約 1,746,169 件
https://w.atwiki.jp/zerolibrary/pages/8.html
@wikiにはいくつかの便利なプラグインがあります。 アーカイブ コメント ニュース 動画(Youtube) 編集履歴 関連ブログ これ以外のプラグインについては@wikiガイドをご覧ください = http //atwiki.jp/guide/
https://w.atwiki.jp/zerolibrary/pages/5.html
更新履歴 @wikiのwikiモードでは #recent(数字) と入力することで、wikiのページ更新履歴を表示することができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_117_ja.html たとえば、#recent(20)と入力すると以下のように表示されます。 取得中です。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1745.html
前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~ 日の差さぬ広場、いつもならば人気のないそこは人で溢れかえっている。 血を血で争う闘いの場がそこにあった。 弐者が決闘場に立つ。 周囲を囲むのは貴族の子弟たちと、遠巻きに怯えた目で見つめる平民達。 力ない者は牙を持たぬ。 力ある物は牙を持たぬ人の為に闘う。 己のためでなく人のために牙を振るう。 だが、逆ならば? 牙ある者が牙を持たぬ人を害するならば? その牙を力なき者たちに向けるのならば? 鉄風雷火の如く彼等を襲うとするならば? そんな、非道を許しておけるのか? 否、断じて否である。 故に彼は立ち上がる。 彼はそうした者の祈りであるからだ。 彼がほんの少し他人より優しいからだ。 さあ、戦いの場に繰り出そう、誰かの願いを背中に受けて。 「やってきたぞ」 九朔は草を踏み締める。 目の前にはあの貴族の少年が構えている、その顔の不遜な表情は崩れない。 「逃げずに良くやってきた、褒めてあげるよ」 「汝に褒められても嬉しくはないな」 交差する視線に火花が散る。 互いが交わす怒りの大きさに、どれだけの人間が気づいただろうか。 薔薇の造花が掲げられる。 「諸君! 決闘だ!」 決闘の宣誓だ。 歓声は大きく、嬉々として騒ぎ始める。 それにギーシュは笑んだ。 その笑みに隠れた紅蓮の怒り、胸に宿したそれは凄まじかった。 眼前の少年、聞けばあのルイズの使い魔だという彼の言葉はギーシュのプライドを大いに 傷つけた。 彼とて軍人の息子である、誇りにかけて国を守る意味は知っている。しかし彼はそれを 侮辱した。与えられた地位を笠に着て脅す大馬鹿者とのたまったのだ。 このような侮辱を捨て置くことなどできない。 だからこそ其の身に刻んでやるのだ、己を侮辱したことの愚かさを。 「決闘はどちらかが負けを認めるまで、もしくはこの僕の杖である薔薇の造花を 落とすまでだ―――では、始めるとしようか!」 闘いの開始が宣言され、歓声が囲む観衆から沸きあがった。 「仕る!」 その歓声を合図と九朔は決闘場をギーシュへと直線に駆けた。 戦い方など毛頭も覚えてなどいない、記憶の失った己ができるのはただ直(じき)に駆け この拳で相手を打ち抜くのみ。 胸にあるこの熱い何かを叩き込むのみだ。 「破ァァアアァァ!!!!」 壱拾歩の距離を零にして拳を振りぬく。 しかし、 「甘いね!」 ギーシュの腕が振るわれ薔薇の花が壱枚散った。 「っ!?」 眼前に突如甲冑の腕が顕現、翡翠の瞳が見開かれる。 「ワルキューレ!」 口訣と共に虚空から生えた甲冑の拳が零距離の九朔を打ち抜く。 因果、勢いのついた肉体から繰り出されるはずの威力が九朔の脇腹へ逆流し破壊する。 吹き飛ぶ九朔、大地に無残に転がる。 「ぐ……はっ………」 喉の奥から酸いものがこみあげる。 痛みは尋常ではない、心の臓が脈打つ拍子に脇腹に激痛が走る。 耳をわずらわしい笑い声が突く。 「あはははははは! メイジが戦いで魔法を使う事に依存はないだろ? 僕はギーシュ・ド・グラモン。系統は土の二つ名は『青銅』、人呼んで青銅のギーシュ。 この青銅のゴーレム『ワルキューレ』が君の相手をしよう!」 見下す目つきで己を睨むギーシュに九朔は歯噛みする。 芝居がかったその口調も気に入らない、しかし、倒れて何もしない己は尚更に気に入らない。 両の腕に力を籠めて、一息に立ち上がる。 脇腹に走る激痛、痛みを堪えるのではなく、忘れる。 己の痛みなど瑣末なもの、胸糞の悪いこの気分をぶちかます。 先ほどのシエスタの顔を思い出し、何故かルイズも思い出した。 それだけで脚は力強く大地を踏み締める事が出来た。 「下らぬな。そんな軟(やわ)い一撃で我を打ち倒せると思うてか?」 「なんだと?」 口端に不敵な笑みを浮かべ相手を見下してやる。 「青銅などで我を打ち倒せると思うなよ、腑抜けが!」 ギーシュの顔から笑みが消え、ゾっとするほどの冷気が周囲に漂う。 観衆の貴族の少年少女たちもその危険な空気に気づき声を殺した。 「……言ってくれるじゃないか、君。望みどおり――――打ち倒してやる!」 轟ッ、その身からは想像出来ない俊敏な動きで甲冑の女騎士が九朔に迫った。 打ち出される青銅の拳が九朔の顔面を捉える。 「ちッ!」 間一髪飛び退いたその場に鎚のような一撃が通り抜ける。 遅れた蒼銀の髪が数本ちぎれ、大地が拳の形に陥没した。 当たればまず只ではすまない青銅騎士の拳に周りが微かな悲鳴をあげ青ざめた。 戯れの決闘が真意の決闘に変わっている。 もはやギーシュの眼は常の優男のそれではなかった。 「くッ!」 突進と拳を交互して打ち出すワルキューレの猛攻をぎりぎりで交わし続ける九朔。 単調なだけまだかわせる一撃一撃だったのだが如何せん手数が多い。 あの金髪に迫ろうにも動くに動けない。 「難儀な事だ―――なッ!」 顎下を狙う右の拳を横様にかわして飛ぶ。 脇腹を狙う左の拳を後ろに飛んでかわす。 凡そ数壱拾手はこの青銅騎士の攻撃を交わし続けただろうか。 しかし、その隙は少しずつ小さくなっている。 「あやつ………やりおるッ!」 九朔はギーシュへと視線を向けた。 こちらを冷たい目で睨む少年の瞳は食堂で見た軟派男のものではない。 腐っても男だったか、真剣になれば並ではなかったようだ。再び迫ったワルキューレの 突進をかわしつつ九朔はそう感じた。 眼前の戦いを離れた思考、一瞬ではあったがそれが九朔に決定的な隙を生み出していた。 「クザクッ!」 ルイズの悲鳴じみた叫びが遠くから聞こえた。 目の前の突進を飛び退き着地した九朔の背筋に冷たいものが走った。 はっきりと知覚できる濃厚な殺意のそれ。 全神経が、脳が、迫るそれをかわせと命令する。 だが、既に手遅れ。 「がは………ッ!」 首筋に叩き込まれる焼け付くような感覚、意識を断絶させるような衝撃。金属の冷たい 感触と抉りこまれる激痛が遅れてやってきた。 脳髄がゆさぶられ、視界がぶれた。 四肢から力が抜ける、操り人形の糸が切れたように九朔の体が崩れ落ちた。 攻撃はかわしたはず、なのに崩れ落ちる? 脳内、走る疑問はすぐに解決された。 混濁する意識の端に二体の青銅騎士を視認する。 「壱体………ではなかった………か」 苦々しく口走るが、その脇腹に新たな痛みが加わる。 壱体の騎士が九朔を蹴り上げていた。 「ごはッ!」 胸腔内の空気が一気に吐き出される。 背に熱が走る、両手を組んだ騎士の鎚が振り落とされる。 叩きつけられ、顔面が泥に汚れる。 「ぐぁ………ぁ…………くっ」 立ち上がらねば、そう思うが腕に力が入らない。 先ほどの首筋にうけた衝撃で四肢が麻痺している。 腹部に激痛、胃に爪先が深くめり込んだ。 「がッ!………ぐ……はッ……がはッ!」 口から胃液が零れた。 酸い匂いが漂う。 しかし、それでも青銅騎士の猛攻は止まらない。 腕、脚、脇腹、肋骨、顔面、次々にその拳が穿っていく。 痛みは激しく、衝撃はままならない。 しかし、それも少しずつ遠のいていく。 少しずつ意識が朧になっていく。 微かに眼を見開けばルイズがギーシュに向かって何かを叫んでいる。 頭に感じる重み、どうやらあの青銅騎士が自分を踏みつけているらしい。 ルイズが叫んでいる、だが、聞こえない。 まったく、何をそんなに必死になっているのか。 別段関係がないというのに、まったく困ったものだ。 払いのけられ、ルイズがこちらを確かに見た。 鳶色に涙を見た。 そして、その向こうにルシエスタを見た。 蒼黒に涙を見た。 「――――ッ!」 鼓動が大きく高鳴った、これほどまでないほどに熱を持った。 こんなのは嫌だ、これではまったく駄目だ。 胸糞悪い、誰かが泣いているのはこれほどなく気分が悪い。 痛みが消える、激痛が吹き飛ぶ。 しびれていたはずの四肢が漲る、血潮が猛る。 思考が明確になる、澄み切る。 脳内を何かが疾走する。 魂が昂ぶる、だというのに、精神は凪。 意識が広がる、どこまでも広がる。 人間の知覚を遥かに凌駕した領域が見えた。 左手に刻まれた術式(ルーン)が煌めいた。 ―――どこかで頁(ペヱジ)をめくる音がした * 「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようです。大騒ぎになっています。 留めに入った教師がいましたが、生徒達に邪魔されて止められないようです」 ミス・ロングビルの言葉にオスマンが溜息をついた。 今さきほど目の前のこっパゲことコルベールに、ミス・ヴァリエールの召喚した 平民の使い魔がガンダールヴかもしれないと話を聞いていたところだ。 それだけでもなかなかな問題だというのに、それに加えて更に問題を 持ち込まれては辟易とした気分になるのも仕方ない。 「まったく、暇をもてあました貴族ほど性質の悪い生き物はおらんわい。 で、誰が暴れておるんだね?」 「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」 「あのグラモンとこの馬鹿息子か………おおかた女の子の取り合いじゃろうな。 で、相手は誰じゃ?」 そこでミス・ロングビルの表情がやや困惑したものになった。 嫌な予感がする。 いや、期待か? こういうときの予感ほど当たるものとは言うが。 「………それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の 少年のようです」 やはり、か。 目の前のコルベールとオスマンは眼を合わせた。 彼もまた同じことを考えていたのは手に取るようにわかった。 「教師たちは決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが?」 「構わん、放っておきなさい。秘法を使うまでのことではあるまいて」 「………わかりました」 部屋を去るミス・ロングビルの足音を聞き、コルベールがうなずく。 「オールド・オスマン」 「ああ」 杖を振ると、『遠見の鏡』にヴェストリの広場が映し出される。 そこで見るのは彼等の想像を凌駕した光景だった。 * ――何も、超人に至る道は魔術だけではないのですよ 誰が言った言葉だろうか。 その人の姿はとても輝いていた気がする。 胸に去来する懐かしく熱い思い。 彼を自分は識っている。 魂に彼は刻まれている。 黒衣のスーツに身を包んだ長身痩躯のその姿、だが決して脆弱ではない。 その身体から滲み出る鬼気は溢れんばかりの力を秘めていた。 その瞳は正しく真っ直ぐに視界を収めていた。 その身のこなしは数多くの修羅場を潜り抜けた武士のもの。 彼は護る者。 その拳は数多くの外敵を大地に沈めた。 音速を超え、神速にまで鍛え上げられた拳闘術が彼の刃。 己が主の為に振るったそれは芸術にまで極められた最強の武器。 そして、自分は彼の技を識っている。 自分は彼との記憶を識っている。 「ウィン………フィールド」 ■■破損記憶 再構築 ■■6% ■■■破損術式再構築………………術種選択:強化術式(ブーストスペル) 眼前を見下ろす、そこには大地に倒れたあの青銅騎士が在る。 胸に穿たれた拳の痕。 己が刻んだ一撃だ。 周囲の人間は沈黙していた。 踏みつけていた青銅騎士が瞬(またたく)く間もなく吹っ飛んだのだ。 そして、胸についたそれを見て知った。 彼が刻んだのだと。 「な、なんなんだ………何なんだお前はッッッ!?」 咆哮、その瞬間二体の青銅騎士が七になった。 ギーシュは知った。 その魂で彼が己を遥かに凌駕した何かを持っていることを識った。 故に全力を投じなければならないと理解した。 ――そうしなければ、自分は殺される。 背骨に氷を押し込められた様な、そんな寒気が全身に走った。 「ワルキューレッッ! や、やるんだッッッ!」 七の騎士が九朔に向かい駆けた。 その手に大地から練成した槍、剣、斧といった得物を手にして。 九朔を前周囲から囲み迫る。 今、ここで一気にやらねばならない、強迫観念めいた何かがギーシュを追い込んでいた。 しかし、九朔はそんなギーシュを見てはいない。 広がった認識が迫る敵の挙動を知覚する。 明鏡止水と言う言葉がある、これはそれだというのだろうか。 昂ぶる魂と裏腹に凍りつくほどに澄み渡った精神、五臓六腑が賦活する。 吸い込む大気が細胞の一つまで、いや、『字祷子』までも活性化させる。 傷が癒えるのを感じる、血流が再構成されるのを感じる。 激痛が生命力へと転換される。 この力が何か、それを九朔は知らない。 自分が何者かなどは知らない。 記憶は未だ失われたまま。 「だが、この力を己(オレ)は――識っている!」 青銅騎士の刃が零距離に迫った。 しかし、それはもはや致命ではない。 常人を凌駕した知覚にはその一撃までの刹那は無限であった。 踏み締める大地、そして跳躍。 虚空に九朔の体が舞う。 蝶の如く軽やかに宙を跳び、大地へと舞い降りる。 消えたその場に刃が突きたてられた。 「なあっ!?」 ギーシュの驚愕が決闘場に響く。 当然だった、確かに刃は九朔を捕らえたはずなのに一瞬でその姿が掻き消えたのだ。 その驚愕は伝播したように周りの観衆へと、ルイズ、シエスタへと続く。 「うそ……な、なんなのアンタ!?」 「クザクさん……!」 今、彼の姿はゴーレムの背後にある。 その瞳は先ほどと全く変わらない 「さあ、どうした? かかってこい」 「い、言われるまでも!」 ワルキューレは思い出したように九朔へと一気に襲いかかった。 斧が迫る、剣が迫る、槍が迫る。 一撃でも当たれば即死も免れない。 しかし、九朔は退くどころか 「――仕る!」 突撃した。 七体の堅牢な青銅の鎧騎士へと九朔は突貫する。 迷いはない、ただ真っ直ぐ突き進むのみ。 先ほどと何も変わらない。 ただ違うのは、その身に溢れんばかりの力が漲っている事だけ。 剣を持ったワルキューレ二名が迫る。 横薙ぎと縦薙ぎ、十字の斬撃が九朔を襲う。 しかし、 「遅いッ!」 それが到達するより前に九朔は懐に入り込んだ。 拳を握り締める、力が拳を覆うのを感じる。 「覇アアアァァァァァァァ!!!」 爆砕する大気、音速を超えた零距離からの一撃がワルキューレを2つ同時に打ち抜いた。 そのまま吹き飛ぶ鎧騎士は金属片へと還る。 背後に迫る参の気配。 剣のワルキューレが握っていた刃、空に舞っていたそれを両手に掴み取り振向く。 二の槍と一の斧が同時に襲いかかる。 しかし、無意味だ。 何故なら彼は二闘流、二刀と二挺の使い手なのだから。 「温いッ!」 奔る右一閃、槍が中ほどから両断される。 「甘いッ!」 翻る左二閃、槍が刃先ごと真っ二つになる。 得物を失ったワルキューレを見逃すはずもない。 しかし、斧を持ったワルキューレが突進を仕掛ける。 「受けよ――――剣聖の舞」 突いて出た口訣、身に刻まれた記憶が九朔を動かした。 それは双刃を構えた彼が放つ必殺技、半人半書の身に流れる魔力が成す事のできる 身体強化による必滅奥義が壱――――剣聖銃神騎行曲。 「斬魔!」 横薙ぎ一閃が 「破邪!」 交差一閃が 「天魔覆滅!」 左右の同時一閃が爆砕する大気を伴い参体を駆け抜ける。 それは一瞬の静寂、崩れ落ちる間もなく、音もなく、ワルキューレは塵に帰す。 それを見届けるように青銅の剣もまた崩れ落ちる。 並でない威力に耐え切れず崩壊したのだ。 「な……なあぁぁっ……!」 ギーシュはいよいよ顔を青ざめた。周囲の観衆はその凄まじさに言葉を失っていた。 ルイズとシエスタはただ見守っていた。 「まだだッ! まだ……まだ2体あるんだ! や、やれ、やるんだッッ!」 持ちうる全思考を働かせ、ギーシュは残り二体のワルキューレを更に倍の大剣に持ち替え させた。 そしてその大剣を振り回させ、九朔を間合いに入れさせない。 しかし、それすらも今の九朔には意味をなさない。 脳内を映像が疾走する。 それはウィンフィールドの姿、そして彼の美技。 拳闘術を極めた彼の超超超速度のフットワークが繰り出す必殺技。 護る者が生み出した、超音速を超えた神速の一撃必殺。 フットワークを刻む、刻む、刻む、刻む。 鼓動(ビート)鼓動(ビート)鼓動(ビート)鼓動咆哮(ビートウォークライ)。 鼓動(ビート)が咆哮(クライ)し、心の臓は超速脈動(フルドライブ)する。 構え、狙う。 振り回される大剣は竜巻の如く。 その中心点のワルキューレを視界に捉える。 それは決して彼の技には及ばない。 これはただの劣化模造品だ。 しかし、 「………え?」 「………クザク、さん?」 この二人のために振るう一撃ならばそれでも充分に真の威力を持つ。 握り締める拳、脈動する術式(ルーン)が煌めいた。 「秘拳――――即興拳武(トッカータ)!!」 第二の口訣、九朔の肉体が揺らぐ。 音速を超える。 超速を超える。 刹那を超える。 認識を超える。 大気を超える。 知覚を凌駕した認識領域で九朔は疾走(はし)る。 九朔の姿が消える。 大気が決闘場のあらゆる場所で爆砕する。 爆砕した大気が暴風を生む。 質量を伴った残像が大剣に顕現する。 繰り出す拳は無限数、穿たれ抉られ大剣は塵になる。 得物を失ったワルキューレを九朔『達』が囲む。 そして、 「――終止(フィーネ)!」 咆哮、二体のワルキューレは宙空へと打ち上げられ砕け散った。 砕けた青銅片が決闘場へと散らばる。 「――――」 沈黙が流れた。 そこにいるのは最初と同じく決闘する二人と観衆のみ。 勝負は決した、しかし、まだ終わりではない。 「……どうする、汝?」 互いに仁王立ち、ギーシュと九朔は睨みあう。 造花は握られたまま、拳は握り締められたまま。 その表情はどちらも硬く、どちらも微動だにせず睨みあう。 時間にしては数秒とも経ってはいない、だがそれは永遠にも思える長さ。 固唾を呑み観衆は見守る。 そして、 「参ったよ……僕の、負けだ」 薔薇が地面に落ちた。 どう、と歓声が上がった。 見物していた観衆、特に後方から眺めていた平民達は大きな歓声を上げた。 それは杖を持たぬ同じ平民への祝福。 貴族たちもまた歓声を上げた。 それは平民にも関わらず貴族を追い詰めた大十字九朔への祝福、そして負けはしたが 立派に戦い抜き優男でない一面を見せたギーシュへの祝福。 「信じられない強さだったよ。一体、君は何なんだい?」 祝福の証に握手を交わし、ギーシュは尋ねる。 ただの平民、いや、メイジでもこのような技を持つ者は居ない。 だとすれば、彼は一体? 「九朔だ」 「え?」 「我は大十字九朔―――騎士だ」 「騎士? それってシュバリエ……って平民の君がまさか!?」 「いや、そうではない。我は誰かを―――あ?」 その時、左手のルーンの輝きが消えた。 ギーシュの後方から駆け寄ってくるルイズとシエスタが見える。 だが、声をかける間もなく意識が断絶する。 そして、九朔はそのまま後方へと倒れた。 「クザク!」 「クザクさん!」 いきなり倒れたクザクに二人は駆け寄り体を揺さぶった。 「ぅ………」 どうやら、気を失っただけらしい。 口から微かに漏れる吐息、静かに眠っている。 それにほっと一息をつくと、ルイズは目の前で九朔を見下ろすメイドを見た。 顔を赤らめて、良かった、良かったと呟き真珠のような大粒の涙をぽろぽろと 流している。 その表情に在るのは恋する少女のそれ、複雑な気分になる。 胸に何ともいえない気持ちがいっぱいになるのだが、ルイズの前にギーシュの顔が 現れ思考は中断される。 「彼、気絶したのかい?」 「ええ。そうみたい」 「そうか……やはりやり過ぎたな。しかし、彼は一体何者なんだろうな」 「知らない、ただの平民でしょ」 「そうなのかな? 闘って思ったが、彼はただの平民じゃない気がする」 「そう。殺そうとしたくせに口が良く廻るわね」 それにうっと呻き、ギーシュの顔がすまなさ気なものになる。 「わ、悪かったと思っている……まあ、それは置いといてだ。彼、自分を騎士だと言った」 「騎士? 冗談でしょ、こいつ平民なのよ?」 「ああ、僕もそう思うけど……まあ、いっか。それより、だ」 ギーシュはそのままシエスタのへと視線を向けた。 それに微かに悲鳴をあげたシエスタだったが、ギーシュが頭を垂れた事に驚き、 そのまま停止してしまった。 「君に謝罪しよう。牙なき平民を守るはずの貴族である僕の行いを許して欲しい」 それに驚くシエスタとルイズ。 ギーシュは眠る九朔に視線を向け微笑んだ。 今までに見た事の無い笑顔だった。 「彼の、君を守ろうと闘った様に心打たれた。あそこまでぼろぼろになっても立ち上がろうと する彼の姿に感服したんだ。力なき平民たちの為にその身を賭して闘う彼にね」 立ち上がり『レビテーション』の術をかける。 「さて、それでは僕はこれでさよならとしよう。ケティとモンモランシーに謝りに いかねばなぁ」 それだけ言うとギーシュはまたも気障ったらしいポーズで去っていった。 振向くとき一瞬恥ずかしげにした表情はなんだったろうか。 そんなギーシュを見送るルイズのすそを掴む手。 見ればそこにはあのメイド。 「お、お部屋に運ぶのをお手伝いさせてもらって宜しいでしょうか?」 「………好きにしたら?」 はい、と喜んで浮かんだ九朔の体を押すシエスタ。 その隣で一緒に押しながらルイズは浮かない顔をしていた。 あの時、ギーシュと闘う前に言っていた事が耳に残っていた。 『後味の悪い真似はしたくない』、ただそれだけのためにコイツはこんなにボロボロに なった。 見捨てるのが嫌だと戦い、傷つき、それがとても痛々しかった。 見ていて辛かった。 あの時、いきなり強くなって勝ってしまったが、それでも下手すれば死んでいた。 見ていて何も出来ない自分、止めようとしたのにとめられなかった自分、 無力だった自分が酷く情けなかった。 魔法を使えないだけでない、使い魔を守ることも何も出来なかった。 自分の弱さと無力さが悔しかった。 「私…………無力ね」 誰にも見えないように、隣で慈しむ様に九朔を眺めるメイドにも気づかれぬように ルイズは呟いた。 広場から抜けた青空はどこまでも青く澄んでいた。 「……どう思うかね、ミスタ・コルベ-ル?」 一部始終を見届け、互いに目配せしオスマンは目の前のコルベールに問うた。 「やはり彼はガンダールヴであったのでしょうな。まさしく書にあるとおりです。 しかし、千の軍隊を一人で壊滅させるとありましたが、だがあそこまでとは………」 そこにあるのは震えであった。己の力を遥かに超えた力への恐怖だった。 かつての彼を知るオスマンだからこそ、彼の言葉の意を理解する。 「そうじゃな、ミスタコルベール。だが、それだけではない……」 「? どういうことでしょうか、オールド・オスマン?」 その言葉に微かな違和感を覚えコルベールは尋ねるが何でもないとただ重々しく オスマンは首を横に振るだけであった。 「何でもない、何でもないのじゃよ………」 そう呟くオスマンの顔、生気に溢れていたはずの老人の顔がやつれ果て 枯れ果てたものに見えたのは錯覚だったか。 窓から見える青空もまたどこまでも青く澄んでいた。 前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1521.html
「おい」 何よ。 「起きろ」 眠いわ。 「起きなさいよ」 昨日ほとんど徹夜だったじゃない。 「起きる」 ああもう…… 「あ、おはよう」 なんだか腰が痛いわ。 「よく眠れたかしら、ヴァリエール」 「なな、なんでキュルケがこんなところにいるのよ」 「ルイズオメー永久に寝てた方がよかったんじゃねえの」 「何訳わかんないこといってるのよ」 あ、 「ちょ、ちょっとした冗談よ、そろそろフーケの潜伏地点かしら?あはははは」 「「「……」」」 「大物」 「ここからは、徒歩で行きましょう」 ミス・ロングビルがそういって、全員が馬車から降りた。 うっそうとした森が広がっている。 「なんか、暗くて怖いわ……幽霊でも出そうじゃない?」 キュルケが凄くうそ臭い調子で呟いた。 「冗談でもやめて」 「やめろ俺で草を 枝を切るなあー」 「仕方ねーだろお、他に誰も武器もってきてねーんだからよお。文句ならフーケかロングビルに言え」 「なら魔法で何とかしてくれぇー、ウゲッ蟲の体液が刃にいい」 「魔法で無理に道とか開けたら気づかれちゃうわよ」 「そんなああああ」 「おあ?」 いきなり一行の視界が広がった。 かなりの広さが整地してあり、真ん中に廃屋、というか山小屋が建っている。 五人は小屋の中から見えないように、森の茂みに身を隠したままそれを見つめた。 「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」 ミス・ロングビルが廃屋を指差して言った。 人が住んでいる気配は全くない。やはり奇襲が一番だろうか? 「なあー」 セッコが何か思いついたらしい。 「その[破壊の杖]って、頑丈なもんなのか?」 ミス・ロングビルが答えた。 「秘宝ならスクウェアの固定化がされてるとは思いますが、それが何か?」 「ならよお、ここから全員で魔法かましてフーケごと消し炭にしようぜぇー」 ミス・ロングビルがひどく慌てて答える。 「フーケを殺すより、秘宝回収の方が優先なのでそれはちょっと」 「うー」 非常に不満そうだ。まあそうだろう、実際ドアから家の中に入るのは危険としか言いようがない。 ああ、そうだ。そうしよう。 「シルフィードで屋根を破壊して奇襲する」 「名案ね」 「そりゃーいいな。で、何人乗れるんだ?」 「3人」 結局、ルイズとミス・ロングビルを見張りに残して屋根を破ることになった。 「エア・カッター!」 上空から柱を切り裂く。 「今だぜえシルフィードォー!」 「きゅいきゅい!」 ドラゴンの爪が既に家からずれかけている屋根を横薙ぎに弾き飛ばした。 「あら、誰もいないわよ?」 キュルケが素っ頓狂な声を上げる。 「ロングビルもあんま信用できねーなあ」 「きゅ!」 それは、あまりに不自然で。 部屋の真ん中に堂々と置いてあった。 「破壊の杖……」 「あら、ほんとね」 「はあ?」 セッコが不思議な顔でこっちを見た。 「これはさすがに杖じゃねーだろぉ。バズーカ砲か?」 キュルケが答える。 「いや、これよ。宝物庫内を見せてもらったことがあるから間違いないわ。て言うかばずーかって何よ」 「説明は難しい、そもそもオレも詳しいわけじゃねー」 「じゃあ遠慮しとくわ」 「まー、フーケが来てもこれ撃てば楽勝だと思うぜえ」 そう言ってセッコが破壊の杖を掴み上げる。 と、使い魔のルーンが輝きはじめた。武器と親和するのだろうか? 「おああ、こりゃ駄目だあ」 セッコが心なしかがっかりしている。 「弾が入ってねえ」 弾? 「説明して」 「仕方ねーなあ、無駄に左手の力使うとなんか気分が悪くなるんだけどよお」 ルーン文字が更に光を強める。 「これは[SRAWプレデター]つーここじゃねえ世界の武器だ」 キュルケが口を挟んだ。 「杖じゃないっぽいのは理解したわ。けどダメってどういうこと?」 「これは、本来弾とセットなんだけどなあ」 「何か詰めて撃てばいいんじゃないの?」 キュルケが珍しく正当な質問をしている。 「いや、どちらかというとなあ、この武器は弾の方が本体なんだ」 「は?」 さすがに驚いた。 「こっち側はただの頑丈な筒だあ。まあ棍棒として使えば強えーかもしれねーけどよお」 「……」 「高い命中精度も。家も戦車もぶち壊す破壊力も。 起動に魔法がいらないのも。全部弾の方の能力だ」 ようやく、オスマン長老の不自然な落ち着きが理解できてしまった。 戻ったら絶対問い詰めてやる。 「どうせあのヒゲジジイは弾の方を、別の名前で保管してんじゃねえの? フーケもいねーし、これもってかえろーぜえ」 実にダルそうにセッコは[破壊の杖]もとい筒をシルフィードの背中に積んだ。 その頃、周辺警戒という名の置いてきぼりを食らったルイズは困っていた。 「ああもう、一人で小屋に近づくわけに行かないし、ミス・ロングビルは何処かに行っちゃうし……」 結局、遠くから小屋をボーっと見張ることしかできないのだった。 セッコもセッコよ、ああいうときは普通主人を立てるべきじゃないの、使い魔的に。 しかも妙にタバサに懐いてるし、キュルケじゃないだけまだマシだけど気に入らない! あ、小屋の屋根が吹っ飛んだわ。 どうも戦いは起こらなかったみたいね。見に行こう。 「きゃああああああ!」 ルイズが外で叫び声を上げてやがる。静かにしろ。 声の方を見ると、昨日のゴーレムがこっちに向かってくるところだった。 「おほほほほ、踏み潰してやるわガキども!」 「うおあ、早く飛べええ」 巨大ゴーレムに踏まれるよりわずかに早く、シルフィードが3人を乗せて離陸する。さて、ルイズをどうやって助けるか。 それよりもあのゴーレムの肩に乗ってる奴をぶっ殺してえな。 しかもやっぱフーケは女だったじゃねえか。ロングビル使えねえ。 「ちょっと降りるぜえ」 「この高さ飛び降りて大丈夫か相棒?」 「オメーを持ってりゃ余裕だ」 「レビテーションで降ろしてあげるわよ」 キュルケが言ってきた。タバサは既に何か呟いている。 「そんな暇があるなら攻撃魔法を撃ちやがれ」 そう言って飛び降りる。いつもながら[左腕の力]は頼れる。 だが、どーもこういう状況になる度、何かを忘れてる気がしてくるんだよなー。 ギーシュの時も、昨日ゴーレムを見たときもそうだった。落ちつかねえ。 ルイズが逃げずに、魔法でゴーレムを攻撃している(失敗の爆発だが)理解できねえ。敵わないなら逃げてくれ畜生。 「ああもう、どうすればいいのよ!」 「逃げるんだよぉーーーーーーー!」 「冗談じゃないわ、貴族は背を向けない!」 「馬鹿かオメー!」 ゴーレムの右腕がルイズを掴もうとしている。掴まれたら確実に死ぬなあ。 間に合うか?無理だろーなあ。 その時、上空から火の玉と竜巻が飛んできてゴーレムの腕を弾く。 「相棒!今だ!」 うるせえ、見れば分かる。 飛び込んでルイズを掴み後ろに下がる。糞、気絶してやがるじゃねえか。無茶し過ぎだ。 仕方がねえ。 「拾いやがれ畜生おおおお!」 シルフィードの影を見て、進行方向に思いっきり投げた。 「きゅい!」 拾えたみてーだ、これでまず障害を1つ排除だぜえ。ちょっと挑発してやるかあ。 「なあー、フーケよお、[土]でオレと戦おうなんて冗談だろオ?」 「はっ、負け惜しみかい?さっさと潰れな!」 あれぇ?なんかおかしいこと言ったかオレ?まあいいや。 いくらデカかろうと所詮人形だ、登ってあのクソ女をぶち殺してやる。 デルフリンガーを振り回しゴーレムの右拳を受け流す。動きは遅いがパワーがやべえ。 タバサともう一人がもうちょっと頑張ってくれればいいんだがなあ。 ルイズ達がフーケと戦っていたその頃。 これで何度目になるだろうか。ギーシュ・ド・グラモンは、実にくだらない事で始まった、あの決闘について考えを巡らせていた。 1匹目のワルキューレを素手で破壊し、その上、錬金前の石をそのままぶつける新技もかわされた。 その後の異常な動き。モンモランシーがいなければ、きっと僕は死んでいた。 それはいい、それはきっとあのセッコという平民が規格外だったんだろう。 いまさら負けたことに絶望しても仕方がないさ。 けど、けどあれは何だったんだろう? 何度考えてみても、ワルキューレ7体が潰されたことが納得いかない。 そう、7匹だ。 僕は何故、あの時7匹のワルキューレを錬金できたのだろうか? 確かに事前に1匹破壊されていたのに。途中で止めたとはいえ、更に1回錬金をしたのに。自分の成長かと思ったが、腹立たしいことに再現できない。 あの男がいたから? セッコに側にいてもらって呼んでみた、やはり8匹目は呼べない。 命の危険を感じたから? 使い魔ヴェルダンデに落ちたら死にそうな縦穴を掘ってもらい、その横で試してみる。やはり7匹止まりだ。 ダメだ、他に原因が思いつかない。 けど、この僕が一度できたことがもう一度できないなんて、そんなことがあるわけがない。大体、突然8匹呼べるようになること自体はありうる。 最初は1匹しか作れなかったのだから、今増えることはおかしくないはずなんだ。 絶対に何かあるはずだ。絶対、絶対にもっと強くなってやる。 「ねえ、タバサ、セッコって本当に人間なの?」 「人」 「じゃあ何なのよあれ!吸血鬼でももっと鈍いわよ!」 「ルーンと何か、何かは不明」 「何か、ねえ。それにしてもあのゴーレムの左腕はなんなのよ!」 「わからない、あんな動きは見た事がない」 さっきからいくら魔法を放っても、回転する左腕に受け流されてしまうのだ。 これ以上近づくわけにもいかない。 「しつこいねえ!無駄だってのに!」 敵が上と下にいるため、両方を牽制しなくてはならない。 結果割とでたらめに腕を振り回す羽目になっているのだが、実際それは十分な効果を上げていた。 左腕も大体予想通りの仕事をしてくれている。実に愉快だ。 「頭じゃねえ、足を狙いやがれ!」 言いつつ、なんとか右腕に取り付こうとする。なかなかうまくいかねえ。 「相棒、足から登ればいいんじゃねえの?」 ついにぼけたかサビ剣。 「馬鹿、足なんかに取り付いたら手に潰されるぜえ!」 「ああもういい加減に諦めなさいよ!」 弾き損ねた火球がゴーレムの右足首に直撃する。 一瞬動きが止まるが、すぐに再生すればすむことだ。 しかし、セッコにとってその一瞬は十分すぎた。 右腕にとりつき駆け上がる。 「相棒馬鹿だけどすげーなあ」 「馬鹿は余計だぜえ」 一発で首を撥ねてやるクソ女。 「油断したわくそっ、ガキの癖に!」 使い魔の男が右腕を凄い勢いで登ってくる。捕まったら確実に殺される、そんなオーラを全身から発散させながら。 だが、もっとヤバイ状況を腐るほど乗り越えてきたこの私は慌てない! 「……なあんてね」 フーケはゴーレムの右腕を、根元から切り離した。 「うおあああああああああ」 畜生、まさか切り離してくるとは思わなかったぜえ。 いや、あの再生能力を持ってすれば切り離すのが当然か。だが、腕が一本なければ足から登れるぜ! 「相棒―――!」 デルフリンガーが五月蝿い。ちょっと黙ってろ。 体勢を立て直し着地する。 「何度でも上ってやるぜフーケさんよおおおお」 「あんたの身体能力は本当に馬鹿がつくね!」 「ならいい加減に諦めやがれえ!」 「何のために」 「はあ?」 「あたしが何のために腕を切り落としたか分かるかい?」 「なに言ってやがんだあ?」 「このゴーレムはねえ、ダメージが[鈍い]のよ?すぐに[再生]するからねえ」 「それがどうしたああああ!」 「自然に、あんたが近づいて、なおかつ腕を切り落として不自然じゃあない状況!」 「なにわけわかんねーこといってやがんだああ!」 「[再生]するわよ」 「すりゃーいいじゃねえかよおお、その間に上ってぶっ殺してやるぜえ!」 「あんたごとね!!!」 「相棒、下だっ!!!」 下あ? 「オバアアアアアアアアアアアアアア!!」 まさか、そんな。オレが土ごときに! 「や、やりやがったなクソ女ああああああああ」 「負け惜しみならなんとでもお言い!」 畜生、勢いが早すぎる、すまねえサビ剣、もう持ってられねえ。 「プげッ」 「相棒ああああああああああああああ!」 乾いた音を立てて、デルフリンガーが地面に落ちた。 畜生、動けねえ……息もできねえ……なんだっけ……前もこんな…… ……おまえが行くのだセッコ、おまえの「……」がっ! なんだよ、オメー誰だ、どこに行くって言うんだあ? 「いけッ!」 しつけえなあ。動けねえって言ってんだろ? 「硬い」硬いのに沈んでいく。 そんなわけあるかよ。 「潜った」ぞッ! ああ、オレは潜り込まされてるぜ。 「地中に潜るまでもねえ」 そうか……オレは…… 「あははははは!あたしの方が一枚上手だったわね!ついでにあんた達もぶっ殺してやるわ!」 フーケが高笑いしている。畜生。 「ああ、もう終わりだわ……」 キュルケが泣きそうな顔でこっちを見る。ルイズは気絶したままだ。 シルフィードの元気がない。 「破壊の杖はある」 言い返してはみたが、この状況を何とかする術が思いつかない。 唯一ゴーレムと戦えていたセッコは、ゴーレムそのものに飲み込まれてしまった。 まだ何も、何も謎は判明してないのに。 あれ、どうしたんだろう? 「ゴーレムの様子がおかしい」 「本当ね。あの使い魔まだ生きてるのかしら?」 そんな馬鹿な。土に頭まで飲み込まれて生きている人間などいるわけがない。 「もっとしゃんとしなさいよ!あいつらに土の塊をお見舞いしてやりな!」 どうもゴーレムの動きが鈍い。魔力はまだ十分残っているというのに。 一体どうしたの、不純物が混ざったからかしら? 「勝利を確信したとき、そいつは既に負けている っつーのは誰の言葉だったかなあああ、畜生、思い出せねーぜ。オメーの言葉じゃねえのは確かだがなあー」 そんな馬鹿な。 今最も聞きたくない声が、足元から。 足元……? そんなわけがない。ここはゴーレムの肩の上だ。 きっと幻聴よ。珍しく苦戦したし。 「死ね」 違う、やはり後ろに誰かいる。 「うああああああああああああ!」 森の中にフーケの絶叫がこだまする。 そして巨大ゴーレムが崩れ落ちた。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/zerolibrary/pages/50.html
【種別】 メイジ 【属性】 土 【解説】 本名は『マチルダ・オブ・サウスゴータ』といい、元アルビオンの上級貴族。 マチルダの父が、ティファニアの父からティファニア達を匿うよう頼まれた。 しかし結局は王家にばれてしまい、サウスゴータの名は失墜した。 しかしそれでも、マチルダはティファニアの世話を焼き、定期的に仕送りを行っている。 ロングビルやフーケと名乗り、盗賊家業によって金を得ていた。 土土土のトライアングルで、巨大なゴーレムを作るのが得意。
https://w.atwiki.jp/zerolibrary/pages/51.html
【種別】 メイジ 【属性】 不明 【解説】 本名は不明。 ティファニアの父の部下。サウスゴータ近辺を治めていた太守。 王家に、ティファニアらの事が知られた際、匿うように命じられ、それに従った。 その事から、よほどの腹心であったことが推測される。 しかし結局は匿っていることが知られ、王軍に攻め込まれた。 本人はおそらくその時に死亡している。そして『サウスゴータ』の名も奪われた。 しかし、彼の娘であるマチルダは今もティファニアを匿い続けている。
https://w.atwiki.jp/zerolibrary/pages/13.html
水 ラ・ラメー ラ・ロシェール 竜の羽衣 ルイズ レコンキスタ
https://w.atwiki.jp/zerolibrary/pages/65.html
【種別】 人名 【解説】 ティファニアの父の名前。 ジェームズ一世の弟でもあり、現トリステイン国王のヘンリーの弟。
https://w.atwiki.jp/zerolibrary/pages/12.html
【種別】 キャラクター 【所属】 トリステイン
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2666.html
「そうか…フーケは見付からなんだか」 「ですが、『呪いの大剣』取り戻せたので上出来ではないでしょうか」 学院長室でオスマンがフーケ改めロングビルから報告を受けている。 今居るのは、ルイズ、キュルケ、タバサ、イレーネ、ロングビル、コルベール、オスマンの7人。 「途中、呪いを受けたと思われる者と戦い、なんとか勝利しましたが…学院長はご存知だったんですか?」 「なんと…よく無事で戻ってきたの」 あの覚醒者の姿を思い出したのか、三人娘の顔が若干青くなっている。まぁ無理も無い。 「彼女がいなければ、全員殺されているところでした」 全員の視線がイレーネに集まったが、何時もと変わらない表情だ。 「分かったじゃろう?あれが持ち出し禁止になっていたわけが」 「とても」 「すっごく」 「非常に」 三人がほぼ同時にそう答えたが、もちろん、イレーネだけは別だ。 「フーケは取り逃がしたが、『呪いの大剣』を取り戻し 化物を討伐したからには『シュヴァリエ』の爵位申請をしておくが…王室の堅物どもがどう出るか分からん。却下されても悪く思わんでくれ」 現物を見ればそうでもないだろうが、死体は高速剣によって肉片にされてしまっている。 「代わりと言ってはなんじゃが、夜の『フリックの舞踏会』は君達が主役じゃ。せいぜい着飾っておくのじゃぞ」 「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました!」 少しばかり残念そうだった三人だったが、キュルケを筆頭に一気に明るくなる。 「では、私もこれで」 先に、ロングビルが退室し続いてキュルケとタバサが外に出たが、イレーネが残った。 「私は、この御老体に話がある。先に行ってろ」 「…分かったわ。ちゃんと舞踏会に来るのよ」 ルイズが外に出た後、コルベールも気を利かせて外に出ると、部屋にはオスマンとイレーネの二人だけになった。 「どれ、何か聞きたい事があるようじゃな。エルフのお方」 「この大剣…クレイモアを何処で…いや、何時手に入れた?」 オスマンが目を細めたが、構わずにイレーネが続ける。 「印がある以上、これは我々が使っていた物だ。そしてあの覚醒者」 「これは…一年ぐらい前じゃったか。私の命の恩人の形見じゃ」 一年前と言うと、キュルケがそのあたりから行方不明者が出ていると言っていた頃だ。 「森を散策し、ワイバーンに襲われたところを彼女が救ってくれたのじゃが、怪我をしている体で剣を振るい、ワイバーンを切り伏せてしまった」 「なるほど、負傷した身体での妖力解放か…」 覚醒した原因はそれだろう。 妖力から見て20前半~10後半ナンバーの戦士と見たが、そのクラスなら妖魔如きにそれ程の負傷を負うはずはない。 覚醒者狩りの直後と見て間違い無さそうだ。 「剣の呪いを受けたのか、苦しみ出しての…私に向かって『人として葬ってくれ』と言ってきた」 「だが、やらなかった…というところか」 「治療しようと学院に運ぼうとしたのだが…結果は知っておるのじゃろう?」 「よく逃げ切れたものだな。一般人が逃げ切れる相手ではないぞ」 「…美味しくなさそうって言われての…ありゃあショックじゃった…」 どこか遠くを見ているが、まぁそうだったのだろう。 「まぁいい。お前達が言う呪いだが、この大剣にはそのようなものは無いぞ」 「本当かね?だが、彼女は確かに呪いで…」 「ああ、確かに呪いといえば呪いだろうさ。違うのは剣にではなく私達に…という事だろうが」 訝しげにしていたので論より証拠。何も手にしていない様態で軽く妖力解放をしてみせた。 「これは…!」 「妖力解放。一割で目の色が変化し、三割で顔付きが妖魔に近くなり、五割で体付きも変化する 八割を超えると限界を超えたという事になるのだが…恐らく、御老体が出会った戦士は負傷のせいで限界を超えてしまったのだろうな」 「限界とは?」 「我々、クレイモアと呼ばれる戦士は妖魔の血肉を身体の中に取り込んで作られた存在でな 妖魔を惨殺する我々にも妖魔の力を使うと人としての精神の限界を迎え、それを越えると『覚醒』する」 「エルフではないと…?」 「見た目で判断せんでもらおう。我々の特徴としては、妖魔の血肉を取り込んだ時点で髪の色素が抜け落ち、瞳の色が銀色になる」 「そのため、『銀眼の魔女』『銀眼の斬殺者』と呼ばれていてな、皮肉な事だが、その戦士が覚醒すると妖魔よりも厄介な存在へと変貌する 大抵は、限界を超える前に自ら命を絶つか、殺されたい仲間に黒の書というものを送り覚醒を防ぐのだが……」 もっとも、この件に関してはオスマンにどうこう言う気は無い。 向こうですら一般人に対する建前は覚醒者の事を異常食欲者という妖魔の一部という事しか知らされていないのだから。 「そもそも、私が居た場所では魔法なぞ無かったし、月も一つしか無い。生活レベルは同程度だが、これは致命的に違う事だぞ」 「ふむ…月が一つという事は別の大陸から…というわけではなさそうじゃの」 「別世界というのも陳腐な話だが…召喚という事を考えると、そう考えたほうがいいのかもしれん」 「ふむ…」 この状態なら、ナンバー6あたりまでの戦士となら渡り合えるだろうが、上位ナンバーが召喚されでもしたら少しばかり分が悪い。 そもそも、筋力は一般人並に落ちているのだ。 そこで、知っているかもしれんとして聞きだす事にした。 「剣の類を掴むと力とスピードが上がっているようになっているんだが…分かるか?」 「…その左肩の印がガンダールヴの印という伝説の使い魔の印で、ありとあらゆる武器を使いこなしたとそうじゃ。だが…私はお主が武器を使う所を見ておらんので…」 オスマンがそこまで言うと、イレーネの周りの装飾品や床が一瞬にして無数に切り裂かれる。 「技の名は『高速剣』。さっき言った妖力解放を右腕のみに使った技だ」 半分呆然としているオスマンを放置して続ける。 「これでも、力とスピードは前の半分といったところだが…再生した腕では出せる物ではない。見てのとおり、腕の強度も戻っているわけではないしな」 おかげで、持続力も大分落ち込んでいる。回復するのにも妖気を必要とするため、やがり多用できる技ではなくなってしまっている。 「やはりガンダールヴのようじゃの。剣を持った時にルーンが光っておる」 「なるほどな。まぁ、それはいいとして、頼みがある」 「言ってごらんなさい。できるだけ力になろう」 「…もし私が限界を超えそうな時は、躊躇せずに首を撥ねろ」 「それは…」 「御老体が遭遇したのより遥かに強大な化物が産まれる事になる。これでも、かつてのナンバー2だったんでな」 ナンバー2と言っても、かつてのナンバー1であり深淵の者の一人。 南のルシエラと同等の力を持つラファエラにも両腕さえ健在なら勝つことが出来る程の力の持ち主だ。 覚醒すれば、深淵の者クラスの覚醒者になるだろうという事は容易に想像が付く。 まして、対抗する他の深淵の者も居らず、組織も無いのでは国どころか、ハルケギニアが終わりを迎えかねないのだ。 ただ、それ故テレサとプリシラは別次元の存在だと認識居ているのだが。 「何時になるかは分からんが…覚醒しそうになったら、頼むぞ」 「すまんの…ただ、私はお主の味方じゃ。これだけは覚えておいて欲しいガンダールヴよ」 「そうしておこう。それと、この大剣だが…私が貰っておいても構わんな?少なくとも人が扱える代物じゃないよ。こいつは」 全長165cm、重量7Kというクレイモアをマトモに扱える一般人はそうは居ない。振れたとしても肩が外れてしまいかねない。 「恩人の形見だったが…いいじゃろ。元々お主達の物だからの それと、お主がどういう理屈で、こっちの世界にやってきたのか私なりに調べてみよう」 「期待せずに待ってるよ」 今のところは帰るつもりは皆無だ。 むしろ帰ると粛清されるので、こっちに居たほうが都合がいい。 部屋から出ようとした時にデルフリンガーが話しかけてきた。 心なしか、声が震えているような気がする。 「相棒…その剣なんだけどよ…」 「これか?お前なら分かるはずだ。呪いなんぞ掛かってはいないさ」 「いや、違うっつーか…なんでもねぇ」 「?…まぁいいが」 丈夫さだけが取り得のボロい錆びた剣。錆び一つ無く、丈夫でしかも使い慣れた剣。 一般的に考えればどちらを選ぶかというのはデルフリンガーにも分かった。 だが、聞こうにも何時もと同じ冷静さを保っているので逆に聞き辛く聞けないでいる。 いつもと同じに、さらりと『いらん』と言われた日には再起不能になりそうだったからだ。 食堂の上の階の大ホールでフリッグの舞踏会が行なわれていたが、イレーネは特に何もする事が無く、会場を眺めていた。 性質上、料理は食べずに済むし、ワインも飲む必要も無いからだ。 さすがに、シエスタがわざわざ持ってきてくれた料理には少し手を付けたが、それで十分だ。 デルフリンガーとクレイモアの二本を背負っているので結構浮いてたりもする。 ホールを一瞥したが、キュルケが沢山の男に囲まれ笑っている。 こういう場所は彼女の独壇場らしい。 近くのテーブルではパーティドレス姿のタバサが、小柄な身体に似合わず料理を順調に食べ進んでいく。 「正直、お前達を見ていると羨ましくなるよ。我ながら、つまらん生物だとは思うが…やはりこの手の場所は性に合わん」 戦士になる前ははどうだったかとも思ったが、今はあまり覚えていない。 戦士になってから、常に生死の境を渡ってきたので、この手の場所には全くと言っていいほど慣れていないのだ。 「…お礼」 タバサがそう言ってサラダの乗った皿を差し出してきた。 森の件での事…という事らしい。 「少し貰おうか」 特に断る理由も無かったので口に運んだのだが…危うく妖力解放しかけた。 不味い。この上なく不味いのだ。 不味いだけならともかく、体験した事の無い類の苦味が一瞬にして広がった。 顔には出さないが一杯一杯である。 なおも、皿を付き出してくるタバサが何か別の物に見えたぐらいだ。 (あら…イレーネさん…どうしたんですか?駄目ですよ…一度手を付けた物は…全部自分で食べてください…) 「プリ…シラァ…!!」 「?」 プリシラの声が聞こえたような気がしたが、多分幻聴か何かだ。 「ああ…すまん…これで十分だ」 「美味しいのに」 一先ずそれで収まったのか、再びタバサが料理に手を出し始めたが、例のサラダを苦にした様子も無く食べる姿に心底驚いた。 「私はまだ…タバサを過小評価していたというのか…?やつはまだ……やつはまだ…おかわりすらしているんだぞ…!」 一瞬、化物を見た気分にしてくれたが、思い出したくないので忘れる事にした。 「どうしたんですか?顔色が少し悪いみたいですけど」 「…分かるか?」 「ええ、イレーネさんでもそんな事があるんですね」 声を掛けてきたのは、忙しそうにしているはずのシエスタだ。他人から見ても少し顔色が悪く見えたらしい。 「何か用か?忙しい中だ。それだけではあるまい」 「あ、はい。ミス・ヴァリエールがお呼びです」 「分かった。行こう」 しばらくするとホールの扉が開きパーティドレスに身を包んだルイズが出てきた。 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~!」 衛兵が到着を告げると、ホールの男子生徒の目線が釘付けになる。 その後ろに、戦士の物とは違う銀の装飾で纏められた軽装の鎧を付けたイレーネも。 はっきり言えば実戦向きではないし、邪魔なだけだったがルイズに『お願い』され承諾した形になる。 ルイズは長い桃色掛かった髪をまとめ、化粧を施し元来持つ高貴さを嫌と言うほどに出し 対照的にイレーネは、殆ど素のままだったが、銀の装飾の鎧、銀の長い髪、銀眼、と 銀一色で纏められたその全身がホールの光を反射し、輝いているようにも見えた。 エルフ的な容姿もあり、それは一層強調されている。 「まったく…邪魔な装備が多いなこれは。役に立たんぞ」 「いいのよ。飾りなんだから」 イレーネが歩く度に、銀髪が揺れ光を乱反射し、ある意味ルイズより目立ってはいるが この場合、ルイズに付き従う騎士という具合なので、ルイズを引き立てているようになっている。 男子生徒は、ノーマークだったルイズの美貌に気付き群がるようにダンスを申し込んできたが イレーネの場合、どちらかというと女子生徒にダンスを申し込まれていた。 長身、鎧姿、隻腕、背に背負ったクレイモアと、美しいというよりは、格好良い範疇に入るのでそうなってしまっている。 ヅカ的なノリだ。ナンバー9『ジーン』ならばイレーネより適任であろうが、この場に居ないので仕方無い。 「おい…どうにかしろ」 「いいじゃない、相手に合わせれば。訓練とか受けてるんでしょ?」 「ここまでは予想外だ。そもそも、このような場に我々が出ること自体がだな…」 「それなら、このキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーが、ダンスのお相手を勤めさせて頂いてもよろしいかしら?騎士殿」 「…勝手にしろ。片腕しかないからな。どうなっても知らんぞ」 もう諦めたようだ。どうせやる事になるのなら、知っているやつのがいいと、キュルケで妥協した。 元々、運動能力がズバ抜けているクレイモアだ。そして、そのナンバー2。 最初こそ少し慣れないでいたが、数十秒もすると完全にキュルケに合わせられるようになっていた。 「惜しいわねー…」 何時もと変わりない冷静な表情のイレーネを見てキュルケが呟く。 何が惜しいかと言うと、無論性別だ。逆なら確実に『微熱』が燃え上がっているところである。 この後、数人相手し、何故か感銘を受けたギーシュの相手を済ますとバルコニーのテラスに身を運んだ。 元の場世とは違い月光が大分ある。それを銀が反射し、近寄りがたい雰囲気を出していたが、ニヤニヤ顔のルイズが近付いてきた。 「ダンス踊ったのホントに初めて?横から見てても、初心者とは思えなかったんだけど」 「こういう扱いをされるなど…向こうでは無かったからな」 「この前言ってた、月が一つしかなくて、魔法が無いって所ね。…信じてあげるわ」 「急にどうした」 「あんなの見たら、信じたくもなるわよ…」 覚醒者を見ては無理も無い。あれに匹敵する異形の化物はこの世界には存在しないようだ。 「ねえ、元の世界に帰りたい?」 「いや、気になるやつはいるが…戻る気は無いさ。それに、こう見えても追われる身なんでな」 「何やったのよあんた…それに気になるやつって?」 「組織を抜けただけだ。別に犯罪を犯したわけではない。気になっているのは、出来の悪い弟子の事でな、生き延びていればいいが…」 「弟子って…あんたまだ若そうに見えるけど実際のとこどうなの?エルフじゃないんでしょ?」 「私達は成長はするが老化はしないんでな。死ぬまでこの姿だ」 もう一つ、覚醒し妖魔化する。…ということは伏せておいた。今言う事でもないし、なによりルイズの爆発では死にそうにない。 「やっぱり、エルフ…いえ、エルフ以上ね。それで、その弟子の名前は?」 「…クレアだ」 パーティが終わり、各々部屋に戻っていったが、学院の外を一つの影が疾駆している。 大剣とデルフリンガーを背負ったイレーネだ。 奇妙な事に、この魔剣はあれから一言も喋ってはいない。珍しいことだ。 「相棒…何処に行くんだ?てか何を…」 「少し用があってな」 ようやく鞘から出たデルフリンガーだったが、さっきより怯えている。 「どうした?剣が気分が悪いと言うのではあるまい」 「そういや…その剣、どうするんだ?」 「ああ、二刀流というわけにもいかんしな。『処理』させてもらうぞ」 『処理』。その言葉を聞いた瞬間デルフリンガーが鞘を戻した。カタカタと震えているような気もする。 無論、そんな気にしないイレーネはさらに速度を上げる。 そうして着いたのは、あの森の小屋があった場所だ。 まだ、覚醒者の血肉が飛び散り、妖気が残留している。 一月ぐらいすれば、自然に綺麗になるだろうが、それまでは人が近づける場所ではないだろう。 「さて…この辺りでいいな」 「最期に一つ言いたいんだけどよ…」 「何だ?」 「そのよ…そりゃあ俺は錆びて、そいつみたいじゃないけどよ、捨てるってのはひでぇんじゃねぇかって思う…んだけどな」 「…何を言っている?お前」 「せめて、予備でもいいから、手元に置いといてくれ!せっかく、良い使い手に出会えたんだからよぉ~~」 涙目。剣に目があるのかどうか分からないが、とにかく、そんな感じだ。 「…お前、自分が捨てられると思っていたのか。そうか、それが妙だった理由か」 そこから移動し、少し見晴らしが良い場所に着くと、大剣を抜き、堅い地面に深く突き刺した。 「へ?そいつ使わねぇのか?」 「これはな…我々が死んだ時には、それがそのまま墓標になるんだよ。 見ろ、ここに印がある。戦士は、この印と同じ物を与えられている。あの覚醒者は、この印のはずだ」 「いや、てっきり、俺が捨てられるもんだと思ったからよ。それならそうとな?」 「私が死ねば、お前がそうなるんだからな。今のうちに覚悟しておけ」 「いや、相棒なら、そう簡単に死なねぇだろ」 「死なないか…幸運は、あの時使い果たしているからな。どうなる事やら」 あの瀕死の状態から、ありとあらゆる幸運で命を繋いだ。 幸運に許容量があるなら、恐らくもう残ってはいないはずだ。 だからこそ、限界を超えそうな時は躊躇無く首を撥ねて貰わねばならない。 大剣がしっかり刺さっているのを確認すると、学院に向かい人外の速度で再び疾駆する。 後に残された物は、限界ギリギリまで人のために生きたであろう戦士が存在したという証だけだった。