約 1,746,356 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/979.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「待て」 その言葉に、食堂が静まり返る―…と言うことはなく、 騒がしいままではあったが、その声は届いたようだった。 「……何だね君は」 ギーシュは顔を歪め、不機嫌な表情――顔が腫れているので、 口調からの推測だったが――と、不機嫌な口調で返した。 それに対しても平静を保ち、ブルーは言う。 「誰でも良いだろう」 「……そうか、君はたしか『ゼロ』のルイズが呼び出した平民だったな? 平民が僕に何のようだ」 「お前が悪い」 いや、実に簡潔な発言だった。 解りやすく、また同時に間違っていなかったため、 周囲の者達もその言葉に乗り、ギーシュを笑い始めた。 「そうだギーシュ!お前が悪い!」 「二股をかけてたのはお前だからな!」 「恋人が居るだけで許せんのに二股をかけるとはどういう事だギーシュ!?」 一人だけ暗い感情を隠してないものが居たような気もするが。 平手打ちを喰らい、華麗な裏拳を決められ、 周囲から笑われたギーシュは、瓶を拾っただけのメイドより、 自分が笑われる原因となったこの生意気な平民に怒りの矛先を向けることにした。 「君は貴族に対する礼儀を知らないようだな?」 「知った事じゃないな」 ブルーがそう返すと、 ギーシュは芝居がかった仕草で続ける。 こういうときでさえギーシュは格好を付けることを忘れない。 それは賞賛に値することだとは思える。 「フン、ならばこの僕が君に礼儀を教えてあげよう。 ヴェストリの広場に来たまえ!そこで平民と貴族の差を示してやる」 「別に構わん」 そう言うと出口へと歩き出す。 ギーシュの友人達がその後をついて行く。 震えていたシエスタが、暫く経ってから言う。 「あ、あなた……殺されちゃうわ。平民が貴族に逆らったら……」 「大丈夫だ」 そう言ったものの、シエスタは青白い顔をしながら走り去ってしまった。 それと入れ違いになるように、ルイズが近寄ってくる。 「ブルー!何してんのよ!?」 「……どうもヴェストリの広場とやらに行かなければいけないみたいだが」 相変わらず平静を保つブルーとは対照的に、 ルイズは激昂しているようだった。 「そうじゃなくて!何で決闘の約束なんてしてるのよ~!」 「決闘の約束だったのか?……まぁ、問題はないな」 そこで初めて決闘の約束をしたことに気付いたらしい。 その様子を見て少し呆れながらもルイズは続ける。 「あのね!……ちょっとこっち来なさい!」 途中で少し逡巡しながらも、ルイズはブルーの手をとって食堂から連れ出した。 間違いなく人の目が無い自分の部屋まで来てから、 ルイズは話し始める。 「……まぁ、この際だから決闘の約束の事には何にも言わないわ。 だけど、どうやってギーシュと戦うつもり!?あれでもメイジよ!」 「術を使えば――」 「ほいほい使うなって今朝方言ったでしょ!」 「……そうだったな」 「……どうするのよ」 二人とも黙り込む。 結構長い間沈黙を保っていたが、そのうちルイズが言う。 「今なら謝れば、許して貰えるかも」 「何で謝るんだ?」 「……それはそうだけど、謝らないと許してはくれないわよ」 その言葉を受けて、考え込むブルー。 またしばらくの時間が過ぎる。 が、ブルーは突然何かを閃く。 「要するに術を使ってないように見せれば良いんだな?」 「……え?そんなこと出来るの?」 「やり辛いことは確かだが、出来る筈だ」 ブルーは自信というよりは確信を持った口調で言い放った。 「諸君!決闘だ!」 ギーシュが両手を広げて叫ぶと、周囲から歓声が帰ってくる。 尚、顔はすでに治療済みである。 打撲ぐらいなら案外簡単に直せるのだろう。 「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの使い魔だ!」 歓声に答えて、薔薇の造花を振ったり、 手を振り返しているギーシュに比べ、 ブルーは非常に落ち着いていた。 一通り歓声に答え終わったギーシュがブルーの方に向き直ると、 周りの観客にも聞こえるように語り始めた。 「まずは逃げずに来たことを褒めてやろうじゃないか、平民」 「逃げる必要もないな」 「……ふん、そんな口を利けるのも今の内だ!始めるぞ!」 ギーシュが薔薇の造花を振ると、 薔薇の花びらが宙に舞い、一体の女戦士の形をした銅像となった。 それがブルーの前に跪く。 「僕はメイジだ、だから当然魔法を使って戦う。 まさか文句は無いね?」 その言葉に応えるように、跪くように座っていたその銅像が立ち上がる。 「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。 僕が青銅のゴーレム、『ワルキューレ』が君の相手をしよう」 それに対し、ブルーは右手を前に突き出し、言う。 「そうか、なら俺は――」 ~~~~ 「良いかルイズ。 使うのはたった二つの術だ。『剣』と『金貨』」 「……何よそれ?」 「見れば解る」 ~~~~ 「俺は手品師だ」 と言って、何も持っていなかった右手に『金貨』を現す。 その言葉と、その『金貨』を見て、ギーシュは思わず言ってしまう。 「……は?」 「だから手品を使って戦う。問題はないな?」 そして、今度は『金貨』を消してみせる。 周囲が黙り込む。 そして、次の瞬間には笑い出す。 「ふ……はは、あっはっは!」 「おい聞いたか!手品でメイジに挑むらしいぜあの平民は」 「こいつは笑えるな!」 ルイズと、後二人……いや、四人だけが冷静に見つめていた。 ギーシュはと言うと、馬鹿にされたと思ったらしい。 「ふざけるのもそこまでだ!」 と言い、ワルキューレをけしかける。 それに対し、ブルーは両手を服の内側にしまい込む。 次の瞬間、笑いが一気に止まる。 手品を使って戦うといった平民は、懐からアホみたいな量のナイフを取り出した。 「このナイフの束からどうやって逃れる?」 それにしてもこのブルーノリノリである。 ともかく、ブルーはその『剣』を全てギーシュに向かって投げつける振りをする。 実際は投げている振りをしているだけで、『剣』の力で飛ばしているのだが。 自分に向かってくるナイフを見て、ギーシュは叫ぶ。 「ワ、ワルキューレ!」 青銅のゴーレムが重そうな外見にそぐわぬほど俊敏な動きをみせ、 ナイフを身体で受け止める。 それはブルーが『剣』を投げるのを止めるまで続いた。 ギーシュは冷や汗をかきながらも、続けた。 「は、はは……少しは焦ったが、所詮は僕のワルキューレの敵ではないな」 そして、再び薔薇を振り、6体のワルキューレを作り出す。 これで既に作られて居たワルキューレを含め、7体となった。 「……だが、剣を使うとは、どうも本気のようだね! なら僕も本気で相手をしてあげようじゃないか! 七体全てのワルキューレを出そう!」 6体のワルキューレが、ブルーを囲むように近づいてくる。 一体はギーシュの近くに居た。 ナイフによる飛び道具を警戒しているのだろう。 ブルーも流石に焦り始める。 『剣』はギーシュに当たれば間違いなく致命傷を与えるが、 金属で出来たこのワルキューレとか言うゴーレムに対しては効果が薄い。 それが七体。ギーシュへの直接攻撃も警戒されている。 絶体絶命という奴であった。 (他の術を使えば――) が、辺りを見回してみる。 ワルキューレを全員倒せるような術では、周囲にいる生徒達にすら死者を出すだろう。 「アカデミー」とやらの事を抜きでも、それは出来そうにない。 一体一体倒していったとしても、途中で術力が切れそうである。 ワルキューレを一撃で倒せるような術では、術力の消耗が大きい。 青銅の拳に殴られ、吹き飛ばされる。 「ぐっ……」 倒れていると、近い位置にいたワルキューレが追撃をかけてきた。 ゴーレムの足が、ブルーの左腕の骨を踏み砕いた。 「……ッ!」 激痛に耐えかねて転がるが、結果的にそれで距離が取れたようだ。 だが、状況が好転したわけではない。 ギーシュは勝利者の余裕をたっぷりと含ませて言ってくる。 「ふん、不遜な口をきいていた割には大したことはなかったね。 もう終わらせるとしよう!」 ワルキューレ達が、一斉にブルーへと殺到した。 「オールド・オスマン」 扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえてくる。 「なんじゃ?」 「ヴェストリの広場で、決闘が行われているようです。 大騒ぎになっていますが、生徒達に邪魔されて止めることが出来ません」 それを聞いて、オスマンは呆れと嘆きを表へ出した。 「全く、あの馬鹿共が。 暇があるならもっと有意義なことをしろってもんじゃ。 で、誰が暴れてるんだね?」 「一人はギーシュ・ド・グラモンです」 オスマンは記憶の糸をたどり、顔と名前を一致させる。 「あのグラモンの所の馬鹿息子か。 どうせ女がらみのトラブルじゃろ。で、相手は誰じゃ?」 「それが……メイジではなく、ミス・ヴァリエールの使い魔のようなのです」 オスマンは、隣にいたコルベールの方を向いた。 コルベールもまた、こっちを見返していた。 思うところは同じだったらしい。 外からの声が続けてくる。 「決闘を止めるために、『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが……」 その声に対し、オスマンは即座に返した。 「アホウ。子供のケンカ如きで秘宝を使ってどうするんじゃ。 放っておきなさい」 「わかりました」 ミス・ロングビルが去っていく足音が聞こえた。 オスマンは再びコルベールと顔を見合わせると、杖を振った。 壁に掛けられた鏡に、広場の様子が映し出される。 ルイズは不安だった。 不安は、自らの使い魔が死にかけていると言うことだった。 どう考えてもそれが正しい。 しかも、何故か術を使おうとしない。 死にかけてまで、術を使わない理由にはならない。 自らの初めての成功の証が、消えてしまうことがこの上なく恐ろしかったのだ。 なので、目を閉じていた。 が、突如走った閃光が、閉じていた彼女の目を開かせる。 そこには、光り輝く剣を片手で構える使い魔の姿があった。 ブルーはある一つのことを閃いた。 ここに来てからというもの、やたらと閃いているような気がするが、 それは今はどうでも良い。丁度良い術があったのだ。 大規模ではなく他人を巻き込まず、 ワルキューレ達を一撃で倒せる訳ではないが、 防御も兼ね備えた術。 更に良いことに、術を使っているとは思われづらい。 左手は折れているようだったが、右手は動かせる。 問題はない。 フラッシュボムを上に投げる。 ここに来たときに大したものは持っていなかったが、 これはあった。 「《光の――」 詠唱を始めると同時に、閃光が走る。 その閃光を目を閉じたブルーは見る事はなかったが、 周囲の観客や、ギーシュの目を眩ますことは出来たようだ。 「―剣》!」 振り上げた右手に、《光の剣》を作り出す。 閃光によって、彼らは目を閉じた。 が、暫くして閃光は収まったことを知ると、彼らは目を開けた。 ボロボロにやられていた平民が、また剣を持っていた。 どうやらまだやるつもりらしい。 同じように閃光から立ち直ったギーシュが、芝居がかった口調で言う。 「……ふふ、褒めてあげよう。ここまでメイジに刃向かうとは、むしろ賞賛に値するね。 だが、もうろくに動けないだろう」 そして、再びワルキューレ達を操り始める。 ワルキューレ達が再び、ブルーめがけて突撃する。 (……なんだ?) ブルーは、自らの身体の異変を感じ取っていた。 身体が軽い。腕の痛みを感じない。 今、自分に襲いかかろうとしているワルキューレ達が遅く見える。 《光の剣》にはこのような効果はない。 だが、取り敢えず今は考えることは止め、目の前のゴーレムに向き直った。 身体を感じたままに動かす。 ワルキューレの拳を回転してかわし、そのまま斬る。 次に来たワルキューレを袈裟切りにする。 そして、返す刃の逆袈裟切りを身体ごと回転して繰り返し、残りの4体を切り捨てる。 ギーシュの眼が、驚愕に見開かれた。 「わ、ワルキューレッ!」 一瞬のうちに6体のワルキューレを斬られたギーシュが、 薔薇を振って巨大な剣を作り出し、残り一体となったゴーレムに持たせる。 ブルーはそれを見て、高く飛び上がった。 自分でも信じられないぐらい、高く飛んだので驚いたが、 落ち始めると、落下の力も加えて剣を振り下ろす。 迎撃する形で剣を振り上げたワルキューレを、大剣ごと縦に真っ二つにし、 その後剣を横に一閃し、ギーシュ……の持っていた薔薇だけを散らした。 腰を抜かして尻を付いたギーシュに、 ブルーは剣を突きつけて言った。 「まだ続けるか?」 その場に居た、本人を含めた誰もがギーシュの敗北を認めた。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9084.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十三話「ラグドリアン湖のひみつ(前編)」 水棲怪人テペト星人 カッパ怪獣テペト 登場 トリステインの戦勝のお祝いから、数日後のこと。才人とルイズ、それからギーシュと、 金色の巻き毛の少女の四人は、トリステインとガリアとの国境にあるラグドリアン湖にやってきた。 才人の乗っている馬にはルイズも跨っており、才人の胸元にギュッとしがみついている。 「これが音に聞こえたラグドリアン湖か! いやぁ、なんとも綺麗な湖だな! ここに水の精霊がいるのか! 感激だ! ヤッホー! ホホホホ!」 一人旅行気分のギーシュが馬に拍車をいれ、わめきながら丘を駆け下りた。 馬は水を怖がり、波打ち際で急に止まった。慣性の法則で、ギーシュは馬上から投げ出されて 湖に頭から飛び込んだ。 「背が立たない! 背が! 背ぇええええがぁああああああッ!」 ばしゃばしゃとギーシュは必死の形相で助けを求めている。どうやら泳げないらしい。 「やっぱりつきあいを考えたほうがいいかしら」 金色の巻き毛の少女、魔法学院の生徒の一人、通称『香水』のモンモランシーが呟いた。 「そうしたほうがいいな」 才人が相槌をうった。するとルイズが心配そうな顔で、非常にしおらしい仕草で才人を見上げる。 「モンモランシーがいいの?」 「そ、そういうわけじゃねえよ。待ってろ。すぐに元のお前に戻してやるからな」 冷や汗をかきながら、才人は普段の気の強い彼女とは真逆のルイズに弁明した。 どうして才人たちがラグドリアン湖にいるのか、そして何故ルイズの性格がおかしくなっているのか。 それには長い長い、同時に馬鹿らしい経緯がある。 そもそもの事の発端は、才人が露店で水兵服を購入したことだ。ハルケギニアでは兵士の 制服というだけの服だが、日本人の才人の常識からすると、セーラー服は女子学生の着るものなのだ。 そして同時に、男心をやらしい感じに興奮させるものでもある。それを才人は、シエスタに頼んで 日本のものに近いように仕立て直してもらい、そのまま彼女に着てもらった。シエスタを選んだのは、 比較的日本人顔なので、周囲の人間の中では一番似合うと思ったからだった。 果たして、セーラー服はシエスタにとても似合っていた。着こなした彼女の姿に才人は、 郷愁の念もあり、やばい感じに大興奮した。……と、これで終わっていればマシだったのだが、 この場面をギーシュとマリコルヌの二人に見られたことから話はおかしな方向へ突き進んでいく。 この二人もシエスタのセーラー服姿に目を奪われ、このことをルイズに話すと才人を脅して 予備のセーラー服を譲らせたのだ。そしてギーシュの方は、一度フラれてヨリを戻したいと 思っているモンモランシーにそれを送った。下心が見え見えの贈りものだったが、意外にも モンモランシーは悪いようには思わず、教室にまで着てきた。それを見たルイズは、すぐに 才人の買ったものだと気づき、どうしてモンモランシーが着ているのか訝しんだ。 これに焦ったのは才人だ。モンモランシーからたどられて、シエスタにセーラー服を着せて 楽しんでいたことが知られれば、彼女のことだ、怒り狂ってまたひどい目に遭わされるに違いない。 才人は証拠抹消のために、その日の内にシエスタからセーラー服を返してもらうことにした。 だがその時には既に遅かった。才人の様子がおかしいことにすぐに気がついたルイズは、 姿をくらました才人を探す内に、マリコルヌが自分でセーラー服を着て、映ったものを 正反対の姿で映すマジックアイテム『嘘つきの鏡』で楽しんでいる現場を押さえた。 そして彼から、真相を聞き出してしまったのだ。 そして才人が一番恐れていた時がやってくる。セーラー服の引き取りに向かった才人の下へ やってきたのは、彼との逢い引きと勘違いしてセーラー服を着てきてしまったシエスタだった。 そしてその現場には、ルイズが待ち伏せをしていた。完全に才人とシエスタの関係を誤解した彼女は、 殺意すら抱いて必死に逃げる才人を追いかけ始めた。 この後が重要な点である。才人は、連れ込んだギーシュをある罠に掛けようとしている モンモランシーの部屋に逃げ込んだのだ。すぐに追いついたルイズは、怒りによる喉の渇きを その場にあったワインで潤してから、いよいよ才人を追い詰めたのだが、その時に異常が発生した。 何と、ルイズの怒りが急激に消え去り、代わりに才人への尽きることのない好意が湧いて、 彼にベッタリになってしまったのだ。 才人は助かったことを喜ぶより、不自然に態度が急変したルイズを怪しんだ。そしてその原因を調べると、 すぐにモンモランシーに行き着いた。何とあの時モンモランシーは、極度の浮気性に手を焼かされる ギーシュを自分の虜にするために、ワインに違法の強力な惚れ薬を混ぜて飲ませようとしていたのだ。 それをルイズが飲んでしまったという訳だ。 すぐにルイズを元に戻したいと考えた才人は、モンモランシーを半ば脅迫して解除薬を 作らせることにした。だが、ここでまたも問題が一つ発生した。解除薬に必要な材料の一つ、 ラグドリアン湖の水の精霊の涙が売り切れで、再入荷も絶望的な状態らしい。何でも、 精霊との連絡が取れなくなったとか。だが才人は諦めなかった。待っても再入荷されないなら、 こっちからもらいに行けばいい。 こうして、才人とモンモランシー、そしてついてきたギーシュと才人から離れようとしない ルイズの四人は、はるばるラグドリアン湖へやってきたのだった。 ……ちなみにこの一部始終を、ゼロは心底呆れ返りながら傍観していた。 「サイトぉ~」 ルイズは相変わらずの調子で、猫のようにゴロゴロ喉を鳴らして才人に甘えている。 男冥利に尽きる状況だが、才人はげんなりとしている。 「……やっぱり早く元に戻さないとな。こんな調子で四六時中くっつかれてたら、俺の身体が持たねえや」 『そうだな。このまんまじゃ俺も、怪獣退治の任務を果たせないぜ』 才人の独白に相槌を打つゼロ。何せ、ルイズが片時も才人を離そうとしないので、変身して 怪獣との戦いに赴くことが出来ないのだ。現にここに至るまでに一度怪獣が出現したのだが、 その時も聞き分けのなくなったルイズに捕まってしまったので、グレンファイヤー探しで忙しい ミラーナイトに代わりに出動してもらう羽目になった。ミラーナイトからも現状を呆れられてしまった。 才人とゼロがルイズを元に戻す意志を固めていると、びしょ濡れのギーシュそっちのけで 湖面を見つめていたモンモランシーが、首をひねった。 「ヘンね」 「どうした? どこがヘンなんだ?」 才人が聞き返すと、モンモランシーがラグドリアン湖の異常を説明する。 「水位があがってるわ。昔、ラグドリアン湖の岸辺は、ずっと向こうだったはずよ」 「ほんと?」 「ええ。ほら見て。あそこに屋根が出てる。村が飲まれてしまったみたいね」 モンモランシーが指差した先に、藁葺きの屋根が見えた。才人は、澄んだ水面の下に黒黒と 家が沈んでいることに気づいた。モンモランシーは波打ち際に近づくと、水に指をかざして 目をつむった。 モンモランシーはしばらくしてから立ち上がり、困ったように首をかしげた。 「おかしいわ。水の精霊の気配を感じない」 「そんなのわかるのか?」 「わたしは『水』の使い手。香水のモンモランシーよ。このラグドリアン湖に住む水の精霊と、 トリステイン王家は旧い盟約で結ばれているの。その際の交渉役を、『水』のモンモランシ家は 何代もつとめてきたわ」 「今は?」 「今は、いろいろあって、他の貴族がつとめているわ。ともかく、そういう訳で、わたしは 水の精霊の気配を感じることが出来る。……そのはずなのに、今は何も感じないわ。 どういうことなのかしら……」 モンモランシーが訝しんでいると、木陰に隠れていたらしい老農夫が一人、一行の元へとやってきた。 「もし、旦那さま。貴族の旦那さまがたは、もしや、人さらいの亜人どもを退治しに参られたかたがたで?」 「えッ! それ、何の話? ラグドリアン湖に何が起きてるの?」 いきなり物騒な話をされて驚く一行を代表して、モンモランシーが問い返した。農夫は違うことを 悟ると深く落ち込んだが、それでも事情を教えてくれた。 「まず二年ほど前から、増水が始まったんでさ。ゆっくりと水は増え、今ではわしの屋敷まで沈んじまった。 けど今思えば、それはまだましな方でしたわ。ここ最近は、それに加えて、湖の周辺で見たことのない姿の 亜人が夜中に目撃されるようになったんでさ。それと同時に、村の人間が少しずつ消えてくようになったんですよ。 きっと、その亜人どもの仕業に違いねえ。それなのに、領主さまも女王さまも、今はアルビオンとの戦争に かかりっきりで、こんな辺境の村など相手にもしてくれませんわい。わしらはいっそのこと、村を捨てるべきかと 本気で考えてる次第です」 よよよ、と老農夫は泣き崩れた。彼の話の深刻さに、才人たちは同情を寄せる。 「その見たことのない亜人とは、どんな姿なのかね?」 ギーシュが尋ねると、農夫が身振り手振りを入れつつ説明する。 「わしが見た訳じゃないんですけど、何でも頭のてっぺんが皿でも乗っけてるように平らで、 口は鳥のくちばしのようにとんがってるそうです。しかも、魚のように水の中で生きてるみてえで。 湖の中から這い出てきたとこを見たという奴が何人もおりますわ。水の精霊は、どうしてそんな連中を 湖に住まわせたのやら……」 農夫の証言を聞いて、才人が呟く。 「丸で河童だな」 「カッパ?」 河童を知るはずがないギーシュらが聞き返すと、才人が説明を挟んだ。 「俺の故郷に伝わる……まあ、亜人みたいなもんさ」 「ふぅん? 案外、それが正体だったりしてね」 「まさか。サイトの故郷ってはるか東のロバ・アル・カリイレなんでしょ? そこの生き物が、 トリステインにいる訳ないわ」 話し合っても、亜人の正体はさっぱり分からなかった。それから、農夫が落胆して去っていったあとで、 モンモランシーが腰にさげた袋からなにかを取り出した。それは一匹のカエルであった。鮮やかな黄色に、 黒い斑点がいくつも散っている。 「カエル!」 カエルが嫌いなルイズが悲鳴をあげて、才人に寄り添う。 「なんだよその毒々しい色のカエルは」 「毒々しいなんていわないで! この子はロビンって言って、わたしの大事な使い魔なんだから!」 モンモランシーはカエルを湖の中に入れ、水の精霊を探しに行かせる。だがしばらくした後に、 モンモランシーの下へ戻ってきた。カエルからの報告に、顔をしかめる。 「やっぱり、湖のどこにもいないみたい。どこかの貴族に連れられて、別の場所に行ってるだけなら いいんだけど……この異常な状況じゃ、その線は薄いわね。きっと、何か訳があって身を隠してるんだわ……」 「さっきの人が言ってた亜人ってのが関係してそうだな」 推測した才人は、次のことを提案する。 「その亜人って、夜になると現れるんだったな。じゃあ夜を待って、そいつを捕まえようじゃないか。 きっと水の精霊の手掛かりが掴めるはずだ」 「それ、本気で言ってるのかね!? ぼくは手荒なことは、その、あまりしたくないぞ。危険だし……」 怖気づいて尻込みするギーシュだが、モンモランシーは対照的に意気込む。 「わたしはやるわ。元とはいえ、わたしは水の精霊との交渉役のモンモランシ家に連なる身。 水の精霊の異常を見過ごす訳にはいかない」 「うッ、モンモランシーはやるのか。だったら、ぼくがやらない訳にはいかないな。愛しい モンモランシーを残して学院には帰れないよ……」 まだ怖がっているものの、ギーシュが意見を翻した。 「ギーシュ、わたしのために……」 「当然さ、モンモランシー……」 「はいはい。そういうのは終わってからにしてくれ」 見つめ合って二人の世界に入ろうとするギーシュとモンモランシーを、才人が現実に引き戻した。 そして才人たち一行は、夜になると、湖の岸辺の木陰に隠れ、亜人とかいうものが現れるのを待ち受けた。 「地元の人の話じゃ、この辺りでよく目撃されるみたいだ。どんな顔してるか知らないが、 出てきたらすぐにとっ捕まえてやるぜ」 才人は既にデルフリンガーを抜き、木陰からわずかに顔を覗かせて、岸辺をじっと見張っている。 その背中には、相変わらずルイズがピッタリ張りついていた。 「わたしは戦いなんて出来ないから、捕獲はあなたたちに任せたわよ」 「安心してくれモンモランシー。ぼくの勇敢な戦乙女たちが、亜人なんぞ簡単にひねり上げてくれるさ」 モンモランシー相手に見栄を張っているギーシュだが、恐怖心がなくなった訳ではなく、 脚はガクガク震えていた。それを紛らわすためにワインをあおっていて、顔が赤い。これで本当に 使い物になるのかと、才人は若干不安だった。 そうしていると、デルフリンガーが声を上げた。 「相棒、誰かやってきたぜ」 「亜人か!?」 「ローブをすっぽり被ってるから、そこまでは分かんねえな」 才人が岸辺を確認すると、確かに、デルフリンガーの証言通りの人影が現れていた。人数は二人で、 随分身長に差がある。 亜人でなくとも、既に地元の人間は誰も寄りつかなくなったこの場所にやってくるとは、 ただ者ではないはず。一体誰だ、と思っていると、ゼロが不意に告げた。 『あいつら、キュルケとタバサじゃねぇか』 「え?」 思わず目を見張った才人は、ルイズをどうにかなだめて自分から離し、木陰から出てそっと 人影に近づいていった。そして名前を呼ぶ。 「おい、キュルケ! タバサ!」 「えッ!? その声はダーリン!」 振り返った二人組は、目深に被ったフードを取り払った。その下からは、よく見知った顔が出てくる。 ゼロの言った通り、キュルケとタバサだった。 「お前ら、どうしてこんな場所にいるんだ!」 「そっちこそ、どうしてこんなところにいるのよ? ここ、ガリアの領地よ」 才人とキュルケは互いに同じ質問をした。するとそこに、木陰に待たせていたルイズが 才人へと走り寄ってきて、悲しそうにパーカーの袖を引っ張った。 「キュルケがいいの?」 「だから違うって! ややこしくなるから、お前はちょっと黙っててくれ」 ギーシュとモンモランシーも才人たちの下へやってくる中、キュルケはぽかんと今のルイズを見つめた。 そして才人に聞く。 「いつのまにルイズを手なずけたの?」 「いや、そうじゃねえから」 才人はキュルケたちに、ここまでの経緯を説明した。 「なるほど、モンモランシーのせいでこんなことに……。まったく、自分の魅力に自信のない女って、最低ね」 「うっさいわね! しかたないじゃない! このギーシュったら浮気ばっかりするんだから! 惚れ薬でも飲まなきゃ病気が治らないの!」 「もとを辿れば、ぼくのせいなのか? うーむ」 モンモランシーとギーシュのコントは置いて、今度は才人が質問する番になる。 「それでそっちは、どういう理由でここにいるんだ?」 聞かれて、キュルケは困ってしまった。彼女はタバサの事情を知っているのだが、それは 才人たちに教えるのは憚られる内容なのだ。それで無難な説明をする。 「そ、その、タバサのご実家に頼まれたのよ。この辺に出る亜人が、タバサの実家の領地に 被害を出してるから、退治を頼まれたってわけ」 「お前たちも同じような目的だったのか」 納得した才人は、周辺に目を配る。 「それで、問題の亜人は今どこに……」 と噂したからなのか、周辺の草むらがいきなり、ガサッと音を立てて揺れた。 「きゃあッ!? な、何!? 誰かいるの!?」 モンモランシーが脅えて大声を出したが、草むらからは何も出てこない。だがその代わり、 森の中で黒い影が頻繁に動き回るところが目に入る。 「な、何者だあ!? か、か、隠れてないで出てこい! 卑怯者めぇ!」 半狂乱になってガチガチ歯を鳴らすギーシュが、小刻みに震える手で杖を握り締めて叫んだ。 恐怖に打ち震えるギーシュとモンモランシーを尻目に、タバサが才人とキュルケに囁きかける。 「気をつけて。囲まれてる」 「えッ!?」 「相棒、後ろだ!」 突然デルフリンガーが叫んだ。それと同時に、人間に似た影が湖面から飛び出し、才人たちに 襲い掛かってきた! 「きゃあああッ!」 悲鳴を上げるルイズ。だが素早く反応した才人が振り向き様にデルフリンガーを振るったことで、 影はバッサリ斬られて仰向けに倒れた。 「うわッ!? 河童!」 影の正体を見た才人が叫んだ。口元は鳥のもののようにとがり、四本指の間に水かきを持った容貌は、 河童そのものだったのだ。 しかしそれを、ゼロが否定した。 『こいつは亜人でも、ましてや河童でもねぇ! テペト星人だ!』 「えッ!? テペト星人だって!?」 すぐに才人が通信端末で検索すると、今目の前にいる怪人と全く同じ姿の宇宙人が引っ掛かった。 ラグドリアン湖の亜人の正体は、侵略者テペト星人だったのだ。 「カァ――――――――!」 仲間の一人の後に続くかのように、湖や森の中から、大量のテペト星人が飛び出てきて 才人たちに押し寄せてきた。 「きゃああああ! た、たくさん来たぁ!」 「お、おのれ! モンモランシーには手出しさせないぞ!」 モンモランシーが悲鳴を上げると、ギーシュがなけなしの勇気を奮い立たせた。青銅のワルキューレを 作り出して、テペト星人の軍団を迎撃する。 キュルケとタバサはすぐに攻撃を仕掛けた。火炎球と氷の矢を放ち、迫るテペト星人を片っ端から薙ぎ倒す。 「おらぁッ!」 才人も、今は震えるばかりのルイズをかばい、テペト星人をばっさばっさと斬り伏せる。 突然の襲撃に度肝を抜かれた一行だが、驚いていたのは一瞬だけで、テペト星人を次から次へと 返り討ちにしていった。特にキュルケとタバサのコンビが最も敵を倒した。二人の連携は見事で、 一方が呪文を唱えている間に、もう片方が攻撃魔法を放ち続けることで、全く隙を作らなかった。 「こいつら、アルビオンに出てきた連中より、はるかに弱いわね」 自分たちに手出し出来ないでやられていくテペト星人に対して、キュルケが余裕ぶって評した。 確かに、テペト星人は特筆するような戦闘能力を持たず、巨大化することも出来ない。 かつて地球に侵入した者たちも、ウルトラ警備隊が生身で難なく撃退したほどだ。 だが、敵もわざわざやられるためにやってくるのではない。ブラック星人がスノーゴンを 手元に置いていたように、戦闘力のない侵略者は往々にして、代わりの戦力を所持している ものであることを才人は知っていた。 「! 見て!」 「な、何あれ!? でっかい卵!?」 果たして、テペト星人との交戦中に、ラグドリアン湖の中央に途轍もなく巨大な卵が浮かび上がってきた。 タバサとキュルケが見ている中で卵はすぐにひび割れ、中から巨大怪獣が現れる。 「キャ――――――――!」 卵の中から出現した、一つ目で頭頂部が皿の形状になっている、これまた河童そっくりな怪獣こそ、 テペト星人の用心棒で、彼らの住む星の名前を与えられた大怪獣、テペトであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9462.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百六十一話「ガリア王国の大決戦」 死神 最強合体獣キングオブモンス 巨大顎海獣スキューラ 骨翼超獣バジリス 破滅魔虫カイザードビシ 登場 「グギャアーッ! グギャアーッ!」 『はぁぁぁッ!』 『せいッ!』 『うらあぁぁぁぁッ!』 ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーの三人はカイザードビシの大群に対し、 勇猛果敢な戦いぶりを見せつける。片っ端から各々の必殺攻撃を決め、爆砕し撃破していく。 だがどれだけ倒そうとも、一向にドビシの群れが減る気配はない。屈強なる戦士たちも 徐々に疲労が見え始め、じりじりとカイザードビシに押されるようになってしまう。 「グギャアーッ!」 『ぐわああああああッ!』 複数のカイザードビシの光線の砲火がミラーナイトたちを襲い、三人は爆発に呑まれて 絶叫を発した。 『みんな! くッ……!』 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 一瞬仲間たちの方へ振り向いたゼロだったが、助けに行くことは出来なかった。彼も キングオブモンス、スキューラ、バジリスの三体を同時に相手していて、とても手を離せる 状態ではないのである。 「セェアッ!」 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 ゼロの鋭い拳がキングオブモンスに打ち込まれるが、キングオブモンスはあっさりと弾き 返した。元々「ウルトラ戦士を上回る怪獣」として設計された大怪獣であるので、そのパワーは 並大抵の怪獣とは比較にもならないほどなのだ。 「キイイィィッ!」 「キ――――――――!」 キングオブモンスに押されたところにスキューラの突進と飛行するバジリスの光球爆撃を 食らい、ゼロは悶絶。 『ぐおおうッ!?』 一体だけでも手強い怪獣が三体も集まれば、ゼロの苦戦はむしろ当然の話であった。 「くッ……!」 才人もまた、ゼロたちの苦闘に顔を歪めていたが、彼も彼で全ての元凶たるジョゼフに 意識を集中しなければならなかった。 しかし、憎いほどの相手を前にしているというのに、才人は当惑を覚えていた。それは、 ジョゼフの表情があまりに空虚であるからだった。タバサを散々いたぶり、苦しませた男と 聞いて、悪魔のような人間だと想像していたのに……長身の体躯に反して、ちっぽけな人間の ようにすら見えるのだ。 だがどんな相手であろうと、今起きていることは止めさせなくてはならない。才人は己に 活を入れ、パラライザーの銃口をジョゼフに合わせた。 「その石から手を離せ! 怪獣たちを止めろ!」 脅しを掛ける才人だったが、ジョゼフはまるで聞こえていなかったかのように才人を評し始める。 「まぶしいくらいに、まっすぐな目をしている。全く顔は違うが、どことなくシャルルに 似ているな。おれにもお前のような頃があった。大人になれば、己の中の正義が、心の中の いやしい劣等感を消してくれると思っていた。だが、それは全くの幻想に過ぎなかった」 才人には、ジョゼフの独白につき合っている時間はない。ジョゼフの石を握る手を狙って パラライザーを撃つ。 しかし光線は、空を切った。突然、本当に突然、ジョゼフの姿が消えたのだ。 「なッ!?」 「こんな技を、いくら使えたからと言って、何の足しにもならぬ」 ジョゼフの声は背後からした。才人は振り向きざまにデルフリンガーを一閃したが、ジョゼフの 姿はマストの上にあった。 才人は、カステルモールからの手紙の最後の一文を思い出していた。ジョゼフは、寝室から 一瞬で中庭に移動してのけたという。 「この呪文は“加速”というのだ。虚無の一つだ。なにゆえ神はおれにこの呪文を託したので あろうな。まるで“急げ”とせかされているように感じるよ」 技の正体を、ジョゼフ自ら口にした。 しかし、原理が分かっても才人にはまるで対応が出来ない。いくら銃を撃ち、剣を振っても、 その瞬間にはジョゼフは別の場所に移動しているのだ。スラン星人を思い出す速度……いや、 それ以上だ。才人の目には、ジョゼフの残像すら映らないのだ。 ジョゼフの魔法は極めて単純だが、それ故に弱点が見当たらない。 「少年、おれにはおれの仕事があるのだ。そろそろ終わりにさせてもらう」 ジョゼフが短剣を抜いた。並みの相手ならば簡単に処理できるようなちっぽけな武器ですら、 ジョゼフが手にしたら急所を確実にえぐる最悪の凶器に変わる。 絶体絶命の淵に立たされた才人。――だが、彼もカステルモールがもたらした情報から、 何の用意もしていなかった訳ではない。 今こそゼロが施してくれた特訓の成果を見せる時だと、才人は己の両目を閉じた。 「ほう、覚悟を決めたか。潔いな」 ジョゼフは才人が降参したものと思ったが、才人は強く否定する。 「違うぜ。これはお前の虚無を破るための技だ!」 「ほう、技だと?」 「俺の生まれた世界には“心眼”って言葉があってね! 掛かってこいジョゼフ! お前の 動きなんか心の目で見切ってやるぜ!」 一瞬で移動するというジョゼフに対抗するために、ゼロが授けてくれた技。それが、フリップ 星人の分身術を破るためにウルトラマンレオが体得した奥義、“心眼”だ! 人間は外部の情報の大部分を視覚から得る生き物であるが故に、目で捉えられないものには 極めて弱いし、視界とは己の前方しかカバーしていない。しかし視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、 かすかな音や空気の流れなどを捉えられるようになれば、相手がどこにいようと幻覚を用いよう とも、一切惑わされることはない。常に真実の姿を捉える。これこそが心眼の極意だ! (まぁ論理としちゃあ理には適ってるのかもしれんが、本当にこれが上手くいくのか……?) しかし、才人に握られるデルフリンガーは内心戦々恐々としていた。才人自身も極度に 緊張していることが、柄を包む手の平から伝わってくる。 心眼は、口で言えば簡単に聞こえるかもしれないが、実際にそこまでのレベルに到達するには それこそ超人的な身体能力と精神力が必要となる。ましてや、才人の心眼はこの一日二日程度で こしらえた付け焼き刃だ。更には、超高速で動き回るジョゼフの接近に完璧に合わせたタイミングで 剣を振らないと結局意味がない。依然として才人は圧倒的不利のままだった。 様々な凶悪能力を駆使する敵に、その度に急ごしらえの対応策で立ち向かっていたという レオも、今の自分のような極度の緊張状態にあったのだろうか……と、才人は一瞬感じていた。 「面白い。ならばやってやろう」 ジョゼフが動いたのを感じ取った! その瞬間、才人は己の本能が命ずるままに剣を振り下ろす! ほんのかすかな時間が、永遠とも思える空白に思えた。そして――。 「ぐうおぉッ!?」 「ジョゼフさまッ!!」 短い悲鳴と、ミョズニトニルンの叫び声が耳に入った。才人が目を開くと――短剣を握っている ジョゼフの腕だけが、甲板に落ちているのが見えた。 才人のひと太刀は、見事ジョゼフを捉えたのだ! 「やったッ!」 「よくやった相棒! いやほんとにおでれーたよこれは! 大金星じゃねえか! 虚無に 打ち勝つなんてよ!」 才人もデルフリンガーも歓声を抑え切れなかった。しかしまだ勝った訳ではない。才人は 気を引き締め直して、ジョゼフの足をパラライザーで撃った。これでもういくら加速しよう とも無意味だ。 「お前の負けだ。もう一度言う、怪獣を止めろ。そしてタバサに謝ってもらうぞ」 身体が麻痺して片膝を突いたジョゼフに言いつける才人。最早、どんな愚者が見てもはっきり しているくらいに勝敗は決している。 それでも、ジョゼフは才人に耳を貸さなかった。 「止められん……今更止まれるはずがなかろう。おれは最期の一瞬まで、絶望に向かって進み続ける」 「まだそんなことをッ!」 「ああ、そうだ……。こんなことになってしまうくらいだったら、初めからこうしていれば よかったのだろうな。おれの迷宮に出口がないのならば……おれごと壊してしまえば」 ジョゼフが残った腕で、麻痺していても手放そうとしない赤い球が禍々しく光り出した。 しかもその閃光は、フリゲート艦を覆っている。 才人は途轍もない悪寒に襲われた。 「自爆する気かよ!?」 ジョゼフの反対の腕も切り落とし、無理矢理にでも阻止する! そのために身を乗り出していた才人だったが……いきなりの事態の変化に、思わず足を 止めてしまった。 どこまでも虚ろだった顔のジョゼフが、急にどこか遠い場所に意識を向けたかと思うと…… その目から、ぼろぼろと涙がこぼれて止まらなくなったからだ。 「な……何であんた、泣いてるんだ……?」 訳が分からずについ尋ねかけると、ジョゼフはそれで自分が泣いていることに気がついたようだった。 「泣いてる……? おれは泣いているじゃないか。ははは……。あれほど疎ましく思っていた 虚無が出口を見つけるとは、あっけなく、何とも皮肉なものだ」 才人にはやはり、ジョゼフに何が起こったのかは分からなかった。ただ……誰かの虚無の力が、 ジョゼフの顔に、人間らしい感情をよみがえらせたということは理解した。 ルイズではないだろう。ティファニアも違う。であれば、ジョゼフに魔法を掛けたのは……。 その時に、守備のガーゴイルを破ってタバサたちが艦上に乗り込んできた。聖堂騎士団は すぐさまジョゼフを取り囲んで杖を向けたが、ジョゼフは力なく座り込んだままで、最早反撃の 意志すら見せなかった。 ジョゼフの正面にタバサが立つ。それで顔を上げたジョゼフは、己の被っていた冠を脱いで、 彼女の足元に置いた。 「シャルロット。長いこと、大変な迷惑を掛けた。詫びのしるしにもならぬが……受け取ってくれ。 お前の父のものになるはずだったものだ。それと……お前の母のことだが。ビダーシャルという エルフが、おれの動向の監視のためにまだガリアにいるはずだ。そいつに薬を調合してもらえ。 おれからの最後の命令……いや、頼みだと言ってな」 「……何があったの?」 「説明はせぬよ。お前の父の名誉に関わることだからな。だがもう、終わった。全ては終わったのだ。 おれはもう、地獄を見る必要はなくなった。後は、お前がおれを気の済むように扱えば、それでよい」 ジョゼフは笑みを浮かべて、タバサに首を差し出した。 「この首をはねてくれ。それで、本当に全て終わりだ」 タバサはもちろんのこと、この場の全員が、ハルケギニアを恐怖と混沌で呑み込もうとしていた 悪の権化と思われていたジョゼフの、あまりにも穏やかな様子に、理解が追いつかずに立ち尽くしていた。 そしてタバサは、父を殺した憎い仇の首を前にして、 ザンッ、と鈍い音が響き、ジョゼフの首が甲板に転がった。 「……!?」 噴き出た鮮血が、ジョゼフの正面に立っていたタバサの頬を濡らした。しかしジョゼフの 首を落としたのは、彼女ではなかった。 禍々しい光刃がギロチンとなって降ってきたのだ。驚愕した才人たちが見上げると、崩れ落ちた ジョゼフの胴体の上方には、死神が浮遊していた。 「何だあいつ……!?」 「気をつけて! あれこそが、ジョゼフの裏にいた真の敵……真の悪ですッ!」 既に死神の底知れない敵性を見抜いているアンリエッタが警告を飛ばした。 その死神は、アンリエッタに向けていた侮蔑はそのままに、表情を憤怒に染めてジョゼフの 遺体を見下ろしていた。 『下らないッ! 実に下らない! 我々が世界を滅する力を与えてやって、望みを叶えてやろうと したというのに! ここまで来ておいて、終わっただと!? やはり人間なんぞに任せたのが間違い だった! 肝心なところで役に立たんッ!』 「ジ……ジョゼフ様ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 麻酔が薄れてきたミョズニトニルンがあらん限りの絶叫を発した。死神は彼女も含めて、 この場の人間たちに汚物でも見るかのような冷え切った目を向けた。 『人間ッ! 宇宙の病原菌ども! ゴミ屑! 見るも汚らわしい汚泥風情がッ! 貴様らが 吐息をする度に虫唾が走るッ! 最早貴様らの悪臭には我慢がならんッ!』 「な、何言ってやがんだ、あいつ……」 死神が怒濤のように発する侮辱の言葉の数々に、才人たちはむしろたじろいでいた。恐怖の 視線を集める死神は両の腕を掲げ、諸手に暗黒の力を宿す。 『こうなれば我々が直々に貴様らをこの世から残らず消してくれる! 一匹たりとも、生かしては おかんッ!!』 そして死神から闇の波動が飛び、それがカルカソンヌを襲う怪獣たちに浴びせられ―― 怪獣たちの勢いが強まった! 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 「キ――――――――!」 「キイイィィッ!」 「グギャアーッ! グギャアーッ!」 怪獣たちは急激に高まった暴力によって、ゼロたちをはね飛ばす。 『ぐわあぁぁぁぁッ!?』 キングオブモンスのぶちかましで地に叩きつけられたゼロのカラータイマーが赤く点滅し出した。 「ぜ、ゼロッ!」 死神の力によって強力化した怪獣に窮地に追い込まれた仲間たちの姿に、才人が叫び声を上げた。 その頃、マルチバースの一つの内にある地球では、藤宮博也が再び高山我夢の研究施設を 訪ねていた。 「藤宮!」 「我夢……俺が来た理由は、もう分かってるだろう」 格納庫で我夢の前へとやってきた藤宮のひと言に、我夢はうなずき返す。 「ああ。君のアグレイターも、これと同じように光り出したんだろう?」 我夢が取り出したのはエスプレンダー。それと同じ変身アイテムである藤宮のアグレイターも、 ランプ部分が明滅を繰り返した。 「この反応は、遂に僕たちが必要とされる時が来たということだ。このアドベンチャーもね」 照明に照らし出されているアドベンチャー二号を見上げる我夢。アドベンチャーは既に 完成しており、整備も万全だ。いつでも発進できる状態にある。 「すぐに行こう。時間の猶予はないみたいだ。この光が、俺たちを導いてくれる」 「ああ。でも藤宮、玲子さんには挨拶してきたのかい?」 二人乗りに改造しておいたアドベンチャーに乗り込みながら尋ねた我夢に、藤宮は苦笑 しながら返した。 「すぐに帰るとだけな。俺たちは死にに行くんじゃないからな」 それに我夢も苦笑を浮かべた。 「それはそうだ。僕たちは、世界を救いに行くんだからね!」 我夢と藤宮が乗り込むと、アドベンチャーが機動。機体両脇のホイールを高速回転させて 時空間のひずみを作り出し、時空と時空の境の超空間に入り込む準備を行う。 『行ってらっしゃいませ、ガム、フジミヤ』 時空を超えた旅に出る二人を見送るのはPALのみ。しかし我夢たちにはそれだけで十分であった。 彼らは、必ずこの世界に帰ってくるのだから。 「行ってくるッ!」 我夢の返事を合図として、アドベンチャーは空間の壁を超えて別世界へと移動していった。 死神の魔力によって怪獣の暴威が激化したことで、タバサはジョゼフから転げ落ちた赤い 球へと駆け出した。 (あの球は……!) 見覚えがある。大きさや形は違えども、ファンガスの森を怪獣だらけにしたという、あの球と 同じものに違いない。ならば、あの時のように怪獣を倒す勇者――ウルトラマンを呼ぶことが 出来るはずだ。ゼロたちのピンチを救うには、それ以外方法がない。 しかし、タバサの手が触れるその寸前に――赤い球は死神の魔力をぶつけられ、消滅してしまった。 「あッ……!?」 『思い通りにさせるものか、馬鹿めが! 一度出したものを消す機能はないが、『奴ら』を 呼び出されるようなことは絶対にあってはならんからなッ!』 タバサの希望を消し去ってしまった死神は、地上のキングオブモンスに向かって命令を飛ばす。 『そして貴様らにこれ以上余計な真似はさせん! さぁ、やれぃッ!』 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 バジリスとスキューラがゼロを抑えつけている間に、キングオブモンスがフリゲート艦に 向けてクレメイトビームを発射! フネは一瞬にして木端微塵にされた! 「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――ッ!!」 当然才人たちは空中に投げ出される。シルフィードや聖堂騎士のペガサスらが慌てて放り 出された人たちを受け止めていくが、そこにバジリスが光球を撃ち込もうとしている。 『やめろぉぉッ!』 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 必死に止めようとしたゼロだが、キングオブモンスの尻尾に殴り飛ばされた。 『ぐわぁぁッ!』 バジリスは光球を発射! 才人たちを受け止めたところのシルフィードたちは、とても かわす余裕がない! 誰もが絶望する、そんな状況であったが、ルイズは決してあきらめなかった。 「こんなところで、わたしたちは終われない! 奇跡よ起きてッ!」 呪文の一文字目すら詠唱する暇もないが、それでもルイズは自分の杖を振り下ろした。 「光よぉぉぉぉぉッ!!」 その刹那、杖にまばゆい光が生じた――。 エスプレンダーとアグレイターの光の波長が導く先へと目指しているアドベンチャーの機内で、 我夢と藤宮の手にしているその二つのランプが、完全な輝きを発した。 「! 我夢ッ!」 「ああ! 行こう藤宮ッ!」 二人は本能的に、変身アイテムを手にする腕を伸ばして、持てる限りの声と力で叫んだ。 「ガイアアアアァァァァァァァァァァッ!!」 「アグルルウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」 バジリスの光球が才人たちへと飛んでいく、まさにその時、空の一角にワームホールが開かれた。 『何ッ!?』 驚愕する死神。そのワームホールからは、彼にとって忌々しい赤と青の二つの光が飛び出して きたからだ。 二つの光は光球にぶつかることで消し去り、才人たちを救った。 「あの光は!?」 赤と青の光に、才人たちも、ゼロたちも一瞬目を奪われた。 二つの光は破壊される街の中心に急降下していき、二人の巨人へと変身する! 「デュワアッ!」 「オアァァッ!」 盛大に土砂を巻き上げながら、大地に力強く立ち上がった赤と青の巨人。タバサはその 赤い方の姿を、今になってもしかと記憶に刻み込んでいた。 「あの時の……ウルトラマン……!」 『ウルトラマンガイア! ウルトラマンアグル!』 ゼロが名前を叫んだ。彼らは、死神が属する宇宙の悪魔、根源的破滅招来体から地球という 命の星を護り抜いたウルトラ戦士たち。我夢と藤宮が今一度変身を遂げたガイアとアグルである! 「赤い球がなくても……助けに来てくれた……!」 タバサは再び遠い世界から助けに駆けつけたガイアに、強い感動を覚えた。 「デュワッ!」 ハルケギニアの地に降り立ったガイアとアグルは、即座にクァンタムストリームと青い光球、 リキデイターをカイザードビシに繰り出した。 「グギャアーッ!!」 二人の攻撃は、数体もいたカイザードビシを瞬く間に燃やし尽くして全滅させた! 『すげぇ……!?』 ガイアとアグルの攻撃の威力に仰天するグレンファイヤーたち。だが二人の力は、こんな ものではなかった。 『行くぞ、藤宮!』 『ああ!』 ガイアとアグルは互いの手の平を重ね合わせ、エネルギーを統一させる。そして反対側の手を ピンと伸ばし、ドビシが埋め尽くす空に光線を発射した。 二人の絆の象徴、合体光線タッチアンドショットが、一発でドビシの群れを焼き払って 空に本来の青い色を取り戻した! 「そ、空が晴れた! すごい!」 ルイズたち人間は皆、ガイアたちの想像をはるかに超えるパワーに驚嘆する他なかった。 奇跡の巨人ウルトラ戦士といえども、一瞬にして空を取り返すほどだとは! 「すげぇぜ、ガイアとアグル……! 『俺たち』も、負けてられねぇ!」 感動した才人はシルフィードの背の上で、ゼロが置いていったウルトラゼロアイを自分の 顔面に取りつける。 「今行くぜゼロ! デュワッ!」 才人の身体も光に変わり、ゼロの元へと飛んでいって彼のカラータイマーと融合する。 その瞬間、才人のエネルギーによってカラータイマーの色も青に戻った! 『助かったぜ、才人!』 一気に力を取り戻したゼロはまず、カイザードビシを延々抑え込んで満身創痍のミラーナイト たちのところに回る。 『ありがとうな、お前ら! ここから先は任せてくれ!』 『分かりました……! ウルトラマン、あなた方に託します!』 『我々の分も頼んだぞ!』 『これで負けたら承知しねぇからな!』 ミラーナイトたちはゼロたちウルトラ戦士を信じて撤退していく。そしてゼロは、ガイアと アグルの元へと駆け寄って二人と並んだ。 『よく来てくれたな、ほんと助かる! ガイア、アグル、一緒にこの星を救ってくれ!!』 ゼロの呼びかけにガイアたちはしっかりとうなずいて応じ、キングオブモンス、バジリス、 スキューラに向けて構えを取る。 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 「キ――――――――!」 「キイイィィッ!」 三大怪獣は正面からウルトラ戦士を迎え撃つ姿勢だ。 計り知れない闇の力によってどうにも、こうにも、どうにもならない状況だったのを見事 逆転したガイアとアグル。しかしハルケギニアの明日を巡るガリア王国の大決戦は、まだ 始まったばかりなのであった! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9030.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十話「火山怪鳥ゼロに迫る!」 銀河皇帝カイザーベリアル 火山怪鳥バードン 登場 『絶対に許さねぇッ!』 『地獄へ叩き落してやるッ!』 二つの声で、ルイズはゆっくりと目を開いた。 「え……!?」 一番に目に入ったのは、業火に包まれる見慣れぬ巨大な部屋であった。 「な、何これ!? 私、アルビオンに向かうために船に乗ったんじゃ……」 一瞬混乱するが、目の前に広がる光景をよく見ることで、それが一昨日の夢で見た部屋と 同じ場所であることに気がついた。 「それじゃあこれは、あの夢の続き……?」 『エヤァッ!』 『ウリャァッ!』 二人分の掛け声と激しい打撃音の繰り返しが耳に入って、振り返ると、姿だけでルイズを震撼させた 漆黒の巨人「ベリアル」と、彼女のよく知るウルトラマン「ゼロ」が格闘をしていた。 「ゼロ! 変身できたのね……」 あの後どうなったのかは分からないが、ゼロは囚われの状態から脱し、ウルトラゼロアイを 取り返すことに成功したようだ。そのことに安堵を覚える。 『ウオオオオオ!』 ゼロとベリアルは取っ組み合ったまま走り、壁を突き抜けて外の草木が全くない荒野へと飛び出た。 ルイズの視点も彼らについていって移動する。 『俺のしもべにしてやる!』 ベリアルは両手の赤く鋭い鉤爪を更に伸ばして、ゼロに斬りかかっていく。 「ゼロ! 危ない!」 意味のないことだと分かっていても、ルイズは思わず叫んだ。 しかし彼女の心配は杞憂で、ゼロは鉤爪をさばき切り、距離が開いたところでウルトラゼロキックを決めた! だがしかし、 『そんな技、効かねぇなぁ』 防御したベリアルは平然としていた。必殺技の域に達している飛び蹴りを受けて何ともないその姿に、 ルイズは驚きを禁じえなかった。 『へッ……!』 だがその程度で動じるゼロではない。ゼロスラッガーを手にしてベリアルの鉤爪に対抗し、斬り合いを演じる。 『テヤッ!』 余波で周りの柱が吹き飛ぶほどの斬り合いの末にゼロがエメリウムスラッシュを発射する。 それを回避したベリアルだが、ゼロはその隙を突いて相手の頭上を跳び越えると、 腰を捕らえてベリアルを仰向けに倒した。 『まだまだぁぁぁッ!』 攻撃はそこで終わらない。相手を逆さにして捕まえたまま跳び上がり、垂直に落下して頭から地面に叩きつけた! ゼロドライバーだ! 『ウギャアーッ!』 この一撃はさすがに効いたようで、ベリアルはもがき苦しんでいる。 「す、すごい戦い……」 ルイズは戦いの迫力にすっかり圧倒されていた。それまで見てきたゼロのどんな戦闘よりも、 ゼロは激しく戦っていた。 『これで終わりだッ!』 『ヘアアアアアーッ!』 そしてゼロはとどめを刺すべく必殺光線、ゼロツインシュートを発射した。対するベリアルは腕を十字に組み、 暗黒光線デスシウム光線を発射する。 「ゼロツインシュート! これで決まりね……!」 二つの光線は真っ向からぶつかり合うが、ルイズの予想を反して、何とデスシウム光線の方が 競り勝ちゼロを張り倒した! 『うっはぁッ!?』 「え!? う、嘘!?」 うめき声を上げるゼロの姿に大ショックを受けるルイズ。ゼロツインシュートは、悪魔のような巨大円盤を 一撃で粉砕した絶大な威力を持つことを知っている。それが上回られるなど、微塵も思っていなかった。 『フッハッハッハッ! 本当の恐怖はこれからだ!』 一方、ベリアルは何故かそれ以上ゼロを攻撃せず、身体を急速に前転させて地中に潜っていった。 『待て! ベリアル!』 ゼロがそれを追い掛けていくと、ルイズの身体が自然に彼に引っ張られていった。 そしてゼロがたどり着いたのは、地下の緑色に輝く鉱石が大量に保管された空間だった。 「これは……? 綺麗……」 鉱石の美しい輝きに、ルイズは一瞬状況を忘れて見惚れた。同時に、何だか風石に似ているな、と思った。 『はッ!?』 辺りを見回していたゼロは、鉱石の山の上にベリアルが仁王立ちしているのを発見した。 そしてベリアルは、 『ウアアアアアアアー!!』 何と、全ての鉱石の輝きとエネルギーを、口の中に吸い込み出した! 『ベリアル!?』 「えぇッ!? 何をするつもり!?」 ゼロもルイズも驚愕する。そしてエネルギーを吸収するベリアルの肉体が、どんどん巨大に、 より強靭で禍々しく変化していく! 『うわぁッ!?』 「ゼロ!?」 気がつけば、ゼロの身体が巨大すぎる手に掴まれていた。そのまま地下から地上へ引きずり出されたところに ベリアルが、怖気が立つほどおぞましい声を響かせる。その声は、先ほどまでの何倍も大きかった。 『ハーッハッハッハッハッハッ! 身体の底から力がみなぎってきやがる……! これで全ての宇宙は、俺のものだ……!』 「……ルイズ! おいルイズ!」 才人の名前を呼ぶ声で、ルイズはハッと目を覚ました。そして汗だくのまま上半身を起こす。 寝ている間に、どっと冷や汗をかいていたようだ。 周りを見れば、そこはアルビオンへ向かう空飛ぶ船の甲板。昨夜寝ついた場所と、変わりない場所だった。 才人とワルドの決闘後、一行は船が出航される次の日を待っていたのだが、そう言っていられない事態が起きた。 ルイズたちが捕らえて牢獄にいるはずのフーケが、何者かの手により脱獄を果たし、傭兵の一団を引き連れて復讐に来たのだ。 戦おうにも多勢に無勢ということで、タバサ、キュルケ、ギーシュの三人がフーケたちを引きつける囮となり、 ルイズたちはその間にアルビオンへ急いで向かうことになった。その作戦は、途中で白仮面の男の襲撃を受けたが どうにか成功し、『桟橋』に到着したルイズたちは、一隻の商船をワルドの交渉ですぐに出航してもらうことになったのだった。 そして今はその船の上でひと晩を明かしたところであった。 「大丈夫か? 何かうなされてたけど」 舷側で目を覚ましたルイズは、心配して顔を覗き込む才人に首を振って答えると、嫌な寝汗を拭い去った。 またゼロの記憶を、夢という形で垣間見ていたようだ。しかもまた半端なところで中断された。 それだけではない。この前はまだ救いのある展開になったところで途切れたが、先ほどの夢は、 あの恐ろしき『ベリアル』が途方もなく強大化するという、絶望的な状況になったところで終わった。 あの後ゼロは、どうなったのだろうか。いくらゼロが強くとも、あそこまで追い込まれて切り抜けられるとは思えない…… いや、何を馬鹿なことを考えているのだ。あそこで負けていたのなら、そもそもゼロが生きて ハルケギニアに来たりしていないだろう。そうだ、どうやったかは知らないが、最終的にゼロは逆転したのだ。 それに間違いはない……。 「アルビオンが見えたぞー!」 悶々と考えていたら、見張りの船員の大声で現実に引き戻された。 「どこにも陸地なんてないじゃないかよ」 「あっちよ」 下を覗いている才人に、ルイズは上を指差した。 その方向を振り仰いで、才人は息をのんだ。雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。 「驚いた?」 「ああ、こんなの、見たことねえや」 才人は口をぽかんとあけて、間抜けのように立ち尽くした。ゼロの方は、怪獣墓場に似てるな、と思った。 「浮遊大陸アルビオン。ああやって、空中を浮遊して、主に大洋の上をさ迷っているわ。 でも、月に何度か、ハルケギニアの上にやってくる。大きさはトリステインの国土ほどもあるわ」 ルイズが説明したとき、鐘楼に上った見張りの船員が、大声をあげた。 「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」 才人は言われた方を向いた。その目に、黒くタールが塗られた旗を掲げていない船が、 二十数個も並んだ砲門をこちらに向けているのが映った。 空賊の船だった。 商船には空賊と戦うだけの戦力はなく、あっけなく投降した。空賊は積み荷が硫黄だと知ると、 船ごと奪うことを決定した。そしてルイズたちも、空賊に目をつけられて空賊船へと移された。 しかしここで事態は意外な進展を見せた。空賊の頭の前に通されたルイズたちが、トリステインの大使で 王党派の立場を貫くと、頭はその場で荒くれ者の変装を解いて正体を現したのだ。そしてその正体とは、 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 あまりのことに、ルイズたちは言葉をなくした。 「その顔は、どうして空賊風情に身をやつしているのだ? といった顔だね。いや、金持ちの反乱軍には 続々と補給物資が送り込まれる。敵の補給路を絶つのは戦の基本。しかしながら、堂々と王軍の軍艦旗を掲げたのでは、 あっという間に反乱軍のフネに囲まれてしまう。まあ、空賊を装うのも、いたしかたない」 ウェールズはイタズラっぽく笑って、言った。 「いや、大使殿には、誠に失礼をいたした。しかしながら、きみたちが王党派ということが、 なかなか信じられなくてね。外国に我々の味方の貴族がいるなどとは、夢にも思わなかった。 きみたちを試すような真似をしてすまない」 ウェールズからの説明を受けて、ルイズたちは用向きを伝えた。しかしルイズが肝心の密書を渡しかけたところで、 躊躇うように尋ねた。 「その、失礼ですが、ほんとに皇太子さま?」 ウェールズは笑った。 「まあ、さっきまでの顔を見れば、無理もない。僕はウェールズだよ。なんなら証拠をお見せしよう」 ウェールズは自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズの手を取り、指に嵌まる水のルビーに近づけた。 二つの宝石は、共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。 「この指輪は、アルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。きみが嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた、 水のルビーだ。そうだね?」 ルイズは頷いた。 「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」 「大変、失礼をばいたしました」 ルイズは一礼して、手紙をウェールズに手渡す。 手紙を一読したウェールズは、顔を上げて尋ねかけた。 「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従妹は」 ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を表した。再び、ウェールズは手紙に視線を落とす。 最後の一行まで読むと、微笑んだ。 「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫から貰った手紙だが、 姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」 ルイズの顔が輝いた。 「しかしながら、今、手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。姫の手紙を、空賊船に 連れてくるわけにはいかぬのでね。多少面倒だが、ニューカッスルまでご足労願いたい」 一時はどうなることかと思われたが、思わぬ形で任務は達成される運びとなった。ルイズは安心してほっと息を吐く。 だがその時、ゼロが異常事態を報せた。 『おい大変だ! 怪獣がこっちに近づいてる!』 「えッ!?」 才人もルイズも仰天する。そして間を置かずに、見張りの大声が響いた。 「異常事態発生! と、鳥、あまりに巨大な鳥がこっちへ飛んでくる!」 ルイズたちにウェールズが慌てて甲板に出ると、乗組員が恐慌した様子で空の一点に目を向けているところを目撃した。 そして同じ方向を見やると、確かに鳥としかいえないものが空賊船、いや、『イーグル』号とそれが曳航する 『マリー・ガラント』号へと猛スピードで接近しつつあった。 「ケエエオオオオオオウ!」 その鳥は、空を飛ぶ生き物としてはいささかずんぐりとした体型をしていた。赤と青の毒々しい体色と、 頬についたこぶのような袋が目立つ。頭に生えたトサカは、鶏を想像させる。そして今は離れているので小さく見えるが、 60メイル級の巨体であることが観測で判明した。 「あいつはまさか……あのバードン!?」 『間違いねぇぜ。バードンだ……!』 才人もゼロも、鳥型の怪獣のことを知っていた。火山怪鳥バードン。最初に存在が確認された際の個体は、 何とウルトラ戦士を二人も下した、信じがたい強さを見せつけた。このために地球産の怪獣では最強と呼ばれることもある、 有名な怪獣なのだ。ゼロも、バット星人が改造した怪獣兵器としてのバードンと一戦を交えたことがあり、 その時はバット星人の卑劣な罠のせいもあったが、ゾフィーが救援に来てくれなかったら危なかったまでに追い詰められたのだ。 だがここでゼロが疑問を抱く。 『しかしあいつ、どこから現れたんだ? 陸地から飛んできたんだったら、俺がもっと早く気づくはずなんだが……』 『イーグル』号はバードンを追い払おうと全ての大砲を撃つが、それくらいの砲撃では大怪獣バードンは びくともしない。体表で弾が破裂しても平気な顔で、こちらへ突き進んでくる。 『バードンの前じゃ、木造の船なんかあっという間にバラバラにされちまう。空を飛べるカプセル怪獣はいないし…… ここは俺が行くしかねぇな! 行くぜ才人ッ!』 「ああ!」 「頑張ってね。頼んだわよ……!」 ルイズに皆の命運を託され、才人は周りがバードンに気を引きつけられている内に物陰に隠れ、 ウルトラゼロアイを装着して変身をした。 「デュワッ!」 ゼロは光になったまま『イーグル』号の船底をくぐっていき、バードンに十分接近したところで巨人の姿を現す! 「ダリャァァァー!」 「ケエエオオオオオオウ!?」 今にも『イーグル』号にクチバシから火炎を放とうとしていたバードンは、顎に不意打ちのアッパーを食らって、 後転しながら吹っ飛ばされる。 「あれはッ!? あれが噂の、ウルトラマンゼロというものか……!」 「その通りです、殿下。彼が来たからには、もう安心です」 初めてゼロを目にして驚嘆するウェールズに、ルイズが誇らしげに語った。 「ケエエオオオオオオウ!」 クルクル回りながら飛ばされていたバードンだが、制止すると狙いの矛先を『イーグル』号からゼロに移し、 矢のように突っ込んでいく。 『気をつけろゼロ! バードンのクチバシには猛毒があるんだ!』 才人は通信端末に載っていたバードンの情報をゼロに伝える。バードンの頬袋には毒が詰まっており、 クチバシを介して敵に流し込む。この毒は非常に強力で、ウルトラマンタロウとゾフィーが敗れる直接の原因となり、 メビウスも二度目の変身の時に最初からカラータイマーが点滅しているほどの重体となった。 毒の流れるクチバシの方も、ウルトラ戦士の強固な皮膚を軽く突き破るほどの鋭さだ。 『元から、あんなものを食らうつもりはないぜ!』 ゼロはバードンの体当たりを、身をひねってかわす。よけられたバードンだが、すぐに旋回して 再度ゼロに向かっていこうとする。 「ゼアァッ!」 敵が来る前に、旋回したばかりで細かい機動が取れないところを狙ってワイドゼロショットが撃ち込まれた。 だが、必殺光線を受けてもバードンは大したダメージを負っていない! 「ケエエオオオオオオウ!」 バードンはパワー、スピードのみならず、防御力も並以上の恐ろしい怪獣なのだ。あの宇宙警備隊長 ゾフィーのZ光線が直撃しても、有効打にならなかった記録がある。 『また効かねぇなんて! 鳥のくせに頑丈な奴だ!』 呆れたように吐き捨てたゼロに、バードンの火炎放射攻撃が飛んでくる。この火炎の威力も相当なもので、 鋭利なクチバシと並ぶバードンの主力武器なのだ。 「シェアッ! シャッ!」 上に飛んで火炎をかわしたゼロが、すかさずゼロスラッガーを放つ。だがふた振りとも、 バードンのクチバシに弾かれてゼロの頭に戻ってきた。 「ケエエオオオオオオウ!」 バードンはしつこく炎を吐きながら、ゼロを追いかけ回す。どうにか隙を探るゼロだが、 バードンはどっしりとした体型とは裏腹に飛行速度が彼と互角。おまけに今の戦場は、 怪鳥バードンが最も力を発揮できる空中。不利な状況もあって、ゼロはてこずっていた。 『全く、この前の怪獣といい、立て続けに厄介な奴が向こうからやってくるもんだ! ……何か、原因があるのか?』 今までハルケギニアの怪獣の出現は散発的なものだったのに、一日しか間を置かずにこれだけの大怪獣が、 またも自分たちに襲い掛かってきたことに疑問を抱くゼロ。しかしその考えている間に、バードンの火炎の飛び火が 『イーグル』号に向かう。乗っている者たちは大慌てだ。 『いけねぇッ!』 我に返ったゼロは『イーグル』号へエネルギー光線を照射し、そこにウルトラゼロディフェンサーを張った。 それにより、火炎は危ういところで遮られた。 「ケエエオオオオオオウ!」 だが『イーグル』号を助けたことでわずかな隙が出来ていた。バードンはそれを逃さず、 一直線に突進してくる! 『ま、まずい! うおおおぉぉぉッ!』 咄嗟にゼロはクチバシをキャッチして、相手の突撃を受け止めた。しかしバードンはしつこく、 ゼロの手を振り払おうと大暴れする。 『くッ! 何て馬鹿力だ!』 ゼロが抑え込もうとするが、相手の筋力はすさまじく、逆に振り払われそうになる。もしクチバシから 手を離してしまえば、相手はすかさずそれをゼロに突き刺すことだろう。 『ゼロ! 大丈夫なのか!?』 ルガノーガーの時と同じように、才人がゼロのことを案ずる。しかし今回も、状況とは反対にゼロに焦りはなかった。 『何、任せてろ! 相手が怪力なら、こっちもそれに合わせてやる! うおおおぉぉぉッ!』 ゼロが叫ぶと、ウルティメイトブレスレットが強く輝き、同時にゼロの全身が燃え上がり赤く変色する! 「ウオオオオオオオオッ!」 「ケエエオオオオオオウ!」 変化が終わると、それまで食い止めるのに精一杯だったバードンのクチバシを一気に押し返した! そしてゼロの身体は、赤と金、銀の三色の彩りとなっていた。 『うおぉッ!? ゼロ、その身体はどうしたんだ!? 何が起きたんだ!?』 『モードチェンジしたのさ! これはある二人のウルトラ戦士から授けられた力、超パワー戦士の ストロングコロナゼロだッ!』 ストロングコロナゼロは、バードンの頭を掴みつつ、自らを高速回転させる。 『ウルトラハリケーン!』 「ケエエオオオオオオウ!」 回転の勢いで、バードンは竜巻の如き大旋風に巻き込まれながら投げ飛ばされる。更にゼロは ウルティメイトブレスレットを叩くと、飛んでいくバードンへととどめの攻撃を繰り出す。 『ガルネイト、バスタぁぁぁ―――――!!』 右腕から放たれた炎状の光線がバードンにぶち当たり、たちまち木端微塵にした。 『す、すげぇ威力……。やっぱり、ゼロは強いな……』 興奮したようにつぶやく才人だが、その声音には落ち込みの色も含まれていた。すると、 ゼロはいつものようにすぐに空の彼方へは飛び去っていかず、才人に語りかける。 『確かに戦いの強さも大事なもんだ。けどな、もっと大事なのは心の強さだぜ』 『え? いきなりどうしたんだ?』 『まぁ聞け。どんなに力を持ってたって、心がそれに見合うほど強くなけりゃ、その力は悪い方向に突き進んじまう。 俺はそのことをよく知ってる』 ゼロの脳裏によみがえるのは、今日まで戦ってきた強敵の姿。最も縁の深い、故郷光の国を裏切った同族は、 宇宙警備隊の長に選ばれた友に嫉妬したあまりに光を失った。鋼鉄の天球の支配者は、恐怖に呑まれて暴走した。 一片の良心すら持たず、宇宙に死をもたらす悪しき神になろうとした者までいた。 『心の強さは何ものにも勝る。ウルトラ戦士の強さの秘訣も、最後まで諦めない心にあるんだ』 『諦めない心……』 『ワルドは確かに強いが、その言葉はどうも白々しいように思えてならねぇ。あいつには心を許すな。 何か裏がありそうだ。だから才人、ルイズのことを最後まで守ってやれるのはお前だって、俺は思うぜ』 「きみではルイズを守れない」とワルドに突きつけられた才人は、精神的にショックを受けていた。 そのことにゼロは気を病み、せめてもの慰みと励ましを、忠告とともにしてくれているのだった。 『……分かった。ゼロがそう言うんだったら、気をつけた方がいいんだろう。アドバイスありがとなッ』 それでも心が軽くなった訳ではないが、才人はありがたく忠告を受け取った。 ゼロはうなずくと、今度こそ高度を上げて空の彼方へ飛び去っていった。 「ゼロが勝った……良かった……」 命が助かったことに安堵が湧き上がる『イーグル』号の中で、ルイズもほっと息を吐いた。 一時押されていただけに一瞬よもやと思ったが、ゼロは自分の想像の上を行く能力をまた披露して、 今回も勝利を収めた。 (そうよ……。ゼロが負けるなんてこと、ある訳ないわ……) 最近、ゼロが苦しめられる夢を立て続けに見ているので、何かの予兆かと思ったりもしたのだが、 単なる気にしすぎだとルイズは改めて思った。そうだ、ウルトラマンゼロはあんなに強いんだ。 過去に苦戦することはあったかもしれないが、彼をそこまで追い込む敵がそうそういるとは思えない。 現にハルケギニアに来てからは、戦いで本当にどうしようもないような状況になったところは 一度だって見ていない。ゼロが敵に敗北するなんてこと、あるはずがない……。 「いやぁ、助かって良かった良かった。またゼロに助けられちゃったな」 考えに耽っていたところに、才人が最初からいたようにひょっこりと顔を出した。しかしワルドは 彼の姿がなかったことに気づいているので、尋ねごとをする。 「きみ、一体どこに行ってたのかね? 大事だというのに」 「そ、それが……恥ずかしい話だけど、ションベンちびりそうになったからトイレに……」 「全く……相手が相手だったから仕方なかったかもしれんが、同じことがないように気を引き締めたまえよ? 本当の戦いには、用を足してる暇などないのだから」 苦しいごまかしだったが、ワルドは深く考えなかった。とそこに、ウェールズが口を開く。 「何にしても、全員が無事に助かって良かった。ウルトラマンゼロには深く感謝しなければ。 ……だがその前に、早くニューカッスルへ向かおう。今の騒ぎで、貴族派の連中が 集まってくるかもしれないからね」 すぐに乗組員に指示を出すと、『イーグル』号と『マリー・ガラント』号は急いでその空域を離れていった。 ……ゼロとバードンの空中戦は、ルガノーガーの時と同様に四人の影に監視、分析されていた。 『とうとうウルトラマンゼロが浮遊大陸にやってくる。しかし、奴の戦闘データはこれで粗方収集し終わった……』 細身の影が、腕を大きく広げて宣言する。 『それでは、計画を第三段階へ移行する! ウルトラマンゼロ暗殺計画の本番だ!』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9017.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六話「魔法学院の青い石(後編)」 磁力怪獣アントラー 登場 トリステイン魔法学院の秘宝である『破壊の杖』と『青い石』が、盗賊フーケに盗まれた。 そこでルイズ、キュルケ、タバサの三人が討伐隊に志願し、才人と案内役のミス・ロングビルを加えた 五名でフーケの潜伏先の森の小屋へ向かった。しかし小屋にフーケの姿はなく、『破壊の杖』だけが 発見された。そこに襲い掛かるフーケの土ゴーレム! 苦戦する才人を助けようと『破壊の杖』を 使おうとしたルイズだが、その正体はマジックアイテムではなく、才人の世界の武器、 スパイダーショットだった。何故か使い方を完璧に理解した才人がスパイダーでゴーレムを粉砕したのだが、 その時ロングビルがフーケの正体を露わにしてスパイダーを奪い取った。フーケの目的は、 スパイダーの使用方法を知ることだったのだ。才人は取り返そうとするのだが、 そこに突如地中より怪獣アントラーが出現。シルフィードで逃げようとするも磁力光線に捕まり、 全員が叩き落とされる。しかしその瞬間に才人がウルトラマンゼロに変身。ここに、 ウルトラマンゼロとアントラーの正面切っての決闘が始まろうとしていた。 「う……うぅん……」 地響きの震動で、地面に這いつくばって失神していたルイズが目を覚まして起き上がった。 怪獣の力ではたき落とされたので、誰もが『フライ』、『レビテーション』を使う暇すらなく落下したが、 幸い森の葉がクッションになったことで、重傷は負っていなかった。 「ど、どうなったのかしら……はッ!」 一瞬呆けていたが、木々の向こうを見上げて、にらみ合うゼロとアントラーの姿を目の当たりにしたことで状況を把握する。 「サイトとゼロが戦ってる……他のみんなは!?」 「ルイズぅ……うるさいわよ……」 辺りを見回すと、キュルケたちはそう離れていないところで起き上がった。フーケは未だ気を失ったままだが、 三人はルイズと同様に目立った怪我はない。 「きゅい……」 しかしアントラーの大顎を直接食らったシルフィードは別だった。翼がまずい方向に折れ曲がっており、 苦しそうにあえいでいる。 「タバサ! シルフィードは大丈夫なの!?」 キュルケが血相を抱えて尋ねると、容態を診たタバサが、青い顔で答える。 「ダメ……動かせない。無理に動かすと、危険……」 「そう……ごめんなさい、私たちのせいで……」 ルイズもキュルケも、自分たちを助けようとして重傷を負ったシルフィードに謝った。 しかしこれは大分まずい状況である。ゼロが相手しているとはいえ、巨大怪獣がすぐそこにいる 大変危険な場所にシルフィードを置いていないといけないのだ。『レビテーション』を使って ゆっくり移動させようにも、すぐ近くで40メイル級の質量を持つ怪獣に暴れられていては、 それが起こす震動に邪魔され精密な魔法のコントロールが出来ない。 「ゼロが、あの怪獣をやっつけるのを待つしかないのね……」 ルイズがつぶやくと、皆が固唾を呑んでゼロに自分たちの命運を託した。 「キャ――――――――オォォウ!」 「セリャアッ!」 ウルトラマンゼロは自分に向かって走ってくるアントラーへ、こちらからも肉薄していき、 がっぷりと取っ組み合った。 「デリャアッ!」 組み合ったまま相手のボディに拳を打ち込むのだが、アントラーの甲殻は怪獣の中でも非常に頑強な部類。 丸で通用せず、ゼロの拳の方が痛んでしまった。 『いっつつ……かてぇ身体しやがって!』 肉弾戦は分が悪いようなので、アントラーを押しのけて距離を作る。すると相手は後ろ足だけで器用に穴を掘り始め、 同時に息で砂塵を吹き上げてゼロの視界を遮った。 『うわッ! せこい手を使いやがるぜ!』 ゼロがひるんでいる間に、アントラーの全身が完全に土の中に隠れた。ゼロは敵がどこから現れても対応できるように、 全方位に注意を向ける。 「キャ――――――――オウ!」 しかしアントラーは、ゼロの背後から顔だけをわずかに出すと、彼が反応するよりも早く磁力光線を放出した。 『うおおおッ!? ひ、引きずられる……!』 磁力光線はゼロの身体すらも捕らえ、引き寄せる。地中から上がってきたアントラーは磁力光線を出し続け、 大顎をガチガチと鳴らす。 「キャ――――――――オォォウ!」 そしてゼロが大顎の間合いに入った瞬間に、顎を閉じて胴体を両断しようとする! 『おっとぉ!』 だがゼロも負けていなかった。背を向けたまま迫る大顎を両手でキャッチして食い止め、 アントラーから離れることに成功した。 「ゼリャアッ!」 すかさずゼロスラッガーを飛ばす。ふた振りの刃は、アントラーの顎を半ばから切り落とした。 「キャ――――――――オォォウ!」 一番の近接武器を失ったアントラーだが、まだ戦意は衰えていなかった。地面を踏み鳴らして、 再度ゼロへ突進してきたのだ。 一瞬かわそうかと考えたゼロだが、ふと背後を振り返って、すぐに受け止めるために身構える。 「ドリャアアアッ!」 「キャ――――――――オォォウ!」 アントラーの突進を真正面から食い止めるゼロ。相手のパワーはかなり強く、さしものゼロもわずかに押されるが、 渾身の力を発揮して踏みとどまる。 彼の後ろには、動けないシルフィードとそれを守るように囲んでいるルイズたちがいるのだ。 ここで止めなければ、彼女たちがアントラーに踏み潰されてしまう。 『ぐッ……ぐぅぅッ……!』 だがウルトラ戦士のエネルギーは消耗が激しいのだ。食い止めている最中に、ゼロのカラータイマーが ピコンピコンと赤く点滅し始めてしまう。 「この音は……!」 「何だかウルトラマンゼロ、焦ってるみたいじゃない……?」 ルイズはカラータイマーの点滅の意味するところを先日教えてもらったので、 危機的状況であると すぐに分かった。キュルケとタバサも、点滅の意味は知らないのだが、ゼロの様子の変化で 危ないということは何となく理解した。 『ちっくしょう! 早く決めねぇと!』 このままでは自分のみならずルイズたちの命も危ういと判断したゼロは、アントラーに両の掌底を入れて突き飛ばすと、 すかさずワイドゼロショットを叩き込んだ。 「シェアァァァッ!」 だが、何と、アントラーの甲殻はゼロの必殺光線まで弾いた! 『何だと!?』 アントラーはウルトラマンのスペシウム光線が直撃しても平然としていた実績がある。 その甲殻は、特殊な手段を用いない限り、よほどの破壊力を持った攻撃でないと破れないほど頑丈なのだ。 『ゼロ! あの円盤を落とした、ゼロツインシュートはどうだ!? あれだったら、アントラーを倒せるかも……』 ゼロの中の才人がこらえ切れなくなって口出ししてきたが、ゼロはそれを却下する。 『ダメだ! あんまり威力のある攻撃だと、すぐそこのルイズたちを巻き込んじまう!』 『そんなッ!』 ゼロはワイドゼロショット以上の威力の必殺技をいくつか持っている。だがこんなにルイズたちがアントラーに近かったら、 その余波が彼女たちに降りかかってしまいかねない。特にゼロツインシュートは、その威力の強さは反動で足場がへこむほど。 今使えば、確実にルイズたちが陥没に巻き込まれる。それは出来ないので、ゼロは攻めあぐねているのだ。 「キャ――――――――オォォウ!」 アントラーはゼロの苦悩に構わずじりじりと接近をして、彼にプレッシャーを与える。 ウルトラマンゼロを支える太陽エネルギーはハルケギニア上では急激に消耗する。太陽エネルギーが残り少なくなると、 カラータイマーが点滅を始める。そしてもしカラータイマーが消えてしまったら、ウルトラマンゼロは二度と再び 立ち上がる力を失ってしまうのである。ウルトラマンゼロ、頑張れ! 残された時間はもうわずかなのだ! 「こ、このままじゃゼロが危ないわ!」 アントラーが光線を弾いたことで、ルイズも本格的に焦り出した。自分たちの配慮のためにゼロが本気で戦えないことは、 薄々理解している。その状況を打破するためにも何らかの助けを果たしたいのだが、40メイル級の生物の戦いで、 2メイルも身長がない自分に何が出来るというのか。 「何か、何か手はないの……?」 必死に考えを巡らせていると、フーケが盗み出したものの内、『青い石』がまだ見つかっていないことがふと頭に浮かんだ。 「そういえば……」 小屋の中にはなかったという。ならば、今フーケが持っているのではないか? そう考えて気絶中のフーケの懐を探ると、 果たして手の平で包み込める程度の大きさの青い結晶体が出てきた。これが秘宝『青い石』に違いない。 「あった……!」 「ちょっとルイズ! 何してるのよ! それが今の状況で役に立つ訳?」 そこにキュルケが咎めるように指摘してきた。確かに彼女の言う通り、『青い石』はどんな宝石にも負けないほど 美しい輝きを持っているが、攻撃に使えるようには全く見えない。 「けど、秘宝になるくらいなんだから、何かすごい力を秘めてるかも……」 何でもいいからゼロを助ける力になりたいと願っているルイズが、『青い石』を強く握り締める。 そうすると、突然ルイズの脳裏に、「声」としか言いようがない何かが響いてきた。 「え!? 何!? 急に!?」 「? ルイズ、一体どうしたの?」 その「声」は他の者には一切聞こえておらず、キュルケもタバサも怪訝な顔をしている。 だがルイズは彼女たちには構わず、「声」が訴えかけていることに耳を傾ける。言葉は全く分からず、 そもそもちゃんと意味のある言葉なのかも判別つかないが、不思議と自分に望まれていることは理解できる。 「杖を……出すの……?」 手が自然と杖に伸びていき、アントラーの方へと向けられる。そして口からは、短い呪文が紡ぎ出された。 「……『爆発』(エクスプロージョン)……」 「キャ――――――――オウ!」 アントラーは大分近づいてきた。これ以上接近されたら、どの道ルイズたちの身が危うい。 『こうなったら、これで行くぜ!』 意を決したゼロが左手を胸の前に持っていくと、嵌まっているウルティメイトブレスレットが強く輝き、 同時に肉体が一瞬赤く光る。 しかしその輝きは、突然アントラーを包み込んだ大爆発の閃光で覆い隠された。 『えッ!?』 ギョッとして、光が収まるゼロ。その直後には、アントラーの全身が爆発によってひび割れ、ボロボロになっていた。 「キャ――――――――オォォウ……!」 一瞬で形勢が逆転したことに才人が興奮する。 『すげぇ! ゼロ、今何をしたんだ!?』 だが爆発は、ゼロの起こしたものではなかった。 『い、いや……俺はまだ何もしてなかったんだが……』 『え? それってどういうこと……』 『俺にも、何が何やらさっぱり……』 完全に想定外の事態に混乱しているが、この機を逃す手はない。エメリウムスラッシュを撃ち込み、 アントラーを完全に爆破した。もうこの攻撃も耐えられなくなっていた。 「……ジュワッ!」 腑に落ちない勝利だったが、もう残り時間もない。ゼロは深く考える間もなく飛び立って、 才人の姿に戻りルイズたちの下へ走っていった。 「おお、よくぞ戻ってきた! 怪獣が現れたのはこちらでも確認しておる。心配したが、無事で何よりじゃ」 アントラーが倒された後、ルイズたちはフーケをそのまま捕らえ、魔法学院へ帰っていた。 そして今、学院長室でオスマンに報告をした。 「ふむ……。まさか、ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな……。して、 『破壊の杖』と『青い石』は無事に取り戻せたのかの?」 「それが……『青い石』はここにあるんですが、『破壊の杖』は怪獣にバラバラにされてしまいまして……」 ルイズが差し出したのは、『青い石』のみ。スパイダーショットは見つけた時には、 アントラーに修復不可能なほどに壊されてしまっていた。 「そうか……。まぁ、仕方ないことじゃろうな。諸君が生還したのと、フーケを見事捕らえ、 更に言いつけ通り『青い石』を取り戻しただけでも奇跡的なのじゃ」 オスマンはいささか気落ちしたようだったが、咎めはしなかった。 「フーケは、城の衛士に引き渡した。君たちの働きは実に見事じゃ。故に『シュヴァリエ』の爵位申請を、 宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。といっても、ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の 爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」 「ほんとうですか? 嬉しいわぁ! ウルトラマンゼロに危ないところを助けてもらっただけじゃなく、 そんなご褒美まで頂けるなんて!」 キュルケはアントラーに致命傷を与えた爆発を、ゼロが起こしたものだとすっかり思い込んでいた。 だがタバサの方は、無言でルイズをじっと見つめた。 そのルイズはタバサの視線に気づかず、オスマンに尋ねかける。 「……オールド・オスマン。サイトには、何もないんですか?」 「残念ながら、彼は貴族ではない」 「何もいらないですよ」 ルイズの気遣いに、才人は自分から遠慮した。 ここでオスマンは話を切り替える。 「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。『青い石』も戻ってきたし、予定どおり執り行う。 今日の主役は君たちじゃぞ」 「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」 キュルケははしゃぐが、タバサはその彼女に告げる。 「先に行ってて。シルフィードの具合、診てから行くから」 「あッ……そうだったわね」 大怪我をしたシルフィードのことを思い出したキュルケは、タバサに返す。 「待って。私も行くわ。シルフィードには、頑張ってくれたお礼を言わなくちゃいけないし」 「……いいの?」 「もちろんよ。元気いっぱいな男たちより、怪我人を優先するべきでしょ?」 才人はキュルケの友情に厚い面を垣間見て、少々意外に思った。 キュルケとタバサは退室していったが、才人と、そしてルイズはオスマンに控え目に視線を向けながら残った。 「二人はなにか、私に聞きたいことがおありのようじゃな」 オスマンが興味津々なコルベールを学院長権限で退出させると、ルイズから質問を切り出した。 「オールド・オスマン……『青い石』は、一体何なのでしょうか?」 「ふむ? 貴重なマジックアイテム……では、納得がいかんのかね?」 「とてもそれだけとは思えません。こんなことを言うと頭がおかしくなったと思われるかもしれませんが…… 怪獣を襲った爆発は、私が起こしたものなんです!」 ルイズは、帰ってくるまでずっと胸に抱えていたことを吐き出した。 「『青い石』を持ってたら、自然と頭の中に聞いたこともない不思議な短い呪文が浮かんできて…… 無我夢中で唱えたら、あの爆発が起きたんです。私の、今までの失敗魔法の威力の比ではありませんでした。 それだけのことが出来るマジックアイテムが存在するとは思えません」 「なるほど……サイト君の方は何かね?」 オスマンはまだルイズの問いかけには答えず、才人の質問を促した。すると才人は、まずはっきりと告げる。 「あの『破壊の杖』は、俺が元いた世界の武器です」 ルイズが声もなく驚愕し、オスマンの目が光った。 「ふむ。元いた世界とは?」 「俺は、こっちの世界の人間じゃない」 「本当かね?」 「本当です。俺はルイズの『召喚』で、こっちの世界に呼ばれたんです」 「私も保証します。サイトの話は真実です」 ルイズもそう言うと、オスマンはおもむろにうなずいた。 「なるほど。そうじゃったか……。では私からは、『破壊の杖』と『青い石』を入手した経緯を、 君たちへの回答としよう。二つの話は、つながっているのじゃ」 そのひと言で、才人もルイズのオスマンの話すことに集中し出した。 「今から三十年も昔の話じゃ。ある夜、森を散策していた私は、ワイバーンに襲われた。 突然のことになす術がなかった私を、『破壊の杖』の持ち主が救ってくれたのじゃ。 彼は『破壊の杖』でワイバーンを吹き飛ばすと、ばったりと倒れおった。深い怪我をしていたのじゃ」 「そ、その人はどんな格好をしてましたか?」 「見たこともない格好じゃった。ただ、オレンジ色が大部分を占めておったな」 その特徴と、スパイダーを持っていることから、才人はその人が科学特捜隊員だろうと推測した。 ただ、疑問が一つある。科学特捜隊が活躍していたのは三十年どころではないはるか昔のこと。 今の自分との年代が合わない。しかし、話をややこしくするのも気が引けるので、このことは黙っておくことにした。 「私はすぐに彼を学院に運び込もうとしたのだが、その時、空から隕石が降ってきた。その直後に、 あの虫のような怪物……怪獣が現れたのじゃよ」 オスマンの言葉に、ルイズが驚愕した。 「三十年前に、怪獣が出現してたんですか!?」 「うむ。夜だったため、そのことを知るのは私しかいなかったようだがね。怪獣は私たちに襲い掛かろうとし、 命の恩人は最期の力を振り絞って『破壊の杖』をもう一度使ったのだが、ワイバーンを粉砕したそれも 怪獣には通じなかった。そしてもう駄目かと思われた、その時……」 どうやってオスマンは助かったのだろうか。才人は、まさか、と思う。 そして推測は当たっていた。 「空から突然、光り輝く巨人が現れて私たちをかばうと、格闘の末に怪獣に光線を食らわせたのじゃ。 倒すには至らなかったが、怪獣はたまらず地中に逃げていった。巨人は追おうとしていたが、 胸の辺りで赤い光が点滅し出すと足を止め、私に『青い石』を授けたのじゃ。そしてこう語りかけてきた。 『残念ながら、アントラーを倒すことは出来なかった。しかしその石を持っていれば、 石がアントラーの再出現を防いでくれる。そしていずれ、何らかの形でアントラーを倒す力となるはずだ。 その時まで、大切に持っていてほしい』と。私は恩人の持っていた杖を形見として『破壊の杖』と名づけ、 『青い石』とともに宝物庫にしまいこんだのじゃ。これが話の顛末。だから私は、『青い石』だけは 取り返してほしいと頼んだのじゃよ」 「その巨人って、ウルトラマン……!?」 オスマンの話した特徴は、明らかにウルトラマンのそれだった。ルイズも才人も、ゼロすらも驚嘆する。 『俺の前に、この世界にやってきてたウルトラ戦士がいたのか……!』 「命の恩人は事切れる瞬間、巨人の姿をひと目見て「ウルトラマン」とつぶやいた。その時は何のことか分からなかったが、 ウルトラマンゼロが初めて姿を見せて、その名前を知った時に、ようやく理解したのじゃ。そして最後までわからんかった、 恩人と巨人がどこから来たのかも、今わかった」 語り終えたオスマンは、才人に視線を向ける。 「彼らは、サイト君、君の世界から来たのだね」 「……はい。そうだと思います」 才人が肯定すると、オスマンはその左手を取って、手の甲のルーンに目を落とした。 「もう一つ教えておこう。このルーンはガンダールヴの印じゃ」 「ガンダールヴって、あの伝説の使い魔!? 始祖ブリミルに仕えたという!」 ルイズは先ほどよりも強く驚いた。 「そうじゃ。ガンダールヴはありとあらゆる『武器』を使いこなしたそうじゃ。『破壊の杖』を使えたのも、 そのおかげじゃろう」 「じゃあ……そのガンダールヴの今の主人の私は、もしかして、伝説の虚無……? あの爆発は、虚無の魔法……?」 虚無の魔法とは、現在のハルケギニアのメイジが広く用いる系統魔法を築き上げた偉大なる始祖ブリミルが使っていたという、 この世の何よりも強力だという魔法。しかしその存在が確認されたことはなく、今では単なる伝説だと思われているのだが……。 ルイズは自分の正体を考えて震えるが、オスマンはそんな彼女に言い聞かせる。 「決めつけるのはまだ早いじゃろう。『青い石』は巨人、ウルトラマンのくれた神秘の石。 どのような効能が隠されているのかはさっぱりわからん。これだけの材料がそろって、 ミス・ヴァリエールがガンダールヴと虚無に無関係とも思えんが、だからといって早計は禁物じゃ。 虚無の実際を、今の人間は誰も知らんのだから」 「そ、そうですよね。このことは、一旦忘れることにします」 ルイズは落ち着きを取り戻すと、そう宣言した。 「その方がいいじゃろう。私からも余計な詮索はせんし、誰にもさせん。君たちは、壊されたとはいえ恩人の杖と、 ウルトラマンが授けた石を取り返してくれたのじゃからな。改めて礼を言おう」 聞きたいことを全て聞くと、オスマンは二人に再度感謝の言葉を述べた。 そして、『フリッグの舞踏会』。 「いやー! 一時はどうなるかと思ったぜ! あの怪獣、このデルフリンガー様を吸い寄せるなんてふてえ野郎だ! 相棒もそう思うだろ?」 アルヴィーズの食堂のバルコニーで、枠に立て掛けられたデルフリンガーが騒いだ。 それに目をやった才人が苦笑する。 「無事で良かったよ、デルフ。スパイダーはバラバラになったから、お前も駄目かと思ったから」 「馬鹿にすんなよ、相棒! こちとらもうどれだけ生きてたのかも忘れるくらい生きてんだ! あんな虫にバラされてたまるかってんだ!」 興奮したようにまくし立てるデルフリンガーの相手をして笑った才人は、ゼロに話しかける。 「なぁ、ゼロ。科特隊の隊員と、校長先生の話してたウルトラマン、アントラーも……どうやってこっちの世界に来たのかな?」 『分からねぇ。ウルトラ戦士はともかく、その時代の地球人が別の宇宙に移動するなんてな……。 だが、可能性がないって訳でもない。宇宙には時々、ウルトラゾーンっていう空間の歪みが観測されることがあるからな。 それに巻き込まれた奴が、結局帰ってこなかったって話も聞いたことがある。もしかしたらそいつらは、 別の宇宙に行ったのかもな』 「そっか。じゃあ、他にもこの世界に来た人間や生き物がいるのかもしれないな……」 才人には、ゼロのウルティメイトイージスという地球に帰還する手段がある。今はゼロと離れる訳にはいかないので、 彼と一緒にハルケギニアに留まらないといけないのだが。 しかし、今日オスマンの話してくれた科特隊員のような人間は違う。もし他に彼と同じ立場の人間がいたとして、 彼らは別世界に放り出されて、どんな気持ちになるのだろうか。 そんな物思いに耽っていると、ホールから様々な男たちのダンスの誘いを断ったルイズが近寄ってきた。 才人は彼女を一瞥すると、思い切り息を呑んだ。パーティドレスで身を飾ったルイズの艶姿は、 想像以上に眩しかったのだ。 「楽しんでるみたいね」 「別に……」 思わず目を逸らした才人は、ごまかしまぎれにルイズに問いかける。 「お前は、踊らないのか?」 すると、ルイズはすっと手を差し伸べてきた。 「はぁ?」 「踊ってあげても、よくってよ」 少し照れているルイズの台詞に、才人も照れくさくなった。 「踊ってください、じゃねえのか」 ついついそんなことを言うと、意外にもルイズが折れた。 「今日だけだからね」 ドレスの裾を恭しく両手で持ち上げると、膝を突いて才人に一礼した。 「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン」 そう言って顔を赤らめるルイズは激しく可愛くて、綺麗で、清楚であった。才人はふらふらとルイズの手を取ると、 二人並んでホールへと向かった。 才人はルイズに合わせて、ぎこちなく踊る。ルイズはそれに文句をつけるでなく、澄ました顔でステップを踏んでいる。 その中で、ルイズが思い切ったように口を開く。 「その……ありがとう。フーケのゴーレムに潰されそうになったとき、助けてくれて」 「……何だかお礼言ってばっかだな、お前」 「し、仕方ないじゃないッ。事実なんだからッ」 苦笑した才人のひと言で、ルイズが照れ隠しに顔をそむけた。しかしすぐに向き直ると、こんなことを言う。 「それと……ゼロとも、踊りたいんだけど」 『え? 俺と? けど俺はこんな場に出る訳には……』 「ううん。そういうことじゃなくて……一つ、お願いがあって……」 ルイズはそっと、才人の中のゼロに頼み込む。 「……ということなんだけど、出来る?」 『なるほど。そういうことなら、やってやるぜ。ちょっと、外に出な……』 ゼロの指示で、才人とルイズは休憩を挟む振りをして、バルコニーへと出た。そしてデルフリンガー以外の 誰もこちらを見ていないのを確認すると、バルコニーの陰から青い光が焚かれた。 直後にはるか夜空へと昇っていく青い輝きを見送ったデルフリンガーが、おでれーた! と小さく叫んだ。 「相棒! てーしたもんだ! 主人の相手をつとめる使い魔だけでも初めて見たのに、 こんな大スケールなダンスを踊る奴は世界でお前ただ一人だけだろうぜ!」 「うわぁ! 私、飛んでるわ! それにこれが「ウチュウ」なのね!」 ルイズは今、ゼロの手の平の上にいた。そのゼロは、ハルケギニアの大気圏を飛び出し、 宇宙からルイズたちの星を見下ろしている。 先日ゼロから「宇宙」の概念を簡単に教えられたルイズだが、その宇宙に非常に興味を抱いた彼女は、 ビジョンではなく本物の中に飛び込んでみたいと願うようになったのだ。そこでゼロに頼んで、 こうして連れてきてもらったのである。 「これが、私たちの住んでいる「星」……蒼くて綺麗……ハルケギニア大陸が、あんなに小さい……」 ルイズは、初めて目にする自分の惑星の光景の美しさに、感無量になっていた。彼女だけでなく、 ゼロの中の才人も感動で胸がいっぱいになっている。 そこでふと、自分を取り囲むゼロの手の平の上のバリアーを見つめる。 「このバリアーは、絶対に必要なものなの?」 『ああ。前は言わなかったが、宇宙には空気がないし、有害な宇宙線というものも大量だ。 このバリアーなしには、一秒だって生きてられねぇぜ』 「そうなんだ……。でも、ゼロはその中でも平気なのね。才人の星の「地球」でも、宇宙に出ることが出来るんでしょ?」 感動を味わっていたルイズだが、ウルトラマンと地球と、自分たちの文明を比較して劣等感を覚えた。 「『世界』って、広いのね。今までは、砂漠のエルフ以外にはメイジに敵う存在なんていないと思ってたのに、 本当はたくさんいたなんて……。怪獣やウチュウジンにメイジやトリステインの軍隊が全然歯が立たないところを見て、 それがよく分かったわ……。私たちが、「あなたたち」と比べてどれだけちっぽけだったかが……」 『……ちっぽけだとか、俺はそうは思わないけどな』 ルイズの言葉を、才人が否定した。 「え?」 『ハルケギニアには、魔法っていうすごい力があるじゃないか。人が何の機械もなしに空飛んだり、 個人で石を金属に変えたり、そういうことは地球じゃ不可能だよ。文明は地球が進んでるかもしれないけど、 それは長い年月の積み重ねがあってのことだし。個人単位の能力だったら、ハルケギニアのメイジの方が 断然優れてるんじゃないか? だからちっぽけなんて、そんな卑下する必要はないよ』 『同感だ。どんな命にだって、それぞれに出来ることと大切な役割、そして何より、掛け替えのない価値があると俺は思ってる。 だからどの種族が一番優れてるとかなんてものは存在しない。何でも出来るように見えるウルトラ戦士だって不可能はあるし、 どうしようもない窮地に陥ったことが何度もある。かくいう俺もな』 ゼロはこれまでの苦闘の日々と、強大すぎる敵たちの姿を思い返した。ベリュドラ、ダークロプスゼロ、 アークベリアル、ビートスター、ハイパーゼットン、そして……。 『俺一人の力だけじゃ勝てなかった戦いがいくつもある。そんな時に支えてくれたのが、 仲間たち、たくさんの色んな命だ。今の俺があるのは、彼らのお陰。今日だって、ルイズ、 お前に助けられたしな』 「でもあれは、ほとんど偶然のようなもの……」 『いいや。きっとお前には、すごいことが出来る力が秘められてるはずなんだ。きっと、 それが目覚める機会がまだ来てないだけだぜ。他のハルケギニアの人間だって、 いつかは俺の助けになってくれるかもしれない』 「私たちが、ゼロの助けに……」 『だから胸を張って生きていけ! 侵略者どもはお前たちを見下してるが、お前たちにも、 輝ける命があるんだからな!』 才人とゼロに説得され、ルイズの胸中に貴族の、メイジの、ハルケギニアに住まう人間としての自信と誇りが蘇ってきた。 「そうよね! 卑屈になってないで、立派に生きてかないと! この星の美しさに恥じないように!」 どこまでも青く、輝かしい星をながめて、ルイズは堂々と宣言した。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9025.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八話「陰謀襲来」 凶獣ルガノーガー 登場 ルイズの部屋に現れたアンリエッタは、感極まった表情を浮かべて、膝をついたルイズを抱きしめた。 「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」 「姫殿下、いけません。こんな下賤な場所へ、お越しになられるなんて……」 「ああ! ルイズ! ルイズ・フランソワーズ! そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい! あなたとわたくしはおともだち! おともだちじゃないの!」 「もったいないお言葉でございます。姫殿下」 「やめて! ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をしてよってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! ああ、もう、わたくしには心を許せるおともだちはいないのかしら。昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、 あなたにまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」 「姫殿下……」 目の前で繰り広げられるルイズのアンリエッタの、お芝居かと見紛うほどに仰々しいやり取りを、 才人は言葉をなくしてながめていた。 「幼い頃、いっしょになって宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃないの! 泥だらけになって!」 「……ええ、お召し物を汚してしまって、侍従のラ・ポルトさまに叱られました」 「そうよ! そうよルイズ! ふわふわのクリーム菓子を取り合って、つかみあいになったこともあるわ! ああ、ケンカになると、いつもわたくしが負かされたわね。あなたに髪の毛をつかまれて、よく泣いたものよ」 「いえ、姫さまが勝利をお収めになったことも、一度ならずございました」 ルイズが懐かしそうに言った。 「思い出したわ! わたくしたちがほら、アミアンの包囲戦と呼んでいるあの一戦よ!」 「姫さまの寝室で、ドレスを奪い合ったときですね」 「そうよ、『宮廷ごっこ』の最中、どっちがお姫さま役をやるかで揉めて取っ組み合いになったわね! わたくしの一発がうまい具合にルイズ・フランソワーズ、あなたのおなかに決まって」 「姫さまの御前でわたし、気絶いたしました」 顔を見合わせて笑う二人の話を傍聴していた才人とゼロは、すっかり呆気にとられていた。 二人は幼い頃ともに遊んだ幼馴染の関係のようだが、その内容はとてもではないが お姫さまと公女とは思えなかった。 「おしとやかに見えたけど、とんだお転婆なんだな……」 『全くだな……』 ゼロはアンリエッタの姿に、ウルティメイトフォースゼロの活動する宇宙で最も栄えている星、 エスメラルダの姫、エメラナを思い出した。彼女も一見すると深窓のお姫さまだが、 その実かなりの行動派で物怖じしない性格であることをつき合いの中で知った。 などと思っていたら、不意にアンリエッタが重いため息を吐いた。それをルイズが心配する。 「姫さま?」 「あなたが羨ましいわ。自由って素敵ね。ルイズ・フランソワーズ」 「なにをおっしゃいます。あなたはお姫様じゃない」 「王国に生まれた姫なんて、籠に飼われた鳥も同然。飼い主の機嫌一つで、あっちに行ったり、こっちに行ったり……。 特に最近は、「怪獣」という巨大生物への対策に追われて、ろくに休んでいる時間がないわ……」 アンリエッタは抱えているものを吐き出すかのように、怪獣対策の現状を話し出した。 宇宙人連合の攻撃によりその脅威のほどを肌で知った貴族たちは、一転して対策に協力的になった。 それは結構なことなのだが、トリスタニアに甚大な被害が出たこととトリステイン軍が壊滅状態に陥ったことで、 復興と軍立て直しの資金を捻出するのに王宮は喘ぐ羽目になってしまった。対怪獣用に軍備拡張もしないとならないのに。 悩みの種は他にもある。怪獣と宇宙人の脅威は全世界的なものなので、マザリーニの意見により、 未知の世界からやってくる脅威を打ち払うことを目的としてハルケギニア中の国家が政治的な思惑関係なしに結束する 対怪獣同盟を築く交渉を行うことになったのだが、これが全くといっていいほど成果を上げていなかった。 元々無理の多い交渉なのだが、ロマリアは他国より怪獣の出現例が少ないこともあってか、こんな場合でも無関心を決め込み、 ガリアは国内からも「無能王」と侮蔑されるジョゼフ一世が聞く耳を持たないので交渉の席すら設けられなかった。 ゲルマニアだけが比較的好意的というありさまだという。 「姫さま、アルビオンはどうなのでしょうか? まさか、この世情で今も内乱が続いてるのでは……」 ルイズの当たってほしくない予想は的中した。 「その通りよ。だから、アルビオン王宮は、わたくしたちとの話し合いどころではないの」 「まあ、何てこと! 世界の危機というのに、未だ人間同士で下らない諍いを続けてるなんて! 反乱軍の何て愚かなこと!」 「彼らは、そもそも怪獣のもたらす危機への実感が薄いのでしょう。アルビオンはハルケギニアの国で唯一、 一度も被害を受けていないから」 その言葉で、ゼロも「アルビオン」という国へ飛んでいったことは一度もないことを思い出した。 ここまでの悩み事をぶちまけたアンリエッタだが、まだため息を吐いていた。それでルイズはますます心配する。 「姫さま、まだ何かあるのでしょうか?」 「いえ、これ以上はあなたに話せるようなことじゃないわ。今のを聞いてもらっただけで十分よ」 「おっしゃってください。昔はなんでも話し合ったじゃございませんか! わたしをおともだちと 呼んでくださったのは姫さまです。そのおともだちに話せないのですか?」 その言葉にアンリエッタは心動かされ、話す決意をした。 「今から話すことは、誰にも話してはいけません」 と前置きするので、才人は席を外そうかと申し出たが、アンリエッタ自身に「メイジと使い魔は一心同体」と断られた。 「わたくし、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのです……」 「ゲルマニアに! あんな野蛮な成り上がりどもの国に!」 「そうよ。でも、しかたないの。先ほどの同盟とは別の、軍事同盟を結ぶために」 アルビオンは現在王党派と貴族を中心とした反乱軍の内紛が続いているが、戦局は反乱軍に圧倒的に有利で、 王室は風前の灯火だという。そして反乱軍が勝利したら、次にトリステインに侵攻してくるのは確実。 ただでさえ国力が低下しているのに、軍の立て直しも途中の今攻め入られたら、勝ち目などない。 だからゲルマニアと同盟を結ぶ必要があるのだが、そのためにはアンリエッタがゲルマニア皇帝と 婚姻を上げないといけないという。 「そうだったんですか……」 アンリエッタが本心からその結婚を望んでいないことは明白。ルイズが沈んでいると、 アンリエッタから逆に慰められる。 「いいのよ。ルイズ、好きな相手と結婚するなんて、物心ついたときから諦めていますわ」 「姫さま……」 「礼儀知らずのアルビオンの貴族たちは、トリステインとゲルマニアの同盟を望んでいません。 二本の矢も、束ねずに一本ずつなら楽に折れますからね。……したがって、わたくしの婚姻を さまたげるための材料を、血眼になって探しています」 ここまででアンリエッタの悩みが何か予想がついてきたので、ルイズは顔面蒼白になった。 「もしかして、姫さまの婚姻をさまたげるような材料が?」 あるのか、という質問への回答は、イエスだった。 「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」 「手紙? どんな内容の手紙なんですか?」 「……それは言えません。でも、それがゲルマニアの皇室に届いたら……このわたくしを赦さないでしょう。 ああ、婚姻はつぶれ、トリステインとの同盟は反故。となると、トリステインは一国にてあの強力なアルビオンに 立ち向かわなければならないでしょうね」 ルイズは息せき切って、アンリエッタの手を握った。 「いったい、その手紙はどこにあるのですか? トリステインに危機をもたらす、その手紙とやらは!」 アンリエッタは首を振った。 「それが、手元にはないのです。実は、アルビオン王家のウェールズ皇太子が……」 「プリンス・オブ・ウェールズ? あの、凛々しき王子さまが?」 アンリエッタはのけぞると、ベッドに体を横たえた。 「ああ! 破滅です! ウェールズ皇太子は、遅かれ早かれ、反乱勢に囚われてしまうわ! そうしたら、あの手紙も明るみに出てしまう! そうなったら破滅です! 破滅なのです! トリステインは、未知の侵略者ではなく同じ人間の侵略者に滅ぼされてしまうわ!」 ルイズは息をのんだ。 「では、わたしがその手紙を取り戻せば……」 「無理よ! 無理よルイズ! 貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、 頼めるわけがありませんわ!」 「何をおっしゃいます! たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば、 何処なりと向かいますわ! 姫さまとトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール侯爵家の三女、 ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけにはまいりません!」 ルイズは膝をついて恭しく頭を下げた。 「『土くれ』のフーケを捕まえた、このわたくしめに、その一件、是非ともお任せくださいますよう」 「や、それは語弊があるんじゃ……」 ツッコミを入れる才人だったが、ルイズに「黙ってなさい」と視線だけで脅されたので、口を閉ざした。 「このわたくしの力になってくれるというの? ルイズ・フランソワーズ! 懐かしいおともだち!」 「もちろんですわ! このルイズ、いつまでも姫さまのおともだちであり、まったき理解者でございます! 永久に誓った忠誠を、忘れることなどありましょうか!」 「ああ、忠誠。これが誠の友情と忠誠です! 感激しました。わたくし、あなたの友情と忠誠を一生忘れません! ルイズ・フランソワーズ!」 あまりにも大仰な会話で、アンリエッタに至っては涙まで流している。一部始終を見ていた才人が ついていけずに唖然としていると、ゼロがこんなことを聞いてきた。 『トリステインの女の友情って、こういうものなのか?』 「俺が知るかよ」 うんざりとしながら返答すると、ゼロは次に唐突なことを言い放った。 『ところで、さっきから扉の外で聞き耳を立ててる奴がいるんだが、そいつはほっといていいのか?』 「え!?」 ルイズが青ざめて振り返るが、ゼロの声が聞こえないアンリエッタは、突然彼女が振り向いたようにしか見えず、 首を傾げた。 そして才人がそっと扉に近寄り、一気に開いて外にいる人間を力ずくで引っ張り込むと、その正体が明らかになった。 「いたたッ! こら、ぼくは貴族だぞ!? もっと丁重に扱いたまえ! ……って、そんな場面じゃないか……」 薔薇の造花を手にした、如何にもな色男で、以前才人と決闘したギーシュ・ド・グラモンであった。 「ギーシュ! ……ゼロ! どうしてもっと早く教えてくれないのよ!」 ルイズが声をひそめながら責めると、ゼロはあっけらかんと答えた。 『教える暇もなく話し始めたからな。その後もずっとしゃべってるし』 「だからって……もう、気が利かないんだから」 才人はとりあえずギーシュの後ろ手を確保すると、アンリエッタに問いかける。 「お姫さま、こいつどうします?」 「そうね……今の話を聞かれたのは、まずいわね……」 アンリエッタも困っていると、ギーシュの方が口を開いた。 「姫殿下! その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」 「え? あなたが?」 「どうしてだよ?」 才人に聞かれると、ギーシュはアンリエッタの顔を見つめたまま顔を赤らめた。 「姫殿下のお役に立ちたいのです……」 才人はそんなギーシュの様子で、感づいた。 「お前、もしかして惚れやがったな? お姫さまに!」 「失礼なことを言うんじゃない。ぼくは、ただただ、姫殿下のお役に立ちたいだけだ」 しかしアンリエッタを見つめる目つきは熱っぽかった。惚れてるのは確かであった。 「お前、彼女がいただろうが。なんだっけ? あの、モンモンだか……」 「モンモランシーだ」 「どうしたんだよ?」 ギーシュが無言なので、才人はなるほど、と思った。 「お前、フラれたな?」 「う、うるさい! きみの所為だぞ!」 わめくギーシュだが、決闘騒ぎの原因でもあるそれは、才人が拾った香水によりギーシュの二股が発覚したという内容。 つまり身から出た錆である。 「グラモン? あの、グラモン元帥の?」 アンリエッタはギーシュの名字について聞き返した。 「息子でございます。姫殿下」 「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」 「任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」 熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑んだ。 「ありがとう。お父さまも立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようね。 ではお願いしますわ。この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」 「姫殿下がぼくの名前を呼んでくださった! 姫殿下が! トリステインの可憐な花、 薔薇の微笑みの君がこのぼくに微笑んでくださった!」 ギーシュは感動のあまり、後ろにのけぞって失神した。 「大丈夫かこいつ?」 『貴族ってのは、一人でも忙しいもんなんだな』 才人もゼロも、ギーシュのありさまに呆れ返った。 こうしてルイズと才人、ついでにギーシュは、アルビオンの王党派の最後の領地、ニューカッスルへ旅立つこととなった。 ルイズはアンリエッタから密書を受け取ると、同時に彼女の右手の薬指に嵌まっていた指輪を授けられた。 「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りです。お金が心配なら、売り払って旅の資金にあててください」 ルイズは深々と頭を下げた。 「この任務にはトリステインの未来がかかっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、 あなたがたを守りますように」 『何ぃ? 予定を早める?』 ……ルイズたちがアンリエッタの密命を受け、明日に向けて就寝した頃、暗黒に包まれたある場所では、 四人の怪人の影が円陣を作っていた。内の一人、大柄な影が、胡乱な声を上げた。 『どういうことだ。ウルトラマンゼロを排除する計画は、あの浮遊大陸を支配した後に発動するのではなかったのか?』 そう尋ねると、丸い頭の影が回答する。 『そのウルトラマンゼロが、浮遊大陸アルビオンに向こうからやってくるというのだ。確かな筋からの情報だ』 『何だと? 奴にあの大陸で我らが計画を進めていることを気づかれぬようにと、細心の注意を払っていたのではないのか』 『人間どもの都合だ。我らの不手際ではない。……だがちょうどいい機会だ。「こちら側」の準備は整っているのだし、 向こうから我らの懐中に飛び込んでくるならば、利用しない手はない』 ニヤリと笑う丸頭の影だが、大柄な影は対照的に呆れ返った。 『忙しないことだ。相手の動向にその都度対応するなど……。そんな面倒くさいことをしておらんで、 とっとと出向いてねじ伏せてしまえばよいといつも言っとるのに』 と言うと、三人目の角張った頭の影が冷笑する。 『ふん、相変わらず脳味噌が足りん奴だ。そんなことだから、貴様の同族は、敵に足元をすくわれておめおめ散っていったのだ』 『何だと!? 貴様、我が星を侮辱するというのか!? 今ここで連合の席を一つ空けさせてやってもいいのだぞ!』 瞬時にいきり立った大柄な影が脅すと、最後の細身の影がそれを諌める。 『やめろ! そんな風に仲間同士でいがみ合っているから、我ら侵略者はウルトラ戦士に いつの時代も勝てなかったのだ。いい加減学習したらどうだ。目的を見誤るな』 その言葉で、大柄な影も角張った頭の影も口を閉ざす。 『いいか。我々の計画は完璧だ。こちらがつまらぬいさかいで足並みを崩さなければ、 ウルトラマンゼロがどれだけ強かろうが必ず勝てる。そしてこの宇宙に来ているウルトラ戦士は 奴一人のみ! 奴さえ討ってしまえば、このハルケギニアは陥落したも同然! ウルトラの星への 長年の雪辱を晴らす時が来るのだ!』 細身の影が熱弁すると、他の影も興奮したように身を揺すった。 『この美しい星を、我ら宇宙人連合のものとするぞッ!』 翌日、ルイズたちは早朝からトリステインからアルビオンへの玄関口である、港町ラ・ロシェールへ向けて、 林の中の一本道を馬で飛ばしていた。しかしルイズは才人とギーシュと違い、馬には乗っていない。 もう一人の随行者のグリフォンに同乗していた。 そのもう一人の随行者とは、魔法衛士隊の三つの部隊の一つ、グリフォン隊の隊長のワルド子爵。 昨日ルイズが熱を込めて見つめていた貴族その人で、何とルイズの婚約者であった。もっとも、 ずっと昔に親同士の決めたものなのだが。 彼はルイズたちだけではやはり危険だと判断したアンリエッタに、同行を命じられたのだという。 「でもワルド……本当にいいのかしら? 魔法衛士隊だって、今は大変な時でしょう?」 宇宙人連合の侵攻により、魔法衛士隊も大打撃を食らったはずだ。ワルドは無事だったようだが、 隊長の立場なら、再編成に尽力しなければならないだろう。しかしワルドはこう答える。 「本来ならそうだが、姫殿下のたってのお頼みでね。よほど君たちのことを心配されてるようだった」 「ああ、姫さま、何てお心遣い。帰ってからお礼を申し上げないといけないわね……」 熱っぽく語るルイズは、ワルドの含みのある笑みに気づかなかった。 その時ルイズは、自分たちと才人、ギーシュの馬に大分距離が出来ていることに気づいた。 「ちょっと、ペースが速くない? ギーシュもサイトも、へばってるわ」 その言葉で、ワルドも才人たちとの距離を確認する。 「ラ・ロシェールの港町まで、止まらずに行きたいんだが……」 「無理よ。普通は馬で二日かかる距離なのよ」 「へばったら、置いていけばいい」 「そういうわけにはいかないわ」 「どうして?」 聞かれて、ルイズは困ったように言った。 「だって、仲間じゃない。それに……使い魔を置いていくなんて、メイジのすることじゃないわ」 「やけにあの二人の肩を持つね。どちらかがきみの恋人かい?」 ワルドがからかうと、ルイズは顔を赤らめた。 「こ、恋人なんかじゃないわ」 「そうか。ならよかった。僕は家を出るとき、立派な貴族になって、婚約者のきみを迎えにいくって決めてたからね」 歯の浮くような台詞に、ルイズはむしろ戸惑った。 「冗談でしょ。ワルド、あなた、モテるでしょう? なにも、わたしみたいなちっぽけな婚約者なんか相手にしなくても……」 ルイズはワルドとの婚約に、現実感を持っていなかった。十年前に別れて以来ほとんど会っていなかったし、 彼のことも夢を見るまで忘れていた。ルイズにとってワルドは遠い想い出の中の憧れの人だったのに、 先日不意に現実になってやってきたので、今もどうすればいいのかわからないところがあった。 「旅はいい機会だ。いっしょに旅を続ければ、またあの懐かしい気持ちになるさ」 ワルドはそう語るが、ルイズは自分がワルドのことを好きなのかがよく分かっていなかった。 一方、後方で馬を走らせる才人は、ぐったりとしながらも、ワルドがルイズに触れるたびに気が気でない思いをしていた。 そんな才人の様子を見て、ギーシュがニヤニヤ笑う。 「ぷ、ぷぷ。もしかして、きみ……やきもち焼いてるのかい?」 「あ? どーゆー意味だ!」 才人はがばっと馬から身を起こした。 「あれ、当たった? もしかして図星?」 「黙ってろ。モグラ野郎」 「ぷ、ぷぷぷ。ご主人様に、適わぬ恋を抱いたのかい? いやはや! 悪いことは言わないよ。 身分の違う恋は不幸の元だぜ? しっかし、君も哀れだな!」 「うるせえ。あんなやつ、好きでも何でもねえや。ま、確かに顔はちょっと可愛いけど、性格最悪」 ギーシュと言い争っていると、突然ゼロが割り込んできた。 『おい才人! そんな下らない話ししてる場合じゃねえぞ!』 「うわッ! どうしたんだゼロ? ……まさか」 ギーシュに怪しまれないように顔をそむけながら小声で問いかけると、ゼロは肯定した。 『そのまさかだ。怪獣が飛んでくる!』 その言葉の直後に、才人とギーシュ、そしてルイズたちにも、巨大な黒い影が差しかかった。 「な、何!?」 空を見上げると、竜の如き大怪獣が、翼もないのに空を飛んで自分たちを追い越そうとしているところを目にすることになった。 「アオ――――――――ウ!」 怪獣は黒い皮膚に赤や青のトゲを生やしている。また奇怪なことに両腕の先は手の形をしておらず、 竜の首の形の三つ首になっている。そして六つの赤い眼からは、一切の慈悲の感情が見て取れなかった。 殺戮本能の塊であり、驚異的な力で命あふれる星を焼き尽くして破壊してしまう、悪魔のような宇宙大怪獣、 ルガノーガーである! ルガノーガーがルイズたちの行く手に降り立って、六つの眼球で彼女たちをにらみつけている様子を、 はるか遠方から立体映像を介して、四人分の影が観察していた。その内の、丸い頭の影が言い放った。 『凶獣ルガノーガーよ、ウルトラマンゼロを引っ張り出せ! その能力を我々に分析させるのだ!』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9219.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十八話「恋するレギュラン」 熔鉄怪獣デマーガ 悪質宇宙人レギュラン星人 登場 トリステインの一画の平原で、グレンファイヤーが大地を破り出現した怪獣の相手をしていた。 「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 典型的な恐竜型の怪獣で、背中にはサメのものに似た背びれが縦に並び、頭頂部には一本角が 黄色く光っている。この怪獣の名はデマーガ。肉体の79%が溶けた鉄という特異な体質の怪獣で、 そこにいるだけで大気が熱せられて水が沸騰するほどの高熱の持ち主なのだ。 「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 デマーガの背面が赤熱化すると、そこから火山の噴火を彷彿とさせる勢いで火炎弾が発射された! 火炎弾は辺り一面に降り注ぎ、瞬く間に平原を火の海に変える。 『うおッ!? こいつはやっべぇ怪獣だぜ!』 咄嗟にデマーガの攻撃をよけながら、グレンファイヤーは焦りの言葉を発した。これほどの破壊を 巻き起こす怪獣が市街地に入り込んだら、甚大な被害が出ることは確実。絶対に食い止めなければならない。 『だが、熱さでこのグレンファイヤー様が負けてたまるかぁ―――――! うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』 対抗心を駆り立てられたグレンファイヤーは真正面からデマーガに挑んでいき、取っ組み合った。 「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 『ぐぅッ!』 だがデマーガの腕力は高く、さしものグレンファイヤーも押され気味になる。デマーガには これといった特殊能力はないが、その代わりに筋力に優れたパワー型の怪獣なのだ。 「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 そしてデマーガは至近距離からグレンファイヤーに口からの熔鉄光線を食らわせた! 『ぬおおぉぉぉッ!?』 デマーガ必殺の一撃により大きく弾き飛ばされるグレンファイヤー! しかし、さすがは炎の戦士。 その攻撃を耐え切った! 『何のこれしきぃッ! ファイヤァァァァァァッ!!』 胸のファイヤーコアを熱くたぎらせて、グレンファイヤーは再び突っ込んでいく。そして今度は連続パンチ! 『おらおらおらぁぁぁ―――――!』 「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」 炎のパンチの猛攻にデマーガはなすすべがない。ボディに、顔に拳を浴びて大きくひるむ。 『こいつでとどめだぁぁぁぁぁぁぁッ!』 「グバアアアアッ!!」 そうして強烈なアッパーが炸裂した! それが決め手となってデマーガは大爆発を起こして倒れた。 今日も怪獣を撃破したグレンファイヤーは、縮小して人間のグレンの姿へと戻っていく。 「ふぅ、いっちょうあがりだぜ。……にしても、ゼロとサイトの奴はどこに行っちまったんだ……。 本当に死んじまったなんてことはねぇよな……」 グレンが一向に行方の知れない才人、そしてゼロのことを案じたその時、近くの水たまりに ミラーナイトの顔が映り込んだ。 『グレン、グレン。大事なお知らせがあります。ゼロとサイトのことです』 「何!? あいつらが見つかったのかミラーナイトッ!」 グレンはすぐさま水たまりに飛びつくようにした。それだけ聞きたかったことなのだ。 『ええ。心して聞いて下さい……』 ミラーナイトはそんな彼に、アルビオンのウエストウッド村で発見した才人のことを全て話した……。 「な……何だってー!?」 その肝心の才人は、たった今絶体絶命の窮地に陥っているところだった。 『グハハハハハ! さぁ~て、覚悟はいいかなぁ~!? よくなくても殺すがなぁ~!』 才人はレギュラン星人に踏みつけられて、全く身動きの取れない状態。デルフリンガーも 弾かれてしまい、完全なる丸腰。もうレギュランの気分一つで命が絶える、どうしようもないありさまだった。 (ゼロ、ごめん……。せっかく命をつないだのに、俺が弱っちぃせいで、こんなことでまた 死んでしまうなんて……) 才人は己の弱さを恥じた。後悔した。しかしもう、何もかもが遅すぎる。 最早ここまでと、反射的に目を閉ざした、その時、 「サイト、どうしたの? さっきから変に騒がしいけれど……」 小屋の陰からティファニアがひょっこりと顔を出した。そして現状を目の当たりにして、 ハッと息を呑む。 「これは……!」 『んん~? むッ! これは何とも美しい娘がいたものだ! 全く驚きだ!』 ティファニアに目を向けたレギュラン星人は、その美貌に思わず釘づけとなった。 『こいつは宇宙の好事家に高く売れそうだな! ガッハッハッ! 思わぬ収穫だ!』 「ぐッ……テファ、逃げろ……!」 レギュラン星人はティファニアにまで手を出そうという。才人は必死にティファニアへ警告を向ける。 しかしティファニアはそれに従わず、驚くべき行動に出た。懐から小さく細い杖を取り出すと、 朗々と呪文を唱え始めたのだ。 ナウシド・イサ・エイワーズ…… ハガラズ・ユル・ベオグ…… ニード・イス・アルジーズ…… 「こ、この呪文は……!?」 才人は驚いた。ティファニアはメイジだったのか。 しかもただのメイジではない。この呪文の響き……ルイズの『それ』に酷似している! ということは……。 『ぬぅ? 魔法を使うつもりか? 馬鹿めッ! この宇宙一の嫌われ者ヅヴォーカァに、 この星の貧弱な魔法など効かぬわ! 受け切って、力の差を見せつけてくれようぞ!』 レギュラン星人はティファニアが唱えている呪文の正体に気づいていない。余裕を見せつけている。 ベルカナ・マン・ラグー…… 呪文が完成し、ティファニアが堂々とした態度で杖を振り下ろした! その瞬間、レギュラン星人を包む空気が歪み……元に戻った時には、レギュラン星人に 大きな変化が起きていた。 『……ぬ? ここはどこだ? 私はどうしてこんなところにいるんだ? 何をするつもりだったのか…… まるで思い出せない』 魂を抜かれたかのようにぼんやりと立ち尽くし、そんなことをつぶやいたのだ。才人からも 足をどかし、ポカンとする。 「ど、どうしたんだ……?」 才人は何が起きたのか理解できずに、同じように呆ける。 『そこの綺麗なお嬢さん、何か知らないかな?』 レギュラン星人はティファニアに尋ねかけた。彼女はこう答える。 「早く故郷に帰らないと、って言ってましたよ」 あろうことか、レギュラン星人はその嘘を真に受けた。 『何、そうだったか! それはいかんな。お嬢さん、教えてくれてありがとう! お礼にこの レギュラン人形をあげよう』 どこから取り出したのか、レギュラン星人は風車を片手に持った小さなレギュラン星人の人形を ティファニアに差し出した。 「あ、ありがとう……」 ティファニアはすごく微妙な笑顔を作った。 『それではさらば! 急げ急げ~』 そしてレギュラン星人は空へ飛び上がり、本当に帰っていってしまった。唖然としてそれを見送る才人。 ティファニアの方を向くと、彼女は恥ずかしそうな声で言った。 「……あの亜人の記憶を奪ったの。“森に来た目的”の記憶よ。しばらくしたら、わたしたちのことも すっかり忘れてるはずだわ」 才人はこれと似たようなことがあったのを思い出した。戦死したと思われたルネ隊がひょっこり 帰ってきて、それまでのことを何一つ覚えていなかったことだ……。 「じゃあ、竜騎士たちを助けて、その記憶を奪ったのも……」 「そう。あの人たちは知り合いだったのね」 ティファニアは肯定した。 「……今のは、どんな魔法なんだ?」 才人が聞くと、ティファニアに代わってデルフリンガーが答えた。 「虚無だよ。“虚無”」 「虚無?」 意外にもティファニアが聞き返した。 「……なんだ、正体も知らねえで使ってたのかい。とにかく……、お前さんがどうしてその力を 使えるようになったのか、聞かせてもらおうか」 デルフリンガーの提案で、才人たちはティファニアから詳しい事情を教えてもらうこととなった。 夜になって、才人とデルフリンガーは居間でティファニアと向き合った。 「待たせてしまってごめんね。夜にならないと、話す気になれないものだから」 いいよ、と才人は言った。 ティファニアは自身の生い立ちをゆっくりと語り始める。 「わたしの母はね、アルビオン王の弟の……、この辺りは、サウスゴータっていう土地なんだけど、 ここを含むさらに広い土地を治めていた大公さまの、お妾さんだったの。大公だった父は、王家の財宝の 管理を任されるほどの偉い地位にいたみたい。母は財務監督官さまって呼んでたわ」 その妾というのは、ティファニアがハーフエルフである以上、エルフであることは確定だ。 「なんでエルフが、その大公の妾なんかやってたんだ?」 デルフリンガーのもっともな疑問。人間と敵対しているエルフが、よりによって大公の妾というのは、 まずありえないことだ。 「そのあたりのことは知らないわ。エルフの母が、どんな理由があって、アルビオンにやってきて、 父の愛人になったのか、わたしは知らない。母も決して話そうとはしなかったし……。でも、この ハルケギニアで、エルフのことを快く思ってる人はいないから、何か複雑な事情があったことは間違いないと思う」 エルフの外見を持つティファニア母子は表に出られなかったものの、穏やかな生活を送っていたという。 しかし、 「そんな生活が終わる日がやってきた。四年前よ。父が血相を変えてわたしたちのところにやってきたの。 そして、『ここは危ない』と言って、父の家来だった方の家に、わたしたちを連れて行った」 「どうして?」 「母の存在は、王家にも秘密だったらしいの。でも、ある日それがバレちゃったらしいのね」 大公がエルフと愛し合っているなど、前代未聞のスキャンダルだ。当然王は許さず、 ティファニア母子の行方を血眼になって捜した。そして……。 「今でもよく覚えてる。降臨祭が始まる日だったわ。わたしたちが隠れた家に、大勢の騎士や兵隊が やってきた。母はわたしをクローゼットに隠して、兵隊たちに立ちふさがった。母はこう言ったわ。 『なんの抵抗もしません。わたしたちエルフは、争いを望みません』。でも、返事は魔法だった。 恐ろしい呪文が次々母を襲う音が、聞こえてきた。追っ手たちは、次にわたしの隠れたクローゼットを 引きあけた……」 ティファニアは、苦しそうな顔でワインを一口飲んだ。 「それで、捕まったのか?」 「ううん……」 「じゃあ誰かが助けてくれたのか?」 「いいえ。さっきの呪文。あれがわたしを助けてくれたの」 「どうして、あの魔法に目覚めたんだ?」 「わたしの家には、財務監督官である父が管理している財宝が、たくさん置いてあった。 その中に、古ぼけたオルゴールがあった。父の話では王家に伝わる秘宝だそうだけど、 音が鳴らないの。だけど、わたしはある日気づいた。同じく秘宝と呼ばれていた指輪を 嵌めると、曲が聞こえることに。不思議なことに、その曲はわたし以外の他の誰にも 聞こえなかった。たとえ指輪を嵌めても」 才人は息を呑んだ。ルイズの時と状況が酷似している。 「その曲を聞いているとね、頭の中にね、歌と……、ルーンが浮かんだの」 「それが、さっき唱えたルーン?」 「そうよ。クローゼットを兵隊たちにあけられたとき、頭に浮かんだのはそのルーンだった。 気づいたら、父から貰った杖を振りながらその呪文を口ずさんでいた」 それが“虚無”の魔法の一つ、『忘却』の呪文だったのだ。兵隊は先ほどのレギュラン星人同様、 目的を忘れた。だからティファニアだけは助かったのだった。 それからティファニアは、紆余曲折あってウエストウッド村に流れ着いた。しかしここは、 村とは名ばかりの親を亡くした子供しかいない孤児院。ティファニアは彼らの世話を焼きながら 生活するようになった。 村を狙う野盗などは、ティファニアの『忘却』で全て追い返していた。そのためウエストウッド村は 世間から忘れ去られ、戦争の際にも戦火に巻き込まれずに済んだのだという。 「そう、わたしの魔法は“虚無”っていうのね。不思議な力だと思ってたけど……」 「そのことは、あんまり人に言わないほうがいい」 才人は釘を刺した。 「どうして?」 「“虚無”は伝説なんだ。その力を利用しようとするヤツがいないとも限らない。危険だよ」 「伝説? 大げさね!」 ティファニアは笑った。 「こんなできそこないのわたしが、伝説? おかしくなっちゃうわ!」 「ほんとなんだよ」 才人が真顔でそう言ったら、ティファニアは頷いた。 「わかったわ。あなたがそうまで言うなら、誰にも言わない。というか話す人なんか元からいないし、 バレたところで記憶を奪えばいいだけの話だし……」 世間から外れた場所で育ってきたティファニアには、ことの重大さがよくわかっていないようだ。 今時、侵略者のこともよく知らないようでもある。才人は若干心配したが……今まで誰にも 見つからなかったのなら、そうそう簡単に見つかることはないだろう。 彼らが話していたところ……いきなり家の扉が外からダンダンッ! と荒々しくノックされた。 「あら……? こんな夜更けに誰かしら。子供たちじゃないわね……」 怪訝な顔をするティファニア。ノックの音はやたら力強く、また位置が高かった。子供たちの 背丈からは考えられない。 家人の返事を待たずに、扉は勝手に開け放たれた。 「すいませーん! ここにヒラガ・サイトっていう奴がいるって聞いて来たんですがー!」 扉を開けた者の顔を見て、才人は目を丸くした。 「グレン!」 才人の顔を見つめ返したグレンは……一直線に彼に近づいて思い切り抱き締めた! 「うおおおぉぉぉぉぉ―――――――――! サイトぉぉぉぉ――――――――――! ホントに生きてたんだなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」 「うわぁぁッ!?」 歓喜するグレンはそのまま才人の決して小柄ではない身体を抱え上げ、グルグルと振り回す。 才人は軽く悲鳴を上げた。 「よかったぜぇ! ホントによかったッ! ずっと心配してたんだぞ! ミラーちゃんの 言った通りでほっとしたぜぇッ!」 「ちょっ、グレン、苦しいって……」 才人が目を回している一方で、ティファニアはグレンの顔を見て唖然としていた。 「えッ……!? ウェールズさま……!?」 ハッ、と焦る才人。ティファニアの言ったことが全て本当なら、彼女はウェールズの従妹となる。 グレンの正体がバレてしまうか!? と思ったが、 「いや、違う違う。俺はグレンって言うんだよ。ウェールズってのに似てるってよく言われるんだけどよー、 単にそっくりなだけだぜ。関係ねぇから」 「そ……そうですよね。ウェールズさまはとっくに亡くなられたんだし、本人のわけないですよね……」 グレンのすっとぼけをあっさり信じた。従妹と言っても、ウェールズの顔をよく知っているわけではないようだ。 「おっと、いきなり上がってすまなかったな、お嬢ちゃん。つい興奮しちまってよ。俺はこいつの友達でな」 才人を下ろしたグレンが謝ると、ティファニアはあっさりと許した。 「構いませんよ。……それより、さっきサイトのことを聞いて来たって言ったけれど…… 誰に聞いたんですか? サイトのことは誰も知らないはずなのに……」 「えッ!? あ……い、いやー、あれだよ、風の噂って奴だよ! 噂ってのはどこからともなく 流れるもんだからな! 不思議だよなぁー!」 冷や汗を垂らして強引にごまかしたグレンは、話題をすり替える。 「そ、それよりサイトのことだ。サイトお前、身体は大丈夫なのか? 今日まで何か危ない目に 遭ったりとかしてねぇか?」 「危ない目……は、昼にあったかな……」 「何!? そりゃマジか!?」 才人はレギュラン星人の件をおおまかにグレンに話した。とりあえず、ティファニアの “虚無”の魔法の件は伏せて。 「そうだったのか……。けどお前が無事で何よりだぜ」 安堵したグレンに、才人はこう頼んだ。 「ちょうどいい機会だ。グレン……お前の旅に、俺を連れてってくれ」 「何?」 ティファニアは若干驚いた顔で才人を見た。 「サイト、行っちゃうの? でも、トリステインに戻るんじゃ……」 「いや、今の俺にはトリステインに戻る資格がないよ。使い魔じゃなくなったから……。 けれど、ここにずっといるわけにもいかない。昼の奴は、元々俺を狙ってたんだ。 今後もああいう奴が現れるかもしれない。今回は追っ払えたけど、いつも上手く行く 保証なんてないし……。ここに残ってたら、テファたちに迷惑をかける。だから、 ここから離れないといけないんだ」 と語った才人は、再度グレンに頼み込む。 「そういうわけだから……グレン、頼むよ」 しかし、グレンは難しい表情で腕を組み、首を横に振った。 「いいや、そいつは駄目だな」 「えッ!? 何で!?」 グレンは指を差して、才人に指摘する。 「サイト、今のお前はひっでぇ顔だぜ。打ちのめされて自信をなくしちまった、哀れな男の顔だ」 「うッ……」 「そんな奴を喧嘩だらけの俺の旅に連れてくわけにゃいかねぇよ。そもそも俺、暗いの嫌いだしな」 ばっさりと断れた才人はますます落ち込む。が、 「……けど、どうしても連れてってほしいってんなら、俺が言うことを出来たら連れてってもいいぜ」 「え? それって何だ?」 顔を上げた才人に、グレンは不敵に笑いかけた。 「よぉっく聞けよ。明日から、俺がお前を鍛える!」 「えぇ!?」 「そんでお前が立派な男に生まれ変わったと俺が判断したら、それでオーケーだ! どうだ?」 唐突な申し出に、才人は目をパチクリさせた。 「な、何でそんなこと……」 「俺はな、ずっと思ってたんだよ。お前はちゃんと鍛えりゃ一人前の戦士になれるってな。 こっちこそちょうどいい機会だ。みっちりと鍛え込んで、お前のウジウジした空気を ぶっ飛ばしてやるぜ! デルフ、どうよ?」 「俺には何の異論もねえぜ。相棒が強くなるのは、こっちとしても願ったり叶ったりだ」 デルフリンガーは賛同する。そして肝心の才人は、 「……わかった。やるぜ!」 「おぉしッ! よく言ったな!」 承諾した才人に、ティファニアがやや不安そうに尋ねかけた。 「サイト、大丈夫なの? あの人、何だか無茶しそうなんだけど……」 「大丈夫さ。ダラダラしててもしょうがないって考えてたところだし」 そう答える才人。実際、才人は己の弱さについてずっと悶々としていたのだ。それを解消できる というのであれば、望むところだ。 「そうと決まれば、嬢ちゃん、わりぃけど今日から俺も厄介になるぜ。よろしくな!」 「は、はい……」 ビッとサムズアップしたグレンに、ティファニアは若干引きながらうなずいた。どうもグレンの 暑苦しい雰囲気に押されている様子だ。 何はともあれ、才人は急な話ではあるが、グレンの指導の下に自身を鍛え上げることになったのであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9367.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十八話「シエスタの恋」 酔っぱらい怪獣ベロン 登場 帝政ゲルマニアの首都ヴィンドボナ。この街は現在、混乱の真っ只中にあった。 『うい~! ひっくッ!』 身長五十メイル以上もある大怪獣が、街を我が物顔で横切っているのだ。人々は皆口々に 悲鳴を発し、怪獣に踏み潰されないように必死に逃げ惑っている。 怪獣は典型的な恐竜型。体色は緑で、下を向いたヘラジカのような角が頭部の左右から 生えている。ここまでは特に変わったところではないが、鼻はひどく赤らんでおり、目の 焦点も足取りもおぼつかない。片手で巨大なひょうたんを引きずり、裂けた口からは鳴き声 ではなく明らかな言語が発せられる。そのひと言がこれ。 『う~い! 酒持ってこ~い!』 絵に描いたような酔っぱらい! この怪獣の名はベロン。名は体を表すというべきか、怪獣なのにお酒が三度の飯より大好き という超変わり種。悪意はないのだが常日頃からべろんべろんに酔っぱらっており、酔いに 任せてふらりと惑星に降り立っては滅茶苦茶な行動を取る、これ以上ないほどの迷惑者なのだ。 ハルケギニアに侵入したこのベロンは、ヴィンドボナで何をやっているかと言うと……。 『酒~! 酒~! ここか~!』 千鳥足で進行しながら、酒の匂いを嗅ぎつけて一件の酒場に目をつけると、屋根を引っぺがして 貯蔵されているワインの瓶や酒樽を根こそぎすくい上げ、中身を口の中に流し込んだ。 「あぁ~! うちの商品がぁ~!」 酒場の店主がどこかで悲鳴を上げた。 「このヤロォー! 金払いやがれーッ!」 そんなことを言ってもベロンは聞く耳持たず。手で口を拭うと、鼻をクンクン鳴らして 次の酒を探し始めた。 ベロンは手持ちのひょうたんに入っていた酒を呑み尽くしたため、ハルケギニアの人々から 次々酒を奪い取っているのだった! 酒場に留まらず、王宮、貴族の屋敷、小さな村にまで…… とにかく酒が置いてあるところにはどこだって現れ、片っ端から盗んでいくのだ。こんな迷惑な 怪獣が今までいただろうか! ベロンがヴィンドボナ中から酒を奪って飲み干す度に、人々の悲鳴が起こる。 「あぁーッ! ビール盗られたぁーッ!」 「楽しみに取っておいた年代もののワインがぁーッ!」 「林檎酒まで全部ッ!」 「こんちくしょーッ! 飲みすぎだぞお前ーッ!」 当然ながら、そんな暴挙がいつまでも許されるものではない。ゲルマニアの竜騎士隊が出動し、 ベロンに杖を向ける。 「攻撃開始ーッ!」 竜騎士たちの杖から次々と種々の魔法攻撃が放たれ、ベロンの鼻先を刺す。 『いてててッ! いでぇよぉ~!』 ベロンは押し寄せる魔法に対して、頭を抱えて姿勢を下げる。 「このままヴィンドボナから追い出せッ!」 相手の反撃がないので、竜騎士隊は勢いづいて攻撃の手を強めるのだが……。 『どろんぱ~』 突然ベロンが白い煙を発して姿を隠したかと思うと、次の瞬間には巨体が忽然と消えていた! 「何ッ!? ど、どこへ行った!」 「隊長、我々の後ろですー!」 慌てふためく竜騎士隊の背後で、ベロンは何食わぬ顔でまた商店から酒瓶を盗んだ。 「お、おのれ! 総員反転ッ!」 竜騎士隊がUターンしてベロンを追いかけるが、するとベロンはまたしても煙とともに 消えてしまう。 『どろんば~』 またも別の場所に瞬時に現れ、竜騎士隊は散々翻弄される。 「く、くっそ~! 馬鹿にしおって~!」 これぞベロンの忍法、瞬間移動。竜騎士隊はベロンに振り回され、すぐに疲労困憊になってしまった。 そこに駆けつけたのはグレンファイヤー! ベロンの真正面に降り立って拳を握り締める。 『こんにゃろう! 今日こそは逃がさねぇぜ!』 『おおぉぉうッ!?』 すかさずグレンファイヤーはベロンに飛びかかったのだが、ベロンが消える方が早かった。 しかも今度はどこにも現れない。ヴィンドボナから別の場所に去っていってしまったようだ。 『あッ、くそぉ! また逃げられた! 悔しいぃ~!』 プルプル震えて地団駄を踏むグレンファイヤー。ベロンは敵意を持たない怪獣で積極的な 破壊行動を取らないが、それが逆に厄介。このように危険を感じるとすぐに忍法で逃げて しまうのだ。そのためウルティメイトフォースゼロもひどく手を焼かされているのであった。 果たして、ベロンは次にどこに現れるものか……。 それはひとまず置いておいて、場所は変わり魔法学院のルイズの部屋。畳の上に正座して ちゃぶ台に肘をつき、物憂げにため息を吐いているのは、最近出番がご無沙汰のシエスタ。 その視線の先には、ちゃぶ台の上に置かれたハート型の壜がある。紫色というのが絶妙にいかがわしい。 この壜の中身は、何と惚れ薬。これを飲んだ者は一日の間、最初に見た相手にぞっこんに なるという代物。それを何でシエスタが持っているのかと言うと、実家家からの春野菜を 『魅惑の妖精』亭に届けに行った際、従妹のジェシカから、貴族の客から取り上げたこれを 無理矢理押しつけられたのだ。ルイズと才人の関係に配慮して最近一歩引き気味のシエスタに対し、 そんなことではいけない、既成事実作ってでも才人をものにしなさいと叱咤されたのだった。 「うーん……惚れ薬かぁ……」 ぼやくシエスタ。正直に言うと、才人が自分に、いつだったかのルイズみたいな感じで メロメロになるというのは、すごく魅力的ではある。 しかし迷っていると、ジャンボットに咎められた。 『シエスタ、一応言っておくが、そんなものを使うことは断じてならないぞ。薬で人の心を 操作しようなどと、言語道断! 惚れ薬など、今すぐ捨ててしまうのだ』 「そ、そうですよね。魔法で好きにさせようなんて考えが、そもそもの間違いですよね」 ジャンボットの忠告により、シエスタは惚れ薬を捨てるために手を伸ばす。 しかし指が壜に触れる前に、扉がものすごい勢いで開かれた。そしていつになくキツい顔の ルイズが、大きなボロ雑巾みたいなものを鎖で引きずりながら入ってきた。 シエスタは面食らって尋ねる。 「ミス・ヴァリエール! それ、何ですか?」 「使い魔よ」 言われてみて、よく確認すれば、それは才人だと分かった。逆に言えば、よく確認しないと 分からないような状態に才人はなっていた。 「何したんですか?」 「一昨日、あんたが出かけた日に、お風呂を覗いたのよ」 「まあ」 「その上、ちち、ちちち、小さい子に……。わたしより、小さい子に……」 「まあまあ」 ここで、ティファニアをトリステインに連れ帰ってから今日までの経緯をざっと説明する。 トリステインに到着したティファニアは子供たちとミーニンをアンリエッタに預かってもらうと、 自分はアンリエッタの口利きで魔法学院に編入した。彼女の美貌と、何より大きな胸は学院中の 男子を魅了したが、ベアトリスというクラスメイトの嫉妬を買い、ハーフエルフという素性を晒す 羽目になった挙句に彼女に異端審問に掛けられそうになった。それはルイズたちの活躍で阻止されたが、 ティファニアは男性の視線が自分の胸にばかり向くことに戸惑いを覚え、自分の胸が他の人のものとは 違うのではないかとズレた疑いを抱き、才人にこう頼んだ。 「わたしの胸がホンモノか――触って、確かめて」 思わずその言葉に飛びついてしまった才人だったが、ティファニアの胸に触っているところを ルイズに目撃された。ルイズは過去最大に憤怒し、信じられないくらい才人を痛めつけて反省を 強要したのだった。 自分も悪かったとはいえ、今度ばかりはルイズの無慈悲な仕打ちに逆上した才人はルイズと 大喧嘩したのだが、それが後から哀しくなって落ち込みに落ち込んだ。するとオンディーヌの 仲間たちが才人を励まそうと、何と女子風呂の覗きにつき合わせた。励ましとはほぼ名目で、 八割以上は自分たちの欲望のための行動だった。 だがちょうど覗きをしている時にルイズが入浴中だということに気づいた才人が、彼女の 生まれたままの姿を他の男たちが見ないように妨害した。その際の騒音で覗きが気づかれてしまい、 才人は制止したにも関わらず自分が窮地に。が、そこを救ったのは服を着る暇すら惜しんだタバサ。 彼女のお陰で、怒り狂う女子生徒たちから逃れることは出来た。 しかし、神はつくづく才人に厳しいらしい。裸のタバサといるところを、よりによって ルイズに見られた。そしてお察しのことが起こり、今に至る。 ルイズの才人への仕打ちに、ジャンボットが苦言を呈する。 『ルイズ、またもサイトにこのようなことを! 君は、少しは寛容さを身につけるべきだと 何度も言っているだろう! 相変わらず分からないな』 「何よ! こいつだって悪いでしょうが! 何かにつけては、他の女の子にセクハラを働いて…… 今回は特にひどかったわよ!」 『確かに覗きは犯罪ではある。しかしさすがにこれはやりすぎだろう! いくら何でも、 こんな惨い私刑は初めて見るぞ!』 「それもこれも、こいつがまるで学習しないからよッ!」 叱るジャンボットに、感情の昂るままに言い返すルイズ。一方で、シエスタはボロ雑巾の ような才人、略してボロ才人を見下ろして、彼が不憫になってきた。 才人はいつもルイズのために命を張っているのに、ルイズのお返しはあまりにひどい。 才人とルイズの間に深い絆があるのは認めるが、さすがにこれを見せつけられては、ここまで やらかすルイズに才人を任せていいのか? という疑念が湧いてきた。 そこでシエスタは神妙な顔でルイズに告げた。 「ミス・ヴァリエール」 「何よシエスタ」 「そろそろサイトさんの一日使用権を行使させていただきます」 才人の一日使用権とは何か。それは仮装舞踏会の時の賭けで、シエスタが得たものである。 あの時シエスタは、才人がルイズを見つけられたらすっぱりあきらめる、見つけられなかったら 一日だけ才人を好きにさせてもらう、という賭けをしていたのだ。 「舞踏会は不測の事態で中断されたんだから、賭けも無効よ!」 「賭けの勝敗の決定は見つけられるか見つけられないかという部分だけで、舞踏会の中断とかは 元より考慮されません」 ルイズの訴えを論破し、シエスタは権利を手に入れた。そして今、とうとうそれを使用したのだった。 こうしてシエスタは一日の間、才人を好きに出来ることになった。シエスタは才人に『新婚さん ごっこ』をやる、と宣言した。元々寝泊まりしていた使用人宿舎で、その新婚さんごっこなるものを 行うのだ。 しかしジャンボットが抗議の声を上げたので、才人を宿舎に連れていく前にルイズの部屋で 二人きりの状態になって、話し合いを行っていた。 『いかん! いかんぞシエスタ! 遊びでも結婚の真似事をしようなどとは……君とサイトには 早すぎるッ!』 「そんなうるさく言わなくてもいいじゃないですか。単なるお遊びなんですから」 『いや、君のことだ。これを機に、サイトに何かふしだらなことをしようなどと考えてるのではないか?』 うッ、とシエスタは言葉を詰まらせた。そういう意図がない訳ではない。 『図星だな! 全く、君は変なところで才人に対し過激なことをする。ルイズもルイズだが、 シエスタ、君も淑女(レディ)なら慎みを持たねばならんと何度も』 「わ、わたしは貴婦人(レディ)じゃないですよ。平民のメイドです」 『そういうことを言ってるんじゃない。いや百歩譲ってそれをよしとしても、よもや惚れ薬を サイトに飲ませようとたくらんでいるのではあるまいな』 シエスタは再度言葉を詰まらせた。ルイズがあまりに才人にひどいことをするので、薬を使ってでも 才人を自分のものにしようという悪い考えが鎌首をもたげていたところだったのだ。 『そうなのか! ああ、何と嘆かわしい! 君がそんな悪い娘になってしまうとは、私はササキに 顔向け出来ん!』 「そ、そんな大袈裟な! いいじゃないですか! ミス・ヴァリエールがあんなにサイトさんを 好き勝手にするんだから、わたしだってたまにはサイトさんの目を釘づけにしても!」 『いや、許さん! 恋路を薬に頼ろうなどという情けない考えは! いいかねシエスタ、 何も私は君の恋の邪魔をしようというつもりではないのだ。だが安易な手段で得る愛など、 長くは続かないものだ。本当にサイトを愛するというのなら、もっとじっくりと時間を掛けて、 自身の本当の魅力で勝負をだな……』 ジャンボットがあまりにくどくど説教するので、シエスタはいい加減イライラしてきた。 一日という時間には限りがあるのだから、ジャンボットにばかり構っているつもりもない。 そのためシエスタは、しゃべり続けるジャンボットを無視して腕輪を外し、ちゃぶ台の上に放置した。 『お、おい! ずるいぞシエスタ、置いていくんじゃない! おーいッ!』 焦るジャンボットに振り返りもせず、シエスタはルイズの部屋から飛び出していった。 一連の様子を立てかけられた壁から見ていたデルフリンガーがぼやく。 「相棒と娘っ子も大概だが、こっちもめんどくさいもんだねえ」 しばらくしてから、ルイズが部屋に戻ってきた。かなり不機嫌そうに、ぶつぶつとつぶやき続けている。 「全く、あの犬め……。テファやタバサに留まらず、メイドにまでセクハラしようってなら、 今度こそ命の無事を保証しないわよ」 何とも危険なことを独白していたルイズは、ちゃぶ台の上の腕輪に気がつく。 「あらジャンボット。シエスタに置いていかれたの? そうよね、あなたこそ堅物すぎて 口うるさい時があるし。自分こそ慎ましやかさを覚えたらどうかしら?」 イライラのままにきつい言葉を投げかけるルイズだったが、ジャンボットはそれには構わずに ルイズに告げた。 『ルイズ、大変だぞ! シエスタが惚れ薬を持ってサイトのところに行った!』 「へ? ほ……惚れ薬ぃ!? 何でシエスタがそんなの持ってるのよ!?」 ジャンボットはシエスタがジェシカから惚れ薬を渡されたことを話す。それを聞いたルイズの 顔色が青になったり赤になったり忙しなく変化した末に、怒髪天を突いて踵を返した。 「メイドぉぉぉぉぉぉ――――――――ッ! そこまで許した覚えはないわよぉぉぉぉぉぉぉ ――――――――――――ッ!」 大絶叫して、使用人宿舎へ向けて全力疾走していく。 『あッ! だから、私を置いていかないでくれーッ! おーいッ!』 その頃、シエスタは以前自分が使っていた部屋で、惚れ薬とワインの瓶を両手にして うんうんうなっていた。 先ほどまでシエスタは、ここで才人を相手に「新婚さんごっこ」を行っていた。使用人仲間の 友人たちにはやし立てられる形で、エプロン一枚とニーソックス、カチューシャだけという過激な 格好になって才人を誘惑した。シエスタのすさまじい攻勢にすっかり頭が茹で上がった才人は、 一旦クールダウンするために席を立ってトイレに行っている。 彼の目がない間にシエスタは、惚れ薬をワインに盛ろうとしたのだが……壜を手にしたところで、 思い直したのである。 ルイズの所業で頭に血が昇り、ついこんなことをしてしまったが、やはり惚れ薬なんてものを 使うのは卑怯だ。さすがにルイズに申し訳ないし、才人にも軽蔑されるかもしれない。 「やっぱり、これは捨てよう」 そしてジャンボットの言った通り、正真正銘自分の魅力で勝負しよう。シエスタは改めて 惚れ薬を捨てる決心をした。 だがその時! 窓の外にぬっと巨大な影が現れる! 『酒ぇ~!』 「えッ? きゃあああッ!?」 思わず悲鳴を上げるシエスタ。窓の外に、巨大怪獣がいて部屋の中を覗き込んでいるのだ! 怪獣の正体はベロン。グレンファイヤーに追われてゲルマニアからトリステインまで逃げてきて、 酒の匂いを嗅ぎつけて忍法でこの魔法学院に音もなく侵入してきたのだった。 「どうしたシエスタ!? うわぁッ!?」 シエスタの悲鳴を聞きつけて戻ってきた才人も、四角い窓の中にベロンの顔がどアップに なっているのを目にして仰天した。 当のベロンは窓から宿舎の部屋の中に手を突っ込み、指でシエスタの手に持っているワイン瓶を ひったくった。 「きゃッ!? ワインを取られた……!」 ハッと青くなるシエスタ。なくなっているのが、ワイン瓶だけでないことがすぐに分かったからだ。 もう片方の手で持っていた、惚れ薬もなくなっている。 「まさか……!」 窓に駆け寄ってベロンを見上げるシエスタ。ベロンは、シエスタから奪ったワイン瓶の中身を 口に流し込んでいる。 同時に惚れ薬も流し込んでいた! ワインと一緒に持っていたので、酒と勘違いされたのだ! 「あぁーッ!?」 惚れ薬を飲んだベロンは視線を落とし、シエスタの顔をじっと見やった。 一気に血の気が失せるシエスタ。ま、まさか……。いや、相手は人間の何倍もある巨体の怪獣だ。 人間用の魔法薬の効果が全身に行き渡るとは思えない。きっと何事も起こらないだろう。いや、 起こってほしくない……。 そんなシエスタの思いとは裏腹に、ベロンの目の形がドキーン! とハートマークになった。 『好き~♪』 「きゃあああああああ―――――――――――ッ!?」 そして再び手を窓に突っ込んで、手早くシエスタを捕まえたのだ! 効果は覿面だった。 「シ、シエスター!?」 「いやぁぁ―――――――! 放してぇ―――――――!」 シエスタを捕らえられて絶叫する才人。シエスタはベロンの手の中で必死にもがくが、 惚れ薬のせいでシエスタにすっかり惚れ込んでしまったベロンは絶対手放そうとはしなかった。 怒り狂った様子で中庭を突っ切っていたルイズだが、ベロンが出現すると彼女も驚愕させられて 我に返った。 「か、怪獣! こんなところに、いきなり!」 その上ベロンがシエスタを片手に握っていることに気づくと、反射的に杖を抜いた。 「こらー! シエスタを放しさなーい! さもないと爆発を食らわせるわよッ!」 杖を振り上げてベロンを脅すルイズ。つい先ほどまではシエスタに大激怒していたが、 それとこの状況は別だ。シエスタは才人を取り合うライバルではあるが、友人であり恩人 でもある。彼女を助けない訳にはいかない。 しかしベロンの方はシエスタを放そうとせず、かと言ってルイズに攻撃しようという素振りもなかった。 『どろんぱ~!』 代わりに全身から煙幕を発すると、この場から忽然と消え失せた。ルイズが何かする前に、 忍法で魔法学院を立ち去ったのだ。 シエスタも連れて。 「あぁぁ―――――――ッ!? シ、シエスタぁぁぁ―――――――――――!!」 絶叫するルイズ、才人。シエスタがベロンに誘拐されてしまった! 果たしてシエスタの運命や如何に! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9311.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十三話「傷だらけの舞踏会」 宇宙凶険怪獣ケルビム 登場 「お兄ちゃん、はい! お手紙折ったよ!」 「オッケー。じゃあ次はその手紙を封筒に入れてくれ」 ……ある日の晩、才人はルイズの部屋で、タバサとともに平民に向けた舞踏会の招待状を 支度する作業に取りかかっていた。と言っても才人はハルケギニアの文字を知らないので、 タバサが書いた例文を、意味を分からずに一枚一枚書き写しているという形を取っている。 この作業に、リシュも手伝いをしていた。 「はぁ~……それにしても、すごい量を書かなくちゃいけないんだな。この山を見ると、 改めてそう思うよ」 招待状を書いている途中で、凝った肩をグルグル回してほぐした才人が、長く息を吐きながら ぼやいた。彼の目線の先には、まだ白紙の手紙が山積みになっている。もう大分書いたはずなのだが、 この分だとまだまだ終わりそうにない。 「しかもこれだけで、学院で働いてる人たちの分だけだろ。この学院って、思ってたよりも ずっとたくさんの平民の人たちに支えられてたんだな」 学院で働く平民の多さを実感してため息を吐く才人。その言葉にタバサはうなずく。 「……それだっていうのに、平民を下に見る生徒が大勢いるだなんて。そいつら全員、一度平民に ボイコットされて、当たり前のように飯が食えるありがたみを知ればいいんだ」 珍しく苛立った様子で吐き捨てる才人に、リシュが眉を八の字にして尋ねる。 「お兄ちゃん、何か嫌なことでもあったの?」 「え? あ、ああいや、別に怒ってるとかじゃないんだ」 我に返った才人があたふたと弁解した。 「ただ、舞踏会に反対してる生徒が思いの外多くってさ……ちょっとだけ気分が参っちゃっただけだよ」 とため息交じりに語る才人であった。 反対している生徒が思いの外多い、と軽く言ったが、しかしこれが目下の大問題であった。 この反発の声は無視できないほどの大きさであり、ギーシュとモンモランシーが学院内での立場が 苦しくなって才人たちから離反してしまったほどなのだ。二人とも申し訳なさそうにしていたが、 貴族の集まる学院となると、そこでの立場が家名にも影響をもたらす。その影響を考えなくても 大丈夫なのは、ルイズやクリスのような公爵以上の貴族中の貴族クラスか、タバサのような特殊な 立ち位置くらいでないといけない。そういうことで、ギーシュたちは舞踏会賛同派にいられなく なったのである。 また、懸念していた事態も遂に起こってしまった。反対派はオスマンのところにまで苦情の 数々を向け、それを受けてオスマン直々から舞踏会の中止を勧告されているのだ。しかしオスマンは ルイズたちの努力も汲んで、次の虚無の曜日までに反対派を説得できれば舞踏会中止は取り下げる との猶予を与えてくれた。たった数日の時間の猶予だが、それでも最大限の譲歩であった。 それほどまでに反対の意見は大きいのだ。 そういうことで、どうにか舞踏会を成功させようと今もルイズとクリスが生徒たちを説得して 回っている。実際の会場の準備をしてくれているシエスタは別として、ルイズたちがこの場に いないのはそういう理由からであった。 以上の難関を振り返って眉間に皺を寄せた才人。彼の表情から何を見て取ったか、リシュは 慰めの言葉を掛けた。 「……みんなで舞踏会、出来るといいね」 「ああ……。そのためにお兄ちゃん頑張るぜ! リシュも応援しててくれな……ん?」 笑顔を作って振り返った才人だが、リシュが畳の上にコテンと横になっているのを目にして、 呆気にとられた。 「すー……すー……」 「ありゃ、寝ちゃったのか。まぁ無理もないかな。もう結構遅い時間だし」 才人は一旦ペンを置き、リシュをベッドまで運んで寝かせてあげた。 「それにしても寝つきのいい子だな。さっきまで話してたところなのに……」 独白しながら、リシュの寝顔を見つめてふとつぶやく。 「こんな安らかな寝顔をしちゃって、普段どんな夢を見てるんだろうなぁ」 リシュの見ている夢を気に掛ける才人。普段の彼なら、そんな何の実りもないことを気にしたりは しないのだが、ここ最近の自分の夢見が何だか妙なので、つい他人の夢も気にしたのであった。 最近、どうにも同じような夢を見ているのだ。目覚めた時にはおおまかにしか覚えていないが、 自分が召喚される前のように高校に通っている。それでいて、高校にはこの世界で出会った ルイズたちがいるという不思議な夢。一度や二度ならそんなこともあるだろうと気にしたりは しないが、こうも連続すると自分で自分が不思議になる。 (何か俺、心の中に溜まってるものでもあるのかな。それが夢の形で現れてるのかも……) そうも思ったが、今はそんなことよりも舞踏会の問題だ。ルイズたちが反対派を説得し、 無事に舞踏会が開催できることを信じて、今は招待状を完成させるのだ。 そう自身に言い聞かせて、才人は執筆に戻っていった。 この翌日……学院の側の森に、一人の男子生徒がやや鼻息荒くしながら分け入っていた。 この生徒は、舞踏会の反対派の中でも特に声が大きい者の一人であった。彼に引っ張られる形で 反対を表明している者もいるほどだ。たとえばこういうのがいなければ、ルイズたちも随分と楽に なるのかもしれない。 しかし貴族の子息が何故一人で森の中に入っていくのか。しかも若干興奮した様子で。 「ふふふ……とうとう僕にも春が来たんだ。もうギーシュに自慢させてばかりはさせないぞ。 今日からは僕も彼女持ちだ!」 生徒はそんなことを口走っていた。そして片手には手紙。内容は、何とラブレター。 彼は本日、少し席を外している間に自分の教科書にこのラブレターが挟まれているのを発見した。 そこに『今日の放課後、一人で森に来て下さい』と書いてあったので、その通りにここまでやってきたのだ。 落ち着いて考えれば、いくら何でも告白する場所にわざわざ森の中を指定するのは怪しいが、 何せ生まれてこの方まともに女子とつき合った経験のない身。日頃からギーシュ等を羨んでいて 仕方ないところにラブレターをもらったので、すっかりと舞い上がっているのだ。 更に言えば、彼は貴族といえども思春期の男子。こと恋愛事となると冷静さを欠く年頃である。 はっきり言えば色惚けした馬鹿なのだ。 「さーて、この辺かな。おーい、誰かいないかー? 手紙に書いてあった通りに、一人で来たぞー」 とにもかくにも、男子生徒はめぼしいところで立ち止まり、ラブレターの差出人を探して 大きな声を上げた。だが、そうすると、 「えッ? おい、今のどういうことだ?」 「は?」 近くの樹の陰から、別の男子がひょっこりと姿を出したのだ。お互い、相手の顔を確認して唖然とする。 「お、お前、何でこんなところにいるんだ?」 「そりゃこっちの台詞だよ。どうして森にいるんだ、お前」 「僕は今日このラブレターをもらって、それで……」 最初の生徒の言葉に、もう一人は目を見開く。 「ラブレターだと? それなら俺ももらったぞ」 「えぇ? み、見せてくれ」 もう一人が取り出した手紙と、自分のものを見比べる男子生徒。 「ほ、ほぼ同じ内容だぞ」 「どういうことだ……?」 訝しむ二人。しかしこれで終わりではない。 「お、おい。そこのお前たち、何やってるんだ?」 「その手に持ってるの、まさかラブレターじゃないだろうな?」 「おいおい! これどういうことだよ?」 辺りから男子生徒がゾロゾロと数人ほど現れたのだ。これにより、全員がどうなっているのかと 呆然としてしまう。 しかし互いに情報を出し合ったことで、全員がラブレターに導かれるままここに来たのだ ということがはっきりとなった。ここに至って、どういうことかを全員が理解し、憤然となった。 「何だよ! 質の悪い悪戯だったのか!」 「期待させやがって! 誰がこんなことしたんだ? 馬鹿にして!」 「おい、よく見たらここにいるのって、あの平民向けの舞踏会なんて馬鹿げたことに反対してる 奴ばっかじゃないか」 誰かがそう言った。その通り、彼らは反対派の中核ばかりであった。 「ってことはつまり、ルイズたちか平民の仕業だってことか?」 「つまらない嫌がらせしやがって! もう勘弁ならないぞ!」 「オールド・オスマンに訴えて、すぐにでも舞踏会なんて中止させてやる!」 すっかりと機嫌を害した男子たちは、徒党を組んでオスマンに抗議しようと学院の方へ 引き返そうとする。 が、その時に、空から大きな物体がものすごいスピードで降ってきて、森の中に落下した! ドズゥンッ! と激しい地鳴りとともに震動が起こる。 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」 突然何事かと一斉に振り返った男子たちが目にしたものとは、 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 森の背景にそびえ立つ、頭頂部にゴツゴツした一本角を生やし、手は内側の二本が特に長く 鋭い四本指、長大なモーニングスター状の一歩が目立つ大怪獣の姿だった。 獰猛な宇宙怪獣、ケルビムだ! 「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」 目の前に現れた怪獣に恐怖して大絶叫する男子たち。ケルビムはすぐに彼らに目を留め、 鉤爪を振り上げて襲いかかろうとする! 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 「ひぎゃああああああああッ!! お、お助けぇぇぇぇ――――――!!」 地響きを鳴らして迫りくるケルビムから、男子たちはみっともなく泣き叫びながら必死に 逃げ回り始めた。 ケルビムの出現、及び生徒たちが襲われていることはもちろんすぐに才人とゼロが感知した。 『才人! 学院の生徒が怪獣に襲われてるぜ!』 「でも、何であんな森にここの生徒が!? 何やってたんだ?」 『そんなことより、そいつらの命が今にもやばい! 助けに行かねぇと!』 「ああ、分かった!」 才人は即座に人のいないところへと飛び込み、ウルトラゼロアイを装着して変身する。 「デュワッ!」 変身を遂げたウルトラマンゼロは即座に飛び出し、ケルビムを発見すると巨大化して飛び蹴りを 食らわせた。 「デェェェアッ!」 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 キックが首に決まり、ケルビムははね飛ばされる。男子たちが踏み潰される、本当にギリギリの ところであった。 「う、ウルトラマンゼロ様ぁ~!」 死の恐怖で泣きじゃくっていた男子たちは、危ないところを救ってくれたゼロをぺこぺこと拝み、 次いで全速力で逃げていった。 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 立ち上がったケルビムは怒りを示してゼロをにらみ、威嚇するように腕を振り上げる。 それに対して宇宙拳法の構えを見せるゼロ。両者戦意にあふれている。 『来いッ!』 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 激突するゼロとケルビム。学院を背にして、ここに決闘が開始された。 ケルビムは長い鉤爪の生えた両腕を振り下ろしてゼロに攻撃を仕掛ける。しかしゼロは相手の 懐に飛び込むことで鉤爪をかいくぐる。そこから反撃を繰り出す姿勢だ。 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 だがそれより早く、ケルビムが自身の首を振り下ろした。ケルビムの頭部には太い一本角が 生えている。動きの制限される懐に入ったのが災いし、ゼロはよけられずに角が肩にヒット。 『ぐッ……せぇぇいッ!』 ダメージを受けるが、苦痛をこらえて肘打ちからの横拳を食らわせた。ケルビムは悶絶して よろよろと後退。これでイーブンといったところか。 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 だがケルビムもめげずに反撃してくる。耳の位置に生えたヒレが斜め上に開いたかと思うと、 口から火球を吐き出してきた! 『! とりゃッ!』 下手に火球をかわしたら学院に当たってしまうかもしれない。そのためゼロは瞬時にゼロスラッガーを 両手に持ち、飛んでくる火球の連発を片っ端から切り払った。それからスラッガーを投擲して遠距離攻撃を 仕返しする。 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 が、スラッガーはケルビムの角に弾かれた。ゼロは前に駆け出しながらスラッガーを頭部に戻し、 再度接近戦を試みる。 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 その時にケルビムの長い尻尾がしなり、ゼロに向かって振り下ろされた。尻尾の先端は 鈍器状となっている。この一撃を食らうのは痛い! 『はッ!』 しかしゼロは相手の尻尾攻撃を見事キャッチして止める。これでひと安心かと思いきや、 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 ケルビムはその場で軽く浮上。そして高速回転を始める! 重力を無視した飛行能力を持つ 宇宙怪獣だからこそ出来る荒業だ! 『うおあッ!?』 尻尾を抑えていたゼロも振り回されてしまい、遠心力で投げ飛ばされた。 『このッ! せぇいッ!』 エメリウムスラッシュを発射するも、ケルビムの回転する尻尾に撃ち返されて空の彼方へ 弾かれてしまった。 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 減速して着地したケルビムは、今の技を誇示するかのように腕を振り上げてひと鳴きした。 ケルビムのトゲトゲした肉体は飾りではない。角と爪は接近戦用の武器、尻尾は中距離戦用の 凶器となり、遠距離だと火球で攻撃してくる。このように、距離を選ばず戦闘できるのが何よりの 強みなのだ。宇宙怪獣の中でも特に獰猛で好戦的な性質が反映された進化の形といえるだろう。 『なかなかに手強いな……。メビウスの奴が手を焼いただけのことはあるぜ』 ケルビムの隙のない強さを認めたゼロは、下唇をぬぐって意識を一新する。 『だが勝負はここからが本番だぜ! ストロングコロナゼロだぁッ!』 そして身体を赤く燃え上がらせ、ストロングコロナゼロに二段変身した! 破壊力重視の 怪獣相手ならば、こちらもパワー重視の形態で応戦だ! 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 ケルビムはまたも火球を吐いてゼロを狙うが、ゼロは腕で火球をはたき落としながら前進。 ケルビムに向かって駆けていく。 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 『おおおおッ!』 ケルビムは迫ってきたゼロへ角を振り下ろす――が、それに合わせたゼロのエルボーの 打ち上げが、角を粉砕した! 「ギャアアアアアアオウ!?」 自慢の角を粉々にされて激しく狼狽えたケルビムだが、それでもゼロに反撃するべく尻尾を 伸ばし、回転を始める。再び先ほどの回転攻撃を仕掛けるつもりだ。 しかし今度のゼロは、相手の尻尾をがっしりと掴むと、怪力でケルビムの回転を食い止めた! 『どおおおおぉぉぉぉぉッ!』 その上、反対にケルビムの全身をブンブンと豪快に振り回す。ケルビムは抵抗さえ出来ない。 「ピッ! ギャアアアアアアオウ!」 『らぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 そして十分勢いをつけたところで、思い切り投げ飛ばす! 豪速で地面に叩きつけられた ケルビムはそのまま爆散した! 「ジュワッ!」 見事にケルビムを粉砕し、またも学院を救ったゼロは、大空へ飛び上がって森を後にしたのであった。 怪獣を倒したのはいいのだが、またしても一つ謎が残った。それは、男子生徒たちを偽の ラブレターで森に呼び寄せたのは何者の仕業なのかということだ。 被害に遭った男子生徒たちは、ルイズらの仕業だと主張したが、手紙が配られたと推定される 時刻には全員に明確なアリバイがあった。平民が教室に入って不審な動きを取っていたという 報告もない。それに、反対派への仕返しとしては所業が半端。そういうことで、無関係な者の つまらない悪戯ということで一応片づけられた。 しかし裏では、小さな女の子が学院内をチョロチョロ駆け回っていたという目撃情報も 上がっていた。それはほぼ確実にリシュだろうが、まさか幼いリシュが色惚けていたとはいえ 魔法学院の生徒を騙せるほど綺麗な字を書けるとは思えない。たまたま部屋を抜け出して 散歩していただけだろう、ということでリシュにはルイズからの注意だけで済まされた。 それと男子生徒たちが集まったところに、狙いすましたかのように怪獣が出現したことに関しては、 さすがに偽のラブレターを仕掛けた者に怪獣を操れるような恐ろしい力があるはずがない、 ということで単なる偶然と処理された。ゼロだけはどうにも釈然としない様子であったが……。 だが悪戯で済まされたとはいえ、この件で生徒らの舞踏会賛成派の心象が一層悪くなったことだろう。 関係はないと判断されても、こんなことが起きたのは平民向けの舞踏会を開こうなんて言い出す奴が いるからだ。そんな理不尽な思考をするのが人間というものだから……。 説得は余計に難航しそうだと、才人の不安も強まるのだった……。 そんなことがあった後に、リシュが才人にこんなことを問いかけた。 「お兄ちゃん、どうして舞踏会に反対してる人たちを助けたの?」 「えッ? いや、助けたのは俺じゃなくてウルトラマンゼロなんだけどな……」 反射的に訂正する才人。リシュはどういう訳か、男子生徒たちを助けたのが才人だと思っている みたいであった。 「というか、どうして怪獣に襲われたのが反対してる人たちだってこと、リシュが知ってるんだ?」 「えッ? それは……ルイルイたちが話してるのを聞いたの」 と答えたリシュが、質問を重ねる。 「でも、ウルトラマンゼロが来なかったとしても、お兄ちゃんはその人たちを助けてたんじゃないの?」 「まぁな。さすがに見捨てるなんてことはしないさ」 「どうして? その人たちがいなかった方が、舞踏会をすんなり開けていいんじゃない?」 幼い故の、無邪気だが残酷な質問だろうか。才人はリシュを諭すように答えた。 「そういうものじゃないさ、リシュ。都合が悪いからって、邪魔だからって、いなくなって しまえばいいって訳じゃないんだ。人の命はな、そんな軽いものじゃないんだ。それに、邪魔な 相手をいなくさせれば何もかも解決だっていうのがそもそもの間違いだぞ。物事っていうのは、 そんな単純にはいかないものなんだ」 しかし、リシュは、 「……リシュはそう思わないな」 「リシュ……?」 「……どんなにこっちから言っても、分かってもらえないこととか、相手が分かろうとも しないことだってあるよ。そんなどうしようもない時には、邪魔な人がいないように することも……間違いじゃないと思う」 才人は、幼く無邪気なリシュがそんな難しく、悲しいことを語ったのがとても意外で、 思わず言葉を失った。 それと同時に、この時のリシュは……幼い少女とは思えない、成熟した女性のようだと 感じたのであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9362.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十七話「才人よ再び」 奇獣ガンQ カプセル怪獣ウインダム 宇宙捕獲メカ獣Σズイグル 巨大機械人形ゴブニュ(オグマ) 登場 「ただいま」 学校から帰った才人が居間に行くと、そこに母がいた。短めの髪に、最近太り始めた身体。 「母ちゃん。腹減った。飯にしてよ」 「まだだよ」 「何でだよ。味噌汁が飲みたいよ」 何でもない、どうでもいい味なのに、何だか無性に飲みたかった。 「才人」 「何?」 「あんた、やることやったのかい?」 「やることって?」 「あるだろ? 約束したことが」 「約束?」 「ああ。友達と大事な約束をしたんじゃないのかい?」 そう言われても、才人は思い出すことが出来なかった。 焦って、思い出そう、思い出そうとする内に、才人は目が覚めた。 跳ね起きた自分は、ティファニアの家のベッドの上にいた。傍にタバサが座って、本を読んでいる。 目を覚ました才人に、ゼロが真っ先に問いかけた。 『起きたか、才人。気分はどうだ?』 「ん? 何かすっきりした気分だけど……。これってティファニアの呪文のせいなんかな? よく分かんねぇ。いつもと変わらん気がするけど。でもやっぱり、何か消えたのかな」 才人は自分の顔を見つめているタバサに質問する。 「みんなは?」 「先に帰った。あの、ハーフエルフの女の子を連れて」 「そっか……。薄情な連中だな。人に変な呪文かけといて、おまけに置いてけぼりかよ」 苦笑した才人は、今の己の心境を確認する。 ゼロの言った通り、自分の心の中の勇気は消えていないことはすぐに分かった。この星の人たちの ことは今も大事に感じるし、苦しめられる人のために戦う気概も残っている。 だがそれ以上に、今は地球に帰りたい気持ちでいっぱいだった。こっちに来てから、一年以上も 経っているのだ。家族、友達……顔を見たい人はいくらでもいるし、何もすることがなくとも家の 景色が見たい。 それまでルーンの力によって抑圧されていた分の郷愁の念が、一辺に噴出したのだった。 「……こんな気持ちにされるんだったら、ゼロと分かれた時にしてからにしてほしかったよ。 そしたらすぐに帰れたのに」 『すまねぇ。けどこういうのは、機会がある時にやっておくべきなんだ。次の機会が来るまで、 ずっともやもやしたもんを抱えちまうからな』 才人は自分の左手の甲に目を落とした。ルーンの記憶への干渉は消えたが、ルーン自体は そのまま残っている。 それをぼんやり見つめながら、才人はふとつぶやいた。 「俺の……ルイズへの気持ちっていうかさ、それもやっぱり、“使い魔のルーン”が『こっちの 世界にいるための偽りの動機』と一緒に寄越した、偽りの感情だったんかな」 壁に立てかけたデルフリンガーが答える。 「さあね、分からねえ。相棒の心のことだろうが」 「もし、そうだったとしたら……俺はどうすりゃいいんだろうな」 「さて、どうすりゃいいんだろうなあ」 「パムー……」 タバサの頭の上のハネジローは、才人を見つめて心配そうに鳴いた。 「イヒャヒャヒャヒャヒャ!」 その頃、ルイズたちはガンQの襲撃を受けている真っ最中だった。ガンQは恐怖する彼らに対し、 その反応を面白がるかのようにわざとジリジリにじり寄る。 ルイズは考える。こんな場所で何の前触れもなく、計ったかのようにあんな異形の怪獣が 偶然出現するはずがない。あれもガリアからの刺客に違いあるまい。簡単な任務だと思われたが、 やはり自分たちの動向はガリアに掴まれていたのだ。 「わたしとティファニアが一緒になったところを、纏めて捕まえようってことかしら……!」 反射的に才人の名前を呼ぼうとしたが、すぐに言葉を飲み込んだ。勝手に才人の記憶を いじっておいて、ハルケギニアに縛りつけておいて、彼に助けを求める権利は自分にはない。 ルイズは代わりに、こんな時のためにゼロから預かったカプセル怪獣の小箱を取り出した。 そしてギーシュたちの目がガンQに向いている間に、カプセルを一個取り出して放り投げる。 「お願い、ウインダム!」 投擲したカプセルが開き、ガンQのまさしく眼前にウインダムが召喚された! 「グワアアアアアアア!」 「イヒッ!?」 ウインダムはすぐにガンQに掴みかかって、その動きを制した。 「今の内に逃げましょう! ロサイスまで行けば、駐屯軍がいるわ!」 「あ、ああ!」 「ほら、早く立って! それでも騎士隊の隊長?」 腰を抜かしていたギーシュはキュルケに腕を引っ張られた。ティファニアと子供たちは ミーニンに先導される。 「グワアアアアアアア!」 「イヒャアーッ!」 ウインダムはルイズたちから引き離すようにガンQを殴り飛ばすが……吹っ飛んだガンQの姿が 一瞬にしてかき消えた! 「グワアッ!?」 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 ガンQはウインダムの背後に現れてからかうように飛び跳ねる。振り返ったウインダムが 飛びかかったが、再び消失。今度は三体になってウインダムを囲んだ。 「イヒャヒャヒャヒャヒャ!」 混乱して何度も身体を左右に振るウインダム。完全にガンQに弄ばれている。 「グワアアアアアアア!」 ウインダムは自棄になって一体に額からレーザーを放ったが……巨大な目玉の瞳孔に 吸い込まれていく! 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 ガンQはレーザーのエネルギーを変換し、怪光弾にしてウインダムに撃ち返した。 「グワアアアアアアア!」 強烈な一撃によってウインダムはばったり倒れ、カプセルに戻ってしまった。 「ウインダムが、あんな簡単に……!」 戦慄するルイズ。自分たちはまだ全然逃げられていない。 それでも走らねばならぬ、と懸命に足を動かすのだが……行く手に別の怪獣が立ちふさがっていた! 「な、何だあいつは!? 怪獣か……ゴーレムか!? どっちだ!?」 惑った感じに叫ぶギーシュ。彼の言う通り、新たな怪獣は大部分が金属になっており、 生物とロボット、どっちつかずのような見た目であった。 正面から見たら十字架のようなシルエットは、宇宙捕獲メカ獣Σズイグル! その中央部の 蓋が開き、現れた四連の砲門がティファニアに向けられる。 「! 危ないッ!」 「きゃッ!」 ルイズは咄嗟にティファニアを突き飛ばしてかばった。その代わりにルイズが、Σズイグルから 放たれた光弾を食らう……! 「……あれ?」 反射的に受け身の姿勢を取ったルイズだったが、吹っ飛ばされることは愚か何のダメージも なかった。逆に怪訝な顔になるルイズ。 だが、やはり何もなしではなかった! 彼女の両手の甲に、金属片のようなものが取り つけられていたのだ。 「これは……? うッ!?」 その部分から電流が発せられ、ルイズは磁力により無理矢理腕を広げさせられた。 すると金属片が増殖するように広がっていき、たちまちルイズを閉じ込める十字架へと 変化したのだった! 「ル、ルイズ!」 「馬鹿! あんたが捕まっちゃ意味ないでしょ!」 ギーシュとキュルケはすぐにルイズを助けようとしたが、十字架がΣズイグルに引き寄せ られていき、ルイズは砲門の部分にすっぽりと収まって囚われてしまった。 「ルイズを返しなさいッ!」 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 Σズイグルに杖を向けるキュルケたちだったが、その前にガンQが跳んできて立ちはだかる。 キュルケの放った『ファイアー・ボール』はガンQに吸い込まれてしまい、全く効果がなかった。 「くッ……!」 「わたしが、記憶を奪います!」 キュルケに代わって、呪文を詠唱したティファニアがガンQに『忘却』の魔法を掛けた! これでガンQは記憶を失い、無力化するはず……。 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 そう思われたが、ガンQに何の変化も見られなかった。『忘却』の影響まで受けていない! 「う、嘘!? わたしの魔法がちっとも効かないなんて……!」 初めてのことに衝撃を受けるティファニア。だがガンQはまともな生物ではない、いや科学的な 見地からでは一切分析することが不可能なほどの、不条理が形を成した怪獣。『忘却』の効果を 受ける脳が存在しないのだ! キュルケたちがガンQに足止めされている間に、Σズイグルは空高くに向けて浮上していく。 その先の空間にワームホールが開かれた。 「見ろ! 空に穴がッ!」 「ルイズを連れ去るつもりよ!」 「は、早く何とかしないとまずいぞ!」 「もう魔法の射程外よ……! こんな時に、せめてタバサがいてくれたら……!」 無力さを悔しさとともに噛み締めるキュルケ。タバサのシルフィードならば、ガンQをかわして 上空へ逃げるΣズイグルを追いかけることも出来るのに。 「くッ……!」 一方でΣズイグルに囚われているルイズは、必死にもがいて脱出を図るも、少女のか弱い 筋力ではそんなことは土台不可能であった。 それでもルイズはゼロに、才人の名を呼ぶことだけはせずに、最後まであきらめない気持ちで 抵抗を続けた。 ルイズたちの異変を感知したミラーナイトは、同時に出現した怪獣を多少無理してでも 迅速に倒し、ルイズを助けに鏡の世界の道を全速力で駆けていた。 『間に合え……! ルイズ、今行きますッ!』 ミラーナイトは肩を負傷していた。怪獣を素早く倒すために捨て身の戦法を取ったため、 その代償として受けた傷だ。 だがミラーナイトは苦痛も振り切って、ルイズのために急ぐ。アルビオンはもう目の前だ。 ……が、途中で目に見えないバリアに激突して、それ以上先に進めなかった! 『な、何ぃッ!? 鏡の世界に、道を阻む障壁が!?』 衝撃を受けるミラーナイト。これは明らかにただごとではない。これもガリアの妨害か! しかし、まさか鏡の世界にまで干渉してこようとは! この分では、外部からもアルビオンに 突入することは不可能だろう。 こんなことまで出来るとは、一体ガリアはどれだけの力を有しているというのか! ……いや、 今問題なのは、ミラーナイトたちまでがルイズを救出することが出来ないということだ! ルイズはこのまま、ガリアの手に落ちてしまうのだろうか! 「ん?」 己の感情について悩む才人の左目が不意にかすんで、空の光景が映った。遠く眼下には 怪獣ガンQと、ギーシュたちの姿がある。 それは使い魔のルーンの効力により、つながったルイズの視界だった。彼女が重大な危機を 感じたことで、自動でルーンの力が発動したのだ。 「全く……何であいつってば、こう間が悪い訳?」 苦々しくぼやきながら、ベッドから飛び降りる才人。そこにゼロが尋ねる。 『才人、行くのか』 「当たり前だろ」 『……戦えるのか? 今の心境で』 心配するゼロだった。望郷の念で心がかき乱されている状態で、満足に力を発揮できるのか。 下手をしたら、才人に最悪の事態が起こる。 しかし才人は安心させるように、フッと笑った。 「大丈夫だ。何か、急にやる気になってきたからさ」 「相棒、娘っ子のことは好きなのかね?」 デルフリンガーが聞くと、才人は憮然とした声で返した。 「いや、やっぱり好きじゃねぇ。あんな女、わがままで、バカで、気位ばっかり高くって……。 冷静に考えてみると、やっぱり全然好きじゃねぇ。というか腹立つ。何捕まってんだよ。迷惑だっつの」 「じゃあ何で、助けるんだね?」 「……そんな女だけど、悔しいことに見てるとドキドキすんだよね。これが巷で言うひと目ぼれ だとしたら、俺はその存在を呪おうと思う。あーあ、せっかくさよならできるところだったのに……」 ぼやいていると、タバサが笑っているような気がして驚いて振り返った。 「なぁお前、今笑った?」 「気のせい」 「なぁ、笑ったろ! なぁ!」 「パムー」 ハネジローは嬉しそうな鳴き声を上げていた。 『才人! 行くんなら早くしねぇと間に合わねぇぞ!』 「ああそうだった! タバサ、先に行くぜ!」 才人はウルトラゼロアイを出すと、いつもよりも勢いよく装着した。 「デュワッ!」 Σズイグルは既にワームホールのすぐ真下にまで差し掛かっていた。後一分もしない内に、 ルイズはどこか別の場所へ連れ去られてしまうことだろう。 もう駄目だと、ルイズがギュッと目をつむった、その時、 「シェアァァッ!」 猛然と飛んできたゼロがΣズイグルに飛びつき、ワームホールに突入するのを阻止した。 「えッ……!?」 驚いて目を開けるルイズ。ゼロは捕まえたΣズイグルを引きずり下ろし、自分ごとまっさかさまに 地上に叩き落とした。 「テェヤッ!」 起き上がったΣズイグルの中から、ルイズはゼロの立ち姿を、その中の才人を見つめた。 「サイト……どうして……?」 『ルイズ! 元々動けねぇだろうけど、じっとしてろよ!』 才人の声が聞こえた。ルイズはゆっくりと目を閉ざすが、先ほどの絶望の現実から目をそらす 行為とは異なり、心から安心して才人にその身を託す意志が宿っていた。 「ハッ!」 ゼロはデルフリンガーを出すと、一瞬でΣズイグルに剣を突き立て、刃を走らせた。 そして引き抜くと、刃の上に繰り抜かれた十字架が乗っていた。何と精緻な達人技か! 「ルイズ!」 ゼロはデルフリンガーを地面に刺し、十字架を滑らせてルイズを地上に下ろした。そこに キュルケたちが駆け寄り、ギーシュのワルキューレによって十字架がこじ開けられた。捕獲を 目的としたもののためか、強度はそこまでではなかった。 危ないところでルイズを取り返すことは出来たが、怪獣たちを倒さないことには状況は 変わらない。ΣズイグルとガンQ、二体の怪獣が同時にゼロに攻撃してくる。 「イヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」 Σズイグルは腕を出して、指先から光弾を乱射してくる。ガンQは肉体から複数の眼球を 飛ばして、そこから怪光弾を発射する攻撃だ。ゼロは四方八方からの集中攻撃に晒される。 『ぐッ……!』 猛攻に一瞬ひるむゼロだったが、すぐに体勢を立て直して叫んだ。 『何のこれしき! 今日の俺たちは、ちっとばかし過激だぜぇッ!』 光弾を浴びながらもガンQに向けて跳躍。空中からの回し蹴りを食らわせる。 『でりゃあッ!』 「イヒャアッ!?」 眼球からの光弾を途切れさせると、バク転しながらΣズイグルに接近。雷光の如き勢いで チョップを振り下ろした。 『だぁぁぁッ!』 手刀は本物の刀のようにΣズイグルの右腕を切断した! Σズイグルは大きくよろめく。 一方でガンQが起き上がるが、ゼロはそれを待ち受けていたかのように高速移動で肉薄し、 ガンQのど真ん中に鉄拳を繰り出した。 『せぇぇぇぇぇあぁッ!』 「イヒャァーイッ!」 ガンQは殴り飛ばされて宙を高々と舞い、森の中に転落した。 そしてゼロは振り返りざまにワイドゼロショットを発射! Σズイグルは光弾を撃って 反撃するが、必殺光線は光弾も軽々押し戻してΣズイグルに突き刺さった。 強烈な一撃により、Σズイグルは一瞬にして爆散した! 「イヒィッ!?」 『お前にはこれだッ!』 ゼロはΣズイグルを撃破した勢いのままに振り向き、ルナミラクルゼロに変身すると地を蹴り、 ガンQに向けて一直線に飛んでいく! 『はぁぁッ!』 ゼロスラッガーを両手に握り締めて、ガンQの目玉の中に自ら飛び込んだ! 次の瞬間に、ガンQは内側からズタズタに切り裂かれる。 「イヒャアアア――――――!?」 ガンQが一瞬大きく膨らみ、破裂。跡にはウルトラマンゼロが片膝を突いた状態から、 カラータイマーを鳴らしながら立ち上がった。 「す、すごい! 今日のゼロは一段とすごい戦いぶりだったな!」 流れるような戦いぶりで敵を二体、瞬く間に打ち破ったゼロに、ギーシュが熱にうかされた ような声を上げた。その後ろでは、ルイズがゼロを見上げて様々な思いが入り混じった微笑を浮かべた。 と安心し切っていた彼らだが、 ドズゥゥンッ! 「!?」 ゼロの背後にいきなり巨大ロボットが着地したのだった。首と胴体が一体化した左右非対称の 歪な外見であり、顔面部分の四つのランプがスクロール点滅している。 巨大機械人形ゴブニュ、オグマタイプだ! 『まだいやがったか! であぁッ!』 ゼロが瞬時に詰め寄ってパンチを浴びせたが、ガァァァンッ、と鈍い音が鳴るだけで、 ゴブニュはびくともしなかった。 『か、かってぇぇッ! 尋常じゃねぇ硬さだ!』 拳が痺れてあえぐゼロ。ゴブニュ・オグマタイプの装甲は特殊な金属製であり、よほどの 破壊力でなければ傷一つつかないほどの頑丈さなのだ。ゴブニュは腕で自らのボディを叩き、 まるで堅牢さをアピールしているようである。 ゼロもまた、生半可な攻撃は意味がないことを悟るが……そんな時に限ってカラータイマーの 点滅の間隔が早まり、エネルギーがもうほとんど残っていないことを知らせた。 『しまった! 最初に飛ばしすぎたぜ!』 強力な必殺光線を放つ分も残っていない。ルイズも魔力切れを起こしているので、彼女の 魔法でエネルギーチャージすることも不可能だ。万事休す! ゴブニュはゼロに鉄拳を返す。 『ぐわぁぁぁぁッ!』 殴り飛ばされたゼロが崩れ落ち、片膝を突く。もう立っていられるだけの余力すらなかった。 『も、もう限界だ……! 変身を解かざるを得ねぇッ!』 これ以上のエネルギー消費は最早命に関わる。ゼロはやむなくその場で変身を解き、消えていった。 「ぜ、ゼロが消えてしまった! ぼくたちはもう終わりだぁぁぁーッ!」 「だから、すぐに取り乱すんじゃないのッ!」 頭を抱えて絶叫するギーシュを叱ったキュルケだが、彼女も内心ではどうすればいいのか 分からない状態であった。あのゼロの攻撃も寄せつけないゴブニュを退ける手段が、今の 彼女たちには残されていない。 ゴブニュはこちらに振り向くと、ルイズを狙って突き出た頭頂部の尖端から放電を飛ばしてきた! 「きゃあああッ!」 ルイズの危機! そこを救ったのは、横から飛び込んできたタバサ。シルフィードに跨った 彼女は素早くルイズを拾い上げて、電撃から逃れた。 「よぉ」 シルフィードの上には才人もいた。変身解除と同時にタバサが回収していたのだった。 ルイズは彼に向かって思わず叫んだ。 「あ、あんた、何で来ちゃったのよ! 呼んでないでしょうが!」 「勝手に危なくなっといて、よく言うぜ。俺だってなぁ、出来ることなら来たくなかったよ」 ケッと目を細めて憎まれ口を叩く才人。 「けど、キュルケやギーシュ、ティファニアがやべぇだろうが。シエスタとか姫さまとか、 タバサの母ちゃんだってほっとけねぇだろうが。俺は友達を助けに来ただけだ!」 「何ですってぇ? わたしはどうなのよ! その中にわたしは入ってない訳!?」 ルイズは頭に血が上り、怒鳴り返した。 「何よ! やっぱり使い魔だから好き好き言ってたのね! さいってい!」 才人は怒りを通り越した声で叫んだ。 「あのなぁ。あんだけ好き好き言ってるのに、応えてくれない女を好きになる奴なんていねぇよ!」 「え?」 「お前といえば、気位ばっかり高いわ、すぐに怒って暴力を振るうわ、そのくせいい気になったら すぐ調子に乗るわ。お前が好きだなんて言ってたのは、やっぱり使い魔としての好きだわ。以上でも 以下でもありません。俺はこれから、そういうことにする」 「ちょっと待って! ほんとに認めないでよ! ひどいわ!」 才人とルイズがやいのやいの揉めていると、デルフリンガーが割り込んだ。 「相棒も娘っ子もいちゃついてるとこわりいんだけど、そろそろあれを何とかするのを考えねえとやべえぜ」 「誰がいちゃついて……うわッ!?」 才人とルイズが怒鳴ろうとしたが、シルフィードが急に傾いたので舌を噛みそうになった。 ゴブニュがシルフィードを狙って電撃を連続で飛ばしてきているのだ。シルフィードは 巧みにかわし続けているが、このままではいつ撃ち落とされるものか分からない。 タバサがルイズの方を向いた。 「虚無」 「撃てないのよ!」 「何故?」 「精神力が切れちゃってるの!」 「溜めとかなきゃ」 「虚無は寝れば溜まるってもんじゃないのよ!」 タバサはしばらく考えると、いきなり“レビテーション”を唱えて、才人を自身の側に手繰り寄せた。 「ど、どうしたんだタバサ?」 戸惑う才人に、タバサはルイズにも聞こえるような声で、才人に告げた。 「この前の続きをする」 「は? この前の続きって何……むぐッ!?」 才人の言葉はさえぎられた。タバサの唇で。 タバサは才人に突然キスをしたのだった。しかも濃厚に舌を絡めて、吸い上げる。 「パムー!」 ハネジローは恥ずかしげに小さな手で目を覆い隠した。 一方、この光景を見せつけられたルイズは一瞬、頭が真っ白になった。しかしキスをしていると いうことを理解すると、肩が地震のように震え出す。 「あ、あんたたちぃ……こここ、こんな時にぃ……」 タバサは才人の首に腕を回し、小さな身体を密着させる。 「こ、ここ、この前の続きですってぇ―――――――――――ッ!? やっぱりそういうこと してたんじゃないのぉぉぉ――――――――――――――――――――ッッ!!!」 桃色の髪がぶわっと逆立ち、鳶色の瞳が燃え上がった。極限まで高められた怒りが精神力を 生み、魔力のオーラとなってルイズの身体を包んだ。 タバサは才人の身体からぱっと離れた。 「今」 ルイズは我に返り、“エクスプロージョン”の呪文を唱え始めた。 その様を呆気にとられてながめる才人が、ハッと気がついた。 「そうか! タバサはこれを狙って! わざとルイズの怒りを招いて、精神力を回復させたんだな!」 『えーッ!? これでいいのか!?』 ゼロが思わず叫んでいた。 呪文を完成させたルイズは、溢れ出そうな魔力を杖の先の一点に集中し、一気に振り下ろした。 白い光が、ゴブニュの一点に現れた。 光が大きく広がってゴブニュを包み込む、次いで耳をつんざく爆発音が響いた。 もうもうと立ち昇る硝煙。ルイズと才人は降下したシルフィードの上から地面に下りる。 「やった……か?」 静かにつぶやく才人。ゴブニュがどうなったかは、煙に紛れていて見えない。あれほどの 爆発を受けて、無事では済まないと思うが……。 だが……煙の中からぬっとゴブニュが出てきた! 「!?」 思わず言葉を失うルイズたち。まさか、エクスプロージョンでも倒せなかったのか!? ゴブニュはルイズたちに向けて腕を伸ばす。 「も、もう駄目だわ! 逃げましょう!」 「い、いや待った!」 ルイズは必死の体で逃げ出そうとしたが、才人が呼び止める。 何故なら……ゴブニュは腕を前に伸ばした姿勢で、硬直したからだ。そのまま微動だにしない。 顔面の四つのランプからは、光が消えていた。 茂みに身を隠していたギーシュは、唖然とつぶやいた。 「た……立ったまま死んでる……」 ――ロボットなので死んでいるという表現はおかしいが、ゴブニュは完全に機能停止になり、 それ以上全く動き出す気配を見せなかった。 その後、ゴブニュを各国の研究者が回収しようとしたが、あまりにも重すぎて運ぶ手段がなかった。 しかし砕いて破片にすることも出来ず、装甲の特殊金属は『錬金』も受けつけなかった。 やむなくゴブニュは、その場に捨て置かれることとなった。やがてロサイスと忘れられた村を つなぐ道の途中にいつまでも仁王立ちし続けるゴブニュは、アルビオンの新名所として有名になったという。 「うーんうーん……」 ロサイスからトリステインに戻るフネの中、才人はボロボロになって船室のベッドの上で うなされていた。 どうしてこんなことになっているかと言うと、タバサとのキスでの怒りが“虚無”に費やしても 収まらなかったルイズによって、半ば八つ当たり気味にボコボコにされたからであった。 そこに扉が外からノックされて、ルイズがバツの悪そうな顔で室内に入ってきた。 「あのね。一応、聞いてあげる。大丈夫?」 「お前……殴り過ぎ」 憮然と文句を向ける才人。 「あ、あんたが悪いのよ。あんたが、使い魔としての好きとか言うから。う、嘘に決まってるわよね。 あんた、わたしのこと大好きだもんね」 「こんなことされて、そう言える奴がいたら連れてこい」 「へ、へんだ。大好きなくせに」 「あのな、逆だろ? お前が俺のこと、好きなんじゃねぇか」 「ま、まま、ままま、まさか!」 顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振るルイズ。 「大好きだから、あんなにやきもち焼くんだろ? さっきのキスで怒って精神力が溜まったのだって、 つまりはそういうことなんだろ。見え見えなんだよ」 う~、と半泣きでうなるルイズだが、うなずいてひと言、 「……そうね。そうかもしれないわ」 「え?」 才人が振り返ると、ルイズは勝ち誇った笑みを浮かべた。 「いやだ。犬が涎を垂らしてるわ」 「だ、騙したな! そういうことするからなぁ……!」 プイッと横を向いた才人が、照れ隠し気味に告げる。 「やっぱり、俺、時が来たら帰るからな。本当にな! ……でも、今の中途半端な状態のままじゃ この世界のことが心配で、夜も眠れなくなっちまいそうだ。だから、帰るのはこの世界がある程度 落ち着いてからにするよ」 『才人、本当にいいのか? 別に、無理して俺たちにつき合わなくたっていいんだぜ』 問いかけたゼロに、才人は力を込めて答えた。 「無理じゃないさ。ここで投げ出したら、男が廃る! そうだろ?」 『……違いねぇな』 ゼロは安堵した声を出した。 ルイズの方は、才人のハルケギニアに留まる宣言に嬉しさを感じていた。自分を助けに 駆けつけてくれたことと、ぶっきらぼうな言葉の裏に、自分への愛情を仄かに感じる。 ティファニアの呪文を越えた今、それは彼の本当の気持ちだと分かる。 しかしそれが分かってなお、ルイズには不安が残っていた。自分自身の魅力に自信がないから、 才人が義理で助けてくれているのではないかという気持ちがしこりのように残り、素直になる ことが出来ない。 そのため、本心とは裏腹な言葉を吐いてしまう。 「あ、操られているのはわたしだもん。使い魔に情を抱くように条件づけられているのよ。 だからやきもちを焼いたりしちゃうし、したくもないのに、こんなことしちゃうのね。きっと」 「え? んむ……」 ルイズはタバサのキスを上書きするかのように、才人の唇に自分のそれを重ね合わせた。 才人は唇越しに、ルイズの言葉の嘘を感じ取った。ルイズのキスには熱があるから。 その熱とともに、夢の母が言った、『やること』の意味を噛み締めていた。 アルビオンからトリステインへと近づいていく中で、二人は熱いキスを交わし続けた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔