約 1,076,847 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1330.html
三人! 使い魔が来る! 二人、虚無の使い魔は首都ロンディニウム突入! 背負うはデルフリンガー、またがるはアズーロ。 待ち受けるは玉座を守護するメイジの精鋭! 「この人数、どうやらクロムウェルはそこにいるようだな」 「敵は十人ってところかぁ~? 上等だぜ~」 「まー相棒一人でも十分さね」 「キュイッ!」(俺の相棒一人でも十分だよ!) 目指すは前方の扉、ただ前を向く二人、物怖じせず突き進む。 轟音が響く。人が殴り飛ばされる音、壁や床が粉砕される音。 戦士の咆哮、敗者の悲鳴。 それらを聞きながら、彼は待つ。チャンスを待っている。 メイジを片づけた承太郎達は次々に扉を破って進み、玉座の間にやってきた。 勢いよく扉を蹴り壊して押し入ると、天井は高く、部屋は広く、アズーロの巨体でも結構自由に動けそうな空間だった。 そして玉座に堂々と座る男の姿。 「てめーがクロムウェルか」 男は答えない。違和感を持つと同時に、そこいらにある柱の影から、無数の敵が姿を現す。それは異形であった。 ドラゴン、グリフォン、マンティコア、四本の腕に武器を持つ騎士、人馬一体となって槍を構える者、三メートルの巨人の戦士。他にも様々な怪物がいた。 「これは……?」 「ガーゴイル(魔法人形)だな。ゴーレムと違って擬似意志で動く連中だ」 デルフリンガーは即座に敵の正体を見抜き、それにより対処法は決まった。 生物でないのなら動けなくなるまで粉砕すればすむ話だ。 「遅れるなよ仗助」 「この程度のガーゴイルでよ~……俺達にかなうと思ってんのか?」 二人は二方向に分かれて疾駆すると、それぞれガーゴイルに飛び掛る。 「オラオラオラッ!」 巨大な口腔から鋭い牙を覗かせて迫るドラゴンの口に飛び込んだ承太郎は、内側から拳のラッシュを叩き込んで頭部を完全に粉砕する。 それでも爪で反撃しようとするドラゴンの腕を即座にデルフリンガーで切断、続いて腹部に右手をぶち込むと、左手で腹を支えて持ち上げ、 横から攻撃しようとしていた人馬に向けてドラゴンをぶん投げる。 ドラゴンは投げられた衝撃でバラバラになり、人馬はぺしゃんこになった。 続いて屈みながらデルフリンガーを振り回して斬り上げ、飛び掛ってきていたマンティコアの胴体を両断しながら、スタープラチナの両手を横に突き出して、両断された胴体をさらに粉砕する。 破片が飛び散る中、承太郎の身体が陰に包まれた。 三メートルの巨人がハンマーを振り下ろしてきたのだ。 時を止めるまでもないと、ガンダールヴの足の速さを生かして回避すると、今度はスタープラチナの脚力で巨人の頭まで一気に跳ぶ。 「オラオラオラオラオラッ!」 そして落下しながらスタープラチナのラッシュを顔、首、胸、腹と叩き込み、さらにデルフリンガーでも連続して斬りつけて巨人の半身をバラバラにした。 着地すると同時にスタープラチナで右足の膝を砕き、デルフリンガーで左足の膝を切断して、巨人は戦うすべを失った。 「後ろだ相棒!」 デルフリンガーが叫ぶと同時にスタープラチナが背後目掛けて拳を振るう。 四本の剣を振り回す騎士の手を的確にスタープラチナの拳が打ち壊し、騎士が手放した剣を即座に奪い取ると、四本それぞれ別方向に投げる。 承太郎の前方にいたグリフォンの首に一本、仗助の背後に迫っていたマンティコアの額と胴体に一本ずつ、かく乱のために飛び回るアズーロを追いかけるドラゴンの翼に一本。 一騎当千の戦いをしながら、承太郎は仲間のフォローも完璧に行った。 承太郎と仗助は半数以上のガーゴイルを片づけると、一気にクロムウェルに迫る。 デルフリンガーを握りルーンを発動させている承太郎が一足早くたどり着くと、クロムウェルの胴体を玉座ごと真っ二つに切り裂いた。 悲鳴すら上げずにクロムウェルは倒れ、動かなくなった。 いや……むしろ斬られる前から動いていなかった? 承太郎は咄嗟にクロムウェルの両手を確認した。アンドバリの指輪は、無い。 「……まさか…………」 直後、死んだはずのクロムウェルが突然狂ったような笑みを浮かべて、隠し持っていたナイフを承太郎の足に深々と刺す。 「ぐうっ!?」 「承太郎さん!」 してやられた、と思いながらデルフリンガーを振るいクロムウェルの首を刎ね、さらにスタープラチナの足で頭部を踏み潰した。 するとクロムウェルはピクリとも動かなくなり、同時に承太郎達を襲っていたガーゴイルの動きも止まった。 「くっ……こいつはアンドバリの指輪に操られていた、死体だ」 「まさか! その顔は間違いなくクロムウェルっスよ!?」 仗助は教皇の見せたクロムウェルの似顔絵を思い出しながら叫んだ。 まさか影武者? 顔を変える魔法もあると仗助は聞いた事があった。 とにかく今は承太郎の負傷を治して、今後の行動を考えねばならない。 仗助は玉座まで駆け寄ると、クレイジー・Dで承太郎の傷を触って治した。 出血もズボンの破れもきれいサッパリ無くなる。 それから二人は無言でクロムウェルの死体を見下ろし、頭を悩ませていた。 すると、部屋の隅から物音がした。 視線を向けると、そこには腰を抜かして怯えているメイジの少年の姿があった。 服装を見るにアルビオン軍の者で間違いはない、負傷しているのか頭や腕に包帯を巻いている。 「誰だ」 「ヒィィ~ッ! み、見逃してください! 僕はただクロムウェル様に報告に来た連絡兵ですぅ~!」 承太郎が問いかけると、殺されると勘違いしたのか少年は酷く怯えて命乞いをした。 とりあえず承太郎じゃ迫力がありすぎるので、仗助が少年に歩み寄る。 「ま~そう怖がるなって。お前、アルビオンのメイジか?」 「そ、そうです~! 王党派が負けて、仕方なくクロムウェル様に従ってたんです! ですから許して下さい! クロムウェル様が殺されたんだから、僕達の負けです」 「別に殺しはしねーよ。殺さずにすむ場合は殺さないよう注意して戦ってたしよ~」 少年まで数歩の距離に近づいた仗助は、そこで立ち止まり少年の額を見る。 「ところで、おでこに怪我してるみてーだけど、大丈夫か? ちょっと見せてみろ」 「これは敵の魔法で火傷しただけですよ~、見て気持ちのいいものじゃ……」 「いいから見せろって。見たらそれ以上は何もしね~」 そう言いながら仗助はゆっくりと少年に近づくと、クレイジー・Dを出現させた。 少年は突然現れたスタンドに驚いて悲鳴を上げ、直後クレイジー・Dは少年の顔面目掛けて拳を振った。 だがそれよりもほんの一瞬だけ早く、少年の右手から『右手』が伸びる。 「何ッ!?」 咄嗟にスタンドの左腕でガードする仗助だが、威力を殺しきれず後ろに吹っ飛ばされる。 「……いきなり殴ろうとする……何て野郎だッ」 怯えを消した少年は、獰猛に光る双眸で仗助を睨みながら立ち上がった。 「て、てめー……ミョズニトニルンか……」 クレイジー・Dの右手には、吹っ飛ばされる直前に掴んでいた少年の包帯があった。 そして少年の額には使い魔のルーン。豹変し狂気に満ちた双眸が仗助を睨む。 「てめー等はクロムウェル殺しの罪をかぶって、ここで死んでもらうぜ!」 少年が仗助を指差すと同時に、首だけになっていたドラゴンのガーゴイルが、突然口を開いて仗助の背後から噛みつこうと迫った。 ふいうちのため仗助は反応できず、ただギョッとして動きを止めるだけだった。 だが次の瞬間、そのドラゴンの頭は粉微塵になっており、仗助のかたわらには承太郎が立っていた。 「じょ、承太郎さん……助かったっス」 「……注意しろ仗助。奴は『お前が殴りかかるよりも早く殴り返していた』……!」 その奇妙な言葉に、少年からとてつもない凄味を感じ取る仗助。冷や汗が頬を伝う。 少年は獰猛な双眸を真っ直ぐに承太郎と仗助に向け、メイジと偽装するために持っていた杖を耳元に当ててささやいていた。 「どうやら帽子の男がガンダールヴで、時を止めるスタンド使いはこいつです。 リーゼントはヴィンダールヴ……謎だったスタンド能力は手で触れた物を直す。 肉体の傷もズボンの傷も関係なく、両方直してました。間違いありません。 ……こちらの能力はまだバレてませんが、どうします? 『ボス』」 ボソボソ声だったので、その独り言は承太郎達には聞こえなかった。 が、独り言を喋っているという事は判断できた。 「仗助……。奴は恐らくアンドバリの指輪も持っている。 スタンド能力、ミョズニトニルン、アンドバリの指輪。 この三つを攻略しねーと……奴を倒すのは難しいようだな」 「グレート。けど時を止めれば指輪で傷を治したり、スタンド能力を使う暇も無いっス。 承太郎さんの傷は俺が治せますから……射程距離まで近づいてみてください。 まだ残ってるガーゴイルは俺が抑えておきます」 首都ロンディニウムの城、玉座の間。 ここに三人の虚無の使い魔が集い、戦いの火蓋を切って落とそうとしていた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/194.html
亜空の使い魔-1 亜空の使い魔-2 亜空の使い魔-3 亜空の使い魔-4 亜空の使い魔-5 亜空の使い魔-6 亜空の使い魔-7 亜空の使い魔-8 亜空の使い魔-9 亜空の使い魔-10 亜空の使い魔-11 亜空の使い魔-12
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1521.html
「おい」 何よ。 「起きろ」 眠いわ。 「起きなさいよ」 昨日ほとんど徹夜だったじゃない。 「起きる」 ああもう…… 「あ、おはよう」 なんだか腰が痛いわ。 「よく眠れたかしら、ヴァリエール」 「なな、なんでキュルケがこんなところにいるのよ」 「ルイズオメー永久に寝てた方がよかったんじゃねえの」 「何訳わかんないこといってるのよ」 あ、 「ちょ、ちょっとした冗談よ、そろそろフーケの潜伏地点かしら?あはははは」 「「「……」」」 「大物」 「ここからは、徒歩で行きましょう」 ミス・ロングビルがそういって、全員が馬車から降りた。 うっそうとした森が広がっている。 「なんか、暗くて怖いわ……幽霊でも出そうじゃない?」 キュルケが凄くうそ臭い調子で呟いた。 「冗談でもやめて」 「やめろ俺で草を 枝を切るなあー」 「仕方ねーだろお、他に誰も武器もってきてねーんだからよお。文句ならフーケかロングビルに言え」 「なら魔法で何とかしてくれぇー、ウゲッ蟲の体液が刃にいい」 「魔法で無理に道とか開けたら気づかれちゃうわよ」 「そんなああああ」 「おあ?」 いきなり一行の視界が広がった。 かなりの広さが整地してあり、真ん中に廃屋、というか山小屋が建っている。 五人は小屋の中から見えないように、森の茂みに身を隠したままそれを見つめた。 「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」 ミス・ロングビルが廃屋を指差して言った。 人が住んでいる気配は全くない。やはり奇襲が一番だろうか? 「なあー」 セッコが何か思いついたらしい。 「その[破壊の杖]って、頑丈なもんなのか?」 ミス・ロングビルが答えた。 「秘宝ならスクウェアの固定化がされてるとは思いますが、それが何か?」 「ならよお、ここから全員で魔法かましてフーケごと消し炭にしようぜぇー」 ミス・ロングビルがひどく慌てて答える。 「フーケを殺すより、秘宝回収の方が優先なのでそれはちょっと」 「うー」 非常に不満そうだ。まあそうだろう、実際ドアから家の中に入るのは危険としか言いようがない。 ああ、そうだ。そうしよう。 「シルフィードで屋根を破壊して奇襲する」 「名案ね」 「そりゃーいいな。で、何人乗れるんだ?」 「3人」 結局、ルイズとミス・ロングビルを見張りに残して屋根を破ることになった。 「エア・カッター!」 上空から柱を切り裂く。 「今だぜえシルフィードォー!」 「きゅいきゅい!」 ドラゴンの爪が既に家からずれかけている屋根を横薙ぎに弾き飛ばした。 「あら、誰もいないわよ?」 キュルケが素っ頓狂な声を上げる。 「ロングビルもあんま信用できねーなあ」 「きゅ!」 それは、あまりに不自然で。 部屋の真ん中に堂々と置いてあった。 「破壊の杖……」 「あら、ほんとね」 「はあ?」 セッコが不思議な顔でこっちを見た。 「これはさすがに杖じゃねーだろぉ。バズーカ砲か?」 キュルケが答える。 「いや、これよ。宝物庫内を見せてもらったことがあるから間違いないわ。て言うかばずーかって何よ」 「説明は難しい、そもそもオレも詳しいわけじゃねー」 「じゃあ遠慮しとくわ」 「まー、フーケが来てもこれ撃てば楽勝だと思うぜえ」 そう言ってセッコが破壊の杖を掴み上げる。 と、使い魔のルーンが輝きはじめた。武器と親和するのだろうか? 「おああ、こりゃ駄目だあ」 セッコが心なしかがっかりしている。 「弾が入ってねえ」 弾? 「説明して」 「仕方ねーなあ、無駄に左手の力使うとなんか気分が悪くなるんだけどよお」 ルーン文字が更に光を強める。 「これは[SRAWプレデター]つーここじゃねえ世界の武器だ」 キュルケが口を挟んだ。 「杖じゃないっぽいのは理解したわ。けどダメってどういうこと?」 「これは、本来弾とセットなんだけどなあ」 「何か詰めて撃てばいいんじゃないの?」 キュルケが珍しく正当な質問をしている。 「いや、どちらかというとなあ、この武器は弾の方が本体なんだ」 「は?」 さすがに驚いた。 「こっち側はただの頑丈な筒だあ。まあ棍棒として使えば強えーかもしれねーけどよお」 「……」 「高い命中精度も。家も戦車もぶち壊す破壊力も。 起動に魔法がいらないのも。全部弾の方の能力だ」 ようやく、オスマン長老の不自然な落ち着きが理解できてしまった。 戻ったら絶対問い詰めてやる。 「どうせあのヒゲジジイは弾の方を、別の名前で保管してんじゃねえの? フーケもいねーし、これもってかえろーぜえ」 実にダルそうにセッコは[破壊の杖]もとい筒をシルフィードの背中に積んだ。 その頃、周辺警戒という名の置いてきぼりを食らったルイズは困っていた。 「ああもう、一人で小屋に近づくわけに行かないし、ミス・ロングビルは何処かに行っちゃうし……」 結局、遠くから小屋をボーっと見張ることしかできないのだった。 セッコもセッコよ、ああいうときは普通主人を立てるべきじゃないの、使い魔的に。 しかも妙にタバサに懐いてるし、キュルケじゃないだけまだマシだけど気に入らない! あ、小屋の屋根が吹っ飛んだわ。 どうも戦いは起こらなかったみたいね。見に行こう。 「きゃああああああ!」 ルイズが外で叫び声を上げてやがる。静かにしろ。 声の方を見ると、昨日のゴーレムがこっちに向かってくるところだった。 「おほほほほ、踏み潰してやるわガキども!」 「うおあ、早く飛べええ」 巨大ゴーレムに踏まれるよりわずかに早く、シルフィードが3人を乗せて離陸する。さて、ルイズをどうやって助けるか。 それよりもあのゴーレムの肩に乗ってる奴をぶっ殺してえな。 しかもやっぱフーケは女だったじゃねえか。ロングビル使えねえ。 「ちょっと降りるぜえ」 「この高さ飛び降りて大丈夫か相棒?」 「オメーを持ってりゃ余裕だ」 「レビテーションで降ろしてあげるわよ」 キュルケが言ってきた。タバサは既に何か呟いている。 「そんな暇があるなら攻撃魔法を撃ちやがれ」 そう言って飛び降りる。いつもながら[左腕の力]は頼れる。 だが、どーもこういう状況になる度、何かを忘れてる気がしてくるんだよなー。 ギーシュの時も、昨日ゴーレムを見たときもそうだった。落ちつかねえ。 ルイズが逃げずに、魔法でゴーレムを攻撃している(失敗の爆発だが)理解できねえ。敵わないなら逃げてくれ畜生。 「ああもう、どうすればいいのよ!」 「逃げるんだよぉーーーーーーー!」 「冗談じゃないわ、貴族は背を向けない!」 「馬鹿かオメー!」 ゴーレムの右腕がルイズを掴もうとしている。掴まれたら確実に死ぬなあ。 間に合うか?無理だろーなあ。 その時、上空から火の玉と竜巻が飛んできてゴーレムの腕を弾く。 「相棒!今だ!」 うるせえ、見れば分かる。 飛び込んでルイズを掴み後ろに下がる。糞、気絶してやがるじゃねえか。無茶し過ぎだ。 仕方がねえ。 「拾いやがれ畜生おおおお!」 シルフィードの影を見て、進行方向に思いっきり投げた。 「きゅい!」 拾えたみてーだ、これでまず障害を1つ排除だぜえ。ちょっと挑発してやるかあ。 「なあー、フーケよお、[土]でオレと戦おうなんて冗談だろオ?」 「はっ、負け惜しみかい?さっさと潰れな!」 あれぇ?なんかおかしいこと言ったかオレ?まあいいや。 いくらデカかろうと所詮人形だ、登ってあのクソ女をぶち殺してやる。 デルフリンガーを振り回しゴーレムの右拳を受け流す。動きは遅いがパワーがやべえ。 タバサともう一人がもうちょっと頑張ってくれればいいんだがなあ。 ルイズ達がフーケと戦っていたその頃。 これで何度目になるだろうか。ギーシュ・ド・グラモンは、実にくだらない事で始まった、あの決闘について考えを巡らせていた。 1匹目のワルキューレを素手で破壊し、その上、錬金前の石をそのままぶつける新技もかわされた。 その後の異常な動き。モンモランシーがいなければ、きっと僕は死んでいた。 それはいい、それはきっとあのセッコという平民が規格外だったんだろう。 いまさら負けたことに絶望しても仕方がないさ。 けど、けどあれは何だったんだろう? 何度考えてみても、ワルキューレ7体が潰されたことが納得いかない。 そう、7匹だ。 僕は何故、あの時7匹のワルキューレを錬金できたのだろうか? 確かに事前に1匹破壊されていたのに。途中で止めたとはいえ、更に1回錬金をしたのに。自分の成長かと思ったが、腹立たしいことに再現できない。 あの男がいたから? セッコに側にいてもらって呼んでみた、やはり8匹目は呼べない。 命の危険を感じたから? 使い魔ヴェルダンデに落ちたら死にそうな縦穴を掘ってもらい、その横で試してみる。やはり7匹止まりだ。 ダメだ、他に原因が思いつかない。 けど、この僕が一度できたことがもう一度できないなんて、そんなことがあるわけがない。大体、突然8匹呼べるようになること自体はありうる。 最初は1匹しか作れなかったのだから、今増えることはおかしくないはずなんだ。 絶対に何かあるはずだ。絶対、絶対にもっと強くなってやる。 「ねえ、タバサ、セッコって本当に人間なの?」 「人」 「じゃあ何なのよあれ!吸血鬼でももっと鈍いわよ!」 「ルーンと何か、何かは不明」 「何か、ねえ。それにしてもあのゴーレムの左腕はなんなのよ!」 「わからない、あんな動きは見た事がない」 さっきからいくら魔法を放っても、回転する左腕に受け流されてしまうのだ。 これ以上近づくわけにもいかない。 「しつこいねえ!無駄だってのに!」 敵が上と下にいるため、両方を牽制しなくてはならない。 結果割とでたらめに腕を振り回す羽目になっているのだが、実際それは十分な効果を上げていた。 左腕も大体予想通りの仕事をしてくれている。実に愉快だ。 「頭じゃねえ、足を狙いやがれ!」 言いつつ、なんとか右腕に取り付こうとする。なかなかうまくいかねえ。 「相棒、足から登ればいいんじゃねえの?」 ついにぼけたかサビ剣。 「馬鹿、足なんかに取り付いたら手に潰されるぜえ!」 「ああもういい加減に諦めなさいよ!」 弾き損ねた火球がゴーレムの右足首に直撃する。 一瞬動きが止まるが、すぐに再生すればすむことだ。 しかし、セッコにとってその一瞬は十分すぎた。 右腕にとりつき駆け上がる。 「相棒馬鹿だけどすげーなあ」 「馬鹿は余計だぜえ」 一発で首を撥ねてやるクソ女。 「油断したわくそっ、ガキの癖に!」 使い魔の男が右腕を凄い勢いで登ってくる。捕まったら確実に殺される、そんなオーラを全身から発散させながら。 だが、もっとヤバイ状況を腐るほど乗り越えてきたこの私は慌てない! 「……なあんてね」 フーケはゴーレムの右腕を、根元から切り離した。 「うおあああああああああ」 畜生、まさか切り離してくるとは思わなかったぜえ。 いや、あの再生能力を持ってすれば切り離すのが当然か。だが、腕が一本なければ足から登れるぜ! 「相棒―――!」 デルフリンガーが五月蝿い。ちょっと黙ってろ。 体勢を立て直し着地する。 「何度でも上ってやるぜフーケさんよおおおお」 「あんたの身体能力は本当に馬鹿がつくね!」 「ならいい加減に諦めやがれえ!」 「何のために」 「はあ?」 「あたしが何のために腕を切り落としたか分かるかい?」 「なに言ってやがんだあ?」 「このゴーレムはねえ、ダメージが[鈍い]のよ?すぐに[再生]するからねえ」 「それがどうしたああああ!」 「自然に、あんたが近づいて、なおかつ腕を切り落として不自然じゃあない状況!」 「なにわけわかんねーこといってやがんだああ!」 「[再生]するわよ」 「すりゃーいいじゃねえかよおお、その間に上ってぶっ殺してやるぜえ!」 「あんたごとね!!!」 「相棒、下だっ!!!」 下あ? 「オバアアアアアアアアアアアアアア!!」 まさか、そんな。オレが土ごときに! 「や、やりやがったなクソ女ああああああああ」 「負け惜しみならなんとでもお言い!」 畜生、勢いが早すぎる、すまねえサビ剣、もう持ってられねえ。 「プげッ」 「相棒ああああああああああああああ!」 乾いた音を立てて、デルフリンガーが地面に落ちた。 畜生、動けねえ……息もできねえ……なんだっけ……前もこんな…… ……おまえが行くのだセッコ、おまえの「……」がっ! なんだよ、オメー誰だ、どこに行くって言うんだあ? 「いけッ!」 しつけえなあ。動けねえって言ってんだろ? 「硬い」硬いのに沈んでいく。 そんなわけあるかよ。 「潜った」ぞッ! ああ、オレは潜り込まされてるぜ。 「地中に潜るまでもねえ」 そうか……オレは…… 「あははははは!あたしの方が一枚上手だったわね!ついでにあんた達もぶっ殺してやるわ!」 フーケが高笑いしている。畜生。 「ああ、もう終わりだわ……」 キュルケが泣きそうな顔でこっちを見る。ルイズは気絶したままだ。 シルフィードの元気がない。 「破壊の杖はある」 言い返してはみたが、この状況を何とかする術が思いつかない。 唯一ゴーレムと戦えていたセッコは、ゴーレムそのものに飲み込まれてしまった。 まだ何も、何も謎は判明してないのに。 あれ、どうしたんだろう? 「ゴーレムの様子がおかしい」 「本当ね。あの使い魔まだ生きてるのかしら?」 そんな馬鹿な。土に頭まで飲み込まれて生きている人間などいるわけがない。 「もっとしゃんとしなさいよ!あいつらに土の塊をお見舞いしてやりな!」 どうもゴーレムの動きが鈍い。魔力はまだ十分残っているというのに。 一体どうしたの、不純物が混ざったからかしら? 「勝利を確信したとき、そいつは既に負けている っつーのは誰の言葉だったかなあああ、畜生、思い出せねーぜ。オメーの言葉じゃねえのは確かだがなあー」 そんな馬鹿な。 今最も聞きたくない声が、足元から。 足元……? そんなわけがない。ここはゴーレムの肩の上だ。 きっと幻聴よ。珍しく苦戦したし。 「死ね」 違う、やはり後ろに誰かいる。 「うああああああああああああ!」 森の中にフーケの絶叫がこだまする。 そして巨大ゴーレムが崩れ落ちた。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/672.html
不死の使い魔 召喚1回目 不死の使い魔 召喚2回目 不死の使い魔 召喚3回目 不死の使い魔 召喚4回目 不死の使い魔 召喚5回目 不死の使い魔 召喚6回目 不死の使い魔 召喚7回目 不死の使い魔 召喚8回目 不死の使い魔 召喚9回目 不死の使い魔 召喚10回目 不死の使い魔 召喚11回目 不死の使い魔 召喚12回目 不死の使い魔 召喚13回目
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/537.html
…なんだか五月蝿いな… 男の悲鳴らしき声が聞こえる。全く朝っぱらからなんだというのだ。睡眠ぐらいちゃんとさせてくれ。 あまりの五月蝿さに目を開けると、少女が鞭で成人男性を叩くというシュールな光景が入って来た。 何やってんだこいつら?そういう関係というか趣味なのか? そう思ったが私は見なかった事にして、とりあえずのそのそと動き出す。目的はないが、動かずにはいられないのだ。 それにしても、バシバシいう鞭の音や男の悲鳴、小娘の罵倒が五月蝿過ぎる。隣の部屋の人もすごく迷惑だろうな。自分ほどじゃあ無いとは思うが。 ようやく飽きたのか、それとも時間なのか、小娘がボロボロになった男に何かを言い付けると部屋から出て行った。 男は起き上がると、私を持ち上げ、そのまま小娘の後に着いていった。びっこ引いてる左足が非常に痛そうだ。ていうか、何処へ行くのだろう? しばらくすると何かいい匂いがしてきた。どうやら小娘が来た所は食堂らしい。しかし、何故か男だけ中に入ろうとはせず、周りに誰もいないのを確認すると、私の中に入った。 食堂は食事を摂るための所なのに、何故私の中に入る必要があるのか。私には分からないが、少なくとも関係ないことだろう。 しばらくすると男が私の中から、小娘も食堂から出て来て、また何処かへ私を連れていった。全く、忙しない連中だな。もういいや、また寝ることにしよう。 バッグオォォオォン! いきなりの爆発音だったが暢気に寝ていた私はビビらなかった。こんな音はサルディニア上空やローマで体験済みだ。この程度の音が今更何だというのだ。 私はそのまま惰眠を貪った。目の前で何かが蛇に喰われた気もするが気付かなかった事にしよう。一々気にしてたら、フィレンツェ行き特急にもおちおち乗れやしない。 そう思って寝たら今度はまたいい匂いがする。 何処だと思い目を開けると廊下だった。がやがやと声が聞こえてくる。どうやら先程寝た場所から移動してなかったみたいで、何だかあまり寝てなかったらしい。それにしてもリアリティのある爆発音だったな。つかさっきから妬ましそうな目で見るんじゃねえ。ド低脳が。 少しすると何だか変な恰好をした少女が近づいて来て、男に話しかけた。また男が妬ましそうな目で見てきたが無視した。 その後私達は厨房らしきところに連れていかれ、私はパンの切れ端みたいなのをもらった。なかなかうまい。奴の方も凄いスピードで平らげていた。みっともない男だ。 さてこちらは優雅に味わいつつゆっくり食べ終わると奴はいなかった。どっかに行ったらしい。まあ、別に構わないがな… さて、食後の運動をしようかと思ったら、いきなり奴が入って来て、私を無造作に掴むとコック長らしき男に何かを頼んだ。が、断られた。『ナイフ』だとか聞こえてきたような気がするが私には関係ない…って、こいつ今テーブルクロス盗んだぞ!何やってんだ、オイ! 男はばれないように、厨房を残念そーな顔をして出ていった。私は喚きたかったが、どうしようもなく、男に連れ去られてしまった。 To Be Continued...?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1124.html
3話 朝である。 窓から差し込む光の量でそれを察知したホワイトスネイクは自分自身を「発動」させた。 言い換えれば「起きた」ということだ。 本来ならスタンド使いがスタンド使いの意思で発動させるものなのだが、 本体の役割を果たすルイズと視覚聴覚の共有はおろかダメージの共有さえ無いという状況である。 スタンド能力に関するあれこれは全てホワイトスネイクに一任されているようだ。 そしてホワイトスネイクは自分のご主人様(ルイズ曰く)たるルイズを見る。 ルイズは実にあどけない面で寝ていた。 「わたしのぉ~、ひっさつまほうで~ぇ・・・」 しかもよく分からない夢を堪能しているようだ。 とりあえず朝だから起こすべきだろう、と考えたホワイトスネイクは、 ぐっすり寝ているルイズの毛布を遠慮のカケラも無くばさりと剥いだ。 「な、なによ! なにごと!」 「朝ダ」 「はえ? そ、そう……って、ひゃあっ! だ、誰よあんた!」 寝ぼけた声で怒鳴るルイズ。 まだ夢から覚めきっていないらしい。 ホワイトスネイクはため息混じりに、 「『ホワイトスネイク』ダ、オ嬢サン」 「ああ……わたしの使い魔の、ね。そうね、昨日召喚したんだっけ」 ルイズは起き上がるとあくびをして、う~んと伸びをすると、 「ってちょっと待ちなさい! あんた、一体どこから入ってきたの!? 昨日確か締め出したはずよ!」 「私ニトッテ物理的ナ障害ハ意味ヲ成サナイ。壁ヤドアヲスリ抜ケルグライ、簡単ナモノダ」 「ウソ……あんた、何者なの? 幽霊?」 「幽霊、カ。ソレガ一番近イカモシレナイナ 背後霊ト言イ換エテモイイ」 背後霊、という言葉にルイズが少し青ざめる。 本当に、こいつは一体何なのだろうか。 昨日は蹴っ飛ばすことができたから実体はある。 人間みたいに話すことも出来る。 昨日脚を触られたときには体温みたいなものも感じた。 でも……壁をすり抜けたりもできる。 空を飛んだりもしていた。 一体、こいつは何なんだろう。 得体の知れないホワイトスネイクに、ルイズはちょっぴり気味の悪いものを感じた。 とそのとき、ルイズはふとあることを思い出した。 「洗濯は? あんたにやらせるつもりで忘れないようにするために書き置きしといたんだけど……」 「昨日ノ晩ノウチニ済マセタ」 へえ、中々優秀じゃない、と気をよくしたルイズ。 さしずめ「使い魔がしっかり言うことを聞くのがとても気分がいいッ!」と言ったところか。 もっとも、ホワイトスネイクがお隣の赤毛の女にその洗濯をやらせていた事実などルイズには知りようも無い。 そして気をよくしたところでルイズは、 「服」 と、ホワイトスネイクに命じた。 つまり服を取って来いということである。 ホワイトスネイクはふわりと空を蹴って移動し、椅子にかかった制服を掴むと、 またふわりと空中を移動して未だベッドの上にいるルイズに戻ってきた。 ルイズはだるそうに着ていたネグリジェを脱ぎ始める。 下着は昨日の晩に脱ぎ捨てたので、ネグリジェが無くなったらルイズは文字通りの全裸である。 健全な男の子が見たら鼻血を出すこと請け合いの光景だったが、ホワイトスネイクはそれを興味なさそうに見ていた。 「下着とって」 「ドコニアルンダ?」 「そこのクローゼットの一番下の引き出し」 またホワイトスネイクは空中を移動して音も無くクローゼットの前に着地する。 そしてクローゼットを開け、適当にその中から下着を選び出すと、 それを持ってまたルイズのところに戻ってきた。 ルイズはホワイトスネイクから受け取った下着を身に着けると、 「服」 「着セロ、トイウコトカ?」 「そうよ」 こんな使い方をされるのは本当に不本意だ、とホワイトスネイクは思った。 どうせなら戦いとか、記憶を奪うとか、そういうことに使って欲しい。 こんな仕事ならヨーヨーマッでも出来るんだから。 だが心の中で愚痴っていても仕方がないので、仕方なくルイズに服を着せる作業をした。 もちろん、その不満を表に表すようなことはしない。 こうして着替えを終えたルイズとホワイトスネイクが部屋から出ようとしたところ、 「あ、あとわたしのことを『お嬢さん』って呼ぶのはやめなさい。 なんだか見下されてるような感じがしてイヤなのよ。 それにあたしにはルイズって名前があるんだから。」 「デハ、『ルイズ』ト呼ベバイイノカ?」 「ダメよ、ご主人様に向かって呼び捨てなんて」 「ソウカ。ナラ……『マスター』トデモ?」 「マスター……か。うん、それでいいわ」 こうしてルイズは、ホワイトスネイクから「マスター」と呼ばれることになった。 さて、部屋から出たルイズとホワイトスネイク。 いざ食堂へ――向かおうとしたところ、廊下に3つ並んだドアのうちの一つが開いた。 そこから出てきたのは、ホワイトスネイクが昨日洗濯関係で世話になった赤毛の女だった。 女の背はルイズより高く、むせるような色気を放っている。 そして顔の彫りは深く、突き出たバストがなまめかしい。 しかもブラウスのボタンを2番目まで開けているので谷間が丸見えである。 そして昨日は夜だったこともあってホワイトスネイクは気づかなかったが、女の肌は褐色だった。 女はルイズのほうを見ると、にやっと笑って、 「おはよう、ルイズ」 と挨拶した。 それに対してルイズはあからさまに嫌そうな顔をして、 「おはよう、キュルケ」 と返した。 「あなたの使い魔って、それ?」 キュルケはホワイトスネイクを指差して言う。 「そうよ」 そうルイズが返すと、キュルケは値踏みするようにホワイトスネイクをじろじろ見て、 「ふ~ん……本当に亜人なのね。 それに、昨日は杖も詠唱も無しで空を飛べてたみたいだし。 エルフの親戚なのかしら。 ま、『ゼロ』のルイズにしては、上出来じゃないの?」 一応褒めてはいるようだが、それでもかなり見下した口調でそう言った。 「ふーんだ。いいのよ、成功したんだから。それに、そう言うあんたの使い魔は何なのよ?」 「あ~ら、見たいの? 言われなくたって見せてあげるつもりだったけど……フレイム~」 キュルケが自分の使い魔の名前を呼ぶ。 すると彼女の部屋から、のっそりと、真っ赤で馬鹿でかいトカゲが現れた。 いうまでも無く昨日ホワイトスネイクがDISCをぶっ刺したトカゲである。 そしてルイズの部屋の前の廊下がむんとした熱気に包まれる。 「熱ヲ放ッテイルノカ? コノスタンドハ」 「そりゃそうよ。だってフレイムはサラマンダーなんだもの。 …っていうか、『スタンド』って何よ?」 「イヤ、ナンデモ無イ」 (テッキリスタンドノヴィジョンデハ、ト思ッタガ…ソウイウ生キ物ナノカ。 私ハトンデモナイ所ヘ来テシマッタノカモシレンナ) 昨日の推測が誤りであったことを理解すると同時に、 この世界のブッ飛び具合を改めて理解したホワイトスネイクであった 「それにフレイムはただのサラマンダーじゃないわ。 見てよ、この尻尾! ここまで大きくて鮮やかな炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランド物よぉー? 好事家に見せたら、きっと値段なんかつかないわ!」 「そう、それはよかったわね」 得意げに胸を張るキュルケに対し、ルイズも負けじと胸を張り返すべく―― 「ホワイトスネイク、あんた何が出来るのよ?」 「何ガ出来ルカ……カ」 ホワイトスネイクは考えた。 昨日は誰も見ていないからこそ堂々と能力を行使したが、今は目の前に赤毛の女がいる。 ルイズに見られるのはいいとして……この女に手の内を晒していいものだろうか? そんなことを考えた結果―― 「別ニ大シタコトガ出来ルワケデハナイ」 あえてウソをついた。 「セイゼイ出来ルノハ、空中ヲ飛ブヨウニ移動シタリスルグライナモノダ」 「なあんだ、じゃあ見かけ倒しって事じゃない。 やっぱりあなたにお似合いの使い魔だったわね、ルイズ」 「う、うるさいわよ!」 ムキになって言い返すルイズ。 だがキュルケは余裕の表情でそれを見下ろして、 「じゃあ、お先に失礼」 そう言うとフレイムを従えてさっさと行ってしまった。 「くやしー! なんなのよあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚できたからってエラソーに!」 「ソノ『火竜山脈のサラマンダー』トヤラガ召喚デキルト何カイイ事デモアルノカ?」 「大有りよ! 使い魔は主人の実力を示すものなの。 だから火竜山脈のサラマンダーを召喚できたキュルケにはそれだけの実力が……ってああもう! 考えるだけで腹が立ってくるわ!」 「『使い魔は主人の実力を示す』……カ。ナラ君ノ実力モ捨テタモノデハナイナ」 「どういうことよ!」 ホワイトスネイクの言葉の意味が分からなかったルイズはすぐに聞き返す。 すると、 「私ハ少ナクトモアノ化ケ物トカゲヨリハ強イ」 「…ウソでしょ?」 「本当ダ。機会ガアレバ実力ノ一ツデモ見セテヤル」 「でもあんた、さっき『特別な事は何も出来ない』とか言ってたじゃない」 「アレハ方便ダ」 「方便?」 「私ハサッキ、自分ノ能力ヲ明カサナイタメニ『アエテ』ウソヲツイタ。 ……アノ女相手ニワザワザ手ノ内ヲ明カス必要ハ無イカラナ」 余裕のある口ぶりで言うホワイトスネイク。 だが昨日召喚したばかりの使い魔にいきなりそんな事を言われても、ルイズには信じられるわけが無い。 でも、そういえば今朝扉をすり抜けた事はキュルケには言わなかったし……。 本当のところはどうなのだろうか、と悩んだルイズは、 「じゃあ教えてよ。あんたが一体、何が出来るのか」 と聞いた。 実にストレートである。 そしてそれを聞いたホワイトスネイクはニヤリと笑うと、 「一ツハ命令スルコト。 一ツハ幻ヲ見セルコト。 そして一ツハ――」 「記憶ヲ奪ウコトダ」 「……どういうことよ? 分かるように説明しなさい」 残念ながら我らがご主人様には理解されなかった。 むしろ混乱しているようである。 ホワイトスネイクはそんな自分の主人を見て、 「分カラナイノナラ……実際ニ私ガ使ウ所ヲ見ルトイイ。近イウチニ3ツ見セヨウ」 そういって、自分を『解除』した。 とは言ってもルイズにとっては初めてみる光景だったので、 ホワイトスネイクが煙のように消えてしまったことにかなり焦った。 「え? ち、ちょっと……え? 消えちゃったの? ……え? どういうこと?」 「落チ着ケ、マスター」 そう言って首から上だけで現れるホワイトスネイク。 ホワイトスネイクからすれば全身を出すのが面倒くさかったからこそなのだが―― 「っっっっっっっ!!!!!!!!」 自分の使い魔がいきなり生首になって現れる光景は、 年頃の少女には、ショッキングすぎた。 そして朝食の席にルイズとホワイトスネイクが到着したとき―― ルイズの両目はほんのちょっぴり涙で潤んでおり、 ホワイトスネイクは全身からプスプスと黒い煙を上げていた。 例の爆発を食らったためだ。 もちろんコスチュームもボロボロである。 「……いいこと。今度ご主人様を怖がらせるようなことしたら、またオシオキだからね」 「……了解シタ、マスター」 さて、ここ「アルヴィーズの食堂」には、ゆうに100人は食事を取れるであろう程に長い机と、 その上に所狭しと並べられた豪華な料理と豪華な飾り付けがあった。 「中々豪華ナ食卓ダナ」 「トリステイン魔法学校で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」 食堂の絢爛っぷりに感心したように言うホワイトスネイクに、ルイズは得意げに指を立てて言った。 「メイジはほぼ全員が貴族なの。 だから私たちが貴族としての教育を受け、貴族としての礼儀作法を学ぶために、 貴族にとって相応しい食卓がこうして用意されてるってわけ。分かった?」 「ナルホドナ。……デ、ソコニ置イテアルノハ何ダ?」 ホワイトスネイクが床を指し示す。 そこには小さな肉の欠片がぽつんと浮かんだ貧しいスープと、あからさまに硬そうなパンが並べられている。 「あんたが食べるものよ。まさか、貴族と同じ食卓に座れると思ってたの?」 ルイズが呆れたように言う。 それに対してホワイトスネイクはさらに呆れたように、 「私ハ生物デハナイカラ、食事ナンテ取ラナインダガナ……」 こう言った。 「えっ……あんた、生き物じゃないの? っていうか、それってどういうこと?」 「コレハ私ノ推測ダガ、私ハマスターノ精神ニ『寄生』シ、ソコカラ常ニエネルギーヲモラッテイルノダ」 「き、寄生!? そ、それって、何か危なかったりしないの!?」 「ソウイウ心配ハ今ノトコロ見当タラナイカラ安心シテイイ。 アト…ソウダナ。 私ハ力の『イメージ』とか『ヴィジョン』ニスギナイカラ、腹ガ減ルコトモナイ。 ……ソウイエバコノ事ヲ伝エルノヲ忘レテイタ気ガスルガ、 マスターノ方モコンナ食事ヲ私ニトラセルツモリダッタノダカラ堪エテクレ」 淡々とルイズに説明するホワイトスネイク。 しかしルイズにとってはそれが分かったような分からないような説明であったことと、 「使い魔への教育」の名目で貧相な食事を取らせる目論見が見事に外れたこととで、 ルイズはぽかーんとしていた。 そのとき、そんなルイズをクスクス笑う周囲の生徒達の口から「ゼロ」という単語が出てきたのをホワイトスネイクは聞いた。 確か食堂に来る前に見た女……キュルケもルイズに向かって「ゼロ」とか言っていた。 一体どういう意味なのだろうか、と考えていたところで、 昨日、ルイズが魔法を使えないと推測したことを思い出した。 (魔法ガ使エナイ者ノ事ヲ『ゼロ』ト言ウノカ? ソレトモマスター個人ノ事ヲ指シテ『ゼロ』ト呼ブノカ…? イズレニシテモ、マスターヘノ侮辱デアルコトニ変ワリハナイダロウナ…) そんなことを考えながら、ホワイトスネイクは不機嫌そうに食事を取るルイズを見下ろしていた。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/162.html
「ドラァァーッ」 「げうッ」 鞭をふりまわす相手には近寄りたくない 女を殴るのも気がすすまない 仗助は顔をしたたか打ちすえた一発に耐え ルイズの右肩を全力で突き飛ばし室外へ逃げた ケガをしていないか心配にはなるが、かまっているヒマはない そして部屋を出るついでにドアを壊し 「なおす」 彼の不思議な力は他のモノと意図的に混じり合わせ癒着させることもできる それを利用してルイズの部屋を即席の座敷牢に仕立て上げてしまったのだッ ドンッ ドンッ 「何これ、どうなって? 開けなさいッ」 「ザマーミロだぜ つきあいきれっかっつーの」 言いつつ仗助は改めて回りを見る どうもルイズの部屋と同じようなのがズラリと並んでいるらしい もしかしてここは「寮」か何かみたいなものなのか? そういえば、亀に引き込まれて「ここ」に出たときに見たっけか 同じ服装をしたやつらがズラリと並んでいるのを アレは制服ってことか! (つまり…なんだぁ、おいッ) 推論が次第に形になってきた いきなりここに出てきたオレ ドラクエとかなんとか、それっぽい魔法を使うあいつら オレはヤツらに「なにか」されたわけか …と、なるとッ 得体のしれない力を持った組織とか何かに誘拐された? (ドコの十週打ち切りマンガだっつーの) 自分で考えてアホらしかった 一蹴しかけて…自分で自分の考えに目ン玉をムイたッ (だけど待てッ 「使い魔」だとか、「ご主人様」だとか ツジツマが合うじゃあねーか、そう考えりゃあよぉぉ~) つまり、そーいうモノにするために誘拐したということになるッ というかもう、そうとでも考えなければ何もかもわかんね―――ッ!! とにかく、あのルイズとかいうピンク髪が今ギャンギャン騒いでいるのだ このままここでジッとしていたらマズイッ 仗助くんピンチッ (だがよぉ~ ただ逃げるだけじゃダメだぜ、多分…) このままインディ・ジョーンズのようにサッソウと逃げ出していけると考えるほど ノンキこいてはいられないのである 右も左もわからないまま突っ走ってもアッという間につかまるのがオチだ 必要なものは「情報」である そして、それを得るため 今頼れそうなアテは 「シエスタ、っつったな…あのメイドさんしかいねぇよなぁ~」 すくなくともあのメイドは仗助を人間扱いしていたのである それどころか、仗助の不思議パワーを指して「貴族」だと まだ遠くには行っていないはずだった 一刻も早くつかまえ、聞きたいこと全部聞き出してしまわなければならない それこそ、あのハゲチャビンのような人間と出くわす前に、だッ 「帰れと言われたんなら『上』に上っていく可能性は…低いぜ 使用人なんだからな」 幸いすぐに見つかった階段を注意深く降りていく 誰かと出くわしたらどうしよう? そのときは…多分、手を上げて降参するしかないだろう きゃしゃな少女に鞭を持たれただけで手こずる始末なのだ 髪の毛をバカにされれば話は別だろうが 怒りにまかせてでしか制御できない破壊力になんか頼ったら 今度こそ身の破滅というやつだ それを思えば、今の自分の髪型が見る影もないことになっているのは むしろヒジョーにありがたくすらあるのかも… 「…くっそ~~」 誰とも会わないよう、祈り続けて突っ走る しかし、そういう思いは大抵むくわれないッ 仗助はギリギリのところで曲がり角の壁にひっ付いた 二人だ、二人いる 男と女の二人 男の方には見覚えがあった 赤毛の女と戦ってるとき後ろでわめいてた、なんかムカつく奴ッ 「私、スフレを作るのが得意なんですのよ」 「それは是非、食べてみたいな…」 「ホントですかッ」 「ああ…キミの瞳にウソはつかないよ、ケティ」 しかもどうやらスケコマシの真ッ最中 おサカンなことでッ!! 仗助は半分キレて眉をピクピクさせていた (てめー このヒモ野郎ぉぉー さっさとどっかに行きやがれェェ―― シエスタが追えなくなっちまうだろーがァ~~~ッ) 一方、ルイズッ 人一倍負けん気の強いこの少女 閉じこめられたまま大人しくなどしていないッ 「…どーなってるの、コレ」 「知らないわよ、あいつのヘンな力でしょ」 わめきたてまくって、なんだなんだとやってきたクラスメート達に 部屋のドアを壊してもらい、やっと出ることができた その助けてくれた一人にモンモランシーという金髪碧眼の少女がいた ルイズとはあまり仲はよくないが、まるきり他人というわけでもなかった 「ヘンな力っていうか、どう見ても魔法じゃない 完璧に壁とくっついてる…『土』? 『練金』?」 「知らないっつってんでしょッ」 怒るルイズに、モンモランシーはヤレヤレだった 「ゼロのルイズがメイジを召喚」ッ なんという倒錯ッ!! しかも「三日前」の戦いでは杖らしきものも持っていなかったのだ つまりあれは先住魔法か 召喚されたあの男も人間なのは見た目だけで エルフや吸血鬼だったりするのか? 使い魔との契約『コントラクト・サーヴァント』が成功していれば オリの中の猛獣を恐れる子供がいないように心配なかったが そこは「ゼロのルイズ」なのである 聞けば使い魔が逃げ出したという ご主人様を部屋に閉じこめてッ 崩れた建物を一瞬で修復するほどの力を持った使い魔がッ 「非常事態じゃないの…」 背筋が寒くなった 学院のド真ん中にエルフのような存在が歩き回っているなど 火薬庫に火トカゲを放たれたのと同じだ 「探すわよ、わたしの使い魔…」 「バカ言ってんじゃあないわよ 先生起こして学内全員避難だわッ」 意気込むルイズをモンモランシーはどなりつけた そんなこと、自分が指示するガラではなかったが 誰かがやらねばならないッ だがその決意も、続くルイズの行動に踏みにじられることになる 「~~~時間がないッ!! わたし行くわよ、逃げられちゃうじゃないッ」 「あっ、ルイズ、待ちなさ…」 走るルイズを追うモンモランシー その後をなんとなくついていってしまうその他数名 避難するにしても降りるしかないのだから これはある意味当然ではあったが どたどた駆け回るいくつもの足音から異変に気づく生徒が続出 彼らのうち何人かもまたドアを開け、騒動のもとを確かめようと追いかけることになるのだった なんか上が騒がしい 仗助もすぐに気がついた 向こうにいる男女も気づいたのだろう 「ひとまずこの場はお開きだ」とやっと決めてくれたようだ (ようやくか! くっそぉ~ 時間くいすぎたな 逃げ切れっかな…) 「いたッ」 「うええっ!?」 確かに時間を食いすぎた ふりむけばそこにヤツがッ 「待ちなさいルイズッ」 「いた、って、使い魔?」 「平民の使い魔? いえ、魔法を使ってたから貴族の使い魔?」 「なんだなんだ」 「何の騒ぎなんだよ、さっきから聞いてんのに」 「教えろったら」 「キュルケの新しいカレがペリッソンって本当?」 「コルベールってハゲだよな」 しかもなんかたくさん連れてる! もう考え事の段階は月までブッ飛び消滅した 助かるには走るしかないッ 「オレが何したっつーんだよォ チキショオオオオ―――ッ!!」 「な、なんだねキミはッ」 「ギーシュ様に乱暴しないでッ」 男女二人を突き飛ばして逃げる仗助だったが そのさらに向こう側の曲がり角から、また見覚えのあるヤツが… あの赤い髪、あのナイスバディーのねーちゃんはッ 「あら」 こちらに気づくと、興味シンシンといった眼で近づいてくる 仗助は無視こいて横を通り過ぎようとしたが、すこし甘い 伸びた右手から腕を組まれた ナチュラルに、ニュルッと 年齢的にも彼女イナイ歴イコール年齢である仗助は思わずドギマギするものの そんなもの、うしろからせまりくる絶体絶命の前にはふっ飛ばされてしまうッ 「は、放せッ…殴るぞ、本気だぞッ」 「なぁに? またヤるの? あたしはかまわないけど、どうせやるなら別の場所での戦いの方が」 「さわってんじゃねーわよッ」 ドボォォ 「がぶほおッ」 ドシャア 走り込みからの十八文ドロップキック ルイズの両のブーツ底が仗助に炸裂 顔面にッ!! 自分も転んでしまってはアレだということだろう 赤毛の女はアッサリ手を放していた 鼻血を出して立ち上がった仗助は、尻もちをついていたルイズと目が合った直後 …がなり合いに発展した 「てめー なんてことしやがるッ 女だと思って黙ってはいたが 温厚な仗助さんでもイイカゲン我慢の限界だぜーッ」 「勝手に逃げる使い魔がそれを言うのッ? わたしを一体、なんだと思ってんのよ」 「誘拐犯だろーがッ ここはどこだッ すぐにオレを返せッ 110番すっぞ バカヤロ―――ッ」 「バカヤローですって? いやしくも王家につらなるわたしをバカヤロー? よっぽど長生きしたくないらしーわね、このトーヘンボク」 「落ち着きなさい」 バシッ バシッ ヒートアップする仗助とルイズの頭を後ろからひっぱたいたのは赤毛の女 我に返った仗助は言われた通り落ち着くことにした ルイズも不本意ながら従うようだ 「まず、なんで逃げたのか聞かなきゃいけないトコだけど」 「ンだよ、オレにゃ言いたいことなんかナンもねーぞ」 「ま、それは後にしましょ…ほら、あそこ。 面白そうなことになってるし」 「ん?」 赤毛の女が指さした先 そこにいたのは今さっき仗助が突き飛ばした男女と、もう一人… スラリとしたパツキンの少女だった 「モ、モンモランシー どうしてここに…」 男がボーゼンとつぶやいていた 10へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/778.html
アホの使い魔-1 アホの使い魔-2 アホの使い魔-3 アホの使い魔-4 アホの使い魔-5 アホの使い魔-6 アホの使い魔-7
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1517.html
次の日。ジョセフは女神の杵亭で最も上等なスイートルームで惰眠を貪っていた。最初に入った部屋とは広さも大きく違うし、ベッドにしたって天蓋付である。そして非常に大きい。二人寝てもまだスペースが余るキングサイズだった。 しかしその大きなベッドで眠るのはルイズ一人だけで、ジョセフはリビングのソファで毛布に包まって波紋呼吸の寝息を立てていた。ソファとは言っても2m足らずの背丈があるジョセフが足を伸ばして眠れるような代物で、普通のベッドと比べても遜色のない寝床である。 昨日の夜に、意訳すれば「子爵殿はまさか婚約者を粗末な部屋で寝かせて自分が豪華な部屋で寝るつもりじゃあありませんよなァ~~~~~~?」という論調でとても紳士的に交渉した結果、この夜のスイートルームにはルイズ主従が宿泊することになった。 だが広いとは言え、ベッドが一つしかない室内を見たジョセフの怒りがルイズに見えないように再び生み出されたのは言うまでもない。 そんな紆余曲折はあったものの、いつもより柔らかい寝床でたっぷりと惰眠を貪ったジョセフは、いつものようにルイズよりずっと早起きしてしまい、暇を持て余していた。 仕事は宿の使用人がするし、暇を潰そうにも本は読めないし何もすることがない。散歩に行こうかとも思ったが、自分がいない間にあのキザ子爵が来るかもしれないし、何よりいつ新たな刺客が来るとも判らない。 ということで、静かな室内で何もすることなくソファに寝転がるしか出来ないジョセフだった。元々落ち着きのない性格で、動いていなければ時間を過ごすことのできない性格である。 已む無く、せめてもの時間潰しにルイズが起きるまで転寝を繰り返していた。 何度目かに転寝から覚醒したその時、扉がこんこんとノックされた。 「はァい、どちらさんですかな」 ソファから起き上がり、扉は開けないまま声を投げる。 「私だ、ワルドだ」 ヨダレ垂らしてる牛を見た時のような顔をしながら、それでも無視する訳にも行かずイヤイヤ立ち上がってドアを開けに向かう。 「主人はまだ寝てるんですがの、子爵殿」 ドアを開ければ、ジョセフとワルドは同じ高さの視線を交えることになる。 「おはよう、使い魔君」 言葉の裏に短刀を潜めた言葉を交わしあいながらも、互いの表情は穏やかなものだった。 「おはようございます。わしの記憶が確かなら出発は明日の朝のはずでしたなァ。こんなに朝早くにレディの部屋に忍んで来るとは、あまり感心できませんな」 ジョセフの皮肉たっぷりの言葉にも、ワルドはにこやかに笑みを返した。 「君は伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだろ?」 「……は?」 訝しげにワルドをねめつけるジョセフに、ワルドは取り繕うように言葉を重ねる。 「その、あれだ。フーケの一件で僕は君に興味を抱いたんだ。グリフォンの上でルイズに聞いたが、君は異世界からやってきたそうだね。おまけに伝説の使い魔『ガンダールヴ』だとも聞いたよ」 「はぁ」 ジョセフは「何が何だか判らない」という顔をしているが、内心では(こぉのバカ子爵ッ! こいつぁなんと頭脳がマヌケなんじゃッ!)と呆れ返っていた。 「僕は歴史に興味があってね。フーケを尋問した時に、君に興味を抱き、王立図書館で君の事を調べたのさ。その結果、『ガンダールヴ』に辿り着いた」 ワルドの言葉を聞いているように頷きながらも、ジョセフの頭脳は「主人ですら知らない事をコイツはどこから知ったのか」の推測を進めていた。 手袋に隠れている使い魔のルーンを見たのはコルベールとオスマンのみ。 自分がガンダールヴだと言う事を知っているのは、自分を含めてもその三人。フーケが自分の戦いぶりを見ていたとして……ハーミットパープルももしやすればバレているかもしれない。だが遠目に見えたあれがどんな能力を持つかは正確に判らないはず。 『先住魔法』と誤解されるか、それとも『ガンダールヴ』の能力の一片と考えるか。 少なくとも向こうはこちらをただの老いぼれとは考えていない、と見るべきだ。 だが他の可能性も考えてもいいかもしれない。『ガンダールヴの情報はフーケ経由ではない』という可能性と、『フーケとフーケ以外から情報を得てきた』ということだ。 ガンダールヴの主人は虚無の使い手であろう、とはオスマンの言である。あの爆発魔法を虚無の使い手の片鱗だと見た、か? ルイズを虚無の使い手と仮定すれば、ゴーレムと立ち回れる自分をガンダールヴと呼べる、か。 (――苦しいがないとも言い切れん。情報がどうにも少ないッ) 言える事は、向こうはどこからかガンダールヴの情報を得ていること。それとどんなマヌケでも判る嘘を漏らす締りの悪い口と、ミスの一つも誤魔化せない大マヌケだということだ。ジョースター不動産ではバイトすら出来まい。 ジョセフの中で、警戒レベルが再び上がる。今度は少し、警戒を強めに。 「あの『土くれ』を捕まえた腕がどのくらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」 先程のワルドの言葉から、この言葉が終わるまで数秒足らず。この間にジョセフの頭は現時点での情報判断を終えていた。 「手合わせ?」 「早い話が、これだよ」 ワルドは腰に差した魔法の杖を指し示した。 「殴り合いかね」 ジョセフは鼻白みながら、ハン、と息を吐いた。 「その通り」 ワルドは不敵にジョセフを見るが、あからさまな温度差が二人の間に生まれていた。 「どうでもいいんじゃが、喧嘩吹っかけるならもうちょっと相手見てからにせんとなァ。お互いになーんもメリットがない。わしはんなメンドーくさい事なんかやる気もないし、そっちは勝っても自慢出来んし負けたら魔法衛士なんぞ引退モノじゃろうに」 手の内を見せたくないと言うのも大きな理由だが、最大の理由は「めんどくせェ」の一言に尽きる。別に誰かが侮辱されたわけでもないし、得るものもない。 「おや、君は僕の挑戦を受けてはくれないのか?」 「受ける理由がどこにあるっつーんじゃ」 と、有無を言わさずドアを閉めようとしたジョセフから、ワルドの視線が外れた。 「ああおはよう、僕のルイズ」 ワルドの声にジョセフが後ろを振り向くと、そこには寝ぼけ眼を擦るルイズが立っていた。 「……ワルド? どうしたの、こんな時間に……」 「ああ、これはよかった! ルイズ、実は君の使い魔に手合わせを頼んでいたのだが。どうにも御老人の興を誘うことが出来なくてね」 ジョセフ本人の了承を得られないなら、次はルイズから攻め込もうとする。 「もう、そんなバカなことはやめてワルド! 今はそんなことしてる場合じゃないでしょう? ケガなんかしたらどうするの!」 「そうだね。でも、貴族と言う人種は厄介でね。強いか弱いか、それが気になるといてもたってもいられなくなるのさ」 ワルドの言葉に、もう、と困った顔をしたルイズは、ジョセフを見上げた。 「ワルドったら本当に困った人だわ。ジョジョ、そんなの受けなくてもいいのよ」 しかしジョセフは顎ひげを親指の腹で撫ぜると、ワルドを見やった。 「いいじゃろ。どこでやるんじゃ?」 その言葉に、ルイズは大きく目を見開いて息を呑み、ワルドは満足げに頷いた。 「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備える為の砦だったんだ。中庭に練兵場がある、そこに来てもらおう。ルイズ、君には介添え人になってもらいたい」 「ちょっと! いきなり何を言い出してるの!? やめなさい、これは命令よ!?」 突然の展開に慌ててジョセフの服の裾をつかむルイズだが、ジョセフは主人の頭を軽く撫ぜるだけだった。 「あー、ちょっとした遊びじゃよ遊び。なぁに、ケガはせんように気をつける」 「そういう問題じゃないわ! 二人とも大人なんだからやっていいこととそうでないことの区別くらいつくでしょ!?」 本気ではないとは言え、自分の婚約者と使い魔が戦うのを見て無邪気に喜べる性格ではないルイズである。 ルイズが一生懸命二人を翻意させようとするが、二人揃って考えを改める様子は見られない。ややあって、溜息をつくと二人に言った。 「……判ったわ。服を着るから、先に行ってて」 説得を諦めたルイズは、肩を落としながら着替える為に寝室に戻った。 ジョセフとワルドは、今ではただの物置き場でしかない練兵場にやってきた。ワルドがかつてこの砦が誇った栄華について朗々と語っているが、ジョセフにとっちゃどうでもいい事でしかない。 ワルドの話よりも、ここがどんな場所で何があるか。それを確認する為に、帽子で隠した視線は物置き場を眺めていく。 自分とワルドの距離はおおよそ二十歩ほど。周囲には樽や空き箱が積まれ、石で出来た旗立台はかつて旗が立てられたのがいつか判らないほど苔むしている。 (ろくすっぽトラップは仕掛けられんなァ。身一つでどーにかせにゃならんか) 腰に差したデルフリンガーの柄を握れば、義手に刻まれたルーンが光る。 小気味良い金属音が物置き場に響いた直後、ルイズが憂鬱な面持ちで歩いてきた。 「では、介添え人も来た事だし始めるか」 ワルドは腰から杖を引き抜くと、フェンシングの構えのように前方へ突き出す。 (いかんなァ。既に得物の時点で不利じゃわいッ) 両手剣のデルフリンガーと、片手で取り回しが聞くフルーレのような杖。これが全身鎧に身を固めているなら兎も角、ただ布の服しか着ていないとなれば重要視されるのは威力よりも手数と速度。それに関してどちらが適しているかと言えば、答えはとっくに出ている。 しかも向こうには風の魔法もある。それと互角に戦おうと思えばハーミットパープルも使うことを念頭に置かなければならないが、ジョセフに使う気はこれっぽっちもない。 ガンダールヴの能力とデルフリンガーと波紋でどうにか賄わなければならないのだ。 「ま、お互いケガしても恨みっこナシッつーことで頼むぞ」 「構わん、全力で来るといい」 薄く笑うワルド目掛け、ジョセフは大上段に剣を掲げた。 「行くぞォッ!!!」 気合一閃、羽根のように軽い両脚で地面を蹴ってワルドに躍り掛かる。 (昔読んだサムライコミックに描いてあったッ! サツマジゲンリューを試すッ!) ジョセフが言っているのは、剣客マンガではオーソドックスな薩摩示現流である。 示現流の思想は実に単純にして明快、『剣を大きく振りかぶって相手を叩き斬る』ことだけをひたすらに追求した剣術である。 その為、示現流は『一の太刀を疑わず』『二の太刀要らず』とも言われ、髪の毛一本でも素早く剣を振り下ろせというほど一撃に勝負の全てを賭ける鋭い一撃を特徴とする――とは、そのコミックに書いてあった説明文だ。 無論、デルフリンガーは錆びたりと言えども重々しい金属で形成されている。ガンダールヴで強化された身体能力で頭を狙えば、大怪我で済めば御の字といったところだろう。 しかしワルドは杖で初太刀を受け止め……思わず歯を食いしばりながらも、辛うじて剣の動きを殺した。 かつて幕末の時代、示現流を修めた薩摩藩士に殺害された者は、『敵の刀を受け止めた、自分の刀の峰』で頭を叩き割られた者が多かったという。聞きかじりの鈍ら剣術とは言え、それを受け止めて見せたのはワルドの実力を如実に示すものであった。 細身の杖だというのに、渾身の斬撃を受け止めても傷の付いた様子も見られない。 ワルドは素早く背後へ飛びずさると、剣を振り下ろした直後のジョセフに、風を断ち切りながらの鋭い突きを繰り出した。 ジョセフはワルドの突きを剣を振り上げることで払うと、再びマントを翻らせながら優雅に飛びずさったワルドへと駆け込み、間合いを離す事を許さなかった。 「なんでえ、あいつ魔法を使わないのか?」 デルフリンガーの楽しげな声は、他人事のように戦いを観戦している観客のそれだった。 「遊んでくれてるんじゃろなァ」 くく、とジョセフは笑った。デルフリンガーと波紋で強化したジョセフの肉体は、魔法衛士隊の隊長であるワルドと比べて遜色ないどころか、やや押している節さえ見られる。 肉体のポテンシャルだけで言えば、ジョセフとワルドの違いは年齢を重ねているかいないか、というレベルでしかない。筋肉の付き方からしてジョセフは若者と引けを取らないのだ。 それに加え、治安の宜しくないニューヨークで仕事をする以上、護身術も習ってはいる。ジョセフはちょくちょくサボってたので殆ど身に付いていないのは御愛嬌だ。 とは言え。実戦に長けたワルドに不意打ちじみた初太刀が凌がれた今、ジョセフはチ、と内心で舌打ちした。 (アレで頭カチ割るつもりだったが予定が狂ったッ。まさか両手の唐竹割りが片手の杖で防がれるとは思いもせんかったわいッ) 予定としては、ジョセフが振り下ろした剣をルイズに余裕を見せ付けるために杖で受け止めてみせるか、紙一重で避けるかするだろうと思っていた。予想外の威力と速度を持った一撃ならば、ワルドがどう動くにせよこれで勝てると踏んでいたのは確かである。 これで決まらなかった以上、後は互いの実力が勝負を決める鍵となる――が。 今の数秒程度の切り結びで、ジョセフはワルドの実力を悟らざるを得なかった。 (そりゃー女王陛下御付の魔法衛士隊の隊長サマじゃもんなッ。そう簡単に負けたりしちゃくれんだろうがッ!) 「魔法衛士隊のメイジが、ただ魔法を唱えることだけと思ってもらっては困る」 ワルドは素早い突きを連続で繰り出すことで、ジョセフの動きを牽制しながら言う。 「詠唱さえ戦いに特化している。杖を構える仕草、突き出す動作! 杖を剣のように扱いながら詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」 「なるほど、そのつまらん御託も魔法の詠唱かね」 ちょっとした嘲笑を振り掛けた言葉と共に、ジョセフは凄まじい勢いで剣を縦横無尽に振り回す。長尺の剣であるデルフリンガーと言えども、両手で持って回す以上はややリーチに制限がかかる。 不意を取られた初太刀こそ辛うじて受け流したに過ぎないが、ワルドは既にジョセフの斬撃の間合いを見切っていた。 「君は確かに素早いし力強い。ただの平民とは思えない。さすがは伝説の使い魔だ」 軽やかなステップでかわし、杖で受け流す動きには無駄の一つもない。 「しかし、隙だらけだ。速く重いだけで技術はない。それでは本物のメイジには――勝てないッッッ」 そう言いつつジョセフの突きをかわしながら懐に入り込み、剣を落とさせようと持ち手目掛けて鮮やかな突きを繰り出す。 「むうッ!!」 腕を伸ばし切ったジョセフの手は、杖を避けるには少なすぎる小さな動きしか出来ない。波紋を使えばあの突きでさえ弾けるだろうが、出来ればあまり手の内を見せたくない…… (ならばッ!) 左手を柄から離し、襲い来る切っ先目掛けて裏拳を叩き込むッ! 突如物置き場に響き渡る、澄んだ金属音ッ! 「なっ!?」 何度も貫いた肉の感触ではなく、ゴーレムを打ち据えた時の様な感触に、さしものワルドと言えども一瞬虚を突かれる。 「わしをその辺のヘボメイジと一緒にするなよワルド」 その言葉が終わった瞬間には、ジョセフの爪先がワルドの向う脛を強かに打ち据えていた。 「ッ!!?」 「とっくの昔に義腕じゃよ」 と、痛みに歯を食いしばるワルドからバックステップで距離を取り、破れた手袋を投げ捨てて鉄製の義手を見せ付ける。 ただ漫然と義手を差し出しただけでは、ワルドの杖は義手を打ち砕いていたかもしれない。だがガンダールヴの紋章を刻印された義手の『波紋さえ留まる』という特性を生かし、反発する波紋で義手を守り、義手で受けたということで波紋を用いたという証拠をも消したのだ。 「お前は確かに強い。ただのメイジたぁ思えない。さすがは魔法衛士隊の隊長じゃな。じゃが余りにもマヌケだ。強いだけで、オツムはナメクジ程度だ。それじゃ決闘ゴッコは出来ても本物の戦いは出来んな」 先程言われたセリフを適当に改変し、楽しそうに笑ってみせる。 「そうそう、あの後で多分お前はこう言おうとしてたんじゃないかな? 『つまり、君ではルイズを守れない』とな! そのセリフ、そっくりそのまま返してやろう! 『え、お前それでルイズにカッコいいところ見せようって思ってたの?』となッ!」 くっくっく、と押し殺した笑い声をわざと聞かせ、帽子のつばを指で押し上げる。 ワルドはバネが弾ける様にジョセフへ飛び掛り、怒りを込めた速度で杖を突き出していく。 だが怒りで濁った突きは、速度や威力こそ速いが、凌げないほどではない。だが攻め返すにしても攻め入る隙を用意に見つけられないのは、正直なところだった。 剣で受け流し、間合いを取り、耐えるのがやっとという状態だ。 「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……!」 閃光のような突きを雨霰と降り注ぎながら、ワルドは低く呟いていた。 怒りに塗れながらも、それでも突きに一定のリズムと動きを持たせていた。 (くそッ、実力だけは大したモンじゃ! 杖で攻撃しながら同時に魔法詠唱することで、相手の動きを止めながらこんな距離での魔法の完成を可能にしておるッ!) 「相棒! こいつぁいけねえ! 魔法が来るぜ!」 「判ってる! 判ってるんじゃッ!」 デルフリンガーの叫びに、ジョセフが血相を変えて叫び返す。頭で理解するのと解決策を用意するのとはまた別次元の話だ。 そして魔法が完成し――空気で形成された不可視の巨大なハンマーが、横殴りにジョセフを吹き飛ばす。十メイル先で積み上げられた樽目掛けて、ジョセフが吹き飛ばされる! (このクソ老いぼれがッッッ!!!) 勝利を確信したワルドは、屈辱を晴らした笑みを見せた。 ジョセフの言った通りだった。ワルドは、この時点で。本物の戦いが出来ないことを自ら証明したのだ。 樽にジョセフが激突する瞬間、ジョセフは素早く爪先を差し出し、樽を蹴り付けッ! その蹴り付けた爪先からッ! 大量の反発する波紋を流すッ!! 樽は100キロ弱もあるジョセフを受け止め、かつ飛び来る速度を相殺した挙句、ジョセフにとんでもない推進力を提供させられることになる。哀れな樽は波紋で膨れ上がった内部の空気に耐え切れず、爆音と共に破裂したッ! 空気のハンマーで吹き飛ばされた時よりも遥かに速い踏み込みを以って、地面を低く這うようにワルドへと再び踏み込んでいくッ! 「なッ!?」 勝利を確信して弛緩させた心を、すぐさま先程までの水位に戻すことは困難を要する。 もしまだ戦いに心を置いていれば、ジョセフを今度こそ叩きのめせたかもしれない。 いや、むしろ、もっと殺傷能力の高い魔法を使うべきだったかもしれない。 ワルドの敗因を並べ立てるとすれば色々あるだろうが、最も大きなものがあるとすれば。ワルドが戦いを吹っかけたのは、ジョセフ・ジョースターだったということだ。 そのジョセフは既に自分の間合いに入り、今にも後ろで水平に構えた剣を横薙ぎに切り払ってくるだろう。カウンターしようにも、体勢の整っていないワルドにそれは出来ない。生半可に反応すれば、自分の攻撃は外れて相手の攻撃を貰うのは火を見るよりも明らか! 杖で受け止めるか、それとも身をかわすか……突然の選択を強いられたワルドは、反射的に大きく飛びずさる。剣の間合いから逃れ、ひとまず体勢を整えようとした。 先程の切り結びの中、ジョセフの間合いは十分把握している。 剣を避けた上で、身体の伸びきったジョセフに満を持して攻撃をかける――非の打ち所のない戦法と呼んで差し支えない、いい判断だった。 「うおおおおおおおッッッ!!!」 ジョセフの裂帛の気合と共に、地面に一際強く踏み込んだ左足を軸として、左腕が空気を薙ぎ払いながら横薙ぎの剣がその後を追って空気を切り裂き、ワルド目掛けて放たれたッ! だが、ジョセフのリーチと剣の長さを考えても、踏み込みが一歩浅かった! (焦ったな老いぼれッ! 僕の勝ちだ、ガンダールヴッ!!) 心の中で勝利を確信し、優雅に後ろへ飛びずさり。 ワルドの眼前を何かが通過し。強すぎる衝撃が右手を襲い。杖は、宙を舞った。 「――何?」 杖が地面に跳ねてから、やっとワルドは痺れる自分の手から杖が失われているのに気が付いた。 そして、ジョセフの剣がぴたりと喉元を狙っているのにも。 「勝負あり、じゃな。それとも杖ナシでやるか?」 信じられないものを見る目で、地に落ちた杖を呆然と見るワルド。 決着がついたと判断したルイズは、恐る恐る二人に近付いてくる。 「一体……どんな技を使ったんだ。ガンダールヴ」 震える唇で辛うじて絞り出した声に、ジョセフはニヤリと笑って剣を鞘に収めた。 「そのくらい自分で考えるんじゃな、“自称”本物のメイジ殿」 ワルドからあっさりと視線を外すと、ジョセフはルイズの方へ歩いていく。そして振り向きもせずに、いかにも楽しそうに言った。 「大サービスで技の名前だけ教えてやろう。名付けて、『流星の波紋疾走(シューティングスター・オーバードライブ)』」 流星色の波紋疾走。これもまた、ジョセフの読んだ剣客コミックからの引用である。 ジョセフは斬撃の際、両手で固く握っていた柄から右手を離し、左手のみで剣を振るったのだ。横薙ぎに剣を振るうならば、両手で振るより片手だけで掴んだ剣を、片手の腕力だけで振るほうが圧倒的にリーチが長くなる。 しかもそれだけに留まらず、右手の人差し指からは反発する波紋を流すことで剣速を加速させた。左手はただ握るだけではなく、人差し指と親指だけで柄を掴み、鍔近くから柄頭まで指の輪を滑らせることで、柄の分だけ更にリーチと威力と速度を伸ばすことに成功した。 これがもし握力が足らずにすっぽ抜けたり、剣先のコントロールが狂えばワルドの杖どころか腕や首さえ落としかねなかったが、波紋の精妙なコントロールを持ってすればさほど難しい所業でもなかった。 問題があるとすれば、「ワルドは飛びずさって距離を取る」という読みが外れた場合であるが、ジョセフはそれ以外の選択肢はないとすら確信していた。 杖で受けるには頭から爪先まで選択肢が多すぎたし、反撃するにも意表を付かれたあの状態ではろくなカウンターは取れなかった。結果、飛びずさるという選択のみが発生する。 『直前まで見せた剣の間合い』を見切らせ、なおかつワルドの身のこなしを計算に入れた上で、あのタイミングで流星の波紋疾走を放ったのだ。 だがワルドでさえ理解できなかった事が、ルイズに理解できるはずもない。 二人が決闘するという事態と、手合わせや決闘と称するには余りに過ぎた激闘に平静を失っていたルイズがほんの僅かに正気を取り戻すと、とりあえずジョセフの脛に蹴りを入れた。 「ぐはッ!?」 「あんたッ! 何してるのよッ! まさかとは思うけどケガさせたり殺す気で戦ってたんじやないでしょうね!?」 「いやちょっと待ってくれルイズ、向こうは名高い魔法衛士隊の隊長じゃろ? こっちも本気でやらんと」 「そういう問題じゃないわ! そういう問題じゃないのよ!」 ルイズは危険性についてがなり立てたいが、正直どういう攻防があったのかはほとんど理解できていない。ここで糾弾しやすいジョセフに怒鳴りつけて憂さを晴らしている状態だった。 ルイズとしてはいくらジョセフと言えども、魔法衛士隊の隊長であるワルドに勝てるとは予想すらしていなかった。しかもジョセフはこれまでにない力の入れ様でワルドに立ち向かって勝利してしまい、正直ルイズはどう反応すればいいのか判らなくなっていた。 自分の使い魔が陛下を守る護衛隊の隊長を打ち破るわ、しかも打ち破られたのは自分の婚約者だわと、どうにもリアクションに困ってしまう。 ルイズはワルドに視線をやるが、まだ痺れの消えない右手を左手で覆い、呆然と立っているだけだった。ポケットからハンカチを取り出して駆け寄ろうとするが、ジョセフがそっと肩を叩いて止めさせる。 「やめとけ、ルイズ。自分で売ったケンカで返り討ちにあったのに、婚約者に情け掛けられたらそれこそ自殺モンじゃぞ」 「でも……」 「グリフォン隊隊長ワルド子爵殿のプライドの為でもある。一人にしといてやろう」 ルイズはしばらく躊躇っていたが、声を掛けるのを押し憚れるワルドの雰囲気に、やむなくジョセフの手を取り、使い魔に引かれるままその場を去っていく。 「いっやー、おでれーたな相棒!」 物置き場を去ってから、デルフリンガーが陽気に口を開く。 「まさか相棒があんなに剣の達人だったなんて思いもよらなかったぜ! 使い手だけでもすげえのによ! あいつだってスクウェアクラスのメイジだぜ、多分! すげえな、相棒はメイジ殺しの才能があるんじゃねえか!?」 興奮したデルフリンガーはなおも言葉を続ける。 「ところで相棒よ、さっき握られてる時にふと思い出したことがあるんだけどよ。どうにも思い出せないんだよなー……随分大昔のことだからな。なあ相棒、心当たりねえ?」 ジョセフは返事の代わりに、デルフリンガーを鞘に収めた。 後でジョセフから、「あれはマンガで読んだ剣術でやったのはあれが最初、同じのをやれと言われても絶対ムリ」と聞いたデルフリンガーは、彼には珍しくしばらく絶句したそうな。 To Be Contined → 29 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2283.html
ゼロと使い魔の書 第八話 ところ変わって学院長室。 壁にかかっている鏡が広場の惨状を映し出していた。 水のメイジがギーシュとルイズの使い魔を運び出す光景を、コルベールとオールド・オスマンが無言で眺めている。 ルイズの使い魔があの伝説のガンダールブと同じルーンを刻まれていた、という説明がなされた直後のことである。二人は映像が消えた後もしばし無言であった。 やがてオスマンが立ち上がる音で沈黙は破られた。 「コルベール君。あの使い魔は、一体どうやってギーシュ・ド・グラモンを倒したと思うかね?」 コルベールは室内をゆっくり徘徊する学院長の姿を目で追っていたが、やがてため息と共に返答した。 「正直に言って……まったく分かりませんでした。あの動きは、やはりガンダールブのものだと思うのですが、最後の最後、一体なにが起こったのか…… あの平民が何か『本』のようなものをかざした瞬間、ギーシュの体が勝手に潰れていったとでも言いましょうか、そうとしか見えませんでした」 自分の不甲斐なさに嘆息するコルベールをオスマンはしばらく眺めていたが、やがてその険しい顔をゆるめた。 「コルベール君。あの一瞬で『本のようなもの』を見出しただけでも、君の実力は相当なものじゃ……それはさておき、わしは彼が何をやったか、一つの仮説を立てている。 君は『スタンド』というものを聞いたことがあるかな?」 「スタンド……?いえ、聞いたことがありませんが……」 コルベールの答えを聞くと、オスマンはしっかりとした足取りで学院長室に設置された本棚へと向かう。その姿は到底百を越えた老人のものには見えなかった。 「先日この本棚を整理しとった時じゃ。一体どこから紛れ込んだのか、始祖ブリミルの記した日記の1ページを発見したのじゃ」 「……え!?」 さらりととんでもないことを言われて、コルベールは一瞬遅れて反応した。 「そこには驚くべきことが記されておった……王室に報告したところで偽物に違いないと一笑にふされるのは目に見えておったから、別に誰にも見せてはおらなんだが、 今回の出来事で確信した。あれは本物じゃったとな」 オスマンは本棚の一番上の段に手を伸ばすと、息をかければそのまま崩れていきそうなほどぼろぼろの紙片を慎重に取り出し、コルベールに見せた。 「マジックアイテムにしてマジックアイテムにあらず。魔力のかわりに持ち主の魂がこめられた道具の総称。それがスタンドであるとブリミルは定義しておる。君も知ってのとおり、 始祖ブリミルはハルケギニアを統一した際に先住魔法の使い手と戦っておるが、このスタンドを使う二人の……ふむ、なんと言ったらいいか、エルフではないだろうと書いてあるしの……『スタンド使い』でいいかの。その二人に苦戦を強いられたらしい。 一人は『アニ』。『創世の書』という本を持っておって、記述を読みあげることにより様々な幻獣を召還したらしい。もう一人は『ボインゴ』。『トト』と呼ばれる『絵本』を通して未来を予知したとされる」 ここでオスマンは言葉を切り、コルベールに視線を向けた。 「この『スタンド』について、わしも興味が興味が湧いたからの。別の文献で調べてみたんじゃが、すると出てくるわ出てくるわ。二度目に触れたものを確実に斬る妖刀やら、壁を透過して釣りたいものを釣り上げる釣竿やら、 どんな衝撃でも跪くことにより地面に受け流す鎧やら、とても四系統の魔法では説明できないような代物がいくつもあるんじゃ。一部の物にはあらゆるマジックアイテムを操る虚無の使い魔、ミョズニルトルンですら扱えなかったという逸話も残っておる」 「つ……つまり、ミス・ヴァリエールの使い魔はその『スタンド使い』であるかもしれないと……?」 「あくまで仮定に過ぎん。じゃがその可能性は高いであろう。分かっているとは思うが、コルベール君、このことと『ガンダールブ』の件はくれぐれも王室のボンクラどもには内密に、じゃ。またぞろ戦でも起こされるじゃろうて」 「は、はい!かしこまりました!」 オスマンは開け放された窓に目をやる。遠い歴史の彼方へ思いをはせるように。 「伝説の使い魔が、始祖に仇なすスタンド使い。はてさて、何の因果かのう」 オスマンの呟きは誰にも聞かれることなく霧消した。