約 1,746,355 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9362.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十七話「才人よ再び」 奇獣ガンQ カプセル怪獣ウインダム 宇宙捕獲メカ獣Σズイグル 巨大機械人形ゴブニュ(オグマ) 登場 「ただいま」 学校から帰った才人が居間に行くと、そこに母がいた。短めの髪に、最近太り始めた身体。 「母ちゃん。腹減った。飯にしてよ」 「まだだよ」 「何でだよ。味噌汁が飲みたいよ」 何でもない、どうでもいい味なのに、何だか無性に飲みたかった。 「才人」 「何?」 「あんた、やることやったのかい?」 「やることって?」 「あるだろ? 約束したことが」 「約束?」 「ああ。友達と大事な約束をしたんじゃないのかい?」 そう言われても、才人は思い出すことが出来なかった。 焦って、思い出そう、思い出そうとする内に、才人は目が覚めた。 跳ね起きた自分は、ティファニアの家のベッドの上にいた。傍にタバサが座って、本を読んでいる。 目を覚ました才人に、ゼロが真っ先に問いかけた。 『起きたか、才人。気分はどうだ?』 「ん? 何かすっきりした気分だけど……。これってティファニアの呪文のせいなんかな? よく分かんねぇ。いつもと変わらん気がするけど。でもやっぱり、何か消えたのかな」 才人は自分の顔を見つめているタバサに質問する。 「みんなは?」 「先に帰った。あの、ハーフエルフの女の子を連れて」 「そっか……。薄情な連中だな。人に変な呪文かけといて、おまけに置いてけぼりかよ」 苦笑した才人は、今の己の心境を確認する。 ゼロの言った通り、自分の心の中の勇気は消えていないことはすぐに分かった。この星の人たちの ことは今も大事に感じるし、苦しめられる人のために戦う気概も残っている。 だがそれ以上に、今は地球に帰りたい気持ちでいっぱいだった。こっちに来てから、一年以上も 経っているのだ。家族、友達……顔を見たい人はいくらでもいるし、何もすることがなくとも家の 景色が見たい。 それまでルーンの力によって抑圧されていた分の郷愁の念が、一辺に噴出したのだった。 「……こんな気持ちにされるんだったら、ゼロと分かれた時にしてからにしてほしかったよ。 そしたらすぐに帰れたのに」 『すまねぇ。けどこういうのは、機会がある時にやっておくべきなんだ。次の機会が来るまで、 ずっともやもやしたもんを抱えちまうからな』 才人は自分の左手の甲に目を落とした。ルーンの記憶への干渉は消えたが、ルーン自体は そのまま残っている。 それをぼんやり見つめながら、才人はふとつぶやいた。 「俺の……ルイズへの気持ちっていうかさ、それもやっぱり、“使い魔のルーン”が『こっちの 世界にいるための偽りの動機』と一緒に寄越した、偽りの感情だったんかな」 壁に立てかけたデルフリンガーが答える。 「さあね、分からねえ。相棒の心のことだろうが」 「もし、そうだったとしたら……俺はどうすりゃいいんだろうな」 「さて、どうすりゃいいんだろうなあ」 「パムー……」 タバサの頭の上のハネジローは、才人を見つめて心配そうに鳴いた。 「イヒャヒャヒャヒャヒャ!」 その頃、ルイズたちはガンQの襲撃を受けている真っ最中だった。ガンQは恐怖する彼らに対し、 その反応を面白がるかのようにわざとジリジリにじり寄る。 ルイズは考える。こんな場所で何の前触れもなく、計ったかのようにあんな異形の怪獣が 偶然出現するはずがない。あれもガリアからの刺客に違いあるまい。簡単な任務だと思われたが、 やはり自分たちの動向はガリアに掴まれていたのだ。 「わたしとティファニアが一緒になったところを、纏めて捕まえようってことかしら……!」 反射的に才人の名前を呼ぼうとしたが、すぐに言葉を飲み込んだ。勝手に才人の記憶を いじっておいて、ハルケギニアに縛りつけておいて、彼に助けを求める権利は自分にはない。 ルイズは代わりに、こんな時のためにゼロから預かったカプセル怪獣の小箱を取り出した。 そしてギーシュたちの目がガンQに向いている間に、カプセルを一個取り出して放り投げる。 「お願い、ウインダム!」 投擲したカプセルが開き、ガンQのまさしく眼前にウインダムが召喚された! 「グワアアアアアアア!」 「イヒッ!?」 ウインダムはすぐにガンQに掴みかかって、その動きを制した。 「今の内に逃げましょう! ロサイスまで行けば、駐屯軍がいるわ!」 「あ、ああ!」 「ほら、早く立って! それでも騎士隊の隊長?」 腰を抜かしていたギーシュはキュルケに腕を引っ張られた。ティファニアと子供たちは ミーニンに先導される。 「グワアアアアアアア!」 「イヒャアーッ!」 ウインダムはルイズたちから引き離すようにガンQを殴り飛ばすが……吹っ飛んだガンQの姿が 一瞬にしてかき消えた! 「グワアッ!?」 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 ガンQはウインダムの背後に現れてからかうように飛び跳ねる。振り返ったウインダムが 飛びかかったが、再び消失。今度は三体になってウインダムを囲んだ。 「イヒャヒャヒャヒャヒャ!」 混乱して何度も身体を左右に振るウインダム。完全にガンQに弄ばれている。 「グワアアアアアアア!」 ウインダムは自棄になって一体に額からレーザーを放ったが……巨大な目玉の瞳孔に 吸い込まれていく! 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 ガンQはレーザーのエネルギーを変換し、怪光弾にしてウインダムに撃ち返した。 「グワアアアアアアア!」 強烈な一撃によってウインダムはばったり倒れ、カプセルに戻ってしまった。 「ウインダムが、あんな簡単に……!」 戦慄するルイズ。自分たちはまだ全然逃げられていない。 それでも走らねばならぬ、と懸命に足を動かすのだが……行く手に別の怪獣が立ちふさがっていた! 「な、何だあいつは!? 怪獣か……ゴーレムか!? どっちだ!?」 惑った感じに叫ぶギーシュ。彼の言う通り、新たな怪獣は大部分が金属になっており、 生物とロボット、どっちつかずのような見た目であった。 正面から見たら十字架のようなシルエットは、宇宙捕獲メカ獣Σズイグル! その中央部の 蓋が開き、現れた四連の砲門がティファニアに向けられる。 「! 危ないッ!」 「きゃッ!」 ルイズは咄嗟にティファニアを突き飛ばしてかばった。その代わりにルイズが、Σズイグルから 放たれた光弾を食らう……! 「……あれ?」 反射的に受け身の姿勢を取ったルイズだったが、吹っ飛ばされることは愚か何のダメージも なかった。逆に怪訝な顔になるルイズ。 だが、やはり何もなしではなかった! 彼女の両手の甲に、金属片のようなものが取り つけられていたのだ。 「これは……? うッ!?」 その部分から電流が発せられ、ルイズは磁力により無理矢理腕を広げさせられた。 すると金属片が増殖するように広がっていき、たちまちルイズを閉じ込める十字架へと 変化したのだった! 「ル、ルイズ!」 「馬鹿! あんたが捕まっちゃ意味ないでしょ!」 ギーシュとキュルケはすぐにルイズを助けようとしたが、十字架がΣズイグルに引き寄せ られていき、ルイズは砲門の部分にすっぽりと収まって囚われてしまった。 「ルイズを返しなさいッ!」 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 Σズイグルに杖を向けるキュルケたちだったが、その前にガンQが跳んできて立ちはだかる。 キュルケの放った『ファイアー・ボール』はガンQに吸い込まれてしまい、全く効果がなかった。 「くッ……!」 「わたしが、記憶を奪います!」 キュルケに代わって、呪文を詠唱したティファニアがガンQに『忘却』の魔法を掛けた! これでガンQは記憶を失い、無力化するはず……。 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 そう思われたが、ガンQに何の変化も見られなかった。『忘却』の影響まで受けていない! 「う、嘘!? わたしの魔法がちっとも効かないなんて……!」 初めてのことに衝撃を受けるティファニア。だがガンQはまともな生物ではない、いや科学的な 見地からでは一切分析することが不可能なほどの、不条理が形を成した怪獣。『忘却』の効果を 受ける脳が存在しないのだ! キュルケたちがガンQに足止めされている間に、Σズイグルは空高くに向けて浮上していく。 その先の空間にワームホールが開かれた。 「見ろ! 空に穴がッ!」 「ルイズを連れ去るつもりよ!」 「は、早く何とかしないとまずいぞ!」 「もう魔法の射程外よ……! こんな時に、せめてタバサがいてくれたら……!」 無力さを悔しさとともに噛み締めるキュルケ。タバサのシルフィードならば、ガンQをかわして 上空へ逃げるΣズイグルを追いかけることも出来るのに。 「くッ……!」 一方でΣズイグルに囚われているルイズは、必死にもがいて脱出を図るも、少女のか弱い 筋力ではそんなことは土台不可能であった。 それでもルイズはゼロに、才人の名を呼ぶことだけはせずに、最後まであきらめない気持ちで 抵抗を続けた。 ルイズたちの異変を感知したミラーナイトは、同時に出現した怪獣を多少無理してでも 迅速に倒し、ルイズを助けに鏡の世界の道を全速力で駆けていた。 『間に合え……! ルイズ、今行きますッ!』 ミラーナイトは肩を負傷していた。怪獣を素早く倒すために捨て身の戦法を取ったため、 その代償として受けた傷だ。 だがミラーナイトは苦痛も振り切って、ルイズのために急ぐ。アルビオンはもう目の前だ。 ……が、途中で目に見えないバリアに激突して、それ以上先に進めなかった! 『な、何ぃッ!? 鏡の世界に、道を阻む障壁が!?』 衝撃を受けるミラーナイト。これは明らかにただごとではない。これもガリアの妨害か! しかし、まさか鏡の世界にまで干渉してこようとは! この分では、外部からもアルビオンに 突入することは不可能だろう。 こんなことまで出来るとは、一体ガリアはどれだけの力を有しているというのか! ……いや、 今問題なのは、ミラーナイトたちまでがルイズを救出することが出来ないということだ! ルイズはこのまま、ガリアの手に落ちてしまうのだろうか! 「ん?」 己の感情について悩む才人の左目が不意にかすんで、空の光景が映った。遠く眼下には 怪獣ガンQと、ギーシュたちの姿がある。 それは使い魔のルーンの効力により、つながったルイズの視界だった。彼女が重大な危機を 感じたことで、自動でルーンの力が発動したのだ。 「全く……何であいつってば、こう間が悪い訳?」 苦々しくぼやきながら、ベッドから飛び降りる才人。そこにゼロが尋ねる。 『才人、行くのか』 「当たり前だろ」 『……戦えるのか? 今の心境で』 心配するゼロだった。望郷の念で心がかき乱されている状態で、満足に力を発揮できるのか。 下手をしたら、才人に最悪の事態が起こる。 しかし才人は安心させるように、フッと笑った。 「大丈夫だ。何か、急にやる気になってきたからさ」 「相棒、娘っ子のことは好きなのかね?」 デルフリンガーが聞くと、才人は憮然とした声で返した。 「いや、やっぱり好きじゃねぇ。あんな女、わがままで、バカで、気位ばっかり高くって……。 冷静に考えてみると、やっぱり全然好きじゃねぇ。というか腹立つ。何捕まってんだよ。迷惑だっつの」 「じゃあ何で、助けるんだね?」 「……そんな女だけど、悔しいことに見てるとドキドキすんだよね。これが巷で言うひと目ぼれ だとしたら、俺はその存在を呪おうと思う。あーあ、せっかくさよならできるところだったのに……」 ぼやいていると、タバサが笑っているような気がして驚いて振り返った。 「なぁお前、今笑った?」 「気のせい」 「なぁ、笑ったろ! なぁ!」 「パムー」 ハネジローは嬉しそうな鳴き声を上げていた。 『才人! 行くんなら早くしねぇと間に合わねぇぞ!』 「ああそうだった! タバサ、先に行くぜ!」 才人はウルトラゼロアイを出すと、いつもよりも勢いよく装着した。 「デュワッ!」 Σズイグルは既にワームホールのすぐ真下にまで差し掛かっていた。後一分もしない内に、 ルイズはどこか別の場所へ連れ去られてしまうことだろう。 もう駄目だと、ルイズがギュッと目をつむった、その時、 「シェアァァッ!」 猛然と飛んできたゼロがΣズイグルに飛びつき、ワームホールに突入するのを阻止した。 「えッ……!?」 驚いて目を開けるルイズ。ゼロは捕まえたΣズイグルを引きずり下ろし、自分ごとまっさかさまに 地上に叩き落とした。 「テェヤッ!」 起き上がったΣズイグルの中から、ルイズはゼロの立ち姿を、その中の才人を見つめた。 「サイト……どうして……?」 『ルイズ! 元々動けねぇだろうけど、じっとしてろよ!』 才人の声が聞こえた。ルイズはゆっくりと目を閉ざすが、先ほどの絶望の現実から目をそらす 行為とは異なり、心から安心して才人にその身を託す意志が宿っていた。 「ハッ!」 ゼロはデルフリンガーを出すと、一瞬でΣズイグルに剣を突き立て、刃を走らせた。 そして引き抜くと、刃の上に繰り抜かれた十字架が乗っていた。何と精緻な達人技か! 「ルイズ!」 ゼロはデルフリンガーを地面に刺し、十字架を滑らせてルイズを地上に下ろした。そこに キュルケたちが駆け寄り、ギーシュのワルキューレによって十字架がこじ開けられた。捕獲を 目的としたもののためか、強度はそこまでではなかった。 危ないところでルイズを取り返すことは出来たが、怪獣たちを倒さないことには状況は 変わらない。ΣズイグルとガンQ、二体の怪獣が同時にゼロに攻撃してくる。 「イヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」 Σズイグルは腕を出して、指先から光弾を乱射してくる。ガンQは肉体から複数の眼球を 飛ばして、そこから怪光弾を発射する攻撃だ。ゼロは四方八方からの集中攻撃に晒される。 『ぐッ……!』 猛攻に一瞬ひるむゼロだったが、すぐに体勢を立て直して叫んだ。 『何のこれしき! 今日の俺たちは、ちっとばかし過激だぜぇッ!』 光弾を浴びながらもガンQに向けて跳躍。空中からの回し蹴りを食らわせる。 『でりゃあッ!』 「イヒャアッ!?」 眼球からの光弾を途切れさせると、バク転しながらΣズイグルに接近。雷光の如き勢いで チョップを振り下ろした。 『だぁぁぁッ!』 手刀は本物の刀のようにΣズイグルの右腕を切断した! Σズイグルは大きくよろめく。 一方でガンQが起き上がるが、ゼロはそれを待ち受けていたかのように高速移動で肉薄し、 ガンQのど真ん中に鉄拳を繰り出した。 『せぇぇぇぇぇあぁッ!』 「イヒャァーイッ!」 ガンQは殴り飛ばされて宙を高々と舞い、森の中に転落した。 そしてゼロは振り返りざまにワイドゼロショットを発射! Σズイグルは光弾を撃って 反撃するが、必殺光線は光弾も軽々押し戻してΣズイグルに突き刺さった。 強烈な一撃により、Σズイグルは一瞬にして爆散した! 「イヒィッ!?」 『お前にはこれだッ!』 ゼロはΣズイグルを撃破した勢いのままに振り向き、ルナミラクルゼロに変身すると地を蹴り、 ガンQに向けて一直線に飛んでいく! 『はぁぁッ!』 ゼロスラッガーを両手に握り締めて、ガンQの目玉の中に自ら飛び込んだ! 次の瞬間に、ガンQは内側からズタズタに切り裂かれる。 「イヒャアアア――――――!?」 ガンQが一瞬大きく膨らみ、破裂。跡にはウルトラマンゼロが片膝を突いた状態から、 カラータイマーを鳴らしながら立ち上がった。 「す、すごい! 今日のゼロは一段とすごい戦いぶりだったな!」 流れるような戦いぶりで敵を二体、瞬く間に打ち破ったゼロに、ギーシュが熱にうかされた ような声を上げた。その後ろでは、ルイズがゼロを見上げて様々な思いが入り混じった微笑を浮かべた。 と安心し切っていた彼らだが、 ドズゥゥンッ! 「!?」 ゼロの背後にいきなり巨大ロボットが着地したのだった。首と胴体が一体化した左右非対称の 歪な外見であり、顔面部分の四つのランプがスクロール点滅している。 巨大機械人形ゴブニュ、オグマタイプだ! 『まだいやがったか! であぁッ!』 ゼロが瞬時に詰め寄ってパンチを浴びせたが、ガァァァンッ、と鈍い音が鳴るだけで、 ゴブニュはびくともしなかった。 『か、かってぇぇッ! 尋常じゃねぇ硬さだ!』 拳が痺れてあえぐゼロ。ゴブニュ・オグマタイプの装甲は特殊な金属製であり、よほどの 破壊力でなければ傷一つつかないほどの頑丈さなのだ。ゴブニュは腕で自らのボディを叩き、 まるで堅牢さをアピールしているようである。 ゼロもまた、生半可な攻撃は意味がないことを悟るが……そんな時に限ってカラータイマーの 点滅の間隔が早まり、エネルギーがもうほとんど残っていないことを知らせた。 『しまった! 最初に飛ばしすぎたぜ!』 強力な必殺光線を放つ分も残っていない。ルイズも魔力切れを起こしているので、彼女の 魔法でエネルギーチャージすることも不可能だ。万事休す! ゴブニュはゼロに鉄拳を返す。 『ぐわぁぁぁぁッ!』 殴り飛ばされたゼロが崩れ落ち、片膝を突く。もう立っていられるだけの余力すらなかった。 『も、もう限界だ……! 変身を解かざるを得ねぇッ!』 これ以上のエネルギー消費は最早命に関わる。ゼロはやむなくその場で変身を解き、消えていった。 「ぜ、ゼロが消えてしまった! ぼくたちはもう終わりだぁぁぁーッ!」 「だから、すぐに取り乱すんじゃないのッ!」 頭を抱えて絶叫するギーシュを叱ったキュルケだが、彼女も内心ではどうすればいいのか 分からない状態であった。あのゼロの攻撃も寄せつけないゴブニュを退ける手段が、今の 彼女たちには残されていない。 ゴブニュはこちらに振り向くと、ルイズを狙って突き出た頭頂部の尖端から放電を飛ばしてきた! 「きゃあああッ!」 ルイズの危機! そこを救ったのは、横から飛び込んできたタバサ。シルフィードに跨った 彼女は素早くルイズを拾い上げて、電撃から逃れた。 「よぉ」 シルフィードの上には才人もいた。変身解除と同時にタバサが回収していたのだった。 ルイズは彼に向かって思わず叫んだ。 「あ、あんた、何で来ちゃったのよ! 呼んでないでしょうが!」 「勝手に危なくなっといて、よく言うぜ。俺だってなぁ、出来ることなら来たくなかったよ」 ケッと目を細めて憎まれ口を叩く才人。 「けど、キュルケやギーシュ、ティファニアがやべぇだろうが。シエスタとか姫さまとか、 タバサの母ちゃんだってほっとけねぇだろうが。俺は友達を助けに来ただけだ!」 「何ですってぇ? わたしはどうなのよ! その中にわたしは入ってない訳!?」 ルイズは頭に血が上り、怒鳴り返した。 「何よ! やっぱり使い魔だから好き好き言ってたのね! さいってい!」 才人は怒りを通り越した声で叫んだ。 「あのなぁ。あんだけ好き好き言ってるのに、応えてくれない女を好きになる奴なんていねぇよ!」 「え?」 「お前といえば、気位ばっかり高いわ、すぐに怒って暴力を振るうわ、そのくせいい気になったら すぐ調子に乗るわ。お前が好きだなんて言ってたのは、やっぱり使い魔としての好きだわ。以上でも 以下でもありません。俺はこれから、そういうことにする」 「ちょっと待って! ほんとに認めないでよ! ひどいわ!」 才人とルイズがやいのやいの揉めていると、デルフリンガーが割り込んだ。 「相棒も娘っ子もいちゃついてるとこわりいんだけど、そろそろあれを何とかするのを考えねえとやべえぜ」 「誰がいちゃついて……うわッ!?」 才人とルイズが怒鳴ろうとしたが、シルフィードが急に傾いたので舌を噛みそうになった。 ゴブニュがシルフィードを狙って電撃を連続で飛ばしてきているのだ。シルフィードは 巧みにかわし続けているが、このままではいつ撃ち落とされるものか分からない。 タバサがルイズの方を向いた。 「虚無」 「撃てないのよ!」 「何故?」 「精神力が切れちゃってるの!」 「溜めとかなきゃ」 「虚無は寝れば溜まるってもんじゃないのよ!」 タバサはしばらく考えると、いきなり“レビテーション”を唱えて、才人を自身の側に手繰り寄せた。 「ど、どうしたんだタバサ?」 戸惑う才人に、タバサはルイズにも聞こえるような声で、才人に告げた。 「この前の続きをする」 「は? この前の続きって何……むぐッ!?」 才人の言葉はさえぎられた。タバサの唇で。 タバサは才人に突然キスをしたのだった。しかも濃厚に舌を絡めて、吸い上げる。 「パムー!」 ハネジローは恥ずかしげに小さな手で目を覆い隠した。 一方、この光景を見せつけられたルイズは一瞬、頭が真っ白になった。しかしキスをしていると いうことを理解すると、肩が地震のように震え出す。 「あ、あんたたちぃ……こここ、こんな時にぃ……」 タバサは才人の首に腕を回し、小さな身体を密着させる。 「こ、ここ、この前の続きですってぇ―――――――――――ッ!? やっぱりそういうこと してたんじゃないのぉぉぉ――――――――――――――――――――ッッ!!!」 桃色の髪がぶわっと逆立ち、鳶色の瞳が燃え上がった。極限まで高められた怒りが精神力を 生み、魔力のオーラとなってルイズの身体を包んだ。 タバサは才人の身体からぱっと離れた。 「今」 ルイズは我に返り、“エクスプロージョン”の呪文を唱え始めた。 その様を呆気にとられてながめる才人が、ハッと気がついた。 「そうか! タバサはこれを狙って! わざとルイズの怒りを招いて、精神力を回復させたんだな!」 『えーッ!? これでいいのか!?』 ゼロが思わず叫んでいた。 呪文を完成させたルイズは、溢れ出そうな魔力を杖の先の一点に集中し、一気に振り下ろした。 白い光が、ゴブニュの一点に現れた。 光が大きく広がってゴブニュを包み込む、次いで耳をつんざく爆発音が響いた。 もうもうと立ち昇る硝煙。ルイズと才人は降下したシルフィードの上から地面に下りる。 「やった……か?」 静かにつぶやく才人。ゴブニュがどうなったかは、煙に紛れていて見えない。あれほどの 爆発を受けて、無事では済まないと思うが……。 だが……煙の中からぬっとゴブニュが出てきた! 「!?」 思わず言葉を失うルイズたち。まさか、エクスプロージョンでも倒せなかったのか!? ゴブニュはルイズたちに向けて腕を伸ばす。 「も、もう駄目だわ! 逃げましょう!」 「い、いや待った!」 ルイズは必死の体で逃げ出そうとしたが、才人が呼び止める。 何故なら……ゴブニュは腕を前に伸ばした姿勢で、硬直したからだ。そのまま微動だにしない。 顔面の四つのランプからは、光が消えていた。 茂みに身を隠していたギーシュは、唖然とつぶやいた。 「た……立ったまま死んでる……」 ――ロボットなので死んでいるという表現はおかしいが、ゴブニュは完全に機能停止になり、 それ以上全く動き出す気配を見せなかった。 その後、ゴブニュを各国の研究者が回収しようとしたが、あまりにも重すぎて運ぶ手段がなかった。 しかし砕いて破片にすることも出来ず、装甲の特殊金属は『錬金』も受けつけなかった。 やむなくゴブニュは、その場に捨て置かれることとなった。やがてロサイスと忘れられた村を つなぐ道の途中にいつまでも仁王立ちし続けるゴブニュは、アルビオンの新名所として有名になったという。 「うーんうーん……」 ロサイスからトリステインに戻るフネの中、才人はボロボロになって船室のベッドの上で うなされていた。 どうしてこんなことになっているかと言うと、タバサとのキスでの怒りが“虚無”に費やしても 収まらなかったルイズによって、半ば八つ当たり気味にボコボコにされたからであった。 そこに扉が外からノックされて、ルイズがバツの悪そうな顔で室内に入ってきた。 「あのね。一応、聞いてあげる。大丈夫?」 「お前……殴り過ぎ」 憮然と文句を向ける才人。 「あ、あんたが悪いのよ。あんたが、使い魔としての好きとか言うから。う、嘘に決まってるわよね。 あんた、わたしのこと大好きだもんね」 「こんなことされて、そう言える奴がいたら連れてこい」 「へ、へんだ。大好きなくせに」 「あのな、逆だろ? お前が俺のこと、好きなんじゃねぇか」 「ま、まま、ままま、まさか!」 顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振るルイズ。 「大好きだから、あんなにやきもち焼くんだろ? さっきのキスで怒って精神力が溜まったのだって、 つまりはそういうことなんだろ。見え見えなんだよ」 う~、と半泣きでうなるルイズだが、うなずいてひと言、 「……そうね。そうかもしれないわ」 「え?」 才人が振り返ると、ルイズは勝ち誇った笑みを浮かべた。 「いやだ。犬が涎を垂らしてるわ」 「だ、騙したな! そういうことするからなぁ……!」 プイッと横を向いた才人が、照れ隠し気味に告げる。 「やっぱり、俺、時が来たら帰るからな。本当にな! ……でも、今の中途半端な状態のままじゃ この世界のことが心配で、夜も眠れなくなっちまいそうだ。だから、帰るのはこの世界がある程度 落ち着いてからにするよ」 『才人、本当にいいのか? 別に、無理して俺たちにつき合わなくたっていいんだぜ』 問いかけたゼロに、才人は力を込めて答えた。 「無理じゃないさ。ここで投げ出したら、男が廃る! そうだろ?」 『……違いねぇな』 ゼロは安堵した声を出した。 ルイズの方は、才人のハルケギニアに留まる宣言に嬉しさを感じていた。自分を助けに 駆けつけてくれたことと、ぶっきらぼうな言葉の裏に、自分への愛情を仄かに感じる。 ティファニアの呪文を越えた今、それは彼の本当の気持ちだと分かる。 しかしそれが分かってなお、ルイズには不安が残っていた。自分自身の魅力に自信がないから、 才人が義理で助けてくれているのではないかという気持ちがしこりのように残り、素直になる ことが出来ない。 そのため、本心とは裏腹な言葉を吐いてしまう。 「あ、操られているのはわたしだもん。使い魔に情を抱くように条件づけられているのよ。 だからやきもちを焼いたりしちゃうし、したくもないのに、こんなことしちゃうのね。きっと」 「え? んむ……」 ルイズはタバサのキスを上書きするかのように、才人の唇に自分のそれを重ね合わせた。 才人は唇越しに、ルイズの言葉の嘘を感じ取った。ルイズのキスには熱があるから。 その熱とともに、夢の母が言った、『やること』の意味を噛み締めていた。 アルビオンからトリステインへと近づいていく中で、二人は熱いキスを交わし続けた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6770.html
前ページ次ページゼロの使い魔はメイド 結局、何の対策もないまま、品評会の日はどんどん近づいていた。 「うーん、こっちがいいかしら? いや、こっちのほうが?」 ルイズは色々な服を引っ張り出してきながら、シャーリーの前を行き来している。 何をしているのかというと、品評会の服を選んでいるのだった。 挨拶だけで終わるにしても、いつものメイド服では少々華がなさすぎる。 シャーリーが召喚時に来ていた服もちょっと地味だ。 何気にトリステイン、ハルケギニアのそれとはデザインが異なっているので、悪くはないのかもしれない。 それでもさほど差異があるというわけでもないので、よく観察せねばわかりにくいだろうが。 しかし、色々と服を持ち出してはみたものの、 「今いち、しっくりとくるのがないわねえ?」 であった。 ルイズの服も着れないことはないのだが、学院内では基本制服で過ごすので、それほどたくさんの服があるわけではない。 かといって、まさかパーティー用のドレスなどを貸すわけにいかないし、さすがにサイズの問題もある。 また、ルイズとシャーリーでは髪の色、瞳の色、雰囲気、年齢と色んな違いがあった。 それゆえ、ルイズが着て似合う服も、シャーリーだとどこかチグハグになってしまうのである。 他のメイドの服を借りるという案も出たが、生憎とシャーリーと同年齢のメイドはいない。 比較的年が近いのはシエスタだったが、背丈はもちろんスリーサイズにも違いがありすぎた。 これではルイズの服のほうがましである。 前に街で買ってやった服もあるが、シャーリーの選んだものは比較的地味なものだった。 礼服としても使えぬことはないが、品評会にはちょっと……というものである。 「少なくとも、そっちの対策はしとくべきだったわねえ……」 今さらながら、ルイズは頭を抱えていた。 そんな主人にシャーリーはちょっと、いや、かなり困ってしまう。 シャーリーも年頃の女の子であるから、お洒落には興味がないわけではない。 しかし、メイドの身分でそんなことを考えられるわけもなかった。 さらに仕事に慣れるのに一生懸命で、そういったことに気を向ける余裕はなかった。 ましてやってきたのは、身も知らない、おとぎ話のような魔法の国。 とにかくにも、まず環境・生活に慣れるのが第一であったのだ。 「ああん、もう、どーしよう!」 ついにルイズはへたりこんでしまった。 シャーリーは何も言えない。 そんなことをやっていると、いきなり部屋に入ってくる者がいた。 「ルイズ、いるわよねー?」 赤い髪と褐色の肌の美女……キュルケ。 キュルケはルイズを見て、にまっと笑う。 何だかおっきな猫みたいだな、とシャーリーは思った。 「さっきからバタバタとうるさいと思ったら、シャーリーと何してるのかしら?」 「変な言い方しないで! 明日着る服を選んでるだけよ!」 ルイズはフンッ!と 鼻息を荒くする。 「なるほどぉ。確かに、メイドの服じゃあちょっとねえ?」 キュルケはシャーリーを見ながら、うんうんとうなずいた。 「で、着せる服で悩んでいると――」 「そうよ。悪い?」 「悪いなんて言ってないわ。むしろいいことよね?」 キュルケはシャーリーに近づき、くいっとその指先で顎を持ち上げる。 「あ、あの……」 驚くシャーリーの瞳を、キュルケはじっと覗きこんだ。 「素材は十分にいいんだから、これをそのまま、ってのはもったいない話……」 「だから、やめてって言ってるでしょう!?」 ルイズはシャーリーを抱き寄せるようにして、強引にキュルケから引き離した。 「せっかくだけど、あんたのコーディネートはお断り!! 用がないならとっとと帰って!!」 ルイズはキュルケにべーっと舌を出した。 「まったくゼロのルイズは、胸もゼロなら寛容や柔軟性もゼロなのね」 「好きなように言えばいいわ。ほら、出てって出てって」 ルイズは一瞬不快そうな顔をするものも、しっしと手を振ってみせた。 「……あ、そう」 キュルケはそんなルイズに、つまらなそうに肩をすくめた。 「はいはい、それは失礼をいたしました。邪魔者は早々に退散いたします」 「わかればいいのよ」 ルイズは勝ち誇ったように鼻から蒸気のような息を噴き出す。 「品評会の時、その子に変なカッコさせるんじゃないわよう?」 キュルケは去り際にそう言い残し、ドアを閉めた。 「まったく! 相変わらず嫌な奴なんだから!」 「……」 あっけにとられて二人の淑女の言い争いを見ていたシャーリーだが、その視線はいつしかルイズへと注がれていた。 何故、あの人と仲が悪いんだろう? それが、シャーリーの疑問だった。 確かにあまりルイズと気性が合うようなタイプには思えない。 でも、そんなに悪い人には思えなかった。 何というのだろうか。 お互いに何かというと張り合い、喧嘩をするきっかけを探しているようにも見える。 「あの……」 ――どうして、いつも喧嘩をなさるんですか? つい、好奇に駆られてシャーリーは口に出しかけたが、 「え?」 「い、いえ。なんでもありません……」 ルイズが振り返った時、シャーリーはハッとして言葉を飲み込む。 いけない、これはいけない。 主人のことに、興味半分で口を挟むというのはメイドの分を越えている。 第一無礼だ。 メイドとしては、あるまじき行為である。 シャーリーは内心で自分を叱りながら、無意識のうちに頭を下げていた。 そんなシャーリーの態度をルイズはきょとんとした顔で見ていたが、 「あは、あはは……。そういえば、毎度毎度みっともないところを見せてるわね……」 ルイズは今さらながら赤面して、照れ隠しの苦笑いを浮かべた。 「あ、いえ……」 「自分でも、レディーとして恥ずかしいことだとは思うわけだけど……。色々と、譲れないこともあるのよね」 そう言って、薄桃色の髪をした淑女は、ベッドに腰をおろした。 「あいつ……ツェルプストーと、我がヴァリエール家は昔っから対立し続けたのよ」 ルイズは説明しようとして、ちらりとシャーリーの顔を見る。 どこまで話せばいいのだろう? 「……まあ国境沿いに領地で隣あっててね、戦争が起こった時も何度も戦ってるし……。根が深いわけ」 「はあ……」 「だから、あいつに挑発されると私もすぐにむきになっちゃうのよねえ……。恥ずかしいわ」 ルイズはこつんで自分の頭を叩く。 実は勢いで、先祖代々恋人や婚約者を奪われ続けて話をしかけたが……。 いざシャーリーの顔を見るとさすがに話せなかった。 色んな意味で恥ずかしすぎる。 また、大声で他人にくっちゃべるような内容でもない。 そういえば、と思考が記憶の中から古いものを引っぱりだす。 何代前かのご先祖様で、ツェルプストーに奥さんを取られた人がいたわけだが。 他人事なら笑いの種だが、当人からすれば腸が煮えくり返るような気持ちだったに違いない。 その奥さんのほうは、その後どうなったのだろう? ツェルプストーの妻になったのか、それとも愛人になったのか……。 あるいは、すぐに別れてしまったのかもしれない。 何しろ相手は、あの色きちがいのツェルプストーである。 どうでもいいが、何となく気になった。 仮に別れたとしたら、トリステインにはなかなか戻りにくいかもしれない。 あるいは、その後ゲルマニアで生活したのだろうか? ルイズは未経験だが、外国暮らしというのは、なかなかにしんどいものらしい。 まして、伝統を重んじ石頭と他国から言われるようなトリステインの貴族が、奔放なゲルマニアでうまく暮らせたのだろうか。 「まあ、いいわ」 ルイズは気を取り直し、一枚の服を手に取った。 あれこれと古いことを考えても意味はない。 まずは、シャーリーの服をどうにかしなければ。 「まーたヴァリエールのやつをおちょくりに行ってたのかい?」 イザベラは銃の手入れをしながら、ノックもなしに部屋に入り込んできた悪友に言った。 「まあね」 キュルケは悪びれる様子もなく、イザベラのベッドに腰をおろす。 「よくもまあ、飽きもせず……」 イザベラは呆れた声でつぶやいた。 「だって面白いんだもん」 キュルケはそう言ったが、 「そのわりにゃ、今日はつまらなそうな声出すね」 イザベラは振り向きもせずに言った。 「わかっちゃった?」 キュルケはぼふっと、イザベラのベッドに身を放り出す。 胸元が大きく開かれたその格好は、男の名のつく生き物なら見惚れずにはいられないだろう。 あるいは、同性であっても惹きつけられるかもしれない。 「お前は自分が駆け引きに優れてると思ってるんだろうが……見る奴が見れば全部駄々漏れさ」 イザベラはにこりともしないで言い放った。 「一本取られたわ。やっぱりイザベラは鋭いわ……」 「ニコニコした面の下で、何か企んでるかわからないのが、いっつもそばにいたんでね」 「……それって、ひょっとしてあなたのお父様のこと?」 「………………」 これに対し、イザベラは無言。 「……ごめん。気に障ったなら、謝るわ」 「いや? よくわかったな」 イザベラはくるりとキュルケに顔を向けて、眼を細めた。 笑っているのか、それとも獲物に狙いをつけているのか、よくわからない顔だった。 「あなたは、ほとんど実家のこと話さないけど、時々何気なくこぼしてるから――」 「そうかい。なら、それだけのことと、聞き流しときな」 イザベラは、今度は本当に笑みを浮かべると、また銃の手入れを再開した。 キュルケはゆっくりと身を起こしてから、イザベラの背中を見つめる。 「……そのほうが、いいかもね」 「ああ、そのほうがいい」 イザベラの答えに、キュルケはどこかアンニュイな表情で息をついた。 悩ましげな目元が、匂いたつような色香を放っているが、それを感じ取る者は部屋にはいない。 「何だか、最近のルイズはからかいがいがないのよね。妙にお姉さんぶっちゃってさ」 「私としちゃ結構なことだがね。お前さんとの阿呆な言い争い、ありゃちょっとした騒音公害だ」 イザベラはケケケと声を出して笑う。 「つれないんだから……」 「何を今さら。あたしゃ世界一つれない女だよ」 「あ~あ。せめて、あの使い魔の子が、男の子だったらねえ。そしたらもうちょっと楽しみがあるのに……」 「お前は十二、三の餓鬼まで食っちまうのか? そのうち色恋沙汰で後ろから刺されるぞ?」 「お生憎様。恋に命を燃やすのは、フォン・ツェルプストーの伝統なのよ」 キュルケが体をくねらすと、そのはずみで、大きなバストが揺れた。 「どうせ他人の男や女を取ったとか、取られたかって話だろ? くだらないとは言わないけど、刃傷沙汰に私を巻き込むなよ?」 「あら、その時は助けて~って、泣きつくかもよ? だって私たち、お友達だもの」 イザベラの毒舌に、キュルケはにんまりと笑って見せる。 「……言っとくが、一年の時の馬鹿騒ぎみたいもん想像してるのなら、脳みそがスイーツだよ?」 イザベラは振り返ると、何とも言えない薄気味の悪い笑みを浮かべた。 一年前の新入生歓迎会の折、キュルケは他の女子と悶着を起こしたことがある。 原因は色恋沙汰、本人いわく『情熱』のためだ。 その時は風魔法でドレスを切り裂かれたりと色々あったのだが。 「な、なによ……?」 キュルケは、イザベラの笑いに驚き、思わず身を縮める。 「国の恥になるが、話してやろう。私の故国、ガリアのど田舎で起こった話さ」 イザベラは手入れの終わった銃銃を置き、椅子ごとキュルケのほうへ向き直した。 「別にどうってこたあない。さっき言ったように惚れた腫れたって話がきっかけだけどね」 イザベラは伏目がちに話し出す。 「ある男がある女に振られた。それだけじゃなく満座の中で恥もかかされた。それが始まりさ」 「それじゃわけわかんないわよ。もっと具体的に話しなさいよ」 「じゃあ、言おうか? ある男が嫁になる女を、式の当日に別に男に掻っ攫われた。そいつの名前も言おうか?」 「……いえ、いいわ」 キュルケは首を振る。 「花嫁さんは色男と駆け落ちしちまった。で、村中の前で大恥かかされた男は、どうしたと思う?」 「どうしたの?」 「しばらくは家の中に引きこもってたそうだけど、しばらくたったある日、ぷっつん切れちまった」 キュルケの質問に、イザベラは頭をさして人差し指をくるくる回した後、ぽんと手を開いた。 「切れた? ……自殺でもしたの」 「それだったら、まだ良かったんだけどねえ?」 余計な手間もかからないしさあ、とイザベラは皮肉げに笑い、肩をすくめた。 「そいつはその晩、村中を駆け回って、花嫁と色男の家族・親族を殺して回った。餓鬼も含めて数十人、よくやったもんだよ」 イザベラは笑顔でものすごい話をした。 キュルケは言葉をなくして、イザベラの顔を見る。 「しかし、いくら暴れまわったって所詮一人、それもただの平民だ。追われる形になった男は、結局捕まる前に自分に自分で始末をつけた」 「死んだってことね……」 「ああ、そうさ。迷惑な話だろ? モテない男の嫉妬とか逆恨みってのは嫌だねえ」 「――うわ」 キュルケはげんなりした顔で顔を覆った。 「他にも、色々あるぞ? 話してやろうか?」 「……遠慮しとくわ」 ニヤニヤ笑いのイザベラに、キュルケは全力で拒否の念を示した。 これにイザベラは不意に表情を引き締め、 「男と遊びのは勝手だけどな? もっと遊び方を考えなきゃ、くだらないことになるよ――」 「あなたの言うこと、わかる気はするんだけど……。でも、無理ね、きっと。性分だもの」 「だろうね……」 イザベラは苦笑した。 「あんたは地獄に落ちても色恋沙汰で一生懸命だろうよ」 「もちろん。でも、私にだってそれなりのモラルはあるわ」 「へえ?」 「欲しいものは何だって奪うけど、相手の一番大事なものには手を出さない。それだけは守ってるの」 「それが賢明だろうよ」 「でも、イザベラ?」 「あん?」 「さっきの話、本当のことなの?」 「――ああ、事実さ。十何年か前の話らしいがうちの領内の、すぐ隣で起こったことだからね」 そう言ってから、イザベラは口に手を当てる。 「もっとも、あんまりいい話じゃないから、村の連中や取り調べた役人もあんまり話してないだろうが……間違いは無い」 「ふーん」 「何せうちの親父が拾ってきた話だからな。情報筋は確実さ。っとに、親父は奇談とか珍談とかいうのが死ぬほど好きでね」 あちこちから集めてくんのさ。横で聞かされるこっちの身にもなれって……と、イザベラは顔をしかめる。 キュルケは何とも言えない顔で、 「ユニークなお父様なのね……」 「ああ、死ぬほどユニークだよ。ぶん殴りたくなるくらいにさ」 イザベラはけっとつぶやき、窓の外を見た。 双子の月に、青い髪の少女は父の顔を思い浮かべているのだろうか。 それから、イザベラは後頭部を掻きながら、 「言っておいてなんだが、深くは聞くなよ?」 「そうね。そのほうがいいわね。何となくわかったわ」 キュルケも、イザベラの横に立って月を見た。 「ねえ、イザベラ? いつか、あなたをうちの実家に案内したいわ」 「ゲルマニアには何度も行ってるが……そういや、あんたのうちは行ったことないね」 「でしょ? だから」 「遠慮しとく」 「どーして?」 「そうなったら、今度はあんたをうちの実家に案内しなきゃならなくなるだろ? だからダメだ」 「あら、そんなこと気にしなくっていいのに」 「こっちには気になるんだよ」 悪友の誘いに、イザベラはふんと鼻を鳴らしてみせた。 隣の部屋では―― 「ああー、どうしよう~~! やっぱり良い服がない~~~!!」 服の山の埋もれて、ルイズが頼りのない悲鳴を上げていた。 というか、この山を整理するのは結局シャーリーなのだから、余計な仕事を増やしただけであったりする。 結局、この晩は何の進展もないままふけていった……。 前ページ次ページゼロの使い魔はメイド
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9457.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十九話「破滅降臨」 破滅魔虫ドビシ 破滅魔虫カイザードビシ 登場 ガリア王国の首都リュティスは、聖戦の開始以来ずっと、大混乱の坩堝に陥っていた。 街には南部諸侯の離反によって、その土地から逃げてきた現王派の貴族や難民が溢れ返り、 それがなくとも国民はロマリア宗教庁より“聖敵”にされてしまったことで震え上がり、 連日寺院に救いを求める始末であった。華の都と呼ばれたリュティスは、たったの一週間で 終末がひと足先に訪れたかのようになってしまったのだ。 王軍もまた、反乱を起こした東薔薇騎士団の壊滅から来るジョゼフへの恐怖心と外国軍への 嫌悪感からほとんどがジョゼフに従っていたが、その士気は最低であった。しかも本日未明に もたらされた、カルカソンヌに展開していた最前線の部隊が怪獣に操られ、その末に全員が 捕虜となって文字通り全滅したという報せによって、これ以上下がらないと思われていた士気が どん底になっていた。――ジョゼフは何も言わないが、怪獣が彼の仕業なのはどう見ても明らか。 つまり、かの王は自分たちですら捨て駒としか思っていないのだ。彼らが今もガリア王軍であり 続けるのは、最早何をしても自分たちの破滅は変わらないのだから、せめて最後まで王家への 忠義と誇りは捨てなかったという体裁は保ちたいという絶望的な願いだけが理由であった。 常識家でただの善人だった宮廷貴族だけは、祖国をどうにか立て直そうと躍起になって いたのだが、そんな彼らでも、東薔薇騎士団の反乱の際に崩壊したヴェルサルテイル宮殿の 一角……美しかった青い壁が今やただの瓦礫の山であるグラン・トロワの無惨な姿を見る度に、 自分たちの仕事が無駄になることを認識していた。 ハルケギニア一の大国、ガリア王国をほんの一週間でこれほどの惨状に変えた張本人である ジョゼフは、仮の宿舎とした迎賓館――語頭に「元」がつくのも遠い未来ではないだろう――で、 運び込んだベッドの上から古ぼけたチェストを見つめていた。それは中が見た目より広くされて いるマジックアイテムであり、幼き頃にはシャルルとかくれんぼに興じていた懐かしい思い出の 品である。 当時のことを思い返しながら、ジョゼフは独りごちる。 「一度でいいから、お前の悔しそうな顔が見たかったよ。そうすれば、こんな馬鹿騒ぎに ならずに済んだのになぁ。見ろ、お前の愛したグラン・トロワはもう、なくなってしまった。 お前が好きだったリュティスは、今や地獄の釜のようだ。まぁ、おれがやったんだけどな。 それでも、おれの感情は震えぬのだ。あっけなく国の半分が裏切ってくれたし、残った奴らも 事実上捨ててやったが、何の感慨も持てん。実際『どうでもいい』以外の感情が持てぬのだよ」 ジョゼフはため息を吐いた。 「何だか面倒になってしまったよ。街を一つずつ、国を一つずつ潰していけば、その内に 泣けるだろうと思っていたが……まだるっこしいから、纏めて灰にしてやろうと思う。 もちろん、このガリアを含めてな。だからあの世で王国を築いてくれ。シャルル……」 そこまでつぶやいた時、ドアが弾かれるようにして開かれた。 「父上!」 顔面蒼白で、大股でつかつかと歩いてきたのは、娘であり、王女であるイザベラだった。 王族ゆかりの長い青髪をなびかせながら、父王に向かって問うた。 「一体、何があったというのですか? ロマリアといきなり戦争になったと聞いて、旅行先の アルビオンから飛んで帰ってきてみれば、市内は大騒ぎ! おまけに国の半分が寝返ったという 話ではありませぬか!」 「それがどうした?」 ジョゼフはうるさそうに、たったひと言で返した。 「……“それがどうした”ですって? わたしには、父上のお考えが理解できませぬ! ハルケギニア中を敵に回しているのですよ!? 王国がなくなるのですよ!?」」 「だから、“それがどうした”と言っているのだ。おれにとっては、誰が敵に回ろうと、何が なくなろうとも、どうでもよいことなのだ」 冷たく突き放したジョゼフに、イザベラはわなわな小刻みに震えた。父に、恐怖を感じているのだ。 ジョゼフはそんなイザベラに、冷めた視線を返していた。ジョゼフは己の娘でさえ、愛した ことは一度もなかったのだ。それどころか、魔法の才に恵まれない彼女に昔の自分の面影を見て、 嫌悪感すら抱いていた。彼女が何かわがままを言う度にそれを叶えてきたが、それは鬱陶しい イザベラの声をさっさと黙らせたいからだけでしかなかった。成長してからもイザベラはその辺の 愚昧な人間と変わりなく、彼女に対して何の評価もしていなかった。 だがしかし、次の瞬間、イザベラは彼の抱いている人物像に反する行動に打って出た。 「父上……どうかお考え直し下さいッ!」 彼女は恐怖心を振り切り、必死な声音でジョゼフに改心を求めてきたのだ。 「何?」 「もう遅すぎるのかもしれませんが……何か変えられるものがあるやもしれませぬ! せめて、 この国の民の命だけは助かるよう便宜を図って下さい! 彼らには何の罪もないではありませぬか!」 その声音には、保身や計算の色はなかった。王になってから散々聞いてきたので、それくらいは 分かる。だからこそジョゼフには信じられなかった。あのわがまま娘が、このようなことを口走るとは。 「……意外な言葉だな。誰からの受け売りだ?」 「ある者より教わりました。間違いは、生きていれば正せると。……わたしは、己というものを 省みたことがありませんでした。そのこと自体、どうとも思っていませんでした。ですが…… その者より教わって以来、そんな自分を変えたいと思うようになったのです」 胸の辺りをギュッと握り締めるイザベラ。その懐には、アスカが置いていったエンブレムの パッチがあった。 「そして父上にも、どうか過ちを正していただきたいのです! このままではどう考えても、 誰もが破滅する結末しか待っていません。それが正しいことのはずがありませぬ! どうかッ! どうか父上、お考え直しを……!」 イザベラの強い訴えを一身に受け……ジョゼフは声を張りながら大笑いした。 「ワッハッハッハッ! ワッハッハッハッハッ!」 「ち、父上?」 「いやはや、おれは本当に人を見る目がないな。お前がそんなに立派な台詞を言う人間に なっていたとは。今の今まで、全く知らなかった。実に驚かされたよ」 ジョゼフの言葉に、イザベラは一瞬表情が輝いた。 「父上、では……!」 だが、ジョゼフから向けられたのは杖の先端だった。 「え……?」 「だが、それもやはりどうでもよいことだ。おれは何も変えるつもりはない。お前が『正しい』と 思うことをしたいのなら、今すぐにここから出ていくことだな。さもなければ、出来ない身体に なるかもしれんぞ」 イザベラは再び、ガチガチと震え出した。先ほどよりも深い恐怖を、ジョゼフに感じている。 「とっとと去れ。身内を殺めるのはもうやった。同じことを二度やるのは下らんことだ。 だから見逃してやる。従わないのなら……いい加減鬱陶しいので、黙らさなければならんな」 ジョゼフが自分を見逃す理由は、その言葉以外にないのは明白だった。結局、彼は自分の ことをこれっぽっちも愛してはくれなかったのだ。 イザベラはそれがとても苦しく、悔しく、そして悲しかった。感情とともに溢れ出た涙と ともに、この寝室から飛び出していった。 次いで現れたのは、ミョズニトニルン。彼女は集めた情報をジョゼフに報告する。 「死体の見つからなかったカステルモールの件ですが……。どうやら生きているようです。 カルカソンヌで捕虜となった王軍に紛れているとのこと」 「そうか」 「シャルロットさまと接触するやもしれませぬ。何らかの手を打たれた方が……」 「それには及ばぬ」 ジョゼフは首を振った。 「どうしてですか?」 「希望の中でこそ、絶望はより深く輝く。奴らは『おれを倒せるかもしれぬ』という希望を 抱いたまま、ただの塵に還るのだ。そんな深い絶望など、そうそう味わえるものではない。 羨ましいことだ」 最後のひと言は、紛れもないジョゼフの本音であった。 昨晩の事件によって、ロマリア軍はリネン川を渡り、がら空きとなった対岸へと歩を進めた。 しかしそこで進軍は一旦ストップとなった。捕虜の人数把握や整理などの処理に時間が必要 だったからだ。街の半分に陣を張っていた軍団を纏めて捕虜にするなど異例のこと。そのため ロマリア軍も忙殺されているのだ。 しかし進軍の停滞も、持って一日というところだろう。明日にはリュティスへ向けて進撃を 再開してしまうはずだ。リュティスはカルカソンヌの比ではない数の兵が守っているので、 さすがにすぐ激突とはならないだろうが……それでも本格的な戦闘はもう秒読み寸前という ところまで迫っている。それまでにアンリエッタが間に合わなかったらアウトだ。 そんな風にやきもきしているルイズは……才人がラン=ゼロに何か怪しげな特訓をつけられて いるのを目撃した。 「まだだ! まだお前には集中力が足りねぇ! 極限まで精神を研ぎ澄ませッ!」 「おうッ!」 傍から見たら昨日と同じ剣の稽古なのだが……才人の方は何と目隠しをしているのだ。 視界をふさいだ状態で剣を振るうなど、奇行としか言いようがない。 「サイト……あんた何やってんの?」 「その声、ルイズか?」 才人たちは一旦手を止め、才人は目隠しを取ってルイズに向き直った。 「特訓さ」 「それは見たら分かるけど、あんた何で目隠しなんかしてるのよ。いくら何でもそれは危ないでしょ」 「いや、それが必要なんだよ」 とゼロは証言する。 「目隠しが必要?」 「ジョゼフを討ち取るためにな。特に、今はこんな状況になっちまっただろ? だから最悪 今日中にこの特訓を完成させなきゃならねぇんだ。悪いが邪魔してくれるなよ」 「まぁそれはいいけど……昨日は目隠しなんかしてなかったじゃないの。どうしてまたそんな ことを……。昨晩に何かあったの?」 と聞かれて、才人たちはギクリとした。昨夜はタバサと密談していた。そこでカステルモール からの手紙からジョゼフが正体不明の魔法を扱うことを知り、その対策をゼロと話し合ったのだが……。 喧嘩をすることもあるが、才人は仲間であるルイズを信頼している。しかし、ロマリアの 手の者がどこでどうやって盗み聞きしているか分かったものではない。ガリアの者からタバサに 王として名乗り出てほしいと言われているなんて内容、ロマリアは諸手を挙げて喜ぶだろう。 そんなことはさせられない。 だから才人たちは内心ルイズに謝りながら、ごまかすことにした。 「その、何て言うか……これはとっておきの秘策なんだ。決まればジョゼフの野郎はおったまげる こと間違いなしの」 「ああそうだ。念には念を入れてな」 「そうなんだ……」 ルイズは訝しみながらも、才人たちの引きつった顔から何かを察してくれたのだろう。 それ以上追及はしなかった。 「それだったらいいわ。特訓頑張ってね。じゃあわたしはこれで」 当たり障りのないことを言ってルイズはこの場から離れていった。後に残された二人は ふぅと息をつく。 「……それにしても、本当に俺がジョゼフを倒さなくちゃいけないって状況になってきてるな。 姫さまは明日には来てくれるかな……」 「信じるしかねぇな。この心配が杞憂になってくれるのが、一番いいんだけどな……」 と言い合う才人とゼロ。もしアンリエッタが間に合わなかったら、才人がジョゼフの元に 乗り込んで召し捕らなくてはならない。ジョゼフさえ倒せば、ガリア軍に抗戦の意志はあるまい。 戦争を止めるには、とにもかくにもジョゼフ打倒が必要なのだ。 その日の夜……才人から王への即位を止められていたタバサだったが、シルフィードと ハネジローが寝静まった頃に、才人がこっそりと部屋にやってきたのであった。 タバサは驚くとともに、こんな夜更けに才人が一人で自分の元を訪れたという事実に少し 緊張を覚えながら、彼を中に招き入れた。 才人は一番に、こう言った。 「昨日の夜の話……俺、真面目に考えたんだ」 「……え?」 「ほら、タバサが王さまになるって奴」 「それが?」 「やっぱり、正当な王位継承者として、タバサは即位を宣言すべきだ」 昨日とは正反対の言葉に、タバサは顔を曇らせた。 「ロマリアに説得されたの?」 「違う。自分で考えたんだ。どうすれば、この戦は早く終わるのかなって。やっぱり…… これが一番だと思う」 そう才人は語る。 「ロマリア軍が遂に川を渡っちまっただろう? それで、ガリア軍の総攻撃も始まるらしいんだ。 そうなったら、ほんとに地獄のような戦になっちまう。姫さまの帰りを待っている暇はもうないんだ。 だからタバサ……どうか頼む。みんなを救うために」 と説得する才人に、タバサは……。 「……誰?」 「え?」 「あなたは、誰?」 疑問で答えた。手を伸ばし、杖を手に取る。 「な、何言ってるんだよ。俺が誰かなんて……どうしてそんな変なこと聞くんだ?」 顔が引きつりながらも聞き返す才人に、タバサは言い放った。 「あの人だったなら……仲間のことを信じない選択は取らない」 アンリエッタも才人の大事な仲間だ。彼女が待っていてほしい、と言ったならば、才人は ギリギリまで待ち続ける。仲間を信頼しているから、絶対にそうするはずだ。 それが、ゼロたち仲間とともに戦い、成長してきた才人という人物だと、彼を熱く見守って いたタバサには分かるのだ。 「そ、それは、俺にも事情が……」 もごもごと言い訳する『才人』に、タバサは決定打となるひと言を投げかけた。 「ゼロの声を聞かせて」 その途端、『才人』は身を翻して逃げ出そうとした。タバサはその背中にディテクト・ マジックを掛けた。やはり魔法の反応があったので、氷の矢を背に放った。 みるみる内に『才人』の身体はしぼんで小さくなっていき……いつかの任務で自分も 使ったことのあるスキルニルの正体を晒した。血を吸わせた対象の姿に成り切る魔法人形だ。 ロマリアの手の者が、密かに才人の血液を手に入れ、自分を利用するために差し向けて きたのだ……と分析したタバサは、拾い上げた人形を握り潰した。その瞳には、強い怒りが 燃えていた。 「しまったなぁ……。失敗してしまったか」 才人に化けさせたスキルニルがいつまで経っても戻ってこないことで、事の次第を把握した ジュリオはやれやれと頭を振っていた。 「恋は盲目と言うから、あの聡い彼女も騙せると踏んだんだが……ぼくとしたことが読み 違えてしまったな。聖下に何と申し開きをしたらいいか……」 うーん、と腕を組んでうなるジュリオだったが、すぐにその腕を解いた。 「でもまぁ、最終的に彼女が王位に就けばそれでいいんだ。そうすれば後は何とかなる。 幸い軍は渡河に成功してるし、後はどんな形でも、ジョゼフ王を王座からどかすだけだな……」 と算段を立てるジュリオ。聖地奪還のためにあらゆる手を投げ打つ彼らは、一度のミスで その陰謀に歯止めを掛けるようなことはしないのだ。 翌日、タバサはロマリアに聞かれることを承知で、昨夜のことを才人とルイズに知らせた。 どうせこれを仕組んだのもロマリアなのだから、聞かれたところで構いやしない。 「何だって!? 俺の偽者を、あいつらが……!?」 スキルニルの仕組みを聞いた才人は、ジュリオのフクロウが自分の頬をかすめたことを 思い出した。 「あの時だな……! くっそ! 分かっちゃいたが、あいつらほんとに手段を問わねぇな……! 油断も隙もねぇ……!」 「ほんとなのね!」 「パムー!」 才人も憤慨していたが、シルフィードとハネジローはそれ以上にカンカンであった。 「おねえさまにこんな汚い手を使って! 絶対に許せないのね!」 「確かに、ロマリアのやり口は本当に卑劣極まりないものだけど……」 ルイズも怒りを覚えながら、タバサのことをじっとにらんだ。 「どうしてロマリアは、才人の姿ならあんたが言うことを聞くと思ったのかしら」 タバサはサッと顔をそらした。ルイズが追及するより早く、タバサは話題をそらした。 「今は、このことはもういい。それより、これからどうするか」 「それだったら、遂に朗報が来たんだよ!」 才人がウキウキしながら言った。 「今朝方に、姫さまがガリアに到着したって報せが届いたんだ。なぁルイズ?」 「ええ。きっと今頃はジョゼフのところに面通りをしてるでしょうね。後は姫さまの交渉が 上手く行くのを祈るばかり……」 とルイズが言った矢先に、窓から差し込んでくる日差しが急に途切れ、部屋の中がやおら 暗くなった。 「ん? 急に暗くなったな。もう夜か?」 そんなまさかな、と才人が自分に突っ込みながら窓の外を覗き込んで、すぐに顔をしかめた。 「何だ、この空模様……。こんな曇り空、見たことないぞ……」 見渡す限りの空が、厚い雲に閉ざされているのだ。急に夜が来たかのように暗くなったのも そのせいだ。しかしあの曇り空は、何かが変だ……。 ルイズたちも奇妙に空を見上げていると、ゼロが叫んだ。 『あれは雲じゃねぇッ!』 「え?」 『あれは……怪獣の群れだッ!』 「!?」 ギョッとする才人たち。才人がゼロの力を借りて遠視すると……雲に見えたものが、体長 六十サントほどもある虫型の怪獣の集まりであることが分かった。 「ほ、本当だ! けどあの量……一体何万、いや何億匹いるんだよ!?」 才人は戦慄していた。普通の虫よりもずっと大きいとはいえ、一匹一匹は一メイルにも 満たないサイズ。それが、広大な空を埋め尽くしているのだ! しかも虫の群れの各部が変形して、虫の塊がいくつも地上へと降ってくる。その塊は形を 変えていき……一つ目の異形の巨大怪獣となってカルカソンヌの中に侵入してきた! 「グギャアーッ! グギャアーッ!」 虫型怪獣の名前はドビシ。それらが融合して巨大怪獣と化したものは、カイザードビシという! カイザードビシの群れの光景に、才人たちはアンリエッタの交渉がどのような結果になったのかを 自ずと察した。 「ジョゼフの野郎……とうとうやりやがったなッ!」 ゼロが懸念した通りに、才人がジョゼフを討ち取らなくてはならない状況となってしまったのだ。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1342.html
前ページゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐ 夜空に浮かぶ双月の光が魔法学院の本塔の外壁を照らし、そのそばを飛んでいる影を浮かび上がらせる。 影、土くれのフーケとその使い魔は宝物庫の壁の状態を確認していた。 「……魔法学院宝物庫の壁も、流石にあの攻撃には耐えられなかったみたいね」 本搭の壁には、綺麗に垂直の線が走っていた。 数日前、コルベールが生徒の使い魔から卵を奪おうとした際に使い魔が放った光が本搭に直撃し、そのまま真っ二つに切断されてしまったのだ。 それでも倒壊していない理由は綺麗に90度に切断されているからであろう。 「だけど、このままだとおねえさまのゴーレムでは無理なのね」 使い魔である風竜の言葉にフーケは頷く。 このまま切断されている場所をゴーレムに殴らせれば本塔ごと簡単に破壊できるであろう。 だが、フーケはゴーレムを作り出さなかった。いや、作らなかったと言ったほうが正しいだろう。 フーケが視線を壁から本搭の屋根へと向けると、そこには本来あるはずの屋根の変わりに、巨大な鳥が蹲っていた。 搭を切断した使い魔、ギャオスだ。 どうやらそこが気に入ってしまったらしく、ギャオスは夜行性のはずなのに微動だにせずその場で蹲っていた。 もしも今、宝物庫へゴーレムによる攻撃を行えば、その衝撃により目覚めるのは確実。 場合によっては襲撃されるであろう。 「やっとここまで来たのに」 フーケは忌々しげに呟く。 「だけど『破壊の杖』を諦める訳にはいかないのね」 フーケは腕を組み策を考え始める。 だが、これといった決定的な打開策は思いつけなかった。 そもそも既に目覚めている可能性もある。もしもそうならば早急に逃げた方が身のためであろう。 「おねえさま、今日は様子見だけにするのね。あの『災い』があそこから離れた時を狙ったほうがいいと思うのね。きゅいきゅい」 フーケは使い魔の提案を採用し、撤退しようと考えた。 その時、どこからか口笛の音色が辺りに響き渡った。 その音色を聞くと、今までピクリとも動かなかったギャオスは首を上げ、空へと飛び立ったではないか。 フーケと使い魔は大慌てで物影へと飛び込み身を潜める。 そんな一人と一匹の様子に、ギャオスはここに来たときから気づいていたがあえて無視した。 そんなことより、最愛の主に呼ばれた今、彼女の元へ向かうのが最優先事項である。 ギャオスはそう考えつつ、タバサの元へと向かって飛び立った。 私とあの子達は、キュルケ達と一緒に中庭へ移動していた。 流石にあの子達の大きさで室内で殺し合いを行うことは不可能だと判断したからだ。 あの子達の影で星や双月が見えなくなり、辺りは暗闇に包まれている。 だが夜行性のあの子達にそんなことは関係ない。 むしろ暗いほうがありがたかった。 「いいわねサイト、絶対に勝ちなさいよ」 「なあ、ホントにギャオスと戦わなくちゃいけないのか?」 「当然よ」 今から殺しあう相手であるルイズの使い魔、平賀才人は主人を説得しようといろいろ話しかけている。 だがルイズは説得に応じず、夜空を覆い尽くし、先ほどから心の声で私に声援を送ってくれているあの子達を見て闘志をさらに高めているようだ。 そんなルイズの様子を見て説得を諦めたのか、今度は私に話しかけて来た。 「ルイズには俺がよく言っておくからやめてくれないか?」 「そうよ、私からも言っておくからやめておきなさいよ」 キュルケにも説得をされるが、私は聞かない。 ギャオスを、大切な子共達を、目の前で『殺せ』と言ったルイズに、使い魔を殺されることがどういう気持ちになるのかを味わわせるまで許すつもりはなかった。 「これは決定事項」 私は二人にそう言うと、ルイズの方へ視線を向けた。 「どちらかが死ぬまで続ける」 「わ、わかったわ」 「彼が武器を使用することは有効。あなたが魔法で援護するのも許可する」 「そんなことしていいの?」 想定していなかったであろう言葉に驚きの表情を浮かべているルイズに私は頷く。 普通ならそんなことは許さないだろう。 しかし、彼女がどんな魔法を使おうとも爆発することは知っている。 だから使わせても問題はない、と私は判断した。 「わかった。じゃあ、始めましょう」 そう言うとルイズは杖をこちらへ向け構えた。 才人も覚悟を決めたようでキュルケが彼に渡した高いだけの剣を構えた。 「で、どれが相手?」 ルイズが空を見上げつつ聞いてくるが、私は首を降った。 戦うのは飛んでいる実戦の経験がない子達ではない。 それにあの子達はまだまだ子供だ。万が一の場合敗北してしまうだろう。 「じゃあどいつよ?」 そう聞かれ、私は先ほどとは別の音色の口笛を吹く。 辺りに口笛の音が響き、すぐに本搭の最上階で巣を作っていた子が青いリボンを揺らしながら飛んで来てくれる。 私が春の使い魔召喚の日に召喚した子、『シルフィード』だ。 シルフィードは私の背後にゆっくりと着地すると、会話しやすいように目の前に顔を降ろしてくれた。 私はシルフィードの鼻先を撫でつつ、あそこにいる人間を「殺して欲しい」と伝える。 「お願いできる?」 シルフィードは一瞬驚きの表情を浮かべた。 当然であろう。「その日がくるまで、人間だけは絶対に殺してはいけない」と全ての子にきつく言っているからだ。 だが迷ったのは一瞬だけで、シルフィードはすぐに了承の意を返してくれた。 「ありがとう」 私はシルフィードに僅かに笑みを見せる。 だがすぐにいつもの表情に変え、振り向きざまに才人とルイズに杖を向ける。 そして、高らかに叫んだ。 「シルフィード、殺して!」 私が叫ぶと同時に、子供達がトリステイン中に響きそうな雄叫びを上げた。 シルフィードは翼を広げ、才人に向かって突撃していった。 その様子を、ギャオス達にさえ見つけられないほど巧妙に隠れて観察する者がいた。 「……あんな怪物を召喚したとは、エルフ達が恐れるのも無理はないてことかしら?」 彼女の手に握られたビンの中には、ギャオス達が喧嘩した際に剥がれ落ちた肉片が入れられていた。 「まあ、これで少しは面白くなってきたってことかしらね」 そう呟くと、彼女は何処かへと去っていった。 前ページゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9124.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十九話「無敵の春奈」 電脳魔人デスフェイサー サーベル暴君マグマ星人 異次元宇宙人イカルス星人 反重力宇宙人ゴドラ星人 憑依宇宙人サーペント星人 四次元ロボ獣メカギラス ロボ怪獣メガザウラ 侵略変形メカ ヘルズキング 登場 現在はマグマ星人たち宇宙人連合に占拠された学院長室。才人、ルイズ、更にウェザリーも 侵略者たちの攻撃で倒れ、立っているのは宇宙人のみ。外にはデスフェイサーが仁王立ちして、 こちらを見張っている。 『さぁ、サーペント星人! まずは女のガキの方からやっちまいな!』 マグマ星人はルイズの息の根を止めるように命令するが、サーペント星人は反対した。 『まぁ待て。この娘は連れ帰って、研究材料にするのがいいだろう。この星の人間の魔法とかいう 能力は、我々からしたら大したものではないが、この娘だけは別のようだ。宇宙でも類を見ないほど 強力な力を宿しているらしい』 ルイズが『虚無』の魔法の力を有していることは、既に敵にばれているようだった。 『それを利用できるようになれば、我らの力は格段に高まる! ヤプールをも出し抜けるように なるかもなぁ。クックックッ……』 「いや……来ないでッ!」 悪だくみを働かせて、ルイズに手を伸ばすサーペント星人。そこに、 「ルイズに近づくんじゃねぇよ、寄生ナメクジ野郎……!」 才人が、もうボロボロの状態ながら、懸命に立ち上がってサーペント星人を制止した。 「春奈の身体を返しやがれ……! それ以上、人様の身体で好き勝手するんじゃねぇよ……!」 『ふん、まだ立ち上がれるだけの力があったか』 サーペント星人は白けたように鼻を鳴らすと、才人に近寄って殴り倒した。 「ぐあぁッ!」 「サイトぉッ!」 『いい加減目障りだ。やはり、先にお前を、ウルトラマンゼロごと始末しよう』 仰向けに倒れた才人の胸を踏みつけ、手にエネルギーを溜めてとどめを刺そうとする。 ルイズは焦燥して考えを巡らした。 (止めないと! でも、ハルナの身体に手出しすることは出来ない……どうしたら……!) 考えに考えた末に、大きな博打に出ることにした。 (ハルナの想いの強さに、賭けよう!) 今にも怪光線を撃とうとしているサーペント星人を見据え、叫ぶ。 「ハルナ、目を覚ますのよッ!」 『んん?』 サーペント星人は手を止めて、ルイズに表情のない顔を向ける。ルイズはその下の春奈へと、 呼びかけ続ける。 「今足の下にいるのが誰か分かる? サイトよ! ハルナあなた、サイトのことが好きなんでしょ!? それくらい、見てれば分かるわ! 助けてもらった以上の好意を、サイトに向けてた! その好きな相手を、 自分の手で殺めていいの!?」 『イカカカカカカ! あの子供、馬鹿なことをしてるじゃなイカ!』 『全くだ! サーペントに意識を乗っ取られた時点で、元の身体の持ち主の意識は消えてんだ! それを呼び起こそうなんて、全くの無駄だぜ!』 イカルス、マグマ星人らはルイズを嘲笑するが、ルイズは構わずに呼びかけた。 「ハルナ、目を覚まして! あなたが本当にサイトを想ってるなら、侵略者に負けちゃ駄目よ! 今サイトを助けられるのは、あなたしかいないの! サイトを助けて! ハルナぁーッ!!」 『ふん、何を馬鹿げたことを……』 サーペント星人もルイズを鼻で笑うが、その直後に、 『ぬうぅッ!?』 突如頭を抱えると、才人から離れて悶え苦しみ始めた。 『ん!? おいどうした! 急に頭抑えて!』 『風邪でも引いた?』 不可解な行動にマグマ星人たちは驚かされる。一同の見ている中で、サーペント星人は うめき声を上げる。 『な、何だこの力は!? 意識が遠くなりそうだ……! くッ……平賀くん……!』 「!? ハルナ……ハルナなのか!?」 サーペント星人の口から、春奈の声が漏れたのを、才人は確かに耳に留めた。 『高凪春奈か!? お前の意識は消滅させたはずなのに……! 人間の子供如き……! 俺の意識を乗っ取ろうというのか……! あ、あ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 サーペント星人の両手が頭から離れると、その頭部がひび割れ、勢いよく弾けた! 『な、何ぃッ!?』 『頭がパッカーンと割れたじゃなイカぁ! 痛そう!』 仰天するマグマ星人たち三人。それとは対照的に、ルイズと才人は、サーペント星人の 顔の下から出てきた春奈の顔立ちを目にして歓喜した。 「春奈!」「ハルナ!」 「ルイズさん、ありがとう。平賀くん……今、助けるからね!」 サーペント星人から身体を奪い返した春奈は、すぐさまマグマ星人らに飛び掛かっていった。 「えーいッ!」 『おわぁぁぁぁ―――――!?』 『イカぁ―――――!』 春奈は片手で宇宙人たちの身体を掴むと、軽々と投げ飛ばして壁に叩きつけた。今の春奈は、 星人のパワーを自分のものとしているのだ。そのため、マグマ星人らに対等に渡り合うことが出来る。 『くっそぉ! 何てぇことだ……ここまで来て、逆転されてなるものかぁッ!』 マグマ星人の指示で、イカルス星人がアロー光線、ゴドラガンを撃つ。だが春奈は腕で 顔をガードしながらそれを突っ切り、二人を張り倒した。 『何だとぉ!? ちくしょぉッ! どうしてたかが人間の子供なんぞが、サーペント星人の 意識を乗っ取り返せる! どこからそんな力が湧いて出てくるんだぁッ!』 「簡単なことよ!」 訳が分からずにわめくマグマ星人に、ルイズが言い放った。 「恋する女の子は無敵なのよ!」 「うりゃあああぁぁぁぁぁ―――――――――――!!」 『ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!』 宇宙人たちは、春奈の怪力によって窓から外へ放り出された。 これで助かったように見えたが、最大の敵が残っていた。デスフェイサーが右腕を持ち上げ、 ビーム砲を学院長室に向けたのだ。ルイズたちを纏めて吹き飛ばそうというつもりらしい。 「ま、まずいわ!」 焦るルイズ。さすがに今の春奈でも、デスフェイサーの砲撃は受け止められない。 「俺たちが行く! デュワッ!」 すると才人が、残った力を振り絞って駆け出し、ウルトラゼロアイを装着して変身した。 光が外へ飛び出し、ウルトラマンゼロとなってデスフェイサーをがっしり捕らえる。 『うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』 最初からカラータイマーが点滅している状態だが、ゼロはデスフェイサーの巨体を持ち上げ、 投げ飛ばして学院から突き放した。デスフェイサーはジェット噴射で速度を緩め、着地する。 ウインダムとミクラスをカプセルに戻してデスフェイサーと対峙するゼロ。しかしその周囲に、 マグマ星人、イカルス星人、ゴドラ星人が巨大化して出現した。 「オオオオオオオオオオ!」 『こなくそぉッ! 大分予定が狂ったが、テメェさえ仕留めればそれでいいんだ! ウルトラマンゼロ、 ここで死ねぇッ!』 飛膜のような短いマントにサーベルと、反対の腕にフックを装着した、本気の状態のマグマ星人が 宣告すると、宇宙人たちが攻撃を開始する。 『ちッ……来るなら来やがれ!』 ゴドラ星人のハサミの突きをかわし、腰部にキックを入れて返り討ちにする。だが無防備なところを イカルス星人が狙う。 「オオオオオオオオオオ!」 イカルス星人の全身から放たれたアロー光線を、すんでのところで横にそれて回避するゼロ。 野原に命中したアロー光線は大地を焼き尽くし、焦土に変えてしまった。 攻撃をかわしたゼロだが、その動きをデスフェイサーに読まれていた。止まったところに ガトリングガンを撃ち込まれる。 『ぐあああぁぁぁぁッ!』 『ハッハァッ! いいザマだウルトラマンゼロぉ!』 更に飛び掛かってきたマグマ星人にサーベルで切り裂かれた。その上で、アロー光線と ゴドラガンの集中攻撃を浴びる。 『がっはぁッ!』 先の負傷で満足に動けず、一対多で追い詰められる状況はアルビオン戦に似ているが、 決定的な違いは、ミラーナイトたちが手一杯で、助けに来てくれないということだ。 ゼロはなす術なく四人の敵になぶられ続ける。 『テメェの逆転の目は全て奪ってある! もうテメェを助ける奴は、どこにもいないんだよぉッ!』 「それは違うわ! ゼロはわたしが助ける!」 マグマ星人の台詞を、学院の屋上に上って戦況を見渡したルイズが否定した。その後に ついてきた春奈が問いかける。 「でもルイズさん、どうやって平賀くんたちを助けるんですか? 爆発ですか?」 今の春奈は意識を乗っ取り返したことで、サーペント星人の知識の一部も吸収していた。 才人とルイズの秘密もはっきり理解していた。 「違うわ。残念だけど、あの巨大な敵を薙ぎ倒すには、精神力が足りないもの」 「じゃあ、どんな魔法を……」 「こういう時にゼロをサポートできるような呪文を、昨晩祈祷書と向き合って開眼しておいたの。 それを披露するわ!」 ルイズは杖を手に、『虚無』の魔法特有の長い呪文を早口に詠唱した。そして杖を天高く掲げて、 魔法の光をスパークさせる。 「出でよ、ここになきもの……。ここにあるように。イリュージョン!!」 『こいつで終いだぁ!』 デスフェイサーのビーム砲がゼロに向けられ、強力な熱線が照射された。瀕死のゼロは、 立ち尽くしたままよけられない。命中する! ……と思われたが、何と熱線は、ゼロの身体を貫通してそのまま通り過ぎていった。 ゼロは何事もなかったかのように立ったまま。 『な、何ぃーッ!?』 マグマ星人は目を見張り、そして周囲を見回して、もっと衝撃を受けた。 『なぁーッ!? こ、こいつはどうしたことだぁーッ!?』 何と戦場に、ウルトラマンゼロが数え切れないほどの人数で存在していた。突然のありえない事態に、 宇宙人たちはパニックを起こす。 これぞルイズの新たな魔法、初歩の初歩の『イリュージョン』。効果は単純に幻影を作り出すことだが、 ルイズ自身の記憶から生み出されるそれは非常に精巧で、マグマ星人たちはどれが本物のゼロか 全く見分けられないでいた。 『これはイカがしたことか!? ゼロのはなたれ小僧がいっぱいいるじゃなイカ!』 『誰がはなたれだッ!!』 イカルス星人を後ろからゼロが殴り飛ばした。 『イカいッ! じゃなくて痛いッ!』 『この野郎ッ!』 マグマ星人がサーベルを振るうが、その時には既に幻とすり替わっていた。サーベルは空振りする。 デスフェイサーは無数のゼロを見回して、どれが本物か分析しようと電子頭脳を働かせた結果、 違いを見分けることが出来ず、オーバーフローを起こして棒立ちになった。電子頭脳の限界だ。 『ルイズが助けてくれたのか……』 敵がすっかり狼狽している中、本物のゼロは自身のカラータイマーを見下ろした。その点滅は止まり、 色は青に戻っている。 『この現象……タルブ村でも起こったな。もう偶然じゃねぇ、ルイズの魔法の影響に違いない』 自分のエネルギーが回復した原因がルイズにあると確信したゼロだが、ではどうしてそうなるのかは、 皆目見当がつかなかった。 『まぁ考えるのは後だ。ルイズが作ってくれたチャンス、逃す訳にはいかねぇぜ!』 ゼロは思考を切り替え、明後日の方向を向いている敵たちへ駆けていった。 「キィ――――――!」 『ぐぅッ!』 ミラーナイトたちは、ロボット怪獣軍団と戦い続けている。メカギラスは次元移動能力を駆使して 神出鬼没の動きを見せ、ミラーナイトを全方位から砲撃し続けていた。 が、その最中に、突然ミラーナイトの姿がパキーン! と音を立てて砕けた。鏡だったのだ。 「キィ――――――!?」 『こっちですよ!』 メカギラスの背後から飛び出すミラーナイト。メカギラスは首を回してミサイルを撃ち込んだが、 それも鏡に映った虚像だった。 『いえ、こっちです!』 ミラーナイトがまた別方向から飛び出し、メカギラスは首をそちらに向けて砲撃。だがそれも鏡。 気がつけば、周囲全てからミラーナイトが飛び出してくるようになっている。すっかり立場が逆転していた。 ミラーナイトは、メカギラスが四次元空間に退避している間に密かに鏡を作って辺りに並べていた。 そして今のこの状況を作り出したのだ。 「キィ――――――!」 メカギラスは現れるミラーナイトの虚像に、その都度ミサイルを発射していくが、首を回し過ぎた結果、 摩擦熱でショートを起こしてしまった。動きが停止したところで、本物のミラーナイトが大地に降り立つ。 『せやッ!』 ミラーナイトが放ったミラーナイフは、メカギラスの背後の鏡に当たって反射、後ろから メカギラスに直撃した。メカギラスのバリヤーは強力だが、首を向けている方向にしか展開できないのだ。 メカギラスは首と両腕が切断されて吹っ飛び、大爆発を起こした。 「ギャアアァアアアアァ!」 メガザウラはチェーンつきの両手を伸ばしてジャンボットを捕らえ、レーザーを撃ち続けて 彼を追い詰める。 しかし、ジャンボットの鋼鉄の勇気と根性は、その程度では屈しないのだ。 『何の、これしきぃッ! ジャンブレード! うおおおぉぉぉぉッ!』 ジャンブレードを露出すると、レーザーを食らい続けながら、メガザウラに突撃した! 『はぁぁぁッ!』 「ギャアアァアアアアァ!」 メガザウラはチェーンと翼を切断され、フラフラと墜落していく。同じ感情回路を搭載していても、 勇気を持たないメガザウラでは、ジャンボットの行動を完全に予測することは出来なかったのだった。 『ビームエメラルド!』 そしてとどめのビームが決まり、メガザウラは木端微塵に砕け散った。 「ゴオオオオオオオオ!」 『俺も負けてらんねぇぜ! ファイヤァァァァァ――――――――――――!』 グレンファイヤーも二人の奮闘に触発して燃え上がり、ヘルズキングの砲撃をその身一つで 受け止めながら接近、乱打を撃ち込んだ。その内の一発が、喉に炸裂する。 「ゴオオオオオオオオ……!」 その途端にヘルズキングの挙動が狂い、滅茶苦茶な方向に光弾を撃ち始めた。 『んッ! そこが弱点だったのか。ラッキーだぜ! ファイヤースティック!』 グレンファイヤーはスティックを取り出すと、無防備になったヘルズキングの喉に殴打を見舞った。 『ファイヤーフラァーッシュッ!』 その一撃が決まり手となり、ヘルズキングはぶっ倒れて爆散した。 こうしてロボット怪獣たちは三体とも撃破された。 『せぇぇいッ!』 『うげぇーッ!』 そしてゼロの方も、すっかり逆転を果たして宇宙人たちを押し返していた。宇宙空手の 鉄拳がマグマ星人とイカルス星人を地にねじ伏せる。 それを目にしたゴドラ星人は、背を向けて飛び立ち、空の彼方へ逃走し始めた。 『あぁこらぁッ! 逃げるんじゃねぇよッ!』 「ジュワッ!」 マグマ星人が怒鳴る。ゼロも逃走を許さなかった。ゴドラ星人の背にエメリウムスラッシュを 撃ち込み、一撃で撃墜した。 「デェヤッ!」 「オオオオオオオオオオ!」 振り返りざまにゼロスラッガーを投擲。起き上がったところのイカルス星人の腹部を貫通した。 イカルス星人は瞬時に絶命してバッタリ倒れる。 『く、くそぉぉぉーッ! 来るんじゃねぇーッ!』 マグマ星人は狂乱してサーベルを振り回すが、本物のゼロはその時、地を蹴って宙に舞い上がっていた。 『でええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!』 『うぎゃああぁぁぁ――――!?』 ウルトラゼロキックが決まり、マグマ星人は大きく吹っ飛ぶ。更に着地したゼロはウルトラゼロランスを 取り出し、投げつけた。 『フィニッシュだぁッ!』 『ぐげがッ……!』 ランスは倒れたマグマ星人の胸に深々と突き刺さった。春奈をこの世界にさらってきてから 暗躍し続けていたマグマ星人はこれであっさりと息絶え、遺体は完全に消滅した。 同時に『イリュージョン』の効果が消え、ゼロは元通り一人だけになる。それによりデスフェイサーは 機能停止から立ち直り、ようやく再起動した。 『へッ、今頃正気に戻ってもおせぇんだよ!』 ゼロは右手を握り締めると、それを赤く燃え上がらせる。そしてデスフェイサーが攻撃を 再開する前に突撃を掛けた。 『俺のビッグバンはぁ! もう止められないぜぇぇぇぇッ!』 握った右手を開いて平手を作り、正面から迫っていくゼロ。デスフェイサーはゼロの行動を予測し、 顔面の前で腕を×字に組み、ガードを作った。 「デヤァッ!!」 ゼロはガードに熱く燃えるチョップ、ビッグバンゼロを叩き込んだ。するとチョップが爆発! デスフェイサーの肘から先が粉砕された! 「おぉぉッ!」 思わず歓声を上げるルイズと春奈。一方、両腕を失ったデスフェイサーは飛び上がり、 胸部の蓋を開いてネオマキシマ砲の砲身を迫り出した。 「あの武器は……!」 トリスタニアでの惨状を思い出して絶句するルイズ。しかし、肝心のゼロは余裕すら見せていた。 『またそれか! お前の技は見切った! 同じ手は通用しねぇぞ!』 言いながら、ゼロスラッガーを両手に握る。 『そっちが俺の戦闘データを記録してるのなら、こっちはとっておきを見せてやるぜッ!』 更にデルフリンガーを出し、それを交えてスラッガーを連結。一振りの巨大な剣へと変じさせた。 『うおぉッ!? もう一人の相棒、こいつはどういうことだ!? 俺っち、どうなったんだ!?』 剣からはデルフリンガーの声がする。ゼロは彼に答えた。 『ゼロツインソード・デルフリンガースペシャルだぜ! 前々から、この技を考えてたんだ!』 ゼロツインソード。ゼロがプラズマスパークの光の恩恵を受けて生まれた、ゼロの切り札の一つだ。 そしてそれにデルフリンガーも合成することで、その意思をツインソードに宿すと同時に、切れ味を 更に上昇させた。仲間の絆が作る、悪を切り裂く至高の剣だ。 『行っくぜぇデルフ! でやぁぁぁッ!』 ゼロツインソードDSを手に、ゼロはデスフェイサーへとまっすぐ飛び立つ。ネオマキシマ砲の エネルギーチャージはまだ掛かる。 『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ! おおッ!!』 破滅の光が放たれるより早く、ゼロの斬撃が決まった。デスフェイサーは上下に真っ二つになり、 地上へと落下していった。 「やったぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 ゼロの完全勝利に、ルイズと春奈は手を繋ぎ合って喜びを分かち合った。 「シェアッ!」 全ての敵を撃破したゼロは、いつものように空に飛び立って帰っていく。その後には、 ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーが続いた。 「ホッホッ。ウルトラマンゼロは無事に勝てたようじゃのぉ」 ルイズと春奈が学院長室に戻ると、いつの間に戻ってきたのか、オスマンがウェザリーを 見張りつつ二人を迎えた。 「オールド・オスマン!? ご無事だったんですか!」 「学院のみんなもじゃよ。侵略者の生き残りはもう排除した。これで一件落着ということじゃな」 オスマンは愉快そうにヒゲを撫でる。だがウェザリーは反対に、悔しげに舌打ちした。 「これで、私の望みも潰えたということか……」 「何悔しがってるのよ! 侵略者の奴らは、あんたまで始末しようとしてたじゃない!」 ルイズが咎めると、ウェザリーはこう語った。 「私には、命に代えても果たしたい目的があったのだ……」 「相当な事情があるみたいじゃな。そもそも、どうして侵略者と手を組んでおったのか。 とりあえず、話してみては下さらんか? まぁ、悪いようにはせん」 オスマンが窺うと、ウェザリーは観念したかのように語り始めた。 「ハルナには話したけど、私は元は貴族の身分だった。どこの国だと思う? ここ、トリステインよ」 「そうだったんですか……!」 春奈やルイズが驚く。 「じゃあ、ウェザリーさんの家を取り潰しにしたのは……」 「もちろんトリステイン王宮よ。父が獣人を娶ったというだけで、身分も領地も、家族も何もかもを 失った私は、トリステインを恨んだ。復讐を果たし、もう一度家族と、村の人たちと穏やかに暮らしたかった……。 そのために、レコン・キスタと侵略者たちが持ち掛けてきた協力に応じたのよ……」 「なるほど。そういう事情じゃったか」 ウェザリーの身の上を聞いたオスマンはうなずくと、彼女に尋ね返す。 「しかしお主、考え違いをしておるのではなかろうか?」 「何? どういうことだ?」 意外なひと言に、目を見開くウェザリー。オスマンは続けて言う。 「確かに獣人がいわれのない差別を受けているのは事実。しかし……貴族の身分の剥奪の原因は、 お主の使う催眠魔法じゃろう。それは禁忌……触れただけで大罪じゃ。多分、じゃが。お前の両親が 真実を伝えなかったのは、そなたに禁忌を忘れてほしかったからじゃの」 「……なるほど。確かに人の心を操る魔法は禁忌だな。しかし、差別を受け続けた私は、 その考えが出てこなかった。私の魔法が私を苦しめていたかもしれないということに……」 オスマンに説かれ、ウェザリーは憑き物が落ちたかのように脱力した。 「何にせよ、私は負けたことに変わりない。今更ジタバタするつもりもない。好きにするといいさ」 「それを決めるのは王宮じゃ。まぁ、お主も辛い思いをしたんじゃし、私から情状酌量を図ろう。 じゃから、ちゃんと罪を償うんじゃぞ」 オスマンの計らいにより、ウェザリーの件にも決着がついたのだった。 トリステインに迫っていたレコン・キスタの艦隊は、マグマ星人たちの全滅と同時に撤退。 最大の窮地に追い込まれていたトリステインだが、どうにかその危機を免れることが出来た。 ウェザリーはオスマンの口添えとレコン・キスタと宇宙人連合の情報を提供することにより、 大分刑を軽くされたという。数ヶ月もしたら自由の身となり、また劇団として各国を回るようだ。 そして、春奈は……。 「……それじゃあ、ルイズさん、シエスタさん、お別れですね。短い間でしたし、色々迷惑を 掛けちゃったけど、大変お世話になりました。とても感謝してます」 学院から少し離れた草原の只中まで、ルイズ、シエスタ、才人と、元の姿に戻った春奈は やってきていた。春奈はルイズたちに別れの挨拶を告げる。 これから、春奈はゼロに送られて、M78ワールドに帰還するのだ。 「ちょっと寂しくなりますね……」 「帰ってからも、元気でやりなさいよ。もうさらわれないように、気をつけなさい」 シエスタとルイズはそう返答した。それから、ジャンボットが言う。 『しかし、人の身体を奪うなど全く許せんやり口だが、そのお陰でハルナが帰還できるように なったというのは、皮肉というか、奇妙なものだな。不幸中の幸いと言うべきか』 春奈はサーペント星人から身体を奪還し、見た目も元通りになったが、その力の影響はまだ残っている。 その気になれば怪力や超能力をいくつか使えるし、何より宇宙空間で生存することが出来る。これにより、 ゼロが元のM78ワールド宇宙まで送り帰すことに何の問題もなくなったのだ。 しかしゼロたちの診断によると、この影響は数日もすれば消えてなくなってしまう。つまり、 帰るのは今でないといけないのだ。それでいささか急になるが、春奈はこれから地球へと送り帰されるのである。 「皆さんのことと、このトリステインでの日々のことは、一生忘れません。それと……その……」 春奈は不意に才人の顔を一瞥すると、ルイズたちに目を移し、もじもじと頬を赤くした。 それでルイズが察して、シエスタの手を引く。 「シエスタ。ちょっと離れるわよ」 「えぇッ!? いいんですか!?」 春奈がこれから何をしようとするのかを、乙女の勘で理解したシエスタは慌てたが、ルイズが制した。 「これが最後になるかもしれないんだし、ハルナに譲ってあげましょう。さぁ、ほら」 「うぅぅ~……!」 ルイズにしてはかなり寛容な心を見せ、シエスタを連れて距離を取る。春奈は頭を下げて 感謝の気持ちを示すと、才人に真剣な面持ちで向き合った。 「平賀くん……聞いてただろうけど、私の口から、改めて告白します」 「うん……」 「……あなたが好きです。いつか、平賀くんも地球に帰れるようになったら、私とおつき合いして下さい」 女の子から愛の告白をされるという、人生で初めての経験をした才人は、にっこりと笑った。 「ありがとう。そういうこと言われるの初めてで、ほんと嬉しい」 しかし、すぐに告げる。 「でも、ごめんな。悪いけど、今はそういうこと、考えられないんだ。帰れるようになっても、 春奈とつき合おうとは、今は思えない。嫌いって訳じゃないんだけど……」 曖昧な拒否の理由だったが、春奈は納得したようだった。 「ううん、いいの。多分そう言うんだろうなーって、薄々思ってたから。……ルイズさんと すごく仲いいみたいだし」 「え? 今、何か言ったか」 「何でもないッ!」 最後の小声を聞き返す才人だが、春奈はとぼけた。そこにゼロが呼びかける。 『そろそろいいか? 春奈、お前を向こうの宇宙に送り出すと一緒にウルトラサインを出す。 それでウルトラの星のみんなが、お前を見つけてくれるはずだ。そしたら事情を説明して、 地球へ届けてもらうんだぜ』 「はい。ゼロさん、お願いします。ルイズさんたちも、もういいですよー!」 ルイズらを呼び戻すと、才人がゼロアイを取り出す。春奈はもう一度、改めてルイズらに別れを告げた。 「ルイズさん、シエスタさん! ……平賀くん! さようなら! 絶対、絶対忘れないからねぇッ!」 「ええ! さようなら、ハルナ! わたしたちのお友達!」 「デュワッ!」 才人がゼロに変身すると、ゼロは手の平の上に春奈を乗せた。春奈が大きく手を振るのに、 ルイズたちも手を振り返す。 『よぉし、行くぜッ!』 ゼロはウルティメイトイージスを展開し、身に纏うと空へ飛び上がる。ぐんぐん地表を離れて ハルケギニアからも脱すると、イージスの力により宇宙空間も越え、はるかM78ワールドへと飛んでいく。 こうしてハルケギニアに迷い込んだ地球人の少女は、無事に故郷の宇宙へ帰還していったのだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/4423/pages/681.html
編集する。 2021-12-08 19 04 21 (Wed) - ゼロの使い魔動画本編とは、ゼロの使い魔の 動画本編。 1使い魔の刻印 2森の妖精 3英雄のおかえり 4噂の編入生 5魅惑の女子風呂 6禁断の魔法薬 7スレイプニィルの舞踏会 8東方号の追跡 9タバサの妹 10国境の峠 11アーハンブラの虜 12自由の翼 出典、参考 1使い魔の刻印 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com 2森の妖精 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com 3英雄のおかえり videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com 4噂の編入生 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com 5魅惑の女子風呂 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com 6禁断の魔法薬 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com 7スレイプニィルの舞踏会 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com 8東方号の追跡 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com 9タバサの妹 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com 10国境の峠 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com 11アーハンブラの虜 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com 12自由の翼 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 Online Videos by Veoh.com videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 現在、googlevideoプラグインはご利用いただけません。 現在、gubaプラグインはご利用いただけません。 veohプラグインエラー 正しいHTMLタグを入力してください。 編集する。 2021-12-08 19 04 21 (Wed) - 出典、参考
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9351.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十話「その名は“邪悪”」 邪悪生命体ゴーデス 登場 ガリア王政府にかどわかされたタバサを救うため、ガリア王国への侵入を果たした才人たち一行。 彼らはまず旧オルレアン公邸に赴き、そこでタバサの母がアーハンブラ城へと移されたという情報を得た。 母と娘を分けておく必要はない。才人たちは一路アーハンブラ城を目指すこととなった。ついでに旅路の 中で、イルククゥの正体がタバサの使い魔、シルフィードの変身したものだということも判明した。 旅芸人に身を扮しながら情報を集めつつ、砂漠に建つアーハンブラ城前にたどり着いた一行。 やはり、タバサがアーハンブラ城に囚われているらしいことも明らかとなった。一層勇んだ 才人たちは、タバサを救出するために城に侵入する作戦を決行したのだった。ここからがこの 旅路の大詰めであった。 ……そしてその作戦は、現在のところはほぼ完ぺきな形で進んでいた。 「……相変わらずすごい威力ねウェザリー、あなたの魔法は……」 周りに転がる、城の警備兵たちを見回したルイズが、若干呆気にとられながらそう呼びかけた。 「これが原因で私は、数奇な人生を歩む羽目になったんだけどね」 ウェザリーは皮肉げな苦笑を浮かべた。 三百人以上ものガリア兵で警護されていたアーハンブラ城に入り込むために、一行は一計を案じた。 まずは近隣の店から酒を買い占め、兵たちの楽しみを奪う。そこに旅芸人と偽って接触し、酒と娯楽の 売り込みを建前に城の敷地内に足を踏み入れることに成功した。サハラとの国境線上という僻地に、 ろくな説明もない任務のために派遣された兵士たちはよほど楽しみに飢えていたのか、一行をまるで 警戒しないでのこのこ酒宴の席にやってきた。 そこからはウェザリーの特殊な催眠魔法が猛威を振るった。ルイズたちの踊りの音楽に乗せられた ウェザリーの歌声を媒介として兵士たち全員に『時間が来たら一斉に眠る』命令が掛けられ、実際 その通りに全員が深い眠りに就かされたのだ。これで兵士は無力化された。 「丸一日は何があっても、それこそどんなに騒いでも目を覚ますことはないわ。今の内に タバサとその母親を奪取しましょう」 「う~む……一時はこんなにすごい魔法を操る人と敵対してたなんてね。当時の自分に、 よく無事だったと褒めてあげたいね」 「あんたは何もしなかったでしょうが」 しみじみと語ったギーシュがモンモランシーに突っ込まれた。 「まぁでも確かに、味方になってくれてよかったって思うよ。お陰で作戦がすごく楽じゃないか」 マリコルヌが気楽な感じにそう言ったのだが、その時、 「待て」 短いながらも、とても響く制止の声が天守に続く広い階段の先から聞こえてきた。 一行がハッとなって顔を上げると、階段の上から自分たちを見下ろす一人の男がいた。 すらりとした長身で髪も長く、一見するとひ弱そうにも見える。だが全身から放たれる プレッシャーは、離れていても分かるくらいはっきりとしていた。 そして男の耳は、ティファニアと同じように尖っていた。 「わたしはエルフのビダーシャル」 「エルフ……!」 男、ビダーシャルの「エルフ」という名乗りに、ハルケギニア人たちは一斉に身体が強張った。 ギーシュ、モンモランシー、マリコルヌなどは「ひッ」と短い悲鳴を漏らした。 エルフは始祖ブリミル降臨の地に居を構えていて、そこに人間を近寄らせない。そのため ハルケギニア人と長い歴史の中で何度も戦争を行い、その度に人間を大敗せしめていた。 それ故に人間の間で悪魔のように恐ろしい存在と語り継がれていて、ルイズたちも記憶の 奥深くにエルフの恐怖を植えつけられながら育ったのである。 「やっぱり、私の魔法はエルフには効かなかったみたいね……」 ウェザリーが額に脂汗をにじませながらつぶやいた。彼女の催眠魔法は、効果が通れば ほぼ無敵だが、通らなければ完全に無力だという致命的な欠点がある。恐らくビダーシャルは、 音に乗せた魔法の効果をシャットアウトできるのだろう。 ビダーシャルは静かな迫力を乗せて、声を発した。 「お前たちに告ぐ」 「な、何だよ」 「去れ。我は戦いを好まぬ」 「だったらタバサを返せ!」 「タバサ? ああ、あの母子か。それは無理だ。我はその母子を“ここで守る”という約束を してしまった。渡す訳にはいかぬ」 才人はどうにか戦いは避けられないものかと、ビダーシャルの説得を試みる。 「約束ってのは、ガリアとか? あんた、ガリアが何やってるのか知ってるのか? あいつら、 どうやってかは知らないけど怪獣を操って暗躍してるんだ! 俺たちはガリアの差し向けてきた 怪獣に襲われた! あんたは、そんなやばい奴らに手を貸してるってことだぞ!」 しかし、ビダーシャルの様子に変化はなかった。 「そのような戯言を唱えて我を惑わせようとしても無駄だ。エルフはお前たち蛮人とは異なり、 約束は決して破らん」 「駄目か……!」 そもそも信じていないようだ。やはり、ガリアが怪獣を操っているという証拠がなければ 他人には信用してもらえそうにない。 ルイズは才人の袖を引っ張る。 「サイト、一旦あいつの目の届かないところへ退きましょう!」 「けど!」 退いたらタバサが、と才人は言外に伝えた。 「分かってるわ。でも今戦いになるのはまずい。ギーシュたちがいるのよ。エルフの魔法は、 何を引き起こすのか分からないわ」 ハッとなる才人。確かに、あのエルフの実力は底が知れないことが、シルフィードがもたらした 情報と旧オルレアン公邸の状況から既に判明していた。邸の戦闘跡にはタバサの魔法の跡しかなく、 ビダーシャルが何をしてタバサを打ち負かしたのかまでも全く掴めなかったのだ。 ギーシュたちが戦いに巻き込まれたら、命を落とす可能性は高いと言わざるを得ない。 才人はやむなく、皆とともにビダーシャルの目の届かない場所まで下がった。 ビダーシャルの気配への注意を途切れさせないようにしながら、作戦会議。ギーシュが おろおろとした声を出す。 「ど、どうするんだね? あのエルフをかわすいい手段はないものだろうか」 「とてもそんなことが出来るような相手には見えないわよ……」 声を震わせながら反論するモンモランシー。 「こ、ここは一度退却して、機会を窺うというのはどうだい?」 「馬鹿! ここで逃げたって、状況が悪くなるだけだ!」 臆病風に吹かれたマリコルヌの提案を才人がばっさり両断した。兵隊を全員眠らせてしまった以上、 日を改めたところで警備が厳重になるだけだ。同じ手も通用しなくなる。ここまで来た以上、何が何でも タバサを取り返さなくては自分たちの敗北が決まるだろう。 「じゃあ、現実問題どうするってのさ……?」 「……俺がどうにかして倒してくる」 才人はそう返した。彼とルイズは事前に、ルイズが“虚無”の担い手であることを見抜いていた キュルケに、エルフをかわすことは恐らく不可能、“伝説”の力でエルフを倒してタバサを救い出して ほしい、と頭を垂れて頼まれていた。 ヴァリエールの宿敵のツェルプストー家のキュルケが、家名のプライドを捨ててルイズに 頭を下げたこと、それは彼女のタバサへの思いの強さを如実に表していた。それを断れる ルイズと才人ではなかった。 「き、危険すぎる! いくら不死身のきみでも、エルフは相手が悪すぎるぞ! きみは知らんだろうが、 エルフの力は恐らくきみの想像を凌駕する! 騎士隊の隊長として、隊員がむざむざ死にに行くのは 認可できん!」 ギーシュが必死の形相で制止した。その顔には、騎士隊隊長としての責任感だけではない、 友としての心配の色もあった。それはモンモランシー、マリコルヌも同じだった。 才人は彼らの自分に向ける友情に胸を打たれながらも、こう答えた。 「だけど、誰かがやらなきゃいけないことなんだ。お前たちは俺が奴を引きつけてる間に、 どうにかタバサの元へたどり着ける道筋を探しててくれ!」 それだけ言い残してギーシュたちの元から飛び出して、斜め前の柱へと駆けていく。 その後を追うルイズ。ギーシュたちはなおも止めようとしたが、キュルケがさえぎった。 「あの二人ならエルフ相手でもやってくれるわ。その“可能性”が、ルイズたちにはあるの。 二人と……あたしを信じて、任せてあげて」 物陰から物陰へ移りながら、少しずつビダーシャルの待つ階段へと近づいていく才人。 それに追いついたルイズは、才人に呼びかける。 「サイト、ゼロになって!」 「何?」 「ゼロの力なら、エルフにだって負けないわ。エルフは見た目は人間だけど、その能力は 怪獣や宇宙人にも引けを取らない、実質人型の怪獣みたいなものよ。ウルトラマンの力を向ける 相手として、間違えてる相手じゃないわ。タバサを確実に助けるためには、こうするのが一番よ」 と語るルイズだが、才人は静かに首を横に振った。 「俺だって絶対にタバサを助け出したい。でも、それだけは駄目だ」 「どうして?」 虚を突かれたルイズに、才人はまっすぐ目を見て告げた。 「エルフをウルトラ戦士が相手するような怪物と認めることは……テファのために出来ない。 あいつに流れる血は両方とも、『人間』の血だと俺たちが言えるようにしなきゃ」 その言葉に、ルイズは思い切り目を見開いた。才人に言われ、ティファニアの存在を思い出したのだ。 ハーフエルフの少女、ティファニア。世界を見たいと願いながらも、エルフの特徴を持っている ために人間の前で素の姿を出すことが出来ず、隠れ住んでいるあの子。とても心優しいのに、耳が 尖っているだけで人に恐れられてしまう彼女。……ここでエルフを“怪物”としてしまえば、次に ティファニアと会った時に、素直な心で向かい合えなくなってしまうだろう。 ルイズは己の考えを改めた。 「そうだったわね……。ごめんなさいサイト。あいつはわたしたちが、“人間”としてやっつけましょう」 「ああ!」 才人とルイズはいよいよ元の場所まで舞い戻ってきた。ビダーシャルはその場から一歩も 動かずに、彼らを待ち受けていた。 「やはり去らぬというのか」 「そうだ。戦ってでもタバサを返してもらうって決めたぜ」 「了承した」 デルフリンガーを手に握り締めた才人は、ビダーシャルの立ち姿を観察する。 才人のこれまでの戦いの経験が、ビダーシャルは強いことを教えていた。だが今目の前に立つ ビダーシャルは、どこからどう見ても隙だらけだ。攻撃を誘っているようにも見えない。この差異は どういうことだろうか? 「相棒、無駄だ。やめろ」 デルフリンガーが少し焦った調子で警告したが、才人は駆け出した。 「うぉおおおおおッ!」 ビダーシャルの手前で跳躍し、剣を振り下ろす……が。 ぶわッ! とビダーシャルの手前の空気が歪み、剣があっさりと弾き返され、才人も後ろに 吹っ飛ばされた。 「蛮人の戦士よ。お前では、決して我には勝てぬ」 ルイズが倒れた才人に駆け寄る。 「サイト!」 苦痛をこらえながら立ち上がった才人は、改めてビダーシャルを見やった。 「何だあいつ……身体の前に空気の壁があるみたいだ……。どうなってんだ」 デルフリンガーが、苦い声でつぶやく。 「ありゃあ“反射(カウンター)”だ。戦いが嫌いなんて抜かすエルフらしい、厄介で嫌らしい魔法だぜ……」 「反射?」 「あらゆる攻撃、魔法を跳ね返す、えげつねえ先住魔法さ。あのエルフ、この城中の“精霊の力”と 契約しやがったな。なんてえエルフだ」 「先住魔法かよ。水の精霊のアレか」 「覚えとけ相棒。あれが“先住魔法”だ。今までの相手はいわば仲間内の模擬試合みてえなもんさ。 ブリミルがついぞ勝てなかったエルフの先住魔法。本番はこれからだけど、さあて、どうしたもんかね」 ビダーシャルは両手を振り上げた。 「石に潜む精霊の力よ。我は古き盟約に基づき命令する。礫となりて我に仇なす敵を討て」 ビダーシャルの左右の段石が勝手に持ち上がり、宙で爆発した。散弾のような石礫がルイズと 才人を襲う。 才人は剣で受け切ろうとしたが、量が半端ではない。ルイズの前に立ち、受け切れない分は 身体で止める。額に当たった一個が皮膚を切り裂き、血が垂れた。 倒れそうになる才人を、ルイズは支えた。 「ねえデルフ! 一体どうすりゃいいのよ!」 「どうもこうもねえだろが。もう一人の相棒に頼らないってえなら、お前さんの系統だけが、 あいつをどうにかすることができるんだ」 「でも、どんな魔法も効かないんでしょ! 一体何を唱えりゃいいのよ!」 「お前さんはとっくに呪文をマスターしてるぜ」 「え?」 「“解除”さ。先住魔法を無効化するには、“虚無”の“解除”しかねえ」 「解除ね!」 「でもな……あのエルフはどうやらここいらの精霊の力全てを味方につけてるらしい。それを全部 解除するのは、大事だぜ。お前さん、それだけの“解除”をぶっ放すだけの精神力が溜まってるかね」 ルイズは一瞬不安になったが、ここで逃げ出す訳にはいかない。才人が、自分の前で剣を 構えているからだ。 ルイズは、才人が敵に立ち向かい、自分を守っている姿を前にすると、ぐんぐんと精神力が 湧き上がるのだ。 「蛮人よ。無駄な抵抗はやめろ。この城を形作る石たちと、我は既に契約している。この城に宿る 全ての精霊の力は我の味方だ。お前たちでは決して勝てぬ」 再三忠告するビダーシャル。才人はそれに歯を剥き出しにした。 「うるせえ、誰が蛮人だよ。俺はお前みたいな、偉そうに余裕を気取った奴が一番嫌いだ」 ビダーシャルは首を振ると、再び両手を振り上げる。次は壁の意思がめくれ上がり、巨大な 拳に変化した。 才人も、ハルケギニア人がエルフを心底恐れるその理由を、肌で感じてきた。 「あれがエルフの“先住”かよ……」 巨大な石の拳が、ルイズと才人めがけて飛んできた。 才人は咄嗟にルイズを抱えて飛びすさって拳をかわしたが、石の拳は空中で炸裂して、 またも石礫が降りかかってきた。才人とルイズは次々襲い来る石の猛撃を前にして、 後退を余儀なくされる。 「確かにこりゃ怪獣みたいだ……」 冷や汗だらけになった才人がうめく。グレンに鍛えられた彼ではあるが、これでは戦いにすら ならない。人の身で、この城そのものを相手にしているようなものだ。 「サイト! ルイズ!」 気がつけば、自分の側にギーシュとマリコルヌがいた。キュルケも後ろに控えて、杖を握っている。 「お前ら、どうして……」 「やはり、タバサのところまで行くにはあのエルフを越えないと駄目なことが分かってね」 冗談めかしたギーシュとマリコルヌは疲弊している才人の前に立った。 「逃げろ! 俺たちで何とかする」 「いいから、黙ってろ」 「やっぱり、任せっきりって訳にはいかなくなったわね」 マリコルヌが風の呪文で石の礫をそらし、ギーシュが大きな壁を作り上げて盾にする。 キュルケは火の球を放って礫を撃ち落とす。 しかしビダーシャルは難なく壁を粉砕し、風も火もものともしない石礫を放ってくる。 「くッ!」 才人はデルフリンガーで石を弾き飛ばしたが、この調子ではすぐに押し切られてしまう。 向こうは、汗一つかいていないのである。 「参ったね……。ぼくたち、まさかこんなところで終わってしまうなんて」 ギーシュがかなり本気でつぶやいたが……才人が否定した。 「いや、そうじゃないみたいだぜ」 振り返るギーシュ、マリコルヌ。 「ルイズが呪文を唱えてる」 いつの間にか、才人の顔から疲労の色が消えてきた。後ろで唱えられる、ルイズの呪文の詠唱が 彼の心に気力をもたらしているのだ。 ルイズの身体の芯から大きなうねりが起こり、精神力が練り上げられていく。そして呪文の 完成直前に、デルフリンガーが怒鳴った。 「俺にその“解除”を掛けろ!」 ルイズの杖が振り下ろされ、デルフリンガーの刀身に“虚無魔法”が纏わりついて鈍い光が宿った。 「相棒! 今だ!」 力が溢れ返った才人は全速力で走り出し、階段の上のビダーシャルへと飛びかかった。 振り下ろされたデルフリンガーが“反射”の目に見えぬ障壁とぶつかり合い……障壁は 真っ二つに切り分けられた。 ビダーシャルを守るべき精霊力は四散した。ビダーシャルは驚愕の表情を浮かべた。 「シャイターン……。これが世界を汚した悪魔の力か!」 一瞬で全て理解したビダーシャルは、右手の指輪に封じ込められた風石を作動させ、宙に飛び上がった。 「悪魔の末裔よ! 警告する! 決してシャイターンの門へ近づくな! その時こそ、我らは お前たちを打ち滅ぼすだろう!」 空へと消えていくエルフを見つめながら、才人たちは緊張の糸が切れてへなへなと地面に崩れ落ちた。 ルイズは精神力を使い果たし、倒れかけたのをウェザリーが抱き止めた。 ギーシュがぽつりとつぶやいた。 「このぼくがエルフに勝った。信じられない」 「別にあんたが負かした訳じゃないでしょ」 モンモランシーが突っ込んだ。 ウェザリーからルイズを受け取った才人が、皆に呼びかける。 「ほら行くぞ。仕事はまだ終わってない」 「どこに行くんだい?」 「もう、タバサを捜すに決まってるでしょ」 呆けたマリコルヌにキュルケが肩をすくめた。 「ああそうだった。そのために来たんだった」 全員が立ち上がり、天守に向かおうとした……その時。 アーハンブラ城全体を、突然激しい揺れが襲い始めた! 「な、何だ!?」 「嘘だろう!? やっとの思いでエルフに勝ったのに、まだ何かあるのか!?」 ギーシュが悲鳴を上げたその瞬間……地面を突き破って、巨大な触手のようなものが飛び出してきた! 「ななななッ!? 何だぁぁぁぁぁぁッ!?」 更に城が盛り上がる……いや、下から巨大な何かに持ち上げられている! 古城はみるみる内に 崩壊していく! 「嘘!? タバサぁぁぁッ!」 「待ちなさいッ! もう間に合わないわッ!」 思わず身を乗り出して絶叫したキュルケをウェザリーが慌てて引き止めた。 「に、逃げろ! 城の崩落に巻き込まれるぞぉッ!」 ギーシュが叫び、ガラガラと降ってくる瓦礫と、下からどんどん突き出てくる触手から 逃れるために才人たちは大急ぎで城外へ向けて走り出す。 その辺に転がっている兵士たちは、触手に押し潰される……いや、皮膚を通り抜けて触手の 肉の中へ呑まれていった! 「何だ!? 何が起こってるんだ!?」 城外まで避難して振り返った才人たちの視界に……城を突き破り、姿を現した『それ』の姿が映った。 才人たちの激戦の音は、タバサの元にも届いていた。しかし確かめたくても扉も窓も“ロック”の呪文で 固く閉ざされており、部屋から外へは一歩も出ることは出来ない。故にその場でじっとして、怯える母を 慰めることしか出来なかった。 しかし城全体が震動すると、さすがの彼女も平静ではいられなかった。 「な、何……!?」 「パムー!」 奇妙な黄色い小動物は、慌てふためいて空中をぐるぐる回った。 直後に、部屋の床が盛り上がって破られる。タバサが悲鳴を上げる間もなく、彼女の目に、 巨大な人の顔のようなものが見えたような気がした。 そしてこの部屋にいるものは全て、『それ』の中に呑まれていった。 グラン・トロワの執務室にいるジョゼフの元に、ミョズニトニルンからの通信が入った。 「おお、余のミューズよ。どうしたのだ? ……何、アーハンブラ城の地下に配置しておいた、 『あれ』が動き出したのか。ということは、ビダーシャル卿は敗北したのだな。ふむ、なかなかの 実力があるようだったが、やはり“虚無”の担い手には劣ったということか」 あっけらかんと述べたジョゼフに、ミョズニトニルンはビダーシャルの安否を確かめるか尋ねた。 「いや、それには及ばん。最早あのエルフには興味をなくした。以前ならばエルフの力を 惜しがったかもしれんが、今やその必要もなくなったからな。生きてようが死のうが、 どちらでも。そんなことより、『あれ』の戦いの行方を余すところなく見届け、余に伝えて おくれ、ミューズよ。さて、我が姪は『あれ』によって、一体如何様な運命をたどるかな?」 ジョゼフは喪失感などは全くない、退屈しのぎが出来る楽しみを顔に浮かべ、歪んだ赤い球を見やった。 アーハンブラ城を突き破って地上に現れ、その巨体で才人たちを見下ろしている大怪物……。 胴体は反り返った芋虫のようで、左右に不規則に生えた触手が不気味にうねっている。そして 真ん丸とした頭部には、人のそれのように見える顔面が張りついていた。怪獣としても異形に 過ぎる、人面の化け物。 邪悪生命体ゴーデス! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1304.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 ささやかな、とは言われていたが。 そのパーティは終わりに瀕している国で開かれている物とは思えぬほど、華やかな物であった。 いや、終わりだからこそ、華やかなのかも知れないが。 玉座に座っていた王、ジェームズ一世が立ち上がろうとしてよろける。 そこら中から失笑が漏れる。 「陛下!お倒れになられるのはまだ早いですぞ!」 「そうですとも!明日まではお立ちになって貰わねば我々が困る!」 「あいや各々がた、少し足が痺れただけじゃ」 ウェールズに支えられながら立ち、ジェームズ一世は言う。 彼がよろよろと姿勢を正すと、ホール中の人間もそれに習う。 「諸君、忠勇たる臣下の諸君に告げる。いよいよ明日、 このニューカッスルの城に立てこもった我ら王軍に、 反乱軍『レコン・キスタ』の総攻撃が行われる。この無能な王に、諸君らはよく戦い、従ってくれた。 しかしながら、明日の戦いはこれはもう、戦いではない……。 恐らく一方的な虐殺となるであろう。朕は忠勇な諸君らが傷つき、斃れるのを見るに忍びない。 従って、朕は諸君らに暇を与える。長年、よくぞこの王に付き従ってくれた。厚く礼を述べるぞ。 明日の朝、巡洋艦『イーグル』号が、女子供を乗せてここを離れる。 諸君らも、この艦に乗り、この忌まわしき大陸を離れるが良い」 沈黙していたその場に、誰かは解らぬが、大きな声が響く。 「陛下、陛下!我らがお待ちしているのは 突撃せよと、敵を討ち果たせと、この命をかけるに相応しき号令でございます! はて、酒のせいか、我々はそれ以外の言葉が聞こえぬほど酔っておるようでしてな!」 その声に、黙り込んでいた者も続く。 「そうですぞ陛下!今の言葉、私には訳のわからぬ呟きにしか聞こえませんでしたぞ!」 「耄碌するには、少々早いですぞ!」 ジェームズはその言葉に涙しそうになるが、手でそれをぬぐい、杖を掲げると叫ぶ。 「よかろう、しからば、この王に続くがよい! さて、諸君!今日は良き日だ!共に歌い、飲み、踊ろうではないか!」 喧噪に包まれる場ではあった。 彼らは陽気に話し合い、食べて、踊り、笑っていた。 だが、彼らが死に直面していると考えると、それらは悲壮感を帯びる。 それなのでルイズは、明るく話しかけてきたり、料理を勧めたり、 冗談を言ってくる彼らを見ていることが出来ず、その場を逃げるように去った。 皆がパーティに出ているためか、城の中はひっそりとしていた。 遠くからパーティの喧噪は聞こえてくるが、 それはルイズが今歩いている廊下の静けさを引き立たせているように思える。 はたと立ち止まり、窓から空を見上げる。重なった月。 美しいものなのかも知れないが、今のルイズにそのような感傷は浮かばなかった。 だが、聞こえてきた足音に振り返る。ギーシュだった。 「ギーシュ?」 「やあ、ルイズ。奇遇だね」 ルイズは再び月を見上げる。 視線を月に固定したまま、居るであろう視界の外のギーシュに話しかける。 「いやだわ……なんであの人達、死を選ぶの?解らない。 ウェールズ様も、姫様の気持ちを解っているはず。なのに……」 「『命より名を惜しめ』ってね」 ギーシュが返してきたが、視線は逸らさない。 「父上からよく言われている。ああいうことだろうね。 もっとも、彼らが守りたいのは名ではないようだが」 「解らないわよ」 ルイズは視線を動かす。ただ、何かに向けたのではなく俯いたのだが。 「解らないわよ……そんなこと。愛する人を捨ててまで守ることなの?」 「そうしてるから、そうなんだろうね」 ギーシュはルイズを見つめ直す。 泣いていることに気付いた。 「ルイズ……泣いているのかい?」 「……そうよ、悪い?」 取り敢えず最寄りの港に着いたブルー達は、ルイズ達を探していた。 しかし、何処を探しても見つからない。 一度集まって今後の行動を話し合う。 「もう先に行ったのかしら?」 「多分、そう」 キュルケが空を見上げて、欠伸をしてから言う。 「じゃあニューカッスルにいるのかしらね」 「そこにウェールズが居ると言う話だったな」 「じゃあ決まりね、行くとするわよ」 と、キュルケがタバサの方を見ると、竜の姿はなく、 犬っぽい何かがタバサの頭の上に乗っていた。 「あれ?タバサ、竜は?」 「目立つ」 「……じゃあ歩きね」 一行が立ち上がり、ニューカッスルへの路の方へ向く。 「ん……?またか」 「ダーリン?」 「また目が霞んだ。寝てないからか?」 「……そうね、寝てないのよねー」 一瞬何かが見えた気もしたのだが、 取り敢えずは、ブルーは先に進むことにした。 タバサ達もそれに続く。 「ルイズ、子爵に結婚を申し込まれたんだって?」 「え――?」 「子爵から聞いたんだ、明日結婚式を開くんだろう? 僕からも祝福させて貰うよ」 ルイズは今初めて聞く事実に驚いた。 確かに、あのときは肯定と取れなくもない返事をした気がするが…… 彼のことは憧れの対象だし、むしろそれは望むべき事のはずなのだが。 「まぁ、今日は早く寝たまえ。明日は大変な一日になりそうだからね」 「……解ったわ」 「僕も出席させて貰うよ。それでは、また明日会うとしよう」 ギーシュが立ち去っていく。 ルイズは、月を見上げる。 ウェールズの事や、アンリエッタのことや、明日死ぬであろう人達の事は―― 心の隅にはあったが、考えているのは別のことだった。 ワルド子爵。 子供の頃憧れて、今だその対象にある彼。 あの池の小舟から、自分を救い出して、抱き上げてくれる人。 だが、何かが引っかかるのだ。 何がだろう?よくわからないが、何かが引っかかるのだ。 そう、自分は、まだ――…… 「私は――……」 「ルイズ、僕のルイズ。こんな所にいたのかい?」 「……ワルド様」 「ルイズ、所で明日――」 「ギーシュから聞きました」 「そうか。受けて貰えるね?」 ルイズは答えない。 その様子を見てワルドは肯定と取ったのか、立ち去っていく。 ルイズは、月を見つめていた。 「……命をかける程のことなの……?」 「もう明るくなってきたわねー」 ルージュ達はまだ歩いていた。 何回か休憩を取っていたため、少々遅れたが、 少し長めの丘を越えるとニューカッスルの城が見え始めた。 「あれねー……って、通れそうにないわね……」 丘の上から見下ろすとよくわかったが、 ニューカッスルの城は幾万とも思えるの軍勢に囲まれていた。 『レコン・キスタ』だろう。 「確かニューカッスルには1000も兵がないという話だけど」 「そうね、ちょっとやりすぎな気もするけど……」 「近づけない」 「困ったわねー」 キュルケが腕を組んで考え込む。 ルージュは目をこすった。 「またか……?」 「少し休んだ方が良いわねー。 どのみち通れそうにないし」 「いや、これは―?」 「どうかしたの?」 目の前に広がる景色はニューカッスルの城と、それを囲む大軍であるはずである。 そのはずなのだが。 ルージュの目には、違うものが映る。 「子爵とギーシュが見えるよ」 「え?何で?」 「ルイズの視界かも知れない」 使い魔を頭に乗っけたままのタバサが呟く。 このままずっと歩いてきたというのに、余り疲れてるようには見えない。 見えないだけで疲れてるのかも知れないが。 「使い魔は主と感覚を共有する。 なら、見えてもおかしくない」 「だけど、今まではこんな事無かったよ?」 「何が見えるの?」 「……礼拝堂……かな、これは」 「では、式を始める」 ルイズは白い衣装に身を包んで、ワルドと共に並び、立っていた。 白い衣装はアルビオン王家から借り受けた、美しいものであった。 しかし、それを纏う者は無表情。 それは空虚じみたようにも、どこか達観したようにも、 何かを決心したようにも見える。 王子が詔を上げる。だが、ルイズは聞いていなかった。 「新婦?」 その声に、ルイズは反応した。しかし、何も解らない。 自分が何を躊躇っているのかも、何をすればいいのかも、何も解らない。 ワルドが話しかけてくる。 「緊張しているのかい?ルイズ。 まぁ初めての時は誰だって緊張するものだからね」 「まあこれは儀礼に過ぎぬが、それだけの意味はあるのだ。 では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、 そして夫とすることを誓うか?」 どうやら、もう自らが誓いを立てる所まで来てたらしい。 それでも、ルイズは俯いて考えた。 ずっと考えていたら、だんだんと形になってきた。 「ルイズ、気分でも悪いのかい?」 いつの間にか、ワルドが此方の顔をのぞき込んでいた。 ルイズはそれに向き直ると、はっきりと言った。 「ワルド、わたしはあなたとは結婚できないわ」 ワルドはその言葉に固まり、ウェールズは困惑してルイズに聞き返す。 「新婦はこの結婚を望まぬのか?」 「そうです。大変に失礼なこととは成りますが、私はこの結婚を望みません」 「……子爵。残念だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬ」 固まっていたワルドが、気を取り直し、ルイズに語りかけてくる。 「ルイズ、緊張しているんだ……そうだろう?」 「違うわ」 「なら何故……そうか、彼かい?」 「え?」 「彼だ、君の使い魔の――」 「…………」 そうだ、考えていた。彼は、何故あそこで留まったのだろうか? キュルケも、彼と共に残った。あのゴーレム相手に、たった二人で。 死ぬのが怖くないのだろうか? この城のみんなも、何故自ら死にに行くのだろうか? それほどまでして、守ることなのだろうか? ウェールズ殿下は、アンリエッタ姫殿下の事を大切にしている。 なのに、彼女を置いて死にに行こうとしている。 彼らは、命を捨てる何かがあるのだろうか? ギーシュが言うには……そうできるのだから、あるのだろうと言うことだ。 ルイズはウェールズに向けていた目を動かし、横にいるワルドを見る。 彼は、自分のために命をかけてくれるのだろうか……? もしくは、ルイズ自身、彼のために自分さえ捨てることが出来るだろうか? 「彼も優秀なメイジかも知れないが、僕だって」 「そうじゃないのよ、そういう問題じゃ……って、今なんて?」 「いや、彼はメイジだろう?それも、僕より上の『風』の使い手の筈だ。 あれほど強力な雷は、並の――」 「何処で知ったの?彼は秘密にしてるはずよ」 ルイズは問い詰める。ワルドは、表情を固めさせる。 そして今度は歪める。悪意を持った表情に。 「まさか、こんな下らないことでね……」 「ワルド、あなた一体……」 「君を力ずくで連れて行くのは少々気が引けたのだが、こうなっては仕方がない……」 「一体どういう事だ!?子爵――」 近寄ってきたウェールズの腹に、ワルドは杖をめり込ませる。 そのま呪文を詠唱し、光を纏った杖でそのまま貫き、えぐり込ませた。 「な……貴様……」 ウェールズが倒れるのを確認してから、 ワルドは笑みを浮かべてルイズの方を向く。 「まぁ、幾らでも従えさせる方法はある。一緒に来て貰うよ、ルイズ――」 「ひ――」 ワルドが杖を再び振り上げ、呪文を詠唱する。 「『ライトニング・クラウド』」 雷光がルイズに向けて迸る。 だがそれは、途中で現れた人影に遮られる。 「……ワルキューレ?」 「なんだかよくわからないが……」 声のした方を振り返ると、今まで黙り込んでいたギーシュが、居た。 細剣を右手に、杖を左手に構えている。ワルキューレが一体傍らに立っている。 先ほどのと合わせて二体と言うことだろうか。 ギーシュは、いつもの芝居がかった様子は無いが、 むしろ普段より格好が付いた状態で言った。 「僕の友人に手を出させはしないよ」 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5310.html
前ページ次ページゼロの使い魔はメイド 「今日は、あのワイバーンはいないんですね」 シャーリーが先輩メイドであるシエスタにそう訊ねたのは、メイドたちの仕事も一段落ついた昼下がりのことだった。 どちらかというと無口なこの少女が、自分から口を開くのは珍しい。 「そうねえ……。アレはご主人と一緒によくどこかにいっちゃうんだけど」 あまり学院内にいてほしい相手でもないだけに、シエスタの態度は若干いい加減なものでもあった。 一度も吼えられたり、威嚇したりされたことのないシャーリーと違って、他の平民、いや、メイジたちにとっても、巨大なワイバーンは恐怖の対象なのだ。 「モードなら、二、三日留守なんじゃない? 主と一緒にね――」 別のところから、解答が飛んできた。 壁にもたれ、赤いオオトカゲを従えた美女が微笑んでいた。 使い魔のフレイムと共に、日向ぼっこを楽しんでいたキュルケである。 「これは……ミス・ツェルプストー」 シャーリーもシエスタもあわてて頭を下げる。 「里帰り、とか言ってから。今頃は……」 と、キュルケは空の、ある方向へと目を向けた。 その方角へ、大国ガリアがあることは、シャーリーは知らなかった。 ガリアの王都・リュティス。 魔法大国の中枢部の東端。そこに王族たちの住まう宮殿ヴェルサルテイルはあった。 ガリアの誇る壮麗で美しいその宮殿の上空を、一匹の竜が飛んでいた。 青い美しい鱗を持った風竜だった。 王宮に、近隣に住む者で、この青い竜を知らない者はいない。 プチ・トロワに住まうガリアの姫君・シャルロットが召喚した使い魔シルフィード。 竜といってもまだ幼生であり、人間で言えば十歳時くらいでしかない風竜は、きゅいきゅいと鳴きながら、今日も空の散歩を楽しんでいた。 だが、不意にシルフィードは痙攣でもするように動きを鈍らせ、ぴたりと鳴くのをやめた。 「きゅい!」 シルフィードは脅えた声を発して急速降下すると、プチ・トロワの陰にその身を潜めて、空を見上げた。 直後、空に大きな影が見えた。 巨大な翼を持つ飛竜・ワイバーンである。 ワイバーン属にも色々あるが、ヴェルサルテイルの上空に現れたのは、その中でも最大種のグレートワイバーンと呼ばれるもので、 「空の暴君」 と恐れられる怪物だった。 人間や動物のみならず、風竜や、ワイバーンに負けず劣らず狂暴さで知られる火竜にさえ襲いかかることがある。 その恐るべき爪や牙は竜の鱗を容易く引き裂き、その巨体は生半な魔法などものともしない。 ものの本によると……。 年経た巨大で狡猾なグレートワイバーンのために、小国が壊滅状態になったこともあるという。 このような怪物の前では、幼竜であるシルフィードなど、格好の餌食にしかならない。 あわてて隠れたのも無理はなかった。 おかしなことに、こんな物騒な生物が現れたのに、宮殿では迎撃する様子もない。 ワイバーンは巨大な羽根をはばたかせ、国王が住むグラン・トロワの前へと降り立った。 と、ワイバーンの背中から、一人の少女が飛び降りた。 長い青髪が風に揺れた。 一目でガリア王家の血を引くとわかる者である。 ただ。 その身から放たれる粗野……というより狂暴な空気は、王族というより、裏社会の人間に近いものがあった。 なるほど、狂暴なワイバーンに似合いの主人だった。 少女はふんぞり返り、宮殿内へと入っていく。 「イザベラ様、ようこそ」 「いらっしゃいませ」 「ようこそ」 宮殿の人間たちは少女を見ると、顔を伏せて挨拶する。 これに対してイザベラは、 「ん」 と、いかにも横柄な態度であり、まともに顔を見ようとすらしない。 イザベラはそのまま玉座の間へと向かい、政務の杖を振っている国王・シャルル一世と顔を会わせた。 「おお、イザベラか! よく来たね」 イザベラの顔を見たシャルルは相好を崩して、歓迎の意を表した。 抱きついて頬擦りでもしそうな勢いである。 王を前にしたイザベラはさすがに殊勝な態度で床に膝を突き、 「国王陛下におかれましては、ご機嫌うるわしく……」 挨拶を述べようとするが、シャルルはそれをさえぎって、 「よした、よした! そんな他人行儀なことはしなくていい。さ、顔を良く見せておくれ」 と、走るようにしてイザベラのそばに寄った。 まるで子供である。 その様子は、とても幼少時から天才と誉れ高い国王のものとは思えなかった。 「はあ……」 「また一段と綺麗になったね」 やたらにテンションを上げるシャルルに、イザベラはやや困った顔ながら満更でもなさげだった。 イザベラの父ジョゼフは、ガリア王家の長兄であり、すなわちシャルルとイザベラは叔父・姪の関係になる。 ジョゼフは数年前にシャルルが王位継承した後、地方に引っ込んで実質上の隠居生活を送っており、あまりリュティスにも出てこない。 と、いっても、ジョゼフはコモン・マジックすらろくに扱えぬ無能者として有名な男であり、そのことについてとやかく言う人間はあまりいなかった。 むしろ死ぬまで僻地でくすぶっていてくれと願う者のほうが多かった。 叔父と姪はしばらく歓談をしている頃―― プチ・トロワではシルフィードが主のもとで、きゅいきゅいと鳴いていた。 「イザベラ……様と、使い魔のワイバーンがきてるのね! 私、すぐに隠れてやり過ごしたけど、本当に怖かったのだわ!」 と、青い幼竜は人語で口をこぼしていた。 必死な口調が示す通り、幼いドラゴンが本当に怖かったのだ。 「そう」 そんな使い魔に、主は気のない返事を返して、そのまま黙りこんでしまった。 青いドレスと大きな王冠を身につけた、美しい姫君。 背丈も低く、ぱっと見には下手をすると十歳くらい見えるが、今年で十五になる乙女である。 シャルル王の娘、ガリア王国王女シャルロット。 大国の姫であり、若くしてすでにトライアングルクラスのメイジである彼女こそが、シルフィードの主であった。 シルフィードが高い知能を持ち、先住の魔法操る風の古代竜……風韻竜であることは、王宮内でもごくわずかなものしから知らぬ。 一国の王女がこれほどの使い魔を召喚したのだから、もっと大々的に知られてもよさそうだ。 使い魔は、メイジの実力をもっともわかりやすく示すものと言われるのだから。 しかし、シャルロットは、 「無駄に目立つからいや」 という理由で、そのことを秘密にしていた。 「初めて会った時のこと、ほんとに腹が立つのだわ! あのワイバーン、シルフィのごはんを横取りにしたのね! それを謝りもしないで、いまだにシルフィのこと馬鹿にしてるのだわ!!」 シルフィードはワイバーンへの怒りをわめいている。 確かに格で言うのなら、ワイバーンと風竜とでは竜のほうが上だ。 戦っても、竜が遅れを取ることは早々ない。 だが、それはあくまでも中型・小型のワイバーンの話であり、グレートワイバーンとなると、話はまったく別だった。 格なんぞといっても、所詮自然界でものをいうのは強さであり、力だ。 弱肉強食。それが厳格なルールなのである。 前述したように、成竜でさえ危険なのだから、シルフィードのような幼生など、彼らには餌でしかないのだ。 そんなところへ、 「シャルロット様、イザベラ様が見えておいででございますが……」 シャルルが王子の時代から仕えている老執事が、従姉妹の来訪を伝えてきた。 シルフィードが韻竜であることを知る数少ない人間の一人である。 「もう、聞いてる」 シャルロットはシルフィードのほうへと目をやった。 「さようでございますか。では……」 「多分、すぐに帰ってしまうわ」 何か言いかけた執事をさえぎるように、シャルロットは言った。 わずかながら険を吹くんだ声。 実際にその通りで、何か特別な用事でもない限り、イザベラがヴェルサルテイルに長居をすることはまずない。 「ですが、ご挨拶ぐらいは……」 「うん」 シャルロットはうなずいたけれど、 「本当のことを言うと、イザベラはちょっと嫌い。だって、お父様はあの子ばかり可愛がるんだもの……」 そうつぶやいた後で、あわてたように、 「このことは、秘密」 と、執事に念を押した。 執事は何も言わず、かすかに苦笑するばかりだった。 シャルロットの言う通り、シャルルは、昔から『不出来』な姪をずいぶんと可愛がっている。 幼い頃から、魔法の才能の乏しい姪に対して、 「なに、イザベラには知恵と度胸があるさ」 と優しく励ましていた。 そこのところが、まだ幼い王女にとっては、少々面白くないのである。 大好きな父が、従姉妹に取られているような気持ちになるのだろう。 執事の苦笑は、姫君のそんな思いを感じとった上でのものだった。 「トリステインのほうはどうだい?」 「相変わらずの田舎ですわ。ワインはなかなかのものですけど」 「やれやれ、相変わらず口が悪いな」 毒を吐く姪にシャルルは苦笑しながらも、 「今回はゆっくりしていけるのかい?」 「いえ……。今日は叔父上にご挨拶にうかがっただけですから――。それに、実家に顔を見せなくてはなりませんし」 「そうか……。残念だな」 シャルルは肩を落として、 「久しぶりで一緒に食事をしたかったんだが……。ま、仕方ない」 「申し訳ありません」 「いや、謝ることはないよ。兄さんに会ったら、よろしく言っておくれ」 「はい、叔父上」 イザベラはシャルルに挨拶をして、ワイバーンに乗って飛び立っていた。 菓子類やワインなど、多くの土産物を持たされて。 姪が帰った後、シャルルは玉座で一人ぼんやりとしていた。 兄・ジョゼフのことを思い出していたのである。 (今頃、何をしているのか……) シャルルはその才気や人望から、正当な後継者としてなるべくして王となった。 周りの人間は皆そう思っている。 しかし、 (そうじゃあないのだ……) 前王である父が王位を譲ると言ったのは、シャルルではない。 ジョゼフなのである。 これに対して、シャルルは何の抵抗もなかった。 魔法が使えぬと揶揄されていても、兄の優れた頭脳と知識は王として君臨するに相応しいものだと思っていたからだ。 だからこそ、兄を祝福し共にこの国を盛り立てていこうと言った。 ところが……。 ジョゼフはどうやって手回ししたものか、いつの間にかシャルルを正当後継者として、王位を継がせてしまったのである。 シャルルは驚いて、これは違うと言おうとしたが、気づいた時にはすでにそのようなことを言えぬ、言ってもまず無駄であろうという状況になっていた。 まったく舌を巻く他なかった。 戴冠式の日、 「これからはなシャルル、何もかもお前一人でやってるみることだ。俺はもう知らんよ」 ジョゼフはそう言い残し、去っていってしまった。 人々はこれを気にも止めなかった。 ジョゼフは魔法の使えぬ無能王子として、蔑視の対象でしかなかったからだ。 だから、皆このことをなるべくしてなったこととしか認識してはいなかった。 (愚かなことだ……) そのことで、シャルルは言うに言われぬ怒りをおぼえずにはいられなかった。 己が王になったことで、兄がどれほど優秀な人材であったのか、それまで以上に痛感したからだ。 人が魔法に長けるシャルルを誉めそやすが、政治という点から見ればシャルルは無能ではないが、特別優秀な人間ではない。 それは他の人間にも言えることで、メイジとしては優秀であっても、まず人の上の立つ器量のない人間や、まったく視野狭窄で浅慮な者の多いこと。 そういった人間は、それはそれでガリアの軍事力を支える大事な存在であるのだが、なまじ力があるものだから暴走の危険を伴う者が多い。 もしも王位が父の言葉通りジョゼフに譲られていたら、 (手前勝手に暴走して、謀反を起こしたかもしれない……) のである。 なんとも皮肉なことに、シャルルを慕って集まってきた者の半数はそんな人間だった。 彼らは悪人ではないし、熱意も才能もある者たちなのだが……。 さらにガリア全体で見ると、目をつぶってもいいレベルではあるが、明らかに腐敗・堕落の兆候を見せる貴族は数多い。 巨大な力を蓄えつつあるゲルマニアや不穏な空気の漂うアルビオンなどを見るに、 (これからは、メイジの力のみではやっていけなくなる……) と、痛切することが多かった。 (なんとまあ、頭が痛いことか……) シャルルは暗然とした気持ちで息を吐いた。 「お暇をいただきたいのですが……」 新人のメイドが唐突にそう申し出てきたのは、初仕事がようやく始まろうという矢先であった。 幼さを残す少女はぎゅっと唇を噛み締め、尋常ではない決心であるのがよくわかった。 「どうしたの、急に?」 メイド長は、なだめるようにして、なるべく穏やかに訊ねてみたのだが、 「私……。私……」 メイドはうつむいて震えるばかりであった。 そして、これまた唐突に―― 「私、カエルだけはダメなんです!!」 と、甲高い声で絶叫した。 カエル? メイド長は目を丸くした。 屋敷のあちこちからぴょいこら、ぴょんとカエルが這い出し、使用人たちを驚かせている、という報告があったのは、そのすぐ後であった。 その後、入ったばかりのメイドは、逃げ出すようにして屋敷から出ていってしまった。 (またか……) メイド長は頭を押さえ、舌打ちをした。 このようなふざけた事態を引き起こした犯人は大よそ見当がついている。 というよりも、この屋敷内では、まずその人物しかありえなかった。 カエル騒ぎが幾分おさまりを見せてから、メイド長は茶の用意をして主人の元へと向かった。 これはいつものことで、毎日特別なことがない限り、この時間にお茶を用意して主のもとへ持っていくのだ。 造りは古いが品の良い屋敷の中、日当たりの良い南側に主人の部屋はある。 「お茶の用意ができました」 扉をノックして呼びかけると、すぐに、入れ――と返事が返った。 穏やかだが、はりのあるいい声だった。 部屋の中央で、主は机に置かれたチェス盤を睨んでいた。 青い髪に、青い顎髭をたくわえた美丈夫である。 このような辺鄙な屋敷にいるよりも、王宮で玉座にでも座っているのが似合っていそうだ。 これに対して―― メイド長も美女である。 その役職に比較せず、年齢はまだ若く二十代前半ほどだが、落ちついた知性的な雰囲気をしている。 ブルネットの髪が実に奥ゆかしく、上品さを匂わせていた。 メイド長は無駄のない、ゆったりとしているようで手際の良い動きでお茶を入れ、ティーカップをチェス盤の横を置く。 青髪の美丈夫がカップを手にした時、 「ところで、旦那様」 メイド長は声をかけた。 「なんだね?」 「先ほど屋敷の中をカエルの群れがウロウロして、使用人一同大変に迷惑しております」 「なんと、それは困ったことだな。俺はこの通りチェスに夢中になって気がつかなかった」 「そのせいで入ったばかりのメイドが早々に暇乞いを申し出てきました。無理に引きとめることもできなかったので、望むようにいたしましたが」 「そうか。まあ、しょうがないな」 美丈夫は興味なさげにお茶を飲んでいる。 「もしやすると、旦那様はこの騒ぎを起こした犯人をご存知ではないかと」 「いや、知らんな。今日は朝からチェス盤にかかりきりだった」 「左様でございますか」 では、失礼をいたします、とメイド長は主人の部屋を辞した。 (面の皮の厚い……) 内心で主人に対し毒を吐きながら、メイド長は次の仕事のためきびきびと歩き出した。 メイド長は、その名をメアリといった。 この屋敷の主人、ジョゼフは正式なガリア王家の生まれであり、まがりなりも、『大公』と呼ばれる立派な身分の人間である。 年齢はすでに四十を超えているのだが、その美貌といい、たくましい見事な肉体といい、とてもそうは見えない。 今年十七になる娘がいるなど、ちょっと信じられなかった。 外見ばかりではなく、馬術は神業のような腕前であり、武術においてもとんでもない使い手であった。 また数多の楽器を玄人顔負けで弾きこなし、学問においては博覧強記の見本そのものだった。 屋敷のあちこちに飾られている絵画や彫刻――いずれも見事な出来映えの芸術品だが、これはいずれもジョゼフの手によるものである。 知る者はほとんどいないが、経済や政治方面でも抜きん出た先見の目を持っている。 並の人間であれば、一つでもいいからあやかりたいと思うだろう。 唯一にして、最大の欠点は魔法の才能がほぼゼロということだが。 しかし、メアリから言わせれば、だ……。 ジョゼフという男は天から何十と与えられた才能を無駄に浪費して省みるところがまったくない穀潰しだ。 せっかくの知恵と見識を子供じみた悪戯に注ぎ込み、諸人に迷惑をかけることに注がなくてもいい情熱を注いでいる。 むしろ、それを生きがいにしているようにさえ思えた。 あらゆる意味で無駄使いの大好きな男なのである。 金も時間も、そして知恵も知識も『無駄』にあるものだから、まったくもって始末が悪い。 小人は暇を持て余すとろくなことをしないと言うけれど、ジョゼフという男はどうでもいいところで大物なのだ。 これでは娘が愛想をつかして他国へ行ってしまうのも無理はなかった。 その娘……イザベラも、若干方向性は違うものの、父親と並び立つような穀潰しなのだが。 やたらに銃をぶっ放したがるので、危なくてしょうがない。 その標的になるのは、もっぱら領民に危害を及ぼすオーク鬼や猛獣であったのは不幸中の幸いか。 「……そういえば、今日はお嬢様のお帰りになる日だったわね」 メアリは誰言うとなく、そうつぶやいた。 若きメイド長の言葉に反応するように、風の音が窓越しに響いた。 ばさり、ばさりと羽根音がする。 屋敷の上空に、巨大なワイバーンの姿が見えた。 メアリは長い溜め息をつく。 思えば、使い魔召喚の報告として彼女が帰ってきた時は、使用人どころか領民たちはワイバーンの出現に大騒ぎをしたものだ。 無理のない話だが。 屋敷がイザベラの帰りでバタバタしているところ、メアリは急にジョゼフから呼び出しを受けた。 それは、他の何者にも決して真似出来ない、二人だけの方法によるものだった。 「お呼びでしょうか、旦那様」 「おお、すまないな、メアリ。実は、ちょっと雑用を頼みたいのだよ」 と、ジョゼフは書状らしきものを読みながら苦笑した。 「なんでしょうか……。あ、ご存知かもしれませんが、先ほどお嬢様がお帰りになられました」 「そうらしいな。おお、ちょうどいい、イザベラにも手伝わせてかまわん。あいつのワイバーンならすぐだろう」 「……」 主がこんな言いかたをする時は、大抵が面倒ごとだ。 メアリは溜め息をついた。 それと同時に、彼女の額に複数の文字が現れ、発光し出した。 言葉にすると、それは、ミョズニトニルンと読める。 ジョゼフの簡単な説明によれば、早い話、領内でゴタゴタがあり、何とかしてくれと領民たちが言っている……ということだった。 「で、それをどうにかしてこいというのですね?」 「そうだよ」 「……わかりました」 メアリはうなずいて、主のもとを辞した。 部屋を出る時には額のルーンは消えていた。 額のルーンは、普段は身につけたマジック・アイテムで見えないようにしている。 メアリ。正確には、メアリ・シュヴァリエ・ド・バンクス。 メアリがジョゼフによって、はるかイギリスからこのハルケギニアに召喚されたのは今より数年前のこと。 ただのメイドでしかなかった少女は、いまや魔法の世界で騎士の称号を得ている。 といって、表向きの仕事はイギリスにいた頃とそう変わらなかったけれど。 (世の中って、わからないわね……) メアリは我が運命の不思議さに嘆息するばかり。 だが、トリステインに自分と同じような境遇の、メイドの使い魔がいるなどということは……。 知恵の塊、神の本と呼ばれる力を得たメアリもまだ知る由はなかった。 前ページ次ページゼロの使い魔はメイド
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9150.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第四十九話「秘密文書への挑戦」 牛鬼怪獣ゲロンガ 登場 ラ・ヴァリエール公爵領から強引に脱出し、学院に帰還したルイズたち。そのまま遠征軍従軍の日を 待つだけかと思われたが、その前に、学院を突然訪れたアニエスからある役目を頼み込まれた。 「極秘公文書館?」 ルイズの部屋で、アニエスから聞かされた内容を才人が復唱した。アニエスがうなずく。 「うむ。この学院の地下に、極秘扱いの公文書を保管する場所がある。わたしはそこの資料を 閲覧する許可を、女王陛下から頂いた。ところがオスマン学院長は、「鍵を解除せよという 命令は受けていない」などと言って、入り口を開けることを拒否した」 「姫さまが許可したのに?」 ルイズが疑問を持つ。 「オスマン氏が言うには、危険だからだそうだ。千年以上昔に造られた施設故、謎が多い。 防犯用の強力な魔法も掛けられているので、不用意に入ると命に関わる。わたし一人が 立ち入ることは認められない……と」 オスマンの言い分を語ったアニエスは、ギリッと奥歯を噛み締めた。 「わたしは騎士だ! 危険など恐れぬ! それなのにオスマン氏は……!」 苛立つ彼女に、才人が肝心なことを尋ねかける。 「アニエス、そんなに見たい資料って、何なんだ?」 それにアニエスは、苦渋の表情で答えた。 「それは……私の仇に関するものだ」 「仇!?」 才人とルイズの驚く声がそろった。どういうことか、アニエスは語る。 「わたしの故郷、ダングルテールは二十年前、新教徒の反乱を名目に焼き払われた。だが反乱とは、 リッシュモンがでっち上げたものだった。唯一生き残ったわたしは、故郷の敵討ちを支えに生き、 銃士隊の隊長にまでなった」 「でも、リッシュモンはあなたが討ち取ったじゃない。だったら、もう敵討ちは終わったんじゃないの?」 ルイズの問い返しに、首を横に振るアニエス。 「まだ実行犯が残っている。そいつらの正体だけが、どこを調べても掴むことができなかったのだ。 しかし、トリステインの表に出せぬものも全て保管されているここの公文書館ならば、その記録も 残ってあるはずだ。そこをどうしても調査したい」 「それって、今やらなきゃいけないのか?」 今度は才人の質問。アニエスは肯定する。 「遠征が始まり、我が軍がアルビオンの港を制圧したら、女王陛下も前線に赴く。当然わたしも お供することになる。それまでにこの件を片付けておきたいのだ」 「姫さまが前線に!?」 驚いて声を上げるルイズ。 「数万の兵に命がけの戦いを命じる以上、自分だけ安全な場所にいる訳にはいかぬとのお考えだ」 「姫さま……」 アンリエッタの豪胆ぶりに改めて驚かされるルイズたち。国の長が前線に出ることは、 兵の士気の向上につながるが、当然危険なので普通は行われないことだ。それなのに、この型破り。 そういえば、リッシュモンの大捕り物の際にアンリエッタは前にグレンとひと晩語り合っていた。 その時にグレンが何か言って、その影響なのかもしれない。 「ここからが肝要なところなのだが、ラ・ヴァリエール殿、公文書館に入るために一つ、頼みがある」 「な、何?」 不意に話を持ちかけられ、思わず強張るルイズ。 「公文書館の扉は、厳重な魔法のロックが掛けられていて、わたしではどうやっても解くことが出来ない。 だが、学院の教師たちはオスマン氏が根回ししたのか、誰も協力してくれん。故に、あなたの『虚無』の 力を貸してもらいたい」 「わ、わたしの『虚無』?」 「確かラ・ヴァリエール殿の『虚無』には、魔法の効果を無条件で解くものがあったはずだ。 それを使えば、公文書館に入ることが出来ると思う。どうか、力を貸してほしい」 アニエスは頭を下げて頼んだ。ルイズは一瞬悩む。 「確かに、『ディスペル』なら魔法のロックも解けるかも……。分かったわ。姫さまの許可もあるし、 上手くいくかどうかは分からないけど、協力する」 「ありがたい。感謝する」 「お、おいルイズ。本当にやるつもりか? 学院長は反対してるんだぞ」 才人が異論を挟むと、ルイズに言い返された。 「アニエスはわたしたちの仲間よ。そのたってのお願いを、無碍にするのも忍びないじゃない」 「そうだけどさ……」 逡巡する才人。確かにルイズの言う通りだが、アニエスの目的は言い換えれば、復讐。 それに手放しに協力していいものか……と考える。 復讐で思い出すのが、ウルトラマンヒカリ。彼は守ろうとした惑星アーブをボガールに 滅ぼされた復讐に取りつかれ、命をすり減らした挙句、一時は本当に命を落とす羽目にまで なったと歴史で学んだ。アニエスには、そんな修羅の道をたどってほしくはない。 「なぁ、アニエス……もしその実行犯が判明したら、どうするつもりなんだ? 仮にその犯人が とっくに足を洗ってても、復讐を果たすつもりなのか?」 才人に聞かれ、アニエスは少し考えてから、こう答えた。 「どうするか……か。そこまでは、まだ考えていない。しかし、必ず何らかの形で我が故郷の無念を 知らしめてやりたいとは思う」 と言うアニエスを、才人はまっすぐににらんで、はっきりと告げた。 「じゃあ、約束してほしい。もし犯人が、すっかり心を入れ替えてるようなら、不必要な復讐は しないでくれ。俺は、お前の無念を晴らすことには協力するけど……私怨の殺人には協力できない。 ルイズは?」 「……わたしもよ。いくら姫さまの命令だったとしても、殺人の幇助は出来ないわ」 二人の要求に、アニエスはしばし黙っていたが、やがてうなずいた。 「分かった……。その約束、騎士の誇りに懸けて守ることを誓おう」 「ありがとう」 大事な約束を取りつけると、早速ルイズと才人はアニエスに連れられて、極秘公文書館の 入り口のあるところまで移動していった。 極秘公文書館の入り口は、非常に隠された場所に存在していた。女子トイレの用具入れの壁が 隠し扉になっており、その奥の階段を下りた先にあったのだ。 「すごく手が込んでるんだな……。こんなにして隠すくらいなら、処分しちゃえばいいのに」 才人がつぶやくと、アニエスはこう返した。 「公文書である以上、みだりに捨てることは出来ん。しかし、万が一にも他者の目が触れてはいけない。 故に普段は政府と無関係で、かつ日常的に厳重な警備が施されている魔法学院の地下に保管されることになったという」 「ふーん……そんなものなのかな」 アニエスがカンテラで、公文書館の入り口の扉を照らす。それには、三つの魔法のロックを 表すパネルが嵌め込まれていた。 「これだ。ラ・ヴァリエール殿、解除は出来るだろうか」 「ちょっと待って。……三つの魔法が複雑に絡み合うことで強固な鍵になってるけど、魔法自体は 強力なものじゃないみたい。これならどうにかなりそうだわ」 ルイズが杖を抜き、扉に『ディスペル・マジック』を掛けた。すると簡単にパネルが開き、鍵が解かれる。 「やったじゃん、ルイズ!」 「ふっふーん。このくらい軽いものよ」 「感謝する。ここから先は、わたし一人で行く」 アニエスはそう言って扉に手を掛けるが、それを才人が呼び止めた。 「いや、俺たちも行くぜ。乗りかかった船だ」 「しかし、危険が……」 「危険があるなら、なおさら一人で行くべきじゃないわ」 ルイズに説得され、アニエスは感謝の意を示す。 「……すまん」 「構わないさ。じゃあ、行こうぜ」 「どこへ行くんだね?」 いざ三人で入ろうとしたが、今度は背後から、また別の人間に止められた。 「コルベール先生!」 振り返ると、いつの間にかコルベールが階段を下りてきた。 「アニエス君に諦める気配がなかったので、気になって見に来たのだ。アニエス君、学院長は反対したはずだ」 「腰抜けどもの指図など受けぬ!」 コルベールは制止を掛けたが、アニエスはそれを振り切り、公文書館の中へ駆け込んでいってしまった。 「アニエス!」 それをルイズと才人も追いかけていく。 「君たち! 待ちなさい!」 コルベールも三人の後を追い、やむなく地下公文書館に入っていった。 「ダングルテールの仇!?」 「はい……」 公文書館までは、長く暗い通路が延々と続いていた。才人とルイズは道すがら、コルベールに アニエスの事情を説明した。それを聞いたコルベールは、眉間に皺を刻んでうつむき、黙りこくる。 「先生?」 「ああいや、何でもない。事情は分かったが……アニエス君、そのためにどうしても資料を 確かめたいのかね?」 顔を上げたコルベールは、アニエスに確認を取る。 「当然だ。そのために苦心を重ねたのだ」 「しかし、公文書館は本当に危険なのだよ……。盗難防止用の魔法がいくつも掛けられてあるし、 他にも地下には牛鬼が出る……」 「うしおに? 先生、それ見たことあるんですか?」 「あッ、いや、それは噂なんだがね」 才人の聞き返しで訂正するコルベール。アニエスはその話に、失笑を返した。 「そんな下らぬ噂話などで、諦められるものか。わたしは何としても、実行犯の正体を確かめるのだ」 アニエスの意志が固いことを悟り、コルベールは嘆息した。 「仕方ない……。ただし、わたしも同行するよ。万一の事態のために、目付けが一人はいた方がいいだろう」 「好きにしろ」 コルベールも加わることになって、しばらく歩いた後に、問題の公文書館に一行は到着した。 「うわぁ……すごいところにあるのね」 「全くだな……」 公文書館の光景に呆気にとられるルイズと才人。石造りの神殿風の公文書館は広大な空洞の、 一行とは反対側の岩壁をくり抜いた箇所に設けられており、一行との間には底が見えないほど 断崖絶壁が広がっている。一行の場所と公文書館をつないでいるのは、細い石の橋だけ。 間違って落下したら、命はないだろう。 注意深く橋を渡り切り、館の前にたどり着くと、その門に注意書きらしきものが目立つように 刻まれているのが見えた。ルイズが読み上げる。 「資料の破壊、改変、持ち出し、及びこの場所における一切の魔法の使用を禁止する。規則を破りし者には 死の災厄が降りかかる……死んじゃうの!?」 「気にすることないだろ。この中じゃ、コルベール先生だけ気をつければいい話だ。ルイズは普段 爆発くらいしか使わないだろ?」 「何ですって!? わたしは爆発しか能がないみたいな言い方じゃない!」 「や、やめなさい! 今はまずい!」 才人が余計なことを言って、ルイズが杖を振りかけたが、コルベールが慌てて止めた。 「とにかく、早く探そう。資料の持ち出しが出来ないのならば、中で確認をするしかないな」 アニエスが扉を開けると、内部の書架の様子が一行の目に飛び込む。本棚が薄暗い館内に ところ狭しと並んでいて、その一つ一つに本が隙間なく並べ立てられている。 「うわ、大量じゃないか。この中から探し出さないといけないのか?」 才人は辟易するが、アニエスはある程度目途がついているようだった。 「ダングルテールの虐殺は二十年前のことだから、この中ではごく最近の分類のところにあるはずだ」 四人は手分けして、それらしい本棚をしらみつぶしにチェックする。……が、コルベールは 途中何度もアニエスに目を向けていた。 それに気がついた才人はコルベールにすり寄り、囁きかけた。 「先生、もしかしてアニエスに気があるんじゃないですか? 妙に気にしてるみたいじゃないですか」 「なッ!? ち、違う。そういうことじゃないのだよ……」 「え?」 コルベールがいやに真剣な顔つきになったので、才人は呆気にとられた。しかし、コルベールは それ以上何も言ってくれなかった。 「ダングルテール事件……これか!」 その内、アニエスが目当ての資料を発見した。吹き抜けの二階に続く階段の下に腰を下ろし、 一ページずつ内容を確認する。 「しばらく時間が掛かりそうね……」 資料を持ち出せるのなら、帰ってからゆっくりと調べられるのだが、それが出来ない以上、 アニエスが目的を果たすのを待つしかない。ルイズが手持ち無沙汰にしていると……。 「……ん? 何か、変な揺れがしないか?」 不意に才人が、微弱な震動を感知して顔を上げた。 「え? 変な揺れって……」 「ほら、どんどん大きくなってくるような……」 才人の言う通り、どこか遠くから、ズシン、ズシンと足音のようなものとともに震動が強くなってきた。 それを知ると、コルベールが顔をさぁっと青ざめる。 「ま、まさか!」 「あッ、先生!?」 館の外へ駆け出すコルベール。才人とルイズが追いかけ、そして「それ」を目の当たりにした。 「なッ、あれは!?」 「う、牛鬼だぁー!?」 「グギィ――――! ブモ――――!」 断崖絶壁の左手奥から、暗褐色の皮膚を持ち、頭部には偶蹄類のもののような立派な角を 二本生やした40メイル級の巨大生物がゆっくりとこちらへ歩いてきていた。牛のような 鳴き声を上げているのが、牛鬼という名前の由来か。 「でけぇよ! 怪獣じゃねぇか!」 端末からデータを引き出す才人。牛鬼怪獣ゲロンガと出た。 「お、大きすぎる……。これほどまでに育っていたのか……」 「え? 先生、今何か言った?」 「い、いや、独り言だ」 「見て! あいつ、何故か右側の牙が欠けてるわよ!」 怪獣ゲロンガを指差すルイズ。彼女の指摘通り、ゲロンガの大きく裂けた口の端から出っ張っている牙は、 片方だけ根本から欠けていた。 「そんなことどうだっていいだろ! それより、あいつがこのままこっちに来たらまずいぞ!」 才人の言う通り。ゲロンガは人の気配を察知してこちらに近づいてきているのだろうが、 あの巨体ではぶつかっただけで橋が壊され、帰る手段を失ってしまう。早く、ゲロンガが 接近する前に脱出しなければ。 「アニエス君! ここは危険だ! すぐに逃げよう!」 「待て! これだ!」 コルベールが呼びかけるが、ちょうどアニエスも肝心の実行犯への命令書を発見したところであった。 「命令書。疫病蔓延を防ぐため、ダングルテール一帯の人間を焼却処分せよ。実行部隊にはそんな名目だったのか……」 「アニエス君! 早く逃げなければ!」 「待て! まだ隊長の名前が!」 コルベールが急かしても、アニエスはまだ動こうとしない。その間にも、ゲロンガはどんどん近づいてくる。 「グギィ――――! ブモ――――!」 巨体のゲロンガの歩幅は広く、もう橋のすぐそこまで迫ってきていた。アニエスを待っていたら、 間に合いそうにない。 「食い止めるしかないぜ!」 才人はウルトラゼロアイを取り出し、ゲロンガの正面に回り込んで、その眉間を撃ってひるませようとする。 「グギィ――――!」 だがそれは逆効果。ゲロンガは怒り、才人に威嚇の咆哮と吐息を浴びせた。 「う、うわぁぁぁぁぁッ!」 巨大怪獣の吐息は、最早突風。才人は身体をあおられ、橋から落下してしまった! 「サイトぉー!」 「何!? サイト君が!?」 ルイズの叫びを耳にして、コルベールが駆け戻ってくると、 「ジュワッ!」 崖の底からウルトラマンゼロが立ち上がり、ゲロンガにがっしりと組みついて進行を食い止めた。 「ウルトラマンゼロ! こんなところにまで来てくれたのか……」 ひとまずは時間を稼げるようで、コルベールはもう一度アニエスの方へ振り返る。アニエスはまだ 資料に目を通している。 「あった! 疫病対策のため、特殊部隊を編成し、隊長には……!」 とうとう肝要の部分に行き当たるアニエス。だが……。 「ない!? 名前の部分が破られている! 何故だ!? 一体誰が、こんなことを!?」 「アニエス君! 早くしたまえ!」 「放せ! どこかに、隊長の名前が……!」 「破られているなら、そんなものはもうここにはないんだよ!」 コルベールは力ずくでもがくアニエスを引きずる。 『うぐッ……! すげぇ力だ……!』 「ブモ――――!」 一方のゼロも、ゲロンガの怪力に押されて苦戦を強いられていた。単純な力比べなら、 ゲロンガの方に分がある。ストロングコロナになれば別だろうが、今のゼロの真後ろには 簡単に崩れてしまいそうな石橋がある。下手なことは出来ない。 「ゼロ、頑張って! お願い!」 ルイズは応援しか出来ない。魔法を使えば、逆に状況を悪化させる恐れがあるからだ。 『ぐおぉ……! もう駄目だ……!』 しかしルイズの願いも虚しく、ゼロはもう限界が近かった。そこにアニエスを連れたコルベールが 館から出てきて、ゼロへ叫んだ。 「ウルトラマンゼロ! そいつの左の牙を切り落とすんだ!」 『えッ!?』 どうしてそんなことを。だが、うだうだ考えている暇はない。ゼロは言われたままゼロスラッガーに 手を伸ばし、すかさずゲロンガの牙へ刃を走らせた! 切れ味は見事なもので、一瞬で牙をバッサリと切断する。 「グギィ――――……!」 するとどうしたことか、ゲロンガはたちまち勢いがしぼみ、よろよろと後退してゼロから離れた。 そしてクルリと反転し、背中を向けて橋から離れていく。 「か、帰っていくわ……」 その様を、呆気にとられながら見送るゼロやルイズたち。ゲロンガは本来、地底で大人しく 生活しているだけの怪獣だ。このまま放っておいても問題はないだろう。 「……ジュワッ」 ゼロは変身を解き、才人に戻る。その才人は、橋に手の力だけでぶら下がっている状態だった。 「あ、危なかったぜ……」 「サイト君! 無事だったか!」 橋から落ちかかっているという風を装って、才人はコルベールに引き上げてもらった。 ウルトラマンゼロの力で、どうにか危機を脱した一行。しかし、肝心の成果は出すことが出来なかった。 仕方なく、一行は道を引き返して学院へと帰還していく。 「けれど、驚いたわね。まさかこんな地底にまで怪獣が出るなんて」 「ああ。牛鬼の噂は本当だったんだな」 ゲロンガのことについて言葉を交わすルイズと才人。と、ルイズはあることを気にかけて コルベールに尋ねかけた。 「ところで先生、よくあの怪獣の牙を折ればいいなんて分かりましたね」 「えッ!? あ、いや、それはだね……わ、分かったという訳じゃないんだよ。ただ、もう一方が 折れてるのが気になって、それで天啓にように思いついただけで……ろ、論理的ではなかったね」 「なーんだ。まぁ、結果良ければ全て良しよね」 コルベールは妙に慌てていたが、ルイズは特に気にしなかった。 「良しなどではない! 結局、隊長の名前は分からずじまいだった……」 ルイズのひと言で、アニエスが声を荒げた。それで、才人がふと気に掛ける。 「でも、誰が破いたんだろう? 捨てるに捨てられない資料だから、保管されてるんだろ?」 「当然、見られたらまずい者が我々に先んじて破ったんだろうな。恐らく、その隊長自身だろうが…… どうしてそこまでして名を隠そうとするのかまでは分からん……。どちらにせよ、手掛かりは なくなってしまった。副隊長はメンヌヴィルという奴らしいが、そいつも今どこにいるものか……」 悔しそうに歯ぎしりするアニエス。その横顔を一瞥したコルベールは、また険しい表情となった。 (……先生?) それを目に留めた才人は、どうしてコルベールがそんな顔を作るのかが分からず、小首を傾げた。 空の大陸アルビオン。クロムウェルの執務室。 『いよいよだ。いよいよ、アルビオンとトリステインの戦争が始まる』 ヤプール人が、クロムウェルとシェフィールドを相手にそう告げた。 『その時が、我らヤプールとウルティメイトフォースゼロの最終決戦の時となる。……が、その前に、 後一度だけ刺客を送り込み、連中の抹殺を図ろうと思う。やるからには、徹底的にやらねばな』 「しかし支配者様、お言葉ですが、一つ問題があります」 クロムウェルがヤプールへ進言する。 「最早、有力な刺客になりそうな者が残っておりません。力のある宇宙人は軒並み敗れ、 残っているものと言えばウルトラマンどもに怖気づく腰抜けばかり。どの星人を刺客に 仕立て上げましょうか」 『そのことなら、心配はいらぬ』 ヤプールはそう断って、言った。 『刺客の指揮は、我らヤプールが自ら執る』 「何と!? 支配者様自ら……ということは……」 『うむ。「そういうこと」なのだよ……ふふふ……』 クロムウェルとヤプールは何やらほくそ笑んでいる。一人蚊帳の外のシェフィールドは、 何を言外に話しているのか分からずに呆気にとられた。 『そして肝要の戦力の一部を紹介しよう。入るといい』 執務室の扉が開き、一人の男が入ってきた。白髪と顔の皺から相当歳がいっているようだが、 肉体はかなり鍛え抜かれている。そして顔には、額の真ん中から左眼を包み、頬にかけて火傷の跡があった。 『この男の名はメンヌヴィル。こいつの率いる部隊が、強襲を掛ける。場所は奴らの隠れ家…… 魔法学院だ。メンヌヴィルよ、存分に焼き払うがいい』 ヤプールの命令を受けると、メンヌヴィルはにぃ、と不気味に笑いながら濁った眼を輝かせた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔