約 1,875,314 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9427.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百四十五話「六冊目『大決戦!超ウルトラ8兄弟』(その3)」 地獄星人スーパーヒッポリト星人 剛力怪獣キングシルバゴン 超力怪獣キングゴルドラス 風ノ魔王獣マガバッサー 土ノ魔王獣マガグランドキング 水ノ魔王獣マガジャッパ 火ノ魔王獣マガパンドン 究極合体怪獣ギガキマイラ 巨大暗黒卿巨大影法師 登場 最後の本の世界への冒険に挑む才人とゼロ。最後の世界は、メビウスが不思議な赤い靴の少女に 導かれて入り込んだもう一つの地球の世界。ここで才人たちはメビウスの代わりに、侵略者に立ち向かう 七人の勇者を探すことに。しかしまだ一人も見つけられていない内に、怪獣キングパンドンが 襲撃してきた! それはゼロが倒したのだが、直後に怪獣を操るスーパーヒッポリト星人が出現し、 キングシルバゴンとキングゴルドラス、更には四体の魔王獣をけしかけてくる。さしものゼロも この急襲には耐え切れず、とうとう倒れてしまった。どうにかダイゴに救われた才人だが、重傷にも 関わらず再度変身しようとする。だがその時、暴れる怪獣たちの前にウルトラマンティガが立ち上がった。 勇者として目覚めたダイゴが変身したのだ! 「ヂャッ!」 我が物顔に横浜の街を蹂躙する邪悪なヒッポリト星人率いる怪獣軍団の前に敢然と立ち はだかったのは、ダイゴの変身したウルトラマンティガ。その勇姿を目の当たりにした 人々は、それまでの疲弊と絶望の淵にあった表情が一変して、希望溢れるものに変わった。 「ウルトラマンだ……!」 「ウルトラマンが来てくれた……!」 「頑張れ! ウルトラマーン!!」 街の至るところでウルトラマンティガを応援する声が巻き起こる。そして才人も、感動を 顔に浮かべてティガを見つめていた。 「ダイゴさん……変身できたのか……!」 『ああ……! この物語も、ハッピーエンドの糸口が見えてきたな!』 ヒッポリト星人はティガに対してキングシルバゴン、キングゴルドラスをけしかける。 しかしティガは空高く飛び上がって二体の突進をかわすと、空に輝く月をバックにフライング パンチをシルバゴンに決めた。 「グルウウウウゥゥゥゥ!」 ティガの全身の体重と飛行の勢いを乗せた拳にシルバゴンは大きく吹っ飛ばされた。ゴルドラスは ティガに背後から襲いかかるが、すかさず振り返ったティガはヒラリと身を翻して回避しながら ゴルドラスのうなじにカウンターチョップをお見舞いする。 「ギュルウウウウゥゥゥゥ!」 魔王獣たちも続いてティガに押し寄せていくが、ティガはその間を縫うように駆け抜けながら 互角以上の立ち回りを見せつけた。 「いいぞ! ティガーッ!」 才人は興奮してティガの奮闘ぶりに歓声を上げた。……しかし、所詮は多勢に無勢。やはり 一対七は限界があり、ヒッポリト星人の放った光線が直撃して勢いが止まってしまう。 「ウワァッ!」 「あぁッ! ティガがッ!」 ティガの攻勢が途絶えた隙を突き、怪獣たちは彼を袋叩きにする。挙句にティガはヒッポリト カプセルに閉じ込められてしまった! 「まずい!」 ヒッポリトカプセルが中からは破れない、必殺の兵器であることを才人たちは身を持って 体験している。才人はティガを救おうとゼロアイを手に握った。 「ゼロ、行こう! ティガを助けるんだ!」 『よぉしッ!』 今度はゼロも止めなかった。 が、しかし、才人がゼロアイを身につけるより早く、夜の横浜に更なる二つの輝きが生じる。 「! あれは、まさか……!」 『二人目と三人目の勇者か……!』 ティガに続くように街の真ん中に立った銀、赤、青の巨人はウルトラマンダイナ! そして 土砂を巻き上げながら着地した赤と銀の巨人はウルトラマンガイアだ! 「ジュワッ!」 「デュワッ!」 並び立ったダイナとガイアは同時に邪悪な力を消し去る光線、ウルトラパリフィーを放って ヒッポリトカプセルを破壊し、ティガを解放した。助け出されたティガの元へダイナ、ガイアが 駆け寄る。 三人のウルトラマンが並び立ち、ヒッポリト星人の軍勢に勇ましく立ち向かっていく! 「ダイナとガイアが、ティガのために立ち上がってくれたのか……!」 感服で若干呆けながら、三人の健闘を見つめる才人。 ティガはヒッポリト星人、ダイナはシルバゴン、ガイアはゴルドラスに飛び掛かっていく。 一方で四体の魔王獣は卑怯にも三人を背後から狙い撃ちにしようとするが、その前には四つの 光が立ちはだかった。 「ヘアッ!」 「デュワッ!」 「ジュワッ!」 「トアァーッ!」 才人もゼロもよく知るウルトラ兄弟の次男から五男までの戦士、ウルトラマン、ウルトラセブン、 ウルトラマンジャック、そしてウルトラマンエース! この世界のハヤタたちが変身したものに違いない。 「七人のウルトラマンが出そろった!」 『勇者全員が覚醒したってことだな……!』 ウルトラマンたちはそれぞれマガグランドキング、マガパンドン、マガジャッパ、マガバッサーに ぶつかっていき、相手をする。これで頭数はそろい、各一対一の形式となった。 七人の勇者が邪悪の軍勢相手に奮闘している様をながめ、才人はポツリとゼロに話しかける。 「なぁ、ゼロ……俺はさっきまで、俺たちが頑張らないとこの世界は救われないって、そう思ってた。 俺たちが物語を導いていくんだって」 『ん?』 「でも違ったな。ダイゴさんは、俺たちが倒れてる間に自分の力で変身することが出来た。 他の人たちも……。思えば、これまでの物語の主人公たちも、みんな強い光の意志を持ってた。 俺たちはそれを後押ししてただけだったな」 と語った才人は、次の言葉で締めくくる。 「たとえ本の中の世界でも、人は自分の力で光になれるんだな」 『ああ、違いねぇな……』 才人とゼロが語り合っている間に、ウルトラ戦士対怪獣軍団の決着が次々ついていこうと していた。 「ヘアッ!」 「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」 空を飛んで上空から竜巻を起こそうとするマガバッサーに、エースがウルトラスラッシュを 投げつけた。光輪は見事マガバッサーの片側の翼を断ち切り、バランスを崩したマガバッサーは 空から転落。 「デッ!」 エースは落下してきたマガバッサーに照準を合わせ、虹色のタイマーショットを発射。 その一撃でマガバッサーを粉砕した。 「シェアッ!」 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」 ウルトラマンは非常に強固な装甲を持つマガグランドキングに、両手の平から渦巻き状の 光線を浴びせた。するとマガグランドキングの動きが止まり、ウルトラマンの指の動きに 合わせてその巨体が宙に浮かび上がる。これぞウルトラマンのとっておきの切り札、ウルトラ 念力の極み、ウルトラサイコキネシスだ! 「ヘェアッ!」 ウルトラマンがマガグランドキングをはるか遠くまで飛ばすと、その先で豪快な爆発が発生。 マガグランドキングは撃破されたのだった。 「ヘアァッ!」 ジャックは左手首のウルトラブレスレットに手を掛け、ウルトラスパークに変えて投擲。 空を切り裂く刃はマガジャッパのラッパ状の鼻も切り落とす。 「グワアアアァァァァァ!? ジャパッパッ!」 「ヘッ!」 鼻と悪臭の元を失って大慌てするマガジャッパに、ジャックはウルトラショットを発射。 一直線に飛んでいく光線はマガジャッパに命中し、たちまち爆散させた。 「ジュワーッ!」 「ガガァッ! ガガァッ!」 セブンはマガパンドンの火球の嵐を、ウルトラVバリヤーで凌ぐと、手裏剣光線で連射し返して マガパンドンを大きくひるませる。 「ジュワッ!」 その隙にセブンはアイスラッガーを投擲して、マガパンドンの双頭を綺麗に切断した。 魔王獣は元祖ウルトラ兄弟に全て倒された。そしれティガたちの方も、いよいよ怪獣たちとの 決着をつけようとしている。 「ダァーッ!」 ダイナのソルジェント光線がキングシルバゴンに炸裂! オレンジ色の光輪が広がり、 シルバゴンはその場に倒れて爆発した。 「アアアアア……デヤァーッ!」 ガイアは頭部から光のムチ、フォトンエッジを発してキングゴルドラスに叩き込む。光子が ゴルドラスに纏わりついて全身を切り裂き、ゴルドラスもたちまち爆散した。 最後に残されたスーパーヒッポリト星人は口吻から火炎弾を発射して悪あがきするが、 ダイナとガイアにはね返されてよろめいたところに、ティガが空中で両の腕を横に開いて 必殺のゼペリオン光線を繰り出した! 「テヤァッ!」 『ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!』 それが決まり手となり、ヒッポリト星人もまた激しいスパークとともに大爆発を起こして消滅。 怪獣軍団はウルトラ戦士たちの活躍により撃滅されたのであった! 「やったッ!」 『ああ。……だが、戦いはこれで終わりじゃないはずだぜ。まだ真の黒幕が残ってるはずだ……!』 ゼロがメビウスの話を思い出して、深刻そうにつぶやく。 果たして、ウルトラ戦士の勝利で喜びに沸く人々に水を差すように、どこからともなく おどろおどろしい声が響いてきた。 『恐れよ……恐れよ……』 それとともに街の至るところから幽鬼のようなエネルギー体が無数に噴出して空を漂い、 更に倒したキングゴルドラス、キングシルバゴン、キングパンドン、キングゲスラ、 スーパーヒッポリト星人の霊も出現して空の一点に集結。全てのエネルギー体も取り込んで、 巨大な黒い靄に変わる。 その靄の中から……ウルトラ戦士の何十倍もある超巨体の怪物が現れた! 首はキング シルバゴンとキングゴルドラスの双頭、尾はキングパンドンの首、腹部はキングゲスラの 頭部、胴体はスーパーヒッポリト星人の顔面で出来上がっている、自然の生物ではあり得ない ような異形ぶりだ! これぞ闇の力が怪獣軍団の怨念を利用して生み出した究極合体怪獣ギガキマイラである! 「グルウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」 空に陣取るギガキマイラは身体に生えた四本の触手から、一発一発がウルトラ戦士並みの サイズの光弾を雨あられのようにティガたち七人に向けて撃ち始めた。 「ウワァァァーッ!」 ギガキマイラの怒濤の猛攻に、七人は纏めて苦しめられる。これを見て、才人は改めて ゼロアイを握り締めた。 「遅くなったが、いよいよ俺たちの出番だ!」 『おうよ! 八人目の勇者の出陣だな!』 勇みながら、才人はこの世界での三度目の変身を行う。 「デュワッ!」 瞬時に変身を遂げたウルトラマンゼロは、ゼロスラッガーを飛ばしてギガキマイラの光弾を 切り裂いて七人を助ける。ティガがゼロへ顔を向けた。 『ウルトラマンゼロ!』 『待たせたな、ダイゴ! 一緒にあのデカブツをぶっ飛ばそうぜ!』 『ああ、もちろんだ! これで僕たちは、超ウルトラ8兄弟だ!!』 ギガキマイラはなおも稲妻を放って超ウルトラ8兄弟を丸ごと呑み込むような大爆炎を 起こしたが、ゼロたちは炎を突き抜けて飛び出し、ギガキマイラへとまっすぐに接近していく! 「行けぇー!」 「頑張れぇー!」 巨大な敵を相手に、それでも勇気が衰えることなく立ち向かっていくウルトラ戦士の飛翔 する様を、地上の大勢の人々が声の出る限り応援している。 「頑張ってぇーッ! ウルトラマン!」 その中には、北斗の娘の役に当てはめられているルイズの姿もあった。 『ルイズ……!』 才人はルイズの姿を認めると更に勇気が湧き上がり、ゼロに力を与えるのだ。 「セアッ!」 「デヤァッ!」 八人のウルトラ戦士はそれぞれの光線で牽制しながらギガキマイラに肉薄。ゼロ、ティガ、 ダイナ、ガイアが肉弾で注意を引きつけている間に、マン、セブン、ジャック、エースが 各所に攻撃を加える。 「シェアッ!」 ウルトラマンは大口を開けたキングゲスラの首に、スペシウム光線を放ちながら自ら飛び込む。 ゲスラの口が閉ざされるが、スペシウム光線の熱量に口内を焼かれてすぐに吐き出した。 「テェェーイッ!」 エースはキングゴルドラスの首が吐く稲妻をかわすとバーチカルギロチンを飛ばし、その角を ばっさりと切断した。 「テアァッ!」 ジャックはキングシルバゴンの首の火炎弾を宙返りでかわしつつ、ブレスレットチョップで 角を真っ二つにする。 「ジュワッ!」 キングパンドンの首にエメリウム光線を浴びせたセブンに火炎弾が降り注ぐが、海面すれすれを 飛ぶセブンには一発も命中しなかった。 『へへッ! 全身頭なのに、おつむが足りてねぇんじゃねぇか!?』 ウルトラ戦士のチームワークに翻弄されるギガキマイラを高々と挑発するゼロ。彼を中心に、 八人が空中で集結する。 「グルウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!!」 するとギガキマイラは業を煮やしたかのように、全身のエネルギーを一点に集めて極太の 破壊光線を発射し出した! 光線は莫大な熱によって海をドロドロに炎上させ、横浜ベイ ブリッジを一瞬にして両断させながらゼロたちに迫っていく。 「シェアッ!!」 しかしそんなものを悠長に待っている八人ではなかった。全員が各光線を同時に発射する 合体技、スペリオルストライクでギガキマイラの胸部を撃ち抜き、破壊光線を途切れさせる。 「デヤァッ!!」 煮えたぎった海面には全員の力を合わせた再生光線エクセレント・リフレクションを当て、 バリアで包んで修復させる。 その隙にギガキマイラが再度破壊光線を放ってきた。今度はまっすぐに飛んでくるが、 すかさずウルトラグランドウォールを展開することで光線をそのままギガキマイラにはね返す。 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」 己の肉体がえぐれてしまったギガキマイラは、勝ち目なしと見たか宇宙空間へ向けて逃走を 開始した。だがそれを許すようなゼロたちではない。 『逃がすかよぉッ!』 その後を追いかけて急上昇していく八人。大気圏を突き抜けたところでギガキマイラの 背中が見えた。 「テヤーッ!」 「シェアッ!」 セブンとゼロはそれぞれのスラッガーを投擲。それらに八人が光線を当てると、エネルギーを 吸収したスラッガーはミラクルゼロスラッガー以上の数に分裂。イリュージョニックスラッガーと なってギガキマイラの全身をズタズタに切り裂き、足止めをした。 「ジェアッ!!」 とうとう追いついたウルトラ戦士たちは同時に必殺光線を発射し、光線同士を重ね合わせる。 そうすることで何十倍もの威力と化したウルトラスペリオルが、ギガキマイラに突き刺さる! 「グギャアアアアアアァァァァァァァァァ――――――――――――――ッッ!!」 ギガキマイラが耐えられるはずもなく、跡形もなく炸裂。超巨体が余すところなく宇宙の 藻屑となったのであった。 見事ギガキマイラを討ち取った勇者たちは、人々の大歓声に迎えられながら横浜の空に 帰ってくる。 『やりました……! この世界を守りましたよ!』 『……いや、まだ敵さんはおしまいじゃないみたいだぜ』 喜ぶティガだが、ゼロは邪な気配が途絶えてないのを感じて警告した。実際に、彼らの 前におぼろな姿の実体を持たない怪人の巨体が浮かび上がった。 それこそが人間の負の感情が形となって生じた邪悪の存在であり、真に怪獣軍団を操っていた 黒幕である、黒い影法師。それら全てが融合した巨大影法師であった! 『我らは消えはせぬ……。我らは何度でも強い怪獣を呼び寄せ、人の心を絶望の闇に包み込む……。 全ての平行世界から、ウルトラマンを消し去ってくれる……!!』 それが影法師の目的であった。心の闇から生まれた影法師は、闇を広げることだけが存在の 全てなのだ。 しかし、そんなことを栄光の超ウルトラ8兄弟が許すはずがない! 『無駄だ! 絶望の中でも、人の心から、光が消え去ることはないッ!』 見事に言い切ったティガの身体が黄金に光り輝き、グリッターバージョンとなってゼペリオン 光線を発射した! 他のウルトラ戦士もグリッターバージョンとなって、スペシウム光線、 ワイドショット、スペシウム光線、メタリウム光線、ソルジェント光線、クァンタム ストリームを撃つ! 『俺も行くぜぇッ! はぁぁッ!』 ゼロもまたグリッターバージョンとなり、ワイドゼロショットを繰り出した! 八人の 必殺光線は一つに重なり合うと、集束した光のほとばしり、スペリオルマイスフラッシャーと なって巨大影法師の闇を照らしていく! 『わ、我らはぁ……!!』 巨大影法師は光の中に呑まれて消えていき、闇の力も完全に浄化されていった。 地上に喜びと笑顔が戻り、そして夜が明けて朝を迎える。昇る朝日を見つめながら、ティガが ゼロに呼びかける。 『ウルトラマンゼロ、本当にありがとう! この世界が救われたのは、君たちのお陰だ……!』 『何を言うんだ。お前はお前自身の力で自分を、世界を救ったんだぜ』 『いや……君たちの後押しがあったからさ。感謝してもし切れない……。この恩は必ず返す からね! 必ずだよ!』 そのティガの言葉を最後に、ゼロの視界が朝の日差しとともに真っ白になっていく……。 遂に六冊、全ての本を完結させることに成功した。才人はその足でルイズの元まで駆け込む。 「ルイズッ!」 ルイズのベッドの周りには、タバサ、シエスタ、シルフィードらが既に集まっていた。 皆固唾を呑んで、ルイズの様子を見守っている。 ルイズは今のところ、ぼんやりとしているだけで、傍目からは変化が起きたかどうかは 分からない。 「……どうだ、ルイズ? 何か思い出せることはあるか?」 恐る恐る尋ねかける才人。するとルイズが、ぽつりとつぶやいた。 「……わたしは、ルイズ……。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……!」 「!!」 今の言葉に、才人たちは一気に喜色満面となった。ルイズのフルネームは、ここに来てから 誰も口にしていないからだ。それをルイズがスラスラと唱えたということは……。 「そうよ! わたしはヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズだわ!」 「ミス・ヴァリエール! 記憶が戻ったのですね!」 感極まってルイズに抱きつくシエスタ。ルイズは驚きながらも苦笑を浮かべる。 「ちょっとやめてよシエスタ。そう、あなたはシエスタよ。学院のメイドの」 「ルイズ……記憶が戻った」 「タバサ! 学院でのクラスメイト!」 「よかったのねー! 色々心配してたけど、ちゃんと元に戻ったのね!」 「パムー!」 「シルフィード、ハネジローも!」 仲間の名前を次々言い当てるルイズの様子に、才人は深く深く安堵した。あれほど怪しい 状況の中にあって、本当にルイズの記憶が戻ったというのはいささか拍子抜けでもあるが、 ルイズが治ったならそれに越したことはない。 「よかったな、ルイズ。これで学院に帰れるな!」 満面の笑顔で呼びかける才人。 ……だが、彼に顔を向けたルイズが、途端に固まってしまった。 「ん? どうしたんだ、その顔」 才人たちが呆気にとられると……ルイズは、信じられないことを口にした。 「……あなたは、誰?」 「………………え?」 「あなたの名前が……出てこない。誰だったのか……全然思い出せないッ!」 そのルイズの言葉に、シエスタたちは声にならないほどのショックを受けた。 「う、嘘ですよね、ミス・ヴァリエール!? よりによってサイトさんのことが思い出せない なんて……あなたに限ってそんなことあるはずがないです!」 「明らかにおかしい……不自然……」 「変な冗談はよすのね、桃髪娘! 全っ然笑えないのね!」 シルフィードは思わず怒鳴りつけたが、ルイズ自身わなわなと震えていた。 「本当なの……! 本当に、何一つ思い出せないの……! あるはずの思い出が……わたしの 中にない……!」 ルイズが自分だけを思い出せないことに、才人はどんな反応をしたらいいのかさえ分からずに ただ立ち尽くしていた。 「……」 混乱に陥るゲストルームの様子を、扉の陰からリーヴルがじっと観察していた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/658.html
人間がこの世に存在するのは金持ちになるためではなく、幸福になるためである byスタンダール ドアを開けるとそこにいたのはワルドだった。 「おはよう。使い魔くん」 「おはようございます」 「おはようございます」 五月蠅いぞギーシュ。会話に入ってくるな。 しかし朝からどうしたというんだ?朝食にはまだ早いだろう? 「ええと、ギーシュくん。少しの間ご退出願えるかな」 「は、はい」 ギーシュは戸惑いながらも出て行く。 「きみは伝説の使い魔『ガンダールヴ』なのだろう?」 そしてギーシュが完全にいなくなったことを確認すると、ワルドは突然そう切り出した。 「は?」 心臓がバクバクする。誤魔化せれた、誤魔化せれたよな!?なにも顔には出してないよな!? うまく惚けた振りできたよな!? なんで知ってんだよ!?ありえねー!ふざけんなよ!? 「……その、あれだ。フーケの一件で、僕はきみに興味を抱いたのだ。そしたら伝説の使い魔『ガンダールヴ』だそうじゃないか」 ワルドは何か誤魔化す様な感じで首を傾げながら言う。反応からしてどうやらこちらの変化には気づいてないようだ。 よかった、いつも無表情でいて。……よし、落ち着いた。もう大丈夫。 私が『ガンダールヴ』だということを知っているのはオスマン、ならびにオスマンと一緒に調べた(らしい)コルベールだけだのはずだ。 知っているはずがない。それに『ガンダールヴ』は伝説なのだ。オスマンはそれを勿論知っている。コルベールもだ。 伝説が復活したとなれば色々騒ぎになるはずだ。その騒ぎを恐れてオスマンとコルベールは秘匿しているはずなのだから喋るわけがない。 さすがに色仕掛けだとかそんなもんで喋るものでもないだろう。 ルーンを見られたという可能性もあるがいつも手袋をしてるし、洗濯等の水周りぐらいでしか外さない。 それにルイズにすらルーンを見せてないしな。 おかしい、そして怪しい。 「『ガンダールヴ』ですか?それは一体?」 誤魔化すことにしよう。そしてワルドの様子をさぐる。 「いや『ガンダールヴ』だよ。まあいい。僕は歴史と、兵(つわもの)に興味があってね。フーケを尋問したときに、きみに興味を抱き、王立図書館できみのことを 調べたのさ。その結果、『ガンダールヴ』にたどり着いた」 確定だ。こいつは怪しいんじゃない、怪しすぎる。敵である可能性もでかい。 何でその王立図書館で俺のことが調べられるんだ?どうしてそこで『ガンダールヴ』が出てくる?敵かもしれないという可能性は暴論じゃないはずだ。 敵じゃなくても何か隠してるのは間違いない。 「あの『土くれ』を捕まえた腕がどのぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」 おいまさか…… 「……それのことですか」 そう言ってワルドの腰に刺さっている杖を指し示す。 「これのことさ」 ワルドは薄く笑いながら杖を引き抜く。もしかしたら試合中の事故とか言って私のことを殺すつもりなのかもしれない。 「断ります」 「へ?」 ワルドは目を丸く見開き呆けた表情をする。断れるとは思って無かったのだろう。滑稽だな。 しかしすぐに正気に戻る。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。お互いの力量が測れるいい機会だと思わないかい?お互いの実力がわかれば戦闘においても作戦が立てやすくなる」 しつこいな。そんなにしてまで私を殺したいのか? 「心配しなくてもあなたの実力は大体予測がついてます」 「へ?」 「おそらく『風』のスクウェアメイジで接近戦でも強いであろうということ。それと戦いなれしているであろうということ。それだけわかれば十分です」 体つきがいいからな、鍛えているのだろう。だから接近戦も出来るはずだ。もしかしたらそこに魔法を織り交ぜてくるのかもしれない。 『風』だと判断したのはギーシュの使い魔への攻撃とギーシュに迫る矢を防いだ時に『風』属性の魔法を使っていたからだ。 とっさに何かする場合、自分が得意とする属性が出るものだと思っている。それに魔法が使える奴は自分の得意な属性を贔屓したがるようだしな。 なんにせよ、ワルドの呆けた顔は滑稽だった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/950.html
「「・・・」」 (平賀 才人…名前的に日本人っぽいが…俺が死んだ所じゃなくて日本にあの鏡出やがったのか…?) 何だかえらい気まずい沈黙が空間を満たした…がまぁ…気を取り直してっと… 「才人か…悪いが俺の質問に答えてくれないか?」 「はい・・・俺もまだ質問したいけど…先どうぞ」 「お前…どこの国にいた?」 「?俺は日本にいたけど、ここはトリスティンって言ってたけどヨーロッパのどの辺に? ってか何で俺こんな所にいるんだ?あんたが俺をここに連れてきたのか?ってかあの鏡なんだよ!?」 「あ~落ち着け落ち着け、一辺に質問すんな…俺も行き成りでまだわけわからねぇんだよ・・・」 …つってもこの状況じゃ落ち着け言ってもムリだな… と思ったら何かまだまだ言いたそうな顔していたが黙って深呼吸をし周りを見渡し状況を確認していた。 こいつ見た目よりも大物か…?いや…ただ抜けてるだけか…? 「あんた達…私を無視するんじゃなぁああああいぃいいいいい!!」 行き成りの怒声は、俺の真後ろにまで来てたさっきのピンク色の髪のガキ(面倒だから以後ピンク)だった。 …忘れてた…かなり本気で怒っている。まぁ行き成り自分が増えたと思ったらまた爆発するわ、召喚されるのは あいつ等から言えば平民だわ、挙句の果てには自分を無視して平民同士で話あっている…そりゃ怒るか… このピンクどうするか・・・と才人の方を見ると、才人が?って顔で惚けている。 それを見た時俺はすっくと立ち上がり茶を振舞う時の笑顔で才人に近づき…肩を掴み立ち上がらせた。 「?あの何するんすか?」 「ん?それはな…こうするんだよ!!」 ・・・才人の頭を掴み、俺の真後ろにいるピンクに向かって…キスをさせた・・・ 「『ザ・ワールド!!』そして時は止まる…」ん?何か幻聴が・・・ 「「・・・」」 「そして時は動き出す…」・・・お前だれだ? 「な・・・なにするだぁあああああ!!!」 「ヤッダバァアアアアア」 ほぅ…ミゾオチに幻の左で宙を舞うか・・・中々の威力だな…ってこっちにも殴りかかってきた! とりあえずガキの腕力だから掴んでおけばいいか… 「は…離しなさいよ!貴族にそんな無礼するなんてどんだけ田舎者よ!!」 「いててて…何をするんだってのはこっちのセリフだ!! ってかあんた!何で俺に行き成りこいつとキスさせるんだよ!」 「ん?それか、その理由わ…」 「ぐあ!ぐぁあああああ!あっちぃぃいいい!!」 行き成り左腕を押さえて叫び出したがまぁ、いいか 「あぁ、そうなるのか何でもあいつ等が言うには契約?かなそれだと思うが、どうなんだ?」 くるぅ~りと目の前で悶絶してる才人を無視してピンクに向かって言った。 「あ・・・あんたの思っている通り『使い魔のルーン』を刻んでいるだけよ」 「刻むな!俺の体に何しやがった!」 む?思ったよりも早く復活したなこいつと関心していると、ハゲた中年のおっさんがこっちきやがった。 「ふむ…まさか『サモン・サーヴァント』で平民をなおかつ二人も呼ぶとは異例だが… それよりもミス・ヴァリエールが二人に見えた気するが…風のスクウェアクラスの魔法かな? 杖が無いのに発動とはおかしいが…先住魔法…君はエルフ…か…? …説明する気ないか…それならばこちらで勝手に調べさせてもらう。そしてミス・ヴァリエール 一応契約した少年の方を使い魔としなさい。そして彼のルーンも見せてもらうよ」 才人の左腕の甲には何だか分からない文字が書かれてあったが、なるほどあれがルーンって奴か 「珍しいルーンだな」 おい・・・それだけかよ 「いったい…なんなんだあんたら!」 それには俺も同感だなって…何で俺の方を向く。まぁ、他の奴等の視線が俺に集中してるから無理も無いか。 「…俺はただの通りすがりだ。行き成りここに連れてかれて俺も困っているんだ。」 連れて来られる前は死人だった事は理解させるまで話すのが面倒だから簡単に説明した。 「とりあえずお前が使い魔になったって事で俺は帰らせてもらう」 「え?俺も一緒に帰してくれよ!」 「契約したんだから諦めろと言いたい所だが…仕方ないな…ついてこい、遅れても俺は待たんぞ それじゃもう一度ムーディブルース!」 その声を合図にまた出現したコピールイズが出るやいなや…周りの生徒達は 「またあれが来るぞぉおおおおお」「作者面倒だからってコピールイズ何度もするなぁぁああ!」 「ずっとルイズのターンかよぉおお!」「マルコリシールドォオ!!貴方の尊い犠牲は忘れないわ…5分ぐらい」 と非難轟々で即座に地面に穴開ける者も居れば、自分の使い魔に乗りダッシュで逃げ惑う者もいた… かなり阿鼻叫喚な図でそんな中気の毒にもさっきの爆発を見ていない才人には???と思うしか出来なかった… 「おい、ぼけっと突っ立てるとあぶねぇぞ」 「?何で?ってか何で皆あんな必死に逃げてるんだ?」 「これ」と俺はコピールイズを指差して地面に伏せた。 「宇宙の果てのどこかにいる私のシモベよ… 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よッ 私は心より求め、訴えるわ 我が導きに…答えなさいッ!!」 ドッゴォオォォォン 「ヤッダバァアアアアア」 さっきと同じセリフかよ…才人…芸が無い哀れな奴…だが俺は待たないと言った… 今度こそあの鏡に飛び込み場所が違うとは言え、元の世界に戻りそしてブチャラティを助けねば… …他の場所に出現し、手がかりも無しにあいつ等に追いつける可能性は0に近いが… それでも可能性があるならば、俺は戻らねばならない! そう決意し、爆風がまだ吹き荒れている中アバッキオは中心にある銀鏡目掛けて飛び込んだ…が… そこには…何も…無かった・・・ 「な…何故だ!何故銀鏡が無いんだ!俺は確かにリプレイしたはずだぞ!!」 「契約」 横から感情が篭らないまるで人形のように平坦な声がした。 「契約?」 契約はさっき才人がしたはず…それと何の関係があるんだ?と声の方向に振り向くと12歳ぐらい? の青髪のガキがいた。その横の赤髪の女は人盾をポイッと捨てている。 「あなたはさっきそこの彼とルイズを契約させた。召喚儀式は使い魔が居ると発動しない。」 「…つまり才人が死なないと…召喚は出来ないって事…か・・・?」 「そう」 …俺の後ろにのびているこいつが死ぬ事…か…今こいつを殺してしまえば、 すぐ戻れプチャラティに追いつく事が出来るかもしれない…俺は以前警官だった時に 正当防衛で殺人犯を射殺した事はある…しかしこいつは何の罪も無いただのガキだ… しかも俺が道連れにしてしまった…ブチャラティそしてこの罪の無い才人…どちらを優先させるべきかと 心が揺れ動き葛藤していると後ろからの爆発により…俺の意識は飛んだ…。 「あ・・・あたしを無視するんじゃなぁああああぃいいいい!」 「ちょ…ちょっとルイズ!やりすぎよ!気絶してるじゃないの!!」 「あたしが召喚した使い魔なのよ!あたしのやり方で罰を与えるわ!!」 「…罰与えるのはイイけど…ルイズ…あなたどうやって学院まで戻る気?」 「・・・あ・・・」 爆風でのびている少年と…ルイズがたった今爆発を直接ぶつけた大人…ロクに魔法が使えないルイズには 運ぶ手段が無かった…さすがに哀れと思ったのかタバサがシルフィードに試し乗りさせてみたいと言い のびている二人とルイズ キュルケ フレイムを載せて学院に運んでくれた… …帰っている途中でフレイムが火山に住んでるクセに高所恐怖症らしく恐慌状態に陥り シルフィードに危うく火を吹きかけそうになり周りが慌てて止めたが、才人の髪が一部アフロになったらしい… マリコルヌ またもや爆風避けの盾に…うわ言で「マッ…マルコリシールドって…僕の名前は マ…リコ…ル・・・ヌ・・・」と言っていたらしい。 重傷 再起可能 To Be Continued →...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2059.html
13話 ガラガラと音を立てて馬車が走る。 乗っているのはルイズ、ギーシュ、モンモランシーの3人。 ちなみにホワイトスネイクも発現状態でこの場にいたが、 浮いているので「乗っている」ことにはならない。 「それにしても……ミス・ロングビル。何で貴方が御者なんかやってるんです? 学院に仕えてる平民の誰かにやらせればよかったじゃないですか」 モンモランシーが手綱を握るロングビルに声をかける。 「いえ……いいのです。私は貴族の名をなくした者ですから」 「え? でも、ミス・ロングビルはオールド・オスマンの秘書なんじゃ……」 「あの方は貴族と平民の区別に拘らない方なのです」 「トイウ事ハオ前ノ他ニモ下仕エ以外デ学院ニ勤務スル者ガイルノカ?」 突然ホワイトスネイクが会話に割って入った。 「いえ、そういうわけでは……」 「デハオ前ダケガオスマンニ取リ立テラレタ、トイウ事カ?」 「……私が知る限りでは」 「ト、ナルト平民トハソンナニ無能揃イナノカ? ソンナ筈ハアルマイ。 有能デアル事ニ加エテオ前ハ恐ラクオスマンニ何カヲ持チカケタナ?」 「ちょっと、ホワイトスネイク! あんた失礼よ!」 ホワイトスネイクの追求にルイズが声を上げる。 この場で「ロングビル=フーケ」あるいは「ロングビルがフーケの配下」の可能性を疑うのが ホワイトスネイクだけである以上、仕方の無いことではある。 「その通りだ使い魔君。ミス・ロングビルはレディーなんだからそういう態度はだね」 ギーシュもルイズに賛同して声を上げたが、 「「あんた(オ前)は黙ってなさい(黙ッテロ)」」 ルイズとホワイトスネイクのダブルパンチで黙らされた。 「ね、ねえモンモランシー。あの態度は、ちょっと無いんじゃないかな?」 「あんた、ミス・ロングビルに手を出したらただじゃおかないから」 「ひ、ひどい……」 そしてモンモランシーに出した助け舟も艦砲射撃一発で沈められ、目に涙を浮かべながらギーシュは黙り込んだ。 「持ちかけたとは……一体何を? 根も葉もない疑いをかけられては、私も黙っていかねますが」 「ソウダナ、例エバ……」 「色仕掛ケ、トカ」 ぶすっ 「ッ!! ツ、杖デ目ヲッ! 一体ドーイウ教育ヲ受ケタラソーイウコトガ平気デ出来ルンダッ!?」 「それはこっちのセリフよこのバカ蛇ッ! どーいう生活環境にいたらあんな失礼極まりないことがいえるのよ!! ああもう、本当にすみません! うちのバカがこんなので……」 「い、いえ……」 ルイズの剣幕に思わずたじろぐロングビル。 だが彼女がたじろいだ理由はもう一つあったのだが……それは今ここでは言うまい。 「まったく……それにしても、何であんたが志願したのよ、ルイズ。 大体あんた、魔法使えないじゃない」 「魔法が使える使えないは関係ないわ。 土くれのフーケを放っておくのは、貴族として恥ずべきことよ」 「……あんた、プライドだけは一流よね。 そのプライドのおかげで、わたしまでついて行くことになっちゃったし」 「あんたがくっついてったのはギーシュでしょ」 「ち、違うわよ! わたしはただ、ギーシュが心配だから……」 「そーいうのが『くっついてく』って言うんじゃない」 きゃあきゃあと言い合いをするルイズとモンモランシー。 と、そこへ。 「モンモランシー! やっぱり君は僕のことが」 「「あんたは黙ってなさい」」 「しゅん……」 またも会話にしゃしゃり出たギーシュだったが、 ルイズとモンモランシーによる言葉のクロスボンバーであえなくダウンした。 そんなギーシュを見てホワイトスネイクが一言、 「修行ガ足ランナ」 「え? って言うか君、ちょっと前に召喚されたばっかりだろ!?」 そんなことをしているうちに、馬車が止まった。 まだ昼間だというのに、周囲は生い茂った木々のせいで光が届かず、薄暗い。 「ここから先は徒歩で行きましょう。 そろそろフーケの隠れ家が近いので、馬車では音で気づかれます」 皆がロングビルの提案に従い(ホワイトスネイクも何も言わなかった)、歩いて森の中を進む。 歩いているうちに、やがて開けた場所に出た。 この場所だけは木も少なく、光が注いでいるかのように明るかった。 そして……古びた小屋が、一つあった。 「あれがフーケの隠れ家です……身を隠してください。 フーケがまだ、中にいるかも……」 手ごろな位置にあった木に身を隠しながらロングビルが言う。 ルイズたちもそれに従い、慌てて近くの木に隠れた。 「……ホワイトスネイク。あの中、見てこれる?」 「距離ニシテ約30メイル。ルイズガ小屋カラ視認デキル位置マデ移動スル必要ガアルナ」 「つまりわたしも危険、ってことね……」 「ソノ通リダ。私ハアマリ推奨シナイ。ソレヨリ……」 そう言ってホワイトスネイクはあたりを見回すと、突然腕からDISCを「二枚」取り出した。 初めて見るロングビルが唖然としている中(ギーシュとモンモランシーは授業で一度見ている)、 ホワイトスネイクはそのうちの一枚をおもむろに上空へと投げた。 「……あんた、今何したの?」 「見テイレバ分カル」 ホワイトスネイクがルイズにつれない返事を返した直後のこと。 突然、一羽の鳥が上空からすいーっと小屋に近づいて窓の縁に着地すると中を覗き、 それからすぐに飛び立って真っ直ぐにホワイトスネイクの方へ飛び、その掌の上にちょんと乗った。 一同が呆気に取られてみている間、ホワイトスネイクは鳥の頭部に指を突き刺すと、 すぐにそこから一枚のDISCを取り出した。 そしてそのDISCを今度は自分の額に差しこみ、しばらくしてから、 「アノ小屋ニハ誰モイナイヨウダ」 そう言い切った。 ルイズがそれに対して何か言おうとしたが、 「ルイズモコレヲ見ルトイイ」 そう言ったホワイトスネイクから差し出されたDISCを 得体の知れないものに触るようにおずおずと受け取ると、 さっきホワイトスネイクがやったように、そろ~っと自分の額に差し込んだ。 その瞬間、ただ日の光を反射しているだけだったDISCに、映像が映り始める。 最初は空中の映像、それが一気に急降下して木で出来た何かに、いや、どこかの小屋に着地した。 それに連続して小屋の中の映像が始まる。 小屋の中には、誰もいなかった。 ルイズがそう感じた瞬間、映像の視点は180度反転して再び空中を飛んだ。 直後、映像にはルイズと、ギーシュ、モンモランシー、ロングビルが小さく映し出され、 それがどんどん大きくなったと思った瞬間、 視点が「何も無いように見える」場所に着地し、そこで映像は終わった。 「ホワイトスネイク、これって……」 「先程ノ鳥ノ記憶ダ」 「記憶って……ちょっと! それってやられた相手は死んじゃうんじゃないの!?」 「問題ナイ。生命活動ニ支障ガ出ナイ程度ノ、部分的ナ記憶ダ」 「……本当でしょうね?」 「本当ダ」 「ちょっとルイズ。それ、わたしにも見せてくれない?」 そういうモンモランシーにルイズがDISCを渡すと、 モンモランシーはルイズがやったように自分の額にDISCを差し込んだ。 そして、しばらくしてからDISCを抜き取ってルイズに返した。 その表情には驚きの色が強く現れていて、そして何も言わなかった。 「……私も拝見します」 その様子を見てロングビルもDISCを受け取ると、同様にDISCを差しこんだ。 この時、ホワイトスネイクは小屋のほうをじっと見つめていて、ロングビルには目もくれていなかった。 そしてDISCを抜き取ったロングビルはやはり同様に驚いた様子で、DISCをルイズに渡した。 だがその表情には恐怖を感じさせる、引きつった「何か」が感じられた。 ホワイトスネイクの目はロングビルの方には向けられていなかった。 だが彼が持つDISC――腕から抜き取りながらも、結局投げなかったもう一枚のDISCには、 ロングビルの表情が反射で映し出されていた。 そしてホワイトスネイクは……それを見ていた。 「僕にも見せて欲しいんだけど」 「「「あんたは(オ前ハ)見なくていいのよ(見ナクテイイ)」」」 ルイズ、ホワイトスネイク、モンモランシーからの集中砲火でギーシュは何も言えずにうずくまった。 「ミス・ヴァリエールの使い魔の……ホワイトスネイクさん、でしたか? 貴方が、今やった事は……」 「最初ニヤッタノハ『命令』。 生物ニ対シテ拒絶不可能ノ行動命令ヲ下ス事ダ。 ソシテ鳥カラ抜キ取ッタノハ『記憶』。 私ハドンナ記憶デモ、ドンナ後ロメタイ記憶デアッタトシテモ…… ソレガ『ロングビルノ記憶』ダッタトシテモ……必ズ形ニシテ抜キ取レル」 ホワイトスネイクの言葉に、思わずロングビルは一歩下がった。 「い、一体……何がいいたいのですか?」 ごくり、と生唾を飲み込んでロングビルが言う。 「私ガ今一番見タイ記憶ハ……ロングビル、オ前ノ記憶ダ。 アノ小屋ノ中ニハ誰モイナイ。 ナラバフーケハドコニイル? 獲物ヲ待ツ蛇ノヨーニ我々ヲドコカカラ見テイルノカ……アルイハ」 「あ、あの! さっきのホワイトスネイクさんが取った鳥の記憶の風景に、箱のような物が映っていました! もしかしたら、それが破壊の杖かも!」 唐突に話題を変えようと試みるロングビル。 しかし。 「ソウ思ウナラ自分デ取ッテ来ルベキダ。 小屋ソノモノニ何カブービートラップガ仕掛ケラレテイタラ…… ソレガルイズヲ傷ツケタリシタラ大変ダカラナ」 まるで人事のように言うホワイトスネイク。 言うまでもなく、小屋の中に「箱のようなもの」が映っていた事はホワイトスネイクも確認している。 だが…… 「ソシテ逆ニ聞キタイ。 ソモソモ、何故ソノ「箱のような物」ヲ破壊ノ杖ダト判断スル?」 「う………」 「名ノアル盗賊ガ折角手ニ入レタブツヲ置キ去リニスル事コソ考エ難イノニナ……何故ソンナ事ヲ言ウ?」 「それは……その……」 しどろもどろになるロングビル。 その様子を見て、さすがにルイズやモンモランシーもロングビルに一抹の疑いを持ち始めた。 ギーシュには、ホワイトスネイクが一方的にロングビルを言葉責めにして、 ロングビルがそれに困っているようにしか見えなかったが。 「ソレニ、ダ。ロングビル。 オ前ノ言動ニハ一ツノ意思ヲ感ジル。 ココマデ誘導シタノニモ……ソレ以前ニ、最初ニフーケノ居場所ガ分カッタト言ッタ時カラ」 「わ、分かりました! 私、今から小屋に向かいますので、後方支援をお願いします!」 ホワイトスネイクの言葉を途中で遮り、ロングビルは駆け足で小屋へと向かった。 一方、ホワイトスネイクは自分の言葉を遮られたことには意も介さない様子でその後姿を眺めながら、 「ギーシュ、モンモランシー。 オ前達ニ何ガ出来ルカヲ把握シテオキタイ。 ソレト使イ魔ノ情報モ、ダ」 「いいけど……何で今なの?」 「ロングビルガ小屋ニ入ッタ後……恐ラク直グニフーケノ攻撃ガ始マル。 フーケハ罠ヲ張ッテイルハズダカラナ」 「……分かったわ」 モンモランシーが緊張した面持ちで答える。 「私は水のライン。 20メイル先ぐらいまでなら水で攻撃できるわ」 「威力ハ?」 「まともに当たれば骨ぐらいは折れる威力よ」 「分カッタ。デハ使イ魔ハ?」 「カエルのロビンよ」 カエル、と聞いた瞬間、ホワイトスネイクの体が微妙に震えた。 「ロビン自体にはあんたみたいに戦闘力はないわ。 せいぜい感覚の共有で私をサポートするぐらい……って、どうしたのよ?」 「…………何デモナイ」 猛毒のカエルが雨あられの如く頭上に降り注いだ記憶が一瞬フラッシュバックし、 すごくイヤな気分になったホワイトスネイクであった。 「……デハ次ハギーシュダ。 オ前ノ魔法ハ既ニ見テイルカライイ。 使イ魔ノ情報ヲモラオウカ」 使い魔、と聞いて精神的にやつれていたギーシュが輝かんばかりの笑顔になった。 「僕の使い魔の事を聞いてくれたのかい!? いやあ、嬉しいなあ! 僕の愛しのヴェルダンデの事が気になるなんて、君もいい趣味してるじゃないか!」 「戦力ニナルカドウカガ知リタイダケダ。サッサト言エ」 「まあまあ、そんなに急かさないでくれたまえ。 僕のヴェルダンデはジャイアントモール。 地中を水の中の魚みたいにすいすい動けるんだ!」 「……ツマリモグラカ?」 「ちょっと待ちたまえ。僕のヴェルダンデはただのモグラなんかじゃあないんだ。 モグラよりもずっと強くて、ずっと賢くて、ずっと愛おしい、それが僕のヴェルダンデさ!」 「トリアエズモグラノ類デアル事ハ分カッタカラモウイイ」 そう言ってホワイトスネイクが会話を切った瞬間だった。 みしり、と大地そのものが軋んだ。 瞬間、ホワイトスネイクは小屋に目を向ける。 目を向けた先にいたのは、全長30メイルはあろうかという巨大ゴーレム――フーケのゴーレムだった。 そのゴーレムは拳を大きく振り挙げると、 子供が砂の城を崩すより容易く、小屋を根こそぎ吹き飛ばした。 人型の何かが、小屋の残骸と共に森の中に吹き飛ばされるのがホワイトスネイクにも見えた。 そしてそれは、ルイズにも、モンモランシーにも、ギーシュにも見えた。 「い、今のって!」 モンモランシーが思わず声を上げ、ギーシュは口をぱくぱくさせる。 そして一方、ルイズは呆然として、声を上げる事すらできなかった。 自分もロングビルを疑っていた。 ホワイトスネイクがロングビルを責めるのにつられて、わたしも! そのために、今、ミス・ロングビルが―― 「落チ着ケ、ルイズ」 自責の念に駆られるルイズの前にホワイトスネイクが立つ。 ただしルイズにはその背が向けられており、ホワイトスネイクは真っ直ぐにゴーレムを見据えていた。 「今見エタノハ何ダ? 見エタノハ『人型の何か』ダ。 アノ程度ナラギーシュダッテ作レル」 「………」 沸騰しそうになる頭をどうにか平静な状況に持っていき、やっとのことでルイズが口を開く。 「……その、根拠は?」 ホワイトスネイクは暫し考えた後、 「私ヲ信ジロ」 確かにそういった。 自分を、信じろですって? ルイズは、自分の耳を疑いたくなった。 ここに来る前にあんだけのことをしといて、それでどの口がそんなことを言えるの? こいつ、本当にそれでわたしが納得すると思ってるの? そんな思いが脳裏を次々と掠める。 だが、自分の心を過ぎる感情の中に一つ、しかし決して見逃せない感情が、一つあった。 ――自分が信じないで、誰がアイツを信じるの?―― その感情に咄嗟に反駁しようとした。 したが……できない。 自分が信じなければアイツはどうなるの? 誰もがアイツを危険視して、誰にも近寄られないで、それでも一人で、わたしを守ろうとするに決まってる。 そんなのは、絶対にダメだ。 あの夜――アイツと3つの約束をした夜、誰にも言わないで自分の心にだけ誓った事。 ホワイトスネイクを自分の使い魔にしてみせる、という誓い。 今ここでアイツを信じなかったなら、もう二度と自分はアイツを信じられなくなる。 そんなのは、絶対にダメだ。 だから―― 「信じるわ」 自分でも驚くほど、その言葉はすらりと出てきた。 そしてその言葉は、ホワイトスネイクにも僅かながら衝撃を与えた。 それは、背中越しに、ルイズにも確かに伝わった。 「了解、ダ」 ホワイトスネイクはやはり背中越しに、ルイズにそう返した。 しかしその口端には、微かに笑みが浮かんでいた。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9445.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十四話「闇が来る」 炎魔人キリエル人 炎魔戦士キリエロイド 超古代尖兵怪獣ゾイガー 登場 ブリミルたちの村の上空に浮かび、その不気味さで村の人々を脅かしているキリエル人の ゆらめく姿を、才人は奥歯を噛み締めながらにらみつけた。 「やっぱり……あいつか……!」 この時代からしたら遠い未来だが、才人にとってはほんの二日、三日前の出来事。ロマリアで いきなり襲いかかってきた怪人そのものである。まさか六千年前の時点で既にハルケギニアにいて、 こうしてブリミルたちを脅かしていたとは。 キリエル人はおびえている村の人間全員に向けて、高圧的に言い放ち続ける。 『この世界はもうじき闇によって滅びる。貴様ら愚かで無力な人間を救うことが出来るのは、 我々キリエル人だけである! 今すぐに我々にひざまずいてしもべにあることを誓うのだ! さすれば救いの道は開かれる!』 その言い分に、外にいる村の住人は皆一様に困惑する。 「そんな勝手なことをいきなり言われても……」 「俺たちはあんたのことを何も知らないんだぞ! それでしもべになれだなんて無茶な……!」 尻込みしている人間たちに、キリエル人は苛立ったように怒鳴り散らした。 『黙れ! 貴様ら下等な人間に選択の余地はない。貴様らに与えられた道は、キリエル人を 崇め忠実なる下僕となることだけだ!』 一方的に言いつけるキリエル人に強く反論する者たちが現れる。誰であろう、ブリミルと サーシャだ。 「そんな勝手な要求は呑めない! ぼくたちにはぼくたちの信仰があり、生活がある。いきなり 出てきたあなたの言いなりになるなんてことは御免だ!」 「わたしはこの村の者じゃないけど、一つだけ言ってやることがあるわ。あんた何様なのよ! 礼儀ってものの意味を調べてから出直してきなさい!」 二人の発言に、キリエル人はますます不興を募らせているようであった。 『愚か者どもが! 己らの矜持の方が、命より大事だとでも言うのか! キリエル人の救いを 受けなければ、お前たちはこの世界とともに滅亡するのだ!』 その言葉にもブリミルが言い返す。 「ぼくたちはその滅びとかいうのを阻止するために頑張ってるんだ! それに光の戦士たちも 力を貸してくれている。世界を滅ぼさせたりはしないぞ!」 光の戦士、という単語に、キリエル人の怒りのボルテージはマックスになったようだった。 『よりによってウルトラマンを頼りにしようなどとは……愚行の極致! あまりに罪深い! もはやその罪は、我が聖なる炎でないと清められぬぞぉッ!』 喚きながら、キリエル人は火炎を飛ばして村のテントを焼き始めた! 「きゃあああああああッ!?」 一気に巻き起こる悲鳴。メイジたちは慌てて水の魔法で消火に掛かるが、火災の勢いは 凄まじく、またキリエル人が次々に火を放つので手が足りない。 「やめろ! 暴力に訴えるんだったらこっちも……!」 キリエル人へ杖を向けるブリミルだが、すぐに小さくうめく。 「くッ、呪文詠唱が間に合うか……!」 「あの高さじゃさすがに剣が届かないわ! 誰か、弓持ってない!?」 サーシャが弓を求めるが、それが届けられる前にブリミルたちの先頭に立つ者があった。 「いい加減にしろよ! このエセ救世主、いや救世主気取りの大馬鹿野郎!」 もちろん才人だ。 『何だと……!?』 正面から罵倒されたキリエル人はすぐに顔色が変わる。 「お、おいきみ! 危ないぞ!?」 「いや待った! 彼なら恐らくは……!」 メイジの一人が泡を食って才人を止めようとしたが、ブリミルが神妙な面持ちで制止した。 「守る相手に暴力を振るって言うことを聞かすなんて馬鹿もいいところだ! お前の本性は 神でも何でもない、ただの底抜けのわがまま野郎じゃねぇか! 自分の振る舞いが物語ってるぜ!」 才人の遠慮のない非難の言葉に、キリエル人は怒りの矛先を全て彼に向けた。 『おのれ、キリエル人に向かって何たる口の利き方……地獄の炎で焼かれて己の罪を思い知れッ!』 才人へと灼熱の火炎を猛然と放ってくるキリエル人! だが才人はスパークレンスを掲げて、その光で火炎を打ち払った! 『その光はッ!? そういうことか……!』 一瞬驚愕したキリエル人だが、すぐに察してこれまで以上の怒気を纏う。 『ウルトラマン! 全ては貴様らのせいだ……! 貴様らの存在が愚かな人間どもを惑わせるのだ! おこがましいと思わんのか!』 「ほざけ! お前がどう思おうが知ったことじゃねぇ! 俺がすることはただ一つ……お前の 暴力からこの人たちを守ることだけだッ!」 言い切って、才人はスパークレンスを高々とかざした。すると先端の翼型の意匠が左右に開き、 まばゆい閃光が発せられる! 「ヂャッ!」 光とともに、才人の身体はたちまち巨躯なるウルトラマンティガへと変身する。 「おおッ!?」 「あれはまさしく、光の戦士……! あの少年がッ!」 メイジたちの間でどよめきが起こった。一方のキリエル人は、ティガになった才人を激しく ねめつける。 『よかろう。見せてやろう、キリエル人の力を! キリエル人の怒りの姿をッ!』 キリエル人の足元の地面が突如ひび割れ、マグマの噴出のように火炎が噴き上がると、 それとともにキリエル人の姿が変化。ティガと同等の体格の怪巨人へと変化した! 「キリィッ!」 現代のハルケギニアで戦ったのと同じキリエロイド。しかし顔はあの時の笑い顔とは違い、 泣き顔のように見える。 「タァーッ!」 「キリッ!」 すぐにティガとキリエロイドの決闘が開始される。ティガの先制の拳をキリエロイドが 腕を差し込んで止め、ボディにパンチを入れる。 「ウッ!」 「キリッ! キリィッ!」 ひるんだティガにキリエロイドの猛攻が仕掛けられる。スピーディーな回し蹴りの連発からの 側転キックという、流れるような連続攻撃にティガは身を守るので手一杯になる。 キリエロイドの軽やかな身のこなしから来る絶え間ない攻めには反撃の余地がない。しかし 才人も既にキリエロイドと戦って、その動きが分かっているはずだ。それに目の前の相手からは、 以前ほどの力は感じられない。 では何故苦戦しているのか。 『くッ……やっぱり身体を思うように動かせねぇ……!』 それはもちろん、ティガの肉体に慣れていないからである。もう長いことゼロとして戦って 来たので、その身体能力に慣れ切った分、違うウルトラマンのスペックに逆に対応できていないのだ。 「キリィーッ!」 「ウワァァァッ!」 キリエロイドの火炎弾が直撃し、大きく吹っ飛ばされるティガ。このまま押し切られてしまうのか? 『くッ、くそぉッ……!』 よろめきながら身を起こすティガ。その時に、その耳にブリミルたちの応援の声が届く。 「がんばれ! 立ち上がってくれサイトくん!」 「しゃんとしなさい! 光の戦士はその程度じゃへこたれないはずよ! わたしたち何度も 見てるもの!」 『ブリミルさんたち……!』 わぁわぁと声を張り上げて応援してくれるブリミルたちに、ティガは目を向ける。 「ぼくは信じてるよ! 光の戦士は何も言わないが……とても優しく、勇敢な人たちだとね! きみたちこそが、この世界を救ってくれる勇者だ! ぼくたちも戦う、だから負けないでくれ!」 『……!』 ブリミルの激励の言葉に、才人の心が沸き上がる。 「キリィィィッ!」 一方でキリエロイドは苛立ちを募らせたかのように、ブリミルたちへと火炎を飛ばして攻撃する! 「うわぁぁぁッ!」 ブリミルたちの窮地! ……しかし、火炎は途中でさえぎられて、彼らには届かなかった。 「ハッ!」 瞬時にスカイタイプに変身したティガが超スピードで回り込んで、その身で火炎を打ち払ったからだ! 「おぉッ! 光の戦士が、守ってくれた!」 「サイトくん……!」 「やるじゃないの」 ブリミルたちが歓喜し、サーシャはティガの背中に苦笑を向ける。 「タァーッ!」 今度はティガの反撃の番だった。スカイタイプのスピードを活かしたラッシュを仕掛け、 キリエロイドを押していく。キリエロイドも迎え撃つものの、徐々にティガの動きのキレが 増していき、少しずつ防御が追いつかなくなっていく。 「キッ、キリィ!?」 ティガの動きがどんどん良くなっていくことにキリエロイドは困惑していた。 才人はブリミルたちの応援によって心が震え、かつ戦いながらティガの身体能力に順応 しているのだ。戦いながら成長している! こうなったからには、最早完全にティガの流れである。 「タァッ!」 「キリィッ!」 ティガのハイキックがキリエロイドを蹴り飛ばす。そして距離を開けたところで、カラー タイマーに添えた腕を伸ばして青い光線をキリエロイドの頭上に放った。 「ハッ!」 光線が弾け、白い煙のようなものがキリエロイドの全身に降りかかる。するとキリエロイドが たちまちにして頭の天辺から足のつま先に至るまで凍りついていく! 「キリ……!?」 ウルトラ戦士には珍しい冷却攻撃、ティガフリーザーだ! キリエロイドは全身氷漬けに なってしまい、一歩も身動きが取れなくなった。 「フッ!」 今こそが絶好のチャンス。マルチタイプに戻ったティガは胸の前で交差した両腕を左右に 大きく開いて、同時にエネルギーを最大にチャージ。そして腕をL字に組んで必殺の攻撃を 繰り出す! 「タァッ!」 ティガの最大の必殺技、ゼペリオン光線が炸裂! キリエロイドは一瞬にして粉々に砕け 散って消滅したのだった。 「おおおおおおおッ! 勝ったぁッ!」 「やったぞぉーッ!」 ティガの逆転勝利に村の人々は一斉に歓声を発した。ブリミルとサーシャも満足げにうなずく。 ……しかしキリエロイドが砕け散っても、キリエル人が完全に消滅した訳ではなかった。 ほとんどのエネルギーが飛び散りながらもどうにか生き長らえ、生命の保存のために人知れず 異次元に逃れていく。 『おのれ……よくもやってくれたな……! この恨みは決して忘れん……。たとえ何千年 経とうとも、再び相まみえたその時には、より強めた怒りの姿によって復讐をしてくれる……!!』 恨み節を残して、キリエル人はこの世界から退散していった。 「フッ……」 そんなことは知らずに、ティガは変身を解いて才人に戻ろうとしたのだが……不意に嫌な 気配を感じ取って後ろに振り返った。 「フッ?」 そして驚愕する。視線を向けた先の背景が……徐々に真っ黒い闇に塗り潰されていくのだ! 決して夜の闇ではない。もっと恐ろしい……生存本能が非常に危険なものだとの警告をガンガン 鳴らす。 「な、何だあれは!?」 ブリミルたちも闇に気がつき、恐れおののく。彼らもまた、迫る闇が大変危険なものだと いうことを直感で理解していた。 「ハッ!?」 ティガ=才人は、キリエル人の「闇によって滅びる」という発言を思い返した。 『まさか……もう来るってのか!?』 ――現代のハルケギニア。教皇の即位記念式典が行われるアクイレイアはガリアとロマリアの 国境付近に存在する。アクイレイアからわずか北方十リーグのところには、火竜山脈を南北に 突き破る街道があり、そこに国境線が敷かれている。 その名も虎街道(ティグレス・グランド・ルート)。直線で十数リーグもの長さになる、 ロマリア東部からガリアへ通ずる唯一の街道だ。左右を切り立った崖に挟まれていて昼でも 薄暗い土地であるため、昔は人食い虎や山賊などの被害が相次いだ記録が残っている。 それ故の物々しい通称だが、整備が進んで安全が確保された今では常に商人や旅人が行き交う、 ハルケギニアの主街道の一つに数えられている。 だが、そんな虎街道のガリア側の関所では、ある揉め事が発生していた。 「通れねぇ? お役人さん、どういう了見だい?」 ロマリアの祝祭ももう目前だというのに、関所の門が固く閉ざされ、誰一人としてロマリアへと 通行できないでいるのである。式典に参加するためここまで旅をしてきた者たちは当然ながら困惑し、 一様に関所を管理する役人に説明を求める。 だが、役人からの回答はたった一つだけ。 「通れぬものは通れぬのだ。追って沙汰があるまで、待っておれ」 当然そんな答えにならない答えでは納得がいかない。商人の一人は殺気立ちながら詰め寄った。 「おい、待ってくれよ! 明日の晩までにこの荷をロマリアまで運ばないと、大損こいちまう! それともなんだ、あんたが代わりに荷の代金を払ってくれるとでもいうのか?」 「バカを申すな!」 一喝する役人だが、街道の利用者たちからは次々に不満の声が噴出した。 「教皇聖下の即位三周年記念式典が終わってしまうだよ! この日をわたしがどれだけ楽しみに していたのか、あんたたちに分かるもんかえ!」 「サルディーニャに嫁いだ娘が病気なんだよ」 役人はそれを抑えつけようととうとう杖を構えた。 「わたしだって知らん! お上からは、街道の通行を禁止せよ、との命令以外、何も受けて おらんのだ! いつになったらこの封鎖が解かれるのか、わたしの方が知りたいくらいだ!」 全く以て要領を得ない役人の言葉に、集まった人々が顔を見合わせる。 その時、一人の騎士が役人の元に駆け込んできた。 「急報! 急報!」 「どうなされた?」 「リュティスより未確認の……!」 馬から降りるのももどかしく、手綱を放り投げたままでの息せき切った報告であったのだが…… それよりも早く、その未確認の「何か」は、空の彼方より虎街道上空を横切っていった。 「ピアァ――――ッ!」 それは、巨大な鳥だったのか? それとも竜だったのか? あまりに速すぎて街道の人間の 目では全く見えなかった。分かったのは二つだけ。フネなどでは断じてないこと、そして…… 何体も街道上空を通過して、ロマリア方面へと飛んでいったことだ。 「な、何だ? 今のは……」 「リュティスから来たって? あんなものすごい速さの、何かが……」 事態がまるで呑み込めずに、利用者たちは先ほどまでの喧騒が一転して呆然としていた。 だが……彼らの背筋を、急にひどく寒いものが駆け抜ける。 「な、何だ……? この感じは……」 「何か、すごく嫌な感じが……」 唖然と空を見上げたままの人間たちの目に飛び込んできたのは……飛行物体の進行ルート上を たどるように、ロマリアへと移動する――と言うべきなのだろうか――「暗闇」としか言いようの ないものであった。 「ひやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」 この場にいた人間は全員、恐怖の絶叫を発して腰を抜かしたり、その場にうずくまって がたがた震えたり、必死に物陰に身を潜めるようにして息を殺したりと恐怖に駆られた 反応を示した。――彼らの本能が、あの「闇」が、人食い虎などとは比べものにならないほど 危険で恐ろしい、おぞましいものだと感じ取ったのだ。 その「闇」は、関所の人間にはまるで無関心かのようにそのまま通り過ぎていった。「闇」が 完全に去って、人間たちの恐怖心はようやく消えたのである。 役人は未だ冷や汗まみれの顔でつぶやいた。 「一体、何が始まるというんだ……」 そのひと言が発せられたのと――ロマリア領空を警護するロマリア艦隊が、先に超高速で 飛んでいった飛行物体の集団――超古代の怪獣ゾイガーの群れに壊滅させられたのはほぼ同時であった。 そしてゾイガーの露払いが済んだのを見計らうように、「暗闇」は確実にアクイレイアへと 近づいていったのである……。 「プオオォォォォ――――――――!!」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9351.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十話「その名は“邪悪”」 邪悪生命体ゴーデス 登場 ガリア王政府にかどわかされたタバサを救うため、ガリア王国への侵入を果たした才人たち一行。 彼らはまず旧オルレアン公邸に赴き、そこでタバサの母がアーハンブラ城へと移されたという情報を得た。 母と娘を分けておく必要はない。才人たちは一路アーハンブラ城を目指すこととなった。ついでに旅路の 中で、イルククゥの正体がタバサの使い魔、シルフィードの変身したものだということも判明した。 旅芸人に身を扮しながら情報を集めつつ、砂漠に建つアーハンブラ城前にたどり着いた一行。 やはり、タバサがアーハンブラ城に囚われているらしいことも明らかとなった。一層勇んだ 才人たちは、タバサを救出するために城に侵入する作戦を決行したのだった。ここからがこの 旅路の大詰めであった。 ……そしてその作戦は、現在のところはほぼ完ぺきな形で進んでいた。 「……相変わらずすごい威力ねウェザリー、あなたの魔法は……」 周りに転がる、城の警備兵たちを見回したルイズが、若干呆気にとられながらそう呼びかけた。 「これが原因で私は、数奇な人生を歩む羽目になったんだけどね」 ウェザリーは皮肉げな苦笑を浮かべた。 三百人以上ものガリア兵で警護されていたアーハンブラ城に入り込むために、一行は一計を案じた。 まずは近隣の店から酒を買い占め、兵たちの楽しみを奪う。そこに旅芸人と偽って接触し、酒と娯楽の 売り込みを建前に城の敷地内に足を踏み入れることに成功した。サハラとの国境線上という僻地に、 ろくな説明もない任務のために派遣された兵士たちはよほど楽しみに飢えていたのか、一行をまるで 警戒しないでのこのこ酒宴の席にやってきた。 そこからはウェザリーの特殊な催眠魔法が猛威を振るった。ルイズたちの踊りの音楽に乗せられた ウェザリーの歌声を媒介として兵士たち全員に『時間が来たら一斉に眠る』命令が掛けられ、実際 その通りに全員が深い眠りに就かされたのだ。これで兵士は無力化された。 「丸一日は何があっても、それこそどんなに騒いでも目を覚ますことはないわ。今の内に タバサとその母親を奪取しましょう」 「う~む……一時はこんなにすごい魔法を操る人と敵対してたなんてね。当時の自分に、 よく無事だったと褒めてあげたいね」 「あんたは何もしなかったでしょうが」 しみじみと語ったギーシュがモンモランシーに突っ込まれた。 「まぁでも確かに、味方になってくれてよかったって思うよ。お陰で作戦がすごく楽じゃないか」 マリコルヌが気楽な感じにそう言ったのだが、その時、 「待て」 短いながらも、とても響く制止の声が天守に続く広い階段の先から聞こえてきた。 一行がハッとなって顔を上げると、階段の上から自分たちを見下ろす一人の男がいた。 すらりとした長身で髪も長く、一見するとひ弱そうにも見える。だが全身から放たれる プレッシャーは、離れていても分かるくらいはっきりとしていた。 そして男の耳は、ティファニアと同じように尖っていた。 「わたしはエルフのビダーシャル」 「エルフ……!」 男、ビダーシャルの「エルフ」という名乗りに、ハルケギニア人たちは一斉に身体が強張った。 ギーシュ、モンモランシー、マリコルヌなどは「ひッ」と短い悲鳴を漏らした。 エルフは始祖ブリミル降臨の地に居を構えていて、そこに人間を近寄らせない。そのため ハルケギニア人と長い歴史の中で何度も戦争を行い、その度に人間を大敗せしめていた。 それ故に人間の間で悪魔のように恐ろしい存在と語り継がれていて、ルイズたちも記憶の 奥深くにエルフの恐怖を植えつけられながら育ったのである。 「やっぱり、私の魔法はエルフには効かなかったみたいね……」 ウェザリーが額に脂汗をにじませながらつぶやいた。彼女の催眠魔法は、効果が通れば ほぼ無敵だが、通らなければ完全に無力だという致命的な欠点がある。恐らくビダーシャルは、 音に乗せた魔法の効果をシャットアウトできるのだろう。 ビダーシャルは静かな迫力を乗せて、声を発した。 「お前たちに告ぐ」 「な、何だよ」 「去れ。我は戦いを好まぬ」 「だったらタバサを返せ!」 「タバサ? ああ、あの母子か。それは無理だ。我はその母子を“ここで守る”という約束を してしまった。渡す訳にはいかぬ」 才人はどうにか戦いは避けられないものかと、ビダーシャルの説得を試みる。 「約束ってのは、ガリアとか? あんた、ガリアが何やってるのか知ってるのか? あいつら、 どうやってかは知らないけど怪獣を操って暗躍してるんだ! 俺たちはガリアの差し向けてきた 怪獣に襲われた! あんたは、そんなやばい奴らに手を貸してるってことだぞ!」 しかし、ビダーシャルの様子に変化はなかった。 「そのような戯言を唱えて我を惑わせようとしても無駄だ。エルフはお前たち蛮人とは異なり、 約束は決して破らん」 「駄目か……!」 そもそも信じていないようだ。やはり、ガリアが怪獣を操っているという証拠がなければ 他人には信用してもらえそうにない。 ルイズは才人の袖を引っ張る。 「サイト、一旦あいつの目の届かないところへ退きましょう!」 「けど!」 退いたらタバサが、と才人は言外に伝えた。 「分かってるわ。でも今戦いになるのはまずい。ギーシュたちがいるのよ。エルフの魔法は、 何を引き起こすのか分からないわ」 ハッとなる才人。確かに、あのエルフの実力は底が知れないことが、シルフィードがもたらした 情報と旧オルレアン公邸の状況から既に判明していた。邸の戦闘跡にはタバサの魔法の跡しかなく、 ビダーシャルが何をしてタバサを打ち負かしたのかまでも全く掴めなかったのだ。 ギーシュたちが戦いに巻き込まれたら、命を落とす可能性は高いと言わざるを得ない。 才人はやむなく、皆とともにビダーシャルの目の届かない場所まで下がった。 ビダーシャルの気配への注意を途切れさせないようにしながら、作戦会議。ギーシュが おろおろとした声を出す。 「ど、どうするんだね? あのエルフをかわすいい手段はないものだろうか」 「とてもそんなことが出来るような相手には見えないわよ……」 声を震わせながら反論するモンモランシー。 「こ、ここは一度退却して、機会を窺うというのはどうだい?」 「馬鹿! ここで逃げたって、状況が悪くなるだけだ!」 臆病風に吹かれたマリコルヌの提案を才人がばっさり両断した。兵隊を全員眠らせてしまった以上、 日を改めたところで警備が厳重になるだけだ。同じ手も通用しなくなる。ここまで来た以上、何が何でも タバサを取り返さなくては自分たちの敗北が決まるだろう。 「じゃあ、現実問題どうするってのさ……?」 「……俺がどうにかして倒してくる」 才人はそう返した。彼とルイズは事前に、ルイズが“虚無”の担い手であることを見抜いていた キュルケに、エルフをかわすことは恐らく不可能、“伝説”の力でエルフを倒してタバサを救い出して ほしい、と頭を垂れて頼まれていた。 ヴァリエールの宿敵のツェルプストー家のキュルケが、家名のプライドを捨ててルイズに 頭を下げたこと、それは彼女のタバサへの思いの強さを如実に表していた。それを断れる ルイズと才人ではなかった。 「き、危険すぎる! いくら不死身のきみでも、エルフは相手が悪すぎるぞ! きみは知らんだろうが、 エルフの力は恐らくきみの想像を凌駕する! 騎士隊の隊長として、隊員がむざむざ死にに行くのは 認可できん!」 ギーシュが必死の形相で制止した。その顔には、騎士隊隊長としての責任感だけではない、 友としての心配の色もあった。それはモンモランシー、マリコルヌも同じだった。 才人は彼らの自分に向ける友情に胸を打たれながらも、こう答えた。 「だけど、誰かがやらなきゃいけないことなんだ。お前たちは俺が奴を引きつけてる間に、 どうにかタバサの元へたどり着ける道筋を探しててくれ!」 それだけ言い残してギーシュたちの元から飛び出して、斜め前の柱へと駆けていく。 その後を追うルイズ。ギーシュたちはなおも止めようとしたが、キュルケがさえぎった。 「あの二人ならエルフ相手でもやってくれるわ。その“可能性”が、ルイズたちにはあるの。 二人と……あたしを信じて、任せてあげて」 物陰から物陰へ移りながら、少しずつビダーシャルの待つ階段へと近づいていく才人。 それに追いついたルイズは、才人に呼びかける。 「サイト、ゼロになって!」 「何?」 「ゼロの力なら、エルフにだって負けないわ。エルフは見た目は人間だけど、その能力は 怪獣や宇宙人にも引けを取らない、実質人型の怪獣みたいなものよ。ウルトラマンの力を向ける 相手として、間違えてる相手じゃないわ。タバサを確実に助けるためには、こうするのが一番よ」 と語るルイズだが、才人は静かに首を横に振った。 「俺だって絶対にタバサを助け出したい。でも、それだけは駄目だ」 「どうして?」 虚を突かれたルイズに、才人はまっすぐ目を見て告げた。 「エルフをウルトラ戦士が相手するような怪物と認めることは……テファのために出来ない。 あいつに流れる血は両方とも、『人間』の血だと俺たちが言えるようにしなきゃ」 その言葉に、ルイズは思い切り目を見開いた。才人に言われ、ティファニアの存在を思い出したのだ。 ハーフエルフの少女、ティファニア。世界を見たいと願いながらも、エルフの特徴を持っている ために人間の前で素の姿を出すことが出来ず、隠れ住んでいるあの子。とても心優しいのに、耳が 尖っているだけで人に恐れられてしまう彼女。……ここでエルフを“怪物”としてしまえば、次に ティファニアと会った時に、素直な心で向かい合えなくなってしまうだろう。 ルイズは己の考えを改めた。 「そうだったわね……。ごめんなさいサイト。あいつはわたしたちが、“人間”としてやっつけましょう」 「ああ!」 才人とルイズはいよいよ元の場所まで舞い戻ってきた。ビダーシャルはその場から一歩も 動かずに、彼らを待ち受けていた。 「やはり去らぬというのか」 「そうだ。戦ってでもタバサを返してもらうって決めたぜ」 「了承した」 デルフリンガーを手に握り締めた才人は、ビダーシャルの立ち姿を観察する。 才人のこれまでの戦いの経験が、ビダーシャルは強いことを教えていた。だが今目の前に立つ ビダーシャルは、どこからどう見ても隙だらけだ。攻撃を誘っているようにも見えない。この差異は どういうことだろうか? 「相棒、無駄だ。やめろ」 デルフリンガーが少し焦った調子で警告したが、才人は駆け出した。 「うぉおおおおおッ!」 ビダーシャルの手前で跳躍し、剣を振り下ろす……が。 ぶわッ! とビダーシャルの手前の空気が歪み、剣があっさりと弾き返され、才人も後ろに 吹っ飛ばされた。 「蛮人の戦士よ。お前では、決して我には勝てぬ」 ルイズが倒れた才人に駆け寄る。 「サイト!」 苦痛をこらえながら立ち上がった才人は、改めてビダーシャルを見やった。 「何だあいつ……身体の前に空気の壁があるみたいだ……。どうなってんだ」 デルフリンガーが、苦い声でつぶやく。 「ありゃあ“反射(カウンター)”だ。戦いが嫌いなんて抜かすエルフらしい、厄介で嫌らしい魔法だぜ……」 「反射?」 「あらゆる攻撃、魔法を跳ね返す、えげつねえ先住魔法さ。あのエルフ、この城中の“精霊の力”と 契約しやがったな。なんてえエルフだ」 「先住魔法かよ。水の精霊のアレか」 「覚えとけ相棒。あれが“先住魔法”だ。今までの相手はいわば仲間内の模擬試合みてえなもんさ。 ブリミルがついぞ勝てなかったエルフの先住魔法。本番はこれからだけど、さあて、どうしたもんかね」 ビダーシャルは両手を振り上げた。 「石に潜む精霊の力よ。我は古き盟約に基づき命令する。礫となりて我に仇なす敵を討て」 ビダーシャルの左右の段石が勝手に持ち上がり、宙で爆発した。散弾のような石礫がルイズと 才人を襲う。 才人は剣で受け切ろうとしたが、量が半端ではない。ルイズの前に立ち、受け切れない分は 身体で止める。額に当たった一個が皮膚を切り裂き、血が垂れた。 倒れそうになる才人を、ルイズは支えた。 「ねえデルフ! 一体どうすりゃいいのよ!」 「どうもこうもねえだろが。もう一人の相棒に頼らないってえなら、お前さんの系統だけが、 あいつをどうにかすることができるんだ」 「でも、どんな魔法も効かないんでしょ! 一体何を唱えりゃいいのよ!」 「お前さんはとっくに呪文をマスターしてるぜ」 「え?」 「“解除”さ。先住魔法を無効化するには、“虚無”の“解除”しかねえ」 「解除ね!」 「でもな……あのエルフはどうやらここいらの精霊の力全てを味方につけてるらしい。それを全部 解除するのは、大事だぜ。お前さん、それだけの“解除”をぶっ放すだけの精神力が溜まってるかね」 ルイズは一瞬不安になったが、ここで逃げ出す訳にはいかない。才人が、自分の前で剣を 構えているからだ。 ルイズは、才人が敵に立ち向かい、自分を守っている姿を前にすると、ぐんぐんと精神力が 湧き上がるのだ。 「蛮人よ。無駄な抵抗はやめろ。この城を形作る石たちと、我は既に契約している。この城に宿る 全ての精霊の力は我の味方だ。お前たちでは決して勝てぬ」 再三忠告するビダーシャル。才人はそれに歯を剥き出しにした。 「うるせえ、誰が蛮人だよ。俺はお前みたいな、偉そうに余裕を気取った奴が一番嫌いだ」 ビダーシャルは首を振ると、再び両手を振り上げる。次は壁の意思がめくれ上がり、巨大な 拳に変化した。 才人も、ハルケギニア人がエルフを心底恐れるその理由を、肌で感じてきた。 「あれがエルフの“先住”かよ……」 巨大な石の拳が、ルイズと才人めがけて飛んできた。 才人は咄嗟にルイズを抱えて飛びすさって拳をかわしたが、石の拳は空中で炸裂して、 またも石礫が降りかかってきた。才人とルイズは次々襲い来る石の猛撃を前にして、 後退を余儀なくされる。 「確かにこりゃ怪獣みたいだ……」 冷や汗だらけになった才人がうめく。グレンに鍛えられた彼ではあるが、これでは戦いにすら ならない。人の身で、この城そのものを相手にしているようなものだ。 「サイト! ルイズ!」 気がつけば、自分の側にギーシュとマリコルヌがいた。キュルケも後ろに控えて、杖を握っている。 「お前ら、どうして……」 「やはり、タバサのところまで行くにはあのエルフを越えないと駄目なことが分かってね」 冗談めかしたギーシュとマリコルヌは疲弊している才人の前に立った。 「逃げろ! 俺たちで何とかする」 「いいから、黙ってろ」 「やっぱり、任せっきりって訳にはいかなくなったわね」 マリコルヌが風の呪文で石の礫をそらし、ギーシュが大きな壁を作り上げて盾にする。 キュルケは火の球を放って礫を撃ち落とす。 しかしビダーシャルは難なく壁を粉砕し、風も火もものともしない石礫を放ってくる。 「くッ!」 才人はデルフリンガーで石を弾き飛ばしたが、この調子ではすぐに押し切られてしまう。 向こうは、汗一つかいていないのである。 「参ったね……。ぼくたち、まさかこんなところで終わってしまうなんて」 ギーシュがかなり本気でつぶやいたが……才人が否定した。 「いや、そうじゃないみたいだぜ」 振り返るギーシュ、マリコルヌ。 「ルイズが呪文を唱えてる」 いつの間にか、才人の顔から疲労の色が消えてきた。後ろで唱えられる、ルイズの呪文の詠唱が 彼の心に気力をもたらしているのだ。 ルイズの身体の芯から大きなうねりが起こり、精神力が練り上げられていく。そして呪文の 完成直前に、デルフリンガーが怒鳴った。 「俺にその“解除”を掛けろ!」 ルイズの杖が振り下ろされ、デルフリンガーの刀身に“虚無魔法”が纏わりついて鈍い光が宿った。 「相棒! 今だ!」 力が溢れ返った才人は全速力で走り出し、階段の上のビダーシャルへと飛びかかった。 振り下ろされたデルフリンガーが“反射”の目に見えぬ障壁とぶつかり合い……障壁は 真っ二つに切り分けられた。 ビダーシャルを守るべき精霊力は四散した。ビダーシャルは驚愕の表情を浮かべた。 「シャイターン……。これが世界を汚した悪魔の力か!」 一瞬で全て理解したビダーシャルは、右手の指輪に封じ込められた風石を作動させ、宙に飛び上がった。 「悪魔の末裔よ! 警告する! 決してシャイターンの門へ近づくな! その時こそ、我らは お前たちを打ち滅ぼすだろう!」 空へと消えていくエルフを見つめながら、才人たちは緊張の糸が切れてへなへなと地面に崩れ落ちた。 ルイズは精神力を使い果たし、倒れかけたのをウェザリーが抱き止めた。 ギーシュがぽつりとつぶやいた。 「このぼくがエルフに勝った。信じられない」 「別にあんたが負かした訳じゃないでしょ」 モンモランシーが突っ込んだ。 ウェザリーからルイズを受け取った才人が、皆に呼びかける。 「ほら行くぞ。仕事はまだ終わってない」 「どこに行くんだい?」 「もう、タバサを捜すに決まってるでしょ」 呆けたマリコルヌにキュルケが肩をすくめた。 「ああそうだった。そのために来たんだった」 全員が立ち上がり、天守に向かおうとした……その時。 アーハンブラ城全体を、突然激しい揺れが襲い始めた! 「な、何だ!?」 「嘘だろう!? やっとの思いでエルフに勝ったのに、まだ何かあるのか!?」 ギーシュが悲鳴を上げたその瞬間……地面を突き破って、巨大な触手のようなものが飛び出してきた! 「ななななッ!? 何だぁぁぁぁぁぁッ!?」 更に城が盛り上がる……いや、下から巨大な何かに持ち上げられている! 古城はみるみる内に 崩壊していく! 「嘘!? タバサぁぁぁッ!」 「待ちなさいッ! もう間に合わないわッ!」 思わず身を乗り出して絶叫したキュルケをウェザリーが慌てて引き止めた。 「に、逃げろ! 城の崩落に巻き込まれるぞぉッ!」 ギーシュが叫び、ガラガラと降ってくる瓦礫と、下からどんどん突き出てくる触手から 逃れるために才人たちは大急ぎで城外へ向けて走り出す。 その辺に転がっている兵士たちは、触手に押し潰される……いや、皮膚を通り抜けて触手の 肉の中へ呑まれていった! 「何だ!? 何が起こってるんだ!?」 城外まで避難して振り返った才人たちの視界に……城を突き破り、姿を現した『それ』の姿が映った。 才人たちの激戦の音は、タバサの元にも届いていた。しかし確かめたくても扉も窓も“ロック”の呪文で 固く閉ざされており、部屋から外へは一歩も出ることは出来ない。故にその場でじっとして、怯える母を 慰めることしか出来なかった。 しかし城全体が震動すると、さすがの彼女も平静ではいられなかった。 「な、何……!?」 「パムー!」 奇妙な黄色い小動物は、慌てふためいて空中をぐるぐる回った。 直後に、部屋の床が盛り上がって破られる。タバサが悲鳴を上げる間もなく、彼女の目に、 巨大な人の顔のようなものが見えたような気がした。 そしてこの部屋にいるものは全て、『それ』の中に呑まれていった。 グラン・トロワの執務室にいるジョゼフの元に、ミョズニトニルンからの通信が入った。 「おお、余のミューズよ。どうしたのだ? ……何、アーハンブラ城の地下に配置しておいた、 『あれ』が動き出したのか。ということは、ビダーシャル卿は敗北したのだな。ふむ、なかなかの 実力があるようだったが、やはり“虚無”の担い手には劣ったということか」 あっけらかんと述べたジョゼフに、ミョズニトニルンはビダーシャルの安否を確かめるか尋ねた。 「いや、それには及ばん。最早あのエルフには興味をなくした。以前ならばエルフの力を 惜しがったかもしれんが、今やその必要もなくなったからな。生きてようが死のうが、 どちらでも。そんなことより、『あれ』の戦いの行方を余すところなく見届け、余に伝えて おくれ、ミューズよ。さて、我が姪は『あれ』によって、一体如何様な運命をたどるかな?」 ジョゼフは喪失感などは全くない、退屈しのぎが出来る楽しみを顔に浮かべ、歪んだ赤い球を見やった。 アーハンブラ城を突き破って地上に現れ、その巨体で才人たちを見下ろしている大怪物……。 胴体は反り返った芋虫のようで、左右に不規則に生えた触手が不気味にうねっている。そして 真ん丸とした頭部には、人のそれのように見える顔面が張りついていた。怪獣としても異形に 過ぎる、人面の化け物。 邪悪生命体ゴーデス! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/644.html
第一話 うわっ面 -Surface- 第二話 異世界 -The different world-
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/146.html
わたしは今、馬車に乗っている。ミス・ロビンクルが御者を務め、キュルケと タバサ、プロシュートの四人で荷台に乗っている。 「フーケってのは何者なんだ?」 プロシュートは知らないらしい、今から捕まえにいく『土くれのフーケ』の説明をする。 「通称、土くれのフーケ。マジックアイテムが好きな盗賊よ。フーケは深夜に こっそり忍び込んだり、白昼堂々ゴーレムと現れたり。神出鬼没、男か女かも 分からない。ただ、盗んだ後にフーケのサインがしてあるだけ」 「名前から察するに土系統のメイジか?」 「そうね、少なくともトライアングルクラスのメイジね」 「これは、罠の気がする」 プロシュートが聞き捨てならないことを言い出した 「気?気がするですって、何で?」 「俺の勘だ」 「勘ですって?」 馬鹿馬鹿しい、わたしは何を期待したというんだろ 「悪くないんじゃないの、女の勘とか言うし」 キュルケ、こいつは男よ 「勘、馬鹿には出来ない」 タバサも同意らしい、滅多に開かない口を利いた 「今まで、捕まらなかったフーケの情報が何で今回入手できたんだ? それは、目撃されたのでは無く、ワザと見つかったと考えるべきだ」 「ダーリン、冴えてる」 プロシュートの仮説にキュルケが目を輝かせ、タバサがコクコク頷いている 「確認しとくぜルイズ、フーケは生け捕りにして破壊の杖をゲットすりゃいいんだな」 一々物騒なのよね、この使い魔は 「ミス・ロングビル、後どれくらいで着くんだ?」 「もっ、もうすぐですわ」 プロシュートに声を掛けられたミス・ロビンクルはうっすらと汗を掻いていた 「どうした、暑いのか?」 「ええ、なんだかこの辺りは蒸しますし」 ミス・ロングビル・・・なんだか怖がっているように見えるのは気のせいだろうか?
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9234.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第七十話「アルビオン氷河期」 隕石小珍獣ミーニン 冷凍怪獣マーゴドン 凍結怪獣ガンダー 宇宙海獣レイキュバス 冷凍怪獣シーグラ 登場 「……はい。こちらもひどい吹雪でございます、陛下」 ウエストウッド村からそう離れていない地点。ガンダーとマーゴドンの二大冷凍怪獣の引き起こす 猛吹雪によって大地は雪に埋まり、元がどんな地形だったのかは皆目見当がつかない。 その雪原の上に、ローブで全身を包んだ女が雪と風に煽られながらたたずんでいた。かつてアルビオンに 潜入していた謎の女、シェフィールドである。 彼女は傍目から見たら、独り言を唱えているように見える。だが実際は違う。テレパシーとも 言うべき能力によって、ある人物と連絡を取り合っているのだ。 「ガーゴイルを用いたとしても、前に進むだけでも困難な状態です。真に申し訳ありませんが、 仰せつかった“始祖の祈祷書”の回収の任、開始できそうにありません……」 本当に心底罪悪感を抱えている様子で、シェフィールドは謝罪した。 彼女はルイズの持つ“始祖の祈祷書”を強奪する目的で再びアルビオンに現れたのだ。 しかし、行動に出ようと考えていた今日この日に、折悪しく怪獣による異常気象が発生した。 そのためにルイズを見失い、任務遂行が不可能な状態に陥ったのだった。 シェフィールドの脳内に、連絡相手の声が響く。 『それは真に残念であるな。しかし、そんな巡り合わせの悪い日もある。よい、我がミューズよ。 祈祷書の奪取は打ち切り、我が元へ帰ってくるのだ』 「い、いえ。この吹雪がやんでから、改めて虚無の担い手を捜索することは出来ます。陛下がひと言 お命じ下されば、このわたくしめが、必ずや成し遂げてご覧にいれます」 『いや、余の気分が変わったのだ。単に“秘宝”と“指輪”を集めて眺めるより、“虚無”対“虚無”の 対局を指すことにした。その方が面白そうだ。故に必要はない。それに何より……そんな寒い場所に長々と 立たせて、お前が風邪を引いたりしたら心苦しい』 相手の最後の方の言葉を聞いて、シェフィールドは顔を輝かせた。容貌に似つかわしくない、 恋をする少女の顔だった。 「あ、ありがたきお言葉です! ではすぐにあなたさまの御許に馳せ参じます……ジョゼフさま!」 シェフィールドは懐から小さな人形を取り出し、それを足元に放った。 人形は一瞬にして羽を生やした大型の魔法人形ガーゴイルに変化し、シェフィールドは その背にまたがった。シェフィールドを乗せたガーゴイルは飛び上がり、風に逆らいこの場から 飛び去っていった。 知らず知らずの内にシェフィールドに狙われていたルイズであったが、彼女は現在、行方不明の 才人を捜す旅を行っていた。自責の念から一度は自殺も考えたが、ゼロたちとの生活の中で命の 大切さを知った彼女は、自らの命を絶やすその行為が大罪であることを悟り、前を向いて生きることを 遂に発起したのだ。 そう、まだ確実に死んだとは言い切れない才人の行方を捜し出すことを決めたのだ。そのために、 自分を心配してわざわざ様子を見に来たシエスタをお供にして、馬車の旅に出た。 が、しかし、ウエストウッド村に近づいたところで、怪獣たちの猛吹雪に襲われてしまった。 馬は凍死してしまい、ルイズとシエスタは雪の真っ只中に立ち往生するという最悪の状況に 見舞われているのだった。 「うぅ、さ、寒いわ……」 ガチガチと歯を鳴らすルイズ。ありったけの防寒具を着込んでいるが、それが役に立たないほど 気温が低下しているのだ。 顔が青ざめるルイズを、シエスタが励ます。 「ミス・ヴァリエール、しっかりして下さい! 眠ってはいけません。雪の中で眠ったら 命はありません!」 「う、うん……。シエスタ、あなた体力あるのね……」 「田舎育ちですから。このぐらい、なんてことありませんわ」 と言うシエスタだが、実際にはこれは強がりであった。本当は彼女も苦しい。しかしルイズを 激励するために、平気なように振る舞っているのだった。 「この幌馬車、雪の中に埋まりかけてます。このままでは生き埋めですわ。まずは脱出しましょう」 「ええ……」 荷物を持っていく余力はない。二人は着の身着のままで馬車から外へと抜け出した。その直後に、 馬車は幌に積もった雪の重みで押し潰された。 「危ないところでしたね。でも、ここからどうすればいいか……」 さすがに困惑するシエスタ。自分たちの発った町から、もう大分距離があるところに来ているので、 そこに引き返すというのは難しすぎる。この吹雪の中では、方向が分からなくなって遭難することも 十分にあり得る。 一方でルイズは、自分たちの目の前にある森の入り口を見やった。ウエストウッドの森だ。 「確か、この森の中に村が一つあるって話を町で聞かなかったかしら?」 「え? ええ……何でも、身寄りを亡くした子供たちが寄り集まって暮らしてる小さな村があるとかないとか。 でも、人の行き来が滅多になくてほとんど忘れられたところみたいですが……」 「そういう場所にいるんだったら、今の今まで行方不明のままでもおかしくないわね。いえ、それより 今は人のいる場所へ行きましょう。このままじゃ、二人とも凍え死んでしまうわ」 「そうですね……。本当に村があることに賭けましょう!」 ルイズとシエスタは、自分たちが生き残るために森の中へと歩を進めた。 「ガオオオオオオオオ!」 「プップロオオオオオオ!」 マーゴドンとガンダー、二体の怪獣の姿が、才人たちの目にしっかりと飛び込んだ。吹雪の中で 暴風のうなりにも負けないほどの咆哮を上げる怪獣たちの様子は、まるでこちらを挑発しているかのようだった。 怪獣たちの威容を目の当たりにして、子供たちはミーニンやティファニアにしがみついて 大いに震え上がる。ティファニアは彼らを落ち着かせるのに必死だ。 「あいつらの仕業だったんだな……!」 一方で、グレンと才人はガンダーたちを強くにらみつける。この吹雪は自然の天候ではない。 奴らをどうにかしない限りは、自分たちはもちろん、ハルケギニア中の人々が助からないだろう。 しかも、ガンダーはこちらに歩み寄ってきているようであった。ウエストウッド村を踏み潰すつもりか! 「このまんまじゃやべぇぜ! 俺が怪獣を遠ざける!」 そう叫んで家から飛び出していこうとするグレンに、ティファニアが驚愕した。 「そ、そんなの危険すぎます! こんな猛吹雪の中、無謀ですよ!」 事情を知らない者から見れば、グレンの行動はそう見えるだろう。しかし彼の本当の姿は、 熱く燃えたぎる炎の戦士なのだ! 「任せてくれって! みんなはどうにか自分たちの身を守っててくれよ!」 「グレン! 俺も……!」 才人が名乗り出ようとしたが、グレンに手で制された。 「お前はここの嬢ちゃんと子供たちを守ってやってくれ」 でも、と言いかけた才人だが、続きを口に出せなかった。ウルトラマンゼロになれない 今の自分に、巨大怪獣と戦える訳がない。 戸惑っている間に、グレンは素早く玄関から飛び出ていった。 雪原に飛び出すと、グレンは早速変身を行う! 「うおおおぉぉぉぉぉッ! ファイヤァァァァァ―――――――ッ!」 燃え盛る炎の勢いで一気に巨大化し、グレンファイヤーへと変貌した! 赤き戦士が 立ちはだかったことで、ガンダーは足を止めて警戒する。 『とぁッ!』 『むんッ! ジャンファイト!』 更にはミラーナイト、ジャンボットも駆けつけ、グレンファイヤーの左右に並び立った。 『お前たちも来たのか!』 『この一大事、何もしない訳にはいきませんよ』 『今変身の出来ないサイトたちには、指一本とて手出しはさせん!』 頼れる二人の仲間の登場でグレンファイヤーの心はますます燃え上がった。 『こんな寒々しい景色、ぶっ飛ばしてやるぜ! ファイヤァァァ―――――――!』 手の平から火炎放射を飛ばすグレンファイヤー。吹雪と極低温にも負けない灼熱の炎は、 ガンダーをひるませマーゴドンをたじろがせる。 『よぉし、行くぜぇぇぇぇぇぇッ!』 敵をひるませたことで、グレンファイヤーは一気に畳みかけようと駆け出した! 雪原を踏み越え、 ガンダーに猛ラッシュを食らわせようと迫る。 だが途中で、足下の雪から赤い巨大なハサミが飛び出してきた! 『うおわぁぁぁぁッ!?』 『グレン!?』 『グレンファイヤー!』 足をはさまれて前のめりに倒れるグレンファイヤー。ミラーナイトとジャンボットは動揺する。 「グイイイイイイイイ!」 雪の中からハサミがせり出してくる。その正体は、左右で大きさの不揃いなハサミを生やした、 角ばった甲羅を持つカニとエビを足したような甲殻類型怪獣……! かつてウルトラマンダイナをギリギリまで追い詰めた恐るべき宇宙海獣、レイキュバスだ! 『くっ、こんな奴までいやがったのか!』 グレンファイヤーは足を掴むハサミを振り払うが、起き上がったところにレイキュバスが 冷凍ガスを浴びせてくる。 『ぐわあああぁぁぁぁッ!』 その攻撃に悶え苦しむグレンファイヤー。レイキュバスの冷凍ガスはウルトラ戦士の巨体も 一瞬で凍りつかせるほどの恐ろしい威力がある。たとえ炎の戦士のグレンファイヤーといえども、 ただでは済まない! 『グレンファイヤーが危ない!』 ミラーナイトが援護攻撃をしようとしたが、そこに吹雪の間から飛び出してきた、上顎から 太い牙を剥き出しにした恐竜型怪獣が襲いかかってきた。 「ギャァァァアアア!」 『むッ! はぁッ!』 反射的に喉にチョップを叩き込んで返り討ちにするミラーナイト。だが恐竜型怪獣はミラーナイトの 周囲から更に三体も現れ、口から冷凍ガスを吐き出して攻撃してくる! 「ギャァァァアアア!」 『なッ! こんなに怪獣が……うあぁぁッ!』 三方向からの攻撃にどうにも出来ずに、ミラーナイトの身体が凍りついていく。 この怪獣たちの名はシーグラ! シーグラもまた冷凍怪獣である! 『グレンファイヤー! ミラーナイト! 今助け……!』 「プップロオオオオオオ!」 劣勢に立たされる二人を救援しようとするジャンボットにも、ガンダーが襲いかかる。 宙を滑空しながらドリル状の爪でジャンボットの肩を切り裂く! 『ぐわッ! くぅッ、思うように動けん……!』 ジャンボットたちの劣勢は、数の差だけが理由ではない。極低温の猛吹雪の中という、 相手に圧倒的有利な環境でその力を十全に発揮することが出来ないからだ。 『まずは吹雪をどうにかしなければ……!』 ジャンボットは高性能センサーを働かせて、事態打開のためのデータを収集した。 その結果、吹雪の中心がマーゴドンであることが判明。マーゴドンを叩けば、状況は好転するに違いない! 『よし! ジャンミサイル発射ッ!』 そうと分かったジャンボットの行動は早かった。ミサイルを一斉に飛ばし、マーゴドンへと炸裂させる! その爆発と熱でマーゴドンにダメージを与えるはず……。 「ガオオオオオオオオ!」 しかしミサイルの爆発はマーゴドンの身体に吸い込まれていき、火花は瞬く間に消え去ってしまった! 『な、何だと!?』 マーゴドンの冷凍能力は数々の怪獣の中でも頂点に君臨するレベル。あらゆるエネルギーは 絶対零度の肉体に吸収され、ゼロにされてしまうのだ! マーゴドンに爆撃は効かない! 『くッ、どうすれば……ぐわぁぁぁッ!』 「プップロオオオオオオ!」 ジャンボットが逆転の一手を考えつく前に、ガンダーが冷凍ブレスを食らわせた上に張り倒した。 横転したジャンボットは回路が凍りついて、立てなくなってしまった! ゼロのいないウルティメイトフォースゼロは、冷凍怪獣軍団の前に絶体絶命の窮地に追いやられた! 「み、みんなが危ない……!」 三人のピンチを、才人も目の当たりにしていた。焦燥を覚える才人だが、彼らを助ける方法は 何も思い浮かばない。何せ、頼みの綱のゼロは未だに覚醒していないのだ。 (くそぉッ……! どんなに訓練したって、人間の身じゃいざという時に何の役にも立たない……! やっぱり、俺に出来ることなんて何もないのか……!?) 激しい無力感に打ちのめされ、目の前が真っ暗になりそうな才人。 だが、ふと倒れているジャンボットの姿が目に入る。 その時、才人に電流が走った! (そ、そうだ! これが上手く行けば……!) 才人の脳内に、逆転の手段が浮かび上がったのだ! しかしそれを実行するのには、大変な危険がある。果たして自分に、その危険を突破する 力があるのか……。ほとんど無謀な行為なのだ……。 悩んでいたら、後ろの子供たちとティファニアの声が耳に入った。 「テファお姉ちゃん……眠い……」 「ね、寝ちゃ駄目よ! 気をしっかり持って! お願いだからッ!」 子供たちの体力は限界のようだ。 それを知った時、才人は決心した! (力があるのかとか、危険がどうとか、そんなことじゃない! あの子たちの命が消えかかってる! それを救わなくちゃいけない! そうしなきゃ、俺は本当に駄目な人間になる!) 瞳に光を灯し、デルフリンガーを背負ってマントを勢いよく羽織った! (俺は男だ! 人間だ! どんな敵が立ちはだかろうと――勇気を胸に、立ち向かってみせるッ!) 玄関の扉に手をかける才人に、ティファニアが慌てて呼びかけた。 「サイト、何をするの!?」 「行ってくる。今みんなを救うことが出来るのは、俺しかいないんだ」 「む、無理よ! 死にに行くようなものだわ! お願い、やめて!」 必死に制止するティファニア。だが才人の心は、もう変わらないのだ。 「無理なことなんてない! 俺は、諦めない! 不可能を可能にするッ!」 そして一気呵成に吹雪の中へ飛び出していった! 「サイトぉぉぉぉぉ―――――――――――!」 ティファニアの絶叫を背にして、才人は吹雪に逆らい駆けていく。暴風は彼を枝きれのように 吹き飛ばそうと襲い来るが、才人の身体は前へ前へと進んでいく。 (こんな逆風の中で、身体が動く……! グレンに鍛えてもらったからだ! グレン、ありがとう!) 己の肉体が逆風に負けないことを、グレンファイヤーの課した特訓の成果だと才人は考えた。 しかしそれだけが理由ではない。 今の才人の心の中に、雪と氷に負けない熱い勇気と使命感が燃えているからだ! 「くッ……けれど、さすがに目を開けてるのは難しいな……!」 足は動いても、目に雪が入ってくるのは防ぎ難い。才人が視界の確保に苦しんでいると、 背にしているデルフリンガーが呼びかけた。 「相棒、俺がジャンボットまでの方角を指示してやらあ。俺には目ン玉がないからな、雪は関係ねえのよ」 「そうか! ありがとう、デルフ!」 「こんくらいのこと、礼を言われるまでもねえぜ」 デルフリンガーのお陰で、方向を見失うことはない。才人は感謝するとともに、デルフリンガーが 一緒にいてくれることでもっと勇気をたぎらせた。 (俺は一人じゃない……! 一人じゃないなら、何だってやれる気分だ!) だが、雪中を突き進む才人にガンダーが容赦なく襲いかかってきた! 「プップロオオオオオオ!」 「相棒危ねえ! 伏せろッ!」 デルフリンガーの指示でその場に身をかがめる才人。ガンダーがその上スレスレを通り過ぎていく。 『サイト!?』 『くそッ、あの野郎サイトを……!』 ミラーナイトとグレンファイヤーは、才人が外に出ていることに驚き、彼を狙うガンダーをにらみつけた。 しかしレイキュバス、シーグラの猛攻をしのぐのに手いっぱいで、彼を助けに行くことは出来ない。 「プップロオオオオオオ!」 着地したガンダーはなおも才人をつけ狙う。 巨大怪獣に狙われ、追われる恐怖。それは生身の人間には耐えられないほどの、大きすぎる恐怖だ。 心臓が張り裂けてもおかしくないような。 しかし才人は立ち止まらない! 「相棒、走り続けろ! ジャンボットのとこまでたどりつけりゃあ勝ちだ!」 「言われるまでもないぜ!」 才人の勇気は、巨大な恐怖を打ち払うほどに強くなっているのだ! そして才人は走る。執拗に追ってくるガンダーが振り下ろす爪を、吐き出す冷凍ブレスをギリギリの ところでかわし続けながら。一歩間違ったら即あの世行きの、あまりにも危ない橋。その上を駆け抜けていく。 苦しくない訳がない。無理のある回避行動を取りながら前に進むので、脚はパンパン、筋繊維は悲鳴を上げる。 心臓は物理的に破れそうだ。だがその苦しみを、腹にくくった思い一つで抑えつける。 「負けるか……! 人間はッ! お前たちなんかに負けなぁぁぁぁいッ!」 そうして気がついた時には――横たわったジャンボットの顔が目前にあった! 才人は即座にジャンボットに呼びかける。 「ジャンボット! 意識はあるか!?」 『サ、サイトか……!? よくここまで……』 「俺をお前のコックピットに入れてくれ! その力を……俺に貸してくれッ!」 才人の言葉が届き、ジャンボットになけなしの力が宿った。 『力を借りるのは、私の方だッ!』 転送光線が才人を包み、次の瞬間には才人の身体はジャンボットのコックピット内にあった。 「プップロオオオオオオ!」 ガンダーは才人を内部に収めたジャンボットへ詰め寄り、鋭い爪を振り上げる。このままでは、 ジャンボットはズタズタに引き裂かれておしまいだ! しかしその直前、コックピットの中央に立った才人がファイティングポーズを取り、力いっぱいに叫んだ! 「ジャァァァンッ! ファァァァァァァァァイトッ!!」 ガンダーの爪が振り下ろされる! ……その顔面に、ジャンボットの鉄拳がめり込んだ! 「プップロオオオオオオ!」 仰向けに傾き、雪の上に倒れ込むガンダー。それとは反対に、鋼鉄のボディと『心』を持った武人は身を起こした! 『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』 システム再起動。回路は瞬時に正常に戻り、黄色い眼に光が灯る! 「行こう、ジャンボット! みんなを救いにッ!!」 冷凍怪獣にも消すことの出来ない勇気の炎を内にしたジャンボットが、雄々しき機体を立ち上がらせたのだ! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1112.html
小屋の外から叫び声がする。ルイズたちの声だ。 小屋の窓越しに全長30メイルにも達しようとするゴーレムの姿が見えた。 「何だとッ?!」 「僕はミス・ロングビルが『杖を振る』のを確認してないぞ?」 「フーケはロングビルじゃなかったのか?」 「と、とにかく『破壊の杖』はこれです! 早く脱出しましょう!」 ミス・ロングビルはそういいながら『M72ロケットランチャー』を手に取り、外に出て行ってしまった。 「あ、ああ!」 「そうしよう!」 出て来たとたん、土のゴーレムは三人を執拗に攻撃しだす。 「ロハン!皆を連れて学院に逃げろ! こいつは俺が足止めする!」 「分かった!行くぞ!ロングビル! この状況じゃどこにフーケがいるか分からん!」 「は、はい!」 (さっき『薪に似せた杖』を投げるフリをして振った… まだ、『私がフーケである事実』はまだバレてないようね… それに『露伴』と『ブチャラティ』を引き離した! 危なかったけど計画通り!) 露伴はロングビルと共にタバサ達と合流した。 「あれすごく強いわロハン! 私の炎も、タバサの竜巻も効かないわ!」 「退却」 「ああ、そうしよう。『破壊の杖』はロングビルがGetした」 「ルイズは?」 「あ、あれ?…」 「!あそこ」 ルイズはブチャラティのすぐ後ろにいた。 つまり、ゴーレムのすぐそばである。 巨大なゴーレムの顔に小さな土煙が上がる。 どうやらルイズの魔法のようだ。 「ブチャラティ!!ルイズを頼む!」 「アリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!」 「拙いな…!俺の『スタンド』との相性は最悪だ…」 ブチャラティはそうつぶやいた。 先程から、ゴーレムの両足を 『スティッキィ・フィンガーズ』全力で細切れにしているが、土でできた『ゴーレム』は『切断』していく端から再生していく… 「『足止め』する分にはいいんだが…」 ふと、目の端に仲間の姿が映る。 「何ッ!」 ロハンとミス・ロングビルは無事にキュルケたちに合流できたようだ。 問題は、ルイズだ。こちらに走ってくる! 杖を振りかざしながらもこちらに走ってくるのをやめないッ! 「こいつと戦うつもりなのかッ!」 間一髪。 ブチャラティはルイズとゴーレムの間にわが身を入れることができた。 「お前もロハンたちと逃げろ!」 「いやよ!こいつを倒せば、誰も私のことを『ゼロのルイズ』と呼ばないでしょ!」 「何を言っている!いまはそんな場合じゃない!」 スティッキィ・フィンガーズでゴーレムの攻撃を解体しながらしゃべったため、ブチャラティに、少しずつ、だが確実に飛石のダメージがたまっていく… 「だって、ヒック。悔しくて…私…」 「くッ…マズイ… ここはルイズだけでも逃がさなくては…」 「ブチャラティ!!ルイズを頼む!」 「こいつを受け取れ!」 露伴が何かを投げた。 「飛んで飛んで飛んで飛んで…♪」 「回って回って…♪」 「落ち~るぅぅ~~♪」 そのまま露伴が叫ぶ。 「君のそのルーンは武器を持ち、主人を守る意思を持ったときに、又は、心を振るわせたときにその真価を発揮する!」 「おそらく『スタンド』もパワーアップするはずだ!」 今度こそ露伴達は走り去ってゆく。 ブチャラティは『デルフリンガー』を拾った。 右手で握ると、『ローマで体験した精神入れ替わり直後の感覚』にいた感覚だ。 (あの時は、『スタンド』の能力がパワーアップしていた…) (こらならいけるッ!!) 後ろに隠れているルイズに左手を差し出す。 「分かった。俺一人では正攻法でこいつを倒すのは困難だ。 ルイズ。力を貸してくれ。『二人で』あのゴーレムを倒そう」 「…分かったわ!」 ルイズは、差し出されたブチャラティの手を握る。 ブチャラティのルーンが光り輝いていく… そして二人が叫ぶ。 『『スティッキィ・フィンガーズ!!』』 『『アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!』』 あれほど修復を繰り返していたゴーレムがあっという間に崩れていく… ルイズは実感していた。 (私一人では『ゼロ』だけど、「使い魔」いえ、『仲間』と一緒なら何でもできる!) (今ならそんな気がするわ!) バ―――――z______ン! 『『アりーヴェ・デルチ!!』』 あと、十歩。 そこに行けば、乗ってきた荷車に到達できる。 学院に「救援」を要請できる… 「そこに止まりなさいロハン!それにミス・ツェルプストー!」 声の先には、タバサの喉元に杖を突きつけたミス・ロングビルがいた。 不意に当身でも食らわせられたのか、タバサは気を失っているようだ。 あと、五歩。 だが、立ち止まらざるを得ない。 「まずミス・ツェルプストー。あなたは杖を捨ててもらいます」 「…あなたが『土くれのフーケ』だったのね…」 キュルケは杖を草むらに放り投げた。 「そしてロハン。あなたはこの『破壊の杖』の使用方法を教えなさい。 あなた、『宝物庫』でこの使い方を知っているような話し方をしていたでしょ?」 「僕が話すと思っているのかい?」 「ええ、『この子の命』と引き換えならね…」 「……分かった。『諦めた』。話そう」 「ロハン!…」 「いいか、よく聞け。 まず、リアカバーを引き出して、インナーチューブをスライドさせる。 照尺を立てた後、照準を合わせてトリガーを引くんだ。 最大射程距離は1000メートル。10メートル以内は信管が作動しないからな。 ついでに言っておくが、後方45度、25mにはバックブラストが行くから注意が必要だ。どうだ、簡単だろ?」 「?」 「?何言ってるの?」 ミス・ロングビル、もとい、『土くれのフーケ』は戸惑っているようだ。 「この子の命が惜しくないの?私に分かるように説明しなさい!」 「分かった。まず、そこの、そう。それがリアカバーだ。 それを引き出して…」 露伴が指で指し示しながらフーケに近づいた。 「待って!それ以上近づくんじゃあねーわよ!」 フーケの杖を持つ手に力がこもる。 「分かった。もう近づかない。 すでに一歩『射程内』にはいったからな…」 「?」 『ヘブンズ・ドアー』! 『タバサ達を攻撃することはできない』! 「う、動けない!」 突然、フーケが身動き一つできなくなる。 「もう大丈夫だ。キュルケ。こいつを縄でぐるぐる巻きにしてやれ」 気絶したタバサをお姫様抱っこしながら、露伴が言う。すでに勝利したような表情だ。 「は、はい!」 キュルケはフーケの杖を取り上げ、用意していたロープで縛り上げた。 「何したのよ!答えなさい!」 「僕が『諦めた』といったのは『ブチャラティに僕の能力を隠し通す事』だ」 「あの男、ゴーレムと戦っている最中にも周囲に気を配っている… 本当に戦闘経験豊富なやつだな…」