約 1,076,750 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/416.html
「このギアッチョによォォ~ 容赦しねェだと?ええ?おい やってみろクソガキがッ!!」 とは言え、男―ギアッチョには最初からフルパワーで行く気はなかった。よってたかってピンク頭に野次を投げかけていたガキ共は、ギアッチョの凍てつかんばかりの殺気に恐れをなして蜘蛛の子を散らすように我先に逃げ出していたし、年齢から考えて教師であると思われるハゲ野郎は仲間を呼びに行ったのかもうこの場にいない。ちなみに当のピンク頭は彼の下で腰を抜かしている。 ―そのオレに恐れることなく立ち向かってくるガキ・・・どうやらこいつが筆頭格の強さを持っていると理解していいようだ―ギアッチョはそう考えた。こいつをブッ倒し、奴らの戦意を喪失させてからここを出る。なかなかいい作戦じゃあねえかおい。 「今ここでオレのジェントリー・ウィープスを全開にすればこの中庭を丸ごと凍らせるのはたやすい・・・しかし逃げ出したガキ共にそいつを見られると面倒なことになりそうだからなァァ~~」 「何をぶつぶつ言ってるのよ!くらいなさいッ!」 キュルケが言い放ちざま大型の火弾を打ち出すが、ギアッチョはそれを意にも解さずキュルケに向かって歩き出す―氷でシールドを作ることもせずに。その余裕ぶりにキュルケはカチンときたが、「いいわ、ナメているのならそのまま燃え尽きればいい」と思いなおした。2・・・1・・・着弾ッ!! バシュウゥウゥウッ!! 「なッ・・・!!」 しかし火弾はギアッチョに当たる寸前、大量の水をブッかけられたかのような音を立てて「消え去った」!! 「そんな 嘘でしょ・・・!?」 眼前の出来事を信じられないキュルケは2発、3発と火弾を放つ。しかしまぐれであれという彼女の 願いも虚しく、彼に撃ち出された火弾はその全てが直撃寸前に消滅するッ! ギアッチョは歩き続ける。氷のように冷たい眼でキュルケを見据えて。 「炎ってよォォ~~・・・」 ザッ・・・ザッ・・・ 「一般的には火が激しくなったものを言うんだが・・・」 ザッ・・・ザッ・・・ 「実際に火が激しいはずの単語には炎じゃなくて火が使われることが多い」 ザッ・・・ザッ・・・ 「噴火だとか火柱だとかよォー・・・ 」 ザッ・・・ザッ・・・ 「なんで噴炎って言わねぇーんだよォォオオォオーーーッ それって納得いくかァ~~おい?」 ザッ・・・!ザッ・・・! 「オレはぜーんぜん納得いかねえ・・・」 ザッ・・・!! 「な・・・何なの・・・こいつ・・・」 キュルケはもはや完全に敵に呑まれていた。ギアッチョがついに目の前までやってきたというのに―構えることすら出来なかった。そして。 バキャァアアッ!! 「なめてんのかァーーーーッこのオレをッ!!炎を使え炎を!チクショオーーームカつくんだよ! コケにしやがって!ボケがッ!!」 キュルケは宙を舞った。 「うぐっ・・・い・・・痛ッ・・・ フフ・・・だけどおかげで眼が覚めたわ 今よフレイムッ!!」 「ムッ!?」 どこからか現れた化け物が―実際にはギアッチョの眼に入っていなかっただけだが―彼に向かって火炎を吐き出す!しかしそれも彼に当たる直前にことごとく消え去ってゆく。「・・・まだ理解しねーのか?え?おい 隙を突こうが無駄なんだよッ・・・・・・」 そこまで言ったところでギアッチョは気付いた。今火を噴いた化け物の存在に。 「・・・なんだァ~?こいつがてめーのスタンドってわけか・・・?」 とは言ってみたが・・・どう見てもこれは「ビジョン」ではない。実体である。 ―いや・・・そういうスタンドがあってもおかしかねー・・・世の中にゃ無生物に命を与える スタンドもいるくれーだからな・・・―ギアッチョはそう思いなおすとキュルケに眼を戻し、 「こいつでブチ割れなッ!!」 直触りを発動しようとしたその時。 ドゴォッ!! 「うぐぉおぉッ!?」 上空からギアッチョに空気の塊のようなものが撃ちつけられた! 「タバサ!」 キュルケが日の落ちかけた空に向かって叫んでいる。 「ナメやがって・・・上かァーーッ!?」 ギアッチョが見上げた空には。 バサッ これまたどう見ても実体の― 「ドラゴン・・・?」 ―それに乗ってこっちを見下ろしている少女。そして何より彼女の後ろに二つの月が 「・・・なんだ・・・ありゃ・・・」 二つの、月が。 ―ここはトリステイン王国の― 「マジで・・・別世界だってェのか?」 流石のギアッチョも呆然とせざるを得なかった。 ルイズはじりじりとギアッチョに近づいていた。正直自分が何かの役に立つとは思えなかったが、因縁の相手のはずの自分を体を張って助けてくれたキュルケを見殺しになど出来なかったのだ。キュルケは「とっとと逃げなさいよゼロ!」と必死に眼で語っているが、そこは妙な意地を張らせたらトリステイン一のルイズである。聞き入れるわけがなかった。 一方ギアッチョは―静かに沸騰していた。 ここが花京院もビックリのファンタジー世界だとほとんど確定してしまった以上、とりあえずは武器を収めて情報の収集にかかるのが最善手だろう。しかしギアッチョに売られた喧嘩を見過ごす選択などあるはずがない。 「後のことは・・・てめーらをブッ倒してから考えるッ!!そっちが空中にいるってんならよォォ~~ ちょっとだけ本気をださせてもらうぜェェェー!!」 ギアッチョの足元が凄まじい速度で凍っていく。それはギアッチョの靴を覆い足首を覆い・・・ルイズは眼を疑ったが、どうやら氷のスーツを形成しようとしているらしい。 ―マズいッ!! 少女は遅まきながら確信した。何だかよく分からないがこいつの魔法はヤバい!この氷の発生速度、スーツを形成する精密さ、何よりそれが無詠唱で行われているということ!更にこの殺人をも厭わない覚悟!どこまで暴れるつもりか知らないが・・・死人は出る!絶対にッ!そしてそれを阻止するチャンスは今ッ、このスーツが完全に形成されるまでの間しかないことを! ルイズは反射的に動いていた。反射的に―だが決死の覚悟で、ギアッチョに飛び掛ったッ!完全にタバサに気を取られていたギアッチョは一瞬反応が遅れ、そして―ルイズの殆ど頭突きのようなキスをまともに「食らい」、頭からブッ倒れた! 「ガフッ!!てめー何をしやがったァァ~~!?毒か!?スタンド・・・いや魔法かッ!?」 ギアッチョとは逆方向にブッ倒れたルイズは、よろよろと立ち上がりながら告げた。 「・・・契約よ・・・!」 「・・・ああ?どういう事だッ!ナメやがって クソッ!・・・・・・ぐッ!!?」 ギアッチョの左手が光り始め、 「っづぁああぁああぁあああああッ!!!」 その甲にルーンが浮かび上がったッ! こいつを説得するなら今しかない!ルイズはギアッチョの前に仁王立ちになる。 「聞きなさい!あなたがどれだけ強いか知らないけどここには300のドラゴンを一人で倒した 偉大な学院長や太陽拳を使える先生がいるのよ!これ以上騒ぎを起こせば先生方は 黙ってないわ!万一囲いを破って逃げ出せたとしてもあなたみたいな危険人物は四六時中追っ手に追われ続けるわよ!悪魔の軍団を一人で倒せるような追っ手達にね!」 半分以上は今適当にでっちあげた話だったが、 「・・・」 ギアッチョには思いのほか効果があったようだった。ルイズは疑われる前に話を進める ことにする。 「ま、貴族を3人も殺そうとしたんだから今のままでもまず終身刑は免れないわね ちなみにあなたが入るのは水族館と呼ばれる脱獄不能の監獄よ!」 これもデタラメである。 「・・・で、てめーはオレにそれを聞かせてどうしようってんだ?え?おい」 食いついたっ!ルイズは心中でガッツポーズをした。 「話は最後まで聞きなさいよ あなたが罪を問われない方法が一つだけあるわ・・・ 私の使い魔になることよ!」 「・・・・・・一応聞いとくが・・・そのツカイマってのは何なんだ」 「主の剣となり盾となるものよ」 「・・・・・・」 一瞬の逡巡の後、ギアッチョは舌打ちをしながらもルイズに答えた。 「まぁいいだろう・・・この世界のことがわかるまではここにいるのも悪い選択じゃあねぇ」 実際は一度使い魔になってしまえば死ぬまで契約は執行されるのだが―今それを 言うとこいつはまたブチ切れるだろうと思ったのでルイズはとりあえず黙っておくことにした。 ←To Be Continued・・・ 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1153.html
なんというブチキレコンビ。ギアッチョの怒りは、まるで次はオレの番だと でも言うかのように静かに爆発した。 「ところでよォォ~~・・・ 朝こいつを食った感想はどうだったよお嬢様?」 ギアッチョは波一つない海のように静かに尋ねる。 「最悪だったわッ!・・・そういえばあんたよくも貴族の私にこんなもの 食べさせてくれたわね!後でお仕置きを――」 ゴバァアァ!! 穏やかな海が突然嵐に変わるように、ギアッチョの全身から突然冷気と 殺気が噴き出し始めた! 「うぅッ!?ちょっ・・・何!?こんなところで・・・!!」 ルイズは慌てて辺りを見回すが、周囲の貴族達にはギアッチョの異変に 気付いたようなそぶりは見受けられない。ギアッチョがミスタ達との戦いで 得た教訓の一つ、それは他のスタンド使い達が当たり前にやっている 「自分の能力を安易に敵にバラしたりしない」ということであった。己の命と 引き換えに得た教訓は、彼の心の根っこにしっかりと突き刺さっている。 激しくブチ切れた今も、「周囲に己の能力を悟らせない」という事に関して だけは自制が働いていた。つまり――ルイズが感じた冷気と殺気は、 他でもないルイズただ一人に向けられたものだったのである。 ギアッチョはすっと地面にかがむと左手で食事の入ったトレイを持ち上げ、 背中を曲げた体勢のまま、色をなくした眼でルイズを見る。 「つまりてめーはそんなものをこのオレに食わせるってぇわけだ・・・」 「なッ・・・あんたは使い魔なんだから当然でしょ!?使い魔の上に平民! 貴族と同じ地平線に立つことなんて一生ありえないのよ!!」 ビシッ!! ルイズがそう言い放った途端、最近聞き慣れた音が彼女の耳に響いた。 ビシィッ!!ビシビシビシッ!!ビキキィッ!! この音は、他でもないこの音は。ルイズは恐る恐る、音のした方向へ 眼を向ける。 音がしていたのはギアッチョの持っている食事・・・いや、食事だったもの からだった。パンとスープを載せたトレイは、ギアッチョの左手の上で まるで彫刻のように完璧に凍っていた。 「・・・・・・こんな・・・ええ?こんな『ささやかな糧』でよォォォ~~~~~ てめーの命を守らせようってのかァ?・・・え?おい」 ――てめーの人生のかかった仕事を・・・ 「あ・・・!」 クソみてーなはした金でよォォォ・・・―― バキィィィィインッ!!! ギアッチョがどんな仕事をしていたのか――ルイズがそれを思い出した 瞬間、白磁の彫刻は彼の手の上で「ブチ割れ」、そしてそれと同時に ギアッチョは食堂を震わせるような大声で叫んだ。 「オレ達の命は安かねェんだッ!!!」 いつもの薄っぺらな怒りではない。ギアッチョは本気で「怒って」いた。 ルイズは声も出せなかった。ギアッチョの剣幕に怯えていたのでは ない。一体自分がどれほど酷いことを言ってしまったのか、それを 理解したのである。自分はギアッチョ達を皆殺しにした『ボス』と 何も変わらない。ギアッチョの彼らしからぬ心の底からの叫びに、 ルイズの胸は千切れ飛びそうな痛みを感じた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/349.html
まだ近くにいたギーシュの友人にヴェストリの広場の場所を聞き、向かう。 すでに広場には騒ぎを聞きつけた貴族達でいっぱいだった。 広場の中心にギーシュとルイズがいた。 ギーシュとルイズは口論しているようだったが、 やがて渋々と言った感じでルイズが引き下がる。 そして形兆がやってきた。 広場の真ん中で形兆とギーシュがにらみあう。距離はおよそ三メイル。 「諸君!決闘だ!」 ギーシュが薔薇の造花を掲げる(あれが杖らしい)。その途端歓声が巻き起こる。 「さて、今回決闘をするのは、ぼくことギーシュ・ド・グラモンとミス・ヴァリエールの使い魔だッ!」 またもや巻き起こる歓声。それを満足そうに聞きながら、ギーシュは形兆に話しかける。 「逃げずに来たことは褒めてやろう」 「……」 形兆は答えない。 そして、決闘が始まった。 場所は変わって学院長室。 その部屋の主、オスマンは難しい顔をしていた。何かを考えているらしい。 考えがまとまったらしく口を開く。 「ワシがトリステイン魔法学院学長、オスマンであーる!…コレ面白いと思わない?」 「思いません」 彼の考えたキメ台詞は秘書のロングビルには不評だった。 そんな平和な学院長室に男が慌ただしく入ってくる 「大変です!オールド・オスマン!」 コルベールだった。 「大変です!コレを見てください!」 そういって手に持った本を見せる。 「ム!?……スマンが席をはずしてくれんかの。ミス・ロングビル」 「はい」 ロングビルが部屋を出て行ったのを確認し、コルベールが話しだす。 「ミス・ヴァリエールの使い魔の少年のルーンが珍しいので調べてみたら 『ガンダールヴ』のものと同じだったんです!」 「つまりその少年はガンダールヴじゃと言いたいのか?」 「そうです。正確にはガンダールヴの力を手に入れたということですが……」 「フーム……」 二人が黙り込む、その静寂を破ったのは第三者だった。 「大変です!オスマン氏!」 飛び込んで来たシュヴルーズはそのまましゃべり続ける。 「きょ、教室が、教室が!」 「落ち着きなさい。一体どうしたというんじゃ」 「教室がとても綺麗になっているんです!普通じゃないくらい!」 それがどうした。そう言いたいが言えない二人。 さっきとは意味の違う沈黙を破ったのはまたもや第三者だった。 「大変です。学院長」 ノックの後に聞こえてくる声。 「今度は何じゃ?」 入ってきたのはさっき出て行ったロングビルだった。 流石にウンザリしながら聞くオスマン。 「広場で決闘騒ぎです。教師たちが『眠りの鐘』の使用許可を求めています」 「ダメじゃ、子供のケンカに秘宝を使える分けなかろう。ほっとけば良いのじゃ」 そういって窓の外を見る。 (全く…騒ぎが多いのう) オスマンは知らない、その騒ぎは全部形兆が関っていることを。 形兆はどうしても決闘に勝ちたい訳ではない。(負けるつもりもないが) 二つの目的のためにこの決闘を受けた。 一つ目はもう達成した。 決闘が始まった時点でシエスタの安全は保障される。 そして二つ目。 メイジの戦闘力を肌で知ることだ。 脱走の際に自分はメイジと戦って勝てるのかどうか、 それ次第で自分の脱走法も変わってくる。 これはまだ結論がでてなかった。 ギーシュが錬金で作ったワルキューレの攻撃を後ろに下がり避ける。 さっきからコレの繰り返しのため距離は九メイルほどまでに開いていた。 「避けてばかりかい?」 そういいながらワルキューレを操るギーシュ。 ワルキューレは何も持っていない。だが青銅でできている拳の威力が高いだろうことは予測できる。 それでもスピードはたいしたことない。クレイジーダイヤモンドに比べれば全然遅い。 情報集めを終え、本格的な戦闘体勢にはいる。 ワルキューレが間合いギリギリの攻撃を仕掛けてきた瞬間、それをギリギリで避け、 右脚でワルキューレの左の腹を蹴り『飛ばす』。 もちろん青銅をそのまま蹴りつけるほどバカじゃあない。相手を転ばすための蹴りだ。 膝を使って衝撃をやわらげ、力を込める。 そしてそれは成功。 ワルキューレが左に倒れこむ、形兆はそのまま右脚を下ろすと同時に地面を蹴り、 ギーシュに向かって走り出す。 「ふん、突っ込んでくるとは単純だね」 自分の方に突っ込んでくる形兆を見てそう言う。 形兆が残り二メイルまで迫ってきたところで杖を振る。 ―――スタンドが倒せないなら本体を狙う。それはスタンド使い同士の戦いでは基本だ。 ―――それもスタンド使い同士『なら』の話だが。 二体目のワルキューレが現れる。 「何ィッ!?」 スタンドは一人一体。(形兆自身のように例外はあるが)原則的にはそうなっている。 スタンド使いとの戦いが長かったため二体目があるかもしれないことを考えもしなかった。 そのまま自分の勢いを止められず、カウンター気味に二体目のワルキューレの拳を腹に受け、 形兆は意識を手放した。 To Be Continued ↓↓
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/250.html
昼飯時、ポルナレフは苦虫を噛み潰したような顔で食堂の入口の近くの壁にもたれていた。 そんな顔してそんな所にいるのにはやはり理由があった。 その日の朝。 ずっと幽霊だったポルナレフにとって久しぶりの睡眠であったため目覚めも非常に良かった。 彼は、こんな清々しいのに頭からゆっくり出るようなことはしたくない、と思い、膝を曲げて反動を付け、思いきりジャンプした。 そして着地ッー! グシャァッ! 「『グシャァ?』」 その謎の効果音に恐る恐る下を見た。 見事同時に着地した両足の下にあったのは見覚えのあるピンクの長髪と鳶色の目をした少女の顔だった。 普段冷静沈着である彼の顔にもさすがに冷や汗が流れる。 「…あー、おはようございます。ご機嫌は如何ですか?我が主人?」 「………イッペン死んでみる?」 彼は散々鞭で打ちつけられボロ雑巾と化した後、一週間の食事を抜かれることとなった。 朝食ヘ向かう途中 「まさか亀が夜中の内にベットに載っていたなんて思わなかったんだ…」 と何度も弁明したのだが、取り消してはもらえなかった。 しかも泣きっ面に蜂と言う様に不幸は立て続けに起こった。 朝食後、ルイズとポルナレフ(と亀)が教室に入ると全員がその隣にいる男を凝視した。彼等はパニックに陥り、亀の中から男の生首が出て来たということしか覚えてなかったからだ。 「あいつ…亀召喚しなかったっけ?」 「違う…あの男の顔をよく見ろ…亀の中から出てた顔だ。ほら脇に亀を持ってる…」 ルイズ達を指差しクラスメート達がひそひそ話をしだした。 ルイズはそんな連中を睨み付けたが、ポルナレフは周りにいる使い魔達をしげしげと眺めつつ、壁にもたれ掛かった。 教師が入って来て授業が始まった。 ポルナレフにとっては魔法の授業というのは珍しく新鮮なものであったので、それなり真剣に聞いていた。 その中で分からない単語、トライアングルだの錬金だのをルイズに聞いていたら教師に注意され、ルイズが前に出て錬金をやらされることとなった。 「ルイズをッ!?先生そればかりはやめた方が…」 赤毛の褐色の肌をした少女の言葉を皮切りにクラス中から反対のコールが起きた。 しかし周りの反対を押し切りルイズは前に出ていった。そして呪文を唱えたのだが、何故か爆発が起こった。 周りの異常な反応にポルナレフの警戒心も久しぶりに覚醒し、他の生徒同様机の下に避難したため無事だったが、教師は助からず最低でも二時間は気絶していた。 教師が意識を取り戻した後、当然罰として掃除をやらされることとなったのだが、ルイズが「主人の責任は使い魔の責任」と掃除をポルナレフ一人に押し付けようとしたのでポルナレフは 「貴様の事を何故俺が一人でやらねばならんのだ? 大体成功するという確信もないなら初めからするんじゃない。」 と拒否した。 「うるさいッ!あんた使い魔の癖に口答えするつもり!?」 「別に俺は間違ったことは言ってないはずだが?」 ポルナレフの態度はルイズが激怒していた所にさらに油を注ぎ込むことになった。 「もういいッ!あんたまで私を馬鹿にするなら更に三日ご飯抜きッ!」 「貴様は俺を殺す気か!?」 「私が上ッ!あんたが下よッ!」 「お前が下だッ!!」 結果、更に三日追加され計十日飯抜きという実刑が下ってしまった。 「『ゼロ』のルイズか…よりによって魔法を一つも使えない主人なんて先が思いやられるな…餓死する前に逃げるか…?」 幸いルイズは亀の能力に気付いていない。というよりどうやら認めたくないらしい。 「まあその亀がいるからしばらくは大丈夫なんだが…」 ポルナレフは長い付き合いとなる相棒の亀を見た。 亀の中にはジョルノ達がいざという時にということで冷蔵庫の中に食料が入っていた。 しかしそれにも当然限りがある。多分持って一週間しかない。 どうにか食事を確保せねばその内餓死してしまうのはコーラを飲んでゲップが出るくらい確実である。 「しかしどうすれば…」 ポルナレフが思わず天を仰いだその時、 「あ、あの…どうかなさいましたか?」 誰かがポルナレフに話し掛けてきた。 ポルナレフが声の方を見るとメイドの恰好をした黒い髪の少女がこっちを見ていた。相手の丁寧な口調に自身も自然と丁寧になる。 「いや…特に何も無い」 ポルナレフはそう言ったのだが、少女は足元の亀を見て、思い出したかのように言った。 「あ、もしかして貴方がミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう平民と亀の…」 つくづく亀の方が有名らしいな、そう思ったのだが黙っておくことにした。 「その通りだが…君もメイジか?」 「いえ、私も平民です。ここには奉公のために貴族の世話しに来ているんです。」 (どうやらここは魔法だけでは補え切れない所があるから平民をいくらか雇っているらしいな。 しかしこれはチャンスだ。上手く行けば彼等から食事を分けてもらえるかもしれない。) 「私はシエスタと申します。良ければお名前を…」 「私はJ・P・ポルナレフだ。亀はココ・ジャンボと言う。」 「ポルナレフさんにココ・ジャンボさんですか…人間と亀って何だか変なコンビですね。」 シエスタはふふっと笑った。 ポルナレフはその笑みにふとJガイルに殺された妹を思い出した。 「…」 「どうかしましたか?」 「いや、何でもない。ただ、妹を思い出してな…」 「妹さんを、ですか?」 「ああ。あいつも君と同じような笑い方をした…いい妹だった。…もう何年も前に殺されたがね…」 「そうでしたか…」 ポルナレフの寂しそうな顔に思わずシエスタも黙ってしまった。 「あ、いや、こんな事を言って済まなかった。今のは聞かなかった事にしてくれ。それより頼みたい事があるんだが…」 「なんですか?」 「実はな、あの憎たらしい小娘に十日も食事を抜くと言われてな…だから何でもするから、しばらくの間食事を世話して貰いたいのだ…」 ポルナレフが頭を下げ頼み込むと、シエスタはまた笑って 「そんなことでしたか。いえ、ずっとそこにいらっしゃるのでどうなされたのかな、と思いまして…どうぞこちらへ」 と言って、どこかへ案内しだした。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2465.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ルイズと康一は、素直にコルベール先生のところへ行くことにした。 ルイズが手に怪我をしてしまったことを話すと、コルベール先生は片付けはもういいから医務室で治療してもらいなさい、と言ってくれた。 「でも、その『スタンド』っての。人前では使わないほうがいいわね。」 治療してもらった帰り、ルイズは思いついたようにいった。 手は水属性のメイジによる治療の後、包帯が巻かれている。 これで、一日もすればほとんど傷はふさがるのだそうだ。 「え、なんで?」 康一はびっくりして尋ねた。 「その『スタンド』のことがあんまり広がると、多分まずいことになるのよ。」 ルイズは歩きながら考えた。 「あんたは知らないかもしれないけど、ここでは『系統魔法』は絶対なの。あんた『スタンド』を杖も詠唱もなしで呼び出せるじゃない。『先住魔法』だと思われる可能性があるわ。」 「『系統魔法』はさっき授業で言ってたけど、『先住魔法』って何?」 「『先住魔法』は『自然の力を借りて事象に干渉する魔術』よ。エルフや一部の幻獣が使うと言われているの。」 康一が詳しいね、というとルイズは少し得意げに、「座学なら誰にも負けないって言ったでしょ?」と胸を張った。 「でも、始祖の与えたもうた『系統魔法』以外の異能の力はみんな『先住』として人くくりにされてしまうことが多いのよ。だからあんたの『スタンド』も『先住』として扱われる可能性があるわ。」 「『先住』だって思われたらどうなるの?」 「異端者は通常火刑に処せられるわ。」 康一は首をひねった。 「『カケイ』って・・・なに?」 「火あぶりのことよ。」 「ゲエエエェェェー!!」 ひ、火あぶりだってぇー!あの磔にされて下から火をつけられるって奴ですかぁー!? 「ど、どうしよう。ぼく、ACT3をみんなの前で使っちゃったよぉー!」 「今のところは大丈夫よ。みんな『ゴーレム』を作り出すマジックアイテムを持っていたんだろうって思ってるから。」 康一は、マジックアイテムを探すため、服までひん剥かれたことを思い出した。 「だから、誰かに問い詰められたら「ロバアルカリイエのマジックアイテムです」って言っておけば、とりあえずごまかせるはずよ。」 「ロバアルカリイエ?」 「エルフが住むサハラよりも東の世界のことよ。エルフといつも争っていて、かなり技術が進んでいるらしいの。」 「ふーん・・・。」 日本も世界の東の端だし、まぁ嘘は言ってないかな。 とりあえず火あぶりにはされないらしい、と康一は安心した。 それからルイズと康一は一度部屋に戻った。 ルイズがあまりにもぼろぼろなので着替えるためだ。 体を水で塗らした布で拭い(水は康一が汲んできた。)、まっさらな服に袖を通すと、ルイズは大きく息をついた。 「あー、さっぱりしたわ!」 やっぱりこちらの目を気にせず裸になるので、康一は全力で背中を向けている。 「もう大丈夫?」康一は目を瞑ったまま聞いた。 「ええ、こっち向いていいわよ。」 康一はほっとして振り向いた。 「でも、いつまでも恥ずかしがってちゃ、困るわね。使い魔なんだから、それくらい慣れなさいよ。」 とルイズは腰に手を当てた。 「無茶いわないでよ・・・。むしろぼくは君につつしみってやつを持って欲しいんだけど・・・。」 「って、あんたも顔、汚れてるじゃない。」 ルイズは康一の嘆願を無視して歩み寄ってくる。 そして手に持った布で康一の顔を拭ってくれる。 「(それ・・・さっき君の体を拭いたやつなんじゃ・・・)」 だがルイズに気にした様子はない。やっぱり男としてみられてないのね・・・別にいいけど。 ルイズは拭きながら尋ねた。 「そういえば、『ACT1』と『ACT3』がいるなら、『ACT2』もいるわけ?」 「まぁね。ぼくの『エコーズ』は三つの形態があるんだ。それぞれ、『射程』とか『パワー』とか『能力』が違うんだよ。」 「能力?」 ルイズは首をかしげた。 「なんか特別なことができるわけ?」 康一は自分のスタンドについて説明しようとしたが。 カラ~ンカラ~ンカラ~ン どこからか、鐘の音が聞えてきた。 「もうこんな時間なのね。」 ルイズが手に持った布を手桶に戻した。 「あの鐘、なんなの?」 「昼休憩の予鈴よ。さ、食堂に行くわよ。」 アルヴィーズの食堂に入った二人に、無数の視線が突き刺さった。 「そりゃあ、そうだよなぁー」康一はたらりと汗を流した。 ルイズの爆風をもろに食らったミス・シュヴルーズはあの後すぐに回復したものの、今日の二年生のクラスは、一日自習という形になったからだ。 そのほかにも怪我をしたり、使い魔が再起不能しかけたり(水のメイジの治療で問題なく回復したらしいが)した人がたくさんいる。 ルイズのことを知らずに指名した教師の責任でもあるのだが、ルイズを恨むなというのも無理な話だろう。 だがルイズはそんな視線などまるでないかのようにして、自分の席へと座った。 「(タフな性格だよなぁー。こういうところはちょっと由花子さんに似てるかも。)」 康一はルイズに尋ねた。 「えーっと、ぼくも座ってもいいのかな?」 ルイズは振り向いた。 「朝もいったでしょ。ここは貴族の食卓よ。あんたは座っちゃダメ。」 康一はしょぼくれた。はぁー、そりゃそうだよね・・・。いや、正直ちょっと期待してたんだけど・・・。 とぼとぼと出て行こうとする康一をルイズが呼び止める。 「ま、待ちなさいよ!」 え?と康一が振り向くと、ルイズがテーブルに置いてあったバスケットを康一に押し付けた。 「さっき、厨房にあんたの食事を頼んでおいたのよ。ここは貴族の食卓。あんたは座っちゃダメ。だから、これをそのへんで食べてきなさい!」 康一はバスケットを覗き込んだ。中には美味しそうなサンドイッチが入っている。 「ルイズさん・・・」康一はちょっとうるうるときてしまった。 「ば、馬鹿ね。何泣いてるのよ!うっとうしいからどっか行きなさい!」 ルイズは照れくさそうに康一を追い払った。 「食べ終わったら、入り口で待ってるから!」 康一は手を振った。 康一があまりにも分かりやすく喜ぶので、なんだかルイズも嬉しくなってしまった。 ルイズは小さく頷いた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2469.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 康一は、一本の道を歩いていた。 隣では仗助くんと億泰くんがいて、一緒に馬鹿話をしている。 道の左手からは、露伴先生が現れて、一緒に取材に行こうとぼくを誘う。 康一どのー!という声が聴こえた。右手から玉美と間田さんが合流する。 やれやれだぜ・・・。という声が聴こえた。後ろでは承太郎さんがぼくたちを見守ってくれている。 由花子さんが道端に立ってぼくを待っていた。並んで歩く。 仲間達と共に歩く。 こうして歩いていれば、ひょっとしたら雨が降るかもしれない。小石に躓いて転んでしまうかも。 でもぼくには仲間がいる。寂しくなんかない。 この道は、杜王町へと続いている。 えーんえーん・・・ 康一はふとあたりを見回した。 子どもの泣き声が聴こえる気がするのだ。 康一は道をはずれ、その声の主を探しにいくことにした。 声を追い、藪を分け入って進むと、小さな池が現れた。 池の真ん中には小船が浮いていて、鳴き声はそこから聞こえてくるようだ。 子どもが池に一人取り残されて泣いているんだ。と康一は思った。 康一は池の中に踏み込んだ。そこまで深くはない。腰ほどの高さだ。 じゃぶじゃぶと水をかき分けて進む。 船にたどりつくと、ピンクブロンドの髪の女の子が毛布にくるまっていた。 女の子は小船の中で、独りぼっちで泣いていたのだ。 「もう大丈夫だからね。」 康一はその女の子を抱き上げた・・・。 康一は目を開いた。 知らない天井?いや、馴染みこそないが、ぼくはこの部屋を知っている。 コンコン、とノックがあり、扉が開いた。 目を向けると、黒髪でメイド姿の少女が現れた。 「コーイチさん。目が覚めたんですね!」 「し、シエスタ!?」 シエスタは胸に手をあて、大きく息を吐いた。 「よかった・・・。心配したんですよ・・・。あんなに大怪我して・・・!」 康一はようやく、自分が何をしていたかを思い出した。 「そっか・・・。ぼく、気を失っちゃってたんだ・・・」 「はい。三日三晩ずっと眠り続けてました。」 「そんなに!?」 徹夜でゲームをしてしまった翌日だって、そんなに眠ったことはない。 「頭を強く打ってましたから、そのまま起きないんじゃないかって心配しました・・・。」 康一はワルキューレに散々殴られたり蹴られたりした時のことを思い出した。 「他にも、両腕にはヒビが入ってましたし、歯も折れてました。肋骨は3本ほど折れて、一本は肺に突き刺さっていたそうです。」 「う、うわぁ。重症じゃないか・・・。」 康一は他人事のように答えた。自分の体を触ってみる。 「でも・・・あれ?その割には痛くないんだけど・・・。」 脇腹を触ってもうずく程度でそんなに痛くはない。腕にもあまり違和感はない。舌で口の中を確認したが、折れたはずの歯が元に戻っていた。 「ええ。コーイチさんをここに運び込んだミス・ヴァリエールが、先生に頼んで、水魔法の治療を施してくださったんです。」 シエスタは窓を開けた。 窓から日の光が差し込んできて、康一は目を細めた。 そして気づいた。 自分のベッドのうえにルイズが頭を乗せて眠っている。 ピンクブロンドの髪が太陽の光を反射してきらきらと光っている。 「ミス・ヴァリエールはこの三日間、ずっと学校にもいかず、ほとんど寝ないでコーイチさんの看病をしていたんですよ?」 「そうなの!?」 康一はルイズの寝顔を見つめた。 この我が侭娘が、そんなにぼくのことを心配してくれたのか・・・! 康一はルイズの頭を撫でた。 ルイズは、う~ん・・・とムズがっていたが、不意に目を開けると、がばっと起き上がった。 自分の頭に手を当てて顔を赤くする。 「ななな何してんのよ!!」 「いや、寝顔が可愛かったから・・・つい。ずっと看病してくれてたんだって?」 ルイズの顔が、ボッっと音を立てて真っ赤になった。 「ば、馬鹿じゃないの!犬のくせに・・・!自分の使い魔が怪我したら、面倒を見るのは当然でしょ!!」 そしてはっとした表情になった。 「そういえば、体は大丈夫なわけ・・・?」 心配そうに尋ねる。 「うん。もうなんともないよ!」と腕を振り上げて見せた。 実はその瞬間、脇腹にビキッっとした痛みが走ったが、辛うじて表情には出さずにすんだ。 「そう・・・よかったわ・・・。」 ルイズはほっと胸をなでおろした。 「あんまり無茶するんじゃないわよ。あんた、下手したら死んでたのよ?」 「ごめん・・・。」 康一は頭をかいた。 ルイズはそんな康一に一つ溜息をつくと、立ち上がる。 「じゃあ、どいて。」 「え?」 「わたし、あんたが寝てる間ほっとんど寝てないの。眠いの。」 「え、ご・・・ごめ・・・」 「だからほら!ベッドを空けなさいよ!」 ルイズは康一をベッドから引き摺り出すと、そこにするりと飛び込んだ。 毛布にもぞもぞと猫のように包まる。 そしてそのまま寝息を立て始めた。 「追い出されちゃったよ・・・。」 苦笑いするとシエスタと目があった。 ふふふっと笑いあう。 「それじゃあ、ちょっと厨房にいらっしゃいませんか?お腹が減ってるんじゃないかと思うんですけど。」 「そういわれると・・・」 代わりに康一のお腹がグルグルキューと返事をした。 「・・・減ってるみたい。」 「よかったぁ。」 シエスタは嬉しそうに手を合わせた。 「マルトーさんに、コーイチさんの目が覚めたら連れてくるようにって言われてたんです。」 シエスタは康一に、あの学生服を手渡した。 「寝ておられる間に、洗って修繕しておきましたから。」 康一にとっては、こちらで持っている唯一の服である。 「ありがとう!助かったよ!」 康一は、寝ている間に着せられていたのであろう、パジャマのような服を脱ぐと、いつもの学生服に着替えた。 そしてシエスタについて、厨房へと向かうことにした。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1157.html
ルイズは夢を見ていた。夢の中で、ルイズは自分ではない誰かになっている。 誰かになったルイズは、どこか古臭い部屋で仲間と思われる人々と会話を交わして いた。自分も回りもどこかかすみがかかったようにぼんやりとして、ルイズはそれに 不安を覚えたが、それと同時に不思議な居心地の良さを感じていた。 「――」 仲間達は自分に何かを語りかける。 「―― ――」 しかし、その言葉もまたおぼろげにかすみ、 ルイズの耳には届かなかった。 ルイズはそれが何故だかとても悲しいことのように思えて、なんとか声を聞こうと するが――聞こうと思えば思うほど、言葉はかすみ、彼らも自分もかすんでゆく。 それでも彼らはルイズに何かを伝えようとしている。酷くかすんで彼らの顔は 分からないが――きっと今の自分である『誰か』の大切な人達なのだろうと、 ルイズは思った。そう思うと、彼らの声が聞えないのがなおさら辛くて、ルイズは 声を張り上げようとする。だけどそれすらもかすみにとけて、そして、世界が、白く、 包まれて。真っ白い闇に、全ては消えた。 ――ゾクッ、と寒気がする。誰かに見られているような視線を感じ、いつの間にか 自分に戻っていたルイズはキョロキョロと周りを見渡すが、それらしいものは 何もない。にも関わらず、ルイズの心はアラームを鳴らし始めた。何かよく 分からんがこれはヤバいッ!と思うと同時にルイズの体は浮上を始め、心の 海を上へ上へと上昇し―― 意識が覚醒したルイズが最初に見たものは、今にもスタンドを発動させそうな 眼でルイズを見下ろしているギアッチョの姿だった。 「だから言ったじゃあねーか」 バシャバシャと水音を立てて顔を洗うルイズを見ながらギアッチョは言った。 「この時間になったら起きなきゃならねーってことを体が覚えこむってよォ~~」 ――覚えこまされたのはあんたの殺気と威圧感よ! と心の中でツッこむルイズである。 「起きる度に殺されかけてちゃ身が持たないわよ・・・」 ルイズはため息をつきながらクローゼットに向かう。ギアッチョに服を持って 来いなどとは勿論言えない。ごそごそと着替えを漁っていると、ガチャリと音を 立ててギアッチョが部屋の扉を開いた。 「・・・どこ行くのよ」 床に座り込んだ状態で首だけ向けて訊くルイズに、 「厨房だ」 と背中で答えるギアッチョ。 「そう・・・それならいいわ だけど教室にはちゃんと来てよね」 ルイズが言い終えると同時にギアッチョは廊下へ姿を消した。 「何よ・・・そんなに早く出て行かなくてもいいじゃない」 と一人ごちるルイズだったが、その原因が自分の着替えにあるとは気付く べくもなかった。 昨日の決闘の噂は、一日も立たずに学院中に浸透したらしい。ギアッチョの 行くところ常に生徒が道を開け、ギアッチョの後ろには謎の魔法を使う男を 一目見ようと大勢の野次馬が付き従っていた。 ――やれやれ・・・シナイ山で啓示を受けた覚えはねーんだがな ギアッチョは畏怖と好奇の視線に辟易していたが、また同時に奇妙に新鮮な 感覚を覚えていた。ギアッチョの生前は目立つという行為はタブーであった。 暗殺を成功させる為、敵の刺客から逃れる為――何か特殊な場合を除き、 ギアッチョ達暗殺者が目立ってしまうことは決してあってはならないことなのである。 こんなに大勢の人間に注目されるのは初めてか、でなくとも久方ぶりの経験だった。 まぁ実際にはギアッチョがそう思っているだけで、客観的にはギアッチョは暗殺者と して有り得ないぐらい目立ちまくっていたのだが。暗殺チームで刺客に襲われた 回数にランキングをつけたならば、ギアッチョはブッちぎりで一位だったことだろう。 「あいつじゃなきゃあ10回は死んでるな」とは地味度一位のイルーゾォの言である。 「おはようございます」 シエスタはにこやかにギアッチョを出迎えた。 「ギアッチョさんの分、もう出来てますよ」 悪いな、と答えてギアッチョは厨房に入る。マルトー達と適当に挨拶を交わして テーブルに着くと、そこには既にギアッチョの為に朝食が用意されていた。 「さぁ食べてくれ!少しならおかわりもあるから遠慮するなよ!」 マルトーはそう言うと意味もなく豪快に笑った。 「いただくぜ・・・ん?」 いざ食事を始めようとしたギアッチョは、窓の外から赤い何かが覗いている 事に気付いた。よくよく眼を凝らすと、そこにいたのはキュルケの使い魔であった。 ――あの化け物・・・サラマンダーとか言ったな ご主人様の命令でオレを監視 してるってェわけか・・・ご苦労なこった ルイズが言っていた、使い魔の視覚と聴覚を共有する力を使っているのだろう。 ギアッチョはスープを飲むふりをしながら、キュルケがフレイムと名付けた化け物を 観察する。どうやら本当に自分を監視しているようだ。脇目も振らずこちらを凝視 している。ガンくれてやろうかとも思ったが、特に迷惑でもないのでギアッチョは そのまま無視を決め込んだ。 「このままキュルケのヤローの疑いが晴れてくれりゃあ儲けもんだしな」 そう結論すると、ギアッチョは今度こそ目の前のご馳走に専念することにした。 それから数日は滞りなく進んだ。フレイムが四六時中ギアッチョの周りをうろついて いること以外は特に変わったこともない。ギアッチョ同様早々にフレイムに気付いた ルイズがキュルケに食ってかかろうとしたが、ギアッチョに静止されて引き下がった。 ギアッチョがキレた回数もたったの3回と、実に平和な日々だった。 「明日は街に出るわよ」 その夜、ルイズはそう宣言した。 「授業はねーのか」 と訊くギアッチョに、 「明日は虚無の曜日だからね」 短く答えるルイズ。虚無だ何だと言われてもギアッチョに分かるわけもなかったが、 まぁ要するに休日なのだろうと彼は判断した。何をしに行くのかと尋ねると、 「剣を買いに行くのよ」という答えが返ってくる。 「剣だぁ?誰が使うんだよそんなもんよォォ」 当然の疑問を放つギアッチョをルイズは指差した。 「ああ?いらねーよそんなもん オレは素手が一番力を発揮出来るんだからな・・・ 第一ナイフや銃を扱ったことはあっても剣なんざ触ったこともねーぜ」 ホワイト・アルバムはプロシュートのグレイトフル・デッドと同様、直触りが最も効果を 発揮するスタンドである。わざわざ剣を握って片手をふさがらせる必要はない。 そう言うと、 「そ・・・それは・・・えっと、あれよ・・・だから」 何故かしどろもどろになるルイズである。 「・・・そ、そうよ!貴族の使い魔たる者、剣の一つや二つ下げていなければ格好が つかないの!分かったらつべこべ言わずに寝なさい!明日は早いんだからね!」 そう言い放ってルイズは逃げるようにベッドに潜り込んだ。 ギアッチョは「剣下げてる使い魔なんて見たことねーぞ」と言おうかと思ったが、 ギーシュ戦の感謝を素直に言えないルイズの遠まわしな礼だと気付いて黙っている ことにした。 「剣で何とかなる敵がいるならそれが一番だしな・・・・・・」 今は平和だがこれから何があるか分からない。スタンドはやはり極力隠すべきだと 判断したギアッチョだった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2472.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 康一は、学院長室を退室すると、とりあえずルイズの部屋に行ってみることにした。 ひょっとしたらそろそろ起きてるころかもしれないし。 ガチャリと扉をあける。 ルイズはあどけない寝顔を晒して、すぅすぅと寝息を立てていた。 まぁ、三日間も寝ずにぼくの看病をしてくれてたんだもんなぁ。 もう少し寝かせておいてあげようかな。 康一はルイズを起こさないようにして部屋を出た。 そのへんをぶらぶらしてこよう。 お昼もかなり過ぎた頃にルイズは目を覚ました。 もぞもぞと起きあがり、きょろきょろと周りを見回す。 「コーイチ・・・?」 あいつどこいっちゃったのかしら。 ご主人様が寝てるってのに出かけてるなんて、いけない使い魔だわ・・・ ふと気づいた。 「あいつ・・・今日からどこで寝させればいいのかしら。」 当初は当然のように床に寝させる予定だった。 でもなぜか、今はそれが悪いことのように感じるのだ。 なぜかしら? 守ってもらったから? 嫌われたくないから? 「そ、そんなことないわ!あいつはただの使い魔だもの!」 じゃあ、この硬くて冷たい床に寝させる? 「・・・それはちょっと・・・」 ルイズは、んー、と唸った。 「そ、そうね。私は優しいご主人様だから、床は勘弁してあげるわ。床は!」 じゃあどこに寝させようか・・・ 自分の座っているベッドを見る。 大きなベッドである。 わたしもコーイチも小さいし、十分一緒に寝れる広さはあるわね。 「だ、ダメよ!ダメダメ!いけないわルイズ!結婚の約束もしてない男と一緒のベッドで寝たりなんかしたらお母様に叱られちゃう!」 だいたいあいつは犬っころだ!キュルケに誘惑されてだらしなく鼻を伸ばしていた。 一緒のベッドに寝たりなんか襲われ・・・ ルイズは康一の間の抜けた顔を思い出した。 「・・・襲われないわね。多分。」 大丈夫。子犬を抱いて寝るようなものだ。い、いや抱かないけど! ルイズは誰にでもなく言い訳した。 「まぁ・・・ちょっとしたごほうびってやつよね!変な気起こしたらひっぱたいてやるんだから!」 なんだかルイズはわくわくしてきた。 一緒のベッドで寝ていいわよ、って言ったらあいつどんな顔するだろう! ルイズはベッドを飛び出して、午後の授業に出ることにした。 次にルイズと康一が顔を合わせたのは夕食時のアルヴィーズの食堂である。 ひょっとしたら・・・と顔を覗かせると、ルイズはちょうど席についたところらしかった。 なぜか上機嫌なルイズに自分の夕食を渡された康一は、さて・・・と考えた。 「どこで食べようかな・・・。」 もう暗くなってきたし、外では食べたくない。 厨房に行こうか・・・でも、今はきっと忙しい時間帯だろうし、康一に構っている暇はないだろう。 そうしていると、暗闇の向こうから火の玉のようなものがふわりふわりと揺れているのが見えた。 「ま、まさか!あれ・・・・・・ひょっとして人魂ってやつですかぁー!?」 しかもその火の玉はこちらに近づいてくるように見える。 「ま、まさかこの世界にも幽霊がいるのかぁー!!」 杜王町の鈴美さんを思い出す。 しかし、その人魂が近づいてくるにつれ、人魂の下に大きなトカゲが浮かび上がってくる。 「ふ、フレイム?」 あれは確か、キュルケさんの使い魔、フレイムだ。 「なーんだ。びっくりした。お前だったのかぁ。」 康一はほっとした。そういえば、フレイムの尻尾は常に火が揺らめいている。なぜ、その辺に燃え移らないのかよく分からないが、そういうものなんだろう。 フレイムは康一の足元に来ると、きゅるきゅると人懐こい声をあげて康一を見上げた。 「な、なんだ?ご主人様とはぐれちゃったの?」 康一は恐る恐るフレイムを撫でてみた。 あたたかい・・・。滑らかな鱗は確かに爬虫類なのだが、まるでサウナの壁を触ったときのような熱さがある。 やっぱこの世界の生き物って面白いよなぁ。でも、なんか可愛いな。でかいけど。 康一がその肌触りを楽しんでいると、フレイムがもぞもぞと近づいてきて、康一の夕飯が入ったバスケットをぱくりと加えた。 「アッ!こら!食べちゃだめだってば!それはぼくのごはんだって!」 しかしフレイムは康一の抗議に耳を貸すこともなく、背中を向ける。しばらく歩いてからこちらに振り向く。 「・・・ひょっとして、ついてこいって言ってるの?」 きゅるきゅる。フレイムはバスケットを咥えたままで答えた。 しょうがないので、康一はフレイムについていくことにした。 フレイムを追ってしばらく歩くと、建物の中に入る。階段をのぼり、ルイズの部屋を通り過ぎ、ある扉の前で止まった。 「ここって、確かキュルケさんの部屋・・・だよね?」 フレイムが康一を見上げる。きゅるきゅる。 「入れっていうのか?でも、勝手に入っていいのかなぁ・・・」 康一は躊躇ったが、それでもフレイムがじっと康一を見つめてくるので、ドアノブに手を伸ばした。 「失礼しまーす。」 恐る恐る扉をあけて、顔を覗かせる。 部屋は真っ暗だ。しかし、カーテンからわずかに入ってくる月の光が、ぼんやりと椅子に座った女性のシルエットを浮かび上がらせる。 「いらっしゃいコーイチ。扉をしめてくださる?」 キュルケの声がしたので言うとおりにする。 「あのー、キュルケさん?暗くてよく見えないんですけど・・・」 康一がそういうと、キュルケが指を弾いた。 すると、康一の左右にある蝋燭に火が灯された。 奥に向かって順番に蝋燭の火が灯っていき、最後にテーブルの上にある燭台に火がついて、部屋の中をぼんやりと浮かび上がらせる。 テーブルには白いテーブルクロスをかけられ、アルヴィーズの食堂の料理が霞むようなご馳走が並べられている。 その向こうに、キュルケが座っている。いつもの大きく胸の開いた制服だが、マントは外している。 「待っていたわコーイチ。よろしければ、あたしと夕食をご一緒していただけないかしら。」 揺らめく蝋燭の光に照らされたキュルケは、あっけにとられる康一を見て妖しく微笑んだ。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2457.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ルイズと康一は二人の男性と向かい合い、ソファーに腰を下ろした。 一人は先ほどの中年男性、コルベール。そしてもう一人の老人をコルベールは学院長のオールド・オスマン氏と説明した。 一言で言うと、『まるで魔法使いみたい』な容姿である。深緑のローブ、傍らには長い樫の杖を置いている。 白い顎鬚を長く垂らし、それをいじりながら康一のことを興味深そうに見ている。 一見何も考えてなさそうな顔をしているが、康一はその目の奥に深い知性の光を見た気がした。 まるで、ジョセフ・ジョースターさんのようだ。 「ふむふむ、君がその平民の使い魔かね。・・・なるほど、いい面構えをしているのぉ。」 その一言に、康一の隣に座っているルイズは露骨に『そうかしら。チビだし、彫りも浅くてハンサムとはいえないと思うけれど・・・』という顔をした。康一と目があって、またぷいっと横を向く。 オスマンはほっほっほと笑って、康一に尋ねた。 「それで君はどこから来たのかね?」 「日本です。いや、えっと、鏡に飲まれたときはイタリアのネアポリスにいたんですけど・・・。」 「日本、イタリア、ネアポリス・・・と。それはどのへんにある国なのかね?」 「どのへん・・・ですか。えーっと、日本はユーラシア大陸の東側にある国で、イタリアは逆にユーラシア大陸の西側、ヨーロッパの中にある国です。ネアポリスはイタリアの都市の名前で・・・」 康一は懸命に世界地図を思い浮かべた。 「ふーむ・・・コルベット君。」 「コルベールです、オールド・オスマン。」コルベールが訂正する。 「おお、そうそう。コルベール君じゃったの。今彼が言った国の名前を一つでも知っているかね?」 オスマンは尋ねた。 コルベールは困ったように首を横に振った。 「いや、全く聞いたこともありませんね。ハルケギニアの外の話でしょうか。エルフの住まう、サハラよりも更に東方の国のことなら、我々が知らないこともあるかもしれませんが・・・」 「(サハラ砂漠なら知っているぞ!)」と康一は言おうとした。 しかし、日本とイタリアは、まさしくサハラ砂漠を挟んで東と西である。二人の話とは大分食い違いそうなので、康一は黙っておくことにした。 オスマンはコルベールと話を続けている。 「そうか。わしも長く生きておるが、そんな国の名前は聞いたことがない。彼の話は本当だと思うかね。ゴルバット君。」 「コルベールです。オールド・オスマン。彼の言っていることが本当かどうかはわかりません。」 コルベールは少し言いよどんだ。 「ただ・・・私は先ほど彼の不思議な力を体験しました。いきなり自分の体が重くなったような・・・」 「ほう。重くなった、とな。見たところメイジでもなさそうなこの少年がそんなことができるとも思えんが・・・ちょっと君。えーっと、なんという名前じゃね?」 「康一です。広瀬康一。」 「そうか。ではミスタ・コーイチ。その不思議な力を、わしにも見せてくれるとうれしいのじゃが・・・」 「嫌です。」康一はむげも無く断った。 「なぜじゃね?」 「ぼくはここにそんな話をしに来たんじゃないからですよ。この状況を説明してくれるっていうからここにきたんですよ!説明しないならぼくを早くもといた所に返してください!」 いい加減我慢も限界に近づいていた康一は立ち上がって叫んだ。 康一はまだこれがスタンド攻撃であることを微塵も疑っていなかった。 「まぁまぁ。ミスタ・コーイチ。そうかっかなさるな。聞きたいことがあるならいくらでも説明するからまずは座りなさい。」 康一は不満そうにしながらもしぶしぶ腰を降ろした。オスマンは手を組んで身を乗り出した。 「興味深いことだが、どうやら君は我々のことをよく知らないらしい。ここがどこだか分かっているのかね?」 「知りませんよ!さっきもいいましたけど、いきなり鏡のようなものに吸い込まれて、気がついたらあの草原にいたんです!」 「ここはトリステインの魔法学院じゃよ。聞いたことはないかね?」 「ま、魔法学院?」 さっきからちょくちょく言ってるけど、魔法ってなんだ。もしかしてドラクエとかFFとかで出てくる魔法のことじゃないだろうなー。 康一はからかわれているのかと不安になった。 「魔法って・・・なんです?」 「魔法も知らないなんてどんなところから来たのよ!」ルイズが信じられないものを見るように言った。 「ミス・ヴァリエール?」 コルベールが静かにするよう促すと、ルイズは黙り込んだ。 「おほん。魔法というのはじゃね・・・こういうもののことじゃよ。」 オスマンはそういうと懐からコインを一枚取り出した。 杖を手に口の中でむにゃむにゃと呪文を唱えると、それまで机の上に置かれていたコインがふわりと浮かびあがった。 「う、浮いてる!?」 康一は驚いた。部屋を見回してもスタンドの姿は影も形も見えない。 もしかして・・・馬鹿げているとは思うが、本当に魔法とやらが存在するのだろうか。さっきみんなが飛んでいたのも魔法の力? 康一はめまいを感じた。 「これは『レビテーション』という魔法じゃ。そして先ほど君は『サモン・サーヴァント』という魔法でここに召還されたようじゃの。」 「さっきも言ってましたね。『使い魔』がどうとか・・・」 「うむ。『サモン・サーヴァント』は使い魔を召還するものじゃ。使い魔とはメイジの・・・そうじゃな。助手のような仕事をする。」 オスマンはこれがわしの使い魔、モートソグニルじゃ。といってハツカネズミを見せてくれた。 「普通はこのように人間以外の動物や幻獣が呼び出されるものじゃが、今回はどうしてか人間である君が呼び出されてしまったようじゃの。」 「じゃあ、これはなんです?そこの女の子に・・・えーっと、『キス』されたらこんなのが刻まれちゃったんですけど。」 康一はルイズのほうをチラッと見ながら、左手に刻まれた印を見せた。 「き、キスじゃないわよ!契約よ契約!誰があんたなんかとキスしたりするもんですか!」 ルイズは康一以上に顔を真っ赤にした。 オスマンはまぁまぁと二人を宥めた。 「メイジは使い魔を召還すると、『コントラクト・サーヴァント』で使い魔と主従の契約をするのじゃよ。それは通常口付けによって行われるんじゃ。それはその証のようなものじゃの。」 「いやですよ!なんでぼくがこんな我が侭な子のペットみたいなことをしなくちゃいけないんだっ!」 康一は声を荒げた。 由花子と出合った頃別荘に閉じ込められたときのことを思い出した。 あの時も石鹸を食べさせられそうになったり、電気椅子に座らせられそうになったりと人間扱いされなかったが、今度は正真正銘のペットにされてしまうという! 「うむ、君のいうことはもっともじゃ。わしとしても君を帰してあげたいのはやまやまなんじゃよ。」 じゃが・・・とオスマンは背もたれに身を預けた。 「じゃが、あいにく我々は君のいた国がどこにあるのかすら分からんのじゃよ。」 「そんな・・・」康一はがっくりと肩を落とした。 「こっちに呼び出したのなら、送り返す呪文はないんですか?」 「うーむ、通常は使い魔になることを同意しているものが召還されるから、送り返す魔法なんてものはないんじゃよ・・・」 つまりぼくはその『サモン・サーヴァント』ってやつで、魔法の国なんていうゲームの世界みたいなところに、使い魔にするために連れたわけだ。 しかも帰る方法はないという!康一は頭を抱えた。 「そこでじゃね。どうじゃろう。しばらくこちらで使い魔としてやっていく気はないかね?」 「はぁ!?」康一は顔をあげた。 「使い魔召還の儀式はメイジとして生きていくうえでは避けて通れないものでの。そこのミス・ヴァリエールが2年生に進学するためには今、君という使い魔がどうしても必要なのじゃよ。」 ルイズは顔を俯かせた。 そんなこと知るもんか!と叫ぼうとした康一をオスマンは押しとどめた。 「それに想像してみなさい。見ず知らずの世界で、行くあても先立つものもないんじゃろう?食べるものはどうするかね?屋根がない生活はつらいぞい?替えの服はもっているかね?」 「ぐっ・・・」康一は反論しようとしたが、できなかった。確かに自分はこのわけのわからない世界で身分を保証するものはなにもないのだ。 「少なくとも使い魔として生活するならばミス・ヴァリエールのメイジとしてのプライドにかけて衣食住は保障される。ミスタ・コーイチの故郷のことはわしも興味があるし、調べてみよう。」 オスマンはウインクをして見せた。 「どうじゃ。それまで使い魔として生活してみんか。ミス・ヴァリエールは進学でき、ミスタは住む場所を得る。ギブ テイクというやつじゃの。」 オールド・オスマンは右手と左手でそれぞれ二人を指差した。 指差されたルイズと康一はお互いに顔を見合わせた。 結局その後も言葉巧みに説得され、康一はしばらく使い魔として暮らしていくことを同意させられてしまった。 なんだか上手く乗せられたような気がしないでもないが、実際他にどうしようもないのだからしかたがない。 ルイズは先に部屋を出ている。これから康一が住む場所に案内してくれるらしい。康一も彼女の後を追おうと立ち上がった。 「最後に一つだけいいかの?」オスマンが康一に声をかけた。 「なんです?」 「帰る前に、その『重くする魔法』を使ってみてはくれんかね?わしも魔法を見せた。これもギブ テイク、じゃよ。」とにっこり笑ってまだ浮いたままのコインを指差した。 康一は溜息をついた。断ろうかとも思ったが、確かめたいこともあった。 「ACT3。」 『YES!MASTER!』 康一が呼ぶと、突然テーブルの上に白い人影が浮かび上がり、オスマンとコルベールは思わず仰け反った。 康一はその様子を見て確信した。 「(やはり・・・見えている・・・)」 「こ、これがその『ゴーレム』とやらかね?」 「ゴーレムじゃなくて、『スタンド』ですけれどね。ACT3!そのコインを重くしろ!」 『S.H.I.T!』 ACT3が空中のコインを両手で触る。 すると、ズン!!という音を立ててコインが黒檀のテーブルにめりこんだ。 「おおおお・・・」オスマンとコルベールは立ち上がった。 「私はさっきこうなっていたのですね!」 コイン一枚でこの重さだ。自分が受けていた圧力を思うとぞっとした。 「うむ、半信半疑じゃったが、まさか本当にこんなことが・・・『スタンド』とは、いったいなんなのじゃね?マジックアイテムの類かと思うのじゃが・・・」オスマンは問いかけた。 「え~っと、ギブ テイク、ですよね?」康一は尋ねた。スタンドはもう消えている。 「うむ、それがどうかしたかの?」 「じゃあこれより先は、帰る方法が分かってからってことで。」 康一はにっこりと笑った。くるりと背を向ける。 オスマンは驚いたような顔をして、それから額を叩いて笑った。 「ほっほっほっほ!こりゃ一本とられたの!」 「それじゃ、失礼しま~っす。」康一は扉から頭を下げるとバタンと扉を閉めた。 外に出ると、ルイズが遅いじゃない!といいたげな目で康一を待っていた。そして、「こっちよ。」と歩き出していく。 康一は「(ひょっとしてぼくはとんでもない約束をしちゃったんじゃないだろうなぁー)」と先行きにどんよりとした不安を感じながらツカツカと揺れる、自分よりも小さな桃色頭についていった。 康一が出て行った後、コルベールはテーブルに埋まったコインに手を伸ばした。 完全にめりこんでしまっているが、もう重くはなっていないようだ。爪を立ててようやく引き起こし、つまみあげた。 「大したものですね。ハンマーで叩いてもこうはなりませんよ。」 コルベールは、裏返したり弾ませたりしてみたが、やはりただのコインだ。 オールドオスマンはその様子を横目で見ながら言った。 「実はの。今そのコインが重くなっている間、わしはレビテーションをかけ続けていたんじゃよ。力を測ろうと思っての。」 「そ、そうだったのですか!?それで、どうでした?」コルベールは目を輝かせて聞いた。 オスマンはただ首を振った。 「全力で持ち上げようとしたが、ピクリともせなんだ。底が知れんよ。」と背もたれに体をあずける。 コルベールは青くなった。あの大賢者と称えられたオールド・オスマンでもその力を測りかねるというのか。 「あの少年、何者なのでしょうか。『スタンド』とはいったい・・・」 自分達はひょっとして、生徒に得体のしれない「なにか」を押し付けたのではないだろうか。 オスマンはゆっくりと立ち上がると窓を開け、中庭を見下ろした。明るい太陽の光が差し込み、コルベールは目を細めた。 「『スタンド』とはなにか、彼がどこから来たのか。それはわしにもわからん。」 オスマンは何か遠くを見ているような目をして語った。 「じゃがのコンバートくん。あの少年は非常に澄んだ目をしておった。やさしく純粋で・・・まっすぐな目じゃった。ミス・ヴァリエールにとって害になることはあるまい、とわしは思うのぉ。」 そして振り向いて笑う。 「それどころか彼を召還したことは、彼女にとって・・・いや、もしかすると我々にとっても望外の幸運なのかもしれんぞ?」 コルベールは、そうだといいですけど・・・。と溜息をついた。 そして、私の名前はコルベールです。とだけ付け加えた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/388.html
ルイズにとっての厄日を挙げろと言われたら、まず間違いなくこの日が挙がるだろう。 使い魔召喚で手間取った挙句、召喚できたのはよりによって平民の老人。 図体ばかりがデカいだけで非常に無知で、この偉大なるトリスティン魔法学院すら知らないどころか、魔法の存在さえろくすっぽ知らないと来たものだ。 あまつさえニューヨークだチキュウだなどと、ルイズが知らないような辺境から来たとのたまう。 この世界の何処に月が一つしかない場所があるというのだ。貴族を馬鹿にするにも程がある。 そのくせ随分と聞きたがりで、昼間に召喚してからというもの、日が沈むまであれやこれやと質問ばかりしてくる。 子供でも知っているような事ですら何でも聞いてくるので、ウンザリしたルイズは最後になると質問を全て「うるさいうるさいうるさい!」で全部シカトした。 しかしシカトしてしまえば、平民は大人しく黙り込んで外へ出ていった。 これからあのボケ老人を相手にし続けなければならないのかと思うと、ルイズはほとほと嫌気が差した。 しかもファーストキスまであの老人にくれてやったというのが甚だ不愉快極まりない。 とにもかくも今日は疲れた。 ルイズは寝巻きに着替えてとっとと寝ようとして、「使い魔が帰ってきたら何処で寝るか」を言い含めなければ安心して眠れないということに気付き……再び怒りを膨らませた。 ジョセフにとっての厄日を挙げろと言われたら、まず間違いなくこの日は選外だ。 命懸けの冒険が終わったかと思ったら、突然異世界に召喚されて有無を言わさず使い魔にされるというある意味屈辱的な事態を迎えることになった。 が、究極生物や超常現象との戦いを潜り抜けてきたジョセフにとっては、この程度のアクシデントなど「奇妙な」という冠言葉をつけてやるにも値しない。 むしろ美少女のファーストキスを頂いたのだから十二分に良い日だと断言してもいい、とすらジョセフは考えていた。 ひとまず元の世界に帰還することよりも、この世界でどうやって生活するか。 まずはそこから足場を固めていかなければなるまいと考えたジョセフがとった手段は、「弱者のフリをし通す」ことだった。 その為に図体が大きいだけの無知な老人を装えば、世間知らずの主人は疑うことすらせずそれを信じ込んだ。 中世貴族そのままの思考パターンで動いている人種には、とにかく「自分より立場が下の人間」だと思い込ませれば非常に都合がいい。 油断させてしまえば、後は態度次第で自分の思うがままに相手の心理を誘導させられる。 たった一代でニューヨークの不動産王に成り上がった男の処世術として初歩も初歩。 ひとまず、ルイズへの質問攻めのおかげで現状は大体把握した。 ボケ老人が質問してはおかしい事柄は、部屋から追い出された後でハーミットパープルの念視で把握してしまった。 主人がヒミツにしている宝物の隠し場所もバッチリである。 (後は役に立たんフリさえしとれば、厄介事にも巻き込まれんじゃろ。後は……自分の身体じゃな) ジョセフの波紋では骨折やらの大怪我は治せないとは言え、軽い怪我なら治癒できる。体内を流れるDIOの血も、波紋呼吸を続けていればいずれ浄化することは可能。 ただ一つ、気がかりなことがあるとすれば。 ジョセフは左手の手袋を脱ぎ、義手に刻まれた奇妙な文字……ルーンに視線を集めた。ルイズに言わせるとルイズの使い魔になったという証だということだが、ルーンが刻まれた瞬間から、この鉄の義手は明らかな奇妙さを醸し出す様になっていた。 日常生活に支障がないほど精巧な動作が出来る義手だったが、今では“義手に波紋が留まる”ようになった。 波紋は金属に留まることができず、流したとしても即座に拡散してしまう性質があるにも拘わらずだ。 教師であるU字ハゲのコルベールも「これは珍しいルーンだな。なんだキミは左手だけゴーレムなのか?」との言葉であっさり流したせいで、答えに辿り着くのは随分と後のことになりそうだ。 ひとまず校内の間取りも把握し、周囲の地形もおおよそ理解した。一番身近な自分の身体が一番不審だというのが腑に落ちないが。 部屋を出てきた時と現在の月の位置を確認し、やや時間が経ち過ぎた事に気付くと、ルイズの部屋へと戻る。 扉の前へ来るとノックしてもしもーし。 「遅いッ! どこほっつき歩いてたのよッ!」と返事が来てからドアを開けて部屋へ入る。 「いやァすいません、あんまりにも広いんで道に迷ってしまいましてのォ」 頬をポリポリかきながら事も無げに答える。 「アンタ常識ってモンがないの!? 主人が寝ようかって時に側にいない使い魔なんて聞いたことがないわ!」 それから続け様に八つ当たりめいた罵詈雑言を飛ばすルイズだが、何で怒られているのか判りませんよという顔をしているジョセフに盛大にため息をついて、床に敷かれたボロ毛布を指差した。 「もういいわ、疲れた。あんたはそこで寝なさい。あたしも寝るわ。そうそう、そこに服が置いてあるから洗濯しといてね。朝はちゃんと起こすのよ!」 言いたいことだけ言ってしまって、ルイズは指を鳴らしてランプを消し。そのままベッドに潜り込んだ。 程無くして寝息が聞こえてくるのを確認してから、ジョセフは小さくため息をつき。とりあえず毛布の上に座り込んだ。 (んまァなんじゃ。ホントーに何処から何処まで中世貴族そのまんまじゃのォ。一晩かけて言うコト聞かせるようにしちまってもいいんじゃが) 有体に言えば手篭めにするということである。自信はあるがそれが成功するかは判らない。「勝負というのは始まった時には既に勝てるかどうか決まっているものである」を信条とするジョセフとしては、その考えはまだ非現実的だと判ずるしかない。 失敗するかも知れない手に打って出るほど窮している訳でもない。 それよりも先にやらなければならないことがある。ジョセフは呼吸を整え、波紋を練り始めた。 独特の呼吸音が静かな室内に微かに聞こえるが、ルイズは目を覚ます気配もなく昏々と眠り続けている。 まず波紋を集約させた指を壁につけ、指だけで壁を登り、天井にぶら下がって数十分そのままの体勢を維持する。 降りれば水差しからコップに水を注ぎ、逆さにしたコップから水を落とさずにそのまま維持。 水面に指をつけてコップから水を抜き取れば、プリンのようにコップの形を維持する水をかじる。 波紋を体内に流していれば食事も睡眠も必要がなくなる。これから特権階級であるルイズが自分をどういう扱いをするのかはかなり想像がつく。 (波紋やっとると老化せんからのォ。あんまりやり過ぎるとワシがスージーより年下っぽくなっちまうからあんまやりたくないが。ま、しゃーないしゃーない) ジョセフの脳裏には、ありし日のリサリサの姿が浮かんでいた。 母も結婚してから波紋呼吸を止めた(幾ら何でもずっと年を取り続けないのはおかしいのだが、リサリサは波紋を止めるのにやや未練を残していたようだ)が、それでも大概な若作りを維持していた。 母の再婚相手は、ジョセフはリサリサの弟だと思い込んだまま天寿を全うした。 いつ元の世界に帰る事が出来るかは判らないが、いつか帰る日の為に自分の体を維持し続けなければならない。 エジプトへの旅の間も、自分の老化を嫌と言うほど思い知らされた。 いつ終わるとも知れないハードな日々を潜り抜けるために、この波紋は必要不可欠なのだから。 トレーニングを一通り終えて窓の外を見ると、ほのかに空が白くなりかけてきていた。 ジョセフは脱ぎ散らかされたルイズの服を持って、下へと降りていく。 ハーミットパープルを使えば洗濯道具の在り処もすぐに判るが、勝手に出して使っていては元からここで働いている人間もいい気持ちはしないだろう。 両手で服を抱えながら水場の横で腰を下ろしてのんびりと空を見上げていると、若い黒髪のメイドが一人やってくる。ジョセフは彼女にひらりと手を挙げて、声をかけた。 「おおお嬢さん。すいませんが主人から洗濯を命じられておりましての。すいませんが洗濯道具を貸していただけると有難いんじゃが」 「洗濯道具ですか? 構いませんが……貴方はどなたですか?」 微妙に不審げな顔をする彼女に、ジョセフはニカリと笑って名を名乗る。 「ジョセフ。ジョセフ・ジョースターですじゃ。昨日からミス・ヴァリエールの使い魔となりましての。至らぬ所もあるかと思いますが、宜しくお願いしますじゃ」 ジョセフの自己紹介に、彼女はああ、と合点が行った顔をして手を叩いた。 「ミス・ヴァリエールの! 貴方が噂の平民の使い魔さんでしたか」 「ええ、わしが噂の平民の使い魔ですじゃ。宜しければお嬢さん、お名前などお聞かせ頂ければ嬉しいですがの」 ルイズの前でしていたようなボケ老人のフリではなく、普段通りの明朗快活さで会話を続け。ゆっくりと立ち上がったジョセフの背の高さに、彼女は目を見張った。 「私はシエスタと申します。シエスタとお呼びくだされば結構です」 「おおこれは御丁寧に。ではわしのことはジョセフなりジョジョなりお好きに呼んで下さって結構ですぞ、ミス・シエスタ」 ウィンクもつけて、敬称を付けて彼女の名を呼ぶ。 予想外の呼び方に、ボ、と顔を赤らめて、少しばかりモジモジしながら視線を彷徨わせるシエスタ。 「や、やですわ、そんな貴族の方々にするような呼び方なんて照れてしまいます。そんなこと言われたら、私もミスタ・ジョセフとお呼びしなければ……」 「はははは、それは失敬。他人行儀な呼び方をしてしまいましたかの。ではこれからはシエスタ、と呼ぶことにしますわい。シエスタも気楽にわしの名を呼んでもらえれば結構」 「でしたら……ジョセフさん、とお呼びいたします。年上の方ですし」 まだ赤みの消えうせないまま、そうですよね? と言いたげな顔でジョセフを見上げるシエスタ。 「ではそう呼んで下されば光栄ですじゃ。おっと、あまり立ち話で時間を取らせてしまってはいけませんな。ワシも主人の服を洗濯せねばなりませんでな」 「あ、すいません! ではこちらに……」 シエスタに道具置き場へ案内される間も、終始楽しげに会話を続けるジョセフ。 今正にこの時こそが、アメリカニューヨーク仕込の人心掌握術がトリスティン魔法学院で炸裂した、最初の瞬間であった。 To Be Contined → 戻る