約 1,746,360 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/917.html
前ページ次ページゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐ 虚無の曜日、トリステイン魔法学院に帰ってきたタバサは自分の部屋で本を読んでいる。 あの後、発狂寸前のイザベラがタバサに与えられた任務の内容はオーク鬼の大群の討伐であったが、タバサは何もせずに学院に戻っていた。 今頃、タバサの指示に従いギャオス達がオーク鬼達を一匹も残さず骨ごと食い尽くしているだろう。 ギャオスが召喚されてからも、世界の流れに特に変化はなかった。 タバサに与えられる任務の数が激減したり、 平民と二股の決闘を見物していたギャオス達が真似をして学院が半壊したり、 ハルケギニア中の吸血鬼達がどこかへ逃げ出したり、 コルベール先生が実験のためと卵を勝手に持ち出し超音波メスの雨を浴びたり、 ガリアのリュティス魔法学院が謎の巨大鳥の襲撃に会い壊滅したり、 ギャオス達の食べっぷりにマルトーが感激したり、 近くの森から生物が消えたり、 他の生徒の使い魔達が失踪する事件が相次いだり、 オスマン氏のセクハラが過激になったり、 ギャオスの群れの総数が200匹を超えたりというようなことはあったが、タバサの日常には変化がなかったため特には問題はない。 サイレントによって周囲で暴れてるギャオスの幼体達の鳴き声を意識から消し、タバサは読書を楽しんでいる。 タバサにとって、この時間は至福のときである。 ―― 始祖ブリミルが、お前の名は何かとお尋ねになると、それは答えた。我が名は ―― 次のページへ進もうとすると、部屋の扉がゆっくりと開かれた。 タバサは侵入者に気付いたが本から目を離さない。 見知らぬ人物が入ってきたら超音波メスで帰ってもらうように指示しているからだ。 しかし、入ってきたのはキュルケであったため、超音波メスは放たれない。 その様子に気づき、タバサはしかたなくサイレントを解く。 「タバサ。今から出かけるから早く支度してちょうだい」 キュルケは小声で話しながらタバサの手から本を取り上げる。 あまり大声で騒ぐと幼体達が暴れだすからだ。 「虚無の曜日」 タバサは短くぼそっとした声で自分の都合を友人に述べ、それで十分であると言わんばかりにキュルケから本を取り返そうと手を伸ばす。 だがキュルケは高く本を掲げる。 背の高いキュルケがそうするだけで、タバサは本に手が届かなくなる。 「わかってるわ。あなたにとって虚無の曜日がどんな曜日だか、あたしは痛いほどよく知ってるわよ」 その理由は、実際に一度超音波メスを受けているからなのだが。 「でも、今はね、そんなこと言ってられないの。恋なのよ、恋」 タバサは首を振った。 どうしてそれで自分が行かねばならぬのか、理由がわからない。 「そうね。あなたは説明しないと動かないのよね。 ああもう!あたしね、恋したの!でね?その人が今日、あのにっくいヴァリエールと出かけたの!あたしはそれを追って、二人がどこに行くのか突き止めなくちゃいけないの!わかった?」 タバサは首を横に振る。 まだ理由がよくわからない。 理由がわからない以上受けるわけにはいかない。 それは失礼というものである。 「出かけたのよ!馬に乗って!あなたの使い魔軍団なら追いつけるのよ!助けて!」 そう叫んでキュルケはタバサに泣きつき、ついでに幼体達も騒ぎだした。 ようやくタバサは頷く。 ギャオス達じゃないと追いつけないなら仕方がない。 「ありがとう!じゃ、追いかけてくれるのね!」 タバサは再び頷く。 キュルケは大切な友人である。 友人が自分にしか解決できない頼みを持ち込むならばしかたがない。 面倒だが受けよう。 タバサは窓を開け、口笛を吹く。 それ聞き、すぐに学院のあらゆる場所からギャオス達が飛んでくる。 「……いつ見ても、あなたの使い魔軍団は凄いわね」 ギャオス達に囲まれ姿が見えなくなったタバサを眺めつつキュルケが呟く。 ふと、疑問に思ったことがある。 「そういえば、こいつらに名前あるの?」 その疑問にタバサはすぐに答える。 「この子はシルフィード」 タバサが目の前のギャオスに視線を向ける。 「この子はアベル」 そのまま隣のギャオスに視線を向ける。 「あの子はコーウェン」 さらに他のギャオスに視線を向ける。 「その子はポルタン、そっちの子はツクヨミ、その下の子はピアデゲム、あの三匹はアマテラスとパルパレーパとスティンガー、その隣の子はジェイデッカー、向こうの子はメガトロン、そこの群れは右からヒルメ、ピサソール、マイトガイン、ゴルドラン、ゾヌーダ、タケハヤ」 「よ、よく見分けがつくわね……」 そんな二人を乗せ、シルフィードと呼ばれたギャオスは飛び上がった。 「馬二頭と人間二人、絶対に食べちゃだめ」 タバサは「絶対に」を強調しつつ目的を伝える。 ギャオス達はタバサに了解の意を伝えると、その翼を羽ばたかせ、巨大な群れ全員で目的の二人、ルイズと才人を探し始めた。 その後、トリステイン城下は大パニックに陥るのだが、町にいる間『イーヴァルディの勇者王』を読んでいたタバサには関係のない話である。 前ページ次ページゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9111.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十四話「凶刃の侵略者」 光波宇宙人リフレクト星人 高速宇宙人スラン星人 奇怪宇宙人ツルク星人 暗闇宇宙人カーリー星人 登場 マグマ星人率いる宇宙人軍団を撃退した翌日、ルイズ、才人、シエスタ、そして春奈の四人は、 パトロールのためにトリスタニアの街の捜索を行うことにした。侵略者たちの破壊工作の目的が 不明な以上、今日もまた敵が爆破騒ぎを起こすかもしれないからだ。 「あの憎き侵略者たち、また現れたら、今度はとっ捕まえて何の目的があるか吐かせてやるんだから!」 ルイズは俄然張り切っているが、才人はそれをなだめるように言い聞かせる。 「あんまり血気に逸って、無茶するんじゃないぞ。まだ侵略者たちに、どれだけの戦力が あるか分からないんだ。昨日みたいに、戦いに優れた奴が出てくるかもしれない。いつも 無事に勝てるとは限らないんだぜ」 「何よ、その言い方。わたしを子供扱いするつもりなの!?」 才人の物言いにルイズは、興を削がれたような気分になって不機嫌になった。 「実際、宇宙人からしたら子供みたいなもんだろ。敵はそれだけ恐ろしいんだ」 「な、何よぉ! ご主人さまの力が信じられないって訳!?」 「だから、油断をするんじゃないってことを言ってるんだって――!」 「お二人とも、落ち着いて下さい。天下の往来ですよ……」 些細なことで言い争いになるルイズと才人を、シエスタが慌てて止める。その構図に、 水筒の水をあおった春奈はハァとため息を吐いた。 「ふぅ……こんな調子で大丈夫なのかな……?」 ぼやきながら、ふと視線を脇へそらすと、突然目を見開いた。 「あッ、あの鞄!?」 と発すると、急に踵を返してどこかへ走り去っていこうとする。 「えッ!? ハルナさんどちらへ?」 「ち、ちょっと! ハルナ、どうしたの?」 当然ルイズたちは驚き、すぐに春奈の背中を追いかける。才人が一番に追いつくと、 何事か問いかけた。 「どうしたんだよ春奈? いきなり血相抱えて」 春名はそれの、すぐに返答した。 「わ、私のバッグを持っていた人がいたの!」 「バッグ? それがどうしたのよ?」 ルイズには鞄に執着する理由が読めなかったが、春奈はそれについてこう語る。 「ただのバッグじゃないの。……私がこの世界に連れてこられた時に、持ってきていた 唯一のバッグなの!」 地球からの春奈の持ち物を持っていた人がいたという。その証言に驚く才人。 「そ、それを早く言えよ。どっち行ったんだよ! そのバッグを持った奴って!」 「ええと……。あ、あっちの方!」 焦る春奈は、鞄を持っているという者の後ろ姿が路地裏に入っていくところを目にして、 自身もその路地裏に入っていく。才人たちは出遅れてしまった。 「ま、待てって春奈! 罠かもしれないんだぞ!」 追いかけながら警告したが、もう遅く、気がつけば春奈も見失ってしまい、無人の裏通りに 迷い込んでしまっていた。 「く、くそう! どこ行ったんだよ!」 「ハルナさん、一人で大丈夫でしょうか……?」 才人とシエスタが周囲に目を走らせて春奈の姿を探していると、突然ゼロが声を上げた。 『ちょっと待て。様子が変だぜ』 「え?」 『まずいな……。罠に掛かったのは俺たちの方だったみたいだ。囲まれてやがる!』 『キエエエエエッ!』 ゼロの言葉の直後に、通りの陰から、丸いシルエットが三人に飛び掛かってきて、剣を 振り下ろしてきた。 「危ないッ!」 「きゃッ!?」 才人が反射的にデルフリンガーを抜いてルイズとシエスタをかばい、影の剣を防御した。 丸い影は背後へ下がり、石畳の上に着地する。 『フッフッフッ、地球人のくせに私の剣を受け止めるとは、なかなかやるものですねぇ』 影の詳細な姿が、白日の下に晒される。いくつものトゲが生えた銀色の丸いボディに、 手足が生えているという、一見するとコミカルな姿だが、トゲや手の甲から伸びる剣は 紛れもない凶器だった。 「何あの、ウニみたいな奴!」 『お前は、リフレクト星人!』 ゼロは宇宙人のことを知っていた。過去にウルトラマンメビウスがなすすべなく敗れたことがある、 強敵武闘派宇宙人、リフレクト星人だ。 『如何にも、私はリフレクト星人。下等な虫けらの諸君、御機嫌よう。もっとも、すぐ お別れすることになりますがね』 「む、虫けらですって!?」 リフレクト星人の口ぶりとは正反対の無礼さに、ルイズがプライドを傷つけられて憤怒した。 が、リフレクト星人は構わずに続ける。 『それと、連れの者たちも紹介しましょう。出てきなさい!』 「グウオオオオオ!」 ルイズたちのいる場に、細身のシルエットがどこからともなく飛び出てきた。だが新手の影は、 移動スピードが信じられないほど速く、ルイズやシエスタの目では残像しか捉えられなかった。 才人がウルトラゼロアイで射撃するが、新手は難なく回避し、三人の背後に来てようやく停止する。 「キュキュウーイ!」 「ファア―――!」 敵はそれだけではなかった。更に左右から、両手に刃を生やした怪人と両肩に三日月状の とがった角を取りつけた怪人の二人が襲い掛かってくる。 「きゃああッ!」 「ぐぅッ!」 さすがに二人同時の攻撃は防御し切れない。才人を含め、ルイズたちは咄嗟に転がって、 向かってきた刃をかわす。才人は端末で、新たに出現した敵三人の情報を引き出した。 「スラン星人! ツルク星人に、カーリー星人!」 どれもが攻撃性の高い、凶悪な宇宙人だ。才人たちは四人もの宇宙人に囲まれてしまい、 逃げ場を失ってたじろいだ。そんな中で、リーダー格であるリフレクト星人が口を開く。 『あなた方のことはよく聞いてますよ。つい昨日も、我々宇宙人連合の計画を妨害してくれたとか。 そういうことですので、まずは邪魔者を片づけてからゆっくりと計画を遂行するために、私たちが 派遣されたという訳です』 「くッ、先に俺たちを狙うことにしたのか……!」 脂汗を浮かべて歯軋りする才人。この状況はまずい。狭い空間に敵が四人など、この場で ゼロに変身したとしても、ルイズとシエスタを守り切れるかどうか分からない。 『雑談はこのくらいにしましょう。さっさと仕事を片づけさせてもらいますよ!』 リフレクト星人たちは考えを練る時間も与えてくれずに、四人一斉に飛び掛かってきた。 それで才人はいちかばちか、ゼロアイで変身しようとする。 その瞬間に、頭上から火炎と氷の槍が宇宙人たちに降りかかり、足を止めて才人たちの窮状を救った。 『何!? 誰だッ!』 リフレクト星人が顔を振り上げると、彼らの上空に、一匹の風竜が漂っていた。そして その背の上に乗っているのは、もちろん……。 「キュルケ! タバサ!」 「ハァイ、ルイズ。あなたたちは、いつもピンチの真っ只中にいるわね」 「間一髪」 いつものキュルケとタバサのコンビだ。ルイズがすぐに尋ねかける。 「もう大体予想つくけど、どうしてここにいるのよ?」 「そりゃもちろん、あなたたちが王宮に呼び出されて、日付が変わっても帰ってこないから、 また面白そうなことに関わってると思って……」 「グオオオオ!」 キュルケが話している途中で、スラン星人がシルフィードへと光弾を発射した。シルフィードは スイッと下がって、光弾を回避する。 「ちょっと、レディの会話をさえぎらないでもらえる? 育ちが悪いわね」 「言っても無駄」 タバサがひと言つぶやくと、キュルケとともに炎と氷の攻撃を宇宙人たちに降り注ぐ。 リフレクト星人は前腕に装着した盾で防ぎ、他の三人は素早く飛びすさってよけた。 『ええい、うっとうしい! 虫けらは虫けららしく、踏み潰してやりましょう!』 キュルケたちの加勢に苛立ったリフレクト星人が高く跳躍すると、スラン星人たちもそれに 続いてジャンプする。 そして四人の宇宙人たちは、40メイル級に巨大化してトリスタニアに降り立った。ツルク星人と カーリー星人は、蜥蜴人間のような容姿に変化までしている。 「もう、ウチュウ人ってすぐこれなんだから! 卑怯じゃない!」 「退却」 瞬く間に各地で悲鳴が沸き上がる中、タバサたちはルイズたちを回収するために一旦降下する。 才人はシルフィードの上にルイズとシエスタを乗せると、彼女らに告げた。 「お前たちは、春奈を探してくれ! あいつも狙われてるかもしれない! 俺はその間、 宇宙人たちを引きつける!」 「無理しないでよ!」 リフレクト星人が迫ってくるので、シルフィードはすぐに飛び立って退却していった。 一人残った才人は、巨大化した剣が自分へ振り下ろされるのを見上げながら、ゼロアイを装着した。 「デュワッ!」 直ちに変身したウルトラマンゼロは、ゼロスラッガーで剣を押し返しながら巨大化し、 リフレクト星人と激しくにらみ合う。 『ウルトラマンゼロォ……! 我がリフレクトの同胞の、ウルトラ一族への恨み、ここで 晴らしてやりましょう!』 『やれるもんならやってみなッ! 二万年早いってこと、教えてやるぜ!』 リフレクト星人と鍔迫り合いするゼロだが、その横からスラン星人、ツルク星人、カーリー星人が 攻撃を加えようとする。 「グウオオオオオ!」 「ゲゴオオオオオオウ!」 「ギャーアーゴ―――!」 スラン星人の手の甲から伸びた刃、ツルク星人の腕の剣、カーリー星人の肩の角がゼロへ差し迫る。 一方のゼロは、リフレクト星人と押し合っていて無防備。ゼロのピンチ! 『はぁッ!』 その時、街の家屋のガラス窓が輝いた。そして銀色の光の中からミラーナイトが飛び出し、 ツルク星人に飛び蹴りを入れる。 『ジャンファイト!』 はるか上空からはジャンボットが降下してきて、スラン星人にタックルを決めて弾き返す。 『ファイヤァァァァ―――――――!』 そしてカーリー星人の眼前にグレンファイヤーが登場し、顔面にパンチを浴びせて突進を止めた。 「あッ! ウルティメイトフォースゼロだぁ!」 トリスタニアのどこかで、子供の喜びの声が上がった。四人の宇宙人相手に、ウルティメイトフォースゼロも 四人全員出動したのだ。 『あなた方のお相手は、私たちがしましょう』 『ゼロにも人々にも、手出しはさせん!』 『さってと、とっとと始めようぜぇッ!』 仲間たちが敵三人を止めてくれたので、ゼロは心置きなくリフレクト星人と対決することが 出来るようになった。ゼロは依然鍔迫り合いしながら問いかける。 『やい! お前ら宇宙人連合は、春奈をこの世界にさらってきたり、爆弾で街を破壊したりして、 何をたくらんでるんだ! 知ってることを話しな!』 すると、リフレクト星人はせせら笑いを返した。 『ふふ、私は知りませんねぇ。作戦はマグマ星人の立案したもの。我々はただ、教えられた役割を 果たすだけ。どういう作戦かには興味がありませんねぇ』 『そうかい……。だったら、もう遠慮はしねぇぜ! ぶっ飛ばすッ!』 甲高い金属音を鳴らして、ゼロスラッガーと剣が離れる。それに合わせるように、ゼロと リフレクト星人も距離を取った。 「ジュワッ!」 後ろへ下がったゼロはエメリウムスラッシュを発射。しかし緑色のレーザーは、リフレクト星人の 丸盾で防御されると、折れ曲がってゼロへ戻っていく。ゼロは上半身を横に傾けてレーザーをかわした。 『ちッ。お前の種族には光線技が効かないっての、ホントなんだな』 『その通りです。光線が武器の輩には、私は天敵なのですよ』 ゼロのつぶやきに、リフレクト星人は自信満々に肯定した。 リフレクト星人の身体は、誘電体多層膜ミラー構造という、光線の吸収率が全くない 特殊な造りをしている。そのため、ウルトラ戦士の必殺光線すら完全に通用しないのだ。 ウルトラマンメビウスはリフレクト星人との初戦時、この特性によって攻撃がことごとく はね返され、完敗を喫したのだった。 だがゼロは、光線技が効かないことにひるみはしなかった。 『光線技が駄目なら、それ以外で倒すだけだぜッ!』 離した距離を再び詰め、ゼロスラッガーで剣戟を繰り広げる。 そう、ウルトラマンレオ直々の手ほどきを受けたゼロは、近接戦闘にも優れている。 メビウスもレオに課せられた特訓の成果により、リフレクト星人を破ったのだ。ならば 同じレオに育てられたゼロが負ける道理はない。 『ふぅんッ!』 だと思いきや、リフレクト星人の剣によって、ゼロスラッガーが両方ともゼロの手中から 弾き飛ばされた。宙を舞ったスラッガーはゼロの頭に戻る。 『何ッ!』 『フッフッフッ。考えが甘いですね。私の剣技はリフレクト星でも随一! 私の方こそ、 近接戦闘を得意としているのですよ!』 驚くゼロに堂々と言い放つリフレクト星人。どうやら、自身の防御性能に慢心せずに、 直接の戦闘能力も鍛え上げているようだ。これは強敵だ。 しかし、それでもゼロは動じない。むしろ逆に、より闘志をかき立てる。 『面白いじゃねぇか! だったら剣での勝負と行こうぜ!』 対抗心を燃やしたゼロは、円盤生物戦の時のように、巨大化させたデルフリンガーを出して 柄を握り締めた。今度は、デルフリンガーでリフレクト星人と斬り合う。 『はぁぁぁぁぁッ!』 『キェェェェェッ!』 ゼロとリフレクト星人が気合いを発し、剣と剣を交えた。 「ゲゴオオオオオオウ!」 『はッ! たッ!』 ゼロがリフレクト星人と戦っている一方で、ミラーナイトはツルク星人の両腕の刀から 繰り出される斬撃をかわしていた。流麗な動きで、見事に敵の攻撃を回避する。 「ゲゴオオオオオオウ!」 『……見た目に反して素早い身のこなしと太刀筋。これは厄介ですね……』 しかし同時に、なかなか反撃に出ることも出来ずに手をこまねいていた。ツルク星人は 両手の刀を交互に繰り出す素早い二段攻撃を得意とする。その連続技の完成度は、実戦経験が 不足で未熟だった頃とはいえ、格闘の達人のレオが一度なす術なくやられたほどなのだ。 だがミラーナイトも技巧派の戦士。連続の斬撃の間のかすかな隙を見つけ、宙返りしながら 高く跳び上がる。 『やッ!』 「ゲゴオオオオオオウ!」 空中からミラーナイフを放つが、ツルク星人が顔面の前で交差した刀に易々と防がれた。 ツルク星人の刀は、切れ味も硬度も天下一品。攻守ともに使える恐ろしい武器なのだ。 「ゲゴオオオオオオウ!」 そして落下してきたばかりのミラーナイトに、その凶器を振るう! ミラーナイトにかわす暇はない! ……が、刀が叩き込まれると、ミラーナイトの姿が粉々に砕け散った。今斬ったのは鏡。 ミラーナイフを防御したことでツルク星人の視界が塞がれた一瞬の間に作った身代わりなのであった。 「!?」 『私はここですよ! はぁッ!』 割れた鏡の後ろから、本物のミラーナイトが飛び出す。そして両手のチョップでツルク星人の 刀と腕のつけ根を打ち、刀をへし折った。ふた振りの刃が宙を舞う。 『とぁッ!』 ミラーナイトはもう一度ジャンプし、舞った刀を指ではっしと掴む。そして落下の勢いを乗せて、 ツルク星人の胸に深々と突き刺した。 『お返ししましたよ』 ミラーナイトが短く告げると、ツルク星人は背後にバッタリと倒れ込んで、そのまま絶命した。 己の自慢の武器が死因となる、皮肉な最期だった。 また他方では、ジャンボットとにらみ合っているスラン星人が、ジャンボットに問いかける。 『ウルティメイトフォースゼロよ、何故この星の人間を守ろうとする。この星の人間に、 守るだけの価値があるのか?』 『何? それはどういうことだッ!』 ジャンボットがきつい口調で問い返すと、スラン星人はこう語り出した。 『このハルケギニアは美しい星だ。だがこの星の人間は、大地を、空を汚し始めている。 星の悲鳴が聞こえないのか』 ハルケギニアは魔法文明なので、工業は地球と比べればほとんど発達していない。しかし 資源の大量採掘や森林伐採、工場の排煙による大気汚染などの環境破壊はゲルマニアなどで 徐々に進行している。いずれは、地球と同じように環境問題に頭を悩ませるようになることだろう。 『その前に、我々スラン星人がこの星をもらい受けることで、この星を救うのだ。星を苦しめる者どもを 守ることに何の価値があるというのだ!?』 と突きつけるスラン星人に、ジャンボットは言い返した。 『侵略行為による救済など、間違っているぞ!』 『何だと!?』 『確かにこの星の人間は、貴様の言うような過ちを犯している。だが人間には、過ちを正そうという 心がある。人間は自らの手で、星を、自身を救えるはずだ。私は信じている!』 惑星エスメラルダを護ってきたロボット、ジャンボットは見届けた。外宇宙から現れた 「ベリアル」という最大の脅威を、人間たちが紡ぐ「光」が打ち破ったことを。その未来を 掴む「光」は、ハルケギニアの人々の心にも宿っているはずだ。 『昨日今日やってきただけの外来者に、この星の未来を語る資格はない!』 ジャンボットに言い切られると、スラン星人は頭をかきむしって憤慨した。 『黙れ、屑鉄ロボットが! 何と言おうと、我々がこの星を頂くのだ!』 『ふッ、どれだけ言葉で飾ろうと、貴様は所詮傍若無人な侵略者に過ぎないのだな! 態度が 物語っているぞ!』 『えぇい、うるさいッ! 我が動きについてこれるかッ!?』 スラン星人は体勢を直すと、超高速で横にスライドし出した。ジャンボットは一瞬にして、 周囲全てをスラン星人の残像に取り囲まれる。 『むッ!? 何というスピードだ!』 「グウオオオオオ!」 スラン星人は超高速移動を行ったまま、両腕から光弾を連続発射する。移動と発射の合わせ技により、 ジャンボットは360度から攻撃を食らう。 『ぐううぅぅぅぅぅぅッ!』 相手のあまりの速さにより、どこから撃ってくるかが見切れず、ジャンボットは食らうがままになる。 しかし鋼鉄のボディと熱い正義の心を持つ彼は、それしきの逆境ではくじけない。 『私は鋼鉄の武人、ジャンボット! その程度の目くらましでは、私は翻弄されないッ!』 レーダーと電子頭脳をフル活用して、スラン星人の動きのパターンを捕捉する。そして 左腕を上げて、相手の残像の一箇所に狙いを定める。 『ジャンナックル!』 ロケットパンチが飛んで、残像の列に飛び込むと、見事スラン星人の実体を殴り飛ばした! 「グオオオオオ!?」 『ビームエメラルド!』 すかさず頭部から発射口がせり上がり、必殺レーザーを照射した。ビームエメラルドは 狙い違わずスラン星人に命中し、一撃で粉々に吹っ飛ばした。 「ギャーアーゴ―――!」 カーリー星人は腰を折って両肩の角を前に突き出すと、その姿勢のままグレンファイヤーへ 一直線に突進を仕掛けた。グレンファイヤーは速く、同時に重い突進攻撃を正面から食らう。 カーリー星人の最大の武器は、角を活かしたこの突進。その威力は、ウルトラマンレオの 巨体を軽々と吹っ飛ばしたほどもある。 『へッ! 今のが体当たりのつもりなのかよ!』 「ギャーアーゴ―――!?」 だが、グレンファイヤーは角をガッシリと掴んで、突進を受け止めていた。捕らえられた カーリー星人は、拘束を振りほどくことが出来ずに慌てふためく。角から電撃を放つも、 それでもグレンファイヤーの手は離れない。 グレンファイヤーはパワー型の熱血戦士。肉体を駆使した正面対決ではカーリー星人の方が、 分が悪かったようだ。 『テメェの突進なんて、ジープなんかと比べりゃちっとも大したことねぇぜ! ファイヤァァァァァ――――――――!』 「ギャーアーゴ―――!」 グレンファイヤーは胸のシンボルを浮き上がらせ、全身を燃え上がらせる。その炎はカーリー星人に 燃え移り、そのまま大爆発を引き起こした。 『へっへーん! ざっとこんなもんよ!』 カーリー星人を爆散させたグレンファイヤーは、頭部の炎をかき上げて見得を切った。 他の三人の宇宙人は倒され、残るはリフレクト星人だけである。そのリフレクト星人は、 ゼロと激しく火花を散らして切り結んでいた。 『うりゃあッ!』 だがゼロがデルフリンガーを大きく振り上げると、それと衝突したリフレクト星人の剣が 半ばからへし折れ、地面に突き刺さった。 『ば、馬鹿な! 私の剣が、人間如きの剣などに!?』 大ショックを受けるリフレクト星人に、ゼロが告げる。 『デルフはただの剣じゃねぇ! 俺たちの仲間だ! テメェの魂のこもってない剣なんかじゃ、 勝てっこなかったのさ!』 『くぅぅ……! こうなったらぁッ!』 武器を失ったリフレクト星人は、突如左腕を避難中の市民たちに向けると、丸盾からチェーンを 発射した。彼らを人質に取ろうという考えだ。丁寧な口調を使いながらも、リフレクト星人も本質は ルール無用の侵略者。追い詰められて、化けの皮を剥がしたのだ。 「きゃあああぁぁぁぁ!」 狙われた市民が悲鳴を上げる。だがチェーンは横から飛んできたゼロスラッガーに弾かれ、 力なく街の狭間に落下した。 『何ッ!?』 『どうせそんなことすると思ったぜ! 見え見えなんだよ、せこい考えがッ!』 そしてこれはリフレクト星人の失策だった。気が市民にそれたことでみすみすゼロに攻撃の チャンスを与えてしまい、懐に飛び込まれてしまう。 そして、リフレクト星人は胴体をZ字に切り裂かれた。 『フィニッシュ!』 『うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!』 リフレクト星人は断末魔を上げ、花火のように爆発四散した。 「やった! ウルティメイトフォースゼロの勝利だ!」 「やっぱりゼロは強いやぁ!」 刺客の宇宙人が全て倒されると、子供たちを始めとして、トリスタニアの人々が歓喜の声を上げた。 それを受けながら、ミラーナイトらがゼロに呼びかける。 『ゼロ、ハルナを探してるところだったのでしょう。早く彼女を見つけてあげて下さい』 『他に敵はいないようだが、伏兵が潜んでいるかもしれない。側にいた方がいいだろう』 『また敵が出たら、いつでも呼んでくれよ! じゃないと退屈だしな!』 『ああ、分かった。ありがとな、お前ら!』 仲間三人が空へ飛び立つと、ゼロは縮小化し、才人の状態に戻っていった。 ゼロから戻った才人は、すぐに春奈と、彼女を探しに行ったルイズたちの捜索に戻った。 「と言っても、春奈たちはどこなんだろうな? シルフィードが飛んでたら、目立っていいんだけど」 戦いが終わったことで、街には人の波が戻ってきた。それに呑まれないように、裏通りを選んで走る。 しかし春奈たちの居場所に見当がつかないので、実際には右往左往していた。 と、そんなところに、噂したばかりのシルフィードと、跨っているタバサとキュルケが近くに飛んできた。 「ダーリーン! ハルナって言ったかしら? その娘を見つけたわよー!」 「本当か!? どこだ、案内してくれ!」 「ついてきて」 タバサの指示通り、才人はシルフィードの後を追いかけていく。そしてたどり着いたのは、 大きな劇場前だ。 「ここって確か、劇場? こんなとこに春奈が……」 つぶやいた才人の目に、早速春奈とルイズ、シエスタの後ろ姿が映る。 「わ、私の大切なバッグなんです!」 先頭に立つ春奈が、見知らぬ女性相手に必死に訴えていた。その女性の手には、日本で 一般的に使用されている通学鞄が握られている。 「何だか穏やかじゃない物言いね。まるで、わたしがこのバッグを奪ったみたいじゃない?」 だが、相手の女性は春奈の訴えを退けようとしているようだった。才人は、女性の容姿をよく確認する。 短い金髪の、顔立ちが整ったかなりの美女だ。だがそれ以上に目を引く部分が、頭頂部に存在する。 その女性は、髪の間から猫のような耳を生やしていたのだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9383.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十五話「バルキー大逆襲」 宇宙海人バルキー星人 スクラップ幽霊船バラックシップ 深海怪獣グビラ 深海竜ディプラス 飛魚怪獣フライグラー 登場 柱に縛りつけられたまま、ルイズはバルキー星人に向かって叫んだ。 「あんたはあの時の……真っ黒鉄仮面ッ!」 『おいこらぁッ! 何だその言い草はぁ! 口の悪いガールだぜぇーッ!』 みょうちくりんな仇名でよばれたバルキー星人が憤慨した。 「そんなことはどうだっていいのよ! それよりあんた、今更出てきて何の用よ!」 ルイズが詰問すると、バルキー星人はビシッと指を突き立てて答えた。 『あの時のラストに言っただろう! 次会う時は、海の怪獣を見せてやると! その準備が 整ったから、約束通りに見せに来たのさぁッ!』 「そんな約束してないわよ! 迷惑よ、帰りなさいッ!」 『やだねーッ!』 ルイズの言いつけをはねのけ、バルキー星人は勝手にまくし立て始めた。 『最近異常にホットな日が続いてただろう? 海はミーの得意フィールド! そこにおびき寄せる ために、ミーが気温をコントロールしてたのさ! 人間はあっつくなると海に来たがるものだからな!』 「あッ! あれあんたの罠だったの!」 『そしてのこのこと海にやってきたお前たちをこのバラックシップの中に捕らえ、ウルトラマン ゼロたちをおびき寄せてミーの海の怪獣たちで始末する! これがミーのグレートな作戦さぁ!』 自慢するバルキー星人に言い返すルイズ。 「何がグレートな作戦よ! 頭おかしいんじゃないの!?」 『ユーが言うんじゃねぇよ! 何だその格好! 露出狂かッ!』 バルキー星人の言う通り、ルイズたちはオスマンが持ってきた、露出の多い水着の格好であった。 まさかこんなことになるとは思っていなかったので。 「これはその……色々あったのよ!」 『ふぅん? とにかく、バラックシップはミーが改造して至るところトラップだらけさ! お前らを助けるために乗り込んできた奴を蜂の巣にしてやるぜー!』 「くッ、卑怯よ! 男なら正々堂々と戦いなさい!」 『知ったこっちゃねぇなー! まぁせいぜい活きのいい感じに助け求めて、餌として役立って くれよぉ! ハハハハハハ!』 バルキー星人はそれだけ言い残して、煙とともにこの場から消えていった。 「あッ、こら! 待ちなさいよー!」 身動きが取れないので足をばたつかせるルイズ。それをキュルケがなだめた。 「落ち着きなさいルイズ。ジタバタしても、体力を消耗するだけよ」 「けど……!」 「悔しいけれど、今のあたしたちにはどうすることも出来ないわ。このロープもギュッと 締まってて全然緩まないし、タバサの杖も取り上げられちゃったし……」 キュルケの言う通り、今のルイズたちは文字通り手も足も出ない状態だ。 「あたしたちの命運は、ウルティメイトフォースゼロやサイトたちに託すしかないわ……」 「……」 達観しているキュルケとは違い、ルイズは己の不甲斐なさにキュッと下唇を噛み締めた。 その頃砂浜では、才人たちが遠見の魔法で海に浮かんだままのバラックシップを監視していた。 「うーむ、今のところは動きを見せないか……。モンモランシーはあの幽霊船の中に引きずり 込まれてしまったのは間違いないんだね?」 「ああ。そこはしっかり確認したよ」 ギーシュの問いかけにマリコルヌが答えると、才人がやや焦った様子で発した。 「今頃ルイズたちはどんな目に遭ってるか……。どうにかあれに乗り込めないか!?」 「しかしサイト、あの幽霊船から突き出てるでかい大砲を見たまえよ」 ギーシュがバラックシップの無数の大砲を指し示した。 「とんでもない数だ。船や『フライ』でのこのこ近づこうものなら、あっという間に消し炭に されてしまうよ。もっと速く飛べるような乗り物でもない限り、無謀すぎる」 「そんなのがどこに……。オストラント号を呼んでる時間なんてないし……」 才人がそう言ったところ、上からブワッと風圧が彼らの身体に掛かった。 「うわッ!」 「きゅいきゅい!」 「パムー!」 見上げると、才人たちの目の前にシルフィードが降下してきた。頭の上にはハネジローが 乗っている。 「シルフィード! そうか、タバサの危機を知ってここまで……!」 シルフィードは主人と使い魔の視界のリンクにより、学院を飛び立って駆けつけてくれたのだ。 ギーシュは喜びの声を上げる。 「風竜の飛行速度と旋回能力なら、砲撃もかわせるぞ!」 うなずいた才人がシルフィードの背の上に飛び乗る。 「あんまり重量を増やしたらシルフィードのスピードが落ちるから、俺一人で行く。みんなは ここで帰りを待っててくれ」 「頼んだぞ、サイト!」 「いつもすまんな、サイトくん。くれぐれも気をつけてくれたまえ」 才人を信頼して託すギーシュとオスマン。そこにレイナールが四本の杖を持って走ってきた。 「ルイズたちの杖だ。宿から取って来たんだ。彼女たちに渡してくれ」 「ありがとう」 才人が杖を受け取ると、シルフィードが翼を羽ばたかせて離陸した。 「よぉし、行くぜシルフィード!」 「きゅいー!」 シルフィードは才人の呼びかけに力強く応じ、バラックシップへ目掛け一直線に加速していった。 才人たちの接近によってバラックシップが早速動きを見せた。大砲がうなりを立ててシルフィードの 方角へ向けられ、一気に砲弾を撃ってきた! しかしシルフィードはひるまず、身体を左右に振って砲弾の間を的確にすり抜けながら 前進していく。期待通りの飛行能力に、才人はぐっと手を握った。 「いいぞ! そのまま船の甲板まで頼む!」 が、ふと海面を見下ろしたハネジローが鋭く警戒の鳴き声を出した。 「パムー!」 「!?」 咄嗟に身をひねらせるシルフィード。それにより、海面を突き破った高速回転する巨大ドリルを 回避することが出来た。危うく串刺しにされるところだった。 「えッ!? ドリル!?」 ギョッとする才人。そしてドリルの下から、巨大生物の本体がせり上がってきた。 「グビャ――――――――!」 「あいつは……深海怪獣グビラ! 他にも怪獣がいたのか……!」 鼻先にドリルを備えた魚型の怪獣の出現に目を見張る才人。しかしそれで終わりではなかった。 「キャア――――――――!」 「クアァ――――――!」 更にコブラのような扇状の鱗を生やしたウミヘビ型怪獣と、羽を持った魚型怪獣が海中より 飛び出してきた。深海竜ディプラスと飛魚怪獣フライグラーだ! バルキー星人の連れてきた 海の怪獣軍団である。 「くッ、まだこんなにも怪獣が……! こいつはやばいぜ……!」 才人も苦悶の表情を浮かべた。ディプラスは触覚から電撃光線を飛ばしてきて、フライグラーは 空中に飛び上がり、シルフィードを追いかけてきた。さすがにこれだけの敵に囲まれては、シルフィードでも かわし切ることは出来ない。才人、絶体絶命の危機! しかしこんな時に助けてくれる力強い仲間たちがいるのだ。ウルティメイトフォースゼロだ! 『はぁぁッ!』 『うらぁぁぁッ!』 『ジャンファイト!』 空の彼方よりこの場に駆けつけたミラーナイト、グレンファイヤー、ジャンボットがそれぞれ グビラ、ディプラス、フライグラーを抑え込み、押し飛ばして才人たちから遠ざけた。 「みんな!」 『怪獣は私たちにお任せを! サイトはルイズたちを救出して下さい!』 ミラーナイトがバラックシップの才人たちへの砲撃をディフェンスミラーでさえぎって、 そう呼びかけた。 「ありがとう! 頼んだぜ、みんな!」 再び前進を開始したシルフィード。ミラーナイトとグレンファイヤーはグビラとディプラスを 押し込んで海中に潜っていき、ジャンボットはジャンバードに変形して陸へ逃げるフライグラーを 追いかけていった。 そしてシルフィードはとうとうバラックシップにまで到着。バラックシップの一部を成している 大型船の傾いた甲板に着地すると、飛び降りた才人がデルフリンガーを抜いてシルフィードに告げた。 「少し危険だけど、ここで待っててくれ。ルイズたちを乗せたら、すぐに飛び上がるんだぞ!」 シルフィードがコクコクうなずくと、才人はバラックシップの船内に向かって潜り込んでいった。 ルイズたちが囚われているバラックシップのコンピューター室を探して、細い通路を走っていく 才人。しかし通路の至るところにはバルキー星人の仕掛けた自動ビームガンの罠があり、才人が 踏み込んできた瞬間に銃口を向けて光線の歓迎を仕掛けてきた。 「おっとッ!」 だが幾度もの戦いを乗り越えて鍛え抜かれた才人だ。ガンダールヴの敏捷さで光線を跳び越え、 くぐり抜け、デルフリンガーの刃で反射して一発ももらわない。 そして光線の雨に恐れずに踏み込んで、ビームガンを片っ端から叩き壊しながら進んでいく。 「相棒、娘っ子たちはどうやら次の角を左に曲がった先みたいだぜ!」 生き物の気配を探ったデルフリンガーが才人に教えた。 「分かった! 待ってろよみんな、今行くぜッ!」 ルイズたちが近いと知った才人はスピードを上げ、通路の角を曲がった先の扉をぶち開けた。 「どっせいッ!」 「サイトぉ!」 一番にルイズが才人の名を叫んだ。ルイズたちに怪我がないことが分かって、才人は一瞬ほっとする。 柱に縛られたままのルイズは才人に警告した。 「サイト、気をつけて! 罠よ!」 「分かってるさ……!」 『はぁーッ!』 次の瞬間に、テレポートしてきたバルキー星人が速攻で空中から剣を振り下ろしてきた。 才人はすかさずデルフリンガーを盾にして、バルキー星人を押し返す。 着地したバルキー星人が間合いを測りながら告げた。 『待ってたぜぇ! ユーだけはこの手で串刺しにしてやるッ!』 「へッ、負けるかよ! 俺だって、お前との決着をつけてやるぜ!」 才人は勇んで挑発を返したが、バルキー星人は不敵な笑みを見せた。 『これでもそんな口が叩けるかなぁー!?』 その指が鳴らされると、コンピューター室の天井や壁からビームガンが多数現れ、才人に 光線を連射してきた。 「くッ……!?」 危ないところで身を翻して光線をかわした才人に、バルキー星人が飛びかかってくる。 『シャアッ!』 「うおッ!」 バルキー星人の剣先が才人の頬をかすめ、切れた皮膚から血が垂れた。さすがに、光線の雨から 逃れながらバルキー星人の相手をするのは苦しすぎる。かと言ってゼロに変身している暇はない。 「汚すぎるわ……!」 憤るルイズたちだが、拘束は緩まないので見ているだけしか出来ない。それがますます悔しかった。 『ハッハー! 今度こそミーの勝ちだぁーッ!』 光線の猛撃を防ぐことで手一杯な才人の隙を窺い、バルキー星人が剣を振り上げ襲いかかろうとする! 「パムー!」 だがその瞬間に、小動物が飛びかかってバルキー星人の顔面に張りついた。 『おわぁーッ!? な、何事だぁー! 前が見えねぇーッ!』 「ハネジロー!」 視界をふさがれて狼狽えるバルキー星人。才人を助けたのはハネジローだった。小さな身体を 活かして、隠れながらついてきていたのだ。 才人はこの機を逃さず、光線を跳び越えてルイズたちを縛るケーブルを切断して六人を救出した。 同時に懐から出した杖を手渡す。 「ほら、お前たちの杖だ!」 「ありがとう、サイト!」 タバサも床に打ち捨てられてあった自身の杖を拾い上げ、五人が素早く呪文を唱えて魔法攻撃を 繰り出し、ビームガンを全て破壊した。 『うげぇッ!?』 ハネジローを振り払ったバルキー星人がこれを目撃してたじろいだ。 才人はルイズたちとともに得物を向ける。 「さぁ、観念しろバルキー星人!」 一気に劣勢に転じたバルキー星人だったが、降参はしなかった。 『シーット! まだだッ! まだ最後の切り札が残ってるぜぇーッ!』 再び煙を発してこの場から消えるバルキー星人。才人が即座に飛びかかったのだが、一歩遅く 逃げられてしまった。 やむなく才人は、ルイズたちの方へ振り返って言いつけた。 「外でシルフィードが待ってる! それに乗って脱出しろ! 俺はこの船をどうにかする!」 「サイトはどうやって逃げるの!?」 事情を知らないティファニアとモンモランシーが才人の身を案じた。才人は安心させるように 笑いかける。 「俺なら大丈夫さ。それより早く! バルキー星人が次にどんなことをしてくるか分からねぇ!」 「でも……!」 「サイトを信じてあげて! さぁ、急ぐわよ!」 ルイズたちがティファニアとモンモランシーの手を引き、ハネジローの先導の下にコンピューター 室から甲板に向かって駆け出していった。 ルイズたちがこの場から脱すると、才人は素早くウルトラゼロアイを出して、顔面に装着した。 「デュワッ!」 そしてルイズたちを乗せたシルフィードが飛び立ってバラックシップから離れると、 ウルトラマンゼロがバラックシップを内側から突き破って空に飛び上がった! 「セアァァ―――――ッ!」 内側から破壊されたバラックシップは爆発の連鎖を起こし、木端微塵に吹っ飛んだ。 バラックシップを破壊したゼロはシルフィードとともに、陸地へと向かって飛んでいった。 海底ではミラーナイトとグレンファイヤーが、グビラとディプラス相手に激しく戦っていた。 『ミラーナイフ!』 ミラーナイトがこちらに猛然と泳いで迫ってくるグビラにミラーナイフを繰り出す。 「グビャ――――――――!」 しかしグビラのドリルは光刃を容易く弾き返した。更にミラーナイトの展開したディフェンス ミラーをも簡単に突き破って、ミラーナイトを突き飛ばす。 『ぐはッ! 恐ろしい威力だ……!』 グビラの一番の武器たるドリルの強力さに舌を巻くミラーナイト。グビラはターンして 再びミラーナイトに迫ってきた。 「グビャ――――――――!」 『……!』 それに対しミラーナイトは、下手に動じずにどっしり腰を構えてグビラを見据える。そして 彼我の距離がギリギリまで縮まったその時、 『はぁぁッ!』 ジャンプしてグビラの軌道から逃れるとともに、すれ違いざまに鋭いチョップをドリルに 叩きつけた。 横向きの力が加えられたドリルは根本から綺麗に折られた! 「グビャ――――――――!?」 グビラはドリルを折られると同時に気力まで折られ、あたふたと慌てるばかりだった。 振り返ったミラーナイトが不敵に告げる。 『ですが、一芸に頼り過ぎましたね』 そして腕を水平に薙いで、とどめの攻撃を放つ。 『シルバークロス!』 十字の刃がグビラを貫通し、グビラは海中で爆散して水泡と変わった。 グレンファイヤーはディプラスの顔面を狙って鉄拳をお見舞いする。 『どおらぁッ!』 「キャア――――――――!」 パンチはクリーンヒットしたが、細長い身体をゆらゆらとうごめかすディプラスは衝撃を逃がし、 さほど効いている様子を見せなかった。 『くっそー、掴みどころのねぇ奴だぜ!』 「キャア――――――――!」 更にディプラスは素早くグレンファイヤーの身体に巻きついて、彼をギリギリと締め上げる。 「キャア――――――――!」 『何! くっそ、こんぐらいでこの俺が参るか……!』 耐えるグレンファイヤーだが、ディプラスはそこに触覚からの電撃光線まで浴びせた。 「キャア――――――――!」 『ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』 この同時攻撃にはタフなグレンファイヤーもたまらず悲鳴を発した。 ……しかし、それでも彼は立っていた! 『面白れぇ……このまま耐久勝負といこうじゃねぇか! ファイヤァァァ―――――――!!』 グレンファイヤーは巻きつかれたままファイヤーコアを滾らせ、己の体温を急激に上げていった! 「キャア――――――――!?」 今度はディプラスの方がたまらなくなって離れようとしたが、細い胴体をグレンファイヤーが 鷲掴みにして逃がさなかった。 『おっとぉ! 掴みどころはちゃんとあったなぁッ!』 そのままどんどんと加熱するグレンファイヤー。やがて熱がピークに達すると、ディプラスの 耐久が限界に来て、瞬時に爆発を起こした。 『へッ、どんなもんだ!』 ディプラスを撃破したグレンファイヤーが高々と見得を切った。 高空では、ジャンバードとフライグラーが熾烈なドッグファイトを展開していた。 『ビームエメラルド!』 「クアァ――――――!」 ジャンバードの銃身から放たれたビームエメラルドと、フライグラーが口から吐き出した 水流波が衝突。相殺され、ジャンバードとフライグラーは羽をぶつけ合ってすれ違う。 『むぅ、やるものだ……!』 うなるジャンバード。しかし彼の電子頭脳はフライグラーの弱点を見破ったのだった。 「クアァ――――――!」 反転したフライグラーがジャンバードに再度水流波を繰り出そうとする。……その直前に、 首元のエラが開かれて空気を大量に吸引する。 『今だッ! ジャンミサイル!』 そのタイミングを狙って、ジャンバードは一発のミサイルを発射。ミサイルは横から回り込んで、 フライグラーのエラに爆撃を加えた。 「クアァ――――――!?」 フライグラーは水流波を放つために、エラから空気を吸引して水分を蓄える。だがそのエラが 弱点でもあったのだ。 バランスを崩したフライグラーは地表にまっさかさまに落下していくが、体勢を立て直して 着地に成功した。 しかしそこに変形したジャンボットが急速に飛びかかってくる! 『ジャンブレード!』 降下の勢いを乗せたジャンブレードが振り下ろされ、フライグラーの身体を袈裟に切り裂いた。 フライグラーは声もなく爆破される。 フライグラーを討ち取ったジャンボットはもう一度飛び上がって、砂浜の方向へ飛んでいった。 ゼロ、ミラーナイト、グレンファイヤー、ジャンボットが順番に波打ち際に着水。すると それを見計らったかのように、バルキー星人が彼らの面前に出現した。 『やるもんだなぁ、ウルティメイトフォースゼロ! あれだけの用意を、あっさりと打ち破りやがって!』 『バルキー星人、いい加減に観念しな! 俺たちに挑もうなんて二万年早かったんだよ!』 人指し指を向けて宣告するゼロ。だがバルキー星人は失笑した。 『言ったよな? まだ切り札があるってな! 今からそれを見せてやるぜぇーッ!』 バルキー星人が指を鳴らすと、海の方から巨大な気配が接近してくるのにゼロたちは気づいて、 咄嗟に振り返った。 『まだ怪獣がいたってのか!』 戦闘態勢を取り直す四人。そして、海面を破って彼らの前に現れた巨大怪獣の正体とは――。 「グアァ――――――――!」 青いゴツゴツとした体表に、頭部に三本の鋭い角、背筋には魚類のもののようなヒレ、 そして顔面に爛々と燃えるように輝く真っ赤な眼を持った怪獣。ゼロたちはこの怪獣が 前に現れると、思わず身震いをした。 『な、何だあの怪獣は……!? 尋常じゃねぇ闇の力をその身に宿してるぜ……!』 四人はバルキー星人が呼び出したのが、ただの怪獣ではないことを察した。野生に生息している 通常の生態の怪獣ではあり得ないような、暗黒の波動を全身から発しているのだ! 『ハーハハハハハハ! サメクジラだと思った? 違うんだなぁこれがーッ!』 バルキー星人が愉快そうに高笑いした。 『ミーもこの星の海底でこいつを見つけた時はブルっちまったぜ! 何とも濃厚な闇のパワーを 持ってやがるからな! それで確信したねッ! こいつなら、お前たちウルティメイトフォースゼロも ぶっ倒せるってなぁーッ!』 バルキー星人が探し出してきた切り札の怪獣――いや、根源破滅海神ガクゾムが、ウルティメイト フォースゼロに対して殺意を向けてきた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9163.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第五十二話「ある教師の墓標」 異次元人ヤプール人 異次元超人カブトザキラー 火炎超獣ファイヤーモンス ミサイル超獣ベロクロン 一角超獣バキシム 蛾超獣ドラゴリー 登場 『うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 「ゼロぉッ!!」 カブトザキラーの放ったM87光線の引き起こした爆発に呑まれたゼロ。絶叫するルイズ。 一方、攻撃を指示したヤプールはけたたましく高笑いする。 『うわはははははははぁ――――――――! 見たか、カブトザキラーの威力を! ウルトラマンゼロ、 今度ばかりは貴様の最期だッ!』 黒煙の中に姿が消えたゼロはどうなったのか。まさか……最悪の想像をしてルイズたちは戦慄する。 『……っはぁッ!』 しかし、最悪の想像は破られた。煙が晴れると、うずくまっていたゼロが雄々しく立ち上がった。 カラータイマーが赤く点滅しているが、まだ倒れてはいない。 ヤプールはゼロを仕留め切れなかったことに舌打ちする。 『ちッ、ウルトラ戦士は本当にしぶといものだな』 『テメェらに言われたくはねぇな、ヤプール!』 ゼロの戦意は折れていない。ゼロスラッガーを両手に握り締めると、カブトザキラーに 猛然と斬りかかっていく。 『うおおおおぉぉぉぉぉッ!』 『メビュームナイトブレード!』 対するカブトザキラーは右腕より濁った色の光剣を伸ばし、スラッガーの斬撃を受け止める。 『せぇぇぇぇいッ!』 ゼロは連続で斬りつける技、ゼロスラッガーアタックで攻めるも、カブトザキラーは巧みな 剣さばきで全ての斬撃を防ぎ切った。更に左手の巨大ハサミでゼロの胸を切り上げて、カウンターを食らわせる。 『ぐはぁぁぁッ!』 ハサミの一撃は強力で、ゼロは吹っ飛ばされて大地を転がった。カブトザキラーは追撃しようと歩み寄るが、 「シェアッ!」 ゼロが倒れたままでビームゼロスパイクを発射。カブトザキラーの胸部のクリスタルに直撃し、 スパークを起こしたカブトザキラーはその場で片膝を突く。 『ぐ、ぐぐ……!』 どうにか一撃を与えることは出来たが、ゼロのダメージも色濃い。起き上がるのも必死な状態になっていた。 苦戦しているのはゼロだけではなかった。他の三人も超獣の絶大な破壊力の前に押されつつあった。 「グロオオオオオオオオ!」 『うぅッ……!』 ベロクロンが口から高熱火炎を吐き出して、ミラーナイトを熱で苦しめる。追い詰められる ミラーナイトの姿が突然割れた。鏡に映った虚像であった。 「グロオオオオオオオオ!」 十八番である鏡のトリックによる奇襲を仕掛けようとしたミラーナイトだったが、ベロクロンは 全身の突起からミサイルを大量に、360度全てに発射。自身を取り囲んだ鏡を全て破壊する。 『うわぁぁぁッ!』 ミラーナイト本体もまたミサイルの爆撃を食らい、地面に投げ出された。すぐに起き上がるが、 ベロクロンの投げつけた光輪で縛られて身動きを取れなくされる。 「グロオオオオオオオオ!」 『あああああああッ!』 ベロクロンは指先からのレーザーで追撃。ミラーナイトはまたも横転した。様々な敵を破った ミラーナイトの鏡の術だが、ベロクロンには通用しないのだった。 「ギョロロロロロロロロ!」 『うおおぉぉぉッ!』 ジャンボットはドラゴリーのぶちかましを食らって倒された。ドラゴリーは超獣の中でも 随一の怪力の持ち主であり、鋼鉄のロボットであるジャンボットでもその打撃を受け切ることは出来なかった。 「ギョロロロロロロロロ!」 ドラゴリーは仰向けに倒れたジャンボットの顔面を鷲掴みにして、首をもぎ取ろうとする。 『ぐわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』 首がメリメリと嫌な音を立てる。ドラゴリーの握力はロボットの彼でも耐え難いほどであった。 ジャンボットはたまらず絶叫を上げた。 「ア――――――――オウ!」 ファイヤーモンスは口からロケット弾を発射し、グレンファイヤーの背面に浴びせかける。 更に反対側からは、バキシムが鼻先と両手よりバルカン砲を連射する。 「ギギャアアアアアアアア!」 『うおぉぉあああぁぁぁぁッ!』 挟み撃ちにされ集中砲火を食らうグレンファイヤーが悲鳴を上げる。と、ファイヤーモンスは 不意に攻撃を途絶える。 「ア――――――――オウ!」 そしてあろうことか、学院の方に歩み寄り始めた! 『まっ、待てこの野郎ッ!』 今は他にファイヤーモンスの進撃を止める者がいない。グレンファイヤーはファイヤーモンスへ 飛び掛かろうとするが、 「ギギャアアアアアアアア!」 そこに身を屈めたバキシムが、頭頂部の角を発射! 『ぐああぁぁぁッ!』 直撃と爆発を食らったグレンファイヤーは撃ち落とされてバッタリと倒れた。 「ギギャアアアアアアアア!」 バキシムは倒れた彼の上に馬乗りになって、トゲの生えた平手で激しく殴りつける。 『うがぁッ! く、くそぅッ!』 グレンファイヤーが止められている内に、ファイヤーモンスが学院の人々に襲い掛かってしまう! 「ア――――――――オウ!」 「い、いやぁぁぁぁッ! 怪獣が来るぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」 中庭で消火活動に当たっていた女子生徒が、ファイヤーモンスに見下ろされたことで恐怖の金切り声を発した。 「皆の衆、学院の中に退避するのじゃ! 早く、早くッ!」 オスマンが急いで呼びかけ、生徒たちを塔の中へ誘導する。しかし、 「アニエス、立ちなさいよ! 逃げないと殺されるわよ!?」 「あ……あぁ……!」 アニエスが未だ腰を抜かしたまま、立ち上がれないでいる。ルイズが何度呼びかけようと、 正気に戻らない。ファイヤーモンスはもうすぐそこまで迫っている。 「もう、しょうがないわね! タバサ!」 痺れを切らしたキュルケとタバサがレビテーションを掛け、アニエスを運搬しようとする。 だが判断が少しばかり遅かった。 「ア――――――――オウ!」 ファイヤーモンスが四人に向けて高熱火炎を吐き出したのだ。 「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 ギリギリ直撃は受けなかったが、爆風によってルイズ、キュルケ、タバサが吹き飛ばされた。 ドテッと投げ出されたアニエスを、ファイヤーモンスが睨む。 「ア――――――――オウ!」 「ひぃッ……!」 アニエスは引きつけを起こしてガタガタ震えるばかり。過去のトラウマを呼び起こされた今の彼女は、 無力な子供同然となってしまっている。 ファイヤーモンスはそんな彼女を容赦なく焼き殺そうと、口を開く……! 「アニエスくーんッ!」 そこに飛び込んできたのは、コルベール。アニエスを背にしてかばい、勇敢にファイヤーモンスに立ちはだかる。 「はッ……!?」 コルベールにかばわれたことで、アニエスはようやく正気に戻った。ダングルテールの虐殺を 引き起こした部隊の隊長に守られているという事実が、彼女の意識をはっきりとさせた。 「やめろッ! わたしの故郷を焼いた貴様に助けられたくはない! わたしの盾になどなるなッ!」 「わたしに助けられたくないのなら、早く逃げなさい!」 アニエスが叫ぶも、コルベールはその場を動こうとしない。 「くッ、何故こんな真似をする! 罪滅ぼしのつもりか!? わたしをかばって、許しを得ようとでもいうのか!」 詰問すると、コルベールはファイヤーモンスから目を離さないまま苦笑した。 「そうかもしれない。だが……きみに死んでほしくないという気持ちだけは、本物のつもりだよ!」 「……!」 それを聞いた時、コルベールの背中を見つめたアニエスは、古い記憶が呼び覚まされた。 ダングルテールが焼き払われた時、幼い自分は瀕死の状態だったが、誰かに背負われて 逃がされたことで生き延びた。その時の背中が……今目の前にあるものと同じだと、本能的に理解をした。 「くぅッ……!」 アニエスの足に力が入り、その場から逃げ出そうとする。 しかしその行動は、わずかに遅かった。 「ア――――――――オウ!」 とうとうファイヤーモンスが地獄の業火を吐き出した! このままではアニエスが焼き殺されてしまう! 「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」 コルベールは残った精神力を全て振り絞って、杖から炎を発した。ファイヤーモンスの火炎を 押し戻して時間を稼ごうというのだ。 そのお陰でアニエスはぎりぎり退避が間に合ったが……コルベールの炎は押し返されて、 彼は業火に呑まれた。 「――ッ!」 コルベールの叫び声が、炎のうねりにかき消される。 「先せぇーいッ!!」 ルイズが、キュルケが、タバサが、オスマンが……アニエスが、唖然となった。 『し、しまったッ!! ちくしょぉうッ!』 ようやくバキシムを突き飛ばしたグレンファイヤーだったが、コルベールが火炎に呑まれたところを 目の当たりにしてしまう。ギリギリと拳を握り締め、怒りの炎を焦がした。 『テメェェェーッ! 許さねぇぞぉぉぉぉぉッ!』 「ア――――――――オウ!」 グレンファイヤーは更なる犠牲者を出そうとしていたファイヤーモンスに背後から掴みかかり、 学院の前から投げ飛ばした。 ファイヤーモンスはすぐに起き上がってグレンファイヤーに火炎攻撃を繰り出すが、 彼は鍛え抜かれた胸板でそれを受け止める。 『何が究極の炎だ! こんなもん、俺の炎でぶっ飛ばしてやらぁーッ!』 グレンファイヤーは全身を燃え上がらせてファイヤーモンスにまっすぐ突撃。炎を纏った 体当たりを食らったファイヤーモンスが赤熱する。 「ア――――――――オウ!」 瞬く間に臨界点を超えたファイヤーモンスは木端微塵に爆散した。一体化したメンヌヴィルも 当然爆死。あまりに呆気ない最期であった。 グレンファイヤーの逆転に当てられたかのように、他のメンバーも猛反撃を行う。 「グロオオオオオオオオ!」 『はぁッ!』 ベロクロンがミサイルを発射しようと口を開けた瞬間に、ミラーナイトがすかさずミラーナイフを放った。 光刃はベロクロンの口内に吸い込まれる。 「グロオオオオオオオオ!!」 その衝撃で体内のミサイルが誘爆。ベロクロンは全身から黒い煙を噴いて立ち尽くした。 『シルバークロス!』 そしてミラーナイトが必殺攻撃を繰り出し、ベロクロンは十字に切断されて跡形もなく爆裂した。 『ビームエメラルド!』 「ギョロロロロロロロロ!」 ドラゴリーに頭部をもがれそうになっていたジャンボットは、一瞬の隙を突いてビームエメラルドを発射。 至近距離から光線を食らったドラゴリーが大きくひるむ。 『よくもいたいけな命を……許せん! ジャンナックル!』 コルベールの犠牲に燃えるジャンボットが飛ばしたパンチは普段以上の勢いで、ドラゴリーの脇腹を ぶち抜いて風穴を開けた。 「ギョロロロロロロロロ……!」 『ジャンブレード!』 フラフラと足元がおぼつかなくなったドラゴリーに、ジャンボットが剣をすれ違いざまに 水平に振るう。それにより、ドラゴリーは逆に首を切り落とされた。 『これで終わりだッ!』 そしてとどめにビームエメラルド。ドラゴリーは徹底的にやられ、粉微塵にこの世から消し飛んだ。 『何だとぉ! くそ、不甲斐ない超獣どもめが!』 立て続けに部下がやられたヤプールは激昂。カブトザキラーに命令を下す。 『こうなれば、ウルトラダイナマイトで辺り一面を消し飛ばしてくれるッ!』 ヤプールの命により、カブトザキラーの全身が赤熱し始めた。自爆してこの場の全員を 抹殺しようというつもりか。 『そんなことさせるかぁぁぁぁぁッ!』 しかし、それをみすみす許すゼロではない。真正面から超速で踏み込み、正拳突きでカブトザキラーを殴り飛ばす。 『うおおおおぉぉぉぉぉぉッ!』 更にゼロツインソード・デルフリンガースペシャルを作り出し、カブトザキラーへと駆け出していく! カブトザキラーはそれを迎え撃とうと、ハサミを大きく振るう。ゼロツインソードDSと殺人ハサミが交差した。 『……!』 カブトザキラーの背後へと走り抜けたゼロ。その足が崩れ、片膝を突く。 『ぐッ……!』 一方で、カブトザキラーは――頭から股にかけて一本の線が走り、身体が左右に真っ二つに裂けた。 バックリと割れたカブトザキラーの残骸が爆発を起こし、超人ロボットが粉々に吹っ飛んだ。 『おのれぇぇぇぇぇ! ここまでかッ!』 切り札のカブトザキラーも失ったヤプールは激怒するも、最早勝ち目がないことは理解していた。 そのため、唯一生き残っているバキシムに指示を飛ばす。 『バキシム、戻れぃッ! ウルティメイトフォースゼロめ、この礼は近い内にたっぷりしてやるぞぉッ!』 「ギギャアアアアアアアア!」 またしても空間が割れ、バキシムがその中へ引っ込もうとする。 『待ちやがれぇッ!』 グレンファイヤーが火炎弾を飛ばしたが、バキシムが退散する方が早かった。割れた空間が閉じ、 火炎弾は空振りしてしまう。 『くそぉッ……!』 強く悔しがるグレンファイヤー。ルイズは、バキシムの消えていった何もない空間を呆然と見つめた。 以前ゼロたちは、異次元人ヤプールにはこちらから手出しすることが出来ないと語っていたが、 ルイズはそれに疑問を持っていた。様々な超能力を持つゼロならば、敵がどこにいようと追撃が 出来るのではないか、と。 しかしその考えは、たった今砕かれた。空を割るなんて非常識にも程がある現象を引き起こす相手を、 どうやれば追跡することが出来るのか見当もつかない。 ヤプール人。自分たちが敵対している者たちの黒幕の脅威、その片鱗を見せつけられた。 『ぐぅぅッ……!』 カブトザキラーを打倒したゼロがその場に片膝を突く。今回ばかりは、限界ぎりぎりまで エネルギーを消耗したのだ。それでも残った力を全て振り絞り、ウルトラ念力で学院を取り巻く 火災を鎮火すると、巨体が縮んで才人の姿に戻っていく。もう飛んで帰る力も残らなかったのだった。 ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーは空を飛んで帰還していく。戦いには勝利した彼らだが、 その面持ちは暗かった。戦いの犠牲者が出てしまったからだ……。 「うぅ……」 「サイト!」 才人が疲弊し切った身体に鞭打って中庭に戻ると、ルイズが慌てて駆け寄った。才人は彼女に問いかける。 「こ、コルベール先生は……?」 「……」 悲痛な表情を浮かべたルイズの見やった先に、コルベールは倒れていた。 全身大火傷を負っている。モンモランシーやタバサを始めとしたメイジが必死に治癒魔法を 掛けているが……効果が出ているようには見えなかった。 その時、コルベールの前にアニエスがゆらりと幽鬼のように立った。握り締めた剣を彼に突きつける。 「ちょっと! なにしてるのよ!」 泡を食うキュルケやルイズらの怒号を無視し、アニエスがコルベールに問う。 「なぜ我が故郷を滅ぼした? 答えろ」 「やめて! 怪我してるのよ! 重傷なのよ! しゃべらせないで!」 モンモランシーが制止するが、アニエスは質問をやめない。 「答えろ!」 コルベールはかすれた声でつぶやく。 「……命令だった。疫病が発生したと告げられた……。焼かねば被害が広がると、そのように 告げられた。仕方なく焼いた」 「……それは嘘だ」 「ああ……気づくのが遅すぎた。要は“新教徒狩り”だったのだ。わたしは毎日罪の意識にさいなまれた。 あいつの……、メンヌヴィルの言ったとおりのことを、わたしはしたのだ。女も、子供も、見境なく焼いた。 許されることではない。忘れたことは、ただの一時とてなかった。わたしはそれで軍をやめた。二度と炎を……、 破壊のためには使うまいと誓った……」 「……それで貴様が手にかけた人が帰ってくると思うか?」 コルベールは首を横に振り……目を閉じて動かなくなった。 絶望する才人。もう、コルベールの命を助ける手立てはない。ゼロとグレンファイヤーは もう人間と一体化しているし、ミラーナイトは二次元人のハーフという特異な体質故、 二人と同じことは出来ない。コルベールの命は消えゆく一方だ……。 しかし、アニエスはコルベールめがけて剣を振り上げる。それを慌てて止めようとするルイズ、才人。 「アニエス、やめなさい! 先生はあなたを、身を挺して助けてくれたじゃないの!」 「アニエス! 不必要な復讐はしないって、誓ったんじゃないのかよ!」 だが、アニエスは狂乱して二人を振りほどく。 「黙れ! わたしはこの日のために生きてきたのだ! 二十年だ! 二十年もこの日を待っていたんだ!」 アニエスの瞳の中に垣間見えた、深すぎる憎悪の色に、才人が思わず怖気だった。アニエスは 数いる騎士の中でも特に高潔な人物なのに……憎しみは、これほどに人を変えてしまうものなのか。 呆然となった才人たちに代わり、コルベールの手首を握ったキュルケが彼をかばう。 「お願い、剣をおさめて。……もう死んだのよ」 そのひと言でアニエスは立ち尽くし……全身の力が抜けて膝をついた。 「わ、わたしは……わたしは……仇に二度も救われて……それも死んで……何のために、今日まで……!」 「……恨むな、とは言わないわ。でも、せめて祈ってあげて。確かにコルベール先生はあなたの 仇かもしれないけど……、今は恩人でしょう。彼は身体を張ってあなたを救ってくれたのよ」 苦しそうな声でキュルケが言った。アニエスは小刻みに震え、嗚咽を上げ続ける。 戦いに勝ったにも関わらず、誰の心にも暗い影が差し込んでいた。 波乱の夜が明けた。とうとう、才人とルイズがゼロ戦で出発する時が目前に迫っていた。 「……先生、俺とルイズは行きます……戦争をしに」 才人は学院の庭の片隅に設けた、質素な墓標に向けて告げた。 才人が作った、コルベールの墓だ。手作りで、とても人の墓とは思えない出来だが、才人は形だけでも コルベールを弔わないとどうしても気が済まなかった。 「……サイト、ゼロセンの中に、コルベール先生からの手紙があったわ」 才人の元へルイズが、手紙を片手に歩いてきた。 「手紙?」 「うん。読む?」 頷く才人。ルイズは手紙を広げて、ルーン文字の読めない才人に代わって朗読する。 コルベールからの手紙には、ゼロ戦を出来得る限り修理したこと、多分飛行に問題はないこと、 機銃の弾の量産は無理だったので代わりの兵器を搭載したことなどが記されていた。 ゼロ戦の説明書までついている。 そして最後に、コルベールはこんなことを綴っていた。 「サイトくん、きみに頼みごとがある。いや、変なことじゃない。頼みごとというのは、わたしの夢のことだ。 わたしの夢、それは、魔法でしかできないことを、誰でも使えるような技術に還元することだ。 いつしか誰もが使えるような立派な技術を開発することだ。 これは言うか言うまいか悩んだことだが、話しておこう。わたしはかつて、罪を犯した。 大きすぎる罪だ。その罪を贖おうと思って研究に打ち込んできたが……最近、思うように なったことがある。それは、罪を贖うことはできないということだ。どれほど、人の役に立とうと 考えてそれを実行しても……、わたしの罪は決して赦されることはない。決してない。 だからきみ、一つ約束してほしい。これからきみは困難な事態に多々直面することだろう。 戦争に行くんだ、人の死にたくさん触れねばならんだろう。 だが、慣れるな。人の“死”に慣れるな。それを当たり前だと思うな。思った瞬間、何かが壊れる。 わたしは、きみにわたしのようになってほしくはない。だから重ねてお願い申し上げる。戦に慣れるな。 殺し合いに慣れるな。“死”に慣れるな。 さて、最後になったが頼みごとだ。きみはいつか、わたしに別の世界からやってきたと言ったね。 その世界では、きみから預けられたような飛行機械が空を飛び、ハルケギニアとは比べものにならんほど 技術が発達してる。そういうことだったね? わたしはそれを見たいのだ。見て、是非とも研究に役立てたいのだ。だから、きみが帰るときが来た際……、 わたしも連れて行ってほしい。冗談ではない。本気だ。だから死ぬなよ。絶対に生きて帰ってこい。 じゃないと、わたしがきみの世界に行けなくなるからな」 朗読を聞き終わると、才人の頬をひと筋の涙が伝った。 「先生の馬鹿野郎……。先生が死んじゃったら、連れて行くことなんて無理じゃねぇか……」 ぐすっぐすっと鼻をすすり、嗚咽を上げる才人。ルイズは無言で彼を見つめる。 「先生……どうしてだよ。先生……」 静かに泣きじゃくる少年と、彼を見守る少女、そしてちっぽけな墓標を、天高く昇った日の光が照らしていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9318.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十六話「激ファイト!ゼロvsウルトラセブン」 妄想ウルトラセブン カプセル怪獣アギラ 登場 「な、何で声を掛けないのよッ! 一時間も!」 「ご、ごめん……」 ……週末の休日、俺はルイズとともに繁華街に来ていた。この前の帰り道での約束通り、 買い物の荷物持ちとしてルイズについて回るのだ。 しかし、リシュが「ルイルイとのデート!」なんてはやし立てるので、恥ずかしくなった俺は 約束の時間より一時間も早く待ち合わせ場所に到着。そしたら何とルイズも待ち合わせ場所にいたのだ。 これって、あいつも早く来てしまったということ? いやいや、都合よく考えたらまた 手痛いしっぺ返しを食らうパターンじゃ……と声を掛けるのを躊躇っていたら一時間が経過。 そしたらルイズがこのようにカンカンになってしまったのであった。こうなると分かって いたのなら、とっとと声掛けてりゃよかった……。 「でもお前、何で俺が一時間も声を掛けなかったって知ってんだ?」 「!?」 ふと尋ね返すと、ルイズは顔を赤くしてわたわたし出した。 「そ、そそ、それは! そんな気がしただけよ!」 えぇ? 「気がした」だけで、ピタリと言い当てられるものなのか? 実は最初から俺が いるのに気がついていたんじゃ……。でもそれだったら、向こうから呼びかけるはずだよな。 うーん、ルイズのやることはいまいち分からん。 「はぁ……。とりあえず、ごめん」 「もういいわ! 早くお店に入りましょ!」 俺が頭を下げたところで、ルイズはこの話を打ち切って買い物の開始を促した。 「いいけど。まず、何買うんだ? なるべく軽いものからがいいんだけど」 持って歩かないといけないし、と聞くと、ルイズは何故かまたも頬を赤らめる。 「……ミ、ミスコンに必要なものよ」 「ミスコンに必要なもの? 何だ? もったいぶってないで教えろよ」 催促したら、ルイズは俺にだけ聞こえるような非常に小さな声で言った。 「み、水着よ」 「水着!?」 「大きな声出さないでよ! 水着審査があるって、あんたも知ってるでしょ!?」 「あー、そうだった。……って、今から水着選びに行くの? お前、持ってないの?」 「も、持ってるけど! その、ちょっと前に買ったものだから、もう流行過ぎてるし! せっかくだから 新しいものを買いたいの! 文句ある!?」 「あ、ありましぇん……」 何も怒鳴らなくなって……。と言うか、ちょっと前だけでも流行遅れになるものなんだな。 ファッションの世界って厳しいんだな。 「そ、それで、ちょっと調査がしたいんだけど……あ、あんたは、ど、どど、どんな水着が、 す、好きなの?」 え? 「俺? 何でそんなこと聞くんだ? ファッションのことなら、ファッションとかに聞けばいいのに」 一応説明しておくと、前者の「ファッション」は言葉通りの意味で、後者は仇名が「ファッション」の クラスメイトを指している。何かややこしいな。 そう思っていると、ルイズはこんなことを返した。 「ここ、これはあくまで、一般的な男性はどんな水着が好きなのかっていうリサーチなんだから! べ、べ、別に、あ、あんたのこ、ここ、好みとか確認してるんじゃないんだからッ!!」 「……とにかく、ルイズはどんな水着を着るべきか、俺の意見を言えばいいわけ?」 要するに、そういうことだよな。俺の答えた水着を、ルイズが他人に着させるなんて すっとんきょうなことはないだろうし。 「そ、そうよ!」 うーん……。俺個人としては派手めな奴が好きだけど、ルイズには似合わないだろうし、 何よりそれじゃ多分キュルケと被るだろうしなぁ。ルイズに似合うものなら……。 「ちょうどあそこに飾ってるような、フリルのセパレートかな」 側の店のショーウィンドウに飾ってある白のセパレート水着を指して、答えた。 「ふぅん、確かに可愛いわね。フリルがいっぱいで……」 存外、ルイズの反応も悪くなかった。 「けど、ミスコン向きじゃないかもだけどな。他のも選んでみるのはどうだ? 他に良さそう なのがあるかもしれないし」 「と、とにかく、お店に入りましょ。来なさい」 ルイズはそう命じてきた。……えぇ? 「……ええと、俺も行かないと、ダメ?」 「当たり前でしょ!? 何しに来たのよ!」 「わ、分かりましたぁ……」 男が女の子の水着売り場に行くのって、結構勇気がいるんだけどなぁ……。まぁ、下着売り場 よりはマシだと思っておこう……。 新しい水着を購入して店を出たルイズに、俺は尋ねかける。 「なぁ、ルイズ。どんなの買ったのか知る権利くらい、俺にもあるだろ?」 「ダメッ! 絶対に見せないんだからッ!」 ルイズはその一点張りだった。一緒に店に入ったのに、結局水着を一人で決めて会計を 済ませてしまった。それで荷物も自分で持ってるし……。これじゃあ、俺が何のために ついているのか分からないじゃないか。 と、ルイズが急にため息を吐く。 「はぁ……。とりあえず買ってみたけど、これで本当にキュルケに勝てるのかしら?」 「な、何だよ、いきなり弱気だな」 「だって……」 不安げなルイズ。まぁ、気持ちは分からなくもない。少なくとも水着審査は、俺が女だったら まず勝てる自信ないぞ。 「やっぱり自己アピールの時、何かもっと目立つことをやった方がいいのかしら?」 そんなことをぼやくルイズに、俺は、 「そんなことないって! 前にも言っただろ? ありのままのお前でいいって」 「……そうかしら?」 「そうだって! 第一、慣れないことやって自分をアピールできると思うか?」 「……」 俺の意見に、ルイズは沈黙で返答した。 「まぁ、俺から言えるのは、身の丈に合った勝負をしろってことくらいだな。それ以外は何とも言えん!」 「もう、いまいち頼りないわね。でも、まぁ、せっかくサイトがそこまで言ってくれたんだから…… わたしは、ありのままの自分で戦ってみるわ」 ルイズは分かってくれたみたいだ。 「ああ、そうだろ? 自然体が一番だよ!」 「でも、ちゃんと努力もしてるんだからね? 筋トレとか勉強とか、毎日欠かさずやってるし!」 「へー、すごいな! 俺は勉強なんて、テスト前くらいしか真面目に取りかからないよ」 「こら、だから成績が悪いんでしょ。リシュも不出来な兄だって嘆くわよ?」 「うッ、痛いところを……」 なんて言いながら苦笑し合う俺たち。この前は少し不安もあったけれど、何だかんだで いい雰囲気になっているじゃないか。 ……と和んでいたら、唐突に背後の方から頭にガンガン来るようなけたたましいバイクの 爆音が鳴り響いてきた。何事かと振り返ったら、 「オラオラー! イチャついてんじゃねーよ!」 「目障りなんだよぉー!」 五人組の男たちがバイクで歩道に上がり込んできて、俺たちを脅してきた! 暴走族って奴か! 「きゃッ!?」 突然のことに驚いたルイズはバランスを崩し、転倒する! 「いたッ……!」 「ルイズ! テメェら、いきなり何しやがる!」 激怒した俺が車道に逃げる暴走族に怒鳴りつけたが、暴走族には全く悪びれた様子がない。 「俺たちは怪獣だー! 人間の身体を持った怪獣なんだー! だから容赦しねぇぜー!」 更にはふてぶてしい台詞を吐き捨てる始末。くっそ、面白半分で人を危ない目に遭わせやがって…… ああいう奴らには怒りが収まらねぇや! けれど――直後にその怒りが吹っ飛んでしまうくらいのとんでもない出来事が発生した。 走り去ろうとする暴走族の進行先から、怪しい光が立ち上ったかと思うと……地球人なら 誰でも知っている紅い巨人が出現したのだ! 「ウアアアアアア――――!」 あれは……ウルトラセブン!? ど、どうしてこんなところに、いきなり!? 『お、親父!?』 ゼロも驚いて叫んだ。……って、 「えッ!? セブンって、ゼロのお父さんなのか?」 こっそりと尋ねた俺に、ゼロが肯定した。 『ああそうだ。お前に教えてなかったか?』 「あッ、そう言われてみたら、教えてもらったような……」 おぼろげながら、そんな気がする。でも、いつ話してもらったんだったっけ……。 「ウアアアアアア――――!」 などと気にしている暇はなかった。ウルトラセブンは恐ろしげなうなり声を発しながら、 街を踏み壊しながらこっちに迫り出したのだ! 「うあああああッ!?」 悲鳴を上げて反転し、逃亡し出す暴走族。こ、これはどういうことだ!? 「どうなってんだ!? 何でセブンが街を壊すんだ!」 セブンは幾度も地球を守った、正義の戦士だろう! 混乱していると、ゼロが言い放つ。 『……いや、あれは親父じゃねぇ! 強烈なマイナスエネルギーの塊みたいだ! それが親父の 姿を取ってるだけだ!』 何だって!? じゃああれはセブンに化けた、怪獣の一種なのか……! そうなると放ってはおけないが、このままここにいるのはさすがにやばい! 俺はルイズの方に振り返る。 「ルイズ! 逃げるぞ! このままじゃ踏み潰されちまう!」 しかし、ルイズはしりもちを突いたまま動かない。 「さっきので、足をひねっちゃったの……! 立ち上がれないわ……!」 「何だってぇ!?」 このままじゃ非常にまずい! 偽者のセブンはまっすぐこっちに向かってくる! けど、ルイズの前じゃ 変身できないし……。 こうなったら! 俺はルイズに見えないように背中で隠しながら、赤いカプセルを放った。 「キギョ――――――ウ!」 出てきたカプセル怪獣はアギラ! ルイズを避難させるだけの時間を稼いでくれ! 「ルイズ、ちょっと失礼するぞ!」 「えッ? きゃあッ!?」 俺はルイズを、いわゆるお姫さま抱っこの形で抱え上げる。ルイズは何故か急に顔を真っ赤に したが、構っている余裕はない! そのまま横にそれ、セブンの進行方向から逃れていく。 「ウアアアアアア――――!」 「キギョ――――――ウ!」 アギラは偽者のセブンにまっすぐ突進していったが、強烈なキックをもらって仰向けに転倒。 そこを馬乗りされ、ボコボコに殴りつけられる。 つ、強い! すさまじいパワーを感じる……。外見だけじゃなく、力まで本物に近いのか!? アギラはどうにかセブンを押しのけるが、起き上がったところに顔面にハイキックを浴びて またも倒れ込んだ。 「キギョ――――――ウ!」 たまらず逃げるアギラは、ビル群の陰に縮こまって身を隠す。それを見たセブンは、ビル群の 反対側に遠回りに回り込んでいく。 セブンの姿が見えなくなると、アギラは頬杖を突いて座り込んだ! おいおい! 見た目が 主人そっくりだから、戦意が沸かないのか!? しかし、偽者のセブンは既にアギラの背後に回り込んでいた! 「ウアアアアアア――――!」 セブンに背中を足でつつかれたことで、弾けるように振り返るアギラ。 「キギョ――――――ウ!」 その瞬間にまたも蹴り飛ばされた! くそぉ、アギラじゃまるで歯が立たない! でも、この間にルイズを安全なところまで運ぶことが出来たぞ! 「ルイズ、ここにいてくれ!」 「サイトは!?」 「俺は……この状況をどうにかしないと!」 離れるのに上手い言い訳が思いつかず、漠然とそう言った。でも、ルイズは詮索せずにひと言、 「……頑張って!」 「! ……ああ!」 応援の言葉を受け、ルイズの元から駆け出す。 ……もしかしてルイズは、俺がゼロだということに勘づいているんじゃないだろうか。 だからこの前の戦いでも、あんなことを……。でも、いつ気がついたというのだろうか? それらしい心当たりはないんだが……。 いや、今はそれよりもあのセブンを止めないと! あの姿で、これ以上街を破壊させる訳にはいかないぜ! 「デュワッ!」 ゼロアイを装着して、ゼロに変身! ゼロはアギラを下し、また一直線に進み始めたセブンの 前に立ちはだかる。 『やめろ! 俺の親父の姿で、こんな乱暴を働くんじゃねぇぜ!』 「ウアアアアアア――――!」 ゼロが呼びかけても、セブンは何の反応も見せずにゼロにまで襲い来る! 言葉がまるで 通じてないみたいだ! 『聞く耳持たねぇってか……! しょうがねぇ!』 やむなくセブンと戦い始めるゼロ。相手の上段蹴りを避けて肩を捉え、ひねり投げるが セブンは着地。反対にゼロを投げ飛ばす。 『うッ!』 「ウアアアアアア――――!」 更にセブンはパンチのラッシュとキック攻撃を放ってくる。ガードを固めたゼロだが、 その上からの衝撃によろめく。 『このッ!』 「ウアアアアアア――――!」 相手の腹部に横拳を入れて突き飛ばしたが、セブンはその先の建物を引っこ抜いて、ゼロの顔に 叩きつけてきた! 『ぐあッ! くそ、何つぅパワーなんだ……!』 ゼロは相手の身体を透視で分析した。 『こいつは怒りのオーラの結晶だ……! だからこその度を越えた勢いか……!』 「ウアアアアアア――――!」 セブンの攻勢は留まることを知らず、ゼロに肉薄して両肩を掴んできた。そのまますさまじい 握力で締め上げる! 『ぐぅぅッ! ま、まだまだぁッ!』 苦しむゼロだが膝蹴りを入れて振り払った。だがセブンは次に額のビームランプに指を添えると、 青白いレーザー光線を発射してきた! 『うおぅッ!』 ギリギリ側転で逃れるゼロ。エメリウム光線もどきも使えるのかよ! 『こんにゃろぉッ!』 ゼロスラッガーを飛ばして反撃するが、セブンはひねりをつけたジャンプでスラッガーを かわし切った。パワーだけじゃなく、スピードと身のこなしまで相当なものだ……! こいつは かなりの強敵だぞ! 「ウアアアアアア――――!」 と、ここでセブンが奇妙な攻撃をしてきた。足元のミキサー車を、綺麗なフォームで 蹴り飛ばしてきたのだ。 ミキサー車をはたき落としたゼロも、これに気を掛けた。 『今のは親父の技じゃねぇぜ……』 『じゃあ、誰の技なんだ? サッカー選手さながらの完成された動きだったけど……』 それに冷静になって観察してみると、あのセブンの怒りの矛先は、さっきの暴走族にのみ 向けられているみたいだ。まっすぐ進んでいたのは、暴走族を追いかけていたからなのか。 「シャッ!」 ゼロはもう一度透視を使い、セブンの身体をもっと精密に分析した。その結果、 『こいつは親父の人形を核にして、誰かの怒りの感情エネルギーで構成されてる。つまり生霊が 取り憑いてるようなもんだ。暴走族を執拗に狙ってるのを見ると、あいつらに傷つけられた奴が 親父の姿を借りて復讐をしようとしてるってところか……』 『そういうことだったのか……』 セブンの横暴の理由を悟ったゼロは、青く輝くルナミラクルゼロに変身した。そして超能力で テレパシーを増幅し、セブンに向けて呼びかける。 『ウルトラセブンの人形の持ち主の魂よ! 俺の言葉を聞いてくれ! あんたは、他のセブンを 慕う人たちの気持ちを、傷つけるつもりなのか!?』 そう問いかけると、セブンがハッと気がついた風に足を止めた。 『あんたにも事情があるんだろう。あの暴走族にひどいことをされたのかもしれない。けど、だからって 街を壊していいことにはならないだろう! セブンが暴れて街を破壊したら、セブンを信じてる多くの 人が嘆き悲しむ! 人形を持ってるほどセブンを愛してくれてるのなら、それがどんなにひどいこと なのかは分かってくれるだろう!?』 セブンは我に返ったかのように、自分がボロボロにした街を見渡し、唖然として立ち尽くした。 もうセブンに暴れる意思はなくなっていた。後は、元の人形に戻してやるだけだ。 『フルムーンウェーブ……!』 ゼロがフルムーンウェーブを浴びせると、セブンは力を失ってその場に横たわった。ゼロはその 身体を抱え上げる。 「……ジュワッ」 そのまま大空に飛び上がり、セブンを遠くへ運び去っていった。 夕方。俺はルイズと帰りの駅にいた。 「ルイズ、足はもう大丈夫か?」 「ええ、腫れは引いたわ……。あ、あの……た、助けてくれて……ありがとう……」 「気にするなよ。あれくらい当然みたいなもんだ」 ニカッと笑いかける俺。ルイズはさすがに恩を感じて萎縮しているのか、変にもじもじしている。 だから気にすることなんてないのにな。 「でも、買い物は台無しになっちゃったな。買えたのは水着だけか」 「大丈夫よ。水着だけでもあれば、後は何とかなるから」 そうなのか。それならいいんだけど……結局、荷物持ちの仕事をすることはなかったな。 俺、何のために来たんだろう。 そう思っていたら、ルイズがほんのり赤らんだ顔で俺に告げた。 「今日は、大変な目に遭っちゃったけど……た、楽しかったわ。それなりにね」 「そりゃよかった。俺も結構楽しかったよ」 ルイズが足を痛めたのでその後の買い物は出来なかったけど、休んでいる間に二人で 色々と話をしたのだった。女の子と二人きりで長い時間会話するというのも、なかなか 新鮮で楽しい経験だった。 「ふぅん、そう。あんたも楽しかったのね。一日、つ、つき合ってくれて……ありがと」 「……ルイズ? お前、どうした? いくら何でもしおらしすぎるぞ?」 あまりにもルイズが大人しく素直に物を言うので、俺はまだ何か悪いところがあるんじゃないかと 勘繰りしてしまった。 「どういう意味よ! もう、わたし帰るからね! それじゃあ!」 あちゃあ、怒らせてしまった……。どうして俺ってば、余計なことを言ってしまうんだろうか。 まぁ、ルイズには明日謝るとして、俺ももう帰ろう。リシュが心配するといけないしな。 そう思って踵を返すと……。 「サイトさん……」 「ひッ!?」 シエスタの顔がそこにあって、思わず引きつった声を上げてしまった! って、何でシエスタが こんなところにいるの!? 「シシシシ、シエスタ! いつの間にいたの!?」 「……さっきから見てました。あの人と一緒に駅前に来た時から」 ええええー! 気がつかなかった! というか、それって大分前のことだろ!? それまでずぅっと 俺たちの後についていたってのかよ! ゼロも教えてくれたらよかったのに! 「サ、サイトさん。これって、どういうことですか?」 シエスタは妙に怖い顔で問い詰めてくる。 「どういうことって……何が?」 「リシュさんに聞いたんです。今日は、サイトさんがデートに行ったって!!」 「ま、待て。誤解。誤解なんだッ! それはリシュが勝手に言ったことであって……」 必死に弁解するが、シエスタに俺の言葉が届いている様子がない。 「うううう……。やっとのことで、見つけたと思ったら、あの人と、仲良く、話なんかしてッ! ひどいですサイトさん! わ、わたしに黙ってデートなんてッ!」 「わーわー! 何叫んでるんだシエスター! 誤解だってば!」 叫ぶシエスタを、俺はその後必死でなだめた。そして何故か罪滅ぼしだとか言って、シエスタの 好きな店で夕飯をおごることになってしまった。おまけに「リシュさんも被害者です!」とか言って リシュまで呼んで……。どうして妹のリシュが被害者になるんだよ……。 とほほ……いつも怪獣と戦って平和を守っているのに、どうして俺ってこんな羽目になるんだろうか……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3041.html
前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ ルイズが落とし穴に落ちていって消えてしまったのをまるで何事も無かったかのように行動するももえ達。 キュルケはこの状況に戸惑っていたが、タバサはこの場所がすっかり気に入ってどうでもよくなったらしく本を広げて完全にくつろぎ始めた。 「そうだ、二人ともこのままごはん食べていかない?」 ももえがキュルケ達にそう声をかけた瞬間、客間の扉が開いておぼんに料理を載せたメイが現れた。 「…どうぞ…。」 出された料理はだしがはいったどんぶりの上に麺と天かすとナルトとネギが乗ったもの。つまり… 「うどん?」 「そう、うちらの世界では有名な食べ物なんだよ。」 そう言って、ももえは慣れた手つきで箸を口で割った。 キュルケは初めて日本料理を目にした外国人のように目をぱちくりとさせている。 ちゅるるん キュルケもももえのを見よう見まねでうどんを食べてみる。 すると、口の中にスープに似た温かみと、だし汁の香りがいっぱいに広がった。 「おいしい! ねえ、これおいしいわよねタバサ?」 一方、初めてとは思えないほど箸を器用に操ってうどんを食しているタバサは、顔を上げて一言 「サマンサタバサ」 と言った。 「え、ちょっと待って? 今の何?」 タバサは戸惑いまくるキュルケをよそに、またうどんを食す作業に戻った。 『裏設定から解放されたタバサは、もはやタバサでしかないのだ!』 部屋の中はうどんの啜る音と湯気で満ち満ちていた。デス子はふと顔を上げて水を飲んだ。そしてももえに聞いてみる。 「なあ、ももえ」 「ん?」 ももえはうどんを銜えたまま顔を上げてデス子の方に向いた。 「なんで、前回は斬って落ちなかったんだ?」 「ぼふっ」 ももえは音を上げてうどんを目の前のデス子に噴出した。 「いや、でも読み返してみたら前々回も斬った後に色々あったし………」 慌ててキュルケがあたふたとフォローを入れる。 デス子はうどんまみれのままにタバサから七味を受け取り、それをうどんにかけて音を立てて啜った。 「あれは無印ももえの3話のチョコのネタを使っただけだろ? 前回は明らかなオリジナルでたんなる入れ忘…… 「わーわーわーわー」 「(作者を)どげんとせんといかん」は褒め言葉 「ゼロの使い魔死神友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィード香水下級生ももえサイズ」 たららららった、たーらららった、たーらら、らーららー 「いたたたた…………」 一方、落とし穴に落ちてしまったルイズは思いっきり尻を地面に打ってしまい、尻をしきりになでなでしていた。 「何なのよいったい………ってこの格好は何?」 ルイズは目の前の水晶に移っている自分の姿に大いに驚いた。 そこには緑のとんがり帽子をかぶり、緑のローブに身を包み、緑のマントをはめた緑ずくしの衣装に身を包んだ自分が居たのだ。 「ださっ………」 ルイズは真っ先にこの衣装を脱ぎ捨てたい衝動に駆られた。緑色は4大元素の風属性を象徴する色である。自分に合うはずが無いのだ。 『ルイズは服を脱ごうとした しかしルイズは服を脱ぐことが出来なかった!』 「なんでなのよ! いくらちい姉さまに着替えてもらってたからって、服を脱ぐくらい一人で出来るに決まってるじゃないのよ!」 思わずルイズは叫んだ。そこで、ルイズは自分が今おかれている状況に初めて気付いた。 「遠くが……見えない……。」 そう、ルイズがいる部屋以外は何も見えないのである。右や左に部屋と部屋とを結ぶ通路があるのが分かるくらいだ。 「で、この杖は………あーっ!!! この杖、私のじゃないじゃないのよ!」 見ると自分の杖とよく似ているが別物なのである。ルイズはパニック状態に陥り、杖を闇雲に振り回す。 ぶんっ ぶんっ ぶんっ ぶんっ 「全く、わけがわかんないわね。早くここから脱出しないと………」 そういって、ルイズが右斜め前に1マス動いた瞬間 「あれ……?」 この時、ルイズの四方にはたまねぎの形をした青色の生物がいた。どうみても敵キャラである。 「囲まれた………?」 「不可思議のダンジョン?」 「うむ。ここの地下は不可思議のダンジョンといって、入るたびにダンジョンの形が変わる不思議な場所なんだよ。」 食後に出されたお茶を皆で飲みながら、デス子はそう言った。すると急に遠い目をして語り始める。 「あれはももえがまだ幼い頃、ももえが一人で屋敷の探検をしたんだよ。」 外はまだ暴風が収まらず、風がびゅうびゅう吹いていた。タバサもキュルケもデス子のほうに注目する。 「今は、不可思議のダンジョンの入り口は封印してあるのだが、昔はももえが入ってしまえるほど緩かったんだ………。」 「ねー ママ この大きな穴って何?」 「あっ、その穴に入ってはだっめえええええええっ!!!!」 好奇心旺盛だったももえはその穴の中に入り込んでしまった。 「私も行くぞっ!」 デス子はすぐさま穴の中に飛び込んだものの、そこにはももえがいなかったのだ。 「不可思議のダンジョンは帯同者を連れて来ることは許されてない。 だからその時、私達は同じ不可思議のダンジョンに入っているのにもかかわらず、全く違うところにいたのだよ。」 「つまり、二人は離れ離れになっていたということですか?」 「その通り。その時は外部から連絡する手段なんて無かったから気が気で仕方が無かった。 早く脱出しようとしたのだが肝心なときに脱出に必要な巻物が全く見つからなくてな。」 「そしていつしか宝探しに夢中になってて、巻物を見つけて脱出したのが80Fあたりだった………。」 宝物を持ってダンジョンを脱出したデス子が見たものは担架の中で横たわっているももえだった。 「ももえ、しっかりしろ、ももえ!!!」 「まま わたしおへやのなかでなきさけんでてたらきゅうにすこっぷもったもぐらがでてきてよってたかってわたしをいじめたんだよ ずっとなぐられるとおもってめをつぶってたらいつのまにかしらないおじさんたちにたんかでかつがれてここまではこばれてきたの ままごめんね わたししらないおじさんたちにゆうかいされそうになっちゃったよ しらないおじさんにはなしかけられたらけりとばせってままにいわれてたのに」 「ももえ、しっかりしろおい! ももえーーーーー!!!!!!!」 デス子は眠りに就こうとするももえの体を必死に揺さぶり続けたのであった。 「嫌な事件だった………。」 そう言ってデス子は湯飲みに口を付ける。するとおもむろに湯飲みを思いっきりちゃぶ台に叩きつけた。メイは慌ててきゅうすを持って走り出した。 「不可思議のダンジョンにはモンスターがたくさんいる。」 「モンスター?」 思わずキュルケは割り込んで質問してしまった。しかし、デス子はそれを気にすることも無く話を続ける。 「そう、モンスターだ。スライム、ゴーレム、バーサーカー、シャーマン、他諸々が生息している。 私も80Fぐらいまでしか行ったことがないからわからないな。あと、お宝とかそういうのも色々あるぞ。」 「ちょ、80Fって………」 また突っ込みかけたキュルケだったが、 「…どうぞ……。」 メイが急須を持って戻ってきたので話は中断された。メイがデス子の湯飲みにお茶を入れ、デス子はそれを一気に飲み干した。 「!!!」 デス子はおもむろに立ち上がると壁に向かって頭を打ちつけ始めた。 ガンッガンッガンッガンッ 「……熱かったんですか?」 キュルケがそう問うと、デス子は首を激しく縦に振りながら壁に向かって頭を打ちつけ続けた。 「どうする、どうするのよ私!?」 一方モンスターに囲まれたルイズは自分がポシェットのようなものを持っていることに気付き、その中に何かないかがさごそと漁り始めた。 「あった!」 ルイズは中に巻物が入っているのに気付いて、それをおもむろに取り出した。 『大事に使ってね(はぁと)』と書かれていたが、日本語が読めないルイズはそれが理解できない。 だから巻物の使い方も理解できなかったのだ。 『ルイズは聖域の巻物を読んだ! しかし何もおきなかった』 「何でなのよ!全然使えないじゃないのよ!」 ルイズがそう言って巻物を放り投げた刹那、今まで石のように動かなかったモンスターたちが急に襲いかかってくる。 「痛っ!」 『ルイズは2ポイントのダメージを受けた!』 「はぅっ!」 『ルイズは3ポイントのダメージを受けた!』 「きゃあっ!」 『ルイズは3ポイントのダメージを受けた!』 「あれ?」 『モンスターの攻撃は外れた』 ルイズは自分の体力が確実にダメージを受けていることに気付いた。 恐らく次のターンでダメージを受けたらもうダメだろう。それだけは避けなければならない。 ルイズは大きく息を吸い込みやけっぱちになって呪文を唱えた。 「もうどうにでもなれーーーーーっ!!!!」 思わずルイズは目を閉じた。その瞬間ルイズの体が七色に光りだした。 「………あれ?」 しばらくして、ルイズが目を開けてみるとそこにはモンスターが一匹もいなくなっていた。 『たららたったったらー ルイズはレベル3になった!』 「あれ、なんか心なしか強くなったような気が………」 ルイズが自分の体をくまなく調べようとしたが、またモンスターがやってきた。今度は落ち着いて杖をかざして呪文を唱える。 「ファイアーボール!」 ファイアーボールは見事、モンスターに命中しモンスターは消え去っていった。 するとルイズは自らの体の変調に気付いた。 「あれ、なんか心なしか体力を消耗したような気が………」 『魔法使いは自らのHPを引き換えにして魔法を使うのだ!』 「何その設定………」 ルイズは足を引きずりながらもとりあえず階段を目指して歩き始めた。 「ところでももえ………」 食後、メイが皆にお茶を入れてくれた。その茶を皆で啜る。タバサはお茶請けのきんつばを楊枝を使ってぱくぱくと食べていた。 「大丈夫なの? そんなに食べて」 思わずキュルケはタバサを心配した。明らかに食べすぎだからである。しかし、タバサは茶を啜りながら一言 「私、胃下垂だから。」 ???ものしり館??? 胃下垂【いかすい】 胃が正常な位置下までたれ下がっている状態の事を言う。 俗に胃下垂だと食べると太らないと言われている。ある女子高生漫画でもこういう設定のキャラがいた。 「あぁ……そうなんだ………」 どこか遠い目をしたキュルケもお茶を啜った。本当においしい飲み物だと思った。 そして、顔をタオルで拭いたデス子はももえが口に何も含んでいないことを確認して聞いてみることにした。 「ところで、穴に落ちた彼女は一体何者なんだ?」 「魔法使いだよ。」 ももえは端的にそう答えた。デス子は顎に手をあてて少し唸った後、更にももえに聞いてみた。 「ふむ………。で、あいつはお前にとって何なのだ?」 「うーん…………。」 ももえは珍しく頭を抱えて考え始めた。キュルケは何も考えずにただお茶を啜り、タバサは何も考えずにきんつばを口に運ぶ。 「強いて言うなら………使い魔……かなっ」 キュルケとタバサが同時に噴出した。しかもデス子のほうに向かって。 「まさか」 すかさずメイがさっきのタオルで顔を拭いたがデス子は気にせず会話を続けた。 「使い魔というものはまず、主人の目となり耳となること…つまり感覚の共有。これを行わなければならない。」 キュルケは目が点になった。それに気付くことも無くデス子は話し続ける。 「更に、あちこちに眠る秘薬を探してくるのも使い魔の重要な役目だ。この秘薬があるのとないとでは全然違うからな。 そして、一番重要なのは身を挺して主人を守ることだ。これすら出来なければもはや単なるお荷物でしかない。 あいつを見る限りとてもじゃないがそんなことは出来そうに見えないのだが……」 「できるよ」 ももえは笑顔で即答した。それを見たデス子はふっと母らしい笑みを見せ 「そうだな、私の娘が見込んだ使い魔だ。出来が悪いはずが無い。はっはっはっは」 「はっはっはっは」 ももえと一緒に高笑いをしたのであった。 「ねえ、モモエが使い魔であってるのよね?」 キュルケはタバサにそう耳打ちをした。タバサは首を激しく上下させる。 「……お嬢様…は……いつも……本気…です…。」 メイのつぶやきに二人はびくっと体を震わせた。 「まああの不可思議のダンジョンをクリアしたら認めてやらなくは無いが………まず無理だろうな。」 「だね!」 二人して高笑いするデス子とももえ。すると、博士がそっと耳打ちをしてくれた。 「扉を出て左に向かってすぐの部屋にダンジョンにワープできる装置がございます。それでルイズさんを連れ戻して来て下さい。」 「でも、あそこは危険だって……。」 「学生でも魔法がある程度使えるのでしたら問題は無いでしょう。ここはあなたの腕を見込んでお願いしているのです。」 そう言われて、キュルケは思わず笑みを浮かべて、「そうね、いつまでもこんなことしてられないし………ってあんたも露骨に嫌そうな顔しないの! あんたも来るのよっ!」 タバサを引き摺るように立ち上がらせた。 「あれ、あんた達どこいくの? あっ、まさかトイレ!? 連れションなの? あんた達って連れションをするような仲なの!?」 「連れション言うな」 そう突っ込みを入れてキュルケとタバサは客間を後にしたのだった。 「ねえ、ママ私も後で見に行っていい?」 「ああ構わんさ。我が死神家のGPSにかかればあの小娘の居場所など造作ないさ」 「はぁはぁはぁはぁ…………」 数々の魔法を駆使して27Fまで辿り着いたルイズ。ここでルイズは初めて、敵以外のモンスター達と遭遇した。 「やあ、こんなところで人間に会えるなんて奇遇だねえ。」 「あんた、私を見ても攻撃してこないのね……とりあえず敵じゃなさそうだわ。」 「君は俺に攻撃してきたけどね。」 声をかけてきた彼は大柄でへそだしのシャツを着ており筋肉隆々の上半身をルイズに見せつけていた。 「お嬢さんの知り合いかい?」 「お嬢さん………って事はあんたモモエの使用人なの?」 「いかにも。俺の名前はヒル 死神家の運転手の仕事をやらせてもらっている。そして君が……」 「やあ、あなたがルイズ・フランシスカ・ブ・ライト・マキ・ハタ・サイボーグだね?」 ???ものしり館??? マキハタサイボーグ メジロブライトの代表産駒 ステイヤーズSを9番人気で優勝した 「そう、私は……って誰よそれ! だいたいそれ最初のルイズしかあってないじゃないのよ!」 「これは失礼。確かルイス・フランドル・ル・オーシバ・ド・ラ・ゴノーツ……」 「全然違うじゃないのよ! それに最初のルイズすらあってないじゃない! それに最後のドラなんとかって…」 「胸の大きさではジークリンデの圧勝だな。」 「そんなこと誰も聞いてないわよっ!!!!」 ルイズはヒルの横に大きな生物がいることに気付いた。首を上げて見上げてみると何か小さな生き物も乗せていた。 筋肉隆々の巨大な体に蝶ネクタイがやけにマッチしているような気がした。 「こいつは庭師のオクタイ君。上に乗ってるのがペットのケモンさ」 ヒルがそう紹介するとオクタイ君は首を上下に動かしておじぎをした。それだけでダンジョン内が揺らいだように見えたが恐らく気のせいだろう。 「私の名前はルイス・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 ヴァリエール家の令嬢で、トリステイン魔法学院の二年生で………ってあんたたちどこへ行くのよ!」 何事も無く去ろうとする彼らをルイズは必死になって引き止めた。 「あんたたちこのダンジョンから来たんでしょ?脱出する方法も知ってるわよね? だから私を早く脱出させなさいよ!」 「お前を脱出させてやるには構わないが……俺らはおつかいを頼まれててな。それが終わってからでもいいか?」 「ええ、いいわよ。」 了承したルイズはヒル達にダンジョン内をついて回ることにした。すると……… 「あれ? これなんかの巻物じゃない? 今まで見たこと無いものだけど………。」 いきなり巻物を拾ったルイズはとりあえず巻物を読んでみる事にした。すると急にアイテムがルイズの下に集まった。 「おおっ。この巻物すごいじゃない! なんかアイテムが私にひきよせられてる感じですっごくいいわね!」 嬉々としているルイズをよそに、どんどん顔色が青ざめていくヒル達。そして周りの空気が一瞬にして変わる。 「何よ!? あんた達、せっかく私がアイテムをひきよせたんだからもっとよろこびなさ……ってええっーー!!」 ルイズ達の目の前に大勢のガーゴイルが現れたのだ。 「では俺達は先に失礼させてもらうよ。」 ヒル達は手にした巻物を読んであっという間にこの場から消え去っていった。 「って、私置いてけぼり!? 今度こそどうする、どうするのよ私!?」 ルイズは壁の隅に逃げ込もうとするが、ルイズの2倍の速さで動くガーゴイルにたちまち追い詰められてしまう。 ざくっ 『ルイズは54のダメージを受けた』 「って今のでHPのほとんど削られたじゃないのよ! このガーゴイル強すぎるわよぉ!」 そして、壁の隅に逃れたものの三方を固められたルイズ。もはや逃げ場など無い。 「いやあああああああああああっ!!!!」 思わず涙を流して泣き崩れたルイズ。ガーゴイルが攻撃を食らわそうとした瞬間 ずばっ ずばっ ずばっ 「…あれ?」 ルイズが目を開けると、音も無く崩れ落ちたガーゴイルと 「全く、あんたも世話を焼かせるねえ。」 「モモエ………。」 9方位+1貫通で攻撃できるカマを持ったももえがいた。 『ももえのカマで斬られたモノの存在はももえが肩代わり』 「ルイズ、助けに来てやってわよ!」 「キュルケ!」 キュルケはそう言って火の魔法をガーゴイルにぶつける。 「タバサ!」 「任せて」 タバサは風の魔法で部屋全体のガーゴイルに攻撃をかけた。 「負けちゃいられないわね。よーし…………」 ルイズは精神を集中させて今ある限りの力を篭めて呪文を唱えた。 「はあああああああああああああ!!!!!!」 刹那、ルイズの体が光りだす。そして部屋に大きな爆発が起きた。 「………私達も帰ろうか。」 ももえ達も巻物を読んでその場を後にした。 「ただいま、ママ」 「おかえり。」 ももえ達の帰りをデス子達が迎えてくれた。 「どうだった?」 「うん、おつかいは無事に済んだよ。はい」 ももえは食物が入った買い物かごを買い物リストと一緒にデス子に渡した。 「ふむふむ………よし、今回はちゃんと買えたみたいだな。」 デス子はにっこりと微笑んだ。ももえも明るく笑っている。 「……ルイズはどうしてますか?」 キュルケがきょろきょろと周りを見回した後にデス子に声をかける。するとデス子にもわからないらしく首をかしげていた。 「まあ、そのうち帰ってくるだろうが……あ、きたきた。」 「本当に知らないおじさんだったんだ………」 ルイズは見知らぬおじさん達に担架で運ばれてダンジョンの入り口にそっと安置された。 ルイズは目が虚ろで口が半開きの状態でとてもヒロインと呼べるような状態ではなかった。 「あは、ははは………」 「ルイズ、大丈夫? しっかりして!」 キュルケは思わずルイズを揺さぶった。それにあわせてルイズの両腕がぷらぷらと音を立てて揺れているのが分かった。 「あはは………せっかくわたしまほうつかいになったのにぜんぜんじゅもんとかおぼえてないんだよ なんかね、もうどうでもよくなってきちゃったっていうか わたしはもうへいみんとふぁーすときすからはじまるふたりのこいのひすとりーをてんかいしたいっていうか」 「重症ですな………」 それを見た博士は思わず唸った。そしてルイズの額に手をあてる。 「ふむ………」 博士は目が虚ろになったままのルイズを見て診断の結果をこう断言した。 「これは風邪ですな。」 「風邪? じゃあ、さっき買ってきたものにいいのがあったね。メイちゃんそれ貸して」 ももえはメイから買い物かごを受け取るとがさごそと漁ってあるものを取り出した。 「じゃーん」 「これは…」 「何?」 「…ネギ……です…。」 二人の疑問にメイがそう答えた。一方、ももえはネギとカマを取り出す。 「じゃあ半分貰うね。」 ざくっ 『ももえのカマで斬られたモノの存在はももえが肩代わり』 「それをどうするの?」 「…お尻に……刺しま…す…。」 キュルケに聞かれたメイは少し顔を赤らめながらそう答えた。 「じゃあさっそくいくよー。ルイズ、あんたよつんばいになって。」 「はーい」 ルイズはももえに言われるがままにスカートをおろしてよつんばいの体勢になる。 「とおっ」 そういって一気にネギを突き刺したももえ 「アーッ!!!!」 ルイズはあまりの激痛に目を極限まで見開き、舌と涎を垂らせてぴくぴくとよがっていた。 「……お嬢様………」 「何、どうかしたの?」 さらに奥深くにネギを突っ込もうとするももえに対しメイは思わずももえにつっこんだ。 「……刺す場所……間違えて…ます…。」 「あ」 ※ おわり これまでのご愛読、ご支援ありがとうございました。 ※ 次回から始まる「ゼロの使い魔死神ガーゴイル友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィードネギ香水下級生ももえサイズ」に乞うご期待!!! おまけ 壁―――― ○●●●● ○=ルイズ ●●△●● △=ももえ ●●●●● ●=ガーゴイル ●●● わかりづらいかもしれませんが、ももえがカマを1回振ったとき(9方位+1貫通)の攻撃範囲です。 壁によって遮られていますが、ももえのカマ(通称もカマ)の最大攻撃範囲は8+12=20となります。 なおかつガーゴイルのHPは500と設定されていますのでそれを一撃で倒したということからも、もカマのチートぶりがおわかりいただけるかと思われます。 前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1178.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 魔法学院の正門を通り、王女達の一行が入ってきた。 生徒達はそれに合わせて、杖を掲げる。 馬車が止まると、召使い達が駆けより、絨毯を降りてくる人物が進むべき道に敷く。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーりぃーっ!」 その声に対し、馬車の扉を開いて出てきたのは―― 花にたとえれるような美しい少女ではなく、 灰色のローブに身を包んだやせっぽちの初老の男である。 これには流石の生徒達も失望。あからさまに侮蔑の目をしている。 だが、次に出てきた人物を見て歓声を上げる。 先に衛士が述べたように、彼女がトリステイン王国王女、アンリエッタである。 ブルーはその様子を眺めていた。他の生徒のように熱中して見ているのではなく。 「あれがトリステインの王女か」 隣にいるルイズに一応確認の意で問いかけるが、反応はない。 ルイズは顔を赤くして、何かを見つめていた。 気になり自らもその先へ視線を傾けると、そこには羽帽子を被った貴族の姿があった。 グリフォンにまたがっていた。余り見掛けたことはないが、此方では一般的なのだろうか? その後特におかしい事などは起こらず、夜になった。 「ルイズ、どうかしましたか?」 返事はない。ルイズはあれからずっと変な調子だった。 ベッドに座り込むと俯いたまま出会ったかと思うと、 次には何も言わずに外に出て行き、 帰ってきたら「愛がアップ!」と叫んだり、 そのまま赤い顔をしてベッドに飛び込んだりと、 もはや変というか精神の病を疑うレベルの行動をしていた。 その妙な様子のルイズを眺めていると、ドアがノックされた。 ルージュの声を聞くと、そのドアをノックした人物は 涼しげな感じのする声で言った。 「あ、あれ……?すいません、間違えました」 ドアのまえにいた人物は詫びると、そのまま去ったらしい。 音がなかったので解らなかったが。 そのまま、暫く時間がたつと、再びドアがノックされる。 「開いてますよ」 「すいません、ここはルイズ・フランソワーズの部屋ですよね?」 さっきの人物だったようだ。 中にいる人物も知らずに尋ねてきたのだろうか。 ルイズの方を見ると、なにやらはっとした顔をしていた。 妙な様子はもう無く、立ち上がるとドアに駆けより、開けた。 そこにいたのは頭巾を被った少女だった。 「あなたは」 その少女は大声を上げかけたルイズを、 人差し指を口に当てることで制止し、 マントの内側から杖を取り出すと、それを振った。 光の粉が周囲に舞う。 ルイズはその様子を見て呟いた。 「……ディティクト・マジック?」 「何処に耳が、目があるか解りませんからね」 その少女はそういって、頭巾を下ろす。 そこにあったのは、アンリエッタ王女であった。 「姫殿下!」 ルイズは慌てて膝をつく。 「久しぶりですね、ルイズ・フランソワーズ」 その後の話はよく聞いてなかった。 他人の思い出話など、大抵の場合は他人が聞いてもさして面白くない物である。 さらになにやら友情を深めているのかよくわからない二人の様子を見ていると、 なにやら心が冷静になっていく。 突然、アンリエッタに自分のことが言及されるまで、呆然としていた。 「そこの彼、あなたの恋人なのでしょう? 私ったら懐かしくて、つい粗相をしてしまったみたいね」 「違います、彼は私の使い魔です」 「……使い魔?」 アンリエッタは、此方をじっくりと見てから再び言う。 「人にしか見えませんが」 「人ですから」 ルージュは返す。 そう返すと、アンリエッタはルイズの方を見て笑った。 「ルイズ・フランソワーズ。あなたは昔から少し変わってましたけど、 今もそうみたいね」 それを言うまでは笑っていたが、 ため息をつくとだんだんと表情に影を落とす。 「姫様、どうかなされたんですか?」 「いえ、何でもないわ、嫌だわ、わたくしってば――」 また友情の確かめ合いでも始まるのかと思って、 ルージュは考えることを取り敢えず止めた。 だが、暫くたって妙な流れになってきたので思考を再開した。 どうも、彼女はゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったらしい。 それはアルビオンの反逆勢力たる貴族派、レコンキスタに対抗するための同盟、 それを強固かつ確実な物にするためだという。 だが、その結婚を台無しにしてしまいうる一つの手紙が、 レコンキスタに滅亡寸前まで追いやられている王党派の元にあるらしい。 取り敢えずブルーは言った。 「それを取り返して来いと」 「恥ずかしいことですが、そう言うことになるのでしょう」 「……えーと……ブルー、姫様に失礼な口をきかないで頂戴」 そう言ってから、ルイズは真剣な表情をしてアンリエッタの方に向き直る。 「早速明日の朝にでもここを出発します」 「申し訳ありません。ルイズ・フランソワーズ。この恩には答えなくてはなりませんね」 「姫様、気にしなくて良いと言われたのは姫様でしょう?」 「……そうでしたね。少々お待ちいただけますか?」 というと、ルイズの机の上にあった羊皮紙とペンを使い、 手紙を書き始める。途中、何かを戸惑ったようだった。 ルイズがその様子をじっと見ていた。 手紙を書き終えると彼女はそれをルイズにそれを渡した。 「この手紙を、ウェールズ皇太子に渡してください。 件の手紙を必ずや返していただけるはずです。 そして、これもお持ち下さい」 彼女は自身の右手の薬指から、指輪を外すとそれもルイズに手渡した。 「母君から頂いた『水のルビー』です。 旅の資金が心配ならば、これを路銀に換えてください」 ルイズが頭を下げる。 「この任務にはトリステインの未来がかかっています。 あなた方の行く先に、始祖の祝福があらんことを祈ります」 薄暗い部屋に小さな音が聞こえる。 締め切られたその部屋は、どこか蒸し暑い。 その部屋のベッドの上に、二人の少女がいた。 少女の片方……緑色の髪をした彼女は、どこか人間離れした色気を放っている。 もしかしたら、この部屋の蒸し暑さには、 彼女のそれが混じっているのかも知れない。 彼女は、もう一人の少女に覆い被さるようにしていた。 そのもう一人の少女はと言えば、 少女と言うには少々幼すぎるかも知れない顔立ちと外見であった。 今は、その頬を朱く染めている。 緑色の髪の彼女――アセルスの手が、 青い髪の少女――タバサの朱くなっている頬に触れる。 タバサの口から言葉にならない声が漏れる。 アセルスはその様子をじっくりと見てから、タバサの頭を愛おしそうに撫でる。 タバサが潤んだ目でアセルスを見つめ返す。 それを妖しい微笑みで返してから、アセルスはタバサの濡 (省略されました。続きが読みたければ人数分ブリューナクください) お解り頂いているとは思うが、全て半妖様の妄想である。 なお、この妄想はキュルケの三角蹴りによって中断される。 本能的にやばいと思ったらしい。 キュルケ、それで正解だ。君は正しいことをした。 「だめね……タバサをあれと一緒の場所に置いておくことは出来ないわ」 しかし、タバサを連れ出そうとしても理由無しに動いてはくれないだろう。 無理矢理連れ出すのも気が引ける。 どうしたものか――そう考えているキュルケの目に、 馬に乗り出掛けようとしている二人組の姿が映った。 「あれはダーリン?……どこかに行くのかしら……そうだわ!」 朝から、ギーシュは剣を振っていた。昨日とは剣を変えてみていた。 冷静に考えたら、ただ振るだけで剣の腕が身につくわけ無いではないか。 トレーニングにはなるかも知れないが。 と言うわけで、ギーシュは図書館で一通り調べ物をしたのだった。 何せ魔法学院の図書館だからそう言う物を探すのは少々骨が折れたが、 探せばある物だ。ついでに、『土』の魔法に関するいくつかの書物も調べた。 その結果として、ある程度の技と、『土』の魔法の応用を身につける事が出来た。 が、そこで止まる。 「ふむ。せっかく身につけたのだから試してみたいが。 まさか決闘をするわけには行くまいしね……ん?あれはルイズとブルーじゃないか」 ルイズとブルーが、馬小屋から馬を連れ出し、なにやら準備をしていた。 どうも遠くに行くようだったが、ふむ、フーケの討伐に行った二人だ。 また学院長から秘密の任務でも請け負ったのだろうか? ギーシュはある一つのことを思いつき、彼女たちに近づいていった。 「ルイズ、アルビオンまではどのぐらいかかるんだ?」 「馬で二日って所ね」 「遠いな」 そんな他愛もない話をしていたら、後ろから声がかかった。 「やあルイズ、またどっかにいくのかね?」 二人が振り返ると、そこには細身の剣を腰にぶら下げたギーシュが居た。 「ギーシュ、何してるのよ」 「いや、どこかに行くのなら、僕も連れて行って欲しいんだ」 「何でよ」 「また秘密の任務でも請け負ったのかと思ってね」 ギーシュがそう言うと、ルイズは慌てて返す 「……そ、そんなわけ無いじゃない。何を言っているのかしら?」 「ふむ。秘密の任務でないなら僕がついて行っても大丈夫な筈だね?」 「だ、だめよ!」 「だが途中まで同行するぐらいなら構わないだろう? 一人では心細いからね」 食い下がるギーシュに、ルイズが言う。 「か、勝手についてくるなら好きにしなさいよ!」 それを聞いて、ギーシュが笑みを浮かべ返す。 「そうかい、ルイズ。 所で、何処まで行くんだい?」 「アルビオンよ」 「へぇ?そんなところまで、準備は出来てるのかい?」 「見て解らない?」 「しかし、アルビオンは今危険なはずだ。 大丈夫なのかね?」 「平気よ」 次に、ギーシュは変わらず自然な口調で聞いた。 「ところで、そんなところまで何をしにいくのかね?」 「手紙を取り返しに……あ」 「ふむ。やはり秘密の任務だったようだね」 ルイズは顔を赤くし、ギーシュは顔をほころばせる。 ブルーの顔には特に変化はなかった。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/167.html
前ページゼロの使い魔(サーヴァント) 「いい朝です」 セイバーは陽光を浴びながら伸びをした。 サーヴァントであるこの身には、暑いの寒いのはたいした意味はないが――と一人ごちながらも、彼女は思う。 やはり、朝日の中に立つのは気分がいい。 そこがかつて自分がいた時代であろうと、英霊として呼ばれた時代であろうと。 まったく見知らぬ異世界であろうと、だ。 鎧を消してドレス姿になったセイバーは、脇に彼女のマスターの衣服の入った籠を抱え、何処か感慨深そうに歩いていた。 平行世界でもなくて完全な異世界……ここはきっと第二魔法も届かない場所だ。 恐らく二度と凛にも士郎にも会えない――というのに、どうしてか口元に微笑が浮かんだ。 昨晩の、あの新しいマスターの様子を思い出していたのだった。 ◆ ◆ ◆ 「改めてマスターである貴女だけに名乗ります。 わたしの名はアルトリア・ペンドラゴン。 セイバーとは剣士の意です。剣を得意とする者の頂点に立つが故に名乗ることを許された称号――のようなものだと思ってください」 マスターであるルイズの部屋についてから、セイバーは椅子に座り、説明する。 説明するとは言っても、何処から何処まで話せばいいのか彼女自身にもよく解らなかった。聖杯戦争の時はその時代で生きていくための常識などの基本知識が与えられていたが、このたびの召喚ではさすがにそれはないようだった。 言葉が通じているだけでもありがたいので、そこまで要求するのは贅沢であろうとは思うのだが、せめて一般常識程度のことはあらかじめ知っておきたかったというのがセイバーの偽らざる心情だ。 だから、説明とは言いながらも、互いに質問をしながらの問答のようなものとなってしまったのは必然だった。 ルイズにしてから、見るからに身分の高そうな騎士が召喚ゲートをくぐるなどというのがどういうことなのか問い詰めたいところであった。 それでもあまりそういう過去を問い詰めるのも貴族としてどうかと思ったりするが、しかし、まったく知らないというのでは話にならない。 だから、差しさわりのない範囲でも情報を収集しようと言葉を重ねることになる。 まず、自分は人間ではない、ということをセイバーがいうと「亜人なの?」とルイズは目を丸くしてまじまじと見つめてきた。 「エルフ――ではないわよね」 「エルフ? まあ違いますが、まったく縁がないわけではありません」 泉の妖精とかそういう意味で言ったのだが、ルイズの顔には明らかに驚愕と、そして恐怖が浮かんだ。 何か迂闊なことを言ったか、とセイバーは思ったがあえてそのことについては問わず、そもそも、と言葉を継いで。 「わたしはこの世界の人間ではありません」 言った。 ルイズがその時にどういう顔をしたかというと―― (はあ? 何いってんだコイツ?) といわんばかりの怪訝な表情であった。 セイバーはかいつまんで話をした。 曰く。 「わたしはここではないところからきました」 「そこの世界では魔術を使う人間はいないでもないが、数少ない」 「そして自分はそこの世界で英霊と呼ばれていて、ちょっと前まである魔術師の使い魔をしていた」 ということである。 当然のことであるが、ルイズがそれらをまともに受け取ったかというと、セイバーの目から見ても「全然信じてませんね」と思わざるをえない顔をしていた。 実際に信じてなかった。 とはいえ、ルイズもセイバーが好んで嘘を言うような人間にも思えなかったから、何かの事情があってやむをえずに適当なことを言っているのだと判断した。 このあたりはコルベールの思考と同様の展開である。ただ、 (きっと使い魔になってしまったことが恥ずかしくて、本当のことは言えないのね) という、微妙に師ともずれた結論に至ったが。 多分、その名を聞けば誰もが知る……とまではいかなくても、かなり有名な貴族なのだろうとルイズは思った。 だからこのような荒唐無稽な話をするのだろうと。 かなり失礼な考えではあるが、彼女の中の常識などから鑑みてこのようなものになるのは仕方がなかった。 (にしてもペンドラゴン……アルビオン風の姓ね) 正しくアルビオン風だと、アルトリア・オブ・ペンドラゴンになるのだけど。 あるいはアルビオンの王家に連なる貴族なのかもしれない。そういえば、ちょっと前に廃絶されたアルビオンの大公家には公にはできない娘がいるという噂を聞いたことがあるが……さすがにそれはあるまい。 いずれ必要な時期がきたのなら話してくれるのだろうとルイズは判断し、大物ぶって鷹揚に頷く。 「また細かい話は明日になって改めて聞かせてもらうけど」 「はい」 「あなたは、本当に私の使い魔をやってくれるの?」 そうだ。 それだけがルイズの一番気になることだった。 たとえセイバーが身分を隠した貴族であるとか、あるいはそうでないとしても、とにかく問題になるのはそのことである。 何せ使い魔というのは主人と一心同体。主人の分身である存在だ。今まで人間が使い魔になったという話は聞いたこともないが、基本的な役目はそう変わらないはずだ。 つまり。 主人の目となり耳となってくれたり。 主人のために薬草を探したり。 主人のを守る護衛となってくれる―― 使い魔というのはそういう存在なのである。 (そういうこと、仮にも人間にやらせていいのかしら) ここでもしも召喚されてきたのがただの平民の生意気な口でしゃべる男の子だったりしたら、ルイズもそういう風には考えないのだろうが、彼女の召喚に応えたのはどうみても貴族かそれに連なりそうな、あるいはそれ以上の威厳を持ったセイバーである。 どうしてもそんなことを考えてしまうのであった。 「問題ありません」 そんなルイズの葛藤などどうでもいいように、セイバーはいう。 「先ほども申しましたが、この身はすでにサーヴァントです。それが必要となればそうします。貴方は貴方にとって相応しいと思える選択をすればいいのです」 「……うん、まあ、あなたがそういうのならそれでいいんだけど……」 セイバーにまっすぐに目を向けられたが、ルイズはついと目を逸らしてしまった。 それで、その日に聞くべきことは終わってしまった。 あとは寝る場所をどうするのかという問題があったが、さすがに貴族を藁の上に寝させるという訳にもいかないので、「申し訳ないけど」と言い添えて自分と一緒のベットで眠るように進めた。 ちなみに服は自分で着た。 そうして横になって、自分のすぐ側にいるセイバーに話しかけることもできず、なかなか緊張も解けなかったルイズだが、やがて今日一日の疲労がたまったのか、急激に眠気に襲われ、落ちるように意識が途切れた。 その直前に、 (私にとって相応しい選択って何だろう?) そんなことを思った。 答えはでなかった。 ◆ ◆ ◆ 「マスターが起きる前に洗濯を済ませてしまいましょう」 とセイバーが思ったのは、いつもの習慣であったりする。 つい何十時間か前までいた世界では、彼女は自分の主人の身の回りの家事の一部を担当していた。 一部というのは大方はマスターであるところの遠坂凛が自分でやってしまったからである。あかいあくまとか色々といわれているが、凛は魔術師として以上に人間として、女性としても非常に高水準のスキルを会得していた。 セイバーもその凛に仕えながらその技を磨いた――と言いたいところだが、英霊という存在は基本的に「終わった」存在である。 受肉などをすれば話は別かもしれないが、サーヴァントのままでは凛並みの家事能力を得るというのは不可能であった。 それでもまあ、一定の手順をこなす程度のことならできる。 洗濯物を洗ったり干したり、お風呂掃除をしたり料理の材料を買い出したりとか。 そういうことはセイバーの仕事だった。 正直、剣の英霊がするようなことではないとも思うのだが、裏の世界では色々とあるとはいえ、世界は基本的に平和である。 戦う以外の術をほとんど知らない彼女にしてみたら、それはそれで新鮮で何にも変え難い大切なことなのであった。 で。 現在は異世界であるところのハルケギニアで、籠を持って洗い場を探している。 『……いや、あなたに雑事なんてさせるわけにはいかないと思う……』 ルイズは昨晩にそういうことを言っていたのだが、そこのあたりはやんわりと自分の主張を押し通させてもらうことにした。 使い魔として召喚されておいて食っちゃ寝生活に甘んじるわけにはいかない、というのがセイバーの主張であった。 (とりあえず、ゆっくりとこの世界に慣れましょう) 洗い場は適当に歩いていたら見つかった。 そこでしゃがんで籠の中身を取り出す。 絹製の下着だ。 この世界にも蚕はいるのか、と思った。 「懐かしいですね……見習い騎士だった時代は、こうして手洗いをしていたものですが……」 ひとりごちながら、ドレスの裾を捲くる。 半ば霊体の服であるから、別に濡れようと汚れようとたいした問題にはならない。 しかしそのままでいては見ている人間に訝られよう――という判断があった。 ドレス姿で洗濯をしているというのがそもそもありえないということにまでは思いいたらない辺り、彼女の世慣れてなさが知れる。 とにかくそんなこんなで洗濯物を出していちいち丁寧に揉み洗いする。 かつてブリテンの見習い騎士時代では、このような上等な服を扱ったことなどはさすがにない。 ないのだが、手触りからしても柔らかく、繊細に扱わなければいけないものだという程度のことは判断がついた。 それに見習い騎士だった時代のことを思い出せば、特にこのような上等な絹の下着などというものは扱わせてもらえなかったということも覚えている。 専門の人間が必要なのだ。 それはその時代では絹というのが上等すぎるものであったからではあるが。 「あー、ダメですよ、そんな乱暴に扱ったら」 声がした。 反射的に立ち上がり、振り向いた。 「シロウ――」 どうしてか、そう言ってしまった。 言ってから、セイバーは困惑する。 そこにいたのはメイドだった。 年の頃は十五歳かその前後の、黒髪の少女だ。 (そういえば、マスターはそのあたりにいるメイドにでも任せてしまえばいいと、そうもいってたが) 来る途中に出会わなかった。だから自分で手洗いすることに決めたのだが。 メイドの少女は、首を傾げる。 「しろう?」 「いえ、申し訳ございません」 貴女が――――何、というべきなのだろうか? どうして自分がシロウという、かつての自分の主の名前を口にしてしまったのか、その理由がよく解らない。本当に解らない。 この黒髪の少女を他の誰かに誤認するとなると、それはシロウの師匠であり、彼女の先日までのマスターであるリンの方ではないだろうか。 困惑しているセイバーに、少女メイドはさらに首を傾げて。 「誰かに似ていましたか?」 と聞いた。 「――――ええ」 どう話していいのかも解らないので、セイバーはそう答えておいた。 「少し、私の故郷の知り合いに似ています」 「そうなんですか?」 「本当に」 まったくの嘘だ。 少女のつややかな黒髪は、確かに何処かリンに似ている。 少女の目元の形は、シロウに似てなくもない。 だけど、それだけだ。 もっというのなら、仮にシロウやリンに似ていたとしても、二人共故郷の人たちではない。 彼女の故郷はこの世界にはないし、さらにいうのならば時代も違っている。 あそこに還る時があるとしたら、彼女がこのサーヴァントとしての現身を失った時だろう。 それにしたって、この異世界からあのカムランの丘へと戻ることがあるのか、それすらも解らないのだけど。 少女は何か納得いったように何度も頷き。 「アルビオンにも、親戚はいた気はするし――」 「まってください」 セイバーは言葉を遮った。 「アルビオンといいましたか?」 「え――違うんですか? 何かアルビオンからの亡命貴族が昨晩こられたという噂話をきいてて」 「いや、そうではなく――アルビオン――ここにもあるというのですか!?」 烈しく詰め寄られ、少女は困惑したように後ろに下がる。 「アルビオンはありますよ?えーと、他にも、あるんでしょうか? 私はその、学がないので……読み書きくらいはできるんですが……」 「いえ、失礼」 セイバーは我に返った。 (アルビオンという名に、反応してしまった) それは、彼女の故郷である大ブリテン島の古名だ。 (ここは、遠くとも平行世界なのか? あるいはだとしたら――) 少しだけ考え、しかし彼女は首を振った。 今、それはさほど重要ではないと思えた。 それよりも。 「アルビオンの亡命貴族、と私は思われているんですか?」 「えーと……」 少女はおずおずと語りはじめた。 アルビオンは最近になって内戦が勃発している。それで多くの貴族が領地を失い、しかし王家の庇護を受けようにも反乱軍の勢力が日増しに強くなる中、それはとてもできず―― 結構な数のアルビオン貴族が国を捨て、各地に亡命しているのだという。 そして先日の召喚の儀式に騎士らしい女性が現れて、それはもしかしたらアルビオンからの亡命貴族なのではないか―― というような、そんな噂が学院内部に出回っているのだとか。 召喚の儀式が行われたのが昨日で、その夜に食堂を中心にその騎士?の正体とは何かを詮索する会話があり、結構みんなそれが盛り上がったのである。 ちなみにルイズが歩いて学院に戻った時は、食堂にはいかずに自室に直接帰っている。 だからルイズもセイバーも、自分たちがかなり適当な、それでいてそれらしい説得力のある物語をみなにでっち上げられているなどということはまったく知らなかったのだった。 「なるほど……」 そう頷きながらも、セイバーはどう対処すればいいのだろうかと考えてみた。 (まるで見当がつかない) とりあえずマスターに相談をして―― 「……そろそろ、マスターを起こさなければならない頃合いですね」 いつの間にか結構な時間が経過していた。 「仕方ありません。マスターの衣類の洗濯、頼んでよろしいですか?」 「あ、はい。お任せください」 「あなたに感謝を」 セイバーは胸に手をあてながらそう言って、ここまできた道を辿って女子寮へと帰ろうとして。 脚を止め。 振り向いた。 「すみません。貴女のお名前を聞いていなかった」 「あ、そんなことは――」 「私の名前は、セイバーです」 少女の目が、大きく広がった。 セイバーは何処か怪訝そうに目を細めたが。 「貴女のお名前は?」 「わたしは、」 どうしてか、少女は微かに逡巡して。 「シエスタです」 そう言った。 前ページゼロの使い魔(サーヴァント)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9354.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十二話「あなたは……だれ?(前編)」 集団宇宙人フック星人 登場 艱難辛苦を乗り越えて、タバサ親子を救出することに成功した才人たち。しかしガリア王国を 抜けないことには、安心することは出来ない。そういうことなので、才人たち一行はひとまず キュルケの実家のフォン・ツェルプストーの城を目指し、ガリアとゲルマニアの国境へと馬車の 進路を向けていた。 その道中、荷台の中の才人とルイズは水のルビーを通して、ミラーナイトと話をしていた。 『そうですか、無事にタバサさんを救い出せて何よりです。サイトもルイズも、よく頑張りましたね』 「でも、まだガリアを脱出するまでは安心できないわ。わたしたちがタバサを奪還したことで 検問も張られてるでしょうし、それを無事に突破できればいいんだけど……」 「ガリア政府も、また新しい怪獣を差し向けてくるかもしれねぇ。用心しとかないとな……」 不安が残るルイズたちに、ミラーナイトは告げる。 『いざという時は、私たちも助力します……と言いたいところですが、ガリア政府は想像以上に 厄介な相手のようです。すみませんが、私たちの助けはあまり期待しないでいて下さい』 「どういうこと?」 ルイズが聞き返すと、ミラーナイトはゼロがゴーデス怪獣と戦っていた時に、彼らウルティメイト フォースゼロに降りかかっていた事態を打ち明けた。 『ルイズが誘拐されかかった時とタバサさんの救出作戦の時の両方、私とジャンボットと グレンファイヤー、三人とも同時に出現した怪獣の退治をしてたんです』 『それでお前たちの救援がなかったのか』 つぶやくゼロ。 『ええ。四つの場所で怪獣が同時出現するという事態が二度も起こるなんて偶然は考えられません。 これはガリア政府の策略と見ていいでしょう』 『俺たちを分断するためにか……。確かに、ガリアは俺たちが考えてたよりもやばいかもしれないな』 『はい。……今もなお、どうしてガリアが怪獣を操れるのかが不明ですし、今度はどんな手を 打ってくるものか、予測がつきません。故に、どんな小さな異常の兆候も見逃さないように くれぐれも気をつけて下さい』 ミラーナイトの警告を受けて、才人は大きく顔をしかめた。 「死ぬような思いしてヤプールをやっつけたのに、まさかそれに劣らないような敵が現れるなんてな。 さすがにそういうのは嫌になるぜ……」 ぼやきながら、ふとタバサの方に目を向けた。タバサは母親に寄り添いながら、安らかに 寝息を立てていた。 「よく眠ってるな、タバサの奴」 「一度怪獣の体内に呑み込まれたものね。その時にかなりの負荷が掛かったんじゃないかしら」 あれからまだ一度も目を覚まさないことにはいささか心配されるが、タバサの寝顔には 大きな安堵の色があった。自分たちが助かったことを、無意識に理解しているのだろうか。 とりあえず、タバサ自身は大丈夫そうだと才人は感じた。 「パムー」 そして眠るタバサ親子の上に、黄色い小動物が乗っかっている。この生き物についてルイズが 才人に尋ねた。 「ところで、あの生き物は何なのかしら。アーハンブラ城跡で急にどこからか出てきたかと思えば、 ずーっとタバサにくっついて離れようとしないし。サイト、あれのこと知らない?」 「いや……端末に情報はないな」 『俺はダイナから、あんな生き物の話を聞いた覚えがあるぜ。確か、ハネジローって名前だったかな』 「ハネジロー? 変わった名前ね……」 ルイズたちのひそひそ話を子守唄代わりにしながら、タバサは深い眠りに就いている。 そしてタバサは夢を見る。過去の記憶、自分が経験した冒険の一部の夢を……。 ヤプールとの決着がついた、アルビオン戦役の以前のこと――。 「キャア―――ッ!」 「キャア―――ッ!」 「キャア―――ッ!」 深夜のトリステインの村の外れで、ウルトラマンゼロが三人の宇宙人に囲まれていた。 目が退化したコウモリのような首の宇宙人、その名はフック星人。宇宙人連合の構成員であり、 一つの村を丸ごと利用した侵略計画を進めていた。その内容とは、夜な夜な村の住人を全員偽の村に 移し、本物の村にはハルケギニアを攻撃する秘密基地を建造するという大胆不敵なものであった。 しかしこの村出身の商人が、夜間に村に帰ってきたことをきっかけに計画は露呈することとなった。 昼に村にいなかった商人のことを、村人に化けたフック星人は誰も知らず、その異常の話がゼロの元まで 届いたのだ。父セブンからフック星人の話を聞いていたゼロはすぐに事件の真相に行き当たり、フック星人の 侵略計画を叩き潰すために夜の村に乗り込んだ。そしてフック星人は最後のあがきとして、巨大化して ゼロとの交戦を開始したのだった。 「キャア―――ッ!」 「フッ!」 フック星人の集団は一斉にゼロに飛びかかる。だがゼロは宇宙空手の達人、一人一人に 的確に打撃を入れて瞬く間に返り討ちにした。 「キャア―――ッ!」 しかしフック星人も後がないため、そう簡単には倒れない。身軽な動きでゼロの周囲を跳び回り、 翻弄しようとする。 『そんなことしたって無駄だぜ! お前らの弱点は知ってるんだ!』 だがゼロは慌てず、フック星人を一網打尽にするための攻撃を放った。 「シェアッ!」 「キャア―――ッ!!」 全身をスパークさせて、まばゆい閃光を発する! これを浴びたフック星人は頭を抱えて苦しみ、 バタバタと地面に倒れ込んだ。 夜行性のフック星人は、強烈な光にひどく弱いのだった。 『フィニッシュだぁッ!』 両腕をL字に組んだゼロは、スリーワイドゼロショットを発射。それが全フック星人に命中し、 フック星人は消滅したのだった。 かくしてフック星人は全滅した。朝になれば村にもトリステイン軍の手が入り、村は元の平和を 取り戻すことだろう。 「……キャア―――ッ……!」 だがしかし……! 実は一人だけ、フック星人が生き残っていたのだ! 森の中に身を 潜めていたフック星人は、いずれゼロとハルケギニア人たちに復讐することを誓いながら、 夜の闇の中に消えていった……。 それから時間が経ち、死んだと思われた才人がトリステインに帰還した後のこと――。 ガリア南部の山地の中にあるアンブランという小さな村の入り口前で、グレンとタバサ、 シルフィード一行は鉢合わせた。 「おう、お前ら! 久しぶりじゃねぇか!」 「あッ、グレン」 人間に姿を変えたシルフィードがグレンに手を挙げ返してから、首を傾げて尋ねかけた。 「わざわざこんな辺鄙なところに、何の用なのね?」 アンブランは三方を山に囲まれた、陸の孤島のような場所だ。一番近い街からでも、徒歩で 三日も離れている。何の用事もなしに来る場所ではない。 そのことについて、グレンはこう答えた。 「風の噂でな、この村がコボルドってのに狙われてるって聞いたもんだから、やっつけに 来たって訳よ。お前らも同じなんじゃねぇのか?」 「さすが鋭いのね。その通りなのね」 タバサたちも、コボルド退治の任務でこの地にやってきたのだ。トリステインの戦争も 終わったことだし、これともう一つ、引きこもりの貴族の子をどうにかする任務を済ませたら 魔法学院に戻るつもりでいる。 「でも頼まれてもいないのにこんな山の中にまで、よく来るのね」 「場所は関係ねぇよ。困ってる人がいるのならどこにだって駆けつける、それが俺たちだぜ! 何より、コボルドどもはこの村の人たちのほぼ全員に、無条件降伏しろなんて無茶な脅迫を してんだろ? ますますほっとけねぇぜ!」 義勇に燃えるグレン。彼の言う通り、アンブラン村を狙うコボルドは事前に、村に降参して 自分たちの身柄を差し出せという無茶苦茶な要求を突きつけたのだった。それが呑めなかった場合は、 コボルドは村を力ずくで壊滅させるつもりなのだ。 タバサはこの脅迫を、いささか奇妙に感じていた。コボルドは知能が発達した亜人ではないので、 普通は脅迫なんて高度なことは出来ない。可能なのは、稀に生まれてくる先住魔法を操るほどの知能を 持ったコボルド・シャーマンだが……何故わざわざ戦力を明かすような真似をするのだろうか。自分たちが 倒されない絶対の自信でもあるのだろうか? 「ところでグレン、前会った時より何だか元気そうね」 「ああ。実はサイトの無事が分かったんだぜ! そこからも色々あってさ。まぁその辺は 追々話そうじゃねぇか……」 グレンとシルフィードが和気藹々と会話しながら、三人は入り口の門をくぐってアンブラン村に 足を踏み入れていった。 アンブラン村は街から離れた小さな村であるが、意外と栄えていた。村人たちは、別の土地から 来た人間が珍しいのか、タバサたち三人を人なつっこい顔で見つめている。 「何だか随分とのんびりしたところなのね」 シルフィードも彼らの朗らかな雰囲気に当てられたのか、気軽な感じでつぶやいた。 が、グレンはいやに神妙な顔になっている。 「……」 「あれグレン、そんな顔してどうしたのね? まだコボルド退治は始まってないのね」 シルフィードが気づいて問いかけると、グレンはぼそりとつぶやいた。 「……何か、のんびりとしすぎじゃねぇか? 村全体が脅迫されてるってのによ、不安の色が見えねぇぜ」 「あッ。まぁ、言われてみたらそうだけど……そういう土地柄なんじゃないのかしら。そこまで 気にするようなことでもないと思うのね」 「そうかねぇ……」 不思議そうに首を傾げるグレン。 「なーんか、変な引っ掛かりみたいなもんも感じるんだけどよ……。気のせいかね」 タバサは内心、グレンの言葉に同意した。彼女もまた、この村には妙な違和感を覚えていた。 村人たちに、特段おかしいところがある訳ではないのだが……。 ともかく村で一番立派な屋敷へと向かって進んでいると、その方向から時代がかった甲冑に 身を包み、槍を持った老人が忙しなく走ってきた。 「怪しい者ども! 名を名乗れ!」 老人に槍を向けられるタバサたち。すると村人の男が呆れた声で老人をたしなめた。 「ユルバンさん、このお嬢さまは貴族ですよ。恐らく、お城からいらした騎士さまでしょう」 ユルバンと呼ばれた老戦士はタバサを見つめる。 「ふむ……よくよく見ればマントをつけておられるな。だが、貴族さまといえど、わしの許可 なくしてこのアンブランに立ち入ることは許されぬ!」 「そう言うあんたは何者なんだ?」 グレンが問い返すと、ユルバンは名乗りを上げた。 「わしはユルバンと申すもの。恐れ多くも領主のロドバルド男爵夫人よりこの槍を与えられ、 このアンブラン村の門番件警士として治安を預かっておる。わしの言葉は男爵夫人の言葉と 心得られよ。さて、神妙に名乗られ、当村にやってきた理由を述べていただきたい」 シルフィードがコボルド退治で派遣されてきた件を話すと、ユルバンは何故かたちまち顔を歪ませた。 「うぬぬぬぬぬぬぬ! あれほどわし一人で十分だと申し上げたのに……ロドバルドさまは、 まだこのわしが信用ならぬとおっしゃるのか! ええい!」 ユルバンはひょこひょこと来た道を引き返していった。グレンは周りの村人に質問する。 「あの爺さん、やたら偉そうだが一体何なんだ?」 「あのユルバン爺さんは、この村を守っている兵隊なんだが……未だに自分が優秀な戦士だと 思ってるんだよ」 「昔は相当な使い手だったらしいが、今はあの通りさ」 「一人でコボルド退治に行くって息巻いていたんだが、年寄りの冷や水もいいところだ。 いやあんた方が来てくれて助かったよ。あと三日もすればあの爺さん、痺れを切らして 飛び出していっただろうさ」 笑う村人たちだが、その言葉に貶す響きはなかった。村人からは愛されているのだろう。 タバサたちはそのまま、ユルバンの背中を追いかけて屋敷に近づいていった。 屋敷の主人は、銀髪の老婦人であった。彼女がユルバンの言った、ロドバルド男爵夫人であるらしい。 ロドバルドはタバサたちに、コボルド討伐依頼の説明をした。コボルドの群れは村から 徒歩で一時間ほど離れた廃坑に住み着き、まだ村は襲われていないが、夜な夜な数匹の偵察隊が 様子を探りに来るという。要求が受け入れられる気配がないと分かれば、すぐにでも村に攻め込んで きそうな雰囲気のようだ。 コボルドは夜行性なので、攻め入るなら日が出ている内だ。ロドバルドはタバサたちに、 村に泊まって夜が明けてから討伐をすることを勧めた。もちろんタバサは承諾した。 と、説明が済むとグレンがロドバルドに質問を投げかけた。 「ところで奥さん、コボルドは村の人たちの身柄を要求してるけどよ、それが何でなのかは分かんねぇか?」 村の人間をどうにかしてしまうつもりなら、脅迫などせずとも直接攻め入った方が効率的だろう。 そうしないということは、何らかの理由があるということになるが。 「……いえ、わたしには皆目見当がつきません。ただ、この村にはかつて『アンブランの星』という 大きな“土石”の結晶がありましたが、故あって使い果たしてしまいました。もしかしたら初めの 目的はそれで、今はないことを嗅ぎつけて腹いせにそのようなことを言い出したのかもしれません」 「そっか……」 今度は、ロドバルドがタバサたちに告げた。 「先ほどのユルバンのことでお願いがあるのですが……。恐らく『自分も連れていけ』と あなた方に言うと思います。その際、きっぱりと断っていただきたいのです」 タバサは、じっとロドバルドを見つめた。 「あの通り、ユルバンはかなりの年でございます。本人は未だ若い者には負けないと申して おりますが……亜人相手の実戦には耐えられないでしょう。彼は何十年も、わたしたちのために 尽くしてくれました。今や、夫も子もいないわたしには、家族のようなものなのです」 「……」 ロドバルドの、ユルバンに対する慈愛で満ちた言葉を受けて、グレンは何やら思案に耽って腕を組んだ。 その後、果たしてロドバルドの言葉通りに、ユルバンはタバサたちに討伐に連れていって くれるように、必死に頼み込んできた。 ユルバンのその熱意は、かつての失態を取り返すためだと本人が語った。二十年前、今回のように コボルドの群れがアンブラン村を襲い、立ち向かったユルバンだったが敵の棍棒の一撃でたちまち 昏倒してしまった。気がついた時には、コボルドの群れはロドバルドが退けていたが、彼女はその代償で 魔法を使えなくなってしまった。ユルバンはそのことを悔い、今回で名誉挽回をするつもりなのだった。 タバサはそれよりも、ロドバルドが魔法を使えなくなったということを気に掛けた。たとえ どんな重傷を受けようとも、普通は魔法が使えなくなるほどの後遺症は出ない。もっともユルバンが 嘘を吐くとも思えないので、何か他に魔法を使えない理由があるのかもしれないが。 「後生です。わしを連れていって下され。なに、足手まといにはなりませぬ! こう見えても、 鍛錬を怠ったことはありませぬ! 騎士さま方に迷惑は決してかけませぬ故! なにとぞ!」 懸命に頭を下げるユルバンに対して、タバサに代わってグレンが言い放った。 「じゃあ、足手まといにならないっていう証拠を見せてもらおうじゃねぇか」 「と、言うと?」 「ちょいと表出な。力試ししようぜ」 屋敷の中庭で、タバサとシルフィードが見守る中、グレンとユルバンは対峙していた。 グレンがルールを説明する。 「いいか、あんたが俺にその槍で一撃でも入れることが出来たんなら討伐に連れてってやるよ。 ただし、槍を落としたらあんたの負けだ、きっぱりとあきらめな。自分の得物を落とすことは すなわち戦士として負けだってことは、あんたほどの奴なら分かるだろ?」 「無論! わしの腕が真に若い者にも負けんということを、この勝負で証明してみせよう! すまぬが、素手相手といえど、わしの名誉のために加減はせんぞ」 「なに、全然構わねぇさ。本気のあんたじゃなきゃ、この勝負意味がねぇや」 グレンがぐっと拳を握って構えると、ユルバンは槍を構えてまっすぐに突進してきた。 「たああああああッ!」 しかしグレンは少しもひるまず、槍を手で掴んであっさりと止めた。 「何ッ!?」 そのままグイッと槍を引っ張り、ユルバンを自分の方へ引き寄せる。 「ぬおおおおッ!」 ユルバンを強引に間合いに入れると、すかさずチョップを仕掛けてユルバンの槍を握る手を強打した。 「ぐあぁッ!」 ユルバンは衝撃に耐えられず、たちまち手を放してしまった。ユルバンが真っ青になる内に、 グレンは槍をひったくって投げ捨てた。 あっという間の決着であった。 「あ、ああ……」 「……こいつで分かったろ。あんたを連れてけねぇ理由」 がっくり、とその場で膝を突くユルバン。グレンはうながれる彼に言い聞かせる。 「これがあんたの現実だ。そりゃあ確かに、その歳になっても鍛えてはいるんだろうさ。 だが老いってのは、現実ってのは残酷なもんだよ。どんなに頑張っても、肉体の衰えってのは どうにも止められねぇもんだ。あんたの身体も、こうして俺に簡単に負けるぐらいに衰えてたんだよ」 「……無念……。やはりわしは、あの時と同じ役立たずであったか……」 「俺が言うのも何だが、んな落ち込むなよ。男爵夫人はあんたに期待してねぇとか、そんなんじゃねぇ、 純粋にあんたに生きててほしいって思ってるから、あんたに討伐を許さないんだぜ。男爵夫人にとって、 あんたはそれだけ大きな存在だってことだよ。そこはあんた自身も誇るべきだ」 グレンは優しい声で説いた。 「戦いってのはよ、何も敵を倒すことや名誉を回復することだけじゃねぇんだぜ。大事な人を 悲しませないようにするために、自分の命を守り抜くこと。これだって立派な戦いなんだ。 コボルドは俺たちが責任もって退治するから、あんたは自分の命を守って、男爵夫人を 悲しませないようにする戦いに励みな。男爵夫人の笑顔守れんのは、俺たちじゃねぇ、 あんたにしか出来ねぇことなんだからな」 グレンの説得を、ユルバンがどこまで納得したのかは知らないが、彼は名誉を懸けた勝負で 負けたのだ。ベテラン戦士として、勝負の上での約束を破ることはしないだろう。 グレンがユルバンを残してその場を後にしようとすると、彼をロドバルドが待っていた。 「戦士さん、ありがとうございます。ユルバンを止めてくれて」 「いや、礼なんかいいぜ。そもそも、俺が勝手なことをした訳なんだしさ」 「それでも言わせて下さい。恐らくあなたが考えてる以上に、ユルバンの存在はわたしたちに とって大切なものなのです。彼の命が守られることの他に、嬉しいことはありません」 随分と大仰なことを語るロドバルドの背中を、タバサがじぃっと見つめていた……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9405.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十八話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その2)」 スペースリセッター グローカーボーン スペースリセッター グローカールーク 鏑矢諸島の怪獣たち 伝説薬使獣呑龍 海底怪獣レイジャ チャイルドバルタン シルビィ ネイチュア宇宙人ギャシー星人 登場 ルイズを救う本の旅は、半分を越えて四冊目に入った。四冊目はウルトラマンコスモスの 護った地球を題材とした本。そこではムサシが人間と怪獣の共存する未来の新天地となる ネオユートピア計画により、遊星ジュランに飛び立つ時を待っていた。だがそこに現れた 謎の円盤と巨大ロボットが、輸送ロケットを狙う! コスモスが助けに駆けつけたが、 かつてともに戦ったウルトラマンジャスティスがどういう訳かロボットの味方をして コスモスを追い詰める! そこを今度はゼロが救い、ロケットはどうにか防衛することが出来た。 しかし才人の前に現れたのは、ジャスティスの人間態。それはルイズの姿となっていた……! 「……!」 自分の前に現れ、こちらに信じられないほどに冷酷な視線を送ってくるルイズに、才人は 固い面持ちとなった。 本の世界のルイズは、厳密には『ルイズ』とは言えない。これまでのように物語の登場人物に 当てはめられていて、その与えられた役になり切っている。だから『ルイズ』と呼べるのは見た目 だけで、全くの別人。ここで自分と敵対する立ち回りになっていたとしても、現実のルイズに 影響がある訳ではない。 それは頭では分かっているのだが……やはりルイズの姿を敵に回すという事実は、才人の 心情をひどく複雑なものにしていた。 「ウルトラマンジャスティス……どうしてあんたは、コスモスを攻撃したんだ。あのロボットと 円盤は何なんだ?」 そんな才人の思いをよそに、フブキがルイズに問いかけた。それを受けて、ジャスティスに なり切っているルイズは口を開いた。 「あれらはデラシオンの使いであるスペースリセッター。今から四十時間後、この星の生命は 全てリセットされる」 「リセット……!?」 ルイズの宣告に、フブキと才人は衝撃を受けた。 「地球の生き物を全て、消滅させるってことか!?」 「その通りだ。これは、宇宙正義により下された、最終決定事項である」 ルイズの語ることにフブキは極めて険しい表情となる。 「……あんたの話に出てきた、デラシオンってのは何者だ?」 「デラシオンは、我々ウルトラマンと同じく、この宇宙の秩序を守っている」 ルイズの双眸が怪しく光り、才人たちとの間にドーナツ型の巨大多脚円盤の立体映像が出現した。 「これは……!?」 「ギガエンドラ。人類を始め、全生命を消滅させる、惑星改造兵器だ」 巨大兵器ギガエンドラの中心部から発せられた光線が、地球の表層にあるものを全て焼き払い、 消し去る映像が才人たちの前で展開された。フブキが我慢ならずに叫ぶ。 「どうして、俺たちの地球にこんなことをしようって言うんだ!」 それのルイズの回答はこうだ。 「予測したからだ、未来を」 「未来?」 「今から二千年後、地球は宇宙にとって有害な星となる。よって全てを消し去り、生命の進化を やり直させる」 「地球が、宇宙に有害な星となるだと……!?」 言葉を失うフブキ。一方で才人は、二冊目の本でのことを回想した。 ウルトラセブンの物語に出てきた、フレンドシップ計画……。『フレンド』とは名ばかりの、 惑星破壊ミサイルで星を破壊することを主眼に置いた狂気の計画だった。また現実のM78ワールド でも、超兵器R1号やトロン爆弾など、星を爆破する実験が行われていた時代もあった。何度も 侵略宇宙人に襲われた地球人だが、これらの歴史を見ると、一つ間違っていたら地球人が恐ろしい 宇宙の破壊者になっていたかもしれない。 そしてデラシオンという者たちは、その可能性が現実となるものと判断したようだ。 「彼女の……ジャスティスの言ってることは全て真実だ。コスモスが教えてくれた」 ここでそれまで黙っていたムサシが発言した。 「だけどコスモスは、デラシオンの決定に反対し、最後まで説得し続けた! それが失敗しても、 こうして僕たち地球人のために駆けつけ、戦う意志を示してくれている!」 「……コスモス、そしてそこのウルトラマンに問おう。お前たちはどうして地球人類を守り続ける」 ルイズがムサシと才人……コスモスとゼロに問いかけてきた。 「たとえ武力で抗ったところで、何も変わるものなどない。デラシオンの決定も、地球人の 二千年後の姿も……。全ては無駄なのだ」 そう言い切るルイズに、ムサシは問い返した。 「逆に聞こう……。ジャスティス、あなたはどうしてデラシオンの決定を支持する。まだ未来は 確定していないのに、地球人が宇宙に有害な存在になるなんて……まるで見てきたかのようじゃないか」 すると、ルイズは意外なことを言い出した。 「見たのだ、私は」 「何だって……?」 「お前たちも戦った、多くの惑星を破壊したサンドロス。……あれは、昔は地球人類とよく 似ていた生き物だったのだ」 「!!?」 その告白に、才人たち三人は心の底から驚かされた。 「夢や愛などという曖昧な感情を持った、不完全な生命体だった。そして二千年前、今の 地球人と同じように、デラシオンからリセットの決定が下された……」 それがどうして、二千年前に執行されなかったのか。ルイズは理由を述べる。 「しかし、リセットは猶予が与えられた。……この私によって」 「……!」 「だが、それは過ちだった……。サンドロスは、デラシオンの予測した通りの存在になって しまった。……私は、過ちを二度と繰り返しはしない」 と語ったルイズに対して……才人が言う。 「サンドロスがそうだったとしても、地球人が同じになる理由にはならないさ」 「何?」 全員の視線が集まる中、才人は主張した。 「未来は計算されるもんじゃない。その土地、その時代の人たちが作り、つないでいくものだ! 俺とゼロは、ここじゃない別の場所だけど、人間の持つ可能性と希望の力を知っている!」 才人は見た。シティオブサウスゴータで、地獄の超獣軍団の暴威に晒されてもあきらめず、 命を救うために抗い続けた人間たちの姿を。そして他ならぬ自分が、はるかに巨大な存在が 相手でも折れることのない勇気を身につけることが出来た! それが人間の持つ、素晴らしい 力なのだ。 ゼロも、アナザースペースで人間たちの希望の光の結晶を得た。フューチャースペースでは、 圧倒的な絶望にも負けない人間たちの力によって助けられた! ゼロもまた人間の希望の力に よって支えられてきたのだ。 そしてM78ワールドの地球は、ウルトラ戦士でもどうしようもないような事態が何度も 襲ってきたが、それらを夢と希望を信じる心で打ち破ったから新たな時代を迎えることが 出来たのだ。それが人間の可能性だ! 「宇宙正義が何だ! 俺たちは、夢と希望こそが本当の正義だと信じてる! だからそれを 守り抜いてみせるッ!」 才人に続いて、ムサシもルイズに向けて呼びかけた。 「コスモスが言っている。私も、この地球で人間の持つ可能性を、希望という言葉の素晴らしさを 知った。それをジャスティス、君にも信じてもらいたいと!」 フブキもまた、ルイズに告げた。 「君は、楽な道を選んでるだけだ」 「楽な道……?」 「ここにいるムサシとコスモスは、どんな時でも、最後まで希望を持ってた。奇跡を信じてた! だから今度も奇跡を起こしてくれる……いや、俺たちで奇跡を起こしてやる!」 三者三様の熱い想いを胸に、ルイズを説得する。……しかしルイズは踵を返した。 「奇跡など、起こりはしない……」 その言葉を最後に、振り返ることなくどこかへ立ち去っていった。 「……駄目なのか……」 才人が思わずそうつぶやいたが、フブキが否定する。 「いや、最後まであきらめずに呼びかけ続ける! そうすれば、きっとどんな相手にも俺たちの 気持ちは通じる……!」 言いながら、ムサシと目を合わせた。 「お前はそう言いたいだろう?」 「……はい!」 ムサシは満面の笑みでフブキに肯定した。フブキは続けて述べる。 「デラシオンに対話の意思がなくても、チームEYESは地球からのメッセージを送り続ける! 早速指示しなくちゃな……。ムサシ、コスモス、悪いが後のことは頼んだぜ」 「任せて下さい! デラシオンが考えを変えてくれるまで、僕たちが地球を守ります!」 フブキは去り際に、才人にも目を向けた。 「ゼロって言ったか……どうか、コスモスとムサシを助けてやってくれ」 「はい! 望むところです!」 才人の力強い返答に微笑んだフブキが、EYESの基地へと向かっていった。それからムサシが 才人に向き直る。 「僕たちのために、地球のために戦ってくれてありがとう。その気持ちは、絶対に無駄には しない! だからともに手を取り合って、地球のリセットを阻止しよう!」 「ええ! よろしくお願いします!」 才人はムサシから差し出された手を取り、固い握手を交わした。 そしてゼロは、ある確信を得ていた。それは、この物語はコスモスペースでの実際の出来事の 途中までの記録だということ。コスモスが、ムサシの夢の実現の直前に、地球の存続を懸けた 大きな試練があったと語っていたのだ。 ならばこの物語を完結させるためにやるべきことはたった一つ。宇宙正義の決定を覆し、 地球の未来をつなぐのだ。 デラシオンによる地球全生命のリセットは、地球の各国政府にも告げられた。そして防衛軍は、 デラシオンに対する徹底抗戦を決定。軍事衛星の超長距離レーザーや弾道ミサイルの照準が、 衛星軌道上に押し出されたグローカーマザーと地球に迫り来るギガエンドラに向けられた。 攻撃開始は刻一刻と迫っていた。 しかしフブキ率いるチームEYESは、デラシオンに対してメッセージを送信し続けていた。 それが実ることを信じて……ムサシと才人はグローカーマザーの座標の真下に当たる市街まで来た。 「防衛軍の攻撃では、デラシオンの兵器を破壊することは出来ないだろう。そしてデラシオンは 地球の抗戦に対して、反撃を行う……! それを食い止めるのは僕たちだ!」 「はいッ!」 意気込む二人の超感覚が、ギガエンドラとグローカーマザーに対して攻撃が放たれたことを 感じ取る。 「始まった……!」 攻撃の結果は……やはりスペースリセッターを破壊することは出来なかった。ギガエンドラも グローカーマザーも傷一つつくことがなく健在。それどころか、グローカーマザーは地表に向けて グローカーボーンを複数機投下してきた。 「来たッ! 才人君、行こう!」 「はい!」 グローカーボーンの射出を確認したムサシは輝石を掲げ、才人はウルトラゼロアイを顔の 前にかざす。 「コスモースッ!」 「デュワッ!」 グローカーボーン四機が都市に着陸と同時に、二人は光に包まれてコスモス・コロナモードと ストロングコロナゼロに変身した! 「キ――――――――ッ!」 「デヤッ!」 「シェエアッ!」 グローカーボーンはコスモスとゼロを認めると、いきなり射撃を開始。それに対してコスモスは 光弾を空へ弾き、ゼロはパワーに物を言わせて突っ切りながら前進。グローカーボーンたちに接近していく。 「ハァッ!」 「セェェェイッ!」 「キ――――――――ッ!」 コスモスたちはグローカーボーンたちの間に切り込んで、肉弾で張り倒していく。 「デェアッ!」 そしてゼロの鉄拳がグローカーボーン一体の顔面に突き刺さり、衝撃でバラバラに粉砕した。 『よぉしッ!』 まずは一体を撃破したことにぐっと手を握るゼロだったが……空からはすぐに新たな グローカーボーンが送り込まれてきた。 「キ――――――――ッ!」 『何ッ!?』 コスモスは両腕を、円を描くように動かしてから、左手の平を右腕の内側に合わせる形で L字に組んだ腕より必殺のネイバスター光線を発射した! 「デヤァ―――――ッ!」 「キ――――――――ッ!」 振り抜かれた光線が、グローカーボーン三機を一気に爆破! だが同じ数のグローカーボーンがまた空から降下してくる。 「フッ!?」 『くそッ……! これじゃキリがねぇ……!』 グローカーマザーは宇宙船だけでなく、破壊兵器グローカーの工廠の役割もあるのだ。 故に尖兵であるグローカーボーンをいくら倒そうとも、新しい機体が絶え間なく作られて 送り込まれてくるのである。 次々湧いて出てくるグローカーボーンに手を焼いているコスモスとゼロの様子を、人々が 逃げ惑う市街からルイズが見上げていた。 「無駄だ。奇跡などない」 コスモスとゼロを囲んだグローカーボーンたちは、四方から光弾を乱射して浴びせる。 「ウアァァァッ!」 『くぅぅぅッ……!』 物量に物を言わせた攻撃に、追い詰められるコスモスたち。 その時、空の彼方から大きな影が猛スピードで戦場に飛来してきた! 「ピィ――――――!」 「あれは……!」 それに気づいたルイズが驚く。影の正体は鳥型の怪獣だ。ムサシがその名を叫ぶ。 『リドリアス!?』 リドリアスは空から光線を吐いてグローカーボーンを攻撃し、コスモスたちへの射撃を阻止する。 グローカーボーンはリドリアスの方に照準を向けたが、その一体の足元の地面が陥没して 姿勢を崩させた。 「グウワアアアアアア!」 地面の下からグローカーボーンを持ち上げたのはゴルメデだった! 更に投げ飛ばされた グローカーボーンに、続けて現れたボルギルスが体当たりを食らわせる。 「グイイイイイイイイ!」 強烈な突進によってはね飛ばされたグローカーボーンの機能が停止する。 コスモスたちに怪獣が加勢するが、グローカーボーンの方も負けじとばかりに更に増量される。 「キ――――――――ッ!」 グローカーボーンの無感情の銃口が怪獣たちに向けられるが……怪獣も続々と増援が戦場に 到着してきた! 「ピュ―――――ウ!」 地中から顔を出したのはモグルドン。それが掘った穴から、怪獣たちが飛び出してグローカー ボーンに飛び掛かっていく。 「グゥゥゥゥッ!」 「キュウウゥゥッ!」 「グルルルルッ!」 襟巻怪獣スピットルが黒い液体を吐いてグローカーボーンのモノアイを染め上げて視界を ふさぐ。動きが鈍ったグローカーボーンに、古代怪獣ガルバスとドルバが連続で火球を吐いて 撃破する。 「グルゥゥゥッ!」 「キャア――――ッ!」 岩石怪獣ネルドラントと地底怪獣テールダスがグローカーボーンに背後から飛びつき、 抱え上げて投げ飛ばした。 「グアァ――――――!」 「グルゥッ! グルゥッ!」 投げられたグローカーボーンに毒ガス怪獣エリガルと密輸怪獣バデータが突進してはね飛ばし、 グローカーボーンはその衝撃で内部機械が破壊され動かなくなった。 「キ――――――――ッ!」 奮闘する怪獣たちだが、グローカーボーンはまだいる。滅茶苦茶に乱射される銃口が、 逃げ遅れている人々の方へ向けられた! 「きゃあああああッ!」 「キュウウゥゥッ!」 放たれた光弾に対して分身怪獣タブリスがその身を挺して受け止め、人々を救った。 このウルトラマンと、人間たちを助けている怪獣は、鏑矢諸島に暮らす者たちだ。ムサシと チームEYES、そしてコスモスによって救われた怪獣たちである。 「グアアァァァッ!」 タブリスを攻撃したグローカーボーンに、伝説薬使獣呑龍が突進し、吹っ飛ばした。更にそこに、 空の彼方から二機の戦闘機が駆けつける。 「今だッ! コスモスたちを助けるんだ!」 テックサンダー、テックスピナーの系譜に連なる現EYESの主力作戦航空機、テックライガー。 その指揮を執るのはもちろんフブキだ! テックライガーからのレーザー集中攻撃により、グローカーボーンがまた一体破壊された。 このウルトラマン、怪獣、人間が共闘する光景にルイズが目を見開く。 「何故、怪獣が人間と……!?」 「それが、ムサシがやってきたことなんだ」 ルイズの背後から呼び掛けられる声。ルイズが振り向いた先に、ミーニンを連れた初老の 男性二人が立っていた。 「キュウッ!」 「こいつら怪獣たちが、ムサシを助けに行かせろとうるさくてね」 冗談交じりに語ったのは、怪獣保護区の鏑矢諸島のイケヤマ管理官。そしてもう一人は、 EYESが最も活躍していた時代にキャップを務めていた、ヒウラ。 「話はフブキから聞いている。地球人が、宇宙に有害な存在になるんだって?」 ヒウラは人間とともに、人間のために戦う怪獣たちの姿を見上げた。 「だが、今繰り広げられている光景こそが、どんな困難があっても夢をあきらめなかった ムサシが出した結果であり、答えだ。ムサシの夢が、あれだけの怪獣たちと心を通わせたんだ。 だから彼らは今、力を貸してくれている! 私たちも、この事態に出来ることがあるはずと ここに集まったんだ」 シノブ、ドイガキ、アヤノの往年のEYESクルーも、戦場から避難する人々を誘導して 助けているのだった。彼らもまた、ムサシとの出会いを通して夢をあきらめないことを 誓った者たちなのだ。 呆然とするルイズの超感覚が、少女の助けを求める声を捉えた。 『誰か助けて!』 「!」 ルイズは反射的に、その現場に向かって超速で移動した。 「コスモス! コスモスー!」 少女は自分の身の危険で助けを呼んでいたのではなく、コスモスと名づけたペットの犬が 瓦礫の下に閉じ込められたのを必死に助けようとしていたのだった。 ルイズは少女に向けて告げる。 「早く逃げるんだ! 犬より自分の命が大事のはずだ!」 しかし少女は聞き入れなかった。 「嫌だ! コスモスは、コスモスは大切な友達なの!」 「……友達……」 ルイズが復唱した時、犬を閉じ込めていた瓦礫が不意に重力を無視して浮き上がった。 「あッ!? コスモス!」 「これは……!」 そして二人の男女が、犬を引っ張り出して救出する。 「君の友達はもう大丈夫だ」 瓦礫を反重力で浮き上がらせたのは、ハサミを持った小柄な宇宙人、チャイルドバルタン・ シルビィ。そして二人の男女はギャシー星人のシャウとジーン。皆かつてムサシが関わった 宇宙人たちであった。 「ここは危ないわ。早く逃げなさい」 「ありがとう!」 犬を受け取った少女はシャウたちに礼を告げたが、ルイズに対しても礼を言った。 「お姉さんも、ありがとう!」 「……私は何もしていない……」 「ううん。あたしを心配してくれたでしょ! だから、ありがとう!」 その言葉を残して、少女は避難していった。ルイズは、シルビィたち三人へと顔を上げる。 「地球とは関わりのない異星人までもが、どうして地球人を助けに来たのだ……」 『ううん。関わりならある』 シルビィは証言する。 『ムサシは、前に私たちの種族と地球人の間の争いを止めてくれた! 大事な友達なの!』 「私たちも、ムサシと地球人たちのお陰で星の命をよみがえらせることが出来た。だから 今度は私たちが地球を助けるの!」 「私も、彼らから夢を信じることを教わった。宇宙正義がどんな結論を出そうとも、私たちは 地球人の夢を信じる!」 ジーンが断言すると、彼らの頭上に深海怪獣レイジャが飛んでくる。 「シャウは地球の人たちのことを頼む!」 「分かった! 頑張って、ジーン!」 ジーンはレイジャと一体化し、レイジャは四肢の生えた戦闘形態になってグローカーボーンに タックルを決めた。 「キュオ――――――!」 そして追撃に衝撃弾の連射を浴びせ、爆破させる。 「……地球のために、これだけの者が立ち上がるとは……」 数多くのものが戦う今の光景に、ルイズはすっかり息を呑んでいる。 「だが……!」 善戦しているように見えた怪獣たちだが、最後に残った二体のグローカーボーンが突如 バラバラに分解したかと思うと、パーツが一つに組み合わさって合体を果たした! グローカーはより大きく、より強く、より攻撃的で冷酷になった第二形態グローカールークと なったのだ! [抵抗スルモノハ、全テ、排除] グローカールークは両肩から光弾を乱射して、怪獣たちを片っ端から薙ぎ飛ばしていく。 「グウワアアアアアア!!」 「グイイイイイイイイ!!」 コスモスとゼロはすぐにその暴挙を止めに掛かる。 『やめろぉぉッ!』 だがグローカールークの前後から放たれる光弾により、二人同時に吹っ飛ばされた。 「ウアアァァァッ!」 暴れるグローカールークにレイジャとリドリアスが空から突っ込んでいく。 「キュオ――――――!」 「ピィ――――――!」 しかし攻撃を仕掛けるより先にグローカールークが高く跳躍し、手の甲から伸ばした鉤爪に より二体を斬りつける。 「ピィ――――――!!」 撃墜された二体の内、リドリアスの方を締め上げるグローカールーク。 [任務ノ障害ハ、全テ、排除] その凶刃がリドリアスにとどめを刺そうとする! 『させるかぁぁぁぁッ!』 そこにゼロが飛び蹴りを決めて、鉤爪を根本からへし折った! 蹴りつけられた衝撃で グローカールークはリドリアスを離す。 「シェアァッ!」 コスモスはコロナモードからエクリプスモードに二段変身! そして三日月状の巨大光刃を 作り出す。 「ハァッ!」 そうして飛ばしたエクリプスブレードは、グローカールークを貫通して綺麗に両断。一気に 爆砕した。 これで地上に放たれたグローカーは全て倒されたかに見えたが……間を置かずに新たな相手が 飛来してきた。 それはグローカーマザー! グローカールーク敗北を受け、遂に衛星軌道上から地表まで 降下してきたのだ。 『まだロボット出そうってのかよ!』 『いや……違うッ!』 グローカーマザーは飛びながら両翼を分解して完全にパージ。そして空の上へと姿を消したかと 思うと……グローカールークよりも更に巨大なロボットと化して降下してきた! [任務ノ障害ヲ、完全ニ消去] それは下位のグローカーでは対処できない相手に対して発動するコマンド。グローカーボーン 製造機能を捨てる引き換えに変形するグローカー最終形態、グローカービショップだ! 地球の全生命リセットの時は、刻一刻と迫っている! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔