も居る』等以外無駄な殺しはしないのであるが 彼らには知る由も無いのでこういう状況になっている。 そしてその『悪魔憑き』に遠慮なく向かっていくのはご存知ピラニ……シエスタだ! 「あ…昨日はその…助けて頂いてありがとう御座いました… でも、すいません…私なんかを助けるために大変な事になってしまって…」 心底申し訳なさそうに頭を下げるシエスタだったが 「オメーが気にする事でもねぇよ。何よりあいつらの目が気に入らなかったからな」 「目…ですか?」 「オレ達チームがボスに反逆した理由の一つがそれ…いやこいつはオメーには関係ねぇ事だったな」 「…?そういえばどうしてこんな所に立ってたんですか?」 「まぁ決闘が原因ってわけでもねぇが飯抜き食らっちまってな」 「そういう事でしたら…恩返しというわけではありませんが今度は是非いらしてください」 ギーシュの遺産(財布破棄済み)があるため断りそうになるが『恩には恩を、仇には仇を』というリゾットの流儀を思い出し―― 「世話になる」 その返事を受け真っ白な笑みをシエスタが返したが、その笑みがプロシュートにとってやけに眩しく感じられた。 (ナイスガッツ!) そして周りの生徒達もこの時ばかりは生まれて初めて平民に感謝していた。 戻る< 目次 続く