約 1,746,356 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9047.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第十四話「ひきょうもの!シエスタは泣いた(前編)」 冷凍怪人ブラック星人 登場 トリステイン王女アンリエッタから、帝政ゲルマニアとの同盟に破局をもたらす手紙を アルビオンのウェールズ皇太子より回収する任務を受けて旅立ったルイズと才人たち。 しかし護衛につけられたグリフォン隊隊長ワルドは、『レコン・キスタ』の回し者だった。 ウェールズの命を狙うワルドは才人が一度は阻止したのだったが、宇宙人連合の横槍により、 結局ウェールズの命はワルドに奪われてしまった。そのため、任務は達成したが、 ルイズと才人の心には重い雲がのしかかった……。 「……よっと。これでいいか?」 『ああ、ありがとな。これでミラーナイトといつでも話が出来る』 旅を終えて魔法学院に帰ってきたルイズと才人が最初にしたことは、ゼロの頼みで姿見を 部屋に置くことだった。鏡ならルイズの部屋にももちろんあったが、全身が見えるものの方がいいと ゼロが言うので、新しく購入したのだ。そして今、それを部屋の壁際に設置した。 『ルイズもありがとうな。わざわざ新しく買ってくれて』 「別に礼を言われるほどのことじゃないわ。これくらい……」 ゼロの呼びかけに対するルイズの返事は、どこか暗かった。それを聞きとがめた才人が、 ルイズに尋ねかける。 「ルイズ、まだ皇太子のことを気にしてるのか? まぁ、俺も何とも思ってない訳じゃないけど……」 「……それもあるけど、それ以上に姫殿下のことが気に掛かってるのよ。姫殿下……あんなに 胸が張り裂けそうな顔をなさって……」 ルイズは、アルビオンから帰還してすぐに王宮に向かい、顛末の報告をした際のアンリエッタの顔を 思い出していた。 彼女は最愛のウェールズの死を聞かされて、静かに嘆き悲しんだ。だがそれ以上に、ワルドが 裏切り者だった事実にショックを受けていた。よりによって内通者を使者に選んだことで、 自分がウェールズを殺したようなものだと自らを責めていた。 軍の立て直しが急がれるこの大事な時に、魔法衛士隊の一角の隊長が離反したという事実は、 余計にトリステインの負担になり、アンリエッタの負担につながる。愛する人の死でただでさえ 精神が傷ついている彼女が押し潰されやしないかとルイズは気を病んだが、そんな彼女に アンリエッタは、努めて笑顔を作って言った。 『大丈夫ですよ、ルイズ。あの人は、最期まで勇敢に戦い、死んでいったと言いましたね。 ならばわたくしは……勇敢に戦って生きていこうと思います』 アンリエッタはそう宣言したものの、それでもルイズの心の暗雲は晴れなかった。あの時ウェールズを 最後まで守り抜けていれば……そう考えてしまう。それは才人も同じだった。 二人がいつまでも暗い顔をしていると、それを察したゼロが急に語る。 『ウルトラマンは神じゃない。救えない命もあれば、届かない思いもある』 「え?」 『前に親父たちが言ってたことさ。ウルトラマンは色んな超能力を持ってるが、それでも 何もかもが出来る訳じゃない。時にはどうしようも出来ないことに直面することもあるってな』 父親たちからの言葉を語るゼロは、けど、とつけ加える。 『だからって諦めちゃいけねぇんだ。立ち止まってちゃ、救える命も救えねぇ。たとえその時は救えなくとも、 前に進み続ければ、別の命を救えられるようになるかもしれない。大切なのは、最後まで諦めずに立ち向かうこと。 心の強さが、不可能を可能にするんだってな』 「……いいことを教えてくれるお父さんね」 ゼロの言葉で、ルイズも才人も少しばかり気持ちが軽くなっていた。そうだ、いつまでも ウジウジしていたってしょうがないじゃないか。今は何も出来なくとも、いつか自分たちに 出来ることがやってくるかもしれない。その時のために、今よりも成長することに 力を注ぐ方が大事なのだ。もう悲劇を繰り返さないために……。 『それより今は、ミラーナイトと話をしようぜ。あいつきっと、超空間で離ればなれになってからのことを 知りたがってるだろうしな』 ルイズたちが決心を固めていると、ゼロがそう言って、姿見に向かって呼びかけた。 『おーい、ミラーナイト! 聞こえてるかー!』 『はい。ちゃんと聞こえてますよ』 姿見の鏡面が揺らぐと、その中に等身大のミラーナイトの姿が映し出された。鏡の中に ミラーナイトがいる構図に、ルイズは驚いて小さく声を上げた。 『驚かせてしまいましたか? 改めて、自己紹介させてもらいます。私は鏡の騎士、ミラーナイト。 お二人にはゼロがお世話になっているようで、お礼を申し上げます』 ミラーナイトはルイズと才人に対して深々と一礼した。しかし腰を折っても、身体が鏡面から はみ出すことはない。完全に鏡の中に収まっている。 「これって幻術じゃなくて、本当にこの鏡の中にいるのよね……。鏡の中に入れるっていう ゼロの話は本当なのね……」 『私のことは既にゼロから聞かれてるようですね。ではゼロ、あなたから私に、この星のことを 教えてもらえませんか? 何分やっと到着したばかりで、右も左も分からなくて……』 『おういいぜ! まずは、このハルケギニアっていうところだが……』 ゼロはハルケギニアという星の特色や文化、文明、メイジのことや、この宇宙に到達してから 今日までのことをまとめてミラーナイトに伝えた。 『なるほど、分かりました。この星は、広い宇宙の中でも独特なようですね』 『あぁそうだな。それでここにいるのが、俺と同化してる平賀才人と、それを召喚したルイズ。 そっちの壁に立て掛けてる剣はデルフリンガーって言うんだ』 「あッ、どうも。ご紹介に預かりました、平賀才人です」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。みんなルイズって呼んでるわ」 「この俺がデルフリンガーさまだぜ! 全くもう一人の相棒のお仲間は、相棒に負けず劣らず仰天人間だな!」 才人たちが名乗ると、ミラーナイトはもう一度礼をした。口調から受けるイメージ通り、 相当礼儀を重んじるタイプのようだ。 『これから長いおつき合いになることかと思いますが、どうぞよろしくお願い致します。 それでゼロ、あなたには私が不在のせいで大分苦労をさせてしまったようですね。申し訳ありません』 ミラーナイトは今までゼロが一人で怪獣、宇宙人と戦っていたことと、ゼロが移動に難儀していたことを すまなく感じていた。 『いいんだよ。しょうがねぇことさ。それより、お前が無事にたどり着いてくれて嬉しいぜ。 危ないところを助けてもらったしな』 『そのことは、ルイズさんのお陰でもあります』 「え? わたし?」 いきなり名前を出されたルイズがキョトンとする。 「でもわたし、あの時何もしてないわよ?」 『いいえ。この星の到着したばかりで、ゼロがどこにいるかも分からなかった時、あなたの声が聞こえたんです。 だから私はあの場に駆けつけることが出来た』 ミラーナイトが説明されたルイズは、指に嵌まった『水のルビー』に目を落とした。一度は アンリエッタに返却しようとしたが、彼女からせめてもの報酬にとそのままもらうことになった。 代わりに、ウェールズの形見である『風のルビー』を渡したのだった。 『あなたのゼロを助けたいと思う気持ちが、私を呼び寄せたに違いありません。感謝致します』 「そ、そんなお礼を言われるほどのことじゃないわ! 頭を上げて!」 礼を述べられたルイズは、特別なことをしていないのにそこまで感謝されて、むしろ申し訳ない気持ちになった。 そうしていると、ゼロが話を切り替える。 『とにかく、これでウルティメイトフォースゼロが一人集結だ! これからはお前も、 ハルケギニアを守る任務についてくれるよな?』 『もちろんです。それに、鏡さえあれば、ゼロも私の能力で現場へと移動できるようにしますよ』 『おぉっし! これで大分楽になるぜ!』 今までの問題が解消するより、ミラーナイトに会えたことの方が嬉しそうなゼロに、 才人とルイズが思わず苦笑した。 『私の力が必要な時は、鏡面に向かって呼んで下さい。いつでも馳せ参じます』 話が済んで、ミラーナイトの姿が鏡の中から消えると、ルイズは才人に向き直り、その中のゼロに向けて言った。 「あの、ゼロ……昨日は、ごめんなさい」 『ん? 急にどうしたんだ』 「昨日はわたし、ひどいこと言っちゃったでしょう。わたしの方こそ、あなたの事情を無視して勝手なお願いして、 当たり散らして……今になって思えば、自分が恥ずかしいわ……」 ルイズは王軍への助力を頼んで、断られたことで怒鳴り散らしたことを冷静になった頭で思い返し、 反省していた。申し訳なさそうな彼女を、ゼロはあっけらかんと許す。 『いいってことさ。俺も同じ立場だったら、無理言ってると分かっててもキレてただろうからな。 むしろお前が辛いのに、何の力にもなってやれず、すまないと思ってる』 「そ、そんな……こっちが悪いのに、そう思われたらほんとに申し訳ないわ」 二人が謝り合う状態になったことで、才人も含めて笑いをこぼす。そしてその件は、自ずと 水に流すことになった。 その後、才人はルイズの部屋を出てある場所へ向かっていた。 『才人、もうじき日が沈むっていうのに、どこに行くんだ?』 「厨房だよ。シエスタにお礼を言いに行くんだ」 シエスタとは、才人が魔法学院に来てからよく世話になっているメイドのこと。才人がこちらの世界で 最初に仲良くなった相手でもある。しかしルイズは、何故か彼女のことをよく思わないらしい。 別に反りが合わないという訳でもないようなのに、不思議だと才人は考えている。 「俺たちが留守にしてる間に、ルイズの部屋の掃除をしててくれてたみたいだしな。それで マルトー親方に、今どこにいるか聞くんだよ」 『そういえば帰ってきてから、シエスタを見てないな。まだ俺たちが帰ってきたのにも気づいてないかもしれねぇな』 ゼロと話し合いながら、厨房に足を運ぶ才人。しかしそこで、料理長のマルトーからとんでもないことを聞かされた。 「ええッ!? シエスタが辞めた!?」 「ああ。我らの剣が不在の間にな……」 ギーシュを倒した才人を、平民の希望の星だと呼ぶマルトーは、はっきりと告げた。 「そ、それってどういうことですか!? シエスタが何かしたんでしょうか……! それか家庭の事情とか」 「いや、そういうことじゃないんだ。胸糞の悪い話なんだがな……」 マルトーは不快そうに顔を歪ませて、事情を話す。 「先日王宮の遣いのモット伯っていう貴族がやってきてな。学院長に用事を告げて、そのまま 帰ればよかったってのに、偶然鉢合わせたシエスタに目をつけると、自分のメイドにするって言って 引っこ抜いていっちまったんだ……」 「何だって!? そんな無茶苦茶な! シエスタの意思は!?」 「もちろんあいつも嫌がってたが、平民の気持ちなんて、貴族にはどうだっていいのさ。 そして平民は貴族に逆らえない。悔しいが、俺たちじゃどうしようも出来ないのさ……」 残念そうにマルトーが語っている間に、才人は歯を食いしばって顔を歪めていた。 「モット伯? ああ、僕も噂には聞いたことがあるよ」 シエスタを連れ去ったモット伯の情報を得るため、才人はギーシュを捕まえてモット伯のことを尋ねた。 「『波濤』の二つ名を持ち、王宮の勅使の役を任されるほどの貴族さ。ただ、相当な好色家で、 あちこちで若く美しい平民の娘を買い入れて、自分の屋敷に囲ってるそうだ。特に最近は 頻度がひどいって話を聞いてるね」 「そうか……ギーシュ、お前みたいな奴なんだな」 「一緒にしないでくれないか……? 僕は無理強いはしないよ。か弱き女の子は、優しく愛でるものさ」 相変わらず歯の浮くような台詞を臆面もなく言うギーシュである。 「それでまさか、そのシエスタというメイドを取り返そうというつもりかい? やめた方がいいよ。 評判は良くないといえ、モット伯は王宮に直々に仕えるほどの貴族。平民の君にどうこう出来るものじゃないんだ」 「出来る出来ないじゃないんだよ! シエスタのためなんだからな!」 「……まぁ、警告はしたからね」 熱く語る才人に閉口したギーシュは、ふと思い出してつけ加える。 「あッ、そういえば、モット伯がゲルマニアの貴族が家宝にしてる、この世に二つとない 珍しい書物も欲しがってるって話を聞いたことがあるな。もしかしたら、それがあれば話は別かも……」 「何だって!? その貴族ってのは一体誰だ!?」 「うわわ!? や、やめてくれたまえ君!」 興奮した才人がギーシュを揺さぶったので、ギーシュは目を白黒させる。 「ぼ、僕も詳しいところは知らないんだ。それによく考えれば、ゲルマニア貴族の家宝を 手に入れるなんて土台無理な話だよ。今のは忘れてくれ」 「くそッ……まぁとにかく、色々と教えてくれて助かった。最後に一つ、モット伯の屋敷の道順を教えてくれ」 ギーシュより屋敷までの道のりを聞き出すと、才人は彼から離れた。 「道筋は分かったけど、実際問題どうするか……見当がつかないな。ゼロ、何かいい方法はないか?」 『難しいな……。この星の住人が相手じゃ、ウルトラマンの超能力を使う訳にはいかない。 あくまでこの星のルールに則らないといけないんだが……』 「方法はないか……。けど、とにかく行動しないと始まらないよな!」 手段は思いつかなかったが、才人はモット伯の屋敷に向かうことに決めた。だがちょうどその瞬間に、 角の陰から呼び止められる。 「ちょっと待ちなさい。ご主人様を放ってどこに行くつもり?」 「うわッ、ルイズ!? どうしてここに?」 陰から顔を出したのは、他ならぬルイズだった。 「妙に戻るのが遅いから、捜しに来たのよ。全く手間を掛けさせて……。まぁそれより、 モット伯のところへ行くつもりなんでしょ?」 「ま、まさか今の話聞いてたのか?」 無言で肯定したルイズは、ハァとため息を吐く。 「向こう見ずにも程があるわね。ギーシュも言ってたけど、モット伯は貴族よ? 今回ばかりは 力押しじゃどうにも出来ないでしょうし、平民のあんたじゃお目通り出来るかどうかも定かじゃないわ」 「けど、シエスタが! このまま黙ってることなんて!」 「ちょっと落ち着きなさい」 焦る才人を制して、ルイズが告げる。 「しょうがないから、わたしが一緒に行ってあげるわ。公爵家のわたしが相手なら無視は出来ないはずよ。 そしたら、交渉の余地もあるわよ」 「えッ、ほんとか!? 本当に協力してくれるのか!?」 申し出に大喜びする才人だが、直後に不思議がる。 「でも意外だな。お前ってシエスタのこと好きじゃなさそうなのに、力を貸してくれるなんて」 「確かに、あの子のことはあんまり気に入らないけど……不必要にサイトにベタベタするし……」 途中のひと言は、聞こえないように小声で話すルイズだった。 「でも、だからって放っておくのは目覚めが悪いわ。それにあんたはアルビオンへの旅で いっぱい頑張ったし、そのご褒美代わりよ」 「そうか! とにかく、ありがとうなルイズ!」 「お礼を言うのは早いわよ。メイドを取り返してからにしなさい」 非常に嬉しそうな顔を見せる才人を一瞥したルイズが、次のように思う。 (そうよ。サイトとゼロには何度も助けてもらってるんだから、せめてこういうところじゃ 力になってあげないと……) 才人とゼロにどんな力があろうと、貴族社会の中では無力に等しい。だから二人の代わりに力になろう。 今の自分では、そういうことでしか役に立てない……と、とにかく才人とゼロの役に立つことを望むルイズは考えた。 それからモット伯の屋敷へ急行したルイズと才人は、門番に話をつけて、屋敷の中に立ち入ることに成功した。 「うわッさぶッ! 何だってこんなに寒いんだ? 夏でもないのに、冷房効きすぎじゃないのか?」 門をくぐってエントランスホールに踏み込んだ才人は開口一番に、身体を震わせつつ言い放った。 屋敷の中は、明らかに外よりも冷え込んでいるのだ。 「レイボウが何かは知らないけど……確かに変ね。水系統の魔法でも暴発させたのかしら?」 ルイズも身震いしながら疑問に感じていると、二人の面前に問題のモット伯が、執事風の格好の老人と うら若き乙女を従えながら屋敷の奥よりやってきた。 ルイズと才人は、その内の乙女、もっと言えば彼女の格好に目を引きつけられた。ハルケギニアでは 見たことのない純白の衣装を纏っており、ルイズはどこの民族衣装だろうと考えた。 だが才人はその衣装の正体を知っていた。日本の伝統的な着物そのものなのだ。だが、 当然この世界に日本は存在しない。ならあの着物はどういうことか? その疑問を考える間もなく、 モット伯が口を開く。 「そなたがヴァリエール家の三女か。こんな夜更けに、どのような御用で」 非常に抑揚のない、冷たさすら感じられる口調だった。この屋敷の中の気温より冷たいかもしれない。 (変ね……学院で遠巻きに見ただけだけど、こんな人だったかしら。顔色もやけに悪いし…… もっとも、それはここの衛兵たちも同じだけど) モット伯や周りにいる衛兵たちの様子を観察していぶかしむルイズ。そろいもそろって 青白い顔を並べており、比較的血色がいいのは老人と女性だけというありさまだった。 しかし今はそんなことを考えていても仕方ない。気を取り直して口を開く。 「突然のご訪問をお許し下さい。実は、伯爵に折り入ってお願いがございます」 「それは一体何か」 「伯爵が学院よりお連れになった、シエスタという名のメイドをお帰しいただきたいのです。 彼女はわたしの使い魔がよく世話になっている娘ですので、急にいなくなられると困ると 使い魔が申しております。代わりに伯爵のご要望を、ヴァリエールの名の下に何でもお叶え致します。 どうぞ、お願い出来ませんでしょうか」 へりくだった態度で頼み込むルイズ。しかし、 「断る。今の私が求めるのは若い娘のみ。それ以外には何も求めぬ。帰るがよい」 「なッ……!?」 交渉する余地もなくはねつけられたことで、ルイズも才人も絶句した。上手く行かないかもしれないとは思ったが、 ここまで頑なな態度を取られるとは思わなかった。 「ち、ちょっと! 少しは考えてくれてもいいじゃないですか!」 必死に食い下がる才人だが、彼が口を開くと、モット伯は汚らしいものでも見るような目つきを向けた。 「黙れ。平民風情が、貴族の私に盾突こうというのか。衛兵、その男を叩き出せ」 「うッ!?」 モット伯の命令で、あっという間に衛兵が才人を掴んで、槍を向けた。想像以上の暴挙に ルイズが慌てていると、モット伯の前に黒髪でそばかすが目立つが整った顔立ちの 若いメイドの少女が飛び出てきた。彼女こそ、問題の中心のシエスタだ。 「お待ち下さい! 伯爵、この者をお許し下さい! 私が代わりに罰をお受けしますので、どうか!」 隠れて話を聞いていたシエスタは、すぐに才人への許しを乞うた。だがモット伯は態度を緩めない。 「邪魔だ。たかだかメイドが、お前も私に逆らうというのか!」 「あうッ!」 あろうことか、モット伯はシエスタを足蹴にした。これにはルイズも怒りを爆発させた。 「伯爵! いくら平民でも、何の罪もない娘に何て振る舞いを! すぐに謝りなさい!」 声を荒げて怒鳴ると、ルイズにも槍の穂先が突きつけられた。 「ちょッ!? ど、どういうつもり!? わたしに手を上げるなら、ヴァリエール家が黙ってないわよ! それでもいいの!?」 普段は出さない家の名前で脅しを掛けることまでするが、そうしたらモット伯に代わって老人がルイズを嘲った。 「黙れ黙れ、所詮は小娘が! 伯爵は今や、そんなものなど全く怖くないほどの力を得られたのだ! 痛い目を見たくないのだったら、このまま黙って帰るがいい!」 「何ですって……!?」 ルイズはたかが使用人が自分に向かって無礼な物言いをしたことより、その内容に耳を疑った。 公爵家の権威が怖くない力とは、どういうことなのか。おかしい。入った時点で思っていたが、 この屋敷はおかしいことだらけだ。 「ちょーっと、お待ちなさいな!」 危機的状況にルイズと才人が冷や汗を垂らしていると、急にこの場には似つかわしくないほど 明るい声が響き渡り、同時に門が外から勢いよく開かれた。そうして立ち入ってきた人物の顔を見て、 ルイズが唖然とする。 「キュルケ!? あんた、何でここに!?」 燃えるような赤い髪は見紛うはずもない、キュルケである。相変わらずタバサが同行しているのは、 シルフィードに乗せてもらったからだろう。ルイズの問いかけに、キュルケはしれっと答える。 「今日旅から帰ったばかりなのに、サイトがギーシュからモット伯爵の話を根掘り葉掘り 聞いてるところを目にしてね。これは何かあると思って、つけさせてもらってた訳」 「ちょっと! また野次馬根性出したってことね!?」 「まぁまぁ、今はそんなこといいじゃない。それよりモット伯爵」 ルイズを適当にあしらうと、キュルケはモット伯に向き直って、服の下から包みに覆われた何かを取り出す。 「聞けばあなた、我がツェルプストー家の家宝をご所望なんですって? ここにあるから、 それでお手打ちにして下さらないかしら?」 「え? 家宝って……まさかギーシュが言ってたゲルマニアの貴族って、キュルケのところだったのか!?」 かなり身近にいたことに、才人は思い切り面食らった。 「これは昔、あたしのおじいさまが、あるメイジが偶然何処かから召喚したものを買い取ったものなの。 あたしも中身を見たけど、ほんとにこの世に二つとないような珍しい本で、特に伯爵のようなお人が 欲しがりそうなものだったわ。だからこれに違いないと思って、嫁入り道具として渡されたこれを持ってきたって訳」 「い、いいの? 家宝をそんな簡単に交渉材料にしちゃって」 キュルケのことを毛嫌いしているルイズも、さすがに戸惑った。だがキュルケはあっさりとしている。 「字は読めなかったけど、載ってる挿絵だけならあたしには必要のない内容だったし、別に構わないわ」 「……断る。今の私に必要なものは、生身の娘だ。書物など、どうでもよい」 求めていたはずの書物を引き合いに出しても、モット伯は断固として譲らなかった。 しかしキュルケは下がらない。 「まぁそう焦らないで。中を見てからご判断なさっても、遅くないんじゃないかしら?」 と言いながら、包みを外して、中身を皆の目に披露した。その瞬間、才人が思わずつぶやく。 「えッ!? あれって、エロ本じゃ……」 書物の正体は、女性のあられもない姿が表紙になっている、ひと昔前のエロ本に間違いなかった。 予想外すぎる正体に才人が言葉をなくしていると、それに反応した者がもう一人いた。 「何!? それは地球の書籍か! 何故この星に?」 「……え?」 おかしなことを口走った老人に、ルイズや才人、キュルケらの視線が集中した。そうすると、 老人は途端にしまったという表情になる。 『才人、あいつもしかして……』 「ああ。俺も今そう思った」 ハルケギニア社会では耳にしない単語が飛び出たことで、ゼロも才人も老人の正体を勘ぐった。 そのため才人は、確信を得るために、こっそりウルトラゼロアイをガンモードで取り出して 老人に突きつける。 「おいあんた。これが見えるか?」 「ぬッ!? 貴様まさか! おのれッ!」 ウルトラゼロアイは、この星の住人では武器になるものとは想像できない形状なのにも関わらず、 老人は明らかに用途が分かっている反応を見せた。これで確定だ。 「お前人間じゃないな! 正体を見せろッ!」 「ぐわぁッ!」 トリガーを引いて光線を浴びせると、それにより老人の姿が揺らぎ、黒い身体に白い顔面、 ギョロリと剥いた大きな眼球に赤鼻が目立つ怪人の姿に早変わりしていた。 「そ、その姿は! もしかして!」 ルイズたちがこの変化に驚愕していると、正体を現した怪人は名乗りを上げた。 『バレてしまったならしょうがない! 私は宇宙人連合の一人、土星からやってきたブラック星人だ!』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9441.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十二話「ハルケギニアの神話」 超古代怪獣ゴルザ 超古代竜メルバ 登場 才人が目を覚ますと、そこはだだっぴろい草原だった。 「はい?」 身体を起こした才人は、最初に自分の身に何が起こったのかを思い返した。 まず、アンリエッタからの要請でロマリアに向かった。そこで故郷、母親からのメールが届き、 それを読んで涙したのをルイズに知られてしまい、ルイズは自分を無理矢理にでも地球に帰そうと して……ゼロも自分から離れ、光を浴びせられて意識を失い……。 ハッと青ざめて己の左腕に目を落とす才人。ガンダールヴのルーンは手の甲に刻まれた ままだが、それと同等に大事な、いやある種それ以上に大切なウルティメイトブレスレットは、 やはりなくなっていた。それはつまり、ゼロが自分から分離したことを意味している。 となれば、自分は寝ている内に地球に送り帰されてしまったのだろうか。 しかし、それにしては様子がおかしい。地球に帰すのだったら、自分の住んでいる街に 置いていくのが普通だろう。だが周囲の光景は、見渡す限りの野原。遠景には湖や、山と森が 見える。少なくとも、自分の住んでいた地域にこんな土地はなかった。 ゼロが地球の適当な場所にほっぽっていった? いやそんな馬鹿な。まだハルケギニアに いるのだろうか。しかし、それならそれでここはどこだ? ロマリアか? 疑問が尽きないでいると、遠くから人影がこちらに近づいてくるのに気がついた。 咄嗟に背中に手をやったが、デルフリンガーはない。デートの時に外していて、そのまま なのだ。少し不安を覚えたが、人影の所作から、敵意はないことを見て取った。 近くまで来ると、草色のローブに身を纏っていることに気がついた。顔はフードに隠され よく見えないが、身体のラインから女性ではあるようだ。 女性は才人に声を掛けてきた。 「あら、起きた? 水を汲んできてあげたわ」 フードを外した女性の顔立ちは恐ろしいほどの美貌であり、才人は思わず息が詰まった。 それだけではなく、女性の耳は長く尖っていた。エルフだ、と才人は気がついた。 女性から渡された革袋の水でひと息吐くと、女性が自己紹介する。 「わたしはサーシャ。あなたは? こんなところで寝ているのを見ると、旅人みたいだけど。 それにしては、何にも荷物を持ってないけど……」 「サイトと言います。ヒラガサイト。旅をしてる訳じゃないです。起きたら、ここに寝かされて ました」 名乗り返した才人は、少し違和感を覚えた。エルフが、人間の自分に気さくに話しかけている。 才人が出会った純血のエルフの例は一人だけだが、エルフは人間と敵対しているはず。なのに 目の前のサーシャから、自分への敵意や忌避感といったものは全くなかった。まさかティファニアの ようなのが他にそうそういるとも思えない。 それに、他に誰もいないとはいえエルフが白昼堂々と草原を闊歩しているとは。もしかして、 ここはエルフの支配する土地なのだろうか? しかしエルフの土地“サハラ”は砂漠と聞いたのだが……。 「すいません。ここはハルケギニアのどこですか?」 とりあえず確かめてみようと質問すると……予想外すぎる返答が来た。 「ハルケギニア? 何それ?」 ハルケギニアを知らない! そんなことがあるのだろうか!? 一瞬混乱した才人だが、はっと気がついた。どれだけ時間が経っているかは分からないが、 気を失う直前までは、肝要の記念式典は一日前にまで差し迫っていた。早く戻らないと、 ロマリアにいるルイズたちが危ない! うわあああ! と思わず奇声を上げると、サーシャが呆気にとられて振り返った。 「どうしたの?」 「いや……思い出したんだけど、今、俺たち大変なんすよ……。ここでこんなことしてる 場合じゃない」 「どんな風に大変なの?」 「いやね? まぁ言っても分かんないでしょうけど、とてもとても悪い王さまがいてですね、 俺たちにひどいことをするんです。そいつをやっつけるための作戦発動中だったのに……。 肝心要の俺がこんなとこで油売っててどうすんですか、という」 「それはわたしも同じよ」 サーシャはやれやれと両手を広げた。 「今、わたしたちの部族は怪物の軍勢に飲み込まれそうなの。こんなところで遊んでいる 場合じゃないのよ。それなのに、あいつったら……」 「あいつ?」 問い返すと、サーシャはわなわなと震えた。何やら物騒な雰囲気なので才人は思わず口ごもった。 しばらくどちらも発言しない、何だか気まずい空気が流れたが、やがてサーシャの方が 沈黙を破った。 「何だかとても変な気分」 「変な気分?」 「ええ。実はね、わたしって結構人見知りするのよ。それなのにあなたには、あんまり そういう感じがしない」 へええ、と才人は思った。しかし言われていれば、自分もサーシャには恐怖に類する印象は 一切感じなかった。ティファニアを知っているとはいえ、真正のエルフにはかなり痛い目に 遭わされたのに。 それに、一回も会ったことがないエルフの女性に対して、どこかで会ったような奇妙な 感覚を抱いていた。これが噂に聞く既視感なのだろうか。 「俺もそんな感じですよ」 言いながらサーシャに振り返り、はたとその左手に注目した。何やら文字が刻印されている ようだ、と気がついたのだ。 そしてあることに思い至り、焦りながら自分の左手と見比べた。初めは何かの間違いだと 思ったが……よく確認して、間違いではないことを知る結果となる。 サーシャの左手の甲に刻まれているのは……自分と全く同じルーン文字なのだ! 「ガ、ガ、ガガガガガガガガ、ガンダールヴ!」 「あらあなた。わたしを知ってるの?」 「知ってるも何も!」 才人は左手のルーンを、サーシャの目の前に差し出した。 「まぁ! あなたも!」 驚いた顔だが、それほどびっくりした様子はない。対して才人は混乱し切りだ。 “虚無”を最大級に敵視しているエルフが、ガンダールヴ? 何で? どうして? というか ガンダールヴが二人? どういうこと? いや、一つだけはっきりしていることがある。サーシャが使い魔なら、彼女を使い魔に した人物がいるということだ。その人物なら、何か知っているかもしれない。 「あの、あなたをガンダールヴにした人に会いたいんだけど」 「わたしもよ。でも、ここがどこか分からないし……。全く、魔法の実験か何か知らないけど、 人を勝手にどっかに飛ばして何だと思ってるのかしら」 「魔法の実験?」 「そうよ。あいつは野蛮な魔法を使うの」 野蛮な魔法……それは“虚無”だろうか? しかし“虚無”の担い手は、ルイズ、ティファニア、 ヴィットーリオ、そしてガリアの名前も知らない誰かの四人だけのはず。他にもいたのだろうか? と考えていたら、不意に目の前に鏡のようなものが現れた。地球からハルケギニアに移動した 際に目に掛かった、サモン・サーヴァントの扉に似ている。 「何だありゃ」 呆気にとられる才人の一方で、サーシャの顔が急激に険しくなり、また全身から凄まじい 怒気を発し始めた。それに才人は思わずひっ! とうめく。 怒髪天を突いたルイズを彷彿とさせるほどのサーシャの様子におののいていると、鏡の中から 小柄な若い男性が出てきた。長いローブの裾を引きずるようにしながらサーシャに駆け寄り、 ぺこぺこと謝る。 「ああ、やっとここに開いた。ご、ごめん。ほんとごめん。すまない」 サーシャの肩が震えたかと思うと、とんでもない大声がその華奢な喉から飛び出た。 「この! 蛮人が――――――――ッ!」 そのままサーシャは男に飛び掛かり、こめかみの辺りに見事なハイキックをかました。 「ぼぎゃ!」 男は派手に回転しながら地面に転がった。サーシャは倒れた男の上にどすんと腰掛ける。 「ねぇ。あなた、わたしに何て約束したっけ?」 「えっと……その……」 サーシャは再び男の頭を殴りつけた。 「ぼぎゃ!」 「もう、魔法の実験にわたしを使わないって、そう約束したでしょ?」 「した。けど……他に頼める人がいなくって……。それに仕方ないじゃないか! 今は大変な 時なんだ」 サーシャは男の言い分を受けつけない。 「大体ねぇ、あなたねぇ、生物としての敬意が足りないのよ。あなたは蛮人。わたしは高貴なる 種族であるところのエルフ。それをこんな風に使い魔とやらに出来たんだから、もっと敬意を 払って然るべきでしょ? それを何よ。やれ、記憶が消える魔法をちょっと試していいかい? だの、遠くに行ける扉を開いてみたよ、くぐってみてくれ、だの……」 「仕方ないじゃないか! あの強くって乱暴なヴァリヤーグに対抗するためには、この奇跡の力 “魔法”が必要なんだ! ぼくたちを助けてくれる光の巨人を援護するためにも、この力をより 使いこなせるように練習を……」 男をマウントポジションから叩きのめすサーシャに怯えながらも、関係性は逆ながら俺と ルイズみたいだなぁ……と思っていた才人だが、男の言った「光の巨人」という単語に思わず 飛び上がった。 「ち、ちょっと待って下さい! 光の巨人って……ウルトラマンを知ってるんですか!?」 才人が割って入ったことで、サーシャは暴力を振るう手を止めた。サーシャの下敷きの男は 才人を見上げる。 「ウルトラマン? あの巨人たちはそんな名前なのかい? と言うかきみは誰だい?」 「才人って言います。平賀才人。妙な名前ですいません」 「そうそう。この人も、わたしと同じ文字が手の甲に……」 「何だって? きみ! それを見せてくれ!」 跳ね起きた男が才人の左手の甲に飛びついた。 「ガンダールヴじゃないか! ほらサーシャ! 言った通りじゃないか! ぼくたちの他にも、 この“変わった系統”を使える人間がいたんだ! それってすごいことだよ!」 才人の手を強く握り、顔を近づける男。 「お願いだ! きみの主人に会わせてくれ!」 「そう出来ればいいんですけど。一体、どうして自分がこんな場所にいるのかも分かんなくって……」 そうか、と男はちょっとがっかりしたが、にっこりと微笑んだ。 「おっと! 自己紹介がまだだったね。ぼくの名前は、ニダベリールのブリミル」 才人の身体が固まった。 「も、もも、もう一度名前を言ってくれませんか?」 「ニダベリールのブリミル。ブリミル・ル・ルミル・ニダベリール」 ブリミル? その名前を、才人はハルケギニアにいる間、散々耳にしていた。ルイズたちが 事ある毎に拝み、良いことがあると感謝を捧げる相手……。 「始祖ブリミルの名前?」 「始祖? 始祖って何だ。人違いじゃないのかい?」 男はきょとんとして、才人を見つめた。対する才人は必死に考えを巡らせる。 “虚無”の担い手が、始祖ブリミルを知らないはずがない。ということは単なる同名の 人物ではない。ということは……。 そんな。そんな馬鹿なことが……。 いや、「それ」の実例は何度か耳にしている。TACの隊員が超獣ダイダラホーシによって 奈良時代に飛ばされてしまったことがあったそうだし、時間を超える怪獣もエアロヴァイパーや クロノームといったものが存在している。何より、ジャンボットが「そう」だった。今の自分が 「そう」ではないと何故言い切れる? つまり……ここは“六千年前のハルケギニア”。そして目の前にいるのは……“始祖”と 称される前の初代“虚無”の担い手ブリミルと、初代ガンダールヴ! あまりの事態に呆然と立ち尽くす才人と、彼の様子の変化に呆気にとられているブリミルと サーシャ。しかしブリミルが才人に何か声を掛けようとした、その時……突然辺りをゴゴゴゴ、 と急な地鳴りが襲った。 この途端、ブリミルとサーシャの表情に緊張が走った。 「むッ! いかん、ヴァリヤーグだ! こんな場所に現れるなんて!」 「近いわよ! 早くここから離れましょう!」 えっ、ヴァリヤーグ? と才人はきょとんとした。そう言えば、さっきブリミルがそんな 名前を口にしていた。 しかし、この地面の揺れの感じは……才人も何度も体験している「あれ」の予兆では……。 「きみ、こっちに!」 ブリミルが才人の手を引きながら駆け出そうとするも、その時には草原の中央の地面が 下から盛り上がっていた。 「ああ、まずい! すぐそこまで来ている!」 「やばいわよ! 今はろくな武器もないわ!」 そして地表を突き破って、巨大な影が才人たちの目の前に出現した! 「グガアアアア!」 どっしりとした恐竜を思わせるような体格ながら、恐竜よりも何倍も大きい肉体。上半身が 鎧兜で覆われているかのような形状をした巨大生物を見やった才人が叫ぶ。 「ヴァリヤーグって……怪獣じゃねぇか!」 才人たちの前に現れたのは、ネオフロンティアスペースの地球において、モンゴルの平原から 現れたところを発見され、怪獣という存在の実在を証明した怪獣、ゴルザであった! 地上に這い上がってくるゴルザに対して、ブリミルとサーシャは顔を強張らせる。 「こんなに距離が近くては、ぼくの詠唱は間に合わない。こんな時に光の巨人がいてくれたら……」 「そんなことを言っててもしょうがないわ。とにかく走りましょう! どうにかまければ いいんだけど……」 ゴルザからの逃走を図るブリミルたちであったが、不幸にも怪獣はゴルザ一体だけではなかった。 才人が、空から急速に接近してくる気配を感知したのだ。 「あぁッ! 空からも来るッ!」 「何だって!?」 見れば、空の彼方からくすんだ赤銅色の刃物で出来た竜のような怪獣が、背に生えた翼で 風を切りながらこちらに降下してくるところだった。ゴルザと同時にイースター島から出現した 怪獣、メルバである! 「キィィィィッ!」 メルバはゴルザの反対側、つまり才人たちの進行方向に着地。これで才人たち三人は、 怪獣二体に挟まれた形となる。ブリミルがうめく。 「最悪だ……。逃げ道もなくなってしまった……!」 サーシャは短剣を抜いて怪獣たちを警戒しながら、ブリミルへと叫んだ。 「わたしが時間を稼ぐわ! あんたは隙を見て、そのサイトとかいうのを連れて逃げなさい!」 「そんな! きみを置いていくなんて出来ないよ! そんな短剣で二匹のヴァリヤーグに 挑もうなんて無茶が過ぎる!」 「じゃあ他にどうしろっていうのよ!」 問答するブリミルとサーシャだが、怪獣たちは待ってはくれない。ゴルザが額にエネルギーを 集める。光線を撃とうとしている前兆だと、才人はこれまでの経験から感じ取った。 そしてはっとブリミルたちに振り向く。ここが本当に過去の世界かどうかは知らないが、 もしそうだったら、二人が怪獣の餌食になったら大惨事だ。ハルケギニアの歴史が根本から ねじ曲がってしまう! 才人は反射的に身体が動いていた。 「二人とも危ないッ!」 「えッ!?」 両手を前に伸ばしてブリミルとサーシャを突き飛ばす。直後、才人のすぐ近くに光線が 照射され、大爆発が発生する! 「グガアアアア!」 ブリミルたちは突き飛ばされたことで逃れられたが、才人は爆発の中に呑まれる! 「ああああッ!?」 「さ、サイトッ!!」 ブリミルとサーシャの絶叫がそろった。 二人を救い、代わりに爆発に襲われる才人。爆風と衝撃を浴びる中、彼の脳裏に走馬灯の ようにこれまで出会ってきた様々な人たちの顔と――ルイズ、そしてゼロの顔がよぎった。 (ハルケギニアに来てから、色んな戦いを生き延びてきたのに、ゼロと離れた途端にこんな 訳の分からない内に死んじゃうのか……。俺って結局、こんな運命にあるのかな……) そんな彼の思考も、爆炎の熱にかき消されていく――。 と思われたその時、空の果てから「光」がまさに光速の勢いで飛んできて、ゴルザの起こした 爆発の中へ飛び込んだ。 そして閃光が草原の一帯に広がり、ゴルザとメルバがその圧力によって押し飛ばされる。 「グガアアアア!」 「キィィィィッ!」 ブリミルとサーシャは視界に飛び込んできた閃光に思わず顔を隠した。 「何!? どうしたの!?」 「こ、この光は……まさかッ!」 そして閃光が収まり、代わりのように草原に立った巨大な人影……。それを見上げたブリミルが、 歓喜の声を発した。 「来てくれたか、光の巨人!!」 ――そして才人の視界は、先ほどまでとは全く違う、森の木々よりも高い位置に来ていた。 そう、怪獣と同等の。 『こ、これは……!』 人間の身長ならばあり得ない高度だが、才人はこのような景色によく見覚えがあった。 彼の心にも喜びが溢れる。 『また、俺を助けに来てくれたんだな、ゼロ!』 そう声に出した才人だったが……どうもおかしいことにすぐ気がついた。 『あれ?』 今の己の身体を見下ろすと、ゼロの体色の半分以上を占める青色がないことを見て取った。 それにゼロの身体には、紫色は入っていないはずだ。胸のプロテクターの形も違う。カラー タイマーも同様だった。 『え? え? ゼロじゃないのか? じゃあ、今の俺は一体……』 才人は戸惑いながら、湖にまで歩み寄って、水面に己の姿を映した。 水面を鏡にして確かめた自分の顔は……ウルトラマンではあっても、ゼロとは似ても 似つかないものだった。 『こ、この姿は!?』 ウルトラセブンの面影を残すゼロとは全く違い、初代ウルトラマンに似た容貌。耳は大きく、 頭頂部のトサカの左右が楕円形にへこんでいる。 これはM78星雲の出身のウルトラマンではない……ギャラクシークライシスで怪獣が大量 発生した際、救援に駆けつけたウルトラ戦士の一人の顔である。才人はその名を唱えた。 『ウルトラマンティガ!』 才人の肉体は、ウルトラマンティガのものと化していたのだった! ガリア王国首都リュティスの、ヴェルサルテイルの薔薇園。ジョゼフが巨費を投じて作り上げた、 筆舌に尽くしがたいほど絢爛な花壇であったが、それにジョゼフ自身が火を放った。薔薇園は瞬く 間に火の手に呑まれ、灰になっていうのをジョゼフはぼんやりと見つめている。 燃え盛る炎をものともせずに、深いローブを被ったミョズニトニルンが歩いてくる。彼女は ジョゼフの足元に目をやって、主人に尋ねかけた。 「愛されたのですか?」 ジョゼフの足元にいるのは、彼の妃であるモリエール夫人――だったというべきだろうか。 何故なら、モリエールはたった今、死んでしまったからだ。ジョゼフの手によって、胸を短剣で 突かれて。モリエールは何故ジョゼフが自分を刺したのか、どうして自分が死ななければならない のか、全く理解できなかったことだろう。 ジョゼフは首を振りながらミョズニトニルンに応える。 「分からぬ。そうかもしれぬし、そうではないかもしれぬ。どちらにせよ、余に判断はつかぬ」 「では何故?」 「余を愛していると言った。自分を愛するものを殺したら、普通は胸が痛むのではないか?」 「で、ジョゼフさまは胸がお痛みになったのですか?」 ミョズニトニルンは、その答えが言われずとも分かっていた。 「無理だった。今回も駄目だった」 ジョゼフがそう唱えたところ、薔薇園の火災の上方の空間が歪み、何者かの影が浮かび上がった。 ジョゼフは極めて平常な態度でそれを見上げたが、ミョズニトニルンはかすかに不快感を顔に表す。 『ほほほ、陛下におかれましては相変わらずの無慈悲さでございますな。頼もしい限りです。 それはそうと、例の怪獣の軍勢の用意が整いました。中核となる「あれ」も、明日には再生が 完了致します』 「そうか。よくやった」 『それと、陛下ご執心の担い手が三人、ロマリアなどという人間の虚栄心の集まる土地に 集結しております』 それはわたしがジョゼフさまに報告しようとしていたことだ、とミョズニトニルンは内心 苛立ちを抱いた。 「それはちょうどいいな。よろしい。余のミューズよ、全ての準備が整い次第、“軍団”の 指揮を執れ」 「御意」 そんな感情はおくびにも出さず、ミョズニトニルンはジョゼフの命を受けると再び炎の中に 姿を消した。 中空に浮かぶ影は、ジョゼフに対して告げる。 『しかしながら、陛下はまこと恐ろしいお方! 「あれ」は“死神”たる私ですら、前にした 時には身震いが止まらなかったほどなのに、陛下は平然と利用なさる! 野に解き放てばそれこそ 世にも恐ろしいことが起こるというのに、陛下は眉一つ動かされない! 何とも恐ろしいお人です!』 影の言葉に、ジョゼフは薔薇園のテーブルを叩く。 「ああ、おれは人間だ。どこまでも人間だ。なのに愛していると言ってくれた人間をこの手に かけても、この胸は痛まぬのだ。神よ! 何故おれに力を与えた? 皮肉な力を与えたものだ! “虚無”! まるでおれの心のようだ! “虚無”! まるでおれ自身じゃないか!」 『まことおっしゃる通りで、陛下』 「ああ、おれの心は空虚だ。中には、何も詰まっていない。愛しさも、喜びも、怒りも、 哀しみも、憎しみすらない。シャルル、お前をこの手にかけた時より、おれの心は震えんのだよ」 遠くから、燃え盛る花壇に気づいた衛士たちが大騒ぎを起こして消火活動を始めたが、 その喧騒にもジョゼフは意を介さない。熱を帯びた目で、虚空を見つめてうわ言のように つぶやくのみだ。 「おれは世界を滅ぼす。この空虚な暗闇を以てして。全ての人の営みを終わらせる。その時こそ おれの心は涙を流すだろうか。しでかした罪の大きさに、おれは悲しむことが出来るだろうか。 取り返しのつかない出来事に、おれは後悔するだろうか。――おれは人だ。人だから、人として 涙を流したいのだ」 言いながら、天使のように無邪気に笑うジョゼフの姿を、影が薄ら笑いとともに見下ろしていた――。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9337.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間その七「80の目覚め」 数百年の眠りから目覚め、才人を主として魔法学院の人々を、才人の記憶から作り出した 夢の世界にいざなったサキュバス・リシュ。その力を利用して百の怪獣軍団を生み出そうという 悪しき野望を抱いたナックル星人。彼らの陰謀は、ゼロと才人、ルイズたちの光によって くじかれた。ハルケギニアには再び平和が戻ったのだった。 しかしその勝利には、ゼロとは別のウルトラ戦士の力も加わっていた。それはウルトラマン80。 ウルトラマン先生が自分の担任だったら、という才人の内に秘めた願いをリシュが図らずも叶えた ことで、遠く宇宙の壁を隔てたM78ワールドから、80の精神が夢の世界にやって来ていたのだ。 これぞアンバランスゾーンの引き起こした摩訶不思議な奇跡といえるだろう。 そして才人たちが覚醒したのと同時に、80もまた夢の世界からの目覚めの時を迎えていたのであった……。 『……はッ!』 仰向けに横たわっていた80の双眸に光が灯り、彼は上体を起こした。 『ここは……』 『ああ、80! 目を覚ましたのね!』 辺りを見回す80の側に立っている女性のウルトラ族が安堵の声を上げた。彼女の名はユリアン。 ウルトラ族の王女であり、かつてガルタン大王に追われて80が守っていた時代の地球に流れ着き、 「星涼子」という名でしばし地球に滞在していた。時に80のピンチに立ち上がり、共闘したこともある。 『ユリアン……』 80は周りの光景と、ユリアンがいることから、今自分がいる場所がウルトラの星のウルトラ クリニックであることを悟った。 『すまない、心配をかけたようだね』 『心配してたのは私だけじゃないわ。ウルトラの父も、あなたの様子を見に来てるのよ』 ユリアンのひと言の直後に、立派な二本の角を頭から生やし、真紅のマントを羽織った ウルトラマンが入室してきた。 『気がついたようだな、80』 『大隊長!』 彼の名前は、M78星雲に生きる者ならば知らない者はいない、偉大なるウルトラの父。 宇宙警備隊のトップに立つ大隊長であり、ウルトラの国の人たちをまさしく父のように 温かく見守っているカリスマから、この敬称で呼ばれているのだ。 ウルトラの父は語る。 『今度は目覚めない時間が長かったから、お前の原因不明の異常が深刻化したのではと思って 見舞いに来たのだ。無事に目覚めたようで、何よりだ』 この頃80は、突然意識を失い、自然に覚醒するまで何をしても目覚めない異常に見舞われて いたため、宇宙警備隊の任務を一時離れてウルトラクリニックに入院していたのだ。もちろん その異常の原因とは、才人の願いに引っ張られて精神が夢の世界に巻き込まれていたことである。 『大隊長、ご心配をお掛けしました。ですが、私はもう大丈夫です。もう昏睡状態に陥る ことはありません』 80がそう言うので、ウルトラの父もユリアンもいささか驚かされた。 『ほう? どうしてそう言えるのだ?』 『その原因が解消されたからです。少々不思議な話になりますが……』 80は簡単に、夢の世界であったことを説明した。普通なら信用されなさそうな話だが、 ここはウルトラの星。多少の不可思議な現象にも理解がある。 『なるほど、ゼロとともに惑星ハルケギニアを救ったのか……。セブンとレオに聞かせたら 喜ぶだろうな』 『そういうことですので、私の身体はもう大丈夫です。任務に戻れます』 『うむ、分かった。しかし万一があってはならない。精密検査を受け、一日の休養の間に 何もないことを確認してから復帰するように』 『大隊長……ありがとうございます』 ウルトラの父の優しさに胸を打たれ、頭を下げる80。と、その時に、ユリアンが尋ねかける。 『ところで80。あなたが起きたのと前後して、見慣れない女の人が突然出てきたんだけれど、 あなたは何か知らないかしら?』 『え?』 『ほら、そこ』 ユリアンの示した先は、80が横たわっていたベッドの片隅である。そのウルトラマンサイズの ベッドの上に、彼らからしたらとても小さい女性がちょこんと乗っていた。 その正体とは……。 「や、ヤマト先生……ここは、一体……? あなたみたいな人が他に二人も……」 『り、リシュ君ッ!』 キョロキョロ不安そうに周りを見回すリシュが自分の傍ら――ウルトラの国にいることに、 80はかなり面食らった。 ウルトラクリニックから場所を移して、宇宙警備隊本部の一室に予定外の来客、リシュは通された。 今もあまり置かれている状況が呑み込めていないのか、呆気にとられているリシュの元へ、80がやってくる。 「お待たせ、リシュ君」 「あッ、あなたは……ヤマト先生? その姿は……」 80は地球人「矢的猛」の姿を取っていた。しかし夢の世界での若々しいものではなく、 初老の年代の姿である。 「今ではこれ以上若い姿には変身しないことにしてるんだ。かつての教え子よりも先生が 若い外見だとおかしいから、活動に支障がないギリギリの年代のこの姿にね」 「そうなの。それで……ここが先生の故郷の世界なのね……」 リシュは窓から、ウルトラの国の景色を一望する。 「夢の世界よりも夢のような、幻想的な光景ね……。その中に、あたしが今こうしていることが 何より不思議なことだけど……」 「私も驚いたよ。まさかリシュ君が、ハルケギニアからはるばるこっちの宇宙に移ってきたとは」 恐らくは、80の精神がM78ワールドに戻ってくる際に、彼にひっついてくることで肉体が この土地に現出したのだろう。全く不思議なことではあるが。 「しかし、どうしてそんなことが起こったのだろうか」 疑問に感じる80に、リシュは答える。 「多分、あの人たちがあたしの背中を押したからだと思う……」 「あの人たち?」 「先生の、本来の生徒たちよ」 それを聞き、矢的は少し目を見開いた。 「あたしはあの時、夢の世界と運命をともにしようとした。でも……」 夢の世界が崩壊する寸前、塚本を代表として80の教え子たちがリシュの背を80の方へ押しやり、 同時にこう告げていた。 『今度は、君が大事なものを教わる番だ!』 「そうか……みんなが……」 「あなたの生徒は、とても優しい人たちばかりね。ハルケギニアの人間も、皆そういう人だったら、 あたしたちサキュバスも封印されなくてもよかったかもしれないのに……」 つぶやいたリシュは、矢的へと顔を向け直す。 「それに、先生があたしへ手を差し伸べてくれたこともあると思う。……でも、どうしてあんなに あたしのことを助けてくれようとしたの? あたしとあなたは会ったばかり、いえ、むしろあたしは 夢の世界に巻き込んだ加害者なのに……」 理解できないリシュに、矢的はこう答えた。 「確かに迷惑でもあったのは事実だ。……けど、君のお陰で私は、大事な生徒たちともう一度 会うことが出来た。二度と会うことは叶わなかったはずのみんなと……」 ウルトラ族と地球人の寿命は、天と地ほどの差がある。もちろん、かつて80が受け持った 桜ヶ岡中学一年E組の児童たちも、とっくに天寿を迎えている。80は、そのことには一抹の 寂しさを感じていた。 「私は、もう一度みんなと会わせてくれた君に感謝している。それに……夢の中でも、君は私の 生徒だった」 矢的=80は初め、才人たちと同様に、夢の世界では現実での記憶を忘れ、与えられた設定を 演じるだけだった。自分がウルトラ戦士だということも忘れていた。記憶が全て戻ったのは、 才人と同時。彼の影響を受けて、自分がやるべきことを思い出した。 そのやるべきことが――与えられた「設定」でも、自分の「生徒」であるリシュを救うことだった。 「先生はどんな時でも生徒を助ける。それが、私の生涯変わらない信念の一つだ」 迷いのない強い眼差しの矢的の顔を見つめ、その惹き込まれそうな力強さにリシュは頬が ほんのり赤らんだ。 「……あ、ありがとう。それじゃあ、お礼と言っては何だけど、先生が望むならまた夢の中で あなたの生徒たちと会わせてあげましょうか? 夢の住人でも、まぎれもない人間よ」 そう打診するが、矢的はゆっくり首を横に振った。 「いや。気持ちは嬉しいが、遠慮するよ」 「え? どうして?」 「……望むままの夢を見続けるのは、楽しいことかもしれない。でも、その先の未来には 楽しいだけでなく、大切なものや素晴らしいものが待っている。人は、それを得るために 未来に進まなくちゃいけない」 80の教え子たちも、亡くなっておしまいではなかった。自分に憧れて教師となった塚本幸夫は たくさんの児童の未来を導き、彼らがまた次の世代の子供たちを導いていった。大島明男は偉大な 天文学者として名を遺し、後の学者たちに大きな影響を与えている。スーパーとその子孫たちは 実家のスーパーを大きくして、今や世界中にチェーン店を持つ大企業だ。他の教え子たちも、 色んな形で地球の未来に貢献した。彼らを通して、80の地球を想う気持ちは延々と伝えられている。 80は、自分の生徒たちが支えた地球の未来へ進んでいく姿を見ると、自分のやっていることの 尊さを実感して一層地球と宇宙の平和のために尽力する気力が湧くのだ。 「だから私も、ずっと過去の夢を見たままではいられない。未来へ向けて、この現実を生きていくんだ」 「そう……」 矢的の言うことは素晴らしいが、リシュは自分の力が不要であると言われている気分になり、 少し寂しく感じた。 しかし、 「それはリシュ君、君も同じだ」 「えッ……?」 「より良き未来へ歩んでいく権利は、誰にでもある。リシュ君も、これからは閉じた夢の中で 生きようとするんじゃなく、明日を生きるために踏み出してくれ。君の能力も、もっと明るい ことのために使えるはずなんだ。私と、この光の国と一緒に、これから君の新しい道を探して いこう。そうすれば、いつか君が故郷ハルケギニアで堂々と生活できる日も来るかもしれない」 矢的から熱い眼差しを向けられ、心の準備のなかったリシュは少々戸惑いを覚えた。 「で、でも、サキュバスの力を悪用しようと考える人がいるんじゃ、それは……」 「もちろん、すぐには無理だろう。しかし、ハルケギニアもより良き世界になる時が、いつか きっと来る。人間は明るい明日へと進んでいける。私は地球でそれを学んだ。これは、どの世界でも 同じことのはずだ」 「ハルケギニアが、より良き世界に……。確かにそうなってくれたら、あたしも帰れるわね……」 「ああ。その時を信じて生きるのは、決して無駄なことじゃないさ」 矢的の説得を受けて、リシュは表情が明るくなった。 「分かったわ、先生! これからお世話になります!」 「ああ! こちらこそよろしく!」 「それじゃあ手始めに、この世界のことを教えてくれないかしら? サイトの記憶にもあった、 チキュウという世界のことも」 「よしッ。まずは、ウルトラの国の成り立ちからだ! 今のウルトラの国の始まりは、二十七万年前に……」 笑顔でうなずき合ったリシュと矢的。早速、リシュはウルトラの国の歴史について、矢的の授業を 受けるのであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9079.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十一話「魔の眼鏡 スケベ心にご用心!!(前編)」 謀略宇宙人マノン星人 登場 アンリエッタ率いるトリステイン軍本隊が到着した時には、タルブ村の戦いは既に終わっていた。 怪獣、異星人は完全に駆逐され、残っているのは戦艦を失ったアルビオン兵のみであった。 単純な兵力では以前アルビオン側が上であったが、彼らは戦艦を失い大地に放り出されたことで 戦意が削がれていたので、恐るべき敵がいなくなったことで逆に士気を高めたトリステイン軍に なす術なく捕らえられ、トリステイン軍が到着する前にはもう姿をくらましたワルドを除いた 全員が捕虜と化した。 不思議なことに、ハルケギニア外からの侵略者を焼き尽くした光の球は、人間には一切の 危害を加えなかった。そのため、炎上した艦の不時着での怪我人はいても、死者は一人も出なかった。 ともかく、トリステインは奇跡的な勝利を収めた。更にゴルドンから採取された莫大な黄金が タルブ村から寄贈されたことで、軍の再建のために尽きかけていた国庫が例年の予算以上に潤った。 トリステインでは戦勝が祝われることになり、アンリエッタは国民から奇跡の勝利を国にもたらした 『聖女』と崇められた。そして戴冠式を経て女王の座に着くことが決定されたのだ。 同時にゲルマニア皇帝との婚姻の解消も発表された。ゲルマニアは一時は認めようとしなかったものの、 トリステインの立場が劇的に向上した以上、頑なな態度を取ることは出来なかった。アンリエッタは 自由の身になったのだ。 しかし魔法学院に帰還したルイズたちは、それとは別の話題を盛んに話し合っていた。 「しっかし、すごかったなぁ。『虚無』の魔法」 ルイズの部屋で、部屋の主を前にしながら、才人がナックル星人の軍勢に決定的なとどめを刺した 『虚無の魔法』について言及した。するとウルティメイトブレスレットの中のゼロと、姿見の中の ミラーナイトが同意する。 『全く同感だ。あれだけの数を一辺に仕留めるなんて、ウルトラ戦士でも難しいぜ』 『しかもそれでいて、攻撃対象の取捨選択まで出来るとは。まさに『魔法』としか言いようがありませんね。 そんな技が存在していようとは、宇宙の広さは侮れません』 「そ、そう? まぁ、ハルケギニアの伝説の魔法なんだもの。それくらいじゃないと、 むしろ拍子抜けしちゃうわよ」 ゼロとミラーナイトの言葉を聞いて、ベッドに腰かけているルイズは満更ではなさそうに髪をかき上げた。 彼女はゼロたちに『虚無の魔法』を持ち上げられて、自分が称賛されているようなこそばゆい気分になっていた。 何しろ、念願の自分の魔法なのだ。今まで何度夢見てきたことだろう。しかもそれを、何回も驚異的な力を 見せつけたゼロらに評価されるのは、彼らに並んだように思えて非常に気分が良かった。 特に才人にキラキラした目を向けられるのは、今まで味わったことがないほど快感だった。 さぁ、もっとわたしを褒めたたえなさい。そんなことまで考えるが、 「でも喜ばしいことは、それだけじゃないよな。何と言っても、ジャンボットが復活した!」 才人がもう話題を切り替えたので、ガクッと肩を落とした。それだけか! と言いたくなったが、 彼女を制して第三者が声を上げる。 『サイト、ありがとう。これからは、この鋼鉄の武人、ジャンボットのこともよろしくお願いする!』 畏まった挨拶をしたのは、才人に名前を呼ばれたジャンボット……だが、さすがに本体ではない。 部屋に入り切る訳がない。 復活したジャンボットは、ゼロのように人間に一体化することも、ミラーナイトのように 鏡の世界にいることも出来ないので、ジャンバードの状態で衛星軌道上に身を置くことになった。 有事の際には、そこから現場へ直行する。 代わりに部屋にいるのは、コックピットにあったモニター上部のリング型ランプを模したブレスレットだ。 これは一種の無線機で、ジャンボットの電子頭脳と直通している。ジャンボット当人がいられない場所で 仲間と連絡を取り合うために用意したものなんだとか。 「そして、私のこともお願いしますね! サイトさん!」 そしてその腕輪を嵌めて、にっこり笑ったのは、シエスタだった。 彼女はタルブ村での戦いの際、才人がゼロに変身するところを目撃していた。それを告白されると、 才人とルイズは隠し通さねばならない秘密を知られて大慌てになった。だが、シエスタは他の者に 言いふらすつもりはなかった。その代わりに、事情を全て説明し、これからは自分もウルトラマンゼロの 秘密を共有する仲間にすることを要求した。 そういう経緯があって、ジャンボットの腕輪を彼女が嵌めることになったのだ。 「サイトさん、それから私のひいおじいちゃん……違う世界の人だったんですね。驚きでいっぱいです。 でも、これからは私も一緒に戦います! よろしくお願いしますね、サイトさんッ」 「ありがと。でも、シエスタが戦うことはないだろ」 『その通りだ。戦闘は私の仕事。シエスタは私のサポートをしてくれるだけでいい』 「あッ、そうでしたね」 アハハとおかしそうに笑い合う才人とシエスタの様子を、ルイズはすごく不機嫌そうにながめた。 「……ねぇ、どうしてもシエスタを仲間に入れなきゃいけなかったの?」 姿見に首を向けてミラーナイトに尋ねかけると、彼はこう答えた。 『仕方ありませんよ。放置するより、仲間に入れておいた方が私たちも秘密をバラされないで 済むと安心できますし。それとも、ルイズはシエスタがいると何か不都合なのですか?』 「べ、別にそういう訳じゃないわ」 才人と自分だけで共有していた秘密に、シエスタが割り込んできたのが不愉快だからとは、 さすがに言えなかった。 「シエスタのことはもういいわ。でも、腕輪を所持する役割はわたしでも良かったんじゃないかしら? わたしの方が、サイトといる時間が多いんだし」 最後のひと言をわざわざ強調しながらジャンボットに問いかけると、当人からは次のように返答される。 『私もそれは考えたが、シエスタは私がこの星に一人きりで放り出してしまったササキの 曾孫だそうではないか。彼への負い目があるので、シエスタのことを側で見守っていたいのだ』 「『竜の羽衣』さん……ありがとうございます」 『ジャンボットと呼んでくれ』 ジャンボットの言い分を理解はするルイズだが、ジャンボットとともにあるシエスタと、 ゼロと一体化している才人、そして別にミラーナイトと一緒な訳ではない自分を見比べると、 シエスタに一歩追い抜かれたような気になってやはり気分を悪くした。 『けど、喜んでばかりもいられねぇぜ。大変なことが分かったからな。ヤプールのことだ……』 話の最中にゼロが、ナックル星人が死に際にしゃべった名前を挙げると、ミラーナイトや ジャンボット、才人の雰囲気も険しくなった。 『そうですね……。ゼロ、あなたのお父上が言っていた、大いなる邪悪の気配とは、ヤプール人の ことではないでしょうか?』 『その可能性は高いな。ヤプールは異次元人だ。宇宙間を渡り歩くことも、奴らには難しいことじゃないだろう。 事実、アナザースペースにも現れやがった』 『侵略者たちをこの宇宙へ連れてきたのも、ヤプールに違いあるまい』 「ヤプール人か……。話は散々聞いてたが、実際に出会う日が来るなんて、思いもしてなかったな」 和やかな雰囲気を一変させ、緊迫した空気で語り合うゼロたちに、「ヤプール人」を知らない ルイズとシエスタが質問する。 「そのヤプールってのは何者なの? 宇宙人とはまた別物なのかしら?」 「何だか、相当恐ろしい相手のようですが……」 『ああ、その通りだ。今までの敵とは訳が違う奴だぜ』 ゼロが二人に対して、ヤプール人の説明を行う。 『ヤプールはそもそも、俺たち惑星の上に生きる「人間」とは根本的なところから違う、 異次元生命体だ』 「イジゲン?」 『異次元の概念は、宇宙以上に説明が難しいから詳しくは省くが……要するに「こことは全く異なる世界」だ。 そしてその世界の生物のヤプール人は、「個人」という概念がない。全体で一個の「生命体」だ』 全体で一個、と言われてもシエスタにはピンと来なかったが、ルイズは大体のところを理解した。 「それはたとえるなら、ハルケギニア人が個別の意思を持たず、「ハルケギニア」という 巨大な意識の下にある、ということかしら?」 『まぁ、そんなところだ。だがヤプールは、奴らの世界である「異次元」そのものだから、 完全に殺すことが出来ない非常に厄介な存在だ。今まで何人ものウルトラ戦士が奴らを 倒してきたが、その度に復活しやがる。しつこくて敵わねぇぜ』 世界そのものが一つの生命とは、想像がつき難い。スケールの大き過ぎる話に、ルイズも シエスタも思わず黙りこくる。 『そしてここからがヤプールの最も厄介なところだが、奴らのエネルギー源は生き物の負の感情から生じる 「マイナスエネルギー」だ。だからより多くのエネルギーを求めるために、次元を超越する能力を使って いくつもの星を侵略しようと、魔の手を伸ばしてきた。おまけに奴ら、マイナスエネルギーを食ってるからか 性格が卑劣かつ陰湿。悔い改めるって言葉をまるで知らねぇから、始末が悪いのさ』 「俺の故郷、地球も何度かヤプール人に狙われたのさ。その度に、ウルトラ戦士が助けてくれたんだぜ」 才人が通信端末の画面をルイズたちに見せる。その中にはエース、タロウ、メビウスといった ウルトラマンの写真が映っている。 『私たちウルティメイトフォースゼロも、ヤプールと戦ったことがあるのです。厳しい戦いでした……』 『あの時は、まだいなかったジャンナインを除いた四人の心と力を合わせることでどうにか撃退したな。 だが今はグレンファイヤーがいない。この現状を狙われるのは危険だ』 ミラーナイトとジャンボットが言うと、ゼロが才人の中でうなずく。 『そうだな。早いとこ、グレンも見つけないと。あいつ、今どこにいるんだろうな?』 『もう到着していてもおかしくはないと思うのですが……遅いですね』 『もしや、私のようにどこかで動けない身になっているのではないだろうか?』 ジャンボットの意見に、考え込むミラーナイト。 『それも考えられますね……。では、私が捜索をするとしましょう。無事到着しているといいんですが……』 『私も衛星軌道上から捜すとする。あいつは目立つから、宇宙からでも見つけられるだろう』 『頼んだぜ、二人とも』 ゼロたちの会話は、それで一旦区切りがつく。するとすかさず、シエスタが才人に飛びついた。 「サイトさん!」 「おわぁッ!? 急にどうしたんだシエスタ!?」 身体を密着された才人が仰天し、ルイズも目を見開く。 「サイトさん、思えば、私の家族を助けてくれたお礼がまだでしたね。それだけじゃなく、 サイトさんが今まで何度も私たちを助けてくれてたんですよね。何とお礼をすればいいか!」 「そ、そんなのいいよ。ハルケギニアを守ってるのは俺じゃなくてゼロで、俺のしたことなんて ほんのちょっとしかないから……」 興奮しているシエスタを落ち着かせてそっとはがそうとする才人だが、そうすると余計に抱きつかれた。 ますます身体同士が密着して、才人の顔が真っ赤になる。 「いいえ、そんなことありません! 少なくとも、私にとってサイトさんはヒーローです! 是非ともお礼させて下さい! サイトさんが望むことなら、何だってします!」 「何でも!?」 「はい、何でも!」 シエスタの豊満な胸が自分に押しつけられ、ムギュウと形が変わる。それを見下ろし、 才人は思わずムホッ、と小さく変な声を上げた。 だがその直後に、強烈な怒気を感じ取って顔が青ざめる。振り返ると、ルイズがゴゴゴ…… という擬音が似合いそうなほどの怒りの表情を浮かべて、鞭を手に立ち上がっていた。 「ル、ル、ルイズ!? ま、待て! 落ち着くんだ! これは違う!」 「な~に~が~、違うのかしらぁ~?」 シエスタを離して必死になだめるが、こうなったルイズはもう彼の手には負えない。 いつものことだ。 「メイドなんかにいやらしい目を向けてッ! 何度言っても分からないわね! このエロ犬ぅー!!」 「ひいいいいッ!」 ルイズが鞭を振り上げると、才人が恐怖に震えて頭を抱える。いつものように、才人が ボロボロになるほどのお仕置きがすぐにも始まる。 『やめたまえッ!』 「えッ!?」 と思われたが、その直前にジャンボットが制止の声を上げた。思わぬ横槍に、ルイズは ついピタリと停止した。 動きの止まった彼女を、ジャンボットが激しく叱り出す。 『罪のないサイトを鞭打とうとは、何たる蛮行か! それでも淑女か!』 「で、でも……」 『口答えをするな! そこに座りたまえ!』 顔は見えないが、ジャンボットのあまりの剣幕にルイズは逆らえず、シエスタの前でペタリと 床に正座した。するとジャンボットの説教が始まる。 『良いか? そもそも私は、サイトの待遇に納得が行かんのだ。「使い魔」などと、彼の人権を無視している。 故意に選出した訳ではないとはいえ、頼るものがないのをいいことに彼をこき使い、あまつさえ藁の上に 寝かすなど、言語道断! まるで奴隷ではないか! 私はここに、サイトの待遇の改善を要求する!』 「いや、ある程度は俺も納得してることだし、最近は良くなってるし……」 『部外者は黙っていたまえ!』 口出ししたら、お叱りを受ける才人。俺が当事者なんだけど……と思ったが、とても入り込める様子ではなかった。 『しかも今度は、彼が異性と密着していただけで犬呼ばわりして侮辱し、暴力を振るおうとする始末! もう我慢がならんぞ! 君には羞恥というものがないのか!?』 説教が先ほどの状況のことになると、ルイズは反論する。 「た、ただくっついてたから怒ったんじゃないわ! サイトが、シエスタをいやらしい目で見てるから! 使い魔の品性は召喚主のわたしの品位につながるのよ! そこは正さなくっちゃ……!」 だがジャンボットは引き下がらなかった。 『そんなものは、君の主観ではないか! サイトがふしだらな態度を取ったという証拠はあるのか!?』 「そ、それは……ないけど……」 『ほら見たことか! 少なくともサイトは、一切卑猥な行為を働いていない! シエスタと ともにある私はよく分かる! 証拠もなしに、彼を理不尽に罰しようなどと、無礼にも程がある! 恥を知りたまえ!』 「う、うぅ……」 『私が仕えているエメラナ姫は、まことに心が広い、寛大なお方だ! ルイズ、君も貴族を 名乗るならば、姫様のようなお人になることを目指すべきだと……!』 畳みかけるようにガミガミ叱るジャンボット。それを端からながめているデルフリンガーが、 ミラーナイトに話しかける。 「あのジャンボットって奴、すげえな。娘っ子がタジタジになるとこなんて、初めて見たぜ」 『ジャンボットは融通の利かないところがあるほど厳しい性格ですからね……。ああなった彼を かわせるのは、グレンファイヤーくらいでしょう』 それからしばらく、ジャンボットの説教は続いた。そのためその間は、ルイズがメイドの シエスタの前で座り込んで頭を垂れるという、普段の彼女を知る者が見たら目を疑いたくなる 光景が続くことになった。 ……しかしルイズは、熱い説教を受けても才人への態度を考え直しはしなかった。むしろ、 こんなことを考えた。 「証拠がないのがいけないんでしょ……。だったら、あるようにすればいいんだわ……」 その考えが、翌日に大変な騒動を起こすことになる。 日付が変わり、ルイズの部屋。トリスタニアで戦勝祝いのお祭りが開催されるのだが、 それに向かう直前に、才人はルイズからあるものをプレゼントされた。 「何だこれ。眼鏡?」 才人が受け取ったのは、縁を宝石で彩った派手な眼鏡だった。舞踏会用のマスクにも見える。 「俺、目は割といい方だけど?」 「ただの眼鏡じゃないわ。昔から我が家に伝わる秘宝の一つを、お姉様に頼んで送ってもらったの」 「へー……」 説明を聞きながら、試しに眼鏡を着用してみる才人。背を向けているルイズが、グッと ガッツポーズを作ったのにも気づかずに。 「ふーん? 度は入ってないみたいだな……」 才人はすぐに眼鏡を外そうとするが、何故か顔にピッタリと貼りついて、はがれない。 「あれ? 外れねぇんだけど!?」 「さ、さぁ、出掛けるわよぉ!」 「えッ? このまんま?」 才人が奮闘している間に、ルイズは丸で無理矢理話題を切り替えるかのように、さっさと 部屋を後にした。仕方なく、才人はその背中を追いかけていった。 寮塔を出た二人は、早速洗濯物を入れた籠を運んでいるシエスタに出くわした。 「おッ、シエスター!」 「サイトさん! ……?」 才人に呼び止められて振り返ったシエスタは、すぐに才人の顔に掛かっている眼鏡に疑問を持つ。 「サイトさん、それ、何ですか?」 「これはルイズがくれたものでさ。それより、よかったらお祭り一緒に行かない?」 「いえ、私はまだ仕事がありますから……」 シエスタも誘う才人が、ふと彼女の胸元に目を落とした。 「うおッ!? これは……!」 何と、シエスタのふくよかな胸が、カゴの縁に押し上げられて強調されているのだ。 この何気なくも強烈な画に、才人は思わず目を奪われる。 その瞬間に、眼鏡の中央の一番大きな赤い宝石が点滅して光り出した。丸で危険を知らせる カラータイマーのように。 「? あ、あの……その眼鏡、急に光り始めましたけど……」 「えッ? な、何だこれ? 急にどうして……」 眼鏡の存在を思い出した才人は取り外そうとするが、やはり顔に密着していて外れなかった。 すると、 「外れないわよ……」 後ろからルイズの、地獄の底から響くような剣呑な声がした。才人が恐る恐る背後に目を向けると……。 「その『メデューサの眼鏡』はマジックアイテムなの……。送り主であるわたし以外の女の子を いやらしい目で見ると、周りの宝石が光るようになってるのよ……」 ルイズが、ゴウゴウと憤怒の炎を燃えたぎらせている……ように才人には見えた。 「な、何だよそれ! そんなの聞いてねぇぞぉー!」 必死に眼鏡を外そうともがく才人だったが、ルイズが杖をバシンッ! と鳴らしたので、 恐怖で動きが止まる。 「使い魔の分際で、他の女の子をいやらしい気持ちでながめるなんて……卑猥な目で…… 血走った目でぇぇぇぇぇ!!」 ルイズの怒声が頂点に達すると、振り上げられた杖の先端が猛烈に光った。 魔法学院の庭から、轟音と共に黒い煙が立ち昇った。 「ふんッ!!」 そして後には、黒こげになった才人が転がった。するとシエスタの腕輪から、ジャンボットが 慌てふためいた声を上げる。 『ル、ルイズ! 君は、何ということをッ!』 怒りも見せているジャンボットだったが、今回はルイズの方が何倍も怒りが深かった。 「何か文句でも!? 今回は、ちゃんと証拠があったわよ! 証拠なしに罰するのがいけなかったんでしょ!?」 『い、いや、確かにそんなことを言ったが、さすがにこれはやりすぎでは……』 ルイズのあまりの剣幕に、今度はジャンボットがタジタジする側になっていた。 「これでも手加減はしたわ! そこんところは、わたしがよく分かってるんだから! じゃあ、わたしたちはお祭りに行くから、これで!!」 有無を言わせないまま、倒れた才人を腕ずくで引きずっていく才人。シエスタとジャンボットは それを呆然と見送った。 『い、行ってしまった……。確かにサイトに非はあったが、何もあそこまで怒らなくとも いいのではないだろうか? 何も、彼がルイズに不利益になるようなことをした訳でもないだろうに……』 「あはは……。男女の間は、難しいものなんですよ……」 戸惑うジャンボットに、シエスタが愛想笑いを浮かべつつ語った。 『そういうものなのか? うぅむ、人間の心というものは、この私の頭脳をもってしても 度し難いものなのだな……』 ロボットなので、そういうことには疎いジャンボットはうなり声を上げた。 それから数時間後……。 『おい才人、もうちょっと自制心ってものを持てよ……。いい加減こっちまで痛くなってきたぜ……』 「そんなこと言われたって……。俺だって、好きでこの眼鏡鳴らしてる訳じゃねぇよ……」 トリスタニアで、アンリエッタのパレードを待つ列に混ざりながら、ボロボロになった 才人がゼロから文句を言われていた。 魔法学院からトリスタニアに移動するまでの間、『メデューサの眼鏡』はほぼ鳴りっぱなしだった。 才人が女性を見る度に鳴り出しているようにも思えるほどに。判定は相当厳しいようだ。 『いっそのこと、ずっと目を閉じてた方がいいんじゃないか? 誘導は俺がするからさ』 「すまないな。変なことになっちゃって……」 ゼロの好意に預かり、目を閉ざす才人。しかしその直後に、戴冠式を終わらせて女王となった アンリエッタのパレードがやってくる。 「あぁッ、姫さまぁ!」 才人のせいですっかり不機嫌になっていたルイズだが、さすがにアンリエッタの姿を目の当たりにすると、 不機嫌さは吹き飛んで一気に恍惚とした表情になった。 「見て見て! サイト、目をつむってる場合じゃないでしょ? 姫さまがあんな立派なお姿に!」 促されて、才人も目を開けてアンリエッタの姿を見やる。 「おぉ……」 思わず、声が漏れた。今のアンリエッタの、式典用に美しく着飾ったドレス姿に目を奪われた。 特に、ドレスの上からでも存在を主張している胸元の膨らみに……。 「サイト……」 「はッ!?」 気がつけば、また眼鏡がけたたましく鳴っていた。そして目の前には、鬼の形相をした ルイズが回り込んでいた。 「よりによって姫さまに、女王陛下にいやらしい目を向けるなんてぇ……」 「ま、待てルイズ! ここはまずい!」 バチバチ杖がスパークしているルイズを止めようとする才人だったが、無駄だった。 「あんたって超最低―――――――!!」 今日一番の爆発が起こった。 「……」 『おい才人、大丈夫か?』 そして才人は、城の地下牢の中で転がる羽目になった。先ほどの爆発を、爆破テロと勘違いされて とっ捕まったのだ。 『メデューサの眼鏡』は、壊れて才人の顔から外れていた。さすがに着用者が何度も爆発を 食らうという事態は想定していなかったようだ。 「くそ……何がプレゼントだッ!」 散々な目に遭った才人は怒りのままに眼鏡を投げ捨てようとしたが、ルイズの顔を思い返すと その意気がしぼみ、力なく腕を降ろした。そして眼鏡の残骸を懐にしまう。 「俺ってやっぱ、こういう扱いなのか……」 『元気出せよ。ルイズがすぐに誤解を解いてくれるさ。すぐにここから出られるぜ』 落ち込む才人を励ますゼロ。そのすぐ後に、牢の扉が外から開かれる。 『お? 随分と早いな』 才人とゼロが扉に目を向けると、見慣れないメイドが一人だけ、扉を開放して牢に入ってきた。 「サイト・ヒラガさん、でよろしいでしょうか?」 「そうですけど……えっと、あなたは?」 「私は女王陛下に、誤解で捕らえられたあなた様を釈放するよう命じられた者です。外まで ご案内致しますので、どうぞついて来て下さい」 「あッ、わざわざすいません」 へこへこ頭を下げて、メイドと一緒に牢を出ようとする才人。だがその時、 「あら? 扉が開いてるわ……?」 「へ? 今の声……」 外から聞き覚えのある、涼やかな声が聞こえたので、驚いて足を止める。メイドは何故か慌て始めた。 「使い魔さん? いらっしゃいますか?」 「えッ? 女王陛下!?」 入り口から顔を覗かせて中に入ってきたのは、メイドを遣わしたはずのアンリエッタ当人だった。 呆然としている才人は彼女に尋ねかける。 「どうしてここに?」 「ルイズとともに話があるので、会いに来たんですが……ここの扉、誰が開けたのかしら?」 「そこのメイドさんですけど……女王陛下が寄越してくれたんでしょ?」 冷や汗を垂らしているメイドを指して聞き返すと、アンリエッタはキョトンとした。 「わたくしが? そんな覚えはありませんが……」 「へ? じゃあ、この人誰?」 どうも話が噛み合わないでいると、外から剣を腰に佩いた女兵士がズカズカ踏み込んできて、 メイドに銃を突きつけた。 「陛下、お下がりを! 貴様、何者だ! 正体を現せ!」 突然入ってきた女兵士について、才人がアンリエッタに尋ねる。 「この人は?」 「新しく組織した近衛隊の銃士隊隊長、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランです」 そのアニエスに対し、メイドは汗をかきながら答える。 「わ、私は王宮に仕える一介のメイドですよ。そんな、正体なんて……」 「とぼけるな! 私は王宮に仕える人間は、たとえ小間使いであろうと一人残らず顔と名前を記憶している。 王宮の勅使が侵略者の傀儡になる事件があったからな。その中に、貴様の顔はない。言え! どこから送られた間者だ!」 論破されたメイドは、一瞬で冷酷な表情を顔に浮かべた。 「バレてしまったのなら仕方ないッ!」 そしてアニエスの虚を突いていきなり才人に飛び掛かり、タックルをかました。 「うぐッ!?」 「使い魔さん!?」 うめいた才人は、懐をまさぐられて中の物を奪い取られた感触を覚えた。 「なッ! あんた!」 「貴様!」 アニエスがメイドに発砲するが、メイドは人間離れした軽やかさで跳躍し、牢の入り口から脱け出た。 「ふふふ……文明の遅れた原始人だと高をくくって甘く見ていたか。いいだろう、本当の姿をお見せする……」 不敵な笑みを見せたメイドの姿がたちまち変化し、体色が鋼の色をした怪人へと変身した。 頭部の輪郭は虫かカニに似ていて、顔つきは能面によく似ている。 『私はレスカウト星系マノン星の宇宙人。宇宙人連合の刺客のマノン星人だ!』 メイドに化けてトリステイン城に侵入していた宇宙人は、自らをそう名乗った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9391.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その3)」 恐怖の怪獣軍団 宇宙恐竜ゼットン 登場 才人は精神を囚われたルイズを救うべく、本の世界への旅を始めた。最初は初代ウルトラマンが 地球を防衛していた時代を描いた物語。しかし肝心のウルトラマンはゼットンに敗北したことが 原因で、失意の底にあった。才人は憧れのヒーロー、ウルトラマンを懸命に励ます。そんな中出現 したのは、日本中に出現したすさまじい数の怪獣軍団! その前にゼロも苦戦を強いられ、ピグモンが ドドンゴの攻撃を受ける。それを目の当たりにしたハヤタは遂に立ち上がり――ウルトラマンが 甦ったのだった! 「ヘアッ!」 今一度地球を守るべく立ち上がったウルトラマンは、颯爽と怪獣たちの間に飛び込んで ギガス、ネロンガ、グリーンモンスにチョップを叩き込んでゼロから弾き飛ばした。 「ゲエエオオオオオオ!」 「ゲエエゴオオオオオウ!」 「グウウウウウウ……!」 更にドドンゴに飛びかかって文字通り馬乗りになり、その体勢から首を引っ張ることにより、 ドドンゴは後退させられて怪獣軍団から引き離された。 「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」 怪獣たちがウルトラマンにひるんでいる隙に、ゼロは体勢を立て直すことに成功した。 『助かったぜウルトラマン! せぇやッ!』 ゼロも負けてはいられない。流れるようにマグラー、ゲスラにキックを仕掛けて張り倒し、 ケムラーの吐く亜硫酸ガスを跳躍して華麗に回避。 『もう食らわねぇぜ!』 毒ガスは代わりにレッドキングが食らう羽目になった。 「ピッギャ――ゴオオオウ!?」 もがき苦しんだレッドキングは岩を投げ、それがケムラーの口に嵌まってガスが詰まった。 「ヘアァッ!」 ウルトラマンはドドンゴに乗ったまま首筋をチョップで連打してダメージを与えていくが、 ドドンゴがやられっぱなしでいるはずがない。思い切り暴れてウルトラマンを振り払う。 「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」 「ダァッ! シェアッ!」 しかしウルトラマンも振り落とされてすぐにスペシウム光線を発射。ドドンゴにクリーン ヒットする。 「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」 その一撃によってドドンゴはたちまち絶命。横に倒れて動かなくなった。 この間レッドキングを押さえつけていたゼロがウルトラマンに向かって告げた。 『ウルトラマン! ここは俺と科特隊に任せてくれ。あんたは他の場所の怪獣を頼む!』 うなずいたウルトラマンが全身に力を込めると、その身体にエネルギーが集まっていく。 「ヘアッ! トワァッ!」 エネルギーが最大に高まると、何とウルトラマンが五人に分身した! ウルトラセパレーション、分身の術。ウルトラマンの新しい戦法だ! 「シェアッ!」 五人になったウルトラマンは、それぞれ別の方向に飛び立って怪獣の被害に遭っている 現場に急いでいった。 その内の一人は沿岸で暴れているガマクジラを発見。 「グアアアアッ!」 即座に飛行速度を急上昇させて、上空から一直線にガマクジラに体当たり! これによってガマクジラは一発でバラバラに四散した。ウルトラマンは上昇して別の場所へと 向かっていった。 また別の一人はコンビナートを火の海にしているペスターを発見。 「シェアッ!」 着地と同時にスペシウム光線をペスターの頭部にぶち込んで、一瞬で撃破した。 「キュ――――――ウ……!」 ペスターを倒してからウルトラマンは合わせた両手からウルトラ水流を発し、コンビナートの 火災を瞬く間に消し止めた。それからまた飛行して、市街地の方角へ飛んでいった。 五人のウルトラマンはそれからゴモラ、ヒドラ、ウー、ザンボラー、ケロニアの元へ駆けつけて 勝負を挑んでいった。 「ヘアァッ!」 「ギャオオオオオオオオ!」 一人目のウルトラマンが空中からドロップキックを仕掛けてゴモラを蹴り倒す。 「ヘアッ!」 「ピャ――――――オ!」 ウルトラマンの二人目はヒドラと格闘戦を繰り広げる。 「ヘアァッ!」 「ガアアアアアアアア!」 ウルトラマン三人目はウーと取っ組み合って雪原の上をゴロゴロ転がった。 「ヘアッ!」 「ギャアアアアアアアア――――――!」 ウルトラマン四人目は低姿勢でザンボラーにタックルして、相手の身体をすくい上げて放り投げる。 「トアアァッ!」 「パアアアアアアアア!」 ウルトラマン五人目はケロニアに一本背負いを決めて投げ飛ばした。 各地でウルトラマンが奮闘している間、ゼロもまた怪獣軍団相手に激しく戦っていた。 「セアッ!」 ゼロのビームランプから発射されたエメリウムスラッシュがグリーンモンスの花弁の中心を 撃ち抜き、グリーンモンスを炎上させた。更にゼロはネロンガを捕らえて高々と担ぎ上げて 投げ飛ばす。 『せぇぇいッ!』 「ゲエエゴオオオオオオウ!」 地面に叩きつけたネロンガにすかさずワイドゼロショットを食らわせて爆散させた。 これで一気に二体撃破だ。 だがまだレッドキング、マグラー、ギガス、ゲスラ、ケムラーと五体もの怪獣が残っている。 「ウルトラマンにばかり戦わせてはいかん! 我々も戦うぞ!」 そこで攻撃用意を整えた科特隊が援護を開始した。まずはムラマツがナパーム手榴弾を マグラーに向かって投擲した。 「えぇーいッ!」 手榴弾の炸裂を頭部に食らったマグラーはきりきり舞って、ばったりと倒れる。 「ギャアアオオオォォウ……!」 イデはジェットビートルを駆って、ギガスの頭上を取った。 「今だ! 強力乾燥ミサイルを食らえ!」 ビートル底部の弾倉が開き、爆弾が投下。ギガスに命中して爆発すると、ギガスは全身が 急激にひび割れて粉々になった。 ルイズはゲスラをスーパーガンで撃ちながらゼロに叫んだ。 「背びれが弱点よ!」 うなずいたゼロがゲスラの背後に回り込んで、素早く背びれを引き抜いた。 「ウアァァァッ……!」 背びれを抜かれたゲスラはたちまち生命活動を停止し、その場に横たわった。 アラシはマッドバズーカを肩に担いで照準をケムラーに向けた。 「こいつで泣きどころをぶち抜いてやる!」 ゼロはすかさずケムラーの背後に飛びかかって、アラシが狙いやすいように甲羅を引っ張って 開き、その下に隠されている核を剥き出しにした。 「助かったぜ! 食らえッ!」 バズーカから飛んだ弾丸がケムラーの核を見事破壊! 「カァァァァコォォォォォ……!」 核を撃ち抜かれたケムラーだがその場では往生せず、ほうほうの体で火山まで這っていくと、 自ら火口に飛び込んで姿を消した。 「ピッギャ――ゴオオオウ!」 最後に残ったレッドキングが猛然とゼロに突進していくが、ゼロは正拳でカウンターして レッドキングを押し返した。 『てぇあッ!』 よろめいたレッドキングに、ムラマツ、アラシ、ルイズがスーパーガンを向ける。 「アラシ、フジ君! トリプルショットだ!」 「はいッ!」 三人がスーパーガンを重ね合わせると、発射される光線も合わさって威力三倍の必殺攻撃と なり、レッドキングを撃ち抜いた。 「ピッギャ――ゴオオオウ!!」 トリプルショットをまともに食らったレッドキングは仰向けに倒れ、力尽きた。これで この場の怪獣たちは全滅した。 「シェアッ!」 怪獣が全て倒されると、ゼロは空に向かって飛び上がっていった。 五人のウルトラマンたちの方もまた、怪獣との決着を順次つけていた。 「ジェアッ!」 飛んで逃げようとするヒドラに放たれたスペシウム光線が命中し、ヒドラは空中で爆発。 「ジェアッ!」 ケロニアにはウルトラアタック光線が決まり、ケロニアの全身を吹っ飛ばした。 大阪ではゴモラの頭部にスペシウム光線がヒット。 「ギャオオオオオオオオ!!」 ザンボラーにもスペシウム光線が炸裂し、全身を炎上させた。 ウーもまた倒され、五人のウルトラマンは高空で合体して一人のウルトラマンに戻り、 そしてウルトラマンは地上に光の輪を放ってハヤタの姿に戻ったのだった。 その場に、同じようにゼロから戻った才人が駆けつける。 「ハヤタさん! 変身できたんですね!」 「平賀君……」 才人に振り返ったハヤタの顔つきからは、勇敢な心がはっきりと見えていた。もう陰鬱と した表情は、さっぱりとなくなっていた。 「ありがとう。君の言葉が、僕の目を覚ましてくれたよ」 「いいえ。あなたは他ならぬ自身の勇気で復活したんです。俺はそのほんの手助けをしただけです」 ハヤタに力が戻ったことで安堵した才人だったが、その時ハヤタの流星バッジに着信が入った。 『ムラマツだ。ハヤタ、応答せよ!』 「こちらハヤタ!」 『基地周辺にゼットンが出現! 我々は先に帰投して防衛に当たる。お前もすぐに基地へ 戻って防衛に当たれ!』 「了解!」 バッジのアンテナを戻したハヤタは、才人と視線を合わせる。 「平賀君、僕に力を貸してくれ!」 「もちろんです!」 二人はそれぞれベーターカプセルとウルトラゼロアイを取り出し、同時に再度ウルトラマンに 変身を遂げた! 「シェアッ!!」 二人のウルトラマンはまっすぐ科特隊基地へと飛んでいった。 「ピポポポポポ……」 科特隊基地はゼットンの襲撃を受けていた。ゼットンの顔面から放たれる光弾によって、 基地が破壊されていく。ムラマツたちが応戦しているものの、ゼットンには敵わず押されていた。 そこに駆けつけたウルトラマンとゼロ。まずはウルトラマンが高速回転してキャッチリングを 放ち、ゼットンを拘束した。 「ヘアッ!」 ゼットンはキャッチリングで締めつけられながらも振り返り、ウルトラマンに狙いをつける。 しかしそこにゼロが飛び込んだ! 『せえええいッ!』 ゼットンの身体をがっしり捕らえて、高々と投げ飛ばす! 「ピポポポポポ……」 地面に叩きつけられたゼットンだが、それでもキャッチリングを破って立ち上がった。 その前にウルトラマンとゼロが回り込んで、にらみ合いとなる。 いよいよ物語のクライマックス。このゼットンを打ち破れば、一冊目の本も完結だ! 「ピポポポポポ……」 ゼットンはテレポーテーションで一瞬にしてウルトラマンたちの背後を取った。――が、 察知したゼロが瞬時に後ろ蹴りを入れてゼットンを返り討ちにした。 『てぇあッ!』 ふらついたゼットンに、ウルトラマンが飛びかかって渾身のチョップを食らわせた。 「ヘアァァッ!」 追撃をもらったゼットンが後ずさりした。この瞬間にゼロはストロングコロナとなる。 『でぇぇぇあぁッ!』 強烈なパンチが炸裂して、ゼットンは大きく吹っ飛んで地面の上を転がった。 さすがのゼットンも、二人のウルトラマンを同時に相手することは出来ないようだ。しかも ウルトラマンとゼロは、即席のタッグとは思えないほどに呼吸がぴったりだ! 『行けるぜ、ゼロ! その調子だ!』 『おうよ! このまま一気に物語のフィニッシュだぜ!』 ゼロが勇み、ウルトラハリケーンからのとどめを決めようと一歩前に踏み出した。 だがその時! ゼットンが突如として真っ赤に発光! 『な、何だ!?』 突然のことにゼロもウルトラマンも驚愕して立ちすくむ。そして赤い閃光が収まると―― ゼットンの姿が一変していた。 「ピポポポポポ……!!」 体格はひと回り大きくなって、全身を覆う甲殻が増量して厳つくなっている。各部の発光体も 数が増えて変形し、細く尖った形をしている。この変化に合わせるように威圧感もまた増加し、 荒々しい印象を受ける。 変わり果てたゼットンの姿を目の当たりにしたゼロが叫んだ。 『EXゼットン! 何てこった!』 『EXゼットン!? そんな馬鹿な! この時代には、まだ存在してないはずだろ!』 混乱する才人。強化されたゼットンは最近になってから確認された存在であり、初代ウルトラマンの 時代である1960年代にはまだ影も形もないはずだ。それがどうして本の中の世界に出てくるのか。 ゼロがその理由を推察する。 『まさか、本来なら未来の存在である俺たちが本の中に入り込んだ影響でこんな事態が発生 しちまったんじゃ……』 『何だって!? そんなことが……!』 信じられない気持ちの才人だったが、EXゼットンが出現したのは疑いようもない事実だ。 「ピポポポポポ……!!」 変身を果たし、力を増したゼットンがゼロたちの方へ足を踏み出し――その姿が忽然と消えた! 「!!」 ゼットンはまたもゼロの背後にテレポートしていた。再びキックで迎撃しようとしたゼロだが、 「ピポポポポポ……!!」 ゼットンは出現と同時にスライドしながらゼロに突進し、手に生えた凶険な爪でゼロを はね飛ばした! ストロングコロナゼロをも上回る凄まじいパワーだ! 『おわぁぁぁッ!』 「ダァッ!?」 代わってウルトラマンが飛びかかっていくものの、彼も腕の一撃で軽く弾き飛ばされた。 「ウワァッ!」 『ぐッ……せぇいッ!』 ゼロは地面に叩きつけられながらもゼロスラッガーを投擲したが、それもゼットンの爪に 弾かれてしまった。 「ピポポポポポ……!!」 ゼットンは倒れているゼロたちに全く容赦がなく、顔面から火炎弾を連射して激しく追撃する。 『うわあぁぁぁぁぁぁッ!』 「ジェアァッ!」 反撃の余地すらない猛攻を受け、ゼロとウルトラマンは連続する爆炎にもてあそばれる。 二人のカラータイマーが激しく点滅して危機を知らせるが、ただでさえ手強いEXゼットンに 対して、両者ともここまで連戦に次ぐ連戦で疲労が蓄積していたのだ。相手の猛攻撃により、 それが響いてきた。 『ぐッ……! まだ最初だってのに、とんでもねぇピンチだ……!』 火炎弾に襲われながらうめくゼロ。このままでは本を完結できないどころか、ゼロと才人の 命まで本当に危ない。絶体絶命の状況! しかし、この時戦っているのは何もウルトラマンだけではないのだ。そう、科特隊が彼らに ついている! 「よぉーし! 今イデ隊員がウルトラマンに、スタミナを送って……!」 イデが携帯していたケースから特殊弾頭を取り出して、スーパーガンの銃口に装着させた。 イデの行動に気づいたアラシが振り返る。 「今まで何か研究してると思ったら、それだったのか」 「アラシ隊員! このスタミナカプセルを、ウルトラマンのカラータイマーに命中させて下さい!」 「そんなことして大丈夫なのか!?」 「大丈夫です!!」 太鼓判を押すイデ。話している間にもウルトラマンたちはゼットンに追いつめられており、 これ以上問答している余裕はない。 アラシはイデを信用して、素早くスタミナカプセルをウルトラマンのカラータイマーに向けた。 「行くぞ!」 発射されたカプセルは、アラシの腕が冴え渡り、見事にウルトラマンのカラータイマーに命中! カプセルが炸裂し、解き放たれたエネルギーがカラータイマーを通してウルトラマンに吸収された。 「ヘアッ!」 すると途端にカラータイマーの色が青に戻り、消耗し切っていたウルトラマン自身も急激に 力を取り戻した。いや、普段以上に力がみなぎった状態になっている! 『!! こ、これは……!』 驚いたゼロが見上げる先で、立ち上がったウルトラマンにゼットンが火炎弾を放つ。 「ピポポポポポ……!!」 「シェアッ!」 瞬間、ウルトラマンは八つ裂き光輪を出したと思うとそれを自分の胸の前で回転させる。 その回転が、火炎弾を反射した! 「!!」 増強されたパワーが仇となり、ゼットンは火炎弾の爆撃を自分が食らって大きくよろめいた。 これに目を見張る才人。 『すげぇ……!』 『のんきに感心してる場合じゃねぇぜ! 今こそチャンスだ!』 ゼロは即座に通常状態に戻ってスラッガーをカラータイマーに接続、ゼロツインシュートの 構えを取る。 ウルトラマンは八つ裂き光輪をそのままゼットンへ飛ばした。ゼットンは爪で光輪を破砕したが、 その直後のわずかな隙を狙って、ゼロとウルトラマンの二大必殺光線がほとばしる! 『せぇあああぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 「ジェアッ!」 ゼロツインシュートと、虹色に輝くマリンスペシウム光線がEXゼットンに直撃。これを 食らったゼットンは衝撃で宙に浮き上がると、そのまま壮絶な大爆発! 木端微塵になって 消滅した。 「やったぁぁぁ―――――!!」 『やった……!!』 大喜びの科特隊。才人とゼロも、彼らと全く同じ気持ちだった。 才人は本の主人公を立てながらも、自分たちで物語を完結に導かなければならない。そう考えて この世界にやってきた。しかしながら、本の中のウルトラマンと科特隊は彼ら自身の力でハッピー エンドを迎えた。物語の中でも、地球の歴史の始まりのウルトラマンと防衛チームは偉大だったと いうことなのだろう。 EXゼットンを撃破して、ゼロはウルトラマンと向き合った。ウルトラマンが感謝の意を 表すようにうなずくと、ゼロも同じようにうなずいてそれに応じる。 「シェアッ!!」 そして二人は天高く飛び立ち、地上から飛び去っていく。 ――その様子を、ピョンピョン飛び跳ねて見送る赤い影。 「ホアーッ!」 ピグモンだ。岩雪崩に潰れそうになったその時、ゼロは一瞬ルナミラクルゼロに変身して ピグモンにエナジーシールドを照射していたのだ。それが盾となって、ピグモンの命をつないだ のであった。 ゼロは上空から守った命に手を振ると、ウルトラマンに見送られながらこの地球から飛び 去っていったのだった……。 ――『甦れ!ウルトラマン』が無事に完結を迎え、才人は現実世界に帰ってきた。 「オカエリー!」 「どうやら、無事に一冊目の本を完結させられたようですね」 才人の帰還を迎えたのはガラQとリーヴル、それからタバサとシルフィードとハネジロー。 皆才人を待っていてくれていたようだ。 しかし才人が真っ先にやったのは、ルイズの容態の確認だった。 「ルイズは!? 目を覚ましたか!?」 バッとベッドの方へ向かったが、ルイズは未だに眠ったままで、良くなっている様子は 傍目からは見られなかった。 落胆する才人にリーヴルが告げた。 「ルイズさんに精神力の一部が戻ったのは確認できました。しかしやはり、六分の一が戻った だけでは目に見えた変化はないようです」 「そうか……。なら次の本の完結を……!」 と言いかけた才人だったが、振り向いた途端にふらついて倒れそうになった。 「うッ……」 それを慌てて支えるタバサとシルフィード。 「無茶なのね! あなたも大分疲れてるみたいなのね。本を終わらせるの、大変だったんでしょ?」 シルフィードの言う通りだ。戦いに戦いを重ね、最後はEXゼットンとのバトル。これで 消耗しないはずがない。 「くッ……一冊終わらせただけでこんな調子で、ルイズを助けられるのか……」 焦燥する才人にタバサが忠告。 「焦ってもしょうがない。無理は禁物」 「お姉さまの言う通りなのね。あなたが倒れちゃったら、桃髪の子だって永遠に助からないのね」 シルフィードたちの意見にリーヴルも賛同した。 「今日はもうお休みになって、続きは明日からにした方がいいでしょう」 「そうだな……。そうしよう」 才人は逸る気持ちを抑えて、ふぅ……とため息を吐いて肩の力を抜いた。 そのままどっかと椅子に腰を下ろすと、タバサが告げる。 「わたしたちは一旦学院に戻る。必要なものがあったら取ってくる」 「ありがとう、タバサ。それじゃお願いするよ……」 疲弊し切っている才人はタバサの厚意に甘え、ルイズが目覚めた時のための着替えなどの 生活用品を頼んだ。 「お任せなのねー! それじゃお姉さま、行きましょう」 「ん……」 頭にハネジローを乗っけてシルフィードが退室していこうとする。その後に続くタバサだが、 ふとリーヴルを一瞥して、一瞬だけ訝しむように目を細めた――。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1117.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 ルイズは夢を見ていた。 幼い日の頃の夢……まぁ、外見だけで言えば未だに幼いと言えるが。 夢の中のルイズは故郷の屋敷の中庭の池、そこに浮かぶ小舟の中にいた。 ルイズは、嫌なことがあると、この小舟に逃げ込むのだった。 その中でじっとしていると、霧がかかっている視界に、 マントを羽織った立派な貴族が現れる。 彼は、幼いルイズより10才は年上だろうか? その男はルイズに近づくと、優しく語りかけた。 「ルイズ、泣いているのかい?」 ルイズは心臓が高鳴るのを感じた。 「子爵様、いらしてたの?」 「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あの話のことでね」 ルイズはそれがなんなのか知っていたので、顔を赤くした。 「子爵様は、行けない人ですわ」 「ルイズ、僕の小さなルイズ。君は僕のことが嫌いかい?」 いつもと変わらぬ口調……?で、目の前の青年が言った。 「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたしにはまだよくわかりません」 ルイズは恥ずかしがりながら言う。帽子の下の顔が笑う。あぁ……この笑顔が……? あれ?この顔は…… 「って、ルージュ?」 「探したよルイズ。こんな所にいたのかい?」 「え、えーと……ルージュこそ、何でこんな所に?」 言うが、答えが返ってくるまえに 遠くから声が聞こえてくる。 「ルージュ、ルイズは見つかったか?」 そういって近づいてきたのはブルーであった。 「ブルーまで、何でここにいるのよ!?」 「俺達だけじゃないが」 「ルイズ、こんな所にいたんだね」 「……アセルスさん?」 いよいよ訳がわからなくなってきた。 だが、更に声が聞こえてくる。 「ルイズ~、こんな所にいたのか?」 「みんな心配してたぞ?」 なにやらツンツンした髪の少年と、 穏和な雰囲気をしている青年が、 よくわからない……ゴーレム?ガーゴイル? とにかく、よくわからないものを連れてやってきた。 「あ、貴方達誰よ!?」 「酷いなルイズ。俺のこと忘れたのか?」 「ちょ、置いてかないでよー!」 後ろから……あれはタバサの使い魔じゃなかったか?が走ってきた。 え?何が起こってるの?何これ? 「あれ?ルイズ、泣いてたのか~? なら俺が歌を歌ってやるよ――」 そこで目が覚めた。 がばと跳ね起き、辺りを見回してみる。あの妙な集団は居ない。 自分の使い魔は床で寝ている。 ……ルイズは呟いた。 「何だったのかしら……今の……」 「ったく、あいつらは何だったってんだい……」 フーケは呟く。片方は自らの全力を込めたゴーレムを剣で切り裂き、 もう片方もとんでも無い剣の腕で、さらに得体の知れない魔法を使ってきた。 疑問に思うが、もはや彼女にとっては関係のないことでもあった。 ここは牢獄である。しかも、これ以上ないほど厳重な。 周囲には結界が張り巡らされ、金属の製品など一つも置いていない。 当然、杖も取り上げられている。もはや、死を待つ身である。 どうでもいい、取り敢えず眠るとするか―― そう考え、ベッドに腰掛けたとき、足音が聞こえてきた。 「おや、あんたは――」 「これで二度目、と言うことになるのかな、『土くれ』よ」 その男は、捕らえられたあの日に、彼女が偶然出会った男である。 黒マントに、長い杖。恐らくメイジなのだろう。ここまでなら、まだ十分あり得る。 だが、白い仮面などしていれば、彼女が妙な格好の男、と評するのもまあ無理はないだろう。 あの夜渡した剣を、杖の反対側に下げている。メイジにしては妙なことだ。 「なんだい?まさかその剣が値打ち物で、 それを恩に助けに来てくれた訳かい?ま、そんなわけ無い――」 「助けに来た、と言ったらどうする?」 「何だって?」 「取り敢えず話を聞きたまえ。 そもそも、あの夜でさえそのためにわざわざ会いに行ったのだ。 我々の組織に雇われてみる気はないか?マチルダ・オブ・サウスゴータ」 フーケは、顔を青くし、驚愕に震える声で問い返す。 「……何者だい?」 それの問いに仮面の男が答えることはなかった。 代わりに続けてくる。 「おまえは優秀なメイジだ。当初は逃亡の援助を切っ掛けにするつもりだったが」 「へぇ?あれは秘密になってるかと思ってたんだがね」 「我々は何処にでもいるのだ」 「……その組織とやらの名前を聞かして貰えるかしら?」 「雇われる気になったのか?」 「まだ決めようがないね。取り敢えず、名前ぐらいは教えてくれても良いんじゃないかい?」 仮面の男は……と言っても、仮面でその口元は見えないが…… その口を開き、言った。 「レコン・キスタ」 ギーシュは剣を振っていた。 あの後女子からフルボッコされた後、 何故かアセルスが謝りに来たので、ちょっと剣の腕を見せて欲しいと言ったのだ。 的としてワルキューレを出し、剣が折れてしまったというので『錬金』で剣を作り出して渡す。 すると、彼女はずいぶんと離れた場所に立って剣を構えた。 準備運動でもするのかと思って見ていたら、素振りをしたらワルキューレが切れた。 ( ゚д゚) (つд⊂)ゴシゴシ (;゚д゚) (つд⊂)ゴシゴシ _, ._ (;゚ Д゚) ……えぇー!?ちょ、何したの!? 実はメイジ!?かと思ったけど、杖持ってないよね…… じゃあ純粋に剣でやってるよね…… あまりに驚いたので彼女に何をやったのか聞いてみると、こう返ってきた。 「え?慣れれば誰でも出来るって。皆伝技だよ?」 いや、そんなもの慣れた程度でやられたらメイジの立場がないよ! まぁ、とにかくこんなものを見せられた後に 魔法の絶対性を信じろって方が無理があります。 そんなわけで、ギーシュは余り慣れない剣を振っているのであった。 「しかし、やはり剣を使うのは合わないんじゃ無かろうか」 自分に出来ることを考えてみるが、 錬金と、ゴーレム。 ゴーレムはああもあっさり切り裂かれると自信がなくなってくる。 錬金はそもそも実戦で役に立つのか?………… \ __ / _ (m) _ |ミ| / `´ \ 「……今なんか来たような」 ところで、そのアセルスはと言うと。キュルケと対峙していた。 理由とは、取り巻きと化した女子生徒達にあることを聞いたのが切っ掛けである。 「ねぇ、あの青い髪の子、なんて言うの?」 「青い髪?……タバサの事ですか?」 「それがどうかされましたか?」 「いや、可愛いなと思っ――」 突如、赤い人影が疾走する。 それはアセルスに向かって駆け抜けると、途中で跳び、 両足を前に突き出し、助走と跳躍の勢いをその両足に乗せた。 ライダーキック? まあとにかく、ジャストヒット。 半妖様吹っ飛ぶ。取り巻きが何か叫んでるが、まぁこれは大して関係ない。 「な、いきなり何をするんだ?」 「危ない人を蹴り飛ばしただけよッ!」 「私の何処が――」 「タバサがなんて言ってた?」 「いや、可愛いなって――」 「どう見ても危ない人じゃない!」 キュルケがなにやら凄い気迫なので、周りの取り巻きも黙り込む。 だが、それでも平然としていた半妖様は、少し考え込むとキュルケを見て呟く。 「そうか……」 「何よ?」 「君もタバサを」 「あたしにそっちの気は無いわよ! ただ純粋に友人として危惧しているのよ!」 「何を?」 「あなたの行動をよ」 「大丈夫、ちゃんと幸せに――」 「殺してでも止めるわ」 このアセルス、半妖と言うよりは3/4妖ぐらいじゃなかろうか。 とにかく、ここにキュルケとアセルスの敵対関係が成立した。 教室のドアが開き、ミスタ・ギトーが表れる。 長い黒髪に、漆黒のマントを纏ったその姿は不気味で、 若いのに生徒達からは不人気であった。今は違う。 彼が口を開く。 「では授業を始める。私の二つ名は――」 「言う必要はありませんよ、ギトー先生」 「……知っているのかね?」 「ええ、『出戻り』のギトーと言ったら、もう有名です」 主に、笑いものとして人気であった。 ギトーが格好に似合わず顔を赤くして叫び返す。 「私の二つ名は『疾風』だっ!『疾風』のギトー!」 「『湿布』?ゴーレムに殴られて打撲でもしたんですか?」 生徒達が笑う。ギトーが黙り込んでも、その笑いは止まらなかった。 が、ギトーがある言葉を言う。 「所で私は最近雷を作り出す魔法を練習しているのだが、 ……失敗して何処に飛ぶか解らんが、ここで一つ披露してもいいかね?」 黙り込む。笑われているが、メイジとしてのギトーの実力は確かである。 「よろしい。それでは、最強の系統は知っているかね?えーと……そうだな……そこの君」 そう言って、ブルーを指さす。 ブルーは何故俺が?と思いはしたが、取り敢えず思ったことを言う事にした。 「最強とか……中学生か?」 キングダムって中学校あるのかな? シュライクあたりはありそうだけど。 「…………仮定の上での話をしているんだ」 いちいち引っかかる……?言い方で話すギトーに、ブルーは更に続ける。 「ならその仮定は何だ?状況は?相手は?そしてその数は?味方は?」 「え、えーと……とにかく、最強は『風』なのだ!」 ギトーは過程をすっ飛ばした。 そして、続けて言う。 「試しに、君の得意とする魔法を私にぶつけてきたまえ」 ブルーは無言で『剣』を取り出す。 「……そう言えば、君はメイジではなく、ミス・ヴァリエールの使い魔だったか。 まぁかまわん。それを投げてみたまえ」 ブルーは言われたとおり、『剣』を飛ばす。 ギトーがそれを見て詠唱を始めたあたりで、ボソッと呟く。 「『タイムリープ』」 『剣』がギトーの横を通り抜ける。 どすっとかいかにも物に何かが刺さったような音がした。 教室が沈黙に包まれる。どこからか失笑が漏れる。 「……それでは『風』が最強たる所以を見せてあげよう!」 ギトーは無かったことにした。 杖をたて、唱え始める。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 流石に『サイキックプリズン』はやり過ぎか、と思いつつも考慮していると、 扉を開けて妙な格好のコルベールが表れた。 ロールした金髪のカツラを乗っけている。 ローブは普段よりも飾り立てられた物であった。 その様子を疑問に思いつつ観察すると、コルベールが叫ぶ。 「ミスタ・ギトー!失礼しますぞ! えー、今日の授業は全て中止であります!」 教室中から歓声が上がる。 ……一番大きな声を上げていたのはギトーだったような気がするが。 そんなに辛かったのか?が、調子を取り戻すとギトーは聞いた。 「しかし何でですか?ミスタ・コルベール」 「そうですぞ!それを伝えに来たのです」 コルベールがそう言い、勢いよく生徒達の方を振り向くと、その回転の勢いでカツラがずれる。 ギトーのおかげで愉快な空気だった生徒達は、笑った。 コルベールはカツラを元に戻すと、静かな声で言う。 「黙れ」 一気に空気が氷点下へ。 ある意味これって教師の鏡じゃね? コルベールは咳払いをして、調子を元に戻すと言う。 「こほん。皆さん!本日はトリステイン魔法学院にとって良き日であります。 始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります」 調子を戻したものの、生徒達は黙り込んだままであった。 コルベールが少々焦りながらも続ける。 「……恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインの誇る可憐な一輪の花、 アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸されます」 教室が流石にざわめいた。 「従って、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を挙げて式典の準備を行います。 そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列すること!」 生徒達は頷いた。 その後は、いつもよりあわただしい時間となる。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9126.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間その三「春奈と光の国」 宇宙犬ラビドッグ 登場 M78星雲。それがどんな星なのか、今更説明するまでもないだろう。そこは我らがウルトラマンゼロの故郷。 M78ワールドの全てのウルトラ戦士の家。地球人の誰もが憧れる、光の国が存在するウルトラマンの星だ。 その星に今、予定外の地球人の来客が滞在している。彼女の名前は、高凪春奈。ヤプール人と 宇宙人連合の陰謀により別宇宙のハルケギニアにさらわれ、紆余曲折あった末にゼロの手で このM78ワールドに送り帰されてきて、そしてウルトラ戦士たちに保護されて光の国に招待されたのだ。 光の国、宇宙警備隊本部。その名の通り、宇宙の平和を守るウルトラ戦士たちが所属する組織、 宇宙警備隊の本部となる施設であり、光の国の上空を常に浮遊している。全てが透き通ったクリスタルで 出来ているような、非常に美しく幻想的な建物だが、その特徴は光の国の建造物としては当たり前の ものである。光の国の街並みはそんな建物で出来上がっているのだ。 「うわぁ、すごい……。話に聞いてた以上に、美しい世界なんだ、光の国……」 ウルトラ族にはもちろん見慣れた光景だが、本部の一室の窓から見渡しているところの 春奈にとってその美しさは、心の底から感動できるものであった。彼女もまた、ほとんどの 地球人と同様に光の国に憧憬を抱いていた一人なので、感動もひとしおである。 彼女は宇宙人連合に利用され、ゼロを闇討ちするための駒とされたのだが、そのことが逆に幸運となって、 一時的に宇宙空間でも生存できる肉体となった。そのため侵略者への対処のためにハルケギニアを離れることが 出来ないゼロでもM78ワールドに送り帰すことが出来るようになり、つい先ほど故郷の宇宙空間に 放り出されたところだった。いくら生存できるとはいえ、どこまでも暗い宇宙に一人漂っている間は 不安な気持ちになったが、ゼロの出したウルトラサインによってすぐに宇宙警備隊員が駆けつけてくれ、 こうして光の国へ運んでくれたのである。 「まさか、ただの高校生だった私が、あの光の国に来ることになるなんて……夢にも思わなかったな……」 大宇宙に進出した地球の技術水準でも造れそうにない世界の光景をぼんやりとながめながら 一人ごちる春奈。と、その時、彼女の足元に真っ白い毛で覆われた小型犬が纏わりついてきた。 「ワンワンッ!」 「きゃッ!? な、何? こんなところに、犬?」 「驚かせちゃったかな。その子はラビドッグ。タロウ兄さんのペットだよ」 目を丸くしている春奈の元に、凛々しいながらもどこか可愛らしさを残した顔立ちの青年が歩いてきた。 それにより、ラビドッグという宇宙犬は春奈から離れて、青年の元まで駆け寄る。 「あなたは……?」 春奈がラビドッグを抱えた青年に尋ねると、青年はこう答えた。 「僕は高凪春奈ちゃん、君を地球まで送り届ける役目を引き受けた者さ。名前はメビウス。 地球では、ヒビノ・ミライという名前を名乗ってた」 「メビウスって……あのウルトラマンメビウスですか!?」 春奈は目を見張った。ウルトラマンメビウス。地球がまだ怪獣に対抗し切れるほどの力を 持っていなかった時代、通称「怪獣頻出期」に最後に地球を守護したウルトラ戦士だ。 「す、すごい! 歴史の授業で習いました! ここはウルトラの星なんだし、当たり前といえば 当たり前なんだけど……その英雄が目の前にいるなんて! あ、握手してもらってもいいでしょうか!?」 「いいよ。でも、僕が英雄なんて、ちょっと恥ずかしいな。僕は自分にやれるだけのことをやっただけなのに」 「とんでもない! 闇に包まれそうになった地球を救った張本人じゃないですか!」 感激した春奈はメビウス=ミライと握手してもらう。才人にウルトラマンゼロが一体化していると 知った時も驚きだったが、メビウスは小さい頃から名前を聞いていた相手だけに、興奮はそれ以上だった。 「春奈ちゃんは、侵略者たちの悪しき陰謀のために大変な思いをしたみたいだね。でももう大丈夫だよ。 僕が責任を持って、君を護送するから。まぁでも色々あって疲れてるだろうし、今日はこの本部で ゆっくり休んでいって。出発は明日にするよ」 「ありがとうございます」 ミライの気遣いに礼を告げた春奈は、彼としばし談笑する。 「それにしても、サーペント星人が憑依か……懐かしいな。サーペントと戦ったウルトラ戦士は僕なんだよ。 あの時も、地球人がサーペントの支配を打ち破ったんだ。やっぱり、地球人はすごい力を持ってるんだね」 「いえ、そんな。メビウスさんたちの方がずっとすごいじゃないですか。こんなに大きな街を作れるんだし。 私に貸してくれたこの部屋だって、こんなに広い」 「これでもまだ小さい方なんだけどね。まぁ、大きいのは当然のことだよ。だって、40m大が 僕たちの通常サイズなんだから。ちなみに、僕たちの先祖が今の姿になって一番大変だったのは、 巨体のサイズに合わせて建物を作り直すことだったらしいよ」 「ふふッ、面白いお話ですね。ウルトラマンも、そういうことで悩んだりするんだ」 「日常って、どこの世界でもそういうものだよ。あッ、そうそう、念のために言っておくけど、 本部に張ったバリアから外には出ないでね。この星の光は、地球人の身体には強すぎるんだ。 今は星人の力を宿してるとはいえ、影響が全くないとは言い切れないから」 そんな風に話し込んでいると、部屋にまた四人の男性がゾロゾロとやってきた。 「むッ。メビウス、もう高凪さんと話をしていたのか」 「俺たちも混ぜてくれないか。こうして地球人と会話をするのは久しぶりのことだから、ちょっと楽しみなんだ」 「兄さんたち」 全員、ミライと異なり年配の姿をしている。ミライは春奈に、彼らの紹介をする。 「春奈ちゃん、この人たちは左からウルトラマン兄さん、セブン兄さん、エース兄さん、レオ兄さんだよ」 「ご紹介にあずかりました。私がウルトラマン。地球での名前は、ハヤタだ」 「ウルトラセブン。地球ではモロボシ・ダンと名乗ってたよ」 「エース。地球人としての名前は北斗星司さ。よろしく!」 「ウルトラマンレオだ。地球での名前はおゝとりゲンと言う」 四人の男たちが名乗ると、春奈は再び感激する。 「み、みんな地球を守ったウルトラ兄弟じゃないですか! それが、こんなに私に会いに 来てくれるなんて、信じられない!」 「むしろ当然さ。私たちはみんな、地球に強い愛着を持っている。だから、光の国を訪れた 地球人に会いたいと思うのは自然なことだ」 と語るハヤタ。北斗は他の兄弟について言及する。 「ジャック兄さんやタロウたちも会いに来たがったんだが、最近は宇宙中で怪獣の活動が活発になってる。 それを鎮圧するための仕事中なんだよ。実に残念そうだったな」 「本当に、タイミングの悪いことだ。いや、もしかしたら怪獣の活発化も、ゼロたちが向かった ハルケギニアという星に悪しき気配が侵入したことと関係があるのかもしれないな……」 危惧するダンとゲンの顔を、春奈がじっと見つめる。 「そういえば、セブンさんとレオさんって……ゼロさんがお父さんと宇宙空手の師匠って言ってましたけど」 「む。ゼロから私たちの話を聞いてたか」 「はい。親父たちに会ったら、よろしく言っといてくれって出発前に頼まれました」 春奈からの言伝を聞いて、ダンとゲンは顔をほころばせた。 「そうかそうか、ゼロも元気でやっているみたいだな。安心した」 「俺たちは君から直接ゼロの話を聞きたくて、ゾフィー兄さんにお願いして面会を許可してもらったんだよ。 そういう訳だから、もっと詳しい話を教えてくれないかな?」 「あッ、はい! いくらでもお話ししますとも!」 春奈はハルケギニアに連れさらわれてから、この宇宙に帰ってくるまでのことを全て話した。 ハヤタたちは、ゼロが向こうで大活躍していることに喜び、平和が守られていることに安心したが、 同時にいくつかの事項を気に病んだ。 「ゼロは今、平賀才人君という少年と命を共有しているのか。私たち兄弟も経験があることだが…… 地球でない場所でそうなっている例は初めてだ」 「そのために、少年を戦いに巻き込んでしまっているのか。私の息子がすまないことをしている。 どうにかしてやりたいものだが……さすがに命を別の宇宙まで運ぶのは困難なことだからな……」 ハヤタとダンは才人のことを気に掛ける。一方で北斗、ゲンはヤプール人の存在を知って険しい顔をした。 「ヤプールめ……今度は別宇宙の星に魔の手を伸ばしたのか。俺たちが容易に手出し出来ないのを いいことに……。相変わらず卑劣な奴だ!」 「怪獣の活動に対して、侵略者の動向が少なかったのは、ヤプールがその宇宙へ連れ込んでいたからだったか。 真に許せん!」 ミライもヤプールの名を聞いて考え込むと、ハヤタに尋ねた。 「兄さん、僕もそのハルケギニアに向かわせてもらえないでしょうか? 幸い、ハルケギニアでも 僕たちは活動できるようです。ヤプールが相手なら、戦力は少しでも多い方がいいはずです!」 「いや、ヤプールが相手なら、その役目は俺の方が適してる。兄さんたち、是非とも俺を派遣させて下さい!」 ミライと北斗が頼み込むが、ハヤタは却下した。 「いや、それは駄目だ。ゾフィーもそう言うだろう」 「どうしてですか!?」 北斗が聞き返すと、ダンがそれに答えた。 「さっきも言ったが、最近になって宇宙各地で怪獣の被害が増加している。何か、恐ろしいことが 起きる前触れかもしれない。そんな中で、お前たちという戦力を減らす訳にはいかない」 「しかし、いくらゼロでも、ヤプールは危険な相手です! ご存知でしょう!」 ヤプールの怨念の恐ろしさを知るミライや北斗はなおも主張するが、ダンはこう返した。 「私の息子を、ゼロを信じてほしい。あいつと仲間たちの力は、ヤプールの怨念にも屈しないはずだ」 「……セブン兄さんが、そこまで言うなら」 ダンの力強い視線を受け、北斗たちはようやく引き下がった。 「……私たち地球人の知らないところで、そんなことになってたんですね」 話を横から聞いていた春奈が、眉間に皺を寄せてつぶやいた。それを耳に留めたハヤタが 我に返って、彼女に向き直った。 「ああ、心配を掛けてしまったかな? しかし、安心してくれ。宇宙の平和は、私たちウルトラ戦士が 必ず守る。君は気にせず、元通りの生活に戻るといい」 ここですっかり話し込んでいたダンが、手を叩いて兄弟たちに呼びかけた。 「さて、みんな、気は済んだか? あまり長い時間、任務から離れている訳にはいかないし、 何より彼女をあまり疲れさせるのは忍びない。この辺で面会は終わりにして、また任務に 戻るとしようではないか」 「そうだな。それでは高凪さん、私たちはそろそろお暇させてもらうよ」 「今日はとても楽しかったよ! もう会うことはないかもしれないが、俺たちのこと、どうか覚えていてくれよ!」 「君の同級生の件は、宇宙が落ち着いたら我々でどうにか対処しよう。だから彼の帰還は、 ゆっくりと待っていてほしい。すまないが、お願いするよ」 ハヤタ、北斗、ゲンがそれぞれ最後に告げると、四人のウルトラマンたちは部屋から退出していった。 それを見送った春奈がポツリと発する。 「ウルトラマンって、ほんといい人たちばかりなんですね。赤の他人の私たちのことを、 あんなに気に掛けてくれるなんて……」 その春奈のひと言に、ミライは柔らかく微笑みながら告げた。 「赤の他人なんかじゃないよ」 「え?」 「ウルトラマン兄さんが言ったように、僕たちウルトラ兄弟は、地球を第二の故郷だと思ってるし、 様々な敵とともに戦ってきた地球人をとても愛してる。君たちがいつか、僕たちと肩を並べる日が 来ることが、僕たちの共通の願いだ。その地球を担う君たちは、僕たちの弟も同然なんだよ」 ミライの言葉を受けて、春奈は少々顔を赤らめた。 「私たちに、そんな願いを……。私、何だか恥ずかしいです。ウルトラマンは、今も地球のことを 大事に思ってくれてるのに、肝心の私は、自分の人生にあんまり真剣じゃないから……」 「そんなに重く受け止めなくてもらわなくてもいいよ。これは、僕たちの個人的な願望なんだからね。 君たちに強要する訳じゃないんだ」 春奈の緊張をほぐすように笑いかけたミライは、続けてこう語り聞かせた。 「でも、これは覚えててね。僕たちウルトラマンは、普段は目に見えないほど遠くからだけど、 いつでも君たちのことを見守ってる。君たちは、どんな時も一人じゃないんだ。だから、 これからの人生でどんなことが起ころうとも、恐れたり、絶望したりすることはないんだよ。 君たちのために祈ってる人がいるんだということを、どうか忘れないでね」 「……はい……」 ミライの言葉は、とても温かく、心安らぎながらも、同時に活力が湧いてくる、不思議な音色を持っていた。 春奈は静かに心を打たれて、ただただうなずいた。 しばらく呆けていた春奈だが、不意にミライから質問をされ、我に返った。 「ところで春奈ちゃん。今の地球では、そんな変わったアクセサリーが流行ってるのかい?」 「え? 何のことですか?」 自分は特に、目立ったアクセサリーを身につけていたりはしない。何のことを言われているのか 首を傾げていると、ミライは自分の胸元を指し示して、指摘した。 「だって、胸のところ、何か詰め物入れてるでしょ。人に見えないアクセサリーなんて変わってるね」 「!!?」 春奈は目を白黒させると、真っ赤になって胸を抱えた。 「こ、これはアクセサリーじゃありませんッ! っていうか、メビウスさん……何で分かったんですか!?」 「え? いや、だって、違和感があったから……てっきりそういうものなのかと」 「い―――――や――――――――! これは私の、誰にも知られたくない秘密なのに――――――――!」 春奈は羞恥心でいっぱいになって悲鳴を上げた。それでミライは慌てふためく。 「ご、ごめん。僕、地球の女性の人のことって、あんまり詳しくないから……」 「謝られたら、余計に恥ずかしいです! ……って、もしかして、他のウルトラマンの方も 気づいてたんでしょうか!?」 「まぁ、僕に分かるんだから、そうだと思うよ。多分、ゼロも……」 「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!! 次から、どんな顔して 平賀くんに会えばいいのぉぉぉ――――――――――――――――――――!?」 衝撃の事実を知ってしまい、宇宙警備隊本部の一室に、春奈の甲高い悲鳴が響き渡った。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9140.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第四十六話「トリスタニアの奇跡」 地獄星人ヒッポリト星人 暴君怪獣タイラント 宇宙大怪獣アストロモンス 宇宙大怪獣改造ベムスター 光熱怪獣キーラ 宇宙スパーク大怪獣バゾブ 登場 トリステイン女王アンリエッタの、突然の失踪。それは内通者リッシュモンをあぶり出すために 仕掛けた、アンリエッタの罠であった。しかしリッシュモンは既にヒッポリト星人に魂を売り渡しており、 卑劣にも故郷トリステインを焼き払うためにネオパンドンを呼び出した。その危機に立ち向かったのは、 我らがウルトラマンゼロ。彼は改造により戦闘力が上昇したネオパンドンをも打ち倒した。 しかし、ヒッポリト星人の計画はそこで終わりではなかったのだ。ネオパンドンを倒したばかりのゼロに、 タイラントを筆頭とした宇宙大怪獣軍団が襲い掛かる。ゼロの窮地にウルティメイトフォースゼロが 駆けつけたのだが、それこそがヒッポリト星人の狙い。ウルティメイトフォースゼロは隙を突かれ、 全員ヒッポリトカプセルの中に閉じ込められてしまった! このままではゼロたちがブロンズ像に変えられ、トリステインは壊滅してしまう。これを救えるのは ルイズだけだが、そのルイズにも、侵略者の手先となり果てたリッシュモンの魔の手が伸びていた。 危うし、ルイズ! 『グワハハハハハ! 怪獣どもよ、もっと暴れろぉ! 街を地獄に変えるのだぁーッ!』 ヒッポリト星人の命令により、五大怪獣がトリスタニアで大暴れする。 「キイイイイィィィィッ!」 ウルティメイトフォースゼロが閉じ込められて手が出せないのをいいことに、タイラントは 口から爆炎を吐き、家々を片っ端から爆破、炎上させる。 「くそッ! やめろぉッ!」 「キュイイイイイイ!」 怪獣たちの猛威をどうにか食い止めようと奮闘している魔法衛士隊だったが、キーラが彼らに閃光を浴びせる。 「うわああああ―――――――!?」 騎士と飛竜、どちらも視界を潰され、大多数の騎士が落とされてしまった。 「カ―――ギ―――――!」 竜騎士たちが羽虫のようにボトボトと落ちる様を背景に、改造ベムスターは腹の口で家屋をもぎ取り、 そのまま呑み込んだ。ベムスターは腹の口で、どんなものでも捕食してしまうのだ。 「キイイィィィ!」 アストロモンスは花より消化液を噴出し、街の一画をドロドロに溶かす。 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 バゾブは電撃光線で、広範囲を一気に焼き払った。 「わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!」 「助けてぇぇぇぇぇぇぇッ!」 「ト、トリステインはもう駄目なのか!?」 人々は怪獣の猛威になす術なく、逃げ惑うばかり。だが五体もの怪獣に追い回されて、 どこまで逃げられるだろうか。どんどん逃げ場はなくなっていく。 『くっそぉッ! あんな奴らの好きにさせたままだなんて! このッ! このぉッ!』 ゼロは人々を踏みにじる邪悪なヒッポリト星人の軍団と、あっさりと罠に嵌まって無力化された 不甲斐ない自分への怒りをカプセルにぶつけるが、やはりヒッポリトカプセルが壊れる気配は 微塵もなかった。そうしている内にも、ヒッポリトタールによって身体が徐々に固まっていく。 焦るグレンファイヤーたち。 『や、やべぇッ! このまんまじゃ、みんなお陀仏だぜ! くっそぉ、またブロンズ像化は嫌だぞッ!』 『しかし……最早打つ手がありません……!』 『くッ! 万事休すか……!?』 『無駄だ無駄だぁッ! お前たちに出来ることは、もう死ぬことだけなのだぁッ! フハハハハハハハッ!』 必死にあがくゼロたちを、ヒッポリト星人が余裕綽々の態度で嘲笑した。 「くッ……もう時間が……!」 地上からルイズが、だんだんと固められていくゼロたちを見上げて、彼らと同じように焦燥していた。 しかし目の前のリッシュモンが杖を向けていては、彼らを助けられない。 「無駄な抵抗をするな。私としても、女子供を無用に痛めつけたくはない」 うそぶくリッシュモンに、ルイズは鋭い視線を飛ばす。 「リッシュモン! 貴族の誇りを捨て、祖国を裏切って、恥ずかしいと思わないの!? 曲がりなりにも 上流貴族でしょう!」 と非難するも、リッシュモンは鼻で笑うばかり。 「フフフ、実に子供らしい青臭い台詞だな。誇りと愛国心で財産を得られ、甘い蜜が吸えるのならば、 私もそうしようではないか」 「……貴族の風上にも置けない下衆ねッ……!」 嫌悪感を剥き出しにするルイズだが、だからと何かが出来る訳ではない。呪文が長い『虚無』の魔法では、 既に呪文を完成させているリッシュモンにどうあがいても速さで勝てない。 (トリステインもわたしも、ゼロたちも、サイトも……こんなところで終わりなの!?) 絶望感に目の前が暗くなりかけた、その時のことである。 突然上から、誰かが自分とリッシュモンの間に降り立ち、リッシュモンに銃を向けた。 すぐ側の家の窓から飛び降りてきたようだ。 この事態に、リッシュモンのみならずルイズも驚く。 「えッ!?」 「ラ・ヴァリエール殿。早くお逃げを」 リッシュモンから目を離さないまま、ルイズを助けに入った、アニエスがそう告げた。 我に返ったルイズは、すぐにその言葉に従った。 「ありがとうッ!」 短く礼を告げて、全速力でリッシュモンと反対方向、ゼロたちの方へと走っていった。 リッシュモンは忌々しくアニエスをにらみつける。 「貴様か……。余計な真似を」 リッシュモンは既にアニエスと顔を合わせていた。彼女が平民であることはもう知っている。 そのため、最初から舐めて掛かっていた。 「どけ。私には、貴様を殺す手間を掛ける暇もないのだ。私は既に魔法を解放するだけだし、 銃などこの距離ならば当たらぬぞ。とっとと去ねい。平民が、命を捨ててまでアンリエッタに 忠誠を誓う義理などあるまい」 ゴミを見るような目で脅しを掛けるが、アニエスは一歩も動かない。逆に、目に憎悪を宿して リッシュモンをにらみ返した。 「私が貴様を殺すのは、陛下への忠誠からではない。私怨だ」 「私怨?」 「ダングルテール」 そのひと言だけで、リッシュモンは理解したようだった。下卑た笑みを浮かべる。 「貴様、あの村の生き残りだったか!」 アニエスは唇をぎりっと噛み締めた。唇が切れて血が流れる。 「ロマリアの異端諮問“異教徒狩り”。貴様がわが故郷が“新教徒”というだけで反乱をでっちあげ、 今この時と同じように踏み潰した。その見返りにロマリアの宗教庁からいくらもらった?」 リッシュモンは唇を吊り上げた。 「金額を聞いてどうする? 賄賂の額などいちいち覚えておらぬわ」 「金しか信じておらぬのか。侵略者につけ込まれるのももっともな、あさましい男よ」 「お前が神を信じることと、私が金を愛すること、いかほどの違いがあると言うのだ? お前が死んだ肉親を 未練たっぷりに慕うことと、私が金を慕うこと、どれだけの違いがあると言うのだ?」 「殺してやる。貯めた金は、地獄で使え」 「お前ごときに貴族の技を使うのはもったいないが……、これも運命かね」 リッシュモンが呪文を解放し、杖の先から火の球がアニエスへと飛ぶ。それに対し、アニエスは……銃を投げ捨てた。 「なに?」 マントを翻して火の球を受ける。マントは一瞬で燃え尽きたが、中に仕込まれた水袋が蒸発して 火の球の威力をそいだ。だが消滅はせず、アニエスにぶつかる。 「うぉおおおおおおおおおおおッ!」 しかしアニエスは耐え、リッシュモンへ突進し続けた。そして剣を抜き放ち、リッシュモンの懐に飛び込む。 「うお……」 リッシュモンの口からは、呪文の代わりに鮮血があふれた。胸に剣が刺さり、背中から刃が飛び出ていた。 「メ……、メイジが平民ごときに……、この貴族のわたしが……、こんなおもちゃに……」 「……これはおもちゃではない」 リッシュモンから剣を引き抜くアニエス。貫通して出来た穴から、血液がごぼっとあふれ出た。 「剣は“武器”だ。我らが貴様ら貴族にせめて一かみと、磨いた牙だ」 リッシュモンの身体が崩れ落ちる。アニエスは深い火傷を負った身体を強靭な精神で支え、 死体を冷ややかに見下ろした。 アニエスがリッシュモンに裁きを下したのと前後して、彼女に助けられたルイズは改めて呪文を唱え、 ゼロたちを捕らえるカプセルへ解き放った。 「『爆発』!」 途端に四つのカプセルが閃光に呑まれた。それを目の当たりにして、ヒッポリト星人は言葉を失う。 『な、何ぃッ!? この光は……!』 光が収まると、カプセルは全て消え去り、タールも落ちたウルティメイトフォースゼロの四人が、 街の中に立っていた。青いカラータイマーを胸に光らせるゼロが、ヒッポリト星人を指差す。 『残念だったな、ヒッポリト星人……勝負はここからだぜッ!』 『ふぃ~! せまっ苦しかったぜッ!』 グレンファイヤーが肩をグルグル回して身体をほぐした。 『おのれぇ、しくじったな! やはり人間なんぞを頼ったのが間違いだった!』 一方、用意周到な作戦を破られたヒッポリト星人は激しく悔しがり、街を破壊している怪獣たちを呼び戻す。 『怪獣たちよ、早く集まれ! こうなったら総力戦だッ! 叩き潰してやるッ!』 「キイイイイィィィィッ!」 「キュイイイイイイ!」 「カ―――ギ―――――!」 「キイイィィィ!」 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 命令するヒッポリト星人の前に五大怪獣が並び、ウルティメイトフォースゼロに突撃していく。 『望むところだ! みんな、行くぜぇーッ!』 『うおおぉぉー!』 ウルティメイトフォースゼロも雄叫びを上げ、怪獣軍団と再度激突した! ゼロたちと怪獣軍団の激突を、マンティコアにまたがる魔法衛士隊隊長ド・ゼッサールは 苦々しく見守っていた。 「結局はこうなるのか……。やはり我々は、無力な存在なのか……」 ゼロたちの奇跡の復活を喜ぶ反面、本来国を守る役目を担う自分たちが怪獣に歯が立たず、 助けられてばかりというのは胸が苦しい思いだ。しかし現実として、自分たちに出来ることはない……。 思い詰めていると、一人の竜騎士が慌ただしくゼッサールの元に飛んできて、次のことを告げた。 「報告します! 王立魔法研究所(アカデミー)で開発中だった、対怪獣用兵器が完成したとのこと! また、その使用許可も下りました!」 「何!? 遂に完成したのか!」 驚くゼッサール。アカデミーはその名の通り、トリステインの魔法研究施設で、現在は相次ぐ 怪獣被害に対抗するための新兵器開発を推し進めていた。それがとうとう完成し、しかもすぐに使えるという。 それを知ると、気を落としていたゼッサールは、たちまちの内に士気を盛り返した。 「分かった! ハルケギニアは、我々人類の手で守らねばならん! すぐに使用しよう! 何回使える?」 「残念ながら、怪獣一体分が限度とのことです」 「それで十分だ。では……」 空から戦場の様子を見下ろすゼッサール。 「キイイイイィィィィッ!」 「カ―――ギ―――――!」 『うおぉぉッ!』 タイラントと改造ベムスターがゼロの前後から、腹からの冷凍ガスと光線を食らわせていた。 さすがのゼロも、挟み撃ちにされて手を焼いている。それを援護するのが最も良いと、 ゼッサールは瞬時に判断した。 「あの平たい怪獣に狙いを絞るぞ! 総員、集合せよ!」 まだ飛んでいる騎士を集めたゼッサールは、二つの新兵器の仕様を聞き出し、即座に作戦を打ち立てた。 その手筈を、全員にしっかりと伝える。 「まずは怪獣の動きを止めるところからだ。この役目は、私が引き受ける」 「隊長自ら!? 危険です!」 一人の騎士が泡を食って止めに掛かったが、ゼッサールは不敵に笑ってそれをさえぎった。 「我々が、これまで暴威を振るってきた怪獣に反旗を示す栄誉ある一番槍を、お前たち若造に 譲ってやる訳にはいかんな。……何、命だけは拾って帰るさ」 ゼッサールの言葉は、半分は本当だった。一番危険な役目を部下に任せられないという気持ちもあるが、 今度の新兵器と作戦は、平民が貴族に対抗する牙として「剣」を磨いたように、怪獣に対抗するための 自分たちの牙なのだ。それを自身の手で成功させたい。人類が決して無力な存在ではないことを、この身で示すのだ! 「万事ぬかるんじゃないぞ! では、作戦開始!」 指示を出し、ゼッサールはマンティコアを駆って改造ベムスターの頭上へ慎重に移動した。 相手がこちらに気づかない内に……その顔面に飛び移る! 「とうッ!」 命を省みない、捨て身の作戦。しかしその甲斐あり、改造ベムスターの眼球の真下に張りつくことが出来た。 そして『エア・ニードル』の呪文で、相手の下まぶたの内側を切り裂く! 「カ―――ギ―――――!!」 たちまち黄色い血が噴水のように噴き出し、改造ベムスターは激痛に耐え切れずにゼロの背後から離れた。 あらゆる攻撃を受け止める驚異の防御力を持つ怪獣といえども、身体の全てが固い訳ではない。 特に、普通ならまず攻撃が当たらないまぶたの裏はブヨブヨ。普通の刃物でも切り裂くことが出来る。 狙うのは当然非常に危険だが、その効果は十分にあった。 血が片方の目玉にベッタリ付着して、遠近感を失った改造ベムスターは立ち尽くす。そこにすかさず、 作戦の第二段階が発動した。 「怪獣め! この特製火石をたっぷりと味わえ!」 竜騎士二人が、人工的に作った巨大火石を抱え上げて、改造ベムスターへと接近していく。 これは大量の火石を、何人ものスクウェアクラスメイジが数日間休まずに作業して、一つにしたもの。 莫大な火力が石の中に眠っている、最早火石ではなく強力な「エネルギー爆弾」だ。一つ作るだけでも 手間と人員が掛かりすぎるので、人間の戦争に利用できるものではないが、怪獣相手の切り札には十分に使える。 改造ベムスターが腹から家屋を呑み込んだので、腹が口だということは理解している。 竜騎士たちは、腹の口にエネルギー爆弾を放り込んだ。 「カ―――ギ―――――!」 何でも食らうベムスターだが、爆弾のエネルギーが大きすぎるため、吸収に手間取る。 そして魔法衛士隊は、とうとう作戦の最終段階に移行した。 「これで、とどめだッ!」 ゼッサールを部下が救助すると、四匹の飛竜が改造ベムスターの正面に回った。飛龍は、金色の巨大な大砲を 吊り下げている。これこそが本命の新兵器。トリステインの魔法技術の粋を集めて作り出した、ハルケギニア史上初の光線砲である。 トリステインは、侵略者の脅威の科学力と兵器を逆利用できないものかとずっと考えていた。 そこで、ゼロたちが撃破した円盤やロボットの残骸を密かに回収し、研究していたのだ。 だが現実は甘くなく、宇宙人の科学の産物の仕組みは全く理解できなかった。しかし始祖ブリミルは、 完全に見放してはいなかったらしい。唯一キングジョーに搭載されていたビーム砲が生きていて、 連日に亘る錬金による、杖に血がにじむような努力が実って、制御することに成功したのだ。 それがこの光線砲。名前は、キングジョーから取り、『キング砲』だ! 「行くぞ! キング砲、発射ぁッ!」 竜騎士の魔法がスイッチとなり、キング砲から稲妻状の光線が発射された。光線は改造ベムスターの 腹の中の、エネルギー爆弾に命中する。 瞬時に発生する、壮絶な爆発! 改造ベムスターは身体の内側からの熱と衝撃に耐えられず、 木端微塵に吹っ飛んだ! 「やった、成功だ……! やったぞぉぉぉぉー!」 その光景を目にして、ゼッサールは大歓声を上げた。自分たちが、初めてウルトラマンたちの 手も借りずに、怪獣を撃破したのだ。 だが、仕組みを理解している訳ではないキング砲を使用できるのは、たった一回きり。 残りの怪獣たちは、ゼロたちに任せることとした。 『うおぉッ! すげぇ! 人間が大怪獣をやっつけたぜ!』 アストロモンスを抑えていたグレンファイヤーが、改造ベムスターが撃破されるところを 目撃して歓声を上げた。 『よっしゃ! 俺も負けてらんねぇぜ! うらぁぁッ!』 「キイイィィィ!」 相手の鞭の振り下ろしを受け止め、顔面にパンチを決める。アストロモンスはフラフラと後退した。 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 『むうぅッ……!』 その一方で、ジャンボットはバゾブの磁界で動きを制限されたところに、電撃光線を食らってよろめいた。 『焼き鳥、大丈夫か!? 代わろうか?』 『私はジャンボットだ! それに、その必要はない……』 『必要はないってお前、相性最悪じゃんか……』 心配するグレンファイヤーだが、ジャンボットはそれを振り払うように告げる。 『この星の人間が諦めずに戦っているのだ。私も、この程度で根を上げていられん! 見ていろッ!』 ジャンボットが突然、ブースターから火を噴いて大空に飛び上がった。バゾブは思わず目で追って見上げる。 「ギュルウウ! ギュルウウ!」 『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』 飛び上がったジャンボットはバトルアックスを構えると、バゾブの頭上からまっさかさまに 落下を開始した! 目を見張ったバゾブが逃げようとしたが、その時にはもう遅く、 ジャンボットは頭のすぐ上へと迫っていた。 機械の動きを止めるバゾブの電磁波だが、自由落下してくる物体を止めることは出来ない。 50メイルの質量のロボットの激突と、それに伴うバトルアックスの斬撃を食らったバゾブは、 頭頂部から真っ二つにされて爆散した。 『ふッ……ざっとこんなものだ』 『おおぉぉッ! お前も随分と無茶なことするなぁ焼き鳥』 『私の名前はジャンボットだと言っているだろう!』 戦闘中まで相変わらずのやり取りをしたグレンファイヤーの背後から、アストロモンスが鞭を振るう。 しかしそれを気取っていたグレンファイヤーは、その鞭をはっしと掴んだ。 『うらぁぁぁぁ―――――――!』 「キイイィィィ!」 そして豪力を発揮して、鞭ごとアストロモンスをハンマーのように振り回して投げ飛ばした。 放物線を描いて落下するアストロモンスへと駆けていくグレンファイヤー。 『ファイヤースティィック!』 炎の如意棒を出すと、頭から落ちてくるアストロモンスの花の中央にファイヤースティックを突き刺した。 それによってアストロモンスは火炎に包まれ、爆発四散した。 『うっしゃあッ! こっちもいっちょ上がりだぜ!』 怪獣を撃破したグレンファイヤーは、頭をかき上げて炎を燃え上がらせた。 『シルバークロス!』 「キュイイイイイイ!」 ミラーナイトはキーラにシルバークロスを当てたが、スペシウム光線も易々と受け止めるキーラの甲殻は、 シルバークロスでも傷一つつかなかった。そしてキーラは、まぶたを閉じて閃光発射の構えを取る。 『! はぁッ!』 ミラーナイトは、キーラが目を開けるタイミングに合わせて、自分の前面に巨大鏡を作り上げた。 「キュイイイイイイ!?」 閃光は鏡によって跳ね返り、キーラは自身の目が潰された。そして大きくひるんだキーラに、 ミラーナイトがミラーナイフを放つ。 『やッ!』 ミラーナイフは動きを止めたキーラの、わずかな甲殻の隙間に見事突き刺さった。全身にミラーナイフを 食らったキーラはダランと腕を垂らし、後ろに倒れ込んで爆散した。 『鏡作りが得意な私に、光で挑んだのが間違いでしたね』 ミラーナイトは肩をすくめて、息絶えたキーラに告げた。 「キイイイイィィィィッ!」 『うおらッ! ……くッ! しぶといな!』 最後に残った怪獣はタイラントだ。だが超獣ハンザギランの不死身に近い生命力を受け継いだタイラントは、 ストロングコロナゼロの打撃を何発も食らっても応えた様子がなかった。あらゆる怪獣の優れた点を併せ持つ 恐るべき合体怪獣を、ゼロはどうやって攻略するのか。 「キイイイイィィィィッ!」 タイラントは再びゼロの首を締めようと、フックつきロープを飛ばす。 『同じ手食らうかよ!』 だがその攻撃を見切っていたゼロは、ロープをはっしと掴んだ。 この時、ゼロに名案が浮かぶ。 『この手で行くぜ! ぜあぁッ!』 早速作戦を実行するゼロ。額からエメリウムスラッシュを発射して、掴んだロープを焼き切る。 「キイイイイィィィィッ!」 引っ張っていたロープがいきなり切れたことで、タイラントはバランスを崩して背後に倒れ込んだ。 相手が起き上がらない内に、ゼロはルナミラクルへと再変身した。 『行くぜ! ウルトラゼロランスだぁッ!』 フックを掲げたゼロは、ルナミラクルの超能力とブレスレットの力により、それをウルトラゼロランスに変えた。 そして、タイラントへと投擲! フックを変えたランスには、タイラントのパワーが上乗せさせる形で宿っている。そのパワーが、 タイラントの生命力を相殺する! 「キイイイイィィィィッ!」 ランスが腹部に深々と突き刺さったタイラントは、大爆発を起こして塵も残さず消え去った。 『なッ!? ば、馬鹿な! 私が選りすぐった大怪獣軍団が、全滅だとぉ!?』 怪獣たちを全て失ったヒッポリト星人は大いに動揺する。その彼に、通常状態に戻ったゼロが 指を向けて言い放った。 『残るはお前だけだ! もう観念しろ! 人間を舐め切ったテメェの負けだぜ!』 高々と告げるも、ヒッポリト星人は負けを認めず、逆上した。 『黙れぇッ! この偉大なるヒッポリト星人が、貴様ら如きに敗北するはずがないッ!』 頭部の突起や両眼、両手などあらゆる箇所からビーム、ミサイルを乱射して、ウルティメイトフォースゼロを 狙い撃ちにする。 『うおおぉぉぉッ!』 『くッ! あくまで悪あがきしますか……!』 『見苦しいぜッ!』 ゼロたちは弾幕によって動きを縛りつけられる。しかしここに来てヒッポリト星人は、 人間の力を度外視していた。 「これで最後だ! 十文字作戦ッ! あの突起を狙うんだ!」 魔法衛士隊が残った力を出し切って、頭頂部の突起に十字砲火を浴びせた。 「キョオオオオオオオオ!」 発光部に魔法の集中攻撃を食らったヒッポリト星人が麻痺した。その隙に、ウルティメイトフォースゼロの 一斉攻撃が放たれる! 「シャッ! シェアァッ!」 『シルバークロス!』 『ビームエメラルド!』 『グレンスパァーク!』 ワイドゼロショットを始めとした、四人の必殺技が命中。ヒッポリト星人は跡形もなく木端微塵になった。 「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!」 怪獣軍団の首魁を倒したことで、ハルケギニア中の人々が割れんばかりの歓声を発した。 魔法衛士隊には、ゼロたちが大きく手を振る。 「隊長、見て下さい! あれはきっと、私たちへの感謝と友好の印ですよ!」 「うむ……我々はとうとう成し遂げたのだ。彼らと戦場で並び立つことを……!」 ド・ゼッサール隊長を始めとした魔法衛士隊は、胸がいっぱいになっていた。 「姫さま!」 「ルイズ! 無事でしたか!」 アンリエッタを見つけて、駆けつけたルイズは、弾んだ声で彼女に尋ねる。 「姫さま、ご覧になりましたか? 大勝利です! それだけじゃない。トリステインの騎士が、 怪獣を討ち取りました!」 「ええ、ええ。よく見ていましたとも」 二人も、大勢の人間と同じように、人間が怪獣から勝利をもぎ取ったことに歓喜で打ち震えていた。 アンリエッタは、小さくつぶやく。 「わたくしたちは、無力ではなかった。グレン、見ていてくれましたか……」 そしてルイズは、アンリエッタたちを先ほど助けてもらったアニエスのところへ案内し出した。 ハルケギニアの人間が、長きに亘る苦難の果てに、ウルトラマンゼロたちと肩を並べて戦い、 大怪獣と侵略者に勝利したこの戦いは後に、『トリスタニアの奇跡』と称されることになるのである。 その奇跡に街中が湧く中で、アニエスは傷ついた身体を抱えていた。彼女だけは、他の人間と異なり、 その目に憎悪をたぎらせたままであった。 「……ここで、死んでたまるか。まだ、実行犯が残っている……!」 ダングルテール虐殺の計画者、リッシュモンは討った。しかし、虐殺の実行犯がまだどこかに 生きているはずだ。それを抹殺して、ようやく復讐は完遂される。 アニエスは暗い情熱の力により、その身体を支えていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9388.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十八話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その1)」 宇宙恐竜ゼットン ウラン怪獣ガボラ エリ巻き恐竜ジラース 登場 王立図書館の幽霊騒動の解決を頼まれたルイズと才人。しかし、ルイズが突如として意識不明の 状態に陥ってしまう。 それから一夜明けたにも関わらず、ルイズは一向に目覚めなかった。才人は図書館の控え室にて、 焦燥した様子でウロウロと歩き回る。 「くそッ、ルイズは一体どうしちまったんだ……。いきなり倒れて、目を覚まさないなんて」 「お姉さま、原因分からないの?」 「パムー……」 シルフィードとハネジローがベッドに寝かされたルイズを見下ろし、タバサに不安げに 目を向けた。しかしタバサは力なく首を振る。 「分からない」 知識が豊富なタバサでも、ルイズの昏睡の原因は不明であった。思いつく限りの処置を 取ったが、ルイズには全く効果がなかった。 ゼロが意見する。 『怪獣とか宇宙人とか、そういう類の気配はなかった。……だが、リシュの件もある。何か 未知の力がルイズに働いたのかもしれねぇ』 やがて、控え室の扉がノックされて一人の女性が入室してきた。 「失礼します」 「リーヴル!」 王立図書館の司書のリーヴルだ。朝になって出勤してきたようだ。 彼女はテーブルの上のガラQを置くと、才人たちに振り返って告げた。 「タバサさんの連絡で、おおまかな事情は伺ってます。その件で一つ、お話しが」 「ルイズのこと、何か知ってるのか!?」 才人の問い返しにうなずいたリーヴルは、自身の目でルイズの容態を確かめてから才人たちに 向き直った。 「間違いありません……。これは、『古き本』の仕業です」 「古き本?」 「お姉さま、知ってる?」 シルフィードにタバサは否定で答えた。リーヴルが説明を行う。 「この図書館には、数千年前の本が所蔵されています。内容は愚か、文字も読めません。 それら本を総称して『古き本』と呼んでいます」 「でも、その本とルイズに何の関係があるんだ?」 「『古き本』には、絶筆のものもあります。諸事情で、本が未完のままで終わってしまうことです。 そして絶筆された『古き本』には、最後まで完結したいという強い想いから、魔力を持つ例があります。 ルイズさんはそれら本に魔力を吸い取られ、本の中に心を奪われた。そう考えて問題はないでしょう」 タバサが驚きで目を見開く。 「本が魔力を持つなんて話、聞いたことがない」 「世間では全くといっていいほど知られていない話です。現に、同じ事例は記録にある上では、 千年前に一件のみです」 再度ルイズに目を向けるリーヴル。 「どうやらルイズさんは、かなり強大な魔力を持っているみたいですね。それを狙われて……」 「強大な魔力? そうか、“虚無”の力か……」 「キョム?」 つい口から出た才人が、ガラQに聞き返されて我に返った。 「ああ、いや、何でもない! それで、ルイズは治るのか!?」 リーヴルは真剣な面持ちになって返答した。 「手はあります。ですが、それを決断するのは私ではありません」 「ど、どういうことだ?」 「本が未完で終わっていることに未練を抱いているのなら、完結させればいいのです」 ですが、とつけ加えるリーヴル。 「『古き本』は作者以外のペンを受けつけません」 「何も書けないんじゃ、完結させられないだろ。どうすればいいんだよ!」 突っ込む才人に、リーヴルは冷静に返す。 「本の中に入るんです。代々王立図書館の司書を勤めている私の家系には、『古き本』の 魔力を利用してその本の世界に入り込む独自に開発した魔法があります。そうして本の 登場人物となって話を進行させ、完結させるのです」 「本の中に入るってサラッと言うけど、危なくないのね?」 シルフィードの疑問に首肯するリーヴル。 「危険です。本の中に入った者は、一時的に本の世界が現実となるので、その中で傷つけば 現実の傷として残ります。本の中で死ねば当然、命を落とします。故に滅多なことでは使う ことの許されていない、禁断の魔法なのです」 「……本を完結させるか死か、その二択って訳か……」 つぶやいた才人が決心を固めた表情で、リーヴルの顔を見つめた。 「一度に本の中に入れられるのは何人だ?」 「……私の力では、一人が限度です」 「一人か。それじゃあ決まりだな。俺がルイズを助け出す!」 タバサは心配の視線を才人に向けた。それに気づいた才人は一旦リーヴルから離れて、 タバサに説いた。 「大丈夫だ。俺はゼロと魂が一つになってるから、ゼロも一緒に本の中に入れるはずだ。 ゼロの力があれば、よほどのことがない限り命の危険なんてないよ。心配いらないさ!」 「……ん」 タバサは力になれないのがもどかしそうであったが、こんな場合に才人を止められないことは 知っているし、彼を信頼してもいる。素直にルイズのことを才人に託した。 「パムー」 話していたら、ハネジローがパタパタとテーブルの上に六冊の本を一冊ずつ運んできた。 タバサがリーヴルに伝える。 「これらが倒れてたルイズの側に落ちてた」 「この六冊が、ルイズさんの魔力を吸い取った『古き本』のようですね」 六冊を確かめたリーヴルが眉間に皺を寄せる。 「……厄介ですね。これらは『古き本』の中でも一番力の強いもの。砂漠で発見されてトリステインに 流通したもので、どこで書かれたものかも不明です」 「曰くつきって奴か。どういう内容なんだ? って、読めないのか……」 何気なく本の一冊を開いた才人が、唖然と固まった。 「いや、俺これ読めるぞ! 日本語……俺の国の文字で書かれてる!」 「そうなのね!?」 シルフィードたちの驚きの視線が才人に集まった。才人は他の五冊にもざっと目を通す。 「全部そうだ! しかも……全部ウルトラマンの本じゃねぇか!」 仰天する才人。六冊全部が、ウルトラ戦士の戦いを題材にした作品なのだ。これら六冊も、 自分のように日本からハルケギニアに迷い込んできたものなのだろう。それと日本人の自分が 出会うとは、何という巡り合わせか。 同時に才人は、若干険しい顔となる。 (となると、ゼロでも簡単にはいかないってことになるな。何せ、本の世界で待ってるのは 怪獣や宇宙人との戦いだ……) ウルトラ戦士の戦いが題材ということは当然、本の中で繰り広げられている世界でも怪獣、 宇宙人と戦うことは避けられない。ゼロの力ならばよほどのことは、と思っていたが、まさか こんなことになろうとは。 しかしそれならばなおさら自分たちが本の世界に行かなければならない。他の者では、 この六冊の物語を完結させるのはほぼ不可能であろう。改めて決心した才人は、最初に 中に入る本を選択する。 「……よし、これにしよう。最初には、『始まりのウルトラマン』の本が相応しいと思う」 「決まりましたか」 「早速やってくれ。準備はもう出来てる」 才人から本を受け取ったリーヴルが、本の世界に旅立つ前に忠告した。 「生死以外にもう一点、重要なことを。あまりに物語を改変してしまうと話が破綻し、その本の 世界は閉じてしまい完結できなくなります。要するに、最低でも本来の主役を立て、その人物に 物語を終わらせてもらう必要があります」 「俺が何もかも物語の中の問題を解決しちゃいけないってことだな。分かった」 ただ怪獣たちを倒すだけでなく、本の中のウルトラマンと共闘する必要があるようだ。 その条件を解決しなければならないとは負担が増加したように思えるが、きっと何とか なるだろう。同じ正義の心を持つウルトラ戦士なのだ。 もう一つ、タバサがリーヴルに問いかけた。 「最後に、これだけ聞かせて」 「何でしょうか?」 「……何故千年以上前の貴重な本が、一般の書架に置いてあったの?」 リーヴルは一瞬言いよどんだ。 「……私にも分かりません。ですが元は幽霊が騒動の発端。もしかしたら、『古き本』自体が 魔力を用いて人の目に留まるように動いたのかもしれません」 「……」 タバサは若干納得していなさそうだったが、それ以上の追及はしなかった。 そしてこれから本の中に入る才人に、仲間たちが応援の言葉を寄せる。 「俺も「一人」に数えられてるみてえだから、相棒と一緒に本の中にゃ入れねえ。けど俺が いなくてもしっかりやれよ! 娘っ子を頼んだぜ!」 「気をつけてなのね! 死んじゃ絶対に駄目なのね!」 「……頑張って」 「パムー!」 才人は彼らに笑顔で応える。 「ああ! 行ってくるぜ!」 リーヴルの前に立つと、彼女が才人に魔法を掛ける。才人の視界がぐるぐると回り、目の前の 光景が大きく変化していく……。 ‐甦れ!ウルトラマン‐ 「ピポポポポポ……」 荒野でにらみ合うウルトラマンとゼットン。ウルトラマンは八つ裂き光輪を投げつけて攻撃する。 「ヘアァッ!」 しかしゼットンは己の周囲にバリヤーを張り、八つ裂き光輪は粉々に砕け散ってしまう。 「ヘアァァッ!」 それを見たウルトラマンは肉弾戦に切り替えるが、ゼットンの水平チョップで返り討ちにされた。 「ウアァッ!」 地面を転がりながらも立ち上がったウルトラマンは、必殺のスペシウム光線を発射! 「シェアッ!」 だが直撃したスペシウム光線は、ゼットンに吸収されてしまう。 「ウアァッ!?」 ゼットンは更に吸収したエネルギーによって、腕から光波を発射。ウルトラマンの急所である カラータイマーに命中してしまう! ウルトラマンのカラータイマーが赤く点滅し出した。 「どうしたウルトラマン!?」 叫ぶムラマツ。ゼットンは容赦なく光波を撃ち続けてウルトラマンを追撃。 「やめろ! ゼットン!」 「危ないわッ!」 絶叫するイデと『フジ』。だが致命傷をもらったウルトラマンの身体がよろめき、前のめりに 倒れてしまった。 仰向けに横たわるウルトラマンを見下ろすゼットン。このままではウルトラマンの命が危ない! 「よし、ウルトラマンの仇討ちだ!」 ムラマツたち科特隊がゼットンに攻撃開始。しかしスーパーガンの光線はゼットンに全く 通用していない。 「よぉし! イデ隊員の、すごい兵器をお見舞いしてやる!」 するとイデがスーパーガンの銃口に新兵器スパーク8を接続。強化された光弾がうなりを 立てて飛び、ゼットンに直撃。 ゼットンは爆炎の中に呑まれ、粉々に吹っ飛んだのだった。 「やったぁッ!」 ――ゼットンは、イデ隊員の活躍で撃退された。しかし、常に勝利を誇ってきたウルトラマンは、 この戦いで遂に敗北を味わったのである。 衝撃の事件から一ヶ月が過ぎていた。強敵ゼットンに対する勝利で勢いづいた科学特捜隊は 向かうところ敵なしであったが、一方でウルトラマンはスランプに陥り、怪獣に黒星を重ねていた。 そんな中、日本各地で怪奇現象が続出。ハヤタは怪獣総攻撃の予兆を感じ取っていたが、 それはウルトラマンと一体である彼にしか感じられないもの。誰かに話すことは、自分が ウルトラマンであることを告白すること。ハヤタは悩んだ……。 しかし彼の決心を待たずして、怪獣軍団の尖兵が出現したのだ! 「ゲエエオオオオオオ!」 「ピギャ――――――!」 緑に覆われた山脈の間を、二体の怪獣が行進している。一体は這いつくばった姿勢、もう一体は 直立した姿勢だが、どちらも首の周りがエリで覆われているという共通点がある。四足歩行の方は エリが閉じていて首がその中に隠れていた。 ウラン怪獣ガボラとエリ巻き恐竜ジラースだ! その進行先には人間の町がある。怪獣たちが 町に到達したら大惨事だ! 「くっそー、怪獣どもめ! ここから先には行かせないぜ!」 「みんな、何としても食い止めるんだ!」 それに立ち向かうのは科特隊。アラシがスパイダーで射撃し、他の面々もムラマツの激励の 下にスーパーガンで応戦する。 「ゲエエオオオオオオ!」 「ピギャ――――――!」 しかし彼らの射撃は、ガボラとジラースにほとんど効果を上げていなかった。アラシが 大きく舌打ちする。 「くそぅ、一匹だけなら何とかなるが、二匹同時ってのは苦しいぜ……!」 「イデ隊員、スパーク8は使えないの!?」 『フジ』がイデに尋ねたが、イデは首を横に振った。 「スパーク8は一発限りしかないんだよ!」 「もうッ! 肝心な時に使えないわね!」 『フジ』の荒々しい言動に、イデはやや首をすくめた。 「フジ君、何だか気が強くなったんじゃないか? それに心なしか、背も縮んだような……」 「そんなこと言ってる場合じゃないぞ、イデ! 戦いに集中しろ!」 アラシが叱りつけている一方で、ハヤタは懐の変身アイテム、ベーターカプセルに目を落としたが……。 「……駄目だ。今の俺では、ウルトラマンに変身しても怪獣に勝てない……」 「ハヤタ! 危ないぞッ!」 ハヤタが力なく首を振っていると、ムラマツが警告を飛ばした。 我に返って顔を上げたハヤタに、ジラースが光線を吐こうとしていた! 「ピギャ――――――!」 「うわぁぁぁッ!」 「ハヤターッ!!」 絶叫するアラシ。ハヤタのピンチ! その時、『フジ』が空の一画を指差して叫んだ。 「見て! あれ何かしら!」 空の彼方から、何かが流星のように降ってきている。思わずそれに目を奪われる科特隊。 「セェェェェェアッ!」 それは巨人だった! 空の彼方から脚を突き出して猛然と地上に迫り、ジラースに飛び蹴りを ぶちかました。 「ピギャ――――――!」 ジラースは巨人に蹴り飛ばされて、ハヤタは救われる。ガボラが驚いたように巨人に振り返った。 「な、何だあの巨人は……」 科特隊の面々も唖然として巨人を見上げた。青と赤のカラーリングの肉体で、頭部には 二つのトサカが生えている。目つきはかなり鋭いが、勇気と優しさが眼差しから見て取れた。 「ハァッ!」 ガボラに対して空手を思わせる構えを取った巨人の胸元には、丸い発光体が青々と輝いていた。 それを指差すイデ。 「胸にカラータイマーがついてるぞ!」 「じゃああの巨人は、ウルトラマンということか……!?」 ぽかんと口を開くムラマツ。しかし一番驚いているのはハヤタであった。 「俺以外の、ウルトラマン……!?」 ウルトラマン以外の『ウルトラマン』は、突っ込んできたガボラにこちらから向かっていく。 素早い蹴り上げがガボラの首に決まり、ガボラは押し返された。 「ゲエエオオオオオオ!」 ガボラは頭部を覆い隠すヒレを開いて、口から熱線を吐き出した。だがウルトラマンは 側転して回避。 「ピギャ――――――!」 「セアッ!」 そこに起き上がったジラースが背後から襲い掛かるが、ウルトラマンは機敏に反応して 裏拳を顔面に打ち込んで、振り返りざまの横拳でジラースを返り討ちにした。 怪獣二体を相手にしてむしろ優勢なウルトラマンの様子に、科特隊の目は思わず釘づけになっていた。 「強い……!」 「ええ、すごい強さですね、キャップ……!」 ムラマツとアラシは感心しているが、ハヤタは複雑な表情で自分以外のウルトラマンの 戦いぶりを見上げていた。 「テェェェイッ!」 ウルトラマンはガボラを飛び越えて背後に回り込み、その身体を鷲掴みにして真上に放り投げた。 「ゲエエオオオオオオ!」 「ハァァァァァッ!」 ウルトラマンはジャンプして空中でガボラをキャッチし、真っ逆さまに地面に叩きつける パイルドライバーを決めた。ガボラはこの一撃によって絶命し、地面の上に横たわる。 「ピギャ――――――!」 ガボラを倒したウルトラマンにジラースが突進していくが、ウルトラマンはそれをいなした上で、 エリマキに手を掛けて引き千切った。 「ピギャ――――――!?」 首に手を当てて、エリマキがなくなったことに慌てふためくジラース。ウルトラマンは 千切ったエリマキを投げ捨てると、トサカに手を伸ばして……何と取り外した! 「あれ取れるのか!?」 えぇッ! と驚くアラシとイデ。ウルトラマンは取り外したトサカを逆手に持ち、ジラースに 向かってまっすぐ走っていき……。 「セェアッ!」 喉元にトサカを走らせて切り裂いた。トサカは刃だったのだ。 ジラースは口の端からツゥッと血を垂らし、前のめりにばったりと倒れ込んだ。 「シェアッ!」 圧倒的な実力で立て続けに怪獣二体を撃破したウルトラマンは、両腕を天高く伸ばして 空に飛び上がり、どこかへと飛び去っていく。 科特隊は突然現れ、風のように去っていくもう一人のウルトラマンの後ろ姿を、呆然と 見送っていた。 ……ウルトラマンゼロから元の姿に戻った才人は、山の中腹からそんな科特隊の様子を 見下ろしていた。 『とりあえずは危機回避だな。こんなところでウルトラマンに死なれてたら、いきなりアウト だったぜ』 「ああ。それにしても、本の中とはいえ、あの最初の地球防衛隊、科学特捜隊の人たちと こうして出会うことになるなんてな……。夢みたいだよ」 そう、ここか本の世界。才人は『古き本』の一冊目、『甦れ!ウルトラマン』の中に入ったのだ。 そして本文が途切れていた箇所、科特隊の窮地を救ったのであった。 史実ではウルトラマンはゼットンに敗れた後、やってきたゾフィーとともに光の国に帰った のだが、この作品は「もしもウルトラマンが帰らず、地球に残っていたら」のifを書いたものの ようである。 感慨深げに科特隊のムラマツ、アラシ、イデを順番にながめた才人だが、『フジ』に目を 留めて微妙な笑みをこぼした。 「……けど、その中にルイズが混じってるのが、意識が現実に引き戻されるような感覚がするな」 『正直、あの制服ルイズに似合ってねぇよな』 そう、科特隊の紅一点、フジ隊員の姿は、ルイズのものに置き換わっているのだった。 それが、ここが現実の世界ではない何よりの証拠である。そして見た限り、ルイズは すっかり『フジ』の役回りになり切っているようで、周りも別人になっていることに 気づいていないようであった。 『まぁそれは置いといて、こっからこの本を完結させるために頑張らねぇとな。まずは、 本来のウルトラマンに奮起してもらわねぇと』 「ああ。俺たちが怪獣を全部やっつけるってのは駄目だって話だったしな」 ゼロと相談している才人がふと気配を感じ、顔を上げた。 「……そのご本人が、向こうからいらしたな」 才人の元に、ウルトラマンことハヤタが歩いてきたのだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9462.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百六十一話「ガリア王国の大決戦」 死神 最強合体獣キングオブモンス 巨大顎海獣スキューラ 骨翼超獣バジリス 破滅魔虫カイザードビシ 登場 「グギャアーッ! グギャアーッ!」 『はぁぁぁッ!』 『せいッ!』 『うらあぁぁぁぁッ!』 ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーの三人はカイザードビシの大群に対し、 勇猛果敢な戦いぶりを見せつける。片っ端から各々の必殺攻撃を決め、爆砕し撃破していく。 だがどれだけ倒そうとも、一向にドビシの群れが減る気配はない。屈強なる戦士たちも 徐々に疲労が見え始め、じりじりとカイザードビシに押されるようになってしまう。 「グギャアーッ!」 『ぐわああああああッ!』 複数のカイザードビシの光線の砲火がミラーナイトたちを襲い、三人は爆発に呑まれて 絶叫を発した。 『みんな! くッ……!』 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 一瞬仲間たちの方へ振り向いたゼロだったが、助けに行くことは出来なかった。彼も キングオブモンス、スキューラ、バジリスの三体を同時に相手していて、とても手を離せる 状態ではないのである。 「セェアッ!」 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 ゼロの鋭い拳がキングオブモンスに打ち込まれるが、キングオブモンスはあっさりと弾き 返した。元々「ウルトラ戦士を上回る怪獣」として設計された大怪獣であるので、そのパワーは 並大抵の怪獣とは比較にもならないほどなのだ。 「キイイィィッ!」 「キ――――――――!」 キングオブモンスに押されたところにスキューラの突進と飛行するバジリスの光球爆撃を 食らい、ゼロは悶絶。 『ぐおおうッ!?』 一体だけでも手強い怪獣が三体も集まれば、ゼロの苦戦はむしろ当然の話であった。 「くッ……!」 才人もまた、ゼロたちの苦闘に顔を歪めていたが、彼も彼で全ての元凶たるジョゼフに 意識を集中しなければならなかった。 しかし、憎いほどの相手を前にしているというのに、才人は当惑を覚えていた。それは、 ジョゼフの表情があまりに空虚であるからだった。タバサを散々いたぶり、苦しませた男と 聞いて、悪魔のような人間だと想像していたのに……長身の体躯に反して、ちっぽけな人間の ようにすら見えるのだ。 だがどんな相手であろうと、今起きていることは止めさせなくてはならない。才人は己に 活を入れ、パラライザーの銃口をジョゼフに合わせた。 「その石から手を離せ! 怪獣たちを止めろ!」 脅しを掛ける才人だったが、ジョゼフはまるで聞こえていなかったかのように才人を評し始める。 「まぶしいくらいに、まっすぐな目をしている。全く顔は違うが、どことなくシャルルに 似ているな。おれにもお前のような頃があった。大人になれば、己の中の正義が、心の中の いやしい劣等感を消してくれると思っていた。だが、それは全くの幻想に過ぎなかった」 才人には、ジョゼフの独白につき合っている時間はない。ジョゼフの石を握る手を狙って パラライザーを撃つ。 しかし光線は、空を切った。突然、本当に突然、ジョゼフの姿が消えたのだ。 「なッ!?」 「こんな技を、いくら使えたからと言って、何の足しにもならぬ」 ジョゼフの声は背後からした。才人は振り向きざまにデルフリンガーを一閃したが、ジョゼフの 姿はマストの上にあった。 才人は、カステルモールからの手紙の最後の一文を思い出していた。ジョゼフは、寝室から 一瞬で中庭に移動してのけたという。 「この呪文は“加速”というのだ。虚無の一つだ。なにゆえ神はおれにこの呪文を託したので あろうな。まるで“急げ”とせかされているように感じるよ」 技の正体を、ジョゼフ自ら口にした。 しかし、原理が分かっても才人にはまるで対応が出来ない。いくら銃を撃ち、剣を振っても、 その瞬間にはジョゼフは別の場所に移動しているのだ。スラン星人を思い出す速度……いや、 それ以上だ。才人の目には、ジョゼフの残像すら映らないのだ。 ジョゼフの魔法は極めて単純だが、それ故に弱点が見当たらない。 「少年、おれにはおれの仕事があるのだ。そろそろ終わりにさせてもらう」 ジョゼフが短剣を抜いた。並みの相手ならば簡単に処理できるようなちっぽけな武器ですら、 ジョゼフが手にしたら急所を確実にえぐる最悪の凶器に変わる。 絶体絶命の淵に立たされた才人。――だが、彼もカステルモールがもたらした情報から、 何の用意もしていなかった訳ではない。 今こそゼロが施してくれた特訓の成果を見せる時だと、才人は己の両目を閉じた。 「ほう、覚悟を決めたか。潔いな」 ジョゼフは才人が降参したものと思ったが、才人は強く否定する。 「違うぜ。これはお前の虚無を破るための技だ!」 「ほう、技だと?」 「俺の生まれた世界には“心眼”って言葉があってね! 掛かってこいジョゼフ! お前の 動きなんか心の目で見切ってやるぜ!」 一瞬で移動するというジョゼフに対抗するために、ゼロが授けてくれた技。それが、フリップ 星人の分身術を破るためにウルトラマンレオが体得した奥義、“心眼”だ! 人間は外部の情報の大部分を視覚から得る生き物であるが故に、目で捉えられないものには 極めて弱いし、視界とは己の前方しかカバーしていない。しかし視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、 かすかな音や空気の流れなどを捉えられるようになれば、相手がどこにいようと幻覚を用いよう とも、一切惑わされることはない。常に真実の姿を捉える。これこそが心眼の極意だ! (まぁ論理としちゃあ理には適ってるのかもしれんが、本当にこれが上手くいくのか……?) しかし、才人に握られるデルフリンガーは内心戦々恐々としていた。才人自身も極度に 緊張していることが、柄を包む手の平から伝わってくる。 心眼は、口で言えば簡単に聞こえるかもしれないが、実際にそこまでのレベルに到達するには それこそ超人的な身体能力と精神力が必要となる。ましてや、才人の心眼はこの一日二日程度で こしらえた付け焼き刃だ。更には、超高速で動き回るジョゼフの接近に完璧に合わせたタイミングで 剣を振らないと結局意味がない。依然として才人は圧倒的不利のままだった。 様々な凶悪能力を駆使する敵に、その度に急ごしらえの対応策で立ち向かっていたという レオも、今の自分のような極度の緊張状態にあったのだろうか……と、才人は一瞬感じていた。 「面白い。ならばやってやろう」 ジョゼフが動いたのを感じ取った! その瞬間、才人は己の本能が命ずるままに剣を振り下ろす! ほんのかすかな時間が、永遠とも思える空白に思えた。そして――。 「ぐうおぉッ!?」 「ジョゼフさまッ!!」 短い悲鳴と、ミョズニトニルンの叫び声が耳に入った。才人が目を開くと――短剣を握っている ジョゼフの腕だけが、甲板に落ちているのが見えた。 才人のひと太刀は、見事ジョゼフを捉えたのだ! 「やったッ!」 「よくやった相棒! いやほんとにおでれーたよこれは! 大金星じゃねえか! 虚無に 打ち勝つなんてよ!」 才人もデルフリンガーも歓声を抑え切れなかった。しかしまだ勝った訳ではない。才人は 気を引き締め直して、ジョゼフの足をパラライザーで撃った。これでもういくら加速しよう とも無意味だ。 「お前の負けだ。もう一度言う、怪獣を止めろ。そしてタバサに謝ってもらうぞ」 身体が麻痺して片膝を突いたジョゼフに言いつける才人。最早、どんな愚者が見てもはっきり しているくらいに勝敗は決している。 それでも、ジョゼフは才人に耳を貸さなかった。 「止められん……今更止まれるはずがなかろう。おれは最期の一瞬まで、絶望に向かって進み続ける」 「まだそんなことをッ!」 「ああ、そうだ……。こんなことになってしまうくらいだったら、初めからこうしていれば よかったのだろうな。おれの迷宮に出口がないのならば……おれごと壊してしまえば」 ジョゼフが残った腕で、麻痺していても手放そうとしない赤い球が禍々しく光り出した。 しかもその閃光は、フリゲート艦を覆っている。 才人は途轍もない悪寒に襲われた。 「自爆する気かよ!?」 ジョゼフの反対の腕も切り落とし、無理矢理にでも阻止する! そのために身を乗り出していた才人だったが……いきなりの事態の変化に、思わず足を 止めてしまった。 どこまでも虚ろだった顔のジョゼフが、急にどこか遠い場所に意識を向けたかと思うと…… その目から、ぼろぼろと涙がこぼれて止まらなくなったからだ。 「な……何であんた、泣いてるんだ……?」 訳が分からずについ尋ねかけると、ジョゼフはそれで自分が泣いていることに気がついたようだった。 「泣いてる……? おれは泣いているじゃないか。ははは……。あれほど疎ましく思っていた 虚無が出口を見つけるとは、あっけなく、何とも皮肉なものだ」 才人にはやはり、ジョゼフに何が起こったのかは分からなかった。ただ……誰かの虚無の力が、 ジョゼフの顔に、人間らしい感情をよみがえらせたということは理解した。 ルイズではないだろう。ティファニアも違う。であれば、ジョゼフに魔法を掛けたのは……。 その時に、守備のガーゴイルを破ってタバサたちが艦上に乗り込んできた。聖堂騎士団は すぐさまジョゼフを取り囲んで杖を向けたが、ジョゼフは力なく座り込んだままで、最早反撃の 意志すら見せなかった。 ジョゼフの正面にタバサが立つ。それで顔を上げたジョゼフは、己の被っていた冠を脱いで、 彼女の足元に置いた。 「シャルロット。長いこと、大変な迷惑を掛けた。詫びのしるしにもならぬが……受け取ってくれ。 お前の父のものになるはずだったものだ。それと……お前の母のことだが。ビダーシャルという エルフが、おれの動向の監視のためにまだガリアにいるはずだ。そいつに薬を調合してもらえ。 おれからの最後の命令……いや、頼みだと言ってな」 「……何があったの?」 「説明はせぬよ。お前の父の名誉に関わることだからな。だがもう、終わった。全ては終わったのだ。 おれはもう、地獄を見る必要はなくなった。後は、お前がおれを気の済むように扱えば、それでよい」 ジョゼフは笑みを浮かべて、タバサに首を差し出した。 「この首をはねてくれ。それで、本当に全て終わりだ」 タバサはもちろんのこと、この場の全員が、ハルケギニアを恐怖と混沌で呑み込もうとしていた 悪の権化と思われていたジョゼフの、あまりにも穏やかな様子に、理解が追いつかずに立ち尽くしていた。 そしてタバサは、父を殺した憎い仇の首を前にして、 ザンッ、と鈍い音が響き、ジョゼフの首が甲板に転がった。 「……!?」 噴き出た鮮血が、ジョゼフの正面に立っていたタバサの頬を濡らした。しかしジョゼフの 首を落としたのは、彼女ではなかった。 禍々しい光刃がギロチンとなって降ってきたのだ。驚愕した才人たちが見上げると、崩れ落ちた ジョゼフの胴体の上方には、死神が浮遊していた。 「何だあいつ……!?」 「気をつけて! あれこそが、ジョゼフの裏にいた真の敵……真の悪ですッ!」 既に死神の底知れない敵性を見抜いているアンリエッタが警告を飛ばした。 その死神は、アンリエッタに向けていた侮蔑はそのままに、表情を憤怒に染めてジョゼフの 遺体を見下ろしていた。 『下らないッ! 実に下らない! 我々が世界を滅する力を与えてやって、望みを叶えてやろうと したというのに! ここまで来ておいて、終わっただと!? やはり人間なんぞに任せたのが間違い だった! 肝心なところで役に立たんッ!』 「ジ……ジョゼフ様ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 麻酔が薄れてきたミョズニトニルンがあらん限りの絶叫を発した。死神は彼女も含めて、 この場の人間たちに汚物でも見るかのような冷え切った目を向けた。 『人間ッ! 宇宙の病原菌ども! ゴミ屑! 見るも汚らわしい汚泥風情がッ! 貴様らが 吐息をする度に虫唾が走るッ! 最早貴様らの悪臭には我慢がならんッ!』 「な、何言ってやがんだ、あいつ……」 死神が怒濤のように発する侮辱の言葉の数々に、才人たちはむしろたじろいでいた。恐怖の 視線を集める死神は両の腕を掲げ、諸手に暗黒の力を宿す。 『こうなれば我々が直々に貴様らをこの世から残らず消してくれる! 一匹たりとも、生かしては おかんッ!!』 そして死神から闇の波動が飛び、それがカルカソンヌを襲う怪獣たちに浴びせられ―― 怪獣たちの勢いが強まった! 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 「キ――――――――!」 「キイイィィッ!」 「グギャアーッ! グギャアーッ!」 怪獣たちは急激に高まった暴力によって、ゼロたちをはね飛ばす。 『ぐわあぁぁぁぁッ!?』 キングオブモンスのぶちかましで地に叩きつけられたゼロのカラータイマーが赤く点滅し出した。 「ぜ、ゼロッ!」 死神の力によって強力化した怪獣に窮地に追い込まれた仲間たちの姿に、才人が叫び声を上げた。 その頃、マルチバースの一つの内にある地球では、藤宮博也が再び高山我夢の研究施設を 訪ねていた。 「藤宮!」 「我夢……俺が来た理由は、もう分かってるだろう」 格納庫で我夢の前へとやってきた藤宮のひと言に、我夢はうなずき返す。 「ああ。君のアグレイターも、これと同じように光り出したんだろう?」 我夢が取り出したのはエスプレンダー。それと同じ変身アイテムである藤宮のアグレイターも、 ランプ部分が明滅を繰り返した。 「この反応は、遂に僕たちが必要とされる時が来たということだ。このアドベンチャーもね」 照明に照らし出されているアドベンチャー二号を見上げる我夢。アドベンチャーは既に 完成しており、整備も万全だ。いつでも発進できる状態にある。 「すぐに行こう。時間の猶予はないみたいだ。この光が、俺たちを導いてくれる」 「ああ。でも藤宮、玲子さんには挨拶してきたのかい?」 二人乗りに改造しておいたアドベンチャーに乗り込みながら尋ねた我夢に、藤宮は苦笑 しながら返した。 「すぐに帰るとだけな。俺たちは死にに行くんじゃないからな」 それに我夢も苦笑を浮かべた。 「それはそうだ。僕たちは、世界を救いに行くんだからね!」 我夢と藤宮が乗り込むと、アドベンチャーが機動。機体両脇のホイールを高速回転させて 時空間のひずみを作り出し、時空と時空の境の超空間に入り込む準備を行う。 『行ってらっしゃいませ、ガム、フジミヤ』 時空を超えた旅に出る二人を見送るのはPALのみ。しかし我夢たちにはそれだけで十分であった。 彼らは、必ずこの世界に帰ってくるのだから。 「行ってくるッ!」 我夢の返事を合図として、アドベンチャーは空間の壁を超えて別世界へと移動していった。 死神の魔力によって怪獣の暴威が激化したことで、タバサはジョゼフから転げ落ちた赤い 球へと駆け出した。 (あの球は……!) 見覚えがある。大きさや形は違えども、ファンガスの森を怪獣だらけにしたという、あの球と 同じものに違いない。ならば、あの時のように怪獣を倒す勇者――ウルトラマンを呼ぶことが 出来るはずだ。ゼロたちのピンチを救うには、それ以外方法がない。 しかし、タバサの手が触れるその寸前に――赤い球は死神の魔力をぶつけられ、消滅してしまった。 「あッ……!?」 『思い通りにさせるものか、馬鹿めが! 一度出したものを消す機能はないが、『奴ら』を 呼び出されるようなことは絶対にあってはならんからなッ!』 タバサの希望を消し去ってしまった死神は、地上のキングオブモンスに向かって命令を飛ばす。 『そして貴様らにこれ以上余計な真似はさせん! さぁ、やれぃッ!』 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 バジリスとスキューラがゼロを抑えつけている間に、キングオブモンスがフリゲート艦に 向けてクレメイトビームを発射! フネは一瞬にして木端微塵にされた! 「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――ッ!!」 当然才人たちは空中に投げ出される。シルフィードや聖堂騎士のペガサスらが慌てて放り 出された人たちを受け止めていくが、そこにバジリスが光球を撃ち込もうとしている。 『やめろぉぉッ!』 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 必死に止めようとしたゼロだが、キングオブモンスの尻尾に殴り飛ばされた。 『ぐわぁぁッ!』 バジリスは光球を発射! 才人たちを受け止めたところのシルフィードたちは、とても かわす余裕がない! 誰もが絶望する、そんな状況であったが、ルイズは決してあきらめなかった。 「こんなところで、わたしたちは終われない! 奇跡よ起きてッ!」 呪文の一文字目すら詠唱する暇もないが、それでもルイズは自分の杖を振り下ろした。 「光よぉぉぉぉぉッ!!」 その刹那、杖にまばゆい光が生じた――。 エスプレンダーとアグレイターの光の波長が導く先へと目指しているアドベンチャーの機内で、 我夢と藤宮の手にしているその二つのランプが、完全な輝きを発した。 「! 我夢ッ!」 「ああ! 行こう藤宮ッ!」 二人は本能的に、変身アイテムを手にする腕を伸ばして、持てる限りの声と力で叫んだ。 「ガイアアアアァァァァァァァァァァッ!!」 「アグルルウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」 バジリスの光球が才人たちへと飛んでいく、まさにその時、空の一角にワームホールが開かれた。 『何ッ!?』 驚愕する死神。そのワームホールからは、彼にとって忌々しい赤と青の二つの光が飛び出して きたからだ。 二つの光は光球にぶつかることで消し去り、才人たちを救った。 「あの光は!?」 赤と青の光に、才人たちも、ゼロたちも一瞬目を奪われた。 二つの光は破壊される街の中心に急降下していき、二人の巨人へと変身する! 「デュワアッ!」 「オアァァッ!」 盛大に土砂を巻き上げながら、大地に力強く立ち上がった赤と青の巨人。タバサはその 赤い方の姿を、今になってもしかと記憶に刻み込んでいた。 「あの時の……ウルトラマン……!」 『ウルトラマンガイア! ウルトラマンアグル!』 ゼロが名前を叫んだ。彼らは、死神が属する宇宙の悪魔、根源的破滅招来体から地球という 命の星を護り抜いたウルトラ戦士たち。我夢と藤宮が今一度変身を遂げたガイアとアグルである! 「赤い球がなくても……助けに来てくれた……!」 タバサは再び遠い世界から助けに駆けつけたガイアに、強い感動を覚えた。 「デュワッ!」 ハルケギニアの地に降り立ったガイアとアグルは、即座にクァンタムストリームと青い光球、 リキデイターをカイザードビシに繰り出した。 「グギャアーッ!!」 二人の攻撃は、数体もいたカイザードビシを瞬く間に燃やし尽くして全滅させた! 『すげぇ……!?』 ガイアとアグルの攻撃の威力に仰天するグレンファイヤーたち。だが二人の力は、こんな ものではなかった。 『行くぞ、藤宮!』 『ああ!』 ガイアとアグルは互いの手の平を重ね合わせ、エネルギーを統一させる。そして反対側の手を ピンと伸ばし、ドビシが埋め尽くす空に光線を発射した。 二人の絆の象徴、合体光線タッチアンドショットが、一発でドビシの群れを焼き払って 空に本来の青い色を取り戻した! 「そ、空が晴れた! すごい!」 ルイズたち人間は皆、ガイアたちの想像をはるかに超えるパワーに驚嘆する他なかった。 奇跡の巨人ウルトラ戦士といえども、一瞬にして空を取り返すほどだとは! 「すげぇぜ、ガイアとアグル……! 『俺たち』も、負けてられねぇ!」 感動した才人はシルフィードの背の上で、ゼロが置いていったウルトラゼロアイを自分の 顔面に取りつける。 「今行くぜゼロ! デュワッ!」 才人の身体も光に変わり、ゼロの元へと飛んでいって彼のカラータイマーと融合する。 その瞬間、才人のエネルギーによってカラータイマーの色も青に戻った! 『助かったぜ、才人!』 一気に力を取り戻したゼロはまず、カイザードビシを延々抑え込んで満身創痍のミラーナイト たちのところに回る。 『ありがとうな、お前ら! ここから先は任せてくれ!』 『分かりました……! ウルトラマン、あなた方に託します!』 『我々の分も頼んだぞ!』 『これで負けたら承知しねぇからな!』 ミラーナイトたちはゼロたちウルトラ戦士を信じて撤退していく。そしてゼロは、ガイアと アグルの元へと駆け寄って二人と並んだ。 『よく来てくれたな、ほんと助かる! ガイア、アグル、一緒にこの星を救ってくれ!!』 ゼロの呼びかけにガイアたちはしっかりとうなずいて応じ、キングオブモンス、バジリス、 スキューラに向けて構えを取る。 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 「キ――――――――!」 「キイイィィッ!」 三大怪獣は正面からウルトラ戦士を迎え撃つ姿勢だ。 計り知れない闇の力によってどうにも、こうにも、どうにもならない状況だったのを見事 逆転したガイアとアグル。しかしハルケギニアの明日を巡るガリア王国の大決戦は、まだ 始まったばかりなのであった! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔